時に、怖くなることがあります。
それは一人で買い物に出かけるときや、干していた布団を取り込むとき、またこうして、彼とぐずぐずに融けあっているとき、不意に、やってくるのです。
「痛くはないかい」
大丈夫です。私がそう言うと、彼は私の髪を撫で、それから腹を撫で、私に埋め込んだそれをゆっくりと動かし、そうして私を、また火照らせていきました。その筈、です。その筈、なのですが、ちかごろ、ふと、とてもそのようになれない、ひどく冷めた部分があるように思ってしまうのです。それがいつか私の全身を襲ってきそうで、多分その感覚が、私を怖がらせているのだと思っています。
私は世の中に折り合いをつけるのが苦手な人間でした。多分、今もそうなのでしょいう。いっこうに大人になれず、さりとて子供にも戻りきれず、波間の藻のように漂っていました。
私は、会社という場所に馴染めませんでした。私は大人になれなかったのです。だから、勤めはじめて一年も経たないうちに、そこからすうと消えました。すうと消えて、ワンルームに戻って、寝て起きたら、私は力無い二十歳過ぎの男から、ひとつのか細い少女になっていました。
それは流行り病でした。それが、私を少女にしたのでした。
おそらくその時、私は自分の孤独を確認したのでしょう。親も既にこの世におらず、親戚との関係も頼れるほどのものではなかった私に、そのひ弱な身体はあまりにも現実的でした。
そのような身の上なので、なんとか文具屋の店番として居候させてもらえるようになるまで、私は、数少ない知り合いの間を、ぐるぐる、ぐるぐる、必死に回りました。
もしかしたら、ここ数年で一生懸命になっていた期間はそこだけだったのではないのでしょうか。私はさほど生きたいと思ってはいませんでしたが、たぶんそれ以上に、死にたくはなかったのでしょう。
家主の利明さんはきさくな方です。一年前に奥さんの双葉さんを亡くしたばかりで、まだ多少の翳はありましたが、見たところそれなりに立ち直っているようでした。少なくともその時は、彼をそういうふうに見ていました。
子供はいないそうです。妻は身体が弱かったから、と、トラックの運転席で彼は言いました。
「妻が居なくなってから、どうもがらんとしてしまってね。同じ屋根の下に人がいるだけでもうれしいよ」
不安げだった私への気付けだったのでしょうか、それとも自分自身へのそれだったのでしょうか。彼は私にそう言うと、眉を下げて微笑むのでした。
行為が済み、風呂場から出ていった彼を見送って、私は淀んだぬるま湯から出ました。シャワーのレバーを上げると、彼好みの熱い湯が滴になって体中の粘り気を除いていきます。
私はそこに立って、色々考えるのです。明日の献立だとか、洗濯のことだとか、今日新聞で見た中東のどこそこのことだとか、それから、最初の日のことだとか、を。
そうやって、行為はいつも、生活感の内側に、ぐずぐずになって混ぜ込まれていくのです。
よいことだとは思っていません。それらはいつかきっと、膿になって這い出てきます。しかし私には、そうするほかにありませんでした。
シャワーを止めてから、掌にシャンプーの液を取り出しました。頭を洗って、身体を洗って、それから、湯船も洗わないと。そうやって、きれいに、しておかなければ。
町に来て一ヶ月経ったころでしょうか。たしかその日が最初でした。
風呂が沸いたことを、仏壇の前に居る利明さんに伝えると、彼は奥さんの位牌を見つめながら「今日は先に入りなさい」と言ったのです。少し気が引けたので「いいんでしょうか」と訊ねてみましたが、一向に答えが返ってくることはなく、しかたがないので、一番風呂をいただくことにしました。
最初は、驚いたのです。予見されるこれからの出来事が、煮えた私の頭の中を駆けずり回って。
詰まった喉から必死に声を絞り出しました。でもそれは水滴が落ちる音ほどのものにもならず、ただ空気の波だけが湯気に拡販されるだけでした。
私は、怯えていました。
「ふたば」
でも、怖いとは感じていなかったように思います。
彼の顔は、優しさ半分と、哀しさ半分でできていました。そんな顔のまま、私の肩に、トン、と手を置いたのです。
「ふたば」
瞬間、私はとけました。肩の力が抜けるのと似た要領で、どろどろと湯船に溶けました。
そこから先は、もう覚えていません。その次も、その次の次も、記憶にとどまることはありませんでした。
一通りのかたづけものを終えて、寝室へ行きました。寝室には、歳をとってすこし薄っぺらになっている布団と、それからもうひとつ、真新しさの抜けきらない小豆色の布団が、川の字になって並べられています。
家がせまいものだから。
私がここにやってきた日の夜、利明さんがそうことわって布団を敷いていたのを覚えています。それから後は大抵私がやっていますが、今日のように事を為したときは、きまって利明さんが先に布団を敷いているのでした。
私は小豆色のほうに潜り込んで、部屋の灯を消しました。かたわらの布団の中には、まだ誰もいません。事があった日には、彼はきまって居間の隅にある仏壇の前にいて、朝になるまでそこを動かないのです。それでも彼は布団をふたつ並べています。
私は主の戻らない枕を一回だけなでて、「おやすみなさい」と唇の上で言葉をひとつ転がし、目を瞑りました。
家事と昼間の店番が私の仕事です。仕事、とはいっても、店番などはまばらにやってくるお客の相手をしていればいいだけで、あとはレジのところの椅子に座ってぼおっとしているだけですから、家事の合間の休憩と大差ありません。
今日は小雨で、外も内もなんとなく湿気ています。二十六度の冷房になっているクーラーをドライに設定しなおして、少し背の高い椅子に腰掛けました。それからいつも通りレジのカウンターに頬杖をついて、宙に浮いた足をくるくる揺らしながら、今日の湿気のようにぼんやりとしたことを考えるのです。
たとえば今日は私の来し方でした。
物心つく前に父は亡くなっており、中学を卒業する頃には母も倒れ、高校を出ると同時に私は独りになりました。無いことはない程度の遺産を就職するまでの「足し」に使い切ってしまうと、あとは無力に縛られるだけでした。そして私は、その閉塞感に耐えきれなくなって、自分で紐をほどいたのです。
それが、男であった私でした。そのすべてでした。
夕方の四時か五時くらいになると、昼の間外へ出ていた利明さんが帰ってきます。
「ただいま、外村さん」
「おかえりなさい」
私はレジのところへやってきた彼への業務連絡を済ませると、買い物に行ってきますと言って、茶の間へ財布をとりにあがりました。レジの脇には勝手口があり、そこから台所を通って、茶の間へ続く廊下へ入れるのです。
勝手口のドアを開けてから、利明さんの「暑いな」と呟く声が聞こえました。振り向いて見てみると、彼はエアコンのリモコンを操作して設定温度を下げていました。
私はその何気ない動作を見て、行為を見て、不意に自分の身体が女であることを実感させられるのでした。それは、時々現れてはこつこつと私の頭蓋をノックして、何事もなかったかのようにいなくなってしまうもののたぐいでした。
外村さんは、男だったわりに、男が残ってないんだね。
以前、私が利明さんのもとへ来て間もないころ、食卓でそう言われたことがありました。
