「そうさせてもらうよ…」
少しばかり苦笑しながら、葉一郎の顔を見ないようにする。僅かに赤くなってる顔を直視すると、下手をすれば攻撃までされてしまいそうだ。
「それで、太刀葉とは会えるのかッ?」
気恥ずかしさが大きいのか、強く質問してくる葉一郎を少しだけ可愛いと思いつつ、現状について話していく。
「彼女の体に関しては、いきなり激しい運動をさせるのに不安が残る位だから問題ない。むしろこっちが気にしてたのは、そちらだったんだよな」
「む…、そうなのか?」
「前回の事を思い出してみろよ、会わせにくいとも思うだろ」
「くっ…、確かにあの時は頭に血が上ってたし…それも仕方ないかもしれないが…」
先日における顛末を思い出したのか、葉一郎は目を合わせてくれない。理解できるくらいには時間も経ったし、見た目が若いとはいえ、実年齢は多分30歳近い筈だ。分別は付いてるだろう。
ただ、その状態を見て1つの確信を得られた。
「…今のアンタなら、会わせても大丈夫だと思えるよ」
「やすやすとそう思えないような状態にさせた奴が、よく言えるな」
「自分でもそう思ってる。だからこそ、これ以上を起こしたくないと思うんだよ」
「虫のいい話だな」
ちくりと刺してくる葉一郎の言葉が、少しだけ痛い。誤魔化すように笑うしかなかった。
「その笑みはズルいな。言ったこちらが悪い気になる」
こういう時 柔らかな微笑みで相手の警戒心を落ち着かせ、逆に安心感を与えられる葉月ちゃんの身体で来て良かったと思う。
これなら大丈夫だろうと踏んで、葉一郎と少しずつ話を進めていく。
TSトロンなどに現在位置を特定される可能性があるから、やはりお互い直接の連絡はできず、数日後に会わせるという形で話は進んでいく。
「場所に関しては…、中立性を保てる場所が良いな」
「ここじゃさすがにマズいか?」
「マスターに立て続けに迷惑をかける訳にはいかないだろ。前のこともあるからな…」
ばつが悪そうに頬を掻く葉一郎。やっぱりあの事に罪悪感はあったのか。
ちらりとマスターを見る。さすがにここを必要以上のたまり場にして、マスターに迷惑をかけ続けるのも良くないよな。
「わかった。…場所に関してはそちらが決めてくれ」
「いいのか? もしかしたら、こちらの基地付近を選ぶかもしれないぞ?」
「トランスレンジャー側に保護してもらうなら、太刀葉ちゃんにとっても一番だと思うよ」
「……確かに、な」
「ん? …すまない、彩子お嬢様からの連絡だ。
はい、葉月です。……それは、本当ですか? わかりました、すぐに戻ります!」
ドクトルからの連絡に、背筋が寒くなる思いがした。
とうとうTSトロンにバレたか…!
もう閉店時間に近いためか店内には客は俺達だけで他にはマスターしかいない。
だからこそ俺達は本来の口調で重大な会話できたのだが。
もし店の外から俺達二人の姿を見ても同世代の美少女二人がお喋りしているようにしか見えないだろう。
中身は二人とも成人男性、会話の内容も女子高生の会話ではなかったが。
「またね、紅葉」
「うん。じゃあまた今度ね」
友達同士のような、容姿に合った会話をして俺達は店の前で別れた。
松戸院邸に帰りそのまま秘密通路でラボに向かう。
そこには松戸院彩子/ドクトルL(レディ)と何故かシスターがいた。
様子からシスターの中身がノットール1号だろう。
調整槽の中には液体に浸かったギャルの女子高生が眠っている。
中々不思議な光景だ。
葉月ちゃんの体から離れ、蝙蝠男の姿に戻る。
「彩子、1号、2人とも無事だったか!?」
「清彦様もご無事で。太刀葉さんから紅葉の所へ行くと聞いていたので、心配しておりましたわ」
葉月ちゃんも、シスター姿のノットール1号と無事を確かめあっている。
タチーハの体に戻り、状況を確認する為に、何があったのかを互いに話し合う。
一部の組織内事情と幹部の実情を聞き、こちらも紅葉…葉一郎と太刀葉ちゃんの身柄をどうするか、を伝えた。
「そうか、TSトロンの内部から調査する事はほぼ不可能か…。すまない彩子、苦労をかけたな」
「勿体ないお言葉です、清彦様。確かにひやりとしましたが、これで組織の内側を覗けなくなる事が口惜しいです」
「彩子のせいじゃないさ。しかしTSトロン大首領が、タチーハだけじゃなく俺のことまで知っていたのは何故だ…?」
「そこは解りません。大首領の状態は、寵愛を受けていたノットール2号でもろくに知り得ていない物でしたから…」
体を擦りつけられ、甘えてくる彩子を撫でながら話し合う。懸念は大きいな。
「ですが、これで私も晴れて反逆者。最早ドクトルLの名で属していた組織に気兼ねする事無く、この頭脳の全てをあなた様の為に使う事ができます。
私は改めて、清彦様に忠誠を誓います。なんなりとご命令を」
「しかし、いいのか彩子?」
「何がです?」
つぶらな瞳で見上げてくる彩子の頭を撫でながら、一番気になっていたことを訊く。
「TSトロンから完全に裏切り者扱いされるということは、松戸院財閥がTSトロンから狙われるってことじゃないか」
松戸院財閥には黒服のボディガードや、私兵部隊がいる。
だが所詮は人間であり、TSトロンの怪人軍団が総力を挙げて攻撃してきたら抵抗はできないだろう。
彩子は葛藤するように目を伏せる。俺は言葉を続けた。
「俺たちだけで松戸院財閥を守ることも可能だとは思うが、この先の戦いは防衛戦主体となるだろう。
あるいはトランスレンジャーに保護を頼むこともできると思うが、このラボの存在がトランスレンジャーに知られてしまうかもしれない」
「…あるいは、私が再びTSトロン基地に戻り、バブみ大僧正に産み直され再洗脳されたふりをして、組織に戻るか…。
でもその場合、清彦様の情報を一部でも大首領や他の幹部に伝えざるをえないですわ…」
「そんなことで松戸院財閥がターゲットから外されるのなら良いよ。俺は問題ない」
だがシスター・ジェニーになっているカワニシテノットール1号が
「残念ながら例えそうしてTSトロンが狙わなくなってもバブみ大僧正が個人的に狙っています。
シスター・ジェニーは大僧正から直の命令で松戸院家当主を暗示で財産から人材まで全てを密かにバブみ大僧正の支配下に置くよう指示されていました」
「…私を子供にしようと目論んだ事の他にも、お爺様にまで狙いを定めていましたか。
些か、バブみ大僧正を目の敵にする理由が増えましたわね」
ぎゅっと俺に抱き付いてくる彩子の腕に力が入る。
俺はまだ当主である「お爺様」に会った事は無いのだが、狙っていると知った彩子がこれ程までに反応するのなら、大きな恩義を彼女は感じているのだろう。
そっと抱き返し、ゆっくりと彩子の背中を撫でる。
「そうだな、その情報を持ってきてくれてありがとう、1号。
彩子と一緒に無事に帰ってきてくれたから、対策も立てられる」
「勿体ないお言葉です。それに俺も、葉月ちゃんを向こうの好きにさせる気はありませんからね」
美貌のシスターのままに、1号は葉月と抱き合っている。
2人はそういう関係なんだよな。良いなぁ、俺も双葉と色々したいな…。
もちろんTSトロンをはじめとする暗躍する悪の組織や秘密結社達を蹴散らしてからだからずっと先の話だが。
この時はそう思っていたんだが、まさか3日後にトランスレンジャーのトランスイエロー、大石瑞葉ちゃんに再び身体を借りて双葉とプール遊びをするとは!
考えもしなかったな。
事の次第はこうだ。
太刀葉ちゃんと葉一郎を引き合わせに来た時、立会人として、トランスレンジャーの研究員・丹葉凛という少女が一緒にいた。
彼女は興味深げに太刀葉ちゃんの体に異常が無いかの確認をしていたのだが、何もないと知るや否やこっちにやってきた。
「ふむなるほど、君が先日の基地内騒動に関与してた…本郷清彦君だね?
