「ねえ旦那、女の身体に興味なぁい?」
買った遊女の部屋に潜り込み、一緒に寝床へ入っていざ致そうという段になって、遊女が変なことを言い出した。
「興味があるから買ったのじゃが?」
意味を測りかねてぽかんとする。
「だからぁ…そういうことじゃなくてぇ…」
顔を赤らめつつ着物の両の肩をはだけ、胸を半ばまで露出させる。
うむ。いい乳じゃ。
「あたいになって楽しまない?ってこと」
膝を立ててわしににじり寄ってくる。
「いったい、何を言っておるんじゃ…?」
その場にぺたんと座り込むと、胸元をまさぐり、乳の間から小さなお守りを取り出す。
「そう、これこれ、このお守り。
あたいと旦那の左手同士を……こう……あわせて、その間にこのお守りを挟」
わしの意識が途切れた。
「……なん……じゃ……と?」
わしの口から声が漏れる。しかし、声の感じがいつもと違う。
違和感を感じつつも、顔を下に向ける。
わしの胸に半球の錘(おもり)……2つの乳房。
外気に触れる感覚や着物に包まれている感触もある。どうやらこれは、わしの身体から生えているようだ。
更に身体を曲げ、下を覗き込むと、帯の少し下で大胆に短く切られた着物の下からは、見慣れた筋張った筋肉質な足ではなく、白くてむっちりした太ももがにゅっと飛び出している。
「ここもやはり…」
そう言うと、わしは恐る恐る着物の裾に手を掛ける。
ゴクリ…と生唾を飲み込んだつもりが、コクリ…と可愛らしい音がしたような気がする。
頭を下に向けることで垂れてくる邪魔な長い毛をもう片方の手で掻き揚げる。
見慣れたゴツゴツとした指ではなく、白くて繊細な指で着物の裾を摘まんでゆっくりと持ち上げる。
布の取り払われたその下には見慣れたイチモツはなく、一本の縦のす
「ねえ旦那、もういいかい?」
わしの身体が硬直した。
「あははははは…いいんだよ、旦那、そんなにビックリしなくても。
それは今、あたいのじゃなくて、旦那のものなんだから、好きにしていいんだよ」
目の前に座っていた男はそう言った。
「でも、せっかくあたいになってるんだ。楽しみましょうよ」
両手が伸びてきたと思った次の瞬間には、わしは両方の肩を掴まれて布団の上に投げ出されていた。
「ねえ旦那、あたいの身体に、女の身体になった気分はどうだい?」
わしの着物がずり下げられ、わしの両の乳房が外気に晒される。全貌が、露わに、なる。
自由になった乳房に、『ああ、本当にわしについてるんだな』などと思っている暇もなく、下から掬い上げるように持ち上げると、両胸が揉みしだかれる。
「どうだい?旦那?あたいの乳の具合は?」
両胸からピリピリしびれる感覚が全身に広がり、積もっていく。
「あっ……」
やがて、わしの口から無意識に甘い声が零れる。
「なんだい、旦那、もう喘ぎ声が出せるんだね」
そう言うと、わしの乳房の頂上に立つ構造物、乳輪の真ん中にそそり立つ乳首のその先をピン……と弾いた。
その瞬間、そこから電流が駆け巡り、身体全体に澱のように積もった快感の上に新たな刺激が加わり、身体がピクンと跳ねる。
わしの口からは「あんっ……」とまたもや勝手に甘い声が零れた。
「なんだいなんだい、まだまだこれからだよ」
男は、わしの太ももの下に肩を入れると、両足を持ち上げ、両手でぐいっと押し割る。
今までわしの股の間を隠していた布が、わしの太ももに持ち上げられ、捲れ上がる。
毛の生えていない股の間の、すこし湿って、水けを帯びててらてらと光りかけている肉の裂け目が、露わになる。
男の頭が股の間に沈み込むと、生暖かく湿ったものが押し当てられ、期せず、「ひゃん」という声がわしの口から飛び出した。
それはうねうねと動き、「ピチャリ、ピチャリ」と音を立ててわしのイチモツと睾丸のあったはずの場所の奥、肉の割れ目を舐め回しはじめる。
ふわふわの快感が溢れる。
夢現の気分になる。
気持ち、いい……。
お臍の下の、身体の内側がじんわり暖かく、なる。
身体の、よくわからない部分が、うねる。
わしの股の間から、ピュッ、ピュッと勢いよく透明の液体が飛び出して、男の顔にかかる。
意識は、一度溶けるように真っ白になった後、半分靄で霞んだような夢心地。
「旦那、そんなに良かったですか?あたいの身体。
準備も万端整いましたし、そろそろ本番とまいりましょうか」
