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『君に素敵な力をあげよう♪』
夢の中、そんな声を聞いて目を覚ませば、なるほど頭の中でチュートリアルが開始された。
「へぇ」
ものの一分ほどでそれは終わったが、本来ならその程度じゃ済まない量の情報が頭に刻まれた気がする。
んー、なんと言ったらいいかな……
PCのインストール画面を見ながら、その裏で何が行われているのか理解できるという感じ……例えようがないな。
兎に角どういう理由で、どうして俺なのかは知らないが、貰ったなら早速試してみたいと思うのが人というもの。
起こした体を再びベッドに横たえて、精神を集中させる。
「んー……んんん?)
ほぉ、思ったよりすんなりいったようだな、さっきより視界が天井近くに上がっている。
そしてクルリと体を回してみれば、目の前に眠っている『自分』がいる。
鏡を介してではなく、こんな風に客観的に自分を見るというのは、不思議と面白いものだ。
一応、やれる事はやってみたので体に近づくと、まるで強風に押される感覚と共に、肉体の五感が戻ってきた。
(うーん……」
とまぁそんなこんなで、俺は幽体離脱の力を手に入れたのだ……が。
実はコレでまだ本来行使可能な力の、ほんの一部に過ぎない。
しかし現状では、これ以上の事は出来ないし、幽体離脱自体も……まだ『制限』があるのだ。
その『制限』の感覚が鮮明に焼き付いた背中を擦るも、勿論火傷なんてしておらず。
「もう一度……)
確認のために、再度幽体離脱を試み、そして自分自身を見つめながらゆっくりと体から離れてみる。
(ぐっ、やっぱコレが限界か)
自分の体から、およそ1m強。
この距離が、今現在幽体が肉体から離れられる限界だ。
この範囲を無理に超えようとすると……
(うっ、ぐっ……いだだっ!)
背中が見えない壁に押し付けられると、焼けるように熱くなって、徐々にその感覚すら消えていくのが解る。
要はこれ以上離れようとすると、魂が滅却されてしまうようで。
本来ならばそんな危険な事、敢えてすべきではないのだが、チュートリアルによればコレを堪える必要があるらしい。
どういう事かというと……この力、何を思ったかレベルアップ制を導入しているのだ。
つまり次の段階に進むには、今出来る事を極めないとならない、というわけ。
全く、なんだってこんな回りくどい事をするんだろうと思いつつも……
好意的に考えれば、恐らくいきなり全てを行使できる状態を人に与えると、精神が壊れるとかそんな理由なのだろう。
それが証拠に、一応何が出来るかは頭の中に入っている……が、それを引き出そうとしてもぼやけた記憶でしかない。
まぁそんな状態なので、更に愉しみたければ、これをどんどん解放していく必要がある、といった次第だ。
結局その制限を取り払うために初日は、魂を焦がす作業に追われるだけに終わったのだった。
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二日目。
(やっとここまでこれたか、長かった)
流石にこんな短距離の幽体離脱だけというのはあまりにもつまらないし、もう次のレベルも見えていたので……
一晩かけて約1m強だったのを、45m先まで行けるようにしておいた。
自分でも良くもまぁやるもんだと思うが、これも更なる愉しみの為である……我慢、我慢。
さて、5mではまだ家の中ですら端まで行けないが、逆に言えば行ける範囲ならばそこはもう自分の空間、だという事。
つまりだ、隣の部屋に侵入する程度わけない……そう、妹の部屋にも、だ。
俺には妹がいる、ただまぁ萌えるかと言われれば……妹持ちが揃えて口に出す『幻想だ』の一言で片付く。
それでもだ、年が近しい肉親、それも異性ならば自ずとイタズラしたくなるのは、当然である……よな?
幽体なら壁も難なく通過出来、直接妹の部屋へと侵入するのもわけない事……あぁ久しぶりだな、この部屋を見るのも。
(よしよし、グッスリ眠っているな)
時間も深夜で、健全な女子である妹は既にベッドで熟睡中。
こうしていればそれなりに可愛い妹なのだが、まぁいわゆる『兄を蔑んだ目で見る』タイプの妹なんですよ、えぇ。
え? 俺に原因があるんじゃないのかって? ……何故ばれたし。
そりゃ確かに度の過ぎたイタズラしたのが原因だけど、そこまでじゃ……なかった、はず。
まぁ、こちらとしても『近くて遠い他人』である現状に不満は無いがね……理由は忘れたが。
取り敢えず御託は置いておいて……さてそれではお待ちかね、妹の体を乗っ取り……
と言いたいところだが、残念ながらまだそのレベルに達していないのだ、スマソ。
しかもだ、今の幽体で妹に触ろうとすると、だ。
ヒンヤリとした感触と共に、幽体の筈の俺が妹の頬に『触れている』。
(やっぱ駄目なのか)
幽霊なのに、他人の体を透過出来ないという衝撃の事実が今、明らかに。
……一応、チュートリアルで説明されたとはいえ、改めて実感するとおかしなもんだ。
一体何が原因かというと、ずばり妹が『生きている』からである。
つまり肉体という『物質』は透過出来ても、内包した魂が干渉してしまい、それ以上先には潜り込めない、というわけ。
これもまたレベルを上げればどうにか出来るようだが……残念な結果に、肩を竦める。
(しかし、だ)
じゃあ今何が出来るのかというと……
(えぃや)
「うぅん……」
大胆且つ豪快に、妹の胸を鷲掴みすればいいじゃない。
勿論触れているのは肉体の方ではなく、魂の方だが。
それなのに、妹はその触られた事に反応したかのように、少し呻いて体を捩らせた。
(なるほどな)
肉体は魂の器とよく言うが、その魂も成長と共にその器通り『変化』する、らしい。
つまり俺も含め魂というモノは肉体同様の形状をしていて、妹の魂もその肉体通りの体つきをしている。
当然胸もあって、更にそれが女性なら敏感なところだという事も、魂は『記憶』しているのだ。
なので今、妹は胸を揉まれる感覚『だけ』に襲われたはずだ、胸を触る触感そのものはない、はず。
『幻肢』という言葉があるが、それはこの魂に刻まれた肉体の記憶が残るせい、なんだろうな。
そんな事を考えながらも、妹の魂の胸を揉み続けていると、だんだんと妹が喘ぎ始めた。
「うん……うぅん……」
(んー起きないな、ちっぱいは感度も小さいのか?)
妹は残念なお胸族の仲間だ、本人はステータスと胸を張るよかコンプレックスとして捉えているが。
そんなわけなので揉み心地もそれ相応に控えめ。
更にその上で、魂に触れてもそれこそ虚ろな触感な事もあって、こっちとしても気持ち良さに欠けるのだが。
(ならば)
胸を揉むのをやめ、股間に手を伸ばす。
寝巻きだろうが下着だろうが陰毛だろうが、魂の方のアソコに触れるのに、妨げになるものは何もない。
じっくり見定め探り当ててから、キュッと妹のお豆を摘むと。
「ふぁっ!?」
飛び起きた。
「なっ、何!?」
辺りを見回すが、勿論俺の姿は見えていない。
……どうなんだろう、霊感がある人ってのは、こういう時俺のような存在も見えるんだろうか。
あーでも、生霊扱いだから見えるのかな……っとと、気のせいと思ったのかコイツまた寝る気だな、そうはさせん。
そうだな、とりあえず今度は指でも挿入れてみようか、魂の、だけど。
スッと指をあてがい、ワレメに包まれた妹の穴に指を二本入れる。
「ひぁうっ!!」
……おぉう、コイツでもこんな声出せるんだな、意外。
流石に異常事態だと気付いたようで、布団を剥ぎ自分の体を何事かと見回し始めた。
と、いう訳でもういっちょ。
「あひっ……! な、何なのよ!?」
アナタの魂の膣内に指を入れてるノデース、お前の嫌いな兄の指ヲネー。
まぁ魂の方をどんなに弄ったって、喪失の心配はないからな、妹思いの優しい兄ちゃんだろ?
んーでも、実際のところを知っている訳じゃないがこの感じ、そもそも……?
「あっ……な、なんか、お腹の中で動いてる……!」
異変の出処が分かると、恥じらうより恐怖心に突き動かされたのか下着を脱ぎ捨て、引き出しから手鏡を取り出した。
「な、何もな……あぁんっ!!」
当然肉体の方は何も異常はない……本人にその気はないのに、若干濡れているのが異常と言えば異常だが。
肉体の方のワレメは閉じていても、魂の方は指で目一杯拡げているので奥まで丸見えだ。
それにしても不思議なもので、真っ暗な室内だというのに膣奥に見える子宮口すらはっきり見える。
「い、いやぁ……なんなのこれぇ……」
今にも泣きそうな声を上げる妹、おぉ、その声エロいぞ。
まぁ声が震えるのも無理はないか、閉じているはずの膣口が拡げられる感覚に、膣内で蠢く指の感覚……そら、怖い。
というわけで恐怖を快感で上書きしてあげようじゃないか、いやぁホント優しいな俺って。
それには指だけじゃダメだな……当然『コイツ』の出番だ、もうすっかりやる気になってるし。
さらに服を脱ぐという余計な手間もないし、準備万端もいいとこだ。
ベッドの『中』に下半身を潜り込ませ、ぺたんこ座りする妹の下から徐々に上げていく。
(まるでチ○コ付きベッドだなこれじゃ)
そして狙いを定め、俺の魂のチ○コを妹の魂のマ○コに突き立……自分で言っておいて萎えるな、この呼び方。
(ま、いっか)
やっと奇妙な感覚が消え、ホッとしている所悪いが、今から挿入するからな。
なぁに痛くはないさ、なにせ突っ込むのは魂の方だし。
「ひっ……!」
再び襲い来る感覚に声を上げる妹だったが、もう遅い。
チ○コがじわじわと呑み込まれていく……が、膣壁を押し広げる感覚『だけ』しかなく、どうにも気持ち悪い。
「やっ、やぁぁ……! こ、これってぇ……!!」
……何が挿入ってきてるのか解るって事は、やっぱ非処女かコイツ、相手は誰だ?
まぁ俺はそれでも構わない、どんな形であれ妹と繋がった事に、俺は何より興奮しているのだからな。
ズブズブ押し込んでいき、奥まで呑み込んだところで魂の子宮に触れた。
(うっ……ま、まだ)
妹のオンナノコ……それを想像しただけで理性がぶっ飛びそうだってのに。
「やっ、やぁっ……ひぁんっ!」
(ふぉっ!?)
妹の、予想外にエロい喘ぎ声に思わずビクッとしてしまい……その瞬間、ピュッと……出してしまった……
「はぁんっ!」
(し、しまった……!)
お、俺としたことが……早い、早いよ!
妹は妹で、突然の『中出し』された感覚に体を震わせ、枕を抱きしめ必死に堪えていた。
……って、魂が射精するはずもなく、多分跳ねたチ○コに反応したのだろうが。
「ふぁっ……あ……?」
(……)
色々とバツが悪くなって、スススと身を引いて妹から自分のを抜く。
膣内に入り込んでいた感覚が消え、妹は漸く落ち着くことが出来て、息を整え始めた。
そして、ハッとしてから慌てた様子で股間を再度確認し始めた。
「……ゆ、夢……?」
……それで片付けるのかオマエ。
まぁそれでも構わないさ、ある意味間違いではないんだからな。
その後も妹は何事だったのかと自身を弄っていたが、本当にエロい夢を見たのだろうと結論付けたようで、横になった。
(おいおい)
本当に夢扱いするのかよ……そりゃ相談すら出来ない事ではあるけど。
まぁそう思いたいならそうすればいいさ、その方がこちらとしては助かるしな。
さあって、目的は果たした事だし、そろそろ自分の体に戻るとするか。
……余談だが。
体に戻る際、ちょっと覚悟をしないといけない。
何の事かというと、魂における視覚は物質を透過する、という事だ。
簡単に言えば、モノに顔を埋めると、その中が『ハッキリ』と見えるという訳、つまりだ……
(おぇっ)
グロ注意、である。
(んー……」
声を出して、肉体に戻った事を確認する。
抜け出ていた時間が長ければ長いほど、意識の覚醒には時間がかかる。
と、大げさに言えばそうだが要は……ただ単に寝起きだって理由なだけだが。
「はぁっ、魂でもあの調子かよ」
ため息を付いて自分を呪うものの、まぁ……仕方がないな、なにせ『初めて』の挿入感だったし。
「さてと、俺も寝るとす……まさか」
妹同様、俺も布団を剥いで下を脱ぎ、確認すると。
「……うわぁ……」
こんな状況でも……夢精、と言うんだろうかね。
ティッシュである程度拭いても流石に気持ち悪すぎるので、風呂場に行こうと部屋を出ると……
「あ」
「あっ……」
ほぼ同時に、隣の部屋の扉も開いた。
「……トイレか?」
「!! 五月蝿いっ!!」
図星だったようで(知ってた)、顔を真っ赤にして一階に降りて行く妹。
「やれやれ……って、あ」
先に行かれた……俺処理出来ないじゃん、勝手に行こうものなら殺されるし。
仕方なく、妹が出るのを待ってから風呂場へ。
「うへぇ」
ヌチャッとしたパンツを洗いながら、自分もちょっとシャワーを浴びていると……
なにやらヌルッとした液体が床に……これってまさか。
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三日目……は、オンゲーのイベント参加で気付けば一日中PCとにらめっこだったので、四日目。
「えー、えーと……なるほど、わからん」
とは言っても三日目にもちょくちょく幽体離脱はしていたので、既に次の高みへと進んではいる。
で、その新たな力を実践する前に、念入りな再確認中。
レベルが上がり解禁された能力に期待が膨らむ一方、いきなり内容が大学レベルに跳ね上がり、頭を抱えている真最中。
なんですか『ゆらぎ理論』とか『幽体波長による干渉率』って。
非科学的な力のくせして、なんでこんな専攻学的内容レクチャーされにゃならんのだ……
とはいえ、こんな難しい内容だというのに、『ナルホド』と思うだけで本当になるほどとなる不思議。
どうやらこの能力を使いこなす為の補正でもあるのか、一度得た情報は、自動的に理解し、記憶するようだ。
言わば講義に出るだけで単位が取れる素敵仕様、実に学生に優しい教授(?)だね、うん。
「よしでは、逝ってみようか)
強ち間違いではない一言と共に、一日ぶりの幽体離脱を開始する。
目標は勿論、妹だ。
(お邪魔しまーす)
一応声を掛け(起きていても聞こえないだろうが)、隣の部屋へと侵入する。
あ、そうそうこの力、レベルさえ上がれば下位の能力は自動的に強化されるようで。
一昨日は妹の部屋、それも壁に隣接したベッドまでが限界だったのが、今や妹の部屋全てが見放題である。
更には家の外まで行けるにまでは至っているので、妹以外の女性にちょっかいを出すのも可能……だが。
ここは逸る気持ちを抑え、妹で新たな力を実験するのがベストだ。
何より……『コレ』はまず見知った女性からというのが相場、だからな。
(に、しても)
一昨日の事なんかなかったかのように、ぐっすりと眠っちゃってまぁ……コイツ、本当に夢で片付けたのか?
まぁいいさ、今度は本当に夢のまま終わらせてやるから、安心して眠っていてくれ妹よ。
と言うか実際、眠っている今がチャンスであり、裏を返せば今しかないのだ。
(では……試させてもらおうか)
期待に胸を膨らませながら、妹に近づく。
まずは前回同様ただ単に触れてみる……が、やはり妹の魂に拒まれ、薄皮一枚より先には俺の幽体は入り込めず。
そこで、今度はチュートリアルにあった方法を試してみる。
(こう……か?)
取り敢えずいきなり全身は不安が残るので、まずは手だけ。
妹の手に添えるようにして自分の手を置き、見た目としては自身の手を震わせるようにして動かす。
(よっ、ほっ、これで……どうだ?)
次第に早まる震えがその表現を超え、ブレ始める。
徐々に感覚が失われていく手を慎重に動かし、『ポイント』を探る。
そうして暫くすると、ある一点でまるで沈み込むように俺の手が妹の体へと入る場所が見つかった。
(ここか、よし)
そのまま手は妹の手の中へと入り込み、遂には手首から先が完全に収まった。
するとどうだろう、一度は消えた手の感覚が再び戻り始め、温かさも感じるようになったじゃないか。
試しに手を握り、開いてみると……
(おぉっ)
動いたのは俺の手ではなく、妹の手……勿論妹が偶然にも動かしたわけではない。
それが証拠に、眠る妹が幽体の俺とジャンケンをしているのだからな……当然一人芝居なのだが。
(不思議な感じだな、コレ……)
まるで自分の手じゃないような……って、実際そうなんだが。
(よし、コツは解った)
理解してしまえば何の事はない、いとも容易く行える。
さて今度は引き抜くわけだが、ここで気をつけないといけない……のに!
(あだだだだっ!)
手っ、手が! 千切れるかと!!
焼けるような痛みに思わず手を振って冷まそうとする、幽霊なのにね。
まだレベルが低いせいで、入れる時同様出す時も慎重且つ丁寧にやらないとこういう目に遭うのだ。
(ふーっ、気をつけんとな)
今のを全身で受けたらたまったもんじゃないからな……えぇそうです、全身ですよゼ・ン・シ・ン。
手を乗っ取って、その感覚すらも俺のものになった、なら……全てを乗っ取ったら?
そう! ねんがんの にょたいを てにいれられるぞ! ……まぁ妹のだけど。
それでもだ、長年の夢が今現実のものとなるこの日この時を、どんなに待ち侘びた事か!
(……うしっ!)
気合を入れ、妹の上に覆い被さるようにして横になる。
「うぅん……」
と、体を密着させると妹が寝言で唸った。
おいおい、魂ですら俺の事拒絶してるのか?
だがな、これから更に密着、そして融合するんだから……我慢しろよ?
(ふぅーっ……)
妹の上で精神集中を始める。
さっきの要領で、今度は全身をブらし、妹の魂に合わせていく。
(うっ……)
それこそ魂が揺さぶられる感覚に酔いそうだが、そこは期待と持ち前の我慢強さで乗り切る。
一度侵入経験のある手を頼りに、全身を例のポイントに合わせると……
(おぉっ!?)
ズブッと、体が沈み込んだ。
そのままゆっくりと体を妹の『ナカ』へ染み込ませていく。
(なんかすごく、温かいな)
予想外の気持ち良さに思わず眠たくなるが、それが本当の眠気である事に気付くには、そう時間はかからなかった。
沈み込む体、強まる眠気……そして間違いなく感じられる、布団の温かさと、その温もりの元。
(お、お、おー?」
心の呟きが、声として漏れた……気だるそうな、女の声で。
もうそれを聞いただけで脈拍が早まり、目が冴えるのには十分だった。
手の感覚が、足の感覚が、そして全身の感覚が戻る……それも、自分の体と全く違う感覚で。
違和感よりも、高揚感の方が強かった。
そして完全に妹の中へと溶け込んだ俺は、突然見えなくなった視界を、瞼を開けて再び取り戻していった。
視線の先に、天井。
さっきより全然夜目が利かないが、それでも視力が違うのは……分かる。
「……」
のそりと起き上がり、ベッドに腰掛けるように座る。
辺りを見回せば自分の部屋じゃなく、妹の部屋……まぁそれは当然と言えば当然だが。
でも今は、自分の目で見る視界じゃない、他人の目で見る世界。
そんな他人の体が、今は……自分の『カラダ』……しかも。
「……クックック」
わざとらしい笑い声も、女の、妹の声。
「ゲットだぜ」
幽体離脱と言えばやはり、憑依への発展は欠かせないよな。
そう、未だ眠る妹の魂の替わりに、俺の魂が妹の体を動かす、『憑依』という名の乗っ取り行為。
遂に……遂に俺は、この力で妹の体を手に入れたぞっ……!
「さぁ、早速この妹の体で……ふぁぁーっ」
意気揚々と立ち上がろうとしたものの、膝がカクンと折れてしまった……眠い、眠すぎる。
そりゃそうか、俺に起こされるまで、体の方も熟睡していたんだからな。
「ふぁぁ……んっ!」
大きく欠伸をして気を引き締めるが、自分の口から出た可愛らしい欠伸に顔は緩む。
「んー、それにしても」
立ち上がって体を動かしてみるが、肉体が違うってこんなに違和感を覚えるものなのか。
そりゃ男女差が一番の違いではあるけど、体が小さくなるだけでもこんなに差を感じるんだな。
小さいし、軽いし、ふわふわしてるし、女の匂いだし……女の……
「コイツも……女、なんだよな」
鼻をくすぐる寝汗の匂いは何時もの臭さと違い、なんだかほわっとしていて。
「……ゴクリッ」
音がするほど息を呑み、服のボタンに手をかける。
左前のボタンに戸惑いながら外していくと……
「お、おおお……!」
小さい、実にちっぱい……だけど確実に胸が、オッパイがある!
逸る気持ちを抑え、上着を脱ぎ捨ててから、恐る恐る触れてみる……
「あぁっ……!!」
幽体では感じられなかった柔らかさと温かさに、気持ち良さ以上に感動すら覚える。
「なんだろ、気持ちいいってより、ドキドキするな」
触っているのと同時に触られてもいるわけだが、興奮するには些か質量と感度が……
寝起きで感覚が鈍いのかとも思ったが、コレだけ昂っていてもこの感じ、これはやはり、胸の大きさ、か。
それでも男には味わえない感覚は、俺にとって新鮮且つ、興味深いものなのは事実で。
暫く無言で胸を揉みしだいている内、体のある部分が疼くのを感じた。
「そろそろ……いいのか、な」
揉みしだく手を止め、ズボンに手をかける。
そしてその手をゆっくり降ろしていくと……そこには、ロマンの固まりとも言うべき女物の下着……ショーツが。
「白か」
妹らしい実に基本に忠実な選択、だがそれがいい。
暗がりでハッキリとは見えなくとも、下着がしっとりと濡れていると分かるのは、コレが今の自分の体だという証拠だ。
(俺は、今、俺は……!)
その布一枚の下に、一昨日見た(魂のだけど)妹のマ○コが、膣が、子宮があると考えると……!
それだけで『俺』だったらイッてしまうところだが、喜ばしい事にこの体には早漏という状態異常はない。
……が、だからといって高揚しきった気持ちを今更我慢出来るはずもなく。
「さぁ、お前の全てを覗かせてもらうぞ……おぉっ?」
ショーツを脱ごうとすると、股間から溢れ出たツユが糸を引き、空気に触れて股間がヒンヤリとした。
「うぁっ、本当に、ないんだな」
妹は女なのだから当たり前の事だが、俺にとっては初めての感覚。
脚から擦り落ちていったショーツを払うと、何時もの揺れるアレの存在が無い、興奮して大きくなるモノがない。
ベッドに腰掛けても接触するモノは無く、益々股間に何もない感じが強くなった。
「あぁっ、コレ、コレを感じたかった……!」
気が急いて、何時の間にか手が太腿を撫で回しつつ股間へと指を伸ばしていたが。
「そ、そういえば……」
触りたい気持ちをどうにか堪えベッドの脇の机を漁ると、あったあった一昨日妹が取り出していた手鏡が。
デスクランプを点け、股を開いてそこに鏡を添えてみれば……妹の、本物のマ○コが丸見えになる。
「おぉぉ……!!」
記憶にあるのが二次モノばかりなせいもあって、ホンモノは結構エグく見えるな……
(ま、まぁ見た目はおいておこう)
深呼吸をして気を取り直し、ゆっくりと手を伸ばす。
取り敢えずワレメ周りに触れてみるが、その触り方のせいかそれだけで体がビクッと跳ねてしまう。
心音があまりに高まって耳に響くくらいドキドキしながら、指でそっとワレメ周りの肉に触れてみる。
「や、柔らかい……!」
予想以上にソコの肉はプニプニしていて、まるで女の子の柔らかさが全てここに詰まっているみたいだ。
そして人差し指と薬指の間でウズウズする中指を、ワレメに沿わせてみる……
「ふっ、ふぁ……」
コッ、コレ、ゾクゾクする……すごく、ゾクゾクする!
そのまま指を前後に擦ると、更に気持ち良さが増し、指の動きが勝手に早まっていく。
(なっ、なんだろ、なんだろう、この感じ!)
名状しがたいその感覚は、でも間違いなく興奮してくる。
既に滾々と湧き出た愛液が指でこねられると、クチュクチュ音をたて、エロさに拍車をかける。
そうして刺激を与えていると、ワレメの先端が疼いて堪らなくなってきた。
「こっ、これ……クリ……」
鏡で確認しながら、一昨日触れた(魂の方だが)お豆を探り出すと。
「ぁっ、ひぁっ、ひゃっ!」
自分が出したと思えない声にドギマギしつつ、今度は皮を捲って直に触れると。
「……!! あひっ……!!」
と、飛び起きる……訳だ……刺激が、強すぎる……
俺が男だからか、妹の体が弱いのか、それとも相乗効果か。
何にせよ呑み込まれそうな快楽の波に、怖さを感じもする……けど……
「あっ、んっ……くっ……ふぁっ……」
男とは比べ物にならないその気持ち良さに、もう止める発想すら出てこない。
優しく撫でるように弄れば、ピリピリした快感が体中に響いて跳ね返る。
「あ、溢れてくる……」
すっかり濡れほそぼった股間が、更に潮を吹いてグチョグチョになってきた。
そうやって心も体も完全に出来上がると、まるで生き物のようにワレメがくぱぁっと開き、モノ欲しそうに蠢いた。
(い、入れて……挿入れても、いいよな?)
すっかり女体の快感にハマった俺は、我を忘れて誰ともなく同意を求めた。
勿論返事は無いが、あったとしてももう止まらない止められない。
恐る恐る指で探り当てた穴に指を当て、グッと押し込むと。
「うぁっ、あっ……指が、膣内に……!!」
チュプッと音をたてて、指が後ろの方ではない、女の子の穴に呑み込まれていった。
「んんんっ……!!」
指の第二関節まで呑み込んで、それでも物足りず二本目の指も入れると、それすらすんなり入っていく。
「うぁぁっ、指が、膣内が熱……んああああっ!!」
その二本の指を捻るようにして膣内を掻き乱すと、一瞬で理性が吹っ飛ぶほどの衝撃が走る。
「あぁっ! あはぁっ!! すごい、女って、スゴイ!!」
膣口を拡げる度体が跳ねて、膣襞を擦る度頭が真っ白になって。
もうすっかり我を忘れて、『初めて』のオナニーに没頭していた。
「んくぅっ! くっ、くはぁぁっ!!」
指が手当たり次第に動いて、Gスポットを探り当てて攻め立てる。
そしてその指を離すまいと、膣がキューッと締まり、ヒクつく。
「あぅんっ! ふぁあっ!! んああっ!!」
妹の指では奥まで届かないが、それでも膣奥で反応する子宮の存在が、俺にオンナを教え込む。
(うっ、き、キて……キてるっ!)
その奥底から、何かが込み上げてくるのを感じた、次の瞬間。
「あああーーーっっっ!!!」
全身に電気が走って、何も考えられなくなって、膣の奥から愛液が一気に溢れ出て、体がピンと反って痙攣して……
「あはぁっ……はぁっ……」
俺は女として……妹の体で、女の絶頂を体験した……んだ……
「はっ、はぁっ……」
一気に力が抜けてしまい、体をベッドに預けないと息も整えられないほど、強烈な快感。
「女って……すごい、な……」
やっと戻ってきた理性が、至極真っ当な意見を述べて、思わず笑みが零れた。
(妄想は、本当だったんだ……な……あぁ、それに)
イッたばかりだというのに、まだまだ体は疼いたままで。
お腹に手を当てれば、『まだ?』と言わんばかりにその下のオンナノコが求めてきている。
(……もう、一回)
再び体を起こして、第二ラウンド開始。
何も準備せずイッたせいで、ベッドのシーツに染みが出来ていた。
「もうこんなに濡れているのなら……もう気にする必要は、ないよな?」
それにこのエロいメスの匂い……否が応にも興奮するし、処理するのすら躊躇われるな。
そう勝手に結論付けて、もう一度オナニーを始めようと……
「さぁ、今度は三ぼ……」
バチィッ!
「いっ!! ってえぇぇぇーっ!?)
突然、快感の衝撃と違う、本物の衝撃に全身が打ち付けられた。
(くぉぉぉぉーーーっっっ!!??)
その痛みに思わずのた打ち回るが、何かおかしい。
転げまわっても、ベッドの軋む音がしない。
(あ……れ……?)
「あ……れ……?」
確かにその言葉を口にしたが、何故だかラグっている。
更には視界に広がる天井が近い……これは、まさか!
「な、何……コレ……」
振り返ると、眼下で妹がわなわなと震えていた。
自分を見れば見えない……あ、いや、つまり幽体になっていて見えないわけで、って!
「わ、私……?」
(マ、マズい……)
まさか妹が、妹の魂が起きるとは思ってもみなかった……この事あるは予想出来ただろうに俺!
そんな妹は、未だ状況を把握しきれていないのか。
まじまじと指、それから股間を見つめ、ポカンと口を開けたまま不思議そうな顔をしている。
その様子を、物陰に隠れて成り行きを見守る俺……いや隠れる必要ないんだけど、この状況に思わず体が勝手に。
「コレ……え? え??」
(お、お前のだよ)
そうは言うものの本人に覚えなく出るモノじゃあない、というかそもそも起きたら裸で、しかもイッた後……流石にこれは。
最悪の事態を予想したが、暫くすると妹がハッとした表情を見せた後、手際よく後処理をし始め……ってえぇえっ!?
(ななな!?)
今度はこっちがポカンと口を開ける番に。
濡れた手と股間を拭いて、ベッドの染みもある程度拭ってタオルで隠して、脱ぎ散らかされた服を機械的に着込んでいく妹。
そしてバサッと布団を捲りその中へ飛び込むと……そのまま、横になった……
(マジかよ)
唖然としながらも、そっと妹の傍に近づいていき、聞き耳を立てると。
流石にまだ寝息は聞こえてこないが、何やらブツブツ呟いている……
「コレは夢コレは夢コレは夢……」
(えええええ)
……ないわー、その発想はナイワー。
でもそれで済ませてくれるなら、こちらとしては助かるけど。
だが妹のまさかの行動に、興が削がれてしまった。
(今日の所はこれ位で勘弁しておいてやろうか)
そうは言ってもまだ物足りない気分だが、これ以上は警戒されるし、それに……アレはもうイヤだ、痛すぎる。
そーっと妹の部屋を後にし、自分の部屋、そして自分の体に戻る。
「フーッ……堪能した」
本当にこの力をくれた誰かさんには感謝の極みだ。
「さーって、今日はもう寝るか……妹の体でイッたからか、パンツは平気のようだし」
安心と充実に包まれながら、今日という日を後にする……
なんて出来ず、女の快感に刺激された男が、一晩中悶々とする羽目になるのは、必然であった。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
五日目、六日目にはもう歯止めなんてあったもんじゃない。
幽体での移動距離は既に50m以上は超えているし、妹の一件から大体のやりようは調べがついたし。
残る問題は夜まで待たないとそもそも憑依した……憑依出来る女性が見つからないという事。
それでも稀に暇を持て余し過ぎ、昼寝をしていた奥さんがいたりするので、待ちきれなくはなかったが。
そうやって時間を潰し、夜が来れば……レッツパーリィ!!である。
こっちのJKそっちのょぅι゛ょあっちの熟女どこぞの男の娘……え?
兎も角、行ける範囲にいる女性という女性に片っ端から乗り移り、オナニーしまくったさ。
いやぁ、個人差あれどやっぱり女性の方が断然いいね、男の快感の比じゃない。
いいなぁずるいなぁと思いながら、様々な女性の体で愉しんで、その全員でイッて……
あまりにも女性でいる時間が長すぎたせいで、自分の体にガックリと肩を落としてしまう事態になったが。
――――まぁいい、気を取り直してだ!
これだけ能力を使い込んだのだから、六日目になる前にはもう次の段階に進んではいたのだが。
その解禁された能力を最大限生かすために少し用意が必要なのと、後……
それなりの覚悟が必要なので、この日はやり方を覚えるだけにしておいた。
まぁ覚悟と言っても『自分自身』の問題なだけで、後はいつも通りの俺でいればなんら問題はないのだが。
それでも今日より明日……そう、明日である事が何より都合がいいのだ。
偶然か、はたまたそれすら見越してか……どちらにせよ、俺は明日、新たな力を試す絶好の機会を得る。
「という訳で、明日はヨロシクな♪」
その言葉を壁の向こうの妹へ投げかけてから、その日は眠りについた。
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七日目、朝。
「それじゃあ、いってくる」
「留守番、お願いね」
「はーい、いってらっしゃーい」
……一階から聞こえてくる、両親と妹の声、それに外で待つタクシーの音。
今日から一泊二日で両親が町内会の旅行に参加するので、家を空ける……これが、昨日言った都合がいい理由だ。
玄関が閉まり、二人がタクシーに乗り込み、エンジン音が遠くなるのを確認して、いよいよ実行に移す。
(さて、始めますか)
久しぶりの早起きでちとまだ眠いが、これからの事を思えばそれも吹っ飛ぶってもんだ。
部屋を後にして、『芝居』を開始する。
「んー、行ったのか?」
わざとらしく今起きたフリをして、階段を下りていく。
「……あんたもどっか行けば? 永遠に」
「それはつまり死ねと?」
「その通り」
「そーかい」
相変わらず酷い扱いだが、既に慣れたやり取りだ。
何が妹の神経をここまで逆撫でしたのか解らんが、アイツにとっちゃ俺・ソ・ノモノに嫌悪感を抱いているのだろう。
なにせこんな俺だ、妹としてはコレが兄なのを認めたくない気持ちがあってもおかしくない。
……結論出てるって? そういえばそうか、コレが理由か……アレ、でも……
「で? 何? こんな早くに起きてきてさ」
「ん? あぁいや別に」
「あっそ、ならどいて」
そう言って横を通り過ぎようとする妹……うぉ、コイツ一人分のスペースあるのにわざわざ払い除けてきやがった。
こちらを見向きもせず階段を上る妹からは、これまでの一件があった素振りすら見られない……ある意味スゴイよ。
っと、勿論このまま行かす訳にはいかない……既にこっちの体は手摺りに預けたし、後は。
(よっと)
ゆっくりと幽体離脱……OK、うまい事体が引っ掛かったな。
多少軋む音がしたというのに、妹は気付いていない……のか、それとも見る事すら煩わしいのか。
まぁいい、そんな態度をしていられるのも今のうちだぞ?
(おぅおぅ、しかめっ面しちゃって)
幽体のまま、妹の前に出る……勿論、コイツは見えていないし、気付きもしない。
が……こうすれば。
「キャッ……!?)
上り切ろうとしたところで、妹を突き飛ばす。
当然幽体なので体には触れられないが、魂が反発し合うのを利用して、『押された』という衝撃を妹に与えた。
そしてここで……新たな能力の出番である。
離脱、接触、侵入……そして芽生えた新たな力、それは……『作用』、といったところか。
妹を押した瞬間、突き出した両手が体の中へと入り込み、そして妹が……『幽体離脱』した、確かな手応えを感じた。
そうして魂が抜け落ちた妹の体が、バランスを崩して階段を転げ落ちていく……俺の体を巻き込みながら。
そして俺は見た。
その抜け出た妹の魂が、俺の体に入っていくのを。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
少し時間を遡り、六日目の深夜。
(うーん)
最後の憑依を早めに切り上げ、再び妹の部屋に侵入していた俺。
そして妹へと手を伸ばしたり、引っ込めたり、まるでヘンタイである……いや違うからな、断じて。
じゃあ何をしているのかといえば、新しい能力を試そうとしているの、だが。
(分かっていても、怖いな)
新たな力……それは、他人をも幽体離脱させる能力。
もう少し分かりやすく言えば、相手の魂を取り出せるようになったと言えばいいか。
既に能力の使い方、応用方法も理解しているが、問題はこれが流石に危ない橋を渡る、という事。
魂を抜く……即ち、生死に関わる内容な訳で、幾らこんな妹とはいえ、身内が死ぬのなんて……見たくは、ない……
いや、勿論安全の保障はされているようだが……それでも、いきなりそんな大それた力を得ては、戸惑うのも当然である。
(とはいえ、次のステップに進む為には避けて通れんしな)
そうだ、折角手に入れたこの力……使いこなせないまま燻らせるなんて考え、俺には無いな。
覚悟を決め、憑依するのとは別の方法で妹の体の中へと手を沈めていく。
(うぉぉっ……!?)
