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奪われた夫(前編)

2011/10/14 12:09:22
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家に帰ってきた清彦はかなり酔っていて、足元がふらついていた。
「おーい、今帰ったぞお。ヒック」
深夜だというのに真っ赤な顔で大声をあげる清彦を、友美はリビングに迎え入れ、水を一杯飲ませてやった。コップさえ満足に持てないほどに泥酔した姿に、ため息を漏らす。
「はあ……ちょっと飲みすぎよ、清彦。双葉さんの体はお酒に弱いの、あなたも知ってるでしょう?」
「ばっきゃろー。あのくらいの酒、飲んだうちに入んねえよ」
清彦は据わった目で友美をにらみつけた。口からアルコールの不快な臭いが吐き出され、友美は顔をしかめた。
「と、とにかく着替えて。今日は双葉さんと一緒だったのよね?」
「ああ、あいつはもうちょっと飲んでくるってよ。『男の人だけで行くお店があるの』とかいって浮かれやがって、まったく気に入らねえ。とっとと俺の体を返しやがれってんだ。バーロー」
「そうね。そんなことができたら、どんなにいいかしらね……」
友美はしみじみとうなずき、清彦が着ている女物のスーツを脱がせ始めた。
スーツだけではない。スカートの裾から伸びる清彦の細い脚を、艶かしいダークブラウンのストッキングが覆っていた。繊細な手は爪の形も綺麗に整っていて、みずみずしい肌を晒していた。
今の清彦は全身のどこをとっても、せいぜい二十歳過ぎの美しい女性にしか見えない、変わり果てた恋人の姿に友美は再び嘆息し、脱がせた清彦の服をハンガーにかけ、壁に吊った。
窮屈なスーツを脱いで楽になったからか、清彦は大の字になって床に寝転んでいる。器量よしの若い娘が大きく脚を開いて寝そべるしどけない姿に、友美は呆れずにはいられない。
「はあ……駄目よ、清彦。こんなところで寝たら、体を痛めるわ」
清彦の隣に腰を下ろして、友美は彼の体を揺り起こした。細い髪が友美の指に絡む。ちょうど肩にかかるくらいの長さの、綺麗な茶色の髪だ。さらさらの前髪の下には、充分に美女と呼んでいい端麗な女の顔があった。唇には紅が塗られ、蛍光灯の光を反射して妖しく輝いていた。
この顔も、本来の清彦の顔ではなかった。信じられないことだが、清彦の体も顔も、まるで別人の女のものになっているのだ。

ひと月前まで、佐藤清彦は田中友美の婚約者だった。
もとは同じ高校に通っていた同級生の間柄で、サッカー部のキャプテンを務めていた清彦に、当時マネージャーだった友美が告白したのが交際の始まりだった。
高校、大学、さらには就職してからもその関係は続き、やがて二人が間もなく三十路を迎えようという頃、とうとう清彦が結婚しようと言い出した。
無論、友美は喜んで承諾した。互いの家族にも話を通し、全てが順調かと思われたとき、思いもしないタイミングで邪魔が入った。
清彦の職場の同僚である双葉という娘が、二人の間に割り込んできたのである。
「あたしは清彦さんと愛し合っているんです。つき合いの長い彼女だか何だか知りませんけど、あなたみたいな人に清彦さんは渡せません!」
そう主張する双葉は、清彦の会社に入ったばかりの新人社員で、清彦を含めた職場の皆から非常に可愛がられているという。
だが、実はかなり思い込みの激しい人物のようで、自分に愛想よくする清彦の態度を「清彦は自分に惚れている」と都合よく解釈し、この結婚をやめさせようと、図々しくも友美の住むアパートにまで押しかけてきたのだ。
「何を言ってるの? この人は私と結婚するのよ。くだらないことを言ってないで、早く帰ってちょうだい」
「いいえ、帰りません。清彦さんはあたしのものです。あたしと結婚するんです」
「双葉ちゃん、俺は友美と結婚するんだ。悪いけど君とは一緒になれない」
いくら清彦が言い聞かせても、双葉はまったく聞く耳を持たない。帰るどころか激昂して暴れだし、友美に危害を加えようとした。
「危ない、友美! 双葉ちゃん、やめるんだ!」
清彦は双葉を押さえつけようとしたが、暴れる彼女と揉み合いになり、バランスを崩して二人一緒にアパートの階段から転げ落ちてしまった。
「きゃあああっ !! 清彦、大丈夫 !?」
友美は急いで清彦に駆け寄ったが、起き上がった彼の様子がどこかおかしい。なぜか清彦は友美のことを憎々しげな視線でにらみつけて、「この泥棒猫! 清彦さんはあたしのものよ!」と大声で叫んだのである。
どういうことかと首をかしげる友美の背後で、気を失っていた双葉が目を覚ました。清彦と同じく目立った怪我はしていないようだが、やはり彼女の振る舞いも奇妙だった。
