クラスメイトの双葉は、明るくてお洒落でかわいい。
俺の目から見て、うちのクラス一、いやうちの小学校一の美少女だ。
男女ともに双葉に憧れている者が多く、俺もそのうちの一人だ。
双葉と仲良くなるチャンスはあった。
なのに、双葉に告白する勇気もなくて、遠くから見つめていただけの臆病者だけどね。
俺は特に、双葉の明るい笑顔が大好きだ。
なのに最近の双葉のその笑顔は、微妙に曇っているっていうか、俺には憂いを含んだ表情に見えた。
いつも双葉を見ていた俺にはわかる。
どうしたんだろう?
何か悩みでもあるんだろうか?
もしそうなら、俺でよければ彼女の力になりたい、元の笑顔を取り戻してあげたい。
俺は思い切って双葉に聞いてみることにした。
「あ、わかる? 清彦君にはそう見えたんだ」
そう言って双葉は力なく笑った。
「悩みがあるなら言ってよ、俺でよければ力になるよ」
「清彦君に言ったって、どうなる物でも、……よく見たら清彦君……悪くないかも」
双葉はぶつぶつ呟きながら、何かを思案し始めた。
やがて何か考えがまとまったのか、いきなりこんな事を言ってきた。
「清彦君、本当に私を助けたいと思っている?」
「ああ、思っている」
「何に変えても、例え清彦君のその身に変えても」
双葉の言葉も表情も真剣で、軽く返事の出来る雰囲気ではなかった。
思った以上に双葉の悩みは重いらしい。
それでも俺は、返事をした。
「ああ、双葉のためなら、俺は何だってするよ」
「嬉しい、それじゃ放課後にもう一度会って、続きはその時に」
断ったら双葉とはそれっきり、ずっとただの友達だろう。
だけど受け入れたら、今以上に親しくなれる。きっと恋人同士にもなれる。
俺はその可能性に目が眩んだんだ。
放課後、双葉の指定してきた学校の裏庭にきた。
ここは普段は人気が少ないから、こっそり会って内緒話をするには良い場所だ。
だからここなんだと思っていたんだけど、
双葉は先に来て俺を待っていた。
手に何か紙を持っている、何だろう?
「内緒、それより清彦君こっちに来て」
「あ、ああ」
俺は双葉の言われるままに、側に寄って行った。
「じゃあ、もう一度聞くわね、私のためなら、本当にその身に変えてもなんでもする、それで良いわね?」
双葉は念を押すように聞いてきた。
俺は一瞬躊躇した。本当にいいのか?
何か取り返しがつかないことになるんじゃないのか?
そんな胸騒ぎというか、嫌な予感みたいなものが湧き上がってくる。
だけど、双葉と親しくなれるかもしれないこのチャンスを、棒に振るなんてできなかった。
「あ、ああ、いいよ、俺でよければなんでもする」
「嬉しい、じゃあまずこの紙のここに、清彦君の名前を書いて」
「俺の名前?」
何で? と思いながら双葉の差し出した紙を見た。
その紙には、よくわからない文字のような複雑な模様と、双葉の名前が書いてあった。
なぜだか胸騒ぎが大きくなってきた。
これにサインなんてしちゃ駄目だ、そんな気がする。
だけど、今更双葉の頼みを断るなんて選択は、俺には出来なかった。
その紙に俺の名前を書いた。
「ありがとう、じゃあ手を出して」
「こうか?」
ちくっ、と指の先に痛みが走った。
双葉が小型のカッターで、俺の指先を切ったんだ。
いきなり何をするんだよ!!
「黙ってて」
と言いながら、俺の指先から流れた血を、双葉はその模様のついた紙につけた。
次に双葉は、今度は自分の指先を切り、その血を紙につける。
さすがにこれ以上は何か不味い、って気がしてきたが、もう遅かった。
「これで契約完了ね」
「契約完了って何だよ!」
と、双葉に問いかけたのとほぼ同時に、その紙が光だし、何かが発動した。
俺と双葉のいる周りに光が集まり、足元に魔方陣のような輪が浮かび上がる。
俺と双葉は、その光の輪に飲み込まれていった。
次に気がついたら、俺はその場に倒れていた。
体中が痺れたように、俺の感覚が麻痺していたが、徐々に感覚が戻ってきた。
なぜだか違和感が大きいが、手足は、……よし動く、俺はそっと身を起こした。
「うう、一体何が……」
俺のあげたうめき声が、何だかいつもより甲高い気がした。
目の前に垂れた長い髪が、何だか邪魔に感じて、俺は乱暴にかき上げた。
長い髪?
「なんだこりゃ!!」
何で俺の髪がこんなに長いんだ、いや、俺の手って、こんなに細くてきれいだったっけ?
それに、ピンクのキャミソールに紺色のひらひらなスカート、いや、この服って、確か双葉が着ていた服だよな、何で俺が着てるんだよ?
「う、ううっ……」
軽くパニックに陥っていると、目の前で倒れていた誰かが目を覚ました。
プリントTシャツに、ハーフパンツ姿の小学生男子、俺が着ていたものと同じ服を着たこの男子は?
「お、俺?」
俺の目の前で、目を覚ましたのは、俺だった。
「えっ、わ、わたし!?」
目の前の俺、清彦は、俺の顔を見て一瞬驚きの表情の後、はっと何かに気がつき、
双葉のバッグを迷わずに開けて、中から手鏡を取り出して見た。
「……本当に、清彦君になっちゃったんだ」
心なしか、少し落ち込んだような沈んだ声で、清彦が呟いていた。
そんな清彦の様子に、俺はイラッとした。
「お前は誰だよ! 何で俺がもう一人居るんだよ!!」
「もしかして、あなたは清彦君?」
「そうだよ、見りゃわかるだろ」
「……案外鈍いのね」
「なんだと!」
「それとも気づかない振りをしているの、薄々気づいているんでしょう?」
清彦はそう言いながら、俺に手鏡を手渡した。
俺は手渡された手鏡を、恐る恐る覗き込んだ。
「な、何で双葉の顔が!!」
手鏡の中には、双葉の顔が映っていた。
いや、思った通り、双葉の顔だった。
悔しいけれど、目の前の清彦に言われた通り、薄々そうじゃないかと気づいていた。
という事は、目の前の清彦の中身は?
「そういうお前は、双葉か?」
「ピンポン、正解です」
「ふざけないで、これはどういうことだよ!!
何で俺たちの体が、入れ替わっているんだよ!!
いや、何で入れ替えたんだよ!!」
双葉がどういうつもりで、俺と体を入れ替えたのかわからない。
だけどこうなると、さっきの変な模様の紙で、体を入れ替えたのは間違いないだろう。
「私ね、もう女は嫌なの」
「えっ?」
「正確には、もうこれ以上、あの人みたいなメスにはなりたくないの!!」
女は嫌?
あの人みたいなメスにはなりたくない?
どういう事?
いや、それよりも。
「だからって、何で俺なんかと、体を入れ替えたんだよ!!」
「だって清彦君、言ったじゃない、俺でよければ力になる、その身に変えてもなんでもするって、念を押して聞いたじゃない」
「えっ?……た、確かに言ったけどさ」
だからといって、ここまでするなんて思わなかったし、本当にこの身を変える事になるなんて思わなかった。
どうすればいいんだよ、双葉は女が嫌になったかもしれないけれど、俺は男は嫌になってないし俺をやめるつもりもなかったぞ。
そ、そうだ、さっきの俺になった直後の双葉の態度、あれは……。
「双葉だって、本当はこんなの気が進まないんだろ、さっきだって、俺になったのに、あまり嬉しそうじゃなかった」
「よく見ていたわね、確かにそうよ、本当はこんな事までしたくなかった」
やっぱりそうだったんだ。だったらもう一押し説得すれば。
「だ、だったら、もう一度元の体に戻って考え直そう。俺だって双葉の悩みに協力するからさ」
だけど、そんな甘い考えは、すぐに打ち砕かれた。
「無理よ、このおまじないは一度きりなんだから」
「えっ、嘘だろ!!」
「本当よ、あの術式の契約書をくれた親切な人が言っていた。これは使えるのが一度きりだから、よく考えて使えって」
「そ、そんな……」
俺はショックで力が抜けて、その場にへたりこんでしまった。
地面に直接触れたお尻が冷たい、なにやってるんだ俺、みっともない、早く立たないと。
「清彦君、大丈夫?」
そう言いながら、清彦が俺を助け起こそうと手を伸ばす。
誰のせいでこうなったと思ってるんだ、お前の手なんか借りるか。
そう強がって自分で立ち上がろうとしたけど、上手く力が入らない。
結局清彦に助け起こされてしまった。
その時清彦の、男の力強さを実感してしまった。
同時に、今の我が身の非力さも、……なんだか悔しくて、泣きたい気分だ。
だけど俺にも意地がある、今のこいつの前では、絶対に泣きたくなかった。
「こんなことをしてまで嫌がるなんて、双葉の悩みってどんな悩みなんだ?」
「口ではうまく言えないし、言いたくない。そのうちわかるわよ、嫌でもね」
「い、嫌でも……」
さすがに少し怖くなった。
そのうちわかるって、俺がそういう目に合うってことだよな?
