その11 これも僕の仕事(とその余波)
「お疲れ様です、高瀬さん。これで全工程終了でーす!」
「はぁ、ようやく終わったのか…。っくしゅん!」
「おーい、高瀬先輩が冷えてるぞっ。風邪引かすなー? タオルとあったかい飲み物持ってこーい!」
「高瀬先輩、タオルです。体を拭いて早く着替えましょう?」
「そうそう。こら男ども、あんた達は仕事に戻る!」
「いや、根っこは僕も男なんだけど…、だ、大丈夫だから、1人で行けるよ」
水を張ったバスタブの中に浸かった状態で写真を撮り続けられれば、流石に体が冷え切ってしまった。
青色のカラーコンタクトを外し、着替えの為に女子社員に連れられて、更衣室へと向かうが…。
さすがに妻以外の女性と一緒に更衣室に入ると、変な気分にならないとは言い切れないので、そこは丁重にお断りして1人で着替えることにする。
さて、僕が何をしていたのかと言いますと。一言で言えばCM撮影だ。
僕の勤務先である化粧品会社は、当然生き残るために新商品を作っては売り、それを利益にする。
その販売を効果的にするのは、チラシや口コミの他、テレビが普及して以来続けられているコマーシャルであり、自社もそれを行っている。
…しかし今回、契約しているモデルの人達が急激な気温の変化によって体調を崩してしまいドタキャン発生、広報課は大慌て。CM撮影の日程は間近だが、突然すぎるので代理も手配できず。
まさか化粧品単品を流すわけにもいかず、あわや撮影は頓挫…。というところまで来かけたのだが。
「高瀬くん、あなた、モデルやりなさい」
という社長の鶴の一声があり、急遽僕がモデルとなってCM撮影をすることになった。
ちなみに社長はオカルト方面に明るい人であり、社長室には運気増進の風水グッズが置かれてる。僕、というか高瀬家の体質のこともオカルト系何でも屋(社長いわく霊能探偵)に調べられており、社長の耳に入ってた。
当然それを知られたときには驚いたけど、社長は僕に体質の真偽を問うたその日、わざわざ家まで足を運んで父さんやお祖父ちゃんに話を聞きに行ったほどだ。
アグレッシブな人だ、と感心する傍ら、あの行動力が何か厄介事を呼び込みやしないかと、ほんのり不安になってくる。
場面は現在に戻って。
今日の仕事は撮影だけで終了し、既に帰途についてる僕と、同期の友人・円谷。
広報課に配属された者であり、社長直々に僕のケアに回るよう言われたのだ。当然僕たちの体質も知っている。というか広報課の人員殆どには必然的に知られた。
父さんが隠し続けてたこと、あっさりと広められた気がしてならない…。
「っくしゅ! …やっぱり僕も風邪引くかもしれないなぁ…」
「大丈夫か、高瀬? お前まで倒れられたら、モデルがいなくなるんだからな?」
「それは解ってるよ。でもさすがにアレは温水を張ってもバチは当たらないと思うんだ…」
「そりゃ確かに。今日も空気が冷たいからな…」
本来はそうするべきなのかもしれないけれど、広報課とCM製作会社との協議の結果、ああなってしまったわけで。見栄え的にバスタブから湯気が立ち上るのはNGらしい。
妥協しない姿勢はすばらしいと思うけれど、その冷水にさらされるのは人体である事は忘れてほしくないような気がしてた。
「おい高瀬、アレアレ」
「…何、円谷?」
円谷の方を見ると、彼は無言である一方を指し示していた。
その先にあるのは、いわゆるスーパー銭湯。まだ昼間という早い時間でありながら、既に店の扉は開かれている。
「これ以上冷える前に一度しっかり温まって、ついでに軽く食っとこうぜ?」
「え、いや、いいのかな? まだみんな仕事してるし、ホントなら僕も営業に行きたいんだけど…」
「冷えた体で無理したら行くところにも行けねぇし向こうにも迷惑だって。しっかり仕事するためには、自分の体が何よりだ。奢ってやるから行くぞ、ほれっ」
「わっ、たた…!」
背中を叩かれながら、半ば強引に店の中に連れ込まれる。
「はふ…」
安堵の溜息が漏れつつ、体が巨大な湯船に浸かる。勢いに押されて結局NOと言えず、円谷と一緒に入ってしまった。
何とか譲歩してもらった事といえば、奢るのを入場代までにした所だろうか。食事代も奢ると言い出したので、そこだけは意地でも遠慮しておいた。
「ん、はぁ…っ! 昼間に入る風呂ってのも良いモンだなぁ…、俺たち以外に誰もいないから、誰に気兼ねすることもねぇし」
「そうだね…。逆に、こんな時間に入ってて良いのか、って疑問が出てくるけど…」
「っかー、またかよ高瀬。もう入ったんだから観念してゆっくりしとけって」
すぐ横で入ってる円谷が、肩に手を回してくる。大雑把なのが良いのか悪いのか…、少なくとも気にしすぎる僕とでは、それなりに良い関係なのかもしれない。
「…それにしても…」
「ん、どうしたの、円谷?」
「いやぁ…お前の体があんな風になるのが、つくづく不思議だと思ってな…。な、変わるところ見せてくれよ」
「はっ? 何言ってるのさ、場所考えてよ!」
「その場所が場所だからだよ。考えても見ろ、今は俺たち以外誰もいない。入ってくるかも怪しい、そして今は俺たちだけだ。…気にすることはないだろ?」
「とは言っても…、男の体をじっと見てて楽しいの?」
「高瀬が変われば女だろ? なら俺は楽しい、俺が楽しい!」
「そういう問題っ? …っていうか円谷、また振られた?」
ビシッ。
そんな音が聞こえた気がした。
「…………わりぃかよ、そうだよ、また振られたよ!チクショウ、これで15人目だよ…っ!
この前の彼女とはえろいことする前に別れちまったよ…、俺はまだしばらく右手が恋人だよ…!」
「…………」
この円谷という男は、確かに気のいい相手ではある。あるのだが…、何より性欲に正直なのだ。
仕事中は別だが、平時では綺麗な女性を見ればそっちに視線が行くし、電車の中でも何度か『あんな女性とヤってみてぇよなぁ…』と言われたこともある。
女性と付き合う場合にしても、「性行為を前提にお付き合いしてください」とか言い出して、景気よく頬を叩かれたのを知ってる。というかそれを目撃したのが僕達の出会いだった。
「だからせめて、気兼ねなく言えるお前に頼みたかったんだよ! 良いじゃねぇかよピチピチの肌してよぉ!
減るもんじゃねぇだろよ、見せてくれよー!」
「……あぁ、うぅ、仕方ないなぁ」
円谷の勢いに負けて、渋々頷いてしまう。悪い奴じゃないんだけどなぁ、もう少し自制できれば本当にいい奴なんだよな、円谷は。
浴槽の縁に置いていたタオルを取り、前を隠す。息を吸い、霊力を引き出しながら吐くと、肉体は少女のそれへと変化していく。
「おぉ…っ」
食い入るように円谷が見てくる。
ぐぐ…、という擬音が聞こえてくるような状態の中、肉体の変化を忠実に言っていくことにする。
骨格から変わり、肩が狭く、腰の位置が高く、骨盤が広げられ腰周りが大きくなる。
次に肌の色素が抜けて、白く透き通るような肌になり、それと併せて四肢の先端、手や足が一回りも小さく、細く。
筋肉が見る間に溶け消えていき、代わりに皮膚の下に形成されるのは女性特有のやわらかさを伴った脂肪。
それは全身を満たすだけでは収まりきらず、ある2箇所へと重点的に“あまり”が流れ込んでいく。
一つは胸、もう一つはお尻。
乳首の色が抜け消えて、綺麗な桜色に変わった瞬間、甘い疼きに反応してしまう。
それが大きくなっていくたびに、感じ慣れてしまった女性としての感覚が顔をもたげ、切なげな吐息が溢れそうになる。
お尻も同様。流れ込んでゆく脂肪が、やわらかい曲線を描いた女としてのそれに書き換え、同じように、しかしてまた違う快感が届く。
体の形成が進んでいくと同時に、顔も確かに変わっていく。
大きさが搾り取られ、あごが細く、鼻が高く、瞳が大きく、色さえ変わって。
髪の毛も見る間に黒色から金髪へと色が抜け、腰辺りまで伸びてしまった。
残っているのは下腹部に存在する男性器。円谷の目には、タオルで隠されて見えることのないそれも、徐々に小さくなり、僕の体内に納まっていく。
(あ…、消えちゃう…)
じっくり体の変化を意識すると、いつもここで切なくなってしまう。あっという間に消えうせて、何もなくなった三角地帯に、くぱ、と少しだけいやらしい音を立てて、僅かに蜜をこぼして、花びらが開いた。
そのまま深呼吸を1回半、僕の肉体は完全に女性のそれへと変化していた。
「…はぁー、やっぱりいつ見てもすっげぇよなぁ、高瀬の体はさ」
「そりゃ…、まぁね。僕だって何度変わっても不思議なんだから」
円谷がじろじろ見てくる。そうされると、あんまりいい気分はしないなぁ…。
目を伏せて、見られてることを意識しないようにすると…。
「つぇいっ」ぷにっ。
「ひゃぁっ!?」
タオルの上から胸を突付かれた。
「ちょ、ちょっと円谷っ、何するのっ!」
「良いだろ高瀬、ちょっと位触らせてくれよ! すっげぇ柔らかそうだし、触ってみたいと思ってたんだよ!
