ぴーんぽーんぱーんぽーん
この作品には「TS病」が出てきますが、女の子もTSしたりとシェアワールドで示されているTS病とは、若干設定が異なります。(そもそも予防注射ができている時点で(ry)
その辺りのことをよく注意してからお読みください。
はじめまして。ぼくの名前は「高梨きよひこ」○学○年生。
みんなは、TS病って知ってるかな?男の人が女になったり、女の人が男になったりするふしぎな病気なんだ。
ずっと昔にもういをふるって、今でもTSした人を元にもどす方法はないんだって。
でもね、今では『予防注射』ができたんだ。これのおかげで、TSする人はほとんどいなくなったらしいよ。
「あの、せんせい……」
「保健室で寝てきなさい」
「――なんか頭が、え?」
「晴海くん、高梨くんを保健室に連れていってあげて」
国語の授業中、突然手をあげた僕の言葉が終わる前に、水樹先生は保健委員の晴海くんにちゃっちゃと指示を出した。
「きよひこー、お前女になるんだろー!」
「やーい、女!女!」
一拍おいて、うちのクラスの悪ガキたちがヤジを飛ばしてきたけど、先生が眼鏡越しにきっと睨みつけたら静かになった。
水樹先生はとても美人の先生だけど、ちょっと怒りっぽいのが玉に瑕だね。
悪ガキからこちらに向けてきた先生の顔は、こんなに優しそうなのに。
「さ、早く保健室に行きなさい」
教室を出て、一階にある保健室を目指す。ここは三階だ。
さっき悪ガキたちが飛ばしてきたヤジは、あながち間違いではないと思う。いやむしろ、彼らの言った通りのことが起きるはずだという確信が、僕にはあった。
(やだなぁ……)
沈む気持ちを引きずりながら歩く。足を引きずっているのは身体がダルいせいだけど。
実は今日、僕たちの学年はTS病の予防注射を行ったのだ。その時、事前の説明で水樹先生はこう言っていた。
『注射を受けた人の中には、TSしてしまう人がいるかもしれません。でも、明日の朝には戻れるから慌てないように』
(戻れるって言ってもさぁ)
女になるんでしょ……その姿をクラスメイトに見られたらと思うと、ますます気が滅入る。
ああ、憂鬱だ。『ゆううつ』なんて言葉、僕は読めないし書けないけど。
「えーっと、五年二組の高梨くんね?悪いんだけどベッドは埋まってるから、隣の教室行って、敷いてある布団で寝てね」
ここでも先生の扱いはぞんざいだった。保健の先生、嵐山先生はいつもは丁寧に対応してくれるのに、今日はすごく忙しそうで、全く構ってくれない。
予防注射を打った生徒の中には、いきなり倒れる子なんかもいるらしいから、自力で来た生徒には構っていられないということなんだろうけど。
ここで僕は、ついてきてくれた晴海くんにお礼を言って別れることにした。
隣の教室に行くと、既に何人かの生徒が布団にくるまっていた。
彼らを起こさないようそーっと一番端の布団に行こうとしたんだけど、誰かが気づいてもそもそと起き上がってきた。
「あ、きよひこ」
幼なじみの双葉ちゃんだ。
「へー、あんたもなんだ?」
「う、うん」
ニヤニヤしながら、こちらを値踏みするようにジロジロ見てくる双葉ちゃん。この笑いは、絶対になにか企んでるに違いない。
「ね、きよひこ。わたしのとなりで寝ましょ」
「いいけど……」
僕はいつも彼女に逆らえない。それに今は、頭がぼーっとして考えるのが酷く億劫だ。
双葉ちゃんはよく平気だなと思いながら、布団に潜り込むと、すぐに眠気はやってきた。
その眠りに落ちる一瞬前、双葉ちゃんが質問をしてきた。
「ねぇ、きよひこ。あんたのお父さん、今出張してるんだよね?」
「う……ん……そう……だ……よ……」
そのまま僕は眠りについた。でも、双葉ちゃんのニヤニヤした笑顔が、妙に瞼の裏に張り付いて離れなかった。
◆◇◆◇◆
「きよひこ、きよひこ」
誰かに揺さぶられて、目が覚めた。顔をあげると、窓から入ってくる西日が目を瞬かせる。
「あれ、夕方?」
「そうよ。先生がもう帰りなさいって」
そこにいたのは、双葉ちゃんだった。服装は起きる前と変わらず、見た目も違いはわからない。ただちょっと――声がかすれてる?
寝ぼけ眼をこすっていると、双葉ちゃんは呆れたように言ってきた。
「せっかく女になったのに、何もたしかめないの?」
言われて下を――自分の身体を見下ろしてみる。でも、ほとんど違いはわからない。服は双葉ちゃんと同じように変わってないし。
そんなこちらの緩慢な動きにイラついたのか、双葉ちゃんは僕の手を取って、無理やり僕の胸に押し付けさせた。
「ほら!さわってみなさいよ!」
薄いが、確かに柔らかい感触がして、びくっとする。さらに双葉ちゃんは、今度は直接自分の手を僕のズボンの中に突っ込んで、平坦になってしまった僕のそこに触れてきた。
「ぁん!」
「くす、声もすっかり女の子ね」
確かに、声が少し高くなったような気がする。声変わりする前だから、違いは小さいけど。
「なにしてるのー!帰る前にこっちに集合よー」
すっかり忘れていた嵐山先生に呼ばれ、双葉ちゃんはあっさり僕から身体を離して、出入り口の方を向いたけど、彼女――いや、彼の顔がまた寝る前と同じ笑顔になっていることを、僕は見逃さなかった。
ぞくっと、背筋に悪寒が走った。
「はい、じゃあ皆さん。今日は真っ直ぐ家に帰ってご飯食べたらすぐ寝ちゃうこと!できるだけ運動はしちゃダメよ!お風呂は今日は入らなくていいからね。先生が許す!」
TSした少年少女たちが、「はーい」といい返事をして、銘々帰宅していく。
友達はみんな帰った後だったし、できれば会いたくもなかったので、僕は双葉ちゃんと一緒に下校することにした。というか、された。
僕は双葉ちゃんに逆らえない。たとえそれがどんな無理難題でも。
帰り途中、双葉ちゃんはさらにこんなことを提案してきた。いや、それは決定事項だった。
「今日、あんたんち泊まるけど、いいよね?」
「え!?そんないきなり……」
「大丈夫、ママには言ってあるから」
僕が大丈夫じゃない。そう思ったけど、こんなこと口に出したら何をされるかわからない。
「いや、でも先生が早く帰れって……」
「帰るわよ。あんたんちにね」
尚も僕は食い下がろうとしたんだけど――
「ねえ、“えっち”って、してみたくない?」
「はぁ!?」
双葉ちゃんが言ってきた突拍子もないことに、言葉を失った。
「あんただって、“えっち”くらい知ってるでしょ?」
「も、もちろん!」
佐山くん――悪ガキ――たちと前に見たエロ本の知識だけどね。
「じゃあ、やってみたいと思わない?しかも“いせい”の体けんなんて一生に一度きりよ?」
「え、なんで?」
「バカねぇ、予防注射うっちゃったんだから、もうTS病にはならないのよ?」
「あ、そっか」
その後も双葉ちゃんは、今から“えっち”をすれば、どんなに素晴らしいかをまくし立ててきた。
「いい、このチャンスを逃したらもう二度とないのよ?それに、TS病で女になると、初めてでもすぐに気持ちよくなれるって聞くし、興味ない?あと、別に明日の朝には戻れるんだしいいじゃない。ほかに……今日してくれたら、戻った後今度もう一回してあげる」
