「いっちにー! いちにー!」
「ようやく身体を別々に動かすのにも慣れてきたなぁ」
2人の少女が仲良く話しをしている。
茶髪でどこかボーイッシュな顔立ちの少女が双葉。
ツーテールでチェックのスカートの少女が若葉。
だが、2人の身体は今、清彦という男が操っていた。
◇
清彦は三十路に達したサラリーマン。
ブラックすれすれのグレー企業に勤め、彼女いない歴=全生涯、という寂しい男だ。
そんな彼がある日事故に巻き込まれた。
正確には、交通事故に遭いそうだったオッサンを身を挺して助けたのだ。
そして、その代わりに清彦は自動車に轢かれ、意識を失った……。
◇
……清彦が意識を取り戻すと、古びた屋敷にいた。
正確には後でそこが古びた屋敷だと知ったのである。
最初はぼーっとしていた清彦だったが、だんだん意識がはっきりするとともに、言いしれぬ違和感を覚えていた。
自分は冴えない小太りのオッサンだったはずだ。
だが、見おろす自分の身体はもっと小ぶりで……。
まるで少女の手脚のようだ。
そして……なんと言っても……。
自分の身体の中心にあり、人生を共にしてきた、男性自身。
あれがないのだ!
ありったけの空気を肺から出し、叫ぶ清彦。
その声で清彦にいる部屋のドアを開けたのは……。
とんでもなく色っぽい美女だった!
「ああ、よかった。やっと目覚めたのね!?」
喜んで清彦に抱きつく美女。
だが清彦には彼女に見覚えはない。
こんな美女、一度会ったら忘れるはずがないが……。
「ああ、ごめんなさい。すっかり興奮して」
美女はそう言うと、手元の何か……。
スマートフォンのようなものを操作した。
一瞬の閃光!
まぶしさに目がくらんだ清彦。
改めて見てみると、美女の姿はなく、清彦が助けたオッサンがそこにいた!
清彦もオッサンだが、目の前の彼の方が年齢は高い。
恐らく50歳程度だろう。
それに同じオッサンでも、金持ちオーラというか、貫禄のようなものがある。
その貫禄のあるオッサンは清彦に言った。
「ありがとう。君は命の恩人だ」
清彦の目の前のオッサンはゆっくりと、だがしっかりと経緯を説明してくれた。
そのオッサンの正体は、実は地球を調査しに来た宇宙人であること。
あのスマートフォンのような機械を使って、地球人に変装していたこと。
調査を終えて地球を離れようとしていた矢先、あの事故に遭ったこと。
「残念だが、君の身体は助からなかった。
お詫びにもならないが、君にこの端末と、
地球研究ように使った身体をあげよう」
オッサン、いや宇宙人はそう言った。
先ほどの美女の身体も含め、宇宙人は複数の身体を使い地球を観察していた。
今清彦が使用している身体も、そのひとつなのだという。
こうして清彦は携帯端末で切り替えられる、複数の身体と、宇宙人が残してくれた使い切れないほどの現金を受け継ぐことになった。
最初のうちは事実上の自分の死に落ち込んだ。
だが、清彦の精神が徐々に回復すると共に、自分が凄まじく面白い状況にいることを理解した。
清彦は第2の人生を生きる決意をし、様々なことを試し始めた。
◇
ふたつの身体を一度に動かしてみるというのもその試みのひとつだ。
その他、老若男女を問わず無数にある身体を少しずつ試してもいる。
それぞれの身体には、特技のようなものがあり、例えばコックの服を着た身体だと、料理の腕前が上がったりする。
また、切り替えは携帯端末(驚いたことに通常のスマフォ機能付き)で、身体ごとに設定されたアイコンを押し、その後表示されるメッセージのOKを選択するだけだ。
さて、そろそろ外に出て色々面白いことをしよう。
清彦はそう思った。
そのための身体は……。
◆ ◇ ◆
若葉にしよう。
ツーテールにスカートというじつに女の子らしい身体は、車に轢かれた清彦が目覚めたときの身体だ。
他の身体より思い入れが強いこともあるし、冴えないオッサンだった自分が、可愛い少女の姿で出歩くこと自体を楽しみたい。
そう決意した清彦はスマホを操作し、双葉と若葉、2体同時操作していた身体を若葉だけに切り替える。
さて、最初はどこに行こうか?
普通であれば、清彦が死んだことにより心配しているであろう家族の様子を見に行くところだが、幸か不幸か清彦は独身に加え、両親共に先立たれた天涯孤独の身だ。
自分が亡くなったあと、住んでいた家がどうなってるか気になるし、ブラック風味といえ、勤めていた会社も見ておきたい。
「うふっ。さて、どっちを見に行こうかしら」
いまの自分は清彦というオッサンではなく、若葉という美少女だ。
あるいはその2か所ではなく、まったく別の場所を若葉として楽しむのもありかもしれない。
清彦は社会人の中年男性という重圧やしがらみから解放された軽い足取りで、新たな拠点となった古い屋敷を後にした。
◇
歩き始めてすぐ、
「若葉さん!」
背後から誰かに呼ばれて振り返ると、いつの間に現れたのか美形の少年が立っていた。
「連休で学校が休みだから、ずっと会えなくて寂しかったよ」
「え? ええと……あの……」
戸惑う清彦の脳内に、ある情報が瞬時にインストールされる。
宇宙人から貰った体のうち何体かは、『家族』という設定で仕事をしたり学校に行ったりと実生活を営んでいること。
『家族』の設定を与えられた体は、自我や意識がないものの、与えられた立場に沿って日々を過ごしているということ。
清彦が『家族』の体に入り込んだ際、その体で行動していた直前までの記憶がインストールされ、違和感なく引き継ぎやなりすましを行えること。
(その際、どういう仕組みか分からないが、肉体切り替え用のスマホ端末も清彦の精神と一緒に付いてくる)
ちなみに今の肉体である若葉と、さっきまで2体操作を練習していた双葉も『家族』の肉体だ。
若葉は共学の高校に通っており、目の前の少年と男女交際をしている(経験はキスまで)らしく、双葉は女子校に通っていて女の子の恋人がいる(肉体関係済み)らしい。
さて、どうするか?
