5 Jul. 2048 18:12
自分がこの稼業に足を踏み入れてから、どれくらいの時が経っただろうか?
夏の遅い日の入りを眺めながら、代用コーヒーのチープな味と香りを楽しみつつ、『彼』はそんなことを考えていた。
考えるまでもなく答えは一つだ。
生まれた時から親の顔も知らぬ彼は、物心ついた頃よりこの街の光届かぬストリートの中にいた。
そしてこのコンクリートの密林の中を獣のようにがむしゃらに生き抜いて来た。
都会の裏通りは過酷な環境だ。
子供が生き抜くにはよほどの知恵と用心深さ、そして運の良さが備わっていなければならない。
しかし万人にこんな資質があるわけもなく、多くの子供たちの大半は生きる糧を得るためにろくでもない仕事をもらい、そして命を落としていった。
彼は用心深かった。
そして運も良かった。
師匠とも呼べる男に才能を見込まれ、知恵と技はその人から授けられた。
また、彼は仲間にも恵まれた。
命の危険にさらされたことは何度もあったが、彼は信頼できる仲間と共に力を合わせて危機を遠ざけ、生き残って来た。
初めて『仕事』をこなしてから30年近く、多くの仲間はこの稼業から足を洗ったが、彼は今も都会の影を渡り歩いている。
彼の名は『ダンシング・ダガー』、頭文字をとってDDとも呼ばれる。
もちろん本当の名前ではない。裏社会に住まう者にそんなものは意味はない。
全てはこの街の雑踏に捨ててしまったか、最初から持ってはいないのだ。
『犯罪職人(クライマイスター)』
『クライマー』とも呼ばれるこの単語が彼の全てだ。
それは裏社会を駆けるフリーランスのエージェント。
『難し時代(ハードエイジ)』と呼ばれる2040年の現代。
大国の代わりに世界の覇権を握ったのは、国々を股にかけ巨大な経済力をもついくつかの多国籍企業だ。
経済競争激しい今日。不評悪評の流布を恐れる彼らや、資産家などの力ある個人は、自らの手を汚すリスクは犯さずクライマーを雇う。
彼らクライマーは暗殺、誘拐、襲撃、潜入、奪取、データ抽出、交渉または脅迫などの人には言えない活動を、多額の報酬と引き換えに実行する代行者なのだ。
床の上を、誰かが歩いてくる音がDDの耳に届いた。
誰が来たかは足音と気配で分かる。
足音が間近で止まり、扉がガチャリと開いて一人の青年が入ってきた。
身長180cmほどの長身、歳のところは二十歳くらい、短く切った黒髪、筋肉質のがっちりした体つきのたくましい男だ。
彼の通り名は『ブラック・ブレード』。DDの仲間の1人で優秀な戦闘屋だ。
射撃術、白兵戦術に優れ、黒い刀身を持つナノソードとモノブレードを、手足のように扱うことからその名がついた。愛称はBB。
DDと彼の付き合いはかれこれ三年になる。彼は元々裏社会の住人ではなかった。
彼は世界の覇権を担う大企業の一つ、グロスカンパニーの重役の御曹司だった。
しかし父は社内の内部抗争に敗れて命を落とし、父の政敵は彼の命まで奪おうとした。
彼は逃げた。あてなどはない。ただ生き延びる為だけに走った。
そして光届かぬ都市の影で彼はがむしゃらに生き抜いた。
糧を得るため、命がけの仕事を幾度も受け、その度に死線をくぐり抜けてきた。
BBがDDと初めて出会った時、彼らは敵同士だった。ある新薬のサンプルを巡って、二人は激しくぶつかり合った。
もちろんベテランであるDDに、才能があるとは言えルーキーのBBに勝ち目は薄い。
しかし神の悪戯か気紛れか、彼は上手くDDを出し抜きサンプルを手に入れた。
だが彼の幸運はそこで尽きた。
サンプルを受け取った依頼人は、彼に対する報酬を銃弾で支払おうとしたからだ。
裏社会でこのような背信はしばしば起きる。
傷を負い、虫のように地面に這いつくばっていた彼を見つけたのはDDだった。
「殺される」BBは観念したが、なぜかDDは傷ついた彼に救いの手を差し伸べた。
そして彼にこう持ちかけた。
「共に来るか?」と。
勿論、彼に選択の余地はなかった。
それから三年、BBはDDの片腕として、共に都会の影を駆け抜けてきた。
DDにとって彼はいい弟子だった。
やや向こう見ずなところはあるもののタフで用心深く、転がり込んできた運を逃がさぬ目ざとさも持ち合わせていた。
DDは彼に、自分のもつ技術を惜しむことなく伝えた。
彼は貪欲なまでに学習し、驚異的な速さでそれらを身につけていった。
そして今では弟子ではなく一人前の男として、彼とは対等な立場で接している。
「・・・・・・」
部屋に入り、ソファに座りこんだDDを見るなり、BBはうんざりした感じで顔をしかめ、目を逸らした。
「ん? どうしたBB?」
相手の意図が分からず、DDは少し戸惑う。
居間は散らかっていないし、洗い物も済ませたはずだ。
サンディの食い散らかしたピザの箱も、全て畳んでごみに出した。
「はぁっ」
思わせぶりなため息をついた後、BBは彼を指差す。
「その格好、何とかならんのかお師匠!?」
「あ!?」
言われてようやく気がついた。思わず自分の体を見下ろす。
彼の視界に入ったものは、鎖骨の下の柔らかな膨らみだった。
続けてぎゅっと絞られた腰、絶妙なカーブを描く太もも、そして全体的に丸みを帯びた、美しいボディラインが眼の中に焼きつく。
長い髪が肩と背中に触れる感覚、足と股のスースーする違和感。
そうだ、下着が蒸れるから居間に入るなり脱いだままだった。
投げ捨てたそれらは、今もカーペットの上でその存在を主張していた。
その模様は、青と白のストライプ。
DDはようやく思い出した。自分は今、スキンモジュールを着込んだままであることを。
スキンモジュール。
それは最新のテクノロジーを駆使して作られた変装用ツール、いわば人工の人肌である。
これを纏うことで着用者の姿は、全くの別人の姿になることが出来る。
外見だけなら完璧に異性の姿を装うこともでき、腕のあるものは実在の人物にも完璧に成りすますことも可能なのだ。
あらゆる場所に監視カメラが仕掛けられている現在、このツールはクライマーにとって最大の友といっていい存在だ。
それを着て情報収集のために、彼は女性の姿――十台半ばほどの日本人の少女の姿――になったままだったのだ。
黒髪の少女=DDはソファに座ったまま、テーブルの上にだらしなく足を投げ出していた。
そのテーブルを挟んだその向こうにBBがいる。
先程まで身につけていたプリーツスカートとストライプのショーツ、そして黒いハイソックスはカーペットの上。
結論。
女の子の大事な部分が丸見え・・・。
「頼むよ師匠・・・。女の格好の時はもうちょっと姿勢に気をつけてくれ・・・。正直目のやり場に困る」
げんなりとした顔でBBは師匠に懇願した。しかし少女は姿勢を正すこともせずに涼しい顔だ。
「まあいいじゃないか。誰も見てるわけじゃなし。俺は全然気にしないぞ」
「良くないっ!! 俺が見てる!! 俺が気にする!!」
「童貞みたいなことを言う奴だな。こんな作り物が気になるのか? 興奮するのか? 勃っちゃうのか? 犯っちゃうのか?」
少女は自分の股間に両手を伸ばし、指先で花弁をくぱぁと広げようとする。
しかしまだ使い込んでいないそれの部分は薄い膜に閉ざされ、巧みに造形された中身をうかがうことは出来ない。
そしてその部分は、男との交わりに使うことも可能だ。
スキンモジュールは見た目だけではなく、寝台の上でも異性として振舞うことが出来るようになるのだ。
向かいにいるBBの姿も実は本来の顔ではなく、師匠と同じように偽りの顔を纏っている。
「童貞ちゃうわ・・・って、だからやめぃ!!」
BBが怒鳴った。たとえ作り物でも若い彼には刺激が強すぎるのか、その顔は怒りか羞恥で真っ赤っ赤で今にも湯気が出そうな勢いだ。
心の底で少女は大笑い。若い弟子をからかうのは本当に面白い。
でも遊びはここまでにしておこう。
自分達は今、命がけのビジネスの真っ最中なのだから。
「うう‥‥‥ん」
その時悩ましい声と共に、ソファの裏から起き上がる人影があった。
「あ。よく寝た」
両手を組んで大きく伸びをした後、人影は二人の方へ向き直る。
それは下着姿のとびきりの美女だった。
はらりと落ちる、ウェーブのかかったプラチナブロンドの髪。
カットされた宝石のような、エメラルドグリーンの瞳。
下着からこぼれ落ちそうな、砂時計のようにナイスなボディライン。
目の前に男が二人(片一方の外見はともかく)いるにも関わらず、彼女は恥じらう様子もなく、あくびをしながらDDの隣に腰を下ろした。
美女の名はサンディ。DDのもう一人の相棒で、天才的な腕前をもつハッカーだ。
あらゆるものが無線ネットワークで管理されている現在、防犯システムも無人機の管制も、彼らハッカーの腕から逃れられるものはない。
彼らは情報の海を潜ってシステムの『氷』を溶かし、そのシステム自体を我が手に治めることが出来るのだ。
「・・・・・・」
ノーパン美少女と下着姿の美女。それを見てBBは口をあんぐりと開けたまま完全に固まった。
本来ならば喜ぶべき状況な筈だが、何故か全然嬉しくない。
いや実は少し嬉しい。
でもそんな自分が何か嫌だ。
「とりあえず二人とも・・・何か着ようよ・・・」
BBは力なく、呻くように『女たち』に呟いた。
その時、いい加減な付け方をしていたサンディのブラのホックが外れ、大きな果実が戒めを解かれてぷるんっ!! と揺れた。
「あらら・・・まあいっか」
彼女は果実の頂にある桜色が露になっても全く動じず、落ちたブラを拾うのも面倒な様子で『少女』と向き合う。
「おはよ、ディディー(DD)。今日は『女の子』なんだね」
「ああ、この顔で情報集めをな」
サンディは少女=DDにずいと顔を近づけ、その顔をまじまじと観察した後、
「うわぁ・・・、可愛いなぁ!!」
少女の体をおもむろにギュッと抱きしめる。
「お、おい。よせよ」
少女の顔でDDは抗議するが、美女は構うことなく彼女の頬にペロリと舌で愛でながら、両手で胸のふくらみをいたわり始める。
「あ!! こら!!」
「おお、今日のアナタは着やせするタイプのようね。見た目に反して意外にボリュームがあるわ」
