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皮いいメイドさんのつくりかた2

2013/10/08 01:09:46
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ガコン、とラブホテル風にカスタマイズされた壁の一部が引き出しのように飛び出てきた。
その中に入っていたのはグレーがかった長髪が印象的な、空気の抜けたダッチワイフ。
しかし俺はこの【皮】が、そんな大人のオモチャとは一線を画することを十分すぎるほどに理解している。

「うふふ。清彦さんの【皮】はどういった容姿なのでしょうね」
そう。
この女の子にしか見えない男友達の女性器によって、否応なしに思い知らされた。
「え? この【皮】を用意したのは敏明……」
「若葉、ですわ」
「……若葉なんだろ? なんで作ったお前が【皮】の容姿を知らないんだよ?」
やっぱり容姿に合わせてきちんと呼び分けるか。
じゃなきゃ、若葉のことを人前で敏明って呼んじまいそうだし。

「その理由は、この【皮】のベースになったのが清彦さんのDNAだからですわ」
若葉は体液と精液に塗れたショーツ一枚という姿のまま、指を一本ぴっと立てる。
清純さが印象的な黒髪和風美少女の穢れた姿にはグッとくるものがあるよな。
いや、汚しちゃったのは俺なんだけどさ。

「俺のDNA? そんなモンいつ採取したん……ってアレか!」
この部屋に入って早々、口に綿棒のようなものを突っ込まれて仰々しい機械に入れられたっけ。

「その採取した遺伝子のXY染色体をXX染色体に書き換えつつ急速培養し、人工皮膚と人工臓器を作成、さらにナノマシンを組み込んだのがその【皮】という訳ですのよ」
「いやいや、ちょっと待て。じゃあ何? この【皮】は俺が女の子として生まれてきた場合の姿、ってことか?」

敏明=若葉はまあ分かる。
もとから遺伝子的に優れているハンサム野郎が女の子だったとしても、やっぱ美少女になるからだ。

だが俺はそうじゃない。
どこにでもありふれた平凡な容姿の男なんだ。
そんなのが女の子だったらというIFがあったとして、美少女からはほど遠いに決まってる。

「クソっ! いつからだ! いつから俺は自分が美少女になれると勘違いしていたッ!」
女の子になれるとしたら、可愛い女の子の方がいいと思うのは当然。
それ以外はありえねーだろうが!

いや待て。まだ希望はある。
ベッドの脇に置かれた試験用の【皮】だ。
これは、俺を部屋に案内したメイドさんを模したものなのだろう。
彼女の外見は20代前半、少し年上だが十分許容範囲。
容姿も若葉のように絶世の美少女までいかないが、世間一般から見れば十分美人の範疇に入る。

……なんてことを考えていたのが、顔に思いきり浮かんでいたんだろう。
若葉が鎮痛な面持ちで首を横に振る。
「残念ですが試験用の【皮】は清彦さんに適合しませんの……いえ、正しくはたった今完成した【皮】以外を清彦さんが着ると不都合が起きる、ですわね」
「なっ! でもさっきは試験用の【皮】を着てみろって言ったじゃねえか!」
「それはあくまで試着の意味でですわ。試験用の【皮】を着て一時的に女の子になるくらいならばいいのですが、長時間に渡って着用すれば必ずや後悔することになりますわ」

不都合? 後悔?
まさか【皮】が脱げなくなるとでもいうのか?
それとも、俺の意識が【皮】の基となったオリジナル(多分さっきのメイドさん)の意識に呑まれて上書きされてしまうのか?

俺は判決を受ける被告のような面持ちで、若葉の言葉を待つ。
待つこと数秒。
若葉は色艶のいい唇をゆっくりと動かした。

「……生えますの」

「はい? 生えるって何が?」
「ナニが生えますの」

…………。

「えーと、だ。つまり俺は、俺専用にカスタマイズされた【皮】以外を着ると、女の体にナニが生えるという状態になるのか?」
「もっと正確に言うなら、普段は女性と見分けがつきませんが、性的興奮を覚えるとおちんちんがナノマシンによる圧縮と神経カットでは抑えきれず、【皮】を突き破って出てくるのですわ」
「……なん……だ……と……」
「そして、それはわたくしも同じこと。敏明に適合するのは若葉の【皮】だけですの。それ以外の【皮】で別の女の子になったら、もれなくふたなりになりますわね」

重苦しい沈黙が部屋を支配する。
「するってえと、俺が選べるのは……」

1・容姿は微妙だが、完全な女の子になれる。
2・美人になれるが、興奮すると生えてくる。

「何だよそれ! その二択はあんまりすぎるだろ!」
「ですがご安心ください。その【皮】は確かに清彦さんのDNAをベースにしておりますが……」
「俺は謙虚で寛大だが、どうにも許せないものが3つある!」
究極の選択を突き付けられた俺は、若葉の言葉を遮って魂の咆哮をあげた。

「ひとつはTSコミックと謳っておきながら、創刊号においては12作品中4作品しかTSが無く、他は女装・男装・オトコの娘で占められていたマンガ!」
「アレは本当に孔明の罠でしたわね」

「ひとつは主人公が変身能力を手に入れておきながら、ショーツやイス、リコーダーなど無機物にしか変身しないエロゲー!」
「たまに他者変身もするのですが、そのほとんどが攻略対象の彼氏に化けてのNTRをコンセプトとしたもの……つまり男から男への変身でしたわね」

「ひとつはTS作品と思わせておきながら、最終回近辺でTSヒロインが実は本物の女の子だと判明したマンガッ!」
「メインヒロインを取り巻く不良・普通・変態の3人の男の子たちの性格や生き様が魅力的で、普通のマンガとしても凄く面白かっただけに、残念でなりませんでしたわ」

「そしてTSした元男が主人公でありながら、エロシーンで必ず生えるエロゲー! シナリオライターはマジで分かってねえんだよ、クソがァァァァァァァァ!」
「激しく同意しますが、4つ言いましたわね」

「まあ、そんな訳でだ。男として俺が選ぶ道はただ1つ。例え容姿が微妙であっても、完全な女の子になることだ!」

断腸の思い、というのはまさにこのことだろう。
どちらを選んでも後悔は付きまとうに決まってる。
それならせめて、自分の信念に従うのが男ってモンだよな。
……いやまあ、女の子になりたくて男気を見せるのは自分でもどうかと思うが。

そんな訳で俺専用にカスタマイズされた【皮】を『ようこそ、我が永遠の肉体よ!』とばかりに手に取り、ベラベラに潰れてシワだらけのご尊顔を拝み見るが……。
「これ、広げてよくよく見るとメチャクチャ可愛いじゃねえか!」
若葉とはタイプが違うものの、負けず劣らずの美少女だった。

「まったく、人の話を聞かずに早合点もいいところですわ」
狐につままれたような俺に対し、若葉は呆れ半分、苦笑半分で言う。
「わたくしは先ほど、
『世界にただ1つ、清彦さん用にカスタマイズされた『美少女』の【皮】ですわ』
と言いましたわよね?」

あー、そういえば確かに。
「でも、やっぱおかしくねえか? 女の子になった俺がこんなに可愛いわけがないだろ」
「色々腑に落ちない点があるとお思いですが、説明は後に致しましょう。そろそろ【皮】を着て女の子になってみないことには、わたくしも我慢の限界に達しそうですわ」
若葉はくるりときびすを返し、ラブホ(風味の部屋)のシャワールームへと去っていく。

「清彦さんの性格なら、初めての【皮】は自分1人で愉しみたいでしょうし、わたくしは汗やら唾液やら精子やら愛液で汚れた体を洗い流しながらお待ちしておりますわ」
と、言い残し、シャワールームの扉を閉める。

1人ぽつんと取り残された部屋で、俺はごくりと喉を鳴らす。
「容姿に関しては非の打ちどころがないし……早速着てみよう」
そして俺は【皮】の後ろ首に指をかけた。



【皮】は滑らかで人肌ほどの温もりを持っていた。
まるで生きてるみたいだな。
普通なら薄くて皺だらけの物体からそういう反応があれば気持ち悪いんだろうが、微塵も嫌悪感を抱かないのは、それ以上に『コレ』が魅力的だからなんだろう。

「にしても……髪の毛が邪魔だな」
【皮】の頭皮から生えている髪の毛はかなり長く、若葉のようなロングヘアーだ。
俺は絹糸のような毛髪を巻き込まないよう、細心の注意を払って【皮】を広げていく。
これから自分の髪の毛になるわけだし、大切に扱うのは当然のことだ。

んーと……とりあえずこれぐらい広げれば、足が入るか。
「失礼します!」
誰に聞かせるでもなく一声かけ、すね毛にまみれた左足から理想郷へと踏み入る。

皮の腹部、次いで腰の部分が内部を通る足の形に沿って不自然に膨らむ。
やがて俺本体の左足が【皮】の左膝までさしかかったとき、変化が起こった。
まるで粘土細工のように、自分の左足が形を変えられていく感触。
偏平足だった足裏に土踏まずが形成され、歪に曲がっていた薬指が真っ直ぐ整えられる。
足根骨・中足骨・基節骨が縮み、27センチだった足のサイズが、1センチ、また1センチと縮んでいく。

もちろんその様子を直に目視しているわけじゃないが、不思議と感覚で理解できた。
「ナノマシンが俺の足を小さくしてるのか……痛くないどころか、クセになりそうな心地よさだな、コレ」

そんな感想を抱いている間に、左足が【皮】の奥底まで到達。
すでにジャストフィットするまで縮められた左足は、【皮】を女の子としてのサイズ以上に歪に膨らませることはない。

「う……おっとっと」
一瞬、自分の足そのものが無くなったように感じてバランスを崩しかけたが、刹那ほどもない短い時間で感覚が復活し、かろうじて持ちこたえる。

「何かスイッチがプラスからマイナスに切り替わるような感じだったな」
男の肉体そのものの神経がカットされ、代わりに【皮】に内臓された女の神経が接続されたということなんだろう。

だとすれば、プラスからマイナスより、陽から陰って言うべきか?
と、俺本体の地肌と、【皮】の内部が癒着したようだ。
左足裏をさすったりつまんでみても、【皮】がズレる様子はない。

「ん……今度は左ふくらはぎも変化してきたぞ」
肉付きのいいパーツが、ムダ毛ひとつないカモシカのような脚になってしまう。
思わず頬ずりしたい欲望に駆られたが、もう少しだけ我慢するか。

「さて……次は右足だな」
ドクン、ドクンと鼓動が早鐘を打ち、これまでの人生で味わったことのないほどの緊張を覚える。
ただ右足を通すだけなら左足の焼き直しなんだが、この状態で右足を通すってことは、下半身をずっぽり皮に入れちまうってことだからな。

2回射精したにも関わらず女の子に化けるという行為に興奮して、屹立している男のシンボルを皮に押し込める。
「よし……いくか」
右足をくぐらせたことで、両足が女の子の物に変化した。
人工皮膚と人工臓器の神経に切り替わった後、女の子の脚力で男の上半身を支える重みに違和感を覚えたが、それもまた一瞬。
【皮】内部の股間部分に配置したムスコを襲う変化に気を取られたからだ。

ギンギンに充血していたナニが萎んでいく。
竿と同じく男を象徴する玉が、痛みを伴わず潰され平らになっていく。
シンボルの変化は自分が自分でなくなり、別の存在になってしまうような錯覚を与えてくる。
いや、事実として別の存在になってるんだ。

男から女・♂から♀。オスからメス。
陽から陰へとスイッチが切り替わり、神経上は男性器が完全に消失。
代わりに股間から下腹部にかけ、穴をあけられたような感触が生まれる。

男根はクリトリスを含む女陰に。
睾丸は子宮と卵巣に。
前立腺は尿道腺と旁尿道腺に姿と機能を変えてしまったように感じる。
男のシンボルと女のシンボルではついてる場所が違うんだが、少なくともそう変化したように思った。

「俺の下半身は完全に女の子になっちまったんだな」
そう思うと、いてもたってもいられなかった。
あるいは無我夢中だったと言うべきか。
右腕、左腕と一気にくぐらせ、やや赤銅がかった頑丈な腕を、白く細く儚げなものへと変質させる。

そして胸だ。
【皮】に備わった2つの萎れた果実は俺という栄養素を得て、まるで時間が逆行したかのように膨らみ瑞々しさを発現させていく。
男では役割を果たしていなかった乳腺が接続されたことで、乳房と乳輪、そして乳首の先まで鋭利な神経が接続される。
むきだしのおっぱいって、こんなに『空気を感じる』んだ。
それにずしりとした重みが心地いいなあ。

