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「ちょっと私の生理を肩代わりしてもらうおまじない」 後編

2011/05/14 16:24:50
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次に和貴が目を覚ました時にはもう日は暮れており暗くなっていた。
ぼんやりと映る薔薇柄の薄いピンクのカーテン。
白く清楚なデザインワードローブにチェスト。
可愛い洋服の掛かった上品な意匠のハンガーラック。
そして柔らかなローズ柄のベッド。
ここがどこだか解からない。
目覚めたはずなのに、まどろみがまた眠りへと誘う。
誘いに任せ委ねると身体がふわふわと気持ちよい。

「大幡君、起きて」

誰かが呼んでいる。
和貴は答えようとまどろみの中より、意識を覚醒させる。
途端に身体の不調が襲ってきた。
そして和貴は気が付く、ここは美輝のマンションで自分は美輝になって生理を肩代わりしていると言う作り話の様な事実に直面している事に。

「袖原さん、おはよう」

身体を起こし見渡すと自分の姿をした美輝が確認できた。

「おはよう。よく寝てたわね」

和貴ははっきりしない頭で状況を整理してから返事をする。

「おかげ様でよく眠れたよ。ところで首飾り外す方法わかった?」
「あそれがね、取りあえずネットで調べたんだけど首飾りの事は良くわかんなくて。
ヤフーで質問してもネタだと思われてまともな回答ないし。ツイッターでも有力な情報は無し」

その答えに落胆する和貴。

「そうなんだ、どうしよう?」
「取りあえず、露店を探しに行こうかと思うんだけどその前にお腹すいてない?」

そう言われると今日はお昼を食べていない。
生理痛のせいであまり食欲が無いとは言え、和貴もお腹がすくのを感じていた。

「食事用意したから食べよ、食欲ないと思うけど」
「ありがとう袖原さん」

リビングに行くとテーブルには、ほうれん草とベーコンのクリームパスタと豆腐メインのゴマドレシングサラダが用意されていた。

「あ、おいしそう。さすがは女の子だね」
「今は大幡君が女の子だけどね、名実ともに」
「またそう言う」

ある意味おやじのセクハラギャグに近い美輝の発言に苦笑いする和貴。

「さ、食べよ」
「そうだね、頂きます」

パスタをフォークで巻き取り口に入れる。

「あ、おいしい」

食欲が無かったが、一口食べて見てそれがとても自分の好みに合った味だったため和貴は自然と笑顔になる。

「これすごくおいしいよ。袖原さん料理上手だね」
「そう?ありがとう。でもこれ市販のレトルトに手を加えただけよ。
いつもと同じように作ったんだけどなんか味薄くてね、どうしようかと思ったけど口にあってよかったわ」
「そうなんだ、俺には丁度良いって言うか絶品だよ」
「そこまで絶賛してもらえると私もうれしいわ」

美味しく食べていた和貴だったが、いつもならまだ食べられる筈なのに半分ほどで食べられなくなってしまう。
美輝の身体なのと生理のせいと考え、作ってくれた美輝には悪いが残すことにした。

「ごめん袖原さん、もうお腹いっぱいで食べれないや」
「もう良いの?もったいない。ほうれん草と大豆製品は生理に良いのよ?」
「そうだったの?でもゴメン無理」
「しょうがないなぁ、じゃあ私が貰うね」

言うと和貴が残した分を全部食べてしまった。
なかなかの食欲だ。

「なんて言うか、良い食べっぷりだね」
「太ると嫌だからいつもは自主的に量を制限してるんだけど、大幡君の身体なら気にしなくても良いもの」
「人の身体なんだら気遣ってくれても」
「良いじゃないの。男の子なんだし」

美輝のまったく悪びれていない様子は逆に清々しい位だ。

「でも美味しい食事だったわ、これも大幡君のおかげね。
生理の時って食事の準備とか億劫だからつい不摂生しちゃうのよ、そうしたら肌荒れもするし、サプリとかで補ってはいるけどやっぱりね」
「やっぱり大変なんだ」

和貴はそれなら美輝が大変な時は自分が食事を作ってあげようかと考えたのだが、その申し出は付き合っている訳でもないのにさすがに言えないと考えた。

「じゃあ、私はこれからちょっと出かけて首飾りを買った露店を探してみるわ」

美輝は食器をかたづけながら、和貴に声を掛ける。

「大幡君はこれでも飲んでまたベッドで休んでて」

和貴に前に温かい飲み物が入ったマグカップが出される。

「はい豆乳ココア、さっきも言ったけど大豆は生理に良いのよ」
「ありがとう」

甘い飲み物がとても美味しい。
和貴はゆっくりと味わって飲んでいると美輝は支度を終え、出かけて行った。

「留守番お願いね」

気が付けばすでに美輝の姿は無く、よくよく行動力のある人だと和貴は思う。
そして美輝を待つ間、生理の辛さは無い訳ではないが、横になるほどでもないので和貴はとりあえずテレビでも見て時間を過ごすことにしたのだった。


◇ ◆ ◇


ピンポーン
インターフォンが鳴る。
テレビを見ていた和貴は一瞬驚いたが出る訳にもいかず、そのままやり過ごす事にした。

ピンポーン
しばらくしてまたインターフォンが鳴るが、そのまま居留守を決め込こんだ。
意味は無いのだが息をひそめてしまう。
2、3分ほど経過しもう鳴らない様子なので思わず胸を撫で下ろす。

「あ、びっくりした。俺がでる訳にもいかないしな」

何だか間男みたいだと思いつつも、そのままテレビを眺めていると玄関が開く音が聞こえ、誰かが入ってきたようだ。
和貴は美輝が帰ってきたのだろうと立ち上がり玄関へ向った。
さっきのインターフォンも美輝だったのだろうかと思いつ部屋のドアを開けたのだが。

