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キヨーヒコの王国簒奪譚(仮) 2

2019/05/10 07:38:01
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娘からの切ない求めに、私も下腹部がきゅんとして熱くなっちゃう♪

ミツーバへ抱きつき二人を同時に抱きしめるように覆いかぶさると、獣のようにミツーバの唇を奪いその口内を蹂躙する。
内側がスライムである舌は、本来の長さを超えて相手の舌を絡みついた。
一瞬目を剥いたミツーバであったが、母からの愛撫を理解すると自分から甘えるように舌をすり寄せる。

「ふぉっと、おぉっと…♡」

言葉にならない音で催促する我が娘に、舌先のダンスで応える。
口内を余すところなく舐めるように、丁寧に刺激してやればミツーバの身体がバネじかけの様に震えた。
間近で見つめる熱に浮かされ蕩けきったミツーバの顔は、知性の欠片もなくただ獣欲に身を任せる女の顔をしていた。
彼女が十分に満足したのを確信した私は、もう一つの求めを叶えるため腰を浮かせ、一突きで奥まで貫いた!

ずにゅるっ、とぬめるような音をたてて愛液スライムでできた肉棒はミツーバの膣口へとつきこまれた。
「ふぁぁ……ほはぁはま(お母様)、ほっひぃ(おっきい)……」
「うふっ、ぜーんぶはいっちゃったね?」

唇を重ねたまま挿入された肉棒に感激する愛しい娘と、その有様を耳元でささやくもう一人の私。
娘の二つの口を犯すのに忙しい私に代わって状況を説明し、ミツーバの情欲をかきたててくれるのはとてもありがたい。それに――
「でもね、それだけじゃないのよ?」
そう、彼女は私で私は彼女なの、だからこれからなにが起こるかも分かってる。

私の肉棒の先端、亀頭がぐちゅりと音を立てて形を崩した。スライム状の亀頭だったものは子宮口の隙間をすり抜けてミツーバの内側へと入り込むと、内側を隙間無く満たしていく、
「ぎっ!? おっ、おかぁさまぁっ!?」
「ほら、力を抜いてー。お母さんのスライムおちんちんが、ミツーバちゃんの子宮のなかをみっちり満たしていくの、とっても安心するでしょう?」
異形の快楽によってミツーバの顔が困惑に歪んでいくのを促すように、私はより強く唇を吸い上げた。

もちろんこれだけで終わるはずがない。後ろからミツーバを抱きしめているアディの手が、ミツーバの胸に向かい揉み始めた。
あまり大きいとは言えない乳房でも、やさしく丹念に手の中で弄んでいる。
「ふぅーっ、んぅ、ふぅ、ん、っ!」
唇を私に吸われて声を出せないミツーバは、その吐息だけでも自分がどれだけ感じているのかを伝えてくれる。
「ねぇミツーバ、“私”に挿れられて悦んでるみたいね。アディちょっと寂しいわ」

わざとらしく自分の事を名前で呼んで、アディは拗ねたようにミツーバの胸を弄る。
私とミツーバの胸の間で、痛そうなくらいに硬くなっているミツーバの乳首を摘まみ、絞り出そうとしている動きが、私の乳房越しに伝わってくる。
「だから、私も入っちゃうの。あなたのおっぱいからね?」
その言葉と共に、もう一人の私の手がミツーバの乳首から入り込んでいく。
「いひぃぃぃっ! おかぁ、さまがっ、お胸、にもっ! 入って、きてるぅ!?」
もうひとりの私が胸の中にスライムを注ぐごとに、ミツーバの胸が大きくなっては私の胸を押し返しだした。

「ほぉら、下のお口も動かすわよ?」
私も突き込んだままの腰を動かして、ミツーバの膣壁を擦りだす。

「はぁぁっ、こんな、気持ちよさがぁ…! わたくしのナカをえぐってきてます! 子宮まで揺らされて、きゅんきゅんしちゃいますぅ!」
「おっぱい越しに伝わってくるわ、ミツーバの感じてる気持ち良さが」
「んっぎ、ひぃぃん! ダメですぅ、お母様の手がおっぱいの内側から…! わたくしのおっぱい膨らんじゃって、お母様のおっぱい押し返しちゃいます!」
腰の動きに合わせて胸が揺れ、時折こり、こりと乳首同士が当たっては離れ、それがまた気持ちいい。
はしたなく涎を垂らしながら嬉しそうに喘いでる娘を見て、私達もまた悦んで2人同時に喋る。

「「どうかしらミツーバ、私たちに包まれている感触は?」」
「いひぃっ、きもひひぃですぅ、おかぁさまぁ! ごめんなしゃい、オシオキなのにきもひよくなっひぇ、ごめんなしゃいぃ!」
乱れていてもそこは忘れていない辺り、できた娘だと思いながら2人がかりで頭を撫でる。
「「いっぱい気持ちよくなっていいのよ。イヤになる位快楽に溺れて、発散しなさい?」」
その結果ミツーバが性欲を制御できるようになってくれれば、こちらとしては言うことは無いのだから。

胸と秘裂、2箇所を同時に突き込むと、
「んぎぃぃぃぃっ! イっちゃい、イっちゃいます! おかぁしゃまぁぁぁぁ!!」
両方から押し返すように、絶頂の証の奔流が私達に吹き付けられた。

「たくさん出たわねぇ」
盛大に吐き出された愛欲の液体を指先ですくい取り舌に乗せる。ねっとりと甘い味わいが私の口の中を満たしていく。

「はぁ……はぁ……おっぱいもおまんこもぉ、いいのぉ……」
全身を脱力させスライムの私に体を預けるミツーバ。母乳のようにスライムを噴いたせいかわずかにしぼんではいるが、それでもまだ大きい胸とワレメからはスライムが少しずつ零れ落ちている。

「どうかしら? もう男の子の欲望、おさまったかしら?」
「はいぃ……体がぽかぽかして、とっても満たされて、もう女の子になりふり構わずムラムラしたりはしないですのぉ……」
「ふふ、いい子いい子」
スライムの私が後ろから抱くように頭を撫でるとミツーバの緩んだ笑みが幸せそうになり、そのほほえましさに私の胸も温かくなる。
これなら大丈夫そうね、だから――ここからは私の番。

「ねぇミツーバちゃん気付いていたかしら? お母さん、まだイってないの」
「ふぇ?」
ミツーバの緩んだ顔に疑問の色が生まれ、視線が宙を泳ぎ、数秒後口元が歪んだ。そのお利口なおつむでなにが起こるかを察してしまったのね。
「ちょっ、ちょっとまってくださいのお母様! わたくしイっただけでこんなにもふらふらなのに、お母様に中出しされたらっ……いっ、イき死んでしまいますのよ!?」
「大丈夫よミツーバちゃん。スライムでできた体はそこまで脆くないの。普通の人の一生分の快楽をまとめて味わっても気が狂ったりはしないわ、安心てイきなさい?」
「そっ、そういう問題ではありませんのよー!?」

なんとかして逃げ出そうとしてみじろぎするミツーバちゃん、でも残念ね。痺れ薬の効果で満足に立つことすらできないの。
そんなミツーバちゃんを優しく抱き締めるもう一人の私がミツーバちゃんの耳元にそっと口を寄せる。
「ねぇ、ミツーバちゃん? お母さん、これからミツーバちゃんのおっぱいに全部はいっちゃうから覚悟してね?」
「ひいぃ!?」
無慈悲な追い討ちに少女の顔が引きつる。でも、その瞳の奥に期待の光が灯っているのを私は見逃さない。

そうして、私は深呼吸するように、最後の一突きのために腰を手前に引く。愛液でぬらぬらと光る竿がミツーバちゃんのワレメのなかから現れる。それに連動するように、もう一人の私も指先をスライム状にとろけさせるとミツーバちゃんの両の乳首にあてがう。

「じゃあミツーバちゃん」「お母さんたち、ぜーんぶミツーバちゃんの中にはいっちゃうから」
「「おかあさんたちをあじわってね♪」」
そう声を合わせて言い切った瞬間、私は勢いよく腰を突きこみ、もう一人の私はスライムの指先を乳首へと突き刺した。

「――――――――!!!!!????」
あまりの快楽でもはや声にならない声はミツーバちゃんのものだったのか、それとも私のものだったのかしら。
下半身に生まれた灼熱感が一気に全身に広まると、私の中身がおちんぽを通してミツーバちゃんの子宮のなかへと注ぎ込まれていく。それと同時にもう一人の私の体もポンプのようにミツーバちゃんのおっぱいへと注ぎ込む。
体の中身を作り変えて射精していく快楽はあまりにも激しくて、私の意識も快楽に飲まれ落ちてしまう。そして、その止まらない射精の結果、私ともう一人の体は中身をなくし、少しずつしぼみ始めていくの。

「ひぁぁぁぁっ、あぁっ、ぎぃぃぃぃぃっ! あ、熱いぃ、熱いですのぉぉ!」
防音魔術が施されているとはいえ、部屋の壁がびりびりと震えそうなほどの嬌声をあげるミツーバちゃん。でも仕方ないわよね、永遠に続くほどの射精を受け止めているようなものだもの。
「あぁっ、おっぱいもおまんこもしきゅうもぉ……おかあさまがみちてきて……しあわせですのぉ……」

娘がぽろりとこぼした一言がたまらなく愛おしくて、おちんぽの根元がびくんと脈打つと、ひときわ激しく射精の勢いが増してしまった。
あぁ、もう私の中身は愛液で作ったおちんぽを除いてほとんどスライム精液になってしまった。スライムな私ももうスライムを注ぎ込んでいた管しか残っていない。だから――
「ミツーバちゃん。最後は、盛大にお母さんの中にだしてね♪」
その一言とともに私の中身はすべて愛しい娘の中へと注ぎつくされた。

「あぁ……お母様が全部わたくしのなかにぃ……」
医務室の中に居た二人は三人になり、そして今はわたくし一人だけになっていました。
お母様二人に愛しい液体を注ぎ込まれた私の体はもはや華奢さとは無縁そのものに変化しました。顔よりも大きい二つのおっぱいは中に詰まったスライムのおかげで形を保ったままぷるりと揺れて、お尻もむちむちに肉付き、精液スライムを注ぎ込まれたおなかはぽっこりと少々膨らんでしまいましたの。
そして、もはや皮だけになってしまったお母様が重力に引かれてぺしゃりと床におちると――
「わっ、わたくしのおまたに……!?」
お母様のワレメからずるりと抜け落ちるように現れたのは、わたくしのワレメから生えるようにそびえたつ愛液おちんぽでした。
まるで双頭ディルドのように、お母様の中から抜け落ちたそれはわたくしの視線の先へと亀頭をそそりたたせていました。

