どうしよう、ここ男子更衣室なのに・・・
事の始まりは数日前、学校の給水塔に何者かの手によって混入されていたTS薬。
そこから供給される学校の水道、食堂の食事、給水器に至るまでTS薬によって汚染されてしまった。
TS薬の効能は男性を女性に変える効果を持つ。
そのため女子には全く効果がなく何ら問題なかったが、男子はほぼ全員女になってしまった。
共学の学校、男女比は同数だったのにわずか数日で女子ばかりになってしまった。
俺はその前後、インフルエンザで休んでいたから影響はなかった。つまり、男のままで、女にはならずに済んだ。
だが、そうなると今後の学校生活に大きな問題が出てくる。
共学の学校、いくらなんでも急激に増えた女子に対応できるほど女子用の設備はない。工事しようにも期間はかかるだろう。
ましてや本物の女子達はトイレや更衣室を使用されるのを断固として拒否。
「冗談じゃないわよ男と一緒なんて」
「あんたたち元の男子用使いなさいよ」
という具合。
ある意味当然だろう。見た目は確かに女子だけど、中身は男のまま。つい数日前まで男だったのだから。
ではどうするか。この光景にいきつく。
「お前結構でかいんだな。メロンかよそれ」
「いや、俺もでかいのは好きだけどやっぱここまでくると肩こるな」
「けどよ、夜のおかずには困らねえな」
「そうそう、昨日なんてつい鏡の前でいろいろやってたらすっかり遅くなっちまって」
刺激の強すぎる会話が男子更衣室に行きかっている。
水泳授業後、男子更衣室で元男子の女子が恥じらいもなく肌をあらわにする。それが広がっている光景。
女になった元男子達は、全員胸が大きく恐ろしいほどにスタイルがいい。
へたなグラビアモデルもしっぽを巻いて逃げるぐらいに。
あちらこちらで胸が、巨乳が、動くたびにぷるんぷるん揺れてる。
遠慮なく全裸になって体を拭き、着替えをする一同。もう一度言う、全裸だ。
お尻が堪能できる、だけじゃない。あっちの方もちらっと見えてしまう。
そんな女体だらけの空間にいる男一人、俺。
ハーレム展開なんて誰もが夢見るだろうか。しかし、現実に直面すると歓喜してなどいられない。
正直目のやり場に困る。気持ちが落ち着かない。
なんとかして下半身をなだめる。落ち着くのだ、相手は男だぞ。
先ほどから展開されるエロトークも耳に入れないように、無心になって、隅っこで着替えを続ける。
そしてとっととここから脱出するのみ。
「清彦くぅ~ん。そういえばお前だけ男のままだっけぇ」
しかしこんな状況をあいつらが放っておくわけがなかった。
巨乳が迫る。そして俺に密着してセクハラ攻撃を開始する。
「そんな隅っこで着替えてなくてもいいだろぉ」
「そうそう、別に見たっていいんだぜぇ」
わかってて仕掛けてきやがる、こいつら。
柔らかいものが背中に当たる感触。それが何かはあえて言わない。できる限り考えない。
最上級の時かもしれないが、これはウツボカズラに落とすための誘惑的な甘い誘いだ。
そうだ、甘い誘いなのだ。これにのってしまったら、俺はこの後どうなることか。
とにかく急ぐのみ。そしてここから逃げ去ればいいのだ。
よし、着替え終わった。ここから脱出……
「あんっ、えっちぃ」
できなかった。周囲をすでに包囲されていた。
振り返った俺が衝突したのは、おっぱい!?
「ちょっとぉ、清彦ぉ、そんなにおっぱい揉まないでぇ」
何がだ! 人の手をつかんで自分から触らせてるじゃないかっ!!
「やんっ、清彦ものずきぃ」
お前らボディプレスしかけてんじゃねえっ。とっととどけぇぇぇっっ!!
1.
女子化した男子もちゃんと制服は改められ、スカート着用ということになった。
基本は女子のデザインと変わらないがリボンやスカートの色が若干異なっている。
こうして一応見分けがつくようになっているようだ。
そして俺以外が全員女子になってしまったこの教室、ものすごく居心地が悪くなった。
女子の中に男子一人、というのもあるけど、それよりなにより。
「何なの男子たち、調子乗ってない?」
「ちょっと可愛くなったからって、うちらバカにしてない?」
「くっ、何あのでかい胸。肩こってろ」
こんな具合で女子のひがみが半端じゃない。
本物の女子たちにしてみれば何の努力もなく可愛く、胸が大きく、スタイルがよくなった男子たちが羨ましいのか。
ちらり、と女子を見やる。うん、その差は歴然だ。
「ちょっと清彦、あんた私らのことバカにしたでしょ」
「どーせあいつらのほうがいいとか思ってない?」
「男同士で仲良く付き合ってなさいよ」
そして後にはこんな感じで絡んでくる。
女って本当にめんどくさい。
2.
たとえ男子が女子になってもトイレや更衣室は分けられたままだった。
その理由は設備自体が追い付かない、急増した女子に対応した数がない、ということもあるが、それよりも大きな要素がある。
本物の女子たちが頑なに拒否しているからだ。
実際には別に一緒でもいいという人もいるのだが、保守派(?)によって弾圧されているとか。
女子って怖い。
どっちにしても設備数から男子トイレをそのまま使わざるを得ない。早々すぐに改装できるわけではない。
そんなわけで今日も男子トイレは行列です。
「まだかよぉ」
「早くしろよぉ」
元々個室の少ない男子トイレ、そこに今まで通りの数でしかも男子の時よりも時間がかかるから行列は必然。
休憩時間になるとこの通り、トイレはすぐに渋滞です。
そんな行列を尻目に男子小便器で用を足す俺。
「くそっ、いいよなぁ清彦は。そっち使えて」
なんとも元男子たちの視線が痛い。
そんなこといわれてもどうにもならない。そっちも好きで女になったわけではないことぐらいわかっているが、こっちだって嫌味でやっているわけではない。
こっちを使うのが普通。それが何の苦労もなく、と映ってしまっているとしたら実にむなしい。
しかし、この状況は確かに問題。いつまでも渋滞となっていると緊急時は大変だし、な。
どうにかしないといけないことに変わりないな。
「ああもう我慢できねえっ、そっちでするっ!」
限界を超えたか、一人が男子小便器に近づき、ショーツをおろしてスカートたくし上げスタンバイ。
「って、うぉいぃっ!?」
こうしてそ男性用小便器で用を足し始めた。いきなりの出来事だった。
「お、俺もっ」
「そうしたほうがいいな確かに」
次々に同じように小便器の方に向かう。
一斉に並び、その前でショーツ下してスカートたくし上げて足広げて。
「あーっ、危なかったぁ」
「案外できるもんだな、女でも立ちションって」
男性用小便器の前に並ぶ女子。用を足すためにおもいっきりスカートたくし上げてるからおしりが並んで……
実に見事なお尻だ、極上の尻が並ぶ、桃尻、うん実に素晴らしい。すごい光景だ。
しかし一方で別の疑問がわく。
「ところでそれ、終わったらどう拭くつもりなの?」
「「「……………………」」」
結果、一番奥の個室は拭くための場所にされました。
つまり、この光景は現在進行形。早く設備改善されないかな。
3.
「あちいなー」
今日は季節外れの暑い日だった。
クーラーはあるものの一斉管理のせいで今の時期はまだスイッチが入らない。
したがってそれぞれ下敷きやらなんやらを使ってこの暑さを乗り切らなきゃならない。
「こういう時スカートってありがたいよなー」
「ああ、風通しいいから助かるよー」
元男子たちがここでスカートの恩恵を受けている。
ばっさばっさとあおいで涼を生み出している。なるほど便利なようだ。
しかしはた目にははしたない。中のパンツが見えちゃってますよ。
ブラウスも第3ボタンまで外しちゃって、ブラが見えてるし。
一方の本物の女子はというと。
「あっちーわ」
「さっさとクーラーつけろよなー」
やっぱしスカートばさばさしたり胸元あおいで涼を求めてる。あんま変わらなかった。
そういえば聞いたことがある。女子校に通う女生徒は清楚なイメージがあるけど実態は異なる。
男子という緊張感を生み出す存在がいないから、日常生活に警戒心がなくなり、だらしなくなるという。
女同士だからいいや、という発想。
一方、共学の女生徒は男子に見られてる、男子に好かれたいという緊張感から一定のレベルに身づくろいに気を付ける。
そして見た目には小奇麗に、可愛らしいふるまいになるとか。
だから印象は女子校の女子よりも共学の女子の方がいいという話だ。女子校は気を付けなければな。
「(はっっ! しまった油断した)見てんじゃねーよ清彦っ」
「お前は男子の方見てろ、スケベ」
どうして毎回毎回いわれのない非難を受けなきゃいけないんだ。
自分自身の油断何だか、ちゃんと自分で何とかしてほしいものだよ。
「そういや、胸でかいと乳下の裏とかあせもができやすいから気を付けないといけないらしいぞ」
何気ない元男子の一言がさらに女子の怒りの炎に油を注いでくれた。
4.
