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男精(だんせい)エキス

2011/06/02 17:30:32
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この世に魔王が出現してからもう1世紀ほども経とうか。その100年の間、ひと時の平穏もなく人間と魔王軍の魔物たちとの血みどろの戦いが続いていた。
長い。あまりに長い戦いに人間たちは疲弊しきっていたが、魔王は100年経ってもなお若く、力強さを保ったままじわりじわりとその領土を拡大していった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ふぅ、とうとう俺も捕まっちまったか・・・」
両手に枷をはめられ、鎖でつながれた仲間たちとひとつなぎになって魔王城の門をくぐる俺は、人間軍の剣士。名前はリオン。俺たちは戦いに敗れめでたく魔王軍の捕虜になったのだ。

この100年の戦争の間で、魔王城の門をくぐった者は誰一人として還ってこなかったという。計り知れない絶望と恐怖が俺たちを包んでいた。

城内に連行された俺たちは、そのまま地下牢につながれた。そのまま処刑場につれていかれて斬首・・・ということではないのだろうか?長距離を連行されてきた兵士たちの間にはとりあえず休息がとれる安堵感が広がった。

そのまま数日間、俺たちは牢につながれたまま死の恐怖におびえる時間を過ごした。だがいっこうに処刑の時間はやってこない。それどころか牢屋係(?)とおぼしきメイドが日に3度やってきて、十分すぎる食事を置いていくではないか。毒を盛られているのかと思ったがどうもそうではない。おいしい食事だった。

魔王城は、今まで人間たちが勝手に想像してきたものとはまったく異なった様相を呈していた。人間の常識からすればとても奇妙だった。まず、これは以前から最大の不思議とされていたことなのだが、男の魔王を除く魔物たちの中に男(オス?)と見られる者が1人もいないということだった。人間の体をなしていない魔物については判別のしようがないが、おおよそ人間に近いと思われる獣人や悪魔のような魔物たちはすべて胸にふくらみを持つ女性型であり、男性型はついに見つけることが出来なかった。魔王軍では女性が戦闘員で男性は司令官的役割で城の外に出て戦闘には参加しないので男を見つけることが出来ないのではないかという憶測もされていたが、魔王城の中にもどうやら女性しかいない。
更に驚いたことに、食事を運んだり雑務をこなすメイドはどうやらすべて人間の女のようなのだ。侵略した村々からさらってきたのだろうか?しかしそれにしてはとても楽しそうに仕事をしている。そして全員が全員、とても優しげで人間界ではどこにでもいる気の強そうな女が1人もいない。みなとても穏やかな顔をしているのだ。

「あの・・・」
「はい、なんでしょう?」
食事を運んできたメイドの1人に俺は声をかけた。
「君は人間、なのか?」
「はい。私は魔王様におつかえしている人間です。」
メイドは優しく答える。
「どうして魔王なんかに。どこかから連れ去られてきたのか?」
「いいえ。そうではありません。私は自らの意思でここで働いてるんです。」
「こんな魔物たちのうようよいる中で・・・。逃げ出したいとは思わないのか?」
「いいえ。私達は『出がらし』ですから。そのような気持ちはもはや起こりません。」
「出がらし?」
「ええ。魔王様に精を提供し、残ったカスが私達なんです。私達はもはや取るに足らない存在。魔王様の御威光のために微力ながらお手伝いするしか能のない存在なんです。」
そう微笑むメイドの瞳はどこか濁っていて、意思の光は微塵も感じられない。
「精を提供?なんだそりゃ。」
「すぐに分かります。貴方達も魔王様の『エサ』なのですから。」
「なに!?俺たちが魔王のエサ!?どういうことだ!?」
牢の中は一瞬でパニックに陥った。

「あら、喋り過ぎました。これ以上は禁則事項です☆」
騒ぎ立てる俺たちを無視し、メイドは通路の奥に消えていった。

供される食事が俺たちを魔王がおいしく食べる為ではないかと想像してしまい、素直に喜んで食べられない。

翌朝、初めて同じ牢の2人が連れて行かれた。そして、帰ってくることはなかった。そして、昼に2人、夜にまた2人。やはり魔王の食事にされているのだろうか。俺たちの恐怖をよそに、翌日、そのまた翌日とどんどん連れて行かれ、同じ牢内の人数が減っていく。

何日か後、今日は俺の番・・・。もう1人の元戦士ジョンと手枷をはめられたまま魔王の元へと連行される。
「魔王様。お食事の時間にございます。」
「おおそうか。これへ持て。」
青白い肌に、額から生える太い角。そして見上げてしまうほどの巨躯。魔王はその名にふさわしい威圧感を放っていた。

「お、俺たちをどうやって料理する気だ!?」
「聞き飽きたなその質問。体を食うわけではない。男の精のエキスをもらうのよ。まあ見ていれば分かる。」
慣れた様子でジョンの首元を大きな右手で鷲づかみにする。すると、なにやら鈍い光がジョンの体を発して魔王の腕の方へ、脈打つように流れていくではないか。

