辻白竜は街の雑踏の中で佇んでいる。人を待っているような動きで周りを見回し、時折時計へ視線を落とす。
その最中にも、首元に作られた3つめ4つめの瞳は周りを探り、他の人間を見ている。
首尾よくウルティマの肉体を得て、大いに怒られながらも喰らった人達に「肉体」を返し、日常を取り戻したけれど、それで鍛錬を止めるような精神を白竜は持ち合わせていなかった。
ただでさえ様々なものに変異させられる肉体であるのなら、今の段階でもどれほどまで出来るのか。それを知る為に今こうしているのだ。
ウルティマの能力は、改めて思い返しても凄まじい。
抑えたとはいえ、知識欲の片鱗は肉体のそこかしこに残っており、他人の体を見ると外側をまず寸分違わず模倣する観察力を持っている。
だぶついた服の中で体が蠢き、目の前を通る女性と同じラインを形成する。
(やば、思ったより大きい…!)
服の中で変身しやすいよう、余裕を持ったサイズの服でも解る位の膨らみになってしまい、慌てて元に戻す。
でも、変身できるのは見た目だけだ。対象と全く同じに、というのは、観察だけでは出来ていなかった。
肉体だけで絡み合っていた時、早耶の姿になった記憶から解るのだが、どうにも違和感は拭えなかった記憶がある。
記憶からの構成故に観察が足りてなかったのか、それとも早耶の性感を“知らない”から再現できないのか。
多分どちらもあるのだと思う。
妃美佳の後押しも受けながら、早耶と付き合い始めてみたものの、まだその行為には及べていない。
早耶のことは知りたい。けれどそれは喰らう以外の方法で行う必要がある。
何よりも「この肉体」に、それ以外の方法を教えなければいけないからだ。
第1の手段としては、まず何より視界を用いた「観察」だが、これは先ほどの通りに見たままを模倣する事は出来る。
では第2の手段だが、考えたものとしてはいくつか方法がある。
1つは分体を相手の中に進入させる事。生理や反射を記憶させて再吸収すれば、再現は可能だ。
2つは耳から突き刺した触手で脳を探ること。少し時間は掛かるが、肉体の他に記憶も取れる。
3つは粘体で相手の身体を包む事。喰らわないよう注意する必要はあるが、その全てが可能。
勿論第1の手段を継続して、観察だけでどこまで出来るか試すのも良いだろうけど……。
男としての性か、視線は不特定多数の女性へと向いていた。
【どの方法を試すか】
>A.分体を浸入させる(23人平行) 2
B.ナーブジャック
>C.スライム化して全身隈なくもちゅもちゅ 1
D.このまま観察し続ける
(そうだな…、知識欲と食欲は別物だという事を教えないと)
ウルティマの体が求める欲は2つしかないが、どうにも不可分と思っている節が体にはある。けれど人間としては、生きるために食べる事と己の為に知る事とは別物なのだ。
人間以外の体を持ちながらも人間として生きる為に、「知る為に食べなくても良い」と、まず教える必要がある。
「その為には、誰か…。…やらないといけないよな」
少しばかりのため息を吐きながら、一度人気のない場所へ移動。
直後に外見を変化させる能力を応用し、光の屈折率を変更、視界に移らないよう透明化する。自らの一部で作った服や装飾品も同時に透明となった。
「これで良し。次は…」
元の位置に戻り、再び周囲の人間から“美味しそう”な人を見繕う。知識欲と食欲を分ける為に、まずはそういった面で食指が動く相手を必要としていた。
相手に気付かれない為に、接触しないよう気を付けながら数分。人波の中で目を惹かれる人物がいた。
柔らかそうな髪を揺らして、足取り軽く歩いている女性。服装も化粧気からも、明らかに「デートに行きます」と公言しているような気の入り様だ。
年の頃は自分より少し年下の、高校生位だろうか。
「…あの子、良いな」
つい口に出た欲求に流されないよう、軽く頭を振って少女の跡をつけていく。接触を避けるように体を融かし、平面状になって滑りながら。
この体になってから歩行の疲労とは無縁のようで、少女の移動に難なくついていく事が出来た。
駅へ向かい、改札を通り過ぎて、その足は化粧室へ向かう。どうやら彼女はもよおしていたらしく、その足は個室へと向かっていた。
(…これは、イケるな)
腰を降ろし、小用を足している合間。消音機が鳴っている間に隙間から滑り込み、上下のスペースも含めた室内一面を閉鎖。内側を完全な防音仕様にする。
「ふぅ…」
白竜の行動は気付かれていないようで、少女は自らの秘所を紙で拭っていた。
(今だ!)
防音に使っている部分を残し、それ以外が思い切り、ぼとり、と上から落ちてきた。
「えっ!? 何これ、ぬるぬるして…っ!」
気を緩めていた所に突然、粘液の襲撃を受けた少女は慌てて振り払おうとするが、その手は粘液の中に潜り込むだけだった。
その手に、包み込んだ部分に触れて、白竜の中に観察時より正確な情報が流れ込んでくる。
(…なるほど、直接触れると、ここまで情報が来るのか…)
早耶と手をつないだりしたことはあるけれど、知る為に触れたことはまだ無かったが故に、白竜の意志で初めて“他人を知る”行為の甘美さに、少し喉が鳴ってしまう。
“この情報を喰ったらどれだけ美味だろう”
(いや、ダメだ、喰らう為じゃない。これはただ知る為だけにやってるんだ…!)
そんな本能を押しのけ、別物として認識させるために頭を振る。
服の中にまで粘液を差し入れ、下着の上から柔肌を全身でねぶる。乳房のふくらみ、柔らかさ、腰の括れ、臀部の肉付き、その全てを知識として精密に吸収していく。
「やだっ、何これ…! 触らないで、やめてぇ…! ひ、ぃ…っ!」
抵抗できぬままに身をよじる少女は、曝け出されたままの秘所に触れる粘液に、背筋が凍るような叫びをあげた。身が強張るのを外側からでも感じてる。
きゅ、と秘所も閉じられてしまい、難しくは無いが侵入に手間取りそうだった。
(仕方ない、か…。ごめんね、ちょっと味あわせてもらうよ)
少女の体を包む粘液の動きを変える。探るようなべっとりした動きから、どこか優しさも感じさせるようなフェザータッチへ。
「ひぃっ! 触られて…、え、でもこれぬるぬるして、指が触ってきて、え、え…!?」
今しがた“知った”、少女の指先を模して、触れる。粘液から柔肌同士の触れ合いに変わった少女は困惑しながらも、逃げられず身を委ねるしか無い。
「やっ、やめて! そんなとこ触らないで!」
ブラジャーの中の粘液でも指先を作り、乳房を撫で、ぴん、と乳頭をはじいた。
「んぅっ!」
刺激と、触られている恥かしさから声が上がってしまう。慌てて口を押えようとしても動かない。
「あっ、いやっ、そこダメっ」
秘所周りの粘液は形を作らずに、一部に集い始めた。そこは女性器の中でも敏感な陰核部分。
壊れ物を触るように優しく、しかし確実に事を遂行するように、しみ込み、同時に力を伴って事を起こす。
「んい…っ!」
包皮につつまれた陰核を曝け出し、粘液のまま吸うように扱くように触れ続けていく。
とろり、と下の秘裂から愛液が滲みだしてきて、それを飲みこんだ白竜は、作られていない喉を鳴らす。
(あ、どうしよう…。これもおいしい…。
侵入の為にも開けてもらわないといけないし…、もうちょっと欲しいし、…うん、続けようかな)
目的の為、という自己弁護をしながら、白竜の行動は止まらない。
体を抑え込まれ、ろくに動かす事が出来ないまま、粘液で探り、指先で愛される。今の少女はそれだけしかできない。
止むことのない愛撫から、10分。
「ん、あ、もぉ、だめぇ…! んぃぃぃ…っ!!」
体力を奪うように動き続け、絶え間ない刺激を与え続けられた少女は、ようやく限界を迎え、絶頂に達した。
閉める事を忘れた秘所から潮が吹きだし、それを飲みこんでまた、白竜は震えた。
(はぁ…。こんなに美味しいんだ…。…ってダメだ、流されるな、俺…!
目的は、忘れちゃだめだ…!)
最初の目的は、まだ忘我の彼方へ旅立ってなかったようで、慌て頭を振って正気を保つ。
視線を秘所の方へ向けてみれば、一度絶頂を迎えて、少しばかりグロテスクな、しかし男を誘う淫猥さを漂わせ、ひくひくと蠢いていた。
今ならば拒絶されることも無く入れるだろう。
秘所回りにある粘液の形を変え、細い触手にし狙いを定める。同時に作られた“少女の指”が、準備は出来たとばかりに秘所を広げ、膣肉を空気に曝す。
(ごめんね、破らないけど…、入らせてもらうよ)
ちゅる、ちゅると音を立てながら意志を持って粘液の触手が秘所の中に潜り込んでいく。内側から染み出てくる液を取り込んで、奥へ奥へ。
「いやぁ、こんなの…、助け、…っ!」
破らないように注意しながらではあるが、それだけでは足りぬと言うように、口や鼻、耳からも体内に侵入していく。
「…っ、、ぇ、ぉ…っ」
吐き出そうとえずいても行えず、中へ中へと突き進んでいく。体の内側へ、内臓へ、そして脳の中へ。
「っ、…っ、ぁ、ぁ…」
耳から入り込んだ粘液は、脳髄へとたどり着いて脳細胞へ触れ、その内容ひとつひとつを精査していく。
美味な情報を得て、粘液の体がぶるりと震える。
「あ、やばい…。こんなに一気に、来るんだ…」
少女の記憶が流れ込んでくる。名前も、家族構成も、今までの人生経験も、ここに来るまでの過程も、これからの予定も。
その全てを記憶し吸収し自らの内に焼き付けて、飲み下していく。
「名前は、安月美和 。17歳、3駅隣の高校に通って…、同級生の彼氏がいる。得意科目は世界史と、音楽…」
呟きながら、彼女の中を探り続ける。秘所から潜り込んだ触手によって判別していることも、脳から得た知識も、噛み砕くように呟いて。
「処女…。今日のデートで、彼氏、西東柊羽 に捧げる予定、か…」
内側の膜に辿り付いた触手は形を崩し、粘液となって隙間からさらに進行する。膣を抜け、子宮に滲みわたり、卵管の中まで。
ぢゅるん。
防音に使っている分体を残し、その全てが安月美和の体内に浸入を果たした。
「は、ぁ…、…大丈夫、何とか食欲は抑えられた…。知識だけで、済んだよ…」
背を伸ばして壁に寄りかかりながら、絶頂を迎えた肉体の倦怠感に身を任せる。
ウルティマの体ならば疲労は無いが、実体に入り込めば話は別だ。けれど。
「…早い所、出ないと。たぶん待ってる人もいる筈だし」
とかく女性用トイレは混み易い。個室しかなく、一度の用足しに時間がかかるのは理解している。部屋を防音仕様にして遮断したけれど、外が動いてない訳は無いのだ。
体内に入り込んだ粘液を、『雷火』の知識から得た外骨格代わりにして、疲労した肉体を無理矢理立たせる。
ふと、防音用として隙間を埋めた分体を体内に入れようとして思いつく。
今後、分体を動かすにあたって勝手な行動を取らないよう、分体にも節度を覚えさせておかなければいけない。
かつて妃美佳を脳内から融かし喰らったようなことを、二度起こさせないためにも。
分体を2つの塊に分け、命令を送る。
「知りたいと思った女性に入り込んで、記憶や知識を得たら待機する事。俺が呼んだら戻ってくる事。
…それ以外は“俺”の意志に応じるように動いてくれ。…絶対だぞ」
本体、ホストとしての命令権を行使して分体を従える。
了承のように身を震わせて、分体は天井に張り付き、何人もの女性を眺めはじめた。
個室を出て洗面台に移動し、手を洗って鏡で自分の姿を確認する。
「んー…。やっぱりちょっとメイク崩れちゃったな。やり直しておこう」
手で顔を覆うと、汗腺からスライムが滲みだし、化粧品を“喰らって”潜り込む。一瞬ですっぴんになった美和の貌は、それでもまだ可愛いと思えるほどだ。
(それでも化粧をするのは、女性としての見栄なのかな…?
気合を入れるのもあるし、すっぴんだと恥かしいのもあるし…)
心の中で“知った”ことと、思う事を反芻しながらハンドバッグの中から化粧品を取出し、化粧をしていく。
もともとそこまで多く化粧をするタイプではなかったのか、ファンデ、マスカラ、ルージュを薄くするだけで、すぐに終わった。
「よし、バッチリ!」
化粧品を仕舞い、バッグを手にして外へ出る。
その際に、ウルティマとしての感覚が、片方の分体が女性に潜りこんだ事と、「あ、入って、あ、あぁ、…っ、あ」という極小の喘ぎを耳にしていた。
少しばかり予定を遅れてしまう事を、道中携帯にてメールを打つと、帰ってきたのは酷い文章だった。
『先に待ってて暇だったから、まず昼飯は晩飯もお前の奢りな。
ホテルもお前持ちだからな?』
「……何これ」
溜息と共に呆れが出てきた。
美和の記憶をたどれば、柊羽はデートの時にはほぼ毎回美和の財布からしか金を出さなかった。
たまに、10回に1度くらいしか自らの財布を開けず、ほぼ相手持ち。典型的なタカリだ。
しかし彼の顔立ちは良く、バスケ部のエースである為背も高い。外面は良く憧れを抱いた女性も多く、美和もその一人だった。
「恋は盲目、か…」
もしくは、「痘痕も笑窪」か。柊羽の事が好きだから、それらの都合の悪い所には目が向かないのだろうか。
見た目の割には性格が悪い西東柊羽と、それに好きだからという理由で盲目的に付き従う安月美和。
「……」
理由は違えどなんとなく、少し前の自分を思い出して美和に重ねてしまう。
美和自身は陰口をあまり叩かれるような類ではない、明るく社交的な娘だ。親の厳命によって髪を染めたりとかは出来ないが、それでも美和が親を嫌う様子は無いし、親も美和を大切にしてくれる記憶がある。
このままではよほどのことが無い限り、西東柊羽に弄ばれて捨てられる。そんな未来が頭を過った。
「…どうしよう、かな?」
電車が止まり、扉を開ける。
待ち合わせ場所の駅前まで、あと1駅。時間はあまりないが、考えられない程ではない。
美和のまま振る舞うか、柊羽に悪戯をするか、それとも、すっぽかすか…。
【西東柊羽とのデートをどうするか】
A.関係を壊すのは悪いのでこのままデートして抱かれる
>B.美和の振りをしてデートをし、抱かれる前に悪戯をする
C.デートを放置してこの体を想うまま探索する
「出来ない事があっても困るけど、できる事がありすぎるのも困るかな…」
揺れる電車の中で呟くのは、柊羽への処遇。個人的な美和への肩入れも相まって、少しばかり悪戯をしてやろうとも思っていた。
もちろんウルティマの能力を用いての、だ。
できる事はありすぎて、試したいこともありすぎている。が、それを試せる好機と切欠を同時にくれた事に、少しばかりの感謝と陳謝を抱く。
「ゴメンね、美和ちゃん。…ちょっと彼を使って実験させてもらうよ」
まずは下準備として行う悪戯の方向性。
あの時、竜峰と竜巻が死にかけた時に頭を過り、試せなかったことを行ってみよう。
そして気絶してる美和の意識へ介入し、“これから行う事への違和感”を限りなく低くし、自分の意志で執った行動のように想わせる。
しかしやる事の内容が内容なので、少しばかり荒唐無稽な理由になってしまうのは仕方ない。
「…これで良し。柊羽くんが待ってるんだから、早く行ってあげないと」
同時に、違和感を発生させないよう自らの意識や口調を、美和の物とした。
「楽しみだな、ふふ。どんな事してあげよう…」
想像を巡らしながらはにかむ少女の貌は、知る人が見れば確かに「安月美和」の物と思えるだろう。
かつてウルティマが本能を「吸収した人格というフィルター」を通して表現したことを、今、白竜は行っていた。
電車が止まり、車内アナウンスが流れる。席を立って電車から降り、改札を抜けて待ち合わせ場所へ行くと、そこには僅かな苛立ちを見せながらも西東柊羽が立っていた。
「ごめんね、お待たせ柊羽くん」
「おせぇよバカ。何分待ったと思ってやがる、15分だぞ15分!」
美和から見上げるような長身は180cmを越えてるだろう。その身に釣り合うような精悍な、それでいて甘目の顔立ちは、直に見れば確かに人気が出るのも納得がいく。
だというのに一言目でこれだ。内心で白竜はひとつため息を吐いた。
「ごめんなさい、化粧室が少し混雑しちゃってて…」
「俺を待たせるぐらいなら少しくらい我慢しろよ。まったく気の利かねぇ。メールは見たか?」
「うん、見たよ。私が悪いから当然だよね」
「なら良い。行くぞ」
すぐに背を向けて柊羽は歩き出した。早足で、長身ゆえの歩幅もあってすぐに美和を置いていこうとばかりに歩いていく。
置いていかれないよう小走りに跡を着いていきながら、何とか斜め後ろの位置に付く。
「柊羽くん、今日は何処に行くの?」
「マズは飯だ、イライラして腹減ったからな」
「それなら今日は、調べてきた所が…」
「ヤだよ、お前のお勧めとかってろくに腹が膨れねぇんだ。俺の行きたい所に行くぞ」
美和の言葉を殆ど聞かず、速度を変えず、さらに歩き続けていく。
妃美佳は行動する時にあまり有無を言わせなかったが、柊羽はそれ以上だ。自分の都合でしか動こうとしない。
疑問に思いながら美和の嗜好と記憶を覗くと、引っ張ってくれるタイプの男が好みらしい。
(だからってこれはなぁ。引っ張るにも限度があるでしょ…)
牽引してくれるのと、強引に連れ回すのとは別物だ。
今はまだ理想通りの男性として、自分が望んでいたように動いているが、心のどこかで柊羽の行動に対する違和感があるのも確かだった。
手を差し出してくれるでもなく、抱き着くことを許すでもなく、ただ美和より先に歩いていく姿はまるで「女性を連れてる事を見せびらかしたい」だけのように思えてくる。
随行するままに辿り付いたのはラーメン屋。
(えぇー…、デートだとしてもここに女の子連れてくる…?)
そこの知識は、白竜としての記憶にある店だった。
大量で、脂こくて、味も濃い。男視点では美味に想える類の所なのだが、女性の味覚ではアウトだろう。そんな店だ。
美和としては知らないらしく、入店する柊羽に着いていく。
テーブル席に座り、店員が水を置きに来る。
「チャーシューメン大盛、野菜とチャーシュー、ニンニク乗せで」
来慣れてるのか、来るや否や注文を言ってきた。早すぎる。視界の中では、美和が食べきれない量の写真があった。
そう。“美和”なら、食べきれない。
「同じのもう一つ
「は?」
美和が小食なのを知ってるはずの柊羽は、呆けたような顔をする。店員も似たような顔だ。
「チャーシューメン大盛、野菜とチャーシュー、ニンニク乗せがお二つで、構いませんか?」
「はい、お願いします」
「…かしこまりました。オーダー入ります!」
店員の質問に即答して、2つの大盛りラーメンが厨房で作られ始めた。
待ってる間に柊羽が疑問に思ったらしく、問いかけてくる。
「お前そんなに食えたっけ?」
「頑張って食べるよ? それにお金は私が出すから、問題ないでしょ?」
「そりゃな…」
代金は相手持ち。なら良いかと思い始めて、すぐに取り出した携帯に熱中しはじめる。
その間に白竜は、体内に潜んだスライムを動かし始めていた。
しばらくして注文がテーブルに届けられる。大きなどんぶりの中に収められたラーメンは、上に乗るもやしとチャーシューで嵩増しされ、ニンニクの臭いが香ってくる。
山のようなラーメンを攻略する為、割り箸を割って食べ始める。
大口を開けて柊羽が食らい、美和は小さな口を開けて咀嚼する。
普段の美和ならこの量は食べきれるはずがない。恐らく半分程度が関の山だが…、
しゃくしゃく。もぐもぐ。つるつる。
必要最低限の音しか立てず、柊羽よりもハイペースで。美和の胃に流し込みながら、胃の中に置けない分を口元のスライムで吸収していく。
「ごちそうさまでした」
美和が食べ終えたのは、まだ柊羽が食べている最中であり、自分より早く同量を食べきった美和に驚きの表情を禁じえなかった。
「……」
「どうしたの、柊羽くん?」
「いや、お前…、そんなに食べるの早かったっけ?」
「私もお腹減ってたみたいで、びっくりしちゃった」
笑ってごまかした。
少し釈然としない様子の柊羽を、怒らせない程度に流し、話しながら食べ終わるのを待つ。
(…うーん、俺としてはこのラーメン屋、美味しいんだけど脂っこいな。あと、ニンニクも多いし…)
内心の評価は、やはり女性向けではないという事。デート中に連れてくるような店ではないし、脂も臭いも女性が避ける要素が多い。
それを再認識してる間に柊羽も食べ終わり、適度に雑談をしては店を辞した。もちろん美和払い。
時間を流して夕飯も似たような、柊羽と同量を頼み柊羽より先に食べ終わる事をして、また少し。
日は沈み切り、2人はホテルの中に居た。
慣れてる様子で柊羽が受付を澄まし、部屋を決めて中へ行く。
先にシャワーを浴びながら、白竜は意識の隅で思考を巡らせていた。
(人目もないし、行動を起こすならここがやっぱり一番だな。…あんな奴にあげるのも、ちょっと嫌だしね)
柊羽の行動は、白竜から見ればデートとは言い難かった。明らかに連れ回すだけで、相手の事を考えていない。
だからこそ、今この場で。
(…ま、ある意味良心の呵責なく出来そうな相手で助かった、かな)
水を止めて体を拭く。シャワールームの外に出ると、柊羽がすでに待っていた。
「おせぇぞ」
「ごめんね、気合が入っちゃったから、念入りに体を洗っちゃって」
「気にすんじゃねぇよ、そんな事。早く来い」
ベッドの上で服を脱ぎ、美和を手招く。それに応えるように美和も上がり、互いの裸を見る。
「やり方知ってるか?」
「…うぅん、知らない」
「そっか。んじゃまずは…、俺のチンポ、触ってみろ」
座り、足を広げて自らのモノを見せつけてくる。僅かに充血したそれは、父親以外で初めて美和が目にしたものだった。
おずおずと手を触れ、指で突いてみる。
「柔らかい…、のかな。ちょっと硬いかも」
「先っぽは敏感だから、あんまり触るなよ。もっと下の部分を触ってみろ」
「うん…」
美和として初めて触れる男性器に、怯えながらも手で触れる。腕とは違う熱さと硬さが、掌に返ってくる。
「…っ、手がつめてぇよ。お前ホントにシャワー浴びたのか?」
「あ、浴びたよ、ちゃんと綺麗にしたから!」
「そうかよ。…ほら、握ってみろ。優しくだぞ?」
「うん…」
触っているうちに硬度を増してきた男性器を、手で握る。
「扱いてみろ。ゆっくりな」
言われるままに、ゆっくり手を動かしていく。数回の内に反応は出てきて、男性器は次第に硬くそそり立っていく。
「う、わ…、こんな風になるの…?」
「あぁ…、そのまま続けろ…」
手淫は続く。筒状にした手を動かし、時にフェザータッチ、時に痛がらない程度に強く握り、上へ下へと続けて。
「なんか、ぬるぬるしてきた…?」
「気持ちいいって証拠さ。お前だって濡れるだろ」
「う、うん…」
保健体育では知っていた情報を、いざ目の前にすると驚いてしまうけれど、美和としての好奇心と、白竜としての目的意識が手を止めない。
手を動かすたび、僅かにくちゅ、という水音が混じり、精の臭いが鼻を衝いてきた。
頃合良し。
「……あ、ん」
「ぅおっ? お前、いきなり…!」
手を止め、口を開けて咥え込んだ。
「んむ…、ぢゅ、ちゅる…、ぴちゅ…」
唾液を出しながら、同時に分泌させたスライムを塗してこすり付けていく。
鈴口を舌先で刺激し、先走りを吸い出しながら、並行して柊羽の体液を体内で解析し、遺伝子構造を把握。
これを元に改造を、始める。
「あむ、むぅ…、んぅ…!」
小さな口を大きく開けて、柊羽の男性器に頭から吸い付いて。
痛みを得られず、快感を得られるようにして、侵入させたスライムに遺伝子改造を命じていく。
「うぉ…っ! こ、これはすげぇ…!」
舌がアイスを舐めるように動いて、男性器を融かしていく。しかし柊羽が感じるのは違和感ではなく、確かな男性としての性感。
美和の頭に手を当てて、それを逃がすまいと力を込めていく。
「なぁ、もっとしてくれよ…。ほら、そこのタマとかさ…!」
言われるままに、口淫を続けながら手は睾丸を揉みしだく。中にある精液を送るように、しぼませるように。
「おっ、おぉ…! 何だこれ、今までの誰よりも…、おぉぉ…!」
手の中でひと揉みごとに消えていく睾丸に気付かず、声を荒げる。口の中の肉棒も、すでに半分ほどが消えていた。
「はぷ、んむ…! じゅる、じゅる…!」
「は、はぁ…! 出る、出るぞ…! すっげぇ良いから、たっぷり出ちまいそうだ…」
「ん、だひひぇ、ひぃよ…」
「あぁ…だったら、イくぜ…、ぶちまける、う、おぉぉぉ…!!」
美和の頭を抑え込みながら、柊羽は口内へ精液を迸らせた。精巣で作られていた一滴残らず絞り出され、放出ごとに“男”が消えていくにも関わらず。
体内に残る精液を吸い取られるたび、その怒張は跡形もなく消滅していくにも関わらず。
「はぁ…、ごちそうさま…」
口を放し、最後の一滴を飲みこむ。
放出し呆けている柊羽の股間に、既に男の証は跡形も無く、男には存在しえない秘裂だけが存在していた。
「すげぇよお前…、いつこんな事を知ったんだ…?」
「今、かな。こうしたら良いかも、って思っただけ」
白濁の余韻を口中で楽しみながら、呆けた柊羽の体を見やる。
「それより…、ねぇ柊羽くん? 随分すっきりしたみたいだけど、もう終わりなの?」
「は…? ンな訳ねぇだろ、これからちゃんと、女の良さを教えてやんだから…」
「…どうやって?」
「そんなモン俺のチンポで…、…ん?」
美和の言葉から連れた自らの発言と、逸物を触ろうとして空を切った手に疑問を抱く。
おかしい。ここには今しがた射精した自らの分身があるのではなかったか?
確かに吐き出したが、それだけで萎むものではなかった筈だ。
それを認識したと同時に、滾る物の存在しない股座から猛烈な虚無感が襲ってくる。
「…は!?」
泡を食ったように直接触れると、“何もない”感触が返ってきた。それと同時に、
「ん…!、?」
くちゅ、と静かな水音が鳴り、湿り気が掌に付く。
「…な、無い!? 俺のチンポが、どこにも!?」
手で触れて、視界に捉えて、2つの意味で認識した柊羽の顔色は、見る間に青ざめていく。
それを見ながら、面白そうに、おかしそうに美和は微笑んでいる。
「ね? それで、どうやって?」
「お、お前っ、俺に何しやがった!!」
「やだなぁ、何もしてないよ。“私は何もしてない”よ」
事実であり大嘘を、表情を変えずに告げる。
安月美和としては何もしておらず、白竜としては大いに事を起こした。けれど2重の真実を柊羽が理解できるはずも無く、
「嘘付けよ! 俺にフェラして、何もしてねぇ訳ねぇだろ!?」
怒りと当惑の混じった表情で、力強く肩を掴んでくる。男性としての筋力と握力は、少しどころではない位に、痛い。
「い、痛いよ、柊羽くん…、放して」
「うるせぇ! お前がやったんだろ、俺のチンポを! 戻せよ! 返せ!!」
苦痛に顔を顰めるが、聞く耳を持ってくれない。両の手で両肩を掴み、ともすれば壊してしまいそうな勢いで握りしめてくる。
(仕方ないな…。次はそこにするね)
溜息をついて腕を動かし、柊羽の手に触れる。弱々しく無力そうな、乗せただけの手で。
「やめてよ、柊羽くん…! やめてくれない、と…」
「どうするんだ? 戻すってのか!? 早くやれよ、やってみろ!」
「そう…。じゃぁ、やってみるね」
体内に侵入したスライムに念を送り、さらに肉体の改造を施していく。今度は明確な変化ではなく、ただ単純な、筋肉の委縮。
腕全体の筋肉を融かし脂肪に変換させ、女性よりも非力な腕に変えてしまう。
「…お、お前、何もしてないんじゃなかったのかよ!?」
その違和感には、柊羽もすぐ気付けたようだ。力を込めている筈の腕に伝達せず、掴まれていた美和がまるで意に介さず拘束をすり抜けたからだ。
「だから“私”は何もしてないってば。…もしかしたら、柊羽くん、誰かの恨みを買ったかもね」
「は!? 何だよ恨みって、俺がそんなモンに買う訳ねぇだろ!」
「だって柊羽くん、今まで何人もの女の子、食べて捨てたんだよね」
発言に、柊羽は僅かながら体を強張らせる。何もしてないというのはデマカセだが、それは確かに事実だからだ。
白竜がそれを知ったのは、眼前にした男性器が淫水焼けをして黒く染まっていた事、舐めて吸収したことで“それ”が体験した記憶を把握したからだ。
「それで泣いてる子もいたし、もしかしたら呪う子もいるかもしれないね?」
「…お前、どうしてそれを? 話したことは無かったはずだぞ…?」
「知らなかった? 女の子同士の繋がりって、思ったより広いんだよ。…これから柊羽くんも知る事になると思うよ」
「は…? ど、どうして俺がそれを知るんだよ…」
「どうして? だって柊羽くん…」
悪戯を仕掛けた子供のような表情で、美和は笑いかける。
「ここにこんな、立派な女の子を持ってるのに…、男のつもりなの?」
表情を変えぬまま、美和の指先は柊羽の秘所に触れる。
「…っく!」
持たざる器官から伝わる未知の快楽に、声を上げる柊羽。愛液を絡め、指先だけで裂け目を上下に擦りつづけていく。
「聞こえるでしょ、柊羽くん? くちゅ、ぷちゅってえっちな音。自分の体から出てるんだよ?」
「う、るせぇ…! そこ、触るな…っ」
「や、だ。…いっぱい女の子を喰い散らかしてきたんだもん。ちゃんと喰われる事も体験させてあげる」
わざと、ちゅぽ、と音を鳴らしながら指を抜き、先端に付いた愛液を舐めとる。
吊り上っていく口角と、細くなっていく眦。ともすれば妖艶に見える表情は、同時に恐怖を煽る。
「ひ…! 嫌だ…、止めろ、俺は男だ、女として喰われるなんて…!」
自らの行いに覚えがあるのだろうか。柊羽は逃れようと、壁の方へと後ずさって美和との距離を開ける。
けれどそれも壁に阻まれ、すぐに止められてしまう。そうなれば次に起こるのは、美和の接近による距離の短縮。
「逃げちゃだめだよ、柊羽くん。今からじっくりと、女の子にしてあげるね」
足首を掴んで引き倒され、ベッドの上に大の字にされる。恐怖か、中に潜り込んだスライムの所為か、四肢は動かず、鏡張りの天井に自分の全身が映される。
男のような体格のままに、股間だけが女性となっている姿が。
「まずは足から行くね。痛くない、痛くないから…」
足先に美和の指が触れると、それを合図として体内のスライムが活動を始めていく。
筋肉を削ぎ、骨格を整え、皮膚から色を抜いていく。日に焼けて、筋肉に包まれていたスポーツマンとしての足は、指先が膝に向かう毎に細く、柔らかくなっていく。
勿論それだけでは終わらず、次は大腿部に至って触れた個所を変え続けていく。
「柊羽くんの足は硬くて太かったから、スラっと細くしてあげる。シミも無くして、毛なんて生えない綺麗な肌に…」
女性的な形になってから、美和は柊羽の脚を揉み始めた。その度に肉体が絞り込まれ、女性的な美しさに満ちた形に変わっていく。
「あ、あぁ…!」
呻くような声をあげて、柊羽はその光景を見続けるしかできない。今まさに、美和によって体を作り変えられていくその光景を。
「うん、いい感じ。次は性器だけど、そこはもう終わってるから、お尻と腰回りね」
足の形成が終わってから、次の目標を定めてまた手を触れる。
「腰は折れそうなくらいに括れてて、お尻は触りたくなるぐらいに柔らかくて…」
体の下に手を回し、尻肉を揉みこんでいく度に、ベッドに押し付け形が変わる、という感覚が止め処なく襲ってくる。
美和が一息つくころには、柊羽の下半身は完全に女性の物となっていた。
「…柊羽くん、体半分が女の子になった気分はどぉ?」
「…な、なんで、こんな事…」
「何でって…、女の良さを教えてくれるんでしょ?」
「違う、そうじゃねぇ…、俺は、お前に教えてやるつもりで…」
「身を以て教えてくれるなんて、柊羽くんはすごいね」
股を開かせ、柊羽の秘所を視界の中心に捉える。恐怖で僅かに、ひくひくと蠢く女性器は淫猥に映る。
美和は小さな口を開けて、そこへむしゃぶりついた。
「あー、むっ」
「ひっ!」
男の声のまま甲高い嬌声を挙げる。口づけされた衝撃で愛液が溢れ、口の中に飛び込んでいく。
「んむ、ぢゅ、ぢゅる…、ちゅぷ…」
「あ、あふ…、舐め、る、…んあ!」
愛液と唾液を混じらせ合いながら啜り、舌を突き込んでいく。スライムを唾液腺から分泌し、さらに改造の補強に充てる。
鼻に当たる陰毛が少しばかり邪魔に思い、それと同時に消す。
「んぷ、ふぁ…。…ふふ、おいし」
「も、もういいだろ…、やめてくれよ…」
「え? 何を言ってるの、柊羽くん…」
柊羽は虚ろな視線でこちらを見ている。ばれないよう、長く伸びたスライムの舌をちゅるん、と口の中に仕舞いながら、
「辞める訳、ないじゃない」
美和は男を虜にするような柔らかい、朗らかな笑みで答えた。
「次はお腹の中ね? まだ子宮とかできてないし、そこも作らないと」
「あ、あぁ、やめ…、っ!!」
細く括れた腹部に手を添えると、柊羽の腹の内で大きく内臓が蠕動していく。
今まで存在しえなかった部分用に空間が作られて、そこに子を宿す揺り籠が形成されていく。
「あ、ご、うあ、ぁ…!」
卵管が作られ子宮と繋がり、そこが同時に膣奥と結合する。腹の奥に違和感が生まれ、しかし次第に融け消えてゆく。
「これで良し、と。…次は胸の前に、腕にしちゃおっと」
腰の上に美和が跨り、ただでさえ筋力が落ちた肉体の動きをさらに阻害する。もう柊羽には、かつてのように力尽くで女性を退ける事など不可能なほどに、体力は残っていなかった。
体を変異させていく美和の指先が、柊羽の肩口に触れる。広く、頼もしかった肩幅は見る間に狭く、頼りなさげに変わっていく。
それが終わると指先が、次第に手に向かうように下へと滑る。
「筋力は落としちゃったからこのままで…、やっぱりもう少し落としちゃおうかな? 握力も弱くって、30kgも無い位に…」
止める物のない手が、柊羽の手を握り、指を絡ませ合う。男のごつごつとした手は、美和の手に握られる度に同じような細い、白魚のような手に作り変えられていく。
「綺麗な手になったよ、柊羽くん。…私から見ても羨ましい位」
絡まり合った指を放し、その手をとうとう、胸板の上に乗せる。
「じゃあ次に、おっぱい、作ってあげるね」
腰から上部分を筋肉を寄せ、脂肪に変えて集めるように、胸へ胸へ寄せていく。
恐怖にひきつった視線の前で、厚かった筈の胸板は異なる意味で重量を増していく。平板が山へと、まるで人体が粘土であるかのように、捏ねて、形作られる。
「背筋も寄せて…、こうして、こう…。服の上からでも解るくらいに大きくして…、っと」
ひとしきり捏ね終わると、胸板は乳房の山へと変わっていた。円錐型の乳房は大きく潰れず、柊羽の呼吸に合わせてふるふると揺れている。
「あ、乳首が黒いのはダメだよね。えいっ」
「んぁっ!」
先端をきゅ、と摘ままれると、平板な黒い乳頭は、乳房同様膨らんだ桜色へと変わっていた。
「そだ、もう一つ。…陥没させてみよっか? 大丈夫、女の子のはちゃんと勃つんだよ?」
登頂部に指先を当て、押し込む。押し込まれ、乳輪の中に乳首が埋まり小さな穴を作り上げた。
「これでよし、っと。柊羽くんのおっぱい、綺麗にできたよ?」
完成したばかりの乳房を寄せ、谷間を作って見せつける。乳頭を弄るたびに喉から声が漏れてきている。
「これで顔と喉以外は完全に女の子だね、柊羽くん?」
微笑みながら語りかけると、嬌声の隙間から消え入りそうな声が、耳朶を揺らした。
「…も、もう、やめて、くれ…。……もう、嫌、だ…。俺が作り変えられて…、何なんだよ、お前…」
泣いているような、快楽に耐えているような声で、ようやっと絞り出せた拒否の声。
僅かに驚き、それでも笑顔を作って、美和は柊羽の顔を見下ろす。
「やめて良いの? 本当に?
首から下は女の体で、声も顔も男のままなのに?
男の時みたいに力はないし体力も削っちゃったし、体も柊羽くんが男のままならきっと欲情する形に作ってるよ?
ラインは服の上からでも解るし、手袋しても指が細いのは解るよ? 男物を着ても簡単にばれるよ?
それでも? 良いの? 本当に?」
顔は近づけても、手は触れない。涙目になった眼を見つめ、歯の根の合わない口に向けて吐息をかける。
体を見下ろす。
今の西東柊羽の肉体は、全身が男ではないし顔面は女でもない。歪だ。
最後の仕上げで、ようやく制止の声が上がったのは、完全に変えられることへの恐怖によるものだろう。
顔だけは変えないでくれと、恐らくそう言っているのだ。
(どうしようかな。…このままでも良いし、いっそ本当に変えるか…?)
悪い考えが頭の中に過る。体内のスライムに指令を下せば、ウルティマの可塑性により戻す事は出来るが、敢えてそれは除外している。
今は何より、この体を試してみたいのだから…。
【やめるかやめないか】
A.やめる
>B.やめない
【西東柊羽の責め方】
>1.男性器で犯し、精液を注ぎ込む 1
>2.女同士の絡み合いで快楽を与える 2
>3.ホテル販売の道具責め 2
4.リネンで縛り放置、帰宅
(そうだな…、いっそ本当に、このまま…)
頭に過るのは悪戯心か。目の前に存在する男を、本当に「女に変えられる」という事実を認識したいからか。
細い指を柊羽の顔に添えて、くすりと微笑む。
「でもね、止めてあげない。これから柊羽くんには、女の子をたっぷり教えてあげる。
その為にも、顔もちゃんと変えてあげるから。痛くない、痛くないよ…」
「や、やめ、あ、あぁ…!」
突きつけられた事実に柊羽は恐ろしげな表情を浮かべている。そんな顔色を見て、どこか身がぶるりと震え、秘所から愛液が漏れてくる気がした。
そうして、体の時と同じように顔も作り変えていく。
太い首を細くし、喉仏をひっこめ、顎を削り、唇を艶やかに、皮膚から色を抜いて、瞳を大きく、睫毛を長く、髪を伸ばして。
触れられると同時に、大きかった顔は小さく、文字通りに変貌していく。
「…完成っ。出来たよ、柊羽くん。…あ、今は柊羽ちゃん、かな?」
快哉の笑みを浮かべながら、美和は股下でひきつった顔の柊羽を見下ろしていた。
「西東柊羽」としての面影を残しながら、それでも確かに女性的な顔立ちをした…、もしも柊羽が女として生まれたのなら、こんな顔立ちだろうという少女。
「ふぅ、いい仕事した…」
出る筈のない額の汗を拭うしぐさをしながら、体を退かす。鏡の天井に映る柊羽の姿を完全に見せる為に。
美和が退くと同時に、柊羽の瞳には大いに変貌した自分が見えてしまった。
「あ、俺が…、俺がどこにも、無い…」
「そうだね、どこにも無いね。柊羽くんの貌も、腕も、脚も、体も、“男の子”も。
全部変わっちゃった。顔は中性的にも見えるけど確かに女の子だよ。
細い腕だよね、重い物は持てないかも。男の人には勝てないし、多分私にも負けるかな。
脚は折れちゃいそうな位だよ、コートの中を走り回るなんて無理だね。今の速力はどれ位?
