「…………え? ない?」
そんな……確かにこの中に入れておいた筈なのに。
どこにいってしまったんだ? 僕の……オ○ン○ン。
第一章 誘(いざな)いの声
「ねえ、そこのあなた」
夏のある日、公園のベンチで溜息をついていた僕は突然女の人に声をかけられた。
「え、僕ですか?」
「そう、あ・な・た、よ」
年は20を少し過ぎているくらい、だろうか?
その女の人は妖しげな笑みを浮かべながら僕の耳元でささやいた。
「女の子になりたいんでしょ?」
「な、なにを馬鹿な……」
僕はのけぞりながらその場を離れたが、女の人は僕をまっすぐに見つめながら静かに言った。
「男の自分ではあの子に声をかけるどころか近づくこともできない。女の子だったら直接話をすることができる。そしてあの子の気持ちを確かめることができる。でしょ?」
「っ!?」
僕は思わず息を呑んだ。
女の人に僕の考えていたことを言い当てられていたからだ。
そう、僕には気になる女の子がいる。
速水双葉(はやみ・ふたば)、小学生の頃に引っ越すまでは隣同士だった女の子。高校の入学式で再会した彼女は眩しいくらいに美しく、そして凛々しく変身していた。
彼女は水泳部に入部すると瞬く間にレギュラーの座を獲得して注目の的になった。
そんな彼女に彼氏ができたらしい、との噂を聞いたのは最近のことだ。以来僕は悶々とした日々を過ごしている。
確かめたい、だけどそれは今の自分にとって到底不可能なことだった。
彼女の周りは常に不特定多数の女子で埋まっていた。そして男子は互いに牽制しあい、近づくことができなかった。
自分が女の子に変身できたら彼女に近づいて真相を聞けるかも……そんな馬鹿なことを考えて溜息を吐いたちょうどその時、目の前の女の人に声をかけられたのだ。
「あなたはいったい?」
「それは、ひ・み・つ、よ」
そう言って女の人はいたずらっぽくウインクをした。
「それよりあなた女の子になりたいんでしょ? 女の子になる方法がある、といったらどうする?」
「えっ!?」
「いつでも好きな時に女の子になり、そして男の子に戻れる方法がある、といったら?」
「まさか、そんなこと信じられません」
「信じてくれないの? お姉さん傷ついちゃうなあ」
「当たり前でしょう。まあ、本当にそんな方法があるなら試してみてもいいですけど」
正直言ってからかわれてると思った。信じる気はまったくなく、「やれるもんならやってみろ」というつもりで言ったのだ。
「あらそう? それじゃさっそく」
そう言って女の人はニヤリと笑うと俺に向かって右手を向けた。
すると僕の身体、正確には僕の股間が熱くなり、硬く膨張していった。
「こ、これは……」
「あなたの中の『男』の全てを一ヶ所に集中させたのよ。そして……」
そう言って女の人は突然僕の唇にキスをすると「何か」を飲み込ませた。
「今注ぎ込んだのは『女』のエキスみたいなものよ。股間の『それ』があるうちは男だけど、それを引き抜けば……」
そう言って女の人は艶然と微笑んだ。
第二章 「非日常」の始まり
家に帰った僕は恐る恐る服と下着を脱いで裸になった。
一見すると僕の身体はどこも変わりはない。
(信じたわけじゃない、信じてるわけじゃないけど)
震える手でオ○ン○ンを握り、ゆっくりと引っ張る……
スポンッ
「え? 抜けた? 抜けてる? 抜けちゃった?」
信じられなかった。そんな事、本当にあるはずがなかった。
しかし……呆然となった僕の手には確かに僕自身のオ○ン○ンが握られていた。
「あ、髪が、髪が……」
髪がゆっくりと伸びていく。
「む、胸が……」
先端が尖るように飛び出し、まわりが柔らかく膨らんでいく。
身体全体がプルプルと震え始める。
股間を見ると小さな丘の中心を一本の亀裂が走っていた。
恐る恐る部屋にある小さな鏡をのぞいてみる。
細くなった眉、桜色の唇、肩の下まで伸びた黒く艶のある髪、筋肉が隠れ柔らかく丸みを帯びた身体、小さいけど胸には二つの膨らみ……
「本当に……女の子になっちゃった」
わずかに面影は残っていたけど……鏡に映っていたのはどこからどう見ても「女の子」だった!!
「女の人の言うとおりだと……」
僕は手にしていたオ○ン○ンを股間に近づけていき……
ピタッ
オ○ン○ンが僕の股間にくっついた。
すると僕の身体はさっきとは逆方向に変化していき……僕の身体は男に戻った。
何度か試して判ったことは
・オ○ン○ンを外すと身体が女の子になること
・元の位置に戻すと男に戻ること。
・股間以外にはくっつかないこと。また、向きを逆にしてもくっつかないこと。
だった。
あと、女の人に言われたのは、
「あまり外しっ放しにしないでね。オ○ン○ン自身は栄養補給できないから、3日以上外しちゃうとオ○ン○ンが死んじゃって男に戻れなくなるわよ」
……まあ、これは大丈夫だろう。3日どころか半日だって外しっ放しなんてしないだろうから。
などと、あの時はそう思っていたんだ……根拠もなく。
第三章 第一種接近遭遇
放課後――
目の前には双葉とその取り巻きの女子が笑顔で会話を交わしていた。そして僕はその集団に恐る恐る近づいていった。
今のところ警戒されている様子はない。
(こ、これなら……それにしても)
ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
昨日の夜、僕はこの学校の卒業生で今は家を出て短大に通ってる姉さんの部屋に忍び込み、制服を持ち出した。
そして廃部で使われなくなった部室の物陰でオ○ン○ンを抜いた僕は、姉さんの制服に身を包んでいるのだ。
ボタンが左右逆のブラウスはワイシャツに比べて柔らかい感じがした。そしてスカートをはいた脚のあたりがなんだか頼りない感じだ。
僕は集団の端にたどり着くと会話の内容に耳を傾ける。
話題は多くが校内での出来事やアイドルなんかの話だった。双葉はあまり喋らず、ときどき微笑んだり相槌を打つ程度だった。
今までのところ、恋愛に関する話はまったく出てこなかった。
「あら、あなたどこのクラスの子?」
急に取り巻きの女の子に一人に声をかけられ僕の心臓は爆発しそうになった。
「え? えっと、ぼ…わ、私は……」
しどろもどろになって何とかごまかそうとする僕。すると……
「いいじゃない、そんなの。あたしたちクラスなんてみんなバラバラじゃない」
双葉の言葉に全員が吹き出しながら笑った。
とりあえずの危機が去ってホッとした僕だったが、双葉はそんな僕を見つめていた。
「あっ!!」
突然双葉が声を上げる。
「ちょっと失礼、そろそろ水泳部の練習に行かなきゃ」
双葉が軽く手を振りながら集団から離れようとする。そして離れ際に僕の腕をつかんだ。
「一緒に来て」
そう言って双葉は更衣室のあるプールへと僕を引っ張っていった。
プールの更衣室は双葉と僕以外に誰もいなかった。
「あなた……」
双葉が鋭い目で僕を見ている。も、もしかしてばれちゃった?
「あなた、ブラジャーしてないのっ!?」
「へっ!? い、いやその……小さいから……必要ないし」
さすがにブラジャーまで姉さんのを借りるのは……
「なに行ってるのっ、これだけあれば絶対必要よっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
僕がうなだれながら言うと、双葉は苦笑いの表情になった。
「しょうがないなあ」
双葉の言葉と表情に僕もつられて苦笑いを浮かべる。
そのとき、更衣室のドアが少し開いてさっきの取り巻きの女子の一人が顔をのぞかせた。
「あの……速水さん、さっきの子は?」
「ああ、水泳部への入部を検討して見学したいっていうから連れてきたの」
双葉の言葉にその女子は頭を下げながらそのままドアを閉じた。
「えっと……」
「ああ言っとかないと下手に勘ぐられるでしょ。……じゃあこれ」
そう言って双葉は僕に紺色の物体を握らせた。
「これは?」
「入部希望の見学者なんだからプールまでは付き合ってもらわないとね。予備の水着を持ってきておいてよかったわ」
その言葉に僕はびっくり仰天してしまった。
「こ、これって……双葉の水着!?」
第四章 消失した○○○○○
「お、お待たせしました」
更衣室からプールサイドに出た僕が声をかけると、双葉はにっこりと微笑んだ。
「『一人で着替えたい』って、恥ずかしがり屋ねえ」
双葉が苦笑いを浮かべる。
恥ずかしいのは確かだけど……スカートの下のブリーフを見られるわけにはいかなかったのだ。
それにしても僕が女の子の、しかも双葉が着けていた水着を……ううっ、恥ずかし過ぎるよう。
逃げ出したかったけど、肝心な双葉の彼氏のことを聞き出していなかったので、ここで逃げるわけにはいかなかった。
軽い準備運動の後でプールの中へ、最初は遊び半分で息継ぎや手足の動かし方を教えていた双葉の表情がだんだん真剣味を帯びてきた。
「あなたなかなかすじがいいわよ」
「そ、そうですか? えへへっ」
褒められて喜ぶ僕の頭を双葉が撫でる。ああ、気持ちいいよう。
「ちょっとタイムを計ってみましょう。誰かストップウオッチ持ってる人いる?」
双葉がまわりに声をかけると水泳部員の女子の一人が近づいてきた。
「じゃあとりあえずクロールで100メートル、プールの端からここまでを2往復ね。よーい」
僕に返事の間を与えずに双葉が合図を出す。僕は慌てて身体の向きをプールの反対側へと向ける。
「スタート!!」
プールの床を蹴って僕は泳ぎだした。
一心不乱に泳ぎ、反対側の壁を蹴ってターン。100メートルを泳ぎ終わる頃には身体がへとへとになっていた。
「これ、初心者でこのタイムなら凄いわよ」
タイムを計っていた女子が驚きの声を上げる。
「確かに。ね、本当に入部してみる?」
プールから上がっていた双葉がそう言って僕を見た。
「あ、あははは……」
双葉の言葉に僕は笑ってごまかした。
「じゃあ今度はあたしのタイムを計ってね」
そう言って双葉はプルへ飛び込んで泳ぎだした。
「双葉……速水さん、きれいですねえ」
「あら、あなたもなかなかだったわよ。顔も可愛いし、男子からモテモテじゃない?」
タイムを計ってる女子の言葉に僕は慌てて首を横に振った。そして恐る恐る聞いてみた。
「あの、速水さんって彼氏とかは……」
「彼氏? まだ片思いなじゃないかな? 子供の頃、隣の家だった幼馴染に高校で再会して、告白したいけどきっかけがつかめないって」
ちょっと、それって……僕のこと?