やっ、やっぱり怖ぇっ! 今自分の手中に妹という存在があるのを、明確に感じる!
(そ、それでコレを……)
その妹の魂を、自分の手の内に圧縮するような要領で、念じると。
(おっ、おおっ?)
するとどうだ、体の中に埋まった掌に、何か温かい塊が形成されていくのが分かる。
そうして完成した『ソレ』を握ったまま、ゆっくり手を引き抜くとその中に……小さな妹が球体に収まって眠っていた。
(こっ、コレが……)
片手で持つのが怖くなり、両手で大事に抱える……あ、やっぱ俺同様『裸』か。
(って!)
ハッとして魂の抜け出た体の方を見ると、相変わらず眠ったままで、息もちゃんとしているようだ。
ある意味死んでいるのと変わりないはずだが、この能力のおかげか。
(でも早めに戻した方がよさそうだな)
大丈夫とはいえ、後遺症が無いとも限らないしな。
手にした『妹』を体へと戻してやると、風船が割れて中身が飛び出すようにまた体全体に行き渡ったようだ。
「うぅん……」
戻した直後、妹が呻きつつ寝返りを打った。
(……大丈夫そうだな、よし)
コレもコツは掴んだ、あとはこの応用で愉しむだけだ。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
……で、その応用の結果が。
「えぐっ、ひぐっ……」
目の前で、自分が女々しく泣いている……気持ち悪い事この上ない。
そんな自分を客観的に見つめる俺には、ちゃんと肉体があり、しかもチ○コ無い。
ってまぁ、ここまで言えば引っ張らずとも分かると思うが、要は『入れ替わり』だ。
オレがアイツでアイツがオレで、その夢のような現象が今、俺と妹を対象にして発生した……正確には発生させただが。
「……流石に気持ち悪いんで、そろそろ泣き止んでくれないか?」
そう『オレ』に語りかける妹の口調は、俺の口調そのまんま。
この前も妹の声を借りたが、こうして対話での話し方だとまた違った雰囲気を纏えるな。
「何でっ、何でこんな事……!」
「何でって……考えられるのは、さっきの階段オチだろ」
「そんなオカルト有り得ないわよ!!」
「けどな、否定してもこの状況、他にどう説明するんだ?」
「夢よ! そうに決まってる!!」
……夢見る少女でしかいられないのか、お前は。
「そうよ! 私にこんな汚いモノ、ぶら下がっているわけな……!! ハギャッ!?」
「お、おい」
……コイツ、躊躇いもせず自分の股間殴りおった……知らないからこそ出来る苦行だな。
「……くぅっ……」
「そら、痛いわな」
この上ずった声……ヤバイ、戻った時確実にヤバイぞあのダメージは……ってまぁ、まだ戻る気はないのだけれど。
とはいえこのまま傍観するわけにもいかず、のた打ち回っているオレ(妹)を介抱する事に。
「大丈夫か? 立てるか? 息できるか?」
ポンポンと腰を叩き、一応痛みを和らげてやる。
「触っ……はぐっ!?」
何か言おうとしたようだが、妹自身が誤った対処法をとり、再びティンッ!となったのかまた蹲る。
(いくらなんでもそれは……)
外にある性器の脆さを知らないせいか、オレのモノを徹底的に苛めようとする。
このまま使い物にならなくなるのだけは流石に困るし、なによりこの後使うんだし……勘弁してくれよな全く。
流石に懲りたのか、勝手知ったる俺に助けを求めてきた。
「男って、大変だろ?」
「もぅっ、ヤだぁ……」
叩いて擦ってどうにか落ち着いてきたようだ。
漸く一息つけると、妹は大の字になって寝っ転がり、また泣きそうになる。
「何で私がこんな……ちょ、ちょっと!」
「ん?」
急にオレ(妹)がガバッと起き上がり、顔を真っ赤にしながらこっちの両膝に手を置いてきた。
あ、そういやこの角度だと……パンツ丸見えだったか、と言うか、わざと股開いて見せ付けていたんだけどね。
妹がどんな反応するのか確認する為とった行動だが、どうやら妹はこういう時でも俺への不満をぶつけるようで。
「やめてよ! そんな格好しないで!!」
「おっ、おい! ……危ねっ!」
「キャッ!?」
いきなり膝を閉じられて、バランスを崩されて。
条件反射でオレの腕を掴んだものの、急に引っ張られては妹の体とはいえ重さを伴い……
「うわっ!?」
「ムグッ……!?」
尻餅をついた俺に、オレ(妹)が飛び込んできた。
しかもまるで冗談のように両脚の間に顔を滑り込ませ、そのまま股間へダイブしてくるという荒業を。
「ひゃっ……!」
予想外の展開に思わず変な声が出てしまった……我ながらなんて情けない声。
だけど直ぐにそれがただ単に出ただけではないと解ったのは……
(い、息がかかって……)
焦っているせいか息を荒げている妹。
その息遣いが下着越しに敏感なところに当たって、なんともいえない気分になり、思わず声を上げていたようだ。
「あたた……! ちょっ、やだっ!!」
「うわっ!?」
漸く事態を把握して、妹が飛び起き、俺を突き飛ばした。
「うっ……」
「いてて……!」
加減もせず突き飛ばしてくれたので、背中を打ったぞオイ……お前の体なんだぞ?
流石の俺も怒りが込み上げて、キッと睨みつけてた……が、当の本人はなにやら口に手を当て、吐いた息を吸っていた。
(さてはコイツ)
あんな間近で呼吸すれば、当然……
「どうした、自分の体の臭いだろ? いつも嗅いでいたんだろ?」
「なっ……! んなわけあるかっ! こここのエロゲー脳っ!!」
そうやって怒鳴り散らすけど、見るからに挙動不審ですぜ、妹さんよ。
一度入った男のスイッチ、お前は堪えられるのかな?
「あーそうか、今は俺の体だから、自分の体にでも欲情したか?」
「そっ……そんな事っ……!!」
図星か、図星なんだな。
(面白くなってきたぞ……!)
なよなよした自分を『演じ』られるのはどうにもアレだが、ソレが妹の反応だと考えると、中々なんとも面白い。
まだ種火程度の感情に、油を注いでみるとするか。
「ほれ、自分の体なんだから幾らでも調べてもいいぜ、こんな風に自分を見るなんて、普通出来ないだろ?」
「ちょ、ちょっと!」
妹の前に立ちはだかって、スカートをたくし上げる。
一度はこちらを押さえつけようとした妹が、ピタッと止まって曝け出されたショーツに釘付けになっていた。
(うわっ、コレ、すげぇゾクゾクする……!)
男でやってもただの変態行為だが、女としてやると、全てを見られている感じがして、自然と体が疼く。
「……っやめて!」
が、気分が高まる前に、ポカンと口を開けていた妹が急に叫んで、飛び掛かってきた。
「うわっ!?」
男だったなら兎も角、体格差で劣る妹の体では俺の体を受けきれず、その勢いに再び突き飛ばされた。
「っつぅ……オマエな、コレはお前の体……」
「そうよ、私の体なのよ!!」
「!! ……わ、分かったから退いてくれ、肩が……痛い」
二度目の反論も、鬼気迫る妹に気圧されて言葉が出なかった。
それに本気の男の力で押さえつけられると、痛さ以上に恐怖を感じた……あぁ、これがあの……なんだな……
暫くそのままの体勢で動かなかった妹が、なにやら呟いた後、ゆっくりと体を起こしていった。
拘束から解き放たれると、自然とホッと息がでて、手を見ればわなわなと震えていた。
(……怖かったの、か)
体が感じた恐怖は、男の俺ですら本気で身の危険を感じるほどだった。
そう考えれば、女性が男性恐怖症になる理由も……今なら解る気がする。
(……なんで、俺……)
震える手をギュッと握り締めて、心を落ち着かせる……恐怖だけかと思ったが、何故か焦りも感じていたようだ。
「元に、元に戻りたいよぉ……!」
こちらがレイプ未遂に怯える一方で、襲い掛かった当の本人はまたメソメソ泣き出し始めた……やはり、気持ちが悪い。
(うーん、よもやここまで取り乱すとは)
予想以上に妹の感情起伏が激しく、思うように行動出来ん……そうなる前に、次のステップに移るとしよう。
フゥッと息を吐き、やれやれといった態度をわざとらしくとって見せ付けて……って見てないじゃん。
泣きじゃくるオレ@妹の肩に手をポンと置き、冷静な口調で語りかける。
「あー、まぁこういう時の解決法と言えば、無くも無いが」
その言葉を聞いた瞬間、ハッとして顔をあげる妹。
……あぁもう鼻水まで垂らしちゃって、我ながら情けない顔だよ全く。
が、それを憂う前にガシッと肩を掴まれ、再び両腕が悲鳴をあげる。
「ホント!? 何なの!? 言いなさいよ、早く!!」
「だっ、だから痛いっての!!」
今度はすぐ手を離したものの、先ほど以上の力で掴みかかりやがって……痣になっても知らんぞ、イテテ……
「ホラ離したんだから早く言いなさい!!」
「そう急かすな「こっちは一刻も早くこんな体とオサラバしたいの!!」
……いやー言ってくれるねコンニャロウ。
まぁなんとでも言うがいいさ、イニシアチヴはこっちにあるんだからな。
ヒリヒリ痛む肩を擦りながら、真剣な眼差しの妹に向かって、次の言葉を投げた。
「えっとだ、強烈な刺激を同時に受ければいいから……特にセックスすれば確実らしいぞ」
「……」
……あれ? 何だこの反応と静寂は。
恥らうでもなし固まったままか……オゴォッ!?
「……っざっけんなぁ!!」
強烈な右フックに、吹っ飛んだよ、俺、吹っ飛んだよ? ……あ、意識も飛んでるや。
本当に一瞬何が起こったか分からなかったが、床に叩きつけられた背中と、それ以上に頬が凄まじく痛い。
「おっ……おまっ……」
「はーっ、はーっ」
皆さんも気をつけましょう、ド直球な言葉は、自分に返ってくるピッチャー返しになると。
――――数分後。
「……俺も言い方が悪かったが、『コレ』はお前の責任だからな」
腫れた頬に氷を当てて冷やしながら、目の前で正座する妹に説教している……まだ、痛む。
痣になったら不味いところだったが、まぁ我ながら非力な事で、あのパンチにそこまで深刻な威力はなかった。
で、当の本人は殴ってから後悔して真っ青になり、気が動転しながらも心配してくれた……体の事を。
「うぅっ……」
「泣きたいのはこっちの方だよ」
まーたグズり始めたよコイツ、勘弁してくれ……本当にこっちまで泣きたくなってくるじゃないか。
「もう……いや……」
「ホントだよ」
コイツがここまで直情的とは思わんかった。
おかげですっかりやる気が削がれてしまったが、このままじゃ終われない、どうにかして誘導せねば……
「あのな、冗談で言うと思うか?」
「思う」
「即答かよ」
「当たり前じゃない! どうしたらそんな結論になるのさ!」
「じゃあ他に方法があるのか?」
質問を返され、うっとした表情から考え始め……
「も、もう一回階段落ちる、とか」
「どうやら痛い目に遭いたいようだな」
「だって普通に考えたらそうじゃない!」
正論である……が、それで戻れるかというとそうは問屋“俺”が卸さない。
というか階段から転げ落ちるのは、想像以上に全身が痛むんだよ、お前も知ってるだろうに。
ならばと再び考えようとする妹だが、どんな答えも俺は認めやしないからな。
(……仕方ない、多少強引な手でもいくか)
聞き分けのない妹には躾が必要だな、それこそ『身』をもって味わってもらうとしよう。
まだ頬は痛むが、当てていた氷を投げ捨て立ち上がり、ゆっくりとした動きで妹に近づく。
「なっ、何よ……」
急に雰囲気の変わった自分自身を見て、たじろぐ妹。
さぁここからは、エロゲで培った知識の出番だぜ。
「何って、ヤろうぜ……ううん、ヤろうよ、お兄ちゃん」
「す、するわけないでしょ!」
「そんなこと言っても、さっき私のココ嗅いで……興奮したんじゃない?」
「ちょ、やめっ……!」
顔を近づけつつ、手を元自分の体の股間へと伸ばす。
妹の手で自分のチ○コを触ると、なんかデカく感じるな……それに、感触が全然違う。
「ホラやっぱり、もうこんなに大きくなってるじゃない」
「アッ!」
スルリと手を下着の内側に滑り込ませ、直に触れる。
(うわっ、本当にコレ俺のか?)
こうして触るチ○コは、まるで別の生き物のようだ……自分に付いていた時は、そんな感じしなかったのに。
手の中でチ○コが脈打つと、段々自分にもあるような錯覚に襲われ、鼓動が早まってきた。
一方妹も妹で、また突き飛ばしでもすればいいのに、体を震わせてまるで期待しているかのご様子。
「わっ、私の手で……触ら、ないでよっ……!」
「えー? コレは『私』の手よ?」
「その演技やめな……はぅんっ!?」
妹の小さな手で、大きくなり始めたチ○コをギュッと握る。
その気にさせる為なら、チ○コだって扱いてやるさ……自分のだから抵抗が無いのかもしれんが。
あ、でもフェラは勘弁な。
とはいえ他人のを扱くなんてした事ある筈もなく、どこかぎこちない動きになるが、それでも妹にとっては新鮮な感覚。
「なっ、何コレ……」
「フフッ、分かる? コレがチ○コの気持ち良さだよ?」
「わ、私の声でそんなこと言わないで……」
「じゃあチ○チン? ペ○ス? ……それとも、男こ○?」
「いやぁ……」
おー効いてる効いてる、こういうシチュエーションでも、体が反応して心に響くのか?
ゆっくりでも的確にツボを刺激すると、妹は喘ぎ……って俺の声だから色気もへったくれも無いんだが。
それでもこうして自分の手で自分のモノを慰めていると、その快感が思い起こされ体にフィードバックする。
何より完全に勃起したチ○コを握っていると……なんだか、すごくソワソワした気分になる。
(あぁもう、まだるっこしい!)
「キャッ!?」
ズボンに手を突っ込んでの行為だと面倒なのと、どのみちこのまま終わらすつもりは無いからの理由で。
素早く下着ごとズボンを脱がせると、ビンと突っ張った肉棒が、荒々しく蠢いていた。
「ホラ見て、お兄ちゃんのオチ○チン、こんなにビクンビクンしてる」
「わ、私にこんなモノが……イヤァッ……!」
イヤといいながらも、自身の興奮と連動して動くチ○コから目を離そうとしない。
「ほらもう、袋の中が満タンでしょう?」
「はぁんっ!」
扱くペースをあげ、弱いところを徹底的に刺激して、一気に昂らせていく。
「あっ、ああっ……!」
「さっ、出して! 私に射精の瞬間、見せて!」
「やぁ、あぁっ……! あああっっっ!!!」
「あはっ♪ 出たぁ♥」
オレが体を震わせると、チ○コが痙攣して、ピュッと精液が吐き出された。
何度も見た光景。
射精の快感は、よく知っている。
でも今は……『妹』が、オレの代わりに『射精』したんだ……
「ふぁっ、あっ……」
飛び出た精液が、放物線を描いて撒き散らされ、その一部は未だ握り締める俺の手にも掛かった。
(うわっ……)
見慣れた画なのに、凄くドキドキする。
他人が射精するところなんか、まず見ないからか?
……勿論俺にそのケは無いが、今は女の体だからか、妙に射精自体に反応してしまう。
それにこの臭い……今は自分のモノではないせいか、何時もと違う匂いがする。
「はぁっ、はぁっ」
「どうお兄ちゃん? 初めての射精は?」
「わ、私女の子なのに……女、なのに……」
(フ、フフフ……)
ヤバイ、ゾクッときたぞ……! 妹の言葉を聞いた瞬間、俺のスイッチが入った音がした。
この倒錯的な征服感! 癖になりそうだ……
キモいと思っていた妹の反応をするオレも、内面だけで見ることが出来るようになったからか、実にそそる。
いや、それだけじゃない……女として男をイかせた事に、何より興奮している!
(コレが『入れ替わり』の真髄か!)
異論は認める。
だが、今の俺にとってこの状況、最高以外の言葉は出てこない。
そんな俺自身の感情の昂りに、それを内包する妹の体が次第に興奮してくる……勿論、『オンナ』として。
(男と女……やはり揃って初めて、この興奮が得られるのか)
単に妹の体でオナニーした時より、明らかに体が疼いているのが解る。
体が欲している……オナニー以上の快感を得られる、アソコに挿入れる、男のモノを。
(あぁっ……!)
口元を緩ませながら再び妹……いや、兄に近づく。
「さぁお兄ちゃん、今度は私の番だよ、気持ち良くして……ね?」
抱きついて、耳元で囁く。
そして自分の耳元からは、荒い息遣いだけが聞こえてくる……まるで飢えた獣のような。
あぁ、『私』、これから犯されるんだ……
そう思ったのと同時に、私は押し倒された。
「キャッ……!?」
「……アンタが悪いんだからね……!」
今日三度目だけど、今回は怒りなんて一切無く、期待に胸を膨らませていた。
「や、優しくして……」
「無理」
うん、それでいい、その方が……いい。
男の本能を爆発させた兄が、私のショーツを強引に引き剥がしてきた。
その時股間から糸が引いたのを、兄は見逃さず、私もそれを感じていた。
「何よ、アンタだってこんなに濡れてんじゃない、この……変態!」
「ち、違うの、コレは……」
「はんっ! コレでも?!」
「ひゃぁうんっ!」
いきなり指を突っ込まれ、更にグリグリと膣内を掻き乱すような動きをされ、背筋がビクンと跳ねる。
(じ、自分でするより……断然イイッ!!)
男の指は、私の指じゃ届かなかったところまで攻め立ててくれた。
クチュクチュ音をたてる私の股間からは愛液が溢れ、兄はそれを掬って見せ付けてきた。
「ホラ見なさいよっ! コレ全部アンタが出してるんだからねっ!!」
「ウプッ……!?」
そんな愛液を十分蓄えた指を、グイッと口に突っ込まれた。
直ぐに口全体に愛液の味と匂いが広がり、鼻と舌を刺激して頭に伝えてきた。
(あくっ、コレが……)
そういえば舐めてはみなかったな……こんな、味なんだ。
「プァッ……はーっ、はーっ」
「ウフフ……何よその顔、蕩けちゃって……そんなに美味しかった?」
「あ、熱くて……でも、コレが私の……」
「そうよアンタのよ! まだまだ溢れ出てんのよ、今ので更に興奮しちゃってさ!!」
「そっ、それは……」
いつの間にか攻守交替しているけれど……これはこれで、いいかも。
私の姿と態度に興奮したのか、目を血走らせた兄が私に覆い被さってきた。
「こんな、こんないやらしい孔……塞いでやるっ!」
「! ま、待って、心の準備が……!? ふぁあああっ!!」
その暇すら与えられず、私のチ○コが、私の膣内に強引に押し込まれた。
(あ、ああっ……おっ、きい……)
指なんて目じゃない、チ○コの太さは、挿入されているのを感じるには、十分すぎる。
「あ、は、入って……膣内に、お兄ちゃんのチ○コ……」
コレが、挿入れられる感覚……怖くて痛いけど、それ以上に満たされる感じに頭がクラクラしてくる。
「はぁっ、コレがセックス……男のセックス……」
向こうもすっかりチ○コの虜になっていた。
「膣内が熱い……もっと、もっと奥に……!」
「ふああっ!」
ズブズブと呑み込まれていくチ○コが、奥に当たり……コツンと、その壁を叩いた。
「あひっ、こ、これってぇ……!」
「わ、私の……私のが、私のオンナノコが……この先っちょに……!!」
もっと確かめようとしているのか、腰を突き立てグイグイ押し込もうとする兄。
「はぐっ! あぅっ……う、動かないで……!」
「私の、私の子宮!!」
「はぁあんっ!!」
出し入れするのではなく、ゴリゴリと挿入れ挿入れしてくるせいで、子宮が揺さぶられているのが解る。
(あくっ、こんな……こんなに気持ちいいなんて!!)
男としてより先に、女としてセックスの快感を知ってしまい、少し不安が残るけど……今はそんな事どうでもいい。
「お願いっ……もっと、もっと出し入れしてぇ……♥」
甘えた声は、もう完全に女の猫なで声だった。
その声にハッとして、こちらを睨みつける兄……目の色が、変わった。
「この淫乱が……なら、お望み通り犯してやるよっ!」
「くはあぁんっ!!」
グッと腰を引き、一気にチ○コを突き立てられ、一気に快感が高まっていく。
繋がった箇所からパンパンと音が聞こえ、それが聞こえるたびに私の何かが弾けていった。
「もっと、もっとぉ!」
「オラッ! コレでもか、コレでもかよっ!!」
「いいっ、いいよぉっ!!」
兄に抱きついて体を預けると、私を抱きかかえたまま立ち上がる兄。
私の全体重が乗っかって、深く深くチ○コが突き刺さる。
膣壁が擦れ、子宮口が叩かれる度、頭の中が真っ白になって、また子宮が疼いて。
「うぁっ、膣内熱い……溶けそう」
「ち○こぉ……いいのぉ……はぁんっ!」
そうやってセックスしている内、徐々に自分が誰だか判らなくなってきていた。
私は俺? 妹は私? ……あぁもう、どうでもいい、セックスが気持ち良すぎて、どっちでもいい。
チ○コ挿入れられて、ヨガッてるんだから、私は……きっと。
もう考える事すら億劫になってきた所で、挿入れられたチ○コがブルッとするのを全身で感じた。
「あっ、ま、またきちゃっ……!」
「出してぇ、膣内に出してぇっ!」
「あっ、あぁっ……!」「んぁっ、ふぁあっ……!」
「「あああーーーっっっ!!!」」
互いにギュッと抱きしめ合うと、二人の性器が震え、子宮に熱いモノが注がれていく。
(ア、アハッ……中、出し……)
おなかのなか……あったかい……ワタシのなかに、ジブンのセイシ……コレでワタシも、オトコノコ。
――――ガックリと力が抜けて、 お互い絶頂の余韻に浸っていた。
「ふぅっ……はぁっ……」
イッた余韻がまだ体中に響いていて、また体が火照ってくる。
(まだまだイケそう……そりゃ、女の方がいいわけだ)
チ○コはまだ入ったままで脈打ってるし、中出しな以上もう一戦しても……と、思ったのだが。
「うっ、も、戻った……?」
(っとと、マズい)
俺は約束を守る男(今は女だけど)だからな、ここまでにしてあげないと。
急いで妹の魂に手をかけ、俺の体から引き摺り出す。
「あっ……)
小さな呻き声とともに、俺の体が崩れ落ち……
「……ッッ!?!? ひっっっぎぃいっっっ!!!!」
力が抜け、更には妹の体を抱えたままでは、倒れる勢いも当然速く。
挿入したまま尻餅をつかれ、加減も何もあったものではない衝撃が体を引き裂く程の痛みを与えてきた。
「あっ……かっ……」
ドサリと倒れたオレの体に、俺も力無く倒れ込んだ。
「うっ、がぁっ……」
チ○コを抜くため起き上がろうとするも、膝がガクガク震えて止まらない。
折角の気分も、この激痛のせいで台無しになってしまった。
「うっ……くっ……」
ゆっくりと腰を持ち上げて、チ○コを引き抜く。
「うわっ、溢れ出てくる……」
コポォッと音をたてて、マ○コから精液が滴り落ちていく。
チ○コの方もたっぷり愛液を含んでいて、てらてらと輝いているし。
漸く痛みが引き、異物も取り出したので心に余裕が出てきた。
「あぁ、俺もコレで童貞卒業……なのか?」
準卒? いやそんなの聞いたことない。
でも兎に角、晴れて俺も堂々とセックス体験談を語れるぞ……って!
「しまった!!」
さっきの衝撃で完全に忘れていたが、今俺の手中には、妹の魂が……でも今、その手はギュッと握り締めている……!
(だ、大丈夫だよ……な?)
魂の圧縮なんて聞いた事が無いし、この力もまだ教えてはくれていない。
ゴクリと息を呑んでから、恐る恐る、手を開くと。
(……な、なんだコレ……)
幸い妹の魂は無事のようだが……妙なウィンドウが開いている。
……うん、ウィンドウというしかない気がする、更に言えば、スマホ的な?
(おいおい、まさかこのタイミングでかよ)
イッた余韻に浸っていたせいか、チュートリアル開始の合図が頭の中で五月蝿く鳴り響いているのに今更気付く。
(えと、何々……うわっ!?)
じょ、情報量が多い! 多すぎる!!
あまりの量に、頭が痛くなってきたわ、なんか酔ってきたわで……
「うぐぐっ……」
立っているのもままならず、フラフラしながらソファに腰掛け……ようとしたが、やめた。
(さ、先にシャワー浴びないと)
汗だくだわ、内腿は精液まみれだわ、そもそも今尚溢れてきてるわで、とてもじゃないが座れない。
仕方なく壁に背もたれて、精神的にも肉体的にも落ち着くよう努める。
目を閉じ、深呼吸をしながらレクチャーを受けると、手元の『コレ』が何であるかが理解できた。
(なるほど、な)
教わった通りに操作すると、ウィンドウに様々な情報と項目が現れた。
見ればそれは妹の情報、つまり一般的な身長や体重から、医学的な項目、更にはなんと『神』の領域まで……
(おいおいこれは……)
幾らなんでも一気に飛びすぎだろう、そりゃこんだけ気持ち悪くなるのも頷ける。
しかもコレ、ただ情報が表示されているだけじゃないのもある……
(感情、記憶、人格……精神的な事についてはやりたい放題かよ)
それは即ち、人を操る『MC』マインドコントロールの力、TSFとはそれなりに親和性が高い。
突如手に入れたやばすぎる能力に、恐ろしいと思いつつもその顔はにやけていた。
――――妹の体でシャワーを浴び、今度は自分の体に戻ってまたシャワーを浴びる。
え? 妹の魂はどうしたのかって? フフン、いい事を教えてあげよう。
自分の魂を他者に入れる憑依能力、これを応用すれば他人の魂を内包する事も可能なのだよ。
という訳で今妹は俺の『ナカ』でグッスリお休み中。
因みに妹には『眠れ』と言ってあるので、俺が許可するまで絶対に起きない。
(にしても、コレはヤバイな)
何がヤバイって、この状態だと妹の記憶が読み放題なのだ。
だからアイツの赤裸々な思い出も、好きな男の事も知り尽くせる。
「うっ……」
が、コレ……自重した方がいいかもしれない……
現状だと他人の記憶に引っ張られて、自分の感情が侵食されてしまうのだ。
(何が悲しくて野郎にときめかなければならんのだ……)
ここら辺の問題点や解決法は、後片付けを終えてからじっくりと確認する事にしよう。
それにこれ以上妹の記憶を探ると……自分自身に嫌悪感を持ち始めそうだし。
という訳でシャワーを手短に済ませ、後片付けをしていく。
窓を開け、服を着替え、洗濯をし、床を拭き……あぁ、準備しときゃよかったと、今更後悔。
数十分ほどかけて証拠を隠滅し終えて。
「さてと、どうするかな」
セックスの痕跡や空気は粗方落としたし、後は妹の魂を元に戻すだけなのだが……
当初の予定では、「戻れたぞ、良かったな」で済まそうと思っていたのが……ココはやはり、試すべきだよな。
自分の中から妹の魂を取り出し、ポンと指でタッチする。
すると妹を包む球体から四角い窓が現れ、情報を表示していく。
「これ、ホントまんまスマホだよなぁ」
タッチで決定とかスライド操作とか……何? 現代人でもとっつきやすい親切設計?
ま、解りやすいにこした事はないんだが。
「さて、と」
今度はどっしりとソファに座り込んで、鼻歌交じりに妹の記憶を『改変』していく。
いやぁ、気軽に人一人の人生を操るとか、正に神様だな。
――――アレ、私……?
「う、うぅん……」
「起きたか、ねぼすけ」
「う」
寝起きにアイツの声を聞くなんて、サイアク。
って何で私眠っちゃってたの?
「なによ、悪い?」
「別に、ただ自分の部屋で寝ろよな」
「え?」
そういえばココ、リビングじゃない、どうして……
(アレ、そういえば……)
凄くイヤな夢を見た気がする、私が男になっちゃう夢……しかも、自分で自分を犯して……
(やっ、何!?)
股間で何かが動くのを感じて、思わず手で押さえた……けど、なにもない。
だって、私にそんなものある筈なんかないじゃない。
「え……?」
そんなもの? そんなものって?
だって私女だよ? そんな、女の子をどうこうするモノなんて持ってるわけないじゃない。
なのに、何で……なんか、変。
「どうした、漏らしたか?」
「ばっ!? そんなわけないでしょ! この変態!!」
「そうですか」
くぅぅー、アイツがいるの忘れてた、サイアク!!
(でも……)
なんでだろ、何時もよりアイツの事が、気になる……
うぅん、アイツって言うより、アイツの体……男の子の、体……
あの体は、私の…… !?
(あぁんもぅっ!!)
何なのよコレッ! 私にそんな感情、あるわけない!
訳の分からない記憶と感情を、頭を振って振り飛ばそうとして。
「何やってんだ」
「うるさいっ! 死ねっ!!」
「荒れてんなぁ」
これ以上アイツの顔を見てらんない私は、急ぎ足で自分の部屋に戻った。
――――手にしたペットボトルの中身を一口飲んで。
(うむ、いい反応だ)
後で記憶を確認してみようか、どんな思いで俺を見ていたんだい妹よ?
(やー、それにしても)
妹の記憶を操作して、体が入れ替わっていた事を『曖昧』にしてみた……その結果が、アレだ。
え? どうして消さなかったって……? キミキミ、そりゃあ当然、それじゃつまらないからだろ?
折角妹に男の心と気持ち良さを知ってもらったんだし、それを けすなんて とんでもない! ……だろ?
(まぁでも、あまり無茶な矛盾や人格破壊は、よした方がいいか)
流石に取り返しのつかない事を仕出かして、また罪悪感に苛まれるのは嫌だし……
(ん、まてよ?)
手にしたペットボトルを冷蔵庫に戻し、自分の部屋へと急ぎ、ベッドに飛び込んだ。
「ん……)
そして幽体離脱をして、さっきの要領を今度は『自分』を対象にやってみる。
(おぉっ、やっぱり!)
そりゃそうか、考えてもみればこの力は最初から自分にも行使していたんだから。
目の前に現れたウィンドウには、俺の事細かな情報が表示されていた。
その中には妹同様自分ですら知りようのない情報も出てきて、流石に閲覧が躊躇われる項目も。
(気をつけないとな)
隈なく探してはいないが、多分コレ……寿命すら出てきそうだ。
いくらなんでも、そんな事を知りたいとは思わないしな。
取り敢えず危ない橋を渡るのは避け、単純な項目を呼び出してみると。
(うむ、やっぱり)
妹で出来た記憶操作や感情操作も、俺も対象として取れるようだ。
(もうこれ無敵じゃね? TSFの範疇越えてね?)
まぁ親和性のあるMCに応用できるなら、それはそれで……応用次第で色々出来るしな。
(取り敢えず今日は……確認だけにするか)
新たな力にわくわくしつつ、本格的に試すのは明日に回す事にしよう。
「んーそれじゃ、またオンゲーでもしますか」
PCを起動して、何時もの日課を……って。
「……やっちまった……」
操作したPC上に表示された、『終了しました』の一文。
能力が楽しすぎて、オンゲーイベントの事すっかり忘れてた……コ、コンプ記録が、コンプ記録がぁ……
「そ、操作……は、無理かぁ……」
思わず画面にタッチするが、当然無機質には効果なし、というかそれ以前の問題か……ガックリ肩を落とす。
(ソコまで万能じゃないか……はぁ……)
顔に手を当て、指で額を叩くと。
「ん? あれ?」
あ、幽体離脱してないのにウィンドウ出てる……何だ、一々抜け出さなくてもいいのかコレは。
って、そんな情報が今更なんだというのだ……!
そんなこんなでその日は、枕で涙を濡らす作業に追われるだけで終わったのだった。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
悲しみを背負い、向かえた八日目。
「……うぅうっ……俺のパーフェクツなデータ……」
未だに泣き濡れるとは情けないとお思いだろうが、分かる人に分かるはずだ、この気持ち。
しかもその原因が自分自身だというのが、尚更悔しいのだよ、チクショーメ!
「……くっ、かくなる上は!」
ならば、見逃した原因のこの力を徹底的に使い込んでやろうじゃないか!
あぁそうさそうだとも、あのゲームもやっぱりランカーはチーターだらけだし、いずれ切ろうと思っていたんだ!
そう思えば切る為のよいきっかけだと自分自身に納得させられる、いょっし!
そうやって無理矢理自分を奮い立たせ、でも体をベッドに預け横になり、幽体離脱を開始……しようとしたが。
「さて……何をしたもんか」
勢いだけの行動だったからな、何も考えちゃいない。
まぁまた妹の体で遊んだり、外の女性を物色するのもいいが……
(昨日セックスの良さを知ってしまったし、オナニーだけじゃもう物足りなさそうだな)
何、たった一回で経験者気取りするなだって?
い、いいじゃないか……そう、俺は『女』として経験したんだから、十倍くらい見積もったってさ。
な、何だよ……も、文句言われたって、した事には変わりないんだぞ! ……相手が自分だけど。
あぁもう、何言ってんだ全く、さっさと愉しむぞモゥ。
気を取り直してやりたい事を考えれば、何の事はないあるじゃないか試すべき事が。
(うむ、やはりここは)
そうと決まれば、一度は横にした体を起こし、自分の胸に触れて例のウィンドウを呼び出す。
「うーん、見れば見るほどスマホだな」
と言ってもこの時代とは比べ物にならん性能なんだけどな。
空中に画面だけが出ているわけだし、そもそもそのアプリは神様専用アプリだらけだし。
「さて、記憶の改変は昨日妹で試したから……」
自分のデータから、感情や人格に関するデータを呼び出し、変更可能な要素を確認していく。
「やー実に多い多い」
喜怒哀楽は勿論のこと、愛情憎悪信頼殺意まで幅広く取り揃っている。
更にはその一つ一つがかなり細かく調整可能なので、それこそ出来る事は無限の可能性を秘めていそうだ。
(まぁとりあえず試しに)
多分一番問題なさげな、『楽』のパラメータをかなり大きく値を振ってみる。
そして反映と書かれたボタンを押すと……
「? 何もかわらな……」
い、と思ったら……
「……ヒッ、ヒヒッ、フヒヒヒヒッ!?」
きっ、気持ちわる……わ笑い声がかっ……出てっ……!
「アヒャヒャヒャヒャ!!」
……ヤ、ヤバ、イ……こ、これじゃた、ただの狂じ……だ……
「イーッヒッヒッヒッヒ!?」
「うるさい馬鹿っ!!」
いっ、妹だ……さ、流石に咎っ……来……!
「フグッ、ヒグッ、い、いやな、その……ギャハハッ!」
「……うわぁ……」
ドン引きっ、今だかつてないドン引きっ……!
哀れむ目をして……妹、扉閉めて……去って……た!
(かっ、解除、解除を……!!)
ゆゆ指震えうまく操作……あ、値をっ……下げ、反えっ……!