一体どういう目にあうんだ。
「あ、ごめん、言い方が悪かったわね。別にその身に危害が加えられるわけじゃないから、安心して」
安心って、こんな事になって、安心なんてできるかよ!!
「じゃあ、そろそろ私、ううん俺、家に帰るから」
「ええっ! ちょ、ちょっと待てよ!! 家に帰るってどこの家にだよ!!」
「もちろん今の俺の家は、清彦の家に決まってるだろ」
そんなこと言って、俺の家がどこにあるのか知ってるのかよ。
俺の家族のこととか、他にも色々大丈夫なのかよ。
「大丈夫だよ、今の俺は清彦だから、清彦として必要な情報は、すぐにでも引き出せるはずだから。
重要な記憶も、必要な時に思い出せるはずだから」
「あなたも今は双葉なんだから、双葉の事は思い出せるはずだよ。双葉の家の場所、わかる?」
清彦にそう言われて、俺は双葉の家の場所を思い浮かべてみる。
たしか駅の近くのマンションの……、!?
俺は双葉の家なんて知らないはずなのに、なんで思い出せるんだよ!!
「早ければ一週間、遅くても一ヵ月あれば、不自由ないくらいに馴染めるはずだから。って、これはあの人の受け売りだけどね」
「ちょっと待って、いくら記憶が読めるとか言われても、それでいいのかよ!!
このままだと、俺が双葉の体を好き勝手にするかもしれないんだぜ、本当にそれでいいのかよ?」
「今はあなたが双葉なんだから、双葉の好きにすればいい。
そのかわり、俺は清彦として俺の好きにする。
お互いに相手に干渉しない、双葉もそのほうがいいだろう?」
まさか、そんなドライな返事が返ってくるとは思わなかったから、俺は唖然としてすぐに返事が返せなかった。
「じゃあな、双葉」
俺が唖然としている間に、清彦は先に行ってしまった。
本当に清彦の家に帰るつもりなんだろう。
俺はその場に一人だけ、ぽつんと取り残された。
いくら必要な記憶が読めるとか、好きにして良いとか言われても、これはあんまりだ。
何でこんな事になってしまったんだろうか?
双葉の悩みを聞いて、上手くいけば俺は双葉と恋人になれるはずだったんだ。
なのに現実は、双葉に体を入れ替えさせられて、清彦の存在を奪われてしまった。
もう清彦には戻れない?
俺は一生双葉のまま?
いきなり突きつけられた現実が重過ぎて、すぐには受け入れられそうにない。
「……俺、これから、どうすればいいんだよ?」
清彦を追いかけて、俺も清彦の家に帰るべきだろうか?
いや、この姿で行っても意味ないだろう。
清彦の家族にとっては、今の俺は家族ではなく、清彦のクラスメイトでしかないんだから。
少なくとも、清彦の家は、俺の帰る場所じゃなくなってしまったんだ。
悲しくて悔しくて、いつの間にか俺の目には涙が溢れていた。
今度は我慢しないで、その場で一人で泣いた。
しばらく泣いて泣き止んだ後、俺はその場に残されていた、双葉の荷物をまとめると、
とぼとぼと双葉の家に帰ったのだった。
「ここが、双葉の住んでいるマンションか……」
駅の近くにある、高級そうなマンション見上げながら、俺は呆然とした。
こういうところに住んでいる人がいるのは、知識としては知っていたけど、双葉がそうだとは知らなかった。
一戸建てとはいえ、ごく普通の一般家庭な俺の家とは偉い違いだ。
俺なんかがこんな場違いなマンションに入ってもいいのだろうか?
そう思いかけて、今の俺は双葉なんだと思いなおし、思い切って中に入った。
エントランスホールに入ると、カウンターの女性から「お帰りなさいませ」と声をかけられた。
誰? ああコンシェルジュの人なんだ、と、俺の知らないはずの知識が思い浮かび、自然に理解して納得した。
声をかけられて、一瞬ぎくっとしたけど、今の俺は双葉なんだ、大丈夫だ。
「ただいま」
俺はにっこり笑みを浮かべながら、自覚がないまま、いつもの双葉のしていた、自然な挨拶を返していた。
エレベーターで双葉の家のある階まで上がり、廊下に出た。
ここは本当に凄い所だよな、内装は高級そうだし綺麗だし、セキュリティーとやらも凄いんだな。
カードキーがないとエレベーターが使えないなんて、俺は知らないから、エレベーターが動かないことに一瞬焦った。
どうすればいいのか、すぐにやり方が思い浮かんですぐ対応できた。
必要最低限の情報は、すぐにでも引き出せる、か、本当にそうなんだな。
元の俺なら、説明を受けていても、ちんぷんかんぷんだっただろう。
今の状況は色々と気に入らないけど、これならなんとかやっていけそうな気がしてきた。
そうこう思案しているうちに、俺は双葉の家の前まで来た。
玄関のドアにも、認証の操作盤が設置されていた。
俺はカードキーを認識させて、指紋認証、暗証番号の入力と、順番に操作した。
そして今度は、その複雑で面倒な作業を、俺は初めてなのに、まるで毎日のやり慣れた作業って感じで、迷いもなくこなせた。
カチっという音がしてドアが開いた。
「た、ただいま」
特に出迎えも返事もなかった。
この家には、今は誰もいないのかな?
俺は恐る恐る双葉の家の中に入っていった。
双葉の家の中は、外見と同じように内装も豪華で高そうだった。
リビングに差し掛かって中を見てみると、大人の女性がソファーに座っていた。
「……ただいま」
家族だろうか?
俺は慌てて帰りの挨拶をした。
「えっ、双葉ちゃん! ……お、おかえりなさい」
大人の女性は俺の挨拶に驚いた顔をしながら、慌てて返事を返してくれた。
この人は誰だろうか?
そう思っていたら、俺の頭の中にある言葉が浮かんだ。
「ママ」ってことは、この人は双葉のお母さんなんだ。
双葉のママの名前は若葉っていうらしい。
俺の「ママ」への第一印象
さすが双葉の母親だ、美人で綺麗なお母さんだな、俺の母さんとは大違いだ。
胸も大きくて柔らかそうだし、あの胸に触ってみたいな。
いや、顔を押し付けてすりすりしてみたいな。
……いかんいかん、これじゃスケベな男子丸出しじゃないか。
まあ、そんなところに目が行くのは、元男のサガだし、仕方がないかもな。
それとは別に、なんだか優しそうな人だな、と思った。
俺の抱いた第一印象は悪くなかった。はずだった。
あと、顔立ちは双葉に似ているって思った。
双葉が大人になったら、こんな感じになるんだろうな。
と、思った瞬間、『嫌だ!!』と感じた。何でだ?
「珍しいわね、双葉ちゃんのほうから、ママに話しかけてくれるなんて、ママ嬉しいわ」
えっ、そうなのか?
もしかして、双葉はママと上手くいっていないのか?
双葉の悩みって、ママ絡みだったのか?
「美味しいケーキがあるの、ママと一緒に食べない?」
どうしよう?