「さて、残すところは頭か」

体が縮んだことで低くなった視界に違和感を覚えながら、ピカピカに磨き上げられた大きな鏡の前に立つ。
そこには奇妙な物体が映っていた。
女の肢体を持ちながら、出来の悪いコラージュのように男の首がついた生物。
その首下にはひしゃげた少女の頭がついており、そこから伸びるグレーがかった長髪がたてがみのように男の首周辺を取り囲み、より一層の不協和音を発している。
だが、それも【皮】の頭を被るまでだ。
少女の肉体と少年の頭部。
決して相容れることのない2つのパーツが、完全な美をもった1つの生物に進化しようとしている。

「よっ……と」
【皮】の中へ入り、頭部を女子サイズまで縮めながら位置調整をする。
「ん……ここかな?」
何も見えない闇の中でもがいていると、【皮】の口裏部分が俺の咥内へ侵入し、歯や舌、口裏に貼りつきながら胃の方に伸びてきた。
つま先から順に味わってきた、神経が切り替わる感覚。
これで俺は口の中も女の子になったはずだ。
鏡を見てないから実感はないが、若干黄ばんだ並びの悪い歯は白く綺麗な並びになっているだろうし、口臭もミントのように変化してるんだろう。

「あ、あー。あー。あめんぼあかいなあいうえお」
声を出してみると、野太い男のものが鈴の鳴るような美声が聞こえてきた。
それが自分の喉から発せられたものだという実感がじわじわとこみ上げてきて、未だ変化途中だというのに飛び上がりたいほどの歓喜に見舞われる。

さらに両耳と鼻。
こちらにも【皮】が貼りつき、耳クソと鼻毛が詰まった4つの穴を、狭いながらも綺麗な少女の穴へとコーティングしていく。

最後に目。
【皮】がコンタクトレンズのように俺本体の眼球に貼りつき、暗闇の中に光が生まれる。
その光は次第に大きくなり、まるでトンネルをくぐっているかのようだ。
やがてトンネルを抜け、瞳の焦点が合い、俺の変化の旅が終わった。

目の前の光景に何一つ変わったところはない。
色欲を与えながらも下品にならない程度の、ピンクを主体としたラブホテル風の内装。
しかし、鏡からこちらを見つめる人物だけは違った。

「これが……俺……なんだ」
グレーがかった長髪は、見る角度のよって海のように澄んだ青にも見える。
長いまつ毛とぱっちりとした瞳は、見る者すべて――それこそ自分自身すらも魅了する蠱惑的な輝きに満ちている。
小さいながらも尖った鼻と朝露のついた花びらのように瑞々しい唇。
それら1つ1つが魅力的なパーツの集まった少女の顔は、それ自体が1つの奇跡のようだった。

いや、奇跡は顔だけに留まらない。
重力に抗い椀状を保つ推定Cカップの胸。
へそよりも高い位置でくびれ、抱けば折れてしまいそうな華奢な腰。
生まれたての赤子のように毛がまったく存在しない恥丘と、【皮】に包まれたクリトリス。
その下に座するのは、女の子が女の子たる所以、一筋の縦線。
さらには丸く桃のように柔らかそうなヒップと、ほっそりした足。

俺(清彦)とは同じ人間であると思えない、美しいという言葉すら陳腐に感じる生き物になったこの感動・この気持ちは、どう表せばいいのか。

「え……あれ? なんで涙が? 俺、泣いてるのか?」

頬を流れ落ちる熱い雫が、その全てを物語っていた。

……まだだ。まだ泣くのは早い。
感慨にふけちゃダメだ。
これから女の子として、男では着ることのできない様々な可愛い服を身に着けてみたり、何気ない仕草で男をドキリとさせてみたり、
ガールズトークに花を咲かせてみたり、女風呂に堂々と入ったり、自分の体を探究したりとやりたいことは山ほどある。
女の子になれたのは喜ばしいことだが、それだけで満足するわけにはいかない。

ようやく俺は登りはじめたばかりだからな。このはてしなく遠い女坂をよ……。

――未完――

「おぶうっ!」
勝手に自己完結した瞬間、天井からタライが落ちてきて脳天を直撃された。
この異常なまでのタイミングの良さ……若葉のヤツ、俺をモニタリングしてやがったな。
さっきみたいにビジネスバッグをぶつけなかったあたり、俺(女の子)の体を慮って手加減してくれたようだが……。

「ん? タライの中に服が入ってるな。もしかしてコレを着ろってことか?」
服を広げてみると、黒を基調として白いフリルのついたメイド服一式だった。
肩は剥き出しでスカートは丈が短く、付属品の黒ストッキングとの間に絶対領域ができる……秋葉原でよく見かけるようなフレンチタイプだ。

「たしかに俺の容姿だと、ヴィクトリアンタイプよりこっちの方が似合いそうだな」
ちなみにヴィクトリアンタイプのメイド服とは、長袖とロングスカートで、露出が極端に少ない様式だ。
イメージが沸かないのなら、『エマ』という漫画を見ればよく分かると思う。
……ともあれ、俺をここに案内してくれたメイドさんはヴィクトリアンタイプだったし、廊下ですれ違ったメイドさんはフレンチタイプだったっけな。
多分、敏明宅ではメイドさんの制服は自由度が高いのだろう。

「ここまで誂えてくれたのなら、着ないわけにはいかないか」
女の子になった男の行動は大きく2つに分けられる。
受動的に女の子になったのなら戸惑うだろうし、俺のように能動的なら時と場所によるが、自分の体を隅々まで観察しつつオナニーに励むのが定番だろう。

だが、若葉に見られてる(はずだよな?)ことは度外視しても、俺はあえて性的な欲望をギリギリまで我慢しようと思っている

その理由は、今日は脱童貞・女体化とすでに大きなイベントを2つこなしたからだ。
どんなに美味しい料理だとしても、それを続けて食べれば1つ1つの印象が薄くなるだろ?
とどのつまりはそういうことだ。

そういった意味じゃ、本当は1度男の姿に戻り、後日改めて女の子の服を着るところから始めたいくらいだ。

けど、あくまで俺は敏明と若葉付きのメイドとしてこの【皮】を与えられたんだ。
ならば女物の服(メイド服)を着ることも、メイドとして働くことも後延ばしにすべきではない。

「どうせ避けて通れない道なら、着替えそのものも十分に堪能すべきだよな」
てな訳で、タライの中をがさごそと漁る。
そしたら出るわ出るわ。
メイド服本体と黒ストッキングの他、リボン×2、ヘッドセット、グローブ、ガーターベルト、そしてショーツとブラジャー。

「って、何で下着だけ2種類あるんだ?」
俺は先ほど若葉が着てたような白の下着と、勝負下着と表現するほどエロく気合いの入った黒下着をそれぞれの手に持ち、可愛らしく首をかしげた。

サテン素材の黒か綿素材の白か。
悩んだあげく、女の子としての初下着はスタンダードの方がいいかな、と白のショーツを選ぶ。

正面に小さなリボンがついただけの逆三角形。
それは思ったよりも小さく、本当にこんなサイズで大事な所を隠しきれるのかと不安になるほどだ。

「清彦君……恥ずかしいから、私の着替えを……その……ジロジロ見ないでね……」

身体だけでなく、心も女の子になったつもりで演技してみた。
生まれたままの姿をした少女が羞恥に顔を赤らめ、高い声で懇願してくる。

以前、女の子になってみたいという思いから、清彦の姿と声で女言葉を使ってみたことがあった。
もちろん自分の部屋でこっそり行ったわけだが、あまりの似合わなさと痛々しさに悶絶したことがある。

だが今はどうだ。
女言葉を使っても違和感のない姿と声。
悶絶したくなっているのは同じだが、それは鏡の中から懇願してくる少女が可愛すぎるのと、それが自分の姿であること。
さらに自分の意思で行わせてることに充足感と照れ臭さを覚えているからだ。

シャワールームの方からガタガタという物音と、
『はうぅっ。清彦さん、最高ですわ! 可愛いすぎますわ! 鼻血が止まりませんわ!』
というくぐもった声が聞こえ、
扉の隙間から赤い液体が流れ出てきてるんだが……考えないようにしよう。

【皮】と同じようにまず左足、そして右足を通し、股まで上げきって子供のような割れ目を隠す。
それは不思議な感覚だった。

俺は中学までブリーフを穿いていたが、それとは似ても似つかない感覚。
男としてナニが付いてるときに穿くブリーフは見栄えこそ悪いものの、安定感があり頼りがいがあった。
しかし、女の子としてぺったりとした股間をカバーするには見た目が綺麗な反面、不安を覚えるほど頼りない。
丸みを帯びた故に、男のときより大きいんじゃないかと思うお尻も完全に隠れきらない。

ずれたらどうしよう?
だれかに見られたらどうしよう?
大事なところを隠すためのショーツであるはずなのに、ショーツそのものを見られるが急に恥ずかしく思えてきた。

よく『相手の身になって考えてみろ』って言うが、言い得て妙だ。
女の子になったことで、女の子が下着を見られるのを恥ずかしがる気持ちを理解できるなんてな。

「けど、いつまでも不安がっていられないし、割り切ってブラジャーをつけるか」

白のショーツとセットになった白のブラジャー。
当然付け方など分かるわけもなく、左右それぞれの乳房をカップの中に適当に入れ、後ろ手でホックを留めようとするが……。

「う……髪の毛がすごい邪魔だ……」

グレー(あるいは青)の髪の毛は、背中まで伸びている。
ただでさえ慣れてないホック留め。
髪の毛を巻き込まれまいと足掻いてみるが、上手くいかず苛立ちを覚えてくる。
【皮】の頭部を被った直後から感じていた、長髪故の頭の重さにもイライラする。

「あー、もう! もう! もう! 何なんだよ!」

しかし、その苛立ちは長く続かなかった。
ふわりと鼻孔をくすぐるミントの香りが、まるでアロマテラピー・あるいは素数カウントのように俺の心を落ち着けてくれる。

「この匂い……俺の体から出てるようだな」

女性と道ですれ違ったときや、クラスの女子と話をしているとき、不意に漂ってくる『女の子の匂い』
それが自分の全身・とりわけ長髪から主に放たれているという事実を認識した瞬間、不快感がウソのように消えた。

「そうだ! このリボンで髪の毛を纏めれば邪魔にならないよな」
悪戦苦闘していたブラを置き、代わりにメイド服一式の中から蝶を象ったリボンを取り出す。
「ポニーテール……いや、俺の顔立ちならツインテールの方が似合いそうだな」

美少女とひとくくりにするのは簡単だが、その実タイプは様々だ。

例えば俺は童顔で小動物のような可愛い系。
若葉は清楚で大人びた綺麗系。
ついでに躍動的な魅力を持った可愛いと綺麗、両方の魅力を併せ持つ少女なんてのもいる。
……まあ、その子は知り合いでもなんでもなく、たまたま街にあるダンス教室の前で見かけただけだが。

美少女は美少女。
どんな格好でも似合うことは想像に難くないが、それでもタイプによって各々の魅力を最大限に引き出す服装や髪形は違う訳で。
自分をより一層可愛く・あるいは美しく見せるために装飾品を組み合わせてコーディネイトする楽しさもまた、男ではなかなか味わいえない魅力だ。

下着やアクセサリーだけでそんなことを思うなんて、女の子は奥が深いな。
などと考えてながらもせわしなく両手を動かし、ツインテールの完成。
髪を結わえるなんて初めての試みなもんだから、左右非対称になっているが仕方ない。
今後、じっくり時間をかけて練習していこう。

「思ったとおりよく似合うな」
鏡の前でにぱっと笑ってみたり、俯き加減で手ブラをしてみたり。
若葉のようなストレートロングもよかったが、ツインテールは格別。あまりにハマり過ぎている。

髪型ひとつでこうも与える印象が違うことに驚いて気分を良くした俺は、すっかり装飾品の魅力に捕らえられてしまった。
ショーツ1枚という姿のまま、次つぎとアクセサリーを身に着けていく。

