_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.4-3_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/クロウ_/_/_/_/_/_/_/_/_/
「お、お待たせしました…」
クロウが見に来ていたと心配したが、入口までは近づいてはいなかったようだ。
「あった? …アレ、意外と大切な一品なんだよね」
そんな大事なものを差し出してきた辺り、信用してもいいのだろうか。 クロウに短剣を見せる。
「そう、ソレソレ。 キャットのもあるね。 …返してくれるかい?」
素直に差し出すか悩む。 コイツの腹の内が未だに読めないし、少なくともキャットより出来るはず…
「…それじゃあ、貴方の剣は返します。 キャット…さんの剣は私が持ちます」
「わかった」
少なくとも身を守る手段が一つでも増えれば、安心できる。
そう考え、短剣を渡す。 受け取ったクロウは、スッと懐へ仕舞い込む。
「それじゃ、行こうか」
クロウはそういうと、先に行かせるような素振りを見せる。
「…出来れば、前を歩いてくれない?」
「承知しました、お嬢様♪」
お嬢様って…コイツが俺の正体を知ったらどう思うだろう。
ふと、『お嬢様』という言葉で思い出し、後ろをチラッと見る。
…ムウラが見えそうで見えないギリギリの位置からこちらの様子を窺っていた。
【ダ・イ・ジョ・ウ・ブ】
口パクでムウラに意思疎通すると、コクリと頷き闇に消えていった。
「…どうしたの?」
ハッ、と振り返り、クロウに返答する。
「な、なんでもない…です…から…」
「ふーん…」
挙動不審な自分の顔を覗き込むクロウ。 …何故だろう、少し胸が高鳴るのを感じた。
「さ、さぁ、エスコートよろしく、王子様」
怪しまれない様少し冗談を言いつつ、隠れ家へと歩を進めた…のだが、暫く歩いてある事に気付く。
クロウは始めこそ前を歩いていたものの、いつの間にか隣りを歩いていた。
一方、自分は…そんな事が気にならないほど頭を抱えていた。
(…何だ王子様って! 幾らお嬢様って呼ばれたからって俺が何でコイツをそう呼ばなきゃならんのだ…!)
さっき無意識に出た言葉が頭を駆け巡る。 …どうにもさっきから変だ。 自分でもわからないが変だ。
さっきより不審な行動をしていると、クロウが声を掛けてくる。
「そういえば君、名前は? あっ、ええっと…まぁ、その、君自身の名前」
クロウが何やら遠まわしな言い方で尋ねてきた。 …あぁ、種族としてじゃなく…
「…マリーン」
「マリーンちゃんか、いい名前だ」
キャットに名乗った名を再度告げる。 …『マリーン』としていくしかない、か…
それにしてもコイツ、天然ジゴロか。 一語一句、一挙手一投足に妙に魅力がある。
「それにしても、君みたいなかわいい娘がモンスターだなんて、信じられないよ。 君は一体…」
「…それは、着いたら話すよ…」
そうだ、今までの事を話す。 自分が皇帝である事。 アバロンの危機の事。 そして、危機を脱するための協力を…
「クロウ! …大丈夫?」
「あぁ、大丈夫、問題ない。 そっちは?」
「…取り敢えず皆には解散してもらったわ」
「そうか、ありがとう。 さぁ、着いたよ」
どうやら話をしているうちに着いたようだ。
扉右側の壁に見える穴の跡を確認しつつ、彼らの隠れ家へと足を踏み入れる。
クロウが後ろ手で扉を閉める。
隠れ家の中に入るや否や…キャットが目を尖らせてこちらに鋭い視線を放つ。 まだ彼女の警戒心はとけていない様だ。
「さて、っと…まずはキャットに剣を返してあげてくれないか?」
クロウが近くのイスに腰掛けつつ、話しかけてくる。 先ほどの事もあり、少し躊躇いつつ、キャットに近づく。
「…」 「…」
お互いの間に気まずい沈黙が訪れる。 とはいえ、このまま戸惑っていても仕方ない。 そっと短剣を渡す。
