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親友か?恋人か?

2012/03/26 03:29:52
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「ヒマだ。敏明。」
俺の家に来た親友は、ダルそうな顔をしながら畳の上でゴロゴロと寝転がっている。
食おうと思ったお菓子が未開封のまま散らばっている、この部屋にツッコミを入れないのはコイツと俺が付き合いの長い親友だからだろう。
「ああ、そうだな。」

遊びに来たはいいが、特にすることが無くただただ暇なだけ。ゲームで遊ぶのも毎回同じゲームが続くので飽きてそのうち却下される。
これはよくある会話で、俺たちが中学だった時からずっとそうだ。とにかく、お互いにヒマヒマ言い続けている。そんな感じだ。
こういう時は、意味のない無駄な会話で変に盛り上がって時間を潰す事が多い。中高生の時はずっとそんな感じだった。

ただし、最近になってその流れが変わった。
俺の親友の、清彦は非常に珍しい病気にかかり女になった。
宮本さやか、旧姓ならぬ旧名は清彦だ。漢字だと清と書くが平仮名表記である事も多い、また女扱いを嫌うので性別の分からない『きよ』と呼ぶことも多い。





「敏明ひまひま何か面白い事。」
男だった親友が、急に女性化して可愛くっなてウハウハWww・・・っていうのはラブコメの定石だが世の中そんなに甘くない。

俺の親友は女になって、俺だけを好いているカワイイ奴に・・・はならずかなりのガサツ女になってしまった。
女らしくなるどころか、前よりもガサツで男っぽくすらある。黙ってれば顔は可愛いし胸やスタイルも平均以上なんだけどねぇ・・・。ああ勿体無ぁい。
こうして、俺の夢のようなご馳走タイムは訪れずにそれどころか女っ気から遠くすらなってしまった。

周りの人間には一応カミングアウトしているけれど、実際問題、誰も信じちゃいない。
男が女になる病気なんて、都市伝説のようなものでコイツが元男だと言う事は持ちネタ扱いされている。コントかよ?とか言われる。
これで、高校が同じ人間がもっといれば信じて貰えるかもしれないが、以前の清を知っているのは俺だけなんだ。
まぁ気持ちは分かる。男が女になったなんて本人が肯定したって俄かには信じられない。
照れ隠しか何かと思われるのも当然だ。清は女子にして女連中よりも俺と一緒にいること多いもん。
普通はそういう関係って思っちゃうよねね?

そのせいで、俺は彼女持ちと誤解されて全然モテないんだ。
高校時代から別にモテてないだろって?まぁそうりゃそうだけど・・・。
Dてー?余計なお世話じゃ。


そんなこんなで、俺の大学生活は色っぽさが無いのです。
目の前の女性は可愛くても所詮は男って感じだ。男だった頃を知っているから尚更な。
贅沢は言わない、せめてコイツが月一で幼馴染の女の子か彼女を演じてくれたらそれ以上は望まない。

しかし、現状はそれすら難しい。
コイツは色っぽい関係の女の子どころか、普通の女の子の扱いすら抵抗を示す。



「敏明ひまひま。って言って無視するなよ。」
「痛っ!!」
元♂親友が、放置した事に対して腹を立てた。
ってか横になった状態で弁慶の泣き所をきれい狙うな!!なにその良コントロールは?

「ヒマだって言っても、そんな面白い事なんて転がってないだろ?ってか蹴るな痛いから。」
ったく・・・いつからこんな乱暴な子になったんだか?昔はこんな娘じゃなかったのに・・・。
「五月蝿い。」
そう良いながらこいつは俺をゲシゲシと足蹴にする。
男だったお前に、急激に女らしくなれとはもう言わない。
だからせめてそこの乱暴な所を直してくれ。

男だったときのコイツは、ここまで乱暴じゃなかった。普通の男で、どちらかと言えばだが大人しい方ですらった。
まぁ男だったアイデンティティを残す為に、女らしくなる事に反発してその結果、乱暴になっているのは分かるけど・・・ここまで乱暴になるか?
ってか俺ってとばっちり?

「一応、ヒマな時はナンパっていう暇つぶしもある。この時期はガードが堅いとは言え風も多いからスカートがめくれるシーンを見ることも出来るしな。」
「敏明のどスケベ。」
「お前だって、昔一緒になってナンパしてたろ?」


ヒマな時はナンパに限る。
ナンパなら、可愛い女の子と触れ合えるし声をかける時でも楽しい。また不発でも運が良ければ風でめくれるスカートを拝見できる。
しかし幸運は早々無いので風が吹くのを待つためだけに外出する気は無い。

そして、昔ならまだしも今のコイツは女の子だ。少なくとも外見上は。
だからこいつと一緒だとナンパなんて出来ない。恋人がいるっぽく見えてうまくいかないもん。
ナンパをしないで町を歩くのも不毛な感じだし、スカートがめくれる瞬間にしか興味の無い通行人とばれたら色々と大変だ。
だから、コイツが女になってからナンパはお預けで、オマケ(メイン?)のスカートめくれるもずっと拝見してはいない。
女性化したのは大学入学前だから、もう20ヶ月くらいになるのか?長いな。


「あーあ・・・お前が男だったら一緒にナンパで楽しめたものを。今日は温かいわりに風が強いからスカートがめくれやすいいい日なのになぁ・・・。」
「敏明のバカ。」
俺がこうやって不評を零すと、清はやたらと怒る。
まぁ女になってナンパできない苦しみをコイツは味わっているんだから怒れもするか。
俺は頑張り次第ではイイ女と結ばれるが、コイツの場合それは非常に難しい。
贅沢な悩みな上に、間接的にこいつを攻めているようなもんだからまぁ不快だよな。

「清、俺が悪かった。」
清の目に耐えかねて俺は謝った。



「だから鳩尾を殴るのはやめてくれ!!せめて決とかもう少し痛くなさそうな場所を・・・。」
「五月蝿い!!敏明 Is H―ERO(エッチ―エロ)。」

外見を覗いて、コイツが唯一女らしくなったところと言えばこんな風にエロネタに対し拒否反応を示す事くらいだろう。
ただし、拒否反応を示す時は妙に暴力的だ。ってか殴りすぎだ。
やっぱり自分が女になった事を思い知らされるセクシャルな話題が嫌なんだろう?

「そんな女のパンツが見たいのか?H―ERO?」
「せめて敏明をつけてくれ・・・俺はエロだけの人間かよ?」
「女のパンツを覗く事ばっか考えてればエロ人間だ。」
くぅー痛いところを・・・。男は色々と大変なんだよ!!こうなりゃお前の痛いところを突いてやるぜ!!

「お前だって元男なんだ!!そこらへんのエロさくらい当然分かってるだろ?」
俺の買い言葉が余程痛かったのか、清は俯いてそっぽ向いた。
うっ・・・言い過ぎたか・・・?
いやいや・・・最近のコイツは我が侭すぎるんだ。たまにはきつく言ってやらないと駄目だ。

「そんなに女のパンツが見たいんだな?」
少し怒った様な声を出し、清は立ち上がった。ヤバ・・・殴られるかも・・・。

「そんなに女のパンツが見たけりゃ俺のパンツを見せてやるよ。」
予想外の台詞と共に、清は俺の前で仁王立ちをした。



「へっ?」
清の予想外の言動に、俺は思わずフリーズした。
怒らせたと思ったら、逆にゴホービだと?

いや・・・待て・・・。
アレほどエロを嫌っていたコイツが急にご褒美って怪しくないか?
女扱いを嫌うこいつが、スカートをめくられるなんて女みたな(実際、女になってるけど)扱いを自らが受けるなんて怪しすぎる。
こっちが油断している隙を見て後ろ蹴りとかそういう作戦か?それとも単なる冗談か?
「どうした?女扱いされるのが嫌なお前がスカートなんてめくられたいわけないだろ?何の冗談だ?」

冗談だと笑い飛ばすのかと思いきや、振り向いた清の奴は思いのほか真面目な顔だった。
「元男だから、こういうご褒美の有り難さは一応分かるんだよ。今の俺がお前の楽しみであるナンパを邪魔しているようなのも悪い事をしているとは思っているんだ・・・。」
柄にもなく、真剣なコイツの顔を見ると俺の方も思わず固くなってしまう。表情も下半身も。
「こんな、元男のパンツでよければ1枚でも2枚でもくれてやる!!」
吐き捨てるように言った、この爆弾発言は妙に力があった。・・・ひょっとしてマジ?

しかしパンツの1枚2枚って、流石に脱がしていいって意味じゃないよな?ただの言葉のあやだろう。


清のスカートの裾を掴む。
膝上15cmのミニと呼べる丈に、黒のストッキングもしっかり着用し清の格好はしっかりと女の子だ。
何でも、女らしくなるための訓練を両親に強く勧められ渋々ながら女の格好を日常的にさせられているそうだ。
コイツ自身は乗り気じゃないが、自分は女として生きるしかない事は分かっているので練習の意味も込めて週4はスカートを着用するように決めたらしい。
昔から変な所は真面目なんだよな。コイツって。

清は再び向こうを向いたので、その表情は分からないがきっと美少女の顔ではあるのだろう。
大きくくびれたウエストに、2箇所で結んである長い髪と、うなじの辺りは色が白く肌質もスベスベっぽそうだ。
寝転がっていて、少し皺になった服も個人的には好きだったりする。


「じゃあいくぞ?」

声をかけたが清の方から返事は無い。
ひょっとして、俺をからかって内心大爆笑なのか?
それとも気まぐれのご褒美を出して恥ずかしくなって後悔し出したのだろか?
暫く清を探ってみたが、笑いを我慢した震えも、後悔の溜息もない。一体コイツは何を考えているんだ?

「ハァ・・・やっぱいいや。」
考えていると、清から終了のお知らせが届いた。



「せっかく暇つぶしにお前をからかったのに、肝心のお前がこんなに反応がなくっちゃからかっても面白くない。」
「ぬぉう!?」
やっぱりそういうオチなのか?

「酷い!!私の事騙したのね!?」
「騙される方が悪いんだよ。っていうかお前は本物の男なんだからそういう気色悪い台詞はやめろ。」
「男だから、冗談っぽくてこういう台詞も使えるんだろ?女みたいなお前が使うと色々とややこしいしそれよりマシだ。」
ってか理不尽じゃないか?どうして騙された俺の方が怒られてるんだ?