「お姉ちゃん、起きてたなら入口のオートロック開けてくれても良いじゃない」

そこには知らない女性が居たのだ。
突然の事にパニックになる和貴。

「(え?え?誰だこの娘?お姉ちゃん?袖原さんの妹さん???なんでここに?いや妹さんだからいる?じゃなくてどうしよどうしよ)」

和貴は口をぱくぱくさせて、声が出ずにおろおろしている。

「お姉ちゃん?どうしたの変だよ??」



女性は不思議そうに和貴を覗きこむ。

「(近い、近い、顔が近いよ!)」

間近に迫る女性の顔に動揺し真っ赤になる和貴。

「本当に大丈夫?顔真っ赤だよ」

言って女性は和貴の額に手を当てる。
ますます照れる和貴。

「だ、大丈夫よ」

かろうじて美輝のふりをして返事をする。

「生理がきつくてダウンしたって聞いたから様子を見に来たんだけど、結構ひどい状態みたいだし熱出てるんじゃない?」

どうやらこの女性は美輝の妹で生理に苦しむ姉の様子を見舞いに来たようだ。
髪型こそ違いミディアムボブだがその顔立ちは美輝とよく似ている。
服の趣味も似ていてアイボリーのAラインコートの下は愛され系のフリル裾のチュニックにカットソーを重ね着した着回しだ。

「ほんと大丈夫だって、もうだいぶ良くなったから」

和貴も内心はまだ焦りながら、何とか対応する。

「そう?ご飯食べてる?お姉ちゃん生理の時食べないこと多いでしょ」

美輝の妹はそう言うとコートを脱ぎ奥に入る。
手には食品が入ったエコバッグをもっていた。
姉の為に食材を買ってきたのだろう。

美輝の妹がキッチンへ行きバッグから食品を出していると、シンクの横に洗った食器が下げてあるのに気が付いた。

「なんだお姉ちゃん、ちゃんと食べてるのね、良かった。何食べたの?」
「ベーコンとほうれん草のクリームパスタと豆腐のサラダよ」

ぼろが出ないようにと和貴も無難に答える。

「レトルトに手を加えたやつ?お姉ちゃんそう言うのばっかりよね、クリームソースなんて簡単なのに」
「でも美味しいし」
「確かに、お姉ちゃんが作ると手早いし美味しいけどね。手抜きのなせる技ってやつ?」

言って美輝の妹は笑っている。
和貴の方も合わせて笑うが、相手の名前すら解からないのだ。
ぼろを出さないかと気が気ではない。

「まあ、ご飯食べてるなら良いか、生理の時は青魚とか生姜も良いからサバの味噌生姜煮でも作ろうかと思ったんだけどどうする?」
「あ、うん、任せるわ」
「任せるって、お姉ちゃんめんどくさいからって私に作り置きさせるきでしょ?」
「い、いやそんなつもりじゃ」

返事をするにも和貴は焦ってしまう。

「どうしたのお姉ちゃん?なんか挙動不審よ。いつもならそこで「ばれたか」とか開き直るのに」
「え、まあこう言う時もあるわよ」
「本当に調子悪いんじゃない?まあ、もともと作ってあげるつもりで来たから手伝ってもらわなくても良いんだけど」

いつもとは違う姉の態度に少し不思議に思う美輝の妹だが、それも今までにない重い生理のせいだと考え、シンクの方に目を移す。
そしてそこにあった食器がふた組である事に気づき、不審に思う。

「(なんで食べた食器がふた組?2回分じゃないわよね。お姉ちゃんあれでも片付けは2回分ためたりは絶対しないし。誰か来てたのかしら?)」

そう考えもう一度姉の方を見る。
所在なささげに立っている様子はやはり変だ。
あんなにおろおろした姉は見た事が無い。
また考え、そしてある考えが生んだ。

「(もしかして新しい彼氏でも出来て遊びに来てたのかしら?そこに私が来たから慌ててる?)」

美輝の妹はその考えで納得した様だ。
訳知り顔の笑みを浮かべると和貴に向い声を掛ける。

「ねえお姉ちゃん、もしかして誰か来てた?」
「え?いや、誰も来てないわよ」

その質問に思わず嘘をつく和貴。
だがその返事に美輝の妹は確信した。
絶対彼氏だと。

「嘘ね。だって食器が二人分あるじゃない」
「う゛」

そんな指摘をされれば和貴は言葉に詰まるしまない。

「別にお姉ちゃんがどんな人とお付き合いしようと自由よ。でも隠し立てするなんてなんか怪しいのよね」

白状させようと美輝の妹が詰め寄ってきたその時だった。

「ただいまぁ、収穫ありだよ」

なんと玄関を開けて美輝が帰って来たのだ。
美輝が入ってきた瞬間、その場の空気がざわめいた。
和貴はこのタイミングでと言う顔になり、美輝の妹はこれが姉の彼氏かと興味津々と言った感じになる。
美輝にしてみればなんで妹が居るのかと言う顔だ。
すかさず和貴の元に行き小声で話しかける。

「なんで樹理(じゅり)が居るのよ」
「袖原さんをお見舞いに来たみたいだよ」

その様子を見た樹理は完全に自分の考えが合っていたと思い一人確信していた。
そして美輝がもっている薬局の紙袋、おそらくその中身は。
そんな考えをよそに美輝に向って挨拶する。

「こんばんは、妹の樹理と言います。なんかお邪魔だったみたいですいません」
「あどうも、袖原さんの同僚で大幡和貴と言います。袖原さんにはいつもお世話になっています」

さすがに美輝は機転が利くのか直ぐに対応し、自己紹介をした。
更に姉の彼氏を値踏みする樹理だったが、そこである事に気が付く。

「(あれ?コートの下の服、なんか見覚えが…)」

ブランドロゴのブラックTシャツの上にフードチェックシャツを羽織ったコーデ、ボトムは普通にメンズのスラックスだがバランスは取れている。
着こなしも決まっており似合っているのだが、その服に樹理は見覚えがあったのだ。

「(これって、この前ショップでお姉ちゃんが買ったリズリサドールのだよね?)」

それは姉の服だった。
その服を着ている姉の姿も見た事がある。
そう、この男性は姉の服を借りて着るぐらいの仲なのだと樹理はまたまた勝手に確信したのだ。

「あの和貴さん、その服って姉のものですよね?レディース男子なんですか、おしゃれですね」
「ええ、今日はスーツでお邪魔させて貰ったのですが汚してしまってね。それで袖原さんの服をお借りしたんですよ」
「そうなんですか、それにしても姉の服が着れるなんてスタイル良いですね。モデル見たいです」
「いや、モデルなんてそんな。俺なんてそこら辺に居る一般人ですって」

