/*--------*/
/* Lv.1 */
/* 対峙 */
/*--------*/
「魔王っ! 姫を離せっ!!」
死闘の末、遂に辿り着いた魔王城天守閣で、勇者である僕は全ての元凶……魔王と対峙していた。
だが、魔王は戦いを始める前から卑劣な手段を使い、その邪悪さの片鱗を見せつけ、僕にこれまでにない試練を与えてきた。
「勇、者……さま……」
「んっんー、さぁどうするかね勇者よ? 貴様が一歩でも動けば、たちまち姫の首はその足元へと転がるぞ?」
「くっ、卑劣な真似を……!」
「何とでも言うがいい……我は、魔王だからな」
剣を構えたまま、僕は一歩も動けずにいた。
対峙し、斬りかかろうとした瞬間……魔王がマントを翻すと、何処からともなく囚われの姫が現れたのだ。
「キャアッ!」
そしてそのまま姫の首を掴み、今にも折らんとして……僕は振り下ろした剣を、寸での所で止めざるを得なかった。
「安心しろ、貴様がどうこうせぬ限り殺しはせんよ……まぁそこで見ていろ、ちょっとしたショーを始めようじゃないか」
「何をっ……!」
その台詞を吐いて魔王は、指を鳴らした。
すると突如室内の明かりが魔王と姫の周りを残し一斉に消え、その蝋燭の揺らめきだけが二人を照らす。
「さぁ姫君、これから愉しい一時を味わわせてあげましょう」
「イヤッ……!」
魔王はまるで演者の如く振舞いながら姫に囁いて、そして抱きかかえて見つめ合った。
「やめろっ!」
その光景に苛立ちを感じ、堪らず僕は一歩踏み出したが……
「おっと動くなよ、紅き鮮血で我が玉座を汚したくはないからな……いや、姫の血ならそれも一興か?」
「くっ、貴様……ふざけた事を……!」
「フフン、ならば斬るがいい……お前の剣が、姫を貫くだけだぞ?」
「くぅっう……!」
余裕を見せる魔王……姫を抱きかかえた魔王の手、その鋭い爪が姫の喉元に食い込んでいるのが見えた。
「勇者さま、助けて……」
「姫っ、必ずやお助けしますっ!」
「おおっと、出来ない約束はやめておいた方がいいぞ勇者」
「このっ!」
いちいち神経を逆なでする魔王だが、その脅しと、姫の悲痛な叫びに僕は板挟みとなり、結局……魔王の言う通り動けずにいた。
「さて、それでは……」
尻込みする僕を一瞥し、再び姫と向き合った魔王はあろうことか……姫に……
「なっ!?」
「んんっ!?」
口付けを……キスをした。
魔王の予期せぬ行為に姫は驚き竦み上がり、僕もその光景に呆然とするほかなかった。
「なっ……あっ……!?」
「んんんっ……!!」
しかも、長く、深く。
だがそのせいか、驚いた表情の姫が次第に蕩けた表情になっていった……そんな、姫……ソイツは……
確かに魔王という立場でなければ、その整った顔立ちであるヤツは女性から見れば魅力的なのだろうが……
それでもアイツは魔王だ、魔性の存在だ……!
そんな奴が、そんな奴に姫が虜にされるなんて……!!
「やっ、やめろぉっ!!」
……いてもたってもいられなかった、魔王の脅しも忘れ……僕は魔王に飛び掛かり、一閃を与えようと……したが。
「ぐあっ!?」
魔王がその手を一振りすると、衝撃波が僕を襲い、暗闇の向こうへと吹き飛ばされてしまった。
「このっ……!」
どうにか受け身を取って着地し、再び玉座へと駆けだしたが。
「ンンンッ!?」
「!?」
惚けていた姫が、急に体を震わせ、その表情を引き攣らせ始めた……明らかに、様子がおかしい。
「姫っ……!」
奴の毒牙にかかる前に、一刻も早く、姫の下へ……!
……だがその思い空しく……あと一歩のところで、姫は。
「……ふん」
「あ……ぁ……」
「!」
魔王が姫から手を離すと、姫は力なく床へと転げ落ち、生気のない人形のように横たわってしまった。
「姫っ……! 貴様っ、よくも姫をっ……姫をぉっ!!!」
目の前で繰り広げられた惨事に、僕は激昂し、魔王へと飛びかかろうとした。
「ンッンー、落ち着きたまえ勇者くん……ヌグッ……」
魔王が指を横に振り、その口を大きく開いて、その中へと指を入れると、何かを引きずり出した。
それはボンヤリとした煙のような何か……虚ろで、でも確かに存在する何か。
それを視た瞬間、僕は悟った……奴の、あまりにも残酷な仕打ちを。
「ま、まさか……」
「そうだとも、妖精王の加護……その力でお前も『コレ』が視えるのだろう?」
「そんな……姫っ!!」
それは、姫……その人の、魂だった。
霊的な魔族との戦いに備え、妖精王との契約により得た力、人の眼で見る事の出来ないモノを視る力。
そんな力を得た僕の目が捉えたのは、魔王の口から文字通り顔を覗かせた、姫の幽霊だった。
「な、なんて事を……それじゃ姫は!」
「慌てるな勇者、大事な人質だからな、ちゃんとこの我が生かしてある……有難く思えよ?」
「貴様っ!!」
「フフフ……」
どこまで、卑劣な奴なんだ……!
ギリリと歯噛みをするも、姫の全てを魔王が握ったままなのは、変えられない事実。
倒れた姫の体はピクリとも動かず、その場に横たわり……そして姫の魂も、ショックで意識がないようだ……が。
(助けて……)
それでも僕の耳には、姫の声が届いた気がした……いいや確かに、聞こえた……!
(……そうだ、姫を助けられるのは僕しか……勇者しかいない!)
震える手に力を込め、一歩一歩踏みだす。
依然として姫の生殺与奪は魔王が握っている。
それでも、このまま立ち竦んではいられないし、一瞬のスキを突くためにも、間合いに入らなければ。
一方魔王は、澄ました顔で僕を見つめながら、佇んでいた……未だにその口から、姫の魂を見せつけながら。
が、間合いに入る直前で、突然魔王が語りだした。
「さて、勇者」
「……何だ」
「お前は、この娘とはもうヤった仲か?」
「……は?」
何を言って……?
言葉の意味が分からず眉をひそめた僕を見て、やれやれといった素振りを見せる魔王。
「頭の固いヤツめ、この娘とセックス……性行為に及んだのかと聞いているのだ」
「なっ……!」
当初から思い描いていた魔王像とはかけ離れた奴だったが、ここまで酷いとは思ってもみなかった。
(い、いやこれは奴の精神攻撃だ……耳を貸すな!)
「き、貴様には関係のない事だ!」
「どうした、動揺しているな……知っているぞ、お前が姫を思って何して……ナニしていた事も」
「なっ!!??」
…………っぜそれをっ!
見られたくない事を見透かされ、手が震える。
「まぁ分からんでもないがな、勇者という存在は……何かと清く正しくあれ、だからな」
「うるさいっ!」
「おいおいどうした、顔が赤いぞ?」
「このっ……!」
……くっ、これしきの事で動揺するんじゃない……!
魔王の言う事なんて、嘘しか……ないんだ……!
そうやって自分を奮い立たせても、魔王の声はずけずけと僕の心を踏み荒していく。
「フフン♪ お前も男だ、勇者という肩書が無ければ、結局ただの一人の男なのだよ」
「うるさい、黙れっ!」
「まぁそう怒るな……そんな、耐えに耐えてここまで来た勇者には敬意を表して……褒美をやろうじゃないか」
「貴様の施しなぞっ!」
「遠慮するな、直ぐに欲しくなるさ……これを見ればな」
語り終えた魔王が、再び口を開け、再び姫の魂を見せつけてきた。
そして今度は……姫の魂を……あろう事か……
「何をっ!!」
「ングッ」
呑み込んだ。
喉元の動きといい、舌なめずりしてこちらを見た様子といい……
たとえそれがただの表現であったとしても、それが意味するのは……姫の魂が、魔王の中へと取り込まれた、という事。
「あああっ……!」
「さてそれでは、余興の始まりといこうじゃないか……ンンッ!!」
姫を喰らい、満足げな顔をした魔王が、今度は突然身震いし始め、肉体を変質させ始めた。
「くっ!」
剣を構え、魔王の次の一手に備えた。
姫を取り込まれた以上、戦うに戦えない状況だが、それでもあらゆる状況に対応出来るように身構える。
「ンンンッ!!」
自身の肉体の変化に、魔王が呻き声をあげる。
(何をするつもりだ……!)
姫をその身の内に捕えたまま、戦おうというのか。
……くそっ、魔王を倒し、且つ姫を助け出せるのか……?
……いいや、しなければ! やらなくてはいけないんだ! その為に僕は、ここまで来た!!
勇者として、そして信じる者のために、僕は剣に力を込め、魔王の変身をジッと見守った。
そうして見つめる魔王の変化が、次第に収まっていく。
(……!?)
そして現れたその姿に……込めたはず力が、奪われていった。
/*--------*/
/* Lv.2 */
/* 困惑 */
/*--------*/
変化と言うほどには、魔王は変化しなかった。
いや、それはただ想像していたのとはかけ離れていたからであって、奴の変化は、その想像以上だった。
戦いに興じるために、龍や魔物に変身するならわかる……だが、これは!
「なっ!?」
ゆっくり顔を上げる魔王……その顔には見覚えがあった、それどころか、その顔の持ち主が、足元に倒れている。
「ひ……め……?」
「う……」
耳に届いた声も、姫の声。
違うのは……身に纏った服が、今まで魔王が身に着けていたものであるという事。
それ以外は恐らく全ての要素が、姫その人であった。
(うっ、くっ、これは、どうすれば……!)
アレは魔王だ、そうは分かっていても……その顔、その身体が余りにも瓜二つで、戸惑わずにはいられなかった。
「……」
顔に手をあてていた魔王が、その手をジッと見つめている……目に見えて隙だらけだ。
(どうする、どうする!)
罠以外の何物でもないが、敢えて飛び込めるチャンスは今しかない。
一度は抜けてしまった力を再び込め直して、僕は……覚悟を決めて、魔王に飛び掛かった。
「このぉっ!」
高く飛び上がって、掲げた剣を魔王の脳天へと見据え、叩き込もうとした……が。
「キャアッ!」
「!?」
魔王の口から発せられた、らしくない声、そして怯えた素振り。
予想外の反応に惑わされた僕は躊躇し、振り下ろそうとした剣を、魔王の眼前で止めてしまった。
寸での所で止めたものの、剣閃の衝撃でハラリと千切れた髪が、数本風に乗り散っていった。
そして……震えながら上げたその顔は……姫そのもので、額からスッと血が一滴垂れ落ちて。
「ゆ、勇者さま、何を……!」
「何を言って……!?」
「何故私に剣を! それに私は一体、魔王は……」
「ま、まさか……!」
体だけではなかった。
その言動、表情、仕草や口調に至るまで、その全てがまるで本物の姫、そのものだった。
(くっ、こ、これが狙いか!)
僕が姫に手出しできない事をいいことに、魔王は姫に成りすまし、僕を惑わしてきている。
更に、目の前の人物が確実に魔王ならともかく、奴の中にいる姫自身の可能性があって、本当に手出しが出来ない。
「勇者、一体何がどうなっているのです……!」
「ひ、姫……落ち着いて聞いてください、貴方は今、魔……」
……次の言葉を言いかけて、躊躇した。
『貴方は今、魔王です』なんて、伝えられるはずがない。
かといって不安そうにする姫を見てもいられず、結局言葉に詰まるだけ。
だがそうやって僕が声を押し殺してしまった時点で、姫が悟るのも時間の問題だった。
「勇者、どうしたのです……私の身に、何が……」
「それは……」
姫の不安は募る一方なのに、僕はどうする事も出来ないまま。
顔を背け、歯噛みをして、必死に模索する。
(何とかしなくちゃ、何とか!)