男は、帯を解くと、着物を脱ぎ捨て、褌を解いた。
その下からは、ぽろんといきり立ったイチモツがまろび出る。
なんだかいつも見ているより大きく見えるが、先刻までわしについていたモノだ。
そしてそれは、わしの股の間へと押し当てられた。
「あたい、実はこう見えて生娘なんだ。
ちょっと痛いかも知れないけど、旦那、ちょっとの間、我慢してね」
「なっ、おまえ遊女じゃ」
反論する間もなく、入口に押し当てられていた肉の棒が中に、股の肉を押し広げて、飲み込まれていく。
しかしそれは、大きさの半ばまでも行かず、障害物に阻まれて侵入は停止する。
「じゃあ、旦那、いくよ」
腰を軽く引いて、反動を付けたかと思うと、一気に腰を突き込んだ。
頭の中で『ぶぢん』と音がしたかと思うと、ふわふわした気分が引き裂かれ激痛が走る。
その勢いのまま、棒はわし腹の中の肉をかき分けて進み、最奥の壁に突き当たると、その壁を少し持ち上げて止まった。
「ごめんね、旦那」
その姿勢から、身体を曲げ、顔を寄せると両目の脇に溜まった涙を舐め取った。
まだ、心臓が鼓動する度に、ずきん、ずきん、という痛みが襲ってくるような気がする。
歯を食いしばって耐えていると、再び男が口をひらいた。
「そろそろいいかな、旦那」
再び、ゆっくりと腰を動かし始める。
接合部分からはぬちゅり、ぬちゅりと音が鳴る。
「くっ」
時折、思い出したように激痛が走る。
ぬちゃ、ぬちゃ…部屋を支配するのは湿った音、肉と肉のぶつかる音、荒い息、喘ぎ声。
腰を振る男と、それに合わせて揺れる乳房、乱れる髪。
わしは、2回イった辺りから痛みをさほど感じなくなり、再び微睡みに身を沈めていた。
「だんっ、なっ…そろそろ出そう」
そう言って腰の動きを速める。
それに合わせて受ける快感も増えていく。はて?何度目であろう…?
「出るっ……」
「……あっ…」
腹の中に熱い物が入ってくるのを感じるのと共に、快感の許容量があふれたようで、溢れる快感とともに意識が途切れた。
「ん…」
深い暗闇の底から意識を浮かび上がらせる。意識を、とりもどす。目を、覚ます…目を、ひらく。
天井の木の模様を眺めて居ても仕方がないので、掛けられた布団を持ち上げて身体を起こす。
布団の、胸に掛けられていた部分が折れて脚の上で重なる。
胸には2つの錘の感覚。
背中に当たるのは長い髪だろう。
「わしは、あの女のままなのか」
部屋を見回す……。
……誰も居ない。
「誰……か……?」
布団を跳ね上げ、敷布団の上から退散願う。
むっちりとした太もも、股の間の肉の割れ目が露わになる。
着崩した着物は既に用をなしていない。
身体をずらすと、布団には、赤い血の跡。
股の間には、まだ何かを挟んでいるような不快感がある。
「おぼこ…だったとはのう…」
わしの口から、わしの物ではない声が零れる。
臍に人差し指を当てると、つつつ……と下へと降ろしていく。
逸物にも、金玉にも当たらずに、股の間の暗がりへと消えていく指先。
「……おなご……なんだな……」
再び周りを見回して、誰も居ないのを確認すると、自分の胸を見下ろす。
乳房、乳首、乳輪。
男のモノとは色もカタチも大きさも異なる。
両手を胸の下へやって、掬い上げるように持ち上げる。
持ち上げられた感覚、手には確かな重み、胸にぶら下がる重みの低減。
そこから、昨日やられたように両手で捏ねる。
「なんだか、あんまり、きもちよく……ない?」
わしの手が乳首に触れる。
「ひゃん…」
…………。
……。
「このくらいにしておこう」
「しかし、あ奴はいったい何処へいったんじゃ」
立ち上がり、帯を解くと着崩し過ぎて身体を隠す用をなしていない着物を元通りにする。
着物の丈が短すぎるのが気になって、裾を引っ張ってなんとか隠そうとしてみたが、どうやっても代わりに肩がはだけてしまうので諦めた。
股の間や太ももに垂れてきていた部分が乾いてパリパリになって気持ち悪い。
汗にかなりかいたはずだ。ベトベトしている気がする。
「まずは風呂じゃな」
わしは呟いた。
しゅっ、たん。と音がして障子が開かれる。
その向こうには昨日ここに案内してくれたこの店の番頭だ。
「旦那はもうお帰りになられたんだ、お前ももう出な。掃除ができないだろうが」
「……。……。
…旦那ってわしの事じゃから…。
………………!
