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黒き魔装の誘惑 アナザー 黒金の邪妖精

2012/02/11 13:42:35
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プロローグ 黒き魔装

【黒き魔装】そう呼ばれる呪われし装束。
悪の心が宿ると言われ、それは平和を乱す悪の組織において女幹部が身にまとう装束である。
悪の組織の台頭は後を絶たない。
しかし悪ある所に正義あり、その度に正義の戦士は立ちはだかる。
戦いは人知れず雌雄を決し魔隷姫サーキュバス、魔牙姫カーミュラと言った女幹部たちは倒されていった。
しかし、それと同時にセイントパール、セイントピーチ等正義の戦士もまた姿を消していた。
熾烈を極める戦いにて相打ちに倒れたと噂されるも、その真相は人々に知られる事はなかった。


「うん、やっぱりこのコスチュームいいわね」
打放しのコンクリートの壁の前で黒い装束に身を包み、軽く伸びをして肌に馴染む感触を楽しむ女性の姿がある。

『バンシーラ、魔妾姫バンシーラはおるか』
そこへどこからともなく威厳に満ち低く響き渡る声が聞こえてきた。
黒い装束の女性は直ぐに膝をおり頭を下げて畏まる。
「はっ、ここに」
ここは悪の秘密組織ダストのアジトである。
声の主は組織を統べる総帥と呼ばれる存在で、その正体は幹部のものですら一部の者しか見た事が無いと言う。
黒い装束に身を包む女性はバンシーラ、言わずもがな悪の組織に所属する女幹部である。
『お前に指令を与える。まだ覚醒前の力ある者の存在が確認された、お前はそやつが正義の戦士として覚醒する前に籠絡し我が組織のものとするのだ』
「はっ、かしこまりました」
声だけの指令に即座に承服を示すバンシーラ。
だがその指令に於いてひとつ気になる事があり聞き返す。
「総帥、籠絡するとおっしゃいますと相手は男と言う事なのですか?」
『その通りだ、詳細はレイモンドに聞くがよい』
その言葉を最後に総帥の気配はなくなり辺りは静まった。

ところ変わってアジトの研究室。
作戦に必要な合成魔獣や魔道機器などが生み出される場所であるが、そこを管理するドクター・レイモンドの性格を反映してか雑多な印象を受ける。
バンシーラはレイモンドを訪ねて足を踏み入れたが、正直ここにはあまり来たくはない。
それは場の雰囲気もさる事ながら、レイモンド自体がなにか得体が知れない存在だからだ。
まるで宇宙服の様な仰々しい外装に身を包み頭部にはタコともクラゲともつかないモチーフのフルフェイスをすっぽりとかぶっている上に極めつけはどう聞いても合成音としか思えない声だ。
胡散臭い事この上ない。
「レイモンド居るかしら?」
「《あぁバンシーちゃんね、用件は解っているわん。ターゲットのデータはこれよん》」
このオカマっぽい口調も胡散臭さに拍車をかけている。
「ふむ、ターゲットは金児純彦(かねこ きよひこ)13歳。なによ子供じゃない?」
受け取ったデータを見てバンシーラは思わずつぶやく。 詳細なデータと写真が添付されているが、その姿を見てもやはり大きな子供にしか見えない。
「こんなのどうやって拐って言うのよ。普通に攫った方が早くない?」
「《バンシーちゃん、そんなことして正義の戦士に覚醒しちゃったらどうするのよん。ちゃんと考えなさいな》」
「だってこんなお子様じゃ色仕掛けなんて馬鹿らしくて」
「《あ大丈夫、今回のプランはバンシーちゃん自身の魅力は必要ないのよん》」
「なにそれ?あたしの事見くびってない?」
レイモンドの言葉にプライドを刺激されバンシーラは思わず剣呑な視線を向ける。
「《まあ、お聞きなさいって》」
そんな視線もレイモンドは全く意に介せず、と言うよりもその特異な外観からは読み取る事は出来ないのであるが、合成音のような声で言葉を続ける。
「《今回使うのは、その【黒き魔装】そのものなのよん》」
「え?これ?」
「《そうよん、【黒き魔装】はこの私にも良く分からない部分の多いものだけど、その秘めている力は強大。その事はバンシーちゃん自身が身をもって知っているはずよねん》」
バンシーラが身にまとう【黒き魔装】には確かに強大な魔力が宿っており着用者に分け与える、しかしそれは堅固な守りを与えるものでも絶大な破壊力をもたらすものでもない。
その真の力とは全く別なものである。
そしてこれから行う作戦とはその事に機縁とされる事なのだ。
「でも相手は子供でも男なのよ?」
直ぐに察しがついたバンシーラだが、逆に懸念がわき上がる。
「《だからそのためのプランなのよん》」
その懸念を払う様にひょうひょうとレイモンドは言葉を返す。
果たして【黒き魔装】の力とは一体何なのか?
その答えはすぐにでもわかる事になるだろう。


Act.1 妖惑される少年

ひと気のない廃工場にて金児純彦はとんでもないものを目撃してしまって居た。
「追いつめたぞ裏切り者め」
黒いコスチュームに身を包んだ女性を取り囲む覆面の男たち。
手には金属棒を持ち油断なく構えている。
「くそ」
すっかり動きを牽制され封じられた黒いコスチュームの女性は悪態をつく。
「(あれってもしかして悪の組織だよね?とんでもない所にでくわしちゃったな)」
偶然にも目撃する事となった清彦は建物の陰に身を潜めその様子を覗き見ていた。
悪の組織と言う危険な存在に走って逃げだす事も憚られ、黙って事の成り行きが過ぎるのを待つ他はなかった。
「裏切り者には制裁を!」
一人が声をあげると取り囲んだ覆面の男たちが一斉に黒いコスチュームの女性に襲いかかる。
黒いコスチュームの女性も応戦しようとしたが態勢も悪く多勢に無勢、あっと言う間に金属棒の殴打によりズタボロにされて行く。
「(ひ、ひどい)」
その光景に純彦はさらなる恐怖を覚え、知らずに足がもつれ体勢を崩す。
そして
強かに腰を地面に打ち付けてしまった。
「誰だそこに居るのは!」
その時の気配に気がついたのか、覆面の男の一人が純彦の存在に気が付きこちらに迫ってくる。
「(まずい、逃げないと)」
そう思うが恐怖に腰が砕け立ち上がる事が出来ない。
「っち、ガキか。面倒だ」
純彦の姿を見とめた覆面の男が金属棒をふりあげ殴りかかってきたその時だ。
「ぐわっ」
予想外の事が起きたのだ。
男たちに取り囲まれズタボロにのされていたはずの黒いコスチュームの女性が飛び出してきて、覆面の男に一撃を加えると純彦を助けたのだ。
「君、逃げるわよ」
黒いコスチュームの女性は純彦を抱えると、呆気にとられる覆面の男たちをしり目に凄い跳躍力でその場を離れる。
純彦は訳も解らないまま状況に流されるしかなかった。

