これは、異世界から召喚された魔王と勇者。
その2人による戦いの記録である。
◆ ◇ ◆
「ふむ……」
恥ずかしい衣装で。
恥ずかしい格好をして。
恥ずかしいものの上にまたがる。
そんな彼女を見ながら、僕はつぶやく。
「人間チャレンジしてみるもんだなあ……」
「ふざけるな!!」
目の前の金髪美人が怒って言った。
こんな名もない町の、名もない娼館には似つかわしくない美女だ。
均整の取れたプロポーション。
大きいが張りのあるバスト。
背中まで伸びた美しい金髪。
男なら誰でもつい目を奪われてしまうだろう。
だが、彼女のぷくっとした柔らかそうな唇は屈辱に歪み。
美しいエメラルドグリーンの瞳は怒りに燃えていた。
意志の強そうなちょっと濃い眉が憤怒で跳ね上がっている。
白い肌が上気しているのは……。
これは座っているいる器具のせいかも。
木製の、馬の背を模した、上方に向けて鋭角になったもの。
……いわゆる三角木馬の上にまたがりっぱなしだものな。
痛みで血流が活発化していても不思議のない状況だ。
そんな中、彼女は僕を見据えて言った。
「俺を殺せ!」
僕は答える。
「やだ」
「じゃあ解放しろ!」
「するわけないだろ?」
「なら……」
目の前の美女が一度言いよどんで、それでも言った。
「俺を男に戻せ!!」
「男に戻す? それこそあり得ない」
ナンセンス!
その気分を表現するために僕は両手をバッと広げる。
背中の魔王マントがバサリとひるがえった!
◆ ◇ ◆
そう僕は魔王である。
魔族や妖魔などと呼ばれる魔物たちの王にして、
最強の魔族であり魔王軍の最高司令官だ。
……いや、皆まで言うな。
痛い発言だってことは自覚している。
でも、そこは勘弁してほしい。
異世界にいきなり召喚され、魔王として担ぎ上げられたんだ。
さすがにこれは僕の責任じゃあないよね?
ちなみに目の前の美女は勇者だ。
話の流れからわかると思うけど、元々は男。
彼……というか彼女というか、勇者と僕は旧知の仲である。
元の世界では同じ学校のクラスメイトだったのだ。
もっとも、彼はサッカー部のレギュラー。
僕は何の変哲もないモブ男くん。
ろくに接点はなかったけどね。
ある日異世界に召喚され、魔王をさせられること幾星霜。
「異世界から勇者が召喚された」
そう聞いた僕は部下に情報を集めさせた。
そして勇者の正体が彼だとわかった。
いやはや、うれしいやら恥ずかしいやら。
だって「魔王やってます」って言うの恥ずかしいでしょ?
わかってくれると思うけどさ。
でもそのとき、僕に生きる希望がわいてきたことを感じた。
この世界にやってきて以来初めてだ。
ひとりじゃないって素晴らしい!
それからの僕は折に触れて勇者に連絡を取ろうとした。
元の世界に戻るための相談をしたかったし。
でも、彼は真面目だったんだよなあ。
本気で勇者をやって魔王軍の拠点を次々と奪取。
あっという間に情勢は魔王陣営に不利になった。
僕はその辺どうでもよかったから気にはしなかった。
むしろ僕にとって都合がよかったくらいだ。
煩い魔王陣営の幹部が減ったからね。
ただひとつ、大きな懸念があった。
このままだと勇者な彼は魔王の僕を殺すだろう。
そんな目に遭うのは真っ平御免だ。
僕は勇者に殺されないための、計略を練った。
魔王サイド、あるいは魔族からみた勇者。
そのやっかいな理由は主に3つ。
第1に 勇者は戦闘力が高い。
剣技も魔力も威力が高く、防御も堅い。
おまけに回復力も尋常ではない。
特に対魔族への攻撃はダメージが何倍にもなるのだ。
第2に魔族の得意技である呪いの類が効かない。
大多数の魔族にとって攻め手がないに等しい。
第3に勇者の攻撃は魔族を消滅させることができる。
例えば不死のはずのヴァンパイア。
これを勇者は存在ごと消しさることができる。
まったく、どっちが化け物だっての!
でもまあ、これだけ有利だとつい油断しそうなものだ。
その辺に心理的陥穽を作れそうだと前向きに考える。
それから僕は勇者の元の世界での行動思い出す。
……そういえば、彼にはウィークポイントがあったっけ。
僕はダメ元で勇者に罠をかけてみることにした。
◆ ◇ ◆
……でまあ「ものは試し」的に罠をかけてみたわけだが。
うーん。ここまで上手くいくのは予想以上だったなあ。
なお、罠の内容はいたってシンプル。
人間の娼婦に金を渡して勇者をSMプレイに誘わせたのだ。
今ごろ彼女は多額の臨時収入にほくほくしているだろう。
本来、魔族の拘束魔法は勇者には効かない。
けど、そういうプレイを勇者が望んだらどうなるか?
その結果がご覧の状況である。
ほら、勇者にも治癒魔法は効果があるでしょ?
対勇者だからって一切魔法が効かないわけじゃない。
勇者は魔法や呪いの効果を選択して利用してるんだ。
一度効いてしまった拘束魔法。
そこから、勇者は抜け出せないでいるってわけだ。
この辺魔法というのは、無慈悲かつ融通が利かない。
そして同時に強力なんだよねー。
ただ、1つ大きな計算違いがあった。
勇者が僕が忍ばせておいたモーフの杖で、女になっちゃうとは!