だが何時までも出ない僕の返答に、姫は遂に堪え切れずに。
「そうです、魔王、魔王は何処……に……」
「!」
掠れていく声に気付き、顔を上げると……姫の視線は最悪の方向を向いていた。
「あれ……は……私……?」
「姫っ!」
思わず姫を抱きしめ、その手で視界を覆った。
今の姫が魔王でもある事をすっかり忘れ、僕は必死に抱きしめた。
「姫、必ず貴方をお救いします、ですから、どうか、どうか冷静に……!」
「あ、あぁっ……あぁあっ!!」
……やってしまった。
頭を抱え、力無く蹲る姫を、それでも抱きしめて落ち着かせるよう努めた、が。
「イヤアアアッ!!」
「姫っ! 貴方は、まだ、生きているっ!!」
「アアアッ!!」
姫の心中を、僕が知る由もない。
ただ姫がこれ程まで取り乱す原因を作ったのは、ほかならぬ自分だ……勇者、失格だ……
「勇者、私は、私は……!」
「貴方は姫ですっ! 他でもない、我が国の姫様ですっ!」
「……本当に?」
「……えぇ」
「そう……良かった」
「……?」
「私は姫なのね」
「!」
飛び退こうとしたが、一手遅かった。
抱きしめ返されたまま押し倒され、馬乗りに圧し掛かってくる姫。
その表情からは、彼女らしさは微塵も感じられない。
「ありがとう、アナタのおかげで、何とか自分を取り戻したわ」
「ち、違う、お前は……!」
「姫様なんでしょ?」
「魔王めっ……!」
薄ら笑いを浮かべるその表情は、先ほど見た魔王のそれそっくりだった。
「魔王で、姫。アハハッ! 最高じゃない!」
「やめろっ、その声で喋るな!」
「あら、ならこうしましょうか?」
「!」
(……ゆ…………しゃ……!)
そう言って見つめられた瞬間、頭の中に声が響いた……記憶に新しい、その声は。
「姫っ!」
思わず、手を伸ばす。
その手を握り返す、目の前の姫。
だが彼女の手からは温もりは感じられず、氷のような凍てつく冷たさしか感じられない。
「お前じゃ、ない!」
「酷いわ、私だって姫なのに」
「貴っ様ぁ……!」
今までにも、似たような状況はあった。
村一つが丸々魔族とすり替わっていただとか、妖艶な魔族による淫猥な精神攻撃とか。
僕は勇者としてその全てに打ち勝って、ここまできた。
だのに、魔王が仕掛けたこの罠は、余りにも卑劣で、そして僕をいとも容易く抑え込むものだった。
大切な人が、そのまま相対する者になり、更にはその身と心を奪われて……
(くそっ、魔王めっ!)
心の中で悪態をついても、姫は帰ってこない。
姫の魂を取り戻すには、目の前の姫を斬らなければならないなんて……!
睨み付ける僕に対し、奴は……やはり澄ました顔で、こちらを見つめ返し続けていた。
「ねぇ、勇者」
「……何だ」
「私の事、愛してる?」
「!? ふざけ……!」
「そう、そうなの……ならあの時交わした約束は、嘘だったの……?」
「あの、時……?」
「王宮の泉の前で誓った、愛の……言葉」
「お前何故それを!」
「私は姫よ? アナタが愛した、姫なのよ?」
「違うっ! お前は……!」
「魔王? そう、魔王。でも姫でもあるわ」
「違うっ、違うっ、違うっ!」
「そんな、勇者……」
「! 姫っ!?」
首を振り、これ以上惑わされないよう突き放すと、また声色が変わって……
見れば愕然とした表情で、僕の言葉にショックを受ける魔王……いや、姫。
「違います、これは……!」
「あぁっ、勇者……もう私を、愛してはくれないのですね……」
「いいえっ! あの約束に、嘘はありませんっ!」
「本当っ!?」
「!」
ぐっ、またか!
ずいっと顔を近づけた姫の顔には、魔族独特の凄みがあり、その表情は今までに見た事もない、姫の顔。
目の前の姫が、魔王なのか姫なのか、分からなくなってきた……どっちでもあるし、どっちでもない。
(くっ……!)
それはもう散々見せつけられ、解っているはずなのに……!
これ以上、姫の姿をした魔王に惑わされたくない……それには!
「姫っ! 気をしっかり持ってください! 魔王に打ち勝つのですっ!」
僕は『姫』に向け、エールを送った。
情けないがこの状況を打破するには、魔王に取り込まれた姫自身に呼びかけ、姫に打ち勝ってもらうしかない。
「貴方と過ごした日々を、僕は一日たりとも忘れた事はありませんっ!」
「うっ……」
僕の言葉に姫が……魔王が顔に手をあて、苦しみ始めた。
(よ、よしっ!)
姫を傷つけるような行動に心が痛むが、それは僕がしっかりと受け止めればいい。
「勿論、あの日の約束も……それを思い続けたから、僕はここまで来れたのです!」
「うぅっ……」
徐々に呻き声が大きくなり、頭を抱えだした魔王。
効いている、そう確信し僕は、とっておきの一言を口にした。
「姫っ! 僕は……僕は、貴方を愛しておりますっ!」
「うぅうっ……!」
遂に耐え切れなくなったのか、僕の上から退いて、後ずさりしていく。
「わ……私は……」
「そうです姫っ! 貴方の誇り高き心は、魔王なぞに負けるはずがないっ!」
「私は、私は……あぁ勇者、私は……」
「貴方は我が国の……私が愛した、姫ですっ!!」
「あぁっ! 勇者っ!!」
/*--------*/
/* Lv.3 */
/* 変貌 */
/*--------*/
(! や、やったか!!)
ふっと事切れた様に、膝から崩れ落ちる姫を慌てて抱きかかえた。
「姫っ! しっかりして下さい、姫っ!!」
「あ、あぁ……勇者……私は……」
「姫、よく頑張りました……! 貴女の心が、魔王を打ち破ったのです!!」
「……そう、これでも?」
「!」
あぁっ、くそっ……またしても。
抱きかかえた時は優しい表情だった姫が、途端に下卑た笑みを浮かべ、冷たい手で僕の首元に手を回す。
「よく見ていて……私が、生まれ変わるのを」
「くっ、やめろ! 姫に何をする気だ……!」
「誇り高き姫……なら、それ相応の容姿が必要でしょう?」
そう言いながら、僕の腕の中で体を震わせ、また肉体を変化し始める魔王。
ざわざわと姫の長く美しい髪が逆立ち揺れ動き、術式特有の雰囲気を纏い出す。
止めようとしたが、術中にいるせいか身動きが取れない。
「はぁっ、見て勇者……! 私は、アナタの為に……姫であることを捨てるわっ!!」
「なっ!?」
その言葉を叫ぶと、背筋をピンと突っ張って、光悦とした表情で自身の変化に酔いしれ、そして……
「やっ、め……!」
「フフフ……!」
魔王が身に纏っていた服、それがドロリと溶け出すと、まるでスライムのように彼女の体に纏わりついていく。
手に、足に、腰に……そして胸にも。
当然服が脱げた状態となり、一糸纏わぬ姿にもなるが……それに見とれるより、その変化に嫌悪した。
「やめろ……姫を、汚すなっ……!」
「あぁっ……力が、みなぎってくる……!」
姫の輝く金色の髪は、根元から徐々に血のような紅へと変わり、肉体にへばり付いた服は完全に体の一部となった。
「これが、魔性の力なのね……!」
「姫、取り込まれてはいけませんっ! 姫っ……あぁくそっ、やめろぉっ!!」
「はぁんっ!!」
こちらの呼びかけは、どちらにも届かなかった。
結局僕はその手の中で姫の変わり果てゆく姿をただ見守る事しか……出来なかった。
そして、全てが終わった事を告げるように……目を閉じた姫の、こめかみ辺りから……ズリュッと、漆黒の角が生えた。
「はぁっ、この体に馴染んでいく……魂が、魔力が……!」
「あぁあ……!」
どちらが思い口にしたにせよ、絶望感だけは確実に僕を襲う。
そこにいるのは、姫の姿をした魔王、魔王と完全に化した、姫。
(救え、無かった……!)
……いや、希望はまだあるのだろう。
だけれど、目の前で変わりゆく姫の姿は、そのまま彼女の魂の状態を如実に表している気がした。
「姫……帰ってきて……姫……」
泣きそうになるのを堪え、また声をかける。
祈るように返事を待った、まだ彼女の心が失われていないと信じて……
だけど、それが叶った時、姫が返す言葉までは、予想していなかった。
「あ、ああ、あぁあ!?」
「!」
また、姫の悲痛な叫び。
自分の両手を凝視し、そして目を大きく見開いてその変わり果てた自分の体に、驚愕していた。
「いやあっ!! 私、私の体がぁ!!」
「姫、姫なのですかっ!?」
「こんなの、こんなのって!!」
「あぁっ、姫!」
泣き叫ぶ姫。
例えそれが魔王の演技だとしても、今の僕には姫自身の叫びにも聞こえた。
「あ、あぁっ……そんな、私が魔族に……!!」
「姫……貴方は、貴方は……!」
もう、かける言葉なんて一つも見つからない。
ただギュッと抱きしめ、生きている事だけを強く伝える他なかった。
その温もりでこちらを向く姫の顔は、正しく姫の……悲しみに打ちひしがれる、彼女の顔だった。
「勇者、私は、私は……」
「姫……きっと、戻して差し上げ……」
震える姫の声。
その声に怯え、言葉を遮ると、姫がギリッと歯噛みをするのが見えた。
「……アナタはそうやって、いつも出来る出来ると……!」
「!」
「もう……もうこの身は、この魂は! 魔族の者となってしまったのでしょう!!」
「そ、それは……」
「アナタの愛した私はもういない! いるのは……下劣な者に身をやつした、哀れな女だけです!」
「ひ、姫……」
あぁ、姫だ、この気丈な振舞い、優しくも強さのある言葉……まさしく、姫だ。
けれど彼女の言う通り、今の姫は……人、在らざる者。
目を、合わせられなかった。
(姫の言う通りだ……!)
勇者として、いや、一人の男として……愛する者を救う事すら出来なかった。
僕は、僕は……!
自分の不甲斐無さを悔いて震えていると、そっと手を首に回される感覚、そして……
「うぐっ!?」
首根っこを掴まれた。
(し、しまった……!)
完全に油断していた!
どんなに姫の振りをしようとも、その身は……魔王!
「これが……狙いかっ!」
「……違う」
「な、何?」
「違うのっ!」
「え……ぐはっ!?」
姫の悲痛な声が再び聞こえると、そのまま投げ飛ばされた。
受け身もとれず、勢いを殺せぬまま大理石の床に叩き付けられ、二転三転と床を滑る、僕の体。
「うぐぐっ……!」
全身に走る激痛に耐えながら、体を起こそうとする……が、その前に彼女が近づいてきて。
「ぐあっ!」
「やめて、やめて……!」
「な、姫、姫なのですか……」
「あぁっ、勇者……助けて、体が、体が勝手に……!」
「ぐああっ!」
何という事を!
あろう事か魔王は、姫の意識を残したまま、体を操っている!
表情は今にも泣きそうなのに、その悪魔の手は、僕の首を強く強く絞め上げる。
「ぐっ、あっ……姫、手を……」
「駄目なの、カラダが……私のカラダが、言う事を聞かないの!!」
「そんな……!」
愛する人の手で、殺される……そうか、これがお前の見たいという悲劇か、魔王!
「うぐっ、姫……!」
「あぁっ、勇者……!!」
ギリリと締め上げるその力は、明らかに人の範疇を超えている。
掴んでくる手首を離そうとすることで、辛うじて首の骨を折られるまでには至っていないが……
(こ、このままじゃ……!)
息をするのもやっとな状況、このままではいずれ力尽きてしまうだろう。
「姫っ……手を、手を離して……ください……」
「出来ないのよっ!!」
「くっ、魔王め……! 姫を……解放しろ!!」
「あぁっ! やはり私は、この体は……!」
思わず口にしてしまった、最悪の一言。
それを聞いた姫の目からポタリと、一滴の雫。
(……!!)
姫が泣いている、今の自分に、今の状況に、そして……この後待ち受けるだろう事を思って。
(これ以上……好きにっ、させるかぁっ!!)
皮肉にも、姫の涙が活力となり、僕を奮い立たせた。
「許……さないっ!! うおおっ!!」
「!!」
内に眠る力を解放し、腕に力を込める。
「姫ぇっ……! 今、助けます……!!」
「あぁあ……」
首の拘束を徐々に解き、そのまま押し戻していく。
ギリギリと力が拮抗し音を立てながらも、次第に僕の手が勝り始めた。
「うおおっ!!」
「ゆ、勇者さま……!」
僕は今、真の体でないとはいえ姫を力でねじ伏せている。
姫の恐れ戦く顔が目に飛び込んできたが、僕はその目をジッと見つめ返しながら、そっと囁いた。
「……姫、お許し下さいっ!」
「!」
体を起こせるまで押し戻したところで、魔力を込めた右手を一瞬離し、そして……胸元めがけ突き出した。
「キャアッ!」
悲鳴と共に、今度は姫が後方へと吹き飛んでいく。
「はぁっ、はぁっ……!」
漸く拘束から解放され、ふらつきながらも何とか息を整え、立ち上がる。
「! 姫っ!!」
警戒しつつも、僕は急いで姫の下へと駆け寄った。
緊急だったとはいえ、姫に手をかけてしまった……くそっ!
