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無限増殖

2012/06/20 03:59:38
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仕事を終え、おれはマンションの一室に戻った。おれは独身。家族はいない。かといって若いわけではなく、もう36になる。

この歳になるまで結婚しなかったのは、なにも女にもてなかったわけではない。何人もの女を抱いてきた。でも、なにか違っていた。女は大好きだ。しかし、女を抱くというよりも、自分自身が女そのものになってしまいたい。女を抱いているときも、相手の女になりたいという気持ちが強く、いまひとつセックスそのものに興奮できないのだ。

おれは服を脱ぎ捨て、パンツ一枚になってベッドに転がり込んだ。右手をパンツの中に突っ込みながら、おれは目を閉じて頭の中にイメージを思い浮かべた。おれ自身が自分の理想の美女に変身したイメージ。おれはスレンダーで、細く腰がくびれた腰が魅力的だった。腰から急激に膨張する太もも。長くて美しい脚。

おれのペニスは次第に勃起してきた。おれは自分の女の乳房を思い浮かべた。大きさはほどほどだが、白くて形のいい可愛らしい乳房。おれは右手でペニスを激しくしごきながら、思わず左手で自分の現実の胸を揉もうとした。平べったく硬く引き締まった胸。それでもおれは女の乳房を思い浮かべ、揉み続けた。ああ、おれに女の柔らかい乳房が欲しい。

そのとき、おれの胸の上で、何か柔らかい物質が発生した。それはどこからか生まれ続け、あっという間に充実した。左手で掻きむしっていた指先の硬い感覚はなくなり、柔らかい何かの表面を滑っていた。

おれは驚いてオナニーを止めて起き上がった。左胸に重量のある柔らかいものが垂れ下がった。何なのかを確かめるために見つめると、それは美しい女の乳房だった。左手で抱えてみると、大きくて可愛らしい乳首が見えた。

おれはわけがわからなくなり、玄関にある大きな姿見で全身を確かめた。鏡にはいつもと変わらない中年男が映っていた。でも、左の胸には、形のいい、魅力的な女の乳房があった。右胸は胸毛の生えた平らな男の胸のままなので、非常にグロテスクに見えた。夢でないことを確かめるために、乳房を触ってみた。触った手からは柔らかい感触が、触られた乳房からは、いままでに味わったことのない感覚が伝わってきた。

しばらくの間、おれは考え続けた。なぜこんなことになったのか。突然、おれに女の乳房ができた。そのときおれは何をしていたか。必死で思い出してみた。女の乳房を思い浮かべながら、乳房ができたところを激しく撫でていたんだっけ。ひょっとしたら、おれには、頭で念じながら、身体を撫でると、その部分を思いのまま変化させることのできる超能力が身についたのかもしれない。

おれはベッドに再び寝転がり、左手で出来たての柔らかい乳房を平らにならすように撫でながら、目を閉じて、必死に念じた。平らな男の胸に戻れ。戻れ。戻れ。

けれども、何十分、撫で続けても、念じ続けても、何の変化も起こらなかった。

おれは、起き上がって、部屋の中をぐるぐる歩きまわりながら、もう一度、考え直した。揉み過ぎた乳房が痛い。どうすればいいのだ。どうすれば元に戻れる。乳房が出来たとき、おれは何をしていたんだ。

そうだ。おれはオナニーをしていたんだ。わかったぞ。超能力を発揮するためには、性的快感が必要なんだ。

おれはベッドに横たわり、右手でペニスをしごきながら、左手で乳房を平らにならし、目を閉じて、念じた。男の胸に戻るんだ。戻れ。

男の胸を思い浮かべても、男の意識のおれは全く興奮しない。それでもおれは、オナニーを続けた。射精しそうになっても、全く何の変化も起こらなかった。射精してしまうと、オナニーが終わってしまう。そうすると、もう方法がなくなってしまって、にっちもさっちもいかなくなるかもしれない。おれはオナニーをやめた。

揉み過ぎて、出来たばかりの乳房が痛んだ。おれは今度は乳房をいたわるようにやさしく撫でてみた。美しい乳房。おれの夢の中の、おれがなりたい理想の美女が持っているのと同じ乳房。なんて魅力的なんだ。おれは、こんな乳房を持つ女になってみたかったんだ。

おれに乳房ができたのも、神様がおれの女になりたい願望をかなえさせてくれようとしているからかもしれない。そうすると、男の胸に戻すのは、無理なのかもしれない。逆に男の身体を女に変化させていくのは可能なのかも。

おれは、右手でペニスいじりながら、左手を今度は乳房のできていない右胸にあてた。存在しない乳房をつかむように指を動かしながら、目を閉じて、自分が変身したい理想の美女をイメージした。そしてイメージが完成すると、こんどは美しい乳房に意識を集中した。美しい、柔らかい乳房。こんな乳房を持つ女におれはなりたい。

たちまち、おれの右胸に柔らかい脂肪が発生し、心地よく、ぐんぐん大きさを増してゆく。おれの左手には、揉みしだいている胸が膨らんでいく不思議な感触が伝わってきた。

おれは、さっそく姿見の前に行って、自分の姿を確認した。さっきは、片側しか乳房がなかったが、こんどはふたつの美しい乳房がおれの胸にできあがっていた。おれは思う通りに自分の身体を変化させることができたので、何だかうれしくなった。まちがいない。おれは女に変身できるんだ。おれは身体を左右に振って、できあがった乳房の重みを楽しんでみた。心地よかった。いままでずっと欲しかった女の乳房がおれの胸に現実に存在しているのだ。

鏡の中のおれの乳房は美しかった。おれは好奇心がわいてきてもう少し実験したくなってきた。鏡の中の乳房を見つめ、右手でペニスをいじりながら、左手で両方の乳房をさすり、乳房が膨らんでいくようすをイメージした。乳房はおれの望みのままに形を変えていった。そのようすがエロチックでおれは興奮した。おれは思いのまま自分の肉体をいやらしい女に変えることができるのだ。

もうこうなったら、この不思議な能力を使って、自分の全身を女に変えてゆくしかない。まさか乳房だけ女でいられるわけがない。どこまで行けるかわからないがやってゆくしかない。

おれは頭の中で計画を練った。次は自分のどの部分を女に変えようか。もちろんもっとも興味あるのは、男の生殖器官を、女の生殖器官に変えることだが、この能力を使うには、どうもペニスに性的興奮を与え続けることが不可欠のようだ。少なくてもペニスは最後の最後に回した方がよさそうだ。次の興味としては、男の胴体を女の胴体に変えれるかが関心あるので、そちらを先にしよう。すると順番としては次に脚か。そして頭部を変えて、最後に股間を女に変えよう。

おれは全裸になり、鏡の中の自分と向き合うと、右手でペニスをしごきながら、左手を、頭のてっぺんにあてて、自分の身体が小さくなるようすをイメージした。身長170センチ、体重65キロあるおれの肉体が望みのままに大きさを変えていった。
ぐっぐっと全体を引きつらせながら、心地よく身体が小さく縮んでゆく。視点が変わっていった。筋肉も骨格もバランスよく小さくなっていった。でも、サイズが小さくなっただけで、筋肉のついたようすは男性そのものだ。子どもに戻ってゆくという感じでもない。年は変わらないようすだ。こうしておれは、乳房のついたチビの中年男に変身した。身長150センチくらいだろうか。体重40キロくらいか。正確には測ってないのでわからないが、身体のサイズは女として十分通用するくらいにちいさくなった。おれの変身能力は質量保存という物理法則を簡単に超越してしまった。

