-ヒューゴ(元兵庫)のとある洞窟-
「よいかジェラール、われわれはインペリアルクロスという陣形で戦う。」
「誰がジェラールだ、俺の名はフォスだ。それにインペリアルクロスなんて言葉自体初めて聞いたぞ」
「俺が中心に立ち、防御力の低いお前が先頭、両サイドをシュウさんとリクさんが固める。メリルさんは俺の後ろに立つ。お前のポジションが一番危険だ。心して戦え。」
「いやいやいやいや、ちょっと待てタクト、俺メイジ・ハンターだぞ?後衛の俺が前衛かよ!」
「ここのモンスターには付近の住民も苦しめられている。モンスターを殲滅し、報酬をがっぽりもらうのだ。」
「うぉい話を進めるな!それに報酬目当てって公言しちゃってるよ!もっとそこはカッコつけるところだろ!」
「皆も頼むぞ!」
「「「はい!」」」
「ちょちょちょちょっと待って!何その団結力!今日会ったばかりだよね俺ら!?何か俺だけ浮いてるんですけど!」
ハッハッハ全く面白いなフォスをからかうのは。そろそろ可哀想になってきたしこのくらいにしておくか。
「冗談だフォス。メリルさん、このヘタレもやしと場所交代してやってください。俺は回復魔法と補助魔法で援護するから中心に立ちます。
俺に攻撃が来ても気にしないで戦ってください。残る二人はそのままの陣形で、それじゃぁ皆なるべく死なないよう頑張っていきましょう。」
俺たちは今日、ヒューゴにある『とある洞窟』に来ていた。ギルドの生活費に充てるため金を稼ぎに、同じギルドメンバーであり、「大異変」前からの友人のフォスと一緒に町までやってきて依頼を受けることにしたのだ。
ちょうどその時一番報酬のあったこの依頼を請けた。流石に二人だけだと少し危険な依頼らしいので近くにいた3人組に声をかけ、この5人で出かけることにしたのだ。
俺のジョブはビショップ・グラップラー。一応最上級職についているからそれなりに戦闘には自信がある。Lvも255目前だし修羅場もそれなりにくぐってきた。
フォスは残念ながら・・・Lv100をようやく超えた辺りの腕前なので、今回はフォスのLv上げも兼ねてやっている。
俺と違ってフォスはのんびり気ままにやってたらしく、俺と同じく原作ゲームをやっていたにも関わらず、低Lvなんだとか。元々ゲームでも弱かったからね。
他の3人は大体Lv150前後とのことらしい。まぁ何もせずにこのまま行くと少し苦戦するかもしれないが
「パワーアップ…マインドアップ…スピードアップ…プロテクトアップ…」
次々と皆に補助魔法をかけていく。これらのアーツをそろえるために相当経験値を費やしたもんだ。頑張ったぞ俺。
とにかくここのモンスター達はこの5人だけにとっては少し厳しい相手だが俺が補助魔法をかけていればかなり楽になるはずだ。
・・・少し進んだ辺りから何かイヤーな気配を感じる。おそらく結構な数のモンスターがはびこっているだろう。これは俺の勘+過去の経験からの推測だ。
「皆、もう少し進んだら戦闘になるかもしれない。心づもりしておいてください」
「えーと…どのぐらいいるんでしょう…ここには」
「うーん……弱いのを含めたら100体は軽くいるかもな」
「げ、一人頭20体ッスかーきついなー」
「うへー、かなり大変なクエストになりそうだ…」
…入口から狭い通路を通ってきたが奥の方は大広間のような地形になっているようだ。モンスターも俺たちの存在に気付いているらしくの唸り声も聞こえる。
「ライトボール」
てのひらで巨大な光の玉を作りだし、大広間の方に向かって放つ。すると、奥の部屋からは光が漏れだす。
本来はこの術敵の目くらましに使うものだが応用して部屋に擬似太陽のような明かりを灯すこともできる。
通路ではモンスターには出会わなかったがこの暗い洞窟で目がきかないのは後ろから襲われたり不意打ちをくらったりかなーり危険だ。
洞窟の壁に生えるヒカリゴケの一種のようなものからうっすら光が出ているため真っ暗という訳ではないが、獣じゃあるまいし俺達人間がそんな物を頼るのは少々心細い。
「よし、皆!これからヒューゴの洞窟内部の殲滅活動を開始する!死なない程度に頑張ろう!」
「「「「おおッ!」」」」
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エクス・アドベンチャー(アクリル様原作)
ファミリア
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「サンライトアロー!」
フォスが手に持つ杖で小さな光の矢を大量に作り出し、最後に残っていた親玉(巨大な黒い牛の姿をしたモンスター)に向けて発射した。
たしかにフォスはなんとかLvが100を超える程度だが、それなりに強い魔法も使える。…といってもうちのギルドにはフォスより年下でLvも魔法も上の子がいるんだがな
「グ、グオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!」
放たれた矢は奴の目、額、鼻の急所に次々とささり、シュウさん達に攻撃も受けて弱っていた奴は耐えきれず絶命、ドロップアイテムと共に煙と化した。
「よっしゃ!皆お疲れー」
「お疲れ様。いやータクトの補助魔法のおかげで魔法もガンガン撃てたし助かったよ。」
「お疲れさまでしたー皆」
「補助魔法ありがとうッス、おかげで助かりました!」
「ですよね。高Lvの方が手伝ってくださってホントに助かりました。」
「いやいや、戦ったのは皆さんです。俺は適当に援護しただけで…」
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!きたぞ きたぞ!」
「うっせぇ!」
空気の読めないフォスが大声を上げ、掲げているのは5角形の石板エネミーチェンジスクロール2。通称エネチェン2と呼ばれるものだ。
これを祭壇で使うことでモンスターの力を手に入れることができる。詳しく話すと長くなるから本篇を参照にしてくれ。
「なんだフォス、エネチェン欲しかったのか?」
「いんや!全然!ただこいつが落とすのは珍しいから興奮してみただけだ!」
「うわーエネチェン2じゃないッスか!おめでとうございます」
さっき倒したボスは「シャドースレイブ・カウ」と言ってRPG的に言うと終盤の雑魚敵といったポジションで、ボスとしてはかなり弱いがレアドロップアイテムとしてエネチェン2と落とす。
まぁ俺にとっちゃエネチェン2なんて3に比べたらそこまで珍しくないがな、こいつが落とすのは確かに余りなかったが
「私たちは別に使いませんので…お二人で使ってください。」
「ありがとうございます。」
さってと、帰る前に皆でお宝探しだ。さっき倒したモンスター達が落としたアイテムを拾っていき、いらないと思うものも売ったりためにめんどくさいが集めておく。
別に生活には困ってないが俺は元来ケチ臭いんだ。友人の錬金術師に素材として渡す手もあるからな。
「それにしても2かー、皆のお土産にでもするかな。」
「使わないのか?フォス」
「3ならソッコー使うが…愛しのリアーネ姫には3でしかなれないからな」
ああそうか、こいつはリアーネ姫の大ファンだったな…トーキョンにリアーネ姫のエクスが現れたって噂があった時もわざわざ高価な登録済みワープストーンを買ってトーキョンまで行って3週間も滞在しっぱなしだった。
結局俺と、同じく「大異変」前からの友人でギルドメンバーのクイチが連れ戻しに派遣されて…思い出したら腹立ってきた。しかも結局リアーネには会えなかったというからさらにムカつく。
「よし、お宝探しも終わったし報酬もらいに町に戻りますか。」
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「さようならー!」
「また何処かで会いましょうッスー!」
町に戻った時にはもう夕方になっていた。俺とフォスはあらかじめ登録していたワープストーンを使用し、ヒューゴの首都:コーベ(旧神戸)に帰ることにした。
「じゃぁねー3人ともー!」
「またよろしくね!」
俺がワープストーンを掲げると俺とフォスの体が光のベールに包まれ、空高く舞い上がった…
農作業をする麦わら帽子をかぶった農耕者たち、視界一面にわたって広がる大草原、そこを群れで走り移動する「大異変」前では見たことのない動物の群れ、アルプスの山のような雪の残る険しい山…これが今の日本の情景である。
あの日から色々あった。話を始める前にちょっと説明を挟もう。
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20XX年…世界は核の炎に包まれ…ることは永遠に無くなった。核の魔法が開発されるならまた別の話だが
星の管理者とか神とかもしもボックスとか何か色々と言われているが、とにかく「それ」に世界は大きく書きかえられた。ここでは「大異変」と呼ぶことにする
「大異変」の時に世界は……世界が今どうなってるのかよく知られてないが少なくとも日本そのものはいわゆるファンタジー世界と呼ぶにふさわしいように「修正」された。
人間たちが長年かけて培ってきた科学技術、文明は一瞬にして消え去り、剣と魔法の存在するまるでゲームのような世界に、人類は放り出された。いや、実際ゲームの世界なんだがな。
元々俺と友人たちがやっていたオンラインゲームと旧世界をベースにした世界、それが俺たち人類が暮らす全く新しい世界だった。
剣と魔法。見たこともない生き物達。
手つかずの大自然や秘境。
見たこともないマジックアイテム等を含む財宝。
それら財宝の眠るダンジョン、遺跡。
そして人々を襲う野獣、ドラゴン、妖怪といったモンスター達
そのモンスター達の数、強さは半端じゃなく、人間たちはなすすべなくそれらモンスターに命を刈られていった
戦闘機とか戦車とかいった文明の武器も「大異変」の時に消滅していたからな……丸腰でサバンナの肉食獣級、もしくはそれ以上の強さをもつ連中相手に勝とうとか逃げきろうというのは無理な話だがな。
なんとか生き延びた人々はモンスターに対抗するため、戦う術を見出した。
戦う力を得たものは「冒険者」と呼ばれ、ある者は親しい人や故郷を守るため、ある人は純粋に力を求めるため、ある人はこの世界生き残るため、今日も戦う。
俺もフォスもそんな冒険者の一人だ。フォスはどうだか知らないが、少なくとも俺は純粋に力を求めて冒険者になった。
ゲームでしか見たことのないモンスター、転生の祭壇にて戦う力を得てそれらに立ち向かう「冒険者」、何よりまだ誰も見たことのないモノがあふれる世界。
ハッキリ言って俺はそういうファンタジー世界にあこがれ続けていた。「高校生にもなって中二病乙ww」とか言うやつもいるかもしれないが、とにかく当時の俺は、そういう物が現実に現れた時、天にも昇る気持ちでいた。
この世界になって俺は真っ先に「冒険者」になり、日々戦いに明け暮れた。
ゲームで見たダンジョン等は見られなくなったが、代わりに旧日本にあった建造物、観光名所にもなった場所といったところが、今のダンジョンのベースとなった。
たとえばあの有名な北海道の札幌の大通りが「サン・ポーロ遺跡群」になっていたり、瀬戸内海といったところも「ディープ・ブルー」という、セイレーン、マーマンといった水棲モンスターの巣になったらしい。
変わったのはダンジョンだけではない。街も村も旧日本をベースに新しく作り出された。俺達が今向かっている先も元々神戸という地域であったが、今では巨大な一つの街をコーベと呼ぶようになった。
都道府県の名前も…っとこれ以上話が脱線するとややこしくなるから、出来れば原作エクス・アドベンチャーを参考にしてほしい。
どこから話がずれたのか…おっとそうだ。
原作ゲームをやりこんでいた俺は、元々ゲームにあった狩場といった、Lv上げ等に便利な場所は使えなくなったものの、
モンスターの特性、効率のいい戦闘方法やスキル・アーツを熟知していたため、他の人よりも早くどんどんと強くなっていった。
俺以外の原作ゲームのプレイヤーと何人か知り合い、そんな人達と一緒に凶悪なダンジョンに立ち向かったり、ワープストーンで日本中を駆け巡ったりしているうちに俺はLvMAXに近づいていた。
あの頃の俺はどうかしてたな…一歩間違えば全滅なんて経験も1度や2度じゃなかったのに俺はとりつかれたようにひたすら無茶な戦いを繰り返してきた。
大体そこらへんのモンスターも軽くあしらえる実力になった俺はふと昔の知り合いのことを思い出した。
俺の親父や母さんはどうなったんだろう。生意気だけど実は臆病な性格の弟は?中学、高校で一緒に遊んだ友人たちは?
