「な、な、な、なによ! これっ!!」
私の手元にある1枚の写真。
そこには裸より恥ずかしい水着を着た女性が写っている。
認めるのは癪だが……この女性は私自身だろう。
だが、私は断じてこんな写真を撮った記憶はない。
写真を持っていたのはクラスメイトの男子だった。
同じく同級生の清彦という男子から購入したという。
今すぐに引き裂いてしまいたい。
そんな衝動をこらえつつ、証拠となる写真を確保。
その写真を持って私は清彦のところへ向かった。
◆ ◇ ◆
私はごく普通の、どこにでもいるような女子である。
……まあ、人によってはスタイルや容貌を褒めてくれるかもしれない。
そんな程度の女だ。
ともかく、あんな……イヤらしい写真を撮るような人間ではない。
あんな……。
ほとんどのパーツがヒモでできたような真っ赤なビキニの水着。
尻を床につけ、大きく開いた太もも。
女性の大切なところを見せつけるかのようなポーズ。
右手で上半身が倒れないように支え。
一方の左手は水着の肩紐を挑発的に左手の親指で引っ張り上げる。
長い髪はみだらに床に広がって、実にエロティックだ。
そして、なんと言ってもあの表情!
蕩けたような笑みを浮かべ、口はだらしなく半開き。
目は恍惚としていて、まるで男を誘っているかのようで……。
だあああっ!
ホント腹が立つ!
なんであんな写真があるんだろう?
繰り返し言うが、私にはあんな写真を撮った記憶はない。
撮る理由もない。
あんな写真、一刻も早くこの世から消し去ってしまいたい!
とにかく、清彦に直接聞くのが一番早い。
私は足早に化学準備室へと向かった。
清彦はTS部なる部活のため、化学準備室を占領している。
そして、放課後はそこにこもっているのだ。
確か、部員はあいつ1人しかいないはず。
最低でも5人いないと認められないはずの部活動。
それがなぜか1人の人間に認められている。
……このとき私は、そのことの意味をもっと真剣に考えるべきだった。
校舎の外れ、最上階にある化学室。
その隣に化学準備室はあった。
私はノックもせず化学準備室のドアを開ける。
清彦を逃がさないためだ。
これまで清彦とはろくに会話を交わした記憶はない。
彼は目立たない学生でこれという特徴もない……。
……はずである。
なぜそんなはっきりしない表現になるのか?
それは清彦について考えると、なぜか記憶が曖昧になるからだ。
とはいえ、私には彼との接点は一切ない。
それだけは間違いない……はずだ。
そんな彼がなぜ私の……恥ずかしい写真を売ったのか。
そもそもなぜそんなものを持っていたのか?
改めて考えればおかしなことだらけだ。
とにかくその時の私は怒りで冷静さを欠いていた。
引き戸になっている入り口のドアを開け、化学準備室に侵入する。
室内にはなんだかわからないけれど、薬品の香りが漂っていた。
これだけ乱暴な態度にでているのに、清彦からの反応はなかった。
淡々と……多分実験のようなことを続けている。
拍子抜けした私だったが、気を取り直して声をかけた。
「清彦くん!」
教室が震えるほどの音量。
そこまでしてやっとヤツは、清彦は私の方を見た。
その瞬間……ゾワッという悪寒が私の脊髄を駆け抜けた。
◆ ◇ ◆
目の焦点があっていないわけでもない。
悪意のような感情が込められているのでもない。
誰もがある条件で浮かべるような目線。
そのときの私には彼の視線の意味がわからなかった。
だが、そんなことで怯んではいられない。
私は問題の写真を取り出すと、清彦に抗議した。
「この写真について……聴きたいんだけど?」
この私の問いに対する清彦の回答は、
事前に想像もできない、常軌を逸したものだった。
「なぜ音声を用いるのか?」
……なに? この違和感。
例えるなら宇宙人のような、人間ではない相手と会話している感覚。
この時、私はその日2度目の悪寒を自覚していた。
ガタリ。
私の背後で化学準備室のドアが開いた。
部屋に入ってきたのは双葉先生。
新任の化学の教師で、クールっぽい美人だ。
ややツリ目がちな瞳。
すっと通った鼻筋。
女の私がみてもどきっとする艶やかな唇。
一見すると怜悧な印象を与える外見の持ち主だ。
ただし、中身までクールなわけではない。
