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スライム選択物語 Choice4 砂滑早耶編

2015/11/17 19:36:00
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Side:白竜

天気は快晴。遮るもののない陽光は心地よく、駅前で待ち合わせをしている俺達を照らしている。

「…意外と遅いですね、2人とも」
「仕方ないさ、準備に時間がかかるのが女性の常だ」
「それは確かに」

俺と――さん。俺達はそれぞれの相手となる女性を待って、かれこれ15分は経過している。

「そもそも――さんはどうして雪姫さんと一緒に来てないんですか?」
「雪姫さんと早耶が裏で連絡とってたみたいでね、先に早耶と合流してお化粧直ししてくるんだと」
「なるほど」

とはいえ、そこは男としての矜持があるのか、集合予定の時間よりはまだ早い段階でそこに居るのだ。
交通の利便性から人通りの多くなる駅前は、集合場所としてうってつけであり、また同時に俺の知識欲を満たすための場所としても有用でもある。

「そういえば、――さんは車を持ってないんですか?」
「バイクならあるけど、車は無いんだよな。サイドカーもあるけど昨日修理に出しちゃったし、雪姫さんの体があるからその内に取りたいとは思ってる」
「俺が車を持ってきた方が良かったかな?」
「いや、4人揃って電車で行きたいって女性陣が言っててさ。でも気遣いは有難う」
「そうですか」

少しだけ探り合うような会話は、俺が未だ、彼に対しどこか壁をつくっている気配を見せてしまう。
早耶さんを託された。そう、託されたのだ。
半ば――さんの好き勝手と言わんばかりに、彼女の意志を無視して。

(けれど…)

…解ってる。――さんも、俺も、早耶さんを人外の世界に踏み込ませたくないのだ。
できる事ならば無縁でいてほしい、危険な世界に来てほしくない。
その考えだけは共通しているのだから。
だから、そうするしかない。

「……」

眼球を一つ作り、――さんの方を見る。日差しを受けて、少しだけ肌に汗が浮かんでいる。どこか甘い匂いのする、女性的な汗と、それに混じった僅かばかりの血の匂い。
日陰に来ればいいのに、そうしない。まるで陽の光の中にいたい、自分の居場所はここだと言わんばかりに。

「すみません――さん、白竜さん、お待たせしました」
「白竜くん、それと、――も…、お待たせ」



そうして集合5分前の時間になると、俺達が待っていた女性が肩を並べて歩いてきた。
いつも通りの白い着物を着ている雪姫さんと、上下ともに無地の地味めな服を着てストールをかけた早耶さん。特に気負わず、普段通りの姿で来ている。
早耶さんが――さんを見る目は、少しばかり複雑な視線ではあるが、俺も――さんも、敢えて問わず、言わずを通すつもりだ。

「大丈夫だよ早耶さん、集合時間前だったんだし、そんなに気にしなくても良いから」
「そうそう。俺達だって好きで待ってたようなモンだしさ」
「そう…だよね、うん…」

待たせてしまった、という事に少しだけバツが悪そうなのか、早耶さんは上目づかいでこちらを見てくる。
その姿に男としての思慕の情と、『ウルティマ』としての食欲が、半々で湧き上がってくる。

「白竜くん、あにしてんのさ。行くぞー?」
「早耶さんも行きましょう? 電車に遅れちゃいますよー?」
「…っ」

日傘を差して、雪姫さんをその中に入れている――さん達が俺達を呼んでいる。
ありがたい事に、その言葉で意識をどうにか正気に引き戻す。
少しだけ深呼吸をし、改めて早耶さんの方を見る。俺の内心の事に気付かず…、気付いてくれなくていいのだが、服の裾を引っ張って早く行こうと急かしてくれる。

「…うん、そうだね。行こうか、早耶さん」
「うん…っ」

裾を引っ張っていた早耶さんの手を取り繋ぎ合う。彼女の柔らかくて白い肌。ずっと触れていたいと思えてしまうような、好きな女性の手に触れる。
心臓代わりにした核部分が、一度だけ強く響いた。
食欲を抑えておこう。今はただ、彼女とのデートを楽しんでおかないと。他の事を考えるのは、彼女にとっても失礼になるからね。
先導して改札を抜けた二人に、これからやってくる電車に遅れないよう、早耶さんの手を引いて歩き出す。

電車を乗ること8駅分。遠いとも近いとも言えない距離に、目的の遊園地はあった。
休日である為、当然のことながら人が多く来場している。

「そういえば、御園さんの働いてる遊園地に来たのって初めてな気がする…」
「実の所、俺も初めてだよ。あんか気まずくて意図的に避けてたからなぁ…」

大きな入り口の門を見上げながら、早耶さんと――さんが話している。そういう物なのだろうか?

「ねぇ――、今日御園さんは…」
「来る前に確認したんだが、今日はシフトに入ってない…らしい」
「でしたら今日は不在なのでしょうか」
「急に呼ばれてなければ、だけどね…」

早耶さんも雪姫さんも、何か気にしているようだ。
幼馴染であるなら、結婚をしたのなら、そのお姉さんとも当然交流があるんだろう。だから気になっている。

「…白竜さん、お気づきですか?」
「……、あー…、はい、まぁ」

けれど俺は、同時に雪姫さんも、遠くから見ている視線に気付いてしまっている。
目立たないような私服を着て、こちらを見ている女性…。遺伝子的には――さんとほぼ同一のDNAで構成されている、少し年上の女性に。
多分彼女が「御園さん」で、きっとシフト云々の話は正しいのだろう。仕事中でないのなら、あんなに余裕の表情で見ているものか。

「…さて。それじゃあ皆、ちゃんと中に入ろうよ」
「そうだな…。んじゃ白竜くん、確認するけど持ってきてるよな?」
「はい、当然」

男二人で、ペアチケットを鞄の中から取り出す。パンフレットを貰い、互いのパートナーと並んで、受付を通過して園内に入る。
門の外から聞こえていた喧騒が、近くに来ることでさらに大きさを増して体を震わせる。

「さーて、姉さんも居ないらしいし、気兼ねなく遊んでみるか!」
「私、遊園地というのは初めてですから楽しみです♪」
「あんまりこういう所、来てないから…、どうすればいいのかな…?」
「そういえば俺も、男友達と位しか来てないからなぁ…」

女性は2人とも遊園地に縁のない様子。この状況をお膳立てしてくれた人は、あんまりここに来た事が無い。
かく言う俺も、女性と来るのは初めてだったりする訳で…。
けれどここで逡巡をして、早耶さんに「頼りない」と思われるのだけは嫌だ。それだけは男のプライドが許さない。
受付で貰ったパンフレットを開いて、園内の地図を広げる。

「それじゃあ最初は…、ここに行こうか」


【アトラクションをどこから回るか】

A:絶叫マシンって男の子だよな

>B:デートと言ったらお化け屋敷だろうが

C:この屋内アトラクション マジメな味



「…白竜くん、本当にここに入るの?」
「そのつもりだけど…」

地図に従い、全員揃って目的の場所にやってきた。
どこの遊園地にもある、ポピュラーとも言える施設、お化け屋敷。エンターテイメント性もあり、頼れる相手、というのを伝える為には絶好の場所だと思う。
思うんだけど…。

「「あー…」」

性根から人外の女性と、そこの家に婿入りした男性は両方とも「どうしたものだか」といった表情を言外に浮かべている。
そういった怪異に慣れ親しんでいる存在は、作り物だとそこまで恐怖心とかを感じないのだろうか。

(早耶さんの方は…)

視線を俺の連れ合いの方に向けると…、

「…ほ、本当に、ここに? ――も入るの?」

思った以上に震えていました。あれ、もしかして早耶さんって、恐いの苦手?

「そりゃ入るつもりだけど…、どうしたんだよ早耶、結局ホラー系は苦手なままなのな?」
「しょうがないでしょ…? この前も何か、よく分からない恐怖体験しちゃったんだし…」
「よく分からないって?」
「妃美佳からの電話がきたと思ったら、いつの間にか気を失ってて…、何が起こったのかわからなくて、本当に怖かったんだから…」

はい、それは完全に俺のせいですね。ホントごめんなさい。
気付かれる前にフォローというか、彼女の恐怖体験を流すように注意を逸らそう。

「だ、大丈夫だよ早耶さん、お化け屋敷なんてただのアトラクションだから、そんな理解できない恐怖なんて無いって!」
「うぅ…、それはそうだけど…、視覚的に怖いのとか、音とかもあるし…」
「恐かったら目をつぶれば良いし、聞こえてきたら耳をふさげばいいから!」
「……そうしたら、見えなくなって進めなくなっちゃう…」
「その時は…、俺がちゃんと早耶さんを連れてくから。…絶対手を離さないから。ね?」
「……本当?」
「本当だから」

震える早耶さんの肩に手を添え、僅かに涙ぐんでいる瞳をじっと見つめる。
恐がらせてしまうかもしれないけど、それでも自分は彼と…――さんと違うのだと伝えたくて、ここにきてしまった。

「…うん。それなら入るけど…、本当に放さないでね?」
「放さないよ」

「おーい二人ともー、結局入るのかー?」
「そろそろ他の人たちが来て、列を作っちゃってますよー?」

おっと。
行きの電車に乗る時のように、二人の声によって現実に引き戻される。よく見れば確かに、他の人たちもここに来て、順番待ちの為に列を為してきている。
早い所俺たちも並ばなければ、待ち時間を余分に作ってしまうだろう。
慌てて、というほどでもないが、少しだけ早足で作られ始めた列に並ぶことにした。

俺たちの前に――さんと雪姫さんが並び、その後ろに俺と早耶さんが並ぶ形になる。
先に並んだ人たちのおかげで、少しばかり入るまでに時間が出来てしまった所で、早耶さんが目の前の雪姫さんに声をかけてきた。

「ねぇ、雪姫さんは…、お化け屋敷とか怖くないの?」
「えぇまぁ、恐くないですよ」
「本当なの…?」
「ホントホント。実際雪姫さん、ホラー映画を借りてよく見てるからな…」
「雪姫さんは映画鑑賞が趣味なんですか?」
「はい。どちらかというとホラー映画の方が好みですね。呪●とリ◎グは、DVDでなく映画館で観たかったので、最新作が出来たら見に行きたいです」

そんな期待に満ちた遠い目をしなくても。

「あ、でも…」
「でも…?」

ふと思い出したような――さんの言葉に、少しだけ早耶さんが気を向けてきた。

「雪姫さん、コー○スパーテ○は苦手だったな」
「はぅっ! ちょ、――さん、それは言わないでください!」
「俺が漫画版読んでると、おっかなびっくり覗いてきたじゃん」
「ホラー描写は良いんですけどゴア描写は苦手なんです!」
「□ボコップを見てる時なんか、序盤のシーンなんか座布団顔に当てて見ないようにしてたし」

そういえば、雪姫さんに憑依していた時にそんな記憶を覗いたことがあるような。
そんな線引きなのか。ってことは?

「…もしかして雪姫さん、ゾンビモノとか苦手ですか?」
「……、……はい」

応えづらそうに答える彼女の表情を見て、いまいち確信が持てなかった所に得心がいった。

「大丈夫かな、それ。…確かここ、パンフの説明だと死体関連もあったような気がするんだけど…」
「え…?」

パンフレットを広げ内容を確認すると、雪姫さんの表情から僅かに血の気が引いた。ただでさえ白い肌がさらに青白くなってる。

「…あのですね、――さん?」
「あんですか雪姫さん?」
「……私が暴走しないよう、しっかり抑えておいてくださいね」
「…解ったよ」

少しだけ呆れたような、それでも半ば楽しそうな表情をしながら、――さんは雪姫さんの言葉に頷いている。
その光景を見ながら、早耶さんがぽつりとつぶやくのが聞こえた。

「白竜くん…、白竜くんも私を放さないでね?」
「大丈夫だよ、早耶さん」

目の前の二人が羨ましいのか、もしかしたら――さんに見せつけたいのか、俺の方にも念押しをして確認してくる。
そんな様子が可愛くて、愛しくて、今の内から手を握る。
そうこうしていく内に列が次第に進んでいき、――さんと雪姫さんの番がやってくる。

「そんじゃ白竜くん、俺達ゃ先に行くから、出口の方で合流な」
「はい。気を付けてくださいね」
「善処するさ。雪姫さん、清楚そうに見えて結構アレだからな」
「ちょっと――さん、アレって何ですかアレって!」

俺の言葉に苦笑を浮かべながら、雪姫さんの手を引いて奥に進んでいった。
次は、俺たちが呼ばれる番だ。

「うぅー…」

強い冷房が効かされた薄暗い部屋の中を、早耶さんの手を繋いで歩いていく。
遠くからは何かの呻き声のような音と、風の通り抜けていくような音。

ある怪談をモチーフにして作られたこのお化け屋敷は、全体が和風に彩られている。

「白竜くん…、ちゃんといるよねぇ…?」
「大丈夫だよ早耶さん、ちゃんと俺はいるから。…手を握ってるから解るでしょ?」
「でも、でもやっぱり不安で…」

彼女は随分と恐そうに、おっかなびっくり歩いている。恐怖と寒気とが重なり合って、肩が小さく震えている。
そんな姿を、光の度合いなんて気にしなくなってしまった目で見ていると…。

「……」

守ってあげたい、という思いと、

「……っ」

嗜虐心が、両立していくのだ。

あぁ、ヤバい。
溢れ出る唾液を抑えられず、気付かれないように嚥下した。


【早耶にどんなイタズラをするか】

A:粘液を背筋に這わせる

B:繋いだ手を切り離す

C:曲がり角を曲がった瞬間、粘液化して消える

>D:やっぱりやめる


遠くから民謡のような、けれど地の底を這うような怖気をふるう歌声が聞こえてくる。
聴き続けていると、震えずにいる為の気力が削がれてしまうような、日本特有の、僅かに湿り気さえ孕んでいるような音。

「…っ」

その音を聞いて、早耶さんは俺の手を放してしまい、目を閉じ耳を塞いでしまった。

(…やめよう。さすがにこんな状態じゃな…)