「あ、これ内緒にしてね。一昨日無理やり聞きだしたんだから」
今度は首を激しく縦に振った。
泳ぎ終わった双葉が顔を上げる。
「どうだった?」
「いいタイムですよ」
そう言って見せられたストップウオッチの数字を見て満足そうに頷く双葉。
「じゃあ双葉……速水さん、ぼ……私はこれで失礼します」
そう言って僕は頭を下げてその場を離れようとした。
「ああちょっと」
双葉は僕に近づくと僕の耳元でささやいた。
「水着はロッカーに入れとけばいいから。それと……今度来るときはちゃんとブラジャー着けて来なさいね」
双葉の言葉に俺は慌てて頭を下げるとその場を去り、大急ぎで更衣室へ……っと、着替えたのは女子更衣室だっけ。
全身を真っ赤にしながら……それでも僕は嬉しさでいっぱいだった。
(双葉が……僕のことを……)
目的は達成した。いや、予想以上の成果だった。
早く着替えてここを出よう。そしてオ○ン○ンをつけて男に戻ったら……
「あれ?」
貸してもらった空きロッカーを開けた僕は首を傾げた。中に入れた手提げ袋が倒れていたのだ。手提げ袋の中には着替えた男子用の制服と……
「…………え? ない?」
僕は呆然となって呟いた。
着替えた制服と一緒に入れていた筈の僕のオ○ン○ン。それが……どこにも見当たらないのだ!!
第五章 混乱
「……どうしよう」
さっきから僕の口からはこの言葉しか出てこない。
更衣室を隅から隅まで探し、鍵のかかっていない空いているロッカーは全て開けてみた。
けれど、僕のオ○ン○ンは見つからなかった。
そのうちに時間が過ぎてしまい、練習を終えた水泳部の女子たちが更衣室に入ってきた。
「あら、あなたどうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。失礼しますっ」
既に(身体が冷えるから)女子用の制服に着替えていた僕は慌てて手提げ袋をつかんで更衣室を飛び出した。
……「僕のオ○ン○ンが無くなっちゃったんで探してるんです」なんてとても言えない。
いったいどうしてこんなことになったのか?
そういえば……ロッカーの扉が少し開いてたような……それに抜き取ったオ○ン○ンって、僕の手の中で小さく脈打ってたよな。まさか……長時間抜き取ったままだと勝手に動いちゃうとか?
キーンコーンカーンコーン
「やばっ」
薄暗くなった校舎に響くチャイムに僕は慌てた。
もうすぐ校門の扉が閉められ、用務員が巡回を始める。こんなところを見つかったら……
僕は慌てて男子用の制服に着替える。教室に飛び込みハサミを持ち出してトイレで髪の毛をザックリと切る。
……目を細めて口を横に広げれば……なんとか男に見えるかな?
ハサミを戻すと大急ぎで校門へと向かう。
校門では用務員が扉を閉めるところだった。
「まだ残っていたのか?」
「すいま……すいませんっ」
女の子のような高い声に、僕は慌てて低く抑えて言い直す。
後ろを振り返ると用務員は少し首をかしげながら校門を閉じて鍵をかけていた。
「…………まいったなあ」
夕焼け空の下、僕は電柱の下で歩みを止めると大きく溜息を吐いた。
「まさか……こんなに揺れるなんて」
今まで女の子に変身してからこんなに歩いたことがなかったので気がつかなかった。
胸の膨らみ、大きくないから大丈夫と思っていたんだけど、身体が上下するたびにたびにあちこちに揺れるのだ。
おまけに慣れていない身体のせいか歩くとバランスがとりにくくって胸の揺れがさらに大きくなっていた。
「家まであと10分はかかるか。……しかたない」
僕は周りに人がいないことを確認すると、両腕を胸の下で組んでそっと持ち上げて固定した。
ワイシャツの胸の部分が前に出てしまっているけどしかたない。
身体がなるべく揺れないように注意しながら僕は歩き始めた。
……僕が女の子のように内股気味で歩いていたことに気がついたのは家に到着する寸前だった。
家に帰り着いたのはもうすっかり日が暮れた頃だった。
玄関で僕は飛び出してきた母さんと鉢合わせしてしまった。
「遅かったじゃない。父さんと母さん、急用でこれから隣の町まで行かなきゃならないから。帰りは深夜になるわ」
そう言って父さんと母さんは出かけていってしまった。
あまりじっくりと見られたくなかった僕としては都合がよかった。
用意された簡単な夕食を食べ終えると僕は自分の部屋に入って制服を脱ぎ……
「痛っ」
胸から伝わってきた痛みに顔を歪める。ゆっくりとシャツをめくり上げると帰る途中揺れ続けていた胸がシャツと擦れて赤く腫れていた。
僕は両手を胸にゆっくりと近づける。
「うっ」
手の平が尖った先端に触れる。胸から痛みとともに痺れるような感じが伝わってくる。
「あっ」
両手で包むように胸を覆う。今度はちょっとくすぐったいような感触。
「あ……はあ」
両手を動かすと胸から心地いい波が身体全体に広がる。こ、こんな感覚、今まで……
胸からの波の一部がお腹の奥で増幅する。
身体を駆け巡る未知の感覚に僕は立っていられなくなりベッドに倒れこむ。
ベッドの上で横になった僕は右手で胸の膨らみを揉みつつ、左手を股間へと……
…………疲れ果てて眠ってしまうまで、僕は……ボクは快感のうねりに翻弄され続けていた。
第六章 変貌した身体、そして……
目が覚めたのは翌日の朝だった。
何時間寝ていたのだろうか? いや、何時間続けていたのだろうか? あんなことを……
湧き上がり続ける快感にボクの手は動き続け、口からは「あん、ああんっ」という言葉しか出てこなかった。
(女の子って……あんな感じ方するんだ)
何もかもが男とは違っていた。
(あんなに気持ちいいなら、もうずっと女の子のままで……って、ボクはなにをっ!?)
慌ててボクは頭の中の考えを振り払う。
今までずっと男だったのに突然女になったら大騒ぎになってしまう。近所や学校では間違いなくボクは変な目で見られることになるだろう。
(それに……双葉に知られたら)
せっかく好きになってくれてたのに……女の子になって双葉に近づいたことがばれたら嫌われてしまう。
やっぱり男に戻らなきゃ。そのためには今日、最悪でも明日までにはオ○ン○ンを見つけないと。
ボクはベッドから降りて立ち上がった。
「あれ?」
バランスを崩しかけて首を傾げる。
視線を下に向けたボクは両手を胸の下に移動させてそっと膨らみを持ち上げてみる。
「……大きくなってる?」
計ったわけじゃないけど……胸の膨らみが昨夜よりひとまわり以上大きくなっているみたいだった。腰のあたりも……
背中にさらさらとした物体が触れる。
「か、髪が……」
昨日学校で短く切ったはずの髪が再び伸びていた。しかも今度は腰のあたりまで。
壁の姿見を見ると、そこにはアイドル顔負けのスタイルの美少女の姿が映っていた。
……って、ボクの部屋に姿見なんてあったっけ?
ボクは部屋の中を見回した。
部屋の形は変わっていない。だけど壁紙やカーテンはピンク色になり、ベッドの上にはぬいぐるみ、机の上にはマスコットが飾られていた。
それに……ハンガーに掛けていたはずの学生服が無くなっていて、代わりに姉さんの部屋に戻したはずのブラウスとスカートとリボンタイが掛けられていた。
ここは姉さんの部屋……じゃない。カーテンの隙間から覗く外の景色は間違いなくボクの部屋からのものだった。いったいこれはどういう……
「早く起きなさい。学校に遅れるわよ」
突然ドアが開いて母さんが入ってきた。ボクは慌てて両腕で胸を隠した。
「か、母さん、ボクの制服は?」
「制服? そこに掛かってるじゃない」
「そ、それじゃなくって、男子用の……」
「なに言ってるの清香(きよか)? うちには女の子しかいないんだから、男子用の制服なんてあるわけないじゃない」
母さんが呆れた顔でボクを見て言う。
「え? 清香? ボクは清彦……」
「変な夢でも見たの? あなたは生まれた時から女の子の清香でしょ? 早く顔を洗ってきなさい」
そう言って母さんは部屋を出ていった。
いったい……どういうことだろう?
