_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.5-1_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/成長、再び_/_/_/_/_/_/_/_/
マリーンが自慰に耽って暫く経った後…
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「ふぅ…」
クロウは講義を終え、『先生』に事の次第を伝えた。
『それならば、今夜会いましょう』
先生もマリーンの事が気になるようだ。 基より知的好奇心の塊のような人だが。
自宅で大学の予習復習と今後の計画の手直しを終えたクロウは、ギルドへと足を運んだ。
彼女はまだ寝ているだろうか? それとも、本性を出して侵攻計画を進めているかな?
実際のところ彼は、彼女の存在をまだ半信半疑で見ていた。 かわいいから即信用、と考える程女誑しじゃない。
第一、ちょっと若すぎるしね。 あとちょっと育てば、心奪われそうでもあるけど。
一方で、その力が渡りに船なのも事実。
計画を立てる、といっても、今は徐々に外堀を埋めたり、
後手に回る形で向こうの計画を防ぐといった事しか出来ていないのが現実。
アバロン宮殿に対する決定打が未だ見つかっていないのだ。
そう考えているところに現れた彼女。 利用するだけ利用して…いや、幾ら相手がモンスターでも酷いかな…
兎に角、彼女の力を借りない手はない。 だからこそ、信用してみようと思った。
甘い考えだろうが、今はそうも言っていられない。
そうこう考えている内にギルドに到着。
中に入ると、誰もいなかった。 キャットは、「皆に説明してくる」と言ってたっけな。
そのまま隠し部屋の扉を開け、中に入る。 …起きているかと思ったが、まだ寝ているのか?
とはいえ、用心に越した事はないので懐の剣はいつでも出せるようにしている。
「マリーン? 起きているかい?」
隠し扉の向こうは、相変わらず湿っぽい。 自分が付けたランプは油が切れて消えていた。
極自然に、でも警戒しつつ部屋へと入る。
「…マリーン?」
…返事はない。 未だ寝ているのか、そもそもいないのか、あるいは…
「入るよ?」
そう言いつつ、何時でも逃げ出せる動線を取りつつ部屋の奥へ…
暗くて見えにくいが、奥のベッド…人の大きさ位の何かが見えた。 まだ寝ているようだ。
ゆっくりと近づくと、彼女の手前のベッドに掛け布ではない、別の布が見え…
! か、彼女の着ていた服だ! それに、キャットが渡していた服…それに…この下着って…キャットの…
も、もしかして… ゴクリと喉を鳴らす。 着ていた服を全て脱ぎ捨てている以上、彼女の体を隠すものはない…
つまり、生まれたままの姿でいるわけで…は、裸で寝ているのか!?
い、いやいや! 相手はモンスター娘なわけだし、ロリだし… お、俺にはキャットが…
一人葛藤しつつ、再度横目でマリーンを見る。 …?
始めはただ寝ているだけかと思ったが、よく見ると…
「! な、何だコレ!?」
そこにいた…いや、『あった』のは、マリーン…の形をした、『何か』だった。
更に目を凝らしてみると、その『何か』は茶色い塊だった。 暗い部屋でこの色では、解りにくい。
「マ、マリーン…! キミ、なのか?」
思わずその塊に声を掛ける。 返事は当たり前のようになかった。
近づいて確認すると、それは紛れもなくにマリーンだった。 …が、言うならば石像彫刻のような『モノ』だった。
恐る恐る触ってみると、硬く、本当に石像のようだった。 材質は、石というより卵の殻の様な…と、その時。
ピシッ!
その塊が音をたてた。 その音に警戒し後ずさる。 更にその音は続き、音と共にヒビが入り、遂に…
バリンッ!と、その塊の上部が割れ、中から…マリーンが出てきた。 いや、マリーン…なのか?
マリーンの面影はあるが、明らかに雰囲気が変わっていて…何より、その体は女として確実に成長していた。
「マ…リーン?」
呼びかけてみるものの反応はない。 殻から飛び出したときのポーズまま、天井を見つめている。
懐の剣に手をやる。 今のマリーンが、今までのマリーンであるかは保証出来ない。
背中を向けていたマリーンが、ゆっくりと振り向き、こちらを見てくる。
その目は虚ろのような、未だ夢の中にいるかのような、そんな目だった。
「マリーン…君、なのか?」
『人間』としての彼女に問いかける。
「あはっ♪」
が、彼女はその問いかけに対し笑みを浮かべた。 その顔に見とれた瞬間、マリーンが飛び掛ってきた!
気付いた時には、既に押し倒されていた。 はっ、早い…! 僕とした事が…!
馬乗りになられ、その姿がはっきりと目に映る。
別れた際に見たマリーンはまだあどけなさを残す少女だったが、目の前のマリーンは女としての魅力を持ち始めていた。
それに、殻の中の何かの液体で体が濡れたマリーンは、更に妖艶さを増していた。
思わずその姿に目を、心を奪われる。
「…」
マリーンが笑みを浮かべる。 欲しい物を手に入れた、子供のような無邪気な、そんな笑み。
身の危険を感じ、マリーンをどけようとする…が、動けない。 いや、違う…体が動かない!?
…! しまった! 大学は装飾品の持込が禁止されているから、指輪を外していたんだった…!