このまま若葉として、この少年の恋人を演じるか、
双葉に身体を乗り変えて、可愛い女の子の恋人とレズレズ百合百合な体験をするか。
それとも全く別の身体に魂を飛ばし、改めて探索をやりなおすか。
清彦が選んだのは……。
◇
「2人同時起動だ!」
清彦は端末を操作し、若葉ともう1人のチェックボックスをタップした。
「実行しますか?」という問に「OK」と返す。
一瞬の閃光。
するとそこには若葉の他にもう1人、スラリとした長身の知的美女(爆乳)がいた。
彼女の名は太刀葉。
双葉や若葉の姉という設定だ。
今日は元の自宅の他、元勤め先に行って私物を回収するつもりだった。
そのときには大人である太刀葉の身体の方が都合がいい。
「あれ? 太刀葉さん? いつからそこに!?」
驚く少年(若葉の恋人)を、大人の色気混じりのウィンク一発で黙らせると、太刀葉の身体はその場を離れた。
一方、若葉の身体は……。
「今、お姉ちゃんに見とれてたでしょ!?」
と頬を膨らませて少年を問い詰める。
怒っているわけではないが、これで色々おねだりしやすくなる。
さて、何をおねだりしようかな?
敏明君は必死に「太刀葉さんよりも若葉ちゃんの方が・・・」とか弁解している。
ふふっ、いいわよ。許してあげる
今はなりきりモードだ。
この若葉の身体に合わせた感情・思考モードになっているので彼氏である【敏明くん】と一緒にいる事で心がトキメキ身体も軽い興奮状態にある。
言葉使いも自然と若葉である言葉使いになるので女言葉を意識しなくても大丈夫。
もちろん任意で 【清彦の心で若葉の身体と記憶を持つ】状態にいつでも切り替えられる。
今の本人なりきりモードならお風呂で裸になっても自分の身体に興奮したり欲情したりしない。普通にお風呂の気持ち良さを楽しむだけだ。
清彦モードになれば美少女になった自分を存分に楽しめるが。
さて、私になって敏明君とのデートを楽しみながら欲しかった品物を見事にゲットして喜んでいると、自宅と職場に清彦の荷物を回収させるという思考ルーチンで行動している太刀葉姉ちゃんがアパートに到着した。
大家さんに挨拶して、鍵を開けて貰ったがこのまま任せておくか、身体を切り替えるか?
◇
清彦のアパートの鍵を開けてもらい、太刀葉は大家さんに頭を下げた。
オッパイが「プルン」と揺れる。
もう老人といってよい年齢の大家さんは、それを見て鼻の下を伸ばす。
男って悲しいわねぇ。
そんな感想を抱きながら、私=太刀葉は、精神のモードを俺=清彦に切り替える。
今日アパートに戻ってきたのは、私物の回収のためだ。
清彦の遺産、まあ、他人から見ればゴミの山は、遠い親戚に所有権が移っていた。
そのゴミを「金ならあるぞ!」モードで購入し、一切合財を俺の住む洋館に引き取ることになった。
ほとんどの荷物は引っ越し業者に頼んだが、一部貴重品、および他人には見せられないエロエロなあんなものやこんなものを回収しないといけない。
俺は太刀葉のバッグにどんどんしまっていった。
どう考えても小さなバッグに入りきらない容量が、バッグの口より大きい品物も含めて収まっていく。
宇宙人すげー。
鍵を返して挨拶をすますと、しきりに茶を薦める大家に手を振り、俺はアパートを離れた。
さて、若葉の方はどうなってるかな?
◇
「なんだ」
「やだぁ♪ もう敏明くんったら 」
若葉ちゃんの身体に意識を移すと、先程買い物したお店から近くの喫茶店に移動して敏明君はアイスコーヒーを、若葉ちゃんはアイスレモンティーを注文しシロノワールを仲良く分けて食べながらおしゃべりしていた。
俺が太刀葉ちゃんから若葉ちゃんになった瞬間に、お店からここまでの歩いてきたルートやその間の会話等、俺が太刀葉ちゃんになっていた間の全ての記憶やその時の感情や体験が一瞬でインストールされ
御覧の通り会話の途中で俺が私になっても全く戸惑う事なく引き継げる。
ふふ♪ 敏明くんはたった今私の中身がオジサンだった清彦に替わった事に気付いてないわね。
ああ、この好きな人と一緒にいる幸せな気持ち、清彦の時は体験できなかったけどこんなに嬉しいものなのね
次のデートで捧げてもいいかな?
・・・きゃ
敏明君と私がSEXする様子を想像し、私は顔を真っ赤にする。
この若葉ちゃんをはじめとするあの屋敷に住む主要家族の身体は地球人の身体を完璧に再現している。
そして若葉ちゃんや双葉ちゃん、太刀葉ちゃんは研究の一環として地球人との恋愛や生殖行為を行い出産、子育てして地球人として子孫を残す事までを目的としたモデルだ。
この娘たち自身には自我は無いが、若い人間の女性として恋愛感情を宇宙人はそのテクノロジーで数値化し数億以上のサンプルから設定された通りに反応(表情や態度、言葉等)する。
今は人間である俺の魂というか意識体が若葉ちゃんになっている為に、俺の感情に若葉ちゃんの反応プログラムみたいなモノが同調した為にこの感情が生まれているのだろう。
男の清彦の感覚だと少年と抱き合うなんてごめんだが、若葉ちゃんモードだとそれが楽しみでしょうがない。
面白いなぁ ♪
◇
……若葉の方は問題ないようだ。
太刀葉の私は自分の身体に意識を戻した。
これから清彦の元職場に行くわけだが、少々気が重いのだ。
それというのも……。
「いやあ、太刀葉さんいらっしゃい!」
会社のオフィスに入るなり、馴れ馴れしく太刀葉の肩を抱いてくる男。
名前をギュンターという。
欧州系のハーフで、見た目は白人である。
しかし、野球が大好きで日本語しか使えない、がっかり外国人なのだ。
以前、「交通事故で死の直前まで至り」、「今後も回復の見込みはなく」、「身体的状況により業務復帰は無理」、という清彦の状況を伝え、退職の手続きをするため、太刀葉の身体でこの会社に来たことがある。
そのときにギュンターに目をつけられた。
初対面だというのに 馴れ馴れしく身体に触ってくるし、デートにまで誘ってくる。
清彦としてはできれば顔をあわせたくない相手だ。
では、太刀葉としてはどうか?