……というかこういう趣味があったんだねえ。
「ちくしょう! 殺せ! 殺してくれぇ!!」
泣いて懇願する勇者。
まあ、知り合いに見られたら、死ぬほど恥ずかしいよね。
心中お察しします。
だからって、僕にとっての幸運を失うつもりはなかった。
この世界に召喚されて以来の念願をかなえる好機なんだ。
でもまあ、泣きじゃくる勇者はとても可愛い。
このまましばらく眺めていようっと。
……うん。
なんだか新しい性癖に目覚めそうだ(笑)。
◆ ◇ ◆
「……う、ぅ、ひっく、ひっ! うぇーん!
もう知らない女の子の誘いに、ホイホイついていきませぇん」
なんだか浮気のばれたお父さんみたいになったなあ……。
そんな勇者に、僕は優しく声をかけた。
「あのさあ。提案というか、お願いがあるんだけど?」
「ひっく! だが断るぅ!! うぅぅ、ひっく!」
半泣きでどっかで聞いたようなセリフを答える勇者。
別に世界の半分をあげるとかいう話じゃないんだけど……。
まあ、いいや。
僕は話を進めることにした。
「あのね、僕の話っていうのは……」
「うぅ……ひっく!」
「僕と一緒に元の世界に戻らない?
って提案なんだけど」
……勇者の泣き声が止まった。
「……元の世界に戻る?」
「うん」
勇者のオウム返しの質問。
それに対して、僕は満面の笑みを浮かべて肯定した。
「お前、本当に清彦なのか?
魔王が俺を騙そうとしてるんじゃないのか?」
勇者のくせに案外疑い深いなあ。
僕の外見は元のまま……のはずだけど……。
「証明は難しいけど、僕は清彦だよ、敏明くん」
「本物の清彦だと言うなら、訊きたいことがある」
「訊きたいこと? なんだい?」
「なぜお前は魔族にあんなひどいことをさせるんだ!?」
ひどいこと……ねえ。
多分魔族や妖魔による、人間への残虐行為のことだろうね。
説明するまでもないと思うけど、魔族は人間に酷いことをする。
補食したり下僕として扱ったりね。
でも。
「残念ながら僕がさせてるわけじゃないよ?」
「なん……だと!?」
この辺からすでに認識のギャップがありそうだ。
「そもそもこの世界の魔族が僕を魔王として呼び出したんだよ?
つまり、元々そうする理由があったということだ」
魔王がやってくる以前から、人間と魔族は対立している。
そういうわけだ。
「人間と魔族の争いも残虐行為も、僕が望んだことじゃない」
そもそも人間だってやり返しているわけだし。
人間の側も結構エグいことをやり返してるしね。
そして、ここで勇者は食い下がる。
「で、でも召喚されたあとの魔王なら、
王として命令できるんじゃないのか?」
僕にもそう思っていた時期はありました。
……でも。
「無理だったよ……。
実際止めようとしたこともあったんだよ?」
例えて言えば僕はプロ野球の助っ人外国人みたいなもの。
ホームランは期待されても、チームの指揮を取れるわけじゃない。
「魔“王”って呼称のせいで勘違いされてるみたいだけど、
ぶっちゃけ支配の権限はないんだよねぇ」
それどころか、下手をするとこっちが魔族に殺されかねない。
魔王という名の強力な兵器扱いだもんね、実情は。
「要するにお前は“王様”じゃないってことなのか?」
「そうだねえ……。
例えば、君のサッカーチームにプロ選手が入ったとする。
その人はピッチの上では“王様”になるだろう」
戦いの中であれば強さはものをいう。でも……。
「だからって、その人が私生活まで含めて口を挟んだら?
そんなことをされたらムカつくんじゃないかなあ」
……あ、黙っちゃった。
理解してくれたんだろうか?
「そういうのも含めて僕はうんざりしている。
だからもうこっちの世界にはいたくないんだ」
だから……。
「僕は元の世界に帰りたい。……で、君はどう?」
「俺は……」
再び勇者が黙る。
「……そもそも帰る方法なんてあるのか?」
しばらくたってから、ようやく勇者はそう言った。
「自分で試したわけじゃないから、100%の保証はできない。
けど、過去に成功した例はあるっぽい」
「そんないい加減な……」
「そういえば君は元の世界に帰りたくないの?
さっきも聞いたけどさ」
僕の問いに勇者は答えた。
「俺の場合は……魔王を倒せば戻れるって説明された」
「あ、それ嘘だから」
「何だとぉ!?」
「時間はたっぷりあったからね、色々調べたんだ。
僕の前に喚ばれた魔王を倒した勇者は数多くいた。
でも。その中に元の世界に帰った勇者はいない」
本当にこの世界の連中は平気で嘘をつく。
それだけ必死だってことなんだろうけど……。
「そ、それだけで嘘だとは断定できないだろ!?」
確かにそうなんだけど……。
「仮にその勇者たちが自分からこの世界が気に入って、
たまたま全員居残ったんだとして……」
僕は問題の核心に言及することにした。
「魔王を倒すってことはさ……」
僕は勇者の目を正面から見て言った。
「君は……僕を殺すのかい?」
「…………」
……あ、今度こそ本格的に勇者が黙っちゃった。
◆ ◇ ◆
でも、無理もないかな。
召喚されたストレス。
魔物と戦う恐怖。
それらを魔王への憎しみに変えて、心を支えてたんだろうから。
「……で?」
「ん、ごめん。声が小さくて聞こえなかった」
「それで、どうやったら帰れるんだ!?」
ようやく興味を持ってくれたか。
「さっき勇者が帰還できたかどうかの歴史について、
色々調べたって言ったよね?