キャットが黙って受け取る。 …こちらを見る目が怖い…今にも斬りかからんとする気迫がある。
目を逸らさないまま、キャットはその剣を鞘に納め、バーカウンターのスツールに腰掛けた。
「んじゃ、本題に入ろうか」
クロウが投げた言葉。 いよいよ、この状況を打破する突破口に立った。
呼吸を整え、発言しようと…思ったが。
「…ちょっと、確認したい事が…」
「え?」
そう言い、一旦は閉じられた扉へと歩を進め、外を確認する。
…聞こえてくるのは、地下水がせせらぐ音だけ…気配も…しない。
勿論、ムウラを危惧しての行動である。 何せ、アイツは相当耳が良い様で…
「そんなに聞かれたくない事なのかい?」
「…まぁ、そんなところ」
扉を閉めるギリギリまで確認をしつつ、元の場所に戻る。
「…では、お話しします…」
二人に、今までの事の顛末を話す。
今はモンスターの体だが、元は人間、それもずっと昔の人間だった事。
この体がターム達の女王、クィーンである事。
そのターム達がアバロンに進行しそうだという事。
それを防ぐため、一匹のタームと共に地上へ出ようとしている事。
…殆どの事は話したものの、自分が皇帝である事と、フェロモンの解決に関しては結局話さない事にした。
前者は、余計話が拗れかねないのと、やはり信用の置ける人物に告げた方がいいと思ったため。 後者は…言わずもがな。
一人語る自分に対し、二人は静かに聞いていた。
「…俄かには信じがたい話ね…」
語り終えると、キャットが漸くこちらに対し落ち着いた口調で声を掛けてくれた。 …内容は残念だが。
「確かに、突拍子もない事だとは思う。 けれど、少なくとも地下に脅威がある事は確かなんだ…」
兎に角、今はターム達の処理が先決である。 何が何でも、侵攻は食い止めなければならない。
椅子の背もたれに寄り掛かり、揺り籠の様に揺らしていたクロウが動きを止め、発言する。
「…少なくとも、コレだけは信じられる。 …キミが今のアバロンの人間じゃないって事だけはね」
「?」
「キミは、今のアバロンの状況を知らない。 確かに君が知っているアバロンよりは栄えてはいるのだろうけれど、今のアバロンは…」
俺が眠っている間に何があったんだ?
「…今のアバロンは、もはや巨大な牢獄だよ」
_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.4-4_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/堕ちた都と主_/_/_/_/_/_/_/
嘘だ。 そんなバカな。
声にも出なかったが、クロウはそんな自分の様子を見て察したのか、語る様に続ける。
「…残念だけど事実だ。 皇帝ボークンとその息子、クオンによってアバロンはすっかり変わってしまったんだ」
「ボークン? クオン?」
一体何者だ? 恐らく、俺の代理の代理の…そのまた代理の皇帝なのだろうが…
「皇帝ボークン。 三十年ほど前に皇帝になった男よ」
キャットが言う。 その名を口にしたとき、僅かだがはっきりとした怒りが感じられた。
「先々代の皇帝まではアバロンでの暮らしは今よりずっといいものだって聞かされた、でも…あいつが皇帝になって…」
キャットの怒りがあらわになる。 言葉に詰まるキャットの代わりにクロウが続ける。
「初めは、税率の引き下げや福祉施設の設営とかで国民からの人気は高かったんだ。
だけど、その時はまだ誰もそれが罠だとは気付かなかったんだ」
クロウも、口調が少し揺らぐ。
「税率は引き下がったが、その代わりにあらゆる物に税が掛かった。 それはもう、息をするのにもって位にね。
福祉施設は、その実人質を取られたようなものだった…」
その後、二人から様々な事を聞き、気が遠くなりそうになった。 何故…どうして…俺がアバロンを顧みなかったからか…!