「もぅいいや。つまんないし今日はもう帰る。それじゃあ敏明また週末だな。」
「お・・・おう!!またな。」
さっきのやり取りが嘘みたいに清はスタコラサッサと帰っていった。ああ。どうせ馬鹿にされるんだったら少しくらい触るかめくっておけば良かったよ。
「バカ・・・本当に敏明はどうしようもないバカだ。」
帰り際に馬鹿にしたコイツは妙に毒々しかった。

余談だが、それから俺はナンパに出かけ女の子は捕まらなかったが風でめくれるスカートはある程度見えた。
しかし、一緒に場か騒ぎする人間がいないせいで思ったよりも興奮しなかった。
やっぱり親友が隣にいないと、何をやっても大して面白くないのだろう。



「ヒマだな敏明、って言うか腹減った。」
一昨日は、何だかよく分からない喧嘩?別れになったがそれでもすぐに交流が再開するのが同性の友達のいいところだと思う。彼女が相手だとそう簡単に仲直りといかないからな。
清は女になったがまぁ感覚的には同性の友人と言うことで。

そうだな、もう夕方だしさすがに腹が減るな。
「敏明、何か食べるものないか?」
「ああ、悪い。丁度買い込んだお菓子とか切らしてる。」
「なーんだ。」
おいおい。お菓子がないくらいでそっぽ向くなよ。全く最近のこの娘は急に我がままになって。
「それじゃあ、何か買いに行こうぜ?」
「・・・。」
「おい!!敏明!!」
「ん・・・ああ。」
反応しなかったからってわざわざ殴るんじゃないよ。


清と買い物か。
見た目可愛い女の子と一緒に買い物は役得だよな。中身男だけど・・・。
まぁモテない男は紛い物でも女の子と一緒に外出って言うのは悪くないか。
ただ、一緒に外で歩くと彼女がいるっとことにされて、ただでさえ女の子に縁の薄い俺が余計にモテ無くなっちゃうんだよな・・・。

「敏明!!いくぞ!!」
有無を言わせず、清と一緒に外出する事になった。



「敏明ー。待ってってばー。」
「清。お前歩くの案外遅いんだな。」
「五月蝿い!!この体になったせいで歩幅が小さくなったんだ!!」

言葉遣いこそは乱暴だが、俺より10cmは低い身長に、しかも歩幅も小さいので清は小走りになって俺を追いかけてくる。
女になって脚が短くなったから、歩くのが遅くなったのは分かるがそれにしてもどうしてこんなに小走りだ?
ああ・・・そうか。スカートだし大股で歩きすぎるとめくれちゃうもんね。
やばっ!!言葉遣いは乱暴だが意外とコイツ可愛いな。


下宿の割と近くにある大手スーパーに到着した。1階が主に食料品で2階が簡単なホームセンターとなっている。

「としあきー。こっちこっちー。」
店に到着すると清は急に元気になりはしゃぐような言動と共に小走りで店へと急いだ。店に来ただけではしゃぐなんてコイツも案外子供っぽいな。
普段は(態度が)男だがこうしてると、可愛く見えるがやっぱり可愛い女の子だな。・・・見た目は。
「遅いぞ敏明、早く早く。」
しかし喋っていると男だった頃の清彦を思い出してしまう。やっぱりコイツは男だな。

だが、大股で走っているからスカートがいい感じ見めくれて見えそうなんだよな。
流石は元男!!女の子の格好に慣れていないからご褒美が見え隠れだ。



「敏明、何だか疲れたような顔してるけど大丈夫か?」
見えそうだったご褒美は結局はほぼ見られず終いで終わってしまった。少し残念だ。
そして、外見が女になったとは言え親友のパンツが見えそうって言う事に興奮してしまった自分が残念な人に思えて凄く残念だ。
要するに自己嫌悪に陥っているのだ。

何だかんだで、親友かつ女の子だな。
さっきまで乱暴で俺を強引に連れまわしている風だった清も俺の顔色が悪いのが気になっているようだ。
具合が悪いときに女の子が気を使ってくれるというシチュは、男にとって理想的なものだが、
俺の不具合がアホ臭さと自己嫌悪によるものなので今回に関してはこのシチュは大して美味しくない。心配そうな清の視線が心に刺さります。
だって僕は親友のパンツを見ようとしてただけなんだもの。そんなんで心配されたら凄く悪い気がする。

「ああ・・・まぁ少しな。」
「それじゃあ、食べるものだけとっとと買って帰ろうか?」
「そうだな。」
別に本当に体調が悪いわけじゃないから急いで帰る必要もないが、長居するような場所でもないしとっとと買って帰るか。

「それで、敏明は甘いものが食べたいの?しょっぱいの?」
「どっちでもいいが、どちらかと言えば甘い方がいいな。」
「よしっ!!」
「ん?何が良いんだ?」


「ああ・・・病気にかかってから、味覚も変わっちゃったみたいでどうも甘い物が欲しくなるんだよ。敏明が甘いもの嫌とか言ったら少し困ってたなきっと。」
女の子になった途端に甘党とか、ベタだな。しかし俺的にはそういう娘はストライクだ。大いに歓迎するぞ!!
女になった当初はそんな素振り見せなかったけど、中身が男でもやっぱ女の子なんだなコイツも!!満面の笑みで甘いものをつつく娘はイイ!!
とは思ったが・・・。

「俺が甘いもの食いたくなかったら、俺に合わせてくれるのか?最近俺を強引につき合わせるようなお前が?最近のお前だったら俺の食いたいもの関係なしに勝手に買い込みそうだけどな。」
「敏明も結構酷い事言うよ。」
「分かった分かった悪かった。」
「それじゃあ、お詫びも兼ねて俺が好きなものかって良いよな?」
「結局、お前が好きなもの買うのかよ!!」
「まぁ良いじゃないか。」

辛党と思っていた清も、女の子になると甘党に転身しているらしくひたすらチョコを籠の中に入れていた。やっぱ女の子は甘党の方がいいよね。
しかし、こんなにもチョコばっかはやりすぎじゃないか?
前はあんなに好物だったキャべチュ太郎すら、目もくれずにひたすらにチョコを籠の中に詰め込む清の姿にはどこか違和感があった。
まぁ違和感って言えば女の姿って言う時点で十分違和感なんだけど。



バレンタインを過ぎたから、仕入れすぎたチョコが安売りされているとは言え清は何個チョコを籠に入れるんだか?
板にブロックタイプと白と黒のチョコもあって、トリュフもチロルも入っている。買いすぎじゃないか?

「合計7種類は買いすぎじゃないか?どんだけチョコ好きなんだお前は?」
「割引だし、多少大目に買い込んで良いだろ?それに2月にチョコが買えるのは殆ど女性の特権みたいなもんだし、せっかく女になれたんだから女じゃなきゃ出来ないことでもして、楽しまないと損だよ。」
「そうだな。」
Xデイを過ぎたとは言え男一人がチョコを買い込むのも恥ずかしいし、バレンタインのせいで自分用のチョコが1ヶ月くらい買えなかったし、たまにはチョコがいっぱいでも良かろう。俺も実は甘党っぽいし。


「そういえば敏明?さっき顔と顔色が悪かったが今は大丈夫なのか?」
「一言余計だっての。なぁ別に風邪でもないし大丈夫だろ?」
「でも、さっきはかなり沈んだような顔だったぞ?無理はするなよ?」
沈んだ理由は、お前のパンツが見えなかったからじゃ。「同情するならパンツ見せて下さい」
とは流石に言えないので、テキトーに話をあわせておくか。


中略


「風邪の引き始めだといけないし、俺が晩に何か作ってやろうか?」
「ん?」
「よし決定!!」
話を合わせる前に、清の中で勝手に結論が出来てしまった。
この結論は幸運なのか?



よく分からないままに、清彦・・・じゃなくって清の奴に押し切られ今日の晩飯を作ってもらう事になった。
押し切られて・・・なんて嫌そうな言い草だが、俺にとっては助かる申し出である事は確かだ。
俺はモノグサで家事全般だダメだ、対して清は男時代から何かと器用で料理とかうまかった。本人曰く、微妙な完成度らしいが。
でも、女の子になった今ではきっと当時よりも美味くなっているんだろう。一人暮らしで自炊中心だし。

清は米とぎと下ごしらえを手早く終え、今は休憩し2人でさっき買ったお菓子類をつついている。
親友と一緒にお菓子をつつくというごく普通の光景の筈が、心が清らかでは無い俺はどうしても普通にできないのだ。

「ハイ!!チョコレート!!これ敏明のな。」
時期が過ぎたとは言え、女の子っぽい子に面と向かって軽い笑顔と一緒にチョコを渡されて平常心を保てるほど俺は、悟った僧職系男子じゃないし、そういうのに慣れてるモテ男でもない。
俺は女の子に好意を持たれた事がないし、ストライクゾーンを広げて男の娘もOKにしたって相手を見つけるのが難しい男だ。・・・男の娘は絶対ムリだけど。
そんな俺が本物の女体を持ったものから面と向かってチョコを貰ったら混乱寸前なのだ。

今、俺の脳内では様々な妄想がぐるぐる回っている。
ただ、買ったお菓子を一緒に食べてるだけなのに・・・。



下記の文章は清の心理描写だが、根拠はなくほぼ妄想である。想像ですらなく妄想だ。

(我ながら無理矢理だったよなぁ・・・。2人で食べるお菓子を買うよう装って敏明にチョコを渡すなんて・・・。でもこうでもしないと絶対に怪しまれるもんな。)
フフフ、元男とは言え女の子が渡すチョコの意味が分からないほど俺は鈍くないさ。

(でも、今回は買いすぎたよね。本当は辛党なのに嘘ついて、好物のキャべチュ太郎すら買わずにチョコなんて敏明は全部食べてくれるかな?)
やっぱり辛党だったお前がチョコばっかこんなに買ったのには意味があったんだな。

(バカバカ!!わたしのバカー!!せっかく手作りのチョコを作ってたのに・・・。どうしてさり気なく渡せないの・・・。)
今からでも、来年でも俺は一向に構わないよ。

(でもチョコを敏明に手渡しする!!大事なのはこれだしまぁOKかな?)
そうだな。俺の方も準備期間が欲しいし本命はまだ早いか。

(敏明・・・ホワイトデーのお返しは白いモノ・・・ドロドロとした赤ちゃんの素にしてね?その代わり渡し方・・・っていうか挿れ方は好きにして良いから。)
遠慮なく胎内の方に挿れるよ?いいかな?


1つだけ言っておこう!!
これは単なる妄想で事実じゃないし根拠もない!!
この際真偽はどうだっていい!!
ただ妄想が出来る!!このことが一番重要なのだ!!