「あれ、俺がそこにいる。一体どうなってるんだ?」
双葉は清彦の姿をまじまじと見つめて、心底不思議がった。
一方の清彦も双葉の姿を見て、「あ、あたしがいる !?」と驚愕している。
はたから見ている友美には、何がどうなっているのかさっぱりわからなかったが、詳しく話を聞いてみると、なんと二人の心が入れ替わってしまったのだという。
「き、清彦と双葉さんが入れ替わった? そんな馬鹿なことが……」
あまりにも突拍子のない話だったが、清彦にも双葉にも、演技をしている様子はまったくない。困惑する友美とは対照的に、清彦はすこぶる上機嫌だ。
「ふふふ、やったわ。これで清彦さんの結婚をやめさせられる。今はあたしが清彦さんだから、あたしが嫌って言えばそれでいいんだものね」
「清彦、何を言ってるの !? どうして今さら結婚をやめようなんて言うの」
「まだわからないの? あたしは清彦さんじゃないわ。本物の清彦さんはそっちよ」
清彦は冷たい声で言い、いまだ事情が飲み込めていない双葉を指差した。信じがたいことだが、本当に二人の心が入れ替わってしまったようだ。
「い、いやよ! そんなの、絶対に認めないわ! 清彦の体を返して!」
友美は清彦の肉体を手に入れた双葉に食ってかかったが、双葉はにやにやと笑うばかりだ。
「駄目よ。元に戻っちゃったら、清彦さんはあたしのものにならないじゃない。見てなさいよ。あなたとの結婚は、絶対にやめさせてやるから」
「そ、そんな……」
「待つんだ、双葉ちゃん。こんなのおかしいよ。何とかして元の体に戻ろう」
「そうよ、清彦の体を返しなさい! この体泥棒!」
双葉の体になった清彦と友美は必死で双葉に呼びかけたが、彼女は頑として聞き入れない。
もっとも、どうすれば元に戻れるのかわからないのだから、仮に双葉がうなずいたとしても、結果は同じだったかもしれない。
「まあ、とにかく入れ替わっちゃったものはしょうがないですね。しばらくお互いの立場になって生活しましょう。明日から清彦さんはあたしの代わりに『鈴木双葉』として会社に来て下さい。代わりにあたしが清彦さんのふりをして仕事を頑張りますから」
勝ち誇った双葉の提案に二人は驚き、呆れ果てた。
「それは困る。こんな体でどうしろって言うんだよ。俺の体を返してくれ、双葉ちゃん。頼む、この通りだ!」
清彦は泣きそうな顔で懇願したが、双葉の返事は芳しくない。
「うーん、どうしよっかなあ。清彦さんがその人との結婚を諦めてあたしと結婚してくれたら、元に戻ってあげてもいいんですけどね。まあ、それも仮に元に戻る方法があったらの話ですけれど。ひょっとしたらあたしたち、一生このままかもしれませんよ」
嬲るようなその言い方に、清彦と友美はただ打ちのめされるしかなかった。

結局、それから清彦と双葉は元の体に戻っていない。
元に戻る方法がわからないのに加えて、当事者である双葉自身にまったく元に戻る気がないのでは、どうしようもなかった。
友美は双葉の体になった清彦を自分の部屋に泊めて、彼が不慣れな女の体で困ることがないように、面倒を見てやることにした。
「ごめんな、友美。せっかく一緒になれるところだったのに……」
「いいのよ、清彦。そのうち元の体に戻れるわ。結婚はそれからにしましょう」
友美は笑顔で清彦を励ました。半分は自分を慰めるための言葉だった。
こうして現在、清彦と双葉は互いの立場を取り替えて生活している。
入れ替わった当初、清彦は化粧の仕方がわからなかったり、乱暴な言葉遣いで喋ったりして周りを驚かせていたが、女の体にも少しずつ慣れてきたらしく、入れ替わりから一ヶ月が経過した今では、ほとんど違和感なく「鈴木双葉」として振る舞うことができるようになっていた。
だが、自らの肉体と立場を奪われ、今まで勤めていた職場で女子社員として愛嬌を振りまくのは、やはり大きなストレスなのだろう。泥酔してだらしなく床に寝そべり、愚痴とも八つ当たりともつかない罵声を吐く清彦を、友美は強く抱きしめた。
「はあ……本当に、あなたが元の体に戻れたらどんなにいいかしら……」
とりあえず風呂に連れて行こうと、清彦が着ているシャツのボタンを外す。
中身は確かに将来を誓い合った男ではあるが、外見は友美よりも年下の美しい乙女である。シャツの中から現れた薄桃色に火照った肌はすべすべしていて、もうすぐ二十代を終えようとしている友美のものよりも、明らかにきめが細かい。
「とっても綺麗な肌だわ。あなたがこんな可愛らしい女の子になっちゃうなんて……」
友美は少しうっとりした顔で、清彦からブラジャーを取り去った。こぼれ出た乳房がぷるんと揺れて、豊かな弾力を示した。
「ん? 何をしてるんだ。俺のおっぱいなんか見て面白いか?」
