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現代妖怪のためのリスクマネジメント入門 一章 お狐様の潜入捜査

2012/08/09 14:03:27
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プロローグ











『日本妖怪生活互助組合』

発足してまだ日の浅いその奇妙な名前の組織はその存在を知る者達から通称『組合』や『互助会』などと呼ばれ、自分たちの存在を脅かし続ける彼らから身を守るため、現代社会の狭間に隠れるようにひっそりと運営されていた。

街路樹の葉も大分色づき始め、灰色のコンクリートの森の中に住む人々にもようやく秋の到来を感じられるようになって来たそんなある日、街のはずれのある古ぼけたテナントビルの三階、組合第七支部の事務所に通じる細い廊下をカツカツと小気味良いヒールの音を響かせて足早に歩く一人の女性の姿があった。


「助けてくれ! どうやら、あいつ等に目を付けられちまったみたいなんだ」

一週間ぶりに訪れた客人は乱暴に事務所の扉を開けると、机で事務仕事をしていた青年を確認するなり取り乱した様子で捲くし立てた。

「まあまあテツさん落ち着いて、ここではなんですから取りあえず奥に」

すでに顔見知りであるのか、肩にすがりつき助けを求める来客をなんとかいなし、奥の応接室に案内した所長の遠野一郎は端正な顔に爽やかな営業スマイルを浮かべ、いつものように慣れた手つきでコーヒーメイカーから珈琲を淹れると、いまだ落ち着かない様子で座っている訪問者の前に差し出した。

「どうぞ」

「……ああ、すまねえな」

「いえいえ、それでどうしたんです? そんなにあわてて」

テツさんと呼ばれた『女性』は年の頃二十台の半ばといった感じだろうか、街を歩けばほとんどの人が振り向くであろう美貌と肩まで伸ばされたストレートの美しい髪、スレンダーでモデルのようなスタイルの彼女はきっちりとしたスーツを見事に着こなしている、しかし彼女はタイトスカートから伸びるその美しい足を大きく左右に開いたまま両手を膝に置き彼女に似つかわしくないまるで中年男性のような仕草で応接用のソファーにどっかりと腰を下ろしていた。

「俺のヤサはこの前言ったよな」

「ええ、聖心学園でしたっけ」

「ああ、俺はこの女教師に取り憑いて細々と生気を頂いてたんだが、どういうわけかやつらに俺の存在がばれちまったみたいなんだ。すでに何回か『調査』も入ってるらしい」

女教師はそこまで話すと珈琲を一口飲み大きく息をつく。

「どこで下手を打っちまったのかもわからねえがこのままだと確実に俺は消されちまう、一郎さん、勝手な話だってのは自分でも分かってるんだがどうにか俺を助けちゃくれねえだろうか」

パンと顔の前に両手を合わせて「頼む」という仕草をする彼女。

「テツさん」

「ああ」

「ご安心ください、私たちは全力であなたを守ります。この組合はそもそもそういう目的のために作られた組織なのですから」

「そうか、やってくれるか!」

「ええ、しばらくテツさんには安全な場所に避難をしてもらうことになりますが、後のことはすべて私」



「――いえ私たち妖怪生活互助組合にお任せください」











昔々、まだ人類が力を手に入れる前の時代、人間という種は妖怪にとっては都合の良い餌や遊び道具としての認識でしかなく、妖怪よりはるかに弱く脆弱であった。

人間はたびたび彼らの気まぐれによって理不尽な貢物を要求され、また襲われてその魂を食われ、さらには村や町ごと滅ぼされた。

人間は妖怪を怖れ、妖怪は人間を見下し弄ぶ、そのような時代がこれからも続くと思われていた。

しかし彼らは人の強さを見くびっていた。

初めは一人の小さな抵抗、それを彼らは嬉々として潰し楽しんだ。

次は小さな集団の抵抗、これも蹴散らした、見せしめとして一族郎党すべて食いつくした。

そしてさらに大人数の抵抗、中には奇妙な術を使うものも現れた、彼らの内、力の無い妖怪達が何匹かやられたがそれも鎮圧され反抗したものはまたもや虐殺された。

人はそれでもあきらめなかった、長い年月をかけ人たちは団結し、情報を共有し、あやかしを倒す術を磨いた。

やがて人々は強くなり御伽噺で語られるような大妖怪が調伏されたという話が出回り始めたころ、ようやく人間は彼らの『敵』として認識されるようになった、しかし、妖怪たちがその認識に至る頃には時既に遅く、パワーバランスは圧倒的に人間側に傾いていた。

かくして――

名だたる大妖怪はそのすべてが調伏、あるいは封印され、敵わぬと知って逃げ出した他の妖怪たちも徐々に見つけ出され退治されていった。



そして現代。



妖怪たちはすべて滅ぼされたかに見えた、が、しかし彼らは滅んではいなかった。

人間達が長い年月をかけ知恵をつけたように、彼らもまた学んだのだ。

団結し、情報を共有し、生きる術を身に付ける。

そうして生まれたのが『妖怪生活互助組合』、彼らが天敵から身を隠し、お互いに助け合いトラブルを解決する、妖怪による妖怪のための始めての組織。

都心のはずれの寂れたテナントビルの3F、そんな組合の第七支部には遠野一郎を長兄とする四匹の狐の妖怪が明日を生き延びるためにがんばったりがんばらなかったり、泣いたり笑ったり、喧嘩したりじゃれ合ったりして騒がしい日々を過ごしていた。







一章 お狐様の潜入捜査











何時まで続くのかと思われていた残暑もこの所ようやく一息つき、太陽が西に沈んでいく時間が日に日に短くなっていくのが体感できるようになってきた初秋のある日、橙色に染まる街の中、混じり始めてきた肌寒い風を意にも介さない様子で三人の女学生が楽しげに歩いていた。

「はぁ、やっと終わったねぇ、私もうクタクタだよ」

あどけなさの残る可愛らしい顔に少しだけ疲れた表情を見せて、三人の中で一番背の低い少女、新島結花は両手を頭の上で組み、うーん、と唸り声を上げながら背筋を伸ばした。

「結花は単にくっついてきただけじゃないの、疲れる様な事は何も無いと思うんだけど」

口ではそう言っていたものの、特に疲れた様子も無く目の前をぴょんぴょんと跳ねるようにして歩く結花を見た三条夕子は首筋まで伸びた髪をふわりと風に泳がせ、やれやれといった仕草をする。

活発そうな印象を受ける大きな瞳を少しだけ細め、非難するようにそう言葉を洩らす夕子だったが、そこは気心の知れた仲同士であるのか、その口調に棘は混じっていない。

「いやいや、違うよ夕子ちゃん、人は待たされるだけで何もやる事が無いほうがかえって疲れるものなんだよ? 特に私レベルになると動けないだけで徐々に衰弱していって最終的には死の危険すらあるんだから」

回遊魚みたいね、と先程から二人の話を聞いていた三人目の少女、久世綾乃はそう言ってくすくすと笑う。

前方を歩く二人の掛け合いを本当に楽しそうに見つめながらゆっくりと歩く彼女、少しだけ色素が抜けている緩やかなウェーブのかかった長髪は、彼女の柔らかな印象と見事に調和していて、その上品な立ち振舞いも手伝って、まさに良家のお嬢様という表現がぴったり当てはまる。