「うへへ~」
正彦の何とも締まりのない表情だった。
思い出しなんとかだろうが、やはり気になった一人が訊ねてみる。
「なんだよ正彦、何かあったのか?」
「いやね、昨日夏葉ちゃんがね」
夏葉っていうのは正彦の彼女だ。
隣のクラスの女子で、総評はごく普通の女子で特段可愛いというわけではないが、大人しい性格のいい子だ。。
まあ、気が合ったから好きなんだろう、付き合っているのだろう。
「俺が女になってもいい、お付き合い続けましょうって言ってくれてね」
それはなかなかの展開だ。
この学校の元男子たちの中で女子と付き合っている男子のほとんどは分かれたという話を聞いている。
そりゃそうだろう。男子は良くても女子は同性と付き合う気持ちにはなれないのが普通。
そんな中で付き合い続けましょうという夏葉って女子、ただものではない。
「それで、ついに初エッチしちゃったんだぁ」
ただものではないどころじゃない。大物だった!
「ま、マジで!?」
「おいおい、夏葉ちゃんってレズっ気あったのか?」
当然のように男子たちは食いついてくる。エッチとかレズとか、あっち系の話は好物だ容赦なく食いつく。
エロマンガでしか見たことないような展開が目の前で起きたというのだからそりゃあ絶好の好物になるだろう。
「可愛かったなぁ、夏葉ちゃんって着やせするタイプみたい。それでも胸は俺のほうが大きかったけど」
「ほ、ほう」
「俺のおっぱいが気に入っちゃって、ずっとちゅっちゅっ吸ってて、赤ちゃんみたいで」
妄想が膨らむ元男子達。一糸まとわぬ正彦と夏葉ちゃんの姿を妄想中。
二人が抱き合い、愛撫しあい、彼女がおっぱいに夢中になっている様子を想像して。
しんぼうたまらん。
「だけど……彼女の中に入ることができないって、ひとつになれないってさみしいね」
一気にトーンダウンした。
言いようのないむなしさを共有する元男子達であった。
5.
「にへへ~」
常彦の何ともだらしのない表情だった。
思い出しなんとかだろうが、どうしても気になった一人が訊ねてみる。
「常彦、何かあったのか?」
「実はな、彼氏ができちゃったんだ」
ざわっ
衝撃の発言、女になったとはいえ中身が男でありながら男ができただと?
「お、おいどういうことだ」
「い、いいのかお前。男と付き合うなんて」
「どこの誰よ、いったい誰と」
当然のように食いつくクラスメイト達。この展開に本物の女子達も興味津々。
「いやね、幼なじみの瑞樹ちゃんっていうんだけど、男の娘なんだよね」
幼なじみ、男の娘、何というカレシ。
「前々から妹みたいに可愛がっていたけど、俺が女になってあっちが男じゃん? 急に気になり始めて」
「それで、付き合うと?」
「うんうん、見た目は女の子同士だけど体はちゃんと男女じゃん? だから問題ないし」
それでいいのだろうか。
「こないだ早速デートしちゃって、その時はペアルックだったんだよペアルック」
「ペアルック……」
「上から下までぜーんぶ。キャミソールにミニスカまでさ。彼氏が男の娘だとそういうことできるんだよねぇ」
ペアルックってそういうものだっけ?
「それでちょっと休憩しよってホテルにゴーですよ連れ込んじゃいましたよ」
いきなり展開キター――(゚∀゚)――!!
ホテルかよホテルに行っちゃったのかよ見た目女どうしになっちゃってるのに!!
「ベッドに押し倒して、瑞樹ちゃんにまたがって、女の子犯してる気分だったなぁ」
合体経験完了、だと?
「あの時の瑞樹ちゃんの顔、可愛かったなぁ。『はじめてだから、優しくして』って、うっはーー!!」
その時の様子を思い出してかテンションがさらに上がる常彦。
こいつの頭の中は今、春どころじゃない。通り過ぎて花やら無視やらチョウチョやら飛び回っているだろう。
「ま、まあ、しあわせにな」
男子も女子も、それ以上聞くに聞けぬ気配を察してしまった。
6.
「くっくっくっ……」
出だしからどうして成之が悪徳笑いになっているのか、よくわからん。今までの流れを考えてくれるのはいいのだが、他にないのか。
「で、成之は何を言いたいんだ?」
「ふっ、よく聞いてくれた」
いやむしろ聞いてくれって顔に書いてあっただろ。
「宣言してくれるっ、俺は忠弘と付き合うことになった!」
どよっ
またしても交際宣言か。そして相手は忠弘、隣のクラスにいる今回の難を逃れ、女にならずに済んだ正真正銘の男。
俺の知っている限りでは忠弘は成之とは幼馴染。見た目は特段モテそうというわけでもない、平凡なごくごく普通の男子だったような。
それにしてもここ最近交際宣言が続くな。
交際するにしてもだんだんステップアップしていっているような。
今回の場合は見た目は普通の男女交際だが、中身は男同士だ。忠弘という人物を詳しくは知らないが、こいつと交際を始めるとは、一体どういうつもりだろう。
「で、どうして付き合うことになったんだ?」
「忠弘の方から告白したのかよ。前から好きでした、とか」
それはつまり男の時から意識していた、ホモォということではないか。
「なあに、女子に対する当てつけよ」
不敵な笑みを浮かべ、ちらりと女子のほうを見やる。
そっちのほうにいたのは話をそれとなく聞いていた女子の一人、春香さんだ。
春香さんはその視線に気がついたのか、わずかに視線をそらした。
「忠弘はそりゃあ見た目は平凡で特にイケメンってわけじゃないけどな、それでも昔から知っている俺なら言えるが、すっげえいいやつなんだよ。
それでちょっと気が弱くて、引っ込み思案なところあって、女子と話するなんて緊張して簡単にはできねえぐらい奥手なんだよ。
そいつが、ついに好きな女子ができたっていうんだから兄貴分な俺にとっちゃ実にうれしい事だったよ。
でも簡単にはいかねえ。今まで女子とまともに話したことなんてないあいつがそう簡単にその相手に告白なんてできやしねえ。
どう告白すればいいのかもよくわからないぐらいでな、そのぐらいウブな奴なんだよ。
だから俺がしっかりとトレーニングしてやった。どう告白するか、どんな言葉使うか、俺がしっかりと教えてやったのさ。
そしていざ告白ってなったんだ。あいつが決意してその女子を放課後校舎裏に呼び出して、俺は物陰で静かに様子うかがっていて。
そしたら、盛大に断られた。
ただ単に『ごめんなさい』じゃねえんだよ。『なんであんたなんか、冗談じゃない』とか『ふざけないで、近づかないで』とか、ひっでぇ言葉ぶつけたもんだよ。
引っ込み思案なあいつが勇気振り絞って告白した結果がこれだぜ。もうマジで落ち込んでさ」
男子からは「それはひでぇ」とか「最低だなそいつ」と同情の声が上がる。
一方女子は微妙な反応。告白の回答に同情の声はあまり上がらず、どちらかというと「まあ忠弘じゃなぁ」とか「あいつなら無理ないじゃん」とか、きついお言葉。
当然男子達にもそれは耳に入り、軽蔑の視線を送り始める。なんか、男女間で微妙な空気になってきたぞ。
それと先ほどから春香さんへそれとなく視線を送っている成之、それに気がつき居心地悪そうにする春香さん。
なるほど、その告白の相手って、そういうことですか。
「で、お前が代わりに付き合うと?」
「おうよ、そういうことだ」
得意げに胸を張る成之。大きさが強調されるな。
「その告白の数日後に女になっちまったからな。落ち込んでいるあいつを慰められるのは俺しかいねえ。
それでもって告白断ったやつにはあいつが最高の男だってこと見せびらかしてたっぷり公開させてやるんだよっ!」
高らかにクラスメイトたちに宣言する。
その成り行きで付き合うってのはなかなか大したものだな。いくら幼馴染の心傷を回復するためとはいえ、付き合うとは。
まさかとは思うけど、こいつこそ男の時から忠弘が好きだったとかいうんじゃないだろうな。
ホモォの世界。あまり考えないでおこう。
「ち、違うわよそんなんじゃないわよっ!!」
と、ここで耐え切れなくなったか春香さんが声を上げた。
「あん? 何が違うんだよお前忠弘にあんだけ言っておいて」
そして反応する成之。やはり告白の相手は春香さんだったか。
「私だって、私だって……忠弘君のことが好きなのよおぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!」
………………………………………………はい?
「あ、あの時は女子の間では忠弘君すごく悪く言われてて、その時も呼び出されて会いに行く直前に呼び出されたってバレちゃって。
それで『あのキモイやつ付き合うわけないよね』って念押されて、おまけに上の階からしっかりその様子見られてて。
だから告白されたときうれしかったんだけど、でも恥ずかしかったから、怖かったから、だから、つい……」
なんてこったい。これはまるで違うではないか。そして女子一同、これはどういうことだ。
男子一同は軽蔑の視線を女子たちに向ける。それに気がついたのか
「あんだよ、何が悪いんだよ」
「キモイのはマジじゃんあのオタク」
と開き直りともとれる反論。なにこれ、うちの女子ってこんなに腐ってたの?