わし………じゃなくて旦那はもう帰ったのか?」
「ああ、朝早くに帰ったよ。……ってお前まさか」
番頭が口角を上げる。
「ははぁん、あんた、中身はあの旦那なのかい?」
「あ、ああ。
わしの身体が持っていかれてしもうた」
普段通り話しているつもりだが、口から出てくるのは女の声。違和感が甚だしい。
「あいつは、最近借金のカタにここに来やしてね、
こういう仕事は初めてだって言うんで、床技を教えて、普通は店の者が最初に抱くんでさ、
ところが、いざ、ってなってみると大泣きに泣いて大暴れだしやがって…抱く方も怪我しちまって…結局うちの者が何人も怪我しちまいやしてね。
それなら格安で客に抱かせてみようなんてこともやってみたんですがそれもうまく行かなくて、
昔、旅の文無しの生臭坊主を身ぐるみ剥いだ時に分捕ったお守りを、物は試しと渡してみたんでさ
希少なものだとか寝言言ってやがるなとは思ったんだがまさか本物だったとは」
「……おまえのせいか!」
肩をいからせて怒るが、これはきっと可愛らしいだけなんだろう。
この後も一頻り、怒りをぶち撒けていたのだが、突然、あることに気付いてしまった。
「どうしたんです?旦那?」
黙り込んだわしに番頭が声をかける。
「……その……なんじゃ」
太ももを合わせて足を閉じる。
股の間の部分がうっすらと暖かいような感覚……。
「……番頭、厠はどこだ」
刺激を与えないようになんとか声を絞り出す。
なるべく膀胱に刺激を与えないポジションを探して身体を動かしつつ、
それでもどうしようもなくなり、元栓に蓋をしようと股の間へと指を滑らせる。
しかし、限界が、きた。
つー…と太ももを黄色い液体が滑り落ちたかと思うと、押さえた指の下から後続が一気に迸り出る。
少しでも押し留めようと下腹に力を入れてみるが、決壊した堰には何の役にも立たなかった。
あれから三日。
足元までの長さの藍色の着物を着て、長い髪は首の後ろで縛り、完全に旅の町娘の装いで木の陰に身を隠している。
視線の先の街道には、刀を杖にヨロヨロと歩くよれよれの男。
『距離はこんなものでいいかな』
近すぎず、遠すぎずの距離をを見計らって、木の陰から出て男の目の前に立ち塞がる。
「やあ、旦那、置き去りは酷いじゃないか」
「……!わた…じゃなくて、旦那!」
勢い余って蹲る男。
「お前の欲しいのはこれだろ?」
懐から小銭入れの袋を取り出すと、男の目の前で左右に振る。
「わしの身体を持って逃げて、どうするつもりだったんだ?
遊郭に遊びに行くのにそんな大金を持っていくわけないだろうが。
おかげで、人相と食うのに困ってそうな旅人を聞いて回ったらすぐ見つかったがな」
「あたいは、あそこに入れられたばっかりで、借金があったはずじゃ…」
「ああ、そのことか」
………………
「番頭、少し外に出たいのじゃが、いいか?」
「駄目です。あなたさまはもうそのおなごになってしまっているのです。
借金のカタに、ここに売られてきたのですよ?
働いて、お給金の中からお金をコツコツ返して、返し終わったならば自由の身にもなれるでしょう」
顎に手を置いて考える。
「番頭、おんしが付いて来るのならどうじゃ。そんなに遠くへ行くわけではない。逃げはせん」
「ようございましょう、それで、どこへ?」
「村の、神社じゃよ」
「で、わしが自分で自分を身請けするには幾ら払えばいいのじゃ?」
神社の裏の林の中に埋めておいた全財産を掘り起こすと、早速番頭と交渉に入った。
「じゅ…いえ、二十両にございます」
「いま、十両って言いかけたな?」
「……はい……十両でようございます」
「それは遊女が最終的に払う利子を含んだ金額だろう?