恐がっている彼女に追い打ちをかけようと考えたのは、魔が差したからだろう。ただ一気に捕喰する時には見られない「恐怖の表情」を知りたいと、思ってしまったのだ。
けれどそれ以上に、こんなに怖がっている彼女をさらに怖がらせるのは、流石に良くない事だと考えるから。

手を放された為、彼女の肩を掴んで軽く揺すって声をかける。

「早耶さん、早耶さん?」
「……っ、白竜くん…、なんだか、歌みたいなのが聞こえてきて…」
「うん…。多分そういうエリアに来たんだと思う…。ここから離れないと、ずっと聞こえたままだよ?」
「それは…、イヤ、かも…」

薄目を開けて俺の存在を確認することで、少しだけ安心した表情をしてくれる。
けれど足が少しだけ震えていて、しっかり歩けそうにないのが見て取れる。
引き連れて歩くのが難しいのなら…、うん。

「早耶さん、ちょっとだけごめんね?」
「え、わぷ…っ」

真正面から、彼女の顔を俺の胸元に抱き寄せる。

「早耶さんは耳を塞いだままで良いから。歌が聞こえなくなる所まで、連れていくよ」
「で、でも、白竜くんに悪いよ…、後ろ向いたままじゃ、歩けないかもしれないし…」
「悪くなんてない。…それに歩けないなら、俺が早耶さんを抱いていけば良いんだから」
「だ、抱くって…、お、おんぶとかじゃ、ダメ…?」
「それでも良いけど…、耳は塞げる?」
「…が、頑張ってみる…」

屈み、薄目を開けた早耶さんが俺の背中に身体を預けてくる。服の中に隠されている胸が当たり、心音が静かに振動となって俺に伝わってくる。
恐怖で心臓がバクバクと鳴っている状態では、さぞ自分の状態が筒抜けになってしまうだろう。
後頭部に作った目で見ると、顔色は青ざめた中でわずかに紅潮していた。

「…あんまり保持できてないし、ゆっくり行こうか?」
「できれば、早くしてほしい…かな…?」

俺の前方に腕を回す事ができず、曲げた肘を引っ掻けるだけではしっかりと身体を押し付ける事ができないのだが…。
…正直な事を言えば、押し付けられたら男としての本能が正直辛抱たまりません。なので、今はとりあえず助かってるともいえるのだけど。

「分かった。それじゃ少し早足で行くね」

民謡が続くエリアを歩き続けていく。
薄暗くライトアップされた設置物から、俺達が通ろうとする度に悲鳴のような声や、舞台となった村の住人があげる祈りのような声が鳴る。
まるで民謡と共に、“何か”に祈りと供物をささげているような。

(これ、本当に何処かであった事なのかな…)

『ウルティマ』となってしまった今の俺では、そこまで恐怖を駆られるような内容ではないのだけれど。
これがもし、実在していた民間信仰であるのならば。そこに「神」が居たのならば。
果たしてどんな神が存在していたのか、と、考えてしまう。

――さんに憑いている神は、全員がそれなりに会話の通じる神だったけれど、ここの神は果たして、本当に人に恵みを齎す物なのだろうか。
それとも…災厄だけしか呼ばない「祟り神」の類なのだろうか。

とりとめのない事を分割した思考のどこかで考えながら、早耶さんが落ちてしまわないように気を使いながら歩を進めていくと。
ほどなくして、違うエリアに差し掛かったらしく、民謡は聞こえなくなってきた。

「…早耶さん、もう大丈夫みたいだよ? あの歌、聞こえなくなったから」
「…本当?」

おずおずと耳を塞いだ手を放し、いまだお化け屋敷内の空気に耳を晒す。
そうした瞬間、

「はぁ…、良かった…」

安どの溜息とともに、脱力した体を俺に預けてきた。

背中に当たる胸の存在が一際大きくなる。男性器なんか最高に勃起モンですよ。

「あの…、早耶さん、もう聞こえなくなったけど、歩ける?」
「え、えぇと、その…」

少しだけもじもじしながら、言いづらそうに早耶さんは俺の前に回した指同士を弄っている。

「あのね…、白竜くんの背中…、思ったより大きくて安心できるから…、そのね…」
「……はい。早耶さんが良いなら、気の済むまで居ていいよ」
「うん…♪」

今度は何の気兼ねもなく、早耶さんを背負ったままお化け屋敷を進んでいく事にした。
きっと従業員からはやっかんだ目で見られたかもしれないけれど、それでも構う事は無い。
彼女が望んで、俺が応えただけなのだから。

そのまま歩き続け、その村に祀られていた神が姿を現し、儀式で死んだ村人たちが起き上がってきた、という所で、お化け屋敷は終わりを迎えていた。
伝聞しか残っていなかった過去の怪談で、結末がどうなったか解らないけれど。傍観者としての終わり方はこんなものなのかもしれない。
すべてを知ってしまうと、きっとそこから抜け出せなくなってしまうから。

この体になってしまった俺や、踏み込んでしまった――さんのように。

「それじゃ早耶さん」
「うん…。名残惜しいけど、降りるね」

勿論、出ていく前におんぶは終わらせた。


「や、白竜くん。ようやく出てきたか」
「待たせてすみません」

外には既に――さん達が、なぜか服を汚した状態で待っていた。

「…あれ、その服どうしたんですか? 傷も出来てるような…」
「あぁコレな…。参ったよ。最後の最後で死者が起き上がってきた所、あっただろ?」
「はい…、ありましたけど、それがどうしたんですか?」
「実はアレ等が通路を越えて私達に襲い掛かってきましてね…」
「仕方なしに応戦したんだが…、いやぁ手こずった…」

…ん?

「え…? そこ、私達も通ったけど…、通路の方まで来なかったよ?」
「「え?」」

疑問に思った事を早耶さんが口にして、俺が頷く。先に行ってた2人が揃って疑問符を浮かべ、直後に渋い顔をしていた。
深く息を吸って、――さん達は早耶さんに聞こえない様、念話で会話をしていた。

『マジかー…。ってことはアレ本物かー…』
『本格的に被害が出る前に、私達で退治しておきませんとねー…。あの伝承の出所、どこでしたっけ…』
「え、どうしたの――、雪姫さんも…?」

内容が理解できてしまうと、単純に心配してくれている早耶さんの姿を見て、理解してしまう。

「知らぬが仏って、本当だよなぁ…」


【次はどこに行こうか】

A:やっぱり絶叫マシンは捨てがたい

>B:ミストサークル(水の吹き出るアトラクション)に行ってみよう

C:ちょっと落ちつく為にフードコートに行こう

>EX:女性陣がトイレに行きました(閑話休題)



「ごめんね二人とも…、あの、ちょっと…」
「お化粧を直してきますね。行きましょう、早耶さん」

お化け屋敷を出て一息ついた所で、早耶さんも雪姫さんもお手洗いに行ってしまった。
よっぽど怖かったのかもしれないし、思えば合流する前に行ってから早耶さんはトイレに行ってなかったし、限界が近かったのだろう。
見送りながら、足元のタイルの溝に沿って、お化け屋敷の方ともう一ヶ所に分体を流していく。

「あぁ、悪いけどラウラ、カザネと一緒にここを見張っててくれ。あにか異変があったらすぐに呼んでくれれば良いから」
『えぇーやだー! フードコートのご飯食べたいー! なんか値段高い割にちょっと微妙な味の、いかにも『場代含まれてます』的なの食べたいのー!』
「買ってくるのはユムモリに頼んでくれ。こっちとしても、ラウラの距離を問わない能力は監視に向いてるって思ってるんだから」
『そーいってまたわたしに乱暴するんでしょ! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!』
「するか!」
『――さん、ラウラさんは私達が抑えておきますから、あまり興奮なさらずに…』
「…ごめんな、カザネ」

電話をかける様にして契約神との交渉をしている――さんは、どこか仕事先に電話をしているサラリーマンのようにも見えてしまう。
ようやく話も落ち着いたのか、携帯を顔から放した。

「ふぅ…。すまないな白竜くん、みっともない所見せちまって…」
「いえいえ、良いんですよ。俺だって女性人格との兼ね合いは慣れてますから…」
「君の方は制御できてるんだから良いじゃないか、俺なんか神とはいえ個人相手だぞ?」

少しだけ疲れた表情の――さんは、ベンチに深く腰掛け背もたれに身体を預けた。近すぎず離れすぎずでその隣に俺も腰を下ろす。

「どうやらあのお化け屋敷に溜まってる霊連中、白竜くんには近づかないみたいだ。中の気配が委縮してるのが見えるな…」
「そうですね。こうして俺の分体を置いておけば、すぐに何かを起こす積りはないでしょう」
「となると、どうして俺達の時に襲ってきたかだが…、判断材料は向こう待ちだな」

電話(のフリ)をする前に、――さんが送っていたメールの内容を思い出す。
東京を含む47都道府県。そこに必ず存在している、「人間と人外との間を取り持つ中継所」に、あのお化け屋敷のような伝承に心当たりがないかを問うたのだ。
これも雪姫さんに憑依していた時に知った事の1つだが、人間と人外は互いに、そして同族同士で遺恨を抱えていることが多い。
そのような人間と人外との関係において、その間を取り持つ為の者達が、都道府県に必ず一つは存在している。
忌乃家は、東京におけるその緩衝地帯の1つなのだ。

人外にとって人間は、人間にとって人外は、互いに飲み込めぬ遺恨はあるだろう。かといって徹底抗戦となれば日本の霊的な諸々は内乱によって崩壊する。
かといって外敵への備えに関しては、人魔どちらの力も蔑ろにはできない。人間側、人外側で用意できる手段も戦力も、呉越同舟となれば互いにとって「おいしい」のだ。
距離を取っておきたいけど繋ぎの手段も欲しい、というのが、双方ともに出来た共通見解であり、緩衝地帯はその意志の元に生まれてきたのだ。

そしてそれは、同時に、
「落ちつくまで問題を丸投げしてしまえ」という場所でもあるのだと、――さんは零している。

「…あぁ、白竜くん。依子ちゃんの事だがな」
「はい…。彼女とコルヴォは、どうなってますか?」

そして俺も、先日弟子として、取り込み再構成してしまった彼女を、忌乃家に押し付けてしまっていたのだ。

「柏葉家の方からは『依子を戻せ』以後はなしのつぶてだ。あのままの…コルヴォを受け入れるつもりは無いらしい」
「やっぱりですか…。それも全部、俺のせいなんですよね…」
「そこまで気に病むこた無いと思うけどな。コルヴォが最初から狙ってたんだから、遅かれ早かれあぁなったとしか言えないだろ」
「それでも…、何かもっと他に出来たんじゃないか、って思うんですよ…」

出てくるのは制御できなかった事への後悔。見つけられなかった解決策と、展望。

そして依子ちゃんを、忌乃家に頼む事しか出来なかった事。
右手で左拳を握り、力が入りすぎて、それがぶちゅりと潰れて液体となり落ちた。

「そこまで気負わない方が良いぞ。…なまじ白竜くんみたいなことができると、万能感もあるんだろうけど…」
「……できない事も、あるんですよね」
「あぁ。だからこそ他を頼る必要があるんだよ。…ま、頼りっぱなしの状態でいるつもりも、無いけどな」

解ってはいる。――さんは、俺とは真逆なのだ。
人外の世界に飛び込んで、物理的だけど1人で何でもできるようになった俺と、1人で何にも出来なかった――さん。
その差が如実に出ているのは確かだけれど…。

「ま、コルヴォの事は気にするな。しばらく「柏葉依子」として生きるつもりみたいだから、こっちがみっちり人間側の常識を教えておくさ」
「お願いします。…あ、でも、依子ちゃんっていうかコルヴォに手を出すのはナシですからね? あぁなっちゃっても、俺の弟子なんですから」
「ばっきゃろい、ンな気を起こすもんか。寝てると落書きしてくるから尻を叩くくらいだぞ」
「そこはちゃんと躾けてるんですね」
「オマケに寝てる時を良く狙ってくるから、雪姫さんと一緒に寝る事もできゃしねぇ」
「あぁ、まだ初夜を迎えてなかったんですね」
「お互いの気持ちの整理ってモンがなー…。……つか、最近マジ勃たないし…。興奮するんだけど準備ができなくなっちゃってるし…」

落ち込んでる姿を横目で見て、何となく心当たりがあった。多分、肉体内部で女性化しつつあるんだと思う。

「何か――さんの方では、心当たりとかありますか?」
「…いくらか考えてはいるんだ。俺の精神的なものと…、後は憑いてるみんなのおかげかな…」
「…神様たちが、なにかしてきたんですか?」
「したよー…。酒の席で悪乗りしてたよー…」

あ、思い出したくないって顔してる。…後で聞かせてもらおうかな。脳とかに直接。

「お待たせしましたー」
「ごめんね、2人とも。お待たせ…」

そんな事を話していると、女性陣がお手洗いから戻ってきた。遅れて、溝の中を這ってきた分体が戻ってきた。
見られないように影になってる部分から同化していき、分体の記憶を本体にも共有する。
……ほう、ほう。
その記憶を楽しみながら、――さんの肩を叩きつつベンチから立ち上がる。

「さて、と。それじゃ次に行きましょうか」
「次はどこに行くんですか?」
「あの、お化け屋敷をもう一回はヤだよ…?」
「行きませんって。時間的にちょうどいいみたいだし…、ミストサークルに行きましょうか」


EX:女性陣がトイレに行きました(女性側視点)

タイルの溝を沿って早耶さん達の後を着いていく。
行先は、当然のことながらトイレ。園内にいくつか存在している中の、現在位置からもっとも近い場所だ。
どことなく、早耶さんは内また気味で、早く用を済ませたい様子に見える。

「早耶さん、そんなにお化け屋敷が恐かったんですか?」
「えぇ、その…。あぁいうの、昔から苦手なんです…」
「やっぱり…。でしたら、嫌だと言っても良かったんですよ?」
「そうかもしれませんけど…、それだと、2人だけで行くのかなって思っちゃって…」

