活版印刷、羅針盤、火薬
蒸気機関、電話、トランジスタ
様々な発明が、人類の生活を大きく変えてきた。
何の授業か、どの先生だったか覚えていないけど、小学生のとき、そう習った。
脳神経接続インターフェイスも、そういった偉大な発明の一つなのだと思う。
10年前に発表されたばかりなのに、世の中の多くの物が、それによって操作されるようになった。
専用のヘッドセットをつければ、頭の中で考えるだけでよい。
練習する必要はない。
老若男女、全ての人達が使えるのだ。
広まるのは当たり前だとおもう。
画期的なシステムの最新の利用法が、体感型オンラインゲームだった。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚
人間の五感のすべてを操作し、ネットワーク上につくられた架空の世界にログインする。
現実と見分けのつかないヴァーチャルな世界。
世界のあらゆる場所で、絶大な人気を誇っていた。
俺もかなりハマっているのだが、海外で人気ナンバーワンのゲームには手を出していなかった。
そこで、ほとんどゲームをしたことのないという友人を誘って、始めてみることにしたのだ。
その友人は、高校からの同級生で、親友だ。
お互い学部は違うが、同じ大学に通っている。
友人は苦学生なせいか、オンラインゲームをほとんどしたことがないようだった。
ちょっとなよっとしたところがあって、大人しいタイプだが、真面目で性格がよい。
美少年というか、見た目は女っぽかった。
その彼が、まさか、これほど不幸な事件に巻き込まれてしまうとは、とても想像はできなかった。
ログインして待ち合わせ場所にいくと、声をかけられるまでは全然気づかなかった。
そりゃ、そうだ。
こんな外見が違っていたら、気づけというほうがおかしい。
「………ネカマでもやるつもりなのか?」
驚いてしばらく言葉のだせなかった俺が、ようやく出した一声はそれだった。
「だって、せっかく架空の世界にいるんだよ、いつもの自分とは違うキャラやったっていいだろ??」
澄んだ高い声で、友人はいった。
どう聞いても女性の声だった。
甘く溶けてしまうような声質は、ぴったりと合った外見をもっていた。
そう、友人は魅力的な美少女として、俺の前に現れたのだ。
友人は、女魔法使いのアバターを選んだようだった。
かなり、というか現実では見たこともないような魅力的な女の子だ。
弓型の眉の下に、アーモンド型の大きな瞳が輝いている。
筋の通った鼻稜と、ふっくらとした魅惑的な唇が艶やかに微笑んでいた。
盛り上がった乳房は、おそらくFがGカップはあるだろう。
それに反してキュッとウエストは引き締まっている。
張り出したお尻は丸々としているが、全体的にはスマートな印象だ。
細身なのに、出るところはキッチリしている、モデルかアイドル並みのプロポーションだった。
「しかし、よくそんなアバター選べたな。体、負担すごいだろうし、金もかかっただろ?」
体感型オンラインゲームは、脳と直接接続してバーチャル世界を楽しむものなのだが、全身の感覚を操作するため、現実の自分とあまり差があると負担がかかりすぎるのだ。
そのため、それぞれの脳にあわせて、変更できる安全値が設定されている。
俺の場合、現実より身長を高くし、世界観に合わせて、髪や肌の色を変える程度しか出来なかった。
女性の項目なんて、最初から選択することさえできなかったのだ。
「え?そんなことなかったよ。かえって男性のほうが選択項目が少なかったよ。性別を女性にしたら、いきなり選ぶこと増えちゃって、わからなくなっちゃった。結局、おまかせで設定しちゃったよ。」
無邪気に微笑む声が、耳に心地良い。
ずっと聞いていたくなるような、可愛い声だった。
だが、おかしい。
これだけのカスタマイズが無料でできるはずがないのだ。
「ちょっと、おまえのパーソナルデータ、見せてみろ。」
嫌な予感が拭えない。
「え、なんだよ、いきなりだな?まあ、いいけどさ。」
友人が右上あたりの空間に手を延ばす。
独特の操作で空中にコンソールが浮かび上がった。
俺にむかって、パーソナルデータの参照許可をだす。
急いで、同じように空間操作をして、友人のデータを覗く。
”ミスティ=エンジェル”
最初にキャラクターネームが表示されていた。
その後続くパーソナルデータは、こうだった。
身長:164センチ
体重:50キロ
バスト:88センチ
ウエスト:60センチ
ヒップ:86センチ
顔データ:デフォルトにプレイヤーデータを加味。魅力度MAX
体臭データ:高級香水をベースにプレイヤーデータを加味。魅力度MAX
体感覚:性交能力を重視で感覚MAX
ありえない数値が並んでいた。
これだけの修正をしたら、高級車が変える程、料金を取られるはずだ。
どうして、こんな手間と時間をかけたのだろう?
「え?お薦めキャラクターっていうのを選んだだけだよ、お金かからなかったけど。」
小首をかしげて、戸惑いの表情を浮かべる。
うーーーーーーん、めっちゃ、かわいいぞ、やばすぎだ。
キャラクターデータ表の別のタグを開く。
このキャラ、”ミスティ=エンジェル”は運営側の提供しているものだった。
こういう魅力的なキャラがいなければ、ゲーム自体に、なかなか人気がでないからだ。
デフォルトキャラクターである女魔法使いのアバターにログインできる者は、容姿等リアルでもかなりレベルの高い若い女性に限られるだろう。
男性が、こんなアバターを選択できるはずがないのだが。
SSSクラスキャラクターと明記されていた。
無料どころか、ログイン時間数で逆に報酬が発生するタイプのアバターだった。
あれ?
おかしなことに気づく。
特別報酬が2時間単位で設定されていた。
2時間拘束される毎に、俺の1週間のバイト代に相当するくらいの金額を受け取れる。
ま、まさか?
別のタグを開くと、嫌な予感は的中していた。
”ミスティ=エンジェル”は、セックス用アバターだった。
要は、娼婦ということだ。
体感型ゲームでは、女の子が安全にセックスを売り物にできる。
病気を移されることも、妊娠してしまう心配もない。
ゲームの運営会社が、アダルトモードとして正式に認可しているのだ。
ほとんどの設定がフリーになっていた。
相手にどんな要求をされても、断ることはできないようだ。
もちろん、ここは正式運用のサーバーなので、あまりにも猟奇的なもの、例えば殺されたりとか、体を傷つけられたりなどの行為は不可能になっている。
だが、2時間の拘束時間内なら、ログアウトの権利は奪われ、一般的なセックスの要求であれば、拒否できないのだ。
ピロロッ
友人のアクセス画面にメール等の着信報告があがった。
”ミスティ=エンジェル”への予約がはいったという報告だった。
次々と予約欄が埋まっていく。
SSSクラスのアバターが稼働するのは、かなり珍しい。
金に余裕がある連中で、このゲームのプレイヤーなら、見逃すことなどありえなかった。
このままでは、友人はログインしている間中、ずっと娼婦として働くことになるだろう。
一日の半分以上を、特別報酬の設定枠にされていた。
かなりの異常事態といえる。
あわてて、取りまとめて友人に現状を報告した。
「ど、どうしよう、そんなの知らなかったよ!」
涙目になっている友人だが、その上目遣いの仕草が、可愛すぎる。
思わず抱きしめそうになってしまう俺だった。
「と、とにかくログアウトしろ!!このままじゃやばい。」
「う、うん、わかった。」
細く長い指が空間を操る。
その手の動きも、なんだか踊っているようで悩ましい。
急がないと最初の予約開始まで、あと10分もなかった。
「あ、あれ??なんで?ログアウトできないよっ」
何度も操作しているらしいが、ログアウト画面表示されないらしい。
バグなのか?
だが、そんな致命的なエラーなんて聞いたこともない。
「お、おまえ、今、どこからログインしてる?自宅からか?」
間に合わないだろうが、友人の部屋まで30分程度でいける。
頭に装着されているヘッドセットを取り外せば、強制ログアウトできるはずだ。
「いや、外からなんだ。駅近くのネットカフェ」
友人はフルダイブタイプの端末を使っているらしかった。
個人所有のものは、頭に装着して脳に情報を送るタイプだ。
簡易で安価な反面、若干のノイズが入るため、体験する際の感覚は鈍い。
これを使うのを、セミダイブタイプ と呼んでいる。
首の後ろ、脳髄に直結するコネクターをサイバネティック手術で付けると、フルダイブといって、完全にリアルと同じ感覚を得ることができる。
でも、これも高額な手術費用がかかる為、マニア向けのものだ。
コネクターを付けていない人間がフルダイブを楽しむには、全身を特殊な液体のはいったカプセルに浸す方法がある。
大きめのネカフェでは、何機が導入していて、時間単位でレンタルすることができた。
駅前のネカフェの名前を聞き出す。
覚えのない場所だった。
最近できたところらしい。
初回無料体験というチラシが入っていたので、いってみたらしい。
まったく。
我が友人ながら、こういうところが軽挙というか、無料という言葉に弱すぎる。
「ちょっと興味があっただけなんだ。女の子体験してみたかっただけ。男とセックスするなんて、そんなの嫌だよ。」
瞳に涙がジンワリと浮かぶ。
嫌悪と焦りのせいか容貌が軽く歪むが、美しさが衰えることはなかった。
「とにかく、今すぐそのネカフェにいくから。なんとか誤魔化してログアウトするまでがんばれ。」
「う、うん。たのむよ、お願いだ。」
現実ではありえないくらいの美少女が俺を頼りにしてくれる。
こんな状況なのに、そのことに喜びを感じてしまった。
アバター”ミスティ=エンジェル”のセックスアピールは、破壊力抜群だった。
そのとき、スウッと友人の姿が消えた。
フレンド登録をしていたので、現在地を確認することができた。
どこかのプライベートエリアのようだ。
かなりゲームに金をつぎ込んでいなければ、そんなところに自分の部屋をつくることはできない。
このままだと、そのプレイヤーを最初の客とすることになる。
俺はいそいでログアウトした。
着替えもそこそこに、バイクに乗り込んだ。
友人をなんとしても救い出さなければならない。
結論からいうと、俺は無力だった。
友人から聞いたネカフェにいってみたが、そんな客はいないということだ。
リアルダイブ用のカプセルが数台あったが、俺が着いたときは誰も利用していなかった。
勘違いだったのかと、周辺のネカフェ、更には隣町のネカフェにまで確認しにいったが、友人を発見することはできなかったのだ。
運営会社は海外にあった。
なんとか状況を説明するが、苦手な英文ということもあり、なかなか上手くいかない。
第三者である俺では、友人の情報開示を求めるのが難しかったのだ。
何もできずに、時間だけが過ぎていってしまう。
ほんの数日で、SSSクラスアバターの”ミスティ=エンジェル”は大人気になっていた。
彼女のリアル情報を知ろうとするプレイヤーは数多く、俺の立場では騙りだと思われてしまうのだ。
運営側も、かなりの利益を叩きだし、ゲームの人気を支える存在になりそうなアバターを守ろうとしているようだった。
友人は天涯孤独の身の上だった。
両親を幼い頃に失ったときいていたが、親戚関係でさえ、ほとんどなかった。
なんとか、友人が消息不明だということで、警察のサイバー科に被害届を出すことができたのは、もう2週間以上の時間がたったあとだったのだ。
”ミスティ=エンジェル”の予約状況はすごいものだった。
一日に、2時間の枠が8つ設定されている。
24時間のうち、16時間を娼婦として男性にサービスしていることになる。
肉体的な負担のない体験型ネットワークゲームでなければ、ありえないことだ。
だが、これでは脳や記憶のほうがおかしくなるはずだ。
料金は運営の設定する最高金額まで跳ね上がっており、実質はサーバー内のオークションでなければ手に入れられない。
多くの希望者を消化する為なのか、3つほどは複数プレイに設定されていた。
一度に3人の男を相手するようになっている。
こんな状況を友人自らが設定するはずがなかった。
なにかの犯罪に巻き込まれていることは確実だった。
ここで、俺は焦って大失敗をしてしまった。
ゲーム内掲示板に、”ミスティ=エンジェル”が実は男だということを書き込みしたのだ。
なんとかしたかった。
そう書き込めば、多くのプレイヤーが興味を失うと思ったのだ。
だが、現実は全く正反対だった。
”まじ、ミスティちゃん、男??”
”男の娘萌え、来たーーーーーっ!!”
”あんな可愛かったら、男でもいいじゃん。”
”いや、むしろボーナスです!!!最高です!!”
”俺、ミスティと合体経験ありだけど、まじサイコーだよ、めちゃ気持ちいい。感じやすくて素直でいい子。”
”体感度、性感MAXは伊達じゃないなwwww”
”羨ましすぐる”
”演技じゃないの確定なんだもんなーーこれに比べたらリアルの風俗なんて糞もいいとこ。”
”ミスティの今のシンクロ率97%だぜ。普通ありえねー”
”それって、リアルと同じアバターでも出せない数字じゃないか?まじかよ”
”ミスティちゃんの脳にとっては、リアルの男の体より、今のアバターのほうが適合してるってことだねえ。萌え萌えー”
その無責任なコメントの数々に、怒りを隠せなかった。
頭に血が登ってしまっていた俺は、更に迂闊な言動を繰り返してしまう。
リアル知り合いだということを強く主張し、本人はこの状況を望んでいないということを、訴えたのだ。
”なに、こいつ、必死になってんの??”
”ミスティ=男説 を最初に言い出したのこいつじゃね?”
”デマ流すなっつーの。ミスティが男のわけないじゃん、システム的に無理無理”
”だよなー、あのアバターで男はありえない。”
”てか、本人が嫌なら、拘束時間外にログアウトすればいいだけじゃん”
”ミスティちゃん、ログイン時間マジ長すぎ。セックス大好きなんじゃね?”
”淫乱ミスティちゃん、はあはあww”
”実際Hしてみればわかる。性格はなんか清楚系、でも、性感よすぎで、感じまくり。淫乱ていうか敏感ていうか、そんな感じ”
”経験者さん、おつ”
”うおおおおおおおっっ、俺、絶対予約する、夏のボーナス全部つっこんでもいい!!”
次のコメントが、俺に友人の悲惨な状況を認めさせることになる。
このときまではまだ、俺は彼の苦境を具体的に想像することを避けていたのだ。
”じゃあさ、確認してみるよ、俺、明日ミスティの予約とれてるからさ。”
”え?なに、どーゆうこと?”
”公開セックスして、質問権も設定してみるわー、リアルは男ですか?女ですか?て質問、申請してみる”
”神あらわるwwwwww”
”そんなリアルにかかわるぎりぎりの質問、通るのか??”
”いや、このゲーム、基本リアル性別偽れないじゃん、特殊体質除いて。男か女か?なんて質問、当たり前すぎて禁則に設定されてない。”
”まあ、リアル住所とか名前とかは、自分で発言することもできないからな。試してみるのはありか”
”SSSクラスアバターとのHを公開にしたうえ、そんな質問権設定するなんて、いくらかかるのよwww”
”いや、俺、めちゃお金持ちなので、無問題ww”
”まじ神だwwwwwありがたいwwwwww”
”しかしさ、ミスティ=男だっていうのが本当なら、もしかしてフィジカルフィードバック現象が起きてるんじゃないか?”
フィジカルフィードバック という言葉は聞いたことがあった。
ネットで調べてみる。
脳神経接続を使ったバーチャル体験で、自分の実際の肉体と異なる状態を長く続けると起こる副作用のことだ。
昔からある例だけど、催眠状態で普通のペンを焼けた火箸だと思い込ませると、当てた部分の皮膚が実際に火傷と同じ状態になる。
脳は身体を支配している器官なので、そんな事も起こりうるのだ。
体感型ネットゲームの脳神経接続は、その何十倍も影響が大きい。
俺も実際、長時間プレイしていて、髪の色が若干だがゲーム内キャラに近づいてしまったことがある。
脳接続で設定している状態に、現実の身体が合わせようとして変化してしまう。
それを、フィジカルフィードバック現象とよんでいた。
”ミスティは、シンクロ率9割超えてるだろ?、あんな長時間ログインしたせいで、リアルの肉体がアバターと同じになっちまってるんじゃね?”
会話ログでしかないのに、そのコメントによって、雰囲気が変わるのががわかった。
数瞬の間を置いて、一斉にコメントが立ち並ぶ。
”リアル女体化じゃないですか!!!”