「ヒヒッ……くはぁっ!?」
あー、ヤバかった……笑い死ぬかと思った。
一体何が面白おかしかったのか解らないほど、笑わずにはいられなかったんだが。
(記憶と違って、ここら辺は結構細かな設定が必要なんだな)
軽い気持ちで書き換えるのはやめにしよう……本当に死にかねん。
吐き出し切った空気を深呼吸して取り込んでから、再びウィンドウと対峙する。
(ふむ、なるほどナルホド……)
パラメータばかりに気を取られていたが、よく見るとそういった設定の他に、その他の設定もあった。
そこには直接感情等に関わる値はなく、持続時間やらタイマーといった項目があった。
(時間が決められるのか、なら)
これを使えば被験者を野に放しても安心だな。
(ん?)
俺今なんて思った? ……いかんな、だんだん神様気分が素になってきたぞ……
でも仕方ないんだよ、この力悪用した方が使い勝手いいんだもん。
まぁでも俺自身は一応、そういう人間じゃないとは思っている……うん、いままでのは『遊び』だから、さ。
「さて、持続時間が決められるのならば」
人格パラメータを呼び出し、何が改変可能か調べ上げる。
「よし、これならこれをこうして、こう……」
これからする事の為に必要な要素を、改変していく。
そして単一の設定だけではなく、それに付随した値もそれっぽく仕上げていく。
「よし、あとは反映するだけ……」
で、何をしたのかというと。
昨日、妹のフリをしていたわけだが……気付けば本当に妹になったような錯覚に襲われていた。
あの、身も『心』も女になる感じ……アレをもう一度、味わってみたい。
「肉体だけじゃなく、精神も楽しんでみないとな」
麻薬のようなあの感情を、もう一度……その思いから、自分の人格を『女』にしてみた。
あの『女の自分』に会ってみたいという歪んだ感情、でもそれは俺が望んでいた欲望の一つ。
流石にソレはちょっとと思うだろうが、アレは体験した人間でなければ理解できない事だよ。
「おっと、コレコレ」
そして反映する前に、効果時間を設定、っと。
(これで……)
震える指で、ボタンを押すと、その瞬間、バチッと電撃が頭の中で響いて……オレは。
「……」
――――???
「……え?」
アレ、なにコレ?
「い、いや……」
私の記憶なのに、私にはとても堪えられない事ばかり浮かんでくる。
それに、この体……
「ヒッ!?」
こ、これってやっぱり、男の人の、アレ……だよね……
恐る恐る触れてみれば、間違いなくコレは、私の体の一部。
「だって私男だから……当然、だよね……」
でもそれが凄く……イヤ。
どんどんどんどん、自分自身への嫌悪感が膨らんでくる。
「私、どうして今までケアしてこなかったんだろう……コレじゃ、もう遅いよ……」
自分の手を見つめて、溜息をつく。
髪も体も腕も脚も、それに顔も……これじゃ男ソ・ノ・モノだよ……そんなの、イヤ!
「うぅうっ……」
泣きたい……こんな体で生き続ける位なら、私、もう死のうかな……
「……いいえ、まだよ!」
諦めたらそこで試合終了よ! 気持ちの切り替えが大事!
そうと決まったらまずシャワーを浴びて、このイヤな臭いを取り去るの!
お風呂に入れば、こんな落ち込んだ気分もきっと晴れるわ!
陰鬱な気分を払拭するため、私は意気揚々と部屋を後にす……
「……」
手が、ドアノブに触れている。
外に出るためだ。
何のために? 風呂に入るから。
けど、そう思っていたのは……誰だ?
――――…………。
「お……おお……おおお……」
O・T・L。
くるりと踵を返して膝と手を突いたその姿は、まごう事無きOTL。
「違う、何か……違う……」
勿論今の出来事は他の誰でもない、自分自身の行動で、記憶も鮮明だ。
だからこそコレは……相当キツい、果てしなくキツい。
「ぬぉぉ……何故故こんな事にぃ!」
多分、設定した内容の一部が間違っていたか、足りなかったか。
どちらにせよただのオカマ状態に成り下がった自分を見るのは、想像を絶した光景だった。
そんなおぞましい記憶が脳内で繰り返され、精神をフルボッコにしていく。
「け、消したい……リライトしたい…… ま、待てよ!!」
その呟きにハッとする。
そ、そうだ、俺にはそれが出来るじゃないか!
震える手でウィンドウを呼び出し操作して、記憶の項目を開く。
「この……五分間の記憶を……消去すれば……!」
指が有り得ない速度で記憶消去の手続きを済ませ、真っ直ぐ確定ボタンを捉え……はたと止まった。
(お、落ち着け俺……よく考えるんだ)
五分前の俺は、何をしようと考えていた? ……今の俺を苛む原因を作ってたじゃないか。
(ならもっと前? イヤ駄目だ、『俺』ならやりかねない)
気持ち悪い記憶を出来るだけ回避しながら、必死且つ冷静に考えて、出した結論が……
「ん? 何だコレ……」
突然目の前に一枚のメモ帳が舞い降りてきた。
ウィンドウに伸ばした指を止め、それを拾って読んでみる。
「……」
そこに書かれた内容を理解した俺は、そっと、ウィンドウを閉じた。
「……スマン、俺」
今度から、気を付けます。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
九日目。
……え? 昨日はそれだけかって?
イヤホラ、何事も慎重に慎重を重ねてというか、様子を見てからというか、継続は力なりとかいうじゃん? ジャン?
……えぇそうですオンゲーやってましたよえぇ、やって何が悪いか!
勿論能力の件を放置していたわけじゃないぞ、実際調整や設定の考察はしたぞ、ホントだぞ?
……どうやら信じていないようだな、よかろう、ならば昨日の内に考え出した方法を披露してやろうじゃないか!
あ、でもまだ時間早いし、準備もあるからちょっと待ってね、後少しでクエストがね。
――――その夜。
(さてさて)
最早自室にいるのとなんら変わらなくなってきた、妹の部屋。
壁を抜けて覗いてみるば、妹は机に向かってなにやら作業している真っ最中。
(勉強中か?)
へー、コイツにしては真面目じゃないか……なんて思うのは、流石に言い過ぎか。
(どれどれ)
スィーッと妹の傍に移動して、横から覗き見ると……
(……マンガかいっ!!)
ビシッと突っ込みを入れたくもなるわ、それこそ漫画みたいだよこの状況!
一応形だけでも教科書とノートは置いてあり、途中までやっていたようだが……どうやら息抜きが長引いているようで。
(全く我が妹として情けないが……でもしょうがないか、コイツだし)
うんうんと頷いて妹の事を憂いてあげる、優しいな俺……え、なんか違う?
おぉそうかそうか、まがりなりにも勉強していた事を褒めた方が、って。
(っとと、こっちも目的がすり替わってるぞ)
俺まで釣られてどうするんだ……本題に戻らないと。
それに、妹がマンガに夢中なのは、かえって好都合だしな。
(よし、それでは)
妹の背後に回り、背中を指でポンとタッチする。
この方法だと触られた感覚がしないのか、妹は気付かずマンガを読みふけっている。
(さぁ妹よ、呑気にマンガを読んでいられるのも、今のうちだぞぉ?)
ニヤニヤしながら、妹の背に現れたウィンドウを操作し、『設定』を弄り始める。
そうそう、今日は念入りに、慎重に。
予め用意しておいた設定をコピーしつつ、妹に合わせて調整を行い……
(よーし、これで)
作り上げた設定を推敲し、最終確認を終える。
今回は対象が俺ではないし、俺はこれから妹を『観察』するので、時間設定はせず反映ボタンに指を立てて。
(さぁ起動せよ! 妹よ!!)
ポチッとな、の掛け声と共に、妹を『改変』する。
その瞬間、妹が体をビクッと震わせて、背筋を伸ばした。
「……」
その状態のまま動かないので前に回ってみると、ポカンと口をあけ目を丸くしている。
(バカっぽい)
見たまんまの感想だよ? 別に悪口じゃないよ?
とはいえ本当にその表情のまま動かないから、余計そうとしか。
「? ?? ???」
漸く何事かと思い辺りを見回す妹だったが、当然何もないわけで。
「な、何だ……?」
(おっ?)
効いてる……かな? これだけじゃわからん。
キョロキョロするも何も見つけられず、首を傾げてからまたマンガを読み出す妹。
(マンガに夢中なせいで、気付いていないのか?)
いずれ気付くとは思うが、オマエ鈍感すぎやしないか……
と思ったのも束の間、どうやら妹が読んでいた漫画、これが何気に活性剤になったようだ。
「うわっ、コイツ簡単に股開いちゃってるよ……」
妹から飛び出した言葉、正確には言葉遣いを聞いて、ニヤリと口元が緩んだ。
(効いてる効いてる♪)
少女漫画のエロは下手な成年漫画より濃いと聞くが。
果たして今コイツはどんな気持ちで読んでいるのか、ワクワクしながら待っていると。
「いいなぁ、こんなシチュ……」
へー。
「あー、ダメだなコイツ」
ほー。
「作者なんも分かってない」
そうですか、でも本当に分かってないのはお前なんだがな。
「はぁ、いいなぁ……こんな娘とヤリたいなぁ」
……ktkr。
皆さん聞きましたか、妹の呟きを。
『ヤられたい』のではなく、『ヤりたい』と。
「……する、か」
更にそう呟いた妹が、股間に手を伸ばしたのだが……その手の動きが、どこかおかしい。
「ん? アレ……?」
手で股間を擦っているのだが、その位置が女がやり始めるには明らかに場所が違う、上過ぎる。
違和感を覚えた妹が、スカートの中に手を突っ込んで……何かを探っていた。
「何で……?」
なんでも何も、ねぇ?
自分の目で確かめるために、椅子を引いて股間に視線を落とす妹。
ラフな部屋着とはいえ、スカートにショーツという至って女らしい服装。
けれどそんな格好に相応しくない、大きく股を開いた座り方をして、大きく目を見開いて自分を見つめる妹。
「あれ、無い……無い!?」
突っ込んだ手を大きく動かして、くまなく探すが……当然妹の体に『ソレ』があるはずもなく。
「……え? だって、そんな、いやでも……俺、女、だから……無くて当たり前……え?」
(ウヒョッ!)
思わず変な声を上げてしまったぞなもし。
(これは……成功したか!)
グッとガッツポーズを決め、頭を抱える妹をじっと観察する。
ここまでくれば解ると思うが、妹に何をしたのかというと……『人格男性化』の術式を施したのだ。
フッフッフ、これもまた、TSF界に伝わる一つの所業なり。(俺的見解だが)
説明しよう!
まず、妹の思考や性格もろもろを単純に男性化、これはプリセット的なモノがあったのでそれで。
次に、先日曖昧にしておいた男の『感覚』、それだけを残し再度、妹の記憶の一部に復元した。
こうする事で妹が知りえない男の感覚や快感を、簡単に植えつけることができた。
しかし妹自身の記憶はそのままなので……ただし古ぼけたのを除いて、多少細工済みだが。
こうして出来上がったのが、『男の感情を持つ女』である。
アイツは今相当な自己矛盾に苛まれているはずだ、少し可哀想と思うも、それ以上にこんな妹が見たかった方が強い。
……何? 確かにTSFだが、こちらとしては非該当扱いだって?
甘い甘い、コレにはコレのよさってモンがあるのさ、それを今から証明……するのは、コイツ次第だが。
っと、観察再開。
この間も妹は相変わらずペタペタ股間を触っているが、どんなにがんばっても生えてこないって。
漸く諦めたのか、スカートとショーツを躊躇いなく、そして手際よく脱ぎ捨てた。
「やっぱり、無いよな……女なんだから」
……まぁ上半身だけ見れば中性的なのだが、今の姿において決定的に足りないものがある以上、お前は女だよ。
また例の手鏡を取り出すと、まるであの時の俺in妹を見ているかのように、自分の股間にあてがった。
「マ○コ、だよな……」
ハイ。
自分の具をまじまじ見つめるその顔は、エロいというより興味津々といった表情をしていた。
「で、でも俺は男で……いや、体は女だし……」
頭を抱え始めた妹……大丈夫だよな、オーバーヒートなんて起こさないよな?
そんな心配をよそに、突然叫ぶ妹なのだが……
「じゃ、じゃあこのブッ込んだチ○コの感覚はなんなんだ!?」
(ブフゥッ!?)
オイ! いくらなんでも直球すぎるだろ!
イカンな、恐らくこれは男としてのコイツ自身の性格が、こんな感じなのだろう。
下半身丸出しのまま、頭を抱えて心と体の食い違いに苛む妹。
せめてパンツ穿けよと言いたいところだが、今はそこまで頭が回らないのようだ。
……もしかすると、ただ単にこちらが女性に幻想を抱いているだけかもしれないが。
「……ハッ!」
記憶の矛盾に苛まれる妹だったが、はたと動きを止めると、顔を上げわざとらしくポンと手を叩き。
「そうか、夢だ!」
と言い放った……ノーコメントで。
兎に角自分の中で勝手に結論付けた妹は、ベッドに横になると、ティッシュを数枚取り出した。
手を顔の前に持ってきて、ニギニギ動かしたかと思えば、今度はクイクイ人差し指と中指を折り曲げ始めた。
「チ○コがないなら、マ○コでいいか」
解らんでもないが、その結論はどうかと。
紆余曲折あったが、体の方は疼きっぱなしだったようで、妹はすぐにオナニーを始めだした。
いきなりクリを摘み、擦り出したものだから、体が跳ねてベッドを軋ませた。
「あふっ、こっ、これでもチ○コ扱いてるって、言うのか……?」
どうだろうね。
変なことを言いつつも、クリを摘んでは腰を跳ね上げて息を荒くしていく。
「うぁっ、んっ……」
自分でも出した覚えのある声に、俺もだんだん興奮を隠せなくなってきた。
(こ、こうして客観的に見るのも乙なもんだな)
妹さえしてくれれば、二日目から見られる可能性もあったが、結局今日まで見られなかった光景。
考えてみれば俺は妹の痴態を見ているだけで、十分興奮できる性分なのだ。
それが今、目の前で繰り広げられている……しかも妹は、少し乱暴なオナニーで、自分自身を犯しているから、尚更。
「なっ、膣内も熱いな……指がすんなり入る……んんっ!!」
妹がオナニーをしている。
でもその口調、そのやり方がまるで自分がやっていた時のを見ているような錯覚すら覚える。
「あぁっ、チ○コが、俺の小さなチ○コが勃起してる……!」
……折角ノッてきたのに……言葉だけだと引くなコレ。
でも妹はそう言いながら腰を上げ、まるで俺に見せつけるように扱いて見せた。
(うぉぉっ!)
勿論解ってやっているわけじゃないのだろうが、妹のが丸見えで、且つ弄られているのを見ては、興奮は高まる一方だ。
「くふっ、こんな、俺、女なのに、マ○コで感じて……あっ、ああっ……あああっっっ!!!」
男の心が堪え切れなかったのか、かなり早めに妹がイッて、体を痙攣させ始めた。
「はぁぁーっ……」
ピュッピュと潮を噴きながら、妹が気怠そうに腰を下ろした。
が……今回はこっちが物足りないという事態に。
(うーん、これだけだとちょっとな……)
確かに俺としてはいいモノが見れたのだが、大見得切った割に単なるオナニー実況にしかなってないな。
(何かいい手は……あっ、コラ!)
「すげぇ、まだまだイける……なら、もう一回……」
賢者タイムが無いと知り、妹が第二ラウンドに突入した。
くそぅ、俺、毎回一度だけしかしていないのに……ずるい。
このままもう一度妹のオナニーを見るのもいいが、もう少し起爆剤が欲しいところ。
というわけで一旦自分の体に戻り、腕を組んで考える。
(うーん……)
当初の予定では、もうちょっと『男らしさ』を感じられるはずだったのだが、これでは足りんな。
(何だ、何が足りない?)
唸りながら考え込むと、壁の向こうからベッドの軋む音、そして……妹のちょっと低めな喘ぎ声が聞こえてきた。
(ホントに第二ラウンド突入してやがる……)
まぁ仕方ない、男の性欲が女の体の快感を知っては、歯止めが利かないのだ……経験者は語る。
(……ふむ)
待てよ。
部屋を後にして、出来るだけ静かに扉を開け、そして妹の部屋の前へ。
聞き耳を立てれば、まだまだイクには至っていないようだ。
(……よし)
そっとドアノブに手をかけ、しかし普段通りの勢いで扉を開けて。
「おーい、今日の飯だけど……」
何時もの口調で、妹に声をかけてみた。
「!!??」
「あ」
そして妹と目が合う……より前に、思いっきりこちらへと突き出された、妹のヒクつくマ○コと目があった。
突然のことに暫く固まってしまった妹が、ゆっくり腰を下ろして体を起こし……ってこっ、怖っ、エクソシストか!
「あ……あ……あ……」
驚きを通り越してもはや埴輪のような顔をしている。
「……スマン」
とりあえずバツが悪そうな『フリ』をして、部屋を出ようとする……と。
「ち、違うんだこれは!」
「何が」
「いやその、ホラ……あの……」
真っ青な顔をして、目を泳がせる、全裸の妹。
(当たりだ、この反応を待っていた)
もしこれが何時もの妹だったら、部屋に入った時点で間違いなく俺の両目はくり抜かれていただろう。
しかし今の『妹』は女ではなく男なせいか、俺への対応もまた違っていた。
慌てふためいて、その裸体を隠そうともせず、必死に取り繕うとする妹。
(ギャップがいいなぁ)
ギャップはTSFの醍醐味だが……ちょっと想定と違ったかな、でもコレはコレでヨシ。
何よりこんな妹の姿、初めて見たというのもある。
さて俺は、このまま演技を続けるとしよう、ただしあくまで俺の中でのコイツへの認識は、『女』として、だ。
顔に手を当て、溜息を吐きながら。
「というか、少しは恥らえよ」
「えっ? ああっ!!」
そう指摘してやると、慌てて布団に包まる妹……いいね、実にエロゲチックだ。
「い、今のは、なし……で……」
「いやなにが」
「だから! オッ、オナニー、してた……こと……」
「してたのか」
「ッ……」
グッと歯噛みして、顔を赤くしてやがる、ちょっとかわいいじゃないか。
「しっ……」
「し?」
「して悪いかよっ!?」
おぉ逆切れ、そうきたか。
「別に悪いとは言わんが……ただどうしたんだお前、女がオナニー見られるって相当な事じゃないのか?」
「おっ……!?」
続く言葉が出ていないが、口の動きを見るに『オンナ』と言いたかったのだろう。
だがなその表情、まるっきり男だぞ。
「俺っ……わっ、わた、し……だってたまには……」
「俺?」
「い、言ってないぞ!」
「ホントどうしたんだよ、まるで男みたいだぞ」
「そんな事っ……!」
葛藤してる葛藤してる♪
俺から女と扱われて、どうにかしようとしているみたいだが、やっぱりどうして男の心が邪魔をしている。
内心ほくそ笑んで妹を見つめていたが、これ以上苛めちゃ可哀想か、というわけでそろそろ俺は退場します。
「マンガの読みすぎには注意しろよ? 痛い子になるぞ?」
「お前が言うなっ!」
そういう言葉だけはすぐ出てくんのな……どんだけ嫌ってんの。
やり取りを終え、扉を閉めると快速特急で今度は魂だけで再び妹の部屋に。
まだ布団に包まったまま、体を震わせている。
寒いわけじゃなく、怯えているといった感じだ。
「……やっぱ俺、女なんだ……」
そうですよ。
「チ○コ、無いし……」
ありません。
「胸……うっ……」
ありません。
「手も、足も、顔も髪も……皆から見れば、女……」
あー……お前ボーイッシュの域だから、全員が全員そうは思わないかもな。
「俺、どうしちゃったんだろう……なんでこんな自分自身に、違和感を覚えるんだ?」
まぁしょうがない、記憶は妹の、女のままだからな。
暫く顔を埋めて落ち込む妹だったが、急に立ち上がって布団をバッと取り払った。
そこには……ベッドの上に全裸で仁王立ちする、凛々しい妹の姿が。
「えぇいっ! 考えてもしょうがない! 俺は俺だっ、俺なんだ!! 諦めたらそこで試合終了だっ!」
思い切りのいい一言と共に、フンと胸を張る妹。
「オイ流石にうるさいぞ」
「あ」
速達で魂を戻して、また扉を開け、部屋に突入してみた。
当然、胸を張った全裸の妹を正面から見るわけで……
「だっ、だからノックしろよ!」
「わるいわるい」
今度は本当に恥ずかしかったのか、しゃがみこんで脚で裸の体を隠してはいるが。
でもな、真正面で向きあっているから、そうやってしゃがむと余計見えるんだが、ワレメが。
その事を指摘してやると、慌てて隠そうとしてバランスを崩しベッドから転げ落ち……
前転からのM字開脚を、俺の前で披露する羽目になった妹であった。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
両親が旅行から戻り、そして多くの人々が恐らくサザエさん症候群に陥った後であろう、十日目の朝。
朝食を済ませた妹が、登校する為身支度をしているのだが、どうも様子がおかしい……
理由? そうだな、強いて言うならば、妹の心はまだ男のままですが、何か?
「うぅうっ……」
幽体離脱できるようになってからは、妹の着替えシーンなんて飽きるほど見てきたが。
「なっ、何で何時もの着替えが、こんなにドキドキするんだよぉ……」
ブラを手にしつつ手際よく身に付けてはいるが、目をギュッと閉じ、顔を真っ赤にしながらというのが滑稽である。
あ、そうそう昨日の件を受けて、妹の設定を少しマイルドにしてみました、コレで(対人関係が)多い日も安心。
「よ、よし、コレなら誰がどう見たって女の子に思う……はず」
果たしてその言葉が今の心情だからか、元々持っていたコンプレックスだったのかは分からないが。
姿見で自分の姿を確認するも、どうしても違和感が拭いきれないようで。
「ス、スカートスースーする……」
両手で股座を押さえているが、そもそもそんな風に脚を開かなければ気にならないと思うんだが。
「うぅっ、なんで僕が女子の制服なんか……」
いやキミ、女子ですから、世間の認識は変えていませんから。
(あーでも、男子の制服を着込んだ妹も見てみたいかも)
よい絵が見つからない時、男装スレに駆け込む事もあるけれど。
残念ながら妹の体形に合う制服……どころか、メンズ服は買わないといけないんだよなぁ。
コイツならきっと『わけあって男子校にいる女子』の役にスカウトされるはず……って、今はそうじゃない。
「うわわっ、こんな時間! 急がないとっ!!」
長々と姿見の前にいた妹だったが、視界に時計が映り込むと、流石に遅刻の方が重大だからか、慌てて部屋を出て行った。
急いで玄関へ駆けていく妹、両親に気付くも二重の意味で目を合わせられず。
「い、行ってきます!」
「おぉ、行ってらっしゃい」
とだけやり取りをして靴を履き、登校していった。
両親に対してもどこかぎこちない態度なのは、昨日の一件が原因だろう……それは。
『帰ったぞー』
『おうっ、おかえり』
『? な、何だ、どうしたんだ?』
『! あっ、いや、なんでもねぇ……いや! なんでもないっ!!』
『アイツに何かされたのか!?』
『な、ない! 断じてないぞっ!!』
『ならいいが……父さんはそんな娘は嫌いだぞ』
『うっ、う……ん』
とまぁ、こんな事があったわけで。
両親にですらこの有様だったので、妹の設定をマイルドにした所存なわけ。
別にこのままでも見ものっちゃ見ものだが、流石にこれから行く場所でこれだと、生徒指導室送りが免れないだろうし。
その行き先というのは勿論学校なのだが……コイツが通う学校は、女子高なのだ。
そんな女の園にただ一人、男(体は女)が放り込まれたら……一体、どうなってしまうのかっ!? こうご期待っ!!
……え、お前は何処にも行かないのかだって? ……言わせんな恥ずかしい。
――――さて、十日も経てば最初の能力の性能は、指数関数的に上がっているわけで。
電車とバスに揺られる事数駅。
それでもあの焼けるような痛みなんて、現状県を跨がない限り発生しない程、移動範囲は広がっている。
というわけで体を家に置いてきて、俺は妹と共にバスの中……正確には、妹の『心』の中。
当然主導権は妹に任せたまま、俺は観測者の立場で妹の行動から心情までを随時報告する存在さ。
目的地が女子高だからか、最寄りのバス停に近づくにつれ必然的に周囲は女性、それもJKで溢れかえる。
(うわぁぁぁー……!)
そんな中、手摺りをギュッと握りしめ、俯いたままでいる妹。
車内はJKだらけ、当然雰囲気、香り、周りから聞こえてくる話し声も、最早げんなりするほどJK一色。
バスの運転手役得だなー……あ、意外とそうでもないや、うんざりした表情してる。
(がっ、我慢……我慢、しなきゃ)
傍から見ればトイレを我慢しているように見えるが、実際には妹は今にも隣の女子を襲いそうなくらい、興奮していた。
(おいおい、大丈夫かコイツ)
マイルドにしたと言ったな、アレは半分嘘だ。
正確には『男』から『男の子(not娘)』くらいの性格にして、でも性欲は今まで以上に。
そのせいで自分の性欲に振り回されやすくなってしまっているようだ。
……というか、俺から見てもこれはちょっと発情し過ぎな気もする、全くエロ過ぎるだろお前。
そんなのが女の園に放り込まれてみろ、間違いなく発狂するだろうな……あとは、本人の我慢次第か。
あ、でも流石にマズい状況になりそうなら、その時は俺がブレーキを踏んであげるがな、いやぁ実に優しいな俺って。
……まぁ、その俺が暴走しないという保障も無いんだがな。
そんなこんな考えている内バスは目的地に到着、扉からうじゃうじゃとJKが降りてきて、その中に妹の姿もあったが。
(ふぁぁ……)
降り立った妹は既にフラフラで、道の脇で膝に手をついて呼吸を整えていた。
(何で女の子って、こんなにいい香りするんだろう……)
イヤキミも一応女ですから、その要素はあるんだけど。
(ん?)
ちと疑問が浮かび、小首を傾げ……まぁ、いいか。
深呼吸をしてから徐に歩み出した妹だったが、一歩目を踏み出したところで急に誰かがぶつかってきた。
「ふあっ!?」
「やっほー♪」
誰かと思えば妹の友達で、部活仲間の娘だった。
妹とは容姿こそ違えど、似たような性格なのかお互い気心の知れた仲みたいだ、でなきゃこんなことしないし。
「あれ? どうしたの、元気ないねー?」
「えっ、う、うん……ちょっと……」
「駄目だよー、我が部のエースがそれじゃ!」
「ゴッ、ゴメン、大丈夫だよ……ひぁっ!?」
然程身長差がない二人だと、彼女が喋る度耳元に吐息がかかる。
(あぅっ、耳でイッちゃうぅうっ……!)
おーい、情けない心の声がお兄ちゃんにも届いてるぞー。
全くスケベなやつとも思ったが、どうやらコレは男だからとかじゃなく、コイツ耳が性感帯なんだな……いい事知った。
だがそれ以上にコイツは、今のこのシチュに興奮しているのもまた事実。
夏服は彼女の香りをほんのりと放出し、妹の鼻孔をくすぐっている。
そして何より、背中から感じる彼女の体温……こりゃたまらんわな。
「ってホントに顔真っ赤じゃない、風邪引いてない?」
「!? ち、違うからさ! ホントだってば!」
「そ、そぅ……」
おでこを当てて体温計ろうとするヤツ、初めて見た……そんなことされたら誰だってドキッとする。
一方妹は赤い顔を更に真っ赤にして、わなわな震えていた。
(だっ、駄目だっ! 彼女にそんな感情抱いちゃ……!)
……妹が妄想の中で、この娘に挿入れている画を思い浮かべているんだが、どっから生やしたその棒。
妹の場合、なまじ女体を知っているせいで妄想の描写がリアル、それもあって興奮は高まる一方だ。
(うぁっ、チン○ン、チ○チンが疼いて……)
だから無いだ……あぁそっちね。
感覚も共有しているから分かるんだが、クリが異様に突っ張っているのを感じる。
……そのせいで下着に擦れて……ヤバイ、出そう、というか別の液は既に出てる。
これ以上は危険と感じたのか、彼女の方へ向き直し、引き攣った笑顔を見せて……
「と、兎に角僕は大丈夫だから! 先行くね!!」
「えっ、う、うん」
校門に向けてダッシュした。
(僕は、僕はっ!!)
自分の妄想を振り払おうと走る妹、その速さと走り方で色々と悪目立ちしているが、妹はそれどころではない。
それにしても、本当に親友と呼べる友人なんだな、大切にしろよ? ……いろんな意味で。
<俺の知らない内容>
「……『僕』?」
マンガか何かの影響受けちゃったのかなぁ?
でも違和感ないかも? ウフフッ、かわいい?
――――数学の授業中。
(あー、あったなーこんな数式……)
懐かしい記号の羅列を、ぼんやり見つめる俺……そして妹は、熱心に授業を受けていた。
(そーいや逃避能力に関してははA+あるんだったなコイツ)
いや、それ以上に一発『ヌいた』のが効いたのか?
どちらにせよ妹は状況に惑わされないようにする為か、授業にこれでもかというほど集中している。
流石にこっちはそのつもりはないので、妹から抜け出して教室中の生徒の心を読んだりして暇つぶし中。
(本当に賢者タイムじゃないかこれじゃ)
あの後、教室より先にトイレに駆け込んだ妹は、狂ったようにオナニーを始め、クリを弄り倒した。
「っっっーーー!!!」
ご丁寧にハンカチを噛んでまで声を殺して、射精しようと必死にクリを扱いていた。
千切れるんじゃないかってくらい強引で躍起なオナニーには、流石の俺も突き動かされた。
(うああっ、クリ○ンコが、クリチ○コがぁっ!!)
あくまでチ○コと言い張る妹。
だけど勿論そこから噴出すものは何もなく、代わりにワレメから溢れた愛液がピチャッと便器を叩く。
「んんんーーーっっっ!!!」
抑えられていた性欲が強すぎたのか、またしてもスピーディに絶頂へと達する。
ビクンビクンと痙攣する妹の体、その快感は当然俺にもフィードバックし、思わず妹の『中』で射精した。
「でっ、出てる……熱いの、出てる……」
(へぁっ?)
光悦とした表情で有り得ない事を呟く妹だが、どうやら俺の射精感が伝わったらしい。
というか俺が油断したのが原因なのだが、妹は満足しているし、それでもいいかと思った……ら。
これだよ、賢者だよ。
――――昼休み。
普段なら友人と楽しくお喋りしながら昼食をとる時間のようだが、勿論今の状況でそれは避けたい妹。
だが、女の包囲網は恐ろしく。
「さっ、いつもの所行こーよ!」
「きょ、今日は……」
「落ち込んでる時こそだよ、行こっ!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
強引に手を引き、妹を連れ去って行く……って待て待て、俺を置いていくな。
いつもの場所とやらに着くと、指定席に座って、弁当を広げ始め……おぉ、美味そう、手作りか?
妹もそれに次いで弁当を広げ……あぁ、何時ものね、ハイハイ。
「いただきまーす♪」
「いっ、いただき……ます」
「んー美味しっ、我ながら完璧っ♪」
「は、ははは……」
……意外とこの娘、自由奔放だな……というか、子供?
そんな彼女に愛想笑いをして、妹も食べ始めるが……案の定、ボロが出た。
「ちょっとー、がっつきすぎだよー」
「へ?」
「ご飯粒、ついてるよ」
「あっ……」
頬のご飯粒取って食べるヤツ、初めて見た……そんなことされたら誰だってドキッとする。
口に含んだ指をハンカチで拭うと、少し見上げる感じで妹をジッと見つめてきた。
「ねぇ、今日はどうしちゃったの?」
「うぐっ!?」
突然の質問に、口にした物を呑み込んでしまい、喉が詰まらせる妹……あの、俺も苦しいんだが……
お茶でどうにか呑み込み、目を丸くしてその友人の目を見つめ返す。
「どっ、どこが!?」
「え、全部」
「全部!?」
リアクション芸人かお前は。
「んー、何時もと雰囲気違うし、言っちゃえばまるで別人というか……」
「ちっ、違うって!」
「ホラそれ! なんでそんな口調なの?」
「くっ、口調?」
「それに今朝、なんで僕なんて言ったの?」
「僕は『僕』なんて言ってない!」
「やっぱり」
「うぐぐっ……」
図星を指されたじろぐ妹だが、そのリアクションも男っぽいぞ。
「ねぇ」
「う、うわっ」
身を乗り出して、見つめてくるヤツ初めて……もういいか。
とはいえ妹がドキドキしているのは事実ではある。
次の言葉を紡がず、ただジーッと見つめてくる彼女に、妹は目を離せず、固まってしまった。
「いや……その……」
「……アハッ、アハハッ!」
「ヘ、ヘッ?」
「そんな日もあるよね、なんとなく自分を変えようって思って変な事しちゃう時って!」
「あ、う、そ、そうなんだ……ハハ、ハハハ……」
……ふむ……あ、いやなんでもない。
「分かるよーその気持ち、私だって変わろうって思ったことあるもん」
「そ、そぅ」
「んーでもちょっとやりすぎな気もする、今と普段との間くらいが丁度いいと思うよ?」
「へ、へぇ」
「それでも続けるんかいっ!」
わざとらしいツッコミが妹に刺さる。
「あっ……」
「?」
そんなツッコまれた妹が、突然胸を押さえうずくまった。
「ご、ゴメン強かった?」
「そ、そうじゃ……ないんだ……けど」
「けど?」
ふぅーっと深呼吸をして、起き上がる。
「ちょ、ちょっとちく……い、胃が揺れただけさ」
「うぇっ」
オマエ、もうちょっと他の言い方があっただろうに。
それに、本当の理由は違うだろ?
……チ○コの替わりにピンと立った、乳首が擦れて反応したんだろ?
お兄ちゃんには何でもお見通しなんだぞ。
「あ、いやその! ……ゴメン」
「いいよ気にしてないよ、優しいなー撫で撫で♥」
「ちょ、ちょっ、それは……!」
優しく撫で(中略)ッとする。
流石に気恥ずかしいのか、やめるよう言うが……満更でもないご様子。
その時、彼女の携帯の着信が鳴り響くと、手を止め内容を確認し、慌てて弁当を片付け始め、立ち上がった。
「ゴメンッ、呼び出し! 先戻るねっ!」
「えっ、あ……うん」
そう言ってこの場を後にする彼女。
残された妹はポツンと、何するでなし固まっていたが……撫でられた頭に触れて、その手を確認し。
「へへへっ……」
口元を緩ませ、ニヤニヤする妹であった。
……解らなくもないが、通りすがりの生徒に見られてるぞオイ。
――――午後の紅ち……授業中。
俺はまた教室の後ろの方でふわふわ浮かびながら、変な話だが横になってくつろいでいた。
いやね、今妹の体の中にいると……眠くって。
当然その本体である妹は爆睡中、あーああんな股開いて寝ちゃって……ホラ怒られた。
その上寝相を指摘されて皆に笑われて、顔が真っ赤にしちゃってまぁ。
「ちょっとー、だらしなさすぎだよー」
「うぅっ、そうなんだけど……」
まーあんな豪快な寝相、流石に見ちゃいられないわな。
その後もうつらうつらしていた妹だが、どうにかこうにか乗り切れたようだ。
授業が終わり、再び妹の中へ入り込むと……まだ眠いな、やっぱ。
……でもそれ以上に妹よ、お前はまたどうしてこんなに発情しているんだい?
あぁこの感覚アレだ、朝勃ちや疲れマラと同じだ……え?