ふと目に入ったのは机の上の写真だった。卒業式の日に家族で撮った写真。だけど両親と姉さんに囲まれ、卒業証書の入った筒を手に微笑んでいるのはボクじゃなくてセーラー服を着たかわいい女の子だった。
机の中から筒を取り出し、中に入っていた卒業証書を広げる。書かれていた名前は……清香? じゃあ男としてのボクは?
「あっ!!」
そういえば……あの女の人はボクの男の全てをオ○ン○ンに集中させた、と言っていた。
もしかしてその中には「男としての存在」も入ってて、それを失ったためにボクは存在まで女の子=清香になっちゃったってこと?
第七章 女の子として……
「と、とにかく学校に行ってオ○ン○ンを見つけて男に戻らないと」
そのためには……もう一度あの制服を着なくちゃならないのか。
ボクはハンガーを下ろしてブラウスを取り出す。
昨日借りた姉さんの物より新しい。やっぱりこれはボクの制服らしい。
ブラウスの袖に腕を通して……
「……着けなきゃ…………ブ、ブラジャー」
ブラウス越しに胸の先端がはっきり見えていた。ボクはブラウスを脱いでベッドの上に置くとタンスの引き出しを開けた。
「やっぱり……こうなってるのか」
引き出しの中は昨日まで入っていたブリーフとシャツが消え、代わりにカラフルなショーツとブラジャーが詰まっていた。
改めて視線を下に向けると、胸の谷間(!?)の間から見えるのはピンク色で小さなリボンのついたショーツだった。
ボクは穿いていたショーツを脱ぐと薄いブルーの物に脚を通して引き上げる。
「ううっ」
ショーツはオ○ン○ンのついていない股間にピッタリと張り付き、思わずボクは声を出してしまった。
続いて同じ色のブラジャーに腕を通す。ブラジャーの凹みに胸の膨らみがピッタリと収まった。
「…………」
顔を紅くしながら背中に手を回し悪戦苦闘しながらホックを留めた。
姿見に映る下着姿の女の子に思わず興奮してしまう。だけど……それはボク自身で、興奮で硬くなっている筈のオ○ン○ンは存在せず、股間は平らなままだった。
戸惑いながらも下着を着けたボクは続いてブラウスを着てスカートに脚を通す。リボンタイをつけてから台所に向かった。
「清香、髪の毛がくしゃくしゃじゃない。ブラッシングしたの?」
「え、ええっと」
「もうしょうがないわねえ。朝食食べてる間にお母さんがやってあげる」
母さんが急ぎ足でブラシを取ってくるとパンを食べているボクの後ろで髪を梳き始める。
パンを食べ終わる頃にようやくブラッシングが終わった。長い髪って結構手入れが大変なんだ。
カバンと手提げ袋を持って家を出ると学校へと向かう。
途中、風でスカートがめくれ上がり慌てて手でスカートを押さえる。ううっ、恥ずかしい。
「おはよう清香」
「清香、今日も美人だね」
学校に着くとクラスの女子から気軽に声をかけられる。逆に男子の方はただ見ているか目が合って慌てて視線をそらすかで声をかけてこない。
……やっぱり学校でもボクは以前から女の子だったことになっていた。そしてそのせいで人間関係にも変化が起きていた。
そして――
「どうしたの清香? 早く隣の教室に行かなきゃ」
「う、うん」
ぎこちなく返事をするとボクは手提げ袋を持って席を立った。
隣の教室に入ると中では早くも女子が着替えを始めていた。
そう……次の授業は隣のクラスと体育なのだ!!
ボクは顔を真っ赤にしながら教室の隅へと移動する。
ちらちらと他の女の子の動作を見ながら見よう見まねで赤いブルマーを引き上げスカートを下ろす。
これで下の方は下着を見られずに済んだが、上の方はそうもいかない。
深呼吸してからブラウスのボタンを外す。ブラウスを脱ぐと体操服を手に取り……
「清香ちゃん、今日のブラかわいいっ」
「えっ? 、きゃあっ」
突然声とともにブラジャーに触られてボクは女の子みたいな悲鳴を上げていた。
まわりの女子がボクの方へと集まってくる。
「あ、本当だ、かわいい」
「それにしても清香って胸大っきいよねえ。うらやましいわ」
僕はその言葉に戸惑いながら教室内を見回す。確かに……この中で胸のサイズがボクより大きい女子はいないようだった。僕よりスタイルがいい女子もこの中には……
つまりボクってこの中で一番の美少女ってこと? なんだか嬉しい……って、そんなことで喜んでるなんて女の子みたいじゃないかっ!!
第八章 第二種接近遭遇
放課後、ボクはプールへと向かっていた。
目的はもちろんボクのオ○ン○ンを探すためだ。
本当は昼休みも探すはずだったんだけど、お弁当を食べていたボクの周りに集まった女子たちがそのままおしゃべりを始め……そのまま時間が過ぎちゃったのだ。
おしゃべりの内容はアイドルやらファッションやらでちょっとついていけなかったが離れがたくって……いや、別に興味あったとか持ち込まれた雑誌の写真に目を奪われたとか……そんなことはなかったんだからっ!!
ボクは首を小さく横に振る。
気持ちを落ち着けるために深呼吸をすると体育館の角を曲がる。目の前に目的地のプールが見えた。……が、
「え? 工事中?」
入口には「緊急工事」の看板が置かれ、作業員があちこちを歩き回っていた。
「プールの配管にひびが入って水漏れを起こしてるんだって。一度プールの水を全部抜いて取り替えなきゃならないから今日は使用不可、水泳部もお休みだって」
不意に背後から声をかけられて振り向くと、そこには一人の男子が立っていた。
やや細身だけどバランスの取れた丈夫そうな体格、袖から伸びた腕の筋肉を見るとかなり鍛えてる感じだ。
そして切れ長の目が鋭さの中にも優しさを含んで微笑んでいる。……文句なしの美少年だった。
「君、水泳部じゃないみたいだけど見学の子?」
「い、いえっ、そっ、そうじゃなくって……」
まともに目を合わせてボクはしどろもどろになる。さっきからボク、調子が変だ。頭に血が上り、胸がドキドキと……
「あ、あの……更衣室は……」
「女子更衣室? だめだめ。更衣室自体は問題ないけど、ひびが入った配管というのが更衣室入口付近の床下だって。明日にならないととても無理だね」
「そ、そうですか」
ボクはがっくりと項垂れた。仕方ない、今日はあきらめて明日にかけるしか……
目の前の男子はしばらく黙っていたけど、やがてあの笑顔を再び浮かべると僕に言った。
「ねえ、よかったら今から家に来ない?」
「えっ?」
「ほら、そこの角を曲がったところに家があるんだ。ね、学校からけっこう近いんだ」
校門を出て5分近く歩いた所で男子がボクに言った。確かにこれはかなり近い。通学がかなり近そうだ。
「う、うん、そうだね」
ボクはそう言いながら後ろをついていく。
さっきから胸の動悸が止まらない。
(どうしてボクはこの人についていってるんだろう?)
初めて会ったばかりなのに……いや?
(どこかで……会ってたような……)
記憶を探ってみたけどぜんぜん思い出せない。悩みつつも足はしっかりと男子の姿を追っていた。
「さあ、どうぞ」
そう言って玄関のドアが開けられる。
どうやら家族は留守らしい。そういえばここにくる途中で父親が出張中で母親は夜勤だとか言ってたかな?
ボクは扉をくぐる際にちらりと横目で表札を確認する。
(この人、速水というのか。速水、速水…………えっ!?)
第九章 明かされた事実
「ま、まさか……」
「ようやく気がついた、『清彦』君?」
扉を閉めながら男子がニヤリと笑う。その笑みと先入観でさっきまで考えもしなかった幼馴染の女子の顔が見事にダブる。
「ふ、双葉……双葉なの?」
「そう、もっとも今の名前は双海(ふたみ)っていうんだけど」
目の前の男子……双葉が頷く。僕は激しくショックを受けた。
「ど、どうして双葉が……双葉が男の子に?」
「それはたぶん……これのせいだろうね」
そう言って双葉はズボン越しに膨らんでいる股間を指差した。
「昨日、最初はわからなかった。でも一緒に泳いでいるうちに気がついた。清彦くんに似ていることを」
「…………」
「身体は間違いなく女の子だったからそんな馬鹿な、と思った。けど、どうしても気になって、100メートルを泳いでもらっているうちに大急ぎでロッカーの荷物を調べたら『これ』が出てきて」
まさかそんな……
「自分のバッグの奥に押し込めて持ち帰ってから調べてたんだ。最初はおもちゃだと思ったんだけど、股間に近づけたら吸い付くようにくっついちゃって……そして朝になったら……」
少し顔を赤らめながら双葉が話すないようにボクは呆然となった。まさかボクと同じ……いや、逆のことが双葉に起きてたなんて……
「じゃあ……それはボクのオ○ン○ン?」
ボクは呆然となって呟く。探していたものがこんなところにあったなんて……
「確かめてみる?」
そう言って双葉は男子用制服のズボンを、続いてブリーフを下ろす。
ボクは唾を飲み込みながら双葉の股間にあるオ○ン○ンに手を伸ばす。
(「これ」を外して……ボクにつけ直せば……)
ボクはオ○ン○ンをそっと握るとゆっくりと引き抜き……
シュッ
「えっ? 抜けない?」
オ○ン○ンは双葉の身体から離れなかった。わずかに皮が移動しただけだった。
「昨日から何度も試してるんだけどね。ぜんぜん外れないんだよ」
「そんなっ!?」
動揺したボクは再び引き抜こうと試みる。
シュッ、シュッ!!
