「た、タチーハよ・・・な、なぜ裏切った・・・」
息も絶え絶えの悪の組織の首領帝重洲大帝。
周囲や近くの通路には戦闘員達や怪人達が倒れている。
「だから最初から何度も言っているだろ!俺はタチーハじゃないって。
まぁ確かに身体はタチーハ将軍の身体だけどさ。
俺だって好きでこの身体になった訳じゃないけど組織を壊滅させるには強大な戦闘能力が必要だからな。
不意討ちじゃなく、ちゃんと正々堂々と戦って手に入れたんだ!」
「これでわかるだろ!」
俺はタチーハ将軍の背中から俺の翼を生えさせる。
「ま、まさかお前は拉致や誘拐用に改造した蝙蝠男・・・」
「そうだよ。仕事帰りに拉致られて勝手に怪人に改造された男だよ」
「偶然でも目をつけられたのは確かに不幸だったけどさ、捨てる神あれば拾う神ありって本当だよな」
倒れ伏している帝重洲大帝の頭に手を添える。
それが何を意味しているのかを察した大帝は、見るからに狼狽し始めた。
「や、やめろ蝙蝠男! 本当に私を殺すつもりか!?」
「理解が遅いぜ大帝。俺はここまでやったし、アンタはここまでやられたんだ。無事に済むわけがないだろ?
立つ鳥跡を濁さずって奴だ。綺麗サッパリ終わらせておいてやるよ!」
タチーハ将軍の持つ能力、エナジードレインを発動させる。帝重洲大帝の生命力、その最後の一滴まで吸い上げ、タチーハの生命力に変化させる。
「ぐおぉぉぉぉぉ…!!」
断末魔は徐々にしぼみ消えていき、悪の組織の首領帝重洲大帝はここに息絶えた。
「……終わった、終わっちまった」
組織の居住施設、タチーハの部屋の中で独り言ちる。
うつ伏せになりながら背に力を込めると、ずるりと俺の怪人本来の姿が現れた。
言ってしまえば「大きな翼を持った蝙蝠姿の小男」だ。
能力は「超音波」と「他者への寄生」。
超音波を浴びせて思考を弱化させ、前後不覚になった相手を拉致ったり、他者へ寄生する事で「本人の意志」で失踪したように見せかけ、組織への人員補充をさせられていた。直接戦闘力はたかが知れていた。
帝重洲大帝と組織への復讐の為、どうにか勝てそうな怪人の肉体を使い、新しい寄生先を見つける度に体を取り替えていた。
最終目的だった肉体のタチーハは、同じ将軍格の体を使った上で打ち倒し、その上で乗っ取らせてもらった。
「苦節7年…。俺はもう自由だ! 組織とか関係なく生きられるんだ!」
快哉を叫んで、もう一度タチーハの肉体へ寄生する。もはや人間に戻れないし、この肉体は捨てがたいから、有効活用させてもらおう。
俺――蝙蝠男を含む、大半の怪人は人間から大きくかけ離れた異形に改造されており、そのままでは人間への擬態は難しい。
しかしこのタチーハの姿は元々人間とさほど違いがなく、角や尻尾などのパーツも体内へと収納することができ、難なく人ごみへと紛れることができる。
そのうえ巨乳でスタイルのいい美人だし、これが幹部怪人と平怪人の差というものか…。
とはいえおかげで、組織という忌まわしい過去を葬った今、大手を振って太陽の下で人間として新しい生活ができる。
そう考えれば、タチーハ様様だとも言えるな。
さらに、ついでに言うならば…。
組織の四天王の頂点であったタチーハは、戦闘力も身体能力も、大帝に次ぐナンバー2の実力者だった。
エナジードレインによって、大帝やこれまで倒してきた怪人たちのエネルギーを吸収したことによって、今の俺、タチーハの身体は大帝をも凌ぐ力を持っている。
向かうところ敵なしだ。
男の体に未練がないとは言わないが…。
纏っていたタチーハの戦闘服(きわどいレオタードにロンググローブ、ロングブーツを合わせたような見た目だ)を解除し、
私室のクローゼットから地味目の私服を取り出す。
襟ぐりの広いゆったりしたニットワンピに、レースの入った黒いフェイクレザーレギンス。上から薄手のコートを羽織る。
ハンドバッグを持って部屋を出る。
全ての怪人を倒した今、このアジトには俺以外誰もいない。
だが設備はまだ全て生きている。怪人製造プラントも、兵器倉庫もそのままだから、その気になれば俺が新たな組織を立ち上げることだって可能だと思う。
まあ、今のところはそんなつもりはないが…。
偽造の身分証を持って、ブランドのロゴ入りのサングラスをかけ、秘密の出入り口から外へ出る。
行き先は…。
かつての俺――組織に拉致されて蝙蝠男となる前の俺、本郷清彦。その恋人であった双葉が勤めている喫茶店。
7年前のあの日、彼女と婚約した翌日に俺は拉致され、世間的には失踪したことになってしまった。
組織にけじめをつけ、こんな姿になってしまった今、彼女に会わせる顔はないが…。
全てを終わらせた今、ふとひと目会いたいという気持ちがこみ上げてきた…。
男の時と同じような状況になりたいなんて言わない。せめて彼女が元気でいてくれたら。
それだけを思いながら、足はあの場所へと進んでいく。
見慣れた、けれど7年の間に様々な部分が変わってしまった街並み。双葉と共に青春を過ごした街。
自然と足音のペースが早くなる。まだ双葉がそこにいる確証なんて無いのに、そこに居てほしいと願っている。
俺が清彦だ、なんて言えるはずもないのに。
「…着いた。でも…」
喫茶店「ブラザー」の外観は時間の経過を感じさせるが、確かにまだ存在している。
ドアのハンドルを握り、回す。鍵はかかっていない。
意を決して戸を開き、店内に入った。
カランカラン
扉のベルが鳴ると「いらっしゃいませ」と懐かしい声がした。
カウンターの内側から声をかけてきたのは、口ひげを蓄えたマスターだった。
7年分の時が、彼の髪に白いものを混ぜてしまったが、その佇まいは昔と変わらない。
「どうしましたか、お嬢さん?」
懐かしさに思わず入り口に立ち尽くしてしまっていた。不思議そうな顔でマスターが訪ねてくる。
「いえ、なんでもありません」
小さく答ええると、俺は隅の席へと座った。
ブレンドコーヒーを注文する。
7年前とほとんど変わらない内装と、マスターの手際。
しかし店内を見回しても双葉はいなかった。
「はい、どうぞ」
出されたコーヒーに口を付ける。昔と同じ味…のはずだ。でもタチーハの体で味わうそれは、どことなく苦い。
そして…ここには双葉がいない。
以前は静かだった店内はちょっと騒がしかった。
他のお客が普段は電源の入っていないテレビの前に集まり色々と話をしていたからだ。
テレビはどこも緊急特番、特別報道でどこの局でも同じ内容を放送していた。
巨大なテロ組織、内部抗争で壊滅か?百名以上の失踪者に偽装された誘拐された人達が発見される。
俺が警察と各テレビ局に匿名で公衆電話から通報しといたのだ。
もちろん監視カメラや防犯カメラ、あと目撃者がいないように細心の注意を払って、さらに念のためにカメラやモバイル機器が停止する妨害電波を発生するジャマーまで使用して。
悪の組織の首領帝重洲大帝との対決から2日が経過していた。
俺は細心の注意を払い俺=タチーハ将軍の痕跡だけ抹消し内部で大規模戦闘があったことを偽装した。
まぁ偽装といっても本当に無人戦闘マシン群とガチにやりあったから大したことはしていない。
通路や広場のあちこちには銃痕や戦闘マシンのバラバラになった機体が転がっているのだから。
一ヵ月後に開始される予定だった日本占領計画に備え本部であるアジトより規模の大きい前線基地は地上の見た目は地下駐車場を備えた10階建てのビルだ。
だがその地下駐車場の奥に偽装した入り口の先には地上の数十倍の規模があり指令センターや兵器備蓄庫があり
屋上にも偽装された地下の前線基地に直接入れる進入路がある。
テレビに映っている場面は地下駐車場入り口らブルーシートが張られ、規制された路上には近隣からかき集められたであろう数十台の救急車や警察車両が止まり人々がせわしなく動いている。
シートが開くたび救急車がサイレンを響かせ病院に向かっている。
救急車の中には衰弱した元怪人や元戦闘員、組織の科学者達が乗っているのだろう。
タチーハのエナジードレインは力の加減が自由自在だ。
だから俺がかつて誘拐したり寄生して失踪させて怪人に改造された人達や洗脳された人達を気を失わせるだけに留め、
怪人になった人達は改造プラントに元データーを使用して元の改造直前の年齢にまで人間の身体に戻し
洗脳された人達も洗脳装置を使用して洗脳解除した。
それらの装置の起動は生体起動パスで登録されている帝重洲大帝とタチーハ将軍だけができる。
操作盤のタッチーキーもすべて生体認証だから他の誰であろうと操作はできない。
今となってはタチーハ将軍の身体を乗っ取っている俺だけが起動・操作できるので俺以外の元人間全員を人間に戻せた。
だから俺だけは・・・俺だけが蝙蝠怪人の身体から人間の身体に戻れないのだ。
前線基地と本部のアジトでそれらを行い、本部の人間は全て前線基地に移動させてから通報した。
俺が怪人になってやった行いはこれで消えたわけじゃないが、少なくても俺が誘拐・失踪させた人達は元の世界に戻す事だけはできた。
「この中に清彦くんもいるのだろうか?」
普通の人なら耳元でも辛うじて聞き取れるかどうかのボソッと言ったマスターの呟きを声帯の振動を離れた位置でも声として聞き取れる蝙蝠男の身体能力で聞いた俺は表情を変えず、心の中で「俺はここにいます」と叫んだのだった。
ここにいるのに、名乗り出ることはできない。ざわめく店内の中で自分だけが酷く孤独なように感じて、店を出ることにした。
双葉がいないのなら、もうここには用も無い…。
双葉がもう辞めてしまっている、そういう可能性も考慮していた。
だから最初からここには思い出に浸るためだけに来たつもりだった。
でも…。
「ここに、双葉さんという女性がいませんでしたか?」
コーヒーを飲み干し会計を済ませたあと、思わずマスターにそう尋ねてしまった。
「双葉ちゃんか…」
マスターは困った顔で頭を掻いて、意を決したように話を続けた。
「双葉ちゃんはたしかに昔ここで働いていたよ。でも随分前に辞めてしまった。
これは…、双葉ちゃんからは誰にも言わないよう口止めされていたんだけど、なんとなく、貴女になら話してもいいような気がしたから、教えてあげよう」
「7年前、突然彼女の婚約者が失踪した。その直後は本当に、かわいそうなくらい憔悴していたよ…。
でもある日突然、うちに来るなり彼女はこう言い出してね。
この世界には、世間から隠れて人を拉致したり、犯罪を働く秘密結社がいくつも存在する、婚約者の清彦くんはそういった連中に拉致されたのだ。
そして私はそれらと対抗する防衛組織に入って、清彦くんを取り戻すんだ、って。
だからうちの店は辞めるって言い出して。荒唐無稽でとても信じられない話だと思ったよ。でも彼女は頑なだった」
そりゃあそうだ、俺だって実際に組織に拉致されるまでは、怪人秘密結社の存在なんて信じられなかった。
「その次には、彼女は上司だって言う女性を連れてきた。どうやら公安に属する秘密組織らしいんだが、詳しくは教えてもらえなかったよ。
なんでも、特殊な身体強化スーツを纏って、5人組で犯罪結社と戦うんだそうだ。
それきり彼女とは会っていないんだ。今でも元気にしていてくれたらいいんだが」
マスターはそう言って溜息をついた。
5人組…まさか、組織の間で通称“戦隊”と呼ばれていた敵対組織の中に、双葉がいたのだろうか。
俺は戦闘要員ではなかったから、“戦隊”と直接戦ったことは無かったが…。
双葉…、俺のために戦いに身を投じるなんて…。
店を出て駅に向かう。
と、その途中、薄暗いガード下で黒ずくめのマントで体を覆い隠した巨体の男とすれ違った。
こいつは…! うちの組織の言わば競合他社である、犯罪結社TSトロンの怪人に違いない!
今のところは特に何をしようという動きも無さそうだが…。
問題は、このあたりは元々うちの組織の縄張りだってことだ。
そこにこうして余所者がうろついているってことは、国内最大規模だったうちの組織が壊滅したことで、その後釜に座ろうと数多の組織が暗躍を始めているということ…。
最悪の場合、組織の縄張りを奪い合って他の結社同士で抗争が始まる可能性も非常に高い。
警察が突入したのはうちの前線基地であり、本部のアジトは俺の隠れ家として残してある…。
俺が帝重洲大帝の後を継ぎ、縄張りを示し続ければ抗争は防げるだろう…。だがそれは、俺が首領として組織を続けるってことだ。
あるいは、ほかの方法で抗争を防げないか…。
「面倒なことになってきたな…」
そう言いつつ俺は振り向かずにいきなり後ろに手を伸ばして触れた相手にエナジードレインを使用する。
もちろん相手は人間じゃない。
たった今擦れ違った犯罪結社TSトロンの大男の怪人だ。
こいつの目的はわかっている。俺=タチーハのこの美しい身体だろう。
犯罪結社TSトロンも帝重洲大帝と同じく男が女に変身したり乗り移ったりして美女の中身が男って事に拘っていたというか特徴だからな。
エナジードレインから情報を得る。
こいつはやはり女の身体を乗っ取るタイプだ。
相手の中身を情報に変換保存、身体は皮にして着込み成りすます怪人だ。
「相手が悪かったな。そうだ。お前に乗っ取られた振りをして潜入させてもらおうか」
(待てよ。それなら本当にタチーハを皮にした方が怪しまれないな)
俺はタチーハの身体から抜け出して犯罪結社TSトロンの怪人に寄生して身体を乗っ取った。
そのまま怪人の能力を使いタチーハを皮にすると着込んだ。
「コイツかなり上位の怪人だっけあって能力は完璧だな。
タチーハに直接寄生した時と全く変わらない。
今までと同じように生まれた時からこの身体のように俺の意思通り動かせる」
「だが…、どうやら本人の能力自体はタチーハより低いな。これでタチーハを勧誘するつもりだったとは」
大男の体に寄生した事で、受けていた指令の内容も手に取るようだ。
TSトロンは帝重洲大帝が倒された事を報道より先に察知していたようで、唯一生き残っているタチーハを組織に取り込もうと捜索していた。最悪の場合は力尽くでも。
そうしてここに来ているということは、タチーハ(俺)の動きも連中によってある程度把握されていたのだろう。
だがありがたいのは「生存を確認されているのはタチーハのみ」という事だ。蝙蝠男も生きている、という事まではTSトロンは掴んでいる様子は無かった。
大男の持ち物であった通信機を使い、TSトロン支部へ連絡を取る。
「俺だ、タチーハの肉体を確保した。すぐに支部へ戻る」
通信機越しによくやったと快哉を叫ぶ声を聞きながら、俺はこの付近の支部を預かる幹部の元へ向かう事になった。
「おぉ、本当にタチーハじゃないか! よくやったぞ…っと、よくやりましたわ」
支部に戻ると、謁見室で出迎えてくれたのは幹部・ドクトルL(レディー)だった。
一見して深窓の令嬢然とした格好をしているが、中身は老境に入り始めたれっきとした男だというのを、寄生している大男の記憶が教えてくれる。
「すぐに脱いで元に戻せ…、戻しなさい、その上で大首領に引き合わせますわ」
「はい」
タチーハの皮を脱ぎ、皮にした時と逆のプロセスを用いて肉体を元に戻させる。ぺちゃんこに潰れていた体は膨らんで、生気を取り戻した。
「起きろタチーハ! 情けなくも生き残った貴様を、偉大なるTSトロンの大首領は仲間へお迎えすると仰られた! その栄誉を賜らせてあげますわ!」
…………。
「目を覚ませタチーハ! 何故お起きになりませんの!?」
「畏れながらドクトルL。タチーハはそのままでは目覚めないかと」
「何故そう言えるのです?」
「それは…、俺という魂が入ってないからな!」
ドクトルLへ向けて超音波を放ち、僅かに怯ませる。一瞬で大男の背中から這い出ると、再びタチーハの体に寄生した。
翼を広げると同時に、タチーハも怪人の姿へと戻る。
「貴様、タチーハ本人ではないな…!」
「ご明察。だけど沈黙は金、雄弁は銀だ。詳しい事は喋らないでおくよ!」
エナジードレインで大男を死亡一歩手前レベルで吸い尽くし、返す手でドクトルLに迫る。
女性の手が持つには巨大すぎる斧を横薙ぎに振られるが、コウモリ男の翼で飛んで回避、隙だらけの背中を取り、そっと抱きしめる。
「くっ、ワシに何をするつもりだ、っくぅ!」
ドクトルLの肉体用にと、ある財閥のお嬢様のクローン体へ怪人レベルの肉体改造を施したもの。それにドクトルの脳が移植されている。
触れていてわかるこの体の繊細さは、こういうもなんだが少し劣情を催してしまう。
「そうだな。今はドクトルL、アンタと楽しみたい…」
服の中に手を滑り込ませ、ドクトルの小さな胸や太腿を撫でさすりながら、艶やかな吐息を耳元に吹きかけた。
…タチーハの能力、その一つは何度も使っているエナジードレインだ。
だけどそれ以外にも、男女問わず劣情を催させるフェロモンを意識的に放つことが出来るほか、複数の能力を持っている。
さて、それじゃあ1つ…、女同士というのを試させてもらおうかな。
タチーハ将軍は正真正銘の女だが秘密結社帝重洲帝国の四天王にしてナンバー2だけあって女性になった男を女性の快楽に堕とすのが何より好きだった。
相手の本質を見抜きそれに合わせて堕とす膨大な性技のテクニックの知識は俺個人が知っていたエロテクニックの数百倍だ。
勿論タチーハを完全に乗っ取っている今の俺はその全てのテクニックをタチーハと同じく発揮できる。
つまりTSトロンの大幹部ドクトルLはあっという間に堕ちた。
財閥のお嬢様のクローン体になり散々オナニーとかやっていたし、女体化した怪人や女性を乗っ取った男の怪人や戦闘員とレズってはいたようだがタチーハ将軍のテクニックからすればそれ等は児戯に等しい。
「今のタチーハ様の正体が何者でも構いません。ワシ、ドクトルLは貴方様に忠誠を誓います。
今この場でTSトロンを裏切れと仰らればこの瞬間反旗を翻します!」
ドクトルLには表向きTSトロンの大幹部として潜伏してもらいながら、俺の協力者という形に落ち着く。
内側から敵を突き崩すにしても、まずは情報を得る事が必須として、ベッドの上で話をしてもらう。
TSトロンの幹部は、媚薬研究を中心とした科学者のドクトルLを含めて4人。
呪術を使い男を幼女へ変身させる「ロリ男爵」。
包容力(子宮)で相手を娘へと生まれ変わらせる「バブみ大僧正」。
老若男女問わず身体を重ねなければ眠れない「エロイ元帥」。
全員を相手取るのはさすがに骨が折れる為、1人ずつ倒す事が求められる。
帝重洲帝国本部に残した改造プラントで強化改造をする必要もあるかもしれない。
話を聞いていく中で疑問に思った事を、タチーハの尻尾でドクトルLの秘所を貫きながら訪ねる。
「…そういえばドクトルL、TSトロンは“戦隊”との交戦データはあるのか?」
「あっ♥は、はい。あります。あふっ♥ は、激しい♥ 支部の2つが壊滅させられ怪人13名と戦闘員145名が奴らに捕まりました。あン♥
ただこちらもそこの上級怪人カワニシテノットールと同タイプの2号が今朝あった交戦時に、密かに戦隊の1人を皮にする事に成功し現在成りすまして潜伏中です。あっ♥ああ~ン♥♥♥」
「その皮にされた戦隊員の名前は!?」
まさか双葉じゃないだろうな?
拉致られ失踪扱いになった俺の身を案じ、公安の特殊戦隊となり戦いに身を投じた愛する女性ではないかと不安に駆られる。
いくら怪人がその女性の身体から抜け出れば元通りになるとはいえ、今現在進行形でその皮にされた女性隊員は中身が男の怪人に好きなように身体を使われているのだ。
俺の問いにドクトルLの回答は・・・
「は、はいっ。あんっ♥ 我らが宿敵トランスレンジャーのトランスホワイト、白鳥双葉です。ふあぁっ♥」
「なんだって!!」
やはり、双葉が怪人の毒牙にかかってしまっていたのか!
思わず尻尾でドクトルLの秘所を激しく突き上げる。
「ひぁあっ♥ ああっあぁぁああぁ~~~~っ♥♥♥」
激しく絶頂するドクトルL。
「…それでその、ノットール2号をアジトへ帰還させるとか、能力を解除させることはできるか?」
俺の問いかけに、ドクトルLは息も絶え絶え答える。
「そ、それは…難しいですぅ…。ヤツは首領直属の親衛隊で…私には命令権がなくて…。ふぅ…。
ついでにいえば…、ヤツは命令を聞かない可能性も高いです…。
ヤツは好色で残忍、命令よりも自分の欲望を満たす方を取る男で…、独断で勝手に行動することもしばしばなのです…。
今回憎き戦隊の一人を皮にしたのも…命令されてのことではありません…。
戦闘力の高さ、能力の有用さ、そして今回のように大手柄を挙げることも多いので…、首領はヤツを重宝していますが…。
ヤツは…気に入った女を皮にして着込むと…、その体を飽きるまで陵辱し…使い潰すまで脱ぐことはないでしょう…」
ドクトルLの絶望的な言葉に俺は顔を青ざめる。
くそっ、どうすればいい!?