「ああ、いや、気分を悪くしたなら謝るよ。ごめん」
「いえ……少しだけ、ぼおっとしてただけですから」
私は利明さんのその言葉をうまく処理できずにいました。そして処理を終えたころには、彼が謝っていたのです。
私は申し訳なくなりました。なりながら、ああそうか、と感じたのです。
そういえば、私は女になっていた。女になっていたので、女をやっている、と。
それは硬質なノックの感覚でした。
私は無意識のうちに、私の身体と言動をすりあわせていたのです。それで私が男だったことを知らない町の人は私に違和感を持たず、私が男だったことを知っている利明さんは、私に違和感を持ったのでした。
私は驚きました。私の行動と、その無意識と、男であったことへの無頓着と。
それらに、私は驚きました。ひどく、驚きました。
それから、私は「私という女」に対して、時折、思いがけず敏感になりました。そして時々、その敏感さは、思い出したようにノックだけをして帰っていくのでした。
西松の奥さんが、と、私は言いました。夕食の最中でした。
「今日も、買っていかれたんです」
「便せんを?」
私は頷きました。
利明さんが営んでいる文具屋の向かい側に、西松商店という店があります。そこの奥さんが最近、よく便せんを買うようになりました。それも、花や鳥の柄が入った可愛らしい物を、ここ一、二ヶ月、一週間おきに買いに来るのでした。
私も、利明さんも、それが不思議でたまりませんでした。
「どこで、あんなに使ってらっしゃるんでしょうね」
「便せんだからなあ。使いどこは、限られてると思うんだけど」
はじめは、親族への連絡か何かの為のものかとも思いました。しかしそれにしては、便せんは華やいで、悪く言えば、少々こどもっぽいデザインのものばかりだったので、その見解はすぐに取り下げられました。お子さんにねだられて、というのは、子供そのものがいないことから、答えの候補からはすぐにはずされました。
「じゃあ、やっぱり、文通でもしてるのかなあ」
いったん箸を置くと、利明さんはそう言って、それからすぐにまた食事へ戻りました。
文通。その言葉が、私には妙に少女めいたもののように思えました。西松の奥さんの現在位置からすると、遠くに離れていってしまったようにも見える、そういうくくりの中に、文通があるような。
もしかしたら。私は考えました。もしかしたら女の人は、そういうくくりの中にあるものを、ずっと、持ち続けているのかもしれない。
だとしたら、私は何者なのでしょう。私は、そういうものを、元から持ち合わせていません。男であった頃の、そういうものも、もうすり鉢に放りました。ならば私は。宙ぶらりんの器なのでしょうか。
「外村さん」
利明さんに呼ばれて、私ははっと顔をあげました。
「どうかしたのかい。ぼうっとしているけど」
「いえ。特に何も」
私は、ほんのすこし、へどもどしました。へどもどして、咄嗟に、はぐらかしました。すると利明さんは、それならいいけど、と言って視線を目の前の食事に戻しました。
それから私たちは、黙々とごはんを食べ続けました。私も、利明さんも、食事のときはあまり喋らないたちの人間なので、これはいつものことでした。でも、それなのに、私はこの無言に、ひどくざわついていました。息苦しいと、思ってしまいました。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
やがて、全てを食べ終えて、私は二人前の器を重ね合わせました。
利明さんのお茶碗を、手に取ります。それは私の物より、ひとまわり大きい物です。それを、今まで、私は意識していませんでした。今初めて、それを、私は、意識しました。ノックの音が、こつんこつん、響きました。
「外村さん」
身体が、びくりと、ふるえました。
「どうかしたのかい」
「い、いえ」
私は、ほんのすこし焦りながら、残りの器も片付けだしました。大きいお皿、小さいお皿、汁椀。順番に、積み上げました。
「外村さん」
また、呼ばれて、また、びくり。おそるおそる、視線を利明さんへ動かしました。
利明さんは私を見ていました。じいっと、見ていました。私は、おそろしくなりました。風呂場での、行為を、思い出して、ぎゅうとなりました。
しかし彼は、私のそういう心持ちとは裏腹に、散歩をしましょう、なんて、ぽつりと言ったのです。
「こんな時間にですか?」
「こんな時間だから」
利明さんが、緑青の色をした湯飲みを置きました。
「寒いですよ、たぶん」
「歩けば暖かくもなるよ、たぶん」
利明さんの表情が、笑っているのかそうでないのか、私には分かりません。
ついと彼が立ち上がりました。蛍光灯に照らされていた空中の埃が、波間の藻のようにゆるりと流れています。
「さあさ、行きましょ、行きましょ」
薄手のジャケットに身を包みながら、利明さんは弾むように言いました。
「……そうですね」
逡巡を手元に添えておいたまま、私はハンガーに掛けておいたカーディガンを取って、ワンピースの上から羽織りました。そして、利明さんの背中についていって、玄関まで行きました。玄関口には、私のサンダルと、利明さんのサンダルが一足ずつ、右のすみっこで肩を寄せあって並んでいます。
双葉さんのサンダルは、下駄箱の中です。私がここへやってきた日、利明さんが薄桃色のサンダルをその中へ入れているのを見ました。
利明さんは、立ち上がったときと同じようについとサンダルを引っかけて玄関の外へ出て行きました。ここに残っているのは、私のサンダルと、彼の革靴だけです。
私は私のサンダルを見ました。それから、おそらく合板で出来ているであろう下駄箱の引き戸を見ました。
ここにいるサンダル。
ここから離されたサンダル。
私はひどくかたいものを噛むように、言葉をもぐもぐしていました。それから何を思ったか、自分のサンダルを下駄箱に入れて、双葉さんのサンダルを下駄箱から取り出しました。
薄桃色のサンダル。
「外村さん」
また、利明さんから呼ばれて、けれど今度は、びくりとはしませんでした。私は急いで双葉さんのサンダルを足に引っかけ、傘立てから念のためビニール傘を一本だけ抜き取って出ました。
私が玄関の鍵を閉めたのと同時に、利明さんはさっと私の手をにぎりました。
「さ。行きましょう」
私はぎくりとしました。
利明さんは、きさくな方です。ですが、私に、そんなふうに触れる事は、時折やってくる夜の他は、ほとんどありません。
いえ。
この触れ方は、時折やってくる夜の時とも、またちがう、触れ方でした。今の彼の、その触れ方には、何らかの恥じらいが、まとわりついていました。
商店街を、歩きます。街灯はすでにぽつぽつと点いていましたが、空はまだ、うっすら、藍色でした。
私と利明さんは無言でした。ふたりとも、言うべきことを抱えている筈なのに、ふたりとも、それをどういうふうに引き出せばいいのか、分かっていませんでした。まるで恋人になりたての、男の子と女の子でした。そのまま私たちは、商店街を抜けて、交差点へたどり着きました。利明さんは、私の手を握ったままボタンを押して、まっすぐ、前を向いていました。
「どこまで、行くんですか」
私は、利明さんを見ずに、訊ねました。
「川まで、行きましょう」
利明さんも、私を見ずに、答えました。