お母様の皮を慎重に手に取ると、もちもちとした手触りとともにその軽くなってしまった姿に驚きました。胸の谷間に鼻を当てて匂いを嗅ぎ、乳首をころころと指先で転がすといけない行為に背筋がぞくぞくとしてしまいますの。そして、皮を裏返し、背中側を確認すると――

「お母様の背中に、切れ目が……」
肉の体を持っていたときにはこんな不自然な切れ込みはなかったはず。となるとこうなることを見越して事前に仕込んでいたのでしょうか。では、なぜこんな仕込みを――。

そうして、その理由が導き出された瞬間、わたくしのおちんぽがずくんと脈打ちました。

「そう、そういうことですのねお母様。お母様の皮のなかに、盛大におちんぽ射精、してよろしいのですのね?」
お母様から娘へと促された、お母様を穢す行為。その背徳感が、わたくしのおちんぽをぞくぞくとかきたてます。

わたくしは皮を丁寧にベッドに置くと、自分の体をゆっくりとまさぐりはじめました。
まずはおっぱい。ぷるぷると弾力に満ちた揉み心地にこりっこりの乳首。乳首をひっぱって唇にあてがい、静かに吸い込むと――
「ちゅぅっ……こくん。あぁ……お母様の母乳スライム、たまらなく甘いですわ……」
そのまま右手でくりくりと乳首を転がしながら、こんどは左手でお尻を触っていく。
小さく引き締まって、女性的な柔らかさも周りに劣っていたお尻はむっちりと脂肪が乗って、てのひらを当てればその形に沈むほどの魔性の感触。
「あぁ、こんなにも柔らかくて愛おしい……っ、ぬれちゃいますのぉ……」

ワレメとおちんぽの隙間から愛液がたらたらとこぼれおちてしまいます。ひとしきりおっぱいとお尻を触ったら、最後は……
「おちんぽ、ですのね……」
これまでは女の子の快楽。そしてこれは男の子の快楽。

「ま、まずは……」
恐る恐る人差し指でいきりたつ亀頭の先、鈴口へと触れてみます。
「ひんっ!」
ぴくんと背中が震えてしまう刺激。鈴口からたらりと我慢汁がこぼれおちてきて、こんどは人差し指と中指でそれを亀頭全体へと塗り広げていきます。

「あぁっ、だめ、だめですのぉっ! おちんぽ触るの気持ちよすぎますぅ……」
刺激すればするほど我慢汁は量を増していき、塗り広げる手がとまらなくなってしまいます。亀頭を触る手が裏スジに触れた瞬間それまでよりも強烈な刺激が産まれ、崩れ落ちそうになる膝に力をいれて姿勢を保ちました。
そのまま両手でごしごりと竿をしごくと、たまらないほどの快楽がうまれたせいで、わたくしの頭はきもちいいことしか考えられません。
「あぁっ、あひぃっ、おちんぽぉっ……男の子の快楽、だめになってしまいますのぉ……!」

だんだん余裕の無くなっていくわたくしの脳裏にふと、悪魔の考えがうかんでしまいました。
両手でしごいていた竿から左手を離し、右手はそのままおちんぽをしごき続ける。快楽に震える左手をゆっくりと持ち上げて……ビンビンに勃起した乳首を、パツパツに膨らんだおっぱいごと握り締める!

「ひぃい―――ーっ!!!!!???」
絶大、それ以外に表現しないほどの快楽がわたくしの中にうまれました。
おちんぽから感じる男の子の快楽と、おっぱいから生まれる女の子の快楽がわたくしの中で混ざり合い、相互に高めあうことで無限の快楽が産まれてしまいました。
おちんぽをしごいて生まれた男の子の快楽が女の体を求め、それに応えるようにおっぱいを揉むと女の心がおちんぽを求め、もっと、もっととわたくしの心に情欲を生まれさせてしまう。そして相互に絡み合う快楽の連鎖はどうしようもないほどに昇華して――

ドクン、とわたくしの心臓が激しく脈打つ。
青天井にのぼりつめた快楽は、青天井すら突き抜けてしまいまた。
ただ一度、強く響いた鼓動はじわじわと体の中へと広がっていく。
そして生まれるのは、終わり。

おっぱいとおちんぽにどうしようもないほどの切なさがうまれて、その切なさはじりじりと、でも確実に膨らんでいきます。おっぱいとおちんぽの根元がびくびくと脈打つと、今度は心臓からうまれたなにかが切なさを塗りつぶすように、根元から、じりじりと先端へと侵食を始めました。

あぁ、もう止まらない。これまでは快楽を貪りつつも無意識に『そこ』に至らないようにペースを調整していました。でも、もうたがは外れてしまった。もう止まらない。ならば、わたくしにできるのは最大の快楽を得ることだけ。
迅速に、でも丁寧にお母様の皮を正面を下にして床に広げると背中の切れ目を大きく開きました。
「お母様、おっしゃりましたよね……お母様のなかにだして、って」
右手をおちんぽに、左手をおっぱいにあてがう。
「いま、射精しますわ」

そして、ゆっくりと、しっかりと、両手で快楽をしごきあげた。
乳首を転がすほど、おちんぽをさするほどに先端へと侵食するなにかは際限なく増幅されていく。
そして、最大の快楽をもとめてわたくしは猿のように体をまさぐり続ける。
「もっとぉっ、もっときもちいいのちょうだいぃぃぃ!」
そして、限界までしごき上げられた快楽はその先端へと達し――弾けた。

雷に打たれたような衝撃。
乳首が、亀頭から生まれる灼熱感に声をあげることすらできない。
視界が激しく明滅する、一瞬で腰が抜け、かろうじて持ちこたえる体を手助けするのは母への愛のみ。
びゅくびゅくと音を立てて噴き出る母乳と精液はお母様の皮の中へと吸い込まれるように迸り、しなびきった体がゆっくりと膨らみ始めていく。
自らの体から吐き出された欲望が母を形作る背徳感を認識した瞬間、再び鼓動が脈打つと迸る精液は勢いを増した。

あぁ、わたくしのおちんぽから吐き出された液体がお母様を形作っていく。
むっちりとした脚のラインが生まれていく。
しなやかな腕と指が生まれていく。
むしゃぶりつきたくなるようなむちむちなお尻が生まれていく。
美しく引き締まった腰のくびれが生まれていく。
みとれるほどの肩と鎖骨の形が生まれていく。
豊満という言葉を体現したおっぱいが生まれていく。
そして最後に――世界で一番愛おしいお母様の顔が、生まれていく。

ゆっくりと目を開いたお母様がわたくしに向かって微笑む。その微笑みでわたくしは今までで一番の絶頂を迎え、全てを放出しきった快楽に意識は途切れた。

「んっ……」
「おはようございます、ミツーバちゃん」
眼前に、覗き込むようなお母様の顔があった。どうやら膝枕をされているようでした。

「あっお母様……ご、ごめんなさいですの……」
わたくしがお母様にしてしまったことが脳裏によみがえりたまらず謝ってしまう。頬が熱い。

「ん? ミツーバちゃんが謝るようなことは一切ありませんよ。だって私がミツーバちゃんにお願いしたんですよ?」
「で、ですけど……」
「私が母としてあなたに注意したのははじめての欲望に心を振り回されたこと。めっ!ですよ」
「は、はいですの。もう大丈夫だと思いますの、あれだけの快楽、満たされないほうがどうかしてますわ」
心をかき回し続けていた感情は治まっていた。体も全てを出し切ったせいかいつもの華奢なわたくしそのものに戻っている。

「ふふっ、なら許します。いい子いい子。じゃあ、おりこうになったミツーバちゃんにはご褒美としてお母さんの膝枕をプレゼントしまーす」

そうして、少しの間わたくしとお母様は穏やかな時間をすごしました。先ほどまでの異形の交わりなど無かったかのように。

一方そのころ
>1.トシアーキは…
>2.ワカーバは…
3.お仕置きをおえたキヨーヒコは…

一方その頃トシアーキは、ワカーバとともに騎士団本部をうろついていた。
巡回は二人一組で行うため、ミツーバがアディから解放されるまで時間を持て余していたワカーバを巻き込んだかたちだ。
寂しさから家を飛び出してしまった妹に職場を案内する体ならば、怪しまれるどころかすれ違う団員たちも可愛がってくれる。
ミツーバの記憶と照らし合わせながら本部を見て回りつつ団長を探していると……。

「あらワカーバ、今日は可愛らしいお客さんと一緒なのね」


細く艶やかな長い髪をさらさらとなびかせながら、軽装の鎧に身を包んだ女性が話しかけてくる。
トシアーキは幼い子供にありがちな人見知りを装ってワカーバの陰に隠れながら、その女性を観察する。
ミツーバの記憶に照らし合わせるまでもなく分かる。
卓越したスピードと高い剣の腕前から最強の騎士と謳われ、その美貌と勇名は広く他国にも知られている英雄。
双葉王国近衛騎士団団長であるフターバ・ランベイトライトその人だった。
(しかし、どこから現れたんだ?全く気配を感じなかったぞ?)
内心首を傾げながらトシアーキが様子を窺っている間にも、ワカーバはフターバと会話している。
「本当は部外者は立ち入り禁止なんだけど、まだ子供ということで、今回だけ大目に見ることにします」
「すみません、団長。妹にはよく言って聞かせたので……」

「今日もミツーバと巡回の予定でしたね?」
「はいっ!ですが、彼女はアディ先生に呼び出されてまして」
「なるほど。では、一緒にこのあたりを回ったあと、私もアディに用があるので医務室に行きましょう。巡回は実家に妹さんを送り届けてからで構いませんから」
「はっ!」
続いてフターバは敬礼するワカーバの脚にしがみつくヨツバに目線を合わせるように屈む。
「こんにちは。私はフターバという名前なの。あなたは?」
「……ヨツバ」
「ヨツバちゃん。ワカーバに会えなくて寂しいのはよーくわかるけど、もう勝手に家を飛び出してはいけませんよ」
「……ごめんなさい」
「ふふっ、いい子ね。じゃあお姉さんもここを案内してあげるからしっかりおててを繋いでね」
叱られてしゅんとした様子から一転、無邪気な笑顔を作りながらヨツバは考える。
(伊達に騎士団長をやっているわけではなさそうだ。身のこなしに隙がない、俺たち三人がかりでも勝てないだろう。しかもマジックポーションによる効果も薄そうだ)
だが、と内心でほくそ笑む。
(実際に見て更にフターバが欲しくなった。美しい顔に抜群のプロポーション、肌触りの良いすべすべの肌、やわらかさとしなやかさを兼ね備えた筋肉……。まるでキヨーヒコ様のために作られたような理想の肉体じゃないか)