待て、いまドクトルLはこういったな、命令よりも自分の欲望を重視し、しかも好色だと。
ならば、今自分がかぶっている女よりも魅力的な女が目の前に現れたら…どうなる?
「おい」
呼びかけながらぷっくり膨れたクリトリスをつまみあげる。
「はぁんっ! なんでしょうタチーハ様!」
「俺のこの体、お前から見てどう思う?」
「至上の美しさだと思われます!」
「そうか、なら…やつからみてもそう感じるわけだな」
「さようでございま…まさか、タチーハ様!?」
相手は凶暴かつ利己的だ。しかしもたもたしていては双葉の命が危ない。
ならば、多少のリスクは覚悟するしかないのだ。
「俺が一般人を装いやつに接触する。そしてあいつの技で皮にされる瞬間に自ら皮になり、内側に入り込んだやつを吸収する」
「そんな強引な、失敗したらそれまでなのですよ!?」
「もちろん備えはする。知恵を借りるぞドクトルL」
そういって微笑むとドクトルの額にキスを落とした。
ドクトルLの手引きで、密かにTSトロンのアジトから抜け出すことになった。
ドクトルLを早急に陥落させてよかった。
もしもTSトロン大首領にタチーハ捕獲の連絡を入れられてしまっていたら、余計な監視役などが付けられ、自由に行動できなかった可能性もある。
前を行くドクトルLの後について地下通路を歩く。
時々見張り役の戦闘員や他の怪人とすれ違いそうな時には、ドクトルLが密かに合図をくれ、俺はすぐさま物陰に身を隠す。
それにしても…。
しゃなりしゃなりと優雅な身のこなしで歩くドクトルLはいかにもお嬢様然として、とても中身が老境に入りかけた男には見えない。
戦闘員や怪人と言葉を交わすときにも、その優雅な様子は崩れない。
長いエレベータを降りると、路地裏の裏寂れた雑居ビルに出た。
ここが秘密の出入り口のひとつだというわけだ。回収してきた私服に着替えなおして地上に出る。
通りまで歩いたところで、ドクトルLは携帯端末を取り出し、どこかに連絡をした。
――と、すぐさま黒塗りの高級車が目の前に停まる。
「さ、どうぞ。お乗り下さいタチーハお姉様」
車から出てきた黒服が扉を開け、俺とドクトルLは並んでその後部座席に乗り込んだ。
「そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですのよ、タチーハお姉様。この者たちは言わば、私の表の顔での部下ですわ」
そう言って、ドクトルLは己の経歴について語り始めた。
ドクトルLは元々、老境に差し掛かった孤高の天才科学者だった。ただし、度を越した研究によって学会を破門にされるタイプの、いわゆるマッドサイエンティストだ。
それがTSトロンにスカウトされ、怪人化改造を受ける際に、松戸院財閥の一人娘、松戸院 彩子のクローン体へと脳を移植された。
このとき松戸院財閥の現当主とドクトルLの間で密約が交わされた。
本物の松戸院 彩子はすでに病死しており…、その死を隠蔽するため、ドクトルLがその替え玉として松戸院 彩子として生活すること。
その約束さえ守れば、怪人として活動しようが松戸院財閥は関知しない。そういう契約だ。
「だから私はTSトロンの幹部としての活動と同時に、松戸院 彩子として女子校に通ったり、華道や茶道、ピアノにバイオリンを習ったり、大変な生活をしておりますのよ。
あと、将来的には松戸院家の跡継ぎを遺す為に誰か殿方と子を生すことが決まっておりますし」
#ドクトルLイメージ画 左が人間態 右が怪人態
「それは…、意外に苦労しているんだな、ドクトルL…」
「外ではその呼び名はおやめ下さいませお姉様。彩子、とお呼びください。お姉様もタチーハは怪人名でしょう? 外で使う為の名前はありませんの?」
ドクトルL…もとい彩子の言葉に一瞬考える。
「そうだな…、じゃあ俺のことは本郷 太刀葉と呼んでくれ」
これは俺がこのタチーハの体を使うと決めたときに考えた偽名だ。手持ちの偽造身分証にも本郷 太刀葉と記してある。
「わかりましたわ太刀葉お姉様」
「そんなわけで、この黒服たちは松戸院家が私に付けたSPですの。
私の戦闘力ならボディガードなんて必要ないって言いましたのに、過保護なお爺様が無理やり用意なさったの」
「替え玉の割りに大事にされているんだな」
「お爺様は私のことを、替え玉とわかっていながら溺愛なさっているの。
どうも、本物の彩子は相当のはねっかえり娘で、お爺様と上手くいってなかったらしくて…。その分私を可愛がっているみたい」
「そろそろ松戸院家の屋敷に着きますわよ。私の私室ならTSトロンの監視装置もありません。
ノットール2号についての対策を考えるならそこがよろしいかと思いますわ」
通された彩子の大きな部屋は、一目で一級とわかる調度品で整えられている、お嬢様としての部屋だった。
お客様という事でお茶と茶菓子の用意がされ、本当に二人きりになった直後に、彩子は良く通る声で宣言した。
「地下研究室へ移動、IN・OUT双方へのシャットダウン。
同時に以後ドクトルLへの全研究室に、本郷太刀葉/怪人タチーハの通行許可発行」
俺達の座る椅子と、お茶が乗せられたテーブルが、エレベーターの様に下へと降りていく。
しばらく降下した後、俺達は彩子の言ったとおりの研究室へと到着した。
「これは凄いな、松戸院家の地下にこんな所があったのか」
「私の研究成果でお爺さまのポケットマネーが増えましたので、それで作っていただいた研究室ですわ。
個人的な研究をしている事もあって、ここに入れるのは私とお爺様、そして太刀葉お姉さまだけです。
残念ながら、TSトロン大首領とのホットラインだけは設置しなければいけなくなりましたけど」
椅子から立ち上がって移動し、ちょこんと彩子は俺の膝の上に座る。嬉しそうに体を預けてくる為、止めてくれとも言い難い。
「太刀葉お姉様、こちらがトランスレンジャーの情報です。ご覧になってください」
渡されたタブレットの画面を見ながら、TSトロンが収集したトランスレンジャーの情報に目を通す。
公安が秘密裏に設立し、秘密結社帝重洲帝国やTSトロンなどといった、いわゆる“悪の組織”を相手とする戦闘チーム。
各自のカラーと戦闘スタイルを持ち、チームならではの連携を以て戦闘する5人組。たまに6人目が来る。
基本的には志願者、または素質がある者で構成されている。
俺が失踪してしまった7年前よりも以前に構想がされていたようで、帝重洲帝国の行動が活発化してきた事を切欠に活動を開始した。
主な内容を見進めていくと、歴代のメンバーが表示されていく。
怪我や各員の事情等によりメンバーの入れ替わりが何度か起こっているようだが、比較的上の部分に、あった。
トランスホワイト、白鳥双葉。
6年以上のキャリアを持ち、現場を引っ張るよりは他者のサポートを得意としている。
その名前を見ただけで、タブレットを握る手に力が入る。パキリと音がした事で、ようやく我に返れた。
「…太刀葉お姉様、先程もトランスホワイトの事をひどく気にしておられるようでしたが、彼女とどういった関係だったのですか?」
「気になるのか、彩子」
「当然ですわ、今の私が忠誠を誓う太刀葉お姉様の事ですもの。何故そこまで腐心なされるのか、理由を可能な限り知っておきたいのです」
見上げてくる彩子の、疑問に思うと同時に少しだけ拗ねているような表情を見下ろす。
…乱暴な手段で堕としたとはいえ、こうまで言ってくれる彩子だ。何も言わない事の方が良くないだろう。
ぽつりぽつりと、語りだした。元男だった俺の、本郷清彦の婚約者である双葉の事を、思い返すごとに懐かしみながら。
すっかり紅茶が冷めてしまう程に時間をかけて語り終えると、彩子は俺の体に抱き付いてきた。
「…少し、双葉さんの事が妬ましいですわ。そんな事になっても太刀葉お姉様…あなたに想われている事に。
私はあなたに尽くします、尽くしますが…。
お願い申し上げます、彼女を助けられたからといって、捨てないで下さいまし」
見た目の年齢相応に縋りついてくる彩子をそっと抱きしめて、落ち着くまで背中を撫でていた。
椅子と机が上昇し研究室から彩子の部屋に戻るとメイドが部屋を清掃していた。
メイドは俺達が部屋に戻ってきたことに気付くと「お茶のお代わりをお持ちします」と言って部屋を出ていこうとした。
「待ちなさい、ノットール1号。貴方、葉月に恥をかかせるつもり?」
彩子に言われて葉月という名前のメイドなのだろう。
メイドはハッと指摘された理由に気付き、顔を染め慌てて捲れていたスカートを直すと
「失礼しました。気を付けます」と返事して出ていった。
「彼女は葉月。本物の彩子の頃からの私の専属メイドです。今の中身はノットール1号ですが。
勿論本物の葉月は私がドクトルLでもあることを知っています。
ノットール1号が私の護衛として松戸院家に来ている時は自ら葉月が1号に身体を提供していますのよ。
本当に良くできた娘なのです」
さっきまでは容姿相応な感じだったのに、今は自分の子供の事を話す親のように大人びて見える。
「それだけに伝令に来たノットール2号が葉月を気に入って先週までの2ヶ月もの間、葉月の身体を好き勝手していたことが許せん!
産みの親であるワシに対する態度も腹立たしいがそんなことより葉月や今まで奴が乗っ取った女性達への態度じゃ!
TSトロン大首領のお気に入りでなければ粛清してやったものを!」
途中から彩子からドクトルLになったな。
マッドサイエンティストだし悪の組織の大幹部なのだが人情味溢れるおっさんなんだな。
「ハァハァ、失礼しました。太刀葉お姉様」
落ちていたところで中身がノットール1号のメイドの葉月がお代わりのお茶を持ってきたので美味しい頂いた。
尚、ノットール1号は彩子=ドクトルLの直属の部下でありドクトル自身に忠誠を誓っていたので自動的に俺にも忠誠を尽くすようになった。
また完璧な奇襲な筈だったのに看破され、圧倒的戦闘力であっさり無力化され身体を支配されたことで格の違いを思い知らされ俺を勝手に崇拝しているとの事。
怪人に崇拝されるとはなんか複雑な気分だ。
その頃、トランスレンジャーのトランスホワイト、白鳥双葉を皮にしてまんまと成りすまして秘密基地に潜入したカワニシテノットール2号はトイレの中でオナニーしながら心の中で悪態をついていた。
(畜生、まさか記憶が読めないとは!双葉め、皮にされた瞬間に何らかの方法で記憶をブロックしやがったな。
記憶が読めれば楽に俺の計画を実行できたものを。
まぁいい。俺の演技力を持ってすれば成りすますなぞ簡単。
トランスレンジャーをぐちゃぐちゃにかき乱して仲間割れさせるのも良し。
敵対組織をトランスレンジャーのトランスホワイト、白鳥双葉としてぶっ潰すのも面白い。
くっくっくっ、さて、どうしてくれようかwww)
「んっくぅ、それにしても双葉の奴…、随分と溜まってるみてぇだな。
このエロい体なら他の連中ともズッコンバッコンヤリまくれるだろうに、つまんねぇ奴だ。
どうせなら、俺が双葉のフリをして、他の連中相手に色々してやるのもいいかもな。
そんで、双葉の体で快楽の天国と、その双葉に裏切られる地獄を、与えてやる…っ、うはぁっ!!」
双葉の肉体で絶頂しながらノットール2号は策謀を巡らせる。
「あぁそうだ、どうせならトランスホワイトとして暴れてやって、トランスレンジャーの名前を地に落としてやるのも良いな…。
何せ今は俺が白鳥双葉なんだ、強化スーツは着れるし、好き放題できるじゃないか」
愛液で濡れたままの股間を拭かずパンツを穿き、服を整える。表面上は双葉を装い、記憶が使えず外出に苦労しつつも、ノットール2号は秘密基地の外に出ていった。
* * *
『太刀葉様、2号の反応がありました。市街地に向かっているようです』
同型故の信号感知能力により、葉月ことノットール1号が俺に2号の存在を教えてくれる。
素体になった人間が違う為、1号と2号とでは大分性格が違う。2号の行動は葉月だけでなく、葉月の体を使う1号も腹に据えかねていたようだ。
「ありがとう葉月、すぐに向かう。…ドクトルL、2号からの通信ログの解析は済んでいるか?」
『完了しておるわ。2号の奴め、大首領への定期連絡もしておらんようでな、完全に独断のようじゃ』
「それを見過ごされているんだから、随分と大首領に気に入られてるんだな」
『だからこそ2号がやられても事故で処理できるんじゃがな』
ドクトルLとも通信越しに会話する。どうやらこちらの想定通りのようだ。
好色で利己的なら、このタチーハの体とフェロモンには必ず反応する筈だ。
さらにはドクトルLの媚薬を混ぜる事で、奴の視線を俺に誘導する。
…こんな形で再開したくはなかったが、それもすべては双葉を助ける為だ。
息を吸い、覚悟を決める。
「待ってろよ双葉、今奴を体から抜き出してやるからな」
「ふっ…ああっ、んんっ♥ ふあぁっ♥」
薄暗いカラオケボックスの部屋に嬌声が響く。
「あああぁぁ…んっ♥」
一際大きな叫びを上げると…声の主、白鳥双葉は体を大きく痙攣させ…絶頂した。
「はぁ…はぁ…」
荒い息を吐きながら立ち上がると、股間から黒く光るバイブを抜き取り…、ニヤリと笑みを浮かべる。
「んんっ、私は白鳥双葉。今年で25歳になる警察官…は表の姿。その正体は公安の秘密組織、トランスレンジャーのトランスホワイト!」
その場でポーズを決める双葉。その姿は普段のトランスホワイトと比べても遜色の無い動きだ。
「ふぅぅ~。読めてきた。だんだんと読めてきたぜぇ。記憶のブロックなんて小賢しい技術、俺様には通用しねぇんだ。
身体が絶頂するたび、ブロックした記憶が少しずつ漏れてきて俺様のものになるわけよ。
そろそろこの女としてバレずに日常生活が送れるくらいには記憶も手に入ったし、トランスレンジャーに天国と地獄を見せてやろうじゃねぇか…!」
カラオケを出て街を歩く双葉。その仕草は先ほどここに来るまでと見違えるほど、双葉そのものの動きだ。
ただし…スカートの裾は先ほどより10センチも上げられ、その内側では下着を履かずにパンストを直に履いている。
カーティガンは脱いで鞄に仕舞われ、その胸は歩みに合わせて激しく揺れる…ノーブラであった。
「もっと際どい服はねぇのか…。まあいい、帰ったらクローゼットを漁って、見つからなきゃこの女の金で買えばいい。
今は俺様が双葉なんだ。この女を俺の好きなように染め上げてやるぜ…! ククク…ハァーッハッハ!」
双葉はトランスレンジャー基地に隣接した、職員女子寮へと帰ってきた。
ここは最新鋭のセキュリティで守られており、敵である怪人やいかなる脅威も立ち入ることができない。
指紋や声門、虹彩のチェックもパスし、先ほど読み取った記憶からロックの解除キーワードも難なく答え、双葉は寮へと入り込んだ。
そして自室のドアをノックし、入る。
「ただいま瑞葉。今戻ったわ」
「あ、おかえりなさい双葉先輩!」
双葉を迎え入れたのは、この寮で同室の後輩であり、トランスレンジャーのトランスイエロー、大石瑞葉だった。
「あ、先輩。私今からお風呂行こうと思ってたんですが、良かったら先輩も一緒に行きませんか?」
「ええ、いいわね。準備するからちょっと待って」
(くくくっこれは好都合だぜ…!)
瑞葉の申し出に内心でほくそ笑むノットール2号。
大浴場の脱衣場で瑞葉が双葉=ノットール2号に
「双葉先輩が帰ってくる直前なんですけど今朝、先輩が発見保護した女子高生は精密検査の結果も異常もなく無事ご両親の元に帰ったそうです」
「そう、良かったわ」
「でもやはり怪人に身体を乗っ取られていた痕跡はあったそうです。
記憶も断片的で彼女を乗っ取っていた怪人はわざとそうして被害者の女子高生に自分の意思で行動していたように錯覚させたり、本人の意識を眠らせて怪人が彼女に成りすまして行動していたようです。
幸い肉体的には全く異常はなかったそうですが、最近行動が活発化しているTSトロンの女性を皮にして乗っ取る怪人の仕業の可能性が高いとドクターは言ってました」
「恐ろしい相手ね。今もどこかで女性の皮を着て化けているのかも知れないわね。
なんとしても見つけて倒しましょう!」
「ハイ、先輩!」
ププ😁💨💨お前の目の前にいるけどなwww
「それにしても良かったです。双葉先輩も元に戻ったみたいで」
「…どうかしたの?」
瑞葉が服を脱いでいる所をチラチラ見ていると、ふとそんなことを言われた。
「だって今朝、基地に帰ってきた先輩ってどこか上の空みたいでしたから」
「えぇそうね…。少し滅入ってたみたい…」
「今はそんな事も無いみたいですけど、外出して少しは気晴らし出来ましたか?」
やはり同室なだけはあるな、双葉の記憶が読めてなくぎこちない時の姿は、瑞葉の目にも不自然に映ってたようだ。
そもそもあの女子高生を引き渡す際に会ってたのも大きい、が…。
「ありがとう瑞葉。でも大丈夫よ、アレくらいで落ち込んでなんかいられないわ。私にはもっとヤらなきゃいけないことがあるんだもの」
(そう、白鳥双葉として、この体の開発をしたり、トランスレンジャーをぶっ潰したりな)
お互いにタオルで前を隠し、瑞葉と並んで大浴場に入る。
まずは体を洗ってから入らなきゃならねぇのが面倒くせぇが、
「先輩、お背中流しますね」
と瑞葉が言った事で、互いに背中を洗う事になった。双葉の記憶じゃ、一緒に風呂に入った時はよくやりあってる事だった。
泡立ったスポンジで背中を洗う瑞葉の手は、“いつも通り”の感触だ。
(くくっ、良い気持ちだよ瑞葉。手前が背中を流してる相手が、倒すと意気込んでる怪人と思いもよらずになぁ)
立場を変え、今度は俺が瑞葉の背中を洗う側になった。よくよく見るとコイツも上玉だよな、双葉の次は瑞葉の体に入ってやってもいいかもしれねぇ。
「ひゃっ! ふ、双葉先輩っ?」
「ごめんね瑞葉、ちょっと力加減間違えちゃったかも」
ハプニングを装って、瑞葉の胸を揉んでやる。こいつは…、ふぅん? 中々イイ感じじゃねぇか。
驚いてるだけで嫌がってる様子はねぇな。
そのまま後ろから抱きしめてやると、面白いように顔を赤くしてやがる。
この反応、この感触、くくくくっ、いけるなwww
俺がカワニシテノットール2号として生まれ変わってからこの1年、何人もの女に成りすまして友達や同僚とレズって数多くのレズカップルを誕生させてきた。
別にレズ好きってワケじゃねえが抱くなら女が良いし、それも俺好みの美人や美少女が一番だろ。
もちろん自分が成るのも美人や美少女になるのが良いし、俺にはその能力があるw
女になって女同士楽しむのも好きだし、俺がいい女になって男共にちやほやされるのも楽しいものだ。
中身が俺と気づかず男共がその女に成りすましている俺の気を引こうと必死な様は見ていて痛快だし、ちょっと気のある振りをして手玉に取るのも爽快だwww
さて、どうやら瑞葉はレズってワケじゃないがこの反応からすると仲の良い先輩後輩以上に俺が今成りすましている双葉に好意以上の感情を持っているようだ。
ふふふっ、いきなり乱暴に襲い掛かって犯るより、
双葉に成りすまして俺がうまく誘導してレズる方向に持っていくのがなにより楽しいのだ。
上手く演じて美味しく頂いてやるぜw
「もう、双葉先輩ったら。やっぱりまだ変な感じですよ?」
「そうかしら。でも、だとしたら瑞葉のおかげかもね」
「ふぇ…?」
さっきのはアクシデントとばかりに、いつも通りに瑞葉の背中を洗いながらそっと呟いていく。
「瑞葉がいてくれたおかげで、とても助かってるの。
前の私は…、婚約者が拉致された事でこの仕事に就いたわ。取り戻すつもりで戦ってきて、少し疲れてもいたの。
その時瑞葉が来てくれて、先輩と言ってくれたおかげで、私のやってきたことは間違ってなかったなって思えるようになったのよ」
双葉の記憶を探りながら誘導する。…にしても、この本郷清彦って奴の記憶は、ずいぶん深い所にあるな。ここの部分だけは切り離しておかないと、引っ張られるかもしれねぇ。
「だから、ちゃんと言わせて。ありがとう、瑞葉」
「先輩…!」
正面から向き合って、双葉としての笑顔でにっこりと笑ってやる。大抵の男ならこれで気を惹けるだろう、極上の笑顔でだ。
くくくっ、瑞葉の奴め、感動のあまり泣きかけてやがるw
ふはははっwww
最高の気分だ♪
成りすまし怪人の真骨頂ってやつだな!(二重の意味で)
郊外のスーパー銭湯並みにかなり広い大浴場だが今は俺(双葉)と瑞葉だけの二人だけだ。
この場で始めるのもスリルがあって面白いし、部屋に戻って邪魔が入ることなく楽しむのもありだ。
優しい先輩のフリをしながら心の中ではこの後のお楽しみをどうするかほくそ笑みを浮かべていた。
「双葉先輩…!」
考えていると、唐突に瑞葉が俺の体に抱きついてきた。触れ合う女同士の体は柔かくて、つい襲ってしまいたくなる。
そんな心中での躊躇をしていると、次は唇が重ねられた。
「ん…っ?」
違和感が襲ったのは、次の瞬間だった。瑞葉の口の中にあった何かが、俺の体に流し込まれる。
「瑞葉、あなた一体…っ、あっ、っひ、んおぉぉう! 何だこれぇぇ!?」
あっという間に身体が火照って股間から愛液が漏れだす。双葉として取り繕う事も出来なくなりそうな程の疼きが、体中を走った。
瑞葉はそんな俺を見て、にやりと笑っている。ちょっとでも気を抜くと暴れ出してしまいそうな欲望を抑えながら瑞葉を見…、鏡に映る背中が、裂けた。
「カワニシテノットール2号、双葉の体を返してもらうぞ!」
中から出てきたのは、
「手前…! 確か、帝重洲帝国の、タチーハ…!?」
* * *
時は少し遡る。
「それで太刀葉お姉様、ノットール2号の前に姿を現して自らを囮にするのですか?」
「俺は本来蝙蝠男だからな、本体部分がやられなければ大丈夫…、ではある」
主な作戦としては、フェロモンと媚薬の合わせ技で俺を狙わせる方針だ。その場合タチーハの体が優先対象になるだろう。
「葉月、確かカワニシテノットールは皮の重ね着が出来ないんだったな?」
「えぇ。複数枚重ねて着用すると、外部の記憶取得などに難が出てしまいますから。
その分皮にする能力と、着脱の速度だけはかなりの物ですが」
「タチーハの体を狙う時には、奴は双葉の皮を脱ぐだろう。…本体が出てる時に倒せればそれで良い。
だがもしタチーハの体を取られてしまった場合は…」
そうなれば確実に俺は殺されるだろう。幹部怪人と、戦闘能力のほとんどない隠密行動用怪人との戦力差なんて考えるのも馬鹿らしいほどだ。
作戦要項を詰めながら、ドクトルがそれを纏めていく。
「であれば、ノットール2号が倒せる状態であれば即座に行動を。
もし怪人タチーハの体が取られる場合は…」
「…俺が双葉の肉体に寄生し、保護しよう」
「双葉さんのルームメイトのデータもありますし、私が近付いて皮にします。太刀葉様はそれを着用して、2号に接近してください」
「戦隊の本部に食い込む、リスクの高い作戦だが…、時間はかけられない。やるぞ」
全て3分以内にこの場で片付けなければならない!