”すげえええええええええええ、まじきたこれ”
”いやいやいや、いくらなんでも、そこまではないだろ?”
”実例あるよー、男性化のほうだけど。脳神経接続とそこまで親和性のある人間なんて、ほとんどいないから例が少なすぎるんだけどね”
”え?まじなん?そこまで変わるもの?”
”うむ!!その例だと、遺伝子から変化して、生殖能力まであったらしいよ。”
”俺も見てきた。シンクロ率80%台じゃん、その例の人。”
”自分と違う性別のアバターで、80%とかありえるんだ。どうやるんだよw”
”ミスティ=エンジェル はシンクロ率97%オーバーです、ありがとうございますwwwwwwwww”
”実例の人だと、ログイン時間1000時間くらいで完全に性転換したみたいだね。”
”ミスティちゃんの、今の総ログイン時間どのくらい?”
”今調べる。えーと、69日目、1098時間42分20秒”
”楽勝で超えてんじゃん”
”69日で1000時間超えって、どんだけ廃人なんだよw”
”めちゃ稼いでいるんじゃね?予約常にいっぱいだぞ。おまえらよりよっぽど偉いwwww”
”1000時間ずっとHしてるんだよな、こいつ”
”えろすぎwwwわろたwwwwww”
”アバターは完全に女性仕様だぞーーー子宮とかも、ちゃんとあった。”
”経験者2号さん、あらわる”
”子宮口、亀頭でグリグリしてやった。いきまくりんぐ。子宮気持ちいいって、淫語、本人にも言わせたった”
”だから、羨ましすぎるっつーの”
”まあ、落ち着けって。リアル男だって決まったわけじゃないだろ?俺は疑っているぜええええええええええ”
”そら、そーだ。”
”んじゃーそのへんも質問権とっておいてやるよー、男だった場合に限定で、今、あなたの現実の肉体はどうなっていますか? て設定してみる。”
”さきほどの神さま、再降臨!!”
”まじ感謝”
嫉妬心
俺が今、感じているのは、強烈な嫉妬心だった。
できるだけ考えないようにしてきたのだが、もう無理だった。
今、この瞬間にも、あの日見た可憐な美少女が、他の男に抱かれているのだ。
自分の感情を認めるしかなかった。
ほんの数十分しか会っていなかったが、俺はミスティ=エンジェルに恋してしまっていたのだ。
彼女は、俺を頼りにしているといってくれた。
その期待に応えなければいけないのだ。
俺だけが、本当の彼女を知っている!
親友だった俺こそが、彼女にふさわしいのだ!!
国道沿いにあるネカフェに入ったのは、昼過ぎだった。
昔は、実物の漫画の本が大量にならんでいたらしいが、ほぼ電子書籍に変わった今は、個々に隔離されたブースが並んでいるだけだ。
あまりやる気のなさそうな店員に、フルダイブ用カプセルの利用を求めた。
1時間あたり、この店員がもらうバイト代の倍くらい取られる。
まあ、相場というところだろう。
サービス券なども特にもっていないので、とりあえず6時間パックを選んだ。
これなら、4時間分の料金で利用できるからだ。
フルダイブ用カプセルの置いてある部屋に入る。
狭い部屋に、全身を横たえることのできるカプセルが鎮座していた。
他は、脱いだ服をおいておく棚があるだけだ。
俺は服を脱いで全裸になると、カプセルのスイッチを入れた。
ブーーーンという稼動音がすると、ゆっくりと上部前面に配置された蓋がひらく。
内部は、液体というかゼリー状の透明な物質で満ちている。
セミダイブ用のヘッドセットを身につけ、更にこの液体で全身の皮膚感覚を利用することで、フルダイブを行うのだ。
アダルトモードのサービスを利用する場合、ほとんどのプレイヤーはフルダイブを選択する。
リアルと全く同じ感覚を得られるフルダイブでなければ、セックスのようなサービスを十分に甘受できないからだ。
特に、ミスティ=エンジェルのようなSSクラス以上のアバターの場合、運営がフルダイブ専用に設定したりしている。
そう、俺は友人と直接コンタクトすると決意したのだ。
方法は一つしかなかった。
ミスティ=エンジェルの客としてセックスサービスを受ける。
超人気アバターである彼女と、一般プレイヤーでしか無い俺との接点はそれしかなかった。
もちろん、ミスティの予約は常に埋まっている。
キャンセル待ちをするしかないが、通常の一人枠はそれでさえ10人以上の待機になっていた。
ただ、複数プレイの時間のみ、3人のうちの誰かが落ちてしまって15分以上戻らないときに限って、早いもの勝ちで他のプレイヤーが交代することができた。
めったにあることではないが、それに賭けるしかない。
ヘッドセットをつけ、カプセルの中に入った。
ゆっくりと全身をぬるっとした液体につける。
頭部周辺のみが分離されていて、そこだけ新しい充填液で満たされた。
肺まで液体が入ってくる。
慣れないと、かなりの違和感があるのだが、呼吸が苦しくなることはない。
酸素は充填液から供給されるのだ。
目を閉じて、ログオンを待つ。
まもなく、感覚が現実から切り離され、ゲーム世界にプレイヤーとして降り立った。
設定は何もいじらなかった。
素のままの俺で、現実世界と変わらない。
ログイン直後に訪れるロビーは、活気に満ちていた。
何人ものプレイヤーが、思い思いの装備を身につけている。
これからモンスターを狩りにいくつもりなのだろう、パーティー編成している人が多数派だった。
だが、俺の目的は違う。
コンソールを呼び出すと、アダルトサービスゾーンを表示した。
年齢認証と追加料金がかかる旨のメッセージが流れる。
全てにYESを選択すると、ミスティ=エンジェルを検索した。
現在は、一人プレイの時間枠で、残り25分と表示されている。
値段設定は最高額だが、チケット制になっていた。
あまりにも人気が高い場合、チケットという形でサービスを受ける権利を販売するのだ。
そうすれば、設定上の最高額を超える値段設定ができるし、ゲーム内のオークションに出品することもできる。
アバター本人に一部チケットが渡される形になるので、その対象となっているSクラス以上の女の子は、自分でオークションに出品している。
ミスティ=エンジェルもそうして収入を得ていた。
相場は運営設定最高額の3倍以上だ。
1日8枠のチケットのうち、ミスティ本人が3枚を無条件で受け取っている。
それを売るだけでも、かなりの金額になるのは間違いなかった。
複数プレイ枠は、今の個人枠が終わってからの2枠に設定されていた。
アバター:ミスティ=エンジェルのページにアクセスすると、立体視で彼女の全身像が浮かぶ。
パーソナルデータを元に作ったホロデータだ。
実際の半分くらいの大きさの彼女が、簡単な振り付けのダンスを踊っている。
女魔法使いのデフォルトである、黒いドレスを身に着けていた。
同じ色のガーターベルトとニーストッキングを履いた長い脚を、前後に軽く組むようなステップを踏んでいる。
それに合わせて、肘まであるレースの手袋をはめた両手を、胸の前で組み合わせる動きをとる。
コケティッシュで魅力的な笑顔を浮かべ、ときおり曲に合わせて”ルルルールー”と歌をうたう。
キャラ紹介用に用意されたデフォルトの動きなのだが、ほんとうに可愛い。
いや、もう、かわいすぎる、可愛すぎるって。
次の予約枠に切り替わるまで、まだ少し時間があった。
試しに、ミスティ=エンジェルから、パーソナルデータを抜いて、デフォルトに変えてみる。
友人のデータを抜いて、運営の用意した基本状態のアバターに戻してみたのだ。
なんだ、この差は!!?
その驚きが全てだった。
ホログラムの半透明なキャラクターの動きが変わったわけじゃない。
ほんの僅かな違いの積み重ねなのだ。
顔のパーツそれぞれの些細な角度や大きさ、身体の膨らみの微妙なラインの違い。
それらが合わさって、全体として魅力に天地程の差がでてしまっている。
何度もデフォルトからパーソナルにデータを切り替えてみた。
表情をアップにすると、リアルで知っている人間ならわかるだろう。
確かに、現実世界での友人の面影がはっきり残っていた。
これに、彼の控えめで素直な性格が組み合わさるのである。
人気がでないはずがなかった。
10分間のインターバルを置いて、次の枠に切り替わった。
フレンド登録している俺には、ミスティの現在地が確認できる。
アダルト専門のレンタルルームだ。
SSS登録アバター専用の豪華ルームだった。
そこが、彼女の主な職場なのだろう。
セックスドール、ミスティ=エンジェル が閉じ込められている牢獄だ。
ギリギリと胃が痛む。
この2ヶ月半ちかく、できるだけ考えないようにしてきた。
わざと意識の外に置いておいた感情だ。
ミスティが、今、その場所で、男に抱かれているのだ。
嫉妬心は、高まりつづけ、俺を苦しめた。
時間は刻々と過ぎていく。
俺は、予約状況の表示ボードを、ただ、ただ睨み続けた。
2時間がすぎ、最初の枠は、何事もなく終了してしまう。
次の枠がはじまり、しばらく経ったとき、待ち望んだシステムメッセージが流れた。
”第1プレイヤーが、ログアウトしました。キャンセル待ち状態にはいります。”
だが、その後、注意事項が表示された。
”ログアウトしたプレイヤーは、プレイ時間を分割利用していました。キャンセル待ちでの利用可能時間は16分間です。
また、他2プレイヤーの残り時間終了後での、利用となります。ご了承ください。”
かなりわかりずらいが、複数プレイの場合、いくつか選択肢があるのだ。
1枠の基本時間は、単独プレイ、複数プレイともに120分だ。
複数プレイは3人で1枠なので、一人頭の持ち時間は40分になる。
この持ち時間を独占するか、他のプレイヤーと一緒に乱交するかは、それぞれが選べるのだ。
ABCの3人が、独占を希望すれば、それぞれが40分ずつ順番にアバターとセックスする。
ABC全員が乱交を希望すれば、120分間、1対3のセックスをすることになる。
今回は、Aプレイヤーのみが独占を希望したので、最初の40分間をAが一人で、残りの80分間をBCが1対2でということになったわけだ。
ところが、Aプレイヤーは今回、24分間経過した時点でログアウトしてしまった。
彼の残り時間はまだ16分ある。
この16分間の権利を、正規料金をまるまる払うことになるが、買うことができるのだ。
普通に考えれば、ばかばかしいことだろう。
だが、ミスティとのセックスを希望しているわけではない俺にとっては、これはチャンス以外のなにものでもなかった。
ライバルはかなり少ないに違いない。
予想通りだった。
15分間の待機時間が終わった後、俺はすんなりミスティのプレイルームに参加することができた。
”スペシャルステージへようこそ!!”
ワープゾーンへ入ったことを告げる音楽のあと、暗かった視界が徐々に明るさを取り戻していく。
身体は実体化しなかった。
別客の持ち時間中らしく、俺はただ眺めるだけの幽霊のような存在らしい。
視覚と聴覚のみが、その部屋の情報を伝えてくる。
自分の持ち時間がやってくるまで、この状態が続くようだ。
そこは中世風のクラシカルな寝室だった。
レンガ作りの壁に、大きな姿見の鏡、重厚なクローゼット、いくつかの風景画や人物画。
大きく取られた窓は複雑な彫刻が施され、室外からの淡い光を取り込んでいる。
そこだけ利便性を優先したのだろうか?