だけど何度やっても同じだった。
ガバッ!!
突然双葉が両肩をつかんで引き上げた。双葉の顔が目の前に迫る。
「ねえ清彦、清彦がオ○ン○ンをいじったせいで我慢できなくなっちゃった」
「ええっ!?」
視線を下に向けると双葉の股間のオ○ン○ンが膨張して垂直にそそり立っていた。
「清彦……責任、取ってくれる?」
「え? 責任? 責任って……ムグッ!!」
ボクの唇が双葉の口と重なり合った。
第十章 絡み合う「非日常」
「む……ん……」
重なり合った唇の向こうから双葉の舌が入ってきてボクの舌と絡み合う。
身体が熱くなり、頭の中がぼうっとしてくる。
「……はあぁ」
ようやく唇が離れる。いつの間にかリボンタイとブラウスのボタンが外されていた。
ブラウスを脱がせた双葉がボクの後ろに手を回す。
すると一瞬でブラジャーのホックが外された。……そういえば双葉って小さい頃から手先が器用だったよなあ。
双葉の手がブラジャーを外された僕の胸の膨らみを包む。その手がゆっくりと動くと昨夜よりも数倍強い波が身体の中を駆け巡った。
「あん、ああんっ!!」
ボクは我慢できずに叫び声を上げてしまった。
お腹の奥が激しく疼く。ボクは立っていられなくなり、ベッドの上に倒れこんだ。
双葉はベッドに倒れこんだ僕からスカートとショーツを素早く剥ぎ取った。
「ふふっ清彦、とってもかわいい」
「かやいい? ボクが?」
頭がぼうっとしていたボクは小さく呟く。
「ああ、間違いない。今の清彦はすごくかわいい。学校一の美少女だよ」
以前は「かわいい」などと言われるとからかわれた気がしてあまり好きじゃなかった。だけど今は……とても嬉しい。
双葉はボクの右腕をつかんで持ち上げると隠していた右側の胸の膨らみ、その先端を口に含んだ。
「ああっ、はうんっ!!」
舌で舐められ転がされ、ボクの身体はベッドの上で跳ねた。
双葉の手がボクの脚の間に入ってくる。
力が入らなくなったボクの両脚は簡単に開いてしまった。
脚の付け根、股間の小さな盛り上がりを双葉が撫でる。
「うふんっ……あはんっ」
ボクの口はさっきから意味不明の言葉を出し続けていた。
「ねえ清彦、清彦はもう入れたの?」
「ボ……ボク……い、入れてなんか……」
「嘘おっしゃい」
双葉がボクの股間の割れ目を開くと指を中に入れてきた。
「あああっ!! ごめんなさい、い、入れましたっ!!」
「やっぱりね。何本入れたの?」
「い、一本っ、一本だけえぇっ!!」
悲鳴混じりに叫ぶと双葉はニンマリとした笑みを浮かべた。
「清彦のここ、もうヌルヌルのグショグショだよ」
双葉がボクの股間を触っていた右手を見せる。その指先がテラテラと光っていた。
「じゃあもう準備は十分ね……いくよ」
いつの間にか服を脱いで裸になった双葉がボクの両脚を大きく広げる。
「え? え?」
わけが判らずに疑問符を浮かべるボク。その時、ボクの股間に「なにか」が触れた。
「ま、まさか……きゃあっ!!」
ようやく気がついた時には既に遅し。太くて熱い物体がボクの中に「挿入」された。
「い、痛い、痛いっ!!」
「ふふっ、清彦の処女、いただいちゃった」
痛がるボクの耳に双葉の声が届く。ボクが……処女?
双葉はそのまま押し込み、ついに根元まで入ってしまった。
「ああっ、ボクの中に……ボクのオ○ン○ンが……」
「今はあたしのオ○ン○ンよ。ちょっと動かすよ。大丈夫、すぐに気持ちよくなるから」
オ○ン○ンがボクの中で小刻みに動く。
やがて痛みは消え……いや、痛みすら快感へと変わっていった。
「あ、あっ、ああっ……な、なにこれ? なにこれえっ!?」
「そ、それが女の子の……今、清彦はっ……女として感じてるのっ!!」
息を荒くして双葉が叫ぶ。
「ボ、ボクッ……女の子にっ、女にぃぃぃっ!!」
「あたしもっ、男にっ……清彦っ、一緒に、一緒にいぃぃぃっ!!」
「「ああぁぁぁ―――っ!!」」
ボクと双葉は同時に絶頂に達して気を失った。
エピローグ 「日常」へ
「ふふっ、お久しぶり……かな?」
「あ、あなたは……」
あの日から2ヶ月が過ぎ夏休みに入ったばかりのある日、あ……ボクの目の前に再びあの女の人が現れた。
ボクはあの日から……ずっと女の子のままだった。
双葉も男子のままだ。男子水泳部員として記録を伸ばし続け、県大会で上位入賞を期待されている。
ボクもあの日の翌日に水泳部に入部した。成績はかなりよく地区予選突破は確実と言われている。
ボクたちは公認のカップルとして休み時間、放課後や部活の時間を一緒に過ごしている。そして3日に一度は双葉の家で……
「あなた誰?」
ボクの隣で双葉が女の人を睨みながら言った。
「あたしはそこにいる清彦くんを女の子にした、そしてあなたが男の子になる原因を作った……人間の言葉で言えば悪魔、かな?」
「なっ、悪魔? 清彦になにをする気? まさか魂を?」
双葉が女の人……女悪魔から遮るようにボクの前に立つと女悪魔は大笑いをした。
「あははははっ、あたしは人間が作った悪魔のイメージとはちょっと違うのよ。あたしの獲物は人間の魂じゃなくって、人間が愛の行為を行なう際に発する波動、愛欲のエネルギーなの」
「「愛欲のエネルギー?」」
聞いたことのない言葉にボクと双葉が同時に呟いた。
「清彦くんは好きになった幼馴染に近づけなくて、そんな自分が情けなくて苦しんでたわよね」
「…………」
「双葉ちゃんは告白したい相手のことを考えながら毎晩ベッドの上で自分を慰めてたわね」
「……ううっ」
僕たち二人は真っ赤になった。
「二人の欲望があまりにも大きかったから二人を結びつけたらさぞかし美味な愛欲のエネルギーをいただけるんじゃないかと思ってきっかけと作ってあげようと思ったの」
「それで……あんなことを」
「二人の性別が入れ替わったのは予想外だったわ。思ったより身体の相性がよかったのね。まあ、おかげで二人は結ばれたんだし、結果オーライということで」
そう言って女悪魔はニコリと微笑んだ。
「あなたたちの愛欲のエネルギー、とおっても美味しかったわよ。もう十分にいただいちゃったから、今日はお別れとお礼を言いに来たの」
そういった女悪魔にボクは慌てて問いかけた。
「あの……ボクたちを元に戻すことは……」
「できるわよ」
女悪魔はあっさりと答えた。
「双葉ちゃんの身体にくっついたオ○ン○ン、かなり強く癒着してるからあなたたちでは無理だけど、あたしなら外せるわよ」
「…………」
「あとはあの日とは逆のことをすればいいだけ。外したオ○ン○ンを清彦くんに戻す。それで二ヶ月間のことはなかったことになって二人の身体は元に戻るわ」
そして女悪魔はボクたちの目を見ながら問いかけた。
「どうする? 戻るならこれが最後のチャンスよ」
ボクの腕を握っていた双葉の手がぎゅっと握り締められた。ボクが双葉の顔を見ると双葉は
「清彦に……まかせる」
と言った。
ボクはしばらく考えて大きく深呼吸をすると、首を……横に振った。
「いいです……このままで」
「そう、わかったわ。それじゃあ二人ともお幸せに。……あっ、二人とも大人になるまではちゃんと避妊しておくのよ」
顔を真っ赤にしたボクたちの目の前で女悪魔は姿を消した。
「よかったの、清彦?」
「…………うん」
迷いがなかった、といえば嘘になる。だけど……
「さあ行こう双海」
「え? 二人っきりの時は昔の名前でって……」
戸惑う双葉……双海にボクは微笑んだ。
「だってもうずっとこのままなんだから、清香と双海でいいでしょ?」
「そう……だな。判ったよ清香」
そう言って笑った双海と手をつなぐ。
2ヶ月前からすれば「非日常」な事態だけど、今はこれが「日常」なのだ。
二人は双海の家へと歩き出した。目的はもちろん……
(これでいいんだ……これで)
心の中でボクは……あたしは呟いた。
さっき女悪魔の提案を断った理由。
実は来週、二人で海へ行くことになってるんだけど……一大決心をして買ったビキニの水着が「なかったこと」になってしまうなんて……とても耐えられなかったんだもんっ。
そんな……確かにこの中に入れておいた筈なのに。
どこにいってしまったんだ? 僕の……オ○ン○ン。
第一章 誘(いざな)いの声
「ねえ、そこのあなた」
夏のある日、公園のベンチで溜息をついていた僕は突然女の人に声をかけられた。
「え、僕ですか?」
「そう、あ・な・た、よ」
年は20を少し過ぎているくらい、だろうか?