…はっきり言って俺は怖かった。ある意味グレートチキンな俺は今まで無意識に考えようとはしなかった。考えないように命を投げ捨てるような戦場に行き、そんなことを考える余裕をなくしていたのかもしれない。
故郷の兵庫県(今はヒューゴと呼ぶらしい)に帰って俺の知っている人が一人もいなかったら。もしあの時コミケに出かけずにいたならば。
一度考え出したら止まらない。死んだ、依然行方不明のままだというならその現実を受け止めよう。何も知ろうとせず、ただ現実から逃げるのはカッコ悪いしな。何でそんな勇気もなかったんだろうか俺は。
コーベ行きのワープストーンを買い、俺は数年ぶりに故郷の兵庫県に帰ってきた
商業都市となったコーベはトーキョンほどではないが多くの人が賑わう大都市になっていた。
流石に1日や2日で情報がつかめるとは思ってなかったが…とりあえず俺の家族、友人探しの生活がコーベで始まった。
一週間ほどたったが手掛かりが全く掴めずイライラしていた頃、酒場で耳を疑う情報を得た。
「ファミリアというギルドがあってだな…メンバーのほとんどが低年齢低Lvのギルドなんだがトーヤというマスターがえらい強さで…」
勢いよく話に割って入り、マスターに詳しい情報を聞き出し、コーベにあったその「ファミリア」の拠点に向かった。
ギルドには全く興味がなかった故に完全にノーマークだったが、運よく情報が掴めたのはマスターのおかげだろう。
あの時興奮していたとはいえマスターには悪いことをしたなぁ…マスター完璧涙目だったし。
「ファミリア」は俺達が原作ゲームで入っていたギルドの名前だ。ギルドのマスターの名前もトーヤ。これはひょっとしたら…
なんでも「ファミリア」が有名なのは、何でもマスターはLv255のMAXかつ、装備も戦い方もそこらへんとは段違い。
個人的に王宮からの依頼も来ることがあり、あの「クロスD」等のトップクラスの実力者達に混じってクエストをしたこともあるとのことだ。
「蒼英候」や「博楼組」といった有名な強豪ギルドからの誘いも来たということだ。
なのに全部断って、本来なら弱小と呼ばれるようなギルドをやっている酔狂だからとのことらしい。
ちなみに「ファミリア」という名前はファミリー……家族のような仲のよさと団結力を……とかいうキザというかロマンチックな理由な訳ではないらしい。
ギルマスはでかいファミリーパックのアイスを買って馬鹿食いするのが夏の楽しみだったらしく、ギルドの名前を決める時もパソコンの前で食っていたらしい。そのアイスの名前が「ファミリア」だそうな。
(「もしかしたらギルド名は「チーム・ガ○ガリ君」だったり「ハーゲン○ッツ愛好会」になっていたかもな、ははは!」)
そうチャットで言っていた。……聞かなかったことにしたはずだったが…忘れよう
その後「大異変」ぶりにフォスやクイチといった昔の友人、ネット上でしか会ったことがないマスターのトーヤと再会したという訳だ。回想終わりっと。
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《商業都市・コーベ》
「ファミリア」の拠点はコーベのいわゆる商業区画よりも離れたところにあり、大都市という割には人通りはそれほど多くない。
中庭のあるヨーロッパ風のお屋敷を想像してもらえるとそれほど差異はないだろう。弱小ギルドなのにかなーり大きい部類に入る拠点だ。
普通だったらもっと小規模の家が拠点だったり、拠点を持たずにぶらりぶらりと渡り歩くギルドがほとんどだ。
このでかい拠点を持てるのもほとんどトーヤのおかげだといっても過言ではない。
「たっだいまー!帰ったぞー!」
ああ、それにしても拠点に帰るたびに『家に帰ってきた』という感覚になれる。
あの「大異変」以来味わえなかった感覚だ。何よりホッとする。
「あ、お帰りータクト、あとついでにフォス」
「ついで!?」
「…おかえり」
大広間では革製の軽鎧を着た16才位の少女が、本を読んでいる長い紫色の髪の小学生くらいの少女の髪を梳かして遊んでいる。
本を読んでいる少女は特に気にすることなく本に集中……ってだれだそこの紫色は
「あ、あれ?ひょっとして香里?髪の毛染めた?」
「染めたのは恵理、私は染められただけよ」
「光一に頼んでいた『新作品』が今日出来上がったんや。それで早速香里に使ってみてん♪」
「おいおい、香里ちゃんはお前のおもちゃか何かかい?」
「黙れ小僧」
「ねぇ俺最近皆に嫌われてない?」
さて、フォスは放っておいてここで人物紹介といこうか。
ただいま絶賛読書中の少女は香里。小学校低学年ぐらいに見えるくらい小さいが、小学生だったのは「大異変」当時の話で、今はれっきとした中学生。
なんとこう見えてLv200を超える実力者。ジョブはウィッチ・ビショップの魔法使いで、強力な攻撃魔法をガンガン使えるこのギルド屈指の実力者だ。
しかしレベルが半分以下のフォス以上のもやしっ子で、スタミナもないためか肉体労働になるとすぐバテる。魔法はとんでもなく強いのに…
本を読むのが大好きで、最近では放っておいたら本ばかり読んでいる。
そのため皆が交代でクエストに無理やり連れ出すのだが…そのクエストも強力な攻撃魔法ですぐに終わらせてとっとと家に帰るという始末。
基本的に本を読んでいる間は愛相は悪いし無口だけど優しい子で、「大異変」前の時から一緒だった幼馴染の男の子とずっと一緒にいたらしい。ちなみにその男の子もこのギルドに入っている。
今フォスに辛辣なセリフを吐いた少女は恵理。エセ関西口調で話す。「大異変」前の友人一人と一緒にこのギルドに入ってきたらしい。
ジョブはフェンサー・ナイトで、近接戦闘を得意とする、年齢16歳。可愛いものには目が無く、最近は香里がお気に入りらしく、色々な衣装を着せたりして遊んでいる。
こういうことには自分のお金や装備も惜しみなく使うタイプで、ついに他人の髪の色にまで手を出してしまった…要注意人物だ。
「光一に頼んでいたヤツって確か…髪の色を根本から完全に染めるとかいうやつだっけ?」
「染めるというよりも「変える」に近いな。解除のアイテムを使わん限りこれから生えてくる髪も紫色になるはずやで。」
「おいおい!コスプレのために他人にそこまでやるかフツー、香里ちゃんいいの?」
「いい、それに割と気に入ってるわよ」
「ああんもう可愛い奴やなー♪香里は」
さっきから名前だけ出ている「光一」は昔の俺の友人の一人で、コーベで錬金術師をやっている。こいつについては…色々言うことがあるので後で説明する。
「もう夕方だしそろそろ皆も帰ってくるんやないかな?」
「トーヤはノイチと海斗と雪芽を連れてどっか行ってるのか?」
「トーヤは知り合いに呼ばれて『不死の魔境』に行くんやとさ、クイチと海斗は雪芽と一緒にお買い物や」
「げっ、『死人の魔境』ってたしか元青木ヶ原樹海だろ?「大異変」前でも十分危険なところじゃないか」
フォスの言うとおり『不死の魔境』は自殺スポットで有名な青木ヶ原樹海、通称富士の樹海が「大異変」で変化したおそらく日本屈指の難関ダンジョンで、名の通り強力なアンデットやゴーストたちの巣窟だ。
昼でも薄暗くて見通しが非常に悪い上に足場も悪く、敵も凄く強い。しかもそこで死んだ旅人はアンデットの仲間入りをしてさまよう羽目になる何重にもおっそろしいダンジョンだ。
しかも奥地に行くほどゴーストの数が半端じゃなくなり、奥の奥がどんな風になっているのかはよく知られていない。
アンデット最強のボス、ノーライフキングの姿を見たとかいう噂も聞いたし、地底に続く洞窟の入り口もあったとかいう噂もある。
「…大丈夫、トーヤのことだから」
「そうだな、あの人なら奥地に行かない限り…行っても帰ってくる気がするな。」
「まっさかー、いっくらトーヤでも流石に…」ガチャッ
「たーだーいーまー。いやー『不死の魔境』はすごかったぞ!地底洞窟があるって噂は本当だったし、あ、奥まではいけなかったぞ?流石に
ノーライフキングは見なかったけどあんなに大量のゴーストキングの群れは初めて見たし、そうそう!地底洞窟では凄いモノを…ってどうしたお前ら」
いきなりドアが開いたかと思うと巨大なハルバードを背負い、全身を覆うミスリル製の重鎧に緋色のマントを着た男性がペラペラしゃべりながら大広間に入ってきた。
彼こそが我らがギルドのマスターにしてチート使用を疑う強さ諸々を誇る人物、トーヤ。ってホントに帰って来たよこの人
「…この変態」
「変態!?流石に変態は酷いじゃないか恵理」
「いやだって…まず地底洞窟なんてホントにあったんですか?そもそもそれって奥地ですよね?奥地まで行って誰も行ったことがないであろう地底洞窟を探索してって貴方…」
「俺以外にも強い人が8人程いたし、そのうち5人は一緒に王宮の依頼を請けたこともある実力者だったからな。流石に途中でヤバくなったからワープストーンで逃げたが…」
「不死の魔境に地底洞窟か…俺でもいけるかな?」
「タクトなら大丈夫だろう。何なら今度行く時ついてくるか?」
「うーん…、まぁとりあえず考えておきます。ところで凄いモノって何だったんですか?」
「ふっふっふーそうだったな、これを見ろ!」
トーヤが取り出したのは薄く青色に輝く6角形の石板。こ、これは!
「エネミーチェンジスクロール3やないか!初めて見たわ!」
恵理がやたら興奮しているが無理もない。このエネチェン3は超がつくほどのレアアイテムで、これ一個うまく売れば一般人なら一生働かなくても暮らしていける金が手に入るほどだ。
冒険者なら欲しかった他のレアアイテムや装備も一通りそろえることもできるだろう。それぐらいの価値を持つアイテムなのだ。
エネチェン3を使えばこの世界トップクラスのモンスターにもなることができる。あのリアーネ姫や九尾といったモンスター達がそれにあたる。
ああ、ファスが物欲しそうに見ているなぁ・・・これを使って愛しのリアーネになろうとしているんだろうが、そういってもそう簡単な話ではない。
エネチェン3自体珍しいものだからそれほど情報は集まってないが、リアーネ以外にも該当するトップクラスのモンスターはたくさん存在する。
さっき出てきたノーライフキングだってそうだし、該当するドラゴン系も多い。なれるのは全部均等な確立と仮定しても1%あるかないかぐらいじゃないかな?
ん?俺は欲しくないのかって?もちろん欲しいさ。でもこれはトーヤさんの物だ。俺は俺でいつか手に入れるさ、あげるというならもらうけどね。
「さて、このエネチェン3だが俺はいらないから欲しい奴皆でジャンケンして決めろ。」
「「「えええええええええええええーーーーー!!!!」」」
「太っ腹ね」
驚く俺達3人とは違い、冷静に返す香里…ホントに中学生なのかな
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「さて、これから第一回ファミリアギルドジャンケン大会を始める。優勝者にはエネチェン3、準優勝者にはタクト達がとってきたエネチェン2だ。」
第一回ということは第二回第三回も期待してていいのかな。それにしても優勝と準優勝の差が酷い。
「本当にいいんですか?トーヤさん。エネチェン3使ってしまって。」
「エクスになったら今あるジョブ限定スキルが使えなくなるからな。それにまだ俺もとってないスキルもあるし、この姿のままでもまだまだ強くなれるのさ。」
トーヤさんこれ以上強くなって一体どうするんだろう。トーヤさんと何回か難関ダンジョンに行ったことはあるけど…苦戦した姿を見たことは一度もない。俺は何度も死にかけたのに。
「それにこれを売るぐらいならギルドの誰かにやってどんな姿になるのか見てみたいからな!」
「それは…お礼を言ってもいいのかな…」
俺はジョブ専用スキルは後回しにして兼用スキルの習得を優先してきた。エネミーチェンジしても使えるようにしてな。
でも補助魔法のほとんどはジョブ専用だし…便利な補助スキルが使えなくなるのは正直痛い。
…まぁ悩むのは優勝してからにするか。2なら使わないけど3なら考える。いまはそれでいいだろう。
「ククク…俺の「闇王の右手(ダークキングレフトハンド)」が優勝とエネチェン3を御所望らしい…」
「あーあまた始まったでフォスの邪気眼。おら!邪気眼みせてみぃや邪気眼!」
「括弧を入れてもらって悪いがレフトは左だ」
「やっべ素でまちがえた!」
フォスと恵理とノイチのやりとりをみてケラケラ笑っていたトーヤが言う。
「まぁ単に目当てのモンスターが3でしかなれないなら3を使うのも仕方がないな。でももし強さを求めてるなら別に1でも2でもいいんじゃないか?