信号が青になりました。自動車が、動きを止めました。しましまの上を、渡りました。
渡った先の路は、なぜだかすこしくねくねとしています。そこを歩いていくと、やがて橋に出ました。川です。
静かでした。なので、川の流れる音が、とても近くにありました。無意識のうちに、私は、すいこまれました。手をほどいて、ふわふわ、柵のほうまで近づいて、上から川を覗きこみました。夜の闇に黒々となった川は、気まぐれな灯りに、時折にぶく輝いていました。
外村さん、と声がして、振り返ると、視線の先で利明さんが棒立ちになっていました。それから彼は、なにごとかを言って、私に頭を下げました。けれどもそのなにごとかは、川の音で、ちっとも聞こえませんでした。
そのあとすぐ、私たちは帰りました。のこりはもう、普段の一日でした。
翌日は、定休日でした。私は昼前に軽い買い物をしました。スズキの切り身。切らしていた醤油と、お酢。それらを買って、帰りました。
家に戻ると、居間のほうから音がしました。入ると、利明さんがラジカセで何かを聴いていました。
「何を聴いてらっしゃるんですか」
「ザ・ロング・アンド・ワインディングロード」
訊ねる私に、彼はラジカセへ視線を向けたまま答えました。いやにもたついた、発音でした。
「ビートルズのね、曲なんだよ」
「はあ」
長く曲がりくねった道。その曲名に、私は、昨日のことを思い出しました。昨日の、川までの、くねった路のことを。
曲はまもなく終わりました。利明さんは停止ボタンを押して、それから取り出しボタンも押して、カセットテープを抜き取りました。
「外村さん」
どきり、としました。昨日から普段にはないことばかりで、私はなんだか敏感になっているようでした。
「もし僕が、今晩、あなたを抱いたら」
利明さんは、そっぽを向いたままです。そのまま、いつもの口調で、そう言うのです。
私は、利明さんがこのあとに何を言うか、分かっています。それは、私にとっては、とても怖い言葉です。私を、がらんどうにしてしまう、言葉なのです。
だから私は、利明さんがこちらに振り向いたその瞬間、先回りをしました。
「旅行に」
利明さんが、次の言葉をはきだすために開いた口を、そのままぽっかりさせています。
「もし、今日私を抱いてしまったら、旅行にいきましょう」
利明さんが、でも、と言いかけて、それから、沈黙が、ながいこと続きました。
私はひとつ、息を吐きました。
「……おひる、作りますね」
「あ、ああ、お願いします」
私は台所へ行きました。深い深い呼吸をしながら、行きました。
一番風呂に、浸かっています。換気扇は止めているので、湯気が、ぐるぐるしています。
今日、風呂に入るよう利明さんに言われたあと、私は自分の裸体を見ました。寝室の隅にある姿見で、丹念に、見ました。
それまでの私は、自分の身体を極力見ないようにしていました。有耶無耶にしておきたかったのかもしれませんが、今はそれがなぜなのか、私にも判別がつきません。今の私は、確認してしまった私なのです。
湯船の中で、自分の身体を思い出しました。いいわけ程度にふくらんだ乳房や、自信なさげな陰毛のこと。くびれや、おしりの肉付きや、首筋のこと。そして顔のこと。
私は自分の顔を、うすくのぼうとした顔だと、認識していました。だから、見せていただいた写真に写っていた、双葉さんのあのきれいな顔とは、似ても似つかないと、そう思っていました。
けれども、それは間違いだったのです。姿見の前で、自分の顔をまじまじと確認して、理解しました。私の顔は、双葉さんでした。
がん、と破裂するような音がして、風呂場の扉が開きました。全裸の利明さんが、そこに立っていました。
「いらっしゃい」
私は湯船の半分をあけて、いつもは言わないようなことを、言いました。利明さんは扉を後ろ手に閉めて、茫洋としたまま、そこへ滑り込みました。かさが増えて、お湯が、ざあざあ、こぼれました。
「おいで、ふたば」
利明さんが、言います。私は頷いて、彼の上体を抱きしめました。
何の前触れもなく、彼は彼の一部を、私に差し込みました。声が、漏れました。
「利明さん」
呼吸を乱しながら、私は言いました。
「痛くはないかい」
「利明さん」
彼が、私の頭を撫で、腹を撫でます。
「あなたは、私を代わりにしていたんですね」
ゆっくりと、彼が、動き出していく。
「寂しかったんでしょう。いとしかったんでしょう」
少しずつ、はやくなる。めちゃくちゃになっていく。
「私も、すごく、寂しいんです」
心臓が波打つ。ほてっていく。
「何処にも、何もなくて、寂しいんです」
そしてやがて、意識が上昇して。
「だから、いっしょにいていいんです。なにしたって、いて」
ぼくは、とんでった。
自分の身体を洗って、浴槽を洗って、乾かして、着替えて、眠りました。いつもはすぐに眠れるのに、その日はちっとも眠れませんでした。
旅行へ行くことになりました。今日から二泊三日です。例の夜から一週間経ったころのことでした。
一週間、私と利明さんはほとんど無言でした。必要最低限の、事務的な会話だけをして、過ごしました。
気まずい、だとか、そういうものでは、なかったと思います。ただただ、言葉が浮かんでこなかっただけなのです。
「どういう旅館なんですか」
特急電車の中で、私は利明さんに訊ねました。利明さんは、窓際の席で、風景を眺めていました。
「良い旅館だよ」
泊まったのは一度だけなんだけどね。利明さんはそう言って、足下のボストンから水筒を取り出しました。
「お風呂も料理も、良かったし。それに、人で混雑してるふうでもなかったしね」
ほんとうにゆっくりできる、良い宿だよ。
「それは、良いですね」
「そうだよ。とても良い」
私たちは、頷きあいました。ぎくしゃくとした、やりとりでした。
やがていくつかのトンネルを越えて、私たちは特急から降りました。それからバスに乗ったのですが、何かの試合帰りらしき高校生集団と同席することになってしまい、効きが悪いバスの冷房のせいもあって、車内は蒸し風呂のようになりました。
「ごめんな。このバスに乗らないと、電車に間に合わないんだ」
汗をだらだら流しながら、利明さんは言いました。
「大丈夫です。仕方ないですよ」
言いながら、やはり私も、汗をだらだら流していました。
学生はそのうち降りてしまうだろうと思っていました。しかしどこまでいっても、一人も降りないのです。結局彼らが降りたのは終点のひとつ手前で、私たちは互いの水筒をすっからかんにしてしまいました。
「外の方が涼しいですね」
バスを降りてすぐ、そんな言葉がこぼれてしまいました。
「もう夏なのにね」
タオルをぐっしょりと濡らしながら、利明さんも同調しました。
次に乗った、渓谷を走るローカル線の列車は、先ほどのバスとはうってかわってがらがらに空いていました。私たちは乗った駅の売店で買った駅弁を、渓谷の風景を眺めながら、少しずつ食べました。駅弁は、美味しくも、まずくも、ありません。ただ風景だけが、渓谷のすとんとした風景だけが、私たちをぽっかりとさせました。
渓谷を走る電車の、七駅目で降りました。改札を通り過ぎると、今日泊まる旅館の従業員らしき人が、白いワゴンで出迎えにきていました。
「ようこそいらっしゃいました。さ、お荷物を」