ウチのメンバーを助けてくれて、あと大浴場を壊してくれてどうもありがとう」
「それってどういう…」
「大した意味の無いやっかみ。帝重洲帝国の技術にまだ届かないって思うとどうしてもね」
少女の体で、少し憎らしげな表情をしながら俺の手を取る凛は、少しばかり“自分のプライドを傷つけられました”と言わんばかりだ。
「ドクトルLと協力体制を敷いてる事も聞いてるよ。…ドクトルLと松戸院財閥との関係もね」
「そこに関して、公安…というかトランスレンジャー側は、どう思ってるんだ?」
「んにゃ別に。内偵はしてるけど特にどうという事もないよ。清彦君はアレかな? 我々が特に理由も無くしょっ引く、横暴な公権力だと思ってたのかな?」
「…そういう訳じゃない。葉一郎…いや、赤井紅葉の事も考えると、人道に沿ってる組織だと思ってる」
「なら、松戸院財閥が現状ガサ入れを食らう必要も無い状況だということさ。…まだ司令が、そこに目をつぶってるだけ、だけどね」
喫茶「ブラザー」の中、というより奥のスタッフルーム内で、話を聞かれないようにしている状況だ。
脅しともとれるような言葉を区切り、ホットミルクを口に含む。小さなミルクの白ヒゲを作って凛は続ける。
「ところで清彦君、君は最近心の余裕とか持ててるかな?」
「いきなりどうしたんだ? それとさっきの話と何の関係が…」
「まぁ聞いてくれる? 君にとってもメリットがあるだろう話を持ってきたつもりだからね」
小さなバッグの中、一枚のパンフレットを取り出してきた。
プールをメインとした屋内レジャー施設の案内のようなもので、ぺらりとめくりながらそれに目を落とす。
「実はそこ、TSトロンの息が掛かってる企業がメインで出資してる所でね。そろそろ情報が固まって来たから、実動員を送りたいと思ってたんだ。紅葉ちゃん…は一時横に置くとして、双葉ちゃんには行ってもらうつもりでいる」
「…っ」
「そこでだ、君も一緒に行ってみないか? 勿論、費用などはこちらで持つつもりだが」
「………」
その内容に何も答えられず、沈黙をし続けている。だって今彼女がい言った事は…。
「都合が良過ぎる、かい?」
「…あぁ、そうだ。トランスレンジャー側が俺にこの話を持ち掛ける理由が、ほとんど見つけられないからな」
いくら俺がタチーハの体を使い、同時にTSトロンに狙われている状況で囮になるとしても、そこで気前よく行かせてくれる、と言われれば疑問に思ってしまう。
それさえ分かり切っていたように、凛は次の言葉を告げた。
「司法取引って知ってる?」
「…………、そういう事か」
先程凛は、松戸院財閥に関して目をつぶってる、と言っていた。つまり俺がこの話を飲まなければ、TSトロンより先にそこを社会的に潰すと言っているのだ。
確かに後ろめたい理由はある。完全な状況で裁かれるのが嫌ならば、こちらのいう事に従って減刑を見込んでみろ、と。
「こっちはドクトルLの技術力を、少しでも供与してほしい。
機械技術がメインの私と生科学のドクトルLとじゃ分野が違う為私じゃ理解しきれないかもしれないけど、それ以外にも優秀な科学者はいるんだよ。
被害者たちが少しでも元の生活に戻れるよう支援していきたいし、その為の足掛かりも欲しい訳さ」
「その為に俺達に身を売れ、と?」
「協力と言ってほしいかな」
「…悪人め」
「清彦君が言うのかな?」
「…少し待ってろ、彩子に連絡をしてくる」
席を立ち、携帯を使い彩子に内容を話した。
幸い、彩子の協力は取れた。松戸院家を人質に取られるだろうことは予測していたようで、渋々という感じだったが。
同時に、レジャー施設に行く際にタチーハの体を向こうでも調査し、違う観点から見たいとも持ち掛けられた。
「ちょっと待ってくれ、俺は怪人態しか無いんだぞ?」
「承知しているよ。…だから、ウチからは瑞葉ちゃんを貸そう。実動員として動いてもらうつもりだったし、清彦君も彼
女の体を使っただろう?」
「それはそうだが…、それで良いのか? 彼女の意志はどうなんだ?」
「納得すると思うよ。こと双葉ちゃんの事に関してなら、ね」
意地悪そうに笑う凛を見て、あの時瑞葉ちゃんに寄生していた事を思い出す。
確かに彼女の中には、双葉への思慕の念があった。…結構性的な意味で。だからこそ双葉1人が傷付くような状況は望ま
ないだろうし、その為に身を差し出すかもしれない。
その為に体を俺が使う、という状況に関しては渋るかもしれないが…。
「ま、ちゃんと説得はするよ。…それと、連絡の為にこれをあげよう」
差し出されたのは腕輪だった。双葉も瑞葉ちゃんもつけていた、トランスレンジャーの共通装備。
「通信機器でありGPS搭載の代物だ。傍受はされない特殊電波を出す代物だから、これがあれば連絡も取りやすいし…、双葉ちゃんとも話がしやすいよ?」
「…つまり、俺に対する首輪か」
「協力者は多い方が良いよね。お互いにさ?」
利用し合う関係、とも言い換えられるだろう。それを跳ねのけられる状態でもないと今更ながらに思い知り、俺はその腕輪を取った。
そして話はプールに来ている時間に戻るわけだが…。
「ほら、清くん! 気持ちいいよ! 一緒にプールだなんて、いったい何年ぶりだろうね!」
まるで子供のように無邪気にはしゃぎながら水しぶきをあげる双葉。白いビキニ姿がよく似合っていて、まぶしい。
しかし…。
「はぁ…」
俺の気分はいまいち晴れなかった。
なにしろ、今の俺は女の体で、双葉とお揃いの赤ビキニを着ているのだ。
「久しぶりのプールなのに、女の体で入ることになるとは…。しかも折角双葉と二人きりなのに」
ほんのわずかな面積しかないように思える頼りない水着に包まれた、今の体――大石瑞葉の乳房がゆさりと揺れる。
タチーハの体でしばらく過ごし、女体には慣れたつもりでいたけれど、こんなに人前で肌を露出するなんてなかなか無くて、どうしても恥ずかしさがこみ上げる。
「清くんったら、変なところで真面目なんだから…。じゃあいっそ、瑞葉本人に成り切った気持ちで乗り切ればいいじゃない!」
「ええっ無茶言ってくれるなぁ」
ふたりでくすくすと笑いあう。
同時に最低限の警戒も怠らない。
ここがTSトロンの息がかかっている可能性がある施設だということもあるし…。
もうひとつ、彩子の報告にあった、TSトロンの「タチーハの捜索・勧誘」作戦がまさに今日から発動されているであろうからだ。
彩子が、バブみ大僧正に再洗脳されたふりでTSトロンに再び潜入すべく、TSトロン基地へと向かってから今日で二日。
彩子からの連絡はまだない…。
そして、タチーハの体は瑞葉ちゃんの体を借りる際、引き換えにコールドスリープ状態でトランスレンジャー基地に預けてきてある。
俺はある種の危険な予感を感じていた。
このプールで、何かが起こるかもしれない…。
同じ頃…同じプールの反対側のエリアにある子供用プールにて、一人の幼女が佇んでいた。
幼女は子供用プールにいるほかの幼稚園児から小学校高学年まで様々な女児たちを眺めては、だらしなく鼻の下を伸ばす。
「ロリはいい…! ディ・モールト(非常に)いい…!」
「俺の配下の企業が運営するレジャー施設にして、俺様の拠点のひとつ! その名もロッロッ、ロリランド!
室内レジャープールは小学生以下入場無料! 中高生は入場200円!!
お子様連れや遊びに来る小中学生に大人気! おかげでこうして好きなだけ、あられもない幼女や少女の姿が眺められる…!
ロリはいい…! 最高にいい…!」
「そして、広い施設に怪人や戦闘員を隠しておくのも簡単ってわけさ…! さあ、俺様のロリランド、たっぷりお楽しみあれ♥」
瑞葉本人に成り切った気持ちで乗り切ればいいじゃない、 か。
無茶言うけど双葉の言葉は正しいかもしれない。
正確には瑞葉ちゃんに成りきるのではなく、同世代の普通の女の子になりきるのだ。
それに瑞葉ちゃんもそうすればあとで喜んでくれるかもしれない。
記憶共有なら俺が抜け出したあと、あたかも自分自身の意思で行動していたように記憶も体験も思い出せるのだから。
トランスイエローである大石瑞葉本人としてこの作戦に参加しなかった、いや、出来なかったのは俺・清彦を巻き込む為だけではなかった。
「敵地でリラックスして遊ぶのなんて無理です!無理に参加しても私が原因で敵に作戦が露見して双葉先輩を危機に陥らせてしまう可能性が高いから出来ません!」
こと戦闘なら得意な瑞葉ちゃんも敵地で普通の女の子を装って遊びに興じている演技は無理だということだった。
だが彼女自身の戦闘力の高さ、加えて双葉との合体攻撃技。
トランスホワイトとトランスイエロー、二人の持つブラスターのビームを空中で収束させ、ひとつの大きなビームとして撃ち出す【エレクトリック・アロー】
これをいざという時にその場で投入できないのはトランスレンジャーとしても考えられなかった。
そこで俺の出番だ。
俺がトランスイエロー、大石瑞葉になり、双葉と普通の女の子を装い潜入し調査することになったのだ。
「本当ならあんたなんかに寄生なんてされたくないんだからね!
でも作戦だし私じゃ演技できないから仕方なく貸すんだからね!」
プリプリしているがそれほど敵意は感じない。
正直 ノットール2号に乗り移られた双葉を助ける為とはいえ、以前勝手に身体を乗っ取ったことがあるから暴行されても仕方ないと覚悟していたんだが。
「その件はいいわ。あの時は絶対殺す!って思っていたけど」
物騒なことを言い出す。
「乗っ取られていた双葉先輩を助ける為だって後でわかったから。
逆に私は気付けずに敵に協力してしまっていた。それが双葉先輩を窮地に追い込んでいたとも知らずに」
「・・・」
「でも貴方は私になって先輩を救った。だから赦してあげる」
こうして俺達は和解した。
「ほら、さっさと私に乗り移りなさいよ!でも変な事したら許さないからね」
赤色の大胆な水着姿の瑞葉の身体に自分の身体を密着させそのまま細胞融合の寄生をして同化する。
「合体完了。成功ね」
瑞葉の声で喋り先ずは自分自身で身体を確認する。
そしてトランスレンジャーの研究員・丹葉凛や研究者達立会いの下にトランスイエローに変身、各種戦闘試験を実施し
最終的にはトランスホワイトに変身した双葉と【エレクトリック・アロー】を撃つまでやった。
その結果は良好で今に至る。
油断はしていないし心のスイッチはいつでも戦闘モードに切り替えられるようにしているが敵地とはいえ
双葉の同世代の女の子になりきってしまえば水着姿の双葉とこうして遊べるのが心底楽しく、俺は瑞葉ちゃんの身体で本当に笑顔で楽しんでいたのだから。
「茜(あかね)ちゃん、こっちこっち♪」
ビーチボール遊びをしていると黒いビキニ水着の赤井紅葉(紅葉一郎)を見つけ呼ぶ。
念のため偽名を使用している。
紅葉は【茜(あかね)】双葉は【五十鈴(いすず)】瑞葉の身体の俺は【清美(きよみ)】だ。
本来なら葉一郎は来ないものと思っていた。7年ぶりに再会できた太刀葉ちゃんとの時間を優先するのだと考えていたからだ。
だが葉一郎は、
「お前が双葉と瑞葉に何かしないように見張る役も必要だろ。それに狙われてる立場だという事をもう少し理解した方がいい。