しかも威力の強い怪人エネルギーを放出するビームや音波衝撃砲等の飛び道具系を封印して肉弾戦だけでだ!
俺が抜け出した為に瑞葉ちゃんは3分で意識を取り戻す。
そうなれば俺がノットール2号に乗っ取っられた双葉を救出しようとしているとは思わずに
即座にトランスレンジャー・トランスイエローに変身して怪人侵入の緊急連絡をしつつ襲い掛かってくるだろう。
またここは難攻不落の戦隊本部のお膝元。
救援を呼ばれればあっという間に俺達全員お陀仏だ。
だから意識を取り戻す前に決着をつけ、俺は再び瑞葉ちゃんにならなければならない。
またこの場所が大浴場だから防衛システムがないが瑞葉ちゃんになって、ちょっとこの寮内を見てみただけでも
更衣室や通路、食堂、隊員各居室等 至るところにセンサーや防衛システム、迎撃システムが組み込まれている。
この大浴場から1歩でも出れば皮を脱いだ俺達を即座に感知、作動するだろう。
出なくても怪人エネルギーを撃ち出す射撃型技はダメだ。
感知、作動すればレーザー砲や冷凍光線、熱線ブラスターや重マシンガン等の対怪人用火器に
天井や壁から免疫細胞のように迎撃ドローン(ガンダムF91のバグみたいなモノ)が殺到する。
だからこそ唯一の安全地帯で都合の良いこの大浴場に誘い込んだのだが。
ここまでは予定通りだ!
ノットール2号!貴様を倒し双葉を解放する!
だが意外にも、ノットール2号の判断は冷静だった。
瞬時に人間離れしたスピードで距離をとり、腕のブレスレットを作動させ変身する。
「変身ッ! トランスホワイト!!」
さらにブレスレットの通信機能でトランスレンジャー本部に連絡を取る。
「緊急事態! 緊急事態! 大浴場に元帝重洲帝国のタチーハ将軍が出現しました! 応援求む!」
室内に警報が鳴り響くとともに、迎撃ドローンや寮内の一般隊員が集まってきた。
ノットール2号は内心で激しく焦りながらも…自分でも驚くほど冷静に事態に対処していた。
ひっ、ふぅっ、媚薬か何かを飲まされたようだが、ま、まずは“肉体操作”で肝臓をフル回転! 媚薬を分解する…。
“肉体操作”は俺が他人を皮にする能力を使いこなすべく、独自に研究した末に編み出した秘技のひとつ!
本来は身体能力を強化して戦闘につかったり、肉体の巨乳化やペニスを生やしたり、顔を作り変えるなど俺の趣味に使っているのだが…、
内臓機能を強化すれば毒の分解も可能だ。
身体強化などは俺が皮を脱ぐと解除されてしまうが、巨乳化等の身体表面の変形程度なら脱いだ後も皮にした身体に変形を残すことも可能。
同時にトランスホワイトに変身する。
この変身過程はまるで毎日やっているかのように、反射的に行うことができた。
まるで俺自身が双葉そのものになったような自然さだった。だがそこに疑問を感じている暇は今は無い。
変身すると強化スーツにより、単独で怪人と戦えるだけの力を得ることができる。
そこに身体能力強化を重ねることによって段違いの戦闘力が得られるってわけよ!
しかし妙だぜ…。
俺がこうしてトランスレンジャーに潜入していることは、大首領様か同型のノットール1号、あとはその上司のドクトルLくらいしか知らないはずだ。
それがどうして帝重洲帝国のタチーハがこうしてここにいるんだ?
しかも、こりゃどう見ても俺を狙ってやってきたとしか思えねぇ。
タチーハは滅茶苦茶いい女だ、それこそ隙あらば皮にしてやりてぇくらいだ。
だが、何度も修羅場をくぐってきた俺の勘ってヤツが激しく警鐘を鳴らしてる!
こいつはダメだ。今はとにかく保身を優先するべきだ。
なにしろ、俺はトランスレンジャーにまだ天国も地獄もどちらも味わわせてねぇ!
ここで死ぬわけにはいかねぇんだ!!
さらに、センサーのないこの部屋を出る前に、大首領様に救難信号を飛ばしておく。
ノットール1号の裏切りの可能性も示唆しておく。
ここまでの判断を瞬時にすませたノットール2号は、トランスホワイトとしてタチーハと対峙する。
「こんなところまで侵入するなんて油断も隙も無いわね、女怪人! トランスレンジャーが正義の鉄槌を下してあげる!!」
そこに、警報の音で予想以上に早く目を覚ました瑞葉。
「うっ、うう…、私は一体…、はっ! 先輩! 加勢します! 変身、トランスイエロー!」
「瑞葉! 合体技で攻撃するわよ!」
「はいっ先輩!」
トランスホワイトとトランスイエロー、二人の持つブラスターのビームを空中で収束させ、ひとつの大きなビームとして撃ち出す。
「「エレクトリック・アロー!」」
強力なビーム、さらに、一般隊員の援護射撃がタチーハを襲う!!
咄嗟にタチーハは将軍クラスだけが展開できる強力なエネルギーシールドを何重にも張ったようだがさすがにこの距離だ。
バリアーを貫いたエレクトリック・アローが直撃して吹き飛ばされたように見えたが爆発と爆煙、大浴場の壁が崩落し目視できない。
トランスレンジャーのスーツの各種センサーも爆発エネルギーの影響でタチーハ将軍の姿を感知できない。
殺ったにしても死んでなかったにしても今の攻撃ならただじゃ済まない。
上手くすればタチーハ将軍の身体を手に入れられるかもしれない。
正直まだトランスレンジャーに天国も地獄も与えていないし
今の俺の身体となっているトランスレンジャー・トランスホワイトの双葉の身体も美人だし戦隊員の立場も魅力的だが、それ以上にタチーハの身体が魅力的なのだ!
タチーハ将軍の身体を乗っ取り、タチーハ将軍の身体能力と俺の怪人能力を全部逃走に振り込めばこの場から緊急離脱できる可能性は高い。
傷が癒えたらノットール1号が裏切ったかどうか俺自らがタチーハの身体で尋問しても良い。
勿論ノットール1号が葉月を着ている時にだ。
「瑞葉!私が突入して調べるわ!貴女はこの場で援護して!」
「危険です!ドローンを突入させて確認してからが」
「待っている間にタチーハ将軍が意識を回復してまた襲い掛かってくるかも知れないし逃走する可能性もある。
今ならとどめを刺せるチャンスかも知れないの。行くわ!」
双葉=ノットール2号は突入した。
爆煙の中を警戒しながら慎重に進むトランスホワイト=ノットール2号。
勿論、突入したと同時にリンクをオフにしてイエロー(瑞葉)にデータや状況を伝えないようにした。
(見つけたぜ。ちょっと煤けているが・・・ってあれだけの攻撃を受けて汚れてちょっと怪我しただけかよw
予想以上の頑丈な身体だな。まぁさすがに意識はないか。
スーツのセンサーにも意識がないと認識している。
だが体内エネルギーが上昇して数分後には覚醒するとセンサーとデータは言っている。
まぁ俺がタチーハになるには30秒と掛からないがな。
「・・・ん」
スゲエ回復力w
勿体ないし惜しいが双葉の身体とはここでお別れだ。
「トランススーツ、解除」
双葉の声紋認証でスーツが解除され、俺は人間の双葉になった。
そのまま双葉の身体から脱皮しようとした瞬間、
「待っていたぜ。この瞬間をな」
知らない男の声が背後からした直後、ノットール2号は意識を失った。
まさにセミの羽化状態みたく双葉の背中から現れたノットール2号に俺は背後から襲い掛かって奴に寄生した!
エレクトリック・アローを至近距離から直撃を受けて咄嗟にバリアーで防御したもののマジに吹っ飛ばされた。
だがそれが幸いし見事な目くらましになった。
だからタチーハの背中から俺本体で抜け出し、すぐに来るであろうノットール2号をタチーハの身体を餌に待ち伏せした。
予感は的中!
奴はタチーハの身体に夢中で背後に隠れた俺に気付いていなかった。
こうして俺はノットール2号に寄生し肉体を支配した。
このまま2号の能力を使用し、双葉になってこの7年間の記憶を知りたい衝動に駆られたし
愛した双葉に僅かな時間でもいいから一心同体になりたかった。
だがずっと深層意識の奥に押し込み 例え俺が中にいなくても目覚めるとは思っていなかったタチーハ将軍の意識が
先ほどの猛攻の影響や俺が限界近くまでタチーハの能力を使用した影響からか意識が目覚めようとしていた。
だから俺は今度はノットール2号の身体と能力でタチーハ将軍を皮にして着込んで乗っ取った。
乗っ取ったことでタチーハ将軍の意識は再び深い眠りに就いた。
ふぅ・・・。
ノットール1号がこの場にいてくれたら・・・。
だが居ないものは仕方がない。
後はこの場から全力で離脱して生き延びることだ。
「愛しているよ。双葉」
タチーハ将軍の身体でそっと優しく双葉を抱きしめる。
中身はノットール2号だったし、俺は俺で双葉の後輩のトランスレンジャー・トランスイエローの大石瑞葉ちゃんの身体だったが
身体は本物の双葉の先ほどの7年振りのキスは俺に力を与えてくれた。
「生き延びて・・・いつまでも双葉を守るよ。もう双葉に愛する人がいて家族がいても。旦那も子供も全て俺が守ってやる。
じゃあな、双葉」
先ほどまで俺がなっていた大石瑞葉ちゃんが知る限りの記憶では今も双葉は誰とも付き合っていなかったようだが。
「現れたぞ!撃て!」
外側から展開した隊員達からの一斉射撃!
その銃撃を防御シールド展開して防ぎつつ高速低空飛行で突破する!
さすがにこの事態が始まって5分もしていないからまだ重攻撃ヘリやVTOL戦闘機はいないがスクランブル発進し、間違いなくこちらに急行しているだろう。
さすがにそれ等を防御だけで撃墜しないで相手をするのは無理だ。
だが手が出せない人口密集地まで逃げれば俺の勝ちだ!
生体ステルス、人間モードになればもう追うのは無理だからな。
郊外の鉄道高架橋の下に一台の中型トラックが駐車していた。
見た目はどこにもいる配送会社のトラックだがその荷台の中身は配送会社のそれではなかった。
最新鋭の機材や調整槽を備えるドクトルLの移動ラボだからだ。
追跡ドローンを振り切り、この周辺の監視カメラを避けてそのトラックの荷台に滑り込む。
ドクトルL=松戸院 彩子と事前に打ち合わせした待機場所だからだ。
「嗚呼、こんなにお怪我をして!直ぐに治療しましょう」
「大丈夫。大したことはない」
「もう。ご自身をもっと大切になさってください。
でもお姉様嬉しそう。その笑みから作戦は成功されたのですね。おめでとうございます」
「ありがとう。二人のお陰だ。感謝している」
「お役にたてて光栄ですわ。さぁ治療槽のご用意は出来ています。中でゆっくりおやすみしてくださいませ」
松戸院 彩子モードのドクトルLがそう言ってくれたし直ぐにでも浸かりたかったが
「今、俺が乗っ取っているノットール2号なんだがコイツがTSトロンの大首領に『1号に造反行為の疑いあり』と発信した。
本部近くだし通信はジャミングされて届いていない可能性の方が高いがそれでも充分警戒してくれ」
「わかりましたわ。お姉様」
「かしこまりました。太刀葉様」と中身はノットール1号の葉月も返事をした。
結論から言えば杞憂だった。
やはり敵性怪人侵入・交戦中の寮の大浴場から発信された発信源不明の通信は即座にジャミングが掛けられ相殺されていた。
またドクトルLの手引きで犯罪結社TSトロン本部の指令通信要員の女性に寄生してあの日の通信内容の記憶を探ったがやはり傍受していなかった。
さて、次は今俺が寄生して支配下にあるノットール2号の処置だ。
カワニシテノットール2号は頭部に数百本のコードを接続されて調整水槽の中にいた。
「あの日、太刀葉お姉様が双葉さんの中からノットール2号を排除しなかったらどうなっていたかわかりますわ。
外から観察している私達には仮想世界ですがノットール2号にとっては現実なので」
正面の大型モニターにはまさに大浴場でいい感じになり、部屋に戻った双葉(に成りすましているノットール2号)が
後輩でトランスレンジャー・トランスイエロー 大石瑞葉との様子が映っている。
ノットール2号が双葉に成りすまして言葉巧みにレズに誘い込んでいるところだ。
ノットール2号は言葉巧みに大石瑞葉を篭絡し、調教の末にレズ奴隷に堕としていく。
それと同時に、同じく女性隊員であるトランスブルーをまで毒牙にかけ、自分に依存するように仕向けていく。
そこまでの間に何度も絶頂を経験したノットール2号はついに双葉の記憶全てを手に入れる。
また、ノットール2号自身の能力も成長し、“肉体操作”を発展させて“肉体同化”の能力を獲得する。
これは皮にして着込んだ肉体を己に同化吸収することで、ノットール2号本体の肉体そのものをその姿に変化させる――つまり、ノットール2号が双葉そのものになる、というものだった。
外見は双葉をベースに、ノットール2号の欲望を反映してさらに巨乳化しグラマラスとなり、能力はノットール2号と双葉の力を合わせた強力なものとなる。
さらにその状態のまま怪人化(双葉の外見に際どいコスチュームを纏い、角や牙、爪が伸び戦闘力が向上する)したり、その上でトランスホワイトへと変身もできる。
こうして得た力によってトランスレンジャー本部を掌握したノットール2号=双葉は、トランスレンジャーの女司令までも快楽に堕とし、代わりに自らが新司令として君臨する。
そうしてTSトロンと裏で協力し競合勢力である他の秘密結社を壊滅させつつ、頃合を見てTSトロン大首領を倒し、自らが世界を征服する…。
恐るべき映像に俺もドクトルLも思わず絶句する。
「なんということだ…、あのまま放置していたらとんでもないことになるところだったというのか…」
「も、もちろんこれはすべてノットール2号に都合よく事が進んだ場合のシミュレーションですわ。必ずしもこうなるとは限りません…」
「しかしとにかく、早いうちに双葉を救出できてよかった…」
胸をなでおろし溜息をつく。
「しかし、このノットール2号の能力の急速な成長性には驚くものがありますわ。
最初に私が怪人として調整した時には、“肉体操作”なんて片鱗もありませんでした。
さらにそこから発展して新たな能力まで獲得しうるとは…非常に興味深い。
こやつの持つ強力な欲望と意志力が関係しているのだろうが、研究し可能なら再調整し再利用したいところじゃが…んんっ、もとい、したいところですわ。
いかがでしょう太刀葉お姉様。私にこのノットール2号を預からせて下さいませんか?」
「ああ。任せる。好きにやってくれ」
巨大モニターにはカワニシテノットール2号が双葉の身体で【肉体同化】を行い、女怪人化した姿でG7の国際会場で世界首脳陣を相手に性的快感を貪っている様子が映っていた。
正直いくら仮想現実の世界とはいえ、愛する双葉の身体で好き放題に穢しているノットール2号を直接俺がぶっ飛ばしてやりたい気持ちになったがな。
しかし、ドクトルLでさえ予想外だった2号の成長というのが気になる。
乗っ取ったのがトランスレンジャーだからなのか。
それとも、双葉だったからなのか。
そして僅かな時間とはいえそんな2号に乗っ取られていた双葉に何も影響はないのか。
そんな考えが脳裏をよぎり、俺は妙な胸騒ぎを覚えた。
得てしてこういう悪い予感や胸騒ぎに限って的中してしまうものである。
不安に感じた内容を松戸院 彩子から完全にドクトルL状態になってマッデサイエンティストモード全開な彩子に話す。
「可能性としては元々素養のあったノットール2号が、変身ブレスレットという外部的要因によるものとはいえ変身する双葉嬢の身体を着用して
その状態でトランスホワイトに変身したことでカワニシテノットール2号の肉体が加速度的に進化したようじゃ。じゃない、ですわ」
確かに2ヶ月もの間、皮にされずっと着られていたメイドの葉月をはじめとする松戸院家の女性達や他の皮にされて着られていた被害者を
ドクトルLはノットール2号を生み出した責任者として密かに異常がないか遺伝子レベルで精密検査していた。
だがいずれもノットール2号が脱げば皮にされた女性達は全員異常なく元の身体に戻っていた。
7人ほど胸がささやか気味だった女性が肉体操作でサイズアップしていた事を除けば。
「ですが確かに今までと同じく問題が起こっていないとは限りません。早急に検査した方が良いです」
もちろんトランスレンジャー側でも皮にされ怪人に着られて化けられていたトランスホワイト・白鳥双葉とトランスイエロー・大石瑞葉の二人を徹底的に精密検査され調べられているだろう。
だが最先端の科学を有するトランスレンジャーでも生物分野では帝重洲帝国やTSトロン、ドクトルLには遠く及ばない。
何しろ肉体融合して対象者を乗っ取る俺や、人間の中身を情報に分解保存し身体を皮にして体型体格の違い等の物理的要素を超越して本人そのものに化ける怪人を生み出すのだ。
レベルが違う。
やはりドクトルLに双葉を診てもらおう。
より警戒され危険度も増したが俺は再びトランスレンジャーの本部や施設に潜入し双葉を間近で観察し、双葉を連れ出すか
場合によっては俺が双葉になって彩子に、ドクトルLに診てもらう事にした。
しかし、今回の騒動でトランスレンジャー基地の警備の厳重さは格段に引き上げられていることだろう。
なにしろTSトロンの怪人と、そして帝重洲帝国のナンバー2であったタチーハにまで基地内に潜入されたのだ。
こうなっては彼らのメンツやプライドからいっても、そして防衛組織としての危機感からしても警備体制の見直しは免れない。
さらに、隊員各自にもボディガードや替え玉が用意されるかもしれない。
トランスレンジャーの要である隊員の体が乗っ取られていたのだ、最低でも隊員の外出制限はされているだろう。
怪人である俺にとって、今まで以上に双葉との接触は難しくなってしまったと言える…。
それでも危険を顧みず双葉に近づかなくてはならない。
全ては双葉の為だ。
双葉は18歳から25歳の一番楽しい遊びたい時期を・・・7年間という貴重な時間を行方不明になった俺を
暗躍する悪の秘密組織に拉致られた可能性があるという不明瞭な根拠を信じて公安組織に入隊、戦隊員として戦いに身を投じていた。
俺と交際していた時のことを思えば絶対に考えられない!
害虫でさえ殺せないようなとても優しい女の子だったのだから。
だから俺は命を散らすことになっても双葉の安全を確かめなくてはならないのだ。
一方、ドクトルLは私室の地下研究室にて、モニタを睨みながら唸っていた。
「ノットール2号から生体組織の小片を取り出し、同型であるノットール1号に移植したところ、ノットール1号も“肉体操作”の能力を獲得したが…」
横に控えている葉月に目をやるドクトルL。
「しかしその能力は限定的なものだった…。外見的な操作はできるようになったが、ノットール2号のような身体能力や内臓の強化はできなかった」
よく見ると葉月の髪色は以前より明るい色に変化し、腰周りがより細くなりくびれが強調されている。
「組織移植による能力の移植も無理、能力進化条件の再現による人工進化も難しい…。
しかしこの“肉体操作”さらに“肉体同化”の能力、このまま捨て置くのもましてやTSトロン大首領の元で使われるのも避けたいところじゃな。
我々で有効利用したいところじゃが…そうなると方法は三つ…」
ドクトルLは調整水槽内に浮かぶノットール2号を見やる。
「ひとつにはノットール2号の人格を上書きし再生怪人として作り直すこと…。
ただしこやつの能力の進化が人格の意志力と結びついていた以上、さらなる進化は見られないことになる。
また、人格の上書きといっても人間の人格をまったくまっさらにできるわけではなく、今までの人格を潜在意識下に追いやって、上から人工人格を被せることになるので、
新たな人格は機械的な性格にならざるを得ず、また心的外傷刺激などにより旧人格が復活する可能性も無くはないことが問題じゃ」
「もうひとつは、同型であるノットール1号と融合させ統合すること。
これなら能力進化は維持されるが、ノットール1号、2号両者の人格は統合され、どちらでもない中間の人格が生まれることになる。
まあ、それでも以前のノットール2号よりはましになるだろうが」
「最後のひとつは…、ここの培養設備をフルに使って、ノットール2号をワシ自身が吸収すること…。
そうすれば、ワシ自身が“人を皮にして乗っ取る能力”も、“肉体操作”も“肉体同化”も使えるようになるということじゃ…!