・・・って我ながら暴走しすぎだろ。
コイツは、今でこそ可愛い娘の姿だが、元が男で親友だ。
そんなのと、あんまりラブラブイチャイチャになっても困るな。逆に。
にしても、俺の無根拠妄想にしては珍しく、特に矛盾のない妄想だったよな。この妄想は本当だったりして・・・・なんてね。

「ったくぅ・・・。今日の敏明はボーっとしすぎだぞ!!どうしたんだ?」
「ああ・・・悪い悪い。」
言えねえな・・・。お前が俺に惚れてチョコを渡すサマを妄想して萌えたなんて。

「お前はきっと疲れてるんだよ。」
そう言って、「甘いものでも食べて疲れでもとっておけよ。」と言いながら清はチョコを一口サイズに割って俺に渡した。
チョコは手渡しで、清のスベスベな手が触れるのは予想外の心地よさがあった。俺は経験ないけど、フォークダンスで可愛い娘の手を繋ぐような心地よさと同種だと思う。
ヤバイ・・・どっかの爆弾能力の使い手じゃないが、女性の細い腕や白い指っていいな。この白い指が直に触ったチョコはよく分からないが普通のものより美味いように見えた。
というか指が一番美味しそうだ。

「敏明?目の様子が可笑しいけど・・・・・・?」
俺の様子と視線が余程、危なっかしい(やらしい)のだろう。清はかなり心配そうに俺を見つめた。
ヘンタイかよ俺は。女になったとは言え親友に欲情するなよ。
しかも胸とかならまだしも指って・・・ねぇ・・・。



「おいおい敏明ぃ?折角チョコ買ったのに全然食べてないじゃないか!!」
「何でそんなに残念そうなんだお前は?」
そう聞くと、清は少し考えた風だったがすぐに露骨なつくり笑顔にし、不意打ちを放った。
「だって、敏明って女にモテないでしょ?」
余計なお世話じゃ。

「だから俺がチョコを渡して、日がずれている上、渡した女の子がこんなでも喜んで貪り食うと思ってたんだ。敏明なら。そういう光景が見られたら楽しいでしょ?」
「俺は楽しくない!!」
何だ!?この悪戯っ娘は!!などと俺が怒りを堪えていると清は遠慮なく続きを言った。
「本当は手作りチョコを用意した上でネタにしたかったけど、流石に敏明ごときに手作りチョコなんて張り切りすぎでやめたんだけど。」
そりゃあそうだよな。甘いものと言っても、ここまでチョコばっかなのは可笑しいとは思ったよ。清めよくも俺を面白おかしくしやがって!!

「ああ・・・ゴメンゴメン。怒んないでよ?敏明?」
「モテない男をからかうと後が怖いぞ?」
「だからやりすぎたって思ってるんだってば。」
「それじゃあ、お詫びの意味も込めてお前の手で俺の口にチョコの欠片を入れてくれ。彼女が彼氏に『アーン』をするように。紛い物と言えど、女の子がそれをやってくれれば俺の気も多少は晴れる。」
「えっ?」



「別にいいだろ?友達同士で自分の手から相手の口に食べ物を渡すなんて普通だろ?」
清が俺をこのテのネタでからかうのなら、俺も同じような手で返してやるぜ!!
もし、万が一に清がやってくれれば俺としても少しは気分がいいだろうし。・・・まぁまず有り得ない話だと思うが。

「アーンし・て?」
「なんひゃっ・・・・・・!?」
言い終わる前に、清の指が俺の口の中に入っていた。
しかも驚いてつい喋ってしまった事で、清の指を食べてしまうような構図となった。
「むひゃ!?ひゃにふぉ?」
そして指を食べてしまった事に驚いて、ついつい口が動いてしまいまた白い指をはみはみする結果となった。
それから、数秒ほど時が止まり沈黙が続いたが長い時間は持たなかった。強力な平手打ちとその音が、時の止まった無音の世界をぶち壊したのだった。
その後で、清はチョコをネタにして俺をからかった事と全力平手を放った事を。俺は清の指を思いっきり(第2関節近くまで)食べてしまった事をそれぞれ謝り一応は和解できた。

ただ、決着がつきはしたが清の奴が謝罪を態度で示したいと言うので今日の晩飯を頼む事となった。チョコの前からそういう話ではあったが。
奴も俺をさんざんからかった事を反省したようで、今日はもう悪戯をしてこなかった。
少ししおらしく、片付けも含めかいがいしく家事をする清は不覚にもグッと来るほどの可愛さだった。

あと、肉じゃがも豚汁も絶品だった。
母ちゃんが清を見習って欲しいと思うほどの出来だった。





「テテテテ・・・。まだ痕が残ってるよ。」
清の奴に思いっきりひっぱたかれた痕は・・・。うん!!良い紅葉だ(真っ赤になってて凄く痛いです)
そりゃあ俺も悪かったけど、ここまで強く打つ事は無いだろ・・・。
話は数時間前に遡る。


気がつけばもう3月に入りホワイトデーまで、あと少しとなった。
2月のバレンタインに比べてホワイトデーは影が薄い。店の方は売り出しで、ホワーとデー企画なんてものもあるがやっぱりバレンタインほどの活気は無い。
とある支援所だってバレンタインの前後は、関連のネタがあるのにホワイトデーだとそうでもない。
このイベントを特に意識する事なんて、今までは1回もなかったが今年は少し挑戦してみようと思う。

とは言うものの、何を渡せばいいのかがよく分かんない。
バレンタインの場合はチョコと決まってるけど、ホワイトデーはどうすりゃいいんだか?
マシュマロやクッキーが相場か?
でもなぁ・・・。マシュマロだとプレゼントっぽくないんだよなぁ。
どうすりゃいいか聞いてみるか。今日は清がちょうど来るみたいだし。


「ところで清、お前だったらホワイトデーに何を貰ったら喜ぶんだ?」



「えっ!?えええええぇぇぇ!!」
「驚きすぎだろ清?」
慌てた顔が意外と可愛いっていうと怒られるかな?普段は態度が男だが、慌てた姿はオイシイ。

「そんな事俺に聞かれてもな。」
「だが、こういうことはお前に聞くのが最適だろ。」
「そうだな。」
「そう言えば、行きつけの輸入雑貨店でマカロンフェアやってたな。あれってクッキーとマシュマロを足したような感じがあるし良くないかな?」
「いいね。マカロンならオシャレだしそれっぽさもある。採用だ。」
「おお。」


「んで、清。悪いんだけどマカロン買うの付き合ってくれないか?俺じゃセンスがないし。」
「いや・・・悪いって言うわけじゃ・・・。」
「ん?」

ははぁ・・・。
さてはコイツ、自分に対するプレゼントって勘違いしてるな。本当は双葉ちゃんにあげるのに。
面白いからこのまま黙っておこう。
「それじゃあ清♪二人で買い物デートでもしようぜ?」

「ばっ馬鹿なこと言うなよ!!」
俺の不意打ちをモロに喰らったようで清は顔を真っ赤にしてその後で殴りにかかってきた。
頬に清パンチが飛んだが、清のテレ顔が見られたのでOK♪
コイツも、元男って言うのさえ気にしないと男に対して免疫のない美少女なんだよな。オイシイ。
男に免疫なんてあるわけないし、あったら絶対に嫌だ。


「清、なんだか嬉しそうだな?」
「そっかなぁ?」
「おぅ。明らかに表情がいつもと違うぞ?」
コイツに対してプレゼント用のマカロンを買いに行くのがそんなに嬉しいのか?どんだけマカロン好きなんだ?


「まぁアレじゃないか?お互いにモテない身だし、異性と一緒の余所行きって新鮮で楽しいんだよきっと。」
「そうだな。」
でも、(中身はともかく)女の子と一緒に買い物が出来る俺だったらそうだけど、お前は違わなくないか?
男相手で異性だなんて。・・・まぁ実際に異性になっちゃったんだけどさ。

と俺は少々心配気味だったが、清の方は特に気にせず感嘆符の『♪』を出してそうな顔だ。
「ついた。ここが俺の・・・わたしの行きつけのお店よ・・・。」
「そう・・・か。」
意外と女言葉に慣れてるのか?まぁ俺の前以外は女の子で通ってるしそれも当然か。



「ほほぅ・・・。マカロンって意外と種類あるんだな。」
「見た目がカラフルなのも高得点じゃない?」
「ところで、お前が好きなのはどんな味だ?」
「ええっとねぇ・・・。フルーツ類かな?ベリー系統とか好きだよ。あとはビターなコーヒーとか。」
「そうだな。同じような味より全く系統の違うものの方がいいよな。」
「でも、わたしだったら全部同じ味でもいいわよ?」
「俺はそれじゃヤだな。自分が納得できないものを人に渡すわけにはいかない全部別の味だな。」
「真剣で手が込んでるね。」
「清は、フルーツ類が好きだからその枠は3個にして、ベリー派だから逆に苺1個にしてあと2つをシトラスにしちゃえ。」
「敏明のイジワル。」

清と一緒のプレゼント選びは思ったよりも楽しかった。ここ数ヶ月で一番楽しい時間だったかもしれないくらいだ。
しかし、これは清のではなく双葉ちゃんに対するプレゼントだ。こうも機嫌が良くなると少し悪い事をしたような気になる。


「それじゃあ清、今日はありがとな。」
「いいっていいって。わたしだって意外と楽しかったんだし。」
「口調が女になってるぞ?」
「女の子口調が長かったからつい・・・。」


「これで、双葉ちゃんに渡すものが用意できたよ。」
「えっ?」



やっぱり勘違いしてたか。
誤解を解かないとなぁ・・・。
女の子相手には強く言えないけど、コイツは元男の親友だしばっさりと行くか。

「ホワイトデーはあんまりメジャーじゃないけど、告白の日だろ?贈り物をする相手は本命の娘に決まってるじゃないか?お前じゃなくて。」
「そりゃあ、わたし・・・俺だって気付いてたさ。」
「それに男同士で、ホワイトデーやバレンタインに贈り物はキモイって。」
「そ・・・そうだよね・・・、そうだよな。」
「おいおい頼むぜ?同性の親友同士でそういう関係なんてダメだろ。」
「当たり前じゃないか、男同士でそんなのはキモ


バッチーン!!

そこまで言うと激しい音と痛みが襲い掛かった。
面を喰らっていて、何が起こったかを把握した時にはもう清彦・・・じゃなくって清はいなかった。
「確かに、無神経かもしれないがここまで強くビンタしなくていいだろ。」
そう零しながらも、罪悪感はあった。
女になった清は男と付き合うこともを考えないといけない状況なのだから。
・・・幾ら親友とは言え男と付き合ったことが絶対にない相手に誤解を招きやすい言動はまずいよなぁ・・・。
清の場合、男との交際はいつか避けられない問題になってくるのだろうし。





ん?
双葉ちゃんへの告白はどうなったかって?
一言で言えばよくある結末だった。
彼女のいそうな場所を調べて待ち伏せしたまでは良かったが、彼女の隣には男がいた。

「あっ敏明君じゃない。どうしたの?」
「やっ・・・たぁフタバちゃん。」
「どうも。」

「ところで双葉ちゃん隣にいるのは恋人か何か?」
「えへへ・・・そうなんだぁ。いいでしょ?」
「俺はホモじゃないんだし、彼氏がいて羨ましいとは思わないよ。まぁ隣にいる彼女持ち君は少し羨ましいけど。」
「あはは、そうだね。」

「そういえば敏明君は誰か探してる風に見えたけどもしかして私に用事とか?」
「そうかなぁ?そう見えた?別に誰かを探してたわけじゃないんだけど。」
「そぉう?」
「アハハ・・・俺って結構落ち着きないからキョロキョロしちゃうんだよ。」
「ふぅん。それじゃあ今度は新学年かな?」
「そうだね。それじゃあね。」

彼女に真意を悟られないよう必死に隠したので多分誤魔化すことはできたと思う。
ただ、悟られなかったから何だって話なんだけど・・・。
惨めにも散った俺は帰路に着いたのだった。