つぎはどうしよう。女性らしいボディラインになってみたい。まずは腰をくびれさせることが重要だ。おれは片手で腹回りを撫でさすりながら、一度目を閉じて、自分が変身したい理想の美女を思い浮かべた。そして意識をセクシーにくびれたウェストに集中させた。ペニスをしごいているおれは頭の中の美女のイメージに興奮した。その瞬間、現実のおなかのあたりが変化し始めるのを感じた。目を開けて鏡をみつめると、おなかのまわりに生えた体毛が縮んで消滅していくのが見えた。ちょっと中年太りだった腹の脂肪が溶けて、どこか異次元の空間に消えてゆく。つぎに腹筋がむずむずしてきたかとおもうと、これもだんだんとろけてゆく感覚になっていた。おなかの中身が溶けてなくなると、腹の皮が余ってたるんできた。すると突然、余った皮が縮みはじめ、引き締まって平らになった。それと同時に、色が浅黒い色から白くて透明な色に変化していった。ほんとうに女のようだ。腹から男の痕跡が消えると、突然、キュッキュッとウエスト全体がくびれていく感覚におそわれた。音は聞こえないが、鏡をみるとキュッキュッとリズミカルにウエストがくびれてゆくようすがわかった。細く、か弱い存在になってゆく感覚がとても心地よい。やがて、リズムが終わると、おれのウエストは信じられないほどくびれていた。思わず手を伸ばすと、ヘソに手が触れた。その瞬間、ヘソが変化し、いっそう色っぽい形になった。白く引き締まったモデルの水着写真のようなウエスト。まだお尻が男性のままなので、違和感がある。これで尻が女になれば、どんなにセクシーなんだろう。

おれは、はやく女になりたくて、急いで自分の尻に手を伸ばした。でも、息切れしたというか、女の尻の形がしっかりイメージできてなかった。おれは、もう一度目を閉じ、ペニスを激しくしごいて性的興奮を高めながら、自分がなりたい理想の美女の姿を思い浮かべた。そして頭の中の美しい女の尻に意識を集中させ、片手を自分の男の尻に触れさせた。

すると、硬く引き締まった男の尻が、突然、ふにゃっとした感触に変わったかとおもうと、柔らかい脂肪が無から発生して膨張を始めた。乳房ができたときと似たような感覚だったが、柔らかい女の肉が生み出されてゆく充実感は、よりずっと上だった。

目を開けて鏡をみると、もう尻の形が男ではなくなっていた。尻の色が浅黒い色から、白く透明に変わっていった。おれは自分の尻を撫でながら、もう一度目を閉じて、自分が理想の美女になって自分の尻を撫でているようすをイメージした。こんどは最初よりも、いっそう鮮明に女の尻の像が頭の中に現れた。きめ細かい肌の表面まできっちりわかった。すると、おれの尻の膨張は速度を増し、撫でている感覚すら、おれの望みのままに変わっていった。同時に骨盤も変化し始めた。コキっコキっと骨盤の形が変わるにしたがって、股関節の感覚が変わっていった。おれは、骨盤の形が変化するたびに、足の位置を小刻みに調整した。

尻がたっぷり充実すると、こんどは理想のボディーラインになるために、尻の横側から太ももにかけての部分を手で撫でてみた。尻の膨張によって、すでに女性らしい曲線美はある程度できあがっていたが、理想の美女に変身するためには、もう少し修正が必要だった。尻の横側に手を触れると、おれのボディーラインは膨らみを増していったが、いまひとつ形が整わなかった。

おれはふたたび目を閉じ、ペニスをしごいて性的興奮を高めた。快感が高まってくると、おれのなりたい美女の姿が強く浮かび上がってくる。おれはウエストから膝までの曲線全体を一気にイメージし、変身したいと強く念じた。

すると、尻から膝にかけての部分に女の肉が急激に生み出されていった。目を開けると、太ももに生えていた毛が、縮んでゆき身体の中に入っていって消滅するとともに、肌の色がパッと透明な白に変化してゆくのが見えた。女の肉は見る見る充実し、むっちりとした女の太ももに変化していった。手で撫でてみると、肉のつきかたが艶めかしく変化し、おれの思い描いた理想のボディーラインに完璧に一致した。

ここまできておれはいったん変身を休み、女になった部分の完成度を確認しようと思った。股間に男性器がついているのが目障りだったが、それ以外の乳房から膝までの部分は完全に女になっていた。おれは身体の横側の曲線を手でなぞって確認した。豊かな胸から一気にくびれているウエスト。そこから急激に膨張する太もも。おれは自分が作り上げた曲線の美しさに十分満足した。尻の形はどうだろうか。鏡からは残念ながら確認できなかった。おれは自分の女の尻を撫でてみた。気のせいかしれないが、おれがいままで抱いたどの女の尻よりも撫でごこちがいいような気がした。同時におれの男の手で撫でられた女の尻にいままで味わったことのない感覚が生じた。男と女では尻の感覚がちがっているのだろうか。女の太ももを触ってみると、いよいよその思いは強くなった。男と女では撫でられている感覚が違っていた。

おれは変身を再開した。すこしでもはやく完全な美しい女になってしまいたい。おれはベッドに横たわった。右手でペニスをしごき性的快感を高めながら、膝を立てて、左足の膝から下の部分を左手で撫でた。むずむずした感覚のあと、密集したすね毛が身体の中に潜ってゆき、消滅した。この体毛がなくなる感覚にもだいぶ慣れてきた。つるつるした肌を確認したあと、 おれは左手を足の甲に伸ばして、可愛らしい女の足を思い浮かべた。すると27センチもあるおれの大きな足が、白く小さく変形していった。小さくなった自分の足の指が可愛らしくて、足フェチ気味のおれはちょっと興奮した。左足の作業が終わると、ペニスを左手に持ち替えて、右手で右足に対して同じ作業をした。ペニスを持ち替えたのでうまくいくか少し心配したが、あっけなくおれの右足は女に変わった。

おれは鏡の前に行って、作業の出来を確かめた。ちょっと何か感じが違う。おれはふたたびベッドにもどり、ペニスをしごきながら、おれのなりたい理想の美女の姿を思い浮かべた。すぐにわかった。おれはもうすこし内股気味で、足の長い女になりたい。左手で両足をさすると、願いはたちまちかなった。おれは足が細く長く伸びてゆくのを感じた。そして股関節が組み変わり、両足の膝がすこし接近した。再び鏡の前に立ち、足を確認した。すらっと伸びた美しい足。女の足が大好きなおれは、足にはこだわりたいと思っていたが、こんどは完璧。満足した。

やっと下半身の変身が一段落した。次は上半身。まず腕をやってみよう。でもどうすればいいのだろうか。いままでは片手にペニスを持ち、余ったもう一方の手で触れた部分を女に変えてきたが、腕の場合もそれでいいんだろうか。おれは右手でペニスをしごきながら、左手をその上に添えた。するとペニスをしごいているおれの指が細く小さく白く変化した。爪が伸びていった。おれのペニスはしごいている手が女に変化したのを感じ取って、興奮が高まった。おれはそのまま左手を移動させ、腕の残りの部分を女に変えていった。筋肉がたちまち細くなり弱々しく変わってゆく。浮き上がっていた血管が腕の内部に隠れたとおもうと、一秒くらいの間に肌の色が透き通った白に変化し、おれの右腕は女になった。おれは手をペニスから離し、手を見つめた。真っ白な女の美しい指がおれのペニスから出された粘液で汚れている。細く長くのびた爪には、いつのまににか鮮やかなピンクのマニュキュアが塗られていた。おれはペニスを左手に持ち替えて、同じ作業を行い、左腕も女に変えた。女になった左手をみると、指には右手と同じ色の塗られておりほっとした。

おれは立ち上がって鏡の前に立った。いよいよ上半身の仕上げだ。おれはペニスをいじりながら、もう一方の手で肩を撫でた。おれのいかつい肩が、メキメキと音を立てるように女のなよなよとしたなで肩に変わっていった。どのくらいなで肩にするか迷ったが、あるところまでくると変化は止まった。これでいいのかと迷いつつ、もう一方の肩も女に変えてみた。できあがってみるとちょうど良い感じだった。おれは鎖骨が見える女が好きだったので、そのあたりを手で撫でてみた。触れたところの肉がやせ細り、鎖骨がくっきり現れた。と思った瞬間、その鎖骨が細くなり、女らしいか弱い感じに変化した。

これでだいたい首から下は終わったかな。待てよ。後ろ姿はどうなっているのだろう。鏡で確認できないし困った。仕方がないので、おれは目を閉じて、ペニスをしがごきながら、女の色っぽい背中をイメージした。思わず後ろから抱きしめたくなるような背中が頭の中に現れた。その瞬間、おれの現実の背中の何かの構造が変化した。やっぱりやってみてよかったようだ。おれの背中はいま女に変化したにちがいない。こうしておれは首から下は生殖器以外完全に女に変身した。