――――さて、授業も終わり放課後。
こんな所にいては、常時発情しっぱなしな妹は、今すぐにでも帰宅したいのだろうが。
「さっ、早く行かないとまた先生に怒られるよ?」
「わ、分かってる……」
今朝も言ったが、妹は友人と共に部活動に励んでいる。
何部かって? ……なんと、水泳部なのです。
まぁこんな妹だが、身体能力に関しては下手な男子よりも良く、『部のエース』という肩書きも強ち嘘ではない。
……やっぱ、胸が小さいから泳ぐ時に抵抗が少ないから、なのだろうか。
(い、行くしかないのか……)
何時もなら妹の方が率先していくのだろうが、なにせ女の園の、更に深淵に乗り込むのだから気が気じゃないだろう。
そんな理由から、場合によっては妹が嘘をついて部を休む恐れもある……が、勿論そうはさせん。
この事あるを予想して、事前に『暗示』を仕掛けておいたのだ。
まぁ暗示と言っても、そこまで凶悪な内容ではなく、ただ単に『部活動がんばらないと』、それだけである。
(だ、大丈夫だ、僕は女なんだから怪しまれない……はず)
だがそれだけでも、効果は抜群だ。
元々妹は部活に力を入れていたし、俺はほんのちょっと後押しをしただけだしな。
少し戸惑っていた妹だったが、そそくさと仕度を済ませると。
「じゃ、じゃあ行こうか」
「うんっ!」
「わわっ、ま、待って!」
妹が行く気になるや、友人が妹の手を取り駆け出した。
いやー、青春してるナー……ってだから俺を置いていくなし。
――――辿り着いたるは、男子がかくも憧れる、女子更衣室。
(あわわわわっ……)
その室内では、既に他の部員達が着替え始めていて、しかも大半が驚く事に隠そうともせずにいた。
女子しかいないこの状況に慣れているせい、なのだろう。
(目っ、目のやり場が!)
だがあっちを見てもこっちを見ても女体女体、今の男の妹には酷ってもんだ。
え、俺? ……スマンがもう慣れた、というか既に覗きスキルは神の域に達しているので。
(それにしても、だ)
「ほらぁー見せなさいよー、また大きくなったんじゃない?」
「ひゃああ!」
「ん、間違いない、こないだより大きくなってますぜ皆の衆」
「ふ、二日三日で大きくなるわけないじゃない!」
「なにおぉーこのー当て付けかー!」
「ふにゃああ!」
……エロ親父か。
襲われている方も襲われている方で満更でもない表情だし、やっぱ女の方がエロいんだな。
で、当然その光景に目が釘付けな妹……おーい口閉じろ。
「ンッンー、どうしたのかな、やっぱアンタもこれくらいになりたかったん?」
「へっ? わわわっ!!」
「ほれほれー制服の上からでも立ってるのが分かるぞぉー」
「うぁっ、ちょ、そんなっ……」
「おやおやー? もしかして興奮しちゃったー?」
「ち、違っ……!!」
手馴れた手つきで的確に妹の乳首を責めてくる……常習犯だな、この部員。
一方の妹はされるがまま、裸の女性に乳首を弄られすっかり光悦とした表情をしている。
いやー、青春してるナー。
そんな黄色い声が飛び交う更衣室に、水を差すような高い声が響いた。
「ホラ貴方達っ、何をグズグズしているのっ!」
もうちょっとで妹がイきそうなタイミングで扉が開かれ、どうやら顧問の女教師であろう人物が現れた。
「時間は待ってくれないの! さっさと着替えて集合!」
「「「「はーい」」」」
うおっ、リアルお局だ……ホントにいるんだな。
そのお局が、つかつかと妹の下へ歩み寄ってきて。
「まだ制服のままなのは、やる気が無い証拠かしら?」
「あっ、いえ、その……」
まぁ未だに一人だけ制服のままじゃ、そら恰好の的になるわな。
「貴方に自覚がないのなら、今度の大会は別の人を選ぶけど?」
「! い、今すぐ着替えますっ!!」
「さっさとおし!」
「はっ、はいぃ……」
妹にとって死の宣告にすら聞こえる言葉に、慌てて着替え始める妹。
「今日は練習量増やしますから、そのつもりで」
「「「「えー!」」」」
「『えー』ではありませんっ! 貴方達の怠慢がいけないのですっ! 一人でも遅れたら更に増やしますからねっ!」
「「「「ひぇーっ!」」」」
脅し文句を残し、その女教師は更衣室を後にした。
「……怒られちゃったね」
「うぅう……」
「お局、生理か」
(ブッ!?)
せめて『あの日』と言いなさい。
流石の妹も、周りに気をとられる以上にレギュラーの座が惜しいようで、言葉に反応せずに着替えに集中していた。
あ、そうそう誠に残念ながらこの学校……競泳水着採用なのです、なんとつまらん事か。
――――どうにか遅れずに済み、何時もの練習を開始する部員達。
いざ部活が始まると、妹もスイッチが切り替わるようで泳ぎに専念し始めた。
そんな中、妹はまるで覚醒したかのように泳ぎが速くなり。
「……凄いじゃない、新記録よ」
「えっ、本当ですか?」
そして自己ベ更新まで達成、流石のお局も驚きを隠せないようだ。
「だからといって大会に出たいのなら、記録だけでは駄目よ、その場に相応しい人間にならないと」
「わ、解っています」
「それならいいのよ、じゃあ上がって、次の人っ!」
プールから上がった妹は、じっと手を見つめながら列の最後尾に移動した。
(いつも通りのはずなんだけどな……何かが変わったのか?)
うんまぁ、心情はガラリと変わってはいるけど。
とはいえ、心が男になったからってそんな事になるのか?
(あ)
もしかしてアレか、あの『暗示』か。
当初の目的は果たしたが、それをOFFにするタイミングも、必要もなかったからな。
その結果がコレだってんなら……まぁ、そのままでもいいか、妹の励みになるなら良しとしよう。
(に、しても)
部員をざっと見回してみる。
(A、B、AA、B、A……)
更衣室で大方の面々は生で見ているし、少なくとも水着のせいじゃないな、コレ。
胸を揉まれていたあのメガネっ娘も、Cギリギリといったところだし。
どんだけ貧乳の集いなんだよ、水泳部……あぁ逆か、水泳が得意なのが貧乳娘、なのか。
などと、独断と偏見の結論を出したところで。
「ハイ! それでは本日の部活動はこれで終了にします!」
水泳部の練習が終了する。
どうやら、最初の決定事項以上には練習量の追加がされなかったようだな。
それでも、殆どの生徒がプールサイドで息を整えているのを見ると、相当スパルタ方針だと見える、流石お局。
「はー終わったー」「ホントに延長するかフツー」「……帰って寝たい……」
皆クタクタになりながら更衣室へ向かう……中、妹は女教師に歩み寄る。
「あの」
「何かしら?」
「もう少しだけ、練習したいのですが……さっきの感覚を、忘れたくないので」
「……」
おぉ、意外。
『暗示』の効果があるとはいえ、ここまでするのは多分他でもない妹自身の思いだ。
お局教師もその熱意を感じたのか、少し考えた後眼鏡をクイッとあげ……
「いいでしょう、鍵を預けますから、後で返しに来るように」
「ハイッ!」
コレも意外。
なんだかんだで実力は認めているのだろうか。
とっとと帰宅の準備を始める部員を横目に、妹は再びプールに飛び込み、泳ぎ始めた。
(青春、してますなー)
……そろそろ使い方が怪しい気がしてきた、もうやめておこう。
暫く俺は練習を続ける妹を見守っていたが、ふと、誰かの気配を感じた。
(あの娘は……)
妹の友人だった。
言ったように彼女は部活仲間でもあるわけで。
始めは彼女も他の部員と共に更衣室に入っていた気がしたが、未だに水着を着ていた。
その娘はプールサイドに立ち、泳ぎに励む妹をジッと見つめていた。
(ふむ)
泳ぐ事に夢中な妹は彼女の存在に気付かないが、彼女の方も声を掛けず、ただじっと見守るだけ。
暫し、二人で妹観察。
が、一息ついた妹が漸く彼女の存在に気付き、ハッとした表情を見せた。
「あれっ、なっ、なんで!?」
「やっと気付いた」
水を掻き分けて彼女の元に向かう妹、それを受け梯子の傍にしゃがみこむ彼女。
「居残りしてるって、先生に聞いたから」
「あ、あぁもしかして鍵?」
「そっ」
「それなら、すぐに言ってくれれば……」
「いいの、一人じゃ寂しいでしょ?」
「だ、大丈夫だよ……」
「ホント?」
「あぁ、僕はそんな……って!」
「?」
どうしたことか、妹が急に目を逸らし、震え始めた。
「どうしたの?」
(みっ、見え……!)
こっちも最初は分からなかったが、妹目線に立って理解した。
妹はプールに入って肩くらいまで水に浸かっていて、一方彼女はプールサイドにしゃがみこんでいる。
その為自然と目線の先には、彼女のアソコが丁度良い位置に飛び込んでくるわけだ。
……この、ラッキースケベ。
「まっ、待たせるのも悪いから……これであがるよ」
色んな意味で目を合わせられない妹に、彼女は。
「私は別に気にしてないよ?」
と、どっちとも取れる返事をする。
「い、いや、遅くなってきたし、帰りが危ないから、さ」
「心配してくれてるの? ……フフッ、ありがと♥」
優しく微笑んで、プールから上がる妹に手を貸す彼女。
「あ、ありがと……わわっ!」
濡れたタイルで足を滑らせ、妹が倒れそうになって、そのまま彼女にもつれかかった。
「キャッ!」
どうにか倒れずには済んだようだが、抱き合う二人……そして、見つめ合う二人……いや、実に眼福。
「わわっ、ゴメン!」
慌てて離れる妹だが、彼女が手を伸ばし、再び妹を引き寄せた。
「疲れてるなら、肩を貸すよ?」
「!? だ、大丈夫だから!」
「いいからいいから♪」
「ひぁっ! ちょ、ちょっと!」
「フフッ♪」
ソレ、肩を貸すって言わないよ、腕組みだよ?
彼女の温もりを直に感じ、妹はまるでロボットのようにぎこちない歩みで更衣室に向かっていった。
そんな妹からは水が滴り落ちていたが、股間の辺りの水分は……プールの水だけかい、妹よ?
――――他の部員はとっくに帰宅していて、更衣室でも妹は彼女と二人きりの時間を過ごせていた。
「さっ、早くシャワー浴びて帰ろっ♪」
「う、うん……」
そういって脱ぎ始めるのだが、女同士、そして二人きりだからか彼女も全く隠そうとしない。
あとに続いて妹も水着を脱ぎ始めたが、目線は常に彼女の肢体を捉えていた。
(お尻、柔らかそうだなぁ……)
ボーイッシュな妹は、体つきもやや男っぽい。
そのせいか、男女両方の気持ちで彼女の体に対して羨望の眼差しを向けていた。
(うなじもエロいなぁ)
ほーオマエ、うなじフェチか。
まー確かに、あの長い髪を掻き上げた際にチラリと見えるうなじは、そそられるものはある。
気付かれていないのをいい事に、いつしか手を止め彼女の体を舐めるように見つめ出した。
が、そんな『男』の視線は、彼女の『勘』を働かせるには十分で。
チラリと妹に目を移し、脱ぎ終えた水着で体を隠し……
「恥ずかしいよ……」
と恥じらってみせた。
「あっ! ゴ、ゴメンッ!! そんなつもりじゃ……!」
彼女の言葉に、血の気が引いていく妹。
よかったなお前女で……本当に男だったら、余裕の通報モノだぞ。
それ以前にこのシチュが有り得んか、妹が本当に男だったら。
「い、いやその……綺麗だな、って」
必死に否定の素振りをしながら、どうにか褒めて取り繕う。
が、そんな事しなくても、彼女は妹に見られるなら然程抵抗はなかったようで、微笑みながら振り向いて。
「……ありがとっ♪ だけどやっぱり女同士でも、恥ずかしいな」
「! あ、あぁ、そうだね、うん……ゴメン……」
内心気が気じゃなかった妹だが、彼女が自分を『女』として見てくれた事に、ホッとしているようだ……弟のくせに。
それにしても、罪悪感に襲われながら……欲情もしているという、かなりおかしな感情が渦巻いているな。
お互い和解しあって、着替えに戻り始めたか……なら、そろそろお楽しみといきますか、いっちゃいますか。
取り敢えず、まずは妹の体からスルリと抜け出て、背を向けた彼女の正面へと回り込む。
(ほほー)
どうやら後姿だけではないようだな、実にいい体つき……ただ例に漏れず、お胸は残念だが。
そうだなー、例えるなら……え? 『イメージ』出来るって? ……よく解らんが、妄想力が達者でいられる。
っと、このままじっくりと見ていたくもあるが、二人が今の状態で事を始めさせねば。
彼女の情報を得る為、再び背後に……いや別にどこをタッチしてもいいんだが、前からだと見られてる感がね。
ウィンドウを呼び出すため、彼女の背にタッチした、その瞬間。
「キャッ!?」
(! ヤベッ、バレたか!?)
そう思い身構えたが、彼女は妹の方を見やり、突然疑いの目を向けられた妹は必死に首と手を振って否定していた。
「……水滴かな?」
今度は天井の方を見て、首を傾げた後また着替えに戻った。
あー驚いた、でも落ち着いて考えてみれば、バレてるなら既に指摘されてるだろうしな。
……というか多分、彼女の反応が正しいのかもしれない……つまり、妹が鈍すぎる。
(全く、ホントにコイツは……)
今更憂いても仕方ない、ともあれ今後気を付ける事を留意し、開かれたこの娘のウィンドウを操作する。
(えーっと)
少し急ぎ気味に情報を探っていく。
記憶を読むと時間がかかるので、感情、それも対人感情に絞って検索してみると。
(お、あったあった)
そこから更に妹で絞り込み、出てきたパラメータを探る。
(Bingo!!)
思わず声が出たのは、自分の見立てが正しかったからだ。
ざっと見た限りでは、至って普通の女の子の感情値で、勿論友人である妹に対しては好印象の値が出ている……が。
そういった『友情』や『好意』の値に対し、『愛情』がそれに負けず劣らずの値を叩き出していた。
(間違いない、この娘)
キマシタワー・レジデンス(百合ヶ丘徒歩3分)住人だ……朝からの妹に対する態度で、薄々感じていたが、これで証明された。
……え? 妹の事をカワイイとか言ってた? 俺知らないぞ?
何!? 朝去った後だと! 何故もっと早く言わなかったのだ!!
……ってそれはもう過ぎた事、今問題なのは、あくまで彼女がその素質がある……『だけ』という事。
というかこの娘、この年で性知識に無頓着すぎて、本当に可愛いものが好きな、女の『子』の感情に近いのだ。
あんなナチュラルに可愛い仕草をしていたのは、これが原因か、それに。
(多分、ボーイッシュな妹に、未だ理解していない恋愛感情をぶつけていたんだろうな)
ここは女子高だ、自ら求めないと男と付き合うどころか、接する機会もないのだろう。
記憶を読まずとも、彼女のパラメータがそれを如実に物語っている……いやぁ、実に面白い結果だ。
さて、そこまで解ったのなら、やるべきことは唯一つ。
再び彼女のウィンドウを操作し、今度は感情の変更を促していく。
(うーん、俺の記憶から性に関する知識をコピーしてもいいが……)
それだとこの娘が可哀想かもしれん、なにせエロゲー知識ばかりだからな!
……うん、清純な子が一瞬で暗黒面に堕ちるのも、ありっちゃありだけど。
だがこの娘は妹にとって大切な親友の一人……流石に、手は出せん。
(というわけでここは)
発情させよう、うん。
……何か問題でも?
まぁ単刀直入に言い過ぎたかもしれんが、この娘を事に及ばせるには、これが一番手っ取り早いのだ。
経験や環境の記憶から形作られていく理性と違い、本能は生まれもって存在する人類……いや、生物の共通項。
性知識がなくとも、体が求めるものを求めるのは……いきものの サガ ですから。
それにだ、操作対象はこの娘でも、目標はあくまで妹ですから。
(これでよしっと)
書き換えた値によって、彼女はこの後『セックス中』の気分になるはずだ。
後は、妹次第……ほら、しっかりエスコートしてあげろよ、男なんだからさ。
反映ボタンを押して、ちょっと悩んでからこの娘の中に入り、成り行きを見守る事にするので……
(暫く愉しみます、探さないで下さい)
――――!?
「ヒャッ……!」
な、何、この感じ……急に体が熱くなって、風邪でも引いたみたいに……
ダメ、足がフラフラしちゃって、立ってられない……一回、座ろう。
「ふぁっ」
「!? どっ、どうしたの?」
「なんか、熱くて……」
「えぇっ!?」
長椅子に腰掛けた音で気づいて、心配してくれて……私、嬉しい……
「ねぇ、私熱っぽい?」
「う、うーん……」
手で測るの? そうじゃなくて……
「お願い、顔を近づけて……」
「えっ、い、いや、それは……」
なんでイヤなの? 私より顔、真っ赤だよ?
あれ、なんだか……凄く……触れてみたくなってきちゃった。
「ねぇ」
「えっ? うわっ、ま、待って!」
フラフラするけど、それ以上に抱きしめたい、体温を感じていたい。
「お、落ち着いて! い、今から保健室行こう、なっ!」
「待てないよぉ……」
今すぐ楽になりたい、楽になるためにアナタのこと、抱きしめたいの。
「ゴメンね、なんかね、アナタを見ていると……」
「なっ、何……?」
触れたい、触れたい、抱きしめたい、抱きしめたい……キス、したい。
「んっ……」
「え ええ えええっ!?」
もう止められないの……分かって、お願い。
[副音声]
(これ以上、疑われないようにしないと……)
でも、ただでさえ自分の体にすらドキドキするのに、こんな、友達の……女の子のカラダ、見放題なんて……
(うぅっ、このままじゃ一線越えそう……)
い、いや、越えるはずがないだろ、だって僕は女なんだから。
(でも……)
そっと何も無い股間に手を触れてみる。
無い筈なのに……何故か、男のモノが付いている気がするし、それを使った覚えもあるんだ。
けど、僕の股間にあるのは、女の子のスジと……ちっちゃな蕾だけ。
(隠れてるとか)
……動物じゃないんだから、そんな訳ないか……いや、でも。
もしかしたら、何回かする内にこの蕾が大きくなって、僕のが生えてくるとか……
そんな事を考えながら、思わずオナニー始めそうになって。
でもその時、後ろから物音がして、慌てて手を引っ込め、何事かと見てみれば、彼女が座り込んで震えていた。
「どっ、どうしたの!?」
慌てて駆け寄って聞いてみると、何でも熱っぽいらしい。
「ねぇ、私熱っぽい?」
そう言って僕を見上げる彼女の顔は……上気だち、真っ赤だ。
(う、うわぁっ……)
惚けた表情に、トロンとした目……熱を持った唇は、今にも吸い込まれそうだ。
……って! 見とれてどうするんだ僕! 友達が不調を訴えているんだぞ!!
歯を食いしばって我慢しながら、額に手を当てると……確かに、熱っぽい……でも、どうしていきなり……
「お願い、顔を近づけて……」
「えっ、い、いや、それは……」
こっ、これ以上キミに迫られたら、我慢の限界だよぉ!
だってのに、彼女は覚束ない足で立ち上がると……
「うわっ、ま、待って!」
フラフラと僕に歩み寄るその姿が、ちょっとゾンビっぽくて怖い……
って本当にこのままだと喰われそうだよ、色んな意味で!
「お、落ち着いて! い、今から保健室行こう、なっ!」
ともかくこの状況ですべきなのは、彼女を保健室に連れていく……って、お互い裸だよっ、まず着替えないと!
でも服を着るよう促そうにも、今の彼女は聞く耳持ってないみたいで。
「待てないよぉ……」
とか言いだす始末……って、何が!? 何を!? 何にっ!?
ゆっくり近づく彼女を押し退ける訳にもいかず、とうとうロッカーが背に、彼女が前に。
「ゴメンね、なんかね、アナタを見ていると……」
「なっ、何……?」
ゴクリッ。
ま、まさかこの状況……告白!?
あ、有り得ないだろ! 僕は女だぞ!? 彼女がその気でもない限り! ……え、まさか彼女って……レズ? いやそんな!
でもコレ、彼女の状態を見る限り、告白を越えた何かを求めてきていようにしか思えないんだけど!
どうすることも出来ない僕に、とうとう彼女は目を閉じ、唇を近づけてきた。
「んっ……」
「え ええ えええっ!?」
どどどっ、どうすりゃいいの!? 内心嬉しいけど流石にマズいよっ!?
「な、な、な、何を……」
い、一応聞いてみよう、もしかしたらおでこで測って貰いたいだけかもしれないし。
「……キス……」
やっぱりそうなの!?
「ダ、ダメだよ、僕達女同士だよ……! 初めては好きな人に……」
「好きな人だよ……」
「へぁっ!?」
変な声も出るよ! ぼぼぼぼぼくのことすきっ!? えぇえぇえっ!?
そんな事言われたらいくら同性でも惚れちゃうよ……って、え、あれ、でも男女だから合って……アレ?
「んっ」
「!?」
あ、やられた……キス、されちゃった……
「んんん……」
……彼女の唇だぁ、やーらかい。
「んんっ……」
うーん、ぎこちないなぁ、僕がお手本を見せてあげるよ。
「んっ……!」
あぁ、舌が絡み合ってる、彼女の唾液が……僕の、口に。
「んんん……」
そうそう、お互いに動かし合うと、もっと気持ちいいんだ。
そういえば抱きしめられてるなぁ、抱きしめ返そう。
「んーっ……」
はぁっ、彼女の温もりが伝わってくる、女の子の、いい匂いもする……
「んぁっ!」
同じくらいの身長だから、お互いの胸が当たって、先っちょが擦れ合ってる。
そっか、女の子同士だとこんな愉しみ方もあるんだな。
それに……腿に感じる温かさは、彼女の……だよね。
分かるくらいに零れ落ちているのに、何もしないなんて……もしかしてこういうの、初めてなのかな?
それなら、僕が……教えてあげようかな。
[主音声]
(私、どうかしちゃってる……)
こんなこと、一番の親友に求めるなんて……でも、何故だかすごく、期待してる。
「な、な、な、何を……」
期待? 何を? ……答えを。
「……キス……」
そう、こういう時、好きな子にはコレをしろって、■■ちゃんが言ってたっけ。
「だ、だめだよ、僕達女同士だよ……! 初めては好きな人に……」
「好きな人だよ……」
「へぁっ!?」
スキなのは、アナタだよ? ホントだよ? おかしくないよね……好きになっちゃったんだから。
それにもう、我慢出来ない、返事が待てない……それなら、私が返事をすればいい。
目を瞑ったんだから、いいんだよね? 唇を……重ねても。
「んっ」
「!?」
しちゃった。
「んんん……」
これがキスの感じなんだ。
「んんっ……」
ここから……どうするんだろう。
「んっ……!」
あっ、舌が。
「んんん……」
こう、かな。
キスだけじゃ足りない、温もりが欲しい。
「んーっ……」
あっ、抱き返された……すごく、気持ちいい。
「ふぁっ!」
なんか背中でピリッて感じがした、一体何?
あぁまた……なんなんだろう、怖いけど、イヤじゃない。
熱っぽさがだんだん心地よくなってきて、なんだか、心がフワフワしてきたよ?
こんなの、初めて。
もうちょっと、このままでいたかったのだけれど……
「……僕だって、もう我慢の限界だ」
「キャッ!?」
急に肩を掴まれて、キッと睨まれた……怖いよ、痛いよ。
クルリと体を回されて、今度は私がロッカーに背をつけさせられた。
「ヒャッ!」
冷たいロッカーが背中に当たって、思わずビクッとしちゃった。
でも、それ以上に……
「もしかしてさ、ここ、弄った事ない?」
「ふぁぁんっ!」
ココってオマタ? そんな所、汚いよ。
でも指で擦られると、全身が痺れた感じがして、頭の中が真っ白になっちゃう。
「やっぱりか、それじゃ、これも知らないよな?」
「きゃうっ!?」
彼女の指が、私の何かを摘んだ……それしか分からなかったけど、すっごく気持ちよくなった。
「フフフ……いい声で鳴くじゃないか、かわいいな♥」
「ヤだぁ……」
好きな人が、私よりもおかしくなっちゃった。
でも、されるのがイイと思ってる、もっとされたいって思ってる私も……ヘン、なのかな。
「ホラ足開いて……キミのを、味わわせてくれよ」
「やっ……! そんなの!!」
しゃがんで何をするのかと思ったら、私のオマタに口をつけてる!
「ダメだよ! 汚いよぉ!」
「汚い? 綺麗な色だし、それに汚いなら尚更僕が処理してあげるさ」
「いやっ……ダメッ……あぁんっ!」
またこの感じ!
今度は指じゃない、なんかザラザラしてる……もしかして、舌で舐めてるの?
さっきキスをしたその舌で? それじゃまるで私がしてるみたいで……
「あぁぁ……」
「んっ……女の子のオツユ、美味しい……」
「ダメぇ……」
ピチャピチャッて音が、私のオマタから聞こえてくる。
まるでトイレを覗かれたみたいで、すごく恥ずかしいのに、何で嫌がらないんだろう、私。
寧ろ期待しちゃってる、もっと、もっと気持ちよくなれるって、心のどこかで感じてる。
「んっ、ホラ、これ……」
「えっ、それ……んんん……」
またキスをする……けど、今度はねっとりした熱い液体が絡み付いてきた。
「どうだい? それがキミの『愛液』の味だよ?」
「あい……えき……?」
あいって、愛?
おしっこじゃないの?
あぁでも、どうして愛なのか分かる気がする。
だって、こんなに『好き』な気持ちで、心が一杯なんだから。
[副音声]
彼女の表情、彼女の温もり、彼女の声、彼女の香り、彼女の……
それら全てが一度に僕へと降りかかってきて、僕の心の中で……プツン、って音が聞こえた気がする。
こんな事されて、男として黙っていられるわけがない。
抱いた手を彼女の肩に回して、言い放つ。
「……僕だって、もう我慢の限界だ」
そうだ、キミが悪いんだからな、僕はもう知らない。
それに大丈夫さ、だって……『女』同士なんだから、何も心配はないさ。
主導権を奪うため、まずは彼女を押し倒……せる場所じゃないな、押し付けよう。
「ヒャッ!」
いいね、その声、その反応……実にそそるね。
急な僕の変化に怯える彼女の姿も、実にそそられるね。
それが男を焚きつけてるのが、分からないのか? ……あぁそうか、彼女は正真正銘の女だったっけ。
それにこの反応……やっぱり初心な少女か、てことはだ。
「もしかしてさ、ここ、弄った事ない?」
「ふぁぁんっ!」
やっぱり。
反応が初々しいし、何より幾らなんでも触れただけでこれは感じすぎだろう……なら、ココは?
「きゃうっ!?」
ははっ、ビクンと跳ねちゃってもう!
必死に気持ち良さを堪えているようだけど、マ○コががら空きじゃ防戦すら出来てないよ?
あぁ、こんな娘を好きに出来るなんて、正に女様様だな。
「フフフ……いい声で鳴くじゃないか、かわいいよ」
「ヤだぁ……」
何度も何度も攻め立てて、時には焦らして……その度に喘ぐもんだから、こっちまで感じてきちゃったじゃないか。
我慢する必要なんてない、自分のにも触れ……ってそうか、『無い』んだから、もっと下か。
ゆっくり指でなぞりながら、自分の豆に触れてみれば。
(んんっ!)
うぁっ、人の事言えないや……しっかり勃起してるじゃん、それにこんなに濡れちゃって……
(……僕が感じてるから、濡れているんだよな……)
そうだ、彼女と同じように、僕のオンナのカラダも、欲情してるんだ……
(うわっ、トロトロしたのが、ドンドン出てくる……!)
女は女で、興奮して溢れ出すんだよな……愛液が……あい……。
(……ッ!)
味わってみたい、女の子の味を、知りたい。
それも、今触れていた指に付いた自分のをを舐めるんじゃなくて、滾々と湧き出た直後のを、味わってみたい。
それなら……目の前の……
「ホラ足開いて……味わわせてくれよ」
彼女の……
「やっ……! そんなの!!」
アソコに……
「ダメだよ! 汚いよぉ!」
口を……いや、彼女の言うとおりかもしれない……でも。
「汚い? 綺麗な色だよ、それに汚いなら尚更僕が処理してあげるさ」
「いやぁぁ……」
くぅっ、この強烈な女の匂い、でもそれが僕を惑わせてる。
(うっ、うぅっ……!)
恐る恐る、舌を伸ばしてその先端がクリに触れると、また彼女はビクッと跳ねた。
やっぱり抵抗はあったけど、彼女のその反応で、僕は吹っ切れた。
(んっ……)
舌で彼女を愛撫してあげる。
指ですら新鮮な彼女にとっては刺激が強すぎるのか、どんどんと溢れ出てくる。
「あぁぁ……」
「んっ……女の子のオツユ、美味しい……」
「ダメぇ……」
不思議と嫌悪感は無かった、彼女の……だからだろうか。
そうやって味わう内に、口の中が彼女の匂いと味で一杯になってきた。
(あぁっ、僕の体が、女の子で満たされていく……)
……ヘンだな、元からなのに……でも僕は、そう感じていた。
十分堪能したところで、舌で舐めとった彼女の蜜を、彼女自身に見せつけた。
「んっ、ホラ、これ……」
「えっ、それ……んんん……」
有無を言わさず味わわせる。
嫌がるかと思ったけど、少し涙を流したくらいで、されるがままの彼女。
「どうだい? それがキミの『愛液』の味だよ?」
「あい……えき……?」
蕩けた顔で首を傾げる姿は、まるで子供だ……あぁもう、苛めたくなるじゃないか、全く。
けど、そろそろ僕自身も余裕がなくなってきた。
もう一度、自分のマ○コに触れてみれば……
「ふぁっ!」
ちょっと触っただけで、直ぐにでもイキそうなくらい、体は出来上がっている。
「はぁっ、はぁっ……」
「だい、じょうぶ……?」
うくっ、心配されてしまったか……僕とした事がココに来て、女の体に翻弄されてる……
(あぁっ、でもっ!)
弄りたい! 弄って、イジって、イッちゃいたい!!
焦らされて我慢できるような状態じゃない……僕が快楽に溺れそうになった、その時。
「ねぇ……」
「はっ!」
不安そうに、彼女が僕の顔を覗きこんでいた。
(そうだ、僕が……男がリードしなきゃ)
自分だけ愉しむような男は最低な奴だ。
でも、今の僕には彼女を喜ばせる事が出来るモノが備わっていない……
(チ○コ、チン○さえあれば……)
彼女に挿入出来るのに。
彼女を突けるのに。
彼女の膣内に注げるのに。
(……はっ!)
ま、待て、待つんだ……!
ファーストキスを奪い、この上ヴァージンまで奪う気か!
ダメだ、彼女にはちゃんと、『男』に抱かれた時に喪失出来るようにしてあげないと……!
(……なっ、なら!)
「どうしちゃ……キャッ!」
「はぁっ、ゴメン、焦らして……一緒に、イこう」
「ど、何処に?」
「……高みに」
「?」
自分でも何言ってるんだろうって思う……でも必要なのは言葉じゃない、行動だ。
「さぁ、横になって……」
「えっ」
「心配しないで……」
「……うん」
不安を募らせる彼女を、優しくフォローする。
タオルを床に敷き、彼女をその上に横たわらせる。
ゴメンな、こんな場所で、こんな形で……代わりに精一杯、キミを喜ばせてみせるから。
(よ、よしっ、やるぞ……!)
確か、女同士でも……気持ちいい場所は、同じなんだから……
彼女の片脚を持ち上げ、さらけ出された彼女のマ○コに、僕のマ○コをあてがう。
「なっ、何?」
「大丈夫だから」
「えっ? えっ……あぁっ!!」
「んくぅっ!」
貝合わせ、って聞いた気がする。
重ね合わせたお互いの性器を、腰を振って擦り合わせるように動かす。
あとはもう……気持ちよくなるだけ。
「あぁんっ! 何これっ、気持ちいいっ!!」
「うぅっ! 擦れてるところが、すごい……!」
二人の愛液が混ざりあった液体を、二人のマ○コが絡み合うように捏ねくり回していく。
そうして互いに触れあった部分から、クチュクチュという音が耳に届いて、頭の中で木霊する。
その度に僕も彼女も喘いで、そしてまた気持ち良さにマ○コを濡らして……
(あぁっ! 僕のを、彼女に注いでるんだ……!)
直接注ぐ事も、そもそも女体が求めるモノでもないけど、僕は今彼女と繋がって、彼女を犯して、でも愛し合って……!
「ふぁあっ!」
「んあぁっ!!」
熱く溶け合った僕らのオンナノコが、だんだんと一つになっていく。
そして次第に自分自身の違和感を覚えなくなって、僕の心が、変り始めていく。
(僕がぁ、女の子にぃ……なっちゃうぅ!)
どこかで自分の体を否定していた感情が、この気持ち良さに屈して僕を『女』にしていく。
そして自分を女だと認識して……体がの疼きが、一気に昂る。
「あぁっ、なんか、なんかきてるっ……!」
「『私』もぉっ……イキそうっ!!」
止まらない腰、止まない蜜、我慢出来ない喘ぎ声……お互いの蕾が、ピンと弾きあった瞬間。
「「あぁあーーーっっっ!!!」」
私達は……同時に、高みへとイッた。
[主音声]
きっと私は好きな人に、悦ばされているんだ。
そうでなきゃ、『愛液』なんてモノ、出てこないよ。
もうこれがエッチな事なんだって、流石の私だって解ってる。
でも、こんなに気持ちいい事だなんて、知らなかった……しかもそれを好きな人に教えてもらって、それを味わって。
それに……ホントに味わっちゃったし、キャッ。
だからもう次に何をされても、すっごく待ち遠しくなってきたの、だけど。
「ふぁっ!」
突然の声にビックリする。
いきなり叫んで、どうしちゃったの?
「はぁっ、はぁっ……」
「だい、じょうぶ……?」
急に大人しくなって、さっきの私みたいになっちゃった。
(わ、私のがいけなかったの?)
やっぱり口にしちゃいけないのかな、それとも、毒……!
「ねぇ……」
「はっ!」
急に顔をあげて、またビックリ。
肩に両手を置かれて、ジッと見つめられる。
(は、恥ずかしいよぉ……)
きっと私、エッチな顔してる。
それに口元拭いてないから、私のが付いてるかもしれないし。
でも、なんだかそういう視線じゃない、もっと、こう……
(やだ、なに?)
こんなに好きな人に見つめられているのに……すごく怖い。
急にぶたれそうな気がして、私の体がゾクッと震えた。
(ダメ、私がどうにかしないと)
分からないけど、私のせいな気がする。
俯いたり、また私を睨んだり……何かを考えているところで、勇気を出し、声を掛けると……
「どうしちゃ……キャッ!」
「はぁっ、ゴメン、焦らして……一緒に、イこう」
「ど、何処に?」
「……高みに」
「?」
ヘンなの。
でも怖さはなくなって、肩にかかる手も温かく感じられた。
もう一度、声を掛けよう、そう思ったけど。
「さぁ、横になって……」
「えっ」
また先に言われちゃった、それに、横になってって……なぜ?
「心配しないで……」
「……うん」
急すぎて頭が追いつかないけど、きっと大丈夫なはず……アナタを、信じているから。
その一心で私は待った。
そしたら私の上に乗るように座って、私の足を持ち上げた。
(な、何?)
半分不安でドキドキ、もう半分は期待にドキドキしながら、両手で口を隠しながら成り行きを見てた。
「なっ、何?」
「大丈夫だから」
やだ、もしかしてオマタ同士、くっつけるの?
「えっ? えっ……あぁっ!!」
「んくぅっ!」
あぁ、分かった……私ばかりじゃ、いけないよね、一緒に……気持ちよく、なろ?