あぁもう今でさえ水はじきやがって、お前一人だけいい思いしてんなよな!」
うわ、なんか円谷のテンション上がってきちゃった。下ちらり。
……うん、勃起してるよ。それに円谷の手が…。
「…ねぇ円谷?」
「なんだ、高瀬?」
「すごい真剣な表情をしてるのは良いんだけどさ…」
もみもみもみもみ…。
「ずっと胸揉まないでよ! 変わるところを見せた筈だし、それ以上触られると…」
「触られると?」
くに、と。多分円谷の意志の元に、乳首が捏ねられた。
「…っ、言わせないでよ!」
なんかにやけてる頭目掛けてチョップ。本気でやると気絶しかねないので、手加減してビシビシ。
「いててて、いてぇって高瀬! あぁでも良い気持ち、やーらけぇー!」
「だーかーらー!」
勢い余ってタオルを退けられ、揉みながら胸の間に顔を埋められた。
そんな言っても止めない円谷の腰に背後から蟹バサミを仕掛けたり、裏4の字固めをかけてみたり、お互いパンツは穿いてないがちょっとしたレスリングが始まってしまった。
結果は1ラウンドかからず僕の勝利。円谷が女体の柔らかさに負けて脱力したのが敗因。
浴場で暴れた事は、後で従業員からしっかり怒られてしまったけどね。
その12 父さんのアバンチュール
僕の手には、ちょっとした掃除の最中に見つけた写真が一枚。女性時の父さんが、別の女性と写ってる。
あぁあぁ、見事に胸を隠さないで写しちゃって。どこでこんな写真現像したのさ。男性職員が現像したら確実に今晩のオカズにしそうなアングルで撮っちゃって。
ちょっとだけため息を吐きながら、みんながいない時を見計らって、こっそり父さんに返却&問いただす。
ちなみにアレから父さんは、来客時を除く在宅中は四六時中女性化している。気がつけばほとんど家中に男性がいない状況。僕も含めていつものことだけど。
「ねぇ父さん、この人誰?」
「彼女か…、健司が高校生のときに俺に温泉旅行をプレゼントしてくれただろ?」
「うん、バイト代がいい感じに溜まったし、父さんも働き詰めだったから、無理にでも休んで貰いたくてさ。…その時に会った人?」
「そう。そこで不思議と息が合ってな、いつの間にか酒の席を共にするほどだったよ」
「あれ、でもあそこって混浴あったっけ…?」
「無いぞ?」
「だよね。……あれ、ってことは父さん、女性化して入ったんだ?」
「まぁ、その、なんだな…」
あ、歯切れが悪いなぁ。もしかして…。
「…この人と、最初から女性として会ってた?」
「…まぁな」
「やっぱり…」
でなけりゃ、こんな風に女性として風呂に入っていやしないし。仮に変身の瞬間を見られたらなんて言われるか解らない。
そも母さんにさえ体質のことを隠し続けていた父さんだからこそ、安易に自分の正体をばらすことはしないんじゃないかと思う。
「それと、その…。こういうのもなんだが…、…あー…」
「…何したの、父さん? ねぇ? 温泉旅行中でなにをやったの!?」
「相手方のほうが、その…、俺を好みと言ってな…。……酒の名残もあって、つい…」
……シちゃったのか。女同士で。
いやまぁ僕だって女同士の気持ちよさを知ってる、というか僕は結を産んだこともあるので、父さん以上に『女性』を知ってるわけですが。
「……気持ち良かった?」
「…あー…、まぁ…、なぁ…」
「だよね、知ってるから良く解るよ…」
「…………」
「…………」
ヤバい、気まずい。いくら親子でもこんな情欲混じりなぶっちゃけトークはし辛いよ。
話を少し中断するために席を立ってお茶を淹れる。茶葉を蒸らしてる間、父さんのほうをちらりと見ると…。物思いにふけるように写真を見つめてる。
その様子は、後ろから見てても昔の思い出(淫行含む)に浸ってるだけでは説明のつかないような、ほんの少しの憂いを見せてて。
そこでふと、何をきっかけとしたのかは解らないが…、昔に見たフィルム写真と、そこに写る人を思い出した。
その人は…、さっき見てた写真に写る女性とよく似ていて。
(…だから、求めちゃったのかな…)
僕が産まれる前に死別したあの人に、似ていて。
「……父さん、お茶、淹れたよ」
「あ、あぁ、ありがとう」
そのまま無言でお茶に口をつけながら、気になったことを聞く。
「その人の名前とか…、聞いたりした?」
「いや…、そういうのは聞かないことにして、と最初に釘を刺されてな。別れれば二度と会うこともないから…と」
「そっか…」
無言のままにお茶を飲んでいると、由香と結、そしてお祖父ちゃんが帰ってきて。慌てて写真を隠しながら、その場はお開きになった。
その夜、ある写真を見るために、物置の奥で埃を被ってるアルバムを取り出した。前に見た写真をしっかりと思い出して、探していた写真を見る。
写っているのは、神式の結婚式をしている2人の男女。
男はいわずもがな、父さんだ。今の姿よりしっかりと若く、今の僕とほぼ同じ位の年齢。
もう一人は、…抱きしめてもらうことの無かった僕の母さん。父さんとは2歳年下という少しだけ歳の離れた2人の、幸せそうな写真。
父さんが言うには、このとき既に僕は母さんのおなかの中に居たのだという。悪阻が発生したのが挙式の半月後とのことだ。
写真の中に写っている、僕が宿っていた白無垢姿の女性、母さんの顔を確り見る。
「…やっぱり」
その顔は間違いなく、父さんが温泉旅行中に会った女性と、まるで生き写しとも言うような、ほぼ同じ顔だった。
それだけを確認すると、アルバムを閉じて元の場所へ戻した。
もし温泉旅行で会った人が、擬似的な肉体を得た母さん本人だとしても、よく似た別人だったとしても、今の僕に確かめる術は無い。どこにいるかはわからないし、またそこへ行っても会える可能性はゼロに等しいからだ。
高瀬家の血筋や降霊に関して、今更説明するべきではないだろう。知ってしまっているが故に、“もしかしたら”を模索したくなってしまう。
これが「よく似た他人」ならそれで良い。母さんとは別の人が、今もどこかで生きている。それで済む話だ。
けれどこれが、「母さん本人」なら。もしそうであるのなら…、どうすればいいんだろう。
由香が言ったことによると、霊体自体はそれほどに強い存在ではないのだという。それだけであるならば、霊体は自然と揮発していく液体のように、いずれは世界に溶け込んで消えてしまう。
そうならないためには、肉体という器に入るか、それとも死神に手を引かれあの世に連れて行かれるか。
母さんの死去後、魂がどうなったのかは解らない。解らないが、消えていて欲しくはない。その想いと共に、今日も仏壇に線香を差す。
母さん…、心配させてゴメンね。ありがとう…。
その昔、の2 父の目覚め
「……父さん、何してるの」
「あ…、ふぁ…、気持ち、よくて…」
これも昔の話、僕が高校生時代だったころの事なんですが。
目の前では女の子状態の父さんが、布団の上で乱れまくった事後。全身薄っすらと汗が浮かんで、顔は思いっきり紅潮してる。
「気持ちよくて、じゃないよ父さん! この後何があるか憶えてるっ?」
「あー…、えぇと…、何だっけ…?」
「忘れないでよ、三者面談だよ! 1ヶ月前から言ってるでしょ!」
「あぁ…、そうだった…」
「ホラ起きて戻ってシャワー浴びて着替えて! 僕の番は後の方だけど、そんな時間に余裕があるわけじゃないんだからね?」
「そうしとく…、ん…」
僕の叱咤にゆっくりと体を動かす父さん。体勢のおかげで見えそうで見えなかった“女性”部分が見えてしまう。
「わ…っ、と、とにかく! 早くしてよね、父さん」
慌てて扉を閉めてリビングで一息を入れる。
父さんはしっかりとした人で、男手一つで僕を育ててくれた。毎日仕事に出かけて、たまの休日にはいつも僕と一緒に居てくれた。
その影響か自分の趣味といったものを持たずに生きてきたわけで、もしかしたら何処かでそれを埋めたかったのかもしれない。
…まぁその、僕がある程度手間のかからない年齢まで育ったら、こんな風になってしまった。
女性の肉体探求なんて趣味に目覚めないでほしかったぁ! 今の所1日休みの日にしかやらないのが救いだけど、このままだとどこまでエスカレートするのやら。
…そりゃまぁ僕だって女の姿になるから、いずれ結婚する由香をちゃんと気持ちよくさせる為に色々知りたいけどさ。そこはぐっと堪えてるのに。
けれど父さんはあんな風に何度も自分で自分を慰めて…、シちゃってさ…。
いつか僕に矛先が向きそうでちょっと恐いよ。
閑話休題。
三社面談恙無く終了。自分の学力を鑑みて行ける大学に進学、という形で今後の進路が決まった。
後は家に帰ってのんびりするだけなんだけど…、父さんが寄り道をしたいと言って、それに付き合うことに。
……したんだけどねぇ?
「…ねぇ父さん」
「ん?」
「寄り道って…、これ?」
「そうだぞ。いやぁ、さすが女性限定の店。過ごしやすいし雰囲気も良いな」
ケーキショップに寄り道をしている、僕と父さん(両方とも女の子モード)。
女性限定の店で、テラスで紅茶と一緒に賞味できるので、この時間は学校後の学生で賑わってる。
あぁもう、居るだけでちょっと落ち着かない…。何で父さんは平気なんだろう。なんかケーキも紅茶も味がわかんないや。
「…そうだ父さん、今日の晩ご飯はどうしようか」
「少しで良いぞ? こうしてお茶しているから、あまり入らないしな」
「…うん、解った」
最近は食事量も減っている。女性化している影響はこんな所にも出てきてたり。
いくら食べても女性時での体重変化はないし、お腹いっぱい食べても良いのになぁ。
あ、ちなみに僕はちゃんと男の状態で食べてるからね。腹八分目で。
「ん、おいし♪」
こうして目の前でケーキを頬張る父さんを見ると、本当に女性をエンジョイし始めてきたよなぁ、と思うことしきり。
その昔、の3 深夜の超常親子喧嘩
冗談で終わればそれで良いと思ってたし、道を踏み外しそうになれば僕が止める積りだった。
それが冗談で終わらなくなった時のことを語ろう。
それは僕が寝ていたときのこと、少しばかり蒸し暑い夜のことだった。
少しばかりの違和感を感じて目を開けると、眼前には女の子状態の父さんがいた。
何故か湯上り+バスタオル一枚という、思春期としては性欲的に崖下に叩き落すと言わんばかりの姿で、だ。
「うぇっ、ちょ、と、父さんっ?」
「健司ぃ、父さんといい事しよぉ?」
「何言ってるのさ! ちょっと、ねぇっ?」
僕の言葉なんて意に介さず、ベッドの上に乗りあがってくる。胸元で留めてるバスタオルが外れそうだ。
違和感が強くなる。
「ほぉら、健司だって元気そうじゃないか。ここなんか…、ほら、大きくなりかけてる」
股間で息子が元気いっぱいに存在を主張しているのを目ざとく見つけた父さんは、それを撫でさすってくる。
「う、く…、やめ、父さん…っ」
「我慢するな。それに今の内から女体に慣れた方が、後々恥をかかずに済むぞー?」
あくまで教え込むような口調のまま、父さんはズボンの中に手を入れてくる。細くて暖かく、けれどほんの少し冷たさを感じる指が触れる、その瞬間。
「父さん…、ごめん!」
あらかじめ謝って、自分の肉体に憑かせた霊の力を借りながら父さんの腹部を蹴飛ばす。が、手ごたえはない。
声で察したのか、父さんは自分から後ろに跳んで攻撃をかわしたのだ。
本気で蹴るつもりだったけど、当たらなかった事に内心一安心をしつつ、防御に身を固めながら問う。
「あなた…、何者ですか!」
「何者もなにも、“父さん”だよ? お前のな」
あからさまに自分が何ものであるかを強調した言葉。それを聞いて、はっと思い当たってしまった。
「あなた…、父さんに憑いてる『英霊』ですね?」
僕たち高瀬家の人間が取っている方法は、強い霊を憑かせる事によって外敵からの防御力を得る口寄せ。それはつまり、肉体の中に霊魂を注ぎ込むことだ。
器となる存在が壮健ならば何も問題はない。が、そうでない場合は厄介なことになってくる。
ただでさえ霊的耐性のない僕たちと、憑依させている『英霊』達とでは実力は雲泥の差、月とスッポンだ。当然僕たちが下ということになる。
ということは、何かあった場合。そのまま肉体を乗っ取られてしまう。霊耐性の無さから、生前の肉体になるというオマケ付きで。
それが高瀬家の取った手段の、唯一にして最大の欠点。
「…へぇ、よく気付いたな。やっぱりアレ? 親子だから気付いたって奴?」
「それ以前の問題です。父さんのように見せかけても、仕草に女性としてのそれを見かけましたからね」
気付かれても尚男口調をやめない彼女は、きっと生前からそうだったのだろう。どこか愉しそうに話してくる。
その様子に少しばかりの緊張を持ちながら、僕は彼女に問いかけた。
「いつから侵蝕して…、いつの間に父さんを飲み込んだんですか?」
「んー? いつから、ねぇ? オナニーし終わった後をお前に見られた時位かな」
あの時か…!
父さんが女性の体で自慰行為をしていたのが、今から数えて1ヶ月前。思っていたより深い事態に歯噛みする。
「あ、そうそう。どうして、ってのは問わなくてもいいぜ?
生身の体に入って、他の連中から護れって事はさ、正直こっちへのメリットが薄いんだ。無いとも言えるよな。
…俺達がそのまま使われるだけだと思ってたのか?」
「なるほど…、虎視眈々と狙ってた訳ですか」
「そういうこと。お前の中に入ってるヤツは比較的穏やかな奴だからそんな気も無いみたいだけど、俺は違う。
海賊頭のアンジェ=V=ヴィレット様が、たかだか警官(ヤード)の親父如きに使われてやるものか!」
拳を握り締めながらはっきりと告げてくる彼女、アンジェに向けて、僕は一つの行動を取っていた。
果たして僕自身の行動だったのか、それとも僕の中に居る“彼女”の行動だったのかは解らない。
ぱしっと音が鳴って、布がアンジェの体に当たる。
「…お?」
とった行動は単純。手袋を投げつけた。
「…おもしれぇ、決闘ってことか?」
「解っていただけて何よりです。……僕が勝てば、アンジェ。僕の言う事を聞いてもらいます」
「おいおい、勝手に進めるなよ。そもそも俺が受けなきゃ何の話にもならないんだぜ?」
手に取った手袋を中空で揺らしながらアンジェは応える。口の端を歪めた、意地の悪そうな笑み。
「逃げるつもりですか?」
「…あ?」
「決闘を前に逃げて、不名誉の烙印を押されるのが好みかと聞いてるんです」
「……」
「それに、アンジェが勝てば僕はあなたの言う事を呑みましょう。部下でも、奴隷でも、全て言うとおりに動きましょう」
「…大きく出やがったな、お前」
「出ますよ。そうでなければ…、あなたに勝つことも出来ませんしね」
知らず知らずのうちに、僕も笑っていた。アンジェと同じような口の端を歪める、嘲るような笑みで。
「それとも…、年下の決闘からも逃げるんですか? 海賊頭のアンジェ=V=ヴィレットさん?」
「…はっ、口は達者だな」
「はは…っ」
「はははは…」
「「はははははははははは」」
同じような笑みを浮かべて笑い合う。次に笑い以外の言葉を繋いだのは、アンジェだった。
「いいぜ解った、呑んでやるよ。決闘でも何でも別に方法は問わないさ。俺を屈服させれば、お前の…健司の言う事を聞いてやるよ」
乗った。
果たして真意がどうなのか、裏があるかはさて置いて、彼女が乗った。それを聞いて、心中に一つの安堵が生まれた。
「それを聞いて希望が持てました。…光よ!」
僕に憑いてる『彼女』の力を解き放つ。肉体が女性のものに変身し、パジャマが光に分解され、足を出し形を変えて再度身に纏われる。
一見してドレスのようで、さらに一部を装甲が包む。同時に光が集い、僕の手に一振りの長剣が握られた。『彼女』の記憶を元に作り出した戦闘用の衣装と、愛用の武器。
『英霊』はかつての姿に戻り、口伝のとおりの姿を成す。
「ん…、武装ってことは、ガチの決闘で良いのか?」
「そうですね。戦って、変えがたい“勝敗”を決めれば…、あなたも納得するしかないでしょう!?」
「へっ、いっちょまえに吼えやがって。そんじゃぁ…、“息子”が“親父”に勝ってみな!」
獅子吼と共に、アンジェ生前の記憶を元に衣装を構成した。
僕のように要所に装甲をつけながらも、しかし僕の衣装より遥かに露出度の高い、扇情的ともいえる服になる。その手に収まる武器は、いや、武器のようなものは、平たく薄く、その手に握られただけで容易に形を変える。まるで薄布のようだ。
片手で剣を持ち、まるでフェンシングのように半身に構える。その剣先にあくまで力強さはなく、日本の剣道における構えではない、僕の中にいる“彼女”の構え。
まるで女性が男性に語りかけるように、問いかけるように。僕は告げた。
「夜に紛れて踊りましょう。…Shall we Dance?」
* * *
空中で交錯しながら、何度となくぶつかり合う。
時に電灯、時に電柱を足場にし跳ねて。細い電線の上を2人で駆けて。
金属音か、はたまた別の何かか。深夜の深い藍色の空の下に、鈍い音が何度も響いている。
戦況は僕の方が圧倒的に不利だった。アンジェの使う武器は、鞭のようにしなり襲い掛かる鋼の強度を持った帯。しかも伸縮自在で、現状理解できる範囲内で15mはアンジェの攻撃圏内。
バックステップで距離を取れば、それに追撃をかけるように伸びてくる。
僕の武器である剣の攻撃範囲に持ち込もうとすれば、緻密に手繰られた帯に僕が包まれる。
(近づけない…!)