盗賊団の親分として、そして今や母親としての忠誠心も備えたヨツバ(トシアーキ)は、そんな事をおくびにも出さずに考えている。
最終的にキヨーヒコはタチーハ女王としてこの国を手中にする予定だが、自分とミツーバが「同一」になったように、タチーハとなったキヨーヒコとワカーバが混じり合い同じようになれば良い。
そうなれば「どちらが本当のキヨーヒコなのか」ではなく、どちらも本当になるのだから。

「…どうかした、ヨツバちゃん?」
「あの、フターバさん綺麗だなって…」
「ふふっ、ありがとう。ヨツバちゃんだってワカーバに似て可愛いわよ」
「団長、そこは凛々しいって言っていただけると嬉しいのですが…」
「まだまだ半人前のワカーバには、その言葉はまだ早いわ。もっと鍛練を積むことね?」
「はっ!精進いたします!」

視線を向けていたことは確かだが、それに気付かれるのはあっという間だった。
感覚も鋭いようで、嘘を見抜かれても困ると考えたヨツバはあたりさわりのない本当の事を告げていた。
そしてフターバの言葉に敬礼を以て答えるワカーバも、その言葉に偽りはない。ただ裏があるだけだ。
精進の仕方も、その目的も変わっている事はまだ気づかれていないのは都合よく、そして助かっている。

「…フターバさん。姉さんって、まだ半人前なんですか?」
「こ、こらヨツバ、何を言って…」
「うん? 本当の事でしょうワカーバ。そもそもあなたは精霊術の方に重きを置いていて、剣術が疎かになっているでしょう?
体力をつけるのは良いことだけど、まずは剣に振り回されないようにすること。わかった?」
「はい、重々承知しています。…ですからその、妹の前でそのようなことは…」

フターバは確かに団員の事をよく見ている様だ。確かにワカーバを捕まえた時はトシアーキとの斬り合いになったが、男女という性別差以前に、剣術に不慣れな所が見えていたのだ。
精霊剣を持っていたという事も仇になり、それを落とされたら術の行使は著しく不安定になってしまう。
剣を落とされ、それでも精霊術を使おうとした所をキヨーヒコに取り押さえられた…。
それがフターバが捕まった経緯である。

「フターバさんすごいです、あたしの知らない姉さんの事をそんなに知ってるなんて…」
「これでも団長ですもの。団員の事を知った上で足りない所を鍛え上げて、というのも大事な用兵術の一環よ」
「あぁ…、姉としての威厳がぁ…」

ワカーバはヨツバに些かながら話を盛って自慢していたのだろう、という事が露見してしまい、少しばかり肩を落としていた。

そのままフターバに騎士団の中を案内してもらい、ワカーバとしての知識を補完するように建物の中を、トシアーキとしてフターバの言葉や一挙手一投足を一瞬たりとも逃がさず、憧れの視線と共に見ていく。
30分ほど一緒に歩くと、最後の場所として案内された医務室の前で、フターバとは別れる事になった。

「それじゃあ私はこれからアディと話があるから。…良ければまた会いましょうね、ヨツバちゃん?」
「はい、フターバさん」
「団長。妹の事、ありがとうございました」
「別に良いのよ。その代わり、巡回が終わったら後で練兵場に来る事。剣術の基礎からみっちり教え直してあげますからね」
「りょ、了解です!」
敬礼をし、少しばかりの冷や汗をワカーバは流す。それほど厳しいのだろうかとトシアーキは思うが、フターバをアディ(キヨーヒコ)に会わせる前にやっておかなければいけないことがあった。

「フターバさん、その、すみませんけど…、先にアディさんにご挨拶しても良いでしょうか?」
「あら、ヨツバちゃんは礼儀正しい良い子ね。それじゃあお先にどうぞ?」
「ありがとうございます。…失礼します」
先にヨツバとワカーバだけで室内に入って、戸を閉めた。

室内にはアディ1人で、既にミツーバの姿はなかった。他には誰もおらず、安心して話ができる。勿論言葉にする必要はないわけだが。

「いらっしゃ…、ワカーバにヨツバちゃん、どうしたの?」
「アディ様、医務室の外にフターバ団長がいらっしゃってます」
「お母様、すぐに情報を渡します」
ヨツバは舌先に可能な限りの情報を載せたスライムを集め、アディとキスをする。ヨツバからもらった情報を嚥下し租借しながら、納得するように肯いた。

「ありがとう2人とも、後は私がどうにかするわ。ワカーバはヨツバを先に家に帰してあげて」
「それじゃ、あたしは家で“もう一人のあたし”を待ってます」
「そのあと私は巡回に行って、団長との鍛練を行います。こちらもできる限り情報は得てきますね」
「よろしくね、2人とも」

挨拶を済ませた2人は、頭を下げて医務室を後にした。
それと入れ替わるように騎士団長のフターバが室内に入ってきて、軽く微笑んでくる。
「失礼するわね、アディ。少し話があるのだけど、良いかしら」
「えぇ団長。それではコーヒーをご用意しますね」

さて、これは少し腹の探り合いが必要かな?

1:ワカーバとヨツバ、家に帰る
>2:アディ(キヨーヒコ)、フターバとの会話。
3:待機中のミツーバ、「トランス・セクシャル」を読み解く。
4:他に何か案がありましたら。

2つのコーヒーカップを持ってフターバのもとに戻る。
何らかの薬を盛ることも考えたが、絶対の保証はない以上、ことを急くのは得策ではあるまい。
フターバは礼を言いながら受けとると、砂糖とミルクを入れてからコーヒーを飲む。
「ふぅ……アディの淹れるコーヒーは美味しいですねぇ」
ほっと一息つく彼女に、アディとしてほんの少し意地悪を言う。
「でも、そんなにいろいろ入れて違いなんて分からないでしょう?」
「むっ。違いますよ、その……あー……コクとか、ですかね?」
「ふふっ、なんですかそれ。そうだ、ちょうど城下で買った焼き菓子があるので良ければどうぞ」
かごに入ったマドレーヌを持っていくと嬉しそうに頬張るフターバ。
英雄と謳われる騎士団長も、同期入隊の上級騎士には子供っぽい一面を覗かせることもある。
とはいえ、
(全く隙が見当たらないな)
トシアーキから受けた報告通り、会話の間にも一切の油断を見せておらず、真正面から立ち向かうのは難しいだろう。

「それで、私への用事というのは?」
幸せそうにダクワーズを食べていた団長は慌てて口に放り込みコーヒーで流し込むと、仕事用の顔に戻る。
「そうですね、忘れるところでした。……今のはさすがに冗談ですよ」
それから咳払いを1つして、
「今日はアディに2つほど、お願いがあって伺いました。まずは兵站の責任者として、後日女王陛下に上奏する予算案を作るためのとりまとめをお願いしたいということ。これはもう説明は不要ですよね?」
「問題ありませんが、去年よりも時期が早いんですね」
「実は1つ目のお願いは2つ目のお願いをしに来るための方便でして……。昨日指名手配されていた亜人を何人か捕縛したんですが、抵抗が激しく傷を負わせてしまいました」
「亜人……ですか」

亜人とは、知性を持った人型の魔物の総称である。
ケンタウルスやハーピー、アルラウネにサキュバス等がよく知られている。
今の自分たちも、スライム娘という亜人になるのだろうか。
「その場で応急的に手当てはしたものの、やはり人とは体の構造が違うでしょう?分かる範囲で構わないので時間を見つけて」

「ええ、分かったわ」
にっこりと笑みを浮かべながら言う。

「しっかりと『処置』しておきますね」

フターバはほっとため息をついて、
「ありがとう、アディ。亜人たちは地下牢に収容しています。担当の者にはあとで話を通しておくから。……もうこんな時間。では、長々とお邪魔しました。頼んだ件、よろしくね」
去っていく騎士団長を見送ったあとで、彼女の座っていたソファーに近づく。
絹のように細い茶色い毛髪を何本か回収すると、抑えていた笑いを堪えきれなくなる。
フターバを乗っ取る絶好の機会こそ逃したが、代わりに多くのものを得られたからだ。

>3:待機中のミツーバ、「トランス・セクシャル」を読み解く。
「―――なんてこと…―――」
お母様から頼まれた魔道書の解読結果には、驚きを隠せない。
精霊術や魔術はともかく薬学に関する知識なら明らかにアディ様の方が、そう言いかけた私に微笑みながら頼まれてしまっては何も言えない。
取り急ぎとはいえ一度目を通したものの解読を頼まれた時には正直疑問を抱いていたが、内容を読み解いていくうちにその意図が伝わってきた。

魔道書「トランス・セクシャル」は人の姿や中身を奪うための薬品に関する資料、そんなものではなかった。

古来から、邪悪な魔術や禁忌の薬品によって人間を魔物へと貶める術はあった、おとぎ話の世界だけではなく、実際の違法魔術や毒として。
神の被造物たる人を魔物へと貶めるなど、という考えも相まって封印指定や禁制品として取り締まられてはおり、一般には流出しない。
この本はそういった禁制品に関する知識や結果をまとめただけ、色々な悪事には利用できるがただそれだけのもの。読み始める前のミツーバはその程度の認識であった。

この本の目的は、人を更なる高みへと至らせること。
第一段階として、禁止された薬品により人の肉体を不定形の魔力との混合物、スライムへと変化させる。当然そのままなら知能の無い魔物へと変貌して終わりだが、別の薬にて作っておいた人間の「器」に注ぐことで形を維持し、魔物化を防ぐ。
第二段階として、器として形を整形したスライムを高密度の魔力にて肉体と精神の維持を行う。更に魔力の密度をあげたり、肉体形成への慣れにより最終的には元の肉体と同じものを皮なしでも作り上げることができる。
お母様はこの段階へと足を踏み入れつつある。この本での実験結果でもそこまではたどり着いて居たようだ。しかし、ここから先は理論のみの話となってくる。
最終段階として、魔力と肉体の相互変換、肉体を純然たる魔力へ、また魔力を集めて肉体を作ることが可能になる、とある。

それは最早、精霊へと変化するようなものだ。いや、自在に肉体を作れるのなら魔力としてしか存在できない精霊を超えた…
「不老、不死――もはや神の領域ですわ…」
この本の目的が途方もない規模であることに呆然とする。実際にこの本に書かれた実験結果でもその成功例は無い。
しかし、私達はこの研究者がやれなかったことを知っている。
人間による「捕食」と「増殖」。神への最後の倫理観か、あるいは実験体が抵抗した際の危険を考えたか。一つの知性あるスライムに魂を複数入れたり、分割したりといった実験結果は無かった。

お母様の望みが伝わった。薬学や肉体に関する知識ではなく、魔力や精霊に関する知識。これにより更なる段階へと向かう方法を考えろ、と。
私の知識を総動員して色々な場合を想定してみる。更に強い精神を持つものの捕食、あるいは形質が全く違う魔物の魂や魔力…?