そして僕の魔法を受けた姫は、床に倒れ蹲ったまま、呻き声を上げていた。
「申し訳ありません姫……!」
「うぅう……」
手加減しつつ、けれど強い衝撃を放った事で、体の内も外も痛みに襲われたはず……
元が魔王の肉体だからか、外傷自体はないが、それでも姫にとっては……酷な事だ。
(……くっ!)
ギリリと心が痛むが、こうするしかなかった……僕が死ねば、姫はこのまま魔王に取り込まれたままだから。
「うっ……」
「! 姫、ご無事ですか、姫っ!!」
姫が目を開け、僕をジッと見つめてきた。
その目の奥に、何か決意のようなものを感じられた。
「はぁっ、勇者……!」
「姫! お気をしっかり保って……!」
「勇者、私を……」
「?」
「私を、殺して……!」
「!! そ、そんな事!!」
「駄目、もうダメなの……私の中で魔王が笑っているの……あの自信は、きっと……」
「諦めてはいけませんっ! 魔王を倒し、貴方を連れ帰るのが私の使命……!」
「ならばっ! それこそ私を殺しなさい勇者っ! 今は私が……この私が魔王なのですっ!」
「そんな事出来ませんっ!!」
「勇者……アナタ……」
「姫、私には貴方がいなければ……私は……」
今度は、僕が涙を流していた。
頬を伝い零れた涙が、姫の頬で弾けて消える。
「あぁ勇者、貴方はそんなにも私の事を……」
「えぇ……愛しております、姫……だから僕には、貴方を手にかける事なんて……出来ない……」
「……」
そっと伸ばされた手が、僕の後ろ髪に触れた。
邪悪な手……でも今は、とても優しさに溢れた手だった。
/*--------*/
/* Lv.4 */
/* 二人 */
/*--------*/
「勇者……」
「姫……」
見つめ合っていた僕らは、いつの間にか顔を近づけてあっていた。
「ん……」
白く透き通る肌に凛と輝く、紅い唇。
その美しさに惹かれ、僕はその唇に自分のを重ね、キスをした。
「んん……」
「んっ……」
濃密な口付けに、心も体も火照っていく。
姫の顔も上気だち、頬を赤く染めていた。
(あぁ姫、僕は、僕は……)
こんなにも愛している人なのに、とても遠くに感じる……そう、遠くに……?
「!?」
な、何をしているんだ僕は!
「ンンーッ!」
そうだ、今唇を重ねた相手は、姫でもあり……魔王でもあるんだぞ、なんで失念していた!
「あぁっ、勇者……もっと、私を愛して……こんな私でも愛しているって、言って……!」
「ち、違っ……!?」
や、やられた……! 魅了の術に、エナジードレインか!
ち、力が抜けて……くそっ、なんて馬鹿なんだ僕は、こうも踊らされるなんて!
今度こそ命の危険に晒されていたが、姫はその蕩けた表情のまま別の意味で僕を襲い始めた。
「うぅん、言葉はいらない、カラダで……アナタの体で、私に愛を捧げて……」
「やっ、やめっ……!」
なすがまま、姫に身に着けた鎧や服を脱がされていく。
(なっ、何で!?)
僕が装備しているこの鎧は、魔を跳ね返す力があるのだから、脱がされる事ある筈ないのに!
「うぁっ、姫……正気に、戻って……!」
「逞しくなりましたね……とても、魅力的ですよ」
「うくっ!」
ツツツと、曝け出された僕の胸元を姫の黒い指がなぞっていく。
(あ、あぁあっ!?)
その指が這う度、背筋がゾクッとして、奇妙な感覚に襲われた。
(うぅっ、ダメだ、今はそんな時じゃ……!)
以前、サキュバスという淫靡な魔族に同じような事をされたが、その比じゃない!
「あはっ、勇者は、ココも勇ましいのね」
「うあっ!」
姫の手が、今度は僕の股座を撫で始めた。
「やめて下さい、姫っ……!」
清楚で純粋な姫が、今はこんな事をして喜んでいる……魔王め、どこまで僕らを貶めるつもりだ!
だがそんな魔王の罠にまんまと引っかかり、更にはそれに身を委ねているのもまた……事実だ。
「ねぇ勇者、私のカラダはそんなに魅力がない?」
「そういう訳では……」
「そうよね、でなきゃこんなにも滾らせる筈ないものね」
「そっ、それは……」
姫が艶っぽく振舞ってからというもの、確かに目が離せなくなっていた。
皮膚に纏わりついた漆黒の外皮があるとはいえ、ドレス姿以外を見たことがない僕にとって、その裸同然の姿は目に毒だ。
たわわに実る姫の胸は、その肌の色と黒い紋様が合わさって、一層強調されて見える。
腹から腰にかけての曲線は、実に女性らしさを醸し出していて。
そして見る事すら躊躇われる足の付け根、股間の周囲……
魔獣の腹部のような色をしているが、そこには一切隠す為の布地なんて存在せず、あるのは……薄ら茂る下の毛だけ。
姫を取り込む前は確かに男だった筈の魔王の肉体は、完全に女性のそれとなり、しかもそれは姫の体を模していて。
(うぅうっ……!)
愛する人の、見る事も叶わなかったカラダが、こんな間近にあれば……流石に男として反応せざるを得なかった。
「ほら勇者、触っていいのよ……いいえ、触って欲しいの」
「だっ、ダメ……」
口では言うものの、取られた手には力が入らず、姫も戸惑いもせずその胸に僕の指を埋めた。
「あぁんっ♥」
「うわっ……」
や、柔らかい……女性の胸が、こんなにも柔らかいモノだったなんて。
「はぁっ、そこぉ……ひぃんっ!」
「ひっ、姫……」
胸に絡みつく黒の紋様が、意思があるように蠢き、その白い乳房の全てを露わにした。
紋様の下から現れたのは、その白さに華を添えるのに適した色をした、桃色の突起。
姫の手に誘われて僕の指がそれを摘まむと、姫が今まで発した事のない嬌声を上げた。
その声に僕は、思わず息を呑んだ。
(姫が、こんな声を上げて、こんな表情をするなんて……!)
気持ち良いのか、更に両手で胸を揉みしだき始める姫。
だらしなく口を開け、息を荒げながら喘ぎ、その身を捩らせて快感を貪る姫。
(あぁ、姫……)
気高く高貴な人のその姿に、僕は幻滅しながらも……興奮を隠せずにはいられなかった。
いやむしろ、だからこそその乱れた姿が一層エロスを感じさせているんだ。
「あはっ、凄い……好きな人に触られると、体が勝手に疼いちゃうんだ……」
「もぅ、気は……済んだでしょう……!」
「いいえ、今ので私のオンナが、アナタを欲して蠢いているのが分かるの……ねぇ、お願い」
「! こ、これ以上は!」
「はぁっ、見て勇者、私のココ、もうこんなになっちゃってる……」
「あっ……」
そう言って姫は僕を押し倒し、僕の顔の上で股を開き、自ら秘所を見せつけてきた。
てらてらと輝くそこからは、トロッとした液体が溢れ出ていて……
それが何を意味しているか、最初は分からなかったけれど。
男と女、男性と女性……互いが愛し合い、する事を考えれば、自ずと答えは出た。
(ひっ、姫が……女性として興奮している?)
拙い性知識でも、自身の事から鑑みればこれは男性と同じく、性的に興奮している証拠。
「ほら見て、私のココ……他の誰にも見せた事のない、私の……オンナとしての、全て」
「うくっ……!」
腰を落とし、更に顔へと近づけてくると、その匂いが一層強くなり、思わず顔をそむけた。
けれども近づくにつれその匂いに頭の中が噛み乱され、更に目を背けた事でより過敏に感じてしまっていた。
(うぁぁっ……!)
これが、女の人の……姫のなのか……
貴族の館や娼館では香水の臭いばかりが漂っていて、気持ち悪さしか感じなかったが。
これはそうじゃない、姫の体が生成した、姫独特の香り……いや、待て!
(これもやはり、魔王の……!)
どんなに姿を似せようが、魔王の体である事には違いないんだ、更に言えば、奴は男で。
そう考えれば嫌悪感しか生まれないし、だからこれも……そう、なのに……なのに、何で!
「勇者さまぁ……私のココが切なくて、疼くのぉ……お願い、私を愛しているのなら……」
「……? うわっ!?」
急に艶のある声を出す姫、その声に思わず釣られ、恐る恐る視線を戻すと……
いつの間にか姫の下半身を覆っていた汚れた色は消え、人間らしい肌に戻っていた。
(ひっ、ひっ、姫のっ!)
色が似ていて区別しにくかったのが、明確に肌の色とは違う、肉感を帯びた桃色となった、姫の……アソコ。
「うわっ、あっ、ひ、姫っ!」
「お願い、勇者さま……舐めて」
「えぇえっ!?」
ただでさえ姫の秘所を直に見てしまったというのに、その上姫は僕に舐めろと言ってきた!
「そそそ、そんな事出来ませんっ!」
「あぁっ、お願い……もう、我慢出来ないの……うきゅぅんっ!」
「あぁあっ!?」
僕が必死に否定すると、あろう事か姫は僕の顔の上で……その……自慰を始めだした。
「はぁんっ、早く、勇者さま……早くぅっ!」
「あ、あああああ……」
文字通り目の前で繰り広げられる、女性の、姫の淫らな行為。
いつの間にか手も人間のそれに戻っていて、最早今の姿は髪の色が違い、角の生えた姫その人だった。
その姿で姫は、自分自身を弄り、僕が見ているだけに留まらなくなるのを、今か今かと心待ちにしていた。
クチュクチュという音が耳元で響き、僕の顔にポタポタと姫の体から溢れた液体が零れ落ちる。
……ニ三、口に入った物もあって、僕はあらゆる面で姫という女性を感じずにはいられなかった。
「う、うぅうっ……」
「遠慮は……うんっ、要らない、のよ……だって、私はアナタにして……貰いたいのだから」
「姫ぇ……」
情けない声だ、自分でもそう思う。
でもそんな声も出したくなる、頭で魔王の罠だと解っていても、体がもう出来上がって、心を染めていく。
「あっ、ぐっ、くぁっ……んんんっ……!」
「あっ……あああっ!!」
解っている、解っているんだ……でも……舐めずにはいられなかった。
「ふぁあんっ!」
口元に迫った秘所に舌を這わせると、姫は一層大きな声でさえずった。
(うぅっ、こんな、こんな……!)
いくら本人から求められたからとはいえ、こんな事するなんて……自分でも信じられない。
けれど姫が発する匂いやその痴態が、僕の理性に直接ダメージを与えてくる。
勇者という立場上僕は、世の男性より禁欲的な生き方をしてきた。
そんな僕にとってこの誘惑は耐えがたく、ましてや姫が相手では……あの辛く苦しい鍛錬も、意味をなさない。
「あはぁっ、勇者が私の……私のアソコを舐めて……ひゃうんっ!」
「うっ、むぐぅっ……!」
気付けば夢中になっていた。
嫌悪感はとうに消え、今は快楽に溺れる姫にもっと奉仕したい、その一心だった。
「きゃうっ!」
付け根に見えた小さな蕾をピンと弾けば、それだけで姫は飛び上がり、体を震わせる。
「あぁっ、そう、そうよ勇者……私の弱い所を、どんどん攻めてっ!」
「……ッ!」
その言葉を命令と受けた僕は、一気に姫を攻めたてた。
力が抜けきっていた体に再び感覚が戻り、動くようになった両手で姫の大きな乳房を強く揉みしだく。
「勇者、ゆうしゃぁ……!」
「ひっ……めぇっ!」
「アァッ!!」
ビクンと体を攣らせた姫が、僕の顔に目一杯液体をふりまき、その身をビクンと震わせた。
「あっ……はぁっ……私、勇者にイかされちゃったぁ……」
「うぅっ……」
大量の女性のモノに思わず顔を背け、手で顔を拭ってから再び見やると。
(……うわっ!!)
目の前で生き物のように蠢く、姫の秘所。
閉じていた割れ目がくぱぁと開き、見てはいけないところまで見せつけていた。
(こっ、こっ、こっ!?)
改めてまじまじと見てしまい、急に恥ずかしくなってきた。
「ひっ、姫! ……もう気が済んだでしょう! 僕は……」
「いいえ……まだよ」
「!?」
「ここまで来たら、もう……私はアナタに捧げたい、私の……全てを……」
「じゅ、十分ですから……」
「いいのよ、遠慮なんてしなくていい……愛する者同士、いずれは行う事なんだから♥」
茶目っ気を含んだ表情を見せた姫が、素早く体を起こして、僕のズボンを脱がし……
「なっ、何をっ!?」
「あはっ♪ 私より濡れてる……あぁ、今からこれを挿入れるのね……」
「! い、いけません姫、それはっ!」
下着の下から取り出した、僕のオトコに姫は頬ずりし、まるで餌を目の前にした犬のように涎を垂らしていた。
姫が何をする気かは……なんとなく分かっている、けどそれをさせる訳にはいかない!