もしママと双葉の仲が上手くいっていないのならば、他人は深入りするべきではないのかもしれない。
でも、今は俺が双葉だ。
これからは俺が双葉としてやっていかなきゃいけないのなら、親子仲が上手くいかないままなのも嫌だな。
なんだかおなかも空いてるし、せっかくのお誘いだ。ここは受けるべきだろう。
もし、後で元の双葉に文句を言われても知るもんか。好きにしていいって言ったのはあいつだしな。
だから俺は、「うん、食べる」と返事を返した。
ママはますます嬉しそうに、ケーキと紅茶の準備を始めた。
やがてテーブルの上に、ケーキと紅茶が並べられた。
俺は席に座ってケーキを一口食べた。
「甘い、甘くてふわふわして美味しい」
「でしょう?」
こんな美味しいケーキを食べたのは、俺は生まれて初めてだ。
クリームと一緒に、なんだか心まで蕩けちゃいそうだ。
俺は幸せな気分になった。
そんな俺を見て、ママが嬉しそうに笑う。
思っていたより、双葉のママと上手くやれそうだ。
そう思って安心しかけた時、ママの手が俺に触れた。
触られた瞬間、俺の体に虫唾が走った。汚らわしい!!
反射的に、『触るな、汚らわしい!!』と言う言葉が喉まで出掛かり、辛うじてそれを抑えた。
それはママへの激しい嫌悪感。
双葉はママに拒絶に近い嫌悪感を抱いて嫌っていたんだ。
そして今は、その双葉が感じていた嫌悪感を、俺も感じさせられていた。
「どうしたの双葉ちゃん?」
「う、ううん、なんでもない」
俺は咄嗟に作り笑いをして誤魔化した。
とはいえ、ママに対して湧き上がる嫌悪感が邪魔をして、もうさっきまでみたいな、自然に友好的な態度は取れそうになかった。
それでも俺は、表面的にはママに友好的な態度をとり続けて、その場はなんとか取り繕った。
それにしてもなんでだ?
なんで双葉は自分の母親を、こんなにも嫌っているんだ?
「双葉の言っていたあの人って、もしかして……」
俺はこの時には、ママが双葉の悩みの元凶だったんだと確信していた。
う、急にトイレに行きたくなった。
今飲んでいた紅茶のせいかな?
でも、双葉のママに感じ始めた嫌悪感のせいで、ママとの会話が苦痛になっていたから、一旦この場を離れるいい口実になる。
「ごめんママ、お手洗いに行ってくる」
「そう、仕方がないわね」
ママは残念そうだけど、すぐにその場を離れてトイレに向かった。
俺はトイレの個室で一人になれて、正直ホッとした。
もっともホッとしたのもつかの間、すぐ別の問題に直面した。
「うっ、双葉の体で、俺がオシッコをするのか? ほ、本当にいいのかよ!!」
あんなだまし討ちみたいな形で、俺は双葉と体を入れ替えさせられた。
だけどそれでも双葉は、俺の憧れていた女の子だったんだ。
その憧れの女の子の体で、俺がオシッコをするなんて、……俺は気恥ずかしさに赤面した。
ええい、今更双葉に遠慮なんかしても仕方ない。もう我慢も限界だ。
俺はスカートを捲り上げて、穿いていたパンツを引き下ろした。
開放感とともに、股の間になにか物足りなさも感じた。
俺は恐る恐る股間を見た。
男だった時に、そこにあったものがなくなっていて、
かわりにそこには女の子の割れ目ができていた。
俺はやっぱり男じゃなくなってしまったんだ。
そのことに改めて喪失感を感じながら、でも我慢の限界にそんな感傷に浸っている余裕はなく、俺はすぐ便座に腰を下ろした。
同時に我慢の限界を越えたのか、俺の股間の割れ目からは、オシッコの放出がはじまった。
「あ、あ、あ……」
女の体でオシッコをする感覚は、ダイレクトで男の時とは違っていた。
男のときのようには、オシッコをコントロールできないって感じた。
ちんぽがないってこんな感じなんだ。俺は今は女なんだ。
そんなことを実感しながら、俺はどうにか女としての初めてのオシッコをすませた。
「はぁ……、これが女の子のオシッコなんだ」
オシッコをすませたすっきり感と、
女としての初めてのオシッコをすませたという奇妙な達成感に、
俺は便座に腰掛けたまましばらく呆けていた。
ふと気がついて股間を見た。
俺の目には、オシッコをすませたばかりの女の子の割れ目が見えた。
「あっと、いけない、女の子はここを、拭かなきゃいけないんだよね?」
本来の双葉なら、この後ウォッシュレットのビデを使うところだったが、
女の子初心者の今の俺は、そんなことには気づかなかった。
このトイレは、温風の乾燥機能も付いているが、今回はその事にも気づかなかった。
ただ、『女の子は紙で股間を拭く』という聞きかじった自分の知識に従って、
トイレットペーパーを千切って、そっと自分の股間を拭いてみた。
「あっ!」
デリケートな部分に触れると敏感に感じて、思わず声が出てしまった。
今まで経験したことのない感覚。
少し不用意だったかもしれない。
ここがこんなにも敏感に感じるなんて。
なんだよ…この感じ……、だけど、ああっ、こうすると、気持ちいいんだ……。
何もない股間を通り過ぎるたびに、女の子になっているという実感を味わえて、俺は……。
「だーっ! 俺は何をやってるんだよ!!」
初めて経験する女の子の感覚に、危うく流されそうになって、ハッと気がついて、すんでのところで理性で押しとどめた。
「さすがにこんなの駄目だろ!!」
俺は股間が、いや、体の奥が疼くのを抑えながら、そそくさと股間を拭いた。
そして双葉の部屋に戻って、夕食の時間まで過ごしたのだった。
夕食の時間は、双葉のママの手料理を食べた。
なんだか今日は張り切って作ったらしい、ママの手料理は美味しかった。
「ごちそうさま」
食後の挨拶を済ませて、俺は席を立った。
「あら、双葉ちゃん、もうお部屋に行っちゃうの?」
「う、うん、宿題があるから」
「そう? それは残念ね」
宿題と言うのは嘘で、本当は双葉のママと一緒に居ると、精神的に気が休まらないからだった。
「お風呂にお湯が張ってあるから、宿題の後にでも入るといいわ」
「あ、うん、後でね……」
生返事を返しながら、俺はそそくさとダイニングを後にした。
双葉の部屋に戻って一人になれて、ようやく一息ついて落ち着けた。
「ふう、双葉が自分の母親を嫌うのは、双葉の心の問題だから仕方がないけどさ、俺にまでその感情を押し付けないで欲しいよな」
実際は、双葉には、そんなつもりはなかったのかもしれない。
だけど、双葉がママを嫌う感情が強すぎて、そのせいで、入れ替わった俺にまで影響を残してしまったんだろう。
そして俺は、逆にそんな双葉の感情に反発を感じてもいた。
そんな感情まで双葉に押し付けられて、振り回されてたまるか!! とね。
だから、双葉のママと一緒に居ると、心に負担を感じたけど、できるだけ相手にするようにもした。
「せめて、何で双葉がママを嫌っているのか、理由がわかればなんとかできるのにな」
どういうわけかこの件では、記憶が読めたり理由が思い浮かんだりしなかった。
別れ際の双葉が、話すのを嫌がったみたいに、体のほうが嫌がってるのかな。
でもまあ、これも別れ際に双葉が言っていたように、そのうちに理由がわかるようになるんだろう。
ただ、一つだけ感覚的にわかったことがある。
双葉にとってあの母親は、まだ理由はわからないけど、触るのも嫌な汚らしい存在で、
潔癖症な女の子な双葉は、だからママを許せなかったんだろう、ということだ。
双葉が潔癖症な女の子だった事も、感覚的に理解できてしまった。
だって今は、俺が双葉なんだから。
「ふう、疲れた」
俺は双葉のベッドに横になった。
ただでさえ慣れない環境で気を使っているのに、そのうえママの事を嫌う双葉の感覚のせいで、精神的にくたくただ。
だからちょっとだけ横になって休んでもいいよな。
わあ、双葉のベッドって、ふかふかで気持良いんだな。
俺は今までの気疲れと、ベッドの心地よさに、ついうとうとして……。
あれ? 俺、いつの間にか寝ていた?