「あぁ、私のお母様。貴方が神へと至り、タチーハ様と成られたら…」
老いず、死なない為政者による千年王国。あの淫らにして美しい母が治める国はどんな快楽の園となろうか。
夢の国の為に私は今暫く最適な手法を考える。

>1:ワカーバとヨツバ、家に帰る
ワカーバとヨツバは、2人の自宅に帰ってきていた。
母親は用事があるようで出かけており、リビングのテーブルにはヨツバ用の書置きが残されている。
「いよいよね、姉さん」
「えぇヨツバ。これからヨツバは、“本物”のヨツバになるのだから」

ヨツバ用に用意されてたお菓子を2人で分けて食べながら、ヨツバの帰りを待っている。
かつてワカーバも通った魔術学校は、確か今日は午前のみで授業は終わり、早目に戻ってくるはず。
その考えは間違っていなかったようだ。
「ただいまー! ねぇお母さん、聞いてほしい事があるの、姉さんが帰ってきた時にも自慢できる…、…お母さん? いるの?」
扉が開き、喜び勇んだ様子で“ヨツバ”が帰ってきた。しかしその表情はすぐに曇ることになる。
目の前には騎士団に所属して、時折にしか帰ってこないけど誇らしい姉。そしてその隣に、自分がもう1人いた。

「……え?」

ヨツバの思考は混乱していた。姉さんが帰ってきた、今日はその日だったっけ?でもその隣にいるのは誰?あたし?
「『風の精よ、我が契約に応えよ』」
ぐるぐると回る思考を遮ったのは、ワカーバが唱えた精霊術だった。
彼女が契約している風の精霊によって戸が閉められ、家全体に防音の結界が張られる。

「…ね、えさん? その、隣にいるのは…誰?」
「何を言ってるの? この子はヨツバ、可愛い私の妹よ」
「えへへぇ、姉さん♥」
目の前の“自分”が嬉しそうにワカーバに抱き着いている。
「…どうして? ヨツバは、あたしじゃないの…?」
「もちろんあなたもヨツバよ。でもごめんなさい、今日から本物のヨツバはこの子になっちゃったの」
「そんな…、嘘、嘘だよ! どうしちゃったの姉さん、そんな偽者をあたしだなんて言っちゃって!」
「偽者なんてひどいなぁ“ヨツバちゃん”? それならどっちが本物か、姉さんに判断してもらう?」
いじわるそうに笑うもう1人の“自分”を前に、ヨツバは自分を奮い立たせる。
そうだ、大好きな姉さんなら本物がどっちかなんて分かってくれる筈。

「「姉さん、どっちが本物だと思う?」」

異口同音同声で、問いが投げかけられた。

「私の妹は、ね…?」
しっかりとした目で、ワカーバは“ヨツバ”の方に近づき、肩に手を乗せる。
(よかった、あんな偽者じゃなくて、やっぱりあたしが本物だって分かってくれるんだ!)
「私の妹は、ヨツバ、いつまでもあなただけよ」
ワカーバはにこりと笑ってくれる。けれど、その笑顔に影が差したようになって、

「今からトシアーキさんと1つになっても、それは変わらないわ」

ぞわりと、背筋を寒気が襲った。
姉は良くないものに憑かれている。そう確信して逃げ出そうとするも、手も足も動かない。風がまとわりついて、動きを阻害しているのだ。

「ありがとう姉さん。これで遠慮無く1つになれるわ」
「どういたしまして、トシアーキさん。それじゃあ早くやっちゃいましょう?」
「えへへ…、さぁ“ヨツバ”ちゃん? 今からあたしと1つに融け合いましょうねぇ?」

自分の顔が近づいてくる。開かれた口から覗くのは、じゅるじゅると蠢く液体。
そうだ、授業で習ったことがある。アレはスライムだ。
逃げないと。どうやって? 動かないのに、逃げないと。
姉さん、どうして助けてくれないの? やだ、やだ! やだ!!

「いやぁもっ、もごぉぉぉ…っ!」

絶望の叫びを上げようと開かれた口に、スライムの塊が流れ込んでいく。
こうしてワカーバの妹は、1人だけになった。

防音の精霊術が解かれた家の中で、姉妹二人が仲良く笑い合っている。
「姉さん、あたし今日、水の精霊と契約できたのよ!」
「本当? おめでとうヨツバ、これで立派な精霊術使いね」
「姉さんと比べたらまだまだだよ。それに契約だけしかできてないもの…」
「それでも立派よ。精霊術はそこから始まるんだから」

結論から言えば、トシアーキはヨツバを喰らい、記憶や知識、技術、そして今日契約できた精霊も自分の物にできた。
混じり合った2人分のスライムを半分に選り分けて、片方は本物のヨツバの皮に、もう片方は三兄弟が入った物と同じ薬瓶に入れられている。
ワカーバのスライムで作った皮は、スライムに戻す魔法薬をかけられスライムに戻されている。これも薬瓶の中だ。

「それにしても驚きだぜ、俺も精霊術が使えちまうんだからなぁ」
「次に帰って来た時、基礎に関しては教えてあげるわ。それまでは…」
「あぁ、ヨツバとして生活してればいいんだよね、姉さん」
「その通りよ。アディ様から伝言は貰ってくるから、それまで静かにできるかしら?」
「任せて。だってこれで…」
「えぇ、これで」

「「本当の姉妹になれたんだから」」

そうしてワカーバは騎士団へ戻っていく。スライムの入った薬瓶を2つ、手元に持ちながら。

* * *

「二人とも、すばらしいわ……」
ワカーバとミツーバの報告を聞いた俺は思った以上の成果に二人を素直に賞賛した。
ミツーバからは、魔道書に記された秘術の理論と果たされなかった目的、そして副産物としての魔法薬のレシピの数々を。
ワカーバからは、無事トシアーキにヨツバを食らわせることができたことと、スライム化させたヨツバを持ち帰ったことを知らされている。

トシアーキはヨツバの存在を得て市街地に潜伏中。まぁヨツバじゃ騎士団内部に長くとどまることはできなかったし丁度いいだろう。ワカーバがちょくちょく市街地に出ているようで情報伝達には問題がないし、街や学園により魅力的な人材がいる可能性も高い、視野は広ければ広いほど良い。

そして、俺はワカーバから渡された水色の粘液が満たされた瓶を手に取り軽く振る。ちゃぷんと音を立てて中身が震える。
「ふふ、ワカーバちゃんの体を作っていたスライムと、ヨツバちゃんの中身だったスライム。姉妹そろってスライムになっちゃって、どう? きもちいいかしら?」
まぁ、ワカーバのスライムは精神を取り出された抜け殻なのだが。
そう思いながら戸棚を開き、今度は同じ形の瓶にはいったスライムを3つとりだした。
机の上に5つのスライム入りの薬瓶が並ぶ。

2つは姉妹。そしてもう3つは、三つ子の兄弟。
「この三つ子のボンクラどももそろそろなんとかしてやろうかねぇ。幸いミツーバが読み解いた中身に有用な使い方はいくつもあった」

そう、あの魔道書は最終目的こそ果たせていなかったが実験の過程で発生した副産物的な薬剤のレシピも多数記載されていた。
より簡素な素材で効率的に生産できるスライム化薬、スライム体を増殖させ総量を増すための薬、人間の体組織の一部から皮や精神の複製品を作る技法、そしてスライム化させた人間の組成を操作する魔術、軽く挙げただけでもこれだけあるが、まだまだこれ以外にも有用なレシピがあるから恐ろしい。
「どいつもこいつも善なるものではないってことに目をつぶれば世の中を激変させられるものばっかりだな」
だが、俺たちは悪の道を行くもの。女王の体を手に入れるという目的のためならば人の身を捨てることすら躊躇しない。

「まぁ、もう捨てちまってるんだがな」
そういって乾いた笑いをこぼすとソファに深く身を沈めた。
「こいつらに女をくわせることで姿を与えるのもいいが……スライム薬の材料にしちまうってのもおもしれぇんだよなぁ」
人の肉体と魂が混ぜ合わさった極上かつ希少な素材。こいつを魔道書の技法で漂白したり方向性を持たせて書き換えればそれだけで秘薬の材料となりうるのだ。

だが、それはあの三つ子の存在の不可逆的な変質を意味する。俺やトシアーキのように本質の部分は本人のまま、というわけにはいかないだろう……

あとは――
「地下室の虜囚どもの治療、か……」
あのあとワカーバを通してリストを見せてもらったが、どうやら捕まっているのはどいつも女の亜人らしい。
指名手配されていた理由はさまざまで、隣国で殺人を犯し逃亡した元Aランク冒険者、、魅惑的な体で男を誘惑し金品を盗み取っていた踊り娘、禁制品を調合し逮捕された双子の魔術師などなど、濃い面子が並び立つ。
そんな一芸ある存在たちをただ治療し、裁きの場に送り出すだけではもったいない。なんとしてでも俺の手中に収めたい。
吸収することで存在が消失してしまうのは問題だが、代わりを作ることは不可能ではなくなったのだ、やりようはいくらでもあるだろう。

それと――
このまま俺の存在を昇華していけば、俺は魔力でできた存在となり、その在り方は精霊に近くなるという。
ならば、一度精霊という存在を確かめるのも面白そうだ。
対話するのもいいし、皮やスライムに閉じ込めてしまえば無力化することも可能だろう。