体だってほら、こんなに扇情的。私だって羨ましいと思う位に作ったんだもん、反応しちゃうよね。
でも、今の柊羽くんには男の子なんて無いの。あるのは女の子だけ。組み敷かれて、挿入されて、注ぎ込まれる女の体だけ」
耳元で囁きながら、柊羽の中に居るスライムを脳へと動員させていく。囁きを真に信じ込ませ、しかし自分は男だとも認識させるよう脳内物質を弄る。
まるで人体は簡単なパズルだと言わんばかりに、好き放題出来てしまう自身の能力に、少しだけ恐怖で身震いした。
「でも…、でも、俺は男だ…。戻せよ…、こんな事したお前なら出来るんだろ…?」
予想通りの反応だ。自分の体が女であるからこそ、男の自意識はそれを認めない。
どうにか戻りたいと思って、その言葉を出してしまうのだから。
「…良いよ、戻してあげても」
「…本当か!? なら早くしてくれ、すぐに「でも、ね」…!」
希望が見えかけて縋り付く柊羽を押し留める。このままじゃ内心が満たされない。だからこそ。
「私のやる事に付き合って、弱音を吐かなかったら戻してあげても良いよ。
男の子なら出来るよね、柊羽くん?」
「……っ」
身を強張らせる。何をされるのか、見当がついたかもしれない。
脳内を弄る手は止めてある。ここから先は、完全に柊羽自身の意志だ。
「…解った、やってやるよ。その代り約束は守れよ!」
「うん、良いよ。それじゃあまずは…」
言質を得たり。ならば徹底的に抱いてあげよう。
美和は己の秘所に手を添えて、濡れはじめていたそこを指先でかき分ける。
「ん…っ、ふ、ぅん…」
愛液を絡ませ、同時にスライムをそこへ集めて形作る。自らの興奮に合わせるように、眼前の女性に合わせるように。
ずるり、という音を伴い肉へと変質したスライムが、秘所の上に現れる。
「…っ」
「まずは、これから行ってみようね?」
柊羽が息を呑んだもの無理はない。そこに屹立していたのは、美和の体には存在しえない男性器だったからだ。
それは混乱している柊羽には理解できていなかったが、確かに西東柊羽の体に生えていたものを再現したものだった。
「な、なんでお前にそんなものが…」
「ふふ、秘密。…今は私に付き合ってよ。そうしなきゃ、戻してあげないよ?」
「…あ、ぁ、そうだったな。それでどうするってんだ?」
「舐めて」
そうしなければ戻れない、という柊羽の弱みを突きながら、笑顔のままに要求を突き付ける。
「え、いや、舐めてって…、いきなりか?」
「柊羽くんだって私にさせたじゃない。…だから柊羽くんもやってよ。それとも止める?」
「…っ、解ったよ、やってやる!」
多少の懊悩の後に、了承の意を柊羽は美和に伝える。それを聞いて美和は脚を広げ、屹立した男性器をさらけ出した。
先ほど知識として吸収した、柊羽自身の男性器。それは心臓の鼓動と共に血液の流れを感じ、ビクビクと震えている。
股座に顔を寄せ、知る筈の無い己の分身に柊羽は相対する。口を開け、舌を伸ばそうとして、逡巡する。
「…っ、…く!」
男である自分が、男の物を舐める行為は屈辱的だろう。しかし、背に腹は代えられぬ。
舌先でちろ、と男性器の幹を舐める。
「ん、…、柊羽くん?」
「くそ…っ、ちょっとだけど舐めたぞ。これで良いだろ!?」
刺激は弱く一度だけ。だというのにこれで手打ちにしろと言ってくる。
随分勝手だ。自分だって最初に口での奉仕を迫って射精した癖に、自分だけはこれで済むと思っている。
美和の中に残った遠慮の部分が、削げ落ちた。
「良いよ。じゃあ次に行くね」
「…あぁ、あとどんだけやるんだよ」
「挿入するからお尻をこっちに向けて?」
次の要求を聞くと、柊羽は驚愕の表情でこちらを見てくる。
「な…っ、お前、本当にそのつもりなのか…!?」
「本当だよ。…だって柊羽くん、私に最後までさせたくせに、自分では殆どしてくれないんだもん。
我慢できなくなっちゃった」
「だ、だってお前、舐めろってだけで最後までしろとは…」
「自分がさせたんだから、相手にしてあげるのも礼儀でしょ? それなのにいつもいつも、私にさせてばかり…」
僅かに舐められて満足するはずもなく、男性器は未だに強く脈打っている。不満と期待とが、その一部で渦巻いているようにも見える。
男としての欲望は強烈で、美和の中にあった寛容を徐々に削っていくようだ。
「柊羽くんが自発的にしてくれないなら、奪っても良いよね」
立ち上がり、柊羽の後ろ側へ回る。うつ伏せになったままの尻を掴んで持ち上げ、菊門と秘所が目の中に入った。
「や、やめろ! バカ言うなよ、お前の言うとおりにしてやったじゃねぇか、早く戻せよ!」
「…何、柊羽くん? 自分だけは100の要求をして、相手には0.1の要求で終わらせるつもり?
柊羽くんがその気なら、もう遠慮はしないよ?」
割り開いた秘所の中へと、指を突き入れていく。
「んく…っ!」
「…んー。さっき舐めたけど、あんまり濡れてないね。…痛いかもしれないねぇ」
「ま、待てよ…、お前、本気なのかよ…」
「本気も本気だよ。…それに柊羽くんだって、私が嫌がってもスる気だったんでしょ?」
恐怖で絞めてくる膣肉をほぐすように、人差し指で中を軽くえぐっていく。
脳内を探るスライムから、「もしも変わらぬまま進んだ場合の展望」を読み取り伝えると、柊羽の肉体がまた少し驚愕に跳ねた。
「…どうして、それを…」
「話しを聞いた時、もしかしたらと思ってね。…どうやら図星みたい」
デマカセを口にした事で柊羽が驚いたのは、美和にとって好都合だった。この欲望の向かう先をきちんと定める事が出来るのだから。
「このままでも良いよね、柊羽くん? 私がちゃんと、初めてを食べてあげるから」
「ひっ! や、やめ…! 解った、ちゃんと舐める、最後までイかせるから…!」
熱を持った柊羽の秘所に、美和の肉棒が触れ合い互いの熱を伝える。
その事に、自分がしていた事をされる事実に恐怖したのか、逃げようと腕がリネンを掴み、前へ進もうとする。
「もう遅いよ、柊羽くん? 今から教えて。女の子の中の感触を…」
けれど、弱くなった腕では逃げる事など出来ず、柊羽の形を模したモノが、柊羽の中へと挿入されていく。
「あ、あはは、あぁぁぁ…!」
「う、ぐ、…っ、何か入って、やだ、嫌だ…!」
互いの性器が持つ熱を、粘膜で直に感じていく。美和は柔らかな肉に包まれる感触を、柊羽は自分の中を抉られる感触を。
止めず止まらず奥へと進んでいくと、先端に触れるものを感じる。
「柊羽ちゃん、解る? これが処女膜だよ。今から突き破る、ねっ!」
「ぐ、ぁ…!!」
認識させる間も短いままに、美和の男性器は柊羽の処女膜を突破する。
今まで男が感じたことのない体内の痛みに大きく身を震わせて、それでも最後の男の意地か、それとも痛みに耐える為か、リネンを掴む手は放さなかった。
「ん…、…ふふ、柊羽ちゃんの中、あったかいな。これが柊羽ちゃんの感じてた物なんだよね」
「あ、ぅ、く…、い、っ…、はぁ、ぅ…」
息も絶え絶えになりながら、言葉にならない息を吐き続けている柊羽と、それを恍惚の表情を浮かべながら後背位で抱いている美和。
本来なら白竜も美和も相手を気遣う余裕を持っているのが、今回は別だ。嫌がる相手へ強制的にスるのを好む人物が、中に居る。
そいつの技術を使わせてもらおう。精神的にも、肉体的にも。
「ねぇ柊羽ちゃん、痛い? 男の子を挿れられて処女を破られたんだもんね。
でもだんだん気持ちよくなっていくから。こことか、ほら」
「う、くぁ…!」
更に奥へ進み、子宮口を突く。同時に柊羽の口から嬌声が上がる。
「…柊羽ちゃん、まだ痛い?」
「…ッ、…!」
顔を寄せ、柊羽の背に胸を押し付けながら美和は囁く。その声に柊羽も肯定の意を示しながら首を縦に振った。
「そうなんだ。…でもやめてあげないっ」
「…っあ!?」
口の端を釣り上げる笑みを浮かべて、体を抱きしめて腰を振りたくる。
柊羽の体調など鑑みない、乱暴な性行だ。
「んっ、んぅ…! はぁ、ん…! 柊羽ちゃん、柊羽、ちゃん…!」
「っ、あ、っくぅ! ぁ、か、中…っ、がぁ…!」
濡れていない分は男性器の先端からローション代わりにスライムを溢れさせ、媚薬の効果も持たせながら抽送を繰り返す。
ぱちゅん、ぱちゅんと腰を叩きつけ、同時に水音も鳴り響く。
何度も行っているうちに、膣肉の感触が変わっていく。キツく絞められていた状態から、優しく包み込むような状態へ。
それは確かに柊羽が感じており、今更ながらに男性器を受け入れる準備ができた証拠だった。
「ねぇ柊羽ちゃん、女の子良い? 気持ち良いでしょ?」
「あ、ぅ、ふぁ…っ、んぅぅ…!」
嬌声に気付いて口元を抑えるが、それでも隙間から漏れ出てくる声に、美和は男として昂ってくる。
体を抑える手にも、叩きつける腰にも、それが見て取れる。
「私は良いよ、男の子すっごく良い! 女の体が気持ちよくって蕩けちゃいそう!
それにここも、柊羽ちゃんのおっぱいも寂しそうにしてて…、弄るよ?良いよね?」
「んぅぅ…っ!!」
抽送と同時にぶるぶると揺れる柊羽の乳房に目が行き、美和はその先端に触れる。陥没していた乳首は、快楽の影響で姿を現しており、これ幸いとばかりに指で摘まむ。
痛くなりそうなくらいに抓ると、驚きながらも膣内がさらに締まりを強めてきた。
「あんっ。もう柊羽ちゃん、そんなに絞めないでよ、…そんなに気持ち良いの?
快楽に溺れちゃう? 柊羽ちゃん男の子だったのに、雌になっちゃう?」
「んぅ…っ、ちが、違う…!」
「違わないよ…、こんなに私の男の子を気持ちよくさせて、奥に奥にって欲しがって。
丸いお尻も、おっきなおっぱいも、括れた腰も、顔だって、全部が全部女の子でしょ?」
「あ、ぅ、…っぁ…」
大きな鏡で見えるようにして、一つ一つを強調させていく。
今の柊羽の肉体は紛れも無く女で、されていることも女性の物だ。男に膣はないし、乳房も無い。
媚薬で蕩けた頭の中で、柊羽の判断能力はだんだんと鈍くなっていく。
「俺…、女、なのか…?」
「女の子だよ? 紛れもなく、女の子…。だから、ね、柊羽ちゃん。中に出していい?」
「中に、出す…?」
「うん、柊羽ちゃんが出してくれた精液、全部柊羽ちゃんに注いであげる」
注がれると聞いた瞬間、柊羽の膣内はそれを欲しがるように、子宮の位置を降ろし始めた。
「ん…、奥、降りてきたね…。じゃあ良い? 私、もう出ちゃいそうなの…」
勢いは衰えぬまま、射精が近い為膣内でさらに膨れる男性器。
さらに増える体内の圧迫感は、“そういうもの”として調整した肉体に強い欲求を与える。
「あ、ぁ…、出して…、俺の中にぃ…!」
「解ったよ、柊羽ちゃん。いっぱい、いっぱい出すからね。
白くてドロドロの濃ゆい柊羽ちゃんの精液、柊羽ちゃんの子宮の中から溢れるくらい注いで、自分の子供妊娠するくらい出してあげる!」
男としてはありえない行為だが、柊羽の頭と体は、それを受け入れてしまう。
早く欲しい、男の精が、征服の証明が。
その意志に応えるように、上り詰めていく。快楽の爆弾が破裂するかのように。
「んぅ…っ! もう限界、イくね柊羽ちゃん、出ちゃう!」
「あぁ…、出して、俺も、イくぅ…! 俺、男なのに女でイくぅ!」
そして、2人の決壊は同時だった。
「はぁ、んぅぅぅ! 柊羽ちゃぁぁん!!」
「ダメ、ダメ! もう、もう! んひぃぃぃぃっ!!」
強く搾り取ろうとする膣内と、それに応じて吐き出される精液。
子宮口に押し付けて注ぎ込まれる白濁は、狙い過たず子宮内へと注ぎ込まれていく。
「はぅ! はぅん! 止まらないぃ!」
「またイっ、いくぅぅ! 俺もぉ、止まらないよぉ!」
絶頂による射精は止まらず、快感の爆発も止まらない。
注がれ続ける精液は子宮を膨らませ、柊羽の子宮を妊婦のようにするまで止まらなかった。
「…は、ぁ、はぁ…、すごく、出ちゃったぁ…」
「…、っ…、…」
精液の逆流を防ぐように挿入したまま、美和は恍惚の吐息を漏らす。大量に射精したはずの男性器は萎えることなくそそり立ち、未だ柊羽の中に杭を突き立てている。
柊羽といえば女性の絶頂が強すぎたのか、目の焦点が合っておらず、開いたままの口の端から涎を零していた。
ちゅぽん。と音を立てて男性器を抜くと、出口を求めて精液が噴出する。
それを見て嬉しそうにしながら、白竜としての意志を表面化させ、精液に思念を飛ばす。
精液がゲル状になって持ち上がり、自らの意志を持って掬うような手をした美和の掌中に収まる。
「ん…、ぢゅる、ごく…っ」
それを味わうよう、嚥下。吸われる為にあふれ出る精液は、最後の一滴を除いて美和の口の中、ひいてはその中に存在する本体と合流した。
「んっ、んぅ! んぅぅぅぅっ!!」
同時に、柊羽が女体で感じた絶頂を体内へ伝え、美和の体は快楽に大きく震える。
あぁでも、まだ足りないのは確かだ。柊羽にはたっぷり女を教えてもらわないと。
「……、ふぅー…」
女性として達した後、大きく息を吐き出す。心臓の鼓動と共に心を落ち着ける。
あのまま「美和」の思考フィルターを通して行動していると、際限無く柊羽を犯してしまいそうだ。
それ程までに内に溜め込んでいた鬱憤が大きかったのだろうか。
「それとも…」
それとも、これが「突然力を手にした人間」の姿なのだろうか。
白竜としては「この力を制御せねばならない」と思い、常に理性的であろうとしている。人を喰わない事もその一つ。
だけど、何も知らない人間がのような力を手にしてしまえば、好きに振る舞う可能性もある。
それが人間の、紛れもない一面であるのは確かなのだから。
「…もうちょっと、解りやすい設定にしておくべきだったかなぁ?」
スライムを動員し、美和の脳内を書き換える準備をする。
先ほどまでは不可思議の理由として、「宇宙から来た生物が自分を宿主としており、力を好きに使えと言ってきた」としているのだが、また別の設定にリライトするべきか悩む。
「いっそ全部夢として…、あぁいや、それだと日にちとかに不都合が出るから…」
流石にこういった事を兄達に話す訳にもいかない。多分この時間なら、2人とも新しく出来た恋人と体を文字通り重ねてるだろう。
「だったら、さっきの言葉から取って、柊羽に捨てられた女の子たちの怨念が、形を以て美和にとり憑いた。
全ては自分たちのされたことを柊羽にやり返すために…。…っていう所かな」
自分がこの様であるのなら、もしかしたら本当にありうるかもしれない可能性、そこから考えた理由を付けて、美和の脳内を弄り始める。
同時に、次の行動とこれからの展望を言葉に出していく。
「んっ、でも、痛いだけじゃ、あ、ぁっ、柊羽にも悪いから、ふぇ、快感も教えたくなる、はくっ、から…、このまま、あ、んっ、止まらない、んだ…。
女を教える、か、あん、ら…、男性器、は消し、ぅ、て…、女同士、ぃひっ、を、したくなる…、ぅんっ」
自ら美和の脳内を弄り、体で弄られる感触を知ってしまうと、呂律がしっかりと回らない。
けれどこうして書き加える事で、美和の思考をある程度誘導できる。事実を先に提示して、美和がそう行うよう誘導し、それ故に自らの記憶との齟齬を無くしていく。
自らが行っていることながら、とてもややこしく面倒な事になってしまう辺り、白竜もまだ力を使いあぐねているようだ。
事実を組み立て、美和の脳内に認識させる。彼女の性格からなる脳内の思考電流が、現象に対しての理由を勝手に組み立てていく。
「あ、ぁ…、柊羽ちゃん…、女の子の、柊羽ちゃん…。乱暴にしちゃった、ごめんね、ごめんね…。
恐く、ないよ…。ごめんね、えっちな事は怖くないよ…。ん、んちゅ…」
ベッドの上に倒れ、未だ蕩けた表情の柊羽に口づけして唾液を啜る。抱きしめ、肌同士を触れ合わせる手に力強さは無く、愛しい人への抱擁の腕。
ぎゅぅ、と弱弱しく確りと抱き締める。
「…心臓の音、聞こえてくるよ。とくん、とくんって鳴ってる…」
正面から抱き合い、乳房同士を押し付ける。柔らかな乳肉越しにでも強く解る程の鼓動は、どこか心地良く聞こえてくる。
体を寄せ合い、素肌同士を擦り合わせる。性感で灯った熱をまだ消さないように、と言わんばかりに体温を交わらせ合う。
「はぁ…、…ねぇ柊羽ちゃん、起きてよ? してくれないと、寂しいよ」
耳元で囁きながら、目覚めを願うように体を揺する。それでも起きてくれる気配は見せず、少しばかり頬を膨らませてしまう。
「もう。柊羽ちゃーん、揺すって起きないなら、気持ちよくして起こしちゃうよ?」
「自分の力を好きに使ってみろ」と言って来た怨念の意志に添うように、その力を使ってみる。
ぢゅるり。
秘所から粘液の触手が生えて、脱ぎ捨てられた柊羽の服、ポケット内にある財布に手を伸ばす。
今日は散々自分が支払ったのだ、たまには柊羽の財布からお金を出すのも良いだろう。
「…ふふ」
細く笑いながら立ち上がり、自販機の前に立つ。
「ん…、ここ、あんまり種類って無いんだね」
販売しているのはピンクローターと、あまり男性器を模していないバイブレーター。あとはローションがいくつかと、コンドーム程度。
股間の男性器もう使わないのでコンドームは除外。ローションだってスライムが代わりになるから要らない。
「じゃあやっぱり、これ位かな?」
柊羽のお金を投入し、ピンクローターとバイブレーターをそれぞれ2本ずつ購入する。パッケージから出して動作確認すると、4つとも大きくではないが振動している。
好奇心に駆られ、震えるままのローターを一つ手に取る。コンドームも使わない関係上、男性器は融かして収納。まっさらな股間に戻しながら、ローターを自分の陰核部分に持っていく。
「ひゃぁっ!?」
小刻みにくる振動に、思わず声が出てしまう。確かにこれは気持ちよく想える。
「このままでも良いけど、もうちょっと何かが欲しいな…。…そうだ」
まるで楽しいことを思いついたかのような表情を浮かべながら、手にスライムをにじませる。
その中にローターとバイブを沈ませ、溶解させて構造を解析。
「ふむふむ、なるほどー…、こうなってるんだ」
手の中で再構成した二品を弄びながら、美和は楽しそうに笑う。
「これをこうして胸につけて…、バイブは形を整えて…」
ローターはスライムで作ったブラジャーの中に紛れ込ませ、柊羽に装着させる。
動物の頭を模しているバイブレーターは、形状を整えて男性器そっくりにて柊羽へ挿入。同じくスライムで作ったショーツを穿かせて蓋をする。
振動の強弱は手元に作ったリモコンから無線式にして操作可能。
「これで良いかな。…じゃぁ、スイッチオンっ♪」
振動音が僅かになり始める。胸の先端と恥部が服の上からでも震え、柊羽の口から僅かに呻きが漏れた。
「やっぱり最弱じゃダメかな。じゃあ少しずつ、強さを上げて…」
目盛りを弱から強へ上げていくと、振動音が徐々に強くなる。
心臓の音と機械の振動音が呼応するように強くなり、少し耳にうるさく感じられる程。
目盛りが中頃まで行ってもまだ柊羽は起きず、少し美和はやきもきし始めてきた。
「…全然起きてくれない。えいっ」
「ひあぅっ!?」
耐えかねたのか、リモコンの強さに「強」を越えた「浸入」を作り、そこへ一気に引き上げる。
股間のバイブレーターは子宮内へ、胸のローターは乳腺の中へ、それぞれ形を変えて潜り込んだ衝撃で、とうとう柊羽は目を覚ましてしまった。
「あ、柊羽ちゃんようやく起きた」
「え? 何だこれ、俺は確かお前とホテル行って、フェラしてもらって…、そこから、…!?」
自らの記憶を呼び起こしながら、決定的な部分に思い当たり柊羽は自らの体を見下ろし、触れる。
そこには確かに双丘が存在を主張し、股座には男の象徴が形も無く消え失せていたから。
「何だこれ、胸っ!? さっきのって夢じゃなか、んぅっ!」
下着と体の中に仕込まれた性具の振動に、甘い声が上がる。体内のスライムを動員して、強制的に思考力を元に戻された柊羽は、女体の感覚に驚いているようだ。
「そうだよ、夢じゃなくって現実。…不思議な力が使えるようになっちゃったから、柊羽ちゃんで試してみるの」
「な、んで俺なんだよ…、んぅ、は、…理由は、何なんだよ…!」
「気付いても良いと思うんだけどな。女の子相手に自分勝手な事ばっかりしてたんだから」
この期に及んでも“そうされる”原因が解らない柊羽に内心溜息を吐きながら、道具の動きを止めて跨り、柊羽の胸を鷲掴む。
「痛…っ」
「さっきも言ってたでしょ? 沢山の女の子を食べて捨てて、誰かの恨みを買ってたかもって。
その子たち、復讐したかったみたいだよ。私にこんな力が宿っちゃうくらいだもの」
「さっき、お前は何もしてねぇって…」
「うん、アレ嘘なんだ、ゴメンね。…でも柊羽ちゃんも解ったでしょ? 無理矢理される事の怖さ。
…これからも柊羽ちゃんが女の子を食い物にするようなら、ずっとこのままだよ」
「…っ」
このまま、という言葉に柊羽が息を呑んだ。快楽は確かにあったが、される事への恐怖と、仕返しの思考が頭を過り、脳内を走る。
しかし同時に、スライムを介して白竜にも伝わっている。
「…解ったよ、もう女を漁ったりしないから、戻してくれよ」
「本当に?」
「本当だよ。なぁ頼む、戻してくれ。そしたらお前にも、こんな風にちゃんと気持ち良くしてやるからさ」
「ん…っ」
自由にしたままの腕で、柊羽は美和の胸を揉んでくる。先ほどまでの行為で硬くなった乳頭を摘まみながら、ゆっくりと乳肉を揉みしだく。
「なぁ良いだろ? 女の身体なんて、男の時と全然違って変なんだよ。だからさぁ」
「…ふぅ、仕方ないなぁ、柊羽ちゃんは」
手の動きを止めぬままに柊羽は続けるが、美和の言葉に顔が僅かに綻ぶ。同時に美和の手に収まっているリモコンを見て、表情はすぐに怪訝なものになった。
「反省してないみたいだから、お仕置きするね」
止めていた道具の動きを、再度開始させた。
「あぁぁっ!?」
乳頭と膣内に添えられた道具から振動が走り、柊羽の声から嬌声が漏れる。突然の事で美和の胸を掴む手にも力が入り、痛い位に揉まれてしまうけれど。
「ダメだよ、柊羽ちゃん。それで戻ったら、私を乱暴に犯すつもりだったんでしょ。…解っちゃうんだから」
「な、んでそれ、をぉ…っ! ひぃんっ!」
膣内のバイブは振動でなく、外殻部分を横に回転させながらのピストン運動に変わっていく。
不規則に膣奥を突かれ、柊羽の脳内に快楽の電流が流れていくのを、白竜は見て取れていた。
「だから、そんな事を言う柊羽ちゃんは戻してあげない。女の快感を骨の髄まで教え込んであげるね」
体を退かし、両手にスライムを滲ませる。2つの塊は枷のようになり、柊羽の手首と足首を拘束させた。
そして同時に脳内のスライムに、一つの指令を下していく。
「あっ、この、んぅぅっ! なん、だこれぇっ! んひぃぃっ!?」
柊羽の絶頂時、快楽の状態を記憶してそれを流し続ける…。つまり、イきっぱなしの状態にさせると同時に、それで壊れないよう意識の保護をする。
柊羽がそれを受け入れるようになるまで、何度も、何度も続けるのだ。
「あぁぁっ! んあっ、あはぁぁっ!」
「…柊羽ちゃん、すごい気持ちよさそう…。女の体、変って思わないようになってくれるかな…」
その光景を見て、美和も自然と自らを慰めていた。
「あ゛っ! あっ! んあぁぁっ!!」
「んぅ、ふ、ん、ぅぅぅ…!」
道具責めを初めて十数分。すでに何度となく達した柊羽は、ゆるりと自慰をしていた美和の絶頂と同時に、跳ね続けていた身をベッドの上に横たえた。
「…っ、は、…、ぅ…」
既にバイブは動きを止めているが息も絶え絶えで、秘所からは止め処なく愛液が漏れ続けている。保護しているとはいえ、度重なる絶頂で脳は負荷に耐え切れず、限りなく思考が弱まっている。
美和はくすりと笑いながら近付いて、柊羽の顔に手を添える。耳元に口を近づけて、息を吹きかけるように囁いた。
「柊羽ちゃん、もう女の子を漁ったりしない? ちゃんと女の子に優しくできる?」
「ぁ…、…ん…」
沁みこませるように囁いた言葉に、柊羽は自ら頷いた。こればかりはスライムの行動ではなく、西東柊羽本人が肯定しなければ意味は無い。
「本当? もしこれも嘘だったら、またお仕置きしちゃうからね?」
「…、…」
力なく、もう一度柊羽は頷く。
それに納得したようで、手足の枷となったスライムを解き、吸収する。力なく倒れる柊羽の体はとても淫靡であり、それが女同士の関係であったとしても、美和は、その中の白竜は、ごくりと唾を飲みこんでしまう。
「それじゃあ、柊羽ちゃんにご褒美あげないと。…一緒に気持ち良くなろう?」
柊羽の体を抱き寄せ、火照った肌同士をくっつける。汗が間に挟まるとはいえ、柔肌同士の接触はくすぐったく、同時に安心する。
「ね、柊羽ちゃん。…私の胸、気持ち良くして?」
「ぁ、…うん…」
覆い被さり、柊羽の眼前へ胸を見せつける。小さくうなずいた柊羽は手を寄せて、柔らかく揉み始めてくる。
それは先ほどの手付きとは異なり、自らが楽しむだけでなく相手も気持ち良くさせる動きだった。
「ぅ、ん…、良いよ、柊羽ちゃん…。私もお返ししてあげる」
バイブと下着に変化したスライムも融かし秘所から吸収すると、拘束から解放された柊羽の乳房がふるんと震えた。快楽を与え続けていたせいか、乳輪は少しだけ広がり、乳頭は硬くしこっている。
柊羽の胸に手を添えて、自分がされているように揉み返していく。
「んぅ、おっぱい、良い…」
「柊羽ちゃんも胸が良いんだね、解るよ…。ほら、こうして重ねると…、んぅっ!」
「ひぁ…!」
乳房同士を重ね合わせ、乳首を触れ合わせる。中に芯のある、乳房とは違う柔らかさが擦れ、互いにはじき合う。
敏感になった個所同士の接触は、嬌声をあげさせるのも、蕩かせるのにも十分だった。
どちらからともなく体を寄せ合い、さらに胸を押し付ける。乳房に乳首が埋まるのも、乳首同士が擦れ合うのも、2人の官能を高めていくには事足りた。
「柊羽ちゃん…、ん、ちゅ…、んむぅ…」
「あ、む、ぴちゅ…、れぅ…」
胸を突き合わせている体位の関係上、互いの顔が真正面にあって、視界には蕩けた表情が入る。
美和が唇を求めて吸い付くと、柊羽の方からも応えるように舌を絡めてきた。
口内の唾液を交わらせ、互いに吸い取る。ただそれだけの行為だというのに、互いが高まりつつあるのは、双方が相手の事を想いながら行為をしている、という関係上、不思議な事ではなかった。
「んむ、ちゅ、ちゅ…、んっ?」
「はむ、ぁ、ふぅ…」
口づけの最中、美和は下半身から来る刺激に驚いた。自分の身体を抱きしめていた柊羽の腕が、いつの間にか秘所にまで伸びていた。
男の時とは異なる細い指先で、今や自分にもある秘所を、撫でるように弄る。
大陰唇をなぞり、ゆっくりと指の腹で外側から内部へ進む。1本目が入れば2本目も同様に突き入れられ、僅かに美和の内部が満たされる。
「んぅ、もう、柊羽ちゃんったら…、いきなりなの?」
「だって…、美和にされてもらいっぱなしだから…、その、お返しもしないと、って…」
口の端から涎を零しつつだが、かけられた柊羽の言葉に頬が綻ぶ。
あぁ、今日初めて「美和」と名前を呼ばれた。ただそれだけの事なのに、ひどく待ち遠しいものが来たと思えてしまう。
「良いんだよ、柊羽ちゃん。…今日私は、柊羽ちゃんを抱く事が出来て嬉しいんだから。
お返ししてくれてありがと。でも今は…、一緒に気持ち良くなろう?」
そっと、柊羽の髪を撫でながら微笑む。名前を呼ばれる、ただそれだけの事で笑えて、ありがとうと言える。
安月美和という少女は、生来の物か教育の賜物か、とてもお人好しなのだろう。
「一緒って、これ以上にあるのか…?」
「今の私には挿入するモノは無いけど…、ここ同士をくっつけるの…」
怪訝そうな表情の柊羽に伝える為、一度身体を放して脚を開く。
股間部にある秘所は、2人ともすでに弄る必要が無いほどに濡れそぼっており、男の物を受け入れる準備は出来ていた。
けれど今回はそれではなく、女同士を近付け、触れ合わせる。
「ひゃっ!」
「んぅ!」
純粋に驚いた声と、リードする関係上抑えた声が喉を鳴らす。体の中で最も熱を帯びて敏感な個所同士が触れ合う事で、耐えかねて漏らしてしまったのだ。
「…ね、こうするだけでも、良いでしょ…?」
「うん…、すごい、良いよ…」
心臓の鼓動と共に愛液が漏れていくような気がする。唾液と同様に絡み合い、しかし取り込めずリネンに吸い取られ、染みを広げていった。
荒れる息を整えて、柊羽の手を握りながら、見下ろしつつ美和は宣言した。
「…動くね、柊羽ちゃん」
「んぅぅ!」
「ふぁあ!」
秘所同士をこすり合わせると、もう声は止められなかった。
美和が腰を動かすたびに、美和の陰唇が柊羽の陰唇と触れ合い、粘膜同士の接触が2人の脳を焼いていく。
男女の結合よりも弱い動きだが、それでも確かに繋がり合う行為が、2人の間で交わされていく。
「美和…っ、美和…!」
「柊羽ちゃん…っ、気持ち良い、柊羽ちゃんのクリちゃんと擦れるのも、良いぃっ!」
包皮が向け、露わになった陰核同士が擦れ合う度に、また甘い声が漏れる。
行為の一つ一つが熱を伝え合い、快楽を分かち合い、そして高まり合っていく。
「美和…、また、キスしてぇ…」
「柊羽ちゃんったら、甘えんぼ…、ん、ちゅ…」
「ちゅる…、んっ、ダメ、だ…、おれ、またイき、そぉ…!」
重ねあったまま体を寄せ合い、もう一度キスをする。
上下の口で体液が絡み合い、乳首と陰核が同時に触れあった瞬間、
「うん…、私もまた、イっちゃう…。柊羽ちゃん、柊羽ちゃん…っ」
「クる…、美和ぁ…、来ちゃう…!」
「だめぇ、私も…、っ、あ! あ、あぁぁぁぁ…っ!!」
「んぅぅぅぅぅ!」
盛大に秘所から愛液を吹き出しながら、2人とも、同時に絶頂に到達していた。
* * *
「…もう、良いかな?」
安月美和と西東柊羽。2人が女同士の絡みを始めて、何度も達しながらようやく気絶した頃。美和の秘所から、ずるりとスライムが顔を出して白竜の形を取った。
気が付けばホテルに入室してからすでに5時間が経過している。宿泊で部屋を取っているので問題は無いのだが、白竜自身は後始末の関係がある為、2人が起きるより先に行動を始めないといけなかった。
「まずは…」
互いの愛液と共に飛び出たスライムを回収し、体内に収める。これで能力の把握としてはかなりの物が得られたので、大分有意義な時間ではあったのだが…。
女の体のまま、美和に抱きついている柊羽を見下ろす。
「…ちょっとやり過ぎちゃったかな。もう少し抑えないとダメかも」
指先からスライムに変えて、2人の脳内にもう一度侵入させる。
美和の方には「怨念は浄化されたから力は無くなった」事。
柊羽には変身させた肉体の修正。精神的なものに関しては、自分から頷いた為恐らく大丈夫だろう。
「後はアフターケアとして…」
美和の体型には、彼女の理想とする物に近づくようホルモン分泌を促進。柊羽の男性機能も強化。精力の維持と大きさの強化と…。
「引っこ抜けるようにしちゃおう」
万一の浮気防止用に、柊羽の股間へ女性器を作り、そこから男性器をジョイント式に作り変える。
柊羽の男性器は美和の手によってのみ、着脱を可能。同時にそれを美和にも付けられるようにした。
もちろんそれで犯されれば、柊羽の肉体は今日と同じように女性化する。
その事実を美和の脳内に刻み込んでおいて、全てのスライムを自分に吸収させる。
まるで人体を粘土のようにこねくり回し、作り変えられる。
自分の身体のみならず、他人をも変身させる能力に、収穫と同時に恐れも抱いてしまうけれど。
「…作り変えて、“その形態であるように固定”か。その段階でロックをかければ、皆変身させずに済むのかな…」
作り直した兄や妃美佳達の事を考えると、これは大きいように思えてしまう。
旧日本軍に自分が狙われてしまう可能性がある関係上、能力の把握や拡充は、怠れない事だ。
「…そうだな、後で峰兄に試してもらおう。
あ、でも怒られないかな。双方向に自分の意志で変身できるよう固定できれば一番、かな。
うーん…、悩ましいな」
考えながら、白竜は肉体をスライム化させ、空調のダクトを伝って外へ出て行る。
外はすっかり暗く、ホテル街の明かりが眩しい。自分の姿を作って帰途につきながら、あの時別れた分体の様子や行動を知る為、交信の念を飛ばした。
【どちらの分体の行為を知るか】
>A.新米アイドルへ浸入した方
A1.意識を乗っ取って代わりにアイドル活動
>A2.姿をコピーして双子ユニット化
B.見習い退魔師に見つかった方
B1.攻撃された仕返しにエロいお仕置き
B2.実力と自信を付けさせるスライム師匠
「みんなっ、今日は来てくれてありがとう!」
マイクを通して声が会場内に響く。“白竜”の分体が入り込んでる少女は、今、小さなライブステージの上にいる。
大鐘桜花という少女は、駆け出しながら芸能界に在籍している娘で、少しずつファンを増やしている。
「今日はボク達、いっぱい歌うよ。みんなも着いてきて!」
幕が上がった、駆け出しのアイドルたちによるミニライブの前座として、浸入の際に気をやってしまった桜花の代わりを努めないといけない。
人前に立つ事と、やった事のないアイドル活動だけれど、桜花の脳内に蓄積された記憶と経験を使いながら、新鮮さと驚き、そして“見られている”嬉しさを感じながら、流れるBGMに合わせて歌い始める。
とはいえ、やる事は先も言った通りの前座。桜花の担当時間は30分も無く、前座を務めあげた後、楽屋の方に引っ込んでいた。
「お疲れ様、大鐘さん。…まさかと思うけど、客を引かせてたりしないわよね」
「大丈夫ですっ、みんなちゃんとノってくれてましたから」
「そう? なら良いのだけど。白けたステージのトリだけは勘弁してほしいのよね」
労いの言葉と同時にくぎを刺すように喋ってくるのは、やはりトリを務めるからこその自負だろう。
“大鐘桜花”としては、まず最初に場を温める事は出来たはずだ、だからおそらく、大丈夫だと信じる。
「皆さんもきっと、相場さんまで繋いでくれますよ。だからしっかり構えててくださいっ」
「そう。だったらその言葉を信じさせてもらうわ。…ありがとうね」
今回のライブのトリを務める、相場舞佳はそう言って楽屋を出て行った。
観察して理解した、彼女もきっと緊張してる。自分が最後を務めて、最高の盛り上がりの中で歌わなければいけないプレッシャーがある筈だ。
「…芸能界って恐いなぁ。見られることでここまで緊張するなんて」
1人だけになった楽屋だが、誰にも聞こえないくらいの呟きで、自分の飲み物に口をつける。
歌って踊る事と、緊張から来る疲労感をとかす様に、冷たい水が体内を通っていく。
「ふぅ。……うん、向こうは盛り上がってるな。一休みしたら戻らないと」
ライブの後には握手会があるのだ。あまり悠長にもしていられないし、これからのもう一仕事に気合を入れる。
気絶している桜花の代理として、きちんとやらなければ。
後頭部でまとめられた髪を梳いて、この後における状況へ思いを馳せた。
* * *
「それじゃあ皆さん、お疲れ様でした!」
時が経ってライブ終了後、握手会も恙なく執り行われた。
ライブに参加していたアイドル達が、マネージャーに付き添われながら三々五々帰途についていく。
「桜花ちゃん、こちらも帰りましょうか」
「はい、マネージャーさんっ」
自分より後に歌った人達が帰ってから、ようやく桜花のマネージャーが宣言した。
芸能界は芸歴が長い方が「先輩」に当たる為、いくら相場舞佳が年下でも、職場の中ではそれに従わなければいけない。
たとえば先に現場入りして迎える事も、その一つ。そして見送る事もそうだ。
「今日はお疲れ様。桜花ちゃん目当てのお客さんも増えてきたみたいね」
「ホントですね。ボクもアレだけ握手会で人が来るってことに驚いちゃいましたよ」
マネージャーの運転する車の助手席で、今日の事を思い出す。
特に印象が強いのは、握手会の時。目当てのアイドルの列に並んでいく形式だったが、客の5分の一は確かに桜花に流れていた。
“自分”自身、10分の1が来ればいいかと思っていたのに、だ。
「それだけお客さんに認められたってこと、なんですよね?」
「それだけ桜花ちゃんが頑張ったってことよ」
マネージャーの彼女が笑うと同時に、桜花も笑みを返す。
「…うん、何だか嬉しいなぁ。ちゃんとボクが見られてるんだ」
「それは確かに良い事だけど、油断は禁物よ? 調子に乗って失言して、お客さんに見捨てられた人なんて沢山いるんだからね」
「はーい、分かってまーす」
桜花の思うままに言葉を出していくと、想像していた通りにマネージャーへ窘められた。
けれど、それでも嬉しかったのだ。
大鐘桜花という少女は、男系の家庭に生まれていた。
5人兄弟の末子でありながら長女の桜花は、4人の兄達に愛されながら育っており、同様に一人称など言動にも僅かに少年らしき部分が垣間見える。
家庭による成長という下地と、自分が女の子である自覚は、いつしか桜花の中に「女の子らしさ」を求めるようになってきていた。
その時に見つけたのは、新聞に掲載されていたアイドルオーディションの記事。
三番目の兄が見ていたテレビの中で、“女の子”らしい服やダンスで輝いていた子達を見て、桜花は一念発起した。
そこから、多少の挫折はあるが今のマネージャーが所属する事務所に入り、学校と並行してではあるがアイドルとして活動をしている。
まだまだ新米、見習いというレベルだけれど、かつてテレビで見た子達に少しでも近づけている、という事実は、桜花の頬を綻ばせるには十分だった。
ライブが終わり夕方。次にスケジュールとして入っているインタビューも終わらせた。
明日は平日でもある為、今日の仕事はこれで終了となり、桜花は帰途についていた。
「…うーん、まだ起きてくれない。そんなに疲れてたのかな?」
白竜が呟くのは、気絶している桜花の事。気絶していても、体を動かす内に起きるかと思ったのだが、そんな気配は一向に見せてくれない。
肉体に疲労が溜まっていたのは確かだし、自分がやってしまった事がここまで強烈だったのかと思うと、少し申し訳なく思ってしまう。
「悪い事しちゃったかな。体に栄養補給して、体内からマッサージもしてあげないと…」
暗くなってきた夜道、起きない桜花を気遣いながら頭を悩ませる。
本体が浸入した安月美和とはまた違う、頑張る少女に入ってしまった事へ、僅かながらの罪悪感と罪滅ぼしの方法の思考。
それは本体が指示したように、白竜の意志に応じるように動くという事の証左で、彼は確かに白竜の思考をしていた。
「ん、わっ!?」
ふとその最中、背後から走ってきたワゴン車に気付いて道を開ける。
その瞬間に扉が開かれ、突き出された腕に掴まれ、不意を突かれた桜花はその中に連れ込まれてしまった。
(まさか人さらい…っ、なんで…)
とはいえ、その理由はまだある程度“理解”していた。
アイドルである身と、少女であること。そして夜道に1人で歩いている事。
それは狙う側から見れば「狙って下さい」と申し出てる恰好のカモの姿だからだ。
「んむぅっ! もごっ」
「おい抑えろ、暴れさせるなよ」
「脚はやっとく、お前は腕だ」
「おら静かにしろ! 痛い目見たくないだろ?」
走り続ける車内に連れ込まれ、途端に猿轡を噛まされる。複数人が手慣れた動きで体を押さえつけてくる。
全員が解りやすく顔を隠し、一時でも顔立ちの露見を防いでる辺り、行動の自覚や人の目の多さを理解している。
(こいつ等人さらいか何かか? いや、まさか…)
ウルティマの観察力を以て、人さらいたちの顔を見分ける。
間違いない、5人中2人は今日、ライブに来ていた客だ。執拗に触られて少し怖かった覚えがある。
「ほれよ、お目当ての彼女だ。どうする、ここで始めるか?」
「わ、わぁぁ。桜花ちゃんが目の前に…」
「えへへ、ほ、本物だ…。俺達より小っちゃくて柔らかい…」
鼻息を荒くした覆面男2人が近づいてくる。片方は痩せぎすで、もう片方は肥満体。
恐らくこの2人が自らの欲望の為に依頼し、桜花の身を自らのモノにしようとしているのだろう。
下衆だ。
こいつ等は欲情して、今現在目についている桜花の体でそれを発散したいだけの。
懲らしめる為、少しだけ外に出ようとして、突然それは“起きて”きた。
「んっ!? んぅぅ、んーっ!!」
喉から恐怖の声が漏れ、縛られた体を動かして逃げようとし始めた。
「大鐘桜花」の意志が起きて、いきなりの状態に、パニックを起こしているのだ。
「お? お嬢ちゃんようやく身の危険に気付いたみたいだぜ」
「おい手前等、押さえつけとくか? それとも無理矢理が良いか?」
「で、出来ればこのままが良いな…」
「俺もだよ。気絶したままのマグロより、動いてくれる桜花ちゃんの身体の方が…、えへへ…」
目の前の下衆共は、嗤う。これからの行為に期待して下卑た笑いを浮かべながら。
(嫌だ! 何でいきなりこんな事にっ、この人たち誰なんだよっ、ボク何をされるの?