「俺達シティシーフも、ソイツが皇帝になるまでは帝国から極秘の仕事を受け持つほど信頼されていたんだ」
「それなのに…奴らはっ…!!」
キャットが、握り拳を締め、今にも暴れだしそうな気配を見せる。
「…勿論、アバロンの裏に対しても奴らの暴挙はあった。 このギルドも、襲撃を受けて多くの仲間を失ったそうだ…」
ダン!! と、机を叩く音が響く。 キャットだった。
「…当時のギルド長は、キャットの両親だったんだ…」
キャットが押し殺した様な声で続ける。
「パパもママも、幼い私を連れて逃げた。 必死に逃げた…でも、奴らは追跡を止めなかった…
逃げて、逃げて、逃げて、逃げ疲れて…気付いたときには、ルドン高原まで逃げていたわ…!」
ルドン…バレンヌを見渡せる高台に、世界三大湖とも言われるアクア湖の存在もあり、一見して観光地のようだが…
実際は、モンスター達の巣窟であり、被害者が後を絶たない場所である。
「疲れ果てていた二人には、私を庇いつつモンスターを蹴散らす力は残っていなかった…
私が最後に見たのは、モンスターに斬り殺される二人の姿だった!」
キッ、と、こちらを見るキャット。 そうか、だからあんなに意地になってまで…
「その後、俺の両親がキャットを見つけ、保護したんだ」
その後も二人の話は続いた。
「…そして、月日が経ち、ボークンが病に伏せた、という発表があったんだ」
「その時は国民全員が喜んだわ…でも、ぬか喜びに終わった…」
「…クオン、か?」
先程挙げられたもう一人の名を口にする。
「そう、クオン。 奴はボークンの息子よ」
「ボークンはそのまま皇帝の座をクオンに譲ったんだ。 だが、少なくともましにはなる、そう願った…けど、結局何も変わらなかった」
「クオンはまるでボークンそのままのような奴だった。 圧政は変わらず、更にじりじりと国民を苦しめていった」
その話に、まさか伝承法が悪用されているのではと不安になる。 だとすれば、この政治は未来永劫続く事になる…!
「私達は、圧政に対抗するため再び集ったの…クオンの皇帝継承のタイミングでね」
…まさか、本当に…嫌な予感が頭を過ぎる。
「だから、助けを請う事自体有り得ないし、仮に兵を出す事を受けたとしても、俺達も、そしてキミもどうなるかは…想像つくよね?」
「…」
余りの衝撃に、何も言えなくなる。 ――怒りが、こみ上げる。 その皇帝と、自分自身に対して。
「とはいえ…この上更に地下からの脅威もあるとなると困るな…君の力でどうにかできないのかい、そいつ等は」
クロウがこちらに疑問を投げかける。 確かに、それができればいいのだが…
「…仮に出来ても、私は宮殿に行かないといけないし、それで死んだら…きっと怒り狂うターム達でアバロンは滅ぶ…」
「何よ、ソレ。 じゃあ何、アンタは態々死にに来たって言うの? 災いを振り撒いて? ふざけんじゃないわよ!」
キャットが怒号を浴びせてくる。 辛うじて剣に手をかけてはいないが、何時斬りかかられてもおかしくない。
「そうじゃない! アバロンがこんな事になってるとは知らなかったんだ…」
「キャット、落ち着いて… キミ…あー、マリーン。 アリ達を何処か別な場所に移せないかな?」
どうだろうか。 例えば、奴らがいたサバンナに戻す…いや、それではまたサバンナの人々に脅威が訪れる。
何処か、人のいない所へ移す…ソレが最良だろうが、そもそもアリ達を納得させる事自体が難しすぎる。
何より…今のアバロンの置かれた状況を皇帝として…本物として放っておくなんて事は出来ない。
「…その表情だと無理そうか…参ったね、こりゃ…」
クロウがあっけらかんと呟く。
「本当に何もないの? そもそも、なんでそうまでして宮殿にいかなきゃならないのよ?」
「ソレは…」
…そうか、それだ… タームと、アバロンの問題を一遍に解決する方法…
「皇帝を、クオンを討つ」
二人とも目を丸くしてこちらを見る。
「彼らの…いや、本来の私の目的は以前の私を討ち取ったバレンヌ皇帝に復讐する事。
それが叶えば、彼らを誘導するのも楽になるはず」
そうだ、これしかない。 今の皇帝、クオンの首をターム達に持ち帰り、アバロンから離れれば、解決できる…
アリの駆除に犠牲を払わず、且つアバロンのゴキブリを駆除する。 正に一石二鳥だ。
「簡単に言うねぇ、流石女王様ってところかい? …まっ、それが出来れば苦労はしないんだけどね…」
クロウが茶化す。
「…アンタ、本気で言ってんの?