「よぉ敏明、お帰り。」

家に帰ると清がいた。怒らせて帰ったと思いきや、まだいたようだ。
親友でも、振られた恥ずかしい姿を見られるのは良い気分がしない。
でも、振られて寂しい時に誰かがいるのはいい。安心できる。
帰る場所っていうのか?いいなぁ。そういうのって。
(元)男が相手だと少し気持ち悪い気もするが、清が俺の帰る場所っていうのも悪くない。

「ああ・・・ただいま。」


「何と言うか、清。」
「うん・・・。」
「見事に振られちゃった。顔を見れば分かると思うけど・・・結果くらい。」
「そうだね・・・。」
この親友は、俺が振られたのを一緒に悲しんでくれているんだろうか。声の調子も元気がないし、目も少し潤んでいる。
やっぱりコイツは親友だ。かけがえのない存在だ。
当面の間は恋人がいなくともコイツと一緒なら、どうにかやっていけそうな気がする。

「なぁ清?」
「何だ?」
「付き合ってくれないか?」
「えっ?」

「ダメだろ。男と元男が付き合うなんて。」
「あ・・・おい。」
「だいたい、今さっき振られた男がすぐに別の女に告白なんて不誠実だよ!!尻軽女ならぬ尻軽男なんて許されない!!」
「だから違うって!!」
「何がだよ?」
うっ・・・。よく分からんが勘違いして怒られてる・・・。

「ヤケ食いだよヤケ食い。」
「へっ・・・?」
「振られた後は、何も食えなくなるかヤケ食いだろ?相場としては・・・。」
清は自分の勘違いを恥ずかしく思ったようで、小さな声で「そうだな。」と言った。その時の彼女の耳は真っ赤だった。

「プレゼント用のマカロンも渡す機会がなくってな。5個丸々余ってるんだ。男一人で食うのは多すぎるしお前も手伝ってくれ。」
「お・・・おぅ・・・。」
「ついでに衝動買いで、大量のお菓子も買って・・・、お前の好物のキャべチュ太郎も買ったんだ。こんな日だしお前もヤケ食いに付き合ってくれ。」
「そうだな・・・他ならぬ敏明の頼みだし付き合ってやるか。ヤケ食いくらい。」
「悪いな。」
「それに俺も、ヤケ食いじゃないけどドカ食いしたい気分だったんだ。お菓子代は敏明持ちっぽいし付き合ってやっても良いぜ?」
「それじゃあ、付き合ってくれ。ただ、菓子代はお前も負担してくれ。俺の振られ慰め会なんだもん。」
「女の子に奢らせるなよ・・・。一応は俺も女の子なんだぜ?」
「コイツめぇ。こういうときばっか女の子ぶりやがってぇ。」


こうして、俺の清のヤケ食いパーティーが始まった。

「そうだ実は俺、結構な量の酒を買ったんだ。」
「いいね。」
「敏明が振られた時用のヤケ酒を。」
「ヲイ。」
「冗談だ。」
「本気だったらぶん殴るぞ。女になっていたとしても。」
失恋の痛みは誤魔化す事はできても、冗談で扱っちゃいけないモンなの。

「だけど、酒なら祝杯を挙げるのにも使えるだろ?どっちにしたって酒は欲しいだろ?」
「そうか・・・。なかなか気が利くな。」
「一応は女の子なんだぜ?細やかな気配りくらい出来てるっての・・・本当は。」
「清は将来、意外といい奥さんになれるのかもねぇ・・・。」
「冗談半分でいい奥さんとか言うな。気持ち悪いじゃないか。」
「悪い悪い。しっかし、ヤケ酒といいながらフルーティーなチューハイばっかは如何なものかね?甘すぎないか?」
「うっさい!!女になったせいで甘党になったの!!俺好みの酒はこういうジュースっぽいヤツだからしょうがないだろ!!」
「俺のためのヤケ酒なのに・・・。お前って案外気が効かないな。」
「悪かったな。」

そうだ。忘れてた。
一応はあのことくらい言っておこう。
「清コレを開けてくれ。」
「何だ?この箱は?」
「まぁまずは開けてくれ。」

「ん?マカロンかこれは。」
「お前には今回の事もそうだけど、よく世話になってるからな。告白前に思い出して買っておいたんだ。」
「ふん。」
予想外だったようで、こいつは嬉し驚きって顔してるな。

「一応はお前の好きそうなのを選んでみた。ベリー類とバニラは好きな味だろ。」
「そうだな。なかなか俺好みの選択だ。だけどな・・・。」
「ん?」

「どうしたんだよ?言いたい事があるなら言ってくれよ?」
「おう・・・。双葉さんがマカロン5個で、長年の付き合いがある俺は3個ってどういう事だよ?彼女と俺のどっちが大事なんだよ?」
「うっ・・・。そういうこと聞くか彼女でもないお前が?」
「冗談だよ。ありがとうな。」
「ったく・・・。脅かすなよ心臓に悪い。」

それから暫く2人で、酒とお菓子をつついていると清が思い出したように声をあげた。
「そうだ敏明ぃ?」
「何だ今度は?」
「マカロンのお礼と言うわけじゃないけど、お返しにチョコあげるよ?」
「偉く季節ハズレだな。一応女から男という構図ではあるっちゃあるが・・・。」
そう俺が言うと清はたちまち顔を真っ赤にした。その赤さは「もうお嫁にいけない」と喚く女の子ばりのすんごい赤面っぷりだった。
「勘違いすんなよ!!女の子になったのにロクに手作りチョコも出来ないのはどうかと思ったから来年に備えて練習しただけだ!!」
コイツも女の子としてのコンプレックスがあるんだなぁ。
なんて思うと異様に和んだ。

凝り性の清らしくただ溶かすだけじゃなく生チョコ風にアレンジしてあったのでチョコは旨かった。あとマカロンも。
でも、不思議な事にしょっぱい味がした。悲しいけれど涙は流してない筈なのに・・・。





「ヒマだな敏明。」
俺の家に来た親友は、ダルそうな顔をしながら畳の上でゴロゴロと寝転がっている。
ただ、ゴロゴロとしながらも床の上に散らばったお菓子はしっかり片付けてあるのが最近まめなコイツらしい。
「ああ、そうだな。」

双葉ちゃんに振られてからかれこれ3週間くらいが経過した。当初はかなり落ち込んでいた俺だが3週間あれば傷は癒えるようだ。
この3週間は大した事はしていないで、かなりダラダラ過ごしていた。小遣い稼ぎの単発バイトを何度かしたが結構自堕落だな。
ヒマヒマ言いながら、家事も勉強もロクにしていないんだから結構ダメ人間っぽいな。俺って。
ガイダンスなんかも考えれば、長かった春休みも残り3日程度となった。
春休みももう終わりなのに、俺はやっぱりヒマヒマ言っている。
ヒマと言うくらいヒマならバイトか勉強でもしろと言われそうだが、そんな勤勉な人間ならそもそもヒマだなんて言葉を発しないか。

正直言って、清の奴には救われたと思う。
失恋慰めヤケ酒会に付き合ってくれたのは言うまでもないし、それから何度か慰めてもくれた。
ショックでダラけたせいで、ゴミ屋敷と化した家を片付けれたのも清が手伝ってくれたからだ。
本当にお前には感謝してるんだぜ清?

それにしても、俺の家に来るだけなのに、どうしてしっかりとした格好に着替えるのかなコイツは?
大学に行く程度の用事なら、ラフなジーンズでいることも少なくないのに失恋後は毎日のようにスカート姿でしかも全体的に気合の入った格好だ。
女らしい姿になる事で俺を慰めようとしてくれているのだろうか?サンキューな清。



「ヒマだな敏明。何か面白い事ってないか?」
「面白い事があったら、ヒマだなんていってないっての。」
「そうだな。それじゃあ、何かやりたい事ってあるか?俺も付き合ってやって良いぞ?」
「やってみたい事ねぇ・・・。」
一応あるにはあるんだが・・・。清彦が一緒なら一応は出来るし・・・。
「でもなぁ・・・。」
「その言い草だと何かあるな?言ってみろよどうせ言うだけはタダなんだし。」
ガッツり入ってきたなコイツ・・・。
まぁ良いや。清の言うとおり明かすだけならタダだし、清にだったら明かしても害は無いだろう。

「宮本先生!!女の子のオッパイが触りたいです。」
「はい?」
「先生のオッパイを触らせて下さい。」
速攻ビンタだと思いきや、意外や意外!!清の笑顔だった。最高クラスの満面の笑みだった。

「それは、ムリダナ。」
「だよね。」
無茶な事を言っているのは承知だが、それでも満面の笑みで断られるのはなんか嫌だ。


「それに暇つぶし感覚で女の子の胸を触るのってアウトじゃない?俺だって今は女の子なんだぜ?」
「悪い悪い。だけどお前が言えって言ったんだぜ?やりたい事を。」
「まぁそりゃあそうなんだけどさぁ・・・。」
「「プッ/クスッ」」
2人して同時に吹き出した。
2人で一緒に馬鹿やって、一緒に笑う。
親友同士なんだから当たり前の事なんだけど、久しぶりな気がする。
そう言や、コイツが女になってからどこかギクシャクしたところがあって、心の底から笑う事ってなかったっけな・・・。
でも不思議だ。どこか違和感がある。
親友同士のじゃれあいと、何年間も続いていたあのやり取りと何かが違う。

「どうしても俺の胸を触りたいって言うなら、触らせてやってもいいんだぞ?俺だって胸や体は女の子なんだからさ。」
「マジか!?」
「俺とお前の仲だしな。」
ふむ。言ってみるものだな。
中身が元男の清彦でも、今はなかなかの美少女だし胸もなかなか大き目で曲線の具合もきれいと、なかなか良い胸だ。
胸だけだったら双葉ちゃんよりも・・・ゲフンゲフン。
ナンデモナイデス。


「その代わり・・・だ。」
交換条件かよ。何だ?
金か?それとも課題レポートとかか?
「何か面白い事やってくれ。それが面白かったら胸を触らしてやっても良いぞ?」



「んな!!面白い事ぉ?」
んな事言われたって急に出てくるかよ!!
面白い事ってやっぱりギャグか?

駒ネチッ・・・。アイアーン・・・。タッカンだ・・・。
ってなんか昔のギャグのパクリっぽいのばっかだ。

「早くぅん」
台詞は色っぽいが、口調には同性同士の悪乗りが強く出ている。
つまりは一件おいしそうだが、実はオイシくない。
「あと、20秒ね。19,18・・・。」
ヤバイヨ・・・。ヤバイヨ・・・。
「7,6,5,4・・・。」
全然いいのが思い浮かばない・・・。


でもそんなの関係ねぇ!!
でもそんなの関係ねぇ!!
でもそんなの関係ねぇ!!