「で、でも先生が運動するなって――」
「あんなの子供だましよ。うーん……じゃあ、もう」
そういうと、双葉ちゃんはすすすっとこちらに近寄り、僕の顔を両手で抑え――唇を奪われた。
「……むー!」
最初は目が点になってされるがままにしていたけど、事態を把握して、僕は暴れ出した。双葉ちゃんはそれで身体を離してくれたけど――
「ぷはぁ!もう、なによぉ!女の子なんだから好きな男の子にキスされたら喜ぶもんでしょ!」
と、理不尽なことを言ってくる。
「べ、別にぼくは双葉ちゃんのことなんて――」
「もういい!とにかくあんたんち泊まるから!行くよ!」
こちらの手を取ってぐいぐい進んでいく双葉ちゃん。その後ろ姿を見ながら、僕はため息をついた――諦めるしかない。昔から双葉ちゃんには逆らえないのだ。
◆◇◆◇◆
僕の家は父子家庭のうえに、お父さんはよく仕事で家を空けることが多い。そのため、昔はよく双葉ちゃんの家に泊まらせてもらった。
今では、滅多に泊まりには行かないけど、最近は逆に双葉ちゃんが泊まりにくることがある。
僕が用意した夕飯を平らげた双葉ちゃんは、今は呑気にテレビを見ながら笑っている。僕に洗い物をさせて。
……何故だか、未来のことを予感してしまい、悲しくなった。
洗い物を終えて居間に行くと、双葉ちゃんはよっと立ち上がった。
「じゃ!やりましょうか!」
「え、えーっと……お風呂は?」
「先生が入らなくていいって言ってたでしょ」
他の言うことは破ってる癖に――とは言えなかった。しかし、双葉ちゃんはそのことを自覚しているらしく、笑っている。
「じゃあ……トイレ行ってきていい?」
少しでも時間稼ぎがしたくて言ったことだけど、トイレに行きたいのは本当だ。
だが、双葉ちゃんはトイレという言葉に妙に食いついてきた。
「あ、じゃあわたしも行く」
「え、じゃあ、先いいよ。ぼくはその後行くから」
「え、ちがうちがう」
こちらの提案に身振りを交えて否定する双葉ちゃん。
「わたしも一緒にトイレに行くけど、するのはあんただけ」
少しの間。双葉ちゃんが言ったことを飲み込み、さらに反芻し、自らの血肉として理解するのに、時間を必要とした。そして、叫ぶ。
「はぁっ!?」
「それに私はさっきしたし。すごいね、立ちしょんって」
目をキラキラしながら語る双葉ちゃんに頭痛がする。このまま寝てしまいたいけど、間違いなくおねしょだ。
「……勝手にすれば」
ふらふらと歩きながら、もうどうでもいい気持ちで僕は告げた。
双葉ちゃんは本当についてきた。
扉を開けてするだけでも恥ずかしいのに、便座に座る僕の股間に視線合わせ、じーっと見ながら座っている双葉ちゃんがいたのでは、出るものも出ないと思う。
だいいち、ズボンを下ろせない。
(座ってするのかぁ……)
最近では、座りながら小便をする子もいるってクラスメイトは言ってたけど、僕は立ちしょん派だ。というか、お父さんが座りしょんを許してくれない。男の誇りがどうとか。
「ねぇ、ぬぎなよ」
ならいなくなって――とは、また言えなかった。
どうせ今の身体は女の子だし、双葉ちゃんも元々は女の子だ。僕の男の子が見られるわけではないんだからと、意を決してズボンとブリーフをいっぺんに下ろす。
だが、目を開ける勇気まではもてなかった。
股間が外気にさらされ、悪寒を感じる。ぶるっと震えながら力を抜いていくと、男の時とはまるで違う感覚が僕を駆け抜けた。
じわっと身体の奥から温かいものが染み出し、やがて聞こえる水音。
「ふわぁ」
思わず、恥ずかしい声が出てしまう。
でも、なんの反応もない。目はつむってるけど、自分のではない荒い吐息は聞こえる。双葉ちゃんがまだいるのは間違いないはずだ。
ちらっと目を開けてみた。
双葉ちゃんは食い入るように僕の股間を凝視していた。しかもいつの間にか体育座りで。
僕のおしっこが終わっても、双葉ちゃんはまだ固まっていたようだ。彼が鼻血を出していることに僕は気づいた。
ズボンをあげて、いい加減怖くなったので話しかけてみる。
「あの……ふたばちゃん?」
双葉ちゃんはその言葉でぶるぶると震えだし、突然詰め寄ってきた。
「すごいね!!」
「え、えー……あー……うん?」
自分のおしっこをする姿を凝視した感想など言われても、正直返答に困るんだけど。
「いやぁ、まさかこんなにこうふんするとは思わなかった!男の子になったせいかなぁ、なんかすっごいエロかったのよ!ほら、おかげでこんなに――」
僕の手を取り、自分の股間に当てさせる双葉ちゃん。
硬い、確かなものの手触りを感じて、僕は確信していた。
(へんたいだ……まぎれもなくへんたいだ……)
だから、どうか神様。この変態を男のままで野放しになんてしないでください。
「そう言えば、おばさん、今日予防注射なのに、よく泊まり許してくれたね」
「ああ、予防注射は明日って言ってあるから。だからあんたも、ママに聞かれたら話し合わせなさいよ」
なるほど。最初から計画していたわけだ。なかなかの知能犯である。
僕は少し関心してしまったが、その犠牲になるのは自分だということに気づき思い直した。
僕たちは今、僕の自室にいる。
僕は自分のベッドに腰掛け、双葉ちゃんは隣に敷かれている布団に座っていた。
どちらもパジャマ姿(うちには何故か双葉ちゃんの服一式がある)だ。
「さて、じゃあそろそろやろっか」
……なんとか誤魔化そうと世間話を引き伸ばしていたけど、双葉ちゃんの気は変わらないらしい。僕は未だ乗り気ではないのに。
「ねえ……ほんとにやるの?」
「あったり前でしょ。あ、でもその前に、さっき言うの忘れたんだけど」
いきなり、着たばかりのパジャマを双葉ちゃんが脱ぎだした。
慌てて視線を逸らす――赤面しながら。
双葉ちゃんは今男の身体だからと頓着しないけど、それでも僕には直視できない気恥ずかしさがあった。
「下着とパジャマ、とりかえましょ」
「へ?」
いきなり言われたことの意味がわからず、思わず双葉ちゃんの方を見てしまう。
双葉ちゃんは既にパンツ一枚になっていた。本来ならまっ平らであるべきところが不自然に膨らんでいる。
でも、僕はその裸体に見とれてしまった。まずは顔――男になったとはいえ、女の子の時とほとんど変わっていない――、次に胸――膨らみは一切無くなっているけど、これは元からあまりないから、違和感がない――、さらに手足――少年のみずみずしい肌には、毛が生える予兆さえ見られない――と視線を這わせていく。股間さえ見なければ、女の子の裸に見えなくもない。
ぽーっと双葉ちゃんのほうを見ていると、双葉ちゃんはついに最後の布切れも脱ぎ去り、それを突き出してきた。すっぽんぽんで。
「きよひこも早く脱いで」
「な、なんでさ」
「そのほうが気分出るでしょ。いやなら力ずくでぬがすけど?」
にやりと笑いながら。その笑みがとても恐ろしい。
「わ、わかったよ。でも……後ろ向いてて!」
「ふーん、すっかり女の子じゃん」
「やめろよ!」
