あ!ヒマだなあ!!
こう言って思い切り伸びをする。全く良い天気だ、外はすっかり春めいてきてぽかぽかと暖かい。
うんっ!今日もすこぶる快調!!健康なのに寝てばっかりじゃ身体が鈍っちまうぜ。
俺が今居るのは国立KY大医学部の付属病院、その屋上、俺はここの入院患者だ。
健康なのに、入院って?ああ正確に言うと俺ある病気にかかってるみたいなんだけどね、
未だ入院して二日目だし、今の所症状が出ていないので、自分では健康なつもりなんだけどね。
「清彦!ここに居たの?そろそろ診察の時間よ。」ああ、母さん直ぐ行くよ。
俺の名は「松田清彦」地元の県立高校の二年生、アメリカンフットボール部に所属していて、
一応RB(ランニング・バック)やってる。所謂ボールを持って相手陣地に走り込み得点する、
目立つ花形ポジションだ。
小学校の頃から柄は小さいけど(高二の今で164cm)、すばしっこかった俺は走りなら誰にも負けなかった。
中学の頃からタッチフットボールを始め、高校に入って、直ぐさまアメフト部の門を叩いた。
ただ、当時のエースRBに瀬名先輩という、全国高校のラン獲得ヤードの新記録を作ったスーパーランナーが居た。
瀬名先輩はアメリカの伝説的RB『アイシールド21』になぞらえて、その背番号から『アイシールド36(ThirtySix)』と呼ばれ、
その背番号『36』は我が部エースRBの番号と成った。
その瀬名先輩が居た為、俺は控えに甘んじ、
偶にパントリターナーか大量点差の後の交代要員として駆り出される程度だった。
それでも、他の1.2年生には負ける気がしなかった俺はこの春、瀬名先輩の卒業と共に新三年生を差し置いて、
新二年生の俺がエースRBに指名され、栄光の『36』を引き継いだ。
と、同時に、俺の同期で有り、親友『大社(おおこそ)利明』もエースQB(クォーターバック・司令塔)に指名された。
友達として言うのも何だが、こいつのパスの正確さ、プレーコールの的確さなら当然のことだと思われる。
また何時も沈着冷静で、ともすれば熱く成りやすい俺にとって大切な相棒である。
こうして二年生コンビが誕生し、新たなチームとして出発する最初の練習日で練習中俺は意識不明になり病院へ運ばれた。
実はその日、前々日から体調が優れず、風邪でも引いたのか熱が40度を超え、節々が痛くてとても練習に参加できる状態じゃ無かったが、
新チームとして初練習の日だった為、無理して参加したのが祟った。
目が覚めると病院のベッドの上だった。白衣を着た女医さんとお袋、双葉姉貴の二人が俺を覗き込んでいた。
なんだ?お医者さんはともかく、母さんも姉貴も大して心配した顔してねえなあ?と言うか、何か興味津々といった顔だぜ?
目が覚めると女医さんが簡単な説明をしてくれた。
未だ断言は出来ないけれどと、前置きをして、まず命に関わるような病気では無いが、風邪のようなモノでは無くもっと特殊な病気だということ、
ある意味に於いては深刻な病気で回復後はしっかりとした精神的ケアが必要だということ、そのセラピストは女医さん自身が受け持つということ、
これから身体的に変化が始まるけれど、それを現実としてしっかり受け止めて欲しいということ。
な、何だか大変な病気にかかったみたいじゃねーか?俺どうなるんだろ?なんかてぃーえす熱がどうのこうのって言ってたけど何の事だろう?
それに身体的変化って?
へへっ!ひょっとして身体が大きくなるのかな?180cm位のマッチョな身体で、相手ラインを弾き飛ばしてタッチダウンを奪う、大型RB松田君!なんちって。
更に女医さんの説明は続く。
「えーっと、松田君、これから毎日朝昼晩と三食かなりの量の高カロリー食が出ますけれど、しっかりと摂取して下さいね。貴方の身体を支える為の必要な栄養分ですから。」
まあ、俺は元々スポーツもやってるしそれなりの大食漢って自負もあるけれど、そんなに毎日喰っちゃ寝喰っちゃ寝してたら太らないんですか?
「その点は大丈夫、むしろ身体の変化に対応するにはこれ位の栄養が必要なの。
芋虫が美しい蝶に変身する前段階のサナギに成るときたっぷりと栄養を取る様にね。
ああ、心配しないで、むしろ体重はどんどん減っていく傾向にあると思うわ。」
ええっ?てことは当然筋肉の量も…。
「そうね、筋肉量が減って皮下脂肪に置き換わって行くでしょう。それと骨格も幾分変化して行きます。」
それじゃ、スポーツマンとして致命的…。
「御免なさい、松田君、もう少し説明すると、今後貴方は所謂男性のみが行う様な激しいスポーツは無理な身体に成ります。
まあきょうび、男女共出来るスポーツは増えてきましたから。」
はあ?何か意味がわかんね…、それより女医さんの説明に俺は目の前が真っ暗に…。
折角エースRBとして新チームの門出だったのに…。
そしてその日の夕食、元々気持ちの切り替えの速い俺は献立を見て驚き、ふさぎ込んでいた気持ちが吹っ飛んだ。
うわっ!すげっ!何これ!?如何にもガッツリ系の肉料理、大盛りのパスタ、ピザ、てんこ盛りのピラフ、ボールに一杯の野菜サラダ、本当に病院食かよ?