「それに最初に行こうって誘ったのは夕子ちゃんの方じゃない」

「うぅ、そ、それはそうなんだけど」

「あれだよね、夕子ちゃん、綾乃ちゃんが一人で街に行くのが心配だからついて行くって言ってたけど本当は別な目的もあったよね?」

「ぎくっ、……そんなことは」

「新作の最中美味しかった?」

「なっ!? ど、どうしてそれを!」

「美味しかった?」

「……はい、おいしゅうございました」

ふふーん、と腰に手をあて勝ち誇る結花。

「あ、でもちゃんと二人の分も買ってきてあるんだよっ、あとで皆で食べようと思って」

「でも、お店で先に一つ食べちゃったんでしょ?」

「うぅぅ、うん……食べた」

「ほらねー」

「ま、まあまあ二人とも、喧嘩はやめてその辺で仲直りをしてくださいな」

ずっと話を聞いている側だった綾乃があわてて仲裁にまわる。

「あはは、綾乃ちゃん違うってば、これは喧嘩してるって訳じゃなくっていつものちょっとしたやり取りって言うか、夕子ちゃんを責めてたんじゃなくて」

綾乃が自分が夕子を問い詰めていると勘違いしてしるのではないかと思い、結花は慌てて綾乃に説明をする。

「はぁ、そうでしたか、それなら良いのですが」

本気にしてしまったのかと心配しかけた結花はその言葉を聞いて少し胸をなでおろした。

「でも、結花ちゃんももう少しだけ手加減をしてあげてくださいね」

綾乃は結花の頭を優しく撫でる。

「私は二人が一緒に来てくれて嬉しかったですよ、実は一人で街に行くのはちょっと心細くて、だから本当に助かりました」

そう言って柔らかにほほえむ、さすがの結花もこの微笑には弱くえへへと照れた仕草で頭を掻いた。

「うわーん、あやのー」

がばっと綾乃の身体に抱きつく夕子、夕子より頭半分ほど背の高い綾乃の胸に顔をうずめてしがみ付く。

「うん、あれだね綾乃はお母さんだね、いやもう女神様といっても過言じゃないね」

「ええっ!?」

夕子に抱きつかれたまま困惑する綾乃。

「だってさー、優しいし、ここもこんなにふかふかだし」

「も、もう、しょうがないんですから」

困ったような顔をしながらも先ほどと同じように夕子の頭を撫でる綾乃は同級生でありながらまるで母と娘のようにもみえた。

「はい、ストーップ」

ぐいっと夕子の肩を掴んで引き剥がす結花。

「むむ、なにするんだよう、折角良いところだったのに」

むー、と不満顔で結花を睨む夕子に、同じように不満顔をしていた結花も睨むようにして目を合わせた。

「まったくもう、すぐ綾乃ちゃんに甘えるんだから」

「えー、いいじゃないもう少しぐらい、結花はけちなんだから」

もう一度抱きつこうとする夕子を今度は綾乃自身が手で制してそのまま嗜めるように二人を見る。

「ほら、二人とも仲良くしてくださいね」

「もー、わかったよう」

そんな二人を見て、ふふ、と微笑む綾乃。

「それじゃあ寮に帰りましょうか」

「そうだね、そろそろ帰らないとまた怒られちゃう」

「うん、かえろーかえろー、夕子ちゃんの買ってきたお菓子も早く食べたいしね、私おなかぺこぺこー」

その結花の言葉に綾乃は微笑み、それに釣られて三人はまた笑い合うのであった。





――――そして和やかに雑談を続けながら楽しそうに歩くそんな三人の少女をを後方からじっと観察するように見つめる一つの視線があった。


(あれ?あの娘達の服、聖心の学生服だよね)

(こんな所で見つけちゃうなんて、僕って運がいいのかも)

(さっそく二郎兄ちゃんと三郎兄ちゃんに知らせに行かなきゃ!)










「それで綾乃ちゃん、結局今日は何の用事だったの? なんだか色々なお店で交渉してたみたいだけど」

夕日に染まるの街の中、相変わらず楽しそうに雑談しながら三人の少女が学生寮への帰り道を歩いていた。美しい夕暮れの橙は次第にその赤みを増し、訪れる夜の帳が次第に近づいていることを少女達に知らせている。

「うわ、結花ってば知らないままついて来てたの?」

夕子が驚いた様子で結花に視線を移す、すると心外だとばかりに目を見開かせた結花が不機嫌そうな表情を向ける。

「だって夕子ちゃん一緒に街に行こうとしか言わなかったし、綾乃ちゃんは街についてから忙しそうで聞けなかったんだもん」

ぶー、とふくれる結花。

「あはは、そうだったんですか、ごめんなさい、付いてきてもらったのに目的も説明しないで」

「いいのいいの、夕子ちゃんが悪いんだから」

「むむ、なんだとー」

いつもの流れになりそうな二人を綾乃はやんわりと制して言葉を続けた。

「今日は演劇で使う衣装を探しに行ったんです」

「ああ、文化祭近いもんね、演劇部も大変だー」

へぇ、と結花は感心するように腕を組む。

「そういえば題目は何をやるの?」

綾乃から詳しい話までは聞いていなかったのか、その好奇心旺盛そうな瞳を綾乃に向け興味深げに問いかけてくる。

「ええ、今年は『竹取物語』に決まりました」

「おー、竹取物語かあ、良いなあ十二単、一度着てみたいなあ」

自分が古の姫になった姿を想像したのか視線を宙に漂わせ、ほへー、と夕子はにやけた表情を浮かべる。

「ふふ、ですよね、でもなかなか衣装をレンタルさせていただける所が見つからなくて」

「なるほど、だからあんなに時間掛かってたんだねー」

納得した様子の夕子に少し申し訳なさそうに綾乃が頷く。

「はい、結局京都の業者の方に届けて頂く事になって」

「そうなんだ、流石に十二単は演劇部の衣装にも無さそうだしね」

うんうんと頷く、と、何かを思いついたように夕子の瞳が輝きだした。

「じゃあさ、じゃあさ、その衣装誰が着るかもう決まってるってことだよね、誰が着ることになったの? もしかして綾乃?」

キラキラとした目で夕子が尋ねる。

「いえっ、私は、その、恥ずかしくて……」

顔を赤らめ否定する綾乃。

「えーー、っていうかその言い方だともしかして辞退したとか?」

恥ずかしげに顔を下に向けたまま答えないということは多分正解なのであろう。

「はぁ、勿体無い、勿体無なさ過ぎるよ綾乃、綾乃なら絶対似合ったのに、これはもう学園の損失と言ってもいいね、来年の入学人数にダイレクトに響くこと間違い無しだよ」

「あ、あのね夕子ちゃん、確かに一度は選んで頂いたのですが、それは私が先輩なだけって理由で、あ、えーと、姫役は一年生の葵ちゃんという子で、私なんかより凄く可愛らしい子なんですよ?」

「へー、そうですか、ふーん」

あわあわと説明をする綾乃におざなりな返事をする夕子。

「ねえねえ、綾乃ちゃん、竹取物語ってかぐや姫のことだよね?」

いままでずっと黙って何かを考え込むようにしていた結花が口を開いた。

「私ね、あの話、ずっと疑問に思っていたことがあって」

「は、はい、なんでしょう?」

「かぐや姫って月から来たって言われてるんでしょ? 帰りは分かるんだけど来たときはどうやって来たのかなって」

「えっと、それは、どうなんでしょうね?」

突然の質問に少々戸惑った様子の綾乃の代わりに夕子が会話に割り込む。

「あれじゃない? テレポートとかワープとか、月の超技術? みたいな」

「えー、でもそれじゃ、竹の中に入ってたって言うのが不自然だよう」

するどい突っ込みに少しうろたえた夕子は自分の説の整合性を取ろうと少し考える仕草を見せたが、どうにも面倒くさくなったらしくぶっきらぼうに返事をする。

「う、むむ、いいじゃない少しぐらい不自然でも、それにお話に突っ込みを入れるなんて無粋だよ」

と、そこで強引に話を終わらせようとした夕子が何かを閃いたのかぽんと手を叩く。

「じゃあ、あれよ、失敗しちゃったのよテレポート」

「失敗?」

「うん、それで『たけのなかにいる』って事態に、あはは」

「……訳がわからないよ夕子ちゃん」

はあ、とため息をつく結花。

「うう、折角思いついたのにスルーされちゃったらこっちが惨めな気持ちになるじゃない」

と、がっくりと肩を落とした夕子は不意に綾乃が先ほどから後ろを向いて黙り込んだまま動かないことに気がつく。

「…………」

「ん?どうしたの綾乃」

ちょっと心配になって夕子が声をかけた瞬間、突然綾乃は大きな声で笑い始めた。

「……あはっ! あははははははっ!」

「……え?」

お淑やかな綾乃がいきなり大声で笑い出すという事態に夕子はついて行けず唖然とする。

「い、今の、そんなに面白かった……の?」

夕子が隣を見ると結花もびっくりして一瞬固まっていたようだ。

「ふっふっふっ、いやっほーーう、巨乳お嬢様の身体ゲットー!」

そして綾乃はひとしきり笑い終えたと思うと二人のことなど気にならない様子でいきなりガッツポーズを取り訳の分からない言葉を叫ふ。

「え、綾乃ちゃん?」

「あ、綾乃!? いきなり何を言って……る…………」

「……ぁ……っ」

驚いて綾乃に駆け寄ろうとした夕子も急に立ち止まったかと思うと途中で言葉を止め、無言のままその場で顔を下に向け何かを確かめるように自分の身体を触り始める。

まるで自分の動作を確認するように両手の指を開いたり閉じたりすると、夕子はニヤリと口角を吊り上げ、その細い指先で自らの胸や太ももを撫でる。

「え、え? 綾乃ちゃん、夕子ちゃん、一体どうしちゃったの?」

突然奇妙な行動をとり始めた二人に一人残された結花は声を掛けるが、聞こえているのかいないのか二人とも結花の事を意にも介さない様子でそれぞれおかしな行動を取り続けていた。

