「研修生のみなさん、始めまして。指導教官を務めさせていただく、金剛型三番艦・榛名と申します。」
清楚な印象を与える長髪の女性は、この場に集められた4人の若い士官にそう挨拶した。
各鎮守府から選ばれた彼らは、上層部の指示によりこの施設に集められた。ある、特殊な訓練のために。
「……既に、ある程度の事項は伝えられていると思いますが、改めて説明させていただきますね。
あなた方には、これから3ヶ月の間この研修施設で訓練していただくことになります。」
彼らは、複雑な表情を浮かべながら、彼女の話を聞いていた。
一通りの説明が終わった後、榛名は4人の士官にあるものを渡す。
「割り当てられた部屋で、その中にあるものを全て装備してから戻ってきてください。」
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4人はそれぞれ、割り当てられた部屋の中で箱の内容物を手に取っていた。
そこには、榛名の着ていたものと同じデザインの服……そして、金剛型艦娘を模した皮が入っていた。
榛名の皮が割り当てられた士官は、上官や教官から伝えられたことを思い出しつつ、服を全て脱ぎ捨てた。
背中の入口から、脚が入れられていく。榛名の脚の皮がそれを包み込むと、中身を感じさせない綺麗な脚になる。
股間部が密着すると、彼の単装砲は皮の内側に設けられた接続部に収まり、その感覚が遮断される。
外からは、単装砲など存在しない、なだらかな女性の股間が見えるのみ。
単装砲がある場所の根本からは、何かがじわじわと入り込んできていた。
両手も、細くしなやかな手の皮に抑え込まれ、胸には美しく育った二つの膨らみが密着し、その感覚までもが繋がる。
そして、仕上げに、長い黒髪がついた可憐な顔で、その身体に似つかわしくない顔を封印する。
背中の入口が閉じると同時に、彼の脳髄や全身の神経を何かが駆け巡る。全身が数秒の間痙攣し……それが収まると、様子が変わった。
「……榛名は、なぜ裸になっているのでしょう……」
彼女は、自分が直前まで何をしていたのか、すぐには思いだせなかった。
「と、とりあえず服を着ないと。確か、"さっきの部屋"に戻らなきゃ……え?」
記憶に混乱を覚えつつも、彼女はサイハイブーツと巫女服、カチューシャを着用し、覚えのある部屋に戻っていった。
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「戻ってきましたね。おかえりなさい、"榛名"さん」
「え……はる……そうだ、自分は……」
教官の榛名を見た瞬間、混乱していた彼の記憶は元に戻った。
自分が、目の前の女性を模した皮を着てこの姿になったことを、思いだしたのだ。
「機密保持の為、研修終了時にはもっとしっかりした処置が行われますけれど、今はこのように、本来の記憶をすぐ思い出すことができるのです。」
少し悲しい表情で、教官の榛名はそう告げる。
今、彼の全身を包みこむ艦娘の皮は、鎮守府の計画により生み出されたものである。
適正のある人間が装着することで、普通に艦娘を生み出すよりも低コストで艦娘を調達するための特殊艤装。
これを知る者は少なく、その秘密を守るため、着用者はその記憶や人格を艦娘のものに上書きされて運用される。
だが、皮によって艦娘と成った彼らの性能は、通常の、オリジナルの艦娘よりどうしても劣るものであった。
それに対し上書きされた艦娘の人格・記憶はオリジナルの複製であるため、感覚のミスマッチにより撃沈する事例が多数報告されることとなる。
上層部はこの問題を解消するため、この研修施設を設立した。
記憶や人格の上書きを完全に行わない状態で、本来の人格が残った着用者の身体を艦娘の皮の感覚に慣らさせる。
そうすることで研修後に人格を完全に上書きした後も、無意識化に残った経験が感覚の誤差を埋め、撃沈率を低下させる効果が見込めたからだ。
「What!?榛名が二人いるデス!!??」
「ひえぇ!?ドッペルゲンガー!?」
「違いますよ、二人とも思いだしてください。"僕達"、オリジナルじゃないんですよ?」
遅れて入ってきた、金剛型艦娘達。
金剛と比叡は混乱していたが、霧島は着用直後にすぐ記憶を取り戻していた為、冷静に状況判断していた。
程なくして、二人も着用前の記憶を取り戻していった。
尚、着用後の記憶操作の際に、彼らは互いの素顔に関する記憶はほぼ完全に封印されている。
本来は男性で、同期であることは認識できるが、顔や名前などが思いだせない状態である。