瑞葉の体である限りは、監視対象・兼チームメイトなんだ。リーダーとして捨ておくわけにもいかないだろ」
というのが大きな理由のようだ。多分それ以外にも、TSトロンへの敵意もまだ強く残っているんだろう。
そう思いながら、表面上は友人同士としてプールで遊んでいる現状ではある。
…その筈だが、葉一郎は妙に恥ずかしそうにしている。1つ思い当たる事があり、耳打ちをした。
「…やっぱり、お前もか?」
「あぁ…。水泳部だと競泳水着しか使わないし、部活の仲間とプールに行ってないしで、ビキニを着るのは初めてなんだ…」
俺と同じ理由で恥ずかしそうにしていた訳だ。きっと怪人とかが関わらない所では、気の良い男だったんだろうな。
その分今の状態が、色々な理由で映えているんだが。
見た目、つまり肉体的には紅葉が現役女子高生だけあって一番若く年下だ。
「ふふっ、茜ちゃん可愛い♥」
思わずお姉さん気分でぎゅっと抱きしめてしまう。
「き、清美さん、や、やめてくださ~い(>_<)」
「ウフフ、清美ちゃんと茜ちゃんは仲良いね♪」
見た目だけなら大学生か社会人になったばかりの女性が後輩か妹の女子高生と遊んでいるようにしか見えないだろう。
さて、遊んでいる状況とはいえ、俺達の目的はこの施設の調査なのだ。
来場者用に頒布されてるパンフレットを開いて、次はどこに行こうかと相談している。
目下のリーダーは茜(葉一郎)である為、彼女主導で色々と見て回っている。
「通常のプールに怪しい所は見当たらないな」
「流れるプールやウォータースライダーも、それらしい物は無かったわね」
「どこも周囲の目があるからな。ここを管轄してるのがロリ男爵だとしても、そう大っぴらに行動はしないだろ」
このロリランド、低年齢層に優しい仕様のおかげで誰が管轄しているのか、嫌がおうにでもわかってしまう。
…話に聞いたバブみ大僧正やエロイ元帥では、こうはならないだろうという消去法でもあるが。
「清彦、超音波を使って怪しい所の調査はできないか?」
「やれなくはないが、ほぼ勘付かれるぞ。感知能力の高い存在を職員か何かに偽装してるだろうからな」
蝙蝠男としての能力「超音波」は、相手の意識を混濁させることの他に、壁などに反射させることで周囲の状況を認識することも可能だ。
むしろこれこそが本来蝙蝠が持ってる能力だったりするんだが…。
「それなら、屋内施設を中心に調査した方がいいかも。…こことかね」
五十鈴(双葉)が挿すのは、屋内アトラクション「探検ロリランド」。
ロリランド内に存在している、水着のままに遊べるレクリエーション施設だ。
「確かに怪しいな。遊んでいる振りして詳しく調べよう。俺もチャンスがあればスタッフになって情報収集してみよう」
乗っ取ったスタッフから何か情報が得られるかもしれない。
ちなみに男性は利用客しか見掛けていない。
職員・スタッフは全て美しい女性ばかりだ。
それが男性料金が割高でも男性客が多い理由であろう。
だが屋内アトラクション「探検ロリランド」は男性禁制。
代わりに多数の女性スタッフが父親と娘で来た場合に備えて対応するそうだ。
小さな男の子向けに似た施設も有り男の子達はそちらに。
TSトロンが関わっていると知らなければ気付かなかったかも知れないが、確かに怪しい。
だが俺達は肉体的には完全に女性だ。
堂々と入っていける。
中に入るとそこには、
入口で配布されるシートにスタンプを押して回っていく、スタンプラリーのような施設だった。
その中では、「探検ロリランド」のスタッフやパネルなどに質問を出され、回答の成否によって○×のいずれかが押されていく。
〇の数が多ければ、それに応じてちょっとした景品が貰えるという、参加者の意欲を少しくすぐる様な施設だ。
…そう、ここまでであるならば。
ある質問を掲示するパネルの前で、僅かに違和感を憶えた。
「清くん、どうしたの?」
「このパネル…、微妙に音波を出してるな」
「どう行ったものかわかるか?」
葉一郎の問いかけに、自身が今まではなっていた超音波のパターンから、近いものを思い出して推論を立ててみる。
「半分くらい推測が入るけど、これから話す内容に従うようになる、という感じだ。本人の意識は壊さないタイプの…、刷り込みや暗示をかけやすくするようなものだ」
「…という事は、ここから先に行けば行く程、入った人間はTSトロンの暗示を受けてしまうのね」
「恐らく最後に行くまでに、それらの暗示を深層意識に抑え込む類の音波も入るだろうな。
…ところで、どうして質問が全部『ロリータ』からの出題なんだ?」
ロリ男爵の趣味だろ、絶対。
近くにスタッフが見回りに来た。
傍目には安全確認や案内する為に巡回しているように見えるが実際は客の様子や監視をしているのだろう。
あの優しげな笑みの裏側は。
「ねぇ、面白そうだね♪参加してみようよ♪
(二人にだけ聞こえる声で)『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だな」
「そうね、面白そう♥」
「楽しみだね♪」
俺達も普通に遊びに来ている女の子達のようにはしゃぎながら入った。
まだスタッフの背中が通路の向こうに消えていかないので、きちんとお互いに偽名で会話を行う。
「そういえば、茜はどこでロリータの話を知ったの?」
「図書館にあったから読んでみたの。運動だけしてても良くないと思ったしね」
なるほど確かに文武は両立させておいた方が、何かと役には立つだろう。
それを発揮しているからこそ、こうして探検ロリランドで、積極的に茜(葉一郎)は回答してくれている。
問題の総数は全部で12問。そのすべてを答えていき、順調にシートに〇のスタンプが押されていった。
時折現れるモニターからの出題、そこから発せられる超音波は、同室の波長を小さく放って打ち消していく。これを浴び続けてしまえば、双葉や葉一郎も影響を受けてしまうからだ。
そして12個目のスタンプが押された事で、スタッフの女性が俺達に笑顔を向けてくれた。
「おめでとうございます! 皆様には、全問正解者のみが受けられる、最後の特別な質問への挑戦権が生まれました!
こちらに正解していただければ、更なる豪華景品が進呈されます。お受けになりますか?」
「どうしましょうか、2人とも?」
「勿論受けます! 景品も気になるけど、茜ちゃんならできるって信じてるからね」
「私もよ。こうなったら最後まで行っちゃおう!」
葉一郎の疑問(演技)に応えるように、双葉と俺は背中を押す演技をする。
恐らくはここで、今までのモニターの超音波に当てられた人達は疑う余地も無く頷くだろう。
だから促されるままにスタッフの質問にYESと答えるよう、葉一郎を頷かせる。
「それでしたらこちらのルートをお進みください! 最後の特別な質問は、この奥で出題されます!」
「はーい」
案内を受けて、スタッフの女性が扉を開いたルートへ向けて歩いていく。笑顔のままなのに、にやりと笑われたような気配が背中越しに感じられる。
ガタン、と扉が閉められたのはその数秒後だ。
「「「…………」」」
何かある。それを認識して俺達はお互いの顔を見た後、一つ頷きあう。
20秒くらいは歩いた先に、一つの開いた部屋があった。その中に入ると、中央に玉座と思しき場所に1人の少女が座っていた。どこかで遊んでいたのだろうか、水着姿で未だ拭き切れていない水気が、水着やら髪を濡らしている。
「待ってたよ、お客様たち。それじゃ最後の質問ね!」
その少女は俺達の反応を待つことなく、矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
「俺達TSトロンに忠誠を誓ってくれるかな? そうしたらそんな汚らしい大人の体じゃなくて、いつまでも変わらない、若くて瑞々しい、『女の子』の体をあげる。
穢れた心だって大丈夫、純粋な子供の心を思い出させてあげる。
だから、ね。俺様に忠誠を誓え!」
くわ、と少女の目が見開かれた!これはまずい!!
可愛らしい少女の魔眼が効果を発揮する直前!
幸運だったのは俺がこの少女の姿を知っていたことだろう。
ロリ男爵。
呪術や催眠を得意とする、TSトロンの中で一際特殊な能力を持つ大幹部だということを。
もし知らずに質問を聞いてから対処しようとしていたら間違いなく一瞬で服従していた。
また幸運なことに相手は俺たちをただの20代の女の子達と思っていたことだ。
だから付け入る隙が一瞬だけあった。
色々な偶然が重なった故に勝機をもたらした一瞬だったが、逆にこの一瞬をモノに出来なかったらこちらが負けていた紙一重の勝利だったのだ。
俺は一瞬で清美ちゃんこと瑞葉ちゃんの身体から飛び出して目を閉じたままロリ男爵に飛び掛る!
目と目が合わされば一瞬で服従の暗示に掛かってしまうからだ!
俺が蝙蝠型寄生怪人でよかったとはじめと思ったかもしれない。
あっ・・・すまない。
洗脳から解け、自分の意思で美人怪人やタチーハになったとき チョッピリ・・・いや、とっても喜んでこの身体でよかったと一瞬だけなら何度か・・・それは今はいいか。
蝙蝠型怪人の俺は一部の蝙蝠のように目視しなくても超音波で周囲を詳しく視ることができる。
むしろ目で見るより正確に位置や距離、形等が視えるのだ。
ロリ男爵も予想外だったに違いない。
目の前の娘達がただの女の子かと思っていたらその身体の中から怪人が飛び出し、飛び掛ってきたのだから。
しかもズルズルと自らの肉体に強制的に同化、融合され意識を瞬時に強制に眠らせられたのだから。
もし互いに距離を置いて対峙してからやり合ったら俺は一瞬で叩き潰されていたであろう。
俺の超音波も普通の人間ならともかく、一定以上の戦闘力を持つ怪人相手には効果が薄い。
ましてや相手は大幹部。
最大出力で浴びせてもドライヤの温風を僅かに浴びたくらいにしかならなかったかも知れない。
もちろん飛びついて同化融合し相手の身体を乗っ取りするよりも、飛び掛ったところでそのまま蚊のように叩き潰されている可能性の方が高い。
戦闘力も肉体強度もロリ男爵より遥かに劣るのだ。
だからこその不意打ち。
これしか手段がなかったのだ。
飛びつくと同時に同化融合開始!合わせて意識も眠らせる。
こうしてなんとかロリ男爵の身体を乗っ取ることに成功したのだった。
「…どうにか、間に合ったな」
薄氷を踏むようなタイミングの出来事だった。
ロリ男爵の魔眼が発動する直前で寄生が完了した為、3人はその効果を十全に受けきる直前で留まっている。僅かにボーっと、視線が宙を泳いでいる程度だ。
「ちょっと、これどういう事になってるの? 双葉先輩もリーダーもなんか目の焦点あってないし!」
すぐに復帰したのは瑞葉だ。ロリ男爵の魔眼を直視しておらず、その上彼女の体質からか、俺が抜け出た後からの復帰が早いこと。
「あぁ、それなんだがな…」
かくかくしかじか。俺が瑞葉の体を動かして調査していた時の事を、少しばかりかいつまみながら説明すると、瑞葉は腕を組みながら考えて、その後に納得してくれたようだ。
「…じゃあ、今の2人は催眠にかかってる状態って事?」
「薄くだろうけどな。言われたことを信じやすい、かもしれない。断言はできないぞ?」