太刀葉お姉様に一緒について行って潜入することも可能だし、お役に立てる機会も増える!
もちろんワシの人格も吸収したノットール2号の影響を受けて、好色で残忍になってしまう可能性もあるが…。
この太刀葉お姉様への想いだけは絶対に、強い意志で守り抜いて見せますわ!」
「さて、どうするべきかしら…」
同時刻、トレンスレンジャー基地内。
「率直に言うとね、2人ともヤられてたよ」
白鳥双葉、大石瑞葉の2人を前に、事もなげに言い放つのは、トレンスレンジャーのメカニックサポートを専任とする丹葉凛。
12歳にして、父親でありトランスレンジャーの開発者・丹葉敏明の超頭脳を全て受け継いだ天才児だ。
「今朝がたの女子高生と同じ反応が、2人の体から出てるの。双葉ちゃんに至ってはそれ以上にね」
タブレットに映る各自のデータを見せながら、凛は説明していく。
「そんな、まさか私まで乗っ取られてたなんて…」
「……ッ」
気付けば大浴場で、目覚めた直後に変身して戦っていた瑞葉も、冷静になるにしたがって自分がされていた事に背筋が寒くなっていく。
双葉は強く歯噛みし、肩を震わせていた。何をされていたのかは知らない、だが自分の中に土足で入り込み探られ、あまつさえ基地内に侵入された事に。
「端的に言うと、双葉ちゃんのナカに入ってた怪人が肉体に何らかの影響を及ぼしたってこと。
今回は…、多分毒性の浄化促進ってところかな。詳しくはもっと調べてみないとわかんないんだけどさ」
そんな二人の光景を見つつも、説明を打ち切るわけにはいかない凛は、話を続けていく。
「それと気になった事が1つ。これ、双葉ちゃんのスーツに搭載してるセンサーのカメラなんだけどさ」
画像が切り替わり、大浴場での一場面。画面の中央にはタチーハが、端の方に瑞葉が映っており、鮮明な写真は次第にサーモグラフィーの様な、色分けされた写真になる。
「潜伏してる相手を探す用の、生体電磁波探査モードで撮った写真がこっちなのよ。
こっちが瑞葉ちゃんので、味方の識別信号出てるよね。で、こっちが今までの解析結果から出したタチーハ将軍のデータ。
…はいここでコレに注目」
凛の指は、タチーハ将軍の一部…。色の違う場所を指す。
「タチーハ将軍の中…恐らく脊椎部分に、もう一つ別の反応があるよね。染色体パターンから判断するに、恐らく男だろうね」
「…という事は、タチーハ将軍も誰かに操られていたと?」
双葉の出した疑問に、うんと凛はうなずいた。
「そう考えるのが妥当なんじゃないかな。もうちょっと詳しいデータが欲しかったけど、2人の攻撃の結果出来た爆煙で、画像データではこれ以上は得られなかったけどね」
「うぅ、すみません…」
瑞葉は少し肩を落とす。
「まぁいいよ、あの状態で瑞葉ちゃんに気付けって言う方が無理っぽいし。…その分君のマイクは面白いもの拾ってるしさ」
「へ?」
凛が音声データを再生すると、そこには男の声が記録されていた。
“待っていたぜ。この瞬間をな”
“愛しているよ。双葉。
生き延びて・・・いつまでも双葉を守るよ。もう双葉に愛する人がいて家族がいても。旦那も子供も全て俺が守ってやる。じゃあな、双葉”
音声を拾ったマイクの持ち主である瑞葉は、何もわからない様子だった。
「…この声は?」
「恐らくはタチーハ将軍にくっついていた奴の声なんじゃないかな。どういった経緯でくっついているのかは、多分専攻分野の違いだから解んないし。
それでもわかる事は、さっき双葉ちゃんの疑問に応えたのもこれがあるから。
タチーハ将軍が双葉ちゃんの事を気遣ってくれるとも思えないんだ。多分これ、将軍とは別の意志だよ。
双葉ちゃん、自分の事を気にかけてくれる相手って、心当たり無い?」
「え…? その、あるには、あります、けど…」
言われ、唐突に思い当たる声を聴いて、双葉は言い澱む。
(あの声、確かに…。でもどうして…?)
ずっと聞きたかった、忘れる筈も無い、会いたかった相手の声だった。
「多分双葉ちゃんも考えてくれてるんだろうけど、可及的速やかにやってもらう事があるのさ」
「そんな、博士はこれ以上双葉先輩にどんな負担を掛けさせるつもりなんですか!」
待つ時間さえ与えないような凛の物言いに、瑞葉は椅子から立ち上がり、凛に詰め寄る。
それでも凛は顔色一つ変えずに、淡々と説明していく。
「…ぶっちゃけると、色々重なり過ぎててさ、腑に落ちないんだよね。
まずは帝重洲大帝の死亡。まぁこれはトランスレンジャーと別勢力が倒したとすれば、話は分かる。
次にアジトの露見。大帝を倒した相手がリークをすればこれも説明がつく。
さらに構成員の浄化処置。わかんないのはこれ。どうしてご丁寧に、怪人から戦闘員に至るまで元に戻す必要があったのかって事よ」
双葉も瑞葉も、確かに思っていた事だった。あまりにも唐突なリークと、一斉検挙。誰かが手引きをしたのならわかるが、3つ目だけは職員の誰もが首を傾げていたのだ。
「そこで、ナンバー2で組織への忠誠も篤かったタチーハ将軍が出てきた事である程度の推測は出来た。
…きっと双葉ちゃんへの縁も情の深い相手が、タチーハ将軍の体を使い帝重洲大帝を倒して、組織を壊滅させた。…って所かな。
司令も情報を欲しがってる。…もし双葉ちゃんが可能で、相手に心当たりがあるのなら。その相手とコンタクトを取れない? お互いに知ってる場所とか、あるでしょ?」
その日トランスレンジャー基地をはじめとする防衛組織施設から不思議な通信が発信された。
暗号化もされず平文のまま、まるで傍受しろと言っているような事だ。
当然治安組織や公安組織の動きに敏感なアンダーグラウンド側の者達や組織は聞き耳をたてて通信内容を探ぐる。
「清姉さん、明後日にいつもの店でお昼に待ち合わせね」
傍受した意味不明な内容の裏側や隠されているに違いない重要な秘密をなんとか明かそうと必死に取り掛かったが結局解明できず、
トランスレンジャーの撹乱工作と決定づけた者達や重大な作戦が行われる可能性と判断し、見つからないように潜伏する者達等に別れた。
勿論その通信は昼間のお嬢様 松戸院 彩子から解放され研究室に篭りドクトルLとして存分に好きな実験をしていた彩子にも伝わる。
「太刀葉お姉様!これは!!」
「ああ、間違いなく俺への招待状だ。罠の可能性はとても高いが『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってヤツだな。
せっかくのお誘いだ。行くとしよう」
口髭を蓄えた初老のマスターがいる二人の思い出の懐かしい喫茶店に。
「一人ではいくらお姉様でも危険です!同行します!」と彩子=ドクトルL。
「ダメだ」
「ではせめて俺を同行させて下さい!」とノットール1号。
「それもダメだ」
「葉月の姿なら、またはその付近にいた通行人の身体なら」
「俺が人質を連れてきたと判断されるだけだ。喫茶店デートはその場でご破算だな。
勿論双葉が来ない可能性の方が高いのを考慮しての俺の判断だ。
双葉以外のトランスレンジャー全員がフル武装でお待ちかねかも知れないからな。
それでも行く価値はある」
確かに安全を確保しつつ同時刻に喫茶店内にいるのなら
大変申し訳ないがその少し前に入店するただの利用客に寄生して乗っ取らさせてもらい
その人になりますして素知らぬ顔で普通に利用していればいい。
もし事前に包囲監視体制がされて利用客全員がマークされていても俺と何一つ接点がないからな。
また利用者全員が公安組織の人間だったとしても同じ理由で問題ない。
でも敢えてそれをしないでタチーハの身体で行く。
格好はさすがに人間形態のスーツ姿かラフなセーター等の私服だが。
あのメッセージは双葉がどうして気付いたかわからないが、
【俺がまだ生存している】【俺がタチーハ将軍の身体である】とまでわかってのメッセージだからだ。
だからタチーハ将軍の身体で喫茶店に昔と同じように待ち合わせ時間の30分前に入店した。
貸し切りでもなく店内の空気もはりつめてもいない。
いささか拍子抜けだが俺はマスターに友人と待ち合わせと伝え案内された席に座った。
偶然か運命的なのかその席はよく座っていた席だった。
隣の席にジュースを持ってきたウエイトレスに昔と同じ珈琲を注文しようとして驚いた!
そこにはウエイトレス姿の双葉がいたのだ!
双葉もこちらに気付いたハズだがにこやかに
「ただ今ご注文を伺いますね🎵」
と笑顔のままで全く動じていない。
カウンターのマスターも笑顔で双葉からの注文を受けている。
マスターもきっと嬉しいんだろう。双葉が公安に所属すると言って姿を見せなくなって以来の再会、そしてあの時と同じようにここで働く姿を見せてくれているのだから。
ちらりと双葉の姿を見ると、昔と同じ服を着ている。大人になったとはいえ、学生時代の制服が未だにしっかり着れるのは、彼女の自己管理の賜物だろう。
「お待たせしました、ご注文は…?」
笑顔を作って俺の座る席までやって来た双葉は、どことなく複雑そうな顔だ。
俺自身彼女に何と言ってやればいいのかもわからない。けれど間違いなく、君の呼びかけに答えて俺は来たのだという事を伝える為に。
「ウィンナーコーヒー、清スペシャルで」
俺が「本郷清彦」であった時、いつも頼んでいた飲み物。知った当初は本当にウィンナー…ソーセージが入ってるものと思い込んでいた記憶がある。
それを知った事で一頻り大笑いしたマスターが、本当に作ってくれた「ソーセージ入りウィンナーコーヒー」。それが清スペシャルだ。
俺達3人以外が知る事の無い、お互いにしか知り得ない注文だった。
「…はい、かしこまりました。少しお待ちください!」
花が綻ぶような笑顔を見せて、双葉は注文をマスターに通しに行った。
他の人には知られたくないように、この注文をまだ3人だけの秘密にとどめておきたいように、ちょっとだけ内緒話をするような小ささで。
「お待たせしました、ウィンナーコーヒーです♪」
思い出のコーヒーが提供され、それを味わった。生クリームのついたソーセージは程よくボイルされており、コーヒーの中には入らないようにされている。
懐かしさと共にソーセージをつまみ、かじる。クリーム付きの肉は不思議な不協和音を醸しているが、逆にそれもまた懐かしい。
ソーサーの縁に添えられた、2つ折りにされている小さなメッセージカードを開く。
『お話はもう少し待っててね。聞きたいこと、言いたいこと、いっぱいあるから』
顔を上げて双葉を見ると、視線が交わる。ウィンクをされ、それに応えるようにこちらも微笑む。
(変わってしまって…、変わり果ててしまったけど、今だけは良いよな、この懐かしさに溺れても…)
太刀葉としての豊満な胸にカップがぶつからないよう少しだけ注意をしながら、クリームとカップの隙間からコーヒーを一口。
同時刻【松戸院邸】
松戸院邸の彩子=ドクトルLの地下ラボでノットール1号は落ち着かない様子でソワソワしていた。
「やはり付いていった方が良かったかも・・・太刀葉様は確かに強いけど万が一って事もあるし俺も囮になるくらいは役に立てると思うし・・・」
「トールくんどうしたの?」
「あっ、ごめん葉月ちゃん。せっかくの二人きりの時間を」
「太刀葉様のことが心配なのね」
「うん。やはり無理にでもお願いして同行許可を得ればよかった」
「彩子様とトールくんはダメと言われているけど私は言われていないし指示もされていない。
午後から半日休暇なんだけど美味しいと評判の喫茶店、未だに行った事がないから午後からそこに行ってみようと思っていたのね」
「もしかしてその喫茶店って!?」
「一人で行くのは寂しいな。トールくんが私を着てくれて喫茶店に向かう一心同体デートしてくれないかなぁ~?」
少しばかりわざとらしく、ノットール1号に言ってのける葉月。
お互いの仕事のパートナーである2人は、ただ利用し合うだけではなかった。互いの立場を話し合い、嫌悪しきらず肯定しあっている。
「それにトールくんの新しい力で、私の見た目をちょっと変えてくれたら、太刀葉様も一見してわからないかもしれないのになぁ?」
「うぅ…。それじゃあ葉月ちゃん、俺の我侭に付き合ってくれる?」
「勿論ですとも。食事代はトールくんが支払うのと、事が起こらない限りは私に主導権を渡してくれるのが条件です」
ノットール2号が【肉体操作】等の能力に目覚めたように、1号も既に【切替】という能力に目覚めていた。
皮にして装着した時に、記憶を読んで成りすます事は互いにできる。しかしそれでは微妙な差に気付かれる事もある。
であれば、皮にした本人に動いてもらえば、差は無くなる。
事実、最初に葉月を着込んだ時、淹れた紅茶に彩子が顔をしかめた事もあった。記憶は確実にトレースしたはずなのに、いつもと味が違うと言われた。
それは1号の性格的なものからかもしれない。葉月と同じ時を過ごした事で培った経験からかもしれない。
少しだけ体を変えて、主導権を葉月に渡して、確かに気付かれず葉月(ノットール1号)は喫茶店「ブラザー」に来ていた。
同時刻
【トランスレンジャー秘密基地】
「博士、双葉先輩に護衛をつけなくて良いんですか?」
「いいのいいの。野暮ったいことするの好きじゃないし」
瑞葉は再検査の為ベッドに横になりながら、ロリポップを舐めている凛に採算の問いかけをしていた。
モニターに映るバイタルデータを、平常時のデータと見比べて“どこまで違っているのか”を調査する、簡単な内容。
『それに、私は双葉ちゃんのあの目を知っているからなぁ』
「……」
ふと雰囲気の変わった凛。喋り方は理知的な男のモノのようになっていた。
彼女は父親である敏明の遺した、彼の知識と意識の全てが詰め込まれたAIが脳に接続されている。
当然、凛本人のIQも常人より遥かに高く、父の敏明に並ぶほどだが、これを用いる事で父親の考案した装備の更新や新兵器の開発が、シームレスに行えているのだ。
『私はその清彦くんという男の事を知らない。
だが双葉ちゃんは彼の為にあの強い決意を秘めた目をし、その彼があそこまで双葉ちゃんを大切に想っているのなら。2人の想いを疑いたくはないんだ』
「とーちゃんがロマンチストなだけだよ。っていうか仕事してるんだから出てこないで」
「そんなものですかね…」
清彦の事を知らない瑞葉は、その事に少し納得がいっていないようだった。
(私の方が、今の双葉先輩を知ってるのに…)
視点を再び喫茶店「ブラザー」に移す。
(太刀葉様の様子は?)
(今は落ち着いてるみたい。…それに、どことなく嬉しそう)
気付かれているかもしれない可能性をどこかで想いながら、葉月とノットール1号はケーキと紅茶を味わっている。
(これも自家製かな? 既製品とは違うみたいだし、ちょっと彩子様に供しても良いかも)
(一仕事終えた後のドクトルは、美味しそうに食べるからね)
心中で会話をしても、出てくるのは自然とお互いの主に対しての事だ。
葉月は彩子に、ノットール1号はドクトルLに仕えている。お互いに相手が同じで、従者としても同じ目線で見れば、自然と考えが寄ってしまうのは致し方ない事かもしれない。
店内にはBGMもなく、静かなままに時が過ぎていく。
客足も収まり、残る客は太刀葉と葉月くらいになった時、双葉は静かに大刀葉の対面に座った。
「…あの」
「…ねぇ」
言い出しにくいのか、逡巡してからの発現は2人同時で、少しだけ気まずかった。
それでも、男なのだからと自らを奮い立たせ、太刀葉…清彦は口を開く。
「双葉は、俺の事に気付いたんだな?」
「うん…、博士から浴場でのデータを見せてもらって、ようやく気付けたんだけどね。
私からも聞かせて。あなたは清くん…、本郷清彦なのよね?」
「そうだよ。……すまなかった、双葉。ずっと心配させて…、ご「許さない」…」
僅かに俯きながら、清彦の言葉を遮る双葉。それ以上を継げる事ができずに、清彦も静かに黙ってしまう。
壁掛け時計が時を刻む。
「…話してくれなければ、許さない。ずっと黙ってて、また私の隣から居なくなるなんて、許さない。
こんなに心配させたんだから…、ちゃんと、私に教えてよ…。あんな一方的な宣言だけじゃ、嫌だよ…」
双葉の頬を涙が伝っている事に、清彦は気付く。
彼女は寂しかったのだ、心細かったのだと、今更になって。
男の自分は決意を固めれば心を支えられたかもしれない。だけど双葉は、女性なのだ。気丈に振る舞っても優しくて、怪人の行動に心を痛める人なのだ。
「…わかった、話す。その上で本当に双葉が許すかどうか、判断してくれ…」
そうして清彦は話し出した。帝重洲帝国の怪人となってからの、7年間を。
最初に洗脳が解けたのは、30人も拉致をしてしまった後。
怪人の素体になる男を連れていこうとした所、泣いた女性の姿を見たことで、思い出す事ができた。
本当は今すぐにでも双葉の所へ戻りたかった。戻って、自分は無事だと伝えたかった。
…もし人間の姿に擬態できたのなら、もし単独で帝重洲帝国と戦えるだけの力があるのなら、そうしていたかもしれない。
だが清彦は蝙蝠男としての能力を嫌というほど知っている。
このまま脱走を行ったとしても、一時的に逃げられはするだろう。しかし人の姿になれず、力を持たない状態では、何もできなかった。
だから前の姿のまま、双葉の前に出る事は諦めた。そして能力を使い、帝重洲帝国の打倒を決意したのだ。
長い時間をかけて次から次へと体を変えて、下級怪人ゆえに組織に半ば存在を把握されていない事を利用して。
「…意識が目覚めてから6年かかった。今は幹部怪人タチーハの体を、帝重洲大帝を倒した時からずっと使っている」
「じゃあ帝重洲帝国壊滅を教えてくれたのも、清くんがしてくれたことなの?」
「罪滅ぼしになるかは解らないが、可能な限り怪人化手術や洗脳を解除した上で…だけどな」
「それも全部…」
さらに清彦は、帝国壊滅からの現状を話す。マスターに双葉の行方を聞いた事、別組織のTSトロンに目をつけられていたこと、カワニシテノットール1号と遭遇しドクトルLを裏切らせた事。
「ちょっと待って清くん、ドクトルLって、本当に!?」
「あぁ本当だ。そして彼女との繋がりが出来た事で、ノットール2号が双葉に成りすましていた事を知る事が出来たんだ」
「…そう言われると、とても複雑ね」
裏切ったとはいえ、敵対組織の存在が自分の窮地を救ってくれた事に、双葉は眉根を寄せている。
「…大まかな所としては、こんな感じだ。双葉の前に姿を現せないと思ったから、無事であることがわかればいいと思ってたんだが…」
「それでも、清くんは着てくれた。…乗っ取られていた私を助けてくれるために」
「居ても立っても居られなくなって、な…」
はた目には女性同士だが、久しぶりに会った恋人達は、少しずつ昔のように戻っていく。
「ねぇ清くん。…怪人の姿って、見せてもらえる?」
「どうしてだ?」
「本当のあなたと触れ合いたいの。…ダメ、かしら?」
「マスター、この体の事、起こさないでくれるか?」
太刀葉は席を立ち、カウンター席の方に座る。当然ながらマスターも耳をそばだてて、2人の会話を聞いていた。
小さく頷かれ、ありがとうと言いながら突っ伏す。
「…!」
直後、太刀葉の背中から音を立てて清彦、蝙蝠男が分離する。
名の通りに蝙蝠としての姿で、翼に比して小さい体のいびつな姿。顔も蝙蝠の形に近い人間と言わんばかりで、夜に出会えば大半の人間は息を呑むだろう。
「…これが今の俺の姿さ。人前に出る事もできず、誰かの中に隠れてるしかない。
怪人にも人間にも寄れない、卑怯なコウモリだよ」
自嘲しながら隠れるように翼を畳み、席の上に泊まる。
何も双葉からの反応がない事に恐れるように体を震わせていると、ふと、柔らかく抱きしめられた。
「…双葉?」
「ダメだよ清くん、まだあそこに人がいるんだから。…あんまり見らるような事しちゃ、ダメだよ」
視線を向ければ、背を向けているが確かにまだ人がいる。気付かなかったと自分で呆れながら、双葉の抱擁に身を委ねていた。
息も絶え絶えの悪の組織の首領帝重洲大帝。
周囲や近くの通路には戦闘員達や怪人達が倒れている。
「だから最初から何度も言っているだろ!俺はタチーハじゃないって。
まぁ確かに身体はタチーハ将軍の身体だけどさ。
俺だって好きでこの身体になった訳じゃないけど組織を壊滅させるには強大な戦闘能力が必要だからな。
不意討ちじゃなく、ちゃんと正々堂々と戦って手に入れたんだ!」
「これでわかるだろ!」
俺はタチーハ将軍の背中から俺の翼を生えさせる。
「ま、まさかお前は拉致や誘拐用に改造した蝙蝠男・・・」
「そうだよ。仕事帰りに拉致られて勝手に怪人に改造された男だよ」
「偶然でも目をつけられたのは確かに不幸だったけどさ、捨てる神あれば拾う神ありって本当だよな」
倒れ伏している帝重洲大帝の頭に手を添える。
それが何を意味しているのかを察した大帝は、見るからに狼狽し始めた。
「や、やめろ蝙蝠男! 本当に私を殺すつもりか!?」
「理解が遅いぜ大帝。俺はここまでやったし、アンタはここまでやられたんだ。無事に済むわけがないだろ?