確かに、アンタ自身は多少出来るみたいだけど、それだけじゃあの宮殿に立ち向かうなんて不可能だよ?」
…二人の発言から察するに、かなり厳重な警備が敷かれているようだ。
「ボークンの時代に、クーデターやら暗殺事件が頻繁にあったそうだけど、尽く蹴散らされたそうよ」
「なんでも、帝国兵の中身はモンスターだとかの噂もあったしね」
一体宮殿に何があったんだ…頼れる部下達は一体何処に?
「…兵達は何もしなかったのか…?」
「んー? まるで自分のもののように言うね、マリーン」
どうやら、考えが口に出ていたようだ。 慌てて首を振り、否定する。
「旧帝国部隊は、一人、また一人と宮殿を去っていったわ。 部隊長クラスは自ら去っていった。
中には、抵抗したのもいたようだけど…」
「文官達はほぼ追い出された形だね。 …しかも、その大半が謎の失踪を遂げている」
つまり、最早アバロンは俺の知っている時代とは別物というわけか…
「そんなわけで、アバロン宮殿はかつてミラマーにあったっていう運河要塞の再来になったわけだ」
皮肉なもんだ…ジェラール帝の時代に先代のシティシーフ達と協力し攻略した運河要塞…
アレをよりにもよってアバロンでやる事になるとはな…
…そういえば…あの時…協力してくれた女盗賊…確か名前は…
「…ただ、私達も決して手を拱いている訳じゃないのよ」
キャットの言葉で、記憶の呼び出しが中断される。
「信頼のおける協力者を募って、あらゆる方法を探ってきた。 あと少しで、チャンスが掴めそうなんだ」
そういうと、クロウは椅子から立ち上がって、こちらに歩み寄り…こちらの手を握ってきた!
その行為と、こちらを見つめる視線に、胸がドキッとする。
「――協力、してくれないか?」
胸の高鳴りが止まらない。 どうしても顔が赤くなる。
「ちょっとクロウ! どういうつもりっ!」
キャットがクロウに怒鳴り散らす。 その勢いに気圧され、慌ててクロウの手を振りほどく。
「何って、彼女と俺達の利害が一致したんだ、協力し合わない手はないだろ?」
「だからって、いきなり現れた小娘…しかもモンスターの女王なんかを信じるの? 冗談じゃないわ!」
キャットが捲くし立てる。
「だけど、彼女の話を聞いたろ? お互いの為にも、ここは彼女と彼女の力を信じて…」
バン! と、キャットがまたカウンターを叩く。 …が、何も言わず、そのままカウンターに突っ伏す。
…暫しの沈黙。 クロウが、その沈黙に耐えられないかの様に話を続ける。
「…会ってもらいたい人がいる」
「えっ」
できれば、アバロンの人々と直接関わるのは避けたいが…
「その人は、僕の恩師であり、この国の唯一の良心とも言える人…そして、このギルドの総指揮者でもあるんだ」
そんな人物がまだこの国に…
「今は何処に?」
「大学さ、アバロン国立大学」
「大…学?」
どこだそれは? 聞いたことないぞ? その顔を見て、クロウが説明する。
「あぁ、君が知ってる時代の後だからしょうがないか、ええっと…今年で創立230年位…だっけか」
230年…となると、俺の時代から二十年程後か。
「それはどんなところなの?」
「んー、学を更に深める所、かな。 自分達の知識を高めるために、同じ仲間が集う場所さ」
そんな所が…そういえば、カンバーランドのホーリーオーダー、ソフィアが言っていたな…
『もっと学びを深められる場所を作れば、きっとより良い国作りが可能になるでしょう』、と。
「実際、大学が出来てからのアバロンは急成長を遂げた、って聞かされたな…その先生に」
「それじゃあ、早速その先生に…」
「いや、今の時間はマズい。 大学の開講時間だし、それに先生に対する監視の目がある」
「そう…」
仕方ない、それまでは待つしかないか…