清彦が怪訝な表情で訊ねてきたが、友美はそれには答えず、小さな宝石のような乳頭を指先でつまんだ。張りがあるだけでなく、ほどよく大きくて形のいい乳房だ。最愛の相手の胸を優しく撫で回しながら、友美は軽い嫉妬に襲われた。
(私よりも若くて綺麗だなんて……何だかうらやましい)
自分よりも美しい女になってしまった恋人に、羨望と憎しみを覚えた。結婚したら待ち望んだ子供を作ろうと思っていたのに、今の二人にはそれが叶わない。
清彦の体を奪ったあの女は、今ごろ何も知らない同僚たちと上機嫌で酒を酌み交わしていることだろう。
友美が「清彦」の子供を授かるには、二人の体が元に戻るのを待つか、さもなくば、あの忌々しい女に頭を下げて自分とセックスしてもらわなくてはならないのだ。
(そんなの嫌。あの女とそんなことをするくらいなら、子供なんていらない)
友美は清彦の乳首をいじるのをやめると、その頬を押さえて優しく唇を重ね合わせた。飲酒した人間に特有の、鼻につく口臭が口の中に侵入してきたが、吐き気をこらえて舌を伸ばし、清彦のと絡め合わせる。愛しい相手と接吻しているのだという満足感が、友美の胸を満たした。
「おお、なんだ? 今日は大胆だな。んっ、んんっ」
清彦は赤ら顔で喘ぎつつも、友美の期待に応えて彼女を抱き返してくれる。女同士で交わす濃厚なキスに、友美は下腹の奥がジンと疼くのを感じた。
「ああ、清彦。あなたがどんな姿になっても愛してるわ……」
「俺もだよ。友美、愛してる。んんっ、んんっ」
抱き合っているのが憎い女の体であることも忘れ、友美は清彦との接吻に没頭した。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


清彦が働いている職場は地元ではそれなりに名の通った商社の総務課で、人事や車両・備品の管理、窓口での応対など幅広い業務をかかえている。
双葉の体になった清彦にとって、自分に回ってくる仕事は新人向けの比較的楽な内容のものばかりだったが、今日は二日酔いがひどくて仕事がなかなか手につかない。目を皿のようにして書類をチェックし、証明書や報告書を作成していると、頭が割れるように痛んで、喉の奥から吐き気がこみ上げてくるほどだった。
(くそ、夕べは飲みすぎたな。いつもの俺ならあのくらいの量、どうってことないんだが。双葉ちゃんの体は本当に酒に弱いんだな……)
清彦はパソコンのモニタから視線を外し、うつむいて顔をしかめた。下を向いた拍子に女子社員の制服の胸元を押し上げる大きな膨らみが目に入り、今の自分が「鈴木双葉」という名前の女性であることを改めて思い知らされる。女になって既に一ヶ月が経ったというのに、いまだ元の体に戻れる見通しはなく、焦燥感だけが募った。
「双葉ちゃん、気分が悪そうだけど大丈夫かい?」
デスクの向こう側の席から、清彦を気遣う男の声がした。そちらを見るまでもなく、彼には誰が話しかけてきたかがわかる。清彦の姿をした双葉だった。
「は、はい、大丈夫です。大したことありませんから……」
清彦は顔を上げ、かつての自分に向けて愛想笑いを浮かべてみせた。だが、しおらしい態度とは裏腹に、清彦の腹の中では激しい怒りが渦巻いている。
(畜生、俺に成りすましやがって。とっとと俺の体を返せ)
自分の肉体を奪った相手が何食わぬ顔で自分に成り代わっているのが、そして周囲の人間が誰一人として二人が入れ替わったことに気がつかないのが、本当に腹立たしい。
頭痛と怒りに気持ちをかき乱され、清彦は書類の束を床に取り落とした。ぱさりと乾いた音が辺りに響き、同僚たちの注目を集めた。
「どうしたの、双葉ちゃん。なんだか顔色が悪いよ」
一同を代表して、総務課の課長が心配そうに訊ねてきた。
「いえ、ちょっと気分が悪くて……でも、大丈夫です」
清彦は軽く頭を押さえ、弱々しい声で答えた。
「そうかい? でも辛かったら無理をせずに休むんだよ。体は大事にしないと。仕事なんて、ちょっとくらい遅れたってどうにでもなるものなんだからね」
「はい、ありがとうございます」
媚びるような笑顔で課長を喜ばせたあと、清彦は小用と言って職場を抜け出した。気分が悪いのは本当だったが、今のいじらしい仕草には演技も大いに混じっている。素直で可憐な女の子を装っていれば、課長をはじめとした男性社員たちが自分を贔屓して甘やかしてくれるのを、双葉になった清彦はよく理解していた。
(何しろ、双葉ちゃんは課長のお気に入りだからな。何が「仕事なんかどうにでもなる」だよ。あのハゲオヤジめ。俺に向かってそんな台詞、言ったことないくせに)
と、心の中で毒づく。