時計を見ると、時刻は午後11時を回っていた。
どうしよう、もう時間も遅いから、このまま寝ちゃおうか?
だけど、今ので寝汗をかいていて、体がじめっとして嫌な感じがする。
お風呂に入らないで、汚れた体のままで寝るなんて、ありえない!!
今や潔癖症な女の子な、俺の感覚がそう感じていた。
双葉の体に入れ替わった後、見たり触ったり、できるだけ変なことはしないように、遠慮していたつもりだった。
トイレでちょっと流されそうになったけど、その時は踏みとどまった。
だけど本当は、好きだった女の子の体に、俺は興味深々だったんだ。
いまさらやせ我慢してもしょうがないよな。
「今は俺が双葉なんだ、この体も今は俺のものなんだ、お風呂くらいはいいよな?」
ママもお風呂に入れって言っていたし、
そんなわけで、結構時間は遅くなったけど、今からお風呂に入る事にしよう。
俺はいそいそと準備を始めた。
お風呂へ入る準備を終えて、俺は双葉の部屋をそっと出た。
この遅い時間だ、ママはもう寝ているだろうし、起こさないように静かにしないと。
あれ、リビングのほうから明かりが漏れている。
ママはまだ寝ていないのかな?
俺はリビングをそっと覗いてみた。
そこにはママと、若い半裸の男の姿が……。
『な、何をやってるんだよ!!』
あろうことか、ママは男のちんぽをしゃぶっていた。
思わぬ光景に、俺はついうっかり声をあげそうになり、手で口を押さえて必死に止めた。
大丈夫だ、声は出てないし、ママたちにも気づかれていない。
俺がそうしている間にも、ぴちゃくちゃと卑猥な音をさせながら、ママは男のちんぽを舐めまわしていた。
「うーっ、いいよ若葉、すごく気持いいよ」
気持良さそうな男の声に、うっとりとした表情で男のちんぽを舐め続けているママの姿は、まるで発情したオスとメスみたいだと思った。
そう連想すると同時に、俺はあの時の双葉の言葉を思い出した。
「もうこれ以上、あの人みたいなメスにはなりたくないの!!」
「そのうちわかるわよ、嫌でもね」
双葉の言っていたのは、このことだったんだ。
そして双葉の言うあの人とは、やっぱりママの事だったんだ。
潔癖症な女の子だった双葉が、ママの事を汚らわしいって嫌った理由が、これだったんだ。
そして俺も、元の双葉ほどではないにせよ、双葉のママに幻滅していた。
第一印象が良かっただけに、なんだか裏切られたような気分だった。
元々赤の他人だった俺でさえこうなんだ、実の親子の双葉には、ショックが大きかったに違いない。
『不潔よ、こんなの不潔で汚らわしいわ!』
『大嫌い、ママなんて大嫌い!!』
この時、俺の頭の中に、双葉の声が聞こえた。
これはきっと、双葉の心からの叫び声なんだ。
俺も、そんな双葉の気持ちに同調してきたのか、ママたちの姿に嫌悪感を感じていた。はずだった。
なのに、なんだよこれ!
俺は、なぜだかあそこがきゅんきゅん疼いて、パンツもぐっしょり濡れていた。
ううん、濡れるなんてもんじゃない、おれのあそこからは、今も何かがだらだら垂れてきている。
体がすごく興奮していて、俺は、嫌悪感を感じるはずのママたちの姿から、目を離せなくなっていた。
『嫌! これ以上あの人みたいなメスにはなりたくない!!』
『これ以上こんな汚らわしいもの見たくない!!』
俺の頭の中に、また双葉の心の声が響いた。
ここにいちゃ駄目だ!!
これ以上見ちゃ駄目だ!!
はっと気がついた俺は、逃げるように双葉の部屋に戻った。
双葉の部屋へ逃げ戻った俺は、まず荒い息を整えた。
だけど、まだ体の奥がが火照っていて、あそこも疼いていた。
「ううっ、このままだと俺、気が変になっちゃいそうだ……」
何とかしないと、落ち着け、落ち着け俺!!
とにかく、何かで気を紛らわそう。
ふと、俺のあそこから流れ出た体液で、ぐっしょり濡れたパンツと太ももに気づいた。
濡れたパンツが張り付いていて気持悪いし、あそこや太ももが汚れたままなのは嫌だな。
俺は濡れたパンツを脱いだ。空気が触れたあそこがひんやりとした。
太ももやあそこを、お風呂用に用意していたバスタオルで拭いた。
ひゃん! なんだよコレ!!
オシッコの後に、トイレで拭いた時より、あそこが敏感じゃん!
今のは少し不用意だったかもしれない。
ここがこんなにも敏感に感じるなんて。
俺は半ば無意識のうちに股間に手を伸ばして、疼いているあそこの割れ目をそっとなぞった。
ひゃああぁぁぁん!!!
トイレであそこをなぞった時よりも強烈な快感が、ビリッと電流のように俺の全身を駆け抜けた。
す、すげえ、なんでトイレの時よりも感じるんだ?
その感覚を、もっと味わいたくなって、確かめるように、もう一度指を動かす。
『駄目、やめて、それ以上そんな事をしないで!
私、あんな浅ましいメスと、同じになりたくない!』
俺の脳裏にそんな声が聞こえた。
俺は、さっきまでは、双葉の境遇に同情したりしていた。
心のどこかにまだ双葉への未練が残っているのか、双葉に遠慮もしていた。
だからトイレでは、理性で男の欲望を抑えてやせ我慢もできた。
だけどついさっき、お風呂に入ろうと思い立ったときに、やせ我慢していた俺の心にほころびが生じていた。
今は、俺が双葉なんだ。
この体は、今はもう俺の体なんだ。
これ以上何で双葉に遠慮する必要がある?
それに俺、体が疼いてなんだか切なくて、もうこれ以上は我慢できそうにない。
今度は好きだった女の子の体への好奇心と、俺の男としての欲望のほうが勝った。
俺はもう一度、あそこの割れ目に指を滑らせた。
それが最後のとどめの一押しだった。
俺はもう我慢の限界だったんだ。
ひゃん!! ひゃあぁぁん!!!
なんだよこれ、なんだよこれ、すげー敏感に感じる、すげー気持いい!!
俺は夢中になって指を動かした。
そのたびに快感が体中を駆け巡り、俺は体を仰け反らせた。
そのあまりの快感に、さっきまでの頭の中の双葉の声は、どこかに消し飛んでいた。
気持いい、気持いいけど、何かが物足りない。
こんなに気持がいいのに、なんで満足できないんだろう?
俺のあそこが切なく疼いて、あそこが物足りないように感じた。
男だったときとは逆だった。
俺の脳裏には、なぜだかさっきのママたちの姿が浮かんでいた。
男のちんぽを美味しそうにしゃぶるママの姿が。
うらやましい、俺もアレが欲しい……お、俺は何を考えてるんだよ!!
俺は本当は男なのに、あんなものを欲しがるなんて、どうなってるんだよ!!
脳裏のママたちの姿には、なぜか続きがあった。
男はママを押し倒して、大きくそそり勃つちんぽで、ママのあそこを挿し貫いた。
そして激しくママを攻め立てていた。
俺、こんなの知らない、こんなの見たことない。
なのになんで、……そうか、これは双葉の記憶なんだ。双葉が見ていた記憶なんだ。
記憶の中のママは、男に攻め立てられながら、嬉しそうにあえいでいた。
そして俺のあそこも、それをねだるかのように、きゅんきゅんと疼いていた。
欲しい、俺もアレが欲しい。ああして欲しい。
元は男だから、とか、もうそんなことはどうでも良かった。
ただただ男のアレが欲しかった。
この場に無い男のもののかわりに、俺は俺の股間の割れ目に指を差し込んで、そのまま中をかき回した
ああん、ああああぁぁぁぁんんん!!