◆ ◇ ◆

「どうしてこんな事に?」
バスローブ一枚の姿で純彦は呟く。
黒いコスチュームの女性に抱えられ逃げ込んだ先はホテルの一室だった。
女性の名前はバンシーラと言い悪の組織の女幹部をしていたと言う事だ。
だがそれは自分の意志ではなく洗脳されてしていた事で、ふとしたきっかけに洗脳が解け逃げ出したと言うのが先ほどの状況らしい。
バンシーラは自身の保護を求め正義の戦士と接触を図ろうとしていたのだが、人知れず平和を守る正義の戦士は悪の組織以上にその素性は知られていない。
手掛かりを求め様にも女幹部のコスチュームでは目立ってしまい、代わりの衣類を調達するにもそれは同様である。
そこで白刃の矢が立ったのが身近で最も調達が容易い純彦の服と言う訳なのである。
しかも悪ふざけにバンシーラは下着まで全部借りて着て行ってしまったのだ。
少しサイズの小さい純彦の服は逆に身体の線を浮かび上がらせてセクシーに見せていたが、この際そんな事はどうでもよかった。
一人ホテルに残された純彦には途方に暮れるしかする事はなかったのだから。
バンシーラが出て行ってどのぐらいの時間が経っただろうか?
さほど時間も過ぎていないはずだが、なにもする事が無いのと言うのはとかく時間の流れを遅く感じるものだ。
部屋に備え付けのブラウン管テレビは有料チャンネルがコインの投下で見られるようだが、普通のチャンネルは地デジに対応はしていない為に砂嵐しか映さない。
見慣れない場所にバスローブ一枚と言う姿でいる不安も相まって実に落ち着かない。
そんな気分で純彦が視線を周囲にやっていたその時、視界の中にとても気になるものを見つけた。
それはバンシーラが脱いで行った女幹部の黒いコスチュームだった。
アクセサリーなどの装飾品やブーツなども全て揃っている。
なぜか純彦はそれにとても心惹かれたのだ。
好奇心に駆られ純彦はそのコスチュームを手に取ってみる。
「あ、なんかいい手触りだ。本革なのかな?しっとり馴染むような感じだ」
触ってみるとその手触りに思わず言葉が出た。
それに加えて革の匂いとほのかに混ざる薔薇の花の様な香りが更に心を掻き立てる。
「ちょっとこれはめて見てもいいよね?」
衝動が抑えきれず、言い訳をする様に声に出すと革の長手袋を自分の左手にはめて見る。
「あ、なんかはめ心地良いかも」
手を入れて見るとしっとりした革の手袋は直ぐに手に馴染み、その吸い付く様な感覚に思わずうっとりしてしまう。
手を開いたり握ったりして見るがとてもスムーズだ。
思わずにやけてしまい、いそいそと右の方の長手袋もはめて見みると同じように心地よい。
手袋をはめて見ただけなのだが、言いようのない倒錯感にゾクゾクとした感覚を身体を巡り興奮して行く。
「ああ、なんか良いなぁ」
最初は手袋だけと思っていたが、その視線が残りのコスチュームにも注がれると居ても経っても居られなくなった。
流石に女物の衣装を着るなんてなど思うが、そんな自制心などを上回る程にその衣装は魅力的に見える。
「(着て見たい)」
いま純彦の頭にあるのはその一言である。
純彦は衝動のままにバンシーラの衣類を手に取ると次々と身につけて行った。
黒い網のストッキングに足を通し革のショーツを穿く。
黒革のショーツはクロッチ部分も含めて革製で手袋同様肌に馴染む、心なしかクロッチ部分はしっとりと湿っている感じがした。
バンシーラよりも小さな純彦のヒップにもゆるい事はなく、お子様な大きさなアレもはみ出る事なくおさまっている。
つけた事もないガーターやブラジャーもなぜかスムーズにつける事が出来た。
革製のブラのカップも純彦の無い胸にぴったりと張り付き、それによりわずかな膨らみをを見せていた。
バンシーラが身につけていた時と明らかにカップの大きさが変化しているが、そんな事を気にかけないほど興奮はまだ続いている。
熱狂のるつぼにはまるかの様に純彦は残りの衣類も身につけ、ブーツを履きアクセサリーを身につけて行った。

そして全てを着終わってその場に立ちあがった時、そこには魔妾姫バンシーラの衣装に身を包む少年の姿があった。
純彦は悪の組織の女幹部魔妾姫バンシーラの装束に身を包み、恍惚とした表情でただただ快感に打ち震えていた。