ひとしきりわさわさと柔らかな感触を愉しんだあと、サンディの右手は、今度は少女の腹から下へと伸びていく。
「今は仕事中だぞ、サンディ。それにBBだって見てる」
「いいじゃない? 仕事と言っても少しは息抜きは必要でしょ? なんならビ・ビー(BB)も交えて三人でって・・・おやぁ!?」
突然サンディは素っ頓狂な声をたてた。妖艶な美女の顔が、小悪魔のように悪戯っぽく微笑む。
「ノーパンでいるなんて、ディディーはイケナイ娘ねぇ。こんなイヤラシイ娘はお姉さんがお仕置きしちゃうゾ」
言うが早いかサンディは身を乗り出し、ソファの上に少女を押し倒す。
あられもない姿の美人二人の肉体が折り重なり、禁断の光景がBBの目前で繰り広げられるかに見えた。
しかし、いたたまれなくなったBBは黙って退出。
彼はサンディに童貞を奪われた夜のことを思い出しながら、こみ上げてくるムラムラとした気持ちを押さえながら自室へと戻っていった。
彼が何の用事で居間の扉をくぐったのかを思い出すまでには、あと少しの時間が必要だった。
十五分後。
用事を思い出したBBと美人二人は再び居間に集合した。
DDとBB、そしてサンディが受けたビジネスは、日本を牛耳る巨大企業の一つ、松菱重工の開発した新型無人航空機に使われる高効率燃料電池の設計図を奪い取ることだ。
依頼人は高級そうなスーツ(背広)に身を固めたいけ好かない野郎で、仲介人を通さず直接DD達を指名して依頼に来た。
そいつの素性は知る由もないが、おおかた川西やコマフジ、外資系のGI社など松菱と競合する他の大企業の手の者だろう。
提示された報酬はかなりいい額で、三人は全会一致で依頼を受けることに決めた。
そして周到なリサーチの結果、彼らはエンジン設計チームの1人である柴田功一という男に目をつけた。
柴田は若く優秀な技術者で、燃料電池の設計のほぼ全ての工程に関わっていたからだ。
そして設計図のデータが、柴田本人の脳内ストレージに格納されていることもわかった。
人体強化技術が発達した今日、人は膨大なデータを肉体の中に記録し、いつでも読み出すことが出来る。
松菱重工のストレージを直接クラッキングするのは現実的ではないが、柴田自身の電脳を乗っ取りストレージを探るなら簡単だ。
しかし現実はそう甘くはなかった。
天才クラッカーであるサンディが、柴田の電脳(=体内埋め込み型個人用ネットワーク端末。IPNDとも呼ばれる)をクラッキングしては見たものの、肝心要の脳内ストレージは常時オフラインで、オンラインから記録を閲覧、抽出をすることが出来ないのだ。機密保持を考慮に入れるなら当然の対応と言えるだろう。
つまり柴田のストレージを覗くには、直接彼に接触してデータを盗み取るしかない。
この日、三人は柴田の行動を徹底的に洗った。
勤務態度からプライベートの交流、趣味、嗜好、性癖、あらゆる要素を調べ、彼の隙を探した。
この結果、明らかになったいくつかの事実を基に、三人は今後のアプローチを話し合った。
柴田から機密を得るには複数の選択肢がある。
その一つは脅迫だ。昔から一番手っ取り早いやり方で、今も有効な手段の一つだ。
しかし脅されたからといっても相手が素直に応じる保証はなく、最悪自棄になった相手に、データを消去されるリスクがある。
そうなると彼らのビジネスは確実に失敗となる。
「・・・・・・」
女の子の顔のままDDはしばらく思案した。誘拐、脅迫などの手荒なやり方は、やるとなれば最期の手段だ。
そうなると手段は必然的に絞られてくる。誘惑、懐柔などのキーワードが頭の中に浮かび上がる。
DDの脳細胞の活動は活発になり、分泌された神経伝達物質が、彼の思考をさらに洗練されたものへと変えていく。
やがて思考の糸は脳の中で一つに集約し、仕事の段取りが組みあがっていった。
よし、決まった。
思考を終え、BBは組み立てたプランを二人に打ち明けた。
「えっ!? ええ!? まさか俺もやるの!?」
それを聞いたBBの、悲鳴に近い叫び声が隠れ家中に響き渡った。
■■■■■
6 Jul. 2048 10:15
翌日。BBと少女=DDは隠れ家の地下にある、秘密の部屋の入口をくぐった。
そこは殺風景な場所だった。
部屋の四方は無機質なコンクリートが剥き出しで、壁際にはロッカーやクローゼットが立ち並び、一角には大きな鏡が立て掛けられている。
部屋の真ん中にあるテーブルの上には、白い樹脂製のコンテナのようなものが鎮座し、部屋の隅の電源とコードでつながっているそれはウィンウィンと低い機械音を放っている。
「さて、始めようか」
少女が言った。隣にいるBBは明らかに嫌そうな顔をしていたが、観念したかのように「はぁ・・・」とため息をつくと、おもむろに自分の服を脱ぎ始めた。
肌着もブリーフも全て脱ぎ捨て、あっという間にBBの逞しい裸体が明らかになる。
でもまだ終わってはいない。
彼が脱ぐべき『服』はまだ一枚残っているのだ。
BBは思考制御でIPNDのOSを呼び出した。
彼の視界の端に小さなウィンドウが開き、いくつかのアイコンが表示される。
意思のままにポインタが動き、SMCという表示のあるアイコンを叩き、「Remove Outer」の項目を実行。
次の瞬間。BBの皮膚がふやけたかのように張りを失い、その表情が崩れ始めた。
背中の皮膚は背骨のラインに沿ってバックリと裂け、首筋に回された両手がそれを左右に広げる。
するとまるで衣服を脱ぎ捨てるかのように、BBの全身の皮膚が腰の位置まで剥がれ落ちていった。
その光景は隣の『少女』も同じだった。
BBと同じように裸になった彼女の背中も大きく縦に裂け、可愛らしい顔も整った胸の果実も、醜く歪んで無残に崩れ落ちていく。
そして剥がされた皮膚の中から、、真っ黒な人影がその姿を露にしていった。
それは不気味な姿をしていた。
表面は黒い繊維状の模様が走り、むき出しの目玉がギョロリと蠢く。
その姿はさながら人体模型のような、異様なものに見えた。
これは前述した変装用ツール、『スキンモジュール』を構成するパーツの一つで、体型補正と運動能力強化のために用いる『スクイーズスーツ』と呼ばれているものだ。
軍や警察の一部で運用されている強化服EMスーツ(Enhanced Muscle Suit)の技術を応用したもので、それにナノテクノロジーを駆使した体型補正機能を付与したものである。
これを被り肉体と同化させることで、着用者は体型をある程度変化させることが出来、また超人的な運動力を発揮することが可能となるのだ。
しかしDDが用いているものは『スーツ』の範疇に当てはまらない。
インプラント。彼は自身がもつ皮膚の代わりに体型補正・運動強化機能を持つ人工組織を、直接肉体に埋め込んでいるのだ。
人体と完全に一体化したそれは、外部着用型のスーツよりも高度なパフォーマンスを発揮できる。
この醜い姿は、彼の本当の素顔なのである。
そして今彼らが脱ぎ捨てたものは、モジュールの外側を構成するアウタースキン。裏社会の住人が本性を隠すために被る化けの皮だ。
彼らは人間の皮膚の外見を精巧に写し取ったスキンを纏って姿を変え、危険な都会の裏側を駆け抜けていくのだ。
低い機械音を発していた、部屋の真ん中にあった装置が動きを止めた。
素顔に戻ったDDは装置の前に立ち、蓋を開いて中身を取り出す。
中から出たものは、今し方二人が脱ぎ捨てたものと同じ、成型を終わらせた薄桃色の皮、アウタースキンだ。
それの肩を掴んで二、三度揺すると皺が伸びて大まかな外見が明らかになっていく。
頭部に植えつけられた、長く柔らかな髪。鎖骨の下で存在を主張する擬似脂肪の塊、僅かに体毛の茂った股の切れ込みの周囲。
それはさながら人間の、それも女の体の抜け殻のように見えた。
Body Squeeze実行。
突然グググ・・・と薄いビニールを引っ張るような音と共に、二体の人体模型のシルエットが変化を始めていった。
その片方、DDの体型に大きな変化はない。
なだらかなカーブを描いた体のラインはそのままに、全体的なボリュームがよりスマートなものへと絞られていく。
一方で彼の相棒、BBの体は劇的な変化を迎えていた。
ミシミシと軋むような音を立てながら、逞しい彼の肉体がスクイーズスーツに圧縮、同化されていく。
ウエストのラインは大きくえぐれ、彼のボディラインは急激なカーブを描いていく。
スーツの股間から露出させていた彼自身の股間の大砲と二発の弾丸は、スーツの裏地を構成するナノマテリアルに包み込まれ、ピンポン玉ほどのサイズまで圧縮。そして吸い込まれるように体内に納められていった。
それと同時にスーツの一部が彼の会陰部から浸透し、彼自身が持っていない器官を模倣し作り上げていく。
続いてナノマテリアルは着用者の口腔部にも侵入。口内に擬似粘膜の層を定着させていく。
ゴツゴツしていたヒップラインも新たに成型され直し、整えられたそれは魅力的な曲線を描く。
首のラインもスマートに作り直され、それと共に喉仏の張り出しも、次第になだらかなものへとなっていった。
眼球はスーツの瞼から下りた薄い膜に覆われた。BBのブルーの虹彩が揺らぎ、濃いブラウンの瞳へと変貌していく。
やがてビニールを引っ張るような音は止み、スクイーズスーツの収縮は収まった。
その場にいたはずの、可愛らしい少女と逞しい青年の姿は既になく、それらの姿はくびれた体型をした、二体の人体模型へと変貌していた。
二人の黒く細い腕が、テーブルの上に置かれた肌色のアウタースキンへと伸びた。
新品のスキンの背中には、先程脱ぎ捨てたものと同様に大きな切れ目が上下に伸びている。
二人の人体模型は両手でそれを左右に広げ、スキンを体に着込んでいく。
まず両脚をスキンの中に通し、左右に広げたスキンの胴体を持ち上げながら片方ずつ腕と半身を収める。
そして、首から垂れ下がった全頭型マスクを自分の頭に被せると、縦一直線に走った背中の裂け目は、まるで時間を逆回ししているかのように独りでに塞がっていった。
それと同時にスキンの裏地がスクイーズスーツ表面の人工筋肉と接着、同調。