そのせいで、恐らく見つめられた際に何かしらの精神攻撃を受けてしまった様だ。
そんな動けないクロウを更に見つめるマリーン。 目線を逸らす事も出来ず、ただただなすがままにされるしかなかった。
「んふっ」
マリーンが身を乗り出してくる。 彼女の髪が顔の横を抜ける。 良い香りがして、思わずうっとりする…
体を重ね合わせる程近づいてきたため、彼女の胸が当たる。 服越しでも感じられる柔らかさ。 あぁ、触りたい…
更に顔を近づけるマリーン…目と目が合い、そして。
「!!」
キスを、された。
命の危険も感じていただけに、その行為に困惑するクロウ。
優しく、でも大胆なキス。 今までしてきたキスとは比べ物にならないほどの良さ。
マリーンの唇は、ただ触れるだけでも頭の中が蕩けてしまいそうだった。
次第にディープキスへと変わり、舌も入れてくるマリーン。 絡み付く舌は余りにも柔らかかった。
彼女の吐息も伝わる。 何時までも彼女を愛したくなる、そんな香りがした。
一頻りキスを堪能したマリーンが体を起こす。 彼女の体重が下腹部にかかる。
そして、麻痺しているにも拘らず、すっかり怒張したペニスが、服越しに彼女の秘所の感触を伝えてくる。
その感触が更に気分を昂らせ、もういつ破裂してもおかしくない程いきり勃たせる。
体は完全に彼女の虜となり、至る処まで行ってしまえと訴える。 だが、このままだと生気すら吸われそうだと感じ、怖くなる。
「マ…リ…ン…」
ほんの少し残った理性で彼女の名を呼ぶ。
…が、彼女はそんな声も聞こえないほど、自分の真下にあるモノに夢中になっていた。
「うぁっ!」
服越しに腰を振り、その感触を楽しんでいる。 勿論そんな刺激的な行為に対し男として反応しないはずがない。
「…ッ…」
もう声にもならない声しか出ない。 何も考えられない。
その様子を悟ってかマリーンは少し体をずらし、ズボンのベルトを外しにきた。
抵抗なんて勿論出来ないし、しようとも思えなかった。
ペニスが外気に触れ、ほんの少しだけ落ち着けたのもつかの間、すぐさま彼女が、ソレを咥えてきた。
「!」
口の中の良さを感じるまでもなく、彼女の口内にたっぷりと精液が注がれた。
「んふっ、おいひっ」
喋るにも難があるほど口の中に大量に放たれたソレを飲み込み、マリーンが嬉しそうに言う。 あぁ、イッてしまった…
今出たモノを味わうかのように、舌なめずりするマリーン。 その姿を見て、またいきり勃つクロウ。
ズボンの内は自分の、外は彼女の液ですっかり濡れてしまっている。 どちらの出したモノか判らないほどに。
そして彼女は、自分の股間に手を宛がって、何かを確認するように指を動かした。 …彼女が、ニヤリと笑う。
そのままマリーンは、徐々に体を再び自分の上へと戻し、馬乗りになる。 ちょうど、お互いの股が合わさる位置へと。
彼女が片手でペニスを掴む。 そしてもう一方で、自分の秘所を広げた。
「」
彼女がゆっくりと腰を下ろし始め、お互いの性器が触れ合う。
先端から、今か今かと待ちわびるようにヒクヒクと動く彼女の中の感触が伝わる。
…もう、どうにでもなれ… そう、思ったのだったが…
その体勢のまま、一向に動こうとしないマリーン。
見ると彼女は、下を向かず何故か部屋の奥の方へと視線を移していた。 …相変わらず手は添えられたままだが。
焦らしプレイ? ここにきてソレはあまりにも辛いよマリーン…
すっかり虜になって目の前の情事を楽しんでいる自分がいた。 …が。
「…」
殺気。 もの凄い殺気。 それはもう今まで生きてきて感じた事のない位の殺気。 ただそれだけで人が死ぬって位の殺気。
ゆっくりと、顔を上げる形で上を見る。 マリーンの視線の先、そこにいたのは…キャット、だった。 多分…
自信が持てないのは、その顔が怒りを通り越して鬼となっていたから。
あまりの表情に本当にキャットか疑いたくなったが…間違いなくキャットだ。
脳内でアレがキャットであると結論付けられると、頭が一瞬にして覚醒する。 全身の血がサーッと引く。
「キ、キャット…」
返事はない。 あっても怖い。 なくても怖い。 あまりの事にアレだけ硬かったペニスも萎み、マリーンの手から抜ける。
無言で歩み寄るキャット。 室内に響くヒールの音が死神の足音にの様に思える。
そのキャットのヒールが自分の顔の両側へと現れる。 つまり、真上を向けば、キャットを真下から見る形になるわけだが…
見たら死ぬ。 間違いなく死ぬ。 確実に、死ぬ。
クロウがキャットの足元で怯える間、マリーンは…上の空だった。
普通なら飛び退くなり、そのまま行為を続け見せつけたりする所だが…
マリーンはただボーッと、キャットを見つめるだけ。
二人の女と一人の男。 修羅場は確実。 ましてや、寝取りの真っ最中では、生死も問われない状況である。
気まずいを越えて、凍りつく様な静寂。 お互い、視線を逸らさない。 …マリーンは見ているかどうか怪しいが。
と、痺れを切らしたのかキャットが素早い手つきでマリーンの首根っこを掴み、そして…放り投げた。
宙を舞うマリーン。 受身を取るのかと思いきや、そのまま流れに身を任せるようにして部屋の奥の机に激突する。
マリーンの着弾を確認したキャットは、足元のクロウに目をやる。 クロウはガタガタ震え神に命乞いをしていた。
なお、クロウは『面倒』という理由で無信教者なのだが。
そんなクロウの首根っこを同じく掴み、持ち上げるキャット。 一体何処からこんな力が出ているのか不思議である。
「…クロウ」
キャットが重い口を開き、名前を呼ぶ。 『は、はひ…』と声にならない声で返事をするクロウ。
「…忘れ物♪」
ニコッと笑うキャットだったが、その笑顔自体に殺傷能力があった。
キャットは自分の指をかざす。 そこには、家に忘れてきた指輪がはめられていた。
「コレを忘れるなんて、貴方らしくもない。 もしかして、わざと忘れた、とか?」
なお笑顔で質問するキャット。
_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.5-2_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/予感的中_/_/_/_/_/_/_/_/
時間を少し遡る。
「あーもぅ、タイミング悪いなぁ」
クロウが大学で講義を終え、家に戻る大体の時間は知っている。 そのタイミングで、迎えに行こうと思ったのに…
慌てて帰した仲間達への説明、それに今後の予定の調整。 それらが予想以上に手間取ってしまった。
地下からクロウの家へ、部屋へと向かう。
「クロウ、いる?」
扉を開けつつ声を掛ける…が、返事はない。 入れ違いになっちゃったか…
いないと解りつつも、部屋へと入る。 特に理由なんてない。
見慣れた部屋。 いいとこの坊ちゃんらしい、綺麗に纏められた部屋。
備えられたベッドに座る。 ここでのクロウとの記憶。 アイツ、ああ見えて大胆だからなー。
「きゃっ」
思い出してベッドに倒れ込んで、枕に顔を埋める。 クロウの匂いがする…こんな姿、クロウには見せられないな…
暫くベッドに横になっていたキャットだったが、何かを思い出したかのようにスッ、と立ち上がる。
「さて、と…何時までもこうしちゃいられないわね」
思わずずっとこうしていたいと考えそうになったが、クロウを追いかけないと。
彼が向かうとすれば、ギルドだろう。 マリーンに相当ご執心のようだし。
正直、未だにあの娘を信用できない。 モンスターである事もそうだけど、あの力…本気で対峙したから解る、あの強さ。
仮に本当に人間だとしても、いずれあの娘はあの力に飲まれる…そんな気がする。 その時、私達に抑えきれるとは思えない。
――急ごう。 嫌な予感がする。
部屋を後にしようとしたその時、机の上で夕日に照らされ光るモノが見えた。 盗賊の性分か、そう言う物には目ざとい。
アイツは几帳面で、机の上にそういった物をほっぽって置く奴じゃない。 近づいて確かめると…
「…! コレ!?」
それは、クロウがあの娘と『まともに』対話するためにと身に付けていた指輪だった。 それがここにあるって事は…それじゃ…!
「…クロウ!」
不安が過ぎる。 あの時は指輪の力でクロウは普通に会話していられたけど、今もそうとは限らない!