Act.2 黒い誘い

「どう?そのコスチュームの着心地は?」
純彦が悪の女幹部の装束に身を包み陶酔していると突然背後から声が掛かる。
「っ!? あ、いや、これは…」
振り向くとそこには先ほど出て行ったはずのバンシーラの姿があった。
慌てふためく純彦だが、そんな様子をバンシーラは楽しそうに見つめ歩み寄ってくる。
その瞳は妖しく艶やかな色香を湛えており、見つめられると思わず言葉が出なくなった。
「慌てなくて良いのよ。大丈夫とっても素敵よ」
バンシーラの黒い革の長手袋に包まれた手が純彦の頬をなでると、コスチュームを身につけた時と同様にゾクゾクとした快感が背筋を走る。
女幹部のコスチュームを着た女性と同じ衣装に身を包む少年が愛でられる光景は何とも言えない倒錯した雰囲気を醸し出している。
「こ、これ、す、すごく良いです」
しどろもどろになりながらも純彦が答えると、バンシーラは妖しく笑みを浮かべ満足そうな顔をする。
「そう、快楽に正直な子は好きよ」
そう言うとバンシーラは純彦の口へ唇を重ねる。
妖艶な大人のキス。
まともなキスなどした事の無い純彦にはひとたまりもない程の感覚、全身がとろけるような全ての力が抜けて行きそうなキスだ。
純彦はそのままゆっくりと後ろに倒れ込みベッドへと身体を預けてしまう。
「さあ、私に身を委ねなさい。快楽の桃源郷を見せてあげる」
バンシーラはそのままゆっくりと純彦に身を寄せると、黒革のコスチュームに包まれている純彦の胸を愛撫し始めた。
「あっ、あぁ」
するとどういう事か平らな筈の純彦の胸が僅かづつだが次第に丸みを帯びて行き盛り上がりを見せていったのだ。
バンシーラの手が純彦の胸を艶やかにしだく度に、胸から来る快感に純彦が喘ぐ。
やがてその胸は小ぶりでは有るが立派な乳房となり、少年の健康的な上半身のラインも少女の様な丸みを帯びたものとなっていた。
「うふふ、良い感じになったわね」
バンシーラが話しかけるが、快感に息があがり上気した純彦は応える事が出来ない。
膨らんだ純彦の胸は先ほど以上に黒革のブラジャーに吸いつくように包まれ、とても淫靡な感覚をもたらしていた。
「あ、はぁ、はぁ、ぼく…」
それでも何とか声を出して答え様とすると、バンシーラに今度は軽く唇に人差し指で触れられ言葉をさえぎられる。
「いいのよ。あなたはただ快楽だけを受け入れなさい」
再び唇を重ねられる。
甘い完熟したラズベリーの様なうっとりとした香りと、豊潤で柔らかい唇の感触。
身体がふわふわと浮き上がる様なとても良い心地に為すべくもなく身を任せる。
バンシーラはまだ少年らしさが残る肩を少年の頭を胸に包み包み込むように抱擁する。
すると今度は少年の肩が丸みを帯び出し、肩幅も少女のそれと同じようになって行った。
「…なんか幸せ」
そしてうっとりと呟く純彦の声も変声前の少年の声ではなく鈴を鳴らした様な可愛らしい女の子の声へと変化していたのだ。
「さあ、これからあなたにはもっと素晴らしい快楽を与えてあげるわ」
うっとりと呆ける純彦にバンシーラはまた唇の先に指を当て、その指を喉元へと落とし胸の間を這わせへその下までをゆっくりとなぞる様にもって行った。
その感覚に再びゾクゾクとした快感がよみがえる。
「あふぅ」
そしてバンシーラの手はそのまま革のショーツの上へと伸ばされる。
小さな膨らみを見せるその黒革のショーツの中には純彦の男の象徴であるものが包まれている。
自覚の無い夢精は経験しただろうが、まだ自慰と言うものをした事が無いそれは、それでも一人前に大きくはなっていた。
ショーツの上から撫で回されるとビクンっと反応し快感を伝えて来る。
その快感は何か込み上げて来るようで滾る様な感覚を純彦にもたらせて来た。
「う、はぁっ、あ」
だがその感覚は長くは続かなかった。
バンシーラの包み込むような股間の愛撫に快感は増していくものの滾る様な感覚はどんどん後退して行き、代わりにぬらぬらと何かを求める様な、疼く様な感覚が込み上げて来たのだ。
「うふふ、もう直ぐね」
バンシーラが愛撫をする度にショーツの膨らみは無くなって行き、小さい少年のお尻も丸みを帯び大きさを増し腰のくびれが出来て行く。
「んんっ、ああぁ、はわぁぁ」
それに伴う快感も度合いを増していき、快楽の奔流の飲まれる純彦は無自覚に嬌声を上げていた。
下半身の変化はなおも続き、黒い網状のストッキングに包まれたまっすぐな少年の太腿には肉が付き女の子の丸く柔らかい足へと姿を変える。
ブーツの上からのぞく脹脛も同様の変化がみられていた。
純彦の身体が変化すればするほど、押し寄せる快感は増大して行きその快楽に押しつぶされそうだ。
「さ、そろそろ終わりかしらね」
そうバンシーラが笑みを浮かべて行った時、純彦の身体が大きく跳ねた。
「あ、ああぁぁぁっ、ああんっ」
大きな快楽の波に押し流される様な感覚、どこかに飛んで行ってしまう様な感覚、深く深く沈んでゆき深淵の中でたゆたう様な感覚。
それらが入り混じる快楽の中、純彦の身体は女性と化したのだった。

Act.3 強襲の白輝

安普請のホテルの一室。
ベッドに横たわる黒い官能的なコスチュームに身を包む人の姿がある。
女と呼ぶには幼く、少女と呼ぶに相応しい容姿のその人物は元は純彦と言う名の少年だった。
「まさか身体を創り変えてしまうなんて、このコスチュームにここまでの力があるなんてね」
そう呟きベッドの傍らに立つのはバンシーラである。
バンシーラは悪の女幹部のコスチュームではなく部屋を出て行った時に着ていた清彦の服を着ていた。
再度着替えた訳ではなく、最初に着替えてからずっと同じ恰好である。
では先ほどのバンシーラはいったい何だったのか?
それこそは【黒き魔装】の力の片影に他ならない。

【黒き魔装】の力。
それは力ある者の悪への誘引、妖惑の誘いであり、それによりもたらされるのは悶え蕩ける様な快楽と陶酔。
その膨大な魔力により誘われる至福とも思える享楽に抗う事は難しく、その魔性に心奪われる事となるのだ。
あのバンシーラは【黒き魔装】が見せた幻惑だったのだ。
本当のバンシーラは純彦が【黒き魔装】を身に着けその魅惑に囚われ変貌して行く様をずっと見守っていたである。