この間の大会でも見たようにいい戦いをした選手全員が3使用者な訳じゃないんだ。エクス1でも強い奴はそこらじゅうにいる。例えスライムとかでもうまくやればかなり強くなれる。
俺の友人にコボルトのエクスがいるんだがそいつは某大規模ギルドの…何番かは忘れたが部隊長を務める程強いぞ。重要なのはスキルとアーツと装備、何より立ち回り等の本人の戦い方だ」
「いつも思うんですけどトーヤさんの人脈ってホントに凄いですね…」
今の男の子は海斗。ジョブはシーフ・ソルジャー。香里の幼馴染で「大異変」前では、親の近所付き合いもあってか姉弟のような間柄だったらしい。
海斗は今は大体小学6年生ぐらいの年齢だけど冒険者をやっている。といってもこの世界では大して珍しいことではないかな。
Lv200を超える香里ちゃんと一緒に冒険者になって一緒に旅してたらしいけど、まだ海斗君は中級職にすらついていない。
これは一緒にいた香里ちゃんが広域殲滅魔法で無双ゲーばりの活躍をしていたため、戦闘では海斗の出番は香里の詠唱時間稼ぎ以外ほとんどなかったとのこと。
このギルドに入ってからは俺とクイチとトーヤ達皆で海斗達みたいにLvが低い子達のLvを上げるのを手伝うことにしているんだけどね。
「ねぇ雪芽、もしエネチェン3手に入ったらどーすんねん?」
「うーん、そうねぇ。よく分かんないけどとりあえず使ってみようかな。恵理はお目当てのモンスターでもいるの?」
「これと言ってはおらへんけど…もし雪芽がよかったらくれないかなって」
「はいはい分かったわ。あげるわよ恵理」
「わーいヤッタ!ありがと雪芽」
白の和服に身を包んだ美しい女性が喜ぶ恵理を見てクスクス笑う。この人は雪芽。フォンカード地方等で見られる有名な妖怪、雪女のエクスで、俺が入るちょっと前に、恵理と一緒にこのギルドに入ってきたらしい。
元々はマジシャンのシングルジョブだったとのこと。今では雪女らしく氷のアーツを駆使して戦うスタイルを使っている。
低年齢の海斗君に香里ちゃん、時々恵理の面倒をよく見るいわゆるお姉さんタイプで、このギルドの貴重な潤い成分と言える。
香里は幼すぎるし恵理は性格が…っとこれ以上言うと後ろから刺されそうだ
「いいの?雪芽ちゃん。本当にあげちゃって。」
「いいの。私は別に他のエクスになりたいって訳じゃないしね。売るのもちょっともったいないし」
のんびり屋で大人の姿勢の雪芽さんと、勝気で子供っぽい恵理。対称的な性格の二人だがとても仲がいい。「大異変」後に知り合ったということだが…そういえばどこで知り合ったとかは聞いていないな。
「さて、そろそろ始めるとしようじゃないか。タクト、クイチ、海斗、恵理、雪芽、香里の6人だな」
「ちょっと待ってトーヤさん!俺忘れてる!」
「やれやれ仕方ないな。おまけに、ついでに、お情けでフォスを加えて7人でジャンケン大会だ」
「やばい、俺何か皆に嫌われてる呪いでも掛けられたかな?あの時のシャーマン辺りに」
心当たりあるのか。別に皆嫌っている訳じゃないのに。ただ単にお前がからかわれるキャラとして確立しているだけなのに。
「それじゃあ皆でジャンケンしろ。」
「「「「「「「最初はグー!ジャンケンホイ!」」」」」」」
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「くそっくそっ、俺のリアーネが・・・」
「へっへんやった!エネチェン3頂くで♪」
「僕はエネチェン2もらいますね。明日早速使ってみることにします」
激しく、怪我人(心の傷的な意味で主にフォスが)も出る厳しい戦いの結果、エネチェン3は恵理が、エネチェン2は海斗君の手に渡った。
「ほらフォス、いつまでも凹んでないで前向きに考えろ。恵理がリアーネを引く可能性もあるという訳じゃないか。」
「うぅ・・・雪芽さんならともかく、こんなツンツンなリアーネはいやだよぅ・・・」
「あれ?リアーネって確かもともと公式でツンツンキャラじゃありませんでしたっけ?」
「うっせぇ!俺の中ではデレデレキャラとしてのイメージが確立してるんだよ!」
「お前の勝手な妄想じゃないか。いい加減諦めろフォス」
「大体リアーネじゃなくてドラゴンゾンビとかになる可能性もあったわけやからよかったやん」
「運のないフォスのことだからな…リアーネになる可能性はほとんどなかっただろう。なれたとしてもノーライフキングとか?」
「後はバンシーとかそのへんだろう」
「何でアンデットばかりチョイスするんだよお前ら。泣くぞ。」
いつものように夜はギルドの皆で談笑。疲れたらベッドに入り、朝起きたらまた交代で、クエストやお宝探しの旅。海斗、香里は寺子屋でお勉強(一応中学でやるぐらいの計算や知識は冒険では必要というのがこのギルドのモットー)。
こんな日々の過ごし方は「大異変」以来無かった。あの日からはひたすら戦う、戦う、戦う、時々休む、戦う、戦う、たまにワープストーンで日本旅行、戦うの毎日だった。
「!」
「ww」
冒険仲間はいたが毎日同じ家で暮らすということはなかったし、こんなに安らぐ日が続くなんて滅多になかった。
この安らぎを与えてくれる皆にはとても感謝している。なんだかんだ言ってフォスにも場を盛り上げる意味でからかうことはあっても、心の中ではちゃんと感謝している。
だからと言ってからかうのはやめないけどね。
「あら?誰か来たみたいですよ」
「ホントだ、玄関から声が聞こえる。」
「光一さんが遊びに来たのかな?」
「いや、この声は光一じゃないな。『トーヤさーん!』…トーヤ呼ばれてるみたいですよ?」
「ん。じゃぁちょっくら行ってくる」
そう言ってトーヤは玄関の方に向かっていった。こんな時間に何の用なんだか
「さーて、明日はどうする?もちろん明日皆で二人のジョブチェンジを見学するよな?」
クイチが明日の予定についての話題を口に出す。そうだ、明日光一のところに頼んでいたヤツを取りにいかないと。
「異議なし。俺はちょっと光一に用があるからその後で光一の店に寄るけどな。」
「私と恵理はその後海斗君と香里ちゃんを連れてクエストを受けてきますね。明日は二人とも授業はありませんから。お二人はどうします?」
「俺はそうだな……4人についていきますよ。恵理と海斗君がエネチェンを使ってどんな戦い方になるのか見てみたいし。」
「俺もフォスと同じだ」
「…私は本読んでおきたい。」
「ダーメ、あなた放っておいたら一日中家にこもりっぱなしでしょう」
「あれ?とうとう引きこもり予備軍かい?香里ちゃん?」
「うっさいフォス、『プラズマランス』」
「わぁ!ごめん香里ちゃん!ちょ……ぐわあああああああああああああああああああ!!!!」
哀れフォス。今度からはその口に沈黙魔法をかけておこうな。
「なんだ騒がしいn…ってなんだフォスか」
フォスが雷光の槍で貫かれ、地面に転がったタイミングでトーヤが帰ってきた。
「黒焦げになって分かり辛いけどフォスです。多分気を失っているので後で治療しておきますか。寝る前に」
「ああ、そうしておいてくれ」
一々フォスを気にかけていたら疲れるだけということを分かっているのか、トーヤは短くそう答えた。
「ところでトーヤさん、さっきの人は誰だったんですか?」
「あー、王宮の使いの人でな。急用が出来たからちょっと出かけてくる。明後日の夜以降には帰れるかな」
「へぇこんな夜にトーヤさんへ何かの依頼ですか?」
「それについては…答えないように言われてるんだ。悪いな。じゃ、行ってくる」
それだけ言ってトーヤさんは出かけて行った。…珍しくちょっと怖いオーラを出していたのは気のせいだろうか。依頼の内容のせいかな?気になるな…
「トーヤなんかえらい気ぃ張ってたなぁ。何かあったんかな?」
「そもそもこんな時間に急用って、結構ヤバメの仕事じゃないかな?」
「…」
雪芽さんが妙に神妙な顔をしているけど…俺が見ていることに気付いた雪芽さんはすぐに表情を戻した。…何か知ってるのかな?まぁこの場で聞くのはやめておこうか。
「まぁトーヤさんのことだから、早く終わらせてくるでしょう」
「…トーヤのことだからね」
我がギルドぶっちぎりで最強にしてその正体はメンバーの誰にもよく分からない人物、トーヤ。
時々王宮から使いの人が来て急を要する依頼や、難易度が高くて強い戦力が必要な依頼をわざわざ持って来るぐらい実力もあるし有名な人物なのに、こんな弱小ギルドのマスターをやっている。
本来ならトーヤほどの人脈や実力があればLvMAXクラスが何人もいる大手ギルドになっていてもおかしくないのに、トーヤは積極的な勧誘はほとんどしない。
それどころかこのギルドにいるのはほんの子供だったり低Lvだったりだし、一体トーヤは何をしたいのかよく分からない。
それなのに実はこの屋敷もトーヤ個人の所有物だし、トーヤがアイテムやお金で困っているところも見たことがない。財力も含めて色々な意味でそこらへんの冒険者の域を遥かに超えている。
これらのことについて聞いても適当にはぐらかされたりで、トーヤの財力についてまともな理由を知っているのはこのギルドに一人もいない。
「ふぁぁ。眠くなってきたし、そろそろ部屋に戻ろうかな。お休み皆」
「うちも疲れたし寝るわ、ほなお休み」
クイチと恵理はそう言うとそれぞれの寝室に戻っていった。こんな時間になったし俺もそろそろ寝ようかな。
「それじゃもう夜も遅いしもう皆寝ることにしましょうか、ほら行くわよ香里、お休みなさいタクトさん。海斗君も早く寝なさいね。」
「むきゅう…眠たい…お休み…」
雪芽さんが本を枕にうたた寝していた香里ちゃんを背負って部屋に戻っていった。うーん、和服美女に背負われていく紫魔法使い、絵になるなぁ
さて、俺もそろそろ寝ようかなということで、部屋に戻って身に着けていた装備やアイテムをカードに戻して部屋の金庫にしまう。
この金庫は持ち主の許可無しでは絶対開かない特別製で、光一に頼んで作られたかなりの高級品だ。高級品といっても各部屋一つずつ配置されているんだけど。
このベッドもスノーバードの羽毛でできた…ってこの屋敷の部屋の備品は金庫の存在も考えてそのへんの宿とは比べ物にならないほど贅沢なぐらいなんだよね。
まぁとりあえず明日は二人のジョブチェンジの日だからあんまり昼まで寝坊は出来ないな。ゆっくり休むことにしよう。
こうして俺はリビングで転がっているフォスのことをすっかりと忘れて眠りについたのだった。
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《何処かの屋敷》
「……どうだ?そっちのほうは」
「駄目です。見つけた隠し通路が地下水路に続いてましたが…。また逃げられたようです。」
「クソッ。逃げ足の速いヤツだ。素早さを特化した冒険者なのか?」
「逃げ足が速いのは下っ端のことを放って自分だけ逃げたというのもあるでしょう。ヤツらの幹部は部下を捨て駒にしか思ってませんから。」
「だろうな、とはいえ連中もあまりに急に襲撃されたせいか、客のことも放っておいて逃げたようだな。もちろん一人残らず捕らえておこうか。」
「はい」
背の高い人物と、比べて小柄な人物がどことも分からない屋内で会話をしている。辺りは騒がしく、怒鳴る声や悲鳴を上げる者もいる。
騒がしい集団の中にその小柄な人物を含め、似たような姿をしている人たちがいる。それら全員は警察組織の制服を着ていて、どうやら違法な店に踏み込み調査に押し入ったようだ。
背の高い方の命令を受け、小柄な方は近くにいた集団に指示を出している。小柄な方は数ある小部隊の中の隊長らしい。
背の高い方の人物は、全身を黒いローブで身を包んでおり、顔もフードで隠れてよくわからない。
「それにしても今回は連中あまり抵抗しなかったな。やはり幹部がさっさと逃げたせいか。部下も混乱しっぱなしのようだったし。」
「いつもこんな感じだと楽でいいんですけどねぇ。前なんて僕達返り打ちにされるところでした。結局その時も幹部を逃がしてしまいましたし。」
「連中の中にはLv200を超えるベテランもいるという話だ。下っ端とは言え侮れないからな。お前達のせいではないさ。」
「"軍神"先輩が来てくれたおかげで今回は楽に鎮圧できました。ありがとうございます。」
「まだ礼を言うのは早いだろ…あとホント"軍神"って誰が最初に呼んだんだよ。やめてくれ恥ずかしい。」
「えー何でですか。格好いいじゃ…」
「くそ!何で今日に限って警察が踏み込んでくるんだよ!」
2人が話をしていた近くの部屋から警察隊員に抑えられて男が一人連れ出されてくる。
その男は身に何もつけてはおらず、男が出てきた部屋の奥にはまだ幼い少女が一人、女性の警察隊員に慰められている。女性隊員の手には万能薬…状態異常を解除するアイテムが握られている。
その少女も裸のままであり、少女の方は何かしらの状態異常にかかっているようだ。どうやら男はその女の子とベッドの上で最中だったらしい。
「…僕達は警察組織です。この店で違法な売春行為が行われているとの情報を手に入れ、踏み込みました。この店の関係者はもちろん、貴方にも疑いがかかっておりますので我々の…」
「はぁ!?何でだよ!俺は関係ねぇよ!いいからとっとと離せよ!おい!」
男は腕をつかんでいる隊員を振り払おうともがく。そこにローブの男が近づき…
ドゴッ!