大きな丸いジャグジー風呂が部屋の左側を占めていた。
木製を装った装飾がしてあるので、それほど違和感があるわけではない。
一番目立つのが、4人は楽に横になれる広さのある天蓋付きのベッドだ。
周囲には、そこに寝るものの姿を映し出すように鏡が配置されている。
上品さと重厚さを兼ね備えた部屋だが、そこが男と女がセックスをするのに最適に設計されているのがわかる。
装飾の施されたラウンドソファも、肘当ての部分が高めで引っ掛けることができるような作りになっていた。
彼女は、そこにいた。
ソファの設計者が意図した通りの姿勢を取らされている。
肘掛けに両脚を引っ掛けていて、M字開脚を強いられていた。
背もたれは、肩のところでカーブを描いており、首を預けつつも自由にできる。
誰かがそこに立っていれば、股間が丁度頭の位置になる。
黒のニーストッキングとガーターベルトだけを身につけた可憐な肢体に、男が二人、群がっていた。
ミスティの白く透き通るような肌と、浅黒い男達の肉体が、酷いコントラストを見せている。
一人はでっぷりと脂肪ののった脂ぎった50前後のおっさんだった。
この男は床に跪き、ソファで無理やり脚を開かされているミスティの前でしきりに何か動かしている。
もう一人は、痩せぎすだが運動不足で腹だけが出ている30歳くらいの男だった。
典型的なオタクの外見をしている。
奴は、ソファの横に仁王立ちになり、彼女の前に腰を突き出していた。
彼らは今の俺と同じように、現実の自分の姿を加工せずにいるのだろう。
一部、ペニスを除いて。
二人共、陰部だけは隆々として、凶器じみた大きさをしていた。
バーチャルセックスの利点がこれだった。
現実で例えインポテンツだったとしても、脳接続システムの元では、絶倫で巨根を経験できる。
バイアグラどころの話ではないのだ。
役立たずになったおっさん達が、大金を投じている理由だった。
この二人も、身体加工の許容値ぎりぎりまで、セックス目的に特化しているのだろう。
「んんっっ、あああっ、くうううんんっっ、い、いあっ、やあっっ」
半分泣いているような、押し殺しているが、快感の響きを隠し切れない女性の声が響く。
あの日聞いた、友人の声だった。
高く澄んだ声が、淫らな色に染まっている。
細く長い首を横に向け、オタク男の怒張を口に含んでいた。
キラキラと輝くプラチナブロンドのロングヘアーの頭を、抑えられている。
必死でしゃぶりつづけているのだが、時折、苦しさと快感の半ばのような声とともに、行為が中断される。
その原因は、おっさんにあった。
ミスティの大きくM字開脚された股間を弄んでいるのだ。
片手に太く蠢くバイブをもち、陰核に当てている。
バイブが動くブーーーーンというモーター音が聞こえる。
右手の人差し指と中指が、ぬらぬらとした陰唇を割って、膣内に入り込んでいた。
それが、抜き差しされて、強い刺激があるときに、彼女のチンポへの奉仕が中断されてしまうのだ。
「ほら、やめない、やめない、ミスティちゃん、がんばらないとだめだよー」
子供に注意するときのように、頭を掌でぺしぺしと叩く。
そして、ぐっと腰を軽く突き出すと、ペニスが今までより数センチ深く咥えられる。
「ングっ、ううううっ、んあっ、んぐううううっ」
イラマチオ状態になったのだろう。
喉に亀頭が差し込まれたせいか、苦しそうな声に変わる。
「まあ、キングマサオさんの指マン、激テクニックだから、しかたないかもなあw」
この二人は知り合いらしい。
おっさんのほうのハンドルネームは、キングマサオ というようだ。
「いやあ、それほどでも。まあ、ミスティのおまんこがエロすぎるからなんやけどなw」
2本入っていた指を一度抜くと、中指だけで入れ直す。
「感じるポイントいっぱいあるんや、例えば、こことかな。」
膣内の特定の箇所に、指をあて、刺激したらしい。
「くうううううんっっ」
腰がビクンッと軽く跳ねた。ガクガクと痙攣する。
「ここもやな。」
別の場所も擦られたようで、張り出した腰がくねる。
おっさんの指から逃れようとしているようにも、自分から押し付けようとしているようにも見えた。
「この2箇所中心で、ほれ、こうしてな」
人差し指をもう一度入れなおし、2本の指を激しく出し入れする。
グリグリと指先を動かして、膣の中をこね回しているらしい。
「そんで、クリも刺激してやれば、もうたまらんやろ???」
左手で、髪の色とおなじ、金髪の柔からな陰毛を掻き分けると、クリトリスを摘む。
「ひいいっ、いっ、いあああああっ、ああんっ、いやあああっ」
細くくびれたウエストをくねらせ、肩をふるわせた。
表情が喜悦に歪み、体全体が痙攣する。
それを見て、おっさんが、にんまりと好色な笑みを浮かべた。
「ほれ、本気イキしたなあ?可愛い声で、啼いたな?よがり声、最高や!」
掌が薄く白濁した愛液でべたべたになっていた。
「でも、ミスティ、イクときは、ちゃんといきますて言わなあかんで?次はきちんとするんやで。」
涙をこぼしながら、しゃくりあげている彼女には、その言葉が届いているのかわからない。
「ほれ、ご主人様のいうことには返事しろや、聞いとるんか?」
敏感なクリトリスを軽くひねったらしい。
彼女が悲鳴をあげた。
「ご、ごめ、ごめんなさい。ちゃんとします、ゆるして…」
「したら、サムソンくんのちんぽ、がっつりしゃぶったらんかい。手ぬいたら許さんぞ。」
おっさんは、サドの気質があるらしかった。
言葉でもミスティを嬲りはじめた。
「まあ、少し手加減して、しばらくこれだけにしといたるから、がんばれや。」
「あっ、あああっ、んんっ、んんっ」
黒々したバイブレーターを押し込まれるのに合わせて、彼女が声をあげる。
「ミスティは、おまんこまで美人さんやな。」
おっさんの言うとおりだった。
ぷっくりと割れた陰唇から、薄いピンク色の肉襞が覗いている。
すぼまったアナルが見えているが、その周辺の皮膚も色素の沈着が全くない。
それらが、あふれだす愛液でぐちょぐちょになっていた。
「ミスティちゃん、まじプリティ。でも、フェラでご奉仕止まっちゃってるよー」
おっさんが彼女の性器を嬲っている間、ハンドルネームがサムソンというらしい痩せ男は、乳房をいじりまくっていた。
半円形の大きな乳房を、がっつりと両手で掴んでいる。
柔らかな肉が、自由に形を変えていた。
ぎゅっと掴まれると、男の無骨な指が潜り込んでいく。
あんなに無作法に力をいれたら、痛いに違いない。
「おっきくて、むにゅむにゅなおっぱいだー、Fカップきょにゅー、さいこー」
ぐりぐりと持ち上げるように当てた両手の親指を乳首に当てる。
それを、ひたすら擦りつづけていた。
両方の乳首が、勃起しているのがわかる。
コリコリとつままれ、グニグニとこねられていた。
「ミスティちゃん、ボクとエロキスしよー、ディープキスしよー」
サムスンは、きもい声でそういうとミスティの顔を覗き込む。
そこには、あきらかに嫌悪の表情が浮かんでいた。
「あ、嫌なんだ、傷つくなあ。で、でも、ミスティちゃんは、ボクのいうことには逆らえないんだよー、ちゃんと舌からめて、唾液送ってあげるから、ごっくんするんだよー」
オタク男は彼女を抱きしめると、強引に唇を奪った。
口腔内に舌を伸ばし、絡め合わせる。
唾液の交じり合う音が、聞こえ出す。
薄桃色の可憐な唇が、がさついた男の口で覆われている。
大量の唾液を流しこんでいるのだろう、その端からこぼれ出す。
「こぼしちゃだめだよー、飲んでくれなきゃー」
一度キスを中断し、そう命令すると、また貪りはじめる。
ミスティの喉がコクリと小さくうごく。
命令どおり、サムスンの唾液を飲み干しているのだ。
彼女の頬が赤く染まっているのがわかった。
ラウンドソファでのプレイは、その後しばらく続いた。
サムスンは、フェラチオとキスに拘っていた。
玉袋を含ませたり、アナル舐めを要求する。
その全てを、ミスティは受け入れていた。
数回、口内に放たれた精液も、残さず飲み干す。
サムスンは、女に自分の体液を飲ませることに、快楽を感じる男だったようだ。
キングマサオは、女性器やアナルを道具で責めることに興奮する男だ。
何個かのディルドーを特別料金を支払って持ち込んでいた。
脚を大きく開かせ、極太のバイブを陰唇に突き入れる。
アナル専用のバイブは、いくつもの玉が連なった形をしていて、ひとつずつ、すぼまった尻穴に埋め込んでいく。
それを、一気に引きぬいて、ミスティに悲鳴をあげさせていた。
クリトリスにローターを当て、膣とアナルの3箇所を同時に責め立てる。
そうして、憧れのアバター、ミスティ=エンジェルにたいして抱いていた妄想を、思い切り満たしていた。
残り時間が30分を切るまで、彼らが自分の性欲を発散させつづける。
「そろそろ、ベッド移ろうか?キングマサオさん?」
「せやなー、なんか、夢中になりすぎて、時間わすれとったわ。」
キングマサオは、ミスティの華奢な身体を抱き上げるとベッドまではこぶ。
やや、乱暴に絹のシーツを引いた上に投げ出した。
「ほら、ミスティちゃん、自分で入れてみてよ」
広いベッドに、サムスンが寝転がる。
ペニスは隆々と起きあがり、天井を向いている。
ミスティは、投げ出された身体を起こすと、サムスンの身体に跨った。
サムスンのペニスを掴むと、自分の性器の襞にあてがった。
「ううーエロい眺めだなー、入れるとき自分でおっぱい弄ってみてよ。」
サムスンからは、青磁の壺のように緻密にくびれた肢体が見上げられただろう。
その細さと不釣り合いに張り出した乳房をみて、いやらしい想像をしたのだ。
ミスティは命令どおりに、右手を乳房にあてると、ゆっくり揉みだす。
そして、腰を沈めはじめた。
「うっ…、ああっ」
動きが途中で止まってしまう。
躊躇いと嫌悪感が、どうしてもそれ以上、自らを辱める行為を続けさせないようだった。
「じれったいな、もう。ミスティちゃん、がんばんないとー」
サムスンはお尻に手を回し、彼女の腰をぐっと引き寄せた。
「あうっっ、や、いやああっっ」
ずぶずぶとペニスが、女の秘裂を引き裂いていった。
根本までギッチリと入り込む。
「くううううううんっ、いっ、いっちゃうっっ、き、きもちいいですっ」
もう、何度もいかされていた。
キングマサオの命令通り、絶頂にたっしたら、それを口にださなければいけないのだ。
「お、挿れただけでイッちゃったの?ボクのちんぽ、そんなに気持ちいい??」
「は、はい、きもちいいです、きもちいいよっっ」
サムスンはミスティの腰を掴むと、下からぐいぐいと腰を突き上げる。
騎乗位で彼女を責め立て始める。
「サムスンくん、時間ないんで、悪いけど、たのむわー、わし、アナルでかまへんから。」
「もちろん、歓迎ですよー、サンドイッチしましょー」
彼女の上半身を無理やり倒し、尻穴をあらわにさせた。
乳房がサムスンの貧弱な胸板の上で潰れて形を変える。
「ごめんなさいっ、おねがい、両方はやめてくださいっっ」
彼らの意図に気づいたミスティは、懇願する。
「なんや、4Pしとるんやから、おまんことアナル両攻めなんてとっくに経験済みやろ?」
「で、でも、苦手なんです。今日、もう無理なんです、許してくださいっ」
「そんな、可愛い声で嫌やいわれたら、逆に燃えるわw」
キングマサオには、哀願は逆効果だったようだ。
尻肉を割るようにグリッと開くと、バイブ責めで既に開いていたアナルに怒張をねじ込んだ。
「ひぎいいいっ、いあ、いやああっ、きゃあああっっ、いや、いあいやああ…」
もうそれは、喘ぎ声ではなかった。
悲鳴だ。
二人の男に挟まれ、お腹の奥まで肉棒で貫かれている。
ペニスは無情に蠢き続け、快楽を与え続けているようだ。
男達は下卑た笑いを浮かべ、可憐な美少女を嬲り続ける。
それは、永遠に終わらない地獄の光景のように、俺には思えた。
「いぐっ、いくよっ、い、いぐううううっ、うぐっ、くあああああああんんっ」
サンドイッチ状態で、ミスティを責め立てていた男達は、彼女の絶頂に合わせて射精したようだ。
2本のペニスを咥え込んでギチギチになった股間が、精液であふれる。
「すごいよ、ミスティちゃん、サイッコーだよ、こんな気持ちいいセックス始めてしたよー」
「なんぼ金払ってもかまわんわ、あと残り5分もないなー、しかたないけど、延長できないかいな?」
「キングマサオさん、交代してギリギリまで楽しみましょうよ。」
「そやなー、それがいいな。」
サムスンは彼女に後背位の姿勢をとらせた。
丸く張ったお尻を掴むと、アナルにペニスを挿入する。
「あっ、んっ、んっ…」
そのまま上半身を持ち上げると、背面座位になった。
彼女の声は、その動きごとに吐息とともに甘く響く。
膝裏に両手を通し、グッと持ち上げ、膝立ちの状態になった。
アナルにペニスを咥え込んだまま、M字開脚し、正面に濡れそぼったおまんこを晒す。
キングマサオは、その開いた陰裂に、猛りきった怒張を差し込んだ。
「ひぎいっ、いあ、うああああっんんんっ」
軽いとはいえ自分の体重を、膣と尻穴に挿入されている肉棒で支えているのだ。
かなり辛い姿勢のはずだった。
「やだっ、もう、嫌だよぉっっ、たすけて、誰か、たすけてっっ」
その声は男達には届いていなかった。
血走った瞳で、腰を動かし続けている。
膣と尻穴の間の柔肉がうごめく。
音はなかった。
サムスンとキングマサオのアバターは、いきなり消え去った。
時間切れになったのだ。
ミスティの身体は解き放たれ、ベットの上に投げ出される。
それと同時に、服装が元に戻った。
デフォルトの女魔法使いの姿だ。
黒のゴシックロリータデザインのドレスだった。
ガーターベルトとニーストッキングはそのままだ。
横たわっている為、同じデザインの黒いレースのショーツが見えてしまっていた。
プレイの区切り毎に、こうしてデフォルト状態に復旧する。
これも、脳接続バーチャルプレイの利点だった。
子宮の奥や、腸内に吐き出された精液も、胃の中に飲み込んだ唾液も、消え去る。
肉体的なダメージは、疲労も含めて、消え去るのだ。
だが、精神的なものは、男達に乱暴に犯された記憶は、絶対に消えない。
解放れた安堵からなのか、彼女は泣きだした。
その嗚咽でさえ、可愛く甘く、俺の耳には届いた。
情けないけれど、俺は興奮してしまった。
ミスティの淫らな姿から、目を離すことができなかったのだ。
やっと、俺の時間がやってきた。
「つばさ!!」
俺は叫ぶ。
「つばさ!!つばさっっっ、だいじょうぶか?なあ、つばさっっ」
ようやく動くようになった身体で、彼女に駆け寄った。
”東條翼(とうじょう=つばさ)”
それが友人のリアルネームだ。
俺は、あらん限りの声で、友人の名前を叫んだ。
そうすれば、彼女を取り戻せる。
そんな気がしたからだ。
その叫びに気づくと、彼女は上半身を起こした。
最初は、ぼんやりとしていた。
だが、すぐに驚きの表情を浮かべる。
そして嬉しそうに笑った。
「なおと、記憶もどったんだね、よかった、ようやくボクの名前呼んでくれた。治ったんだね?」
本当にうれしそうだった。
じんわりと涙が浮かんでいる。悲しみではなく喜びの涙にみえた。
その微笑みは、まるで天使のようだった。
プラチナブロンドにアイスブルーの瞳。
卵型の輪郭に、芸術品のように通った鼻筋、可憐な唇。
澄んだ声で何度も、なおと、なおと、と俺の名前を呼んでくれた。
”神谷直人(かみや=なおと)”
それが俺のリアルネームだ。
つばさが俺の名前を呼んでくれることが、こんなに嬉しいとは思わなかった。
リアルでは、日常的すぎて当たり前のことだったのに。
めちゃくちゃ、嬉しかった。
「一体なにが起こってるんだ?つばさ、お前、今どこにいるんだよ??」
彼女の表情が一瞬曇った。
だが、直ぐに笑顔が戻る。
俺に心配させまいとして、無理に笑ったように見えた。
「なおと、記憶戻ったばかりで混乱してるみたいだね。でも、大丈夫、安心して。なおとの身体はボクが絶対に直してあげるから。」
「つばさ、お前、何いってるんだ?」
「明日、ちゃんと説明するからね、今日はもう、なおとと一緒にいられる時間枠がないんだ。」
おかしい。
つばさが何をいっているのか、俺にはさっぱりわからなかった。
今回の事件に関して、なにか重大な誤解をしているとしか考えられない。
「借金のことも心配しないで。ボク、自分のしでかしたことは責任とるから。」
借金??
自分のしでかしたこと??
なにをいっているんだ??
「でも、明日からは、ミスティじゃなくて、ボクだって、ちゃんとわかってる状態なんだね?恥ずかしいな、それ。」
つばさは、俺の両手を握り締めると、俺の目を見つめた。
頬が染まっていて恥ずかしそうにしている。
柔からな掌の感触が心地良い。
なんだか、とてもいい匂いがする。
つばさの体臭だった。
甘い香水のような、ずっと嗅いでいたいような、そんな匂いに全身が包まれる。
「でも大丈夫、ボクがんばるから。記憶が戻ったんだから、身体の感覚だって、すぐにリアルの身体にシンクロするよ。」
もう一度、ぎゅっと掴んだ手を握る。
握力が弱いのか、強くは握れないようだけど、その必死さが伝わってくる。
「なおとの身体治すまでは、恥ずかしくても、辛くても、ボクがんばるから…」
その瞳には強い意志があった。
にっこりと微笑む。
俺を安心させるため、そして自分を奮い立たせるため。
そういう笑顔だったのだと、後でわかった。
「だから、がんばろ?ミスティじゃなく、ボクだとわかったら気持ちわるいかもしれないけど。」
もう一度、微笑む。
可憐な笑顔に、俺は、つばさに惚れてしまっているのを、再認識した。
あまりにも魅力的な、でも切ない笑顔。
「一緒に、がんばろ?ね?」
ブーーーーーーーーン
無情なシステム音がメッセージと共に流れた。
”プレイ時間が終了いたしました。次回のご利用をお待ちしております。”
元いたロビーに戻された俺は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
ログアウトする直前に見た、つばさの切なそうな笑顔が記憶に焼き付いていた。
がんばろうね?と優しくささやいた、その声と共に…
混乱の中、俺は何が起こっているのか考えた。
まずわかっていること。
つばさは、、1日16時間も連続でログインしている。
逆にいえば、8時間はログアウトして現実に戻ってきているのだ。
その間、自分の部屋にも戻ることなく、いったいどこにいるのだろう?
最初にキャラメイクしたあの日から、ちょうど70日が過ぎている。
脳接続バーチャルプレイは、ログイン中は、基本的に睡眠をとっているのと変わらない。
何十時間プレイし続け、ゲーム内でモンスターと戦っていようとも、現実の肉体はベッドの上か、カプセルの中で休んでいるのだ。
もちろん、ずっとそのままでは、食事をとることもできないし、リアルの身体を動かさなくては筋肉が弱っていってしまう。
しかし、一日、8時間ログアウトしているのなら、心配はないだろう。
その16時間、つばさはセックスドールという名の娼婦として働き続けている。
3人相手する枠が3つ、一人を相手にする枠が5つ。
一日につき、14人もの男相手にセックスを繰り返しているのだ。
そうだ、71日目の今日、つばさは合計で1000人とセックスすることになる。
なぜ、そんなことを?
まあ、見た目は美少年というかんじだったが、以前のつばさにホモセクシャルの要素はなかったと思う。
あの最初の日も、たぶんちょっとした興味と、俺を驚かそうとするイタズラ心で、女性アバターを選んだだけなのだろう。
つばさが、自分から望んで女性としてセックスしているとは、とうてい考えられなかった。
最初にミスティ=エンジェルとして予約が入った時のことだ。
なぜ、つばさはログアウト出来なかったのだろう?
偶然なのか?
そして、今は自由にログアウトできるはずなのに、なぜ、悲惨な境遇に身を置き続けているのだろう?
ログインし直さなければ、セックスドール、ミスティとして働く必要などないのだ。
女としての快楽にはまってしまったのか?
そうじゃないと思った。
つばさは、男達に抱かれるのを嫌がっていた。
レイプ同様のプレイを強いられたあと、あんなに泣きじゃくっていたじゃないか?
理由は彼女が話していた。
俺を治すため??