スーツから補充された電力と栄養を受け、ゴムのように乾燥していたスキンの表面が水気と弾力を持ち始め、張りとツヤのある肌を形作っていく。
老婆のように皺だっていた顔は目鼻の整った愛らしい顔に、鎖骨の下から垂れ下がっていた不恰好な膨らみは、適度な張りのある新鮮な果実へと変貌していった。
スーツの形状通りにスキンの同調は進行し、ウエスト太ももを結ぶ絶妙なカーブが成型され、薄い体毛に覆われた股の谷間には、小さな花びらがあしらわれた。
地下室の中にいた二体の不気味な人体模型は、片方はグラマーな、そしてもう一方はスレンダーな二人の美少女へと、その容姿を大きく変貌させていた。
「自動成型は済んだな。じゃあ仕上げにかかろうか」
スレンダーな少女=DDは相棒に呼びかけた後、思考制御で二枚の画像をSMC=スキンモジュール・コントローラーのプログラム上に展開した。
彼女の視界内にウィンドウが開き、二枚の3D画像が映し出される。
それは二枚とも彼女自身の画像だ。いや、正確には違う。片方は室内のカメラがリアルタイムで映している少女=DD自身の姿だが、もう片方は昨日盗撮した『本物』の少女の姿だ。
DDはそれぞれの画像を見比べながら、機械では不可能な細部の造形をマニュアル操作で次々こなしていく。
色白できめ細かな肌、くりくりと見開かれた大きな目、小ぶりな口元。二枚の画像の細かい差異は次第に見分けがつかなくなっていった。
数分ほどで作業は終わり、ウィンドウに移ったDDの裸体は、どこから見ても本物と寸分たりとも変わらぬ姿となっていた。
用意した下着を身につけて化粧をすませ、ロッカーの中に掛けられていた無数の衣服の中から、取り出したいくつかの品物に身を通していく。
着替えを終わらせ相棒の方を見ると、『彼女』は慣れないマニュアル造形に手こずっているようで、顔の細部がせわしなく変化しているのが見て取れる。
手を貸してやってもいいのだが、ここはあえて放置だ。
弟子に経験をつませてやるのも師匠のつとめ。決して面倒くさい訳じゃないぞ。
数分間の悪戦苦闘の後、BBはうまくコツを掴んだらしく、師匠より少し遅れて『彼女』の変身は完成した。
DDはスキップを踏むような軽い足取りで、グラマー少女=BBの周りをクルクル回りながらその出来栄えを観察。
視界に読み出した『オリジナル』の画像と比較しながら、違和感がないか徹底的に見極める。少しのミスが即死につながるかも知れないからだ。
しかし、その心配は取り越し苦労のようだった。
彼の変身は完璧だ。
ツヤのある長い黒髪、くっきりと整った目鼻立ち、でん!! と自己の存在を主張する張りのあるバスト。
相当気をつけて観察しないと全く本物と見分けがつかない。弟子の上達の早さに『彼女』はただただ感心していた。
最新型の変装ツールを用いたとしても、実在の人物になりすますにはかなりの技量が必要だ。
スクイーズスーツによる、限度を超えた身体圧縮に耐えるだけの、肉体の強靭さと柔軟さ。
オートマチックでは再現できない、身体の細部を再現するだけの造形力。
擬態対象の話し方、仕草、癖を完璧に模倣するための洞察力と演技力。
どれ一つ欠けても、特定人物への変装は不可能になる。
しかしこの若い相棒兼弟子は、それらの全てを驚異的な速さで学習していった。
肉体にかなりの負担がかかる女性器の成型も、何事もなくこなすほどに彼の技術は上達していた。
BBの成長を見るたびに、彼の若さが少し恨めしくなる。
認めたくはないが自分ももう若くはない。
昔の仲間達のように、後進に道を譲ってそろそろ身を引くべきかも知れない。
昔の師匠も若い自分を見て、そう思っただろうか?
おっと、つい物思いに耽ってしまった。
師匠が考え事をしているうちに、弟子は化粧と着替えを終わらせていた。これで仕事の前準備は終わりだ。
「終わったみたいだね。じゃあ行こっか、『リサお姉ちゃん』」
声色を少女のものに変え、少女=DDは『姉』の腕に抱きついた。
「・・・・・・」
『姉』=BBはまだ困惑顔。だが既に賽は振られた。後は何があっても自分の『役』を演じとおすまで。
「うん『アキ』、行こ」
腹は決まった。アキの姉『リサ』=BBはオリジナルの声色を使って、優しく『妹』に微笑みかけるのだった。
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6 Jul. 2048 14:30
窓の外に広がる、真夏の昼の青空を見上げながら、松菱重工の若きエンジニア柴田功一は1人暇を持て余していた。
今日の空は珍しくも見渡す限りの青一色で、それ以外のものといえば粒のように空を行きかう航空機か、遥か遠方に分厚い積乱雲が見えるのみだ。
さんさんと輝く太陽の光を遮るものは何もなく、真夏の日差しが地面を、建物を、そして人を容赦なくジリジリと照りつけている。
とは言え、彼の居るこのホテルの一室に無慈悲な陽光が届くことはない。
窓ガラスに封入された偏光素子によって有害な光線はある程度シャットアウトされているからだ。
本物の空を見上げるのは久しぶりのことだ。衣食住全ての環境が整う、都市の機能が丸ごと集約された巨大建築物『アーコロジー』の中で見る空は無機質な天井か、3Dホログラフで映し出された偽りの空なのだから。
それでもこのアーコロジーの環境は快適だ。
ここに居る限りは濃密な光化学スモッグや有毒物質混じりの雨、ろくな浄化もされていない水道の水で体を損ねることはないし、ダウンタウンやスラムのように教養のない追い剥ぎ達に追いかけられることもない。
ここは確かに楽園だった。問題といえばこの国の人口の9割がたを占める、大企業に属さない中小企業の関係者とその家族、またそれと同じくらいの数と思われる未登録市民はこの恩恵を全く受けることが出来ないという事くらいだ。
遥か下方の地面を見下ろすと、前世紀に建築された高層ビルの屋上が軒先を連ね、その奥にある宅地、工場地区、港湾地区がひしめき合い、この都市複合体『東京メガコム(Tokyo Mega-City Complex)』がまるで巨大生物のように鼓動し、蠢いているのが見渡せる。
この醜くも壮大な景色は、あたかも自分が創造主になったかのような錯覚すら感じさせた。
その時、部屋の呼び鈴の澄んだ音色が柴田の耳に届いた。待ち人来たる、だろうか?
彼は興奮を抑えられずに、一目散に入口へと走った。
扉の覗き窓から見えた二つの人影は、やはり待ちわびた人のものだった。
「こんにちは、柴田さん。お久しぶり」
それは彼と『親密な関係』にある二人の少女、リサとアキの姉妹の姿だ。
扉を開くと人影の片方の、黒髪長髪のグラマーな少女『リサ』が、愛想良く柴田に微笑みかけた。
ツヤのある長い黒髪、くっきりと整った目鼻立ち、でん!! と自己の存在を主張する張りのあるバスト。
女神のような彼女の微笑みは、いつ見ても心を和ませてくれる。それは生まれたままの姿で抱き合うときもだ。
「ご無沙汰してます、お兄さんっ!!」
リサの脇にいたスレンダーな女の子、リサの二つ下の妹『アキ』が飛び出し、柴田の腕にギュッと抱きつく。
色白できめ細かな肌、くりくりと見開かれた大きな目、小ぶりな口元。
相変わらず可愛らしく、物怖じしない活発な子だ。
そしてそれは寝台の上でも変わらない。
「二人とも良く来たね。さあ入って」
この先の出来事に、期待と下半身を膨らませながら、柴田は二人を部屋へと招き入れた。
「「お邪魔しまーす」」「うわ、すごーい!!」
部屋に通されたリサとアキは、室内の豪華な内装と調度品に目を奪われていた。
感嘆のあまりか、リサから思わずため息が漏れる。
アキは思っていた通りの行動をとった。ふかふかのベッドの上に横になると、そのままぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「あははっ。見て見てお姉ちゃん。このベッドすっごく楽しいよ」
「こら、よしなさい。ベッドが壊れてしまうわ」
「はぁい」
姉に叱られ、彼女はしぶしぶベッドから降りた。しかし窓から見える外の景色に心奪われたか、食らいつくように窓ガラスにしがみつく。
二人ともこの部屋を気に入ってくれたようだ。高い金を払って、部屋を取った甲斐があった。
「ありがとうございます柴田さん。こんな素敵な部屋を取って下さるなんて」
ベッドに座る柴田の隣に腰掛け、リサは彼に向かい丁寧に頭を下げた。
「礼には及ばないよ。会社からはそれなりの金をもらっているからね。こっちも喜んでもらって何よりだ」
「でも、高かったのでしょう?」
「ま、まあね。でも今手掛けてるプロジェクトが成功すれば、ボーナスもバッチリ出る。そうなればここの宿代なんてどうでも良くなるさ」
「お仕事忙しかったんですね。最近会ってくれなかったから、寂しかったわ」
「も、もうちょっとしたら、いつでも会えるようになるよ。いつでもね・・・」
「またしばらく会えないのですね・・・。じゃあ今日は・・・いっぱい愉しみましょう・・・」
リサは柴田に顔を近づけて熱い口づけ。
それと同時に二人の両腕が、互いの身体を強く抱きしめた。
「んっ・・・・・・!!」
唇と唇を重ねながら、リサと柴田は互いの舌を激しく絡めあった。
抱きしめた相手の体温が、口内に広がる唾液の味が、顔にかかる熱い吐息が二人を更に興奮させる。
リサの指先が、下ろしたチャックの中から柴田のズボンの中へと侵入し、膨らんだ彼の男性自身を露出させる。
「おいおい。今日のリサちゃんはずいぶん積極的じゃないか?」
それに応えて柴田の右手がリサの襟元へと入り込み、柔らかな果実の感触を掌で愉しむ。
「ふあぁつ・・・!! お返しですっ!!」
リサの細い指先が、半勃ちになっていた男性自身を優しく愛撫。
彼女の鮮やかな手管の前にそれは瞬く間に硬くなり、大きく天に持ち上がっていった。
しばらく会わないうちに、随分と上手くなったもんだ。
感じるポイントを的確に突いてくるリサの手業に、柴田は感心していた。
会えなかったこの数週間、彼女は一体何人の男を相手にしたのだろうか?