二つの意味でもじもじしながら、早耶さんは道すがらに話をしている。
…その様子は、どこかしら、2人だけ取り残されるのを嫌がるように見えていて。

「とはいえ、それでも無理をしすぎるのも良くないと思いますよ。白竜さんにも迷惑かけてしまいませんでしたか?」
「それは…わかってるんですけどね。でも私、前に妃美佳たちが白竜くんを好きにしてた時、何にも言えなくって…。
ずっと、白竜くんに我慢させちゃってたのかな、って思ってたんです…」
「…ですから、今度は自分が我慢すればいい…、とお思いなのですか?」
「…ダメ、ですかね?」

トイレへ向かいながら、そんな事を彼女は口にしていた。
…確かに、俺が飯綱さん達に使われていた時、我慢していたのもあった。多分、考えないようにしていたけれど耐えかねていた所もあったのだろう。
だからこそ、一番最初に矛先が向かっていってしまったのかもしれない。

「ダメとは言いませんが…、そうですねぇ…」

雪姫さんは日傘越しに空を仰ぎ見て、少しだけ悩んだ様子をしたあと、

「んー…。……ちょっと言葉が思い浮かびませんし、まずはお花を摘んじゃいましょうか」

少しだけバツが悪そうにしながら、辿り着いたトイレに入って行った。
さすがにこのまま入る訳にも行かないので、物陰に移動する。

ぶぢゅる…っ。

「ん…、よし」

粘液状の体を生体に練り上げる。一見してバレないように、骨格から内臓、纏う服まですべてウルティマの、ショゴスの力で形成する。
肉付きの良い、すっぴんでも可愛い顔をしている、最近その全てを細部まで『知った』、それでいて雪姫さんの知らない姿の彼女、安月美和の姿に。
作った手は問題無いようで、何度か握って確かめてみる。

「…よし」

2人を見失わないよう、すぐに表に出ていきトイレの中に入っていくと、ぱたんと2つの扉が閉められた音がした。
慌てて入れる場所を探してみると、2人が入った隣の個室の扉が閉まるのが見えた。
すぐ隣に入ろうとしていたのに、一手遅れてしまった。しょうがないなぁ…。

今しがた閉じられた個室に、音もなく扉の隙間から身体を流し込むと、先に入っていた女性がパンツを下ろそうとしているのが見える。
突然入ってきた俺の姿に驚いて、声を上げようとした瞬間に指先を触手の様に伸ばして、鼻や耳や口に差し込み、脳まで到達させる。

「あ、あ…っ、あぁ、ぁ…っ」

海馬と大脳皮質から記憶を読み取り、彼女の粘液からDNAを捕喰する。わざわざ肉体を喰わなくても、これなら大凡の所は補えるのだ。
これがしばらく前に分体を通して覚えさせた、喰わなくても大丈夫な知識と遺伝子の吸収方法。少しだけ手間がかかるけれど、喰った分の補充を考えなくて済む、手軽な方法だ。

身体を動かし、部屋の中に入っていた女性に用を足させながら、その脳の内容を吟味する。
同時に、早耶さん達の会話を聴こうとするが…、……やっぱり別室では会話をしないようだ。
外に出てから、美和のフリをして盗み聞きするしかないな、と思っていると、

「……おや?」

個室の中に、小さなカメラがあるのが目に入った。

* * *

トイレから少し離れた物陰で、1人の中年域に入りかけた男が震えた手で小型モニターを掴んでいる。
見えるのは、突然現れた粘液のような少女が、盗撮していた女性に接触している姿。まるで人ならざる物の行動を、カメラ越しに目の当たりにしている。

「こ、こんなのって…、マジなのか…? 夢じゃ、ないよな…?」

この男はトイレに隠しカメラを仕掛けた盗撮犯だ。他人の隠し撮りした動画を裏のサイトで売買し、小金をためていた小悪党。
流せば真贋を疑われるか、オカルト好みの存在の好奇に触れる映像は、彼にとっては恐ろしすぎた。
カメラを見据えられた事に気づき、慌てて撤収しようとする。ほぼ同時にトイレに入っていた、白い和服姿の女性や、気弱そうな女性など、今日に撮りためたデータも一緒に持っていき、逃げようとした所、

「おいおいそこのおっちゃん? じろじろ見てるのは行儀悪いぜ?」

唐突に上から声をかけられて、体は更に委縮する。
見上げればそこには、まだ中学生ぐらいの少女が伸びた木の、やや大振りの枝の上に座っていた。
ただでさえ粘液のような存在が現れて、その直後にこれでは、驚かざるを得ない。

「…な、なんなんだお前、あの化け物の知り合いか!?」
「あの化け物がどの化け物かは全然知らないけどな、兄ちゃんからかいに来てこんなモン見ちゃぁ…、放っておけなくてなァ?」

大振りの枝から飛び降り、男の前に着地する。それに気圧され男は後ずさるが、

『ここにいたんだ…』

不意を打たれたように後ろからも声が掛けられる。
後ろにもいた事に足を止めようとしたが、生暖かい粘液に体中を絡めとられ、これ以上進むことは無かった。

「おぅおぅ、スライムの兄ちゃんじゃん。やっほ」
『依子ちゃん…じゃなくてコルヴォ? どうしてここにいるのさ』
「いやいや、兄ちゃんが今日はスライムの兄ちゃんと一緒にデートだって言っててさ。ついつい後をつけちまった」
『それだと俺が――さんとデートしてるように聞こえるよ…』
「……? あぁなるなる。ちょいちょい言い方悪かったな」

盗撮をしていた男の体を呼吸が出来るように鼻だけ出し、それ以外を粘液状の体の中に埋めたまま、白竜とコルヴォは会話している。

「んでんで、スライムの兄ちゃん。そのおっちゃんの撮ってた奴、どうするのさ?」
『勿論証拠隠滅させてもらうよ。ついでに撮影した物のマスターも後で消しに行こう』
「その方が万々歳だろうよ。個人的に使われるのも腹立つが、流されてると被害者しか出てこねぇしな」
『まずはこのデータを喰って…、と。この人はどうしようかな…』

データの入ったSDカードを、カメラ映像の受信機ごと融かして喰い、同時に体内に絡めた男の事を見る。
機械がまるで水中の氷のように融けたのを目撃し、その目は恐怖から大きく見開かれている。
全身をマッサージするように粘液で撫で擦りながら、考える事数秒。

『…俺の視点では初犯という事で、ちょっと執行猶予を与えます』
「ほうほう? どうすんのさ?」
『具体的には…』

男の体が硬直する。耳穴からスライムがずるずると入り込み、脳に直に触れていく。男の記憶を読むように、手を加え書き換えていくように。

『彼が今後盗撮を筆頭とした犯罪行為を行ったり、それによって金銭を稼いだ場合、体が女性化していくようにします』
「はいはい質問でーす。執行猶予の意味なくね?」
『家に戻ったら即座に販売を止めればいいだけだよ。男のままでいたいならね…』

こういうのも何だが、体よく「遊べる」相手が見つかったのだ。精々遊ばせてもらうとしよう。

『今のうちにちゃんと教えておくけど、あなたが完全に女性化した場合、周囲の男性を誘惑するフェロモンが出るようになります。
男性相手に犯されたくないのなら、全うに生きる事だね』
「スライムの兄ちゃん。このおっちゃんそこそこ年いってるし、そうするなら若返るようにした方が良いんじゃね?」
『…それもそうか。熟女好きな人ならともかくね』

軽く雑談をしながら男の脳と身体を改造していく。自分たちの記憶を「見ていなかった」事にして、これ以上の盗撮行為は身の破滅を導くことを刷り込ませて、そこでようやく改造を終えた白竜はそのまま意識が飛んで気絶した男を粘液の体から吐き出す。

『念を押させてもらうけど、これ以上盗撮行為を繰り返すならその年齢のまま女性化するからね。それでもいいと言うのならお好きにどうぞ。
それとマスターデータは後で消させてもらうから、そこもよろしく』
「バイバイおっちゃん、次に会う時は姉ちゃんになってないと良いな」

多くを語らずただ嵐のように男の所にやって来て、そしてやりたい事だけをして去っていった。
倒れたままの男は、起き上がってから撮っていた筈の物が無くなった事に疑問を憶えながらも、「何かあった」事だけは記憶の片隅に残っていたようで、そそくさとその場を後にした。

その後、彼がどのような経緯を辿ったのか。
それは語る機会があった時に述べさせてもらうとしよう。

* * *

トイレを出た二人は、洗面台に並び横目で互いを見ながら手を洗っている。

「早耶さん、さっきの続きなんですけどね?」
「え、あ、はい。…なんですか?」
「お互い我慢し合うのって、良い事かもしれません。…けれど、それはきっと、理解し合おうとしてない事なんだと思うんです」
「えぇと…、それって…?」
「欲するなら、少しはワガママであっても良いんじゃないかと思うんですよ」
「え…?」

濡れた手の水を切り、ハンカチで拭いながら、雪姫はどこかさっぱりとした表情をしている。

「私は、残りの命は短いかもしれませんけど…、――さんと愛し合いたいです。できれば子供も欲しいです」
「ふぇ…っ? 雪姫さん、それって…、ほ、ホントの事ですか…?」
「はい。…ですが、その事はまだ――さんに話してません、私が我慢してます」

突然の言葉に早耶は顔を赤くし、慌てるけれど。それさえ気にしないと言わんばかりに雪姫は微笑む。

「同時に私は――さんがどう思ってるのか知らないです。彼が私とまぐわいたいのか、子供も欲しいのか…、何にも知りません」
「我慢…、してるから…」
「はい。節度はありますが、話し合うって、大事ですよね」

全てを言わず、去っていく雪姫の背中を見ながら、

「…話し合う、か。…私、ワガママになっても良かったのかな…?」

どの段階で、そうなれば良かったのか。
納得できないままに、男たちの所へ戻って行った。


B:ミストサークルに行ってみよう

分体が得てきた情報に少しだけ満足しつつ、地図を持って三人を先導していく。
お化け屋敷から少しだけ離れた場所にあるのは、直径10m位の小さな場所。床には模様を描くようにいくつもの穴が開いていて、大小さまざまな水が、緩急をつけて吹き出している。

「わぁ…、こんな所もあるんだぁ」
「子供も嬉しそうにはしゃいでますね」

女性陣にはおおむね好評のようで、少しだけ目が輝いている。
ここなら怖い思いをしなくて済むのかもしれない。さもありなん。
とはいえ、

「これ、雪姫さんが濡れると面倒な事にならない?」
「あ、それは確かに。…着物で来たのは失敗でしたかね」

雪姫さんが来ているのは着物、それも完全に絹製だ。遊園地には場違いな感じはあるのだが、それでも、服装を含めて「彼女」を形作っている。
確か絹は濡れると縮んだり痛んだりするらしい。そういう意味では、ここは失敗だったかな。

「しょうがないですね、ここは白竜さん達だけで楽しんでください。
いつまでも私達が一緒だと言うのも、あまり落ち着かないでしょうし…、ね?」
「…ま、そだな。悪いな2人とも、こっからちょっと別行動って事で。連絡あったら携帯に入れてくれ」
「では早耶さん、また。…頑張ってくださいね」

言うが早いが、――さん達はミストサークルから離れていってしまった。
雪姫さんが早耶さんに言ってたことは…、何だったのだろう。盗撮犯を追いかけていた事で、その後の話を聞けなかったので解らない。

「…ね、白竜くん。さっき言ってくれてた、時間っていうのも気になるし…、私達だけでも、行ってみよう?」

ふと、服の裾を引っ張られた感覚に気付いて振り向くと、早耶さんが俺を促していた。
少しだけ上目づかいで、頬を朱に染めている。
…やっぱり、可愛いな。

「そうだね。できればこれは2人にも見てほしかったんだけどなぁ…」

ミストサークルに入ると、大小多数の水が地面の穴からアトランダムに跳ねていく。
当然、それだけではなく、敷地内に多数存在するポール上部から、そして時に下の穴からミストが噴出してくる。
足元はすぐに水が捌けるような構造になっているが、それでもできる水溜りが多数存在していて、

「ひゃっ」

その一つを、早耶さんが踏んでしまった。

「どうしたの、早耶さん?」
「う、うん、脚に水が当たっちゃって…」

なるほど、やっぱり跳ねたんだね。

ミストサークルではやはり思った以上に濡れてしまうが、俺の体としては水分はとてもありがたい。スライムとしての肉体も、やはり水分がなければ活動に支障が出てしまう。冬場の乾燥は思ったより大敵なのかもしれない。

そんな事を考えていると、時計の針が12を指し示した時に、付近のスピーカーから音楽が流れてきた。
それと同時に、水のパターンがランダムから、リズムに合わせたショーのような物に変わっていく。

「ふぁ…、白竜くんが言ってた時間の話しって、これかな?」
「そうなるね。1時間ごとに必ずやるんだって」

できれば2人にも見てもらいたかったけど、行ってしまったのなら仕方ない。
今日かまた次の日か、来た時に見てもらえればいいやと思いながら、隣にいる早耶さんを見る。

「ふふ…。あの子たち、嬉しそうだね。あんなにはしゃいじゃって」
「うん…」

ミストサークルの水で、俺達の体はそこそこに濡れている。水気で重さを増して空気のふくらみを無くした服は、特に早耶さんの体に寄り添い、体のラインを浮き彫りにしている。
横顔と一緒に見下ろすのは、彼女の胸元。膨らみの上に存在する鎖骨は艶めかしく濡れていて、生唾を飲み込みたくてしょうがない。
そんな欲望を見透かされたかのように、早耶さんが俺の方を向いてくる。

「…あの、ね。白竜くん」
「え、あ、な、何?」
「…私、こういった物の方が良いかも。あんまり激しい乗り物とかは…、疲れちゃって…」
「あ、うん…、……そうか、そうだよね」

言われた彼女からのお願いに、少しだけ反省する。そういえば俺は、自分の都合でしか動いてなかった。
彼女の事を、考えていなかったのだ。

「…次からは、ちょっとだけで良いから、考えてくれると嬉しいな」
「…うん、分かったよ、早耶さん。考慮する」
「ありがと、白竜くん」

嬉しそうな笑顔を1つ浮かべてくれて、早耶さんは目の前の小さな水のショーに向き直る。
その様子を見て、そっと手を取り握ると、

「……っ」

恥ずかしそうに握り返してくれる。

(…あぁ、触れてくる肌が気持ちいいなぁ…。お腹、減ったな…)

