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素敵な喫茶店

2015/06/26 09:56:44
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ワタクシは店長です。
喫茶店とは多くの方々がいらっしゃる憩いの場。
そしてここにも、時も違えば立場もバラバラ、様々な立場の人物が集います。
しかし時として、知ってか知らずか周囲に不快を与えてしまわれる方も御座います。
そんな時はどうか、ご気軽にワタクシまでお声掛けを。
この店を訪れて下さった大切なお客様のご要望、でき得る限り対応させて頂きたいと思っております。
おや、如何されましたかな……










素敵な喫茶店



一杯のコーヒーに新聞。
できる男のブレイクタイムは誰にも邪魔できない。
昨今の情報媒体は見辛くていかん、やはり読むなら活字でなくては。
……何だ?
うら若き乙女たちが俺を見て噂話?
良いねぇ、モテる男は辛いよ。
え?
如何したマスター。何、オリジナルブレンド?
奢り……って、そんな気遣いされる覚えはないぞ?
まぁ良いか。丁度頼んだ分が途切れた所だし、有り難く頂こう。
それにしてもコーヒーは良い。
ブラックで飲めば頭をすきっとさせる苦みに眠気も吹き飛ぶ。
砂糖に牛乳を投じれば一仕事を終えた身体に糖が染み渡る。
仕事を前にしても後にしても、どんな場面においてもコーヒーは俺を励まし労ってくれる。
そしてこの香り、んー素晴らしい。
では早速……



「さっきからあのあそこのおっさん、かなり五月蠅いよね」
「心の中で喋れよって話。店の中まで聞こえてくるんだけど」
「せっかくの落ち着いた雰囲気が台無し……」
「それに……ねぇ見てよ、あの無駄にムカつく顔」
「匂い嗅いでる時の鼻の開きっぷり、絶妙にウザいわ」
「というかあの英字新聞、さっきから上下逆さまなんだけど……」
「服装も何とかしろって話。ボロい帽子にくたびれたスーツはつんつるてん、紳士なら身なりにも金掛けろと」
「それだけじゃ無理だよ。禿げ面にギョロ目でチョビ髭、一般紳士像とじゃそもそも素材からアウト」
「シャルウィダンスよりヒゲダンスが似合うって感じ……」
「それな!」
「思った」
「だよね……? どうしよっか、店長に伝えた方が良いかな」
「いちいち絡ませるのも迷惑じゃない?」
「でもここの店長は伝えてくれた方が有り難いって言ってたよ。他のお客さんもしっかり対応してくれたって」
「そっか、じゃあわたし言ってくるね」



……ふぅー、良い味だ。
時折吹く風に冷えた身体も指から脚から全身から、芯までぐっと温まるね。
田舎の外れの店と侮っていたが、中々どうしてしっかりしている。
喫茶店といえばコーヒー、これが駄目な店は大抵駄目だがな。
ただ見過ごせない所もある。
ここは喫茶店だ、紳士の社交場だ。
なのに何故、こうも芋臭いガキ共やら香水臭い行き遅れが溜まっているやら。せっかくの清々しい時間が台無しじゃないか。
それに、そいつらは揃いも揃って紅茶を頼んでいやがる。
あんなもの、緑茶の腐った代物じゃないか。発酵の度合いが違うだけで結局同じようなもんだぞ。無論腐った云々は物の例え、紅茶を悪く言うつもりではないが。
それでいて緑茶なんて年寄り臭くて飲めないだとか、健康思考とは名ばかりの清涼飲料として飲むと来た。
日本人なら! 急須にお湯差して熱いまま飲めと。大和の国の人間はいつからこんなに腑抜けてしまったやら。俺みたいな紳士や大和撫子を見習わねばいかん。
出す方も出す方だ。茶葉本来の味とは良く言う、それにプラスチック容器が溶け出せばホルモンバランスまで崩れるんだぞ。飲む方も飲む方で、保存のことを何も考えずに製造会社が世に送り出すものか。
茶を飲むなら茶椀だ! コーヒー・紅茶なら陶器だ! 無論茶葉は天然、豆も原材料直輸入! 優良な素材を無駄な工程無く揃えなければいかん!
そしてそれを紳士たるこの俺が飲む、全てにおいて完璧!
……む!
おっと、いかんいかん。やれやれ、紳士は心で怒りを鎮めることも大事。
……おやマスター。また差し入れかい?
何、向こうの三人娘から?
困ったね、退き際にこれでは無下に断れない。もうしばらく午後のひとときを楽しむとしよう。
今度は紅茶かね。金の縁取りのカップに専用ポットとは粋じゃあないか。
良いだろう、時には別の味で気分を変えるのも良いものだ。
んっ……