おれの女の胴体の上にのっている男の頭部を女に変えれば、ほんとうに可愛らしい姿になるに違いない。おれはワクワクしてきた。まずは首から。おれはペニスしごいて性的興奮を高めながら、女の細くて長い首を思い浮かべた。後ろ側もちゃんと女になるように、色っぽいうなじもイメージして、手を首に当てた。するとおれの首はおれの望みどうりに白くて細い女の首にあっという間に変化した。喉仏がきれいに消滅していた。のどの内側が何か変化したような気がして、気持ち悪くなり、おれは思わず声を出した。

おれの声はすこし甲高い感じに聞こえた。ああそうか。首を女にしたからその影響を受けて声帯も変化したのか。でも、まだ女の声になってない。きっちり声帯を女にして魅力的な声に変えなくてはいけない。おれは自分の好きな女の声をイメージした。おれは低い大人の女の声よりも、子供っぽいキャンデーボイスが好きだ。おれは声を出しながらのどに手をあてた。するとおれの喉の中の何かの構造が徐々に変化してゆき、それとともにおれの声のトーンが、ぐんぐん高く澄みきったものに変わっていった。やがて変化が終わると、おれの声は望みどうりの可愛らしい女の声に変わっていた。

首が女に変わったことで、その上に乗っている頭部の違和感が増した。細い女の首に中年男のでかい顔がのっている。まず全体の大きさを何とかして小顔にしなくては。それにおれは丸顔の女が好きだ。おれは片手でペニスをしごきながら、もう一方の手で頭の上をつかみ、顔の輪郭をイメージした。するとこんどはほんとうにメキメキと音を立てておれの頭蓋骨全体が縮んでいった。おれの頭部は小さく丸くなった。

おれは、いよいよ自分の顔を女に変える作業に取りかかった。まずひげが薄く生えているあごをおれの女の美しい手で撫でてみた。ひげはきれいに消滅し、そのあとに若々しいはりのある皮膚がぷるんと現れた。おれはうれしくなって顔全体をなでた。中年男のしわがなくなり、きめ細かい皮膚でおれの顔は覆われた。そしてみるみるうちに顔の色が白くなっていった。おれは鼻の形を整えてみた。おれの鼻は曲がったかぎ鼻からすっきりと通った鼻になった。目をぱっちりさせれば美人になるだろうか。おれは指先でまぶたを広げた。細かったおれの目がみるみる大きくなっていった。まぶたから指先を離すと、ひとえだったおれのまぶたは、美しい二重まぶたに変化していた。女らしい長いまつ毛が伸びてきて、おれのふたつの目は、すっかり美女のものに変わった。おれはすこし照れ臭くなった。鏡の中の美女の顔が美しく赤面していった。おれはつぎにまゆ毛の形を変えた。思い切ってつり上がったまゆげを細い線で描いていった。ああおれはむかしからつり目の女が大好きなだったんだ。おれは口を開けて歯を見せた。黄色く変色した歯が、輝くような白に変わってゆく。歯並びがきれいに整っていった。おれはチャームポイントとして八重歯を作ろうかどうか迷ったが、くせがあるとめんどうだと思ってやめておいた。くちを閉じてからくちびるに手を当てると、乾いたくちびるがみずみずしくぷるぷるに変わった。それと同時に色が変わった。口紅が塗られたのだ。仕上げに、もう一度顔全体を撫でてみた。撫でれば撫でるほどおれの顔は美しく変化していった。
そして鏡を見つめるとそこには絶世の美女の顔が映っていた
顔を女に作り変えると、つぎにおれは髪の毛に取りかかった。ほんとうは明るく染めた女の髪が好きだったが、変身したあといちいち染めに行くのが面倒だと持ち思い、黒髪でいくことにした。髪に手を触れると、若々しい真っ黒な艶のある色に変わっていった。やがて髪が心地よく伸びはじめた。どこまでのばそうかと迷ったが肩のした20センチくらいでやめておいた。後ろで束ねた女の髪型に憧れていたので、伸びた髪を両手を使って束ねてみた。すると無の空間からリボンが現れ、束ねた髪を結んでいった。

鏡の中のおれは、ずっと変身したいと心の中で願っていた理想の美女になった。あとたった一ヶ所、男性器を除いては。

おれは変身を中断し、素っ裸のままパソコンの画面をにらんでいた。医学サイトにのっている男性と女性の生殖器官の図解を見つめながら考えていた。どうしたら男性器を女性器に作り変えることができるのだろう。やっかいなことにいままでのように鏡を見ながら念じるというわけにはいかない。ひとつの手でペニスを持ち、もうひとつの手で作業をするので、股間に当てる手鏡を持つ手がない。仮にそれが何とかなったとしても、特に女性の生殖器官は大部分が身体の中に隠れており、表面的な形だけ女性器をこしらえても、医学的に完全な女性に変身できない可能性が多々あった。すべての生殖器官を作り変えるには、思い切って目を閉じて、生殖器官の存在を感じ取りながら、意思の力で変化させてゆくしかない。もっともおれは女性器の表面的な形ですら、現物をじっくりと観察したことはなかった。女を抱くときは、いつも前戯をしながら、ときどき指先を差し込んで濡れ具合を確認し、十分いけると思ったところで股を開かせてさっさとペニスを挿入していたからだ。そんな状態だったが、それでも何とかパソコンの画面を見て手順を考え、頭の中で無理はないか何度も検討して、ようやくおれは立ち上がってベッドに向かった。

ベッドに横たわったおれは、呼吸を整えてから、右手でペニスをしごき始めた。十分に性的興奮が高まったところで、左手をふたつの睾丸の下に添えて身体の中に押し込めようとした。睾丸は簡単に身体の中に少しもぐりこんで停止した。睾丸を失った陰嚢はシワシワの余った皮になった。さらにそこに強く手を当てて、おれはこの段階で睾丸を卵巣に変えようとした。意識を集中させた瞬間、おれは何かが強烈に反発するのを感じた。頭の中が真っ白になったかと思うと、やがて、無数の泳ぎ、回る何かの像が現れた。精子だ。おれが男性であることをもっとも象徴する生殖細胞が、女に変われというおれの意思に反発していた。女になることによって消滅してしまうことを、生殖細胞だけが持つ生命力が拒否していた。予想していないことが起こってしまった。おれは女に変身する意思の力を強くするため、ペニスをしごく手の動きを早めた。変身する力の原動力である性的興奮を強めることにより、精子の持つ生命力に打ち勝とうとした。すると、無数にうごめいていた精子のいくらかが何もない空間に吸い込まれるように消滅していった。おれはさらに意識を集中させてどんどん精子を消滅させていった。しかしいくら消滅させても、精子は後から後から現れてきた。おれは泥沼の消耗戦に突入してしまった。精子が勝つのか、おれが勝つのか、戦いは何十分も続いた。もう限界かと思ったとき、ついに精子が全部消滅し新たに現れなくなった。女に変身するというおれの意思の力が勝ったのだ。精子が全滅したつぎの瞬間、睾丸は卵巣に変わり、内部に若くて健康な卵細胞が生まれていった。そして、大量の女性ホルモンを元気いっぱい分泌し始めた。

疲れ果てたおれは、横たわったまましばらく休んだ。こんな序盤でもう気力を消耗してしまった。はたしておれは最後までやりとげて無事完全な女になれるのだろうか。おれは自信がなくなった。

おれは十分に休んでから変身を再開した。残っている邪魔な男性の生殖器官、前立腺を消滅させるため、おれは意識をペニスが生えている根元のさらに奥の方に集中させた。そして、その辺りにへばりついている前立腺の存在をつかみとると、一気に意思の力を集中した。すると前立腺はたちまち萎縮を始め、あっけなく消滅した。睾丸に比べると実に簡単だった。すぐに続けて、おれはその奥にある精嚢に意識を移し、意思の力で握りつぶした。精嚢は瞬間的に消滅した。

おれはつぎに、睾丸が変身した卵巣を、今消滅させた器官のあとにできた空隙の間をとうして上の方に移動させていった。できたばかりの卵巣はゆっくりと身体の奥に移動していった。これはなかなか根気のいる作業だった。じっくりと時間をかけて、卵巣が本来あるべき位置のあたりに移動した。正確にこの位置でいいのかはいまひとつわからなかったが、違っていても、子宮を作ったあとに、調整すればいいことなので気にしなかった。