この綺麗な体を、瞳を、髪を、唇を、乳房を、そして花びらを、一体何人の男に汚させたのだろうか?
いや、野暮な洞察はよそう。自分と彼女達の関係は、所詮金で買った数時間ほどの恋でしかない。
「あーーーーっ!! ふたり共もう始めてるっ!!」
窓の外を眺めていたアキが前戯に気づき、キンキンと抗議するように叫んだ。
彼女は猛然と二人に向かって突進。
神速でスカートを脱ぎ捨て、真っ白な紐付き下着を露にしながら、ちょこんとベッドの上に飛び乗る。
「お兄さんもお姉ちゃんも、ズルイよ。えっちするならアキも混ぜてよ」
ぷっと頬を膨らませ、アキは柴田の側に膝をついた。
「ごめんごめん、アキちゃん。おいで」
男は謝りながらアキの肩を優しく抱き寄せ、おでこに口づけ。
「子供扱いしないで・・・。もっと・・・して・・・」
不満そうな顔でアキは柴田の身体にもたれかかり、3人はもつれながらシーツの上に横たわる。
アキは姉から奪い取るように、男と唇を重ねた。
「ん・・・・・・んぅ・・・・・・」
舌が触れあい、男と少女は互いの味と匂いを確かめ合う。
恍惚に揺らめく幼い瞳が、男の瞳を覗き込む。
綺麗な目だ。本当に。無垢で汚れなど知らぬかのような少女の瞳。
しかしそれは嘘だ。彼女の瞳は数分もしないうちに、肉欲を貪る盛った雌の双眸へと変貌するのだから。
さあ、お楽しみはこれからだ。
「ひゃうっ!!」
突然リサが嬌声を上げた。彼女の胸の膨らみを愉しんでいた男の指先が、彼女の下着の中を侵食し始めたのだ。
揃えられた体毛の奥にある肉の花びらが、刺激を受けてねっとりと湿り気を帯びてくる。
「ああ・・・はぁぁ・・・」
柴田の指先はさらにその奥へと侵攻。指の腹がリサの中の弱い部分を責め立てる。
「ひぅぅ・・・!!」
リサは声を抑えながら、胎を侵す快感を堪えつつ姿勢を反転させ、彼女の上半身は柴田の足の方を向いた。
そして両の胸の膨らみの間に男性自身を挟み、ゆっくりと体を上下させる。
「お!! おおーっ!!」
新たな快感に男は沸き立った。右手はリサの局部に、左手はアキの小さな胸を巧みに刺激し続けていが、たっぷりとアキの果実を堪能した左手が動いた。
それはアキの腹を撫でるように滑り降り、彼女の紐付き下着を解く。そして体毛も揃わぬ彼女の股の間へと、男の指は伸びて言った。
「ひゃぁぁぁ!! お兄さん・・・イイよぉっ・・・!!」
鮮やかな男の手管でもたらされる快楽に、アキは堪えきれずに幼い声で鳴いた。
男の体を知ったばかりの彼女には刺激が強すぎるのか、アキは何も出来ずに呼吸を荒げ、その度にか細い嗚咽の声が漏れる。
彼女の小さな膣内に入り込んだ男の指は、壁を傷つけないように優しく、しかし快感に狂うほどに激しく少女の中を蠢く。
「お兄さんッ!! お兄さんの指がぁッ・・・アキの・・・アキの中でッ・・・!! ああっ!!」
激しい責めを受け、少女の小さな体がピン、と張り詰める。
動悸は高まり、荒れた呼吸は息絶えんばかりに加速していく。
「あぁんっ!! 待って!! お兄さん止めてっ!! 指でイッちゃうなんて・・・アキはイヤだよッ!!」
しかしその懇願に構うことなく、柴田の指先はアキの中と、入口にある小さな蕾を容赦なく刺激し続ける。
「ああ!! もう駄目ッ!! アキ・・・イッちゃう・・・!! お兄さんの指でイッちゃ・・・ひアァァァァッ!!」
絶叫の中で少女の声は裏返り、アキは果てた。
ピンと張り詰めていた体の緊張は解け、汗だくになった彼女の体はヒクヒクと痙攣しながら、シーツの上に力なく突っ伏した。
「はぁはぁ・・・。お兄さんの・・・意地悪・・・」
絶頂の余韻と心地よい疲労感に包まれながら、アキは相手に聞こえるか聞こえないか程度の声で、恨めしそうに呟くのだった。
指先でアキを果てさせる一方で、柴田の男性自身はリサの乳房に刺激されてギンギンに膨れ上がっていた。
また、彼のもう片方の手で愛撫を受けていたリサの秘所もいい具合になり、男を受け入れる用意が出来たようだ。
「柴田さん・・・・・・」
男の名を呼びながらリサは体を起こし、膝立ちになって彼の方に尻を突き出した。
両手で尻肉を広げ、男を誘う。愛液にトロトロに湿った彼女の女陰が、男の眼前に突き出された。
「来て・・・」
懇願するかのような、少女の淫らな声。もう遠慮は要らない。思うがままに蹂躙するのみだ。
「うん、リサちゃん。入れるよ」
両手でリサの腰を掴み、先っちょを花びらにあてがう。それは支える必要もないくらいにいきり立ち、少女の穴から溢れる愛液に塗れる。
ゆっくりと腰を押し出すと、湿った音をたてながら彼のモノは、リサの中へと飲み込まれていった。
「あああ来てるッ!! 柴田さんのが中に入って来てますぅ!!」
硬く太い男のしるしに内壁を責められ、リサは体を仰け反らせながら快感に震えた。
男の進攻は続き、やがては子宮口に到達。
リサの膣奥は亀頭を押し付けられた刺激で収縮し、柴田の業物をギュッと強く締めつける。
「うお!! すげ!!」
男と繋がった快感と興奮で少女の肌は上気し、彼女の呼吸と鼓動の激しさが、繋がった部分から男にも伝わってくる。
「う・・・動いて・・・下さい・・・」
先程よりも淫靡な声で、少女は男に乞う。それに応え男は無言で体を揺らせた。
「あっ・・・!! あぁんっ!! 柴田さんッ!!」
柴田の業物が体内を往復する度に、リサのは歓喜と快感に肢体を震わせた。
「ふぁ!! 奥・・・突き上げられてますっ・・・!!」
四つん這いの姿勢のまま、最大限の快楽を得ようと彼女の背筋はピンと張り詰め、両手の指はベッドのシーツを強く握り締める。
それと同時に、男の動きに合わせて体を揺らし、互いを高めあっていこうとする。
「はぁはぁ・・・リサちゃんの膣内・・・すごくイイよ・・・・・・」
鮮やかな少女の性技に、柴田は完璧に舞い上がっていた。
自身に絡み付いてくる膣壁の刺激は、彼が今まで感じたことのないものだった。
女は化ける、とはよく言ったものだ。
しばらく会わないうちにここまで上達するとは。これだから十代の娘とのセックスは止められない。
姿勢を変え、柔らかな果実の感触を両手で味わいながら、いい具合に成長した肉器の感触を愉しむ。
繋がった部分からは止め処なく液体が溢れ、水音をたてながら何度も何度も二人の体は揺れた。
やがて、少女の体が僅かにこわばり、体が軽く痙攣してくるのが分かった。
快楽に喘ぐ声は次第に高くなり、呼吸のペースも激しくなっていく。果てが近いのだ。
そして少女は自ら果てを求め、男の体を貪るように体をくねらせ始めた。
「柴田さんっ・・・!! わ、私・・・もう・・・!!」
その動きに一気に即発され、柴田自身の昂ぶりもピークへと向かっていく。
「あ、ああ・・・。俺も・・・限界だ・・・。リサちゃん・・・イクよ」
「来てっ!! 柴田さんの赤ちゃん汁!! 私の中にいっぱい出してぇ・・・・・・!! あ・・・!! ああぁぁ・・・・・・!!」
リサの体内が激しく痙攣し、彼女は絶頂を迎えた。
目は大きく見開かれ、震える声で快楽の喜びを叫ぶ。
それと同時に柴田の男性自身も限界に達し、噴出した精液はリサの子宮にたっぷりと注ぎ込まれていった。
絶頂を迎え、繋がったまま事後の余韻に浸っていた男女の体がようやく離れた。
萎れた柴田の男性自身がリサの中からぬぷりと抜かれ、塞ぐものの無くなった穴の中から白濁した体液がトロリと伝わり落ちる。
大きなベッドの上で、3人の男女は川の字になって寝転び、行為で荒れた呼吸を整える。
真っ先に起き上がったのは、一番最初に柴田の指で果てたアキだった。
彼女は男の傍らで仁王立ちになり、口をへの字にひん曲げていた。
「リターンマッチだよ、お兄さん。今度はさっきのようにはいかないんだからっ」
どうやら彼女は、男に指だけでイカされたことが大いにご不満のようだ。
「ハハハ・・・。アキちゃんはいつも元気だね。でもちょっと待ってくれよ。こっちの準備がまだなんだ」
柴田は自分の局部を指差す。リサの子宮にたっぷりと精を放ったそれは、先程までの逞しさは微塵も無く、力なく頭を垂れている。
「アキちゃんが手伝ってくれたら、すぐに再戦してあげるられるんだけどなぁ・・・」
アキのバストをジロジロ見つめながら、男は意地悪そうに笑った。
柴田の物言いに、アキは顔を真っ赤に染めて怒鳴った。
「ば、バカにしないで!! パイズリくらい、アキにだってちゃんと出来るんだからっ!!」
怒りを露にして彼女は男の脚の間に屈み込み、萎びたものを胸の間に挟み込もうとする。
しかし、硬さを失ったそれは谷間からニュルンと逃げてしまう。
「ハハハ・・・どうしたどうした?」
何度試しても同じだった。彼女の双丘が男性自身を包み込むには、明らかにサイズが足りない。
「うう・・・」
悔しさでアキの瞳に涙が滲む。傍らで寝そべる姉が恨めしい。
「どうした? もう降参か?」
柴田は勝ち誇った顔でアキをからかう。その一言で彼女の怒りは頂点に達したようだった。
「お、お兄さんを大きくさせたらいいんでしょ!? だったらおっぱいなんか使わなくったって・・・・・・!!」
言うが早いか、アキは彼のものを右手で持ちながら口で咥えこみ、舌と口腔で愛撫し始めた。
「む・・・ンンッ・・・、ちゅっ・・・んんんっ」
ピチャピチャと音をたてながら、アキは無我夢中な様子で男のものを貪っていた。
両の瞳は、男の顔を見上げている。
彼女の眼光は先程まで見せていた無垢な少女のものではなく、それは肉欲を貪る盛った雌犬の眼に変貌していた。
「あむぅっ・・・ひむっ・・・くちゅ・・・・・・」
少女の口腔が、まるで吸い込むかのように巧みに男を刺激する。
この娘・・・上手いな・・・。巧みな少女の舌使いに、柴田は感心していた。
以前まで彼女は口を使った行為を嫌っていたのに、一体どういう心境の変化だろうか?