白のヘッドセットとグローブを装着することで清潔感を強調し、黒ストッキングとガーターベルトをつけることで小悪魔的な妖艶さを醸し出す。

それはさながら万華鏡。

この身を飾りたてる小物が一つ増えるたび、俺という少女が持つ様々な側面(魅力)が引き出されていく。

こうなってくると欲が出てくるのが人間っていうもので、それは男であろうが女であろうが変わらない。
何が言いたいのかというと、

「黒の下着も……穿いて……みようかな」

光沢のある黒に、ピンクの装飾が施された派手なショーツ。
装飾過多に加えて逆三角を通り越してV字を描く布面積の小ささは、そんじょそこらの女の子であっても穿きこなせるとは到底思えない。
だが、それでも挑まずにはいられないのが男のサガだ。

幸いにして、俺の女性器周りには毛が生えてない。
ムダ毛の処理をしなくても、字の隙間から陰毛が見えて自分自身に幻滅する、なんてことにはならないだろう。

意を決して、一度穿いた純白のショーツを脱いでいく。
……って、このままだとガーターベルトに引っ掛かるな。これも外さないとか?
しかしそれは杞憂に終わる。
ガーターベルトについてる紐の一部を外せば、そこから上手く脱げることに気づいたからだ。

脱ぎたての白ショーツは着用時間が短かったおかげで、未使用時とほぼ大差なかった。
これが長時間身に着けていたことにより、ムレムレのホクホクになっていたなら、それにハマり、さらに時間を取られていたかもしれない。
そうならなかったのは、幸か不幸か。

俺は白いグローブに包まれた少女の指を使い、ストッキングに覆われた足先から黒ショーツを穿いていく。



可愛らしい少女になってエッチな下着を穿くという背徳感とある種の解放感。
ネットゲームで使用しているPC(無論女キャラ)の装備を、露出度の高い物に変更したときの記憶がまざまざと蘇ってくる。

「そのときとは比べものにならない程興奮するな……っとそうだ! どうせなら……」

ベッドにぽふんと横になり、体育座りのような態勢で少しずつショーツを上げていく。
清彦のときは体が硬く苦しい姿勢も、この体は柔らかいため苦にならない。

「私はいけないメイドなんです。こんなにエッチな下着を穿いて……」

そして再び女の子になりきって、甘く切ない声を出す。
ただ、今回は自分自身に向けてではない。

「若葉お嬢様に折檻されることを期待している、ダメなメイドなんです……あぁっ……若葉お嬢様ぁ」

ガタッ、ゴッ、ドスン。
ブシュゥゥゥゥゥ。ドクドクドクドク。

シャワールームで何が起こってるのか、安易に想像できる。
俺本人ですらこの体に魅了されてるんだ。
いかにメイド少女の中身が男だと知っている若葉とて、この姿で『おねだり』されれば萌え狂わずにいられないってことか。

自分の一挙手一投足で男(つっても若葉の体は女の子だが)が反応することに気を良くした俺は、ささやかな割れ目を小さなショーツで覆い隠し、ガーターベルトの紐を結び直してベッドから立ち上がる。

そして恒例行事となった鏡によるプチ鑑賞会。
ともすれば中学生と見間違える美少女のアダルティな装いは、眼福という言葉に集約される。

ひとしりき満足した俺は、エロ下着の片割れたる黒のブラジャーを身につける。
カップの中に作り物とは思えないおっぱいを収め、再度背中でのホック留めにチャレンジ。

ちなみにこっちのブラは肩紐が無いストラップレスなんだが、ずり落ちる不安はない。
下からバストを支える力が強いおかげなんだが、常に下から胸を触られてるような感じになるんだよなあ。



「ふう……ようやくはまったか」
何十回目かの挑戦で、ようやくパチッという金属音が背中から聞こえてきた。

「胸が苦しいけど、この苦しさすら女の子が味わっている感覚だと思うと愉しめるよな」
乳首をしっかりガードしてるのもグッドだ。
何せ装飾品を身に着ける際、剥き出しの乳首に軽く擦れただけで、痛みとも快感ともとれる感触が襲ってきたからな。

漫画とかでたまにいるノーブラの子が、他の女の子に『擦れて痛くなるからブラをつけなさい!』って言われる理由がよく分かった。
少なくとも俺も、普段はノーブラで過ごしたいと思わないな。

さて、残すところはあと1つ。
エプロンと一体型の、ノースリーブのミニスカワンピースメイド服本体だけだ。

このテの上と下が一体型になったモノは当然のように着た経験がなければ、どっから着るかすら分からない。
下からかぶるように着るんだろうか?
いや待て。なら脇下についてるファスナーは何の為にあるんだ?

しばし逡巡の末、ファスナーを下げて横から足を入れてみる。
そして片方を頭からかぶり、ツインテールをよいしょよいしょと引っ張り出し、最後の仕上げにファスナーを上げる。

そうして激戦の末、ようやく完成したメイドさん。
初めて履いたスカートは非常に風通しが良く、肌に汗が浮き出る初夏の現在においては丁度いい。

「それにしても……」

こうして鏡で全体像を見てみると、幼さ×可愛さ=∞という、ワケの分からない方程式が頭に浮かんでくるほどだ。

黒ストッキングと二の腕まで伸びる白グローブで素肌の露出を抑えつつ、ノースリーブから露わになったちんまい肩と、ミニスカートの真下わずか数センチの絶対領域が奏でるハーモニー。
愛くるしさの中に見える微かな色香。

このままメイド喫茶で給仕したなら、その店は大繁盛間違いないだろう。
ぶっちゃけ俺もこんな子がいるメイド喫茶なら通いつめたいくらいだし。



「どうやら初めての着替えを無事に終えたようですわね」
「ああ、おかげさまで……な……」
これまたタイミング良く戻ってきた若葉の姿に絶句した。

一目で高級品と分かる西陣織の着物を着た黒髪の美少女。
その儚げでありながら、端正な美貌の奥底にある芯の強さを伺わせる清楚さは、ついさっきまでこのベッドで乱れていた存在と同一人物だと思えない。

幾度となく鏡に映した自分の姿以上に見とれてしまった。

トンビに油揚げをかっさわられたとか、美味しいとこだけをまるかじりされたような敗北感を覚える。

……って、これじゃまるで、俺が若葉の美しさに嫉妬してるみたいじゃないか。

いかんいかん。俺は男なんだ。
女の子のフリをするのはいいが、心まで女そのものになってしまわないよな?

「あら? どうかなさいましたか?」

ここは『何でもない』と言うより、最初に思い抱いた感情を口にすべきだろう。

「若葉……すごい綺麗だ……」
「ふふ。ありがとうございます。清彦……いえ、双葉さんもとってもよくお似合いですわよ」
若葉はそう言い、2枚の書類を俺に手渡してきた。

「えーと、何なに? 雇用契約書と……戸籍謄本!?」
「清彦さんが女の子の【皮】を着ているときは、長沢双葉という人間として振舞っていただきますわ。そして何をするにも戸籍は必要ですわよね?」

だからと言ってそう簡単に、戸籍をデッチ上げることができるのか?
財力にモノを言わせたんだろうけど、今さらながら、そのデタラメな金持ちっぷりに驚かされる。

「さて、それでは双葉さんにメイドのいろはをお教えしますわね。と言っても今日は初日ですから、簡単なオリエンテーション程度になりますが」

小さな口をあんぐりと広げる俺に、若葉は霞のように淡い笑顔でしっとりとほほ笑んだ。



結果から言うと、初日はさんざんだった。
掃除をすればコケてバケツをこぼすわ、料理を作れば味付けを間違えるわ、etcetc。

「そう落ち込む必要はありませんわ。あくまで双葉さんはわたくしの世話係……いわば付き人程度の働きができれば十分ですのよ」
と、若葉が慰めてくれたが、立ち直るきっかけにはならない。

「俺ってこんなに不器用だったのか……家事には自信あったのに……うぅっ」
「仕方ありませんわ。双葉さんはまだその体に慣れていませんもの」
手足の長さや筋力が違えば、必然的に身のこなし方を変えなければいけない。
味覚も変わってるので、清彦の感覚で料理しても微妙な代物ができあがってしまう。
若葉は懇切丁寧に、そう説明してくれる。

ちなみにここは若葉の私室だ。中にいるのも俺と彼女の2人きりだから、この会話が誰かに聞かれる心配はない。

「でもなあ」
「女の子の体の動かし方については妙案がありますので、後ほど説明いたしますわ。今はそれより、もろもろのおさらいをいたしませんこと?」



現在この家に住んでるのは、敏明(若葉)とメイドさんが4人と執事が2人。

敏明と若葉が同一人物であることを知るのは、俺の他は敏明の両親だけ。

両親には『いずれ人の上に立つ人物として相応しくなるためには、男のみならず女の気持ちも知る必要がある』という言い訳をして、彼らもそれに納得している。
(あくまでそれは建前で、実際は俺と『同類』。つまり女の子としてのあれやこれやを堪能している)

使用人は高校の連中同様、敏明が姿を見せているときは若葉が自室に篭り・若葉が姿を見せているときは敏明が自室に篭って仕事をしていると思っている。
(俺以外の使用人は敏明と若葉の部屋に入室できない。ちなみに偽装兄妹の部屋は中で繋がっている)

しかし、食事の量や洗濯物の数などいつボロが出てもおかしくない状況なので、そういった不自然さを誤魔化すための共犯者として俺を選んだ。

表向き、雇い入れたのはメイドの『双葉』と、ラボ(さっき俺の皮を作った部屋)の警備員『清彦』の2人。
(ついでにこの部屋も使用人は入室不可)

双葉と清彦はラボから外に直接つながる出入り口を使うため、どちらがどのタイミングで屋敷に居たり居なくても、だれも問題視しない。



「……ってとこだよな? 色々細かいツッコミを受けそうな部分もあるけどさ」
「その点は心配いりませんわ。当家で雇用する使用人は、ビジネスライクな方たちばかりをえらんで『おりました』のよ。皆、自分に与えられた仕事をこなすだけで、興味本位で余計な詮索を行おうとする者はおりませんわ」

金を貰って必要最低限の仕事をこなす。決してそれ以上でも以下でもない、か。
たしかにプロとしてあるべき姿なんだろうけど、それを語る若葉が妙に寂しそうに見えた。

「な、なあ若葉」
こういった空気が好きじゃない俺は、多少強引に話題転換を持ちかける。
「そろそろ俺がこんなに可愛い姿になったタネ明かしをしてくれねーか?」
流れを変える意図も当然あったが、純粋に気になっていたことでもある。

当然の帰結として、

美男子のDNA(敏明)=美少女のDNA(若葉) 平凡男(清彦)のDNA≠美少女(双葉)のDNA

のはずだ。
このノットイコールがイコールになったカラクリは何なのか?

「可能性の問題ですわ」
と言われても何の事やらさっぱりわからん。
俺は視線で先を促す。

「基本的に基となる遺伝子が同一であるなら、その成長結果も同様――そう思っているのではないでしょうか?」
「違うのか?」
「体細胞突然変異という言葉をご存じでしょうか?」
俺は無言で首を横に振り、その拍子にツインテールが大きく揺れる。

「かみくだいて説明いたしますと、同じ遺伝子であってもランダムな化学反応により、遺伝子が傷ついたり再編成が起こったりする結果、成長過程で誤差が生じるのですわ」

それを調整して最高の成長を遂げる……つまり基が俺のDNAでも美少女になるよう、急速培養したとのことだ。

「なぜそこまでして本人の遺伝子を【皮】に組み込むのかは、今更言うまでもありませんわよね?」
「『コレ』を抑え込むのに他人の遺伝子を使った【皮】だと上手くいかず、興奮すると生えてくるってことだったよな?」

コレとは俺のスカート……の下に穿いている派手なショーツ……の下にある女性器……がついた人工皮膚と人工臓器……の下でコンパクトに圧縮され、神経もカットしたことで存在価値を無くした男のシンボルのことだ。

「その通りですわ。さらに詳しい原理を説明するのは小一時間ほどの時間を要しますが、聞きたいですか?」
「いや、いらね」
テレビを見るのに、わざわざ受信の仕組みや内蔵パーツの役割まで把握する奴なんていないだろ。

「後は……そうですわね。【皮】の脱ぎ方を教えておかなければいけませんわね」
若葉は帯をほどき、着物と襦袢を脱いでいく。
その下から現れたのは、スポーツブラを厚く大きくしたような物体と、これまたブリーフを大きく野暮ったくしたかのような物体だった。

「和服って下着をつけないんじゃないのかよ?」
「それは男性の願望が生み出した勝手な思い込みにすぎませんわ。和服にはこういう専用の下着が存在しますのよ」

むうぅ。何か裏切られた気分だ。
それにせっかく若葉の下着姿を拝んでいるっつうのに、色気が無さ過ぎてティンとこない。
俺のジュニアも沈黙を保ったままだし……って、今股間についてるのは竿じゃなく割れ目だから勃つわけないか。