美輝の演技は堂に入っていて大したものだ。
和貴本人より男らしいしカッコよさが出ているのだから和貴も立つ瀬がない。
樹理はそんな態度に気分を良くし、和貴の元へ近寄り耳打ちする。

「お姉ちゃん、良い彼氏捕まえたわね。お邪魔な私はこれで帰るからあとは頑張ってね」

そう言い頑張れのサインを送る。
そして食材をそのまま冷蔵庫に入れるとコートを着て玄関の方へ向った。
その様子を見て美輝が声を掛ける。

「あの、もう帰られるのですか?お気づかいされずにごゆっくりされて行けば」
「いえ、姉の様子を見に来ただけですから、和貴さんの様な方が居られるなら心配ないですし」

言って笑顔を美輝に見せた後、意味ありげな視線を和貴に送る。

「じゃあ、お姉ちゃんまたね、今度服借りに来るから」
「うん、また」
「和貴さん、姉をよろしくお願いしますね」
「樹理さんもお気をつけて」

樹理はそう言い残すと帰って行った。
和貴は一難去って胸を撫で下ろす。

「あ緊張した」
「ちょっと大幡君、樹理の前であまりおどおどしないでくれる?私のイメージ崩れるじゃない」
「ごめん、どうして良いかテンパっちゃってさ」
「しゅうがないわね」
「ところで収獲ありって言ってたよね?」
「そうそう、露店は見つからなかったけど連絡方法は確保できたわ。
明日向こうから連絡が来る手筈よ」
「それは良かったけど、明日?」
「そう明日。なんか都合がある見たいで」
「そうなんだ」

更に根本的な問題も解決の糸口が見え安堵感を和貴は強めた。

「と言う訳だから、今日はお風呂にでも入って休みましょ」
「お風呂?いや、いいよ」
「なんで?入った方が良いよ」
「だって俺、袖原さんの身体だしそれはまずいでしょ?」
「別に気にしないわよ、私のせいなんだし」
「いや、でもさ」
「良いの良いの、私も大幡君の身体じっくり堪能させてもらうから」
「ちょ、ちょっと!?」

和貴は美輝の発言に思いっきり赤面して慌てる。
その仕種に思わず噴き出す美輝。

「まあ冗談はさておき、私の身体をちゃんときれいにしておいて欲しいのよ」
「そう言っても生理中はお風呂ダメなんじゃないの?」



赤面して上目遣いに尋ねてくるその仕種が可愛い。
自分の身体なのにここまでの媚びた様な可愛さが出るとは、別の何かに目覚めそうだと美輝は思ってしまったほどだ。

「もう、なんか可愛いわね」
「はい?」

思わず声に出してしまい、和貴に聞き返されてしまう。
あわてて取り繕う様に言葉を続けた。

「いや、何でも無いわよ。生理だからってお風呂に入っても大丈夫よ」
「でもお湯が汚れるでしょ?」
「汚れない汚れない。お湯の中で経血が流れる事なんて無いから。そう言うものなの」
「え?どうして?」

和貴がいちいち上目遣いなので、美輝はなんだか年下の女の子を相手にしている気分だ。

「はいはいお姉ちゃんが教えてあげる。血ってね温めると固まるんだけど、お湯の中では水圧があって流れ出てきづらいのもあるから、お湯の中で経血が駄々漏れって事にはならないのよ」
「駄々漏れって…」
「だから、ちゃんとお風呂はいんなきゃダメよ。和貴ちゃん女の子なんだから」
「もう、袖原さんそういう扱いしないでってば」
「なんなら一緒に入ってあげようか?」
「え、遠慮します!」
「ほら、オマタの中も私が優しく洗ってあげるから」
「っ!」

完全にからかわれ倒されている和貴だった。
傍から見れば完全に初な娘にセクハラする男子だ。


◇ ◆ ◇


あまり気が進まない和貴だったが腰を温めた方が生理の痛みを軽減できると言われ、結局普通に入浴する事になった。

「さて、まずは髪を洗わないと」

お風呂場に入った和貴は美輝に言われた通りまず髪を洗う事にした。
鏡に裸の美輝の姿が映り、下をむけばそれは自分の身体として包み隠さず見えてしまうがなるべく見ない様に目線をそらす。
シャワーを頭に当てシャンプー前に軽く流すと、途端に髪の重さが増した。
美輝の髪は長いので濡らすと重さがいきなり増すのだ。

「うわっ!ぶは」

髪が長い事を気にせずにシャワーを掛けたので、濡れた髪が和貴の口元に貼りつき塞いでしまいつい慌てる。
じたばたするその姿は少し間抜けだ。

「あ、びっくりした」

着替えの時も少し邪魔には感じていたが、長い髪がこうも面倒だとは思っていなかった。
同じ目に合わないよう丁寧にシャンプーをし、トリートメントも馴染ませる様にゆっくり行う。
その慣れない作業は大変で、美輝に手伝ってもらった方が良かったかと思うほどだった。
タオルターバンで髪をまとめてから身体を洗う頃には、美輝の姿の自分の裸を気に留め無くなっていた位だ。

「はぁ、本当に身体が楽だよ」

甘い香りがする入浴剤の入ったバスタブにつかりながら、和貴は身体が楽になるのを実感する。
湯船に入りようやく一息ついた感じで、リラックスできた。
人の家のお風呂に入るのは不思議な感じだ。
これも美輝の趣味なのかホテルのユニットバスとは違い、お風呂用の壁紙やシャンプーボトル、バスチェアなど小物に至るまで可愛らしいものが多く、女の子感が溢れている。

「大幡君、どう?」
「うわ、袖原さん!?」

そこへ美輝が突然やってきた。
入浴を覗かれた女の子よろしく、バスタブに身を沈める和貴。
その反応に少し噴き出しそうになりつつ美輝は持ってきた雑誌を見せる。

「ねえ、温まってる間何か見る?暇でしょ」
「え?お風呂で雑誌を見るの?」
「そうよ、私も半身浴って良くするけどお風呂って快適空間なの、ネイルとかお茶したりとかもしちゃうよ」

言って和貴の入っているバスタブに板状のフタをするとその上に、雑誌スタンドを用意する美輝。

「どれが良い?」

見せてもらった雑誌はViViにRayにCanCanとどれも和貴でも知っている女性ファッション誌だ。
違いが解からない和貴は取りあえずRayをとる。
その事に口角を上げ笑顔を見せる美輝。
どうやらその雑誌が美輝のお気に入りの様だ。