やはり、女は化けるものだ。
男のそれを口で責める一方で、アキの左手は自らの局部に向けられた。
指先が少女の中と外とを激しくかき乱す。くちゅくちゅと卑猥な水音とともに、溢れ出た露が再び花びらを濡らす。
勝手知ったる自分のカラダだ。感じるポイントを責めるごとに、少女の表情が快感にこわばる。
時間とともに少女の責めは激しくなり、男のものは再び大きく、硬く立ち上がった。
「むぐっ・・・」
アキはいきり立った男の一物を解き放った。
そして体を起こして男の上に膝立ちになり、ゆっくりと腰を落としていく。持ち上がった先っちょが蕾に当たり、「あんっ!!」っと少女が呻く。
男は隣で寝そべるアキの姉の方を振り返った。
リサは慈しむような笑顔を見せ、男にウィンク。
しかし次の瞬間、強引に男はアキの方に振り向かされた。少女が冷ややかな目で彼を見下ろす。
「駄目だよっ!! お兄さん・・・」
が、そのしかめっ面は瞬時に笑顔にチェンジ。
「今のお兄さんはアキのものなんだよ・・・。だから今は・・・アキだけを・・・見て・・・」
少女は男の目をまっすぐ見つめて囁くと、ゆっくりと体を沈めていった。
「ああああ!! おっきいよぉ!!」
アキが体を落とし込んでいくと共に、大きく反り返った柴田の巨根が器の中に収まっていく。
男のものを一身に受け止め、少女は体の昂ぶりに歓喜の嬌声を上げた。
「あふぅんっ・・・!! お兄さんのすごいのがッ・・・!! アキの中に・・・入ってくるのッ・・・!!」
男の体は何度も経験しているものの、まだ成長途上の彼女の中は狭く、侵入してきた巨根を肉壁がキュウと締めつけてくる。
「うお・・!! アキちゃんの中・・・・・・すげぇイイ・・・」
やがて柴田の男性自身は根元の部分を残したまま、亀頭が最奥に到達。侵入はそこでストップした。
「はぁはぁ・・・。アキの中・・・お兄さんでいっぱいになっちゃった・・・」
息を荒げながら上体を反らし、男の両脚に手を付いて体を支える。
少女の顔に笑みが浮かぶ。それはとても彼女にそぐわぬ、男に飢えた淫らな笑顔だ。
「うう・・・、動くね・・・」
両手を突っ張り、アキの体がゆっくりと律動し始めようとしたその時・・・。
一瞬先に柴田の体が動き出した。彼は跨ったアキを持ち上げるように腰を上へと突き出す。
「はにゃあああんっ!!」
膣奥を突き上げられ、背骨から脳に突き抜ける快感が彼女を激しく悶えさせる。
休むことなく、男の体はずんずんと力強く律動し続ける。
怒張した肉塊が少女の体内を貪り、その度にアキは・・・、
「はヒッ・・・!! お兄さんが動いちゃ駄目ェ・・・!! 今はアキがぁ・・・アキが動く番なんだから・・・あはぁんっ・・・!!」
幾度も訪れる衝撃に絶叫しながら身を竦ませ、瞬く間にやってくる絶頂の波を堪えようとする。
「ふふふ・・・ゴメンゴメン。ちょっと強引過ぎたかな?」
アキの顔色を読み取り、柴田は動きを止めた。
ヒクヒクと、アキの体内が弱く震えているのを肉棒で感じる。どうやら彼女は軽く果てていたようだ。
「はぁ・・・はぁ・・・。もう・・・意地悪しないで・・・」
アキは柴田と繋がったまま上体を彼に預け、、体と呼吸の昂ぶりを諌めていた。
少女の火照った体からは珠のような汗が浮かび、絹のように滑らかな肌の上を滑り落ちていく。
密着した肌と肌、伝わる互いの呼吸、柔らかい胸の感触、触れ合った粘膜の脈動。
汗に濡れた少女の髪が男の体にかかる。混ざり合った汗と化粧品のにおいが、たまらなく彼を興奮させた。
数分の静寂の後、落ち着いた彼女はゆっくりと体を起こし、再び騎乗位の体勢をとる。
「今度こそ、アキが動く番だよっ。お兄さんはそのまま動かないでよねっ」
アキはクスリと、小悪魔のように微笑む。そして小刻みに体を振動させ始めた。
その途端、彼女の体内がウネウネと蠢き、肉壁が絡みつくように男のものを締めつけ始めた。
それと同時に膣奥が深く沈み込み、収まり切らなかった男根の根元が少女の中へと飲み込まれる。
「うおっ!! なんだ?」
体験したことのない感覚に、柴田から驚きの声が漏れる。
まるで蚯蚓の巣の中に、ものを突っ込んでいるような感じだ。
膣襞は螺旋を描くように喘動し、時おり反転。男の感じる部分を的確に刺激し続ける。
「は!! はひっ!! 何だこれっ!? 気持ちよすぎるっ!!」
それは今までの女では経験したことがない、強烈な快感だった。
瞬く間に柴田の巨大な魔羅は、少女の小さな体の中で爆発寸前にまで膨れ上がった。
だが少女の責めは卓越していた。発射直前に彼女の膣壁はギュッと先っちょを押さえ込み、男は射精したくても出すことが出来ない。
「えへへ・・・どうお兄さん? アキのエッチ、上手になったでしょ?」
アキは小刻みに体を揺すりながら、悪女のように微笑みながら柴田の瞳を見つめていた。
「アキね、お姉ちゃんとえっちの練習いーっぱいしたんだよ。今日お兄さんに愉しんでもらうために、ね」
「はぁ・・・はぁ・・・うあぁ・・・」
男は高まっていく体の昂ぶりを押さえることが出来ず、しかし絶頂に至ることも出来ずに悶絶。
呼吸は荒ぶり、歯はガクガクと震え、怒張した男根は達することも許されずにアキの中で脈打ち続ける。
「ふふふっ・・・。お兄さんの先っちょがアキの中で膨らんでいくの、分かるよ。
もう限界が近いんだよね? イきそうなんだよねっ? 出ちゃいそうなんだよねっ?
でも、まだだよっ。さっきの仕返しは終わってないんだからねっ」
そう、彼女は男に指だけでイかされたことをまだ根に持っているのだった。
男は拷問さながらな少女の責めに耐えられず、あっさりと彼女に屈した。
「うう・・・はぁぁっ!! こ、降参だっ!! アキちゃん、さっきは悪かった。謝るよ」
声は女のように裏返り、ブルブルと体を震わせながら無様に果てを懇願する。
「ええもうなの? こっちはちょっと動いただけなのに、お兄さん我慢足りなくない?」
呆れた顔で、アキは柴田を見下ろす。体奥で男を押さえつけたまま、彼女は波打つように体をくねらせた。
「ううやめてっ!! それ以上やられると俺おかしくなっちゃうっ!! 頼むよぉ」
情けない声で男は喚く男に、彼女は慈愛と軽蔑がごっちゃになった微笑を向けた。
「うふふ・・・いいよ。さっきのことは許してあげる。アキと一緒に・・・イこ・・・」
男に跨ったまま、アキは激しく肢体を奮わせた。膨張しきった男根に身体を突き上げられ、少女は喉から喜悦の叫びをあげる。
魔羅を締め付けていた肉壁の戒めは解かれ、二人の身体は高まる官能に熱く、ただ熱く果てを求め互いを貪りあう。
やがて男に限界が訪れた。
漏らすような呻き声とともに、男の先端から白い粘液が、アキの胎内に勢いよく放出された。
白い濁流は狭い子宮口を強引に押し通り、新たな命を育む器官の中を満たしていく。
「ああぅ・・・。お腹の中・・・温かい・・・。お兄さんの精液・・・アキの子宮にいっぱい届いてる・・・」
だが、まだ彼女の責めは終わっていなかった。
再び彼女の体内がウネウネと蠢き、射精をすませた柴田の男根を刺激し続ける。
彼の男根は萎えることも許されず、少女の胎内で再び怒張。そして再び果てへと達する。
だがそれでもアキの身体は止まらない。巣穴の蚯蚓は飽きることなく魔羅に絡みつき、その精を貪り続ける。
「あっ!! ああ!! アキちゃん待ってぇ!! アッ!!ーー」
男の懇願が、彼女に聞き入れられることはなかった。
彼は文字通り意識を失うまで、果てしないオーガズムを連続で体験し続けるのだった。
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6 Jul. 2048 16:30
「ふう、ようやく眠ったか」
幾度もの射精を迎え、完全に萎えた柴田の魔羅を引き抜きながらアキは呟いた。
その声は先程まで男との戯れに興じていた、あどけない少女の声ではない。
それはとてもその容姿に似合わぬ、壮年期の男の声へと変化していた。
いや、変化ではない。これは自分自身が持つ本来の声に戻っただけだ。
対象が眠った今、もはや女を演じる必要はない。
柴田は疲れきった、しかし満足そうでもある顔ですやすやと眠りについていた。
それを見たアキ、いや変幻自在のクライマー『ダンシング・ダガー』は、着込んだ少女の顔でにっこりと男に微笑みかける。
自分が持つ男殺しの秘儀、たっぷり愉しんでもらえたようだ。
いっぱいエッチしてくれて、ありがとねお兄さん。そして、おやすみなさい。
「あ腹ん中ヌルヌルして気持ち悪ぃ」
すると隣で寝そべっていたリサが、股から溢れる液体をちり紙で拭きながら起き上がった。
彼女はアキに向かって、
「師匠、俺ちょっとシャワー浴びてくるわ」
と言って裸のままシャワールームへ歩いていく。その声もリサの声ではなかった。
彼女の声もまた、相棒の『ブラック・ブレード』のものへと戻っていたのだ。
「くそ、まだ出てくる。あいつめいっぱい中出ししやがって・・・」
女の尻を師匠に向けたままBBがぼやく。それを聞いてDDはふと思い出した。
そういえば俺もさっきまで、柴田のナニを口で咥えていたんだったな。
おえ・・・、口の中が気持ち悪い。こっちも後でうがいしないといかんな。
だがその前に・・・。
DDはベッドから下り、テーブルの上に置かれていたバックの中から、ペンケース状の容器を取り出した。
その中にあるのは薬剤の入った皮下注射器だ。DDは柴田の傍らに屈み、それを彼の首筋に注射。
これのために、二人は柴田と関係を持っていた姉妹になりすまし、彼に近づいたのだ。
血中に投与された薬剤は、生理食塩水の中に混合した微小機械の集合体だ。
それらは体の免疫機構に排除されることなく男の脳内に浸透し、小脳内に埋め込まれたバイオチップに到達。
微小機械達は徐々にチップと癒着しながら自身達を集合させ、外部との通信システムを構築。
そして周囲のアクセスポイントをスキャンし、記憶されたアドレスへの接続を開始した。