そういえば、女の子としての性的興奮はどういう感じなんだろ?
さっき自分の姿を見たときは、欲情じゃなく感動だったしなあ。

「……さん? 双葉さん?」
「あ、っと。悪い悪い」
若葉の呼びかけでふと我に返る。
いつの間にか彼女は後を向いて、首筋と艶のあるうなじをこちらに見せていた。

「【皮】の脱ぎ方ですが、わたくしの後ろ首をじっと見ていてくださいな」
「特になんの変哲もないような……って何だコレ? ボタンのようなモノが3つ浮き上がってきたぞ!?」
「【皮】を脱ごうと意識すればこのボタンが浮き出てくるのですわ。そしてこのボタンを押すと……」

プシュッ、と蒸気機関のような音と煙を立て、ボタンのあった場所に大きな穴が開いた。
そこから覗いてるのも人肌なんだが、若葉の肌に比べて色が黒くこわばっている。

「これって、敏明の地肌か?」
「その通りだよ、双葉」
それは紛れもない男の……敏明の声だった。

彼? 彼女? は頭に手をかけ、マスクを剥ぎ取るかのごとく若葉の顔を外し、敏明としての紅顔を首後ろの穴から出してくる。

数時間ぶりにコイツの顔を見たけど、やっぱ美形だよなあ。
髪の毛は男のくせにサラサラだし、眉はビッと整ってるし、目元もスッキリしてるしさ。
いや、顔だけじゃなく性格もいいんだよな。
基本的にさわやかで話上手・聞き上手だから接していて楽しいし、それに誰にもわけへだてなく接するのが敏明のデフォだけど、俺にだけ優しくしてくれるのが、特別扱いされてるって感じで嬉しいんだよなあ。

「と、こんな感じで【皮】を着るときとは逆の要領で脱いでいけばいいんだよ」
「わっ! バ、バカ! お、おおおおおお前ハダカじゃねえか!」

流麗な動きで若葉の【皮】を脱いだ敏明は、当然のように全裸だった。
その股間からぶら下がった立派なイチモツを前に、俺はとっさに両手で自分の目を覆い隠す。
コ、コイツ。いきなり何てモノを見せるんだよ!
そんなもの見せられても、俺はまだ心の準備が……。

って、ちょっと待て。俺は何を考えていた?
敏明という『男』にときめかなかったか?
股間のナニもそうだ。敏明が若葉の【皮】を着るときにも見てるんだぞ。
なんで今になって俺は、敏明のアレを見て恥ずかしがってるんだよ!

「ああ、そうかそうか。すまなかったね」
敏明は何かを察したように頷くと、手早くトランクスとズボン、シャツを身につける。

「【皮】を着て女の子になっていても心が男なのは当然だよね?」
「…………と、当然だろ? 俺は男なんだ。男の裸を見て……こんな……」
「だけどほんの少し……程度にすれば無意識レベルで心が体に引きずられ、男を異性として意識してしまうんだよ」
「なっ!?」
俺は背伸びをし、敏明の胸ぐらに掴みかかろうとして、寸でのところで動きを止める。
だ、ダメだ。何故か恥ずかしくなってきて、コイツの顔をマトモに見れない。

「まあ、とは言えだ。相手が男というだけで、誰かれ構わずそうなるわけじゃないから安心していいよ」
「……わ、わけわかんねえよ。だったら俺は何で……」
こんなに胸が熱くなってんだよ。

「どういう相手(男)に対し、キミや『若葉』がそうなるのかは、いま僕の口から言うべきはないんだろうね」
敏明は半分嬉しそうな・半分辛そうな、何とも言えない表情を浮かべる。

つうか、なんで若葉の名前が出てくるんだよ。

「ただ一つ言えることは……」
と、敏明。
「当面の間、『双葉』の前では、僕も『若葉』になっていた方がいいかもしれないね」
敏明は若葉の【皮】と服を手に、俺の視界から去っていく。

「済まない。僕は『そういうつもり』じゃなかったんだ。純粋に、キミにも女の子として過ごす楽しさや快楽を味わって欲しかっただけ……いや、あるいは心のどこかで『こうなること』を期待してたんだろうか……」

と、言い残して。



「お待たせしましたわ」
やがて若葉が平然とした様子で姿を見せたとき、俺の中から息苦しさと気恥ずかしさは消えうせていた。
そのことに安堵する反面、どこかで残念に思ったのはここだけの話だ。



「夜も更けたことですし、今日はこのここまでにいたしましょうか」
「そ、そうだな……って、これ何だ?」
若葉が俺に封筒を2通差し出してくる。
受け取って開けてみると、そのうち1つには1,000円札が6枚入っており、もう1つは『紹介状』と書かれていた。

「今日のアルバイト代ですわ。時給1,500円×4時間。合っていますわよね?」
「合ってるけど、本当に受け取っていいのか?」

俺にとっては限定ジャンケンや人間競馬、パチンコ『沼』で勝利したときの報酬以上に価値のある『女の子になれる【皮】』を支給という形で貰った時点で、十分すぎるほど満足なんだが。

「構いませんわ。女の子は何かとお金がかかりますもの。特に双葉さんの場合、ゼロから色々買いそろえる必要がおありですわよね?」
「そうか。それじゃ遠慮なく貰っておくわ」
たしかに下着とか洋服とかツインテール用のリボンとか、色々買うべきものがあるしな。

……っつうか、もともと俺がバイトしてでも欲しかった物がどうでもよくなるぐらい、女物を揃えるのが楽しみになってるんだが。

「もう一枚の封筒はダンス教室宛ての紹介状ですわ。そこに双葉として定期的に通い、汗を流してくださいな」
「へ? 何でだ?」
「女の子としての動きに慣れてもらうためですわ」
さっき言ってた『女の子の体の動かし方についての妙案』ってのはこのことか。

「もちろんダンス教室でレッスンしてる間も、労働時間とカウントして賃金をお支払しますわね」

厚意を無碍に断るのも逆に失礼と思い、俺は「ありがとう」と頭を下げる。

「それにしても、わざわざ紹介状が必要なダンス教室ってどんなんだよ?」
「あらあら? 『清彦さん』はよくご存じのはずですわ。先日、トラブルになりかけたのではありませんこと?」



………………………………



『ど……どうだ? 見えるか?』
『ぐぬうう。清彦殿、もう少し右でござる』
『男子禁制で美少女ばかりが通っているという噂のダンス教室……小生も覗きたいっス! 早く交代するっス!』
『言っとくが、次に覗くのは俺の番だからな……ってうわああああっ!』

ドンガラガッシャーン。

『む? 貴様等、そこで何をしている!』
『ヤバいでござる。ヤバいでござるよ清彦殿!』
『警備員に見つかったっス! 清彦氏、早く逃げるっスよ!』
『オイちょっと待て! 俺の名前を連呼すんじゃねえ!』
『そこのデブ、メガネ、清彦! 貴様等、警備員室まで来てもらうぞ!』
『コイツ等は身体的特徴で俺だけ名指しかよ! めっちゃ名前覚えられてるよチクショウ!』

『え? なにナニ? どうしたの?』
『また覗きが出たらしいわよ。ほら、アソコの逃げてる三人組』
『ッ……本当、男って最低!』
『あー、真奈美って男嫌いだもんねえ』



………………………………



あーあー。たしかにあったよ、そんなこと。
あの時は無事逃げ切ったと思ったら、学制服を着てたせいで通う高校がバレたし、
しっかり名前も憶えられてたもんだから、高校に名指しの抗議文が届いてあわや停学になりかけたんだよなあ。



と、そんなこんなで翌日。
清彦として学校に通い、若葉として登校してきた敏明と今まで通り普通のクラスメイトの男女として過ごした放課後。

昨晩のうちに大手通販サイトKONOZAMAのお急ぎ便で注文し、一人暮らしの自宅に届いていた下着とジャージ、靴下&スニーカーとツインテール用リボン(もちろん女子用・6,000円しかないのでぜんぶ超安物)を買った俺は『【皮】』を着て双葉に化け、ダンス教室へと赴いた。

――ちなみに双葉の3サイズおよび身長、体重、靴のサイズという自分ですら知らない極秘情報は、何故か把握していた若葉に教えてもらっていた。

「あ……あの……これ」
「あら? これは若葉お嬢様の紹介状じゃない!」
「え、ええと……」
「貴方、名前は?」
「な、長沢清ひ……じゃなくて、双葉! 長沢双葉です!」
「ふむふむ……ふむふむ……」

うぅ……この受付のお姉さん、俺のことジロジロ見てるよ。
俺が男だって怪しまれてる?
いや、そんなはずはない。
男は受付に話しかけることが敵わないばかりか、この建物に近づいただけで警備員がすっとんで来るんだ。
それが無いってことは、俺はちゃんと女の子として見られてるはずだ。

不安と自信がごちゃまぜになって棒立ちになる俺に対し、受付さんはグッと親指を立てる。

「うん。こんな可愛い子ならもちろん合格よ。いやー、最近は入会希望者がなかなか来ないわ、来ても容姿が微妙な子だわで困ってたのよ」
「あ、ありがとうございます。だけど、何で容姿も受講の判断基準になるんですか?」

とりあえず敬語を使って質問してみる。
相手が目上であることに加え、いかに女の子の容姿といえ、いきなり女言葉を使いこなせる自信が無いし、若干の不安と照れが残っているからだ。

そんな俺の質問に、理知的な感じのする受付さんは、メガネの下にある目をカッと見開いた。

「貴女、知らないでウチのジムに入ろうとしてるの!? このダンス教室は、アイドル等のバックダンサーを養成し、排出することを主目的にしてるのよ!」

……………はい?

聞いてねえぞ若葉ァ!
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィ!
第三者に双葉の容姿が認められたのは嬉しいが、俺はメイド見習いなんだぞ!
アイドルのバックダンサーなんてできねえし、やる気もねえよ!

「すいません。私、やっぱり受講を止めておきま……」
「来ォォォォォイ、ガーディアアァァァァァァァンンンンンンン!」
受付さんが指パッチンしてからわずか0.5秒。
ネオジャパン代表専用モビルスーツのごとくすっ飛んで来た警備員が俺を羽交い絞めにする。

「ふふふ。貴女みたいな特S級の上玉を逃がすわけにはいかないわ。さあ、大人しく契約書にサインしてもらうわよ!」
「やーめーろー! はーなーせー!」
「じゃかましい! ガタガタ抜かすとま○この穴から手ェ突っ込んで子宮をガタガタいわすぞ!」
「ひぃっ!」
何この人怖い!
受付さんの人格が変わってるぞ!
つうか俺、地味に貞操のピンチじゃねえのか!?

「おはようございまーす……って何の騒ぎ?」
「真奈美ちゃん、いいところに来たわね! バイブ! 今すぐバイブを持ってきて!」

ジムにやってきた練習生と思わしき少女が、この騒ぎにきょとんと目を丸くする。
そして受付さんは俺のこと犯す気マンマンだあああああああ!

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 何がどうなってるか知らないけど、バイブを持ち歩いてる女の子なんているわけないじゃない!」

真奈美と呼ばれた少女のごく常識的な返答に、俺は羽交い絞め&宙釣りにされたまま、ホッと胸をなでおろす。

「――双頭ディルドーなら持ってるけど」

何でンなモン持ってんだよ!