にやにやと笑いながらこちらを見てくる双葉ちゃんに、あえて男っぽい言葉遣いをしてみせたが、声がまるっきり女の子なため、情けなく聞こえる。
「はいはい」
双葉ちゃんはまだ笑っていたが、それでもちゃんと後ろを向いてくれた。
彼の背中を見ながら――なるべくお尻には視線がいかないように――パジャマを脱ぐ。しかし、ブリーフに手がさしかかって躊躇する。
これを脱いだら、パジャマとはいえ、女の子の服を着なければならない。
かといって、この状況を打開する名案なんて……
後ろから双葉ちゃんを殴り倒す――双葉ちゃんは学年の中で、男子を含めても、ケンカの強さは上位ランカーだ。僕は下から数えた方が早い。却下。
大声をあげる――聞こえれば、隣に住んでる棚町のおじさんおばさんが様子を見にきてくれるだろうけど、双葉ちゃんは妙に大人受けがいいから言いくるめられてしまうのは目に見えている。却下。
逃げる――双葉ちゃんは足も速い。というか運動神経において、僕には越えられない壁が双葉ちゃんとの間にある。却下。
他にも色々――全て却下。
……ない。
はあ、とため息をつく。仕方ない。どうせ、諦めは大分前についてるし。
ブリーフを脱ぎ、脱いだ服を全て双葉ちゃんの足元に投げる。それから、すぐ近くにある双葉ちゃんの服に手をかけた。
まずはパンツ。さっきまで、これを双葉ちゃんがはいていたのだ。今日一日ずっと。女の子の時から。
我知らず、顔に持って行きそうになっていたのに気づき、思いとどまる。そんなことをしたら、双葉ちゃんのことを変態だなんて言えない。
ちらっと、罪悪感から双葉ちゃんを見ると、彼はなんの迷いもないように僕のブリーフの臭いを嗅いでいた。
……
着替えよう――その後は機械的に手を進めていった。果たして、もう双葉ちゃんにスポーツブラは必要なのかと少し悩んだけど、その手は止まらなかった。
着替えを済ませ、再びベッドに腰掛ける。緊張のせいだろうか?顔が熱い。胸がどきどきする。
目線の先には、もうこちらに向き直り、立ち尽くしている双葉ちゃんがいる。流石の彼も緊張しているのか、表情は固く、少し赤面している。
「ねぇ……電気消さない?」
まず声をかけたのは僕のほうだった。暗くなれば、恥ずかしさもマシになるかもしれない、お互いに――そう思って提案したのに、双葉ちゃんは受け入れてくれなかった。
「やだ」
否定を発した後、双葉ちゃんは一歩一歩近づいて来た。僕の前に到着するまで、何百年とも言える時間が過ぎ去ったのではないかと、僕は思った。
双葉ちゃんの影にさらされ、彼を見上げる。血走った目に恐怖を覚えるが、身体が動かせない。
双葉ちゃんは、僕の頬に右手で触れて、そのまま身を屈めてきた。
触れるだけのキス。何度も繰り返し、啄むようなものに変わる。体勢も、いつの間にか双葉ちゃんが僕にのし掛かるような形に変わっていた。
先に舌を入れてきたのは双葉ちゃんだった。その感触に、身体が震える。こんなキス初めて――いや、そもそも母親以外の異性とキスするのが初めてだ。まあ、今の双葉ちゃんは男だが、僕も今は女だし――だし、知りもしなかった。
「ん……」
気持ちいい。僕がキスに夢中になっている間に、双葉ちゃんはパジャマの中に片手を入れてきた。スポブラ越しに、胸を手が覆う。
僕の霞がかった脳みそは、その感触を感じ取っていたが、なんの指示も出せないでいる。もう、僕は双葉ちゃんのなすがままだ。普段も似たようなもんだけど。
こねるように胸を揉まれると、ゆっくりと暖かさが生まれ、全身に広がっていく。双葉ちゃんの手つきは優しかった。
それは、双葉ちゃんの女の部分がさせていたのだろう。でも、男が求めるものは性急だ。
「あっ……」
僕の顔に触れていた手と顔が離れる。もっとキスしていたかったのに。
離れた手は、僕の上のパジャマのボタンを外していった。
全てをはずし終えて前を開いた後、今度は僅かな胸を隠していたスポーツブラを押し上げて、双葉ちゃんの手が僕の胸に襲いかかった。
未だに頭がはっきりとしない僕は、完全に寝転がって双葉ちゃんの顔を見ていた。そしたら、何故だかくすっという笑いがこみあげた。
(本当に男の子みたい……)
双葉ちゃんは血走ったままの目で、僕の胸を凝視している。鼻息は荒く、折角の可愛い顔が台無しだ。だが、そんなことも愛おしく思える。
「いっ……ゃあ、いた……いよ……」
抗議の言葉は双葉ちゃんの耳には届かない。意味がわからなかったのかもしれない。もはや胸を揉んでくる手に優しさはなかった。薄い胸を一点に寄せ集めるように激しく動かし、ついに乳首に触れてきた。
「ひゅっ……あぁっ!」
そこをつねられただけで、身体が一瞬飛び上がった。
その反応が気に入ったのか。何度も。何度も、何度も。つねり、こねくり回される。
その度に身体が跳ね、頭を振り回し、恥も外聞もなく叫び声を――いや、あえぎ声をあげても、双葉ちゃんはやめてくれない。
遂には、片方の乳首を口に含み、音を立ててなめ始めた。さらに、もう片方の乳首も、ちゃんと指でいじってくる。
怒涛の快楽のラッシュに、頭のもやなどすっかり吹き飛んでしまった。
(すごい――)
これが女の感覚。だけど、男の性感と比べようにも、僕はまだそっちも未経験だった。
本当の性別の快感を味わう前に、こんなすごい経験して大丈夫なのかと恐怖が頭をよぎったけど、すぐに吹き飛んだ。新しい快感によって。
「はぁっ!ひっ……んんっ……」
勝手に声をあげる口を抑え、新たな快感の出所を視認することはとても困難だった。でも、僕はなんとかやり遂げた。
見れば、双葉ちゃんの顔は乳首から離れているものの、未だ胸のところにあったが、左手が僕の股間にあてられていた。その手の指一本が――膣内に入ってる。
「く、くる……しいよ。双葉……ちゃん……」
でも、双葉ちゃんはそんな僕の言葉なんか無視して、新しい獲物に目を光らせている。
ついには、一度指は抜いてくれたが、身体の向きを入れ替えて、僕の女の子なとこを本格的にいじりだした。
それは最初は撫で回すだけだったけど、急に強い刺激が僕を襲った。
「いっ、やぁ!なに!これ!」
「これがクリトリスよ。どう?」
「だめっ!だめぇ!」
頭を振り回して必死に叫ぶ僕。その願いが通じたのか、双葉ちゃんの手が止まる。でも、それは勘違いだった。
「ずるい」
「……は?」
乱れた息をはあはあさせながら聞き返す。
「ずーるーい!私のもして!」
ずるいって……でも僕が言い返す間もなく、双葉ちゃんは僕をまたぐように身体をずらすと、僕の目の前に双葉ちゃんの……その……男の子がきた。
「やって」
仕方がない。怖ず怖ずと手を伸ばす。でも、どうしたらいいんだろう……
困っていると、双葉ちゃんが呆れるように言ってきた。
「あんた、まだしたことないのぉ?こするのよ。あ、口でもやってね。私もしてあげるから」
「口でっんぁ」
お手本を見せるかのように、僕の股間から舐められる感触がきた。
閉じそうになる目をなんとか開けて、見上げるとぶら下がるそいつ。目があったような気がして気まずい。
これを――舐める?