うん、うめえ(はあと)俺は貪るように喰いあっという間に全部平らげた。
うん、これなら入院生活も悪くねえなあ。
毎食、中華、日本料理、洋食、エスニックと日替わりで大量の料理が出てくる。
こりゃ入院費も高く付くんじゃと思ったけど、俺の病気は所謂難病指定でかなりの国からの補助が有るらしくそれ程でも無いと言うことだった。
入院して一週間程が過ぎた。確かにあの女医さんが言った通り、あれだけ毎食高カロリー食を取り、後はゴロゴロしているだけの生活なのに、
一向に太らず、むしろウエストの辺りの肉が落ちてパジャマのズボンがゆるゆるに成り、仕方ないので一回り小さめの短パンを穿いている。
けれど、それに反してケツの部分が贅肉でも付いて大きくなったのか何か引っかかって穿きにくい。
それに肩や腕やの筋肉が落ちてほっそりしてきた。それに対し太股は筋肉が皮下脂肪に置き換わったのかムッチリとした感じになった。
何よりも胸の辺りに贅肉が付いてきて歩く度にたぷんたぷんと揺れる、鬱陶しい事この上ない。
おまけに胸の先っぽが二回りも三廻りも大きくなって、T シャツにこすれて痛いし、たまに固く尖ったりして、
そんな時T シャツの布地と擦れると思わず背中にビクンっと電気が走ったり、変な気分になったりする。
さらに身体全体のむだ毛というかそう言ったモノが全て抜け落ちて、全体的に肌がスベスベに成ってきた。
決して太ったんじゃ無いけれど、何か身体全体がぷにぷにとした柔らかさが出てきた。
それに、あーあーあーっと、俺こんな甲高い声だったかなあ?クーラーのせいで風邪引いて喉痛めたかなあ?
それに、最近何か元気ないんだよなあ、そう、所謂男子の活力のバロメーターたる『朝立ち』が…、最近とんとご無沙汰だ。
それに目に見えてサイズ自体が小さく…、まあ元々それ程人に誇れるほどのモノじゃ無いんだが、なにか小学生か幼稚園児に戻ったような?
縮んじゃったら、ブリーフの前の穴から引っ張り出すのも大変で、ついつい個室に入って腰を下ろして用を足すことが増えてきた、なんかなあ…。
今日も食事の後何するでも無く病室でWii で遊んでいた。(特殊な病気の為隔離というか個室に入れられている)
寝ててゴロゴロしてるだけで胸の二つの大きな贅肉がぶるんぶるんとのたうつ、ああ、邪魔っ!
「やっほー!元気してる?」そこに入ってきたのが双葉姉貴。三つ上の姉貴は現在大学生、こうやって週に何回か学校帰りに寄ってくれる。
女と男、姉弟なのに不思議と昔から喧嘩しながらでも仲が良い。
「ほら、今日はキヨちゃんの好物のシュークリーム買ってきてあげたから一緒に食べよ?」
おおサンキュー!最近何故か甘いもんに目が無くて、こうして姉貴や母さんが来る度に何か甘いもんを持ってきてくれる。
「あー、おいし!やっぱり女子のエネルギー源はスイーツだよねえ?」
う、うん、まあ…って俺女子じゃ無いし!
「うふふ、最近すっかり美人さんに成ってきたわ。さすが我がいも…弟ってところね。」
何だよ?美人さんて!?そりゃ俺は昔から女顔だけど…。そういや、最近顔も何かほっそりしてきたなあ。
朝、顔を洗うとき鏡に映る俺の顔は見様によっては女の子に見えないでも無い。
「それにしても、胸、大分大きく成っちゃたわねえ。」
ああ、すっかり贅肉付いちゃって、退院したらトレーニングで引き締めないと…。未だどこか心の底で俺はアメフトを諦めきれないでいた。
「何言ってんの?そんなことしても小さく成らないわよ。はあ、それにしてもあたしより大きいんじゃない?
こっちは長年女やってきたのに何か悔しいわ。そんなに成長したんならそろそろ処置が必要ね。」
なにかさっきから姉貴の言ってることが今一理解できないんだけど、一体俺の身体どうなってんの?それに俺の病気って?
「はあ?あんた何も知らないの?お医者さんの説明あったでしょ?上の空で聞いてたの?」
まあ確かに、病状を告げられた時アメフトが続けられないショックで上の空だったかも。
「あんたの病気は『TS病』、何より中学、高校の保健の授業で聞いてるでしょう。」
えっ?ま、まさか…。
「そうよ、後天性性染色体転換病、つまりあんた女の子に成りつつあるの。」
や…、やっぱり…。
それは、アメフトを続けられないと言われたときよりショックだった。
「何言ってんの?そこ迄身体が変化しているのに未だ気付かないわけ?」
解ってたよ、自分の身体だもん。薄々気付いてはいたけれど…。
風呂に入って自分の身体を見るに付け、もう普通の男子の身体で無くなっているのには気付いていたさ、
でも、それを認めたくないって言うか現実に目を背けてたっていうか…、それと、何時か元通りの身体に成るかもって、淡い期待を…、
な、何か、涙がぽろぽろと…、ふ、ふええええん!!
「な、何泣いてるのよ?もう。」そう言うと姉貴は優しく俺を抱きしめてくれた。
ひっく、ひっく…、ひとしきり姉貴の腕の中で泣き明かした俺はようやく落ち着きを取り戻した。
「いい、成ってみると結構女も良いものよ。色々お洒落できるし、男の子に奢って貰えたりするし、何よりもこの世に新しい命を産み出すのは女じゃ無いと出来ない仕事よ。」
ええ?俺子供産めるの?