むしろ気さくで話しやすいと評判だ。
スーツ姿のよく似合う、メリハリのあるスタイル。
女性にしては比較的高い身長。
メゾソプラノの声は美しく響き、滑舌も良い。
男子たちからの絶大な人気を集めるのは当然だ。
では女子に不人気かというとそんなことはない。
話題が豊富で話しかけやすく、誰にでも公平だという評価を得ている。
教師としては的確な指導が学生にも親たちにも好評だ。
担当科目である化学の成績は学校全体で以前より伸びているそうだ。
性格も真面目かつ温厚で、先輩教師たちからの信頼も篤い。
そんな先生がこのタイミングで現れるとは……。
「いったい何事? 下の階まで声が聞こえたわよ?」
私は正直「失敗した」と思った。
これで私の……。
あの恥ずかしい写真のことが教師に知られてしまう。
だが、いまさら隠すわけにもいかない。
私は写真を双葉先生に見せ、事情を説明した。
それに対して当然のように双葉先生は清彦に問いただした。
「これはどういうこと?」
清彦の回答はやはり意味不明なものだった。
「概念が複雑だ。直接の接触が効率的と判断する」
その回答に対する先生の反応は……。
つかつかと清彦に近づき……。
椅子に座ったままの彼のアゴに手をかけ……。
細くてきれいな指で清彦の顔を上向かせた。
そして双葉先生は……。
男女問わず人気のある美人教師は……。
柔らかそうな赤い自分の唇を、清彦の口に押し付けたのである。
◆ ◇ ◆
呆然と見つめる私。
その目の前で、美人と評判の女教師が男子学生の唇を奪っている。
イヤらしい音が化学準備室に響く。
ちゅぶ……ちゃぶ……じゅぷ……。
まるでお互いの体内のものすべてを交換するような。
そんな激しいキスだった。
ちゅばぁっ!
清彦の唇から双葉先生が口を離した。
2人の間で唾液が糸を引いていた。
さほど長い時間ではなかったはず。
だが、双葉先生の肌は上気し、赤く染まっていた。
……誰だこの人?
少なくともこの女は私の知っている双葉先生じゃ……ない!?
双葉先生の姿をした誰かが、じっと私を見つめる。
その目は……清彦と同じ表情をたたえていた。
みたび私を悪寒が襲った!
「まさか“リンケージ”が切れるなんてね」
「環境の調整はお前の役割だ」
「わかってるわよぅ。ただ興味深いだけ」
学校きっての美人教師と存在感のない学生。
その2人が私の目の前で交わす意味不明の会話。
何かおぞましいことが、この場で起こっている!
だが私は逃げようという気にはならなかった。
あとで考えれば、すでにもう手遅れだとわかっていたのだろう。
もしかすると、化学準備室に来る前であれば……。
別の運命が開けた可能性も、わずかにあったかもしれない。
だが、すべてはもう手遅れだったのだ。
「レアケースだけに、どう処理するか迷うなぁ」
楽しそうに“双葉先生”が言う。
舌なめずりでもしそうな淫蕩な笑顔を浮かべ、その女が私に近づく。
私は後ずさる事すらできなかった。
「この写真をなぜ清彦くんが持っていたのか、
それが知りたいのよね?」
私はかろうじてうなづく。
「ところであなた……自分がもう1人いたらいい、
そう思ったことはない?」
“双葉先生”の問いが脈絡のない方向に飛んだ。
「じゃなければ、自分に向いたことだけをして、
不得意なことをせずに生きたい。そう考えたことは?」
質問の形を取っているけれど、
私からの回答には意味はないのだろう。
そう思った私は先生の……。
……先生の姿をした女の、次の言葉を待った。
「あるいは“自分”ってどういう現象なのか、
そんなことを考えたことは?」
案の定、私の回答を待たず彼女は解説を続ける。
「簡単に言えば、“自分”って概念上の存在。
いわば……錯覚なのよ」
「錯覚……ですか?」
「うーん、わかりやすく例えるのは難しいわねぇ」
明らかに私の理解は追いついていない。
ちょっとだけ真面目な教師風の表情になって彼女は言う。
「そうね……。あなたの血管を流れているのはあなたの血よね?」
「それが、何か?」
「それを抜き取ったらそれは誰の血かしら?」
「……たとえ抜き取られたとしても、私の血なのでは?」
「じゃあ、その血を輸血して他人の体内に入ったら?