「あ、携帯使う?使うならジップロックに入れて来るわよ」
「いや、いいよ」

女性の風呂が長いとは良く聞くが、まさかこんな事をしているとは思わなった和貴は少し感心してしまう。
風呂が快適空間と言っても間違いない。

「じゃあゆっくりね」
「ありがとう袖原さん」

持ってきてもらった雑誌をめくりながらゆっくりと過ごす。
女性ファッション誌なんて見ても仕方がないと思ったが、見ているとついつい夢中になってしまった。
男性が女性ファッション誌を見ると、大概モデルの娘が良いとかそんな事ばかり見るものだが和貴は普通に春夏コーデの着まわしや春ヘアの特集を楽しんでいた。
気が付いた頃にはすっかり時間が過ぎ、40分は経過していたのだ。
それこそ生理の事も忘れていたぐらいだ。
慌てて上がると、美輝は特に気にとめた訳でもなくテレビを見ていた。

「ごめん、袖原さんつい長湯しちゃった」
「そう?普通だと思うけど、樹理なんて2時間近くは入ってることあるし。あの子は先に入らせると私が困るのよね」
「そうなんだ」

その会話はすっかり和貴を女の子として扱ってたりするのだが、あまりにも自然な為二人とも気が付いていない。

「じゃあ、髪の毛乾かさないと。こっち座ってくれる?」

呼ばれて和貴は美輝の側に座る。
美輝はドライヤーで軽くブローしながら風を当てる。
小さい時に樹理にもしていたのか手際が良い。

「髪の毛長いのも大変だよね」
「そう?私短くした事ないから実感ないのよね。大幡君になってみて初めて分かった感じ」
「そうなんだ」
「邪魔なら纏める?毛先はこの前パーマ当てたばかりだからカールドライヤーで直ぐに巻けるし」
「ううん、このままで良いよ」

洗う時は苦戦したが、今はそうでもない。
温かい風があたって漂う香りが良い匂いで、纏めてしまうのはもったいない気がするのだ。
それに長い髪を触られるのがなんだかうれしい気分だった。
やがて髪が乾きドライヤーが止まる。
ふとマガジンラックに目を向けるとそこに興味のある雑誌を見つけた。

「あ、このヘアアレンジの雑誌ってRayの別冊編集?見ても良い?」
「いいわよ。すっかり気にいってくれたみたいね」
「うん、ファッション誌って楽しいんだね」
「さてと、私もお風呂入って来るね」

美輝が立ち上がり浴室に向おうとして、何かを思い出す。

「あ、そうだった。和貴ちゃん寝る前にナプキンそっちのやつに取り替えて置きなさいね」

差した先は樹理が某避妊具と勝手に勘違いした紙袋だった。
和貴が開けて見ると大型の夜用ナプキンで、取り出して見ると今までのものより倍ほど大きさがある。

「それなら当て方悪くても横漏れしないでしょ。わざわざ買って来たのよ」

確かにこの大きさなら横漏れも大丈夫そうだが、まるでオムツみたいだと和貴は思った。
実際に付け心地はあまり良いとは言えないが、ショーツや衣類を汚す訳に行かないので仕方がない。

雑誌を見ながら美輝が上がって来るのを待つ。
結構時間が掛かっている様で、あがってきた頃には裕に1時間以上たっていた。

「袖原さん、またその部屋着」

あがってきた美輝は、またストライプ柄のロングトレーナーに白いショートパンツのいかにも女子なルームウェアを着ていたのだ。

「しょうがないじゃない。こう言うのしかないんだし」
「男物は無いの?」
「付き合ってる男も居ないのに男物なんて置いておく訳ないでしょ」
「そうなんだ」

ただでさえオネエな言葉使いな自分に抵抗があるのに、女装までされると流石に苦言を呈したくなるのだが、やはりそこは美輝だけにそこは受け付けないらしい。
だが、そこで一つ大事な事に気が付く。

「ねえ、男物が無いって、もしかしていまはいてる下着って…」
「もちろん私のだけど?」
「だっ!」

和貴の想像通りだった。
思わず叫んでしまう。

「何叫んでるのよ。フレアショーツだからちゃんと収まってるって」
「そう言う問題違うから」

がっくりうな垂れる和貴の姿は、背景にどんよりと縦の効果線が見えてきそうだ。
そう言う性格だとしても気にしないにも程がある。

「別に良いじゃないの。大幡君自身がすすんで私の下着を着てハァハァしている変態な訳じゃないんだし。
こう言うのも何だけど、似合ってると思うのよね」
「…袖原さん、実は楽しんでる?」
「うん」

良い笑顔で即答だ。
和貴はどんよりを通り越して白くなりそうだった。
生理による体調不調よりもはるかに気分が滅入ると言うか、少し泣きたくなっている。

「何その小動物的なイジケ顔?ほんともう可愛い!私とは思えないわ」

和貴はもうどうでも良くなりそうだ。
美輝の変なスイッチを入れてしまったのは自分が悪いのか。

「私なのに私じゃない可愛さ。それマスター出来たら私もモテモテかしら?」

多分美輝には無理な気がするが、目指して見る事は悪くない。
前提として元々の性格がばれない様にしなければ、その次は無いであろう。
和貴だって意図的にしている訳ではない。

「まあ、それはさて置き寝る前のスキンケアはきちんとしないとね」

相変わらずの切り替えの速さだ。
美輝は和貴の顔を覗き込む化粧水と美容液を取り出す。

「それならメイクを落とした時にしたよ?」
「ダメダメ、それは私の身体なんだからちゃんと女子力維持に協力しなさい。いい?一緒にするから真似してね」

美輝は和貴の身体で化粧水を使いながらマッサージを行い、和貴もそれに習う。
何だか少し楽しいのは美輝の頬の手触りが良いからだ。
女性の身体になったのだから、顔ではなく胸を触って喜ぶぐらいするのが甲斐性ではないかと思うのだが、奥手な和貴にはこれで十分満足らしい。