正直困惑している。
ベタベタ触られるのは不快だが、懸命に私を口説いてくることには、密かに優越感を覚えてもいる。
ただまあ、セックスの相手としては……。
(ないわ)
と正直に思う。
適当にあしらって、家に帰ろう。
太刀葉の清彦は、目の前のギュンターに愛想笑いを浮かべつつ、内心でそんなことを考えていた。
余計なことを考えていたせいかも知れない。
太刀葉は自分の後を付ける人影に気づかなかった。
◇
双葉のスマフォに太刀葉からのアラートが届いたのは、敏明とキスをしている最中だった。
(ああん! せっかくいいムードなのにぃ)
内心で愚痴りながら、意識を太刀葉の方に 向けようとする。
…………。
反応がない……。
そして自分も今ある種のピンチに陥っていることがわかった。
若葉の身体が敏明に押し倒されていたのだ。
場所は人気のない海辺の公園。
このままだと敏明はいくところまでいくだろう。
さてどうしよう?
元々敏明と恋愛関係から生殖行為を行う事を前提とした若葉の身体。
若葉の身体が初潮を迎え人間として子を産む事ができる女の身体になった時に
事前の調査でこの地域に住む同年代の男児で遺伝子レベルでの最適者が敏明だった。
そして高校で二人は出会い、宇宙人の観察システムの支援の元、敏明の方から告白させることに成功して2人は順調に恋人同士となり関係をゆっくりとだが進展させてきた。
だから敏明と今こう言う状態になっている事も全く問題は無い。
今ここで清彦が抜けても若葉の身体は敏明を受け入れ涙を流しながら喜ぶ(反応を見せる)だろう。
せっかくだからこの可愛らしい少女として初めてで、男としては一生体験する事が無い経験を楽しみたいと思っていたが
太刀葉の身体に異常事態が発生したとすればそうもやっていられない!
どうせ後で若葉ちゃんになれば、まるで自身が体験したかのように鮮明な記憶と体験を得られるのだ。
俺は太刀葉の身体の中に跳んだ。
◇
太刀葉になった瞬間私は身動きが取れずにいた!
拘束され目隠しをされているらしい。
太刀葉の記憶でもどうなったかわからない。
俺の在籍していた会社からの帰り道、突然後ろから来た車に連れ込まれ薬を嗅がされたらしい。
太刀葉の身体は基本地球人と一緒だ。
外見や知能などは高められているが、あくまで地球観察用生体ユニットに過ぎない。
特殊能力は付与されていないのだ。
万が一必要となればその能力を持った身体をダウンロードさせればよいのだから。
だが今はその携帯端末が手元にない。
気を失っている間に既に車から降ろされ、今はどこかの部屋に監禁されているようだが?
自宅に戻って逆探知システムで太刀葉の端末から監禁されている建物や部屋、実行犯とその一味、さらに攫った目的を調べらて突入か、またはこの国の司法機関である警察に知らせて逮捕させるべきか?
本来であれば、スマホ型端末は俺の意識と一緒に付いてくる。
しかしいまは若葉と太刀葉の2体同時操作をしている最中だ。
若葉と太刀葉間での意識移動には端末を必要としないが、それ以外の肉体を使うには、端末を操作する必要がある。
そして、いま端末の所有権は若葉にある。
つまり太刀葉の体では、何もできないということ。
ならば俺が太刀葉としてできることは、状況の把握しかない。
それよりなら一度若葉に戻り、そこから端末を操作して自宅にある他の肉体を動かして……。
そう考えていた矢先。
「太刀葉さん!」
どこかで聞いた声が耳に届いたかと思いきや、
「うわっ! なんだテメェ!」
「構わねえ、殺っちまえ!」
誘拐犯のものと思わしき怒号が響き、争い合う音が続き、
「く、クソッ! 退け!」「覚えてろよ、このクソ外人が!」
人の逃げる気配。
目隠しを外された俺の目の前に立っていたのは、金属バットとキャッチャー用マスク・プロテクター・レガースで武装したギュンターだった。
いくら野球が好きだからって、その恰好は正直どうかと思ったが……。
安堵と同時に恐怖心に襲われ、後ろ手で縛られていたロープの拘束を解かれると私は泣きながらギュンターに抱きついた。
先程まで冷静でいられたのは清彦モードだった事とイザとなればこの太刀葉の身体から容易に離脱出来たからだが、今は目の前に人がいる為に
太刀葉の年齢の若い女性がこのような危機的状況に陥った状態から助かった場合を太刀葉の身体が忠実に再現し始めたからだ。
恐怖心で頭が真っ白になり身体に力が入らない。
兎に角恐ろしかった・・・。
「もう大丈夫です、安心して下さい」
ギュンターそう言って優しく抱きしめてくれた。
温かい。安堵。安心・・・。
ギュンターはとても格好良かった!