「それにしても可愛くなっちゃったわね」
改めて変貌した純彦の姿を確認するバンシーラ。
純彦だった頃の面影はあるが、眉は細くなり閉じた目のまつ毛も長くなっている。
小さいけれどスッとした鼻筋は整っており、リップグロスを引いた様な薄桃色の唇は可愛らしさを引き立てていた。
「この娘、アイラインで目力出したらかなりいけるわね」
呑気にそんな感想をもらす。
プラン自体はこの時点でほぼ完璧に遂行出来ており、後は手下を動員し堕ちた純彦をアジトへ輸送するだけとなれば余裕も出ると言うものだ。
すっかり油断していたその時だった。
「そこまでです!魔妾姫バンシーラ!」
部屋のドアを開け颯爽と現れた人物がいた。
「おまえはセイントダイア!何故ここに!?」
それは正義の戦士セイントダイアであった。
突然の襲来に驚きを隠せないバンシーラ。
「悪ある所に正義ありです。何か善からぬ企てを講じようとしてもわたしが許しません」
白く輝く戦士の装束に身を包み、風の力を宿した正義の戦士。
それがセイントダイアだ。
「ホテル従業員に偽装させておいた戦闘員は何をしている?」
純彦のまわりだけを見ていると一見勢いだけで実施しているプランの様だが、その実情は気付かれない様に純彦の廃工場への誘導やホテルの占拠と人払いなど裏方では入念に準備が行われていたのだ。
当然こう言う時の事態に備え戦闘員も配備していたのだが、戦闘の形跡もなくここまでの侵入を許してしまう等は不測の事態である。
「残念ですが、その方々には誘眠ガスで眠って頂きました。このフロアの方にはこちらのスプレーでね。火災警報器を無効化するのは少々大変でしたがその方法は秘密です。良い子が真似をしてはいけませんから」
「感知されないよう魔法を使わずに戦闘員を無力化ですって!?あんた本当に何者よ?」
悪の組織ダストに相対する正義の戦士は通常は魔法の力を使い対抗しうるのである。
戦士の装束を身にまとう事によりその強大な魔力を正義の魔法に変える、それが正義の戦士と言うものだ。
当然その強大な力はバンシーラの様な幹部にはすぐに感知できるはずなのだが、そこを逆手に取ったと言う事なのだろう。
「捕らわれていたホテルの方々もすでに救出させて頂きました。残るはあなたを倒すのみです」
「くっ、小賢しいわね」
立ちはだかるセイントダイアにたじろぎつつも、未だにベッドで意識を覚醒させていない純彦に目をやる。
「(プランはもうほぼ完遂しているわ。ここは戦うよりも退却した方が得策ね。問題はこの個室でどうやってセイントダイアを掻い潜るかだけど)」
「さあ観念しなさい、バンシーラ」
セイントダイアはやる気の様である。
「(どうする?私の魔装はこの娘に着せたままだし、直接対決は不利…。なら一か八か!)」
バンシーラは掌に魔力を込めると、それを解き放つ。
しかし放つ先はセイントダイアではなくベッドに横たわる純彦の方にだった。
「目くらましですか?逃がしません!」
その意図を目くらましで窓からの脱出と判断したセイントダイアだったが、次の瞬間その考えが違っている事に気が付く。
「新手?」
バンシーラの放った魔力により純彦の身体は宙に浮き、その体勢を立ち上がらせていた。
「さあ、目覚めなさい。そして悪の力で正義の戦士を駆逐するのよ」
バンシーラの掛けた声で【黒き魔装】を身にまとい少女に変貌した純彦は、床に足がつくとゆっくりとその目蓋を開いた。
「・・・・」
扇情的な黒いコスチュームには少し不釣り合いな幼さが見られるその少女は、焦点がまだ合わないぼんやりとした瞳で佇むだけだ。
「来るのですか!?」
その初動に備え対峙する純白の正義の戦士セイントダイアは警戒する様に身構える。
緊迫感が漂う。
「ふふ、新しき魔姫の力、見せてもらうわ」
黒いコスチュームの少女、純彦の傍らでは勝機を得た顔でバンシーラが余裕の笑みを浮かべている。
バンシーラの言葉に反応し純彦の目に光が戻る。
「…あれ?ぼくどうして?」
だが、その可愛らしい第一声はなんとも間の抜けたものだった。
「こら、寝ぼけるな!正義の戦士は目の前よ」
「え?あ? バンシーラさん?」
飛んで来た激にまだ状況が飲み込めない純彦は困惑した返事を返す。
そこで、ふと今の自分の姿を思い出した。
つい魔がさしバンシーラの黒いコスチュームを身に着けてしまったのだった。
「あ、いや、これは、ちょっと着て見たくなっちゃって。ごめんなさい」
気まずさと恥ずかしさで真っ赤になってその場に蹲る。
まるで姉のセクシーな服を出来心で着てしまった女の子が、その場を見咎められた様子そのものだ。
「はい?どう言う事?」
純彦のその反応に当てが外れ面をくらうバンシーラ。
「ごめんなさい」
「ひょっとしてあなた悪の心に目覚めていないの?」
バンシーラの言葉通り純彦の様子は変貌する前と変わらない反応をしており、どう見ても悪の心に目覚めている風ではない。
「どうやら、目論見が外れた様ですね」
その状況を見取ってセイントダイアはその少女に脅威がないと判断し、純彦への警戒をときバンシーラに向き直る。
そして直ぐにでも攻撃に移れる体勢を整えた。
バンシーラに再び緊張が走る。
「(こうなったら、自分でやるしかないわね)」
残された方法は純彦が身に着けている【黒き魔装】を取り戻すことだ。
「そのコスチューム私に返しなさい!」
「させません!」
バンシーラが動くのと同時にセイントダイアの白い風の力が解き放たれる。
白い風が束となりバンシーラを襲い吹き飛ばすかのように思えたが、その風の束は寸での所で掻き消えていた。
「あ、あぁん」
風の束が掻き消えた後に現れたのは、【黒き魔装】を身に着けた怪しくも美しい妖艶な魔妾姫バンシーラの姿。
上気した頬に妖惑な瞳を潤ませその唇からは嬌声が漏れていた。
「防がれましたか」
「あふぅ、瞬間着装するとこれ、すっごく快感でイッちゃうのよね。思わず余韻に浸りたくなるから戦闘であんまりやりたくないのよ」
相変わらず上気させたままの顔でバンシーラが言う。
「セイントダイア、あなたも着て見る?」
「そうしたらまた貴女は無防備になりますよ」
「あら、それは困るわね」
軽口を言いあうバンシーラとセイントダイアだが、その掛け相とは裏腹にお互い油断なく出方を見ている。

その一方で展開に置いてきぼりなのは純彦である。
【黒き魔装】がバンシーラに戻ったのですっかり裸になっている。
「う?裸っ!? って何これおっぱい??」
裸になった事で小ぶりではあるがしっかりとした膨らみを見せる胸を間に当たりにして驚きを隠せない純彦。
思わず手をやり掴むとしっかりとした感触。
慌てて下も確認しようと手を伸ばすと、そこには慣れ親しんだものは無く平らな丘があるだけだ。
「な、ない!?」
一糸纏わぬその姿は紛れもなく女の身体だった。
「なんで?ぼく女の子になっちゃった???」
思わず両手で頭を押さえ驚愕の表情を浮かべ茫然自失となってしまった。
隠す事をしていない股間の割れ目が露わになっているが、そんな事に気を止める余裕はない。
あまりの衝撃に純彦は走馬燈のごとき流れる思い出のなかへ現実逃避に入ってしまったからだ。