「さっき担当の女医さんに聞いたんだけど、検査結果によると貴女のお腹の中には男性の時には退化していた卵巣や子宮の元に成る器官が再び成熟して来ていて、
もうじき生理が始まれば元からの女子と何ら変わりなく赤ちゃん産めるそうよ。」
さらに、一週間が過ぎた、俺の股間にはもはや男の頃の痕跡は残っておらず、女子である証明の亀裂だけが出来上がっている。
二日前、朝妙に下腹が張るのでトイレに入ったけど便意は無く、暫くすると、赤いモノがぽたぽたと滴り落ち便器の中を真っ赤に染めた。
とうとう、覚悟を決めてたつもりだけど、いざ来てみると、俺は震える手で個室の中のナースコールを押した。
そしてその日からボクサーブリーフをやめ、サニタリーショーツっていうんだっけ?所謂生理用のパンツを穿くことに成った。
その日を境に俺の身体はより女らしく成っていった。特に髪の毛の伸びようが異様に速い、
たった三週間ほどで首筋程度の長さだった俺の髪は既に肩から背中に掛かろうかという位にまで伸びた。
鬱陶しいので切ろうかと思ったけど、母さんと姉貴の猛反対に会い、結局そのまま伸びるに任せている。
そして俺の実りに実った胸はスポーツブラでしっかりとガードされている。
又この頃から俺の担当の女医さんによるサイコセラピー(精神的治療)も行われるように成った。
最初に女医さんの経歴を聞いて驚いた。
眼鏡をかけた理知的な美人で如何にもお医者さんって感じがしてたんだけど、彼女の名は「宅田裕子」何か何処かで聞いた名前だと思ってたけど。
「最初に言っておきますけど、わたしも貴女と同じ経験をして来ているのよ。」
えっ?まさか?
「わたしはこのKY大学の卒業生、学生時代は貴女と同じ様にこの大学のアメフト部に所属していたの、QBとしてね。」
お、思い出した。当時、無敵の連勝記録を誇り、何年もの間大学王者に座り続けたKG学院大学アメフト部を当時のKY大学は国立大学というアスリートを集めるのに最も不利な条件で有りながら、名将・水谷監督の下に大型RB津島選手を始め、希代のオプションQBである宅田選手を中心にIフォーメーション、ウィッシュボーンフォーメーションからオプション、ラン攻撃で押しまくり、遂にKG学院大学のウェスタン・カンファレンス連勝記録をストップさせたのだ。
あの時の試合は覚えてる。中学生だったあの時、絶対的不利な条件の国立大の素人集団(ほとんど大学に入ってからアメフトを始めたメンバー)がアスリートの集まりである、
名門KG学院大学を210という圧倒的勝利を収めた大番狂わせを興奮しながら見ていたんだっけ、でも、結局同率優勝で大学日本一を決める甲子園ボウル出場をかけた試合でKG学院に惜敗するんだけど。
でもそれがきっかけで、同じく高校アメフト界名門のKG学院高等部を倒す為地元の県立高に進学する決心をし、日夜打倒KG学院を目標に猛練習を送る毎日、
でもスーパーRB瀬名先輩を擁しながらも後一歩の所で全国大会出場を逃し、打倒KG学院は成らなかった。
その後KY大学は国立大学として初の全国制覇を成し遂げ、更には社会人との日本一決定戦でも見事勝利しそれも二年連続でと言う偉業を成し遂げたのだ。
俺達もその偉業に追いつけとばかり、県立の進学校というアスリートを集めるのに不利な条件にも関わらず年々力を付けつつ有ったのだ。
「丁度大学アメフト部を引退して1年余り、医学部の六年生に成ってたわたしは、或る日後輩の指導の為にグラウンドに出て行ったんだけど、
その日前の日から体調が悪くって高熱も有ったにも関わらず、もう直ぐ大学リーグ戦が始まるし、そろそろ戦術面で詰めの段階に入ってたし休むわけに行かなかったので、
無理してグラウンドに出て行ったんだけど、そこで意識を失っちゃたの。その後は病院に運び込まれて後は貴女と同じ経過ね。」
それで…。
「そう、それからはわたしと同じ病気で女に成っちゃった人の為に心のケアを含め相対的な治療をする医師を志したわけ。」
そうだったんですか…。
「まあ治療たってこの病気には有効な治療法も無く、唯々女性化して行くのを栄養補給や適切な処置をしながら見守っていくだけなんだけど、
その代わりセラピストとして患者さんが完全に女性化した時の心のケアを重視してきたわ。私自身女に成った時随分悩んで一時自殺も考えた程だったもの。」
そ、そこ迄…。
「でも、大丈夫よ、見たところ貴女、私と違って脳天気というか余りくよくよ悩むタイプじゃ無いみたいだし心の切り替えが速そうだし。」
うん確かに、というか生理が来た時点で開き直ったて言うか、もうどうとでも成れって腹括ったって言うか…。
でも、正直なところこの先どう生きて行って良いのか不安な所も多々有って何か精神的に不安定で…、誰かに頼りたくって…。
「心配しないで、特に生理中は情緒不安定になり易いものよ。これから徐々に身体に心が引っ張られて行くっていうか徐々に女性らしく成っていくと思うわ。」
そうなのかなあ?でも将来女として結婚して旦那に抱かれて子供を産んで…って、何か想像するのもおぞましい。
数日後、着換え(もちろんブラにショーツ…あはは…)を持ってきていた母さんが。
「清彦。利明君と若葉ちゃんが見舞いに来たいって言ってたけどどうする?」
えっ?い、いや、その、はあ、いつかは避けて通れぬ道だよなあ。仕方ねえ遅かれ速かれ判ることだし、ありのままの自分を見て貰うしかねえや。
或る日見舞いに来た利明と同級生でチアリーダー部の『梅津若葉』の二人は俺の予想通り、目を見開き、あんぐりと口を開けたまま固まっていた。
「お、おま、お前!?」
「き、き・よ・ひ・こ…よね??」
まあ、無理ねえよなあ。
「ひゃあん!かっわいい♪」
えっ?えっ!?