「やっぱコーヒーは男、紅茶は女ってっ感じがしない? 誰が飲んでも良いんだけどさ、印象として」
「それはある。でも私は無理、正直あの黒さと苦さはなぁ……」
「あの子は平気で飲んじゃうけど、砂糖無しじゃあたしも×」
「ミルクに砂糖多めでも駄目、カフェオレかってくらい甘くしないと飲めない」
「ブラックで飲むとか中毒者でもない限りあかん奴。そして中毒者は基本おっさんみたく蘊蓄語りたがり」
「あー。そこら辺も遠ざけちゃう一因だよね。それに比べると紅茶って良いわー」
「まず華がある!」
「フルーツティーは見た目にも綺麗だしねー」
「それに比べるとコーヒーって黒か茶色くらいしか差が無い、やっぱ鮮やかさは欲しい」
「ザ・おフランス感あるよねぇ。果物入れたりとか普通思い付かない、お貴族様のための飲み物って感じ」
「じゃあ今飲んでるあたしらも?」
「それはない」
「ですよねー。基本ボトルだし。最早そこら中に売ってるし」
「手軽だから構わないけどね。でもやっぱり紅茶と言えば……」
「ガイジン! ハナタカ!」
「とまではいかなくとも、綺麗な人が飲んでると憧れるよねぇ」
「切れ長の瞳、鼻筋の通った顔立ち……」
「愁いを帯びた表情で文字を読む……」
「不意に細くてすらっと伸びた白い指がカップを持ち上げ!」
「薄く引かれた口紅が輝く唇に触れる!」
「その透き通った琥珀色の飲み物に良く似た色の長髪が揺れる!」
「ついでにビシッと決めたオーダーメイドスーツに包まれるお胸も揺れるッ!」
「貴様、好きだなッ!?」
「お代官様ほどではございませんよー」
「げっへっへ、あたしは更にタイトなスカートを所望するぞョ」
「ストッキングに包まれた御々脚が艶めかしい、流石ですなァ」
「組まれてあると尚宜しいと思わんかね?」
「無論。因みに胸元は?」
「谷間全開、且つ下品にならざるが至上! スーツの女性の魅力はァ?」
「世界一ィィィィィッ!」
「白熱している所悪いんだけど……、言ってきたよ。ではすぐに、だって」
「流石は店長」
「でも何で店長?」
「何でもこの店ではそう呼ぶのが作法だとか」
「へー」
「変わってるよね、マスターって言うと怒る?」
「かは分からない……でも、なるべくそう呼んで下さいだって」
「じゃああのおっさんは?」
「アウト、スリーアウトでチェンジ」
「かもね……ん、あれ? ねぇ、二人とも! 見て……」