抵抗する男に強烈な回し蹴りを放つ。男の体は吹っ飛び壁に激突し、そのまま床に崩れ落ちる。
「まーったく。往生際の悪い。明らかにヤってたんだろうに、なーにが『関係無い』だよ。…そのクズを早く連れて行ってくれ。」
「は、はい!」
抑えていた隊員が床に転がる男を抱え上げ、入口の方に連れて行った。
「ったく…ロリに手を出す連中はクズ。手を出さずとも犯罪に走る奴はゴミ。そういう奴らがいるから健全なロリコンも変な目で見られるんだよ。」ボソ
「はい?」
いぶかしげな顔をする小部隊隊長。どうやら奥の方にいる女の子と女性隊員にはローブの男の声は聞こえてないようだが…
「いいか、真のロリコンは紳士なんだ。ロリに性的感情を覚える時点で失格と思っていい。真のロリコンにとってロリというのは性の捌け口なんて下賤な物じゃない。
もっと高貴で神秘的なものなんだ。まず真のロリコンの条件としてロリに不快な感情を一切与えてはならないということだ。自分の汚れた手が触れる時点でその神秘性が失われるといっても過言では無い。
つまりロリというのはもっと畏れ多く扱うべきであり、ロリの無邪気な行動の一つ一つを見て、聞いているだけで癒しを受けるようにならなければ真のロリコンを名乗る価値は無い。
しかし、ただ見聞きすればいいというものではない。覗きであったり盗聴であったり、また、じろじろ見る。こういったこともアウトだ。
まず犯罪行為は論外。また、じろじろ見てロリに不快感を与えるのも駄目。ボディタッチなどもってのほか。付きまとうのは下郎の行い。
さりげなく、ロリの癒しはその範囲で十分受け、何よりロリに危険が迫るようであれば命に変えてでも守り抜く。この覚悟が真のロリコンには必要と言えるだろう。
あとロリコンだからと言ってロリ範囲外のレディには優しくしない奴は、まず男として駄目だ。全てのレディに優しくし、紳士的にロリを愉しむ。
これらの条件をすべて満たす奴にだけ、俺が真のロリコンと認めてやってもいいだろう。」ボソボソ
「せ、先輩…!」
「さて、馬鹿言ってないで真面目な話に戻ろうか。」
「あ…………、そうですか」
「今回の"被害者"は結局何人いるんだろうな…この店はあまり大きくないが…10人ぐらいはいそうだな…」
「「大異変」が起こってもこういうことがあるんですね…腹が立ちますよ本当に。」
「「大異変」があったからこそ発展した分野なのかもしれないぞ…」
「ですね。ランダムチェンジャーにエクスチェンジ。これらの存在が"需要"を満たす要素になりますし。」
「あとは錬金術だな…錬金術によって作られる薬が"被害者"を抑えるのに使われるしな。」
「そうですね…ところで今回も"被害者"の方達を引き取られるんですか?」
「多分な。希望者がいた場合、俺達の中の誰かが引き取る形になる。せめて一人立ちができるLvまでサポートして…それから先はその人達が決めることになる。」
2人が話をしている間に店内の客の取り押さえ、"被害者"の保護が大方終わったようだ。近くの部屋で女性隊員にケアを受けていた少女がシーツに包まり、隊員に連れられて部屋から出てくる。
「あ、あの…本当に助かりました。ありがとうございます…。」
少女の銀色の髪の毛の中からは白い犬の耳が生えている。また、シーツの影に隠れて分かり辛いが、白い犬の尻尾もみられる。
「『銀狼』…かな?寒冷地域にみられるモンスター『銀狼』のエクス。違うかい?」
「はい…そうです…。旅をしていたらいきなり数人の男の人に囲まれて…私あまり強く無かったので、すぐ気絶させられちゃって…
起きたら暗い部屋の中にいて…そこにいた男にエクスチェンジ1を使うように脅されて…『銀狼』のエクスになったと思ったら次は…!」
「あストップストップ。これ以上話すのはつらいだろう。無理して話すことではないよ。…もし聞いてほしかったら続けてもいいけど…」
「いえ…グスッ…ありがとうございます…」
少女はこぼれそうになる涙を抑えながら、女性隊員について行った
「先輩…あの子ってもしかして…」
「多分な。なーぜかランダムチェンジャーとかエクスチェンジを使って○○した場合って美形になりやすいんだよなぁ」
「それに今では珍しくない人外の姿…。その姿にそそられて欲望を出す連中は少なくないんですよねぇ」
「そしてその需要を満たすために"B.C"はこの稼業を続けている訳だ。もっとも"B.C"の悪行はこれだけじゃないが…とっとと大元を潰さないと"被害者"はどんどん増えるばかりだな。」
「その大元についてはまだよくわかってはいません…というのも幹部でもボスについては全くと言っていいほど知らされていないらしいのです。
顔を見たことのある人すらもいないとか…なんでもボスについて知ろうとしたら殺されるとか…」
「なんだそれ、ボスはどうやって部下に指示を出しているんだよ、イタリアのギャングじゃあるまいし」
「パッショー○ですね、自分も「大異変」前はよく読んでました。」
「まぁ"B.C"のボスが何だろうと、裏の世界を牛耳ろうとしていようが何だろうと、捕まえてボロ雑巾にしてやらないとうちの子達の気も晴れないんだ。
早いとこボスについての情報をなんとか集めてくれよ、警察さん」
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《商業都市コーベ・転生の祭壇前》
午前中は冒険に出かける冒険者が多いせいか、今コーベは夕方以降と比べ、人が少ない。…とはいっても"商業都市"の名の通り、商業区画は一日中賑わっているのだが。
コーベの転生の祭壇はその商業区画に通じる大通りの中にある。商業区画に掘り出し物を見つけに、冒険に必要なアイテムをそろえに行く冒険者達。
日用品をそろえに行く一般人客。大きな荷物を担いで、この都市で一旗上げようとする商人達。大きな馬車に仕入れ品を積み込み、自分の店に向かう商人の姿も見られる。
様々な人達が、この大通りを通って商業区画に向かう。俺達のように転生の祭壇に用がある人は、その人達に比べてそれほど多くない。
というのもこのコーベの商業区画では、取引に関しての税金が一切かけられていないのだ。全国から商人が集まるのも当然だろう。
当然掘り出し物が見つかる可能性も大きくなり、全国から人がどんどんやってくる。
また、コーベでは一部の商品を独占的に扱う商売は厳しく取り締まっている。それらのおかげで新しくこの町に来た商人が失敗する…ということはあまりない。
そのおかげで市場はどんどん成長し、その大きな市場に惹かれて多くの人が移り住み、この都市全体の経済は首都:トーキョンに匹敵する。
現代の楽市・楽座、それがこの商業都市コーベだ。
さて、今回俺達トーヤを除いたメンバーはお買い物ではなく、海斗と恵理のエクスチェンジの見学だ。特に恵理はLvが100を超える程度にも関わらず、エネチェン3を使おうとしている。こういう例ははっきり言って滅多にない。
エネチェン3自体珍しいのもあるが、そもそもエネチェン3を手に入れようとしたら難関ダンジョンに潜ってレアモンスターをしとめるなり、それなりの実力を必要とする。
Lv100というのは弱くは無いけど決して強いとは言えない。実際トーヤが行った「不死の魔境」なんかに恵理が行ったら秒殺必至だろう。
エネチェン3もこの世界屈指のレアアイテムで価値が非常に高いのに、たまたま手に入れたからって誰かにただであげるようなこと自体が異常なのだ。
「さーて海斗、先あんたからやりーな。ウチは多分目立つやろーから後のほうがいいねん。」
「分かりました。じゃぁ遠慮なく行ってきますね。ところで皆さん、エクス2と言ったらどういったモンスターになれるんですか?」
「エクス2と言ったらそうだな…セイレーンとか…フェンリルに…ゴーレムといったところかな?」
「あと海斗、ドラゴン系のモンスターになれたって話もあるわよ。」
「ドラゴン!分かった!ありがと香里お姉ちゃん!」
海斗は浮かれた様子で祭壇の階段を登っていった。その姿に気付いた人達が海斗に注目する。
「おっ、あの子が手に持ってるのはエネチェン2じゃないか?」
「へー、エネチェン使うのは期待できるね。大体姿が大きく変わるから見てるだけでも楽しいし。」
「だな、どんな姿になるやら。」
大通りを通っている人達も、祭壇の上の海斗に注目する。普通のジョブチェンジとは違ってエクスチェンジはちょっとしたイベントだ。
「香里ちゃん、海斗君はドラゴンになりたがっているのかい?ドラゴンという言葉に反応していたけど」
フォスが手持ちの本を立ち読みしている香里に声をかける。弟のような存在の海斗の重要な場面というのにえらい冷静だ。
「多分ね。あの子ドラゴンとか大きなモンスター好きだったし。」
「やっぱりそうか。それにしてもエクスチェンジか…何か予感がするな。(何よりコレ支援所の作品だからな)」
「予感って何だ?フォス。別にエクスチェンジして弱くなるってことなんかほとんどないだろ?」
「いやなに、エクスチェンジって狙ったモンスターには特になり辛いって言うだろ?」
「あー、確かに原作でもそんな感じだったからな。物欲センサーついてるんじゃないか?って」
「…それに場合によっては性別が変わることだってあるんだろ?」
「ハハハ。性別が変わるエクスなんてそれほど多くないだろ。」
「全くだ。まぁエクスチェンジで女になった!って話はよく耳にするけどな。」
フォスの予感とやらに対し、俺とクイチが突っ込みを入れる。大体そんな話題を出したら本当にそうなるんじゃないかって…
「ジョブチェンジ!!!」
いつの間にか祭壇にいた海斗がエネチェン2を掲げ、合図の言葉を叫ぶ。その瞬間祭壇は光に包まれた!
……………………光が少しずつ収まってきた。祭壇の上にはうっすらと影が見えて…
「あ、あれ…?アレって海斗君だよね?なんかすごーいことになってるけど…」
「おいおいまさか本当に…?」
光が収まって祭壇の上にいる姿が徐々にハッキリと見えてくる。そこに立っていたのは…
すらりとした細い体のほぼ全身を覆うエメラルドグリーンの体毛、黒から緑色に変わった頭髪からは大きな耳が覗いている。
腕は翼としての役割も果たせるように羽と一体化しており、足は鱗におおわれ、鋭い爪を持つ鳥の足に変わっていた。
(あれは…ハーピィだね。そう言えば昔ハーピィの大群に襲われて大変だったなぁ…動き早いし、いくらやっつけてもキリないし、爪は痛いし。ってそれよりハーピィ!?)
「ふーん…。結構カッコイイじゃない。ねぇ?」
「あー雪芽…。確かにハーピィはカッコイイっちゃカッコイイんやけど…その…」
「?ハーピィっていうの?ふーん」
…雪芽ってもしかしてハーピィのこと知らないのかな?RPG的にも結構有名なモンスターなのに。
香里は一見冷静な振りをしてるけど
「…23…29…31…37…41…」
駄目だ…素数を数えて落ち着こうとしている。流石の香里ちゃんも堪えたらしい。
「まさかフォスの言う通りになるとはな…」
「ああ…。ごめんよ海斗君。悪気も責任も無いけど一応謝るよ。」
と、クイチとフォスはそれぞれ感想を述べる
当の海斗はと…今の自分の体に驚きはしたようだが、それよりも自分の腕の翼を早速使ってみたかったのか、腕をしきりに動かしている。
高い祭壇の上からこちらを見ると…って嫌な予感が…
「あの子ひょっとしてこっちに飛んでくるつもり?」
「多分な…あっ、ほら飛んだで。」
「おおー、本物みたいに空を飛べるんだな。うらやましいな。」
「元々シーフだったからな。結構速度も出るだろう。」
高度の高い山に生息するハーピィは速度を生かして空を舞い、敵の隙をついて鋭い爪で獲物の急所を狙う。
そんな敵に足場の悪い山岳地帯で、しかも大群で襲われたらたまったものではない。
崖の多い場所、岩がゴロゴロ転がっている場所、そんな場所でも奴らはお構いなしに空から襲ってくる。
崖登りしている隙に後ろからいつの間にかザクッっというケースもある。というかされた。
大群に気を取られている間に、いつの間にか後ろに回っていたハーピィに挟み撃ちにあったりということもある。というかされた。
素早さはもちろん、高い攻撃力の爪でのクリティカルはシャレにならないほど痛い。
そんなこんなで俺には全くいい思い出が無いハーピィだが、確かに元シーフの海斗にハーピィのエクスはピッタリだと思う。…問題はあるけど。
「おっ、こっちに飛んできたな。はやいはやい」
「はやい…って早すぎやないか?うまく着地できるんかいな?」
海斗は空中での旋回を繰り返して高度を上げた後、こちらに向かって一気に急降下。風を切ってものすごいスピードで降りてきた。
「危ない!」
「きゃっ!」
地面に激突する!と思ったが、海斗は落ちる直前に腕の羽の向きを変え、落ちる速度にブレーキをかける。
着地の際にすさまじい風を起こしたものの、海斗本人は軽やかに着地した。
「すごい!僕空とべた!ねぇ見ました!?」
「この馬鹿、こっちも怪我するところだったでしょ」ゴツン
「イタイ!」
香里に怒られて少し殴られた海斗。危なかったのは間違いない。でも初めて飛んだにしては凄いコントロールだとは思う。
「イタタ…ごめんお姉ちゃん。っとそうだ、まだ何のエクスか見て無かった。『マニュアル」!」ボウッ
海斗の手に自分のステータスが記されてある魔法の本が現れる。これを見れば自分が今どんなモンスターのエクスなのか分かる。
「ふんふん…どうやらハーピィってモンスターのエクスになったようです!」
「ふふふ。かっこいいわよ海斗。」
割と深刻な事情を知らない2人がのんきに和やかな雰囲気を築いている。どうしよう…教えてやるべきか…
「あー、2人とも…ちょっとええかな?」
{どうしたの皆?そんな顔して?」
教えてやらなくてもいずれ気付くことだけど…それまで皆黙っていたと知ったら可哀想だ。
「ああ恵理、俺が教えるよ。実はハーピィはな…その…女性モンスターなんだ」
「「え!?」」
あわてて自分の股間に手を当てる海斗。しかし現実は非情である。海斗は「な、無い…」とつぶやいた。
元々海斗は童顔だったし、声変わりもまだ始まっていなかったので、多少声が高くなったり顔つきが女っぽくなったからといって特に気にはならなかった。
体つきも…ハーピィは飛ぶときに邪魔になるからか、風の抵抗を和らげるためか、それとも単に海斗が幼いからか、とにかく胸は出ていないし尻も膨らんでいない。
髪も多少長くなったけど、体を毛が覆ってあるのに目が行ってそれほど気にはならなかった。
つまり元が元だったため、女の子になったからと言ってそれほど見た目が劇的に変わったわけではないのだ。モンスターっぽくなったのは確かだが。
「…まぁ女の子になったからと言って男に戻れないわけではないし、皆も変わらず接してくれるわよ。」
「…コクッ」
そういって香里は慰める。確かにもとに戻れないことは無いが…もとに戻るためには『テイクオーバースクロール』というアイテムを使い、Lv1からやり直す必要がある。
海斗は元々Lvも低かったし、Lv1からやり直してもすぐに元のLvに戻れるだろう。
とはいえ、今までやってきたことのほとんどが水の泡になるとなると、中々踏ん切りがつきにくいモノだ。
「…一応…使う時に覚悟はしていたから…大丈夫」
うつむいていた海斗は、そう言って涙目になった顔を上げる。中々たくましい根性しているじゃないか。
「さて…、次はうちの番やな。行ってくるで。…大丈夫か雪芽?」
「え!?う、うん!行ってらっしゃい恵理」
そう言って転生の祭壇に向かう恵理を俺達は見送る。
「雪芽大丈夫?さっきボーっとしてたけど。」
「うん、大丈夫。ありがと香里」
昨日も少しボーっとしていた雪芽だけど…最近特に多い気がする。大丈夫だろうか。
ところで、先程の海斗のエクスチェンジの時から群衆の注目は俺達、そして恵理に移っていた。
「お?今度はあの子がするのか?」
「いや、もしかしたらただのジョブチェンジかも知れんぞ。」
「あ、鞄から何か取り出してるけど…ってあれは!」
「おー!エネチェン3じゃない!」
「へーあの嬢ちゃん、あの装備の割にやるじゃないか。」
流石にエネチェン3を使うとなると注目度は段違いにあがる。エネチェン3持ってる時点でただものじゃないってこともあるからな。
恵理もそのことはわきまえているらしく、群衆が増えるまでなかなかエネチェン3を使おうとしない。
「恵理ってばなかなか使おうとしないわねぇ。」
「あいつあんなに目立ちたがりだったのか…期待させて置いて大したこと無かったら笑えるぜ。」
エネチェン3を使うという噂が広まったのか、見物客はどんどん増えていき、祭壇周辺は身動きが取りづらくなってきた。
おいおい…ここまで集まるとか…そろそろいいんじゃないか?
そんな空気を感じ取ったのか、恵理はエネチェン3を掲げ上げ、声高く叫んだ。
「ジョブチェンジ!」
先程同様、辺りは祝福の光に包まれた!
「おおっとようやく使ったか、どんなボスモンスターになるんだ!?」
「とうとうこのコーベにもリアーネが現れるのか!?」
「おい誰だ!今俺のチンコさわったヤt」
あまりに強い光に祭壇周辺は包まれ、辺りは騒然とする。
エクスチェンジが終わった恵理の姿が見えてくる…って!あの姿はもしかして…!