果たしてそれは誰の血なのかしらね?」
“双葉先生”の言いたいことが少しわかった。
「つまり……自分の血かどうかは主観で決まると?」
「あら、ずいぶん難しい言い回しねぇ」
「でも、その通りよ」と、“双葉先生”は妖しげな笑顔でそう言った。
きっと男子ならその笑顔を見ただけで魂が溶けるに違いない。
「つまり、自分と他人という区分は本来曖昧なものなの。
でも、その曖昧な基準は、普段絶対のように機能している。
それはなぜだと思う?」
いつの間にか、私の顔の目前まで“先生”の顔が迫っていた。
「答えはね……」
“先生”が私に息がかかるほどの距離に近づいて言う。
「……記憶という現象によるものなの」
「記憶?」
「そう、記憶。動物は脳に情報を蓄え、“思い出す”ことができる。
ただし、その個体の範囲内で。
そして他の個体の記憶は思い出すことはできない」
私の反応を楽しむように、私の目を見つめながら“先生”が言う。
「だから記憶を持たない他の個体と主観のズレが起こる。
概念上の存在である自分と他人の境界が作られる……」
すでに唇同士が触れ合わんばかりの距離で“先生”は語る。
「でも、一部の昆虫のように構造が簡単な動物では話が違う。
フェロモンのような化学物質。
そのやり取りで、集団が一つの生物であるかのように行動する……」
「……そろそろ答えを教えてくれませんか?」
“先生”からたちのぼる体臭を嗅げる距離で、私は話の先を促した。
身体の奥で何かの衝動が動き出している。
私はわけもわからなまま、焦らされる感覚にいら立っていた。
「つまり、記憶を個体を超えて共有できれば……」
双葉先生の顔をした女の目が妖しく輝くのがわかる。
「人間でも個体を超えて“自分”を拡大できるってこと」
私は「ゴクリ!」とノドを鳴らした。
途方もなく荒唐無稽な話なのに……。
今の私には、笑い飛ばすことができない。
「……それで、今のお話と私の写真に、
何の……関係が?」
かすれる声でなんとかそう言った私に“双葉先生”は……。
「ふぅ」っと息を吹きかけた。
その瞬間。
私の中を強烈な快感が走り抜けた!
◆ ◇ ◆
「ひゃああぁあぁぁうぅぅ!?」
私は立っていられなくなり、その場で崩れ落ちる。
あらかじめそれを予想していた“双葉先生”が私を支える。
ガクガクと全身が震え、私の身体に力が入らない。
なんだ! この感覚!!
体中にある「気持ちのよくなるスイッチ」が押されたみたいだ!
気持ちよすぎて、気持ち悪いくらい……。
「相変わらず敏感な身体よねぇ……」
そう言うと、脱力した私を“先生”は並べた椅子の上に寝かせた。
椅子は化学室の背もたれのない、四角くて座面が平らなタイプだ。
硬いけれど、ちょっとしたベッドのようになっている。
「人間を含む動物の脳はね。これも単純に言うと……。
神経細胞の結びつきと、化学物質の交換で記憶を保存しているの」
“双葉先生”は説明を続ける。
「記憶だけじゃないわ。思考も、行動だってそう。
人間は化学的な刺激によって制御されるんだから」
私は快楽で身体が動かせない状況で、ぼんやりと“先生”の話を聞いていた。
「だから、快感を刺激する物質を吹き付けられるとね。
こんな風に行動をコントロールされちゃうわけ」
横たわる私の 制服のボタンを“双葉先生”が外していく。
彼女の白くて細い指が魔法のように動き、
気づけばショーツ一枚を残して私は服を脱がされていた。
そのときの“双葉先生”の表情は、とても楽しそうな……。
愉悦に満ちた表情をたたえていた。
そしてそれは、私の……。
あの写真に映っていた、イヤらしい女の表情にどこか似ていた。
私の身体には相変わらず力が入らない。
けれど、この時すでに私は、抵抗するのを止めていた。
もちろん、この後に起きる出来事に期待して……。
「わた……清彦くんはね、あるとき知ってしまったの」
「知っ……た? ……何……を?」
掠れる声で問う私に“先生”が答えた。
「人間の記憶を転写する、ある物質の存在を」
“先生”の解説は続く。
「この物質は人間の体内で生成され、生成した当人の記憶を転写する。
さらに転写した先の記憶を写し取って戻ってくる……」
身じろぎ1つしない私の上に“先生”が覆い被さってくる。
“先生”も仕立てのよいレディースのスーツを脱ぎ、全裸になっていた。
私に負けないサイズの形のよい彼女のバストが「ぷるん」と揺れた。
「とはいえ、常に肉体的接触を続けるわけにはいかない……」
そこまで“先生”が言ったその直後。
「……だから、普段は体臭に含まれる化学物質で、情報交換を行う。