その後しばしの間、時が止まった。



そして時は動き出す。(15秒後)

「面白い事って言って、まさかソレをやるとはね。見事なまでの凍結だよ・・・まぁあの芸人さんは嫌いじゃないんだけど。」
「俺は芸人じゃないんだ。急に面白い事って言われてもムリダナ。」
「んじゃあ、面白いことが出来なかったので罰ゲームだ。」
何だよ。結局はソレが目的かよ。

「んで、罰ゲームには拒否権があるのか?」
「拒否権・・・何ソレ?美味しいもの?」
「俺にとってはあると非常にオイシイもの・・・ってか無いとマズすぎる。」
コイツは・・・。
「ウソウソ。拒否権くらいはあるよ。」
「頼むぜ?」
「俺だって、女の子になったんだし無理矢理で強引なのはもう卒業しないとね・・・。現実の女も案外そんなもんだなんてツッコミはなしで。」

「それで、結局はどんな罰ゲームなんだ?聞くだけは聞いてみる。聞いた後でやるかやらないかを決めて良いんだよな?」
「うん。そういう事ね。」
「それで、結局はどうすりゃ良いんだ?」
「敏明には面白い事をやってもらうぜ?」
「結局同じじゃないかよ。」
「ただし、面白い事の内容は俺が考える。」
成る程。そういう無茶振りか。
コイツはどんな無茶を言い出すんだろうか?
過去の例から考えると、裸踊りか屋外ランバダのどっちかだな。どっちで来る。

「俺にキスでもしたら面白いと思う。」
今度は清が時を止めた。


時が再び動き出すのを見計らって、清は再び喋り出した。照れがあるせいなのか、早口で捲し立てているようだった。
「かつて男だった人間が、女になったと思ったら親友の男にキスを求めるんだぜ?コレって面白い話じゃないかな、どんな暇も吹っ飛ぶくらい。」
清の無茶振りは俺の予想を突っ切ったものだった。
そのショックのお陰で、暇な1日は一瞬で消え去った。
これは、ハイレベルな悪戯か?それとも・・・。
彼女の瞳はしっかりと閉ざされていて、格好としては本気でキスを待っているようだ。
俺には彼女の真意は全く分からなかった。本気なのか悪戯なのかどちらとも取れた。


「一応確認しとくけど、嫌なら断っても良いんだよな?」
『へへへ・・・引っかからなかったかぁ。』などと言う反応を少しは予想(期待)していたが清の返答は弱々しい声で「うん。」だった。
少し上から覗いてみれば、コイツの長いまつ毛にうっすらと雫が輝いていた。
これは冗談じゃない。
冗談とは思えないし思いたくも無い。

思えば、コイツが女になってからそれらしい態度があったような気がする。
だが、ここで一歩進んでしまえばもう元には戻れないと思う。
親友の関係もそうだし、今は女とは言えかつて男だった相手へのキスはハードルが高い。
キスをするべきか否か・・・。


半刻の後、俺は答えを決め清の前に立った。
清は長い時間、待ってはいたが、『冗談です』宣言は当たり前のこと俺を急かす事も目を開けることすらしなかった。
「俺の答えは・・・。」
俺の声を聞くと、清は目を開けて結末を見張った。
その目は赤く少し腫れていた。



「ねぇ、敏明君?今日の晩って暇?」
双葉ちゃんの方から俺に話しかけてくるなんて珍しい。
しかも、遊びか何かに誘う風な言い草だ。双葉ちゃんなら、バイトの代理を頼む事が無さそうだし。

「暇といえば暇だけど、双葉ちゃんは彼氏がいるだろ?俺に声かける理由は無いんじゃないのか?」
「うん・・・。彼はいるんだけどさぁ・・・。最近どうもうまくいかなくって・・・。だから敏明君と一緒にどっか遊びに行きたいんだけどいいかな?」
美少女の方から俺を誘うなんて今日は運勢が非常にいい日に違いない。
確か実際に、今日はいい日だったっけな。でも、コレばっかりは幸運の無駄遣いでしかない。

「ゴメン。どうも最近忙しいんだ。」
「嘘つき・・・。さっき暇って言ったじゃない。」
「暇つぶしで忙しいんだ。悪いね女の子と遊ぶほどの余裕は無いんだ。」
俺の言動を理解できず双葉ちゃんはこの場を立ち去った。
さて・・・。そろそろ待ち合わせの時間だな。

「敏明ぃ。」
手を振りながら小走りでやってきたのはかつての親友だ。
現在の関係は、言うまでもないよな?


「ねぇ・・・敏明ぃ?今ってヒマじゃない?」
「そうだな。俺も丁度、ヒマしてた。」
「それじゃあ・・・一緒に暇つぶしをしましょうよ?」
この1年で清もかなり女の子らしくなった。俺の前では男だったのが、俺の前だと恋するオトメになるようになった。

俺と清彦が親友じゃなくなったのは1年前の丁度今日だ。
親友でなくなったとは言え、実は殆ど変わってないのかも知れない。
いつも一緒にいるし、お互いの家を行き来するし、暇な時は一緒に暇つぶしに勤しむのは1年前から・・・。いやコイツが男だった時と同じだ。
変わった事を挙げるのであれば、暇つぶしのバリエーションが1つだけ増えた事だろう。
そして、暇つぶしの意味も変わった。
前は時間が潰れればいいというものだが、今は暇つぶしに時間を使ってしまい忙しい。

―Chu―


もう、ワンランク上の暇つぶしにも挑戦したいが、如何せん俺たちはまだ学生だ。万が一を考えるとこの先の暇つぶしはお預けの方が良いだろう。
「ヒマだね敏明。暇つぶしが終わると。」
まだ糸を引いている彼女の口から暇宣言がまた聞こえた。
「それじゃあ、俺の家に行って1年記念の暇つぶしでもやろうぜ?夜通しで。」
清は頬をほんのり赤らめた。
「うん。」










「でも、キスの先はまだだからね?」
この娘は意外とガードが堅い。元男なのに。
お陰で、1年経っても本番はおろか胸もまだ触っちゃいない。





Side Kiyo



「ヒマだ。敏明。」
最近この台詞がついつい出てしまう。
本当は暇しているほど余裕はなく、内心ビクビクなところすらあるけれどこの言葉を発してしまうのだ。
「敏明ひまひま何か面白い事。」
我が侭な子供か悪友か、それともお馬鹿な女みたいなのだろうか?あまり良い台詞では無い。しかしそんな台詞がついつい出てしまう。

『敏明と一緒にいられるだけで私は楽しいんだからね?』
俺の本心はこれなんだ。
でも、それは決して言わない。言えない。
そんな素直じゃない自分は嫌だけれど、女になってからずっと素直になれてないから、こんなんになっている。
つまり改善の見込みは薄いのだ。
昔は親友だった。親友として敏明が大好きだった。
ただ、好きじゃなくって大好きって言うところがこの兆候だったりしてね。

俺こと、宮本 清(さやか)は1・2年位前までは普通の青少年だった。しかし知る人ぞ知る有名だかマニアックだか分からない奇病によって女になった。
急に女になるのは何かと大変だとは思ったが、案外どうにかなるものだった。
心機一転の、大学デビューによって俺の正体を知るものは実質敏明のみと言う環境だったのだ。
一応本当の事は周りに言ってあるんだけれど、内容が内容なだけに誰も信じてくれずに何をどう勘違いしたか公認の関係扱いとなっていた。
親友の敏明とは、男時代決してソウいう関係じゃなかったけれど彼の事はずっと大好きだった。
親友よりも、ある意味ずっと距離が近い(かも知れない)恋人関係になるチャンスを俺は密かに喜んだ。
そして俺は今日までずっとずっと敏明の側にいる。いつか恋人になれるチャンスを伺って。



「敏明ひまひま。って言って無視するなよ。」
「痛っ!!」
こんなスキンシップしか取れない自分がたまに嫌になるけれどしょうがないとも思う。
俺が下手に女の子らしくなろうものなら、元男なのに・・・だなんてキモがられて敬遠されるだけだろうから女の子っぽい態度は敏明の前では封じている。
2年近く、敏明の前だけで男でいる。まぁ元男としては男としての自分を・・・本来の自分を曝け出せる相手が欲しいので丁度良いのかもしれない。
女の態度でいるとどうも作ったようになって俺的に居心地が悪いのだ

「ヒマだって言っても、そんな面白い事なんて転がってないだろ?ってか蹴るな痛いから。」
「五月蝿い。」
元男ゆえに、男っぽい態度でいることに違和感は無いけれど敏明の前では女の子でいたい自分もいる。
女の子らしく甘えてみたいと言う欲求は弱くない。っていうかかなり強いと思う。
男時代から、大人しくて女らしい部分もなくはなかったし、折角女の子になったんだから敏明の前だけでは可愛らしくありたい。
そう思いながらも、現実は敏明の前だけで男っぽい自分でいることしか出来ない。変に女の子になって親友としての地位を失うのが怖いのだ。
そんなこんなで、敏明をゲシゲシする事でどうにか悪友としての地位を保っている。そんな悶々とした日常なのだ。
あーあ。女の子らしさでも鍛えよっかなぁ?
でもあんまり女の子っぽくなるのが最善策でもないんだよねぇ。
などという俺の脳内妄想は次の瞬間に一発で消し飛んだのだ。

「一応、ヒマな時はナンパっていう暇つぶしもある。この時期はガードが堅いとは言え風も多いからスカートがめくれるシーンを見ることも出来るしな。」
「敏明のどスケベ。」
「お前だって、昔一緒になってナンパしてたろ?」
バカ・・・敏明のバカ・・・。
でも男としてはしょうがないんだよねぇ。男に色香を感じられるようでも困るし・・・色んなイミで。

「あーあ・・・お前が男だったら一緒にナンパで楽しめたものを。今日は温かいわりに風が強いからスカートがめくれやすいいい日なのになぁ・・・。」
「敏明のバカ。」
女の子の前でこんな事を話すなんて・・・。しかも親しい男が自分以外の女に対して色香を感じているなんて私にとっては耐え難い台詞だよ。
俊明がどっかの女になびいてしまう位なら、この短めのスカートをめくり上げるくらいしてあげるのに・・・。

敏明のバカ。
本当にバカ。
俊明はウマシカ。
でももっとバカなのは自分だよ。
男同士の親友を演じる事が上手くできない上に、かといって恋する乙女として積極的に新たな関係を狙う事も出来そうにない。
恋する乙女としての自分を敏明の前で出してみたい!!でも、敏明は簡単に女らしくなったり簡単にモノになる女じゃダメなんだよねぇ・・・。
敏明にベタ惚れした女の子(なんて他にいるかどうかは知らないけれど)が抱えるジレンマだ。どんなに惚れても容易く落とされるようじゃダメなの
苦労してこの娘を惚れさせた!!この子をモノにするのに頑張った!!
そういう証がないと敏明とまともな恋愛関係が続かないのだ。そこを理解しているのが親友ゆえのアドバンテージだね。