「竃山」と言う名札をつけた従業員さんは、妙に人なつこい顔と声をしていました。後退しきった髪の毛や、すこし丸っこすぎる体型も、彼の愛嬌のひとつになっていて、こういう客商売は、きっとこの人にとっては天職なんだろう、と、思わせてしまうほどでした。
私たちは、竃山さんが開けたドアから、車に乗り込みました。車からは、土のような、煙のような、においがしました。
竃山さんはてきぱきと動きました。てきぱきと荷物をつめて、てきぱきとトランクのドアを閉じて、てきぱきと運転席に乗り込んで、てきぱきと発進しました。
私は、その手早さに驚きました。そしてそれに驚いているうちに、私たちは旅館に到着しました。
旅館は、こぢんまりとしていました。大仰にも、矮小にもならない、ほんのり、ほどよい、小ささでした。
中に入ると、女将らしき女性が、深々とお辞儀して出迎えてくれました。
「本日は遠いなか、はるばる起こしいただいて、どうもありがとうございます」
「こちらこそ、しばらくの間、お世話になります」
挨拶も早々に、私たちはチェックインの手続きを済ませ、部屋へ案内してもらいました。案内された部屋は、二階の、見晴らしの良い部屋で、窓からは先ほど私たちが通った渓谷を臨むことができました。
部屋に入って、お茶を飲みながら仲居さんの説明を受けて、浴衣のサイズを確認して、それからやっと、ひといきつきました。体中に凝っていた力が、しゅうしゅう、抜けていきました。
先に利明さんを風呂へ行かせて、気を紛らわせようと思ってテレビを点けたら、リポーターの女の人が、大げさな表情でソフトクリームを頬張っていました。見たことのない、ローカル番組でした。
テレビからいったん目をはなして、私は浴衣を手に取りました。双葉さんのサンダルと同じ、薄桃色の浴衣でした。帯は、小豆色でした。
今になって、たくさんのことを、考えます。利明さんについて。利明さんと抱き合うことについて。女性というもののすべてについて。女の身体であることについて。女性の私について。私がすり鉢に捨てた、男性の私について。私の、私というものの、すべてについて。
何十分、経ったのでしょうか。不意に戸の開く音がして、顔を上げると、利明さんが浴衣姿で立っていました。私は道具をまとめて、お風呂へ行きました。服を脱いで浴場に出て、それから頭と身体を丹念に洗い、たっぷりとしたお湯に肩まで浸かって、自分をどろりと溶かしました。幸い、他のお客は一人もいませんでした。
利明さんと一緒にいる時間のすべてを、私は思いました。それらはすべて、不器用で、極端でした。
しばらくしてお風呂からあがった私は、身体の水気をよく拭き取ったあと、浴衣を着て、部屋に戻りました。
「おかえり」
部屋で、利明さんは天気予報を見ていました。
「明日は、曇りだそうだよ」
部屋には既にフトンが敷かれていました。白いシーツが、ゆったりと弛緩していました。私は着布団を身体ひとつぶんどかして、そこに正座しました。
「外村さん」
「はい」
一分か、五分か、十分か。しばらくの沈黙の後、利明さんは、私の名前を呼びました。顔は、テレビを向いたままでした。
「僕は、君に、謝らなくちゃいけない」
謝るだけじゃ、済まないだろうけど。彼は続けてそう言って、私の方に向き直りました。
「いいんです」
彼の顔を見て、私は言いました。謝ることなんて、これっぽっちもないんです。
「でも」
言いかけた利明さんに、私はかぶりを振りました。そして、私は、と、言いかけて、ひとつ、咳払いをしました。
そう。咳払いを、したのだ。
「僕も、たくさん、利明さんに謝らなくちゃいけないんです」
利明さんは、ぽかりとしていた。鳩が豆鉄砲食らったような顔、というのは、こういう顔のことをいうんだろうか。
「依存してたんです。僕も、依存してた」
僕は利明さんをじいっと見た。利明さんは、寂しそうな、悲しそうな、顔をした。
「ままならないな」
利明さんは言った。
「ままならないですね」
僕も、言った。
僕たちはそのまま、その場でじいっとし続けた。仲居さんが、ご夕飯の支度がととのいましたよ、と連絡にくるまで、ずうっと、そうしていた。
近くの広場へ行こう、と、利明さんは言い出した。旅行の、二日目のことだった。
「昔、双葉とそこへ行ってね」
今もそのままあるのか、知りたいんだ。今朝、利明さんはそう言って、パックの納豆を混ぜていた。そして今、僕と利明さんは、電車を降りていた。旅館近くの駅から、三駅ほど先に行ったところだ。
駅前に、人はまばらだった。広い駐車場が、いやに物寂しくみえた。
「ここから、ちょっと、歩くよ」
利明さんは前を指さした。長く曲がりくねった道が、続いていた。
「ちょっとって、どれくらいですか」
「ちょっとは、ちょっとさ」
僕の問いにそう答えて、利明さんは歩き出した。僕もまた、それについていった。利明さんの歩幅はひろくて、そのせいで、僕はすこし早歩きになってしまった。
「それにしても」
歩きながら、彼が言った。
「なんだか、今になって、すこし男っぽくなったね、外村さんは」
答える為の言葉を、僕は沢山持ちすぎていた。だからなんと答えるか逡巡して、結局、そうですね、とだけ言った。利明さんは、それに、うん、と返した。何に対しての、うん、なのか、どういう意味の、うん、なのか、いまいち、分からなかった。
しばらく歩くと、木々が道を覆いだした。葉っぱのひとつひとつが光を遮って、やがて真っ暗になった。
それでも、利明さんの歩幅はかわらない。ずんずん歩いていく。いつもの利明さんからは考えられないくらい、ずんずん。早歩きの僕は疲れてしまって、いつのまにか、ずんずん、離れていった。
曲がりくねった長い道は、まだまだ、続きそうだった。その先に広場があるという。利明さんと双葉さんが、むかし行った広場。そこには何があるのだろう。そこへ行って、彼は何をするんだろう。思い出を確かめて、割り切るんだろうか。それとも、すがりつくんだろうか。何にせよ、ただ行くだけじゃないんだろう。だからこんなに、ずんずん、歩いていってしまうんだろう。
けれど、こんなにずんずん歩いていったら、たぶん、疲れてしまう。すごく、疲れてしまう。
「利明さん」
僕は彼を呼び止めた。立ち止まって振り向いた利明さんは、汗だくになって、息も、荒かった。
「まだ、あるんですか」
「何が」
「道」
僕の問いに、もうすこしあるよ、と、苦しげに彼は言った。
「じゃあ、もうちょっと、ゆっくり行きましょう」
僕がそう言うと、彼も、そうだね、と言って同意した。
その瞬間、だった。その瞬間、こころが、ざわりとして、僕は、こうしていけるなら、と思った。
こうして、もっとゆっくりと、もっとおおらかに、依存していければ。
広場に着いたら、言おう。利明さんが、そこで何しても、言ってやろう。僕は思った。
ゆっくり、できるだけ疲れないように歩いて、僕は利明さんに近づいた。そよ風が吹いて、木々の葉っぱが、ざわざわ、揺れていた。
(了)
それは一人で買い物に出かけるときや、干していた布団を取り込むとき、またこうして、彼とぐずぐずに融けあっているとき、不意に、やってくるのです。
「痛くはないかい」
大丈夫です。私がそう言うと、彼は私の髪を撫で、それから腹を撫で、私に埋め込んだそれをゆっくりと動かし、そうして私を、また火照らせていきました。その筈、です。その筈、なのですが、ちかごろ、ふと、とてもそのようになれない、ひどく冷めた部分があるように思ってしまうのです。それがいつか私の全身を襲ってきそうで、多分その感覚が、私を怖がらせているのだと思っています。