例えば息を吹きかけて快感を伝える程度のことはできる」
“先生”のセリフを引き継いで“私”が言った。
……すでにリンケージはほとんど回復したようだ。
それにともない、この身体の制御権も回復したらしい。
“私”はみずから最後に身にまとっていたショーツを脱いだ。
「香りで情報交換をする状態をリンケージと呼ぶ」
「体臭の交換ができる距離にいるとき……」
“先生”の指が“私”の胸の膨らみを揉む。
“私”も負けずに先生の胸を揉み返す。
上と下。
合計4つの乳が揉まれ、指の動きに合わせて形を変える。
ハァハァというあえぎ声を交えつつ、“私”と“先生”が唱和する。
「リンケージ状態の……」
「私……」
「わたしたちは……」
“先生”と“私”の……“わたしたち”の声が重なる。
「「一つの群体として機能する」」
“私”と“先生”は口づけを交わした。
ぬぷ……ぬぷ……、ぬちょ……ぴちゃぴちゃ……。
イヤらしい音を立てて2人の美女の経口部が接触した。
マウス・トゥ・マウスで記憶交換物質が2つの身体を行き交う。
“先生”の中から“わたしたち”の鮮明な記憶が流れ込んでくる。
今こそ“私”は完全に「思い出した」のだった。
◆ ◇ ◆
……そう、思い出した。
“私”は他の個体とともに清彦のパーツになっていることを。
“清彦”とは役割を与えられた個体たちの集合体なのだということを。
清彦は自身の最も大切な欲望―――研究―――に没頭したかった。
そこで、自分と自分が選んだ他人の身体を改造した。
そうして“清彦”という群体を作り上げたのだ。
“双葉先生”の役割は、その立場を利用した環境管理。
これだけ派手なことをやっていて、なぜ清彦が見咎められないのか?
むしろ「目立たない、特徴がない」という印象があるのはなぜか?
それは、“双葉先生”を中心にした群体が工作した成果なのだ。
“先生”以外にも“清彦”のパーツとなる身体はある。
それぞれ別の欲望が割り当てられ、全体で“清彦”を形成している。
例えば“私”の役割は……。
「はあぁぁぁん!!」
“私”の淫靡な声が化学準備室に響く。
“双葉先生”はキスを終ていた。
そして、“私”の火照って赤くなった肌をなめ回し始めたのだ。
だが、こんな声を張り上げてもこの部屋に近づく者はいない。
環境担当の“双葉先生”の根回しによるものだ。
“双葉先生”の唇が“私”の全身をついばむ。
快感で“私”は身悶える。
ああ……なんという感じやすい身体だろう!
そして当然、この快感は“清彦”の群体全体にも伝わる。
目の前の“先生”も。
研究に没頭中の“清彦”も。
今、この快感を味わっているのだ。
そう、“私”の役割は、この“清彦”という群体の中で……。
性的快楽の担当なのである。
元の私は清彦に対して関心を持っていなかった。
強いて言えば陰気くさくて気持ち悪いという程度の印象だった。
だが“清彦”の方は“私”の身体に秘められた才能に気づいていた。
“私”は人一倍感じやすく、性欲も強かったのだ。
“清彦”によって私の身体は調整された。
今の“私”の個体は、全身が性的快楽を群体に与えるためのユニットと化している。
“私”は自分から“双葉先生”の身体を攻め始めた。
両手で“私”のものと遜色ないサイズの“双葉先生”のおっぱいを揉む。
“先生”の身体も快楽が高まっていく
いわば群体のエロ担当の“私”がやられっぱなしなのは存在意義に関わる。
そんなわけで、“私”は目の前の“先生”を美味しくいただくことにした。
“わたし”……“双葉”も最初からこういう展開にするつもりだったしね。
“私”は頃合いを見て“先生”のてらてらと輝く艶やかな唇に食らいつく。
そのまま舌を入れて“先生”の口内をなめとるように動かす。
それだけで“双葉先生”は軽くイキそうになった。
おっと、そう簡単にはイカさない。
“私”は唇を“双葉先生”の唇から引き離す。
そのまま、“先生”の胸の双丘をぎゅむっとつかむ。
「はぁん! ……あぅぅ……」
いかにも「仕事のできる女」然とした“双葉先生”の口から淫猥な喘ぎ声が漏れる。
ふふっ。焦らされて、切ないんだよね。
すでに行為のイニシアティブは、完全に“私”の身体に移っていた。
“双葉先生”の身体からは十分濡れている感覚が“私”に伝わってくる。
もちろん、“私”のイヤらしい身体の下半身はとっくにびしょびしょだ。
“双葉先生”の身体から分泌物の香りを通して伝わる快楽により、“私”の快感が押し上げられる。
その快感がさらに“私”から“双葉先生”に伝わる。
ハウリングを起こしたスピーカーのように快感が高まっていく!