これだけ下準備して、ようやくおれは女性器を作る作業に取りかかることができた。いままでの地味な作業に比べ、これはやり易い楽しい作業だった。おれはペニスをしごきながら、いやらしい女性器の形を思い浮かべ、左手を睾丸がなくなってただの皮になってしまった陰嚢の残骸に伸ばした。あっという間に大陰唇ができあがった。できた大陰唇の内側をさらに指先で探った 。やがてとっかかりになる小さなひだを探り当てると、一気に意識を集中した。たちまち小陰唇ができた。できあがったばかりの女性器を縦長に肛門の方へ引き伸ばし形を整えた。ついにおれに女のあそこができあがった。鮮やかなピンク色を想像しておれはうれしくなった。

うれしい作業のあとには、また地味な作業が控えていた。尿道の付け替えだ。おれはペニスの先端に空いている穴に指先を触れた。36年間、毎日小便や精液を放出してきた穴。その穴を軽く指先で撫でると、穴はなくなってのっぺらぼうの肉になった。そのあとはペニスの中に延びている尿道を先端から順番に肉で埋めていった。時間をかけて長いペニスの中の尿道を埋め終わると、さらに根元のほうに作業を進めて、やっと膀胱に到達した。休む間もなく、こんどは新しい尿道をできたばかりの女性器の方へ延ばしていかなくてはならなかった。おれは尿道を作り始めたが、こんどは距離が短かった。延ばした尿道はすぐに女性器に到達し、新しい尿の出口が女性器の中にできあがった。

ここまで作業を終えると次には、もっとも興味深い作業が待っていた。膣を作るのだ。いままでの作業と違って、まったく原型が存在しないものを一から作るので、むつかしさがあった。そもそも女性器のどのあたりからどの方向に向かってどれくらいの深さで膣を作ればいいのか、いまひとつわからなかった。試行錯誤の作業をおれは始めた。

おれはペニスをしごいて性的快感を高めながら、女性器の内部のあちこちの指を立てて、いやらしい穴ができてゆくイメージを思い浮かべた。けれども、なかなか思うように膣の形成が始まらなかった。指を立てる場所が悪いのか角度が悪いのか。作業を続けておれはついに鉱脈を掘り当てた。突然、指先が身体の中に入ったかと思うと、そこから肉の洞穴が体内に向かって穿たれ始めた。おれのあそこにいやらしい女の穴ができてゆく。おれはその心地よい感覚に興奮した。身体の中の未知の場所に未知の感覚が広がってゆく。おれは好奇心からできたばかりの膣に指先を差し込もうとしたが、痛くて断念した。膣の形成はある地点で止まった。

おれはここで重要なことに気がついた。処女膜を作るかどうかいま決めなくてはいけない。せっかく女になるのだから、処女喪失くらい体験してみたいという好奇心はある。そもそもおれはれっきとした処女なのだから。でもこんな年になって、性別はちがってもいままでさんざん性体験をしてきて、今さら純情可憐な処女ですというのもおかしな気がする。どうしようか。鏡に映っていた美女はおれよりずっと若く、処女といっても十分通用しそうだ。でも中身のおれは中年男。気恥ずかしい。

さんざん考えた末、処女膜は作らないことにした。なによりも痛いのはやっぱり嫌だ。それに純情可憐な処女に変身するよりも、性感を十分開発されたセクシーな美女に変身する方が、おれの願望により近い。

処女膜のことはもう忘れて、おれは残りの変身を進めることにした。おれは平べったく引き締まった下腹部にてのひらをあて、できあがったばかりの膣の終点に意識を移した。そしてひとつだけ残された男の器官であるペニスをしごいて、変身のエネルギー源である性的興奮を高めていった。おれは無の空間から生命の源をつくりだそうとしていた。

そしてあるとき、それは突然おれの中に生まれ、広がり充実していった。できたばかりの膣につながり、すでに体内に奥深くに移動していた睾丸が変身した卵巣ともつながって、女の身体の中心になった。そうおれに子宮ができたのだ。おれが実際に妊娠して子どもが産めるかは、おれが勝手にこしらえた器官なので保証はできない。でも限りなく神に近いことをおれは現実に実行していた。

もうここまでくれば、最後に残されたペニスを女に変えればすべて終了だ。おれはペニスをしごいて最後の男の快感を味わいながら、ペニスのない完全な女性器をイメージした。おれのペニスは望みのままに縮小を始め、手の中でどんどん縮んでゆき、すぐに指先でつままないと持てなくなった。そして厚い皮に包まれて縮小を続け、縦長に切れた女性器の先端の小さな突起に変化した。おれのペニスはクリトリスになった。クリトリスができた瞬間、陰毛の生え方が変わり、切れめの上部に薄く生える可愛い感じになった。

こうしておれはすべての変身を実行し、完全な女性になった。

おれはもうすっかり疲れていたが、変身を終えた姿を確認しないはずはない。
おれは鏡の前に立った。鏡には素晴らしい肉体を持った全裸の美女が映っていた。美しいのは当たり前だ。何しろおれは細部に至るまで、おれ自身ができばえをチュックしながら作り上げた、おれの夢の中の最高の美女なのだから。おれはおれがいちばん抱きたい女。おれはおれがそんな女であることに酔いしれていた。

さあもう疲れた。今夜は眠ろう。おれはベッドに横たわりまぶたを閉じた。そっと手のひらで、柔らかなおれの身体を撫でてみると、おれはおれが愛おしくてたまらなくなってきた。おれはそんなおれの愛情に包まれて安らかに眠りに落ちた。





おれが目を覚ますと、すでにまぶしい朝の光がさしこんでいた。昨夜起こったことは夢ではないことを、おれは改めて確認した。おれの肉体は柔らかな女体のままだった。しばらく眠りの続きのように目を閉じていたが、やがてふとあることを思い出し、昨夜眠りに就いたときの甘い気分が一気に覚めた。そうだ会社に行かなくてはならない。でもこんな身体では出勤できない。ちょっと考えてから、おれはとりあえず会社に欠勤の連絡をいれることにした。おれはおれの妻ということにしよう。なにしろおれだった中年男はもう36才。内縁の妻くらいいてもぜんぜんおかしくない。おれはベッドの脇におかれていたスマートフォンを手にとった。職場に連絡しようとしたとき、スマートフォンにいれてあったはずの連絡先の電話番号がすべて消えていることに気がついた。変だと思ったが、取り急ぎ職場の電話番号を思い出し、スマートフォンに入力した。
「もしもし」
おれはおれの新しい可愛らしい声を初めて使ってみた。
「はいOO株式会社でございます」
顔見知りの職場の女性が電話に出た。おれはちょっと安心して、可愛らしい声で続けた。
「わたくしXXの妻でございます。本日体調不良のためお休みをいただきたいのですが」
電話口の女性は一瞬、沈黙したあとこう言った。
「申しわけありません。XXという者は我が社に在籍しておりません。何かのお間違いではないでしょうか。」
おれはあっけにとられて、電話を切った。どうなっているのだ。おれが女に変身すると同時に、おれの存在は会社から消えてしまったらしかった。

なんてことだとあきれてねころんでいると、昨夜、おれが新たに作り出した下腹部のあたりに強い違和感を感じた。その感覚が何なのか最初わからなかったが、感覚をよく探ってゆくと、それは昨夜おれが作った新しい尿道のあたりから発生していることがわかった。すこし考えて、おれはその感覚が尿意であると結論した。男の尿意とはまったく違っていたのでわからなかった。

おれはトイレに行き、便座に腰掛け、女としての初めての放尿を始めようとした。でもどうすれば尿を出すことができるのかわからなかった。自然体で身体の力を抜いてもでない。しかたないので、おれは新しい尿道のまわりに意識を移し、そのあたりの筋肉の構造を分析した。力を抜く筋肉を決定し、実際に動かしてみた。

やっとのことで昨夜作ったばかりの尿道口から、初めての尿が放出された。おれはいまわかったばかりの尿の出し方を忘れないように記憶しようとした。女になりたての新米のおれは尿の出し方もわからなかったのだ。

それにしても尿がペニスではなく、昨夜作ったばかりの女陰から放出されていることはひどく気恥ずかしいことだった。自分が現実に女になってしまったことが耐えられないような気分だった。それでもおれは放尿を終えたあと、気力を振り絞ってティッシュぺーパーを取り、新しく作った部分を拭き取った。まだ慣れない女の陰部から感じ取れる感覚に、おれはいっそう恥ずかしさが増すばかりだった。