(冗談でしょ……)
男になってから小便したという言葉を、僕ははっきりと覚えてる。まだ生まれたばかり、元は埋まっていた器官だとしても、何度も排尿はしてるはずだ。そして、今夜は風呂に入っていない。
(それを……舐める?)
冗談でしょ――しかし、双葉ちゃんは許してくれなかった。責めるように僕の膣の中に舌で攻めると、顔を上げて言ってきた。
「はーやーく―!手も動かして!」
「う、うん」
反抗する気はまるで起きない。急かされて焦るばかりだ。
両手を動かしながら、口元にそれを持ってくると、ぺろっと一舐め。
(うぅ……)
二度、三度と舐める。変な味……
「く、くわえて」
さらにご要望。もう、どうにでもなれ。
亀頭をすっぽり覆い隠し、ちろちろと舐める。なんだか、自分が変な気分になってきた。
「んぁ、いい……きよひこ……おかえし」
「ああっ!」
クリトリス重点責め。僕はぽろっと口から双葉ちゃんのあれを出してしまった。
「やっ……たな!」
お互いに責めて責められつつ、僕たちは高みに昇っていった。
「はぁはぁ……ねぇ、そろそろ入れよ?」
そう言ったのは、双葉ちゃんだった。
意味は――さすがに分かる。子供を作る行為だ。保健で習った。
「ん……でも、赤ちゃん……」
「大丈夫、大丈夫。あんた女の子初日で初潮もまだでしょ?できないよ、きっと」
きっとじゃ困るんだけど……
「それに明日戻るんだから関係ないじゃん?ぱーっとやろうよ」
明日になれば戻る。それだけが僕の救いだ。だから、それならと僕も了承した。
僕は動くこともできなかったので仰向けのまま、双葉ちゃんがのしかかってきた。
それほど筋肉がついていないように見える(それで、なんであんなに運動が得意なんだろう)柔らかい身体とは対照的に、すごく頑なっているあれを僕の女の子に押し当てる。
手で位置を調整し、ぐっと少しずつ双葉ちゃんが腰を押しつけてきた。
「あっ――あっ――」
できたばかりの穴が、どんどん広げられていく感覚は、苦しさをともなっていた。でも、双葉ちゃんが言っていた通り痛みはない。
「ぐっ――」
ついに身体が密着した。強烈な異物感がある。本来なら――僕は感じることのない感覚だったものが。でも、
(悪く、ないかも)
満たされている。相手と抱きしめあっていることが嬉しい。ずっとこのままでいたい――しかし、男は空気を読んではくれなかった。
「動く……よ」
こっちの同意もなく動き出す彼。手をついて上半身を起こす双葉ちゃんから離れたくなくて、両手をのばすけど、届かない。
「あっ……」
さらに股間からも、喪失感を感じた。双葉ちゃんのおちんちんが抜けようとしている。腰が勝手に追いかけようとする。しかし、次の瞬間衝撃が走った。
「ああっ!」
腰を押しつけられた。二つがぶつかり合い、先ほどよりも深く僕の身体が抉られる。
でも、僕にはその衝撃を受け止めている暇はなかった。
「やぁ!ふたっ!ちゃん!」
何度も、何度も何度も、打ちつけられる。
「はげっ!しぃ!ひっ!」
ぎゅと布団を握りしめて、いやいやと頭を振るけど、ほんとは止めてほしくなかった。双葉ちゃんも止めない。
ぱんぱんとぶつかり合う体と体。激しい快感に目の前がスパークする。その中で、
「ふた……ちゃんん!だきっ!しめて……さいごは、いっ!しょに!」
僕はおねだりしていた。大きすぎる快感が怖くて。双葉ちゃんを感じたい。もう、限界が差し迫っているのが分かっていたから。
でも、それを聞き取れる余裕なんて、今の双葉ちゃんには無かっただろうに。
彼は、大きく腰を引くと、それを埋めるために、さらに強く深く押し込んできた。
「んっあああああ!」
身体が、寝転がって上に双葉ちゃんがいるのに、弓なりにしなる。目の前は完全にホワイトアウトした。
でも、気絶する前に、胎内に温かい何かが広がる感触と、抱き締められたのを感じた。
◆◇◆◇◆
「何を見てるんだい?」
そう話しかけてきたのは、トランクス一丁でいかにも風呂上がりといったていの、愛する旦那だった。
最近旦那の、なにかを主張するように出てきた腹を見ていると、少し哀しい気持ちになる。
(昔は美少年だったのになぁ……)
女の子に間違われるほどの。
でも、今ではそんな様子は影も形もない。中年太りしたおじさんだ。
“もっと昔”は、間違われるどころか、本物の女の子だったのに。
「ゴミ箱の中に、これがあったの」
こちらがそんな憐れみの視線を向けているとは、毛ほども気づかない旦那は、私から受け取った娘の学校のプリントに目を通している。
「“TS病予防接種の実施要項”?日付は……今日じゃないか」
「なんか思い出さない?」
「……まさか」
旦那は、にやりと笑った。おいおい、笑ってる場合じゃないだろ。
私はため息をつきながら、今は家にいない娘のことを思った。いや、果たして今でも、“娘”のままだろうか?