それにしてもどうすればいいのか。春香さんは半泣きになってるし、成之はてどう処理すればいいのかわからず状態で。
両者の微妙な沈黙。一方他の外野の男子女子はにらみ合い状態。いやな空気が漂ってい。
なんとも空気が悪すぎる。しかしそれを変えたのは意外な人物だった。
「あれ、誰か僕の事呼んだ?」
何となく自分の名前が出たような気がして、ふらりとやってきたのは問題の忠弘だった。
そしてこのクラスの状況、なんとなく空気が悪いのは察知したようだが何が起こったのかはさっぱりわかっていない。
それがまさか自分が関係しているとは思いもよらないだろう。
「と、とにかくそっちは一回断ってんだからなっ! こいつは俺と付き合うんだからなっ!!」
そして一気に成之が距離を詰め、忠弘の腕に抱きつく。あ、あれ胸当たってるね。
「え! 付き合うって何!? ちょっと成之どーなってんの!!」
おいっ! 本人理解してねえじゃん。付き合うって成之が勝手に言い出したことなのか!?
「わ、私だってあきらめませんっ! こないだのはちゃんと謝りますからっ! 偽乳偽女には絶対負けませんからっ!!」
そして対抗するように春香さんももう一方の腕に抱きつく。うん、こっちはボリューム少な目だから当たってるかわからない。
「え! こないだの事って告白のやつ!? いや別に成之やほかのみんなに見られていたみたいだから別にしようがないだろうし!!」
気がついてたんかい見られてること! それ状況理解して水に流しちゃうつもりだったのか大人だな忠弘!!
「俺のほうが幼なじみでこいつとの付き合い長いんだ。お前に勝ち要素はねえぞ」
「時間なんてこれから作ればいいんですっ。そんなの負けになってませんっ!」
何かよくわからんが恋のバトルが始まってんぞ。
おまけに別の所では男女でバトル続いてるし。
どーすりゃいい、この状況どー処理すればいい。ネット知恵袋に投稿すればだれか答えてくれるかな?
7.
本日は水泳授業です。
「きついなこの水着。一番でかいサイズのはずなのに」
「お前胸でかいからな、何カップだ? それバレーボールかよ」
「めんどくせーよな競泳水着って。トイレ行くにも全部脱がなきゃいけないなんて」
「その面倒くささがいいって時もあるけどな」
大きな胸が水着に収まらない様子。学校指定の水着はある程度サイズが規格化されている。
そのせいで標準体型ならともかく、文字通り規格外のサイズともなれば合うものはなかなかない。
胸を収めるのにも一苦労。実にエロい。
こちら男子更衣室。本来ならあり得ない光景、女子たちが着替えている光景があった。
当然それら女子は元男子達。更衣室も女子と元男子とで分けられている。
なのだが……俺はどうしてそこで一緒に着替えねばならないのか。
別にしてくれね? 一人ぐらい別に更衣室用意してくれたっていいんじゃね?
隅っこで小さくなりながら女子たちの中で着替えるのって、ものすごいストレスなんだけど。
「清彦ぉ、いつも言ってるけど別に見たっていいんだぜ? そう隅っこにいられちゃ、こっちが気まずいんだよ」
誘惑で、いたずらで、ではなく純粋に親切で言ってるようだ今回は。
俺にとっても気まずいが、あいつらにとっても俺の行動は気まずいらしい。
お互い相手に悪いよなぁ、という妙な罪悪感ができているようだ。しかし理解あるやつがいてそれはそれでうれしい。
しかし、そういわれても限度がある。
恥じらいもなく遠慮なく裸をさらして着替えている光景、あっちこっちで極上の女体が存在している。
当然こんな中にさらされたら男としてある意味正常な反応が発生してしまう。
おまけにただ単に裸があるのではなく、エロい行動も伴っている。
さっき見たくビッグサイズの胸を収める光景もそうだが、お互いに見せあいっこしたり、乳揉みあっていたりするからさ。
そんな光景が展開されてると、俺の理性が吹っ飛びそうで怖くて。
だから最小限にするためにも隅っこで着替えざるを得ないのですよ、本当に。
「ああくそう、きつい」
胸バレーボールが悪戦苦闘している。見てないけど声からしてつらいようだ。
そして想像してしまう、危険だ。
「ええいっ、もういいよな! どうせみんな女なんだからトップレスでもいいよな!」
開き直った! いいわけがないっ、全員女じゃない、ここに男がいるっ、落ち着けえぇぇぇぇっっっ!!
そしてそのまま出て行ったら女子に殺されるぞ!!
「なにあいつら、馬鹿にしてんのあれ」
「ふざけてるわ。嫌がらせのつもり?」
女子の強い殺意の視線が浴びせられる。
水着を着用して元男子たちのスタイルの良さが際立つ。特に胸のボリュームが。
本物の女子たちと比べてサイズの差は歴然。当然ひがみになる。
しかし当の男子たちはそんなつもりは微塵もない。
胸が大きくなったのは当人たちの意思ではないのだから。
ごく普通に水着を着て、ごく普通に授業を受けているに過ぎない。
それなのに女子達からは殺意を浴びせられる。不条理だ。別に好きでやっているのではない。
むしろ……
「うう、苦しい……」
それで悩む者もいる。さっきの胸バレーボールの奴だ。
サイズがどうしても合わない、合うものがない、無理して着ているか苦しいらしい。
収まりきってない、胸の肉がはみ出している。エロいが当人にとっては辛い。結構強引に来ているからぱっつんぱっつんだ。
「清彦の奴、あいつらにデレデレしちゃって」
「そんなに胸が大きいのがいいの? だったら胸で圧死してなさい」
だからどうして毎回毎回俺にまで矛先が向くんだ?
「では授業を始める」
その号令を放つ体育教師は村林先生。
若く、格好いい男性教師ということで女子には人気の高かった。
が、今は同様に女性になってしまっている。
体育教師らしく髪は短くして引き締まった肉体が男性的な女性になっている。格好いい女性だ。
セパレートタイプのスポーツ水着に身を包んだ体は当然のようにスタイルがよく、胸も大きい。
「ううっ、村松先生は私たちの見方よね?」
「先生、その胸は仕方ないのよね」
どうして元男子と先生とでこんなに差があるんだ? 差別だ。
8.
『アルバム共有の招待がとどきました』
「なんだこれ?」
「共有メール届いたか清彦ぉ、今送ったけど」
正尚から送られてきた共有アルバムの招待通知。
どうやら正尚だけではなく他にも何人かがこのアルバムを共有しているらしい。
そこに書いてあったタイトルは"美しき俺たち" ……いやな予感しかしない。
が、好奇心が勝ってしまった。ちょっと見る分にはいいだろう。いざとなったら削除してしまえばいいのだし。
共有承認して、接続してみる。
「ぶぶっ!?」
共有アルバムを開いてみた瞬間、思わず吹き出してしまった。
そこにあったのは、多くのエロ画像。いや、よく見たらこれ、正尚含めたうちのクラスの男子じゃねーか!
「ふっふっふ。すげーだろ」
不敵な笑みを浮かべて誇らしげに語る正尚。
正尚たちの自撮りエロ画像。直接カメラを向けていたり、鏡に映る姿を撮影していたり。
それもただ単に撮っているだけでなく、エロチックなポーズを決めていたり。
裸だけどあえて大事なところを手で隠したり写らないようにしたり、全裸でなく下着を着崩したり裸シャツだっり。
なにこれエロい。
「この美しい女の体、毎日見てて飽きないよ本当に」
「折角だからみんなに見せあいっこしようと思って」
「で、自慢の一品を撮影していくうちに、な」
こんなに多くなったというのか。一体何枚あるんだ? 一人でかなり撮ってないか? 全部で数千枚位はあるぞ。
「俺たちとお前の仲だ。しっかりオカズに使ってくれ」
すがすがしいまでにプレゼント宣言してくれた。
削除してしまえばいいか、と思っていたのに……惜しくて削除できなかった自分が悲しい。
9.
殆どの奴は巨乳スタイルよし、なボディになっている。
TS薬で女になったやつは当人の理想の女性の姿になるらしい。ということはほとんどの奴が巨乳ダイスキ―であることが証明されてしまった。
まあ、あまり人のことは言えない。俺も胸は大きいほうが好きだ。
が、何事にも例外はある。
「やっぱしロリは最強!」
豪語したのは正武だった。
元はややデブ、一部女子からはキモイといわれていたアニメオタク。通称デブオタ。
その正武はこの学校で女性化した中で数少ない、いや唯一といっていい、ょぅι゛ょになった。
身長は俺の頭二つも小さい、見た感じ小学生かと間違われてもおかしくないサイズと体系。
最小サイズの制服でさえ、子供が無理して着てます状態なぐらいだ。
それにしてもあの質量はどこへ行った。
「本当可愛いわよねぇ」
「このちんちくりんなのがいいわぁ」
一気に女子の人気を集めてしまった。その中にはかつて正武をキモイといっていた女子も含まれていたり。
やはり見た目は十割。不条理極まりない。
だとしてもここまで女子の人気を集めてしまったのは一体……
「貧乳は見方よ」
「巨乳は抹殺」
わかりやすい理由だった。
10.