冷たいものでも口にして落ち着こうと、社内のこぢんまりとしたカフェスペースに置いてある自販機で飲み物を買った。冷えた紅茶で喉を潤し、窓の下に広がる街並みをぼんやり眺めていると、ポケットの中の携帯電話が震えて、メールの着信を告げた。双葉からだった。
「今から会議室に来て」
内容はこれだけだ。素っ気ない文面に、清彦は首をかしげた。
(なんで会議室なんだ? 今日はあそこを使う予定はないはずだが……)
ひょっとすると、急な用事が入って総務課が駆り出されることになったのかもしれない。飲みかけの缶の中身を一気に腹に流し込むと、清彦は階段を上がって会議室へと向かった。このオフィスビルの五階には大小二つの会議室がある。大会議室の方は鍵がかかっていて、中に入ることはできなかった。
ならば小会議室だろうかと思ってドアノブを回すと、スムーズに扉が開く。電灯のついていない薄暗い室内で、双葉が清彦を待っていた。
「こんなところに呼び出して何の用だよ。何か手伝いでも言いつけられたのか?」
「ううん。清彦さんが仮病を使って抜け出したから、ちょっとお喋りしようかと思って。ほら、ほかの人がいるところだと、気兼ねせずに話なんてできないでしょう?」
双葉は長机に腰かけて微笑み、清彦に隣に座るよう勧めた。
確かに、今の二人は中身が入れ替わっているのだから、事情を知らない他人の前で、普段の口調で会話することはできない。彼女の言っていることは理解できるが、しかし、何もわざわざこんな暗いところに隠れるような真似をしなくともいいのではないか、と清彦は思った。
「仮病じゃない。頭が痛いのは本当さ。夕べは飲みすぎたもんでね。しかし、君の体は本当に酒に弱いんだな。俺の体じゃこんなことはなかったよ」
「そうですね、あたしもびっくりしました。いつもはお酒なんて少ししか飲めないのに、清彦さんの体だといくら飲んでも何ともないの。おかげで昨日は、ついつい遅くまで飲んじゃいました。うふふっ」
双葉は自分の口に手を当ててくすくす笑う。双葉の心が入っているので仕方がないこととはいえ、清彦の外見でこのような仕草を見せられると、強い違和感を覚えてならない。
「君は本当に楽しそうだな。こっちは君と入れ替わって苦労してるってのに」
清彦は苦虫を噛み潰したような顔でぼやき、双葉の隣に腰を下ろした。
「そうなんですか? でも、あたしの体だって、そんなに悪くないでしょう。新人だから皆がちやほやしてくれるし、お仕事だってそんなにきつくないし……」
「そういう意味で言ったんじゃない! 俺はもうすぐ結婚する予定だったんだ! それを君に台無しにされたんだ! 君は自分のしたことがわかってるのか !?」
清彦は声を荒げた。双葉の気楽な口調が気に障る。かつての自分の顔がひどく不快なものに思えて、腹の虫が収まらなかった。
とにかく早く体を返せと双葉を相手に息巻いたが、彼女は涼しい顔だ。
「元に戻るっていっても、どうやって戻るつもりですか? こんな症状、どこの病院に行っても治してくれそうにありませんよ」
「それでも戻るんだ! 何としても俺は男に戻って、友美と結婚する! そのために、君にも協力してもらうからな!」
「ふーん、そんなにあの女がいいんだ。あたしはこんなに清彦さんのことを一途に想ってるのに……」
双葉は抑揚のない声でつぶやくと、唐突に清彦の体を抱き寄せ、羽交い絞めにした。
「な、何をするんだ、双葉ちゃん !?」
清彦は驚いたが、きゃしゃな女の体では男の力に敵うわけがない。身動きがとれなくなった清彦の服の上を、無骨な手が這い回った。
「や、やめろ。何をするんだっ」
「騒がないで下さい。ちょっとムカついたから、あたしがどれだけ清彦さんのことを好きなのか、体でわかってもらおうかと思いまして」
「か、体でって、一体何をするつもりだ──い、痛いっ!」
豊かな乳房を乱暴に揉みしだかれて、清彦は身をよじる。しかし、双葉は清彦の体を後ろから抱え込み、決して放そうとしなかった。
「あんな女に入れ込んで、いつまでたってもあたしに振り向いてくれないなんて、清彦さんは女心をもてあそぶ悪い人です。ちょっとこらしめてあげます。ちょうど今は二人っきりだし、たっぷりと可愛がってあげますよ。うふふふ……」
「や、やめ、やめろっ。やめてくれ、双葉ちゃんっ」
男に胸を揉まれる感触に、激しい嫌悪が巻き起こる。背筋がゾクゾク震えて、目尻に涙が浮かぶ。自分が本当に情けなかった。
「駄目ですよ。あんまり大きな声を出さないで下さい。会社の中でこんなことをしてるなんてバレちゃったら、困るのは清彦さんの方じゃないですか? クビですよ、クビ」
などと言って脅しながら、双葉は手で清彦の口を塞ぐ。
窓のブラインドの隙間から漏れる明かりに双葉の顔が照らされ、まるで知らない男のように見えた。とても自分のものだったとは思えない、邪悪な表情だ。