「うん!マスクといいプロポーションといいおばさまや双葉さんに聞いてた以上だわ。もうこれは是非とも我がチアリダー部に入って貰わないと!!」
ちょ、ちょいまち!俺あんな短いスカート履いてぱんつ見せながら踊ったり宙返りしたりする気無いぜ。
第一お前見舞いに来たんじゃないのかよ?元気そう見にえるだろうけど俺一応病人なんだけど…。
「失礼ねえ!アレは本物のぱんつじゃなくってアンスコと言ってあくまでも『見せパン』なんだから恥ずかしくないわよ。
それに清彦は運動神経抜群なんだから、すぐにチアの色んな振り付け覚えるわよ。清彦が入ってくれたら直ぐにでもセンターポジション取れるだろうし、
おまけに清彦に憧れて入部してくる娘も増えるだろうし♪」
何だそりゃ?まるでA●B○8みたいじゃねーか。
「ところで、もう元の身体に戻る事は無いのか?」初めて利明が口を開いた。
ああ残念ながらな。この病気は男から女への一方通行、元々遺伝子的に優勢な女が劣性な男に成ることは無いらしい。
「そうか…、折角今シーズンはお前と組んでトリプルオプションに取り組もうと思ってたんだけど…、いや、すまん、俺以上にお前の方が無念だよな…。」
その利明の言葉を聞いた途端、またぽろぽろと涙が…ふ、ふええええ!
「ああ、もうっ!利明ったら、女の子泣かすんじゃないわよ!!ほら、清彦、ハンカチ。」
お、女の子言うな!
ぐすっ、ぐすっ、あ、ありがと…、何か最近妙に涙もろくなって、最近見るように成ったテレビドラマでも何か変に役柄にのめり込んで、観ながらぽろぽろ泣いてる時が多い。
ドラマなんて前まで興味なかったんだけどなあ。
「まあ好きな娘をわざと泣かしちゃうのは小学生からの男の子の常套手段だけどね。」
ふえっ!?
「お、おい何言ってんだよ!?」(赤面)
「もう利明ったらね、清彦が入院して以来まるで恋人と引き離されたみたいにしょぼくれちゃって、プレーも全然冴えなくって、
練習でも身が入らないのか監督に叱られてばっかり、このままじゃ折角手に入れたエースQBの座を奪われちゃうんじゃないかって。」
ふ、ふえええ??
「こ、こら!若葉!!余計なこと言うんじゃねーよ!」
「何よ、真っ赤に成っちゃって、うふふ、ようやく愛しの人と再会できたのに…、あっ!そうか!?あたしがここに居ちゃ邪魔だよねえ?
積もる話も色々有るだろうしい?ほんと野暮だわ、じゃあお邪魔虫は退散するわね!後は二人でごゆっくり。清彦、チア入部の件は考えておいてよね。」
言いたいこと言うと若葉の奴さっさと帰って行った。
な、な、何言ってんだ?あいつは??
その後利明と二人きり、何か気まずい沈黙が続いた。
思い切って口を開いた俺、あ、あのさ…、まあ、こんな事になっちゃんたんだけどさ、姿形は変わっちゃったけどまあ中身は俺なんだし、以前通り…。
「そうは行かないよ、やっぱり、その、お前女だから…。」
そう、おれはもう女、退院したら戸籍変更、名前も変えて、そして女子高生としての生活
が待っている。確かに今まで通りの関係は難しいのかも知れない。
でも、でも、俺はもう少し、アメフト部の側に居たいんだ!そして、何よりも利明を支えてやりたい、だから…。その時、突然病室のドアが!?
「やった!!これで決まりね!アメフト部にいつもくっついてるなんて、我がチアリダー部以外無いじゃん!清香!入部大歓迎よ!!」
お、おまっ!若葉、帰ったんじゃねえのかよ?清香って一体何だあ??そ、それに姉貴まで?
「あらあら、利明君、ご無沙汰ねえ。ふつつかな妹ですけれどこれからも末永くお願いね。あっ、そうそう実は家族会議で貴女の女の子としての名前が決まったから、
『松田清香』良い名前でしょう?清香ちゃん。」
姉貴何だよその言い方はっ!?まるで、俺が利明に嫁入りするみたいな言い方じゃねえかあ!!(赤面)
「うふふ、これから同僚として宜しくね!き・よ・か!」
き、清香言うなあ!!