さぁ、つぎの目標は……

1 三つ子をどうにかする
>2 地下牢の虜囚たちの治療を行う
>3 精霊について確かめる
4 それ以外(内部調査をつづける、薬を調合するなどなど)

目下のところ解決すべきは虜囚の問題だろう。治療をする前に治ったとあっては接触する機会がなくなる上、フターバの心象も良くない。となると俺はそっちとして…
優先順位を決めた俺は二人に向かって声をかける。

「ワカーバちゃん、虜囚の治療に地下へ行きたいんだけど、護衛を頼めるかしら?」
「はい、護衛でも荷物運びでもお手伝いいたします!」
「ミツーバちゃんは精霊の召喚用意と、スライムから皮を作ってもらえない?」
「わかりました。では――」「三兄弟のではなく、ワカーバだったものでお願いね?」
「…わかりました…」

釘を刺したらちょっと落ち込んだミツーバ。こいつも秘薬の可能性に気づいていたか。
頭が良いのと忠誠心が強いだけに一人で先走らせないよう気をつけないとな。
治療薬を幾つかとスライム化薬や皮化薬、その他色々を用意した俺とワカーバは地下へと向かった。

石造りの地下の壁は掘り崩すことも敵わず、刻み込まれた魔方陣によって魔術的な干渉も防がれている。
その備えのために見張りは唯一の出入り口である地上側の扉にしか配置されておらず、都合のいいことにこの地下室は一種の密室となっていた。

こつ、こつと靴音をたてて地下牢への階段を下りていく。
アディ一人で大丈夫なのかと見張りに心配をされたが、ワカーバが護衛につくことを説明すると若干心配されながらも了承された。
階段を降りきると、薄暗い空間には地下特有の湿ったにおいが漂っている。そして、来訪者の存在に気付いた囚人たちが動く気配。

「おいっあたしは無実だ! はめられたんだ! 出してくれ!」ガシャガシャと鉄格子を揺らす怒鳴り声。
「あら、誰か来たわよアルラ」「えぇ、そうみたいねラウネ」こちらを観察する二人組の声。
「あぁ、おっとりした雰囲気に活発そうな気配まで。ねぇお姉さんとイイコトしないかしら?」鼻につくような甘ったるさを帯びた誘い声。
「……チッ」何かが気に入らなかったのだろう、舌打ちの音。
そして、声には出さないが殺気を纏った視線を投げかけてくる気配が複数。

どいつもこいつもアディを格下と判断したかのような態度だが、それは連中が相応の腕前を持っているからだろう。
それゆえに、そいつらが持つ力は俺が食らう価値がある。
美味そうな力を持った獲物たちを前に、俺は無意識に舌なめずりをしてしまっていた。

手配書と実物を見比べながら、獲物を一つ一つ吟味していく。並べられた料理の順番を考え、その味を夢想するだけでまた舌なめずりをしそうになってしまう。

逮捕者の中で気になるのは4人。
一人目はラミアの元冒険者だ。冒険者らしく精悍な外見ながらも女性らしさを失わない曲線を描く肢体を持つ。しかし、腰から下は女性的な印象を裏切る太い蛇の尾。
大人二人分程の長さを誇るそれは筋肉の塊。俊敏な動きも締め上げる力も並の人間には敵わないものであろう。

二人目はサキュバスの踊り娘、あるいは盗賊というべきか。不必要なまでに媚びる仕草や声は、この女の姿なら人を籠絡するのにうってつけだ。
魅了、幻惑、およそ人の心を操る魔術についてはこの女にかかればお手の物だろう。裡に秘める魔力も今の身体より上回っているだろう。

三人目と四人目は植物系の亜人の双子。植物系の亜人は寿命が長いため、数が少ないのが常だが双子とは珍しい。
愛らしいその姿から一見仲の良い姉妹としか見えないが、この姉妹は先程の二人なんかよりはるかにえげつない。
禁呪による薬品生成、それも自分の身体でそれを生み出すというのだから恐ろしい。関所などを何も持たず通ろうが、現地で違法な薬品を作ってしまう。
この能力、スライムや皮の生成に活かすか、あるいはこっそりとフターバに毒物を仕込むのに使えれば…

さて、どいつの独房へと足を踏み入れようか

まずは近い所から行こう。
ラミアの元冒険者の檻の前で立ち止まると、傷だらけの彼女は勢いよくこちらに近づいてきた。
「おいっ、頼む出してくれ! あたしは無実だ、何もしてないんだ!」
「残念だけど、私はあなたの罪状を知ってここに来てる訳じゃないわ。まずは治療をするために来たの」
騎士団に捕縛される際に思い切り抵抗したのか、体中に傷が出来ている。ある程度の治療はされているものの、この中では一番手当の優先度が高そうだ。

「…治療するってことは、騎士団はあたしの話を聞いてくれるのか?」
「それは何とも言えないわ。仮に話をするのだとしても、あなたがきちんと生きていてくれなければ何にもならないもの。
檻の中に入るけれど、抵抗しないでね?」
私の行動に沿うように、ワカーバが腰の精霊剣に手をかける。
…囚人があまりにも抵抗したり、あるいはこちらに危害を加えようとするのならば、ワカーバは精霊術で捕縛、最悪の場合殺害するだろう。
ラミアを最初に選んだのは、こちらの態度次第では手荒な真似をする必要がないように、彼女なら“話せばわかる”雰囲気を作りやすいと考えたからだ。

「…わかったよ」
鎖に繋がれ、『弱体化(デバフ)』の魔術をかけられているラミアも、自分の身の危険を察してか肯いてくれる。
鍵束からラミアの檻の鍵を選び、開錠。中に入り込む。

『弱体化』の魔術とは読んで字のごとく、相手の能力を削ぐ魔術だ。
本来ならばラミアの尾を食らえば、人間は容易く吹き飛ばされるくらいの力はある。下手をすれば檻だって破壊される可能性も。
囚人は全てこの『弱体化』をかけられていて、それ故に容易な脱獄は不可能になっている。

「…それじゃあ傷を見せてもらうわね?」
「好きにしろよ。…話を聞いてもらうためにも、まずは生きなきゃいけないんだからな」
ラミアの女性は納得したようで、ベッドの上に体を投げ出した。
それに合わせるように、私も彼女の治療を始めていく。

傷の具合は思っていたよりは軽いようだった。フターバから聞いた話としては、抵抗はしていたものの、彼女は既に疲労困憊であったようで、それほど労力をかけずに捕縛できたのだとか。
それでも抵抗し、ある程度の傷を受けた存在を受け持ったことが、取り込む前の「アディ」の記憶に存在していた。

「傷は思ったより浅いみたい。ちゃんと治療を受けていけば、残る傷も少ない筈よ」
「ンな事言われてもな…、身の潔白を示さないとどうしようもねぇだろ」
「それはまぁ、その通りね」
「けっ、信じてねぇくせに…」

不貞腐れるようにこちらに背を向けるラミア。襲ってくれと言わんばかりだが…、

「質問があるのだけど、良いかしら。あなたの言う“はめられた”って、どういう事なの?」

もちろん記憶ごと喰らって「あたし」になってしまえばそんな事は一瞬でわかる。だが、この女の感じている悔しさや憤りは胸を打つものがある。

「…言葉通りの意味さ。私はここの隣の国で、やってもいない殺人の濡れ衣を着せられたんだ。」
鼻を鳴らし囚人は答えた。それはこちらも知っている。人の部分への軟膏を塗り終え、蛇体部分用の軟膏を取り出す。
手当の手を休めず詳細を話すように促すと、少しずつ思い返すように語り始めた。

「数ヶ月前、お偉いさんの使いに呼ばれたんだ。腕利きの冒険者を見込んでの依頼だとさ。
役人に頼まれることは無いわけじゃなかったが夜中に指定の場所へこっそり来てくれ、とはちょっと珍しかったな。
内容を事前に説明されなかったんで警戒していったら、会う約束の奴が倒れていて、いきなり人殺し呼ばわりだ。
弁明しようにもこっそり会いに来るよう言われてたもので他に庇ってくれるヤツもいない。
で、後は知っての通りってところだ。」

話を聞きながらも、手当は進めておく。背中側と尾の部分はおおよそ処置した。後は正面の方だが…
話の内容がありきたりな謀略でがっかりする。興味を失いかけ、前側の治療に専念しようかと意識を向けたところで衝撃の言葉が投げかけられた。

「クソっ、あの女狐、タチーハの奴は許せねぇ!」

タチーハ女王への怨み言。
それは想像だにしていなかった様で、ワカーバの方も驚きを隠せないでいる。
「貴様、口を慎め! 何の根拠があってタチーハ様が女狐などと戯言を!」
「待ってワカーバ。…待ちなさい」
「っ、……わかりました、アディさん」

流石に近衛騎士団として、曲りなりに忠誠を誓う相手がこうも言われたのだ、ワカーバだって感じないものが無いわけじゃない。
…まぁ、彼女の忠誠は俺(キヨーヒコ)に向いてるんだが、必要以上に怪しまれる訳にもいかないのは、ワカーバも理解してるだろう。
「もう少し聞かせて。どうしてそれがタチーハ女王のせいになるの?」
「は? そんなモン、死んでた奴が双葉王国の人間だったからだよ。おかげで二国間での指名手配、今やこの有様だ!」

前側の治療を進めつつ、ラミアの話を聞いていく中で、どうしても疑問が湧いてくる。
タチーハは何を考えているんだ? これが本当に濡れ衣だとして、何故亜人を捕まえる理由がある?
サキュバスやアルラウネ姉妹はわかる。放置すれば王国の平和が脅かされるし、彼女等も指名手配をされる程の事をしていたのは確かだ。
…だが、一体どんな理由で、濡れ衣をかぶせてまでラミアを捕まえたんだ?

ラミアの上着を脱がし、軟膏の上からガーゼを当て、包帯を巻く。
治療自体はすぐに終わるが、疑問が尽きない。

…幸い、対面側の檻には誰も入っていない。今なら何かできるか?

