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呪いの鏡1・2

2018/06/02 18:33:38
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『ね、お願い、私の体返して』
そう言っているのは俺じゃない。鏡に映った今の俺の姿、正確にはその中の彼女の魂の声だ。
「て言われてもなぁ。それができたら入れ替わった直後にすぐ戻されちゃうから意味ないだろ?
だいたい今は呪いの鏡のあんたがやれないんだから、それくらい分かれよ」
体を乗っ取られて呪いの鏡に封じられていた俺は、たまたまその鏡を買ったこの女と入れ替わってようやく自由を取り戻した。
女になっちまうがこんなチャンスがいつあるか分からないし、鏡よりはマシだ。
『え、じゃ、じゃぁ、ずっと私はこのまま?』
「前の奴からルールを教えてもらったけど、入れ替わった後、同じ入れ替わりはできないらしい。ま、間に一人挟めばいいらしいけどな」

『えと、えと、じゃ、そうだ、後輩の若葉ちゃんがいいわ』
「お前、ひどい奴だな~。後輩の体乗っ取ろうってか?」
『じゃ、じゃぁ彼氏の敏明。きっと私のためなら身代りになってくれるから』
「へー、で、彼氏になって、彼氏の目の前でこの自分の体とHするんだ」
『えーと、そうだ、敏明混ぜて何回か入れ替われば、私は元の体で、あなたは敏明、男になって私の彼氏になれるわ。
敏明は私がうまくだますから。どう?』
いや、こんなひでー女の彼氏になるとかいやだけど、どうするかな。

この女を彼女にするかはともかく、たしかに男の体には戻りたい。
けど、こいつが本当に協力する気があるのか、なんだか疑わしい。

とりあえず俺が知っている鏡のルールをまとめてみよう。
まず入れ替わる条件だが、よくあるゾロ目の時間―12時12分12秒とか―に鏡を覗くこと。
そして同じ相手と直接入れ替わることはできない。間に別の人間を挟めば入れ替われる。
…この女には言ってないが、お互いに「入れ替わりたい」と念じればすぐに入れ替わることも出来る。
もちろん俺は鏡の中になんか戻りたくないので、そんなことは考えない。

それと入れ替わってから7日間経つと、魂が肉体に定着して二度と入れ替わることができなくなる。
これは鏡の中の魂が変わったとしてもだ。呪いを受けなくなる、とも言い換えられるかもしれない。
なお、鏡の側はどれだけ時間が経っても入れ替わることができる。

あとは、ルールかはわからないが「鏡を壊してはいけない」。
壊してしまうと「何かよくないことが起きる」という漠然とした知識が俺の中にある。

こうしたルールは前の奴に教えられたものと、鏡の中にいる間に頭に浮かんできたものだ。
ほかにもあるが、最低限忘れてはいけないルールはこれくらいだろう。


『ねえ、どうするの?』
鏡の中の彼女が聞いてくる。ちなみにこの声は入れ替わった者同士にしか聞こえない。
「…わかった。まずはあんたと二人のことを教えてくれ」
ひとまず協力するふりをして、この女と若葉、敏明という人物のことを聞く。

『大学は春休みだし、二人とも予定がなければ来てくれるはずよ』
ある程度の情報を言って、最後にそう付け加える彼女…太刀葉。
「わかった。じゃあちょっと待っててくれ」
そう言って鏡に布を被せる。すると太刀葉の声は聞こえなくなる。…何か言ってた気がするが気にしないでおこう。

鏡を塞がれると、外の様子はほとんどわからなくなる。時たま音が聞こえることもあるが、それだけだ。
ついでに時間の感覚が曖昧になる。外で1日経っていても、鏡の中ではせいぜい数時間、ひどいときには数分にしか感じない。
ちなみに俺…肉体側が望めば、ほかの鏡に呼び出して会話や周りの様子を見せることが出来る。
もちろん、入れ替わりはこの鏡でしか出来ない。それと呼び出せるのは魂が定着してしまうまで。
余談だが、俺が鏡の中にいる間に呼び出されたことは一度もなかった。