その日、男子達は全滅していた。
「お、おい、何があった?」
ほぼ全員が机に力なく突っ伏して、険しそうな表情を浮かべている。
「うう、苦しいよぉ」
「マジ、おなかも頭も痛いよぉ」
「あんなに血が出るなんて、俺死ぬかも」
……生理らしい。
「出血大サービスなんてものじゃねえよ、そんなサービスいらねえって」
「こんなん毎月あるなんて……」
思えばみんな一斉に女子になったから月の物が来るタイミングはそろってしまうということか。
つまり全員初潮。これは赤飯炊いたほうがいいのか?
「お前はいいよなぁ、男だから生理なんて来ないし」
そんなこと言われても……赤飯用意するから勘弁してくれない?
「ざまあね」
「せいぜい女の苦しみってのを味わいなさい」
一方、その様子を見たクラスメイトの先輩方は容赦なかった。
女子たちは一様に整理で苦しむ男子達に侮蔑のお言葉を浴びさせる。
同情のかけらもない、人の不幸は蜜の味。そこまで言われるなんて、一体何のうらみがあるのだ?
「ほら、女の子たちがあんなに辛そうにしてるんだから気遣ってあげなさいよ清彦」
だから俺を巻き込まないでくれ。
とはいえ女子の皆が皆悪辣というわけじゃなかった。
「大丈夫? まあ、初めてだから大変だと思うけど……」
そう男子達に声をかけるのは委員長、双葉さん。
元々気の弱そうな女子で、委員長もみんながあまりやりたがらないから押されてやることになってしまった立場。
しかし責任感は高いのか、しっかりと委員長の仕事をこなしている姿は男子の支持も高い。
「うぅ、双葉さんありがとう」
「双葉ちゃんが、天使に見えるぅぅ」
それは幻覚かもしれない。だが、あの女子たちの卑劣な態度を見ればその対応は天と地の差ほどもある。そう思っても無理ないかも。
「ほら、清彦君も男の子なんだから。ちゃんと皆のこと気遣ってあげなよ」
そこは他の女子とあんま変わらないですね。意図は全然違うけど。
11.
この学校の生徒教師全員が女になったわけじゃない。
一部は俺みたいにたまたま休んでいたり、問題の水を飲んでなかったりで男のままの奴もいる。
義政もそのひとりだ。
「肩身狭いよなぁ」
「本当だよ、こっちもクラスでは男子俺一人だし」
お昼の学生食堂、周囲は見事に女子ばっか。
女子になってみんな食が細くなったためか、食堂のメニューも以前はがっつりなものがあったはずなのに全体として量が減ったような気も。
それ以前に利用者も減った気がする。食堂のメニューじゃ多いから自分で弁当持ってきたりコンビニパンだけ食べる人が増えたような。
そして教室にはそんな女子が多いから肩身が狭くなってここにきている、というわけだ。
「あれだ、苦労を共にすると連帯感がわくってやつ?」
連帯感とまで言うかわからないけど、男同士自然と近づきやすくなるってのはあるかも。
「男の友情ってやつだ、仲良くやっていこうな」
別に確かめるまでもないけどさ。
俺としても周りが女子しかいないから数少ない男子がいると共有できることが多くて助かる。
同性でないとわからないこともある。元同性ではわからないこともある。
貴重な仲間だよ、本当に。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「すまん、清彦」
「なんでだーーーーーーーーーーーっっ!」
後日、義政は女になっていた。
「なんで! どうして? 女にってるってどういうこと?」
学校中の男子が女になってそれなりに時間は経過している。
今頃になって薬の効果が出て来たってこと? 今になって?
「それが、前に冷水器から汲んでペットボトルに入れといた水がうちの冷蔵庫にあって……」
あれか、捨てるのなんとなくもったいないからそのまま冷蔵庫に入れてるやつ。
それを間違えて飲んだってことか。捨てるの忘れてて。
それなら今になって女になったってのも分かるな。きわめて不幸な事故だ。
きちんと冷蔵庫の中身は整理整頓しようという教訓。
「誘惑に負けて、飲んじまったんだ」
…………は?
「だって周りは女ばかり、奇麗でぷるんぷるんで女の子の体好き放題できるってみんな言ってて、そんなこと言われ続けてれば俺もって思っちゃって!」
事故じゃなくて故意だったーーーーーーーーーーっっ!!
「でも清彦、俺とお前の友情はそのままだから」
「え、ああ……」
「友達だから好きにしてあげるよ。ほら、見てもいいし触ってもいいし」
義政は服を脱ぎ始め自身の体、胸をあらわに……
「脱ぐなーーーーーーーーーーっっ!」
こうして義政との短い友情は終わった。
12.
俺、則之は今、天国にいる。いまだかつてこんなことを思ったことはない。
男子更衣室、そこには俺の周りに惜しげもなく裸をさらし、着替えている女子たちが。
先日の一件で学校中の男子が女子になってしまった。俺は難を逃れ女にならずに済んだ。
その結果、俺のクラスは男子は俺一人に。
そして体育などの着替えは今まで通り男女別に分かれ、こうして男子更衣室で女子が着替えるという素晴らしい状況に至っている。
本来女子は女同士であっても肌や下着をさらさないようにして着替えるという。
しかし、今ここにいるのは元男子達。そんなことをするノウハウはない。遠慮なく下着を、裸をさらしている。
おまけに、だ。
「おおっ、なかなか揉みごたえあるなぁ、お前のおっぱい」
「やめろよおい、どうだ仕返しっ!」
「お前のブラずいぶん派手だな」
「どうせならこういうのがいいだろ?」
みんなお互いの下着観賞やらさわりっこやら、実に百合百合な雰囲気ではないか。
ここに混ぜてもらわないわけにはいかない。
「いやいやすげえな武信、お前の胸でかいね。それG? それともH?」
「あ?」
こちらは仲のいい武信。派手なブラにつつまれたおっぱいはなかなかの迫力。
「お? 顔に似合わず巨乳なんだねぇ吉松ちゃん♪」
クラスでもまじめ君な吉松に接近。胸をつんつんしてみた。
「ひっ!?」
突然のことに驚いたか。いやいや、実に柔らかい。そうやって恥ずかしがっている姿もまたオツなものだねぇ。
体育の度にこの光景が楽しめるとは、誰がやったか知らないが給水塔に薬入れたやつ、グッジョブ!
「おい、則之」
「ん?」
声を掛けられてみればそこにいたのは武信。すでに体操着に着替えているが、うん、似合ってるね。
けどその顔、ちょと怖いんだけど?
そしてその陰に隠れるように吉松ちゃんが。あれ、半泣き?
ん? そういえば皆さんそろって俺を見てるけど……あれ、何この空気。皆さん、顔が怖いけど。
「てめえ、何調子のってセクハラしてんだよ」
「え? いやセクハラって、ただのスキンシップ……」
「こっちにしてみればセクハラなんだよっ! 吉松なんて泣いてんじゃねえかっ!!」
吉松ちゃん、確かに半泣きだね。武信に抱きしめられて、その胸の中で泣いているような。
あ、おっぱいあたってる。いいなぁ、そこ代わってもらえないかな?
「何やらしい目で見てんだよてめえっ!」
「そーだそーだ、下品な顔しやがって」
「下心見え見えなんだよ」
気がつけばみなさん服やらカバンやらで下着姿をガードして俺に非難ごうごう。あれ? どうしてこうなったの。
「調子のって人の胸触ってきやがって」
「え、いや、そこはだって友達だし……」
「んなもん絶交だ!」
なにこれ? どうしてこんな短い間に俺、孤立するようなことになってんの?
「そもそも俺らがいるのになんで入ってきてんだよっ!」
「とっとと出てけっ!」
ついに強制退出命令が。
「いや、でも着替え……」
「トイレでしてろっ!」
まるでごみでも扱うようにして、足で蹴り飛ばして更衣室を追い出されてしまいました。
そして後ろで扉が勢いよく閉まる音。お怒りの様子がまざまざと感じ取れる。
「なんでこんな……惨めな………」
言いようのない絶望。俺はこんなにもクラスで孤立してしまったのか。
あいつらはもうすっかり女子になっていたのか。そして男の俺を排除して。
閉ざされた扉の向こう、そこから漏れるにぎやかで楽しそうな声。
断片的に聞こえる単語からは、やはり百合百合な様子がうかがえる。
俺はもう、みんなとは一緒にいられないのか。
孤独感をこんなにも感じてしまったのは、もしかすると初めてなのかもしれない。
「というわけで俺も女になりましたーーーっ♪」
「アホかあぁぁーーーーーーーーーっっ!!」
声高らかに宣言した則之は実にすがすがしかった。
顔に面影はあるものの、女子制服に身を包んだその姿はどう見ても女子以外何物でもなかった。
これでこの学校にかろうじて残っていた男子がまた一人、いなくなった。
「はぁぁ……これで俺もはれて女。正々堂々と女の花園に入ることができるぅ」
元男の空間を花園と称していいのだろうか。
「さーて早速次の時間は体育だ! いざゆかん女の楽園へーーーー!」
そういって体操着の詰まった袋を手に走り去ってしまった。
そもそも拒否られたのは男とか女とかじゃなくてお前のどスケベな下心だろうに。それに気がついてないのか?