少しだけ頭の中に邪な考えがよぎる。何か口に入れたい…、何か…。

「……? どうしたの、白竜くん」
「うん、ちょっとね。…お腹すいちゃったな、って思ってさ」
「あ、私も。…ちょうどいいし、ご飯食べようか?」
「そうだね、どうしようかなぁ…」


【何を食べようか】

A:フードコートでご飯

>B:早耶が作ってくれたお弁当

C:ミストサークルで遊んでいた子供

D:ミストサークルの水に紛れた分体で、早耶の遺伝子を舐めるように。


「あのね、白竜くん。…ご飯なんだけど、お弁当作ってきたの。…良ければ、そのね?」

早耶さんが、おずおずとバッグを軽く持ち上げて見せる。今の言葉からだと、中にはお弁当が入っているのだろう。
しかも、彼女が手ずから作ってくれたものが。

「そうなんだ、ありがとう! 勿論いただくよ! えぇと、食べられる場所は…」

好きな女性の手作り料理が嬉しくない訳がない。すぐにでも食べたくなって、持ち込みの食事ができる場所を探す。
顔の目で地図を舐めるように見ながら、早耶さんを見るように小さな目を作ると、

「……」

嬉しそうにはにかんでいる姿が見える。けれどその直後、何かに気付いたように落ち込んだ様子になってしまう。

「あ…っ」
「え? どうかしたの、早耶さん?」
「……お茶の入ったポット、持って来るの忘れちゃった…」
「大丈夫だよ、飲み物だったら、それだけでも買ってくればいいからさ!」
「うぅ…、ごめんね、白竜くん…。私が忘れなければ、そんな手間もかけさせなかったのに…」
「気にしてないって。…だから、そんなに落ち込まないでよ」
「…うん」

それでも気にしているのか、早耶さんは少しだけ俯いたままだ。
少しだけ、いたたまれなくて。

「あーお腹空いちゃったなぁ、早く早耶さんのお弁当食べたいな!」

半ば強引にだけど手を引いて、歩き出した。

途中のドリンクステーションで飲み物を買って、パンフレットを見て既に発見していたフリースペースへと移動する。少し広めの公園のような、休憩も出来る場所だ。
そこにあるベンチを見つけて、隣りに座りあう。

「…えぇと、ね。白竜くんに作ってみるのは初めてだから…、何を作ればいいのかわからなくって…ね?」

バッグを膝の上に置いて、お弁当の入った容器を取り出す。ふたを開けると、中には無数のおむすびが入っていた。
白米に海苔を巻いたものが多いけど、中身はしゃけ、明太子、梅、おかかなどの他に、まぜごはんで作られた物や、シソのふりかけをまぶしたもの、天むすや、チキンライスを薄く焼いた卵で包んだオムすびとか。
その横にはもう一つお弁当の箱があって、それを開けるといくつものおかずが入ってた。

「色々、作ってきちゃった…。えへへ…」
「おぉ…、これはすごいよ!」

目の前に出されたお弁当を見て、人側の食欲が鎌首をもたげてきた。生体部分として作った体が欲しがって、出てきた唾をのみ込むような音が出る。
けれど、気になる事が一つ。

「…あれ? ひのふのみの……、早耶さん、これちょっと多くない?」
「うん…。実はね、雪姫さんと相談して、一緒にご飯食べようかなって思ってて、大目に作っちゃったんだけど…」
「あぁ、そういう事か…。あの2人はもう…」

忌乃家の2人が居なくなってしまった為、俺達2人で食べるには多い量が弁当箱の中に収められているのだ。

「…あ、白竜くん…、食べられなかったら、残していいからね?」
「いやいや、大丈夫だよ早耶さん。俺、結構食べるからさ」
「そうなの…?」
「うん。俺…というか、俺たち兄弟全員結構食べる方でさ、ちょっとくらい多くても気にしないよ」

これは本当だ。ドラゴン三兄弟は全員もれなく武術を嗜んでいるため、体力も、体を動かすための必要なエネルギーも多いのだ。
ただでさえ今の俺はスライムの体をしているため、食べられる量に限界があるかと問われれば、理解できる範疇では「無い」。
「食べた」事で精神的に満足すれば、とりあえずそれで大丈夫、という事になるのだ。便利のような、不便のような気はする。

「良かった…。…じゃあ白竜くん、いっぱい食べてね?」
「うん。それじゃあ…」
「「いただきます」」

手を合わせて、感謝をしながらお弁当に手をつけ始める。

「はむ…」
「あぐっ」

手元にあるおむすびを取り、食べ始める。早耶さんは小さな口で少しずつ、俺は形成した口が開く限りに大きく開けて一気に。
作られて少し時間が経ってしまって、冷めているけれど。

「…、うん、……うん!」

それは確かにおいしかった。
具のしゃけ、そこからにじみ出たエキスと塩のかかった白米。わずかにしんなりとした海苔が、咀嚼していくたびに口の中で解れていく。

味は俺の舌に不思議と合っていて、掛け値なく美味しいと思える。
あっという間に一つのおむすびを口に放り込んで、咀嚼し飲み込む。体内で吸収し、体全体で味わう。

「…どう、だった?」
「勿論、美味しいよ! 早耶さん料理上手なんだね」
「う、うん。…一応、作れるようになっておきなさいって、お母さんにも言われてたし…」
「そうなんだ。うん、でもこれ…、やっぱりいいね!」

次いで二つ目のオムすびを手に取ると、

「あ…っ」

少しだけ早耶さんがしょんぼりした顔をしたので、

「…早耶さん、半分こしようか?」

と聞いてみる。

「…いいの?」
「勿論。あんまり遠慮しなくていいからね?」

微笑みながらオムすびを分けると、やや不恰好になってしまったけれど、笑いながら分け合った。
大きめの方を早耶さんに渡すと、彼女は嬉しそうに口にしていく。
チキンライスにまぜたグリンピースが落ちそうになったら取って、どうせだから俺が食べた。

好きなものを取って、食べて。食べたいものをたまに分け合って。
おかずに作られた卵焼きやから揚げ、たくあんなどを箸休めにしながら、お昼を食べていく。

どれもおいしくて、舌鼓を打つくらいに勢いよく食べていく。そんな俺を見ている早耶さんの表情は、隠しようがないくらいに嬉しそうだ。
15個くらい用意されたおむすびだけど、早耶さんは3つと半分くらい食べて満足そうにしている。対して俺は9個と半分くらい食べ、まだまだ(底なしに)食べられる訳で。

「…白竜くん、本当に沢山食べられるんだね」
「うん。…道場から帰ってきた後は、1人2合は食べてた気がするなぁ」
「白竜くんのお母さん、ご飯作るの大変だったかもね」
「きっとね…。…親孝行しないとなぁ」
「お互いにね。えぇと…、白竜くん。はいっ、あーん」

残った2つのおむすびの内、タラコの入ったもので。それを早耶さんは手に取り、俺に向けてくる。
直前のセリフからして、これって…。

「あー、むっ」

間違いないと考えて、そのタラコおむすびを半分ほど口にする。早耶さんは嬉しそうな顔をしているので、行動に確信が持てた。

「…おいしい?」
「うん。なんだか自分だけで食べるより、ずっとおいしいよ」
「本当? それだったら、……、ん、あーん」

今度は、といっても彼女の方からだが、口を開けて待っている。最後の味ごはんおむすびを手にして、彼女の口に添える。

「はい、早耶さん。あーん」
「あー、…はむっ」

彼女の小さな口が、おむすびを少しだけ口の中に含ませる。
何度も噛んで飲み込んで、頬に朱の差した笑顔で笑ってくれる。

「…やってみて想ったけど、なんか恥ずかしいね、これ…」

言われて、俺も思い出したように顔が赤くなってきた。心臓代わりの核が早鐘を打つような気がして、それに合わせた反応を体が示す。
どこか気恥ずかしくて、互いの手に持っていたおむすびを、証拠隠滅と呼ばれようが構わない勢いで一気に食べきった。

(あ…、そういえば…)
(もしかしてこれって…)

味ごはんおむすびからわずかに認識できる情報は、顔を赤くする俺の思考とは別の方向から整理されていく。
少し混乱する頭の中で、一部の理性が手繰り寄せた一つの答えは、俺も早耶さんも同じだったようで。

(関節キス…、だよな…)

食べ終えて、互いの唾液を交換した事に気付いた俺達は、揃って赤い顔をして。

「……」
「……」

少しだけ、寄せ合う方の距離を縮めていた。


【お腹も膨れたし、次はどうしようかな】

>A:ミラーハウスに行ってみる

B:コーヒーカップに乗ってみよう

C:ゲームセンターはどうかな

D:やっぱり2人でまったりしよう


昼食を食べ終えて、買ってきた飲み物で喉を潤しながらパンフレットを広げ、次の行先を模索していると。

「ねぇ白竜くん、私ここに行ってみたいんだけど…」

今までは俺手動で行先を選択していたのだけれど、今度は早耶さんが指したミラーハウスへと行く事になった。
入場料を払って中に入ると、そこにはミラーハウスの名に恥じない程に、全面が鏡で覆われていた。

「うわぁ…、こんなに鏡張りなんだねぇ…」
「普通にしてると、道とか解らなくなっちゃうね、これは」

複数の鏡に乱反射して見える姿は、人間としての視覚では真贋の判断が鈍ってしまうだろう。
どこか頼りなさげに、鏡に手を添えて次の道を探そうとしている早耶さんを見ると、大変なんだろうな、と考えてしまう。

(とはいえ、俺はなぁ…)

ウルティマとしての感覚と『雷火』の探査機構の併用によって鏡に惑わされない行動が出来るし、スニーカーから滲み出した分体を床に這わせて、既にミラーハウスの全体構造を把握してしまっている。
便利といえば便利だけど、人間基準の楽しみ方があんまりできないのは、少しだけ哀しく思えてしまう。

「あぅ…っ」

気付けば、鏡と通路を間違えてぶつかってしまった早耶さんが頭を抑えて、少しだけ蹲ってる。
その様子に、少しだけいたずらしたい気分が芽生えてしまう。

(とは言っても、あんまりにもあんまりなのは止めておくとして…)

早耶さんが痛みに頭を抱えている最中に、服と荷物を足元から一気に移動させ、裸になる。そのまま、先ほど間接キスで少しだけ得た情報で早耶さんの姿になり、服もスライムで賄う。
背中合わせで同じポーズで屈みこんで、同じ動きをするために小さく作った目で見続ける。

「「うぅ…、ここも鏡があるんだね、白竜く、ん…?」」

そのまま彼女の言葉も一言一句同じにして、ボケっとした表情を作り上げる。

「…………」
「…………」

早耶さんの目の前には、鏡越しに移ってるはずの自分が見えている筈だけど、本当は実体としてそこに存在している。

「…あれ? 鏡、だよね?」

どことなく感じる違和感に手を伸ばし、早耶さんは触って確認しようとしてみる。それに合わせて俺も手を動かし、手のひら同士が接触する。
もちろんこれが悪戯だとばれないように、俺の掌の感触は鏡と同質の物体に変化させてある。

「…んー? やっぱり鏡、なのかな…?」

触れて確かめる関係上、手で触るなら必ず同じ個所が、鏡合わせで触れなければならない。何度も確認しようと、両手で触ろうとしてくる早耶さんの動きに合わせて、俺も両手で動きを返していく。
接触の瞬間に皮膚の感触を変えて、そのまま同じポーズをする。

「「…うーん、やっぱり鏡…、え?」」

何度か確かめて、納得しかけた所にもう一度、同じタイミングで声を出す。ますますもって早耶さんの表情に疑問符が浮かんできた。
ミラーハウスは閉鎖空間とはいえ、こうまで反響もせずに同時に声が聞こえてくるなんてことはない筈なのだ。

「…えいっ!」

勢い余って、と言わんばかりに早耶さんが体当たりを仕掛けてきた。慌てず騒がずそれに応え、なおかつ接触部分はちゃんと鏡と同じものに材質を変える。
右肩を突き出しタックルするようにしてきて、俺も鏡合わせになるよう左肩を突き出し彼女の体を支える。

「~~…っ!」

正直に言って、早耶さんの体力はあんまり高くない。こうして押してくる力も強くない。
それに合わせて、彼女に押し負けないよう、勝ってしまわないよう、同じ力で返していく。

「……あれぇ、やっぱり鏡だよねぇ…?」

何度も試してみて、どうにかこうにか「鏡だ」という折り合いをつけた様子。
もうちょっと遊んでも良いけれど、これ以上はさすがにやり過ぎてしまいそうだ、と想いながら、壁の向こうで分体を俺の姿に変えて、早耶さんに声をかけさせる。

「早耶さん、どうしたの?」
「あ、白竜くん。今そこの鏡で、なんか不思議な事があってね…?」
「そこの鏡?」
「うん、あれなんだけど…、あれ?」

と言われ、早耶さんが指した鏡に、既に俺は映っていない。元々置かれていた鏡に、早耶さんと分体の俺の姿が写っているのみだ。
本体の俺は、既に肉体の透過率を上げて透明になっている。灯光器のようなもので多数から光を照射されなければ、あまり見つからないだろう。
そのまま音を立てず移動し、分体の中に入り込み、コントロールを俺の元に戻す。

「何の変哲もない鏡だけど、どうしたの?」
「うーん、えぇと…、あれ? 何か変だよ…、あれぇ?」

再度確認するように、ぺたぺたと鏡を触って確かめている。さっき行っていた行動を、今度は後ろから眺める形になった。

「白昼夢でも見たんじゃないかな? 今度は迷わないように、ちゃんと手を繋ごうか?」
「うん、そうしてほしいけど…、そうだ白竜くん、私を置いて行ってたよね?」
「ご、ごめん、でもおかげで可愛い早耶さんが見れて、ちょっと眼福だったというか…」
「……むぅ」

少しだけ膨れた顔をしながら、彼女が手を差し出してくる。内心で苦笑いしながら、

「さっきはゴメンね。…エスコートしてもよろしいですか?」
「…良いけど、放さないでね? 居なくなられるのって、嫌だから…」

言葉の最後は消え入りそうな声音だった。確かに彼女は、置いていかれるのは嫌だろう。
想いを寄せていただろう幼馴染が、自分の事を振り払って、何も知らない相手の所へ婿に行ってしまったのだから。

「大丈夫だよ、俺は置いていかないし、いなくなったりしないから」
「…うん」

安心させるように微笑んで、彼女の手を取る。お化け屋敷の時と同じ形で、けれど今度は彼女の方がしっかりとした足取りでついてくる形で、ミラーハウスの中を進んでいく。
たまに早耶さんの方が先に行こうとしてぶつかったり、俺が何の障害も無いようにすっと通って行ったりして、何でと疑問を投げられたりした。
けれど俺も早耶さんも、純粋に楽しんで笑い合って。

ミラーハウスを出ようとした所に、――さんから念話がかかってきた。

『すまない白竜くん、早耶は一緒か?』
『え、えぇ一緒です。どうかしたんですか?』
『お化け屋敷の方で、ちょいとデカい問題が起きた。回してる分体を広げて、人が入ってこれないようにしてくれ』
『それだけで良いんですか? 俺が行って加勢する必要は…』
『それだけで良い。…ここは姉さんの仕事場でもあるし、俺がやらないといけないんだ』

その言葉を最後に、――さんからの念話は途切れた。

「…どうしたの、白竜くん?」

渋面をしていたのがバレてしまい、早耶さんにも心配そうな顔をされてしまう。

俺は、どうするべきだ?


