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旧家

2012/11/10 23:01:42
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序章 男と……女

「あっ……はあっ……はあんっ!!」

薄暗い和室の中に女の声が響く。
ピチャ、ニチャ、とかすかな音が聞こえる。すると直後にさらに鋭い女の声が音をかき消す。
男の舌が首筋を這い、手が豊かな乳房を揉む。女の声が鋭さを増す。
やがて男が女の脚の間に割り込み、腰をぐっと押し出す。女の身体が大きく仰け反った。
男の腰が少し下がると再び突き出す。徐々にその間隔が短くなる。
子宮を刺激され、女は身悶え長く艶やかな髪を振り乱す。
そして男が腰をひときわ強く押し込むと小刻みに震えた。

「あっ、あああぁぁぁぁぁぁっ!!」

熱い迸りを子宮に受けた女の絶叫が響き渡った。


第一章 親友の故郷

「こ、これは……なんというか……」

車の窓越しに視界に飛び込んだ景色に俺は思わず呟いた。
「思いっきり田舎してるだろ、清彦?」
助手席の敏明がこちらを振り返りながら苦笑いする。
四方を山に囲まれ、斜面は茶畑と果樹園、平らな盆地は水田で埋め尽くされていた。
家屋は全て木造でコンクリート製の建物はまったく見えなかった。
敏明の言葉に俺は「まったくだ」と言おうとしたのだが、運転手がこちらを鋭い目つきで睨んでいたので慌てて言葉を飲み込んだ。


俺はとある大学の経営学部4年生。そして敏明は同じ大学の農学部4年生。学部は違うが俺たち二人は知り合って親友となり、よく行動を共にしていた。
その俺が敏明の故郷であるこの村を訪れたのにはちょっとした経緯があった。
その日の前日、?度目の就職試験に失敗して落ち込んでいた俺に敏明が声をかけてきた。
「元気だしなよ。そのうち何とかなるって」
こちらを気遣っての言葉だった。……だが、その時の俺は思わず八つ当たりで敏明に怒鳴ってしまったのだ。
「うるさいっ、大きな農家の跡取りで就職の心配のないお前に俺の気持ちがわかってたまるかっ!!」
言ってからすぐに俺は頭を下げて謝った。敏明は軽く笑って俺を許してくれた。
大きく溜息を吐いた俺を見て敏明は少し考える仕草をした後、俺に聞いてきた。


「清彦、次の就職試験はいつだ?」
「来週の……木曜だが」
「週明けに予定している授業は?」
「特にない」
卒業に必要な単位は既に取ってあるし、論文もほぼ出来上がっている。
「じゃあ明日の土曜から俺の故郷に行かないか? 2泊3日で」
「え?」
「実は親から『ちょっと顔を見せに来い』って言われてるんだ。何にもない田舎だが景色はいいからいい気分転換になるよ。それにお前がいた方が俺も楽しいし。どうかな?」
そう言って浮かべた敏明の笑顔に俺は思わず「うん、いいよ」と、答えてしまっていた。
まあ、いまさら断るとまた敏明を傷つけるし、親友に八つ当たりをするほど心が荒んでいるなら気分転換は必要かもしれない。
そう考えて俺は敏明の帰省につきあうことにしたのだった。


駅に着いた俺たちを黒塗りの高級車が出迎えていた。
予定では路線バスで向かう予定だったのだが、「旦那様が急ぎ会いたいとの仰せで」迎えが来たらしい。
車に乗って1時間あまり、峠を越えてようやく目的地の村へと入ってきた。
たしかに景色はいい。木々の緑に果樹園の林檎や葡萄、風に揺れる稲穂。都会とは色も匂いも、そして時間の流れすらもまったく違っていた。
車窓から景色を眺めていた俺は敏明に尋ねてみた。
「なあ、お前の家とか土地ってどの辺りなんだ?」
「えっと、それは……」
言いよどむ敏明。すると運転手が口を開いた。
「敏明様のお父上は神野森(かんのもり)家の総領、神野森は神よりこの一帯の土地を預かりし一族。ここから見える土地全てが神野森家の名義でございます」
「ええっ!?」
俺は思わず声を上げた。敏明の家ってそんなにすごいとこだったのか?


第二章 山郷の旧家

「で、でかい」
車から降りた俺は思わず呟いてしまった。
まあ、ある程度でかいとは思っていたが……門から玄関まで100メートル以上ある家なんてふつうあるか? ほとんど城だぜ、城。
「敏明って、すっげえ金持ちだったんだな」
「別に俺が金持ちという訳じゃない。それにでかいとそれなりに苦労もあるんだよ。固定資産税とか」
固定資産税……そりゃまた現実的というか世俗的というか。
「神様からこの土地を授けられたって伝説があるから今まで土地を売るようなことはなかったけど……俺としては価値の高い作物を栽培して収益アップできないかと思って農学部に入ったんだ」
うーん、こいつにそんな事情があったとは……
家に入ると中年の男女が俺たち……というか敏明を出迎えた。
「お帰りなさい敏明さん」「ただいま母さん」
女性の方は敏明に少し面立ちが似ていた。
「敏明、そちらの方は?」
男の方はおそらく敏明の父親だろう。和服のせいか厳格とはいかないまでも少し固い感じがする。
「大学の友人の清彦です」
敏明が俺を紹介すると母親は俺を少しの間見つめると軽い溜息を吐いた。
「……女の方ではなかったのですね」
その言葉気俺は少しムッとなった。たしかに俺は少し痩せ型だが、女に間違われる程じゃない!!


