「あ、小さな長門なのね。」
ある日、損傷修復のため入渠ドックに入ってきた"少し小さな長門"を待っていたのは、伊19だった。
長門は、すぐに彼女の異変に気が付いた。
「19さん、その腕って……」
「ちょっと調子に乗り過ぎたの。おかげで久々に中身が出ちゃったのね。」
伊19の右腕は、不釣合いなほどに大きくなっていた。まるで、その部分だけ成人男性の腕になっているかのように。
しかし、正確には逆である。
普通の人間に艦娘の姿と能力を与える艦娘の皮。この伊19もまた、艦娘の皮を装着した人間であり、
今の伊19は、艤装の右腕部分が大破した状態で、中身が露出しているのだ。
艦娘の皮は、中身の人間を圧縮し艦娘のサイズに変えてしまう。その戒めが解かれたことで、こんな不釣合いな状態になっているわけである。
「見苦しいかもだけど、しばらくは勘弁なの。19としてもすぐ元に戻したいけど、ちょっと時間かかるのね。」
皮を着て艦娘になった者は、通常は記憶と人格を艦娘のそれに上書きされ、自分が皮を着ていることを忘れている状態である。
その状態で皮が破損し中身が露出すると、記憶の混乱を引き起こすため、修復時に記憶を操作される形となる。
だが、中には艤装との相性の関係から、本来の人格と艦娘の人格が融合し、元の記憶を保持している者も存在する。
ここにいる小さな長門と伊19もそのケースにあたり、自分が皮に入っていることを自覚しているため、混乱も無く記憶修正も行われない。
「ま、ちょっとの間、ひさしぶりの外の感覚を味わうの。……ちょっと、物足りない感じだけど。」
「物足りない、ってどういうことですか?」
「わからないのね?ああ、長門はむしろ中身が小さいからあんまり気にしてなかったかもしれないの。」
長門が問うと、伊19は露出した大きい手を頭に当て、どう説明するか考えはじめた。
「皮を着て艦娘になる"中身"は、普通なら皮よりおっきいの。
その中身を、艦娘のサイズに縮めて、すっぽり収めちゃうのね。すっごい技術なの。」
「それは、よくわかってますけど、それが物足りなさとどう関係すると?」
「巡洋艦や戦艦とかと比べて、駆逐艦や潜水艦の皮はすっごく中身を圧縮するの。殆どの中身は無意識に窮屈さを感じてて、
任期満了で脱げた人はこぞって解放感に包まれるらしいのね。けど、19はそいつらとは違うの。」
「違う、というと……」
話しながら、伊19の目が危険な輝きを帯びる。
「19は、この中に入ってるほうが逆にキモチイイって感じるほうなの。
最初にこの中に入った時から、スッゴイよかったの……
この中に、身体がぎゅうぎゅう詰め込まれて、でも着てる感覚が無くなって。
あれだけでもそーとーキモチよかったけど、なにより最後に頭をかぶった瞬間のあのカンジ!
思わず"ふぎゃっ!"って声が出たものなの。のーずいにスゴイのが入ってきてカラダがビクンビクンってなって、
そして、全身が、アタマの中が19に上書きされてくあの感覚……忘れられないのぉ……」
「は、はあ……」
恍惚の笑みを浮かべる伊19に軽く引きながらも、長門は自分がこの姿になった時の事を思いだし、考察していた。
自分も精神が上書きされていく感覚を体験してはいたが、この伊19のようのように快感を感じるものであっただろうか。
着用者ごとに、その感じ方は千差万別ではないのだろうか。そう長門は考えた。
その一方で、こうも考えていた。伊19が味わった快感は、如何ほどのものだったのだろうか、とも。
「あそこまでキョーレツな感覚は"着るとき"しか味わえないけど、それでも、普段からそーとーイイ感じなの。
19の皮に、身体がぎゅうぎゅうに圧縮されてるのを意識すると、キモチイイのね。
着ちゃったら、ほとんど着てる感覚はなくなるけど……よーく意識してみると、圧縮されてる感覚がわかるのね。
ぎちぎちしてて、すっごく、すーっごくキモチイイの!だから、脱げちゃうと物足りないのね……」
露出した本来の腕を動かしながら、伊19はそう独白していた。
「そういう、ものなんですか……?」
「19にとってはそーゆーものなの。ま、圧縮がすごい分身体も結構こっちゃうから、そこは難点なの。
あ、"魚雷"は別腹なのね。出してもイイし、しまってるときもイイものなの。」
「いや、魚雷はどうでもいいですって……」
「ま、長門も中身がおっきくなるにつれわかってくる筈なの!その時まで生き残って、存分に楽しむといいのね!」