(ひ、姫の純潔を……僕なんかが……!)
確かに僕は、姫を愛している。
だけどそれは叶わぬ恋と知って、それでもその思いでいたかったから。
姫には姫の、王国の皇女として、相応しい男性と契りを交わすべきだ、だからこんなところで……
(……あ……)
そうか、いいんだ……この体は、姫のじゃないんだった。
その一瞬浮かんだ悪魔の囁きで僕は……抵抗するのを、やめてしまった。
「勇者さま、私は……この日が来るのを、ずっと待ちわびていました……アナタをこの身で感じる、この時を」
「姫……」
優しい言葉と共に、姫は僕のいきりたった性器をあの生々しい秘所へと突き立てた。
「ん、んんっ……んっ!!」
「うっ、うぁっ……くああっ!?」
前戯ですっかり濡れほそぼったソコは、いともたやすく僕のモノを呑み込んでいく。
「ああっ、感じるわ勇者……私の膣内に、アナタのを感じるっ!!」
「うぁぁっ、姫ぇ、姫ぇっ……!」
ズブズブと根元まで呑み込まれ、姫の体温が直に伝わってきた。
「あっはぁ……さぁ、私の膣内を、もっと、もっとかき乱してっ、感じさせてっ!!」
「う、あぁあっ!!」
「あぁんっ!!」
馬乗りになった姫が自ら腰を振り始め、僕を巻き込んで快楽を貪り始める。
「うぁあっ、姫っ、これ以上は、これ以上は……!」
「いいのよ勇者、私はずっと、アナタと繋がりたかった、アナタの子を孕みたかった!」
「くっうぅ!!」
姫の動きに合わせ、僕も何時しか腰を突き上げていた。
(いけないのに、いけないのに……!)
頭で理解しても、体はもう止まらない。
男女のまぐわいはどんな幻惑よりも強力で、僕を勇者から一人の男にするのに十分だった。
「姫ぇ、僕はっ、僕はっ!」
「はぁ、勇者、たとえ何があろうと……私を愛してっ、私を離さないでっ!」
「!!」
出来上がった心身に、姫の誓いの言葉が飛び込んできた瞬間、僕の理性は吹っ飛び、そして……
「……姫ぇっ!!」
「あぁあぁあっ!!!」
……溜りに溜まった欲求の素を、僕はありったけ姫の膣内へと注ぎ込んだ。
「あ……あ……」
「くっ……」
……まだ、出てる。
もうありとあらゆる事をかなぐり捨て、僕は姫を愛している事を、身をもって伝えていた。
「うっ、あっ……姫……」
「あぁ勇者……これで私はアナタのモノ、そしてアナタは、私のモノ……」
繋がったままそっと顔を近づけ、その白い手で僕の顔を撫でる姫。
「勇者……」
「何、でしょう……」
「約束は……守ってくれる?」
「約……束……?」
「いかなる時も、私を愛し、そして私から離れないこと……」
「……」
甘い余韻に浸った頭に、姫の声が反響して聞こえる。
「僕は……」
「何?」
「僕は……貴方を愛し、守り……続けます……」
「フフッ、ありがとっ♪」
そう告げると、その返事としてキスをしてきた姫。
柔らかい唇に触れ、益々意識が朦朧とし始めた……のだけど。
「!」
「勇者……約束は、必ず守るものよ?」
「うっ、うああっ!!??」
キスをされた直後、一気に意識が覚醒した。
(僕は、僕は何をっ!?)
魔王に身を委ねて、あまつさえ性交まで……!
「はっ、はっ、離れろっ!!」
「あぁんっ、勇者さまったら激しいのね♥」
「違うっ! お前は、お前は……!」
「なぁに?」
「お前は……魔王だっ!!」
こんな、こんな、こんなのって……!
「あら、それにしてはとても楽しんでいらしたじゃない」
「やめろっ! 姫の声で……姫の体で、僕をかどわかすなっ!」
「フフッ♪」
一刻も早く間合いを取りたかったが、情けない事にキュウッと締め付ける姫の女性が、僕のを咥えて離さない。
「うぅうっ、なんて事を、僕は、僕は……!」
「あら、いいじゃない……仮にこの私が魔王の意識でも、今の体験は姫様も喜んでいたようだし」
「! そんなっ……!」
「あぁほらもっと感じて私……これが勇者さまの、逞しさなのよ?」
「やめろぉっ!!」
魔王は身を捩らせ、咥え込んだ僕のを一遍残さずその内に刻み込んでいく。
「こんなにガチガチになってなければ、すぐにでも逃げられるのよ?」
「くぅっ!」
コイツは、僕を、僕達を徹底的に貶めるつもりだっ!
「あぁんほらぁ勇者ぁ……私の膣内がもっともっとって欲しがってるのぉ」
「こっの……!!」
心を落ち着けようにも、魔王の体のせいか魅了の術のせいか、僕のが何時まで経っても落ち着いてくれない。
「おまっ、えぇ……!」
「ところで勇者さま!」
「!?」
怒りに打ち震え、キッと魔王を睨み付けようとすると、突然身を乗り出し顔を近づけてきた魔王。
思わず怯んでしまったが、それでも僕は……睨み続けた。
「もう一度聞くけど、約束は……守ってくれる?」
「お前に誓う約束などないっ!」
「違う違う、姫との約束よ……ちゃんと、守ってくれる?」
「当たり前だ! その為には、お前を……」
「フフッ、その言葉、嘘偽りなしと見た……」
「! 何をっ!」
「なら私が……少し手助けしてあげる♪」
魔王が、パチンッとウィンクをした。
その瞬間、体が痺れ、意識が遠のきはじめ……
「あっ……き、きさ……ま……な……にを……し……」
「ちょっと準備するから……アナタは暫く眠っていてね♪」
「く……そ……」
強烈な催眠術だった。
僕にはもうその類の術は効かないはずだったのに、何故……
(……あぁ……)
そうか、口付け……まさか相対する相手と、そんな事、しないものな……
薄れゆく意識の中、最後に見えたのは……魔王の、姫の紅い唇、それが不敵な笑みを、浮かべていた光景。
/*--------*/
/* Lv.5 */
/* 換身 */
/*--------*/
――――ピチャッ。
「……う……」
肌寒さと、響き渡る水滴の音に、目が覚める。
(……ここ……は……)
意識が戻り、目を開けたというのに何も見えない……どうやら一切の明かりが遮断された場所のようだ。
(僕は、どうなって……)
次第に感覚が戻ると、手首の辺りが鈍痛を発しているのに気付いた。
(あぁ……そうか、僕は……)
負けたんだ、魔王に、汚い手段で……でも、僕はそれに屈し、そして負けた……完膚なきまでに。
その結果、成す術無く囚われた僕は手枷を嵌められ、牢屋であろうこの場所に閉じ込められたんだ。
(うっ、くっ……ダメか……)
手枷は触り心地から、木製の簡素な作りで、更には天井から垂れ下がった鎖と繋がれているだけ。
けれどその程度の拘束すら、今の僕には十分なほど……魔王に受けたエナジードレインが原因だろう。
それに、何だか……
(う、なんだ……?)
体に力が入らないのは分かったが、どうにも体に違和感を覚える……
身を捩ると、何かが体を揺れに合わせて振れて、余計に体が揺れ動くし。
この目で確かめたいのだが、こうも暗いと、何も見え……
ガチャリ。
「!」
と、そんな願いが聞き届いたかのように、室内に明かりが射し込む……どうやら、扉が開け放たれたようだ。
だが、その扉の、射し込む光の向こうに姿を現したのは。
「!……貴様っ!」
「漸くお目覚めか」
逆光でよく見えなくとも、そこに佇んでいたのは……僕から姫を奪った魔王、その本来の姿だった。
「魔王っ! 姫をどうしたっ……まさか!」
魔王が元の姿に戻っている……つまりそれは、奴が呑み込んだ姫の存在が確認できないという事。
堪らず飛びかかろうとしたが、手枷はそれを認めず、僕の体を部屋の中央に留めさせた。
「おぉ怖い怖い……良い顔が台無しだぞ?」
口ではそう言いながらも、睨み付ける僕に対し魔王はあの不敵な笑みを零すだけ……
くっ、あの顔は最後に見た姫の表情、ままじゃないか、くそっ!
あらゆる面で踏み躙られた気分に、ギリリと歯噛みをして悔やむ。
「答えろっ! 姫をどうし……」
「心配するな……我はお前と違い約束は守るのでな、王とはそういうものだろう?」
「貴様は王などではないっ!」
「『魔』の『王』……断っておくが、お前達人間の王以上に、権威や威厳というモノを必要とされるのだがな?」
「それでも貴様はっ、魔の者の権威なぞっ!」
「……まぁお前がどう思うが勝手だが……それより、気になるのだろう……姫の事が?」
「何っ!? やはり貴様、姫の魂を……!」
「落ち着け、話が進まんだろうが……今からそれを、お前に見せようと思ってな」
「何を……!」
「フフッ……」
戸枠に寄りかかり、笑っていた魔王が、僕に歩み寄りつつ、その腕を空間へと伸ばす。
その突き出した魔王の手が、途中で虚空へと消えていく……アレは転移魔法の一種、何かを取り出すつもりだ。
警戒し、身を一歩引くと、魔王はやれやれといった仕草で僕に言った。
「そう身構えなくてもよい、これを見せてやるだけさ……そう、これをな」
そして魔王が虚空取り出したのは、楕円形の円盤……逆光で一瞬それが何かは分からなかったけれど。
それを取り出した魔王が、次に指を鳴らすと……部屋の明かりが目覚めたかのように一斉に灯り、室内と、僕等を照らす。
その灯によって、魔王が取り出した円盤がはっきりと見え……そこに映し出されていたのは。
「! なっ、姫っ!!」
僕同様手枷をはめられ、一糸纏わぬ姿にされた姫の姿だった。
驚き、戸惑いの表情を見せる姫……これが魔王の罠でなければ、姫は再び御身に戻れた事になるが。
「貴様っ、姫に何をしたっ!!」
次の瞬間、映し出された姫は暴れ、必死にもがいていた……きっと、恐ろしい目にあわされているに違いない。
……そう、思ったのだけど。
そんな僕の言葉に魔王は呆れたといった表情を見せ、溜息をついた。
「……全く、君は一度姫の事となると周りが何も見えなくなる、それがいかんのだ」
「くっ、うるさいっ!」
魔王の指摘が、グサリと胸に突き刺さる。
そうだ、それが原因で姫は、こんな窮地に立たされている……他ならぬ自分のせいで。
「いいから落ち着きたまえ勇者くん……そして『コレ』を、よく見てみたまえ」
「見ろ、だと?」
「そうだ、私が取り出したこれを、その曇りなき眼で、この……『鏡』をな」
「え……?」
鏡? 魔鏡と言いたいのか?
魔王に命令されるのは気に食わないが、それでも今出来る事はそれしかない。
言われたとおり、心を落ち着かせて再び姫と向き合うと……
(姫……? どこか様子が……?)
再び鏡の向こうの姫と目が合った。
キョトンとした表情で、同じようにこちらを見つめ返す姫。
向こうにもこれが置かれているのだろうか? ……いや、ならば姫は僕に助けを求めるはず。
だのに姫は落ち着き払って、こちらを見つめ続けるばかり。
「ひめっ…… !」
僕が呼ぶと、同じように姫が僕の事を呼んだ……いや、口の動きが違う、それは、その動きは……今の言葉の……
(ま、ま……まさか……)
身じろぎしてみると、やはり姫も体を揺らして。
裸である為、姫のその胸に蓄えた二つの膨らみが、体の動きに合わせて揺れ……そして、それは僕にも……!
「あ……あ……あ……!」
「やっと気付いたか、もっと自分自身にも気を配りたまえ」
「そんな、まさか、これって……!」
僕が焦れば、姫も焦った表情をして……何より、今更ながらに自分の声が、全く別の……高い声だと気付いて。
全てを察し、僕は、視線を落とした。
「あぁあっ!?」
男の僕にない筈の、二つの膨らみに、鍛えた体とはまるで違う、丸みを帯び、柔らかさのある……女性の、肉体。
それも、ただの女性じゃない……これは、この『カラダ』は!!
「そんな、そんな……!」
間違いない……そう理解した事でドッと襲ってくる、焦りににも似た、絶望感。
自身の体の異変に気付き、慌てふためく僕の姿を見て、魔王はニヤリと笑うと。
「どうだ勇者、それならば……『姫』を守りやすかろう?」
「あああっ!!」
そんな、僕が、僕の体が……姫のものにっ!?