立つ鳥跡を濁さずって奴だ。綺麗サッパリ終わらせておいてやるよ!」
タチーハ将軍の持つ能力、エナジードレインを発動させる。帝重洲大帝の生命力、その最後の一滴まで吸い上げ、タチーハの生命力に変化させる。
「ぐおぉぉぉぉぉ…!!」
断末魔は徐々にしぼみ消えていき、悪の組織の首領帝重洲大帝はここに息絶えた。
「……終わった、終わっちまった」
組織の居住施設、タチーハの部屋の中で独り言ちる。
うつ伏せになりながら背に力を込めると、ずるりと俺の怪人本来の姿が現れた。
言ってしまえば「大きな翼を持った蝙蝠姿の小男」だ。
能力は「超音波」と「他者への寄生」。
超音波を浴びせて思考を弱化させ、前後不覚になった相手を拉致ったり、他者へ寄生する事で「本人の意志」で失踪したように見せかけ、組織への人員補充をさせられていた。直接戦闘力はたかが知れていた。
帝重洲大帝と組織への復讐の為、どうにか勝てそうな怪人の肉体を使い、新しい寄生先を見つける度に体を取り替えていた。
最終目的だった肉体のタチーハは、同じ将軍格の体を使った上で打ち倒し、その上で乗っ取らせてもらった。
「苦節7年…。俺はもう自由だ! 組織とか関係なく生きられるんだ!」
快哉を叫んで、もう一度タチーハの肉体へ寄生する。もはや人間に戻れないし、この肉体は捨てがたいから、有効活用させてもらおう。
俺――蝙蝠男を含む、大半の怪人は人間から大きくかけ離れた異形に改造されており、そのままでは人間への擬態は難しい。
しかしこのタチーハの姿は元々人間とさほど違いがなく、角や尻尾などのパーツも体内へと収納することができ、難なく人ごみへと紛れることができる。
そのうえ巨乳でスタイルのいい美人だし、これが幹部怪人と平怪人の差というものか…。
とはいえおかげで、組織という忌まわしい過去を葬った今、大手を振って太陽の下で人間として新しい生活ができる。
そう考えれば、タチーハ様様だとも言えるな。
さらに、ついでに言うならば…。
組織の四天王の頂点であったタチーハは、戦闘力も身体能力も、大帝に次ぐナンバー2の実力者だった。
エナジードレインによって、大帝やこれまで倒してきた怪人たちのエネルギーを吸収したことによって、今の俺、タチーハの身体は大帝をも凌ぐ力を持っている。
向かうところ敵なしだ。
男の体に未練がないとは言わないが…。
纏っていたタチーハの戦闘服(きわどいレオタードにロンググローブ、ロングブーツを合わせたような見た目だ)を解除し、
私室のクローゼットから地味目の私服を取り出す。
襟ぐりの広いゆったりしたニットワンピに、レースの入った黒いフェイクレザーレギンス。上から薄手のコートを羽織る。
ハンドバッグを持って部屋を出る。
全ての怪人を倒した今、このアジトには俺以外誰もいない。
だが設備はまだ全て生きている。怪人製造プラントも、兵器倉庫もそのままだから、その気になれば俺が新たな組織を立ち上げることだって可能だと思う。
まあ、今のところはそんなつもりはないが…。
偽造の身分証を持って、ブランドのロゴ入りのサングラスをかけ、秘密の出入り口から外へ出る。
行き先は…。
かつての俺――組織に拉致されて蝙蝠男となる前の俺、本郷清彦。その恋人であった双葉が勤めている喫茶店。
7年前のあの日、彼女と婚約した翌日に俺は拉致され、世間的には失踪したことになってしまった。
組織にけじめをつけ、こんな姿になってしまった今、彼女に会わせる顔はないが…。
全てを終わらせた今、ふとひと目会いたいという気持ちがこみ上げてきた…。
男の時と同じような状況になりたいなんて言わない。せめて彼女が元気でいてくれたら。
それだけを思いながら、足はあの場所へと進んでいく。
見慣れた、けれど7年の間に様々な部分が変わってしまった街並み。双葉と共に青春を過ごした街。
自然と足音のペースが早くなる。まだ双葉がそこにいる確証なんて無いのに、そこに居てほしいと願っている。
俺が清彦だ、なんて言えるはずもないのに。
「…着いた。でも…」
喫茶店「ブラザー」の外観は時間の経過を感じさせるが、確かにまだ存在している。
ドアのハンドルを握り、回す。鍵はかかっていない。
意を決して戸を開き、店内に入った。
カランカラン
扉のベルが鳴ると「いらっしゃいませ」と懐かしい声がした。
カウンターの内側から声をかけてきたのは、口ひげを蓄えたマスターだった。
7年分の時が、彼の髪に白いものを混ぜてしまったが、その佇まいは昔と変わらない。
「どうしましたか、お嬢さん?」
懐かしさに思わず入り口に立ち尽くしてしまっていた。不思議そうな顔でマスターが訪ねてくる。
「いえ、なんでもありません」
小さく答ええると、俺は隅の席へと座った。
ブレンドコーヒーを注文する。
7年前とほとんど変わらない内装と、マスターの手際。
しかし店内を見回しても双葉はいなかった。
「はい、どうぞ」
出されたコーヒーに口を付ける。昔と同じ味…のはずだ。でもタチーハの体で味わうそれは、どことなく苦い。
そして…ここには双葉がいない。
以前は静かだった店内はちょっと騒がしかった。
他のお客が普段は電源の入っていないテレビの前に集まり色々と話をしていたからだ。
テレビはどこも緊急特番、特別報道でどこの局でも同じ内容を放送していた。
巨大なテロ組織、内部抗争で壊滅か?百名以上の失踪者に偽装された誘拐された人達が発見される。
俺が警察と各テレビ局に匿名で公衆電話から通報しといたのだ。
もちろん監視カメラや防犯カメラ、あと目撃者がいないように細心の注意を払って、さらに念のためにカメラやモバイル機器が停止する妨害電波を発生するジャマーまで使用して。
悪の組織の首領帝重洲大帝との対決から2日が経過していた。
俺は細心の注意を払い俺=タチーハ将軍の痕跡だけ抹消し内部で大規模戦闘があったことを偽装した。
まぁ偽装といっても本当に無人戦闘マシン群とガチにやりあったから大したことはしていない。
通路や広場のあちこちには銃痕や戦闘マシンのバラバラになった機体が転がっているのだから。
一ヵ月後に開始される予定だった日本占領計画に備え本部であるアジトより規模の大きい前線基地は地上の見た目は地下駐車場を備えた10階建てのビルだ。
だがその地下駐車場の奥に偽装した入り口の先には地上の数十倍の規模があり指令センターや兵器備蓄庫があり
屋上にも偽装された地下の前線基地に直接入れる進入路がある。
テレビに映っている場面は地下駐車場入り口らブルーシートが張られ、規制された路上には近隣からかき集められたであろう数十台の救急車や警察車両が止まり人々がせわしなく動いている。
シートが開くたび救急車がサイレンを響かせ病院に向かっている。
救急車の中には衰弱した元怪人や元戦闘員、組織の科学者達が乗っているのだろう。
タチーハのエナジードレインは力の加減が自由自在だ。
だから俺がかつて誘拐したり寄生して失踪させて怪人に改造された人達や洗脳された人達を気を失わせるだけに留め、
怪人になった人達は改造プラントに元データーを使用して元の改造直前の年齢にまで人間の身体に戻し
洗脳された人達も洗脳装置を使用して洗脳解除した。
それらの装置の起動は生体起動パスで登録されている帝重洲大帝とタチーハ将軍だけができる。
操作盤のタッチーキーもすべて生体認証だから他の誰であろうと操作はできない。
今となってはタチーハ将軍の身体を乗っ取っている俺だけが起動・操作できるので俺以外の元人間全員を人間に戻せた。
だから俺だけは・・・俺だけが蝙蝠怪人の身体から人間の身体に戻れないのだ。
前線基地と本部のアジトでそれらを行い、本部の人間は全て前線基地に移動させてから通報した。
俺が怪人になってやった行いはこれで消えたわけじゃないが、少なくても俺が誘拐・失踪させた人達は元の世界に戻す事だけはできた。
「この中に清彦くんもいるのだろうか?」
普通の人なら耳元でも辛うじて聞き取れるかどうかのボソッと言ったマスターの呟きを声帯の振動を離れた位置でも声として聞き取れる蝙蝠男の身体能力で聞いた俺は表情を変えず、心の中で「俺はここにいます」と叫んだのだった。
ここにいるのに、名乗り出ることはできない。ざわめく店内の中で自分だけが酷く孤独なように感じて、店を出ることにした。
双葉がいないのなら、もうここには用も無い…。
双葉がもう辞めてしまっている、そういう可能性も考慮していた。
だから最初からここには思い出に浸るためだけに来たつもりだった。
でも…。
「ここに、双葉さんという女性がいませんでしたか?」
コーヒーを飲み干し会計を済ませたあと、思わずマスターにそう尋ねてしまった。
「双葉ちゃんか…」
マスターは困った顔で頭を掻いて、意を決したように話を続けた。
「双葉ちゃんはたしかに昔ここで働いていたよ。でも随分前に辞めてしまった。
これは…、双葉ちゃんからは誰にも言わないよう口止めされていたんだけど、なんとなく、貴女になら話してもいいような気がしたから、教えてあげよう」
「7年前、突然彼女の婚約者が失踪した。その直後は本当に、かわいそうなくらい憔悴していたよ…。
でもある日突然、うちに来るなり彼女はこう言い出してね。
この世界には、世間から隠れて人を拉致したり、犯罪を働く秘密結社がいくつも存在する、婚約者の清彦くんはそういった連中に拉致されたのだ。
そして私はそれらと対抗する防衛組織に入って、清彦くんを取り戻すんだ、って。
だからうちの店は辞めるって言い出して。荒唐無稽でとても信じられない話だと思ったよ。でも彼女は頑なだった」
そりゃあそうだ、俺だって実際に組織に拉致されるまでは、怪人秘密結社の存在なんて信じられなかった。
「その次には、彼女は上司だって言う女性を連れてきた。どうやら公安に属する秘密組織らしいんだが、詳しくは教えてもらえなかったよ。
なんでも、特殊な身体強化スーツを纏って、5人組で犯罪結社と戦うんだそうだ。
それきり彼女とは会っていないんだ。今でも元気にしていてくれたらいいんだが」
マスターはそう言って溜息をついた。
5人組…まさか、組織の間で通称“戦隊”と呼ばれていた敵対組織の中に、双葉がいたのだろうか。
俺は戦闘要員ではなかったから、“戦隊”と直接戦ったことは無かったが…。
双葉…、俺のために戦いに身を投じるなんて…。
店を出て駅に向かう。
と、その途中、薄暗いガード下で黒ずくめのマントで体を覆い隠した巨体の男とすれ違った。
こいつは…! うちの組織の言わば競合他社である、犯罪結社TSトロンの怪人に違いない!
今のところは特に何をしようという動きも無さそうだが…。
問題は、このあたりは元々うちの組織の縄張りだってことだ。
そこにこうして余所者がうろついているってことは、国内最大規模だったうちの組織が壊滅したことで、その後釜に座ろうと数多の組織が暗躍を始めているということ…。
最悪の場合、組織の縄張りを奪い合って他の結社同士で抗争が始まる可能性も非常に高い。
警察が突入したのはうちの前線基地であり、本部のアジトは俺の隠れ家として残してある…。
俺が帝重洲大帝の後を継ぎ、縄張りを示し続ければ抗争は防げるだろう…。だがそれは、俺が首領として組織を続けるってことだ。
あるいは、ほかの方法で抗争を防げないか…。
「面倒なことになってきたな…」
そう言いつつ俺は振り向かずにいきなり後ろに手を伸ばして触れた相手にエナジードレインを使用する。
もちろん相手は人間じゃない。
たった今擦れ違った犯罪結社TSトロンの大男の怪人だ。
こいつの目的はわかっている。俺=タチーハのこの美しい身体だろう。
犯罪結社TSトロンも帝重洲大帝と同じく男が女に変身したり乗り移ったりして美女の中身が男って事に拘っていたというか特徴だからな。
エナジードレインから情報を得る。
こいつはやはり女の身体を乗っ取るタイプだ。
相手の中身を情報に変換保存、身体は皮にして着込み成りすます怪人だ。
「相手が悪かったな。そうだ。お前に乗っ取られた振りをして潜入させてもらおうか」
(待てよ。それなら本当にタチーハを皮にした方が怪しまれないな)
俺はタチーハの身体から抜け出して犯罪結社TSトロンの怪人に寄生して身体を乗っ取った。
そのまま怪人の能力を使いタチーハを皮にすると着込んだ。
「コイツかなり上位の怪人だっけあって能力は完璧だな。
タチーハに直接寄生した時と全く変わらない。
今までと同じように生まれた時からこの身体のように俺の意思通り動かせる」
「だが…、どうやら本人の能力自体はタチーハより低いな。これでタチーハを勧誘するつもりだったとは」
大男の体に寄生した事で、受けていた指令の内容も手に取るようだ。
TSトロンは帝重洲大帝が倒された事を報道より先に察知していたようで、唯一生き残っているタチーハを組織に取り込もうと捜索していた。最悪の場合は力尽くでも。
そうしてここに来ているということは、タチーハ(俺)の動きも連中によってある程度把握されていたのだろう。
だがありがたいのは「生存を確認されているのはタチーハのみ」という事だ。蝙蝠男も生きている、という事まではTSトロンは掴んでいる様子は無かった。
大男の持ち物であった通信機を使い、TSトロン支部へ連絡を取る。
「俺だ、タチーハの肉体を確保した。すぐに支部へ戻る」
通信機越しによくやったと快哉を叫ぶ声を聞きながら、俺はこの付近の支部を預かる幹部の元へ向かう事になった。
「おぉ、本当にタチーハじゃないか! よくやったぞ…っと、よくやりましたわ」
支部に戻ると、謁見室で出迎えてくれたのは幹部・ドクトルL(レディー)だった。
一見して深窓の令嬢然とした格好をしているが、中身は老境に入り始めたれっきとした男だというのを、寄生している大男の記憶が教えてくれる。
「すぐに脱いで元に戻せ…、戻しなさい、その上で大首領に引き合わせますわ」
「はい」
タチーハの皮を脱ぎ、皮にした時と逆のプロセスを用いて肉体を元に戻させる。ぺちゃんこに潰れていた体は膨らんで、生気を取り戻した。
「起きろタチーハ! 情けなくも生き残った貴様を、偉大なるTSトロンの大首領は仲間へお迎えすると仰られた! その栄誉を賜らせてあげますわ!」
…………。
「目を覚ませタチーハ! 何故お起きになりませんの!?」
「畏れながらドクトルL。タチーハはそのままでは目覚めないかと」
「何故そう言えるのです?」
「それは…、俺という魂が入ってないからな!」
ドクトルLへ向けて超音波を放ち、僅かに怯ませる。一瞬で大男の背中から這い出ると、再びタチーハの体に寄生した。
翼を広げると同時に、タチーハも怪人の姿へと戻る。
「貴様、タチーハ本人ではないな…!」
「ご明察。だけど沈黙は金、雄弁は銀だ。詳しい事は喋らないでおくよ!」
エナジードレインで大男を死亡一歩手前レベルで吸い尽くし、返す手でドクトルLに迫る。
女性の手が持つには巨大すぎる斧を横薙ぎに振られるが、コウモリ男の翼で飛んで回避、隙だらけの背中を取り、そっと抱きしめる。
「くっ、ワシに何をするつもりだ、っくぅ!」
ドクトルLの肉体用にと、ある財閥のお嬢様のクローン体へ怪人レベルの肉体改造を施したもの。それにドクトルの脳が移植されている。
触れていてわかるこの体の繊細さは、こういうもなんだが少し劣情を催してしまう。
「そうだな。今はドクトルL、アンタと楽しみたい…」
服の中に手を滑り込ませ、ドクトルの小さな胸や太腿を撫でさすりながら、艶やかな吐息を耳元に吹きかけた。
…タチーハの能力、その一つは何度も使っているエナジードレインだ。
だけどそれ以外にも、男女問わず劣情を催させるフェロモンを意識的に放つことが出来るほか、複数の能力を持っている。
さて、それじゃあ1つ…、女同士というのを試させてもらおうかな。
タチーハ将軍は正真正銘の女だが秘密結社帝重洲帝国の四天王にしてナンバー2だけあって女性になった男を女性の快楽に堕とすのが何より好きだった。
相手の本質を見抜きそれに合わせて堕とす膨大な性技のテクニックの知識は俺個人が知っていたエロテクニックの数百倍だ。
勿論タチーハを完全に乗っ取っている今の俺はその全てのテクニックをタチーハと同じく発揮できる。
つまりTSトロンの大幹部ドクトルLはあっという間に堕ちた。
財閥のお嬢様のクローン体になり散々オナニーとかやっていたし、女体化した怪人や女性を乗っ取った男の怪人や戦闘員とレズってはいたようだがタチーハ将軍のテクニックからすればそれ等は児戯に等しい。
「今のタチーハ様の正体が何者でも構いません。ワシ、ドクトルLは貴方様に忠誠を誓います。
今この場でTSトロンを裏切れと仰らればこの瞬間反旗を翻します!」
ドクトルLには表向きTSトロンの大幹部として潜伏してもらいながら、俺の協力者という形に落ち着く。
内側から敵を突き崩すにしても、まずは情報を得る事が必須として、ベッドの上で話をしてもらう。
TSトロンの幹部は、媚薬研究を中心とした科学者のドクトルLを含めて4人。
呪術を使い男を幼女へ変身させる「ロリ男爵」。
包容力(子宮)で相手を娘へと生まれ変わらせる「バブみ大僧正」。
老若男女問わず身体を重ねなければ眠れない「エロイ元帥」。
全員を相手取るのはさすがに骨が折れる為、1人ずつ倒す事が求められる。
帝重洲帝国本部に残した改造プラントで強化改造をする必要もあるかもしれない。
話を聞いていく中で疑問に思った事を、タチーハの尻尾でドクトルLの秘所を貫きながら訪ねる。
「…そういえばドクトルL、TSトロンは“戦隊”との交戦データはあるのか?」
「あっ♥は、はい。あります。あふっ♥ は、激しい♥ 支部の2つが壊滅させられ怪人13名と戦闘員145名が奴らに捕まりました。あン♥
ただこちらもそこの上級怪人カワニシテノットールと同タイプの2号が今朝あった交戦時に、密かに戦隊の1人を皮にする事に成功し現在成りすまして潜伏中です。あっ♥ああ~ン♥♥♥」
「その皮にされた戦隊員の名前は!?」
まさか双葉じゃないだろうな?
拉致られ失踪扱いになった俺の身を案じ、公安の特殊戦隊となり戦いに身を投じた愛する女性ではないかと不安に駆られる。
いくら怪人がその女性の身体から抜け出れば元通りになるとはいえ、今現在進行形でその皮にされた女性隊員は中身が男の怪人に好きなように身体を使われているのだ。
俺の問いにドクトルLの回答は・・・
「は、はいっ。あんっ♥ 我らが宿敵トランスレンジャーのトランスホワイト、白鳥双葉です。ふあぁっ♥」
「なんだって!!」
やはり、双葉が怪人の毒牙にかかってしまっていたのか!
思わず尻尾でドクトルLの秘所を激しく突き上げる。
「ひぁあっ♥ ああっあぁぁああぁ~~~~っ♥♥♥」
激しく絶頂するドクトルL。
「…それでその、ノットール2号をアジトへ帰還させるとか、能力を解除させることはできるか?」
俺の問いかけに、ドクトルLは息も絶え絶え答える。
「そ、それは…難しいですぅ…。ヤツは首領直属の親衛隊で…私には命令権がなくて…。ふぅ…。
ついでにいえば…、ヤツは命令を聞かない可能性も高いです…。
ヤツは好色で残忍、命令よりも自分の欲望を満たす方を取る男で…、独断で勝手に行動することもしばしばなのです…。
今回憎き戦隊の一人を皮にしたのも…命令されてのことではありません…。
戦闘力の高さ、能力の有用さ、そして今回のように大手柄を挙げることも多いので…、首領はヤツを重宝していますが…。
ヤツは…気に入った女を皮にして着込むと…、その体を飽きるまで陵辱し…使い潰すまで脱ぐことはないでしょう…」
ドクトルLの絶望的な言葉に俺は顔を青ざめる。
くそっ、どうすればいい!?
待て、いまドクトルLはこういったな、命令よりも自分の欲望を重視し、しかも好色だと。
ならば、今自分がかぶっている女よりも魅力的な女が目の前に現れたら…どうなる?