借金を返済するため??
どう考えても筋が通らない。
俺は健康でピンピンしているし、ミスティ=エンジェルとしての収入は既に普通のサラリーマンの平均年収の5倍は超えているはずだ。
そして、つばさはバーチャル空間で、俺と一緒に何かをがんばっているらしい。
俺は、あのわずかな16分間しかミスティ=エンジェルと接触していない。
更に、つばさにとって、俺は記憶喪失状態にあるらしいのだ。
なにかおかしなことが起きているのは確実だった。
そして、もう一つ、重要なこと。
東條 翼は、特異体質で、脳接続バーチャルシステムに異常に親和性が高いということだ。
つばさの身体は、フィジカルフィードバック現象という、バーチャルと同じ状態にリアルの肉体が変化してしまう危険に晒されているということだ。
それが事実なら、1000時間以上もの長い間、しかもセックスという肉体への刺激がつよい行為を繰り返してきたのだ。
リアルの東條翼の身体は、ミスティ=エンジェルと全く同じになってしまっている可能性が非常に高かった。
つばさは、それを承知しているのだろうか?
今、ミスティはログアウト状態だと、フレンドリストで確認できる。
現実世界で、バーチャル世界と同じ女の身体に変わり果てた自分を、受け入れられているのだろうか?
なにもかもが、謎だらけだった。
そして、俺には答えを導き出す方法がわからなかった。
なんとかしてもう一度、ミスティ=エンジェルと接触するしかないだろう。
そう決意したのだが、答えは俺の努力と無関係に与えられた。
現実は、全く無力な俺を嘲笑うように、ただ解答だけをポンと投げ出した。
翌日も俺は、バーチャル空間にログインしていた。
先日のゲーム内掲示板での会話が気になったからだ。
ミスティ=エンジェルの個人枠を利用する男が、公開した上で質問すると宣言していた。
それを確かめようと思ったのだ。
いつもと変わらない光景。
中央に巨大な塔と、いくつかのショップが並ぶロビーだ。
空中に、インフォメーションボードが浮いているのが、バーチャル空間とリアルの大きな違いだ。
PTの募集。
新たな有料サービスの紹介。
アダルトサービスに登録しているプレイヤーにだけ認識できるボードもある。
そこでは、様々なセックスドールの紹介動画が流れている。
ほとんど女性ドールだけど、2割ほどは男性ドールもあった。
同性向けのサービスもある。
このゲームでは一般プレイヤー同士の性交は、出来ない仕様になっている。
セックスサービス用に登録したアバターとの行為に限定されている。
料金を発生させる目的もあるだろうし、プレイヤー間での揉め事を無くすという意味も大きいだろう。
そんなドールの一人が、カフェでお茶を飲んでいた。
客待ちをしているようだ。
青いチャイナドレスを身につけた女格闘家だった。
ゲームの性質上、中世ヨーロッパというか、昔のRPG風の世界観なので、ドールもそういう設定になっている。
”李麗華”というキャラネームのついた彼女のデータを確認してみる。
Aクラスキャラクターとなっていた。
アバターと現実との共通性を示すシンクロ率は、65%となっている。
ぎりぎりまで、修正を掛けている数値だった。
この前の俺のように、現実そのままで何も修正しない場合、おおよそ、90%前後の数値になる。
100%ということは、まずない。
アバターに修正をかけていくと、この数値が下がっていくのだ。
髪の色の変更、身長や体重の変更、年齢の変更などが可能だ。
これが65%を下回ると、ゲームにログインできなくなる。
リアルでの自分とあまりかけ離れ過ぎると、身体や精神への負担が大きいからだ。
80%までは、無料で可能だ。
それ以降は、かなりの金を払うことになる。
”李麗華”の場合、ぎりぎりの65%まで修正をかけて、Aクラスキャラクターとして登録されている。
つまり、現実の彼女は、このアバターほど、魅力的ではない。
20代中盤に見えるが、もっと年上かもしれない。
女性プレイヤーの場合、最も修正をかけるのが、見た目の年齢だからだ。
このクラスというのは、アバターの魅力を表している。
例えば、俺の素の状態だと、Dクラスとして認識される。
まあ、3分の2の人間がこのクラスに認定されるのだ。
そこから修正をかけていくと、80%の無料域でCに、65%の有料ぎりぎりまで使うとAクラスになる。
ものすごく、普通らしい。
ということは、この”李麗華”も、ごく普通の人なのだろう。
バーチャル世界でギリギリまで自分を美しくみせる。
最大修正ともなると、かなりの金額がかかるのだが、セックスドールとして働くことで、その埋め合わせをしているのかもしれない。
素でAクラスに登録されるくらい、現実世界で魅力的な人物がこのゲームをプレイしようとした場合。
修正をかけてSクラスに認定されると、多くのサービスが無料になる。
例えば、俺はアダルトサービスを受けるために追加料金を払っている。
隣に腰掛けて、同じくドール達を眺めている騎士は、オリジナルの鎧を身に着けている。
それらが、皆、無料になるのだ。
運営会社としては、当然の処置だろう。
美しいアバターが多くいるほうが、ゲームとしての魅力が高くなり、ライバル会社との競争に役立つからだ。
SS以上のアバターは、運営側が用意したものだ。
ほとんど、チャレンジに等しい。
周囲に与える魅力が高くなるように、調整した数値が設定されている。
たとえば、アポロンというアバターがある。
ギリシャ神話の神をイメージしたもので、甘いマスクと頑丈な肉体をもっている。
これに、俺のパーソナルデータを加えてみるのだ。
みるみる数値が下がっていき、3%という情けない結果が示された。
もし、65%以上の数値を出すことができれば、このアポロンとしてログインできる。
無料どころか、時間あたり、それぞれに設定された報酬を受取ることができるのだ。
その上、セックスドールとしての登録もおこなえば、プレイ料金も追加して支払われる。
これで、生活している人間も、かなりの数存在しているはずだ。
最高位のSSSクラスアバターともなると、もう設定を眺める為だけに存在しているようなものだ。
マリリン、オードリー、小百合
マイケル、ボギー、優作
昔の有名人をイメージしたモデル。
そして、剣士、魔法使い、僧侶 等、各職業のデフォルトキャラクターだ。
つばさは、このうちの女魔法使いのアバターである、ミスティ=エンジェルにログインできてしまった。
それどころか、デフォルト設定より、明らかに魅力の高いキャラになっている。
つばさの特異体質は、脳接続ヴァーチャルリアリティシステムへの極端な親和性だ。
だからといって、全てのアバターにログインできるとも思えない。
実際、おすすめとして表示されたのは、ミスティ=エンジェルだけだった。
このアバターに特にあっていたとしか、いえない。
もちろん、最初は、65%の最低ラインでログインできただけだったろう。
それが、現在は97%というありえない数値だ。
現実世界のつばさの肉体が、ミスティ=エンジェルと全く同じものに変わっている証拠だといっていい。
「おまたせいたしました、本日のスペシャルラテでございます。」
フレンチメイドの制服を来たウェイトレスが、注文していた飲み物をもってきた。
そこそこ可愛い。
ツーサイドアップにした緑の髪があざとすぎるような気もしたが、むちっとした肢体にエプロンドレスが似合っている。
驚いたことに、NPCではなかった。
プレイヤーキャラクターが、ウェイトレスとして働いているのだ。
パーソナルデータを確認すると、彼女もセックスドールとして登録されている。
予約は空いているので、今この場で申し込むこともできる。
こういうやり方もあるんだなと感心した。
ラテを一口飲んでみる。
アーモンドとクリームの芳香が、香しい。
無料のもあるけど、これは有料アイテムだ。
やはり、凝ったものを楽しむ為には、無料では限界があるのだ。
ラテの乗ったテーブルの上に、個人用のコンソール画面を呼び出す。
アダルトサービスゾーンに移ると、空中に浮かぶ巨大スクリーンと同じものが映された。
更に階層を下げて、ドールの予約状況画面に変更した。
”これは奇跡か?SSSクラスアバター絶賛稼働中!!注目度No.1!!”
画面上部に広告の文字が踊る。
運営も本格的に、ミスティ=エンジェルを押し出し始めたようだ。
ホロデータのレンタルも始めるつもりらしい。
アバターの紹介画面に出てくる実際の半分の大きさのものだ。
これを、ゲーム内の自分のルームに飾ることができる。
いつでもミスティが、ダンスをし歌を歌っているのを眺めていることができるのだ。
SSクラス以上のアバターなら、月額料金制でホロデータをレンタルできる。
デフォルトの”ミスティ=エンジェル”は既に発売済みだ。
今回は、つばさのパーソナルデータ込のほうが新規レンタルされる。
既に予約が入っていて、デフォルトデータの数倍以上が契約済みだった。
更に階層をくだって、ミスティエンジェルのページに移る。
”こんにちは、ミスティ=エンジェルです。ご訪問ありがとうございますっ、楽しんでいってね。”
ホロデータが浮かび、そんな挨拶をする。
ピョコッと可愛いお辞儀をすると、いつものように歌い踊りはじめた。
ミスティの今日の予約状況を確認する。
当然のように、すべての欄が満員を示すグリーンだ。
今日、最初の枠の開始予定時刻まで、あと30分以上あった。
フレンド登録リストも確認してみるが、つばさはまだログインしていなかった。
そのとき、異変が起こった。
”ヒャーーーーーーッハッハッハ、ヒーーーッ、ヒッヒッヒッ、ヒャアハハハッ”
男のキチガイじみた笑い声が、大音量で流れた。
人口的に作られた乾いた笑い声だ。
「な、なんだ???」
「え?イベントかなんかなの??」
「ちょ、まさか、これってさ」
ロビーにいた数百のプレイヤー達が驚きの声をあげる。
直後、個人用から広告用まで大小全てのインフォメーションコンソールがブラックアウトする。
そして、ニタニタと笑うピエロをモチーフとしたマークが、表示された。
ハッキングだ。
それもかなり大胆かつ大掛かりなものだった。
そのピエロのマークは俺でもよく知っている有名なものだ。
”ザ・ウィザード”のアダ名をもつ世界最高のハッカーにしてクラッカー
個人としては世界一の金持ち
脳接続VRシステムの製作者
今世紀最高の天才
だが、最悪の性格破綻者といわれてる。
ジョン=リー=マッキネン だった。
「やあ、世界中の凡人の皆さん、こんにちは。」
ピエロマークが消え、一人の男の映像があらゆる画面を占領した。
その男は、ニヤリと意味ありげに微笑む。
「私のことは、知っているかな?まあ、有名人だしな。完璧なる天才にして、超絶大富豪である、ジョン=リーだ。」
ジョン=リー=マッキネン は中国系アメリカ人だと言われている。
おそらくは、30代前半、写真等、実際の情報はほとんどわかっていない。
画面に映った男は、どうみても20そこそこにしか見えない。
おそらく、日本人だと思われるごく普通の若者だった。
もしかしたら、この男がジョン=リー本人だと誤解するプレイヤーもいるかもしれない。
だが、俺に限っては、そんな誤解は絶対にありえなかった。
当たり前だ。
そこに映っているのは、間違いなく、この俺、”神谷直人(かみや=なおと)”だったのだから。
「私がわざわざ出てきたのには、んー、たいして重要でも、ましてや重大でもないことなのだが…」
尊大な口調で、自分が振舞っているのを見るのは、なんだか変なかんじだった。
「今、話題の”ミスティ=エンジェル”に関することだ。これが、なかなか興味深いというか、かなり面白いことになっているんだな。」
右手の人差し指を立てると、クルクルと回す。何かを話すときの、ジョン=リーの癖らしい。
「本人にとっては大変なことだろうがね。まあ、調べてみたら、私もまるで無関係というわけではなかったのでね。」
パンと手を叩き合わせる。
なんだかジェスチャーというか演技染みたパフォーマンスの多い男だ。
「多少の責任もあるようだから、こうして解決と説明をしにきたわけさ。なんと立派で慈悲深い人物なんだろうね、私は。」
映像の右側に、ゲーム内掲示板が浮かびあがった。
シンプルで特に変わったところのない、デフォルトの掲示板だ。
制限はなく基本だれでも書き込めるが、一度に大量のコメントで埋まらないように時間ごとの書き込み数制限がされていた。
「掲示板を用意した。凡人の皆さんは、何か質問があったら書き込むといい。」
”1ゲット!!”
”おもしれーー、なになに??なにが始まるのだ??”
”まじもんのハッキングだ、すげえ、どうやってるんだよ”
”さすがジョン=リー=マッキネン、全サーバー同時ハッキングだ、信じられない”
”これ、犯罪だよね?”
”あたりまえじゃん、違法もいいとこ”
次々と掲示板にコメントが流れる。
”ミスティ=エンジェルに関することってなに?”
”知らないのか?今、話題のSSSクラスアバターだよ”
”ああ、H関係?アダルトのことはよくわかんない”
”ミスティ=エンジェルの中身が、男だって噂があるんだよ”
”そんなのありえないよね?不可能だとおもうんだけど”
「そう、”ミスティ=エンジェル”に今ログインしてる人物のことだね。まあ、面倒だから、リアルデータを晒してしまおう。」
いつのまにか、つばさのログイン履歴がオンになっていた。
彼女は今、ゲーム内にいる。
その隠されているはずの個人データ部分が、衆人の見ているオフィシャルコンソール内に表示されてしまった。
プレイヤーデータ
氏名:東條 翼(とうじょう=つばさ)
性別:男性
年齢:20XX年7月2日(18歳)
住所:東京都XX区XX2-4-12 平田アパート203号室
職業:東和大学経済学部1年生
クレジットカード登録データ:なし
登録銀行口座:名城銀行XX支店 タニカワ ヨシエ 3XXX002
”まじ、男じゃん”
”えええええええええええ”
”なんだこれ?”
「東條翼くんは、現実世界では男性なんだよね。元がついちゃっているけど。じゃあ、写真も見せてあげよう」
いくつかの写真が表示された。
つばさの現実の姿だ。
学生証の写真、大学の新歓コンパのときの写真、高校の卒業式の写真。
線の細いまだ少年と言ってもいい感じの若い男だった。
”美少年ですねwwwwwww”
”おれ、こっちのほうがいいんだけど”
”ゲイ、おつ”
”まあ、普通じゃね?”
”この身体で、ミスティにログインできるものなん?”
”特異体質なんだってさ、よく知らんけど”
「翼くんには、フィジカルフィードバック現象が起きてしまっているんだ。無知な人に簡単に説明すると、脳神経VRSで設定したアバターに現実の肉体が影響されてしまうことだ。今の翼くんは、頭の先から爪先まで”ミスティ=エンジェル”と同化しているよ」
ジョン=リーは言葉を続ける。
なんだかんだいって、誰かに説明するのが好きらしい。
「こんなに極端に肉体変化するなんて、前例がないけどね。データがほしいところだ、研究の価値がある。でも、期待してていい。今の翼くんの身体も、すぐに見せてあげられるぞ」
つばさを見せる?
どういうことだろう?
「もうすぐ、私が日本で懇意にしている怖い組織の人たちが、翼くんのいるところに到着するところさ。彼は誘拐されている状態なんだよね。」
画面の一部が切り替わった。
どうやら、リアルタイム映像らしい。
あきらかに一般人とちがう、いわゆるヤのつく職業の人たちが数人映る。
最後尾の人間が、ハンディカメラを構えているらしい。
その映像が生の情報として、発信されているのだ。
よくある小さな駅前の繁華街だ。
その中のひとつ、2階部分までが店舗、三階以上が賃貸マンションになっているビルの前にいるらしい。
そこは、俺には覚えのある場所だった。
つばさが利用したといっていたネカフェが2階部分を占めている。
ダークスーツに身を包んだヤクザたちは、ネカフェへの階段ではなく、賃貸部分にあたるエレベーターに乗り込んだ。
無言ですすんでいく。
503号室の前で止まる。一人だけ作業服を着ていた男が、扉の前にすすむ。
鍵屋だとおもわれた。
専用の工具を取り出すと1分もかからずに扉を開けてしまう。
「だ、誰ですか??あなたたちは??」
40代前半くらいだろうか?