「あぁんっ! 何これ気持ちいいっ!!」
「うぅっ! 擦れ合って、混ざり合ってく……!」
私のオマタと彼女のオマタが擦りあうと、さっきの気持ちよさがまたやってきた。
そしてなにより、私だけじゃなくて、彼女もこの気持ちよさを感じているみたい。
そっか、同じ女の子だもんね、同じ様に、気持ちいいところなんだ……
「ふぁあっ!」
「んあぁっ!!」
声が勝手に出ちゃう……でも声を出さないと、気持ちよさで壊れちゃいそう。
彼女もおんなじ声出してる……それを聞くと、私の体はもっと熱くなった。
それに、愛液がどんどん出てきてる……それもやっぱり、私だけじゃない、二人とも。
それでお互いくっつけ合わせているから、もうお尻の辺りがすっかり濡れちゃってる。
(あぁっ、私達、今おんなじくらい気持ちいいんだ……)
私の好きな人、その人と同じ気持ちを味わえるのが、とても幸せ。
「あぁっ、なんか、なんかきてるっ……!」
「『私』もぉっ……イキそうっ!!」
そう、思ったら、お腹がカーッて熱くなって。
何かが込み上げてきて。
出そうで。
真っ白で。
あ。
「「あぁあーーーっっっ!!!」」
何かが私の中で弾けて、目の前がパチパチ光って。
……今、一番気持ち良かったよ……ねぇ、アナタも、気持ちよかったの?
――――絶頂に達した二人は、暫くするとまた見つめ合って、肌を重ねて。
「ウフフッ♥」「ンッ……」
そして二人の愛を再確認するように、また唇を重ねる妹と友人。
(ほぁぁー……)
一方俺は、めくるめく百合の香りにすっかりあてられて、力無くこの娘の体から抜け出ていた。
(……すげぇ)
何が凄いって、行為自体もそうだが妹のイケメンっぷりと○×△の■■■がね。
……? なんかノイズが……まぁ、いいか。
とにかく妹の『男』らしさが驚くほどだったのは確かだ。
あの表情といいあの口調といい、すっかり男が板について……と、思ったのだが。
(うーむ)
視界が天井に迫ったところで、今度は妹の体に入り込み、記憶をインポートし、ウィンドウを開く。
そして、妹の人格パラメータを見てみると……
(なん……だと……?)
男らしく書き換えたはずのパラメータが、再び女らしく調整されていた。
(これは一体どういう……?)
完全に戻ったわけではないのだが、この状態なら今までのようなドギマギした反応はしないだろう。
妹の記憶を読み、原因を探る……おぉう、コイツもコイツで彼女とのレズセックスを愉しんでいたんだな。
コイツの感情を追体験したいところだが、今は原因究明の方が先だ。
前半はまだ男のようだが……互いのを合わせた辺りから、心境に変化があったようだ。
(ふむ、これはつまり)
どうやら記憶と体に対する心の不一致を、肉体からの情報で魂が修正を行ったらしい。
具体的に説明するとだ……妹を弟にしたといっても、それはあくまで感情操作による擬似的なもの。
魂という基盤に書き込まれた性が女である以上、自然と弄られた値が戻りつつあったみたいだ。
そこに、今のセックスで自分を『女』と再認識した事で、一気に修正されたわけか。
ただまぁ……言葉遣いや態度といった感情以外の変更は、記憶の方に植えつけたものなのでそれは変わらず。
なのでコイツは今、『男の娘』から『百合系ボーイッシュ』にクラスチェンジした、といった感じだ。
(なるほどな、想定外だったが……まぁこれはこれでいいかな)
本人も気に入っているようだし……ってオイコラそこの二人、まだ続けるんかい。
二人ともウィンドウで見なくとも愛し合っているようだし、この流れは自然だが。
(残念ながらお時間です)
絡み合う二人からウィンドウを呼び出し、同時に操作して、二人とも眠らせる。
「あっ」「うっ」
抱き合ったまま、倒れる二人……おぅおぅ、意識を失ってもしっかり手を握り合ちゃってまぁ。
見せ付けてくれてるよ全く、流石にリア充爆発しろと言いたくなる……が。
(ゴメンな)
今の感情のままでいられるのは困るので……二人には悪いが、LoveからまたLikeに戻ってもらおうか。
それぞれの記憶を操作して修正し、今までの出来事を消去……は、可哀想なので置き換えて対処。
それを終えると、今度は妹の体に憑依して、シャワー室に移動させる。
そして、坂道発進の要領で妹を覚醒させつつ、ゆっくりと抜け出ていく……
「んっ、んんっ……」
よし、こっちはいいな、次だ。
今度は友人の体を操って、彼女のロッカー前に立たせ、同じ要領で抜け出る。
「んんっ……? あれ……?」
二人とも倒れるんじゃないかと心配したが、うまくいったか。
頭からゆっくり引き抜いていくと、体だけ乗っ取るなんて芸当も出来るようだ。
その方法を利用して、証拠隠滅を図って……しまった、床の液体が……まぁ、場所が場所だし大丈夫か。
ではどうなったのかは……二人に聞いてみようか。
[妹サイド]
(ア、アレ?)
僕、何時の間にシャワー浴びて……? あ、あぁそうか。
「だ、大胆だったなぁ」
彼女の体に釘付けになってた僕も悪いんだけど。
おかげで体が疼いちゃってるよ、もぅ。
(ちょっと意識飛んでたのか)
慌ててシャワー室に逃げ込んだけど、疲れていたんだろうな、流石に。
「……それにしても」
あのコのカラダ。
(……)
ボクのカラダ。
(やっぱり、綺麗だよな)
彼女の方がやっぱり、女らしいや。
「はぁっ」
色んな意味で溜息が出る。
でもそんな溜息も、汗と一緒にシャワーで流し、気持ちを改める。
「ん、時間も遅いし、早く出よう」
でもちゃんと体の隅々まで綺麗にして……?
(んんん!?)
ワレメに触れたら、ぬるっとした感じ……うわっ、まさかコレ……濡れてた?
「バ、バレてなきゃ良いけど……」
僕がこんなHなコだって知られたら、なんて思われるか……で、でもそれも、いいかな?
……あれ、僕ってそんなにエロかったっけ?
[友人サイド]
「……アレッ?」
私、寝てた?
「あ」
シャワーの音がする、そっか、逃げられちゃったんだっけ。
「ウフフッ♥」
私の体に見とれてたから、思わずイタズラしちゃった♪
「かわいいなぁ、もぅっ♥」
彼女を見ていると、私とっても楽しくなるんだ、それに会話も弾むし。
本当に、友達になってくれて、嬉しかった……だってこんなに好きなんだから……?
(……?)
そっと、胸に手を当てる。
(なんだろう、この感じ)
なんか私、ドキドキしてる……何故?
それになんだか、カラダも火照ってる……
(ヘンだな、なんなんだろ)
よく分からないけど、私もシャワー浴びないと、時間が……アレッ!?
「も、もうこんな時間なの!?」
いけない、私のせいで彼女が先生に怒られちゃう!
それだけは避けたいから、慌ててシャワーを浴びに行く。
シャワー室で彼女の背中が見えたけど、イタズラしてる場合じゃない。
「時間、ちょっと危ないよ?」
「えぇっ!? そんなに経ってた!?」
時間のことを伝えると、彼女も大急ぎで体を洗い流していく。
慌てていてもやっぱり女の子だから、身だしなみはキチンとしたい。
それに、汗も一杯かいてるし……フトモモなんか、もうベッタリ。
――――時間に気付いた二人が、慌てて着替えている。
(まー流石にな)
幾ら許可を貰ったからとはいえ、そろそろ日が暮れ、暗くなり始めているし。
あのお局がそこまで許すとは思えんしな。
さっきまでの行為が嘘のように、二人とも素に戻っているのがなんとも。
着替え終えた二人が、飛び出すように更衣室を後にし……おーい、電気消し忘れてるぞー。
まぁ当然聞こえているはずもなく、俺は一人更衣室に取り残された。
後は……追わなくていいや、今日の考察と、あと……ちょっとな、ヌフフ。
(それにしても、やっぱ残念だったか?)
記憶を改変して、二人はいちゃついていた『だけ』にしたのだが。
(けど、あのままだとなぁ)
二人の愛は留まる事を知らなくなりそうだったし。
下手するとそのままゴールインまで……流石にそこまで行くと、能力を持ってしても戻し難いし。
それに、妹の変化……これはなかなか興味深い、時間があったら色々試してみるか。
(さてと)
妹達で遊ぶのは、取り敢えずここまででいいだろう。
女子高ライフは既に裏で満喫してたし、ここにもう用はない。
それにだ……遂に……遂に『キタ』からな、その為にも一刻も早く家に、自分の体に帰りたいのだ。
(いざゆかん、約束の地へ!)
その一心で家路に着く……魂に道はないから、文字通り一直線に。
それほどまでに俺を突き動かすのは……後のお楽しみで。
ところで、締め切った室内に漂う残り香は……明日までに除去されるんだろうか。
――――自宅、自室、自分。
「フ、フフフ……」
おっとすまない、思わずキモイ声w出してしまったようだな。
だが、『コレ』の解禁にはさしもの俺も、心躍るのは無理もないのだからな。
一体何の事だって? おいおいここまで来たら……残るは『アレ』しかないだろう?
『憑依』、『入れ替わり』と来たら、次は……そうそう、『皮』だよね!
いやーいいよね皮モノ。
憑依や入れ替わりと違い物理的に相手を乗っ取る支配感、本人そっくりの皮を着ての究極オナニーも良……って違うよ!
確かに皮も市民権を得ちゃいるけど、あるでしょTSF三大柱の大黒柱!
そう! 『変身』だよ『ヘ・ン・シ・ン』!
女になりたいけど他人に迷惑がかかるのは……という変態紳士達に大人気の!
コレさえあればいちいちお目当ての女性を探す必要もなく、好きな女性になれるのだから!
そしてなにより……『女』の自分を見てみたいという欲求を叶える、唯一の手段じゃないか!
何!? 興奮し過ぎだと!? ……おk。
「さぁ、始めるとするか!」
でもやっぱり意気揚々と自分のウィンドウを開き、期待に胸を膨らませながら操作していく。
……え? それに必ずしも任意に出来る事じゃないって? こまけぇこたぁいいんだよ、こればっかりは特権だよ特権。
っと、見つけた見つけたこれだこれだ……この項目だよ!
「コレが欲しかった!」
ウィンドウを見ていくと、今まで記憶や感情を操作していた項目に、『形状変化』の項目が追加されていた。
正確に言うと、選択出来るようになったと言った方が正しいのだが。
遂に待ち望んだ光が灯る、夢のボタンをゆっくりとタッチする。
「おぉっ!?」
触れた瞬間、ウィンドウがシュッと圧縮され点となり、そして直ぐに……『俺』が表示された。
目を瞑り、例のダヴィンチの人体図のようなポーズで宙に浮いている。
操作しやすいよう縮小された自分は、まるで精巧なフィギュアを見ているようだ。
「さて、出来る事はと」
スッと指でドラッグすればクルクル回り、ピンチアウトすればその部位の拡大表示。
タッチすればウィンドウが出て、魂同様に各部位のパラメータ表示、そしてパーソナルデータの閲覧……
さながらスマホ版写真屋さんだが、そこはこの力のおかげで、イメージすれば反映される。
「よし、コツは掴んだし……やると、するか」
パーソナルデータを開くと、大雑把な俺のデータが出てくる。
その項目から、『性別』を選ぶと……
「遂に……この日が来た……」
目の前に表示される、『男』と……『女』の選択肢。
「コレを見る日を、どんなに待ち望んだ事か!」
……いや、そこらの記入フォームにも、あるといえばあるけどさ……そうじゃなくて!
この選択肢を切り替えて反映するだけで、俺は、俺の体は……!
ゴクリと、息を呑む。
(に、しても)
選択肢は二つだけ……ではなく、『自動』と今は選択出来ない『手動』の項目もあった。
自動を選ぶと、どうやらここで変更せずとも、変更内容次第で勝手に補正してくれる機能が働くらしい。
一方手動の方は……まぁまた後日。
(この能力も待ち遠しいところが、まぁ今はこれで十分さ)
震える指で、ラジオボタンを切り替え、オレを『女』にしてみると。
「おぉっ!」
先ほどのウィンドウと同じように、シュッと俺の分身が消えると、そこには『女』の俺が浮かんでいた。
「お、おぉ……」
予想通りだ。
……いまいち、パッとしない。
あらゆる角度から見たり、拡大したりしてみるが、今まで憑依した女性のどれにも劣る。
「まぁ当然っちゃ当然か」
本当にただ女体化しただけだからな、俺成分が色濃く残っていて……女らしくない。
だが、そんな女性でも俺の見たかった画であり、容姿よりもその存在を見られた事にドキドキしている。
「パラレルワールドにいるんかねぇ」
そのうち、時空移動なんて出来るようにならないもんかね?
俺としてはコイツを客観的に見てみたいというのも望んじゃいるんだが。
「それはさておき、それでは修正するとしますか!」
勿論このまま反映する気は更々ない。
そこはこの能力で以って、自分好みの女性に仕立てていく。
さぁここからは、ゲームで培った俺のカスタマイズ技能の出番だぞ。
まずは一番重要な、頭部から。
「髪は黒髪ロングで決まり……いやまて」
そのロング具合が問題だ、長すぎず短すぎず、だけどふわっとする具合を……よし、コレだ。
次に顔……ここが、一番重要だ。
勿論今より美人にするのだが、かといって自分らしさを消すなら、それこそ憑依で十分だ。
自分であり自分でない絶妙なさじ加減……決め手は、目だな。
「これをこう、そしてコレを……」
微調整に次ぐ微調整を行い、面影を残しつつ女っぽく仕立て上げ、それを元に顔全体を整えていく。
フフフ……こうしていると一人の女性を好き放題にしているみたいで、何だか別の意味で興奮してきたぞ。
「出来た……」
自分でも驚くほどの出来栄えだ、何せ自分自身が納得しているんだからな。
あぁ、こんな女性に微笑みかけられたら、思わずドキッとするであろう、そんな顔。
それが今目の前に表示されている……だが目を閉じ、無表情だ。
勿論プレビュー機能もあるから、様々な表情をさせることもできるが。
(ソレは愉しみに取っておこう)
何せ後で飽きるほど見られるのだからな。
名残惜しみつつも顔の拡大を解除し、次は体へ……こちらはもう、徹底的に男を排除していく。
「やはり胸はこの位でないと」
遺伝とは恐ろしく、女の俺も妹同様デフォでちっぱいだった。
当然それは一番に改変すべき内容、今までの憑依記録を元に自分で揉んだ具合や心地良さから、調整していく。
(大きすぎず小さすぎず、且つプルンとした……こうか、よし次!)
当然女性らしい丸みを帯びた体つきも重要だ、だからといってやりすぎは宜しくない。
最適の塩梅で、最高の女体を築き上げていく。
両腕、両足、肩や首回り、腰つき、お尻……爪の先から髪の先端まで、繊細且つ綿密に仕立てていく。
そうやって欲望の赴くまま、美少女フィギュアを捏ね回すようにして変化させ、そして……
「か、完成だ……!」
俺の、理想の女性……! いや! 俺がなりたいオンナ……!
それが今、具現化の時を待ち望むかのように、目の前に浮いていた。
「お、おおっと、まだまだ」
出来たのは外見だけだ、次は内面の方にとりかからねば。
ここで言う内面とは内臓や神経、そして脳といったパーツの事だ。
俺自身の人格といった精神面は、今まで通り魂側の設定ですればいいしな……にしてもだ。
「こんな事まで設定できると、最早人一人作ってるのとなんら変わらんな」
神の真似事か……せいぜい、電動のこぎりでバラバラにされないよう注意するとしよう。
さてまずは、現状ただ単に女だからという理由で存在しているだけの、女性器回りの設定を調整するか。
「といってもな」
視覚的に分かる外見と違って、これは……実際なってみないとわからんか。
まぁ、いざとなれば生理『なし』なんて事も出来るが、多分弊害があるだろうし……なにより体験してみたいし。
「って事で念のため軽めにして……そうそう、やっぱこれは譲れんな」
感度、大っと。
他の臓器の調整も、目立った部分について変更していき、最後に脳を……脳、ね。
「ふーむ」
脳か……コレ、どうなるんだろう。
俺は魂を弄っているわけだが、この状態での脳の立場は一体どうなって……
「あ、そっか」
既に前例があるじゃないか、妹という被検体が。
「なるほど、コレが『補正』の正体か」
このまま脳を男の物に戻しておけば、俺は俺を保ったまま楽しめるだろうが……
「……」
迷いに迷って、現状維持にした……それはつまり、脳も女性化する、という事。
「毒されてるな、俺」
壊れる日も、そう遅くはない……か、なら、それまでにやれるだけの事はやっておこう。
全ての改変は終わった、目の前にいるのは、これから俺がなる……オンナ。
「コレで……遂に……」
高まる鼓動を抑えるため、深く深く深呼吸をする。
あの日から夢見てきた、『朝起きたら女の子になっていました』。
その夢が、いよいよ叶う時が来た。
ポチッとなの掛け声とともにボタンを押す……すると、『反映しました』の一文を残しウィンドウが閉じた。
そして俺の体は! ……未だ変化はなく、男のままだ。
「……えー、さて」
勿論それには理由がある……変化が起こるまで、ちょっと解説に付き合っていただきたい。
まず、俺の能力について再確認するとしよう。
俺に与えられた力、コレは一言でいえば『魂を操作する力』だ。
幽体離脱はその中でも初歩の初歩、この力が無くても、起こり得る場合もあるしな。
そして次に行った『憑依』は、他人の魂に干渉し、魂を制圧するという、他者への能力行使。
初めての際に妹の体から追い出されていたのは、その制圧力が弱かったからだな。
更に、その他人の魂すら自由に取り扱えるようになっての技が、『入れ替わり』と『人格・感情操作』だ。
ここまでは全て、魂というソフトウェアの操作で行ってきた。
だが、『変身』は魂ではなく肉体……ハードウェアの『改造』だ。
それこそ基板から弄る必要があるので、そう易々と変える事が出来ない代物。
だからこそ、今日まで封印されていたのだ……力によって魂が昇華するのを待つように。
だが、実はその変身能力が可能になる兆候が、妹の人格変更の時点で起こっていたようだ。
それは……妹が同性に対して『欲情』していた事が、それだ。
幾ら人格が男になったからとはいえ、妹の体は女のままで、同性に『恋』をしても、体は『否定』するはずだ。
なのに妹は同性の匂いに惑わされたり、男性の性欲を持て余したり……体の反応も男のソレになっていた。
それこそが変身能力の開花の前兆だったのだ……つまりどういう事かというと。
『肉体は魂の器』と言った事があるが、その逆に、魂を肉体の設計図にするのが、この能力での変身の仕方だ。
魂に加えた改変で肉体を騙し、違いを修正させる……それによって肉体が次第に魂の形状に『戻ろう』とする。
その方法はやれアポトーシスだとかミトコンドリアだとか、チュートリアルで解説されたが、それはまぁ専門家にでも。
そして妹の場合、俺からコピーした男の記憶で肉体を騙し、体の性対象と存在しないチ○コを植えつけたって訳だ。
だがあの時点ではまだこの能力が完全開放されてはいなかったため、結局妹は女に戻ってしまったが。
ん? となると今また妹の心を男にすると……まさか。
(それも後で)
そう、今俺の中では変化が始まっているのさ、ただそれがゆっくりと進行しているから、まだ男なだけなのだ。
(あぁ、そういえば)
妹と入れ替わった時は、寧ろ俺の魂が肉体に騙されたから、俺はあんな風に演技できたのかもしれない。
肉体と精神がこんなに密な関係とは、この力を手に入れなければ思いもしなかっただろうな。
……まぁそれ以前に、俺は……俺は? 何だっけか。
っと、長々語っている内に、だんだん体温が上がってきたぞ。
「あ、そうだ」
忘れないうちに裸になる……鍵、閉めたよな? ……大丈夫だった。
さぁ果たしてこの体が、どう変化していくのか……見ものだ。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
日付が変わったばかりの、11日目。
「うっ……グゥッ……くっ……」
ベッドの上で、呻く事しか出来ず。
服を脱ぎ捨て、外気に晒された体からは、大量の汗が湧き出してベッドを濡らしていた。
「くぁっ、あっ!」
……予想以上に、苦しい。
息をするのもやっとで、体温も40℃は超えている気がする。
そんな状態でも、何とか気絶せずに、この変化の行く末を見守ろうと努力する俺。
(あぐっ、た、耐えるんだ……耐えるんだ!)
焼け付く様な痛みの中、なんとか壁に背を預けて、自分の体を見下ろす。
「あっ……ああっ……!」
変化はやはり、そこからだった。
「おっ、俺の……俺のチ○コがぁ……」
この熱に溶かされたかのように、皮の下の肉が減っている……当然、袋の方もだ。
「アハッ、アハハッ……もう、使い物にならないじゃ、ないか……」
一度子供のようになるのかとも思ったが、どうやら存在しないモノはとっとと排除すべきと判断されたようだ。
我慢できず、力が入らない手でそっと触れてみると。
「ハッ、ハハッ……」
もうこれは、ただの皮膚だ、中に何も、ない。
長年連れ添ったコイツが、解雇されるのを見て、少し寂しくもあったが。
(いや、お前は……生まれ変わるんだ)
苦しさに悶えながら、その瞬間まで観察した。
そしてその瞬間……全てを失った俺の股間には、平らなただの皮膚があるだけとなった。
(あぁっ、チ○コ、無くなっちまった……)
今の俺は無性か、生きている価値無いな、ハハッ。
その後、また暫くは熱っぽさにうなされるだけだったが。
突如気持ち悪さに襲われて、嘔吐かずにはいられなくなった。
「うっ、うぇぇっ……!」
ヤバイ……これは、ヤバイ。
内臓が皮膚の下で勝手に蠢けば……未だかつて味わった事のない吐き気に襲われるのも当然だ。
「ぐぇっ、おぶっ、ガハッ……」
こっ、これじゃまるで潰されたカエルだ、波紋の呼吸も助けてはくれない。
(はっ、腹がぁ……)
変化はお腹、臍の下付近で起こっている……つまり何が起こっているのかは、大体予想が付く。
『いらない』モノを除去したのなら、次は『いる』モノの生成だ。
戻しそうになるのを必死に堪え、手をお腹にそえると。
(ふ、膨らんできてる……)
明らかに中で何かが形成されていくのが分かる。
そしてそれがなんであるかも。
「俺……俺の……」
あぁ、コレが俺の体の中にあるなんて……他の誰でもない、自分のカラダに、自分のが……!
「! っつあっ……!」
感動に気持ちが昂っていると、いきなり激痛に襲われた。
「あ、あ、こ、コレって……! ギャッ!?」
い、今『ミ゛ッ』て、聞こえたぞ……下から、股の間から! まさかこれって!
(ひ、皮膚の裂ける音……!)
普通に考えれば、おぞましい事だが。
(うぁっ、感じる……! 股間の肉が、表に出てきてる!)
人間には、生まれた時からその穴を持つ人もいて……なによりソコは、人の生まれ出でる道で。
股間に裂け目が走ったというのに、血は滲む程度にしか出ておらず、外気に晒された中身の感覚が生まれた。
のっぺりしていた股間に、一筋のワレメができて、その先端には、失ったはずのチ○コがあって。
「ハッ、ハハッ、俺……今気持ち悪いカラダ、だな」
子宮が出来た、膣が出来た、ワレメが出来た、けど全体はまだ男っぽい……というか、殆ど男。
「あぁ、何も、ないや」
視線を落とせば、そこに見えていたはずのあの肉棒はなく。
あるのは、かつて存在していた事を示すように左右に掻き分けられた陰毛だけ。
「ふぅっ……ハッ、アハハッ!」
まだ体は落ち着かないが、嬉しさから勝手に笑いが口から飛び出す。
「ハハッ、ハハ……ハ……」
あ、なんだコレ。
あたま、ぐちゃぐちゃになってきた。
(こっちさきなのか)
これきっとのうがかわってる。
おれおんななる。
こころおとこで。
だめ ねむい
かお ぐちゅぐちゅ
あ でも おねがいだ まってくれ
むね かゆい
うま
……視界がブラックアウトする寸前に見えたのは、膨らみかけの、胸。
それでも、妹よりは、大きかった。
――――聞こえるのは、自分が生きているという証拠である、鼓動の音だけ。
「……うっ……」
最初に感じたのは、むせ返るような、汗臭さ。
「……うぅっ……」
俺を苦しめたあの熱さも、息苦しさも、もう微塵も感じない。
「……う?」
あ、あぁ、気絶していたのか……股間のモノが消えた後から、思い出せない。
次第に戻りゆく意識の中、自分の状態が徐々に理解してくる。
「たし……か…… !!」
……やっぱり、最初に気付くのはコレでか。
「んっ、んふんっ! あ、あー」
マイク……じゃなかった、声帯テスト声帯テスト。
「あーえー……おっ、おっ、オレ、オレは……」
お、落ち着け落ち着くんだ俺、まだ慌てるような時間じゃない。
そうだ息吸って、吐いて……あ、いい匂い。
「んんっ! ……オレは、男です、本当です」
その声の、何処が男だよって突っ込まれる声で、俺の言葉が発声された。
「フ、フフフ、ウフフフフ……」
キモかった笑い声も、妖艶な笑い声に……でもやっぱり笑い方自体がキモいな……
「ま、まぁいい……さぁ、次は」
ベッドに倒れこんでいた体を起こす……ふぁっ、もう触れ合う肌からして違うし!
こ、こんなモチッとした肌じゃなかったろ……?
それに、起き上がって肩にかかるこの重さ……初めてじゃないが、この重さは!
と、その前に両手に視線を落とす……うおっ、い、幾らなんでも震えすぎだろう自分。
手で手を押さえて、震えを抑えれば……白く透き通るような肌に、細い指と綺麗な爪。
「んっ……」
やべ、思わず口に咥えて、しゃぶっちゃったよ……変態かよ。
「んんっ……」
けど思わずそうしたくなるような、細くて白い、綺麗な指。
その指に繋がる手も、腕も、肩も……まるで俺とは思えない、綺麗な肌、そして。
「お、おぉおっ!」
手を見る時に、チラッと見えてしまったけど! つつつつつ、次だ次!
本当に音が聞こえるくらいに、生唾を飲みこむ。
(こ、この唾液だって……)
……い、いかん、本当に変態じみてきた……けどもう、この興奮は抑えられんっ!
い、いやまてまてまて、いくらなんでも荒ぶり過ぎだ自分……落ち着くんだ……
冷静さを取り戻すため、目を閉じ首を振る……あ、頭が引っ張られる、コレって!
ポンと手を乗っけてから、スゥッと降ろしていく。
「うぁっ、サラサラ……」
しかもその髪は肩に掛かるくらい伸びていて。
何時までも触れていたくなる感触にウットリするが、ハッと気付いてまた首を振る。
(ち、違う! 下、下!!)
ダメだ、全てが魅力的過ぎて何時まで経っても目的地にたどり着けん。
今度は深呼吸で気持ちを落ち着けてから、両手の平を見据え、それをゆっくり降ろしていく。
「お、おお……おおおっ!!??」
視界に入り込んでくるのは、プルンと弾けるような、乳房、そしてその向こうに見える、下の毛。
「お……おぁっ! 何コレッ!?」
が、それ以上に目を奪われたのは……このカラダに相応しくない、大量の脛毛……
「えええー……」
まさかこんな事になろうとは。
ガックリと落ち込んで、その毛に触れる……あぁ、確かに脛毛だ、しかも俺の……?
「んんっ?」
腿に手を置いて、サッと払う。
「うわっ!?」
そうして払った部分の脛毛が……手にビッシリ張り付いてきた。
そして払われた部分には……今度こそ、膝枕を所望したくなるような、美しい肌が現れた。
「あ、あぁそういう事ね」
ビックリさせんな、要はムダ毛の処理は自己責任で、ってことかい。
まさかの事態に驚かされるも、杞憂に終わってホッと胸を撫で下ろ……
「ひぁっ!?」
そ、そうだった!
「あわ、あわわ」
柔らかい感触と、触られた感覚にしどろもどろになる……だから落ち着け俺!
一旦手を離してから、今度こそ手で触れ……ちょっと待ってまずコイツを払ってから……よし。
「いっ、いくぞ……」
突き出した手を、自分の胸元に、大きく膨らんだ二つの膨らみに触れさせる……
「あぁっ……!」
胸だ、乳房だ、オッパイだ!
もう何度となくこの柔らかさは味わってきたが、これは格別だっ!
膨らむ様子を観察できなかったのは残念だが、女性らしさの象徴その2が、『俺』の体に存在している……
(偽乳だけど……でも、こればかりは盛らないとな)
胸だけはチートをしたけれど、既にこの力自体がチートだし、問題ないよな?
「さ、さて、感度は、揉み心地は……」
改めて乳房を揉み始め、その柔らかさをじっくり堪能する。
「あぁっ……この、手に収まる程よい大きさといい、指が沈み込む具合といい……!」
理想の、オッパイ。
しかもその触ってみたかったモノは、自分のカラダの一部で、触れられる感じもして!
そしてそして、自分で揉んでもこの気持ち良さ! 癖になりそうっ!
「あぁっ……♥」
俺は今、おっぱい星人からクラスチェンジを果たし、オッパイ聖人へと……って!
「ハッ……!」
気付いたら夢中になって揉んでいた……恐ろしいオッパイだ……
(形も感度も大きさも、全てが理想系!)
今まで憑依してきた女性の誰よりも、少なくとも妹よりも! ……うん、妹よりも。
「あぁ、これだけで満足しそうだ……」
だがこれだけじゃあないんだ、これだけじゃ。
名残惜しみながら乳房から手を離し、体を捻って生まれ変わった自分のカラダを隅々まで確認していく。
くびれは絶妙なカーブを描いていて、自分で抱きしめたくなるほど。
腰つきは骨盤が割れんばかりに悲鳴を上げただけあって、美しい安産型だ。
勿論その形に合わせ、胸並みに柔らかいお尻は、張りのある綺麗な形。
脚は……現在見てくれは残念な事になっているが、その太さといい足首の閉まり具合といい、完璧だ。
両腕の方は元々薄かったからか、かえって産毛のような肌触りになってこれもまた良い。
胸は……最早語るまい。
顔は今確認する方法がないので後回しだが、その顔に似合わない鼻の下を伸ばした表情をしているのだろう。
(そっ、そして)
また息を呑む。
最初に変化し、最も変化の激しかった……股間、そして……性器。
この能力でもうすっかり見慣れたはずなのに、このカラダの実体を思うと、胸が高鳴る。
そっと触れても、勿論何もない、それはあの時……確認済みだ。
なら、確認するのは当然……
「はぁっ、はぁっ……い、今から、オナニー、します」
うわっ、ゾクッときた! い、今の台詞だけでイきそうだ!
「ほっ、ほら……コレが、ワタシの……男だった、証だよ?」
そう言って、自分の体に出来た『女』に触れた、その瞬間。
「!!?? あひぁひぅひぁっ!?」
快感を超えて、発狂しそうになる。
「なぁっ、なぁん……!?」
お、おかしいぞ!? いくら心も体も出来上がってるからって、強烈過ぎる!
「ま、まさか……」
震える指でウィンドウを開き、生まれ変わった自分のパラメータを確認する。
「なっ、なななっ!?」
性感が……振り切れておる。
255までしかないはずなのに、なんで65535なんて値になってるんだ!
「なっ、何で!?」
確かに『感度:大』にはしたが、ここまで設定していない!
こ、こんなの危険すぎる、どうにかなる前にどうにかしな……
「……ひぁぁっ!!??」
あ、や、やば、指が、勝手に……
「ふっ、くっ、だ、ダメ……ひぐぅっ!!」
ワレメに触れただけでこんな……こ、これ以上は、も、もたな……
「っ」
くぁっ
「あひっ……ぃぃっ……」
もら、しちゃ……
「かはっ……!?」
クリ、ダメ、しんじゃ
「ぁぐっ……くぁっ!?」
やめ、やめな……
「んきゅうっ……!!」
もっ、ダ……
「あ っ 」
イ……
「………………くはっ!?)
し、死ぬかと思った……! って、あ、あれ?
(え? あれ、え??)
というか、イッた瞬間……弾き出されたのか、体から、魂が……それって!
(! ま、まさか……)
本当に……死んだ?
(嘘、だろ……)
息も出来ないほど血の気が引いて、ゆっくりと体の方へ向くと……
丁度その瞬間に、俺の体がトサッとベッドに倒れこんだ音がした。
(うっ、うぁぁ……)
そして、心奪われた。
そりゃそうだ、だってこの体は、俺の理想の女性を模しているのだから。
そっか、鏡がないので確認できなかったが、こうすればよかったのか。
(あぁ……確かにどこか、面影がある)
改めてみる女の自分の顔。
製作中同様目を閉じてはいるが、肉体を持った状態で見るのは初めてだ。
(好みは……分かれるかもしれないか)
全ての男性(+一部女性)の理想を満たす存在なんて、あるわけがない……
この俺の理想もそれに漏れず、俺らしさを敢えて残したので少し中性的……いや、男性的だ。
でも体は出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいて……実に女性らしい。
そんな体にやや不釣合いな顔つきは、でもそれでいてそのギャップが堪らなくて。
求め続けた女性が目の前に横たわっていては、そりゃ暫く見とれもする。
が、忘れちゃならない事を忘れるという大失態に、再び血の気が引く……魂だというのに。
(だ、大丈夫だよ、なぁ!?)
拒否されるんじゃないか、弾かれるんじゃないかと怖がりつつゆっくり、体へと戻っていく……と。
(うっ、あっ!」
突然のブラックアウトした視界に、ハッとして目を覚ます。
そして自分の手を、体を確認する……よ、良かった……死んでない。
いやもしかしたら死んだのかもしれない、ただこの能力のおかげでショック死はしないの、かも。
「そ、それにしても……」
このままじゃまずい、確実にまた死ぬぞ。
未だに激しく疼く体に翻弄されながら、ウィンドウを操作して、設定を調整していく。
「何事も、程々に……」
よい教訓になったよ、全く。
……あれ、待てよ、仮に本当に死んでしまっていたのなら……いや、やめておこう。
それに、アレは……一体……
――――ますます夜も更けた、深夜。
「ふぅぅーっ……」
その後、性感が収まるのを待ってから、汗とムダ毛まみれの体の処理を行うべく、風呂場に来ていた。
「はぁっ、水が気持ち良い……」
火照った体と、興奮した心に、この少し冷たいシャワーは癒しを与えてくれていた。
「こういうのも……やっぱり感じ方が違うんだろうな」
発つ鳥跡を濁さずの精神で、憑依した女性達で、入浴やシャワーは体験しているものの。
……言い換えれば痕跡を残さずに、という言い方もあるが。
ともかくその殆どで、この気持ち良さは感じられた。
「でもやっぱり、格別だな」
理想の女性のシャワーシーン……市場に出回っていたら、一体幾ら費やして落札していたことやら。
「でも、タダ!」
そう言って備え付けの鏡に視線を移し、わざとらしくウィンクをして見せた。
「アハハッ!」
そんな女性が、自分自身だと認識しては、笑わずにはいられなかった。
鏡に向かっていろいろポーズを見せつけて、『男』の自分を挑発していく。
(あぁっ、やっぱり女の方がいいなっ!)
楽しい。
女ってやっぱり、楽しい。
愉しいし、楽しい。
いつまでもそうしていたかったが、流石にこんな時間に水音を響かせ続けるわけにもいかない。
というわけで、そろそろ上がらないとな。
タイルに残るムダ毛を洗い流してから、タオルで体を拭いて……裸のまま、自室へと向かう。
(今見つかったら……!)
見知らぬ女性が、裸でうろついているこの状況……!