すげー気持ちいい、だけどまだ物足りない、そう感じながら、
今まで以上の快感に、俺の頭の中で何かが弾けて、そして一旦意識を手放した。
俺の目から見て、うちのクラス一、いやうちの小学校一の美少女だ。
男女ともに双葉に憧れている者が多く、俺もそのうちの一人だ。
双葉と仲良くなるチャンスはあった。
なのに、双葉に告白する勇気もなくて、遠くから見つめていただけの臆病者だけどね。
俺は特に、双葉の明るい笑顔が大好きだ。
なのに最近の双葉のその笑顔は、微妙に曇っているっていうか、俺には憂いを含んだ表情に見えた。
いつも双葉を見ていた俺にはわかる。
どうしたんだろう?
何か悩みでもあるんだろうか?
もしそうなら、俺でよければ彼女の力になりたい、元の笑顔を取り戻してあげたい。
俺は思い切って双葉に聞いてみることにした。
「あ、わかる? 清彦君にはそう見えたんだ」
そう言って双葉は力なく笑った。
「悩みがあるなら言ってよ、俺でよければ力になるよ」
「清彦君に言ったって、どうなる物でも、……よく見たら清彦君……悪くないかも」
双葉はぶつぶつ呟きながら、何かを思案し始めた。
やがて何か考えがまとまったのか、いきなりこんな事を言ってきた。
「清彦君、本当に私を助けたいと思っている?」
「ああ、思っている」
「何に変えても、例え清彦君のその身に変えても」
双葉の言葉も表情も真剣で、軽く返事の出来る雰囲気ではなかった。
思った以上に双葉の悩みは重いらしい。
それでも俺は、返事をした。
「ああ、双葉のためなら、俺は何だってするよ」
「嬉しい、それじゃ放課後にもう一度会って、続きはその時に」
断ったら双葉とはそれっきり、ずっとただの友達だろう。
だけど受け入れたら、今以上に親しくなれる。きっと恋人同士にもなれる。
俺はその可能性に目が眩んだんだ。
放課後、双葉の指定してきた学校の裏庭にきた。
ここは普段は人気が少ないから、こっそり会って内緒話をするには良い場所だ。
だからここなんだと思っていたんだけど、
双葉は先に来て俺を待っていた。
手に何か紙を持っている、何だろう?
「内緒、それより清彦君こっちに来て」
「あ、ああ」
俺は双葉の言われるままに、側に寄って行った。
「じゃあ、もう一度聞くわね、私のためなら、本当にその身に変えてもなんでもする、それで良いわね?」
双葉は念を押すように聞いてきた。
俺は一瞬躊躇した。本当にいいのか?
何か取り返しがつかないことになるんじゃないのか?
そんな胸騒ぎというか、嫌な予感みたいなものが湧き上がってくる。
だけど、双葉と親しくなれるかもしれないこのチャンスを、棒に振るなんてできなかった。
「あ、ああ、いいよ、俺でよければなんでもする」
「嬉しい、じゃあまずこの紙のここに、清彦君の名前を書いて」
「俺の名前?」
何で? と思いながら双葉の差し出した紙を見た。
その紙には、よくわからない文字のような複雑な模様と、双葉の名前が書いてあった。
なぜだか胸騒ぎが大きくなってきた。
これにサインなんてしちゃ駄目だ、そんな気がする。
だけど、今更双葉の頼みを断るなんて選択は、俺には出来なかった。
その紙に俺の名前を書いた。
「ありがとう、じゃあ手を出して」
「こうか?」
ちくっ、と指の先に痛みが走った。
双葉が小型のカッターで、俺の指先を切ったんだ。
いきなり何をするんだよ!!
「黙ってて」
と言いながら、俺の指先から流れた血を、双葉はその模様のついた紙につけた。
次に双葉は、今度は自分の指先を切り、その血を紙につける。
さすがにこれ以上は何か不味い、って気がしてきたが、もう遅かった。
「これで契約完了ね」
「契約完了って何だよ!」
と、双葉に問いかけたのとほぼ同時に、その紙が光だし、何かが発動した。
俺と双葉のいる周りに光が集まり、足元に魔方陣のような輪が浮かび上がる。
俺と双葉は、その光の輪に飲み込まれていった。
次に気がついたら、俺はその場に倒れていた。
体中が痺れたように、俺の感覚が麻痺していたが、徐々に感覚が戻ってきた。
なぜだか違和感が大きいが、手足は、……よし動く、俺はそっと身を起こした。
「うう、一体何が……」
俺のあげたうめき声が、何だかいつもより甲高い気がした。
目の前に垂れた長い髪が、何だか邪魔に感じて、俺は乱暴にかき上げた。
長い髪?
「なんだこりゃ!!」
何で俺の髪がこんなに長いんだ、いや、俺の手って、こんなに細くてきれいだったっけ?
それに、ピンクのキャミソールに紺色のひらひらなスカート、いや、この服って、確か双葉が着ていた服だよな、何で俺が着てるんだよ?
「う、ううっ……」
軽くパニックに陥っていると、目の前で倒れていた誰かが目を覚ました。
プリントTシャツに、ハーフパンツ姿の小学生男子、俺が着ていたものと同じ服を着たこの男子は?
「お、俺?」
俺の目の前で、目を覚ましたのは、俺だった。
「えっ、わ、わたし!?」
目の前の俺、清彦は、俺の顔を見て一瞬驚きの表情の後、はっと何かに気がつき、
双葉のバッグを迷わずに開けて、中から手鏡を取り出して見た。
「……本当に、清彦君になっちゃったんだ」
心なしか、少し落ち込んだような沈んだ声で、清彦が呟いていた。
そんな清彦の様子に、俺はイラッとした。
「お前は誰だよ! 何で俺がもう一人居るんだよ!!」
「もしかして、あなたは清彦君?」
「そうだよ、見りゃわかるだろ」
「……案外鈍いのね」
「なんだと!」
「それとも気づかない振りをしているの、薄々気づいているんでしょう?」
清彦はそう言いながら、俺に手鏡を手渡した。
俺は手渡された手鏡を、恐る恐る覗き込んだ。
「な、何で双葉の顔が!!」
手鏡の中には、双葉の顔が映っていた。
いや、思った通り、双葉の顔だった。
悔しいけれど、目の前の清彦に言われた通り、薄々そうじゃないかと気づいていた。
という事は、目の前の清彦の中身は?
「そういうお前は、双葉か?」
「ピンポン、正解です」
「ふざけないで、これはどういうことだよ!!
何で俺たちの体が、入れ替わっているんだよ!!
いや、何で入れ替えたんだよ!!」
双葉がどういうつもりで、俺と体を入れ替えたのかわからない。
だけどこうなると、さっきの変な模様の紙で、体を入れ替えたのは間違いないだろう。
「私ね、もう女は嫌なの」
「えっ?」
「正確には、もうこれ以上、あの人みたいなメスにはなりたくないの!!」
女は嫌?
あの人みたいなメスにはなりたくない?
どういう事?
いや、それよりも。
「だからって、何で俺なんかと、体を入れ替えたんだよ!!」
「だって清彦君、言ったじゃない、俺でよければ力になる、その身に変えてもなんでもするって、念を押して聞いたじゃない」
「えっ?……た、確かに言ったけどさ」
だからといって、ここまでするなんて思わなかったし、本当にこの身を変える事になるなんて思わなかった。
どうすればいいんだよ、双葉は女が嫌になったかもしれないけれど、俺は男は嫌になってないし俺をやめるつもりもなかったぞ。
そ、そうだ、さっきの俺になった直後の双葉の態度、あれは……。
「双葉だって、本当はこんなの気が進まないんだろ、さっきだって、俺になったのに、あまり嬉しそうじゃなかった」
「よく見ていたわね、確かにそうよ、本当はこんな事までしたくなかった」
やっぱりそうだったんだ。だったらもう一押し説得すれば。
「だ、だったら、もう一度元の体に戻って考え直そう。俺だって双葉の悩みに協力するからさ」
だけど、そんな甘い考えは、すぐに打ち砕かれた。
「無理よ、このおまじないは一度きりなんだから」
「えっ、嘘だろ!!」
「本当よ、あの術式の契約書をくれた親切な人が言っていた。これは使えるのが一度きりだから、よく考えて使えって」
「そ、そんな……」
俺はショックで力が抜けて、その場にへたりこんでしまった。
地面に直接触れたお尻が冷たい、なにやってるんだ俺、みっともない、早く立たないと。
「清彦君、大丈夫?」
そう言いながら、清彦が俺を助け起こそうと手を伸ばす。
誰のせいでこうなったと思ってるんだ、お前の手なんか借りるか。
そう強がって自分で立ち上がろうとしたけど、上手く力が入らない。
結局清彦に助け起こされてしまった。
その時清彦の、男の力強さを実感してしまった。
同時に、今の我が身の非力さも、……なんだか悔しくて、泣きたい気分だ。
だけど俺にも意地がある、今のこいつの前では、絶対に泣きたくなかった。
「こんなことをしてまで嫌がるなんて、双葉の悩みってどんな悩みなんだ?」
「口ではうまく言えないし、言いたくない。そのうちわかるわよ、嫌でもね」
「い、嫌でも……」
さすがに少し怖くなった。
そのうちわかるって、俺がそういう目に合うってことだよな?