「母さんっ」
「あ、あら、ごめんなさいね。ようこそいらっしゃいました」
敏明の言葉に母親が笑顔に変わると俺に歓迎の言葉を述べた。しかし……
「清彦、とりあえず俺の部屋に行こうか」
そう言って敏明が俺を家の中へと入ろうと促した。
「敏明、判っていると思うが……」
「もちろんだよ父さん。今度はちゃんと彼女を連れてくるよ」
父親の言葉に返事を返しながら俺を奥へと連れて行く敏明。……敏明に特定の彼女なんていたっけ?
俺を自分の部屋へと入れた敏明は扉を閉めるとすまなそうに頭を下げた。
「すまん、親からは早く彼女を見つけて来いって言われてるんだ。そこへ俺が人を連れて来るって連絡したから彼女だと両親が勘違いしたらしい。どうりでわざわざ迎えの車を寄越した訳だ」


「お前が女を連れて来るってことはそんなに大事なのか?」
「少なくても両親にとってはね。『生まれた年より干支が二回りするまでに婚礼を行い子を作る。それが神との約定だ』ってね」
「なんだそりゃ?」
「言い伝えだよ。この一帯の土地を授けられた時に血統を絶やさずこの土地を守るって神様と約束したらしい」
「じゃあ、その約束を破るとなにか祟りでも?」
「いや、どうも期限までに結婚する気配がないと、神様が勝手に選んで強引に結婚させるらしい。母さんたちは『無理やり結婚させられるよりは自分の意思で結婚相手を』って言ってるんだよ」
「しかしお前、彼女って……」
「ああ、田舎育ちだったせいか都会の女性はいまひとつね。だから結婚相手になりそうな女性はまだいない。まっ、今の時代に神様だの伝説だのいちいち気にしたってしょうがないさ」
そう言って敏明は肩をすくめた。


第三章 桔梗の花は……

それから2日間、俺は田舎での日々を十分に堪能した。
木々の緑に色鮮やかな花、そして採れたての山菜や農作物で作られた料理は絶品だった。
初対面の時の態度をすまなく思ったのか、敏明の両親は俺に母屋のそばの離れを使わせてくれた。
この離れ、大切な客が長期間逗留する時などに使われている建物らしい。
そして3日目の朝、俺が目を覚ますと部屋の中にほのかな香りが漂っていた。
見回すと床の間に小さな花が飾られていた。
そばに寄って顔を近づける。そしてゆっくりと息を吸い込んだ。
(……いい匂いだ)
俺は鼻の奥に染み渡るような香りにうっとりとなっていた。


「おはようございます。お目覚めですか?」
襖の向こう側から敏明の母親の声が聞こえた。
俺は立ち上がって歩み寄ると襖を開けた。
「おはようございます。いい匂いですね、あれ」
そう言って俺は床の間に飾られた花へと視線を向けた。
「あら、桔梗の花?」
「へえ、これが桔梗の花ですか。寝てる間に飾ってくれたんでしょ?」
たしか寝る前はなかったはずだよな。
「いいえ私じゃ……まあ、誰がこんな悪戯を?」
敏明の母親はそう言って花を片付けた。
(悪戯? なんで花を飾ることが?)
俺はよく解らずに首を傾げた。
その時、
「おはよう清彦、よく眠れたか?」

ドクンッ!!

背後からかけられた敏明の声に俺の心臓が跳ね上がった。


「あはははっ、そりゃたちの悪い悪戯だ」
山郷を離れ駅へと向かう車の中、今朝の花の一件を話すと敏明は大笑いをした。
「そ、そうなのか?」
下を向いていた俺は少し上目遣いになりながら訊ねる。
すこし落ち着いてきた心臓の鼓動が再び激しくなる。
一体どうしたというのだ?
戸惑う俺に気づかず、敏明は説明を始めた。
「この土地の風習なんだけどね。桔梗の花は神野森家と神様の約束の証。俺の村でその花は神聖なものとして一族以外の人間の部屋に飾るようなことがあれば祟りがあるって伝えられているんだ。唯一の例外を除いて」
「唯一の例外?」
「その部屋の人物が一族と縁を結び嫁ぐ場合さ。村では婚約が成立した時に部屋に桔梗の花が飾られる風習があるんだよ」
「つまり俺が寝ていた部屋に桔梗の花が飾られたってことは……」
「現在神野森家で唯一の未婚者、つまり俺との婚約が成立したことを意味してるんだ」
「なっ!?」
俺は驚きに目を見張った。
「だからたちが悪いって言ったんだよ。まったく、いったい誰がそんな悪戯を」
そう言って敏明は苦笑しながら肩をすくめた。


第四章 変調

「ううっ」
大学のキャンパスを歩いていた俺は立ち止まって腹に手をあてた。
この数日、どうにも身体の調子が悪い。頭痛、腹痛、関節の痛み、今日は喉の痛みまであった。
おかげで昨日の面接は散々だった。たぶん……落ちただろうな。
おまけに……