……普通に通報だな。
でも自分自身はこの状況に酔いしれて、股間をジュンと濡らす。
(シャワー浴びたばっかりなのに)
一応死なない程度に性感は修正したが、あの感覚も捨てがたかったので、やはりまだ感じ易い方である。
階段をゆっくりと上がると、擦れ合う腿の間が濡れてきているのが分かる。
どうにかこうにか二階に辿り着き、妹の部屋を横切って……
(ほれほれー)
扉の前で豊満な胸を見せつけるようにして揺らす……が、勿論反応はない。
(……)
我に返る。
いくらなんでも、これはないや……ここまでこの体にさせるべきじゃなかったな。
ちょっと落ち込みながら自室へと戻る。
「ふぅーっ」
流石に深夜だからか、見つかるどころか、誰も起きてはこなかった。
それでも、可能性はあったわけで……そう考えるとまた体が疼いてしまう。
「……危ない趣味に、走りそう」
露出かぁ、確かにこの『存在しない人物』なら、気兼ねないかもしれないけど。
「いや、それはなしだ」
もし時間があるのなら、別の人物を作ってやればいい。
「ふあぁ……っさて!」
流石にもう『体』は眠気を訴えているので、寝かせてあげよう……大仕事の後だしね。
変身する前に脱ぎ捨てた服を拾い上げて、何気なしに着込んでいくと……
「あ、これ」
そういえば見たかった光景の一つだ、俺がいつも着ている服に包まれた、女性の姿。
「うん、やっぱり俺、TS好きだな」
女性でもラフな格好はするだろうが、こんな綺麗な女体に、こんなヘンな柄のトランクスは全く合っていない。
だがそのギャップ、これがいいんだ……それにだ、いつもなら膨らんでいるはずの前面が、寂しいのもさ。
そしてユニQのTシャツの下は勿論ブラなんてなく即おっぱい、乳首がプックリ立ってて、存在を主張している。
それ以前にシャツを押し上げるほどの大きな胸……あぁ、これが胸の谷間かぁ。
それが今、何時もの服を見下ろせば存在するなんて……ぼかぁ、幸せだぁ。
(ん、でも)
ただこの手の状況でよくある、ブカブカな服装になるかと言えば、元の体の都合そこまでにはなっていない。
身長は少しだけ低いくらいだからな……ただそのせいで、若干服がキツいんだが。
「あとはズボンを穿いて……あ」
スンと、手にしたズボンの臭いを嗅ぐと。
「俺の……男の臭い……」
もうこの臭いは発生しないんだ……そう思うとまた、興奮してくる。
それにこの体が、男の臭いに反応して、またまた股間をジュンと濡らす。
いい加減我慢の限界でもあるし、ズボンを穿いてないんだからと手を伸ばすが。
「ダメダメ、明日は色々やるんだからな」
そうだ、明日に備えて体をゆっくり休ませないと、改変したとはいえ『人間』なんだからな。
さっさとズボンを穿いて、電気を消し、ベッドに飛び込む。
「それじゃおやすみなさい……ワ・タ・シ♥」
新しい自分に語りかけ、眠りにつこうとした……が。
「あぁっ、やっぱりダメッ!」
忘れてた、服以上にベッドは俺の汗まみれじゃないか。
その日、二度目のシャワーを浴びるのは、必然だったようで。
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11日目、朝。
「ん……」
昨日の疲れのせいかまだ眠気が抜けないが、それでも何時もよか寝起きの気分は爽快だ。
「んー……」
ゆっくり体を起こすと、胸が重力に引っ張られる感じがする……あぁ、いいなぁ。
「ふぁあぁぁーっ」
ちょっと間の抜けた欠伸も、可愛いらしいもんだ。
「んっ」
そしてなにより、寝起きだというのに、下半身にテントが張られることのないこの体……俺は今、女なんだと実感できる。
「フフッ、おはよう、ワタシ♥」
予定のついでに、朝起きたら女の子になっていましたを今更堪能してみたのだが。
というかこの場合、『女の子になって一夜を明かしました』か?
……ハハッ、全く、そんな事考える余裕が出来るほど、女であることに慣れてきてるな、俺……やっぱりか。
「さてっと」
気を取り直して、まずは身支度……の前に、ウィンドウを開いて自分を操作する。
昨日寝る前……正確には体『だけ』を寝かしつけてから、今日の為の準備を済ませておいた。
なので後は、自分自身を改変すれば、全ての準備が完了する。
「あった、コレを、と」
その自分に対する変更内容も、予め保存しておいた……時間が惜しいからな。
そのデータを呼び出すと、全てのパラメータが一瞬で変化し、俺がオレではなくなっていた。
人格、感情、そして肉体……これを反映すれば、今から俺は本当の『オンナ』へと変わる。
「大丈夫、もうヘマはしない」
あの時は事を急いたせいで酷い目にあったが、この『心』は今まで憑依した女性達を元に調整してある。
だから前回のような大失態は無い筈だ、だから今日は……時間の指定も、しないでおく。
「それじゃ、今日一日を楽しんで、楽しませてくれよ、『オレ』♪」
そう呟いて反映ボタンを押した、その瞬間……前にもあった、頭の中で電気がバチッと走った感覚に襲われて。
――――瞬間的に、気を失って。
「……」
……?
「あ」
成功……した、かな。
「……うん、大丈夫、問題はない……みたいね」
またあんなオカマみたいな事になるかと思ったけど、今なら正真正銘女だし、そこまで怖がらなくて良かったかも。
「ん、なんか、不思議な感じ」
ボタンを押したその瞬間までの事を、私は覚えているし、それ以前の記憶もちゃんと残っている。
私が男だったって自覚もあるし、この力や、その使い方だって理解している。
だけど私自身は自分を女だと理解していて、それが今は実際に正しいのに。
そうなると今度は記憶の方が矛盾してくる……それが、不思議な気分……あのコも、こんな風に感じていたのかな。
でも、私は私、過去を振り向かず未来を向かなくちゃね。
「さて、私の方はOKね、それじゃ次は」
立ち上がって、部屋を後にしようとした……けど。
「あっ……」
軽い立ちくらみに襲われて、一度は離れたベッドに再び座り込んでしまった。
「……そう、そういう、事……」
分かっていた、分かっていたけれど……うぅん、今は私も、考えないようにしよう。
ふぅっと息を吐いて、軽く呼吸を整えて、改めて今日を迎える事にした。
「さぁ、まずは」
扉を開けると、階下から食欲をそそるいい匂いがしてきた。
その匂いに誘われるように一階に……降りる前に、妹の部屋の前で立ち止まり。
「……ゴメンね」
そう、声を掛けたけど……返事は、なかった。
――――一階に降りると。
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
リビングで父が新聞を読みながら、朝食をとっていた。
一方母は料理にお弁当にと、大忙しだ。
「アラ早いのね、今日はパンだけど、何つける?」
「えっとそれじゃ、マーガリンで」
「はいはい♪」
他愛のない、朝の会話。
でも確実におかしい事がある、それは……私の存在。
二人にとってこの私は赤の他人も同然、なのにまるで家族に接するように振舞ってくれている。
……勿論、これは能力に因るもの。
二人の記憶の中にいる『オレ』を、『ワタシ』に置き換えて……ちょっと脚色して。
今日一日だけだから、二人には私の事は『休暇中の娘』という扱いにしておいた。
(あ、そっか)
記憶の中で認識が置き換わっているから、今男の私がいたのなら、そっちが不審者扱いなのよね……不憫な。
自分の中の自分に憂いていると、ひと段落ついた母が話しかけてきた。
「あ、そうそう」
「ん、何?」
「あの子、具合が悪いって言うのよ……悪いけど、看病してあげてくれる?」
「いいけど、学校には?」
「もう連絡したわ」
「……そう」
……罪悪感に、心が痛んだ。
コレも、私……『オレ』が昨日の内に仕込んでおいた内容の一つ。
だからこそ私はあのコの部屋の前で謝った……勿論それで許される事じゃないって分かってる、でも……でも、私には。
――――朝食を終え、両親が仕事に出かけようと玄関前に、私はそれを見送る立場で立っていた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「それじゃよろしくね」
「うん、いってらっしゃい」
……こうして両親の出勤を見送るのは、一体何時振りだったかな……
家族揃って……あのコはいなかったけど、朝の団欒を囲むのも、もう記憶にすら残っていない。
手を振って二人を見送ると、玄関の向こうへと二人の影が消え、足音が遠ざかっていく。
「……」
暫くそのまま手を振っていた私だったけど、足音に気付いて二階への階段、その最上段に目をやった。
「……行った?」
「うん、もういいよ」
そこには、妹の姿があった。
勿論妹にも私の事を姉だと思い込ませておいたし、『正しい』あのコが必要だったから、記憶も性格も元に戻しておいた。
「ゴメンね、私の無理聞いてもらって……そのせいで……」
「ううん、いいの……お姉ちゃんのためなら私、なんだってするよ」
妹の様子からは、体調不良なんて感じは一切せず、寧ろ普段より生き生きしているくらい。
それもそのはず、だって……病気なんて嘘、仮病なんだから。
「……ありがとう」
「!? そ、そんな畏まらないで、何だか恥ずかしいよ……」
「フフッ」
自然体な妹の振る舞いに、笑みが零れる……私が男の時には見せてくれなかった、その可愛げな仕草に対して。
……でもこの妹の態度は、私の力で強制させたから、しているんじゃない。
妹の中で『オレ』が『ワタシ』に置き換わって、あのコの気持ちが大幅に修正されたんだろう。
(もしかして、姉が欲しかったのかな)
やっぱり同性の肉親の方が気兼ねなく接しられるのかもしれない。
そう、考えると……改めてこの力に感謝するべき、かな。
――――部屋中に散らばる、服、服、服。
「あーやっぱり、こうなっちゃうのね……」
自室に戻った私は、この後に備えて箪笥からいくつか服を取り出し、合わせてみていた。
「コレ……だと変だなぁ、うーん、でも……」
こういう時、魔法とかで変身した朝おん娘なら、都合よく服も女物になってくれているのが相場だけど。
「キッ、キツイ……お尻が入らない……」
残念ながら私の能力はあくまで肉体の変化だけ、そこまでの特典はないみたい。
だから仕方なく、持ってる男物の服から、中性的な物を選んでいるんだけど……
「あぅぅっ、こんな事なら先に買うか、妥協してもう少し体を小さくしておけばよかった……」
そう嘆いても、質量保存の法則を超えられない今の力では、私の身長や体格はコレが限界。
う、うん、確かに『盛った』のは自分だけど……あ、あれは男の私の一存だから! 私のせいじゃ……ないよ?
でもどの道、男の時と大差ない体格だと、男女間に聳える差が目に見えて障害になってくる。
今から変化させるにもまた時間がかかるし、今はどうにかコレで……合わせるしかない。
あ、えっとね、妹や母の服って手は、そもそもサイズが合わないから……無理なの。
それに、買うって選択肢も、楽しみが減っちゃうから。
「んぃぃー!!」
こっ、これが入らないともう選択肢が……やった、入った!
どうにか体が服に収まってくれて、尚且つ私が着てもおかしくない服装が仕上がった。
「んー……」
……とは言うものの、顔がいいおかげで良くもあれば、なまじ顔がいいせいで悪くも見える。
それに、胸とお尻……隠そうにも隠し切れないくらい、服を着ても分かる圧倒的存在感。
うーん、私ってばこれじゃまるで男装の麗人だよ。
「……ナルシストじゃないんだから」
思わず自分に突っ込みを入れ……あぁ、こういうところは『オレ』なのね。
「でも」
敢えて顔付きに男らしさを残したおかげか、かえってイケメンに見えなくもない。
「……やぁお嬢さん、この僕とデートしてみないかい?」
わざとらしくクサい演技してみたけど、私自身がその言葉に反応してる。
「フフッ」
変なの、ワタシの女の心が、男のオレが作った私にドキドキしてる。
「……自分が好きでも、いいじゃない」
胸に手を当てて、私は私自身に語り掛けた。
アナタが私を理想通りに仕上げたんでしょ? だったら、私は自分が好き……だって、私なんだから。
「アハハッ!」
傍から見たらメンヘラ女って言われそう、だけどすっごく気分がいいんだもん。
心が躍っちゃって、自分を抱きしめたり、自分に愛の言葉を投げたりして、遊んでいたら。
「お姉ちゃん、まだー?」
「!? あ……う、うん、今行く!」
扉の向こうから聞こえた妹の声に、思わずビクッと体が跳ねた。
いけない、本当にナルッちゃってた……本質は変わらない、か。
そういえば着替えだけ済ませて他の事全然していなかったな、いけないいけない。
今日の為に下ろしておいた貯金の入った財布やその他もろもろを持って、部屋を出る。
「お待たせっ」
「……やっぱりそれなの?」
「え? あぁ、うん、『だから』じゃない」
「そうだったね」
「それじゃ、エスコートよろしくね♪」
「えぇっ? 私が王子役?」
「フフッ」
そうして妹と連れ立って、家を後にする。
さぁ、存分に、楽しもう、私がこうまでしてしたかった事を、しにいこう。
……だって……私は……うぅん、目一杯、楽しめばいい、それが私の……『生まれた』理由。
だから後の事は、アナタに任せるわ。
――――家を出た私達は、後ろめたい気持ちを忘れ、ショッピングモールに来ていた。
「あっ、これなんてどう?」
そうまでして、私が。
「これもいいね、合いそう!」
今日という日に。
「うーん、コレは……違うかな?」
妹に無理をさせてでも。
「あっ! コレなんてピッタリ!」
妹と、したかった事。
「ねぇお姉ちゃん、聞いてる?」
それは。
「うん聞いてるよ、似合う似合う」
「もー聞いてないじゃない、これは私じゃなくてお姉ちゃんのでしょ?」
……妹と仲良く、過ごす事。
「ゴメンゴメン、でもいくらなんでもこんなに渡されてちゃ困るんだけど……」
「だって何でも似合うんだもん」
「あら、お世辞を言っても何もでないからね?」
「おっ、お世辞じゃない……よ」
「フフッ、ありがと」
「やっ、み、みんな見てるから……」
優しいなー、いい子は褒めてあげましょう、撫で撫で。
……男の子が女の子になって、一番興味を持つのは、そのカラダ。
それは至極当然だと思う……でも、女の子は、それだけじゃない。
「ねぇーどれにするの?」
「うーん、どれもいいからなー」
「コレは?」
「ちょっと派手過ぎない?」
「じゃコレは?」
「わ、私には無理だよ……」
「それじゃコレ」
「あー、うん、イイ……かな」
「はいそれじゃコレに決定!」
「早っ! ってか決定権そっち持ち!?」
……こんな風に、妹と過ごせる……その喜びは、性的な気持ち良さとはまた違う、充実感に満ち溢れていた。
「ほら試着試着ぅー」
「わ、分かったから、押さないで」
……勿論、そういう関係にある女性に憑依すれば何時だって味わえたし、色んな相手と体験する事も出来た。
「ぶぅー、なんでそんなにあるのさっ!」
「さぁ?」
「このーイヤミかー」
「ひゃあぁっ!?」
……でも私は、『妹』との、この時間を体験したかった……それは、私の中の『オレ』が、切に望んだ、願い。
そして私は……その為の……うぅん、なんでもない。
「で、下着……」
「わ、分かってるわよ、買うわよ」
「フフフ、勝負下着限定ね」
「何それ罰ゲーム!?」
……男の自分には見向きすらしてくれなかった妹の、こんな表情、あんな表情。
ただそれだけが、見たかった。
だから私は、様々な女性から『経験』だけを積み、『体験』自体はとっておいた。
「わー、やっぱり何着ても似合うねー」
「フフン♪」
「……お姉ちゃん、結構ナルッ気あるよね」
「!? そそそそそんな事ないよっ!?」
「何焦ってるの?」
別にそこまでしてとっておく必要はないんじゃないかって?
いいえ、とても重要な事……何故なら、この『日』この『時』を、深く深く心に残すためには。
偶然とはいえ、今日この日を迎えられた事に……感謝しなくちゃ。
――――買い物を終え、妹が見立ててくれた服に着替え、私達は街を歩いていた。
「買い物だけで疲れちゃったねー」
「そうだね」
身も心も、そして服や化粧まで完璧にこなした私は、今や完全な『女』として、なんの違和感もなく歩いていた。
だけどそれは、言い換えれば私の事を誰も男とは思わず、ましてや……良くも悪くも、目立つ存在で。
「……視線、凄いね」
「……うん」
男性からの、性的な目。
女性からの、嫉妬の目。
私に集まる沢山の視線が、チクチクどころかザクリと突き刺さる。
(まぁ、この体はそれこそ作り物だからね)
万に一人、いや、億に一人いるかいないかの美女。
(流石に、やりすぎたかな)
この感じも体験したかった一つだけど、流石にここまでくるとバツが悪い……妹がいるから、余計に。
「うっ……」
多量の感情にあてられ、少し眩暈がした。
「大丈夫?」
「平気、でもちょっと疲れたから、休もうか」
「あっ、それじゃ私いい所知ってるよ!」
「ならそこで休もうか」
「うんっ!」
妹の満面の笑みを受け、少し気持ちが安らいだ。
(でも……)
間違いない、これは……
「どうしたの?」
「えっ、あ、うん、大丈夫、行こう」
妹に手を引かれ、その場を後にする。
「それでね、そこのケーキがまた美味しくって……」
歩きながら妹が熱弁する。
でも私は、その言葉の半分も聞いていなかった。
(男の『ワタシ』……よく、コレを今まで……)
ずっと家にこもりっぱなしだったのもあるけど、それでも如何に自分が達観していたのか、今ならよく解る。
基礎は同じとはいえ、『私』を作るため手を加えた部分の何処かに、抑止力があったのだろう。
それを解除してしまった今、『ソレ』は明確な形となって私を襲う。
(お願い……)
もう少し、もう少しだけ、このままで。
――――その後も苦痛に耐えながら、私はどうにか妹とのプランを楽しむ事ができた。
「やー、楽しかったー♪」
「私も……本当に今日は、ありがとう」
「だからお姉ちゃん固すぎだってば、一体どうしちゃったのさ?」
「……」
両親が帰宅する前に家に向かう、帰り道の途中。
今日一日を充実した日にしてくれた妹に、心からのお礼を告げる……その中に、今までの事も含めて。
(本当に、ありがとう)
そして心の中で再び、感謝する。
ここまでしても、私は妹に対して……
「そろそろ家だけど、電話もないし、バレてないよね?」
「多分、ね」
道の向こうに、自宅が見えてきて、お互い少し警戒する。
何せ妹は学校をズル休みして、私はその首謀者、だからね。
当然両親に言われたのなら、妹を守る、つもりだったのだけど……
先に気付いたのは、妹の方だった。
「あれ……もしかして!」
家の前に、誰かが立っている……そしてその人物の姿には、見覚えがあった。
しかも思わず上げてしまった妹の声に、その人物が気付き、駆け寄ってきた。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの!?」
「あ、え、えっと……その……」
その人物は、あの妹の友人の娘だった。
妹が休みと聞いて、わざわざお見舞いに来てくれたのだろう……やっぱり、優しい娘……でも!
「この人は?」
「え?」
(……い、いけないっ!)
この事あるを予想していなかった、するべきだったのに!!
「誰って、私のお姉ちゃん……」
「お姉さん……? お兄さんしかいなかったんじゃ?」
「え?」
「え?」
二人が同時に、私の事を見てきた。
当然だ、私という人物は存在しないのだから……それを指摘された今、私は……誰でもなくなった。
「アナタ……誰?」
「私には、姉さんが……いない?」
「……ゴメンッ!」
迷っている暇なんてなかった。
キョトンと見つめる二人を見つめ返すと……二人ともその場に崩れ落ちた。
「……っくはぁっ、はぁっ……!」
……あぁ……今ので、完全に……もう……
(い、いや、それよりも先に!)
こんな道端に二人を倒れ込ませておくわけにもいかない。
慌てていて妹と友人、二人を同時に担ぎ上げようとしたのだけど。
「うっ、くっ……」
女の力で二人を抱えるのは無理だった。
(あぁもう!)
男の時でも怪しいけど、こっちは急いでいるのにっ!
そうやって自分に足りない『能力』に苛立ちを覚えると。
「あっ、えっ……やっ! ダメッ!」
急に両腕が熱くなると、握った拳がギリリと音を立て、爪が食い込むほど力が強くなった。
「……!!」
後悔しても、もう遅い。
ついさっき持ち上げられなかった二人の体が、まるで紙のように軽くなっていた。
……違う、これは、そうじゃない……
「っでも、とにかく今はっ!」
二人を担ぎ上げ、玄関を開け、二人を運び入れると、力任せに扉を閉めた。
バタンなんて生易しい音じゃなかった、バキッて何かが壊れる音がした。
見れば扉が僅かながら拉げている……勿論、原因は……
「……うぅっ、うぁぁっ……!」
そして……私は泣き崩れた。
目を背けていた事をまざまざと見せつけられて、理解して、感情が込み上げてきた。
玄関で眠るように倒れている二人を見ながら、私は、泣いた。
もう、戻れない……。
――――日が落ちて、夜が来て。
「ただいまー」
両親が帰宅した声が聞こえ、私は顔を見せた。
「おかえり」
「あの子の具合は?」
「……安静にしていたら、治ったって」
「そう、よかった」
妹は安静にしていた、そう、ずっと家にいた……そう、『した』。
「あ、おかえりー」
「もう大丈夫なのか?」
「うん」
当然よ、あのコの体は何処も悪くなかったんだから。
「あんまり無理しちゃダメよ?」
「分かってるって」
「さっ、すぐご飯にするから、もう少し寝てなさい」
「はーい」
そう言って自分の部屋に戻っていく妹……でもね、もう休まなくても、いいんだよ?
「? どうした突っ立って?」
「あ、いや……うぅん、なんでもない」
ダメ、両親の顔も……見ていられない……私は足早に妹の後を追った。
「? おかしな子だな」
――――自分の部屋に戻り、鍵を閉め、ベッドに飛び込む。
「……」
これで、本当に良かったのだろうか。
あの後、妹と友人の記憶を書き換え、ちゃんとお見舞いに来た事にした。
そう、妹はずっと寝ていた……寝ていたんだ。
でもこの部屋を見れば、妹と一緒に買いに行った服があって、何より私の記憶の中には……妹の笑顔が残っている。
アレは嘘偽りなんかじゃない、確かにあった、真実。
でも妹の中では、きっと夢の中での出来事でしかない。
(いいんだ、これで、私だけが、覚えていれば……)
……本当に、そうだろうか。
私という姉を持った妹の心は、見るだけで幸せそうだった。
そうだ、私はこのままあのコの姉として、ずっと暮らせば……
(……でも、もう……無理)
結局私は、『力』に頼ってしまった……そもそも、あの時点でもう、引くに引けなかった。
他にやり様はあったのかもしれないけれど、妹達の視線に……『感情』に、私は耐えられなかった。
それが私がまだ人間らしさのある、その境界線だったのに。
┬別にこんな結末で終えなくとも、よかったんじゃないか?
└┬いっそのことあの娘も巻き込んでしまえば、もっと楽しめたんじゃないか?
└┰どの道お互い来る所まで来た、後戻りは出来ないのなら行くとこまで行った方が心残りはないぞ?
┗……結局のところオマエは、オレなんだからさ。
(……それでも、今は私がワタシなの)
心の中で『オレ』の囁きが聞こえる気がした。
(アナタはそれで満足するかもしれない、でも私は、私自身はこの結末で……終わりたい)
┬それで悔いはないのか?
└┰折角の楽しい思い出を、これで終わらすのか?
┗┯恐らく……いや確実に『今日』までだぞ?
└……まぁ俺は楽しんだからいいが、オマエはそれで納得できるのか?
(……うるさい)
自分自身の声なのに、酷く煩わしい。
あぁ、あのコが感じていたのは、こんな感覚なんだ。
男と女って、こんなにも考え方や感じ方が違うんだ……
何が楽しんだよ、私にとっては今日が全てだっていうのに……男ってやっぱ、身勝手で利己主義な、最低のクズ。
(……もう、いい)
こんな気持ちのまま今日を終わらすのなら、とっとと寝て終わらしたい。
そう決めて、布団を被ったの、だけれど。
「お姉ちゃーん、ご飯だよー」
扉の向こうから、妹の声。
「……いらない、もう、疲れた」
「えっ? だ、大丈夫!? 私のが伝染った!?」
「そうじゃないから、心配しないで……お休み」
「もう寝るの!? やっぱり、具合悪いんじゃ……」
いいから寝かせて、私を楽にさせて……アナタの声を聞いちゃったら、決心が揺らいじゃうから……
(……)
どこまでも深い堕落感の底で、私はその声を……聞いて。
「じゃ、じゃあそう伝え……」
「待って」
「?」
「……中、入って」
「え? うっ、うん」
扉に隔てられくぐもっていた妹の声が、しっかりと耳に届くようになって。
起き上がって、妹を手招く。
「こっちに、来て」
「な、何」
「大丈夫、だから」
妹を迎えいれる為に、私はベッドを軽く片付け、妹はその開いた隣のスペースに座った。
座るやいなや、妹は私の額に手を当てて、心配そうに見つめてきた。
「熱……は、ないみたい」
「えぇ、体は……大丈夫だから」
「それじゃ、何か悩み事? ……私でよければ、相談に乗るよ?」
「相談、か」
多分私にはもう、必要のない事。
それでも誰かに、特に妹に聞いてもらいたかった……何より妹にいて欲しかった。
今度は不安そうな表情を見せる妹がとても健気で、思わず私は妹を抱きしめた。
「おっ、お姉ちゃん!?」
突然の事に驚いたようだけど、すぐに妹は私の手を取り、心配そうに語りかけてきてくれた。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
「……うん」
そう答えたけれど、妹の温もりを感じた私は感極まって、自然と涙が零れ落ちていた。
「! えっ、ちょ、ちょっと……!」
「ゴメンね、ゴメンね……!」
「ど、どうしたの……!」
何よりもまず、謝らないといけないと思った。
今日まで妹にしてきた事、『ワタシ』じゃないとはいえ、私のせいだ。
その思いで心が溢れかえって、自然と涙が零れ落ちていた。
(あぁっ……)
泣いている、私、柄にもなく泣いている……何故?
……理解してしまったから……こうしていられるのが……もう、『来ない』と知って。
「!」
嗚咽する私に気付いて、妹がそっと抱き返してきた。
「よ、よく分からないけど……私、お姉ちゃんの傍にいるよ?」
「あぁっ!!」
その言葉で、もう、止まらなくなった。
感情が昂って、泣いて、泣いて、泣いて。
今日この日を、この時を、この瞬間を名残惜しむように。
そんな私を、相変わらず達観して見ている『オレ』の姿が、涙でぼやけた視界の向こうに見えた。
(……アナタにはこの気持ち、分からないでしょうね)
……『知ってる』、そんな声が聞こえた……返す言葉も、曖昧なのねアナタは。
そして私はこの妹の温もりをしっかりと体と心に刻み込んで、その日を後にした。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
12日目。
「……」
目を覚まして、体を起こす。
「……」
ジッと手を見れば、昨日と変わらない細くて綺麗な女性の手だった、それが……
「……」
グニャリと歪むと、その手だけが無骨な男の手に変わった。
「……」
股間に視線を落とせば、あるはずのない男根が服と下着の下で動いているのを感じた。
「……」
が、次の瞬間膨らんでいた股間が萎み、その膨らみの原因が体の中へと収納される感覚。
「……これが」
昨日の苦しさがまるで嘘のように、この力はいとも容易く体を自由自在に変化させる事が可能となっていた。
「……私の」
当然、人間の括りに縛られる事もなくなった。
右腕全体をペニスにしてみたり。
お腹にもう一人の自分を出してみたり。
猫耳を生やしたり、ほぼ猫になってみたり。
ヒトである制限という枷が取り払われた今、私は……私も、全てを見透かした感情になっていた。
「……」
服を着替え、家を出る。
家族はもう出かけた後だ。
その事がほんの少しだけ、私という存在を引き伸ばしてくれたようにも思える。
だって、今家に誰かいたのなら……彼らは間違いなく、人ではなくなっていただろう。
――――道すがら、通行人が昨日よりも鋭い視線で私を見てくる。
(うわっ、いい女)(やりてぇ)
(何あの服、カワイイとでも思ってんの?)(どうせビッチ)
そんな通行人の心の声……その全てが、私の中に伝わってくる……いいえ、少し違う。
そう、あの魂を見る力、今ではもう触れずとも、更には見ずとも範囲内にいる全ての対象のウィンドウが見える。
そしてそのウィンドウを開かずとも、その全てが見え、その全てを改変できる。
昨日の時点でその兆候が見られ、そして妹と友人に行使したことで確立した、魂を操るこの能力の、究極の形。
だから当然、こんな事だって。
(いいなぁ、あんな女性と付き合って……あ、あれ?)
偶々すれ違った男性を女性にした……体、だけ。
「あ、ある……な、ない!?」
胸と股間を触るお手本のような行動をした後、その男性『だった』女性は何処へともなく駆け出していった。
けど……どんなに距離が離れようとも、その人の行動や心理は私に筒抜け……あの人がトイレに向かう事も、する事も。
そうやって私は、特に理由もなく、また見境もなく人々を変えていった……勿論、後の事なんて知らない。
そして街に出て、たくさんの人々を見渡せる場所に立ち、情報を集めた。
行きかう人々、その全員の心が見える、解る、変えられる。
いっその事今この場で全てを滅茶苦茶にしようとも思ったが、やめた。
(……どうせ)
私と、オレの答えは一緒だった……自ら手を下さずとも、早ければ今日にはもう。
だから、せめて今日という日をくれてあげる……私達の優しさに、感謝しなさい。
それでも心のどこかに残る悪戯心が、一つの建物をターゲットにする。
その建物を見据えた私は、私の分身となる魂を、その建物に送り込んでいく、数は……中にいる人間の数と同じだけ。
数十人は下らないけど、それでも問題なく一体一体を別々に行動させる事、今の私には容易い事。
その分身達に命令して、一つ一つを建物内の人々に、コンマ秒の狂いもなく同時に憑依りつかせる。
その瞬間、その全員の視界が一斉に私へと送られた……全員が私で、私は全員。
常人なら処理しきれないはずの情報も、最早例えようのない手段で処理して、別々の行動をとらせる。
そして適当に近場の二人を向かい合わせると、それぞれから魂を取り出し、入れ替えた。
それを終えた私は、また別の街へと向かった……確認する必要も、意味もない。
ただ、その建物から奇声じみた悲鳴が上がったのだけは、視ずとも聞こえた。
――――全てが空虚になった。
私の力は全てを視て、全てを感じて、全てを触れて、全てを……統べた。
だけどそんな力を持った存在に与えられるのは、ただただ底の見えない孤独と、虚無だけ。
(……あぁ)
昨日の妹との充実した一日も、既におぼろげだった。
たった……たった一日だけなのに、どうしてこうなってしまったんだろう。
……いいえ、きっと元々こうなる運命だった、ただそれが『少し』早まっただけ。
それに、運命? ……きっとアイツならこう言うはず、『これもテンプレの内』、だと。
(もう、いらない……)
当てもなく彷徨い歩けば、すれ違うだけで次々と周辺の人々の情報をスキャンしていく、私の魂。
その情報量がどんなに膨らもうが、それら全てを丸呑みにしていく、私の魂。
そうやって他人の情報に押し潰されていく『私』自身すら、空虚になっていった。
(……)
私はどうすればいい? 最早形だけ人であって、人ですらない私は、これからどうすればいい?
答えなんて見つからない、どんなに人の心を知ろうが、同じ体験をした人なんて、いないから。
歩いて、歩いて、歩いて……でも結局、私は自分の見知った景色の範囲から、出ることはなかった、何故なら……
「……帰ろう」
日が暮れてきて、両親はともかく、妹は帰ってきているはず。
そうだ、私にはまだ、あのコがいる。
「妹……私のかわいい、妹」
昨日、言ってくれた。
『私、お姉ちゃんの傍にいるよ?』
……今はただ、それだけを信じて。
――――何故か急に立てつけの悪くなった扉を開けて。
「ただいまー……アレ?」
おかしいな、鍵は開いてたのに。
「お姉ちゃーん、いるのー?」
……返事がないな、寝てるのかな。
「まっ、いいか」
取り敢えずシャワー浴びたいや、部活で疲れちゃった。
「ふー、さっぱり♪」
部屋で着替えてシャワー浴びて、後は二人が帰るのを待って、と。
「あ、そうだ」
返事が無かったけど、お姉ちゃん、いるんだよね?
昨日の事もあるし、本当に病気してないといいんだけど……
「大丈夫、かな」
そう思うといてもたってもいられなくなって、気付けばお姉ちゃんの部屋の前に立ってた。
ノックをしても返事は無いけど……
「……お姉ちゃん、入るよ?」
ドアノブに手をかけて、ゆっくりと扉を開いていく。
「……ん」
「お姉ちゃん?」
声がしたから、いるんだろうけど……なんか、変。
「……んん……」
荒っぽい息遣いしてる……や、やっぱり風邪、伝染しちゃったのかな!?
急に不安が込み上げて、恐る恐る扉を開いてみたら……そんな私の心配を他所に、お姉ちゃんは……
「んっ、おかえり」
「お、お姉ちゃん、何を……!?」
「何って……知っているでしょ?」
「そ、それは……ってそうじゃなくて! ゴッ、ゴメン、見るつもりじゃ……でもなくて!!」
お姉ちゃんの綺麗な体は、私がお姉ちゃんに憧れる理由の一つ。
そんな理想の体、それが今一切隠される事なく私の目に飛び込んできた……本当に一切合切、全て。
……お姉ちゃんの、その……お、オンナノコまでも。
「待っていたのよ、アナタを」
「ま、待ってたって……そ、それよりせめて手で隠して! はっ、恥ずかしくないの!?」
「アナタになら、見せてあげる……いいえ、見せてあげたいから」
「いっ、いいよ別に!」
そう、お姉ちゃんは裸になって、その……手で、弄っていた。
な、何をって……そ、それは……い、言える訳ないでしょ!
兎に角普通なら恥ずかしくて隠すのに、お姉ちゃんはまるで私に見せ付けるようにして、ソコを……
「ホラ見て、私のオマ○コ……こんなに愛液溢れちゃって、すっごく欲しがってるのよ」
「イ、イヤ……!」
私のお姉ちゃんが、私の憧れのお姉ちゃんが……こんな、こんなのって。
「どうしちゃったのさ、お姉ちゃん!」
「別に? ただ自分を保つのなら、コレが一番だから」
「何よ、それ……!」
意味分かんない、わかんないったら、ワカンナイ!
「やめてよぉお姉ちゃん……私のお姉ちゃんは、そんな事しないよぉ……」
あまりの事に泣き出しても、お姉ちゃんはケラケラ笑って。
「そんなの幻想よ、人間で……生き物である以上、私だって繁殖行為をするのよ?」
「やだぁそんな言葉……!」
何で、何で、何で?!
いきなりな出来事に、私はついていけなかった。
私を置き去りにしてお姉ちゃんが、どこか遠くに……行っちゃった……
「戻ってきてよ、お姉ちゃん……」
ポツリと呟いた、その言葉。
それを聞いたお姉ちゃんが、ピクッと反応して、一言、「……もう、戻れない」って呟き返してきた。
私は「そんな事ない」って、言おうとしたのだけれど。
「ねぇ」
「な、何?」
「アナタが……欲しい、アナタを……感じたい」
「な、何言って……」
更に訳の分からない事を言いだして、私を見つめてきたお姉ちゃん。
勿論、私は怖くなって逃げようとしたのだけれど……その真っ黒な瞳に見つめられた私は……
――――妹が帰ってきた。
あぁ、私の愛しい妹。
私の、他の誰のモノでもない、私だけの妹。
もう、私を留められるのはアナタだけ。
だから……早く、アナタがホシイ……
妹の事を考えるだけで、冷めた私の心が熱く滾る。
その滾りに突き動かされてか、気付けば私は服を脱ぎ捨て自慰を始めていた。
「あっ、んっ……」
不思議、今ならどんな姿にでもなれて、人間じゃ味わえない事だって出来るのに。
私はこの体で、この『姉』の体のまま妹に触れたくてしょうがなかった。
(だって、妹は……人間だから……)
そうだ、私と妹の関係は人間同士……だから私を『保つ』には、この姿じゃなきゃダメなんだ……
だからこうやって、形だけでも体を発情させておかなくっちゃ。
あぁ、早く、ハヤク。
私にその姿を見せて。
その匂いを嗅がせて。
その声を聞かせて。
その肌に触れさせて。
アナタの分泌液を味わわせて。
そして……私を感じさせて頂戴。
――――ハッとして気が付けば、お姉ちゃんが幽霊みたいな動きで私に手を伸ばしてきていた。
「さぁ、早くキテ……」
「イ、イヤ……」
怖い、怖いよお姉ちゃん。
でも……何故か急に私は、お姉ちゃんの……その……魅力的な肢体に、釘付けになってた。
「ホラ、アナタの知りたカった私の全てが、コンなにも曝ケ出されてイルノよ?」
そんな私の視線に目敏く気付いたのか、遠まわしに指摘してきた。
「ちっ、違……」
「違わナイ、アナタは忘れてイるだけ……アナタには、女の体に反応スる『理由』があル」
「そんなの、無いっ!」
声を張り上げて否定したけど……イ、イヤッ、何? 何でこんなにドキドキしてるの?