【お化け屋敷側に対してどう動くか】


>A:――の言われた通りにする。

B:分体をさらに送り込んで加勢させる

C:早耶を分体に任せ、本体が加勢に行く

D:逡巡している間に、早耶が騒ぎに気付いてお化け屋敷に向かってしまう。


分体に視点を移す。
お化け屋敷の周辺で、雪姫さんが周囲に人が入らないように不可視の結界を張ったまま動かず、それを越えてきた人間用に俺が不可侵の幕を張る。

問題となっている場所の中からあふれ出てくるのは、死者のように蠢いてくる、過去に最低限すら食えずに飢えて死んだ者達の怨念。
正確にいえば死体が既に存在しない為、「生き返ったと思っている」怨念たちが、自らの祈りを捧げた邪神が齎した力によって、現世にあふれ出てきていた。
放っておけば奴らは飢えのままに喰らうだろう。肉体がある状態ならば物理的に喰う。だが今の怨念・怨霊は、喰えるものは同じく魂。動物であれ、植物であれ、人間であれ。

そんな飢えた怨霊をそれらをこれ以上表に出さないように、――さんが1人で戦っている。
過去に使っていた刀でなく、三叉槍に風の力を纏わせながら、金色の髪をなびかせて舞っている。
――さんは今、風神・カザネを憑依させ、穢れを祓う風の力を刃に乗せて、あふれ出る怨霊を文字通りに薙ぎ払っていく。
だが薙ぎ払われた怨霊は、わずかな時間を経るとすぐに元通りになってしまう。



「ちぃ…ッ、どうにも倒しきれないなッ! 力は別の所から供給されてるみたいだ…!」

口から零れる言葉の内容に、倒し切れない気配が見て取れる。その理由は、きっと…。

「……ッ。――さん、結界内の精査が終わりました! やはり彼等を復活させる力の出所は内部、最後の儀式を行っていた場所です!」

雪姫さんが動かなかった理由がこれだ。内部の様子を探り、――さんはそれが終わるまで足止めをしていたのだろう。

迫りくる亡者の頭を槍で貫きながら、――さんと雪姫さんは話をしていく。

「そこから出てくる力を断てば終わりだな?」
「はい! あの場に確か、邪神信仰のシンボルがあった筈です。あれが穢れを収集・分配する役目を持っていますから、壊してください!」
「壊した後、穢れが散る可能性は?」
「ありますが、行ってしまえばこのお化け屋敷は陽中における陰です。穢れの集積効率が悪く、今になってようやく発現してしまったのでしょう。
散ったとしても、影響はほぼ無いに等しいと思います」
「…発現の切欠は、やっぱり俺達かね」
「恐らくは。……ですが、だからこそこれ以上を起こさぬよう務めましょう!」
「分かったよ、雪姫さん。…援護頼む!」
「はい!」

風を纏い、槍を横薙ぎに一振り。それだけで怨霊が飛び散り、一瞬だけ空間が開ける。その瞬間に――さんはタブレットを1つ噛み砕き、刀剣神・ミイヅルを降ろした。
カザネの姿より一回り小柄になり、雪姫さんの放つ雷を背に、出口からあふれ出てくる怨霊を叩き斬っていく。
室内に飛びこんで数分後、結界内に淀んでいた瘴気が消えた。
侵入防止の結界になっていた俺は見ていないが、事は済んだのだろう。

体に負担をかけて、――さんは戦っている。まだ人間の体で、自らを薄める無理をして。

室内に残っていた怨霊を掃討しきり、大きく息を吐きながら出てきた彼の体からは、一層強い女性の匂いがした。

* * *

分体がお化け屋敷側の騒動を見ているのと同時に、俺は早耶さんとのデートを続けている、
今度はちょっと趣向を変えて乗り物系。起伏のついたウェーブ状のレールの上を走る乗り物で、絶叫マシンほど激しくなく、メリーゴーランドより緩やかでない、絶妙な乗り物だ。

「白竜くん、私が内側で良いの?」
「勿論だよ。俺が外側の方が、エスコートの為に便利だしね」
「…そっか。うん、ありがとうね」

座席について、手すりに手を置きながら早耶さんは笑う。…まぁ、下心的に勿論それだけではないのだけれど。
ほどなくしてブザーが鳴り、列車状のコースターが始動する。軽快なBGMと共に、最初はゆっくりと、次第に速度を上げてレールの上を走って行く。

「わ、わわっ、思ったより速い…!」
「でもこれ、思ったより楽しいかも…っ」

周りの客も、絶叫マシンほどではない速度に楽しそうな、嬉しそうな叫びをあげている。
ぐるぐるとわずかな上下移動を伴う回転に、次第に早耶さんの身体が遠心力によって、俺の方に引き寄せられてくる。

そう、これが下心的な理由。
回転によって外へと向かう力は、早耶さんの体を俺の方へと動かしていく。彼女の軽い、けれど柔らかい体が俺の方へ寄っていく。
気を抜くと肉体をゲル状にして、早耶さんを体内へ入れてしまいそうだけど、気をしっかり保つ。
やるにしても、それは今じゃない筈だ、うん。

物理法則のイタズラによる接触も、アトラクションの終了と共に終わってしまうけれど。

「はぁ~…。白竜くん、アレ面白かったね」
「乗ってみて正解だったね。早耶さんはアレくらいなら平気なの?」
「うん。絶叫マシン…、えぇと、バイキングみたいなのとかは、結構無理かな…?」

単純に速いものならまだ平気だそうだが、振り子の要領で前後に揺さぶられる物のような、激しい上下運動を伴う乗り物は苦手なのだという。

「逆バンジーとかも…、多分無理だと思うの。ゆっくり動くゴンドラとかなら平気だけど…ね?」
「あぁうん、大丈夫だから。早耶さんが嫌がる物は乗らないから」
「ホント?」
「本当だよ」
「…うん、信じるね」

少しだけ不安そうな顔をしている彼女を元気づける為に、嫌な事はしないと誓うと、早耶さんは嬉しそうに近づいてくれた。
そっと俺の腕に抱き着いて、コースターの時と違い、自発的に近づいてくれて。

「…あの、早耶さん。胸が当たってるけど…」
「…当たっちゃうんだもん、仕方ないでしょ? ……大きくなっちゃったんだもん」

最後の言葉は、呟くような小さな声だったけれど。近かったから気付いてしまって。
接触する腕と胸の感触と、お互いの匂いと気恥ずかしさとが相俟って、赤くなっている互いの顔を見る事なんてできなかった。

「……っ」
「……」

そんな状況は暫く続いてしまったけれど、そんな状況を動かしてしまったのは、遊園地従業員たちの、少し慌ただしくなった様子。
お化け屋敷のシステムだけがダウンしてしまったようで、復旧の為に動いているのが視界の端で見えてしまった。
次いで流れるアナウンスも、トラブルを来客者に伝える為のモノだった。

「…お化け屋敷、何かあったのかな?」
「うん…、きっと大丈夫だよ」
「え、何が?」

言ってから気付いた。マズい。
分体の方で認識している2人の事が、口をついて出てしまった。

「い、いや、従業員の人達がちゃんとトラブルに対応してくれるから、大丈夫だよって事でね?」
「…そう? …そう、だよね。うん。御園さんも居るんだし、きっと平気だよね」
「うん…。って早耶さん、確かその人、今日は来てなかった筈じゃ?」
「あ、いけない。そうだったね…」

お互いのバツの悪さを誤魔化すように、少しだけ笑いながら、お互いの体勢は崩さず腕を組んだまま。
多分あの2人なら大丈夫だろう、何とかするだろうと信じて、今は2人のデートを楽しむことにした。

時間が経過する。

アレから主に屋内系アトラクションをメインに周り、…――さん達とも合流する事はないままに、気付けば陽が落ちようとしている時間になって。
俺達は観覧車のゴンドラに乗って、ゆっくりと揺られながら登っていく。

「わぁ…、夕日が綺麗…」

赤い西日に照らされる早耶さんは嬉しそうで…、けれどどこか憂いを帯びたような表情になって。
顔を外からはずし、佇まいを整え俺の方に向かい合う。

「ねぇ…、白竜くん。……何か、私に隠してない?」
「……え?」

出てきたのは、純粋な驚き。確かに色々な事を隠しているが、心当たりが多すぎて絞れないのもあるし、本当の事をもらせないのもある。
…けれど、ここではぐらかすのは彼女にとっても失礼だし、俺にとっても…、なぁなぁで誤魔化す事は出来ない。

「…どうして、そう思ったの?」
「…勘になる部分が大きいんだけど、なんとなく、ね。思っちゃったの。
雪姫さんの所に行く事になった時の――と、似てるなって」
「え…」

「出かけてから、急に怪我をして帰ってきて、突然婿入りする事が決まってから…、――は隠し事が増えたような気がしてた。
何があったかなんて全然言わないし、聞こうとすると誤魔化すし…。
…そんな事が続くから、いつしか聞けなくなっちゃって。その内に――は家を出ていっちゃって…」

――あぁ、そうか。
きっと早耶さんの中では、雪姫さんに対する蟠りは解けていても、――さんに対する物は解けていないんだ。
この前忌乃家にお邪魔していたときも、――さんと会えずにいた時、浮かべていた表情は確か…。

「…それから、ずっと。――が向こうで何をしているのかも知らないし、やっぱり聞けなくなっちゃった。
気付けば…、こうなっちゃってさ…」

自嘲気味に笑う表情は、夕日の所為でひどく不安を掻き立てられるように見える。

「なんだか、恐いの。みんなで私に何かを隠して…、1人だけ蚊帳の外に居るような気分で…。
そしたら…、今度は白竜くんが――みたいな感じになってきてね…」

きっと、溜め込んでいたんだろう。吐き出せなくて、苦しいんだろう。

「…もう、聞けなくて辛い思いをするのは、嫌なの。
……だから、白竜くん」

知る為に、吐き出すために、後悔しない為に。
彼女の唇は、決意と共に動く。

「……何か、私に隠してない?」


【早耶にどこまで伝えるか】

>A:自分がスライムであることも含め、すべてを教える。

B:自分の事は伏せ、忌乃家に関してだけ教える。

C:事の詳細は伏せて、人間の知らない世界があるという事だけ教える。

D:教えられない。全ては隠さなければ。

E:早耶の脳を弄り、この関係の疑問を全て抹消する。


置いていかれてしまったからか、同じような事が起きていると気付いたからか。
早耶さんの考えていることは、当然のことながら当たっている。――さんも雪姫さんも、当然俺も、彼女に隠している事は一つや二つではない。
決定的な質問が投げられてから、俺も彼女も、互いの目から離す事ができない。

「……」

けど、その眼差しから気付けることは、一つだ。
彼女は絶対に退かない。少なくともこの場では。降りてしまえば…、きっともう問わないのだろう。
そしてきっと、今度は彼女の方から離れていってしまうかもしれない。

「……」

ゆっくりと観覧車が上にあがっていく。

「…解ったよ、早耶さん。隠していることを、全部教えるよ」

早耶さんは頷く動作の後に、つばを飲み込む。きっと何を言われても良いように、覚悟を決めているのだろう。

「この話は長くて、観覧車の中では話しきれないけれど…。まずは言わないといけない事を、言うね」

ゆっくりと身体の組成を変化させていく。
人間として見せる為の肌の色から、光を受けて多数に変化する玉虫色になる。
表面はゴンドラの振動に合わせて小刻みに揺れるように。
それでも人型を崩さず、顔を作って、早耶さんの目を見ながら、告げる。

「…俺は、人間じゃなくなっているんだ」


Side:砂滑早耶

覚悟はしている、そのつもりだった…。
――が怪我をしている事も、きっと危ない「何か」に巻き込まれてる所為なんだと…、そう、思っていた。
けれど、そんな私の甘い考えを吹き飛ばすように、突きつけられた真実は唐突過ぎている。
今目の前にいる白竜くんは…、うぅん、白竜くんの姿をしている「何か」は…、どうやってか喋っている。

「……」

人間じゃなくなっている。白竜くんはそう言っている。
それが本当なら、何時からだったの? いつから、そうなっていたの?