「大丈夫か清彦? ずいぶん具合が悪そうじゃないか」
ドクドクドクッ

心臓の調子がときどき悪くなる。
声のした方に顔を向けると予想通りに敏明が心配そうな表情で俺を見ていた。動悸がさらに激しくなる。
「病院で見てもらったほうがいいぞ」
敏明の言葉に俺は小さく頷く。今日は元々そのつもりだったのだ。
大学病院へと歩き始めた俺を敏明はなにも言わずに付き添ってくれた。



コンコン

ドアをノックする音がした。
「……どうぞ」
俺の言葉とほぼ同時にドアが開いて敏明が入ってきた。
「具合はどうだ? なんか声もかすれてるようだけど」
「うん、今朝からね」
ここは大学病院の病室。一昨日診察を受けた俺は医者からすぐに入院を命じられた。
検査の結果、俺の腹の中で正体不明の「何か」が見つかり、そして肥大化しているとのことだった。
それが腹痛の原因であり、他の症状もそれがなんらかの影響を与えた結果だろう、とのことだった。
きわめて珍しい症状とのことで、原因の正体を研究する、ということで最上階の個室へと入れられた。
入院費は大学持ちらしい。が、そんなことを喜んでる余裕なんか今の俺にはなかった。


「清彦?」

ガバッ

俺は声をかけてきた敏明に思わず抱きついてしまった。
「俺、俺……もうすぐ死ぬかも知れない」
俺の腹の中にできたものが癌だったら……そう思うと不安で不安でしょうがなかった。
敏明はそんな俺を両腕で力強く抱きしめた。
身体を抱きしめる両腕の感触と密着した胸から漂ってきた敏明の匂いに俺の気持ちは少しずつ安らいでいった。


「よう、少しは元気そうだな」
病室に入ってきた敏明が明るく声をかける。
入院以来、こいつは毎日見舞いに来てくれる。
「まあな」
俺は小さく頷く。
腹の中のものは少なくとも癌じゃない。医者にそう聞かされて俺の不安はかなり解消した。
もっとも正体はまだ不明で、判明するまでは退院させてもらえそうにない。
声はかすれたままだし、腹痛や関節の痛みも相変わらずだ。ただ、そっちは鎮静剤の効果もあったし結構慣れてきた。
「ほら、近くの店で買ってきたぞ」
「おおっ」
敏明が持ち上げた箱に俺は歓声を上げてしまい、ちょっと恥ずかしくなった。
開けてみると予想通りシュークリームにエクレア、モンブランといったクリームたっぷりの菓子が中に入っていた。
病院食は味気ないと愚痴をこぼしたら敏明が差し入れてくるようになった。
最初は別の物もあったのだが、生クリームを口にしたときの表情があまりにも嬉しそうだったらしく今ではすべて生クリーム入り菓子である。
こんなに甘くて柔らかい菓子が好きだったなんて、俺自身ぜんぜん知らなかった。
スプーンでモンブランケーキを一口すくって口に入れる。脳の中まで蕩けそうになった。


第五章 告知

「先生、どうしたんです? 何か判ったんですか?」
俺は病院内の研究室に呼び出されていた。
教授を務める先生の表情がなんとなく硬く見えた。
その表情を見ているとだんだん不安になってきた。
「先生、もしかして俺、死んだりするんですか?」
すると先生は俺の問いに首を横に振った。
「いえ、今のところ生命に危険が及ぶことはありません。実はあなたの身体の中で発生した器官について正体が判明したんですが……私自身ちょっと信じられなくて」
「正体が判明した? なんだったんです?」
「これをご覧下さい。今朝の検査を解析して作成したあなたの身体の内部の透視画像です」
そう言って先生はディスプレイに一枚の画像を表示した。



「問題になっている器官はこの部分、初期の段階では臍の下のあたりだけだったんですが、肥大化するにしたがい左右、そして下へと伸びていきました」
「そうですね」
下の方はほとんど股間へと到達していた。比べると左右は短いが、両方とも先端がすこし膨らんでいた。
「かなり複雑な形ですね」
「数日前からその可能性は考えなかったわけではありませんでしたが……ここまで形がはっきりした以上、ほぼ間違いありません」
そこまで言って先生は大きく深呼吸をした。そして意を決して俺に決定的な事実を告げた。
「この股間に繋がる部分は膣、その上の袋のような部分は子宮、そこから左右に伸びているのは卵管で、その先にあるのは卵巣だと思われます」
「……………………は?」
俺の思考が凍りついた。


第六章 男性……喪失

目が覚めたのは真夜中の時間帯だった。
トイレに行きたくなり、俺はベッドから起き上がった。
ここは個室タイプの病室で、室内にトイレやシャワーもある。
トイレへと歩いていた俺は胸からの感触に気がついた。
(乳首が勃ってる?)
シャツの首の部分を引っ張り中を見てみた。
(……大きくなってる?)
毎日見ていたから特に気にしていなかったが、入院前の記憶と比べてみると乳輪や乳首が大きくなっているかも。それに……明らかに乳首が硬くなって突き出ていた。