次に純彦が現実逃避から覚めて気が付いた時は事態が急を告げていた。
目の前に広がる光景はバンシーラが白いコスチュームの戦士にワイヤーの様なもので束縛され、なにかの器具で拘束されている姿だった。
「さあ、観念するのですバンシーラ」
「くっ、まさか正義の戦士の癖にあんなえげつない攻撃を仕掛けてくるなんて」
「悪を滅ぼすのに必要とあればそんな事」
「あなた良い根性してるわよ」
「最後の慈悲です。言い残す事はありますか?」
「ここで私が滅んでもダストは不滅、何時の日か世界の覇者となるわ」
「そうですか、では叶わぬ世迷言と共に滅びなさい」
セイントダイアが至近距離で必殺の弓を引く。
純彦にしてみればこの状況は未だ理解できていない。
バンシーラは悪の組織を抜けだしたはずで、正義の戦士と連絡を取ろうとしていた。
そして白いコスチュームの女性はおそらく正義の戦士。
その正義の戦士が今バンシーラを弓で射ろうとしている。
これは何かの間違いだ。
そう純彦が思った時、純彦の身体は勝手に動いていた。
「止めて下さい!」
「ちょっとあんた、やめなさいって」
バンシーラとセイントダイアの間に割って入った。
これには覚悟を決めていたバンシーラも驚く。
だがそれでもセイントダイアは弓を引く手を緩めない。
「退きなさい」
「話しを聞いて下さい」
セイントダイアの慧眼な眼差しにたじろぎつつも純彦は訴える。
「あなたもダストの仲間なのですか?でしたらバンシーラと共に滅びなさい」
しかし話し合う余地など持たないとばかりに、セイントダイアは至近距離から必殺の弓を放ったその時。

ドガーンッ!

ホテルの壁が爆発と共に吹き飛んだ。
風の力が白い光の矢となって放たれたのとは別に外部よりの衝撃だ。
「《はぁい、バンシーちゃん。助けに来たわよん》」
そしてその吹き飛んだ壁のあとから現れたのは、宇宙服の様な外装にタコともクラゲともつかないフルフェイスをかぶった奇怪な人影。
ドクター・レイモンドの姿がそこにあった。
「レイモンド?助かったわ」
「援軍ですか」
レイモンドの登場にその場の空気が変わる。
しかしその場の空気を変えていたのはレイモンドの登場だけではなかった。
バンシーラと純彦の前に金色の光を放つ障壁が現れていたのだ。
そしてそれと同じく金色の輝きを放っている純彦の身体。
「《あらま、その娘すごいじゃないの。私の助けなんて要らなかったかしら?》」
「え?これこの娘が?」
レイモンドの言葉に障壁を創り出したのが純彦だと解るとバンシーラが驚く。
だが純彦自身はいきなりの力の放出に耐えられなかったのか、そのまま気を失ってしまいその場に崩れている。
金色の光もやがてその輝きを無くして行った。
「《もう少し実力を見たかった所だけど、今は撤退した方が得策よねん》」
幸いにも爆煙で目をくらませているセイントダイアにはこちらの様子は感知できない様だ。
レイモンドは急いで特殊限定空間跳躍システムにアクセスすると、拘束具よりバンシーラだけと気絶している純彦を連れ去った。
敵の援軍の出現に油断なく身構えていたが、気配が消えるのを感じたセイントダイアは口惜しそうに呟く。
「逃げられましたか」
視界が晴れた時には目の前からはバンシーラ達は消え去っていた。
「次は倒します」
そう宣言し自分に誓いを立てるとセイントダイアもまたその場を去って行った。


Act.4 魔性への淪落

計器の光でぼんやりと照らされている寝台の上で裸の少女が意識無く横たわっている。
意識は無くともその顔に生気は見られ、ただ昏睡しているだけの様だ。
そしてその様子をすぐ側で観察している二つの人影。
それはドクター・レイモンドと魔妾姫バンシーラの両名であった。
ここは悪の秘密組織ダストのアジトにある研究室である。
セイントダイアの攻撃よりバンシーラを庇った純彦は自分の力に耐えられず気を失い、援軍に来たレイモンドに撤退の際バンシーラと共にアジトへ連れ帰られていたのだ。
「《ふむ、驚いたわん。この娘、桁違いの魔力保有容量の持ちよん》」
レイモンドは検測結果を見て隣のバンシーラに話しかけた。
「ちょっとそんなの大丈夫なの?この娘、悪の心に目覚めてないのよ」
それを聞き少し不安げな表情を見せるバンシーラ。
セイントダイアに受けたダメージはもう回復している。
「《確かにキャパシティーは凄いけど、魔力を開放する為の門が未成熟で一気に放出できないから大丈夫よん。無理に行うと意識の方に負荷がかかって気絶って事になるものん》」
「いやそれでも、うわーっドッカーン、とかされたら嫌よ?」
レイモンドはもし純彦が抵抗したとしても、その脅威が少ない事を告げるが、それでもバンシーラは一抹の不安が拭えない。
「《まあ、あるかも知れないわねん。感情の高ぶりで魔力の暴走とかってお約束だし》」
「やっぱり危ないじゃない」
お約束など言われ更に嫌な顔を見せるバンシーラ。
「《でもバンシーちゃん、あなた総帥からその娘用の【黒き魔装】預かったじゃないのん。その娘に悪の心を目覚めさせるのはバンシーちゃんの仕事よん》」
「そうだけど、一回やって成功しなったのよ?」
「《それは魔力保有容量が大きすぎて浸透しなかっただけよん。【黒き魔装】に加えてバンシーちゃんがその娘を可愛がってあげたら堕ちるわよん。私が保障するわん》」
「ふぅ、あんたの保証は微妙なのよ」
オカマっぽい口調の合成音の様な声に相変わらずの胡散臭さを感じバンシーラはため息をつく。
だが総帥よりの直々な任務となればやらない訳にはいかないのも事実だ。
「ま、やるしかないし可愛がってあげるわよ。女の子相手も悪くないしね」
バンシーラは気を取り直すと意を固め、少し妖艶な笑みを浮かべるとその準備に取りかかったのであった。