「おいおいまさか…」
「嘘でしょ…」
「すっげぇな…」
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「よいかジェラール、われわれはインペリアルクロスという陣形で戦う。」
「誰がジェラールだ、俺の名はフォスだ。それにインペリアルクロスなんて言葉自体初めて聞いたぞ」
「俺が中心に立ち、防御力の低いお前が先頭、両サイドをシュウさんとリクさんが固める。メリルさんは俺の後ろに立つ。お前のポジションが一番危険だ。心して戦え。」
「いやいやいやいや、ちょっと待てタクト、俺メイジ・ハンターだぞ?後衛の俺が前衛かよ!」
「ここのモンスターには付近の住民も苦しめられている。モンスターを殲滅し、報酬をがっぽりもらうのだ。」
「うぉい話を進めるな!それに報酬目当てって公言しちゃってるよ!もっとそこはカッコつけるところだろ!」
「皆も頼むぞ!」
「「「はい!」」」
「ちょちょちょちょっと待って!何その団結力!今日会ったばかりだよね俺ら!?何か俺だけ浮いてるんですけど!」
ハッハッハ全く面白いなフォスをからかうのは。そろそろ可哀想になってきたしこのくらいにしておくか。
「冗談だフォス。メリルさん、このヘタレもやしと場所交代してやってください。俺は回復魔法と補助魔法で援護するから中心に立ちます。
俺に攻撃が来ても気にしないで戦ってください。残る二人はそのままの陣形で、それじゃぁ皆なるべく死なないよう頑張っていきましょう。」
俺たちは今日、ヒューゴにある『とある洞窟』に来ていた。ギルドの生活費に充てるため金を稼ぎに、同じギルドメンバーであり、「大異変」前からの友人のフォスと一緒に町までやってきて依頼を受けることにしたのだ。
ちょうどその時一番報酬のあったこの依頼を請けた。流石に二人だけだと少し危険な依頼らしいので近くにいた3人組に声をかけ、この5人で出かけることにしたのだ。
俺のジョブはビショップ・グラップラー。一応最上級職についているからそれなりに戦闘には自信がある。Lvも255目前だし修羅場もそれなりにくぐってきた。
フォスは残念ながら・・・Lv100をようやく超えた辺りの腕前なので、今回はフォスのLv上げも兼ねてやっている。
俺と違ってフォスはのんびり気ままにやってたらしく、俺と同じく原作ゲームをやっていたにも関わらず、低Lvなんだとか。元々ゲームでも弱かったからね。
他の3人は大体Lv150前後とのことらしい。まぁ何もせずにこのまま行くと少し苦戦するかもしれないが
「パワーアップ…マインドアップ…スピードアップ…プロテクトアップ…」
次々と皆に補助魔法をかけていく。これらのアーツをそろえるために相当経験値を費やしたもんだ。頑張ったぞ俺。
とにかくここのモンスター達はこの5人だけにとっては少し厳しい相手だが俺が補助魔法をかけていればかなり楽になるはずだ。
・・・少し進んだ辺りから何かイヤーな気配を感じる。おそらく結構な数のモンスターがはびこっているだろう。これは俺の勘+過去の経験からの推測だ。
「皆、もう少し進んだら戦闘になるかもしれない。心づもりしておいてください」
「えーと…どのぐらいいるんでしょう…ここには」
「うーん……弱いのを含めたら100体は軽くいるかもな」
「げ、一人頭20体ッスかーきついなー」
「うへー、かなり大変なクエストになりそうだ…」
…入口から狭い通路を通ってきたが奥の方は大広間のような地形になっているようだ。モンスターも俺たちの存在に気付いているらしくの唸り声も聞こえる。
「ライトボール」
てのひらで巨大な光の玉を作りだし、大広間の方に向かって放つ。すると、奥の部屋からは光が漏れだす。
本来はこの術敵の目くらましに使うものだが応用して部屋に擬似太陽のような明かりを灯すこともできる。
通路ではモンスターには出会わなかったがこの暗い洞窟で目がきかないのは後ろから襲われたり不意打ちをくらったりかなーり危険だ。
洞窟の壁に生えるヒカリゴケの一種のようなものからうっすら光が出ているため真っ暗という訳ではないが、獣じゃあるまいし俺達人間がそんな物を頼るのは少々心細い。
「よし、皆!これからヒューゴの洞窟内部の殲滅活動を開始する!死なない程度に頑張ろう!」
「「「「おおッ!」」」」
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エクス・アドベンチャー(アクリル様原作)
ファミリア
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「サンライトアロー!」
フォスが手に持つ杖で小さな光の矢を大量に作り出し、最後に残っていた親玉(巨大な黒い牛の姿をしたモンスター)に向けて発射した。
たしかにフォスはなんとかLvが100を超える程度だが、それなりに強い魔法も使える。…といってもうちのギルドにはフォスより年下でLvも魔法も上の子がいるんだがな
「グ、グオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!」
放たれた矢は奴の目、額、鼻の急所に次々とささり、シュウさん達に攻撃も受けて弱っていた奴は耐えきれず絶命、ドロップアイテムと共に煙と化した。
「よっしゃ!皆お疲れー」
「お疲れ様。いやータクトの補助魔法のおかげで魔法もガンガン撃てたし助かったよ。」
「お疲れさまでしたー皆」
「補助魔法ありがとうッス、おかげで助かりました!」
「ですよね。高Lvの方が手伝ってくださってホントに助かりました。」
「いやいや、戦ったのは皆さんです。俺は適当に援護しただけで…」
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!きたぞ きたぞ!」
「うっせぇ!」
空気の読めないフォスが大声を上げ、掲げているのは5角形の石板エネミーチェンジスクロール2。通称エネチェン2と呼ばれるものだ。
これを祭壇で使うことでモンスターの力を手に入れることができる。詳しく話すと長くなるから本篇を参照にしてくれ。
「なんだフォス、エネチェン欲しかったのか?」
「いんや!全然!ただこいつが落とすのは珍しいから興奮してみただけだ!」
「うわーエネチェン2じゃないッスか!おめでとうございます」
さっき倒したボスは「シャドースレイブ・カウ」と言ってRPG的に言うと終盤の雑魚敵といったポジションで、ボスとしてはかなり弱いがレアドロップアイテムとしてエネチェン2と落とす。
まぁ俺にとっちゃエネチェン2なんて3に比べたらそこまで珍しくないがな、こいつが落とすのは確かに余りなかったが
「私たちは別に使いませんので…お二人で使ってください。」
「ありがとうございます。」
さってと、帰る前に皆でお宝探しだ。さっき倒したモンスター達が落としたアイテムを拾っていき、いらないと思うものも売ったりためにめんどくさいが集めておく。
別に生活には困ってないが俺は元来ケチ臭いんだ。友人の錬金術師に素材として渡す手もあるからな。
「それにしても2かー、皆のお土産にでもするかな。」
「使わないのか?フォス」
「3ならソッコー使うが…愛しのリアーネ姫には3でしかなれないからな」
ああそうか、こいつはリアーネ姫の大ファンだったな…トーキョンにリアーネ姫のエクスが現れたって噂があった時もわざわざ高価な登録済みワープストーンを買ってトーキョンまで行って3週間も滞在しっぱなしだった。
結局俺と、同じく「大異変」前からの友人でギルドメンバーのクイチが連れ戻しに派遣されて…思い出したら腹立ってきた。しかも結局リアーネには会えなかったというからさらにムカつく。
「よし、お宝探しも終わったし報酬もらいに町に戻りますか。」
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「さようならー!」
「また何処かで会いましょうッスー!」
町に戻った時にはもう夕方になっていた。俺とフォスはあらかじめ登録していたワープストーンを使用し、ヒューゴの首都:コーベ(旧神戸)に帰ることにした。
「じゃぁねー3人ともー!」
「またよろしくね!」
俺がワープストーンを掲げると俺とフォスの体が光のベールに包まれ、空高く舞い上がった…
農作業をする麦わら帽子をかぶった農耕者たち、視界一面にわたって広がる大草原、そこを群れで走り移動する「大異変」前では見たことのない動物の群れ、アルプスの山のような雪の残る険しい山…これが今の日本の情景である。
あの日から色々あった。話を始める前にちょっと説明を挟もう。
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20XX年…世界は核の炎に包まれ…ることは永遠に無くなった。核の魔法が開発されるならまた別の話だが
星の管理者とか神とかもしもボックスとか何か色々と言われているが、とにかく「それ」に世界は大きく書きかえられた。ここでは「大異変」と呼ぶことにする
「大異変」の時に世界は……世界が今どうなってるのかよく知られてないが少なくとも日本そのものはいわゆるファンタジー世界と呼ぶにふさわしいように「修正」された。
人間たちが長年かけて培ってきた科学技術、文明は一瞬にして消え去り、剣と魔法の存在するまるでゲームのような世界に、人類は放り出された。いや、実際ゲームの世界なんだがな。
元々俺と友人たちがやっていたオンラインゲームと旧世界をベースにした世界、それが俺たち人類が暮らす全く新しい世界だった。
剣と魔法。見たこともない生き物達。
手つかずの大自然や秘境。
見たこともないマジックアイテム等を含む財宝。
それら財宝の眠るダンジョン、遺跡。
そして人々を襲う野獣、ドラゴン、妖怪といったモンスター達
そのモンスター達の数、強さは半端じゃなく、人間たちはなすすべなくそれらモンスターに命を刈られていった
戦闘機とか戦車とかいった文明の武器も「大異変」の時に消滅していたからな……丸腰でサバンナの肉食獣級、もしくはそれ以上の強さをもつ連中相手に勝とうとか逃げきろうというのは無理な話だがな。
なんとか生き延びた人々はモンスターに対抗するため、戦う術を見出した。
戦う力を得たものは「冒険者」と呼ばれ、ある者は親しい人や故郷を守るため、ある人は純粋に力を求めるため、ある人はこの世界生き残るため、今日も戦う。
俺もフォスもそんな冒険者の一人だ。フォスはどうだか知らないが、少なくとも俺は純粋に力を求めて冒険者になった。
ゲームでしか見たことのないモンスター、転生の祭壇にて戦う力を得てそれらに立ち向かう「冒険者」、何よりまだ誰も見たことのないモノがあふれる世界。
ハッキリ言って俺はそういうファンタジー世界にあこがれ続けていた。「高校生にもなって中二病乙ww」とか言うやつもいるかもしれないが、とにかく当時の俺は、そういう物が現実に現れた時、天にも昇る気持ちでいた。
この世界になって俺は真っ先に「冒険者」になり、日々戦いに明け暮れた。
ゲームで見たダンジョン等は見られなくなったが、代わりに旧日本にあった建造物、観光名所にもなった場所といったところが、今のダンジョンのベースとなった。
たとえばあの有名な北海道の札幌の大通りが「サン・ポーロ遺跡群」になっていたり、瀬戸内海といったところも「ディープ・ブルー」という、セイレーン、マーマンといった水棲モンスターの巣になったらしい。
変わったのはダンジョンだけではない。街も村も旧日本をベースに新しく作り出された。俺達が今向かっている先も元々神戸という地域であったが、今では巨大な一つの街をコーベと呼ぶようになった。
都道府県の名前も…っとこれ以上話が脱線するとややこしくなるから、出来れば原作エクス・アドベンチャーを参考にしてほしい。
どこから話がずれたのか…おっとそうだ。
原作ゲームをやりこんでいた俺は、元々ゲームにあった狩場といった、Lv上げ等に便利な場所は使えなくなったものの、
モンスターの特性、効率のいい戦闘方法やスキル・アーツを熟知していたため、他の人よりも早くどんどんと強くなっていった。
俺以外の原作ゲームのプレイヤーと何人か知り合い、そんな人達と一緒に凶悪なダンジョンに立ち向かったり、ワープストーンで日本中を駆け巡ったりしているうちに俺はLvMAXに近づいていた。
あの頃の俺はどうかしてたな…一歩間違えば全滅なんて経験も1度や2度じゃなかったのに俺はとりつかれたようにひたすら無茶な戦いを繰り返してきた。
大体そこらへんのモンスターも軽くあしらえる実力になった俺はふと昔の知り合いのことを思い出した。
俺の親父や母さんはどうなったんだろう。生意気だけど実は臆病な性格の弟は?中学、高校で一緒に遊んだ友人たちは?