指輪を掴み、ギルドへと急ぐ。
「クロウ! 無事でいて…!」
転びそうになりつつも、早足でギルドへ向かう。 地下のギルド入口の扉は、閉まっていた。
気が急いていてなかなか開かない鍵に舌打ちしつつ、扉を開ける。 中には誰もいなかったが、人の気配はする。
隠し扉は開けっ放しになっていた。 クロウが放置するはずがない。 まさか…剣に手をかけ、ゆっくりと部屋の奥へと入る。
「…」
息を殺し、気配を消す。 中は暗く、様子がわからない。 でも、確実にいる…そう、感じた時だった。
「…いひっ」
声が聞こえた。 マリーンの声だ…けど、何かが違う…少し落ち着いたような、でも妙に艶っぽい声色…
部屋に入りきる手前の壁に身を隠し、様子を窺う。 …何かが擦れる音と、それに合わせ聞こえる液体の音。 一体何を?
いてもたってもいられなくなり、思い切って飛び出す。 そして、そこで見たのは…クロウに跨るマリーンの姿だった。
「なっ…!」
確かにマリーンだったけれど、今朝見たマリーンとは比べ物にならないほど別人になっていた。
明らかに…成長している。 あの時はどちらも『子供』で一括りになる程度だったのに、今じゃすっかり『女』になっていた。
…ううん、それは重要じゃない、クロウが危ない! 剣を抜き、飛び掛ろうとした…けど。 よく見ると、何かおかしい。
クロウが抵抗していないのは、指輪をしていないせいなのだろうけど、マリーンの行動が…どう見ても…!
(!!!!! あ…あの娘…何やってるの!!)
マリーンはクロウに跨り、そして…お互いのモノを合わせようとしていた。 ようはセックスの真っ最中だった。
頭が真っ白になる。 目の前で自分の彼氏が寝取られている。 しかも、モンスターに。
あまりの出来事に持っていた剣が手から落ちる。 その音にマリーンが反応して、こちらを見てきた。
「…フフッ…」
思わず笑い声が出てしまった。 シティシーフとしてあるまじき行為。
だけど…もう、私の頭の中で何かが切れていた。 気付かれた事もむしろ好都合と捉えた。
マリーンが襲い掛かってくるのを待ち構えたが、ポケーッとしているのでこちらから歩み寄る。
その足音でクロウが漸く気付いたようだ。 けど、今はまずこの小娘。 相変わらずとぼけた顔をしている。
目の前に立っても動こうとしない。 マリーンの手は…彼女のアソコと、クロウのアソコに置かれ、今正に挿入れようとしていた。
相変わらずトロンとした目でこちらを見つめるマリーン。 …あぁ、この顔なら指輪があっても男を誘惑できるわね。
…まぁ今はそんな事どうでもいい。 彼女の首根っこを掴み、思いっきり投げ捨てる。 思いの外軽かった。
今度こそ襲い掛かるのかと思いきや、そのまま机に当たって動かなくなった。 死んだ…? まぁいいや、次はコイツだ。
同じく首を掴んで持ち上げ、『ソレ』に語りかける。
「クロウ、忘れ物♪」
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掴み上げられたクロウは、子犬の様にプルプルと震えていた。
「どうなの、クロウ。 忘れたの? それとも『わざと』置いてきたの?」
キャットは未だ笑顔を絶やさないが、あくまで表面上のものだというのが明らかだ。
「そ…そのような事は一切ございません、先生の報告を少しでも早く二人に伝えようと…」
「へぇ、仕事熱心なことで。 でも、忘れたの? 貴方のあの暴走した姿。 またあの醜態を晒したかったの?」
「め、滅相もございません…」
クロウが敬語で受け答えている。 年下のキャットに。
「…まぁ、どちらにせよ忘れた事は確か。 貴方らしくもない。 でも、ついさっきまで何してたの?」
「あ、あれはマリーンに飛びつかれて…」
クロウがマリーンの名を口にした瞬間、喉元にナイフが宛がわれる。
「ひっ…! キ、キャット、信じてくれ、本当なんだ、あの殻からマリーンが出てきて…」
そう言われ、キャットが奥のベッドを見る。
確かに其処には、何かの塊があり、それにはちょうどマリーンが収まるだけのスペースがあった。
「…で?」
「て、抵抗はしたさ! 勿論!! だけど、体が動かなくなってて…ってキャットソコはやめてぇーーーーッ!!!」
クロウが『動かなくなって』と言った瞬間、喉に宛がわれていたナイフが…クロウの『アソコ』に移動していた。
ナイフを突きつけられたら普通、人は動きを止めるが…別の生き物とも呼ばれるアソコがこの状況に反応しそうになる。
クロウは必死になって心を落ち着かせようとするが、呼吸が乱れて思う様に整えられないようだ。
「まぁ綺麗にテカッてる事。 マリーンとのセックスは気持ちよかった?」
キャットがナイフの腹でアレを叩く。 ナイフに粘性の液体がついて、糸のように絡む。
キャットの言うとおり、マリーンの唾液と、クロウ自身が出した液と、マリーンの愛液ですっかり濡れている。
「こっ、コレは違うんだキャット! む、無理矢理勃たされて! …!!」
キャットがペシペシと叩いていたナイフをスッ、と引く。 ナイフの腹側だったので何事もなかったが、刃だったら…
が、同時にナイフの冷たさに反応し、皮…紙一重で当たりそうになる。
「やぁねぇ男って。 見境なくって。 モンスターでも女なら構わないとか」
「ちッ、違うぅキャットぉ頼むからそれを仕舞ってくれェ」
クロウは今にも泣き出しそうである。 折角の顔が台無しだ。
キャットはというと…実のところ、既に冷静になってはいた。 が、気が済まないのでこの脅しを決行して紛らわす事にした。
「うぅう、忘れた事も不埒な事したのも謝るからぁ、許してくれキャットォ」
声が完全に震えている。 …流石にやりすぎたかな。 弁明を求めるにも何を言っているのか解らないんじゃ困るし。
そうキャットがクロウを放そうとしてナイフを仕舞う動作をした時…
「な、なんじゃこりゃあぁああぁーーーっ!!!」
不意に部屋に響く妙に男口調な甲高い声。 今この場でそんな声を持っているのはあの娘しかいない。
キャット、そしてクロウもその声の主に目をやる。 その主はというと…自分の乳房を揉んでいた。
二人とも余りの事に目を丸くした。 キャットは思わず手を放し、クロウは鼻血を出して崩れ落ちた。
_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.5-3_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/_/修羅場_/_/_/_/_/_/_/_/_/
心地良い睡眠を邪魔したのは、急に感じた『痛み』だった。
「うぐっ…」
マゼランは不意に体中に走った痛みで目覚めた。 無意識に手で摩る。
「な、何だってんだ一体…」
ベッドから転がり落ちたか? 眠る前の最後の記憶を辿る…
「!! …あぁ…またやっちゃったんだった…」
これで二度目である。 女性の快楽に溺れたのは。 最初は仕方なしにやって…本当だぞ、全てはアバロンのためだぞ。
だが、今回は火照る体を慰める、正に自慰行為そのものを目的としてやってしまった。
「俺としたことが…こんな体に屈するなんて…」
あくまで体のせいにするマゼランだったが、仮にあの場を誰かが見ていれば間違いなく乗り気だったと言うだろう。
それにしても、何かおかしい。 いろんな事がおかしい。
まず体の痛み。 ベッドから転がり落ちたとしても尋常じゃない痛み。
次に口の中に広がる気持ち悪さ。 うぇっ、なんか苦い…
三つ目は前回との違い。 前は殻を割って出てくる事になったのだが、今回はすでに外のようだ。
四つ目…いやコレは違う…しかし、体は正直である。 …まだ体が火照っている。
謎は多いが、何故か最初に解決しようと思ったのは四つ目だった。
ち、違うぞ、コレは冷静になるためであってな…
心の中でそう己に諭すも、言い訳にしか聞こえない。 我ながら情けない…
そう考えつつ、実のところ期待に胸膨らませつつ目線を下にやると…本当に胸が膨らんでいた。
もうそれは、乳房といって過言ではない位大きかった。
更に、目線を下にした事で視界に髪の毛が入ってきた。
それは今までとは比べ物にならないほど長く、臍にまで掛かるほど伸びていた。
更にその下…何もない股間がまるでつい先程事に及んでいたかのように濡れほそぼっていた。
予想はしていた、だがあまりの変化に思わず言葉が出る。
「な、なんじゃこりゃあぁああぁーーーっ!!!」
そういいつつ胸を揉んだのは俺の意思じゃない。 間違いない。
間違い、ない…のだけれど…
(これだよ、俺が求めていたのはコレだ! 女の胸ってのはこうじゃなくちゃ!)