「あれ?袖原さん眉毛」

不意に自分の身体の美輝を見て何かに気が付く。

「あ、無駄毛処理のついでにちょっと形整えたんだけど」
「無駄毛処理?」

良く見ればショートパンツから伸びる足のすね毛が綺麗に無くなっていた。

「あっ!なに勝手に剃ってるのさ」
「良いじゃないの、もともと濃く無かったし、可愛いって」
「余計なお世話だよ」

また涙目になってしまう和貴。
美輝の身体のせいか、なんだか涙腺がとてもゆるい気がする。
その姿にまた可愛いなどと思う美輝だが、少しいじり過ぎかとも思いこれ以上茶化すのは止めておいた。

「ゴメンね。悪気があってじゃなくてつい衝動的にやっちゃったのよ」

謝ってはいるが、その言い分には納得しかねるものがある。
それでも半泣きな状態の自分が恥ずかしいのか、和貴は気を張り持ち直した。

「もう絶対そう言う事しないでよ?さっき出かけた時だっていつの間にか女物着て行ってたし。人の事も考えてよ」
「いや、本当に悪気は無いのよ?」
「悪気なければ良いってもんじゃないよ」
「いやはや、ごもっとも」
「そもそもの原因はなんだと思ってるんだよ!」

和貴は草食系で普段あまり感情的にならないのだが、今までの鬱憤がぶり返したのか一気にそれが流れ出たようだ。
生理に対する不快感もそこに上乗せされ結構な勢いだ。
流石の美輝もこれには萎縮する。

「それは私めの軽はずみな行動でございます」
「解かってるじゃないか」

美輝は調子に乗り過ぎて樹理に怒られた時の様だと心に思いつつ、その後も和貴の説教を聞く事になった

「くちゅん!」

説教はしばらく続いたが、そのうち身体が冷えてきたらしく和貴がくしゃみをした。

「あ、ほら、身体冷えて来たんじゃない?生理なんだから温かくしないとまた痛みがひどくなるわよ」

美輝がすぐに膝掛け用のブランケットを和貴の肩に掛ける。
その動作は怒られて子供の様に縮こまっていた時は違い、紳士的と言うか抱擁的な優しさがあった。

「ありがとう、袖原さん」

何だかそれで一気に和貴の怒りは何処かに行ってしまう。

「さ、もうベッドで休んだ方が良いわ」

美輝はそのまま寝室へと和貴を連れて行くとベッドに寝る様に促した。

「袖原さんはどうするの?」
「私はその下に収納してある簡易ベッド使うから、樹理とか泊って行く時に使う用なの。
だから心置きなくそのベッド使って良いわよ。生理で辛いんだから」

和貴はさっきとはうって変わったその心遣いに、何だか美輝が頼りになる年上の様に感じてしまい、そんな考えに少し恥ずかしさを覚える。

「ほら、布団掛けてあげる」

言葉に甘え、ベッドに入った和貴に美輝は布団を掛け直してくれた。
ベッドに入ると緊張が解けたのか身体の力が抜け、そのままうとうととしてしまう。
美輝の身体になってから何だかやたらに寝付きが良い様な気がする。

「おやすみなさい」
「おやすみ、大幡君」

辛うじて挨拶だけを交わすと、良い香りのするベッドで和貴は1日を終えるのだった。


◇ ◆ ◇


「ちょっと、大変大変っ! 大幡君起きて!」

翌朝、物凄い慌てて美輝が和貴を揺さぶっている。
かなりの慌て様だ。

「ちょ、ちょっと、袖原さんどうしたのさ」

実は美輝の身体は低血圧気味で朝にとても弱く、なかなか起きられない体質なのだが身体を激しく揺すられたものだから、和貴ものっそりと目を覚ました。

「大幡君、これ、これ!」

言って自分の股間を指差す美輝。
眠い目をこすりながら、差された所を和貴は見る。

「何が変なのさ?」

美輝の股間は元気よくもり上がっていた。
朝なんだから別段驚く事でもないだろうに。

「何がじゃないわよ! 目が覚めたらこうなってたの」

美輝はパニック状態だ。
美輝がそんな事で今更驚くとは思いもよらない和貴は逆に至って冷静だ。
男性経験があるのだろうし、昨日もお風呂で和貴の身体を隅から隅まで見たに違いないと思っているからだ。

「袖原さん、それただの朝立ちだから」
「朝立ちってなに?朝立ちって?議員とかが8時ぐらいに駅とかで演説してるあれなの??」
「いや、それも言葉として間違って無いけどね。生理現象だよ」
「生理なのは大幡君でしょ!」
「いや、まぁ」

美輝は混乱の極みだ。
こんな状態では和貴も扱いに困る。

「袖原さん落ち着いて、大丈夫、健康な男性ならみんなある事なんだって、袖原さんは今俺の身体なんだからさ」
「でも私なんにもしてないよ?」
「してなくてもなるの」
「ええ!?じゃあこのまま精射しちゃうの?」
「しないよ!」

美輝の発言に和貴は盛大に突っ込みを入れる。
慌てた様子の美輝は、昨日の和貴をあしらって楽しんでいた様な姿とは違い逆に年下に見えてしまう。

「ねえ、これってどうやったら収まるの?ねえねえ」
「あ、放っておけばそのうち」
「そのうち?」
「そう」

それで少し落ち着いた様だ。
徐々に冷静さを取り戻して行く。

「そっか、そのうちに治るのね」
「だから心配ないよ」

完全に落ち着いた様だ。
だが和貴はそこで少し昨日の意趣返しをしてやろうと考えた。

「ああ、でも、一回抜いたらすぐに収まるよ?なんなら手伝ってあげようか」

こう言えば恥ずかしがって遠慮する筈である。
だがその答えは違っていた。

「え?良いの?やってやって、一度体験してみたかったのよね精射って」

美輝は嬉々として和貴に迫ってきたのだ。
思惑が外れるどころか、いきなりピンチな状況になる。

「わ、冗談、冗談だって」
「冗談じゃ済まないわね。なんかこうみなぎる感じがもう止められないもの」

本当に興奮しているのか美輝の鼻息が荒い。

「本当に勘弁して、やるなら一人でやってよ。やって良いから」
「それがね、何だか私、和貴ちゃんに欲情しちゃってるみたいなの。男でも欲しくてたまらなくなる時の感覚と同じ感覚ってあるのね」
「や、だからゴメンって」
「ダメ、もう我慢できない。なんかコレを和貴ちゃんにハメたくてしょうがないんだもの。セックスしちゃおうよ」