「私があの子から聞いてた予防注射の日付は、明日」
「それで今日は泊まりか」
訳知り顔で旦那がつぶやく。
「カエルの子はカエルだな」
「今ごろ、何も考えずにいい気になって寝てるんでしょうね」
そう、この人と同じように。私は責めるような目で、旦那を見つめた。
最近、娘が誰かに似てきたと思っていたが、その誰かがずっとわからなかったのだが、それがやっとわかった。
「おいおい、俺は知らなかったんだって。知ってたらやらなかったさ」
「どうだか」
口調も責めているそれだったが、参ったなと笑う旦那を見ていると、つい――かわいいなんて思ってしまうのは、きっとこの人が昔は女の子で、“僕”が男の子だったからだ。たぶん。
「……後悔してる?」
「女の子になったことを?それとも、あなたとしたこと?」
旦那は、珍しく真剣な顔で聞いてきた。
「どっちもだよ」
その顔が、あまりにも今の――風呂上がりの――格好に似合わなくて、思わず吹き出してしまった。
止まらない笑いで誤魔化すことになってしまったが、答えはその笑いだけで十分だと思う。
あの子は、どんな答えを出すんだろう。笑いながら、私はそんなことを考えていた。
この作品には「TS病」が出てきますが、女の子もTSしたりとシェアワールドで示されているTS病とは、若干設定が異なります。(そもそも予防注射ができている時点で(ry)
その辺りのことをよく注意してからお読みください。
はじめまして。ぼくの名前は「高梨きよひこ」○学○年生。
みんなは、TS病って知ってるかな?男の人が女になったり、女の人が男になったりするふしぎな病気なんだ。
ずっと昔にもういをふるって、今でもTSした人を元にもどす方法はないんだって。
でもね、今では『予防注射』ができたんだ。これのおかげで、TSする人はほとんどいなくなったらしいよ。
「あの、せんせい……」
「保健室で寝てきなさい」
「――なんか頭が、え?」
「晴海くん、高梨くんを保健室に連れていってあげて」
国語の授業中、突然手をあげた僕の言葉が終わる前に、水樹先生は保健委員の晴海くんにちゃっちゃと指示を出した。
「きよひこー、お前女になるんだろー!」
「やーい、女!女!」
一拍おいて、うちのクラスの悪ガキたちがヤジを飛ばしてきたけど、先生が眼鏡越しにきっと睨みつけたら静かになった。
水樹先生はとても美人の先生だけど、ちょっと怒りっぽいのが玉に瑕だね。
悪ガキからこちらに向けてきた先生の顔は、こんなに優しそうなのに。
「さ、早く保健室に行きなさい」
教室を出て、一階にある保健室を目指す。ここは三階だ。
さっき悪ガキたちが飛ばしてきたヤジは、あながち間違いではないと思う。いやむしろ、彼らの言った通りのことが起きるはずだという確信が、僕にはあった。
(やだなぁ……)
沈む気持ちを引きずりながら歩く。足を引きずっているのは身体がダルいせいだけど。
実は今日、僕たちの学年はTS病の予防注射を行ったのだ。その時、事前の説明で水樹先生はこう言っていた。
『注射を受けた人の中には、TSしてしまう人がいるかもしれません。でも、明日の朝には戻れるから慌てないように』
(戻れるって言ってもさぁ)
女になるんでしょ……その姿をクラスメイトに見られたらと思うと、ますます気が滅入る。
ああ、憂鬱だ。『ゆううつ』なんて言葉、僕は読めないし書けないけど。
「えーっと、五年二組の高梨くんね?悪いんだけどベッドは埋まってるから、隣の教室行って、敷いてある布団で寝てね」
ここでも先生の扱いはぞんざいだった。保健の先生、嵐山先生はいつもは丁寧に対応してくれるのに、今日はすごく忙しそうで、全く構ってくれない。
予防注射を打った生徒の中には、いきなり倒れる子なんかもいるらしいから、自力で来た生徒には構っていられないということなんだろうけど。
ここで僕は、ついてきてくれた晴海くんにお礼を言って別れることにした。
隣の教室に行くと、既に何人かの生徒が布団にくるまっていた。
彼らを起こさないようそーっと一番端の布団に行こうとしたんだけど、誰かが気づいてもそもそと起き上がってきた。
「あ、きよひこ」
幼なじみの双葉ちゃんだ。
「へー、あんたもなんだ?」
「う、うん」
ニヤニヤしながら、こちらを値踏みするようにジロジロ見てくる双葉ちゃん。この笑いは、絶対になにか企んでるに違いない。
「ね、きよひこ。わたしのとなりで寝ましょ」
「いいけど……」
僕はいつも彼女に逆らえない。それに今は、頭がぼーっとして考えるのが酷く億劫だ。
双葉ちゃんはよく平気だなと思いながら、布団に潜り込むと、すぐに眠気はやってきた。
その眠りに落ちる一瞬前、双葉ちゃんが質問をしてきた。
「ねぇ、きよひこ。あんたのお父さん、今出張してるんだよね?」
「う……ん……そう……だ……よ……」
そのまま僕は眠りについた。でも、双葉ちゃんのニヤニヤした笑顔が、妙に瞼の裏に張り付いて離れなかった。
◆◇◆◇◆
「きよひこ、きよひこ」
誰かに揺さぶられて、目が覚めた。顔をあげると、窓から入ってくる西日が目を瞬かせる。
「あれ、夕方?」
「そうよ。先生がもう帰りなさいって」
そこにいたのは、双葉ちゃんだった。服装は起きる前と変わらず、見た目も違いはわからない。ただちょっと――声がかすれてる?
寝ぼけ眼をこすっていると、双葉ちゃんは呆れたように言ってきた。
「せっかく女になったのに、何もたしかめないの?」
言われて下を――自分の身体を見下ろしてみる。でも、ほとんど違いはわからない。服は双葉ちゃんと同じように変わってないし。
そんなこちらの緩慢な動きにイラついたのか、双葉ちゃんは僕の手を取って、無理やり僕の胸に押し付けさせた。
「ほら!さわってみなさいよ!」
薄いが、確かに柔らかい感触がして、びくっとする。さらに双葉ちゃんは、今度は直接自分の手を僕のズボンの中に突っ込んで、平坦になってしまった僕のそこに触れてきた。
「ぁん!」
「くす、声もすっかり女の子ね」
確かに、声が少し高くなったような気がする。声変わりする前だから、違いは小さいけど。
「なにしてるのー!帰る前にこっちに集合よー」
すっかり忘れていた嵐山先生に呼ばれ、双葉ちゃんはあっさり僕から身体を離して、出入り口の方を向いたけど、彼女――いや、彼の顔がまた寝る前と同じ笑顔になっていることを、僕は見逃さなかった。
ぞくっと、背筋に悪寒が走った。
「はい、じゃあ皆さん。今日は真っ直ぐ家に帰ってご飯食べたらすぐ寝ちゃうこと!できるだけ運動はしちゃダメよ!お風呂は今日は入らなくていいからね。先生が許す!」
TSした少年少女たちが、「はーい」といい返事をして、銘々帰宅していく。
友達はみんな帰った後だったし、できれば会いたくもなかったので、僕は双葉ちゃんと一緒に下校することにした。というか、された。
僕は双葉ちゃんに逆らえない。たとえそれがどんな無理難題でも。
帰り途中、双葉ちゃんはさらにこんなことを提案してきた。いや、それは決定事項だった。
「今日、あんたんち泊まるけど、いいよね?」
「え!?そんないきなり……」
「大丈夫、ママには言ってあるから」
僕が大丈夫じゃない。そう思ったけど、こんなこと口に出したら何をされるかわからない。
「いや、でも先生が早く帰れって……」
「帰るわよ。あんたんちにね」
尚も僕は食い下がろうとしたんだけど――
「ねえ、“えっち”って、してみたくない?」
「はぁ!?」