トイレに入ると俺は自分の顔を鏡で見た。
(女に……なってきている?)
前からこんな顔だったろうか? 入院中は切らなかったので髪の毛が肩のあたりまで伸びていたたせいか女の子のように……見えるかもしれない。
(それに……睫毛ってこんなに長かったか? 眉毛も以前はもっと太かったような……それに口や顎のあたりも……)
疑ってみればきりがない。が、昼間の医者の言葉が暗示になってそんな気がするだけかもしれない。
左手でシャツをめくり右手を臍のあたりにあててみる。
(俺の身体の中に子宮? 膣? 卵巣?)
とても信じられない話だった。俺は正真正銘の男……その筈だ。


(先生はもう少し調べた方がっていってたけど……いや、やっぱり早く摘出してもらおう)
首を軽く振って俺は便器の前でトランクスを下ろすと狙いを定めるために右手で……
(なんだこの感触はっ!?)
右手から伝わってきたのはいつもとは違う硬い感触だった。それに股間から伝わってくるのは、かさぶた越しに触られるような感触?
驚いた俺は右手に力を入れてしまった。すると……

ポロッ

なにかが外れたような……外してしまったような感触。
ゆっくりと右手を持ち上げてみる。
手の中にあったは黒く……硬く……そして二つに折れていた男性のシンボルだった!!
「あ……ああ……あああっ」
小刻みに震える右手の中で塵と化し崩れていく俺の……
「あああぁぁぁ―――っ!!」
俺は絶叫し、そのまま気絶した。


「入るぞ、清彦」
ノックと同時にそう言うと敏明が病室に入ってきた。
「昨日まで面会謝絶だったから心配した……え?」
二、三歩歩いたところで敏明の動きが止まる。
「清彦……だよな?」
俺は無言で頷いた。
明らかに戸惑っている敏明。それはそうだろうな。
見れば俺だとすぐ判るだろう。しかし、面会謝絶の間に顔色は白く、眉や顎のあたりが細く変化していた。
「どうしたんだ、一体?」
「どうしたもこうしたも……見てのとおりだよ」
高く澄んだ女の声が俺の口から出てきたので、敏明の目がさらに大きく見開かれた。
俺は自分の身に起きた事を敏明に話した。

俺の体内で女性としての器官が出来上がっていたこと、男性としての器官は塵と化して元に戻すことが不可能なこと。染色体を調べたらXX(ダブルエックス)だったこと。

「……信じられん」
「俺もだよ。だけど……声も昨日からこんなになってしまったし」
それに……胸が膨らんできているのだ。パジャマのサイズを大きくして目立たなくしているが、もう「おっぱい」といってもいいくらいの形になっていた。
腰も張りくびれもある。肩幅も狭くなっていた。いつの間にか骨格も変化していたのだ。
決定的なのは……俺の股間の変化だ。
逸物が外れた股間には溝が刻まれていた。残骸の小さな突起の下から尿が出るようになり、立ったまま用を足すことができなくなった。そしてその下には身体の奥へと続く深い穴が……
「どうして……こんなことに」
敏明は小さく呟いた俺に近づくと震える手を両手で優しく包み込んだ。
「その……清彦、なんていったらいいのか……とにかくっ、何か困ったことがあったら言ってくれっ!! なんでも相談に乗ってやるっ!!」
不器用だけど、根拠はないけど……敏明の言葉が、決意を込めたその表情が嬉しかった。
「ありがとう敏明」


第七章 丸く……柔らかく……そして……

コンコン
「入るぞ」

ドアをノックする音と敏明の声がした。
「ちょっと待て、入るなっ!!」
開きかけたドアが閉まった。
(ええい、よりにもよってタイミングの悪いっ!!)
どうしようかと思ったが、今のままじゃベッドに潜り込むしかなくなる。
(それだと敏明を心配させることになるか。仕方ない)
俺はやりかけだった作業を続けることにした。


(ええっと、まずは前屈みになって、腕を通してカップ? に収める……だったよな)
純白のブラジャーの布地が自分の胸の膨らみを包む光景に心臓の鼓動が早くなる。
(俺が……ブラジャーをつけるなんて)
胸の膨らみは既に専用の下着なしでは行動に支障をきたすレベルになっていたのだ。
看護婦(正式には看護師らしいがこっちの方が馴染む。女性だしな)が測ったところサイズはDカップ。いつの間にこんなに育ちやがった!?
(次は……この状態で背中のホックを……)
…………よし、留まった。
(あとは形を整えてアジャスターを調整して。うん、完成っ)
「よし、いいぞ」
俺のその言葉を待ちかねたように病室の扉が勢いよく開き……

バタンッ!!