美輝はついにその言葉を言う。
もう臨戦態勢へと移行し退く事を良しとしない状態だ。

「いや、ほら、あれ、俺生理なんだからそう言うの出来ないでしょ?」
「出来ない訳ないじゃないの。
その身体の事は私が一番よく知っているのよ?こんな風に男が迫ったら疼いてきちゃってるはずよ。生理なら特にね」

確かに生理の不快感ではなく、逆に何かきゅぅと締まるような感じ。
まさしく疼くと言うのが当てはまる感覚を和貴は感じていた。

「でも、ほら、血で汚れちゃうし」

それでも必死に抵抗を試みている。

「だいじょぶっ!そんな時の為の防水シーツがあるのよ!」

言って美輝はクローゼットより防水シーツを取り出すと布団を退けてベッドに一気に敷いた。
その手際に良さに、和貴はついそのままその行動を見過ごしてしまう。

「なんでそんなのあるのさ」
「それはね、レースフリルのローズベッドシーツがいい値段するからよ。汚したくないのよ。それにレースフリル付いてるからお洗濯手洗いで大変だし。いざと言う時の備えに必需品よ」

そのいざと言うのは、つまりセックス時の事だ。
美輝は膣分泌液の量が多い体質でシーツに染みを作ってしまうので用意してあるらしい。
他にも手淫による自慰の際にも使用したりと大活躍な必需品だ。

「男物の服置いてないのに、そう言うのは用意あるんだ」

思わず和貴が呟くが、そんな事は右から左の馬耳東風の美輝。
準備完了とばかりに和貴を抱き上げるとベッドへ移す。

「さあ、私に任せなさい。ちゃんと和貴ちゃんも気持ち良くしてあげるから」
「いや、心の準備が、 あふ」

いきなりキスをされた。
自分の顔、男にキスされるなど絶対ご免被りたい事なのだが、そのキスは甘くとろける様だ。
その唇はとても柔らかく、唾液もさらっとした心地よさ。
侵入する舌はゆっくりと優しく口腔内を撫でてゆく。
舌先がふれあうと下半身の疼きが増し、思わず甘い鼻息がもれてしまう。

「んふぅぅ…うぅん…」

美輝が唇を離すと、そこに透明な一筋の糸が流れた。
キスだけで和貴は既に快楽の入り口まで来てしまっている様でぼーっとしている。

「今度は胸よ」

パジャマを脱がしインナーもめくり上げると、美輝の手は優しく乳房を揉みしだいた。
ゆっくりと丁寧に。

「あんっ…う…くぅぅ……」
「気持ちいい?」

美輝は揉む強さを変え、時に指腹でさすったり乳輪をなぞったりと愛撫を繰り返す。

「はぅん…、(ああ、力が抜ける、気持ちいい)」
「ふふ、何だか和貴ちゃん甘いにおいがする」

ちゅぱ
美輝の口が和貴の胸に吸い付いた。

「(柔らかくて良い匂い)」

美輝は舌で乳首をなぞり上げる。
ソフトクリームを舐める様に美味しそうにだ。
それは本当のソフトクリームの様に和貴の乳房をとろけさせる。

「あぁん…(胸の先が熱い)」

和貴は身体の熱が徐々に上がってきた様だ。

「(ああ、俺の身体の匂いが、男の匂いが…)」

和貴もまた美輝から感じる男の匂いに反応し興奮の度合いを高めていた。

「さあ、これからもっとよ」

いよいよ、美輝の手が和貴の陰部へと伸ばされた。

「…あっ!…」

触られただけだと言うのに、悪寒の様なそれでいてしびれて火照る様な快感が身体に走る。
美輝の指がゆっくりと陰唇をなぞるとその快感はますます押し寄せてきた。
快楽に酔う和貴の表情はほんのり桃色に上気し恍惚としたものに変わって行く。

「(なにこれ?私なのに凄く…。可愛い?いや可憐、何だか愛おしいわ)」

美輝の息遣いもだんだんと荒くなってくる。
抱きしめたくなる衝動を抑え、その指は陰口から陰核へと動かされる。

「んあぁぁっ!」

今までよりも比べ物にならない衝撃が電流の様に身体を襲う。
そのまま陰核を刺激されれば、熱い蜜がとどめなく溢れだしてきた。

「もう良いよね。行くよ」

美輝はそそり立つ陰茎を着衣から解き放つと、ゆっくりと身体を重ね慎重に膣口を探り当てる。

そしてついには膣の中に挿入された。

「ひゃあぁぁぅ!」
「ああ、これが入れる感覚なの?」

美輝のそそり立つ陰茎が温かくぬめる様に陰口へと滑り包まれて行く。
途端に和貴は激しい尿意とおびただしい快感の波に奔流される。

「(ああ、入ってくる。自分のなのに袖原さんのモノが・・・)」

その表情はうっすらと涙さえ滲み快楽を享受する姿は扇情さに拍車を掛け、美輝に男の抑えきれない劣情を呼び覚ましてしまうほどだ。

「もう我慢できない。行くよ和貴ちゃん」

あふれだす感情に任せ、一心不乱に美輝の腰が動かされる。

「ああん!んあぁっ!んあぁぁん!」
「ああっ!良い、良いよ和貴ちゃん」

和貴は上り詰める快楽にただただ美輝を求め続けた。

「あぁぁ、袖原さん、袖原さんぅ」
「違うわ名前を呼んで、美輝って」
「くふぅ、美輝さん、美輝さんぅ」
「そうよ。もっと呼んで、和貴ちゃん」

名前を呼ばれ、美輝の興奮の度合いはますます増して行き、それに伴い腰の動きも激しくなる。

「ああんっ、あんっ、あんっ!」

和貴は目眩く快楽に随喜の涙を浮かべ、抵抗できない快感の渦にのまれて行く。
腕が自然と美輝の背に回り、強く強く抱きしめる。
お互いに求め合う姿は一つの愛を成していた。

「うあぅっ、出る、何か出る!」

そして肌を重ね求め合う喜びが迸る男の欲情の形となって、今まさに美輝より放たれようとしている。

「あっ……、イクっ、美輝さん、なんかイっちゃうぅぅぅっ!」

和貴もまたうねる様な快楽に、上り詰める快感が最高潮に達しようとしていた。
和貴の膣穴が締り美輝の陰茎を執拗に攻め立て、美輝の陰茎は脈打ち燃える様な熱と刺激を与えてくる。