こうして運命に翻弄された俺の新たな人生が始まるのだが、それは又別のお話…。
(完)
こう言って思い切り伸びをする。全く良い天気だ、外はすっかり春めいてきてぽかぽかと暖かい。
うんっ!今日もすこぶる快調!!健康なのに寝てばっかりじゃ身体が鈍っちまうぜ。
俺が今居るのは国立KY大医学部の付属病院、その屋上、俺はここの入院患者だ。
健康なのに、入院って?ああ正確に言うと俺ある病気にかかってるみたいなんだけどね、
未だ入院して二日目だし、今の所症状が出ていないので、自分では健康なつもりなんだけどね。
「清彦!ここに居たの?そろそろ診察の時間よ。」ああ、母さん直ぐ行くよ。
俺の名は「松田清彦」地元の県立高校の二年生、アメリカンフットボール部に所属していて、
一応RB(ランニング・バック)やってる。所謂ボールを持って相手陣地に走り込み得点する、
目立つ花形ポジションだ。
小学校の頃から柄は小さいけど(高二の今で164cm)、すばしっこかった俺は走りなら誰にも負けなかった。
中学の頃からタッチフットボールを始め、高校に入って、直ぐさまアメフト部の門を叩いた。
ただ、当時のエースRBに瀬名先輩という、全国高校のラン獲得ヤードの新記録を作ったスーパーランナーが居た。
瀬名先輩はアメリカの伝説的RB『アイシールド21』になぞらえて、その背番号から『アイシールド36(ThirtySix)』と呼ばれ、
その背番号『36』は我が部エースRBの番号と成った。
その瀬名先輩が居た為、俺は控えに甘んじ、
偶にパントリターナーか大量点差の後の交代要員として駆り出される程度だった。
それでも、他の1.2年生には負ける気がしなかった俺はこの春、瀬名先輩の卒業と共に新三年生を差し置いて、
新二年生の俺がエースRBに指名され、栄光の『36』を引き継いだ。
と、同時に、俺の同期で有り、親友『大社(おおこそ)利明』もエースQB(クォーターバック・司令塔)に指名された。
友達として言うのも何だが、こいつのパスの正確さ、プレーコールの的確さなら当然のことだと思われる。
また何時も沈着冷静で、ともすれば熱く成りやすい俺にとって大切な相棒である。
こうして二年生コンビが誕生し、新たなチームとして出発する最初の練習日で練習中俺は意識不明になり病院へ運ばれた。
実はその日、前々日から体調が優れず、風邪でも引いたのか熱が40度を超え、節々が痛くてとても練習に参加できる状態じゃ無かったが、
新チームとして初練習の日だった為、無理して参加したのが祟った。
目が覚めると病院のベッドの上だった。白衣を着た女医さんとお袋、双葉姉貴の二人が俺を覗き込んでいた。
なんだ?お医者さんはともかく、母さんも姉貴も大して心配した顔してねえなあ?と言うか、何か興味津々といった顔だぜ?
目が覚めると女医さんが簡単な説明をしてくれた。
未だ断言は出来ないけれどと、前置きをして、まず命に関わるような病気では無いが、風邪のようなモノでは無くもっと特殊な病気だということ、
ある意味に於いては深刻な病気で回復後はしっかりとした精神的ケアが必要だということ、そのセラピストは女医さん自身が受け持つということ、
これから身体的に変化が始まるけれど、それを現実としてしっかり受け止めて欲しいということ。
な、何だか大変な病気にかかったみたいじゃねーか?俺どうなるんだろ?なんかてぃーえす熱がどうのこうのって言ってたけど何の事だろう?
それに身体的変化って?
へへっ!ひょっとして身体が大きくなるのかな?180cm位のマッチョな身体で、相手ラインを弾き飛ばしてタッチダウンを奪う、大型RB松田君!なんちって。
更に女医さんの説明は続く。
「えーっと、松田君、これから毎日朝昼晩と三食かなりの量の高カロリー食が出ますけれど、しっかりと摂取して下さいね。貴方の身体を支える為の必要な栄養分ですから。」
まあ、俺は元々スポーツもやってるしそれなりの大食漢って自負もあるけれど、そんなに毎日喰っちゃ寝喰っちゃ寝してたら太らないんですか?
「その点は大丈夫、むしろ身体の変化に対応するにはこれ位の栄養が必要なの。
芋虫が美しい蝶に変身する前段階のサナギに成るときたっぷりと栄養を取る様にね。
ああ、心配しないで、むしろ体重はどんどん減っていく傾向にあると思うわ。」
ええっ?てことは当然筋肉の量も…。
「そうね、筋肉量が減って皮下脂肪に置き換わって行くでしょう。それと骨格も幾分変化して行きます。」
それじゃ、スポーツマンとして致命的…。
「御免なさい、松田君、もう少し説明すると、今後貴方は所謂男性のみが行う様な激しいスポーツは無理な身体に成ります。
まあきょうび、男女共出来るスポーツは増えてきましたから。」
はあ?何か意味がわかんね…、それより女医さんの説明に俺は目の前が真っ暗に…。
折角エースRBとして新チームの門出だったのに…。
そしてその日の夕食、元々気持ちの切り替えの速い俺は献立を見て驚き、ふさぎ込んでいた気持ちが吹っ飛んだ。
うわっ!すげっ!何これ!?如何にもガッツリ系の肉料理、大盛りのパスタ、ピザ、てんこ盛りのピラフ、ボールに一杯の野菜サラダ、本当に病院食かよ?