……ふぅ。
これまた良い味だね。
コーヒーのすっきりとした爽やかさとは趣が違う、穏やかながらも紅茶独特の清々しさを感じるよ。
この鼻腔をくすぐる香りがまた格別だね、何とも芳しい。心が深く落ち着く匂いだ、心なしか鼻の通りも良くなってくるようだね。器から立ち上る湯気に目も細くなる、優しい気持ちにさせてくれるこの蒸気も楽しみの一つだ。
やはりストレートは好い。茶葉と果実の香りを楽しむにはまずこれでなくては。
容器にはまだ量がありそうだしミルクも入れるとしよう。
……うーん、これまた素晴らしい。
目の覚める酸味と苦みが持ち味のコーヒー、対して紅茶はこの安らぎを与えてくれる甘味が目玉だろう。
純白と薄赤く色付いた透明、交ぜ合わせることで生まれるは亜麻色の世界。
乙女を象徴する優美な色合い、人は実に雅な眺めを作り出したものだ。
そしてミルクを足したことで、先程とは違った濃厚さがやってくる。
ふむ、単独で飲んでみるか。んんっ……
おお! 薄くもなく濃くもなく、茶の味を損ねずその上本来の旨味も十分。これだけでも一つの一押し商品……否、芸術! 贅沢な一品だ……
何よりこの際立つ白さ。白陶のミルクポットすらこの光沢の前には霞んでしまう。
どれ、もう一度。
……ふぅー、全身に染み渡るとはこのこと。身も心も真っ白になるようだ。
身も心も……
ん……
少し……眠くなってきたか?
日の当たる席に長くいたせいか、それとも穏やかな香りに包まれたせいか。
できる男は、クールに目を閉じる……ぜ……
うつらうつら……




「……あり? さっきのおっさん両端残して真ん中つるり、だったよね」
「が、今は風にそよぐ亜麻色の長い髪……?」
「見間違いかな……頬杖突く手も何だか白いような」
「頬の方もこけてたはずなのにちょっとふっくら? ……んん!?」
「なになに……おお? 潰れた鼻が段々と盛り上がって……る!?」
「あの人あんなに睫毛長かったっけ……良いなぁ」
「いやそれよりも! ジジ臭い皺の入った濃い顔だったよね!?」
「皺……消えてってる? どころか水も弾きそうな健康的なお肌になってる!」
「やだ……羨ましい。小鼻だけど鼻筋通った高い鼻、外国人みたい……」
「すっげ、顔だけじゃないよ。見て足元! ボロっちい靴下と半端なズボンから覗いてた脛が……」
「腿まで白くなってる! 細っちいモジャ毛も見当たらない! 抜けたの? それとも雲散霧消? 何にしろ何これ!?」
「お尻から膝を通り、踵・爪先に至るラインなんて神々しさすら……あれ? さっきの服装で太腿まで見えてた?」
「うわ、言われてみると脚なっがーい。でも、おっさんってあたしらと同じくらいじゃなかった?」
「160cm無いくらいだったよね? ヒール抜いても170ありそうだよ」
「タイトスカート・ストッキング・ハイヒールが似合う姿はできる女の証……ん、ヒー……ル?」
「腕も足もほっそい! それでいて肉感もたっぷりとは」
「髪・唇・肌、どこを取っても艶やかとは」
「きっと瞳の輝きも素晴らしいんだよ……うん? え? 待って、あの人元はおじさんだよね?」
「そうだよ黒のピンヒール、……うぅん? あぁ!? お、おかしくない!?」
「そだっけ。というかあの配色……何かに似てんなー、と思ってたらあれだよ。あのスーツだ」
「スーツ? あれは灰色の、えっと、年季入っているなーって感じの……」
「あれが? 黒い生地に赤のアクセントを加えた如何にも一点物っぽいの……ってあれぇ!?」
「う? お? をぉぉっ!? を、ををを、をまいら落ちケツ! もとい落ち着こう!」
「そうだよね、シックでクールな大人の女性なんて何かの見間違いだよね! そうだよきっと白昼夢……」
「……今時の夢の力ってすげー。見なよアレ」
「え? ……Oh」
「へ? あ、わ、大胆……」
「薄べったかった男の胸がだよ」
「どんどん膨れて、形も丸々として」
「見事な谷間だぁ……」
「大きさ良し、形良し、恐らく張りも申し分無し。ね、これ羨ましい?」
「無理、末恐ろしい。何が怖いってあんな変化、遠巻きにでも見せられたら……ねぇ?」
「一体どんなブラしたらあんな風に魅せられるんだろ……」
「うむ、……って普通に見惚れてらっしゃるぅぅぅ!」
「くそぅ、お主も好きだな!?」
「きっと総シルクの高級なのなんだろうなぁ……はっ!」
「確かに分かる。正に深窓の令嬢、きっと何から何までお高い。物品・当人、共に現在進行形で株価急上昇中であろう」
「おねーさまー、こんなむっつりな私めをぎゅっと抱きしめて下さーい……ってかぁ?」
「ち、違うよ! わたしむっつりじゃないよぉ!」
「うるせー言質は取ってんぞ! 愛い奴め、白状しろォッ!!」
「純朴そうな面して、やっぱり中身は肉食獣だったなァッ! 嬉しいぞこんちくしょー!!」
「あなたたちとは違うんですー! ちがうのー、やーめーてー!!」