その中で唯一元の世界に帰ったらしい例があった」
さもなければこんなこと思いつきもしなかったろう。
「実は術式自体は召喚呪文を逆転させるだけ、だったんだよね」
「じゃあ、なんで他の勇者はその呪文で帰らなかったんだ?」
うん、もっともな疑問だ。
「召喚呪文の逆を実行するには、膨大な魔力が必要なんだ」
そう。
だから特殊な条件がそろわないと、あの呪文は使えない……。
「で、その条件がようやくそろったんだよねぇ」
「条件? そろった?」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべる勇者。
「実は、件の帰還した勇者って女性でね」
……あ、今勇者が「いやな予感がする」って顔をした。
「それで、魔王と恋に落ちたそうでね」
「……で?」
……なんか地獄の底から絞り出したような声だなあ。
可愛いけど。
「で、魔王と勇者の膨大な魔力を引き出して、
魔力をまかなったらしいんだよね」
「……どうやって?」
「セックス」
「…………………………はあああぁぁぁ?」
勇者が驚愕した。
「そんなに驚かなくてもいいだろう?」
僕は勇者に笑顔で話しかける。
「性行為と魔術は深い関係がある。
これは元の世界も、この世界も同じだね」
そう言ったら勇者に睨まれた。
気持ちはわかる。
自分の貞操がかかってるんだから、必死にもなるだろう。
でも、それをいったら僕の方は命がかかってる。
文字通り必死なんだ。
「本当はそのモーフの杖で僕が女性になるつもりだったんだ」
そう言うと勇者は怪訝そうな顔をした。
「君に懇願して、してもらうつもりだった。
そのためにずいぶん訓練もしたんだよ。
サキュバスとか、そっち方面のプロに教わったりして」
「変態!」
「自分で女体化した君に言われてもなぁ……」
あ、また勇者が涙目になった。
可愛いなあ。
「でもね、可能な限り勇者が女性の方が望ましいんだ」
「……なぜだ?」
勇者の当然の問いに僕は答えた。
「射精の時に魔王、つまり僕の存在が消されるかもしれない。
知ってるだろ? 勇者だけが可能にする力。
魔王を含めた不死の妖魔や魔族を消滅させられる能力を」
「だったらなんでお前が女性になって……。
その……し、し、しようだなんて思ったんだよ?」
勇者が顔を真っ赤にしながら質問する。
可愛いなあ。
彼は元の世界ではヤリチン呼ばわりされてたんだよね。
だから、そっちはすっかり慣れてるのかと思ってた。
それはそれとして、彼の疑問はもっともだ。
「だって僕は勇者を無理に女にはできないんだよ?
なら儀式を成功させて、君だけでも元の世界に返そう。
そう思ったんだ」
あれ?
やっぱり真っ赤になったけど、なんか反応がさっきと違うぞ?
どうしてだか、赤面したままモジモジしてうつむいちゃった。
「まあ、勇者の射精が攻撃になるかは、実際には不明だから、
確率二分の一くらいの賭ではあるんだけどね」
「生死がかかっていて確率が半々って、分が悪くないか?」
「そうだね。でも他に方法がなかったから」
それだけじゃなくってね。
「仮に失敗しても、君と戦って討ち取られるのと同じことだし。
そしてそれ以外には僕が君を殺して、次の勇者との戦いを待つ。
他に方法がない。でも、それだけはイヤだったんだ」
しばらく2人で押し黙った。
「まあ、いいや。堅い話はこのくらいにして、楽しい話をしよう」
僕はフレンドリーを心がけて勇者にそう言った。
「何だよ楽しい話って?」
「さっきも言ったように、この日のために僕は日夜研究を重ねた。
男女どちらのことも理解するために両方で研鑽を積んだんだ」
「……何の自慢だ?」
「つまりね……」
今回は僕が顔を赤らめて言った。
「最後は射精までさせてもらうとして、男の僕と女の僕……。
どっちとやりたい?」
今度は勇者は青ざめた。
◆ ◇ ◆
僕のセリフにうろたえる勇者。
それを見て余裕の笑みを浮かべる魔王こと僕。
だが実際は僕に余裕があるわけじゃない。
なにせ勇者にはこっちの能力がほとんど効かない。
それでも勇者を殺すのなら、今の状態なら造作もないだろう。
だが僕の目的は元の世界に帰ることだ。
そしてそのためには彼……今は彼女だけど……。
相手と、いたさねばならない。
それもヤッちゃうだけじゃダメなんだ。
僕の目的を果たすためには条件がある。
魔王と勇者がほぼ同時に、イかないといけないのだ。
つまり、ここからが肝心だということだ。
僕は勇者の近くに落ちていたモーフの杖を拾った。
「何をする気だ!?」
そう言って警戒する勇者にウィンクをする。
そして僕はモーフの杖で女性の身体に変化した。
モーフの杖は便利だ。
着ている服ごと変化してくれるからね。
一瞬の後、僕は1人の女の子になっていた。
僕と勇者が通っていた学校の制服を着た女子に。
「何のつもりだ?」
勇者が警戒している。
「何って? そりゃ元の世界に帰るための準備だよ」
僕はニッコリと勇者に笑いかけた。
勇者はいい奴だね。
警戒は解かないものの、あからさまな敵意がなくなった。
ちなみに、僕が変身した女の子は特定のモデルはいない。
特定の誰かに化けた場合。
勇者が過去に性的トラブルを起こした相手の可能性がある。
そうなったら目も当てられないからね。
というわけで……。
僕のイメージできる範囲で、最高の美少女になってみました。
髪はストレートロング。
目はややつり目気味で勝ち気そう。
確か勇者の好みは大人しそうな女性ではない。
活発でよくしゃべる、友達の延長タイプだった……はず。
勇者がゴクリと唾を飲んだ。
あ、好みに合ったみたいだね。