「取り敢えず、夜が来るまで休んでいるといいさ、それまでは…」
そういうとクロウは、俺の後ろへ移動し、そこにあったタルを退け始めた。
しかし、そこには壁があるだけ…何をしているのかと思えば、その壁に手をかけていた。
一つはクロウの頭一つ分上、もう片方は腰の辺りの壁を何やら弄っている。
「ん…アレ…? 立て付け悪いな…よっ、と」
クロウが壁を蹴ると、ガコン、という音と共にその壁が扉の様に開いた。 なるほど、隠し扉か…
「さてさて、一名様ご案なーい」
お前は何処の客引きだ。 冗談を交えつつ、クロウが手招く。 中へ行こうと思ったが、キャットが目に入る。
相変わらずカウンターに突っ伏したままだったが、横目でこちらを見るや否や、そっぽを向いてしまった。
「キャット、ココ、使うけどいいよね?」
クロウがキャットに同意を求める。 …今更じゃないか?
「…開けてから聞くなっつーの」
こちらを向きなおし、不貞腐れた声で言うキャット。 正論だな。
「それもそうだな、まっ、いいじゃないか。 さて、改めて…どうぞお入り下さいませ、お嬢様♪」
お嬢様、ねぇ…取り敢えず、軽く会釈で返し扉の中へと入る。
「へぇ…コレは…」
隠し扉の先にあったのは、大きな戸棚と、様々な器具。 それに8つのベッドが置かれた、穴倉のような部屋だった。
「ここは、隠し部屋兼医務室さ」
クロウが部屋に入り、部屋内の幾つかのランプに火を灯していった。
「元々はお宝倉庫だったんだけど、先生がいざという時の為に、と色々と工面して下さった結果さ」
戸棚を見ると、見た事もない薬品や植物、更には書物まで収められていた。 一体、何者…
「で、まぁ僕は今からその先生にキミの事を伝えにいくから、それまでここのベッドで休んでいるといい」
「え? でも今は会えないんじゃ…」
「フフッ、それが実は「コイツ、こう見えて大学生だからね」
クロウの言葉が遮られた。 見ると、キャットがいつの間にか部屋の中にいた。
「大学生?」
「大学で勉強しているってこと。 コイツ、実はいいとこの坊ちゃんなの」
驚いた…金持ちなのに盗賊なんてやる奴いるのか…
「まぁ、両親にはこっちの事は伝えてないけどね。 それに、アバロンの内情も知らないだろうし」
「それって…」
「徹底した情報統制が敷かれているのさ」
だからこんな事態でもカンバーランドが動いていないのか…
「でも、どうやってアバロンに? それに、何故盗賊に…」
「表向きは至って普通に接するからね…聞かされた時は驚いたさ、まさかアバロンがこんな事になっているとはね。
…でまぁ、放って置けなくてさ」
クロウが照れくさそうにする。 チラチラと…キャットを見ているようだ。
「そ、そうだキャット、どうしたんだい?」
照れ隠しにキャットに振るクロウ。
「ずっとああしていてもしょうがないし、それとコレ」
そう言うと、こちらに向けて袋を投げてきた。 中身を見てみると…服だった。
「アタシのお古だ。 アンタのその服じゃ、目立ち過ぎるのよ」
投げ渡された服は、ヨレヨレではあるが、確かにキャットの言う事にも一理ある。
「ありがとう」
素直に感謝の気持ちを伝えると…
「べ、別にアンタの為なんかじゃないんだからねっ!」
と言って、また隠れ家の方へ去ってしまった。 …まだツンツンしているようだ。
「素直じゃないなぁ、キャットは」
こちらに言わせて貰えばお前は逆に素直すぎる気がするんだが…と、口にはせず、思うだけにする。
「んじゃま、ベッドで休んでいてくれ。 こっちは先生に会ってくるから。
戻るのは…そうだな、夕方頃かな。 それじゃ、行って来るよ」
そういうと、クロウも行ってしまった。 バタン、と、扉が閉まる音が聞こえると、部屋が急に静かになった。