ヤだ、嫌だぁっ! 兄ちゃん、助けてぇ!!)
猿轡を噛まされ、声に出せないままに桜花は叫ぶ。心中に浮かぶのは、自分を愛してくれた4人の兄達。
兄達と同じ男の手で、兄達と違う欲望を以て、男たちの手が桜花に触れてくる。
「っ!」
痛い位に胸を掴まれ、握られる。
脚を撫で摩られ、スカートの中に入ろうとしてくる。
その行為の果てがどんな事になるのか桜花は気づき、眦に大粒の涙が溢れてくる。
されるがままに抵抗できない恐怖と、その光景から背けるように、痛いぐらいに目を瞑って。
(……)
その光景を、“白竜”は桜花の内側から見ていた…。
【暴行者に対しての対応】
>A.桜花に内側から声をかけて、理解を得た上で撃退 2
>B.桜花の体を勝手に動かして暴漢を撃退 1
C.桜花から分離して全員ペロリ
D.桜花の中に引っ込んで何もしない
魂の存在しないウルティマの分体とは言え、「辻白竜」としての意志に応じるように動くのであれば、
(何もしないって選択肢は…、無いか!)
一刻を争う状況では、口に出す一言さえ惜しい。
押さえつけられていた四肢に力を入れ、コントロールを自分の元へ取り返す。
狭い車内では大立ち回りなど出来ぬ為、取れる手段は限られているが、人間相手ならばどうにかなる。
スカートへ手をかけようとしていた、痩せぎすの男の手を蹴りあげ、即時脚を男の腕へと絡め、力を込める。
ゴキッ。
「え? へひゃぁぁっ!?」
腕を折られて驚く痩せぎすを放置し、胸へ触れてくる肥満体の男に手を触れる。体内で勁を練り、上半身だけでだが放つ。
ドガッ!
「げぇ、ぶっ!?」
90kgはあろう肉体は軽く吹き飛び、座る者が居なかった助手席の後方へぶち当たる。
「コイツ、いきなり何を!」
「かまわねぇ、向こうがやったんならお返ししてやれ!」
押さえつけていた男たちが、ナイフとスタンガンを手に取る。
“桜花”の突然の、しかも大の男2人を一撃でいなした事に、向こうの思考も遠慮を考えなくなってきたのだろう。
辻白竜は、中距離から、遠心力を用いての打撃を主とする劈掛掌の使い手である。
この拳法は多少離れた間合いからの攻撃手段としては有用だが、逆に接近されると戦力をフルに活用できない。その為、劈掛掌を習う者は近接距離に対応する為、八極拳を習う事が多々ある。
拳法の師匠が教えてくれた事と、体内に溶けている竜峰の技術とを用いているのとで、発勁さえ容易く行えたのだ。
果たして男たちが拳法の種類を知っているか否かは定かではない。しかし今し方の行為で、浚った少女が只者ではない、とは気付いたのだろう。
狭い車内の中、腕を伸ばせば届く筈なのに行動を一つも起こしてこない。
ウルティマの観察力で見れば、緊張のせいで筋肉が僅かに固まっている、即時の反応は難しいだろう。
(…ねぇ、聞こえる?)
(えっ、何でボクの体が勝手に動いて、キミ誰? 変な声が聞こえて、ってボク喋れてない!?
どうしてこんな事になってるのっ、知ってるの!?)
(知ってる、知ってるよ)
その最中に執ったのは、桜花へのコンタクト。脳内の思考電流を読み取り、男たちが動き出す前に桜花の了承を得て、行動に移す事を考えたのだ。
(でも今は、教えられない。全部説明すると攻撃されるし、ちょっと待って欲しいんだ)
(…う、うん…。それは解るけど…)
(まず一つ、君に許可をもらいたいことがあるんだ)
(…何なの?)
(…この場を無事に切り抜ける為に、体を使わせて欲しい)
痩せぎすの悲鳴が、どこか遠くに聞こえる。
男たちの息が、少しずつ落ち着いていく。互いの事を知ってるからか、アイコンタクトをしているような気配も見える。
(本当なら、君の体を使わなくても、連中の撃退は出来る。…けどそれは、きっと君を驚かせてしまう。
君に対して悪いことをしてしまった、せめてもの罪滅ぼしとして…、これ以上精神的負担をかけたくないんだ)
(…、…傷とかつけたりしない?)
(誓って、打撃面は守るよ)
桜花は考えるような様子を、男たちのは示し合わせているような様子を見せている。
このままでは遠からず行動に移すだろう。もし桜花から何も反応が無ければ、その時はやむを得ないかもしれない。
深い呼気が、2回。
3回目が終わった瞬間に、男たちは跳びかかり、桜花からの返答が来た。
(解ったよ、キミに任せる! やっつけちゃえ!)
(心得た!)
右から軽い傷を負わせ、注意をひかせようとするナイフが。左から、気絶させるために首元を狙うスタンガンが、同時に突きだされる。
白竜の視線は左側へ向かい、対応の姿勢を見せる。
右手でスタンガンを持つ男の手首を掴み、引き寄せる。同時に左肘スライムを滲ませ、プロテクター兼打撃具を纏わせる。
向かってくる男の動きと、返そうとする桜花の動き、そして突き出される肘は、クロスカウンターの要領で男の鳩尾に叩き込まれる。
みしり、と鈍い音がし、スタンガン男の喉から吐くような息が漏れた。
「もう一つ!」
力の抜けた男の手からスタンガンを奪い取り、もう片方の男が構えるナイフを、上体を逸らして躱す。
ナイフ男の首筋にスタンガンを当て、スイッチを入れ、放電。
バチッ、と音を立て、血を伝導体として大動脈から脳へ電流が流れ、ナイフ男は白目を向いて倒れ伏す。
許可を得てから叩き潰すまで、この間、2秒足らず。
気絶している肥満体の男はさて置き、スタンガンを持っていた男と痩せぎすの男にも、同様に首から電気を流して意識を落とし、視線を運転席の男に向けた。
「ねぇ、車停めてもらって良いかな?」
バックミラーに映る桜花の貌は、まるでドリンクバーのおかわりに席を立った友達へついでに自分の飲み物も頼むような“何でもない”表情のまま。
恐怖か、それとも諦観か。運転手の男はアクセルから脚を放し、車を路肩に停車させた。
「…すごいね、お嬢ちゃん。データじゃ格闘技とかやってなかった筈だけど?」
「人攫い屋さんにも知られてるのは嬉しいけど、…お仕事の為ならあまり嬉しくないよ?」
「そいつぁ悪かった。けどこっちも仕事なんで…、大人しくしてくれると嬉しいな」
運転手が口元に笑みを浮かべながら、何かを持った手をこちらに向けてくる。麻酔銃だ。
引き金を引かれ、発射された。
射出された針は命中すれば桜花の行動を止めるだろうが、それは左肘のプロテクターで受け止められていた。
「…こいつぁ参った。お嬢ちゃん、ホントにアイドル?」
「女の子には秘密が多いんだよ。あまり詮索しないで欲しいなっ!」
直後に突きだしたスタンガンの電流は、運転手の男の首元に狙い過たず叩き込まれ、男の意識を刈り取った。
ハンドルの方へ倒れ、押し込まれたクラクションがけたたましい音を鳴らす。
動く者が他に居なくなった様子を見て、白竜は小さく息を吐いた。
「…これで終わり、っと」
運転手の男を座席の方へ寄りかからせ、プロテクターのスライムを融かし、5分割してすべて男達の脳内に侵入させる。
これから先、起きたのなら今までやってきた人攫いの証拠を持って警察に自首させるように仕組む。
それ自体はすぐ終わるので、揃ったスライムを足元の汗腺から吸収させて、車から降りた。
「…ここ何処だろ、兄ちゃん達に心配かけちゃうな。…あれ?」
言葉を出した段階で、桜花は気づいた。自分の身体が意のままに動いている、と。
* * *
「ふぅん、それでボクの代わりにお仕事やってくれたんだ?」
(うん…。それもこれも、全部俺のせいだからね…)
降車後、運転手の進路から現在位置を割り出して、桜花と体内の白竜は帰途についていた。
思ったより大鐘家から距離は取られていないようで、2度目が無いように白竜は細心の注意を払いながら、しかし桜花と言葉を交わしている。会話の内容は主に、桜花が気絶している間に起きたことの質問であり、白竜はそれに答えるだけ。
当然のごとく、白竜は桜花に精神的負担を掛けぬよう体内からの発言であり、知らぬ人が見れば独り言を言ってるように見える為、桜花には携帯を耳元に当ててもらっている。
「…でも、白竜さんはどうしてボクに入ってきたの?」
(え、えぇと、…まぁ、見た目というか、雰囲気というか。言葉にすると少し難しいかな…?)
「ふぅん…。…じゃあそこは深く聞かないでおくね」
(うん、ありがとう…)
「じゃあこれだけは聞いておきたいんだけど…、白竜さんって何者?」
(……)
「白竜さん?」
ひと段落したかと思えば、当然の疑問を尋ねられて白竜は言葉を詰まらせてしまう。
答えられる事かと言われれば難しい。どこまで話すべきか、ということも。
けれど、
(…端的に言うと、怪物、かな…)
自覚はあるが故に、その事実を口にする。
「そっか、白竜さんってそういう存在なんだ。じゃあトイレでボクに入ってきたのも、やっぱり白竜さんだったりする?」
けれど、返ってきた言葉はひどくあっけらかんとしていた。
(…驚かないの? いや、確かにそうだけど…、俺はもう人間じゃないんだよ?)
「うーん…、芸能界だとその手のオカルト関係ってどうしても縁が出来るし、日向兄ちゃんや月白兄ちゃんはよく“神様”にお参りするから…、居たら楽しいかなって思っててさ」
日向と月白は、桜花の兄達だ。剣道師範代と大工という関係上、神の存在に多少なりとも触れている。
日本武道では道場に神棚が存在し門下生が祈念し、大工は着工前に土地を清める為のお祓いをすることがある。
その姿を見てきた桜花も、多少なりとも知っているのだ。
「でも、下から入ってくるのはちょっといけないよ、白竜さん。…思い出すだけでもボク、すっごい恥ずかしいんだから」
(そ、それはゴメン…。できるだけ解かりやすい“孔”の方が、入りやすくて…)
「…ボクの初めて、奪ったりとかしてないよね?」
(し、してないよ、誓って本当だから! …俺自身、まだ、だしさ)
そういう事をしたい、という意識は確かにある。けれどできず、別の女性たちに入り込んでいる。
その事実に少しだけ、情けなく感じてしまう。
「ふぅん…。白竜さんって彼女いる?」
(…うん。最近お付き合いを始めさせてもらったばかりだけど、ね)
「その人って、白竜さんが怪物だって知ってるの?」
(…知らない、よ。彼女は俺の事、人間だって思ってる)
「そうなんだ…。…白竜さん、いつか話してあげなよ?」
(…ちょっと、難しいかな)
「難しくないよ。隠し事をして、隠そうとしてるからおかしいって気付かれるんだよ?
…そうしてバレちゃうから気まずくなって、きっと前には戻れなくなると思うんだ。
だから話せることが出来たら、話してあげてね? 白竜さんの彼女さんだって、隠されていい気はしないと思うしさ」
(それは確かに、ね。…けど、話せる内容と話せない内容があるから、そこだけは納得してもらうしかないかな)
「良いんだよ、全部が全部話さなくっても」
桜花は白竜の事を心配してくれるのだろう。
そうでなければ、自分の中に入って、仕事を横取りした白竜にここまで優しい言葉をかけてはくれないだろう。
その事実に、少しだけ白竜の良心が痛む。
(…ありがとう、桜花ちゃん。…はは、なんだか俺、情けないな)
「そう言わないでおこうよ。口に出しちゃったら、本当にそうなっちゃうよ」
(そう、だね。……ねぇ、桜花ちゃん)
「何?」
(俺は…、君にやった事に対しての罪滅ぼしがしたい。
頼みでも願いでもいい、言ってくれないか。…俺の力で出来る範囲になるけれど、何でもやるよ)
それと同時に、白竜は自分の能力の説明を行う。
肉体がスライムのような流動体である事、肉体全てで捕喰・吸収をし、知識として存在するあらゆる存在に変形する事。浸透した相手に対しても変身させられる事。
ただそれだけの、ひどく応用性の高い能力。
(肉体面に限定すれば、大抵の事は出来ると思う。…今は桜花ちゃんの中にいるから、願うのなら内臓機能の強化とかも出来るよ。
たとえば…、月の物が来た時に重くならないように、とか?)
「えぇっ、何で白竜さんそのこと知ってるの!?」
(いやその…、それ位の精度で肉体情報の知識を得られるって事の説明として…)
「酷いよそれ! せめてもっと別の事を言ってくれてもいいじゃん!」
(えぇと…、じゃあ右利きだけど左も使えるようにしてる事とか、右足薬指の爪切ってたら深爪しそうになっちゃったとか…)
「う…、それもそれで本当だけど、ボクの事探られてるようで、なんかヤだ」
(じゃあどうしたら良いのさ!?)
「そこは白竜さんが気を利かせて、それっぽい事言ってくれれば良いでしょ!?」
(あぁ、うん…、それは確かにそうだね…、ゴメン)
白竜が失言に謝り、桜花の口から少しため息が漏れた。
「…そういうのも出来るって事は解ったから、そうだなぁ…。
じゃ、白竜さん。…ボクの家族構成って知ってる?」
(え? あぁ、うん。お兄さんが4人と父親の6人家族だよね)
「じゃあ白竜さんの家族って、どんな感じ?」
(俺は兄が2人と、母親だけど?)
「そっか、お母さん居るんだ。そこはちょっとだけ、白竜さんが羨ましいかも」
(ねぇ桜花ちゃん…、この質問が罪滅ぼしになる、の?)
「うぅん、単純に聞いてみたかったんだよ。…ボク、女性の家族がいないからさ。
お父さんも兄ちゃん達も、みんなボクの事を大事にしてくれるのは解るけど…、それでもやっぱり、ちょっと肩身が狭い気分もあるんだよ」
大鐘桜花の記憶から、確かに愛されていた過去を窺い知ることはできる。
けれど同時に、彼女の中にあった寂寥感をも覗いてしまうのだ。
「もし、もしも。ボクに姉妹とか、お母さんが居たらどうなんだろうって思ってた」
けれど桜花の父親は、妻を愛してるから再婚はしない。一途であり、頑固な性格であるからこそ、その想いを口に出す事は出来ずにいた。
「ねぇ白竜さん。白竜さんの力で姉妹とか、お母さんとかって作れる?
…無理だよね、ゴメン」
できる筈無い。そう思考の底に結論を置いて。言ってみただけ、と苦笑いを桜花はする。
けれど、
(…出来るよ)
不可能ではない現実を、静かに語りかける。
「…もう、白竜さんってば冗談言って。それならどうやって、ボクにお母さんや姉妹を作るの?」
(桜花ちゃん、左手を見てみて?)
促され、左腕に視界を移した桜花の目が見開かれる。そこには確かにあった“桜花の左腕”が、現在進行形で変異していた。
細い腕が太くなり筋肉に纏われた男の物になり、かと思えば途端に小さく短い子供の物へと変わる。そうして直に、桜花の腕へと戻った。
(こんな風に、体を作り変える事も出来てしまうから…。やろうと思えば、どんな事も出来てしまうんだ…)
「…すごい」
驚嘆の息は、様々な感情を含んでいた。まさかが現実になった事や、それによって作られる可能性と、明確な現実。
半ば本気にしていなかった言葉、それが現実に出来るかもしれない、と。
でも。
「……本当に出来るのかな。ボクに『姉妹』が。女の家族同士の会話が。
兄ちゃん達を作り変えても、形を変えただけの「兄と妹」にならないかな?」
(それは…、…きっと、そうなんだろうね)
今しがた作り変えたのは見た目だけ。もっと言えば、肉体だけだ。精神的な部分もやろうと思えば出来るが、それを桜花本人が受け入れるか、否か。その問題が残ってしまう。
「…決まったよ、白竜さん。ボクのお願い」
ほんの少しだけ、事実と可能性を認識して、小さく桜花は呟く。
「ボクに、一夜の夢を見させて?」
【桜花に見せる夢】
A.母親になった父のいる夢
B.姉妹になった兄のいる夢
長男:日向 次男:昴流 三男:月白 四男:大樹
>C.双子の自分が隣にいる夢
D.もういっそ全部乗せの夢
大それていない、小さな桜花の願いを耳にして、白竜は心中で目を伏せる。
他人を変えることが出来ることを知っても尚、どのような夢を見せるかは自分に任せてくれる。
桜花は白竜の事を信じてくれるからこそ、の言葉であるからだ。
その考えが重く、同時にありがたくもあった。
信頼に応えたい、返礼をしてあげたい。その2つの思考が白竜の内部に芽生え、その為に考える。
そうして思い当たるのはやはり、彼女の中にある“自分とは異なる家族”への憧憬と諦観。熱望し、しかし届かない現実を知っているからこそ、願ってしまう。
(…ねぇ桜花ちゃん、キミの中から出ても良いかい?)
「え? それは構わないけど…、人気のない所で良いよね? 白竜さんが出るとボク苦しかったりしない?」
(善処はするよ)
桜花の了承を得て、人気のない路地裏に入り込む。周囲の気配が無い事を確認して、腕の汗腺から滲みだし始める。
量が量であったため、完全に出るのは3分ほども掛かったけれど、
「おぉ、これが今までボクの体に入ってたんだ…。すごいすごい、むにゅってする!」
手触りを確かめるように、スライムの体を掴んだり、手で掬われたりしていた為、桜花本人はそこまで退屈ではなかったようだ。
玉虫色に光る粘液の不定形が、程無くして完全に出切った後、それは次第に盛り上がり、形を変えていく。
頭が生えて肩が作られ、上半身の次に腕が伸び、残った部分が脚となり、下半身を作る。変形自体はすぐに終わり、完成していく姿を見るにつれて、桜花の瞳は見開かれていた。
目の前に現れたのは、他の誰でもない。“大鐘桜花”そのものであったからだ。
「嘘…、ボク、なの?」
「うん、そうだよ。…考えたんだけど、こうした方が良いかなって」
違いは、開かれた瞳の色が異なる程度。白竜は声音さえも桜花と同一になっていた。
「…どうして?」
「桜花ちゃんの体を変えて、こんなことも出来るって教えたけど…。
だからと言って他の家族を変える事を良しとしなかった。なら、それ以外の手段として、こうしたんだ。
一時だとしても、俺が桜花ちゃんの姉妹になろう、ってね」
「…そうなんだ。…白竜さんって真面目だね」
「そうかな、…たまに言われるよ」
お互いに苦いけれど、それでも笑みを浮かべながら微笑み合う。
「でも、どうしてボクと同じ姿になったの? どうせならもうちょっと妹っぽく出来たような気がするんだけど…」
「それは…、単純に情報不足。本当ならお兄さん方の情報を知って、その上で姿を作れれば良かったんだけど…。
桜花ちゃんの中に居ると、“桜花ちゃんの情報”しか取れなかったからね。他の人の情報を混ぜると、なんか、違う気がして…」
「そこまで考えてくれたんだ…。ホント、白竜さんは真面目だね」
そしてもう一度、小さく苦笑いをする。
「ところで白竜さん…、どうして服を着てないの?」
「あ、そっか、そこまで注意が行ってなかったよ」
「もう! 着替えなんて無いのに! どうするの?」
「だ、大丈夫、すぐ作るから!」
突然の剣幕に驚きながらも、スライムの一部を服に作り変えて身に纏う。桜花のきている物と似て、少し違う物を。
「これで、良い?」
「ちゃんと下着とかもしてる? ダメだよ、何もつけてないとボディライン崩れちゃうんだからっ」
「大丈夫、そこは解ってるよ、うん」
「なら良し。…お姉ちゃんって、こんな感じかな?」
怒っているような、諌めるような剣幕から一転して、桜花は自分の在り方に疑問を浮かべている。
「良いと思うよ。…『お姉ちゃん』なら家族の事は、心配になるもんね」
少しだけ思考しながら、白竜は一睡の夢の中における、自らの役割を定めることにした。
それは即ち、「大鐘桜花の妹」という立場を。
「…お姉ちゃん? ボクが、白竜さんのお姉ちゃん…?」
「白竜じゃないよ。名前は夢見、大鐘夢見。…お姉ちゃんの妹だよ」
そして、名前も定める。
一時の夢であるこの状況の儚さを、自分自身でも忘れぬ為に、桜の別名、夢見草から名をつける。
「夢見…、ボクの妹…。ボクが、お姉ちゃん…」
それを自分でもしっかりと認識するように、口に出して桜花は反芻を繰り返す。
「…本当に良いの?」
「何が?」
「姉妹が出来て…、ボクが上で、白竜さんのお姉ちゃんで…」
「だから、白竜じゃなくて夢見って呼んでよ。…ね、お姉ちゃん」
もう一度、間違いでないと念を押して桜花の事を呼ぶと、快哉の笑みを浮かべて体を寄せる。
「うん! 解った、ボクがお姉ちゃんだね!
…えへへ、夢見♪」
この様な形であれ、欲しかった物を得られたという事実。それは桜花を喜ばせるには十分に過ぎていた。
夢見の前には、間近に迫る桜花の笑顔。
それは少女の妹を装っていても、白竜としては少しだけ恥かしくって、頬が赤くなってしまう。
(もう、こんなに笑っちゃって…。…でも、いいか)
ほんの少しでも罪滅ぼしが出来れば、と思った結果、この表情なのだから。何も問題は無いと、そう思っておいた。
* * *
時を動かし、大鐘家。白竜こと夢見は、驚きと恐怖をないまぜにした状態で居た。
夢見が桜花の妹となってから後、家に帰らないわけにもいかなかった為、2人して大鐘家の門をくぐり、当然の如く夢見の存在は兄弟たちの目に入る事になった。
一番最初に叩きつけられたのは、訝しみと疑惑。
『何故妹と瓜二つの存在が居て、その隣にいるのか。何故妹はそれで笑っているのか』
次に居間へと上げられ、正座をさせられていた。目の前には長男の日向が、突き刺すような視線を向けてくる。
似たような視線はすぐに思い当たった。兄である竜峰が向けるような、下の兄弟を守らんとする、敵意を含めた視線。
「夢見、と言ったか。キミは」
「そうだよ、日向兄ちゃん、夢見は「桜花は静かにしててくれ。俺は彼女の事を知らなければいけない。…頼む」…、うん…」
隣で助け舟を出そうとした桜花の言葉を強い口調で、しかしやんわりと止める。頭ごなしではない言葉に、少し妹への優しさを垣間見るけれど、夢見への視線は油断なく一挙一投足を見定めようとしている。
「単刀直入に聞こう。君は何者で、桜花に何をした。何故俺達の妹と同じ姿をしている?」
生態を再現した為、緊張で少しひりつく喉を唾液で潤し、口を開く。
答えるのは、事実。
自らが辻白竜という存在であり、異形の化生に取り込まれ、しかし主導権を取り返した存在を語る。
何をしたかに関しても同じく、ありのままを答える。体の能力を知る為に人の内部に入り込み、浚われかけた桜花の体を動かして撃退したことを。
「……」
「ホントだよ、日向兄ちゃん。夢見は何も悪い事してないよ」
日向が向けた視線に応えるよう、桜花も頷く。
「では、何故その姿をしているのだ? 辻白竜君?」
「それは…、自分がやってしまった事への、罪滅ぼしです。一時でも夢を見させることを、彼女に望まれました」
ともすれば、傍らの木刀で頭を叩き割られかねない事を、しかし毅然とした態度で告げる。
これは何一つ間違いではないのだから。
「……、成程な。それが偽りではないと、桜花も言うんだな?」
「うん。具体的にどうするかは夢見に任せたんだけど、嘘は無いよ」
「解った、ならば認めよう。…君は大鐘夢見で、桜花の双子の…、俺達の新しい妹と言う事か。
桜花を助けてくれてありがとう、夢見。お帰り」
桜花の言葉に、驚くほどあっさりと日向は頷いた。互いの信頼と愛情、そして懐の広さを見せつけられた気がして、つい、
「…う、うん、日向兄ちゃん…、ただいま」
桜花と同じ言葉で、答えた。
「そんなに緊張するな。後で親父や昴流達には俺から説明しておくから、ゆっくりしてくれ。
ここはお前の家なんだから、な?」
「うんっ、そうだよ! 夢見の帰る家はここなんだから!
…えへへ、ありがとね、日向兄ちゃん♪」
「どういたしましてだ。…桜花、疲れただろうからお風呂に入ってきなさい。
夢見のパジャマは…、昴流に言って、俺のを取ってきてもらえ。今日はそれで我慢してもらおう」
「え? 夢見は日向兄ちゃんのパジャマで、良いの? ブカブカだよ?」
「平気だよ。日向兄ちゃんの臭いって、なんか安心できるもん」
「そっか、うん、そうだよね。じゃあ着替え取ってくるから、待っててね!」
居間を飛び出し、桜花は怪談を駆け上がっていく。テンションの高さに少し驚きながらも、日向はすぐに夢見へと向き直る。
「…さて、夢見。先程はすまなかった」
「えっ、いきなりどうしたんですかっ? そんな、頭を下げるだなんて…」
深く頭を下げた姿に、夢見は驚いてしまうけれど。すぐに顔をあげて日向は理由を述べる。
「正直に言えば君の事を、俺は桜花に害を為す化物だと思っていたからだ。いや、心の隅では今でも僅かに“思っている”。
君がいくら理性的な化物でも、最初の想像の通りになる可能性はいくらでも転がっているからだ。
しかし同時に、桜花を助けてくれたことが君の損得勘定を抜きにした、良心から来るものだと信じたい。
…もしも最悪の事態が起こってしまった場合は、俺は君を斬るだろう。その前に一度、謝らせてほしい」
日向が頭を下げている。自分の兄と同じように、下の弟妹を案じて。
その感情は痛いほど解るから、責める気にもなれない。いや、責めてはいけない。16年も桜花を見てきて、誰より身を案じてきた兄なのだから。
「…頭を上げて下さい、日向さん。それほどまで桜花ちゃんの事を心配してくれるのは、痛いほどわかりました。
この魂に誓って、最悪の事態なんて起しません。
だから、さ…、日向兄ちゃん?」
「ん…?」
「ぎゅってして、良い?」
白竜から夢見に変わって、微笑みかける。それに釣られるように日向の頬も綻び、
「…仕方ないな。桜花が戻って来るまでだぞ?」
「はーい。えいっ」
許可をくれた兄の胸に飛び込み、頬を寄せる。厚い胸板は硬いけれど心地良く、長男の匂いも、つい吸ってしまう。
白竜としては、どれほどの確率で“最悪の可能性”が起こるかなんて解らないけれど。
こんなに温かい家庭なら、壊してはいけないと思うのには、十分だった。
* * *
「お姉ちゃん、背中痛くない?」
「平気だよ? んー…、すごーい、痛くないけど気持ち良いな」
「えへへ、お姉ちゃんの事は何でも知ってるからね」
風呂場の中、夢見は桜花の背中を洗っていた。痛くなく心地良い力加減で、スポンジを柔肌に当て、こする。
「背中は終わったよ、お姉ちゃん。前は自分でやる?」
「んー…、…夢見、やって?」
「えぇー、ボクがやるの?」
「良いでしょ? その代り、ボクも夢見の前を洗ってあげるからさっ」
「もう、しょうがないなぁ…」
こんな場では初めてになるだろう、桜花の我が儘に、少しだけため息のポーズをとりながら、夢見は後ろから手を伸ばし、桜花の前を洗っていく。
腕を洗い、腰を洗い、胸を洗い…、
「…どしたの、夢見?」
「…何でもないよ。続けるね?」
少しだけ男性としての劣情を催してしまったのは、意識の根底が白竜だからだろうか。
気にしないよう、意識を切り替えて全身を洗い終え、お湯を流す。
「体は終わったよ、お姉ちゃん。髪は自分でやってよね?」
「うん、それは良いけど…、ボクは夢見に一つ言いたいことがあるんだ」
夢見の後ろに回った桜花の手は、タオルに包まれた夢見の胸を掴んだ。
「なんで夢見はタオルをしてるのかなぁ? こんなに形のいいおっぱい隠して洗いっこなんて、お姉ちゃん哀しいよ」
決して痛くは無いけれど、柔らかさを確かめるような手つきで、夢見の胸を弄っている。
「ひゃっ! ちょっ、待ってよお姉ちゃんっ、んっ!」
「待たないし辞めなーい。今度はボクが夢見の体を洗うんだもん、隠されてちゃ出来ないでしょ?」
「それは、そうだけどさぁ…っ! ひゃうっ!」
少し硬くなってしまった乳首が、桜花によって摘ままれてしまう。少しだけ、甲高い声が漏れてしまった。
「夢見ってそんな可愛い声も出るんだ…。どうしよ、もうちょっと聞いてみたい気も…」
「あ、あのねお姉ちゃん、ボクの体も洗うんでしょ? ちゃんとタオル、外すから…、ひゃっ」
タオルを外そうと手を動かすと、いつの間にか桜花の手が、夢見の股間へと伸びていた。桜花を模した、使われていない花びらを濡らす蜜に指を這わせ、くすぐり始める。
「…夢見ぃ、これなーに? えっちな事考えてないと出ないよね?