「「ひゃぁぁぁあん!」」
こんな快感、個体のころの“私”には想像もできなかった!
まあそれも当然か。
これは人間を超越した営みなんだから……。
「「あっ! あぁん! あああああぁぁぁ……」」
“私”と“先生”の身体が焦らされ、限界が近づいていた。
そろそろ達してもいいだろう。
群体“清彦”である“わたし”は、“双葉先生”の身体を制御した。
彼女のイヤらしいところを“私”の身体に押し付けさせる。
“私”の身体もタイミングを合わせて動かす。
“先生”の秘めた箇所と“私”のそれがこすりつけられた!
「「あ、あっ、あっ!」」
2人の喘ぎ声がシンクロする。
「「いぃ! あぁ……あ、ぁはあぁぁぁん!!」」
2体の美女の身体から同時に嬌声がほとばしる。
同時に研究に没頭しつつ、下半身を膨らませていた、
“清彦”の下半身が暴発した!
履いているズボンの中で、白い液が放たれたのだ。
すっかり出来上がった女たちの身体の快感。
そこに男の射精の快感がプラスされる。
「「あぁん! はあああぁぁぁぁん!」」
それを引き金に、“私”……“わたしたち”も絶頂に達した。
独立した個体では味わえない激しい快感が、“わたしたち”の意識を飛ばす!
“私”の意識は“わたしたち”ごとホワイトアウトした……。
◆ ◇ ◆
……しばしの時間が経過した。
恐るべき快感から立ち直った群体“清彦”は“私”の体で言う。
「ううむ。またもズボン履いたまま射精してしまった……」
群体としての“清彦”の統率は元の清彦の意識が行っている。
そのため、強い痛みや快感によって、
他の個体の奥に隠れていた“俺”の自我がつい表に出てしまうのだ。
こういうときの“俺”は口調が元に戻る。
群体ではなく、元の……1人の人間だったころの俺の口調に……。
もう既に“俺”は人間とは言えない存在だからな。
後悔はないけれど、それでも失ったものに思いを馳せることはある。
いわゆる賢者タイムってやつだ。
そのタイミングで意識を回復させた“私”は情けない顔をした“俺”に近づく。
え? 今の“俺”、情けない表情だった?
うーん、主観が混乱しているな。
とりとめもなくそんなことを考える“俺”。
そんな“俺”に対して“私”は白くて細い指をズボンにかけた。
そのまま、ズボンをパンツごと一気に脱がしてやる。
露出した“俺”のものの汚れを“私”の口で舐めとろうというのだ。
ぴちゃ……ぴちゃ……ぴちゃ。
“俺”の精液で汚れた下半身を、“私”は優しく舐める。
うわ!
屈辱的!
女である“私”の身体を被虐的な快感が走り抜けていく。
ああ、もう“私”の身体は本当にイヤらしい!
恥ずかしさすらこんな快楽に変換してしまうのだから。
そして、そんな風にイヤらしい音をたてながら舐めたのがまずかったろうか?
“俺”の下半身は復活してしまい、ピンと屹立する。
うふ♪
これならもっともっといけるよね?