本当にいい人だよ……勇者は。
そして、ここで僕は勇者にお願いをした。
「ねぇ。“浮遊”の呪文を使ってもいい?」
「“浮遊”の呪文? なぜ?」
「そろそろ寝台に移動してもらおうかと思って」
「お断りだ!」
寝台に移動したら次にどうなるか、考えるまでもないものね。
でも……。
「もし“浮遊”の呪文をかけさせてはもらえないと、
僕が男に戻ってお姫様抱っこすることになるけど……」
「…………」
「あるいは君が今乗ってる物ごと“浮遊”の呪文をかけるか……」
「直接“浮遊”の呪文をかけてください!」
うん、それが賢明だ。
勇者が今乗ってるそれを持ち上げたら、痛そうだもんね。
裂けちゃうかもしれないし。
こうして、金髪美女となった勇者は寝台に移動した。
黒髪の美女である僕はふんわりと優しく勇者を寝台に降ろした。
この娼館の寝台はなかなか広い。
勇者とのくんずほぐれつの戦いには十分だ。
寝台の真ん中に降ろした勇者に、僕は四つん這いで近づく。
勇者が顔を引きつらせながら後ずさる。
うーん。
半泣きの勇者は本当に可愛いなあ。
「止めろ! こっち来んな! 堪忍してください!!」
わざとやってるのかと疑うくらい、勇者のあわてぶりはエロい。
間違いなくそっち方面の才能があるよ。
魔王の僕が保証する。
ただ、このときの僕の目的は性的なものではなかった。
飛びかかるように勇者をとらえた後……。
僕は勇者を「ぎゅっ!」と抱きしめた。
「ビクン!」と勇者の身体がのけぞる。
でも、僕はなにもしない。
ただ……勇者を抱き締めたんだ。
……あ、ダメだ。
涙が出てきた。
女の体になったせいだろうか。
僕の瞳からは安堵の涙がこぼれ落ちていた。
最初は警戒してたっぽい勇者。
でも途中から優しく身体をあずけてきた。
僕は勇者を抱きしめる。
4つのオッパイが2人の間でむぎゅっとつぶれた。
「……何だよ、調子狂うなぁ」
勇者が愚痴る。
でも僕はそんなことにはかまっていられなかった。
この世界に召喚されて以来、長い長い時を経て……。
ようやく元の世界の人間の温もりに触れたのだから。
ちなみに女の子に変身しておいたのは理由がある。
勇者の心は男のままだ。
僕の身体が男だと、勇者に拒絶されるかもしれない。
僕は魔王だからね。
ずるくて卑怯なんだよ。
◆ ◇ ◆
僕が勇者と抱き合い、心からの安堵の涙を流した。
このことは魔王の名に賭けてウソじゃない。
けど邪心がないかと言われればそんなこともない。
元の世界の服装をしたのも、勇者の里心を刺激するためだ。
勇者の心を折って女としてイキたいと思わせる。
かつ、勇者と同時に性的に達する。
そこで召喚呪文のリバースを実行する。
これから僕はその難事をなさなければならない。
失敗は死、または帰還の可能性の消滅を意味する。
ことを慎重に進めないわけにはいかなかった。
そんなわけで勇者の様子をチラッと観察すると……。
あれ?
今の僕の身体に興奮してる!?
うーん。
勇者よもう少しスケベ心を抑えた方がよくないか?
「どうしたの勇者? 何だか息が荒いよ?」
内心の思いを隠しつつ、僕は勇者に問う。
勇者は真っ赤になって「な、なんでもない」と否定する。
勇者の感情に気づかないふりをして、僕は会話を進めた。
「あ、わかった。お尻が痛くなっちゃったんだね?」
僕がそう言うと勇者の表情が目まぐるしく変化する。
多分お尻が痛いのは間違いないと思う。
さもないとそういうプレイにならないからね。
でも、それを 認めるのは恥ずかしい。
だからといって本当のことを言っても恥ずかしい。
僕の……魔王の女体に興奮した、なんて言えないよね。
「お薬塗ってあげようか?」
素知らぬ顔で僕がそう言ったら、 勇者は怪訝そうな顔をした。
「薬? ポーションなら飲めばいいんじゃ?」
「よく効く軟膏があるんだ。塗ってあげるよ」
後ろ手に拘束されている勇者が自分のお尻を押さえた。
まあ、お尻を見せろと言っているのも同然だからね。
「もしかして……恥ずかしい?」
その問への勇者の返答は……。
「当たり前だ!」という、至極真っ当なものだった。
つまりは僕の予測の範疇ということだ。
そんなわけで、僕は元の世界の女子の制服を脱ぎ始めた。
まずはブレザーのボタンに手をかけ、それを外す。
シュルシュルという衣擦れの音が部屋に響く。
僕は袖から手を抜き、ブレザーを脱いだ。
次はブラウスだ。
胸元のリボン・タイを緩めてボタンを外す。
この辺りで勇者の表情がギョッとなる。
可愛らしいチェックのプリーツスカート。
そのホックに手をかけたところで、勇者が慌てて僕を制止する。
「な、な、な、なんでお前が脱ぐんだよ!」
「ん? だってお薬を塗るときに、
お尻を見られるのが恥ずかしいんでしょ?
なら、お尻の見せっこをすればいいかな、って」
「いいわけあるか!!」
もう遅いね。
僕はベッドに膝立ちをしてた。
よってストンとミニのプリーツスカート僕の膝まで落ちる。
リボン・タイ。
ブラジャー。
ショーツ。
ニーソックス。
これが僕の全装備。
うん……。
我ながらこれはエロい。
「や、やめろぉぉぉぉ!!」
そう叫びながら目を逸らさない勇者。
……ある意味天晴れである。
僕はベッドに膝立ちのままくるりと勇者にお尻を向けた。
そのままショーツも膝まで降ろして、勇者に突き出す。
次に僕は白い柔らかな太ももの間に手を通した。
先ほど勇者に見せた軟膏を指に付け、お尻の割れ目に塗っていく。
「ほらほら、こーんな感じ」
もちろん真の目的は軟膏の塗り方を教えるためじゃない。
右手を通すために開いた股の間から、見せるためだ。
なにをって?