お姉ちゃんでこうなっちゃったの? ボク哀しいなぁ、夢見がこんなにえっちだなんて…」
「や、んっ、お姉ちゃ、そこ、やめ…!」
胸と秘所を弄る桜花の手は止まらない。目の前に存在する夢見を愛するように、少しずつ手の勢いは激しくなっていく。
そして指が、つぷ、と秘所の中に潜り込んできた。
「んぅ、おねぇ、ちゃん…、んぅっ!」
「すごい、夢見のあそこ…、とっても熱い」
夢見の体を構成するウルティマは既に女の快楽を知り、どうすれば反応するかも知ってしまっている。それ故にか過敏ともいえる位に、肉体は反応しやすい。
胸を揉まれることも、指の挿入も、“気持ちいい”と知っているからこそ、感覚の鈍化を防ぐために鋭敏になっていく。
そんな肉体側の貪欲さが、桜花より敏感な体を作り上げてしまっていた。
「えへへ…、どうしよ、夢見の体すごいエッチぃや。感じてる顔も可愛いし…、ボク、ナルの気があったのかな?」
小さな手に余りそうな乳房を持ち上げ、膣壁を確かめるように指の腹をこすり付ける。
その度に夢見ののどからは嬌声が漏れ出て、さらに興奮した桜花の手を早めていく。
「おね、ちゃん…! ダメ、ボク…っ、イっちゃい、そぅ…!」
「イっちゃっても良いよ? その夢見の姿、ボクに見せて?」
「でも、でも、声あげたら、みんなに聞えちゃ、ん…っ!!」
「あ、そっか。…ねぇ夢見?」
「ぇ…? ん、む…!」
肩越しに声を掛けられ、振り向いた夢見は桜花に唇をふさがれる。
それと同時に、興奮し膨らんできた陰核をきゅ、と抓られ、
「ん…っ、んぅぅ…っ!!」
桜花の腕と唇、そして背を逸らした事で当たる、桜花の胸の感触を味わいながら、夢見は女性として絶頂を迎えた。
【桜花の愛し方】
>A.人間体を崩さぬままガチレズ
B.生やしたり生やしてあげたり(前は守るよ)
C.スライム化して改めてもちゅもちゅ
「お姉ちゃん」
「な、なに、夢見?」
風呂から上がり、桜花の自室。ベッドの上でパジャマに着替えた二人は向かい合っており、夢見が少し、恐い目で桜花を見つめている。
「えっちな事、そんなにしたかったの?」
「え、えぇーと…、うん、まぁ、ボクも年頃の女の子だし、興味はあるんだよ?」
「でも、身近にいる相手が兄ちゃん達ばっかりだから、我慢してたよね」
「えへへ…、うん…」
性欲というのは蓄積する物だと言われていたりする。男性としての欲求不満は、白竜として嫌という程知っている。
女性としての欲求不満も、実感は薄いが確かに存在するのだろう。
仕事で一緒になった相場舞佳も、事務所の意向で男女の付き合いが出来ず、悶々としている事を零していたのも、聞いたことがある。
「…それをボクで発散する?」
「ごめんってばぁ。…でも、夢見も良かったでしょ?」
謝って直後にこれでは、反省してないような気がしないでもない。
「それは確かにね。…でも、ボク1人が気持ちいいまま終わっちゃうと、ちょっと不公平だよね」
「…それって、もしかして?」
考えの果てに辿り付いた思考に、不安と歓喜が綯交ぜになった表情を、桜花が浮かべる。
「ご名答。今度はお姉ちゃんを、ボクが慰めてあげるよ」
桜花の肩に手をかけ、顔を近付ける。同じ形の、ふっくらした唇同士が重なり合った。
「ん、ふ…、ちゅ、む…」
「ちゅ、ん、ちゅぅ…」
どちらからともなく舌を絡ませ合い、唾液同志を交わらせ合う。その両方が恐らくは“自分”のもので、間違いなく同一なのだと、思えてしまう程に。
「ん、ぅ…」
「っ?」
突如、桜花の口内で夢見の舌が伸びた。細く、呼吸を邪魔しない程度になった舌が腔内を撫でさすり、食道へ向けて媚薬交じりの唾液を流し込む。
あまり乱れすぎないように、ほんの少し。けれど即効性のそれを受けて、すぐに桜花の目は僅かに緩んだ。
「ちゅ、る…。…ん、お姉ちゃん…」
「は、ん…、夢見ぃ…。…なんだかボク、火照ってきちゃった…。助けて、くれる…?」
パジャマの中で、乳頭が膨らみ、秘所が濡れているのだろう。鼻をつく“女”の匂いに、少しだけ男としての欲望が頭をもたげる。
「うん、助けてあげる…。まずは服を…、ボクが脱がしてあげるよ、お姉ちゃん」
「わぁい…、ばんざーい♪」
子供が服を脱がされるように、両手を高々と上にあげる。それを合図と見て、夢見は桜花のパジャマ、そのボタンに手をかけた。
一つ一つ外していく度に、風呂の中でも見た桜花の、微熱交じりの肌が見えてくる。服を脱がし、キャミソールも脱がせると、豊かな双丘がぷるん、と震える。
その先端は、分かっているが固くしこり、桜色のそれがさらに上気している。
(あぁ、どうしよう…。すぐにでも…、…いや、我慢だ我慢、完全に脱がしてから…)
襲い来る劣情を理性で抑えて、今度はパジャマのズボンに手をかける。
「お姉ちゃん、脱がすよ…?」
「うん…」
脱がしやすいように桜花は腰を浮かして、夢見の行動を待つ。これも脱がすにあたって、風呂に入ったのにもう汗ばんだ肌が見えてくる。
下着が見えると、クロッチ越しにも解るくらいの愛液の香りが鼻に届いて、さらに加速させる。
すぐにでも脱がしたい。桜花の秘所を直視したい。
そんな欲求を内心で必死に堪えながら、桜花の裸体を外気にさらす。
「あ…、あんまり見ないでよ、夢見…」
「ごめんね…。でも、お姉ちゃん可愛い…、うぅん、綺麗だから、つい」
かぁ、と桜花の頬がさらに赤くなった事に気付いて、やっぱり可愛いと内心で思ってしまう。
さぁ、桜花の肌を曝したのだから、自分もそうしないと。
だぶついた日向の服の中で、胸から小さな手を生やし、ボタンを外す。桜花は独りでにボタンが外され、その隙間から見える夢見の胸に、興奮していくのが解った。
「あは、夢見の胸…、あ、んっ」
「ひゃっ! お、お姉ちゃん…」
上着を完全に脱ぎ去らないうちに、夢見の乳房にむしゃぶりついてくる。右手で左の乳房をこねまわし、右の乳房に甘噛みをする。
自分と同じ形の筈なのに、それを愛おしむように、揉みしだき、口の中で吸い、舐め、指で摘まみ歯を立てる。
端々に色を知っているが故の行動が混じるが、それはまるで母の愛をねだる様な、子供にも見えた。
「ひんっ! もう、お姉ちゃんったら…、お返ししちゃうよ?」
「んぅー、ひひぇみひぇ?」
多分、してみてと言ったのだろう。ならば遠慮は不要ということで、夢見は行動を起こす。
両の掌をスライムに変え、右手を秘所に、左手を胸に添え、広げる。
「ひゃっ、つめたっ! あ、でもどんどんあったかく…、夢見の手?スライム?なんか気持ちいぃ…」
両の乳房をと濡れそぼった秘所を包み込み、動かす。陰唇に、膣壁に、陰核に触れて、指でこするように触れながら。
同時に量の乳房も、スライムの中で上下左右に動かし、自分がされていることを返すように、愛していく。
「あん、ぃんっ! んうぅぅぅ!!」
桜花が夢見の乳首を噛んでみれば、スライムが同じような事を、左右同時に返したりして。
右手で零れる愛液を吸収しながら、陰核を摘まんでみれば、媚薬で昂っていた桜花の体は、ずいぶんとあっけなく達した。
「はぁ…、夢見ずるいぃ…。スライムで色々しちゃってぇ…」
蕩けた視線のままに、桜花の手は夢見の手であるスライムへと触れる。体温と同程度の粘体は触れていて心地よく、手と同時に、肌も同時に触られている気分になってくる。
「確かにずるいのはその通りだけど、お姉ちゃんに気持ち良くなってほしいのは確かなの。
だからボクは、自分でできる事をいっぱいやるよ? こんな風に」
「んひゃっ! もう夢見ぃ!」
スライムを少しだけ秘所に潜り込ませ、桜花の口から嬌声と怒声が出るけれど、夢見の手は止まらなかった。
本当に怒る気が無いのは解ってたし、ならばもう少し、という悪ふざけを続ける。
「えいっ」
「ひゃ! くっつかないでよぉ…、ん、んふ、くすぐったい…!」
真正面から抱きつき、肌同士が文字通りくっつく。外側からでは接触面が解らない位に一つとなって、身をよじる度に、少しばかりむず痒さが返ってくる。
達したばかりの、未だ媚薬の火照りが残る桜花の体は、けれどそれだけでも再び燃え上がってきていて。
「ん…っ、んふふ、今度はボクからだーっ!」
その気になればすぐ取れるようにしていたのか、桜花から夢見の融合を解き、キスをする。
「ん、ちゅ、んむ…」
「ちゅ、は、んぁ…、おね、ちゃ…」
「ぷぁ…、夢見の唾液、おいしいなぁ。もっとしようよぉ?」
「…もう、お姉ちゃんったら。そんなに溜まってたんだ?」
「えへ、ボクが自分で気付いてなかっただけみたい」
「…太腿まで垂れてきちゃってるしね」
「あ、ホントだ…、ひゃんっ」
夢見の視線を辿り、桜花が自分の大腿部に視線を下すと、そこには重力に従って流れる愛液の川が存在していた。
新たな道の作製を止めるように夢見が液をなぞり、指先に溜めたそれをぺろりと舐める。
「えへ…、お姉ちゃんの愛液、おいしなぁ。もっとしようか?」
「…もう、夢見ったら。そっちこそいっぱいしたいんだ?」
先の会話をなぞるように繰り返して、笑いあう。互いに体を求める事に異義は無いのだと解り、しかし先ほどとは別の方法を求めている。
ベッドの上に桜花が座り、脚を開いて秘所を見せつけてくる。未だ男の物を知らない、生娘の女性器。
「夢見が美味しいって言ってくれたし、いっぱい舐めて欲しいな?」
「良いの? やった、お姉ちゃん大好きっ!」
「あ、待って夢見。でも…、条件が一つあるの」
「ふぇ?」
許可をもらってすぐにむしゃぶりつこうとしていた夢見を手で留め、桜花は告げる。
「ボクも夢見のを舐めたいから、同時にしよ?」
「うんっ! じゃあボクが上になるから、お姉ちゃんは寝てて良いよ」
条件を聞くが早いが、夢見は桜花の上に覆いかぶさり、姉の眼前に自らの秘所を向ける。
そこも当然の如くに濡れており、室内の明かりを受けて、てらてらと肌に艶を与えている。
「…、れる」
「ひゃん!」
自分と全く同じ形状の女性器を見て、驚き少々、興奮に勝てない大半の理由のもとに、桜花は夢見の秘所に舌を当てる。
少ししょっぱいような、けれど不思議と馴染む味。
「ぴちゅ、んぁ…、んむぅ」
舌を這わせ、もう一度味を知る。鼻を衝く淫靡な臭いと、秘所を割り開けば出てくる愛液。
強く欲してしまい、桜花の口はそこにむしゃぶりついてしまった。
「んひゃっ! あ、んうぅっ! お姉、ちゃ、激しい…!」
先ほど自分がされた事を返礼するように、指を突き入れ膣壁をかき回し、あふれ出る愛液を啜り、舌先で陰核を弄ぶ。
その度に夢見の口から漏れる嬌声が耳朶を震わせ、桜花の内心をさらに燃え上がらせる。
「もう…っ、だったらボク、も…!」
「んうぅ!!」
元々は桜花が望んだのだから、求められていたこと…桜花へのクンニリングスを、反撃の体になってしまったが、夢見が始める。
夢見がされた事を、桜花へ返すように、指を突き入れ膣壁をかき回し、あふれ出る愛液を啜り、舌先で陰核を弄ぶ。
「ちゅ、ちゅっ、んむぅ、あ、はぅ…」
「ちゅる、んむ、れる…っ、んっ」
「あ、んぅ、っふぅ…! もっと、奥、指入れて…」
「どんどん、出てくる…、おいしぃよ…」
同じ声音の嬌声が響き続けている。どちらの声がどちらの物か解らない位に、全てが同じ。
桜花が夢見にしている事を、夢見が桜花にやり返している。指でなぞる事も、舌でなめる事も、唇で啜る事も。一挙一動何もかもだ。
こうしてほしい、こうされたいと望んで姉妹にすれば、それがそっくりそのまま返ってくる。
ともすればそれは、自慰のように見えるかもしれない。きっとそれは、お互いへの自慰なのだ。
「あは…、もっと出てきた…、イっちゃいそうなの…?」
「うん…、そろそろ、キちゃいそう…! ね、一緒に…」
「うん、一緒にイこう…?」
昂り続け、爆発を控えてもなお、示し合わせたように同時に動いて、最後の一押しを求め合う。
小さく口を開け、陰核に吸い付く。強く吸うのと同時に、小さく歯を立てて甘噛みを、一度。
「「んんんぅぅっ!!」」
それだけで、同時に達してしまった。絶頂と同時にあふれ出た液が互いの顔を濡らして、けれどそれさえも舐め取って、余韻と共に味を確かめる。
「はぁぅ…、夢見ずるいよ…。ボクと全く同じことし返すんだもん…」
「えへへ…。でも、ボクの感じてる事をお姉ちゃんにも感じてもらいたかったから…。あ、体動かすね?」
桜花が目を閉じている間に、夢見はシックスナインの為に四つん這いになっていた体を変異させる。
ぐにゃり、と体表面が波打った瞬間に、脚は腕に、腕は脚に変わり、上半身と下半身が入れ替わる。
秘所のあった部分から生えてくるように頭がせり出て、顔だった部分が内側に吸い込まれていき未だヒクつく秘所を形作った。
「…お姉ちゃん、体の火照りは収まってきた?」
「…もうちょっとしたいな。後1回くらい…」
顔同士を突き合わせる形で覆い被さりながら、夢見は桜花の調子を見る。
体力的にはそろそろ限界だろう。何せ今日は、昼にライブ、夕方に人攫いと戦って、知らない場所から徒歩で帰宅したのだ。若いと言っても、慣れない事をしたなら疲れが出るのも当然なのだが…。
それでも、あと1回をねだる桜花に、苦笑いがもれてしまった。
「しょうがないなぁ、お姉ちゃんは…。後1回だね? でも、これが終わったらちゃんと眠る事。良いね?」
「うん…。……えへへ、嬉しいなぁ」
「…お姉ちゃん? また出来るのが嬉しいの?」
願いを聞き入れられて、桜花の頬が緩んだことに、少しだけ不思議になって聞いてしまう。
「うぅん、違うの…。これで、もうちょっと夢見と一緒に居られるって想って…」
「…………」
「終わったらきっと…。うぅん、ボクが寝たらきっと、いなくなっちゃうから…。
せめて、初めての妹と、1秒でも長く居たくてね…」
それが自分の願いだからか。一夜の夢と、制限をつけていたからか。桜花は眠りから覚醒すれば起こりうる事実を、理解していた。
だから、後1回。夢見という妹を忘れないために、後1回。
「…ね、夢見。もう1個我が儘、言っていい?」
「…なぁに、お姉ちゃん?」
白竜だって理解していた事実を、改めて告げられて。ずるいな、と思いながら聞く体制に入ってしまう。
「これが夢であっても忘れたくないから…、抱いてほしいな?」
「……」
潤んだ瞳で、桜花は夢見の顔を見据える。少しの沈黙ののちに、
「…ダメだよ、お姉ちゃん。初めてはちゃんと、大切な人にあげないと」
「ぶぅ、意地悪…。夢見はボクのお願い、聞いてくれないの?」
「そんな訳ないよ。でもね、お姉ちゃんが大事だから、夢で散らして欲しくないのも確かなの。
…だから、これが夢であっても忘れないように…、忘れられない位、すごい事してあげる」
夢見の手首から先がスライム状になり、そのまま桜花の顔を、横から挟み込む。
ちゅるり、と細くなった先端が、耳から脳内に入り込んでいった。
「あっ、あ、あ…!」
「ふふ…、解る、お姉ちゃん…?」
「う、うそ、なに、これ…! 何か、股間が熱い…!」
指先が脳に達し、少しばかり脳内への電気信号を改竄する。
白竜が知っていて、桜花の知らない、男性が性欲を感じた時の信号を制作するように。
「は…っ、激しい、よぉ…! すっごい、ムラムラする…! 何か、勃っちゃってるような…」
それは桜花の中に、男の性欲と感覚を教え、股座に存在しない男性器を想起させていた。
もし男性器が存在すれば、それは痛いほどに勃起し、先走りを滲み出させていただろう。桜花の知らない男の性欲は、強く彼女を、もう一度昂らせる。
「ど、どうしよ…、夢見を見てると、すっごい、犯したい…!」
「ふふ…、お姉ちゃん…。いいよ、ボクの事を忘れないように、いっぱい犯して…?」
脳から耳からスライムを抜いて、手を元の形に戻し、夢見はベッドに転がった。体を隠さずしなを作り、二の腕で胸を挟んで強調して、男性が興奮するように。
「うん…、うん…!」
先ほどとは異なる、餓えた視線で桜花が夢見の上に覆いかぶさる。その手が夢見の秘所に触れて、ぺちょ、と音を立てた。
「ん…っ!」
「…夢見の、こんなに濡れちゃってる…。やっぱり、おいしいな」
指に着いた愛液を舐めとりながら、桜花は夢見の大腿部に手をかけ、押し開く。
濡れそぼり、物欲しそうにひくついているそこは、殊更に桜花の“男”を刺激してきた。
「…ね、夢見。…ボク、我慢できないから、シて良い…?」
「うん…、ボクもだよ、お姉ちゃん。お願い…」
互いの脚を広げ、女性器同士を近付ける。入れられる物があるのなら入れたいが、それは無いと理解しているからこそ。
自分の秘所を自分で広げ、水音を立てて接触させる。
「ん、んぅぅ…!」
「はぁ、あ、んぁ…!」
股間部分の熱が触れ合い、嬌声がもれる。それ程までに初めての行為は熱く、2人の体内を焦がしていく。
「ん…、んぅ…! 夢見のあそこ、熱いよぉ…!」
「お姉ちゃん…! お姉ちゃんのも、すごい熱い…!」
「どうして、かなぁ…。ボク、夢見にこんなに興奮してるから、かなぁ…!」
「そうだよ…、男の性欲って、激しいんだから…。それに…、“ボク”の体、綺麗でしょ…?」
ごくり、と唾の嚥下する音が聞こえる。桜花の口元から、たらりと一筋の涎が落ちたのは、肯定か、はたまた口で呼吸するために閉めるのを忘れてたからか…。
秘所同士を密着させたまま、桜花の手が夢見の胸へと伸び、小さな手で大き目の胸を掴む。
「うん…っ、うん…! 夢見の体、すっごい綺麗…! もう、夢見ったら悪い妹だよ…、ボクをこんなに興奮させちゃってぇ…!」
「あ、んっ、んぅぅ! おね、ちゃん…、胸、痛い…っ」
「ごめんね、夢見…、ごめんね…っ、でも、止められないよ…!」
柔らかい乳房を握るように揉みつぶしながら、桜花の腰の動きは止まらない。
完全に離れないように上下に動かし、密着感を高めるように左右に動かし、下の口だけで行う性行は、本来の用途では無い。
けれどそれが故に淫靡であり、同じ姿の2人を一つにしている。
「も、う…、やったなぁ…っ!」
「ひゃん…っ、んふ、ボクのおっぱいも、夢見に…、あんっ!」
お返しというように、夢見の手も桜花の物へと伸ばす。乱暴に揉んでくる桜花と異なり、優しく性感を突いてくる動きは、桜花の動きをさらに激しくさせる。
「あ、んぁ、ダメ…っ! ダメぇっ、ボクが夢見を抱いてるのに、変だよぉ…っ、ボクも、夢見に抱かれてるぅ…!」
「良いよ…、それでいいの…! ボクがお姉ちゃんを抱いて、お姉ちゃんがボクを抱くの…!
どっちも本当なんだよ…、お姉ちゃん…?」
夢見が迎え腰になり、桜花の動きが加速するたびに、主導権がどちらにあるのか曖昧になっていく。
桜花が夢見を抱きしめて犯し、夢見が桜花を抱きしめられて犯す。
それが今この場の全てであり、2人の繋がりである。
けれど、その終焉は近づいていた。
「あっ! あっ! ダメぇ…、我慢したい、のに…! だめぇ、イっちゃう…! ボク、イっちゃうのぉ…!」
「んぅぅ…! ボクも、一緒に…っ、お姉ちゃん…、お姉ちゃんとぉ…!」
「やだ、やだぁ…、夢見ぃ…! 夢見と離れるの、ヤだぁ…!」
「…っ!」
行為と、夢の、終焉が近づいて。
(…ボクも、ヤだ…。お姉ちゃんと離れるのは…。…でも、ボクは…、“俺”は…)
彼女は大鐘夢見であり、実際は辻白竜であり、本質はウルティマであるからこそ。
終わりを惜しむように、忘れないように体の熱を分かち合いながら。
止められない体は、しかし確実に終わらせるように体を高ぶらせ続けて、
「「あっ! あぁ…っ、あぁぁぁぁ…っ!!」」
まるで子供のように、4つの眦に涙を溜めながら。
夢の終わりを告げるように、2人は絶頂に達してしまった。
* * *
深夜、桜花の自室。
せめて桜花が眠るまでは、と願い、2人は抱き合って寝ていたけれど。
「…ごめんね、桜花ちゃん…、お姉ちゃん…」
目を見開いた夢見は、その形を崩してスライムとなり、桜花の身を包む。
行為で浮かんだ大量の汗と、体内に蟠る疲労物質を喰らい、清めてから。脱ぎ捨てられた下着やパジャマをその身に着せていった。
ベッドの上に飛散した体液も、桜花の中に残るスライムも吸い取って。
脳内の電気信号も正常化し、しかし記憶はいじらないで。
全てを正常に戻してから、改めて桜花をベッドの上に寝かせる。
「……、別れたく、ないな…」
夢見の姿になりながら、桜花の寝顔を見下ろすと、ふと涙が出てきそうになるけれど。
本体からの信号が呼んでいる。行かなければ。
「…じゃあね、お姉ちゃん」
一度、桜花の額にキスをしてから、夢見はドアの隙間を潜って大鐘家を後にした。
「もう行くのか?」
「…っ!」
敷地の外に出た途端、不意に声をかけられそちらを見やる。そこに立っているのは、日向だ。
「…えぇ。桜花ちゃんには家があるように、俺にも帰らないといけない家がありますから」
「そうか。帰りは遅くなるか?」
「え…?」
この人は何を言ってるのだろうと、白竜は首を傾げた。自分の帰る家はここではないと、言葉も変えて主張しているのに。
「…失礼ですけど、日向さん。…あなたも知ってるとおり、俺は辻白竜です。大鐘夢見じゃありません。だから…」
「ここに居続けられない…、と?」
言葉を取られたけれど、その通りだ。
それ以上を続けられない白竜に対し、日向は一つため息を吐く。
「君が辻白竜だというのは承知している。…だが俺は、その上で君を、『大鐘夢見』を妹として迎え入れた。
その事実は変わらん事だけは理解してくれ。…それだけだ」
言いたいことは、分かる。理解できない程に頭の回転が鈍くは無い。
言いたいことを終えて家の中へ入っていこうとする日向は、一度夢見の方を見て、
「それじゃあ夢見、お休み。…早く帰ってこいよ?」
それだけを告げて、扉を閉めた。
大鐘家の鍵は、かけられなかった。
【攻撃を受けたのでどうするか】
>1.攻撃された仕返しにエロいお仕置き 2
>2.未熟を見抜いて特訓させ、実力と自信を付けさせる 1
3.殺しはしないけど退魔師として再起不能にさせる
Choice4、後編へ続く。
////////////////
Extra Choice
安月美和&西東柊羽の、その後。
安月美和は憤慨していた。
謎の怨念とか何かの力で、柊羽へ色々ヤってしまった後、ここ一月位は自分を気遣ってくれたりしたのだが…。
最近になって、柊羽の女癖の悪さが再発したらしい事を、友人のネットワークから仕入れてしまった。
「柊羽ちゃんへ。お話があるので、部活後で家に行って良いですか? 送信…っと」
内心、帰ってこないだろうなと思いながらメールを打ち、待つこと暫し。
返ってきた内容は了承を示していて、大体の時間も記載されていた。
「…あれ、てっきり…」
素気無く返されるかと思っていたのに拍子抜けしつつ、さらに了承の返事を打って暫し。
1人暮らしをしている柊羽の自宅に、美和は居た。
「柊羽ちゃん? 浮気してるって話を聞いたけど…、どういう事なの…?」
「あぁ、した。そこはホントだ。1年の五木って子で、遊び慣れてる奴だったよ」
「……、どうして…?」
少し、胸が痛む。一月程とはいえ優しくされたが、この仕打ち。もしかしたら飽きられたとか、自分は捨てられるのではないかと思い、胸が痛む。
目に涙を浮かぶのを堪えながら、柊羽の言葉を待っていると、出てきたのはとんでもない言葉だった。
「……美和に、お仕置きされたかったんだ」
「…え?」
「だから、お仕置きだよ…。…実はさ、前に美和が俺を思い切り犯した時があっただろ?
美和の表情も、女としてされた事も…妙に思い出されてさ…、またされたいって、思うようになっちまった…」
「……はぁ…」
出てきた涙が引っ込んで、美和は思わず目を丸くしてしまう。
「それにさ、前に女同士で出掛けた時あっただろ? 美和に引っこ抜かれた時…、めちゃくちゃ、良かったんだ。
女になるのも良いかなって思えるぐらいだよ」
「……うん…」
「でも、普段の美和はそれをしてくれねぇだろ? だったら、どうすればやってくれるのかずっと考えてたんだ」
「それが、浮気だったの?」
「あぁ。もし俺がまた浮気をしたら、美和はきっと怒って、引っこ抜いて犯してくれると思ったんだ。
頼む美和! 浮気した俺に罰を与えてくれ!」
そこまで言って土下座する柊羽に、美和は内心頭を抱えてしまった。
どうしよう、あの時の夜は柊羽にとんでもない痕跡を残していたようだ。主に取り返しのつかない方向性へ。
「…あ、あのね、柊羽ちゃん?「それだ! アレからずっと美和のちゃん付けも、俺の中の女を刺激するんだ!」あぅ…」
何がまずかったのだろうと思いながら、頼むと連呼し、平身低頭する柊羽を見る。
「あの、その…、解ったよ、柊羽くん…。取ってあげるから、お仕置き、してあげるから…」
「ホントか!? じゃあさっそく頼む!」
快哉の笑みと共に立ち上がり、逸物をまろび出させる。期待と興奮とで、すでに先端からは先走りが染み出ていた。
(あぁもぉ! 何でこんな事になっちゃったのー!?)
あの夜以来、可能になっていた「“柊羽自身”の着脱」。何度か試して要領こそ得ていたものの、最初からフル勃起状態で抜くのは初めてだった。
熱く聳える勃起に手を添えて、引っこ抜く。
「えいっ!」
「んおぉっ!」
ちゅぽんと音を立てて逸物が抜けきり、柊羽の股間には濡れてひくひくしている女性器が残った。
浮気防止用として、無くても柊羽の肉体は男の物を維持している。完全に変える為には、柊羽の“男”を女に突き刺さねばならない。
意を決して睾丸を握り、硬いままの陰茎を柊羽の中に突っ込む。
「ふぉおっ! はは、入って、んっ、変わるぅぅ、俺が、変わってくぅ…!」
自分の物を、本来とは異なる形で返されて。物欲しそうにしていた口に要望通りの物を突き込まれて、柊羽が嬉しそうに女へなっていく。
厚い胸板は柔らかく膨らみ、筋肉に包まれた脚は細く、逞しい腕が頼りなく。
腰は細く括れ、臀部が丸く、顔も小さく美しいと言える容貌に変わっていく。
変化にかかる時間は短かく、西東柊羽はあっという間に男から女へと変化してしまった。
「は、ぁ…、美和、頼む…、お仕置きしてくれ…」
股間に自らのモノを差し込んだまま、上気した顔で柊羽が美和を見上げてくる。
それは笑いたくなるほど扇情的で、呆れたくなるほど退廃的でもあって。
とはいっても、どうして良いのか解らずに、悩んだ結果告げた言葉は、
「…じゃあ、柊羽ちゃん。お尻叩いてあげるから、こっちに向けて?」
まるで子供のお仕置きの、尻叩き。
柊羽がおずおずと臀部を向けると、見えるのはひくつく菊座と、咥え込んで涎を垂らし続ける秘所。
「……、…」
(今からお尻を叩くんだ…、柊羽ちゃんの、まぁるいお尻を…)
待ち望むように尻を振る柊羽を見て、美和は生唾を飲みこむ。
今目の前で揺れている“女”は、自ら説教されるのを望んでいるけれど、それでも確かに浮気をしていて、彼氏の行動を彼女として咎めなくてはならなくて…。
ぐるぐると思考が混乱し、纏まらなくなっていく。艶を含んだ吐息を吐かれ、今か今かと待ち望むような視線を向けられた瞬間、
(えぇい、もうどうにでもなれぇ!)
手を振り上げて、平手を臀部へ叩きつける。
ピシャァン!
「ひぃっ!」
思った以上に大きな音が鳴り、合わせるように柊羽の喉から悲鳴が漏れた。
ぞくり。
そこからワンテンポ遅れるように、美和の背筋を駆け抜けるような、えもいわれぬ感覚が奔る。
(…あれ? 何だろう、この感触…。柊羽ちゃんのお尻が柔らかいのは確かなんだけど…、それよりもっとこう、感じ入る様な気がする…)
「あ、ぃひ…、美和…、も、っと…」
叩いた手は痛くて、柊羽の白い肌にはっきりと残る手の跡が痛そうで、この感覚は解らなくて、でも柊羽は望んでいて。
思考がさらに渦を巻く。混乱の坩堝が深さを増して、美和の思考を巻き込んで奈落へと寄せていこうとする。
もしここに、誰か別の人間が居たらおかしい事に気付くだろうが、今この場には二人しかいない。
手を振り上げて、勢いよく、インパクトの瞬間に手首のスナップを利かせ、叩きつける。
ピシャァン!
「んいぃっ!」
ピシャァン!
「うひぁっ!」
ピシャァン!
「ふぁぁっ!」
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
何度も、何度も叩く。一発ごとに柊羽の口から悲鳴が漏れて、尻が赤くなっていくけれど。
それをまるで悦ぶような声音で叫び、秘所から漏れる愛液は溢れ出る歓喜を示すように量を増していく。
そして同時に、
「ひゃ、ぁ…、はぁ…、いた、でも、美和の手…、きもひ、いひ…」
(…、あぁ、…そっか、そうなんだ…)
ベッドに倒れ伏している柊羽を、その蕩けた顔を見下ろしながら、美和に一つの確信が芽生えた。
(柊羽ちゃんにお仕置きすると…、こんなに気持ちいいんだ…!)
このシチュエーションに、間違いなく興奮している。それは過日に初めて柊羽を犯した名残だった。
美和の体内に白竜が侵入したこと、内部に存在する“強制的を好む人格”を用いたことと、その行為の記憶。それらは確実に彼女の内部に残り、技術や性癖として根を下ろしていたのだ。
一つ一つが重なり合い、目の前でお仕置きを望む柊羽と、美和の内部での悦楽が、新たな花を芽吹かせていく。
「どうしよう、もう止まらないかも…!」
心臓が高鳴り、下着の中で秘所が濡れる。ぐちゅぐちゅする、気持ち悪くて気持ちいい。
下半身だけ裸身を晒しながら、柊羽の内部に残る柊羽のモノを引き抜く。
「んひぃっ!」
「ねぇ柊羽ちゃん、お尻ペンペンしてるのに何でここは大洪水なの?
気持ち良くなってちゃダメじゃない、これじゃお仕置きにならないじゃない…!」
「だ、って、美和の手が…」
「だってじゃないでしょ? …解ってないんだよね、柊羽ちゃんは。だからこんなにはしたなく悦べるんだもんね?
それじゃあしょうがないなぁ、もっとお仕置きしてあげる! 今度はお尻じゃなくて、おま○こに直接!」
柊羽の腰を持ち上げ、自らの腰にモノを取り付ける。あの時の乱暴で強引な欲望に再び火が着き、新しい欲望という油の元に、大火となっていく。
挿入はすぐだった。洪水となり、絞める事さえ忘れかけている膣内に、痛いほど勃起した肉棒が突き刺さる。
「あ、は、んあぁぁ…」
「…あれ、柊羽ちゃん? 私が挿入したのに、中がゆるゆるだよ? 締めようよ、私を気持ち良くしようよっ。ねぇ?」
「おほぉぅっ! す、すぐ、するからぁ…」
深く挿入したけれど、蕩けた膣内はゆるくなっている。物足りないと思いながら子宮口を押しこむと、応えるように膣内が肉棒を包みこんでくるけれど、それでもまだ足りない。
「ど、ぅ…?」
「…全然、足りないっ!」
ピシャァン!
「んひぃっ!?」
「あ…、ふふ、お尻を叩くと、ちょっと締まったよ、柊羽ちゃん? そんなに良かったの?」
「そ、じゃ、な…、ビックリ、しひぇ…」
「えいっ!」
ピシャァン!
「ふひゃっ!」
「ふふ…、やっぱり! お尻を叩かれたら締めるなんて、柊羽ちゃんったらぁ…!」
自らの行為に喜び、柊羽の腰を掴んで美和は抽送を始めていく。
緩い膣内でも、最奥を突くと同時に尻を叩くと、先走りが溢れてしまう程気持ち良く締まる。その度に柊羽は悦ぶ悲鳴を上げて、耳も肉棒も、両方の意味で美和を愉しませる。
「こんなに…!」
ピシャァン!
「んあぁ!」
「えっちで…!」
ピシャァン!
「ひぃっ!」
「みだらで…!」
ピシャァン!
「んうぅっ!」
「ドMな柊羽ちゃん…!」
ピシャァン!
「ふぁっ!」
「大好き!」
ピシャァン!
「あひゃぁ!」
「とろけたおま○こも、だらしない口も、男の子なのに抱かれるのが大好きなのも、全部全部大好き!
いっぱい苛めてあげるから! 男の子に戻りたいなんて、言いたくなくなるぐらい!
女の子としての快感、全部教えてあげる! おま○こも、お尻も、口も、おっぱいも、おへそも腕も脚も指先も!
あ、んっ、出るっ! 柊羽ちゃぁぁぁん!!」
「んやぁっ! 美和、いたっ、あひ! 手が、おち○ぽが! 美和の、俺のぉ! 奥突かれて、お尻叩かれてぇ!
いひよぉ、いた気持ちいぃよぉ! もっと俺のお仕置きしてぇ、もっと奪ってぇ!
女の快感、教えひぇぇ! あっ、中で膨らんで! んひぃ! も、ぉ…っ!
美和、美和ぁ…! お、おほぉぉぉ…っ!!」
互いに互いの名を呼びながら、美和は柊羽の体内に欲望の白濁液を叩きつけ、今回の絶頂の証拠を、一滴残らず注ぎ込む。
奥を狙うように胎内へ、刻み込むようにその奥へ。
そして自らのモノに貫かれ、自らのモノが吐き出した精液を、柊羽は自らの子宮で受け止めていた。
絶頂と共に注ぎ込まれ、それが明確な快楽として、二度と逃れえぬように刻み込まれていくのを、実感しながら。
* * *
「んも…、ぴちゅ…、ちゅ、ぷ…」
「ふふ…、そう、柊羽ちゃん。ちゃんとカリ首の裏側に舌を這わせて、綺麗に舐めとってね?」
「あぁ、ふぁう…、もむ、ぢゅる…っ」
男女の逆転し、今後の位置を決定づけた行為を三度行って後、美和は未だ萎えぬ肉棒を柊羽にしゃぶらせていた。
喜びと堕落の涙を流しながら、柊羽は元々自らのだったモノを口に含み、愛おしそうに舐め回している。
その行為を悦びながら、美和は柊羽の頭に手を添え、撫でた。
「柊羽ちゃん、良い子…。学校を卒業するまでは男になってもらうけど、好きにしていいからね。悪いことしたら、またお仕置きしてあげる。
卒業したら…、ずっと女の子のままだよ。お仕事は私が頑張るから、柊羽ちゃんはずっと家に居てね?
あ、でも柊羽ちゃんには体で稼いでもらうのも良いかも…。そうしたら浮気だね、その時はまたお仕置きしてあげなくっちゃね。
…んっ、出るぅ!」
身を震わせ、また射精をする。残らず口内に注ぎ込んで、飲ませてからもう一度“お掃除”をさせる。
柊羽の肉体が女になっても、いや女になったからこそ、こうして愉しむ事が出来るのだ。
安月美和は確かに西東柊羽を好いている。いや、愛している。その方向性が例え通常のカップルとは異なっていたとしても。互いに20歳を越えたら、柊羽の肉体が女のままでも戸籍が男なので結婚しようとも思えるほどに。
たくさん苛めて、たくさん教えてあげよう。女の肉体が伝えてくれるメスの悦びを。
「柊羽ちゃん、お掃除はもういいよ。…また突っ込んであげるから、お尻向けて?」
「あ、あぁ、解りました…」
「ふふ、いい子。…柊羽ちゃんのおま○こに、私のおち○ぽの形を教え込ませるぐらい犯してあげる。
ん、あぁぁ…」
そうして、美和の肉棒が再び柊羽の膣内へ潜りこんでいく。
歪んだ睦み合いは、夜を徹して続けられていく。
これからも、きっと…。
/////// ///////
大鐘桜花&夢見の、その後。
「はい、お姉ちゃん。チョコだよ?」
「わっ、何処にしまってたの? でもいただきまーす♪」
「持ち物検査で見つからないよう、ボクの体内にね」
「ん、おいしー♪」
「明日はライブのリハーサルだね…?」
「うん。それで明後日が夢見の…、僕たち姉妹のデビューだね」
「…僕たちが会ったのも、もう3か月前だっけ」
「え、もうそんなに経っちゃったっけ? どうしよ、時間が経つの早いよ夢見!」
あの後、本体との情報交換を終えた夢見は、本体の了承を得た上で、桜花が起きる前に“帰宅”していた。
最初は夢見が居る事に驚いた桜花だが、すぐに飛びついて大泣きし、喜んでくれた。
ほんの少し戸籍を弄る事になりつつも、大鐘夢見は「大鐘桜花と生まれた直後に生き別れた双子の妹」という形で、学校などに受け入れられた。
当然のことながら、桜花が夢見の事を事務所でも言わない訳がなく、すぐにマネージャーの目に留まったりもした。
「ホントにそっくり…。…ここまで似てるなら、使わない手は無いわね! 夢見ちゃんだっけ? あなた、お姉さんと一緒にアイドルしてみない?」
との言葉と、何故か桜花が二つ返事で代理了承してしまい、デビューすることになってしまったのだ。
「確か最初、歌とダンスはあんまり出来ない設定にしてたんだよね?」
「うん。姿はともかく、技術的な部分も何もかもお姉ちゃんと全く一緒、っていうのは逆に怪しいからさ」
「でもボクの中に入ってたから、全部知ってるわけで」
「それでもちゃんとレッスンは受けたでしょ? 記憶から知る事と体感する事とで、あんなに違うのは驚いたよ」
「唄うための呼吸法ってのもちゃんとあるからね。夢見は最初、そこが出来なかったっけ…」
「そこはちゃんと頑張ったよ。でないと、お姉ちゃんと一緒に立てないもん」
「努力の甲斐あったね。…やっぱり白竜さんは真面目だなぁ」
「もう、お姉ちゃんったら…」
こうして姉妹として過ごす事になっても、不意に桜花は夢見の中に「白竜」の存在を見ている。果たしてそれが良いのか悪いのか、一概に答えは出しにくいだろう。
「大鐘桜花の妹である夢見」を形作り、同時に根底に存在しているのはやはり紛れも無く「辻白竜」であるからだ。
不可分であるが故に、それもまた仕方ないなと考えるのも、無理からぬことかもしれない。
チョコ菓子の箱内に存在する、2つの袋。その1つ目を食べ終えた頃に、車内アナウンスが流れ出した。次に停車すると告げられた駅名は、自分たちの所属する事務所がある駅。
「あ、そろそろ降りなきゃ。お姉ちゃん、2つ目開けちゃだめだよ?」
「わかった。…とけちゃうの嫌だから、夢見の中に入れてもいい?」
「しょうがないな、お姉ちゃんは。…ここに入れてね」
「…胸の間に挟むのは、傍から見るとえっちぃね」
制服の襟首を広げて桜花に見せた胸元に、チョコ菓子を差し込む。体内に入り込んだ菓子は、融かされる事の無いままに夢見の体内で保存されている。
体内に隠される事は、服による遮蔽で見えることは無く。横目で見ている人は「そこで良いのか?」というような、少しだけの疑問を抱くだけだった。
事務所内での話し合いは、さほど時間がかかる物ではなかった。いつもと同程度の、小さなライブ会場でのこと。事務所に来たり移動なりの時間の事や、舞台本番の事。
それらの再確認、という意味合いが強かった。
「それじゃあ2人とも、明日と本番は頑張ってね。夢見ちゃんはデビューなんだし、桜花ちゃんが助けてあげるのよ?」
「勿論ですよ。なんたってボクは、夢見のお姉ちゃんなんですから」
「頼もしい返事ね。…夢見ちゃんが来てから、前よりもっといい顔してるわ」
「えへへ、そうですか?」
「そうよ。…これならいろいろ、心配なさそうね」
桜花とマネージャーとの会話を横で聞きながら、夢見も笑顔で2人を見ている。
辻白竜の一部であり、ウルティマの一部であるのは変わらないが。それでもここまで、今までの経験で知る事の無かった世界に心躍らせている。
分体に魂は存在しないが、擬似的に作り上げた心臓が興奮で高鳴っていく。自然と頬に力が入り、意志を込めた笑みが漏れた。
「よーっし、やるぞー…! 明日も明後日も全力だー!」
「あっ、夢見がやる気だ! それならボクも、全力だー!」
立ち上がり、大きな声で気概を叫ぶ。
テナントビルの中は少し騒がしいと思ってしまうけれど、それでもこの考えは止められなかった。
* * *
深夜2時、大鐘家。
「……」
部屋の外に忍ばせながら近づく足音に気付いて、夢見は目を覚ました。
(この足音、昴流兄ちゃんだな…?)
大鐘家の人間には、日向の口から「夢見が本来はスライムである」ことを告げられ、周知の事となっている。
勿論、それを信じさせるために父兄の前で姿を崩し、震えながらも必死に悪いスライムではない事を訴えたりした。
その甲斐あってか、今では夢見である事が認められ、しかし時折スライムである事も求められている。
具体的には、様々なエロい方向性で。
おーい夢見ー…、起きてるかー…
扉越しに聞こえる囁き声を拾い、呼ばれていることに気付いた。桜花の抱き枕状態から体を崩して液状化、扉の下から這い出る。
人形は取らずに、足元に蟠る
「どうしたの、昴流兄ちゃん…?」
「夜遅くにごめんな夢見、どうしても頼みたいことが出来てな…」
「…解ったよ。お風呂場に行こうか」
話を聞かれないために場所を変え、引き続き足音を殺し歩く昴流を先導しながら、先に風呂場に到着する。
程無くして、昴流も風呂場にやってきた。
「それで、頼みたいことって何なの? お父さんとか大樹兄ちゃんみたいに、体を変えてみるとか?」
「いや、違うんだ。…明後日のライブの事で一つ聞きたい事があってな、それを話してほしい」
「もしかして…、枕の事?」
「…やっぱり気付いちまうか」
芸能界というのは欲望の巣窟だと言う事は、噂程度でしかないが聞き及んでいた。白鳥のように表面は優雅に、しかし水面下では大きくもがいている。
表面に出る部分が華々しく煌びやかであればある程、その水面下はどれ程までに醜悪なのだろう。
昴流はフリージャーナリストとして仕事をしており、桜花の家族である事もあって、妹の記事を書く際には所属事務所に取材費の足元を見られている。
兄でさえこうなのだ、ライブという舞台の矢面に立つ桜花と夢見が、様々な下準備の元に結実した「表に出る」という代価の為に、どれほどの見返りを求められるか。下衆な想像をすれば、思い当たるのは少ないだろう。
「…1か月前の6日金曜日、あったよ」
「マジなんだな?」
「うん。でも平気だよ、昴流兄ちゃん。お姉ちゃんに手は出させてない。全部ボク1人でやってたからさ。それに…」
「ストップだ。…それ以上は聞かねえよ。そういう事があったって事と、桜花が無事だってんなら言う事はねぇ。…あんがとな、夢見」
「どういたしまして、かな。…ボクだってお姉ちゃんが汚されるのは嫌だしね」
「ホントは夢見にも汚れて欲しかぁねえんだよ。そこん所は、解かってくんねぇかな?」
そういって昴流は少しだけ、ばつの悪そうな顔を向けてくる。
大鐘夢見としてこの家に入り、すでに3か月。兄たちが自分へ向ける視線は、その殆どが桜花へ向けるものと変わらない。妹が愛しくて大切な、お人よしたちの視線。
自分は幸せ者だ、と思い、思わずはにかんでしまう。
「どしたんだよ夢見、いきなり笑って…」
「うぅん、何でもないよ。…昴流兄ちゃん、ありがとっ」
そっと、昴流の腕の中に夢見は抱き着く。日向の匂いとはまた異なる、男らしい匂いを胸に吸い込みながら抱き着く動きは、年上に甘える子供そのものだった。
昴流に抱きしめられて暫し。すぐに離れて向かい合い、また笑う。
「それじゃあ昴流兄ちゃん、“変わって”みる?」
「いや、興味はあるけど後日にしとくな。2人の晴れ舞台を邪魔する訳にゃいかねぇしな」
「そうは言っても、ボクの体に疲れとかはないんだよ?」
「それでもだ。身体じゃなくても心が疲れたら、どうしようもねぇだろ。早く寝た寝た!」
「はーい」
せっかくのお誘いも、昴流の気遣いによって推しとどめられる。
大鐘家の人間は、やはりお人よしであり人間が出来ている。本来なら誘惑に耐えられないだろう、スライム娘・夢見の言葉にも負けず、逆に夢見の身を案じている程なのだから。
そしてそれを無碍にするだけの考えは、夢見の中には既に存在しなかった。
「それじゃ昴流兄ちゃん、お休みなさいっ」
「あぁ、お休みな、夢見」
液状化し、桜花の部屋に、寝ている桜花の腕の中に戻る。
腕の中から妹が消えていた事にも気づかないくらい、静かに寝ている桜花の寝顔は、何も不安はない、と言わんばかりの表情だ。
頬に一度口づけをして、寝ている桜花へ微笑みかける。
「…ボク、明後日は頑張るよ、お姉ちゃん。2人で一緒にスポットライト浴びようね」
「…ぅん…」
帰って来る筈のなかった桜花の言葉は寝言のそれであったけれど、それは確かに、夢見への答えだった。
桜花は夢見を、夢見は桜花を、ぎゅっと抱きしめて。
そして意識を落とし、疑似的な眠りに落ちる。
明後日、大鐘桜花・夢見は姉妹ユニット「チェリー・ブロッサム」として初ライブを飾る。
例え夢見は人間でなくとも、その裏に欲望が渦巻いていようとも。
誰に恥じることなく、凛として咲き誇って。
その最中にも、首元に作られた3つめ4つめの瞳は周りを探り、他の人間を見ている。
首尾よくウルティマの肉体を得て、大いに怒られながらも喰らった人達に「肉体」を返し、日常を取り戻したけれど、それで鍛錬を止めるような精神を白竜は持ち合わせていなかった。
ただでさえ様々なものに変異させられる肉体であるのなら、今の段階でもどれほどまで出来るのか。それを知る為に今こうしているのだ。
ウルティマの能力は、改めて思い返しても凄まじい。
抑えたとはいえ、知識欲の片鱗は肉体のそこかしこに残っており、他人の体を見ると外側をまず寸分違わず模倣する観察力を持っている。
だぶついた服の中で体が蠢き、目の前を通る女性と同じラインを形成する。
(やば、思ったより大きい…!)
