小さめの体育館ほどもあるスタジオで、数十人の少女たちがダンスをしている。
音楽に合わせて腰をひねり、右腕を曲げ、練習着に包まれた柔らかな肢体を動かす。
ある者は気だるげに、またある者は全身全霊を以て。
ダンスにとりくむ姿勢は様々であるが、皆に共通しているのは、そのすべてが見目麗しい少女……いわゆる美少女だということだ。
「ハイ、今日はここまでです」
「お疲れさま」
「ねえねえ、帰りにマック寄ってかない? 双葉も行くでしょ」
「え? 俺……じゃない。私?」
同僚に急に声をかけられ、どう返事をしようか悩んだ矢先、ダンスの先生に肩をぽんと叩かれた。
「長沢さん、ちょっといいかしら?」
「え、は、はい?」
何だろ? まさかダンスの動きから俺の『正体』がバレた?
いやいや、おちつけ俺。そんなことがあるはずはない。
「この写真を見てもらえるかしら」
「さっきの練習風景……ですか?」
先生が差し出してきた写真の中央には俺が映されていたが、おかしなところはない。
宝石のように大きな瞳に、整った鼻と口。
ややグレーがかった髪の毛をアップにした可愛い少女。
タンクトップの下には平均よりやや大きめの張りのある胸。
ムダ毛ひとつない脚に、くびれたウエスト。
そして『もうこれスパッツじゃなくてブルマじゃね?』とツッコみたくなる黒の逆三角に覆われた股間部分はなだらかで、不自然な膨らみはない。
……うん、どこからどう見ても本当に美少女です。
少なくとも外見で、この長沢双葉という少女が、実は長沢清彦という名の男子高校生であることは分からないはずだ。
「これがどうかしたんですか?」
俺の喉から出てくる声もトーンが高く、女の子の地声そのものだ。
「実はこの写真を今度の新入会員募集のパンフレットに使いたいのよ」
「「それは困ります!」」
先生の提案に2人の声がハモる。
1人は言わずもがな俺。
双葉としての俺の姿は実在する人物やそれを模した姿ではないので、そういった意味では誰に迷惑をかける訳ではない。
さらに可愛い女の子ばかりのダンス教室の中でも、頭一つ抜けてるこの美貌を他人に見せつけたいという思いもある。
しかしこの場合、可愛すぎるというのが問題なのだ。
つい先日のこと、この体を手に入れた俺はその姿で繁華街へと繰り出した。
すれ違う男たちのねめつけるような視線と、女たちの嫉妬や羨望のため息を一身に浴びて浮かれていたのだろう。
見知らぬ男に声をかけられたかと思ったら、あれよあれよとお持ち帰りされそうになったことがある。
幸いにしてラブホテル直前で逃走。
路地裏で女物のジャージを脱ぎ、双葉の【皮】を脱いで元の平凡な男の姿に戻り、さらに男物の服を着て……。
という風にナンパ野郎をやり過ごしたものの、その時の犯されるかもという恐怖は記憶に新しい。
ただ道を歩いていただけでそんな具合だ。
双葉の容姿がパンフレットという形で不特定多数の目に留まれば、その美貌に惹かれた輩が近づいてくるかもしれない。
だからもう少し女としての経験を積んで立ち振る舞いを覚え、男を当たり障りなくあしらえるようになるまでは、衆目に晒されることは避けるべきだろう。
「双葉はいいわよ。いかにも『私輝いてます』って感じの写真映りなんだから。それよりアタシよ、アタシ!」
俺ともう1人、パンフレット掲載に反対していた少女が柳眉を吊り上げる。
ちなみにコイツは先ほど俺にマックの誘いをかけてきた少女で、真奈美という名前だ。
「何でよりにもよってバランスを崩してる場面を激写されるのよ! こんなモノを使われたら、アタシは双葉をより美しく見せる引き立て役でしかないじゃない!」
「そんなことないだろ……ないわよ。真奈美だって可愛いじゃない」
これは本心だ。
可愛いか否かで問われれば、ほとんどが真奈美を可愛いと評するだろう。
彼女の二の腕の付け根やへそ、そして太ももを露出させた運動着姿は健康的な色香に満ちていて、俺も清彦のままだったら股間が凄い事になっているだろう。
「双葉みたいなアイドル級の子に言われてもお世辞にしか聞こえないんだけど……まあ嬉しいしいいや、ありがと」
「どういたしまして」
それからしばらく真奈美と他愛もない世間話を続ける。
明るく人当りのいい彼女が相手だと、ただ話しているだけで時間を忘れそうだ。
「コホン。パンフレットについては、この写真の掲載を見送るということでいいのね」
「「あ、は、はい」」
空気を読んでいてじっと待っていた先生だが、ついに我慢の限界に来たようだ。
むしろ他の練習生たちがシャワーを浴び、着替えて帰るまで良く待っていてくれたものだと思う。
「じゃあ私は先に帰るわね。スタジオの鍵はジムの受付に渡してくれればいいから」
先生はそう言って去っていった。
後に残された俺と真奈美は、それぞれシャワールームの個室に入る。
汗ではりついたタンクトップを脱ぐと、胸についた2つの膨らみがぷるんと揺れる。
ついでタイツとスパッツもどきを脱ぐと、籠った熱気と香りが鼻腔を刺激する。
(女の子の体って、汗すらいい匂いなんだな……)
隣の真奈美に聞こえないよう、そっと呟く。
そのまま正面の鏡を見てみた。
そこに映っているのが一糸まとわぬ姿の少女であることに、何とも言えない感慨を覚える。
さらに双葉という少女の後ろには、チェシャ猫のような笑みを浮かべる真奈美が……。
「って真奈美!?」
「んっふふー。ふーたばー。体を洗ってあげる」
慌てて振り返った俺に、これまた全裸の真奈美が正面から抱きついてきた。
むにゅっ、という擬音を奏でて重なり、そして潰れる2×2のおっぱい。
「ちょ、ちょっと。止めてってば……ひゃあぅん」
胸の先端、乳首から発生して体内部を駆け巡る未知の衝撃に、思わず声が出る。
こ、これが女の子の感覚なのか?