/*--------*/
/* Lv.6 */
/* 愚者 */
/*--------*/
「お前自身が姫となり、お前の知識や経験を以って自分自身を守ればいい……うむ、我ながら良い発想だ」
確かにそうかもしれない、けれどこんなのって……!
「ふざけるなっ! 姫を……姫の魂をどこにやった!」
叫ぶ声も甲高い姫の声……あぁっ、姫の口で、僕はなんてことを叫んでいたんだ……
(……はっ!)
それにだ、僕が今姫の肉体になっているのなら、僕の肉体は一体……まさか!
「ま、まさか貴様……!」
「おや、そっちは察しがいいな、やはり自分の体の方が大事か」
「違うっ! 答えろ、それが正しいというのなら、僕を……僕の体に入った姫をどこにやった……!」
「案ずるな、丁重にもてなしたさ……では、感動のご対面といこうじゃないか」
魔王がそう言いつつ、手にした鏡を再び虚空へと押し戻すと。
「!? 僕っ……い、いや……姫っ!!」
まるで手品でも見せられたかのように、鏡の向こうに自分の姿が現れた。
「姫っ、返事をしてくださいっ、姫っ! あぁくそっ、姫に何をしたっ!!」
だが現れた僕は……でも僕じゃなくて……その表情は虚ろで、心ここに非ずといった感じだ。
「我は何も……お前達の魂を入れ替えたのは、当然余の計らいだが」
「くっ! なら何故……!」
「ふぅむ」
魔王は知りつつも顎に手をあて、わざとらしく考える素振りをみせた。
「なに、お前が目を覚まさぬのでな……その間、キミ……いや姫だったな、こ奴は淫魔達の部屋に預けておいた」
「なっ!?」
見れば姫を連れてきた魔王の配下は、いつぞや対峙したサキュバスだった。
「き、貴様ら……な、何を……」
その存在に気付いて僕は、その女魔族に眼光を放ったが……それもまた、笑い飛ばされるだけだった。
「何って、あの時の続きをね……中身が違うのが残念だけど、やっぱり勇者ちゃんのモノは格別だわぁ♥」
「ほう、我よりもか?」
「あらぁ、それは実感した魔王様もよく解ってらっしゃるのでは?」
「……我はお前達ほど色狂いではないからな」
「あんっ、魔王様ったら照れちゃって♥」
「……全くお前は」
「きっ、さまらっ……!」
最悪だ、姫は女の操を散らされただけではなく……そんな事まで……!
姫は放心しているんじゃない、惚けているんだ……あの女に、男として……僕の体で喰われて!
(うぅっ……!)
そんな姫を見たくはないし、何よりその姫は今……僕の顔をしている。
魔族に心奪われ、堕ちるところまで堕ちたあの表情を……僕は客観的に見せつけられている。
(こいつら、徹底的に僕らを……!)
負けた時の覚悟はしていた、いや、してはいけないからこそ、この事態にならない為に心に留めてきた。
だがそれをこうもあっさり見せつけられ、挙句こんな最低の状況……悔やんでも、悔やみきれない。
悔しくて、悔しくて……涙が出そうになるが、グッと堪え……あぁっ、ダメだ、何で……
(姫の……カラダ……だから?)
そう思うと、今の僕が僕でない事を強く感じてしまい、そしてその体が女だと……理解してしまう。
その事に僕が戸惑っていると、魔王がいつの間にかそばに近づき、僕の顎を持ち上げた。
「ぐっ!?」
「さて勇者、お前の今の立場を踏まえたうえで……我は、お前に感謝したい」
「はぁっ!?」
恐怖に竦む僕に投げられた、まさかの宣言に、思わずらしくない声を上げてしまった。
「……僕を捕えられて、さぞや嬉しいのだろうが、そんな言葉要らな……」
「それもあるがな……何より、お前はよくやった、それを褒め称えたい」
「何を企んでっ……!」
「フフッ」
「ウフフッ……」
魔王と淫魔が、同時に笑う。
そうだ、こいつ等は……勝利を確信した時、この笑みを見せるんだ。
「いや、本当に心から礼を言うぞ勇者よ、お前のおかげだ」
「だから何が……!」
僕の言葉を遮るように、魔王はまた鏡を取り出した。
そこに映し出されていたのは……今度は姫となった僕ではなく、何処かの洞窟。
「それが一体……そ、それは!」
「そうだ勇者、お前が我と対等の力を得るため、その身を粉にしてまで集めた、神器」
映像が寄った先にあったのは、僕が魔王討伐の為世界中旅して集めた、退魔の武具……光の剣・太陽の鎧・月の冠。
それが今、魔力によって空中に浮いている光景だった。
「全く、敵ながら天晴だ……よもや我を滅する全てを手にするとはな」
「当然だ、お前を葬るため、僕は命がけで……」
「でもぜーんぶ勇者のスケベ心で台無し、キャハハッ!」
「くっ……!」
淫魔が耳障りな甲高い声で笑う。
「更には、どう言い包めたかは知らんが妖精王の加護まで……たかが人間風情が、ここまで成し遂げるとはな」
「この娘の為? あっそうだ今はアナタが娘だったわね♪」
「……ッ!」
ギリリッと、歯噛みをする……それしか、今の僕には出来ない。
「まぁそんなわけだ勇者、お前は我を打ち倒すだけの力を十分なほど得ていたのだよ」
「でも、躊躇った……躊躇っちゃった、一人の小娘のために」
「そう、あの時お前が姫を見て躊躇わず、光の剣で我を切り裂けばお前は勝利を手にしていた」
「けど、代償としてこの子の肉体も魂も、二度と帰ってこないけどね♪」
「ぐっ、うぅっ……!!」
「そしてお前が選んだのは……この結果だ、我はその事について、お前に感謝したいのだ」
「いらっ……なっ……」
「あらまた泣いちゃった? でももう女の子だもんね、涙が似合うわー♥」
「うっ、あぁっ……!」
……後悔しても、もう遅い。
さっき以上の大粒の涙が床を叩き、その一部は、突き出た胸に垂れてから落ちていった。
そうして悔やむ僕をよそに魔王は、またもわざとらしく言い放つ。
「……さてそろそろ鏡が重いしな、とっとと始末するか」
「何を……あっ!」
魔王がパチンと、指を鳴らした。
その瞬間、鏡に映る武具の魔法が解け、そのまま落下していく……そして、その先には。
「あぁ……あぁあっ!!」
「退魔の武器は手に余るのでな……自然に還すのが、道理だろう?」
地下深くに存在する魔王城。
星の息吹が流れる其処には、灼熱のマグマが溢れかえっている。
いくら神器とはいえ、そこに落とせば……最早回収は不可能だろう。
そう、これで魔王に対抗するための力が……この世から失われた事になる。
残ったのは……絶望と、加護だけ。
「あ……あ……」
「これでよい」
消えゆく神器を自身でも確認した魔王が、鏡を三度虚空へと戻す。
「あーあ、無くなっちゃった、誰かさんのせいで」
「さて、次だが」
「何……を……」
「あぁいや、これは既に解決しておるのだが、一応お前には教えておこうと思ってな」
「いら……な……」
「そう言うな、重要な事だぞ?」
「そうよー残ってるあの事なんだからねー」
「……?」
「残るは、お前が受けた加護だが……これはな、肉体と魂が一致していなければ効果を発揮せんのだ」
「馬鹿……な……」
「あら本当よ? だってこの城の魔族が、魔王様の加護を受けているんだから間違いないわ」
「彼奴の加護も根本は同じだ、これは加護を与える者でなければ知りえぬ事なのだがな、今回は特別だ」
「嘘……だ……」
「信じようが信じまいが勇者、事実だ。今のお前はその姿に相応しい、か弱き娘なのだ」
「勿論こっちの姫ちゃんも同じよー、でもこっちはアナタより順応しちゃってるけど♪」
「な……に……?」
「それらを踏まえ勇者、我にここまでの協力をしてくれた事に対し、我はお前に褒美をやろうと思うのだが」
「……」
「答える気力もない? 折角最後に愛し合わせてあげるっていう、魔王様の粋な計らいなのに♥」
「……おい、みなまで言うな」
「あ、いっけなーい」
「……どういう、事だ……!」
「言っただろう? 『姫は殺しはしない』と。それはつまり、姫の肉体も魂も満足にしてやる、という意味だ」
「だからぁ、アナタ『達』は殺さないって事、その上でぇ」
「……お前……まぁいい、お前達の愛は十分感じさせてもらったからな、今度は『正しく』身を委ね合わせてやる」
「……それって……」
「ウフフッ……だ・か・らぁ、姫ちゃんと二人っきりでイチャイチャさせてあげるって事♪」
「……そういう訳だ」
淫魔の言い回しは解らなかったが、何をさせる気かは、大方予想がついた。
あぁ確かに、魔族にしては気の利いた褒美だ……だけど!
「あ、だけどー……勿論ただヤらせるだけじゃつまらないからぁー、ちょっとしたスパイス付きで♪」
「……用事があるのでな、我らはこのまま退出させてもらう。気が済んだら呼びたまえ、勇者」
「ふざっ、けるなぁっ!!」
無茶苦茶だ、こんなの!!
僕は男だぞっ! それなのにこの状況、つまりそれって……僕は、僕にっ!
それだけでも狂っているのに、その僕の体の中には……姫の魂が!
何が褒美だ、僕はこんな状況望んじゃいない!!
……そう心の中で叫ぶも、言葉通り魔王と淫魔が部屋を後にしようとし始め、僕は思わず声に出して叫んだ。
「まっ、待てっ!!」
「あぁそうそう、その手枷だが、ある程度時間が来たら外れるようにしてある……もっと楽しめるようにな」
「それじゃお二人さん、ごゆっくりー♪」
「あっ……」
「姫っ!!」
淫魔が姫を突き飛ばすと、そのまま姫は力無く僕に寄りかかってきた。
「姫っ! お気を確かにっ! 姫っ! ……あぁくそっ、待て魔王っ!」
反論の余地すら与えられず、鈍い音と共に扉が閉じられていく。
その向こうで魔王は表情を変えず横目で僕らを見て、その傍らで淫魔が手を振っていた。
そして……扉が閉まりきって、鍵がかけられた室内で、僕は、僕となった姫と二人きり。
……最悪だ。
/*--------*/
/* Lv.7 */
/* 肉欲 */
/*--------*/
――――ピチャッ。
「はぁぁっ……ふぁっあっ……」
「姫、しっかりして下さい、姫っ!」
「あぁっ……私がいる……私がぁ、何でぇ……」
「姫っ、僕ですっ! 勇者ですっ! や、奴らの罠によって、僕らは今心と体が入れ替わっているんです!」
「なんで私は私じゃないのぉ……それにこの体はぁ……何でこんなにぃ……」
「姫ぇっ……!」
奴らが去った後、僕は姫をずっと励ましていた。
姫と二人きりというこの状況は、確かに望んでいた事ではあるけど……
でもそれを嬉しいと思えるような状況じゃないし、何より未だに放心する僕……いや、姫が心配だった。
(あぁこの臭い……なんて事だ、姫は僕の体で、男として……くそっ!)
一糸纏わぬ姫からは、汗臭さの他に男の臭いまで醸し出していた。
僕の体なのに、今は姫の……女の体であるせいか、何時もよりその匂いを痛烈に感じていた。
(淫魔め……!)
以前奴に襲われた時、僕ですらその妖艶な身体と魅力に惑わされ、体が勝手に反応してしまったぐらいだ。
そんな相手に対して、男性としての経験がない姫が耐えられるはずがない。
結果として、姫は今なお得も言われぬ快感に心揺さぶられて、こんなに惚けてしまっている。
(僕が不甲斐無いばかりに、姫まで巻き込んでしまって……!)
何度悔いても悔やみきれないが、そう思うよりまずはどうにかしてこの場を脱する事を考えなければ。
幸い、姫は手枷も何もされておらず、気さえしっかり保ってくれれば自由の身なのだ。
そう、自由な身……え?
(……そうだ、あいつ等は……これを……狙って……!)
それに気付いてしまい、僕は外れないと知りつつも目一杯手枷を外そうと躍起になる。
が……やはりこの体ではこんな手枷すら外れず、ただただ痛みが増すばかり。
姫の、女性の非力さに嘆いていると、突然その体に触れる、力強い手。
「ヒッ!?」
「はぁっ、私の体……私の愛しい体……」
「ひっ、姫……! どうか落ち着いてっ……僕のこの手枷を、外しては頂けないでしょうか……!」
「あぁっ、私のぉ、私ぃっ!!」
「ヒィィッ!?」
僕の呼びかけも空しく、目を血走らせた姫が僕の体を弄り始め、その触れられる感覚に思わず背筋が跳ねた。
……そうだ、これ程までに性欲が煮えたぎった男の目の前で、こんな裸体を晒していれば、当然……
「我慢できないぃっ、この体が疼くのぉっ!!」
「やっ、やめて下さい姫っ、こんなのおかし……! ひゃあっ!?」
膝をついていた姫が突然飛び上がり、僕に抱き付いてきた。
(うわっ、な、何この感じっ!?)