「あ、わ、分かった、お芝居の台本か何か……、なのかな? ね、ねえそうだよね?」

「…………」

「…………ん? 四郎はまだ憑いてないのか?」

ようやく結花の言葉が届いたのか、二人は結花の方を向くと何かを思いついたような表情で数秒ほど瞼を閉じた後、ゆっくりと両目を開いて結花を見つめた。

「うふふ、ごめんなさい結花ちゃん、結花ちゃんの言うとおりお芝居の練習をしてただけなの、驚かせてしまったのなら謝ります」

目を開いた綾乃は先ほどまでの下品でにやついた顔ではなくいつもの優しくおっとりとした笑顔に戻っていた。

「そうそうごめんね結花、ちょっと結花をびっくりさせたくって、あはは」

夕子も自らの身体を弄っていた手を止め、居住まいを正すと、結花が知るいつもの調子でそう言って笑う。

「え、あ、そうなんだ、よかったぁ……、もー、驚いちゃったよ」

理由が分かりほっとする結花だったが、それと同時に何か拭い切れない違和感のようなものが結花の心にこびり付いて離れない。いつもと変わりない笑顔なのにそれはどこか不自然でまるでその奥には別の意思が潜んでいるような、そんな奇妙な感覚を受ける。

「まったく、二人とも人が悪いんだから」

あはは、と自らの疑念を押しやるように少し強引に笑う結花。

「……ねえ結花ちゃん?」

優しげな綾乃の笑顔。

「先程のお話なのですが」

「え、な、何の話だっけ? あ、えっと、かぐや姫のお話?」

急に話題を戻されちょっと戸惑う結花に微笑を崩さず綾乃は言葉を続ける。

「そう、かぐや姫がどうやって来たのかという質問です」

「う、うん」

「知りたいですか?」

「え、その、さっきのはちょっと疑問に思ってただけだったというか、どうしても知りたいって訳じゃ」

「あ、私も知りたいかもー」

さっきはこの話題に興味の無さそうだった夕子が結花を遮って話題に乗ってくる。

「ふふ、それはですね、かぐや姫は月からやって来たという訳ではなく、……本当は竹の中に封印されていた妖怪だったのです」

「よ、妖怪?」

「はい、私たちと『同じ』妖怪です」

ニッコリと微笑む綾乃。

「え、綾乃ちゃんそれって……どう……いう……こ……?」

「……………………」

驚いた結花はその理由を聞こうとするがその言葉は次第に途切れ途切れになり、最後まで伝えることなくついには黙り込んでしまう。

空ろな瞳のままビクリと体を震わせたあと、意識を取り戻した結花の表情は悪戯っぽい笑顔を浮かべた別人のような雰囲気を漂わせていた。

「……まったく二郎兄ちゃんも三郎兄ちゃんもせっかちなんだから」

そう言っていままで怯えていた結花は突然拗ねた表情になり二人を睨みつけた。

「あはは、四郎、ごめんごめん、この娘が余りにも俺の好みにストライクでさ」

へへっと笑い、綾乃は突然男のような口調になったと思うとそう言って結花に謝る。ゆるくウェーブの掛かった髪をバサリとかき上げ嬉しそうに自分の身体を見つめるその顔はお淑やかな綾乃には似つかわしくない下品な笑顔に変化していた。

「二郎兄ちゃんはいつもそれだもんなー、まあ俺はこの子の方が好みだったからいいけどさ」

と、夕子まで綾乃と同じような口調になりにやにやとした笑顔で体を触りだす。

「もう、兄ちゃんたちは様式美ってものが無いんだから」

「まあまあ四郎、いいじゃないか、それより二郎兄ちゃん今のかぐや姫の話って本当なのか?」

夕子が一旦体を弄るのを止め綾乃の方を向いてそうたずねる。

「あー、うん、しらね」

「うわ、嘘なのかよ! ひでーな」

「いや、嘘って訳じゃねえよ、結構前に一郎兄ちゃんがそんな風な事を言ってたのを思い出してさ」

「へえ、一郎兄ちゃんが?」

「そうそう、たった三年で成人したり、当時の有力者達を虜にして貢物をさせてたり、いかにもって感じだろ?」

「あー、そういわれるとそんな感じもしてくるな」

うーん、と考え込む仕草をする夕子、隣にいた結花も興味深げに話に聞き入っている。

「それに他人好みの美女に化けたりする術なんて今の時代だとありふれてるしな」

「最近そっち系統の術の進歩はめざましいよね」

綾乃の言葉に頷きながら結花も二人の話に乗ってきた。

「まあ人間を力で支配してやるって息巻いてた連中はほとんど退治されちゃったみたいだし、当然といえば当然かもな」

「うーん、でもなんだか複雑な気持ち」

「はは、そういうなよ、そのおかげで俺たちは退治されずに生きていけてるんだから」

「それはそうなんだけど」

と、今一つ釈然としない表情の結花。

「それにあれだぜ、その術の進歩があるからこそ俺たちは憑依中にやつらに見破られる事はほぼ無くなったし、本人の記憶を読んで完全になりきる事もできる。ふふ、だからね結花ちゃん? つまりそのおかげでばれる事なく私は私の体をこうやって自由に楽しめるという事なの」

不意に綾乃の言葉使いが元に戻ったかと思うと、そのまま綾乃は自らの豊満な胸を弄り始めた。制服を押し上げるようにして自己主張するその二つの大きなふくらみを彼女自身の細く美しい指で執拗にこね回すと綾乃はうっとりとした表情を浮かべ、あはぁ、と艶やかな吐息をはきだす。

その姿を見た夕子もいまだあどけなさの残る顔にまるで娼婦のような淫蕩な笑みを浮かべ綾乃の首にゆっくりと手を回しながらかすれる様な声で囁く。

「ねえ、綾乃? 私も綾乃の言うとおりだと思うなぁ、だから、私とも、ね?」

「ふふ、もちろんいいですよ夕子ちゃん、夕子ちゃんは私の大切なお友達ですもの」

そのまま二人は絡み合い、お互いに顔を寄せ濃厚な口付けを交わす、荒い息をつきながらむさぼる様に相手の口に自分の舌を絡め、艶やかな唇からこぼれる唾液が二人の顎まで流れて夕日を反射しキラキラと光っている。

「はぁ、ん、んんっ、ぷはっ、綾乃ぉ、綾乃ぉ、あ……む……」

「夕…子ちゃ……んっ、んん、ちゅ、あは、夕子ちゃんの涎、とっても美味…し」

「ちょ、ちょっと二郎兄ちゃん、三郎兄ちゃん、ここじゃまずいって!」

元来人通りの少ない道ではあるものの、往来で痴態をさらけ出した二人を結花はあわてて制止する。

「んー、もう、なんだよ四郎、今いいところなのに」

ちゅぱっと水気のある音を響かせて綾乃は夕子から顔を離し、不満顔で結花の方を見る。

「見つかって騒ぎにでもなっちゃったら一郎兄ちゃんに怒られるのは二郎兄ちゃんたちなんだよ? 僕は知らないからね!」

「うっ」

綾乃と夕子が言葉に詰まる。

「ほら兄ちゃん達、取りあえず事務所に戻ろうよ」

「はー、もう分かった分かった、じゃあ戻るとするかあ」

「それにさ、二郎兄ちゃん、こんな所でするよりも事務所だったら誰にも見られなくてすむし、なにより――」

結花はそこで一旦言葉を区切る。

「――久しぶりに三人で一郎兄ちゃんと遊べるでしょ?」

そう言って笑った結花の表情は先程まで二人がしていた様なとろけるような淫靡な笑顔に変化していた。











「一郎兄ちゃん、一郎兄ちゃん!」

バターンと激しい音を立てて開かれた事務所の扉を所長の遠野一郎が見るとそこには可愛らしい学生服に身を包んだ三人の少女がぴょんぴょんと飛び跳ねはしゃぎながら一郎の名前を叫んでいた。

「おかえりなさい、二郎、三郎、四郎、お前たち随分早かったですね」

事務仕事をしていた一郎は机から顔を上げると三人の少女に順に声をかけた。

「ふっふっふっ、聖心ってお嬢様学校だから乗り移るのは手間が掛かるかと思ってたんだけどさ」

二郎と呼ばれた少女は、他の娘たちより身長が頭半分ほど高く、肩の辺りまで伸びた髪はゆるくウェーブが掛かっており、おっとりとした雰囲気を感じさせるなだらかに傾斜した眉毛と調ったラインの鼻、そして彼女の性格を反映しているような優しげな瞳は彼女の優雅さを一層引き立たせていて、立ち振る舞いさえ「戻せ」ばいかにも良家のお嬢様という感じの少女だった。

「たまたま近くを三人で歩いてたんだよなー、ほんとラッキーだったよ」

と、二郎が一旦区切った所を今度は三郎が続けた。

三郎の方もかなりの美少女と言える顔立ちで、大きくパッチリとした目や小さな口、一見スレンダーに見えるその体も柔らかな女性らしい曲線を描いていて、艶やかで真っ直ぐ伸びた長髪と、右側についたシンプルな青色の髪留めが彼女の魅力を際立たせるのに一役かっている。