双葉ちゃんが言ってきた突拍子もないことに、言葉を失った。
「あんただって、“えっち”くらい知ってるでしょ?」
「も、もちろん!」
佐山くん――悪ガキ――たちと前に見たエロ本の知識だけどね。
「じゃあ、やってみたいと思わない?しかも“いせい”の体けんなんて一生に一度きりよ?」
「え、なんで?」
「バカねぇ、予防注射うっちゃったんだから、もうTS病にはならないのよ?」
「あ、そっか」
その後も双葉ちゃんは、今から“えっち”をすれば、どんなに素晴らしいかをまくし立ててきた。
「いい、このチャンスを逃したらもう二度とないのよ?それに、TS病で女になると、初めてでもすぐに気持ちよくなれるって聞くし、興味ない?あと、別に明日の朝には戻れるんだしいいじゃない。ほかに……今日してくれたら、戻った後今度もう一回してあげる」
「で、でも先生が運動するなって――」
「あんなの子供だましよ。うーん……じゃあ、もう」
そういうと、双葉ちゃんはすすすっとこちらに近寄り、僕の顔を両手で抑え――唇を奪われた。
「……むー!」
最初は目が点になってされるがままにしていたけど、事態を把握して、僕は暴れ出した。双葉ちゃんはそれで身体を離してくれたけど――
「ぷはぁ!もう、なによぉ!女の子なんだから好きな男の子にキスされたら喜ぶもんでしょ!」
と、理不尽なことを言ってくる。
「べ、別にぼくは双葉ちゃんのことなんて――」
「もういい!とにかくあんたんち泊まるから!行くよ!」
こちらの手を取ってぐいぐい進んでいく双葉ちゃん。その後ろ姿を見ながら、僕はため息をついた――諦めるしかない。昔から双葉ちゃんには逆らえないのだ。
◆◇◆◇◆
僕の家は父子家庭のうえに、お父さんはよく仕事で家を空けることが多い。そのため、昔はよく双葉ちゃんの家に泊まらせてもらった。
今では、滅多に泊まりには行かないけど、最近は逆に双葉ちゃんが泊まりにくることがある。
僕が用意した夕飯を平らげた双葉ちゃんは、今は呑気にテレビを見ながら笑っている。僕に洗い物をさせて。
……何故だか、未来のことを予感してしまい、悲しくなった。
洗い物を終えて居間に行くと、双葉ちゃんはよっと立ち上がった。
「じゃ!やりましょうか!」
「え、えーっと……お風呂は?」
「先生が入らなくていいって言ってたでしょ」
他の言うことは破ってる癖に――とは言えなかった。しかし、双葉ちゃんはそのことを自覚しているらしく、笑っている。
「じゃあ……トイレ行ってきていい?」
少しでも時間稼ぎがしたくて言ったことだけど、トイレに行きたいのは本当だ。
だが、双葉ちゃんはトイレという言葉に妙に食いついてきた。
「あ、じゃあわたしも行く」
「え、じゃあ、先いいよ。ぼくはその後行くから」
「え、ちがうちがう」
こちらの提案に身振りを交えて否定する双葉ちゃん。
「わたしも一緒にトイレに行くけど、するのはあんただけ」
少しの間。双葉ちゃんが言ったことを飲み込み、さらに反芻し、自らの血肉として理解するのに、時間を必要とした。そして、叫ぶ。
「はぁっ!?」
「それに私はさっきしたし。すごいね、立ちしょんって」
目をキラキラしながら語る双葉ちゃんに頭痛がする。このまま寝てしまいたいけど、間違いなくおねしょだ。
「……勝手にすれば」
ふらふらと歩きながら、もうどうでもいい気持ちで僕は告げた。
双葉ちゃんは本当についてきた。
扉を開けてするだけでも恥ずかしいのに、便座に座る僕の股間に視線合わせ、じーっと見ながら座っている双葉ちゃんがいたのでは、出るものも出ないと思う。
だいいち、ズボンを下ろせない。
(座ってするのかぁ……)
最近では、座りながら小便をする子もいるってクラスメイトは言ってたけど、僕は立ちしょん派だ。というか、お父さんが座りしょんを許してくれない。男の誇りがどうとか。
「ねぇ、ぬぎなよ」
ならいなくなって――とは、また言えなかった。
どうせ今の身体は女の子だし、双葉ちゃんも元々は女の子だ。僕の男の子が見られるわけではないんだからと、意を決してズボンとブリーフをいっぺんに下ろす。
だが、目を開ける勇気まではもてなかった。
股間が外気にさらされ、悪寒を感じる。ぶるっと震えながら力を抜いていくと、男の時とはまるで違う感覚が僕を駆け抜けた。
じわっと身体の奥から温かいものが染み出し、やがて聞こえる水音。
「ふわぁ」
思わず、恥ずかしい声が出てしまう。
でも、なんの反応もない。目はつむってるけど、自分のではない荒い吐息は聞こえる。双葉ちゃんがまだいるのは間違いないはずだ。
ちらっと目を開けてみた。
双葉ちゃんは食い入るように僕の股間を凝視していた。しかもいつの間にか体育座りで。
僕のおしっこが終わっても、双葉ちゃんはまだ固まっていたようだ。彼が鼻血を出していることに僕は気づいた。
ズボンをあげて、いい加減怖くなったので話しかけてみる。
「あの……ふたばちゃん?」
双葉ちゃんはその言葉でぶるぶると震えだし、突然詰め寄ってきた。
「すごいね!!」
「え、えー……あー……うん?」
自分のおしっこをする姿を凝視した感想など言われても、正直返答に困るんだけど。
「いやぁ、まさかこんなにこうふんするとは思わなかった!男の子になったせいかなぁ、なんかすっごいエロかったのよ!ほら、おかげでこんなに――」
僕の手を取り、自分の股間に当てさせる双葉ちゃん。
硬い、確かなものの手触りを感じて、僕は確信していた。
(へんたいだ……まぎれもなくへんたいだ……)
だから、どうか神様。この変態を男のままで野放しになんてしないでください。
「そう言えば、おばさん、今日予防注射なのに、よく泊まり許してくれたね」
「ああ、予防注射は明日って言ってあるから。だからあんたも、ママに聞かれたら話し合わせなさいよ」
なるほど。最初から計画していたわけだ。なかなかの知能犯である。
僕は少し関心してしまったが、その犠牲になるのは自分だということに気づき思い直した。
僕たちは今、僕の自室にいる。
僕は自分のベッドに腰掛け、双葉ちゃんは隣に敷かれている布団に座っていた。
どちらもパジャマ姿(うちには何故か双葉ちゃんの服一式がある)だ。
「さて、じゃあそろそろやろっか」
……なんとか誤魔化そうと世間話を引き伸ばしていたけど、双葉ちゃんの気は変わらないらしい。僕は未だ乗り気ではないのに。
「ねえ……ほんとにやるの?」
「あったり前でしょ。あ、でもその前に、さっき言うの忘れたんだけど」
いきなり、着たばかりのパジャマを双葉ちゃんが脱ぎだした。
慌てて視線を逸らす――赤面しながら。
双葉ちゃんは今男の身体だからと頓着しないけど、それでも僕には直視できない気恥ずかしさがあった。
「下着とパジャマ、とりかえましょ」
「へ?」
いきなり言われたことの意味がわからず、思わず双葉ちゃんの方を見てしまう。
双葉ちゃんは既にパンツ一枚になっていた。本来ならまっ平らであるべきところが不自然に膨らんでいる。
でも、僕はその裸体に見とれてしまった。まずは顔――男になったとはいえ、女の子の時とほとんど変わっていない――、次に胸――膨らみは一切無くなっているけど、これは元からあまりないから、違和感がない――、さらに手足――少年のみずみずしい肌には、毛が生える予兆さえ見られない――と視線を這わせていく。股間さえ見なければ、女の子の裸に見えなくもない。
ぽーっと双葉ちゃんのほうを見ていると、双葉ちゃんはついに最後の布切れも脱ぎ去り、それを突き出してきた。すっぽんぽんで。