最近仕入れたんだよな?そんなに利子は付かないはずだが」
「…ご、五両でようございます。はい。
でも、これ以上はまかりませんよ?あなたさまを買った値段ですからね」
「あのままだったら客が取れなかったんだよな、三両でどうだ」
「そういうわけにもまいりません。五両が仕入れ値、限界にございます」
「まあ仕方ないか」
「少し多うございますが?」
「ふ、布団代と畳代じゃ、とっておけ!」
………………
「なんだい、旦那、あたいの借金値切ったのかい」
あははっ…目の前の男が笑い出した。
わしは再び懐を探ると、目的の物を取り出す。
取り出した物を見て、男の笑顔が凍りついた。
「やっ…ぱり…戻らないといけないよね…あそこへ」
「痛いのは肩代わりしてやったんじゃ。やっていけるであろう?」
唇の端を持ち上げてにいっと笑う。
「なんてな」
そう言うと手に持ったお守りの口を開くと、中身を引きずり出す。
そして、中身の紙に墨でなにやら書かれたお札を細かく裂いて、風に舞わせた。
「 そ、それがないとあたいたち元に…
貴重なものだって聞いて…」
しきりに文句を言う男の腕を掴むと、物陰へと引き摺り込んだ。
「なあ、溜まってるんだろ?」
「なっ」
帯を解いて男を裸にする。
『これが、わしについてたなんてなぁ』
こうなった以上、わしは、もう、女じゃ。こういうこともせにゃならん。
他人のものならいざ知らず、この摩羅はついこの間までわしの物だったんじゃ。
意を決して口付ける。そして、一気に銜え込む。舌先で様々な変化を付け、刺激を与える。
それを受けて、男のイチモツは口の中でたちまち大きくなって元気を取り戻す。
「ん。こんなもんか」
立ち上がると、適当な大きさの木に両手を突くと、尻を突き出し、着物を捲ってお尻を外気に晒す。
後ろを振り返ると、男が、元女であるとは思えない獣の目で、尻肉にむしゃぶりつくところだった。
それからかなりの時間、肉のぶつかる音と喘ぎ声が響き渡ることと相成った。
何回かわからないほど行為を重ね、疲れ果てた二人は汚れるのにも構わず草むらに横たわっていた。
「ねえ、旦那、これでいいの?」
「どうせわしゃ、五男坊じゃ。女になったとて、そう変わるもんでもあるまいて。
それとも、身体を元に戻して、あの宿に戻りたかったんか?」
「そん…な…それじゃあ、あたいはこれからどうすれば……」
「おなごの一人旅は危ないからのう。用心棒じゃ。
守って、くれるんじゃろう?」
「…………」
「なぁに、商売する言うて、実家から軍資金はたんまりくすねてきてある。
二人で細々と食う分には困らんよ」
隣の、分厚い胸板へと頭を寄せる。
………………
部屋に入ってきた白髪の老人が頭を下げる。
「若、探しましたぞ。それで、折り入ってお話が」
目の前にいるのはうち実家で家令をやっていた爺だ。
わたしが子供の頃は教育係もやっていたので、よく悪戯して怒られたものだ。
家を出て以来、久しぶりに見るのでだいぶ老け込んでいるように見える。
「少しの間にこんな大店(おおだな)になさるとは。
失礼ながら、口さがない者達には、失敗してすぐ戻ってくるに違いないなどと言われていたのですよ。
本当に若に商才がおありになるとは、爺めも思いませなんだぞ」
「久しぶりだな、爺」
「貴女さまにじいと呼ばれる筋合いはございませぬ」
しまったと思う間もなく横からフォローが入る。
「これは、わしの妻でしてな。して、用向きとは?」
「はぁ…実は…言いにくいことなのですが…兄上が相次いで病に伏せられ、すぐに戻ってこい…と」
ゆるく膨らんだ腹を撫でながら思う。
『おまえは、大店の七男か九女として生まれてくるかと思っていたが、これはどうやら違うようだぞ』
身体の違いについての説明も詳細で、個人的にかなりポイント高いです。
良い作品でした。作者さんの次回作を楽しみにお待ちしております。