視線を感じる。
動物園の動物達は、いつもこんな心境なのだろうか?
逃げてもいいだろうか?
ふと、窓際の席に目を向けると、そこに清彦がいた。
清彦は、俺の事をしっかりと見ていた。
・・・頑張ろう。
そう思い、俺は転校生としての挨拶を始めた。
・・・以上。
養生期間中でも、あの男は待ってくれなかった。
『17時に図書室に来い』
と、メールが俺の携帯に届いてしまった。
・・・公欠扱いの生徒を、学校に呼び出すなんてバカか?
どうして、図書室に拘るんだ?
それに、俺以外にも沢山女はいるんだろ?
だったら、どうして俺なんかに、こんな事するんだよ・・・。
元男。
あいつはその事実を知っている。
だから、俺はあいつに逆らえない。
今度は、何をされるのだろうか。
・・・本当は、怖い。
また、清彦に助けてもらいたい。
だけど、それをしたら、清彦は俺の事を嫌うだろう。
元男の俺を嫌うだろう。
気持ち悪がるだろう。
だから、この問題は俺1人で決着を付けなくてはならない。
頃合いを見計らって、俺は学校の図書室へ、向かった。
清彦は、いつも輪の中心だった。
もちろん、それが悪いというわけじゃない。
でも、清彦以外の話せる人がいない俺は、今日も1人だ。
だから、休み時間はいつも図書室にいた。
そしたら、いつの間にか図書委員長の後継が決められていた。
清彦は、それを心底驚き、喜んでいた。
・・・以上。
いつもの、図書室の角。
俺が来たとき、既に男はそこにいた。
俺の姿を確認すると、男はニヤニヤと笑った。
「もうすぐ、お前の代わりに図書当番をしていた奴が、帰ってきてたぞ?危なかったなぁ」
「呼び出したのは・・・お前だろ」
こんな時に、こんな場所に。
「あれ?昨日イきまくってたのは誰だっけなぁ?」
「っ・・・」
昨日の記憶が、頭の中に蘇る。
簡単にイかされ、男のブツをしゃぶらさせられた記憶。
そのまま口内に射精され、意識を失った記憶。
今思い出しても、吐き気がしてくる。
だが、男は待ってくれない。
「ほら、ちゃんと見せてくれよ。ロリマンコ」
「・・・っ」
胸に抱えていた本を本棚に立てかけ、俺はスカートを捲り上げる。
男に指定された通り、俺は制服の下に下着を着けていなかった。
風があそこに直接当たって、気持ち悪い。
男の視線も気持ち悪い。
羞恥に耐えながら、俺は男の次の言葉を待つ。
沈黙が、続く。
「ネクタイを外して、胸を出せ」
「っ・・・!?」
やっぱり、こいつの要求はエスカレートしている。
このままじゃ、最悪の結果になりかねない・・・。
でも、俺にはどうしようもない。
やはり、従うしかないのか・・・。
「早くしろ」
・・・。
俺は言われたとおり、ネクタイをスルリと外す。
そして、男から顔を背けながら胸元の服を開けた。
そこから見えるのは、下着を着けていない、小さな胸。
途端に、胸に視線を感じる。
こんなの・・・嫌だ。
「・・・ちっせぇなぁ。お前、本当に高校生か?」
「いっ!?」
引っ張られるように胸の先端を摘ままれ、そこから鋭く痺れるような痛みが走る。
男は俺の胸から手を離し、気色悪く笑う。
「やっぱ、小さくても見えなきゃテンション上がんねぇよなぁ。お前なら、分かるだろ?」
「・・・知るか、そんな事」
「つれねぇな。そんな態度でいいと思うのか?」
また、俺は脅される。
「話す時は人の顔を見て話せって、ママに習わなかったのか?それとも、自分を捨てた奴の事なんて知らないってか?」
「うるさい!」
人の傷を簡単に抉る男に、俺は我慢できなかった。
だが、男に怒り顔を向けた瞬間、
「んーーっ!?」
男の顔がすぐ近くにあって、体を引き寄せられたと思ったら、
唇を奪われた。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
「んーー!んっーっ!」
昨日は意識が朦朧ととしている時にアレをしゃぶらさせられていたが、今は違う。
気持ち悪い男の顔が、目の前にある。
硬い唇が触れ、口内に男の舌が侵入してくる。
入らないようにしても、俺の口内は掻き乱される。
体を腕で押し返そうにも、力では勝てない。
そうしている間にも、口内では為す術もなく、男の舌が俺の中で暴れる。