敏明は倍近い速度で扉を閉めて出て行った。

「…………あっ!!」

(しまたあああぁぁぁ―――っ!! ブラジャー着け終わって安心してパジャマ着てねえぇぇぇ―――っ!!)
俺はベッドに潜り込んで頭を抱えた。


「…………」
「なんだよ?」
俺はジロリと敏明を睨む。
敏明は無言で何もない壁を見ていたが、時々チラリと視線をこちらへ向けてくる。
「言いたいことがあったら言えよっ!!」
うっ、つい怒鳴ってしまった。怒っている訳じゃあ……いや、怒っているかも。敏明にではなく今の状況に。
「女みたいだって……思ってるだろ? こんなもの着て」
「いや……だから」
「着たくて着た訳じゃないっ、汚れてるからって前のを脱がされた後でこいつを渡されたんだ!!」
渡されたパジャマは折りたたまれた状態だったんで最初は気がつかなかった。
色はクリーム色、肌を傷めない柔らかな布地、ウエストが絞られ胸と腰の部分が大きな……たぶん女物だ。
サイズもぴったりしちゃって胸の部分がはっきり盛り上がっちゃってるよ。
ったく、「体型に合わせたパジャマ着ないと身体に悪いですよ」だと? そりゃ、確かにあちこち緩かったりきつかったり、あちこち擦れてヒリヒリしてたけど。
最近、肌がしっとりと滑らかな感じで感覚も敏感になって……おまけに筋肉落ちて全身むっちりと丸みを帯びてウエストはさらに括れるし……
緩やかだが確実に変化している身体。今着ているパジャマはそんな身体の現状を、隠すどころかはっきりと認識させていた。
(これが……俺?)
戸惑い、こんなもの脱いで早く前のパジャマに着替えようとしたところで敏明のやつが入ってきた。
前のブラジャーのときといい、まったくタイミングの悪いっ!!
俺が敏明を睨んでいると、敏明がチラリとこちらを見ながら言った。
「ごめん、悪かった」
すまなそうな敏明の表情に俺の心がチクリと痛んだ。
(いや、敏明が悪いんじゃなくて……どうしよう)
なんと言っていいか迷っていると、敏明がゆっくりと右手に持った紙袋を持ち上げて見せた。
俺はひったくるように紙袋を奪うと中身を確かめる。
「あっ、いつもより二つ多い♪」
言ってしまってから急に恥ずかしくなった。俺は無理やり不機嫌そうな表情を作って小さな声で言った。
「も、もういいよ。い、言っとくけどなっ、決してお菓子に釣られて許したとか……そんなんじゃないんだからなっ」

翌日……差し入れのお菓子の量が2倍になっていた。


第八章 急展開

「退院が決まった?」
先ほど先生から告げられたことを言うと、敏明が驚きながら言った。
入院当初からよく見舞いに来てくれた敏明だが、最近は毎日朝から晩まで、授業や用事のない時は殆どここにいたりする。
もうすっかりここに敏明がいることが当たり前になってしまっていた。他愛ない世間話もこいつとすると楽しいし、午後に出かけて買ってくる差し入れは俺の好みを正確に把握していた。
「ああ、『もう入院させておく必要がなくなった』だってさ」
差し入れのシュークリームを食べ終えた俺はそう言って肩をすくめた。
結局、あれから何度検査をしても結果は「正常(ただし女性として)」という結果しか出てこなかった。
成果が期待できないならこれ以上入院させても費用の無駄。ということなのだろう。
(三食昼寝つきの生活ももうすぐ終わりかあ)
などと考えてしまったことは誰にも内緒である。


「そうか……結局……女のままか」
「……ああ」
俺は小さく呟く。
実は敏明には内緒だが……俺は先週、初めて女としての生理を迎えていた。いわゆる「初潮」というやつだ。
さすがにこいつはこたえた。つらかったこともあるが、「妊娠可能」の事実が俺に「女になった」現実を突きつけていた。
既に診断書を添えて戸籍などの性別を女性に変更する手続きを開始している。うちの大学病院は結構権威があるから近日中に手続きが完了するとのことだった。


「じゃあ、その時にはこいつを着て?」
ちらりと見た視線の先にはハンガーにピンクのワンピースがかかっていた。
「言うなあぁぁ――っ!!」
俺は両手で頭を抱え込む。
「おふくろが『これからは女の子なんだから絶対にこれを着なさい!!』って。男の時の衣類や下着は全部処分されちまったし」
俺のことを知って複雑な表情の親父に対しておふくろの喜ぶこと喜ぶこと。
下着は何着も(ブラジャーはサイズが変わるたびに。ちなみに今はFカップだ)買ってくるし、あんな乙女チックな服を用意するし……
「退院する時は迎えに行く」と言っていたけど、その後どこを連れ回されるか……憂鬱だ。
ああ、「これからは女として生きていくしかない」って、決めていたはずの覚悟が揺らいでいくうぅぅぅっ。


「はーっ、それにしても」
「どうかしたのか?」
溜息交じりの言葉に敏明が尋ねる。
「いや、いまさらだけど、これで就職浪人確定だなーって」
今のご時勢、これから就職活動を再開したってどこにも求人なんか残ってないだろう。
また一年かけて……いい会社が見つかるかどうか。
すると敏明が少しそわそわした後で俺に話しかけてきた。
「なあ清彦……よかったらその……卒業した後は……一緒に……俺の田舎へ行かないか?」
「え? いや、さすがに就職浪人の状態で遊びまわるわけには……」
「いやその……旅行とかじゃなく……その……暮らさないかと……」
うーん、敏明の言葉は歯切れが悪くてよく解らん。
「お前の田舎で働けってことか? 農村で経営学部の知識なんか役に立つのか?」
「え? ああ、農作物の生産や作業の効率化には経営的な戦略が必要になる。経営学はむしろ必要な分野だ」
なるほど、そういうことなら理解もできるし納得もできる。なんだ、そういうことならそうとはっきり言ってくれりゃいいのに。