……んぅ……
んー……んっ。
あら、なんだか賑やか。
良いわねぇ楽しそうで。私も混ぜてもらいたいくらい。
でもそこはぐっと我慢。
私は高貴なお嬢様。軽々しく下々の者とは深く関わらないの。
今日も一人でティータイム。お付きの者は? 近寄る勇気すらここにいる人たちにあるかしら。
……あら、見惚れているのね貴女達。
でも残念、見るだけよ。御代は結構、触れれば罰金物だけれど。
悲しいかもしれないけれど、これも定め。分かって頂戴。



……みたいな雰囲気でいないといけないのは何故なのか。
私はそういう女じゃないのにー。中身はもっと普通の子なんですー。
はーぁ……
何でこんなに見た目ばっかり大人っぽくなっちゃったのかしら? 血筋? 遺伝子? そんなの糞食らえよー!
よし、気持ちが落ち込んだ時は紅茶に限るわね。よいしょ……うん、お花の良い香り。
流石は魔法瓶、時間が経っても安心して熱いお茶が頂ける。
ミルクも注いで、ん……ふぅ。
フルーツのとお茶っ葉とミルク、それぞれに素敵な甘みに顔も緩んじゃいそう。
ん、強い風……ちょっと冷えてきたかしら? もう一杯……
うん、心も体もぽっかぽか。
適度に熱いお茶は本当に温まるわぁ、ストッキング履いていても寒いものは寒いし。まぁ、胸元を隠せばもっと良いんでしょうけど。その方が絶対似合うから!って言われてどうしても……ね。
私としてはもう少し可愛い感じの、そうでなくとも普通の女の子になりたかったんだけどな。
昔から男は紳士・女は淑女であれって言われてきたからか、そのまま見た目も育っちゃって。こういう外見の人を冷静沈着なお姉様、って言うのかしら? 中身は至って普通なのにー。
周りからはプレゼントされまくり、そして贈られてくるのはくーるびゅーてぃーを引き立たせるグッズばっかり。小物やら洋服ももっと柔らかい印象の物が好き、とは相手に悪くて中々言い出せない。
捨てるのもあんまりだし、使える物は適度に使わせて頂いているけどね。
とはいえ、貰うならリボンとかぬいぐるみとかが良いなぁ。この英字新聞なんてまるで読めないよー。
肌に使うものは流石に自分で選んだけど。口紅然り、香水然り。下着? 一式揃えられちゃいました……
スーツだってここまでしてもらわなくとも、店売りの丈夫そうな物で充分なのに。
親に友達・ご近所さんから名も知らない遠くの人たち、方々に気に掛けてもらえる生活。
それはそれで嬉しいけど、慕われているというか崇拝されているというか。正しく理想の淑女像だから?
あーあ、モテる女って辛いわね……
初投稿。

おっさん→美女・美少女は素晴らしい。
店長は店長です。壮年か中年か青年か、はたまた男ですらないか。
不思議だね。
てんちょー
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13.100きよひこ
good! 不思議は素敵。