そりゃ、女の子の大切なところですよ。
勇者は鼻の穴を大きく開けてガン見している。
せっかくの美女っ面が台無しだ。
まあ、僕の方も羞恥で真っ赤になっているからなあ。
ご面相については他人のことを言えたもんじゃない。
ここはおあいこってことで。
◆ ◇ ◆
魔王と勇者が雌雄を決する戦いを繰り広げている。
ただし場所は娼館のベッドの上。
魔王は女体化して丸出しの尻を勇者に向けている。
一方女体化した勇者はSMプレイのために、手足を魔法で拘束。
その状態で魔王の尻をガン見している。
英雄の勲を語る吟遊詩人が知れば、嘆き悲しみそうな状況だ。
だが当事者にとってはあくまで真剣なのである。
1つしくじれば、命も貞操も危ない。
だから魔王である僕は必死で、勇者の前で尻を振っていた。
「……ねえ? 勇者聞いてる?」
食い入るように僕の尻を見ていた勇者に声をかける。
「はっ!」と気がついた勇者が、魔王である僕に言う。
「ご、ごめん。聞いてなかった」
吟遊詩人が聞いたら怒り出しそうな間抜けなやり取り。
だが当事者にとっては(略)。
まあ、そこまで真剣に見てもらえたなら、頑張った甲斐があるよ。
さて、次の1手をどう打つべきか?
1つの考え方として、このまま勇者に肉体的接触を試みる。
積極策としてはそれもありだ。
だが、肉体的接触を契機に勇者が正気に戻る可能性もある。
僕は慎重にことを進めることにした。
「いのちをだいじに」だ。
というわけで、尻見せ作戦を第2段階に進行させた。
軟膏を塗っていた右手の人差し指。
僕はそれを、女の子の大事なところに差し入れて、
そのまま動かし始めたのである。
僕の指が動くと、男にはない部分が音を立てる。
くちゅくちゅくちゅ……。
それに合わせるように僕の愛らしい唇から声が漏れ始める。
「あっ……はっ、はぁん!」
高く澄んだ……イヤらしい女の声。
「な、お前何やってんだよ!?」
勇者が慌てたような声を出す。
でも、勇者の目は僕の尻から離れない。
よし。食いついた!
僕は指を動かすのを止めずに、
あえぎ声を交えながら勇者に言った。
「ぁん、な、なにってぇ、ひゃん、わ、わかってる、くせにぃ」
「お、俺の言いたいのは、そ、そういうことじゃなく……」
「はぅぅ、ゆ、ゆうしゃも、して、みたいはぁあん!?」
僕は勇者を挑発した。
「くちゅくちゅ」と、股の間からイヤらしい音をたてながら。
……勇者が反応しない?
もしかして怒って冷静になった?
ネガティブな想像が僕の脳裏を駆け巡る。
本来僕は内向的な人間で、勝負事には向かないんだ!
ってダメだ!
ここは冷静にならないと……。
嬌声をあげながら、自慰を続行する。
もちろんその間も勇者の観察は怠らない……。
すると、勇者が切なそうに、股をこすりつけているじゃないか!
表情もさっきまでとは若干の変化してる。
最初は男として興奮していたけど、今は牝の表情になってないか?
これは……精神が肉体に引っ張られてる?
僕は内心を悟られないように、精一杯イヤらしい声をあげた。
自分の手で女の子の秘密の部位をいじり続けながら。
「ふぁ、はぅんぁぅぅ……ふぁわぁぁぁ」
僕が気持ちよくなる様を勇者が見つめている。
心なしか、目が潤んできている気がする。
口元も少し開いて、息が激しくなってきている。
これは……もう少しで落とせるか?
「はぁん! あん! あああぁん!!」
……でも、その前に……僕が。
僕の方が…………。
「あぁん! いくぅ! いっちゃうぅぅぅ!!」
絶叫とともに僕は達してしまった!
うーん。
勇者に見られて興奮してしまったのだろうか?
◆ ◇ ◆
こうなったら仕方ない。
僕は勇者を観察する。
じんわりとした女の余韻を楽しむふりをしながら、ね。
(もう少し興奮させれば ……いけるか?)
そんなことを考えていた僕に勇者が声をかけてきた。
「あのさ。お前……この世界に来てから、どのくらいになる?」
……ああ、ちくしょう!
体中を朱に染めて、目元を潤ませていても!
切なそうに内股をこすりつけいたとしても!
それでも……勇者は勇者だった。
こんな風に反撃をしてくるとはね……。
「俺がこの世界に呼び出されて……、
まあ、元の世界と暦が違うから比較は難しいけど、
まだ1年たってない……」
攻守が入れ替わり、勇者が話の主導権を握り始めた。
「でも魔王はこの世界に現れてから、何百年もたっていると聞いた。
俺は今日……召喚されたその日に教室で清彦を見ている……」
ああ、なるほど。
勇者の感覚としては、“今日”学校で見かけた人物。
それが何百年も前から魔王をしていた。
そんな話に納得してなかったのか。
僕の呼びかけに応じなかったのも、そういう理由か。
それと、勇者の話の中に僕にとって重要な情報が紛れていた。
そうか……勇者が召喚された日と、僕が召喚された日。
向こうの世界では同じ日だったのか……。
僕が見知った勇者の姿と、この世界での彼の姿。
それが、ほとんど違っていなかった。
だから元の世界であまり時間が経過していないだろう。
そう見当をつけてはいたけどね。
でも、そこまで時間が経過していなかったとは……。
これなら元の世界に戻っても浦島太郎にはならずにすむ?
「なあ、清彦。お前……この世界に来てから、
どのくらい時間がたってるんだ?」
……ああ……ついに勇者が聞いてきた。
別に隠していたわけじゃないんだけど……。
「途中から真面目にカウントするのをやめたけど、
多分300年くらい……」
ちなみにウソは言ってない。
勇者はちょっとだけ驚いて、さらにたずねてきた。
「もしかして、それを俺に言わなかったのは、
それを聞いた俺が驚いたり、
化け物呼ばわりされたくなかったから、とか?」
……ああ、そうだよ図星だよ。
僕は人間でいたいんだ。
魔王なんかになりたくなかったんだ。
元の世界で平凡に暮らしたかったんだ!