うん、うめえ(はあと)俺は貪るように喰いあっという間に全部平らげた。
うん、これなら入院生活も悪くねえなあ。
毎食、中華、日本料理、洋食、エスニックと日替わりで大量の料理が出てくる。
こりゃ入院費も高く付くんじゃと思ったけど、俺の病気は所謂難病指定でかなりの国からの補助が有るらしくそれ程でも無いと言うことだった。
入院して一週間程が過ぎた。確かにあの女医さんが言った通り、あれだけ毎食高カロリー食を取り、後はゴロゴロしているだけの生活なのに、
一向に太らず、むしろウエストの辺りの肉が落ちてパジャマのズボンがゆるゆるに成り、仕方ないので一回り小さめの短パンを穿いている。
けれど、それに反してケツの部分が贅肉でも付いて大きくなったのか何か引っかかって穿きにくい。
それに肩や腕やの筋肉が落ちてほっそりしてきた。それに対し太股は筋肉が皮下脂肪に置き換わったのかムッチリとした感じになった。
何よりも胸の辺りに贅肉が付いてきて歩く度にたぷんたぷんと揺れる、鬱陶しい事この上ない。
おまけに胸の先っぽが二回りも三廻りも大きくなって、T シャツにこすれて痛いし、たまに固く尖ったりして、
そんな時T シャツの布地と擦れると思わず背中にビクンっと電気が走ったり、変な気分になったりする。
さらに身体全体のむだ毛というかそう言ったモノが全て抜け落ちて、全体的に肌がスベスベに成ってきた。
決して太ったんじゃ無いけれど、何か身体全体がぷにぷにとした柔らかさが出てきた。
それに、あーあーあーっと、俺こんな甲高い声だったかなあ?クーラーのせいで風邪引いて喉痛めたかなあ?
それに、最近何か元気ないんだよなあ、そう、所謂男子の活力のバロメーターたる『朝立ち』が…、最近とんとご無沙汰だ。
それに目に見えてサイズ自体が小さく…、まあ元々それ程人に誇れるほどのモノじゃ無いんだが、なにか小学生か幼稚園児に戻ったような?
縮んじゃったら、ブリーフの前の穴から引っ張り出すのも大変で、ついつい個室に入って腰を下ろして用を足すことが増えてきた、なんかなあ…。
今日も食事の後何するでも無く病室でWii で遊んでいた。(特殊な病気の為隔離というか個室に入れられている)
寝ててゴロゴロしてるだけで胸の二つの大きな贅肉がぶるんぶるんとのたうつ、ああ、邪魔っ!
「やっほー!元気してる?」そこに入ってきたのが双葉姉貴。三つ上の姉貴は現在大学生、こうやって週に何回か学校帰りに寄ってくれる。
女と男、姉弟なのに不思議と昔から喧嘩しながらでも仲が良い。
「ほら、今日はキヨちゃんの好物のシュークリーム買ってきてあげたから一緒に食べよ?」
おおサンキュー!最近何故か甘いもんに目が無くて、こうして姉貴や母さんが来る度に何か甘いもんを持ってきてくれる。
「あー、おいし!やっぱり女子のエネルギー源はスイーツだよねえ?」
う、うん、まあ…って俺女子じゃ無いし!
「うふふ、最近すっかり美人さんに成ってきたわ。さすが我がいも…弟ってところね。」
何だよ?美人さんて!?そりゃ俺は昔から女顔だけど…。そういや、最近顔も何かほっそりしてきたなあ。
朝、顔を洗うとき鏡に映る俺の顔は見様によっては女の子に見えないでも無い。
「それにしても、胸、大分大きく成っちゃたわねえ。」
ああ、すっかり贅肉付いちゃって、退院したらトレーニングで引き締めないと…。未だどこか心の底で俺はアメフトを諦めきれないでいた。
「何言ってんの?そんなことしても小さく成らないわよ。はあ、それにしてもあたしより大きいんじゃない?
こっちは長年女やってきたのに何か悔しいわ。そんなに成長したんならそろそろ処置が必要ね。」
なにかさっきから姉貴の言ってることが今一理解できないんだけど、一体俺の身体どうなってんの?それに俺の病気って?
「はあ?あんた何も知らないの?お医者さんの説明あったでしょ?上の空で聞いてたの?」
まあ確かに、病状を告げられた時アメフトが続けられないショックで上の空だったかも。
「あんたの病気は『TS病』、何より中学、高校の保健の授業で聞いてるでしょう。」
えっ?ま、まさか…。
「そうよ、後天性性染色体転換病、つまりあんた女の子に成りつつあるの。」
や…、やっぱり…。
それは、アメフトを続けられないと言われたときよりショックだった。
「何言ってんの?そこ迄身体が変化しているのに未だ気付かないわけ?」
解ってたよ、自分の身体だもん。薄々気付いてはいたけれど…。
風呂に入って自分の身体を見るに付け、もう普通の男子の身体で無くなっているのには気付いていたさ、
でも、それを認めたくないって言うか現実に目を背けてたっていうか…、それと、何時か元通りの身体に成るかもって、淡い期待を…、
な、何か、涙がぽろぽろと…、ふ、ふええええん!!
「な、何泣いてるのよ?もう。」そう言うと姉貴は優しく俺を抱きしめてくれた。
ひっく、ひっく…、ひとしきり姉貴の腕の中で泣き明かした俺はようやく落ち着きを取り戻した。
「いい、成ってみると結構女も良いものよ。色々お洒落できるし、男の子に奢って貰えたりするし、何よりもこの世に新しい命を産み出すのは女じゃ無いと出来ない仕事よ。」
ええ?俺子供産めるの?