「イヤがってるワリには、いい声で哭いてるじゃない」
戸惑う俺の意思を無視し、真奈美は手にしたボディソープを胸元から流し込む。
「あ……んふっ……んあっ……」
「双葉って顔やスタイルだけじゃなく声も綺麗よね。ホント、悪ふざけのつもりだったけど……んっ……本気で食べたくなってきちゃった」
真奈美は抱き着いたまま体を揺らし、ボディソープを泡立ててはじめる。
俺は、事態の展開についていけず、また何とも表現しがたい感覚に襲われ、真奈美の首にしがみつくのが精いっぱいだった。
それからどれくらい時間が経過したか。
気付くと俺は体を正面(鏡)の方に向けられ、背後に立った真奈美の手にしたシャワーで泡を洗い流されていた。
「へえ、双葉ってあそこの毛が生えてないんだ」
真奈美の手にしたシャワーノズルが俺の股間を洗い流した後、そこから現れたのは無毛の割れ目だった。
「や、やっぱり変かな?」
「んーん。これはこれですごく可愛いわよ」
真奈美はそのまま空いている方の手で俺の恥丘をひとしきり撫で、中指を割れ目の中へと侵入させる。
くちゅっという肉が擦れる音が耳朶を打つ。
「あ……や……あ……」
胸を刺激されたときは比べものにならない衝撃が、本来男性器のある場所より低い位置で生まれる。
俺が着ている双葉の【皮】を作ったヤツは、
『これを着ている間、清彦君は本物の女の子の体になるからね。
男性器の役割や感覚が喪失し、新たに【皮】の内部につけられた女性器……クリトリスや膣、子宮や卵巣が機能を始めるし、その感覚までも味わうことができるよ』
と言っていた。
自分で肉棒をしごいて得られる愉悦が児戯に思えてくるほどの快楽。
す、凄すぎる……。
「双葉のここ、ピンク色で綺麗だし指一本でもキツキツね。自分でいじったりしてないの?」
「し、してな……やんっ!」
双葉という【皮】と体を手に入れてから、そのハダカを見たことはあったが、オナニーをしたことはない。
無論俺だって健全な青少年だ。
『だ、ダメだ。僕は男なんだから、女の体に溺れちゃダメなんだ』
なんてフヌケた草食系男子のようなセリフを吐くつもりは毛頭ない。
むしろその逆、すぐにでも女体の神秘を探究したくて仕方なかった。
にも関わらず、今まで肉欲を我慢していたのは何故か?
料理で例えるのが分かり易いだろう。
同じ料理を食べるにしても、即座に飛びつくより我慢に我慢を重ね、飢えた状態で食べた方が何倍も美味しく感じる。
だから俺は、いつでも好きにできる女体を得てからここ一週間ずっと耐えることすら楽しんできた。
だが、まさかこんな形で『女の子』を堪能することになるなんて。
「……ごめん双葉。アタシ、スイッチ入っちゃったかも。女の子同士だけど……最後まで……いい?」
「…………うん」
拒絶されることの不安を覚えて不安の色を浮かべる真奈美に、鏡越しに頷く。
女の子同士。
自分の体が女の子であることに加え、他人からもそう扱われていることに精神的な快楽を覚
える。
男の意識を持った偽物の女の子として、本物の女の子に抱かれる。
しかもその本物の女の子は、俺のことを本物の女の子と信じて疑わない。
そう考えるとトクンと胸が熱くなり、さらに真奈美に弄られている女性器よりも奥、下腹部がきゅんと疼く。
これも男では味わうことのできない感覚。
男には存在しえない子宮という器官が、早くメスの快楽を貪らせろと意思表示してくるのを本能的に理解する。
「私も初めてだけど、一緒に気持ちよくなりましょう、真奈美」
そして俺は彼女と再度抱き合い、2人きりのシャワールームの床にそっと横になった。
「……あっ……あっ……ど、どう、真奈美?」
「んっ……いい……もっと激しく擦って……」
それは夢のような時間だった。
百合の花を咲かせ、男子禁制のダンス教室の奥にあるシャワールームで絡み合う美少女たち。
性的欲求という本能に突き動かされて互いの体を貪り合う2匹のメス。
客観的に見ればそんなところだ。
しかしその片割れは実は男が化けている女・しかも自分自身であるという事実は、禁断の果実を貪るようかのように背徳的な興奮を俺に与えてくれる。
肉体的にも精神的も昂った俺は、床を背にした真奈美に覆いかぶさり、胸と胸、膣と膣を重ねてこすり合わせていた。
体重のほとんどを真奈美に預けているのだが、彼女がそれを苦に感じる様子はない。
本来の俺の体重は70キロ近くだが、【皮】を身に着けた状態だと50キロ未満まで減っているからだ。
170センチあった身長も【皮】を着れば150台半ばまで縮んでしまうし、本当にどういう仕組みになってるんだか。
「ふふっ。双葉って男の子みたい」
「う、うぇえっ!? なんでそう思うの?」
不意に放たれた真奈美の言葉で脳がフリーズするものの、体は別の意思を持っているかのように快楽を求め続ける。
「だって、さっきからアタシのアソコに自分のクリトリスを入れようとしてるじゃない。まるでおちんちんの代わりみたいにね」
ギクッ。
ヤバい。無意識のうちに男としての動きになっていたみたいだ。
万が一にでも俺が女の子のフリをした男だとバレたら、変質者として即通報→タイーホのコンボが待ってるだろうし、『アイツ』にも迷惑をかけちまう。
と、とにかく真奈美の疑念を解消しないと!