三人がいるホテルから100m程離れた公園のベンチに、1人の美女が腰掛けていた。
サンディだ。彼女は考え込むような表情で目を閉じ、その体は彫像のようにピクリとも動かない。
だが次の瞬間、彼女の目が開いた。IPNDにアクセスしてきたシグナルを感知したからだ。
「来たッ!! 来た来た来た!!」
美女は小声で呟きながら、嬉しそうに唇の端を吊り上げ、笑う。
アクセスしてきたシグナルは、柴田の脳内ストレージと癒着したナノマシンからだった。
常時オフラインのストレージとの接続が完了したのだ。これで中の機密情報を盗み出すことができる。
ディディー(DD)達は上手くやってくれたみたいね。さて、ここから先は自分の仕事だ。
サンディは再び目を閉じると、ネットワークに全意識を没入。
彼女は電子の海を泳ぐ人魚となり、海底にある珊瑚のような情報の塊に取り付いた。
殻のように強固な防壁を指先でこじ開け、人魚は巧みに身を捩じらせながら塊の中へと侵入していく。
3時間という短い時間で、サンディはバイオチップのコードを解析し、記憶されていた全ての情報を複製。
自身の痕跡を消去して、幽霊のように電子の海から消え去った。
柴田のバイオチップに同化したナノマシンは、数時間の後に汗や尿に混じって彼の体から排出され、サンディが柴田のチップに侵入した証拠は、これでほぼ全て消滅した。
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6 Jul. 2048 23:55
金網に仕切られた更地の上に、五人の人影が佇んでいた。
彼らを照らす照明の類はなく、それぞれの容姿の判別は容易ではないが、シルエットから見るとその中の1人は女性のように見える。
その遥か遠くでは、都心にそびえたつ高層ビルに点る照明が、光の塔のようになって輝いているのが見えた。
ここは東京メガコムの再開発地区だ。
海に臨むこの地区は既に用地買収と区画整理、そして企業の招致を終え、ここに新たな工業地帯が建設されることになっている。
しかし、彼らがいる場所はまだ空き地だ。地質調査の結果この土地からは異常な値の汚染物質が検出され、まったく買い手が付かなかったからだ。
深夜この付近に人の姿は全く見当たらず、彼らの行う『取引』にはまさにうってつけの場所だ。
さて、視点を五人に戻そう。彼らは空き地の中で取引相手を待っていた。
彼らの衣装は、全員が判で押したかのように同じスーツ(背広)とサングラスだ。しかしスーツの生地はどこか硬質そうな質感が垣間見える。
見る人が見れば、スーツの裏地に防弾プレートが仕込まれているのがわかるだろう。
また、手には黒いアタッシェケースを携えている。それの側面の合わせ目には、直径一センチ程の不自然な穴が開いていた。
彼らの容姿は一見サラリーマンのように見えるが、彼らから漂ってくる血と銃弾の臭いは全く隠せていない。
だが、彼らにとってそんなことは問題ではなかった。
彼らが行うビジネスは投資や商談などの、穏やかなものではないからだ。
やがて、周囲を警戒する赤外線センサーに反応があった。
しばらくして彼らの元に、1人の人影がスタスタと足音を立てて近づいて来る。
「止まれ」
背広の1人が相手に気づき、アタッシェケースを両手で構えるように持ちながら影に命じた。
ケースの穴から伸びた赤い光点を突きつけられ、影はピタリと立ち止まった。
明かりを点け、影の姿を照らし出す。
人影の正体は十台半ば程の、銀色の髪のほっそりとした西洋人の少女だった。
いや、違う。背広のリーダーである男には分かっていた。
初めて会った時と容姿は全く変わらないが、彼女は見た目どおりの人間ではない。
あれは『ダンシング・ダガー』と呼ばれる顔なき犯罪職人。
やつは精巧に造られた化けの皮を被り、少女の姿に擬態しているのだ。
「依頼したものは持ってきたか?」
「うん、勿論だよ。おじさん」
リーダーの問いに少女は答えた。
彼女は懐の中からペンケースのような容器を取り出すと、それを開け中に入っているものを相手に見せつけた。
容器の中に収まっているのは大容量のデータを記録できる、小さな記憶キューブだ。
プラスティック製の外殻の中には流体状の記憶素子が詰まっており、膨大な量のデータを保存できる。
「おじさんの望みの『品物』は、この記憶キューブの中に入ってるよ」
「確認しよう、こちらに回してくれ」
「その前にお金を確認させて。ちゃんと持って来てるんでしょうね?」
口を尖らせながら、少女がジト目で睨む。
リーダーが仲間の女に顎をしゃくると、そいつが前に出て持っていたケースを開け、少女に向ける。
「報酬はそちらの要求通り用意したわ。円の旧紙幣で番号は続いていない。これでいいかしら?」
中身を見て少女はヒュウ、と口笛を吹いた。
「うん、問題ないよお姉さん。じゃあお金をそこに置いて下がって」
女が後ろに下がると、少女は容器を閉じ彼女に向かって勢い良く転がした。
乾いた音をたてて容器は女の足元で止まった。
「確認しろ」
リーダーが命じると女は屈んで容器を拾い上げ、蓋を開けてキューブを取り出す。
そして首筋から伸びたケーブルをキューブに繋ぎ、中のデータをスキャン。
中身は確かに彼らが欲していたものだった。キューブの中には松菱の高効率燃料電池の詳細なデータが入力されていた。
「リーダー、データを確認しました。中身は確かに我々が依頼した通りのものです」
「そうか」
リーダーから安堵の声が漏れる。
「ご苦労だった『ダンシング・ダガー』。データは確かにこちらの望むものだ」
「当然よ、私達は腕利きだもの。じゃあ報酬は戴いていくわね」
「ああ、好きにしてくれ」
上空から空を切る音が鳴り、大型犬ほどの大きさの浮遊型ドローンが闇の中から姿を現す。
それはアタッシェケースの真上でホバリング。機体下部から伸びたマニュピレーターがケースの取っ手を掴み、持ち上げる。
その時ホバーノズルの巻き上げた風が、少女のスカートを捲り上げた。
「きゃ・・・!!」
少女は可愛く悲鳴をあげながらスカートを押さえようとした。
しかし風の勢いは猛烈で持ち上がったスカートを押さえきることは出来ず、中の白い下着が見えてしまう。
その様子を見て、リーダーは苦笑した。
「そんなに用心しなくても、鞄に爆弾などは仕掛けていないよ」
「(どうだかな・・・?)」
リーダーの顔を見て、DDは猜疑に歪んだ声でつぶやいた。
「報酬は戴いたし、私はこれで失礼するね。・・・いい夜を」
少女は報酬を携えたドローンを伴い、踵を返して歩き始めた。
「・・・いい夜を」
彼女に応えながら、リーダーは周囲の部下達にハンドサインで合図。
それを受けて残りの3人の背広が、持っていたアタッシェケースを少女に向けて構える。
側面の穴から飛び出したレーザーサイトの細いビームが、彼女の背中にいくつかの赤い光点を作り出す。
「・・・お休み」
醜い笑いに顔を歪めたリーダーが次の合図を出した瞬間、減音された銃声が轟き、アタッシェケースに偽装されたHK MP5KコッファーSMGから放たれた無数の弾丸が、少女に向けて飛翔していった。
撃ちだされた数十発の9mm×19弾は、高速で回転しながら秒速350mの速さで、少女の背中を容赦なく穿つ。
胴に、顔に、背中に、おびただしい数の銃弾を浴び、少女の体は駒のようにクルクルと回った。
真赤に染まったその姿はまるで死の舞踏を踊る人形のようだ。だがその演舞はそう長くは続かなかった。
ものの5秒と経たぬうちに背広達の弾倉は空になり、穴だらけになった少女の体は、糸の切れた人形のようにグラリと傾く。
その時、突然少女の体から勢い良く炎が上がり、瞬く間に巨大な火柱となって彼女の身を包み込んだ。
アウタースキンに仕込まれた自決用ナノマシン『ムスペル』を起爆させたのだ。
それは高温でで燃焼し、使用者の肉体を跡形もなく焼き尽くす。
死して屍拾うものなし。敗北したクライマーはスーツやスキン諸共、自分自身という最大の証拠を消去するのだ。
「流石は名うてのクライマーだ。散り際も見事なものだな」
火柱となった少女の姿を、背広のリーダーはほくそ笑みながら見つめていた。
燃え上がる炎の熱気と、髪と肉の焼ける匂いがこちらに漂ってくる。
その脇では弾倉を交換した部下達が浮遊型ドローンを撃ち落し、報酬の入ったケースを確保する。
これでいい。これでこちらは何のリソースも消費せずに目的を果たした。支払ったのは銃弾だけだ。
それにしても、クライマーというのもちょろい連中だ。仲介屋を通さずに高い報酬を提示すれば、何も考えずホイホイと乗ってくる。
裏も取らずにこちらの言うことを真に受けて、一人で取引現場にノコノコやって来たのが運の尽きだ。
「フフフ・・・。報酬代わりの銃弾の雨は、気に入ってもらえたかな?」
裏社会でこのような背信は日常茶飯事だ。気を抜くといつでも無様な死が待っている。
やがて炎の中で力尽きた少女のシルエットは、揺らめきながらドサリと崩れ落ちた。
しかし、その様子はどこか不自然なものがあった。
少女の体は燃えながら厚みを失い、クシャクシャに捩れて萎縮していく。
それはまるで、人体の質量を感じさせない奇妙な姿だった。
燃えているのは骨も肉もない、ただの皮だけのように見える。
だがその違和感に、背広の者たちは最後まで気づくことはなかった。
そして次の瞬間。何の前触れもなく背広達に災難が巻き起こった。
背広の女が手にしていた、記憶キューブを入れた容器が大爆発したのだ。
女と、その右隣にいた男が爆発に巻き込まれ、男は頭から地面に叩きつけられた。
頭蓋骨が砕け、割れた頭からピンク色の組織片が飛び出す。即死だ。
そして他の者たちがそれに反応するよりも早く、背広達の間近に隠れていた『彼ら』が動き出した。
ホログラム迷彩の偽装布を捲り上げ、中から二人の人影が姿を現す。
一人は髪を三つ編みに纏めた、凛々しい顔つきの少女だった。
引き締まったその体は、黒色のロングスリーブレオタード状のボディスーツに覆われ、両脚には同じ色のサイハイブーツを着用。