(くそっ、まさか双葉ちゃんにこんなことをされるなんて。それにしても、女の体ってこんなに力が弱いのか。全然抵抗できない……)
抗うことのできない男と女の体格差を実感させられ、顔が青ざめる。まさか自分の体に乱暴されそうになるなどと、考えたこともなかった。
悲鳴をあげて外の誰かに助けを求めようかとも思ったが、もしもそんなことをすれば自分自身の身体が暴漢として捕まってしまう。抵抗することも逃げることもできず、清彦は悔しさに歯を食いしばるしかなかった。
「ふふ、どうですか? あたしのおっぱい、なかなかの大きさでしょう。揉み心地も抜群ですね。自分についてるのを揉むのとはやっぱり大違いです。こっちの方が断然面白いわ」
「や、やめてくれ。この体は君のじゃないか。どうして自分の体にこんなことを……」
「あら、元はあたしの体なんだから、どうしようとあたしの勝手でしょう? 清彦さんにケチをつけられる理由はありませんけど」
「そ、それは屁理屈だ。ああっ、あああっ」
スカートの中に指を差し入れられ、清彦は引きつった声で叫ぶ。双葉の指が陰部をまさぐり、下着の薄い布地越しに性器を撫で回していた。
「うふふっ、可愛らしい声を出して、本当に女の子みたい。入れ替わってる間に、清彦さんは頭の中まであたしになっちゃったんですかあ?」
「ち、違う。そんなわけない──ああっ、あふんっ」
下着がずらされ、指が直接股間をいじり始めた。逃れようのない股間の刺激と羞恥とが、清彦を絶え間なく喘がせる。艶めいた声が、自らの意思とは無関係に漏れ出していった。
(うっ、ううっ。アソコに指が食い込んでる。なんてことをしやがるんだ……)
清彦は年端もいかぬ少女のように涙ぐんで鼻をすすったが、それも双葉の嗜虐心を煽るだけの効果しかない。双葉は膣内に指を突き入れ、嬲るようにゆっくりと抜き差しした。
「あはは、清彦さんのアソコ、あたしの指をぐいぐい締めつけてきますよ。ひょっとして、清彦さんも期待してるんですか? エッチなことをされるの」
「そ、そんなわけあるか! 見損なうなあっ」
清彦は顔を真っ赤にして否定した。男の指に股間をいじくられて感じてしまうなど、プライドが許さなかった。
「変に意地を張らなくてもいいのに。清彦さんも女の子の体に興味があるでしょう。毎日あたしの体でトイレに行ったり、お風呂に入ったりしてるんですよね。あたしの裸を見て興奮したりオナニーしたりして、楽しんでるんじゃないですか?」
「し、してないしてない! そんなことしてないっ」
清彦は必死で否定する。いくらこの美しい体が自分のものになっているといっても、元は双葉の肉体である。それを好奇心の赴くままに探求しもてあそぶのは、双葉にとっても、そして恋人の友美に対しても申し開きのできない、罪深い行為のように思えた。
だから、清彦はこの一ヶ月余りの間、この体をそういう目で見たことは一度もなかった。風呂やトイレの際もできるだけ平常心を失わないように努めていたし、まして自慰などするはずがない。
そのように答えると、双葉は意外そうに目を丸くした。
「へええ……何もしてないなんて、信じられない。あたしなんて、清彦さんと入れ替わってからしょっちゅうオナニーしてるのに。男の人のイキ方ってすごいんですね。先っちょから熱いのがドピュドピュって噴き出してきてびっくりしちゃいます。でも気持ちいいんですよねえ、あれって」
「ふ、双葉ちゃん、俺の体でそんなことまで……」
清彦は失望と怒りにぶるぶると身を震わせたが、双葉は気にすることなく清彦の下着の中で指を蠢かせ、陰部をかき回してくる。執拗に秘所を責めたてる淫らな指遣いに、清彦の女性器が蜜を漏らし始めた。
「ふふふ、清彦さん、アソコが濡れてきましたね。感じてくれて嬉しいです。女の子はこうやってオナニーをするんですよ。やり方をちゃんと覚えて下さいね」
「ひいっ、や、やめろお──んんっ !? んんっ、うんっ」
悲鳴を封じるためだろう。無理やり首を曲げられ、唇を奪われる。舌が口内にもぐり込んできて、清彦の舌や歯茎をべろべろとなめ回した。非道な仕打ちに涙がこぼれたが、どうしようもない。無力な女の体が恨めしかった。
(男にキスされて、アソコをいじられて……ううっ、ひどい。ひどすぎる)
いったい自分が何をしたというのか。なぜこんな目に遭わなくてはならないのか。
答えを求める清彦をあざ笑うように、双葉は火照り始めた彼の女体を好き勝手に辱める。やはり元は自分の体だからか、弱い部分を知り尽くしているようだった。
充血した肉豆を強くつままれ、いっそう鋭い感覚が清彦の脳を貫く。
「んんっ! んぐっ、んぐうっ!」