今までの体では揉む、というより触るのがやっとで、ピリリとした快感があるものの、何か物足りなかった。
だが、今のこの感触…ああっ! いいっ…この弾力、この柔らかさこそ至高ッ…!
なにより、『揉まれる』気持ちよさ以上に、『揉む』気持ちよさが男としての自分が欲していたものを満たす。
だがその両方を感じる事が出来る今、この快感は倍にも四倍にもなっているッ…!
乳首もその存在を主張するようにプックリと立ち、まるで弄って欲しいと自らねだっている様だった。
そうこうしている内、三回目の自慰を始めそうになった…
が、その時、自分の目の前から今まで感じた事のない殺気が漂ってきた。
鬼だ、鬼がいる。 こんな殺気を出せるのは鬼しかいない。
だが何故こんなところに? こっちは教えられたとはいえ仮にもここは隠し部屋だぞ?
だが、その殺気は以前感じた…その時の何十倍も強いが…ことがあるものだった。
快感を欲しいがままに貪っていた両手はとうに止めた…いや、止まった。 …胸に手を当てたまま。
恐る恐る、顔を上に向ける。 見てはならない気がしたが、見なければ…死、あるのみ。
いや、顔を上げずとも誰なのかはうすうす勘付いている。 だが、見なければならない。
そもそも…俯いていても目線の先に見えるハイヒール…見覚えがあるし、ここでそれを履いている人物は一人だけだ。
もう、答えは出ている。 それにハイヒールの向こうに下半身丸出しの男が見えた。 …それもすぐに誰だか悟る。
状況が、次第に見えてくる。 そして、見上げた先にあったのは…鬼の形相と化したキャットだった。
「そうかキャット…お前も、モンスターだったのか…」なんて、口が裂けても言えない。
『怒髪天を衝く』というが、此処は地下なので更に長い…いやそんな事考えている場合じゃない!
「…キャッ、ト?」
返事はない。 …いやそもそも、今語りかけるべき台詞はソレじゃないのだが、何を言えばいいか全く浮かばない。
キャットはゆっくりとこちらへ近づいてくる。 その一歩一歩に重みがある。 …体重という意味ではなく。
遂に、目の前に立たれた…えもいわれぬ緊張感。 いつの間にか自分の手は、地面へと下ろされていた。
「…」 「…」
以前もあった気まずい沈黙。 だが、今はその時の比ではない。 お互いの目が合う。
キャットの目は感情のない、冷たいものだった。 まるで、汚いものでも見るかのような蔑んだ目…
「…この、クソガキャアあああああああぁぁあぁぁぁ!!!!!」
永遠に続くかと思われた膠着は、キャットの絶叫で破られた。 キャットの渾身の右が唸りを上げる。
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その素っ頓狂な声には流石に振り向かざるを得なかった。
…だけど、見ないほうが良かったのかもしれない。
振り返った先、先程投げ捨てたマリーンは、この状況で自分のたわわな胸を揉みしだいていた。
あまりの出来事に、手の力が抜ける。 そのせいで、左手のクロウは崩れ落ち、右手のナイフは床へと突き刺さった。
「・・・なにを、しているのさ・・・」
思ったことをそのまま口に出す。 だけど、マリーンには届かなかったようで…
冷静になっていた頭が再び爆発する。 もう理性も吹っ飛んだ。
息を荒げマリーンに近づく。 二三歩進むと漸く気付いたようで…手の動きが止まった。
だけど、もう、遅い。
そのまま目の前で仁王立ちする。 マリーンが私の名を呼んだが、それ以上は何も言わなかった。
ありったけの怒りを声に出し、右手にもその怒りを込める。
「…この、クソガキャアあああああああぁぁあぁぁぁ!!!!!」
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「ああっ…」
鼻血を出し、薄れ行く意識の中、クロウは最後に見た光景を脳裏に焼き付けた。
…僕、意識が戻ったら今の光景をオカズにするんだ…
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コレで二回目だ、キャットの技を見たのは。 …いや、技か?
キャットの怒号と共に、その右手が光ってうなった。
その上、その拳に回転をかけている。 コークスクリューだと!?
キャットの右手が迫る。 ムウラは今度こそいない。 そして自分は不意打ちを受けた状況。
――絶体絶命。 しかし、それでも体と頭が命の危機を感じ覚醒する。 次の瞬間。
「!」
何が起こったのか。 目の前にいたキャットはいなくなり…いや、正確には視界から外れた。
そして、その視界が――逆転していた。 すぐに自分の位置を理解する。
天井に張り付いている。 正に虫のように。 いや、単にしがみついているだけなのだが。
一体、どうやって一瞬でこんな所に…そう考えた時、まるで受け答えるかのように背中の羽がピッ、と反応した。
もしかして、俺、飛んだ? …俄かには信じ難いが、それしか考えられない。
自分の位置がわかると、自ずとキャットの場所も想像できた。
キャットは、握り締めた拳を俺がいた所に当てたまま突っ立っていた。 …いや、恐らく思考停止しているのだろう。
元いた場所…机はキャットの一撃で更に破壊されていた。 もし避けていなかったら…と考えると身震いする。
だが、このまま天井に張り付いていてもいずれあの一撃を喰らう。
お、俺が今出来る事…殺るしか、ないのか…? もう手詰まりで、何も浮かばない。
ギリッ、と歯を噛み締める。 手を離し、飛び掛ろうとしたが…思いとどまる。
キャットも、このアバロンの人間で、嫌われてはいるが同じ志を持った人間だ。
その時、俺の心に語りかけてくる誰かの声…誰だ?