◆ ◇ ◆

「…ここは?」
純彦が目を覚ましたのは光沢のある赤いサテン生地と黒い布で装飾されたアンティークな部屋の中であった。
純彦が寝ていたベッドには黒いレースの天蓋があり、支柱には金色の意匠が施されている。
掛けられている包布には赤い薔薇の模様が描かれており、ベッド近くの花瓶には本物の薔薇が飾られていた。
「目が覚めた?」
声がした方を見ると黒い扇情的なコスチュームに身を包んだバンシーラの姿があった。
何度も見ている姿なのに、この部屋の中ではより一層扇情的に見える。
「あ、バンシーラさん」
純彦は記憶を思い出す。
確か自分は止めを刺そうとする正義の戦士よりバンシーラを庇おうとして気を失ったのだった。
そしてその前にはもっと驚愕する事があったはず。
「そうだ僕!」
純彦は慌てて身体に掛かっていた包布をめくり自分の身体を確かめる。
「…やっぱり女の子になってる」
小ぶりだがしっかりと膨らんだ胸。
丸く狭くなった肩と肩幅。
そこから伸びる白くすらっとした小さな腕と手。
くびれのある腰。
丸みと広がりを持ったお尻。
太さを増した柔らかい太ももに脹脛。
そして何も無い平らな丘に一筋の線のがはしる股間。
何処をどう見ても純彦の身体は女の子そのものであった。
「何も驚いたり心配したりしなくて良いのよ」
自分の身体をまじまじと見つめる純彦にバンシーラは近付き優しく声を掛ける。
この声に純彦の気持から焦りの心が消えて行った。
何か素敵なものを見る様に純彦の視線はバンシーラに移る。
「あなたは女の子に生まれ変わったの」
バンシーラが直ぐ隣に来て囁く。
女の子に生まれ変わった。
バンシーラに言われるとその言葉はすんなりと純彦の心に受け入れられた。
「…僕、女の子なんだ」
自分は女の子。
そう自覚が芽生える。
男だった事を忘れてしまってはいない。
男だったけど女の子に生まれ変わったのだとちゃんと自覚している。
だけど心配はいらない。
何故かは解らない、ただバンシーラがそう言ってくれただけで安心出来た。
「でも、これからどうしたらいいの?」
不安はないと思っていても、生まれ変わった自分への戸惑いはある。
身体は女の子になっても純彦は女の子と言うものが良く解らないのだ。
その答えをバンシーラに求める。
「大丈夫。私が教えてあげるから…。 ね?」
バンシーラは静かに答えると、そっと純彦の唇に自分の唇を重ねた。
それは純彦にとっての初キッスのはずだが、記憶の中では初めてではない気がする。
柔らかな感触と熟したフルーツの様な味。
「あふっ…」
部屋全体から漂う甘い薔薇の香りも夢心地にさせる。
「女の子としてキモチ良いこと知っておきなさい」
バンシーラの黒革のロンググローブに包まれた手が純彦の胸を優しく撫でる。
「あっ」
まだ少女の小さな膨らみは敏感でその感触に即座に反応してしまう。
「形の良い可愛い胸ね」
しっとりと吸い付く皮手袋の感触でそのまま胸を揉みしだかれた。
ゆっくりと丁寧に、マッサージの様に柔らかくほぐされて行く。
もはや純彦の頭の中はその感覚に満たされている。
口も半開きになり顔が上気してくるのが解る。
「感じているの?」
さらに身を寄せつつバンシーラが問うが、純彦はまともに声も出ず答えられない。
何かぬらぬらと身体の奥から付き上がって来る感覚。
とても切ないく何かを求める感覚。
股奥の疼きが止まらない。
「物欲しそうね。 …いいわよ」
純彦の火照った表情を見てバンシーラは妖艶な笑みを浮かべる。
そして純彦の秘部へと手を伸ばした。
紛れもない少女の証、縦に割れた一筋の溝。
そこに触れ、一度も開口した事が無いであろう花唇をそっと撫でる。
「あぁっ」
その刺激に一瞬ビクッとなるが、撫で続けられると次第にふわふわとして行き息が荒くなる。
やがてその花唇の奥より染み出る様に隠花の蜜があふれてくる。
「あなたはいま女の子の快感を味わっているのよ」
バンシーラの愛撫の手は止まらない。
その手が今度は秘部の上方にある花芯へと移り、蕾みに包まれた花芯を指でつまみその姿を晒させた。
そして絶妙な指の動きで振動させるかのようにさらけ出した花芯を可愛がる。
「あっ、な、あぁ」
あまりの刺激に喘ぎ声が出ていた。
「さあ、いよいよ次は女の子だけが知る事の出来る女の快感を体験する時よ」
花芯を刺激されるだけでも意識が飛びそうなほどの快感だが、その次があると言う。
愛撫により留めなく花隠より蜜を流していた花唇にバンシーラの指がそっとあてがわれる。
その指は愛撫により柔らかくほころび開花を待つばかりの花唇の奥へとゆっくりと入りこんで行った。
「や、あぁっ、んあぁ」
指1本だと言うのにそれはとても太いものの様に感じる。
何故だか息がつまりそうなそんな感覚に襲われた。
だが同時に何かに満たされようとしている、そんな期待が心に生まれる。
「これから先はもっともっと凄いのよ? …でもここで一度中断ね」
「え?」
しかしバンシーラはそこで手を止めて続きを行わなかった。
気持ちが高ぶり期待に胸を高鳴らせる純彦には、どうしてとしか思う事しかできない。
「ねえ、聞いてくれるかしら?」
バンシーラが純彦に話し掛ける。
「あなたは女の子になった。だからこんな快感を味わう事が出来るの」
確認し言い聞かせる口調で話しを続ける。
「でもあなたはどうして女の子になれたか分かる?」
質問をされた所でいまの純彦には先ほどの愛撫の余韻が残っていてまともに頭が働かない。
「それはね。この装束【黒き魔装】のおかげなのよ。あなたは一度この【黒き魔装】身に着けた。そして女の子に変ったのよ」
ぼんやりとした頭で思い出す。
そうだ、ちょっとした好奇心でそのコスチュームを自分は着たんだった。
そしてその後もの凄く気持の良い思いをした様な気がする。
はっきりと覚えてはいないが、そのコスチュームのうっとりする着心地は覚えている。
あれはとても良かった。
いまバンシーラにしてもらった事と同じぐらい、それ以上に。
「もし望むなら、あなたに【黒き魔装】を与えてあげる。望まないならそれで終わり、女の子になった身体もやがて元に戻ってしまうわ」
あの着心地を味わいたい、女の子の気持ちよさもずっと感じる身体でいたい。
純彦の答えには他に選択肢はなかった。
「欲しいです。僕に【黒き魔装】を下さい」
それは妖惑と享楽に身を任せ心から欲した言葉だった。
バンシーラはその答えにとても満足した顔を見せ妖しく美しい笑みを浮かべていた。
「そう。じゃあ、今すぐあなたの【黒き魔装】を着させてあげる。そしてその後はいまの続きをしてあげるわ。最後までね」
「あぁ、嬉しい」
純彦は歓喜した。
どうしようもないほどの喜びに心が満たされて行く。
「これがあなたの【黒き魔装】」
バンシーラの手にある衣装はとても魅力的な存在感を誇示していた。
「あぁ、これが」
純彦はうっとりとした目で自分に用意された【黒き魔装】を見つめる。
「さあ、着せてあげるわ」
バンシーラは黒革のキャミソールを純彦に被せる。
それは肌に吸いつく様に身体を包むと、小ぶりだが膨らみのある胸もぴったりと覆い少女らしさを引き立てた。
「あふぅ」
思わずため息が漏れる。
「あっと、こっちの方が先だったかしら?」
バンシーラの手の中にあったものはガーリーなタイプのショーツ。
ただしそのタイプでは普通はあり得ない革製のものだ。
それを純彦に穿かせる。
「んぅ」
革のショーツが覆うと花隠より再び蜜があふれて来た。
続けてバンシーラはピンクチェック柄の4段フリルのレザースカートを純彦に穿かせた。
「ふふ、可愛いわ。あなたにとても似合っている」
スカートは純彦の腰に巻かさると、健康的であるが細いウエストを際立たせる。
背中からピンク色のパイピングでラインが通っているベストを掛けられ、袖を通すと華やかさが増し少女らしさが見て取れた。
「素敵になって来たわ、お次はこちらね」
バンシーラは指抜きのロンググローブにニーハイソックスを用意し清彦に見せる。
やはり全て黒革製だ。
すでに身に着けている【黒き魔装】でしびれる様な快感の中、純彦は期待に胸が躍らされる。
するすると履かされるニーハイソックスの感覚に吸い付く革の快感をまたもや味わい陶酔して行く純彦。
両の手にもはめられる指抜きのロンググローブからも感じる同様の快感にますます陶酔は深いものとなっていく。
「ブーツはこれね。ピンヒールはまだ早いけど背伸びしたいお年頃だものね」
足元を彩るロングブーツは編み上げで5センチほどの厚底のものだった。
そのブーツを履くとまだ成長途中の少女の足もすらりと長くなって見え、魅惑的に映える。
「ああぁ、なんてゾクゾクする…」
【黒き魔装】に包まれた純彦は快感にうち震えていた。
身に着けた装束全てから感じる魅惑の感触にとろけそうな気分だ。
「じゃあ、仕上げにアクセも必要ね」
陶酔している純彦の右腕にバンシーラは紫色の宝石が填め込まれ黒くくすんだ金色のバンクルを装着する。
そして首には蝙蝠の翼が生えている髑髏のペンダントがかけられた。
「あん、ああぁぁぁっ、ああんっ」
【黒き魔装】の全てが装着された時、その身体を少女へと変えた時と同じ快楽が純彦を巡り、あの時と同様に喘ぎ声があふれる。
今度はそこで終らない。
純彦の黒髪が肩口まで伸びたかと思うとブロンドのメッシュが前髪に入り、瞳の色が赤と青のオッドアイへと変化した。
纏う雰囲気までもが変り、それまで受け身でいた大人しい少女は居なくなっていた。
そこに立つのは黒金色の揺らぐオーラを纏い、愉悦に笑みを浮かべる妖精の様な少女の姿がある。
「うふふふ、なんて可愛くて素敵になったのかしら」
その姿を見てバンシーラは嬉しそうに自分の顔を少女へと近付け、その唇に口付けをした。
少女も自ら顎を上げて口付けを迎え入れた。
「これは新しい貴女への私からのプレゼント」
唇を離しバンシーラは言うと、薄桃色の少女の唇に煌めき光沢のあるリップグロスを引いた。
すると少女の魅力はますます惹き立たされ、幼いながらも妖惑な笑みを浮かべさせる。
「ありがとう、バンシーラ姉さま。じゃあ、続きしよ?」
「もちろんいいわよ。たっぷり可愛がってあげる」
少女は再び歓喜に心騒がす、これから自分が体感するであろう快楽の享受に心を震わせて。
【黒き魔装】がもたらせた快感とバンシーラから受ける洗礼によって少女は快楽の奔流へとのまれて行くのだろう。
そして深淵の魔へと堕ちて行くのだ。