>1 ラミアを襲い能力を取り込む
2 スライムの一部を寄生させてマーキングをしておく
3 治療を終えて別の囚人の所へ向かう
4 その他

彼女の発言についていろいろと思うところはある。だが、周囲に人がたくさん居るこの状況ではそれを詳しく聞きだすことはできない。
そして、彼女のラミア族特有のしなやかな筋肉と、Aランク冒険者という実績に裏打ちされた力は俺たちの大きな戦力になることは確実だ。
だから……俺はその二つを確かめるためにこいつを俺のものにする。

「ちょっと主観的過ぎてなんともいえませんし聞かなかったことにしておきます。はーい、じゃあちくっとしますよー」
「おいっ、薬を塗るだけじゃんむぐぅっ!?」
彼女が文句を言う瞬間に俺はアディの唇で彼女の唇をふさぐ。そして取り出した注射器を素早く彼女のワレメに差し込むとスムーズに中身を注入した。
注射器に充填されたスライムポーションは急速に彼女の内側を侵食し中身をどろどろに溶かしていく。彼女の目から光が消え、体の中から芯が無くなっていく。俺は舌さえも形をなくしていく感触を味わいながら、彼女の中身をちゅうちゅうと吸い込んでいく。
舌先を通して感じる彼女の味は、例えるのならば柑橘系の果実のような味わい。喉を通して俺の内側へとしみこんでいくそれは爽やかさの中に彼女の強気さが酸味のようなアクセントを効かせている。気付けば彼女の中身はすべて飲み干されていた。

「ふふっ、女の子の中身、全部飲み干しちゃいましたねぇ」誰にも聞こえないようにぽつりとつぶやくと、すこし大きさを増した胸元がぷるんと震えた。

「さて、代わりを立てないといけませんね」
収納魔法が施された薬箱に彼女の皮をしまいこむと、俺はおもむろにスカートに手を入れてワレメを指で開いた。
ぬらりとした愛液が糸を引くワレメの奥から粘り気のある音をたててスライムが零れ落ちる。床に広がったスライムはむくむくと膨らんでいくと、あっという間にラミアの彼女と同じ姿に変化した。

「もう、注射するなら先に言えよな! ……まぁ、楽にはなった、ありがとな」
「えぇ、お大事に。では失礼しますね」
違和感無く受け答えをする偽者の存在、俺の魔力を使って創りあげたラミアのコピーにそう言うと俺は牢屋の外に出た。

オリジナルを取りこむことができたおかげで精神面の模倣は完璧で、体もスライムを完全に肉体に変化させることで再現度を限りなく高めてある。急造のコピーゆえに戦闘力や魔力は幾分落ちるが、このまま裁かれるのを待つだけの囚人だから気付かれることは無いだろう。

さて、次は……

>1 他の囚人を治療する
2 地下牢から出る

呑み込む前と変わらない、つまむ肉など無いような平らな腹をさする。見た目には映らないが、確かに裡に感じるラミアの魂。
ワカーバやアディを染め上げるのも快感を感じたが、今回は完全に喰らうつもりで取り込んだ魂。舌先や喉で感じたその美味を取り込み際に堪能できるかと思うとそれだけでまたスライムが零れ落ちそうになる。
場合によっては三兄弟と混ぜて強力な部下を作ろうかとも思っていたが、こんな美味しい物を他人に譲るなんてとんでもない。
すぐにでもこの強い力を持つ亜人の魂を取り込みたかったが、想定外のことが起こったときのことを考えここは我慢する。丸呑みにした魂は後でゆっくりいただくとしよう。なによりも…

「アディさん、次はどうしますか?」

ワカーバからの質問に対し、次の獲物を値踏みする。強い力を持っていそうな亜人はまだ残っている。差し当たってはサキュバスと双子のアルラウネだが…

>1 サキュバスの治療を行う
2 双子のアルラウネの治療を行う
3 それ以外(他の独房、理由をつけて戻る、etc…)


「まだ治療が必要な亜人達がいるからね、彼女達も治療してあげないと」

女性ばかりの近衛騎士団が預かる牢屋には、当然のように女性しか収監されない。男が入った所で喜ばせるようなことにしかならないし、脱獄してしまえば団員が毒牙にかかる事さえある。
…その毒牙が既に侵入してることは、フターバでさえ気付いてない。できる事ならこのまま進めていきたいところだ。
話が逸れた。

ラミアの檻の斜め前に入れられているサキュバスの檻に、今度は向かう。
鍵束から鍵を取り出し、檻の鍵を開けると、そこには傷だらけのサキュバスがいて、こちらを見て微笑んでいる。

「あら、今度はこっちに来てくれたの? ラミアちゃんの相手をして、まだ元気があるのね」
「お生憎様。今はあなたの相手をする訳じゃなくて、あなたの治療のために来たのよ」

ラミアの時とは違う、そっけない態度を取るのは自己防衛のためだ。いかに『弱体化』が掛かっていようとも、サキュバス達は総じて扇情的…簡単に言うと「エロい」体つきをしている。
魔術やフェロモンといった特殊能力を差し引いても、彼女等は「肉体」という天然の素材のみでも相手を誘惑できる。
だからこそ壁に繋がっている長い鎖付きの手錠という、檻と合わせて二重の拘束がかけられているのだから。

「治療してくれるなら、きちんとお願いね? 珠のお肌に傷が残るなんて、とても悲しいもの。
あなた達魔術は使える? それならすぐに済ませて欲しいのだけれど」
「そちらに関してはごめんなさいね。私、魔術は使えないもので。…それとも普通の治療すら受けずに、傷が残るのがお望みかしら?」
「残念ね…。そんなこと言われたら、従わざるを得ないじゃない」

図々しいラミアを嗜めるように言うと、彼女はベッドの上に腰かけた。
実はアディは、魔術も精霊術も使用することができない。剣術に関しては結構なものだが、何よりアディは知識と技術の人間だった。
努力を積み重ねて知識を、試行錯誤を繰り返し技術を会得したアディという人間は、だからこそインチキのしようもなく、培った技術を認められてこの立場に就いたのだから。

「そっちのお嬢ちゃんはどう? 魔力を感じるけど、魔術は使える?」
「私も魔術は使えないな。精霊術は多少嗜んではいるが、お前が望む物が使えるとは限らないぞ」
「なぁんだ、残念」

少しでも威圧感を出すように固い言葉を使うワカーバを横目に、むしゃぶりつきたくなるような体にできた傷に滲み込ませるよう、軟膏を塗ってガーゼを当て、テープで止める。
本人の抵抗が強くなかったのか、体にできた傷はそれ程多くない為、治療に使う時間はそれほどかからなかった。

「あまり傷が多くない様だけど、抵抗はしなかったのか?」
「あらぁ、気になる? そうよ、傷ができるのも嫌だったし、逃げようとしたんだけれど…、追いかけられて攻撃されて、こうなっちゃった」

まるで“自分は悪くありません”と言わんばかりの態度を取っているが、結局こいつも囚人なのだ。騎士団から目の敵にされるようなことをしているに違いない。

「…それで、あなたは何をしてここに入れられたの?」
「知りたい? うふふ、ホントに? 知ったらきっとさっきみたいに怒るわよ?」
「内容次第では情状酌量の余地も出るかもしれないわよ」
「でもねぇ、タチーハ女王を抱いてみたいって言ったら、あなた達全員が止めるでしょう?」
「…は?」

呆気にとられた俺は、少しばかり混乱していた。
コイツ、タチーハを性的に狙っている…?

「私ねぇ、男の人も好きだけれど、女の人の方が大好きなの。そうしたら双葉王国のタチーハ女王が、とても気高く美しいっていう話じゃない?
抱いてみたい、って思ってここまで来たんだけれど、タチーハ女王の所に行くために騎士団の人に聞いたら、不敬だー不審者だーっていう事で捕まっちゃったぁ」
「いや、そりゃそうだろ…」

コイツ、頭が悪い…、いや、欲望に忠実なのだろうか…。
頭の弱さをどうにかする必要はあるだろうが、サキュバスの魔力の高さは魅力的だ。
どうする? コイツ取り込むか?

思ったよりも間の抜けた女なのではないか、という疑念が頭を満たしかけた瞬間、俺はぞわりとした気配を感じ後ろへと飛びのいた。

「あら? なにか怖がらせるようなことでもしちゃったかしら」
「あやうく騙されるところでした。デバフのかかったサキュバスの『甘言』に惑わされるほど私は愚かではありません」

そう、巡回の兵士ならともかくも、近衛騎士団が『女王を犯す』などという妄言で緊急捕縛することなどありえないのだ。
そして、この女の捕縛された罪状は多数の窃盗。その体で骨抜きにした被害者の金品を盗むという犯行の常習犯であったということは――

「この国の要人の体を狙い、そして捕縛されたはずですよね。サキュバスの踊り子にして盗賊、サリア」
「厄介ねぇこのデバフの術。『甘言』の技能の成功率にすら影響を与えるんだもの。でも、女王様を抱きたいってのは本当よ?」
そういって微笑みながらウインクをするサリア。

「私が狙ったのはこの国の宰相。とってもきれいな女の子だったから『誘惑』して抱いて金庫の中身を頂いて逃げようとしていたらベッドに入った瞬間に近衛騎士団たちがなだれ込んできたわ。あの娘、全部わかってやってたのよ。サキュバスがハニートラップに引っかかるなんて笑えない冗談よ」
彼女は肩をすくめて首を振った。

「そのまま拘束されて逮捕ってわけ。傷が少ないのは逃げるために『酩酊』のフェロモンを使った瞬間に気絶させられたからよ。この国の近衛騎士団は優秀すぎてびっくりしたわ。貴女への抵抗も失敗しちゃったしもうおとなしくしているつもりよ」
そして彼女は手当てされた部位を指でなでさする。抵抗の意思が無いというのは本当のようだった。

この女、思っていたよりも狡猾だったし、敵わない相手に対する抵抗を諦める判断力もある。サキュバスの種族技能も複数あるようだし世渡りの経験も豊富なのだろう。地下牢の施設もなしに俺が男のままだったらどうなっていたことやら。
背筋に寒いものを感じながら、俺は薬箱に傷薬と包帯を収めていく。

さて、俺は――
1 サキュバスを取り込む
>2 スライムを寄生させる
3 この牢から出る


こいつは放置しておいても、うかつに取り込んでも危険だ。

心のどこかで警鐘が鳴っているのを感じている。
今回は宰相が罠に掛かってくれて、その上でサリアを罠に嵌めてくれたおかげで捕らえる事はできたが、それでも狡猾さを巧みに隠している。
抵抗の意思が無いのは見えるが、それは果たしていつまでなのか。
知恵も回り、魔力にも長けているサキュバスのサリア。
そいつに対し、アディとラミア、そして俺を合わせた程度の魔力量では、下手をすれば逆に取り込まれる可能性さえ見えそうだ。取り込むならば魔力の素質をもっと高めてから…。