「んっ!?んっんっ!」
舌で俺の中を翻弄しながら、男は空いた右手で俺の胸に触ってくる。
撫でたり、摘まんだり、慣れた手つきで俺は弄られていく。
やばい・・・勃ってきた。
自分の先端が敏感になったのが、分かるほど、俺はされるがままで、悔しくもだんだん火照ってきていた。
「んっっ!んーっ!」
息が、続かない・・・。
頭の考えが纏まらない。
このままじゃ、呑まれてしまう。
快楽に、抗えなくなってしまう。
「っん!んんっ!」
狙ってのことか、たまたまか、男の手が、俺のあそこに伸びる。
そして、中に指が入れられる感覚と共に、俺の頭は更に掻き乱される。
快感が波になって、押し寄せてくる。
「んっ!んんっ、っっんっ!」
思考の追いつかない俺は、それに耐える事も出来ずに、
「んんんっっっ~~~!?」
また、イかされてしまった。
「んむっ・・・んんっ・・・んぁっ・・・」
最後まで味わうかのように、男は俺の口内を掻き乱す。
そして、ようやく男は俺から体を離した。
解放された俺は、膝立ちに崩れる。
「はぁっ、はぁっ・・・」
酸素を求めて、俺は荒く呼吸する。
どちらのものかも分からない唾液が、俺の口を垂れる。
それがどんなに不恰好かは分かっている。
でも、酸欠と絶頂の両方を同時に味合わされた俺は、完全に思考が停止した。
また、意識が暗闇に落ちた。
清彦と、喧嘩した。
喧嘩というか、清彦が怒った。
どうして怒られたのか分からなかったけど謝ったら、更に怒られた。
『俺はお前に謝って欲しいんじゃない!そんなに頭がいいのに、どうしてお前は分からないんだ!』
よく考えたら、清彦の怒り声を聞いたのは、これが最初で最後だった。
・・・。
もう少し、考えてみることにする。
・・・以上。
「んっ・・・」
ゆっくりと、目が覚め、意識が覚醒する。
ボヤけた視界が晴れていく。
「お?起きたか?」
上から、声がする。
あの、憎き男の声。
・・・背中が冷たい。
俺は、背中を床につけて寝ていたらしい。
そして、俺の目の前にはガタイのいい、制服を着た胸板。
男の頃の俺よりも、一回りも男らしい体つきだ。
間違いなく、あの男の体だろう。
え?
どうして、こいつはこんなに俺の近くにいるんだ?
まるで、抱き合うような・・・。
ハッと、思ってしまった。
俺は、下半身を恐る恐る見た。
嫌な予感はしていた。
「あ、ああっ、あ!」
呂律が回らない。
言葉が出てこない。
なんで、なんで、なんで。
「悪りいなぁ。暇だったんでちょっと入れちまったよ」
あいつのブツが、俺のあそこに入れられていた。
先っぽだけだが、確かに俺の中に入っていた。
「安心しな。まだ、処女膜は破ってねぇよ」
そう言うと、男は俺の腰を持ち上げ、膝立ちになる。
「や、やめろ!」
目覚めたばかりの体は、動かない。
抵抗できない。
今までは怒りや憎しみしか感じていなかった男の笑顔に、今は恐怖を感じる。
怖い。
怖い怖い怖い怖い怖い。
「いく、ぜ!」
そう叫び、男は腰を勢いよく突き出した。
腰を固定された俺は逃げることもできず、
「~~~~~~~~~っっ!!?」
ぶちぶちぶちっ。
と、音とともに俺は体を引き裂かれたような痛みを受けた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃっ!
それでも、男はお構いなしに腰を振る。
「っっ!~~~っ!っ!」
悲鳴を上げることも、ままならない。
尋常ない痛み。
もしかしたら、今まで生きた中で1番の痛さかもしれない。
「たまんねぇなぁ!その苦痛に染みた表情!犯しがいがあるぜ!」
恐怖を抱きながら見上げた男の顔は、酷く汚い優越感に浸っていた。
俺のあそこからは、血と男の汚い汁が垂れている。
そして、改めて実感する。
俺のはじめては、あっさりと奪われた。
「~~~~っはぁっ!ぁっ!?」
だんだん、水音が俺の耳にも聞こえてくる。
それと並行するように、痛みは少しずつ安らいでいく。
「ぁっ、やっ、あぁっ!」
「おやぁ?元男のくせに無理やり犯されて、感じてるのか?図書室で、そんな声上げて」
「ちっ、ぁっ、がうっぅ!」
痛みで、おかしくなりそうなんだよ!