…はっきり言って俺は怖かった。ある意味グレートチキンな俺は今まで無意識に考えようとはしなかった。考えないように命を投げ捨てるような戦場に行き、そんなことを考える余裕をなくしていたのかもしれない。
故郷の兵庫県(今はヒューゴと呼ぶらしい)に帰って俺の知っている人が一人もいなかったら。もしあの時コミケに出かけずにいたならば。
一度考え出したら止まらない。死んだ、依然行方不明のままだというならその現実を受け止めよう。何も知ろうとせず、ただ現実から逃げるのはカッコ悪いしな。何でそんな勇気もなかったんだろうか俺は。
コーベ行きのワープストーンを買い、俺は数年ぶりに故郷の兵庫県に帰ってきた
商業都市となったコーベはトーキョンほどではないが多くの人が賑わう大都市になっていた。
流石に1日や2日で情報がつかめるとは思ってなかったが…とりあえず俺の家族、友人探しの生活がコーベで始まった。
一週間ほどたったが手掛かりが全く掴めずイライラしていた頃、酒場で耳を疑う情報を得た。
「ファミリアというギルドがあってだな…メンバーのほとんどが低年齢低Lvのギルドなんだがトーヤというマスターがえらい強さで…」
勢いよく話に割って入り、マスターに詳しい情報を聞き出し、コーベにあったその「ファミリア」の拠点に向かった。
ギルドには全く興味がなかった故に完全にノーマークだったが、運よく情報が掴めたのはマスターのおかげだろう。
あの時興奮していたとはいえマスターには悪いことをしたなぁ…マスター完璧涙目だったし。
「ファミリア」は俺達が原作ゲームで入っていたギルドの名前だ。ギルドのマスターの名前もトーヤ。これはひょっとしたら…
なんでも「ファミリア」が有名なのは、何でもマスターはLv255のMAXかつ、装備も戦い方もそこらへんとは段違い。
個人的に王宮からの依頼も来ることがあり、あの「クロスD」等のトップクラスの実力者達に混じってクエストをしたこともあるとのことだ。
「蒼英候」や「博楼組」といった有名な強豪ギルドからの誘いも来たということだ。
なのに全部断って、本来なら弱小と呼ばれるようなギルドをやっている酔狂だからとのことらしい。
ちなみに「ファミリア」という名前はファミリー……家族のような仲のよさと団結力を……とかいうキザというかロマンチックな理由な訳ではないらしい。
ギルマスはでかいファミリーパックのアイスを買って馬鹿食いするのが夏の楽しみだったらしく、ギルドの名前を決める時もパソコンの前で食っていたらしい。そのアイスの名前が「ファミリア」だそうな。
(「もしかしたらギルド名は「チーム・ガ○ガリ君」だったり「ハーゲン○ッツ愛好会」になっていたかもな、ははは!」)
そうチャットで言っていた。……聞かなかったことにしたはずだったが…忘れよう
その後「大異変」ぶりにフォスやクイチといった昔の友人、ネット上でしか会ったことがないマスターのトーヤと再会したという訳だ。回想終わりっと。
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《商業都市・コーベ》
「ファミリア」の拠点はコーベのいわゆる商業区画よりも離れたところにあり、大都市という割には人通りはそれほど多くない。
中庭のあるヨーロッパ風のお屋敷を想像してもらえるとそれほど差異はないだろう。弱小ギルドなのにかなーり大きい部類に入る拠点だ。
普通だったらもっと小規模の家が拠点だったり、拠点を持たずにぶらりぶらりと渡り歩くギルドがほとんどだ。
このでかい拠点を持てるのもほとんどトーヤのおかげだといっても過言ではない。
「たっだいまー!帰ったぞー!」
ああ、それにしても拠点に帰るたびに『家に帰ってきた』という感覚になれる。
あの「大異変」以来味わえなかった感覚だ。何よりホッとする。
「あ、お帰りータクト、あとついでにフォス」
「ついで!?」
「…おかえり」
大広間では革製の軽鎧を着た16才位の少女が、本を読んでいる長い紫色の髪の小学生くらいの少女の髪を梳かして遊んでいる。
本を読んでいる少女は特に気にすることなく本に集中……ってだれだそこの紫色は
「あ、あれ?ひょっとして香里?髪の毛染めた?」
「染めたのは恵理、私は染められただけよ」
「光一に頼んでいた『新作品』が今日出来上がったんや。それで早速香里に使ってみてん♪」
「おいおい、香里ちゃんはお前のおもちゃか何かかい?」
「黙れ小僧」
「ねぇ俺最近皆に嫌われてない?」
さて、フォスは放っておいてここで人物紹介といこうか。
ただいま絶賛読書中の少女は香里。小学校低学年ぐらいに見えるくらい小さいが、小学生だったのは「大異変」当時の話で、今はれっきとした中学生。
なんとこう見えてLv200を超える実力者。ジョブはウィッチ・ビショップの魔法使いで、強力な攻撃魔法をガンガン使えるこのギルド屈指の実力者だ。
しかしレベルが半分以下のフォス以上のもやしっ子で、スタミナもないためか肉体労働になるとすぐバテる。魔法はとんでもなく強いのに…
本を読むのが大好きで、最近では放っておいたら本ばかり読んでいる。
そのため皆が交代でクエストに無理やり連れ出すのだが…そのクエストも強力な攻撃魔法ですぐに終わらせてとっとと家に帰るという始末。
基本的に本を読んでいる間は愛相は悪いし無口だけど優しい子で、「大異変」前の時から一緒だった幼馴染の男の子とずっと一緒にいたらしい。ちなみにその男の子もこのギルドに入っている。
今フォスに辛辣なセリフを吐いた少女は恵理。エセ関西口調で話す。「大異変」前の友人一人と一緒にこのギルドに入ってきたらしい。
ジョブはフェンサー・ナイトで、近接戦闘を得意とする、年齢16歳。可愛いものには目が無く、最近は香里がお気に入りらしく、色々な衣装を着せたりして遊んでいる。
こういうことには自分のお金や装備も惜しみなく使うタイプで、ついに他人の髪の色にまで手を出してしまった…要注意人物だ。
「光一に頼んでいたヤツって確か…髪の色を根本から完全に染めるとかいうやつだっけ?」
「染めるというよりも「変える」に近いな。解除のアイテムを使わん限りこれから生えてくる髪も紫色になるはずやで。」
「おいおい!コスプレのために他人にそこまでやるかフツー、香里ちゃんいいの?」
「いい、それに割と気に入ってるわよ」
「ああんもう可愛い奴やなー♪香里は」
さっきから名前だけ出ている「光一」は昔の俺の友人の一人で、コーベで錬金術師をやっている。こいつについては…色々言うことがあるので後で説明する。
「もう夕方だしそろそろ皆も帰ってくるんやないかな?」
「トーヤはノイチと海斗と雪芽を連れてどっか行ってるのか?」
「トーヤは知り合いに呼ばれて『不死の魔境』に行くんやとさ、クイチと海斗は雪芽と一緒にお買い物や」
「げっ、『死人の魔境』ってたしか元青木ヶ原樹海だろ?「大異変」前でも十分危険なところじゃないか」
フォスの言うとおり『不死の魔境』は自殺スポットで有名な青木ヶ原樹海、通称富士の樹海が「大異変」で変化したおそらく日本屈指の難関ダンジョンで、名の通り強力なアンデットやゴーストたちの巣窟だ。
昼でも薄暗くて見通しが非常に悪い上に足場も悪く、敵も凄く強い。しかもそこで死んだ旅人はアンデットの仲間入りをしてさまよう羽目になる何重にもおっそろしいダンジョンだ。
しかも奥地に行くほどゴーストの数が半端じゃなくなり、奥の奥がどんな風になっているのかはよく知られていない。
アンデット最強のボス、ノーライフキングの姿を見たとかいう噂も聞いたし、地底に続く洞窟の入り口もあったとかいう噂もある。
「…大丈夫、トーヤのことだから」
「そうだな、あの人なら奥地に行かない限り…行っても帰ってくる気がするな。」
「まっさかー、いっくらトーヤでも流石に…」ガチャッ
「たーだーいーまー。いやー『不死の魔境』はすごかったぞ!地底洞窟があるって噂は本当だったし、あ、奥まではいけなかったぞ?流石に
ノーライフキングは見なかったけどあんなに大量のゴーストキングの群れは初めて見たし、そうそう!地底洞窟では凄いモノを…ってどうしたお前ら」
いきなりドアが開いたかと思うと巨大なハルバードを背負い、全身を覆うミスリル製の重鎧に緋色のマントを着た男性がペラペラしゃべりながら大広間に入ってきた。
彼こそが我らがギルドのマスターにしてチート使用を疑う強さ諸々を誇る人物、トーヤ。ってホントに帰って来たよこの人
「…この変態」
「変態!?流石に変態は酷いじゃないか恵理」
「いやだって…まず地底洞窟なんてホントにあったんですか?そもそもそれって奥地ですよね?奥地まで行って誰も行ったことがないであろう地底洞窟を探索してって貴方…」
「俺以外にも強い人が8人程いたし、そのうち5人は一緒に王宮の依頼を請けたこともある実力者だったからな。流石に途中でヤバくなったからワープストーンで逃げたが…」
「不死の魔境に地底洞窟か…俺でもいけるかな?」
「タクトなら大丈夫だろう。何なら今度行く時ついてくるか?」
「うーん…、まぁとりあえず考えておきます。ところで凄いモノって何だったんですか?」
「ふっふっふーそうだったな、これを見ろ!」
トーヤが取り出したのは薄く青色に輝く6角形の石板。こ、これは!
「エネミーチェンジスクロール3やないか!初めて見たわ!」
恵理がやたら興奮しているが無理もない。このエネチェン3は超がつくほどのレアアイテムで、これ一個うまく売れば一般人なら一生働かなくても暮らしていける金が手に入るほどだ。
冒険者なら欲しかった他のレアアイテムや装備も一通りそろえることもできるだろう。それぐらいの価値を持つアイテムなのだ。
エネチェン3を使えばこの世界トップクラスのモンスターにもなることができる。あのリアーネ姫や九尾といったモンスター達がそれにあたる。
ああ、ファスが物欲しそうに見ているなぁ・・・これを使って愛しのリアーネになろうとしているんだろうが、そういってもそう簡単な話ではない。
エネチェン3自体珍しいものだからそれほど情報は集まってないが、リアーネ以外にも該当するトップクラスのモンスターはたくさん存在する。
さっき出てきたノーライフキングだってそうだし、該当するドラゴン系も多い。なれるのは全部均等な確立と仮定しても1%あるかないかぐらいじゃないかな?
ん?俺は欲しくないのかって?もちろん欲しいさ。でもこれはトーヤさんの物だ。俺は俺でいつか手に入れるさ、あげるというならもらうけどね。
「さて、このエネチェン3だが俺はいらないから欲しい奴皆でジャンケンして決めろ。」
「「「えええええええええええええーーーーー!!!!」」」
「太っ腹ね」
驚く俺達3人とは違い、冷静に返す香里…ホントに中学生なのかな
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「さて、これから第一回ファミリアギルドジャンケン大会を始める。優勝者にはエネチェン3、準優勝者にはタクト達がとってきたエネチェン2だ。」
第一回ということは第二回第三回も期待してていいのかな。それにしても優勝と準優勝の差が酷い。
「本当にいいんですか?トーヤさん。エネチェン3使ってしまって。」
「エクスになったら今あるジョブ限定スキルが使えなくなるからな。それにまだ俺もとってないスキルもあるし、この姿のままでもまだまだ強くなれるのさ。」
トーヤさんこれ以上強くなって一体どうするんだろう。トーヤさんと何回か難関ダンジョンに行ったことはあるけど…苦戦した姿を見たことは一度もない。俺は何度も死にかけたのに。
「それにこれを売るぐらいならギルドの誰かにやってどんな姿になるのか見てみたいからな!」
「それは…お礼を言ってもいいのかな…」
俺はジョブ専用スキルは後回しにして兼用スキルの習得を優先してきた。エネミーチェンジしても使えるようにしてな。
でも補助魔法のほとんどはジョブ専用だし…便利な補助スキルが使えなくなるのは正直痛い。
…まぁ悩むのは優勝してからにするか。2なら使わないけど3なら考える。いまはそれでいいだろう。
「ククク…俺の「闇王の右手(ダークキングレフトハンド)」が優勝とエネチェン3を御所望らしい…」
「あーあまた始まったでフォスの邪気眼。おら!邪気眼みせてみぃや邪気眼!」
「括弧を入れてもらって悪いがレフトは左だ」
「やっべ素でまちがえた!」
フォスと恵理とノイチのやりとりをみてケラケラ笑っていたトーヤが言う。
「まぁ単に目当てのモンスターが3でしかなれないなら3を使うのも仕方がないな。でももし強さを求めてるなら別に1でも2でもいいんじゃないか?