外が変わっても中身が同じなら対応は全然変わらないと思うぞ。
そのためだけに女になるなんて。前からアホだとは思っていたが、やはりアホだった。
玉砕すればいいのに。
「ううっ、あんな辱めを受けるなんて………もうおヨメにはいけない」
ざまあみろ。
13.
女子まみれになった学校、一日中周りに異性ばかりだとストレスを感じないわけがない。
だから学校から家に帰ってくればストレスは軽減される……わけではなかった。
「ふぅ、さっぱりしたぁ」
ちょうど弟の敏明が風呂から出たところだった。
俺の家は個別の部屋があるわけではなく、こうして弟と一緒の部屋を使っている。
同じ部屋で寝て、同じ部屋で勉強して、同じ部屋で着替えて……
弟との仲は良好、喧嘩するわけでもなくいい関係ができている、と思っている。
が、今はどうだろうか?
「お前、ちゃんと服を着ろっ」
「えー? いいじゃん別にぃ」
不平を言う弟はパンツ一枚の姿で戻ってきた。それ以外には何もない。
しいて言うなら大きな胸を隠すのは肩にかけたバスタオルのみ。
……そうだ、弟もまた、女になってしまった。
現在両親は二人で一緒に海外単身赴任中。何この都合のいい展開。
兄弟同士でも男女二人っきりの生活。しかも弟は男の時のままで無防備。
元々風呂上りはパンツ一丁で過ごすことが多い裸族。それを女の体になっても継続するのだからたまったものではない。
「別に兄弟だから見てもいいんだけど? 」
そうしてタオルで髪の毛をわしゃわしゃ拭き始める。胸を隠していたものがなくなった。
「だから服を着ろーーーーーーーーっっ!!」
俺のストレスは着々と蓄積されていく。
「兄ちゃん知ってる? TS薬で女になるとエッチな気分になりやすいって」
なるほど、それでクラスの元男子共は俺にいろいろ仕掛けてくるのか。
元々その手の情報を共有することが多かったからそのノリでと思っていたが、それだけではないらしい。
「それで、お前がこうしているのもそのせいだと?」
「えへへ~♪」
既に明かりも消して寝ているはずの時間。なにかもそもそと動く気配を感じ、暗い部屋で枕元に置いてあるスマホを手に取って照らしてみたらこれだ。
弟が俺のベッドに入り込んできていた。
おまけにスケスケな服を着ているというオプション付き。これなんていうんだっけ? ベビードール?
いつの間にこんなもの買ったんだ?
「色々妄想しちゃうんだよねぇ、エッチな気分になると」
距離が、近づいてくる。
「鏡で自分の体じっくり観賞したり、おっぱい揉んでみたり、裸を兄ちゃんに見せたーいって気分になったり」
うおっ!? 手が、俺の手が捕まって弟の胸にっ!
「さすがに本番はするつもりないよ? けどこうして触ってほしい気分になっちゃって」
や、やわらかいっ! 弟のおっぱいが、こんなにも……
「だから兄ちゃん、僕のこと、もっとエッチにしてぐごぼっ!?」
言わせなかった。その前に鉄槌を下す。チョップ一発で昏倒した。
「よしっ、これで寝たな」
殴られて気を失っている弟をそのまま本人のベッドに放り込んでやった。
俺自身を制御できるうちに、強制停止させることができてよかったよ。
14.
「清彦君、すきですっ。付き合ってください」
昼休み、校舎裏、このような場所に呼び出された理由はある意味定番の展開だった。
物陰で様子をうかがい、俺を呼び出した女子生徒が来てちょっと間をおいてからさも今来たかのように現れる。
そんなことしたのは何かのいたずらかと思ったからだ。ここ最近警戒色が強くて。
そしてやってきた女子生徒に要件を訪ねてみれば、これだ。
告白、それは甘く切ない物語。
自分の気持ちをついに伝えることができた。そんな満足感がこの女子生徒にはあるだろう。
後は俺がそれをどうこたえるか、OKと言ってくれるか、それを期待する。
だが、その前にどうしても確認しておきたいことがあった。
「えっと、1年の貴吉さんだっけ?」
その女子生徒の名前を確認しておく。
「はい、そうです」
間違いなかったようだ。
「つまり君、元男だよね?」
「お前また断ったのかよぉ」
「これで何回目だよ、こんなモテ期到絶対今後ないぞ」
そういうこと言われても、相手が男では何の意味もないでしょ。
一体何がどういいのかさっぱりわからん。これで12回目になるはずだが、こうも立て続けに告白されてると恐怖を感じるわ。
それも全員元男。
告白してくる奴ら皆が皆、極上レベルに可愛いからさらにたちが悪い。
確かにこんなモテ期は今後到来しないかもな。だけどこんなモテ期は勘弁してほしいよ本当に。
「なに? 清彦また告白されて断ったの?」
「急にモテだして調子のってね?」
そして女子からもいわれのない非難が。なんでだよ本当に。
15.
男子達がTS薬のせいで女子になった。それは教師も例外ではなかった。
うちの担任、笠松先生も同様。40代、頭の後退が気になる先生も今や絶賛美人女教師だ。
「「「おはようございますっ!」」」
「……おはよう」
朝のHR、男の時と変わらないジャージ姿であるものの、出ると出てるスタイルの良さはくっきりはっきりわかる笠松先生。
しかしそんな美人も台無しになってしまうぐらい、先生の表情は暗かった。
「では、出血……じゃなくて出欠をとります」
心ここにあらず、明らかに様子がおかしい。
これはどうしたものか。朝からこんなでは思いやられる。
「あの、先生。どうしたんですか?」
こういう時に声をかけるのはやさしい委員長、双葉さん。
生徒から心配される教師もどうかと思うけど、それがよほどよかったのか、笠松先生は話し始めた。
「実は……妻が出て行ったんだ」
教室の空気が変わった。
「子供もつれて、実家に帰らせていただきますって、女同士は無理って、自分より若くて綺麗なのが許せないって……」
どうにもフォローできない。むしろどうフォローすればいいのか誰か教えてほしいぐらいだ。
その後のHRはよく覚えていない。
気がついたら担任が開き直ったように下着に白衣姿で授業していた。
16.
男子が女子になったという以外は普通の学校であるから部活動も一般的なものは大体ある。
この写真部もそうだ。
「うん、うんっ、いいわぁ♪」
ここは写真部部室。一眼レフカメラを手にテンション高くシャッターを切り続けているのは部長の秋奈さん。
写真の腕は写真誌に投稿した作品が入賞したことがあるほど。
被写体にするのは風景、植物、動物、様々だ。自分が見て綺麗と思ったものを対象とする。
そしてここ最近、彼女が熱を入れている被写体がある。
「そう、髪の毛をかき上げるようにして胸をそらして」
「こうですか秋奈さん」
「そうっ、いいっ!」
一糸まとわぬ姿、秋奈の指示通りにポーズを決めて優雅な曲線を描く女体をさらすモデル。
女子になった、男子だった。
「じゃあ次は二人で抱き合って。それで胸を合わせてむにゅっとした感じで視線はこっちで」
「こうですね」
「いいわぁ、そそるわぁ」
裸の元男子達が抱き合う姿に一層テンションを挙げてシャッターを切り続ける。
秋奈は正真正銘の女子だ。だが美しいものに、美しい女体に興奮するのには男子だけではないようだ。
「ふふっ、ヌードモデルなんてだれでもやってくれるものじゃないから、最高よぉ」
秋奈は今まで様々な写真を撮ってきた。が、どうしてもできなかったことがあった。それがヌード写真。
それこそモデルを雇ったり、撮影会にいけばいいのだが、それなりに費用が発生する。
しかもネタがネタだから費用はかかるし、かといって部費でそんなことができるはずもなく。
だが、ここにきてモデルになってくれる方々が多数いらっしゃる。
TS薬による女体化は軽い性的興奮状態に陥ることが多い。
そうなると色々としたくなるらしい。その中に裸になってさらしたいという露出狂な衝動に駆られることもあるとか。
そしてここに利害が一致した。
「ああ、俺撮られてるぅ」
「もっと、もっと撮ってくださいぃぃっっっ!」
男子達は自分が取られていることに興奮する、そして発散する。そして秋奈は自分が撮りたいものが撮れる。
「いいわぁ、興奮するわぁ。やっぱ女体は究極の美よねっ!!」
ちなみにみんなの裸でテンション上がったせいか、秋奈自身も全裸になっている。
以外にも男子に負けず劣らずスタイルがいい。しかしやっていることは確実に変態だ。
「じゃあ全員でそこに集まって、くんずほぐれず絡まりあって!」
そうして指示のもと、控えていたモデル十数名が全員集まり、絡み合い始める。
「ぐふふっ、いいわっ、いいわあぁぁぁっっっ!!」
秋奈のテンションはより一層上がっていく。シャッターを切るペースもどんどん上がっていった。
そんな光景を清彦はたまたま通りかかり、写真部の部室前で目撃してしまった。
見なかったことにしてその場から逃げ去った。
17.