なかにいたおばさんが、金切り声をあげる。
それを無視して、男達は部屋の中を確かめていく。
3LDKの普通のマンションの一室だ。
その中の一部屋に、脳接続VRS用のカプセルがあった。
俺の知っているものとタイプが異なっていた。
カプセルは世界中で一緒のはずなのだが、それは前面全てが透明になっていた。
一般的なものは、頭部のみ独立しているはずだが、一体型になっている。
複数の人間が使うような設計ではない。
カメラがカプセルをアップで捉える。
透明な強化ガラスの向こう側に、彼女がいた。
”ミスティ=エンジェル”である 東條翼だ。
スリーピングビューティー
眠れる美女
それらの言葉が、これほど相応しい光景は他にない。
腰まで届くプラチナブロンドの髪が、水中を漂う。
糸杉のたおやかな肢体が、溶液の中でうかんでいた。
瞳を閉じて、瞑想しているようにみえる顔は、まるで彫刻のようだ。
思わず、感嘆の溜息がでた。
”え?本当に、これ、リアル映像??”
”うつくしすぎるうううううううううううううう”
”えーと、バーチャルと同じなんですけど。”
”いや、VRより上だよ、まちがいない”
掲示板の反応も熱い。
驚嘆のコメントが並び続ける。
「さすがの私も、これは驚いた。予想以上だよ、詳細データが是非欲しいとこだね。」
ジョン=リーにとっても、現在のつばさの肉体変化は、驚異的だったようだ。
「さて、ここで私の責任に触れておくかな?そのVRS用カプセルのことなんだけどね。」
ジョン=リーの話をまとめるとこうなる。
今、つばさが入っているVRS用カプセルは、開発時に使われていた特殊なものらしい。
数年前、研究所が火事になったときに失われたとされていた。
それが、何故かアメリカから遠く、日本の東京にあったというのだ。
このVRSカプセルは、通常のものといくつか違いがあった。
その一つが、ログイン時のシンクロ率に下限がないということだ。
どんなに低くても、とりあえずはログインできてしまう。
もちろん、低すぎるシンクロ率では、ほとんど皮膚感覚は失われ、視覚や聴覚にも大きな影響がでるそうだ。
どうやってか、研究用VRSカプセルを手に入れたのが、谷川 芳恵(タニカワ ヨシエ)という中年の女性だった。
マンションの2Fにあるネカフェのオーナーで32歳ということだ。
さっきの映像で映った、おばさんらしい。
40代前半にみえたけれど、まだそんな年齢だったのだ。
このおばさんは、ホストにハマっていた。
新宿にある有名ホストクラブの常連らしい。
かなりの借金をしてまで、涼という源氏名のホストに入れあげていた。
しかし、いくら貢ごうと、おばさんは涼にとって唯の金づるにすぎない。
谷川は、ひょんなことから、涼が脳接続VRSゲームをプレイしていることを知ってしまった。
俺とつばさが始めた、海外製の有名ゲームだ。
おばさんは、自宅の部屋に設置した研究用カプセルを使って、ゲームを始めた。
谷川 芳恵のパーソナルデータでは、通常の65%以上では、Bクラスのアバターを作るのが精一杯だった。
そこで、研究用カプセルの特性を使って、下限無視でSクラスアバターを設定したのだ。
20%そこそこだったらしい。
だが、ゲームサーバー内では、そんな数値はありえないので、最低ラインの65%として表示される。
Sクラスアバターのプレイヤーは、現実でも魅力的なのは保証されている。
そうしてゲーム内で涼に近づいたのだ。
涼にとってゲームは、現実でのホストとしてのストレスを発散させる場所だった。
谷川 芳恵は、涼と同じギルドに参加した。
そして、様々な場所で冒険したのだ。
龍を討伐し、ゴブリンの村に囚われた商隊を救出した。
宝を求めてダンジョンに潜り、剣を鍛えるためにアイテムを集めた。
涼にとっては、Sクラスアバターであり、自分を支え理解してくれる谷川は、理想の女性に感じられたろう。
いつしかゲーム内で二人は恋人同士になった。
おばさんにとっては、至福の時間だっただろう。
だが、それは長く続かなかった。
20%などというシンクロ率では、ほとんどまともにプレイできていない。
なんとか視覚のみを確保し、聴覚や触覚は切り捨て、会話は文章ログによっておこなっていたようだ。
その上、身体への負担は凄まじい。
谷川 芳恵が、32歳なのに40代に見えたのは、その影響だったようだ。
無理をした結果、急速に老化が進んでしまったのだ。
「まあ、自業自得だけどねえ、馬鹿な女だよな。」
ジョン=リーの表情は、ゴミを見ているような侮蔑に満ちていた。
やめてほしい。
自分と瓜二つの男が、そんな顔をするのを見ていたくはない。
谷川 芳恵は、脳接続VRSを使用できなくなってしまった。
身体に負担をかけすぎたのだ。
通常のカプセルでも、サイバネティックスコネクターでも同じだ。
バーチャル空間に接続するとき、激痛を伴うようになってしまった。
神経接続が劣化しすぎたのである。
現実でも、リウマチに似た鈍痛があらゆる場所に現れるようになる。
そんな不自由な身体になってしまい、まともに店にでることもできなくなった。
治療費と、働けなくなったぶんの人件費、そしてホスト通いで生じた多額の借金が重くのしかかる。
谷川 芳恵の現実生活は、破綻しかけていた。
そんなとき、東條翼が、彼女のネカフェを訪れたのだった。
俺と約束した3日前に、つばさはゲームを始めていた。
最初のプレイ時は、ヘッドセットを付けるだけのセミダイブを選択した。
なぜ、わざわざそんなことをしたかって?
まあ、親友である俺ならわかる。
たぶん、練習しにきたのだ。
俺に迷惑をかけないように、あらかじめ、キャラメイクをしておこうと思ったのだろう。
とにかく、律儀なやつなのである。
つばさのデータに谷川は驚いた。
SSクラス以上のアバターにログインできるパーソナルデータが登録された場合、ネカフェには運営会社から通達がくる。
無料サービスが使えることを、そのプレイヤーに宣伝するためだ。
もし、そのネカフェから正式に登録された場合、店に対してインセンティプが発生する。
SSどころか、SSSアバターである”ミスティ=エンジェル”を選べるのが、若い男性客だったのだから、驚かないはずがない。
うまくやれば、SSSアバターなら大金を稼ぐことができる。
谷川の借金程度など、簡単に返済できるだろう。
谷川 芳恵は、東條 翼を、騙して働かせることを企んだ。
つばさに、フルダイブ用のVRSカプセルを無料で利用できるダイレクトメールを送ったのだ。
ただし、住所はネカフェではなく、谷川のマンションを指定した。
新型カプセルのキャンペーンだと嘘をついた。
研究用カプセルは、一般カプセルより古いものなのだが、見た目は遥かに立派なものだ。
新型だといわれれば、間違いなく信じるだろう。
そして、あの日、つばさは、カモネギ状態で谷川のところに現れたのだった。
「そこで、この馬鹿な女は、研究用VRSカプセルのもう一つの特性を利用したわけだね。翼くんは不幸だったとしかいいようがないよ。」
研究用カプセルが、通常と異なるもう一つの大きな点。
それは、サーバーからではなく、カプセルから直接データを脳に送り込めることだった。
通常送られてくるサーバーからの感覚情報を改変することができるのだ。
「具体的にいうとさ、翼くんにとって、個人枠で相手していた客は、今の私と同じ姿にみえていたんだよね。」
ジョン=リーにとって、個人情報などというものは、全く価値がないものなのだろう。
なんの躊躇もなく、俺の情報がネット中にばら撒かれた。
プレイヤーデータ
氏名:神谷直人(かみや=なおと)
性別:男性
年齢:20XX年05月10日(18歳)
住所:東京都XX区XXX515
職業:東和大学工学部1年生
クレジットカード登録データ:JCE 5083XXX
登録銀行口座:東京明成銀行XX支店 カミヤ ナオト 54XXX37
「彼は翼くんの高校時代からの親友なんだそうだ。いいねえ、青春だね。いや、羨ましい限りだね。」
皮肉めいた表情だが、羨望を抱かざる負えない本心を、隠そうとしているように見えた。
ジョン=リー=マッキネン には、俺にとっての翼のような親友はいなかったのかもしれない。
天才にとって孤独とは避けられない性なのだろう。
脳に直接情報を送り込めるということは、認識をある程度操作することができるということらしい。
完全ではないが、洗脳に近いことができるのだ。
一日16時間にもおよぶ、娼婦としての生活。
自宅にも戻らずに、谷川のマンションに71日間も留まり続ける。
1日毎に変化していっていまう自分の現実の肉体。
それらを承知させるために、谷川はどんな嘘をつばさに吹き込んだのだろう?
「東條翼くん本人が、どんな認識をしているのか気になるよね?直接、本人に話してもらうほうがわかりやすいんじゃないかな?」
ジョン=リーは、腕を組み、意味ありげに笑う。
もちろん、それは俺がしているようにみえるわけだが…
「こんな可愛い子とファックできる機会をのがすわけがないよね?しかも、献身的にご奉仕してくれるらしいし。さあ、ここからは、アダルトモードだ、視聴ご注意だよ。」
カメラ映像が切り替わった。
昨日みたSSSクラスアバター用のプレイルームが映し出される。
天蓋付きのベッドの端に、彼女は所在なげに座っていた。
やはり女魔法使い用のドレスなのだが、今回のは赤いミニスカドレスだった。
豊かな乳房は、乳首あたりまでしか隠れていない。
谷間は大胆にさらけ出されていて、すこし引っ張るだけでポロリとこぼれてしまいそうだ。
肘の先まであるロンググローブや、首輪のようなチョーカーは、黒いエナメル質に光っている。
両足は、スクエア状にデザインされたストッキングで覆われたいた。
シルバーのヘアアクセサリーや、ブレスレットで身体の所々を飾っている。
誰かがログインしてくるのを、待っている様子だった。
しばらくすると、その横に一人の男が入室してきた。
最初は薄くぼやけていたが、すぐに実体化する。
東洋人の若い男だった。
俺だ。
神谷直人である。
だが、中身は天才ハッカー”ジョン=リー=マッキネン”だ。
アバター”ミスティ=エンジェル”は、不安そうな表情を浮かべている。
「な、なおと??」
キュッと膝においた小さなこぶしを握りしめた。
自分の掛け声に対する、男の反応を待つつもりのようだ。
「つばさ…」
パアッと明るい表情が、つばさの美しい顔に浮かぶ。
「よかった、よかったよ。記憶のほうは、大丈夫なんだね。また元に戻っていたらと思うと、心配でたまらなかったんだ。」
涙が溢れてくる。
嬉し涙のようだ。宝石のように光る涙のつぶが頬を伝い落ちる。
「ボクのことがわかるんだね、名前呼んでくれるんだね…ホント、嬉しいよ。」
「よく覚えていないんだ、つばさ、一体何があったんだ?」
「うん、そうだよね、記憶喪失だったんだもん、説明しなきゃね。」
ジョン=リーの演技は見事だった。
何も覚えていない俺を、演じきっている。
「ちょっとまってくれ、つばさ、なんだか身体が変なんだ。」
苦しそうな表情を浮かべる。
「どうしたの?なおと、だいじょうぶ??」
うろたえるつばさに対し、奴はとんでもないことを言い出す。
「身体があついんだ。特にちんぽが勃ってしまって、痛いくらいなんだよ。」
ズボンをゆるめ、勃起したペニスを取り出す。
なんてこった。
それは、見慣れた俺自身のものだった。ジョン=リーは俺の身体を完全にコピーしているらしい。
つばさの頬が恥ずかしさで染まる。
「そ、そうだよね、記憶が戻っても、身体のほうはまだまだなんだもん。」
「つばさ、俺、つらい。」
「あ、安心して、だいじょうぶ。ボクがなんとかしてあげるから。」
つばさはそういうと、画面上の俺をベッドの端に座らせた。
ぎゅっと頭を抱きしめる。
俺の顔が豊かな乳房に埋められる。
な、なんて羨ましい俺なんだ。
「なおとはね、今、脳神経が身体と分離されちゃってるんだ。そういう風におちんちんが勃起して性欲がコントロールできないのも、そのせいなんだよ。」
白く細い指で、俺の頭を撫でる。髪に指をからめ、優しくささやく。
「でもね、大丈夫。このミスティの身体なら、そういうの鎮めてあげられるから…」
もう一度俺の頭を抱きしめると、一旦離し、顔を覗き込む。
そして破顔する。
天使の笑顔だった。
他人の為にどんな犠牲でも払うと決意している笑顔だ。
さすがの天才も、そんな無私の笑顔を向けられたら、動揺を隠すことができないようだ。
「中身がボクじゃ、抵抗あるかもしれないけど、我慢してね。」
「え?どういうことなんだ?」
「セックスみたいな強い刺激を与えないと、なおとはいつまでも身体が治らないんだよ。ずっとログアウトできてないんだ。」
「じゃあ、記憶のない俺とずっと?」
「う、うん。ごめんね、しかたなかったんだよ。なおとは、別人みたいになっちゃって、性欲に囚われていたんだ。」
「どのくらいファックしてたんだ?」
「んと、1日に10時間くらいかな?でも、それでも足りないくらいなんだよ。記憶戻るだけでも、もう2ヶ月半もかかってるんだ。」
「2ヶ月半、毎日10時間か?つばさは平気だったのか?」
数瞬、言い淀む。
平気だったわけがない。
「だ、だいじょうぶだよ、まだ、ボクは大丈夫。もうちょっとだけ、もうちょっとだけなら…」
ジョン=リーはこの機会につばさから情報を全て引き出そうとしていた。
つばさが聞かれたくないない質問も、遠慮なく行うつもりらしい。
「今、この部屋の情報をみてみたんだけど、6時間分、入室したのは俺じゃないみたいだ。」
「そ、それは…」
「教えてくれ、何があったんだ?」
「あ、あの軽蔑しないでね。他に方法がなかったんだよ。ボクにはすごい額の借金があるんだ。」
「借金??」
「ほら、ボク、いたずらで男のくせに、ミスティみたいな可愛い女の子でログインしちゃったでしょ?」
「ああ、そうだったっけ?」
「このキャラでログインするには、ものすごい大金がいるんだよ。こんなに可愛いならしかたないけど。」
そうじゃない。
”ミスティ=エンジェル”でログインすれば、逆に金がもらえる。
完全に騙されて、都合のいい情報を刷り込まれているのだ。
「ボクがログインしたとき、ものすごく無茶な設定になってしまったらしいんだ。そりゃそうだよね、男のくせに女の子選んだのだもん。」
「そういうものなのか?」
ジョン=リーの受け答えは、適当だった。
上手く合わせて、話を引き出そうというのだろう。
「うん、それで一番近くにいた直人に、ボク以上に悪影響がでちゃったんだよ。」
「どういう影響が?」
「ボクのせいで、なおとのデータがリアルの身体と切り離されちゃったんだって。記憶喪失になったうえ、他人のデータが上書きされたりしたんだよ。」
「ということは?」
「2時間毎に、外見は確かに直人なのに性格が全然変わってしまうんだ、まるで別人なんだよ。」
「そんな俺を、相手してくれたんだ、つばさは。」
「気にしないで、だってそれが治療には一番だったんだよ。」
「治療?」
「さっきも、ちょっといったよね?分離しちゃったなおとを治すには、身体に強い刺激を与えなきゃいけなくて。それには、マッサージするとか、んと…」
「マッサージと?」
「え、えっと、セックスするのが一番なんだって。ミスティみたいな可愛い女の子だったら、効き目はずっと高いんだよ。」
「そういうことか。」