「それでいいわ! ちょっと貸して!」
「いい訳ねえだろオイィィィィィィ!」

言葉遣いに『地』が出ちまってるが、なりふり構っていられない。
ひがすらもがくものの、筋力の落ちた女の腕力で、女子プロレスラーのようにゴツい警備員に敵うわけもなく……。

結局、俺は受付さんの脅迫……もとい熱意に負け、事務室に連行されてしぶしぶ入会契約書にサインをした。





「……失礼します……って、さっきの……」
「あはは、災難だったわね」
そして退室し、振り返ったところで先ほどの少女に話しかけられた。
さっきは気付かなかったけど、この子、前に町ですれ違ったことがある美少女だよな?
それに、こないだダンス教室を覗いていた俺(とデブとメガネ)を、ゴミ虫でも見るかのような目で睥睨してたっけ。

「ねえ、アンタ名前は?」
「双葉……長沢双葉です」
「双葉ね。アタシは真奈美っていうの。これからよろしく」
「あ……はい。こちらこそよろしくお願いします」

真奈美は借りて来たネコのように大人しくする俺の手を両手で取り、ブンブンと大きく振る。
その際浮かべた自然体の笑顔に、思わずドキリとさせられる。
女の子が相手だと、こんな風に笑うんだ。
男(清彦)に対しては、絶対にこんな笑顔を見せないんだろうなあ。

「ねえ双葉、たしかに見た目アンタの方が年下っぽいけど、アタシに敬語はいらないわ」
「え……ですけど……」
「い・い・か・ら! 敬語で話しかけられると、この辺りがむず痒くなるのよ」
「わ、分かりました……じゃなく、分かったわ。改めてよろしくね、真奈美」
そうだよな。
俺はいま女の子なんだから、女言葉を使うべきなんだ。

まだ照れは抜けずくすぐったいけど、この感覚すら楽しもう。



「おはよー、みんな」
「おはよう、真奈美」
「おはようございます……ってその子は?」

このダンス教室では、時間帯がどうあれ挨拶は『おはよう』らしい。

「お、おはようございます。今日からここでダンスを練習する、長沢清……じゃなく双葉です」
俺は小さい体をめいっぱい曲げ、ちょこんとお辞儀する。

「「「…………」」」

一瞬の沈黙。やがて……。

「キャー! なになにこの子、メチャクチャ可愛いじゃない!?」
「ねえねえ、双葉ちゃんって中学生?」
タンクトップにブルマもどきという練習着の少女たちが、花に群がる蝶……いや、蜂のような勢いで俺に抱きついてきた。

お、女の子同士の挨拶ってこんなに過激なんだ。
それに、どの子もすごく可愛いから抱きつかれてイヤな感じがしないし。

あ、そうだ!
俺もいま女の子なんだし、どうせなら男じゃ絶対できないことを……。
と思い立ち、どさくさ紛れに抱きついてる女の子たちの胸やお尻を触ったり揉んだりする。
「きゃ、ちょっと双葉ちゃんってば」
「もう、くすぐったいじゃないの」
彼女たちはイヤがるそぶりも見せず、ジャージ姿の俺をギュウギュウ抱きしめ続ける。

うう……ここは天国かよ? 全員可愛い子ばかりで男なんて1人もいないし……。
と、この世で最も価値のある肉布団に挟まれて至高のひと時を味わっていた俺だが、そこで男と目が合った。

窓の外。

先日、俺と一緒にこのダンス教室を覗こうと試みたクラスメイトのデブとメガネだ。
アイツ等、しょうこりもなくまた覗きをしてたのかよ。

「どうしたの、双葉ちゃ……ん……きゃああああああ! また覗きよ!」
俺の視線を負った少女の1人が、鼻の下を伸ばしていたデブとメガネを発見し、そのまま悲鳴を上げる。

覗きがバレて慌てふためき逃げようとする男共を見ているうちに、妙な優越感がこみあげてきた。

かたやこの桃源郷を遠くから覗くのがやっとなアイツ等。
かたやアイツ等とおなじ男でありながら、女子の群れの一員として受け入れられ、互いに触ったり触られたりしてもお咎め無しの俺。

その優越感から作られる笑いを隠す為、俺は俯いて肩を震わせる。

「大丈夫よ双葉。すぐに警備員があの変態たちを捕まえてくれるから!」
俺の行動を覗かれた怯えからきたものと勘違いしたんだろう。
真奈美が正面から俺をぎゅっと抱きしめ、頭頂部からツインテールにかけてを優しく撫でてくれる。

「男って本っっっっ当に最低よね。下品だし汚いし臭いし体は固いし角ばってるし。男なんて全員消えちゃえばいいのに」
真奈美は氷のように冷たい声で、呪詛のように呟く。
たった今俺にかけてくれた、慈しみに満ちた声音が嘘のようだ。

「あー、まーた始まったわね」
「真奈美の男嫌いは筋金入りだからねえ」

周囲の会話から、何となく事情を察する。

男嫌いの少女が抱きしめているのは、少女に化けた男。
その事実に、さすがの俺も今度は優越感を覚えない。
代わりに胸中を満たしていたのは、後ろめたいような、申し訳ないような感情だった。



……そんな感じでまあ、日中は清彦として学校に通った後、ダンス教室で12時間ほどレッスンを行い、敏明宅でメイドを行うこと一週間。

自分(双葉)の体で性的快楽を貪るのはいつでも可能だからと、好物を一番最後に食べる子供のようにあえて我慢を重ねてたんだが、とうとう今日、真奈美に抱かれて女の快感を知っちまったんだよな。



「……たば。双葉ってば」
「あ……まな……み……」
ずいぶん長い夢を見ていた気がするが、どれくらい時間が経過したんだろう。
ふと時計を探してみるが、シャワールームにそんな気のきいたモノがあるわけない。

「私、どうしてたの?」
「アンタは絶頂と同時に気を失ってたのよ。時間にして1分ぐらいかしら」
やたら近くで聞こえた真奈美の言葉に、ふと自分の姿勢を確認してみる。
互いに全裸となり、M字開脚で座り込んで秘所同士・乳首同士をくっつけて抱き合った状態。

思い出した!
腰を動かしてる間中、射精クラスの気持ちよさが継続的に襲ってきて、大きな波が来て……全身が砕け散るような気持ちよさで意識ごと飛んじゃって……。

ぴくぴくと痙攣する膣と、ずくんずくんと疼く子宮が、とうとう女の子として一線を超えたことを物語っている。

……どうしよう。マジでヤバいかもしれない、俺。

女の子の気持ちよさを甘くみていた。
極上の快楽を味わったいま、男(清彦)の射精をしたらハイおしまいという快楽では満足できそうにない。

現にいまだってそうだ。
レズ行為の余韻が俺の心と体を満たしている。
そして……もっと満たされたいと訴えている。

「ねぇ、真奈美……」
「なに、双葉……んっ……む……」

女の体が求める欲望に従い、俺は真奈美と唇を重る。
そのまま『双葉』の【皮】でコーティングされた舌で彼女の口をこじ開け、少女として造られた唾液腺から生み出される液体を少しずつ注ぎ込んだ。

「……んっ! んんっ! ……ん……んむっ……ちゅ……くちゅ……」
最初は驚いていた真奈美だが、やがてウブな恋人が手を繋ぐように、おっかなびっくり舌を絡めてくる。

俺の舌が上から真奈美の舌を押せば、彼女の舌がするりと抜け出し上を取る。
俺が時計回りに巻き込むような舌技を披露すれば、彼女の舌は風にしなる柳の枝のように流れに任せて反撃の機を待つ。
それはさながら舞踏のようであり、舞闘のようでもあった。

どれだけの唾液を真奈美の体に送りこんだか。
どれだけの唾液を真奈美から注ぎ込まれたか。
見目麗しい少女たちが互いの健闘を讃え、ユニフォームを交換するように口を通し分泌物を交換していく。

本来であれば忌避すべき他人の唾液も、可愛い女の子のものであれば話は別だ。

水、電解質、粘液、複数の酵素から構成される液体に、美少女2人のエキスが混じることで化学反応が起こり、甘美な麻薬として性戯の小道具たり得る。

「んっ……むっ……」
(……ごきゅっ……ごくっ……)
それだけで再び達してしまうような恍惚のなか、息をすることも忘れてただひたすらに貪り合う。

……やがて。

「んんっ……ぷはっ」
「ハァ……ハァ……もう。双葉ったらどれだけキスが好きなのよ」
「だって、真奈美の唇がすごく美味しいんだもん」
「う……あ、ありがと。けど、双葉のも美味しかったわ。自分のだと味が分からなかったけど、女の子の唾液ってこんなに甘いのね」

女の子の唾液……その言葉が俺の『いま』を裏付けてくれる。

男嫌いの少女に対し、男が化けた女の子として肌を重ねる――先週覚えた罪悪感もすっかり消えて失せていた。

友達として普通に接することはもちろん、全裸で交わっても真奈美は俺の性別を見抜けなかったんだ。

生まれながらの女の子さえ騙し切る『【皮】』の精巧さ。
見た目はもとより内部的な機能や性感帯まで女の子と同一ということは、だ。
それは偽者であっても本物と何ら遜色ないはず。
真奈美と出会い、体を許すほど親しくなったのは清彦という男じゃなく、双葉という女なんだから。

キスの余韻。
互いの唇を繋ぐ銀の糸が重力に囚われ、少しずつ下降していく。
それがぷつりと切れたとき、第二ラウンドの火蓋が切って落とされた。

思えば清彦として若葉を抱いたときも、そして真奈美にも主導権を握られ、いいようにイかされてしまった。
それはそれで気持ちよかったが、今度はこっちも積極的に攻めていこう。

俺はうつぶせに寝かせた真奈美の上に体を重ね、右手で彼女の秘所を攻めはじめた。
「あん……双葉……急に積極的に……んんっ……」
「ふふ。真奈美って淫乱なのね。ちょっとクリちゃんを触っただけでこんなに反応・す・る・な・ん・て」
言葉で攻めたて、左手で真奈美のおっぱいを荒々しく揉む。
と同時に、彼女の首筋を優しく舐め、クリトリスをそっとつまみ、指の腹でゆっくりと撫でる。

男が生来持っている荒々しさと、さっきのレズ行為で身を以て知った女の子の感じる『ツボ』
男が化けた女として、両性の快楽を知る俺(と敏明)にしか無い武器を使い、真奈美を攻略していく。

口の中に指をつっこんで舌を挟みつつ、背筋にそって指を這わせる。
桃のような臀部の弾力を楽しみながら、これみよがしに菊座の匂いを嗅いでみる。

「あ……んんっ……やっ……くふぅんっ……」
すげぇな。
触るところによってあえぎ声の質が変わるなんて、まるで鍵盤みたいだ。
なら、ここを触ってみたらどうなんだろうか?
「んあっ……い、いいっ……」
茹でたハマグリのように口を開けて来訪者を待つ禁断の花園。
俺はうつ伏せで嬌声をあげる真奈美の背中にのしかかったまま、ゆっくり指を入れていく。

「あら? 真奈美のココ、指がすんなり入っちゃったわね。すごいユルユルよ」
女の子の指で触れた膣内は温かで柔らかかった。

「……さっきイッた……ばかりだから……んっ……」
真奈美が快楽に歯を食いしばりながらも困惑している様子を見ていると、体の奥底が熱くなる。

「エッチなおつゆもどんどん垂れてきちゃってるし」
「だ、だって……双葉の指が……気持ち……良すぎ……て……」
「ふーん、真奈美って女の子なのに、同じ女の子にこんなことされて喜ぶなんて、とんでもない変態だったのね」
「そ……そんな……やっ……んっ……」
「あはっ、指が2本入っちゃったわよ。それも、こんなに美味しそうに咥え混んじゃって」

鏡に映る小柄な少女が綺麗な顔を欲望に歪め、天空の調べのように澄んだ声で嗜虐に満ちた言葉を紡ぐ。
真奈美という少女を嬲ると同時、双葉という少女をも自分自身で穢しているかのような倒錯感が、俺の子宮を震わせる。

うぅ。この何かが欲しくてたまらない感覚って、女の子独特のものだよな。
男の場合、「ブッ放したい」とか「吐き出したい」って感じだし。

ともあれ、今は真奈美に絶頂を与えることに集中しよう。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
「んっ……やっ……あっ……あっ……」

シャワールームに2人分の荒い吐息が響く。
一度ダンス練習の汗を洗い流したにも関わらず、度重なる行為で俺も真奈美も珠のような肌に汗をびっしりと浮かべていた。

女の子が流す汗って、なんでこんなに性欲をかきたてられるんだろ?
ボディソープと汗が入り混じった不思議な匂いを嗅ぎながら自問自答するが、答えは当然返ってこない。

だけどメスの体を操るオスの心は汗の熱気と匂いにかきたれられ、人差し指と中指で真奈美の蜜壺を縦横無尽にかきまわす。
右に左に。
上に下に。
後ろに前……に?
ん? この指先に伝わる抵抗感はなんだろう?
指の第二関節以上が入っていかないな……。

「あ……あっ……ああああああああああっ!」

真奈美の絶叫により、指先に感じた奇妙な触覚の正体を探ることができなかった。

生まれたての小鹿のように体を震わせる真奈美を背後からぎゅっと抱きしめていると、彼女を絶頂に導いたという満足感・征服感を覚える反面、物足りなさを感じてしまう。
ぶっちゃけると、オーガズムを迎えた真奈美が羨ましい。

俺だってもっと女の快感を楽しみたいのに!