「わかった。いいぜ、俺もお前と一緒のほうがいいからな」
そう言うと敏明は大きく身を乗り出した。
「本当か? 本当に一緒になってくれるのか?」
「ああ、本当さ。卒業したらお前と一緒になってや……ん?」
あれ? なんか変? 俺は「卒業後は一緒に敏明の田舎で働く」という意味だと思ったんだが、一緒になる、一緒になる……え?
「ちょっと待て!! その『一緒になる』って……もしかして…………プロポーズ?」
顔を真っ赤にして敏明が頷く。それを見て俺の方も真っ赤になった。
「いやそのっ、俺は女で、本当は男…じゃなくなったけどっ、戸籍だってもうすぐ女になるしっ、ああっ、なにも問題ないじゃないかあぁぁぁっ!!」
完全にパニクッてしまった。


何度も大きく深呼吸。そして上目遣いになりながら小さい声で訊ねる。
「……俺で……いいのか?」
「清彦が……いいんだ」
あ……いまズキュンときちゃった。なんか胸とお腹のあたりがキュンキュンとなってるよお。
敏明の両腕が俺の身体を包む。
俺が敏明と……悪くはないかも。敏明は優しいし、敏明と過ごす時間は楽しいし、結婚したらすっと一緒に……一緒に……
近づいてくる敏明の顔が涙で滲んできた。目を閉じた瞬間、唇が暖かいもので包まれた。
俺と敏明は……それからしばらくの間、ずっと唇を重ね合わせていた。


第九章 真相

そして季節が冬へと変わった頃、

雪が舞う中、車を降りようとすると、ドアが開かれ先に降りた敏明が手を差し出してきた。
「さ、清彦……清美」
(やれやれ、ナイト気取りか?)
そうからかってやろうと思ったが……やめた。
敏明の手を取って車から降りると、大きな玄関が目の前にあった。


退院後、戸籍の性別や名前(清彦→清美)の変更手続き、免許証や学校の書類の書き換えや説明などで色々と大変だった。
他にはランジェリーショップで際どい下着に目を回したり、ブティックで着せ替え人形にされたり、コスメショップで化粧品を塗りたくられたり……
おふくろ、いくら昔から「娘が欲しかった」からと言っても、あれははっきり言って拷問だよ。
まあ、そんな騒動もようやく一段落したので、俺は再び敏明の実家を訪れたのだった。


敏明の表情が緊張に包まれている。まあ、俺も緊張しているけどな。
家に入ると前回と同じように敏明の両親が立っていた。ただ、こちらと同様、敏明の両親も緊張しているようだった。
そりゃそうだろう。前は男友達だった俺が、今度は「敏明の彼女」としてここを訪れたのだから。
「父さん、母さん。彼女がその……」
敏明が俺のことを説明しようとすると、父親が手で制して遮った。
「うむ、判っている。二人とも上がって来てくれないか。話しておきたいことがある」
そうして敏明の両親は俺たちを奥の座敷へと案内した。


座敷で用意された座布団に俺たちが座ると敏明の父親が話しかけてきた。
「これから話すことは他言無用に願いたい。敏明、お前は私の祖母、お前にとって曾御婆様のことは憶えておるな」
「はい、隠居して別宅に住んでいましたが、よく遊びに行ってましたから。亡くなってちょうど1年になりますが、たしか96歳だったと思います」
「これはその曾御婆様が亡くなる直前に私にだけ語ったことだ。曾御爺様は若い頃に軍隊に入り、そのまま海外へ赴いたこともあり二十歳を過ぎても結婚する気配がなかったそうだ」
第二次世界大戦、いや、それよりも前の話か。
「曾御爺様が二十一歳の時、一ヶ月の休暇を与えられた曾御爺様は身寄りのない同僚を連れて帰省した。すると3日目の朝、同僚の寝所に桔梗の花が飾られていたそうだ」
「え?」
なんだか激しくデジャビュを誘う話だった。
「あの……曾御爺様の同僚ってことは軍人、つまり……男ですよね?」
「うむ、ところが五日目から腹痛をもよおし、一月後には……女性(にょしょう)に変じていたそうだ」
「「ええっ!?」」
俺と敏明は驚きの声を上げた。


「本家の中で相談した結果、このことは内密で処理することになった。その同僚は病で急死したことにして身柄を本家で預かった。そして一年後、除隊した曾御爺様は娘となった同僚と祝言を挙げたそうだ」
「じゃあ、曾御婆様は……女性になった同僚の軍人だったんですか?」
「曾御婆様はそうおっしゃっていた。恐らく約定どうりに結婚しそうになかったので、神様が一番仲のよかった人物を嫁としたのだろう。当時の関係者の間ではそういう結論に至ったらしい」
「じゃあ……俺の身に起こったことも……」
「この話を聞いたとき、曾御婆様は余命いくばくもない状態だったので妄言だと思ってしまったのだ。すまぬ、私が話を信じておれば……妻と敏明にこの話をしておれば……」
そう言って敏明の父親は深々と頭を下げた。


第十章 暴発

「……なあ、敏明」
俺を離れまで送ってきた敏明は、俺が呼びかけても下を向いたままこちらを見ようとしない。
そんな敏明を俺は少し強引に部屋の中に入れると襖を閉めた。
夜も更けて俺が寝泊りする部屋には既に布団が敷かれていた。
部屋は以前使わせてもらった部屋と同じだが、布団のサイズが一人用にしては大き過ぎるってことは……やっぱ期待されてるんだろうな。
しかし、今のところ敏明が俺に手を出すような素振りは見えない。
やはり父親から聞かされた曾御婆様の話がショックだったのだろう。
それは俺も同様だった。まさか俺がこうなった原因が敏明の……