「にーちゃん達ずるいんだよー、見つけるなり二人して先に自分好みの身体に入っちゃうしさー」

不満顔で一郎に抱きついてきた少女はさきほど四郎と呼ばれた娘だ、三人の中では一番小さく両脇の髪を小さなゴムで結んだ可愛らしい髪型であることも手伝って幾分幼く見えるがそれでも十分以上に可愛らしいし、くりくりとした瞳に丸みを帯びた輪郭は元気で活発な印象を彼女から感じとることができた。

「へっへー、こういうのは早い者勝ちなんだよ、それよりどうよ一郎兄ちゃん、すごいだろコレ!」

二郎はおっとりとした顔を下品ににやつかせ自らの胸を両手で掬い上げるように持ち上げると、そのまま椅子に腰掛けている一郎の目の前まで歩いていき見せ付けるようにその豊かな胸を揉み始めた。

「うぉぉ、やっぱりすげえよこのおっぱい、一郎兄ちゃんも揉んでみろって、ほら、今上着脱いじゃうからさ」

そういうや否やスルスルと上着を脱いでいきあっというまに下着姿になってしまった。

「うわ、二郎兄ちゃんずりー!」

「抜け駆けは駄目だからね!」

二人は不満を言いつつ慌てて自分たちの身に付けている衣服を脱いでいく。

そしてブラウスを脱ぎ勢い良くブラジャーも取り去ると、綾乃ほどは大きくはないもののふっくらとした形の良い二人分の乳房が露になった。

「まったく、三人とも、いい加減落ち着きなさい」

絡み付いてくる三人の美少女を両手で一旦引き剥がし一郎は三人を睨み付けた。

兄に怒られ、とたんにシュンとする三人。

「今回は重要な依頼なんです、この仕事の成否はお前たちに掛かっているんだということを忘れてはいけません」

「で、でもさ一郎兄ちゃん、ちょっと位良いだろ? 兄ちゃんも若い子の身体好きだってこの前言ってたじゃん、それとも女子高生は兄ちゃんの好みじゃなかった?」

おずおずと下着姿のまま上目遣いで兄を見つめる二郎。

「女子高生が好きじゃないか……ですって?」

キッと一郎は次男に視線を合わせる、そしてわずかな沈黙。


「大好きに決まってるじゃないですか!」


一郎はそう叫ぶと、がばっとそのまま両手で目の前の少女の胸を鷲掴みしそのまま揉みしだく、形の良い大きな胸に指が埋まりその形が柔らかな餅をこねるかのごとく変化していく。

「あはっ、一郎兄ちゃんのそういう正直な所大好きだ!」

「わーい、兄ちゃーん!」

「兄ちゃん最高ー!」

さきほどまでの表情から一転してぱっと笑顔になった三人の少女は兄に勢い良く抱きつく。

「好きなだけこのおっぱいを楽しんでくれよな、兄ちゃん、あ、そうだ」

二郎はそういうと一つ咳払いをして目を閉じた、そのまま数秒ほどして再び目を開いた二郎は今までのがさつな雰囲気とはまったく違う柔らかで優しげな微笑を浮かべていた。

「あの、一郎様、私、聖心学園二年の久世綾乃と言います、不躾なお願いで大変恐縮なのですが、もしよろしければ私のこの大きく育ったはしたない胸を触っては頂けないでしょうか?」

そう言ってにっこりと微笑む二郎、いや久世綾乃はゆっくりと見せ付けるようにブラジャーのホックを外し、両腕を後ろに組み、露になった上半身を見せ付けるように背中を反らすと、彼女の豊かに育った胸を座っている一郎の眼前に「どうぞ」と言って突き出した。

一郎はニヤリと笑うとその差し出された胸を無遠慮に掴み、激しく揉みしだく。

「あっ、い、一郎さ……まっ、き、気持ちいいですっ、もっと、もっとぉ、私のおっぱい揉んでくださいっ」

恍惚とした表情で一郎にされるがまま体を預ける綾乃、揉みしだかれた胸がぐにぐにと形を変える度に切なげな吐息を漏らして綾乃はうっとりと目を細める。

「うわ、二郎兄ちゃんひでえ! また抜け駆けして!」

またしても遅れを取った三郎と四郎はさきほど二郎がしたような動作で目を閉じ、数秒の沈黙の後、静かに目を開いた。

そのまま二三度瞬きをして一郎の方に近づいてくる彼女たちは二人とも年相応の女の子らしい仕草と表情に変化していた。

「一郎さんっ、私は夕子、三条夕子っていいますっ、綾乃だけじゃなくて私も触ってください!」

そう夕子は言うと、一郎の手のひらを両手で掴みゆっくりとスカートの奥に導いていく、そして導いた一郎の指を白い布一枚で遮られただけの自らの秘所に押し当てると腰をくねらせ快感を貪る様に両手を動かし始める。
一郎も夕子の動きに合わせクロッチの部分を指で擦りあげるように愛撫していく、薄い布ごしに一郎の指が夕子の秘所にめり込みその快感に夕子は身体をびくびくと震わせて嬌声を上げる。

「ああっ、んっ、んんっ、一郎さん、一郎さんっ! 私ぃっ気持ちいいよぉっ」

「わっ、わっ、綾乃ちゃんも夕子ちゃんもずるい! ねぇお兄さん? 私は新島結花っていうの、私もお兄さんに気持ちよくなってもらうために一生懸命がんばるからね」

結花はスカートとパンツを下ろし、一糸纏わぬ姿になると右手でまだ毛の生えていない秘裂に指を這わせ、幼さの残る体を擦りつけながら一郎の顔にキスの雨を降らし始める。

三人の半裸の美少女に絡みつかれ、一郎の下半身の一物はもはやズボンを押し上げまるで突き破るかのごとく張り詰めていた、そしてその様を見た綾乃が潤んだ瞳で一郎に囁きかける。

「一郎様っ、一郎様ぁ、私、そ、そのっ、んあっ、もう……我慢が……できなくてっ、一郎様の物を私にっ……私のイヤらしいココにぃっ、い、入れて頂けないでしょうかぁ」

はぁはぁと荒い息をつきながら上気した頬で媚びる様に懇願する綾乃だったが、一郎は壁に掛かっている時計を確認するように目をやるとそれまで激しく二人を愛撫していた手をピタリと止めてしまった。

「はい、三人とも、そこまでです」

僅かに残念そうな表情を浮かべた一郎だが、次の瞬間にはいつもの冷静な目つきに戻り、絡み付いていた三人の少女を静かに引き離す。

「え? えええっ!?」

「う、うそでしょ一郎兄ちゃん、こんな寸止めありえないよ!」

「ど、どうしてそんな意地悪をいうのさ!?」

信じられないといった表情で立ちすくむ三人の少女、結花にいたっては目尻に涙すら浮かべている。

「自分もつい暴走してしまった事は謝りますが、三人ともそろそろ時間でしょう?」

「え、時間?」

「やれやれ、その様子では記憶もほとんど読み取って無いみたいですね、聖心の学生寮の門限を『思い出して』見なさい」

そう言われた三人は何かを思い出すように瞼を閉じると、突然目を見開き驚愕する。

「も、門限六時!? あ、ありえない、ありえないよっ」

「今、時計の針は何時を示していますか?」

「ご、五時半です……」

がっくりと膝を突く綾乃と夕子、結花は全裸のままその場に棒立ちになって放心している。

「この事務所から学生寮まで歩いて二十分弱です、ですから既にぎりぎりの時間になってしまっているのです」

「は、走れば、走ればまだ時間に余裕がありますっ! お願いです一郎様、先っちょ、先っちょだけで良いですから!」

綾乃はもとのお淑やかな雰囲気に戻ったかと思いきや、発せられた台詞の内容は普段の綾乃からは到底想像できないひどい物だった。

「駄目です、まったく、ちゃんと依頼の内容は把握しているんですか? あなた達の任務は学園に潜入しやつらに見つからずに情報を持ち帰る事です、潜入初日から門限を破って目立つような事をしてしまっては計画が台無しどころの話ではありません」

「でも、い、一郎さんもこんなにココを苦しそうにしてるじゃないっ、このままじゃ欲求不満になっちゃうよ!?」

「そうだよお兄さんっ じゃあフェラだけ、フェラだけさせて? ね? 私、頑張るよっ、五分で終わらせて見せる!」

フェーラッ、フェーラッと声を合わせて叫び始めた三人の清楚な美少女に一郎は頭痛を抑えるようにこめかみに指を押し付ける、そしてやれやれといった表情で顔を上げ。

「いいですね、絶対に門限に間に合わせるんですよ?」

と三人の弟たちの押しの強さにまた負けてしまうのだった。











神代探偵事務所の助手である成瀬晴菜は事務所の帳簿を眺めながら最早何度目になるかか判らないため息を吐き出した。

二年前の事件の後、彼女の想い人である神代総一郎は『宗家』との縁を切りこの神代探偵事務所を設立した、晴菜は彼が宗家と袂を別ち探偵事務所を開くと知ったとき、幼馴染で想い人でもある彼がこれ以上危険な事件に巻き込まれなくて済むのだと心の底から安堵した。