------------------------------
それから幾年。
「……う、くうっ……また、意識してしまった……」
伊19の話は、その後の"かつて小さかった長門"に永く影響していた。
成長し、オリジナルであり、母である長門と同じ背丈になってからしばらくして、時折伊19の語った"圧縮される感覚"を意識するようになってしまったのだ。
(確かに、意識してみると、なんとなく"皮に包まれてる"感覚が……多分、彼女のそれよりずっと弱いんだろうが……)
だが、そんな柔らかな拘束感であっても、長門はわずかながらに快感を感じてしまったのだ。
そして、一度それを自覚してしまったが為に、時折何かのはずみでそれを思い出し、ついつい意識してしまうようになってしまった。
そのたび、長門はほのかな快感と背徳感に苛まれるのだった。
(まずい……一度こうなってしまうと、身体に何か触れるだけで、もう……)
「……長門姉、どうしたの?」
「ひああっ!!??」
後ろから触れた陸奥の指の感触に、長門が震え上がった。
「ちょ、"お兄"、本当どうしたの……!?」
「い……いや、大丈夫だ、わわ、私は大丈夫……」
そう言う長門であったが、紅潮しながら焦りを見せるその様子は、明らかに大丈夫ではなかった。
まだこの陸奥は、"兄"がかの潜水艦に植え付けられてしまった性癖を知らないのだ。
それが幸か不幸かはさておき……
「えひひ……開拓しておいた甲斐があったの。次は陸奥にもみっちり教えてあげるのね……」
いまだ活動を続けていた件の伊19は、窓の外からこっそり様子をうかがっていた。
長門との腐れ縁がいまだに続く伊19は、次の狙いを定めつつあった……
ある日、損傷修復のため入渠ドックに入ってきた"少し小さな長門"を待っていたのは、伊19だった。
長門は、すぐに彼女の異変に気が付いた。
「19さん、その腕って……」
「ちょっと調子に乗り過ぎたの。おかげで久々に中身が出ちゃったのね。」
伊19の右腕は、不釣合いなほどに大きくなっていた。まるで、その部分だけ成人男性の腕になっているかのように。
しかし、正確には逆である。
普通の人間に艦娘の姿と能力を与える艦娘の皮。この伊19もまた、艦娘の皮を装着した人間であり、
今の伊19は、艤装の右腕部分が大破した状態で、中身が露出しているのだ。
艦娘の皮は、中身の人間を圧縮し艦娘のサイズに変えてしまう。その戒めが解かれたことで、こんな不釣合いな状態になっているわけである。
「見苦しいかもだけど、しばらくは勘弁なの。19としてもすぐ元に戻したいけど、ちょっと時間かかるのね。」
皮を着て艦娘になった者は、通常は記憶と人格を艦娘のそれに上書きされ、自分が皮を着ていることを忘れている状態である。
その状態で皮が破損し中身が露出すると、記憶の混乱を引き起こすため、修復時に記憶を操作される形となる。
だが、中には艤装との相性の関係から、本来の人格と艦娘の人格が融合し、元の記憶を保持している者も存在する。
ここにいる小さな長門と伊19もそのケースにあたり、自分が皮に入っていることを自覚しているため、混乱も無く記憶修正も行われない。
「ま、ちょっとの間、ひさしぶりの外の感覚を味わうの。……ちょっと、物足りない感じだけど。」
「物足りない、ってどういうことですか?」
「わからないのね?ああ、長門はむしろ中身が小さいからあんまり気にしてなかったかもしれないの。」
長門が問うと、伊19は露出した大きい手を頭に当て、どう説明するか考えはじめた。
「皮を着て艦娘になる"中身"は、普通なら皮よりおっきいの。
その中身を、艦娘のサイズに縮めて、すっぽり収めちゃうのね。すっごい技術なの。」
「それは、よくわかってますけど、それが物足りなさとどう関係すると?」
「巡洋艦や戦艦とかと比べて、駆逐艦や潜水艦の皮はすっごく中身を圧縮するの。殆どの中身は無意識に窮屈さを感じてて、
任期満了で脱げた人はこぞって解放感に包まれるらしいのね。けど、19はそいつらとは違うの。」
「違う、というと……」
話しながら、伊19の目が危険な輝きを帯びる。
「19は、この中に入ってるほうが逆にキモチイイって感じるほうなの。
最初にこの中に入った時から、スッゴイよかったの……
この中に、身体がぎゅうぎゅう詰め込まれて、でも着てる感覚が無くなって。
あれだけでもそーとーキモチよかったけど、なにより最後に頭をかぶった瞬間のあのカンジ!