「そ、そんなことある訳ないじゃない。私が男の子って言うなら、この胸についた2つの膨らみは何だって言うの!?」
「むぎゅっ……ふ、双葉。く、苦しい! おっぱいを押し付けられたら……息が……」
「それにほら! 私のお股には男の子のアレがついてないし、さっき真奈美が指を入れた【孔】も偽物だって言うの!」
いい具合にテンパった俺は一気にまくし立てると向きを180度入れ替え、真奈美の顔面に女性器を押し付けた。
シックスナインの態勢をとった俺の眼前には、真奈美の秘所がある。
微かな茂みに覆われた一筋のクレヴァス。
双葉として自分の外観を見たことはあったが、こうも間近で女の子のアソコを観察するのは初めてだ。
コレと同じ物がいまの俺にもついていて、そこを真奈美に見られてると思うと、かぁっと体の芯が熱くなる。
「もう、ムキになりすぎよ。顔も、体も、『ココ』もこんなに可愛い双葉が男の子なわけないじゃない」
真奈美の指が、俺の割れ目にそっと触れる。
熱のこもった女性の証が広げられ、外気が胎内に侵入してくるのを感じられる。
それに『くぱぁっ』ていう音、ほんとにするんだ。
「鏡を見て。双葉のココがアツアツのトロトロになってるの分かるでしょ」
「え?」
言われたままに鏡に目を向ける。
そこに映っていたのは少女の姿をした俺。
しかし扇情的な表情を浮かべ、ヨダレのように蜜壺から愛液を垂らして真奈美の顔面に落としていく様は、まるでおねだりするメス犬のように見えた。
「これ……この感覚が……濡れてるってこと……なんだ……」
どう表現すればいいのか。
『じゅんっ』『じゅわーっ』『じくんっ』
どれも正しく、どれも間違ってるような気がする。
ただ言えることは、自分の体が生理現象を含めて内部まで女の子になっていること。
それを意識するほどに男の思考(心)が興奮し、さらに女の体を昂らせるということだ。
「双葉も準備できてるみたいだし、いただくわね」
「ひゃんっ!」
真奈美の舌が愛液を舐めとりつつ、俺の『女』へと襲い掛かる。
彼女の舌はクリトリスを撫で、尿道口と小陰唇をひとしきり堪能した後、膣の中へ侵入してきた。
「あ……な、何……この感覚……」
指を入れられたときはビックリして実感がなかったが、胎内に異物を挿れられるのは怖い。
……未知に対する恐れもあるし、そう在りながらも異物を受け入れようとする自分自身に対する恐怖を覚える。
「……あっ……あっ……あっ……あっ……」
ぺちゃぺちゃという淫靡な水音と俺の喘ぎ声がシャワールームに木霊する。
真奈美の舌が俺の裡に触れる度に、快楽が押し寄せてくる。
真奈美の舌が一舐めするごとに、射精時と同等以上の気持ちよさが体内を駆け巡る。
男は気持ちよさを男性器のみで感じるが、女って体全体で感じるんだ。
女の快感は男の数百倍と聞いたことがあるが……本当のこと……だったんだな。
ヤバい……快楽の波に……呑まれて……次第に何も……考えられなく……なってく……る。
「……んちゅっ……ねえ双葉。アタシのも……んっ……舐めて」
「……あっ……あっ……あっ……あっ……」
真奈美が何と言ってるのか理解できない。
何か喋る暇があったら……もっと気持ちよくさせてくれ。
「あっ……はっ……あ……もっと……もっと舐めてぇ。指も挿れて俺のアソコをぐちゃぐちゃにかき回してぇ!」
「な、何で止めるんだ……お願いだから、何でもするから最後までしてくれぇ!」
不意に止まった快感を求める俺は、まるで薬が切れた薬物中毒者みたいだ。
あ……俺、言葉遣いが……まあいいか。今はそんなことより気持ちよくなることだけ考えたい。
「大丈夫。双葉は何もしなくていいわよ。ちゃんといかせてあげるから」
真奈美が再び何かを言って何かをしたかと思ったら、中断していた刺激が再び襲ってきた。
「あ……はぁっ……貝合わせよ。これなら双葉を感じさせながら、アタシも感じることが……んんっ……できるし」
焦点の定まらない瞳で鏡を見ると、互いにM字開脚で座って抱き合い、乳房と秘所を擦りつけている少女たちが映っている。
「アタシと双葉の愛液が混ざって……んっ……ローションみたいに滑りがいいわね」
いつの間にか俺と真奈美の結合部の真下に白濁色の水たまりができている。
あ……これ、半分は俺の膣壁から出てきたんだ。
何とはなしに指で掬って一舐めすると、甘酸っぱい味がした。
「どう双葉? アタシたちが混ざった味は美味しい? ……んんっ……あっ……」
真奈美が腰を一振りする度に、羊水の中で揺蕩うような安寧と激流に身を任せる心地よさを同時に受ける。
「……あっ……あっ……な、何か……あっ……何か来る……」
体の奥底から何かがこみ上げてきて、女性器を中心に体が溶けて行くような錯覚を覚える。
「いきそうなの双葉? いいわ、アタシももう少しだから……んっ……一緒に……いくわよ」
「いく? どこに?」
混濁した頭では、何のことか分からない。
分からないけど、いくという行為をこの体は求めている。
現状でも許容しがたい快楽の先に何があるのか、行って確かめてみたい。
そのためには何をすればいい?
……そうだ、下半身を……腰を動かさないと。
「いくわよ、双葉……んっ……あふっ……あぁぁぁぁぁっ!」
「あっ……あっ……いく……いく……あっ……いくぅぅぅぅぅぅっ!」
重なる少女たちの嬌声に続き、どくん、とメスの胎内で生まれた大きな何かが、意識のすべてを奪う。
その寸前、俺は走馬灯のごとく、この一週間で起こったことを思い返していた。
それは俺が教室で本を読んでいたときのこと。
「おはよう清彦君」
「おはよう……って何だ、今日は敏明の日かよ」
「はは、若葉じゃなくて残念だったね」
敏明は柔和な笑みを浮かべ、俺の落胆を平然と受け流す。
「敏明君、おはよー」
「おはようございます、敏明サマ」
「敏明くん。キミがいなくて寂しかったわよ」
そこへ代わる代わるやってきて敏明に挨拶するクラスメイトの女子たち。
ちなみに男子たちは、登校してきたのが敏明だと確認するや否や、俺と似たような落胆を浮かべる。
さらには『ケッ』とか『クソが』とか、憎悪の篭った視線を浴びせにかかった。
ったく、男の嫉妬なんざみっともねえ。
「おはよう。僕も3日ぶりに皆に会えて嬉しいよ」
敏明が彫刻のように整った顔に笑みを浮かべると、それだけで女子は黄色い歓声をあげる。
そう、敏明は女の子から絶大な人気を集めている。
すらりとした長身で顔がいいばかりでなく、成績優秀、運動神経抜群、人あたりの良い性格。
さらに実家が日本屈指の大企業の跡取り息子となればモテない方がおかしい。
一方俺こと清彦はルックス平凡、成績と運動神経は月並みで家は普通の中流家庭。
月とすっぽん。提灯に釣鐘。雪と墨。天地霄壤。
敏明と、俺を含めたその他男子のスペック差はそんなところだ。
モテ男と非モテ。勝ち組と負け組。
本来決して相容れるはずのない間柄であるにも関わらず、
「ところで清彦君、何を読んでるんだい?」
「ああ、バイト雑誌だよ。欲しいモノがあるからな」
俺と敏明はすこぶる仲が良い。
「アルバイトか……ふむ。もし良かったら僕が紹介しようか」
「お、本当か。サンキュー、助かるわ」
何せコイツの家は金持ちだし、きっとワリのいい仕事を紹介してくれるに違いない。
そして放課後。
俺は丘の上に建つ、広大な敷地面積を誇る敏明宅を訪れていた。
ホテルのロビーほどもある玄関で出迎えたメイドさんに用件を伝え、そのまま長い廊下を案内され、とある一室へ通される。
その部屋は十六畳ほどの広さで至るところにディプレイやらキーボードーやら剥き出しの線やらがあり、足の踏み場にも苦労するほどの有様だった。
まるで面接会場というより研究室みたいだな。
「やあ、待ってたよ清彦君」
室内でスタンバっていた敏明はメイドさんを下がらせて俺と2人きりになると、トレードマークとも言える柔和な笑みを浮かべて俺の肩をぽんぽんと叩く。
「ここに来たということは、アルバイトを受けると判断していいんだよね?」
「その前に仕事内容について再度確認したいんだがいいか?」
質問を質問で返すのはあまり褒められたことじゃないが、この場合はやむなしだ。
いくら気心が知れた友人がクライアントといえ、聞き流すには気がかりなことがある。
「学校で説明したとおり、清彦君には僕と若葉の専属メイドになってもらう。と言ってもパートタイマーみたいなものだから労働時間は自由だよ」
時給は1,500円。拘束時間無し。制服支給。
と、敏明は続ける。
「さらにアルバイトをして学校を休む場合、公欠扱いになるよう手配しておくよ」
これは敏明の家が、ウチの高校に多額の寄付金を援助しているからできることだろう。
まあ、条件だけなら及第点どころか土下座して頼み込みたいほどワリのいいものだが……。
「メイド、ねえ」
やっぱり聞き間違えじゃなかったか。
「なあ敏明。オトコの娘なんていうのは空想の産物でしかないんだぞ。ぶっちゃけ俺にメイド服はねーわ」
いかに平均的な容姿といえ、俺の顔と体格は男そのものだ。
いくらウイッグを被って化粧を施し、メイド服を着せたところで出来上がるのはメイドガイ……あるいはクリーチャーでしかない。
その姿は敏明も安易に想像できるはずだ。
まさかコイツ、金にモノを言わせて俺を笑いものにする気か?