冷や汗が流れていく。口の中が乾く。
飲み物なんて用意してないし、ペットボトルも無くなっちゃってる。
どうにか絞り出した唾液を飲み込んで、思った事を、口に出す。

「……いつから、なの…? いつから、そうなっちゃったの?」
「この体になってしまったのは…、あの時からだよ。飯綱さんに探索して来いって言われて、廃墟に行った時から…。
あの中に隠れていた存在に喰われて、こうなってしまったんだ」

思い出すのは、あの時。白竜くんを1人で行かせて、でも妃美佳を止められずにいた、あの日。

「そうなっちゃったの…、私の所為なの…? 私が、みんなを止められなかったから、そうなっちゃったの…?」

原因となったあの日を思い出して、私の中で罪悪感が現れ始めた。
せめて1人で行かせなかったら、あの時止められたら。決してこんな事にはなってなかったと…、そう思うのだけれど。

「違うよ、早耶さん。…きっと違う」

彼は、粘液のような体を、頭を横に振って、私を遮る。

「俺が1人で行ったから、こんな事になってしまったと思う。…だけど、全員であの場に行っていたら、きっともっと取り返しのつかない事になってたと思うんだ」
「…取り返しのつかないこと、って…?」
「…全部話すつもりだけど…、ちょっと長くなりそうなんだ。
この中では話せないし、きっと早耶さんが聞きたくない事もあると思う。
……だから、ここで終わらせても良い。知りたくないと思ったのなら、知らずにいる事も幸せなことなんだと思う」

ふと、「聞くは気の毒、見るは目の毒」という言葉が思い浮かんだ。
きっと白竜くんが言おうとしているのは、言葉通りの意味なのだろう。
でも…。

「…ずるいよ、白竜くんは」

思った事が、考えたことが、止められない。

「そんな事言われて…、そんな姿見せられて…、自分だけ何も知らずにいろだなんて、思えないよ。
それに…」

それに、もう、

「いなくなられるのは…、嫌だよ…。――だけじゃなくて、白竜くんまでいなくなりそうだもん…」

ゆっくりと観覧車が動いていく。
私たちの乗っているゴンドラが、地上に向かって動いていて、否応にもこの話に区切りを付けようとしてくる。

白竜くんは少し上を向いて瞳を閉じ、身体は息をしているように胸が上下に動く。

「……ふぅ」

一息と共に、目を開けて私の方を向いてきた。

「…解ったよ。早耶さんにも全部話そう。俺の体の事、起こしてしまった事、――さん達が隠していること…、解っていること…、全部を」

え…?

「…ちょっと待って、白竜くん。…その話に、――も関わりがあるの?」
「うん。俺が俺として、自分の意識を持ったままこの体になれたのも…、――さんと雪姫さんの協力があったからなんだ。
だから…、――さんは隠していたかったんだと思う。1つ話せば、すべてを話さざるをえないから。
きっと知らなかった世界から、逃げられなくなってしまうから…」

だから、何も言わなかったんだ…。
けれどその事を聞いて、私は俄然話を聞かなければいけない気がした。

あの時から出来てしまった溝を埋める為…、恐れる事で踏み出せなかった一歩を踏み出す為、

「…うん。大丈夫、大丈夫だから…、全部聞くよ。話して、白竜くん」


Side:辻白竜

身体を人間としてのモノに構成し直して、観覧車を降りる。
遊園地を出て、話を聞かれないよう人気のない公園に移り、すべてを話していく。

この体になった事、人を食べてしまった事、家族まで手にかけた事。
忌乃家に助けられた事、早耶さんを襲いかけた事、この体を制御する為にした事。
旧日本軍の事、もしかしたら戦う可能性もある事。

「……俺が話せる事は、これで全部。
…謝って済む事じゃないけど…、ごめん、早耶さん。最初は制御できなくて、飯綱さんも尾長さんも、喰ってしまって…」
「…………」

彼女の顔は青ざめている。…当然だろう、こんな事を立て続けに聞かされて…、気付けば自分だけが無事だったという事実だ。
覚悟をしていても、辛いかもしれない…。

「…私だけが、無事なんだね…」
「え…?」
「――の時も、白竜くんの時も…、1人だけ本当に蚊帳の外だったね…。
……良かった」

まだわずかに青ざめているが、俯いていた顔を上げて、彼女は喜びの言葉をつぶやく。
一瞬、どうしてその言葉が出るのか解らなかった。

「…知る事は怖いし、起きた事は信じられないけど…、…これでもう、置いていかれなくて済むんだ…」

そう呟く彼女は、安堵していた。
…本当に、1人にされるのが恐かったのかもしれない。事実より、孤独の方が、彼女にとって強い恐怖だったのかもしれない。

「ね、白竜くん。…手、握っても良い?」
「…え? えぇと、…うん」

差し出された早耶さんの手を、つい返事をして握り返してしまう。
あたたかい、小さな手の感触は頼りなさげで、いつまでも触っていたいと思えてしまう程だ。

「…すごいね。普通に、人の手を触ってるのと同じだ」
「それは、まぁ…、触った瞬間にばれない様、皮膚と同じように作ってるから…」
「…スライムになった白竜くんも、触ってみたいんだけど、良いかな?」

唐突な言葉に驚いてしまうけれど、

「…うん。じゃあこのまま、戻るよ?」

了承して、合図とともに体の組成を元に戻す。握った手も粘液状になって、彼女の手を包み込む形になった。

「冷た…っ、……でも、なんだかあったかいね」

手を包まれたまま、早耶さんは微笑んでくれる。こんな姿になってしまった俺を、恐れないで見てくれる。
愛おしいと思ってしまう。抱きしめたいと思ってしまう。
けれど…、

「……良いよ、白竜くん」

そんな逡巡を吹き飛ばすように、手をつないだまま腕を広げて、早耶さんが迎え入れてくれる。
抱き締めあって、彼女の体温を直に感じ合って…、

「…、ん…」
「ふ、ぅ…」

粘膜の交換をするまで、そんなに時間はかからなかった。


【早耶との行為をどうするか】

A:ホテルで致します

>B:止まらずこのまま公園で

C:まだ慌てるような時間じゃない(何もせず帰る)

1:濃厚にスライムセックス

>2:普通に男女の営みを

3:いやここは「自分同士」を…


「ん、ぅ…、ふぁ、あ…」

唇を吸い合い、舌を絡め合う。彼女の唾液で本格的にDNAを取り込み、彼女の中に入り込んだ俺の一部が歓喜に震えている。
抱きしめ合う腕にも力が入り、いつの間にか俺の粘液の体の中に、彼女の肉体が入り込んでしまっていた。

「ちょ、ちょっと白竜くん…、なんか、ぬるぬるする…」
「あ、ご、ごめん、なんだか我慢できなくなっちゃって…、すぐ出すから」
「うぅん、今はこのままで良いかも。水の中にいるみたいで、気持ちいいから…」

服ごと体を包み込んでいる状態なのに、早耶さんは少しだけ気丈にふるまっている。
こんな状態、恐くない筈が無いのに。俺の話を聞いてしまえば、喰われる可能性だって十分にあるかもしれないのに。
互いにおっかなびっくりの状態で粘液の触れ合いをしていると、早耶さんの手が俺の核に触れてきた。

「…? 変なの、これだけなんだか硬いね」
「あ、うん…、一応それが俺の魂が入ってる…核とも言える場所なんだ」
「じゃあ…、これが「白竜くん」なんだね」

弱い力で握りこまれる。痛く無いのだけれど、どこかくすぐったく感じてしまう。
敏感な部分を、ゆっくり握りこまれるこの感じは…、どこか男性器をいじられているような気配にも似ていて、我慢ができなくなってしまう。

「ねぇ早耶さん…、そこ触られてると、たまらなくなってくるんだけど…」
「え、ぇと…、それって…?」
「気分的な問題なんだけどね…。され続けると…」

俺の体内に入り込んでる早耶さんの体、その腰の部分に手をまわすように触っていく。

「俺も、我慢できなくなっちゃいそう…」
「……う、ん。……しちゃう、の?」
「できる事なら、したい…」

人間としての姿で気兼ねすることなく、この身がスライムだという事を理解した上で、彼女との交わりを願っている。
早耶さんは顔を赤くして、周りを見回している。

「で、でも、ここお外だよ…? もし見られちゃったりしたら…」
「大丈夫、こうして…、俺の体で壁をつくって、見られない様にはするから。防音加工もできるし、ね?」

お化け屋敷を囲うように行っていた幕を、安月美和ちゃんに入り込んだ時のように防音仕様で作り上げる。
早耶さんは驚いた様子で周囲を見渡していると、少しだけ呆れたような表情で、

「もう…。…そんな体でも、やっぱり男の人なんだね、白竜くんは…」
「う…、ごめんなさい…」
「良いよ。…それより、ね?」

俺の体から離れ、早耶さんは佇まいを直しながら俺の顔を見つめてくる。

「えぇと…、こんな事言うと、恥ずかしいんだけど……、私、初めてだから……、
…優しくしてね?」
「勿論だよ。じゃあ早耶さん、ベンチじゃなくて、こっちにどうぞ」
「わ、わわっ、白竜くんの体が…っ」

スライムを動かし、ベッド状にした分体の上に早耶さんを寝転がせる。俺もそのまま上に覆いかぶさり、互いにじっと見つめ合う。
重力に逆らわず、とろとろと零れる粘液が、早耶さんの大きな胸や、細い腰に落ちていく。

「…脱がせて、良いかな…?」
「うん…」

早耶さんの了承と共に、手や零れた粘液を使い、少しずつ彼女の服を脱がしていく。
けど普通に上着からではなく…、

「あっ、ちょっと、白竜くん…っ? 下着から、なんて…」
「普通にしたいけど、それより違う事を少ししたくってね」

どこにでも入り込める腕と、体の一部を使って、まずはブラとショーツを外す。
重力に負けた胸がふるんと服の中で形を変え、ショーツからはむせ返るような“彼女”の匂いが、俺の欲をかきたてる。
次に上着を脱がすと、遮る物もなく彼女の肢体が露わになった。恥かしそうに、顔を赤くして隠している。

「…あ、あんまり、見ないで…」
「どうして…?」
「胸ばっかり、大きいし…、だらしないかもしれないし…」

確かに早耶さんの胸は大きい。男なら目が行く場合の方が多いだろう。
でも、

「そうかな。早耶さんの体…、とっても綺麗だよ。ずっと見てたいくらいだ」

…バニースーツ、似合いそうだなぁ。

「…本当? それなら、ちゃんと愛して…くれる?」
「うん。…触るね?」
「ひゃ、う…っ、冷た…」

最初はお腹に手を触れ、ゆっくりと上に登って胸に触れる。
手に取ると解る、ずっしりとした大きさと柔らかさ。飯綱さんより、尾長さんより大きい、早耶さんの胸。
スライムの手で触れて、全体を愛撫するようにゆっくりと揉んでいく。

「あ、ん…っ」

嫌がられない様なので、ゆっくりと胸を愛撫しながら、早耶さんに囁く。

「じゃあ、この体でできる事、少しずつしていくから…、気持ち良くなっても、我慢しないで声を出していいからね?」
「え…? あっ、っひぃ!?」

体を支える為に肩甲骨の辺りから腕を伸ばし、胸を揉む掌には口を作り乳頭を吸い、尾てい骨の辺りから伸ばした尻尾のような触手で早耶さんの秘所を撫でる。
絶えずとろとろと零れる粘液は、彼女の表面を絶え間なく動いて愛撫を繰り返し、文字通り全身に触れて撫でている。

「あっ、やっ! こ、これ、胸も、先っちょも…っ、あそこもぉ! 一気に、全部ぅ…!」

我慢しても苦しいのを解ってくれたのか、大きく嬌声を上げてくれる。
決して強くせず、優しく彼女の体を愛撫していくと、上気し僅かに焦点の定まらない目が、俺を見ているのが解る。

「は、はく、くぅ…」

呂律の回らない口を、俺の口でふさぐと、
びくんと、早耶さんの体が最初の絶頂を迎えた。

「あー…っ、っは、ぁ…、…」

…うーん、優しくしてと言われたものの、いきなり激しくしすぎてしまった気がする。
焦点の定まらない目をしている早耶さんを見ると、ちょっぴりとした罪悪感と、やっぱり襲ってくる劣情を同時に感じてしまう。

「かといってこのまま続けるわけにもいかないし…」

少しだけ考えて、体の粘度を消して水のような状態に変え、ゆっくりと身体を重ねる。
なるべく刺激しないように、お風呂に入らせるような感じで、彼女を身体ごと包み込み抱きしめる。
できれば自然に目が覚めて欲しいと思いながら、体内で体を揺すっていると、次第に目の焦点が合ってきた。

「あ、ん…、あれ、私…」
「…早耶さん、起きた?」
「そっか、…私、思いっきりイっちゃって…、…~~っ」

頭が現状を理解した瞬間、また早耶さんの顔は真っ赤になった。…やっぱり、やり過ぎちゃったかな?