服の中で変身しやすいよう、余裕を持ったサイズの服でも解る位の膨らみになってしまい、慌てて元に戻す。
でも、変身できるのは見た目だけだ。対象と全く同じに、というのは、観察だけでは出来ていなかった。
肉体だけで絡み合っていた時、早耶の姿になった記憶から解るのだが、どうにも違和感は拭えなかった記憶がある。
記憶からの構成故に観察が足りてなかったのか、それとも早耶の性感を“知らない”から再現できないのか。
多分どちらもあるのだと思う。
妃美佳の後押しも受けながら、早耶と付き合い始めてみたものの、まだその行為には及べていない。
早耶のことは知りたい。けれどそれは喰らう以外の方法で行う必要がある。
何よりも「この肉体」に、それ以外の方法を教えなければいけないからだ。
第1の手段としては、まず何より視界を用いた「観察」だが、これは先ほどの通りに見たままを模倣する事は出来る。
では第2の手段だが、考えたものとしてはいくつか方法がある。
1つは分体を相手の中に進入させる事。生理や反射を記憶させて再吸収すれば、再現は可能だ。
2つは耳から突き刺した触手で脳を探ること。少し時間は掛かるが、肉体の他に記憶も取れる。
3つは粘体で相手の身体を包む事。喰らわないよう注意する必要はあるが、その全てが可能。
勿論第1の手段を継続して、観察だけでどこまで出来るか試すのも良いだろうけど……。
男としての性か、視線は不特定多数の女性へと向いていた。
【どの方法を試すか】
>A.分体を浸入させる(23人平行) 2
B.ナーブジャック
>C.スライム化して全身隈なくもちゅもちゅ 1
D.このまま観察し続ける
(そうだな…、知識欲と食欲は別物だという事を教えないと)
ウルティマの体が求める欲は2つしかないが、どうにも不可分と思っている節が体にはある。けれど人間としては、生きるために食べる事と己の為に知る事とは別物なのだ。
人間以外の体を持ちながらも人間として生きる為に、「知る為に食べなくても良い」と、まず教える必要がある。
「その為には、誰か…。…やらないといけないよな」
少しばかりのため息を吐きながら、一度人気のない場所へ移動。
直後に外見を変化させる能力を応用し、光の屈折率を変更、視界に移らないよう透明化する。自らの一部で作った服や装飾品も同時に透明となった。
「これで良し。次は…」
元の位置に戻り、再び周囲の人間から“美味しそう”な人を見繕う。知識欲と食欲を分ける為に、まずはそういった面で食指が動く相手を必要としていた。
相手に気付かれない為に、接触しないよう気を付けながら数分。人波の中で目を惹かれる人物がいた。
柔らかそうな髪を揺らして、足取り軽く歩いている女性。服装も化粧気からも、明らかに「デートに行きます」と公言しているような気の入り様だ。
年の頃は自分より少し年下の、高校生位だろうか。
「…あの子、良いな」
つい口に出た欲求に流されないよう、軽く頭を振って少女の跡をつけていく。接触を避けるように体を融かし、平面状になって滑りながら。
この体になってから歩行の疲労とは無縁のようで、少女の移動に難なくついていく事が出来た。
駅へ向かい、改札を通り過ぎて、その足は化粧室へ向かう。どうやら彼女はもよおしていたらしく、その足は個室へと向かっていた。
(…これは、イケるな)
腰を降ろし、小用を足している合間。消音機が鳴っている間に隙間から滑り込み、上下のスペースも含めた室内一面を閉鎖。内側を完全な防音仕様にする。
「ふぅ…」
白竜の行動は気付かれていないようで、少女は自らの秘所を紙で拭っていた。
(今だ!)
防音に使っている部分を残し、それ以外が思い切り、ぼとり、と上から落ちてきた。
「えっ!? 何これ、ぬるぬるして…っ!」
気を緩めていた所に突然、粘液の襲撃を受けた少女は慌てて振り払おうとするが、その手は粘液の中に潜り込むだけだった。
その手に、包み込んだ部分に触れて、白竜の中に観察時より正確な情報が流れ込んでくる。
(…なるほど、直接触れると、ここまで情報が来るのか…)
早耶と手をつないだりしたことはあるけれど、知る為に触れたことはまだ無かったが故に、白竜の意志で初めて“他人を知る”行為の甘美さに、少し喉が鳴ってしまう。
“この情報を喰ったらどれだけ美味だろう”
(いや、ダメだ、喰らう為じゃない。これはただ知る為だけにやってるんだ…!)
そんな本能を押しのけ、別物として認識させるために頭を振る。
服の中にまで粘液を差し入れ、下着の上から柔肌を全身でねぶる。乳房のふくらみ、柔らかさ、腰の括れ、臀部の肉付き、その全てを知識として精密に吸収していく。
「やだっ、何これ…! 触らないで、やめてぇ…! ひ、ぃ…っ!」
抵抗できぬままに身をよじる少女は、曝け出されたままの秘所に触れる粘液に、背筋が凍るような叫びをあげた。身が強張るのを外側からでも感じてる。
きゅ、と秘所も閉じられてしまい、難しくは無いが侵入に手間取りそうだった。
(仕方ない、か…。ごめんね、ちょっと味あわせてもらうよ)
少女の体を包む粘液の動きを変える。探るようなべっとりした動きから、どこか優しさも感じさせるようなフェザータッチへ。
「ひぃっ! 触られて…、え、でもこれぬるぬるして、指が触ってきて、え、え…!?」
今しがた“知った”、少女の指先を模して、触れる。粘液から柔肌同士の触れ合いに変わった少女は困惑しながらも、逃げられず身を委ねるしか無い。
「やっ、やめて! そんなとこ触らないで!」
ブラジャーの中の粘液でも指先を作り、乳房を撫で、ぴん、と乳頭をはじいた。
「んぅっ!」
刺激と、触られている恥かしさから声が上がってしまう。慌てて口を押えようとしても動かない。
「あっ、いやっ、そこダメっ」
秘所周りの粘液は形を作らずに、一部に集い始めた。そこは女性器の中でも敏感な陰核部分。
壊れ物を触るように優しく、しかし確実に事を遂行するように、しみ込み、同時に力を伴って事を起こす。
「んい…っ!」
包皮につつまれた陰核を曝け出し、粘液のまま吸うように扱くように触れ続けていく。
とろり、と下の秘裂から愛液が滲みだしてきて、それを飲みこんだ白竜は、作られていない喉を鳴らす。
(あ、どうしよう…。これもおいしい…。
侵入の為にも開けてもらわないといけないし…、もうちょっと欲しいし、…うん、続けようかな)
目的の為、という自己弁護をしながら、白竜の行動は止まらない。
体を抑え込まれ、ろくに動かす事が出来ないまま、粘液で探り、指先で愛される。今の少女はそれだけしかできない。
止むことのない愛撫から、10分。
「ん、あ、もぉ、だめぇ…! んぃぃぃ…っ!!」
体力を奪うように動き続け、絶え間ない刺激を与え続けられた少女は、ようやく限界を迎え、絶頂に達した。
閉める事を忘れた秘所から潮が吹きだし、それを飲みこんでまた、白竜は震えた。
(はぁ…。こんなに美味しいんだ…。…ってダメだ、流されるな、俺…!
目的は、忘れちゃだめだ…!)
最初の目的は、まだ忘我の彼方へ旅立ってなかったようで、慌て頭を振って正気を保つ。
視線を秘所の方へ向けてみれば、一度絶頂を迎えて、少しばかりグロテスクな、しかし男を誘う淫猥さを漂わせ、ひくひくと蠢いていた。
今ならば拒絶されることも無く入れるだろう。
秘所回りにある粘液の形を変え、細い触手にし狙いを定める。同時に作られた“少女の指”が、準備は出来たとばかりに秘所を広げ、膣肉を空気に曝す。
(ごめんね、破らないけど…、入らせてもらうよ)
ちゅる、ちゅると音を立てながら意志を持って粘液の触手が秘所の中に潜り込んでいく。内側から染み出てくる液を取り込んで、奥へ奥へ。
「いやぁ、こんなの…、助け、…っ!」
破らないように注意しながらではあるが、それだけでは足りぬと言うように、口や鼻、耳からも体内に侵入していく。
「…っ、、ぇ、ぉ…っ」
吐き出そうとえずいても行えず、中へ中へと突き進んでいく。体の内側へ、内臓へ、そして脳の中へ。
「っ、…っ、ぁ、ぁ…」
耳から入り込んだ粘液は、脳髄へとたどり着いて脳細胞へ触れ、その内容ひとつひとつを精査していく。
美味な情報を得て、粘液の体がぶるりと震える。
「あ、やばい…。こんなに一気に、来るんだ…」
少女の記憶が流れ込んでくる。名前も、家族構成も、今までの人生経験も、ここに来るまでの過程も、これからの予定も。
その全てを記憶し吸収し自らの内に焼き付けて、飲み下していく。
「名前は、
呟きながら、彼女の中を探り続ける。秘所から潜り込んだ触手によって判別していることも、脳から得た知識も、噛み砕くように呟いて。
「処女…。今日のデートで、彼氏、
内側の膜に辿り付いた触手は形を崩し、粘液となって隙間からさらに進行する。膣を抜け、子宮に滲みわたり、卵管の中まで。
ぢゅるん。
防音に使っている分体を残し、その全てが安月美和の体内に浸入を果たした。
「は、ぁ…、…大丈夫、何とか食欲は抑えられた…。知識だけで、済んだよ…」
背を伸ばして壁に寄りかかりながら、絶頂を迎えた肉体の倦怠感に身を任せる。
ウルティマの体ならば疲労は無いが、実体に入り込めば話は別だ。けれど。
「…早い所、出ないと。たぶん待ってる人もいる筈だし」
とかく女性用トイレは混み易い。個室しかなく、一度の用足しに時間がかかるのは理解している。部屋を防音仕様にして遮断したけれど、外が動いてない訳は無いのだ。
体内に入り込んだ粘液を、『雷火』の知識から得た外骨格代わりにして、疲労した肉体を無理矢理立たせる。
ふと、防音用として隙間を埋めた分体を体内に入れようとして思いつく。
今後、分体を動かすにあたって勝手な行動を取らないよう、分体にも節度を覚えさせておかなければいけない。
かつて妃美佳を脳内から融かし喰らったようなことを、二度起こさせないためにも。
分体を2つの塊に分け、命令を送る。
「知りたいと思った女性に入り込んで、記憶や知識を得たら待機する事。俺が呼んだら戻ってくる事。
…それ以外は“俺”の意志に応じるように動いてくれ。…絶対だぞ」
本体、ホストとしての命令権を行使して分体を従える。
了承のように身を震わせて、分体は天井に張り付き、何人もの女性を眺めはじめた。
個室を出て洗面台に移動し、手を洗って鏡で自分の姿を確認する。
「んー…。やっぱりちょっとメイク崩れちゃったな。やり直しておこう」
手で顔を覆うと、汗腺からスライムが滲みだし、化粧品を“喰らって”潜り込む。一瞬ですっぴんになった美和の貌は、それでもまだ可愛いと思えるほどだ。
(それでも化粧をするのは、女性としての見栄なのかな…?
気合を入れるのもあるし、すっぴんだと恥かしいのもあるし…)
心の中で“知った”ことと、思う事を反芻しながらハンドバッグの中から化粧品を取出し、化粧をしていく。
もともとそこまで多く化粧をするタイプではなかったのか、ファンデ、マスカラ、ルージュを薄くするだけで、すぐに終わった。
「よし、バッチリ!」
化粧品を仕舞い、バッグを手にして外へ出る。
その際に、ウルティマとしての感覚が、片方の分体が女性に潜りこんだ事と、「あ、入って、あ、あぁ、…っ、あ」という極小の喘ぎを耳にしていた。
少しばかり予定を遅れてしまう事を、道中携帯にてメールを打つと、帰ってきたのは酷い文章だった。
『先に待ってて暇だったから、まず昼飯は晩飯もお前の奢りな。
ホテルもお前持ちだからな?』
「……何これ」
溜息と共に呆れが出てきた。
美和の記憶をたどれば、柊羽はデートの時にはほぼ毎回美和の財布からしか金を出さなかった。
たまに、10回に1度くらいしか自らの財布を開けず、ほぼ相手持ち。典型的なタカリだ。
しかし彼の顔立ちは良く、バスケ部のエースである為背も高い。外面は良く憧れを抱いた女性も多く、美和もその一人だった。
「恋は盲目、か…」
もしくは、「痘痕も笑窪」か。柊羽の事が好きだから、それらの都合の悪い所には目が向かないのだろうか。
見た目の割には性格が悪い西東柊羽と、それに好きだからという理由で盲目的に付き従う安月美和。
「……」
理由は違えどなんとなく、少し前の自分を思い出して美和に重ねてしまう。
美和自身は陰口をあまり叩かれるような類ではない、明るく社交的な娘だ。親の厳命によって髪を染めたりとかは出来ないが、それでも美和が親を嫌う様子は無いし、親も美和を大切にしてくれる記憶がある。
このままではよほどのことが無い限り、西東柊羽に弄ばれて捨てられる。そんな未来が頭を過った。
「…どうしよう、かな?」
電車が止まり、扉を開ける。
待ち合わせ場所の駅前まで、あと1駅。時間はあまりないが、考えられない程ではない。
美和のまま振る舞うか、柊羽に悪戯をするか、それとも、すっぽかすか…。
【西東柊羽とのデートをどうするか】
A.関係を壊すのは悪いのでこのままデートして抱かれる
>B.美和の振りをしてデートをし、抱かれる前に悪戯をする
C.デートを放置してこの体を想うまま探索する
「出来ない事があっても困るけど、できる事がありすぎるのも困るかな…」
揺れる電車の中で呟くのは、柊羽への処遇。個人的な美和への肩入れも相まって、少しばかり悪戯をしてやろうとも思っていた。
もちろんウルティマの能力を用いての、だ。
できる事はありすぎて、試したいこともありすぎている。が、それを試せる好機と切欠を同時にくれた事に、少しばかりの感謝と陳謝を抱く。
「ゴメンね、美和ちゃん。…ちょっと彼を使って実験させてもらうよ」
まずは下準備として行う悪戯の方向性。
あの時、竜峰と竜巻が死にかけた時に頭を過り、試せなかったことを行ってみよう。
そして気絶してる美和の意識へ介入し、“これから行う事への違和感”を限りなく低くし、自分の意志で執った行動のように想わせる。
しかしやる事の内容が内容なので、少しばかり荒唐無稽な理由になってしまうのは仕方ない。
「…これで良し。柊羽くんが待ってるんだから、早く行ってあげないと」
同時に、違和感を発生させないよう自らの意識や口調を、美和の物とした。
「楽しみだな、ふふ。どんな事してあげよう…」
想像を巡らしながらはにかむ少女の貌は、知る人が見れば確かに「安月美和」の物と思えるだろう。
かつてウルティマが本能を「吸収した人格というフィルター」を通して表現したことを、今、白竜は行っていた。
電車が止まり、車内アナウンスが流れる。席を立って電車から降り、改札を抜けて待ち合わせ場所へ行くと、そこには僅かな苛立ちを見せながらも西東柊羽が立っていた。
「ごめんね、お待たせ柊羽くん」
「おせぇよバカ。何分待ったと思ってやがる、15分だぞ15分!」
美和から見上げるような長身は180cmを越えてるだろう。その身に釣り合うような精悍な、それでいて甘目の顔立ちは、直に見れば確かに人気が出るのも納得がいく。
だというのに一言目でこれだ。内心で白竜はひとつため息を吐いた。
「ごめんなさい、化粧室が少し混雑しちゃってて…」
「俺を待たせるぐらいなら少しくらい我慢しろよ。まったく気の利かねぇ。メールは見たか?」
「うん、見たよ。私が悪いから当然だよね」
「なら良い。行くぞ」
すぐに背を向けて柊羽は歩き出した。早足で、長身ゆえの歩幅もあってすぐに美和を置いていこうとばかりに歩いていく。
置いていかれないよう小走りに跡を着いていきながら、何とか斜め後ろの位置に付く。
「柊羽くん、今日は何処に行くの?」
「マズは飯だ、イライラして腹減ったからな」
「それなら今日は、調べてきた所が…」
「ヤだよ、お前のお勧めとかってろくに腹が膨れねぇんだ。俺の行きたい所に行くぞ」
美和の言葉を殆ど聞かず、速度を変えず、さらに歩き続けていく。
妃美佳は行動する時にあまり有無を言わせなかったが、柊羽はそれ以上だ。自分の都合でしか動こうとしない。
疑問に思いながら美和の嗜好と記憶を覗くと、引っ張ってくれるタイプの男が好みらしい。
(だからってこれはなぁ。引っ張るにも限度があるでしょ…)
牽引してくれるのと、強引に連れ回すのとは別物だ。
今はまだ理想通りの男性として、自分が望んでいたように動いているが、心のどこかで柊羽の行動に対する違和感があるのも確かだった。
手を差し出してくれるでもなく、抱き着くことを許すでもなく、ただ美和より先に歩いていく姿はまるで「女性を連れてる事を見せびらかしたい」だけのように思えてくる。
随行するままに辿り付いたのはラーメン屋。
(えぇー…、デートだとしてもここに女の子連れてくる…?)
そこの知識は、白竜としての記憶にある店だった。
大量で、脂こくて、味も濃い。男視点では美味に想える類の所なのだが、女性の味覚ではアウトだろう。そんな店だ。
美和としては知らないらしく、入店する柊羽に着いていく。
テーブル席に座り、店員が水を置きに来る。
「チャーシューメン大盛、野菜とチャーシュー、ニンニク乗せで」
来慣れてるのか、来るや否や注文を言ってきた。早すぎる。視界の中では、美和が食べきれない量の写真があった。
そう。“美和”なら、食べきれない。
「同じのもう一つ
「は?」
美和が小食なのを知ってるはずの柊羽は、呆けたような顔をする。店員も似たような顔だ。
「チャーシューメン大盛、野菜とチャーシュー、ニンニク乗せがお二つで、構いませんか?」
「はい、お願いします」
「…かしこまりました。オーダー入ります!」
店員の質問に即答して、2つの大盛りラーメンが厨房で作られ始めた。
待ってる間に柊羽が疑問に思ったらしく、問いかけてくる。
「お前そんなに食えたっけ?」
「頑張って食べるよ? それにお金は私が出すから、問題ないでしょ?」
「そりゃな…」
代金は相手持ち。なら良いかと思い始めて、すぐに取り出した携帯に熱中しはじめる。
その間に白竜は、体内に潜んだスライムを動かし始めていた。
しばらくして注文がテーブルに届けられる。大きなどんぶりの中に収められたラーメンは、上に乗るもやしとチャーシューで嵩増しされ、ニンニクの臭いが香ってくる。
山のようなラーメンを攻略する為、割り箸を割って食べ始める。
大口を開けて柊羽が食らい、美和は小さな口を開けて咀嚼する。
普段の美和ならこの量は食べきれるはずがない。恐らく半分程度が関の山だが…、
しゃくしゃく。もぐもぐ。つるつる。
必要最低限の音しか立てず、柊羽よりもハイペースで。美和の胃に流し込みながら、胃の中に置けない分を口元のスライムで吸収していく。
「ごちそうさまでした」
美和が食べ終えたのは、まだ柊羽が食べている最中であり、自分より早く同量を食べきった美和に驚きの表情を禁じえなかった。
「……」
「どうしたの、柊羽くん?」
「いや、お前…、そんなに食べるの早かったっけ?」
「私もお腹減ってたみたいで、びっくりしちゃった」
笑ってごまかした。
少し釈然としない様子の柊羽を、怒らせない程度に流し、話しながら食べ終わるのを待つ。
(…うーん、俺としてはこのラーメン屋、美味しいんだけど脂っこいな。あと、ニンニクも多いし…)
内心の評価は、やはり女性向けではないという事。デート中に連れてくるような店ではないし、脂も臭いも女性が避ける要素が多い。
それを再認識してる間に柊羽も食べ終わり、適度に雑談をしては店を辞した。もちろん美和払い。
時間を流して夕飯も似たような、柊羽と同量を頼み柊羽より先に食べ終わる事をして、また少し。
日は沈み切り、2人はホテルの中に居た。
慣れてる様子で柊羽が受付を澄まし、部屋を決めて中へ行く。
先にシャワーを浴びながら、白竜は意識の隅で思考を巡らせていた。
(人目もないし、行動を起こすならここがやっぱり一番だな。…あんな奴にあげるのも、ちょっと嫌だしね)
柊羽の行動は、白竜から見ればデートとは言い難かった。明らかに連れ回すだけで、相手の事を考えていない。
だからこそ、今この場で。
(…ま、ある意味良心の呵責なく出来そうな相手で助かった、かな)
水を止めて体を拭く。シャワールームの外に出ると、柊羽がすでに待っていた。
「おせぇぞ」
「ごめんね、気合が入っちゃったから、念入りに体を洗っちゃって」
「気にすんじゃねぇよ、そんな事。早く来い」
ベッドの上で服を脱ぎ、美和を手招く。それに応えるように美和も上がり、互いの裸を見る。
「やり方知ってるか?」
「…うぅん、知らない」
「そっか。んじゃまずは…、俺のチンポ、触ってみろ」
座り、足を広げて自らのモノを見せつけてくる。僅かに充血したそれは、父親以外で初めて美和が目にしたものだった。
おずおずと手を触れ、指で突いてみる。
「柔らかい…、のかな。ちょっと硬いかも」
「先っぽは敏感だから、あんまり触るなよ。もっと下の部分を触ってみろ」
「うん…」
美和として初めて触れる男性器に、怯えながらも手で触れる。腕とは違う熱さと硬さが、掌に返ってくる。
「…っ、手がつめてぇよ。お前ホントにシャワー浴びたのか?」
「あ、浴びたよ、ちゃんと綺麗にしたから!」
「そうかよ。…ほら、握ってみろ。優しくだぞ?」
「うん…」
触っているうちに硬度を増してきた男性器を、手で握る。
「扱いてみろ。ゆっくりな」
言われるままに、ゆっくり手を動かしていく。数回の内に反応は出てきて、男性器は次第に硬くそそり立っていく。
「う、わ…、こんな風になるの…?」
「あぁ…、そのまま続けろ…」
手淫は続く。筒状にした手を動かし、時にフェザータッチ、時に痛がらない程度に強く握り、上へ下へと続けて。
「なんか、ぬるぬるしてきた…?」
「気持ちいいって証拠さ。お前だって濡れるだろ」
「う、うん…」
保健体育では知っていた情報を、いざ目の前にすると驚いてしまうけれど、美和としての好奇心と、白竜としての目的意識が手を止めない。
手を動かすたび、僅かにくちゅ、という水音が混じり、精の臭いが鼻を衝いてきた。
頃合良し。
「……あ、ん」
「ぅおっ? お前、いきなり…!」
手を止め、口を開けて咥え込んだ。
「んむ…、ぢゅ、ちゅる…、ぴちゅ…」
唾液を出しながら、同時に分泌させたスライムを塗してこすり付けていく。
鈴口を舌先で刺激し、先走りを吸い出しながら、並行して柊羽の体液を体内で解析し、遺伝子構造を把握。
これを元に改造を、始める。
「あむ、むぅ…、んぅ…!」
小さな口を大きく開けて、柊羽の男性器に頭から吸い付いて。
痛みを得られず、快感を得られるようにして、侵入させたスライムに遺伝子改造を命じていく。
「うぉ…っ! こ、これはすげぇ…!」
舌がアイスを舐めるように動いて、男性器を融かしていく。しかし柊羽が感じるのは違和感ではなく、確かな男性としての性感。
美和の頭に手を当てて、それを逃がすまいと力を込めていく。
「なぁ、もっとしてくれよ…。ほら、そこのタマとかさ…!」
言われるままに、口淫を続けながら手は睾丸を揉みしだく。中にある精液を送るように、しぼませるように。
「おっ、おぉ…! 何だこれ、今までの誰よりも…、おぉぉ…!」
手の中でひと揉みごとに消えていく睾丸に気付かず、声を荒げる。口の中の肉棒も、すでに半分ほどが消えていた。
「はぷ、んむ…! じゅる、じゅる…!」
「は、はぁ…! 出る、出るぞ…! すっげぇ良いから、たっぷり出ちまいそうだ…」
「ん、だひひぇ、ひぃよ…」
「あぁ…だったら、イくぜ…、ぶちまける、う、おぉぉぉ…!!」
美和の頭を抑え込みながら、柊羽は口内へ精液を迸らせた。精巣で作られていた一滴残らず絞り出され、放出ごとに“男”が消えていくにも関わらず。
体内に残る精液を吸い取られるたび、その怒張は跡形もなく消滅していくにも関わらず。
「はぁ…、ごちそうさま…」
口を放し、最後の一滴を飲みこむ。
放出し呆けている柊羽の股間に、既に男の証は跡形も無く、男には存在しえない秘裂だけが存在していた。
「すげぇよお前…、いつこんな事を知ったんだ…?」
「今、かな。こうしたら良いかも、って思っただけ」
白濁の余韻を口中で楽しみながら、呆けた柊羽の体を見やる。
「それより…、ねぇ柊羽くん? 随分すっきりしたみたいだけど、もう終わりなの?」
「は…? ンな訳ねぇだろ、これからちゃんと、女の良さを教えてやんだから…」
「…どうやって?」
「そんなモン俺のチンポで…、…ん?」
美和の言葉から連れた自らの発言と、逸物を触ろうとして空を切った手に疑問を抱く。
おかしい。ここには今しがた射精した自らの分身があるのではなかったか?
確かに吐き出したが、それだけで萎むものではなかった筈だ。
それを認識したと同時に、滾る物の存在しない股座から猛烈な虚無感が襲ってくる。
「…は!?」
泡を食ったように直接触れると、“何もない”感触が返ってきた。それと同時に、
「ん…!、?」
くちゅ、と静かな水音が鳴り、湿り気が掌に付く。
「…な、無い!? 俺のチンポが、どこにも!?」
手で触れて、視界に捉えて、2つの意味で認識した柊羽の顔色は、見る間に青ざめていく。
それを見ながら、面白そうに、おかしそうに美和は微笑んでいる。
「ね? それで、どうやって?」
「お、お前っ、俺に何しやがった!!」
「やだなぁ、何もしてないよ。“私は何もしてない”よ」
事実であり大嘘を、表情を変えずに告げる。
安月美和としては何もしておらず、白竜としては大いに事を起こした。けれど2重の真実を柊羽が理解できるはずも無く、
「嘘付けよ! 俺にフェラして、何もしてねぇ訳ねぇだろ!?」
怒りと当惑の混じった表情で、力強く肩を掴んでくる。男性としての筋力と握力は、少しどころではない位に、痛い。
「い、痛いよ、柊羽くん…、放して」
「うるせぇ! お前がやったんだろ、俺のチンポを! 戻せよ! 返せ!!」
苦痛に顔を顰めるが、聞く耳を持ってくれない。両の手で両肩を掴み、ともすれば壊してしまいそうな勢いで握りしめてくる。
(仕方ないな…。次はそこにするね)
溜息をついて腕を動かし、柊羽の手に触れる。弱々しく無力そうな、乗せただけの手で。
「やめてよ、柊羽くん…! やめてくれない、と…」
「どうするんだ? 戻すってのか!? 早くやれよ、やってみろ!」
「そう…。じゃぁ、やってみるね」
体内に侵入したスライムに念を送り、さらに肉体の改造を施していく。今度は明確な変化ではなく、ただ単純な、筋肉の委縮。
腕全体の筋肉を融かし脂肪に変換させ、女性よりも非力な腕に変えてしまう。
「…お、お前、何もしてないんじゃなかったのかよ!?」
その違和感には、柊羽もすぐ気付けたようだ。力を込めている筈の腕に伝達せず、掴まれていた美和がまるで意に介さず拘束をすり抜けたからだ。
「だから“私”は何もしてないってば。…もしかしたら、柊羽くん、誰かの恨みを買ったかもね」
「は!? 何だよ恨みって、俺がそんなモンに買う訳ねぇだろ!」
「だって柊羽くん、今まで何人もの女の子、食べて捨てたんだよね」
発言に、柊羽は僅かながら体を強張らせる。何もしてないというのはデマカセだが、それは確かに事実だからだ。
白竜がそれを知ったのは、眼前にした男性器が淫水焼けをして黒く染まっていた事、舐めて吸収したことで“それ”が体験した記憶を把握したからだ。
「それで泣いてる子もいたし、もしかしたら呪う子もいるかもしれないね?」
「…お前、どうしてそれを? 話したことは無かったはずだぞ…?」
「知らなかった? 女の子同士の繋がりって、思ったより広いんだよ。…これから柊羽くんも知る事になると思うよ」
「は…? ど、どうして俺がそれを知るんだよ…」
「どうして? だって柊羽くん…」
悪戯を仕掛けた子供のような表情で、美和は笑いかける。
「ここにこんな、立派な女の子を持ってるのに…、男のつもりなの?」
表情を変えぬまま、美和の指先は柊羽の秘所に触れる。
「…っく!」
持たざる器官から伝わる未知の快楽に、声を上げる柊羽。愛液を絡め、指先だけで裂け目を上下に擦りつづけていく。
「聞こえるでしょ、柊羽くん? くちゅ、ぷちゅってえっちな音。自分の体から出てるんだよ?」
「う、るせぇ…! そこ、触るな…っ」
「や、だ。…いっぱい女の子を喰い散らかしてきたんだもん。ちゃんと喰われる事も体験させてあげる」
わざと、ちゅぽ、と音を鳴らしながら指を抜き、先端に付いた愛液を舐めとる。
吊り上っていく口角と、細くなっていく眦。ともすれば妖艶に見える表情は、同時に恐怖を煽る。
「ひ…! 嫌だ…、止めろ、俺は男だ、女として喰われるなんて…!」
自らの行いに覚えがあるのだろうか。柊羽は逃れようと、壁の方へと後ずさって美和との距離を開ける。
けれどそれも壁に阻まれ、すぐに止められてしまう。そうなれば次に起こるのは、美和の接近による距離の短縮。
「逃げちゃだめだよ、柊羽くん。今からじっくりと、女の子にしてあげるね」
足首を掴んで引き倒され、ベッドの上に大の字にされる。恐怖か、中に潜り込んだスライムの所為か、四肢は動かず、鏡張りの天井に自分の全身が映される。
男のような体格のままに、股間だけが女性となっている姿が。
「まずは足から行くね。痛くない、痛くないから…」
足先に美和の指が触れると、それを合図として体内のスライムが活動を始めていく。
筋肉を削ぎ、骨格を整え、皮膚から色を抜いていく。日に焼けて、筋肉に包まれていたスポーツマンとしての足は、指先が膝に向かう毎に細く、柔らかくなっていく。
勿論それだけでは終わらず、次は大腿部に至って触れた個所を変え続けていく。
「柊羽くんの足は硬くて太かったから、スラっと細くしてあげる。シミも無くして、毛なんて生えない綺麗な肌に…」
女性的な形になってから、美和は柊羽の脚を揉み始めた。その度に肉体が絞り込まれ、女性的な美しさに満ちた形に変わっていく。
「あ、あぁ…!」
呻くような声をあげて、柊羽はその光景を見続けるしかできない。今まさに、美和によって体を作り変えられていくその光景を。
「うん、いい感じ。次は性器だけど、そこはもう終わってるから、お尻と腰回りね」
足の形成が終わってから、次の目標を定めてまた手を触れる。
「腰は折れそうなくらいに括れてて、お尻は触りたくなるぐらいに柔らかくて…」
体の下に手を回し、尻肉を揉みこんでいく度に、ベッドに押し付け形が変わる、という感覚が止め処なく襲ってくる。
美和が一息つくころには、柊羽の下半身は完全に女性の物となっていた。
「…柊羽くん、体半分が女の子になった気分はどぉ?」
「…な、なんで、こんな事…」
「何でって…、女の良さを教えてくれるんでしょ?」
「違う、そうじゃねぇ…、俺は、お前に教えてやるつもりで…」
「身を以て教えてくれるなんて、柊羽くんはすごいね」
股を開かせ、柊羽の秘所を視界の中心に捉える。恐怖で僅かに、ひくひくと蠢く女性器は淫猥に映る。
美和は小さな口を開けて、そこへむしゃぶりついた。
「あー、むっ」
「ひっ!」
男の声のまま甲高い嬌声を挙げる。口づけされた衝撃で愛液が溢れ、口の中に飛び込んでいく。
「んむ、ぢゅ、ぢゅる…、ちゅぷ…」
「あ、あふ…、舐め、る、…んあ!」
愛液と唾液を混じらせ合いながら啜り、舌を突き込んでいく。スライムを唾液腺から分泌し、さらに改造の補強に充てる。
鼻に当たる陰毛が少しばかり邪魔に思い、それと同時に消す。
「んぷ、ふぁ…。…ふふ、おいし」
「も、もういいだろ…、やめてくれよ…」
「え? 何を言ってるの、柊羽くん…」
柊羽は虚ろな視線でこちらを見ている。ばれないよう、長く伸びたスライムの舌をちゅるん、と口の中に仕舞いながら、
「辞める訳、ないじゃない」
美和は男を虜にするような柔らかい、朗らかな笑みで答えた。
「次はお腹の中ね? まだ子宮とかできてないし、そこも作らないと」
「あ、あぁ、やめ…、っ!!」
細く括れた腹部に手を添えると、柊羽の腹の内で大きく内臓が蠕動していく。
今まで存在しえなかった部分用に空間が作られて、そこに子を宿す揺り籠が形成されていく。
「あ、ご、うあ、ぁ…!」
卵管が作られ子宮と繋がり、そこが同時に膣奥と結合する。腹の奥に違和感が生まれ、しかし次第に融け消えてゆく。
「これで良し、と。…次は胸の前に、腕にしちゃおっと」
腰の上に美和が跨り、ただでさえ筋力が落ちた肉体の動きをさらに阻害する。もう柊羽には、かつてのように力尽くで女性を退ける事など不可能なほどに、体力は残っていなかった。
体を変異させていく美和の指先が、柊羽の肩口に触れる。広く、頼もしかった肩幅は見る間に狭く、頼りなさげに変わっていく。
それが終わると指先が、次第に手に向かうように下へと滑る。
「筋力は落としちゃったからこのままで…、やっぱりもう少し落としちゃおうかな? 握力も弱くって、30kgも無い位に…」
止める物のない手が、柊羽の手を握り、指を絡ませ合う。男のごつごつとした手は、美和の手に握られる度に同じような細い、白魚のような手に作り変えられていく。
「綺麗な手になったよ、柊羽くん。…私から見ても羨ましい位」
絡まり合った指を放し、その手をとうとう、胸板の上に乗せる。
「じゃあ次に、おっぱい、作ってあげるね」
腰から上部分を筋肉を寄せ、脂肪に変えて集めるように、胸へ胸へ寄せていく。
恐怖にひきつった視線の前で、厚かった筈の胸板は異なる意味で重量を増していく。平板が山へと、まるで人体が粘土であるかのように、捏ねて、形作られる。
「背筋も寄せて…、こうして、こう…。服の上からでも解るくらいに大きくして…、っと」
ひとしきり捏ね終わると、胸板は乳房の山へと変わっていた。円錐型の乳房は大きく潰れず、柊羽の呼吸に合わせてふるふると揺れている。
「あ、乳首が黒いのはダメだよね。えいっ」
「んぁっ!」
先端をきゅ、と摘ままれると、平板な黒い乳頭は、乳房同様膨らんだ桜色へと変わっていた。
「そだ、もう一つ。…陥没させてみよっか? 大丈夫、女の子のはちゃんと勃つんだよ?」
登頂部に指先を当て、押し込む。押し込まれ、乳輪の中に乳首が埋まり小さな穴を作り上げた。
「これでよし、っと。柊羽くんのおっぱい、綺麗にできたよ?」
完成したばかりの乳房を寄せ、谷間を作って見せつける。乳頭を弄るたびに喉から声が漏れてきている。
「これで顔と喉以外は完全に女の子だね、柊羽くん?」
微笑みながら語りかけると、嬌声の隙間から消え入りそうな声が、耳朶を揺らした。
「…も、もう、やめて、くれ…。……もう、嫌、だ…。俺が作り変えられて…、何なんだよ、お前…」
泣いているような、快楽に耐えているような声で、ようやっと絞り出せた拒否の声。
僅かに驚き、それでも笑顔を作って、美和は柊羽の顔を見下ろす。
「やめて良いの? 本当に?
首から下は女の体で、声も顔も男のままなのに?
男の時みたいに力はないし体力も削っちゃったし、体も柊羽くんが男のままならきっと欲情する形に作ってるよ?
ラインは服の上からでも解るし、手袋しても指が細いのは解るよ? 男物を着ても簡単にばれるよ?
それでも? 良いの? 本当に?」
顔は近づけても、手は触れない。涙目になった眼を見つめ、歯の根の合わない口に向けて吐息をかける。
体を見下ろす。
今の西東柊羽の肉体は、全身が男ではないし顔面は女でもない。歪だ。
最後の仕上げで、ようやく制止の声が上がったのは、完全に変えられることへの恐怖によるものだろう。
顔だけは変えないでくれと、恐らくそう言っているのだ。
(どうしようかな。…このままでも良いし、いっそ本当に変えるか…?)
悪い考えが頭の中に過る。体内のスライムに指令を下せば、ウルティマの可塑性により戻す事は出来るが、敢えてそれは除外している。
今は何より、この体を試してみたいのだから…。
【やめるかやめないか】
A.やめる
>B.やめない
【西東柊羽の責め方】
>1.男性器で犯し、精液を注ぎ込む 1
>2.女同士の絡み合いで快楽を与える 2
>3.ホテル販売の道具責め 2
4.リネンで縛り放置、帰宅
(そうだな…、いっそ本当に、このまま…)
頭に過るのは悪戯心か。目の前に存在する男を、本当に「女に変えられる」という事実を認識したいからか。
細い指を柊羽の顔に添えて、くすりと微笑む。
「でもね、止めてあげない。これから柊羽くんには、女の子をたっぷり教えてあげる。
その為にも、顔もちゃんと変えてあげるから。痛くない、痛くないよ…」
「や、やめ、あ、あぁ…!」
突きつけられた事実に柊羽は恐ろしげな表情を浮かべている。そんな顔色を見て、どこか身がぶるりと震え、秘所から愛液が漏れてくる気がした。
そうして、体の時と同じように顔も作り変えていく。
太い首を細くし、喉仏をひっこめ、顎を削り、唇を艶やかに、皮膚から色を抜いて、瞳を大きく、睫毛を長く、髪を伸ばして。
触れられると同時に、大きかった顔は小さく、文字通りに変貌していく。
「…完成っ。出来たよ、柊羽くん。…あ、今は柊羽ちゃん、かな?」
快哉の笑みを浮かべながら、美和は股下でひきつった顔の柊羽を見下ろしていた。
「西東柊羽」としての面影を残しながら、それでも確かに女性的な顔立ちをした…、もしも柊羽が女として生まれたのなら、こんな顔立ちだろうという少女。
「ふぅ、いい仕事した…」
出る筈のない額の汗を拭うしぐさをしながら、体を退かす。鏡の天井に映る柊羽の姿を完全に見せる為に。
美和が退くと同時に、柊羽の瞳には大いに変貌した自分が見えてしまった。
「あ、俺が…、俺がどこにも、無い…」
「そうだね、どこにも無いね。柊羽くんの貌も、腕も、脚も、体も、“男の子”も。
全部変わっちゃった。顔は中性的にも見えるけど確かに女の子だよ。
細い腕だよね、重い物は持てないかも。男の人には勝てないし、多分私にも負けるかな。
脚は折れちゃいそうな位だよ、コートの中を走り回るなんて無理だね。今の速力はどれ位?