「すまん、俺のせいで清美……清彦は……」
俺は右手で敏明の言葉を遮った。
「お前のせいじゃねえよ。俺を女にしたのはこの土地の神様だろ?」
「しかし俺が早く彼女を見つけなかったから」
「まあ、確かにそれが原因だったらしいが。なあ、もし俺がこうなる前に曾御婆様の話を聞いていたとして……敏明は信じていたと思うか?」
敏明の父親から話を聞いたときからずっと考えていた。敏明が事前にこの話を聞いていたら事態を避けられただろうか? 俺の推測では……
「たぶん……信じていなかったと思う」
だろうな。
こんな話、伝え聞いただけじゃとてもじゃないが信じられん。信じられなかったということは……
「だからさ……こうなるのはどうやっても避けられなかったんだよ。お前が責任を感じる必要はねえよ」
そう言って俺は左手で敏明の右頬を撫でた。


俺と敏明は正面から向き合う形になり、敏明の視線はやや下、俺の胸の膨らみへと向けられていた。
(あ……見られてるって意識したら……乳首が勃ってきた)
左手から敏明が生唾を飲み込むのが感じられた。俺の心臓が強く脈打ち始める。
このまま一気に……と思ったのだが、敏明は首を激しく振ると目を伏せた。
(……こりゃあ、今夜はないな)
こちらも昂ぶっていたものが静まり、俺は軽く溜息を吐いた。
「やれやれ、今まで手続きがどうの買い物がこうので、やっと二人っきりになれたってのに」
俺の呟きに敏明の首が大きく項垂れる。
「俺もさ……今日は心の準備というか……覚悟していたんだぜ。今夜は敏明に処女を捧げることになるのかなあって……」

ガバッ!!

突然敏明の顔が上がり、大きく目を見開くと俺を両腕で抱きしめた。
「と、敏明っ!? ムグッ!!」
敏明の口が俺の口を塞ぐと舌が侵入してきた。
(そんな、さっきまでそんな気配なかったのに……まさか……まさかさっき俺が「処女を捧げる」って言ったのが起爆スイッチになっちゃったってことかあぁぁぁっ!?)


第十一章 嵐のごとく

敏明の舌が荒々しく俺の下に絡んでくる。
(あ、頭がボウッと……それにお腹がキュンキュンいってるよおっ!!)
二人の唇が離れるとその間を唾液が糸を引いた。
敏明が俺のブラウスのボタンを外して剥ぎ取った。
次にブラジャーに手をかける。が、しっかり胸に巻きついたブラジャーは引っ張っても外れない。
俺は右手を背中に回すとブラジャーのホックを外す。ブラジャーは勢いよく俺の身体から離れていった。
Gカップに到達した乳房がベロンッという感じで姿を現し、上下に揺れた。
続いてスカート、ショーツと脱がされ、俺は生まれたままの姿になった。……いや、生まれたときはこの姿じゃなかったんだが。
俺たちは布団の上へ倒れこみ、そして絡み合う。
敏明の手が俺の乳房をつかみ、首筋に舌を這わせる。
「やっ、そんなっ……そんなにっ……激しくっ!!」
敏明の激しい攻めに俺は切れ切れに叫び声を上げる。……が、
(い、痛いっ!! 痛い……けど……けど……気持ちいいっ!!)
苦痛はやがて快感へと変わっていった。
(か、感じてるっ……お、俺っ……敏明にっ……女としてっ……感じてるよおぉぉぉっ!!)
敏明に揉まれている乳房の先端はカチカチになって尖っていた。そして俺の股間は……じっとりと湿り気を帯び始めていた。


敏明の手が俺の身体を撫で、そして揉み上げる。
「はうんっ!!」
舌が首筋を、そこから乳房へと這う。
「あはあんっ!!」
そして乳首を吸う。
「うふんっ!!」
指が股間の突起……クリトリスを擦る。
「ひいんっ!!」
快感のうねりに翻弄され、俺の口からは意味のない喘ぎ声しか出てこない。
そして俺の股間はさっきから洪水状態で、さらに潮を吹き続けている。
敏明は俺の両脚を開き、間へと入ってきた。
処女(?)の本能だろうか、俺は身を硬くして脚を閉じようとする。が、
「き……清美」
敏明の呟き、そして切なそうなその表情。
(と、敏明が……俺を欲しがっている……俺を……必要としている)
脚の力が抜けていった。
敏明が俺の腰を持ち上げる。そして……

「はうぅぅぅ―――っ!!」

身体が裂けるような痛みだった。


(や、やっぱり痛てえぇぇぇっ!!)