私は世の中に折り合いをつけるのが苦手な人間でした。多分、今もそうなのでしょいう。いっこうに大人になれず、さりとて子供にも戻りきれず、波間の藻のように漂っていました。
私は、会社という場所に馴染めませんでした。私は大人になれなかったのです。だから、勤めはじめて一年も経たないうちに、そこからすうと消えました。すうと消えて、ワンルームに戻って、寝て起きたら、私は力無い二十歳過ぎの男から、ひとつのか細い少女になっていました。
それは流行り病でした。それが、私を少女にしたのでした。
おそらくその時、私は自分の孤独を確認したのでしょう。親も既にこの世におらず、親戚との関係も頼れるほどのものではなかった私に、そのひ弱な身体はあまりにも現実的でした。
そのような身の上なので、なんとか文具屋の店番として居候させてもらえるようになるまで、私は、数少ない知り合いの間を、ぐるぐる、ぐるぐる、必死に回りました。
もしかしたら、ここ数年で一生懸命になっていた期間はそこだけだったのではないのでしょうか。私はさほど生きたいと思ってはいませんでしたが、たぶんそれ以上に、死にたくはなかったのでしょう。
家主の利明さんはきさくな方です。一年前に奥さんの双葉さんを亡くしたばかりで、まだ多少の翳はありましたが、見たところそれなりに立ち直っているようでした。少なくともその時は、彼をそういうふうに見ていました。
子供はいないそうです。妻は身体が弱かったから、と、トラックの運転席で彼は言いました。
「妻が居なくなってから、どうもがらんとしてしまってね。同じ屋根の下に人がいるだけでもうれしいよ」
不安げだった私への気付けだったのでしょうか、それとも自分自身へのそれだったのでしょうか。彼は私にそう言うと、眉を下げて微笑むのでした。
行為が済み、風呂場から出ていった彼を見送って、私は淀んだぬるま湯から出ました。シャワーのレバーを上げると、彼好みの熱い湯が滴になって体中の粘り気を除いていきます。
私はそこに立って、色々考えるのです。明日の献立だとか、洗濯のことだとか、今日新聞で見た中東のどこそこのことだとか、それから、最初の日のことだとか、を。
そうやって、行為はいつも、生活感の内側に、ぐずぐずになって混ぜ込まれていくのです。
よいことだとは思っていません。それらはいつかきっと、膿になって這い出てきます。しかし私には、そうするほかにありませんでした。
シャワーを止めてから、掌にシャンプーの液を取り出しました。頭を洗って、身体を洗って、それから、湯船も洗わないと。そうやって、きれいに、しておかなければ。
町に来て一ヶ月経ったころでしょうか。たしかその日が最初でした。
風呂が沸いたことを、仏壇の前に居る利明さんに伝えると、彼は奥さんの位牌を見つめながら「今日は先に入りなさい」と言ったのです。少し気が引けたので「いいんでしょうか」と訊ねてみましたが、一向に答えが返ってくることはなく、しかたがないので、一番風呂をいただくことにしました。
最初は、驚いたのです。予見されるこれからの出来事が、煮えた私の頭の中を駆けずり回って。
詰まった喉から必死に声を絞り出しました。でもそれは水滴が落ちる音ほどのものにもならず、ただ空気の波だけが湯気に拡販されるだけでした。
私は、怯えていました。
「ふたば」
でも、怖いとは感じていなかったように思います。
彼の顔は、優しさ半分と、哀しさ半分でできていました。そんな顔のまま、私の肩に、トン、と手を置いたのです。
「ふたば」
瞬間、私はとけました。肩の力が抜けるのと似た要領で、どろどろと湯船に溶けました。
そこから先は、もう覚えていません。その次も、その次の次も、記憶にとどまることはありませんでした。
一通りのかたづけものを終えて、寝室へ行きました。寝室には、歳をとってすこし薄っぺらになっている布団と、それからもうひとつ、真新しさの抜けきらない小豆色の布団が、川の字になって並べられています。
家がせまいものだから。
私がここにやってきた日の夜、利明さんがそうことわって布団を敷いていたのを覚えています。それから後は大抵私がやっていますが、今日のように事を為したときは、きまって利明さんが先に布団を敷いているのでした。
私は小豆色のほうに潜り込んで、部屋の灯を消しました。かたわらの布団の中には、まだ誰もいません。事があった日には、彼はきまって居間の隅にある仏壇の前にいて、朝になるまでそこを動かないのです。それでも彼は布団をふたつ並べています。
私は主の戻らない枕を一回だけなでて、「おやすみなさい」と唇の上で言葉をひとつ転がし、目を瞑りました。
家事と昼間の店番が私の仕事です。仕事、とはいっても、店番などはまばらにやってくるお客の相手をしていればいいだけで、あとはレジのところの椅子に座ってぼおっとしているだけですから、家事の合間の休憩と大差ありません。
今日は小雨で、外も内もなんとなく湿気ています。二十六度の冷房になっているクーラーをドライに設定しなおして、少し背の高い椅子に腰掛けました。それからいつも通りレジのカウンターに頬杖をついて、宙に浮いた足をくるくる揺らしながら、今日の湿気のようにぼんやりとしたことを考えるのです。
たとえば今日は私の来し方でした。
物心つく前に父は亡くなっており、中学を卒業する頃には母も倒れ、高校を出ると同時に私は独りになりました。無いことはない程度の遺産を就職するまでの「足し」に使い切ってしまうと、あとは無力に縛られるだけでした。そして私は、その閉塞感に耐えきれなくなって、自分で紐をほどいたのです。
それが、男であった私でした。そのすべてでした。
夕方の四時か五時くらいになると、昼の間外へ出ていた利明さんが帰ってきます。
「ただいま、外村さん」
「おかえりなさい」
私はレジのところへやってきた彼への業務連絡を済ませると、買い物に行ってきますと言って、茶の間へ財布をとりにあがりました。レジの脇には勝手口があり、そこから台所を通って、茶の間へ続く廊下へ入れるのです。
勝手口のドアを開けてから、利明さんの「暑いな」と呟く声が聞こえました。振り向いて見てみると、彼はエアコンのリモコンを操作して設定温度を下げていました。
私はその何気ない動作を見て、行為を見て、不意に自分の身体が女であることを実感させられるのでした。それは、時々現れてはこつこつと私の頭蓋をノックして、何事もなかったかのようにいなくなってしまうもののたぐいでした。
外村さんは、男だったわりに、男が残ってないんだね。
以前、私が利明さんのもとへ来て間もないころ、食卓でそう言われたことがありました。
「ああ、いや、気分を悪くしたなら謝るよ。ごめん」
「いえ……少しだけ、ぼおっとしてただけですから」
私は利明さんのその言葉をうまく処理できずにいました。そして処理を終えたころには、彼が謝っていたのです。
私は申し訳なくなりました。なりながら、ああそうか、と感じたのです。
そういえば、私は女になっていた。女になっていたので、女をやっている、と。
それは硬質なノックの感覚でした。