「それなら早く起こしてあげないと。………」
あ、瑞葉の奴何か良からぬこと考えてそうな気がする。
彼女が双葉に想いを寄せてる事は知っている、知っているが…。このまま好きにさせるか、それとも止めるべきか。
瑞葉ちゃんの好きにさせよう。
本来なら敵である俺に身体を貸してくれたのだしさすがに俺がいるのに無茶苦茶な事や酷い暗示はしないだろう。
よっぽど変なことをするなら止めるし、俺がロリ男爵の暗示能力でリセットすれば良い。
だから見守りつつ、俺はロリ男爵の能力と記憶を使えるようにするべくゆっくりとロリ男爵の記憶を読み始めた。
紅葉と双葉は1分ほどで軽い催眠状態から正常な状態に回復した。
瑞葉ちゃんは結局悩んでいたようだが何もしなかった。
予想はついていたが後でこっそり聞いたら予想通りだった。
やはり暗示で例えば【これからも仲良くしてください】というものでも、今後は双葉が本心から仲良くしていても
瑞葉ちゃんは本当に仲良くしているのか、自分の暗示による強制力で操って仲良くしているフリをさせているのではないかと疑心暗鬼に自身が掛かってしまうからだ。
「…すまない、手間を取らせたな」
「ありがとう清くん、もしあのまま目を見ていたら、私達も催眠にかけられていたのね」
「その辺は助かったわ、ホント。……癪だけどさ」
2人の意識が回復したようで、ぼんやりと頭をふるいながら、まばたきを繰り返している。催眠から復帰し始めると視界がぼやける事が多く、ロリ男爵が行った時でもそれは変わらないようだ。
瑞葉も渋々といった態度ながら感謝の弁を述べている。
「2人とも催眠にかかりきらなくて良かったよ。…ともあれ、現時点とはいえロリ男爵の体は奪えたが、ずっとこのままという訳にも行かないだろうな」
「催眠…というよりは刷り込みによる洗脳か。ロリ男爵はそれが終わったらどうするつもりだったんだ?」
「基本的に、余程の事がない限りはそのまま一時帰宅させ、機を見てTSトロンの怪人なり戦闘員なりにさせるつもりだったみたいだ。
その時は基本的にロリランドの従業員になったり、他のロリ男爵のアジトに潜ませるのが殆どだな…」
ゆっくりとロリ男爵としての記憶や意識を読み込みながら、“その後の処遇”について口にしていく。
勿論これは「大人を相手にした場合」だ。純粋なロリっ娘相手なら当然この限りではない。見た目が良ければそのままお持ち帰りや、その場で味わう事もある。
「だったら、一応私達はこの後返されるのね?」
「そうなるな…。…退出用の通路は向こうだから、双葉たちは一度ロリランドから出て、基地に戻ってくれ。
未遂とは言えロリ男爵の催眠が掛かりかけたんだから、何かあるかもしれないしな」
「そうさせてもらう。まだ微妙に体が重い感じがするからな…。何かあった時は頼むぞ、瑞葉」
「任せてリーダー」
双葉の疑問に答えて、一度3人を基地に返すことにする。
当然ながらそのまま基地に帰還、という事ではなく、国が抱えている幾つものセーフハウスから地下通路を通って、という形になるが。
「…本郷はこの後どうするつもりだ?」
「後で『さっきの奴等の所へ、直々に赴く』とでも言ってそっちに戻るよ。ロリ男爵の体を調査する必要もあるからな」
この体は、「本当の太刀葉ちゃんの体」の可能性がある。帝重洲帝国が行った改造手術の痕跡を辿って調査する為にも、やはり実物が必要なのだ。
「わかった。無茶するなよ、本郷」
「勿論だよ、ロリ男爵の体を使っててもここは敵陣だからな。浅い川も深く渡るさ」
「気をつけてね、清くん」
「……無事に戻って来なさいよ?」
「っと、そうだ。一応全員催眠にかかったフリをして行ってくれよ?」
それぞれに気を使ってくれた言葉を残し、俺の言葉に頷きながら、双葉達は部屋を出ていった。
そのままロリランド奥のオーナールームに戻ると、傍付きのロリ怪人達が俺を出迎えてくれた。
年齢に差はあれど、全員が小学生位の見た目で、全員があられもなく肌を晒した状態で俺に向かって体を擦りつけてきた。
「ロリ男爵様、おつかれさまっ」
「ねぇねぇ、今日のお姉さんたちは、わたしたちのお友達になれそうですか?」
「男爵さまぁ、わたし達いい子でお留守番してたよぉ? あとでご褒美くださいね?ね?」
「あぁ、待たせたなお前達。後でたっぷりご褒美をくれてやるさ。
お友達には…、そうだな。それをしっかり確かめる為に、後で直接確かめに行くさ」
3人のロリ怪人たちを順に撫でてあげると、子ども相応の無邪気そうな笑顔のままに、ロリ男爵の体に抱きついてくる。
あぁ…、全員微妙に異なるぷにぷにの感触だ、それを押し返すロリ男爵の肌もみずみずしい、天使のような肌だ。これはマズい、自分で感じるからこそロリ男爵の気持ちが分かる。
こんな劣情を催す子達の前で我慢するなんて……、っとと、駄目だ、体側の意思に引きずられかけている。
気を引き締め、意識をしっかり保っておかないと。
「男爵さまぁ、ちゅーしてぇ。ねぇ、ちゅーぅー」
「しょうがねぇなぁ、んーちゅ~…!」
1人がキスをねだってきたので、仕方なしとばかりに応じる。…あ、この唇も気持ちいいなぁ。
「んっ、ちゅ……♥」
舌まで入れた濃厚なディープキスをする。どちらの体もぷにロリだからか、瑞々しい唇がむっちりと合わせられ、離れたときには唾液が糸を引く。エロい。
「やっぱいいよなァ、ロリはよォ~~~~」
思わず思考が口に出る。何を言ってるんだ俺は!
手は部下のロリ怪人を引き寄せ、その体を撫で回している。
「肌もこんなにすべすべぷにぷにでよォ~~~~、若さが満ち溢れていて素晴しい」
なんだこれ、俺は何を言ってるんだ! どうなってるんだ!?
「甘く乳臭いいい匂いもするしなァ……ほら、いい子いい子」
「んにゃあ♥ 男爵さまぁ♥」
ロリ怪人を撫で回してやると、くすぐったそうにくすくすと笑う。
「穢れの無い無邪気な美しさ、時間と共に失われてしまうはずの儚いもの……俺はそれを永遠のものにする!」
おかしい……おかしい……俺は一体……。
「おい、鏡を持ってきてくれ」
別のロリ怪人に命ずると、すぐに姿見を押して戻ってくる。
今の幼い姿には大きすぎる姿見には、今の自分の姿……ロリを撫で回すロリの姿が映る。まるで戯れる二人の天使のようだ。
「くっくっく、TSトロン大幹部であるこのロリ男爵様が、そう簡単に捕まるとでも思ったか?
あらかじめ自分の体に暗示を仕込んでおいたのさ! 幼女への愛をきっかけに俺の意識は強く覚醒する!
大首領様から体を乗っ取る怪人の存在を聞いていたおかげで対策ができた……大首領様の慧眼に感謝します」
なんてこった、これはまずい!
捕らわれたのは俺の方だっていうのか!?
鏡を覗き込むロリ男爵の目が妖しく光る!
ダメだ……この光、俺の心に楔を打ち込むように強烈に俺の意識を侵食する……!?
「『俺はロリ男爵……ロリをこの上なく愛する者』」
う、あ……俺はロリ男爵……ロリが、大好き……。
「『俺は大首領様に忠誠を誓う』」
ぐぅ……俺は……大首領様に……忠誠を誓う……。
「『ロリは素晴しい。幼女こそ至高。俺は世界を幼女で満たす』」
……ロリは素晴しい……幼女こそ至高……俺は世界を幼女で満たす……。
「くっくっく、ふふふははははははッ!!
暗示の重ねがけだ! これで怪人清彦の意識は消えたッ!!!
俺の中に封印されたのだ!!!!」
ロリ男爵は高笑いしながら部下のつるつるすべすべなお尻を撫で回す。
「さあ行くぞ! TSトロン基地へ向かう! さっそくこの手土産を大首領様に届けるのだ!!
お前たち三人は俺について来い。お前たちは護衛であり保険だ。万が一俺の様子がおかしければお前たちで止めるのだ」
「はーい男爵さまぁ!」
「そして……あの通路から退出したということは、双葉たちの体はそろそろ若返り、縮み始めているはずだ!
とはいえこれは五分の賭け……、怪人“図書係”、怪人“整とん係”!」
「はいっ!」「は、はいっ!」
ロリ男爵の声に、元気の良い返事が返り、新たに部屋に入ってきた二人の怪人が跪く。
メガネに三つ編み、身なりの良い服装に赤ランドセルを背負った“図書係”。
そして体操服にブルマ、紅白帽子を被った“整とん係”。
「お前たち二人には、俺が基地に帰っている間双葉たちの監視を命じる! もし体が幼女まで退行したら捕らえよ!
ただし無理はするなよ、ヤバくなったらすぐに戻れ!」
「「はいっ! わかりました!」」
一方その頃。
「…やっぱり、リーダーも双葉先輩もさっきからおかしいですって!」
「アレだけで終わる訳じゃないと思っていたが、まさか二度もこんな事になるとはな…」
「その言葉を聞くと、リーダーの過去ってとんでもないわよね…」
帰還の最中に瑞葉は気付いた。紅葉と双葉の2人が、次第に妙に小さく…、いや、若くなっていることに。
最初の内は違和感をさほど覚えない程度のものだったが、瑞葉が運転している最中に、助手席に座る紅葉の頭の位置がどんどんと下がっている事に気付いて、車を路肩に泊めた。
バックミラーで確認してみれば、後部座席に座っている双葉も律儀に小さくなっていた。…というよりは、傍から見れば差はあまり無かったのだが。
「今の私、多分高校生くらいの時かしら?」
「双葉はその程度で済んだか…。恐らく7歳くらいは若返ってるな…。どうやら一杯食わされたな」
助手席でだぶついた服に包まれている紅葉は、見た目からすれば10歳くらいだろう。
成長した体に合わせたサイズのブレスレットは、しっかりと持っておかければするりと落ちてしまいそうな程に、腕は細く、手は小さくなっている。
それでも紅葉の眼差しは、幼くなる前より変わらない。
「双葉は本部に連絡を取ってくれ、瑞葉は出来る限り急いで運転を。この状態で止まるとも限らないからな」
「(…こ、これで年齢の退行が止まってくれるなら清くんと一緒に青春を取り戻すことだって…、ん゛ん゛ぅっ!)…分かったわ」
「了解、隊長は服をどうにかしてくださいね」
少しだけ邪な考えが双葉の脳内に過るが、それでもはっきりと残っていた使命感によって、踏み止まって連絡を取っていく。
瑞葉はアクセルを踏み直し、車を再び前進させていった。
現状の説明を終えて、すぐに基地に戻ることの連絡を終えた双葉は顔を上げ、前の座席に座る2人に声を掛けた。
「この状態って、どうして起きてしまったのかしら。これもやっぱり、ロリ男爵の力によるもの?」
「可能性はある。そもそも呪術は丹葉博士も門外漢だろう。どうすれば防げるか、なども分かっていないからな」
「トランスレンジャースーツでも防げるか…、ってことですね。あれ、それじゃ私は? 2人と状況が同じなら、私も若返ってないとおかしい筈なのに…」
ハンドルを握る瑞葉の手は、主観でも何も変わっていない。2人が若くなっている事に疑問を抱きながらも、なぜ自分だけ、という疑問は常に過っていた。
「ある程度の推測になるけど…、もしかしたら“瑞葉”はロリ男爵の催眠に掛かってなかったから、じゃないかしら」
「どういう事です? 双葉先輩」
双葉が行った推測とは、こうだ。
「ロリ男爵は呪術と催眠を得手としているけど、あそこまで私たちを懐に迎え入れておいて懐柔する場合、“どちらか片方だけ”で首輪をつけると思う?