手篭めにされるのが嫌で嫌で仕方がないのに、高ぶりつつある清彦の体はピクピクと小刻みに痙攣し、残忍な陵辱者を喜ばせてしまう。初めて味わう女の性感に、双葉の中の清彦の心は翻弄されるばかりだった。
(これが女の体……だ、駄目だ。これ以上やられたら、おかしくなっちまう)
だんだんと頭の中が麻痺して、まともな思考が薄れていく。男に抱かれていることも、自分のものだった男の顔と唇を重ねていることも少しずつ気にならなくなって、こうして無理やりに与えられる快楽を、ただ受け入れてしまおうという誘惑に屈してしまいそうになる。
官能の高みへとのぼり始めた清彦は、いつしか抵抗することを忘れて、甘い声で泣き喚くだけの人形に成り下がっていた。
「んんっ、んんっ。ああっ、やめ、やめろっ。やめろおっ」
「清彦さん、可愛いなあ。すっごく興奮する……」
双葉の股間では勃起した肉の棒がズボンを押し上げ、清彦の脚に硬い感触を伝えていた。彼女はますます大胆になって、清彦を長机に仰向けで寝かせるとスカートと下着を剥ぎ取り、膣内の浅い部分を熱心にほじくり返した。
俎上の魚と化した清彦に、もはや抵抗のすべはなかった。めくるめく快感が次から次へと押し寄せて、一気に絶頂へと導かれる。
「なっ、なんだこれ。おかしくなる──あっ、ああっ、ああああっ」
視界に火花が散り、星が舞った。全身の筋肉が引きつって、呼吸一つできなくなる。意識が真っ白なヴェールに覆われ、何もわからなくなった。
「はあっ、はあっ、はあああ……」
熱い吐息と共に、半開きになった口の端からよだれがこぼれ落ちて、首筋を濡らした。
「ふふふ、イっちゃいましたね。こんなにいやらしい顔をして、みっともない」
双葉の嘲笑に、ようやく清彦は自分が達したことを知った。女の肉体で迎えた、初めてのオーガズムだった。
(イカされた……俺、双葉ちゃんの体でイったんだ……)
男の矜持を深く傷つけられ、頬を涙がこぼれ落ちた。清彦は荒い呼吸を繰り返しながら、暗い天井を呆然と見上げた。
「さて、今度はあたしも楽しませてもらいますよ。一緒に気持ちよくなりましょう」
「え? な、何を──」
ストッキングに包まれた両脚がぐいと開かれ、その間に双葉の腰が割り込んでくる。黒い肉の塊がズボンの中から姿を現し、清彦の股に照準を合わせていた。これから何をされるかを悟り、清彦は恐怖にうち震えた。
(お、俺、犯されるのか? 嫌だ。こんなのは絶対に嫌だ……)
「ま、待ってくれ。双葉ちゃん、それだけはやめてくれっ」
清彦は哀れな声で許しを乞うたが、双葉は構わず腰を進めてくる。自らの胎内に突き入れられる肉の棒を、清彦は絶望の眼差しで見つめた。
「やっ、やめ、やめろ──ああっ、は、入ってくる。んあっ、んああっ」
「ふふふ、お待ちかねのセックスです。ああ、とっても気持ちいいわ。清彦さんのアソコ、ぬるぬるしてあたしのおちんちんに絡みついてきますよ」
双葉は顔に恍惚の表情を浮かべて、腰を清彦の体に密着させた。男と女、二人の性器が一つに合わさり、凄まじい圧迫感が彼を襲った。
「ああっ、ふ、太いっ。い、嫌だ。早く抜いてくれっ」
「あらあら、すごい締めつけ。嫌がってるけど、本当は気持ちいいんでしょう」
双葉は以前の自分の腰をつかんでゆっくりと動き出す。蜜のしたたる肉ひだとペニスがこすれあい、耐え難い刺激を脳髄にもたらした。
「ひいっ、ひいいっ。う、動くなあっ」
「清彦さんのおまんこ、あたしのおちんちんをくわえ込んで放しませんよ。ああ、これが男の人のセックスなのね。すごくいい気分……最高だわ」
うっとりした声でつぶやいて、双葉は清彦を穿つ。焼けた鉄串のような男性器が清彦の膣内を前後し、つい先ほど絶頂を迎えたばかりの女体を責めたてた。
「ああっ、あああっ。うう、なんで俺がこんな……ああっ、あふんっ」
力強い交わりに、清彦ははしたない声を出すのを抑えられない。彼の心は怖気だつほどの恐怖と嫌悪を覚えているというのに、逆に肉体の方は、まるでこうなることを待ち望んでいたかのように、双葉のペニスを熟れた媚肉でしごきあげ、熱狂的な快楽を貪る。
(な、何だよこれ……俺の体、どうなってるんだ)
卑猥な音をたてて胎内を出入りする肉の棒は、ますます硬くなって清彦を貫く。双葉が腰をひと突きするたびに、清彦の股間からは熱の波紋が全身に広がり、とろけるような刺激が手足を痙攣させた。
「ああっ、あんっ。あ、あふっ、ああんっ」
ごりごりと膣の中を突き上げる太い塊に、清彦は嫌がることすら忘れて、ひたすら浅ましい声をあげてよがり狂った。女体の官能によって男の人格が篭絡されようとしていた。
「すごいわ、清彦さん。なんていやらしいの。こんなに必死になって、あたしのおちんちんをキュウキュウくわえ込んで……ふふふ、もっともっと気持ちよくしてあげましょうか」