その気持ちは今でも微塵も変わらない、しかし元々数の多くなかった仕事の依頼はこの所めっきり減り、節約を重ねては来たもののこのままでは事務所が立ち行かなくなってしまうであろうという事実が今睨みつけている帳簿からはっきりと判ってしまうのだった。

彼を手伝いたい、その一心で現在通っている大学を辞めて自分も働くと総一郎に申し出たとき、彼は晴菜が今までに経験した事の無いような厳しい口調でその決断を咎め、そして本当に申し訳無さそうな表情で謝罪した。

そんな状況でしばらくぶりの客の訪れを知らせるベルの響く音を聞いた彼女が、訪れたその人物が『招かれざる客』であった事を知ったとき、精一杯浮かべた笑顔がその来客にも察せられる程ほど翳ってしまったのは仕方の無い事とも思えた。

「あっ、いらっしゃい千鶴ちゃん」

「……ご無沙汰しております、晴菜さん」

凛とした佇まいで美しく長い髪を頭の後ろで結んだ少女、早乙女千鶴は少しだけ申し訳無さそうに頭を下げた後、すぐにいつもの冷静な表情に戻る。
すぐ後ろには総一郎の妹、神代一葉が所在無さげな仕草をしながら晴菜を見ていた。
一葉は千鶴を連れてきてしまったことに対する負い目を感じているようで晴菜のほうを見てごめんなさいと頭を下げる。

「晴菜さん、総一郎様はいらっしゃいますか?」

「あ、はい、いま呼んできますね」

と、そう言って奥の部屋に行こうと晴菜が振り向いたとき、丁度奥の応接室のドアが開いてこの事務所の主人でもある探偵、神代総一郎がゆっくりと姿を現した。
長身で細いフレームの眼鏡を掛け優しそうな顔立ちの彼の顔は少しだけやつれている様にも見える、しかしながら理知的な彼の瞳の中にはしっかりとした強い意志が感じられ、痩身でありながらもどこか侍のような印象を彼に与えている。

「やあ、千鶴ちゃんに一葉、いらっしゃい」

総一郎の姿を確認すると千鶴は僅かに頬を紅に染め軽く頭を下げる。
一方、総一郎の妹の一葉は兄を見るなり、少し沈んでいた表情が途端に花開くような笑顔になって兄の下に駆け寄る。

「お久しぶりです、総一郎様……」

「はは、って言ってもそんなしばらくぶりって訳でも無いけどね、どう、元気だった? 千鶴ちゃん、本家の爺共に苛められたりして無いかい?」

「……いえ、そんなことは」

元々会話というものがあまり得意でない千鶴は、久しぶりに会った自分の師匠の前で何を言っていいのか判らず言葉を詰まらせてしまっていた。

そして千鶴が意を決して言葉を繋ごうとしたその時、一旦助走を付けるために後ろに下がっていたらしい妹の一葉が総一郎の横面にダイビングタックルを直撃させていた。

「お兄様、とうっ!」

思い切りタックルされ、人体の稼動域をやや超えた曲がり方をする総一郎の腰。

「ぐっ、は、……一葉、何だか毎回挨拶が激しくなるね……、元気なのは良いんだけど、その、そろそろ手加減をしてくれないと俺のほうがもたないかなって」

「はい! 一葉はお兄様に落胆をさせない為に毎朝のジョギングを欠かさず行っております!」

「そ、そっか、健康的なんだね一葉」

「えへへ、お兄様に褒めて頂いて一葉は嬉しいです、頭を撫でてくださっても構いませんよ?」

そのままぐりぐりと総一郎の腰に頬を擦り付ける一葉。

「はは、一葉の甘えん坊はいつまで立っても直らないな」

「いいえ、お兄様、なおるなおらないの問題ではなく一葉にとってお兄様分の補充は必須なのです、三大栄養素の一つなのです」

「あはは」

総一郎が苦笑しながら一葉の頭を撫でると、えへへーと笑いながら一葉は更にぎゅっとしがみ付いて来る。

(なんと、うらやましい)

その様子を見ていた助手の晴菜と弟子の千鶴は図らずもまったく同じ感想を抱く、つい最近までいかにも子供らしい少女であった一葉は中等部二年の秋になるころには成長期を迎え、幼さは依然残るものの、いつの間にかやわらかな丸みを帯びた艶やかな女性の体へと変貌しつつあった、しかし彼女の精神は肉体の成長ほど急激な変化をせず、今でも兄に会うたびに勢い良くしがみ付き存分に彼に甘えるのだった。

そしてじゃれ付く子犬のように総一郎に甘える彼女を見るたびに晴菜と千鶴の二人は胸中に複雑な感情を抱かずにはいられなかった。

「ごめん、千鶴ちゃん」

「は、はい?」

「時間を取らせてしまった、ここに来たってことは千鶴ちゃんにも何か話があったんだろう? ほら一葉もそろそろ離れて」

そう言って総一郎はしがみ付いている一葉を優しく離す、むー、と不満顔になる一葉だったがこれ以上は兄の邪魔になると悟ったのか渋々引き下がる。

「あ、はい、その今日伺ったのは」

「あー、あとは奥の応接室で聞くよ、晴菜、お茶をお願いできないかな」

「は、はい、わかりました」

ぱたぱたと給湯室にかけて行く晴菜、そんな彼女の後姿を後ろ目で確認し終えると総一郎はふぅと一息つき、本家の退魔師見習いにして自らの弟子でもある少女、早乙女千鶴を連れて応接室に入っていった。











総一郎はその場で立ったままでいる千鶴をソファーに座るように伝えると、助手の晴菜が淹れてきてくれたばかりの紅茶に砂糖とミルクを入れ、いまだ緊張している千鶴の前に置いた。

「確か一つずつでよかったよね」

「あ、ありがとうございます、覚えていてくださったんですね」

そう言って千鶴はクールな表情を少しだけ綻ばせ、手元のティーカップを見つめた。

「それで、話って何かな? まあ、大体は想像も付いているんだけど、一応ね」

「はい、本家から『退魔』の依頼です、本来頼める立場でない事は判っているのですが、その……」

言い淀む千鶴。

「ああ、いいよいいよ、千鶴ちゃんにそういう顔をされるとこっちが困る、どうせアレだろ、あの爺共に言われてきたんだろう?」

「あ、いえ、御前様は今本家にはいらっしゃらなくて、現在は分家の方々と赤坂のほうに……」

「また懇談会というやつか、はぁ、相変わらず腐りきってらっしゃることで」

「うう……」

「あ、ごめん千鶴ちゃん、別に困らせるつもりじゃなかったんだ」

「いえ……そんなことは」

「……あー、じゃあ取り合えず今回の依頼の内容を教えてもらえるかな」

しゅんとしている千鶴を見かねて総一郎は少し強引に話を本筋にもどす。

「あ、はい、わかりました」

千鶴はそう言うと一緒に応接室に持ってきていた学生鞄を開け、中からバインダーに閉じられた資料を取り出すと、こちらです、と総一郎に差し出した。

「ふむ……」

「すでに内部調査を含む五回の調査の結果、残存の妖気の反応などからほぼ確実にやつらが潜伏していると思われます」

「敵の種類や目星は付いてるのかな」

「いえ、近頃はやつらの手口も巧妙化していて私たちだけの調査では存在を確認する事しか出来ませんでした……、それに最近は慢性的な人手不足で、やつらの痕跡を見つけることの出来る術者となるともう数えるほどしか……」

「そっか、まあ上の連中があれなら仕方が無いのかもな」

「……、あ、あのっ! 総一郎様!」

と、突然千鶴が語気を強める。硬く握り締められた両手は震え、訴えかけるような瞳で総一郎を見つめる千鶴の顔には何かの決意が感じられる。

「今からでも、本家に戻っていただく訳にはいかないでしょうかっ、総一郎様が帰ってきてくださればこれ以上無い戦力になりますし何より皆も喜びます、本家に戻るのが嫌でしたらせめて私たちの指揮だけでも取って……」

「千鶴ちゃん」

「は、はい……」

「その話は止めよう、もう決めた事だ」

「……、すみません、出しゃばった事を言ってしまって」

「いいんだ、その代わりと言っては何だが受けた依頼はちゃんとこなす、はは、とはいっても実の所うちも最近台所事情が厳しくてね、いくら本家からの依頼とはいえ正直選り好みできる状態じゃないんだ」