そりゃ確かにお姉ちゃんの裸は、同性でも魅力を感じるけど……こんな気持ちになるのは……変。
「さァ……」
「あ……あ……」
この感じ、私の中のおぼろげな『何か』が、私の心に入り込んできてる。
(一体何だっての!?)
これじゃまるで、そう、まるで私が……お姉ちゃんに……うぅん、女の人の体に……反応して……
突然訪れた異常事態に、足が震えて一歩も動けない……はずなのに。
「そう、コッチヘ……」
「あぁっ……」
フラフラと、覚束ない足取りで、私は前に、お姉ちゃんの下に歩み寄っていた。
私は逃げたかったのに……何で……
「そこニ、座っテ」
「う、うん……」
お姉ちゃんに言われるがまま、私は昨日みたく隣に腰掛けた。
手が震えてるし、顔も引き攣っているのに……私は逆らえなかった、まるで魔法でもかけられたみたいに。
それに、その間もずっと、お姉ちゃんの体から目を離せなかった。
特に羨ましい位大きな胸や、薄く整ったお姉ちゃんの下の毛の辺りに。
「あぁッ、私のカワいい、妹」
「キャッ!?」
突然、抱きしめられた。
昨日もこうやって抱きしめられたけど、今日のは昨日の優しさなんてなく、まるで獲物を捕らえたみたいに力強くて……
「お、お姉ちゃん苦しい……」
「アァ私の、ワタシのカワいい妹……ワタシノ、私の」
「お、お姉ちゃんやめて……!」
息を荒げ、スンスン鼻を鳴らし、首元を舐められ、体中撫で回されて……狂ったお姉ちゃんに、改めて恐怖を感じた。
(うぅっ……こんなの、こんなのって……!)
昨日までの優しいお姉ちゃんは、何処に行っちゃったの?
今のお姉ちゃんはまるで、男の子みたいだよ……
「……そうよ」
「!?」
え、今なんて……
「お姉ちゃんなんていない、いるのはお兄ちゃんさ」
「な、何言って……」
お姉ちゃん、本当に、おかしく……
「でモ」
「?」
「マズは私が女トして感ジたイ……だかラ、今からアナタが、男ノ子」
「……え?」
流石にもう、意味分かんない……これ以上おかしくなったお姉ちゃんを見たくない……体は、見ていたいけど。
「お、お姉ちゃん、病院行こう、ねっ!?」
他の人に、こんなお姉ちゃんの姿を、見せたくはない。
だけど……ここまでするなんて、お姉ちゃんは、もう……診てもらう以外、どうしようもないよ。
そんな私の思いもまた、筒抜けだったかのように私に対してお姉ちゃんは。
「病院なンテ、必要ナい」
「だ、だって」
「ワタシニ、病院は、ヒツヨウない……意味が、なイ」
「そ、そんな事……」
「何故って? それは私にはモウ怪我も病気も、精神の病みすラナいカら」
「有り得ないよ、そんな事」
「アリ得る、今からそれを、教えてアげル……」
……もう、ダメだ。
お姉ちゃんに何があったのかは知らないけど、もう、お姉ちゃんは……帰って、来ない。
「い、今110……じゃない119番するから!」
逃げ出す口実も含めて、私はこの場を立ち去ろうとしたのだけど。
「! は、放して!」
「イかナイデ……」
「ヒッ……!」
下手なホラー映像なんかより、ずっと怖い形相をしたお姉ちゃんが、そこにはいた。
「ワタシを、一人にしナイで……」
「す、直ぐ戻るから」
「ワタしノカワイい妹」
「うっ、あっ……?」
まただ、見つめられると、私の中で何かが……
「でも、今カラ……弟」
「だから何なの…… !?」
お姉ちゃんの真っ黒な瞳。
その奥に私の姿が見えた瞬間、体が熱くなって……
「やっ……何!?」
ちょっとはそんな気持ちもあったけれど、それどころじゃなくなった今、こんな風に体が反応するはずないのに。
「なっ、なっ、なにっ、何なのっ!?」
突然お腹が火照り始めて、私のアソコがそんな気分でもないのに勝手に疼いてきた。
それだけじゃない、体中がカーッと熱くなって、感覚が無くなる位にまで熱を帯びて。
「い、いやぁっ……!」
私の中で何かが起こってるって気付いた瞬間、全身が悲鳴を上げて、何かが爆発したみたいに、ドクンッて体が跳ねた。
「あぁっ……!!」
イッた時より強い衝撃が、私を突き上げて……一瞬、気を失ってた。
「フフッ……」
「……くはぁっ! はぁっ……な、何? 何が起こって…… !!」
でも直ぐに感覚が戻って、私は詰まった息を吐きながら、声を出した……そしたら何、この声。
私の声じゃない、でも私っぽい声……その声が、私が喋った事を言ってる。
「あ、な、な……!?」
それに、目に飛び込んできた私の手……これも違う、こんな、ゴツくない。
「なななっ……ヒッ……!」
い、今下着の中で何かが動いた! それも、何かがあるだけじゃなくて、ソレが自分のモノだって事も、分かる……!
でも、私にそんなモノあるはずない! だって私は……!
「あ、あ、コ、コレって、まさか……」
体の熱が引いても、ドキドキのせいでまだ火照ってる。
そのせいで疼き続けるアソコ……ソレが今、私の知らない、おかしな反応をしてる。
お姉ちゃんの目があるけど、確認せずにはいられなかった。
「そんな、そんなはず……!」
自分の股間に手を当てて……ヒィッ!!??
「ウフフ……どう? アナタが望んデイたモノが、ソコにあるノよ?」
「嘘……嘘! コレって……!!」
触ってしまって、余計にハッキリとしたけれど、この目で確認せずにはいられなかった。
羞恥心より先に、絶望感に襲われて、私はお姉ちゃんの前でスカートを脱ぎ捨てた。
……ショーツを脱ぐまでもなかった、だって……もう既に、はみ出していたんだもの……ソレが。
「こっ、コレって……!」
私の股間から、巨大なミミズのようなモノが突き出していた。
勿論ソレが何なのか知っているけど、ソレは女の私にあるはずがないモノ。
「ハァッ……! ヤッパり、私の思っタ通りの大きサ、太サ……!」
「あ……あ……!!」
私に……チン○ンが生えてる! ビクビク脈打って動いてる感覚が、付け根から伝わってくる!!
ソレはつまり……このオトコノコのモノが、今は私の体の一部だって証拠で。
「い、いやぁぁぁっ!!」
叫ぶ声も何時もより低めで、コレじゃまるで男の子みたいだった。
い、いいえそんな非現実的な事あるはずないじゃない!
……だから見えていて感覚もあるけれど、ソレを避けて私は股間を弄った……けど、あったのはグニャッとした袋だけ。
「そんな、まさか!」
どんなに否定して手で探っても、私にあったはずのオンナノコは影も形もなくなって、股間はピッタリ閉じられていた。
「わ、私、私男の子に……!?」
「ソうヨ」
「!」
突然私の身に降りかかった異常事態を見ても、お姉ちゃんは顔色一つ変えず、むしろ分かっていたような事を言って……
まさか、コレって、この原因って……!
「な、何をしたの!!」
「アナタの望む姿にシテアゲたダケ」
「私は男になんてなりたくない!」
「ソウ? 胸に手を当てて、聞いてみなさい?」
そう言われて思わず本当に胸に手を当てて……あぁっ、こっちも小さいんじゃなくて、本当に無い……
「って、聞こえるはずないでしょう!」
「あらソう? もう一度、目を閉じて」
「えっ、う、うん……」
……まただ、なんでまた、私は従っているのだろう、でも。
(……え)
私、知ってる……今日初めて感じたからじゃない、だってコレが『射精』する気持ち良さなんて、知ってるわけが……
「ホラ」
「キャッ!?」
目を閉じていたら、お姉ちゃんが私のソレを掴んだ。
「や、やめて!」
「アラ、でもアナタは満更でもナいみタイよ?」
「うぁっ……!」
お姉ちゃんの細い指が私のをゆっくり撫で回すと、ギンギンに突っ張って、痛いほどに大きくなった。
「やっ、やめてぇ……」
「ナラ私の手を払えばイイ」
「うぅっ……!」
そうだ、やめてって行動で示せばいい……でも、出来なかった。
出来たはずなのに、しようとしなかった。
だって、女の人に……それもお姉ちゃんに触られて、イかされそうになってて……え?
(わ、私期待しちゃってる……!?)
イヤ、私は女の子なのに……男の子の気持ち良さを味わいたく、うぅん思い出してきてる……え?
(あ、あれ?)
イヤって言ってるのに、何で私、全然イヤじゃないの?
寧ろ久しぶりの感覚、久しぶりのオナニーに心躍っているのは、何で?
それに私……なんで私なんて言っちゃってるんだ?
これじゃまるで、女の子みたいじゃないか……ワタシは、男の子じゃない。
(わ、わた……ボクは……)
そうだ、ボクはコレが無くなって、ずっと寂しかったんじゃないか。
あぁっ、懐かしいこの感じ……コレがあれば今までお預けだったことが、やっと吐き出せる。
「ね、姉さん……!」
「ウフふ、ドウシたの?」
姉さんの美しい手で扱かれる度に、『ワタシ』が『ボク』に変っていくのを感じた。
(あぁ、僕にチ○コが! しかもそのチ○コを、姉さんが触ってる、握ってる!!)
こんな、僕の望んでいた事が一片に叶ったら、僕はもう……!
「うぁっ!」
姉さんはまるで知っているかのように的確に男の気持ちいい所を攻めてきた。
そんな指の動きは、男としてオナ禁していた僕にとっては到底我慢できる事じゃなくて。
「あぁあっ!!」
僕のタマがギュッとなって、その中に溜め込んだ僕の子種を、一気に放出していった。
「アハっ、さッキマで女の子だったクセニ、もうコンナに精液溜め込んじャッて!」
「はあぁっ……!」
イ、イッちゃった……姉さんに強制されて、僕、射精しちゃった……
気持ち良くて、思わず顔がにやけていたんだけど……冷静になった頭が、みるみる内に私を呼び戻していく。
「……あ、あぁっ……!?」
違う、何で……! 私、女の子なんだよ! 射精なんてするはずないのに!
で、でもこの感じ……私知ってるし、それに……イヤじゃないのは何で……!
「あぁ、いやぁっ!!」
姉さんを突き飛ばした私は、頭を抱えてしゃがみこんだ……その腿に当たる、イヤな肉。
「こんなの、こんなの夢よっ!」
「夢? ソうかもしレナイ……デも夢なら、アナタが男の子になっても不思議じゃナいデしょ?」
「うぅうっ……!」
コレが夢なら、何でこんなにオトコノコの感覚がハッキリ分かるの?
「夢よ、これは……悪夢よ!」
「悪夢なら……きットそレは、覚メる事の無い悪夢」
「!?」
ま……ただ、姉さんの言葉が……頭に……響いて……僕は……私……は……
「でも心配しなイデ……私がアナタに、いイ夢を見サセてあげル……」
「姉……さん……」
……コレが、覚めない夢なのなら……私は……いい夢が、見たい。
震える私に差しのべられた手が、とても優しいものに思えた……今なお姉さんも状況も、狂っているっていうのに。
あぁそうか、私も……僕も、狂ってきているんだ。
「ね、姉さん、私……」
「いいノよ、切なイのでしョウ? ……解るわ、ソの気持ち」
「ふぁぁっ!!」
そう言って姉さんが、私のを咥えてきた!
手も気持ち良かったけど、口の中温かくて、蕩けそう。
「んっ、コレで……マズは、アナタを味わわせて……」
「あぁっ!」
私の汚いチ○ポを、舐めて綺麗にしていく姉さん……あぁっ、私の我慢汁を、姉さんが味わってる。
絡みつく舌の動きが、手以上に私を攻めたてて、私の快感を込み上げさせてっ……!
「そんなっ、舌で舐め回されたら……! んああっ!!」
「ッ……!」
また、出しちゃった……今度はちゃんと、射精した感じが響き渡ってきて……コレ、すごく気持ちいいな……
溢れんばかりに私の出した精液を、姉さんは一滴残らず口に含んで、私に見せつけてきた。
「んっ……妹の精液、美味しい♥」
「わっ、私……の……精 ェンッ!?」
「……どう、コレがアナタの味ヨ?」
私の精液を口にたっぷり含んだまま、姉さんはキスをしてきた。
舌を絡ませ、私の口の中にねっとり擦り付けている……
(あくっ、コレが、私の……!)
むせ返るような男の臭い……あぁ私、本当にオトコノコになっちゃってるんだぁ……なのに。
(お腹の中で、『ワタシ』が疼いてる……)
……多分もう、影も形も無くなった私の子宮が、自分の男に反応してる感じがした。
(あぁ、私、ワタシ……)
自分で自分に……欲情しちゃってる。
アハッ、アハハッ……何が悪夢よ、こんな心地良い夢が、悪夢な筈ないじゃない。
「姉さん、私もう……」
「ウフフ、解ってるわ……欲しいんデショウ? ワタシが、私のココが」
そう言って姉さんが股を開くと、生き物のようにヒクついて、私のを求めてきていた。
(ああっ……!)
姉さんとセックス出来るなんて、夢みたい!
「さぁ、キテ」
姉さんが自分のマ○コをおおっぴらに見せびらかして、誘ってる。
当然そんなのを見せつけられた男が、断る理由なんて無い。
「姉さんっ!」
「フフッ、すッかリ男が板についテキタジゃない……でもそレデいイ、ソの欲望をモッと私に向ケて頂戴……」
我慢できなくなった私は、姉さんに飛びつき抱きしめ、姉さんの香りや体温を感じ取っていた。
(姉さんの匂い……女の匂い……)
もうダメ、それを感じるだけで何にも考えられなくなりそう。
そっか、オトコノコがエッチなのも……仕方ない事なんだね。
「アンッ♥」
「あぁ、いいなぁこのオッパイ……」
柔らかくてモッチリしていて……触っているだけでどんどんムラムラしてくる。
乳首もこんなに勃っちゃって……姉さんも感じてるんだ、私の愛撫で。
「モウ、そんナに吸わナいで……まルデ赤ちゃんみたいよ」
「んんっ……!」
そうは言われても、その乳首を口に含んでコロコロ転がす度姉さんが喘ぐから、夢中になっちゃう。
(あぁもう、このままじゃいつまで経っても挿入れらんない……)
そうよ、我慢する必要なんてないんだから、徹底的に姉さんを犯そう、そうしよう。
そうと決まれば、まずは言葉攻めから。
姉さんを突き飛ばしてベッドに寝かせてから、そのいやらしい部分を加減もせず弄り倒してみる。
「姉さんのココ、もっと溢れてきてる……そんなに私のが欲しいの? 妹のチ○ポを?」
「じ、焦らさないで……」
「フフッ、こんなおかしな妹に欲情するなんて、姉さんってば変態よヘ・ン・タ・イ」
「アァッ!!」
フ、フフフ……いいよ、いいぞその反応、ますます犯したくなるじゃあないか。
おや? なんか、いきなり僕が僕らしくなったじゃないか。
そうさ……僕は男の子だったんだ、自分で自分を犯した事のある、元女なんだ……!
そんな奴に犯される姉さん……はっ! ヘンタイめ!
どうせ姉さんもヤる気だし、今更止めるなんてできないしさ。
「ホラ姉さん、おねだりしてみなよ……そのメス穴に何が欲しいのかを、さ」
「あっ、わ、私……私のマ○コに、アナタのチ○コを……突き立てて……!」
「ハイ、よく言えました♪」
ハンッ、女なんて、こんなもんさ。
――――イイ、実に、イイ。
久しく忘れていた充実感だ、たっぷり味わうとしよう。
「ならお望み通り……」
あぁっ、妹のが……!
「このチ○ポで……」
私のアソコにぃ……!
「イかせてやるよっ!」
挿入ってぇ……!
「ンアアッ!」
「あくっ……すごい、締め付けてくる、絡み付いてくる……!」
そうだ、コレだ。
この、全身を震わせる感覚。
あの時感じた、犯される……『妹』に犯される、この感覚!
(あぁっ、感じる、私、感じちゃってる……!)
こんな狂ったセックスなのに、それが私を呼び戻す……私はやはり、変態のようだ。
「まだっ……! 姉さんが先にイクまで、とことん突いてやるっ!」
「ふああっ!!」
妹が強く腰を振って、突き上げられて。
私の子宮を、妹の体に作り上げた私の為にあつらえた、私だけのペニスが的確に叩いてくるっ!
「いいのぉっ、妹に犯されて、気持ちいいのぉっ!!」
「……ッ!!」
「くぁっ!?」
妹の動きが早くなって、膣内をゴリゴリと擦り、私を満たしていく。
「このっ……変態がっ! 妹を弟にしてまで、したかったのがコレかっ、コレなのかっ!!」
「そうよっ、そうよっ……だから、もっと、もっと!!」
「そうかよ、なら徹底的に……犯しつくしてやるっ!」
「ひぁあぁあっ!!」
自棄になった妹は、もう女であった事を忘れ、完全に弟として、『男』として振舞っていた。
「おらっ、こ、このっ……ビッチが!」
「あぁんっ!」
妹になじられて、犯されて。
でも私は一日振りに自分自身を取り戻して、快感に酔いしれていた。
(あぁっ、出来れば、このまま、この時、この一瞬を……!)
出来る事なら、妹で満たされたこの時間を切り取って、ソレだけを残し全てを捨て去りたい……でも。
「あくっ……だ、ダメ……で、出るっ……!」
「あ、ああっ……ああーーっっ!!」
妹が私の子宮に、精を注ぎ込んでいく。
カーッと熱くなるお腹とは裏腹に、それを受けた私の心は……再ビ冷メ始メ。
――――くぅっ、姉さんのマ○コ、まるで僕のを受け入れるためにあるみたいだっ!
お互いのが寸分違わず絡み合うし、姉さんのオンナも明確に感じられる。
けどそのせいでやっぱり僕は、我慢できなかった……もう少し、姉さんを悦ばせたかったのに……
(あ、あぁでも……)
背筋を跳ね上げ、中出しの余韻を味わっている姉さん。
(うあっ)
体が跳ねる度にその胸が揺れている。
残った精液を全て掻きだそうとうねる膣襞の感覚。
イッたまま出てくる、引き攣った声。
精液と一緒に溢れてくる姉さんの愛液の匂い。
その全てが僕のチ○コを再び奮い立たせるのにはそう難しくはなかった。
「いっ、一回抜くよ、姉さ……」
このまま続けようとも思ったが、これ以上は僕が持たない。
だから一旦、荒げる息を整えようと、腰を引こうとしたその瞬間。
「!?」
姉さんの脚が、僕を引き止める。
「ねっ、姉さん!?」
「マダ、ダメ……イイエ、モウ、ダメ」
「なっ!?」
起き上がった姉さんの顔。
その顔には見覚えがあった。
「ぼっ……私!?」
そんな馬鹿な! だってまだペニスが刺さったままのはずなのに、そこに姉さんの姿はなくて、いるのは……
そ、それ以上になんで僕がもう一人!? ……まさか!
「サァ、次ハコレデシマショウ……私ガ満足出来ルマデ、アラユル交尾ヲ、狂ッタセックスヲ」
「ヒッ……!」
またあの恐怖を感じる私……? え、私?
「あっ、な、何で!?」
折角男の子になれたのに! また心と体が女に戻って……え、それじゃ何で……まだ挿入れている感覚が……!?
視線を落とすと、また少し膨らんだ胸の向こうにあったのは……さっきより大きな、男のイチモツ。
それがまだまだ元気そうに脈打ってる……でも、その動きに反応して、私はオンナノコが疼くのも感じていた。
「イ、イヤァッ!?」
「ウフフ……」
私は、女でありながら男で……その男で、私は私を犯して。
「ふぁあっ!?」
「今度ハ、私モ」
い、挿入れられてる……一体どうやって!?
「何なのコレ、何なのっ!?」
「夢……全テハ、夢」
「違う違う違うっ! コレは、コレはっ……!」
再び恐怖に怯えながら、私は必死に自分を保とうとしたけれど……何時しか、このおかしな状況に呑まれていった。
……あぁ……これは本当に、現実、なの……? お願い、夢であって。
――――その後も、自分を変化しては愉しみ、妹を変化させては愉しんで。
ありとあらゆる事を試し、それでも満たされなくなると分かると……『アイツ』は自らを消滅しようとした。
が、それは許されない……この体は、お前に貸していただけだからな。
(ふぅっ、全く)
という訳で、真っ白になった女のオレを引っ込めて、漸く自分の体に戻ったわけだが。
(……もはや節操の欠片もないな)
詳しく言うとグロ過ぎなのでここは簡潔に済ますが……えー……ダメだ、どうしてもグロ中尉の出番だ。
えっとだ、左手はうねうね動く何本もの触手、右手はそれ自体が巨大なチ○コで、本来のチ○コは冗談めいた形状で。
あ、それから今喋れんのだよ……だって口がマ○コだし。
妹も妹でそれを受け入れるような『物体』になっているが……こっちは言えない、言える訳がない。
(全く……んんっ!)
イメージすると、一瞬の揺らぎの後『人間』に戻る……女の体だけど。
当然妹も戻すぞ……勿論、ちゃんと『元通り』にだ。
妹はちゃんと妹として、この後を過ごしてもらいたいので。
「さてっと」
まずはこれまでの時間の不具合を修正せねば、まずは両親から。
どうやら両親に対してはそもそも俺らの存在を忘れさせて、人払いしていたようだ。
いやはや、我(?)ながら手回しの良いことで。
感心しながら妹を抱き上げ、妹の部屋のベッドへと運ぶ。
こんな事をしなくても、能力で分子分解からの再構築をすれば、もう瞬間移動なんて芸当も出来るが。
(これ以上はね)
かわいい妹の体だ、大事に扱ってやりたい……今更、遅いか。
でもな……これが妹に触れられる、最後かもしれないからさ。
――――?
「うぅん……」
あれ、私……?
(確か、シャワー浴びて、それで……)
思い出せないや……でもなんだか凄く、イヤな夢を見た気がする。
だけど……イヤなのに、どこか悲しくもあって。
「あ、あれ……?」
涙? 私、なんで泣いて……?
「へ、ヘンだな、何が悲しいのかな……」
とても切なくて、胸が苦しい……何か、忘れちゃいけない事を忘れている気がする。
忘れちゃ……
グゥゥゥ
「……」
……恥ずかしいと思うよりも、情けない音。
「って、もうこんな時間!?」
ハッと時計を見たら、とっくに夕食の時間過ぎてるじゃない!
見てみれば、壁にかけた掲示板にお母さんの字で『ご飯出来てる』って書いてあるし!
「もー! 何で起こしてくれなかったの!!」
そんなに私熟睡してたの? ……疲れてるのかな……
「おかーさーん!」
扉を開けて呼ぶと返事があって、更にお腹が鳴っちゃいそうないい匂いがして。
(もー鳴らないでよ!)
自分の体に訴えてから、私は一階へと向かった。
――――うむ。
(……ん」
一連の妹の行動を魂で観察して、俺はコクリと頷いた。
これでいい、これで。
今、妹含め家族には俺に関する記憶はない、この部屋は物置扱いだし、誰も気にしない。
これなら家族揃って、素敵な夜を過ごせるだろう。
「……ゴメンな」
ポツリと呟く。
兄ちゃんに出来るのはこれが精一杯だ、だから今日が終わるまで……いつもの日常を楽しんでくれ、妹よ。
「さーて、それじゃ俺はっと」
俺も久々に今までの日常に戻るとしましょうか、それすなわち、PCを起動してっと。
うわー懐かしいなーこの音、なにせ一日中起動させない日なんてなかったからな。
そして常連だったオンゲーを起動……ログインしてっと。
「あー」
やっぱランク外かー、そりゃそうだわな。
「まぁいいさ、今日は初心に帰って楽しむとしようじゃないか」
今まで集めたレアアイテムやら何やらをかなぐり捨て、裸同然でゲームの世界を旅する。
「メッセも大分溜まってるけど、放置放置」
すまない皆、今日の俺は俺であって俺じゃないんで。
鼻歌交じりの気楽なプレイ、いやー新鮮だ。
「あ、そういや」
俺のキャラは女、所謂ネカマだったのが、今は正しいのか……ってか。
「そうか、このアバター……か」
画面に表示された、俺が操作する俺がキャラメイクしたプレイヤーキャラクター。
その容姿はデフォルメされてはいるものの、今の自分の姿に良く似ている。
というか、無意識にこの姿を模していたんだな、それほどまでに愛着があったからな、このキャラには。
「ならお前の名前は、このキャラと同じか?」
笑いながら自分の中で眠るジブンに語りかけるが……返事は、ない。
「……しょうがない奴だな」
でも、仕方ないか……生み出したのも俺なら、ああなってしまった原因も、半分俺のせいだからな。
「……」
コイツが、壊れてしまった理由は……見当がついている、それに。
原因はアレだ、ほら、俺一度……『死んだ』ろ?
そうさ、あの変身能力で女になって、設定値のバグで感度が異常な数値になってた、アレ。
……やっぱ俺、死んでたらしい、つまりは予期せぬ強制終了、応答なしってやつだ。
まぁPCじゃよく見る現象だが……それは例えで、俺は人間だ……そんな簡単に済む話じゃない。
いくらこの力を以ってしても、消失した魂の復活は御法度らしい、だから慎重にもなるってもんだ。
が……それならこの力を持った魂の消失、この場合はどうだ。
結果、俺は生きている……いや、果たしてそうかどうかは、『ヤツ』に聞くしかないね。
誰の事かだって……? ……ここまで言えば、大体、見当つくだろ?
ともかくだ、その一件で俺と俺の能力は……バグったまま、生き長らえている。
そんな状態でアイツを創り出したんだから、壊れるのは時間の問題だったんだ、アイツも自覚していた。
あぁ勿論、それ以外の理由もあるが……もう、説明しなくてもいいか? ……俺も、面倒臭くなってきた。
「でもま、楽しめたっちゃ楽しめたがな」
思わず声までかけてしまったが。
あの時、こいつが聞いた幻聴は、当然幻聴なんかではなく本当に俺の語り。
いやね、考えに考えた結果、『俺が創造した女のオレに体を預け、俺はその体に憑依する』のが一番だったんで。
回りくどいわ、意味が無いとも思われるかもしれないが……こうしておけば客観的に観察しやすかったんでね。
おかげで自己消滅も免れたわけだし、結果オーライってやつだ。
……え、そんな奴を残しておく理由? ……勿論あるさ。
ソレはコイツが吸収・収集した情報だ。
あの時人々の情報を保存したのはコイツのHDD(魂)内。
今急ピッチでこっちのHDD(魂)にコピーしているが、何分量が多いんで、今日中に終わらん。
(だからあれほどRAIDしておけと)
……言ってないか、そうか。
まぁこれもそのうち終わる……が、勿論終わったからといって、コイツを消す気はない。
こんなメンヘラ女になってしまったが、それでも可愛い自分だし、なにより……俺の嫁だし。
「んー」
……これもナルの内か? 嫁自慢? 二次元嫁? はて。
「っとと、ヤバイヤバイ」
そんな事考えていたらゲーム内の嫁がピンチ、慌てて操作に戻る。
あ、最後に一言……お前らも俺の嫁と呼べる奴がいるなら、大事にしてやれよ? ……それが例え、自分自身でもさ。
――――妹が遅めの夕食から戻り、いつもの生活音が隣の部屋から聞こえてきた。
俺はそれを聞きながら、ゲームを続けた。
そして夜が更け、家族が寝静まり、あとはPCの唸るような駆動音だけが聞こえるだけとなり。
「……さて」
いよいよ、その時は近づいていた。
流石の俺も気が気じゃないが、裏を返せば既に理解してしまっている以上、もう覚悟は出来ている。
「寝るか」
ゲームを終了し、PCを落として、ベッドに横になる。
(……)
真っ暗な室内、見慣れた光景。
なんとなしに、手を伸ばす。
ほっそりとした指、女の手。
「俺、か」
男の俺って、どんなんだったっけな……随分と希薄な存在になっている気がする。
まるで本当の自分自身を反映しているみたいだ。
(どうしてこうなっちゃったんだろうなぁ)
望んだのは、TSF的おいしさだけでよかったのに。
(アイツが求めたのは結果か? それとも過程か?)
まぁ今となっちゃどうでもいいが。
(でもまぁ……感謝すべき、かな)
女の俺が、妹と過ごしたあの充実したひととき。
俺としてはあの時間を味わえただけでも、お釣りが来るくらいだ……いや勿論女を体験し、女になれた事もいいんだが。
(ま、いっか)
あとはなるようになれだ。
そう結論付け眠りにつく……フリをする、だってもう俺は、眠る必要がない存在なので。
それでもだ、一応、区切りはつけたいんでね……心の。
だってそういうもんだろ? ……人間、ってのいうはさ。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
13日目……だが、言った通り寝ていないので、気分的には12日が続いちゃいるが。
「……」
ゆっくりと起き上がって、無言のままPCを立ち上げ、オンゲーを起動。
「やっぱこうなるか」
画面には、動かないPCキャラで溢れかえっていた。
そしてタイムアウトで消えていくそのキャラ達……残ったのは、自分のアバターと、NPCだけ。
「……」
そっと席を立ち、部屋を後にする。
PCは……まぁいいか、もういらないし、多分勝手に消え……消されるだろうし。
階下に降りる前に、妹の部屋の前で立ち止まり、ドアにそっと触れる。
「……ゴメンな」
昨日も告げたが、改めてもう一度。
きっと中で妹はぐっすりと眠っているんだろうな、あの初日の頃と同じ様に。
「……いや、ダメだ」
無意識の内にノブへと手が伸びていたが、触れる寸前手を引いた。
「また、後でな」
扉の向こうにいる妹へ手を振って、歩き出す。
「さーて、あっちはどうなったのかな?」
さっきから聞こえてくる声。
見なくても解るが、通り道だし折角だから見て確認するとしますか。
それにしても……これはひどい。
いやね、飛び込んできた情報があまりにもね。
――――で、その一階では。
「やっ、やめるんだ母さん! こんなの間違ってる!!」
一階に降りると、声がはっきり聞こえてきた。
「ウフフ……アナタ、可愛くなっちゃって……」
「やっ、やめ……!」
聞こえてきたのは、年端も行かぬ少女と少年の声。
そろりとリビング内を見てみれば、その声の主達が、大人の真似事をしていた……まぁ要はセックスだセックス。
「アナタも素直になって……」
「ヒッ、ヒィッ!」
ただ変なのは、少女は少年を『母さん』と呼び、少年は少女を『アナタ』と呼び合っているところ。
えぇ、ご想像通り、アレはかつて俺の両親だった二人だ……当然、少女が父親で、少年が母親だが。
体を書き換えた以上、あの二人との繋がりは遺伝子レベルで無くなっているし、向こうもあの有様だ。
今はもう赤の他人……それどころかこっちは人じゃないしね。
とはいえ精神的にはまだ両親だと思っているんで、ある程度『正常』さを保てるよう、操作しておいた。
まぁそれでも……あの結果だが。
「ヒギッ……いっ、痛い、抜い……て……!」
「アハァッ、これが男の子なのね……!」
「うっ、ぎっ、くああっ!!」
……見た目だけなら人によっては垂涎モノだが、中身を知っているとね。
あ、ちなみに二人とも性器だけは大人仕様なのでご安心を……だから少年の体に対する比率がすごいことすごいこと。
でもま、もういいや……若々しすぎる喘ぎ声を聞きながら、家を後にする事にした。
「にしても、これでまだほんの序の口かー」
……解っちゃいるが、果てさて、一体外はどうなっている事やら。
「あはぁんっ♥」「ひぃんっ!」「ふぁぁっ……」
「……」
扉を開けるや否や、そこかしこから聞こえてくる喘ぎ声。
道に出れば、節操無く道端でセックスに興じる男女もいれば、開け放たれた窓から聞こえてくる嬌声もある。
それを見て驚く男性もまた、裸の女性に捕まって前戯も何もなしに逆レイプされていた。
「よくもまぁ」
果たして彼らの内何人が、『正しい自分』や、『正しい性』のままなのかね。
見れば大抵が若若男女なんだよな、そりゃ精力ある方がいいわな。
「ま、いいか」
そんな彼らを横目に見ながら、適当に歩き出す。
「全く、よくやるよ」
歩けば歩くほど目に飛び込んでくる、セックス、セックス、セックス。
中にはノーマルでは飽き足らず、変態じみたプレイに興じる人達もいた。
「……うわぁ」
レズッてる二人の隣で……ホモる二人。
「お前ら……」
アレ、逆だ。
元の性逆だ、全員。
「ハッ、ハッ!」
「ア゛ァン゛ッ!!」
「?」
近くの家から聞こえてきた奇妙な声。
それを確かめるためにその家の庭を覗くと、犬が交尾していた。
ただ……変なのである、オスの方は犬100%なのだが、メスの方……犬75の、ヒト25のナマモノ。
「飼い主かな?」
『愛』犬家の意味が違う気がするが、アレがあのヒトの望んだ事なのだろう。
というか犬の方も忠犬だなぁ、立派立派……とか感心していると、今度は突然隣の家が崩れ落ちた。
爆発でもなく、外側からの破壊でもない……内からの、崩壊。
「ウアアアアンッ!」
「おっ、落ち着くんだっ!」
現れたのは、巨大な肉の塊……いや違う、辛うじてヒト……の、ような『肉』だ。
足元では何とか人間らしさを保っている男性が、必死に説得を試みているが……
「オアアアアンッ!」
「グフッ……!?」
「あ」
アレにしてみればちょっとのつもりだったんだろうが、振られた手(?)は人一人吹き飛ばすのは余裕で。
壁に叩きつけられて、血を流し動かなくなる男性……ソレに気付く肉。
「アッ、アアッ……! アアアッ!!」
うろたえる肉、やっちゃったな。
それにしても一挙手一投足で地鳴りがするので、やかましくてかなわん。
これもまたまぁいいかと立ち去ろうとした、次の瞬間。
ドーンという爆発音には、流石の俺も驚いた……背中が煤けたがな。
振り向いてみれば、今の家が今度こそ爆発で吹っ飛んでいた。
「ギアアアアアッ!!」
アレだけ派手に壊したんだ、ガス管がむき出しだったのだろう。
肉の焼ける臭いが漂い、ドズンという地鳴りと共に肉が倒れ、男性同様動かなくなった。
「……」
あれも、元々は人間だったのだろう。
恐らく、背の低さや小ささへのコンプレックスから、ああいう変化をしたんだろうが……暴走したか。
そして、まるでその爆発を皮切りにしたかのように、今度はそこかしこから爆発音。
「車か」
より多く聞こえてくるのは大通りの方だし、多分そうだ。
室内だろうが車内だろうがお構いなし、ヒトがヒトである以上、この現象からは逃れられない。
セックスを愉しんでいる彼らも、そのうち物足りなくなって自身を変化させるだろう。
それでも尚ヒトである事を保つ人達もいるようだが……何時まで持つのやら。
それに、だ……ヒトだけじゃない、さっきの犬はまだマシな方だ、飼い犬だからか?