だからこいつには、ひとまずスライムを寄生させて様子を見る事にしよう。

「それじゃあ治療とは別に…、後ろを向いてくれる?」
「あら、何をしてくれるのかしら?」
「肩が凝ってるでしょうから、その痛みを和らげる薬を貼ってあげるのよ」

薬箱から取り出した薄い袋から湿布を取り出す。これには粘着面の表面に、ごく薄いスライムを張り付けている物だ。勿論元々の湿布としても効果はある。
アディ自身、肩の痛みを和らげるため、個人的に用意しているものがあって、それを流用させてもらっている。スライムとなった今では、肩の痛みに苦しむこともないからな。

背中を向けてるサリアの両肩に1枚ずつ湿布を貼り付けると、
「ん…っ♥」
などと艶っぽい声を出しながら、薬の浸透を悦ぶサリア。

「ありがとう、鎖もあって肩が凝ってたのよね…。あなたも中々のおっぱいを持ってるから、わかるでしょう?」
「えぇ。だから、これはちょっとしたお節介。あまり抵抗の意志を見せないようにね?」
「これ以上何かしらを企てる様なら、早期の処刑を進言することになるからな」
「あらぁ、こわいこわい。大人しくするのは本当よ?」

ワカーバの釘刺しもするりとかわすサリアだが、その体内には俺のスライムがしみこんでいる。
どれほどの効果があるかはわからないが、一日も経てば俺の命令を無意識に聞くようになるだろう。

さて、サリアはこれでいいとして…、次だが…。

>A アルラウネ姉妹を治療する
B 牢から出る

サリヤの鉄格子の鍵をかけ、ふう、と息を吐く。
見込みが甘かったというのが素直な感想だった。あの女、腹の中に隠しているものが大きすぎる。
いつか吸収するか、スライムの快楽に溺れさせて手を組めれば……とひとりごちる。
どうにもならないものは仕方ない、スライムが浸透してうまくいくのを待とう。そう結論し気分を切り替える。

さて、他にも囚人たちはいるが、その中でも一つ目につけているやつがいる。双子の姉妹、アルラとラウネだ。
長命種族の植物系亜人にしては珍しい双子、しかもかなりの美人だ。やや浅黒い肌に緑色の長い髪、そしてその髪を彩る飾りのように色とりどりの花が咲いている。

見た目は華やかだがこの双子がやってきたこともえげつない、禁制品の調合と販売だ。
彼女たちは優秀な魔術師でありながら特に魔法薬の調合を得意としている、そしてなによりも悪質なのは彼女たちが体内からそれらを分泌、抽出できることだ。

植物系亜人の特性を利用して、まるで花の蜜や樹液のように薬を生み出すのだ。それゆえに調剤用の工房を用いずにある程度までの薬を制作できてしまう。そうして彼女たちは二人の旅路に毒蜜の跡を刻んできたのだ。
アディの自室で彼女たちの経歴を読んだとき思わず文句がもれてしまった。禁術の書を読み解いて騎士団の女たちを吸収してやっとできるようになったことを生まれながらにできるとはなんて姉妹だ、と。

ともあれ、そんな二人が無防備になっている機会を逃すわけにはいかない。俺は残りの囚人たちを順番に診察し、手当を適切に施した。唯一、睡眠導入効果のある薬を軟膏に忍ばせた以外は。

こてん、と今まで診察していた猫耳の亜人が落ちたのを確認し牢から出た。残りは双子のみだ。サリヤの牢屋からは距離があり、ラミアのネイは俺の配下にすり替わっている。あとは防音の術を使えば問題は無いだろう。

「ワカーバ、魔力を渡すので精霊術で防音をお願いします。多めに使っていいので団内の検知に引っかからないようやってください」
「わかりました。『私の契約に応えてください、沈黙(サイレンス)』」
瞬間、双子の牢屋の前に不可視の壁が出来上がる。内側からも外側からも音を通さない精霊による恩恵。

「短い詠唱でここまでの効果を得るとは、ワカーバさんも腕をあげましたね」
「頑張ってますので。と言いたいところですが、団長と比べるとまだまだなんですよね」
そう言ってスライム化し魔力をバイパスしていた腕を元に戻すと、牢屋の鍵を開きその中へと入った。

「くすくす、ようやく私達の番みたいね、アルラ」
「随分と待たされてしまったわね、ラウネ」

双子が笑いながら俺たちの入室を見ている。その体はネイと同様に傷だらけだ。騎士団も最初から無傷での捕縛など考えていなかった、と言わんばかりの。

「お願いですお医者様、アルラから先に診てあげて?」
「いいえお医者様、ラウネから先に診てあげて?」

まるで人を小ばかにするように互いに互いの治療を申し出る。
…この2人は確実に吸収させてもらおう。彼女たちの能力を俺の体に取り込むことが出来たのなら、スライムの肉体を魔法薬に精製することも可能になるだろう。
だからこそこいつ等は見逃せない。今ここできちんと喰わせてもらおう。

「ちゃんと両方とも診てあげるから、そのままじっとしていてね」
「「はーい」」

成熟した体に見合ぬような子供じみた返事を返し、2人はじっとしている。
薬箱を開き、彼女たちの体に先程と同じように睡眠薬入りの軟膏を塗っていく。傷口が多くある分、軟膏の量も増えていくが、それは仕方のない事だ。
適切に治療をする必要があるなら、傷の治療を促進する軟膏は塗らねばならない。

「……」
「どうしたのラウネ、眠いの?」
「だいじょうぶよアルラ…、お薬塗られるの気持ちよくって…」

今俺が治療しているラウネは、既に薬が効いてきたのか瞼が落ちそうになっている。

「あなた、何したの。ラウネが眠りそうなのにアルラも眠くならないのは変よ」
「何かおかしな事でもあったのかしら。双子だから、何をするのも一緒って事?」
「そうよ。ラウネはアルラと一緒なの、食事も、寝るときも、好きな人も一緒で分け合ってきた。だからラウネだけ眠くなるのはおかしな事なの」

植物系の双子は事例が少なく、どのような生態をしているのかもあまりわかっていない。
だがこの二人の間には強い繋がりがあって、だからこそ違和感を持ったのだろう。

「…そうなのね。じゃあ教えてあげるわ」

くす、と笑いながらアルラと名乗った方に教えてあげる。

「こっちの、ラウネちゃんの方には眠くなるお薬も同時に処方してあげたの。これからする事は、1人ずつの方が良いからね」
「『私の契約に応えてください、風縛(ストームバインド)』」
「はぐっ!?」

合図と同時に、ワカーバが精霊術でアルラを縛り上げた。口元も縛ったようで声を出すこともできない様だ。
縛り上げたことを確認すると、スライム入りの注射器を取り出し、ラウネのワレメに射し込んだ。

「はーいラウネちゃーん、お注射しますからねー?」

スライムによってどろどろと溶けていくラウネの姿を、動けない状態のアルラは見続けるしかなかった。
双子の姿が次第にぺったりと潰れていき、その体は厚みを失っていく。

そうして変化していったスライムを注射器に吸い込むと、ラウネの体から放してあげた。

「――っ、――っ!!」
「何が起こっているのか分からないでしょ? それでいいの。あなたもすぐ同じになるんだから…」

縛られたまま脚を広げられ、ワレメを見せつける形になったアルラは、恥ずかしそうに抵抗する。しかしそれも叶わない。
「弱体化」のかかった体では、先程渡したワカーバに渡した魔力も込みで唱えられた『風縛』は解けないようだ。

「はーいじゃあアルラちゃん、あなたにもお注射しますよー。ラウネちゃんと同じものですよー?」

子供に言い聞かせるかのように、ワレメに注射器を挿入し、スライムポーションを注ぎ込む。
同じようにスライムとなっていく姿を見届けて、スライムを同じように注射器の中に吸い込んだ。

「それじゃあ2人とも、私の中で一つになってね?」

そうして2つの注射器の中身、2人分のスライムを一気に飲みこんでく。
ラミアのネイとは違った味、例えるなら花の蜜の様な味わいのスライムを飲み込んでいく度に、スライムの中に溶け込んだ双子の魔力が、俺の中にも染み渡っていく。
その感覚がとても嬉しく、自分が強く、大きく広がっていくのを感じながら、2人を夢中で嚥下していった。

「…けぷっ」

流石に2人分一気に、は辛かった。胸だけではなく、収まりきらなかったスライムがお腹も大きく膨らませている。

「アディ様、そろそろ時間も経ってますし、すぐに2人の代理を作りましょう」
「そうね。じゃあ2人とも、ご飯の時間ですよー?」

胸元をはだけて乳房を露出させると、皮だけになったアルラとラウネの口を乳首に当てる。
そこから溢れてくるスライムが、次第に2人の体を膨らませていった。上半身が膨らみ終えると、次第に下半身が形を戻していく。
頃合いを見計らって、2人の口から乳房を離し、胸を隠す。

「それじゃあ次はアルラの方ね。すぐに終わるから、暴れないでね?」

気絶したままの2人のコピー、片方のアルラにやり損ねていた治療を行う。それもアディの手際の良さからすぐに終わるのだが。

「ワカーバ、ありがとう。もう『沈黙』を解いて良いわ」
「わかりました。…アディ様の体の様子はどうですか?」
「…どうかしらね。まずは3人分の魂をゆっくり味わうことにするわ」
「それでアディ様が強くなるのはとても素晴らしい事です。あとでトシアーキさんも呼びましょうか?」
「えぇ、その時はミツーバも呼んでちょうだい。得られた能力を、全員で分け合いましょう」

いずれサキュバスも取り込みたいと考えながら、俺たちは地下牢を後にした。

* * *

二人で荷物を片付け、部屋に鍵をかけるとワカーバにこの後のことを頼んだ。
「お疲れ様、ワカーバ。早速なんだけど…これから三人の魂を取り込むわ。…万が一何かあった際には最悪…頼むわよ。」
「!?!?どういうことですか!?」