学校が休みであっても部活動は練習とかで行われることは少なくはない。
ここ、男子水泳部もそうであった。
この学校のプールは屋内設備だから季節天候気にすることなくいつでも使うことができる。
その入り口、今日は『男子水泳部強化練習中につき立入禁止!』の看板。
別に立入禁止にまでしなくたっていいじゃないかって気がするが、それにはもちろん理由がある。
表向きは意識を集中するため。しかし本当の理由は……ある意味意識を集中するため。
プールサイドには既に部員がそろっていた。
準備はできている。着用している水着はスタンダードな海水パンツ、ブリーフ、ボクサーパンツ、スパッツ、様々。
これらは普通男子が着用するもの。普通であれば特に問題はない。
ただし、今現在この学校の男子はほとんどが女子になっている。つまり、ここにいるのは全員確かに男子だが、体は女。
女の体なのに来ている水着は男子用。それ以外は何も来ていない。
つまりのところ、全員トップレス!
「はぁぁ……この開放感」
「俺の場合は胸でかいから競泳水着だとすっげえ苦しいから、これすごくいい」
「競泳水着は上下一体だから不便だけど、その不便な感じがそれはそれでよかったけど、さ」
「今まで使っていたはずなのに、女になった体で海パン穿いたら、何か違うぅ」
「俺たちの姿って、すっげえエッチだよな?」
ご丁寧に休日に特別練習と称して集まり、関係者以外立入禁止にしているのにはこういう理由があった。
TS薬の効果で軽い性的興奮状態になりやすい面々。色々妄想が働いてしまって、たまに露出狂のような行動をしたい衝動に駆られる。
当然そんなこと世間でできるはずがない。だから我慢する。
しかし我慢しきれない時がある。それを発散させてやりたい。
というわけでこうして集って、開放的スタイルで泳ごうということだった。
ちなみにここに集まっているのは全員が部員というわけではない。半分ぐらいは部外関係者だったりする。
秘密裏に声を掛け合い、ちょっとしたお誘いをしているわけだ。
「しかし全裸じゃないところがミソだな」
「そうそう、そこがかえってエロさを引き立てるってわけだ」
仲間同士のトップレス姿に一層テンションが上がっている男子達。
発散の目的がどこまであるのかわかりゃしない。まあ、そこは男子だから、スケベだから。
「やれやれ、普段なら激を飛ばすところだが……まあ、今日はいいだろ」
寛容なのか諦めなのか呆れてるのか、どうともとれるコメントをしたのは体育教師、水泳部顧問の村林先生。
上着としてジャージを着て腕を組み、部員達の前に立つ。当然だが休日に部活で学校施設を利用する場合には教職員の許可が必要になる。
プール利用も当然のように教職員が必要。となるとトップレスで泳ぎたいからプール使わせて、と言って普通は通るはずがない。
つまり、この光景は村林先生のちゃんとした許可を得て行っているということだ。
ところで村林先生はジャージを着ててもその下にある隆起はくっきりはっきりわかるほど。
こうして腕を組んでると余計にそれが持ち上げられる。
その下にあるふくらみを想像して唾をのむ一部男子。自分たちもそれなりに巨乳で自由にし放題なはずなのに、それでも他人の胸で興奮するスケベな奴ら。
それはそれ、これはこれだ。自分じゃない、他人だから感じることもあるのだ。
「さて、普段は女子がいる手前、こんなことなどできないが」
村松先生も教師である。本来だと部活練習とはほとんど関係なくプールを使うことなど許可はできない。
が、今は事情が異なる。自分も生徒達同様、女になってしまった身だから理解できる。
この性的興奮が、自分にも来ているということを。
「毎回のようにはできないが、それでもお前たちのことを考えてちょっとは機会を作るようにはする」
自分の心拍数がわずかに上昇しているのがわかる。そして何かを求めているということも。
腕を組んだ手を少し上げ、そのまま自分のバストを揺らす。これで少し落ち着くかも、と思ったから。
「正直言おう。私もお前たちと同じで我慢できなくなってる」
高揚する自分。生徒たちのトップレス姿を見て興奮している。
生徒たち相手になんて気持ちを、と思ったがやはり自分も男。本能には逆らえないらしい。
「では、始めよう」
着ていたジャージのファスナーに手をかけ、それを下し、一気に脱ぎ捨てた。
「おぉっ……」
生徒達から感嘆のあまり声がもれる。
女性の体でありながらも体育教師らしい引き締まった肉体。
それでいてバストのボリュームは大きく、ここにいるメンバーの中でも上位クラス。
ピンク色の奇麗な乳輪、先端はつんとした美しさ。
形の良い胸に加えウエスト、ヒップにかけてのラインも見事のもの。
そして何よりも目を引いたのが、着用している水着。
水着と呼んでいいのだろうかと一瞬躊躇する形状。腰部分に布地が存在しない、大事なところにだけ存在している、そこに張り付けられているかのような形状。
通称、Cストリングと呼ばれる水着を着ていた。
「どうだ? これぐらい開放的になってもいいだろ?」
己の水着姿、もとより裸ぎりぎり一歩手前の姿を目の前の生徒たちに見せびらかす。
村林先生自身も教師として露出傾向にある生徒に指導はしていた、が、その一方で自分にもその手の願望があることに気が付いてしまった。
思えば女になってしまったあの日、そこには自室で困惑する自分がいた。
女になってしまった戸惑い、困惑、これからどうすればという複雑な思いが絡んでいた。
なんでこんなことに、そう思いながら女になった自分を鏡で見る。
そしてみてしまった。Tシャツの間からわずかに見える、自分の、胸。
そこに気がつくと自分の中に女になった悲嘆とは別の感情に気がついた。女性の体に対する、興味。
独身で今まで女性と交際したことなどなかった。ネットで見た画像でしか女性の体を見たことがなかった。
ほんの興味本位、些細な事だが、鏡の前でTシャツをたくし上げ、自分の胸を見てみた。
瞬間、思った。美しい、と。
それから全裸になり、何時間も鏡の前で自身の女体観賞を続けていた。
自分に惚れた、ナルシストともいうが、こんなもの見たらナルシストになるだろうと勝手に納得させていた。
それから体育教師としての授業はボディラインのくっきりわかるスポーツウェアを着用するようになっていた。
もっとも、それ以上のことはできない。やったら問題だ。
だから今日こうして絶好の機会ができたことは歓喜した。
そして以前からそういうものがあると知っていた、そしてついに、それを買ってしまった。
「はうぅ、生徒たちの視線が……気持ち、いい」
見られてる、視姦されてる。そう思うと一層テンションが上がる。
興奮し、乳首がぴんと勃起して、下もちょっと濡れる。
金具の挟み込む力が心地よい。ちょっとすれば落ちてしまうのではないかと思ってしまう絶妙の不安定感も、より興奮する。
「先生っ、最高ですっっ!」
「俺らなんてまだまだでしたっ!」
「ついていきますっ、どこまでもっっ!」
セリフだけ聞けば青春スポコンマンガ的な印象だが、その光景は完全にAVだった。
「さあ、泳ごう。開放的になった自分ならば今、できるだろ?」
「「「はいっ!!」」」
全員が一様にプールへと飛び込んだ。
そんな光景を様子にも忘れ物をしたと思いプール併設の更衣室に来ていた清彦は見てしまった。
そして思う。先生あんたもかっっ!!
18.