かつての自分の体を蹂躙しながら、双葉は低い声で笑った。とても中身が二十歳過ぎの美しい娘とは思えない、欲望にぎらついた顔で清彦にのしかかり、腰を振って血管の浮き出たペニスを突き入れた。肉体が入れ替わった状態での倒錯した性行為に、すっかり夢中になっているようだった。
「あっ、あああっ。は、激しい……お、奥にっ、奥に当たるっ」
子宮の入り口を亀頭が押しつぶし、熱い息が肺から絞り出された。清彦は両手で双葉の体を抱きしめ、無意識のうちに服従の意を示す。いかがわしい行為に陶酔しているのは、清彦も同じだった。真っ赤な顔で年上の男にすがりつき、はしたない声をあげてペニスを貪る姿は、まぎれもなく一匹の若い牝のそれに違いなかった。
「あはは、奥のここのところ、ぷにぷにしてますね。ほら、わかります? あたしのチンポが清彦さんの子宮をつんつんしてるんですよ。ほら、ほら」
得意気に言って、清彦の一番深いところをかき回す双葉。愛液と先走りの混合液が二人の肉に押し潰され、ぷちゅぷちゅと音をたてて泡立った。
(し、子宮を突つかれてるのか。今の俺、赤ん坊を産める体なのか……)
子供を産むための器官が自分の肉体に備わり、そしてそれを今、男のペニスに突つかれているのだと思うと、激しい震えがゾクゾクと背筋を這い上がってくる。どうしようもなく怖くて、どうしようもなく心地よかった。
(だ、駄目だ。このままじゃ俺、またイカされちまう……)
再び迫りくる絶頂の恐怖に、清彦は身震いした。だらしなく口を開けて悶える彼の表情が面白いのか、双葉は清彦を嘲るように笑うと、さらに激しく腰を打ちつけた。ズン、ズンと体の芯を突き上げられ、清彦は否応もなく二度目のアクメを迎える。
「ああっ、あああ、イ、イクっ。おおっ、うおおっ」
目の前が真っ白になり、頭の中を色とりどりの花が舞った。健やかな牝の肉体は射精を求めて、くわえ込んだ牡を猛烈に締めつけた。
「ああっ、すごいっ。そんなに締めたら出ちゃう。ああっ、出るっ!」
搾り取るような肉ひだの動きに触発されて、双葉のペニスが欲望を解き放った。熱い生命の奔流が清彦の子宮口に叩きつけられ、脈動する膣壁に染み込んでいく。
清彦は双葉の体をひしと抱きしめながら、自らを孕ませる子種の群れを膣の底でたっぷりと受け止めた。
(ああ、腹の奥が熱い。中に出されたのか……)
牝の本能を満たした喜びが若い女体を包み込んでいた。頬はだらしなく緩み、唇の端からはよだれが滴り、とろんとした瞳は焦点が合わない。初めて味わう女のエクスタシーに、この上ない満足感を覚えた。
「ふう、気持ちよかった。搾り取られるかと思った……」
清彦の上にのしかかっていた双葉が身を起こし、彼を見下ろした。こちらの表情にも一人の女をものにした充足感が満ちていた。とても中身が若い娘だとは思えない、鼻の下を伸ばした男の顔だ。
「清彦さんも気持ちよかったみたいですね。とってもいやらしい顔だわ。赤ちゃんができちゃったかもしれないのに、そんなに喜んじゃって。ふふふっ」
「あ、赤ちゃん……赤ちゃん、できたの?」
清彦は呆けた口調で問いかけた。今までのことがあまりにも常軌を逸していて、頭がおかしくなってしまいそうだった。
「さあ、どうでしょう? あたしとしては、うまく妊娠してたらいいんですけどねえ。あたしと清彦さんの赤ちゃんですよ。きっと可愛いだろうなあ。ちゃんと妊娠してますように。えいっ、ええいっ」
双葉は腰を動かし、精液でぬるぬるになった膣内をかき乱した。二度も絶頂を迎えて敏感になった肉体には強すぎる刺激だった。
「ああっ、だ、駄目。頼むから動かないで……あんっ、あふんっ」
「ふふ、清彦さんってば、本当に可愛いですね。ますます惚れちゃいました。これからもたくさんエッチしてあげますから、そのつもりでいて下さいね」
「そ、そんな。ひどい……」
絶望にうめく清彦の体から萎えた陰茎が引き抜かれ、ぽっかり穴の開いた女性器が露になった。膣口からとろりと滴る白い粘液は、清彦が双葉の女にされた証だった。
心が入れ替わっただけでなく、体まで力づくで奪われる。清彦はあまりの理不尽さに涙を流して、ひと月前までの自分の姿を見上げた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


やや遅めの夕食が終わり、友美は汚れた食器の後片づけにとりかかった。
時刻は日付が変わるまであとわずかというところ。普段ならば、風呂からあがってくつろいでいる頃だ。
清彦はまだ帰っていない。今日は仕事が長引いたため、彼の方が先に帰っているかと思ったのだが、帰宅した友美を待っていたのは暗い無人の部屋だけ。どこにも彼女の同居人の姿はなかった。