「んむっ……!」
「ひぅっ……!」
抱き付かれた瞬間、ゾクッと体が震え、更には恐怖まで感じてしまった。
身動ぎする僕の様子も気にせず、姫はいきなり僕の……姫の体の、豊満な胸にしゃぶりついてきた。
「きゃうっ……!?」
自分の口から出た、信じられないくらい艶っぽい嬌声。
その声に思わず口を閉じるが、姫に攻めたてられると、自然と声が漏れてしまう。
(うぁぁっ、何でこんな、何でっ!?)
姫は胸の先の突起に口付けし、舌でコロコロと転がし始めた。
その感覚が余りにも甘美で、体験した事のない快感を僕にもたらし、この体に僕を馴染ませようとする。
「んふっ、私の胸……とっても柔らかい……」
「あぁあ……ひっ、姫ぇっ……」
恐怖からの震えと違う、快感が全身に響き渡って感じる、ゾクリとした感覚。
こんな状況なのに、僕は……それをもっと感じたいと、求め始めていた。
(あぁっ、姫っ……)
姫が自分の体を慰めている。
けれどそんな姫の快感を得るのは姫ではなく僕……そんな倒錯的な状況は、人の心を惑わすには十分だった。
「はぅんっ、んふっ……」
「はぁっ、姫……貴方の体は、こんなにも麗しゅうございます……」
「私の体、私の胸、私の……」
ソソソッと姫が指を沿わせ、胸からへそ、へそから股へと伸ばし、そして……
「!? ヒャッ……!」
そっと、股座を撫でてきた。
「んんんっ……!」
「あぁ……どうして触れても私は感じないの? なぜアナタについているの……?」
「んああっ!」
姫が僕の股間をなぞる度、全身が痺れてビクンと跳ねる。
(こっ……コレが女性の……!)
男とは比べ物にならない快感は、鍛え上げた精神すら呑み込み、惑わし、突き動かしていく。
「はぁっ、んんっ……」
「そっ、そんなところぉ……姫ぇ、僕はぁ……ふあぁんっ!!」
僕の体の、強い力で抱きしめられ、身動き一つ取れず、姫のされるがまま僕は姫の体を堪能させられる。
それに、火照りきったお互いの体温が伝わると、心地さすら感じ始めて、僕はどんどん深みに堕ちていく。
たとえそれが魔王の罠だと解っていても、最早それを止める術なんて考えすら出来なかった。
「ああっ! もう我慢出来ないのぉっ!!」
「うあっ!?」
突然叫び声をあげ、姫が僕の両脚を持ち上げた。
軽々と持ち上げられる僕の体、しかも両腿を持ち上げられては、必然的に股間が大きく開かれてしまう。
「やっ、姫っ……こ、こんなはしたない恰好……!」
「もうダメっ、殿方のが、勇者のが滾ってぇ……!」
「なっ!? まさか姫っ……そ、それは、それだけはっ!!」
あんなに心が躍っていたのが、それをあてがわれた瞬間急に冷静さを取り戻してしまった。
考えなくともこうなる事は必然だったろうが、それでも改めて自分が今『女』である事を思い知らせる、ソレ。
姫が僕の股間にあてがってきたのは、他ならぬ自分自身の男性の象徴。
それが今、逆の立場で挿入されようとしている……いやそもそもお互いの肉体が正しくとも、躊躇するというのに。
だが今の姫にはそれに気付く事も、ましてや抑える事も考えられないのだろう。
「ひっ、姫……この体は、貴女の本当の……!」
「私の……体ぁっ!!」
「ひぎぃっ!?」
かけた声も空しく、姫は腰を突きあげ、僕の股間の、姫自身へと僕のを突き立てて挿入した。
「あっ……くぁっ……!」
「あぁやっぱり私の膣内、とてもきつくて絡みついてくる……!」
「ひっ、めぇ……ひぁあんっ!!」
「あんっ、うんっ……!」
(ぼっ、僕の中に、僕のがぁっ……!)
太く熱い肉の棒が、男には存在しない空間を押し広げていき、それをこの体は顕著に感じとっていた。
(おっ、女の人はこんなのに耐えてっ……!)
姫が処女であるのは、姫が姫である以上間違いない事。
それが今、姫自身がその操を散らし、その痛みを僕が代わりに引き受けていた。
「うぁっ……あっ……姫っ、抜いっ……てっ……」
体の内側から引き裂かれるような感覚は、様々な戦いをしてきた僕でも辛かった。
その痛みに堪らず泣いて懇願するも、やっぱり姫は性欲に支配されていて。
「……ッ!! くっあぁ……!!」
「あぁんっ! 気持ちいいよぉ、気持ちいいよぉ!」
「んきゅうぅうっ!!」
手枷をはめられた状態では、姫に体を預ける事もままならず。
姫に抱きかかえられ、自分の体重でそのまま体の奥底へと侵入してくるソレは、益々いきり立ち僕を貫いてくる。
そして、姫が一気に腰を突き上げ、膣内の最奥を叩くと。
「……ふあっ!!??」
「あぁ、奥に……これが私のなのねっ……!」
「ひああっ!!」
強烈な快感に、理性も何もかも吹っ飛んだ。
「あっ……かっ……」
「もういい、こんなに気持ちいいのなら、私はこのままだっていい!」
「ひぐぅぅっっ!!」
こんな狂った男女の関係でも、肉体は律儀に反応して、僕らを犯していく。
肉欲にまみれ、互いに異性の快感を知ってしまった今、僕らの関係はただの男と女に成り下がった。
(あぁっ……)
魔王に負け、肉欲に負け、そしてあらゆる意味で自分に負けた今となってはもう、僕はただの……淫乱なメスだ。
(もう……何も……失うモノなんて……)
姿は僕でも、目の前に姫がいて。
僕も姫として、五体満足でこうしていられる。
ならもういっその事、このまま堕ちてしまった方が……気が、楽だ……
「ひっ……めぇ……」
痛みと快感と昂る感情で既に潤んだ瞳で、姫を……僕の顔を見つめる。
男の快感に躍起になっていた姫だが、それでも僕の視線に気付いたのか、ハッと顔を上げた。
「あぁっ……」
「姫ぇ……もっと、もっと愛して下さい……僕はもっと、僕を……貴方を感じたいのです……」
「ゆう……しゃ……」
姫がやっと、僕を僕としてみてくれた。
例え体が違えど、僕らは愛し合った者同士、勇者と……姫、なんだ。
そうして心が体に屈したその瞬間……
まるでそれを待っていたかのように、カチリという音と共に手枷の錠前が外れ、僕もまた自由の身となった。
「ふぁあっ!」
「んんんっ……!」
手枷によって多少なりとも軽減されていた重さが、一気に解放されて繋がり合う秘所に重く圧し掛かった。
「あくっ……」
「だ、大丈夫……?」
「うっ……へ、平気……です……もう、慣れました……」
「あぁ勇者、私は、私は……!」
「い、いいんです姫……僕が悪いのです、僕が、貴方を守れなかったばっかりに……」
「勇者……」
「だから、姫……ぼ、僕を……僕をもっと、犯して下さいっ!」
「!!」
「貴女の体でよがって、男である事も忘れたこんな情けない私をぉ……もっと突いて下さいっ!!」
「勇……者……アナタ……」
「! ハッ、ハハッ……アハハッ!!」
何を言っているんだ、僕は。
でもこうして繋がって、我慢できないのは僕も同じだ。
大きく見開いた姫の見据える目の中で、僕……いや、姫が見せた事のない顔をして、今か今かと待ち焦がれていた。
その瞳が、徐々に淀むと、姫は。
「フ……フフフ……」
「……?」
静かに笑って。
「そう……よね……もう私達は、戻れないのよね……ならもう、何も気にする必要なんて、無いじゃない」
「あぁっ……」
焚き付けて、焚き付けられて。
お互いが再度『愛』を誓い合うと、姫の男性がグッと隆起し、僕の女性がキュッと締め付ける。
「アハハッ! そう、もっとして欲しいんだ……なら私が、徹底的に……犯してやるっ!」
「あぁんっ!!」
姫が体勢を変え、僕の腰を手で持ち上げて、力強く腰を振り僕を、姫自身を犯していく。
「あぁんっ、んんんっ……!!」
自由になった両手が、疼ききって熟れに熟れた自分の乳房を、がむしゃらに揉みしだく。
「もっと、もっとぉっ!!」
「うぁっ、くああっ!!」
「んきゅぅうんっ!!」
室内に響き渡る、パンパンと肉と肉がぶつかり合う音に、クチュクチュと繋がった場所から漏れるいやらしい水音。
それに……お互いの荒い息遣いに、最早言葉も忘れた、喘ぎ声。
「はぁあんっ、あぁんっ!!」
「ふっ、くっ……!」
自分が誰なのか、解らなくなるくらいに異性の快楽に溺れて。
ただただ姫の女体が発する快感に揺り動かされて。
「あぁっ、姫っ、姫っ!!!」
「ゆう、しゃ……私、もうっ……!!」
「出してっ! 僕の膣内に、僕のをぉっ!!!」
「ゆ……しゃ……んあああっ!!」
「あああっっっ!!!」
一段と強まった快感が、僕らに男と女を教え、そして……
「あっ……はぁっ……」
「はぁっ……はぁっ……」
熱く滾った僕の子種が、姫の膣内に注がれて。
「……あぁっ……」
姫が一物をゆっくり引き抜くと、ドロリとした液体が僕の膣内から溢れ出てきた。
「私……自分を……」
「……」
姫の方は少し自分を取り戻していたけれど、僕は女性の快感に未だ打ち震え、戻れずにいた。
「私……私……」
「……姫……」
漸く落ち着き始めた意識の中、僕は姫に手を伸ばした。
落ち込みそうになった姫が、その手をギュッと握り返す。
(あぁ……力強くて、でも優しい手……)
自画自賛しているようで恥ずかしかったが、でも姫は、僕の事をこう感じていたんだな……
「勇者、私達は、もう……」
「……それでも僕は、貴方の傍を……もう決して離れません!」
「あぁっ、勇者……!」
人々には、国には、世界には……もう顔向けできない。
だからせめて、僕はこの人を……この人だけは、これからもずっと……
見つめ合い、言葉を交わさずとも互いに心通じ合い、僕たちは手を取り合った。
……けれど。
――――キィィィン。
「うっ、な、なんだ……?」
突然頭の中に響く不快な金切り音。
「勇者、あ、頭が痛い……!」
「ひっ、め……」
僕同様、姫もまたその音を聞いて、頭を抱え呻き始めた。
「魔王っ……! 何、をっ……!」
こんな事をするのは、当然奴しかいない。
吐き気すら催す頭痛に耐えながら、僕は扉の向こうに消えていった魔王の残滓を睨み付けるが……
饒舌な奴の声は一切聞こえず、聞こえるのはこの頭が割れるような音だけ。
「あ……ゆ、ゆう……しゃ……」
「ひ……め……」
握り合った手だけが、僕らを繋いでいたが……
容赦なく襲う意識の混濁に根負けし、姫の手は力尽き僕の手から滑り落ちた。
(くっ、そ……)
崩れ落ちる姫の姿を最後に、僕もまた……深淵へと誘われ、その身が冷たい床に倒れた。
(姫……僕は……)
――――ィィィン。
遠見の鏡に映し出された場所で、一組の男女が頭をかかえながら倒れた。
その様子を確認すると、腕組みをしていた魔王は背伸びをしてリラックスした。
「……んむ、終わったか」
魔王城の一室で勇者と姫の成り行きを見守っていた魔王。
当然引き連れていたサキュバスも一緒に……いや、先ほどより大人数で。
「あぁんっ、いいところなのにぃ」
「何アンタ、こんな甘ったるいののどこがいいわけ?」
「解ってないわね、人間のこの感情を熟成させると、極上の美味なのよ?」
「……私はヤだね、もっとこう気が狂うほど犯して犯して、ドロッドロに融けた魂が美味しいんじゃない」
「だから貴女はつまらない女なのよ」
「……へぇ、言ってくれるじゃない……何、私にケンカ売ってる?」
「そう思うならご自由に、ただ貴女の愛液まみれの魔力なんて、私の魔力の前にはただの尿よ尿」
「……このっ!」
「やめろ」
「! は、はっ、申し訳ございません」
「やーい」
「……お前もだ」
「はっ、はいぃ……」
「フン、まぁいい……さて」
サキュバス達を一声で抑えると、魔王は立ち上がって部屋を後にしようとする。
「それで魔王様、これからどうするおつもりで?」
声をかけられ、扉の前で立ち止まりマントを翻しながらサキュバス達と向き合う魔王。
その口元には、あの魔性の笑みがこれでもかというくらい零れていた。
「なに、あの二人にはもっと幸せになって貰おうと思ってな」
「?」
「フフフ、まぁ見ているがいいさ……ただまぁ、少し時間はかかるがな」
「あっ、魔王様また素敵な事考えてるー」
「もしかして、私達の出番があったりしますぅ?」
「そうだな、それは彼ら次第だが……まぁ面白い結果になるのは確かだ」
そう言い捨てて、魔王は二人の下へと向かった。
そして残されたサキュバス達が、各々これからの事を語り合い始めた。
「さぁて、どんな面白い事があるのかしら?」
「魔王様の事だもの、きっと素敵な事だわ……私達にとってね」
サキュバス達の、妖艶で不快な笑い声。
それは二人を襲った音にも似ていて。
/*--------*/
/* Lv.8 */
/* 凱旋 */
/*--------*/
「ゆ、勇者さま……!」
「やぁ、久しぶりだね」
「み……みんなぁー! 勇者さまのご帰還だー!!」
「えぇっ!?」「勇者さまがっ!?」「ほ、本当だっ! 姫様もいらっしゃる!!」
王国の門をくぐり、門番がその姿を見るや否や、驚いた表情と共に、門番らしからぬ叫び声をあげた。
その声を合図に、そこかしこから人々が現れ、無事帰還した英雄の姿を一目見ようと我先に前に出てきた。
「勇者さま! よくぞご無事で!」「おぉっ! 姫を助け出されたか!」「あぁっ、これで平和が戻るのね……!」
勇者帰還の一報は瞬く間に国中に広がり、王宮へと進むにつれ人々の数は増えていった。
「勇者さま!」「勇者さま!!」「キャーッ! こっち向いてー♥」
道すがら、人々からの歓声を受け、それに対し笑顔で手を振る勇者。
その一方で……
「ほら姫様、皆が我々の帰還を祝福してくれていますよ……貴女も笑顔で応えてあげて下さい」
「うぅうっ……!」
勇者にもたれかかり、覚束ない足取りで歩む姫。
「さぁ、顔を上げて……」
「そっ、そんな事言われてもぉ……」
俯いたままの姫は、何かを必死に堪える様な表情で、少し艶のある声で答えた。
――――時を遡って。
ピチャッ。
「……う……」
肌寒さと、滴る水滴の音に、目を覚ます。
(……なに……が……起こって……)
思い出そうとするも、頭の中がぼんやりしていて、考えがまとまらない。
ヒンヤリする床から体を起こそうとすると、胸元が下に引っ張られた。
「……?」
上半身を起こし、視線を下に落とせば、そこにはたわわに実った二つの膨らみが。
「え……?」
恐る恐る、両手で触れてみれば、指に吸い付く柔らかさに加え、揉まれる感覚に体が反応する。
「んっ……!」
思わずこのまま自慰に耽りそうになるのを、頭を振って考え直す。
「……これ……」
そうして疼いた下腹部に目をやれば、床一面から立ち上る臭いに、どろっとした液体。
そっと掬えば、粘り気を帯びて指に絡みつく。
「あ……ああ……」
それが何であるかを理解して、手が震え始めた。
その手でお腹に触れれば、どこよりも熱く火照った器官から溢れだしているのだと悟った。
「うっ、ううっ……!」
今の自分の状態に、頭を抱えて思い出そうとする……が。
(何で、何で……!?)