「さっき担当の女医さんに聞いたんだけど、検査結果によると貴女のお腹の中には男性の時には退化していた卵巣や子宮の元に成る器官が再び成熟して来ていて、
もうじき生理が始まれば元からの女子と何ら変わりなく赤ちゃん産めるそうよ。」
さらに、一週間が過ぎた、俺の股間にはもはや男の頃の痕跡は残っておらず、女子である証明の亀裂だけが出来上がっている。
二日前、朝妙に下腹が張るのでトイレに入ったけど便意は無く、暫くすると、赤いモノがぽたぽたと滴り落ち便器の中を真っ赤に染めた。
とうとう、覚悟を決めてたつもりだけど、いざ来てみると、俺は震える手で個室の中のナースコールを押した。
そしてその日からボクサーブリーフをやめ、サニタリーショーツっていうんだっけ?所謂生理用のパンツを穿くことに成った。
その日を境に俺の身体はより女らしく成っていった。特に髪の毛の伸びようが異様に速い、
たった三週間ほどで首筋程度の長さだった俺の髪は既に肩から背中に掛かろうかという位にまで伸びた。
鬱陶しいので切ろうかと思ったけど、母さんと姉貴の猛反対に会い、結局そのまま伸びるに任せている。
そして俺の実りに実った胸はスポーツブラでしっかりとガードされている。
又この頃から俺の担当の女医さんによるサイコセラピー(精神的治療)も行われるように成った。
最初に女医さんの経歴を聞いて驚いた。
眼鏡をかけた理知的な美人で如何にもお医者さんって感じがしてたんだけど、彼女の名は「宅田裕子」何か何処かで聞いた名前だと思ってたけど。
「最初に言っておきますけど、わたしも貴女と同じ経験をして来ているのよ。」
えっ?まさか?
「わたしはこのKY大学の卒業生、学生時代は貴女と同じ様にこの大学のアメフト部に所属していたの、QBとしてね。」
お、思い出した。当時、無敵の連勝記録を誇り、何年もの間大学王者に座り続けたKG学院大学アメフト部を当時のKY大学は国立大学というアスリートを集めるのに最も不利な条件で有りながら、名将・水谷監督の下に大型RB津島選手を始め、希代のオプションQBである宅田選手を中心にIフォーメーション、ウィッシュボーンフォーメーションからオプション、ラン攻撃で押しまくり、遂にKG学院大学のウェスタン・カンファレンス連勝記録をストップさせたのだ。
あの時の試合は覚えてる。中学生だったあの時、絶対的不利な条件の国立大の素人集団(ほとんど大学に入ってからアメフトを始めたメンバー)がアスリートの集まりである、
名門KG学院大学を210という圧倒的勝利を収めた大番狂わせを興奮しながら見ていたんだっけ、でも、結局同率優勝で大学日本一を決める甲子園ボウル出場をかけた試合でKG学院に惜敗するんだけど。
でもそれがきっかけで、同じく高校アメフト界名門のKG学院高等部を倒す為地元の県立高に進学する決心をし、日夜打倒KG学院を目標に猛練習を送る毎日、
でもスーパーRB瀬名先輩を擁しながらも後一歩の所で全国大会出場を逃し、打倒KG学院は成らなかった。
その後KY大学は国立大学として初の全国制覇を成し遂げ、更には社会人との日本一決定戦でも見事勝利しそれも二年連続でと言う偉業を成し遂げたのだ。
俺達もその偉業に追いつけとばかり、県立の進学校というアスリートを集めるのに不利な条件にも関わらず年々力を付けつつ有ったのだ。
「丁度大学アメフト部を引退して1年余り、医学部の六年生に成ってたわたしは、或る日後輩の指導の為にグラウンドに出て行ったんだけど、
その日前の日から体調が悪くって高熱も有ったにも関わらず、もう直ぐ大学リーグ戦が始まるし、そろそろ戦術面で詰めの段階に入ってたし休むわけに行かなかったので、
無理してグラウンドに出て行ったんだけど、そこで意識を失っちゃたの。その後は病院に運び込まれて後は貴女と同じ経過ね。」
それで…。
「そう、それからはわたしと同じ病気で女に成っちゃった人の為に心のケアを含め相対的な治療をする医師を志したわけ。」
そうだったんですか…。
「まあ治療たってこの病気には有効な治療法も無く、唯々女性化して行くのを栄養補給や適切な処置をしながら見守っていくだけなんだけど、
その代わりセラピストとして患者さんが完全に女性化した時の心のケアを重視してきたわ。私自身女に成った時随分悩んで一時自殺も考えた程だったもの。」
そ、そこ迄…。
「でも、大丈夫よ、見たところ貴女、私と違って脳天気というか余りくよくよ悩むタイプじゃ無いみたいだし心の切り替えが速そうだし。」
うん確かに、というか生理が来た時点で開き直ったて言うか、もうどうとでも成れって腹括ったって言うか…。
でも、正直なところこの先どう生きて行って良いのか不安な所も多々有って何か精神的に不安定で…、誰かに頼りたくって…。
「心配しないで、特に生理中は情緒不安定になり易いものよ。これから徐々に身体に心が引っ張られて行くっていうか徐々に女性らしく成っていくと思うわ。」
そうなのかなあ?でも将来女として結婚して旦那に抱かれて子供を産んで…って、何か想像するのもおぞましい。
数日後、着換え(もちろんブラにショーツ…あはは…)を持ってきていた母さんが。
「清彦。利明君と若葉ちゃんが見舞いに来たいって言ってたけどどうする?」
えっ?い、いや、その、はあ、いつかは避けて通れぬ道だよなあ。仕方ねえ遅かれ速かれ判ることだし、ありのままの自分を見て貰うしかねえや。
或る日見舞いに来た利明と同級生でチアリーダー部の『梅津若葉』の二人は俺の予想通り、目を見開き、あんぐりと口を開けたまま固まっていた。
「お、おま、お前!?」
「き、き・よ・ひ・こ…よね??」
まあ、無理ねえよなあ。
「ひゃあん!かっわいい♪」
えっ?えっ!?