いやいや、敏明はそんなことをするヤツじゃない。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、当の敏明は、
「うん、だから『制服支給』と言ったよね」
と、ペースを崩す様子がない。
「まあ、とりあえずこれを咥えてくれるかい?」
「もごっ!」
敏明は俺の返事を待たず、冷蔵庫らしきケースから綿棒を取り出して俺の口へ突っ込む。
そして綿棒を抜き取ると、何やら仰々しい機械へ仕舞い込んでキーボードを操作し始めた。
おおスゲェ。
敏明の打鍵に併せて何もない中空にディスプレイ状の映像がいくつも浮かんで、すごい勢いで下に流れてやがる。
ってちょっと待て。
アニメや漫画じゃよく見かけるからスルーしちまったが、そのハイテクぶりは明らかに現代科学の水準を凌駕しているだろ!
「さて、清彦君の『制服』が出来上がるまでの間、君の不安を取り除いておこうか」
敏明はそう言うと再びキーボードを操作する。
例によって空中に現れたディスプレイ映像の文字がスクロールしていき、UNLOCKという文字が表示された。
「うおっ! 壁が開いて薄手のビジネスバッグが飛び出した!」
「はっはっは、説明的なセリフをありがとう。じゃあついでにこの中身についても解説してくれるかな? できればスピードワゴン風味で」
「俺にメイドになれ並のムチャ振りするんじゃねえ……って何だよソレ! ダッチワイフじゃねえか!」
空気が抜けてベラベラだが、あのフォルムは間違いない。
表面積のほぼ大半を占める肌色と、頭部から生える長い黒髪。
ダッチワイフの容姿はどこかで見たことがある気がするが、多分気のせいだろう。
「そうか敏明。おまえ、こんなモノを使って夜な夜な自分を慰めてんだな」
つうかおまえは俺とちがってモテるんだから、リアルの女の子に相手にしてもらえばいいんじゃねえ?
そんな俺の指摘を相変わらずの笑みで受け流し、敏明はおもむろに服を脱ぎ、瞬く間に全裸となった。
ったく、イケメンってのはやっぱ脱いでもイケメンだな。
高い身長と適度に引き締まった筋肉はまるで彫刻芸術か何かのようだ。
このまま全裸で水浴びして『神よわたしは美しい』ってのた打ち回っても違和感がないよな……ってそうじゃねーだろ!
「ちょっと待て! いまは確か、俺がメイドになる・ならないの話をしている最中だよな?」
それが何の因果で、敏明とダッチワイフのプレイを見せつけられなきゃいけないのか。
「清彦君の質問はすべて『コレ』を見せてから受け付けるよ」
そう言うや否や敏明はダッチワイフの首後ろをつまんで広げる。
するとそこにぽっかりとした空洞ができ、敏明はその中へ片足ずつ入れていく。
「おいおい。まさか全身タイツみたいにダッチワイフを着る気か? どう見てもお前の体の方が大きいんだから破けちま……ってな、何ィ!?」
この部屋に入って何度目かの驚愕。
敏明の下半身が入って膨らんだダッチワイフは、着用者のサイズでパンパンになったり破けたりしていない。
むしろその逆。
ダッチワイフに入れた敏明の体が縮んでるように思える……否、事実として縮んでいる。
長くしなやかな足は白くほっそりとしたものとなっている。
そして何よりその質感だ。
ダッチワイフ状態では気づきにくかったが、膨らんだ状態では人肌と全く区別がつかない。
この両足って、どう見ても女のモノだよな。
……ゴクリ。
「うん、思った通りの反応をしてくれると、この【皮】をお披露目する甲斐があるね」
敏明がまだ体を通してないダッチワイフ……しぼんだ【皮】の上半身を持ち上げる。
するとそれまで前傾姿勢だった【皮】上半身で見えなかった敏明の股間部分が露わになった。
そこはぶらーんとした一物が収まってるとは到底思えないほどつるっとしており、淡い茂みと一筋の縦線だけが見て取れる。
「こ……これって女のアソコだよ……な?」
俺は『その部分』から目を離せず、この先に待ち受けている顛末を予想する。
どういう理屈かは分からないが、事実として【皮】に入った敏明の下半身が女の物になった。
なら、上半身も【皮】の中に納まれば……。
「清彦さん。いつまでも下ばかり見てないでわたくしの上半身も見ていただけますか?」
どうやらアソコに意識を集中している間に終わってしまったようだ。
不意に聞こえてきた女性の声に顔を上げる。
やはりと言うべきか、全身全てを【皮】の中に収めた敏明は、女の子にしか見えなかった。
って……え?