出来る事なら離反者は出したくない、確実性を上げておきたい。なら鍵は一つじゃなくて二つ、それも両方の効果が合わさればより確実に…。
そんな方法にしてくると思うのよ」
「確かに一理ありますね…。私が双葉先輩達みたいに若くならないのは、アイツにくっ付かれていた事で、そのどちらかのかかりが悪かったから?」
「かもしれないな。ロリ男爵が本格的に催眠を仕掛ける前に、本郷が飛び掛かってくれたのも大きいだろう。
……それでも、またこの屈辱的な姿になるとは思いもしなかった。あぁしなかったさ!」
小さく、弱弱しくなった拳を前に突き出しながら、紅葉はもどかしそうにしている。
それもそうかと瑞葉は考えた。彼は遺伝子交換手術のおかげで年若くなり、ようやくあの年齢まで成長できたのだ。それが振り出しに戻されたなら、どれだけ悔しいだろうか。
「思考能力まで子供にされてないのは幸いね…」
「あぁ…、もしそうなってしまったら、と考えると背筋が凍りそうだ」
「早く見てもらいませんと。スピード上げますから、2人ともしっかり捕まってて」
法定速度ギリギリで、3人を乗せた車は基地へと向かっていく。
少しばかり苦笑しながら、葉一郎の顔を見ないようにする。僅かに赤くなってる顔を直視すると、下手をすれば攻撃までされてしまいそうだ。
「それで、太刀葉とは会えるのかッ?」
気恥ずかしさが大きいのか、強く質問してくる葉一郎を少しだけ可愛いと思いつつ、現状について話していく。
「彼女の体に関しては、いきなり激しい運動をさせるのに不安が残る位だから問題ない。むしろこっちが気にしてたのは、そちらだったんだよな」
「む…、そうなのか?」
「前回の事を思い出してみろよ、会わせにくいとも思うだろ」
「くっ…、確かにあの時は頭に血が上ってたし…それも仕方ないかもしれないが…」
先日における顛末を思い出したのか、葉一郎は目を合わせてくれない。理解できるくらいには時間も経ったし、見た目が若いとはいえ、実年齢は多分30歳近い筈だ。分別は付いてるだろう。
ただ、その状態を見て1つの確信を得られた。
「…今のアンタなら、会わせても大丈夫だと思えるよ」
「やすやすとそう思えないような状態にさせた奴が、よく言えるな」
「自分でもそう思ってる。だからこそ、これ以上を起こしたくないと思うんだよ」
「虫のいい話だな」
ちくりと刺してくる葉一郎の言葉が、少しだけ痛い。誤魔化すように笑うしかなかった。
「その笑みはズルいな。言ったこちらが悪い気になる」
こういう時 柔らかな微笑みで相手の警戒心を落ち着かせ、逆に安心感を与えられる葉月ちゃんの身体で来て良かったと思う。
これなら大丈夫だろうと踏んで、葉一郎と少しずつ話を進めていく。
TSトロンなどに現在位置を特定される可能性があるから、やはりお互い直接の連絡はできず、数日後に会わせるという形で話は進んでいく。
「場所に関しては…、中立性を保てる場所が良いな」
「ここじゃさすがにマズいか?」
「マスターに立て続けに迷惑をかける訳にはいかないだろ。前のこともあるからな…」
ばつが悪そうに頬を掻く葉一郎。やっぱりあの事に罪悪感はあったのか。
ちらりとマスターを見る。さすがにここを必要以上のたまり場にして、マスターに迷惑をかけ続けるのも良くないよな。
「わかった。…場所に関してはそちらが決めてくれ」
「いいのか? もしかしたら、こちらの基地付近を選ぶかもしれないぞ?」
「トランスレンジャー側に保護してもらうなら、太刀葉ちゃんにとっても一番だと思うよ」
「……確かに、な」
「ん? …すまない、彩子お嬢様からの連絡だ。
はい、葉月です。……それは、本当ですか? わかりました、すぐに戻ります!」
ドクトルからの連絡に、背筋が寒くなる思いがした。
とうとうTSトロンにバレたか…!
もう閉店時間に近いためか店内には客は俺達だけで他にはマスターしかいない。
だからこそ俺達は本来の口調で重大な会話できたのだが。
もし店の外から俺達二人の姿を見ても同世代の美少女二人がお喋りしているようにしか見えないだろう。
中身は二人とも成人男性、会話の内容も女子高生の会話ではなかったが。
「またね、紅葉」
「うん。じゃあまた今度ね」
友達同士のような、容姿に合った会話をして俺達は店の前で別れた。
松戸院邸に帰りそのまま秘密通路でラボに向かう。
そこには松戸院彩子/ドクトルL(レディ)と何故かシスターがいた。
様子からシスターの中身がノットール1号だろう。
調整槽の中には液体に浸かったギャルの女子高生が眠っている。
中々不思議な光景だ。
葉月ちゃんの体から離れ、蝙蝠男の姿に戻る。
「彩子、1号、2人とも無事だったか!?」
「清彦様もご無事で。太刀葉さんから紅葉の所へ行くと聞いていたので、心配しておりましたわ」
葉月ちゃんも、シスター姿のノットール1号と無事を確かめあっている。
タチーハの体に戻り、状況を確認する為に、何があったのかを互いに話し合う。
一部の組織内事情と幹部の実情を聞き、こちらも紅葉…葉一郎と太刀葉ちゃんの身柄をどうするか、を伝えた。
「そうか、TSトロンの内部から調査する事はほぼ不可能か…。すまない彩子、苦労をかけたな」
「勿体ないお言葉です、清彦様。確かにひやりとしましたが、これで組織の内側を覗けなくなる事が口惜しいです」
「彩子のせいじゃないさ。しかしTSトロン大首領が、タチーハだけじゃなく俺のことまで知っていたのは何故だ…?」
「そこは解りません。大首領の状態は、寵愛を受けていたノットール2号でもろくに知り得ていない物でしたから…」
体を擦りつけられ、甘えてくる彩子を撫でながら話し合う。懸念は大きいな。
「ですが、これで私も晴れて反逆者。最早ドクトルLの名で属していた組織に気兼ねする事無く、この頭脳の全てをあなた様の為に使う事ができます。
私は改めて、清彦様に忠誠を誓います。なんなりとご命令を」
「しかし、いいのか彩子?」
「何がです?」
つぶらな瞳で見上げてくる彩子の頭を撫でながら、一番気になっていたことを訊く。
「TSトロンから完全に裏切り者扱いされるということは、松戸院財閥がTSトロンから狙われるってことじゃないか」
松戸院財閥には黒服のボディガードや、私兵部隊がいる。
だが所詮は人間であり、TSトロンの怪人軍団が総力を挙げて攻撃してきたら抵抗はできないだろう。
彩子は葛藤するように目を伏せる。俺は言葉を続けた。
「俺たちだけで松戸院財閥を守ることも可能だとは思うが、この先の戦いは防衛戦主体となるだろう。
あるいはトランスレンジャーに保護を頼むこともできると思うが、このラボの存在がトランスレンジャーに知られてしまうかもしれない」
「…あるいは、私が再びTSトロン基地に戻り、バブみ大僧正に産み直され再洗脳されたふりをして、組織に戻るか…。
でもその場合、清彦様の情報を一部でも大首領や他の幹部に伝えざるをえないですわ…」
「そんなことで松戸院財閥がターゲットから外されるのなら良いよ。俺は問題ない」
だがシスター・ジェニーになっているカワニシテノットール1号が
「残念ながら例えそうしてTSトロンが狙わなくなってもバブみ大僧正が個人的に狙っています。
シスター・ジェニーは大僧正から直の命令で松戸院家当主を暗示で財産から人材まで全てを密かにバブみ大僧正の支配下に置くよう指示されていました」
「…私を子供にしようと目論んだ事の他にも、お爺様にまで狙いを定めていましたか。
些か、バブみ大僧正を目の敵にする理由が増えましたわね」
ぎゅっと俺に抱き付いてくる彩子の腕に力が入る。
俺はまだ当主である「お爺様」に会った事は無いのだが、狙っていると知った彩子がこれ程までに反応するのなら、大きな恩義を彼女は感じているのだろう。
そっと抱き返し、ゆっくりと彩子の背中を撫でる。
「そうだな、その情報を持ってきてくれてありがとう、1号。
彩子と一緒に無事に帰ってきてくれたから、対策も立てられる」
「勿体ないお言葉です。それに俺も、葉月ちゃんを向こうの好きにさせる気はありませんからね」
美貌のシスターのままに、1号は葉月と抱き合っている。
2人はそういう関係なんだよな。良いなぁ、俺も双葉と色々したいな…。
もちろんTSトロンをはじめとする暗躍する悪の組織や秘密結社達を蹴散らしてからだからずっと先の話だが。
この時はそう思っていたんだが、まさか3日後にトランスレンジャーのトランスイエロー、大石瑞葉ちゃんに再び身体を借りて双葉とプール遊びをするとは!
考えもしなかったな。
事の次第はこうだ。
太刀葉ちゃんと葉一郎を引き合わせに来た時、立会人として、トランスレンジャーの研究員・丹葉凛という少女が一緒にいた。
彼女は興味深げに太刀葉ちゃんの体に異常が無いかの確認をしていたのだが、何もないと知るや否やこっちにやってきた。
「ふむなるほど、君が先日の基地内騒動に関与してた…本郷清彦君だね?