と色々と堂々巡りならぬ妄想巡りをしていたら敏明が『清、俺が悪かった。』嫉妬の強く出た眼差しは普通の男性には耐えられないのだろう。
敏明に変なことで謝らせた事は申し訳ないと思う。けれども俺は素直じゃない。
自分で自分を罰する筈が、敏明の鳩尾を殴るという訳の分からない罰則と言う行動に出た。
これも快感なような苦痛なような良く分からない。
愛しい敏明の優位に立っているのは快感だけど、彼を苦しませるのはとっても苦しい。
敏明を罰する事で自分の処罰をした気になるなんてどんだけ歪んでるんだか自分?
「五月蝿い!!敏明 Is H―ERO(エッチ―エロ)。」

『貴男は私のHERO(ヒーロー)よ愛してるわ』
なんて台詞を本当ならば言いたいんだけれど、女の子初心者にはかなり荷が重いのです。
でも、他の女になびく敏明を許せない気持ちもあるので今はこの天邪鬼な性癖に身を任せ思いっきり罵倒してやろう。
身近な女の子の思いにロクに気がつかず、無神経な台詞を連呼するH―ERO(エッチ―エロ)サンにちょっとした仕返しと言う事で。

とヒートアップしていくと事態は思わぬ方向に進むものだ。
少々うろ覚えだけれど思わぬ方向に進んだ時の台詞をまとめてみた。

「そんな女のパンツが見たいのか?H―ERO?」
「せめて敏明をつけてくれ・・・俺はエロだけの人間かよ?」
「女のパンツを覗く事ばっか考えてればエロ人間だ。」
「お前だって元男なんだ!!そこらへんのエロさくらい当然分かってるだろ?」
「そんなに女のパンツが見たいんだな?」

売り言葉に買い言葉を言いますか。徐々に両雄(俺は雌だけど)はヒートアップ!!何をどう血迷ったか、ついには俺の口から明らかにやっちまった台詞が出ていたのだ。
『そんなに女のパンツが見たけりゃ俺のパンツを見せてやるよ。』・・・と。
すぐに冗談だと言いなおせばいいものの、俺は(敏明もかな)頭がフリーズしたせいですぐに取り消しの言葉が出てこない。
おまけに、俺の顔がマジなせいで・・・。まぁ敏明が相手だったら大マジなんだけどね
そのせいで、かなりシリアスな流れになってしまったもので言葉のあやが、いつの間にか現実になってしまいそうになった。

こうなれば毒食わば皿までだ。
「こんな、元男のパンツでよければ1枚でも2枚でもくれてやる!!」
なんて勇気を出して言い放った!!
このまま事故が起これば敏明とゴールまでいけるかもしれないし、もう頑張れるまで頑張っちゃえ!!
本当は男性にリードして欲しかったけどトシアキが相手だから特別だゾ?















「ハァ・・・やっぱいいや。」
それから5分は待ったと思うけれど、結局敏明は来てくれなかった。
困惑して動けなかったか、勇気がなかったか・・・。元男が相手じゃそんな気にすらなれないんだったらどうしよう・・・。
理由を敏明に聞く勇気は俺には無い。
結局は暇つぶしで冗談だという事にして、流しておいた。
そうすれば親友ではいられるからね・・・。最悪の場合でも・・・。

悔しがって、『触っておけば良かった』だなんて零す敏明は脈ありと考えるべきか、ただ単に性のはけ口でしかないのか・・・。今はまだ付かず離れ図の距離でいることしか出来ない。
この選択が、行動が正しかったのか分からなかったがこの日は「もぅいいや。つまんないし今日はもう帰る。それじゃあ敏明また週末だな。」で帰った。
関係が良くなることは無いけど、予防線のお陰で悪くなる事もないよね?





よし!!今は幸いにも暇だ。今日は少し頑張ってみよう。
「ヒマだな敏明、って言うか腹減った。」

幸いにも敏明もお腹が減ったいたようでのっかってくれた。
しかし、この先なんだよね。問題は。
「敏明、何か食べるものないか?」
「ああ、悪い。丁度買い込んだお菓子とか切らしてる。」
「なーんだ。」
と口では言いながらも内心はガッツポーズ状態だ。これはチャンスあるかも?しかし、露骨に喜んでいる顔を見られると話がこじれそうなのでそっぽ向いた。
わがままお嬢様と思われて愛想つかれないと良いけれどどうかな?

「それじゃあ、何か買いに行こうぜ?」
「・・・。」
「おい!!敏明!!」
「ん・・・ああ。」
無言の時に敏明が何を考えたかが気になるけれど、半ば強制的に連れ出す事には成功した。
日常の買い物といえど、異性となった親友と一緒に出かけてのお買い物は楽しいのだ。こう感じるのは女性化したからだろうか?
『敏明!!いくぞ!!』の掛け声で連れ出しには成功した。うまくいけばナニかのフラグがたつかも知れないしね。



「敏明ー。待ってってばー。」
「清。お前歩くの案外遅いんだな。」
「五月蝿い!!この体になったせいで歩幅が小さくなったんだ!!」
と言うのは嘘じゃないけれど、大股で歩く姿を見られたくないと言うのが一番の理由だ。
女の子らしく、内股の小股でちょっと小走りってね・・・。ただ鈍感ヤロー敏明にはその些細な女の子アピールがまず通用しないんだよね。
親の意向で、イヤイヤスカートだなんて見え透いた嘘に引っかかってる敏明が隠された男の娘ゴコロ(っていうべき?)を分かる訳がない。
しかし、無駄と半ば分かっていてもアピールせずにいられないのが♂のサガなのだろう。女性化しても変な特性は残っていた。

俺がスカートでいるのは、敏明と2人きりの時に多い事にすら敏明は気がついていない。スカートはいての女の子アピールくらいだったら少しは気がついてもいいんだけれど・・・。
高校時代は、特に気があるわけでもない女の子を『その気』と勘違いして過剰反応してたのにどうして本物の場面では無反応なんだろうね?必殺誘惑も効かない敏明は絶対鈍感だ。
とは言え、敏明が鋭すぎたら2年近く経つ今まで親友ではいられないかな?この関係は彼が鈍かったからこそできたって考えたら敏明の鈍感っぷりは悪く言っちゃいいけないね。

「としあきー。こっちこっちー。」
敏明と一緒のお買い物♪なんて考えるとついつい急いじゃう。
でも、あんまり嬉々としている自分を見せたらまずい。簡単に釣れる魚に敏明は餌なんてくれない人だもん。
でも、俺は少しだったらエサをあげてもいいや。
前回見ることの出来なかった御パンツ様をほんのりと召し上がれ。


「敏明、何だか疲れたような顔してるけど大丈夫か?」
疲れてるのかな?無理に連れ出しちゃったし?
まさか俺のパンツが見えちゃったせいでキモくて元気ないとかは無いよね?そうだったら泣くよ?
ああ・・・凄ーく不安だ。
「ああ・・・まぁ少しな。」という敏明の返答には心なしか俺を気遣っている風だった。
気遣って欲しいという欲求は当然あるけれど、敏明が急に優しくなる理由なんて悪いものしか思いつかない。告白の前にゴメンなさいとか。

「それじゃあ、食べるものだけとっとと買って帰ろうか?」
「そうだな。」
敏明が鈍感である事を期待して私は計画を進めた。
「それで、敏明は甘いものが食べたいの?しょっぱいの?」
「どっちでもいいが、どちらかと言えば甘い方がいいな。」
「よしっ!!」
「ん?何が良いんだ?」
やばっ!!野望や心の声が出てきちゃった。


甘いものが言いという一言で喜んだ理由は、言うなればチョコレートフラグが発生したからだ。
お菓子を漁るのはごく普通の出来事だ。
その流れで買ったチョコレートを渡せばバレンタインにチョコを渡した気分になれる!!という私得なフラグなのだ。
うまくいけば、本当にチョコを渡す事も・・・ね?
しかし、正直に思いを告げるのは怖いし何より分が悪い。
こっちの方が惚れたんじゃ敏明とはうまくいかない!!どうにかして惚れさせてから関係を作らないといけない。

要は、この目論見は誤魔化せってコトね。

「ああ・・・病気にかかってから、味覚も変わっちゃったみたいでどうも甘い物が欲しくなるんだよ。敏明が甘いもの嫌とか言ったら少し困ってたなきっと。」
私は予め、いい感じに持っていけそうな台詞を用意しておいたので誤魔化しの台詞はスラスラと出てくる。このフラグ関係の台詞は練習量も多目なのでラクショーだ。
しかもこの場合だと『私甘党なんですよ』というベッタベタな女の子らしさアピールも出来ちゃうんだよねキャハハ♪
って感じかな?敏明って案外ベタな女の子らしさに弱いところがあるし。
自然と女の子スイッチが入って、心の声が女の子っぽいものになるのはバグではなく病気の一種ですよきっと。・・・えっビョーキ?

「俺が甘いもの食いたくなかったら、俺に合わせてくれるのか?最近俺を強引につき合わせるようなお前が?最近のお前だったら俺の食いたいもの関係なしに勝手に買い込みそうだけどな。」
「敏明も結構酷い事言うよ。」
「分かった分かった悪かった。」
「それじゃあ、お詫びも兼ねて俺が好きなものかって良いよな?」
「結局、お前が好きなもの買うのかよ!!」
「まぁ良いじゃないか。」
少々強引ではあるが、展開としては悪くない。敏明にチョコレートを手渡しさえ出来れば、細かい事はこの際無問題!!

「合計7種類は買いすぎじゃないか?どんだけチョコ好きなんだお前は?」
「割引だし、多少大目に買い込んで良いだろ?それに2月にチョコが買えるのは殆ど女性の特権みたいなもんだし、せっかく女になれたんだから女じゃなきゃ出来ないことでもしえ楽しまないと損だよ。」
「そうだな。」
つい嬉しくってチョコを大量に籠へポーン!!してしまった。
ここは、自然に程ほどに沢山の分量で留めておくという予定だったのに・・・。
でもどうにか誤魔化せたのでOKだ。いっそ今日は(今日からずっと)チョコレート党になってやるぅ!!キャベチュ太郎も暫し封印したって良いや!!


「そういえば敏明?さっき顔と顔色が悪かったが今は大丈夫なのか?」
何気ない一言から、新しい展開は発生するものらしい。この時にようやく分かった。あと口が悪いように聞こえるのは照れ隠しって事で。
「一言余計だっての。なぁ別に風邪でもないし大丈夫だろ?」
「でも、さっきはかなり沈んだような顔だったぞ?無理はするなよ?」
他の理由である可能性が怖いけれど、やっぱ大切な人の顔色が優れないと心配になる。

しかし、私は悪女なのかも知れない。
敏明が心配と言うのは確かにある。でも心配よりガッツポーズの方が優先順位が高いのだ。所謂(いわゆる)嬉しい誤算って言うのね。



「風邪の引き始めだといけないし、俺が晩に何か作ってやろうか?」
「ん?」
「よし決定!!」
私としては理想的なフラグだ。この際敏明の症状が重いとか軽いとかはどうでも良い(ヲイ)
ただ、敏明の為に晩御飯を作っても可笑しくない・・・って状況や口実が欲しいのだ。
敏明の意見すら聞かずに押し切ってしまったのは不自然だけれど、万が一に遠慮でもされるとこの幸運過ぎるチャンスが台無しなので半ば強引にぶっぱなしてみた。



「ハイ!!チョコレート!!これ敏明のな。」
この台詞をずぅぅぅっと言ってみたかった。ぅが3つだから3ヶ月前からか。
ニヤケそうになる自分を押さえ込んだらまぁまぁの笑顔になった。
程よい笑顔でチョコを渡すという誰かにっては得なイベントが発生した。清得?敏得?・・・作者得って何よ?