この世界の住人に言われるなら諦めよう。
でも、元の世界の人間に化け物扱いされるのはイヤなんだ!
それなのに……。
クソっ! 勇者め!!
僕の脳裏をこの世界に呼ばれてからの出来事が駆け抜けていく。
生き延びるために人間とはまったく異なる姿になったこともある。
人には許されないことをしたことだってある。
正直、正気を保っていることがつらかった。
でも、いつか勇者と出会って元の世界に戻る。
そのことだけを考えて、必死で耐えてきたんだ!
僕は人間だ!
魔王かもしれないけど……でも化け物になったわけじゃ、ない!
「……そっか。わかった」
え? なにがわかったんだ?
勇者との会話に僕がついていけていない!?
あわてる僕に勇者が告げた。
「なら勝負しよう」
「しょ、勝負?」
勇者は何を言っている?
「ああ、女の俺と女のお前。先に相手をイかせた方が勝ち。
……どうだ?」
勇者の発言に黙り込む僕。
なんだ?
一体なにを考えているんだ!?
「結局さ。お前の言うことが本当なら、
逆召喚の呪文を使うべきなんだよ。
そうすればこの世界から魔王はいなくなる。
そうだろ?」
それは……そうだけど……。
「俺だって元の世界に帰りたいし、お前を帰してやりたくもある」
だからって、なぜ勝負?
「でも、女の身体で男に抱かれるのはイヤだ」
あ、なるほど。
そうつながるのか……。
「……なるほど。だから勝負なのか」
「そういうこった。文字通り雌雄を決しようぜ!」
クソっ!
勇者め、上手いことを言ったつもりか!?
「わかった。その勝負受けよう」
僕は呪文を唱え、拘束魔法に干渉した。
「今、その拘束魔法にギアスを追加した。
僕と勝負して君が勝ったら解除される。
ただし、勝負の途中で約束を違えた場合、
即座に君の身体の操作権が僕に移るからね」
僕の宣言に勇者が応えた。
「俺からもギアスを追加しよう。
勝負がついた後、必ず相手の言うことをきくと。
このギアスはお互いに対して有効だ!」
いいだろう。
望むところだ!
勇者を拘束していた魔法陣が、その構成を変える。
これで勇者は両手、両足を自由に使うことができる。
ただし、僕とベッドの上で性的な意味での戦い限定で。
僕と勇者はお互いにベッドの上を這いよって近づき……。
お互いが相手のオッパイを揉みだした!
◆ ◇ ◆
「……なあ、魔王?」
僕のオッパイをワキワキと揉みながら、勇者が僕に問う。
「な、なあに?」
問い返す僕に勇者が言った。
「お前のブラジャー……取っても、いい?」
勇者の上目遣いのお願いに、僕は答えた。
「おっけー」
ただしその代わり。
「勇者もそのボンデージ……っぽい? その服脱いでよね」
「わ、わかった」
これで装備は……。
勇者は、ニーソックスっぽいストッキング。
魔王な僕は、ニーソとリボン・タイのみとなった。
お互いに上半身からお尻までを露出させた勇者と魔王。
次はどちらから言い出すでもなく……。
お互いの指を絡め、同時に相手に口づけた。
ちゅぷ、ちゅぷ……。
およそ勇者と魔王の戦いとは思えない、淫靡な音が響く。
お互いが舌を使い、相手の口内を攻める。
ああ! 勇者の唇の甘やかな味に、我を忘れそうだ!!
元の世界では性的実体験皆無だった僕だけど、
この世界に来てからは、男女の別なく修練を積み上げた。
だから、それなりの自信はあったんだ。
だけど、勇者のテクニックは僕と遜色ない。
元の世界での経験値は圧倒的に勇者優勢だったけど……。
……というか、勇者。
こっちの世界でも経験値上げてたでしょ?
勇者パーティーのメンバーを思い浮かべる。
女魔法使い。
女剣士。
女神官。
女盗賊。
なんとなく不機嫌になる僕こと魔王。
…………もしかして、これは……「嫉妬」なのかなぁ?
そして、事態は魔王である僕にとって劣勢だった。
「いゃあ、はぁ、はふ、あっ! だ、だめぇぇ!」
僕の声がすすり泣きのように変化する。
だって勇者の攻撃……もとい愛撫がすごすぎるんだもん!
僕は身体中くまなく勇者に口づけられる。
全身をくすぐるように愛撫されてしまう。
2つのオッパイへの攻撃は特に巧妙で、
乳首を噛まれた時にはそのままイッちゃうかと思った。
そういえば……。
と、ここでようやく僕は思い出した。
勇者の魔族への攻撃は通常の倍から時には10倍以上になる。
もしかして……与える快楽にもその法則が適用される?
だとしたらまずい!
こっちが与えるダメージ、じゃなくて快楽が半減してるかも。
はぁん、な、なるほ……。ど、ふにゃぁあ!
こ、これを見越してこの勝負を、はふぅ、う、うけたのか!?
あぁん!
だめぇぇぇ!
だんだんものを考えられなくなってきたぁぅ……。
このまま勇者に負けて、僕が女になった未来を想像する。
きっと召喚呪文のリバースは気持ちいいだろう。
それで僕が消滅するならそれはそれで、覚悟の上だ。
そして元の世界に帰ったら……。
多分元の世界でこっちのように魔法は使えないだろう。
ならば僕は女の子のまま固定されるだろう。
そしたら勇者と一緒にずっと……。
って、ありえない!
だって、絶対に勇者は浮気をするに決まってる!!