◇
その後もかなり大変というか騒ぎになった。
俺が助け出された直後にパトカーが何台も到着し、誘拐犯は近くに潜んでいたところを全員逮捕された。
また俺以外にも2人の女性が監禁されていて彼女達も無事救出された。
いずれも美女、美少女で1人はこの街の資産家の娘、もう1人は大企業の社長令嬢で犯人達の自供によれば、高額の身代金を奪い取った上で俺達、いえ私達三人を海外に売れ飛ばそうとしていたらしい。
(恐ろしい事に全員同じあの日に誘拐され、夜には船で連れ出される予定だったとか)
また私達が監禁されていたアジト(使われていなかった港の倉庫)には盗難車のワンボックスに偽造ナンバーが付けられた車両が何台もあって、なんとそのうちの一台は俺を跳ね飛ばした車両だった!
(車上荒らしや自販機荒らしでそれらの盗難車が使用されてた)
左側のフロント部分がグチャグチャに潰れていてライトも粉々に割れていた。
どれ程の衝撃だった事か。俺の身体が意識不明の重体になったのも無理もない。
犯人グループと揉み合った際、ギュンターも負傷もしたが幸いにもプロテクターを着用していた為軽い負傷で済んだようだ。
警察から勝手に突入したことでお説教されたそうだが、ギュンターの通報のおかげで犯人グループを一網打尽にできた事。
誘拐された女性が全員無事だったことやその後のテレビや新聞などのマスコミによるヒーローと取り上げられた事で警察からは勇敢な行為だったと表彰と感謝状を貰ったそうだ。
何故、警察の到着を待たなかったか?
実は背格好が似ていた資産家の美女を犯人グループの1人がベルトとスポンを脱ぎながら近付いて行った事で一刻の猶予もないと焦ったらしい。
あの日、会社から清彦の荷物を受け取り引き揚げる【私】を自分の車で送迎しようと会社を抜け出して後から追い掛けた時、誘拐犯のワンボックスの車内に引き摺り込まれる【私】を偶然目撃。
(街路樹の陰で誘拐犯達からギュンターの車は気付かれなかった)
その後リアルタイムで警察に通報しながら誘拐犯の車を追跡、運び込まれた倉庫を遠巻きに観察(野球以外の趣味のバードウォッチングで使用する双眼鏡が車内に常備)しつつ
次の休日の草野球に使用するつもりでトランクに収納していた野球道具・金属バットやキャッチャー用マスク・プロテクター・レガースを装着し、万が一の事態に備えていたらしい。
ええ、今ギュンターはあわやレイプされる寸前だったその時の資産家の美女とお付き合いしているわ。
彼女にとってギュンターはヒーローですもの。
【私】も正直、もし今彼女とお付き合いしていなかったら・・・。
ギュンターが【私】しかあの場にいなくて【私】を負傷しながらも助け出してくれていたら間違いなく惚れてこちらから告白してお付き合いを始めていたでしょうね。
あの事件から1週間、彼を見掛けるたびに心がキュンってときめくもの。
「おねえちゃんが無事でよかったけど。アイツ等のせいで私も敏明くんとの初めてが未遂でおわっちゃったんだから」
若葉になった私は頬をぷっくり膨らませて誘拐犯たちを糾弾する。
あの直後現場に急行するパトカーの大群(私と敏明くんがいた海岸の公園と港の倉庫は近くだった)にびっくりして
なんとなく次回に今度は雰囲気の良いちゃんとしたところでしようか?という流れになって帰宅したのだ。
自分で太刀葉ちゃんになったり若葉ちゃんになって会話(に見せ掛けた独り言)する遊びをしながら仲の良い姉妹関係を楽しむ。
両親も兄弟もいない天涯孤独の身だったから家族や兄弟、姉妹の関係や一緒に過ごす時間が憧れでもあったためにとても幸せな時間だ。
(もちろん身体を太刀葉ちゃんか若葉ちゃんに固定しても全く同じ会話を楽しめるが)
「まぁ清彦さんも良かったんじゃない? お陰で若葉として女の子の初めての大切で貴重な体験ができるんだから 」と太刀葉ちゃん(になった俺)
「うわ、このエロオヤジ、私になって処女喪失を楽しむなんて変態だわ!私穢されちゃう w ってそんなこと言う若葉ちゃんにはこうだ ♪ 」
と可愛らしい顔にエロい笑みを浮かべさせ柔らかくて形の良い胸を揉み始める若葉。
それを見て「私も 」と今度は魂を太刀葉ちゃんと若葉ちゃんに二分し二つの身体を同時に操り始める俺だった ♪
◆ ◇ ◆
「してない……」
「なんかしようとすると邪魔が入るんだよねぇ……」
「よし、しよう!」
俺=清彦は、若葉、双葉、太刀葉の身体でそんなことを言った。
せっかく女の身体を自由に使えるようになったのだ。
これは一丁男女の営みを女性側から味わってみよう。
……すみませんね。
はい、男性側での体験もまだですよ!
ともあれ、体験してみたいのは嘘偽りない事実なのだ。
だが、そう思っているのになかなかチャンスがこない。
正確には、後一歩というところで邪魔が入る。
ここは一念発起、がんばってみたいと思う。
さて……。
若葉として敏明くんとやろうか?
太刀葉として彼氏でも作ろうか?
それとも双葉として彼女のユメちゃんとでもしようか?
さて、どうしよう?