体だってほら、こんなに扇情的。私だって羨ましいと思う位に作ったんだもん、反応しちゃうよね。
でも、今の柊羽くんには男の子なんて無いの。あるのは女の子だけ。組み敷かれて、挿入されて、注ぎ込まれる女の体だけ」
耳元で囁きながら、柊羽の中に居るスライムを脳へと動員させていく。囁きを真に信じ込ませ、しかし自分は男だとも認識させるよう脳内物質を弄る。
まるで人体は簡単なパズルだと言わんばかりに、好き放題出来てしまう自身の能力に、少しだけ恐怖で身震いした。
「でも…、でも、俺は男だ…。戻せよ…、こんな事したお前なら出来るんだろ…?」
予想通りの反応だ。自分の体が女であるからこそ、男の自意識はそれを認めない。
どうにか戻りたいと思って、その言葉を出してしまうのだから。
「…良いよ、戻してあげても」
「…本当か!? なら早くしてくれ、すぐに「でも、ね」…!」
希望が見えかけて縋り付く柊羽を押し留める。このままじゃ内心が満たされない。だからこそ。
「私のやる事に付き合って、弱音を吐かなかったら戻してあげても良いよ。
男の子なら出来るよね、柊羽くん?」
「……っ」
身を強張らせる。何をされるのか、見当がついたかもしれない。
脳内を弄る手は止めてある。ここから先は、完全に柊羽自身の意志だ。
「…解った、やってやるよ。その代り約束は守れよ!」
「うん、良いよ。それじゃあまずは…」
言質を得たり。ならば徹底的に抱いてあげよう。
美和は己の秘所に手を添えて、濡れはじめていたそこを指先でかき分ける。
「ん…っ、ふ、ぅん…」
愛液を絡ませ、同時にスライムをそこへ集めて形作る。自らの興奮に合わせるように、眼前の女性に合わせるように。
ずるり、という音を伴い肉へと変質したスライムが、秘所の上に現れる。
「…っ」
「まずは、これから行ってみようね?」
柊羽が息を呑んだもの無理はない。そこに屹立していたのは、美和の体には存在しえない男性器だったからだ。
それは混乱している柊羽には理解できていなかったが、確かに西東柊羽の体に生えていたものを再現したものだった。
「な、なんでお前にそんなものが…」
「ふふ、秘密。…今は私に付き合ってよ。そうしなきゃ、戻してあげないよ?」
「…あ、ぁ、そうだったな。それでどうするってんだ?」
「舐めて」
そうしなければ戻れない、という柊羽の弱みを突きながら、笑顔のままに要求を突き付ける。
「え、いや、舐めてって…、いきなりか?」
「柊羽くんだって私にさせたじゃない。…だから柊羽くんもやってよ。それとも止める?」
「…っ、解ったよ、やってやる!」
多少の懊悩の後に、了承の意を柊羽は美和に伝える。それを聞いて美和は脚を広げ、屹立した男性器をさらけ出した。
先ほど知識として吸収した、柊羽自身の男性器。それは心臓の鼓動と共に血液の流れを感じ、ビクビクと震えている。
股座に顔を寄せ、知る筈の無い己の分身に柊羽は相対する。口を開け、舌を伸ばそうとして、逡巡する。
「…っ、…く!」
男である自分が、男の物を舐める行為は屈辱的だろう。しかし、背に腹は代えられぬ。
舌先でちろ、と男性器の幹を舐める。
「ん、…、柊羽くん?」
「くそ…っ、ちょっとだけど舐めたぞ。これで良いだろ!?」
刺激は弱く一度だけ。だというのにこれで手打ちにしろと言ってくる。
随分勝手だ。自分だって最初に口での奉仕を迫って射精した癖に、自分だけはこれで済むと思っている。
美和の中に残った遠慮の部分が、削げ落ちた。
「良いよ。じゃあ次に行くね」
「…あぁ、あとどんだけやるんだよ」
「挿入するからお尻をこっちに向けて?」
次の要求を聞くと、柊羽は驚愕の表情でこちらを見てくる。
「な…っ、お前、本当にそのつもりなのか…!?」
「本当だよ。…だって柊羽くん、私に最後までさせたくせに、自分では殆どしてくれないんだもん。
我慢できなくなっちゃった」
「だ、だってお前、舐めろってだけで最後までしろとは…」
「自分がさせたんだから、相手にしてあげるのも礼儀でしょ? それなのにいつもいつも、私にさせてばかり…」
僅かに舐められて満足するはずもなく、男性器は未だに強く脈打っている。不満と期待とが、その一部で渦巻いているようにも見える。
男としての欲望は強烈で、美和の中にあった寛容を徐々に削っていくようだ。
「柊羽くんが自発的にしてくれないなら、奪っても良いよね」
立ち上がり、柊羽の後ろ側へ回る。うつ伏せになったままの尻を掴んで持ち上げ、菊門と秘所が目の中に入った。
「や、やめろ! バカ言うなよ、お前の言うとおりにしてやったじゃねぇか、早く戻せよ!」
「…何、柊羽くん? 自分だけは100の要求をして、相手には0.1の要求で終わらせるつもり?
柊羽くんがその気なら、もう遠慮はしないよ?」
割り開いた秘所の中へと、指を突き入れていく。
「んく…っ!」
「…んー。さっき舐めたけど、あんまり濡れてないね。…痛いかもしれないねぇ」
「ま、待てよ…、お前、本気なのかよ…」
「本気も本気だよ。…それに柊羽くんだって、私が嫌がってもスる気だったんでしょ?」
恐怖で絞めてくる膣肉をほぐすように、人差し指で中を軽くえぐっていく。
脳内を探るスライムから、「もしも変わらぬまま進んだ場合の展望」を読み取り伝えると、柊羽の肉体がまた少し驚愕に跳ねた。
「…どうして、それを…」
「話しを聞いた時、もしかしたらと思ってね。…どうやら図星みたい」
デマカセを口にした事で柊羽が驚いたのは、美和にとって好都合だった。この欲望の向かう先をきちんと定める事が出来るのだから。
「このままでも良いよね、柊羽くん? 私がちゃんと、初めてを食べてあげるから」
「ひっ! や、やめ…! 解った、ちゃんと舐める、最後までイかせるから…!」
熱を持った柊羽の秘所に、美和の肉棒が触れ合い互いの熱を伝える。
その事に、自分がしていた事をされる事実に恐怖したのか、逃げようと腕がリネンを掴み、前へ進もうとする。
「もう遅いよ、柊羽くん? 今から教えて。女の子の中の感触を…」
けれど、弱くなった腕では逃げる事など出来ず、柊羽の形を模したモノが、柊羽の中へと挿入されていく。
「あ、あはは、あぁぁぁ…!」
「う、ぐ、…っ、何か入って、やだ、嫌だ…!」
互いの性器が持つ熱を、粘膜で直に感じていく。美和は柔らかな肉に包まれる感触を、柊羽は自分の中を抉られる感触を。
止めず止まらず奥へと進んでいくと、先端に触れるものを感じる。
「柊羽ちゃん、解る? これが処女膜だよ。今から突き破る、ねっ!」
「ぐ、ぁ…!!」
認識させる間も短いままに、美和の男性器は柊羽の処女膜を突破する。
今まで男が感じたことのない体内の痛みに大きく身を震わせて、それでも最後の男の意地か、それとも痛みに耐える為か、リネンを掴む手は放さなかった。
「ん…、…ふふ、柊羽ちゃんの中、あったかいな。これが柊羽ちゃんの感じてた物なんだよね」
「あ、ぅ、く…、い、っ…、はぁ、ぅ…」
息も絶え絶えになりながら、言葉にならない息を吐き続けている柊羽と、それを恍惚の表情を浮かべながら後背位で抱いている美和。
本来なら白竜も美和も相手を気遣う余裕を持っているのが、今回は別だ。嫌がる相手へ強制的にスるのを好む人物が、中に居る。
そいつの技術を使わせてもらおう。精神的にも、肉体的にも。
「ねぇ柊羽ちゃん、痛い? 男の子を挿れられて処女を破られたんだもんね。
でもだんだん気持ちよくなっていくから。こことか、ほら」
「う、くぁ…!」
更に奥へ進み、子宮口を突く。同時に柊羽の口から嬌声が上がる。
「…柊羽ちゃん、まだ痛い?」
「…ッ、…!」
顔を寄せ、柊羽の背に胸を押し付けながら美和は囁く。その声に柊羽も肯定の意を示しながら首を縦に振った。
「そうなんだ。…でもやめてあげないっ」
「…っあ!?」
口の端を釣り上げる笑みを浮かべて、体を抱きしめて腰を振りたくる。
柊羽の体調など鑑みない、乱暴な性行だ。
「んっ、んぅ…! はぁ、ん…! 柊羽ちゃん、柊羽、ちゃん…!」
「っ、あ、っくぅ! ぁ、か、中…っ、がぁ…!」
濡れていない分は男性器の先端からローション代わりにスライムを溢れさせ、媚薬の効果も持たせながら抽送を繰り返す。
ぱちゅん、ぱちゅんと腰を叩きつけ、同時に水音も鳴り響く。
何度も行っているうちに、膣肉の感触が変わっていく。キツく絞められていた状態から、優しく包み込むような状態へ。
それは確かに柊羽が感じており、今更ながらに男性器を受け入れる準備ができた証拠だった。
「ねぇ柊羽ちゃん、女の子良い? 気持ち良いでしょ?」
「あ、ぅ、ふぁ…っ、んぅぅ…!」
嬌声に気付いて口元を抑えるが、それでも隙間から漏れ出てくる声に、美和は男として昂ってくる。
体を抑える手にも、叩きつける腰にも、それが見て取れる。
「私は良いよ、男の子すっごく良い! 女の体が気持ちよくって蕩けちゃいそう!
それにここも、柊羽ちゃんのおっぱいも寂しそうにしてて…、弄るよ?良いよね?」
「んぅぅ…っ!!」
抽送と同時にぶるぶると揺れる柊羽の乳房に目が行き、美和はその先端に触れる。陥没していた乳首は、快楽の影響で姿を現しており、これ幸いとばかりに指で摘まむ。
痛くなりそうなくらいに抓ると、驚きながらも膣内がさらに締まりを強めてきた。
「あんっ。もう柊羽ちゃん、そんなに絞めないでよ、…そんなに気持ち良いの?
快楽に溺れちゃう? 柊羽ちゃん男の子だったのに、雌になっちゃう?」
「んぅ…っ、ちが、違う…!」
「違わないよ…、こんなに私の男の子を気持ちよくさせて、奥に奥にって欲しがって。
丸いお尻も、おっきなおっぱいも、括れた腰も、顔だって、全部が全部女の子でしょ?」
「あ、ぅ、…っぁ…」
大きな鏡で見えるようにして、一つ一つを強調させていく。
今の柊羽の肉体は紛れも無く女で、されていることも女性の物だ。男に膣はないし、乳房も無い。
媚薬で蕩けた頭の中で、柊羽の判断能力はだんだんと鈍くなっていく。
「俺…、女、なのか…?」
「女の子だよ? 紛れもなく、女の子…。だから、ね、柊羽ちゃん。中に出していい?」
「中に、出す…?」
「うん、柊羽ちゃんが出してくれた精液、全部柊羽ちゃんに注いであげる」
注がれると聞いた瞬間、柊羽の膣内はそれを欲しがるように、子宮の位置を降ろし始めた。
「ん…、奥、降りてきたね…。じゃあ良い? 私、もう出ちゃいそうなの…」
勢いは衰えぬまま、射精が近い為膣内でさらに膨れる男性器。
さらに増える体内の圧迫感は、“そういうもの”として調整した肉体に強い欲求を与える。
「あ、ぁ…、出して…、俺の中にぃ…!」
「解ったよ、柊羽ちゃん。いっぱい、いっぱい出すからね。
白くてドロドロの濃ゆい柊羽ちゃんの精液、柊羽ちゃんの子宮の中から溢れるくらい注いで、自分の子供妊娠するくらい出してあげる!」
男としてはありえない行為だが、柊羽の頭と体は、それを受け入れてしまう。
早く欲しい、男の精が、征服の証明が。
その意志に応えるように、上り詰めていく。快楽の爆弾が破裂するかのように。
「んぅ…っ! もう限界、イくね柊羽ちゃん、出ちゃう!」
「あぁ…、出して、俺も、イくぅ…! 俺、男なのに女でイくぅ!」
そして、2人の決壊は同時だった。
「はぁ、んぅぅぅ! 柊羽ちゃぁぁん!!」
「ダメ、ダメ! もう、もう! んひぃぃぃぃっ!!」
強く搾り取ろうとする膣内と、それに応じて吐き出される精液。
子宮口に押し付けて注ぎ込まれる白濁は、狙い過たず子宮内へと注ぎ込まれていく。
「はぅ! はぅん! 止まらないぃ!」
「またイっ、いくぅぅ! 俺もぉ、止まらないよぉ!」
絶頂による射精は止まらず、快感の爆発も止まらない。
注がれ続ける精液は子宮を膨らませ、柊羽の子宮を妊婦のようにするまで止まらなかった。
「…は、ぁ、はぁ…、すごく、出ちゃったぁ…」
「…、っ…、…」
精液の逆流を防ぐように挿入したまま、美和は恍惚の吐息を漏らす。大量に射精したはずの男性器は萎えることなくそそり立ち、未だ柊羽の中に杭を突き立てている。
柊羽といえば女性の絶頂が強すぎたのか、目の焦点が合っておらず、開いたままの口の端から涎を零していた。
ちゅぽん。と音を立てて男性器を抜くと、出口を求めて精液が噴出する。
それを見て嬉しそうにしながら、白竜としての意志を表面化させ、精液に思念を飛ばす。
精液がゲル状になって持ち上がり、自らの意志を持って掬うような手をした美和の掌中に収まる。
「ん…、ぢゅる、ごく…っ」
それを味わうよう、嚥下。吸われる為にあふれ出る精液は、最後の一滴を除いて美和の口の中、ひいてはその中に存在する本体と合流した。
「んっ、んぅ! んぅぅぅぅっ!!」
同時に、柊羽が女体で感じた絶頂を体内へ伝え、美和の体は快楽に大きく震える。
あぁでも、まだ足りないのは確かだ。柊羽にはたっぷり女を教えてもらわないと。
「……、ふぅー…」
女性として達した後、大きく息を吐き出す。心臓の鼓動と共に心を落ち着ける。
あのまま「美和」の思考フィルターを通して行動していると、際限無く柊羽を犯してしまいそうだ。
それ程までに内に溜め込んでいた鬱憤が大きかったのだろうか。
「それとも…」
それとも、これが「突然力を手にした人間」の姿なのだろうか。
白竜としては「この力を制御せねばならない」と思い、常に理性的であろうとしている。人を喰わない事もその一つ。
だけど、何も知らない人間がのような力を手にしてしまえば、好きに振る舞う可能性もある。
それが人間の、紛れもない一面であるのは確かなのだから。
「…もうちょっと、解りやすい設定にしておくべきだったかなぁ?」
スライムを動員し、美和の脳内を書き換える準備をする。
先ほどまでは不可思議の理由として、「宇宙から来た生物が自分を宿主としており、力を好きに使えと言ってきた」としているのだが、また別の設定にリライトするべきか悩む。
「いっそ全部夢として…、あぁいや、それだと日にちとかに不都合が出るから…」
流石にこういった事を兄達に話す訳にもいかない。多分この時間なら、2人とも新しく出来た恋人と体を文字通り重ねてるだろう。
「だったら、さっきの言葉から取って、柊羽に捨てられた女の子たちの怨念が、形を以て美和にとり憑いた。
全ては自分たちのされたことを柊羽にやり返すために…。…っていう所かな」
自分がこの様であるのなら、もしかしたら本当にありうるかもしれない可能性、そこから考えた理由を付けて、美和の脳内を弄り始める。
同時に、次の行動とこれからの展望を言葉に出していく。
「んっ、でも、痛いだけじゃ、あ、ぁっ、柊羽にも悪いから、ふぇ、快感も教えたくなる、はくっ、から…、このまま、あ、んっ、止まらない、んだ…。
女を教える、か、あん、ら…、男性器、は消し、ぅ、て…、女同士、ぃひっ、を、したくなる…、ぅんっ」
自ら美和の脳内を弄り、体で弄られる感触を知ってしまうと、呂律がしっかりと回らない。
けれどこうして書き加える事で、美和の思考をある程度誘導できる。事実を先に提示して、美和がそう行うよう誘導し、それ故に自らの記憶との齟齬を無くしていく。
自らが行っていることながら、とてもややこしく面倒な事になってしまう辺り、白竜もまだ力を使いあぐねているようだ。
事実を組み立て、美和の脳内に認識させる。彼女の性格からなる脳内の思考電流が、現象に対しての理由を勝手に組み立てていく。
「あ、ぁ…、柊羽ちゃん…、女の子の、柊羽ちゃん…。乱暴にしちゃった、ごめんね、ごめんね…。
恐く、ないよ…。ごめんね、えっちな事は怖くないよ…。ん、んちゅ…」
ベッドの上に倒れ、未だ蕩けた表情の柊羽に口づけして唾液を啜る。抱きしめ、肌同士を触れ合わせる手に力強さは無く、愛しい人への抱擁の腕。
ぎゅぅ、と弱弱しく確りと抱き締める。
「…心臓の音、聞こえてくるよ。とくん、とくんって鳴ってる…」
正面から抱き合い、乳房同士を押し付ける。柔らかな乳肉越しにでも強く解る程の鼓動は、どこか心地良く聞こえてくる。
体を寄せ合い、素肌同士を擦り合わせる。性感で灯った熱をまだ消さないように、と言わんばかりに体温を交わらせ合う。
「はぁ…、…ねぇ柊羽ちゃん、起きてよ? してくれないと、寂しいよ」
耳元で囁きながら、目覚めを願うように体を揺する。それでも起きてくれる気配は見せず、少しばかり頬を膨らませてしまう。
「もう。柊羽ちゃーん、揺すって起きないなら、気持ちよくして起こしちゃうよ?」
「自分の力を好きに使ってみろ」と言って来た怨念の意志に添うように、その力を使ってみる。
ぢゅるり。
秘所から粘液の触手が生えて、脱ぎ捨てられた柊羽の服、ポケット内にある財布に手を伸ばす。
今日は散々自分が支払ったのだ、たまには柊羽の財布からお金を出すのも良いだろう。
「…ふふ」
細く笑いながら立ち上がり、自販機の前に立つ。
「ん…、ここ、あんまり種類って無いんだね」
販売しているのはピンクローターと、あまり男性器を模していないバイブレーター。あとはローションがいくつかと、コンドーム程度。
股間の男性器もう使わないのでコンドームは除外。ローションだってスライムが代わりになるから要らない。
「じゃあやっぱり、これ位かな?」
柊羽のお金を投入し、ピンクローターとバイブレーターをそれぞれ2本ずつ購入する。パッケージから出して動作確認すると、4つとも大きくではないが振動している。
好奇心に駆られ、震えるままのローターを一つ手に取る。コンドームも使わない関係上、男性器は融かして収納。まっさらな股間に戻しながら、ローターを自分の陰核部分に持っていく。
「ひゃぁっ!?」
小刻みにくる振動に、思わず声が出てしまう。確かにこれは気持ちよく想える。
「このままでも良いけど、もうちょっと何かが欲しいな…。…そうだ」
まるで楽しいことを思いついたかのような表情を浮かべながら、手にスライムをにじませる。
その中にローターとバイブを沈ませ、溶解させて構造を解析。
「ふむふむ、なるほどー…、こうなってるんだ」
手の中で再構成した二品を弄びながら、美和は楽しそうに笑う。
「これをこうして胸につけて…、バイブは形を整えて…」
ローターはスライムで作ったブラジャーの中に紛れ込ませ、柊羽に装着させる。
動物の頭を模しているバイブレーターは、形状を整えて男性器そっくりにて柊羽へ挿入。同じくスライムで作ったショーツを穿かせて蓋をする。
振動の強弱は手元に作ったリモコンから無線式にして操作可能。
「これで良いかな。…じゃぁ、スイッチオンっ♪」
振動音が僅かになり始める。胸の先端と恥部が服の上からでも震え、柊羽の口から僅かに呻きが漏れた。
「やっぱり最弱じゃダメかな。じゃあ少しずつ、強さを上げて…」
目盛りを弱から強へ上げていくと、振動音が徐々に強くなる。
心臓の音と機械の振動音が呼応するように強くなり、少し耳にうるさく感じられる程。
目盛りが中頃まで行ってもまだ柊羽は起きず、少し美和はやきもきし始めてきた。
「…全然起きてくれない。えいっ」
「ひあぅっ!?」
耐えかねたのか、リモコンの強さに「強」を越えた「浸入」を作り、そこへ一気に引き上げる。
股間のバイブレーターは子宮内へ、胸のローターは乳腺の中へ、それぞれ形を変えて潜り込んだ衝撃で、とうとう柊羽は目を覚ましてしまった。
「あ、柊羽ちゃんようやく起きた」
「え? 何だこれ、俺は確かお前とホテル行って、フェラしてもらって…、そこから、…!?」
自らの記憶を呼び起こしながら、決定的な部分に思い当たり柊羽は自らの体を見下ろし、触れる。
そこには確かに双丘が存在を主張し、股座には男の象徴が形も無く消え失せていたから。
「何だこれ、胸っ!? さっきのって夢じゃなか、んぅっ!」
下着と体の中に仕込まれた性具の振動に、甘い声が上がる。体内のスライムを動員して、強制的に思考力を元に戻された柊羽は、女体の感覚に驚いているようだ。
「そうだよ、夢じゃなくって現実。…不思議な力が使えるようになっちゃったから、柊羽ちゃんで試してみるの」
「な、んで俺なんだよ…、んぅ、は、…理由は、何なんだよ…!」
「気付いても良いと思うんだけどな。女の子相手に自分勝手な事ばっかりしてたんだから」
この期に及んでも“そうされる”原因が解らない柊羽に内心溜息を吐きながら、道具の動きを止めて跨り、柊羽の胸を鷲掴む。
「痛…っ」
「さっきも言ってたでしょ? 沢山の女の子を食べて捨てて、誰かの恨みを買ってたかもって。
その子たち、復讐したかったみたいだよ。私にこんな力が宿っちゃうくらいだもの」
「さっき、お前は何もしてねぇって…」
「うん、アレ嘘なんだ、ゴメンね。…でも柊羽ちゃんも解ったでしょ? 無理矢理される事の怖さ。
…これからも柊羽ちゃんが女の子を食い物にするようなら、ずっとこのままだよ」
「…っ」
このまま、という言葉に柊羽が息を呑んだ。快楽は確かにあったが、される事への恐怖と、仕返しの思考が頭を過り、脳内を走る。
しかし同時に、スライムを介して白竜にも伝わっている。
「…解ったよ、もう女を漁ったりしないから、戻してくれよ」
「本当に?」
「本当だよ。なぁ頼む、戻してくれ。そしたらお前にも、こんな風にちゃんと気持ち良くしてやるからさ」
「ん…っ」
自由にしたままの腕で、柊羽は美和の胸を揉んでくる。先ほどまでの行為で硬くなった乳頭を摘まみながら、ゆっくりと乳肉を揉みしだく。
「なぁ良いだろ? 女の身体なんて、男の時と全然違って変なんだよ。だからさぁ」
「…ふぅ、仕方ないなぁ、柊羽ちゃんは」
手の動きを止めぬままに柊羽は続けるが、美和の言葉に顔が僅かに綻ぶ。同時に美和の手に収まっているリモコンを見て、表情はすぐに怪訝なものになった。
「反省してないみたいだから、お仕置きするね」
止めていた道具の動きを、再度開始させた。
「あぁぁっ!?」
乳頭と膣内に添えられた道具から振動が走り、柊羽の声から嬌声が漏れる。突然の事で美和の胸を掴む手にも力が入り、痛い位に揉まれてしまうけれど。
「ダメだよ、柊羽ちゃん。それで戻ったら、私を乱暴に犯すつもりだったんでしょ。…解っちゃうんだから」
「な、んでそれ、をぉ…っ! ひぃんっ!」
膣内のバイブは振動でなく、外殻部分を横に回転させながらのピストン運動に変わっていく。
不規則に膣奥を突かれ、柊羽の脳内に快楽の電流が流れていくのを、白竜は見て取れていた。
「だから、そんな事を言う柊羽ちゃんは戻してあげない。女の快感を骨の髄まで教え込んであげるね」
体を退かし、両手にスライムを滲ませる。2つの塊は枷のようになり、柊羽の手首と足首を拘束させた。
そして同時に脳内のスライムに、一つの指令を下していく。
「あっ、この、んぅぅっ! なん、だこれぇっ! んひぃぃっ!?」
柊羽の絶頂時、快楽の状態を記憶してそれを流し続ける…。つまり、イきっぱなしの状態にさせると同時に、それで壊れないよう意識の保護をする。
柊羽がそれを受け入れるようになるまで、何度も、何度も続けるのだ。
「あぁぁっ! んあっ、あはぁぁっ!」
「…柊羽ちゃん、すごい気持ちよさそう…。女の体、変って思わないようになってくれるかな…」
その光景を見て、美和も自然と自らを慰めていた。
「あ゛っ! あっ! んあぁぁっ!!」
「んぅ、ふ、ん、ぅぅぅ…!」
道具責めを初めて十数分。すでに何度となく達した柊羽は、ゆるりと自慰をしていた美和の絶頂と同時に、跳ね続けていた身をベッドの上に横たえた。
「…っ、は、…、ぅ…」
既にバイブは動きを止めているが息も絶え絶えで、秘所からは止め処なく愛液が漏れ続けている。保護しているとはいえ、度重なる絶頂で脳は負荷に耐え切れず、限りなく思考が弱まっている。
美和はくすりと笑いながら近付いて、柊羽の顔に手を添える。耳元に口を近づけて、息を吹きかけるように囁いた。
「柊羽ちゃん、もう女の子を漁ったりしない? ちゃんと女の子に優しくできる?」
「ぁ…、…ん…」
沁みこませるように囁いた言葉に、柊羽は自ら頷いた。こればかりはスライムの行動ではなく、西東柊羽本人が肯定しなければ意味は無い。
「本当? もしこれも嘘だったら、またお仕置きしちゃうからね?」
「…、…」
力なく、もう一度柊羽は頷く。
それに納得したようで、手足の枷となったスライムを解き、吸収する。力なく倒れる柊羽の体はとても淫靡であり、それが女同士の関係であったとしても、美和は、その中の白竜は、ごくりと唾を飲みこんでしまう。
「それじゃあ、柊羽ちゃんにご褒美あげないと。…一緒に気持ち良くなろう?」
柊羽の体を抱き寄せ、火照った肌同士をくっつける。汗が間に挟まるとはいえ、柔肌同士の接触はくすぐったく、同時に安心する。
「ね、柊羽ちゃん。…私の胸、気持ち良くして?」
「ぁ、…うん…」
覆い被さり、柊羽の眼前へ胸を見せつける。小さくうなずいた柊羽は手を寄せて、柔らかく揉み始めてくる。
それは先ほどの手付きとは異なり、自らが楽しむだけでなく相手も気持ち良くさせる動きだった。
「ぅ、ん…、良いよ、柊羽ちゃん…。私もお返ししてあげる」
バイブと下着に変化したスライムも融かし秘所から吸収すると、拘束から解放された柊羽の乳房がふるんと震えた。快楽を与え続けていたせいか、乳輪は少しだけ広がり、乳頭は硬くしこっている。
柊羽の胸に手を添えて、自分がされているように揉み返していく。
「んぅ、おっぱい、良い…」
「柊羽ちゃんも胸が良いんだね、解るよ…。ほら、こうして重ねると…、んぅっ!」
「ひぁ…!」
乳房同士を重ね合わせ、乳首を触れ合わせる。中に芯のある、乳房とは違う柔らかさが擦れ、互いにはじき合う。
敏感になった個所同士の接触は、嬌声をあげさせるのも、蕩かせるのにも十分だった。
どちらからともなく体を寄せ合い、さらに胸を押し付ける。乳房に乳首が埋まるのも、乳首同士が擦れ合うのも、2人の官能を高めていくには事足りた。
「柊羽ちゃん…、ん、ちゅ…、んむぅ…」
「あ、む、ぴちゅ…、れぅ…」
胸を突き合わせている体位の関係上、互いの顔が真正面にあって、視界には蕩けた表情が入る。
美和が唇を求めて吸い付くと、柊羽の方からも応えるように舌を絡めてきた。
口内の唾液を交わらせ、互いに吸い取る。ただそれだけの行為だというのに、互いが高まりつつあるのは、双方が相手の事を想いながら行為をしている、という関係上、不思議な事ではなかった。
「んむ、ちゅ、ちゅ…、んっ?」
「はむ、ぁ、ふぅ…」
口づけの最中、美和は下半身から来る刺激に驚いた。自分の身体を抱きしめていた柊羽の腕が、いつの間にか秘所にまで伸びていた。
男の時とは異なる細い指先で、今や自分にもある秘所を、撫でるように弄る。
大陰唇をなぞり、ゆっくりと指の腹で外側から内部へ進む。1本目が入れば2本目も同様に突き入れられ、僅かに美和の内部が満たされる。
「んぅ、もう、柊羽ちゃんったら…、いきなりなの?」
「だって…、美和にされてもらいっぱなしだから…、その、お返しもしないと、って…」
口の端から涎を零しつつだが、かけられた柊羽の言葉に頬が綻ぶ。
あぁ、今日初めて「美和」と名前を呼ばれた。ただそれだけの事なのに、ひどく待ち遠しいものが来たと思えてしまう。
「良いんだよ、柊羽ちゃん。…今日私は、柊羽ちゃんを抱く事が出来て嬉しいんだから。
お返ししてくれてありがと。でも今は…、一緒に気持ち良くなろう?」
そっと、柊羽の髪を撫でながら微笑む。名前を呼ばれる、ただそれだけの事で笑えて、ありがとうと言える。
安月美和という少女は、生来の物か教育の賜物か、とてもお人好しなのだろう。
「一緒って、これ以上にあるのか…?」
「今の私には挿入するモノは無いけど…、ここ同士をくっつけるの…」
怪訝そうな表情の柊羽に伝える為、一度身体を放して脚を開く。
股間部にある秘所は、2人ともすでに弄る必要が無いほどに濡れそぼっており、男の物を受け入れる準備は出来ていた。
けれど今回はそれではなく、女同士を近付け、触れ合わせる。
「ひゃっ!」
「んぅ!」
純粋に驚いた声と、リードする関係上抑えた声が喉を鳴らす。体の中で最も熱を帯びて敏感な個所同士が触れ合う事で、耐えかねて漏らしてしまったのだ。
「…ね、こうするだけでも、良いでしょ…?」
「うん…、すごい、良いよ…」
心臓の鼓動と共に愛液が漏れていくような気がする。唾液と同様に絡み合い、しかし取り込めずリネンに吸い取られ、染みを広げていった。
荒れる息を整えて、柊羽の手を握りながら、見下ろしつつ美和は宣言した。
「…動くね、柊羽ちゃん」
「んぅぅ!」
「ふぁあ!」
秘所同士をこすり合わせると、もう声は止められなかった。
美和が腰を動かすたびに、美和の陰唇が柊羽の陰唇と触れ合い、粘膜同士の接触が2人の脳を焼いていく。
男女の結合よりも弱い動きだが、それでも確かに繋がり合う行為が、2人の間で交わされていく。
「美和…っ、美和…!」
「柊羽ちゃん…っ、気持ち良い、柊羽ちゃんのクリちゃんと擦れるのも、良いぃっ!」
包皮が向け、露わになった陰核同士が擦れ合う度に、また甘い声が漏れる。
行為の一つ一つが熱を伝え合い、快楽を分かち合い、そして高まり合っていく。
「美和…、また、キスしてぇ…」
「柊羽ちゃんったら、甘えんぼ…、ん、ちゅ…」
「ちゅる…、んっ、ダメ、だ…、おれ、またイき、そぉ…!」
重ねあったまま体を寄せ合い、もう一度キスをする。
上下の口で体液が絡み合い、乳首と陰核が同時に触れあった瞬間、
「うん…、私もまた、イっちゃう…。柊羽ちゃん、柊羽ちゃん…っ」
「クる…、美和ぁ…、来ちゃう…!」
「だめぇ、私も…、っ、あ! あ、あぁぁぁぁ…っ!!」
「んぅぅぅぅぅ!」
盛大に秘所から愛液を吹き出しながら、2人とも、同時に絶頂に到達していた。
* * *
「…もう、良いかな?」
安月美和と西東柊羽。2人が女同士の絡みを始めて、何度も達しながらようやく気絶した頃。美和の秘所から、ずるりとスライムが顔を出して白竜の形を取った。
気が付けばホテルに入室してからすでに5時間が経過している。宿泊で部屋を取っているので問題は無いのだが、白竜自身は後始末の関係がある為、2人が起きるより先に行動を始めないといけなかった。
「まずは…」
互いの愛液と共に飛び出たスライムを回収し、体内に収める。これで能力の把握としてはかなりの物が得られたので、大分有意義な時間ではあったのだが…。
女の体のまま、美和に抱きついている柊羽を見下ろす。
「…ちょっとやり過ぎちゃったかな。もう少し抑えないとダメかも」
指先からスライムに変えて、2人の脳内にもう一度侵入させる。
美和の方には「怨念は浄化されたから力は無くなった」事。
柊羽には変身させた肉体の修正。精神的なものに関しては、自分から頷いた為恐らく大丈夫だろう。
「後はアフターケアとして…」
美和の体型には、彼女の理想とする物に近づくようホルモン分泌を促進。柊羽の男性機能も強化。精力の維持と大きさの強化と…。
「引っこ抜けるようにしちゃおう」
万一の浮気防止用に、柊羽の股間へ女性器を作り、そこから男性器をジョイント式に作り変える。
柊羽の男性器は美和の手によってのみ、着脱を可能。同時にそれを美和にも付けられるようにした。
もちろんそれで犯されれば、柊羽の肉体は今日と同じように女性化する。
その事実を美和の脳内に刻み込んでおいて、全てのスライムを自分に吸収させる。
まるで人体を粘土のようにこねくり回し、作り変えられる。
自分の身体のみならず、他人をも変身させる能力に、収穫と同時に恐れも抱いてしまうけれど。
「…作り変えて、“その形態であるように固定”か。その段階でロックをかければ、皆変身させずに済むのかな…」
作り直した兄や妃美佳達の事を考えると、これは大きいように思えてしまう。
旧日本軍に自分が狙われてしまう可能性がある関係上、能力の把握や拡充は、怠れない事だ。
「…そうだな、後で峰兄に試してもらおう。
あ、でも怒られないかな。双方向に自分の意志で変身できるよう固定できれば一番、かな。
うーん…、悩ましいな」
考えながら、白竜は肉体をスライム化させ、空調のダクトを伝って外へ出て行る。
外はすっかり暗く、ホテル街の明かりが眩しい。自分の姿を作って帰途につきながら、あの時別れた分体の様子や行動を知る為、交信の念を飛ばした。
【どちらの分体の行為を知るか】
>A.新米アイドルへ浸入した方
A1.意識を乗っ取って代わりにアイドル活動
>A2.姿をコピーして双子ユニット化
B.見習い退魔師に見つかった方
B1.攻撃された仕返しにエロいお仕置き
B2.実力と自信を付けさせるスライム師匠
「みんなっ、今日は来てくれてありがとう!」
マイクを通して声が会場内に響く。“白竜”の分体が入り込んでる少女は、今、小さなライブステージの上にいる。
大鐘桜花という少女は、駆け出しながら芸能界に在籍している娘で、少しずつファンを増やしている。
「今日はボク達、いっぱい歌うよ。みんなも着いてきて!」
幕が上がった、駆け出しのアイドルたちによるミニライブの前座として、浸入の際に気をやってしまった桜花の代わりを努めないといけない。
人前に立つ事と、やった事のないアイドル活動だけれど、桜花の脳内に蓄積された記憶と経験を使いながら、新鮮さと驚き、そして“見られている”嬉しさを感じながら、流れるBGMに合わせて歌い始める。
とはいえ、やる事は先も言った通りの前座。桜花の担当時間は30分も無く、前座を務めあげた後、楽屋の方に引っ込んでいた。
「お疲れ様、大鐘さん。…まさかと思うけど、客を引かせてたりしないわよね」
「大丈夫ですっ、みんなちゃんとノってくれてましたから」
「そう? なら良いのだけど。白けたステージのトリだけは勘弁してほしいのよね」
労いの言葉と同時にくぎを刺すように喋ってくるのは、やはりトリを務めるからこその自負だろう。
“大鐘桜花”としては、まず最初に場を温める事は出来たはずだ、だからおそらく、大丈夫だと信じる。
「皆さんもきっと、相場さんまで繋いでくれますよ。だからしっかり構えててくださいっ」
「そう。だったらその言葉を信じさせてもらうわ。…ありがとうね」
今回のライブのトリを務める、相場舞佳はそう言って楽屋を出て行った。
観察して理解した、彼女もきっと緊張してる。自分が最後を務めて、最高の盛り上がりの中で歌わなければいけないプレッシャーがある筈だ。
「…芸能界って恐いなぁ。見られることでここまで緊張するなんて」
1人だけになった楽屋だが、誰にも聞こえないくらいの呟きで、自分の飲み物に口をつける。
歌って踊る事と、緊張から来る疲労感をとかす様に、冷たい水が体内を通っていく。
「ふぅ。……うん、向こうは盛り上がってるな。一休みしたら戻らないと」
ライブの後には握手会があるのだ。あまり悠長にもしていられないし、これからのもう一仕事に気合を入れる。
気絶している桜花の代理として、きちんとやらなければ。
後頭部でまとめられた髪を梳いて、この後における状況へ思いを馳せた。
* * *
「それじゃあ皆さん、お疲れ様でした!」
時が経ってライブ終了後、握手会も恙なく執り行われた。
ライブに参加していたアイドル達が、マネージャーに付き添われながら三々五々帰途についていく。
「桜花ちゃん、こちらも帰りましょうか」
「はい、マネージャーさんっ」
自分より後に歌った人達が帰ってから、ようやく桜花のマネージャーが宣言した。
芸能界は芸歴が長い方が「先輩」に当たる為、いくら相場舞佳が年下でも、職場の中ではそれに従わなければいけない。
たとえば先に現場入りして迎える事も、その一つ。そして見送る事もそうだ。
「今日はお疲れ様。桜花ちゃん目当てのお客さんも増えてきたみたいね」
「ホントですね。ボクもアレだけ握手会で人が来るってことに驚いちゃいましたよ」
マネージャーの運転する車の助手席で、今日の事を思い出す。
特に印象が強いのは、握手会の時。目当てのアイドルの列に並んでいく形式だったが、客の5分の一は確かに桜花に流れていた。
“自分”自身、10分の1が来ればいいかと思っていたのに、だ。
「それだけお客さんに認められたってこと、なんですよね?」
「それだけ桜花ちゃんが頑張ったってことよ」
マネージャーの彼女が笑うと同時に、桜花も笑みを返す。
「…うん、何だか嬉しいなぁ。ちゃんとボクが見られてるんだ」
「それは確かに良い事だけど、油断は禁物よ? 調子に乗って失言して、お客さんに見捨てられた人なんて沢山いるんだからね」
「はーい、分かってまーす」
桜花の思うままに言葉を出していくと、想像していた通りにマネージャーへ窘められた。
けれど、それでも嬉しかったのだ。
大鐘桜花という少女は、男系の家庭に生まれていた。
5人兄弟の末子でありながら長女の桜花は、4人の兄達に愛されながら育っており、同様に一人称など言動にも僅かに少年らしき部分が垣間見える。
家庭による成長という下地と、自分が女の子である自覚は、いつしか桜花の中に「女の子らしさ」を求めるようになってきていた。
その時に見つけたのは、新聞に掲載されていたアイドルオーディションの記事。
三番目の兄が見ていたテレビの中で、“女の子”らしい服やダンスで輝いていた子達を見て、桜花は一念発起した。
そこから、多少の挫折はあるが今のマネージャーが所属する事務所に入り、学校と並行してではあるがアイドルとして活動をしている。
まだまだ新米、見習いというレベルだけれど、かつてテレビで見た子達に少しでも近づけている、という事実は、桜花の頬を綻ばせるには十分だった。
ライブが終わり夕方。次にスケジュールとして入っているインタビューも終わらせた。
明日は平日でもある為、今日の仕事はこれで終了となり、桜花は帰途についていた。
「…うーん、まだ起きてくれない。そんなに疲れてたのかな?」
白竜が呟くのは、気絶している桜花の事。気絶していても、体を動かす内に起きるかと思ったのだが、そんな気配は一向に見せてくれない。
肉体に疲労が溜まっていたのは確かだし、自分がやってしまった事がここまで強烈だったのかと思うと、少し申し訳なく思ってしまう。
「悪い事しちゃったかな。体に栄養補給して、体内からマッサージもしてあげないと…」
暗くなってきた夜道、起きない桜花を気遣いながら頭を悩ませる。
本体が浸入した安月美和とはまた違う、頑張る少女に入ってしまった事へ、僅かながらの罪悪感と罪滅ぼしの方法の思考。
それは本体が指示したように、白竜の意志に応じるように動くという事の証左で、彼は確かに白竜の思考をしていた。
「ん、わっ!?」
ふとその最中、背後から走ってきたワゴン車に気付いて道を開ける。
その瞬間に扉が開かれ、突き出された腕に掴まれ、不意を突かれた桜花はその中に連れ込まれてしまった。
(まさか人さらい…っ、なんで…)
とはいえ、その理由はまだある程度“理解”していた。
アイドルである身と、少女であること。そして夜道に1人で歩いている事。
それは狙う側から見れば「狙って下さい」と申し出てる恰好のカモの姿だからだ。
「んむぅっ! もごっ」
「おい抑えろ、暴れさせるなよ」
「脚はやっとく、お前は腕だ」
「おら静かにしろ! 痛い目見たくないだろ?」
走り続ける車内に連れ込まれ、途端に猿轡を噛まされる。複数人が手慣れた動きで体を押さえつけてくる。
全員が解りやすく顔を隠し、一時でも顔立ちの露見を防いでる辺り、行動の自覚や人の目の多さを理解している。
(こいつ等人さらいか何かか? いや、まさか…)
ウルティマの観察力を以て、人さらいたちの顔を見分ける。
間違いない、5人中2人は今日、ライブに来ていた客だ。執拗に触られて少し怖かった覚えがある。
「ほれよ、お目当ての彼女だ。どうする、ここで始めるか?」
「わ、わぁぁ。桜花ちゃんが目の前に…」
「えへへ、ほ、本物だ…。俺達より小っちゃくて柔らかい…」
鼻息を荒くした覆面男2人が近づいてくる。片方は痩せぎすで、もう片方は肥満体。
恐らくこの2人が自らの欲望の為に依頼し、桜花の身を自らのモノにしようとしているのだろう。
下衆だ。
こいつ等は欲情して、今現在目についている桜花の体でそれを発散したいだけの。
懲らしめる為、少しだけ外に出ようとして、突然それは“起きて”きた。
「んっ!? んぅぅ、んーっ!!」
喉から恐怖の声が漏れ、縛られた体を動かして逃げようとし始めた。
「大鐘桜花」の意志が起きて、いきなりの状態に、パニックを起こしているのだ。
「お? お嬢ちゃんようやく身の危険に気付いたみたいだぜ」
「おい手前等、押さえつけとくか? それとも無理矢理が良いか?」
「で、出来ればこのままが良いな…」
「俺もだよ。気絶したままのマグロより、動いてくれる桜花ちゃんの身体の方が…、えへへ…」
目の前の下衆共は、嗤う。これからの行為に期待して下卑た笑いを浮かべながら。
(嫌だ! 何でいきなりこんな事にっ、この人たち誰なんだよっ、ボク何をされるの?