「うん!マスクといいプロポーションといいおばさまや双葉さんに聞いてた以上だわ。もうこれは是非とも我がチアリダー部に入って貰わないと!!」
ちょ、ちょいまち!俺あんな短いスカート履いてぱんつ見せながら踊ったり宙返りしたりする気無いぜ。
第一お前見舞いに来たんじゃないのかよ?元気そう見にえるだろうけど俺一応病人なんだけど…。
「失礼ねえ!アレは本物のぱんつじゃなくってアンスコと言ってあくまでも『見せパン』なんだから恥ずかしくないわよ。
それに清彦は運動神経抜群なんだから、すぐにチアの色んな振り付け覚えるわよ。清彦が入ってくれたら直ぐにでもセンターポジション取れるだろうし、
おまけに清彦に憧れて入部してくる娘も増えるだろうし♪」
何だそりゃ?まるでA●B○8みたいじゃねーか。
「ところで、もう元の身体に戻る事は無いのか?」初めて利明が口を開いた。
ああ残念ながらな。この病気は男から女への一方通行、元々遺伝子的に優勢な女が劣性な男に成ることは無いらしい。
「そうか…、折角今シーズンはお前と組んでトリプルオプションに取り組もうと思ってたんだけど…、いや、すまん、俺以上にお前の方が無念だよな…。」
その利明の言葉を聞いた途端、またぽろぽろと涙が…ふ、ふええええ!
「ああ、もうっ!利明ったら、女の子泣かすんじゃないわよ!!ほら、清彦、ハンカチ。」
お、女の子言うな!
ぐすっ、ぐすっ、あ、ありがと…、何か最近妙に涙もろくなって、最近見るように成ったテレビドラマでも何か変に役柄にのめり込んで、観ながらぽろぽろ泣いてる時が多い。
ドラマなんて前まで興味なかったんだけどなあ。
「まあ好きな娘をわざと泣かしちゃうのは小学生からの男の子の常套手段だけどね。」
ふえっ!?
「お、おい何言ってんだよ!?」(赤面)
「もう利明ったらね、清彦が入院して以来まるで恋人と引き離されたみたいにしょぼくれちゃって、プレーも全然冴えなくって、
練習でも身が入らないのか監督に叱られてばっかり、このままじゃ折角手に入れたエースQBの座を奪われちゃうんじゃないかって。」
ふ、ふえええ??
「こ、こら!若葉!!余計なこと言うんじゃねーよ!」
「何よ、真っ赤に成っちゃって、うふふ、ようやく愛しの人と再会できたのに…、あっ!そうか!?あたしがここに居ちゃ邪魔だよねえ?
積もる話も色々有るだろうしい?ほんと野暮だわ、じゃあお邪魔虫は退散するわね!後は二人でごゆっくり。清彦、チア入部の件は考えておいてよね。」
言いたいこと言うと若葉の奴さっさと帰って行った。
な、な、何言ってんだ?あいつは??
その後利明と二人きり、何か気まずい沈黙が続いた。
思い切って口を開いた俺、あ、あのさ…、まあ、こんな事になっちゃんたんだけどさ、姿形は変わっちゃったけどまあ中身は俺なんだし、以前通り…。
「そうは行かないよ、やっぱり、その、お前女だから…。」
そう、おれはもう女、退院したら戸籍変更、名前も変えて、そして女子高生としての生活
が待っている。確かに今まで通りの関係は難しいのかも知れない。
でも、でも、俺はもう少し、アメフト部の側に居たいんだ!そして、何よりも利明を支えてやりたい、だから…。その時、突然病室のドアが!?
「やった!!これで決まりね!アメフト部にいつもくっついてるなんて、我がチアリダー部以外無いじゃん!清香!入部大歓迎よ!!」
お、おまっ!若葉、帰ったんじゃねえのかよ?清香って一体何だあ??そ、それに姉貴まで?
「あらあら、利明君、ご無沙汰ねえ。ふつつかな妹ですけれどこれからも末永くお願いね。あっ、そうそう実は家族会議で貴女の女の子としての名前が決まったから、
『松田清香』良い名前でしょう?清香ちゃん。」
姉貴何だよその言い方はっ!?まるで、俺が利明に嫁入りするみたいな言い方じゃねえかあ!!(赤面)
「うふふ、これから同僚として宜しくね!き・よ・か!」
き、清香言うなあ!!
こうして運命に翻弄された俺の新たな人生が始まるのだが、それは又別のお話…。
(完)
アメフトを続けるのにも何の問題もないな
「ノーサイド」「問題ないね!?ヒデユキくん」で
女になってもラグビーを続ける話をやってるから
何でアメフト辞めなけりればならないの?と馬鹿馬鹿しくなってくる