心の中で歯噛みした。同じ土俵の上で戦うことの容易さと、違う土俵の上で戦うことの難解さに。
こうして体感してみると、遠距離で攻撃できることの優位性と、されることの脅威がはっきりと解ってくる。
その間にもアンジェの攻撃は止まらない。風切り音と共に帯の曲線的な攻撃が幾度と無く迫り、僕は剣の腹でそれを受け止め続ける。
距離が離れていても、一撃が重い。受け止めていくだけで体力が消耗していく。
背後に出来た空間を目掛けて、波打つ攻撃を受け止めきった勢いのまま空を舞って後退。
自分でやっても驚く、まるで羽根になったかのような体の軽さを用いて、空中を回転しながら着地しつつアンジェを見据える。
笑っていた。自分の有利を悟っての笑顔であると、その目元だけで察せる程に。
「逃げ続けるだけで勝てると思ってるのかー、防戦みたいだがどこまで続く? ほらよっ!」
まだ距離が届く範囲内。アンジェがうねる様な一撃を繰り出してくる。
(直接戦闘は不利…、ならば!)
《経験転送》-インストール-。
僕の中の彼女が持つ経験、そして技能を自分の肉体に反映させる。変身している状態ならば、普段では出来ないことも可能になる。
「光の、軌跡っ!!」
剣を振り被り、なぎ払う。切っ先が走った箇所から光が溢れ、勢いをそのままに斬撃となり飛んでいく。
「おぉっと! へぇ、そこまで出来るとはねぇ!」
帯に当たり、アンジェの攻撃と相殺されるが、破れた様子はない。帯は鈍い光を纏い、物理・魔術両方の対策をしているのだろう。
「良いね良いね、手品は大好きさ。…もうちょい見せてみなっ!」
「はぁっ!!」
手繰られたの帯が再び攻撃に転じ、直撃する部分へと目掛けて再び光の軌跡の二撃目を飛ばす。
パシン!と音を立てて光が消え、帯は攻撃の勢いを失くし手繰られる。
(あの攻撃が本気でないとしても、光の軌跡なら迎撃は可能か…)
一足後ろに跳び、距離を16mというアンジェの射程外に移る。
(数を、撃つ!)
息を整えて柄を持ち、手首だけで何度も回転させる。イメージするのはバトントワリングの技術、コンタクトマテリアル。
明らかにバランスが悪い筈なのに、柄を中心として掌の中で剣が回転する。刃が一度回るごとに、剣の軌跡が大きな光の輪を作り上げる。
柄を握り回転を止め、また振り被る。
「光撃疾走!」
光の輪を解き放つように刃でなぞる。その瞬間、光輪が解かれて無数の斬撃と化し、飛翔する。
「おぉっと、手数で攻めるか?」
直後、アンジェの帯が彼女の身を包むように周囲に舞い上がった。
「甘い甘い、目眩ましならもちっと上手くやんな!」
バラけた光の軌跡が着弾する場所全てを見切ったのか、帯の滞空箇所は全て光の軌跡の狙った箇所。無数とはいえ、その全てが帯に当たり、たわませる程度の効果しか持たずに消えた。
「さて、お次の芸は何だよ、高瀬健司? 今は攻めさせてやるけど、俺が飽きたら攻守交替するぞ?」
平然とした顔でアンジェは告げてくる。
(マズいな、やっぱり地力が違う…)
『英霊』アンジェとしての生前の技術、経験等々も確かにあるのだろうが、それ以上にアンジェが父さんの体に馴染んでいるのが大きい。
霊が憑くとはいえ、結局は別人の体だからすぐに馴染みはしない。が、それは長い時間をかけていけば徐々にブランクが埋められ、憑いた『英霊』そのものの力を発揮することが出来る。場合によっては、それ以上。
僕は中学時代に降ろした。父さんはいつだ? 僕と同じ時期だとしても、40を過ぎた父さんには既に20年以上の時間が経っている。明らかに僕の方が不利だ。
ふと、頭の中に閃光が走った。
馴染んでいる…、肉体…。
(こうするしか…、ないのか…)
思いついてしまった手段にちょっとだけ歯噛みしながら、しかし現状では逆転の手段も少ないため取れる手段も無いに等しい。
ならば選べない、選んでいられない。
剣の柄を握りなおし、再び光の輪を作り上げる。
正直な話、これで戦闘は30分は経過している。僕の中の彼女はまだいけそうだが、僕の方は戦闘の空気に精神力が持たなくなってきている。さらには光の軌跡や、光撃疾走の負担もある。力を使っての大規模攻撃は、これが最後だろう。
(間に合え…!)
息を吐いて、再び放たれた光撃疾走が夜闇を切り裂く。
「はっ、甘いっつってんだろ!」
だが、その全ての斬撃は先ほどと同じように、アンジェの身を包むように展開された帯に阻まれた。
「…お?」
アンジェは少しだけいぶかしむが、驚いてはいない。帯の隙間、光が収まった後に見えてきたのは、突撃を仕掛ける僕の姿。
大規模攻撃は出来なくても、力を集中することは出来る。剣に光を込めて、帯での防御も不可能なほどの一撃を見舞わせる。
狙うのは、防御から攻撃に転ずるその瞬間。
アンジェが帯の向こう側で、鮫のように笑っているのが見える。
「乗ってやるが、やっぱりあめぇよっ!!」
全てを迎撃しきったアンジェが防御を解き、直線の攻撃が僕へと迫る。
ずんっ!と音が立つ。
眼前から迫る攻撃を避けきれずに、僕は右肩口に帯の直撃を貰った。
一層笑みを強めたアンジェは、直後目を見開くことになる。
確かに攻撃を命中させたはずの僕が、その場で光となって消えてしまったから。
「目くらまし、上手くやれましたか?」
後ろから抱きしめる形で、アンジェの背後を取る。首元にはしっかりと刃を添えて。
「…はっ、よくやるじゃないか。久しぶりに驚いたぜ」
「それは何より。……さて、現状を理解できないほどではないと思いますが…、負けを、認めますか?」
背後を取られ、首元に刃を添えられている状況。これならどう見ても敗北となるだろう。
「…あーはいはい、解った解った。決闘は俺の負けで良い…なっ!」
「う、わっ!?」
瞬間、アンジェの帯が脚と腕に絡まってきた。きつく締め付けてくる帯は保持していたはずの剣を取り落とす程。ガランと重い音が立った。
「生憎、乗った決闘は俺が負けた。そこは認めるが…、屈服というには程遠い辛勝じゃねぇか? これじゃあ聞いてやる訳にはいかねぇなぁ?」
「アンジェ、あんたは最初から…!」
「最初からも何も、屈服させればって言ったはずだろ? 相手に反撃の余力を残すほどの勝利で屈服なんて片腹痛ぇや。なぁ、健司?」
僕に後ろから抱き付かれたままなのは変わらないが、肩越しに再び鮫のような笑みを浮かべている。
その態度に、仕方ないなと心中で溜息一つ。やっぱりこの手段を取るしかないか…。
相手に反撃の余力を残さないほどの、屈服を。
「解り、ましたよ…。じゃあ、こっちも手加減…、無しだ!」
ぎちぎちと操られる帯が、アンジェの体から僕の体を放そうと力を込めてくるのに抵抗する。
密着しきった状態から、両の掌に光の力を込める。
ほのかに光を灯らせた手を、指の先まで力を行き渡らせ、ぐわっと広げ、
むにゅぅっ。
胸を揉んだ。
「ふぃうっ!?」
余裕の笑みが崩れて、アンジェの喉から変な声が漏れた。よし、好感触。
今より幼い時分に吸ったはずの、父(もといアンジェ)の乳を後ろから鷲掴んで揉みまくる。
上へ下へ右へ左へ縦横無尽にぐにりぐにり。
「あっ、をっ、健司…っ、てめ、あんっ」
「いやぁすみません…、ホントすみません。アレで認めてくれたらここまではしなかったんですけど…」
謝罪をしながらも手は止まらない。女の子としての片手でようやっと掴みきれる位のたわわに実った果実を握る。
「そこまで言うのなら、きっちりハッキリ、反撃をする余力を失くすほどの攻勢を仕掛けることにします」
これが僕の思いついてしまった手段、馴染みすぎた肉体を逆手に取る事だ。
今の肉体はアンジェにとって生前の、もしくはそれより高い能力や感度を持っている。当然性感もそれ以上。
父さんの女体探求に歯止めが掛からなかったのは、その辺が原因だと僕は推察してるわけだけど。
そこからさらに、僕の中の彼女の力を込めて触れる。
ちなみに僕が使う力は、特定の道具を具現化する能力と、光を操ること。攻撃にそのまま使用することも、幻影を作ることも可能と結構万能。
さらには、刺激と共に意識を多少トバす応用方法もある。性感への刺激と共に脳に光を叩き込んで、意識を保ちにくくするのだ。
弱点を言えばこの能力、射程距離が殆ど無いわけで、こうして手に力を込めなければ発動しない。やや面倒な仕様だったりする。
脇から手を突っ込んで、アンジェのやわらかい胸へ直に触る。掌には堅くしこった乳首が当たり、それを摘むと、
「はっ、はぅっ、んふぅっ!」
僕の顔の近くで面白いように嬌声を上げる。
もし僕が男のままだったら、下品な話になりますが絶対に勃起してます。ふふ…。
って、僕は爆弾殺人鬼じゃないんだ。うん、気を取り直して…。
「高瀬健司17歳、今から貴女を……、陵辱します!」
もう覚悟を決めた。見る見える程度で怯んでいられないし、行く所まで行ってやる。というかそもそも父さんから女体の手ほどきを受けてたしね!