一体どういう目にあうんだ。
「あ、ごめん、言い方が悪かったわね。別にその身に危害が加えられるわけじゃないから、安心して」
安心って、こんな事になって、安心なんてできるかよ!!
「じゃあ、そろそろ私、ううん俺、家に帰るから」
「ええっ! ちょ、ちょっと待てよ!! 家に帰るってどこの家にだよ!!」
「もちろん今の俺の家は、清彦の家に決まってるだろ」
そんなこと言って、俺の家がどこにあるのか知ってるのかよ。
俺の家族のこととか、他にも色々大丈夫なのかよ。
「大丈夫だよ、今の俺は清彦だから、清彦として必要な情報は、すぐにでも引き出せるはずだから。
重要な記憶も、必要な時に思い出せるはずだから」
「あなたも今は双葉なんだから、双葉の事は思い出せるはずだよ。双葉の家の場所、わかる?」
清彦にそう言われて、俺は双葉の家の場所を思い浮かべてみる。
たしか駅の近くのマンションの……、!?
俺は双葉の家なんて知らないはずなのに、なんで思い出せるんだよ!!
「早ければ一週間、遅くても一ヵ月あれば、不自由ないくらいに馴染めるはずだから。って、これはあの人の受け売りだけどね」
「ちょっと待って、いくら記憶が読めるとか言われても、それでいいのかよ!!
このままだと、俺が双葉の体を好き勝手にするかもしれないんだぜ、本当にそれでいいのかよ?」
「今はあなたが双葉なんだから、双葉の好きにすればいい。
そのかわり、俺は清彦として俺の好きにする。
お互いに相手に干渉しない、双葉もそのほうがいいだろう?」
まさか、そんなドライな返事が返ってくるとは思わなかったから、俺は唖然としてすぐに返事が返せなかった。
「じゃあな、双葉」
俺が唖然としている間に、清彦は先に行ってしまった。
本当に清彦の家に帰るつもりなんだろう。
俺はその場に一人だけ、ぽつんと取り残された。
いくら必要な記憶が読めるとか、好きにして良いとか言われても、これはあんまりだ。
何でこんな事になってしまったんだろうか?
双葉の悩みを聞いて、上手くいけば俺は双葉と恋人になれるはずだったんだ。
なのに現実は、双葉に体を入れ替えさせられて、清彦の存在を奪われてしまった。
もう清彦には戻れない?
俺は一生双葉のまま?
いきなり突きつけられた現実が重過ぎて、すぐには受け入れられそうにない。
「……俺、これから、どうすればいいんだよ?」
清彦を追いかけて、俺も清彦の家に帰るべきだろうか?
いや、この姿で行っても意味ないだろう。
清彦の家族にとっては、今の俺は家族ではなく、清彦のクラスメイトでしかないんだから。
少なくとも、清彦の家は、俺の帰る場所じゃなくなってしまったんだ。
悲しくて悔しくて、いつの間にか俺の目には涙が溢れていた。
今度は我慢しないで、その場で一人で泣いた。
しばらく泣いて泣き止んだ後、俺はその場に残されていた、双葉の荷物をまとめると、
とぼとぼと双葉の家に帰ったのだった。
「ここが、双葉の住んでいるマンションか……」
駅の近くにある、高級そうなマンション見上げながら、俺は呆然とした。
こういうところに住んでいる人がいるのは、知識としては知っていたけど、双葉がそうだとは知らなかった。
一戸建てとはいえ、ごく普通の一般家庭な俺の家とは偉い違いだ。
俺なんかがこんな場違いなマンションに入ってもいいのだろうか?
そう思いかけて、今の俺は双葉なんだと思いなおし、思い切って中に入った。
エントランスホールに入ると、カウンターの女性から「お帰りなさいませ」と声をかけられた。
誰? ああコンシェルジュの人なんだ、と、俺の知らないはずの知識が思い浮かび、自然に理解して納得した。
声をかけられて、一瞬ぎくっとしたけど、今の俺は双葉なんだ、大丈夫だ。
「ただいま」
俺はにっこり笑みを浮かべながら、自覚がないまま、いつもの双葉のしていた、自然な挨拶を返していた。
エレベーターで双葉の家のある階まで上がり、廊下に出た。
ここは本当に凄い所だよな、内装は高級そうだし綺麗だし、セキュリティーとやらも凄いんだな。
カードキーがないとエレベーターが使えないなんて、俺は知らないから、エレベーターが動かないことに一瞬焦った。
どうすればいいのか、すぐにやり方が思い浮かんですぐ対応できた。
必要最低限の情報は、すぐにでも引き出せる、か、本当にそうなんだな。
元の俺なら、説明を受けていても、ちんぷんかんぷんだっただろう。
今の状況は色々と気に入らないけど、これならなんとかやっていけそうな気がしてきた。
そうこう思案しているうちに、俺は双葉の家の前まで来た。
玄関のドアにも、認証の操作盤が設置されていた。
俺はカードキーを認識させて、指紋認証、暗証番号の入力と、順番に操作した。
そして今度は、その複雑で面倒な作業を、俺は初めてなのに、まるで毎日のやり慣れた作業って感じで、迷いもなくこなせた。
カチっという音がしてドアが開いた。
「た、ただいま」
特に出迎えも返事もなかった。
この家には、今は誰もいないのかな?
俺は恐る恐る双葉の家の中に入っていった。
双葉の家の中は、外見と同じように内装も豪華で高そうだった。
リビングに差し掛かって中を見てみると、大人の女性がソファーに座っていた。
「……ただいま」
家族だろうか?
俺は慌てて帰りの挨拶をした。
「えっ、双葉ちゃん! ……お、おかえりなさい」
大人の女性は俺の挨拶に驚いた顔をしながら、慌てて返事を返してくれた。
この人は誰だろうか?
そう思っていたら、俺の頭の中にある言葉が浮かんだ。
「ママ」ってことは、この人は双葉のお母さんなんだ。
双葉のママの名前は若葉っていうらしい。
俺の「ママ」への第一印象
さすが双葉の母親だ、美人で綺麗なお母さんだな、俺の母さんとは大違いだ。
胸も大きくて柔らかそうだし、あの胸に触ってみたいな。
いや、顔を押し付けてすりすりしてみたいな。
……いかんいかん、これじゃスケベな男子丸出しじゃないか。
まあ、そんなところに目が行くのは、元男のサガだし、仕方がないかもな。
それとは別に、なんだか優しそうな人だな、と思った。
俺の抱いた第一印象は悪くなかった。はずだった。
あと、顔立ちは双葉に似ているって思った。
双葉が大人になったら、こんな感じになるんだろうな。
と、思った瞬間、『嫌だ!!』と感じた。何でだ?
「珍しいわね、双葉ちゃんのほうから、ママに話しかけてくれるなんて、ママ嬉しいわ」
えっ、そうなのか?
もしかして、双葉はママと上手くいっていないのか?
双葉の悩みって、ママ絡みだったのか?
「美味しいケーキがあるの、ママと一緒に食べない?」
どうしよう?