◇
「まあ、敏明くんとするのが最優先じゃない?」
そうだよね。
彼もきっとしたがってるだろうし。
それに男女の営みをただ体験するだけなら簡単だ。
太刀葉、双葉、若葉の父親である【帝江洲 慶次】(最初に出会った50代の男性体。宇宙人がメインにしていた身体)とその妻 本葉になればいいのだ。
設定では夫婦仲は円滑で円満、とても良好な理想の夫婦になっているし彼らの記憶から体験を容易に自分のものにできるからだ。
それに用意された特殊技能付きの体は男性も多い。
ボクサーや空手家などの格闘家、野球選手やサッカー選手などのスポーツ選手、プロレーサーやパイロットなどの操縦系の体、
当然女性の身体も色々とあるので家族以外の身体になってやる事も当然可能。
でも何故かそれはしたくなかった。
やはりどんなに精巧に作られた身体でも、反応がどれだけリアルで見分けがつかないとしても
やはり相手は心の通った人間が良いと思ってしまうのだ。
双葉ちゃんに身体を切り替えた【俺】は思考もこの身体に合わせて切り替え【俺】から【ボク】になって言う。
「女のコの喜ばし方ならボクが知っているから簡単なんだけどね 」
【俺】に切り替えて考えると俺自身は未体験なのに、双葉ちゃんの記憶から恋人のユメちゃんと学校での人目につかないところ、学校からの帰り道のファーストフード店の洗面所や路地裏でのキスやスキンシップという名の過激な行為、
さらに互いの部屋に遊びに行った時にベッドの上で繰り返された淫靡な行為がまんま自分が行ってきたようにリアルに思い起こされ、【俺】は双葉ちゃんの身体で赤面する。
いかん。【俺】の精神に影響されて双葉ちゃんの身体が興奮してきた。
【俺】から【ボク】に切り替えて・・・ふぅ。清彦さんオジサンなのに純情だなぁwww
「若葉は次はお泊りデートするわけだ。どこに行くの?」
【ボク】になってる清彦さんを通じて記憶の共有はやろうとすればできるけど、人間らしく生きているのでそういう事は緊急事態でも起こらない限りしない。
だからこうして会話ややりとりを楽しむのだ。
「週末、敏明くんのご両親が旅行でお出かけなんだって」
「……自宅か」
「うん」
若葉が嬉しそうに言う。
頬を赤らめて、まるで恋する乙女のようだ。
いや、そのまんまだけど。
「ご飯を作りにいくことになってるの」
「なるほど。食欲と性欲を満たすのか」
「イヤだもう! 双葉ちゃんオッサンくさーい!(笑)」
嬉し恥ずかし、という表情でぱしぱしと双葉をはたく若葉。
それを眺めていた太刀葉が言った。
「じゃあ、服を買いに行こうか。特に下着」
◇
というわけで、駅前に新しくできたショッピングモールに、若葉の身体でやってきた。
ここには、パパが経営者で、ママがデザイナーを務める、ファッションショップがあるんだ。
「いらっしゃいませ、お嬢さま!!」
店に入るとお店の店員さんが挨拶してきた。
このお店では私=若葉はオーナーとデザイナーの娘。
問答無用でお嬢さまなのである。
このお店で服を買うぶんにはお金はかからない。
あとでまとめてパパのところに請求がいくんだけど。
色々見繕って、着替えてみる。
うーん。迷うなあ。
お店の店員さんは何を着ても「似合う」って言ってくれる。
でも、こういう時には役に立たないなあ。
気遣いは嬉しいんだけどね。
仕方ない。試着室は十分な広さがあるし……。
っていうか、こういう用途のためにママ(=わたくし)
そういう風に設計したんだ。
私は試着室を覆うカーテン越しに狙いを付けて、
店員さんの1人をスマフォ(に似せた端末)のカメラに収め、
シャッターボタンをタップする。
その後、カーテンを閉めて撮影した画像を選択。
「複製しますか?」のメッセージにOKと返す。
一瞬の閃光!
光が収まった更衣室には、先ほど撮影した店員さんがいた。
もちろん中身はオレ(=清彦)だ。
これが、このスマフォ型端末の機能の一つ、
他者複製機能だ。
ちなみに255人までまとめて複製できる優れものだ。
「鈴木さん、コレとコレならどっちが良いと思う?」
「色の組み合わせならこちらとコレの組み合わせが定番だけど、若葉ちゃんなら髪の色も考えるとむしろこの赤系のチェックが映えるみたい。
大人びた印象より今の若葉ちゃんの可愛らしさを活かす方向だね。
・・・鈴木さんの感覚だとこうだね」
鈴木さんは20代前半。
今年デザイナーの専門学校を卒業して両親の店で勤め始めたが学生時代から別のお店(ここは3号店)でアルバイトで働いていたことでウチのお店での経験も長いしママのデザインをよく理解して最適な組み合わせやアドバイスをしてくれる。
【私】から見ても、鈴木さんのセンスの良さ、見立ての確かなことは「私もこんな風になりたい」と憧れや尊敬しているレベルだ。
ママのお店の店員さんは殆どがこういうレベルなんだけどね。
ここにいる他の佐藤さんや田中さんも凄いもの。
容姿に加え接客も完璧。
ウチのお店が繁盛するわけだ。
残念ながら他者複製機能にはその複製された人物の記憶とかは読めない。
ただ美的感覚とかそういうものは、その複製体に俺が入る事でオリジナルと同じ感覚で感じることができるのでこのような場面で活かせるのだ。
こうして数着の私から見ても素敵な服を選んで貰う。
ありがとう鈴木さん。
「お役にたてて嬉しいです。お嬢様に私のセンスを買っていただき、とても光栄です」
鈴木さんにそんな感情が生じ、鈴木になっている俺は素直に口にする。
鈴木さんから若葉ちゃんに戻り、無表情になった鈴木さんを端末機にデータにして回収。
同じように佐藤さん、次に田中さんの複製を作り出し、
俺が彼女達になることで彼女達の美的感覚、ファッションセンスでチェックしてもらったがやはり鈴木さんとほとんどが同じだった。
あとは当日の気温や気候に合わせて私が選ぶだけだ。
敏明くん、敏明くんの為に特別におしゃれした私を喜んでくれるかな?
ふふっ、敏明くんの事だからきっととても喜んでくれるわよね♪
さて、次は勝負下着よ!
どんなシチュエーションで敏明くんに迫っちゃおうかな?
食事が終わってからなのは間違いないけど・・・。
【俺】なら大胆にこんな感じで
いや、いっそのこと、一気にこんな感じで敏明くんを挑発して ♪
【俺】から【私】に切り替えると・・・たく、清彦さんはホントエロおやじね。
私がそんな事するわけないじゃない!!
ちょっと考えてみたことは内緒だ。(もちろん私は清彦さんだからこの考え自身、清彦さんも同じ様に考えているんだけど)
同じ男なんだから、清彦さんと同じく敏明くんもこういう#シチューションを望んでいたりするんだろうか?