……とは言え相手の真奈美はグロッキー状態で、俺の体をまさぐってくれる余裕がないのは一目瞭然だ。
考え込むうち無意識にかいていたあぐらを崩し、ぺったんこ座りの姿勢をとる。
そこで目にとまったのは、『双葉』がさんざんお世話になった鏡だ。

そうだ、思いついた!
「自分の裸をオカズにオナニーすればいいわよね!」
ここ一週間、焦らしプレイのように、我慢に我慢を重ねてきた自己探索(1人遊び)
それを解禁し、今一度、快楽の果てにある女の子の世界にイこう。

「自分の指もいいけど、せっかくだからシャワーを使おうかしら……ううん。まずは女性器の中を隅々まで観察しなきゃね」

これまで何度か見てきた自分の裸といえ、『孔』の中をじっくりと覗くのは初めてだ。
男の永遠の憧れである女体の神秘が、自分の体としてすぐ身近にある。
まるでチルチルとミチルの家にいた青い鳥のようだと思いながら、人差し指と中指を肉襞にかけ、くぱぁと広げようとしたとき……。

「ん……うぅっ……パパ……」
「ッ! び、びっくりした……寝言かよ」

あまりにも絶妙なタイミングで水を刺され、苦笑いしながら彼女を見やる。

「お願い……いい子にす……から……アタシとママを……捨……いで……」
目の端から零れる雫は、悦びに満ちた唾液や愛液と違って悲しみに彩られていた。

何となく……そう、何となくだが、真奈美が男嫌いである理由が分かった気がする。
その仮説が合っているのか間違っているのかは分からない。
けど……。

ったく、さすがにこんなモン見せられたら続きはできねえよな。

仕方ない。
美味しい物は後に取っておく主義の俺らしく、今日はここまでで我慢しておくか。

レズセックスでネコ1回、タチ1回。
それでも欲求不満が収まらない女の性欲には驚かされるが、ここで無理やり抑えつけて飢えることで、次の『機会』をより楽しめるってもんだからな。

「よし!」
そうと決めた俺はコックをひねり、冷水シャワーで火照った体を無理に冷ました。



「真奈美、ねぇ、真奈美ってば」
「ん……ううっ……ママ……え? ……ふた……ば……?」

何とか女体の疼きをこらえた俺は真奈美の涙を舐めとると、1回戦とは真逆に意識混濁する真奈美に声をかける。
「ちょっと意地悪しすぎちゃった。本当にゴメンね」
俺は両手を合わせ、愛くるしくイタズラっぽい笑みを浮かべて謝罪する。

しかし真奈美は真顔で俺の猫のように大きな瞳をじっと見据えてくる。
ちなみに全裸の少女2人がかたやおどけて・かたやシリアスな空気を発ししているのは何とも言えないシュールな光景だ。

「ねえ双葉? アタシ、寝てる間に何か口走ってなかった?」
「え? う、ううん。何も言ってなかったわよ」
「……そう。変なこと聞いてごめん」
上手く誤魔化せたか自信がない。
俺の性別を疑われた場合は双葉の体そのものを証拠としてゴリ押しできるが、こういうケースは苦手なんだよなあ。

「それにしても……うぅ……自己嫌悪だわ……」
この話はもうおしまい! とばかりに話を切り替えた真奈美が鉛のように重いため息をつき、俺の身長のワリには豊かなおっぱいに顔を埋める。

「アタシは男嫌いってだけで、レズじゃないのに……こんな流されるようにしちゃって……その……ゴメン……」
「私とレズったこと、後悔してるの?」
俺としては可愛い女の子と気持ちいい行為ができたから、むしろ感謝したいくらいなんだが。

「ううん。アタシのじゃなく双葉のことよ。アンタ、好きな男がいるんでしょ?」

はい?

「ちょ、ちょっと待ってよ。お……私は……」
男なんだぞ。好きな男なんでいるワケないだろ! そう言いかけて、慌てて口を閉ざす。

その様子を肯定と受け取ったのか、真奈美が立ち上がって振り返り、こちらに背中を向ける。
「貝合わせで気絶した後、アンタ寝言で男の名前を言ってたわよ」
「ええっ! 私も!?」
「ええ。としあき会いたいよ、ってダダをこねる子供みたいに繰り返してたわよ。双葉みたいに可愛い子が夢に見るほど想ってるんだから、さぞかしいい男なんでしょうね」

ケツの穴にツララを刺しこまれた気分、というのはこういうことを言うんだろうか。

お、俺がそんなこと口走るなんて有り得るはずがない。
……でも、真奈美が知るはずの無い敏明の名前を出したのは事実だ。

言われてみればここ一週間、アイツはずっと若葉の姿だったから、敏明とはほとんど顔を合わせてないんだよな。
その寂しさからアイツの名前を呼んじゃったのか?

い、いや。俺は男だしアイツも男なんだぞ。
そんな片思いの女の子みたいな……ってそうだ! 男同士だよ!
俺と敏明にあるのは男同士の友情。
大切な友人の顔をずっと見てないからこそ、気になってアイツの名前を言っちまっただけなんだ!
そうだ、きっとそうにちがいない。
いやー、これにて一件落着だな。

「ねえ双葉……『私も』ってことは、アタシもやっぱりうわ言で……」
「え? 何か言った?」
「ううん、何でもないわ。それより結構時間食っちゃったし、シャワーを浴びなおして帰りましょ」
あれこれ考えてたから真奈美の呟きを聞き取れなかったので尋ねてみたが、返ってきたのはそんな言葉だった。



「お疲れさまでした」「お疲れ様でした」

改めてシャワーを浴び直した俺と真奈美は、先生から預っていた鍵でスタジオを施錠し、受付さんに手渡した。

「…………んっ」
しかし受付さんは鍵を受け取ってなお、手を俺たちに差し伸べてきた。

「あの? 鍵はたったいま返したわよね?」
「ウチをラブホ代わりにしたんだから休憩料を払ってもらうわよ。1時間だから3,000円ね」
それがいぶかしむ真奈美に対しての、受付さんの返答だった。

「な……なんでそのことを!?」
驚愕に目を見開く俺と真奈美。

「ウチって男子禁制の閉鎖的なスクールでしょ? しかも通っているのは美少女ばかりだから、女同士に走る子がたまにいるのよ」
微妙に答えがズレてるような気がするが、何となく納得してしまう。

「さ、そんなワケでさっさと払うモン払ってもらうわよ」
「ちなみに断ったら?」
真奈美の険呑な雰囲気を感じた受付さんはメガネの奥にある瞳を細め、顎であさっての方向を指し示す。
そこにいたのは、ビデオカメラを手にした警備員。

オイちょっと待て。まさか……。
「レズAV女優の輩出もウチの新事業として発足することになるかしら」
「じょ……冗談ですよね?」
「双葉……ダンス教室に入りたてのアンタは知らないでしょうけど、コイツはその場のノリだけで平然と一線を超えるようなド外道よ。例え自分の娘であっても、面白そうだという理由でAV業界に売りかねないわ」
真奈美はそう言って、敗北宣言とばかりに財布を取り出す。

「あ、待って。私が出すわよ」
女のフリをしてるといえ、ここで見栄を張っちゃうのが男という生き物なワケで。
しかし受付さんはもちろん、真奈美も俺の財布を見たまま微妙な顔をする。

「あれ? 2人ともどうしたの?」
「アンタ、そんな財布使ってんの?」
「え?」
この980円で買った茶色い折りたたみ財布に変なとこでもあるのか?
ごく普通の男物の財布だと思うんだが……ってああっ!

真奈美の財布はチェック柄で、いかにも女の子が持ち歩いてるようなヤツ。
対して俺のは男物。
「財布だけじゃないわ。アンタここ一週間、ずっとヤボったいジャージで通ってきてるわよね?」
「う……そ、それは……」

たしかにポカをやらかしちまったが、小物に関して無頓着だったわけじゃない。
今現在、『双葉として絶対に欲しい物』ができてバイト代を貯めてるから、女物のあれやこれやまで手が回ってないんだよ。

幸いにしてダンス用の練習着は、ダンス教室を辞めた人のお下がりを貰って使ってるけど。

と、そこで真奈美が俺の両肩に手をかける。
「よし、決めたわ! 双葉、つぎの日曜空いてるわよね? ダンスのレッスンが終わった後だから午後だけど」
「え? あ、空いてるっていえば空いてるけど……」
メイドの仕事は基本自由だしな。
俺の場合、稼げるのとメイド服を着れるからって理由で、極力敏明(若葉)ん家に通いつめてるが。

「じゃあ決まりね。その日はアタシと買い物に行くわよ」
「何か欲しい物でもあるの?」
俺の質問に、真奈美は軽くかぶりを振る。
「何言ってんの! 品物を買うのはアンタよ! 洋服から小物から取り揃えて、アタシが双葉をどこに出しても恥ずかしくない女の子にコーディネイトしてあげるわ!」
「い、いや。でも私、お金が……」
ここで大金を使っちまったら『現時点で最大の目標』が遠ざかるじゃねえか!

そこに受付さんが割り込んできた。
「双葉ちゃんは若葉お嬢様のお屋敷でメイドの仕事をしてるから、金銭面で困ってることは無いはずよね?」
こ、このメガネ……余計なことを言いやがって!

「若葉って、たしか丘の上の大きなお屋敷に住んでるお嬢様の名前よね? 双葉ってただの学生だと思ってたのに、そんなすごい所で働いてたの!?」
しかも真奈美が妙なポイントに喰いついてきやがったし!

「ん? 丘の上? メイド? あそこのお屋敷にはたしか、若葉って子の他にもボンボンが……ってああっ! そういことね!」
「あ、あの……真奈美?」
「よし、金銭面でも問題ないなら決まりね! 日曜日、ダンスのレッスンが終わったらそのまま街に繰り出すわよ!」
どこに火のつくポイントがあったのか、真奈美はこちらの返事を聞かず、ドップラー効果を発生させそうな勢いで飛び出していった。
「敏明なんていうボンボンには負けないんだから! NTR! NTR!」
なんて叫びながら。

いや、エヌティーアールって何の略なんだよ?

「えーと、あの……」
一方的に約束された俺は、困った顔で受付さんを見るが、
「3,000円は双葉ちゃんからもらうわね」
クソッ、やっぱり覚えてやがったか。



「……と、そんな事があったんですよ」
その日の夜。
俺は若葉の屋敷で、彼女に夕食を作りながら今日の出来事を話していた。

俺はいつものツインテールメイド。
若葉はフリルのついた白のブラウスに赤いスカートという服装なんだが、素材がいいと和装だけじゃなく洋装も似合うよなあ。

そうそう。真奈美とシャワールームでレズったことは伏せてある。
他人と寝たことをコイツに話すのは、何となく後ろめたかったからだ。

「あらあら。早速女の子同士の友情を育んでいるとは、双葉さんもなかなかやりますわね」

何だろう?
若葉の表情や口調はいつも通りだが、どこかトゲがあるような気がする。

「ですが、洋服や小物を買い揃えるとかなりお金がかかりますよね?」
と、焼き上がった料理を皿に盛りつけながら俺。

若葉に敬語を使ってるのは、俺なりのケジメだ。
コイツとは友人関係だが、今このときは労働者のメイドと雇用主のお嬢様という間柄だからな。

「そうなると私の大きな目標である、高校デビューがしばらく遠ざかるじゃないですか」
そう。
俺の当面の目標はJKになること。
つまりは長沢双葉の女子高生デビューだ。

女子用の制服や体操着に教科書一式。さらに高くはないといえ授業料の納付。
書類関係は若葉がデッチ上げてくれた(許可的には明日からでも双葉として通える)といえ、それ以外の費用は決して安くはないワケで。

「いいではありませんか。その真奈美さんという方と買い物をすることもまた、女の子の楽しみでありませんこと?」
女の子同士のショッピングか。
たしかにいつかはやりたいと思っていたことだしな。
うん、順番が逆になったと考えればいいか。
などと思いながら、テーブルについた若葉の前に皿を置く。

若葉はナプキンを胸につけ、ナイフとフォークを使って肉をぱくり。
少しずつ切り分けて小さな口で咀嚼していく。
ムダに広く豪勢な部屋で、これまた無駄に長広いテーブルに1人で座って食事するお嬢様と、給仕をするメイド。