「なら、静かにしろよ。図書室だぜ?ここは」
男は、更に腰を激しく振り出した。
「やっ、あっ!あっ!」
自分の奥に当てられる感触のせいで、変な気がしてくる。
そのせいで、無意識に甘い声が出てしまう。
貫かれるたび、頭の中を掻き混ぜられるような、そんな感覚になる。
だけど、まだ痛みが強い。
恨みと恐怖が強い。
まだ、耐え切れる。
「っ!っっ、っ!」
俺は、必死に声を抑える。
「ちっ!」
ムキになったのか、男は緩急をつけつつ、腰を振り出した。
「っぅっ!~~っ!っぁ!」
耐えろ。
「っ、っぁ!」
耐えろ。
「ぁっ!」
耐えろ。
「~~~~っ!?」
急に、男が腰を止めた。
俺と繋がったまま、男はどこかに手を伸ばす。
「はあっ、はあっ、はあっ」
俺は、今のうちに息を整え、冷静になろうと務める。
あそこから感じ始めた微かな疼きから、気をそらす。
間も無くして、男は何かを手に取った。
そして、俺の目の前に、それを掲げた。
「っ!」
「これ、なーんだ」
男が手に持つのは、一冊の黒い本。
清彦にも見せたことのない、俺がいつも持ち歩く本。
いや、違う。
「正解は、」
俺の、日記。
「元男の気持ち悪い病み日記でしたー」
俺が気持ち悪いのは分かってる。
だけど、なんで病み日記なんだ。
それに、まさか!
「読んだのか!それを!」
俺は、思わず大きな声を出す。
誰にも見せたことなかったのに!
「うるせぇ!騒ぐな!」
何が起きたのか、分からなかった。
頬に鈍い痛みが走った。
殴られた・・・?グーで?
俺は、頬に手を触れながら、男の顔を見る。
怖い。
今抱ける感情は、それだけだった。
「本当、気持ち悪ぃなお前」
パラパラパラ、と男は俺の日記を捲る。
「2月11日、車道に飛び出したら、清彦と名乗る男に助けられた。印象深かったから、日記に残す」
や、やめろ・・・。
「3月12日、清彦という男(先述)に無理やり連れ出された。意外と楽しかった」
「3月13日、清彦と遊んだ。楽しかった」
「3月14日、清彦の家に行った。清彦の家族と知り合った」
「3月15日、清彦と清彦の家族と、服を買った。たまには、ジャージ以外を着てもいいかもしれない」
「4月25日、編入試験を受けた。満点合格したら清彦が褒めてくれた」
「8月3日、清彦と夏祭りに行った。清彦が着てほしいなら、来年は浴衣を着ようかな、と思った」
「8月11日、清彦とプールに行った。恥ずかしかったけど、褒められた」
「11月6日、図書委員長になることになった。清彦が喜んだので、なることにする」
男は、日記を飛ばし飛ばしに読んでいく。
だけど俺は、怖くて、何もできない。
何かしようとすると、体が動かない。
「12月7日、清彦と喧嘩した」
「1月1日、清彦と一緒に初詣に行った。もちろん、清彦の家族も一緒に」
「2月6日、清彦がいない時に部屋を漁ったら、エロ本を見つけた。体操着と白スクものばかりだった」
男は、ニタリと笑った。
そして、俺に囁いてくる。
「5月16日。この日は、何の日だが分かるか?」
頭の中で、計算する。
今日は、5月24日だから・・・。
この男が、初めて俺を脅してきた日だ。
「そう、俺がお前を脅し始めた日だ。だが、この日の日記。そんな事は一言も書いていない」
・・・何が、言いたいんだろうか。
「どころか、俺のことなど全く記されていない。いや、違うな。この日記には、清彦との思い出しか、記されていない」
何か、心が騒ぐ。
「元男のくせに、お前は、清彦のことしか見ていない」
聞いてはいけない、と警報が聞こえる。
「お前は、清彦が、男が好きなんだよ」
「ち、違っ」
俺が清彦を好き?
そんなこと、ない!
あり得ない!
「じゃあ、清彦の名前が出るたびに、どうして締め付けが強くなるんだ?」
違う。
そんなことない。
俺は、男で、俺は、俺は・・・。
ピシリ、と何かが聞こえた気がした。
「そうだ、清彦に見てもらうか」
「っ!?」
「ここに呼んで、俺達のセックスを見せたら、あいつはどんな顔をするだろうなぁ。それに、元男ってこともバラしてしまえば、あいつもお前の事を、気味悪がっていくだろうなぁ!」
清彦に、バラす?