両手には黒い刀身をもつ変幻自在のナノソードと、同じ色の鋭利なモノブレードを構えている。
そしてその隣には驚いたことに、今現在炎の中で焼かれているはずの銀髪の少女の姿があった。
彼女の纏う服装も、『三つ編み』に似たきわどいボディスーツに黒のロンググローブ、そしてサイハイブーツ。
間髪いれずに彼女の両手が翻り、両腕のホルダーに収まっていた投擲用ダガーを、取り出しざまに投げ放つ。
それが音なき戦いの合図となった。銀髪の少女=DDに放たれたダガーは、事態をまだ把握できていないリーダーの右腕と太ももに突き刺さった。
「ぐわっ!!」
突然の痛みに彼は悲鳴を漏らした。しかし彼の災難はまだ始まったばかり。
特殊な形状記憶合金で作られたこのダガーは、特定の電荷を与えることによって形状を変化させる。
人体に突き刺さった刀身は、傷口をえぐるような形状に瞬時に膨張。
鮮血が飛び散り、凄まじい悲鳴と共に、引きちぎられた右腕が武器諸共ゴロリと地面に転がった。
そしてそれよりも少し早く、『三つ編み』が人知を超えた速度で背広の一人に突進。
思考制御された左手のナノソードの刀身が可塑化して形を変え、刀身は鞭のような形状に変化していく。
振り上げられた鞭は数メートル先の男の首に巻きつき、超高速で振動。
悲鳴をあげる間もなく、切断された頭部が血しぶきを上げて宙を舞った。
しかし『三つ編み』の前進はまだ止まらない。彼女は最後の一人に向かって疾走。
最後の生き残りは弾の切れたMP5Kコッファーを捨て、バックアップのUSP拳銃を『三つ編み』に向かって抜き撃ち。
射撃は正確。しかし撃ち出された弾丸が、相手の体にめり込むことはなかった。
『三つ編み』の持つナノソードは瞬時に盾のような形状に変化し、撃ち出された弾丸を完全に防いでいたからだ。
刹那、神速で踏み込んだ『三つ編み』と男が交差。二人の動きは時間が止まったかのように凍りつく。
しかし数秒後、男の胴体に×字状の赤い線が引かれ、それに沿って男の体は斜めにスライド。直後、男は四分割されてバラバラと地面に崩れ落ちた。
四名殺害、一名無力化。戦闘終了。いや、まだだ!!
『三つ編み』=BBは本能的に危険を察知してその場から跳躍した。
直後、彼女がいた空間に高温の粒子のビームが襲い掛かる。
それはBBの真後ろにいたリーダーを直撃し、高温にさらされた彼の肉体は瞬時に焼き尽くされた。
焼け焦げた肉の塊がコンクリートの上にぶつかってばらばらに砕け、地面の上でブスブスと燻る。
こうして彼の災難はその生命と共に終わりを迎えた。
ビームの出所を見ると、先程爆発のあった場所から立ち上がった人影があった。
それは女の体型をしていた。いや、だが女は爆発の間近にいたはずだ。いくらなんでも助かるはずがない。
しかしその疑問は一気に氷解した。
メキメキという木の軋むような音と共に、女のシルエットがおぞましく変化し始めたのだ。
バリバリという音と共に皮膚が張り裂け、胴体も手足も内側から膨張し、大木の幹のように逞しく盛り上がっていく。
先程まで女の姿をしていたそれは、身の丈2メートルを超える体躯をもつ、人型をした巨大な鋼の骸骨へと成り果てていた。
それの正体は女でも、ましてや人間ですらなかった。
『Murder Object』
それは技術革新によって生み出された人造人間。肉と機械が交じり合った鋼の怪物だ。
目の前にいるのは戦闘型MO、一体で一個小隊の歩兵に匹敵する戦闘力をもつとされている。
それも最近ロールアウトしたばかりミミクリータイプ。人間への擬態能力を付与された最新型だ。
鋼の骸骨のあちこちに、僅かに残った皮の残骸が未練がましくへばりつき、擬態していた女の面影を僅かながら覗える。
「グアアアァァァァ!!」
骸骨は怒りを露にするかのように、大きく口を開けて咆哮した。
機体の再構成が終了し、張り付いていた皮膚の残り滓が瞬く間に溶解、残っていた女の面影は完全に剥がれ落ちた。
崩れた顔と胸の一部が、汚らしい音をたてて地面に崩れ落ち、瞬く間に消散していく。
髑髏の紅い瞳が二人を睨んだ。人工物でありながらも、殺意を孕んだその双眸が紅く輝く。
あいつは怒っているのだ。『作られた人間』であるMOは限定ながらも自我を持ち、自分で思考し、行動するのだ。
直後、そいつは動いた。彼女(?)はBBに向けて大きくあぎとを開く。その奥にある砲口が鈍く輝くのが見えた。
対人ビームだ。BBの体が素早く反応し、地面を蹴って跳びあがる。
刹那、死を運ぶ高温の粒子が扇状に広がり、彼女のいた地面が真っ赤になって溶解する。とんでもない火力だ。
今二人が着用しているスクイーズスーツは、擬態能力より運動力と防御力を重視した戦闘モデルだ。
人工筋繊維の上をコロイド状の保護層が覆い、外部からの衝撃、高熱を感知した際瞬時に硬化して、使用者の肉体を守るようになっている。
しかし防護力の高い反面、保護層によってスーツの表情筋などの動きが皮膚に伝わりにくく、細かな変装には向かない作りになっている。もちろん性交機能もない。
だがこのスーツの防御力を持ってしても、あの熱量をまともに浴びると大火傷は免れないだろう。
しかし相手のスペックは把握済みだ。パワーは同等、装甲はあちらが上だ。
しまったな。心の底で『三つ編み』は舌打ち。
カンプピストルを持ってきておくんだった。あれの成型炸薬弾や粘着榴弾ならやつの装甲を楽に潰せるんだが・・・。
ま、無いもののことを考えても仕方ない。
爆音が轟き、怪物の胸元で何かが爆ぜる。DDの投げつけた炸薬ダーツだ。
怪物の体が一瞬ぐらつく。しかし爆発が生み出したメタルジェットは、怪物の装甲に小さな孔を穿つにとどまった。
やっぱり、自分が何とかするしかなさそうだ。
もちろんやりようはある。自分の持つ剣なら必要充分な破壊力があるし、速度も自分の方が遥かに速い。。
それにエネルギー火器を使う瞬間、やつらは閃光で人工眼球が損傷するのを防ぐために視覚をシールドする。
この時はこちらが見えないはずだ。それを生かし接近戦で仕留める。
モノブレードを構え、BBは骸骨に向かって一気に間合いを詰めた。
だがBBの予想よりも早くシールドが解かれ、紅い眼光が彼女を見据える。
MOの胸の装甲板が展開し、内蔵された反射板がこちらを向く。
熱線砲だ。相手もこちらのことを分かっている。
大きな電力を使うエネルギー火器を連発してでも、接近される前に仕留めるつもりなのだろう。
両者の間合いは、まだ遠かった。
・・・ならば!!
BBは前進をやめずに盾形状のナノソードを前に掲げる。直後、猛烈な熱量が彼女に襲い掛かった。
それは凄まじい高温だった、BBの右半身と顔半分のスキンが、衣装と共に瞬時に蒸発。
溶けた皮膚の中からあらわれた、スクイーズスーツの防護層が沸騰し湯気をあげる。
だが、彼の持つ盾と鎧は立派に義務を果たした。自身の大半を蒸発させながら、BBに浴びせられた熱線を見事に食い止めたのだ。
この攻撃でMOには大きな隙が出来た。視覚のシールドと、光学兵器の連発で低下した電圧の安定措置。これは致命的な隙となった。
BBはこれを待っていた。
モノブレードを構え、ヨロヨロと動き出したMOの懐に踏み込み、人工眼球に神速の突きを食らわす。
単分子構造の刀身は装甲の薄い人工眼球を簡単に貫き、MOの電子頭脳へと到達、そして破壊。
MOの機体はガシャリと地面に崩れた落ちた。
そして二、三度痙攣した後、人工眼球から紅い光が失われ、鋼の怪物はその機能を完全に喪失した。
「腕を上げたな。こいつを使う必要はなかったか」
虎の子のレーザーダガーを構えたまま、DDは残念そうな顔で弟子に呟いた。
「あれくらいなら俺一人でも充分だって。駄目だったとしてもあと二手はやりようがあったし」
半分に溶けた少女の顔で、弟子が答える。虚勢ではなく自信に満ちた声だ。
「師匠のそれが三手目だ。でもこいつらのおかげで一発でいけたよ。俺は火傷一つない」
取っ手だけが残ったナノソードと、焼け焦げたスクイーズスーツの表面を指差しBBは笑った。
彼女は四分割された男の死体に近づき、そいつの腕が掴んだままの、報酬の入ったケースを拾い上げる。
中の現金は無事だった。壊されたドローンの代金は損害だが、今回の報酬はそれを補って余りある額だ。
爆破した記憶キューブ内のデータは、既にバックアップを取ってある。
本来ならば報酬を受け取った後バックアップは消去するつもりだったが、相手が裏切った以上そんな仁義を守る必要はない。さっさと売り払って金にしてしまおう。
DDは無残な屍をさらしている、背広の者達を見下ろした。
「クソ野郎共が・・・」
怒りを露にしてBBが呟く。彼の気持ちはよく分かる。
彼の人生は騙され、裏切られることの連続だったからだ。そして今夜も。
その後。二人のクライマーは死体を一箇所に集め、処理用のナノマシンを放り込んだ。
ジュウウゥゥ・・・。
ベーコンの焼けるような音と共に背広達の死体が分解され、泥のように溶解していった。
「全く、馬鹿なことをする奴等だ」
哀れむようにDDは呟いた。
仲介人を通さずに持ってきた依頼。高すぎる報酬。品物と報酬の受け渡し場所。今回の依頼人は何もかもが怪しかった。
だから彼女は、受け渡しの際保険をかけておいたのだ。
受け渡し場所に最初に現れた少女は、彼女によって遠隔操作された操り人形だった。
変装用のアウタースキンの一部は単独で自立、運動させることが出来、手軽なダミーとして運用することが出来るのである。
無論、囮には各種センサーへの対策をばっちり済ませてある。ちゃちなセンサーではあれが囮であることも分からない。
囮人形に爆薬を仕掛けた品物を持たせて現場に立ち合わせ、自分とBBは近くに隠れて相手が不信を働いた場合しかるべき対応をとる算段だった。
そして相手は彼女の予想通りの行動をとった。どこの回し者かは知らないが、全くもって愚かなことだ。
経費の節約のためか? それとも金をまるまる自分達の懐に納めるためか?