虚構(フィクション)の世界の出来事でしかないと思っていた光景がここにあり、俺がその配役の1人であることに、意味もなく噴き出しそうになってしまう。

「まさか双葉さんの料理がここまで美味しいとは、嬉しい誤算でしたわね」
「恐縮です」

両親が長期海外出張なせいで1人暮らし歴が長い俺は、炊事掃除洗濯など家事全般には慣れている。

いや、慣れているを通りこして『得意』まで言ってもいいかな。
誰にでも1つは取り柄があるっていうだろ?
容姿や学力、運動が月並みな俺(清彦)にとっては家事スキルがまさにそれ。
手足の長さや力加減、味覚など清彦と双葉で違う部分を把握したうえで調節すれば、こうして本来のスペックを発揮できるってワケだ。

そういう意味じゃ、ダンス教室でのレッスンはうってつけだったな。

「こちらの仔牛の香草焼きも、焼き加減やスパイスの配分が絶妙ですわ。お世辞抜きに言わせてもらいますが、いままで出会ったどのシェフよりも双葉さんの料理が口に合いますわね」
「この一週間で、お嬢様の好みをおおむね把握いたしましたから」

料理というのは、基本的には大多数の人間の舌に合うよう工夫を凝らして作られている。
10人いれば10人すべてが90点をつけるような料理、それが美味しい料理だ。
しかし、それはあくまでベターであってベストじゃない。

人には好みの差が存在する。
例えば味だ。ある人にとっては塩辛い味付けでも、ある人にとっては丁度いい塩梅だったり。
そのほか歯触り(固さ柔らかさ)や匂い、温度などの項目まで含めれば千差万別。

まあ、何が言いたいかっていうとだ。
俺の料理はすべてを若葉の好みに合わせてるので、彼女の採点は100点。
他の人が食べれば70点だったり80点だったりする代物、ってワケだ。

「女の子の体に慣れたいまの双葉さんは、掃除や洗濯の手際も他のメイド以上ですし、貴女はきっといいお嫁さんになれますわね」
「私のような『紛い物』でも、貰ってくれる人がいるでしょうか?」
「マリンブルーの綺麗な毛髪に愛くるしい顔、小柄ながら整ったスタイルの双葉さんが自らを卑下するのは、逆に世の女性方に失礼ですわよ」

ふと、自分(双葉)がバージンロードを歩く姿を想像してみた。
周囲の祝福を受け、純白のウェディングドレスに身を包みながら歩を進める幼な妻。
傍らには格調高さを強調するフロックコートを着て、すべてを包みこむかのような柔らかい笑みを見せる敏明。
そして式が終わって2人きりになった俺は、ウェディングドレスを半端に脱いで愛する旦那様に迫り……。



「うああああああああああああああ!」
「き……清彦君! いきなりどうしたんだい!? と、とにかく医者をすぐに呼ぶから気をしっかり持つんだ!」

ああ、やっぱりコイツは優しいな。
有り得ない想像をしちまって床にガンガン頭を打ちつける俺に対し、何かの発作が起こったのかと『地』が出るほど取り乱して心配してくれるなんて。

「も、申し訳ありません。ちょっと幸せな未来を想像してしまっ……って幸せな未来って何だよ俺ェェェェェェ!」
「清彦君!? 清彦君!!」



どうでもいいことだが、俺がメイドとして普通以上に『使える』と判断した若葉は、双葉が働いてる時間帯に限って他の使用人の大半に暇を出している。

だから屋敷で堂々と俺たちの核心に迫る会話をしても平気だし、今回みたいな騒ぎになっても、すぐにだれかが駆けつけることもないワケで。



「ゼェ……ハァ……ご迷惑をおかけしました」
「本当に大丈夫ですの? 体調が優れないのでしたら、今日はもうあがっても構いませんわよ」
「いえ……大丈夫です。体は何ともありませんから」

体は、な。
心の方は盆と正月が一緒に来たような……もとい『ケッ、少女マンガなんざつまんねーよ』って一蹴してた自分がいつの間にかハマッちまってた事実に気づき、激しく動揺してるような感じだ。

って何言ってんのか自分でもわかんねーよ!

大体にして、俺が寝言で敏明を求めてるようなことを聞いたから、あんな妄想しちまったんだ!

そう、諸悪の根源は敏明だ!
コイツが若葉の【皮】を脱いで顔を見せてくれれば、俺もこんなに錯乱せずに済むはずなんだ!

『つう訳で【皮】を脱げ、敏明』
とダイレクトに言ったところで首を縦に振るだろうか?
否。
一週間前の敏明の辛そうな顔を思い出す限り、そう簡単に男の姿に戻りはしないだろう。

あれ?
そもそも何で、敏明はあんな顔をしてたんだっけ?
理由を知ってるはずなのに、脳というか胸の奥底が記憶の引き出しを開けることを拒んでいるような感じがする。

このモヤモヤとした感覚も、敏明の姿を見て声を聞けば晴れるんだろうか?
……よし。
直接攻撃が効き目なさそうなら、間接的に攻めてみるか。

俺を案じて飛び出した若葉がひっくり返した料理の皿をチラリと見て、小さく頷く。
「私が粗相をしたばかりに、せっかくの料理を台無しにしてしまい申し訳ありません」
「構いません。料理よりも貴女の体の方が大切ですわ」
その言葉に満たされながらも俺は続ける。
「すぐに作り直します……あ、そういえば!」
ワザとらしく柏手ひとつ。

「よろしければ敏明様の好みの料理の味も知っておきたいのですが。いえ、男と女では味覚に違いがあるのは私も若葉お嬢様も知っての通り。厨房と主の胃袋を任された身としては両方の料理に対する好みの味付けや歯触り温度を把握しておき、それにあわせて満足いく料理を作り分けるのも専属メイドとしての務めです。ええ、そこに他意なんてあるはずがりません。ですから【皮】をお脱ぎになって、是非とも私めに敏明様の好みの女性のタイプを教えてくださいませんか?」

そして勢いで押し切ろうと一気に捲し立てた。
ん?
何か最後の方で言い間違いがあったような気がするが……まあ、気のせいだろう。

俺の言葉を受けた若葉は、『やれやれ』あるいは『ああやっぱり』と言いたげな表情で口を開く。
「貴女の言いたいことは大体分かりました。そのうえで言わせてもらいますが、わたくしは【皮】を脱ぐつもりはありませんの」
「な!? 何でだよ!?」

たおやかに、しかしハッキリと言い放った若葉に衝撃を受け、主従関係・女の子の演技……そういったものを忘れて理由を問いただす。

「この【皮】を着ると限りなく女の子に近くなる……いえ、女の子そのものになると言っても過言ではないことをご存じですわよね?」
「ああ」
「そして、女の子であるからには生理もくるし出産もできるのですが……」
「ま、待てよ! いくら何でもそんなことが……」

いや。

この【皮】には子宮や卵巣もついてるんだ。
いかに人工臓器とナノマシンの組み合わせといえ、ベースが俺――つまり生きた人間の細胞である以上、否定できない。

「生理中や妊娠中は着用者のホルモンバランスが崩れてしまうため、その間は【皮】を脱ぐことができなくなるのですわ」
「あー。そういやおまえ、先週末は体育の授業を休んでたな」

さすがに高校生ともなれば、女子が体育を休む理由は察しがつく。

「あのときは、クラスの男子すべてが『若葉の水着姿を拝めなかった!』って血の涙を流して悔しがってたからよく覚えてるや」

何も知らないアイツ等に『学校一の美少女は男が化けた姿なんだぞ』って教えてやりたいな。
いやまあ、その事実を知ってる俺でも、若葉の水着姿を見たいと思ったけど。

……ちなみにウチの高校は、室内温水プールで行われる水泳の授業だけは男女合同だったりするが、いまは関係ないか。

ともあれ、生理には個人差があるが47日間続くはずだ。
だったらその期間中、敏明が若葉の【皮】を脱げなくても納得できる。
よくよく考えてみたら、今までも敏明が1週間近く続けて休む(若葉が1週間近く続けて登校してくる)ことがあったしな。

「……という風に双葉さんは勘違いしているようですが、わたくしが【皮】を脱がないのは生理のせいではありませんわよ」
「へ?」

いや、お前いま俺の心を読まなかった?

「ふふっ。女の子の洞察力を甘くみてはいけませんわよ」
取り乱し過ぎて顔に出てたワケね。
たしかに俺も双葉のときは、清彦状態に比べて洞察力が増すっつうか、カンが働いてるな、って自覚するときが『たまに』あるから分からないでもない。
けど、生理じゃないとしたら、なんで【皮】を脱がないんだ?

……っと、まてよ。さっき若葉は、

『生理や【妊娠中】は(中略)【皮】を脱ぐことができなくなるのですわ』

って言ってたよな?

妊娠中は……妊娠中は……妊娠中は……妊娠中は……。

頭の中でアラートがガンガン響く。
俺が清彦として若葉を抱いたとき、全力で中出ししたときの記憶が蘇ってくる。

……もしかして俺、やっちまった?
け、けど。あのときは若葉っつうか敏明っつうか、ともかくコイツが中出しOKって言うからつい……。

……いや、人のせいにするのは良くない。
ここは『男』として、しっかりと責任を取るべきなんじゃないか?

と、華奢な肢体に力を込め、Cカップの胸をぷるんと揺らしつつ握り拳を作る女の子。
そこでふと気づいた。
「妊娠したのなら、直後に生理が来るのはおかしくね?」
「普通に来る場合もありますわよ……と言いますか、また勘違いしてらっしゃるようですが、わたくしは妊娠しているわけではありませんわよ」
え?

「清彦さんとまぐわう直前、避妊率100%の薬を飲みましたの」
若葉は風邪薬のようなカプセルの束を取り出し、俺に手渡してくる。

そんなモノを飲んでたっけ?
受け取った薬をメイド服のポケットに入れながら記憶の糸を手繰ってみたが、ハッキリと思いだせない。

近未来的な研究室(ラボ)やら、敏明が【皮】を着て若葉に化ける場面やら、ランジェリー姿で迫る若葉やら、衝撃的なことが立て続けに起こったからな。
言われてみればそうだったかも、ってぐらいには自分の記憶に自信がない。

「ま、まあ。ともあれだ。高校生でパパになるハメにならなくてよかったよ」
反面残念だという思いもあるが、これは妊娠が勘違いだと分かったから抱ける思いだろう。

「それはそれとして、双葉さんに謝罪しなければなりませんわね」
若葉は膝と指をつき、深く頭を下げてフカフカ絨毯の上に額を擦りつける。
流れるような動きや折り目正しい姿勢は、土下座というより客を迎え入れる旅館の女将にも見えた。

「生理や出産ができる体であること、ならびにその間は【皮】を脱ぐことができないという説明を忘れていたこと、深くお詫びいたしますわ」
「そ、そんなかしこまらなくていいよ。頭を上げてくれ」

『そういうところまで』女の子になれる【皮】の性能に驚きはしたが、教えてくれなかったことに怒ってるワケじゃない。

『女の体になったぜイエーイ』なんて調子に乗って浮かれ、すぐさま適当な男を捕まえて中出しセックスしちまったのならシャレにならないが。
こればかりは自分を対象とした焦らしプレイが大好きな俺の性癖に感謝するしかないよな。

「そのお詫びというわけではありませんが、双葉さんに渡すものがありますの」
俺の許しを得て頭を上げた若葉は、突如虚空に現れたキーボードの立体映像に指を這わせる。
そして床から飛び出してくる引き出し。
研究室(ラボ)以外でも、それってできたのな。

「では、改めてこちらを受け取ってくださりませんこと?」
引き出しの中に入っていたのは、俺たちの通う高校の女子制服をはじめとした必需品一式だった。
「双葉さんの転入手続きを行ったところ、高校側が気を利かせて用意してくださったのですわ」
うおっ! これがあれば、すぐにでも双葉として学校に通うことができるじゃねえか!