本当だったら俺の体をここに連れてきたいところだが、俺が鏡の中に入れられてから少なくとも数ヶ月は経っているらしい。
残念だが、「7日のルール」に守られた自分の体に戻るのは諦めるしかない…


何気なく視線を落とす。鏡の中にいる間に本来の自分の姿はうろ覚えになってしまったが、男だったのは間違いない。
元の体には、眼下に映るピンク色の布に包まれた白い双丘など存在していなかった。

鏡の前に立つ。呪いの鏡ではなく、洗面所の鏡だ。
そこには下着姿の綺麗な女性が映っている。これが、今の俺の姿…
実は俺は生の女性の裸…下着姿すら見たことがない。多分、だが。
多分というのは、鏡に閉じ込められていたせいか、記憶が曖昧な部分があるせいだ。
入れ替わる前の俺は学生で、彼女が出来たことはなかった、と思う。

腕を組んでみると、胸が強調されてなんだかエロく見える。
綺麗な女性の体を好きに出来る、というのは男の憧れかもしれないが、
それが自分の体だと思うとなんだか複雑な気分だ。
とはいえ、興奮しないというわけではない。俺はしばらく鏡の中の太刀葉に見惚れていた。

性格で見るなら平然と他人を使おうとする女だが、スタイルはまぁ良い方だと思う。
出すぎていなく、小さすぎず。大体の服なら着れてしまいそうな見た目だから。
顔が赤くなっているのに気付いて、誰に誤魔化すわけでもなく咳払いを一回。こんな事でも可愛い声が出た。

気を取り直して携帯を手に取る。
若葉と敏明の2人を入れ替わりに使うかはまだ決めていないが、連絡する手段を確保しておかないといけない為、パスワードは聞いておいた。
中の写真を見ると、2人の写真も確かに入っていた。
自撮りと他人に撮られたのが混じっているが、話に聞いた感じなら、控えめそうな見た目の子が若葉ちゃんだろう。
そしてこの、…よく言えば人の好さそうな、悪く言えばチャラくてバカそうな見た目が敏明ということになる。
他の男性が写ってないのと、距離が大分近い事からそう考えている訳だが。

さて、どうしたものか。


鏡に囚われてしまうのは酷だとは思うが、俺だってやられたんだ。
今更また鏡の中に戻るなんて選択肢はない。
「それに、こんないい身体を手に入れたのに手放す理由はないよなぁ」
程よく張り出したおっぱいを両手で揉む。
男にはない至福の柔らかさに顔のにやけが止まらない。
男の身体に未練はなくはないが、むしろ男としての心を持っているからこそ、この身体は手放せない。
「だとしたら、若葉ちゃん、かな?」

…待てよ?女の体でいいっていうなら、このまま7日間何もしないでもいいんじゃないか?
あるいは若葉ちゃんや別の子の体になる、という方法もあるが、
それにはまた鏡に戻らないといけないからリスクが大きいよな…

…いや。俺が念じれば鏡の中の太刀葉とは入れ替われる。
(太刀葉には「入れ替わりたいと念じないといけない」とでも言っておけばいい)
時間の直前に太刀葉と入れ替われば、次は鏡の前にいる相手と入れ替わることが出来る。
太刀葉は元の体に戻るし、俺は理想の体を手に入れられる。ウィンウィンってやつじゃないか。

俺は写真を見直す。美人系の太刀葉とは違い、
若葉ちゃんは可愛い顔をしている。その体は顔に似合わずとんでもないサイズのお胸をお持ちだった。

あどけない顔をしている若葉ちゃん。
最初に見た二人のアップの写真では高校生…いや、中学生かと思ったほどだ。
全身の写真を見てみると、やはり小柄で可愛らしい。だが、胸だけは違った。
控えめに見える彼女のそこだけは激しく主張しており、少なく見積もってもFカップはあるはずだ。
太刀葉なら正確なサイズを知ってるかもしれないな。