その女の人は妖しげな笑みを浮かべながら僕の耳元でささやいた。
「女の子になりたいんでしょ?」
「な、なにを馬鹿な……」
僕はのけぞりながらその場を離れたが、女の人は僕をまっすぐに見つめながら静かに言った。
「男の自分ではあの子に声をかけるどころか近づくこともできない。女の子だったら直接話をすることができる。そしてあの子の気持ちを確かめることができる。でしょ?」
「っ!?」
僕は思わず息を呑んだ。
女の人に僕の考えていたことを言い当てられていたからだ。
そう、僕には気になる女の子がいる。
速水双葉(はやみ・ふたば)、小学生の頃に引っ越すまでは隣同士だった女の子。高校の入学式で再会した彼女は眩しいくらいに美しく、そして凛々しく変身していた。
彼女は水泳部に入部すると瞬く間にレギュラーの座を獲得して注目の的になった。
そんな彼女に彼氏ができたらしい、との噂を聞いたのは最近のことだ。以来僕は悶々とした日々を過ごしている。
確かめたい、だけどそれは今の自分にとって到底不可能なことだった。
彼女の周りは常に不特定多数の女子で埋まっていた。そして男子は互いに牽制しあい、近づくことができなかった。
自分が女の子に変身できたら彼女に近づいて真相を聞けるかも……そんな馬鹿なことを考えて溜息を吐いたちょうどその時、目の前の女の人に声をかけられたのだ。
「あなたはいったい?」
「それは、ひ・み・つ、よ」
そう言って女の人はいたずらっぽくウインクをした。
「それよりあなた女の子になりたいんでしょ? 女の子になる方法がある、といったらどうする?」
「えっ!?」
「いつでも好きな時に女の子になり、そして男の子に戻れる方法がある、といったら?」
「まさか、そんなこと信じられません」
「信じてくれないの? お姉さん傷ついちゃうなあ」
「当たり前でしょう。まあ、本当にそんな方法があるなら試してみてもいいですけど」
正直言ってからかわれてると思った。信じる気はまったくなく、「やれるもんならやってみろ」というつもりで言ったのだ。
「あらそう? それじゃさっそく」
そう言って女の人はニヤリと笑うと俺に向かって右手を向けた。
すると僕の身体、正確には僕の股間が熱くなり、硬く膨張していった。
「こ、これは……」
「あなたの中の『男』の全てを一ヶ所に集中させたのよ。そして……」
そう言って女の人は突然僕の唇にキスをすると「何か」を飲み込ませた。
「今注ぎ込んだのは『女』のエキスみたいなものよ。股間の『それ』があるうちは男だけど、それを引き抜けば……」
そう言って女の人は艶然と微笑んだ。
第二章 「非日常」の始まり
家に帰った僕は恐る恐る服と下着を脱いで裸になった。
一見すると僕の身体はどこも変わりはない。
(信じたわけじゃない、信じてるわけじゃないけど)
震える手でオ○ン○ンを握り、ゆっくりと引っ張る……
スポンッ
「え? 抜けた? 抜けてる? 抜けちゃった?」
信じられなかった。そんな事、本当にあるはずがなかった。
しかし……呆然となった僕の手には確かに僕自身のオ○ン○ンが握られていた。
「あ、髪が、髪が……」
髪がゆっくりと伸びていく。
「む、胸が……」
先端が尖るように飛び出し、まわりが柔らかく膨らんでいく。
身体全体がプルプルと震え始める。
股間を見ると小さな丘の中心を一本の亀裂が走っていた。
恐る恐る部屋にある小さな鏡をのぞいてみる。
細くなった眉、桜色の唇、肩の下まで伸びた黒く艶のある髪、筋肉が隠れ柔らかく丸みを帯びた身体、小さいけど胸には二つの膨らみ……
「本当に……女の子になっちゃった」
わずかに面影は残っていたけど……鏡に映っていたのはどこからどう見ても「女の子」だった!!
「女の人の言うとおりだと……」
僕は手にしていたオ○ン○ンを股間に近づけていき……
ピタッ
オ○ン○ンが僕の股間にくっついた。
すると僕の身体はさっきとは逆方向に変化していき……僕の身体は男に戻った。
何度か試して判ったことは
・オ○ン○ンを外すと身体が女の子になること
・元の位置に戻すと男に戻ること。
・股間以外にはくっつかないこと。また、向きを逆にしてもくっつかないこと。
だった。
あと、女の人に言われたのは、
「あまり外しっ放しにしないでね。オ○ン○ン自身は栄養補給できないから、3日以上外しちゃうとオ○ン○ンが死んじゃって男に戻れなくなるわよ」
……まあ、これは大丈夫だろう。3日どころか半日だって外しっ放しなんてしないだろうから。
などと、あの時はそう思っていたんだ……根拠もなく。
第三章 第一種接近遭遇
放課後――
目の前には双葉とその取り巻きの女子が笑顔で会話を交わしていた。そして僕はその集団に恐る恐る近づいていった。
今のところ警戒されている様子はない。
(こ、これなら……それにしても)
ちょっと……いや、かなり恥ずかしい。
昨日の夜、僕はこの学校の卒業生で今は家を出て短大に通ってる姉さんの部屋に忍び込み、制服を持ち出した。
そして廃部で使われなくなった部室の物陰でオ○ン○ンを抜いた僕は、姉さんの制服に身を包んでいるのだ。
ボタンが左右逆のブラウスはワイシャツに比べて柔らかい感じがした。そしてスカートをはいた脚のあたりがなんだか頼りない感じだ。
僕は集団の端にたどり着くと会話の内容に耳を傾ける。
話題は多くが校内での出来事やアイドルなんかの話だった。双葉はあまり喋らず、ときどき微笑んだり相槌を打つ程度だった。
今までのところ、恋愛に関する話はまったく出てこなかった。
「あら、あなたどこのクラスの子?」
急に取り巻きの女の子に一人に声をかけられ僕の心臓は爆発しそうになった。
「え? えっと、ぼ…わ、私は……」
しどろもどろになって何とかごまかそうとする僕。すると……
「いいじゃない、そんなの。あたしたちクラスなんてみんなバラバラじゃない」
双葉の言葉に全員が吹き出しながら笑った。
とりあえずの危機が去ってホッとした僕だったが、双葉はそんな僕を見つめていた。
「あっ!!」
突然双葉が声を上げる。
「ちょっと失礼、そろそろ水泳部の練習に行かなきゃ」
双葉が軽く手を振りながら集団から離れようとする。そして離れ際に僕の腕をつかんだ。
「一緒に来て」
そう言って双葉は更衣室のあるプールへと僕を引っ張っていった。
プールの更衣室は双葉と僕以外に誰もいなかった。
「あなた……」
双葉が鋭い目で僕を見ている。も、もしかしてばれちゃった?
「あなた、ブラジャーしてないのっ!?」
「へっ!? い、いやその……小さいから……必要ないし」
さすがにブラジャーまで姉さんのを借りるのは……
「なに行ってるのっ、これだけあれば絶対必要よっ!!」
「ご、ごめんなさい……」
僕がうなだれながら言うと、双葉は苦笑いの表情になった。
「しょうがないなあ」
双葉の言葉と表情に僕もつられて苦笑いを浮かべる。
そのとき、更衣室のドアが少し開いてさっきの取り巻きの女子の一人が顔をのぞかせた。
「あの……速水さん、さっきの子は?」
「ああ、水泳部への入部を検討して見学したいっていうから連れてきたの」
双葉の言葉にその女子は頭を下げながらそのままドアを閉じた。
「えっと……」
「ああ言っとかないと下手に勘ぐられるでしょ。……じゃあこれ」
そう言って双葉は僕に紺色の物体を握らせた。
「これは?」
「入部希望の見学者なんだからプールまでは付き合ってもらわないとね。予備の水着を持ってきておいてよかったわ」
その言葉に僕はびっくり仰天してしまった。
「こ、これって……双葉の水着!?」
第四章 消失した○○○○○
「お、お待たせしました」
更衣室からプールサイドに出た僕が声をかけると、双葉はにっこりと微笑んだ。
「『一人で着替えたい』って、恥ずかしがり屋ねえ」
双葉が苦笑いを浮かべる。
恥ずかしいのは確かだけど……スカートの下のブリーフを見られるわけにはいかなかったのだ。
それにしても僕が女の子の、しかも双葉が着けていた水着を……ううっ、恥ずかし過ぎるよう。
逃げ出したかったけど、肝心な双葉の彼氏のことを聞き出していなかったので、ここで逃げるわけにはいかなかった。
軽い準備運動の後でプールの中へ、最初は遊び半分で息継ぎや手足の動かし方を教えていた双葉の表情がだんだん真剣味を帯びてきた。
「あなたなかなかすじがいいわよ」
「そ、そうですか? えへへっ」
褒められて喜ぶ僕の頭を双葉が撫でる。ああ、気持ちいいよう。
「ちょっとタイムを計ってみましょう。誰かストップウオッチ持ってる人いる?」
双葉がまわりに声をかけると水泳部員の女子の一人が近づいてきた。
「じゃあとりあえずクロールで100メートル、プールの端からここまでを2往復ね。よーい」
僕に返事の間を与えずに双葉が合図を出す。僕は慌てて身体の向きをプールの反対側へと向ける。
「スタート!!」
プールの床を蹴って僕は泳ぎだした。
一心不乱に泳ぎ、反対側の壁を蹴ってターン。100メートルを泳ぎ終わる頃には身体がへとへとになっていた。
「これ、初心者でこのタイムなら凄いわよ」
タイムを計っていた女子が驚きの声を上げる。
「確かに。ね、本当に入部してみる?」
プールから上がっていた双葉がそう言って僕を見た。
「あ、あははは……」
双葉の言葉に僕は笑ってごまかした。
「じゃあ今度はあたしのタイムを計ってね」
そう言って双葉はプルへ飛び込んで泳ぎだした。
「双葉……速水さん、きれいですねえ」
「あら、あなたもなかなかだったわよ。顔も可愛いし、男子からモテモテじゃない?」
タイムを計ってる女子の言葉に僕は慌てて首を横に振った。そして恐る恐る聞いてみた。
「あの、速水さんって彼氏とかは……」
「彼氏? まだ片思いなじゃないかな? 子供の頃、隣の家だった幼馴染に高校で再会して、告白したいけどきっかけがつかめないって」
ちょっと、それって……僕のこと?