ヤだ、嫌だぁっ! 兄ちゃん、助けてぇ!!)
猿轡を噛まされ、声に出せないままに桜花は叫ぶ。心中に浮かぶのは、自分を愛してくれた4人の兄達。
兄達と同じ男の手で、兄達と違う欲望を以て、男たちの手が桜花に触れてくる。
「っ!」
痛い位に胸を掴まれ、握られる。
脚を撫で摩られ、スカートの中に入ろうとしてくる。
その行為の果てがどんな事になるのか桜花は気づき、眦に大粒の涙が溢れてくる。
されるがままに抵抗できない恐怖と、その光景から背けるように、痛いぐらいに目を瞑って。
(……)
その光景を、“白竜”は桜花の内側から見ていた…。
【暴行者に対しての対応】
>A.桜花に内側から声をかけて、理解を得た上で撃退 2
>B.桜花の体を勝手に動かして暴漢を撃退 1
C.桜花から分離して全員ペロリ
D.桜花の中に引っ込んで何もしない
魂の存在しないウルティマの分体とは言え、「辻白竜」としての意志に応じるように動くのであれば、
(何もしないって選択肢は…、無いか!)
一刻を争う状況では、口に出す一言さえ惜しい。
押さえつけられていた四肢に力を入れ、コントロールを自分の元へ取り返す。
狭い車内では大立ち回りなど出来ぬ為、取れる手段は限られているが、人間相手ならばどうにかなる。
スカートへ手をかけようとしていた、痩せぎすの男の手を蹴りあげ、即時脚を男の腕へと絡め、力を込める。
ゴキッ。
「え? へひゃぁぁっ!?」
腕を折られて驚く痩せぎすを放置し、胸へ触れてくる肥満体の男に手を触れる。体内で勁を練り、上半身だけでだが放つ。
ドガッ!
「げぇ、ぶっ!?」
90kgはあろう肉体は軽く吹き飛び、座る者が居なかった助手席の後方へぶち当たる。
「コイツ、いきなり何を!」
「かまわねぇ、向こうがやったんならお返ししてやれ!」
押さえつけていた男たちが、ナイフとスタンガンを手に取る。
“桜花”の突然の、しかも大の男2人を一撃でいなした事に、向こうの思考も遠慮を考えなくなってきたのだろう。
辻白竜は、中距離から、遠心力を用いての打撃を主とする劈掛掌の使い手である。
この拳法は多少離れた間合いからの攻撃手段としては有用だが、逆に接近されると戦力をフルに活用できない。その為、劈掛掌を習う者は近接距離に対応する為、八極拳を習う事が多々ある。
拳法の師匠が教えてくれた事と、体内に溶けている竜峰の技術とを用いているのとで、発勁さえ容易く行えたのだ。
果たして男たちが拳法の種類を知っているか否かは定かではない。しかし今し方の行為で、浚った少女が只者ではない、とは気付いたのだろう。
狭い車内の中、腕を伸ばせば届く筈なのに行動を一つも起こしてこない。
ウルティマの観察力で見れば、緊張のせいで筋肉が僅かに固まっている、即時の反応は難しいだろう。
(…ねぇ、聞こえる?)
(えっ、何でボクの体が勝手に動いて、キミ誰? 変な声が聞こえて、ってボク喋れてない!?
どうしてこんな事になってるのっ、知ってるの!?)
(知ってる、知ってるよ)
その最中に執ったのは、桜花へのコンタクト。脳内の思考電流を読み取り、男たちが動き出す前に桜花の了承を得て、行動に移す事を考えたのだ。
(でも今は、教えられない。全部説明すると攻撃されるし、ちょっと待って欲しいんだ)
(…う、うん…。それは解るけど…)
(まず一つ、君に許可をもらいたいことがあるんだ)
(…何なの?)
(…この場を無事に切り抜ける為に、体を使わせて欲しい)
痩せぎすの悲鳴が、どこか遠くに聞こえる。
男たちの息が、少しずつ落ち着いていく。互いの事を知ってるからか、アイコンタクトをしているような気配も見える。
(本当なら、君の体を使わなくても、連中の撃退は出来る。…けどそれは、きっと君を驚かせてしまう。
君に対して悪いことをしてしまった、せめてもの罪滅ぼしとして…、これ以上精神的負担をかけたくないんだ)
(…、…傷とかつけたりしない?)
(誓って、打撃面は守るよ)
桜花は考えるような様子を、男たちのは示し合わせているような様子を見せている。
このままでは遠からず行動に移すだろう。もし桜花から何も反応が無ければ、その時はやむを得ないかもしれない。
深い呼気が、2回。
3回目が終わった瞬間に、男たちは跳びかかり、桜花からの返答が来た。
(解ったよ、キミに任せる! やっつけちゃえ!)
(心得た!)
右から軽い傷を負わせ、注意をひかせようとするナイフが。左から、気絶させるために首元を狙うスタンガンが、同時に突きだされる。
白竜の視線は左側へ向かい、対応の姿勢を見せる。
右手でスタンガンを持つ男の手首を掴み、引き寄せる。同時に左肘スライムを滲ませ、プロテクター兼打撃具を纏わせる。
向かってくる男の動きと、返そうとする桜花の動き、そして突き出される肘は、クロスカウンターの要領で男の鳩尾に叩き込まれる。
みしり、と鈍い音がし、スタンガン男の喉から吐くような息が漏れた。
「もう一つ!」
力の抜けた男の手からスタンガンを奪い取り、もう片方の男が構えるナイフを、上体を逸らして躱す。
ナイフ男の首筋にスタンガンを当て、スイッチを入れ、放電。
バチッ、と音を立て、血を伝導体として大動脈から脳へ電流が流れ、ナイフ男は白目を向いて倒れ伏す。
許可を得てから叩き潰すまで、この間、2秒足らず。
気絶している肥満体の男はさて置き、スタンガンを持っていた男と痩せぎすの男にも、同様に首から電気を流して意識を落とし、視線を運転席の男に向けた。
「ねぇ、車停めてもらって良いかな?」
バックミラーに映る桜花の貌は、まるでドリンクバーのおかわりに席を立った友達へついでに自分の飲み物も頼むような“何でもない”表情のまま。
恐怖か、それとも諦観か。運転手の男はアクセルから脚を放し、車を路肩に停車させた。
「…すごいね、お嬢ちゃん。データじゃ格闘技とかやってなかった筈だけど?」
「人攫い屋さんにも知られてるのは嬉しいけど、…お仕事の為ならあまり嬉しくないよ?」
「そいつぁ悪かった。けどこっちも仕事なんで…、大人しくしてくれると嬉しいな」
運転手が口元に笑みを浮かべながら、何かを持った手をこちらに向けてくる。麻酔銃だ。
引き金を引かれ、発射された。
射出された針は命中すれば桜花の行動を止めるだろうが、それは左肘のプロテクターで受け止められていた。
「…こいつぁ参った。お嬢ちゃん、ホントにアイドル?」
「女の子には秘密が多いんだよ。あまり詮索しないで欲しいなっ!」
直後に突きだしたスタンガンの電流は、運転手の男の首元に狙い過たず叩き込まれ、男の意識を刈り取った。
ハンドルの方へ倒れ、押し込まれたクラクションがけたたましい音を鳴らす。
動く者が他に居なくなった様子を見て、白竜は小さく息を吐いた。
「…これで終わり、っと」
運転手の男を座席の方へ寄りかからせ、プロテクターのスライムを融かし、5分割してすべて男達の脳内に侵入させる。
これから先、起きたのなら今までやってきた人攫いの証拠を持って警察に自首させるように仕組む。
それ自体はすぐ終わるので、揃ったスライムを足元の汗腺から吸収させて、車から降りた。
「…ここ何処だろ、兄ちゃん達に心配かけちゃうな。…あれ?」
言葉を出した段階で、桜花は気づいた。自分の身体が意のままに動いている、と。
* * *
「ふぅん、それでボクの代わりにお仕事やってくれたんだ?」
(うん…。それもこれも、全部俺のせいだからね…)
降車後、運転手の進路から現在位置を割り出して、桜花と体内の白竜は帰途についていた。
思ったより大鐘家から距離は取られていないようで、2度目が無いように白竜は細心の注意を払いながら、しかし桜花と言葉を交わしている。会話の内容は主に、桜花が気絶している間に起きたことの質問であり、白竜はそれに答えるだけ。
当然のごとく、白竜は桜花に精神的負担を掛けぬよう体内からの発言であり、知らぬ人が見れば独り言を言ってるように見える為、桜花には携帯を耳元に当ててもらっている。
「…でも、白竜さんはどうしてボクに入ってきたの?」
(え、えぇと、…まぁ、見た目というか、雰囲気というか。言葉にすると少し難しいかな…?)
「ふぅん…。…じゃあそこは深く聞かないでおくね」
(うん、ありがとう…)
「じゃあこれだけは聞いておきたいんだけど…、白竜さんって何者?」
(……)
「白竜さん?」
ひと段落したかと思えば、当然の疑問を尋ねられて白竜は言葉を詰まらせてしまう。
答えられる事かと言われれば難しい。どこまで話すべきか、ということも。
けれど、
(…端的に言うと、怪物、かな…)
自覚はあるが故に、その事実を口にする。
「そっか、白竜さんってそういう存在なんだ。じゃあトイレでボクに入ってきたのも、やっぱり白竜さんだったりする?」
けれど、返ってきた言葉はひどくあっけらかんとしていた。
(…驚かないの? いや、確かにそうだけど…、俺はもう人間じゃないんだよ?)
「うーん…、芸能界だとその手のオカルト関係ってどうしても縁が出来るし、日向兄ちゃんや月白兄ちゃんはよく“神様”にお参りするから…、居たら楽しいかなって思っててさ」
日向と月白は、桜花の兄達だ。剣道師範代と大工という関係上、神の存在に多少なりとも触れている。
日本武道では道場に神棚が存在し門下生が祈念し、大工は着工前に土地を清める為のお祓いをすることがある。
その姿を見てきた桜花も、多少なりとも知っているのだ。
「でも、下から入ってくるのはちょっといけないよ、白竜さん。…思い出すだけでもボク、すっごい恥ずかしいんだから」
(そ、それはゴメン…。できるだけ解かりやすい“孔”の方が、入りやすくて…)
「…ボクの初めて、奪ったりとかしてないよね?」
(し、してないよ、誓って本当だから! …俺自身、まだ、だしさ)
そういう事をしたい、という意識は確かにある。けれどできず、別の女性たちに入り込んでいる。
その事実に少しだけ、情けなく感じてしまう。
「ふぅん…。白竜さんって彼女いる?」
(…うん。最近お付き合いを始めさせてもらったばかりだけど、ね)
「その人って、白竜さんが怪物だって知ってるの?」
(…知らない、よ。彼女は俺の事、人間だって思ってる)
「そうなんだ…。…白竜さん、いつか話してあげなよ?」
(…ちょっと、難しいかな)
「難しくないよ。隠し事をして、隠そうとしてるからおかしいって気付かれるんだよ?
…そうしてバレちゃうから気まずくなって、きっと前には戻れなくなると思うんだ。
だから話せることが出来たら、話してあげてね? 白竜さんの彼女さんだって、隠されていい気はしないと思うしさ」
(それは確かに、ね。…けど、話せる内容と話せない内容があるから、そこだけは納得してもらうしかないかな)
「良いんだよ、全部が全部話さなくっても」
桜花は白竜の事を心配してくれるのだろう。
そうでなければ、自分の中に入って、仕事を横取りした白竜にここまで優しい言葉をかけてはくれないだろう。
その事実に、少しだけ白竜の良心が痛む。
(…ありがとう、桜花ちゃん。…はは、なんだか俺、情けないな)
「そう言わないでおこうよ。口に出しちゃったら、本当にそうなっちゃうよ」
(そう、だね。……ねぇ、桜花ちゃん)
「何?」
(俺は…、君にやった事に対しての罪滅ぼしがしたい。
頼みでも願いでもいい、言ってくれないか。…俺の力で出来る範囲になるけれど、何でもやるよ)
それと同時に、白竜は自分の能力の説明を行う。
肉体がスライムのような流動体である事、肉体全てで捕喰・吸収をし、知識として存在するあらゆる存在に変形する事。浸透した相手に対しても変身させられる事。
ただそれだけの、ひどく応用性の高い能力。
(肉体面に限定すれば、大抵の事は出来ると思う。…今は桜花ちゃんの中にいるから、願うのなら内臓機能の強化とかも出来るよ。
たとえば…、月の物が来た時に重くならないように、とか?)
「えぇっ、何で白竜さんそのこと知ってるの!?」
(いやその…、それ位の精度で肉体情報の知識を得られるって事の説明として…)
「酷いよそれ! せめてもっと別の事を言ってくれてもいいじゃん!」
(えぇと…、じゃあ右利きだけど左も使えるようにしてる事とか、右足薬指の爪切ってたら深爪しそうになっちゃったとか…)
「う…、それもそれで本当だけど、ボクの事探られてるようで、なんかヤだ」
(じゃあどうしたら良いのさ!?)
「そこは白竜さんが気を利かせて、それっぽい事言ってくれれば良いでしょ!?」
(あぁ、うん…、それは確かにそうだね…、ゴメン)
白竜が失言に謝り、桜花の口から少しため息が漏れた。
「…そういうのも出来るって事は解ったから、そうだなぁ…。
じゃ、白竜さん。…ボクの家族構成って知ってる?」
(え? あぁ、うん。お兄さんが4人と父親の6人家族だよね)
「じゃあ白竜さんの家族って、どんな感じ?」
(俺は兄が2人と、母親だけど?)
「そっか、お母さん居るんだ。そこはちょっとだけ、白竜さんが羨ましいかも」
(ねぇ桜花ちゃん…、この質問が罪滅ぼしになる、の?)
「うぅん、単純に聞いてみたかったんだよ。…ボク、女性の家族がいないからさ。
お父さんも兄ちゃん達も、みんなボクの事を大事にしてくれるのは解るけど…、それでもやっぱり、ちょっと肩身が狭い気分もあるんだよ」
大鐘桜花の記憶から、確かに愛されていた過去を窺い知ることはできる。
けれど同時に、彼女の中にあった寂寥感をも覗いてしまうのだ。
「もし、もしも。ボクに姉妹とか、お母さんが居たらどうなんだろうって思ってた」
けれど桜花の父親は、妻を愛してるから再婚はしない。一途であり、頑固な性格であるからこそ、その想いを口に出す事は出来ずにいた。
「ねぇ白竜さん。白竜さんの力で姉妹とか、お母さんとかって作れる?
…無理だよね、ゴメン」
できる筈無い。そう思考の底に結論を置いて。言ってみただけ、と苦笑いを桜花はする。
けれど、
(…出来るよ)
不可能ではない現実を、静かに語りかける。
「…もう、白竜さんってば冗談言って。それならどうやって、ボクにお母さんや姉妹を作るの?」
(桜花ちゃん、左手を見てみて?)
促され、左腕に視界を移した桜花の目が見開かれる。そこには確かにあった“桜花の左腕”が、現在進行形で変異していた。
細い腕が太くなり筋肉に纏われた男の物になり、かと思えば途端に小さく短い子供の物へと変わる。そうして直に、桜花の腕へと戻った。
(こんな風に、体を作り変える事も出来てしまうから…。やろうと思えば、どんな事も出来てしまうんだ…)
「…すごい」
驚嘆の息は、様々な感情を含んでいた。まさかが現実になった事や、それによって作られる可能性と、明確な現実。
半ば本気にしていなかった言葉、それが現実に出来るかもしれない、と。
でも。
「……本当に出来るのかな。ボクに『姉妹』が。女の家族同士の会話が。
兄ちゃん達を作り変えても、形を変えただけの「兄と妹」にならないかな?」
(それは…、…きっと、そうなんだろうね)
今しがた作り変えたのは見た目だけ。もっと言えば、肉体だけだ。精神的な部分もやろうと思えば出来るが、それを桜花本人が受け入れるか、否か。その問題が残ってしまう。
「…決まったよ、白竜さん。ボクのお願い」
ほんの少しだけ、事実と可能性を認識して、小さく桜花は呟く。
「ボクに、一夜の夢を見させて?」
【桜花に見せる夢】
A.母親になった父のいる夢
B.姉妹になった兄のいる夢
長男:日向 次男:昴流 三男:月白 四男:大樹
>C.双子の自分が隣にいる夢
D.もういっそ全部乗せの夢
大それていない、小さな桜花の願いを耳にして、白竜は心中で目を伏せる。
他人を変えることが出来ることを知っても尚、どのような夢を見せるかは自分に任せてくれる。
桜花は白竜の事を信じてくれるからこそ、の言葉であるからだ。
その考えが重く、同時にありがたくもあった。
信頼に応えたい、返礼をしてあげたい。その2つの思考が白竜の内部に芽生え、その為に考える。
そうして思い当たるのはやはり、彼女の中にある“自分とは異なる家族”への憧憬と諦観。熱望し、しかし届かない現実を知っているからこそ、願ってしまう。
(…ねぇ桜花ちゃん、キミの中から出ても良いかい?)
「え? それは構わないけど…、人気のない所で良いよね? 白竜さんが出るとボク苦しかったりしない?」
(善処はするよ)
桜花の了承を得て、人気のない路地裏に入り込む。周囲の気配が無い事を確認して、腕の汗腺から滲みだし始める。
量が量であったため、完全に出るのは3分ほども掛かったけれど、
「おぉ、これが今までボクの体に入ってたんだ…。すごいすごい、むにゅってする!」
手触りを確かめるように、スライムの体を掴んだり、手で掬われたりしていた為、桜花本人はそこまで退屈ではなかったようだ。
玉虫色に光る粘液の不定形が、程無くして完全に出切った後、それは次第に盛り上がり、形を変えていく。
頭が生えて肩が作られ、上半身の次に腕が伸び、残った部分が脚となり、下半身を作る。変形自体はすぐに終わり、完成していく姿を見るにつれて、桜花の瞳は見開かれていた。
目の前に現れたのは、他の誰でもない。“大鐘桜花”そのものであったからだ。
「嘘…、ボク、なの?」
「うん、そうだよ。…考えたんだけど、こうした方が良いかなって」
違いは、開かれた瞳の色が異なる程度。白竜は声音さえも桜花と同一になっていた。
「…どうして?」
「桜花ちゃんの体を変えて、こんなことも出来るって教えたけど…。
だからと言って他の家族を変える事を良しとしなかった。なら、それ以外の手段として、こうしたんだ。
一時だとしても、俺が桜花ちゃんの姉妹になろう、ってね」
「…そうなんだ。…白竜さんって真面目だね」
「そうかな、…たまに言われるよ」
お互いに苦いけれど、それでも笑みを浮かべながら微笑み合う。
「でも、どうしてボクと同じ姿になったの? どうせならもうちょっと妹っぽく出来たような気がするんだけど…」
「それは…、単純に情報不足。本当ならお兄さん方の情報を知って、その上で姿を作れれば良かったんだけど…。
桜花ちゃんの中に居ると、“桜花ちゃんの情報”しか取れなかったからね。他の人の情報を混ぜると、なんか、違う気がして…」
「そこまで考えてくれたんだ…。ホント、白竜さんは真面目だね」
そしてもう一度、小さく苦笑いをする。
「ところで白竜さん…、どうして服を着てないの?」
「あ、そっか、そこまで注意が行ってなかったよ」
「もう! 着替えなんて無いのに! どうするの?」
「だ、大丈夫、すぐ作るから!」
突然の剣幕に驚きながらも、スライムの一部を服に作り変えて身に纏う。桜花のきている物と似て、少し違う物を。
「これで、良い?」
「ちゃんと下着とかもしてる? ダメだよ、何もつけてないとボディライン崩れちゃうんだからっ」
「大丈夫、そこは解ってるよ、うん」
「なら良し。…お姉ちゃんって、こんな感じかな?」
怒っているような、諌めるような剣幕から一転して、桜花は自分の在り方に疑問を浮かべている。
「良いと思うよ。…『お姉ちゃん』なら家族の事は、心配になるもんね」
少しだけ思考しながら、白竜は一睡の夢の中における、自らの役割を定めることにした。
それは即ち、「大鐘桜花の妹」という立場を。
「…お姉ちゃん? ボクが、白竜さんのお姉ちゃん…?」
「白竜じゃないよ。名前は夢見、大鐘夢見。…お姉ちゃんの妹だよ」
そして、名前も定める。
一時の夢であるこの状況の儚さを、自分自身でも忘れぬ為に、桜の別名、夢見草から名をつける。
「夢見…、ボクの妹…。ボクが、お姉ちゃん…」
それを自分でもしっかりと認識するように、口に出して桜花は反芻を繰り返す。
「…本当に良いの?」
「何が?」
「姉妹が出来て…、ボクが上で、白竜さんのお姉ちゃんで…」
「だから、白竜じゃなくて夢見って呼んでよ。…ね、お姉ちゃん」
もう一度、間違いでないと念を押して桜花の事を呼ぶと、快哉の笑みを浮かべて体を寄せる。
「うん! 解った、ボクがお姉ちゃんだね!
…えへへ、夢見♪」
この様な形であれ、欲しかった物を得られたという事実。それは桜花を喜ばせるには十分に過ぎていた。
夢見の前には、間近に迫る桜花の笑顔。
それは少女の妹を装っていても、白竜としては少しだけ恥かしくって、頬が赤くなってしまう。
(もう、こんなに笑っちゃって…。…でも、いいか)
ほんの少しでも罪滅ぼしが出来れば、と思った結果、この表情なのだから。何も問題は無いと、そう思っておいた。
* * *
時を動かし、大鐘家。白竜こと夢見は、驚きと恐怖をないまぜにした状態で居た。
夢見が桜花の妹となってから後、家に帰らないわけにもいかなかった為、2人して大鐘家の門をくぐり、当然の如く夢見の存在は兄弟たちの目に入る事になった。
一番最初に叩きつけられたのは、訝しみと疑惑。
『何故妹と瓜二つの存在が居て、その隣にいるのか。何故妹はそれで笑っているのか』
次に居間へと上げられ、正座をさせられていた。目の前には長男の日向が、突き刺すような視線を向けてくる。
似たような視線はすぐに思い当たった。兄である竜峰が向けるような、下の兄弟を守らんとする、敵意を含めた視線。
「夢見、と言ったか。キミは」
「そうだよ、日向兄ちゃん、夢見は「桜花は静かにしててくれ。俺は彼女の事を知らなければいけない。…頼む」…、うん…」
隣で助け舟を出そうとした桜花の言葉を強い口調で、しかしやんわりと止める。頭ごなしではない言葉に、少し妹への優しさを垣間見るけれど、夢見への視線は油断なく一挙一投足を見定めようとしている。
「単刀直入に聞こう。君は何者で、桜花に何をした。何故俺達の妹と同じ姿をしている?」
生態を再現した為、緊張で少しひりつく喉を唾液で潤し、口を開く。
答えるのは、事実。
自らが辻白竜という存在であり、異形の化生に取り込まれ、しかし主導権を取り返した存在を語る。
何をしたかに関しても同じく、ありのままを答える。体の能力を知る為に人の内部に入り込み、浚われかけた桜花の体を動かして撃退したことを。
「……」
「ホントだよ、日向兄ちゃん。夢見は何も悪い事してないよ」
日向が向けた視線に応えるよう、桜花も頷く。
「では、何故その姿をしているのだ? 辻白竜君?」
「それは…、自分がやってしまった事への、罪滅ぼしです。一時でも夢を見させることを、彼女に望まれました」
ともすれば、傍らの木刀で頭を叩き割られかねない事を、しかし毅然とした態度で告げる。
これは何一つ間違いではないのだから。
「……、成程な。それが偽りではないと、桜花も言うんだな?」
「うん。具体的にどうするかは夢見に任せたんだけど、嘘は無いよ」
「解った、ならば認めよう。…君は大鐘夢見で、桜花の双子の…、俺達の新しい妹と言う事か。
桜花を助けてくれてありがとう、夢見。お帰り」
桜花の言葉に、驚くほどあっさりと日向は頷いた。互いの信頼と愛情、そして懐の広さを見せつけられた気がして、つい、
「…う、うん、日向兄ちゃん…、ただいま」
桜花と同じ言葉で、答えた。
「そんなに緊張するな。後で親父や昴流達には俺から説明しておくから、ゆっくりしてくれ。
ここはお前の家なんだから、な?」
「うんっ、そうだよ! 夢見の帰る家はここなんだから!
…えへへ、ありがとね、日向兄ちゃん♪」
「どういたしましてだ。…桜花、疲れただろうからお風呂に入ってきなさい。
夢見のパジャマは…、昴流に言って、俺のを取ってきてもらえ。今日はそれで我慢してもらおう」
「え? 夢見は日向兄ちゃんのパジャマで、良いの? ブカブカだよ?」
「平気だよ。日向兄ちゃんの臭いって、なんか安心できるもん」
「そっか、うん、そうだよね。じゃあ着替え取ってくるから、待っててね!」
居間を飛び出し、桜花は怪談を駆け上がっていく。テンションの高さに少し驚きながらも、日向はすぐに夢見へと向き直る。
「…さて、夢見。先程はすまなかった」
「えっ、いきなりどうしたんですかっ? そんな、頭を下げるだなんて…」
深く頭を下げた姿に、夢見は驚いてしまうけれど。すぐに顔をあげて日向は理由を述べる。
「正直に言えば君の事を、俺は桜花に害を為す化物だと思っていたからだ。いや、心の隅では今でも僅かに“思っている”。
君がいくら理性的な化物でも、最初の想像の通りになる可能性はいくらでも転がっているからだ。
しかし同時に、桜花を助けてくれたことが君の損得勘定を抜きにした、良心から来るものだと信じたい。
…もしも最悪の事態が起こってしまった場合は、俺は君を斬るだろう。その前に一度、謝らせてほしい」
日向が頭を下げている。自分の兄と同じように、下の弟妹を案じて。
その感情は痛いほど解るから、責める気にもなれない。いや、責めてはいけない。16年も桜花を見てきて、誰より身を案じてきた兄なのだから。
「…頭を上げて下さい、日向さん。それほどまで桜花ちゃんの事を心配してくれるのは、痛いほどわかりました。
この魂に誓って、最悪の事態なんて起しません。
だから、さ…、日向兄ちゃん?」
「ん…?」
「ぎゅってして、良い?」
白竜から夢見に変わって、微笑みかける。それに釣られるように日向の頬も綻び、
「…仕方ないな。桜花が戻って来るまでだぞ?」
「はーい。えいっ」
許可をくれた兄の胸に飛び込み、頬を寄せる。厚い胸板は硬いけれど心地良く、長男の匂いも、つい吸ってしまう。
白竜としては、どれほどの確率で“最悪の可能性”が起こるかなんて解らないけれど。
こんなに温かい家庭なら、壊してはいけないと思うのには、十分だった。
* * *
「お姉ちゃん、背中痛くない?」
「平気だよ? んー…、すごーい、痛くないけど気持ち良いな」
「えへへ、お姉ちゃんの事は何でも知ってるからね」
風呂場の中、夢見は桜花の背中を洗っていた。痛くなく心地良い力加減で、スポンジを柔肌に当て、こする。
「背中は終わったよ、お姉ちゃん。前は自分でやる?」
「んー…、…夢見、やって?」
「えぇー、ボクがやるの?」
「良いでしょ? その代り、ボクも夢見の前を洗ってあげるからさっ」
「もう、しょうがないなぁ…」
こんな場では初めてになるだろう、桜花の我が儘に、少しだけため息のポーズをとりながら、夢見は後ろから手を伸ばし、桜花の前を洗っていく。
腕を洗い、腰を洗い、胸を洗い…、
「…どしたの、夢見?」
「…何でもないよ。続けるね?」
少しだけ男性としての劣情を催してしまったのは、意識の根底が白竜だからだろうか。
気にしないよう、意識を切り替えて全身を洗い終え、お湯を流す。
「体は終わったよ、お姉ちゃん。髪は自分でやってよね?」
「うん、それは良いけど…、ボクは夢見に一つ言いたいことがあるんだ」
夢見の後ろに回った桜花の手は、タオルに包まれた夢見の胸を掴んだ。
「なんで夢見はタオルをしてるのかなぁ? こんなに形のいいおっぱい隠して洗いっこなんて、お姉ちゃん哀しいよ」
決して痛くは無いけれど、柔らかさを確かめるような手つきで、夢見の胸を弄っている。
「ひゃっ! ちょっ、待ってよお姉ちゃんっ、んっ!」
「待たないし辞めなーい。今度はボクが夢見の体を洗うんだもん、隠されてちゃ出来ないでしょ?」
「それは、そうだけどさぁ…っ! ひゃうっ!」
少し硬くなってしまった乳首が、桜花によって摘ままれてしまう。少しだけ、甲高い声が漏れてしまった。
「夢見ってそんな可愛い声も出るんだ…。どうしよ、もうちょっと聞いてみたい気も…」
「あ、あのねお姉ちゃん、ボクの体も洗うんでしょ? ちゃんとタオル、外すから…、ひゃっ」
タオルを外そうと手を動かすと、いつの間にか桜花の手が、夢見の股間へと伸びていた。桜花を模した、使われていない花びらを濡らす蜜に指を這わせ、くすぐり始める。
「…夢見ぃ、これなーに? えっちな事考えてないと出ないよね?