思い出せない。
いや、それどころか……掘り下げた記憶がどれも、身に覚えのない内容ばかりだった。
王宮での優雅な暮らし、王族としての立ち振る舞いや礼儀作法の授業、そして……
(これ……は……)
思いを寄せた人の、優しい笑顔に……魔族に連れ去られ、受けた……仕打ちの、数々。
「あ……あぁ……あぁあっ!!」
『自ら』のトラウマを呼び覚ましてしまい、恐怖に身を震わせ、抱きしめた。
「う……ん……」
「ヒッ!?」
そうして竦み上がったところに声が届けば、自ずと悲鳴も上がる。
怯えながらその声のした方を見れば、そこには……
「あ……え……?」
「んん……」
自分と同じく、生まれたままの姿で目覚めた、一人の男性。
その人物がゆっくり体を起こしていくと、天井を仰いですぅっと深呼吸をした。
「……」
そして、顔を下ろしながら目を開いていき、自分の両手を見つめ、何かを確認し始めた。
「……そう、これが……こういう事……か」
自身を弄り、何かを確認したかのように呟くと、男はこちらを見つめ、やや口元を緩ませた。
「ヒッ……!」
その表情に恐怖を覚え、小さな悲鳴が勝手に出てきた。
が、男は一瞥しただけで視線を別の方向へとやり、今度ははっきりと声に出した。
「もう大丈夫です、お入りください、魔王様」
「え……?」
その名に何かが引っ掛かったが、まだ纏まりきらない頭がピキッと痛みを発した。
「うぅっ……!」
突如襲った頭痛に頭を抱えていると、男が見やった先……部屋唯一の扉が開き、一人の男が入ってきた。
「どうだね、気分の方は?」
魔王と呼ばれたその男が、裸の男に歩み寄りながら、尋ねた。
「えぇ、もうすっかり慣れました……実にいい、まさに生まれ変わった気分です」
「そうかそうか、それは何よりだよ……さて、そうなるとだ」
「!!」
二人が互いに納得しあうと、同時にこちらを見つめてきた……
「あちらはまだ理解できていないようだな」
「仕方ありません、彼は私と違い何の準備もなく、いきなりですから」
「な、何を言って……」
「フフフ……」「ククッ……」
「あ……ああ……」
一人蚊帳の外に置かれ、まるで生まれたばかりの小鹿のように震える事しか出来ず……
それでも悪魔の企みは、間違いなく一歩一歩進んでいく。
怯える自分をよそに、男……魔王がこちらへと歩み寄ってきた。
当然逃げようとしたが、この狭い室内に逃げ道なんてなく、結局接近を許してしまった。
「気分はどうだね……勇者クン?」
「勇……者……?」
「おやおや、自分の事すら解らなくなってしまったのか? ……仕方ない」
「なっ、何を……あっ!」
魔王が手を伸ばし、頭を掴んだ。
抵抗も出来ず、ただただ成り行きを見守る他なかったが……
「!? うぅうっ……!?」
「これで、どうかね?」
「うぁっ、あぁあっ!!」
手から放たれた魔力が、頭の中を駆け巡ると……キィンッという耳鳴りと共に、おぼろげな記憶が鮮明になった。
「あぁっ、そんな……そんなっ!?」
「フフッ、どうだい? ……生まれ変わった気分は?」
「あぁっ、あああっ!!」
ま、魔王……!
そんな、僕は、私は……!
私は、誰なんだ!?
(い、いや、私は勇者……それは間違いないのに! ……なのに、何で!?)
自分を再認識して、改めて記憶を探り……そして自己矛盾に苛まれた。
どんなに記憶を遡っても、私の生まれも、私が勇者である理由も、私が……男であった記憶も、出てこない。
ううん、正確には……私は、私に恋焦がれていた……?
違う! なんてこと、これは、この、記憶は……!
「ひ、姫……姫の思い出?」
そう、思い出せど思い出せど出るのは、姫の記憶ばかり。
私自身の記憶は全くなく、あるのは私の事を客観的に見ていた、姫の中での私の姿だけ。
「そん……な……」
それに気付くと、私の心が一気に姫へと……女へと染まっていくのを感じた。
そうして、自分自身すら信じられなくなり、絶望に打ちひしがれてなお、私を苦しめるのは……魔王。
「改めて聞くが、どうだね気分は?」
「何、を……一体何を……!」
「それは今まさに身をもって体感している、君自身が一番よく解っているだろう?」
「私はぁっ、私は、勇者なのにぃ……!」
「違いますよ姫、僕が勇者だ」
「!?」
魔王と共に、今この状況を全て解っているであろう、もう一人の男……多分、僕の体でいる、この体の持ち主。
「ちっ、違う! だって私は……」
「なぜそう言い切れるのです? 貴女が勇者であるという証拠は?」
「そっ、それは……!」
「どうしました? 理由を仰ってください、姫様」
「ち、ちが……姫じゃな……」
「いいえ貴女は姫、我が国の第一皇女である姫様、その人なのです」
「私っ……はぁっ……!」
問い詰められ、言い返せず、全ての真が偽になって、全ての偽が真になって。
感情が昂って、涙を流す……その姿もまた、まさに女性そのもので。
「おいおい、余り苛めてやるな……泣いてしまったではないか」
「すみません、あまりにも強情なもので……」
「まぁいい、さて、状況を理解したところでそろそろ次の行動に移って貰おう」
「つ……ぎ……?」
「えぇそうです姫……帰るのですよ、我々は、ここから」
「!?」
「どうだね、実に優しいだろう我は? 約束を守り、褒美を授ける……これこそ、王たるものであろう?」
「あっ、貴方は魔王……! ただで帰すはずがない……!」
「フフン、察しがいいな……まぁもう遅いのだがな、そもそも何か忘れてはいないかね?」
「な、何か……あっ!?」
そう告げられ、ある事に気付いた。
なんで気付かなかったのだろう、こんな重要な事に、今まで……
「ひ、姫……アナタは、魔王と……!」
そう、こんな状況なのに、勇者……ううん、姫はあんなに冷静に振舞って。
それどころか、魔王を魔王様と呼び、それを魔王も受け入れていて。
「姫に何をしたのっ!」
キッと魔王を睨み付けたけれど、相変わらず飄々とした態度で、ヘラヘラ笑う魔王。
「我は何も。強いて言えば、姫の願望をかなえてあげた、といったところか」
「な……!」
その言葉の真意を得るため、姫へと視線を向けると……一瞬、口元を噛み締めてから、溜息交じりに語りだす。
「勇者、私はアナタをいつまでも待っていました……」
「ひ……め……」
「来る日も来る日も、魔族の仕打ちに耐え、アナタが助けに来るのを待ちわびていた……」
「なら、何で……」
その時ばかりは姫らしい表情を見せていたけれど、その質問をすると、ガラリと顔つきが変わった。
「それは……貴女自身が知っておられるはずですよ、姫?」
「!」
その一言で、突然脳裏に再生された、忌々しい記憶。
「あ……あ……あ……!」
「そうです、貴女は遅かった。だから僕は諦めた。そして願った……勇者にも、同じ目をとね」
「そ……んな……」
魔族に様々な方法で犯され、遂に心身ともに壊れた姫は、既に魔族に屈し、そして忠誠を誓っていたんだ……
その記憶が呼び起こされ、私は私自身が益々信じられなくなっていった。
「そんな……そんな事って!」
「でも事実なんですよ、姫。これは今この状況が、物語っているでしょう?」
「あああっ!!」
記憶が、彼らが、現実が……私に重く圧し掛かる。
その重荷に、この心も体も耐えられなくて、私はただ泣き叫ぶ事しかできなかった。
「だから、そう思い詰めさせるな……彼、あいや、彼女も必要なのだぞ?」
「あぁ……すいません、でもどうしても苛めたくなるんですよね、何故でしょう?」
「……それが、お前の本質という事だ」
「……フフッ、そうかもしれませんね」
「うぁぁっ……!」
私の泣きわめく声が、密閉された室内に響き渡って、私自身に返ってくる。
その声も、その叫びも、もう姫には届かない。
だって、私が……姫、なのだから。
――――そして。
「ほら、姫」
「ひゃあぅんっ!!」
勇者が姫の背中をポンと叩くと、姫は背筋をピンと伸ばした。
が、それは自分の意思ではなく……ずっと姫の体を苛む何かが、その振動で一気に震えたからだ。
「やぁっ、やめてぇ……」
「おや姫、まだ刺激が足りないと?」
「ちっ、違ぁ……」
「ならば笑って下さい姫、それでは民が不安がります」
「ふぁっ、あぁっ……」
見てる、みんな見てる……私達の無事を確認するように、たくさんの目がぁ……でも、でも……
「あぁっ……!」
「フフッ、どうしました姫? 何か……感じたのですか?」
「感じ……ひぅっ!」
み、みんな知らない……私がこのドレスの下で、今も犯され続けてるなんて……
あぁっ、それを知られたら、私は、私は……!