「ちなみに制服や体操着のサイズも合っているはずですわ。わたくしが理事長に『お願い』した際、双葉さんの戸籍の写しに加えて身体測定書もお渡ししましたから」
「できれば他の女子と一緒に身体測定イベントもこなしたかったけど、こればかりは時期外れだから仕方ないか」
ウチの高校では身体測定は4月上旬。対していまは6月下旬だ。

「ちなみにこちらが双葉さんのデータとなります。女の子が自分の『数字』を把握してないのは有りえないので、頭に入れておくことを推奨しますわ」
若葉の動作で、これまたいつぞやのように空中に映像が映し出される。

「参考までに清彦さんのデータも横に表示しておきますわね」

年齢:双葉17(平成×年6月18日生) 清彦16(平成×年9月18日生)
身長:双葉156 清彦170
体重:双葉44 清彦66
足のサイズ:双葉22.5 清彦27
B:双葉85(アンダー70)Cカップ 清彦86
W:双葉56 清彦72
H:双葉83 清彦88
ちから:双葉D 清彦C
ぼうぎょ:双葉D 清彦C
かしこさ:双葉C 清彦C
すばやさ:双葉B 清彦C
きようさ:双葉EX 清彦EX
みりょく:双葉EX 清彦C


清彦の数字までいつの間にか測定されてたことにはこの際目をつぶろう。
だがな!
「バスト・ウエスト・ヒップは分かるが、『ちから』とかって何だよ!」
ロールプレイングゲームかよ!

……いやまあ、女の子の役割を演じる(ロールプレイ)って意味じゃ、たしかに合ってるかも知れないが。

ともあれ。
『ちから』と『ぼうぎょ』は女体の非力さ故にステータスダウン。
『かしこさ』は頭の中身が変わらない以上、双葉でも清彦でも据え置きのC。
『すばやさ』は体重が軽くなってることからプチUP(ただし乳揺れ注意。きちんとブラをしてなければ2ランクダウン)
『きようさ』も俺の家事スキルに起因することだからEXで変化なし。
『みりょく』については、清彦の平凡さと双葉の可愛さで劇的にランクアップ。

そんなところか。

「ダンス教室でレッスンを続けていれば戦士系ステータスも強化されるでしょうが、それには今しばし時間が必要ですわね」
「戦士系って何だよ……」
これ以上突っ込むのもアレかと思い、引き出しの中をさらに漁っていく。

ん? 衣類や教科書の他にも何かあるな……おお! これは!
「スマホまであるのかよ!」
「それだけはわたくしからのプレゼントですわ。『清彦』と『双葉』で別人として振る舞うなら、それぞれに電話が必要になりますわよね?」
俺の携帯も、敏明と若葉で別の番号が登録されてたっけ。
たしかに皆の前で敏明の携帯を鳴らし、若葉のポケットから着信音が聞こえてくれば不審に思う奴もいたかもしれない。

「スマートフォンの本体価格ならびに通話料については、わたくしの方でお支払いたしますわね」
「い、いや。さすがにそこまで……」
恵んでもらうわけにはいかねえよ! そう続ける前に、若葉が口を挟んでくる。
「あくまで双葉に業務用の備品を支給するという意味ですから、気に病む必要はありませんわ」

なかなかに分かり辛いが、若葉の心配りはかなりのレベルに達していると思う。

【皮】は別として、服や下着、装飾品など女子必須のアイテムを1から10まですべて与えられるのと、自力で1つずつ・少しずつ買い集める手段を提示されるだけと、どちらがいいと思う?
人によって価値観の相違があるだろうが、俺としては後者の方が望ましい。
最初からすべてを得るより、自分の努力で一歩ずつ『女の子に近づいていく』方が、充足感や達成感があるからだ。

例えばさっき例にしたRPGだ。
レベル1の段階で超チートの最強装備を纏ってザコだろうがボスだろうが1撃で倒すことと、
苦労して敵を倒してお金を少しずつ貯めて装備を整えることで、それまで倒せなかったボスを倒せるようになること。
結末が同じだとしてもエンディングを迎えたとき、どっちの方がより感動するかは言うまでもない。

若葉はそういった俺の性質を熟知しているからこそ、必要最低限の援助(時給1,500円)に留め、原則『欲しい物は自分で買え』というスタンスを取ってくれている。

……かと思えば、戸籍や高校の編入手続きなど、個人レベルではどうしようもならない問題を解決してくれる。
今回みたいに用意したのが学校側といえ、俺に与える必要のない女子制服やスマホなど、特別イベントとしてこちらが断らない状況を作ったうえで援助してくれる。

若葉本人は、望めばすべてを即座に手に入れれる状況で育ってきていながら、こういう庶民の気持ちや『プライド』を尊重することができるあたり、尊敬に値する大したヤツだと思う。
ホント、俺なんかには過ぎた友達だよ。

「わたくしとて、すべてを容易に手に入れてきたわけではありませんわ。幼少の頃より渇望を続け、つい最近になってようやく得る事ができた、かけがえのない物もあるのですから」

「へぇ。それを手に入れた感動を知ってるからこそ、こういう心遣いができるってことか。つうか心を読むなよ」

それにしても、コイツほどのヤツが何年も手に入れることができなかった物って何だ?

「それは、貴方(貴女)という親友ですわ」

「……………」

あ、ヤバ。何コレ?
鼻の先がツーンとして、視界がぼやけて熱くなってきた。
目元を指で拭ってみたら、透明の雫が附着してる。
……え?
俺、泣いてるのか?
チクショウ。女の子って涙腺弱すぎだろ。
こんな……ちょっと嬉しいこと言われたぐらいでさ。



「若葉さん? 突然しゃがみこんでいかがなさいましたか?」
「ずまん……ばんべもない……」
「貴女……泣いているのですか?」
涙声と鼻声のせいで、俺が感極まって頬を濡らしていることがバレてしまった。
途端に気恥しさを覚え、頬が熟れたリンゴのようにかぁっと赤くなるのを、鏡を見るまでもなく自覚する。

「うあああああああ! 俺を見ないでくれー!」

俺は制服一式の入った引き出しを両手に抱えてその場を走り去り、俺専用に誂えられた更衣室に飛び込んだ。

そのままノースリーブワンピース型のメイド服・ヘッドセット・グローブ・ブーツ・ストッキング・ブラジャー・ショーツと一気に脱ぎ捨てて全裸となり、
首筋に意識を集中し、普段は何もない首後ろに【皮】を脱ぐためのスイッチを表層化させて強く押しこむ。

途端に蒸気のような音と煙を立て、癒着して同一化していた若葉の皮膚が清彦の皮膚から剥離される。
全身のスイッチ(神経)が♀→♂へと切り替わる。
胸にかかる重力が消え失る。
下腹部から袋状の物体(子宮と卵巣)が輩出され、その通り道たる膣穴が埋められる。
圧縮と神経カットという拘束から解放された竿と玉が、異物が附着するような違和感を与えながら機能を再開する。

――そして最後に体重が20キロ以上増えたせいだろう、体全体に妙な気怠さがのしかかってきた。

双葉の目の位置と俺本体(清彦)の目の位置は違うため、視界が一面闇に覆われるなか、【皮】の首後ろに指をかけ、清彦の頭部を外気に晒す。

皮を脱ぐときは、決まって夢から覚めたような気分になるよな。
小柄だった双葉の体は、中に入った俺の体でパンパンに膨張してるし、自慢の美乳も空気が抜けたように萎れてしまってるし。

何より縦筋以外存在してはいけない股間の内側に、もっこりとした棒状のモノが浮き出ているのは、醜悪の2文字につきる。

――いつもだったらそんな具合に憂鬱となる【皮】の脱衣も、今回に限っては心に安寧をもたらしてくれた。

敏明を渇望する気持ちは鳴りを潜め、涙腺を決壊させた若葉の気持ちも、
『たしかに嬉しいが、泣くほどのことじゃないよな』
と思えてきたからだ。

「つっても、若葉と顔を合わせ辛いことに変わりはないんだよな」
実際はそんなことないんだろうが、弱みを握られたように思えてしまう。
「アイツには悪いが、今日はこのまま上がらせてもらうか」
けど、料理や皿が散らばった食堂をそのままにして逃げるように帰るのはメイド失格だし。

うーん。

そんなことを考えながらロッカーに仕舞われた男物の衣類を身に着けたところで、ポケットの携帯にメールの着信が入る。
「若葉から?」

食堂の後片付けは他のメイドにやらせるので、このまま帰っても構わない。
今日の賃金は後日手渡しをする。

といった内容が書かれていた。

さらに追記として、双葉として登校するなら、朝はこの屋敷に必ず立ち寄ること、と記されている。
俺はしばし逡巡の末、簡素な文を打ちこみ送信して、屋敷を後にした。

(続く)
前回の続きを投稿してみました。
「自分がこういう経験をしてみたい」という願望の垂れ流しで、人様に読んでいただく話としては構成がなっていませんが、ご容赦くださるようお願いします。
相変わらず無駄に長い文ですが、読んでくださった方に感謝致します。
作者です
0.5990簡易評価
10.50きよひこ
長いすぐる。
15.90GAT・すとらいく・黒
読ませていただいてます。
このパート、結局「なんで若葉は皮を脱ごうとしなかったのか」わからず終いでしたけど、後に語られるのでしょうか。

とにかく、今後も期待しております。
17.無評価作者です
ご意見、ご感想ありがとうございます。

>長いすぐる。
物書きとして未熟故に、あれも書きたい、これも入れたいと必要不要の判別をせずにとにかく書き、結果として装飾過多のようになってしまいました。
そのような文を読んで下さるばかりか、評価いただきありがとうございます。

>読ませていただいてます。
>このパート、結局「なんで若葉は皮を脱ごうとしなかったのか」わからず終いでしたけど、後に語られるのでしょうか。
結論から言えば後のシーンで説明します。
あの場面では、若葉はその理由をはぐらかそうと、ウソこそついてないものの婉曲な言い回しで話題をあっちこっちに散らしてます。

>とにかく、今後も期待しております。
ありがとうございます。読んでいただいた方に少しでも楽んでいただけるよう励んでいきます。
18.無評価きよひこ
親友と言いつつも結局は上から目線で弄んでいるようにしか見えないんだよなぁ。
まぁこれだけ完璧超人な上に人智を超えた技術力を持ってれば仕方ないか。
21.無評価作者です
>親友と言いつつも結局は上から目線で弄んでいるようにしか見えないんだよなぁ。
>まぁこれだけ完璧超人な上に人智を超えた技術力を持ってれば仕方ないか。
ご指摘ありがとうございます。
敏明(若葉)のスペックを高く設定しすぎたことと、もともとが無垢なお嬢様を演じて楽しんでいたという、書いてしまった故に覆せない部分がある以上、たしかに上から目線的な印象を強く与えてしまうよなあ、と読み返して感じました。
キャラの設定や性格を十分に練らないままに、勢いだけで書いた弊害と痛感しております。

今後の展開でも、若葉が好き勝手に動いて清彦が振り回されつつもソレを楽しんで、という流れで考えているのですが、これまで通り深く考えず勢いで書いていくか、筆を遅らせても巻き返し的な何かをじっくり考えた方がいいかを思案致します。
24.100オチアイ
僕もこんな文章書けるようになりたいです(小学生並みの感想)。

>「そしてTSした元男が主人公でありながら、エロシーンで必ず生えるエロゲー! シナリオライターはマジで分かってねえんだよ、クソがァァァァァァァァ!」
しかし何故エロゲのライターはせっかくのTS設定なのに生やしてしまうのか……。
この部分の文章、「言葉」でなく「心」で理解できました。
29.無評価作者です
>僕もこんな文章書けるようになりたいです(小学生並みの感想)。
>しかし何故エロゲのライターはせっかくのTS設定なのに生やしてしまうのか……。
>この部分の文章、「言葉」でなく「心」で理解できました。
感想いただきありがとうございます。
こちらについては、前述とは真逆に勢いで書いているからこそのメリットで、思ったことがダイレクトに伝わったのかな、と自分で思っております。
58.無評価きよひこ
今日見つけて「なんだこれは!?」と思いました。凄く大好きなジャンルの上、内容も凄く好みだったからです。
執筆は大変だと思いますけど、続き、楽しみにしてます!

ところで、他のところに投稿する予定は今のところ無いですか?十分読める文章なんですけれど
65.無評価作者です
No58様

>今日見つけて「なんだこれは!?」と思いました。凄く大好きなジャンルの上、内容も凄く好みだったからです。
>執筆は大変だと思いますけど、続き、楽しみにしてます!
気に入っていただきありがとうございます。
返信が遅くなりましたが、何とか近日中には続きを板の方にアップしたいと考えています。

>ところで、他のところに投稿する予定は今のところ無いですか?十分読める文章なんですけれど
申し訳ありません。この作品については特に余所様のところに投稿する予定は今のところ無いです(載せてくださるホームページの管理者様がいたら「どうぞうどうぞ」状態ですが)。
ただ、支援所以外に書いた作品については、きゅうり様が管理されてる「TS高校の生徒指導室」というホームページにカッパ巻というハンドルネームで投稿させていただいてます。