俺の胸を見てみる。決して小さくはないが、大きいというわけでもない。Cかな?
揉み心地も悪くはないが、あの巨乳のことを考えると物足りなさを感じてしまう。
もう一度写真の若葉ちゃんを見る。俺がこの子になる…そう思うとなんだかゾクゾクしてくる。
他人の体を奪うという利己的な考えから来る背徳感か。あるいは極上の女体を手に入れられるという期待感か。

それじゃあ、若葉ちゃんを呼ぶ前に太刀葉に報告してやろう。
あと「念じないと入れ替われない」ってウソを伝え忘れないように気を付けないとな。

洗面所の鏡でも呼び出すことは出来るが、あの女に余計な情報は与えたくない。
呪いの鏡の前に移動して掛けた布を外す。
『ちょっと、ひどいじゃない!』
悪かった、と心にもない謝罪をして若葉ちゃんを呼ぶことを告げる。
『私が若葉ちゃんになるのかあ…』
俺がなるんだけどな。
『他人になっちゃうなんて変な感じだけど、あのHカップの胸になるのは興味あるわね』
…Hだって?どうやら俺の見立てが甘かったようだ。

にやけそうになるのを何とか抑え、「入れ替われるのはゾロ目の時間」という真実と
「念じないと入れ替われない」というウソの情報を伝える。
『わかったわ。時計が見たいから、ちょっと持ってきてもらっていい?』
太刀葉にデジタル時計の場所を教えられ、見えやすい位置に置いてやる。
『うん、そこでいいわ。…あと、いつまでそんな恰好してるのよ?』
そういえば下着姿のままだった。太刀葉の指示で服を選び、それを着る。

なるほど、自分のものだけあっていい物を選んでる。
俺がこのたくさんの服から選んでたら時間が掛かってたな。その分着るのには少し手間取ったが。

「これが俺…」『私よ』
鏡の中の太刀葉から素早いツッコミが入る。
『でも、これからは自分で選べるようにしてね。私の体がセンス悪い恰好されると恥ずかしいから』
「…ん?元に戻りたいんじゃなかったのか?」
『それは戻りたいけど、ここに居続けるよりはましよ。代わりにちゃんと若葉ちゃん連れてきてよ?』
うわー、やっぱりひどい女だ。もう他人の体を乗っ取る気でいやがる。
こいつに体を返すのは癪だが、俺が若葉ちゃんの体を手に入れるためだ。仕方ない。

「ところで、なんて言って呼べばいいんだ?」
『適当でいいわよ。遊びに来て、とでも言えば?今日はバイトの日じゃなかったはずだし』
投げやりだな…敏明ってやつはよくこいつと付き合えるな。見た目に惹かれたのか?
時間を確認するともうすぐ14時。さすがにすぐは来れないだろうから、15時を狙うか。

[今日暇?15時くらいにうちに来れる?]
太刀葉に不自然ではないという確認を取り、若葉ちゃんに送信。
[大丈夫です。それくらいに伺いますね]
すぐに返事がきたので、了解の返信。そして太刀葉に見せる。
『こっちからじゃ読みにくいんだけど…あ、こっちの携帯見ればいいのね。…うん、来るのね』
鏡の中で俺と違う動きをする太刀葉。元々の自分の姿ではないから違和感はないが、何となく気持ち悪い。
自分が映ってないのと、自分しかいないのに鏡の中で動かれるからか?