いざ実践。アンジェを脱がして僕も脱いで、二人して下着程度の着衣で乳繰り合い。
胸を揉みながら光を流し込んで、知覚にブランクを作りつつ馴染んだ体に快感の波を送る。
「んっ、あぅ、ひゃぁっ!」
ぷっくりと勃起した乳首を摘むと、それだけで嬌声が鳴る。胸を揉みながら舌にも力を込めて、乳房を舐めあげる。
「れる、ちゅ…っ」
「ふゃあうっ!?」
ちゅうちゅう音を立てて吸うと、それだけで声がオクターブ高くなる。どうやら気持ち良いみたい。
胸を揉みながら吸うなんて子供のそれだけど、気持ちよくなってくれることが嬉しくて、調子を変えて胸を弄り続ける。
「あっ! んっ、こ、ら…、健司っ、てめ、んうっ!」
「ちゅっ、はむ…、っ、ん…」
吸い付く胸を変えながら舌先で乳頭を転がし、まずはアンジェの胸を重点的に責めてく。
というかかれこれ10分、ずっと胸だけで性感を刺激し続けてる。女性器なんて触ってもいないし、触れてるのは肌くらい。
これだけで感じてしまう、というか感じすぎてるのは…、間違いなく僕が昔やった、胸だけで父さんをイかせてた事が原因になってるのではないだろうか。
「いいかげ、んぁっ! やめ、ろぉぅっ、んひぃっ!」
「んむ、止めて良いんですか? 随分気持ち良さそうに顔を赤くしてるみたいですけど?」
「…っ、怒、ってんだよ…っ」
とはいうものの、多分それが口だけだという事は態度で証明してる。実はこっそり知覚ブランクの間隔を、最初の頃より長くしているのだけれど。それでもアンジェからの攻撃が飛んでこないのは、反撃をするだけの余力が無くなってきているのではないかと推測するわけで。
「嘘ばっかり。あー、んっ」
両方の胸を寄せて乳首を近付け、そのまま一気に口に咥える。
左右同時に刺激が届くように、両方の間を舌が通って舐めまわし、2本のストローで飲むように吸い付いて、さらには両の犬歯で甘噛みする。
「ふぅっ、んうぅぅぅっ!」
一際高い嬌声が上がる。多分達したんだと思う。
…すごい気持ち良さそうだなぁ、とか思ったりしたのは秘密。
両の乳首を吸いながらアンジェの顔を少しだけ見てみると、視線が中空を泳いでいたがそれもわずかな時間だけ。すぐに焦点の合った目でこちらを睨み、拳を振り上げようと…、
した所で、攻撃再開。
組み伏せ、アンジェをうつぶせにした上でマウントポジションを取る。
左手で抑えつけ、そこから常に光を流し込みながら、ようやく女性器に触れる。
「うぁっ!?」
しとどに濡れそぼっていた秘所に触れ、嬌声が響く。まずは掌で優しく、何度も前後にこする。
「ふゃ、あ、ふぅっ!」
それだけでアンジェが喘ぎ、感じている。
体の本来の持ち主である父さんに悪いと思う反面、多分僕の中には、確かに女性を征服する悦びがあった。
「そんなによがっちゃって、声を上げて…、気持ち良いんですか?」
「う、るせ…っ、んな、訳、ねぇだろっ?」
「アンジェは意地っ張りの嘘吐きだね。大事な部分、こんなに濡らしちゃってるくせにっ」
相変わらずの口調を面白がって、今度は指を入れてみる。
「ふぁ、あぁっ!」
つぷ、と音を立てて女性器の中に人差し指が沈みこんでいく。
「すんなり入っちゃいましたよ、ほら…」
指先だけの挿入でさえ大きく喘ぐアンジェを、前後させてさらに喘がせる。
入れては抜く度に、ちゅぷ、ぷちゅ、と愛液が弾ける音が耳に届き、さらに興奮している自分がわかってしまう。
「二本目、入れますよ」
「ちょ、ま、あぁっ!」
言う間も与えず中指も突き入れ、2本でさらに膣をえぐって行く。
アンジェの中に差し込んだ指が、奥へ奥へと蠕動している柔肉の動きを捕らえてくる。
女性器の上端にぷっくり膨らんで存在しているクリトリスがあって、乳首以上に快感の誇示をしている。
ここにも触れたらどうなるだろう。きっと気持ち良いんだろうな。きっとアンジェだけじゃなくて、僕も触ってみたら…。
見てみたい。と思った瞬間、親指の腹がそこに触れた。
「ひぃんっ!?」
添えるように触っただけで、アンジェがこんなにも嬉しそうな悲鳴を上げた。気持ち良いんだ…。
指の抽送運動を繰り返し、突きこむたびに親指でクリトリスを触る。接触だけじゃなくて、時に押し込んでみたり、ちょっと回してみたり。
その度に感極まった嬌声を繰り返して、女性の快感を悦んでる。
「あっ、あぅ、んあぁぁぁっ!」
一度火がついてしまったせいか、攻めている場所の違いか。二度目の絶頂はさっきより時間がかからなかった。
ぐったりして、荒く呼吸を繰り返すアンジェを見ていて…、淫靡さに生唾を飲み込みたくなる。
けれど…、まだだ。まだアンジェが屈服しきってない。まだ僕の勝ちじゃない。
後ろに回って腰を上げ、隠しようがない丸見えの状態にする。
「ぁ…、こらぁ…、なにすん、ひゃぁっ!」
「はぁ、…えっちな匂いですね。こんなにされて、とろとろに溢れさせて…」
女性器の入り口を割り開いて、奥まで見えるようにして覗き込む。あ、途中に何かある。処女膜…、かな、これ。
ちょっと気になったので、言葉責めにも含めてみよう。
「処女だって言うのにこんなに乱れて…、恥ずかしくないんですか?」
「う、うるせぇ…っ、そんなの、どうだってい、んやぁっ!」
そっと女性器に口を近づけ、息を吹きかける。それだけで甘い声が漏れてきた。
「奥の肉までヒクヒク蠢いて…、いやらしいなぁ。今は女同士だけど…、僕、すごいえっちな気分です…、んちゅ」
「はゃあっ?」
割り開いた女性器に口付けして、中に舌をもぐりこませる。指よりは挿入しにくいけど、それでも柔らかい肉に包み込まれていく。
「は、ぁっ、んぅぅ…っ、お、ぉあ…!」
「はむ…、ぢゅ、ぢゅる…、むちゅ…、ちゅぴ…」
奥に入れて、引き抜いて。クンニリングスをする度に…、いや、それ以前よりずっとしとどに溢れてくる愛液を舐めとって、口に含んで、味わって。
「……んっ、く」
そして嚥下して。その全てをいやらしくアンジェの耳に届くように行っている。
呼吸するために口を離すと、
「あ…、…ちょ、っと待て…」
「…どうしたんですか、アンジェ?」
「…な、んで…、やめるん、だよ…。せっかくまた、イきそ、だったのに…」
あ、そろそろ素直になりかけてきてる…、かな?
「そうですか…。…アンジェは、またイきたいんですか?」
「…っ! っるせ…! いい加減に、しねぇと…、んやあぁぁぁっ!」
また生意気な口を聞き始めたので、クリトリスをつねって黙らせる。女性器からは絶頂の証として、大量の愛液がこぼれた。
こうして責めてしまうあたり、実は僕にサドッ気あるんじゃないかと思い始めてしまう。
「はー…、はぁ…、あ…っ!」
口を半開きにして絶頂の余韻に浸ってる彼女に、問いかける。
「アンジェ…、さっきから全然反撃できずにイって、もう3回です。…いい加減負けを認めますか?」
「あ…、う…」
しかしこの期に及んで、アンジェの返答は首を横に振る、NOの意思表示。
………仕方ない、で済ませたくないことだけど。…仕方ない、かな。
「解りました。…じゃあ、徹底的にイかせ続けてあげます。
それと先に言っておきますけど、僕はアンジェが屈伏するまで本番はしませんよ? ずっと手と口で攻め続けますから」
脱がせたアンジェの服で四肢を縛りつけ、抵抗できないようにして…。
次はどうやってイかせようか、考えを巡らせた。
* * *
さてさて。
アレからたっぷり体をまさぐり、何度もイかされて屈服したアンジェに、僕の体に奉仕してもらったり、お互いに69をし合ったり、張り型による挿入という形で擬似性交をしたりと、思い起こせば一晩中互いを貪ってたな気もする。
……はい、腰が痛いです。僕は挿入するばっかりで、将来結婚する由香の為に処女は頑張って守った!
僕に屈服したアンジェは、
「…し、仕方ねぇな! 健司に負けたんだから、言うとおりにしてやるよ! 体を親父に返してやればいいんだろっ!?」
とか、顔を赤くして半ば吐き捨てるように言いながら父さんの中に潜っていって。
…とりあえず、当面の心配は無くなったと思ったんだけど。
「おい健司、お前も早く脱げよぉ。俺一人だけ脱ぐと寒ぃんだからな?」
えーと、まぁ、何と言いますか。
「…何で、アンジェが出てきて、僕のベッドに乗っかってきてるんですか? しかも素っ裸で!」
こんな状況になってるわけで。
「良いじゃねぇか、健司の親父にゃ昼間にちゃんと体の主導権は返してんだ。夜くらいは借りても良いだろ?」
「そうじゃなくて、何でアンジェがベッドに来てるのかって言うのを聞きたいんです!」
「え…? …あー、その、なぁ…、言わせるなよ…?」
艶の混じった目でアンジェは僕を見てくる。内股をこすり合わせてるようで、なんというか…。
…疼いてる?
「…………」
それに感づいた瞬間、僕は布団に包まって何の意味もない防御を固めた。
「あぁっ、おいコラ健司、ちゃんとこっち見ろよっ! 何隠れようとしてんだ!」
「勘弁してください僕は眠いんですっ! っていうか僕は婚約者がいるんですっ!」
「ンなこた親父の知識で知ってるよ! 別に男女でヤろうって言ってるわけじゃなくて…っ」
「…なくて?」
ちょっと疑問に思って、顔をこっそり出してみる。
「……セックスって、いいな、ってさぁ? それにホラ、俺は健司に負けたんだし、そーゆー意味ではもう俺なんてお前の所有物じゃねぇか? ちゃんと面倒見るのが…、持ち主の責任ってヤツじゃねぇのか?」
ゲゲェーッ!? アンジェの中ではそんなことになってるのー!?
っていうかアレが良かったの!? というかむしろいけなかった!?
「アレから一人でシても淋しいんだよ。慰めてくれよぉ…」
しな垂れかかり、包まってる布団を剥いでアンジェは体を摺り寄せてくる。うぁ、これはこれでいい光景なのかもしれないけど…。
でも、アンジェの体の元になってるのは父さんな訳で、あの時はテンションで保ってて流れてこなかった疑問の思考が今更になってやってきたー!
「んー、んー…っ」
うわぉ、僕の意志とか関係なく太ももに女性器をこすり始めてきましたよ。ホントに我慢できないっていうか疼いてるっていうか。
「ちょ、ちょっと待った、待ったー!」
「うぇ…?」
思考が掻き乱されるから潤んだ目でこっちを見ないでーっ!? えぇと、落ち着け僕、深呼吸をするんだ。COOLに、KOOLになるんだ。
「え、えぇと…、アンジェ!」
「なんだよ…、やっぱり本命がいると、俺じゃダメか…?」
「そういう問題じゃなくて…、って違う! えぇと、んんー…っ!」
脳に空気が入ってない気分がいっぱいする。とにかく息を吸って、0.5秒。
「このことは絶対父さんに知られないようにしてっ!」
…………あれ? 僕は何を言った?
「…………」
なんか、アンジェが、嬉しそうな顔で、見てるんですけど。
「あぁ解った! 親父には絶対知られないようにヤれば良いんだよな!」
……しまったー!!? 情報伝達に大いなる齟齬が発生してしまったー!
「そうと決まれば絶対教えねぇ! さぁヤるぞ、今ヤるぞっ、すぐにヤるぞーっ!」
まるで餌を与えられた犬みたいに、嬉しそうに飛びついてくるアンジェ。
…おあずけをして、何とか「僕の男としての本番は無し」とか、細々とした約束事はして。
僕は自分の行為、その責任を取ることになってしまいました。
* * *
現在に戻って。
高校生時代にヤってしまった過ちを、晩酌中にふと、思い出してしまった。
アレから何度もシて、女同士の快感をアンジェの体に教え込んでしまった影響というのは…、英霊の力が僕たちに影響するように、父さんにもフィードバックされてる。
……あぁ、父さんが温泉旅行中でヤっちゃった遠因、僕だったわ。
由香と結とお祖父ちゃんは、ちょっと遠野に里帰り中であり、現在家にいるのはこちらで仕事を持ってる僕と父さんだけ。
お互いにビールをグラスに注ぎあい、ボイルソーセージをちょっとしたつまみとして飲んでる。
「…ん、どうしたんだ健司? なんか顔色が悪いみたいだけど…」
「あぁいやいや、なんでもないんだ。…うん、なんでも」
ちょっと居た堪れなくなってしまい、僕は早々に切り上げてベッドにもぐりこむ。
アルコールでふやけた頭がまどろみを呼び込み、寝ようとしたところで…、
…聞こえてしまった。
床を裸足で踏み鳴らす、ぺた、ぺた、という足音。
心臓の鼓動と連動するような、はぁはぁと荒い吐息。
部屋の鍵は閉めてある。開いてるのは…、外気を取り入れるための…窓。
「けーんーじー…、久しぶりにセックスしよーぜー…」
思い出したら来ちゃったー!?
抵抗できそうにない状況で、アンジェの声が、足音が迫る。
ぺた、ぺた。はぁはぁ…。
アルコールとお腹が満たされた感覚で体が動かせない。
ぺた、ぺた。はぁはぁ…。
一歩ずつ近付いてくる。
ぺた、ぺた。はぁはぁ…。
逃げられない。逃げ場は、無い。
あぁ、窓に、窓に!