女としての初めての放尿を終えたおれは、もう一度おれの姿を確認したくて、鏡の前に立った。鏡の中の生裸のおれは、あまりにもなまめかしくて恥ずかしくて、おれはすぐに顔をそむけてしまった。もう一度目を向けようとしても、あまりにも愛おしいおれの顔を、おれは直視できなかった。おれはおれが全裸の女であることが、とても恥ずかしくなってきた。せめておれに服を着させなくてはならない。独身の中年男だったおれは女の服などまったくおいていない。素っ裸で街に女の服を買いに行くこともできなかった。結局、おれは持っている男のおれの服の中から、女のおれでも着れそうなものを探すことにした。

おれはまずパンツを探すことにした。おれは持っている男のおれのブリーフをひとつ手にとった。サイズが大きく、女のおれにはぶかぶかでとてもはけそうにない。やっぱり無理だったか。おれが途方にくれたとき、手に持っていたブリーフが変化を始めた。男のペニスを取り出す部分が消えたかと思うと、サイズが小さくなり、色っぽい飾りがいっぱいできて、おれの男のブリーフは可愛らしい女のパンティに変わった。

おれは驚いたが、さっそく男のブリーフが変身した女のパンティをはいてみることにした。女のパンティをはくのはもちろん生まれて初めてだ。パンティーは昨日作ったばかりのおれの平らな女の股間にぴったり密着し、とてもはき心地が良かった。男のころには味わったことのない心地よさだった。そのときおれは初めて、邪魔な男のペニスがなくなって、滑らかな女の股間になったことを、うれしく思った。

おれは他の服もパンティーのようにうまくいかないか試して見ることにした。シャツを手にとってしばらく持っていると、胸の部分以外が消滅し、前の部分に大きなふたつのカップができて、ブラジャーになった。おれはさっそくおれの美しい乳房にそれを装着してみた。初めて味わう乳房が優しく包み込まれる感覚がとても心地よかった。

女の下着は、女の肉体にぴったり密着し、身につけるだけで幸せな気分にさせてくれる。男がまったく知らない楽しみだ。女だけの秘密を知ったおれは興奮した。

下着の問題が片付いたおれは、他の服を探した。クローゼットを開けると、ワイシャツとスラックスがあった。手を触れると、ワイシャツは縮んで飾りがついてブラウスになり、スラックスは濃い色のロングスカートになった。おれはさっそく身につけて、鏡の前でチェックした。

とりあえずあり合わせの服と言った感じだが、けっして悪くない。ブラウスはおれの大きな胸で膨らんで魅力的だ。初めてはいたロングスカートは歩くとき変な感じだが、足の長いおれによく似合っている。ミニスカートをはいておれの美しい足を露出させるのもありかもしれないが、女になったばかりのおれにはまだそんな度胸はない。全体的に見て清楚な若い美女に仕上がっていた。服をきた鏡の中のおれもとても可愛らしい。おれはそんなおれにますます心を奪われてゆくばかりだった。

服を着て落ち着いたおれは、ソファに座り、現在の状況を考えて見る余裕ができた。昨夜のおれは好奇心と欲望だけで、後先考えず女に変身してしまった。おれにはもともと親も兄弟もいないので、そういう関係の不都合はないが、職を失ってしまったのは痛い。おれにはこれといった特殊技能がないので、食うあてがない。幸いおれは若くて美しい女になったので、水商売とかで食っていけるかもしれない。でも女になったばかりのおれが、男心を引きつけるしぐさとか客あしらいとかできるんだろうか。

そんなことを考えながら、ふと床をみると、見たこともない赤い財布と手帳のようなものが落ちているのに気がついた。何だろう。おれは拾い上げた。手帳に見えたのは、預金通帳で、知らない名前が書いてある。何でこんなものがおれの部屋に落ちているのだろうか。次におれは赤い財布の中を改めてみた。中には現金が数万円と、カードが2,3枚と運転免許証が入っていた。運転免許証をみておれは驚いた。そこにはおれが昨夜作り上げたばかりの、美しい女のおれの写真があった。おれは鏡で見た女のおれの顔をもう一度思い出して見た。間違いない。運転免許証の写真の女はおれだ。運転免許証を見ておれは初めておれの名前を知った。おれの名は双葉。現住所はいまおれの住んでいるマンション。誕生日は女になる前のおれと同じだが、生まれた年が違う。おれは生年月日からおれのいまの年齢を計算した。おれの年齢は20歳。おれは男のおれより16歳も若い女に変身したのか。

おれは、ふと気がついた。そういえばさっきの預金通帳に書かれていた名前も、似たような名前じゃなかったっけ。おれは通帳をもう一度手に取り、名前を確認した。しっかりと双葉という名前が書いてある。この通帳は実はおれのものらしい。中身を見ておれは驚愕した。この通帳には、5000万円もの金が入っていたのだ。

おれは混乱した。とりあえず当面生活に困らないだけの貯金があるということは安心したが、そうなった事情がわからない。おれのような若い女がこんな大金をなぜ持っているのか。おれには双葉という女の意識も記憶も何もない。生い立ちも職業も男関係も何も知らない。そんな双葉が、女に変身したおれと同一人物とはどういうことなのか。

おれはふたつの仮説を立てた。

まずひとつめはこうだ。昨夜、おれが男から女に変身したときに、この世界から中年男のおれの存在は消滅し、女のおれとしての双葉という存在がこの世に発生した。通帳の大金は、おれに女に変身する力を与えた何者かが、おれに何かさせるために与えた活動資金である。

ふたつめはこうだ。おれが女に変身したときに、もともといた世界から、双葉のいる異次元の世界に飛ばされた。双葉が何者かはよくわからないが、少なくとも異次元のこの部屋に住み、なぜか大金を持っていた。

おれはいまの段階では、ひとつめの仮説が有力だと考えていた。いま、おれに起こっている事件の黒幕として、超自然的な力を持つ何者かがいて、おれを影で操っていると考えるのが妥当性があるように思えるからだ。

ふたつめの仮説は無理が多い。おれの魂が中年男の身体から抜け出して双葉という美女に憑依したというなら話はわかるのだが、事実はそうではない。おれは突然与えられた超能力を使って、中年男の現物の肉体を、苦労して若い美女に変えたのだ。双葉になったおれが、異次元にもともといた双葉と入れ替わったというなら、そのもともといた双葉はいまどこにいる。それに双葉という存在が現時点ではあまりにも痕跡がない。正直、免許証と通帳だけである。少なくとも双葉がもともと住んでいるはずのこの部屋に、双葉の服とか、双葉の荷物とかがもっとどっさり存在してもいいはずだが、そんなものは見当たらない。大金の存在も説明がつかない。

いずれにせよ、何が真実なのかは、まだはっきりとわからなかった。
でもはっきりと確定したこともあった。それはおれが双葉という二十歳の女であること。当面生活に困らない大金を持っていること。このふたつは動かない事実なのだから、それにもとづいた生活を考えればいいはずだった。

それにしても、女になったおれはあまりにも自由すぎて困っていた。何をすればいいのだろう。男との恋愛でもするべきなのか。でも女になりたかっただけで、男に性的な魅力を感じたことのないおれが、今の時点で男を好きになることは考えられなかった。もっともおれの肉体は男から女に変わったのだから、意識も変化して、今後は男を好きになる可能性もあった。




おれは、女になって初めて外出することにした。ファッションの買い出しだ。女のおれの服はいま着ているひとそろえしかなく、すぐにでも服が必要だった。それにおれは美しいおれにもっとおれ好みの服を着せてみたかった。

おれはマンションの地下駐車場に向かった。おれの車がどうなったか心配だったが、女になる前と変わらず、ちゃんとおれの車は存在していた。家族のいないおれの車は、白いリッターカーだった。この車で良かったと思った。二十歳の女であるおれが運転してもお似合いの車だ。車に乗り込んで座席の位置を調整した。いままでと運転感覚が違うのでちょっと不安だったが、女になったおれもちゃんと運転免許証を持っていたので、大丈夫だろう。出発する前にちょっと気になって車検証を見てみると、この車の持ち主は、男のおれから女のおれ、双葉に変わっていた。