私は無意識のうちに、私の身体と言動をすりあわせていたのです。それで私が男だったことを知らない町の人は私に違和感を持たず、私が男だったことを知っている利明さんは、私に違和感を持ったのでした。
私は驚きました。私の行動と、その無意識と、男であったことへの無頓着と。
それらに、私は驚きました。ひどく、驚きました。
それから、私は「私という女」に対して、時折、思いがけず敏感になりました。そして時々、その敏感さは、思い出したようにノックだけをして帰っていくのでした。
西松の奥さんが、と、私は言いました。夕食の最中でした。
「今日も、買っていかれたんです」
「便せんを?」
私は頷きました。
利明さんが営んでいる文具屋の向かい側に、西松商店という店があります。そこの奥さんが最近、よく便せんを買うようになりました。それも、花や鳥の柄が入った可愛らしい物を、ここ一、二ヶ月、一週間おきに買いに来るのでした。
私も、利明さんも、それが不思議でたまりませんでした。
「どこで、あんなに使ってらっしゃるんでしょうね」
「便せんだからなあ。使いどこは、限られてると思うんだけど」
はじめは、親族への連絡か何かの為のものかとも思いました。しかしそれにしては、便せんは華やいで、悪く言えば、少々こどもっぽいデザインのものばかりだったので、その見解はすぐに取り下げられました。お子さんにねだられて、というのは、子供そのものがいないことから、答えの候補からはすぐにはずされました。
「じゃあ、やっぱり、文通でもしてるのかなあ」
いったん箸を置くと、利明さんはそう言って、それからすぐにまた食事へ戻りました。
文通。その言葉が、私には妙に少女めいたもののように思えました。西松の奥さんの現在位置からすると、遠くに離れていってしまったようにも見える、そういうくくりの中に、文通があるような。
もしかしたら。私は考えました。もしかしたら女の人は、そういうくくりの中にあるものを、ずっと、持ち続けているのかもしれない。
だとしたら、私は何者なのでしょう。私は、そういうものを、元から持ち合わせていません。男であった頃の、そういうものも、もうすり鉢に放りました。ならば私は。宙ぶらりんの器なのでしょうか。
「外村さん」
利明さんに呼ばれて、私ははっと顔をあげました。
「どうかしたのかい。ぼうっとしているけど」
「いえ。特に何も」
私は、ほんのすこし、へどもどしました。へどもどして、咄嗟に、はぐらかしました。すると利明さんは、それならいいけど、と言って視線を目の前の食事に戻しました。
それから私たちは、黙々とごはんを食べ続けました。私も、利明さんも、食事のときはあまり喋らないたちの人間なので、これはいつものことでした。でも、それなのに、私はこの無言に、ひどくざわついていました。息苦しいと、思ってしまいました。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
やがて、全てを食べ終えて、私は二人前の器を重ね合わせました。
利明さんのお茶碗を、手に取ります。それは私の物より、ひとまわり大きい物です。それを、今まで、私は意識していませんでした。今初めて、それを、私は、意識しました。ノックの音が、こつんこつん、響きました。
「外村さん」
身体が、びくりと、ふるえました。
「どうかしたのかい」
「い、いえ」
私は、ほんのすこし焦りながら、残りの器も片付けだしました。大きいお皿、小さいお皿、汁椀。順番に、積み上げました。
「外村さん」
また、呼ばれて、また、びくり。おそるおそる、視線を利明さんへ動かしました。
利明さんは私を見ていました。じいっと、見ていました。私は、おそろしくなりました。風呂場での、行為を、思い出して、ぎゅうとなりました。
しかし彼は、私のそういう心持ちとは裏腹に、散歩をしましょう、なんて、ぽつりと言ったのです。
「こんな時間にですか?」
「こんな時間だから」
利明さんが、緑青の色をした湯飲みを置きました。
「寒いですよ、たぶん」
「歩けば暖かくもなるよ、たぶん」
利明さんの表情が、笑っているのかそうでないのか、私には分かりません。
ついと彼が立ち上がりました。蛍光灯に照らされていた空中の埃が、波間の藻のようにゆるりと流れています。
「さあさ、行きましょ、行きましょ」
薄手のジャケットに身を包みながら、利明さんは弾むように言いました。
「……そうですね」
逡巡を手元に添えておいたまま、私はハンガーに掛けておいたカーディガンを取って、ワンピースの上から羽織りました。そして、利明さんの背中についていって、玄関まで行きました。玄関口には、私のサンダルと、利明さんのサンダルが一足ずつ、右のすみっこで肩を寄せあって並んでいます。
双葉さんのサンダルは、下駄箱の中です。私がここへやってきた日、利明さんが薄桃色のサンダルをその中へ入れているのを見ました。
利明さんは、立ち上がったときと同じようについとサンダルを引っかけて玄関の外へ出て行きました。ここに残っているのは、私のサンダルと、彼の革靴だけです。
私は私のサンダルを見ました。それから、おそらく合板で出来ているであろう下駄箱の引き戸を見ました。
ここにいるサンダル。
ここから離されたサンダル。
私はひどくかたいものを噛むように、言葉をもぐもぐしていました。それから何を思ったか、自分のサンダルを下駄箱に入れて、双葉さんのサンダルを下駄箱から取り出しました。
薄桃色のサンダル。
「外村さん」
また、利明さんから呼ばれて、けれど今度は、びくりとはしませんでした。私は急いで双葉さんのサンダルを足に引っかけ、傘立てから念のためビニール傘を一本だけ抜き取って出ました。
私が玄関の鍵を閉めたのと同時に、利明さんはさっと私の手をにぎりました。
「さ。行きましょう」
私はぎくりとしました。
利明さんは、きさくな方です。ですが、私に、そんなふうに触れる事は、時折やってくる夜の他は、ほとんどありません。
いえ。
この触れ方は、時折やってくる夜の時とも、またちがう、触れ方でした。今の彼の、その触れ方には、何らかの恥じらいが、まとわりついていました。
商店街を、歩きます。街灯はすでにぽつぽつと点いていましたが、空はまだ、うっすら、藍色でした。
私と利明さんは無言でした。ふたりとも、言うべきことを抱えている筈なのに、ふたりとも、それをどういうふうに引き出せばいいのか、分かっていませんでした。まるで恋人になりたての、男の子と女の子でした。そのまま私たちは、商店街を抜けて、交差点へたどり着きました。利明さんは、私の手を握ったままボタンを押して、まっすぐ、前を向いていました。
「どこまで、行くんですか」
私は、利明さんを見ずに、訊ねました。
「川まで、行きましょう」
利明さんも、私を見ずに、答えました。
信号が青になりました。自動車が、動きを止めました。しましまの上を、渡りました。
渡った先の路は、なぜだかすこしくねくねとしています。そこを歩いていくと、やがて橋に出ました。川です。
静かでした。なので、川の流れる音が、とても近くにありました。無意識のうちに、私は、すいこまれました。手をほどいて、ふわふわ、柵のほうまで近づいて、上から川を覗きこみました。夜の闇に黒々となった川は、気まぐれな灯りに、時折にぶく輝いていました。