「お疲れ様です、高瀬さん。これで全工程終了でーす!」
「はぁ、ようやく終わったのか…。っくしゅん!」
「おーい、高瀬先輩が冷えてるぞっ。風邪引かすなー? タオルとあったかい飲み物持ってこーい!」
「高瀬先輩、タオルです。体を拭いて早く着替えましょう?」
「そうそう。こら男ども、あんた達は仕事に戻る!」
「いや、根っこは僕も男なんだけど…、だ、大丈夫だから、1人で行けるよ」
水を張ったバスタブの中に浸かった状態で写真を撮り続けられれば、流石に体が冷え切ってしまった。
青色のカラーコンタクトを外し、着替えの為に女子社員に連れられて、更衣室へと向かうが…。
さすがに妻以外の女性と一緒に更衣室に入ると、変な気分にならないとは言い切れないので、そこは丁重にお断りして1人で着替えることにする。
さて、僕が何をしていたのかと言いますと。一言で言えばCM撮影だ。
僕の勤務先である化粧品会社は、当然生き残るために新商品を作っては売り、それを利益にする。
その販売を効果的にするのは、チラシや口コミの他、テレビが普及して以来続けられているコマーシャルであり、自社もそれを行っている。
…しかし今回、契約しているモデルの人達が急激な気温の変化によって体調を崩してしまいドタキャン発生、広報課は大慌て。CM撮影の日程は間近だが、突然すぎるので代理も手配できず。
まさか化粧品単品を流すわけにもいかず、あわや撮影は頓挫…。というところまで来かけたのだが。
「高瀬くん、あなた、モデルやりなさい」
という社長の鶴の一声があり、急遽僕がモデルとなってCM撮影をすることになった。
ちなみに社長はオカルト方面に明るい人であり、社長室には運気増進の風水グッズが置かれてる。僕、というか高瀬家の体質のこともオカルト系何でも屋(社長いわく霊能探偵)に調べられており、社長の耳に入ってた。
当然それを知られたときには驚いたけど、社長は僕に体質の真偽を問うたその日、わざわざ家まで足を運んで父さんやお祖父ちゃんに話を聞きに行ったほどだ。
アグレッシブな人だ、と感心する傍ら、あの行動力が何か厄介事を呼び込みやしないかと、ほんのり不安になってくる。
場面は現在に戻って。
今日の仕事は撮影だけで終了し、既に帰途についてる僕と、同期の友人・円谷。
広報課に配属された者であり、社長直々に僕のケアに回るよう言われたのだ。当然僕たちの体質も知っている。というか広報課の人員殆どには必然的に知られた。
父さんが隠し続けてたこと、あっさりと広められた気がしてならない…。
「っくしゅ! …やっぱり僕も風邪引くかもしれないなぁ…」
「大丈夫か、高瀬? お前まで倒れられたら、モデルがいなくなるんだからな?」
「それは解ってるよ。でもさすがにアレは温水を張ってもバチは当たらないと思うんだ…」
「そりゃ確かに。今日も空気が冷たいからな…」
本来はそうするべきなのかもしれないけれど、広報課とCM製作会社との協議の結果、ああなってしまったわけで。見栄え的にバスタブから湯気が立ち上るのはNGらしい。
妥協しない姿勢はすばらしいと思うけれど、その冷水にさらされるのは人体である事は忘れてほしくないような気がしてた。
「おい高瀬、アレアレ」
「…何、円谷?」
円谷の方を見ると、彼は無言である一方を指し示していた。
その先にあるのは、いわゆるスーパー銭湯。まだ昼間という早い時間でありながら、既に店の扉は開かれている。
「これ以上冷える前に一度しっかり温まって、ついでに軽く食っとこうぜ?」
「え、いや、いいのかな? まだみんな仕事してるし、ホントなら僕も営業に行きたいんだけど…」
「冷えた体で無理したら行くところにも行けねぇし向こうにも迷惑だって。しっかり仕事するためには、自分の体が何よりだ。奢ってやるから行くぞ、ほれっ」
「わっ、たた…!」
背中を叩かれながら、半ば強引に店の中に連れ込まれる。
「はふ…」
安堵の溜息が漏れつつ、体が巨大な湯船に浸かる。勢いに押されて結局NOと言えず、円谷と一緒に入ってしまった。
何とか譲歩してもらった事といえば、奢るのを入場代までにした所だろうか。食事代も奢ると言い出したので、そこだけは意地でも遠慮しておいた。
「ん、はぁ…っ! 昼間に入る風呂ってのも良いモンだなぁ…、俺たち以外に誰もいないから、誰に気兼ねすることもねぇし」
「そうだね…。逆に、こんな時間に入ってて良いのか、って疑問が出てくるけど…」
「っかー、またかよ高瀬。もう入ったんだから観念してゆっくりしとけって」
すぐ横で入ってる円谷が、肩に手を回してくる。大雑把なのが良いのか悪いのか…、少なくとも気にしすぎる僕とでは、それなりに良い関係なのかもしれない。
「…それにしても…」
「ん、どうしたの、円谷?」
「いやぁ…お前の体があんな風になるのが、つくづく不思議だと思ってな…。な、変わるところ見せてくれよ」
「はっ? 何言ってるのさ、場所考えてよ!」
「その場所が場所だからだよ。考えても見ろ、今は俺たち以外誰もいない。入ってくるかも怪しい、そして今は俺たちだけだ。…気にすることはないだろ?」
「とは言っても…、男の体をじっと見てて楽しいの?」
「高瀬が変われば女だろ? なら俺は楽しい、俺が楽しい!」
「そういう問題っ? …っていうか円谷、また振られた?」
ビシッ。
そんな音が聞こえた気がした。
「…………わりぃかよ、そうだよ、また振られたよ!チクショウ、これで15人目だよ…っ!
この前の彼女とはえろいことする前に別れちまったよ…、俺はまだしばらく右手が恋人だよ…!」
「…………」
この円谷という男は、確かに気のいい相手ではある。あるのだが…、何より性欲に正直なのだ。
仕事中は別だが、平時では綺麗な女性を見ればそっちに視線が行くし、電車の中でも何度か『あんな女性とヤってみてぇよなぁ…』と言われたこともある。
女性と付き合う場合にしても、「性行為を前提にお付き合いしてください」とか言い出して、景気よく頬を叩かれたのを知ってる。というかそれを目撃したのが僕達の出会いだった。
「だからせめて、気兼ねなく言えるお前に頼みたかったんだよ! 良いじゃねぇかよピチピチの肌してよぉ!
減るもんじゃねぇだろよ、見せてくれよー!」
「……あぁ、うぅ、仕方ないなぁ」
円谷の勢いに負けて、渋々頷いてしまう。悪い奴じゃないんだけどなぁ、もう少し自制できれば本当にいい奴なんだよな、円谷は。
浴槽の縁に置いていたタオルを取り、前を隠す。息を吸い、霊力を引き出しながら吐くと、肉体は少女のそれへと変化していく。
「おぉ…っ」
食い入るように円谷が見てくる。
ぐぐ…、という擬音が聞こえてくるような状態の中、肉体の変化を忠実に言っていくことにする。
骨格から変わり、肩が狭く、腰の位置が高く、骨盤が広げられ腰周りが大きくなる。
次に肌の色素が抜けて、白く透き通るような肌になり、それと併せて四肢の先端、手や足が一回りも小さく、細く。
筋肉が見る間に溶け消えていき、代わりに皮膚の下に形成されるのは女性特有のやわらかさを伴った脂肪。
それは全身を満たすだけでは収まりきらず、ある2箇所へと重点的に“あまり”が流れ込んでいく。
一つは胸、もう一つはお尻。
乳首の色が抜け消えて、綺麗な桜色に変わった瞬間、甘い疼きに反応してしまう。
それが大きくなっていくたびに、感じ慣れてしまった女性としての感覚が顔をもたげ、切なげな吐息が溢れそうになる。
お尻も同様。流れ込んでゆく脂肪が、やわらかい曲線を描いた女としてのそれに書き換え、同じように、しかしてまた違う快感が届く。
体の形成が進んでいくと同時に、顔も確かに変わっていく。
大きさが搾り取られ、あごが細く、鼻が高く、瞳が大きく、色さえ変わって。
髪の毛も見る間に黒色から金髪へと色が抜け、腰辺りまで伸びてしまった。
残っているのは下腹部に存在する男性器。円谷の目には、タオルで隠されて見えることのないそれも、徐々に小さくなり、僕の体内に納まっていく。
(あ…、消えちゃう…)
じっくり体の変化を意識すると、いつもここで切なくなってしまう。あっという間に消えうせて、何もなくなった三角地帯に、くぱ、と少しだけいやらしい音を立てて、僅かに蜜をこぼして、花びらが開いた。
そのまま深呼吸を1回半、僕の肉体は完全に女性のそれへと変化していた。
「…はぁー、やっぱりいつ見てもすっげぇよなぁ、高瀬の体はさ」
「そりゃ…、まぁね。僕だって何度変わっても不思議なんだから」
円谷がじろじろ見てくる。そうされると、あんまりいい気分はしないなぁ…。
目を伏せて、見られてることを意識しないようにすると…。
「つぇいっ」ぷにっ。
「ひゃぁっ!?」
タオルの上から胸を突付かれた。
「ちょ、ちょっと円谷っ、何するのっ!」
「良いだろ高瀬、ちょっと位触らせてくれよ! すっげぇ柔らかそうだし、触ってみたいと思ってたんだよ!