まず、靴屋にいった。女の靴を持っていないおれは、男のおれがはいていたサンダルをはいていたからだ。最初に活動しやすいスニーカーをひとつはいてみた。女になったおれの足はとても小さくて、履いた靴も頼りなくて、おれはすこしショックを受けた。次にもう少しおしゃれな靴がほしいと思い、店内を探すと、ハイヒールの靴が目についた。十分に長い魅力な足をもつおれは、高いかかとの靴をはいて足を長く見せる必要はなかったが、女になったからにはぜひはいてみたかった。おれは店員さんに頼んでハイヒールを出してもらい、履いてみることにした。こんなに高いかかとの靴をはくのは、もちろん生まれて初めてだ。無謀かとも思ったが、一か八かハイヒールを履いて見たおれは、何の苦もなく自由に歩くことができた。大丈夫。おれってこんなところまで女に変身してるじゃん。

次は、下着だ。おれは普通の女とちがって、男がどんな下着に欲情するか、簡単に判断することができた。おれは、おれがおれに欲情しそうなスケスケの下着や、派手な色の下着を選んだ。はたからみるとちょっと趣味が悪いかもしれないが、おれを見つめてくれるおれを楽しませるために選ぶのだからしかたない。

おれは次に、スマートフォンでティーンズ向けの奇抜なファッション雑誌「ケラ」のサイトをチェックした。まえまえから女になったらこの雑誌に載っているような服を着てみたいとひそかに思っていた。女になる願いのかなったいま、ぜひ実際に着てみたかった。ティーンズ向けの雑誌だったが、二十歳のおれはぎりぎりセーフのはずだった。おれはどの服を買うか決め、店に向かった。

店はファッションビルの中にあった。選んであった服を着てみると、おれはたちまちちょっとやんちゃな感じの女の子になった。おれはおれが憧れていたとおりの女の子になって、とてもうれしかった。普段着はこの服にすることに決めた。

店から出てビルの中を、歩いていると、白いブラウスの胸のところに大きな花びらのような飾りがある服が展示されていた。とても華やかな感じでおれはすぐに気に入った。店の人に頼んで、自分で着てみると、女であるおれが祝福されているような気分になった。女の子って男にはできないようなおしゃれができて幸せ。この服は男の子とデートするときにちょうどいい感じかな。でもそういう時ってくるのだろうか。

おれは、ふたたび車に乗りこみ、まえまえからチェックしていた店に向かった。おれと付き合う女どもに着せてみたいと思って目をつけていたのだが、まさかおれに着せることになるとは夢にも思わなかった。

到着した店の看板には大きな文字で「旗袍」と書かれていた。そう、ここはチャイナドレスの店なのだ。ほんとうは身体のラインに密着させるチャイナドレスは、オーダーメイドで作った方が良いのだが、少しでも早くおれに着せてみたかったおれはつるしてあるものの中から探してみることにした。しばらく探したあと、幸いにも、おれのボディーラインにぴったりの服を見つけることができた。白地に赤い花が描かれたチャイナドレスをきたおれはスタイル抜群でとびきりセクシーだった。おれはこんなに美しい女をいままでみたことがなかった。おれだけの可愛い女にきれいな服を着させておれは大満足だった。




それからもたくさんの店をまわり、夜遅くおれは帰宅した。

おれは女になって初めてのシャワーを浴びた。キメの細かい白い透き通った肌を丹念に洗った。か弱く柔らかい女のおれ。おれはそんなおれが愛おしくてたまらなかった。おれはおれだけがずっと愛し続ける。おれはそう心に決めた。

おれはおれと昨日初めて出会った。おれがあまりにも美しいので、けがしたくなくて、おれはおれの身体にあまりふれなかったけど、やっぱりおれはおれのことが好きだ。愛してる。おれはおれをおれのものにしたい。男を知らないおれの身体をおれが最初に汚したい。

おれはおれを愛したくてベッドにおれの身体を横たえてみた。ああいとしいおれ。おれは欲望のままにおれの身体を蹂躙しようとした。その時おれの陰部に粘液が分泌され始めた。そのことがわかったおれは指を陰部に差し入れた。昨日までペニスだった小さな突起を力強くなでまわそうとしたが、女になったおれはちょうど心地よい力をの入れ方を知ったので乱暴されることはなかった。おれは処女膜をつくらなかったので、おれの濡れた膣の中に自由に指を入れることができた。膣の中を愛するのは普通は難しいはずだったが 、おれの女性の器官の作成主であるおれは一番快感が生み出される場所を正確に知っていた。おれはその位置にきっちり指先を置き、女であるおれを犯していった。女の器官から生み出される未体験の快感におれは激しく揺さぶられた。それに耐え続けているうち、急に高いところから真っ逆さまに落ちていった。おれは自分の知識を思い出した。ああこれがある種の女だけが味わえるという、落ちてゆく絶頂なのか。

おれを凶暴に犯してしまったおれは、すこし後ろめたくなり、それ以上行為を続けることはなかった。おれは絶頂感の余韻にまだ浸っていた。おれはそんなおれを優しく抱きしめたかったが、おれがおれを抱きしめることは不可能だった。

おれはおれを抱きしめたかった。凶暴に犯すのではなく、全身を使って優しく愛撫したかった。おれはおれを、たくましいおれの身体で抱きしめたい。おれはおれとキスしてみたい。おれはおれの充実した乳房に顔を埋めてみたい。おれはおれの尻に顔をこすりつけてみたい。おれは美しいおれの足を舐めまわしたい。おれはおれの背中を抱きしめたい。おれはおれのたくましいペニスをおれの膣に挿入してみたい。おれのおれの膣の中にどろっと固まった濃い精液をたっぷりと発射したい。おれはおれの知っているすべての体位を使っておれを犯してみたい。おれはおれを妊娠させてみたい。おれはおれにおれとおれと間の子どもを産ませたい。おれはおれとおれとの間の子どもが何十人も欲しい。おれは無限に増殖したい。

そう思ったとき、おれはおれの願いをかなえる方法があることに気がついた。

おれは、おれが創造したおれの女の生殖器官の中で起こる現象については、神にも等しい制御能力があることを知っていた。その能力を使って、おれと同じ意識を持つ男のおれを作り出せばよい。

おれは、新たに創り出す生命がおれと同じ意識を持つための条件を頭の中にリストアップした。次にその生命が短い間に成長するための条件も求めた。さらにそのような生命が持っているべき遺伝情報を演算によって求め、合理的な長さを持つ塩基配列を決定した。

塩基配列まで求まれば、実現できることは確実だった。あとは実行するだけだ。

おれは、おれの卵巣の中の卵細胞から卵子を作り出し、作った卵子の塩基配列をおれの目的に合わせて大幅に改変し、排卵した。卵子が子宮に到着するのを待って、目的の塩基配列をもつ精子を、おれの子宮の中の無の空間から作り出し、卵子に受精させた。

受精した瞬間、おれと同じ意識を持つ、もうひとつのおれが、おれの子宮の中に現れた。受精卵のおれだ。受精卵のおれは猛烈な勢いで分裂し、あっという間に胎児のおれになった。妊婦になったおれの下腹部も大きく膨張していった。胎児のおれは胎盤から豊富な栄養を受けて、わずか数分の間に出産されるのに十分な重量に成長した。おれは子宮の出口を開けて産道を十分拡張し、何の苦しみもなくおれを出産した。おれは誕生し、胎児のおれから、赤んぼうのおれになった。母親のおれは、出産で膨張した生殖器官を縮小させて、おれを妊娠するまえの状態にもどそうと懸命だった。その間にも赤んぼうのおれは成長し、やがて立ちあがった。母親のおれは、やっとおれのほうへやってきて、赤んぼうのおれを抱きしめた。抱きしめられたおれは、母親のおれの愛を感じて、成長の速度をましていった。目を開けたとき、母親のおれの顔をおれは初めて鏡を通さずに見た。母親のおれも子どものおれを見つめた。4つの目で初めて見つめあったおれとおれ。おれはおれの中に生まれた母性本能が満たされるのを感じた。子どものおれはそんな母親のおれに夢中で甘えた。やがておれは思春期の少年に成長した。ペニスが大きくなり陰毛が生えてきた。するとおれはおれを女としてみることができた。おれはおれという女を心の底から愛していることを思い出して、初恋のように胸が痛くなってきた。もういまでは母親のおれより大きくたくましい身体に成長していた。やがて、立派な青年になったおれは成長を停止した。おれのたくましく成長した身体をみたおれは、初めてか弱いおれをたくましいおれにあずけたいような衝動を覚えた。おれの立派なペニスの存在が気になってしかたなかった。