ウチのメンバーを助けてくれて、あと大浴場を壊してくれてどうもありがとう」
「それってどういう…」
「大した意味の無いやっかみ。帝重洲帝国の技術にまだ届かないって思うとどうしてもね」
少女の体で、少し憎らしげな表情をしながら俺の手を取る凛は、少しばかり“自分のプライドを傷つけられました”と言わんばかりだ。
「ドクトルLと協力体制を敷いてる事も聞いてるよ。…ドクトルLと松戸院財閥との関係もね」
「そこに関して、公安…というかトランスレンジャー側は、どう思ってるんだ?」
「んにゃ別に。内偵はしてるけど特にどうという事もないよ。清彦君はアレかな? 我々が特に理由も無くしょっ引く、横暴な公権力だと思ってたのかな?」
「…そういう訳じゃない。葉一郎…いや、赤井紅葉の事も考えると、人道に沿ってる組織だと思ってる」
「なら、松戸院財閥が現状ガサ入れを食らう必要も無い状況だということさ。…まだ司令が、そこに目をつぶってるだけ、だけどね」
喫茶「ブラザー」の中、というより奥のスタッフルーム内で、話を聞かれないようにしている状況だ。
脅しともとれるような言葉を区切り、ホットミルクを口に含む。小さなミルクの白ヒゲを作って凛は続ける。
「ところで清彦君、君は最近心の余裕とか持ててるかな?」
「いきなりどうしたんだ? それとさっきの話と何の関係が…」
「まぁ聞いてくれる? 君にとってもメリットがあるだろう話を持ってきたつもりだからね」
小さなバッグの中、一枚のパンフレットを取り出してきた。
プールをメインとした屋内レジャー施設の案内のようなもので、ぺらりとめくりながらそれに目を落とす。
「実はそこ、TSトロンの息が掛かってる企業がメインで出資してる所でね。そろそろ情報が固まって来たから、実動員を送りたいと思ってたんだ。紅葉ちゃん…は一時横に置くとして、双葉ちゃんには行ってもらうつもりでいる」
「…っ」
「そこでだ、君も一緒に行ってみないか? 勿論、費用などはこちらで持つつもりだが」
「………」
その内容に何も答えられず、沈黙をし続けている。だって今彼女がい言った事は…。
「都合が良過ぎる、かい?」
「…あぁ、そうだ。トランスレンジャー側が俺にこの話を持ち掛ける理由が、ほとんど見つけられないからな」
いくら俺がタチーハの体を使い、同時にTSトロンに狙われている状況で囮になるとしても、そこで気前よく行かせてくれる、と言われれば疑問に思ってしまう。
それさえ分かり切っていたように、凛は次の言葉を告げた。
「司法取引って知ってる?」
「…………、そういう事か」
先程凛は、松戸院財閥に関して目をつぶってる、と言っていた。つまり俺がこの話を飲まなければ、TSトロンより先にそこを社会的に潰すと言っているのだ。
確かに後ろめたい理由はある。完全な状況で裁かれるのが嫌ならば、こちらのいう事に従って減刑を見込んでみろ、と。
「こっちはドクトルLの技術力を、少しでも供与してほしい。
機械技術がメインの私と生科学のドクトルLとじゃ分野が違う為私じゃ理解しきれないかもしれないけど、それ以外にも優秀な科学者はいるんだよ。
被害者たちが少しでも元の生活に戻れるよう支援していきたいし、その為の足掛かりも欲しい訳さ」
「その為に俺達に身を売れ、と?」
「協力と言ってほしいかな」
「…悪人め」
「清彦君が言うのかな?」
「…少し待ってろ、彩子に連絡をしてくる」
席を立ち、携帯を使い彩子に内容を話した。
幸い、彩子の協力は取れた。松戸院家を人質に取られるだろうことは予測していたようで、渋々という感じだったが。
同時に、レジャー施設に行く際にタチーハの体を向こうでも調査し、違う観点から見たいとも持ち掛けられた。
「ちょっと待ってくれ、俺は怪人態しか無いんだぞ?」
「承知しているよ。…だから、ウチからは瑞葉ちゃんを貸そう。実動員として動いてもらうつもりだったし、清彦君も彼
女の体を使っただろう?」
「それはそうだが…、それで良いのか? 彼女の意志はどうなんだ?」
「納得すると思うよ。こと双葉ちゃんの事に関してなら、ね」
意地悪そうに笑う凛を見て、あの時瑞葉ちゃんに寄生していた事を思い出す。
確かに彼女の中には、双葉への思慕の念があった。…結構性的な意味で。だからこそ双葉1人が傷付くような状況は望ま
ないだろうし、その為に身を差し出すかもしれない。
その為に体を俺が使う、という状況に関しては渋るかもしれないが…。
「ま、ちゃんと説得はするよ。…それと、連絡の為にこれをあげよう」
差し出されたのは腕輪だった。双葉も瑞葉ちゃんもつけていた、トランスレンジャーの共通装備。
「通信機器でありGPS搭載の代物だ。傍受はされない特殊電波を出す代物だから、これがあれば連絡も取りやすいし…、双葉ちゃんとも話がしやすいよ?」
「…つまり、俺に対する首輪か」
「協力者は多い方が良いよね。お互いにさ?」
利用し合う関係、とも言い換えられるだろう。それを跳ねのけられる状態でもないと今更ながらに思い知り、俺はその腕輪を取った。
そして話はプールに来ている時間に戻るわけだが…。
「ほら、清くん! 気持ちいいよ! 一緒にプールだなんて、いったい何年ぶりだろうね!」
まるで子供のように無邪気にはしゃぎながら水しぶきをあげる双葉。白いビキニ姿がよく似合っていて、まぶしい。
しかし…。
「はぁ…」
俺の気分はいまいち晴れなかった。
なにしろ、今の俺は女の体で、双葉とお揃いの赤ビキニを着ているのだ。
「久しぶりのプールなのに、女の体で入ることになるとは…。しかも折角双葉と二人きりなのに」
ほんのわずかな面積しかないように思える頼りない水着に包まれた、今の体――大石瑞葉の乳房がゆさりと揺れる。
タチーハの体でしばらく過ごし、女体には慣れたつもりでいたけれど、こんなに人前で肌を露出するなんてなかなか無くて、どうしても恥ずかしさがこみ上げる。
「清くんったら、変なところで真面目なんだから…。じゃあいっそ、瑞葉本人に成り切った気持ちで乗り切ればいいじゃない!」
「ええっ無茶言ってくれるなぁ」
ふたりでくすくすと笑いあう。
同時に最低限の警戒も怠らない。
ここがTSトロンの息がかかっている可能性がある施設だということもあるし…。
もうひとつ、彩子の報告にあった、TSトロンの「タチーハの捜索・勧誘」作戦がまさに今日から発動されているであろうからだ。
彩子が、バブみ大僧正に再洗脳されたふりでTSトロンに再び潜入すべく、TSトロン基地へと向かってから今日で二日。
彩子からの連絡はまだない…。
そして、タチーハの体は瑞葉ちゃんの体を借りる際、引き換えにコールドスリープ状態でトランスレンジャー基地に預けてきてある。
俺はある種の危険な予感を感じていた。
このプールで、何かが起こるかもしれない…。
同じ頃…同じプールの反対側のエリアにある子供用プールにて、一人の幼女が佇んでいた。
幼女は子供用プールにいるほかの幼稚園児から小学校高学年まで様々な女児たちを眺めては、だらしなく鼻の下を伸ばす。
「ロリはいい…! ディ・モールト(非常に)いい…!」
「俺の配下の企業が運営するレジャー施設にして、俺様の拠点のひとつ! その名もロッロッ、ロリランド!
室内レジャープールは小学生以下入場無料! 中高生は入場200円!!
お子様連れや遊びに来る小中学生に大人気! おかげでこうして好きなだけ、あられもない幼女や少女の姿が眺められる…!
ロリはいい…! 最高にいい…!」
「そして、広い施設に怪人や戦闘員を隠しておくのも簡単ってわけさ…! さあ、俺様のロリランド、たっぷりお楽しみあれ♥」
瑞葉本人に成り切った気持ちで乗り切ればいいじゃない、 か。
無茶言うけど双葉の言葉は正しいかもしれない。
正確には瑞葉ちゃんに成りきるのではなく、同世代の普通の女の子になりきるのだ。
それに瑞葉ちゃんもそうすればあとで喜んでくれるかもしれない。
記憶共有なら俺が抜け出したあと、あたかも自分自身の意思で行動していたように記憶も体験も思い出せるのだから。
トランスイエローである大石瑞葉本人としてこの作戦に参加しなかった、いや、出来なかったのは俺・清彦を巻き込む為だけではなかった。
「敵地でリラックスして遊ぶのなんて無理です!無理に参加しても私が原因で敵に作戦が露見して双葉先輩を危機に陥らせてしまう可能性が高いから出来ません!」
こと戦闘なら得意な瑞葉ちゃんも敵地で普通の女の子を装って遊びに興じている演技は無理だということだった。
だが彼女自身の戦闘力の高さ、加えて双葉との合体攻撃技。
トランスホワイトとトランスイエロー、二人の持つブラスターのビームを空中で収束させ、ひとつの大きなビームとして撃ち出す【エレクトリック・アロー】
これをいざという時にその場で投入できないのはトランスレンジャーとしても考えられなかった。
そこで俺の出番だ。
俺がトランスイエロー、大石瑞葉になり、双葉と普通の女の子を装い潜入し調査することになったのだ。
「本当ならあんたなんかに寄生なんてされたくないんだからね!
でも作戦だし私じゃ演技できないから仕方なく貸すんだからね!」
プリプリしているがそれほど敵意は感じない。
正直 ノットール2号に乗り移られた双葉を助ける為とはいえ、以前勝手に身体を乗っ取ったことがあるから暴行されても仕方ないと覚悟していたんだが。
「その件はいいわ。あの時は絶対殺す!って思っていたけど」
物騒なことを言い出す。
「乗っ取られていた双葉先輩を助ける為だって後でわかったから。
逆に私は気付けずに敵に協力してしまっていた。それが双葉先輩を窮地に追い込んでいたとも知らずに」
「・・・」
「でも貴方は私になって先輩を救った。だから赦してあげる」
こうして俺達は和解した。
「ほら、さっさと私に乗り移りなさいよ!でも変な事したら許さないからね」
赤色の大胆な水着姿の瑞葉の身体に自分の身体を密着させそのまま細胞融合の寄生をして同化する。
「合体完了。成功ね」
瑞葉の声で喋り先ずは自分自身で身体を確認する。
そしてトランスレンジャーの研究員・丹葉凛や研究者達立会いの下にトランスイエローに変身、各種戦闘試験を実施し
最終的にはトランスホワイトに変身した双葉と【エレクトリック・アロー】を撃つまでやった。
その結果は良好で今に至る。
油断はしていないし心のスイッチはいつでも戦闘モードに切り替えられるようにしているが敵地とはいえ
双葉の同世代の女の子になりきってしまえば水着姿の双葉とこうして遊べるのが心底楽しく、俺は瑞葉ちゃんの身体で本当に笑顔で楽しんでいたのだから。
「茜(あかね)ちゃん、こっちこっち♪」
ビーチボール遊びをしていると黒いビキニ水着の赤井紅葉(紅葉一郎)を見つけ呼ぶ。
念のため偽名を使用している。
紅葉は【茜(あかね)】双葉は【五十鈴(いすず)】瑞葉の身体の俺は【清美(きよみ)】だ。
本来なら葉一郎は来ないものと思っていた。7年ぶりに再会できた太刀葉ちゃんとの時間を優先するのだと考えていたからだ。
だが葉一郎は、
「お前が双葉と瑞葉に何かしないように見張る役も必要だろ。それに狙われてる立場だという事をもう少し理解した方がいい。
瑞葉の体である限りは、監視対象・兼チームメイトなんだ。リーダーとして捨ておくわけにもいかないだろ」
というのが大きな理由のようだ。多分それ以外にも、TSトロンへの敵意もまだ強く残っているんだろう。
そう思いながら、表面上は友人同士としてプールで遊んでいる現状ではある。
…その筈だが、葉一郎は妙に恥ずかしそうにしている。1つ思い当たる事があり、耳打ちをした。