あぁもう今でさえ水はじきやがって、お前一人だけいい思いしてんなよな!」
うわ、なんか円谷のテンション上がってきちゃった。下ちらり。
……うん、勃起してるよ。それに円谷の手が…。
「…ねぇ円谷?」
「なんだ、高瀬?」
「すごい真剣な表情をしてるのは良いんだけどさ…」
もみもみもみもみ…。
「ずっと胸揉まないでよ! 変わるところを見せた筈だし、それ以上触られると…」
「触られると?」
くに、と。多分円谷の意志の元に、乳首が捏ねられた。
「…っ、言わせないでよ!」
なんかにやけてる頭目掛けてチョップ。本気でやると気絶しかねないので、手加減してビシビシ。
「いててて、いてぇって高瀬! あぁでも良い気持ち、やーらけぇー!」
「だーかーらー!」
勢い余ってタオルを退けられ、揉みながら胸の間に顔を埋められた。
そんな言っても止めない円谷の腰に背後から蟹バサミを仕掛けたり、裏4の字固めをかけてみたり、お互いパンツは穿いてないがちょっとしたレスリングが始まってしまった。
結果は1ラウンドかからず僕の勝利。円谷が女体の柔らかさに負けて脱力したのが敗因。
浴場で暴れた事は、後で従業員からしっかり怒られてしまったけどね。
その12 父さんのアバンチュール
僕の手には、ちょっとした掃除の最中に見つけた写真が一枚。女性時の父さんが、別の女性と写ってる。
あぁあぁ、見事に胸を隠さないで写しちゃって。どこでこんな写真現像したのさ。男性職員が現像したら確実に今晩のオカズにしそうなアングルで撮っちゃって。
ちょっとだけため息を吐きながら、みんながいない時を見計らって、こっそり父さんに返却&問いただす。
ちなみにアレから父さんは、来客時を除く在宅中は四六時中女性化している。気がつけばほとんど家中に男性がいない状況。僕も含めていつものことだけど。
「ねぇ父さん、この人誰?」
「彼女か…、健司が高校生のときに俺に温泉旅行をプレゼントしてくれただろ?」
「うん、バイト代がいい感じに溜まったし、父さんも働き詰めだったから、無理にでも休んで貰いたくてさ。…その時に会った人?」
「そう。そこで不思議と息が合ってな、いつの間にか酒の席を共にするほどだったよ」
「あれ、でもあそこって混浴あったっけ…?」
「無いぞ?」
「だよね。……あれ、ってことは父さん、女性化して入ったんだ?」
「まぁ、その、なんだな…」
あ、歯切れが悪いなぁ。もしかして…。
「…この人と、最初から女性として会ってた?」
「…まぁな」
「やっぱり…」
でなけりゃ、こんな風に女性として風呂に入っていやしないし。仮に変身の瞬間を見られたらなんて言われるか解らない。
そも母さんにさえ体質のことを隠し続けていた父さんだからこそ、安易に自分の正体をばらすことはしないんじゃないかと思う。
「それと、その…。こういうのもなんだが…、…あー…」
「…何したの、父さん? ねぇ? 温泉旅行中でなにをやったの!?」
「相手方のほうが、その…、俺を好みと言ってな…。……酒の名残もあって、つい…」
……シちゃったのか。女同士で。
いやまぁ僕だって女同士の気持ちよさを知ってる、というか僕は結を産んだこともあるので、父さん以上に『女性』を知ってるわけですが。
「……気持ち良かった?」
「…あー…、まぁ…、なぁ…」
「だよね、知ってるから良く解るよ…」
「…………」
「…………」
ヤバい、気まずい。いくら親子でもこんな情欲混じりなぶっちゃけトークはし辛いよ。
話を少し中断するために席を立ってお茶を淹れる。茶葉を蒸らしてる間、父さんのほうをちらりと見ると…。物思いにふけるように写真を見つめてる。
その様子は、後ろから見てても昔の思い出(淫行含む)に浸ってるだけでは説明のつかないような、ほんの少しの憂いを見せてて。
そこでふと、何をきっかけとしたのかは解らないが…、昔に見たフィルム写真と、そこに写る人を思い出した。
その人は…、さっき見てた写真に写る女性とよく似ていて。
(…だから、求めちゃったのかな…)
僕が産まれる前に死別したあの人に、似ていて。
「……父さん、お茶、淹れたよ」
「あ、あぁ、ありがとう」
そのまま無言でお茶に口をつけながら、気になったことを聞く。
「その人の名前とか…、聞いたりした?」
「いや…、そういうのは聞かないことにして、と最初に釘を刺されてな。別れれば二度と会うこともないから…と」
「そっか…」
無言のままにお茶を飲んでいると、由香と結、そしてお祖父ちゃんが帰ってきて。慌てて写真を隠しながら、その場はお開きになった。
その夜、ある写真を見るために、物置の奥で埃を被ってるアルバムを取り出した。前に見た写真をしっかりと思い出して、探していた写真を見る。
写っているのは、神式の結婚式をしている2人の男女。
男はいわずもがな、父さんだ。今の姿よりしっかりと若く、今の僕とほぼ同じ位の年齢。
もう一人は、…抱きしめてもらうことの無かった僕の母さん。父さんとは2歳年下という少しだけ歳の離れた2人の、幸せそうな写真。
父さんが言うには、このとき既に僕は母さんのおなかの中に居たのだという。悪阻が発生したのが挙式の半月後とのことだ。
写真の中に写っている、僕が宿っていた白無垢姿の女性、母さんの顔を確り見る。
「…やっぱり」
その顔は間違いなく、父さんが温泉旅行中に会った女性と、まるで生き写しとも言うような、ほぼ同じ顔だった。
それだけを確認すると、アルバムを閉じて元の場所へ戻した。
もし温泉旅行で会った人が、擬似的な肉体を得た母さん本人だとしても、よく似た別人だったとしても、今の僕に確かめる術は無い。どこにいるかはわからないし、またそこへ行っても会える可能性はゼロに等しいからだ。
高瀬家の血筋や降霊に関して、今更説明するべきではないだろう。知ってしまっているが故に、“もしかしたら”を模索したくなってしまう。
これが「よく似た他人」ならそれで良い。母さんとは別の人が、今もどこかで生きている。それで済む話だ。
けれどこれが、「母さん本人」なら。もしそうであるのなら…、どうすればいいんだろう。
由香が言ったことによると、霊体自体はそれほどに強い存在ではないのだという。それだけであるならば、霊体は自然と揮発していく液体のように、いずれは世界に溶け込んで消えてしまう。
そうならないためには、肉体という器に入るか、それとも死神に手を引かれあの世に連れて行かれるか。
母さんの死去後、魂がどうなったのかは解らない。解らないが、消えていて欲しくはない。その想いと共に、今日も仏壇に線香を差す。
母さん…、心配させてゴメンね。ありがとう…。
その昔、の2 父の目覚め
「……父さん、何してるの」
「あ…、ふぁ…、気持ち、よくて…」
これも昔の話、僕が高校生時代だったころの事なんですが。
目の前では女の子状態の父さんが、布団の上で乱れまくった事後。全身薄っすらと汗が浮かんで、顔は思いっきり紅潮してる。
「気持ちよくて、じゃないよ父さん! この後何があるか憶えてるっ?」
「あー…、えぇと…、何だっけ…?」
「忘れないでよ、三者面談だよ! 1ヶ月前から言ってるでしょ!」
「あぁ…、そうだった…」
「ホラ起きて戻ってシャワー浴びて着替えて! 僕の番は後の方だけど、そんな時間に余裕があるわけじゃないんだからね?」
「そうしとく…、ん…」
僕の叱咤にゆっくりと体を動かす父さん。体勢のおかげで見えそうで見えなかった“女性”部分が見えてしまう。
「わ…っ、と、とにかく! 早くしてよね、父さん」
慌てて扉を閉めてリビングで一息を入れる。
父さんはしっかりとした人で、男手一つで僕を育ててくれた。毎日仕事に出かけて、たまの休日にはいつも僕と一緒に居てくれた。
その影響か自分の趣味といったものを持たずに生きてきたわけで、もしかしたら何処かでそれを埋めたかったのかもしれない。
…まぁその、僕がある程度手間のかからない年齢まで育ったら、こんな風になってしまった。
女性の肉体探求なんて趣味に目覚めないでほしかったぁ! 今の所1日休みの日にしかやらないのが救いだけど、このままだとどこまでエスカレートするのやら。
…そりゃまぁ僕だって女の姿になるから、いずれ結婚する由香をちゃんと気持ちよくさせる為に色々知りたいけどさ。そこはぐっと堪えてるのに。
けれど父さんはあんな風に何度も自分で自分を慰めて…、シちゃってさ…。
いつか僕に矛先が向きそうでちょっと恐いよ。
閑話休題。
三社面談恙無く終了。自分の学力を鑑みて行ける大学に進学、という形で今後の進路が決まった。
後は家に帰ってのんびりするだけなんだけど…、父さんが寄り道をしたいと言って、それに付き合うことに。
……したんだけどねぇ?
「…ねぇ父さん」
「ん?」
「寄り道って…、これ?」
「そうだぞ。いやぁ、さすが女性限定の店。過ごしやすいし雰囲気も良いな」
ケーキショップに寄り道をしている、僕と父さん(両方とも女の子モード)。
女性限定の店で、テラスで紅茶と一緒に賞味できるので、この時間は学校後の学生で賑わってる。
あぁもう、居るだけでちょっと落ち着かない…。何で父さんは平気なんだろう。なんかケーキも紅茶も味がわかんないや。
「…そうだ父さん、今日の晩ご飯はどうしようか」
「少しで良いぞ? こうしてお茶しているから、あまり入らないしな」
「…うん、解った」
最近は食事量も減っている。女性化している影響はこんな所にも出てきてたり。
いくら食べても女性時での体重変化はないし、お腹いっぱい食べても良いのになぁ。
あ、ちなみに僕はちゃんと男の状態で食べてるからね。腹八分目で。
「ん、おいし♪」
こうして目の前でケーキを頬張る父さんを見ると、本当に女性をエンジョイし始めてきたよなぁ、と思うことしきり。
その昔、の3 深夜の超常親子喧嘩
冗談で終わればそれで良いと思ってたし、道を踏み外しそうになれば僕が止める積りだった。
それが冗談で終わらなくなった時のことを語ろう。
それは僕が寝ていたときのこと、少しばかり蒸し暑い夜のことだった。
少しばかりの違和感を感じて目を開けると、眼前には女の子状態の父さんがいた。
何故か湯上り+バスタオル一枚という、思春期としては性欲的に崖下に叩き落すと言わんばかりの姿で、だ。
「うぇっ、ちょ、と、父さんっ?」
「健司ぃ、父さんといい事しよぉ?」
「何言ってるのさ! ちょっと、ねぇっ?」
僕の言葉なんて意に介さず、ベッドの上に乗りあがってくる。胸元で留めてるバスタオルが外れそうだ。
違和感が強くなる。
「ほぉら、健司だって元気そうじゃないか。ここなんか…、ほら、大きくなりかけてる」
股間で息子が元気いっぱいに存在を主張しているのを目ざとく見つけた父さんは、それを撫でさすってくる。
「う、く…、やめ、父さん…っ」
「我慢するな。それに今の内から女体に慣れた方が、後々恥をかかずに済むぞー?」
あくまで教え込むような口調のまま、父さんはズボンの中に手を入れてくる。細くて暖かく、けれどほんの少し冷たさを感じる指が触れる、その瞬間。
「父さん…、ごめん!」
あらかじめ謝って、自分の肉体に憑かせた霊の力を借りながら父さんの腹部を蹴飛ばす。が、手ごたえはない。
声で察したのか、父さんは自分から後ろに跳んで攻撃をかわしたのだ。
本気で蹴るつもりだったけど、当たらなかった事に内心一安心をしつつ、防御に身を固めながら問う。
「あなた…、何者ですか!」
「何者もなにも、“父さん”だよ? お前のな」
あからさまに自分が何ものであるかを強調した言葉。それを聞いて、はっと思い当たってしまった。
「あなた…、父さんに憑いてる『英霊』ですね?」
僕たち高瀬家の人間が取っている方法は、強い霊を憑かせる事によって外敵からの防御力を得る口寄せ。それはつまり、肉体の中に霊魂を注ぎ込むことだ。
器となる存在が壮健ならば何も問題はない。が、そうでない場合は厄介なことになってくる。
ただでさえ霊的耐性のない僕たちと、憑依させている『英霊』達とでは実力は雲泥の差、月とスッポンだ。当然僕たちが下ということになる。
ということは、何かあった場合。そのまま肉体を乗っ取られてしまう。霊耐性の無さから、生前の肉体になるというオマケ付きで。
それが高瀬家の取った手段の、唯一にして最大の欠点。
「…へぇ、よく気付いたな。やっぱりアレ? 親子だから気付いたって奴?」
「それ以前の問題です。父さんのように見せかけても、仕草に女性としてのそれを見かけましたからね」
気付かれても尚男口調をやめない彼女は、きっと生前からそうだったのだろう。どこか愉しそうに話してくる。
その様子に少しばかりの緊張を持ちながら、僕は彼女に問いかけた。
「いつから侵蝕して…、いつの間に父さんを飲み込んだんですか?」
「んー? いつから、ねぇ? オナニーし終わった後をお前に見られた時位かな」
あの時か…!
父さんが女性の体で自慰行為をしていたのが、今から数えて1ヶ月前。思っていたより深い事態に歯噛みする。
「あ、そうそう。どうして、ってのは問わなくてもいいぜ?
生身の体に入って、他の連中から護れって事はさ、正直こっちへのメリットが薄いんだ。無いとも言えるよな。
…俺達がそのまま使われるだけだと思ってたのか?」
「なるほど…、虎視眈々と狙ってた訳ですか」
「そういうこと。お前の中に入ってるヤツは比較的穏やかな奴だからそんな気も無いみたいだけど、俺は違う。
海賊頭のアンジェ=V=ヴィレット様が、たかだか警官(ヤード)の親父如きに使われてやるものか!」
拳を握り締めながらはっきりと告げてくる彼女、アンジェに向けて、僕は一つの行動を取っていた。
果たして僕自身の行動だったのか、それとも僕の中に居る“彼女”の行動だったのかは解らない。
ぱしっと音が鳴って、布がアンジェの体に当たる。
「…お?」
とった行動は単純。手袋を投げつけた。
「…おもしれぇ、決闘ってことか?」
「解っていただけて何よりです。……僕が勝てば、アンジェ。僕の言う事を聞いてもらいます」
「おいおい、勝手に進めるなよ。そもそも俺が受けなきゃ何の話にもならないんだぜ?」
手に取った手袋を中空で揺らしながらアンジェは応える。口の端を歪めた、意地の悪そうな笑み。
「逃げるつもりですか?」
「…あ?」
「決闘を前に逃げて、不名誉の烙印を押されるのが好みかと聞いてるんです」
「……」
「それに、アンジェが勝てば僕はあなたの言う事を呑みましょう。部下でも、奴隷でも、全て言うとおりに動きましょう」
「…大きく出やがったな、お前」
「出ますよ。そうでなければ…、あなたに勝つことも出来ませんしね」
知らず知らずのうちに、僕も笑っていた。アンジェと同じような口の端を歪める、嘲るような笑みで。
「それとも…、年下の決闘からも逃げるんですか? 海賊頭のアンジェ=V=ヴィレットさん?」
「…はっ、口は達者だな」
「はは…っ」
「はははは…」
「「はははははははははは」」
同じような笑みを浮かべて笑い合う。次に笑い以外の言葉を繋いだのは、アンジェだった。
「いいぜ解った、呑んでやるよ。決闘でも何でも別に方法は問わないさ。俺を屈服させれば、お前の…健司の言う事を聞いてやるよ」
乗った。
果たして真意がどうなのか、裏があるかはさて置いて、彼女が乗った。それを聞いて、心中に一つの安堵が生まれた。
「それを聞いて希望が持てました。…光よ!」
僕に憑いてる『彼女』の力を解き放つ。肉体が女性のものに変身し、パジャマが光に分解され、足を出し形を変えて再度身に纏われる。
一見してドレスのようで、さらに一部を装甲が包む。同時に光が集い、僕の手に一振りの長剣が握られた。『彼女』の記憶を元に作り出した戦闘用の衣装と、愛用の武器。
『英霊』はかつての姿に戻り、口伝のとおりの姿を成す。
「ん…、武装ってことは、ガチの決闘で良いのか?」
「そうですね。戦って、変えがたい“勝敗”を決めれば…、あなたも納得するしかないでしょう!?」
「へっ、いっちょまえに吼えやがって。そんじゃぁ…、“息子”が“親父”に勝ってみな!」
獅子吼と共に、アンジェ生前の記憶を元に衣装を構成した。
僕のように要所に装甲をつけながらも、しかし僕の衣装より遥かに露出度の高い、扇情的ともいえる服になる。その手に収まる武器は、いや、武器のようなものは、平たく薄く、その手に握られただけで容易に形を変える。まるで薄布のようだ。
片手で剣を持ち、まるでフェンシングのように半身に構える。その剣先にあくまで力強さはなく、日本の剣道における構えではない、僕の中にいる“彼女”の構え。
まるで女性が男性に語りかけるように、問いかけるように。僕は告げた。
「夜に紛れて踊りましょう。…Shall we Dance?」
* * *
空中で交錯しながら、何度となくぶつかり合う。
時に電灯、時に電柱を足場にし跳ねて。細い電線の上を2人で駆けて。
金属音か、はたまた別の何かか。深夜の深い藍色の空の下に、鈍い音が何度も響いている。
戦況は僕の方が圧倒的に不利だった。アンジェの使う武器は、鞭のようにしなり襲い掛かる鋼の強度を持った帯。しかも伸縮自在で、現状理解できる範囲内で15mはアンジェの攻撃圏内。
バックステップで距離を取れば、それに追撃をかけるように伸びてくる。
僕の武器である剣の攻撃範囲に持ち込もうとすれば、緻密に手繰られた帯に僕が包まれる。
(近づけない…!)