しかし安易な裏切りの代償は、文字通り彼らの生命で支払うこととなった。
死体の処理を終え、MOの残骸を回収した(転売予定です)DD達は、サンディの回してきた無人タクシーに乗り込んで夜の闇へと消えていった。
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7 Jul. 2048 01:15
そんなこんなで紆余曲折はあったものの、DD一味は大枚を手にして無事に隠れ家に戻ってきた。
帰ってくるなりBBは、すぐさまバスルームの扉の中に駆け込んだ。
鏡を覗き込むと、中に映った自分の姿は案の定ひどいものだった。
スキンの半分は既に溶け落ち、残った皮膚も重度の火傷やケロイド班が出来上がっている。
また着ていたコスチュームも、一部が溶解してスキンと固着していた。
全く、手ひどくやられたものだ。これじゃあまるでさっきのMOと同じだ。
筋組織がむき出しになった、スクイーズスーツの顔半分が自虐めいた笑みを浮かべた。
それにつられて溶け残った少女の顔も、引きつったようなねじくれた笑顔を作る。
ひでえ顔。こんな顔とはさっさとおさらばするとしよう。
BBはIPNDを呼び出すと、スキンモジュール制御のプログラムを開き『Resolve Outer』の項目を実行した。
するとアウターに充填されていた自壊用ナノマシンが活動を開始し、彼女の全身の皮膚という皮膚が、まるで菌類のように糸を引きながら崩れ始めた。
頭部にしがみつこうとする少女の顔面は、笑顔のまま醜く歪み頭から滑り落ちた。
胸から張り出した柔らかな果実も、液状に溶解しながら床面へ落下。
健康そうな太ももが、無残に変色しながらドロドロに分解されて腐り落ちる。
泥のように溶解したスキンをシャワーで洗い流し、今度は熱で損傷したスクイーズスーツの補正機能を解除。
小柄な少女のシルエットがみるみるうちに膨張し、定着が解けたスクイーズスーツは厚手のラバーのような質感に変化。
そいつを脱ぎ捨て、BBは久しぶりに本来の自分の姿に戻った。
しばしの間、懐かしい顔をじっと見つめる。しかし彼が素顔でいる時間はそう長くはなかった。
17時間後。BBは隠れ家の地下室へ一人でやって来た。
彼はすぐさま服を脱ぎ捨ててロッカーを開け、取り出した新品のスクイーズスーツを着込んでいった。
そしてIPNDに命じ、Body Squeezeのプログラムを実行。
乾いた音をたてて逞しい彼の肉体は、再び小柄でほっそりとした体型に圧縮された。
補正を受け小さくなった黒い手が、ロッカーのポケットに置いてあった、化粧品のスプレー缶のような容器を手に取る。
噴射口から泡状の組織が噴き出し、スクイーズスーツの表面に降りかかった。
それは瞬く間にスーツの筋組織を覆い尽くして固化、定着され、新たな偽りの皮膚を形成していったのだった。
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7 Jul. 2048 18:30
仕事が終わり、『男』二人が宴会の準備に勤しむ中、サンディは隠し撮りしていた『女の子』達の激しい情事と、依頼人との真夜中の死闘をIPND内で編集していた。
彼らのチームは、自身や雇い主に支障のない範囲で活動内容をPVとしてネット上に発信し、それによっても収入を得ている珍しいクライマーなのだ。
もちろん特定を避けるために、動画の中の人物の顔と声は別人のものに書き換え、背景にも手を加える。
天才ハッカーの彼女でも、この作業は中々のハードワークだ。
自身が持つ自動編集プログラムも総動員して、本来なら数人がかりで行う程の情報量を、一人で処理し続ける。
しかし苦痛はなかった。編集作業はやりがいがあるし、PVによる収入は彼女の取り分が一番多いからだ。
今回はいい絵が撮れた。下手なAV顔負けのファックシーンはリスクなしでいい小遣い稼ぎが出来る。
真夜中の死闘もゴアな表現を修正すれば、全年齢向けの無料PVとして発信出来るだろう。
美少女二人が、武装した敵やMOをバッタバッタとなぎ倒す。
無理を言って、きわどいコスチュームを着てもらったBBの戦いは最高にかっこよかった。ちょっとばかり服は破れすぎてしまったが。
こちらの動画も人気が出るだろう。視聴者の反響を見るのが楽しみだ。
それにしても昨日の二人、『リサ』と『アキ』は可愛かったなぁ。
あたしもあの二人と、ベッドの中でニャンニャンしたかったのだけど・・・。。
「おーいサンディ!! 宴会の準備出来たぞー!!」
聞き覚えのない女の子の大声で、サンディはふと我に返った。意識を肉体に戻し、自分の体を持ち上げる。
ああ体が重い。現実世界というやつはどうにも不便でいけない。いつまでも電子の世界にいられたらいいのだけど。
時計を見ると、既に時間は夕刻を過ぎていた。窓の外の空はまだ明るいが、もう夜は近い。
振り向くと、バニーガールの衣装を纏った銀色の髪の美少女が、赤い顔をして部屋の入口に立っていた。
「早くしないと、あんたの取り分なくなるぞ」
さっきと同じ女の子の声。でも話し方で彼女が誰なのかはすぐに分かる。
「ビ・ビー(BB)。どうしたの? その格好」
サンディは少女=BBに訪ねた。自分の知っているBBは、仕事以外で異性の姿をとることはない筈だ。
しかし、『彼』は本当に良く分からない子だ。
変装術でどんな人物にでも完璧になりすまし、女の姿で男に交わることすら出来るというのに、自分を前にした途端、彼は素の状態に戻ってしまう。
「し、師匠に無理やり『着替え』させられたんだ。仲間にもっと気を使ってやれってな。
サンディは、確かこういうのが好きなんだろ?」
BBは恥ずかしさに顔を赤らめたまま、サンディから目を逸らしながら答えた。
彼女が嘘をついているのは、サンディにはすぐに分かった。
まったくこの子は素直じゃない。でも、今日は許してあげよう。
サンディは可愛い女の子が好きだ。格好いい男の子も好きだ。
つまり両方の姿になれるこの子のことは・・・。
「うふふ・・・。大好きだよっ!!」
満面の笑顔を浮かべて、サンディは少女に飛びついた。
「うわっ!!」
BBは慌てて避けようとするが、履き慣れないヒールのために足がもつれ、無様にも床に転倒。
その上にサンディの体がのしかかる。張りのいいバストの谷間に少女の顔が埋もれる。
「むぎゅう!!」
「ああ!! ビ・ビー可愛いよビ・ビー」
少女の露出した肌を頬ずりしながら、サンディは彼女をギュッと抱きしめた。
ペロリ。少女の頬に舌を這わせながら、美女は丁寧に相手の衣装を肌蹴ていく。
少女の乳房の桜色が、美女の目前でぷるんと揺れる。
「ちょwwサンディ!! 離れてくれ!!」
羞恥で顔を更に赤くしてBBは懇願。だがサンディの暴走は止まらない。
力任せに振りほどくことも出来るのだが、それをするのはどうにもはばかられる。
「だーめよカワイコちゃん。あなたがあたしの『ご馳走』なんでしょ?」
――本当は、嬉しいクセに――
抗議しようとする少女の口を、美女の紅い唇が塞ぐ。
それと同時に白く細い彼女の指先が、少女の禁断の部位に伸びていく。
BBのスクイーズスーツは、既にサンディがクラッキング済みだ。
感覚ソフトを書き換え、今のBBは『女』として感じることが出来る。
「うふふ・・・今夜は寝かさないわよ。ビ・ビー」
二人の女の影が、そっと重なった。
直後、花園を侵す水音と少女の淡い鳴き声が、部屋の空気を激しく波打たせていった。
「遅いなぁ二人とも・・・。腹減った・・・」
居間では腹をすかせたDDが、出来上がった料理の側で、決してやって来ない二人の仲間をひたすら待ち続けるのだった。
(完)
特に戦闘用スーツ+コスチュームや、完全解除したスーツがラバー質感になる所がもう。
これからの作品も、楽しみにしております。
始めまして。コメントありがとうございます。
話のネタ元思いっきりバレましたね。
魔法も異種族もありませんが、思いっきりあの世界をパクってます。
■GAT・すとらいく・黒様
感想ありがとうございます。
>特に戦闘用スーツ+コスチュームや、完全解除したスーツがラバー質感になる所がもう。
レオタード風のコスチュームって好きなんですよ。
「皮剥げ」のシチュエーション共々、思いっきり趣味に走りました。
■7様
貼ってから気づきました。調整はこんな感じでどうでしょうか?
非常に面白く、『BB』の気の毒っぷりが笑えました。
コメントありがとうございます。
BBの苦悩はこれからも続くことになるでしょう。