ゴクン、ゴクン、ゴクン。
そんな擬音が聞こえそうなほどに、光は幾筋の波となって魔王の体に吸収されていく。

「う、うわああああ。やめてくれーーーー!!」
何かを吸い取られていくジョンの体は完全に脱力し、だらしなく開いた口からは泡交じりの涎が垂れている。倒れようとも魔王の手にがっしりとつかまれているためにかなわない。

完全に垂れ下がった手足からは、今まで鍛え上げた筋肉がすべてなかったかのようになだらかに消え去っていく。

「やめてくれ!お、俺の大事なものが、どんどん取られて・・・なくなって・・・俺を吸い取らないでくれえ!!。」
直立するほどだった黒髪はしなやかに垂れ下がり、その長さを増していく。薄くなった胸板からは明らかに男のものでない二つのふくらみが育っていく。

一瞬びくっとしたと思うと股を閉じ、何かの存在を確認しようとするが、また脱力する。どうやら、股間の一物が無くなったらしい。

「いやっ、もうやめて。やめてよおおお!!」
いつの間にか高くなった声で女々しく泣き叫ぶが、最早『食事』は終局に到達しつつあった。もうどこからどうみても華奢な女でしかないジョンの瞳に最後に残っていた意思の光が段々と消えていき、それとともにジョンも大人しくなった。

「ふう。うまかった。」
魔王が手を離すとジョンだった女はどさりと崩れ落ちる。

「ジョン、大丈夫か。ジョン!!」
「わ、私・・・。吸われちゃった。私の男・・・全部・・・・。」
そうブツブツと独り言のように語るジョンの瞳はもうあのメイド達と同じ、意思を感じさせない濁ったものになっていた。

「ふむ。もう貴様の役割は終わった。城から放り出してやってもよいがのう。」
「め、めっそうもございません。私は男を吸い取られた出涸らし。取るに足らない存在にございます。城の外で1人で生きていく気力など最早微塵も残っておりません。」
ジョンだった女は弱々しく答える。
「そうか。じゃあ貴様もあの者たちのようにメイドにしてやろうか。」
「はい、ありがたき幸せにございます。」
メイドの衣装に着替えさせられたジョンだった女は、数多いる彼女達のうちの1人となって立ち去っていく。

「おい、待てよジョン!!」
「私は名も無きメイドの1人でございます。ジョンなどというものはもうおりません。」
そのメイドは優しく微笑むと、仲間たちと一緒に消えて行った。


「そういうわけだ。わしの若い肉体を保つためには若い人間の男のエキスが必要でなあ。貴様のもいただくぞ。」
「や・・・・・やめろおおおおおおおお!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あは、あははははは・・・。私も、吸われちゃった・・・」
魔王様の前に私は力なく崩れ落ちる。なんだろう。この脱力感。この空虚感・・・。エネルギーを全部吸われちゃった感じ・・・・。体の中にもう1ジュールも熱量が残ってない・・・感じ。

自分の顔が映るほど磨き上げられた床に見えるのは・・・・・1人の、髪の長い女。濁った目をした・・・・。

「貴様はどうする?」
「わ、私も外の世界へ出て行く勇気がありません。どうか魔王様・・・ここで・・・」
「そうか。それならば貴様には魔物の兵士になってもらおう。」

私は赤黒い禍々しい妖気を放つ玉を飲まされる。

飲み込んだ瞬間、体中がカアッっと熱くなる。
なにこれすごい!!力が。力がみなぎってくる!!!

全身に今までと違う筋肉が覆っていく。・・・これは・・・獣の筋肉!?
手足の爪は長く伸び、それを噴き出すように生えてきた毛皮が覆う。
毛皮は手の先から肘まで、足の先から膝まで、陰部、胸を覆うように生える。更には首の周りにも。
やけに耳が良く聞こえると思ったら頭頂部から猫のような耳が生えていた。ふさふさした尻尾も。
瞳孔は縦に割れ、瞳は琥珀色に輝く。

これって・・・・猫の・・・・獣人・・・・

アレ?・・・・オカシイ・・・・うまく、考えられな・・・い・・・・。
アタマが・・・・・悪く・・・・なって・・・るの・・・・?
デモ・・・イイ・・・考えるのなんて・・・・メンドクサイ・・・・ドウデモ・・・イイ・・。
ダッテ・・・私は・・・魔物・・・魔王様の・・・しもべ・・・・。


ニンゲン・・・・コロシタイ!!


「変化、完了したか。貴様の名前はキャットN-3128だ。存分に働け。」
「フシューーー! ハイ、マオウサマ。」
ワタシは我が主君の前に跪いた。



※画像はおおまかなイメージです。


<END>
気晴らしに一晩でさらっと書きました。TSシチュの着想は『YAIBA』のかぐやから得てます。
要望をいただいたので図書館に投稿します。
どくた23
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3.100きよひこ
萌えるのは萌えるのだが、最後でいきなり魔王様が秘密結社の親分ぽくなって笑えたwww
21.100きよひこ
GJ!
「YAIBA」読んでみる