研修中、出来るだけ微妙な気持ちにさせないための措置であった。
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こうして、彼らの研修は始まった。
研修施設内には他の研修生もおり、中には同じ顔の研修生が交流している場面も見受けられた。
「始めまして。これで"三人目の私"かしら?」
「ちなみに、私が二人目よ。」
「私以外に、二人もいたのね……」
初風の姿の研修生が三人、そんな会話をしていたくらいである。
「もうすぐ、私達の研修もおしまいかぁ……」
「終ったら、もう逢えないんだよね。このことも忘れちゃうし」
「配属先で、ちゃんとやってけるのかなぁ……」
「でも、"僕"は早く研修終わってほしいかも……この格好、恥ずかしい……完全に島風になっちゃったほうがマシだよ……」
特に感覚誤差の大きいという島風の艤装を身に着けた研修生達は、念入りに訓練していることと、平常時孤立しがちなこともあり非常に強い連帯感を持っていたが、
これもまた、この研修中にしか成立しないものであった。
実戦に送られる際には認識阻害機能が作動し、同じ艦娘の皮を着用した者同士(及び、所属艦隊)は、互いを認識できなくなる。
こういう形での交流は、この場所でしか出来ないのだ。
一方で、ひたむきに鍛錬に打ち込む研修生も居た。
「打ち込みが甘いぞ。もっと踏み込んで来い!」
「はい、教官!」
オリジナルの日向が、自分と同じ顔・髪型の研修生の竹刀を捌き、厳しい指導を行う。
この研修生は、特異な状況も割り切り、自身を鍛える日々を送っていた。
彼は、実戦に出た後も戦果を挙げ、無事任期を終え皮が脱げた後も各所で活躍していったらしい。
そして、そんな研修生同士で、頻繁に合同演習も行われていった。
時には実弾を用いての危険な演習も織り交ぜ、短期間の間に皮に慣らすことが、重要であったからだ。
そうなれば当然、艤装の破損も日常茶飯事であった。
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「こ、これは……」
実弾演習があったある日。教官榛名は、赤面しながらそれを見つめていた。
研修生榛名の股間から伸びた、一本の単装砲を。
演習で皮が破損し、中身が露出する事例は多数報告されており、単装砲が出てきてしまうことも珍しいことではなかった。
皮の破損時には各々の教官に報告し、入渠・修復処置を受けなければならない。
オリジナルの榛名にとっては久方に見たものであり、様々な感情を覚えつつも、彼女はそれを凝視してしまう。
「本当にすみません、教官……」
「い、いえ……艤装が破損してしまったのなら、仕方のないことです……」
「そうじゃ、ないんです……」
「……え?」
研修生の言葉に、首をかしげる教官榛名。
しばしの、沈黙。
「自分は、こんな状況に……興奮してしまい……こんなにも、愚息をはしたなく……」
「あっ……」
彼の言葉が意味することを察した教官榛名の赤面が、更に赤くなる。
艤装内部に収まっている単装砲は、感覚の殆どを遮断され、射角を上げたり、砲弾が装填されることもない。
だが、外部に露出した状態では感覚を遮断できず、ひとたび興奮してしまえばこうなってしまう。
しばし、教え子の羞恥に苛まれた顔と、その砲塔をじっと見つめていた教官榛名は……やがて、それを優しく握った。
「きょ、教官……!?」
「不思議な、気分です……同じ顔をした子が、こんな……でも、嫌いじゃ、ないです。」
教官榛名は、片手で砲塔を握ったまま、もう片方の手で、根本にある濡れた割れ目に触れる。
「ふあぁ、あっ、何を……」
「大丈夫です。大丈夫ですから……」
皮が疑似的に作り出した女の神秘と、持ち合わせる砲塔の両方を愛撫され、彼は快感に打ち震える。
「昔、姉妹に色々教えてもらいましたし……ある提督と、夜を共にしたこともありました。だから、大丈夫です。榛名に、任せてください」
「うぁ、あ、あああっ……」
割れ目と砲塔の両方から、透明な液体が迸り、みるみるうちに溢れ出す。
彼はその感覚に、ただただ喘ぐことしかできない。
「あ、あ、あああああああああっ……!」
そして単装砲から、まず1発の砲弾が放たれる。
「んぅ……っ……うう……」
「力を感じる、砲撃でした……けど、次発も装填中のようですね。」
砲撃を行った単装砲は、また射角を上げつつあった。
そんな中、部屋のドアががちゃりと開く。