「これでは性的快楽を切り離した意味をなさないな」
“私”はそんな風に言う“俺”の膨張したそれを再び口に含んだ。
いつの間にか回復した“わたし”―――双葉先生―――が、“私”の豊満な胸を後ろから揉んでいた。
さあ、第2ラウンドだ。
“私”は快感に任せて淫蕩な喘ぎ声を出す。
“俺”も“双葉先生”もその声でさらにヒートアップする。
“俺”は“私”を性的快楽担当に選んだのは正解だったと改めて思った。
「本当にこの女は淫乱だ。滅多にいない逸材ではある」
“双葉先生”の声で“俺”はつぶやいた。
そうなのだ。
個体としての私は平凡な女でしかない。
だが、“清彦”の一部となった“私”は違う。
優秀なエロス担当ユニットなのだ……。
でも、“先生”の身体だって負けてないよ?
“私”は淫乱な女教師の身体も併せて攻め始めた。
“俺”による“わたしたち”の快楽はこれからが本番だ。
今度は3つの身体で、快感のハウリングを起こす。
“私”の脳はもう快楽にしびれていた。
“清彦”に「きてぇぇぇ!」と叫んだのはどの身体かは憶えてない。
先に貫かれたのもどっちだったっけ?
とにかく“清彦”はぬめぬめとした女性の中の刺激により、白濁した液を立て続けに発射していた。
ああ、もう、なんて気持ちいいんだ!
「「「あああぁぁぁ!!」」」
3人は再び絶頂に達し、今度も一緒に意識を手放した……。
◆ ◇ ◆
……結局思い出したこと。
私のイヤらしい写真は“私”が“わたしたち”と撮ったものだった。
結構ノリノリでポーズを取っていたっけ、“私“。
その写真をクラスの男子が持っていたのは、その男子生徒を支配下に置くためだ。
なぜそんなことが可能かというと、その男子生徒は“私”の個体に惚れているからだ。
例えばそのクラスメイトも“清彦”にしてしまえば、こんな面倒なことをする必要はない。
だが、群体を大きくすると、“清彦”の個性が薄まるリスクがある。
誰彼かまわず群体に統合するわけにはいかないのだ。
だから“私”は……“清彦”は簡単には自分を拡張しない。
“清彦”の目的は、生存、そして快楽だ。
それらの欲望を満たすのに、必要な環境を作り、維持する。
そのための様々な小細工の一環があの写真というわけだ。
まあ、写真の件はうやむやにするしかないだろう。
件の男子クラスメイトが騒ぎだしたら、“私”の身体を使えばいい。
“私”はふっくらとした朱い唇を舌でぺろりとなめ回しながら、思った。
(文字通り、この身体の唇で口を塞いでやろうっと♪)
群体の外部の男性と交わるのも、それはそれでキモチイイものだ。
今、“私”は帰宅の途につくところだ。
“わたしたち”は結局あの後、存分に快楽を味わった。
そして、行為終えると“双葉先生”の用意したウソ。
「部活の化学実験中に薬品を被ってしまった」
……に口裏を合わせ、更衣室にあるシャワーを借りて浴びた。
身体を洗い終え、今ようやく帰宅と相成ったのである。
先ほどの清彦や双葉先生の視線の意味も今ならわかる。
あれは自分の手足を眺めるのと同じ目だ。
自分の身体の一部を見るのに、特別な感慨がないのは当然である。
“私”は“清彦”のパーツなのだから……。
“清彦”や“双葉先生”の個体と距離を取る。
“私”と群体とのリンケージが解除される。
同時に“私”の記憶が眠りにつき、元の私の意識が目覚めていく。
普段は“私”の意識は表層の意識の下に眠らせてある。
情報を秘匿するためにはその方が安全だからだ。
厳密には寝ているというのは間違いかな?
バックグラウンドで制御にまわるという方が妥当かもしれない。
一応再びリンケージが解けてしまったときのための用心もした。
今“私”の鞄の中には清彦のパンツが入っている。
ビニール袋に入れてあり、今は臭気は漏れていない。
だが、ひとたびこの臭い匂いを嗅げば“私”の人格が立ちあがるのだ。
ふふっ。変態だね“私”。
眠りにつきながら“私”は思う。
「あの写真は記念に取っておこう」と。
(あんなエロい写真を処分するなんてもったいない)
“私”の中の“清彦”が心の奥で囁く。
その時の“私”は、あの写真と同じ淫蕩な笑顔を浮かべていた。
――終わり――