「若葉?」
「うふふ。驚きましたか? 清彦さん」
若葉というのはクラスメイトで敏明の双子の妹だ。
……少なくともたった今までそう思っていた。
遺伝子の成せる業か、兄同様に全身の造形が優れた長い黒髪の和風美少女だ。
やはり学業・スポーツに秀で、その魅力でクラスどころか学園の男子ほぼ全てを虜にしている。
唯一兄と違うところは、同性にも人気があるところか。
これは妹の若葉と仲良くしておけば、兄の敏明に好印象を持たれるだろうという、女子独特の計算高さによるものだろう。
ちなみに敏明と若葉の兄妹は、揃って登校することはない。
敏明が登校する日は若葉が休み、若葉が登校する日は敏明が休む。
俺をはじめとしたクラスの連中は、家(大企業)の仕事にそれぞれが携わっていて、
片方が学校を休んで働いている間だけ片方に余裕ができ、登校していると思っていたのだが。
「もしかして、お前ら兄妹が交互に登校してたのは……」
「ええ。わたくし……若葉は敏明が女に化けた姿ですの。同一人物である以上、2人が同じ場所に揃うことはありませんわよね」
敏明は若葉の顔で微笑み、若葉の体でスカートをつまむ仕草を見せ(つっても全裸だが)
若葉の声でそう言った。
「えーと、敏明……でいいんだよな?」
「この姿のときは、いつも通り若葉と呼んでくださいませんこと?」
ことさらいつも通りを強調する敏明――若葉。
そう言われても中の人が敏明だと分かった以上、そうそう割り切れるものじゃないんだが。
まあいい。色々聞きたいことはあるが、まずは……。
「いまのお前は、『どこまで』が女の子なんだ?」
「あらあら。真っ先にそこを確認なさるとは、さすが清彦さんですわ。やはり、わたくしが見込んだとおりの方ですわね」
若葉はころころと楽しそうに笑ったかと思うと、
「ご自分でお確かめになってはいかがですか?」
その笑みを妖しいものに変え、自分の股間と小ぶりながら形のいい胸をスッと撫でる。
これって『触ってみていいのよ』ってことだよな?
全裸となった高校No1の美少女にそう誘惑されて理性を保てるはずもない。
「ゴチになります!」
俺は相手が敏明であることも忘れ、日本人形を思わせる華奢な肢体へ向けてルパンダイブを慣行。
しかし若葉は野獣のように襲い来る俺には目もくれず、素早くキーボードを叩く。
「ポチッとな、ですわ」
そしておなじみのディプレイが浮かび、UNLOCKという文字が表示され、
「ぶるうぃっひいっっっ!」
俺は壁から飛び出してきたビジネスバッグに顔面を強打されて、その場に崩れ落ちた。
「清彦さん。いま出てきてた試験用の【皮】を身に付け、どんな具合かご自分でお確かめに……ってあら? 何をなさってますの?」
「テメェ、ワザとだろ……」
黒曜石のような瞳を楽しそうに輝かせていれば、そう思わざるを得ない。
学校での若葉はいかにも深窓の令嬢といった立ち振る舞いをしてるのだが、どうやらそれはネコを被った姿だったらしい。
……いや、被ってるのは【皮】か。
「さぁ、早くその【皮】を身に着けてみてくれませんか?」
「え、で……でも」
硬質のバッグに殴られたせいで冷静さを取り戻した俺は逡巡していた。
眼前にあるビジネスバッグと若葉を交互に見やる。
「何を迷う必要がありますの? わたくしと『同じ』になりたくはありませんか?」
女の子になってみたくはないか? 暗に若葉がそう言ってるのが良くわかる。
「まあ、たしかに魅力的な提案なんだけどさ……」
事実、可愛い女の子になってみたいと考えたことは一度や二度じゃない。
女体となった自分の体を探索したり、
男のままでは着ることすらままならいバニー衣装や競泳水着を身に纏い、鏡を見て悦に浸ったり、
ファンシーショップやランジェリーショップで堂々と買い物したりと、それこそ若葉のように女の子としての生活を楽しんでみたい。
にもかかわらず俺が戸惑っているのは、『本当にいいの?』という遠慮じみた感情に起因する。
だってそうだろ?
裸になってもバレないレベルで男が女になるというのは、現代の科学レベルでは到底不可能なはずだ。
だから俺は女の子になってみたいと思うものの、実際はそんなこと不可能だと諦めてきた。
しかしいま、その手段を提示されたというのは、どれほど幸運なことか。
人によって意見が分かれるだろうが、少なくとも俺にとっては宝くじで3億当たる以上の価値を持っている。
だからこそ。
そう、だからこそこれといった特徴や誇れる物の無い俺に、【皮】という女の子になれる手段が与えられたことが信じられないんだ。
「なあ、若葉……」
俺はその思いを口にしようとしたものの、
「うーん。困りましたわね」
彼女? は聞く耳を持たず、自分の考えに没頭しているようだ。
ややあって、
「そうですわ! ここはやはり体で分からせるとしましょうか」
ぽむ、と可愛らしく手を叩き、キーボードをカチャカチャカチャ。
体で分からせるってことは、まさかスーツケースを俺にぶつけまくって、無理やり言うことを聞かせるつもりか?