(マゼラン…僕の奥義を使うんだ…)
この声は…ジェラール帝!? そんなバカな…しかし、確実に記憶から呼び出される奥義。
「こっ、コレは…!」
その奥義は余りにも突拍子もないものだったが…かけてみよう。 それに、一つ思いついた。
そうこうしていると、キャットがキョロキョロし始めた。 …やるしかない。
キャットが、こちらに気付く。 それと同時に、飛び出す。
宙を舞う。 羽が、自然と空気を読み、思い通りの動きで宙を舞う。 そしてそのまま、キャットとクロウの間に着地する。
「!?」
キャットが動揺する。 その動きと、その、奥義に。
マゼランの土下座は、それはそれはとても見事で、曇り一つないものだった。
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渾身の一撃。
と言ってもそれはただただ今の思いを拳に込めたがむしゃらな一撃。
でも、培った技術がそれを技として昇華し、確立させた。 スクリュードライバーの動きを加えた、渾身の一撃。
――だけど。 やっぱりそれもかわされて。
不思議な音と共にマリーンの姿が消えた。 そのまま、拳は何もない空間を素通りし、壊れた机を更に壊しただけだった。
手が痛い。 でも、それ以上に心が痛い。 やっぱり、あの娘に勝てない…
クロウを盗られて、私のプライドも盗られて。 どうして勝てないの…?
涙が出そうになったが、堪え、辺りを見回す。 けれど、マリーンの姿が見えない。
…あの娘は確実に成長している。 見た目も、モンスターとしても。
今本気を出されたら、きっと私なんか一瞬で殺される。 そう思い、気を引き締める。 せめて、一撃…
と、その時、またさっきの音が聞こえた。 音のした方…真上の天井を見ると、マリーンがいた。
マリーンは壁に四つん這いになって張り付いていた。 やっぱり、コイツ…!
と、そう思った瞬間、マリーンが飛んだ。 ゆっくりと、軽やかに。 思わず見とれてしまう程だった。
そして、そのままクロウを背にする形で着地… ?
そのまま着地するのかと思ったら、着地の態勢からしゃがみ込む様な動きを見せた。 そして。
「!?」
マリーンが、思わず見とれる程の動きから、思わず見とれざるを得ない土下座をしてきた。
三度思考を停止するキャットであった。
_/_/_/_/_/_/_/_/Chapter.5-4_/_/_/_/_/_/_/_/
_/_/_/_/_/_/_/_/争い終わって_/_/_/_/_/_/_/
傍から見れば修羅場の終焉、と言ったところだろう。
下半身丸出しの男、土下座する女、土下座される女。
その上、土下座している女は中身が男で皇帝で、されている女は盗賊。 滑稽極まりない。
「…」
キャットは初めこそ戸惑った顔を見せていたが、直ぐに表情を正した。
偶然の悪戯か、彼女の足元には部屋に入った時落とした短刀が転がっていた。 それを拾い、マリーンに近づくキャット。
一方、マリーンことマゼランは、キャットの采配に託すことにし、微動だにせずただただ土下座をしていた。
もう完全に逃げられず、命を奪われる危険性もあるのにマゼランが冷静な理由。
…それは、後ろで気絶しているクロウだった。 マゼランは、いざという時にはクロウに皇帝継承させようと考えていた。
ロックブーケの罠にかかり、このクィーンの体に入ってしまった時は、相手が見つからなかったのが原因。
だが今は、クロウがいる。 気絶しているクロウ、コレなら高確率で継承できると踏んでいた。
クィーンの体に未練がない…とは、言い切れないが、皇帝として、また、人として動き辛い件は解消できる。
ムウラが気掛かりだが、ホームであるアバロンなら勝手知るこちらに軍配が挙がり、勝算もあるだろう。
そうこう考えている内、キャットが詰め寄ってきた。 そして、背中にチクリと痛みが走る。
その痛みの下は、人間ならば心臓があるところ…そのまま突けば、即死だろう。
心臓が貫かれる…嫌な記憶が、甦る。
――そして。
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それは、今まで見た事のないほど美しい姿勢。
背中を丸め、頭を垂れ、手を綺麗に揃えて前に出す。 正真正銘、土下座だった。
一切のブレがなく左右対称を保った体。
長い髪も、空気を呼んだかのようにその土下座を隠すことなく両脇へと流れる。
そして…人とは決定的に違う、羽。
それが礼儀正しいものかなんて知るはずも無いが、丸めた背中の変わりに誠意を見せるかの如く、ピンと張っていた。
その姿に思わず見とれる。 が、惑わされそうになる気持ちを一蹴し、再度見つめる。
…ピクリとも動かないマリーン。 しゃがんでいるせいで、クロウが視界に入る。 あのバカまぁ幸せそうに…
歩み寄ろうとした時、足元に当たるものがあった。 私の剣だった。 まるで、審判を下せと言わんばかりに。
それを拾い、マリーンに近づく。 見れば、やっぱり華奢な体。 一体この体の何処にあんな力が…
剣先を、背中に当てる。 剣越しでも伝わる肌の柔らかさ。 …全ての女性が嫉妬していいわコレ。
剣を当てても、まるで動じないマリーン。 …命も投げ打つ覚悟、か…
握り締めた剣に、力を込める。
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自分でも驚くほど落ち着いている。
キャットに全てを委ねた。 後は、キャット次第。 …死ぬ事は、もう、慣れた。
背中に宛がわれた剣から伝わる雰囲気が、変わる。
……
キャットは。
剣を、
懐に納めた。
「…話しなさい。 全て、包み隠さず、ありのままに」
キャットはまるで全てを許す母のように落ち着いた口調でそう言った。
その問いに答えるため、姿勢を崩さず頭を上げる。
「…許して、くれるの?」
そう返すとキャットはキッ、と見つめ返す。
「…許したわけじゃない、ただ、何も聞かず殺っても後味が悪いから」
キャットの怒りは収まってはいなかったが、ひとまず命の危険は去ったようだ。
――もう、全て話そう。 隠していた事を。 自分が、皇帝である事を。
「…わかった、全て話す」
そう言いつつ、立ち上がろうとしたが…
緊張と、足が痺れたせいで、カクンと膝から崩れてしまった。
キャットに手を差し伸べられ、フラフラしつつも立ち上がる。
そして、服を着るよう促される。 聖衣を着ようと思ったが、キャットの手前渡された服を着る事にした。
サイズが合わず投げ捨てた服と下着は、成長した事でなんなく着る事が出来た。
…でも…胸元がキツい…羽の分もあり、余計窮屈に感じる…しかし、それを言うわけにもいかず、無理矢理着込む。