「でしたらっ! ……いえ、ごめんなさい、また私余計な事を……」

「いいよいいよ、さ、続きをお願いできるかな?」

「はい」

話を聞きながらペラペラと資料をめくっていた総一郎の手がピタリととまる。

「……、一つ聞いて良いかな?」

「はい、なんでしょう」

「ここに聖心学園って書いてあるけど、確かここって女子高だよね」

「はい」

「なら俺じゃなくて美佐さんや京子さんの方が適任なんじゃないかな」

「美佐さんと京子さんはお二人ともいま別件で出払っていまして、しばらくは戻れそうに……」

「むむ、じゃあどうする? 臨時講師の枠でも作ってもらうか」

考え込むような仕草をして、紅茶を一口すする総一郎。

「いえ、聖心には男の方の教師はいませんからその方法は不自然すぎるかと」

思案したままの総一郎に千鶴は言葉を続ける。

「幸い私は聖心の生徒です、ですが私は今だ見習いの身、お役には立てそうにありません、ですから――」



「――総一郎様、私の体を使ってください」



と、千鶴は真っ直ぐな瞳で総一郎を見つめた。











夕食の時間も終わり、皆がそれぞれの部屋にもどり自由な時間をすごそうとしている頃、なんとか門限に滑り込み無事潜入に成功した三匹の狐の兄弟が長兄の心配など露知らず、学生寮の一室でまたもや騒動を起こそうとしていた。

「第一回!」

「チキチキ!!」

「処女当てたいかぁいっ!!!」

「「「いえいっ」」」

ひゃっほう、とかなりのハイテンションで飛び上がる三条夕子(三郎)、その様子をやんややんやと囃し立てる久世綾乃(二郎)と新島結花(四郎)の騒ぎようは三人を知る人たちから見れば到底信じられない光景であったことであろう。

夕食後、部屋着に着替えていた三人は何故かもう一度学生服に着替えなおして綾乃の部屋に集まり、食事のときの和やかな雰囲気を一変させ自分たちのスカートが翻るのも気にせずに部屋の中ではしゃぎ回っていた。

流石お嬢様学校の学生寮と言うべきか、ずいぶんと広めに作られた部屋の間取りに加え、高級そうな備え付けの家具や柔らかそうなベットなどまるで高級ホテルの一室のようなその部屋で、夕子はあぐらをかいてベットの上に座り込み叫び声をあげながらその弾力を楽しむかのように身体を上下に揺さぶっていた。

「でもな、あれな、三郎はほんと処女好きな?」

「うん、さすがの僕もちょっと引くときがあるよ」

と、一通り騒いだ後、床の絨毯に座り込んだ二人はいまだ騒いでいる夕子(三郎)に向かって冷静なツッコミを入れる。

「ちょ、ちょ、ちょっとまてよ二人とも!? 俺の性癖はおかしくも何ともないだろ!? それを言ったら二郎兄ちゃんだって巨乳好きのおっぱい星人じゃねえか!」

夕子がまるで信じられないという様な表情になり慌てて弁解をしだす。

「でも、ねえ?」

「まあ、三郎の趣味をとやかく言う気はないけど、それでも、なあ?」

「……二郎兄ちゃんに四郎、よーくわかった、二人とも何か勘違いをしているみたいだな、いいか良く聞いてくれ、俺が処女好きなのは遺伝なんだ、古から伝わる血筋! 代々伝わってきた俺に流れる妖怪の血がそうさせるんだよ!」

立ち上がって両手を腰にあて夕子の体で堂々と胸を張る三郎。

そしてなに言ってるのこの人、とでも言いたげな視線を向ける二人。

「そもそもだ、俺たちのご先祖様は種族に関係なく皆、処女好きだろ? 妖怪への貢物って言ったら村の生娘と相場が決まってるし似たような昔話も腐るほどある、それに日本だけじゃない世界だってそうだ! 吸血鬼や他の外国の悪魔達も皆こぞって獲物や生贄に指定するぐらい処女が大好きなんだ! だからこそあえて言おうと思う!」

「処女が嫌いな妖怪はいない!!」

どうだと言わんばかりの表情。

「うぉぉ、すげえ、すげえよ三郎、なんか言われてみるとそんな気がしてきた!」

「うん、なんか今の三郎兄ちゃん輝いてるよ! 変な色に!」

「……ようやくわかってくれたか二人とも」

うんうん、と満足げな様子で夕子はもう一度先程まで飛び跳ねていたベットの上に座り込む、乱暴な座り方のせいでスカートが捲れ夕子の白い太ももが露になるが当人は気にする様子も無い。

「でもさ、三郎兄ちゃん?」

「ん? なんだ四郎」

「妖怪の歴史を紐解くのはいいんだけどさ、それだったら処女の破瓜の血が破邪の力を持ってたり魔物を消滅させたりするお話もあるじゃない? そこの所はどうなの?」

「迷信だ」

「……えー」

「いやいや、迷信だとは言っても本当の所俺はどっちでも構わないぐらいなんだ、むしろあれだね、そんな方法で退治されるなら俺は本望だね!」

「三郎、お前そこまで……」

「うん、僕もびっくりだよ三郎兄ちゃん、軽はずみに批判しちゃったのは謝るよ、本当にごめんなさい」

「いいんだ、俺もむきになったりして悪かった、ごめんな二人とも……」

「三郎!」

「三郎兄ちゃん!」

ひしっと抱き合う三人の美少女。

「さあ、ということで早速続きをしようじゃないか、俺はこの時の為だけにこの体の記憶を部分的にしか読んでないんだからな」

「うん、わかったよ三郎兄ちゃん、僕精一杯応援するよ」

「俺も応援するぜ、と言いたいところだけど、三郎、道具のほうはどうするんだ? その辺の適当な棒でも探すのか?」

と、綾乃が床の絨毯に胡坐をかいて座ったまま周りを見回す。

「ふふふ、その辺は抜かりないぜ二郎兄ちゃん! こんな事もあろうかと! ててれてってれー」

そう夕子は不敵な笑みを浮かべ、手元の可愛らしいポーチを開けごそごそと何か探ったと思うと中からグロテスクなバイブやローターを次々と取り出した。

「うおおぉ、どうしたんだよそれ!」

「ふっふっふっ、さっき事務所に行ったときに必要になるかと思ってこっそりもって来た!」

「おぉぉ、グッジョブ、グッジョブだよ三郎!」

「すごいよ、三郎兄ちゃんかっこいい! エロかっこいいよ!」

さーぶーろう!さーぶーろう!と二人から上がる三郎コールに気を良くしたのか三郎は夕子の身体をベットの上で膝立ちの状態にさせた後腰をくねらせセクシーなポーズをとり始める。

「んっ、うん……、それじゃあそろそろ始めるね」

そう言って咳払いをした夕子は次の瞬間、完全な『三条夕子』としての仕草と雰囲気を取り戻していた。

「あのね、綾乃に結花、私ねどうしてもやらなければいけない事があるの、本当はこんなおもちゃじゃなくて本物の方が良かったんだけど、まあ仕方ないよね」

「だからね、私の身体が処女なのかどうかちゃんと二人に確認して欲しいの」

夕子はスイッチを入れたバイブを愛おしそうに見つめ、スカートを見せ付けるようにゆっくりと持ち上げると、清楚な白いショーツが徐々に露になる。そしてその上から先程取り出したバイブを押し当て自らの股間をなぞる様にして動かし始めた。

「あはっ、パンツの上からなのに、私……もうすごく感じ始めちゃってる、ね、ねえ二人とも、ちゃんと見てくれてるかな……」

「ん、んうぅ、バイブがっ、震えてぇ、私の恥ずかしい場所に、あっ…当たって、あ、あああっ!」

振動するバイブをぐりぐりと押し付けると湿りきったショーツは透けて食い込み、陰裂の形が布の上からでも丸判りになる。

そしてもどかしくなってきたのか夕子は荒い息をつきながらベットの上で寝転がり、足を片方ずつ上げながら湿ったショーツを脱ぎ捨て、観客の二人に自らの秘所が見やすいように両足を大きく開き、M字開脚の姿勢になった。

そして夕子はアソコの濡れ具合を確かめるようにそこを指で軽く弄り始めると、すでに準備が完了している少女の股間はすぐにくちくちと粘度の高い水音を奏で始めた。

「ど、どうかな二人とも……、私のイヤらしく濡れたオマンコ、ちゃんと見えてる…かな? い、今からここに……このぶっといバイブを、根元まで……入れちゃうからっ、よく、みっ見ててねっ」

「ちゃんと見てるよ夕子ちゃん! 私、きちんと最後まで夕子ちゃんがイヤらしく逝くところを見て、んっ、あげるからね、あ、んんっ、だ、だからもっと夕子ちゃんの乱れる姿を、はぁ、はぁ、私に、見せてぇ」