「あ、これ内緒にしてね。一昨日無理やり聞きだしたんだから」
今度は首を激しく縦に振った。
泳ぎ終わった双葉が顔を上げる。
「どうだった?」
「いいタイムですよ」
そう言って見せられたストップウオッチの数字を見て満足そうに頷く双葉。
「じゃあ双葉……速水さん、ぼ……私はこれで失礼します」
そう言って僕は頭を下げてその場を離れようとした。
「ああちょっと」
双葉は僕に近づくと僕の耳元でささやいた。
「水着はロッカーに入れとけばいいから。それと……今度来るときはちゃんとブラジャー着けて来なさいね」
双葉の言葉に俺は慌てて頭を下げるとその場を去り、大急ぎで更衣室へ……っと、着替えたのは女子更衣室だっけ。
全身を真っ赤にしながら……それでも僕は嬉しさでいっぱいだった。
(双葉が……僕のことを……)
目的は達成した。いや、予想以上の成果だった。
早く着替えてここを出よう。そしてオ○ン○ンをつけて男に戻ったら……
「あれ?」
貸してもらった空きロッカーを開けた僕は首を傾げた。中に入れた手提げ袋が倒れていたのだ。手提げ袋の中には着替えた男子用の制服と……
「…………え? ない?」
僕は呆然となって呟いた。
着替えた制服と一緒に入れていた筈の僕のオ○ン○ン。それが……どこにも見当たらないのだ!!
第五章 混乱
「……どうしよう」
さっきから僕の口からはこの言葉しか出てこない。
更衣室を隅から隅まで探し、鍵のかかっていない空いているロッカーは全て開けてみた。
けれど、僕のオ○ン○ンは見つからなかった。
そのうちに時間が過ぎてしまい、練習を終えた水泳部の女子たちが更衣室に入ってきた。
「あら、あなたどうしたの?」
「い、いえ、何でもありません。失礼しますっ」
既に(身体が冷えるから)女子用の制服に着替えていた僕は慌てて手提げ袋をつかんで更衣室を飛び出した。
……「僕のオ○ン○ンが無くなっちゃったんで探してるんです」なんてとても言えない。
いったいどうしてこんなことになったのか?
そういえば……ロッカーの扉が少し開いてたような……それに抜き取ったオ○ン○ンって、僕の手の中で小さく脈打ってたよな。まさか……長時間抜き取ったままだと勝手に動いちゃうとか?
キーンコーンカーンコーン
「やばっ」
薄暗くなった校舎に響くチャイムに僕は慌てた。
もうすぐ校門の扉が閉められ、用務員が巡回を始める。こんなところを見つかったら……
僕は慌てて男子用の制服に着替える。教室に飛び込みハサミを持ち出してトイレで髪の毛をザックリと切る。
……目を細めて口を横に広げれば……なんとか男に見えるかな?
ハサミを戻すと大急ぎで校門へと向かう。
校門では用務員が扉を閉めるところだった。
「まだ残っていたのか?」
「すいま……すいませんっ」
女の子のような高い声に、僕は慌てて低く抑えて言い直す。
後ろを振り返ると用務員は少し首をかしげながら校門を閉じて鍵をかけていた。
「…………まいったなあ」
夕焼け空の下、僕は電柱の下で歩みを止めると大きく溜息を吐いた。
「まさか……こんなに揺れるなんて」
今まで女の子に変身してからこんなに歩いたことがなかったので気がつかなかった。
胸の膨らみ、大きくないから大丈夫と思っていたんだけど、身体が上下するたびにたびにあちこちに揺れるのだ。
おまけに慣れていない身体のせいか歩くとバランスがとりにくくって胸の揺れがさらに大きくなっていた。
「家まであと10分はかかるか。……しかたない」
僕は周りに人がいないことを確認すると、両腕を胸の下で組んでそっと持ち上げて固定した。
ワイシャツの胸の部分が前に出てしまっているけどしかたない。
身体がなるべく揺れないように注意しながら僕は歩き始めた。
……僕が女の子のように内股気味で歩いていたことに気がついたのは家に到着する寸前だった。
家に帰り着いたのはもうすっかり日が暮れた頃だった。
玄関で僕は飛び出してきた母さんと鉢合わせしてしまった。
「遅かったじゃない。父さんと母さん、急用でこれから隣の町まで行かなきゃならないから。帰りは深夜になるわ」
そう言って父さんと母さんは出かけていってしまった。
あまりじっくりと見られたくなかった僕としては都合がよかった。
用意された簡単な夕食を食べ終えると僕は自分の部屋に入って制服を脱ぎ……
「痛っ」
胸から伝わってきた痛みに顔を歪める。ゆっくりとシャツをめくり上げると帰る途中揺れ続けていた胸がシャツと擦れて赤く腫れていた。
僕は両手を胸にゆっくりと近づける。
「うっ」
手の平が尖った先端に触れる。胸から痛みとともに痺れるような感じが伝わってくる。
「あっ」
両手で包むように胸を覆う。今度はちょっとくすぐったいような感触。
「あ……はあ」
両手を動かすと胸から心地いい波が身体全体に広がる。こ、こんな感覚、今まで……
胸からの波の一部がお腹の奥で増幅する。
身体を駆け巡る未知の感覚に僕は立っていられなくなりベッドに倒れこむ。
ベッドの上で横になった僕は右手で胸の膨らみを揉みつつ、左手を股間へと……
…………疲れ果てて眠ってしまうまで、僕は……ボクは快感のうねりに翻弄され続けていた。
第六章 変貌した身体、そして……
目が覚めたのは翌日の朝だった。
何時間寝ていたのだろうか? いや、何時間続けていたのだろうか? あんなことを……
湧き上がり続ける快感にボクの手は動き続け、口からは「あん、ああんっ」という言葉しか出てこなかった。
(女の子って……あんな感じ方するんだ)
何もかもが男とは違っていた。
(あんなに気持ちいいなら、もうずっと女の子のままで……って、ボクはなにをっ!?)
慌ててボクは頭の中の考えを振り払う。
今までずっと男だったのに突然女になったら大騒ぎになってしまう。近所や学校では間違いなくボクは変な目で見られることになるだろう。
(それに……双葉に知られたら)
せっかく好きになってくれてたのに……女の子になって双葉に近づいたことがばれたら嫌われてしまう。
やっぱり男に戻らなきゃ。そのためには今日、最悪でも明日までにはオ○ン○ンを見つけないと。
ボクはベッドから降りて立ち上がった。
「あれ?」
バランスを崩しかけて首を傾げる。
視線を下に向けたボクは両手を胸の下に移動させてそっと膨らみを持ち上げてみる。
「……大きくなってる?」
計ったわけじゃないけど……胸の膨らみが昨夜よりひとまわり以上大きくなっているみたいだった。腰のあたりも……
背中にさらさらとした物体が触れる。
「か、髪が……」
昨日学校で短く切ったはずの髪が再び伸びていた。しかも今度は腰のあたりまで。
壁の姿見を見ると、そこにはアイドル顔負けのスタイルの美少女の姿が映っていた。
……って、ボクの部屋に姿見なんてあったっけ?
ボクは部屋の中を見回した。
部屋の形は変わっていない。だけど壁紙やカーテンはピンク色になり、ベッドの上にはぬいぐるみ、机の上にはマスコットが飾られていた。
それに……ハンガーに掛けていたはずの学生服が無くなっていて、代わりに姉さんの部屋に戻したはずのブラウスとスカートとリボンタイが掛けられていた。
ここは姉さんの部屋……じゃない。カーテンの隙間から覗く外の景色は間違いなくボクの部屋からのものだった。いったいこれはどういう……
「早く起きなさい。学校に遅れるわよ」
突然ドアが開いて母さんが入ってきた。ボクは慌てて両腕で胸を隠した。
「か、母さん、ボクの制服は?」
「制服? そこに掛かってるじゃない」
「そ、それじゃなくって、男子用の……」
「なに言ってるの清香(きよか)? うちには女の子しかいないんだから、男子用の制服なんてあるわけないじゃない」
母さんが呆れた顔でボクを見て言う。
「え? 清香? ボクは清彦……」
「変な夢でも見たの? あなたは生まれた時から女の子の清香でしょ? 早く顔を洗ってきなさい」
そう言って母さんは部屋を出ていった。
いったい……どういうことだろう?