出来るだけ意識せず下着を穿くと、今度は素直に体にフィットした。
…が、濡れた股間を受け止めたせいで、少し湿ってしまった。 うぅっ、気持ち悪い…
四苦八苦した後、キャットと二人、隠れ家へと戻る。 ムウラに聞かれないようにするためである。
クロウは…起こそうとも思ったが、キャットが「後で私から話す」と言ってそのまま隠し部屋に置いてきた。
スツールに腰掛けるキャット。 さっきはやや見上げる高さだったのに、今は同じ目線の高さでになっていた。
「さて、それじゃあ今度こそ全て話して貰おうじゃない。 あんたの、本当の正体」
「…わかった。 ただ、これから話すのは余りに突拍子も無い事だ…それでも、信じてくれ」
…話す、全てを。 皇帝である事を。 この体の仕組みを。
前に話した事が真実であると念を押した上で、皇帝である事を明かした。
「…」
「そして、七英雄ロックブーケに倒された俺は、この体に継承した。 いや、『継承された』」
「……」
「この体から出ていたフェロモン…を抑えるため、その…行為に至り…」
「………」
「そ、そして成長したんだ。 フェロモンが収まったかどうかは解らなかったが…」
「…………」
「へ、部屋でまたやってしまったのは…つい、出来心で…その後クロウを襲った時、『俺』の意識はまだ眠っていたんだ」
「……………」
「…だから、クロウを奪う気とかは全く無くて…以後、気を付けるから…許してくれ…」
キャットは、ずっと黙り込んでいた。 こちらの言う事を一言一言噛み締める様に。
行為について話しても動じなかったが、最後の一言で少しピクリと動いた気がした。
「…あのさ」
「な、なんだ」
キャットが話の整理をし終わったらしく、質問してきた。
「…単純な事聞くけどさ」
「?」
「アンタ、男?」
「うッ…」
確かに単純だ。 しかし重要だ。 その問いに対し少し間をおいてから答える。
「…そうだ、男だ。 この俺自身は武装商船団、マゼランという『海の漢』だし、代々の皇帝も男だ」
と言ってもまだ三度目、このクィーンへの継承で四度目だが。
「…気持ち良かった?」
「へ?」
次の質問は更に突拍子もない事だった。
「気持ち良かったのかって聞いてんの、その体は」
「そ、そう言われても…い、今は関係ないんじゃ…」
変な流れになっている。 キャットは無言のままこちらを見つめる。 …言わないと先に進みそうにないな…
「…はい」
ありのまま話すと言った手前、その質問にも正直に話す。
「…」
聞いておいて黙り込むキャット。 何この羞恥。 仮にも俺皇帝なのに…
キャットは頬杖をついてこちらをジトッとした目付きで見てきた。
「はぁ…男ってのは…」
そんなこと言われてもコレは男じゃ抗えようのない快感だ…と、心の中で呟く。
「んじゃ、クロウを襲ったのが仮にアンタの意思じゃないにしても、アイツが一切抵抗できなかったのは?」
漸くまともな質問が来た。 が、それに関しては確証は無い。
「…恐らく、この体の力、なんだろう。 さっき言ったフェロモンかもしれないし、それ以外かもしれない」
「使いこなすためエロい事したんでしょ?」
「うッ…た、例えばいきなり『キミに力を与えた』と言われても、どうしようもないだろ?」
流石にキャットの言い草にカチンときて、反抗気味に答える。
「アンタの意識は無くっても、体は息をするように使いこなしていた。 ってことは、アンタにも扱えるはずよ」
「…」
確かに。 クロウは最初に会った時と違い意識は保っていた。 だけど動かなかった。
と言う事は、ムウラが言っていた『本来の力』を取り戻しつつあるのだろう、体は。
「また寝ている時に無意識でクロウを襲われちゃ堪らないから。 アンタは、さっさとその体に慣れちゃいな」
慣れる…つまり、この体で今後を生きろ、って言うのか…
「…誰か適任者がいれば、継承を行いたいんだが…」
適任者。 クロウを対象にしていたが此処はこの言葉ではぐらかす。
「ちょっと、逃げるの? っていうか、アンタはソレに加えて下の奴らをどうにかしないといけないんでしょ?」
「……」
反論は出来なかった。 徐々に皇帝としての使命を忘れていく…そんな気がした。
「ソレにもう一つ。 その力、使いこなせれば上の奴等に対抗する手段になるし」
キャット達は今のアバロンに対抗する『力』が必要。 この力があれば、敵の無力化も可能かも…
「兎に角、アンタは自分をもっと知りなさい。 皇帝なんでしょ?」
痛い所を突かれた。 だが、おかげで気持ちが引き締まった。
「…そうだな。 これ以上、迷惑を掛けられないし、なにより一刻も早くアバロンを救いたい」
「その言葉、信用していいんでしょうね?」
「ああ」
はっきりとした返事に、漸くキャットが笑みを浮かべる。
「フフッ…やっと吹っ切れたわ。 それじゃ、改めてよろしく、マ…」
「…マリーンでいいよ」
「よろしく、マリーン」
キャットとの蟠りが解決した時だった。 隠し部屋から、クロウが出てきた。
「あー…そっちは解決したようだね」
出てくるなり、そう言うクロウ。 どうやら一部始終を聞いていたらしい。
「クロウ、今度忘れたら承知しないからね」
キャットがクロウに指輪を投げ渡す。
「あ、あぁ…ゴメン」
クロウはすぐに指輪をはめた。 コレでひとまず、クロウは正常でいられるだろう。
「えぇっと…話したいのはやまやまなんだけど、着替えを取りに行ってもいいかい?」
そう告げるクロウの服…ズボンは最早色が変わって見えるほど濡れていた。
(…)
「さっさと帰ってきなさいよ?」
(…アレ…?)
「もちろん」
(…ちょっと待てよ…)
濡れたクロウの股間。 同じく濡れた自分の股間。 起きたら未だ疼いていた体。
意識は無かったが、体がクロウを襲ったという事は、クロウを求めた。
クロウが抵抗しなかった以上、クロウに決定権は無くて。
体は疼いてて。 お互い股間が濡れてて。 男と女で。 お互いの局部を隔てる物は何も無くて…
「ク…クロウ…」
「ん? 何?」
声を震わせながらクロウに尋ねた。
「そ…その……お…俺……クロウに…な……『ナニ』を、した?」
「マリーン…何も、覚えてないのかい?」
震えながらコクリと頷く。
「いやぁ…アレは、極上だったよ…」
ゴクリ、と唾を飲み込む。 と同時に、先程味わった苦味が再度舌を襲う。
「結局マリーンと繋がる前に、キャットが止めてくれたけど」
その言葉にホッと胸を撫で下ろした…が。
「でも、『口』だけでも十分満足だよ」
「うッっぎゃあああああぁぁぁぁああぁっぁぁあぁ!!!!!!???!?!?」
この口の中の味!!! 男の…男のっぉおオォ!!!! のああぁああああぁ!!!!!