――その後、この部屋からは少女の嬌声が響きわたる事となり、バンシーラは少女の身体に更なる快楽を教え込み【黒き魔装】に魅惑に憑かれた少女を悪の心へと誘い染め上げたのであった――


エピローグ 黒金の邪妖精

薄暗く闇が漂う荘厳な作りの大広間。
照らす篝火も蒼く揺らめいており、光を拒絶するかのような情景の中に蠢く多数の人ならぬものの存在がある。
そしてそれらのものは一様に同一の方向を向いている。
その方向の先には強大なシンボルがあった。
ここは悪の組織ダストの本拠地にある謁見の間とされる所である。
この奥には支配者である総帥が居るとされるが、その姿をこの大広間で見たものは居ない。
しかしその存在は強大で、姿を見せずとも数多の魔人や戦鬼などに強烈な畏怖と畏敬の両方を与えている。
世界征服によって新しい秩序の構築を目指す為に集められた組織、それがダストだ。
ゆえにたとえその力があっても大規模破壊や大量虐殺などは行わず、あくまで支配を目指す。
しかしその秩序には人々の安寧は含まれていない。
多くの悪の組織がそうであるように、ダストもまた自分達に都合の良い世界を作ろうとしているだけなのだ。
そんな組織に新たな幹部が誕生する。