ふと目に入ったのは机の上の写真だった。卒業式の日に家族で撮った写真。だけど両親と姉さんに囲まれ、卒業証書の入った筒を手に微笑んでいるのはボクじゃなくてセーラー服を着たかわいい女の子だった。
机の中から筒を取り出し、中に入っていた卒業証書を広げる。書かれていた名前は……清香? じゃあ男としてのボクは?
「あっ!!」
そういえば……あの女の人はボクの男の全てをオ○ン○ンに集中させた、と言っていた。
もしかしてその中には「男としての存在」も入ってて、それを失ったためにボクは存在まで女の子=清香になっちゃったってこと?
第七章 女の子として……
「と、とにかく学校に行ってオ○ン○ンを見つけて男に戻らないと」
そのためには……もう一度あの制服を着なくちゃならないのか。
ボクはハンガーを下ろしてブラウスを取り出す。
昨日借りた姉さんの物より新しい。やっぱりこれはボクの制服らしい。
ブラウスの袖に腕を通して……
「……着けなきゃ…………ブ、ブラジャー」
ブラウス越しに胸の先端がはっきり見えていた。ボクはブラウスを脱いでベッドの上に置くとタンスの引き出しを開けた。
「やっぱり……こうなってるのか」
引き出しの中は昨日まで入っていたブリーフとシャツが消え、代わりにカラフルなショーツとブラジャーが詰まっていた。
改めて視線を下に向けると、胸の谷間(!?)の間から見えるのはピンク色で小さなリボンのついたショーツだった。
ボクは穿いていたショーツを脱ぐと薄いブルーの物に脚を通して引き上げる。
「ううっ」
ショーツはオ○ン○ンのついていない股間にピッタリと張り付き、思わずボクは声を出してしまった。
続いて同じ色のブラジャーに腕を通す。ブラジャーの凹みに胸の膨らみがピッタリと収まった。
「…………」
顔を紅くしながら背中に手を回し悪戦苦闘しながらホックを留めた。
姿見に映る下着姿の女の子に思わず興奮してしまう。だけど……それはボク自身で、興奮で硬くなっている筈のオ○ン○ンは存在せず、股間は平らなままだった。
戸惑いながらも下着を着けたボクは続いてブラウスを着てスカートに脚を通す。リボンタイをつけてから台所に向かった。
「清香、髪の毛がくしゃくしゃじゃない。ブラッシングしたの?」
「え、ええっと」
「もうしょうがないわねえ。朝食食べてる間にお母さんがやってあげる」
母さんが急ぎ足でブラシを取ってくるとパンを食べているボクの後ろで髪を梳き始める。
パンを食べ終わる頃にようやくブラッシングが終わった。長い髪って結構手入れが大変なんだ。
カバンと手提げ袋を持って家を出ると学校へと向かう。
途中、風でスカートがめくれ上がり慌てて手でスカートを押さえる。ううっ、恥ずかしい。
「おはよう清香」
「清香、今日も美人だね」
学校に着くとクラスの女子から気軽に声をかけられる。逆に男子の方はただ見ているか目が合って慌てて視線をそらすかで声をかけてこない。
……やっぱり学校でもボクは以前から女の子だったことになっていた。そしてそのせいで人間関係にも変化が起きていた。
そして――
「どうしたの清香? 早く隣の教室に行かなきゃ」
「う、うん」
ぎこちなく返事をするとボクは手提げ袋を持って席を立った。
隣の教室に入ると中では早くも女子が着替えを始めていた。
そう……次の授業は隣のクラスと体育なのだ!!
ボクは顔を真っ赤にしながら教室の隅へと移動する。
ちらちらと他の女の子の動作を見ながら見よう見まねで赤いブルマーを引き上げスカートを下ろす。
これで下の方は下着を見られずに済んだが、上の方はそうもいかない。
深呼吸してからブラウスのボタンを外す。ブラウスを脱ぐと体操服を手に取り……
「清香ちゃん、今日のブラかわいいっ」
「えっ? 、きゃあっ」
突然声とともにブラジャーに触られてボクは女の子みたいな悲鳴を上げていた。
まわりの女子がボクの方へと集まってくる。
「あ、本当だ、かわいい」
「それにしても清香って胸大っきいよねえ。うらやましいわ」
僕はその言葉に戸惑いながら教室内を見回す。確かに……この中で胸のサイズがボクより大きい女子はいないようだった。僕よりスタイルがいい女子もこの中には……
つまりボクってこの中で一番の美少女ってこと? なんだか嬉しい……って、そんなことで喜んでるなんて女の子みたいじゃないかっ!!
第八章 第二種接近遭遇
放課後、ボクはプールへと向かっていた。
目的はもちろんボクのオ○ン○ンを探すためだ。
本当は昼休みも探すはずだったんだけど、お弁当を食べていたボクの周りに集まった女子たちがそのままおしゃべりを始め……そのまま時間が過ぎちゃったのだ。
おしゃべりの内容はアイドルやらファッションやらでちょっとついていけなかったが離れがたくって……いや、別に興味あったとか持ち込まれた雑誌の写真に目を奪われたとか……そんなことはなかったんだからっ!!
ボクは首を小さく横に振る。
気持ちを落ち着けるために深呼吸をすると体育館の角を曲がる。目の前に目的地のプールが見えた。……が、
「え? 工事中?」
入口には「緊急工事」の看板が置かれ、作業員があちこちを歩き回っていた。
「プールの配管にひびが入って水漏れを起こしてるんだって。一度プールの水を全部抜いて取り替えなきゃならないから今日は使用不可、水泳部もお休みだって」
不意に背後から声をかけられて振り向くと、そこには一人の男子が立っていた。
やや細身だけどバランスの取れた丈夫そうな体格、袖から伸びた腕の筋肉を見るとかなり鍛えてる感じだ。
そして切れ長の目が鋭さの中にも優しさを含んで微笑んでいる。……文句なしの美少年だった。
「君、水泳部じゃないみたいだけど見学の子?」
「い、いえっ、そっ、そうじゃなくって……」
まともに目を合わせてボクはしどろもどろになる。さっきからボク、調子が変だ。頭に血が上り、胸がドキドキと……
「あ、あの……更衣室は……」
「女子更衣室? だめだめ。更衣室自体は問題ないけど、ひびが入った配管というのが更衣室入口付近の床下だって。明日にならないととても無理だね」
「そ、そうですか」
ボクはがっくりと項垂れた。仕方ない、今日はあきらめて明日にかけるしか……
目の前の男子はしばらく黙っていたけど、やがてあの笑顔を再び浮かべると僕に言った。
「ねえ、よかったら今から家に来ない?」
「えっ?」
「ほら、そこの角を曲がったところに家があるんだ。ね、学校からけっこう近いんだ」
校門を出て5分近く歩いた所で男子がボクに言った。確かにこれはかなり近い。通学がかなり近そうだ。
「う、うん、そうだね」
ボクはそう言いながら後ろをついていく。
さっきから胸の動悸が止まらない。
(どうしてボクはこの人についていってるんだろう?)
初めて会ったばかりなのに……いや?
(どこかで……会ってたような……)
記憶を探ってみたけどぜんぜん思い出せない。悩みつつも足はしっかりと男子の姿を追っていた。
「さあ、どうぞ」
そう言って玄関のドアが開けられる。
どうやら家族は留守らしい。そういえばここにくる途中で父親が出張中で母親は夜勤だとか言ってたかな?
ボクは扉をくぐる際にちらりと横目で表札を確認する。
(この人、速水というのか。速水、速水…………えっ!?)
第九章 明かされた事実
「ま、まさか……」
「ようやく気がついた、『清彦』君?」
扉を閉めながら男子がニヤリと笑う。その笑みと先入観でさっきまで考えもしなかった幼馴染の女子の顔が見事にダブる。
「ふ、双葉……双葉なの?」
「そう、もっとも今の名前は双海(ふたみ)っていうんだけど」
目の前の男子……双葉が頷く。僕は激しくショックを受けた。
「ど、どうして双葉が……双葉が男の子に?」
「それはたぶん……これのせいだろうね」
そう言って双葉はズボン越しに膨らんでいる股間を指差した。
「昨日、最初はわからなかった。でも一緒に泳いでいるうちに気がついた。清彦くんに似ていることを」
「…………」
「身体は間違いなく女の子だったからそんな馬鹿な、と思った。けど、どうしても気になって、100メートルを泳いでもらっているうちに大急ぎでロッカーの荷物を調べたら『これ』が出てきて」
まさかそんな……
「自分のバッグの奥に押し込めて持ち帰ってから調べてたんだ。最初はおもちゃだと思ったんだけど、股間に近づけたら吸い付くようにくっついちゃって……そして朝になったら……」
少し顔を赤らめながら双葉が話すないようにボクは呆然となった。まさかボクと同じ……いや、逆のことが双葉に起きてたなんて……
「じゃあ……それはボクのオ○ン○ン?」
ボクは呆然となって呟く。探していたものがこんなところにあったなんて……
「確かめてみる?」
そう言って双葉は男子用制服のズボンを、続いてブリーフを下ろす。
ボクは唾を飲み込みながら双葉の股間にあるオ○ン○ンに手を伸ばす。
(「これ」を外して……ボクにつけ直せば……)
ボクはオ○ン○ンをそっと握るとゆっくりと引き抜き……
シュッ
「えっ? 抜けない?」
オ○ン○ンは双葉の身体から離れなかった。わずかに皮が移動しただけだった。
「昨日から何度も試してるんだけどね。ぜんぜん外れないんだよ」
「そんなっ!?」
動揺したボクは再び引き抜こうと試みる。
シュッ、シュッ!!