「…やっぱり、お前もか?」
「あぁ…。水泳部だと競泳水着しか使わないし、部活の仲間とプールに行ってないしで、ビキニを着るのは初めてなんだ…」
俺と同じ理由で恥ずかしそうにしていた訳だ。きっと怪人とかが関わらない所では、気の良い男だったんだろうな。
その分今の状態が、色々な理由で映えているんだが。
見た目、つまり肉体的には紅葉が現役女子高生だけあって一番若く年下だ。
「ふふっ、茜ちゃん可愛い♥」
思わずお姉さん気分でぎゅっと抱きしめてしまう。
「き、清美さん、や、やめてくださ~い(>_<)」
「ウフフ、清美ちゃんと茜ちゃんは仲良いね♪」
見た目だけなら大学生か社会人になったばかりの女性が後輩か妹の女子高生と遊んでいるようにしか見えないだろう。
さて、遊んでいる状況とはいえ、俺達の目的はこの施設の調査なのだ。
来場者用に頒布されてるパンフレットを開いて、次はどこに行こうかと相談している。
目下のリーダーは茜(葉一郎)である為、彼女主導で色々と見て回っている。
「通常のプールに怪しい所は見当たらないな」
「流れるプールやウォータースライダーも、それらしい物は無かったわね」
「どこも周囲の目があるからな。ここを管轄してるのがロリ男爵だとしても、そう大っぴらに行動はしないだろ」
このロリランド、低年齢層に優しい仕様のおかげで誰が管轄しているのか、嫌がおうにでもわかってしまう。
…話に聞いたバブみ大僧正やエロイ元帥では、こうはならないだろうという消去法でもあるが。
「清彦、超音波を使って怪しい所の調査はできないか?」
「やれなくはないが、ほぼ勘付かれるぞ。感知能力の高い存在を職員か何かに偽装してるだろうからな」
蝙蝠男としての能力「超音波」は、相手の意識を混濁させることの他に、壁などに反射させることで周囲の状況を認識することも可能だ。
むしろこれこそが本来蝙蝠が持ってる能力だったりするんだが…。
「それなら、屋内施設を中心に調査した方がいいかも。…こことかね」
五十鈴(双葉)が挿すのは、屋内アトラクション「探検ロリランド」。
ロリランド内に存在している、水着のままに遊べるレクリエーション施設だ。
「確かに怪しいな。遊んでいる振りして詳しく調べよう。俺もチャンスがあればスタッフになって情報収集してみよう」
乗っ取ったスタッフから何か情報が得られるかもしれない。
ちなみに男性は利用客しか見掛けていない。
職員・スタッフは全て美しい女性ばかりだ。
それが男性料金が割高でも男性客が多い理由であろう。
だが屋内アトラクション「探検ロリランド」は男性禁制。
代わりに多数の女性スタッフが父親と娘で来た場合に備えて対応するそうだ。
小さな男の子向けに似た施設も有り男の子達はそちらに。
TSトロンが関わっていると知らなければ気付かなかったかも知れないが、確かに怪しい。
だが俺達は肉体的には完全に女性だ。
堂々と入っていける。
中に入るとそこには、
入口で配布されるシートにスタンプを押して回っていく、スタンプラリーのような施設だった。
その中では、「探検ロリランド」のスタッフやパネルなどに質問を出され、回答の成否によって○×のいずれかが押されていく。
〇の数が多ければ、それに応じてちょっとした景品が貰えるという、参加者の意欲を少しくすぐる様な施設だ。
…そう、ここまでであるならば。
ある質問を掲示するパネルの前で、僅かに違和感を憶えた。
「清くん、どうしたの?」
「このパネル…、微妙に音波を出してるな」
「どう行ったものかわかるか?」
葉一郎の問いかけに、自身が今まではなっていた超音波のパターンから、近いものを思い出して推論を立ててみる。
「半分くらい推測が入るけど、これから話す内容に従うようになる、という感じだ。本人の意識は壊さないタイプの…、刷り込みや暗示をかけやすくするようなものだ」
「…という事は、ここから先に行けば行く程、入った人間はTSトロンの暗示を受けてしまうのね」
「恐らく最後に行くまでに、それらの暗示を深層意識に抑え込む類の音波も入るだろうな。
…ところで、どうして質問が全部『ロリータ』からの出題なんだ?」
ロリ男爵の趣味だろ、絶対。
近くにスタッフが見回りに来た。
傍目には安全確認や案内する為に巡回しているように見えるが実際は客の様子や監視をしているのだろう。
あの優しげな笑みの裏側は。
「ねぇ、面白そうだね♪参加してみようよ♪
(二人にだけ聞こえる声で)『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だな」
「そうね、面白そう♥」
「楽しみだね♪」
俺達も普通に遊びに来ている女の子達のようにはしゃぎながら入った。
まだスタッフの背中が通路の向こうに消えていかないので、きちんとお互いに偽名で会話を行う。
「そういえば、茜はどこでロリータの話を知ったの?」
「図書館にあったから読んでみたの。運動だけしてても良くないと思ったしね」
なるほど確かに文武は両立させておいた方が、何かと役には立つだろう。
それを発揮しているからこそ、こうして探検ロリランドで、積極的に茜(葉一郎)は回答してくれている。
問題の総数は全部で12問。そのすべてを答えていき、順調にシートに〇のスタンプが押されていった。
時折現れるモニターからの出題、そこから発せられる超音波は、同室の波長を小さく放って打ち消していく。これを浴び続けてしまえば、双葉や葉一郎も影響を受けてしまうからだ。
そして12個目のスタンプが押された事で、スタッフの女性が俺達に笑顔を向けてくれた。
「おめでとうございます! 皆様には、全問正解者のみが受けられる、最後の特別な質問への挑戦権が生まれました!
こちらに正解していただければ、更なる豪華景品が進呈されます。お受けになりますか?」
「どうしましょうか、2人とも?」
「勿論受けます! 景品も気になるけど、茜ちゃんならできるって信じてるからね」
「私もよ。こうなったら最後まで行っちゃおう!」
葉一郎の疑問(演技)に応えるように、双葉と俺は背中を押す演技をする。
恐らくはここで、今までのモニターの超音波に当てられた人達は疑う余地も無く頷くだろう。
だから促されるままにスタッフの質問にYESと答えるよう、葉一郎を頷かせる。
「それでしたらこちらのルートをお進みください! 最後の特別な質問は、この奥で出題されます!」
「はーい」
案内を受けて、スタッフの女性が扉を開いたルートへ向けて歩いていく。笑顔のままなのに、にやりと笑われたような気配が背中越しに感じられる。
ガタン、と扉が閉められたのはその数秒後だ。
「「「…………」」」
何かある。それを認識して俺達はお互いの顔を見た後、一つ頷きあう。
20秒くらいは歩いた先に、一つの開いた部屋があった。その中に入ると、中央に玉座と思しき場所に1人の少女が座っていた。どこかで遊んでいたのだろうか、水着姿で未だ拭き切れていない水気が、水着やら髪を濡らしている。
「待ってたよ、お客様たち。それじゃ最後の質問ね!」
その少女は俺達の反応を待つことなく、矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
「俺達TSトロンに忠誠を誓ってくれるかな? そうしたらそんな汚らしい大人の体じゃなくて、いつまでも変わらない、若くて瑞々しい、『女の子』の体をあげる。
穢れた心だって大丈夫、純粋な子供の心を思い出させてあげる。
だから、ね。俺様に忠誠を誓え!」
くわ、と少女の目が見開かれた!これはまずい!!
可愛らしい少女の魔眼が効果を発揮する直前!
幸運だったのは俺がこの少女の姿を知っていたことだろう。
ロリ男爵。
呪術や催眠を得意とする、TSトロンの中で一際特殊な能力を持つ大幹部だということを。
もし知らずに質問を聞いてから対処しようとしていたら間違いなく一瞬で服従していた。
また幸運なことに相手は俺たちをただの20代の女の子達と思っていたことだ。
だから付け入る隙が一瞬だけあった。
色々な偶然が重なった故に勝機をもたらした一瞬だったが、逆にこの一瞬をモノに出来なかったらこちらが負けていた紙一重の勝利だったのだ。
俺は一瞬で清美ちゃんこと瑞葉ちゃんの身体から飛び出して目を閉じたままロリ男爵に飛び掛る!
目と目が合わされば一瞬で服従の暗示に掛かってしまうからだ!
俺が蝙蝠型寄生怪人でよかったとはじめと思ったかもしれない。
あっ・・・すまない。
洗脳から解け、自分の意思で美人怪人やタチーハになったとき チョッピリ・・・いや、とっても喜んでこの身体でよかったと一瞬だけなら何度か・・・それは今はいいか。
蝙蝠型怪人の俺は一部の蝙蝠のように目視しなくても超音波で周囲を詳しく視ることができる。
むしろ目で見るより正確に位置や距離、形等が視えるのだ。
ロリ男爵も予想外だったに違いない。
目の前の娘達がただの女の子かと思っていたらその身体の中から怪人が飛び出し、飛び掛ってきたのだから。
しかもズルズルと自らの肉体に強制的に同化、融合され意識を瞬時に強制に眠らせられたのだから。
もし互いに距離を置いて対峙してからやり合ったら俺は一瞬で叩き潰されていたであろう。
俺の超音波も普通の人間ならともかく、一定以上の戦闘力を持つ怪人相手には効果が薄い。
ましてや相手は大幹部。
最大出力で浴びせてもドライヤの温風を僅かに浴びたくらいにしかならなかったかも知れない。
もちろん飛びついて同化融合し相手の身体を乗っ取りするよりも、飛び掛ったところでそのまま蚊のように叩き潰されている可能性の方が高い。
戦闘力も肉体強度もロリ男爵より遥かに劣るのだ。
だからこその不意打ち。
これしか手段がなかったのだ。
飛びつくと同時に同化融合開始!合わせて意識も眠らせる。
こうしてなんとかロリ男爵の身体を乗っ取ることに成功したのだった。
「…どうにか、間に合ったな」
薄氷を踏むようなタイミングの出来事だった。
ロリ男爵の魔眼が発動する直前で寄生が完了した為、3人はその効果を十全に受けきる直前で留まっている。僅かにボーっと、視線が宙を泳いでいる程度だ。
「ちょっと、これどういう事になってるの? 双葉先輩もリーダーもなんか目の焦点あってないし!」
すぐに復帰したのは瑞葉だ。ロリ男爵の魔眼を直視しておらず、その上彼女の体質からか、俺が抜け出た後からの復帰が早いこと。
「あぁ、それなんだがな…」
かくかくしかじか。俺が瑞葉の体を動かして調査していた時の事を、少しばかりかいつまみながら説明すると、瑞葉は腕を組みながら考えて、その後に納得してくれたようだ。
「…じゃあ、今の2人は催眠にかかってる状態って事?」
「薄くだろうけどな。言われたことを信じやすい、かもしれない。断言はできないぞ?」
「それなら早く起こしてあげないと。………」
あ、瑞葉の奴何か良からぬこと考えてそうな気がする。
彼女が双葉に想いを寄せてる事は知っている、知っているが…。このまま好きにさせるか、それとも止めるべきか。
瑞葉ちゃんの好きにさせよう。
本来なら敵である俺に身体を貸してくれたのだしさすがに俺がいるのに無茶苦茶な事や酷い暗示はしないだろう。
よっぽど変なことをするなら止めるし、俺がロリ男爵の暗示能力でリセットすれば良い。
だから見守りつつ、俺はロリ男爵の能力と記憶を使えるようにするべくゆっくりとロリ男爵の記憶を読み始めた。
紅葉と双葉は1分ほどで軽い催眠状態から正常な状態に回復した。
瑞葉ちゃんは結局悩んでいたようだが何もしなかった。