思わず"ふぎゃっ!"って声が出たものなの。のーずいにスゴイのが入ってきてカラダがビクンビクンってなって、
そして、全身が、アタマの中が19に上書きされてくあの感覚……忘れられないのぉ……」
「は、はあ……」
恍惚の笑みを浮かべる伊19に軽く引きながらも、長門は自分がこの姿になった時の事を思いだし、考察していた。
自分も精神が上書きされていく感覚を体験してはいたが、この伊19のようのように快感を感じるものであっただろうか。
着用者ごとに、その感じ方は千差万別ではないのだろうか。そう長門は考えた。
その一方で、こうも考えていた。伊19が味わった快感は、如何ほどのものだったのだろうか、とも。
「あそこまでキョーレツな感覚は"着るとき"しか味わえないけど、それでも、普段からそーとーイイ感じなの。
19の皮に、身体がぎゅうぎゅうに圧縮されてるのを意識すると、キモチイイのね。
着ちゃったら、ほとんど着てる感覚はなくなるけど……よーく意識してみると、圧縮されてる感覚がわかるのね。
ぎちぎちしてて、すっごく、すーっごくキモチイイの!だから、脱げちゃうと物足りないのね……」
露出した本来の腕を動かしながら、伊19はそう独白していた。
「そういう、ものなんですか……?」
「19にとってはそーゆーものなの。ま、圧縮がすごい分身体も結構こっちゃうから、そこは難点なの。
あ、"魚雷"は別腹なのね。出してもイイし、しまってるときもイイものなの。」
「いや、魚雷はどうでもいいですって……」
「ま、長門も中身がおっきくなるにつれわかってくる筈なの!その時まで生き残って、存分に楽しむといいのね!」
------------------------------
それから幾年。
「……う、くうっ……また、意識してしまった……」
伊19の話は、その後の"かつて小さかった長門"に永く影響していた。
成長し、オリジナルであり、母である長門と同じ背丈になってからしばらくして、時折伊19の語った"圧縮される感覚"を意識するようになってしまったのだ。
(確かに、意識してみると、なんとなく"皮に包まれてる"感覚が……多分、彼女のそれよりずっと弱いんだろうが……)
だが、そんな柔らかな拘束感であっても、長門はわずかながらに快感を感じてしまったのだ。
そして、一度それを自覚してしまったが為に、時折何かのはずみでそれを思い出し、ついつい意識してしまうようになってしまった。
そのたび、長門はほのかな快感と背徳感に苛まれるのだった。
(まずい……一度こうなってしまうと、身体に何か触れるだけで、もう……)
「……長門姉、どうしたの?」
「ひああっ!!??」
後ろから触れた陸奥の指の感触に、長門が震え上がった。
「ちょ、"お兄"、本当どうしたの……!?」
「い……いや、大丈夫だ、わわ、私は大丈夫……」
そう言う長門であったが、紅潮しながら焦りを見せるその様子は、明らかに大丈夫ではなかった。
まだこの陸奥は、"兄"がかの潜水艦に植え付けられてしまった性癖を知らないのだ。
それが幸か不幸かはさておき……
「えひひ……開拓しておいた甲斐があったの。次は陸奥にもみっちり教えてあげるのね……」
いまだ活動を続けていた件の伊19は、窓の外からこっそり様子をうかがっていた。
長門との腐れ縁がいまだに続く伊19は、次の狙いを定めつつあった……
開放感の事は確かに書きましたね。“個人的にそうなるだろう”と思って設定を書いておりますので。
長門二世は成長していく分、圧縮されてないので確かに19さん程じゃないでしょうね。
陸奥二世は逃げてーw