だけど何度やっても同じだった。
ガバッ!!
突然双葉が両肩をつかんで引き上げた。双葉の顔が目の前に迫る。
「ねえ清彦、清彦がオ○ン○ンをいじったせいで我慢できなくなっちゃった」
「ええっ!?」
視線を下に向けると双葉の股間のオ○ン○ンが膨張して垂直にそそり立っていた。
「清彦……責任、取ってくれる?」
「え? 責任? 責任って……ムグッ!!」
ボクの唇が双葉の口と重なり合った。
第十章 絡み合う「非日常」
「む……ん……」
重なり合った唇の向こうから双葉の舌が入ってきてボクの舌と絡み合う。
身体が熱くなり、頭の中がぼうっとしてくる。
「……はあぁ」
ようやく唇が離れる。いつの間にかリボンタイとブラウスのボタンが外されていた。
ブラウスを脱がせた双葉がボクの後ろに手を回す。
すると一瞬でブラジャーのホックが外された。……そういえば双葉って小さい頃から手先が器用だったよなあ。
双葉の手がブラジャーを外された僕の胸の膨らみを包む。その手がゆっくりと動くと昨夜よりも数倍強い波が身体の中を駆け巡った。
「あん、ああんっ!!」
ボクは我慢できずに叫び声を上げてしまった。
お腹の奥が激しく疼く。ボクは立っていられなくなり、ベッドの上に倒れこんだ。
双葉はベッドに倒れこんだ僕からスカートとショーツを素早く剥ぎ取った。
「ふふっ清彦、とってもかわいい」
「かやいい? ボクが?」
頭がぼうっとしていたボクは小さく呟く。
「ああ、間違いない。今の清彦はすごくかわいい。学校一の美少女だよ」
以前は「かわいい」などと言われるとからかわれた気がしてあまり好きじゃなかった。だけど今は……とても嬉しい。
双葉はボクの右腕をつかんで持ち上げると隠していた右側の胸の膨らみ、その先端を口に含んだ。
「ああっ、はうんっ!!」
舌で舐められ転がされ、ボクの身体はベッドの上で跳ねた。
双葉の手がボクの脚の間に入ってくる。
力が入らなくなったボクの両脚は簡単に開いてしまった。
脚の付け根、股間の小さな盛り上がりを双葉が撫でる。
「うふんっ……あはんっ」
ボクの口はさっきから意味不明の言葉を出し続けていた。
「ねえ清彦、清彦はもう入れたの?」
「ボ……ボク……い、入れてなんか……」
「嘘おっしゃい」
双葉がボクの股間の割れ目を開くと指を中に入れてきた。
「あああっ!! ごめんなさい、い、入れましたっ!!」
「やっぱりね。何本入れたの?」
「い、一本っ、一本だけえぇっ!!」
悲鳴混じりに叫ぶと双葉はニンマリとした笑みを浮かべた。
「清彦のここ、もうヌルヌルのグショグショだよ」
双葉がボクの股間を触っていた右手を見せる。その指先がテラテラと光っていた。
「じゃあもう準備は十分ね……いくよ」
いつの間にか服を脱いで裸になった双葉がボクの両脚を大きく広げる。
「え? え?」
わけが判らずに疑問符を浮かべるボク。その時、ボクの股間に「なにか」が触れた。
「ま、まさか……きゃあっ!!」
ようやく気がついた時には既に遅し。太くて熱い物体がボクの中に「挿入」された。
「い、痛い、痛いっ!!」
「ふふっ、清彦の処女、いただいちゃった」
痛がるボクの耳に双葉の声が届く。ボクが……処女?
双葉はそのまま押し込み、ついに根元まで入ってしまった。
「ああっ、ボクの中に……ボクのオ○ン○ンが……」
「今はあたしのオ○ン○ンよ。ちょっと動かすよ。大丈夫、すぐに気持ちよくなるから」
オ○ン○ンがボクの中で小刻みに動く。
やがて痛みは消え……いや、痛みすら快感へと変わっていった。
「あ、あっ、ああっ……な、なにこれ? なにこれえっ!?」
「そ、それが女の子の……今、清彦はっ……女として感じてるのっ!!」
息を荒くして双葉が叫ぶ。
「ボ、ボクッ……女の子にっ、女にぃぃぃっ!!」
「あたしもっ、男にっ……清彦っ、一緒に、一緒にいぃぃぃっ!!」
「「ああぁぁぁ―――っ!!」」
ボクと双葉は同時に絶頂に達して気を失った。
エピローグ 「日常」へ
「ふふっ、お久しぶり……かな?」
「あ、あなたは……」
あの日から2ヶ月が過ぎ夏休みに入ったばかりのある日、あ……ボクの目の前に再びあの女の人が現れた。
ボクはあの日から……ずっと女の子のままだった。
双葉も男子のままだ。男子水泳部員として記録を伸ばし続け、県大会で上位入賞を期待されている。
ボクもあの日の翌日に水泳部に入部した。成績はかなりよく地区予選突破は確実と言われている。
ボクたちは公認のカップルとして休み時間、放課後や部活の時間を一緒に過ごしている。そして3日に一度は双葉の家で……
「あなた誰?」
ボクの隣で双葉が女の人を睨みながら言った。
「あたしはそこにいる清彦くんを女の子にした、そしてあなたが男の子になる原因を作った……人間の言葉で言えば悪魔、かな?」
「なっ、悪魔? 清彦になにをする気? まさか魂を?」
双葉が女の人……女悪魔から遮るようにボクの前に立つと女悪魔は大笑いをした。
「あははははっ、あたしは人間が作った悪魔のイメージとはちょっと違うのよ。あたしの獲物は人間の魂じゃなくって、人間が愛の行為を行なう際に発する波動、愛欲のエネルギーなの」
「「愛欲のエネルギー?」」
聞いたことのない言葉にボクと双葉が同時に呟いた。
「清彦くんは好きになった幼馴染に近づけなくて、そんな自分が情けなくて苦しんでたわよね」
「…………」
「双葉ちゃんは告白したい相手のことを考えながら毎晩ベッドの上で自分を慰めてたわね」
「……ううっ」
僕たち二人は真っ赤になった。
「二人の欲望があまりにも大きかったから二人を結びつけたらさぞかし美味な愛欲のエネルギーをいただけるんじゃないかと思ってきっかけと作ってあげようと思ったの」
「それで……あんなことを」
「二人の性別が入れ替わったのは予想外だったわ。思ったより身体の相性がよかったのね。まあ、おかげで二人は結ばれたんだし、結果オーライということで」
そう言って女悪魔はニコリと微笑んだ。
「あなたたちの愛欲のエネルギー、とおっても美味しかったわよ。もう十分にいただいちゃったから、今日はお別れとお礼を言いに来たの」
そういった女悪魔にボクは慌てて問いかけた。
「あの……ボクたちを元に戻すことは……」
「できるわよ」
女悪魔はあっさりと答えた。
「双葉ちゃんの身体にくっついたオ○ン○ン、かなり強く癒着してるからあなたたちでは無理だけど、あたしなら外せるわよ」
「…………」
「あとはあの日とは逆のことをすればいいだけ。外したオ○ン○ンを清彦くんに戻す。それで二ヶ月間のことはなかったことになって二人の身体は元に戻るわ」
そして女悪魔はボクたちの目を見ながら問いかけた。
「どうする? 戻るならこれが最後のチャンスよ」
ボクの腕を握っていた双葉の手がぎゅっと握り締められた。ボクが双葉の顔を見ると双葉は
「清彦に……まかせる」
と言った。
ボクはしばらく考えて大きく深呼吸をすると、首を……横に振った。
「いいです……このままで」
「そう、わかったわ。それじゃあ二人ともお幸せに。……あっ、二人とも大人になるまではちゃんと避妊しておくのよ」
顔を真っ赤にしたボクたちの目の前で女悪魔は姿を消した。
「よかったの、清彦?」
「…………うん」
迷いがなかった、といえば嘘になる。だけど……
「さあ行こう双海」
「え? 二人っきりの時は昔の名前でって……」
戸惑う双葉……双海にボクは微笑んだ。
「だってもうずっとこのままなんだから、清香と双海でいいでしょ?」
「そう……だな。判ったよ清香」
そう言って笑った双海と手をつなぐ。
2ヶ月前からすれば「非日常」な事態だけど、今はこれが「日常」なのだ。
二人は双海の家へと歩き出した。目的はもちろん……
(これでいいんだ……これで)
心の中でボクは……あたしは呟いた。
さっき女悪魔の提案を断った理由。
実は来週、二人で海へ行くことになってるんだけど……一大決心をして買ったビキニの水着が「なかったこと」になってしまうなんて……とても耐えられなかったんだもんっ。
いつもライターマンさんの作品楽しく拝読していますが
エロ有りでかつハッピーエンドとはもう最高です
また期待してます。