「うふふ。似合いますか、清彦さん?」
結論から言えば壁から飛び出してきたのは凶器ではなく、白のショーツとブラジャーだった。
若葉はそれを身に着け、見せつけるかのように横にくるっと一回転してターンを踏む。
その拍子に長い黒髪がふわっと揺れる。
俺はその可憐さに、思わず見とれてしまった。
「あ、ああ。良く似合ってる」
「ありがとうございます。まあ、わたくは女の子ですから、女物の下着が似合うのは当然で
したわね」
淡雪のような肌とフリルのついた白のランジェリーが、俺の良く知る若葉のイメージ――清純
さを強調している。
「女の子の下着姿というのは、ある意味全裸よりそそられるものがあると思いませんこと?」
穢れを知らないかのようないでたちでありながら、その格好自体がエロいという二律背反。
無垢な妖精の姿から放つ、性を連想させる言葉。
ああ、やっぱりコイツは男なんだな。男心ってのをよく理解してるわ。
その姿に魅入られて身動きひとつ取れない俺に、若葉はゆっくりと近づいてくる。
その距離が縮まるにつれ、彼女の体から漂ってくる柑橘系の甘い香りが強くなる。
「さあ清彦さん。これからわたくしが、【皮】を着た女の子がどれほど素晴らしいのかを、その体に直接教えてさしあげますわ」
若葉は決して豊満ではないが美乳と呼ぶに相応しい胸を俺に押しあて、白魚のような細い指で俺の股間を撫でた。
これは紛れもない現実なんだが、未だ信じられない。
あの若葉が……。
『初めまして。いつも兄の敏明がお世話になっております』
(うわっ。可愛い子だなあ)『ええと……』
『若葉ですわ。これからよろしくお願い致しますわね』
(敏明のヤツにこんな可愛い妹がいたのかよ)『ああ、こちらこそよろしく』
『赤ちゃんはコウノトリが運んでくるのではないのですか?』
『デュフフフ。それは違うでござるよ、若葉殿』
『違うのですか?』
『まず男と女が裸になって……』
『ちょっと男子……つうかデブ! 若葉ちゃんはアンタ等と違って純真なんだから、変なコト吹き込むんじゃないわよ!』
『アイタタタ、殴るのを止めるでござる! 吾輩は保健体育で普通に習うことを教えてあげようとしただけでござる!』
(ヒソヒソ)『清彦さん。赤ちゃんはどうやったらできるのか、後でこっそり教えてくださりませんこと?』
『え、あ、いや……それは……すまん、勘弁してくれ』
『きゃあ! み、見ないでくださいまし!』
『わ、吾輩は転んだ若葉殿のスカートの中なんて見てないでござる!』
『しょ、小生もピンクの可愛らしいパンツなんて見てないっス!』
『う、すまん。けどお前が転んだ拍子にスカートの中が見えたのは、不可抗力だから勘弁してくれ……ほら、立てるか?』
『ありがとうございます。わたくしの不注意であるにも関わらず謝罪するばかりか、助け起こしてくださる優しさ……清彦さんは紳士ですわね』
『それほどでもない』(すまん。その紳士は今のシーンを脳裏に焼き付け、今晩のオカズにするつもりなんだ)
『そこの3バカ! アンタ等何薄汚い目で若葉ちゃんを視姦してんのよ!』
『若葉ちゃん、あっちに行きましょ。貴女のことは女子が守ってあげる』
あの若葉が……。
「いかがです? 女の子の体はこんなにも柔らかいんですのよ」
「ねぇ清彦さん。わたくしの子宮に赤ちゃん汁を注ぎたくはありませんか?」
「肌にぴたりと貼りついたわたくしのショーツを食い入るように見て、存分に興奮してくださいまし」
「やめろ『敏明』! お前は男だろ! さっきは『若葉』の美しさに我を忘れかけたが、やっぱり男同士でこんなのはおかしいだろ!」
「あら? この場に男性は清彦さん1人しかおりませんわ。わたくしは女の子ですわよ」
抵抗の意思を込めて敏明と呼ぶが、彼女のフリをする彼の前では糠に釘だ。
「それに、清彦さんの言うとおり、仮にわたくしが男性だとしましょう。
でしたらその男性に抱き着かれてまさぐられ、『ここ』をこんなに固くしてる貴方は変態ということになりますわよね?」
「うぐ……そ、それは……」
若葉は俺の両手を掴むと、自らの腰に抱き着かせる。
次いでピンク色の舌で俺の首筋をぬらりと舐め、耳元に甘い吐息を吹きかける。
「悩む必要がどこにありますの? 変態でいいはありませんか。
清彦さんもわたくしも変態ですから、女の子になりたいと思うのも当然ですし、女の子に化けて男性に抱かれたいと思うのも当然。
そして男性が化けた女の子と知ってなお欲情するのも、当然だと思いませんこと?」
そう言われてはどうしようもない。
事実として女の子になってみたいし、中身が敏明と知ってなお若葉を抱きたい。
男に抱かれたいと考えるのも……今すぐは無理でも、女の子になって改めて考えるのもアリかもしれない。
そう考えると、胸がすとんと軽くなった。
敏明がどういう意図で俺に【皮】を与えてくれるのか。
本当に俺なんかが、【皮】を手にしていいのか。
そんなことは二の次、重要なのは俺が『どうしたいか』だろう。
……その結論ならもう出ている。
バイトの話を受け、【皮】を着て女の子になりたい。
まったく、我ながら面倒くさい性格だなあ。ここまで来るのにずいぶん回り道したもんだ。
「どうやら迷いは晴れたようですわね」
「おかげさまでな。自分が変態だと認めたら色々と楽になった」
「そう言っていただけると、わたくしとしても肩の荷が下りた気分ですわ」
若葉は大輪の花のような笑顔を浮かべて続ける。
「清彦さんはわたくし(敏明)の大事な親友。いつも良くしてくださっている恩に報いるた
め、【皮】による悦びを分かち合いたいと思っていたんですのよ」
そうだったのか。
決して見返りを求めて敏明と仲良くしていた訳じゃないが、その気持ちは純粋に嬉しい。
「では、さっそく【皮】を身に着けてくださいまし……と言いたいところですが、その前にわたくしの火照った体を慰めてくださいませんか?」
俺は返事の代わりに若葉を抱きしめたまま、ぎゅっと力を込めた。
「うわ……若葉の体、すごく柔らかいな。到底作り物だと思えない程だ」
すべすべしてきめ細かいし、抱き心地が満点だ。
「この【皮】は外側の人工皮膚にも内側の人工内蔵にも、生きた細胞とナノマシンを組みこんでおりますのよ」
「なあ……胸、揉んでみていいか?」
「もちろんですわ。この体は本物の女の子の肌との誤差は0.00000001%ほどですから、その手触りを十分に堪能くださいませ……ん、あぁっ……」
まず純白のブラジャーの上から優しく揉みしだき、若葉の呼吸が荒くなってきたところで手をブラジャーの内側へとすべり込ませる。
俺の掌の動きに併せて形を変える双丘は弾力に富み、じんわりと熱を帯びてきている。
双葉の胸の先端……乳首が次第に固くなってくる。
それを指先で摘み、コリコリ動かすと、堪え切れなくなった若葉が嬌声をあげる。
こうして肌と肌で触れ合っても、この美少女が偽者であることを見抜くことなど到底不可能だろう。
それにさっきから鼻孔と性欲を刺激する、女の子独特のフェロモンのような甘い匂い。
恐らくこれも、生きた細胞だかナノマシンから発せられているんだろうな。
「んあっ……お上手ですのね。こういった経験が……はぁ……おありですか?」
「んなワケねーだろ。俺がモテないのはお前もよく知ってるだろうが」
いつこういう日が来てもいいように、エロビデオでひたすらイメージトレーニングを繰り返してはいたが。
「ではこちらも初めてですか? ……ん、ちゅ……んっ……ん……」
立ったまま俺に抱きとめられている若葉が、背伸びをして口づけをしてくる。
最初は小鳥がついばむように軽く。
やがてねっとりと、そして濃厚に。
俺の口内へ侵入した若葉の舌が、歯の裏や内壁を蹂躙してくる。
ひとしきり『それ』を堪能した後、彼女の舌はまるで新しいオモチャを見つけたかのように、俺の舌に激しくからみ始める。
「ん……くちゅっ……んんっ……ぷはっ……あら、何か腑に落ちないという顔をなさってますが、どうかなさいまして?」
ディープキスの余韻として、口から銀の糸を引いた若葉が訪ねてくる。
まだ十代という幼さの残るあどけない顔立ちでありながら、色香を纏ったその姿は幻想的な美しさに満ちている。
そういう少女と口づけを交わしたことを、本来なら素直に喜ぶべきなんだが……。
「その【皮】って、呼吸用に口……い、いや、何でもない」
確かに【皮】の表面部分は申し分ないほど女の子だ。
人工臓器がどうのこうの言ってたからには、内側も押して測るべきなんだろう。
だが、【皮】というからには目と鼻、口には呼吸用の穴があいてるんじゃないだろうか?