放課後、委員としての仕事が俺にはあった。
実はこの事件以降、俺はクラスの副委員になってしまった。
理由はいたって単純、クラス委員は男女で構成される。しかしクラスで残っている男子は俺一人。
だから今の委員長の双葉さんと俺という組み合わせ。
こういうときだけ女子って言い張って仕事押し付けやがって。恨むべし元男子共。
その仕事で担任から書類を校長室に届け、ハンコをもらうことになったのが今現在。
つーか校長室に行くって結構重い仕事なんだぞ。プレッシャーなんだぞ。
校長だってこの学校でトップ。そこに行くのは大抵悪いことをした時と決まってるのだから、プレッシャーなんだよ。
面倒だよ、そうぼやきつつも校長室前に来てしまった。
まあいい、ハンコを押してもらえればそれで終わるから。さっさと済ませて帰ろう。
そう思いながらノックしようとした時、何か気配を感じた。
いや、校長が中にいるんだから気配がするのは当然だけど、言いようのない別の何かの気配が。
もんもんとしたみょうちくりんな気配。この感じ、なんとなくわかる。
似たような気配を過去に経験している。クラスメイトがエロいことで盛り上がっているときの気配に似ている。
いやまさか、ここ校長室だよ? そんなわけないじゃん。
そう思いつつも微妙な好奇心が強まってくる。そして音を立てないようにそっと校長室の扉を開ける。
わずかな隙間、それで中の様子をうかがうのは十分可能だ。そして、そっと覗き見た。
「あぁん、はぁっ……綺麗っ」
女がいた。誰をも目の引く綺麗な金髪ヘア、すらっとして足が長く胸も大きく、お尻の肉付きもよくて、ウエストの引き締まった、細くても出ることでた美女がいた。
その美女はガーターベルトストッキングとハイヒールに赤渕メガネだけを身に着け、それ以外は何も来ていない。
パンツも穿いてなければブラもしていない。大事なものを着ていないのに眼鏡は付けているとはどういうことか。
大きな鏡の前に立ち、自分の姿に酔いしれている。ナルシストか。
そう、あれが校長だ。TS薬のせいで校長までもが女になってしまった。
かつては定年間近のバーコードヘッドのややメタボなオッサンだった校長は今やそんな面影はなかった。
大人の魅力とフェロモンぷんぷんな、トップに就く人間にふさわしいような女性になってしまった。
……なるほど、TS薬は自分の好みの女になる傾向があるというからこれが校長の好みとな。
だとしても。
「あぁんっ、今日もぉ、私って、キ・レ・イ♪」
鏡の前で自分の女体観賞をやめる様子がない。やってることはクラスの男子と変わらない。いや、ひどいかも。
とりあえずこんな調子ではハンコはもらえそうにないな。
何も見なかったことにしよう。そして担任には校長はいなかったといっておこう。
そして思う。もう、この学校はだめかもしれない。
「校長は不在でした」
「あー、言わなくていい。日課だったんだな」
あれ日課にしてるんかいっ!!
19.
「諸君、よく集まってくれた」
真っ暗な部屋に明かりはテーブルのスタンドのみ。そこに集った男子数名。
一言付け加えておく。この学校で起きた状況ではこの男子という言葉が非常に重い。
学校は共学。しかしかの事件のせいで男子の殆どはその体が女になってしまった。
そのため総称は本来女子になるはずなのだが、本来の女子たちの色々ないちゃもん、もとい意見によって今も女性化した男子は男子と呼んで区別している。
従って男子と呼んだらそうした女性化した男子も含まれてしまうが、今は違う。
ここにいるのは正真正銘の男子、生物学上男性。様々な理由で女体化の難を逃れたまぎれもない男達である。
「こうして呼びかけに答え、来てくれたことを感謝する」
テーブル中央に席を取る宗助が進行役として話を始める。
背を曲げ、わずかに前かがみになって頬杖をついて指令座りをして語り始める。
全員、どことなく緊張感を感じていた。
「あのさあ、別に部屋の明かりつけてもいいんじゃね?」
その中でどーしても気になっていたことを口にしてしまった俺、清彦。
答えを聞く前に照明のスイッチを入れる。途端に部屋は明るくなった。
「なんてことをしてくれるんだ清彦! 雰囲気が大事だろうに!!」
「いや別に雰囲気はいいんじゃ……」
進行役から猛烈な抗議が上がる。だがその人物を除きほぼ全員が俺同様別にどーでもいい事だと思っていた。
「まあいい、とにかく本題を話すとしよう」
なんとなく出鼻をくじかれてしまった格好になったが、とりあえず気を取り直して話を始める。
「この学校の給水塔にTS薬を混入させた犯人を特定できた」
ざわつく一同。
思えばそれが原因で俺たちは肩身の狭い思いをすることになってしまった。
TS薬混入事件、それによってほぼ男子全員が女になってしまった。
ここにいるメンバーは難を逃れたのだが、それがよかったとは一概には言えない。
クラス全員女の空間に男子一人だけ。精神的圧迫は大きい。
そして女子による元男子区別化によって俺たちは元男子と同一であることを余儀なくされた。
つまり、トイレや更衣室も一緒。特に更衣室はきつい。
元男子とはいえ肉体は完全に女子、それも皆スタイルがいいから目のやり場に困る。
そして元男子たちはそんな様子を見てセクハラ攻撃を仕掛ける。
裸を見せびらかす、胸を押し付けてくる。そんなことが日常になっていた。
ここに至るまでどれほど苦労したことか。その犯人が今、特定されたとあってはそいつに目に物いわせてやりたい。
しかしそう思ってないやつもいた。
「けどまあ、俺はハーレム状態でそれはそれで悪くないけどな」
そんな事を言い放ったやつが一人、空気をまるで読まないそいつに殺気が集中した。
「では話を戻そう」
ひとしきり空気を読まないハーレム歓喜男をみんなでボコボコにしたところで議論を再開した。
ボロボロになってそいつが隅っこで放置されているが、無視していいだろう。
「そう、犯人であったな。それは……校長だ」
一同がざわつく。この学校のトップが? 校長が? 意外すぎる犯人に全員が動揺した。
さっきの粛清した奴を除いて。
「そもそも給水塔のある屋上は鍵がかかっている。そのため生徒教職員は当然のこと、外部の人間がそこにたどり着くことは普通はできない。
そして屋上へのカギは今日職員室にて管理されている。そして使う場合には貸し出し者の名前を記録する必要がある。
俺はその記録を事件前後の日付を調べたのだが、誰一人として借りた記録はなかった。
つまりカギは勝手に持ち出されたか、あるいは合鍵をどこかで作成したか、だ。」
「ピッキングしたんじゃないか?」
鍵屋でよくある鍵を開けるための工具。もしくは泥棒が侵入するために使ってる工具。そういうのを使った可能性を挙げた。
「ふむ、確かにその可能性もある。だが、事件後確認したところ屋上のカギは閉まっていたそうだ。
ピッキングで開けた犯人がご丁寧に占めたとは思えない。警備担当も特に鍵が開いていたとは報告していないそうだ。
開いたままになっていれば報告するだろうしね。
そして無断で持ち出したとしてもなかなか難しい。他の移動教室で鍵を同じ管理場所から持ち出す先生もいるからね、屋上のカギがなくなっていたとすればすぐに気がつくはずだ。
屋上に忍び込み、給水塔に薬を混入されるのに必要な時間はそれなりに必要だろう。
スキを見て無断で持ち出し、そして誰も見ていないスキに返す。とするとそれなりの時間が必要だ。
その間全く気がつかなかったとは考えにくい。
実は屋上のカギはそれほど複雑なつくりではない。粘土とかで型を取ってしまえば簡単に複製できてしまうんだよ。
だから職員室から人が出払ったすきを見て、鍵の型を取った可能性もある」
「うーむ、今の話を聞く限り校長にたどり着くとはとても思えないのだが……」
「その通りだ。だか、その方法で取ったと仮定すると学校内部の人間がやったと考えられないか?
外部の人間が来てわざわざ合鍵を作るとは考えられない。それこそさっき言ったピッキングで開けてしまえばいいのだから。
そこで内部の可能性を考えたのだが、それにあたって考えたのがTS薬だ。」
TS薬? 生徒たちを女にした薬だよな。
「考えてみろ、そもそもうちの学校は1学年7クラスで1クラス35名がいる。それが全学年で700人以上だ。それに教師も加えたら800人以上になる。
その半数が男で、全員に服用させるとしても女子に行ってしまう分や飲み水以外で使われることを考えたら、確実に男子達に一定利用のませるためには相当量が必要になると思わないか?」
「確かに、捜査でも多量の薬が混入って言っていたような……」
「そう、それを一体どこから入手したのか、だ。
それだけの人数分購入するにしてもかなりの金額になるはずだ。正規に買うとは考えづらい。
それで自分なりに調べてみたのだが……実は校長の実家は地方にあるけど、そこに小さな製薬会社がある。
その製薬会社、校長の兄が開発研究責任者兼役員をしているそうだ。
おまけに1年ほど前、その兄はTS薬で性転換している」
「なんともまあ……」
実に黒い状況証拠がそろっているではないか。
確かにそれだけを聞いたらその製薬会社でTS薬を製造して持ってきたという可能性は十分考えられる。
「だが所詮状況証拠だ、つまり物的証拠はない。おまけに動機もあるかないかわからない、不明だ。
そこでだ。自分が直接校長に乗りこむつもりだ」
ざわっ
「この状況証拠をつきつめて、反応を確かめる。そして白か黒か見極めてやろうとおもう」
宗助の決意は固いようだ。
この事件をおこした張本人がまさか学校のトップ、校長だったということもあるだろう。
学校をこんな混乱に陥れたことに宗助は強い憤りを覚えている、そうなのかもしれない。
この場はお開きとなった。そしてその足で校長室に乗り込んでいくようだ。
宗助は今、一体何を思っているだろうか。緊張しながら向かっていることだろう。
その雄姿を、その後ろ姿を、俺たちはただただ見送るだけだった。
2日後
「すまん、返り討ちにあってしまった」
宗助は女になっていた。
「なんだとーーーーーーーーーーーーっっ!!」
もう俺らは開いた口がふさがらなかった。
ついおとといまで男で、俺たちの前で賢い顔してたのが、こんな可愛くなって。
「校長に茶を出されて、疑いなく飲んでしまったのがいけなかった」
どうやらそのお茶にTS薬が仕込まれていたらしい。
実に悔しそうだ。まさか校長がこんな直球な行動に出るとは思わなかったろうな。
悔し涙か、宗助は今にも泣きそうな顔をしていた。
「何が悔しいって、今の自分……ものすごく好みの女の子なんだよぉ」
ああ、それはもう泣いていいよ。
20.