「えぇと…、早耶さん、ごめん。…ちょっと激しくしちゃったみたい…」
「ほんとだよ、もう…。優しくしてって、言ったのに…。あんなに一度にされたら…」

言葉に詰まってしまうけれど、気持ち良かったのは確かだろう。未だ彼女の秘所から零れる愛液がそれを物語っている。
それを取り込む度に、俺の中に「彼女」が流れ込んでくる。それが堪らなく心地よく、どうしようもない程に「食欲」を満たしている。

「…ね、白竜くん。…今度は、私が、してあげたいな」
「良いの…?」
「…うん。ちょっと激しかったけど…、白竜くんがしてくれたし…、私もお返し、したいって思って…ね?」
「……」
「あ、でも…、さっきみたいに、全部を一気には、出来ないけど…、それでも良かったら…」
「ぜひお願いします!」

早耶さんを体内のプールから放して、「俺」本来の男の体に再構成する。
股座には…、まぁ何と言いますか、男としての欲望がもうギンギンに滾ってしまっている状態でして。
スライムである事は恥ずかしくないんだけど、これを見られるのはちょっと…、恥ずかしいなぁ。

「……これが、白竜くんの…、だよね?」
「う、うん…、元の俺の情報から再構成したから、俺の奴そのものだけど…、う、っ」

まじまじと見つめられ、つんと突かれる。こそばゆく、けれど気持ちいい感覚が肉棒を中心にこみあげてくる。

「…、触るね? 痛かったら言ってね」

彼女の手が俺の肉棒に触れる。生態も再現しているため、血流と熱がそこに集まっているため、おっかなびっくりという感じではあるが。

「確かえっちな小説では…、確かこう、して…」

何かを思い出しながら、早耶さんは握り、肉棒を擦り始める。

「ん…っ」
「…痛かったり、する?」
「うぅん…、続けて…」

先走りがまぶされ、次第に手の動きが滑らかになっていく。
今度は俺の方から水音がし出してくるが、くすぐったく、気持ちよく、同時に何処かもどかしい。

「…早耶さん、手はそのままで、こっちに来て」
「え? わ、ひゃ…っ」

握られたままだが、早耶さんの体を抱き寄せる。
身体同士がくっついて、互いの熱を感じ合える。胸同士がくっついて、吐息を感じ合える。
きっと俺の顔も赤くなっているのだろう。ちょっと見られたくなくて、彼女の肩に俺の顔を乗せる。

「あ…っ、もう…」

少しむくれた声と一緒に、手の動きが変わった。扱くだけじゃなくて、亀頭を中心的に、こりこりと撫でる様にして。
その瞬間、限界に近かった俺の肉棒が、歓喜の雄叫びを上げる。

「っあ…! 早耶さん、出る…!」
「ひゃ…っ」

掌に思いきり射精してしまった。自分の手でするより大きな虚脱感が背筋を駆け抜けて、少しだけ力が抜ける。

「…これ、精液…だよね?」

白い粘液を手に絡ませて、早耶さんは俺の股間に目を落とす。
触れ合った俺の体が、彼女の異変を察知してしまう。きっと子宮が、少し疼いている。

「ねぇ、早耶さん」
「うん…、白竜くん…」

何となく、言葉はいらなくて。唇を重ね合わせながら、俺は彼女を押し倒す。

「はむ、ん、ちゅ…っ」
「ん、む、ぅ…っ、ん、ふ…」

キスと同時に送り込む分体を前みたいに媚薬に変える事は容易いけれど、今はそれをしたくなかった。
ただ単純に、彼女と自然な営みをしたくって、可能な限り抑えている。

再び起き上がってきた俺の肉棒を、彼女の秘所に宛がう。それに気付いた彼女は一瞬だけ身体を強張らせるが、

「……、…良いよ、来て…」

気丈に作られた笑顔と共に放たれた言葉に、俺は腰を勢いよく突き込んだ。
ぐっと押し込み、処女膜も突き破って、股間同士が接触し合う。

「あ、は、…っ、んぅぅ…っ」
「これ、が…、早耶さんの膣…っ、あ、あぁ…っ」

幸せだった。ずっと想っていた相手の、秘密の奥。そこに辿り着けたこと。初めての証の血も、愛液も、肉棒から啜る。全部、俺のモノにする。

「動く、よ…?」
「うん…」



正常位で腰を動かし始める。
苦痛を感じさせないように、ゆっくりと。次第に慣れてきたら速さを増して。
ぱちゅ、ぱちゅと水音を響かせて、俺達は性行為を行っている。

「んっ、あ、は…、はぁ…!」
「早耶さん…っ、早耶さん…!」

下で俺に抱かれる彼女が、愛おしい。
突かれる度に震える胸がたまらなくて、背中を曲げてむしゃぶりついてしまう。

「ひゃ…っ、そこ、胸、んぁぁ!」
「はむ、むっ、んむ…、ぢゅる…っ」

腰を動かしながら、乳房を揉んで乳頭を吸う。人間として許される範囲の行為は、スライムとなった体ではとてももどかしく、けれど人間としての自然な営みに満ちていてとても気持ちいい。
そうしていると次第に、彼女の腰が浮かんできた。確か、迎え腰という状態だったっけ。

「ぷぁ…っ、早耶さん…、可愛いよ…」
「そん、なこと言わないで…、恥ずかし、ぃよぉ…」

顔を真っ赤にして隠している彼女は、やっぱり可愛い。性行為に慣れていない初心だというのもあるけれど、俺が彼女に惹かれているというのも、やっぱり大きいのだろう。
ぐい、と子宮口を押し込みながら、何度も優しく叩いていく。

「は、はぅ…っ、奥、こつ、こつって…っ、ん、うぅ…っ!」
「どう…? 気持ちいい、よね…?」
「うん…っ、うん…っ!」

一度彼女をイかせていたのもあるのだろう。奥を叩かれていると、締め付けを増し、彼女の体が絶頂を迎えようとしているのが解る。

「あっ、あっ! だ、ダメ…っ、私だけ、イっちゃ、あぁぁああっ!!」

背筋を逸らし、再び早耶さんは達した。物欲しがるように膣内が強く絞るように締め付けてきて、俺の方にも限界が訪れる。

「俺も…、イく…! っふうぅぅ…!」

腰を押しつけて精液を流し込む。もしかしたら、手でされていた時よりもずっと多い量が、そそがれたかもしれない。


【まだ続けるか否か】

>A:無論、今度はスライムセックスだ 3

>B:自分も早耶もバニーガールに扮してコスプレH 1

>C:実は桜花との行為で、自分同士に目覚めちゃいまして… 2

D:もう止めよう

「ぁ…っ、は、はぁ、っふぅ…」

絶頂し、力なく体を横たえる早耶さんの上から退いて肉棒を引き抜くと、開かれた秘所から精液がごぽりと零れ落ちてくる。
その精液の中に包まれているのは、先ほどの絶頂で排卵された早耶さんの卵子で、受精せず、捕喰せずに俺の元に運んできた。
両手で掬い、嚥下する。

「んっ、っく…、あはは…、美味い…っ、こんなにも濃密に、早耶さんがしみ込んでくる…!」

体が一層の歓喜に震え、股座がいきり立つ。二度、三度と精液を吐き出して、体を組み替えていく。
キスの唾液、肌に浮き出た玉のような汗、愛液、破瓜の血、それに卵子。
そのすべてに込められたDNAを模倣して、体だけを作り替える。
胸板は乳房に、割れてる腹筋はなだらかに、筋肉に包まれた四肢は細く柔らかく、引き締まった尻は扇情的に丸く。

「これが…、早耶さんの体…。一部一切間違ってない本当の…」

顔だけは俺の顔のままに、首から下を彼女のものに作り替えた。
背骨にぞくぞくと歓喜が走り、とろりと愛液が溢れ出る。

「ん、ぅ…、白竜くん…? え、あれ…? 女性の、体になってる!?」

意識を取り戻した早耶さんが、俺の方を一度見て、目をこすってまた見てくる。
だから間違いなどではないということを伝える為、両手を広げて見せつける。

「うん。これ、早耶さんの体だよ」
「えぇっ? …、スライムの体って、そんな事までできるんだね…。
…でも、どうして私の体になったの?」
「えーと…、早耶さんの体に色んな意味で興味があったからです、はい…」

少しだけ責められるような目で見られると、つい謝ってしまう。

「色んな意味、かぁ…。…嬉しいような、もやもやするような…、複雑な気分…。顔だけ白竜くんのままだと、何だかもっと…」
「あ、そうだね。顔も変えるね?」
「そうじゃなくって…、うぅんと…。あ、もう変わっちゃってる…」

早耶さんが言葉に詰まってると、もう顔の変化は終わっていた。
全身まるごと彼女の体になって、裸のままに向かい合う姿は、どこか今日のミラーハウスのように思える。

「…な、なんだか恥ずかしいね。お互い裸なのに…」
「あ、ちょ、ちょっと待って。今服になる物作るから」
「え、わっ、白竜くんが、また体にぃ…っ」

掌から分体が滲み出し、落ちては俺と早耶さんの体を包んでいく。
体を覆うエナメル地のレオタード、脚を包むタイツ、両腕をくるむカフスと、首元にはチョーカーとタイ。
最後に耳のアクセサリがついたカチューシャと、レオタードのお尻に丸い尻尾を1つ。

「うん、やっぱり似合う」



思った通りに、早耶さんのプロポーションとバニースーツは似合っている。
彼女の方は自分の服に慌てて、恥ずかしさから胸元とか隠しているけど…。正直、それ以上に視線が少しだけ痛い。

「……バスローブみたいなのでも良かったのに…。白竜くん、こういうのが好きなの…?」

はい、大好きです。

「男の人って、こんなのが好きなんだ…。…ふぅん…」
「え、あ、きっと全員が全員って訳じゃないから! 俺がバニーガールが好きなだけだから!
早耶さんに着てほしかったっていうか、可愛くなるって思ったから…、あぁもう何言ってんだ俺は!」

ちょっとだけ慌ててしまいながら、メイン意識で混乱しつつ弁明を探すと、俺の方を見ながら恥ずかしそうにはにかんだ。

「…良いよ。こういうの好きな人がいるって、知ってるもん。
白竜くんがそうなのは知らなかったけど…、これは『誰か』から得た情報じゃ、ないんだよね?」
「…うん、それは勿論。ウサギが好きなのも、バニーガールが好きなのも、全部『俺』だよ」
「そうなんだ。…白竜くんが好きなものを、1つ知れて、良かった」
「…そういえば、そういうの、あんまり話してなかったね」
「…できれば、色々教えてほしいな。…ちゃんと、白竜くんの顔でね」
「あはは…、…話す時はそうするね」

模倣して形成したものだけれど、同じ顔同士を近付かせ、キスをする。
互いに柔らかい唇同士が触れ合って、違いの無い舌同士を絡ませ合う。

「…同じ顔って、不思議な気分だね?」
「前にもやったけど、結構ハマっちゃってね。…好きな人と自分に違いが無くなって、融け合う感じが、相手を食べた時と似てるんだ」
「…もう。そんなアブノーマルな世界に、私も引き込むの…?」
「打ち明けなかったら、しなかったな。でも今は…」

この体になった俺の事を、今の俺ができる事を知ってもらいたい。その方法が例え、こんな変態のような事でも。

「…ねぇ、早耶さん。またしたいな」
「この状態で…?」
「うん。俺も早耶さんの姿のままで…、ダメかな?」
「…ダメって、訳じゃないけど…。……もう」

彼女の優しさにつけ込むような気がするけれど、渋々と許可をしてくれることに、少しだけ嬉しくなる。
先ほどとは変わり、今度は俺がベッドの上に横たわる。倒れ込んだ瞬間、俺の前面で“たぷんっ”とばかりに揺れる胸が、重さの分だけ心地よさを提供してくれる。

「えっと…さっき白竜くんがしてたみたいに、上になればいいのかな…?」
「うん…。今度は早耶さんにしてもらいたいんだ。…おいしいよ?」
「それ、私のおっぱいなんだけどなぁ…」

両手で胸を持ち上げ、強調してみる。レオタードの生地から少しだけずれて、乳輪が見えてしまうけれど気にしない。
おずおずと早耶さんは俺の上に覆いかぶさり、胸に手をかける。

「…なんだか、正面から自分の胸に触るって、変な気分…」
「ん、ふ…」

やんわりと触ってくる彼女の手は、勝手がわからずにたどたどしいけれど、それでもしっかりと触れてくる。
最初は生地の上からだけど、しばらくしたら胸の部分だけ生地を解かして、直接触ってもらう。

「…先っちょ、硬くなってる…。私のおっぱい、こんな風になるんだ…」
「あ、ひ…、ん、早耶さん、良いよ…」

人差し指の腹で撫でられる乳首は、“彼女の体の感じ方”を俺の体に教えてくれる。飯綱さんとも尾長さんとも違う、少しだけ鈍く、でも胸全体に広がっていく感じ。
誰よりも身近に早耶さんを感じられる。その嬉しさは、いつも以上に身体を敏感にしてくれて、秘所からは愛液が止めどなく零れていく。

「…ねぇ、おっぱい、吸ってほしいな…?」
「白竜くん、悪ふざけ、好きなんだね…。もう、しょうがないなぁ…」
「っぅあ!」

艶やかな唇が、差し出した乳首に吸い付く。それだけで脳内に電流が走ったような感触がして。

「ん、っふ…、ちゅ、ちゅぷ…、ぷぁ、あむ…」

自分の胸と、同じ形の胸を啄んでいる早耶さんを見ると、どんどんイケない気分になってくる。
あぁ、どうしよう。
手を伸ばして彼女の頭を、子供を慈しむようにそっと撫でる。

「そ、そう…、いいよ、「私」…。もっとおっぱい、吸って…?」
「んむ…、もぅ、はふひょうふんっふぁら…」

抑える力は入れてないのに、俺の胸に口をつけたまま喋ってくれることに、どんどんと愛おしさが高まる。
与えたい。彼女に俺が伝えられる形で、この溢れ出る愛おしさを教えてあげたい。
そう思った瞬間、身体は応えるように動いてくれた。

「んひゅっ!」

俺の股間から溢れた愛液が、重力に逆らい彼女の股間を撫でる。突然の衝撃に噛まれる乳首が、少し痛い。
けれどその程度では止まらない。
先ほどの余韻で、まだ濡れ続けている彼女の秘所を舐めるように撫で、レオタードの隙間から溢れる愛液を舐めとっていく。

「んひゃっ、ひゃ、ひょほはひゅる、んんっ!」

物体に近くなってきた俺の愛液は、邪魔物になったレオタードをずらし、早耶さんの秘所を外気にさらす。

くちゅ、ちゅぷ、にゅぅ…っ

「んっ、んむぅぅぅ…!」

彼女の膣に再び、触手状に形作られた俺の肉棒が入り込む。挿入の快感に身をよじる彼女の四肢を、俺の体の一部を融かしてホールドする。
逃げる場所の無くなった早耶さんは、せめて俺の方に反撃をしようとばかりに、咥えた乳頭に刺激を与えてくる。
ちょっと優しく噛んだり、舌で撫でてみたりと、弱めの刺激を繰り返していくと…、

「あは…っ、「私」に、そんなにされたら…、出るぅ…!」
「んむ…っ!」

豊かな乳房の中で作られた母乳が、乳房への快楽と言う切っ掛けを得て、彼女の口内に溢れだす。
本来の早耶さんでは出る筈のないものだけれど、これが「俺」の体なら、問題はない。
慌てたのか、早耶さんは俺の胸から口を放してしまった。