とどのつまり、若葉の口内だけは敏明の口そのものじゃないのか?
激しく絡めた舌と、交換した唾液は敏明という『男』から生まれたものだという思いが、俺に幾何かの戸惑いを与えていた。
かと言ってそれをそのまま口にすれば興醒めもいいところだから、慌てて言葉を濁したわけだが。
「清彦さんの心配は杞憂でしかありませんわ」
「え?」
「この【皮】には眼球もついておりますし、口や鼻腔、それに下半身の3つの孔もちゃんと備わってますのよ」
俺の両腕からするりと抜けだした若葉は、床に転がったままだったビジネスバッグから試験用の【皮】を取り出し、手渡してくる。
あ、本当だ。ベラベラの瞼を開いたら目がついてるし、口中も歯や舌、のどちんこまでしっかり備わってるや。
ちなみに試験用の【皮】の顔面部は、俺をこの部屋に案内したメイドさんに酷似している。
「【皮】は体表面だけでなく、中の人の鼻や口をはじめとした穴すべてを覆っているんですのよ」
若葉曰く、敏明本体から出た涙や唾液といったものは、発生と同時に【皮】の内側でナノマシンによって分解される。
そして同等のものを、【皮】の生体細胞が『女の子から発生した分泌物』として新たに作り出す。
「とどのつまり、敏明がかいた汗は若葉の汗に変換されますし、唾液もまた然りですわ」
俺から離れた敏明は、ついでとばかりにキーボードに指を這わせる。
「さて、と。清彦さんが余計なことを考えず、安心してエッチに集中するよう、少し環境を変えますわね」
その言葉と同時。
室内がまるで変形ロボのようにめまぐるしく形を変え、ラブホテルの一室のような装いへと変化した。
いや、ラブホテルというのはあくまで比喩でしかない。
だって俺、ラブホテルなんて入ったことねーし。
淡いピンクを基調とした壁紙と天井。ソファーとクッション。そして大きく柔らかそうなベッド。
室内を淡い光で彩るランプ型のLED蛍光灯。
さらに壁面で存在感を放つ42インチテレビに、ベッド周りを見渡せる大きな鏡。
「やはりエッチをするなら鏡は必要不可欠ですわね」
「相手の色々な部位を見れるのはともかく、ヤッてる最中に自分の裸を見たら萎えると思うんだが……」
「その自分の姿が女の子だとしたらいかがですの?」
鏡に映る女の子が自分の思い通りに動き、あられもない姿を惜しげも無く晒す。
さらにその『女の子の痴態』に欲情する『男としての自分』。
自分の好きなように編纂できるアダルトビデオの主演女優が自分自身であることの陶酔感。
「……いいかもしんない」
「うふふ。そこは清彦さんも【皮】を着て女の子になってみれば分かると思いますわ」
若葉が押し倒し、俺は背中からぽふんとベッドに倒れ込む。
「ん……む……ちゅ……んんっ……」
「わ、若葉……うっ……」
そして仕切り直しのディープキス。
今度は先ほどのような懸念事項もない。
俺は再び口内へ侵入してきた『若葉』の舌を迎え撃つ。
絡み合う舌と舌。美少女の唾液腺から作られる分泌液を飲み込みながら、若葉の味を感じる。
「今度は満足していただけたようですわね」
若葉はのしかかったまま、俺の服を一枚一枚丹念に脱がせていく。
その人造少女の甲斐甲斐しい様子を愛おしく思い、俺は柑橘系の香りを放つ彼女の黒髪をそっと梳いて囁く。
「若葉の体ってすごく軽いな。まるで綿毛みたいだ」
「到底男の体が中に納まっていると思えない、ですか?」
そしてまた軽いキス。
「【皮】に体を通す際、着用者の肉体はナノマシンによって身体情報を保存されつつ分解されますの」
若葉は全裸となった俺の上にその肌を重ね、いきり立った俺のイチモツを白く細い指で包み込み、ゆっくりとしごき始める。
「まあ、正しくは分解と矯正ですわね。筋肉や骨格を設定された大きさまで縮め、さらに心臓や肺、胃袋、果ては男性器まで極限まで圧縮し、機能と神経をカット……」
「あう……止めてくれ……」
だが俺は、そんな若葉の説明が耳に入ってこない。
同じ高校の男子なら誰もが想像し、夜のオカズにしたであろう若葉の裸と下着姿を目の当たりにし、懸想するしかなかった肢体をこの腕に抱き、キスをした。
それだけでも耐久度を大幅に減らした俺の息子が、さらなる刺激を受ければどうなるのか。
「代わりに【皮】内部で圧縮されていた人工臓器が膨張し、着用者の神経とリンクして機能を開始……」
「す、すまん。もう出るッ!」
「無論、その中には膣や子宮、卵巣も含まれているので、着用者は女体そのものと、それらがもたらす感触を得ることができますのよ…
…ってあら? 達してしまわれたのですか?」
「し、仕方ねーだろ……他人にしごかれるのがこんなに……気持ちいいなんて知らなかったんだから……」
何が何だか分からず流されてるうちに、放出感を覚えてしまったというのが正味なところ。
賢者タイムを迎え冷静になった頭で考えれば、すごく勿体ないことをしたと思う。
けど、ここで終わってしまうわけにはいかないよな。
せっかく高校一の美少女が下着姿で求めてるんだ。
据え膳食わぬは男の恥。
例えその料理がイミテーションだろうと、本物以上の見た目・味を持っているなら喰わない道理はない。
いや、むしろ偽物だからこそ、背徳感という名のスパイスが据え膳を格別の物に仕立て上げているんだ。
「俺だけ先に楽しんで悪かった。今度はこっちが攻めるから、お前は十分に『その体』を愉しんでくれ」
俺は明らかに物足りないという表情を浮かべる若葉に対し耳元でそう告げ、彼女の背中に手を回して純白のブラジャーを剥ぎ取った。
「あ……清彦……さん……」
若葉の上半身を抱き起した俺は、ベッドに座った態勢で彼女の左乳房に吸いつく。
小さな真円を描く乳輪に沿って舌を這わせ、本丸たる乳首を攻めはじめる。
「……や……あ……」
後頭部にかけられる、荒いながらも甘みのある吐息が心地いい。