もしママと双葉の仲が上手くいっていないのならば、他人は深入りするべきではないのかもしれない。
でも、今は俺が双葉だ。
これからは俺が双葉としてやっていかなきゃいけないのなら、親子仲が上手くいかないままなのも嫌だな。
なんだかおなかも空いてるし、せっかくのお誘いだ。ここは受けるべきだろう。
もし、後で元の双葉に文句を言われても知るもんか。好きにしていいって言ったのはあいつだしな。
だから俺は、「うん、食べる」と返事を返した。
ママはますます嬉しそうに、ケーキと紅茶の準備を始めた。
やがてテーブルの上に、ケーキと紅茶が並べられた。
俺は席に座ってケーキを一口食べた。
「甘い、甘くてふわふわして美味しい」
「でしょう?」
こんな美味しいケーキを食べたのは、俺は生まれて初めてだ。
クリームと一緒に、なんだか心まで蕩けちゃいそうだ。
俺は幸せな気分になった。
そんな俺を見て、ママが嬉しそうに笑う。
思っていたより、双葉のママと上手くやれそうだ。
そう思って安心しかけた時、ママの手が俺に触れた。
触られた瞬間、俺の体に虫唾が走った。汚らわしい!!
反射的に、『触るな、汚らわしい!!』と言う言葉が喉まで出掛かり、辛うじてそれを抑えた。
それはママへの激しい嫌悪感。
双葉はママに拒絶に近い嫌悪感を抱いて嫌っていたんだ。
そして今は、その双葉が感じていた嫌悪感を、俺も感じさせられていた。
「どうしたの双葉ちゃん?」
「う、ううん、なんでもない」
俺は咄嗟に作り笑いをして誤魔化した。
とはいえ、ママに対して湧き上がる嫌悪感が邪魔をして、もうさっきまでみたいな、自然に友好的な態度は取れそうになかった。
それでも俺は、表面的にはママに友好的な態度をとり続けて、その場はなんとか取り繕った。
それにしてもなんでだ?
なんで双葉は自分の母親を、こんなにも嫌っているんだ?
「双葉の言っていたあの人って、もしかして……」
俺はこの時には、ママが双葉の悩みの元凶だったんだと確信していた。
う、急にトイレに行きたくなった。
今飲んでいた紅茶のせいかな?
でも、双葉のママに感じ始めた嫌悪感のせいで、ママとの会話が苦痛になっていたから、一旦この場を離れるいい口実になる。
「ごめんママ、お手洗いに行ってくる」
「そう、仕方がないわね」
ママは残念そうだけど、すぐにその場を離れてトイレに向かった。
俺はトイレの個室で一人になれて、正直ホッとした。
もっともホッとしたのもつかの間、すぐ別の問題に直面した。
「うっ、双葉の体で、俺がオシッコをするのか? ほ、本当にいいのかよ!!」
あんなだまし討ちみたいな形で、俺は双葉と体を入れ替えさせられた。
だけどそれでも双葉は、俺の憧れていた女の子だったんだ。
その憧れの女の子の体で、俺がオシッコをするなんて、……俺は気恥ずかしさに赤面した。
ええい、今更双葉に遠慮なんかしても仕方ない。もう我慢も限界だ。
俺はスカートを捲り上げて、穿いていたパンツを引き下ろした。
開放感とともに、股の間になにか物足りなさも感じた。
俺は恐る恐る股間を見た。
男だった時に、そこにあったものがなくなっていて、
かわりにそこには女の子の割れ目ができていた。
俺はやっぱり男じゃなくなってしまったんだ。
そのことに改めて喪失感を感じながら、でも我慢の限界にそんな感傷に浸っている余裕はなく、俺はすぐ便座に腰を下ろした。
同時に我慢の限界を越えたのか、俺の股間の割れ目からは、オシッコの放出がはじまった。
「あ、あ、あ……」
女の体でオシッコをする感覚は、ダイレクトで男の時とは違っていた。
男のときのようには、オシッコをコントロールできないって感じた。
ちんぽがないってこんな感じなんだ。俺は今は女なんだ。
そんなことを実感しながら、俺はどうにか女としての初めてのオシッコをすませた。
「はぁ……、これが女の子のオシッコなんだ」
オシッコをすませたすっきり感と、
女としての初めてのオシッコをすませたという奇妙な達成感に、
俺は便座に腰掛けたまましばらく呆けていた。
ふと気がついて股間を見た。
俺の目には、オシッコをすませたばかりの女の子の割れ目が見えた。
「あっと、いけない、女の子はここを、拭かなきゃいけないんだよね?」
本来の双葉なら、この後ウォッシュレットのビデを使うところだったが、
女の子初心者の今の俺は、そんなことには気づかなかった。
このトイレは、温風の乾燥機能も付いているが、今回はその事にも気づかなかった。
ただ、『女の子は紙で股間を拭く』という聞きかじった自分の知識に従って、
トイレットペーパーを千切って、そっと自分の股間を拭いてみた。
「あっ!」
デリケートな部分に触れると敏感に感じて、思わず声が出てしまった。
今まで経験したことのない感覚。
少し不用意だったかもしれない。
ここがこんなにも敏感に感じるなんて。
なんだよ…この感じ……、だけど、ああっ、こうすると、気持ちいいんだ……。
何もない股間を通り過ぎるたびに、女の子になっているという実感を味わえて、俺は……。
「だーっ! 俺は何をやってるんだよ!!」
初めて経験する女の子の感覚に、危うく流されそうになって、ハッと気がついて、すんでのところで理性で押しとどめた。
「さすがにこんなの駄目だろ!!」
俺は股間が、いや、体の奥が疼くのを抑えながら、そそくさと股間を拭いた。
そして双葉の部屋に戻って、夕食の時間まで過ごしたのだった。
夕食の時間は、双葉のママの手料理を食べた。
なんだか今日は張り切って作ったらしい、ママの手料理は美味しかった。
「ごちそうさま」
食後の挨拶を済ませて、俺は席を立った。
「あら、双葉ちゃん、もうお部屋に行っちゃうの?」
「う、うん、宿題があるから」
「そう? それは残念ね」
宿題と言うのは嘘で、本当は双葉のママと一緒に居ると、精神的に気が休まらないからだった。
「お風呂にお湯が張ってあるから、宿題の後にでも入るといいわ」
「あ、うん、後でね……」
生返事を返しながら、俺はそそくさとダイニングを後にした。
双葉の部屋に戻って一人になれて、ようやく一息ついて落ち着けた。
「ふう、双葉が自分の母親を嫌うのは、双葉の心の問題だから仕方がないけどさ、俺にまでその感情を押し付けないで欲しいよな」
実際は、双葉には、そんなつもりはなかったのかもしれない。
だけど、双葉がママを嫌う感情が強すぎて、そのせいで、入れ替わった俺にまで影響を残してしまったんだろう。
そして俺は、逆にそんな双葉の感情に反発を感じてもいた。
そんな感情まで双葉に押し付けられて、振り回されてたまるか!! とね。
だから、双葉のママと一緒に居ると、心に負担を感じたけど、できるだけ相手にするようにもした。
「せめて、何で双葉がママを嫌っているのか、理由がわかればなんとかできるのにな」
どういうわけかこの件では、記憶が読めたり理由が思い浮かんだりしなかった。
別れ際の双葉が、話すのを嫌がったみたいに、体のほうが嫌がってるのかな。
でもまあ、これも別れ際に双葉が言っていたように、そのうちに理由がわかるようになるんだろう。
ただ、一つだけ感覚的にわかったことがある。
双葉にとってあの母親は、まだ理由はわからないけど、触るのも嫌な汚らしい存在で、
潔癖症な女の子な双葉は、だからママを許せなかったんだろう、ということだ。
双葉が潔癖症な女の子だった事も、感覚的に理解できてしまった。
だって今は、俺が双葉なんだから。
「ふう、疲れた」
俺は双葉のベッドに横になった。
ただでさえ慣れない環境で気を使っているのに、そのうえママの事を嫌う双葉の感覚のせいで、精神的にくたくただ。
だからちょっとだけ横になって休んでもいいよな。
わあ、双葉のベッドって、ふかふかで気持良いんだな。
俺は今までの気疲れと、ベッドの心地よさに、ついうとうとして……。
あれ? 俺、いつの間にか寝ていた?