「えっ、こ、これ…、母乳…? 白竜くん…、じゃなくて、私、でいいのかな、おっぱいから、おちちが…」

さらさらした母乳を少し顔に浴びて、呆けたような顔で早耶さんは俺の胸を凝視している。
その様子に微笑んで、俺は肩を寄せてもう一度胸を強調させる。

「ねぇ…、「私」の母乳、飲んでほしいな…。こんなに出てくるんだもん、無駄にできないよ…」
「あ、あ…、は、ぁ…っ」

鼻先に香る母乳の甘い匂い。下半身から突き抜けているだろう、挿入の快感。両方に、彼女の頭が蕩かされていくのが解る。

「あ、ぁ…、おっぱい…、「私」のおちち…、ん、む…!」

少し虚ろな目で、また早耶さんは俺の胸に吸い付く。
けれど今度は「むしゃぶりつく」と言わんばかりに、強く口をつけて吸い上げてきた。

「んむ…っ、んく、っちゅる…! んむぅ、んうぅっ!」
「あは…、そんなにがっつかないで。たっぷりあるから、いっぱい飲んでね?」

寄せた二つの乳頭を両方口に含ませ、吹き出る母乳を吸わせていく。
胃の中に溜まった母乳は、その性質のまま意思を持って彼女の腸内を突き進む。

「っふぁ、おいひ、「私」のおちち、おいひぃ…! んあぁ! なかも、こんこんされて…っ、っひぃん!」
「あ、はぁ…っ、俺が「私」の中に入って…、中から「私」を感じるよ…!」

別の分体もスライム状にして、全身で「私」の体を愛撫していく。体を包み込み、逃げ場など無くして。
けれど逃げる必要性なんてどこにもない。ただ「俺」と「私」の境界線を限りなく無くして、俺は私を、私は俺を高めていくのだ。

腸内から吸収された分体は内側から、皮膚に触れる分体は外側から。
膣内に入り込んだ愛液の肉棒は私の女性に奥まで触れて、子供のゆりかごまで遍く愛している。

「「あぁ…っ、も、んっ、んぅぅぅぅ~~~…っ!!!」」

繋ぎ合った神経よ、混ざり合う意識の中で、俺と私は、同時に絶頂を迎えた。

* * *

「…っ、あ、は、っぁ~~~…っ」

飛んだメインの意識をようやく起こして、身体も起こす。
早耶さんは大分強くイったみたいで、昼間の疲労もあったのか深く寝息を立てている。

「…やっぱり、やり過ぎちゃったかな」

最初の性行為がこんなんじゃ、もう普通のだと満足できなくなるんじゃないかと思いながら、分体を吸収し、脱がした服を着せ、同時に汗を食べたり体の掃除をしたりする。
もう早耶さんの遺伝子は記憶したとはいえ、汗も垢も俺にとっては甘露の如くに思える。

すっかり行為前の姿に戻った彼女を抱え、公園から撤退する。寝ている早耶さんを抱えて、彼女の家に連れていった。
鍵の閉まった扉を開けて、こっそりベッドの上に寝かせる。…ここで服を漁るのも悪いので、申し訳ないけど私服のままだ。

「お疲れ様、早耶さん。…また、明日ね?」

唇に一度だけ軽いキスをして、鍵を閉め直した扉の隙間から外に出る。
夜はすっかり暗くて、もう深夜3時だ。

「早く帰らないとな…」

明日は学校だし、早耶さんとの行為を思い出したい。できることなら…。

「…っ」

俺の欲望を察した体は、首から下だけ早耶さんの体になっていた。

「…そうだな。どうせだしこのまま、しばらく…」

知識だけじゃなく、感覚の上で詳しく知りたくなって。
陽が昇るまで、早耶さんの姿でオナニーに明け暮れよう。



* * *


Choice4 後日談

「俺の選択、私の“これから”」

Side:――

「ねぇ――?」
「…どうした、早耶?」
「…私、今回の事で――がちょっと嫌いになったかも」
「…、そっか」

デートの翌日、早耶と二人きりで逢えないかと言われ、昔馴染みの店に呼ばれた。
10年以上続いている、個人経営の喫茶店。親に連れられて入って、砂糖やミルクで薄めないコーヒーに、苦い顔をした思い出がある場所。
よく入り浸っていて、仕入れでマスターが店にいない時にも特別に入れてもらったこともある。
そんな場所で、マスターに個室を用意してもらって、まるで付き合っている二人が別れるような話をし始める。

「驚かないんだね? 私、言われたら結構ショックな事言ってるつもりなんだけど…」
「十分驚いてるよ。それを大っぴらに出すような年齢じゃなくなっただけさ」
「男の矜持って事?」
「かもね」

じっと見てくる早耶の視線から、自分の視線を逸らし、コーヒーに口をつける。

「…お互いに、大人になっちゃったんだよね」
「だな。いつまでも子供のままじゃいられなかった…って事だろうな」

コーヒーはミルクが入ってない。地獄のように黒い飲み物を、多少の砂糖を溶かして喉に通す。

「でも、さ。大人になったからって、本音で語り合っちゃいけないって事は、無いよね」
「確かに無い…、な。邪魔されずに、2人だけで話すって事は…、それか?」
「うん。本当はね、昨日雪姫さんに言われて考えたの。…――が結婚してからは、ちゃんと話し合ってなかったなって」
「…だな。俺もそうだよ」

正直な事を言うと、俺は後ろめたい事を多く抱えすぎているような気もする。
何も言えず婿に行った事、その背景が重すぎる事、あの場であにもできなかった事、襲い掛かってきた旧日本軍の一部を…、殺した事。
けれど決して、誰にも荷物を渡すことも、重いんだというアピールをすることも、してはいけないのだと考えていた。いや、今でもそうだと考えている。
信を置いた仲でさえ、話し合う事もしてはいけないのだと。

「でもね、昨日白竜くんから聞いたよ。――の家が鬼の血筋だった、って事」
「ッ!?」

心臓が一つ、強く鳴った。早耶に嫌いになったと言われた時より、大きく心が揺らぐ。

「白竜くんが話したのか!? 本当に!?」
「うん…、多分、白竜くんが知ってる限りの事を、全部ね」
「あんで…っ、あんにゃろう…!」
「待って――!!」

動揺と怒りとが混じり合って、勢いのままに立ち上がろうとすると、――がその場で止めてきた。
ずいぶん久しぶりに聞いた早耶の荒げた声は、俺にとって冷や水のようで、頭が僅かに落ち着く。

「…私が聞いたの。白竜くんに、何か隠してないかって」
「それで…、彼は全部話したのか」
「うん、そう。…おかしいよね、話さなくても良いようなことまで、全部話しちゃって…、本当に、ショックだったよ…」
「……、そ、か」
「ねぇ、――?」

俯いていた所に声をかけられ、顔を上げた瞬間、

バシャッ、と、水を顔にかけられた。

「ぶっ、っく、あにすんだ早y「――の馬鹿ッ!!」…」

突然の事で驚くけれど、それを押さえつけるように早耶が叫ぶ。

「ずっと1人で抱え込んで、誰にも何にも言わないで、それでどうにかなるって考えてるの!?
なる訳ないよ、そんな重い事! ならないよ!」

あぁ、今日は本当に珍しい。

「確かに私も信じられなかった…、人間じゃないって、言われても最初は解らなかったよ…。
でも、どうして他の人を信じようとしなかったの? 頼って、話そうとしなかったの…?」

こんなにも怒った早耶を見るのは、本当に久しぶりで。

「そんなに、私は頼りなかったの…? どうして何も言ってくれなかったのよぉ…」



眦から粒のような涙をこぼして、すすり泣いている。
俺に掛けられた氷水が髪の毛から滴り、服も体も濡らす。もしかしたらこれは、今まで吐き出す事の出来なかった早耶の涙なんじゃないか。
我が事ながら、本当に勝手な考えだ。けれどそう思うと、泣いている早耶の顔を見ると、俺も隠し続けるわけにはいかないと考えてしまい、閉じていた口と本音を開き始める。

「……頼りとか、そういう事じゃなかったんだ。言える訳ないと思ってしまったんだ…」
「……」
「正直な事を言えば、本家での婿を決める勝負なんて勝つつもりも無かったし、話自体が唐突過ぎたから実感も無かった。
けど、あの時の襲撃で、浮ついた夢みたいな出来事すべてが実感を伴ってしまったんだ」

思い出すのは、あの時の光景。
どことなく感じた「いつもと違う」状態から、あまりにも非現実的な世界に放り込まれた、局所的だけれど「戦場」の光景。

「目の前で家の人が殺されて、目の前で同じ婿候補の人達が傷つけられた。
襲ってきたアイツ等の目には歴然とした殺意と目的意識が光ってて、途中で止めるつもりは無いと告げていた。
俺みたいな人間一人の力じゃ奴らを止められなかった、正直なことを言えば恐かった。俺も死ぬのかと思ったよ。

…けどな」
「…けど?」

雪姫さんの父親が死んだ。家の手伝いに来ていた妖怪も死んだ。
銃砲火器が唸りを上げて、大剛さんが腕と足を失った。
人外の力を得た兵士が心の底まで凍えるように唸り、謙一さんが恐怖に慄いた。
眼前で繰り広げられる「異常」に惹かれ、雅喜は連中の元へ降った。
大人の所業と殺意に宛てられて、虎次は泣き喚いた。

何も出来なかった。俺一人無事で、周りだけが傷ついて。だからこそ。

「心のどこかで、あのままで、あにもしないままで良いのかと考えた。…だからあの時、差し出された力を取る事を選んだんだ」
「それが例え、どんなに傷付くことになっても…?」
「あぁ。…きっと、心のどこかにヒーロー願望があった事も否定しないさ」

調子の良い事を言ってるのは自覚している。けれど、それが俺の選択だ。

「…もう、逃げられないんだよ?」
「承知の上さ。その上で刃を握ったんだ」
「…もう、それを置くことはできないの?」
「きっとな。出来るのなら、今こうしてる筈もないさ」

義憤でも、憎悪でも、俺の手は他人を傷つけている。だからこそ、もう握った刃を置くことはできない。
誰にすればいいのかもわからない償いだが、それを行う事も無く終わらせることなんて、きっとできないのだから。

「……そう、なんだ…」
「この内容は家族にさえ伝えてない。俺が選ばれて、婿に行った。それだけで良いんだ。
本当の事を言えば必ず、この血腥い世界に触れさせてしまうからな」
「…だから、私にも言えなかったんだね。その世界に近付けさせたくないから…」
「あぁ。この世界に触れた事で傷付かれるのは、嫌だったからな」

果たしてこれを、何の考えも無く周囲に吹聴できる人間がどれだけいるだろうか。
肩を落とし、静かになった早耶を見ながら、ポケットからハンカチを取り出して水を拭く。

「…ねぇ、――?」

水をかけられる前と全く同じ言葉を、先ほどとは全く違う感覚で口にされる。

「私、――の事、好きだったよ?」
「…、そっか」

だった、か。

「…あんまりショックうけてないみたい」
「そりゃ俺は俺なりに心の整理を付けてたから…、なぁ」
「…白竜くんにも、抱かれちゃったよ?」
「ちょっと待て早耶、いきなり生臭くなってないか?」
「だって――が戻ってこないし…、別れた後はもう関係無い事でしょ?」
「確かにそうだが…、そういう話題はせめてワンクッション置いてほしかったなぁ」

白竜くんが早耶を抱いたって事は、つまり、そういう事だ。
どことなく納得いかない所もあるが…、そうなる事も含めて了承し、俺は早耶の隣から去ったのだから。

「そうだね。…でもね、それでも私は、まだ――の事が好きかもしれない」
「それはLIKEか? それともLOVEか?」
「…LOVEが残ってるLIKE、かな。LOVEは…、これから白竜くんとゆっくり育てていくよ」
「……そっか」

残ったコーヒーを呷る。
俺への思慕があるのなら、今の段階で少しだけ冷めているのだろう。そしてこれから、少しずつ白竜くんが埋めてくれるだろう。
そうしてこの想いを過去のものとして飲み下せるのなら、その時こそ、俺達の関係にぎくしゃくした物が残らなくなるだろう。

「ねぇ」
「どうした?」
「私が少しだけ勇気を持ってたら、この関係は、ちょっとは変わってたかな?」
「多分な。きっと今の状態にだけはなっていなかっただろうさ」

果たして俺達が付き合う事になっていて、その上で雪姫さんが婿を求めていたら。きっとあの4人の誰かが婿入りしていたのだろう。
その可能性は、並行世界という物があるのなら、そちらに任せるとしよう。
考えても、それはきっと取り留めも無くて終わりの見えない物だと思うから。

「それじゃ、後は…、今――と契約してる神様の事とか、色々教えてほしいな」
「あんでまた?」
「白竜くんとの話だけじゃ、ちょっと要領を得なくって…。それにもう、隠してる理由も無いでしょう?」
「…そうだな、…確かに、な」

気が抜けたような、苦笑のような笑みを浮かべながら、半ば勝手に抱えていた心の荷物を降ろす。
けれど今度は、この世界の事を知った早耶も守らなければいけない。きっと白竜くんでは届かない部分もあるだろうから、そこをフォローするつもりでいこう。

「一応契約してるのは六柱もいてな、八幡様とかお稲荷様とかみたいな強い神じゃないんだけどさ、みんな有難い神様だよ」

この世界に入ってくるのならば、無理に圧し留めるのではなくその人の判断に任せていく。
早耶に契約神たちの事を話しながら、ほんの少しだけ軽くなった心に、今はまだ気づいていなかった。
タグ付けって悩みませんか?

えー…、これでようやくChoice4が終わりました。
修正部分でどうやれば良いのか悩みながら番外編に逃げ、別作品のSeason2を書き始め…、今月中って何だよ。
長かったです。本当に。2年以上かかってました。これでようやく本編が…。でも竜巻の話が…。
すみません、先は長いです。

画像を追加しました。
罰印
0.2040簡易評価
3.100きよひこ
このシリーズは好きなので、後日談も含めてUPされたものを読めてうれしいです。GJです。
5.100きよひこ
大好きな女性に変身して、本人と愛し合うシーンが実にエロくて羨ましい限り。
あと白竜が盗撮犯だとはいえ人間を喰わなくてよかった。