舌の動きに逆らおうとささやかな抵抗を試みる若葉の乳首の感触が、萎えていた俺の『男』
を再び活性化させてくる。
「そんな……丹念に胸ばかり攻めるのは……お止しになってくださいまし……あぁっ!」
胸でこれほどまでに感じるのは、女性の体は乳腺が発達しているからだろう。
若葉……いや、あえて敏明と呼ぼう。
敏明は『偽物』の体が齎す『本物』の刺激に翻弄されているようだ。
「そうか。胸がダメならこっちをご馳走させてもらうわ」
骨盤が矯正されてるからできる態勢だろう。
正座の状態から両足を崩し、お尻をマットにつける――いわゆる女の子座りをする敏明の股間に顔を近づける。
「やっぱこの【皮】ってすげーよな。ショーツの繊維が見えるくらい近づいても、栗の花の臭いがしねーし」
むしろ焼き菓子のように甘く香ばしいくらいだ。
「そんなに顔を近づけられたら、清彦さんの吐息がかかって……」
「それだけじゃなく、どんどんショーツが濡れてきてるぞ」
「そ、それは……男の視線を感じた体が……勝手に……濡らして……」
純白のショーツが次第に湿り気を帯び、敏明の股間に貼りつく。
濡れた布地から浮き出て見える女性器の形はぷっくりとしていて、男のもっこりとは全然ちがっている。
「なあ、『ここ』の感覚はどうなってるんだ?」
ショーツごしに敏明の秘所を軽くつついては離しを繰り返す。
「あうっ……男性のとは違いすぎて……と、とても言葉では……んっ……表現できませんわ……ああっ」
俺の指先が触れる度、スイッチが入ったオモチャのようにびくんと体を震わせる敏明。
「ただ言えることは……くぅんっ……男性とは比べものにならないほど……やっ……気持ちいいんですの……」
この様子を見てると、まんざらウソじゃないんだろうな。
俺も後ほど『それ』を堪能できると思うと、背筋がゾクゾクしてくる。
だけど、今は……。
「これだけ濡れてれば、もう十分みたいだな」
「はい……わたくしの『ここ』に、清彦さんのおちんちんを入れてくださいませんか?」
敏明は少女の声でねだり、自らと外界を隔てる唯一の布を脱ごうとする。
だが俺はそれを許さず、少しだけショーツを横にずらし、いきり立った己の分身を挿入した……つもりだった。
「あれ? え? くそっ!」
しかし、ナニの先端がツルツル滑ってうまく入っていかない。
挿入できない事実が焦りを生み、焦りがさらに次の失敗に繋がるという悪循環に陥ってしまう。
「清彦さんは初めてなのですから、女性器をじっくり見ないで挿入るのは至難の業ですわよ」
「う……わ、分かってるさ。けど、無修正の『ここ』を初めて拝むのは、女の子になった自分自身のものがいいんだ」
とは言え、単なるワガママで体を捧げてくれる友人に迷惑をかけるわけにもいかない。
敏明のショーツを脱がせようと意を決するが、
「まったくもって、清彦さんはどうしようもない変態ですね……ですが、そのこだわりは嫌いではありませんわ」
わたくしも変態ですからその気持ちは分かりますもの、と敏明は呟き、俺のナニを取って『若葉』の秘所の一部分にあてがい、自ら腰を下ろしていく。
「あ……あ、清彦さんのが、わたくしの……女の中に……入ってきますわ……」
ズブズブという肉音を立て、柔らかな肉壁に包まれていく俺のムスコ。
この感触は何と例えればいいのか?
コンニャク? カップラーメン?
否。
たしかな柔らかさと温かさを持ち、快楽を得ようと明確な意思をもって蠢く膣内はそれらの比じゃない。
肉棒からから精液ごと生命力まで搾り取ろうとする女体の営みに、一秒でも長くこの状態を維持しようと射精を堪えるのが精いっぱいだ。
「うっ……清彦君のこれ……すごいいいよ……僕の腹の中がパンパン……に……」
加えて、敏明が素の口調になったものだからたまらない。
余りの気持ちよさに若葉の演技(言葉遣い)をする余裕を失ったのだろうが、容姿と声はそのままなもんだから、
改めて男が化けた美少女を抱いているという実感を覚え、体と心の興奮を加速させてくる。
「あ……あっ……んっ……あぁっ……清彦君……もっと……んっ……突いてくれない……か……」
「いつもの口調に戻ったのに、あえぎ声だけは女の子なんだな、敏明」
「か、勝手に声が……あっ……んんっ……で、出るんだよ……っっんっ」
女体を求めるオスの欲求に突き動かされて一心不乱に腰を動かす俺と、男を求める自分の姿を鏡ごしに堪能しならよがり狂う敏明。
……やがて。
「と、敏明。また出そうだ……外の方が……いいか?」
「い……いや……中に……僕の子宮に……んっ……出して……いいから……僕も……もう少し……で……」
「あっ……ああああああああああああんっ!」
敏明がひときわ大きな絶叫と共に膣をぎゅっと絞め、俺もまた彼女の奥底で放出してしまった。
「はぁ……はぁ……敏明の……女の子の中って気持ちよすぎだろ……」
途方もない脱力感に見舞われ、仰向けで荒い呼吸を繰り返す敏明の横に倒れ伏す。
ところで、相手が偽物の女の子でも脱童貞ということになるんだろうか?
なんて、どうでもいいことをふと考える。
……そう、ホントにどうでもいいことだよな。
髪の毛先からつま先、そして『あそこ』まで本物と寸分たがわないんだろうから。
と、そこにアラート音のようなものが鳴り響き、虚空に現れたディスプレイに『COMPLETE』という文字が浮かび上がった。
「僕たち……コホン……わたくしと清彦さんが肉欲をぶつけ合ってる間に完成したようですわね」
結局、試験用の【皮】に出番はありませんでしたわね、と口調を姿相応に戻し、敏明が慈しみに満ちた笑みを浮かべる。
「完成? 何がだ?」
「世界にただ1つ、清彦さん用にカスタマイズされた美少女の【皮】ですわ」
(続く)
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