「ったくぅ・・・。今日の敏明はボーっとしすぎだぞ!!どうしたんだ?」
「ああ・・・悪い悪い。」
「お前はきっと疲れてるんだよ。」
と口では言いながらも敏明の体調がどうでもいい・・・訳じゃないけど気に出来る程、女の子初心者にゃ余裕は無いのさ。
今の俺のする事といえば、それっぽさを演出しながら敏明に1欠片でも多くのチョコを食べさせて遅いバレンタインを味わう(気分になる)事だけだ。
疲れているから甘いものでも食べろよ!!・・・的な流れで何欠片もチョコを渡した。チョコの手渡しと言うだけでも幾分か私の心は満たされた。

しかし、日ごろ憎まれ口ばかり叩いたせいだろう。
つい・・・。
「おいおい敏明ぃ?折角チョコ買ったのに全然食べてないじゃないか!!」
「何でそんなに残念そうなんだお前は?」
「だって、敏明って女にモテないでしょ?」
「だから俺がチョコを渡して、日がずれている上、渡した女の子がこんなでも喜んで貪り食うと思ってたんだ。敏明なら。そういう光景が見られたら楽しいでしょ?」
なんて台詞を吐いてしまい、ほんのりと擬似恋人と感じられなくもない。というイイ雰囲気が消えいつもの悪友関係に戻ってしまった。


「本当は手作りチョコを用意した上でネタにしたかったけど、流石に敏明ごときに手作りチョコなんて張り切りすぎでやめたんだけど。」
その場を取り繕おうととっさに予定していなかった台詞を言い放つ。
やってしまった・・・。敏明は『清めよくも俺を面白おかしくしやがって!!』って言わんばかりの顔だ。
でもね?敏明。
敏明ごときの為に手作りチョコを作らないって言うのは嘘だよ?
渡せなかったけれど、2/13の夜から明くる日の明け方まで一人暮らし用の狭い調理場で頑張ってたんだよ?
ただ、溶かして固めるだけじゃなくて生クリームとかジャムとか・・・色々混ぜた力作だったんだからね。最後はスタッフが塩味で頂いたんだけど・・・。

「ああ・・・ゴメンゴメン。怒んないでよ?敏明?」
天邪鬼って損だよね?
こんなに敏明の事を想っていても、肝心の敏明はご立腹だよ。
「モテない男をからかうと後が怖いぞ?」
「だからやりすぎたって思ってるんだってば。」
「それじゃあ、お詫びの意味も込めてお前の手で俺の口にチョコの欠片を入れてくれ。彼女が彼氏に『アーン』をするように。紛い物と言えど、女の子がそれをやってくれれば俺の気も多少は晴れる。」
「えっ?」

敏明の提案にのるかそるか。私としては賭けだった。
もし敏明が冗談半分で言っていてこっちの方がマジだったら、告白前に振られる可能性だってあった。
親友が急に女の子すると、この微妙な関係は一瞬で壊れる危険性は低くない。
「別にいいだろ?友達同士で自分の手から相手の口に食べ物を渡すなんて普通だろ?」
こうやって、この一大イベントを何気ない日常のように装うのが最善策かな?
2手目には予防線を張るのが清流なのかな?男同士の友人はアーンなんてしねーよwってツッコミは知りませーん。

敏明がどう想ってくれていたのかは正直、良く分からない。
恋人前に想ってくれていれば良いけれど彼女の代用品扱いされてないかな?まぁこっちの方からそういう扱いになるよう仕向けた節があるけどね。
そんな俺の渾身の賭けは、結果だけいえば大勝ちかな?
ひょんな事故から敏明に指を食べられちゃった

お互いに顔を背けその場は暫し無言になった。
気まずさのある空気だけど、私にとっては嬉しいほんのり桃色の気まずさだった。
ただ、恥ずかしさの余りに平手打ちで〆だったのはまずったなぁ・・・。恥ずかしすぎて判断ミスだね。

でも、謝罪の意味を込めて腕によりをかけた料理を作る・・・と言う方向に話を持っていけたので結果オーライかな。
第2関節まで食べられた指は暫く洗いたくないような気もするけれど、調理前に手を洗わないのもいけない。
恋する乙女の悩み事かな?

・・・って最近、敏明を意識し過ぎているのか妙に精神的な女性化が進んでしまった・・・。乙女チック杉だよ自分は。
こんなオトメヲトメした女の子を俺は知らない。
彼のために料理を作るだけの約束で、そんな予兆も全くないのに、今晩は朝まで全部OKって気分になっていた。
少し早いホワイトデー(白い液体の日)で赤ちゃんはまずいだろ自分!!などとツッコミをいれて調理に専念したんだけどね。


家庭料理の定番で、女が男を誘う時の料理というイメージが(個人的には)ある肉じゃがをチョイスした意図を敏明はいつか気がついてくれるのだろうか?
これでも男時代から子機用で料理は得意だし、こうなってからは花嫁修業も自分に課したのでそこらへんの女には負けない完成度だと思う。
でも、豚に豚はダメかなぁ?敏明は牛の肉じゃがの方が好きだし・・・。
かと言って買い物の時点で牛を買うとヤル気マンマンなのがばれそうなのでそれも難しい・・・。
うーん難しいよ。

出来たものを旨い旨いといってくれる嬉しさと、乙女化していく自分に対する困惑でこの日は帰るまでソワソワだった。
そう言えば、敏明もソワソワしていた。・・・コレが同じような理由でのソワソワだと嬉しいんだけどね。
余談ではあるが、この日は9時前には家に帰ったので勘違いのないように。





「ところで清、お前だったらホワイトデーに何を貰ったら喜ぶんだ?」
まさかの急展開に俺・・・改め私は歓喜した。
浮かれ気分で、敏明とのやり取りは良く覚えていないけれどマカロンが良いんじゃない?的な事を言ったとは思う。
「んで、清。悪いんだけどマカロン買うの付き合ってくれないか?俺じゃセンスがないし。」
「いや・・・悪いって言うわけじゃ・・・。」
「ん?」
敏明の言い草が気にはなったけれど次の一言で『私』の行動は決まったも同然だった。

「それじゃあ清♪二人で買い物デートでもしようぜ?」
「ばっ馬鹿なこと言うなよ!!」
恥ずかしさの余り、ついつい手が出てしまったけれど幸せいっぱいの女の子には些細な事だ。
敏明の急な変化も気になるけれど、デート前の女の子が気にするほど重要なものでもないだろう。
あーあ。少し位お化粧しておけば良かったかなぁ?

その後の俺は浮かれていて「まぁアレじゃないか?お互いにモテない身だし、異性と一緒の余所行きって新鮮で楽しいんだよきっと。」
みたいな、頭の悪い台詞を何度も言い放っていたと思う。浮かれていたせいでそこのところが定かじゃない。
しかし、これって敏明を異性と・・・男性と見なしているって聞こえちゃうかな?



幸せな時間はあっという間に終わって、初デートは気がつけば買い物終了だった。
「それじゃあ清、今日はありがとな。」
「いいっていいって。わたしだって意外と楽しかったんだし。」
「口調が女になってるぞ?」
「女の子口調が長かったからつい・・・。」
一応は、余所だと女口調を普段から心がけているお陰でそんな不自然ではなかっただろうけれど・・・。
って言うか今日1日で女の子化が一気に進んじゃったの・・・かしら?ナンチャッテ。
しっかし、敏明の前だけ態度が違うって言うのは個人的にアリなんだけど・・・。
可愛く甘えるとかじゃなくって、彼の男口調っていうのもなんだかなぁ。
彼の前だけ女の子らしいって言うのが理想なのに・・・。でもそれも遠い話じゃないか。
・・・という私の目論みは買ったプレゼント用マカロン(バニラ)よりも甘かったのだった。


「これで、双葉ちゃんに渡すものが用意できたよ。」
「えっ?」
最悪の言葉を聞いてしまった。
そして、俺の時は少しの間、止まってしまったのだった。

「ホワイトデーはあんまりメジャーじゃないけど、告白の日だろ?贈り物をする相手は本命の娘に決まってるじゃないか?お前じゃなくて。」
「そりゃあ、わたし・・・俺だって気付いてたさ。」
「それに男同士で、ホワイトデーやバレンタインに贈り物はキモイって。」
「そ・・・そうだよね・・・、そうだよな。」
「おいおい頼むぜ?同性の親友同士でそういう関係なんてダメだろ。」
「当たり前じゃないか、男同士でそんなのはキモ



バッチーン!!
ただでさえショックなのに、敏明がキモイキモイと追い討ちを放ってきた。
彼の暴言に耐えられずに思いっきりの平手打ちが飛んでいた。
敏明のバカ!!大嫌い!!

いいじゃない。元男でも今は女の子なんだから!!
いいじゃない。ホワイトデーに憧れても!!
いいじゃない。決死の覚悟でバレンタインイベントを用意してても。
いいじゃない。親友の友情がいつの間にか恋人の愛情に変わっていても。
それがキモイって?キモ・・・キモ・・・キモクナーイ!!

俺はその場を立ち去るしか出来なかった。



その場を立ち去ったのに敏明の家に言ってしまう俺はどうかしている。
でも・・・ここで待っていれば・・・。
未練たらしくて女々しいぞ自分!!(元♂)

気を紛らわすという意味も兼ねて、俺はコンビニでヤケ食い用のお菓子とヤケ酒用の飲み物を購入した。
買った後で、このセットはヤケ・残念会にもおめでとうの祝杯にも使えることに気がついた。そして敏明が振られれば自分にもチャンスがあると言うことも。

うまくいけば(敏明が失敗すれば)この恋はまだ終わっていないことになる。
しかし、敏明にはこの苦しさを味わって欲しくないとも思った。
こういう自分は案外健気だな・・・と自分を褒めつつも、敏明の恋の成就を素直に願えない自分の至らなさを感じた。
このアルコールが祝杯用となるのがいいのか、ヤケ酒となって欲しいのか自分でも分からなかった。



帰ってきた敏明の顔を見れば展開は推理するまでもなかった。俺と一緒なんだな。
付き合って欲しい宣言の時は慌てたけれど、その後はある意味俺にとってのいい展開で進んでいった。
ヤケ酒は甘いチューハイで、しかも前に買ったチョコの余りをおつまみと言う謎の甘党セットだったけれど不思議としょっぱかった。
視界も少し霞んでいたけれど敏明も特に突っ込まなかった。というか敏明の視界も霞んでいたと思う。
敏明が振られたのが良かったのか悪かったのか、この時は自分にも分からなかった。



「清コレを開けてくれ。」
「何だ?この箱は?」
「まぁまずは開けてくれ。」
「ん?マカロンかこれは。」
「お前には今回の事もそうだけど、よく世話になってるからな。告白前に思い出して買っておいたんだ。」
「ふん。」

ただのお礼だとは分かっていたけれど凄く嬉しかった。そう言う意味じゃないと分かっていてもやっぱり嬉しかった。
嬉しさのお陰で、垂れていた塩味の元は何時しか止まっていた。
視界がハッキリして敏明の視界も特に曇ってないことが分かった。
やっぱり男の人なんだな。失恋くらいじゃ泣かないんだ。

その日の晩餐はお菓子ばっかりだったが、品数は多く敏明のマカロンや俺の手作りチョコも振舞われた。
でも不思議だな?
さっきあれだけ塩分の液が垂れた自作チョコはともかく、どうしてマカロンもしょっぱいんだろう?