_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.4-5_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/成長、再び_/_/_/_/_/_/_/_/
「…さて、どうしようか…」
クロウの足音も聞こえなくなり、静寂が訪れる。
薄暗い部屋に、マリーンことマゼランただ一人。
突っ立っていてもしょうがないので、適当なベッドへと座り込む。
…お世辞にも良いベッドではないが、漸く出会えた人心地のする寝具に気が休まる。
投げ渡された服を脇に置き、足をプラプラさせながら今までの事を頭の中で整理する。
「…アバロン…」
何よりまず発した言葉はそれだった。 アバロン、かつての、自分の国。
しかし、今はボークンとクオンによって奪われたため、取り返さなければならない。
だが、果たしてうまくいくのだろうか。 聞けば宮殿内に仲間と言える者はおらず、守りは強固なものになっている。
一方、シティシーフ達を筆頭に、国民達の中にレジスタンスがいて、機会を窺っている。
皇帝として、国民を危険な目に遭わせたくはないのだが…しかし、今は彼らしか仲間がいない…
結局のところ、その『先生』とやらに会わないと今後の事は進展しない、か。
これ以上考えても仕方ないと判断し、ベッドに横たわる。 …と、背中に何かが当たる感触と、潰される感触が…。
「あぁ、そうか…」
あの時以来、体に馴染み始めたのか、背中にある羽が気にならなくなっていた。
今は余程ぞんざいに扱わなければ過敏な反応はしなくなっていた。 …少し残念、かな…
!? いやいや! 何を考えているんだ!! …あの一件以来、どうも考えに妙なノイズが混じる。
…そういえば、時々クロウに対して不思議な感情を抱く。 体が…欲している…のか…?
モンスターとして、また、女として魂が染まりつつあるように思い、ゾッとする。
「ううっ、俺は男だ、人間だ…武装商船団のリーダーで、バレンヌ皇帝の、マゼラン、なんだ…」
自分を再認識するように自問自答し、起き上がる。
「…取り敢えず、着替えるか…」
今も自分を優しく包み込んでくれているアバロンの聖衣、なのだが…
『ローブの内にある体』が関連付けされてしまっていて、それを払う意味でも、着替えようと思った。
ベッドから立ち上がり、ローブを脱ぎ始める。
色々と暴れまわったせいか、すっかりぐちゃぐちゃだ。
胸元も前からは見えないとはいえ少しはだけ、その下に隠された小ぶりな丘をチラリと見せる。
――視線が注がれる。 勿論、自分自身の視線が、自分自身の体に、胸元に。
ハッとして、すぐに自分を取り戻す。 イカンイカン、とっとと着替えよう…
帯を緩め、束ねていた布地開放され、裾から地面へと落ちる。 それにしても、このアバロンの聖衣は不思議だ。
そもそも本物なら千年…いや、更に千五百年以上前の代物だと言うのに、未だその美しさを残している。
それに着ていて気付いたが、あの地底湖の寒さも余り気にならなず、キャットに襲われた時も見た目に反し動き易かった。
聖女、クラウディア、か…以前の着用者だったであろう人物の名を呟きつつ、脱ぎ捨てる。
ローブの下から現れたのは、その聖女の優雅さのある姿とは遠い…小さい体だった。 しかも背中には羽のオマケ付き。
少し溜息をつきつつ、キャットから渡された服を袋から取り出して広げる。
これで全部かな、と思った瞬間、何かがトサリ、とベッドの上に落ちた。
「ん?」
それを、拾い上げる…
「うわわわわっ!?」
それは…T字で白い布地の…下着だった。 咄嗟に投げ捨ててしまい…誰もいるはずのない辺りを見回して再度拾う。
「こ、コレを穿けってんのか…」
確かにその、聖衣だけの時は…股間が…どうにも落ち着かなかったが…