物凄い勢いで隠れ家の扉から飛び出し、地下水道へ飛び込んだ。
決して綺麗とはいえない地下水だが、今は全てを洗い流したかった。
・・・もう・・・イヤ・・・
隠れ家から飛び出した後、キャットが大爆笑する声が聞こえてきた。 鈍い音と共に。
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_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/光明_/_/_/_/_/_/_/_/_/
『アバロンの怪!? 地下水道で謎の水死体が見つかる』
…なんて記事が書かれる前に、マゼランは水からあがった。
「…なんて…ことだ…よもや…男と…うぅっ…」
記憶が無いのが救いだが、口の中の苦味と、クロウの口ぶりとにやけた顔…
疑う事もなく、口を犯されてしまった…
意識してしまい、また気持ち悪さが込み上げてくる。 吐きそうになるのを、手で抑える。
そうしないと、口から白い液体が出そうで怖かった。 出来るのなら内臓を引きずり出して徹底的に洗いたい気分だ。
無我夢中で地下水道に飛び込んでしまったために、全身ずぶ濡れ。
けれども、おかげで表面的には洗い流せた…気がする。
「はぁっ…はぁっ…」
水から上がった事と、落ち着くために息を整えるが、その呼気に漂うあの臭い。 クロウ…溜めすぎだろ…
その時、不意に感じる殺気じみた気配。 思わずその方向を見ると…ムウラがいた。
「女王様」
「ム、ムウラ! 何故ここに!?」
いままで人目の付かない所で会話していたが、今は完全に人の領域へと踏み入っている。
「女王様…ご安心ください。 私めがあの人間共を八つ裂きにしてまいりますので」
「!?」
ムウラの口調は穏やかなままだが、コイツの場合本当にやりかねない。 慌てて制止する。
「ま、待て! 待つんだ!!」
「…しかし女王様、扉から飛び出されたかと思えば中から笑い声…女王様を侮辱する奴らを生かしてはおけません」
「飛び出したのは自分の意思だ! 中のキャッ…人間が笑っているのは、こちらではなくもう一人に対してだ!」
…いや、キャットが笑っているのは明らかにこの状況に対してだろう。 だが、今は嘘をつく。
「女王様…貴方様は人間を信じ過ぎてはいませんか? 人間共に染められては困りますぞ」
「す、すまない…だけど、後一歩なんだ、この戦いは、後一歩まで来ているんだ…」
必死になってムウラを説得する。 流石に誤魔化し続けるにも無理があるだろう。
こちらの訴えに対し、ムウラはやや渋々ながらも刃を…というか腕を引いた。
「…申し訳ありません、女王様。 どうやら永き月日を過ごした故気が急いていた様です」
「そうか…お前達にとっては、200年以上の悲願、だったんだな…こちらこそ、すまない」
思わず虫相手に感傷的になる。 だが、その表情がムウラを落ち着かせる結果になった。
「いえ、200年の月日なぞ、私にとっては昨日の様な事」
ムウラがやけに落ち着き払った口調で話す。
「…事は順調に進んでいる。 あと少しだ、ムウラ。 ここでお前の存在が知られるとマズい」
「…はっ、失礼致しました。 では、これにて」
そういうとムウラは目にも留まらぬ速さで、音もなく地下水道の向こうへと去っていった。
…ふぅ…時間は余りない、か。 アバロン奪還の為にも、早く作戦を練らないとな。 踵を返し、隠れ家へと戻った。
隠れ家に戻ると、待っていたのはまた気絶しているクロウと、人の顔を見るなり笑い出すキャットだった。
「フッ…くくくっ…こ、皇帝が…男色家とか…くふふッ…」
…幾らなんでも笑いすぎだ。 流石に怒りがこみ上げてくる…が、グッと堪える。
「…キャット、もう、いいだろ…こんな事している場合じゃない」
「ごッ、ごめッ…うくくっ」
ダメだコイツ… 笑われる事もイヤだが、それ以上にまた大声を出されたら今度こそムウラが乗り込んできそうだ。
「はぁッ…はぁッ… …OK、もう落ち着いた」
そういいつつも、微妙に顔がにやけているが。
「というか、気持ちはわかるがクロウを張っ倒してどうするんだ…先生とやらを紹介してもらわないといけないのに…」
「あぁ、ごめんなさいね。 ほら、クロウ起きろ」
そう言うと足蹴にして起こそうとする。 …この扱いはクロウの発言が原因なのか、いつもの事なのか。
「てかマリーン、アンタびしょ濡れじゃない。 そんな姿見たらまたクロウがぶっ倒れるわよ」
キャットは言いながら足蹴にしても起きないとわかり、今度は頬を叩き始めた。
言われてみれば確かに、びしょ濡れで服が透け、寒さのせいか勃った乳首がその存在を主張していた。 …確かに目に毒だなコレ…
「替えは、あるのか?」
「予備はそれだけよ。 全く…仕方ないから、例のローブでも着てなさい …ほらクロウ起きれ」
ペシペシと頬を叩いているが、一向に起きないクロウ。 とりあえず、キャットの言うとおり着替える事にした。
隠し部屋は勿論、先程のまま放置されている。 机は壊れ、その地面にはしっとりとした湿り気。
天井を見れば自分が掴んで出来た窪みが見えた。
「戸棚にタオルあるからソレで拭いちゃいなー」
キャットが隠れ家から声を掛けてきた。 戸棚を開けると、確かに数枚あった。 …かび臭いのが気になるが。
体を拭きつつローブのあるベッドへ近づこうとすると、その手前の地面がやたらと濡れていた…
「…未遂、か…」
ボソッ、と呟いた言葉に、ドキリとする。
「なっ、何考えてんだ俺っ…! み、未遂で良かったじゃないか!!」
呟いた言葉が、明らかに不満げな言い草だった事に対し首を振って否定する。
「慣れろって言うけど、慣れたら慣れたでいずれヤりかねないのか…」
そもそもこの体で受精したら一体何が生まれるのか… そう考えると、絶対にヤる訳にはいかない。
濡れた地面を避け、ローブを手にとって着替え始める。
上着を脱ぐと、二重の意味で開放感が得られた。 胸と、背と。
どちらも濡れたまま涼しい室内に開け放たれ、身震いする。
…視線を下へと落とす。 さっきも見たが、今度はじっくりと見ることが出来る。
完全に『胸』から『乳房』へと成長を遂げたソレは、エロスを放出するように前へと突き出している。
冷気を感じてか乳首はプックリと勃ち、更にエロさを増す。 …元の自分がいたら、我を忘れてむしゃぶりつくだろう。
思わず手が動く。 あの快感は、癖になる。 そーっと、触れようとしたが…自制する。
「…しっかりしろマゼラン、この体に慣れると誓っただろう?」
自問自答し、心を落ち着かせる。 …また成長しては困るし、いよいよ自分を見失いそうで怖かった。
出来るだけ意識しないようにしつつ、服を脱ぎ捨てる。
下着も脱いだが…暫く考えた後、絞って水を切り、再度穿いた。
そのまま、無心でローブを着込んだ。 …やっぱり、心が落ち着く。 改めて不思議なローブだと感心する。
と、着替え終えて、何かが足りない事に気付く。
「…抜け殻は?」
成長した、という事は最初のときと同じように一度蛹になってから出てきたはず。
なのに、ソレらしきものは見当たらなかった。 …もしかして、最初だけか?