この間の大会でも見たようにいい戦いをした選手全員が3使用者な訳じゃないんだ。エクス1でも強い奴はそこらじゅうにいる。例えスライムとかでもうまくやればかなり強くなれる。
俺の友人にコボルトのエクスがいるんだがそいつは某大規模ギルドの…何番かは忘れたが部隊長を務める程強いぞ。重要なのはスキルとアーツと装備、何より立ち回り等の本人の戦い方だ」
「いつも思うんですけどトーヤさんの人脈ってホントに凄いですね…」
今の男の子は海斗。ジョブはシーフ・ソルジャー。香里の幼馴染で「大異変」前では、親の近所付き合いもあってか姉弟のような間柄だったらしい。
海斗は今は大体小学6年生ぐらいの年齢だけど冒険者をやっている。といってもこの世界では大して珍しいことではないかな。
Lv200を超える香里ちゃんと一緒に冒険者になって一緒に旅してたらしいけど、まだ海斗君は中級職にすらついていない。
これは一緒にいた香里ちゃんが広域殲滅魔法で無双ゲーばりの活躍をしていたため、戦闘では海斗の出番は香里の詠唱時間稼ぎ以外ほとんどなかったとのこと。
このギルドに入ってからは俺とクイチとトーヤ達皆で海斗達みたいにLvが低い子達のLvを上げるのを手伝うことにしているんだけどね。
「ねぇ雪芽、もしエネチェン3手に入ったらどーすんねん?」
「うーん、そうねぇ。よく分かんないけどとりあえず使ってみようかな。恵理はお目当てのモンスターでもいるの?」
「これと言ってはおらへんけど…もし雪芽がよかったらくれないかなって」
「はいはい分かったわ。あげるわよ恵理」
「わーいヤッタ!ありがと雪芽」
白の和服に身を包んだ美しい女性が喜ぶ恵理を見てクスクス笑う。この人は雪芽。フォンカード地方等で見られる有名な妖怪、雪女のエクスで、俺が入るちょっと前に、恵理と一緒にこのギルドに入ってきたらしい。
元々はマジシャンのシングルジョブだったとのこと。今では雪女らしく氷のアーツを駆使して戦うスタイルを使っている。
低年齢の海斗君に香里ちゃん、時々恵理の面倒をよく見るいわゆるお姉さんタイプで、このギルドの貴重な潤い成分と言える。
香里は幼すぎるし恵理は性格が…っとこれ以上言うと後ろから刺されそうだ
「いいの?雪芽ちゃん。本当にあげちゃって。」
「いいの。私は別に他のエクスになりたいって訳じゃないしね。売るのもちょっともったいないし」
のんびり屋で大人の姿勢の雪芽さんと、勝気で子供っぽい恵理。対称的な性格の二人だがとても仲がいい。「大異変」後に知り合ったということだが…そういえばどこで知り合ったとかは聞いていないな。
「さて、そろそろ始めるとしようじゃないか。タクト、クイチ、海斗、恵理、雪芽、香里の6人だな」
「ちょっと待ってトーヤさん!俺忘れてる!」
「やれやれ仕方ないな。おまけに、ついでに、お情けでフォスを加えて7人でジャンケン大会だ」
「やばい、俺何か皆に嫌われてる呪いでも掛けられたかな?あの時のシャーマン辺りに」
心当たりあるのか。別に皆嫌っている訳じゃないのに。ただ単にお前がからかわれるキャラとして確立しているだけなのに。
「それじゃあ皆でジャンケンしろ。」
「「「「「「「最初はグー!ジャンケンホイ!」」」」」」」
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「くそっくそっ、俺のリアーネが・・・」
「へっへんやった!エネチェン3頂くで♪」
「僕はエネチェン2もらいますね。明日早速使ってみることにします」
激しく、怪我人(心の傷的な意味で主にフォスが)も出る厳しい戦いの結果、エネチェン3は恵理が、エネチェン2は海斗君の手に渡った。
「ほらフォス、いつまでも凹んでないで前向きに考えろ。恵理がリアーネを引く可能性もあるという訳じゃないか。」
「うぅ・・・雪芽さんならともかく、こんなツンツンなリアーネはいやだよぅ・・・」
「あれ?リアーネって確かもともと公式でツンツンキャラじゃありませんでしたっけ?」
「うっせぇ!俺の中ではデレデレキャラとしてのイメージが確立してるんだよ!」
「お前の勝手な妄想じゃないか。いい加減諦めろフォス」
「大体リアーネじゃなくてドラゴンゾンビとかになる可能性もあったわけやからよかったやん」
「運のないフォスのことだからな…リアーネになる可能性はほとんどなかっただろう。なれたとしてもノーライフキングとか?」
「後はバンシーとかそのへんだろう」
「何でアンデットばかりチョイスするんだよお前ら。泣くぞ。」
いつものように夜はギルドの皆で談笑。疲れたらベッドに入り、朝起きたらまた交代で、クエストやお宝探しの旅。海斗、香里は寺子屋でお勉強(一応中学でやるぐらいの計算や知識は冒険では必要というのがこのギルドのモットー)。
こんな日々の過ごし方は「大異変」以来無かった。あの日からはひたすら戦う、戦う、戦う、時々休む、戦う、戦う、たまにワープストーンで日本旅行、戦うの毎日だった。
「!」
「ww」
冒険仲間はいたが毎日同じ家で暮らすということはなかったし、こんなに安らぐ日が続くなんて滅多になかった。
この安らぎを与えてくれる皆にはとても感謝している。なんだかんだ言ってフォスにも場を盛り上げる意味でからかうことはあっても、心の中ではちゃんと感謝している。
だからと言ってからかうのはやめないけどね。
「あら?誰か来たみたいですよ」
「ホントだ、玄関から声が聞こえる。」
「光一さんが遊びに来たのかな?」
「いや、この声は光一じゃないな。『トーヤさーん!』…トーヤ呼ばれてるみたいですよ?」
「ん。じゃぁちょっくら行ってくる」
そう言ってトーヤは玄関の方に向かっていった。こんな時間に何の用なんだか
「さーて、明日はどうする?もちろん明日皆で二人のジョブチェンジを見学するよな?」
クイチが明日の予定についての話題を口に出す。そうだ、明日光一のところに頼んでいたヤツを取りにいかないと。
「異議なし。俺はちょっと光一に用があるからその後で光一の店に寄るけどな。」
「私と恵理はその後海斗君と香里ちゃんを連れてクエストを受けてきますね。明日は二人とも授業はありませんから。お二人はどうします?」
「俺はそうだな……4人についていきますよ。恵理と海斗君がエネチェンを使ってどんな戦い方になるのか見てみたいし。」
「俺もフォスと同じだ」
「…私は本読んでおきたい。」
「ダーメ、あなた放っておいたら一日中家にこもりっぱなしでしょう」
「あれ?とうとう引きこもり予備軍かい?香里ちゃん?」
「うっさいフォス、『プラズマランス』」
「わぁ!ごめん香里ちゃん!ちょ……ぐわあああああああああああああああああああ!!!!」
哀れフォス。今度からはその口に沈黙魔法をかけておこうな。
「なんだ騒がしいn…ってなんだフォスか」
フォスが雷光の槍で貫かれ、地面に転がったタイミングでトーヤが帰ってきた。
「黒焦げになって分かり辛いけどフォスです。多分気を失っているので後で治療しておきますか。寝る前に」
「ああ、そうしておいてくれ」
一々フォスを気にかけていたら疲れるだけということを分かっているのか、トーヤは短くそう答えた。
「ところでトーヤさん、さっきの人は誰だったんですか?」
「あー、王宮の使いの人でな。急用が出来たからちょっと出かけてくる。明後日の夜以降には帰れるかな」
「へぇこんな夜にトーヤさんへ何かの依頼ですか?」
「それについては…答えないように言われてるんだ。悪いな。じゃ、行ってくる」
それだけ言ってトーヤさんは出かけて行った。…珍しくちょっと怖いオーラを出していたのは気のせいだろうか。依頼の内容のせいかな?気になるな…
「トーヤなんかえらい気ぃ張ってたなぁ。何かあったんかな?」
「そもそもこんな時間に急用って、結構ヤバメの仕事じゃないかな?」
「…」
雪芽さんが妙に神妙な顔をしているけど…俺が見ていることに気付いた雪芽さんはすぐに表情を戻した。…何か知ってるのかな?まぁこの場で聞くのはやめておこうか。
「まぁトーヤさんのことだから、早く終わらせてくるでしょう」
「…トーヤのことだからね」
我がギルドぶっちぎりで最強にしてその正体はメンバーの誰にもよく分からない人物、トーヤ。
時々王宮から使いの人が来て急を要する依頼や、難易度が高くて強い戦力が必要な依頼をわざわざ持って来るぐらい実力もあるし有名な人物なのに、こんな弱小ギルドのマスターをやっている。
本来ならトーヤほどの人脈や実力があればLvMAXクラスが何人もいる大手ギルドになっていてもおかしくないのに、トーヤは積極的な勧誘はほとんどしない。
それどころかこのギルドにいるのはほんの子供だったり低Lvだったりだし、一体トーヤは何をしたいのかよく分からない。
それなのに実はこの屋敷もトーヤ個人の所有物だし、トーヤがアイテムやお金で困っているところも見たことがない。財力も含めて色々な意味でそこらへんの冒険者の域を遥かに超えている。
これらのことについて聞いても適当にはぐらかされたりで、トーヤの財力についてまともな理由を知っているのはこのギルドに一人もいない。
「ふぁぁ。眠くなってきたし、そろそろ部屋に戻ろうかな。お休み皆」
「うちも疲れたし寝るわ、ほなお休み」
クイチと恵理はそう言うとそれぞれの寝室に戻っていった。こんな時間になったし俺もそろそろ寝ようかな。
「それじゃもう夜も遅いしもう皆寝ることにしましょうか、ほら行くわよ香里、お休みなさいタクトさん。海斗君も早く寝なさいね。」
「むきゅう…眠たい…お休み…」
雪芽さんが本を枕にうたた寝していた香里ちゃんを背負って部屋に戻っていった。うーん、和服美女に背負われていく紫魔法使い、絵になるなぁ
さて、俺もそろそろ寝ようかなということで、部屋に戻って身に着けていた装備やアイテムをカードに戻して部屋の金庫にしまう。
この金庫は持ち主の許可無しでは絶対開かない特別製で、光一に頼んで作られたかなりの高級品だ。高級品といっても各部屋一つずつ配置されているんだけど。
このベッドもスノーバードの羽毛でできた…ってこの屋敷の部屋の備品は金庫の存在も考えてそのへんの宿とは比べ物にならないほど贅沢なぐらいなんだよね。
まぁとりあえず明日は二人のジョブチェンジの日だからあんまり昼まで寝坊は出来ないな。ゆっくり休むことにしよう。
こうして俺はリビングで転がっているフォスのことをすっかりと忘れて眠りについたのだった。
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《何処かの屋敷》
「……どうだ?そっちのほうは」
「駄目です。見つけた隠し通路が地下水路に続いてましたが…。また逃げられたようです。」
「クソッ。逃げ足の速いヤツだ。素早さを特化した冒険者なのか?」
「逃げ足が速いのは下っ端のことを放って自分だけ逃げたというのもあるでしょう。ヤツらの幹部は部下を捨て駒にしか思ってませんから。」
「だろうな、とはいえ連中もあまりに急に襲撃されたせいか、客のことも放っておいて逃げたようだな。もちろん一人残らず捕らえておこうか。」
「はい」
背の高い人物と、比べて小柄な人物がどことも分からない屋内で会話をしている。辺りは騒がしく、怒鳴る声や悲鳴を上げる者もいる。
騒がしい集団の中にその小柄な人物を含め、似たような姿をしている人たちがいる。それら全員は警察組織の制服を着ていて、どうやら違法な店に踏み込み調査に押し入ったようだ。
背の高い方の命令を受け、小柄な方は近くにいた集団に指示を出している。小柄な方は数ある小部隊の中の隊長らしい。
背の高い方の人物は、全身を黒いローブで身を包んでおり、顔もフードで隠れてよくわからない。
「それにしても今回は連中あまり抵抗しなかったな。やはり幹部がさっさと逃げたせいか。部下も混乱しっぱなしのようだったし。」
「いつもこんな感じだと楽でいいんですけどねぇ。前なんて僕達返り打ちにされるところでした。結局その時も幹部を逃がしてしまいましたし。」
「連中の中にはLv200を超えるベテランもいるという話だ。下っ端とは言え侮れないからな。お前達のせいではないさ。」
「"軍神"先輩が来てくれたおかげで今回は楽に鎮圧できました。ありがとうございます。」
「まだ礼を言うのは早いだろ…あとホント"軍神"って誰が最初に呼んだんだよ。やめてくれ恥ずかしい。」
「えー何でですか。格好いいじゃ…」
「くそ!何で今日に限って警察が踏み込んでくるんだよ!」
2人が話をしていた近くの部屋から警察隊員に抑えられて男が一人連れ出されてくる。
その男は身に何もつけてはおらず、男が出てきた部屋の奥にはまだ幼い少女が一人、女性の警察隊員に慰められている。女性隊員の手には万能薬…状態異常を解除するアイテムが握られている。
その少女も裸のままであり、少女の方は何かしらの状態異常にかかっているようだ。どうやら男はその女の子とベッドの上で最中だったらしい。
「…僕達は警察組織です。この店で違法な売春行為が行われているとの情報を手に入れ、踏み込みました。この店の関係者はもちろん、貴方にも疑いがかかっておりますので我々の…」
「はぁ!?何でだよ!俺は関係ねぇよ!いいからとっとと離せよ!おい!」
男は腕をつかんでいる隊員を振り払おうともがく。そこにローブの男が近づき…
ドゴッ!