生まれてから、まだ一度も身体を洗っていなかったおれは、シャワーを浴びにいった。おれがいってしまうとおれは、出産の疲れが出てベッドに横たわった。もうこのまま眠ろうと思った。そういえばおれは処女のまま子どもを産んでしまったのだった。





翌朝、先に目覚めたのは、男のおれのほうだった。おれは昨夜のうちに、服をみつけていた。中年男のおれが持っていた服が、偶然ピッタリのサイズだったからだ。おれは青いトランクスに黄色のTシャツを着ていた。

双葉のおれは、まだ毛布に包まって眠っていた。おれの寝顔をおれは初めて見た。大きなまぶたを閉じて眠っているようすはまるで少女のようだ。丸顔が可愛らしかった。

おれは、そんなおれをちょっとからかってみたくなって、大きな声でおれを起こしてみた。
「おかあさーん!」
いきなり大きな声で起こされて双葉のおれは不機嫌だった。おれはからかわれて本気で怒った。
「やめてちょうだい。そんなつもりであなたをつくったんじゃないのはわかってるでしょ。二度とそんな呼び方はしないで」
男のおれも、双葉のおれもおなじおれなのだから、声に出して話しかけることには、何の意味もないのだが、おれは思わずヒステリックに叫んでしまった。
おれは、そんなおれのヒステリックなようすに、逆に女っぽさを感じた。

気まずい時間が流れた。

男のおれは、黙って窓の外を見ていた。双葉のおれは全裸で毛布に包まったまま上半身起き上がっていた。双葉のおれは、何とか雰囲気を変えようと、甘いキャンディーボイスで男のおれに話しかけた。
「ねえ。わたしのことはおまえって呼んで。双葉でもいいわよ。わたしはあなたのことをあなたって呼ぶから。それとも名前で呼んだほうがいいかしら。あなたの名前は、そうねえ。清彦でいい?」
男のおれは、低い声でぶっきらぼうに答えた。
「ああ」
男のおれの名前は清彦に決まった。

清彦のおれは、まだ黙って窓の外を見ていた。双葉のおれは全裸なので毛布の中から動けない。おれは男から邪険に扱われて困惑していた。こんなとき女はどうすればいいのだろう。
「ねえ」
双葉のおれは甘い声で話しかけた。
「わたしとデートに行こう。ねえ。連れてって」

清彦のおれは、濃いベージュのドレスシャツを着て、焦げ茶色のスラックスをはいた。派手な模様の入ったネクタイを締めて、カジュアルなイタリアンカラーのサーモンピンクのジャケットを羽織った。

双葉のおれは、昨日買ったばかりの濃い赤紫の下着を身につけ、男とのデート用にしようと思っていた胸に大きな白い花の飾りがついたブラウスを着た。まさかこんなに早くこの服を着ることになるとは思わなかった。下はストッキングをはいて花柄のスカートを巻いた。靴は金色のハイヒールにした。

おれとおれは、部屋を出て駐車場に向かった。双葉のおれが先に運転席に乗り込んだ。清彦のおれは、運転免許がないので、助手席に座った。双葉のおれの運転で車は走り始めた。

車を運転するおれを、おれははずかしげもなくじっと見つめていた。運転するおれは、元気活発な感じの、おれが心を惹かれるタイプの女だった。おれの横顔をおれは初めて見たが、パッチリとした二重まぶたがかわいい。つり上がった細い眉が美しい。双葉のおれは、そんなおれの視線に気づかないふりをして、車のスピードを上げていった。

やがて車は海辺にたどり着いた。おれとおれは車をおりて海のほうに歩き出した。すると、清彦のおれが、双葉のおれにすっと近寄ったかとおもうと、いきなり双葉のおれの手を握りしめた。手を握り締められたおれは、不覚にもこれだけですこし股間が濡れてしまった。

おれとおれは、海岸に置いてあったコンクリートの台のようなものの上に、少し離れて座った。しばらく黙って海を見つめていた。そのうちおれは双葉のおれの姿をみたくなった。双葉のおれは立ち上がって、数歩前に出て、後ろに手を組んで、じっと海を見つめた。おれは、おれのうしろ姿を初めて見た。尻がツンと上向きに突き出ていて、とても美しい。双葉のおれは、スタイル抜群なので、座っているときよりも、立っているときのほうが絵になるのだ。おれは立ち上がり、少し離れて、双葉のおれをいろんな角度から観察してみた。顔は美しいというか、かわいい系だ。おれがこの手で作り出した理想的な双葉のおれの曲線美がたまらない。おれの心の中の理想の美女を現実の世界に実体化させた双葉のおれの肉体。おれは双葉のおれのそばに近づいた。双葉のおれは、まるでそんなおれの心を知らないかのように、少女のようにあどけなくおれの顔を見つめた。
「双葉」
おれは、大きな胸の中にか弱く抱きとめられながら、強くたくましい力でおれを抱きしめた。おれはからだをあずけながら、おれを強く抱きとめていた。おれは目を閉じて、顔を上に上げながら、顔を下に下げていた。おれとおれのくちびるがふれあったかと思うと、おれの舌がおれの口の中に入ってきた。おれのふたつの舌が互いに絡まりあってゆく。

おれとおれは、いつ果てるともなく、ずっとその行為を続けた。

やがて、おれとおれは強く抱き合ったまま、ふたつの顔を離した。そしておれはおれの聞きたい言葉を双葉のおれの口から出してみた。
「好きよ。わたしをぜんぶあなたにあげるわ」

おれとおれはもう一度くちづけを交わした。

確認するようにおれは双葉のおれの口から言葉を絞り出した。
「知ってるわね。わたし処女なのよ。やさしく、やさしくしてね」

おれとおれは車に戻った。車が走り出しても、おれはまっすぐ前を見つめたまま、おれのほうをみることもなかった。おれもおれも硬い表情でずっと沈黙していた。おれのふたつの心臓だけはバクバク興奮していた。

やがて車はラブホテルに到着した。おれとおれは無言のまま、車をおりて部屋に入った。おれとおれはもう一度、確認するようにくちづけを交わした。女としての性体験がないおれは、このあとどう振る舞っていいかわからず、もうすべてを男の前に投げ出してしまうしかないと思い、双葉のおれの身体を、服を身につけたままベッドの上に投げ出した。おれはそんなおれを横目でみながら、ゆうゆうとジャケットを脱ぎネクタイを外し服を脱いでゆく。

おれは、いまから抱く女のことは何から何まですべて完璧に知っていたので、余裕があった。なにしろおれがこの手で全部作り出したのだから。おれ自身なのだから。この女がなにを思っているか、感じているかすべて100%把握しているのだ。

でも反対に女として抱かれるということが、どういうことなのかについては、全く何も知らなかった。男になにをされたらどう反応すればいいのか、女としてどうやって男を愛すればいいのか、皆目見当がついていなかった。とにかくアンアン声を上げて、感じているふりをしてればいいんだろうか。でも、おれを抱く男はおれ。感じているかそうでないかは、すべてばれていた。

双葉のおれはじっと目を閉じて不安に耐えながら、ひたすら待っていた。やがて服を脱いだおれがやってきて、おれの上に覆いかぶさり、おれにくちづけをした。
「こわくないよ」
おれはおれを安心させるため、ささやいた。

おれの夢の中にいたおれの理想の女はもうおれの前にすべてを投げ出しておれに捧げようとしていた。昨夜、おれはこの女をどれだけ犯したかったことか。でも昨夜のおれは、この女を抱くための腕も、身体も、貫くためのペニスも何も持っていなかった。いまのおれは、すべてを持っていた。すべての欲望を満たすことができた。