お姉ちゃんでこうなっちゃったの? ボク哀しいなぁ、夢見がこんなにえっちだなんて…」
「や、んっ、お姉ちゃ、そこ、やめ…!」
胸と秘所を弄る桜花の手は止まらない。目の前に存在する夢見を愛するように、少しずつ手の勢いは激しくなっていく。
そして指が、つぷ、と秘所の中に潜り込んできた。
「んぅ、おねぇ、ちゃん…、んぅっ!」
「すごい、夢見のあそこ…、とっても熱い」
夢見の体を構成するウルティマは既に女の快楽を知り、どうすれば反応するかも知ってしまっている。それ故にか過敏ともいえる位に、肉体は反応しやすい。
胸を揉まれることも、指の挿入も、“気持ちいい”と知っているからこそ、感覚の鈍化を防ぐために鋭敏になっていく。
そんな肉体側の貪欲さが、桜花より敏感な体を作り上げてしまっていた。
「えへへ…、どうしよ、夢見の体すごいエッチぃや。感じてる顔も可愛いし…、ボク、ナルの気があったのかな?」
小さな手に余りそうな乳房を持ち上げ、膣壁を確かめるように指の腹をこすり付ける。
その度に夢見ののどからは嬌声が漏れ出て、さらに興奮した桜花の手を早めていく。
「おね、ちゃん…! ダメ、ボク…っ、イっちゃい、そぅ…!」
「イっちゃっても良いよ? その夢見の姿、ボクに見せて?」
「でも、でも、声あげたら、みんなに聞えちゃ、ん…っ!!」
「あ、そっか。…ねぇ夢見?」
「ぇ…? ん、む…!」
肩越しに声を掛けられ、振り向いた夢見は桜花に唇をふさがれる。
それと同時に、興奮し膨らんできた陰核をきゅ、と抓られ、
「ん…っ、んぅぅ…っ!!」
桜花の腕と唇、そして背を逸らした事で当たる、桜花の胸の感触を味わいながら、夢見は女性として絶頂を迎えた。
【桜花の愛し方】
>A.人間体を崩さぬままガチレズ
B.生やしたり生やしてあげたり(前は守るよ)
C.スライム化して改めてもちゅもちゅ
「お姉ちゃん」
「な、なに、夢見?」
風呂から上がり、桜花の自室。ベッドの上でパジャマに着替えた二人は向かい合っており、夢見が少し、恐い目で桜花を見つめている。
「えっちな事、そんなにしたかったの?」
「え、えぇーと…、うん、まぁ、ボクも年頃の女の子だし、興味はあるんだよ?」
「でも、身近にいる相手が兄ちゃん達ばっかりだから、我慢してたよね」
「えへへ…、うん…」
性欲というのは蓄積する物だと言われていたりする。男性としての欲求不満は、白竜として嫌という程知っている。
女性としての欲求不満も、実感は薄いが確かに存在するのだろう。
仕事で一緒になった相場舞佳も、事務所の意向で男女の付き合いが出来ず、悶々としている事を零していたのも、聞いたことがある。
「…それをボクで発散する?」
「ごめんってばぁ。…でも、夢見も良かったでしょ?」
謝って直後にこれでは、反省してないような気がしないでもない。
「それは確かにね。…でも、ボク1人が気持ちいいまま終わっちゃうと、ちょっと不公平だよね」
「…それって、もしかして?」
考えの果てに辿り付いた思考に、不安と歓喜が綯交ぜになった表情を、桜花が浮かべる。
「ご名答。今度はお姉ちゃんを、ボクが慰めてあげるよ」
桜花の肩に手をかけ、顔を近付ける。同じ形の、ふっくらした唇同士が重なり合った。
「ん、ふ…、ちゅ、む…」
「ちゅ、ん、ちゅぅ…」
どちらからともなく舌を絡ませ合い、唾液同志を交わらせ合う。その両方が恐らくは“自分”のもので、間違いなく同一なのだと、思えてしまう程に。
「ん、ぅ…」
「っ?」
突如、桜花の口内で夢見の舌が伸びた。細く、呼吸を邪魔しない程度になった舌が腔内を撫でさすり、食道へ向けて媚薬交じりの唾液を流し込む。
あまり乱れすぎないように、ほんの少し。けれど即効性のそれを受けて、すぐに桜花の目は僅かに緩んだ。
「ちゅ、る…。…ん、お姉ちゃん…」
「は、ん…、夢見ぃ…。…なんだかボク、火照ってきちゃった…。助けて、くれる…?」
パジャマの中で、乳頭が膨らみ、秘所が濡れているのだろう。鼻をつく“女”の匂いに、少しだけ男としての欲望が頭をもたげる。
「うん、助けてあげる…。まずは服を…、ボクが脱がしてあげるよ、お姉ちゃん」
「わぁい…、ばんざーい♪」
子供が服を脱がされるように、両手を高々と上にあげる。それを合図と見て、夢見は桜花のパジャマ、そのボタンに手をかけた。
一つ一つ外していく度に、風呂の中でも見た桜花の、微熱交じりの肌が見えてくる。服を脱がし、キャミソールも脱がせると、豊かな双丘がぷるん、と震える。
その先端は、分かっているが固くしこり、桜色のそれがさらに上気している。
(あぁ、どうしよう…。すぐにでも…、…いや、我慢だ我慢、完全に脱がしてから…)
襲い来る劣情を理性で抑えて、今度はパジャマのズボンに手をかける。
「お姉ちゃん、脱がすよ…?」
「うん…」
脱がしやすいように桜花は腰を浮かして、夢見の行動を待つ。これも脱がすにあたって、風呂に入ったのにもう汗ばんだ肌が見えてくる。
下着が見えると、クロッチ越しにも解るくらいの愛液の香りが鼻に届いて、さらに加速させる。
すぐにでも脱がしたい。桜花の秘所を直視したい。
そんな欲求を内心で必死に堪えながら、桜花の裸体を外気にさらす。
「あ…、あんまり見ないでよ、夢見…」
「ごめんね…。でも、お姉ちゃん可愛い…、うぅん、綺麗だから、つい」
かぁ、と桜花の頬がさらに赤くなった事に気付いて、やっぱり可愛いと内心で思ってしまう。
さぁ、桜花の肌を曝したのだから、自分もそうしないと。
だぶついた日向の服の中で、胸から小さな手を生やし、ボタンを外す。桜花は独りでにボタンが外され、その隙間から見える夢見の胸に、興奮していくのが解った。
「あは、夢見の胸…、あ、んっ」
「ひゃっ! お、お姉ちゃん…」
上着を完全に脱ぎ去らないうちに、夢見の乳房にむしゃぶりついてくる。右手で左の乳房をこねまわし、右の乳房に甘噛みをする。
自分と同じ形の筈なのに、それを愛おしむように、揉みしだき、口の中で吸い、舐め、指で摘まみ歯を立てる。
端々に色を知っているが故の行動が混じるが、それはまるで母の愛をねだる様な、子供にも見えた。
「ひんっ! もう、お姉ちゃんったら…、お返ししちゃうよ?」
「んぅー、ひひぇみひぇ?」
多分、してみてと言ったのだろう。ならば遠慮は不要ということで、夢見は行動を起こす。
両の掌をスライムに変え、右手を秘所に、左手を胸に添え、広げる。
「ひゃっ、つめたっ! あ、でもどんどんあったかく…、夢見の手?スライム?なんか気持ちいぃ…」
両の乳房をと濡れそぼった秘所を包み込み、動かす。陰唇に、膣壁に、陰核に触れて、指でこするように触れながら。
同時に量の乳房も、スライムの中で上下左右に動かし、自分がされていることを返すように、愛していく。
「あん、ぃんっ! んうぅぅぅ!!」
桜花が夢見の乳首を噛んでみれば、スライムが同じような事を、左右同時に返したりして。
右手で零れる愛液を吸収しながら、陰核を摘まんでみれば、媚薬で昂っていた桜花の体は、ずいぶんとあっけなく達した。
「はぁ…、夢見ずるいぃ…。スライムで色々しちゃってぇ…」
蕩けた視線のままに、桜花の手は夢見の手であるスライムへと触れる。体温と同程度の粘体は触れていて心地よく、手と同時に、肌も同時に触られている気分になってくる。
「確かにずるいのはその通りだけど、お姉ちゃんに気持ち良くなってほしいのは確かなの。
だからボクは、自分でできる事をいっぱいやるよ? こんな風に」
「んひゃっ! もう夢見ぃ!」
スライムを少しだけ秘所に潜り込ませ、桜花の口から嬌声と怒声が出るけれど、夢見の手は止まらなかった。
本当に怒る気が無いのは解ってたし、ならばもう少し、という悪ふざけを続ける。
「えいっ」
「ひゃ! くっつかないでよぉ…、ん、んふ、くすぐったい…!」
真正面から抱きつき、肌同士が文字通りくっつく。外側からでは接触面が解らない位に一つとなって、身をよじる度に、少しばかりむず痒さが返ってくる。
達したばかりの、未だ媚薬の火照りが残る桜花の体は、けれどそれだけでも再び燃え上がってきていて。
「ん…っ、んふふ、今度はボクからだーっ!」
その気になればすぐ取れるようにしていたのか、桜花から夢見の融合を解き、キスをする。
「ん、ちゅ、んむ…」
「ちゅ、は、んぁ…、おね、ちゃ…」
「ぷぁ…、夢見の唾液、おいしいなぁ。もっとしようよぉ?」
「…もう、お姉ちゃんったら。そんなに溜まってたんだ?」
「えへ、ボクが自分で気付いてなかっただけみたい」
「…太腿まで垂れてきちゃってるしね」
「あ、ホントだ…、ひゃんっ」
夢見の視線を辿り、桜花が自分の大腿部に視線を下すと、そこには重力に従って流れる愛液の川が存在していた。
新たな道の作製を止めるように夢見が液をなぞり、指先に溜めたそれをぺろりと舐める。
「えへ…、お姉ちゃんの愛液、おいしなぁ。もっとしようか?」
「…もう、夢見ったら。そっちこそいっぱいしたいんだ?」
先の会話をなぞるように繰り返して、笑いあう。互いに体を求める事に異義は無いのだと解り、しかし先ほどとは別の方法を求めている。
ベッドの上に桜花が座り、脚を開いて秘所を見せつけてくる。未だ男の物を知らない、生娘の女性器。
「夢見が美味しいって言ってくれたし、いっぱい舐めて欲しいな?」
「良いの? やった、お姉ちゃん大好きっ!」
「あ、待って夢見。でも…、条件が一つあるの」
「ふぇ?」
許可をもらってすぐにむしゃぶりつこうとしていた夢見を手で留め、桜花は告げる。
「ボクも夢見のを舐めたいから、同時にしよ?」
「うんっ! じゃあボクが上になるから、お姉ちゃんは寝てて良いよ」
条件を聞くが早いが、夢見は桜花の上に覆いかぶさり、姉の眼前に自らの秘所を向ける。
そこも当然の如くに濡れており、室内の明かりを受けて、てらてらと肌に艶を与えている。
「…、れる」
「ひゃん!」
自分と全く同じ形状の女性器を見て、驚き少々、興奮に勝てない大半の理由のもとに、桜花は夢見の秘所に舌を当てる。
少ししょっぱいような、けれど不思議と馴染む味。
「ぴちゅ、んぁ…、んむぅ」
舌を這わせ、もう一度味を知る。鼻を衝く淫靡な臭いと、秘所を割り開けば出てくる愛液。
強く欲してしまい、桜花の口はそこにむしゃぶりついてしまった。
「んひゃっ! あ、んうぅっ! お姉、ちゃ、激しい…!」
先ほど自分がされた事を返礼するように、指を突き入れ膣壁をかき回し、あふれ出る愛液を啜り、舌先で陰核を弄ぶ。
その度に夢見の口から漏れる嬌声が耳朶を震わせ、桜花の内心をさらに燃え上がらせる。
「もう…っ、だったらボク、も…!」
「んうぅ!!」
元々は桜花が望んだのだから、求められていたこと…桜花へのクンニリングスを、反撃の体になってしまったが、夢見が始める。
夢見がされた事を、桜花へ返すように、指を突き入れ膣壁をかき回し、あふれ出る愛液を啜り、舌先で陰核を弄ぶ。
「ちゅ、ちゅっ、んむぅ、あ、はぅ…」
「ちゅる、んむ、れる…っ、んっ」
「あ、んぅ、っふぅ…! もっと、奥、指入れて…」
「どんどん、出てくる…、おいしぃよ…」
同じ声音の嬌声が響き続けている。どちらの声がどちらの物か解らない位に、全てが同じ。
桜花が夢見にしている事を、夢見が桜花にやり返している。指でなぞる事も、舌でなめる事も、唇で啜る事も。一挙一動何もかもだ。
こうしてほしい、こうされたいと望んで姉妹にすれば、それがそっくりそのまま返ってくる。
ともすればそれは、自慰のように見えるかもしれない。きっとそれは、お互いへの自慰なのだ。
「あは…、もっと出てきた…、イっちゃいそうなの…?」
「うん…、そろそろ、キちゃいそう…! ね、一緒に…」
「うん、一緒にイこう…?」
昂り続け、爆発を控えてもなお、示し合わせたように同時に動いて、最後の一押しを求め合う。
小さく口を開け、陰核に吸い付く。強く吸うのと同時に、小さく歯を立てて甘噛みを、一度。
「「んんんぅぅっ!!」」
それだけで、同時に達してしまった。絶頂と同時にあふれ出た液が互いの顔を濡らして、けれどそれさえも舐め取って、余韻と共に味を確かめる。
「はぁぅ…、夢見ずるいよ…。ボクと全く同じことし返すんだもん…」
「えへへ…。でも、ボクの感じてる事をお姉ちゃんにも感じてもらいたかったから…。あ、体動かすね?」
桜花が目を閉じている間に、夢見はシックスナインの為に四つん這いになっていた体を変異させる。
ぐにゃり、と体表面が波打った瞬間に、脚は腕に、腕は脚に変わり、上半身と下半身が入れ替わる。
秘所のあった部分から生えてくるように頭がせり出て、顔だった部分が内側に吸い込まれていき未だヒクつく秘所を形作った。
「…お姉ちゃん、体の火照りは収まってきた?」
「…もうちょっとしたいな。後1回くらい…」
顔同士を突き合わせる形で覆い被さりながら、夢見は桜花の調子を見る。
体力的にはそろそろ限界だろう。何せ今日は、昼にライブ、夕方に人攫いと戦って、知らない場所から徒歩で帰宅したのだ。若いと言っても、慣れない事をしたなら疲れが出るのも当然なのだが…。
それでも、あと1回をねだる桜花に、苦笑いがもれてしまった。
「しょうがないなぁ、お姉ちゃんは…。後1回だね? でも、これが終わったらちゃんと眠る事。良いね?」
「うん…。……えへへ、嬉しいなぁ」
「…お姉ちゃん? また出来るのが嬉しいの?」
願いを聞き入れられて、桜花の頬が緩んだことに、少しだけ不思議になって聞いてしまう。
「うぅん、違うの…。これで、もうちょっと夢見と一緒に居られるって想って…」
「…………」
「終わったらきっと…。うぅん、ボクが寝たらきっと、いなくなっちゃうから…。
せめて、初めての妹と、1秒でも長く居たくてね…」
それが自分の願いだからか。一夜の夢と、制限をつけていたからか。桜花は眠りから覚醒すれば起こりうる事実を、理解していた。
だから、後1回。夢見という妹を忘れないために、後1回。
「…ね、夢見。もう1個我が儘、言っていい?」
「…なぁに、お姉ちゃん?」
白竜だって理解していた事実を、改めて告げられて。ずるいな、と思いながら聞く体制に入ってしまう。
「これが夢であっても忘れたくないから…、抱いてほしいな?」
「……」
潤んだ瞳で、桜花は夢見の顔を見据える。少しの沈黙ののちに、
「…ダメだよ、お姉ちゃん。初めてはちゃんと、大切な人にあげないと」
「ぶぅ、意地悪…。夢見はボクのお願い、聞いてくれないの?」
「そんな訳ないよ。でもね、お姉ちゃんが大事だから、夢で散らして欲しくないのも確かなの。
…だから、これが夢であっても忘れないように…、忘れられない位、すごい事してあげる」
夢見の手首から先がスライム状になり、そのまま桜花の顔を、横から挟み込む。
ちゅるり、と細くなった先端が、耳から脳内に入り込んでいった。
「あっ、あ、あ…!」
「ふふ…、解る、お姉ちゃん…?」
「う、うそ、なに、これ…! 何か、股間が熱い…!」
指先が脳に達し、少しばかり脳内への電気信号を改竄する。
白竜が知っていて、桜花の知らない、男性が性欲を感じた時の信号を制作するように。
「は…っ、激しい、よぉ…! すっごい、ムラムラする…! 何か、勃っちゃってるような…」
それは桜花の中に、男の性欲と感覚を教え、股座に存在しない男性器を想起させていた。
もし男性器が存在すれば、それは痛いほどに勃起し、先走りを滲み出させていただろう。桜花の知らない男の性欲は、強く彼女を、もう一度昂らせる。
「ど、どうしよ…、夢見を見てると、すっごい、犯したい…!」
「ふふ…、お姉ちゃん…。いいよ、ボクの事を忘れないように、いっぱい犯して…?」
脳から耳からスライムを抜いて、手を元の形に戻し、夢見はベッドに転がった。体を隠さずしなを作り、二の腕で胸を挟んで強調して、男性が興奮するように。
「うん…、うん…!」
先ほどとは異なる、餓えた視線で桜花が夢見の上に覆いかぶさる。その手が夢見の秘所に触れて、ぺちょ、と音を立てた。
「ん…っ!」
「…夢見の、こんなに濡れちゃってる…。やっぱり、おいしいな」
指に着いた愛液を舐めとりながら、桜花は夢見の大腿部に手をかけ、押し開く。
濡れそぼり、物欲しそうにひくついているそこは、殊更に桜花の“男”を刺激してきた。
「…ね、夢見。…ボク、我慢できないから、シて良い…?」
「うん…、ボクもだよ、お姉ちゃん。お願い…」
互いの脚を広げ、女性器同士を近付ける。入れられる物があるのなら入れたいが、それは無いと理解しているからこそ。
自分の秘所を自分で広げ、水音を立てて接触させる。
「ん、んぅぅ…!」
「はぁ、あ、んぁ…!」
股間部分の熱が触れ合い、嬌声がもれる。それ程までに初めての行為は熱く、2人の体内を焦がしていく。
「ん…、んぅ…! 夢見のあそこ、熱いよぉ…!」
「お姉ちゃん…! お姉ちゃんのも、すごい熱い…!」
「どうして、かなぁ…。ボク、夢見にこんなに興奮してるから、かなぁ…!」
「そうだよ…、男の性欲って、激しいんだから…。それに…、“ボク”の体、綺麗でしょ…?」
ごくり、と唾の嚥下する音が聞こえる。桜花の口元から、たらりと一筋の涎が落ちたのは、肯定か、はたまた口で呼吸するために閉めるのを忘れてたからか…。
秘所同士を密着させたまま、桜花の手が夢見の胸へと伸び、小さな手で大き目の胸を掴む。
「うん…っ、うん…! 夢見の体、すっごい綺麗…! もう、夢見ったら悪い妹だよ…、ボクをこんなに興奮させちゃってぇ…!」
「あ、んっ、んぅぅ! おね、ちゃん…、胸、痛い…っ」
「ごめんね、夢見…、ごめんね…っ、でも、止められないよ…!」
柔らかい乳房を握るように揉みつぶしながら、桜花の腰の動きは止まらない。
完全に離れないように上下に動かし、密着感を高めるように左右に動かし、下の口だけで行う性行は、本来の用途では無い。
けれどそれが故に淫靡であり、同じ姿の2人を一つにしている。
「も、う…、やったなぁ…っ!」
「ひゃん…っ、んふ、ボクのおっぱいも、夢見に…、あんっ!」
お返しというように、夢見の手も桜花の物へと伸ばす。乱暴に揉んでくる桜花と異なり、優しく性感を突いてくる動きは、桜花の動きをさらに激しくさせる。
「あ、んぁ、ダメ…っ! ダメぇっ、ボクが夢見を抱いてるのに、変だよぉ…っ、ボクも、夢見に抱かれてるぅ…!」
「良いよ…、それでいいの…! ボクがお姉ちゃんを抱いて、お姉ちゃんがボクを抱くの…!
どっちも本当なんだよ…、お姉ちゃん…?」
夢見が迎え腰になり、桜花の動きが加速するたびに、主導権がどちらにあるのか曖昧になっていく。
桜花が夢見を抱きしめて犯し、夢見が桜花を抱きしめられて犯す。
それが今この場の全てであり、2人の繋がりである。
けれど、その終焉は近づいていた。
「あっ! あっ! ダメぇ…、我慢したい、のに…! だめぇ、イっちゃう…! ボク、イっちゃうのぉ…!」
「んぅぅ…! ボクも、一緒に…っ、お姉ちゃん…、お姉ちゃんとぉ…!」
「やだ、やだぁ…、夢見ぃ…! 夢見と離れるの、ヤだぁ…!」
「…っ!」
行為と、夢の、終焉が近づいて。
(…ボクも、ヤだ…。お姉ちゃんと離れるのは…。…でも、ボクは…、“俺”は…)
彼女は大鐘夢見であり、実際は辻白竜であり、本質はウルティマであるからこそ。
終わりを惜しむように、忘れないように体の熱を分かち合いながら。
止められない体は、しかし確実に終わらせるように体を高ぶらせ続けて、
「「あっ! あぁ…っ、あぁぁぁぁ…っ!!」」
まるで子供のように、4つの眦に涙を溜めながら。
夢の終わりを告げるように、2人は絶頂に達してしまった。
* * *
深夜、桜花の自室。
せめて桜花が眠るまでは、と願い、2人は抱き合って寝ていたけれど。
「…ごめんね、桜花ちゃん…、お姉ちゃん…」
目を見開いた夢見は、その形を崩してスライムとなり、桜花の身を包む。
行為で浮かんだ大量の汗と、体内に蟠る疲労物質を喰らい、清めてから。脱ぎ捨てられた下着やパジャマをその身に着せていった。
ベッドの上に飛散した体液も、桜花の中に残るスライムも吸い取って。
脳内の電気信号も正常化し、しかし記憶はいじらないで。
全てを正常に戻してから、改めて桜花をベッドの上に寝かせる。
「……、別れたく、ないな…」
夢見の姿になりながら、桜花の寝顔を見下ろすと、ふと涙が出てきそうになるけれど。
本体からの信号が呼んでいる。行かなければ。
「…じゃあね、お姉ちゃん」
一度、桜花の額にキスをしてから、夢見はドアの隙間を潜って大鐘家を後にした。
「もう行くのか?」
「…っ!」
敷地の外に出た途端、不意に声をかけられそちらを見やる。そこに立っているのは、日向だ。
「…えぇ。桜花ちゃんには家があるように、俺にも帰らないといけない家がありますから」
「そうか。帰りは遅くなるか?」
「え…?」
この人は何を言ってるのだろうと、白竜は首を傾げた。自分の帰る家はここではないと、言葉も変えて主張しているのに。
「…失礼ですけど、日向さん。…あなたも知ってるとおり、俺は辻白竜です。大鐘夢見じゃありません。だから…」
「ここに居続けられない…、と?」
言葉を取られたけれど、その通りだ。
それ以上を続けられない白竜に対し、日向は一つため息を吐く。
「君が辻白竜だというのは承知している。…だが俺は、その上で君を、『大鐘夢見』を妹として迎え入れた。
その事実は変わらん事だけは理解してくれ。…それだけだ」
言いたいことは、分かる。理解できない程に頭の回転が鈍くは無い。
言いたいことを終えて家の中へ入っていこうとする日向は、一度夢見の方を見て、
「それじゃあ夢見、お休み。…早く帰ってこいよ?」
それだけを告げて、扉を閉めた。
大鐘家の鍵は、かけられなかった。
【攻撃を受けたのでどうするか】
>1.攻撃された仕返しにエロいお仕置き 2
>2.未熟を見抜いて特訓させ、実力と自信を付けさせる 1
3.殺しはしないけど退魔師として再起不能にさせる
Choice4、後編へ続く。
////////////////
Extra Choice
安月美和&西東柊羽の、その後。
安月美和は憤慨していた。
謎の怨念とか何かの力で、柊羽へ色々ヤってしまった後、ここ一月位は自分を気遣ってくれたりしたのだが…。
最近になって、柊羽の女癖の悪さが再発したらしい事を、友人のネットワークから仕入れてしまった。
「柊羽ちゃんへ。お話があるので、部活後で家に行って良いですか? 送信…っと」
内心、帰ってこないだろうなと思いながらメールを打ち、待つこと暫し。
返ってきた内容は了承を示していて、大体の時間も記載されていた。
「…あれ、てっきり…」
素気無く返されるかと思っていたのに拍子抜けしつつ、さらに了承の返事を打って暫し。
1人暮らしをしている柊羽の自宅に、美和は居た。
「柊羽ちゃん? 浮気してるって話を聞いたけど…、どういう事なの…?」
「あぁ、した。そこはホントだ。1年の五木って子で、遊び慣れてる奴だったよ」
「……、どうして…?」
少し、胸が痛む。一月程とはいえ優しくされたが、この仕打ち。もしかしたら飽きられたとか、自分は捨てられるのではないかと思い、胸が痛む。
目に涙を浮かぶのを堪えながら、柊羽の言葉を待っていると、出てきたのはとんでもない言葉だった。
「……美和に、お仕置きされたかったんだ」
「…え?」
「だから、お仕置きだよ…。…実はさ、前に美和が俺を思い切り犯した時があっただろ?
美和の表情も、女としてされた事も…妙に思い出されてさ…、またされたいって、思うようになっちまった…」
「……はぁ…」
出てきた涙が引っ込んで、美和は思わず目を丸くしてしまう。
「それにさ、前に女同士で出掛けた時あっただろ? 美和に引っこ抜かれた時…、めちゃくちゃ、良かったんだ。
女になるのも良いかなって思えるぐらいだよ」
「……うん…」
「でも、普段の美和はそれをしてくれねぇだろ? だったら、どうすればやってくれるのかずっと考えてたんだ」
「それが、浮気だったの?」
「あぁ。もし俺がまた浮気をしたら、美和はきっと怒って、引っこ抜いて犯してくれると思ったんだ。
頼む美和! 浮気した俺に罰を与えてくれ!」
そこまで言って土下座する柊羽に、美和は内心頭を抱えてしまった。
どうしよう、あの時の夜は柊羽にとんでもない痕跡を残していたようだ。主に取り返しのつかない方向性へ。
「…あ、あのね、柊羽ちゃん?「それだ! アレからずっと美和のちゃん付けも、俺の中の女を刺激するんだ!」あぅ…」
何がまずかったのだろうと思いながら、頼むと連呼し、平身低頭する柊羽を見る。
「あの、その…、解ったよ、柊羽くん…。取ってあげるから、お仕置き、してあげるから…」
「ホントか!? じゃあさっそく頼む!」
快哉の笑みと共に立ち上がり、逸物をまろび出させる。期待と興奮とで、すでに先端からは先走りが染み出ていた。
(あぁもぉ! 何でこんな事になっちゃったのー!?)
あの夜以来、可能になっていた「“柊羽自身”の着脱」。何度か試して要領こそ得ていたものの、最初からフル勃起状態で抜くのは初めてだった。
熱く聳える勃起に手を添えて、引っこ抜く。
「えいっ!」
「んおぉっ!」
ちゅぽんと音を立てて逸物が抜けきり、柊羽の股間には濡れてひくひくしている女性器が残った。
浮気防止用として、無くても柊羽の肉体は男の物を維持している。完全に変える為には、柊羽の“男”を女に突き刺さねばならない。
意を決して睾丸を握り、硬いままの陰茎を柊羽の中に突っ込む。
「ふぉおっ! はは、入って、んっ、変わるぅぅ、俺が、変わってくぅ…!」
自分の物を、本来とは異なる形で返されて。物欲しそうにしていた口に要望通りの物を突き込まれて、柊羽が嬉しそうに女へなっていく。
厚い胸板は柔らかく膨らみ、筋肉に包まれた脚は細く、逞しい腕が頼りなく。
腰は細く括れ、臀部が丸く、顔も小さく美しいと言える容貌に変わっていく。
変化にかかる時間は短かく、西東柊羽はあっという間に男から女へと変化してしまった。
「は、ぁ…、美和、頼む…、お仕置きしてくれ…」
股間に自らのモノを差し込んだまま、上気した顔で柊羽が美和を見上げてくる。
それは笑いたくなるほど扇情的で、呆れたくなるほど退廃的でもあって。
とはいっても、どうして良いのか解らずに、悩んだ結果告げた言葉は、
「…じゃあ、柊羽ちゃん。お尻叩いてあげるから、こっちに向けて?」
まるで子供のお仕置きの、尻叩き。
柊羽がおずおずと臀部を向けると、見えるのはひくつく菊座と、咥え込んで涎を垂らし続ける秘所。
「……、…」
(今からお尻を叩くんだ…、柊羽ちゃんの、まぁるいお尻を…)
待ち望むように尻を振る柊羽を見て、美和は生唾を飲みこむ。
今目の前で揺れている“女”は、自ら説教されるのを望んでいるけれど、それでも確かに浮気をしていて、彼氏の行動を彼女として咎めなくてはならなくて…。
ぐるぐると思考が混乱し、纏まらなくなっていく。艶を含んだ吐息を吐かれ、今か今かと待ち望むような視線を向けられた瞬間、
(えぇい、もうどうにでもなれぇ!)
手を振り上げて、平手を臀部へ叩きつける。
ピシャァン!
「ひぃっ!」
思った以上に大きな音が鳴り、合わせるように柊羽の喉から悲鳴が漏れた。
ぞくり。
そこからワンテンポ遅れるように、美和の背筋を駆け抜けるような、えもいわれぬ感覚が奔る。
(…あれ? 何だろう、この感触…。柊羽ちゃんのお尻が柔らかいのは確かなんだけど…、それよりもっとこう、感じ入る様な気がする…)
「あ、ぃひ…、美和…、も、っと…」
叩いた手は痛くて、柊羽の白い肌にはっきりと残る手の跡が痛そうで、この感覚は解らなくて、でも柊羽は望んでいて。
思考がさらに渦を巻く。混乱の坩堝が深さを増して、美和の思考を巻き込んで奈落へと寄せていこうとする。
もしここに、誰か別の人間が居たらおかしい事に気付くだろうが、今この場には二人しかいない。
手を振り上げて、勢いよく、インパクトの瞬間に手首のスナップを利かせ、叩きつける。
ピシャァン!
「んいぃっ!」
ピシャァン!
「うひぁっ!」
ピシャァン!
「ふぁぁっ!」
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
ピシャァン!
何度も、何度も叩く。一発ごとに柊羽の口から悲鳴が漏れて、尻が赤くなっていくけれど。
それをまるで悦ぶような声音で叫び、秘所から漏れる愛液は溢れ出る歓喜を示すように量を増していく。
そして同時に、
「ひゃ、ぁ…、はぁ…、いた、でも、美和の手…、きもひ、いひ…」
(…、あぁ、…そっか、そうなんだ…)
ベッドに倒れ伏している柊羽を、その蕩けた顔を見下ろしながら、美和に一つの確信が芽生えた。
(柊羽ちゃんにお仕置きすると…、こんなに気持ちいいんだ…!)
このシチュエーションに、間違いなく興奮している。それは過日に初めて柊羽を犯した名残だった。
美和の体内に白竜が侵入したこと、内部に存在する“強制的を好む人格”を用いたことと、その行為の記憶。それらは確実に彼女の内部に残り、技術や性癖として根を下ろしていたのだ。
一つ一つが重なり合い、目の前でお仕置きを望む柊羽と、美和の内部での悦楽が、新たな花を芽吹かせていく。
「どうしよう、もう止まらないかも…!」
心臓が高鳴り、下着の中で秘所が濡れる。ぐちゅぐちゅする、気持ち悪くて気持ちいい。
下半身だけ裸身を晒しながら、柊羽の内部に残る柊羽のモノを引き抜く。
「んひぃっ!」
「ねぇ柊羽ちゃん、お尻ペンペンしてるのに何でここは大洪水なの?
気持ち良くなってちゃダメじゃない、これじゃお仕置きにならないじゃない…!」
「だ、って、美和の手が…」
「だってじゃないでしょ? …解ってないんだよね、柊羽ちゃんは。だからこんなにはしたなく悦べるんだもんね?
それじゃあしょうがないなぁ、もっとお仕置きしてあげる! 今度はお尻じゃなくて、おま○こに直接!」
柊羽の腰を持ち上げ、自らの腰にモノを取り付ける。あの時の乱暴で強引な欲望に再び火が着き、新しい欲望という油の元に、大火となっていく。
挿入はすぐだった。洪水となり、絞める事さえ忘れかけている膣内に、痛いほど勃起した肉棒が突き刺さる。
「あ、は、んあぁぁ…」
「…あれ、柊羽ちゃん? 私が挿入したのに、中がゆるゆるだよ? 締めようよ、私を気持ち良くしようよっ。ねぇ?」
「おほぉぅっ! す、すぐ、するからぁ…」
深く挿入したけれど、蕩けた膣内はゆるくなっている。物足りないと思いながら子宮口を押しこむと、応えるように膣内が肉棒を包みこんでくるけれど、それでもまだ足りない。
「ど、ぅ…?」
「…全然、足りないっ!」
ピシャァン!
「んひぃっ!?」
「あ…、ふふ、お尻を叩くと、ちょっと締まったよ、柊羽ちゃん? そんなに良かったの?」
「そ、じゃ、な…、ビックリ、しひぇ…」
「えいっ!」
ピシャァン!
「ふひゃっ!」
「ふふ…、やっぱり! お尻を叩かれたら締めるなんて、柊羽ちゃんったらぁ…!」
自らの行為に喜び、柊羽の腰を掴んで美和は抽送を始めていく。
緩い膣内でも、最奥を突くと同時に尻を叩くと、先走りが溢れてしまう程気持ち良く締まる。その度に柊羽は悦ぶ悲鳴を上げて、耳も肉棒も、両方の意味で美和を愉しませる。
「こんなに…!」
ピシャァン!
「んあぁ!」
「えっちで…!」
ピシャァン!
「ひぃっ!」
「みだらで…!」
ピシャァン!
「んうぅっ!」
「ドMな柊羽ちゃん…!」
ピシャァン!
「ふぁっ!」
「大好き!」
ピシャァン!
「あひゃぁ!」
「とろけたおま○こも、だらしない口も、男の子なのに抱かれるのが大好きなのも、全部全部大好き!
いっぱい苛めてあげるから! 男の子に戻りたいなんて、言いたくなくなるぐらい!
女の子としての快感、全部教えてあげる! おま○こも、お尻も、口も、おっぱいも、おへそも腕も脚も指先も!
あ、んっ、出るっ! 柊羽ちゃぁぁぁん!!」
「んやぁっ! 美和、いたっ、あひ! 手が、おち○ぽが! 美和の、俺のぉ! 奥突かれて、お尻叩かれてぇ!
いひよぉ、いた気持ちいぃよぉ! もっと俺のお仕置きしてぇ、もっと奪ってぇ!
女の快感、教えひぇぇ! あっ、中で膨らんで! んひぃ! も、ぉ…っ!
美和、美和ぁ…! お、おほぉぉぉ…っ!!」
互いに互いの名を呼びながら、美和は柊羽の体内に欲望の白濁液を叩きつけ、今回の絶頂の証拠を、一滴残らず注ぎ込む。
奥を狙うように胎内へ、刻み込むようにその奥へ。
そして自らのモノに貫かれ、自らのモノが吐き出した精液を、柊羽は自らの子宮で受け止めていた。
絶頂と共に注ぎ込まれ、それが明確な快楽として、二度と逃れえぬように刻み込まれていくのを、実感しながら。
* * *
「んも…、ぴちゅ…、ちゅ、ぷ…」
「ふふ…、そう、柊羽ちゃん。ちゃんとカリ首の裏側に舌を這わせて、綺麗に舐めとってね?」
「あぁ、ふぁう…、もむ、ぢゅる…っ」
男女の逆転し、今後の位置を決定づけた行為を三度行って後、美和は未だ萎えぬ肉棒を柊羽にしゃぶらせていた。
喜びと堕落の涙を流しながら、柊羽は元々自らのだったモノを口に含み、愛おしそうに舐め回している。
その行為を悦びながら、美和は柊羽の頭に手を添え、撫でた。
「柊羽ちゃん、良い子…。学校を卒業するまでは男になってもらうけど、好きにしていいからね。悪いことしたら、またお仕置きしてあげる。
卒業したら…、ずっと女の子のままだよ。お仕事は私が頑張るから、柊羽ちゃんはずっと家に居てね?
あ、でも柊羽ちゃんには体で稼いでもらうのも良いかも…。そうしたら浮気だね、その時はまたお仕置きしてあげなくっちゃね。
…んっ、出るぅ!」
身を震わせ、また射精をする。残らず口内に注ぎ込んで、飲ませてからもう一度“お掃除”をさせる。
柊羽の肉体が女になっても、いや女になったからこそ、こうして愉しむ事が出来るのだ。
安月美和は確かに西東柊羽を好いている。いや、愛している。その方向性が例え通常のカップルとは異なっていたとしても。互いに20歳を越えたら、柊羽の肉体が女のままでも戸籍が男なので結婚しようとも思えるほどに。
たくさん苛めて、たくさん教えてあげよう。女の肉体が伝えてくれるメスの悦びを。
「柊羽ちゃん、お掃除はもういいよ。…また突っ込んであげるから、お尻向けて?」
「あ、あぁ、解りました…」
「ふふ、いい子。…柊羽ちゃんのおま○こに、私のおち○ぽの形を教え込ませるぐらい犯してあげる。
ん、あぁぁ…」
そうして、美和の肉棒が再び柊羽の膣内へ潜りこんでいく。
歪んだ睦み合いは、夜を徹して続けられていく。
これからも、きっと…。
/////// ///////
大鐘桜花&夢見の、その後。
「はい、お姉ちゃん。チョコだよ?」
「わっ、何処にしまってたの? でもいただきまーす♪」
「持ち物検査で見つからないよう、ボクの体内にね」
「ん、おいしー♪」
「明日はライブのリハーサルだね…?」
「うん。それで明後日が夢見の…、僕たち姉妹のデビューだね」
「…僕たちが会ったのも、もう3か月前だっけ」
「え、もうそんなに経っちゃったっけ? どうしよ、時間が経つの早いよ夢見!」
あの後、本体との情報交換を終えた夢見は、本体の了承を得た上で、桜花が起きる前に“帰宅”していた。
最初は夢見が居る事に驚いた桜花だが、すぐに飛びついて大泣きし、喜んでくれた。
ほんの少し戸籍を弄る事になりつつも、大鐘夢見は「大鐘桜花と生まれた直後に生き別れた双子の妹」という形で、学校などに受け入れられた。
当然のことながら、桜花が夢見の事を事務所でも言わない訳がなく、すぐにマネージャーの目に留まったりもした。
「ホントにそっくり…。…ここまで似てるなら、使わない手は無いわね! 夢見ちゃんだっけ? あなた、お姉さんと一緒にアイドルしてみない?」
との言葉と、何故か桜花が二つ返事で代理了承してしまい、デビューすることになってしまったのだ。
「確か最初、歌とダンスはあんまり出来ない設定にしてたんだよね?」
「うん。姿はともかく、技術的な部分も何もかもお姉ちゃんと全く一緒、っていうのは逆に怪しいからさ」
「でもボクの中に入ってたから、全部知ってるわけで」
「それでもちゃんとレッスンは受けたでしょ? 記憶から知る事と体感する事とで、あんなに違うのは驚いたよ」
「唄うための呼吸法ってのもちゃんとあるからね。夢見は最初、そこが出来なかったっけ…」
「そこはちゃんと頑張ったよ。でないと、お姉ちゃんと一緒に立てないもん」
「努力の甲斐あったね。…やっぱり白竜さんは真面目だなぁ」
「もう、お姉ちゃんったら…」
こうして姉妹として過ごす事になっても、不意に桜花は夢見の中に「白竜」の存在を見ている。果たしてそれが良いのか悪いのか、一概に答えは出しにくいだろう。
「大鐘桜花の妹である夢見」を形作り、同時に根底に存在しているのはやはり紛れも無く「辻白竜」であるからだ。
不可分であるが故に、それもまた仕方ないなと考えるのも、無理からぬことかもしれない。
チョコ菓子の箱内に存在する、2つの袋。その1つ目を食べ終えた頃に、車内アナウンスが流れ出した。次に停車すると告げられた駅名は、自分たちの所属する事務所がある駅。
「あ、そろそろ降りなきゃ。お姉ちゃん、2つ目開けちゃだめだよ?」
「わかった。…とけちゃうの嫌だから、夢見の中に入れてもいい?」
「しょうがないな、お姉ちゃんは。…ここに入れてね」
「…胸の間に挟むのは、傍から見るとえっちぃね」
制服の襟首を広げて桜花に見せた胸元に、チョコ菓子を差し込む。体内に入り込んだ菓子は、融かされる事の無いままに夢見の体内で保存されている。
体内に隠される事は、服による遮蔽で見えることは無く。横目で見ている人は「そこで良いのか?」というような、少しだけの疑問を抱くだけだった。
事務所内での話し合いは、さほど時間がかかる物ではなかった。いつもと同程度の、小さなライブ会場でのこと。事務所に来たり移動なりの時間の事や、舞台本番の事。
それらの再確認、という意味合いが強かった。
「それじゃあ2人とも、明日と本番は頑張ってね。夢見ちゃんはデビューなんだし、桜花ちゃんが助けてあげるのよ?」
「勿論ですよ。なんたってボクは、夢見のお姉ちゃんなんですから」
「頼もしい返事ね。…夢見ちゃんが来てから、前よりもっといい顔してるわ」
「えへへ、そうですか?」
「そうよ。…これならいろいろ、心配なさそうね」
桜花とマネージャーとの会話を横で聞きながら、夢見も笑顔で2人を見ている。
辻白竜の一部であり、ウルティマの一部であるのは変わらないが。それでもここまで、今までの経験で知る事の無かった世界に心躍らせている。
分体に魂は存在しないが、擬似的に作り上げた心臓が興奮で高鳴っていく。自然と頬に力が入り、意志を込めた笑みが漏れた。
「よーっし、やるぞー…! 明日も明後日も全力だー!」
「あっ、夢見がやる気だ! それならボクも、全力だー!」
立ち上がり、大きな声で気概を叫ぶ。
テナントビルの中は少し騒がしいと思ってしまうけれど、それでもこの考えは止められなかった。
* * *
深夜2時、大鐘家。
「……」
部屋の外に忍ばせながら近づく足音に気付いて、夢見は目を覚ました。
(この足音、昴流兄ちゃんだな…?)
大鐘家の人間には、日向の口から「夢見が本来はスライムである」ことを告げられ、周知の事となっている。
勿論、それを信じさせるために父兄の前で姿を崩し、震えながらも必死に悪いスライムではない事を訴えたりした。
その甲斐あってか、今では夢見である事が認められ、しかし時折スライムである事も求められている。
具体的には、様々なエロい方向性で。
おーい夢見ー…、起きてるかー…
扉越しに聞こえる囁き声を拾い、呼ばれていることに気付いた。桜花の抱き枕状態から体を崩して液状化、扉の下から這い出る。
人形は取らずに、足元に蟠る
「どうしたの、昴流兄ちゃん…?」
「夜遅くにごめんな夢見、どうしても頼みたいことが出来てな…」
「…解ったよ。お風呂場に行こうか」
話を聞かれないために場所を変え、引き続き足音を殺し歩く昴流を先導しながら、先に風呂場に到着する。
程無くして、昴流も風呂場にやってきた。
「それで、頼みたいことって何なの? お父さんとか大樹兄ちゃんみたいに、体を変えてみるとか?」
「いや、違うんだ。…明後日のライブの事で一つ聞きたい事があってな、それを話してほしい」
「もしかして…、枕の事?」
「…やっぱり気付いちまうか」
芸能界というのは欲望の巣窟だと言う事は、噂程度でしかないが聞き及んでいた。白鳥のように表面は優雅に、しかし水面下では大きくもがいている。
表面に出る部分が華々しく煌びやかであればある程、その水面下はどれ程までに醜悪なのだろう。
昴流はフリージャーナリストとして仕事をしており、桜花の家族である事もあって、妹の記事を書く際には所属事務所に取材費の足元を見られている。
兄でさえこうなのだ、ライブという舞台の矢面に立つ桜花と夢見が、様々な下準備の元に結実した「表に出る」という代価の為に、どれほどの見返りを求められるか。下衆な想像をすれば、思い当たるのは少ないだろう。
「…1か月前の6日金曜日、あったよ」
「マジなんだな?」
「うん。でも平気だよ、昴流兄ちゃん。お姉ちゃんに手は出させてない。全部ボク1人でやってたからさ。それに…」
「ストップだ。…それ以上は聞かねえよ。そういう事があったって事と、桜花が無事だってんなら言う事はねぇ。…あんがとな、夢見」
「どういたしまして、かな。…ボクだってお姉ちゃんが汚されるのは嫌だしね」
「ホントは夢見にも汚れて欲しかぁねえんだよ。そこん所は、解かってくんねぇかな?」
そういって昴流は少しだけ、ばつの悪そうな顔を向けてくる。
大鐘夢見としてこの家に入り、すでに3か月。兄たちが自分へ向ける視線は、その殆どが桜花へ向けるものと変わらない。妹が愛しくて大切な、お人よしたちの視線。
自分は幸せ者だ、と思い、思わずはにかんでしまう。
「どしたんだよ夢見、いきなり笑って…」
「うぅん、何でもないよ。…昴流兄ちゃん、ありがとっ」
そっと、昴流の腕の中に夢見は抱き着く。日向の匂いとはまた異なる、男らしい匂いを胸に吸い込みながら抱き着く動きは、年上に甘える子供そのものだった。
昴流に抱きしめられて暫し。すぐに離れて向かい合い、また笑う。
「それじゃあ昴流兄ちゃん、“変わって”みる?」
「いや、興味はあるけど後日にしとくな。2人の晴れ舞台を邪魔する訳にゃいかねぇしな」
「そうは言っても、ボクの体に疲れとかはないんだよ?」
「それでもだ。身体じゃなくても心が疲れたら、どうしようもねぇだろ。早く寝た寝た!」
「はーい」
せっかくのお誘いも、昴流の気遣いによって推しとどめられる。
大鐘家の人間は、やはりお人よしであり人間が出来ている。本来なら誘惑に耐えられないだろう、スライム娘・夢見の言葉にも負けず、逆に夢見の身を案じている程なのだから。
そしてそれを無碍にするだけの考えは、夢見の中には既に存在しなかった。
「それじゃ昴流兄ちゃん、お休みなさいっ」
「あぁ、お休みな、夢見」
液状化し、桜花の部屋に、寝ている桜花の腕の中に戻る。
腕の中から妹が消えていた事にも気づかないくらい、静かに寝ている桜花の寝顔は、何も不安はない、と言わんばかりの表情だ。
頬に一度口づけをして、寝ている桜花へ微笑みかける。
「…ボク、明後日は頑張るよ、お姉ちゃん。2人で一緒にスポットライト浴びようね」
「…ぅん…」
帰って来る筈のなかった桜花の言葉は寝言のそれであったけれど、それは確かに、夢見への答えだった。
桜花は夢見を、夢見は桜花を、ぎゅっと抱きしめて。
そして意識を落とし、疑似的な眠りに落ちる。
明後日、大鐘桜花・夢見は姉妹ユニット「チェリー・ブロッサム」として初ライブを飾る。
例え夢見は人間でなくとも、その裏に欲望が渦巻いていようとも。
誰に恥じることなく、凛として咲き誇って。
普通の人間として仲良く恋人との仲を育んでいく事を願っていましたが、やはりあのような体験と人格を弄られただけに無理でしたね。
桜花ちゃんと夢見ちゃんのエピソードが良かっただけに、白竜の実験の犠牲になった2人が哀れに感じました。
>24様
こうなってしまいました。後日談は単純に、「こうなるだろうなぁ」と考えたものを書いた結果です。
ここに至るまでの選択肢を選んだ読者方への責任転嫁はせず、完全に自分の考えで書きました。
無知は罪と言いますが、知らぬが仏とも言います。…真相は知らない方が美和と柊羽、そして白竜にとっても幸せなのかもしれませんね。
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