そうさ、肉体があるのはヒトだけじゃない、そこかしこにいるだろ? ……動物達が。
「ゴアアッ!」
「ひぃっ!?」
体躯が4mはある猛獣がヒトを襲っている……あ、もぐもぐされた。
動物達も生き物だ、人間以上に本能があり、それを熟知している。
そんな彼らが望んだのは……主に食欲、そしてそのための、強さ。
性欲に突き動かされる人間共は、彼らにとって格好の的でしかなく、次々と襲い、そして……喰われていた。
「丸腰のサファリツアーとなんら変わらんからな」
が、ただ黙って喰われるほど、ヒトは馬鹿ではない。
力には力を、さっきの肉のように自分の体をパンプアップして対抗したり、そもそも自分も獣になったり。
昨日まで平和だった市街地とは思えない、弱肉強食の世界。
「……」
俺はその場を後にしたが、まぁ……何処へ行こうが、この様子は変わらんのだろうけど。
それこそ、全世界何処へ行こうが、だ。
――――取り敢えず街を見渡せる裏山へと歩を進めたが。
「よいしょっと」
何も生命は動物だけではない……植物もだ。
その植物達は、生存本能を真っ先に優先させたようで。
だが、動物と違い明確な意思があるわけでもなし、ただただ細胞の訴えを真っ向から聞き入れるだけだから。
我先に日の光を受けようと、高く高く伸びていき……結局自重に堪え切れず、崩壊するを繰り返していた。
そんな木々の上を渡り、最も高くそびえることに成功した樹の上に立ち、街を見渡す。
「すっかり、変わっちゃったな」
ソレこそよくある人類滅亡後の世界のイメージ、そのものだ。
街にあった木々も同様に暴走し、動物達の咆哮が聞こえ、人が造りし建築物はなすがままにされて。
だが一つ違うのは、人類は滅亡していないと言う事……ただ彼らを、人類と言うのならば、だが。
「……あーあ」
どうしてこうなっちゃったんだか。
……え、お前のせいだろうって? ……まぁ、半分はそうだろうな。
だがこの結果そのものに関しては、俺のせいじゃない……世界が、そう望んだからだ。
……力は遂に俺という『枷』から外れ、全人類、全生物の欲望を叶えるようになっていた。
今の俺は、その為のアンテナのようなもの……力を借りていたに過ぎない俺に、もう止める力は無い。
これがあの『バグ』によるものなのか、それとも元々こうなる予定だったのかは……チュートリアルは教えてくれない。
でも解るのは、この状況はもう、元に戻らないということだ。
仮に俺が『修正』しても、彼らは自ら進んで『再修正』し、本当の姿に戻ろうとするだろうしな。
(だから俺も、ただの人間だってんのに)
パンドラの蓋を開けてみれば神の力でもなんでもない、やっぱりただの欲望にまみれた悪魔の力だったじゃないか。
神様気分にもなれやしない……それにだ、半ば無理やり開けさせられたんだし。
その上残っているのは希望かどうかすら怪しいし。
(何で俺なんだか)
まぁその答えは、どうせ聞けるからいいとして。
「……どうした、ものかな」
世界はこのまま、本能の赴くまま変化し続ける。
俺はその世界で一人理性を保ったまま壊れ……いや、変わりゆく世界を見続けさせられる、観測者の役割を与えられた。
それが力を手にした代償だってんなら、流石に質悪すぎやしないか?
俺がやったのは、せいぜい近しい人物だけだぞ、だってのに世界を看取れとか……ふざけんな。
「……ゴメンだね」
そうだな、せめてささやかな反抗でもしてみようか。
別に力を失ったわけじゃない、寧ろ超強化されて今やなんでもありだ。
死者再生はできなくても、かりそめの魂を入れりゃ完全コピーのオリジナルゾンビだってお手の物。
後干渉できないのは、時間と空間くらいで、それ以外なら殆どの事が可能だ。
「んーでも、何がある?」
と、何でも出来るとなると今度は何をしたものかと悩む。
「反抗ねぇ……」
そうは言ったものの勝ち負け以前に勝負してないし、こちらが何しようが『アイツ』にとっちゃ全てが意味ある事だし。
自殺は負けだし、いっそこの手でとっとと世界を終わらすか? ……いやダメだ、守るべき人物がいる。
「……そうだ……」
妹。
俺の大事な、妹。
「……そう、だな」
妹が眠りについたあと、俺は考えられる全てを使って、アイツにありとあらゆるプロテクトを施した。
おかげでアイツは、この力の暴走に巻き込まれる心配は無い……少なくともアイツの魂は、絶対に。
「だろ?」
そう言って胸に手を当てる……俺の中で眠る、『二つ』の意識に。
「最後の兄ちゃんの我儘、聞いてくれないか?」
もう返済出来る額じゃないのは知ってるが、それでもお前だけは……お前の存在は、俺が俺である為に必要だから、さ。
「さて、そうと決まったら」
イメージし、背中に純白の翼を生やす……いやそうだな、思い切って六対にして漆黒の翼にするか。
「どこぞの団体に怒られそうだな」
まいっか、もう彼らもそれどころじゃないだろうし。
タンッと跳び、風に乗ってかつて自宅があった場所を目指す。
既に其処も樹海に呑まれていたが、木々に開くよう命令して、辛うじて残った妹の部屋を引きずり出す。
別にもう部屋の体をなしちゃいないが、形式的に扉を開けて、中に入る。
「引越しするぞ、妹よ」
まるで何事もないように、スヤスヤと眠り続ける妹の……体。
それを抱き上げ、再び飛び立つと……バキバキっという音と共に、最後の自宅の名残は……無くなった。
これでもう、俺は帰る所もなくし、妹だけが……俺の唯一の、オレたる所以となった。
「さぁ、行こうか」
バサッと翼を広げ、大空を駆け、世界中を、妹と共に飛ぶ。
一応、反抗はするが観測自体はしてみたいしね。
それを終えたら……目的を果たそう。
最後の最後まで、お前と共に過ごす家を、作る事をさ。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
もう日付の概念なんて、人類と共に消え失せたが……多分、14日目にはなったか。
俺はあの後一夜城ならぬ一夜シェルターを築き上げ、その中へ引き篭もった。
全く、引き篭もりは引き篭もるしかないのかと嘆きもしたが、その方が自分らしさを保てるんでね。
まぁシェルターと言っても生活必需品なんてなく、あるのは広大な空間と、その中央にゆったりとしたソファ一つだけ。
俺はそのソファに寝そべり、一匹の猫を撫でながら、その時を待った。
「……」
傍らで丸くなって眠り続ける猫は、撫でる度に尻尾を振り、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。
……でも、起きる気配はない。
だけどそれで構わない、そうやっていれば何時までも待てるからさ。
(……あ)
外においてきた、俺の分身からの情報が途絶えた……アレすら生きられなくなるとは。
シェルターの向こうでは変化に次ぐ変化によって、最早原形を留めていない世界が広がっている。
そんな外界との繋がりが、今ので一切合切遮断されて、俺は本当にただ待つだけとなった。
一応、ウィンドウは今も見えるが……それが意味する内容は、俺でも理解できない。
(色んな意味で、時間の問題だな)
一日経って、相当力を使っても、時間と空間の支配は出来なかった……知っちゃいたが、隠し要素的な望みをね。
でもやっぱダメか、それだけは許されないんだろうなぁ。
それをさせない事が、『アイツ』のイニシアチブ何だろうな……って。
「……やっと、来たか」
その時が、遂に来た……随分と示し合わせたように来てくれるじゃないか、『アイツ』。
シェルターにある唯一の、外界とを繋ぐ重厚な扉がゴゴゴゴと音をたてて、ゆっくりと開いていく。
さて、何が現れるかな? 期待を胸に、開かれていく扉をジッと見つめる。
――――大体、人一人が通れるくらいの隙間が出来たところで、ソイツは姿を現した。
『んしょっと』
あぁそうそうこんな感じの声だったな……やけに加工された感のある、人間らしくない声。
現れたのは、白のワンピースに白の帽子の少女……いやょぅι゛ょだな、あのちんまさは。
だがその細腕で開けられるはずのない扉を開けた以上、アレは俺と同じ『仮の姿』だ。
……そもそもこの状況に場違いすぎる時点でアレだが。
そのょ……少女は律儀に扉を閉めなおしてから、トテトテと小走りでこちらに近づき……
『ほっ』
何を思ったか少し手前でしゃがみ小ジャンプからポーズを決めてきた。
『やっほー』
「……あざとすぎて萌えないから」
『アレ、ダメ?』
「ダメ……それと、やり直さなくていいから」
『厳しいなぁ』
踵を返してリテイクしようとしたところを止める、止めないとOK出すまでやりかねんぞコイツ。
そんな少女だが、その人物こそが俺が待っていた人……いや、その『存在』である。
「やっとか」
『そうだねー』
「……終わり、か」
『そうだねー』
「これで、終わり」
『そうだよー』
ニコニコ微笑む少女は、正に無垢なもんだ……なにせ本人がそう思っちゃいないからな、余計質が悪い。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ちょっと真面目な顔をすると、俺に聞いてきた。
『あーでも今すぐに、ってわけじゃないけど、どうする?』
「……なら、質問タイムで」
『ほーい』
「……フン」
思わず鼻を鳴らしたくもなるさ……全く、こんなのが『神』だなんてな。
そんな少女神と対峙して、俺は募り募った思いを吐き出し始めた。
「そうだな、まず、何故俺なんだ?」
『んー、その質問、君が望む答えでは出せないかな』
「と言うと?」
『キミだけじゃないって事さ、まぁ勿論抽出後のランダムで当選した、って運もあるけど』
「じゃあ、誰でもよかったと?」
『そういう訳でもないよ、キミは候補に挙がってはいたのさ』
「……運が良かったってわけか」
『あ、でも今となってはキミで良かったと思ってるよ、アリガトアリガト』
「……どういたしまして」
(……皮肉にしか聞こえん)
『さて次は?』
「そうだな、この結果は俺のせいか? それとも……やっぱり例のバグのせいか?」
『んー、それも答えがね……過程が重要であって、結果はそこから導き出されるものだから』
「なら想定の内だったと」
『そうでもない、あの強制終了には僕達も驚いたさ』
「達? ……まぁいい、じゃあ何故あの時バグった?」
『そうそうそれだけど、キミさ、説明書読まないタイプだろ?』
「は?」
『ほらアレ、自動調整機能……使わずにいただろ?』
「……あぁ、そういえば」
『もー、それにせず書き換えていってくれちゃったから、アドレスエラー起こしたんじゃないか』
「俺のせいだと?」
『そうだよ?』
「『このプログラムを利用して発生したいかなる問題も、こちらは一切責任を負いません』ってか」
『そんなところ……だけど……』
「あの程度の事、予想できないか普通?」
『うっ……そ、それはまさかそんな事するとは思ってなくて……』
おいプログラマ、その言い訳は通用せんぞ。
「まぁいいさ、それも『予想通り』だったからな、お互いの責任ってことでチャラだ」
『予想通り?』
「いや、アンタが思ったとおりのヤツだったって事」
『……あっ、そう』
「じゃあ次、この後は?」
『今絶賛世界の圧縮&最適化中、明確な終わりはここが完了した時だね』
「……更にその後は?」
『アーカイブに、記録として残るよ』
「そうか……」
『怖いかい?』
「そりゃまぁね」
『大丈夫大丈夫、痛みは無いから』
「そういうことじゃない」
『そか』
終わり……それがこの場合何を意味するか、その時になってみなけりゃわからん。
そんな重要な事だってのに、まぁ飄々とした態度で言ってくれちゃって。
(全く、緊張感の欠片もありゃしない)
ため息をつき、気を取り直し話を続けようとした……その時。
『おっ、始まったね』
少女がそういうと、地鳴りと共に辺りが暗くなり始めた。
「存外早いな」
『まぁね、不要な要素は排除するから、君の行動範囲のおかげで早く済んでいるのさ』
「そう、か」
『まだ聞きたい事ある? もうあまり時間はないけれど』
「そうだな……」
後は墓場……もといアーカイブの中へ持っていくものばかりだが。
「あ」
『ん?』
「アーカイブに送られて、俺や……俺らの存在はどうなる?」
『あーそうそうそれそれ、それだけど』
「?」
『キミの今までの事は、情報となって、何時でも閲覧できるようになる』
「それで?」
『その中でキミは、今までしてきた事を演じてもらう事になるから、ある意味ループに閉じ込められるよ』
「……それは、罰として捉えるべきか?」
『罰? ……キミがそう思うのならね、ただデータの閲覧者がいた場合の話だから』
「つまり、誰にも見向きされなくなった時は……」
『更に深層に送られ、完全に圧縮されて……それでもキミは、待ち続けることになる』
「やっぱり罰じゃ……」
『あぁでも大丈夫、見られていない時はキミ達は停止したままだから、時間は関係ないよ』
「……」
そうは言うが、意外と……キツイな、ソレ。
「記憶は」
『ん?』
「記憶は、引き継ぐのか?」
『うぅん、君が収まるのは、君に語りかけたあの日から今日の終わりまでだけだよ』
「つまり?」
『言っただろう? キミは演じるんだ、閲覧者が観測するその日、その時の記憶で』
「……」
『例えば今この時を閲覧されなければ、キミはあの心地良い日々を、新鮮な気持ちで何度でも味わえる』
「……」
『あぁでも、行動自体は決して変わらないから、閲覧者からしてみれば既出の内容にはなるけど』
「なぁ」
『?』
「ソレは本当に……俺か?」
『フフッ♪』
「笑って誤魔化すなよ」
『さぁね、こればかりは僕にも解らない……その為の『コレ』でもあるしね』
「……お前、男か?」
『ほぇっ?』
「今『僕』て」
『あー、コレね、コレはキミの趣味趣向が創り出したボットだから、別にそういうわけじゃないよ?』
「……クククッ、そうかい」
『どしたの?』
「いやなに、終末の時まで俺ってヤツは……趣味に走るってのがね」
『キミホント好きだねぇ』
「そんなの、十分見てきたろ?」
『うぃ』
……あ、なんだ俺まだ笑えるんじゃないか、まだ。
まぁ、楽しいからってわけじゃないが……これもまた、感情の一つ、だしな。
が、そうこう話し込んでいる内、闇は次第に迫ってきていた。
『っとと、時間だ、そろそろ行かないと』
「お前は」
『ん?』
「お前はどうなる、この一時も記録されるんだろう?」
『あー勿論コレも含まれるよ、たださっきも言ったけどコレはボットで、キミが思う存在は当然蚊帳の外だよ』
「そうか」
別に逃げる気かなんて言わないが、やっぱズルいな。
『それじゃこれで失礼するよ』
「……済まない、もう一つだけ」
『なんだい?』
「……今この時が、オリジナルであるという保障は?」
『……フフッ♪』
またか、またそれか。
『この世界が読み込んだモノである時点で、オリジナルじゃないとも言えるし』
「あぁ、そういう……」
『そそっ、それに例え演じていたとしても、それはそれでオリジナルによる再現だからさ』
「真も偽もない、と」
『そんな感じかなー』
「そう……か」
『おっとと、ホントに危ないや、それじゃこれで!』
「あっ……」
まだ残る扉への道を足早に進み、少女が再びその細腕で扉を開く。
通れるだけの隙間を空け、その向こうに姿を消す……かに見えたが、ひょっこり顔を出した。
『あーそうそう!』
「何だ?」
『キミの物語! タイトルは君が考えてもいいよ、じゃないと日付かファイル名になるけど!』
「分かった」
『ん、それじゃ!』
顔を引っ込め、少女が手を振って扉を閉めると、闇の侵食は益々勢いを増し始めた。
「……全く、騒がしいヤツだったな」
あんなのに振り回されていたなんて、以前感謝したのを撤回したくもなる。
「……」
さて、と……猫でも撫でながら、終わりを待つとしようか。
「もうちょっと、優しい終わり方だったら有難かったんが」
あれだけあった広大な空間も、今では2m先すら見えない。
その闇に触れれば、きっと何もかもなくなる……そんなモノが、徐々に迫ってきている。
普通なら発狂モノだが、今の俺にとっては……それだけが救いで。
そうして近づいてきた闇が、自分が寝そべる、ソファの元へと辿り着くと。
「……あぁ」
気が付いた時には、一瞬で俺は元の男の姿へと戻り、優雅なソファはいつものベッドへと変わっていた。
「そういえばこんな体だったな、俺」
下半身を見れば懐かしい俺のチ○コが、よぉ、子宮になった感想、どうだった?
「あ……」
そして隣を見れば……優しく撫でていた猫は、妹の姿へと……だが変わらず、眠り続けているが。
「……なぁ」
「……」
「お前にとって、兄ちゃんはダメなヤツだったかもしれない」
「……」
「でもな、兄ちゃんは兄ちゃんで精一杯がんばったんだ、少しくらい、許しては……くれないか」
「……ん……」
起きたかと思ったが、やはり夢を見続ける妹。
(いい夢、見てるんだろうなぁ)
スヤスヤ眠るその寝顔からは、それだけで心地良さが伝わってくる。
その妹の頭を、優しく撫でる。
「んっ……」
一瞬身動ぎしてから、再び丸くなる妹……やはり、起きない。
「……はぁっ」
横にしていた体を仰向けにして、楽にする。
(……)
少し耳鳴りがするし、眠くもなってきた。
(圧縮され始めたのか)
まさか自分がされる立場になるとは思ってもみなかったが、案外心地良いものなんだな……!!
「……じゃ、ねぇ!!」
ガバッと起き上り、頭を抱え、呻かずにはいられなかった。
コレは違う……最適化か? 何だよこれ、なんなんだよ!!
「……おい……やめろ……」
ギリリと、歯噛みする。
「やめろ……やめろやめろやめろ!!」
クソッ、クソッ、クソッ……! 何が『痛みはない』だ! コレは、コレがあるじゃないか!!
「ふざけっ……!」
アイツ、わざとか!? このことあるを知っていて、言わなかったのか!?
「うぁっ、あぁっ……!」
ヤメロヤメロヤメロそれは俺じゃない俺のせいじゃない俺は俺は俺は……!!!!
――――最適化のせいか、隠されていた記憶が前面に押し出され、忌々しい思い出が、甦る。
[……やめて!]
ヤメロ。
[手を離してっ!]
チガウ。
[イヤッ! 何するのっ!!]
ソレハ。
[やっ、やめて……やめてよ、お兄……]
ダカラ。
[イヤァッ!]
ナンデ。
[酷……い……よ……]
アァッ。
俺は、俺は……
[何であの子がこんな事に……!!]
[お前、本当に何も知らないのかっ!?]
シッテル。
[何故お前は気付いてやれなかった……!]
ダッテ。
[もう……帰ってこないのよ……!]
……ゴメン。
――――それは、俺がこうなった原因、そして……
「うぅっ……あぁっ……!」
思い出した、全てを。
力を渡された時点で、その記憶は書き換えられていたのか。
それでも、俺は……妹を……いや、だからこそなのか。
「俺は……アイツが羨ましかった、アイツの全てが、羨ましかった」
アイツの全てを望んで、憎んで……その結果が、コレか! ふざけるなっ!
「ハッ、ハハッ……!」
だから俺、この力の矛先を、アイツにばかり向けていたんだな。
「許されるわけないよな……あぁ、そうだとも」
何だ、始めっから借金まみれだったんじゃないか、俺。
再び妹の方へ体を向き直す。
そこで眠る妹の姿を見ながら、俺は……泣いた。
「あぁっ、クソッ……」
なんだ、もう泣けないと思ってたのに、まだ泣けるじゃないか。
「ゴメン、ゴメン、ゴメン……!」
許されるわけないって解ってる、解ってるけど今言わないともう二度と言えないから。
あんなに優しく撫でていた手が、もう触れる事を拒んでいる。
「……」
あぁクソッ、俺はこの後、毎回毎回この気持ちを味わうのか……
けどそれが罰なら、甘んじて受けてやる、それが何千何万だろうと。
俺の犯した所業は、それくらいじゃ足りないから。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
――――俺は荒れていた。
「クソッ、ここもかっ!!」
また不採用かよ、冗談じゃねぇ!!
「ふざけんなっ、俺の何が分かるってんだテメェらに!」
……中学までは順風満帆だったはず、なのにどうしてこうなった!
高校ではイジメの対象になるわ、そのせいで受験もままならなくなるわ、就職も出来ないわ……っざけんな!
「……アイツだ、全部アイツのせいだ……」
後から生まれたくせして、兄より優れやがって……しかもスカウトされるほどの容姿、なんだよそれ!!
「……クソッ!!」
そうだ、アイツが全部持ってったんだ……俺の才能も、容姿も、何もかも……!
イラついていると、外から足音、そして扉を開ける音……アイツだ。
「お兄ちゃん、どうしたの……?」
「……」
おい、ふざけんな。
俺は今、お前にむかついんてんだよ。
何が『お兄ちゃん』だ、お前も出来損ないの兄だって分かっていってるんだろうが。
「……とっとと出てけ」
「でも……」
「いいから出てけっ!」
「ヒッ……!」
ゆっくり扉を閉めて、妹が俺の部屋を命令通り立ち去った。
「……」
見たかよ、アイツのエロい体。
胸はデカいし、スタイルもモデル並だし、あまつ顔まで可愛いときたもんだ。
それでいて成績優秀……体力の方はからっきしだが。
そんな妹が羨ましいとでも思うか? はっ! 考えてもみろ、アイツがいる上での、俺の立場をよ。
あんな出来た子供がいて、両親がこっちに救いの手を差し伸べるとでも? ……んなもん、馬鹿だって分かる。
そうさ、俺に居場所はないんだよ……社会にも、家にもな!
だからこそ余計に俺は、アイツが憎い……のに、アイツは未だに俺を慕う、その溢れんばかりの優しさをもって。
……だがな、惨めな奴にとってそれがどれだけ辛い事か……お前にはわからんだろうよ、何せ優等生だからな!
「……あぁクソッ、クソッ、クソッ!」
妹の事を考えれば考えるほどイラついてきやがる、もういい、ゲームしてオナニーして飯食ってオナニーして寝る!
そのオナニーのオカズとしてなら……俺はアイツより優位に立てる、そうさ、俺ならアイツを犯せるからな。
――――PCの前で、絶句する。
「おい……ふざけんな……」
起動したゲームに表示された警告文に、俺は暫く……息が止まっていた。
『貴方の不正行為が発覚しました、暫くアカウント凍結を行います』
何度も内容を見直すが、その表示が変わるはずもなく。
それこそ文章通り固まってしまったが、振り上げた拳を机に叩き付け、わなわな震える。
「ふっ……ざけんな、クソ運営がっ!!」
あらゆる事が俺を突き放して、荒れていた所に畳みかけられるように行われた、この仕打ち。
当然俺は黙っちゃいられなかった、ありったけの罵詈雑言をメールに載せて、運営に送った……それも、大量に。
……普通に考えれば、そんなの自分の首を絞めるだけなのだが、あの時の俺はそんな考えが回るほど冷静じゃなかった。
後に送られてきたメールによって、俺のアカは完全凍結、全てが水の泡。
しかもよりによってその報告を律儀にフレ全員に向けて行い、大量のメッセが送られてきた。
本気で俺を慕っていたフレは慰めの言葉をかけたが、その殆どは……『ざまぁww』『チーター乙』と言った内容。
そしてその中にあった、たった一つの一言が……何より俺を怒らせた……『やっと通ったか』の、一言が。
「…………!!!!」
唯一信じられたゲームにすら裏切られ、俺は……怒りのあまりモニタをぶち破っていた。
「うあああああっ!!!!!」
部屋中を破壊しつくさん勢いで暴れまわった、大事なフィギュアだろうが何だろうがぶち壊した。
その音は、当然家中に響き渡るほど……それを聞いた人が、何事かと思うくらいに。
「どっ、どうしたの!?」
妹が、慌てて部屋に入ってきた。
「なっ、何……!?」
「はぁーっ、はぁーっ……」
部屋の様子を見て、驚いた表情で辺りを見回してから、俺に視線を向けてきた。
「……! お兄ちゃん、手、怪我してる!」
「……あ?」
そうか、怒りに任せてモニタを叩き壊した時、切ったか……そんな事にも気付かないくらい、ブチギレてたのか。
「み、見せて……」
よせばいいのに、妹は俺に駆け寄り、俺の手を取った。
「触んじゃねぇ!」
「キャッ!?」
そんな妹を、俺は力任せに振りほどいた……そうさ、大事な妹すら、今は破壊対象だ。
「お、お兄ちゃん……」
背中をぶつけ、痛くて擦っているというのに……それでもなお、コイツは俺の心配をするのか!
「うぜぇ……」
「え?」
「何が『お兄ちゃん』だ……お前はこんな俺に手を差し伸べて聖人気取りだろうが、こっちはいい迷惑なんだよっ!」
「そ、そんな事……」
「うるさいっ! 惨めな俺を内心蔑んでいるんだろう、要らないと思っているんだろうっ!」
「そんな事ないっ!」
「!?」
いつになく声を張り上げ、妹が倒れた体をゆっくり起こしていく。
そして……また、俺の手を取って。
「……確かに、私にはお兄ちゃんの気持ち、分からないかもしれないけど……でも私、お兄ちゃんの傍にいるよ?」
――――プツン、という音。
「キャアッ!?」
「……お前……」
妹の、その一言を聞いて俺は……妹をベッドに投げ飛ばした。
「何するのっ!?」
「寄越せ」
「え?」
「お前を寄越せ、お前の全てだ」
「な、何言って……」
「お前が俺から全て奪ったんだ、全て……運も知力も、そのカラダも!」
「イヤッ……やめてっ!!」
「黙れっ! 黙れ黙れ黙れっ!!」
怯える妹の服を無理矢理引き剥がし、胸を、ヘソを、そしてショーツを露わにしていった。
「このイヤらしい体も、その顔も、お前の全ては、俺のだったんだよっ!!」
「やめてお兄ちゃん!」
……あぁ、思えばこの時、家に誰かいてくれれば、あんな事にならずに済んだのに。
妹の悲鳴も、もう俺の頭には入ってこなかった、それどころか示し合わせたように、誰の耳にも届かなかった。
あぁ、誰でもよかった、この悲痛な叫びに気付いてくれて欲しかった、そうすれば、この俺を止めてくれたのに。
……だけど……妹の思いは、届かなかった……目の前にいる、兄にすら。
「やめて!」
「うるせぇっ、とっとと俺にお前を差し出せっ!」(ヤメロ
「手を離してっ! 痛いよぉっ!」
「はっ! そういうプレイの方が好きか、あ?」(チガウ
「……イ、イヤッ! 何するのっ!!」
「決まってんだろ……まずはお前の初めてを貰うんだよ、それも……俺のだからな」(ソレハ……イモウトノダ
「やっ、やめて……やめてよ、お兄……痛い……よぉ……」
「ハッ、ハハッ……マジで処女か! 健気だなオイ!!」(ダカラ、イモウトハ
「イヤァッ!」
「おらっ、俺を悦ばせろよっ! お前は俺の妹だろうがっ!」(ナンデ、オレハ、コンナコトヲ
「酷……い……よ……」
「はぁっ、はぁっ……フ、フハハッ……中出ししまくったし、もうダメだろうな」(……アァッ……!
俺は、妹を犯し、最後の良心すら……かなぐり捨てた。
――――両親が帰宅する前に俺は、家を出た。
たっぷり中出しをされた妹は、魂の抜けた抜け殻のように動かなかった。
そんな妹の姿を見て俺は……後悔よりも、虚しさの方が大きかった。
妹を放置して、俺は家を後にし、当てもなく彷徨い歩き、できるだけ家から離れたかった……のに。
「……何で……」
歩き疲れた俺の足は、結局家へと誘った。
「……」
入れば、俺は殴られる……いや、殺されてもおかしくないだろう。
それでも俺は、扉を開けて、帰宅した……嘘の演技もせず、空虚な心のままで。
「どこに行ってたんだ!」
「……ちょっと」
「お前……なぜ、家を空けた!?」
「……え?」
予想通り父親に怒鳴られはしたが、どうも様子がおかしい。
見れば母親の方はすっかり泣き疲れたあとらしく、ソファの上で真っ白になっていた。
「……何が……」
「あの子が……あの子が、自殺した……」
「!!??」
「書置きがあって、『ごめんなさい』とだけ書いて……首を吊って……」
「あぁあっ!!」
「嘘……だろ……」
ふざけんな。
お前は、どこまで俺を苦しめる。
お前が死んでまで、俺は生きるべき人間じゃないのに。
俺が生きてて、何の意味があるんだ……お前がいない、こんな世界で。
「何であの子がこんな事に……!!」
「お前、本当に何も知らないのかっ!?」
「俺に……俺には、分からない……」(シッテル
「何故お前は気付いてやれなかった……!」
「分かる……かよっ!」(ダッテ
「もう……帰ってこないのよ……!」
「うっ、うぁっ……うああああっ!!!!」(……ゴメン
……泣いたところで、妹は戻ってこない。
そして泣いたところで……俺には、真実を告げる勇気も、自ら命を絶つ度胸すら、ない。
――――律儀に、セックスの痕跡を消してから、逝ったアイツ。
最後の最後まで、割れんばかりの優しさを溢れさせてたアイツ。
そんな妹の存在がポッカリ抜けた家には……何も、残っちゃいなかった。
妹の死が原因で、母親はおかしくなった。
その母を看病して、仕事をして……父親は倒れた、結局母も首を吊った。
そして全てを求めて、全てを失った俺は……何するでなし、家にいた。
俺に行く所なんてないし、することもないし、俺に会う人間もいないし。
必要最低限の物だけ残して売り払って、俺は家に引き籠った。
ガランとした家、ガランとした部屋……その隅で俺は、ずっと震えていた。
だけどその家には、一か所だけ、あの日から変わらないままの部屋がある……妹の、部屋。
でも、主を失った妹の部屋には……入れなかった、扉を開ければ、また妹が笑って振り向く気がしたから。
分かってる、妹はもういない……だからこそ、シュレディンガーの猫よろしく、俺は部屋を閉じたままにした。
そうすれば……観測しなければ、妹はずっと、そこにいるから。
それだけが心の支えだったけど、俺ももうダメだった……精神はとうに病み、体はやつれ、生きているのがやっとだった。
そうだ、俺は……死ぬ、直前だったんだ。
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
(……そして、コレか)
死んだ人間、死に絶えそうな人間、死んだ関係……態々そんなのを甦らせてまで、アイツは俺に力を与えた。
ご丁寧に記憶や感情に手を加えてまで俺を復活させるなんて……全くご苦労なこった。
(そこまでして、アイツは何を求めていたんだ?)
今だからこそ聞きたいものだが……もう、無理か。
(それに)
隣で眠る妹は……甦った記憶の中の妹とは、似ても似つかない姿だ。
「……誰なんだ、お前?」
返事はない。
「まぁ、いいさ」
それに、この閉じたループの中でも俺は、本来の妹の姿と出会えるようだからな。
それが誰なのかだって? ……さて、誰でしょうね、答えは閲覧した人のみぞ知る、とだけ言っておこう。
(……あ)
眠く、なってきた。
「……」
眠い、もう、起きていられない。
これが……本当に圧縮される気分か……確かに、痛みもなければ、むしろ心地良いくらいだ。
既に夢の中の妹を見つめながら、俺の瞼は閉じていく……
(あぁ、そうだった)
意識が消える前に、これだけ、置いておこう……最後まで無題じゃ、余りにも切ないからな……
「タイトルは……そうだな、――――――――で」
言葉にしてみたが……聞いているんだろうか。
まぁ、いいや……もう、疲れた。
あぁでも、眠るのならせめて最後に一言……妹に。
「おや……すみ……※※※……」
その一言を残して、意識は混濁していき、最後の最後、その瞬間まで残っていた、聴覚が捉えたのは……
妹の、優しい声。
「おやすみ、おn
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
/*Data Optimization........Completed.
/*Data Compression.......Completed.
/*Data Access Check...OK.
/*Character Check.........OK.
/*Archive Link Check....OK.
/*Progress.........................Succeed.
/*
/*Data ID :TSX-053841358-x868768
/*Data Title :"結局のところ俺は、妹が羨ましかっただけなのかもしれない。"
/*
/*Making Date:XXXX-12-16 01:00
/*Admin ID :Twee Lea (ID No.UXX0336 type-F)
/*--------------------------------------------------------------------------------------------------------*/
「……以上が、今回の被検体による結果です」
「ふむ」
「今までの被検体の中では、良い方かと」
「だがまだ足りない、それにやはり……分からんな」
「どこでしょう?」
「何故遺伝子的に近しい人物と行為に走ったのか、また何に激昂していたのか」
「そうですね、ですがこの人種は元より閉じた世界での暮らしだったようですし、おのずとそうなったのかと」
「それでもこの時代なら問題なかろう、何故だ?」
「恐らくは、被検体の異性との繋がりが皆無であった事、それに当時の情報網ではそれを促すものも多かったそうです」
「……やはり、分からんな、感情の高ぶりの方は?」
「相乗効果によるものでしょう、また環境が原因でもあります」
「耐えられんのか」
「はい」
「むぅ……」
「ですがそれが、人間らしさ、かと」
「だがな、何よりわからんのは一体なぜそうまでして女性になろうと思ったのだ?」
「……諸説ありますが、やはり最も近く、しかし遠い存在、だからでしょう」
「それだけか?」
「いえ、今回の場合被検体は元々の趣向に加え……あの暴走からの復帰が、原因でしょう」
「それだ、そういえばそれだ、何故気づかなかった?」
「と言いますと?」
「バグの件だ」
「……申し訳ございません、ですが融通の利かなさへの対応は、課題でもありますので」
「被検体を再起動したな?」
「えぇ」
「……内容を読み取るに、恐らくこちら側の存在に、ある程度気付いていたぞ?」
「! そんなはずは……」
「勿論憶測にすぎぬが……だがそのおかげで今回は、データ解析が捗りそうではあるな」
「……えぇ」
「我々の悲願……果たして、何時訪れるのだろうか」
「……信じて、待ちましょう」
――――人類は既に滅び、生命も死に絶えた世界で。
人類を模したアンドロイド達が取り残され、彼らだけが世界に存在していた。
だが、主を失った彼らには……存在意義が、失われていた。
ただひたすらに、命令を実行し続け、停止の時を待つだけのもの。
存在意義を失い、自己停止を行うもの。
AIに支障をきたし、暴走するもの。
……殆どはそのいずれかとなったが、一部の高級AIを積んだアンドロイド達は違った。
彼らは自分達の存在意義を求め、その姿を与えた創造主である人類の情報を、かき集めていた。
殆どが失われてはいたものの、それでもどうにか拾い上げた情報を元に、彼らは……人類を作った。
いや、正確には……コンピュータ上でシミュレートされた、人々の記憶。
彼らが一番に求めたもの、それは……人の心、特に恋愛感情。
それを読み解こうと、彼らはシミュレータに人間をやらせ、そのデータを収集した。
現実的な内容だけではなく、彼らに様々なシチュエーションを与えたり、『力』を与えたり。
そうやって気の遠くなるほどの時をかけ、彼らは人類を読み取ろうとしていた。
終わりのない物語だと、知りながら。
と言いたくなるとうな話だな
自分も一歩、いや半歩踏み外したらこうるかもしれないから自業自得だ、と割り切れません。
なんか映画のA.I.のラストを思い出した
見たかったものとは違ったけど、これはこれで良い
久々に面白かった
終盤の物語のたたみのところが急展開なうえに駆け足だったので、その部分が後書きにある「書きたりない」という作者さん自身の感想なのかな。