予想はついていたが後でこっそり聞いたら予想通りだった。
やはり暗示で例えば【これからも仲良くしてください】というものでも、今後は双葉が本心から仲良くしていても
瑞葉ちゃんは本当に仲良くしているのか、自分の暗示による強制力で操って仲良くしているフリをさせているのではないかと疑心暗鬼に自身が掛かってしまうからだ。
「…すまない、手間を取らせたな」
「ありがとう清くん、もしあのまま目を見ていたら、私達も催眠にかけられていたのね」
「その辺は助かったわ、ホント。……癪だけどさ」
2人の意識が回復したようで、ぼんやりと頭をふるいながら、まばたきを繰り返している。催眠から復帰し始めると視界がぼやける事が多く、ロリ男爵が行った時でもそれは変わらないようだ。
瑞葉も渋々といった態度ながら感謝の弁を述べている。
「2人とも催眠にかかりきらなくて良かったよ。…ともあれ、現時点とはいえロリ男爵の体は奪えたが、ずっとこのままという訳にも行かないだろうな」
「催眠…というよりは刷り込みによる洗脳か。ロリ男爵はそれが終わったらどうするつもりだったんだ?」
「基本的に、余程の事がない限りはそのまま一時帰宅させ、機を見てTSトロンの怪人なり戦闘員なりにさせるつもりだったみたいだ。
その時は基本的にロリランドの従業員になったり、他のロリ男爵のアジトに潜ませるのが殆どだな…」
ゆっくりとロリ男爵としての記憶や意識を読み込みながら、“その後の処遇”について口にしていく。
勿論これは「大人を相手にした場合」だ。純粋なロリっ娘相手なら当然この限りではない。見た目が良ければそのままお持ち帰りや、その場で味わう事もある。
「だったら、一応私達はこの後返されるのね?」
「そうなるな…。…退出用の通路は向こうだから、双葉たちは一度ロリランドから出て、基地に戻ってくれ。
未遂とは言えロリ男爵の催眠が掛かりかけたんだから、何かあるかもしれないしな」
「そうさせてもらう。まだ微妙に体が重い感じがするからな…。何かあった時は頼むぞ、瑞葉」
「任せてリーダー」
双葉の疑問に答えて、一度3人を基地に返すことにする。
当然ながらそのまま基地に帰還、という事ではなく、国が抱えている幾つものセーフハウスから地下通路を通って、という形になるが。
「…本郷はこの後どうするつもりだ?」
「後で『さっきの奴等の所へ、直々に赴く』とでも言ってそっちに戻るよ。ロリ男爵の体を調査する必要もあるからな」
この体は、「本当の太刀葉ちゃんの体」の可能性がある。帝重洲帝国が行った改造手術の痕跡を辿って調査する為にも、やはり実物が必要なのだ。
「わかった。無茶するなよ、本郷」
「勿論だよ、ロリ男爵の体を使っててもここは敵陣だからな。浅い川も深く渡るさ」
「気をつけてね、清くん」
「……無事に戻って来なさいよ?」
「っと、そうだ。一応全員催眠にかかったフリをして行ってくれよ?」
それぞれに気を使ってくれた言葉を残し、俺の言葉に頷きながら、双葉達は部屋を出ていった。
そのままロリランド奥のオーナールームに戻ると、傍付きのロリ怪人達が俺を出迎えてくれた。
年齢に差はあれど、全員が小学生位の見た目で、全員があられもなく肌を晒した状態で俺に向かって体を擦りつけてきた。
「ロリ男爵様、おつかれさまっ」
「ねぇねぇ、今日のお姉さんたちは、わたしたちのお友達になれそうですか?」
「男爵さまぁ、わたし達いい子でお留守番してたよぉ? あとでご褒美くださいね?ね?」
「あぁ、待たせたなお前達。後でたっぷりご褒美をくれてやるさ。
お友達には…、そうだな。それをしっかり確かめる為に、後で直接確かめに行くさ」
3人のロリ怪人たちを順に撫でてあげると、子ども相応の無邪気そうな笑顔のままに、ロリ男爵の体に抱きついてくる。
あぁ…、全員微妙に異なるぷにぷにの感触だ、それを押し返すロリ男爵の肌もみずみずしい、天使のような肌だ。これはマズい、自分で感じるからこそロリ男爵の気持ちが分かる。
こんな劣情を催す子達の前で我慢するなんて……、っとと、駄目だ、体側の意思に引きずられかけている。
気を引き締め、意識をしっかり保っておかないと。
「男爵さまぁ、ちゅーしてぇ。ねぇ、ちゅーぅー」
「しょうがねぇなぁ、んーちゅ~…!」
1人がキスをねだってきたので、仕方なしとばかりに応じる。…あ、この唇も気持ちいいなぁ。
「んっ、ちゅ……♥」
舌まで入れた濃厚なディープキスをする。どちらの体もぷにロリだからか、瑞々しい唇がむっちりと合わせられ、離れたときには唾液が糸を引く。エロい。
「やっぱいいよなァ、ロリはよォ~~~~」
思わず思考が口に出る。何を言ってるんだ俺は!
手は部下のロリ怪人を引き寄せ、その体を撫で回している。
「肌もこんなにすべすべぷにぷにでよォ~~~~、若さが満ち溢れていて素晴しい」
なんだこれ、俺は何を言ってるんだ! どうなってるんだ!?
「甘く乳臭いいい匂いもするしなァ……ほら、いい子いい子」
「んにゃあ♥ 男爵さまぁ♥」
ロリ怪人を撫で回してやると、くすぐったそうにくすくすと笑う。
「穢れの無い無邪気な美しさ、時間と共に失われてしまうはずの儚いもの……俺はそれを永遠のものにする!」
おかしい……おかしい……俺は一体……。
「おい、鏡を持ってきてくれ」
別のロリ怪人に命ずると、すぐに姿見を押して戻ってくる。
今の幼い姿には大きすぎる姿見には、今の自分の姿……ロリを撫で回すロリの姿が映る。まるで戯れる二人の天使のようだ。
「くっくっく、TSトロン大幹部であるこのロリ男爵様が、そう簡単に捕まるとでも思ったか?
あらかじめ自分の体に暗示を仕込んでおいたのさ! 幼女への愛をきっかけに俺の意識は強く覚醒する!
大首領様から体を乗っ取る怪人の存在を聞いていたおかげで対策ができた……大首領様の慧眼に感謝します」
なんてこった、これはまずい!
捕らわれたのは俺の方だっていうのか!?
鏡を覗き込むロリ男爵の目が妖しく光る!
ダメだ……この光、俺の心に楔を打ち込むように強烈に俺の意識を侵食する……!?
「『俺はロリ男爵……ロリをこの上なく愛する者』」
う、あ……俺はロリ男爵……ロリが、大好き……。
「『俺は大首領様に忠誠を誓う』」
ぐぅ……俺は……大首領様に……忠誠を誓う……。
「『ロリは素晴しい。幼女こそ至高。俺は世界を幼女で満たす』」
……ロリは素晴しい……幼女こそ至高……俺は世界を幼女で満たす……。
「くっくっく、ふふふははははははッ!!
暗示の重ねがけだ! これで怪人清彦の意識は消えたッ!!!
俺の中に封印されたのだ!!!!」
ロリ男爵は高笑いしながら部下のつるつるすべすべなお尻を撫で回す。
「さあ行くぞ! TSトロン基地へ向かう! さっそくこの手土産を大首領様に届けるのだ!!
お前たち三人は俺について来い。お前たちは護衛であり保険だ。万が一俺の様子がおかしければお前たちで止めるのだ」
「はーい男爵さまぁ!」
「そして……あの通路から退出したということは、双葉たちの体はそろそろ若返り、縮み始めているはずだ!
とはいえこれは五分の賭け……、怪人“図書係”、怪人“整とん係”!」
「はいっ!」「は、はいっ!」
ロリ男爵の声に、元気の良い返事が返り、新たに部屋に入ってきた二人の怪人が跪く。
メガネに三つ編み、身なりの良い服装に赤ランドセルを背負った“図書係”。
そして体操服にブルマ、紅白帽子を被った“整とん係”。
「お前たち二人には、俺が基地に帰っている間双葉たちの監視を命じる! もし体が幼女まで退行したら捕らえよ!
ただし無理はするなよ、ヤバくなったらすぐに戻れ!」
「「はいっ! わかりました!」」
一方その頃。
「…やっぱり、リーダーも双葉先輩もさっきからおかしいですって!」
「アレだけで終わる訳じゃないと思っていたが、まさか二度もこんな事になるとはな…」
「その言葉を聞くと、リーダーの過去ってとんでもないわよね…」
帰還の最中に瑞葉は気付いた。紅葉と双葉の2人が、次第に妙に小さく…、いや、若くなっていることに。
最初の内は違和感をさほど覚えない程度のものだったが、瑞葉が運転している最中に、助手席に座る紅葉の頭の位置がどんどんと下がっている事に気付いて、車を路肩に泊めた。
バックミラーで確認してみれば、後部座席に座っている双葉も律儀に小さくなっていた。…というよりは、傍から見れば差はあまり無かったのだが。
「今の私、多分高校生くらいの時かしら?」
「双葉はその程度で済んだか…。恐らく7歳くらいは若返ってるな…。どうやら一杯食わされたな」
助手席でだぶついた服に包まれている紅葉は、見た目からすれば10歳くらいだろう。
成長した体に合わせたサイズのブレスレットは、しっかりと持っておかければするりと落ちてしまいそうな程に、腕は細く、手は小さくなっている。
それでも紅葉の眼差しは、幼くなる前より変わらない。
「双葉は本部に連絡を取ってくれ、瑞葉は出来る限り急いで運転を。この状態で止まるとも限らないからな」
「(…こ、これで年齢の退行が止まってくれるなら清くんと一緒に青春を取り戻すことだって…、ん゛ん゛ぅっ!)…分かったわ」
「了解、隊長は服をどうにかしてくださいね」
少しだけ邪な考えが双葉の脳内に過るが、それでもはっきりと残っていた使命感によって、踏み止まって連絡を取っていく。
瑞葉はアクセルを踏み直し、車を再び前進させていった。
現状の説明を終えて、すぐに基地に戻ることの連絡を終えた双葉は顔を上げ、前の座席に座る2人に声を掛けた。
「この状態って、どうして起きてしまったのかしら。これもやっぱり、ロリ男爵の力によるもの?」
「可能性はある。そもそも呪術は丹葉博士も門外漢だろう。どうすれば防げるか、なども分かっていないからな」
「トランスレンジャースーツでも防げるか…、ってことですね。あれ、それじゃ私は? 2人と状況が同じなら、私も若返ってないとおかしい筈なのに…」
ハンドルを握る瑞葉の手は、主観でも何も変わっていない。2人が若くなっている事に疑問を抱きながらも、なぜ自分だけ、という疑問は常に過っていた。
「ある程度の推測になるけど…、もしかしたら“瑞葉”はロリ男爵の催眠に掛かってなかったから、じゃないかしら」
「どういう事です? 双葉先輩」
双葉が行った推測とは、こうだ。
「ロリ男爵は呪術と催眠を得手としているけど、あそこまで私たちを懐に迎え入れておいて懐柔する場合、“どちらか片方だけ”で首輪をつけると思う?
出来る事なら離反者は出したくない、確実性を上げておきたい。なら鍵は一つじゃなくて二つ、それも両方の効果が合わさればより確実に…。
そんな方法にしてくると思うのよ」
「確かに一理ありますね…。私が双葉先輩達みたいに若くならないのは、アイツにくっ付かれていた事で、そのどちらかのかかりが悪かったから?」
「かもしれないな。ロリ男爵が本格的に催眠を仕掛ける前に、本郷が飛び掛かってくれたのも大きいだろう。
……それでも、またこの屈辱的な姿になるとは思いもしなかった。あぁしなかったさ!」
小さく、弱弱しくなった拳を前に突き出しながら、紅葉はもどかしそうにしている。
それもそうかと瑞葉は考えた。彼は遺伝子交換手術のおかげで年若くなり、ようやくあの年齢まで成長できたのだ。それが振り出しに戻されたなら、どれだけ悔しいだろうか。
「思考能力まで子供にされてないのは幸いね…」
「あぁ…、もしそうなってしまったら、と考えると背筋が凍りそうだ」
「早く見てもらいませんと。スピード上げますから、2人ともしっかり捕まってて」
法定速度ギリギリで、3人を乗せた車は基地へと向かっていく。