「でもミスティでログインするには、すごくお金が掛かるんだ。でも早くしないと、なおとのリアルの身体はどんどん弱くなっていっちゃうから。」
「俺は、ずっとログインしっぱなしなのか?」
谷川 芳恵は、フレンドリストの情報を細工していたのだろう。
つばさには、俺がログアウトできていないように見せていたのだ。
「うん、半年もそのままにしてたら、歩くこともできなくなっちゃう。」
「それで、つばさはどうしたんだ?」
「そ、それで、ミスティのログイン代金分、セックスドールとして働くことにしたんだ。なおととの10時間分は、6時間、他の人とプレイすれば稼げるから…」
嫌な思い出ばかりが、蘇ってくるのだろう。
表情が辛さで満たされる。
つばさにとって、複数プレイの6時間は、地獄だったに違いない。
「おねがいだよ、男のくせに風俗の女の子の真似したりしたけど、軽蔑しないで。他に方法がなかったんだ。」
「俺の為にがんばってくれたんだろ?感謝こそすれ、軽蔑したりするわけがないじゃないか。」
悔しかった。
悔しさで、目の前が真っ暗になった。
耐えるには、歯を食いしばるしかなかった。
俺が自分で伝えたかったセリフだった。
つばさに、俺が、自分で、自分自身で、感謝していると、伝えたかった。
「あと、ひとつ、聞きたいことがある。現実世界のつばさは、どうなっているんだ?」
「ど、どうって?け、健康そのものだよ、元気いっぱい。」
わかりやすい。
全然、動揺を隠しきれてない。
「フィジカルフィードバック現象だよ、おきてるんだろ??」
「なおと知っていたんだ。さすが博識だね、高校のときのアダ名は、クイズ王だもんね」
「ごまかすなって、なんでも話してくれるんだろ?」
「うん、えーと、知ってるなら話してもいいね。うん、リアルのボクも、バーチャルのボクも今は同じだよ。ミスティ=エンジェルになっちゃってるね。」
「いつごろからなんだ?」
「最初からかな。ログアウトするたびに身体がどんどん変わってて…胸が膨らんできて、お尻が大きくなって、おちんちんが縮まっていくんだ。」
「今の状態になったのは?」
「んーと、1ヶ月くらいかな?そのあとは変化なしというか、ミスティのままだね。」
「驚きだな。これはなんとしてもデータを手に入れて研究しないといけない。」
思わず、本音を漏らしやがった。
「え?研究?」
「なんでもない、気にするな。続けてくれ。」
「う、うん。大丈夫かな?まだ記憶障害があるのかも」
「そ、それでログアウトしてる間、何をしていたんだ?自分のアパートメントに帰っていないのだろ?」
「谷川さんていうネカフェのオーナーさんが、すごく良い人なんだ。ゲーム会社と交渉してくれたり、ご飯を用意してくれたり、お風呂準備してくれたり。」
「ネカフェにいるのか?」
「違うよ、ネカフェのオーナーさんの家にお世話になってるんだ。なおとを治すのに協力してくれてるんだよね。カプセルを自宅にもってるお金持ちなんだよ。そこなら、できるだけ長い時間、なおとの治療ができるからね。」
谷川の卑怯さに、腹がたって仕方がなかった。
脳接続を使った刷り込みのせいで、つばさは谷川 芳恵を完全に信頼しきっている。
嘘の情報を与え、1000時間以上、娼婦として働かせていたのだ。
そのうちの7割は、俺という親友を救うために、別人とは知らずに献身的に奉仕していた。
残りの3割は、そのための資金稼ぎという偽りで、複数の男に嫌々身を任せていたのだ。
つばさは、大金を稼いでいながら、一銭も受け取ってはいない。
全て、谷川 芳恵という女の懐に入っていたのだ。
許せることではなかった。
「でも安心して。ミスティになっちゃったのなら、逆だってできるはずだろ?今度は、元のボクのアバターを作ってログインしておけばいいだけだよ。」
掲示板上に、ジョン=リー=マッキネンのコメントが流れる。
”まあ、元に戻るのは無理だな。おそらく、東條翼は自分のリアルの身体と精神の結びつきが元々弱かったんだろう。”
”ミスティ=エンジェルのアバターのほうが、東條翼の精神にはずっと合っていたから起こり得た現象だ。”
”シンクロ率97%というのは、そういうことだ。東條翼は、脳神経VRSで、今の現実と同じ状態しか選択できない。”
”髪の色さえ、変更できないだろう。そこまでシンクロしてしまっている。”
”東條翼は、一生このままだ。女性として生きるしかない。”
つばさは、元に戻れない。
ショックだった。
確かにショックだったけれど…
正直に言えば…
俺は嬉しかった。
彼女には不幸なことだろうけど、罪悪感を感じるけれど。
俺は、嬉しくてたまらなかった。
「じゃあ、そろそろ始めるね。記憶が戻ったのだから、がんばれば、今日中にだってログアウトできるようになるかもしれないよ。」
つばさの声がわずかに震えているような気がした。
緊張しているのかもしれない。
ベッドの端に腰掛けている俺の前に跪くと、ガチガチに勃起しているペニスに手を延ばす。
決意したように瞳をギュッと固く閉じると、丹念にしゃぶりはじめた。
ペチャペチャと子猫がミルクを舐めているような音がする。
左のてのひらで、玉袋を優しく揉む。
しばらくそうしていると、彼女の唾液とちんぽからの先走りの汁が混ざり合い、テラテラと光だす。
小さな口で猛る肉棒を、パクリと咥えた。
睾丸を転がしていたうちの片方を握り替え、ペニスの根本を掴む。
優しくしごきはじめた。
それと同時に、頭を上下にゆっくり動かす。
シャフトの部分が口内に出たり入ったりしていた。
その深さだと、亀頭は喉の奥に届いているだろう。
口腔内では、舌も使って刺激しているようだった。
男の手がつばさの金色の髪に触れる。
そのとき、一瞬、彼女の動きが止まった。
だが、すぐに行為を再開する。
俺のに瓜二つの無骨な手が、壊れやすい宝物を触るかのように、優しく頭を撫でている。
しばらく、フェラチオによる奉仕が続いた。
画面上の俺の表情は、ほんとうに気持ちよさそうだった。
ウッと軽くうめき声を上げる。
男の腰が軽く動く。
射精したのだ。
つばさが、顔を上げた。伏し目がちで視線を合わせようとはしない。
恥ずかしそうに頬を染めている。
薄桃色の唇の端から、わずかに白濁液が垂れる。
俺は、かなりの量の精液を、彼女の口に放ったようだった。
白く長く伸びた首の、喉のところが動く。
俺の精液を、飲み干したのだ。
唇の端に人差し指を当て、ねばつく残滓をぬぐった。
瞳が潤んでいる。
だが、表情は笑顔だった。小首を傾げ、男に笑いかける。
あまりにも魅力的すぎる笑顔だった。
ジョン=リーも同じ思いだったようだ。
つばさの華奢な身体を、強く抱きしめた。
貪るようなキスをする。
舌を差し入れ、絡める。
両手を背中に回し、おおきく開かれたドレスから覗く背骨や、張り出したお尻を撫で始めた。
女は、わずかに身体を固くして身構えたようにみえたが、すぐに力をぬき、男の愛撫を受け入れはじめた。
ウエストのくびれの鮮やかなラインを、掌でさする。
丸いお尻の肉を掴み、揉む。
そうして、彼女の身体を確かめるような愛撫がつづく。
キスをやめ、唇を離すと、すっーっと唾液の糸が引いた。
そんな状態になるまで、舌を絡め合っていたのだった。
ミスティ=エンジェルの衣装は、扇情的なものだった。
胸元は大きく開いている。
乳房の下の4分の1程度を包むだけの、トップレスブラに近い形状をしている。
縁取りに使われた黒のレースがなければ、乳首がわずかに見えてしまうくらい、襟ぐりは深い。
俺にそっくりの男は、そのプラにあたる部分を強引に引き下げた。
つばさの大きな双丘が、こぼれ落ちる。
真っ白で、滑らかで、柔らかで、豊かだった。
高く盛り上がった頂上には、薄桃色のちいさめの乳輪があり、勃起しはじめた乳首が乗っている。
もうあと少し刺激を加えるだけで、固く敏感に勃つだろう。
ジョン=リーは、そこに、むしゃぶりついた。
最初は余裕の態度だったのだが、徐々に冷静さを失っているようだった。
ずっと無言だった。
会話らしい会話はない。
だた、つばさの吐息がささやいている。
乳房への愛撫を受け続けている。
乳首をしゃぶられていた。
んっ、んっ、んんっっ、という押し殺した甘い呼吸音がする。
「匂いが…頭がクラクラする…」
俺の声だ。
「え?どうしたの、だいじょうぶ?」
「お前の香りのせいだ、すごい、匂いだ…」
「あ、ごめんね、臭いの??」
「ばかだな、ちがうよ、良い香りすぎるんだ…」
彼女の体臭はフェロモンなのかもしれない。
興奮した男は、ベッドに彼女を押し倒した。
両手を膝に添え、大きく脚を開かせる。
黒いストッキングとパンティーで秘所は隠されていた。
脱がせるのがもどかしかったのだろう、ストッキングを引き破る。
薄布一枚ごしだが、張り付いた先に女性器の形がはっきりわかる。
画面では伝わらない。
だが、抱き合っているだけで意識が眩むような雌のフェロモンが、そこから立ち昇っているのだろう。
俺に似た男が、獣のように女の股間を貪る。
つばさは、一瞬、天井に目を向け、苦悶の表情を浮かべた。
拒否するように、膝に力をいれて、脚を綴じ合わせようとする。
男の頭部が、太ももにぎゅっと挟まれた。
だが、それは僅かな間のことだった。
はあっと一息ため息をつくように呼吸すると、身体の力を抜く。
自由を得た男は、本格的にクンニリングスを始めた。
両手の指で陰唇を割り開く。
クリトリスの包皮を剥き、舌で舐め回す。
あふれてくる愛液を音をたてて舐めとる。
柔らかくこなれはじめた膣に、とがらせた舌を差し入れる。
「ああっ、ん、ん、んっ、あんっ、ぁぁぁっ、んんーっ」
もう吐息ではなかった。
つばさのあえぎ声が、淫らに響きはじめる。
「ひうっ、ひあうううんっっ」
背中をのけぞらせ、つま先がピンと伸びる。
丹念な女性器への愛撫を受け、つばさは軽く達してしまったようだ。
それでも、クンニは止まることはなかった。
つばさの愛液が白く濁り出す。
とろとろになり溢れ出してくる。
ジョン=リーは、身体を起こすと、陰唇に亀頭をこすりあてた。
探るように濡れそぼった亀裂に、軽く押しこむ。
ペニスの先端が、膣口に潜り込んだ。
「い、いやっ」
つばさの表情が、恐れているように歪む。
だが、すぐに弱々しげな笑顔が取り戻される。
俺には、無理に笑っているように見えた。
「んんっ、あ、はいってくる、んんっ、あああっ」
映像の中の俺は、ゆっくりとペニスをつばさの中に沈めこんでいく。
彼女の嬌声が快楽に震えた。
男の腰が動き、女の中を抉りはじめる。
淫らな音を立てて、肉棒が前後する。
陰裂はしっかりとペニスを咥えこんでいた。
捻りこむように突くと、そのたびに、つばさの喘ぎが開かれた唇から漏れだす。
「ああんっ、また、いっちゃう、いっちゃうっ ああんんっ、ああああああぁぁぁ、くううううんっっ」
「うぐっ、だ、だすぞっ、つばさっっ」
何回も互いの性器を摺合せ、快楽と貪り続け、二人は同時に絶頂に達した。
まるで潮を吹くかのように、女は愛液を迸らせた。
己の全てを注ぎ込むかのように、子宮の奥まで亀頭を突き入れると、男は射精した。
東條翼とジョン=リー=マッキネンの淫らな交わりは、惨めな俺の目の前で、繰り広げられ続けた。
俺にそっくりな男の欲望には、限りがないようにおもえた。
その後、何度も体位を変え、つばさの肢体を貪る。
後背位も、側位も、騎乗位も、座位も、
あらゆる姿勢を彼女は取らされた。
もちろん、それはゲーム内のモニターに表示され続けている。
俺はその映像から、目を離すことができない。
自分と瓜二つの男が、可憐な美少女と淫らなセックスを堪能している。
実のところ、俺からすると、まるで自分が過去に体験した記録を見せられているような気分だったのだ。
俺は興奮しきっていた。
2時間がすぎて、一応の区切りがきても、ジョン=リーは、つばさを離そうとしなかった。
一糸まとわぬ姿にされていたのが、剥ぎ取られていた衣服が戻る。
疲れや、愛撫を受け続けた影響も、一度リセットされたはずだ。
だが、またもう一度だった。
あの男は、もう一度、最初からセックスを始めるつもりのようだ。
つばさは、困った表情を浮かべたが、何もいわずに従った。
いわれるままに、男の膝の上に座る。
背面座位の姿勢を取った。
乳房は顕にされ、捏ね回される。
ストッキングの股間を破られ、パンティーの中に手をいれられた。
首筋を舌で舐め上げられ、耳たぶを噛まれる。
女性器を割り開かれ、ぱっくりと晒された。
濡れそぼった淫膣に、ペニスを挿入される。
つばさは気づいていないが、そこは丁度カメラの正面になっていた。
彼女の淫らな姿が、衆人の目に晒されている。
ジョン=リーは、左手で乳房を弄んでいる。
グッと鷲掴みにすると、指がやわらかな肉に食い込む。
右手は膝を持ち上げ、自らの剛直で貫いた陰唇を、よく見えるように開いた。
つばさは、倒れないように男の首に手を回している。
顔の位置がとても近い。
男が、耳元でささやく。
おそらく、キスしよう といったのだろう。
女は首を横にむけると、男のくちづけを受けた。
戸惑い?困惑?悲しみ?恥辱?
それらが、全て混じりあって、そのどれとも取れないような複雑な表情。
つばさは、男に抱かれている間、そんな表情を見せる事が多い。
特に、今のように男がつばさの顔を見れない状態のときは、その表情をしている。
「なあ、つばさ、お前、ほんとうは、すごく嫌なんだろ?」
「え?」
「こういう風に男に抱かれるのが、本当は嫌で嫌でたまらないんだろ?」
「そ、そんなこと…」
「わかるよ、お前、何かする度に身体が緊張するんだよな。それを意識して力抜くようにしてる。」
「う、うん。」
「つばさも多少はさ、楽しんでいるんだと思っていたんだけどな、そうじゃなかったんだな。」
「楽しむのは、無理だよ、だって、ボクは男なんだから…」
「若い男が、ミスティ=エンジェルのような美少女アバターになったとしたら。その間だけ、セックスを楽しんでやろうと興味をもつ者はいると仮定していた。東條翼もそのうちの一人なんだろうとな。」
ジョン=リーの口調は、本来のものになってしまっている。
いくら俺の声とはいえ、違和感は拭えない。
「普通は、そうかもしれないね、で、でも…」
「わかっている。東條翼には、そんな意識は全くない。純粋に友人の為に、犠牲を払い続けている。なぜだ?どうして、そこまでする?私には、全く理解できない。」
「ボクのせいで直人がおかしくなっちゃったんだよ?治す責任が、ボクにはあるんだ。」
「そのために、1000時間以上も、身体が震える程、嫌悪している行為を続けてるっていうのか?」
「だって、だって…」
「お前の精神は擦り切れて、もう限界なはずだ。この男が、お前にとって、それ程重要だとは到底思えない。」
その言葉に、つばさは激した。
怒ったのだ。
そういえば、俺は、彼女が怒りという感情を現したのを見たことがなかった。
喚き散らすのではない。
彼女は、ただ冷静に言葉を紡ぐ。
でも、それが並大抵の怒りではないのだとわかった。
「あなたに、ボクとなおとの何がわかるんですか?」
ギュッと手を握り合わせる。
いやいやという風に首を振ると、後ろ抱きにされた身体を起こした。
挿入されていたペニスが抜ける。
二人の体液が混ざり合い、どろりと滴り落ちた。
「気がついたのか?」
俺の声なのだが、それを発しているのが他人であると、はっきりわかる。
雰囲気や声調が違うからだろうか?