俺は両手で布団を握り締めて痛みに耐えた。
「や……やさ……やさしく……ああっ!!」
俺の処女を貫いた敏明の熱い逸物はさらに中へと進み、奥で蠢いている塊……子宮へと到達した。
「ああ……いま頭にズンときて……ああっ!!」
敏明が力を緩め、そして突き出す。衝撃が脳天を再び襲った。そしてもう一度、さらにもう一度……
「あっ、あんっ!! あんっ!! あんっ!! あんっ!! あんっ!!」
痛みが快感へと……いや、痛みすら快感と化して俺の身体を貫いていく……
「きっ、清美っ!! 清美いぃぃぃ―――っ!!」
「き、きてっ!! 敏明っ!! きてえぇぇぇ―――っ!!」
敏明の身体から熱い迸りが放たれ、俺の子宮へと注がれた。

「「ああああぁぁぁ―――っ」」

俺と敏明は同時に絶頂に達した。


終章 寄り添う松のように

そして……

「たーかーさーごやー」
冬が終わり季節は春、庭には満開の桜が咲き誇っていた。
「こーの浦舟に帆ーを上げて、こーの浦舟に帆ーを上げて」
そして、座敷に俺の両親と神野森の一族、村長ほか村の有力者がずらりと座った座敷の上座に俺と敏明はいた。
「月もろともに出で汐の、波の淡路の島蔭や遠く鳴尾の沖過ぎて」
敏明の方は漆黒の紋付袴、逆に俺が着ているものは白一色、顔も白粉を塗られて口に紅を差し、髪を文金高島田に結い上げていた。
そう、今行なわれているのは俺と敏明の祝言である。
(俺が白無垢着て花嫁をやるとはなあ)
一年、いや半年前にはとても考えられなかった事態である。
(あの頃の俺は……就職のことしか頭になかったな。それがこんな形で「永久就職」する事になろうとは。しかし……)
ここだけの話、この花嫁衣裳は結構きつい。形を崩さないために巨乳を締め付けてるからなおさらである。
それでも……
「はーや住の江に着きにけり、はーや住の江に着きにけーりー」
仲人の「高砂」が静かな座敷の中を流れていく。
白無垢にこの身を包み、敏明の下へと嫁いでいく。祝言という行為に俺の心は高揚していった。


で、夜も更けて祝言とそれに続く宴会が終わってしまえば、待っているのはやっぱり……

「あっ……はあっ……はあんっ!!」

離れの薄暗い和室の中に女の声が響く。
ピチャ、ニチャ、とかすかな音が聞こえる。すると直後にさらに鋭い女の……俺の喘ぎ声が音をかき消す。
敏明の舌が俺の首筋を這い、手が俺の豊かな乳房を揉む。俺の声が鋭さを増す。
やがて敏明が俺の脚の間に割り込み、腰をぐっと押し出す。俺の身体が大きく仰け反った。
敏明の腰が少し下がると再び突き出す。徐々にその間隔が短くなる。
子宮を刺激され、俺は身悶え長く艶やかな髪を振り乱す。
そして敏明が腰をひときわ強く押し込むと小刻みに震えた。

「あっ、あああぁぁぁぁぁぁっ!!」

熱い迸りを子宮に受けた俺の絶叫が響き渡った。


気がつくと俺は布団の上で横になっており、少し離れた位置で敏明が俺を見つめていた。
俺は身体を半回転してうつ伏せになりながら敏明のそばへと寄った。
「敏明」
「清美、どうだった?」
「うん、……よかった」
俺の頬が赤く染まる。

本当に……よかった。男の時に精を放った時とは違い、余韻がいまだに身体の中を駆け巡っている。
そんな俺の頬に敏明が軽く口づけをする。
「これからは夫婦としてずっと一緒だ。大切にするよ清美」
敏明のそんな言葉がこの上もなく嬉しい。
男の俺が女になってしまったのも、敏明の妻になったのも恐らくはこの土地の神様の仕業なのだろう。
だけど……もういい、もういいのだ。
俺はこれから敏明と一緒に生きていくのだ。夫婦として……「高砂」で歌われた寄り添う松のように。


「もう一回……しようか?」
敏明が俺に尋ねてくる。
俺は敏明の唇に自分の唇を重ねることで同意した。
お互いの舌が絡み合う。敏明の手が俺の乳房に触れる。俺の中の子宮が期待に震えていた。

真面目で、素直で、優しく、そして一途に俺を想ってくれている敏明。
その敏明の愛撫の優しさに、俺は彼に愛されていることを意識し幸せを感じていた。


ただ……たまには最初の夜みたいに激しく、荒々しく、突き破るかのような勢いで攻めて欲しいっ!! って思うことも……あったりするんだよね。
イラスト見て電波が飛んできて書き始めたんですが……形になるのに時間がかかってしまい、掲示板にアップしたとたんに落ちてしまいました(笑)。
身体が少しずつ変化、というのは結構好きなパターンです。今回はそれに「気づかないうちに変化が進行」というのも加えてみました。
終章で仲人が歌っていた「高砂」は時代劇の祝言のシーンで定番になっているようで、ご存知の方も多いと想います。旧家の雰囲気に合うと思い使わせていただきました。

楽しんでいただければ幸いです。
ライターマン
0.8610簡易評価
32.100きよひこ
ライターマンさんキターーー!
43.100きよひこ
GJ
44.100きよひこ
ライターマンさんきたああ。
本当にクオリティ高いっす。楽しませていただきました
51.100きよひこ
GJ!
57.100きよひこ
今日って何日? 14日?
3日間もこのUPに気付かなかったとは何という事 orz
嬉しいのでとりあえず舞ってくる
78.80きよひこ
GJ!!
84.20Tracy
Felt so hopeless lokonig for answers to my questions...until now.
94.10きよひこ
何この変な展開