「夕子ちゃん、わ、私も、夕子ちゃんのエッチな姿を見ていたら、はぁ、んふぅ、我慢がで、出来なく…なってしまいそうですっ」

いつの間にか口調や仕草が元に戻っていた二人も、夕子が乱れる様を食い入るように見ながらそれぞれ自分の乳房や股間を両手で激しく愛撫していた。

おっとりとした雰囲気の綾乃も明るく朗らかな結花も、ベットの上で身体を貪っている夕子と同じく淫蕩な表情を晒している。

嬌声を上げながら自慰に興じていた夕子は股座を這わせていた手を離し、愛液で濡れ光り、糸を引く己の指を口に含み舌で味わうように舐め始める。

「は、ふぅ……、そろそろ、いい、かな?」

夕子は蕩けた表情でそう言うと、先程まで股間に押し当てていたバイブを両手で持ち、自らの内部に進入していく異物の感覚を最大限に愉しもうとバイブを膣口に当てゆっくり、ゆっくりと挿入していった。

「ああっ、あああああああっ!!」

膣壁を押し広げ挿入されていく異物に、夕子はがくがくと腰を震わせ絶叫する、痛みと快感の入り混じった表情で口を大きく広げ荒い息をつきながらもなおバイブをもった両手を止めようとはしない。

「あっ、はっ、入ってる、入ってきてるよう、痛いぃ、痛いけど、気持ちいいのぉ!」

さらにバイブを子宮の奥まで導こうとする夕子は膣内から流れ出る一筋の血を目の当たりにすると、欲情に蕩けていた表情が一瞬だけにやけたイヤらしい笑みに変わる。

ふふ、と笑い、まるで勿体つけるように両手を左右に動かしまるでこそぎ取るような動作でゆっくりと奥までバイブを挿入していく。

「う、うぅぅううあああぁぁあ、んふぅ、はぁ、はぁ……、やっぱりこの感触……、何回やっても最高だっ、んんんんっ!」

「んふふ、夕子ちゃんも、結花ちゃんもすごくエッチでぇ、ん、んんっ、かわいらしいです、ね、ねえ結花ちゃん? 私と接吻をしていただけます…か?」

「あは、いいよ綾乃ちゃん、いっぱいキスしよ? ん、ちゅ、は…ん…、ぷはっ、ん、ちゅ…」

ベットの上で乱れ狂う夕子を見ながら綾乃と結花はお互いの服を脱がせあいながら相手の身体を弄り、見つめあった二人は蕩けるような笑顔で激しい口づけを交わす。

一方、うっとりとした表情で注送を繰り返す夕子の両手はどんどんと激しさを増し、流れ出た大量の愛液がシーツにしみを作っていく、そして激しい水音と柔肉の当たる音を響かせながら夕子は身体全体を痙攣させるかのようにベットの上で跳ね回る。

「んああああっ、あは、綾乃、結花ぁ、私ね、ちゃんと処女だったみたい、ふふ、よかったあ」

「んは、あふぅ、わたしぃ夕子ちゃんの事しんじてた、信じてたよぉ、んんっ、だからぁ、次は私のことも、たっ確かめて、んああ、いいよぉ」

「あはぁ、夕子ちゃんすっごく気持ちがよさそうです、わ、わたしも、このままだと、指だけで、あああっ、イってしまいそうですっ!」

濃厚なキスをしていた二人もそれぞれを愛撫する動きををさらに早め、膝立ちの体勢で身体をびくびくと震わせあふれ出してくる快感に我を忘れ必死に両手を動かしていた。

そして三人の動きはいよいよ激しさを増し襲い来る激流のような快感に身体を震わせそれぞれを絶頂に導いていく。

「あ、あやのぉ、ゆかぁ、い、いいよお、一緒に、一緒にイこうっ! わ、わたしも、もう、もうだめぇええ、あっああぁああああああぁあああぁあっ」

「わ、私も、も、もう逝っちゃいますっ! お嬢様の綾乃が、はしたないわたしが、お、おっぱい弄られて逝く所をみ、みてくださぃいいいぃい」

「あああっ、わたしも、わたしももうだめぇ! イっちゃう、イっちゃうよぉぉ、ふあああぁあ!」

三人は一際大きな声をあげ身体を引きつらせたかと思うとそのままぐったりと倒れ、だらしない表情でぴくぴくと身体を痙攣させている、そして余韻を愉しむかのように空ろな笑みを浮かべながら瞳を中空に漂わせていた。



「……世さんっ……久世さんっ、大丈夫? 聞こえてる!? 入るわよっ!」



そして忘我状態の彼女たちは先程からずっと聞こえていたドアのノックの音と、さらには自分たちが上げていた叫び声を心配して駆けつけて来た風紀委員長、雨宮鈴音がドアを開けて中に入ってきた事にまったく気がつかず。

部屋の中にまで鈴音が駆け込んできて始めて、ようやくその存在に気がついたのだった。




「な…………なにやってるの、あなた達」











「隣の部屋の子がこの部屋から悲鳴のようなものが聞こえるって言うから何かあったのかと思って来て見れば、ドアをノックしても全然返事が無いし、寮母さんから合鍵まで借りてきたのに、一体なんなのこれは……」

ややつり目気味で勝気そうな顔立ちの少女、雨宮鈴音は部屋の惨状をみて自分の理解が追いつかないのか、眩暈を堪えるように頭を抱えながらため息をついた。

(ど、どうしよう、まずい、まずいよ)

いきなり訪れた緊急事態に四郎は兄二人に助けを求めようと視線を送るが、夕子と綾乃の二人は盛大に潮を吹き、半開きの口から涎を垂れ流していまだあっちの世界から戻ってくる様子はない。

「……この事は寮長に知らせて、然るべき罰を受けてもらいますよ、聞いているんですか!」

(うう、ここは仕方ないっ、この身体が空いちゃうけどやむをえないよね)

「う…ううん、ふえ? ……何があったの? あれ? ええぇ? だ、誰!? あ、えっと、す、鈴音さん!?」

「……んー、もうさっきからなんだようるさいなあ……、ん? んん? え、えぇぇええぇえ!?」

激しい剣幕で怒る鈴音にようやく意識を取り戻したのか、夕子と綾乃はこの場に侵入してきた少女に気が付いて目を見開いて驚いた。
いつの間にかかなり逼迫した状況になっていた事に気がついた二人は途端に慌て始める。

「す、鈴音さん、取り合えず、お、落ち着いて、ね?」

「そ、そうなんです、その、えと、これは、これは違うんです」

夕子と綾乃がこの状況をなんとか収めようとその場しのぎの言い訳を始めるが、二人とも下半身が丸出しで夕子にいたってはグロテスクな大人の玩具が股間に刺さったままである。

「いいですか、別にその……その様な行為が悪いと言っているわけではないのです、それでも節…度………え? あ………な、なに………」

「……あぅ……」

説教を続けていた鈴音の声が突然途切れ、空ろな瞳をしたまま黙り込んでしまう。
そして顔を上げると今までの怒っていた表情と口調が一変し、困ったような顔つきで助けを求めるように二人に視線を移した。

「…………ふぅ、あぶなかった……でも、これからどうしよう」

「し、四郎!?」

夕子と綾乃は鈴音が自分たちのよく知る反応をし出したことでなにが起こったのかを察知し、後ろを振り返った。
するとそこには床に仰向けになりぐったりとして気絶している結花の姿があった。

「四郎、ナイスだ!」

「あぶない、あぶない、あやうく一郎兄ちゃんに大目玉を食らう所だったぜ」

鈴音に四郎が乗り移った事を理解してほっと胸をなでおろす二人。

「いやいや、兄ちゃん達、いまだ大ピンチなのには変わりないよ、このまま放っておいたら結花ちゃんの精神が目を覚ましちゃう」

「あ、ああ! そうだったな、『記憶の辻褄合わせ』もしなきゃならないし」

「どうする、じゃあ一旦その子に俺が移るべきか、ああでもこの身体もまだ記憶を弄ってないし」

気絶している結花を尻目に鈴音(四郎)、綾乃、夕子の三人が切羽詰った様子で話し合っている、ああでもないこうでもないと議論するにつれどんどんと話が拗れてきているようだった。

すると気絶している筈の結花が突然目を開き、仰向けに寝転んだ状態から上体をむっくりと持ち上げて起き上がる。

そして辺りを確認するように少しだけ周りに視線を送ると、意識を取り戻した結花に気が付いて驚いている三人に向かって睨みつけるような冷たい視線を向けた。

「…………まったく心配になってきてみれば、どういうことなんですかこれは」

「え、ええええ!?」

普段は好奇心旺盛ではつらつとした印象の結花は、まるで大人のような冷静で落ち着いた仕草に変わり、ゆっくりと話し出すその声色は先程の鈴音とはまた違う静かな怒りの色が感じられ、普段の彼女の雰囲気との落差を一層強く感じさせている。