「きよひこも早く脱いで」
「な、なんでさ」
「そのほうが気分出るでしょ。いやなら力ずくでぬがすけど?」
にやりと笑いながら。その笑みがとても恐ろしい。
「わ、わかったよ。でも……後ろ向いてて!」
「ふーん、すっかり女の子じゃん」
「やめろよ!」
にやにやと笑いながらこちらを見てくる双葉ちゃんに、あえて男っぽい言葉遣いをしてみせたが、声がまるっきり女の子なため、情けなく聞こえる。
「はいはい」
双葉ちゃんはまだ笑っていたが、それでもちゃんと後ろを向いてくれた。
彼の背中を見ながら――なるべくお尻には視線がいかないように――パジャマを脱ぐ。しかし、ブリーフに手がさしかかって躊躇する。
これを脱いだら、パジャマとはいえ、女の子の服を着なければならない。
かといって、この状況を打開する名案なんて……
後ろから双葉ちゃんを殴り倒す――双葉ちゃんは学年の中で、男子を含めても、ケンカの強さは上位ランカーだ。僕は下から数えた方が早い。却下。
大声をあげる――聞こえれば、隣に住んでる棚町のおじさんおばさんが様子を見にきてくれるだろうけど、双葉ちゃんは妙に大人受けがいいから言いくるめられてしまうのは目に見えている。却下。
逃げる――双葉ちゃんは足も速い。というか運動神経において、僕には越えられない壁が双葉ちゃんとの間にある。却下。
他にも色々――全て却下。
……ない。
はあ、とため息をつく。仕方ない。どうせ、諦めは大分前についてるし。
ブリーフを脱ぎ、脱いだ服を全て双葉ちゃんの足元に投げる。それから、すぐ近くにある双葉ちゃんの服に手をかけた。
まずはパンツ。さっきまで、これを双葉ちゃんがはいていたのだ。今日一日ずっと。女の子の時から。
我知らず、顔に持って行きそうになっていたのに気づき、思いとどまる。そんなことをしたら、双葉ちゃんのことを変態だなんて言えない。
ちらっと、罪悪感から双葉ちゃんを見ると、彼はなんの迷いもないように僕のブリーフの臭いを嗅いでいた。
……
着替えよう――その後は機械的に手を進めていった。果たして、もう双葉ちゃんにスポーツブラは必要なのかと少し悩んだけど、その手は止まらなかった。
着替えを済ませ、再びベッドに腰掛ける。緊張のせいだろうか?顔が熱い。胸がどきどきする。
目線の先には、もうこちらに向き直り、立ち尽くしている双葉ちゃんがいる。流石の彼も緊張しているのか、表情は固く、少し赤面している。
「ねぇ……電気消さない?」
まず声をかけたのは僕のほうだった。暗くなれば、恥ずかしさもマシになるかもしれない、お互いに――そう思って提案したのに、双葉ちゃんは受け入れてくれなかった。
「やだ」
否定を発した後、双葉ちゃんは一歩一歩近づいて来た。僕の前に到着するまで、何百年とも言える時間が過ぎ去ったのではないかと、僕は思った。
双葉ちゃんの影にさらされ、彼を見上げる。血走った目に恐怖を覚えるが、身体が動かせない。
双葉ちゃんは、僕の頬に右手で触れて、そのまま身を屈めてきた。
触れるだけのキス。何度も繰り返し、啄むようなものに変わる。体勢も、いつの間にか双葉ちゃんが僕にのし掛かるような形に変わっていた。
先に舌を入れてきたのは双葉ちゃんだった。その感触に、身体が震える。こんなキス初めて――いや、そもそも母親以外の異性とキスするのが初めてだ。まあ、今の双葉ちゃんは男だが、僕も今は女だし――だし、知りもしなかった。
「ん……」
気持ちいい。僕がキスに夢中になっている間に、双葉ちゃんはパジャマの中に片手を入れてきた。スポブラ越しに、胸を手が覆う。
僕の霞がかった脳みそは、その感触を感じ取っていたが、なんの指示も出せないでいる。もう、僕は双葉ちゃんのなすがままだ。普段も似たようなもんだけど。
こねるように胸を揉まれると、ゆっくりと暖かさが生まれ、全身に広がっていく。双葉ちゃんの手つきは優しかった。
それは、双葉ちゃんの女の部分がさせていたのだろう。でも、男が求めるものは性急だ。
「あっ……」
僕の顔に触れていた手と顔が離れる。もっとキスしていたかったのに。
離れた手は、僕の上のパジャマのボタンを外していった。
全てをはずし終えて前を開いた後、今度は僅かな胸を隠していたスポーツブラを押し上げて、双葉ちゃんの手が僕の胸に襲いかかった。
未だに頭がはっきりとしない僕は、完全に寝転がって双葉ちゃんの顔を見ていた。そしたら、何故だかくすっという笑いがこみあげた。
(本当に男の子みたい……)
双葉ちゃんは血走ったままの目で、僕の胸を凝視している。鼻息は荒く、折角の可愛い顔が台無しだ。だが、そんなことも愛おしく思える。
「いっ……ゃあ、いた……いよ……」
抗議の言葉は双葉ちゃんの耳には届かない。意味がわからなかったのかもしれない。もはや胸を揉んでくる手に優しさはなかった。薄い胸を一点に寄せ集めるように激しく動かし、ついに乳首に触れてきた。
「ひゅっ……あぁっ!」
そこをつねられただけで、身体が一瞬飛び上がった。
その反応が気に入ったのか。何度も。何度も、何度も。つねり、こねくり回される。
その度に身体が跳ね、頭を振り回し、恥も外聞もなく叫び声を――いや、あえぎ声をあげても、双葉ちゃんはやめてくれない。
遂には、片方の乳首を口に含み、音を立ててなめ始めた。さらに、もう片方の乳首も、ちゃんと指でいじってくる。
怒涛の快楽のラッシュに、頭のもやなどすっかり吹き飛んでしまった。
(すごい――)
これが女の感覚。だけど、男の性感と比べようにも、僕はまだそっちも未経験だった。
本当の性別の快感を味わう前に、こんなすごい経験して大丈夫なのかと恐怖が頭をよぎったけど、すぐに吹き飛んだ。新しい快感によって。
「はぁっ!ひっ……んんっ……」
勝手に声をあげる口を抑え、新たな快感の出所を視認することはとても困難だった。でも、僕はなんとかやり遂げた。
見れば、双葉ちゃんの顔は乳首から離れているものの、未だ胸のところにあったが、左手が僕の股間にあてられていた。その手の指一本が――膣内に入ってる。
「く、くる……しいよ。双葉……ちゃん……」
でも、双葉ちゃんはそんな僕の言葉なんか無視して、新しい獲物に目を光らせている。
ついには、一度指は抜いてくれたが、身体の向きを入れ替えて、僕の女の子なとこを本格的にいじりだした。
それは最初は撫で回すだけだったけど、急に強い刺激が僕を襲った。
「いっ、やぁ!なに!これ!」
「これがクリトリスよ。どう?」
「だめっ!だめぇ!」
頭を振り回して必死に叫ぶ僕。その願いが通じたのか、双葉ちゃんの手が止まる。でも、それは勘違いだった。
「ずるい」
「……は?」
乱れた息をはあはあさせながら聞き返す。
「ずーるーい!私のもして!」
ずるいって……でも僕が言い返す間もなく、双葉ちゃんは僕をまたぐように身体をずらすと、僕の目の前に双葉ちゃんの……その……男の子がきた。
「やって」
仕方がない。怖ず怖ずと手を伸ばす。でも、どうしたらいいんだろう……
困っていると、双葉ちゃんが呆れるように言ってきた。
「あんた、まだしたことないのぉ?こするのよ。あ、口でもやってね。私もしてあげるから」
「口でっんぁ」
お手本を見せるかのように、僕の股間から舐められる感触がきた。
閉じそうになる目をなんとか開けて、見上げるとぶら下がるそいつ。目があったような気がして気まずい。
これを――舐める?