――――再び、時を遡って。
「イッ、イヤッ……! 何なの、それはぁっ!」
「ほら姫、股を開いてください……コレも城から解放される交換条件の、一つなのですから」
「だ、だってそんな……!」
魔王城の一室で私達は身を清め、勇者は勇者の、私は……姫のドレスを着こんでいた。
こんなドレス、着たくないのに……でもこれは私の服で、その着方も……知ってる。
そうして、言われるがまま帰り支度をしていると、先に着替え終わった勇者……が、何かを差し出してきた。
(だって、コレ!)
それは、勇者の手の中で蠢く、手のひら大の魔蟲。
勇者はその蟲を、あろう事か私の膣内に入れるよう指示してきた。
無論、そんなのイヤだけど……
「大丈夫ですよ姫、だってそのカラダは……何度も受け入れているんですから」
「あ……あ……!」
そう。
魔族が私を玩具にしていた時、あの蟲も存分に使われた。
あの蟲は……女性の体内に侵入して、ただひたすらに快楽を与え続ける、悪魔の蟲。
膣内をその動きで刺激し続け、子宮の奥深くに触手を侵入させ、常に中に出された気分にさせる……
そんなおぞましいモノを入れられて、『私』はゆっくりと壊れていったのを覚えている……
「いっ、いやぁ……!」
「さぁ姫、僕に任せて……」
「あ、ああ……いやあっ!!」
抵抗しても、敵わない。
だって彼は、勇者だから……男、だから。
――――それを知るのは、二人だけのまま。
「おぉ勇者よ、よくぞ姫を助けだしてくれた! 礼を言うぞ!!」
王宮、謁見の間。
民衆に讃えられながら、王宮へと辿り着けば、更に盛大な歓声と共に迎え入れられた。
「して、魔王は!」
「……残念ながら」
「ぬ……そうか、だがそれでも姫を連れ帰ってきたお主は、まことの勇者なり!」
「有難き、幸せ……」
二人の無事な姿を見て、流石の王も興奮を隠しきれなかった。
とはいえ仕方のない事でもある、大事な一人娘が、無事帰ってきたのであれば。
「さぁ姫、こちらにおいで……その麗しい顔を、ワシに見せとくれ」
待ちきれず、玉座から身を乗り出す王。
しかし姫はその言葉を聞いても顔も上げず、まるで感動の再開を拒んでいるようだった。
「どうした、姫? もうここは、お前の生まれ故郷なのだぞ?」
「うま……れ……」
「申し訳ありません王様、道中の過酷な旅に、姫は疲れておりますゆえ」
「お、おぉそうか、それもそうか……ならば姫は一刻も早く休ませ、その身を清め……」
「王様」
「? なんじゃ、少し待てい」
「いえ、大事なお話ですので……」
「そうか、だがまずは姫を……」
「いえ王様、これは姫様にも関わる大事な一件で御座いますので」
「な、何なのだ? 一体、何があった?」
勇者の口ぶりに、徐々にほとぼりが冷めていく王。
そして静まり返った広間の中、跪いていた勇者がゆっくりと立ち上がり、顔を上げる……
「な、なんじゃ……どうしたというのだ」
「王よ……魔王様からの、言伝を承っております」
「!? なっ!?」
「魔王ですと!?」
勇者の、思いがけない一言に、大広間にいた人々が一斉に騒めきだつ。
「な、何を言っている勇者……お前、今なんと……」
「ですから、魔王様からの言伝です」
「魔王『さま』だとっ!? 勇者、貴様もしや……!」
「フフッ……」
「え、衛兵! こ奴は勇者ではないっ! 捕えよっ……いや、か、かかれぇっ!!」
「!? ハ、ハッ!!」
愉悦とした空気が一転、剣呑とした状況に一変する。
「……覚悟っ!!」
衛兵が手にした槍を突出し、勇者を亡き者にしようとした……が。
「!? うわっ!!」
背中を向けたままの勇者。
その影がギュンと伸び、禍々しいオーラを放ちながら、全ての衛兵の背後から襲いかかった。
「うぐぐっ……くっ……ぅ……」
衛兵の体をギリギリと締め上げ、一人、また一人と落としていく。
「お……おお……」
目の前で繰り広げられた惨劇に、唖然とした表情のまま、手にした杖を落とす王。
「ヒィィッ!?」
大臣は震え上がり、裏へ逃げようとしたが……それもまた、影に狩られた。
「すごいなぁ、意思だけで人を殺せるなんて。流石魔王様の魔力」
「なっ……あっ……!?」
衛兵にも大臣にも見向きもせず、ただ毅然とした態度で王を見据える勇者。
その瞳は漆黒に染まり、どこまでも深い闇が続いているようだった。
「さて王様、改めて申し上げますが」
「貴様っ……!」
「あぁご安心下さい王様、貴方は殺しません……身内……おっと、姫が悲しみますからね」
「戯けた事をぬかしおって……!」
「フフッ、何とでも仰って下さい……結果は、変りませんがね」
「うっ、ググッ……!」
老いた体であらん限りの力を込める王だったが、当然、目の前の『悪魔』に対抗する術はない。
その様子を見て、笑いながら勇者は話を続けた。
「では……まず、魔王軍が隣国に攻め入っている頃であるというところから」
「なっ、何だとっ!?」
「このご時世に、あの平和ボケした国が落ちるのは……まぁ半日もかからない事でしょう」
「何という事をっ!」
「いいではないですか、その分ここが生き長らえれますし」
「おのれっ……!」
「そしてその軍勢は当然、この国へと侵攻する」
「!!」
「そこでです王……お優しい魔王様は、交換条件を与えてくれました」
「交換!?」
「えぇ、交換条件です。その内容は……私が王となり、この国を統治するのであれば、手は出さない、という内容です」
「なっあっ!?」
「貴方が身を引くだけで、国は救われる……実に素晴らしい条件ではありませんか」
「おまっ……えはっ……!」
「フフッ、どうします、王よ……自分の地位と、国民を天秤にかけられるのは」
……交渉とは名ばかりの、一方的な威圧。
それは、強者が弱者に、勝者が敗者に力を誇示するのに似ていた。
「そ、そんなバカげた話……!」
「信じようが信じまいが、貴方の勝手ですが……明日辺り、隣国の生き残りが伝令に来ることでしょう」
「勇者、お前……!」
「あぁそうそう、それと」
「!!」
勇者がその内面とは裏腹に、優しく姫を抱き起こした……その、表情は。
「おぉっ……ひ、姫! 何という……!!」
「あぁ……はぁっ……」
胎内の蟲に犯され続け、もう立っているのもやっとな姫は、苦痛と快楽の入り混じった表情をしていた。
「何という仕打ち……ひっ、姫に何をしたっ!」
「彼女には、僕の妻となるに相応しい体に仕上がるよう、調教しています」
「あ……!?」
押し寄せる波乱に、最早事態が呑み込めなくなり、目を見開いたまま立ち尽くす王。
そんな王に対し、片腕に姫を抱いたまま、剣を抜く勇者。
「さぁ王よ、選べ……生きるか死ぬかを!」
勇者の抜いた剣は、光の剣とは程遠い、漆黒の輝きを鈍く発する、闇の剣。
「おま……えは……」
掠れた声で、王が言う。
それを聞いて、勇者はニコッと笑い、答えた。
「勇者ですよ……ただし、魔王軍のね」
「お……お……」
……二人のやり取りの中、それを勇者の腕の中で聞いていた姫は……ゆっくりと、首を振って。
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/* Lv.9 */
/* 終焉 */
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……あの日から暫しの時が経った。
「オラァ! とっとと食料をよこしやがれっ!」
「アニキ! こんなところに隠してありやしたぜ!」
「あぁっ、や、やめて下さいっ!」
勇者の言う通り、魔王軍は隣国に侵攻し、三日と経たず滅ぼした。
そして、同様に魔王軍は……勇者が治めるようになった彼の国には、一切手を出さなかった。
それどころか、原生していた魔物すら姿を消し、一見平和が訪れたように見えたが。
「へへっ、コイツも頂いてくぜっ……!」
「イヤァッ!」
「やっ、やめて! 娘だけは……」
「うるせぇっ!!」
「アァッ!!」
「かっ、母さん!!」
代わりに魔王軍は隣国に留まらず、各地の国々をその強大な力を以ってねじ伏せていった。
国を失った人々は方々に逃げまどったが、何処へ行こうとも、魔王の恐怖からは逃れられなかった。
そんな中、ある噂が立つ。
『かの国は何かに守られ魔物が寄り付かない』、と。
それを信じ、人々はその国へ……勇者が統治する国へと集っていった。
当初は難民を受け入れていたものの、次から次へと押し寄せる人々の波は、最早突き返す事すら不可能となり。
当然備蓄は底を尽き、国は人々でごった返し、それでもなお人々が集えば……
「ぎゃあっ!!」
「オラオラッ! 食糧だっ! 食糧を寄越せっ!!」
人々の心が荒んで、其処彼処で略奪や暴動が起き始まるのは……そう、遅くはなかった。
「助けて下さいっ! 助けてっ……あぁっ!」
……そうして内から滅びゆく国を、王宮はその門を固く閉ざしたまま、その行く末をただ見据え聳え立つだけだった。
その王宮の、最上階にあるバルコニーから、下界を見下ろす、二つの影。
「見てごらん姫、君の愛した国は、魔族ではなく人々によって滅ぼされていくんだ……全く、滑稽だね」
そこにいたのは、半ば強制的に戴冠式を済ませ、この国の王として君臨した勇者と……その妃となった、姫。
「流石魔王様だね、希望を絶望に変える事にかけては、右に出る者はいない……それでこそ、魔王たる者」
「……ぅ……」
勇者は街の様子を見てケタケタ笑うが、姫はやはり……その身を震わせ、勇者に身を預けていた。
「まぁこの後どうなろうと知ったこっちゃないし、それよりも……」
「あっ……」
勇者が姫を抱き寄せ、見つめ合う……それは何処かで見たような、演劇のような光景。
「姫、この荒みきった世界で君は……どうしたい?」
「……わたっ……し……はぁ……」
顔は上気立ち、目に涙を浮かべ、頬を赤らめて、その緩んだ唇を震わせながら、姫は。
「ほら、言ってごらん……君の求めるものを」
「あっ……あぁっ……!」
……ドレスの下で、姫の体は未だあの蟲に犯され続けていて。
腿を伝い溢れ出た愛液は既に下着をぐっしょりと濡らし、ドレスに若干の染みを生み出していた。
彼女の心は完全に色欲に屈し、かつて『勇者』だった面影は、もうどこにもない。
それでもなお、姫のどこかに眠る勇者だった心が、未だに自信を否定し続け、そのせいで余計に体を疼かせる。
魔に肉体を犯され、肉体に魂を犯され……もう、逃げ場なんてどこにもなかった。
(……あぁ……)
見つめる勇者の……かつての自分の瞳に映る自分。
そこにいた、ただの快楽に溺れた淫乱な女を見て……勇者は……姫は。
「私っ……のぉ……」
「ん? なんだい?」
「私を……私の事を愛して下さい勇者さまぁ……!!」
「……フフッ、よく言えました♪」
「はぁぅんっ!!」
その言葉を聞いて、優しく耳元で囁く勇者。
が、それすら快感に変わるほど、姫の体は開発され、全身が性感帯となっていた。
「勿論愛しているよ、姫……でも、それだけじゃ足りないなぁ」
「!!」
「君は僕に、どうやって愛して貰いたいんだい? ん?」
「それっ……はぁ……」
……言ったら、もう引き返せない。
けれど、既に引き返す道もなければ、引き返したいと思う気持ちすら、微塵も無い。
姫の口元が、徐々に上がり、やや引き攣った笑みを浮かべると。
「わっ、私を……私の事を……」
「ん?」
「……私ぉ! 無茶苦茶に犯してっ! こんな蟲じゃなくて、貴方ので私を突いてっ!!」
「……フフッ、よく言えました♪」
「はぁっ……♥」
その言葉を聞いて、口付けを交わす勇者。
蕩けるほどの甘美なキスに、姫は引き攣りながらも笑顔を取り戻し、自らもキスを求め、勇者に抱き付いた。
「はぅんっ……!」
「んっ……」
バルコニーの外から、悲鳴が聞こえたが……もう、二人の耳には届きはしない。
「それじゃ、寝室に行こうか……色々と、用意してあるよ」
「待ってぇ……もう、我慢できないのぉ……」
「おやおや、ここでかい……? まぁいいさ、滅びの歌を聴きながら、愛し合おうじゃないか、『姫』……」
「『勇者』……さまぁ……♥」
……愛を誓い合った二人が、およそ場違いな状況にもかかわらず、互いを求め合い始めた。
王宮から上がる、嬌声。
街の各所から上がる、罵声に、悲鳴。
その光景は、魔族の住まう世界と何ら変わらぬ様相を呈していた。
fin.