『皆の者、よくぞ集まった』
人ならざるものが犇めく大広間に威厳に満ち低く響き渡る声が広まる。
途端にざわついていたその場に緊張の空気と静寂が降りおちる。
声だけではあるが確かな存在感と威圧感が広間全体を包む。
『皆の者聞くがよい。我が組織ダストに新しき魔姫が誕生した』
総帥の言葉におおーと言う歓喜の声があちこちから聞こえてきた。
『さあ、新しき魔姫よ前に』
総帥の呼び声に犇めく影達の真中が2つに分かれたかと思うと、その奥より小さな足音が段々と近付いて来る。
その小さな足音の主は、薄暗い中にあっても確かな存在感を放っていた。
それは気配と言うだけのものではなく、実際にその小さな身体からは魔力が黒金色の陽炎となって揺らめいており只者ではない空気を作り出している。
姿を近くで見ればまだ年端も行かない少女であり、湛える悪戯な笑みも妖精を彷彿させるものでありながら周囲に一目を置かせる存在感だ。
少女はそのまま歩みを進めると広間正面のシンボルの前にてひざを折る頭を下げる。
すると仄暗い闇の中でその少女の姿に薄く光が当たり、その姿を明確に見せた。
その身に纏う衣装は可愛らしくも退廃的で攻撃的な印象を受ける。
それは紛れもなく【黒き魔装】だった。
『その【黒き魔装】良く似合っておる』
総帥の尊大で重圧のある声が少女に掛けられる。
『そなたに名を与えよう。新しき魔姫よ「魔爛姫ラナンシーラ」と名乗るがよい』
名を与えられた魔爛姫ラナンシーラは一度深くお辞儀をすると顔を上げる。
その顔には現れた時にも増して悪戯で爛然とした笑みが浮かんでいた。
『ラナンシーラ、その姿一同に披露するがよい』
総帥の言葉に促されるままに立ち上がり、身体を反転させその姿を晒すラナンシーラ。
それは妖しくも可憐であり絢爛にて冥暗なる黒金の妖精の様であった。
その姿に一斉に歓声が上がる。
『我が組織ダストの為に邁進するが良い』
総帥がそう締めくくると、歓声は最高潮に達し地を揺るがす程の轟音となり大広間が熱狂の坩堝と化す。
悪の組織ダストの魔爛姫ラナンシーラ誕生の瞬間であった。

END



* * *



アフターエピソド 妖精は愉快に踊る

「ちょっとラナンシーラ!ラナンシーラは居る?」
悪の組織ダストのアジトにバンシーラの声が響く。
「あたしの事呼んだ?バンシーラ姉さま」
そこにひょこっと現れるラナンシーラ。
「呼んだ?じゃないわよ。また勝手な事して」
バンシーラはこめかみに怒りマークを浮べそうな雰囲気で出てきたラナンシーラに言葉を放った。
新しく誕生した魔姫、魔爛姫ラナンシーラは年端も行かない事も有り見習いとしてバンシーラの下に配属された。
もとよりバンシーラに物凄く懐いているラナンシーラには最適の人事ではあったのだが、バンシーラにしてみればこれがまた手が掛かる妹分なのだ。
楽しい事が大好きで悪戯好き。
欲望に忠実なのはいい事だが、度が過ぎると組織の活動に支障をきたすのだ。
「新しく作った合成魔獣の事?」
「そうそれ、何考えてあんなの作ったのよ」
「だって男と女の性別を取り替えっこする魔獣って面白くない?」
「それがなんの役に立つのよ!」
思わず大きな声を出してしまうバンシーラだが、ラナンシーラは全く意に介していない。
「《まあまあバンシーちゃん、良いじゃのよん》」
胡散臭い合成音声のオカマ口調に振り返ってみればそこにはドクター・レイモンドの姿があった。
「レイモンドあなたもなんでラナンシーラの言う通り作っちゃうのよ?」
「《だって面白そうじゃないのん。ねぇー、ラナちゃん》」
「ねぇー」
首を傾げて「ねぇー」と向かい合うレイモンドとラナンシーラ。
その動作にバンシーラの眉がぴくっとつり上がる。
「あなた達ね!合成魔獣を創る魔冥核は数が限られてるのよ!本部から送られてきた分を勝手に使わないの!」
レイモンドも変なものばかりを作りたがる節があったが、ラナンシーラが加わってからと言うものその傾向は加速度を増して暴走気味と言って良い。
浴びた者を女児化させるガスを吹き出す魔獣だとかギャル化光線を放つ魔獣だとか、数えればきりがない。
「だって創っちゃったしぃ、仕方が無いもん」
「《そうよねん、案外こう言う奇抜な作戦が功を成すものよん》」
まるで聞く耳を持たない二人にうんざりするバンシーラ。
バンシーラとて快楽を愉悦として糧にする魔姫であり真面目な性格ではないが、この二人を前にすればこうもなってしまうのだ。
「いいわよ。だったらその魔獣使って何か成果を上げて来なさい」
何を言っても無駄なら、好きにやらせた方が面倒は少ない。
「やった、あたし頑張るよ」
バンシーラの許しが出て無邪気に喜ぶラナンシーラ。
新しいおもちゃでどう遊ぶか期待を膨らます子供そのものだ。
「ただし、失敗したらお仕置きだからね」
「はい」
一応釘は刺しておくが、ラナンシーラは嬉々として出撃準備に入る。
その姿を見て手のかかる妹分だと自分の苦労を噛み締めるバンシーラだが、その実考えている事はまた別にあった。
「(きっとまた邪魔されて上手くいかないわね、失敗して帰ってきたらどんな風に可愛がってあげようかしら。うふふふ)」
「《バンシーちゃん、またいやらしい事考えてるでしょ?口元が笑ってるわよん》」
「さて、なんの事かしらね? ところでレイモンド、頼んでおいたあの道具出来てる?」
「《出来てるわよん、バンシーちゃんも好きねん》」
「いいじゃないの、私だってラナンシーラは可愛いんだから」
バンシーラはそう言うと含みのある笑顔を浮かべた。
その笑顔は今夜聞くであろう嬌声を思っての事かどうか。
それはバンシーラ本人しか解らない。

悪の組織ダストは世界を征服する為に今日も活動を開始するのであった。

meet again?
忘れた頃にひっそりアップさせて頂きます。
図書館ではかなりお久しぶりなさーにんです。
このお話しは「黒き魔装の誘惑」と言う映像作品の二次創作になります。
とは言ってもかなりマイナーで私自身も視聴した事はないのですけど、原作者の方のお話しが好きで原作のプロットを見て書かせて頂きました。
投稿させて頂いていた当時は小ネタのつもりがそれなりに長くなってしまい、この度図書館に掲載させて頂くに際しましては、それでも描写不足の所を多少加筆を加えました。
しかしながらやはりHシーンは不得手でして、純彦がバンシーラにいかされる描写は省略してしまいました。
この様な稚拙な作品ではありますが、お読み頂きありがとうございます。
少しでもお楽しみいただけたら幸いです。

このお話しを読んで頂いた全ての方と原作者様、この場を提供して頂ける管理人様には心よりお礼申し上げます。
さーにん
sanin23@mail.goo.ne.jp
http://saninsanin.web.fc2.com/
0.7170簡易評価
2.100きよひこ
図書館入り、乙でした!
それと…さーにんさんのサイトの図書館リンクの作品、リンクが変わったんでリンク切れしてるようですよ。
3.無評価さーにん
>2
お教え下さりありがとうございます。
ずっと放置したままで気が付きませんでした。
直ぐに修正致します。
48.100きよひこ
結局ダイアは悪堕ちしないの?