「おい」
呼びかけながらぷっくり膨れたクリトリスをつまみあげる。
「はぁんっ! なんでしょうタチーハ様!」
「俺のこの体、お前から見てどう思う?」
「至上の美しさだと思われます!」
「そうか、なら…やつからみてもそう感じるわけだな」
「さようでございま…まさか、タチーハ様!?」
相手は凶暴かつ利己的だ。しかしもたもたしていては双葉の命が危ない。
ならば、多少のリスクは覚悟するしかないのだ。
「俺が一般人を装いやつに接触する。そしてあいつの技で皮にされる瞬間に自ら皮になり、内側に入り込んだやつを吸収する」
「そんな強引な、失敗したらそれまでなのですよ!?」
「もちろん備えはする。知恵を借りるぞドクトルL」
そういって微笑むとドクトルの額にキスを落とした。
ドクトルLの手引きで、密かにTSトロンのアジトから抜け出すことになった。
ドクトルLを早急に陥落させてよかった。
もしもTSトロン大首領にタチーハ捕獲の連絡を入れられてしまっていたら、余計な監視役などが付けられ、自由に行動できなかった可能性もある。
前を行くドクトルLの後について地下通路を歩く。
時々見張り役の戦闘員や他の怪人とすれ違いそうな時には、ドクトルLが密かに合図をくれ、俺はすぐさま物陰に身を隠す。
それにしても…。
しゃなりしゃなりと優雅な身のこなしで歩くドクトルLはいかにもお嬢様然として、とても中身が老境に入りかけた男には見えない。
戦闘員や怪人と言葉を交わすときにも、その優雅な様子は崩れない。
長いエレベータを降りると、路地裏の裏寂れた雑居ビルに出た。
ここが秘密の出入り口のひとつだというわけだ。回収してきた私服に着替えなおして地上に出る。
通りまで歩いたところで、ドクトルLは携帯端末を取り出し、どこかに連絡をした。
――と、すぐさま黒塗りの高級車が目の前に停まる。
「さ、どうぞ。お乗り下さいタチーハお姉様」
車から出てきた黒服が扉を開け、俺とドクトルLは並んでその後部座席に乗り込んだ。
「そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですのよ、タチーハお姉様。この者たちは言わば、私の表の顔での部下ですわ」
そう言って、ドクトルLは己の経歴について語り始めた。
ドクトルLは元々、老境に差し掛かった孤高の天才科学者だった。ただし、度を越した研究によって学会を破門にされるタイプの、いわゆるマッドサイエンティストだ。
それがTSトロンにスカウトされ、怪人化改造を受ける際に、松戸院財閥の一人娘、松戸院 彩子のクローン体へと脳を移植された。
このとき松戸院財閥の現当主とドクトルLの間で密約が交わされた。
本物の松戸院 彩子はすでに病死しており…、その死を隠蔽するため、ドクトルLがその替え玉として松戸院 彩子として生活すること。
その約束さえ守れば、怪人として活動しようが松戸院財閥は関知しない。そういう契約だ。
「だから私はTSトロンの幹部としての活動と同時に、松戸院 彩子として女子校に通ったり、華道や茶道、ピアノにバイオリンを習ったり、大変な生活をしておりますのよ。
あと、将来的には松戸院家の跡継ぎを遺す為に誰か殿方と子を生すことが決まっておりますし」
#ドクトルLイメージ画 左が人間態 右が怪人態
「それは…、意外に苦労しているんだな、ドクトルL…」
「外ではその呼び名はおやめ下さいませお姉様。彩子、とお呼びください。お姉様もタチーハは怪人名でしょう? 外で使う為の名前はありませんの?」
ドクトルL…もとい彩子の言葉に一瞬考える。
「そうだな…、じゃあ俺のことは本郷 太刀葉と呼んでくれ」
これは俺がこのタチーハの体を使うと決めたときに考えた偽名だ。手持ちの偽造身分証にも本郷 太刀葉と記してある。
「わかりましたわ太刀葉お姉様」
「そんなわけで、この黒服たちは松戸院家が私に付けたSPですの。
私の戦闘力ならボディガードなんて必要ないって言いましたのに、過保護なお爺様が無理やり用意なさったの」
「替え玉の割りに大事にされているんだな」
「お爺様は私のことを、替え玉とわかっていながら溺愛なさっているの。
どうも、本物の彩子は相当のはねっかえり娘で、お爺様と上手くいってなかったらしくて…。その分私を可愛がっているみたい」
「そろそろ松戸院家の屋敷に着きますわよ。私の私室ならTSトロンの監視装置もありません。
ノットール2号についての対策を考えるならそこがよろしいかと思いますわ」
通された彩子の大きな部屋は、一目で一級とわかる調度品で整えられている、お嬢様としての部屋だった。
お客様という事でお茶と茶菓子の用意がされ、本当に二人きりになった直後に、彩子は良く通る声で宣言した。
「地下研究室へ移動、IN・OUT双方へのシャットダウン。
同時に以後ドクトルLへの全研究室に、本郷太刀葉/怪人タチーハの通行許可発行」
俺達の座る椅子と、お茶が乗せられたテーブルが、エレベーターの様に下へと降りていく。
しばらく降下した後、俺達は彩子の言ったとおりの研究室へと到着した。
「これは凄いな、松戸院家の地下にこんな所があったのか」
「私の研究成果でお爺さまのポケットマネーが増えましたので、それで作っていただいた研究室ですわ。
個人的な研究をしている事もあって、ここに入れるのは私とお爺様、そして太刀葉お姉さまだけです。
残念ながら、TSトロン大首領とのホットラインだけは設置しなければいけなくなりましたけど」
椅子から立ち上がって移動し、ちょこんと彩子は俺の膝の上に座る。嬉しそうに体を預けてくる為、止めてくれとも言い難い。
「太刀葉お姉様、こちらがトランスレンジャーの情報です。ご覧になってください」
渡されたタブレットの画面を見ながら、TSトロンが収集したトランスレンジャーの情報に目を通す。
公安が秘密裏に設立し、秘密結社帝重洲帝国やTSトロンなどといった、いわゆる“悪の組織”を相手とする戦闘チーム。
各自のカラーと戦闘スタイルを持ち、チームならではの連携を以て戦闘する5人組。たまに6人目が来る。
基本的には志願者、または素質がある者で構成されている。
俺が失踪してしまった7年前よりも以前に構想がされていたようで、帝重洲帝国の行動が活発化してきた事を切欠に活動を開始した。
主な内容を見進めていくと、歴代のメンバーが表示されていく。
怪我や各員の事情等によりメンバーの入れ替わりが何度か起こっているようだが、比較的上の部分に、あった。
トランスホワイト、白鳥双葉。
6年以上のキャリアを持ち、現場を引っ張るよりは他者のサポートを得意としている。
その名前を見ただけで、タブレットを握る手に力が入る。パキリと音がした事で、ようやく我に返れた。
「…太刀葉お姉様、先程もトランスホワイトの事をひどく気にしておられるようでしたが、彼女とどういった関係だったのですか?」
「気になるのか、彩子」
「当然ですわ、今の私が忠誠を誓う太刀葉お姉様の事ですもの。何故そこまで腐心なされるのか、理由を可能な限り知っておきたいのです」
見上げてくる彩子の、疑問に思うと同時に少しだけ拗ねているような表情を見下ろす。
…乱暴な手段で堕としたとはいえ、こうまで言ってくれる彩子だ。何も言わない事の方が良くないだろう。
ぽつりぽつりと、語りだした。元男だった俺の、本郷清彦の婚約者である双葉の事を、思い返すごとに懐かしみながら。
すっかり紅茶が冷めてしまう程に時間をかけて語り終えると、彩子は俺の体に抱き付いてきた。
「…少し、双葉さんの事が妬ましいですわ。そんな事になっても太刀葉お姉様…あなたに想われている事に。
私はあなたに尽くします、尽くしますが…。
お願い申し上げます、彼女を助けられたからといって、捨てないで下さいまし」
見た目の年齢相応に縋りついてくる彩子をそっと抱きしめて、落ち着くまで背中を撫でていた。
椅子と机が上昇し研究室から彩子の部屋に戻るとメイドが部屋を清掃していた。
メイドは俺達が部屋に戻ってきたことに気付くと「お茶のお代わりをお持ちします」と言って部屋を出ていこうとした。
「待ちなさい、ノットール1号。貴方、葉月に恥をかかせるつもり?」
彩子に言われて葉月という名前のメイドなのだろう。
メイドはハッと指摘された理由に気付き、顔を染め慌てて捲れていたスカートを直すと
「失礼しました。気を付けます」と返事して出ていった。
「彼女は葉月。本物の彩子の頃からの私の専属メイドです。今の中身はノットール1号ですが。
勿論本物の葉月は私がドクトルLでもあることを知っています。
ノットール1号が私の護衛として松戸院家に来ている時は自ら葉月が1号に身体を提供していますのよ。
本当に良くできた娘なのです」
さっきまでは容姿相応な感じだったのに、今は自分の子供の事を話す親のように大人びて見える。
「それだけに伝令に来たノットール2号が葉月を気に入って先週までの2ヶ月もの間、葉月の身体を好き勝手していたことが許せん!
産みの親であるワシに対する態度も腹立たしいがそんなことより葉月や今まで奴が乗っ取った女性達への態度じゃ!
TSトロン大首領のお気に入りでなければ粛清してやったものを!」
途中から彩子からドクトルLになったな。
マッドサイエンティストだし悪の組織の大幹部なのだが人情味溢れるおっさんなんだな。
「ハァハァ、失礼しました。太刀葉お姉様」
落ちていたところで中身がノットール1号のメイドの葉月がお代わりのお茶を持ってきたので美味しい頂いた。
尚、ノットール1号は彩子=ドクトルLの直属の部下でありドクトル自身に忠誠を誓っていたので自動的に俺にも忠誠を尽くすようになった。
また完璧な奇襲な筈だったのに看破され、圧倒的戦闘力であっさり無力化され身体を支配されたことで格の違いを思い知らされ俺を勝手に崇拝しているとの事。
怪人に崇拝されるとはなんか複雑な気分だ。
その頃、トランスレンジャーのトランスホワイト、白鳥双葉を皮にしてまんまと成りすまして秘密基地に潜入したカワニシテノットール2号はトイレの中でオナニーしながら心の中で悪態をついていた。
(畜生、まさか記憶が読めないとは!双葉め、皮にされた瞬間に何らかの方法で記憶をブロックしやがったな。
記憶が読めれば楽に俺の計画を実行できたものを。
まぁいい。俺の演技力を持ってすれば成りすますなぞ簡単。
トランスレンジャーをぐちゃぐちゃにかき乱して仲間割れさせるのも良し。
敵対組織をトランスレンジャーのトランスホワイト、白鳥双葉としてぶっ潰すのも面白い。
くっくっくっ、さて、どうしてくれようかwww)
「んっくぅ、それにしても双葉の奴…、随分と溜まってるみてぇだな。
このエロい体なら他の連中ともズッコンバッコンヤリまくれるだろうに、つまんねぇ奴だ。
どうせなら、俺が双葉のフリをして、他の連中相手に色々してやるのもいいかもな。
そんで、双葉の体で快楽の天国と、その双葉に裏切られる地獄を、与えてやる…っ、うはぁっ!!」
双葉の肉体で絶頂しながらノットール2号は策謀を巡らせる。
「あぁそうだ、どうせならトランスホワイトとして暴れてやって、トランスレンジャーの名前を地に落としてやるのも良いな…。
何せ今は俺が白鳥双葉なんだ、強化スーツは着れるし、好き放題できるじゃないか」
愛液で濡れたままの股間を拭かずパンツを穿き、服を整える。表面上は双葉を装い、記憶が使えず外出に苦労しつつも、ノットール2号は秘密基地の外に出ていった。
* * *
『太刀葉様、2号の反応がありました。市街地に向かっているようです』
同型故の信号感知能力により、葉月ことノットール1号が俺に2号の存在を教えてくれる。
素体になった人間が違う為、1号と2号とでは大分性格が違う。2号の行動は葉月だけでなく、葉月の体を使う1号も腹に据えかねていたようだ。
「ありがとう葉月、すぐに向かう。…ドクトルL、2号からの通信ログの解析は済んでいるか?」
『完了しておるわ。2号の奴め、大首領への定期連絡もしておらんようでな、完全に独断のようじゃ』
「それを見過ごされているんだから、随分と大首領に気に入られてるんだな」
『だからこそ2号がやられても事故で処理できるんじゃがな』
ドクトルLとも通信越しに会話する。どうやらこちらの想定通りのようだ。
好色で利己的なら、このタチーハの体とフェロモンには必ず反応する筈だ。
さらにはドクトルLの媚薬を混ぜる事で、奴の視線を俺に誘導する。
…こんな形で再開したくはなかったが、それもすべては双葉を助ける為だ。
息を吸い、覚悟を決める。
「待ってろよ双葉、今奴を体から抜き出してやるからな」
「ふっ…ああっ、んんっ♥ ふあぁっ♥」
薄暗いカラオケボックスの部屋に嬌声が響く。
「あああぁぁ…んっ♥」
一際大きな叫びを上げると…声の主、白鳥双葉は体を大きく痙攣させ…絶頂した。
「はぁ…はぁ…」
荒い息を吐きながら立ち上がると、股間から黒く光るバイブを抜き取り…、ニヤリと笑みを浮かべる。
「んんっ、私は白鳥双葉。今年で25歳になる警察官…は表の姿。その正体は公安の秘密組織、トランスレンジャーのトランスホワイト!」
その場でポーズを決める双葉。その姿は普段のトランスホワイトと比べても遜色の無い動きだ。
「ふぅぅ~。読めてきた。だんだんと読めてきたぜぇ。記憶のブロックなんて小賢しい技術、俺様には通用しねぇんだ。
身体が絶頂するたび、ブロックした記憶が少しずつ漏れてきて俺様のものになるわけよ。
そろそろこの女としてバレずに日常生活が送れるくらいには記憶も手に入ったし、トランスレンジャーに天国と地獄を見せてやろうじゃねぇか…!」
カラオケを出て街を歩く双葉。その仕草は先ほどここに来るまでと見違えるほど、双葉そのものの動きだ。
ただし…スカートの裾は先ほどより10センチも上げられ、その内側では下着を履かずにパンストを直に履いている。
カーティガンは脱いで鞄に仕舞われ、その胸は歩みに合わせて激しく揺れる…ノーブラであった。
「もっと際どい服はねぇのか…。まあいい、帰ったらクローゼットを漁って、見つからなきゃこの女の金で買えばいい。
今は俺様が双葉なんだ。この女を俺の好きなように染め上げてやるぜ…! ククク…ハァーッハッハ!」
双葉はトランスレンジャー基地に隣接した、職員女子寮へと帰ってきた。
ここは最新鋭のセキュリティで守られており、敵である怪人やいかなる脅威も立ち入ることができない。
指紋や声門、虹彩のチェックもパスし、先ほど読み取った記憶からロックの解除キーワードも難なく答え、双葉は寮へと入り込んだ。
そして自室のドアをノックし、入る。
「ただいま瑞葉。今戻ったわ」
「あ、おかえりなさい双葉先輩!」
双葉を迎え入れたのは、この寮で同室の後輩であり、トランスレンジャーのトランスイエロー、大石瑞葉だった。
「あ、先輩。私今からお風呂行こうと思ってたんですが、良かったら先輩も一緒に行きませんか?」
「ええ、いいわね。準備するからちょっと待って」
(くくくっこれは好都合だぜ…!)
瑞葉の申し出に内心でほくそ笑むノットール2号。
大浴場の脱衣場で瑞葉が双葉=ノットール2号に
「双葉先輩が帰ってくる直前なんですけど今朝、先輩が発見保護した女子高生は精密検査の結果も異常もなく無事ご両親の元に帰ったそうです」
「そう、良かったわ」
「でもやはり怪人に身体を乗っ取られていた痕跡はあったそうです。
記憶も断片的で彼女を乗っ取っていた怪人はわざとそうして被害者の女子高生に自分の意思で行動していたように錯覚させたり、本人の意識を眠らせて怪人が彼女に成りすまして行動していたようです。
幸い肉体的には全く異常はなかったそうですが、最近行動が活発化しているTSトロンの女性を皮にして乗っ取る怪人の仕業の可能性が高いとドクターは言ってました」
「恐ろしい相手ね。今もどこかで女性の皮を着て化けているのかも知れないわね。
なんとしても見つけて倒しましょう!」
「ハイ、先輩!」
ププ😁💨💨お前の目の前にいるけどなwww
「それにしても良かったです。双葉先輩も元に戻ったみたいで」
「…どうかしたの?」
瑞葉が服を脱いでいる所をチラチラ見ていると、ふとそんなことを言われた。
「だって今朝、基地に帰ってきた先輩ってどこか上の空みたいでしたから」
「えぇそうね…。少し滅入ってたみたい…」
「今はそんな事も無いみたいですけど、外出して少しは気晴らし出来ましたか?」
やはり同室なだけはあるな、双葉の記憶が読めてなくぎこちない時の姿は、瑞葉の目にも不自然に映ってたようだ。
そもそもあの女子高生を引き渡す際に会ってたのも大きい、が…。
「ありがとう瑞葉。でも大丈夫よ、アレくらいで落ち込んでなんかいられないわ。私にはもっとヤらなきゃいけないことがあるんだもの」
(そう、白鳥双葉として、この体の開発をしたり、トランスレンジャーをぶっ潰したりな)
お互いにタオルで前を隠し、瑞葉と並んで大浴場に入る。
まずは体を洗ってから入らなきゃならねぇのが面倒くせぇが、
「先輩、お背中流しますね」
と瑞葉が言った事で、互いに背中を洗う事になった。双葉の記憶じゃ、一緒に風呂に入った時はよくやりあってる事だった。
泡立ったスポンジで背中を洗う瑞葉の手は、“いつも通り”の感触だ。
(くくっ、良い気持ちだよ瑞葉。手前が背中を流してる相手が、倒すと意気込んでる怪人と思いもよらずになぁ)
立場を変え、今度は俺が瑞葉の背中を洗う側になった。よくよく見るとコイツも上玉だよな、双葉の次は瑞葉の体に入ってやってもいいかもしれねぇ。
「ひゃっ! ふ、双葉先輩っ?」
「ごめんね瑞葉、ちょっと力加減間違えちゃったかも」
ハプニングを装って、瑞葉の胸を揉んでやる。こいつは…、ふぅん? 中々イイ感じじゃねぇか。
驚いてるだけで嫌がってる様子はねぇな。
そのまま後ろから抱きしめてやると、面白いように顔を赤くしてやがる。
この反応、この感触、くくくくっ、いけるなwww
俺がカワニシテノットール2号として生まれ変わってからこの1年、何人もの女に成りすまして友達や同僚とレズって数多くのレズカップルを誕生させてきた。
別にレズ好きってワケじゃねえが抱くなら女が良いし、それも俺好みの美人や美少女が一番だろ。
もちろん自分が成るのも美人や美少女になるのが良いし、俺にはその能力があるw
女になって女同士楽しむのも好きだし、俺がいい女になって男共にちやほやされるのも楽しいものだ。
中身が俺と気づかず男共がその女に成りすましている俺の気を引こうと必死な様は見ていて痛快だし、ちょっと気のある振りをして手玉に取るのも爽快だwww
さて、どうやら瑞葉はレズってワケじゃないがこの反応からすると仲の良い先輩後輩以上に俺が今成りすましている双葉に好意以上の感情を持っているようだ。
ふふふっ、いきなり乱暴に襲い掛かって犯るより、
双葉に成りすまして俺がうまく誘導してレズる方向に持っていくのがなにより楽しいのだ。
上手く演じて美味しく頂いてやるぜw
「もう、双葉先輩ったら。やっぱりまだ変な感じですよ?」
「そうかしら。でも、だとしたら瑞葉のおかげかもね」
「ふぇ…?」
さっきのはアクシデントとばかりに、いつも通りに瑞葉の背中を洗いながらそっと呟いていく。
「瑞葉がいてくれたおかげで、とても助かってるの。
前の私は…、婚約者が拉致された事でこの仕事に就いたわ。取り戻すつもりで戦ってきて、少し疲れてもいたの。
その時瑞葉が来てくれて、先輩と言ってくれたおかげで、私のやってきたことは間違ってなかったなって思えるようになったのよ」
双葉の記憶を探りながら誘導する。…にしても、この本郷清彦って奴の記憶は、ずいぶん深い所にあるな。ここの部分だけは切り離しておかないと、引っ張られるかもしれねぇ。
「だから、ちゃんと言わせて。ありがとう、瑞葉」
「先輩…!」
正面から向き合って、双葉としての笑顔でにっこりと笑ってやる。大抵の男ならこれで気を惹けるだろう、極上の笑顔でだ。
くくくっ、瑞葉の奴め、感動のあまり泣きかけてやがるw
ふはははっwww
最高の気分だ♪
成りすまし怪人の真骨頂ってやつだな!(二重の意味で)
郊外のスーパー銭湯並みにかなり広い大浴場だが今は俺(双葉)と瑞葉だけの二人だけだ。
この場で始めるのもスリルがあって面白いし、部屋に戻って邪魔が入ることなく楽しむのもありだ。
優しい先輩のフリをしながら心の中ではこの後のお楽しみをどうするかほくそ笑みを浮かべていた。
「双葉先輩…!」
考えていると、唐突に瑞葉が俺の体に抱きついてきた。触れ合う女同士の体は柔かくて、つい襲ってしまいたくなる。
そんな心中での躊躇をしていると、次は唇が重ねられた。
「ん…っ?」
違和感が襲ったのは、次の瞬間だった。瑞葉の口の中にあった何かが、俺の体に流し込まれる。
「瑞葉、あなた一体…っ、あっ、っひ、んおぉぉう! 何だこれぇぇ!?」
あっという間に身体が火照って股間から愛液が漏れだす。双葉として取り繕う事も出来なくなりそうな程の疼きが、体中を走った。
瑞葉はそんな俺を見て、にやりと笑っている。ちょっとでも気を抜くと暴れ出してしまいそうな欲望を抑えながら瑞葉を見…、鏡に映る背中が、裂けた。
「カワニシテノットール2号、双葉の体を返してもらうぞ!」
中から出てきたのは、
「手前…! 確か、帝重洲帝国の、タチーハ…!?」
* * *
時は少し遡る。
「それで太刀葉お姉様、ノットール2号の前に姿を現して自らを囮にするのですか?」
「俺は本来蝙蝠男だからな、本体部分がやられなければ大丈夫…、ではある」
主な作戦としては、フェロモンと媚薬の合わせ技で俺を狙わせる方針だ。その場合タチーハの体が優先対象になるだろう。
「葉月、確かカワニシテノットールは皮の重ね着が出来ないんだったな?」
「えぇ。複数枚重ねて着用すると、外部の記憶取得などに難が出てしまいますから。
その分皮にする能力と、着脱の速度だけはかなりの物ですが」
「タチーハの体を狙う時には、奴は双葉の皮を脱ぐだろう。…本体が出てる時に倒せればそれで良い。
だがもしタチーハの体を取られてしまった場合は…」
そうなれば確実に俺は殺されるだろう。幹部怪人と、戦闘能力のほとんどない隠密行動用怪人との戦力差なんて考えるのも馬鹿らしいほどだ。
作戦要項を詰めながら、ドクトルがそれを纏めていく。
「であれば、ノットール2号が倒せる状態であれば即座に行動を。
もし怪人タチーハの体が取られる場合は…」
「…俺が双葉の肉体に寄生し、保護しよう」
「双葉さんのルームメイトのデータもありますし、私が近付いて皮にします。太刀葉様はそれを着用して、2号に接近してください」
「戦隊の本部に食い込む、リスクの高い作戦だが…、時間はかけられない。やるぞ」
全て3分以内にこの場で片付けなければならない!