抵抗する男に強烈な回し蹴りを放つ。男の体は吹っ飛び壁に激突し、そのまま床に崩れ落ちる。
「まーったく。往生際の悪い。明らかにヤってたんだろうに、なーにが『関係無い』だよ。…そのクズを早く連れて行ってくれ。」
「は、はい!」
抑えていた隊員が床に転がる男を抱え上げ、入口の方に連れて行った。
「ったく…ロリに手を出す連中はクズ。手を出さずとも犯罪に走る奴はゴミ。そういう奴らがいるから健全なロリコンも変な目で見られるんだよ。」ボソ
「はい?」
いぶかしげな顔をする小部隊隊長。どうやら奥の方にいる女の子と女性隊員にはローブの男の声は聞こえてないようだが…
「いいか、真のロリコンは紳士なんだ。ロリに性的感情を覚える時点で失格と思っていい。真のロリコンにとってロリというのは性の捌け口なんて下賤な物じゃない。
もっと高貴で神秘的なものなんだ。まず真のロリコンの条件としてロリに不快な感情を一切与えてはならないということだ。自分の汚れた手が触れる時点でその神秘性が失われるといっても過言では無い。
つまりロリというのはもっと畏れ多く扱うべきであり、ロリの無邪気な行動の一つ一つを見て、聞いているだけで癒しを受けるようにならなければ真のロリコンを名乗る価値は無い。
しかし、ただ見聞きすればいいというものではない。覗きであったり盗聴であったり、また、じろじろ見る。こういったこともアウトだ。
まず犯罪行為は論外。また、じろじろ見てロリに不快感を与えるのも駄目。ボディタッチなどもってのほか。付きまとうのは下郎の行い。
さりげなく、ロリの癒しはその範囲で十分受け、何よりロリに危険が迫るようであれば命に変えてでも守り抜く。この覚悟が真のロリコンには必要と言えるだろう。
あとロリコンだからと言ってロリ範囲外のレディには優しくしない奴は、まず男として駄目だ。全てのレディに優しくし、紳士的にロリを愉しむ。
これらの条件をすべて満たす奴にだけ、俺が真のロリコンと認めてやってもいいだろう。」ボソボソ
「せ、先輩…!」
「さて、馬鹿言ってないで真面目な話に戻ろうか。」
「あ…………、そうですか」
「今回の"被害者"は結局何人いるんだろうな…この店はあまり大きくないが…10人ぐらいはいそうだな…」
「「大異変」が起こってもこういうことがあるんですね…腹が立ちますよ本当に。」
「「大異変」があったからこそ発展した分野なのかもしれないぞ…」
「ですね。ランダムチェンジャーにエクスチェンジ。これらの存在が"需要"を満たす要素になりますし。」
「あとは錬金術だな…錬金術によって作られる薬が"被害者"を抑えるのに使われるしな。」
「そうですね…ところで今回も"被害者"の方達を引き取られるんですか?」
「多分な。希望者がいた場合、俺達の中の誰かが引き取る形になる。せめて一人立ちができるLvまでサポートして…それから先はその人達が決めることになる。」
2人が話をしている間に店内の客の取り押さえ、"被害者"の保護が大方終わったようだ。近くの部屋で女性隊員にケアを受けていた少女がシーツに包まり、隊員に連れられて部屋から出てくる。
「あ、あの…本当に助かりました。ありがとうございます…。」
少女の銀色の髪の毛の中からは白い犬の耳が生えている。また、シーツの影に隠れて分かり辛いが、白い犬の尻尾もみられる。
「『銀狼』…かな?寒冷地域にみられるモンスター『銀狼』のエクス。違うかい?」
「はい…そうです…。旅をしていたらいきなり数人の男の人に囲まれて…私あまり強く無かったので、すぐ気絶させられちゃって…
起きたら暗い部屋の中にいて…そこにいた男にエクスチェンジ1を使うように脅されて…『銀狼』のエクスになったと思ったら次は…!」
「あストップストップ。これ以上話すのはつらいだろう。無理して話すことではないよ。…もし聞いてほしかったら続けてもいいけど…」
「いえ…グスッ…ありがとうございます…」
少女はこぼれそうになる涙を抑えながら、女性隊員について行った
「先輩…あの子ってもしかして…」
「多分な。なーぜかランダムチェンジャーとかエクスチェンジを使って○○した場合って美形になりやすいんだよなぁ」
「それに今では珍しくない人外の姿…。その姿にそそられて欲望を出す連中は少なくないんですよねぇ」
「そしてその需要を満たすために"B.C"はこの稼業を続けている訳だ。もっとも"B.C"の悪行はこれだけじゃないが…とっとと大元を潰さないと"被害者"はどんどん増えるばかりだな。」
「その大元についてはまだよくわかってはいません…というのも幹部でもボスについては全くと言っていいほど知らされていないらしいのです。
顔を見たことのある人すらもいないとか…なんでもボスについて知ろうとしたら殺されるとか…」
「なんだそれ、ボスはどうやって部下に指示を出しているんだよ、イタリアのギャングじゃあるまいし」
「パッショー○ですね、自分も「大異変」前はよく読んでました。」
「まぁ"B.C"のボスが何だろうと、裏の世界を牛耳ろうとしていようが何だろうと、捕まえてボロ雑巾にしてやらないとうちの子達の気も晴れないんだ。
早いとこボスについての情報をなんとか集めてくれよ、警察さん」
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《商業都市コーベ・転生の祭壇前》
午前中は冒険に出かける冒険者が多いせいか、今コーベは夕方以降と比べ、人が少ない。…とはいっても"商業都市"の名の通り、商業区画は一日中賑わっているのだが。
コーベの転生の祭壇はその商業区画に通じる大通りの中にある。商業区画に掘り出し物を見つけに、冒険に必要なアイテムをそろえに行く冒険者達。
日用品をそろえに行く一般人客。大きな荷物を担いで、この都市で一旗上げようとする商人達。大きな馬車に仕入れ品を積み込み、自分の店に向かう商人の姿も見られる。
様々な人達が、この大通りを通って商業区画に向かう。俺達のように転生の祭壇に用がある人は、その人達に比べてそれほど多くない。
というのもこのコーベの商業区画では、取引に関しての税金が一切かけられていないのだ。全国から商人が集まるのも当然だろう。
当然掘り出し物が見つかる可能性も大きくなり、全国から人がどんどんやってくる。
また、コーベでは一部の商品を独占的に扱う商売は厳しく取り締まっている。それらのおかげで新しくこの町に来た商人が失敗する…ということはあまりない。
そのおかげで市場はどんどん成長し、その大きな市場に惹かれて多くの人が移り住み、この都市全体の経済は首都:トーキョンに匹敵する。
現代の楽市・楽座、それがこの商業都市コーベだ。
さて、今回俺達トーヤを除いたメンバーはお買い物ではなく、海斗と恵理のエクスチェンジの見学だ。特に恵理はLvが100を超える程度にも関わらず、エネチェン3を使おうとしている。こういう例ははっきり言って滅多にない。
エネチェン3自体珍しいのもあるが、そもそもエネチェン3を手に入れようとしたら難関ダンジョンに潜ってレアモンスターをしとめるなり、それなりの実力を必要とする。
Lv100というのは弱くは無いけど決して強いとは言えない。実際トーヤが行った「不死の魔境」なんかに恵理が行ったら秒殺必至だろう。
エネチェン3もこの世界屈指のレアアイテムで価値が非常に高いのに、たまたま手に入れたからって誰かにただであげるようなこと自体が異常なのだ。
「さーて海斗、先あんたからやりーな。ウチは多分目立つやろーから後のほうがいいねん。」
「分かりました。じゃぁ遠慮なく行ってきますね。ところで皆さん、エクス2と言ったらどういったモンスターになれるんですか?」
「エクス2と言ったらそうだな…セイレーンとか…フェンリルに…ゴーレムといったところかな?」
「あと海斗、ドラゴン系のモンスターになれたって話もあるわよ。」
「ドラゴン!分かった!ありがと香里お姉ちゃん!」
海斗は浮かれた様子で祭壇の階段を登っていった。その姿に気付いた人達が海斗に注目する。
「おっ、あの子が手に持ってるのはエネチェン2じゃないか?」
「へー、エネチェン使うのは期待できるね。大体姿が大きく変わるから見てるだけでも楽しいし。」
「だな、どんな姿になるやら。」
大通りを通っている人達も、祭壇の上の海斗に注目する。普通のジョブチェンジとは違ってエクスチェンジはちょっとしたイベントだ。
「香里ちゃん、海斗君はドラゴンになりたがっているのかい?ドラゴンという言葉に反応していたけど」
フォスが手持ちの本を立ち読みしている香里に声をかける。弟のような存在の海斗の重要な場面というのにえらい冷静だ。
「多分ね。あの子ドラゴンとか大きなモンスター好きだったし。」
「やっぱりそうか。それにしてもエクスチェンジか…何か予感がするな。(何よりコレ支援所の作品だからな)」
「予感って何だ?フォス。別にエクスチェンジして弱くなるってことなんかほとんどないだろ?」
「いやなに、エクスチェンジって狙ったモンスターには特になり辛いって言うだろ?」
「あー、確かに原作でもそんな感じだったからな。物欲センサーついてるんじゃないか?って」
「…それに場合によっては性別が変わることだってあるんだろ?」
「ハハハ。性別が変わるエクスなんてそれほど多くないだろ。」
「全くだ。まぁエクスチェンジで女になった!って話はよく耳にするけどな。」
フォスの予感とやらに対し、俺とクイチが突っ込みを入れる。大体そんな話題を出したら本当にそうなるんじゃないかって…
「ジョブチェンジ!!!」
いつの間にか祭壇にいた海斗がエネチェン2を掲げ、合図の言葉を叫ぶ。その瞬間祭壇は光に包まれた!
……………………光が少しずつ収まってきた。祭壇の上にはうっすらと影が見えて…
「あ、あれ…?アレって海斗君だよね?なんかすごーいことになってるけど…」
「おいおいまさか本当に…?」
光が収まって祭壇の上にいる姿が徐々にハッキリと見えてくる。そこに立っていたのは…
すらりとした細い体のほぼ全身を覆うエメラルドグリーンの体毛、黒から緑色に変わった頭髪からは大きな耳が覗いている。
腕は翼としての役割も果たせるように羽と一体化しており、足は鱗におおわれ、鋭い爪を持つ鳥の足に変わっていた。
(あれは…ハーピィだね。そう言えば昔ハーピィの大群に襲われて大変だったなぁ…動き早いし、いくらやっつけてもキリないし、爪は痛いし。ってそれよりハーピィ!?)
「ふーん…。結構カッコイイじゃない。ねぇ?」
「あー雪芽…。確かにハーピィはカッコイイっちゃカッコイイんやけど…その…」
「?ハーピィっていうの?ふーん」
…雪芽ってもしかしてハーピィのこと知らないのかな?RPG的にも結構有名なモンスターなのに。
香里は一見冷静な振りをしてるけど
「…23…29…31…37…41…」
駄目だ…素数を数えて落ち着こうとしている。流石の香里ちゃんも堪えたらしい。
「まさかフォスの言う通りになるとはな…」
「ああ…。ごめんよ海斗君。悪気も責任も無いけど一応謝るよ。」
と、クイチとフォスはそれぞれ感想を述べる
当の海斗はと…今の自分の体に驚きはしたようだが、それよりも自分の腕の翼を早速使ってみたかったのか、腕をしきりに動かしている。
高い祭壇の上からこちらを見ると…って嫌な予感が…
「あの子ひょっとしてこっちに飛んでくるつもり?」
「多分な…あっ、ほら飛んだで。」
「おおー、本物みたいに空を飛べるんだな。うらやましいな。」
「元々シーフだったからな。結構速度も出るだろう。」
高度の高い山に生息するハーピィは速度を生かして空を舞い、敵の隙をついて鋭い爪で獲物の急所を狙う。
そんな敵に足場の悪い山岳地帯で、しかも大群で襲われたらたまったものではない。
崖の多い場所、岩がゴロゴロ転がっている場所、そんな場所でも奴らはお構いなしに空から襲ってくる。
崖登りしている隙に後ろからいつの間にかザクッっというケースもある。というかされた。
大群に気を取られている間に、いつの間にか後ろに回っていたハーピィに挟み撃ちにあったりということもある。というかされた。
素早さはもちろん、高い攻撃力の爪でのクリティカルはシャレにならないほど痛い。
そんなこんなで俺には全くいい思い出が無いハーピィだが、確かに元シーフの海斗にハーピィのエクスはピッタリだと思う。…問題はあるけど。
「おっ、こっちに飛んできたな。はやいはやい」
「はやい…って早すぎやないか?うまく着地できるんかいな?」
海斗は空中での旋回を繰り返して高度を上げた後、こちらに向かって一気に急降下。風を切ってものすごいスピードで降りてきた。
「危ない!」
「きゃっ!」
地面に激突する!と思ったが、海斗は落ちる直前に腕の羽の向きを変え、落ちる速度にブレーキをかける。
着地の際にすさまじい風を起こしたものの、海斗本人は軽やかに着地した。
「すごい!僕空とべた!ねぇ見ました!?」
「この馬鹿、こっちも怪我するところだったでしょ」ゴツン
「イタイ!」
香里に怒られて少し殴られた海斗。危なかったのは間違いない。でも初めて飛んだにしては凄いコントロールだとは思う。
「イタタ…ごめんお姉ちゃん。っとそうだ、まだ何のエクスか見て無かった。『マニュアル」!」ボウッ
海斗の手に自分のステータスが記されてある魔法の本が現れる。これを見れば自分が今どんなモンスターのエクスなのか分かる。
「ふんふん…どうやらハーピィってモンスターのエクスになったようです!」
「ふふふ。かっこいいわよ海斗。」
割と深刻な事情を知らない2人がのんきに和やかな雰囲気を築いている。どうしよう…教えてやるべきか…
「あー、2人とも…ちょっとええかな?」
{どうしたの皆?そんな顔して?」
教えてやらなくてもいずれ気付くことだけど…それまで皆黙っていたと知ったら可哀想だ。
「ああ恵理、俺が教えるよ。実はハーピィはな…その…女性モンスターなんだ」
「「え!?」」
あわてて自分の股間に手を当てる海斗。しかし現実は非情である。海斗は「な、無い…」とつぶやいた。
元々海斗は童顔だったし、声変わりもまだ始まっていなかったので、多少声が高くなったり顔つきが女っぽくなったからといって特に気にはならなかった。
体つきも…ハーピィは飛ぶときに邪魔になるからか、風の抵抗を和らげるためか、それとも単に海斗が幼いからか、とにかく胸は出ていないし尻も膨らんでいない。
髪も多少長くなったけど、体を毛が覆ってあるのに目が行ってそれほど気にはならなかった。
つまり元が元だったため、女の子になったからと言ってそれほど見た目が劇的に変わったわけではないのだ。モンスターっぽくなったのは確かだが。
「…まぁ女の子になったからと言って男に戻れないわけではないし、皆も変わらず接してくれるわよ。」
「…コクッ」
そういって香里は慰める。確かにもとに戻れないことは無いが…もとに戻るためには『テイクオーバースクロール』というアイテムを使い、Lv1からやり直す必要がある。
海斗は元々Lvも低かったし、Lv1からやり直してもすぐに元のLvに戻れるだろう。
とはいえ、今までやってきたことのほとんどが水の泡になるとなると、中々踏ん切りがつきにくいモノだ。
「…一応…使う時に覚悟はしていたから…大丈夫」
うつむいていた海斗は、そう言って涙目になった顔を上げる。中々たくましい根性しているじゃないか。
「さて…、次はうちの番やな。行ってくるで。…大丈夫か雪芽?」
「え!?う、うん!行ってらっしゃい恵理」
そう言って転生の祭壇に向かう恵理を俺達は見送る。
「雪芽大丈夫?さっきボーっとしてたけど。」
「うん、大丈夫。ありがと香里」
昨日も少しボーっとしていた雪芽だけど…最近特に多い気がする。大丈夫だろうか。
ところで、先程の海斗のエクスチェンジの時から群衆の注目は俺達、そして恵理に移っていた。
「お?今度はあの子がするのか?」
「いや、もしかしたらただのジョブチェンジかも知れんぞ。」
「あ、鞄から何か取り出してるけど…ってあれは!」
「おー!エネチェン3じゃない!」
「へーあの嬢ちゃん、あの装備の割にやるじゃないか。」
流石にエネチェン3を使うとなると注目度は段違いにあがる。エネチェン3持ってる時点でただものじゃないってこともあるからな。
恵理もそのことはわきまえているらしく、群衆が増えるまでなかなかエネチェン3を使おうとしない。
「恵理ってばなかなか使おうとしないわねぇ。」
「あいつあんなに目立ちたがりだったのか…期待させて置いて大したこと無かったら笑えるぜ。」
エネチェン3を使うという噂が広まったのか、見物客はどんどん増えていき、祭壇周辺は身動きが取りづらくなってきた。
おいおい…ここまで集まるとか…そろそろいいんじゃないか?
そんな空気を感じ取ったのか、恵理はエネチェン3を掲げ上げ、声高く叫んだ。
「ジョブチェンジ!」
先程同様、辺りは祝福の光に包まれた!
「おおっとようやく使ったか、どんなボスモンスターになるんだ!?」
「とうとうこのコーベにもリアーネが現れるのか!?」
「おい誰だ!今俺のチンコさわったヤt」
あまりに強い光に祭壇周辺は包まれ、辺りは騒然とする。
エクスチェンジが終わった恵理の姿が見えてくる…って!あの姿はもしかして…!
「おいおいまさか…」
「嘘でしょ…」
「すっげぇな…」
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実に、楽しく読ませて頂きました。
特に、『真のロリコンの正しい姿』。
続きも勝手に期待したて、待たせて頂きます。