「うわぁ…」
下着だ、パンツだ。 寸分違わず、女性用の物だ…
本来男なら例え皇帝と言えど…いや皇帝だと余計に拝めないものなのだけど…
それが目の前にあるわ、お古とはいえキャットのだわ、それを穿くのが自分だわ…
頭の中がグルグル回る。 目の前のただの布切れに翻弄される女の子(女王で皇帝)。 傍から見たら滑稽である。
「だダDA打大丈夫だ落ち着けマゼランただの衣服だ布だ落ち着けマゼラン…」
これでも一応マゼランとしての女性経験は豊富だが、こんな経験、男としてあるはずもなく。
「うぅっ…」
目を閉じて恐る恐る穿き始める。 …スルスルと両足を昇るソレをどうしても意識してしまい、顔が熱くなる。
頂点に達し、一安心…と、思ったのもつかの間、ストン、と落ちてしまった。
「あぁっ…ぬ、脱げるぅ…ダメだ、微妙にサイズが…」
もう一度上げ直したが、やはり体のサイズに合わないらしく、ピッタリと穿けない。
「うぅっ…もういいっ!」
恥を忍んだのに失敗した時の悔しさと…何かに負けた悔しさで穿く事を諦め、パ…布をベッドに叩きつける。
どっと疲れ、ベッドにうつ伏せに倒れこむ。
「こんな事してる場合じゃないのに…」
ボソっ、と呟き、枕に顔を埋める。 と、不意に何かが聞こえた様な気がして…のそりと、目を壁にやると…!
「!!」
飛び起きて壁に目を凝らす…今、壁の一部が動かなかったか?
恐る恐る近づくと…
「………様、女王様!」
ムウラがそこに、いや、ムウラの『目』が壁にあった。 その光景は、知らない人間からすればホラーだ。
「女王様、ああっ、ご無事でしたか!」
「あ、あぁ、大丈夫だ、問題ない…それよか、何故ここに?」
「はっ、あの人間の棲家に入られ、気が気ではありませんでしたが、
急に女王様の気配が強まったのと、人間の気配が離れていくのを感じ、駆けつけた次第にございます」
そう捲くし立てるムウラからは、正体について語った事に気付いている様子は感じられなかった。
どうやら、土以外の隔たりが壁になるらしい。
「それで…どうでしたか? 皇帝を討ち取る算段は整いましたか?」
興奮冷めやらぬムウラを落ち着かせるようにして今までの事を話す。
「あぁ、どうやら今の皇帝はかなりの嫌われ者のようだ、人間達もどうにかしたいと思っている」
「なんと! 彼奴め、己が民をも苦しめるとは、真に愚か!」
「だが、アバロン宮殿の守りが堅くてな…その攻略の準備に取り掛かっているところだ」
「!女王様、それならば我々タームがアバロン宮殿の者達を根絶やしにしてくれましょうぞ!」
マズい、ムウラが暴走しそうだ…
「い、イヤ! …待て、相手の戦力もまだ解っていないんだ、幾らなんでも早計だ」
「しかし女王様、そのような守り、人間達が破れますでしょうか?」
確かに猫…というか蟻の手も借りたいところだが、それじゃ本末転倒だ。 …少しカマかけてみるか。
少し大げさな身振り手振りで、ムウラに告げる。
「まずは彼らに任せてみてみたいし、それに…」
「それに?」
「…大事な、大事な私の子供達を少しでも失いたくはない…!」
オペラの役者の如く胸に手を当て、誰もいない方を向く。
「…! 女王様っ…!」
ムウラが感傷に耽っているが、振り向いている自分が顔を顰めているとは思わなんだろうな。
「…解りました、女王様。 ならば、この私だけでも! ムウラ、この身を、この命を女王様に捧げましょうぞ!」
ムウラが涙ぐむ声を押し殺しつつこちらに頭を下げ…たのだが、目を出す程度の穴しかないので、見えなくなる。
「…ああ、いざと言うときは頼むぞ」
「ははーっ!」
ムウラの実力は折り紙付だ。 うまく使いこなせればこれほど頼もしい味方はいない。 …流石に表立って動かせないが。