「くあぁぁ、出る、出るよ……和貴ちゃん! …イクぅぅっ!」
「み、きさん、……んああぁぁぁっ!」

ついに美輝は熱い情念の具現を和貴の中に解き放ち、快感の絶頂を身のうちに喜びをかみしめる。
そして和貴は子宮に満たされていく熱い精液を感じながら、これ以上ないほどの幸福感に包まれ火照る身体の余韻に浸り、たゆたう夢心地の世界へと誘われるのだった。

朝日が差し込む一室で、果てる二人の世界はゆっくりと時を刻んでいた。
求め合い満たされた幸福が、優しく静かな時間をもたらせている。
それはとても甘美なものだった。



◇ ◆ ◇


朝からの一悶着でなんとなく気恥ずかしい空気が流れる二人だが、それ以外は特に騒ぐような出来事も無く二人はリビングで過ごしていた。
あとは連絡を待つばかりである。
そして10時を回った頃、美輝の携帯が鳴った。
表示は知らない番号だったが、おそらくあの露店からの連絡だろうとそのまま出る。

「もしもし」
『あ、障繰り替えの首飾りを買われた方ですか?』
「はいそうです」

どうやら、露店からの連絡で間違いない様だ。
しばらく通話をして最後にお礼を述べると美輝は電話を切った。

「どうだった?」

和貴はその結果を聞きに尋ねる。

「外す方法って言うか、入れ替わりが戻る方法がわかったわよ」
「本当、良かった。
それでどうやったら戻れるの?」
「いやそれがね、24時間たったら自動的に戻るって」
「へ?何それ?」

その答えに脱力する和貴。

「なんかそう言うものだった見たいで、私すっかり忘れてたわ」
「じゃあ、最初から大人しく待っていれば良かったって事?」
「そうなるわね」
「で、24時間戻れないなら最初から会社で伝票整理する間だけの交代で済まなったと言うわけ?」
「うん、申し訳無い」
「なんだよ、結局袖原さんが後先考えないのが悪いんじゃないか」
「だからゴメンって」

散々振り回される事となり、職場でしか付き合いの無かったがこの1日で美輝の性格が和貴はなんとなく分かった様な気がした。
完全にトラブルメイカー気質だと。

「まあ、あと1時間ほどだからまったり行きましょ?コーヒーでも入れるから。
ほらほらエスプレッソマシーンあるのよ、良いでしょ」

誤魔化すようにエスプレッソマシーンをセットする美輝を見て、怒ってすねると言うでもなくため息をつき、和貴はこれはこれで良いかと思うのだった。


◇ ◆ ◇


リビングにて二人でくつろいでいる時、突然それはやってきた。
ネックレスより緑色の光が溢れだしあたりを包む。
光が収まった後の場所はやはり変わらずリビングだった。
ただ位置が美輝のいた場所に変わっている。
生理痛のあの感覚も消えていた。
隣を見るとパジャマ姿の美輝がいる。
そのパジャマは先程まで和貴が着せてもらっていたものだ。

「あう、身体がだるい。首飾り外れて元に戻ったのね」
「よかった。これで一安心だ」
「いやはや、今回は御迷惑をおかけしました」
「ほんとにだよ」

言う和貴の顔には笑顔があり全然怒ってはいない事が解かる。
生理から解放された事もありすっきりして清々しい気分なのだ。

だが何か忘れている様な気がする。
違和感に自分の身体に視線を落とせば、和貴は先程まで美輝が着ていた部屋着を着ていた。
いい加減諦めていた服装だが、こうして自分が着ているとなるとまた別だ。
途端に恥ずかしさがこみ上げてくる。
美輝の服はずっと着ていたが、それは美輝の身体になっていたからで、自分の身体で着ていればそれは女装以外のなにものでもない。

「あの、ちょっと着替えてくるよ」
「そう?可愛いから大丈夫だと思うけど」
「大丈夫じゃないよ」

元に戻ってもやっぱり美輝は相変わらずだ。
和貴は自分の服を取りに立ち上がる。

「あ、着替えるならちゃんと洗濯場にもって行ってね。あと下着は洗濯しちゃったから女もので悪いけど新品だしてあげるから」

こう見えて美輝は片付けの出来る女性の様で、一緒に寝室に行きチェストからボクサータイプのショーツを取り出し和貴へ渡す。

「ありがとう」

受け取った和貴は美輝の言葉に従い洗面所横の洗濯機のある所に行って急いで着替えた。
大雑把な性格な美輝だが、部屋は綺麗に生理整頓されていたし、仕事も適当なようで割とそつなくこなしているのを考えると案外出来る人なのかもしれない。
着替え済ませ自分の服に戻った和貴は安堵のため息を漏らす。

「はぁ、恥ずかしいから勘弁してほしいよな」

鏡を見て自分の姿の美輝を思い出してみる。
女言葉を使い仕種や服装まで完璧女性なオネエの自分。
しかも、その姿の美輝に女として抱かれてしまったのだ。

「ああもう!恥ずかしい事ばかりじゃないか、それもこれもでも袖原さんが考えなしだから悪いんだよ」

思わず一人愚痴る和貴だった。

和貴がリビングに戻ると美輝がぐったりしていた。

「いろいろ迷惑かけてゴメンね。知っての通り私は生理でダウンしているから今日はお礼出来ないけど、今度必ずするから」
「別に良いよ。ある意味貴重な体験だったしね」
「じゃあ、お礼は無しの方向で」
「そう来る?」
「あはは、冗談よ。本当に今度するから」
「だったら期待するかな」

今回の事で本当に二人は打解けたようだ。
変則的にではあるが身体を重ねた関係でもあるのだが、それとは別な意味でだ。

「じゃあ、そろそろ帰ってもらえる?」
「良いけど、一人で大丈夫?」
「薬飲んでベッドで休んでいれば大丈夫だと思う。
3日目でだいぶ楽なはずなんだけど、さっきまで元気だったものだからいっきに来ちゃった感じでさ。
食事もちゃんと食べるから、玄米ブランとかあるし」
「それって食事?」
「立派なごはんよ。カロリー計算にも便利だし、他の栄養もサプリで取るから」