「「!!??」」
僅かに開いたドアのすきまから現れたのは、工廠で働いている"妖精さん"達だった。
その手に持っているのは、正方形の小さな袋。(妖精さん達のサイズだと大きいが)
「そ、それは、御盛んな提督御用達という……」
教官榛名は、それが何なのかを理解した。工廠特製の、三式弾型避妊具であると。
どうやら、"その空気"を感じて、これを運びに来たようだった。
彼女に袋を渡すと、お辞儀をして妖精さんは去って行った。
そして、数分考えた後、彼女は封を開け、彼の単装砲にそれをかぶせた。
「……今の榛名は、教官の身です。教官の身でありながら、こんなことを……ごめんなさい……」
仰向けになった候補生榛名に跨り、教官榛名は、腰を沈める。彼女の濡れた入口に、三式弾が装填されてゆく。
「んうっ……っ……っっ……」
彼女は自ら腰を動かし、声を殺しながら喘いでいた。
綺麗な長髪を乱れさせながら、可憐な顔は上気し、実った膨らみは淫らに揺さぶられる。
同時に、三式弾を携えた彼も、伝わる快感に再び翻弄されつつあった。
互いの精神的高揚がある地点まで上った瞬間。
三式弾を装備したほうの榛名は転がり、反対に教官の榛名を押し倒す体制になった。
綺麗で、華やかで、美しかった榛名と、彼女と同じ形をした皮に包まれた自分。
内にため込んでいた感情と衝動が、彼の中から再び解き放たれようとしていた。
全身を駆け巡る衝動に突き動かされ、互いの身体を引き寄せ、腰を打ちつけ合う。
「はあ……はあ……はあっ……教官……教官……教官ッ……!」
「はい……大丈夫……大丈夫です……!」
そして、装填された三式弾は、第一射よりもさらに大きな力を持って放たれた。
「ああっ、あああああっ……!」
教官榛名もまた上り詰め、その全身を打ち震わせていた。
事が終わり、白い弾薬の詰まった三式弾を見て赤面する二人の榛名。それをドアの隙間から見る者が居た。
「Oh……二人とも、大胆すぎマス……」
「ダメですよお姉様、聞こえてしまいます……」
「偶然通りかかったら、あんなものを見てしまうなんて……」
妖精さんは、避妊具を届けた後、ドアを閉めずに去ってしまったのだ。
そして、偶然通りかかった候補生金剛が、二人の情事を目撃。
比叡と霧島もそれを見かけてしまい、今に至った。
こっそり自室に戻った金剛は……股間部が破損してるわけでもないのに、夜が明けるまで自身の股間に何かしていたようだった。
数日後の演習時、金剛型の候補生四人は、いつもと違う様子で、いつも以上の戦績を上げていた。
全員が三式弾装備であったが、彼女達に何があったのかを察せる者はほとんど居なかった。
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数ヶ月の研修が終わり、やがて四人の金剛型候補生は、記憶と人格を完全に上書きされた後に前線へ送られた。
彼女達は全員任期が満了するまで生き延び、以後その皮のうち何着かは、着用者を変えながら永く継承されていくこととなる。
中でも、榛名の戦績は大したものであった。相当に危険な状況もあったが、その悉くを乗り切っていったのである。
「時折、不思議な感覚があったんです。榛名を、何か温かいものが護ってくれてるような。そんな、不思議な感覚です。
それが何なのかはわからないんですけど…………なんだか、大丈夫だって、思えてくるんです。」
彼女は、同僚の艦娘にそう語ったという。
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もうひとつ、彼女の支えになっているものがあることを知る者は、少ない。
いつしか、"何故か自分の股間の奥深くに単装砲が封じ込められている"ことを自覚した彼女は、
その理由がわからないながらも、時折こっそりと"三式弾"を装備した状態で出撃するようになっていた。
こうすることで、不意に感じる温かい感覚をより深く感じられるようだった。
今日もまた、彼女のスカートの中には……
「……どうしたの、榛名?」
「はっ、はい!榛名は大丈夫です!」
不意にかけられた同僚の言葉に、彼女はそう答えていた。
尚、この榛名の皮の着用者のその後についてはいくつか説があるが、憶測の域を出ない。
もう一作も是非!
初めて見たのは仕事場ででしたが、自分の設定で書いていただけて感無量でした。
もうひとつの作品ですか。
それを お蔵入りするなんて とんでもない!
艦これSSでなくても、次の作品を楽しみにしてますね。