しかし、記憶を辿るとあったような気も… 大立ち回りしていたせいで、意識していなかったので曖昧だ。
…が、その疑問はあるものを見つけた事ですぐに解決した。
自分が寝ていたであろうベッドを見ると、細かい欠片が散らばっているのが見えた。
だがソレが殻の欠片だとしても、肝心の殻がない…粉々になったのかとベッドの下も見たが、ない。
確認するため下げた目線を上に戻そうとした時…殻の行き先がわかった。
ベッド上の天井が微妙に崩れていた。 そのサイズが、大体今の自分より大きい位…
そしてなにより、天井にやや大きめの欠片が刺さっていた。 こんな事を出来るのは…
間違いない、ムウラだ。 この短時間で殻を持っていく…というか、そんな事をするのは。
それにしても、殻なんてどうするのだろう…まさか、また加工して食べるのか…?
固まったとはいえ、恐らく自分の肉体から生まれた殻だ、その可能性はある。
…間接的にターム達に食べられている気がして、嫌な気分だった。
と、その時。
「いっっっっっっってええええぇぇええぇえ!!!」
クロウの大声が部屋中に響いた。
その声を聞き慌てて隠れ家へと戻ると…クロウが起きていた。 が、頻りに尻をさすっている。
キャットは…すまし顔でクロウを見つつ、片足をぶらぶらと揺らしていた。 …大体何をしたのか想像がつく。
「あ、マリーン、クロウがやっと起きたよ」
「『起きた』んじゃなく『起こした』んだろう…」
やれやれと思いつつも、クロウに声を掛ける。
また胸が高鳴ると思ったが、余りにも醜態を晒し続けたクロウを思い出すと、哀れみにも似た呆れの感情が沸く。
…恋は熱しやすく、また冷めやすい、か…
「クロウ、先生とやらと話はついたのか?」
まだ臀部の痛みを取り除こうと躍起なクロウを無視してとっとと会話を進める。
「あ、マリーン… あ、あぁ、話はついたよ、今夜会って欲しいってさ」
なおも尻を摩り続けるクロウがそう告げた。
「今夜? …今何時だ?」
「ええっと…もう八時半はまわってるわね」
キャットが懐から懐中時計を取り出して言う。
「げっ…もうそんな時間? 約束は九時だけど…」
「…全く、とんだ時間を過ごしてしまったな」
顔をしかめ、手を当てて呟く。
「クロウ、さっさとマリーンを連れて行きな」
他の場所ならばキャットでもいいのだが、大学となるとクロウでなければいけない。
「着替え…ている暇はないか…はぁ…」
クロウがしょげながら呟く。 と、何かを思い出したかのようにこちらを見た後、キャットを見る。
「ところで、マリーンの雰囲気が変わった…あ、いや外見じゃなくて、なんか急に大人びた、っていうか…」
そうか、クロウにはまだ話していなかった。 キャットはソレを聞いてまた笑いそうになる。
困惑するクロウに近づき、真実を告げた。
気絶こそしなかったものの、ガックリと膝を突いて落ち込むクロウ。
「そ…そんな…マリーンが…男…」
皇帝である事も告げたのだが、どうも気になるのは男である点だけのようで…
「う、嘘だよねっ!? こ、こんなにかわいい子が男なわけないッ!!」
こちらにしがみつき必死に懇願するクロウ。 …が、覆るわけもなく、首を振って答える。
また倒れこむクロウ。 笑い出すキャット。 コイツら…
「…クロウ、紛れもなく私は、本当の私は男だ。 だけど、今はソレを気にしている場合じゃない」
「男、男、マリーンが、男、ありえない、男だなんて、信じられない…」
余りにしゃきっとしないクロウを掴み上げ、平手打ちする。
「クロウ! いいかよく聞け。 俺は伝承法でこの体に入ったんだ。 …例外的な状況だがな」
平手打ちが効きすぎたのか、目を丸くしてこちらを見つめるクロウ。
「ハッ! そ、そうだ、例え中身が男でも今はどう見たって女のこ…」
論点のずれているクロウに対し再度平手打ちをする。 往復で。
「お前達の話だとクオンはボークンの生き写しだとか。 もしかすると、伝承法を使っているのかもしれない」
その言葉にクロウと、そしてキャットもハッとする。
「もしそうなら、今後長きに渡ってこの圧政は続く事になる、それでもいいのか!?」
暫くポカンと口を開けていたクロウだったが、キュッと口を結び、自ら立ち上がった。
「…それは、困る。 …わかった、わかったよマリーン」
どうやら、吹っ切れてくれたようだ。
「それじゃあ、先生とやらに会いに行こうか」
キャットを隠れ家に残し、クロウと共に地下から大学へと向かう。
自分が過ごして来た時代の地下水道から脇に入ると、其処には見知らぬ道が何処までも続いていた。
クロウが先導して歩く。 時々立ち止まり、様子を窺う。
地下にも監視はあるようだが、どうやらクロウ達はその時間を把握しているらしく、足音のみ残し消える監視。
暫く進むと、一本道へと入る。 そのまま進んでいくと、八つ又路に出た。
「マッ…リーン、こっちだ」
そう言いながら一つの道を指差すクロウ。
「もう大学なのか?」
「あ、あぁ…うん、結構広いからね。 ここは…入口の地下になるかな、多分」
一つの施設でこれだけの水路を使用するとは。 つくづく感心するばかりである。
「ところで、クロウ」
「ん…何?」
「気持ちはわかるが…前のように接してくれていいんだぞ?」
クロウがドキリとした顔をする。
「そ、そうかな…」
「ほら、また。 その気持ちが揺らいでる言い方。 …こっちも結構傷ついたけれど、今はアバロンの事だけ考えるんだ」
「…それなら…」
「え?」
「そ、それならせめて、マリーンも女の子らしくしないと…似合わないよ、その口調」
「うッ…」
確かにそうだ。 ぶっちゃけたせいか素のままで二人とは会話していたな…
だけど、今から女言葉というのも…あぁでも、いずれそれを地にしなければならないわけで…
「…わかった…よ、だから、そっちもね♪」
気恥ずかしさを紛らわすためわざとおどけて見せる。 …余計に気恥ずかしい。
その行動に、クロウが恥ずかしそうに目を背ける。
「お、OK! それでいいよ…うん、それで」
今度は別の理由で挙動不審になるクロウ。
「さ、さぁ先生が待ってる、早く行こう」
そういうとクロウはそそくさと行ってしまった。 …別の道に。