「ええ、貴方は、なおとじゃないんですね」
つばさの態度は冷静で、取り乱すことはない。
ジョン=リーから語られる真実を、黙って受け止めていた。
全てが明かされた時、彼女が発した最初の言葉はこうだった。
「よかった、なおと、無事だったんだね。本当によかった…」
柔らかなシーツの上に、脚を折りたたんで座っている。
上から見ると、太ももとふくらはぎでM字を描くような座り方だ。
ヒップからくびれたウエストのラインは、精緻な筆使いで描かれているように見事だった。
キラキラと光る金色の髪で、背中の多くが隠されている。
そこから覗く華奢で細い肩が、こころなしか震えているようにみえた。
「でも、ボク、ほんと馬鹿だね、全部、無駄だったんだ…」
ポツリと呟く自虐の言葉が痛々しい。
すぐにでも側にいって、抱きしめてあげたかった。
「無駄であったことは否定しない。だが、馬鹿なことではない。この状況で騙されないほうがおかしい。友を助けようとしたお前の行為は尊敬に値する。」
ジョン=リーの言葉には、つばさを励まそうという思いが感じられた。
「しかし、わからない。どうしてそこまでできる??なぜだ?」
つばさが振り返った。
映像に、はっきりと映る。
そこには、怒りも嘆きも無い。
マイナスなものは何もない。
笑顔だ。
100%の微笑みだった。
「なおとは友達なんです。絶対に助けなきゃいけないんです。友達を助けるのに、なにか理由が必要ですか?」
圧倒されていた。
つばさの強さと健気さに、圧倒されていた。
俺は、彼女に報いることが出来るのだろうか?
あまりにも無力な自分が、情けなかった。
「本当に、羨ましいかぎりだな。認めるよ、私の負けだ。なにか勝負しているわけじゃないがね。東條翼、君には完敗だ。」
頬をぺしゃりと叩く。
これまでの皮肉めいた口調と、態度がもどってくる。
「だが、君のは、もう友情とはいえないな。それは愛情だよ、自覚しておいたほうがいい。」
いつのまにか、ジョン=リー=マッキネンの姿は、俺のものではなくなっていた。
なんの特徴もない黒子のようなのっぺらぼうだ。
ただ、目と口の部分に切り込みがあり、人形の相貌をしている。
その姿が、グッとアップに切り替わる。
俺の目の前の個人用ディスプレイを残して、他から姿を消した。
”ヒャーーーーーーッハッハッハ、ヒーーーッ、ヒッヒッヒッ、ヒャアハハハッ”
クラウンの乾いた人工的な笑い声が、再度流れた。
退場の合図だ。
どうも彼なりのルールがあるらしい。
律儀というか、パターンは守る。
もしかしたら、いい奴なのかもしれない。
”ザ・ウィザード=ジョン=リー=マッキネン”によるハッキングは終了した。
サーバー内は、いつもの姿を取り戻す。
飲む忘れて放置されていたスペシャルラテが、すっかりぬるくなっていた。
ハッカーからのメッセージが届いた。
”なにをグズグズしているんだ?”
”早く、お姫様を迎えにいってやれよ。”
”まあ、どちらかというと、騎士だったのは、東條翼のほうだったがね。”
”それでも、お前にできることは、まだあるはずだ。”
”これ以上、おせっかいは焼かないぞ。”
その通りだ。
俺はなにをやっているんだ?
無力だと嘆いている暇があったら、できることをするべきだ。
何もしていないわけではなかったけれど、つばさの覚悟とは、比較にもならない。
あわててログアウトする。
VRSカプセルから飛び出ると、充填液をシャワーで流すこともなく、着替えた。
ぬるぬるして気持ちが悪いが、一刻もはやく、つばさに会いたかった。
俺は、バイクに飛び乗った。
俺が谷川 芳恵の自宅についたとき、黒いスーツの男達は姿を消していた。
そこには、マンションの管理をしているという警備会社の人間が二人ほどいるだけだった。
今さっき、警察を呼んだところらしい。
リビングルームには、今度の事件の元凶ともいえる女が座り込んでいた。
「な、なによっっ、私はわるくない。なぜ??あんな男がミスティで、私が、こんな、こんな…」
ぶつぶつと念仏でも唱えているように、小さな声でつぶやいていた。
ソファの毛を指で毟りとり続けている。
かなり長い間、そうしていたのだろう。
おばさんの座る周囲は、ほとんど丸ぼうずになっていた。
「お、男のくせに、私よりっ、ありえない、ありえないわっっ、そんなの罰が必要よっ、そうよ、あいつが悪いのよ、私はわるくないっ」
手入れ不足で、乾いたボサボサの髪が、表情を隠していた。
だが、そこから僅かに覗く瞳は、何もない虚ろな視線を落としている。
谷川は既に半分、狂気の世界に足を踏み入れているようだった。
哀れだとは思わなかった。
虚しさのほうが大きい。
何をいっても、このばかな女には届かないだろう。
責めるだけ無駄なのは、明らかだった。
一番奥の8畳の洋室に入る。
LED照明は、必要最低限に内部を照らしていた。
個人宅には不釣り合いな、大型の電源装置がいくつも並んでいる。
駆動しているのを示す緑ランプが点灯していた。
充填液を濾過するためのタンクが三機あり、太いパイプで結ばれている。
その間に、透明な強化ガラスでできたVRSカプセルがあった。
つばさがいた。
俺を待っていてくれた。
充填液のうす青い中に、裸身を浮かべている。
すんなりと伸びた手脚と、細く嫋やかな身体が精巧な人形のようにみえる。
長い睫毛をした目が、閉じられてた。
すっと通った鼻稜の下、淡く小さな唇は、笑っているようだ。
今こそ、眠れる美少女を、起こす役目を果たすときだ。
VRSカプセルの強制解除操作を行う。
商業用カプセルと基本的なインターフェイスは同じだった。
ブーーーンという機械音とともに、カプセルの前面が開く。
「うっ、んんっ、ふーーーっ」
ヴァーチャル空間から戻ってきた彼女は、ゆっくりを呼吸を戻し、起き上がった。
閉じていた目が開く。
ライトブルーの宝石の瞳が、まぶしく輝いた。
優しい光で、俺に笑いかけてくれる。
「なおと、ただいま。」
「おかえり、つばさ。」
たまらず、俺は彼女を抱きしめた。
おもわず、その桜貝のような唇にキスをした。
キスをしてしまった。
つばさの唇は、甘く、柔らかかった。
びっくりしたようだったが、つばさは抵抗せず、受け入れてくれた。
俺は、彼女を助けるヒーローにはなれなかった。
けど、彼女を受け止められる恋人には、なれたと信じたい。
俺は、いつまでも、愛しい恋人を抱きしめ続けた。
いつまでも、いつまでもだ…
エピローグ ロスト ヴァージン 東條 翼
大学付属病院の診察室というものは、2種類に別れるという。
それこそ昼休みさえ、取れないくらい忙しい場所。
老人向けの内科なんかは、その類だ。
診察開始の早朝から、終了の夕方に至るまで、引っ切り無しに患者が訪れる。
それとは逆に、ほとんど患者がこないという場所もある。
伊藤 涼香(いとう りょうか)が務める精神科のカウンセリングルームはそれに当たる。
精神科という科目の患者が少ないわけではない。
どちらかというと忙しいはずだ。
だが、この部屋の主は、基本わがままだった。
面倒くさい仕事は、したくない。
いい仕事は、選んでするべきである。
そのポリシーを押し通していたし、それだけの実力があった。
今日は、2つ仕事をする予定だった。
ひとつは、気の進まない面倒くさいほう。
もうひとつは、逆だ。
そちらのほうは、やる気が満ち溢れてくる。
脳神経インターフェイスの端末を身につける。
ヘッドセットタイプの簡易端末だった。
腕を組むと、伸びをした。
豊満な身体が、椅子の上でキュッとひねられた。
伊藤 涼香は、セクシーな大人の女だった。
自分の魅力を、十分に理解して、武器にしているタイプだ。
年齢は、30代前半くらい。
白衣の下に、抜群のプロポーションを隠している。
ショートカットの活動的な髪型と、切れ長の瞳ができる女を演出していた。
視界が事務用の画面になる。
思考するだけで、午前中に診た患者のカルテが呼び出された。
便利な発明だと、涼香は思った。
彼女が学生だった10年前には、キーボードでカチャカチャ、タイピングしていたのだ。
画期的なシステムだと思う。
作ったやつは、いけ好かない男だが…
谷川 芳恵(タニカワ ヨシエ)
20XX年12月24日生まれ(32歳)
症状:強迫神経症による被害恐怖と不完全恐怖。また巻き込み行為の多発
ミスティ=エンジェル事件 とよばれるネット犯罪が行われて、半年が経とうとしていた。
谷川 芳恵は、その犯人だった女性だ。
事件自体は、死者がでたわけでもなく、未成年者略取誘拐罪というだけだ。
谷川が精神を病んでいることもあり、懲役刑とはならない可能性が高い。
だが、世の中の反響はすさまじかった。
いまだ、その熱は冷めていない。
むしろ、より過熱している真っ最中というところだ。
原因は、被害者である”東條 翼”にあった。
ゲーム内アバター”ミスティ=エンジェル”と融合状態となった翼は、現実世界で、それに優る美少女になった。
VR空間が生んだ理想のアバターが、リアルに存在しているのである。
世間が注目しないわけがない。
特に、ハッカー、ジョン=リーと会話したときの、”友人を助ける”と毅然と言い放った笑顔は、多くの人の感動と称賛を得た。
また、そのときの赤裸々なセックス動画が、ネット中にばら撒かれてしまったのも、原因となっている。
涼香は、ゲーム会社と、とある筋からの依頼を受けて、”東條 翼”と”谷川 芳恵”の精神分析とカウンセリングを任されていた。
報酬としては、十分すぎる額を受け取っている。
片方の依頼者である、ジョン=リー=マッキネンは世界一の大富豪だ。
建売住宅を買える程の金額なのだが、こんなものは雀の涙といったところなのだろう。
正体はわからないが、ネット上で接触してはいる。
天才かもしれないが、傲慢で偏屈な男だった。
”谷川 芳恵”に関しては、低シンクロ率によるVRS接続が、精神面にどのような影響を与えるのかという調査だ。
これは、特に興味を引くところはなかった。
神経接続が劣化するという物理的な障害があるだけで、むしろ感覚的には通常より劣る状態でログインしていたのだ。
谷川の精神異常は、脳接続VRSが原因というわけではなさそうだった。
すでに谷川に対する医者としての興味は無くなっていた。
自分が、この女性にたいして、精神科医としては相応しくなくなっているのも自覚している。
個人的な感情を挟んでしまうようになったからだ。
それは、もう片方の患者の影響だった。
”東條 翼”に関しては、これ程のフィジカルフィードバック現象を引き起こした原因の究明が主だ。
彼女は、母親から虐待を受けて育った子供だった。
私生児で父親は不明だ。
極度の男性不信に陥った母親は、小学校高学年になるころまで、家では翼を女の子として扱った。
スカートをはかせ、料理など家事を徹底させた。
気に入らないことがあると、悪態をつき、殴った。
母親は、翼にとって恐怖の対象だったという。
ところがある日、母子は交通事故に巻き込まれた。
二人の乗った軽自動車が、突っ込んできたトラックに挟まれたのだ。
転倒した車に、折れた電柱が倒れこんだのだという。
母親は、信じられない力で、その背中で電柱を支え、我が子をかばったのだ。
「ごめんね、つばさ、弱いママを許して…ごめんね」
それが、彼女が聞いた母の最後の言葉だったという。
翼をなんとか車から逃した後、母は力尽き、電柱に押しつぶされたそうだ。
引っ張りだそうと必死に伸ばした手の先で、死に至る母の姿が記憶に焼き付いているという。
残された日記には、自分を捨てた男への怨嗟と、虐待を繰り返してしまう苦悩、つばさへの謝罪が綴られていた。
「本当に悪い人なんていないと思います。みんな自分の弱さに負けちゃってるだけ…」
谷川 芳恵を許すといったときの、翼の言葉だった。
写真でみた東條 翼の母親は、美しい女性だった。
どこか、”ミスティ=エンジェル”に似た儚げな美女だ。
虐待されて育った子供は、自信を喪失する。
つばさは、男性だったとき、自分自身を嫌っていた。
母が望んだ女の子にもなれず、かといって男としての意志と力にも劣っている。
命がけで救われるほどの価値が、自分にあるとは思えなかったそうだ。
東條 翼の精神と、本来の身体との結びつきの弱さはそこに起因するのだろう。
”ミスティ=エンジェル”は、自分を命がけで助けてくれた母にとっての、理想の少女なのだ。
幼い頃、もしミスティでありさえすれば、虐待もなく、母を失わずに済んだかもしれない。
矛盾と錯覚だらけの認識だが、つばさの本心だったのだろう。
このアバターを受け入れ、フィジカルフィードバック現象を引き起こした精神面での要因は、そんなところだ。
報告書には、そう記載してある。
脳神経系がVRSに高い親和性をもっているという物理的な側面もあるらしいが、専門外なので詳細は知らない。
「こんにちは、涼香さん。」
爽やかな挨拶が、流れる。
笛の音のようなソプラノの声だった。
東條 翼だ。
肩に届くくらいのミディアムの髪が漆黒に染められてる。
瞳もカラーコンタクトを使っていて、黒に見せている。
本来は、プラチナブロンドにライトブルーの瞳なのだが、あまりにも目立ちすぎるので、変えているのだ。
それでも遠目で誤魔化せるだけで、西洋人形のように精緻で可憐な容姿が眩しい。
彼女の身体は、ミスティ=エンジェルの状態にすぐ戻ろうとしてしまうらしく、髪が伸びるのが早い。
黒髪の状態を保つのは、大変らしい。
涼香は知り合いの美容師を紹介した。
結局、その知り合いの伝手で、報酬を払うからカットモデルをしてくれとの依頼が殺到するようになったとのことだ。
「これ、おみやげです。」
紙の箱が渡された。
中は手作りのチーズケーキだそうだ。
恋人に渡すものの、おすそわけなのだろう。
「翼、君は太らないかもしれないけどさ、私は、今、ダイエット中なんだよ。」
「え?涼香さん、そんなの必要ないじゃないですか?素敵なプロポーションですよ。」
「維持するためには、懸命な努力が必要なのさ。スポクラ通いは日課だよ。」
「わたしも入会したんですよ、また一緒に連れてってください。」
「ああ、それはやめたほうがいいかもしれない…」
以前、ビジターとして涼香が契約しているスポーツクラブに連れて行ったことがある。
ちょっとした騒ぎになった。
個人ジムに通うことを勧めるべきだろう。
「ところで、告白することに決めた?その服、似合ってるよ。」
つばさが頬を染めた。
可愛いなと、涼香は、思う。
食べちゃいたい女の子は何人かいるが、その筆頭、ずば抜けているのが東條 翼だった。
涼香の好みのタイプどまんなかだった。
そう、伊藤 涼香はレズビアンなのである。
翼は、全く気づいていない様子だが…
「勝負下着もちゃんと着けてきたんだよね??」
あまりに反応が可愛いので、ついからかいたくなる。
もう、顔は真っ赤だった。
今、翼が身に着けているのは、白いワンピースだった。
上半身は短いチュニックになっていて、豊かな胸を飾っていた。
ウエストの部分は、空色の生地でギャザー状に絞られている。
そこから、真っ白なフレアースカートに繋がっていた。
清楚な装いが、つばさによく似合っていた。
この前、一緒にブティックに買いにいった物だ。
女性として、生きていくと決めた翼に、色々アドバイスしてきたのが、涼香だった。
メイクの仕方や、服の選び方、生理用品の使い方から、言葉遣いまで。
彼女はなかなか優秀な生徒だった。
その翼から、先日、相談を受けたのだ。
かなり親密に打ち解けることができたおかげか、信頼されているようだ。
「えーと、そのですね、涼香さん…」
「ん?なに?言いにくいことでも、お姉さんには思い切って相談しなさい。」
「あ、あの、なおととは、なんとなく、あの事件以来、その、こ、恋人っていっていいのかなーって、そんな感じになってはいるんです。」
「ああ、なおとくんのことね。」
なにかというと、翼は”神谷 直人”の話をしてくる。
”直人が好きなのは、ショートケーキよりチーズケーキなので…”
”一緒にサッカーを見に行くんだけど、よくルールがわからない、勉強しなきゃ…”
”VRSゲームが好きなのに、我慢してるみたいで可哀想。私はどんなゲームでも、今の姿でしかログインできないから、目立ちすぎて一緒に遊べない”
”コンサート一緒にいきたいけど、ジャズとか、なおと好きかな?だいじょうぶかな?”