心の中で歯噛みした。同じ土俵の上で戦うことの容易さと、違う土俵の上で戦うことの難解さに。
こうして体感してみると、遠距離で攻撃できることの優位性と、されることの脅威がはっきりと解ってくる。
その間にもアンジェの攻撃は止まらない。風切り音と共に帯の曲線的な攻撃が幾度と無く迫り、僕は剣の腹でそれを受け止め続ける。
距離が離れていても、一撃が重い。受け止めていくだけで体力が消耗していく。
背後に出来た空間を目掛けて、波打つ攻撃を受け止めきった勢いのまま空を舞って後退。
自分でやっても驚く、まるで羽根になったかのような体の軽さを用いて、空中を回転しながら着地しつつアンジェを見据える。
笑っていた。自分の有利を悟っての笑顔であると、その目元だけで察せる程に。
「逃げ続けるだけで勝てると思ってるのかー、防戦みたいだがどこまで続く? ほらよっ!」
まだ距離が届く範囲内。アンジェがうねる様な一撃を繰り出してくる。
(直接戦闘は不利…、ならば!)
《経験転送》-インストール-。
僕の中の彼女が持つ経験、そして技能を自分の肉体に反映させる。変身している状態ならば、普段では出来ないことも可能になる。
「光の、軌跡っ!!」
剣を振り被り、なぎ払う。切っ先が走った箇所から光が溢れ、勢いをそのままに斬撃となり飛んでいく。
「おぉっと! へぇ、そこまで出来るとはねぇ!」
帯に当たり、アンジェの攻撃と相殺されるが、破れた様子はない。帯は鈍い光を纏い、物理・魔術両方の対策をしているのだろう。
「良いね良いね、手品は大好きさ。…もうちょい見せてみなっ!」
「はぁっ!!」
手繰られたの帯が再び攻撃に転じ、直撃する部分へと目掛けて再び光の軌跡の二撃目を飛ばす。
パシン!と音を立てて光が消え、帯は攻撃の勢いを失くし手繰られる。
(あの攻撃が本気でないとしても、光の軌跡なら迎撃は可能か…)
一足後ろに跳び、距離を16mというアンジェの射程外に移る。
(数を、撃つ!)
息を整えて柄を持ち、手首だけで何度も回転させる。イメージするのはバトントワリングの技術、コンタクトマテリアル。
明らかにバランスが悪い筈なのに、柄を中心として掌の中で剣が回転する。刃が一度回るごとに、剣の軌跡が大きな光の輪を作り上げる。
柄を握り回転を止め、また振り被る。
「光撃疾走!」
光の輪を解き放つように刃でなぞる。その瞬間、光輪が解かれて無数の斬撃と化し、飛翔する。
「おぉっと、手数で攻めるか?」
直後、アンジェの帯が彼女の身を包むように周囲に舞い上がった。
「甘い甘い、目眩ましならもちっと上手くやんな!」
バラけた光の軌跡が着弾する場所全てを見切ったのか、帯の滞空箇所は全て光の軌跡の狙った箇所。無数とはいえ、その全てが帯に当たり、たわませる程度の効果しか持たずに消えた。
「さて、お次の芸は何だよ、高瀬健司? 今は攻めさせてやるけど、俺が飽きたら攻守交替するぞ?」
平然とした顔でアンジェは告げてくる。
(マズいな、やっぱり地力が違う…)
『英霊』アンジェとしての生前の技術、経験等々も確かにあるのだろうが、それ以上にアンジェが父さんの体に馴染んでいるのが大きい。
霊が憑くとはいえ、結局は別人の体だからすぐに馴染みはしない。が、それは長い時間をかけていけば徐々にブランクが埋められ、憑いた『英霊』そのものの力を発揮することが出来る。場合によっては、それ以上。
僕は中学時代に降ろした。父さんはいつだ? 僕と同じ時期だとしても、40を過ぎた父さんには既に20年以上の時間が経っている。明らかに僕の方が不利だ。
ふと、頭の中に閃光が走った。
馴染んでいる…、肉体…。
(こうするしか…、ないのか…)
思いついてしまった手段にちょっとだけ歯噛みしながら、しかし現状では逆転の手段も少ないため取れる手段も無いに等しい。
ならば選べない、選んでいられない。
剣の柄を握りなおし、再び光の輪を作り上げる。
正直な話、これで戦闘は30分は経過している。僕の中の彼女はまだいけそうだが、僕の方は戦闘の空気に精神力が持たなくなってきている。さらには光の軌跡や、光撃疾走の負担もある。力を使っての大規模攻撃は、これが最後だろう。
(間に合え…!)
息を吐いて、再び放たれた光撃疾走が夜闇を切り裂く。
「はっ、甘いっつってんだろ!」
だが、その全ての斬撃は先ほどと同じように、アンジェの身を包むように展開された帯に阻まれた。
「…お?」
アンジェは少しだけいぶかしむが、驚いてはいない。帯の隙間、光が収まった後に見えてきたのは、突撃を仕掛ける僕の姿。
大規模攻撃は出来なくても、力を集中することは出来る。剣に光を込めて、帯での防御も不可能なほどの一撃を見舞わせる。
狙うのは、防御から攻撃に転ずるその瞬間。
アンジェが帯の向こう側で、鮫のように笑っているのが見える。
「乗ってやるが、やっぱりあめぇよっ!!」
全てを迎撃しきったアンジェが防御を解き、直線の攻撃が僕へと迫る。
ずんっ!と音が立つ。
眼前から迫る攻撃を避けきれずに、僕は右肩口に帯の直撃を貰った。
一層笑みを強めたアンジェは、直後目を見開くことになる。
確かに攻撃を命中させたはずの僕が、その場で光となって消えてしまったから。
「目くらまし、上手くやれましたか?」
後ろから抱きしめる形で、アンジェの背後を取る。首元にはしっかりと刃を添えて。
「…はっ、よくやるじゃないか。久しぶりに驚いたぜ」
「それは何より。……さて、現状を理解できないほどではないと思いますが…、負けを、認めますか?」
背後を取られ、首元に刃を添えられている状況。これならどう見ても敗北となるだろう。
「…あーはいはい、解った解った。決闘は俺の負けで良い…なっ!」
「う、わっ!?」
瞬間、アンジェの帯が脚と腕に絡まってきた。きつく締め付けてくる帯は保持していたはずの剣を取り落とす程。ガランと重い音が立った。
「生憎、乗った決闘は俺が負けた。そこは認めるが…、屈服というには程遠い辛勝じゃねぇか? これじゃあ聞いてやる訳にはいかねぇなぁ?」
「アンジェ、あんたは最初から…!」
「最初からも何も、屈服させればって言ったはずだろ? 相手に反撃の余力を残すほどの勝利で屈服なんて片腹痛ぇや。なぁ、健司?」
僕に後ろから抱き付かれたままなのは変わらないが、肩越しに再び鮫のような笑みを浮かべている。
その態度に、仕方ないなと心中で溜息一つ。やっぱりこの手段を取るしかないか…。
相手に反撃の余力を残さないほどの、屈服を。
「解り、ましたよ…。じゃあ、こっちも手加減…、無しだ!」
ぎちぎちと操られる帯が、アンジェの体から僕の体を放そうと力を込めてくるのに抵抗する。
密着しきった状態から、両の掌に光の力を込める。
ほのかに光を灯らせた手を、指の先まで力を行き渡らせ、ぐわっと広げ、
むにゅぅっ。
胸を揉んだ。
「ふぃうっ!?」
余裕の笑みが崩れて、アンジェの喉から変な声が漏れた。よし、好感触。
今より幼い時分に吸ったはずの、父(もといアンジェ)の乳を後ろから鷲掴んで揉みまくる。
上へ下へ右へ左へ縦横無尽にぐにりぐにり。
「あっ、をっ、健司…っ、てめ、あんっ」
「いやぁすみません…、ホントすみません。アレで認めてくれたらここまではしなかったんですけど…」
謝罪をしながらも手は止まらない。女の子としての片手でようやっと掴みきれる位のたわわに実った果実を握る。
「そこまで言うのなら、きっちりハッキリ、反撃をする余力を失くすほどの攻勢を仕掛けることにします」
これが僕の思いついてしまった手段、馴染みすぎた肉体を逆手に取る事だ。
今の肉体はアンジェにとって生前の、もしくはそれより高い能力や感度を持っている。当然性感もそれ以上。
父さんの女体探求に歯止めが掛からなかったのは、その辺が原因だと僕は推察してるわけだけど。
そこからさらに、僕の中の彼女の力を込めて触れる。
ちなみに僕が使う力は、特定の道具を具現化する能力と、光を操ること。攻撃にそのまま使用することも、幻影を作ることも可能と結構万能。
さらには、刺激と共に意識を多少トバす応用方法もある。性感への刺激と共に脳に光を叩き込んで、意識を保ちにくくするのだ。
弱点を言えばこの能力、射程距離が殆ど無いわけで、こうして手に力を込めなければ発動しない。やや面倒な仕様だったりする。
脇から手を突っ込んで、アンジェのやわらかい胸へ直に触る。掌には堅くしこった乳首が当たり、それを摘むと、
「はっ、はぅっ、んふぅっ!」
僕の顔の近くで面白いように嬌声を上げる。
もし僕が男のままだったら、下品な話になりますが絶対に勃起してます。ふふ…。
って、僕は爆弾殺人鬼じゃないんだ。うん、気を取り直して…。
「高瀬健司17歳、今から貴女を……、陵辱します!」
もう覚悟を決めた。見る見える程度で怯んでいられないし、行く所まで行ってやる。というかそもそも父さんから女体の手ほどきを受けてたしね!