いや、ない! 敏明くんはこんなエロオヤジとは違うんだから!
食事の準備中にこんなあられもない格好になって・・・
先にわたしが食べられちゃったりして
「・・・さま。お嬢様。」
鈴木さんの声で我に帰る。
やだ。
変な妄想に浮かれて正気でなくなっていたわ。
変な顔してないわよね?
もう! これというのもわたしになってる清彦さんが悪いんだわ!
エロおやじなんだから!
なんてね。
【わたし】も【清彦さん】も同じ若葉なんだから一緒よね。
私が清彦さんで、清彦が私でもあるんだから。
私は購入した服を預かってもらい、次の買い物に向かった。
◇
美少女な若葉。
人出の多いショッピングモール。
となれば、若い男も多いわけで……。
「彼女ぉ、可愛いねぇ。一緒に遊ばなぁい?」
こうしてナンパされる機会も多くなる。
せっかくお買い物でウキウキしてたのに水を差された気分。
しかもはっきり断ってるのに、しつこくつきまとってくるし。
しかもチラチラ周りを気にしているところをみると、
どうやら仲間もいるみたい。
どうしよう?
誰か別の身体を起動して守ってもらうか。
それとも端末の“入れ換え機能”を使ってお仕置きするか。
それとも……。
ことを荒立てても始まらない。
俺は若葉の身体で女子トイレに入ると、
熟女と言っていい本葉の身体に切り替えた。
十分魅力的な大人の身体だが、ナンパ野郎たちの好みではないだろう。
何食わぬ顔でトイレから出ると、案の定その前で待っていた、
ナンパ野郎たちの会話を立ち聞きする。
「んだよ。お前顔だけが取り柄なんだからちゃんと釣り上げろっての」
「うるせーよ。とにかく便所から出てきたら、引っ張ってくから車回しとけ」
「命令すんなっての。
ちゃんと車じゃなくて女まわさせろよな。
アアン!?」
……うーむ。ムカついた。
正義の味方を気取るつもりはないけど、うちの娘を強姦すだと?
許さん!
俺は清彦と若葉と本葉の怒りをない交ぜにして、連中をひどい目にあわせることにした。
◇
まずはナンパ野郎とその仲間……計4人か。
そいつらをスマホ風端末のカメラに収め、別の身体の画像と入れ替えるように操作する。
一瞬の閃光!
連中が気がつく間もなく、身体を女性のものに変身させる。
そこには……きらびやかな衣装に身を包んだ、4人のアイドル風の女の子たちがいた!
俺の方の身体もチェンジ。
敏腕女性プロデューサーのものに変えた。
「こら! あなた達、サボってちゃダメでしょ!!」
あたしの声にビクンと反応するアイドル風の4人。
この身体の能力は、「やたらと偉そう」というもの。
そのせいでつい相手は言うことを聞いてしまうのだ。
さて、何をさせてやろうか?
自宅で仕事中の本葉から電話が掛かってきた。
こちらで俺が本葉に変身した時に目にした状況などがオリジナルの本葉にもリアルタイムでダウンロードされたからだ。支援システムも働いているようだ。
「広場のステージがちょうど空いていたから入れといたわ。
今日がデビューの新人アイドルとして歌と踊りを披露して貰おうかしら。
あの身体は完璧な踊りと歌ができるけど、羞恥心や緊張が邪魔して記憶と知識だけじゃ再現は難しいでしょうね。
でも逆に、初々しさが出てちょうどいいかもね。
突然女の子になっていて、衆人の注目を浴びるなか習ってもいない歌と躍りを披露しなければならないんだもの。
彼らの魂が新人アイドルユニットに組み合わせられる事で、恥ずかしがる演技でなく本当に恥ずかしいと思う感情でデビューできるんですもの。
ついでに私のお店のファッションショーもよろしくね♪」
「わかったわ。私達の可愛い娘をターゲットにしたんですもの。
あのままなら有害にしかならないから、人を喜ばせたり幸せを与えらる気持ちを、新人アイドルユニットとしての役割を与えてこの機会に学んで貰うわ」
と、いうわけでアイドルユニットと化した男たちは、女性アイドルユニットとしてステージに上がり、歌と踊りを披露する羽目になった。
果たしてどうなることかとあたしは見ていたのだが……。
最初のうちこそ恥ずかしそうにモジモジしていたけど、子供たちの声援に励まされ、最後の方はノリノリでステージをこなしていた。
その後のファッションショーも同じ。
……まあ、コピー元のスキルが使えちゃうからなあ。
あんまり罰にならなかったかな?
そうこうしているうちにステージ終了。
彼女たちになった彼らは更衣室に向かった。
もちろん女子用のイベントスタッフ着替え用。
プロデューサーの格好のまま様子を見に行くと……。
「おまえ……じゃない、あなたとっても可愛いわ……」
「テメェ……じゃなく、あなたこそとってもきれい……」
仲良くお互いの身体の触りっこをしている。
あたしはちょっとの間、その様子を楽しませてもらった。
で、そのきゃっきゃうふふが、いやんあはんに移る頃合いに……。
「うわっ! なんじゃこりゃー!」
「きゃぁ! いやぁーん! ……じゃなくて!」
男に戻して差し上げた。
……その後。
女子更衣室に不法侵入した男たちは警察に連れて行かれた。
なんか心に傷を負ったらしく、ずいぶん大人しくなったらしい。
ともあれ、あたしの買い物は無事にすみ、
敏明くんとの初エッチを待つことになった。
◆ ◇ ◆
そしてついに訪れた週末。
昨夜は興奮と不安でなかなか寝付けず、太刀葉ちゃんか双葉ちゃんに身体を換えようかと悩んだが、
それさえ自分が少女として生きて体験する事だから俺として、若葉ちゃんとして全て受け入れる為にそのまま若葉ちゃんとして過ごした。
でもちょっぴり寝不足気味だったので起きて直ぐに双葉ちゃんと一緒にお風呂に入りさっぱりスッキリする。
その後美人エステティシャンになった俺は若葉ちゃんの身体を念入りに隅々まで丹念にマッサージを施す。
「やっぱり若葉ちゃんだけで敏明君と初めてを」
それを遮るように若葉ちゃんが
「清彦さんならそう言ってくるとわかってたけど、清彦さんには私として体験して欲しいの。だって清彦さんは清彦さんであると同時に私でもあるんですもの」
「本当にそれでいいのかい?」
「もちろん。私と清彦さんは一心同体なんだから♪」
「ありがとう若葉ちゃん」
「フフッ♪ それって自分にお礼しているのと一緒だよ♪」
再び俺は若葉ちゃんになると、先日お母さんのお店で鈴木さんが選んでくれたピンク系のチェック柄の服装に着替える。
双葉ちゃんにチェックしてもらい準備万端!