イヤだ! 勇者を誰かに取られるのは絶対にイヤだ!!
論理も整合性もあるもんか!
嫉妬に理屈は関係ない!
僕は憤然として反撃を開始する。
「やぁあん!」
勇者が気持ちよさそうに嬌声をあげた。
ああ……まだまだ相手は余裕っぽい。
……くそぅ。
このままじゃジリ貧だ!
い、一瞬でもいい。
ゆ、勇者の気を逸らせれば……あひゃぁん!
快楽に押し流されそうになりながら、
しびれる頭で僕は考える。
なにか……なにか勇者の弱点は……。
アキレウスのかかとのような……。
ジークフリート背中のような弱点が……。
…………あ。
ある……かも。
そのとき勇者は僕をまたぐようにして押し倒していた。
女の子になった僕の大事なところを、ペロペロとなめるためだ。
その、目の前にある勇者のお尻を、僕はむにっとつかんだ。
「ひゃぁあああぁぁぁぁん!」
勇者が可愛い声を上げてのけぞる。
この反応……もしかして……。
「勇者……感じてる?」
「き、聞くな! 馬鹿ぁ!!」
僕よ、冷静に考えろ?
さっきの行為が勇者への攻撃とみなされたとする。
もしそうなら僕はすでに負けてるはずだ。
だって、そういうルールなのだから。
でも、そうじゃないってことは……。
「勇者はああいうのが気持ちいいんだね」
「だから聞くなってばぁ!」
半泣きになる勇者。
いや、もしかすると逆なのかもしれない。
勇者の防御力は強靱だ。
そのせいで並みの愛撫では感じられない、とか?
魔法ってのは無慈悲だ。
その魔法があれを性行為と判定した。
それが重要なんだ。
とにかく弱点は掴んだ。
急にしおらしくなった可愛い勇者に、僕はにじり寄る。
勇者が僕を避けようとして身体を動かす。
そして……。
勢い余った勇者がベッドから落ちた!
その瞬間、拘束魔法が起動して勇者の四肢から自由を奪う。
これは……逃亡とみなされたんだな。
リングアウトならぬ勇者のベッドからの落下で、形勢は逆転した。
◆ ◇ ◆
「さあ。こっちに来て」
優しく言う僕の命令に勇者は逆らえない。
勇者の身体の操作権は僕に移ったからね。
ギアスのルール通りだ。
悔しさに顔を歪めながら僕の方に近づく勇者。
ああ、やっぱり可愛いなあ。
「くっ! 殺せ!!」
涙目でそう言う勇者の左右の目尻に口づける。
僕はぺろりと勇者の涙を舐めとった。
ちょっとしょっぱい。
くすくすと笑いながら僕は言う。
「なに言ってんの。これからやっと反撃なのに」
勇者が青ざめる。
うんうん、可愛い、可愛い。
身体の操作権を奪った僕は勇者に命じる。
「これからね。勇者の身体は魔王の攻撃を受けると、
そのままそれが快楽になります」
「な!」
「そして、もう魔王からの攻撃以外ではイクことができません」
「お、おい……やめろよぉ……」
半泣きになる勇者。
「そして魔王からの攻撃を受けていないと、身体がむずむずして、
えっちなことしか考えられなくなります」
「ひ! ひぃ!!」
本気で怯える勇者。
可愛いなあ。
可愛いなあ。
恐怖ですくんで動けなくなったっぽい勇者に僕は近づいた。
さっきの仕返しにと左のオッパイの乳首を噛む。
勇者の甘い絶叫が、部屋いっぱいに響いた。
痛みを伴うハードな行為をした後に放置。
ねだらせて、じらして、時折ご褒美をあげる。
これを何セット繰り返したことだろう。
「あ、あ、あぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ――――!!」
ついに勇者が達した。
ぐったりとしてベッドに横たわり、動かなくなった勇者。
可愛らしく、愛おしいその髪を一度なでる。
ああ、勇者。
ついに僕のものになったね。
できればこの後余韻を楽しみたい。
けれど、残念ながらそうはいかない。
「勇者、起きて」
僕がそう言うと、勇者の身体が起き上がる。
“必ず相手の言うことをきく”というギアスの効果だ。
恨まないでよね。
このギアスの効果を決めたのは君なんだから。
僕はモーフの杖を使って男の身体に戻った。
ちなみに全裸に魔王マント、といういでたちだ。
ぼぉっとしている勇者に近づき耳もとで告げる。
「これから、召喚呪文のリバース……帰還呪文を使うからね」
それまでピントの合わない目をしていた勇者が唐突に覚醒した。
「な! それって……」
「一緒に気持ちよくなろうね、勇者」
にっこりと笑う僕。
血の気が引いて真っ青になる勇者。
次の瞬間。
僕と勇者の載ったベッドは、とある街の娼館から転移した。
そこは高い高い天空の山の頂。
この世界を見下ろせる場所に、僕と勇者のベッドは来ていた。
万年雪が降り積もる寒冷地。
だけど、結界を張って冷気を防いでいるから大丈夫。
「なんでこんなところに?」
勇者の疑問に僕は答える。
「かつて帰還の呪文を勇者と魔王が使ったときは、
それはもうすごい爆発があったそうでね」
勇者の顔が引きつる。
「僕はこの世界も、この世界の住人も好きじゃないけど、
だからって迷惑をかけたいわけじゃないからね」
勇者の顔がにんまりと笑う。
あ、僕のことをツンデレだと思ったんだね?
ちぇーっ。
それはそれとして、そんな余裕があるのかなあ(笑)?