高校からの友人なのだから、おおよそのことは知っている癖に、妙に気をつかっている。
”神谷 直人”は、”ミスティ=エンジェル”とは逆の意味で、”東條 翼”にとって憧れなのだ。
涼香は、そう分析している。
彼はどこにでもいる男の子だ。
特別優れているわけでもない。
だが、平凡だが明るい家庭に恵まれ、まっすぐ育っている。
寡黙で働き者の父、小煩いがしっかりものの母、生意気だが可愛い妹。
優しさ、真面目さ、強靭さ、努力
それぞれは特別ではないが、人が生きるのに必要なものを過不足なくもっている人物だった。
”東條 翼”がなりたくてもなれない男の子、それが”神谷 直人”なのだろう。
特別な存在になってしまった東條 翼だが、恋人にするなら、そんな平凡な男のほうが幸せかもしれない。
「でも、キス以上のことはしてくれないというか、もしかして、わたしじゃダメなのかなって…」
「はあ?つばさでダメなら、誰がOKなのさ?」
「やっぱり、元々は男だったわけだし…」
「今のつばさ見て、そんなの気にするアホがいるとは思えないなあ」
「そ、それに、ヴァーチャルとはいえ、たくさんの人とHしちゃったでしょ?汚いって思ってるかもしれないって、不安で…」
「そんなわけないでしょー。つばさに惚れられて、嬉しくない男なんているわけない。」
悩み続ける彼女に、そのままの内容で告白してしまえ とアトバイスしたのだ。
そのために、勝負用の服を買わせた。
下着も買わせた。
これで、手を出さなかったら、神谷 直人は、へたれである。
ヘタレ王である。
へたれを極めしものと呼んで、ついでに翼もとってやろう。
伊藤 涼香は、そう思っていた。
街は冬の装いを見せていた。
清とした空気は冷たく、肌に刺すような風が吹く…
だが、歩く人々の様子は明るい。
今日は、特別な日だからだ。
12月24日
クリスマスイブ
日本では、恋人たちの為の日になっていた。
神谷 直人 にとって、今年の聖夜は更に特別な日になりそうだった。
東條 翼 という恋人がいるからだ。
過去に彼女がいなかったわけじゃない。高校のときに、付き合ったことはある。
まあ、子供っぽい、おもちゃみたいな恋愛だった。
たいして長く続かなかったのも、そのせいだろう。
だから、童貞というわけでもない。
その子とは、何度も関係した。
体感型ゲームの中だけれど、ある程度、性体験もこなしているつもりだった。
だが、つばさに対しては、キス以上のことをしていない。
傷つけるのが、怖かった。
彼女は、大学に入りたてのころ、かなり酷い体験をしていたからだ。
トラウマになっているんじゃないか?
そう心配してしまっている。
また、あまりにも、つばさが綺麗すぎるというのもあるかもしれない。
彼女の場合、お伽話から抜け出してきたという表現が、比喩ではなく事実なのだから。
自分のような平凡な男が、彼女の隣に立っていていいのか?という思いが拭えない直人だった。
つばさとの約束の場所まで、もうすぐだった。
ショッピングモールの広場だ。
大きな飾り時計のついた照明塔が、待ち合わせの定番になっていた。
今日は、つばさとデートする予定だった。
水族館にいって、その後、食事をする。
定番だが、彼女となら、何をしたって楽しいにきまっていた。
なんだか人集りがしていた。
クリスマスイブなので、確かにいつもに増して人は多いのだが、少し異様だった。
照明塔がある辺りを中心に、取り囲んでいるような流れになっている。
”なに?映画の撮影とか?”
”うわっ、かわいい。モデルかなんかかな?”
”芸能人?”
”うーん、どっかで見たことあるような。”
野次馬たちのつぶやきが届く。
「あ、なおとー、こっち、こっち。」
真っ白なミトンをした手を、かわいく振っている。
つばさだった。
見蕩れてしまった。
白いふわっとしたファー付のセミロングコートに身を包んでいる。
コートはお尻の下辺りまでを覆い、中に着ているであろう同色のフレアスカートが腿の半ば辺りまでを装っている。
そこから覗く両脚は、黒のストッキングを履いていた。
信じられないくらいスラリと伸びた綺麗な脚だった。
踝(くるぶし)に届くくらいの白いムートンブーツを合わせている。
白と黒のコントラストがはっきりした難しいコーディネートだが、完璧に着こなしていた。
注目されるはずだった、
神谷 直人をみる周囲の視線が痛い。
彼は慌てて、つばさの手を引くと、その場を離れた。
ネットを覗いてみると、案の定だった。
”ミスティ=エンジェル”こと、東條 翼の親衛隊を自称する集団がいる。
彼らのコミュニティでは、ついさっきの翼の姿がアップされていた。
”ミスティちゃんを、例のショッピングモールにて発見!!”
”グッドジョブ!!”
”うっは、かわええええ”
”いつもより、気合入ってますな”
”Aライン社の新作コートだね、似合ってるなあ”
”クリスマスイブでデート???”
”羨ましいのう”
”実物見てええええ”
”まだ間に合うんじゃね?誰か中継よろ”
”ラジャ!!”
”そっとしといてあげなよー”
もうだめだった。
ときおり、こうして予定が潰れてしまうことがあった。
いつも、できるだけ控えめにしていても、起こることだ。
今日のつばさでは、目立つなというほうが無理だ。
デートは、諦めるしかない。
「ええーーっ、そんな、ひどいよ、すごく楽しみにしてたんだよ…」
「しかたないだろ?なにかあったら大変だし。」
「ううううう…」
むくれる姿も魅力的だった。
結局、二人は大学近くにある東條 翼の分譲マンションに戻った。
4LDKの、この辺では一番値段の張る物件だ。
セキュリティがかなりしっかりしている必要があったかららしい。
以前住んでいた4畳半風呂なしアパートとは、かなり格差がある。
”ミスティ=エンジェル”として得た報酬は、後払いだった。
おかげで、谷川が遣い込みできたのは1ヶ月分のみだった。
残りの半分以上は、とりあえず翼の手に残った。
ゲーム会社は、全額の振込を検討しているらしいが、つばさはあまり拘ってはいない。
”脳神経接続VRS開発財団”という名目で、ドル建ての振込があったからだ。
研究に協力した報酬ということで、夏や年末に行われる大型宝くじに当選したのとおなじくらいの金額が振り込まれていた。
つばさがいう。
「マッキネンさんって、すごく良い人だったんだね。」
ときどき、連絡がくるそうだ。
「顔とかわかんないんだけど、なんか本人の声は低くてイケメンぽかったよ。」
精神科医である”伊藤 涼香”を紹介してくれたり、戸籍関係や細かな事務関係をサポートしてくれている。
直人は、なんだか嫌な予感がしたが、黙っていた。
「税金とかよくわかんないので、涼香さんに相談してるとこなんだ。」
いきなりお金持ちになったので、どうしていいのかわからないようだ。
女性として再出発するのに必要なものには、お金は惜しまないことにしたそうだ。
直人としては、若干だが、服やバッグを買いすぎな気もした。
まあ、他は以前と変わらず、質素な生活を送っているようなので、問題なさそうだ。
実際、今も、二人でこたつに入って、昔の映画を鑑賞している。
夕食は、宅配のピザとチキンになった。
配達専門の酒屋から、そこそこの価格のワインも注文した。
こんなことなら、手料理を振るまいたかったよ、と彼女が嘆く。
二人共、VRS接続用ヘッドセットを着けている。
視界に60インチに相当するディスプレイが表示されていた。
この画期的な発明の後、現実世界ではディスプレイの類は一切廃された。
かなり昔の恋愛映画が、もうすぐクライマックスを迎えようとしていた。
アメリカの実業家が、コールガールと出会って恋に落ちる映画だ。
主人公の男が、大きな花束を抱えて、ヒロインを迎えにくる場面だった。
「ねえ、なおと」
彼女は、酔っ払っている様子だった。
「ん?なに?」
「気持ち悪い??」
ワインの3分の2は、つばさが飲んでいた。
「いや、平気だよ、俺はほとんど飲んでないし。それより、つばさは?飲み過ぎじゃないか?」
「そうじゃなくて…」
一瞬、言い淀む。
「私のこと、気持ち悪いと思ってる?」
「へ?」
「私、前は男だったじゃない?気持ち悪いと思ってるんじゃないかって…」
「そんなわけないだろ。つばさより魅力的な女の子なんて、他にいないよ。」
視線を合わせず、下をむいて、絞りだすように言葉を続ける。
「じゃあ、汚い??」
「は?」
直人には、つばさが何をいいたいのか、さっぱりわからなかった。
「私、VRでたくさんの男の人にされちゃったでしょ?不潔だって感じなのかな?」
「なにバカなこといってるんだよ、俺を助ける為にしてくれたんじゃないか?汚いなんて思うわけないだろ?」
「じゃ、じゃあさ…」
つばさは泣きだした。
ポロポロと涙が零れ出す。
高まった感情を抑えられないようだった。
「なんで、何もしてくれないの?手をだしてくれないの?私、不安で、すっごく不安で…」
男は間違えなかった。
震える肩を抱きしめた。
「ごめん、つばさ。傷つけるんじゃないかと、怖かったんだ。」
「う、うん…」
「つばさ、俺、お前がほしい。」
「は、はい…」
「愛しているよ、つばさ…」
二人は引き寄せあい、確かめるようにキスをした。
ついばむようなバードキスから、優しく唇を合わせる。
画面では、映画の登場人物たちも、同じく幸せの接吻を交わしていた。
寝室には、セミダブルベッドが置いてあった。
シンプルなデザインで、清潔なシーツできちんとベッドメイクされている。
主の性格が現れているような部屋だった。
間接照明用のフロアスタンドが、柔しく照らしている。
観葉植物のシマトネリコの鉢が、青々と伸びている。
壁には、翼のお気に入りの前衛画家の作品が飾られていた。
神谷 直人は、ベッドに腰掛けている。
先にシャワーを浴びていてほしいといわれ、その通りにしていた。
落ち着かない気分だった。
バスローブを羽織っただけの姿だ。
部屋の暖房は高めに設定していたので、寒いわけではない。
昔の映画だと、タバコを吸って、持て余した気分を和らげていた。
いまでは、タバコなんて毒物を好んで吸う人間はほとんどいない。
だが、今は、それがあったらいいなと、心底思う直人だった。
扉を開く音がした。
人影が、そこにあらわれる。
幻影であるかと錯覚するほど、その人は、儚げだった。
つばさだ。
嫋やかな睡蓮の花が、凛として伸びているようだった。
なだらかに描かれる身体は、真珠色のブラとショーツだけを身に付けている。
シルクのレースをふんだんに使い、黒のちいさなリボンがワンポイントで使われていた。
清らかなイメージが、翼のために特注されたもののように、合っている。
「つばさ…」
「なおと…」
男女は自然に引き合った。
抱きしめ合い、見つめ合った。
お互いの腰に手を回すと、情熱的な接吻をする。
男の手が、ゆっくりと女の身体を確かめだす。
引き締まったウエストから、白桃のように丸く張り出したお尻の感触を味わう。
筋肉のラインがゆるやかに流れる背中を、広げた掌が這いまわる。
ブラのホックに指が掛かり、それがカチンと外された。
瑞々しい甜瓜(メロン)を半分に切ったかのような、豊かな乳房が零れ落ちる。
男の胸板に押し付けられていた双丘を、やさしく刺激する。
しばらく、そうしてお互いの身体を確かめ合う。
なおとは意を決して、つばさの身体を抱き上げる。
いわゆるお姫様だっこの状態になった。
もう一度、やさしくキスすると、ベッドの上に運ぶ。
横たえた女体の上に被さると、男は愛撫を再開した。
女は敏感だった。
指が這い回るたびに、反応が高まっていく。
首筋を舌が這い回る。
指が乳房に食い込み、揉み上がられる。
女の押し殺した嬌声が、徐々に大きくなっていった。
直人の指が、ショーツ越しにつばさの女陰に触れた。
そこは、もう濡れそぼって、いつでも男を受け入れられるようになっていた。
手を中に差し込むと、ゆっくりと、指を亀裂に這わせる。
膣口をさぐりあて、すこし力を込めると、指が潜り込んでいく。
そこは、かなりキツかった。
「んんっ」
つばさの声は、すこし苦しげだった。
「いたい?」
「だ、だいじょうぶ…」
「もしかして、今まで、自分では何もしてなかった?」
「なにもって?」
「いや、あれから半年たつだろ?オナニーとかもしてなかった?」
つばさが、顔を赤らめた。
目を逸らす。
「ば、ばか…なにいってんの?」
「いや、なんか気になって…」
「クリトリスだけ、かな?入れるのはこわくてやってない。」
「そ、そうか…」
身体は、はじめてなんだよな。ヴァージンなんだ、優しくしないとな。
なおとは、そう思った。
つばさが十分に潤っているのを確かめると、なおとは自分のペニスをあてがった。
「いくよ、つばさ…」
「う、うん。きて…なおと」
ぐっと押し込む始める。
ゆっくりと、閉ざされた膣の中を、こじ開けていった。
処女膜が破れ、それをあらわす血が流れる。
少女の表情は、痛みを見せていた。
「どう?無理じゃない?」
「う、うん、痛いけど、いいの。うれしい。やっと、なおとのものになれた…」
少年は感動していた。
愛しい少女を抱きしめると、痛みをできるだけ与えないように動く。
二人の新しい関係がはじまった瞬間だった。
終わったあと、二人は抱き合っていた。
心地良い疲れが、身体を占めている。
ヴァーチャルリアリティでは、決して得られない安息だった。
ときおり、キスを交わし、見つめ合う。
コロコロと楽しげに笑いあう。
恋人同士の睦ごとは、幸せで満ち溢れていた。
「まだ痛いだけだけど、がんばれば、気持よくなるよね?」
「うん、そうだな。」
「なおと、わたしの身体、気持ちよくなるようにしてね?」
「あ、ああ…」
男は照れくさそうだった。
「なあ、つばさ。」
「ん、なに?」
つばさが微笑む。
微塵の曇りもない鮮やかな笑顔だった。
この天使の微笑みは、いつまでも彼の側にあるのだ。
なんて幸せなんだろう。
「戸籍の変更ってさ、いつできるんだっけ?」
完全な女性になってしまっている東條 翼を、戸籍上もそれに合わせる手続きが進んでいる。
伊藤 涼香が書類を整えてくれているはずだ。
「20になってからかな?未成年のうちは、なんか色々面倒らしくて…」
「そうしたらさ、結婚しないか?」
「え?」
「恋人以上の家族になろう。俺はつばさとずっと一緒にいたい。」
「あ…」
「駄目か?俺は、つばさの夫になりたい。一緒に幸せな家庭をつくろう。」
彼女は泣きだした。
幸せの涙だった。
大好きな直人と、憧れ続けた温かい家族が作れるのだ。
こんなにうれしいことはなかった。
「うん、ありがとう、なおと。結婚しよう。わたし、あなたの妻になる」
「「しあわせになろう」」
二人の声が揃った。
未来が祝福され、輝いているのがみえた。
彼らは、恋人以上の、夫婦になるのだ。
END
それでもやっぱりNTRを見てみたいと思うのはいけないものなのか……
王道いいですよね。すごく綺麗にまとまっててお見事としか言いようがない出来だと思います。
特にエピローグの翼の可愛いらしさはポイント高いです。加えて、あちらではみんなにスルーされてたネカフェオーナーの顛末に触れられていた所も個人的にグッドでした。
ふたば板・図書館と多くの意見が寄せられていましたがそれはそれだけの人々に訴えかけるモノがあったということでもあります。
あまりマイナスにとらえることはせず、胸を張って筆の肥やしとされるのがよろしいかと。
それでは次の作品を楽しみにお待ちしています。
個人的にNTR経験者なのでフィクションでもこういうフォローはありがたいですわ。
感じてたもやもやが一気に晴れたようなそんな気すらしてきます
やっぱり王道は正義ですね。
実にお疲れ様であります。
NTRじゃないエンドを書くとはなんと律儀な作者さんだ。
ちょっとだけ気になるのが次ぎのところ
>涼香は、ゲーム会社と、とある筋からの依頼を受けて、
>片方の依頼者である、ジョン=リー=マッキネンは世界一の大富豪だ。
あるところとぼかした直後にばらしちゃってるところ
最近忘れかけていた、暖かいものを思い出した気がします。
有難うございました。
気が向いたら、また何か書いて頂けると嬉しいです。