すっかりずぼらになっている美輝。
だが生理を体験した和貴はそれも仕方がないかと大目に見る事にする。

「そう。でも本当に大丈夫?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、大幡君が居ると逆に落ち着かないから」
「なんでさ?今まで散々一緒に居たのに」
「さっきとは状況が違うのよ。さっきまでは大幡君が女の子だったんだから心配なかったけど今は違うわ」
「もしかして俺、警戒されてる?」
「生理で情緒不安定なんだから、予防線張っているのよ。察してくれると嬉しいんだけど」

生理で情緒不安定になるその気持ちも和貴は解からない訳ではない。
体験済みなのだから。
だからと言って少々腑に落ちない事もあった。

「解かるけど、袖原さん朝に俺の事押し倒したよね?」
「あれは、男の本能に流されと言うか、私な和貴ちゃんが可愛すぎて欲情が抑えられなかったと言うか」

思い出したのか、珍しく美輝が恥じらう。
だが、それも一瞬の事ですぐに言いかえす。

「なに?大幡君は生理で苦しむ私を襲いたいの?」

そう言われればそれ以上強く出られないのが和貴だ。
すぐに引き下がる。

「ごめん、それは悪かったよ。そこまで言われたら帰るしかないか」
「分かればよろしい」

いくら一晩を一緒に過ごし身体を重ねる事態になったとはいえ、それは特異な状況だったからだ。
恋人でもない自分がこのまま居座るというのは良い訳は無い。
美輝が大丈夫と言うのだから平気なのだろうと思った和貴は荷物を取るとそのまま玄関へ出る事にした。

「じゃあ、また月曜日会社で」
「うん、また」

美輝は玄関まで見送りに出てくれた。

「お邪魔しました。お大事にね」
「ありがと」

美輝に見送られ和貴は玄関を出る。
エレベーターで下に降りエントランスをぬけて外に出ると、春を迎える温かい日差しが優しく降り注いでいた。
そよぐ風も春色の香りだ。
不思議な出来事であったが、そのお陰で和貴は美輝と仲良くなれた。
美輝にはいろいろ困らせられたが、それも悪い気はしていない。
むしろあそこまで自分を出して接してくれる事に好意を抱いていた位だ。
そう思うと自然に気持ちも弾んでくる。
明日からの日常は少し違ったものになる。
そんな予感が和貴の足取りを軽くさせていた。


◇ ◆ ◇


「ふぅ、帰ったか」

一人になった部屋の中で美輝はため息をつく。
本当は和貴に側にいてほしかったのだが、あんな事を起こしたあとだ、これ以上迷惑を掛けるのは心苦しい。
美輝にして見ると和貴の優しさは心地よかった。
良い女や可愛い女、愛される様に自分を演じる必要もなく、肩肘張らないで接することがでる男性。
しかも、からかいがいがあるのがポイントだ。

「ま、同じ職場なんだし、いろいろ機会はあるわよね」

これからの事を考え、美輝は一人笑顔を浮かべる。
そしてベッドに向うかと思いきや、何故か洗濯機の所に行きカゴの中から洗濯したと言ったはずの和貴の下着を取り出した。
それを眺めにやける美輝。
今度のは危ない笑顔だ。

「大幡君には言わなかったけど、実は私って生理になると性欲が増すタイプなのよね。
なんか朝の事思い出したら疼いちゃって仕方が無いわ」

そう言いパンツを近づけると匂いを嗅ぎだした。

「むふふ、大幡君が履いてたパンツ」

そうして美輝は一人エッチを始めだすのだった。
これも愛のうちと言っておけばいいのだろうか?
まあ、言っておいた方が良いだろう。
この場では。


◇ ◆ ◇


また、ありふれた日常はくり返される。
いつも同じではないが特別過ぎる事など何もなく、慌しくもなければ穏やかでもない時間が過ぎていく小さなオフィス。
そこには仕事に打ち込む和貴の姿と、書類をコピーする美輝の姿があった。
不意にその二人の視線が交わり、そこに笑顔が生まれる。

その光景に取り立てて珍しい事は無い。


終わり
どうも、前編が好評を頂けまして喜んでおります。
書いておりました通り後編を投稿させて頂きました。

わりと男性は生理の話を嫌がりますが、労れとは言いませんので、少しだけ気に留めて置いて下さい。
あと、生理の時は性欲が増すと言うのはほぼ都市伝説です。

このお話は「男性が生理を体験してわかってもらう」をコンセプトにした物で、元のお話はこちらでも大活躍中のKCAさんのブログに置かせて頂いております。
そちらでは入れ替わりが戻らずそのまま続く場合のお話をKCAさんが甘々なハッピーエンドで素敵に書いて下さっています。
興味のある方はぜひご覧ください。

では最後に読んで頂いたみなさまありがとうございました。
また一言頂けたら嬉しいです。

※5/15 コメントありがとうございます。またいつか投稿させてもらいますね。
※5/16 生理体験は美輝にでも頼んで下さい。
励みになるコメントありがとうございます。
※5/29 リクエストありがとうございます。強制入れ替わりものですか?
好みに合うものが出来るかわかりませんが、機会があれば書かせて頂きますね。
ただ今は別な所で続きものを書いているので何時になるか。気長にお待ち下さい。

◆何かリクエストとか指摘などありましたら、メールで頂けると幸いです。
さーにん
sanin23@mail.goo.ne.jp
0.7050簡易評価
5.30きよひこ
もう少し簡潔に、要らない部分多い。
6.無評価きよひこ
あと、あとがきの宣伝も余計か
7.100きよひこ
もしかして作者は女性? 生理の話、服の話、化粧の話、細かい所までわかりやすくてよいです。
美輝さんだったら、機会があればまたこの首飾りを使っちゃいそうですね。こういう話は好きです。
また別の話での投稿を期待しています。
19.100きよひこ
作者の人生理代わってあげるからぜひ俺と入れ替わろう!
21.100きよひこ
GJ 細かな心情が伝わってきてよかった
29.100きよひこ
この話もいいが、某所で見たような感じで強制入れ替わりものを希望したい。
33.100きよひこ
家のパソコンはネット使えないからメールは無理
リクエストのは気が向いたら書いてくれ。