時計を見ると、時刻は午後11時を回っていた。
どうしよう、もう時間も遅いから、このまま寝ちゃおうか?
だけど、今ので寝汗をかいていて、体がじめっとして嫌な感じがする。
お風呂に入らないで、汚れた体のままで寝るなんて、ありえない!!
今や潔癖症な女の子な、俺の感覚がそう感じていた。
双葉の体に入れ替わった後、見たり触ったり、できるだけ変なことはしないように、遠慮していたつもりだった。
トイレでちょっと流されそうになったけど、その時は踏みとどまった。
だけど本当は、好きだった女の子の体に、俺は興味深々だったんだ。
いまさらやせ我慢してもしょうがないよな。
「今は俺が双葉なんだ、この体も今は俺のものなんだ、お風呂くらいはいいよな?」
ママもお風呂に入れって言っていたし、
そんなわけで、結構時間は遅くなったけど、今からお風呂に入る事にしよう。
俺はいそいそと準備を始めた。
お風呂へ入る準備を終えて、俺は双葉の部屋をそっと出た。
この遅い時間だ、ママはもう寝ているだろうし、起こさないように静かにしないと。
あれ、リビングのほうから明かりが漏れている。
ママはまだ寝ていないのかな?
俺はリビングをそっと覗いてみた。
そこにはママと、若い半裸の男の姿が……。
『な、何をやってるんだよ!!』
あろうことか、ママは男のちんぽをしゃぶっていた。
思わぬ光景に、俺はついうっかり声をあげそうになり、手で口を押さえて必死に止めた。
大丈夫だ、声は出てないし、ママたちにも気づかれていない。
俺がそうしている間にも、ぴちゃくちゃと卑猥な音をさせながら、ママは男のちんぽを舐めまわしていた。
「うーっ、いいよ若葉、すごく気持いいよ」
気持良さそうな男の声に、うっとりとした表情で男のちんぽを舐め続けているママの姿は、まるで発情したオスとメスみたいだと思った。
そう連想すると同時に、俺はあの時の双葉の言葉を思い出した。
「もうこれ以上、あの人みたいなメスにはなりたくないの!!」
「そのうちわかるわよ、嫌でもね」
双葉の言っていたのは、このことだったんだ。
そして双葉の言うあの人とは、やっぱりママの事だったんだ。
潔癖症な女の子だった双葉が、ママの事を汚らわしいって嫌った理由が、これだったんだ。
そして俺も、元の双葉ほどではないにせよ、双葉のママに幻滅していた。
第一印象が良かっただけに、なんだか裏切られたような気分だった。
元々赤の他人だった俺でさえこうなんだ、実の親子の双葉には、ショックが大きかったに違いない。
『不潔よ、こんなの不潔で汚らわしいわ!』
『大嫌い、ママなんて大嫌い!!』
この時、俺の頭の中に、双葉の声が聞こえた。
これはきっと、双葉の心からの叫び声なんだ。
俺も、そんな双葉の気持ちに同調してきたのか、ママたちの姿に嫌悪感を感じていた。はずだった。
なのに、なんだよこれ!
俺は、なぜだかあそこがきゅんきゅん疼いて、パンツもぐっしょり濡れていた。
ううん、濡れるなんてもんじゃない、おれのあそこからは、今も何かがだらだら垂れてきている。
体がすごく興奮していて、俺は、嫌悪感を感じるはずのママたちの姿から、目を離せなくなっていた。
『嫌! これ以上あの人みたいなメスにはなりたくない!!』
『これ以上こんな汚らわしいもの見たくない!!』
俺の頭の中に、また双葉の心の声が響いた。
ここにいちゃ駄目だ!!
これ以上見ちゃ駄目だ!!
はっと気がついた俺は、逃げるように双葉の部屋に戻った。
双葉の部屋へ逃げ戻った俺は、まず荒い息を整えた。
だけど、まだ体の奥がが火照っていて、あそこも疼いていた。
「ううっ、このままだと俺、気が変になっちゃいそうだ……」
何とかしないと、落ち着け、落ち着け俺!!
とにかく、何かで気を紛らわそう。
ふと、俺のあそこから流れ出た体液で、ぐっしょり濡れたパンツと太ももに気づいた。
濡れたパンツが張り付いていて気持悪いし、あそこや太ももが汚れたままなのは嫌だな。
俺は濡れたパンツを脱いだ。空気が触れたあそこがひんやりとした。
太ももやあそこを、お風呂用に用意していたバスタオルで拭いた。
ひゃん! なんだよコレ!!
オシッコの後に、トイレで拭いた時より、あそこが敏感じゃん!
今のは少し不用意だったかもしれない。
ここがこんなにも敏感に感じるなんて。
俺は半ば無意識のうちに股間に手を伸ばして、疼いているあそこの割れ目をそっとなぞった。
ひゃああぁぁぁん!!!
トイレであそこをなぞった時よりも強烈な快感が、ビリッと電流のように俺の全身を駆け抜けた。
す、すげえ、なんでトイレの時よりも感じるんだ?
その感覚を、もっと味わいたくなって、確かめるように、もう一度指を動かす。
『駄目、やめて、それ以上そんな事をしないで!
私、あんな浅ましいメスと、同じになりたくない!』
俺の脳裏にそんな声が聞こえた。
俺は、さっきまでは、双葉の境遇に同情したりしていた。
心のどこかにまだ双葉への未練が残っているのか、双葉に遠慮もしていた。
だからトイレでは、理性で男の欲望を抑えてやせ我慢もできた。
だけどついさっき、お風呂に入ろうと思い立ったときに、やせ我慢していた俺の心にほころびが生じていた。
今は、俺が双葉なんだ。
この体は、今はもう俺の体なんだ。
これ以上何で双葉に遠慮する必要がある?
それに俺、体が疼いてなんだか切なくて、もうこれ以上は我慢できそうにない。
今度は好きだった女の子の体への好奇心と、俺の男としての欲望のほうが勝った。
俺はもう一度、あそこの割れ目に指を滑らせた。
それが最後のとどめの一押しだった。
俺はもう我慢の限界だったんだ。
ひゃん!! ひゃあぁぁん!!!
なんだよこれ、なんだよこれ、すげー敏感に感じる、すげー気持いい!!
俺は夢中になって指を動かした。
そのたびに快感が体中を駆け巡り、俺は体を仰け反らせた。
そのあまりの快感に、さっきまでの頭の中の双葉の声は、どこかに消し飛んでいた。
気持いい、気持いいけど、何かが物足りない。
こんなに気持がいいのに、なんで満足できないんだろう?
俺のあそこが切なく疼いて、あそこが物足りないように感じた。
男だったときとは逆だった。
俺の脳裏には、なぜだかさっきのママたちの姿が浮かんでいた。
男のちんぽを美味しそうにしゃぶるママの姿が。
うらやましい、俺もアレが欲しい……お、俺は何を考えてるんだよ!!
俺は本当は男なのに、あんなものを欲しがるなんて、どうなってるんだよ!!
脳裏のママたちの姿には、なぜか続きがあった。
男はママを押し倒して、大きくそそり勃つちんぽで、ママのあそこを挿し貫いた。
そして激しくママを攻め立てていた。
俺、こんなの知らない、こんなの見たことない。
なのになんで、……そうか、これは双葉の記憶なんだ。双葉が見ていた記憶なんだ。
記憶の中のママは、男に攻め立てられながら、嬉しそうにあえいでいた。
そして俺のあそこも、それをねだるかのように、きゅんきゅんと疼いていた。
欲しい、俺もアレが欲しい。ああして欲しい。
元は男だから、とか、もうそんなことはどうでも良かった。
ただただ男のアレが欲しかった。
この場に無い男のもののかわりに、俺は俺の股間の割れ目に指を差し込んで、そのまま中をかき回した
ああん、ああああぁぁぁぁんんん!!
すげー気持ちいい、だけどまだ物足りない、そう感じながら、
今まで以上の快感に、俺の頭の中で何かが弾けて、そして一旦意識を手放した。