(最近、妙に帰りが遅いわね。以前の清彦なら仕事で遅くなることもあったけれど、双葉さんと入れ替わった今は、そんなに忙しくはないはずだし……)
朝、一緒に家を出たときは何も言っていなかった。ひょっとしたら急な用事ができたのかもしれないが、友美に思い当たる節はなかった。
友美は洗い物を終えて居間に移った。窓の外を見やると、真っ暗な空の下でぼんやりした街灯の光がゆらめいていた。窓ガラスに薄く映る不安げな自分の顔を眺めて、小さくため息をつく。
(大丈夫かしら。今の清彦はか弱い女の子だから、危ないことに巻き込まれていないか心配だわ……)
清彦と双葉が入れ替わって既に一ヶ月以上が経過しているが、いまだ二人は元に戻ることができないでいた。
その間、清彦は恋人でもない女の体で生活することを強いられ、友美は愛しい男の身体をよその女に奪われたまま、悲嘆に暮れる日々を過ごしている。
清彦の体を手に入れた双葉は、首尾よく彼に成り代わって仕事に励んでいると聞く。彼女の代わりに同じ職場の女子社員として勤めることになった清彦にとっては、耐えかねるほど過酷な仕打ちだ。肉体ばかりでなく会社での立場まで乗っ取られた彼のことを思えば、怒りで友美の顔も朱に染まる。
忌々しいあの入れ替わりさえなければ、友美はとっくに清彦と結ばれていたはずだった。入籍に挙式、ハネムーン、そして新居への引越しと、今頃は忙しくも幸せに満ちた新婚生活の真っ只中で頬を緩ませているに違いなかった。だが、二人の間に割り込んできた双葉のせいで、全て台無しになった。
(あの女のせいで清彦は……いったい私はどうすればいいの)
このひと月の間、友美はあらゆる手段を使って情報を集め、何とか清彦と双葉を元に戻そうと手を尽くした。知り合いに精神科の医師を紹介してもらったり、心の入れ替わりを扱った文献を片っ端から調べてみたり、あるいは単純に二人の頭をぶつけてみたり……しかし、いずれも自分たちの努力が無駄だと再確認するだけの行為でしかなかった。
もしもこのまま二人が入れ替わったままだとしたら、いったい清彦はどうなってしまうのだろう。不穏な想像に不安をかきたてられ、友美の顔が深いかげりを帯びた。いくら互いに愛し合っていても、今の清彦と友美は女同士である。結婚式を挙げて友人たちや親戚一同から祝福を受けることも、愛の言葉を語らいながら子供を作ることもできないのだ。
そして何より、清彦の身体を我が物にした双葉が、今の清彦を放っておくとは思えなかった。「清彦さんはあたしと結婚するんです」と息巻いていたあの娘のことだから、仮にもう自分たちが元に戻れないと判明すれば、これ幸いと清彦を自分の妻にすると言い出しかねない。友美が清彦と夫婦の契りを結ぶためには、何としてでも彼に元の体に戻ってもらわなくてはならなかった。
憂鬱な気持ちで窓の外を眺めていると、突然の物音と共に玄関のドアが開いた。清彦がようやく帰宅したのだ。友美は慌てて彼に駆け寄った。
「おかえりなさい。今日は遅かったのね」
「ああ、悪いけど水を一杯くれ。飲みすぎで気持ち悪い……」
顔を真っ赤にした清彦からは、煙草とアルコールの入り混じった強烈な臭いが放たれていた。会社の同僚と飲んできたそうで、足がふらついていた。双葉の体は酒に弱いのだから、もう少し控えてもいいのではないかと友美は思った。
「会社の人と飲んできたの。ひょっとして双葉さん?」
「ああ、あいつもいたけど、他の連中も一緒だったぞ。あんなやつと二人っきりで飲めるかよ……」
清彦は呂律が回らない様子でぼやくと、力尽きたように床に寝そべってしまう。友美はため息をついて、彼のか細い体の下に柔らかなクッションを差し入れた。
(最近、お酒ばかり飲んでる。清彦も辛いんだわ……)
友美の手のひらが清彦の頬を撫でた。自分と同じ、いや、それ以上の苦しみを彼は背負っている。日々のストレスを酒で発散させる清彦のことを思うと胸が痛んだ。
「ごめんね、清彦。あなたを助けてあげられなくて……」
半ば眠りこけた清彦の体を抱いて、友美は無力な自分を恥じた。頬を熱い感触が伝った。せめてこうして眠っているときくらい、清彦がいい夢を見ていられたらいいのに、と思わずにはいられなかった。
以前こちらに投稿したものですが、画像が流れてしまったので本文のみになります。
続きはまた後日投稿致しますので、よろしくお願いします。
せなちか
senatika@yahoo.co.jp
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17.無評価きよひこ
なんだ神か
続き楽しみにさせてください
37.100きよひこ
夫がかわいすぎるペロペロ
45.100きよひこ
いい入れかわ
47.100きよひこ
ネ申
57.100きよひこ
描写がしっかりしてて大満足