しかし宗助の犠牲は無駄ではなかった。
これほどまでに直球な行動をしてきたということは校長は真っ黒であることは確定した。
彼の犠牲があったからこそ俺たちは一致団結した。
そして、全員で校長室を襲撃した。
「校長おぉぉぉぉっっっっっっっっっっ!!」
どがばきぃっ!!
……本当に校長室の扉を蹴破って襲撃してしまった。
誰だ、テンション上がってそんなことしちゃったのは。
「騒がしいですねぇ、きちんとノックしてから入るのが礼儀ではないのですか?」
そして思いのほか平然としている校長。
今日のスタイルは赤のスーツと赤渕メガネがよく似合う。大人な魅力満載そして威厳のある女性だ。
いつぞやのガーターベルトとメガネのみの格好ではない。さすがにそれはないか。
いや、しかしブラウスのボタンは第3ボタンまで外されている。そのため谷間はっきり。
むむう、ここでもしっかり武器を使うか。生徒相手に。
「校長室の扉を破壊するなんて言語道断。一体何のつもりですか」
むむっ、大人の女という武器をいかんなく発揮している。おっさんの怒鳴り方とは少し違う微妙な言い方の変化をつけるとは。
しかしそれにひるむことはない。皆は宗助の犠牲を忘れない。
「えーっと、そういえば何しに来たんだっけ?」
誰だあぁぁぁぁぁっっっっ!! 忘れるにもほどがあるわっ!!
くそっ、一致団結したのはノリだったのか? 冗談じゃない、俺は違うっ。ここでやることやらねば。
「先日宗助が来ましたよね? その話ですよ」
後ろで「ああそういえば」って声が上がった気がするが無視する。
それより素早く他の奴らがそいつに粛清加えてるから良しとしよう。
そういえばこいつ、あの場で別にいいや発言して粛清されたやつじゃないか。
とりあえず無視する。気にしない。こっちの話を進める。
「宗助が女になりました。校長室で出されたお茶に薬が仕込んであったようで」
「ああ、実に残念だね。使った水が水道から汲み置きしているもので混入された時のが残っていたようだ」
ふん、しらを切るか。まあ、そう簡単には認めないだろうよ。それは予想済み。
「校長のご親戚、製薬会社で開発責任されているそうですね」
「そうとも、そのせいであらぬ疑い掛けられて困ったものでね」
そうだろうね、そう来るだろうね。
宗助の話でもこれらの状況証拠突きつけてしらを切っていたことはすでに聞いている。
その時は一切きかず、宗助も断念して帰ってきたというし。
俺たちがこうして同じようにやってきても簡単には口を割らないだろう。
だから切り口を変えてみるのが妥当。ではどう切り口を変えるのか。
俺はある程度その手を考えてきた。もっとも、それが効果があるかはわからない。
しかしやらないよりはましであろう。その方法を、試してみた。
「校長、お美しいですね」
「そうでしょお? 本当にこの美貌には惚れ惚れしちゃうわぁ。罪よねぇ」
ゴマすってみた。
先日の一件、校長室を覗いてみたら素っ裸で鏡の前でポージングしているのを見た記憶から口にしてみた。
うん、たった一言だけなのにすっかり酔ってるね。
なにこれ、校長ってこんなにチョロイの?
粛清をとっくに終えてこっちに向き直ってい後ろのその他メンバーは何か言いたそうだが俺が制した。
「美しさのために努力を惜しまないのですか?」
「努力っていうか、願望って大事よねぇ。私の兄がTS薬で女になったんだけど、すっごい美人になったのよ。
もう自分の兄ってこと忘れちゃうぐらいに襲いそうになっちゃって。でね、思ったの。兄がああなったんだからぁ、自分だって美人になれるかもぉ、って」
「ほうほう、願望ですかぁ」
「でもね、私だけってもったいないでしょお? それでふと思ったの。みんなは今の見た目に満足してるのかしら、美しくなれるのならばそれはみんなで一緒に、って。それならばうちの学校、みんなで女の子になっちゃえばいいのよって思いついたわ。我ながら天才」
「一緒に、ですか?」
「それでどうすればいいかなって考えたわ。それなら学校の給水塔にTS薬入れれば効率がいいわね、って。それで合鍵作って、授業中に忍び込んでどばーって入れたわ。あの時はわくわくしたわよ、これでみんな仲良く女の子、美しくなれる、そしてうちのヨメが経営しているランジェリーショップは大儲け………はっ!?」
「……………………………」
「……………………………」
こうもうまくはいくとは思わなかった。
自分の外見に酔いしれている校長、だとしたらちょっとおだてればペースが変わるのではないか。
そう思ってみたが……こうかはばつぐんだ。いや、抜群どころではないな。
見事なまでに全部自白してくれたよ。こうなると宗助の犠牲は必要だったのか、無駄だったのではないかと思ってしまうぐらいに。
おまけに最後にさらりと本音を吐きやがった。せこすぎるだろ、ランジェリーショップ大儲けって。
とりあえず、やってしまったことに気がついてフリーズしている校長にはとどめを刺しておこう。
「ちゃんと録音しておきましたから」
こうして校長は退任させられることとなったのだった。
FINAL.
「校長退任ねぇ」
「ああ、当然校長で居続けるのは無理だろ」
校長の犯行が発覚し、その話は一気に学校に広まった。
校長は退任し、教頭が新たに校長に就任することになるようだ。もちろん教頭も女になっている。
ちなみに元校長をやめさせるのに教頭はずいぶん活動的に動いた。
どうやら自分が女にされたことをかなり強く恨んでいたようだ。その気持ちがそのままぶつけられたと噂される。
一方で教頭が娘とペアルックで街を歩く姿が目撃されているとか。
今まで自分を遠ざけてた娘との距離が近づいたプラス効果があったのはいいんじゃないかと思うが、はて。
「おまけにランジェリーショップ大儲け計画って、セコすぎるだろ」
「全くそう思う」
「そういえば確かにあったな、この近くにランジェリーショップが。あれ校長の嫁が経営していたのか」
「けど地味なのしか置いてないから微妙だったぞ」
つまり、ランジェリーショップ大儲け計画も失敗だったのか。あほすぎる。
「校長退任ねぇ、あの谷間が見れなくなるのは、ちょっと残念かな」
あれね、朝礼の。
あの校長、自分でも美貌に惚れ惚れするって言ってたけど、確かに奇麗だった。そして朝礼でそれを存分にアピールしていた。
具体的に言うと大勢の前に出るときはあのいかにも女教師なスーツだったが、わざと胸のボタンをはずして出ていた。
具体的にはこないだ同様、ブラウスの第4ボタンぐらいまで。つまり谷間を誇示して、下乳ぎりぎり見えるくらいに、ノーブラで。
男子達は結構喜んでたな、自分たちが女になったのにまだ他人の胸見て喜んでるなんて、やっぱあほだよな。
そして当然のように本物の女子からは嫉妬と侮蔑の評価だったが。
「けどよぉ、だからと言って俺たちが戻るわけじゃないんだよな」
「まあ、ね」
そこだ、そこが問題だ。
今回混入されたTS薬は男から女になるためのもの。じゃあ逆のを服用したら? と思うかもしれないが、女から男に変身するTS薬は開発途中。
おまけに現段階ではその薬は一度服用して男から女になった人には効果がないらしい。
つまり、女になってしまった男子達は元に戻ることは実質できない。
「はぁ……一生女のままかぁ。なってみて分かったけど女ってめんどくせーよ。ブラつけなきゃいけないし、身支度面倒だし、トイレ面倒だし」
「なにより、生理がな」
ため息。俺には到底わからない苦労がこいつらには伴っている。
同情したほうがいいのか、どうやってすればいいのか、慰めの言葉でもかけてやればいいのか。
「そうか? 俺は俺で毎日が楽しいけどな」
「あー、それは納得。実は俺、毎日鏡の前でヌードでポージングするのが日課だったり」
「うんうん、やっぱ美しいものを鑑賞するのは飽きがこないよなぁ」
「あ、それで昨日も新しい写真アップしたぜ。見てる?」
さっきの落胆はどこへやら、自分たちの女体トークで盛り上がり始めてる。
ネガティブになるよりはましか。会話がエロい方向になっているのはどうなんだって気はするけど。
会話がエロい、それは思春期の男子によくある話なのだが……こいつらは今、女子だ。
見た目女子がこんな会話されたら、正真正銘男子の俺は一体どうすればいいんだ。
「ったく、男子達相変わらず」
「ふけつー」
「清彦もデレデレしちゃって。偽物がそんなにいいわけ?」
そして女子からは男子に対する嫉妬も混じったような軽蔑のお言葉。当然のように俺は一緒にされる。
校長がやめても、事実が発覚しても俺の板挟みは変わらない。
自分たちのエロ画像に盛り上がる男子達を見ながら、机に突っ伏し今日も頭を抱える俺だった。