「ヒマだな敏明。」
「ああ、そうだな。」
俺も敏明のあの時の失恋の痛みは癒えた様で、今は何気ない日常が続いている。
ヒマヒマ言い合う、暇な関係もそのうち無くなってしまうんじゃないかと思うと今は暇も有り難い。
今までも、敏明の前ではスカート率が高かったけれど最近は特に気合を入れていた。
一期一会なのだろう・・・。
敏明といられる時間はもうそんなに残っていないのかもしれないから・・・。


「ヒマだな敏明。何か面白い事ってないか?」
「面白い事があったら、ヒマだなんていってないっての。」
「そうだな。それじゃあ、何かやりたい事ってあるか?俺も付き合ってやって良いぞ?」
「やってみたい事ねぇ・・・。」
あの時にもう振られた筈なのに、終わった筈なのにそれでも敏明を誘ってしまう。
本当に自分って未練がましいな。ってか女々しい。まぁ女なんだから女々しくてもいいのかも知れないけれど。

「でもなぁ・・・。」
「その言い草だと何かあるな?言ってみろよどうせ言うだけはタダなんだし。」
半ば諦めた筈なのに敏明が脈ありっぽい台詞を吐くだけで反応してしまう。
なーに期待してるんだろう?
脈アリって言っても今日は一緒に遊べそうってだけなのに・・・。いい加減諦めちゃおうかなぁ?
これでも顔は良い方だし、家事スキルなんかで女の子ステータスも高いし、昔の自分を知らない男性だったらきっと可愛がってくれるんだよねぇ・・・。

「宮本先生!!女の子のオッパイが触りたいです。」
「はい?」
「先生のオッパイを触らせて下さい。」
体目当てに対しては怒るべきなのに、元男ゆえの甘さといいますか怒らずに聞き入れた。ってかつい表情が緩んだ。
「それは、ムリダナ。」
「だよね。」
かといって簡単にOKするほど私は安い女じゃない。気がつけば心理描写も女の子モードになっているのはナニをする乙女だからだろう。

「それに暇つぶし感覚で女の子の胸を触るのってアウトじゃない?俺だって今は女の子なんだぜ?」
「悪い悪い。だけどお前がいえっていったんだぜ?やりたい事を。」
「まぁそりゃあそうなんだけどさぁ・・・。」
「「プッ/クスッ」」
2人して同時に吹き出した。
2人で一緒に馬鹿やって、一緒に笑う。
親友同士なんだから当たり前の事なんだけど、久しぶりな気がする。
そう言や、私が女になってからどこかギクシャクしたところがあって、心の底から笑う事ってなかったっけな・・・。
でも不思議だ。どこか違和感がある。
親友同士のじゃれあいと、何年間も続いていたあのやり取りと何かが違う。

「どうしても俺の胸を触りたいって言うなら、触らせてやってもいいんだぞ?俺だって胸や体は女の子なんだからさ。」
「マジか!?」
「俺とお前の仲だしな。」
どうやら私は敏明を諦められなかったようだ。まだ恋人になるチャンスを狙っている。

「その代わり・・・だ。」
渇きすぎて喉が痛いが、この台詞はまず言わないといけない。本当に大切な台詞はこの先なのだから。
「何か面白い事やってくれ。それが面白かったら胸を触らしてやっても良いぞ?」



「んな!!面白い事ぉ?」
「早くぅん」
慌てるトシアキを見て少しは愉しむ。今までずっと敏明の鈍感に振り回されて足したまにはこっちが振り回してもいいよね?
「あと、20秒ね。19,18・・・。7,6,5,4・・・。」

でもそんなの関係ねぇ!!
でもそんなの関係ねぇ!!
でもそんなの関係ねぇ!!


その後しばしの間、時が止まった。



そして時は動き出す。(15秒後)

「面白い事って言って、まさかソレをやるとはね。見事なまでの凍結だよ・・・まぁあの芸人さんは嫌いじゃないんだけど。」
「俺は芸人じゃないんだ。急に面白い事って言われてもムリダナ。」
「んじゃあ、面白いことが出来なかったので罰ゲームだ。」
罰ゲームの宣告に、敏明は露骨に嫌な顔をしたがそこは気にしない。これは前座なのだから。

「んで、罰ゲームには拒否権があるのか?」
「拒否権・・・何ソレ?美味しいもの?」
「俺にとってはあると非常にオイシイもの・・・ってか無いと不味すぎる。」
「ウソウソ。拒否権くらいはあるよ。」
だって強制したんじゃ意味が無いんだもの。
「頼むぜ?」
「俺だって、女の子になったんだし無理矢理で強引なのはもう卒業しないとね・・・。現実の女も案外そんなもんだなんてツッコミはなしで。」
女性としての生活に慣れてきたせいか、敏明の前でも『自分は女の子』というのが前提となってきた。
キモがられる危険はあるが、そこを気にする余裕すらもうないのかもしれない。
・・・って結局まだ敏明を明待てなかったんだね。私ってば。

「それで、結局はどんな罰ゲームなんだ?聞くだけは聞いてみる。聞いた後でやるかやらないかを決めて良いんだよな?」
「うん。そういう事ね。」
「それで、結局はどうすりゃ良いんだ?」
「敏明には面白い事をやってもらうぜ?」
「結局同じじゃないかよ。」
「ただし、面白い事の内容は俺が考える。」
少し強引だが、とある展開に向けて話を進める。
敏明の表情から察するに、面白い事の真意はまだ気がついていない筈・・・。


「俺にキスでもしたら面白いと思う。」
本日二度目の、時が止まった世界の能力だ。(ただし時計だけは動いてます)
能力は私のほうが強かったようで、30秒ほどの時止めに成功した。


「かつて男だった人間が、女になったと思ったら親友の男にキスを求めるんだぜ?コレって面白い話じゃないかな、どんな暇も吹っ飛ぶくらい。」
俺の・・・私の渾身の告白だった・・・。
「一応確認しとくけど、嫌なら断っても良いんだよな?」
急な変わり身過ぎて敏明も、冗談か本気かが分からずにいるようだ。そんな敏明に対して私は弱々しく「うん。」と言う事しか出来なかった。
そして待つことしか出来なかった。
彼の選択を。

20分くらいは経っていたようだ。
ただし体感の時間は何時間も経ったように重かった。
敏明の選んだ暇潰しは・・・。



ってもう知ってるよね?
「ねぇ・・・敏明ぃ?今って暇じゃない?」
「そうだな。俺も丁度、暇してた。」
「それじゃあ・・・一緒に暇つぶししましょうよ?」

敏明の前だけは特別で、敏明の前では女の子らしい。恋人の関係でありながら親友の部分も強く残っている。
そんな私にとって理想的な関係が1年後にはほぼ完成されていた。
「それじゃあ、俺の家に行って1年記念の暇つぶしでもやろうぜ?夜通しで。」
「うん。」






「でも、キスの先はまだだからね?」
こうやって焦らせば焦らすほど、敏明は優しくしてくれる事を元親友ゆえに知っている。
だから結婚を持ち出すまではそう簡単にはあげないよだ
かつて男だったせいか、性欲は強い方らしく1年くらいずっとシたいと思っているけれどここは我慢しないと。
関係が良くなったとは言え、シた瞬間敏明の中で私が色あせてしまう恐れだってないわけじゃないから・・・。

でも、今日は1年記念日だし1年前の満点大笑いのご褒美をいい加減にあげてもいいかな?
本番はもっと先だけど、胸だけは今日解禁しちゃえ♪
私自身が胸モミに目覚めちゃったりしてね。
親友っていいですね。TS的な意味で。
昨日の夜と今日の午前中で、清Verを一気に書き上げました。作者はスーパーハイテンションになって一気に書ききりました。
勢いだけで書いたようなものですが個人的に気に入ってはいます。
・・・しかし予想以上にミスが多かったですね。

ところどころ誤字脱字があるようだったのと、読み返してみて台詞回しが強引と思える所があったので少し修正しました。ミスが思いのほか多くて読んで人には申し訳ないです。
因みに、ヒマという表記が『暇』『ヒマ』『ひま』と混ざっているのや、『乙女チック杉』など誤字っぽい表記は意図的です。
その他、誤字の様に思える書き方もありますが意図的なものと思ってください。(作者がまた見落としをしない限り)
IDNo-NOName
0.3400簡易評価
12.100きよひこ
最高です。敏明視点も楽しめましたが、
その後に、清視点を読んだら、もっともっと楽しめました。
個人的に大好きだったので、
もっと二人のやりとりを見たかったです。
24.無評価IDNo-NOName
>12
清視点も楽しんで頂けましたか。もっと見たいとは、TS書き手にとっては最上位の褒め言葉です。
でも、もっと二人のやり取りを・・・ですか。私の場合は、長いけれど単発が基本になっているので続編ってないんですよ。
というかネタを使い尽くすので同じ設定でもっと・・・って言うのは基本的に出来ないんです。スイマセン。
別の親友ネタ短編を考えてはいるのでそれを近日公開と言う事でここは一つ・・・。
25.70きよひこ
ええ、親友っていいですよね。もちろんTS的な意味で。
素直になりきれないところなんて本当に最高です。

ところで、本文中ところどころ誤字脱字があるのが気になりました。
「暇つぶし」にでも修正されてはいかがでしょうか。
29.100AC獣
清VerのTSっ娘の心理描写GJです。
実にイイ『暇つぶし』でした。
30.無評価IDNo-NOName
>25
ご指摘ありがとうございます。
個人的にミスの指摘はかなり有り難いので本当に助かりました。自分のようなようやく毛の生えたような新人は指摘レス有り難いですね。
勢いだけで書くと忙しい時でも書き上げることは出来ますがこんな風にミスが多くなるんですね。次からはもう少し読み直さねば。

>29
確か、兄弟(兄妹)の時にもお会いしましたね。
ベタで既出感はありますが、親友に恋心を抱くTS娘は最高にオイシイ素材ですね。作中の敏明じゃないですが作者もベタな娘に弱いようです。