(冗談でしょ……)
男になってから小便したという言葉を、僕ははっきりと覚えてる。まだ生まれたばかり、元は埋まっていた器官だとしても、何度も排尿はしてるはずだ。そして、今夜は風呂に入っていない。
(それを……舐める?)
冗談でしょ――しかし、双葉ちゃんは許してくれなかった。責めるように僕の膣の中に舌で攻めると、顔を上げて言ってきた。
「はーやーく―!手も動かして!」
「う、うん」
反抗する気はまるで起きない。急かされて焦るばかりだ。
両手を動かしながら、口元にそれを持ってくると、ぺろっと一舐め。
(うぅ……)
二度、三度と舐める。変な味……
「く、くわえて」
さらにご要望。もう、どうにでもなれ。
亀頭をすっぽり覆い隠し、ちろちろと舐める。なんだか、自分が変な気分になってきた。
「んぁ、いい……きよひこ……おかえし」
「ああっ!」
クリトリス重点責め。僕はぽろっと口から双葉ちゃんのあれを出してしまった。
「やっ……たな!」
お互いに責めて責められつつ、僕たちは高みに昇っていった。
「はぁはぁ……ねぇ、そろそろ入れよ?」
そう言ったのは、双葉ちゃんだった。
意味は――さすがに分かる。子供を作る行為だ。保健で習った。
「ん……でも、赤ちゃん……」
「大丈夫、大丈夫。あんた女の子初日で初潮もまだでしょ?できないよ、きっと」
きっとじゃ困るんだけど……
「それに明日戻るんだから関係ないじゃん?ぱーっとやろうよ」
明日になれば戻る。それだけが僕の救いだ。だから、それならと僕も了承した。
僕は動くこともできなかったので仰向けのまま、双葉ちゃんがのしかかってきた。
それほど筋肉がついていないように見える(それで、なんであんなに運動が得意なんだろう)柔らかい身体とは対照的に、すごく頑なっているあれを僕の女の子に押し当てる。
手で位置を調整し、ぐっと少しずつ双葉ちゃんが腰を押しつけてきた。
「あっ――あっ――」
できたばかりの穴が、どんどん広げられていく感覚は、苦しさをともなっていた。でも、双葉ちゃんが言っていた通り痛みはない。
「ぐっ――」
ついに身体が密着した。強烈な異物感がある。本来なら――僕は感じることのない感覚だったものが。でも、
(悪く、ないかも)
満たされている。相手と抱きしめあっていることが嬉しい。ずっとこのままでいたい――しかし、男は空気を読んではくれなかった。
「動く……よ」
こっちの同意もなく動き出す彼。手をついて上半身を起こす双葉ちゃんから離れたくなくて、両手をのばすけど、届かない。
「あっ……」
さらに股間からも、喪失感を感じた。双葉ちゃんのおちんちんが抜けようとしている。腰が勝手に追いかけようとする。しかし、次の瞬間衝撃が走った。
「ああっ!」
腰を押しつけられた。二つがぶつかり合い、先ほどよりも深く僕の身体が抉られる。
でも、僕にはその衝撃を受け止めている暇はなかった。
「やぁ!ふたっ!ちゃん!」
何度も、何度も何度も、打ちつけられる。
「はげっ!しぃ!ひっ!」
ぎゅと布団を握りしめて、いやいやと頭を振るけど、ほんとは止めてほしくなかった。双葉ちゃんも止めない。
ぱんぱんとぶつかり合う体と体。激しい快感に目の前がスパークする。その中で、
「ふた……ちゃんん!だきっ!しめて……さいごは、いっ!しょに!」
僕はおねだりしていた。大きすぎる快感が怖くて。双葉ちゃんを感じたい。もう、限界が差し迫っているのが分かっていたから。
でも、それを聞き取れる余裕なんて、今の双葉ちゃんには無かっただろうに。
彼は、大きく腰を引くと、それを埋めるために、さらに強く深く押し込んできた。
「んっあああああ!」
身体が、寝転がって上に双葉ちゃんがいるのに、弓なりにしなる。目の前は完全にホワイトアウトした。
でも、気絶する前に、胎内に温かい何かが広がる感触と、抱き締められたのを感じた。
◆◇◆◇◆
「何を見てるんだい?」
そう話しかけてきたのは、トランクス一丁でいかにも風呂上がりといったていの、愛する旦那だった。
最近旦那の、なにかを主張するように出てきた腹を見ていると、少し哀しい気持ちになる。
(昔は美少年だったのになぁ……)
女の子に間違われるほどの。
でも、今ではそんな様子は影も形もない。中年太りしたおじさんだ。
“もっと昔”は、間違われるどころか、本物の女の子だったのに。
「ゴミ箱の中に、これがあったの」
こちらがそんな憐れみの視線を向けているとは、毛ほども気づかない旦那は、私から受け取った娘の学校のプリントに目を通している。
「“TS病予防接種の実施要項”?日付は……今日じゃないか」
「なんか思い出さない?」
「……まさか」
旦那は、にやりと笑った。おいおい、笑ってる場合じゃないだろ。
私はため息をつきながら、今は家にいない娘のことを思った。いや、果たして今でも、“娘”のままだろうか?
「私があの子から聞いてた予防注射の日付は、明日」
「それで今日は泊まりか」
訳知り顔で旦那がつぶやく。
「カエルの子はカエルだな」
「今ごろ、何も考えずにいい気になって寝てるんでしょうね」
そう、この人と同じように。私は責めるような目で、旦那を見つめた。
最近、娘が誰かに似てきたと思っていたが、その誰かがずっとわからなかったのだが、それがやっとわかった。
「おいおい、俺は知らなかったんだって。知ってたらやらなかったさ」
「どうだか」
口調も責めているそれだったが、参ったなと笑う旦那を見ていると、つい――かわいいなんて思ってしまうのは、きっとこの人が昔は女の子で、“僕”が男の子だったからだ。たぶん。
「……後悔してる?」
「女の子になったことを?それとも、あなたとしたこと?」
旦那は、珍しく真剣な顔で聞いてきた。
「どっちもだよ」
その顔が、あまりにも今の――風呂上がりの――格好に似合わなくて、思わず吹き出してしまった。
止まらない笑いで誤魔化すことになってしまったが、答えはその笑いだけで十分だと思う。
あの子は、どんな答えを出すんだろう。笑いながら、私はそんなことを考えていた。