「失敗すると面倒だから、時間より少し前から念じとけよ」
『わかってるわよ。あんたこそ、ちゃんと時間に若葉ちゃんを鏡の前に立たせてよね』
「ああ。じゃあ、時間までは布被せとくからな」
『え、ちょっと待ってよ』
俺が布に手を掛けたところでストップがかかる。
『若葉ちゃんが来てからでいいでしょ?鏡塞がれるとなんか気分悪いのよ』
まあ、俺も経験してきたからわからなくはないが…

若葉ちゃんが来るまでの時間で何をするか。
太刀葉に見られて困るようなことは…ないかな。
女体経験をしてみたい気持ちもあるが、それはあとの楽しみに取っておこう。
一応すぐに塞げるように準備だけしておく。

『ところで、どうやって若葉ちゃんに鏡を見せるつもり?』
「そうだな…鏡を買ったことは話したのか?」
『いえ。昨日届いたばっかりだし、別に話すことでもないし』
「じゃあ、買ったこの姿見を見せたいから呼んだ、ってことにするか」
『適当ねえ…ここから出られるならなんでもいいけど』
本当に自分のことしか考えてないな…俺もだけど。

それからしばらく時間稼ぎの話題や行動を話し合う俺たち。
そして、ついにその時が来た。


チャイムが鳴る。ドアホンのモニターには若葉ちゃんが映っている。
「はーい、ちょっと待ってね。…じゃあ、隠すぞ」
太刀葉のふりをして応対し、鏡に布を掛ける。なんだかドキドキしてきたぞ。

ドアを開くと若葉ちゃんが立っていた。
(今の)俺よりも頭一つくらい小さい。写真で見たときよりもかわいく見えるのは気のせいだろうか?
そしてあの胸。ゆったりした服を着ているが、その大きさは隠しきれるものではない。
「こんにちは、太刀葉さん。ちょっと早かったですか?」
「ううん、大丈夫よ。さ、上がって」
15時5分くらい。太刀葉から聞いていた通り、約束の時間に少し遅れての訪問。実にちょうどいい時間だ。
彼女を部屋に招き、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
あと数分で、若葉ちゃんの体が俺のものになる。鼓動が高鳴るのがわかる。
落ち着けよ、俺。失敗だけはしないように、慎重にやらないと。

若葉ちゃんの前に飲み物を置く。
「ありがとうございます、先輩」
まだ時間には早い。少し話でもするか。
「急に呼び出しちゃったけど、大丈夫だった?」
「はい、バイトは明後日からなので」
明後日から…つまり明日は自由に出来るわけか。
「でも先輩。制服が可愛いからって勧めてくれたのはいいんですけど、
あの…胸を強調するデザインは恥ずかしいですよ…」
「そ、そう?でも若葉ちゃんなら似合うと思って」
「もう、またそういうこと言って…」
そうは言うが、しっかり面接も受けてるということは嫌がっているわけじゃないようだ。
むしろ、こうして話していると嬉しそうに見えるのは気のせいか?

…おっと危ない。そろそろ時間が近い。
「そうだ、若葉ちゃんに見てもらいたものがあるの」
「見てもらいたいもの?ちょっと気になってたんですけど、あれですか?」
若葉ちゃんの指差す先にはあの鏡。向こうから言ってくれるとはありがたい。

俺は鏡に掛けられた布を上げる。部屋の光景と若葉ちゃん、そして太刀葉が映る。
「わあ、新しい鏡買ったんですね。もしかしてアンティークですか?」
「そうなの。それに、面白い仕掛けがあってね…」
時計を見る…14分を過ぎている。

「もう少しだからちょっと見ててくれる?」
「わかりました」
俺の言葉に素直に鏡を見つめる若葉ちゃん。
太刀葉には15分には念じ始めろと言ってある。そして今、15時15分になった。
…7…8…9秒になったところで、俺は太刀葉と入れ替わりたいと念じる。
「…え?」
一瞬視界が揺らぐと、太刀葉の呟きが『向こうから』聞こえる。
意味があるかわからないが、鏡の外の若葉ちゃんを見つめて入れ替わりたいと念じた。
15時15分15秒。その瞬間、再び視界が揺らいだ。
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