そしてそれは可愛らしい結花の声ではあったが三人の兄弟達にとって最も馴染みがあり、最も恐るべき長兄の口調そのものだった。



「「い、いいいい、一郎兄ちゃん!?」」



ひぃ、と尻餅をつく綾乃。

「い、一体いつから!?」

「つい先程です、テツさんの憑いていた教師の記憶の辻褄合わせが終わったので、代わりに学園に連れてきていたのですよ」

結花(一郎)はそう言って、三人の置かれていた状況を確認するように部屋を見回す。

そして自分の太ももまで垂れてきている愛液や部屋にこもった少女たちの淫臭、そこらじゅうに散らばった学生服や下着を確認すると、大体の事情を察したのか結花は頭を抱え長く大きなため息をついた。

「はぁ、お前たち、目立つ様な事はあれほどしてはいけないとさっき言ったばかりではないですか」

「うう……」

「ご、ごめんなさい一郎兄ちゃん、で、でもさ、ほら、久しぶりだったし」

「でもじゃありません、まったく、私はお前達を心配して言っているのですよ、この学校には今退魔士がいるかも知れないのです、変な騒動を起こしてやつらに見つかったらどうするんですか」

「は、はい……、すいません」

この中で一番幼く背の低い結花がまるで保護者のように皆を見おろし説教を始める、鈴音は部屋の中に入ってきた状態のまま立ちすくみ、夕子と綾乃はほぼ全裸のあられもない格好で床の上に正座してしょんぼりとしていた。

「そもそもお前達には危機感というものが足りません、いいですか……、ん? 四郎どうしたんですか? さっきからずっと動きませんが、聞いているんですか?」

「…………な」

「ん? 『な』ってなんですか」

結花は先程から部屋の入り口で立ったまま動かない鈴音(四郎)を不思議に思い声をかけた、すると鈴音は結花を見つめたまま何故か目を輝かせ身体をプルプルと震わせていた。

「……ナイスギャップ……」

「は? 四郎、なにを言ってるんで……」

「ナイスギャップだよ一郎兄ちゃんっ!!」

「はい!?」

突然、鈴音は興奮したように叫ぶ。

「あ、あのね! 僕はずっと思ってたんだ、結花ちゃんってさ、なんというか僕とちょっと性格が被るところあるじゃない?」

「……な、なんですかいきなり」

怪訝そうな顔で目を細めて鈴音の事を見る結花だったが、何故か結花のその表情にも鈴音は目を輝かせ、ますます興奮した様子で話したてる。

「だからね、僕が憑いたときもいまいち落差が感じられなくてさ、ちょっとムズムズしてたんだ、でもね、その点一郎兄ちゃんは最高だよ! 天真爛漫な結花ちゃんが大人びた二人に対してそんなクールで落ち着いた仕草と口調で叱り付けてるんだもん、しかも全裸で! もうこれは興奮せずにはいられないよっ!」

結花に叱られてしょんぼりとしていた綾乃と夕子も興奮して捲くし立てる鈴音をあっけに取られた様子で見ていた。

「やっぱりね、落差って大事だと思うんだ、普段はとてもしそうにない口調や行動をさせられる女の子って凄く良いじゃない? 二郎兄ちゃんと三郎兄ちゃんもその点では凄くポイントが高いんだけど僕がやろうとすると何だかうまく出来なくて」

普段、兄弟の中では比較的おとなしい四郎が鈴音の身体を飛び跳ねさせながらハイテンションで語り続ける。

「で、でもさ四郎? それだったら今のお前の身体、風紀委員長の雨宮鈴音もお前の言うナイスギャップって奴に当てはまるんじゃないのか?」

鈴音の勢いに押されて若干気後れしているらしい夕子がおずおずと鈴音のほうを見上げて聞いてみる。

「……はっ!?」

夕子の言葉に衝撃を受けたのか、鈴音はダッシュで玄関横にある洗面所に駆け込み備え付けの鏡を見つめる、そこにはきりっとした長い眉毛に気の強そうな眼差しをした美少女が映っていた。

スラリとした身体に首筋まで伸びた美しい髪は気の強い彼女の性格を反映しているのか僅かに外ハネしていて、そんな自分の姿をみた鈴音は両手で頬を優しく撫で、普段はとても彼女がしないような満面の笑顔でほほえんだ。

そして鈴音は花開くような笑みを浮かべたまま形の良い自らの胸に手を当てるとゆっくりとその胸を揉み始める、真面目で堅物そうな雰囲気の彼女が満面の笑みで両胸を揉みしだく様を鏡でうっとりと見つめた鈴音はなにかに満足したようにそのまま洗面所を勢い良く出て行く。

「三郎兄ちゃん!?」

洗面所に走っていったかと思いきやそのまままた物凄い勢いで戻ってくる鈴音、そしてあっけに取られている夕子にむかってこれ以上ない笑顔で勢いよく右腕を伸ばしサムズアップを決めた。

「すごいよ、さっすが三郎兄ちゃんだ!! さっきは慌ててて気がつかなかったけど、僕、いや私もナイスギャップね!!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねる鈴音。

「な、なあ四郎……、今までお前は一郎兄ちゃんみたいな常識人枠じゃないかと思ってたんだけどさ、あれだな、やっぱり俺達の弟なんだよな」

ずっと話を聞いていた綾乃もなにやら感慨深げにそう言って、夕子と視線を合わせ二人で頷く。

「あはは、なに言ってるのさ兄ちゃん達、僕達が兄弟なのはあたりまえじゃない、皆僕の大好きな兄ちゃん達だよ」

唖然とした様子で鈴音を見ていた結花はやれやれといった表情で手をおでこに当て深いため息をついた、肩を下げ諦めるように頭を振る彼女、そしてそれは遠野一郎が弟達の勢いに負けて降参するときに良くしている仕草でもあった。

「…………はぁ、もういいです、怒る気力がすっかり無くなってしまいました」

「一郎兄ちゃん?」

「でも、最後にこれだけは言っておきます、お前達は私の本当に大切な家族なのです、だからお願いですからこれ以上危険な事はしないでください」

「……一郎兄ちゃん」

「一郎兄ちゃん、ごめん、ごめんよ、俺達が悪かったよ」

「うん、ごめんね、もう二度とこんな遊びしないよ……」

うわーん、と泣きながら結花に抱き付く三人、体格の小さい結花は三人に押しつぶされそうになったがそれでも背伸び気味に手を伸ばして皆の頭を撫でてあげていた。

「それとですね」

よしよしと頭を撫で続けながら結花が続ける。

「別にお前達に楽しむなと言っているわけではありませんよ?」

「「「え?」」」

「ふふ、楽しむのならまわりにばれない程度にやりなさい、と言っているのです」

そういってにっこりと三人に微笑みかける結花。

「兄ちゃんっ!!」

顔を埋めていた三人ががばっと頭をあげる。

「やったあ、ありがとう一郎兄ちゃんっ!」

「わーい、やっぱり一郎兄ちゃんは最高だっ!」

「大好きだよ一郎兄ちゃん!」

満面の笑顔の三人にさらに強くしがみ付かれ、もみくちゃにされる結花。

「く、くるしいですよ、三人とも、そ、そろそろ離しなさい」

そして、なんとか三人の抱擁から逃れた結花はあらたまった様子で咳払いを一つすると鈴音の方を向いてニヤリと笑った。

「……じゃあ、風紀委員長の鈴音ちゃん? 折角だから私達に皆に怒られないようなやり方を教えてくれないかな? ね、いいでしょ?」

そういって普段の結花の口調にもどり鈴音にそう言うと、鈴音にも意図が伝わったのか彼女はその場から一歩下がると佇まいを正して皆に視線を向けた。

「……まったく、そういうことなら早く言いなさい、いいですか皆さん? いたずらに大声でよがり声を上げるよりも時には声を押し殺しつつ快感を味わうということも中々味わい深くて良いものなのよ?」

はしゃいでいた鈴音もいつもの真面目で意志の強そうな風紀委員としての顔と口調にもどったが、言っている台詞は普段のそれとは到底かけ離れているものだった。

そして鈴音は服をはだけ両手をそれぞれ胸と股間に当てゆっくりと弄り始める。

「では、わ、わたしが、……んっ、お手本を見せて、ふあっ、んっ、あげますから、参考にするようにぃ」

「「「はい」」」



そうして長男の一郎も混ざって始まった第二ラウンドは結局深夜まで続き、体力を使い果たした四人は次の日の朝、ぐったりとした表情で学校に向かう事になるのだった。
プロローグ一章終わりまでです。
正露丸憑依A
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28.80Jaydee
It's spokoy how clever some ppl are. Thanks!