「兎に角まだ作戦は始まったばかりだ…また何かあったら呼ぶから、待機していてくれ」
「承知いたしました、女王様。 では、これにて…」
そう言うとムウラが…ムウラの目が奥へと引っ込む。 その後、その穴が埋められ、元通りになる。
「ふぅ…」
ため息をつき、再びベッドで横になる。
「…」
今度こそ誰にも邪魔されない安息の時間が訪れ…たのだが、どうも気苦労が絶えなかったせいで寝付けない。
…そもそも、下着で四苦八苦していたところにムウラが現れたので、服を着ていなかった事も原因だ。
モゾモゾと起き上がり、放置していた服を取る。 勿論それも、キャットのものであり、女物である。
とはいえ、そこまで女女した服ではなく、一般的な服なので、それほど気にならない…のだが。
「あー…やっぱり、か…」
下着でああなった以上予想はしていたが…今の体に対して微妙にサイズが大きい。
ローブと違い着心地に違和感がある。
その上、ローブとの最大の違いは…羽の収まり具合がどうにも悪い。
裾を出して羽を出せばいいが…それでは自分はモンスターですと言いながら歩いているようなものだ。
マントか何かあれば…聖衣がうってつけだが、目立つからと渡されたのにそれじゃ意味がない。
「…もうっ!」
さっきのキャットの様に不貞腐れる。 あーあ、もう少し成長していればなぁ…成長…
あの時の事を思い出す。
あんな体だったとはいえ、快感は男の時には感じられないほど強烈なものだった。
そして今…まだまだ小さいとはいえあの時より育った体。
先程から事ある毎に高鳴る鼓動に反応して、疼く体。
指が、秘所へと運ばれる。
「んっ…」
いきなりの指の進入を許すはずもなく、閉じられたソコを優しく撫でる。
撫でるたび、体に電気が走ったような感じがして、ビクッビクッと体が動いてしまう。
その気持ち良さにつられて、胸の蕾が恋しそうにピンとなる。
「んっ…ふっ…」
左手を胸へと移す。 一つ前の体の時は感じられなかった弾力が、今はほんの少し感じられる。
そのささやかな胸を、乳首と共に揉みしだく。
「あっ、いい…気持ち…いい…」
新たな快感の素の虜になる。 左手の動きが更に激しくなる。
「んんっ…!!」
強く揉みすぎたせいで、痛みが返ってくる。 思わず左手を離すが、今度は反対の胸を優しく揉み始める。
その間中ずっと右手は割れ目を撫でていた。 徐々に開き始め、愛液が溢れ出してくる。
「あぁ…はふっ…うんっ」
いやらしい液体で濡れた右手を顔の前へと持ってきて、指を舐める。 自分から出た分泌液。 でも…おいしい…
クィーン、だからだろうか。
口に含み、そのまま鼻腔へと運ばれた香りは甘く、それだけで快楽に溺れてしまうほど頭を刺激した。
再度右手を秘所へと運ぶ。 もうすっかり愛液まみれになっているソコの、上の方を触る。
「 … !!!」
小さな何かに触れると、頭が真っ白になった。 触れるたび、触れるたびに、体中が反応し、快感が全身を駆け巡る。
「ふぁっ、ひゃっ…んんっ!」
その刺激が強すぎて、右手に全神経を集中する。 もう、股間の洪水は止まらない。
「んっ!!」
右手の指が、愛液の溢れ出るところへと滑り込んだ。
指が入った事も気にせず、寧ろ物足りないと、二本、三本と入れ、中をかき乱す。
「もっと…もっと…」
それでも足りないと心が、体が欲する。 だけど、これ以上入れる事に怖さも感じ、更に動きを早くする事で満たそうとする。
「ああっ…欲しいよぅ…」
かつての自分にあったものを思い出しつつ、脳裏にクロウの事を思い浮かべる。
その瞬間、体の昂ぶりが一気に最高潮に達する。 今まで溢れていたものが、今度はピュピュッと排出された。
「あああーっ!!!」
甲高い嬌声が部屋に響き、マリーンはベッドへと倒れこんだ。