外村さん、と声がして、振り返ると、視線の先で利明さんが棒立ちになっていました。それから彼は、なにごとかを言って、私に頭を下げました。けれどもそのなにごとかは、川の音で、ちっとも聞こえませんでした。
そのあとすぐ、私たちは帰りました。のこりはもう、普段の一日でした。
翌日は、定休日でした。私は昼前に軽い買い物をしました。スズキの切り身。切らしていた醤油と、お酢。それらを買って、帰りました。
家に戻ると、居間のほうから音がしました。入ると、利明さんがラジカセで何かを聴いていました。
「何を聴いてらっしゃるんですか」
「ザ・ロング・アンド・ワインディングロード」
訊ねる私に、彼はラジカセへ視線を向けたまま答えました。いやにもたついた、発音でした。
「ビートルズのね、曲なんだよ」
「はあ」
長く曲がりくねった道。その曲名に、私は、昨日のことを思い出しました。昨日の、川までの、くねった路のことを。
曲はまもなく終わりました。利明さんは停止ボタンを押して、それから取り出しボタンも押して、カセットテープを抜き取りました。
「外村さん」
どきり、としました。昨日から普段にはないことばかりで、私はなんだか敏感になっているようでした。
「もし僕が、今晩、あなたを抱いたら」
利明さんは、そっぽを向いたままです。そのまま、いつもの口調で、そう言うのです。
私は、利明さんがこのあとに何を言うか、分かっています。それは、私にとっては、とても怖い言葉です。私を、がらんどうにしてしまう、言葉なのです。
だから私は、利明さんがこちらに振り向いたその瞬間、先回りをしました。
「旅行に」
利明さんが、次の言葉をはきだすために開いた口を、そのままぽっかりさせています。
「もし、今日私を抱いてしまったら、旅行にいきましょう」
利明さんが、でも、と言いかけて、それから、沈黙が、ながいこと続きました。
私はひとつ、息を吐きました。
「……おひる、作りますね」
「あ、ああ、お願いします」
私は台所へ行きました。深い深い呼吸をしながら、行きました。
一番風呂に、浸かっています。換気扇は止めているので、湯気が、ぐるぐるしています。
今日、風呂に入るよう利明さんに言われたあと、私は自分の裸体を見ました。寝室の隅にある姿見で、丹念に、見ました。
それまでの私は、自分の身体を極力見ないようにしていました。有耶無耶にしておきたかったのかもしれませんが、今はそれがなぜなのか、私にも判別がつきません。今の私は、確認してしまった私なのです。
湯船の中で、自分の身体を思い出しました。いいわけ程度にふくらんだ乳房や、自信なさげな陰毛のこと。くびれや、おしりの肉付きや、首筋のこと。そして顔のこと。
私は自分の顔を、うすくのぼうとした顔だと、認識していました。だから、見せていただいた写真に写っていた、双葉さんのあのきれいな顔とは、似ても似つかないと、そう思っていました。
けれども、それは間違いだったのです。姿見の前で、自分の顔をまじまじと確認して、理解しました。私の顔は、双葉さんでした。
がん、と破裂するような音がして、風呂場の扉が開きました。全裸の利明さんが、そこに立っていました。
「いらっしゃい」
私は湯船の半分をあけて、いつもは言わないようなことを、言いました。利明さんは扉を後ろ手に閉めて、茫洋としたまま、そこへ滑り込みました。かさが増えて、お湯が、ざあざあ、こぼれました。
「おいで、ふたば」
利明さんが、言います。私は頷いて、彼の上体を抱きしめました。
何の前触れもなく、彼は彼の一部を、私に差し込みました。声が、漏れました。
「利明さん」
呼吸を乱しながら、私は言いました。
「痛くはないかい」
「利明さん」
彼が、私の頭を撫で、腹を撫でます。
「あなたは、私を代わりにしていたんですね」
ゆっくりと、彼が、動き出していく。
「寂しかったんでしょう。いとしかったんでしょう」
少しずつ、はやくなる。めちゃくちゃになっていく。
「私も、すごく、寂しいんです」
心臓が波打つ。ほてっていく。
「何処にも、何もなくて、寂しいんです」
そしてやがて、意識が上昇して。
「だから、いっしょにいていいんです。なにしたって、いて」
ぼくは、とんでった。
自分の身体を洗って、浴槽を洗って、乾かして、着替えて、眠りました。いつもはすぐに眠れるのに、その日はちっとも眠れませんでした。
旅行へ行くことになりました。今日から二泊三日です。例の夜から一週間経ったころのことでした。
一週間、私と利明さんはほとんど無言でした。必要最低限の、事務的な会話だけをして、過ごしました。
気まずい、だとか、そういうものでは、なかったと思います。ただただ、言葉が浮かんでこなかっただけなのです。
「どういう旅館なんですか」
特急電車の中で、私は利明さんに訊ねました。利明さんは、窓際の席で、風景を眺めていました。
「良い旅館だよ」
泊まったのは一度だけなんだけどね。利明さんはそう言って、足下のボストンから水筒を取り出しました。
「お風呂も料理も、良かったし。それに、人で混雑してるふうでもなかったしね」
ほんとうにゆっくりできる、良い宿だよ。
「それは、良いですね」
「そうだよ。とても良い」
私たちは、頷きあいました。ぎくしゃくとした、やりとりでした。
やがていくつかのトンネルを越えて、私たちは特急から降りました。それからバスに乗ったのですが、何かの試合帰りらしき高校生集団と同席することになってしまい、効きが悪いバスの冷房のせいもあって、車内は蒸し風呂のようになりました。
「ごめんな。このバスに乗らないと、電車に間に合わないんだ」
汗をだらだら流しながら、利明さんは言いました。
「大丈夫です。仕方ないですよ」
言いながら、やはり私も、汗をだらだら流していました。
学生はそのうち降りてしまうだろうと思っていました。しかしどこまでいっても、一人も降りないのです。結局彼らが降りたのは終点のひとつ手前で、私たちは互いの水筒をすっからかんにしてしまいました。
「外の方が涼しいですね」
バスを降りてすぐ、そんな言葉がこぼれてしまいました。
「もう夏なのにね」
タオルをぐっしょりと濡らしながら、利明さんも同調しました。
次に乗った、渓谷を走るローカル線の列車は、先ほどのバスとはうってかわってがらがらに空いていました。私たちは乗った駅の売店で買った駅弁を、渓谷の風景を眺めながら、少しずつ食べました。駅弁は、美味しくも、まずくも、ありません。ただ風景だけが、渓谷のすとんとした風景だけが、私たちをぽっかりとさせました。
渓谷を走る電車の、七駅目で降りました。改札を通り過ぎると、今日泊まる旅館の従業員らしき人が、白いワゴンで出迎えにきていました。
「ようこそいらっしゃいました。さ、お荷物を」
「竃山」と言う名札をつけた従業員さんは、妙に人なつこい顔と声をしていました。後退しきった髪の毛や、すこし丸っこすぎる体型も、彼の愛嬌のひとつになっていて、こういう客商売は、きっとこの人にとっては天職なんだろう、と、思わせてしまうほどでした。
私たちは、竃山さんが開けたドアから、車に乗り込みました。車からは、土のような、煙のような、においがしました。
竃山さんはてきぱきと動きました。てきぱきと荷物をつめて、てきぱきとトランクのドアを閉じて、てきぱきと運転席に乗り込んで、てきぱきと発進しました。