いよいよだ!
「行ってきます♪」
「父親としては不安と不満なんだが・・・清彦くん、娘としてよろしく頼みます」と父親の慶次。
「まぁまぁ貴方、娘の成長を喜びましょうよ。いってらっしゃい。若葉ちゃん。
清彦さん、若葉ちゃんとしてしっかり彼に甘えてくるのよ」と美人の母親の本葉。
「きっと素敵な思い出になるわよ♪
清彦さん、身体が元通りになったら恋人として私を抱いてね♪」と太刀葉ちゃん。
「とっても可愛いよ若葉♪
清さんは若葉の身体でエロオヤジの正体現してドン引きさせないように気をつけてね」と双葉ちゃん。
若葉ちゃんと清彦としてのアドバイスと声援(?)を受け、俺は若葉ちゃんとして元気いっぱいに
「いってきます♪」
と見送る家族に笑顔で応えた。
◇
さて、若葉ちゃんはお出かけしたけれど、初エッチには少し間がある。
その間に、俺のアパートから持ち込んだグッズの整理でもするか。
俺は太刀葉さんの身体で(主にエロ系の)グッズの整理を始めた。
べ、べつに緊張のあまり若葉ちゃんの身体から逃げた訳じゃないぞ!?
清彦である【俺】から若葉ちゃんである【わたし】になっていれば、今この瞬間も舞い上がる気分で敏明くんの家に向かって歩いているし幸せいっぱいの気持ちに満たされているからだ。
ちょっとは【わたし】も緊張していたけどね。
でも【俺】になっても逃げたいとは思ってなかったから。うん。
これから敏明くんと2人っきりで過ごす時間を若葉ちゃん自身で過ごして貰いたかったからだ。
これは俺の勝手な想い。
なぜなら若葉ちゃんの身体で清彦の心である【俺】モードでも、思考から全てがオリジナルの若葉ちゃん自身になる【私】モードでも、若葉ちゃんにとっては同じだからだ。
これは俺にこの端末を譲渡してくれた宇宙人も言ってたし、誰かの身体で別の身体と話しても同じ事を言っていた。
この身体に自我は無いし、感情や自我に見えるものは単なるプログラムによる反応に過ぎないと。
家族の身体で残りの家族全員に質問した時、全員から即答で全く同じ言葉が返ってきた。
それでも・・・と俺は思う。
難しい事はわからないが人間だって脳内で電気パルスやなんちゃらが活動して感情が生まれる。
それとこのプログラムにいったいどう違いがあるというのか。
自我を持たないといっても家族の皆には感情があり喜怒哀楽もちゃんとある。
心がや魂の在処は解明されていないが、この第二の身体達である皆には生きる喜びを感じて欲しいと。
・・・と格好つけたところでエログッズ前にして力説しても説得力ないな www
目の前にあるグラビア雑誌。
清彦時代には有り得なかったが下方視界は大きな胸が邪魔をしているw
久しぶりに手にとってページを捲るとお気に入りのグラビアアイドルがエロい下着姿で扇情的なポーズを取っている。
清彦時代はよくお世話になった。
ふと今の自分の身体を見る。
太刀葉ちゃんの身体はこのグラドルに勝るとも劣らない。
いや、このプロポーションにこの美貌、この美声と全て勝っているんじゃないかと思う。
ちょっとこのポーズを真似てみようかな?
部屋にある姿見の前で着ていた服を脱ぐと下着姿でグラビアアイドルと同じ扇情的なポーズをとった。
うーむ。これはエロい。
眼福……と同時に太刀葉ちゃんの身体の柔らかさに改めて感心する。
俺はあたしの身体をエロいポーズを取った体勢から床に両手をつき、
そのまま倒立させてみる。
おー! すごい、できちゃったよ!
で、下着のままそんなポーズを取ったもんだからあたしの胸が、下方……つまり顔の方に向かってたゆんと揺れ落ちる。
……倒立って、こんなにエロかったのか!
太刀葉自身である【私】からするとこういうポーズが男の人たち、特に清彦さんが喜んでくれるのか、と感心し嬉しくなる。
清彦である【俺】になると、自分がこんなに美人で、しかもとんでもない格好で誘惑してくるかのようにしているのに興奮し、更に太刀葉ちゃんに惚れ込む。
調子にのって、次々とページを捲っては同じポーズをとってその行動と行為を楽しむ。
その勢いで裸体メインのエロ雑誌を開き、また同じように真似をする。
こちらはブラ無しだ。
同じようにブラ取っちゃおうかな?
……などとごそごそヤっているうちに。
「あ、これエロゲーの特典の……」
ゲーム中に登場する学校の女子制服(Sサイズ)を発見。
もちろん男の俺には着れなかったが……。
「確かツンデレに向いた身体があったっけ……」
と、いうわけで変身!
着てみました!!
おお、よく似合う!