しかも威力の強い怪人エネルギーを放出するビームや音波衝撃砲等の飛び道具系を封印して肉弾戦だけでだ!
俺が抜け出した為に瑞葉ちゃんは3分で意識を取り戻す。
そうなれば俺がノットール2号に乗っ取っられた双葉を救出しようとしているとは思わずに
即座にトランスレンジャー・トランスイエローに変身して怪人侵入の緊急連絡をしつつ襲い掛かってくるだろう。
またここは難攻不落の戦隊本部のお膝元。
救援を呼ばれればあっという間に俺達全員お陀仏だ。
だから意識を取り戻す前に決着をつけ、俺は再び瑞葉ちゃんにならなければならない。
またこの場所が大浴場だから防衛システムがないが瑞葉ちゃんになって、ちょっとこの寮内を見てみただけでも
更衣室や通路、食堂、隊員各居室等 至るところにセンサーや防衛システム、迎撃システムが組み込まれている。
この大浴場から1歩でも出れば皮を脱いだ俺達を即座に感知、作動するだろう。
出なくても怪人エネルギーを撃ち出す射撃型技はダメだ。
感知、作動すればレーザー砲や冷凍光線、熱線ブラスターや重マシンガン等の対怪人用火器に
天井や壁から免疫細胞のように迎撃ドローン(ガンダムF91のバグみたいなモノ)が殺到する。
だからこそ唯一の安全地帯で都合の良いこの大浴場に誘い込んだのだが。
ここまでは予定通りだ!
ノットール2号!貴様を倒し双葉を解放する!
だが意外にも、ノットール2号の判断は冷静だった。
瞬時に人間離れしたスピードで距離をとり、腕のブレスレットを作動させ変身する。
「変身ッ! トランスホワイト!!」
さらにブレスレットの通信機能でトランスレンジャー本部に連絡を取る。
「緊急事態! 緊急事態! 大浴場に元帝重洲帝国のタチーハ将軍が出現しました! 応援求む!」
室内に警報が鳴り響くとともに、迎撃ドローンや寮内の一般隊員が集まってきた。
ノットール2号は内心で激しく焦りながらも…自分でも驚くほど冷静に事態に対処していた。
ひっ、ふぅっ、媚薬か何かを飲まされたようだが、ま、まずは“肉体操作”で肝臓をフル回転! 媚薬を分解する…。
“肉体操作”は俺が他人を皮にする能力を使いこなすべく、独自に研究した末に編み出した秘技のひとつ!
本来は身体能力を強化して戦闘につかったり、肉体の巨乳化やペニスを生やしたり、顔を作り変えるなど俺の趣味に使っているのだが…、
内臓機能を強化すれば毒の分解も可能だ。
身体強化などは俺が皮を脱ぐと解除されてしまうが、巨乳化等の身体表面の変形程度なら脱いだ後も皮にした身体に変形を残すことも可能。
同時にトランスホワイトに変身する。
この変身過程はまるで毎日やっているかのように、反射的に行うことができた。
まるで俺自身が双葉そのものになったような自然さだった。だがそこに疑問を感じている暇は今は無い。
変身すると強化スーツにより、単独で怪人と戦えるだけの力を得ることができる。
そこに身体能力強化を重ねることによって段違いの戦闘力が得られるってわけよ!
しかし妙だぜ…。
俺がこうしてトランスレンジャーに潜入していることは、大首領様か同型のノットール1号、あとはその上司のドクトルLくらいしか知らないはずだ。
それがどうして帝重洲帝国のタチーハがこうしてここにいるんだ?
しかも、こりゃどう見ても俺を狙ってやってきたとしか思えねぇ。
タチーハは滅茶苦茶いい女だ、それこそ隙あらば皮にしてやりてぇくらいだ。
だが、何度も修羅場をくぐってきた俺の勘ってヤツが激しく警鐘を鳴らしてる!
こいつはダメだ。今はとにかく保身を優先するべきだ。
なにしろ、俺はトランスレンジャーにまだ天国も地獄もどちらも味わわせてねぇ!
ここで死ぬわけにはいかねぇんだ!!
さらに、センサーのないこの部屋を出る前に、大首領様に救難信号を飛ばしておく。
ノットール1号の裏切りの可能性も示唆しておく。
ここまでの判断を瞬時にすませたノットール2号は、トランスホワイトとしてタチーハと対峙する。
「こんなところまで侵入するなんて油断も隙も無いわね、女怪人! トランスレンジャーが正義の鉄槌を下してあげる!!」
そこに、警報の音で予想以上に早く目を覚ました瑞葉。
「うっ、うう…、私は一体…、はっ! 先輩! 加勢します! 変身、トランスイエロー!」
「瑞葉! 合体技で攻撃するわよ!」
「はいっ先輩!」
トランスホワイトとトランスイエロー、二人の持つブラスターのビームを空中で収束させ、ひとつの大きなビームとして撃ち出す。
「「エレクトリック・アロー!」」
強力なビーム、さらに、一般隊員の援護射撃がタチーハを襲う!!
咄嗟にタチーハは将軍クラスだけが展開できる強力なエネルギーシールドを何重にも張ったようだがさすがにこの距離だ。
バリアーを貫いたエレクトリック・アローが直撃して吹き飛ばされたように見えたが爆発と爆煙、大浴場の壁が崩落し目視できない。
トランスレンジャーのスーツの各種センサーも爆発エネルギーの影響でタチーハ将軍の姿を感知できない。
殺ったにしても死んでなかったにしても今の攻撃ならただじゃ済まない。
上手くすればタチーハ将軍の身体を手に入れられるかもしれない。
正直まだトランスレンジャーに天国も地獄も与えていないし
今の俺の身体となっているトランスレンジャー・トランスホワイトの双葉の身体も美人だし戦隊員の立場も魅力的だが、それ以上にタチーハの身体が魅力的なのだ!
タチーハ将軍の身体を乗っ取り、タチーハ将軍の身体能力と俺の怪人能力を全部逃走に振り込めばこの場から緊急離脱できる可能性は高い。
傷が癒えたらノットール1号が裏切ったかどうか俺自らがタチーハの身体で尋問しても良い。
勿論ノットール1号が葉月を着ている時にだ。
「瑞葉!私が突入して調べるわ!貴女はこの場で援護して!」
「危険です!ドローンを突入させて確認してからが」
「待っている間にタチーハ将軍が意識を回復してまた襲い掛かってくるかも知れないし逃走する可能性もある。
今ならとどめを刺せるチャンスかも知れないの。行くわ!」
双葉=ノットール2号は突入した。
爆煙の中を警戒しながら慎重に進むトランスホワイト=ノットール2号。
勿論、突入したと同時にリンクをオフにしてイエロー(瑞葉)にデータや状況を伝えないようにした。
(見つけたぜ。ちょっと煤けているが・・・ってあれだけの攻撃を受けて汚れてちょっと怪我しただけかよw
予想以上の頑丈な身体だな。まぁさすがに意識はないか。
スーツのセンサーにも意識がないと認識している。
だが体内エネルギーが上昇して数分後には覚醒するとセンサーとデータは言っている。
まぁ俺がタチーハになるには30秒と掛からないがな。
「・・・ん」
スゲエ回復力w
勿体ないし惜しいが双葉の身体とはここでお別れだ。
「トランススーツ、解除」
双葉の声紋認証でスーツが解除され、俺は人間の双葉になった。
そのまま双葉の身体から脱皮しようとした瞬間、
「待っていたぜ。この瞬間をな」
知らない男の声が背後からした直後、ノットール2号は意識を失った。
まさにセミの羽化状態みたく双葉の背中から現れたノットール2号に俺は背後から襲い掛かって奴に寄生した!
エレクトリック・アローを至近距離から直撃を受けて咄嗟にバリアーで防御したもののマジに吹っ飛ばされた。
だがそれが幸いし見事な目くらましになった。
だからタチーハの背中から俺本体で抜け出し、すぐに来るであろうノットール2号をタチーハの身体を餌に待ち伏せした。
予感は的中!
奴はタチーハの身体に夢中で背後に隠れた俺に気付いていなかった。
こうして俺はノットール2号に寄生し肉体を支配した。
このまま2号の能力を使用し、双葉になってこの7年間の記憶を知りたい衝動に駆られたし
愛した双葉に僅かな時間でもいいから一心同体になりたかった。
だがずっと深層意識の奥に押し込み 例え俺が中にいなくても目覚めるとは思っていなかったタチーハ将軍の意識が
先ほどの猛攻の影響や俺が限界近くまでタチーハの能力を使用した影響からか意識が目覚めようとしていた。
だから俺は今度はノットール2号の身体と能力でタチーハ将軍を皮にして着込んで乗っ取った。
乗っ取ったことでタチーハ将軍の意識は再び深い眠りに就いた。
ふぅ・・・。
ノットール1号がこの場にいてくれたら・・・。
だが居ないものは仕方がない。
後はこの場から全力で離脱して生き延びることだ。
「愛しているよ。双葉」
タチーハ将軍の身体でそっと優しく双葉を抱きしめる。
中身はノットール2号だったし、俺は俺で双葉の後輩のトランスレンジャー・トランスイエローの大石瑞葉ちゃんの身体だったが
身体は本物の双葉の先ほどの7年振りのキスは俺に力を与えてくれた。
「生き延びて・・・いつまでも双葉を守るよ。もう双葉に愛する人がいて家族がいても。旦那も子供も全て俺が守ってやる。
じゃあな、双葉」
先ほどまで俺がなっていた大石瑞葉ちゃんが知る限りの記憶では今も双葉は誰とも付き合っていなかったようだが。
「現れたぞ!撃て!」
外側から展開した隊員達からの一斉射撃!
その銃撃を防御シールド展開して防ぎつつ高速低空飛行で突破する!
さすがにこの事態が始まって5分もしていないからまだ重攻撃ヘリやVTOL戦闘機はいないがスクランブル発進し、間違いなくこちらに急行しているだろう。
さすがにそれ等を防御だけで撃墜しないで相手をするのは無理だ。
だが手が出せない人口密集地まで逃げれば俺の勝ちだ!
生体ステルス、人間モードになればもう追うのは無理だからな。
郊外の鉄道高架橋の下に一台の中型トラックが駐車していた。
見た目はどこにもいる配送会社のトラックだがその荷台の中身は配送会社のそれではなかった。
最新鋭の機材や調整槽を備えるドクトルLの移動ラボだからだ。
追跡ドローンを振り切り、この周辺の監視カメラを避けてそのトラックの荷台に滑り込む。
ドクトルL=松戸院 彩子と事前に打ち合わせした待機場所だからだ。
「嗚呼、こんなにお怪我をして!直ぐに治療しましょう」
「大丈夫。大したことはない」
「もう。ご自身をもっと大切になさってください。
でもお姉様嬉しそう。その笑みから作戦は成功されたのですね。おめでとうございます」
「ありがとう。二人のお陰だ。感謝している」
「お役にたてて光栄ですわ。さぁ治療槽のご用意は出来ています。中でゆっくりおやすみしてくださいませ」
松戸院 彩子モードのドクトルLがそう言ってくれたし直ぐにでも浸かりたかったが
「今、俺が乗っ取っているノットール2号なんだがコイツがTSトロンの大首領に『1号に造反行為の疑いあり』と発信した。
本部近くだし通信はジャミングされて届いていない可能性の方が高いがそれでも充分警戒してくれ」
「わかりましたわ。お姉様」
「かしこまりました。太刀葉様」と中身はノットール1号の葉月も返事をした。
結論から言えば杞憂だった。
やはり敵性怪人侵入・交戦中の寮の大浴場から発信された発信源不明の通信は即座にジャミングが掛けられ相殺されていた。
またドクトルLの手引きで犯罪結社TSトロン本部の指令通信要員の女性に寄生してあの日の通信内容の記憶を探ったがやはり傍受していなかった。
さて、次は今俺が寄生して支配下にあるノットール2号の処置だ。
カワニシテノットール2号は頭部に数百本のコードを接続されて調整水槽の中にいた。
「あの日、太刀葉お姉様が双葉さんの中からノットール2号を排除しなかったらどうなっていたかわかりますわ。
外から観察している私達には仮想世界ですがノットール2号にとっては現実なので」
正面の大型モニターにはまさに大浴場でいい感じになり、部屋に戻った双葉(に成りすましているノットール2号)が
後輩でトランスレンジャー・トランスイエロー 大石瑞葉との様子が映っている。
ノットール2号が双葉に成りすまして言葉巧みにレズに誘い込んでいるところだ。
ノットール2号は言葉巧みに大石瑞葉を篭絡し、調教の末にレズ奴隷に堕としていく。
それと同時に、同じく女性隊員であるトランスブルーをまで毒牙にかけ、自分に依存するように仕向けていく。
そこまでの間に何度も絶頂を経験したノットール2号はついに双葉の記憶全てを手に入れる。
また、ノットール2号自身の能力も成長し、“肉体操作”を発展させて“肉体同化”の能力を獲得する。
これは皮にして着込んだ肉体を己に同化吸収することで、ノットール2号本体の肉体そのものをその姿に変化させる――つまり、ノットール2号が双葉そのものになる、というものだった。
外見は双葉をベースに、ノットール2号の欲望を反映してさらに巨乳化しグラマラスとなり、能力はノットール2号と双葉の力を合わせた強力なものとなる。
さらにその状態のまま怪人化(双葉の外見に際どいコスチュームを纏い、角や牙、爪が伸び戦闘力が向上する)したり、その上でトランスホワイトへと変身もできる。
こうして得た力によってトランスレンジャー本部を掌握したノットール2号=双葉は、トランスレンジャーの女司令までも快楽に堕とし、代わりに自らが新司令として君臨する。
そうしてTSトロンと裏で協力し競合勢力である他の秘密結社を壊滅させつつ、頃合を見てTSトロン大首領を倒し、自らが世界を征服する…。
恐るべき映像に俺もドクトルLも思わず絶句する。
「なんということだ…、あのまま放置していたらとんでもないことになるところだったというのか…」
「も、もちろんこれはすべてノットール2号に都合よく事が進んだ場合のシミュレーションですわ。必ずしもこうなるとは限りません…」
「しかしとにかく、早いうちに双葉を救出できてよかった…」
胸をなでおろし溜息をつく。
「しかし、このノットール2号の能力の急速な成長性には驚くものがありますわ。
最初に私が怪人として調整した時には、“肉体操作”なんて片鱗もありませんでした。
さらにそこから発展して新たな能力まで獲得しうるとは…非常に興味深い。
こやつの持つ強力な欲望と意志力が関係しているのだろうが、研究し可能なら再調整し再利用したいところじゃが…んんっ、もとい、したいところですわ。
いかがでしょう太刀葉お姉様。私にこのノットール2号を預からせて下さいませんか?」
「ああ。任せる。好きにやってくれ」
巨大モニターにはカワニシテノットール2号が双葉の身体で【肉体同化】を行い、女怪人化した姿でG7の国際会場で世界首脳陣を相手に性的快感を貪っている様子が映っていた。
正直いくら仮想現実の世界とはいえ、愛する双葉の身体で好き放題に穢しているノットール2号を直接俺がぶっ飛ばしてやりたい気持ちになったがな。
しかし、ドクトルLでさえ予想外だった2号の成長というのが気になる。
乗っ取ったのがトランスレンジャーだからなのか。
それとも、双葉だったからなのか。
そして僅かな時間とはいえそんな2号に乗っ取られていた双葉に何も影響はないのか。
そんな考えが脳裏をよぎり、俺は妙な胸騒ぎを覚えた。
得てしてこういう悪い予感や胸騒ぎに限って的中してしまうものである。
不安に感じた内容を松戸院 彩子から完全にドクトルL状態になってマッデサイエンティストモード全開な彩子に話す。
「可能性としては元々素養のあったノットール2号が、変身ブレスレットという外部的要因によるものとはいえ変身する双葉嬢の身体を着用して
その状態でトランスホワイトに変身したことでカワニシテノットール2号の肉体が加速度的に進化したようじゃ。じゃない、ですわ」
確かに2ヶ月もの間、皮にされずっと着られていたメイドの葉月をはじめとする松戸院家の女性達や他の皮にされて着られていた被害者を
ドクトルLはノットール2号を生み出した責任者として密かに異常がないか遺伝子レベルで精密検査していた。
だがいずれもノットール2号が脱げば皮にされた女性達は全員異常なく元の身体に戻っていた。
7人ほど胸がささやか気味だった女性が肉体操作でサイズアップしていた事を除けば。
「ですが確かに今までと同じく問題が起こっていないとは限りません。早急に検査した方が良いです」
もちろんトランスレンジャー側でも皮にされ怪人に着られて化けられていたトランスホワイト・白鳥双葉とトランスイエロー・大石瑞葉の二人を徹底的に精密検査され調べられているだろう。
だが最先端の科学を有するトランスレンジャーでも生物分野では帝重洲帝国やTSトロン、ドクトルLには遠く及ばない。
何しろ肉体融合して対象者を乗っ取る俺や、人間の中身を情報に分解保存し身体を皮にして体型体格の違い等の物理的要素を超越して本人そのものに化ける怪人を生み出すのだ。
レベルが違う。
やはりドクトルLに双葉を診てもらおう。
より警戒され危険度も増したが俺は再びトランスレンジャーの本部や施設に潜入し双葉を間近で観察し、双葉を連れ出すか
場合によっては俺が双葉になって彩子に、ドクトルLに診てもらう事にした。
しかし、今回の騒動でトランスレンジャー基地の警備の厳重さは格段に引き上げられていることだろう。
なにしろTSトロンの怪人と、そして帝重洲帝国のナンバー2であったタチーハにまで基地内に潜入されたのだ。
こうなっては彼らのメンツやプライドからいっても、そして防衛組織としての危機感からしても警備体制の見直しは免れない。
さらに、隊員各自にもボディガードや替え玉が用意されるかもしれない。
トランスレンジャーの要である隊員の体が乗っ取られていたのだ、最低でも隊員の外出制限はされているだろう。
怪人である俺にとって、今まで以上に双葉との接触は難しくなってしまったと言える…。
それでも危険を顧みず双葉に近づかなくてはならない。
全ては双葉の為だ。
双葉は18歳から25歳の一番楽しい遊びたい時期を・・・7年間という貴重な時間を行方不明になった俺を
暗躍する悪の秘密組織に拉致られた可能性があるという不明瞭な根拠を信じて公安組織に入隊、戦隊員として戦いに身を投じていた。
俺と交際していた時のことを思えば絶対に考えられない!
害虫でさえ殺せないようなとても優しい女の子だったのだから。
だから俺は命を散らすことになっても双葉の安全を確かめなくてはならないのだ。
一方、ドクトルLは私室の地下研究室にて、モニタを睨みながら唸っていた。
「ノットール2号から生体組織の小片を取り出し、同型であるノットール1号に移植したところ、ノットール1号も“肉体操作”の能力を獲得したが…」
横に控えている葉月に目をやるドクトルL。
「しかしその能力は限定的なものだった…。外見的な操作はできるようになったが、ノットール2号のような身体能力や内臓の強化はできなかった」
よく見ると葉月の髪色は以前より明るい色に変化し、腰周りがより細くなりくびれが強調されている。
「組織移植による能力の移植も無理、能力進化条件の再現による人工進化も難しい…。
しかしこの“肉体操作”さらに“肉体同化”の能力、このまま捨て置くのもましてやTSトロン大首領の元で使われるのも避けたいところじゃな。
我々で有効利用したいところじゃが…そうなると方法は三つ…」
ドクトルLは調整水槽内に浮かぶノットール2号を見やる。
「ひとつにはノットール2号の人格を上書きし再生怪人として作り直すこと…。
ただしこやつの能力の進化が人格の意志力と結びついていた以上、さらなる進化は見られないことになる。
また、人格の上書きといっても人間の人格をまったくまっさらにできるわけではなく、今までの人格を潜在意識下に追いやって、上から人工人格を被せることになるので、
新たな人格は機械的な性格にならざるを得ず、また心的外傷刺激などにより旧人格が復活する可能性も無くはないことが問題じゃ」
「もうひとつは、同型であるノットール1号と融合させ統合すること。
これなら能力進化は維持されるが、ノットール1号、2号両者の人格は統合され、どちらでもない中間の人格が生まれることになる。
まあ、それでも以前のノットール2号よりはましになるだろうが」
「最後のひとつは…、ここの培養設備をフルに使って、ノットール2号をワシ自身が吸収すること…。
そうすれば、ワシ自身が“人を皮にして乗っ取る能力”も、“肉体操作”も“肉体同化”も使えるようになるということじゃ…!