私は、その手早さに驚きました。そしてそれに驚いているうちに、私たちは旅館に到着しました。
旅館は、こぢんまりとしていました。大仰にも、矮小にもならない、ほんのり、ほどよい、小ささでした。
中に入ると、女将らしき女性が、深々とお辞儀して出迎えてくれました。
「本日は遠いなか、はるばる起こしいただいて、どうもありがとうございます」
「こちらこそ、しばらくの間、お世話になります」
挨拶も早々に、私たちはチェックインの手続きを済ませ、部屋へ案内してもらいました。案内された部屋は、二階の、見晴らしの良い部屋で、窓からは先ほど私たちが通った渓谷を臨むことができました。
部屋に入って、お茶を飲みながら仲居さんの説明を受けて、浴衣のサイズを確認して、それからやっと、ひといきつきました。体中に凝っていた力が、しゅうしゅう、抜けていきました。
先に利明さんを風呂へ行かせて、気を紛らわせようと思ってテレビを点けたら、リポーターの女の人が、大げさな表情でソフトクリームを頬張っていました。見たことのない、ローカル番組でした。
テレビからいったん目をはなして、私は浴衣を手に取りました。双葉さんのサンダルと同じ、薄桃色の浴衣でした。帯は、小豆色でした。
今になって、たくさんのことを、考えます。利明さんについて。利明さんと抱き合うことについて。女性というもののすべてについて。女の身体であることについて。女性の私について。私がすり鉢に捨てた、男性の私について。私の、私というものの、すべてについて。
何十分、経ったのでしょうか。不意に戸の開く音がして、顔を上げると、利明さんが浴衣姿で立っていました。私は道具をまとめて、お風呂へ行きました。服を脱いで浴場に出て、それから頭と身体を丹念に洗い、たっぷりとしたお湯に肩まで浸かって、自分をどろりと溶かしました。幸い、他のお客は一人もいませんでした。
利明さんと一緒にいる時間のすべてを、私は思いました。それらはすべて、不器用で、極端でした。
しばらくしてお風呂からあがった私は、身体の水気をよく拭き取ったあと、浴衣を着て、部屋に戻りました。
「おかえり」
部屋で、利明さんは天気予報を見ていました。
「明日は、曇りだそうだよ」
部屋には既にフトンが敷かれていました。白いシーツが、ゆったりと弛緩していました。私は着布団を身体ひとつぶんどかして、そこに正座しました。
「外村さん」
「はい」
一分か、五分か、十分か。しばらくの沈黙の後、利明さんは、私の名前を呼びました。顔は、テレビを向いたままでした。
「僕は、君に、謝らなくちゃいけない」
謝るだけじゃ、済まないだろうけど。彼は続けてそう言って、私の方に向き直りました。
「いいんです」
彼の顔を見て、私は言いました。謝ることなんて、これっぽっちもないんです。
「でも」
言いかけた利明さんに、私はかぶりを振りました。そして、私は、と、言いかけて、ひとつ、咳払いをしました。
そう。咳払いを、したのだ。
「僕も、たくさん、利明さんに謝らなくちゃいけないんです」
利明さんは、ぽかりとしていた。鳩が豆鉄砲食らったような顔、というのは、こういう顔のことをいうんだろうか。
「依存してたんです。僕も、依存してた」
僕は利明さんをじいっと見た。利明さんは、寂しそうな、悲しそうな、顔をした。
「ままならないな」
利明さんは言った。
「ままならないですね」
僕も、言った。
僕たちはそのまま、その場でじいっとし続けた。仲居さんが、ご夕飯の支度がととのいましたよ、と連絡にくるまで、ずうっと、そうしていた。
近くの広場へ行こう、と、利明さんは言い出した。旅行の、二日目のことだった。
「昔、双葉とそこへ行ってね」
今もそのままあるのか、知りたいんだ。今朝、利明さんはそう言って、パックの納豆を混ぜていた。そして今、僕と利明さんは、電車を降りていた。旅館近くの駅から、三駅ほど先に行ったところだ。
駅前に、人はまばらだった。広い駐車場が、いやに物寂しくみえた。
「ここから、ちょっと、歩くよ」
利明さんは前を指さした。長く曲がりくねった道が、続いていた。
「ちょっとって、どれくらいですか」
「ちょっとは、ちょっとさ」
僕の問いにそう答えて、利明さんは歩き出した。僕もまた、それについていった。利明さんの歩幅はひろくて、そのせいで、僕はすこし早歩きになってしまった。
「それにしても」
歩きながら、彼が言った。
「なんだか、今になって、すこし男っぽくなったね、外村さんは」
答える為の言葉を、僕は沢山持ちすぎていた。だからなんと答えるか逡巡して、結局、そうですね、とだけ言った。利明さんは、それに、うん、と返した。何に対しての、うん、なのか、どういう意味の、うん、なのか、いまいち、分からなかった。
しばらく歩くと、木々が道を覆いだした。葉っぱのひとつひとつが光を遮って、やがて真っ暗になった。
それでも、利明さんの歩幅はかわらない。ずんずん歩いていく。いつもの利明さんからは考えられないくらい、ずんずん。早歩きの僕は疲れてしまって、いつのまにか、ずんずん、離れていった。
曲がりくねった長い道は、まだまだ、続きそうだった。その先に広場があるという。利明さんと双葉さんが、むかし行った広場。そこには何があるのだろう。そこへ行って、彼は何をするんだろう。思い出を確かめて、割り切るんだろうか。それとも、すがりつくんだろうか。何にせよ、ただ行くだけじゃないんだろう。だからこんなに、ずんずん、歩いていってしまうんだろう。
けれど、こんなにずんずん歩いていったら、たぶん、疲れてしまう。すごく、疲れてしまう。
「利明さん」
僕は彼を呼び止めた。立ち止まって振り向いた利明さんは、汗だくになって、息も、荒かった。
「まだ、あるんですか」
「何が」
「道」
僕の問いに、もうすこしあるよ、と、苦しげに彼は言った。
「じゃあ、もうちょっと、ゆっくり行きましょう」
僕がそう言うと、彼も、そうだね、と言って同意した。
その瞬間、だった。その瞬間、こころが、ざわりとして、僕は、こうしていけるなら、と思った。
こうして、もっとゆっくりと、もっとおおらかに、依存していければ。
広場に着いたら、言おう。利明さんが、そこで何しても、言ってやろう。僕は思った。
ゆっくり、できるだけ疲れないように歩いて、僕は利明さんに近づいた。そよ風が吹いて、木々の葉っぱが、ざわざわ、揺れていた。
(了)
主軸に風呂を置いてあったように感じたのに、それに関する表現が抽象的すぎてしまったのは残念
もっと全編通して匂わせるような描写や擬音があっても面白いかもしれません
オチが、大人なハッピーエンドだったので満足です
だれか 翻訳して
二人の互いの距離の取り方が不器用すぎて逆に微笑ましかったです
最後は前向きに終わりましたし、時間が経てば隣だって歩けるようになるんでしょうね
こういう感じの作品はこのサイトでは珍しいからかなり新鮮で面白かった
内容は悪くないけど、ちょっと起伏に乏しいかな。
すこしわかりにく文章があって、いくつかわからない表現や状況があった。
でも、それを変えると雰囲気も変わってしまいそうでこわいかな。
また、ガソダムさんの読みたいです。
この雰囲気すき。
静かに、ゆっくりと、心に染みてくるような作品でした。