いざ実践。アンジェを脱がして僕も脱いで、二人して下着程度の着衣で乳繰り合い。
胸を揉みながら光を流し込んで、知覚にブランクを作りつつ馴染んだ体に快感の波を送る。
「んっ、あぅ、ひゃぁっ!」
ぷっくりと勃起した乳首を摘むと、それだけで嬌声が鳴る。胸を揉みながら舌にも力を込めて、乳房を舐めあげる。
「れる、ちゅ…っ」
「ふゃあうっ!?」
ちゅうちゅう音を立てて吸うと、それだけで声がオクターブ高くなる。どうやら気持ち良いみたい。
胸を揉みながら吸うなんて子供のそれだけど、気持ちよくなってくれることが嬉しくて、調子を変えて胸を弄り続ける。
「あっ! んっ、こ、ら…、健司っ、てめ、んうっ!」
「ちゅっ、はむ…、っ、ん…」
吸い付く胸を変えながら舌先で乳頭を転がし、まずはアンジェの胸を重点的に責めてく。
というかかれこれ10分、ずっと胸だけで性感を刺激し続けてる。女性器なんて触ってもいないし、触れてるのは肌くらい。
これだけで感じてしまう、というか感じすぎてるのは…、間違いなく僕が昔やった、胸だけで父さんをイかせてた事が原因になってるのではないだろうか。
「いいかげ、んぁっ! やめ、ろぉぅっ、んひぃっ!」
「んむ、止めて良いんですか? 随分気持ち良さそうに顔を赤くしてるみたいですけど?」
「…っ、怒、ってんだよ…っ」
とはいうものの、多分それが口だけだという事は態度で証明してる。実はこっそり知覚ブランクの間隔を、最初の頃より長くしているのだけれど。それでもアンジェからの攻撃が飛んでこないのは、反撃をするだけの余力が無くなってきているのではないかと推測するわけで。
「嘘ばっかり。あー、んっ」
両方の胸を寄せて乳首を近付け、そのまま一気に口に咥える。
左右同時に刺激が届くように、両方の間を舌が通って舐めまわし、2本のストローで飲むように吸い付いて、さらには両の犬歯で甘噛みする。
「ふぅっ、んうぅぅぅっ!」
一際高い嬌声が上がる。多分達したんだと思う。
…すごい気持ち良さそうだなぁ、とか思ったりしたのは秘密。
両の乳首を吸いながらアンジェの顔を少しだけ見てみると、視線が中空を泳いでいたがそれもわずかな時間だけ。すぐに焦点の合った目でこちらを睨み、拳を振り上げようと…、
した所で、攻撃再開。
組み伏せ、アンジェをうつぶせにした上でマウントポジションを取る。
左手で抑えつけ、そこから常に光を流し込みながら、ようやく女性器に触れる。
「うぁっ!?」
しとどに濡れそぼっていた秘所に触れ、嬌声が響く。まずは掌で優しく、何度も前後にこする。
「ふゃ、あ、ふぅっ!」
それだけでアンジェが喘ぎ、感じている。
体の本来の持ち主である父さんに悪いと思う反面、多分僕の中には、確かに女性を征服する悦びがあった。
「そんなによがっちゃって、声を上げて…、気持ち良いんですか?」
「う、るせ…っ、んな、訳、ねぇだろっ?」
「アンジェは意地っ張りの嘘吐きだね。大事な部分、こんなに濡らしちゃってるくせにっ」
相変わらずの口調を面白がって、今度は指を入れてみる。
「ふぁ、あぁっ!」
つぷ、と音を立てて女性器の中に人差し指が沈みこんでいく。
「すんなり入っちゃいましたよ、ほら…」
指先だけの挿入でさえ大きく喘ぐアンジェを、前後させてさらに喘がせる。
入れては抜く度に、ちゅぷ、ぷちゅ、と愛液が弾ける音が耳に届き、さらに興奮している自分がわかってしまう。
「二本目、入れますよ」
「ちょ、ま、あぁっ!」
言う間も与えず中指も突き入れ、2本でさらに膣をえぐって行く。
アンジェの中に差し込んだ指が、奥へ奥へと蠕動している柔肉の動きを捕らえてくる。
女性器の上端にぷっくり膨らんで存在しているクリトリスがあって、乳首以上に快感の誇示をしている。
ここにも触れたらどうなるだろう。きっと気持ち良いんだろうな。きっとアンジェだけじゃなくて、僕も触ってみたら…。
見てみたい。と思った瞬間、親指の腹がそこに触れた。
「ひぃんっ!?」
添えるように触っただけで、アンジェがこんなにも嬉しそうな悲鳴を上げた。気持ち良いんだ…。
指の抽送運動を繰り返し、突きこむたびに親指でクリトリスを触る。接触だけじゃなくて、時に押し込んでみたり、ちょっと回してみたり。
その度に感極まった嬌声を繰り返して、女性の快感を悦んでる。
「あっ、あぅ、んあぁぁぁっ!」
一度火がついてしまったせいか、攻めている場所の違いか。二度目の絶頂はさっきより時間がかからなかった。
ぐったりして、荒く呼吸を繰り返すアンジェを見ていて…、淫靡さに生唾を飲み込みたくなる。
けれど…、まだだ。まだアンジェが屈服しきってない。まだ僕の勝ちじゃない。
後ろに回って腰を上げ、隠しようがない丸見えの状態にする。
「ぁ…、こらぁ…、なにすん、ひゃぁっ!」
「はぁ、…えっちな匂いですね。こんなにされて、とろとろに溢れさせて…」
女性器の入り口を割り開いて、奥まで見えるようにして覗き込む。あ、途中に何かある。処女膜…、かな、これ。
ちょっと気になったので、言葉責めにも含めてみよう。
「処女だって言うのにこんなに乱れて…、恥ずかしくないんですか?」
「う、うるせぇ…っ、そんなの、どうだってい、んやぁっ!」
そっと女性器に口を近づけ、息を吹きかける。それだけで甘い声が漏れてきた。
「奥の肉までヒクヒク蠢いて…、いやらしいなぁ。今は女同士だけど…、僕、すごいえっちな気分です…、んちゅ」
「はゃあっ?」
割り開いた女性器に口付けして、中に舌をもぐりこませる。指よりは挿入しにくいけど、それでも柔らかい肉に包み込まれていく。
「は、ぁっ、んぅぅ…っ、お、ぉあ…!」
「はむ…、ぢゅ、ぢゅる…、むちゅ…、ちゅぴ…」
奥に入れて、引き抜いて。クンニリングスをする度に…、いや、それ以前よりずっとしとどに溢れてくる愛液を舐めとって、口に含んで、味わって。
「……んっ、く」
そして嚥下して。その全てをいやらしくアンジェの耳に届くように行っている。
呼吸するために口を離すと、
「あ…、…ちょ、っと待て…」
「…どうしたんですか、アンジェ?」
「…な、んで…、やめるん、だよ…。せっかくまた、イきそ、だったのに…」
あ、そろそろ素直になりかけてきてる…、かな?
「そうですか…。…アンジェは、またイきたいんですか?」
「…っ! っるせ…! いい加減に、しねぇと…、んやあぁぁぁっ!」
また生意気な口を聞き始めたので、クリトリスをつねって黙らせる。女性器からは絶頂の証として、大量の愛液がこぼれた。
こうして責めてしまうあたり、実は僕にサドッ気あるんじゃないかと思い始めてしまう。
「はー…、はぁ…、あ…っ!」
口を半開きにして絶頂の余韻に浸ってる彼女に、問いかける。
「アンジェ…、さっきから全然反撃できずにイって、もう3回です。…いい加減負けを認めますか?」
「あ…、う…」
しかしこの期に及んで、アンジェの返答は首を横に振る、NOの意思表示。
………仕方ない、で済ませたくないことだけど。…仕方ない、かな。
「解りました。…じゃあ、徹底的にイかせ続けてあげます。
それと先に言っておきますけど、僕はアンジェが屈伏するまで本番はしませんよ? ずっと手と口で攻め続けますから」
脱がせたアンジェの服で四肢を縛りつけ、抵抗できないようにして…。
次はどうやってイかせようか、考えを巡らせた。
* * *
さてさて。
アレからたっぷり体をまさぐり、何度もイかされて屈服したアンジェに、僕の体に奉仕してもらったり、お互いに69をし合ったり、張り型による挿入という形で擬似性交をしたりと、思い起こせば一晩中互いを貪ってたな気もする。
……はい、腰が痛いです。僕は挿入するばっかりで、将来結婚する由香の為に処女は頑張って守った!
僕に屈服したアンジェは、
「…し、仕方ねぇな! 健司に負けたんだから、言うとおりにしてやるよ! 体を親父に返してやればいいんだろっ!?」
とか、顔を赤くして半ば吐き捨てるように言いながら父さんの中に潜っていって。
…とりあえず、当面の心配は無くなったと思ったんだけど。
「おい健司、お前も早く脱げよぉ。俺一人だけ脱ぐと寒ぃんだからな?」
えーと、まぁ、何と言いますか。
「…何で、アンジェが出てきて、僕のベッドに乗っかってきてるんですか? しかも素っ裸で!」
こんな状況になってるわけで。
「良いじゃねぇか、健司の親父にゃ昼間にちゃんと体の主導権は返してんだ。夜くらいは借りても良いだろ?」
「そうじゃなくて、何でアンジェがベッドに来てるのかって言うのを聞きたいんです!」
「え…? …あー、その、なぁ…、言わせるなよ…?」
艶の混じった目でアンジェは僕を見てくる。内股をこすり合わせてるようで、なんというか…。
…疼いてる?
「…………」
それに感づいた瞬間、僕は布団に包まって何の意味もない防御を固めた。
「あぁっ、おいコラ健司、ちゃんとこっち見ろよっ! 何隠れようとしてんだ!」
「勘弁してください僕は眠いんですっ! っていうか僕は婚約者がいるんですっ!」
「ンなこた親父の知識で知ってるよ! 別に男女でヤろうって言ってるわけじゃなくて…っ」
「…なくて?」
ちょっと疑問に思って、顔をこっそり出してみる。
「……セックスって、いいな、ってさぁ? それにホラ、俺は健司に負けたんだし、そーゆー意味ではもう俺なんてお前の所有物じゃねぇか? ちゃんと面倒見るのが…、持ち主の責任ってヤツじゃねぇのか?」
ゲゲェーッ!? アンジェの中ではそんなことになってるのー!?
っていうかアレが良かったの!? というかむしろいけなかった!?
「アレから一人でシても淋しいんだよ。慰めてくれよぉ…」
しな垂れかかり、包まってる布団を剥いでアンジェは体を摺り寄せてくる。うぁ、これはこれでいい光景なのかもしれないけど…。
でも、アンジェの体の元になってるのは父さんな訳で、あの時はテンションで保ってて流れてこなかった疑問の思考が今更になってやってきたー!
「んー、んー…っ」
うわぉ、僕の意志とか関係なく太ももに女性器をこすり始めてきましたよ。ホントに我慢できないっていうか疼いてるっていうか。
「ちょ、ちょっと待った、待ったー!」
「うぇ…?」
思考が掻き乱されるから潤んだ目でこっちを見ないでーっ!? えぇと、落ち着け僕、深呼吸をするんだ。COOLに、KOOLになるんだ。
「え、えぇと…、アンジェ!」
「なんだよ…、やっぱり本命がいると、俺じゃダメか…?」
「そういう問題じゃなくて…、って違う! えぇと、んんー…っ!」
脳に空気が入ってない気分がいっぱいする。とにかく息を吸って、0.5秒。
「このことは絶対父さんに知られないようにしてっ!」
…………あれ? 僕は何を言った?
「…………」
なんか、アンジェが、嬉しそうな顔で、見てるんですけど。
「あぁ解った! 親父には絶対知られないようにヤれば良いんだよな!」
……しまったー!!? 情報伝達に大いなる齟齬が発生してしまったー!
「そうと決まれば絶対教えねぇ! さぁヤるぞ、今ヤるぞっ、すぐにヤるぞーっ!」
まるで餌を与えられた犬みたいに、嬉しそうに飛びついてくるアンジェ。
…おあずけをして、何とか「僕の男としての本番は無し」とか、細々とした約束事はして。
僕は自分の行為、その責任を取ることになってしまいました。
* * *
現在に戻って。
高校生時代にヤってしまった過ちを、晩酌中にふと、思い出してしまった。
アレから何度もシて、女同士の快感をアンジェの体に教え込んでしまった影響というのは…、英霊の力が僕たちに影響するように、父さんにもフィードバックされてる。
……あぁ、父さんが温泉旅行中でヤっちゃった遠因、僕だったわ。
由香と結とお祖父ちゃんは、ちょっと遠野に里帰り中であり、現在家にいるのはこちらで仕事を持ってる僕と父さんだけ。
お互いにビールをグラスに注ぎあい、ボイルソーセージをちょっとしたつまみとして飲んでる。
「…ん、どうしたんだ健司? なんか顔色が悪いみたいだけど…」
「あぁいやいや、なんでもないんだ。…うん、なんでも」
ちょっと居た堪れなくなってしまい、僕は早々に切り上げてベッドにもぐりこむ。
アルコールでふやけた頭がまどろみを呼び込み、寝ようとしたところで…、
…聞こえてしまった。
床を裸足で踏み鳴らす、ぺた、ぺた、という足音。
心臓の鼓動と連動するような、はぁはぁと荒い吐息。
部屋の鍵は閉めてある。開いてるのは…、外気を取り入れるための…窓。
「けーんーじー…、久しぶりにセックスしよーぜー…」
思い出したら来ちゃったー!?
抵抗できそうにない状況で、アンジェの声が、足音が迫る。
ぺた、ぺた。はぁはぁ…。
アルコールとお腹が満たされた感覚で体が動かせない。
ぺた、ぺた。はぁはぁ…。
一歩ずつ近付いてくる。
ぺた、ぺた。はぁはぁ…。
逃げられない。逃げ場は、無い。
あぁ、窓に、窓に!
>6様
続きはいくつか考えてるんですよね。浮気のお仕置きとか、義弟関連とか。
機会があれば出したいところです。
>8様
ありがとうございます。…褒められてるんです、よね?w
賞賛を素直に受け取れないほど、わが心には疑念が渦巻く…w
続きを考えている……ですと?楽しみですわー。
画像のリンクがところどころ切れているのはなぜでしょうか?
>21様
ありがとうございます。でもまだ、他にも再掲載してないのが沢山あるのですよ。
続きに関しては気長にお待ちください。まずは詰まれたタスクを、片付ける…!
>22様
リンク自体は繋がっているので、IEで「画像の表示」を選択すれば出てきますよ。
アップローダでなくよつば板に張った方が良いかもしれませんね。
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