太刀葉お姉様に一緒について行って潜入することも可能だし、お役に立てる機会も増える!
もちろんワシの人格も吸収したノットール2号の影響を受けて、好色で残忍になってしまう可能性もあるが…。
この太刀葉お姉様への想いだけは絶対に、強い意志で守り抜いて見せますわ!」
「さて、どうするべきかしら…」
同時刻、トレンスレンジャー基地内。
「率直に言うとね、2人ともヤられてたよ」
白鳥双葉、大石瑞葉の2人を前に、事もなげに言い放つのは、トレンスレンジャーのメカニックサポートを専任とする丹葉凛。
12歳にして、父親でありトランスレンジャーの開発者・丹葉敏明の超頭脳を全て受け継いだ天才児だ。
「今朝がたの女子高生と同じ反応が、2人の体から出てるの。双葉ちゃんに至ってはそれ以上にね」
タブレットに映る各自のデータを見せながら、凛は説明していく。
「そんな、まさか私まで乗っ取られてたなんて…」
「……ッ」
気付けば大浴場で、目覚めた直後に変身して戦っていた瑞葉も、冷静になるにしたがって自分がされていた事に背筋が寒くなっていく。
双葉は強く歯噛みし、肩を震わせていた。何をされていたのかは知らない、だが自分の中に土足で入り込み探られ、あまつさえ基地内に侵入された事に。
「端的に言うと、双葉ちゃんのナカに入ってた怪人が肉体に何らかの影響を及ぼしたってこと。
今回は…、多分毒性の浄化促進ってところかな。詳しくはもっと調べてみないとわかんないんだけどさ」
そんな二人の光景を見つつも、説明を打ち切るわけにはいかない凛は、話を続けていく。
「それと気になった事が1つ。これ、双葉ちゃんのスーツに搭載してるセンサーのカメラなんだけどさ」
画像が切り替わり、大浴場での一場面。画面の中央にはタチーハが、端の方に瑞葉が映っており、鮮明な写真は次第にサーモグラフィーの様な、色分けされた写真になる。
「潜伏してる相手を探す用の、生体電磁波探査モードで撮った写真がこっちなのよ。
こっちが瑞葉ちゃんので、味方の識別信号出てるよね。で、こっちが今までの解析結果から出したタチーハ将軍のデータ。
…はいここでコレに注目」
凛の指は、タチーハ将軍の一部…。色の違う場所を指す。
「タチーハ将軍の中…恐らく脊椎部分に、もう一つ別の反応があるよね。染色体パターンから判断するに、恐らく男だろうね」
「…という事は、タチーハ将軍も誰かに操られていたと?」
双葉の出した疑問に、うんと凛はうなずいた。
「そう考えるのが妥当なんじゃないかな。もうちょっと詳しいデータが欲しかったけど、2人の攻撃の結果出来た爆煙で、画像データではこれ以上は得られなかったけどね」
「うぅ、すみません…」
瑞葉は少し肩を落とす。
「まぁいいよ、あの状態で瑞葉ちゃんに気付けって言う方が無理っぽいし。…その分君のマイクは面白いもの拾ってるしさ」
「へ?」
凛が音声データを再生すると、そこには男の声が記録されていた。
“待っていたぜ。この瞬間をな”
“愛しているよ。双葉。
生き延びて・・・いつまでも双葉を守るよ。もう双葉に愛する人がいて家族がいても。旦那も子供も全て俺が守ってやる。じゃあな、双葉”
音声を拾ったマイクの持ち主である瑞葉は、何もわからない様子だった。
「…この声は?」
「恐らくはタチーハ将軍にくっついていた奴の声なんじゃないかな。どういった経緯でくっついているのかは、多分専攻分野の違いだから解んないし。
それでもわかる事は、さっき双葉ちゃんの疑問に応えたのもこれがあるから。
タチーハ将軍が双葉ちゃんの事を気遣ってくれるとも思えないんだ。多分これ、将軍とは別の意志だよ。
双葉ちゃん、自分の事を気にかけてくれる相手って、心当たり無い?」
「え…? その、あるには、あります、けど…」
言われ、唐突に思い当たる声を聴いて、双葉は言い澱む。
(あの声、確かに…。でもどうして…?)
ずっと聞きたかった、忘れる筈も無い、会いたかった相手の声だった。
「多分双葉ちゃんも考えてくれてるんだろうけど、可及的速やかにやってもらう事があるのさ」
「そんな、博士はこれ以上双葉先輩にどんな負担を掛けさせるつもりなんですか!」
待つ時間さえ与えないような凛の物言いに、瑞葉は椅子から立ち上がり、凛に詰め寄る。
それでも凛は顔色一つ変えずに、淡々と説明していく。
「…ぶっちゃけると、色々重なり過ぎててさ、腑に落ちないんだよね。
まずは帝重洲大帝の死亡。まぁこれはトランスレンジャーと別勢力が倒したとすれば、話は分かる。
次にアジトの露見。大帝を倒した相手がリークをすればこれも説明がつく。
さらに構成員の浄化処置。わかんないのはこれ。どうしてご丁寧に、怪人から戦闘員に至るまで元に戻す必要があったのかって事よ」
双葉も瑞葉も、確かに思っていた事だった。あまりにも唐突なリークと、一斉検挙。誰かが手引きをしたのならわかるが、3つ目だけは職員の誰もが首を傾げていたのだ。
「そこで、ナンバー2で組織への忠誠も篤かったタチーハ将軍が出てきた事である程度の推測は出来た。
…きっと双葉ちゃんへの縁も情の深い相手が、タチーハ将軍の体を使い帝重洲大帝を倒して、組織を壊滅させた。…って所かな。
司令も情報を欲しがってる。…もし双葉ちゃんが可能で、相手に心当たりがあるのなら。その相手とコンタクトを取れない? お互いに知ってる場所とか、あるでしょ?」
その日トランスレンジャー基地をはじめとする防衛組織施設から不思議な通信が発信された。
暗号化もされず平文のまま、まるで傍受しろと言っているような事だ。
当然治安組織や公安組織の動きに敏感なアンダーグラウンド側の者達や組織は聞き耳をたてて通信内容を探ぐる。
「清姉さん、明後日にいつもの店でお昼に待ち合わせね」
傍受した意味不明な内容の裏側や隠されているに違いない重要な秘密をなんとか明かそうと必死に取り掛かったが結局解明できず、
トランスレンジャーの撹乱工作と決定づけた者達や重大な作戦が行われる可能性と判断し、見つからないように潜伏する者達等に別れた。
勿論その通信は昼間のお嬢様 松戸院 彩子から解放され研究室に篭りドクトルLとして存分に好きな実験をしていた彩子にも伝わる。
「太刀葉お姉様!これは!!」
「ああ、間違いなく俺への招待状だ。罠の可能性はとても高いが『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってヤツだな。
せっかくのお誘いだ。行くとしよう」
口髭を蓄えた初老のマスターがいる二人の思い出の懐かしい喫茶店に。
「一人ではいくらお姉様でも危険です!同行します!」と彩子=ドクトルL。
「ダメだ」
「ではせめて俺を同行させて下さい!」とノットール1号。
「それもダメだ」
「葉月の姿なら、またはその付近にいた通行人の身体なら」
「俺が人質を連れてきたと判断されるだけだ。喫茶店デートはその場でご破算だな。
勿論双葉が来ない可能性の方が高いのを考慮しての俺の判断だ。
双葉以外のトランスレンジャー全員がフル武装でお待ちかねかも知れないからな。
それでも行く価値はある」
確かに安全を確保しつつ同時刻に喫茶店内にいるのなら
大変申し訳ないがその少し前に入店するただの利用客に寄生して乗っ取らさせてもらい
その人になりますして素知らぬ顔で普通に利用していればいい。
もし事前に包囲監視体制がされて利用客全員がマークされていても俺と何一つ接点がないからな。
また利用者全員が公安組織の人間だったとしても同じ理由で問題ない。
でも敢えてそれをしないでタチーハの身体で行く。
格好はさすがに人間形態のスーツ姿かラフなセーター等の私服だが。
あのメッセージは双葉がどうして気付いたかわからないが、
【俺がまだ生存している】【俺がタチーハ将軍の身体である】とまでわかってのメッセージだからだ。
だからタチーハ将軍の身体で喫茶店に昔と同じように待ち合わせ時間の30分前に入店した。
貸し切りでもなく店内の空気もはりつめてもいない。
いささか拍子抜けだが俺はマスターに友人と待ち合わせと伝え案内された席に座った。
偶然か運命的なのかその席はよく座っていた席だった。
隣の席にジュースを持ってきたウエイトレスに昔と同じ珈琲を注文しようとして驚いた!
そこにはウエイトレス姿の双葉がいたのだ!
双葉もこちらに気付いたハズだがにこやかに
「ただ今ご注文を伺いますね🎵」
と笑顔のままで全く動じていない。
カウンターのマスターも笑顔で双葉からの注文を受けている。
マスターもきっと嬉しいんだろう。双葉が公安に所属すると言って姿を見せなくなって以来の再会、そしてあの時と同じようにここで働く姿を見せてくれているのだから。
ちらりと双葉の姿を見ると、昔と同じ服を着ている。大人になったとはいえ、学生時代の制服が未だにしっかり着れるのは、彼女の自己管理の賜物だろう。
「お待たせしました、ご注文は…?」
笑顔を作って俺の座る席までやって来た双葉は、どことなく複雑そうな顔だ。
俺自身彼女に何と言ってやればいいのかもわからない。けれど間違いなく、君の呼びかけに答えて俺は来たのだという事を伝える為に。
「ウィンナーコーヒー、清スペシャルで」
俺が「本郷清彦」であった時、いつも頼んでいた飲み物。知った当初は本当にウィンナー…ソーセージが入ってるものと思い込んでいた記憶がある。
それを知った事で一頻り大笑いしたマスターが、本当に作ってくれた「ソーセージ入りウィンナーコーヒー」。それが清スペシャルだ。
俺達3人以外が知る事の無い、お互いにしか知り得ない注文だった。
「…はい、かしこまりました。少しお待ちください!」
花が綻ぶような笑顔を見せて、双葉は注文をマスターに通しに行った。
他の人には知られたくないように、この注文をまだ3人だけの秘密にとどめておきたいように、ちょっとだけ内緒話をするような小ささで。
「お待たせしました、ウィンナーコーヒーです♪」
思い出のコーヒーが提供され、それを味わった。生クリームのついたソーセージは程よくボイルされており、コーヒーの中には入らないようにされている。
懐かしさと共にソーセージをつまみ、かじる。クリーム付きの肉は不思議な不協和音を醸しているが、逆にそれもまた懐かしい。
ソーサーの縁に添えられた、2つ折りにされている小さなメッセージカードを開く。
『お話はもう少し待っててね。聞きたいこと、言いたいこと、いっぱいあるから』
顔を上げて双葉を見ると、視線が交わる。ウィンクをされ、それに応えるようにこちらも微笑む。
(変わってしまって…、変わり果ててしまったけど、今だけは良いよな、この懐かしさに溺れても…)
太刀葉としての豊満な胸にカップがぶつからないよう少しだけ注意をしながら、クリームとカップの隙間からコーヒーを一口。
同時刻【松戸院邸】
松戸院邸の彩子=ドクトルLの地下ラボでノットール1号は落ち着かない様子でソワソワしていた。
「やはり付いていった方が良かったかも・・・太刀葉様は確かに強いけど万が一って事もあるし俺も囮になるくらいは役に立てると思うし・・・」
「トールくんどうしたの?」
「あっ、ごめん葉月ちゃん。せっかくの二人きりの時間を」
「太刀葉様のことが心配なのね」
「うん。やはり無理にでもお願いして同行許可を得ればよかった」
「彩子様とトールくんはダメと言われているけど私は言われていないし指示もされていない。
午後から半日休暇なんだけど美味しいと評判の喫茶店、未だに行った事がないから午後からそこに行ってみようと思っていたのね」
「もしかしてその喫茶店って!?」
「一人で行くのは寂しいな。トールくんが私を着てくれて喫茶店に向かう一心同体デートしてくれないかなぁ~?」
少しばかりわざとらしく、ノットール1号に言ってのける葉月。
お互いの仕事のパートナーである2人は、ただ利用し合うだけではなかった。互いの立場を話し合い、嫌悪しきらず肯定しあっている。
「それにトールくんの新しい力で、私の見た目をちょっと変えてくれたら、太刀葉様も一見してわからないかもしれないのになぁ?」
「うぅ…。それじゃあ葉月ちゃん、俺の我侭に付き合ってくれる?」
「勿論ですとも。食事代はトールくんが支払うのと、事が起こらない限りは私に主導権を渡してくれるのが条件です」
ノットール2号が【肉体操作】等の能力に目覚めたように、1号も既に【切替】という能力に目覚めていた。
皮にして装着した時に、記憶を読んで成りすます事は互いにできる。しかしそれでは微妙な差に気付かれる事もある。
であれば、皮にした本人に動いてもらえば、差は無くなる。
事実、最初に葉月を着込んだ時、淹れた紅茶に彩子が顔をしかめた事もあった。記憶は確実にトレースしたはずなのに、いつもと味が違うと言われた。
それは1号の性格的なものからかもしれない。葉月と同じ時を過ごした事で培った経験からかもしれない。
少しだけ体を変えて、主導権を葉月に渡して、確かに気付かれず葉月(ノットール1号)は喫茶店「ブラザー」に来ていた。
同時刻
【トランスレンジャー秘密基地】
「博士、双葉先輩に護衛をつけなくて良いんですか?」
「いいのいいの。野暮ったいことするの好きじゃないし」
瑞葉は再検査の為ベッドに横になりながら、ロリポップを舐めている凛に採算の問いかけをしていた。
モニターに映るバイタルデータを、平常時のデータと見比べて“どこまで違っているのか”を調査する、簡単な内容。
『それに、私は双葉ちゃんのあの目を知っているからなぁ』
「……」
ふと雰囲気の変わった凛。喋り方は理知的な男のモノのようになっていた。
彼女は父親である敏明の遺した、彼の知識と意識の全てが詰め込まれたAIが脳に接続されている。
当然、凛本人のIQも常人より遥かに高く、父の敏明に並ぶほどだが、これを用いる事で父親の考案した装備の更新や新兵器の開発が、シームレスに行えているのだ。
『私はその清彦くんという男の事を知らない。
だが双葉ちゃんは彼の為にあの強い決意を秘めた目をし、その彼があそこまで双葉ちゃんを大切に想っているのなら。2人の想いを疑いたくはないんだ』
「とーちゃんがロマンチストなだけだよ。っていうか仕事してるんだから出てこないで」
「そんなものですかね…」
清彦の事を知らない瑞葉は、その事に少し納得がいっていないようだった。
(私の方が、今の双葉先輩を知ってるのに…)
視点を再び喫茶店「ブラザー」に移す。
(太刀葉様の様子は?)
(今は落ち着いてるみたい。…それに、どことなく嬉しそう)
気付かれているかもしれない可能性をどこかで想いながら、葉月とノットール1号はケーキと紅茶を味わっている。
(これも自家製かな? 既製品とは違うみたいだし、ちょっと彩子様に供しても良いかも)
(一仕事終えた後のドクトルは、美味しそうに食べるからね)
心中で会話をしても、出てくるのは自然とお互いの主に対しての事だ。
葉月は彩子に、ノットール1号はドクトルLに仕えている。お互いに相手が同じで、従者としても同じ目線で見れば、自然と考えが寄ってしまうのは致し方ない事かもしれない。
店内にはBGMもなく、静かなままに時が過ぎていく。
客足も収まり、残る客は太刀葉と葉月くらいになった時、双葉は静かに大刀葉の対面に座った。
「…あの」
「…ねぇ」
言い出しにくいのか、逡巡してからの発現は2人同時で、少しだけ気まずかった。
それでも、男なのだからと自らを奮い立たせ、太刀葉…清彦は口を開く。
「双葉は、俺の事に気付いたんだな?」
「うん…、博士から浴場でのデータを見せてもらって、ようやく気付けたんだけどね。
私からも聞かせて。あなたは清くん…、本郷清彦なのよね?」
「そうだよ。……すまなかった、双葉。ずっと心配させて…、ご「許さない」…」
僅かに俯きながら、清彦の言葉を遮る双葉。それ以上を継げる事ができずに、清彦も静かに黙ってしまう。
壁掛け時計が時を刻む。
「…話してくれなければ、許さない。ずっと黙ってて、また私の隣から居なくなるなんて、許さない。
こんなに心配させたんだから…、ちゃんと、私に教えてよ…。あんな一方的な宣言だけじゃ、嫌だよ…」
双葉の頬を涙が伝っている事に、清彦は気付く。
彼女は寂しかったのだ、心細かったのだと、今更になって。
男の自分は決意を固めれば心を支えられたかもしれない。だけど双葉は、女性なのだ。気丈に振る舞っても優しくて、怪人の行動に心を痛める人なのだ。
「…わかった、話す。その上で本当に双葉が許すかどうか、判断してくれ…」
そうして清彦は話し出した。帝重洲帝国の怪人となってからの、7年間を。
最初に洗脳が解けたのは、30人も拉致をしてしまった後。
怪人の素体になる男を連れていこうとした所、泣いた女性の姿を見たことで、思い出す事ができた。
本当は今すぐにでも双葉の所へ戻りたかった。戻って、自分は無事だと伝えたかった。
…もし人間の姿に擬態できたのなら、もし単独で帝重洲帝国と戦えるだけの力があるのなら、そうしていたかもしれない。
だが清彦は蝙蝠男としての能力を嫌というほど知っている。
このまま脱走を行ったとしても、一時的に逃げられはするだろう。しかし人の姿になれず、力を持たない状態では、何もできなかった。
だから前の姿のまま、双葉の前に出る事は諦めた。そして能力を使い、帝重洲帝国の打倒を決意したのだ。
長い時間をかけて次から次へと体を変えて、下級怪人ゆえに組織に半ば存在を把握されていない事を利用して。
「…意識が目覚めてから6年かかった。今は幹部怪人タチーハの体を、帝重洲大帝を倒した時からずっと使っている」
「じゃあ帝重洲帝国壊滅を教えてくれたのも、清くんがしてくれたことなの?」
「罪滅ぼしになるかは解らないが、可能な限り怪人化手術や洗脳を解除した上で…だけどな」
「それも全部…」
さらに清彦は、帝国壊滅からの現状を話す。マスターに双葉の行方を聞いた事、別組織のTSトロンに目をつけられていたこと、カワニシテノットール1号と遭遇しドクトルLを裏切らせた事。
「ちょっと待って清くん、ドクトルLって、本当に!?」
「あぁ本当だ。そして彼女との繋がりが出来た事で、ノットール2号が双葉に成りすましていた事を知る事が出来たんだ」
「…そう言われると、とても複雑ね」
裏切ったとはいえ、敵対組織の存在が自分の窮地を救ってくれた事に、双葉は眉根を寄せている。
「…大まかな所としては、こんな感じだ。双葉の前に姿を現せないと思ったから、無事であることがわかればいいと思ってたんだが…」
「それでも、清くんは着てくれた。…乗っ取られていた私を助けてくれるために」
「居ても立っても居られなくなって、な…」
はた目には女性同士だが、久しぶりに会った恋人達は、少しずつ昔のように戻っていく。
「ねぇ清くん。…怪人の姿って、見せてもらえる?」
「どうしてだ?」
「本当のあなたと触れ合いたいの。…ダメ、かしら?」
「マスター、この体の事、起こさないでくれるか?」
太刀葉は席を立ち、カウンター席の方に座る。当然ながらマスターも耳をそばだてて、2人の会話を聞いていた。
小さく頷かれ、ありがとうと言いながら突っ伏す。
「…!」
直後、太刀葉の背中から音を立てて清彦、蝙蝠男が分離する。
名の通りに蝙蝠としての姿で、翼に比して小さい体のいびつな姿。顔も蝙蝠の形に近い人間と言わんばかりで、夜に出会えば大半の人間は息を呑むだろう。
「…これが今の俺の姿さ。人前に出る事もできず、誰かの中に隠れてるしかない。
怪人にも人間にも寄れない、卑怯なコウモリだよ」
自嘲しながら隠れるように翼を畳み、席の上に泊まる。
何も双葉からの反応がない事に恐れるように体を震わせていると、ふと、柔らかく抱きしめられた。
「…双葉?」
「ダメだよ清くん、まだあそこに人がいるんだから。…あんまり見らるような事しちゃ、ダメだよ」
視線を向ければ、背を向けているが確かにまだ人がいる。気付かなかったと自分で呆れながら、双葉の抱擁に身を委ねていた。
「戦え! TS戦士・本郷太刀葉!!」とか「本郷清彦は改造人間である!」とか
そういうゆるく特撮っぽいタイトルってどうでしょうね
「戦え! TS戦士・本郷太刀葉!!」とか「本郷清彦は改造人間である!」とか
そういうゆるく特撮っぽいタイトルってどうでしょうね
どうか自信を持って続きを書いてほしいです。
(個人的には今ぐらいのノリで。ダークに死人が出まくったりするのは苦手ですけれど)