コスプレみたいだけど、よくできたコスプレになってる。
これは楽しい。
さて次は……。
コスプレがとても楽しかったのでゲームの特典やエロ雑誌の懸賞やオマケのエロ下着など服や衣裳のダンボールを漁る。
「うおっ!そういえばこんなのもあったんだっけ!これは着てみないとなぁ 」
身体をツンデレJKから再び太刀葉ちゃんにチェンジ!
「うわぁエロい。やらしい でも太刀葉、清彦さんの為に頑張って着ちゃうわよん 」
およそ太刀葉ちゃんらしくない言葉を清彦モードの【俺】で太刀葉ちゃんの身体に取り出した衣裳を身につけていく。
言葉とその行為に俺の精神は大興奮状態だ。
太刀葉ちゃんの股間がジュクリとしジンジンと熱を帯びてきている。
ハロウィン用の角付きカチューシャを装着して鏡の前に立つとそこには
「・・・」
こ、これは・・・エロい。
でも厭らしくはない?
おっぱい丸出しの超エロい衣装なのに太刀葉ちゃんの清楚な美女が纏う爽やかな雰囲気が厭らしさを消して絶妙なエロ可愛さを醸し出していた。
清彦モードで見た為に俺は改めて太刀葉ちゃんの美しい身体に虜になっていた。
どのくらい、この姿に魅了され見惚れとていただろう?
「おお、若葉ちゃんがスーパーでお買い物をしている!」
◇
それも敏明くんと2人で。
そういえば料理を作るんだった。
背の低い若葉ちゃんのために、敏明くんが棚の高い所にある商品を取ってくれたり。
2人同時に同じ商品に手を伸ばして、手がぶつかっちゃって「あっ!」って言ったり。
イチャイチャラブコメモード全開だ。
ああ、なんか胸がきゅんとなる。
心臓がドキドキする。
若葉……あたし、結構いっぱいいっぱいです。
◇
若葉ちゃんになった瞬間に、家から俊明君の家に着き、緊張しながら家に上がった事や大好きな俊明君との会話やその時の心境、
こうして一緒に買い出しして直前までの記憶や体験全てが瞬時に俺の脳裏にしっかりと刻まれる。
俺が太刀葉ちゃんになっていた間の若葉ちゃんの行動も、これで全て俺が体験した事と同じだ。
時計の針を少し戻す。
今は俺の身体何だし・・・俺が太刀葉ちゃんなんだから・・・触ってもいいんだよな?
恐る恐る綺麗なピンク色の乳首に太刀葉ちゃんの細くしなやかな指先で触ろうと近づけた時だ。
「お姉ちゃん、リップ貸して」
ノックと同時に返事を待たずに双葉ちやんが入ってきた。
鏡越しに目が合う。
俺は戦慄し固まってしまった!
見られた。
見られちゃった!!
コスプレの格好で石の様に固まる太刀葉ちゃんの身体の俺。
何か言おうと口を開けようとして呼吸を忘れていたくらいだ。
パニック状態の俺は何を言って誤魔化せばいいか・・・誤魔化せなくても言い訳くらいして・・・だ、ダメだ。
頭が真っ白で言葉が出ない。
でも双葉ちゃんは全く気にすること無く鏡台に向かいお目当てのリップを見つけると
「これちょっと貸してネ ♪ 」
と部屋を出て行こうとする。
「ふ、双葉ちゃん・・・これは・・・」
なんとか声を振り絞って出すと
「ん? 清さん何か用?」
と全く普段通りな対応でこの格好を全く気にしていない様子だった。
「あ、あの・・・この格好なんだけど・・・」
「ふふっ♪ 太刀葉姉、プロポーションいいからこんな格好も似合うし可愛いよね ♪
清さんの身体が元に戻ったらお姉ちゃんがこんな格好で誘惑してくるかもねw」
「いや・・・その・・・」
「ん? ボクになってこれ着たい? 勿論いいけどボクは太刀葉姉ほど胸無いからつまんないよ?
それに清さんはボクに断らなくてもいつでも好きにボクになってくれて構わないんだから 」
「あ、ありがとう」
「あっ!?ひょっとしてボクがそれに着替えるのを見たいの? 清さんたらエロオヤジだなぁwww
ささ、早く脱いで ♪ それとも脱がして欲しいのかな ♪ 」
双葉ちゃんの手が伸びる。
双葉ちゃんの手が俺であるあたしの身体に掛かる。
意識を双葉ちゃんの方にも移してみる。
わーエロエロだ!
エロエロなお姉さんがいるぞ!
あ、太刀葉ちゃんの下半身が湿ってきた。
双葉であるボクも高ぶってきた。
ボクは太刀葉姉の方に伸ばした手で、
太刀葉姉のあごをあげさせた。
そのまま顔を接近させて……。
◇
一方そのころ。
「ねえ、若葉ちゃん。僕にも手伝えることない?」
「うふっ。だいじょーぶ。
敏明くんは座って待っててね」
若葉なあたしは敏明くんとラブコメをしていた。
敏明君はそわそわしていて落ち着かない。
緊張してるんだよね。
その男心は痛いほどよくわかる。
……自分の身で体験することはなかったけどな。
とにかく。
敏明君が愛おしくてたまらない。
彼に抱かれる瞬間を想像すると、やっぱり怖い。
でも、それを上回るくらい私は彼のことが好きだ。
大好きなんだ。
私は手際よく料理を作りながらそんなことを考えていた。
この若葉の身体はそんなことを考えていてもミスをしない。
スープ、サラダ、副菜、主菜と、テキパキ完成させていく。
デザートの果物も用意した。
でも、本当のデザートは、わ・た・し
なーんちゃって!
なーんちゃって!!
うれし恥ずかしな気分で料理を作り上げた私は、
敏明君と2人でテーブルを囲んでいた。
一方そのころ……。
▼(「スマートフォンでカワルくん!2」へ、つづく)
http://www.tsadult.net/megalith/?mode=read&key=1401908281&log=0
だからそれを今風にアレンジしたこういう話は好きだなあ。
ここまで評価した方が全て100点だったのにすいません。
見に行かねば