おれはおれの着ている女の子らしい可愛い服を凶暴に剥ぎ取りながら、おれの凶暴な性欲に恐怖を感じた。つぎと剥がされてゆく下着。おれは征服欲をみたしながら、征服される喜びに目覚めようとしていた。おれは強引におれを抱きしめながら、か弱く抱きしめられた。おれはおれの形のいい尻をたっぷりと撫でながら、撫でられる快感を感じていた。おれはおれの胸で潰される乳房の弾力を楽しみながら、乳首の先端で感じていた。おれはおれを力強く愛撫しながら、全身で女の快感を感じ、おもわず甘い声を出してしまった。その声を聞いたおれは、もっと女の快感を感じたくて、細部まで知り尽くしたおれの女体の性感帯を責めると、湧き上がる快感により大きな声をあげてしまった。女の快感を感じておれのペニスが勃起してくると、それを感じたおれの女体はたっぷりと愛液で濡れてしまった。おれは女の柔らかい身体の感触を楽しみながら、男のたくましい肉体で抱きしめられることに安らぎを感じていた。

おれはおれから身体を離すと、おれの足をM字型に開かせた。おれはおれの女陰を初めて観察した。おれがおれの身体に女陰をつくったときは、頭の中で形を思い浮かべただけだったが、おれの目で実際に見てみると、思ったより形よくできていた。色が思ったより明るくて良かった。おれはおれの足をいやらしい形に開きながら、おれに恥ずかしい部分を見られて、恥辱を感じた。

おれはおれの開いた足に覆いかぶさるように、おれの凶暴に怒張したペニスを、おれの膣に挿入した。おれははじめて味わうつら抜かれる感覚に違和感を感じたが、既産婦であるせいか、それほどの痛みを感じなかった。おれはゆっくり抽送を開始した。おれはおれを雄々しく貫きながら征服感を感じていたが、実は、自分の生殖器官の中で起こる現象を神にも等しい力で制御できる超能力を持っているおれのほうがはるかに上手だった。

おれは瞬間的におれの膣をおれのペニスに最適な形に変形させた。そして最も快感が得られる膣圧に調整すると、膣の内部に可能な限りびっしりと新しい神経を張り巡らせた。膣の内部にあるおれのペニスの内部にも同じように密集した神経を張り巡らせた。

突然、おれの膣とおれのペニスから、通常の人間の数百倍の快感が発生した。おれとおれは超越的な快感に驚き、圧倒されたが、まだ絶頂には達しなかった。超越的な快感が長い時間続いたあと、おれはおれの膣とペニスに、絶頂に達するための指令を送った。

昨日はじめて味わった落ちる絶頂がやってきた。しかしその大きさは昨日よりも数桁大きいもので、人間の神経の限界を超えていた。おれは大きな声を上げたあと、完全に失神してしまった。おれも、濃い精液をあり得ないほど大量に射精したあと、同じように失神してしまった。






あれから、双葉のおれと、清彦のおれは、毎日イチャイチャしながら、あのマンションで楽しく平和に暮らしている。そう、家族が増えた。双葉のおれと、清彦のおれの間に、娘が生まれた。おれと同一の意識を持つ、娘のおれ、里華。

里華のおれは、もちろん、おれが細部まで念入りに遺伝情報をこしらえた。里華のおれはとびきり頭脳明晰で、双葉のおれと同じ超能力を持っている。生殖器官からおれと同一の意識を持つあらゆる生命を無尽蔵に生み出す能力。里華のおれにはこの能力を使って、世界を征服する計画の立案、実行をやってもらっている。

里華のおれは、17歳という設定で、栗色の長いストレートヘアに銀縁眼鏡をかけた知的な感じの美人なんだが、恋愛には全然興味がないらしい。もっぱら世界征服計画のことばっかりやっている。処女だよ。もっとも、もうすでに何十万人もの子どもを産んでいるけどね。

里華のおれは、おれと同一の意識を持つ人間を、社会のあちこちに送り込んで、世界を征服しようと考えた。そのために、双葉のおれが現れたときと同じ方法を使おうとした。偽造された運転免許証、預金通帳。

里華のおれは、苦労して考えて、超能力を持つ黒猫のおれを産んだ。黒猫のおれは、猫なんだが、紙に書かれた記録、電磁的記録、人間の記憶を改ざんする超能力を持っている。この黒猫のおれのおかげで、おれが社会に潜入するために必要な証明書、戸籍、銀行口座などを偽造できるようになった。

里華のおれは、つぎに、驚異的な言語学習能力を持つ語学のおれを百人くらい産んだ。語学のおれは、世界各地に散らばり、各地の言語をわずか一週間で習得した。短期間の間に、おれの意識は、世界中のほぼ全ての言語を操れるようになった。

里華のおれは、つぎに、情報収集のおれを数万人産んだ。情報収集のおれは世界中のあらゆる公的機関、企業、マスコミ、学術機関に潜入し、世界を征服するために必要な情報を収集した。

ここまで布石を打っておいて、里華のおれは、おれだけで社会を運営できるように、専門家のおれ、幹部のおれを十万人単位で産み、社会の要所に配置した。また、あらゆる人種で構成されたおれとおれとのカップルを数十万人産み、おれ以外の人間を全て滅ぼしたあとも、必要な人材、労働力を即座に無尽蔵に供給できる態勢を整えた。ここまで大変だったけど、それももうじき終わる。

どうやっておれ以外の人間を全て滅ぼすか、それは実は簡単だ。里華のおれはウイルスのおれを産んだ。ウイルスのおれは、おれの意識を持っているので、おれ以外の人間だけを選んで感染する。ウイルスのおれは複製のたびに、自由に塩基配列を変化させることができるので、どんな免疫や薬剤の攻撃もくぐり抜ける。爆発的に増殖し、短時間で体内のあらゆる細胞に感染し、破壊する。治療法は存在しないだろう。

双葉のおれは何してるか。遊んで暮らしている。双葉のおれと、清彦のおれは、一心同体の愛情で結ばれて、満たされていて、もうこれ以上、余分なおれの身体をつくって何かしようという気はない。

双葉のおれは、超能力を、遊び、趣味や好奇心のために使ってる。おれの意識を持つあらゆる生命を生み出すことができるというのは、おれはどんな生き物にでも自由自在に変身できるというのと、全く同じ意味だからね。

里華のおれが産まれる前だっけ。あるときふと猫になってみたいと思って、猫のおれの精子と卵子をつくって受精させた。一分間くらい妊娠したあと、おれの膣から、子猫のおれが産まれた。はじめて四つ足で歩いて、しっぽを立ててみたときの感激はわすれられないなあ。それから、もう動物に変身するのに病みつきになっちゃった。一番感動したのは、鳥になって、翼を羽ばたいて空を飛んだときかな。動物の交尾とかも面白い。何が一番良かったかといえば、やっぱりオスウマになって、メスウマを犯したときかな。あの巨大なペニスで犯すのはすごい快感だった。えっ、悪趣味? 清彦のおれは、知ってても、何も言わないけど。

動物に変身とかいっても、里華のおれはくそまじめ。産業利用とか言って、一瞬で成長し巨大な種をつくるスーパー作物のおれとか、メスウマのおれや、メスのウシのおれをたくさん集めた牧場を作って、すごいスピードであらゆる食糧を産み出し続けるとか、そんなのばかりやってるけど、何か面白いのかな。

おれは何も心配してない。もうすぐ人間界はおれに征服される。おれは、永遠の生命を持ち、あらゆる生命の姿で無限に増殖してゆく。すこし時間がたてば、地球上の全ての生命がおれになる。

地球が終わったらもうそれで、おしまいだって? そんなことない。おれの意識は、すでに全宇宙のすべての天体の詳細な構造を認識した。ついこないだ、地球から遠く離れたある天体上の無の空間におれの意識を持つ細胞を創造することに成功した。世界戦略を里華のおれが担当しているように、宇宙戦略を担当する娘のおれを新たに作ろうかと思っている。宇宙全体をおれという生命で満たすために。

いまでは、おれに超能力を与えた神の目的がはっきりとわかる。無秩序にバラバラで活動していた生命を、おれというひとつの意識で統一し、そのうえで、地球上にしか存在していなかった生命を、宇宙全体に広めることが目的。神様のご期待に応えることができるように、おれはこれからもがんばっていかなくっちゃね。
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3.100きよひこ
確かにこういう話がもっとあってもいいと思うんだ。GJ!
19.100きよひこ
TSはやっぱりSFだねぇ
25.100きよひこ
おれおれ詐欺かと思うくらいおれが出てきておれはおれでおれがおれなのかとか思ったけど、とりあえずGJ!
38.10きよひこ
・・・
53.100きよひこ
「おれ」の数
何と101っ個!!