「じゃあまず、口でしてもらおうか?」
「理解不能」という顔で僕を見る勇者。
でも、ギアスに支配された身体が先に反応する。
「え!? なに!? ウソ!?」
勇者の口からいくつかの感嘆符と疑問符が発せられる。
そしてその口はいきり立つ僕の下半身をなめ始めた。
「ふぁ、ちゅっ! れろれろ、ちゅぱっちゅぱっ……」
さすがは勇者。
上手いなあ。
勇者がまんべんなくその舌で僕のものを舐める。
時々僕は勇者ののどの奥めがけて突いたりする。
しると、勇者が「むぐっ!」っと苦しそうな表情をする。
痛そうなんだけど、どうやらそれがいいっぽい。
やがて、発射。
反射的に唇を離しそうになる勇者。
でも僕は先を読んで「全部飲んでね」と、命令する。
……ああ、勇者の涙目は可愛いなあ。
さて、準備はOKだろう。
お口でしてもらった後で僕は仰向けにゴロリとベッドに横たわる。
「じゃあ勇者、僕の上にまたがって、自分で入れて」
屈辱で今度は顔を真っ赤にした勇者が僕の上でスタンバイする。
勇者はそぉっと自分の女の子の部分に僕のものを近づける。
いよいよ接触……というその瞬間。
僕は不意に自分のものを勇者に突き挿れた。
「ひぃ! ぐああああぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!!」
この日何度目かの勇者の悲鳴が響く。
でも、その中に喜びの成分が含まれていることは丸わかりだ。
だって……。
勇者は僕が何も言ってないのに、自分から腰を動かしてる。
「あぁん! ち、違うのぉぉぉ!!
こ、これは魔王が……魔王のせいなのぉぉぉ!!」
はいはい僕のせい僕のせい。
でも、こんなに気持ちがいいなら僕のせいでいいよ。
そのぐらい勇者の中は素晴らしかった。
ぬめぬめと絡みつくように魔王の硬い部分を刺激する。
生気を吸い取らんばかりに締め付ける!
せめてものお返しに、勇者をぎゅっと抱き寄せキスをした。
このときばかりは魔王になってしまった自分の運命に感謝した。
どんどん勇者が高まる!
僕もヒートアップする!
快楽につい意識を持っていかれそうになるのをなんとかこらえる。
「勇者、イく時はそう言って!」
「は、はいっ……もうすぐぅ! くるぅ!
来るのぉぉぉ!
イクぅ! イっちゃうぅぅぅうぅぅぅ!!」
勇者の絶頂に合わせて僕も精を放つ!
同時に帰還呪文を発動!!
その瞬間、天空を巨大な魔法陣が被う。
そして……。
世界は閃光に包まれた……。
◆ ◇ ◆
さて、帰還魔法を使った僕と勇者。
2人はどうなったかと言うと……。
…………。
そうだね、まずは帰還直後の話からしようか。
気がつくと僕は元の世界に戻っていた。
場所は僕の部屋。
寝ていたベッドで目が覚めたんだ。
時間を確認したら、ほぼ僕の記憶との断絶なし。
あっちの世界に行ったと思しき時間とほぼ同時刻だった。
真面目に夢オチを疑ったね。
ただ、体験が夢じゃなかった証はいくつか残っていた。
最大の変化は……。
「どうしたの? 清くぅん」
今、学校の昼休みの時間。僕の膝の上に乗ってる少女。
お察しの通り、元勇者アキちゃんが変貌したものだ。
帰還翌日。
学校に行こうと家を出たところで、僕は彼女と出会った。
というか 彼女は僕を待ってくれていたんだね。
彼女を見た瞬間。
それまで僕の知らなかった体験が過去の記憶として再生された。
彼女……アキちゃんは僕の恋人。
学校でも有名な熱々のカップル、ってことになっている。
勇者が変貌したのにあわせて、過去が書き換わったらしい。
本当に魔法ってやつは無慈悲で理不尽で強力だ。
もちろん彼女に訊いてみたよ。
どうやら、あっちの世界での体験は、記憶に残ってはいるらしい。
「ただねぇ。現実感がないというか、夢の記憶みたいなの……」
その例えには僕も大いに賛成である。
アキちゃんは女子サッカー部のレギュラーだ。
そして、男女問わず人気がある。
そんな彼女を虜にしてしまった僕に嫉妬が集まったけど……。
「はい、あーんして」
もぐもぐ……。
……失礼、彼女はこんな感じで昼は僕の膝の上で食事をとる。
放課後は何があっても一緒に帰宅。
休みの日は一日中ベタベタするという完全無欠のバカップル。
そんな態度にみんなが呆れ果て、公認カップル状態です。
「だってぇ、魔王と一緒にいないと身体がムズムズして、
えっちなことばっかり考えちゃうんだもん」
なんか僕のギアスよりは微妙にマイルドになってる気がする。
けど、僕の保身にとって有利だからスルーさせてもらう。
まあ、責任は取らせていただきますよ。
むしろご褒美だし。
もう1つの重要な変化は……。
僕は手に持った透明な球……ガラス玉なんだけどね。
それに念を込める。
ガラス玉が不思議な色の光を放つ。
今の光は僕の記憶をコピーする魔法の一部。
これがないと効果の有無がわからないからね。
そう、僕はこっちの世界でも魔法が使えるようになったんだ。
そこで、僕の先代らしい魔王と同じことをすることにした。
このガラス玉に強化呪文をかけてあっちの世界に送り込む。
何でだか、向こうへは簡単にものを送れるんだよなあ。
何のためにそんなことをするのかって?
次の魔王へのプレゼントだよ。
内容はおわかりの通り、僕の魔王体験記。
次の魔王がどんなやつかはわからない。
けど、僕と同じ目に遭うなら、助かる方法を教えてあげたい。
勇者と殺し合いなんかする前に、さ。
そう。
そうだよ。
君のことだよ次世代魔王くん。
僕の間抜けな勇者との戦いが、
どのくらい参考になるかはわからない。
けど、なんとか上手く生き抜いてほしい。
先輩魔王からのアドバイスだ。
じゃあね。
――終わり――