「お前の家族や友達みたいに!お前の事を化け物のように見るんだよ!最高じゃねぇか!」
俺を捨てた奴らの顔に、清彦の顔が重なっていく。
清彦が、俺の事を蔑んだ目で見ている。
そして、口を開く。
『気持ち悪い』
あっ・・・。
自分でも、ハッキリ分かった。
俺の、治りかかっていた壊れた心は、
完全に、壊れた。
心の鍍金は、剥がされた。
「・・・」
涙が、出てきて、止まらない。
「じゃ、再開するか」
男はそう告げ、ピストン運動を開始した。
「ぁっ、あっ、ぁぁっ!ぁっっ!」
痛みが安らぎ、支えをなくした俺は、快楽に流される。
我慢することも偽ることもできなくなった俺の心は、ただただ快感に堕ちていく。
小さな俺には大き過ぎる男のブツが、膣内を擦る。
根元までは入らないほどの差のため、腰を突き出されるたび、奥に何度もブツが当たる。
あ、気持ちいい・・・。
「あぁぁっっ!ぁっ、あっっ!」
「清彦の話を出したら、いきなり感じ始めやがって、バレたらどうすんだ!」
男が腰を止め、俺を殴る。
痛い。
怖い。
「ひっ・・・」
俺が口を抑えたのを確認して、男は腰を再び動かす。
「っん!んっっ!んんっ!」
一定のリズムが、俺の快感を増幅させる。
「んぁっ!?んんんっ!んっ!」
何でだろう。
涙は止まらないのに、怖いのに、不快感は無い。
「・・・出すぞ!」
「~~~~~~~~っんんんっっ!!」
何かに満たされた快感が、俺を駆け巡った。
あぁ・・・。
中に、出されたのか?
変な感覚だ。
お腹が満たされたような・・・そんな感じ。
男が腰を引き、俺の中から出ていく。
俺は、ドサリと腰から落とされる。
二重の喪失感が、頭の中に漂う。
ふと、男のものが無くなった、そこを見る。
俺のあそこからは、だらしなく血とベトベトした液体が垂れている。
胸も出たままで、見るに堪えない姿だ。
でも、体が重く、動く気になれない。
満足したのだろうか?
男は立ち上がり、己のブツをしまおうとする。
「は?」
男が己のブツをしまった、まさにその時、間の抜けた声が、すぐ近くから聞こえた。
それは、俺のものでも、この男のものでもない、第3者のもの。
「栞・・・?」
呼ばれた方向に、顔を向ける。
清彦が、そこに立っていた。
なんで、清彦がここに?
「栞っ!お前!」
清彦の様子から、俺は素に戻る。
そうだ、今の俺の格好は・・・。
み、見ないで・・・清彦。
その願いが届いたのか、清彦は男の方を向いた。
清彦が、男に明確な敵意を向ける。
それを受け、男が動いた。
「くっそおおおっっ!どけぇっ!」
男が、叫びながら、何かを取り出した。
男は、それを振り回しながら、ゆっくりと清彦との距離を詰める。
横目で確認したそれは、ポケットナイフだった。
「や、やめろ!」
清彦の制止を無視して、
「邪魔だぁっ!」
男が、ナイフを大振りに振り回す。
ぶすり。
鈍い音がした。
「は?」
どしゃり。
人が倒れた音がした。
あっけなく、悲鳴もあげずに、清彦は刺され、倒れた。
「ぅあああああっ!?」
俺は悲鳴をあげる。
叫ばずにはいられない。
だって、
だってだってだって!
清彦に、ナイフが!
無作為に振り回されたナイフは、清彦の左目に、清彦の顔に、清彦に、刺さってしまった。
普通の男子の清彦が、ナイフを振り回す危険者への対処法なんて持ってるわけがない。
しかも、こんな状況だ。
頭の回転が、追いつくわけがない
刺した本人も、固まっている。
俺は、形振り構わず、清彦に駆け寄る。
腰の痛みに、フラつきながらも、俺は清彦のすぐ隣に座り込んだ。
「清彦!清彦!清彦!清彦っ!」
ナイフを刺したまま倒れた清彦の体を、俺は何度も揺する。
だけど、清彦は動いてくれない。
「清彦っ、清彦、きよひこぉ・・・」
さっき散々泣いたはずなのに、涙がまだ出てくる。
清彦の左目からは、血がドロドロと出ている。
俺のせいで、俺のせいで、清彦が、清彦が死んじゃう!
こういうとき、どうすれば。
どうすればいいの?
「清彦っ!清彦っ!清彦!清彦!」
俺は、叫ぶことしかできない。
いつも助けてくれた清彦に、俺は何もしてあげられなかった。
俺のせいなのに、俺は何もできなかった。
心の殻を失った俺は、不恰好に泣きわめくだけだった。
5月24日。
強姦事件が発生。
被害者は2人。
1名は産婦人科及び精神科、1名は眼科及びその他の医療科に送られた。
犯人の少年は放心状態で一向に口を開こうとしない。
被害者の少女は精神外科医すらも拒む状況。
被害者の少年はーーー
主人公の栞が相変わらず可愛い