突然の言葉に驚き詰め寄るワカーバ。真剣な眼差しから心配を感じるのは嬉しいが、今回の実験の危険性はあまり伝わっていなかったようだ。
落ち着かせるためにいつも以上に穏やかに、ワカーバにもわかるよう説明する。

「驚かせてしまってごめんなさい。…魂を取り込むっていうのは、今まで私や貴方のときとは違うのよ。」
「…どう違うんですか?」
「今までのは2つの魂を融合させていたの。混ぜ合わせれば元には戻らないけれど、2つの魂は消えるわけじゃない。」
「でも、今回は違う。私の魂が亜人の魂を食べるようなもの。私の中に亜人の記憶なんかは残ると思うけど、力関係は対等なものじゃないわ。」
「なら、アディ様は強くなるだけなんじゃ…!?」「上手くいけばね。負けてしまえば取り込まれるリスクもあるし、別の種族の魂を取り込んだときにどうなるかは誰もわからない。」

今まで融合に成功していた経験があるので恐らく大丈夫だとは思うが…
ワカーバを宥め、落ち着きを取り戻させると自分の中の魂たちに意識を集中し始めた。

不安な私をなだめたアディ様は服を脱ぎ去ると部屋の中心に立ち、呼吸をだんだん深くする。

ちゅぷっ…

粘液質の液体が零れ落ちる音。見れば、アディ様のワレメからとろとろと熱い液体が零れ落ちている。
「んっ……うぅっ、はぁぁっ!!!」
ぬるぬると音を立てて内腿をこすり合わせるアディ様は、悩ましげにおっとりとした顔をゆがめて――
「んあぁっ、あぁぁぁぁ♪♪」
ひときわ大きく、甘い声をあげたアディ様から熱い蜜があふれ出すように流れ出すと、美しい顔立ちがハリをなくし、全身がしぼんでいき……中身をなくしたアディ様の皮は音を立てて床に倒れました。

そして、床に広がったスライムがもぞりと動き出すと四つに分かれ、渦を巻くように収束しそれぞれが形を創りあげていく。
二つはぷるんとした丸い塊に、そしてもう二つはいびつなヒトガタをかたどるとそのまま形を洗練させていき、瓜二つの女体を完成させる。安らかに閉じた瞳がゆっくりと開いていくのを前に、私はあわてて精霊術で姿を隠した。

「ここはどこかしら?アルラ」
「知らない場所ね、ラウネ」
かりそめの体に魂を宿し、アルラウネの双子が動き始める。となると、残りの二つのスライムに宿る魂はラミアのネイとアディ様か。あえてアディ様が姿を現さないのには、何かアディ様なりの考えがあるのだろうか。

「あら、ちょっと体が変よ、アルラ?」
「ぷるぷると透けて、これはスライム? でも、ラウネが一緒なら大丈夫だと思うわ」
「そうね、二人が一緒ならなにも怖くないね」
そういって二人は微笑み合うと、ゆっくりと唇を重ねあいはじめた。体の変化を深く気に留めてないのはアディ様の計らいのせいだろうか。
それはそれはとしてこの二人、どうにも共依存が過ぎるような雰囲気があったがまさか姉妹でそんな関係だなんて、と衝撃を受けるが、私もヨツバとそんな関係になれることに気付きムラッとした感情が生まれてしまう。
いけないいけない、いまは見張り役を果たさないと。首を振り視線を戻すと双子のキスはよりねっとりと深いものに変化していた。

「ちぅっ……れろっ、ぷあぁっ。アルラの舌、ぷるぷるでとってもおいしい」
「えぇ、ラウネのキスの味もとってもおいしい。スライムの体ってすごい、肉の体とは違う味わいがあるのね」
どんどんと背徳の交わりを始める二人の後ろで、スライムの塊が一つ、もぞりと動き始めたのを私は見逃さなかった。

魂を取り込むには、その対象の魂を屈服させるのがより効果的である。俺は彼女たちの魂を屈服させるためにスライム体を分裂し、そこに魂を吹き込むことで彼女たちを再現した。
ある程度の魔力は消費したが。筋力偏重のラミアはもとより双子の魔術師の体の再現に生前相応の魔力を割いたとしても、俺の手元に残る魔力は十二分にある。圧倒的な魔力で不足の事態へのリスクをねじ伏せることは可能なはずだ。
だが、一度に3人を相手にするのはさすがに手が足りないため、ラミアの魂が目覚めるまで時間を作り先に双子を目覚めさせた。
そして双子の絡み合いに熱が入り始めたのを確認してから、俺は自分の体を創りあげていく。

スライムが音を立てて形を変えていくと、俺の……キヨーヒコの体が形作られていく。ごつごつした筋肉質の体に鋭い目つき、股間からそびえたつ肉棒。最近はアディの体がメインだったからこの姿に戻るのは懐かしささえ感じてしまう。俺は体の出来上がりを確認すると双子へと声をかけた。

「おう、俺も混ぜてくれよ」
その声に双子の体がびくんと震える。
「誰だお前は! ラウネを傷つけるのなら許さない!」
「裸のオス!? 去れ!アルラは絶対に守る!」
二人の時間を邪魔されたからだろう、双子は明確な殺意を俺に投げかけてくる。

「おー怖い怖い、泣けるねぇ双子愛ってやつぐぺっ」
わざとらしい仕草で挑発した瞬間、俺の体は強烈な衝撃を受けて弾け飛んだ。意識を建て直し双子を見れば指先に集めた魔力塊を発射したのが見て取れる。
薬の調合だけが能だと思っていたがこの双子は魔術師としてもそこそこいい腕前だ。俺は、あえて体をすぐに直さずにそのまま弾け飛んだ姿を晒した。そう、死んだふりだ。

「ふぅ、邪魔者は消えたね」
「そうね、私たちを邪魔するものは許さない」
邪魔者が居なくなったのを確認した双子は再び視線を重ねあう。そうして俺への警戒がなくなった瞬間弾け飛んだ体を集め直し、床を這いずり双子の足元へと忍び寄る。
「アルラ……」
「ラウネ……うっ!?」
うっとりとした顔で互いを見つめる双子の片割れ、アルラのワレメから内側へと体を滑り込ませた俺は、彼女の魂への干渉を始めた。

こいつ等のお互いへの依存度は高く、だからこそこちらがつけ込みやすくなる。
先程俺を吹き飛ばしたことで、既に俺への興味が消え失せていたから、こうして侵入もしやすくなったのだ。

「アルラ、どうしたのアルラ!?」
「あっ、ら、ラウ、うぅ…っ」

そして俺が今持ちうる大きな利点。それはスライムとしての経歴が2人より長い事だ。
スライムの体であることに疑問を持たず、むき出しになった魂の保護という所に意識を向けられない所が、この2人の失態だろう。
一日の長を存分に発揮させつつ、じわじわとアルラの魂に触れていく。

『あなた、さっきの裸のオス…! どうして私に干渉して…!』
『理由が知りたいか? 教えてやるのも良いが…、まずは主導権を握らせてもらおうか!』

精神世界の中。
俺とアルラの魔力が、一つになり始めた肉体の中でぶつかり合う。まともにやり合えば勝てる道理は少ないが、それでも向こうの動揺というアドバンテージは大きく、しかし短いだろう。
その間に俺は攻め込み、有利を取り続けてアルラをモノにしなければならない。そしてそのために必要な事は…、アルラを俺色に染め上げる。

有利を活かせる状態のままにアルラへの攻撃を止めず、同時にアルラの後ろから“もう一人の俺”を作り出し、後ろから羽交い絞めにしようと襲い掛からせる。

『このっ、後ろからなんて!』

魔力塊を撃って“もう一人の俺”を迎撃するアルラだが、そうして向けられた背中めがけて、さらに“別の俺”が襲い掛かる。
アルラの肉体に滲み込ませた「俺の肉体」が四方八方から攻めてきて、アルラはそれを迎え撃つ。
“俺”が弾ける度にアルラの肉体も小さく泡立ち、飛び散った。

「アルラ、どうしたのアルラ!?」
「ラ、ウネ…、私が、犯され、ひっぅぅ…!」

ラウネが心配そうに声をかけるが、外側からではどうしようもない。内側の戦いでは、既に複数の“俺”がアルラの体を押さえつけていた。
そして割り開かれたアルラのワレメめがけて、俺はいきり立った肉棒を突き込んだ。

『やぁぁ! オスのなんてやだぁ、こんなのいやぁ! 助けてラウネぇ!』
『おぉ、アルラウネの膣内ってのはこんなキツいのか…。いや、こりゃ初物だからかな?』

久々の男としての快感に打ち震えながら、何度も腰を叩きつける。アルラのワレメは今まで男のモノを受け入れたことなどなかったのだろう、随分と締まりが良かった。
ヤってる事は乱暴なレイプそのものだが問題などありはしない。屈服させる為には強気に出ないといけないし、そもそも情けを書ける必要なんて無いのだ。

『おらっ、イくぞ! お前のナカに注ぎ込んでやる!』
『いやぁぁぁぁ!!』

腰を押し付けると同時に、俺はアルラの魂に、俺の精を注ぎ込んでやった。

ドクドクとアルラの中に流れ込んでいく精は、内側から次第に彼女を犯していく。

『やだ…、こんなの、知らない…、こんなのホントの事じゃない…』
『残念だけど現実なんだよっ!』
『うぅ…っ!』

だけど、まだ終わらない。完全にアルラの魂が屈服しない限り俺は犯す手を、いや腰を止めることはない。
何度も腰を叩きつけて、彼女の中に俺を注ぎ込んでく。内側から何度も犯されて、その度に内側からアルラをかき混ぜていく。

『あぁ…、やぁ…、もう、やだぁ…』

口に出す言葉が虚ろになってきたアルラを見て、頃合い良しと見計らって彼女に囁きかけてやる。

『どうだ、嫌なことから解放されたいか?』
『あぁ…、やだ…、もう、やめて…』
『辞めて欲しいなら、方法が一つあるけど…、どうする?』
『……なにを、すれば、いいの…?』
『なぁに…、考えるのをやめて、全部を俺に委ねればいいんだ』
『ゆだ、ねる…』

少しずつ揺れているようだ。そして俺はあと一つ押し込んでやる。

『大丈夫だ、後からラウネも来るからな』
『ラウ、ネも…、いっしょなら…』
『あぁ一緒にしてやるよ。

だから、お前の全部を、俺によこせ』

力を無くして倒れたアルラを包み込むように、魂のすべてを喰らいきってやった。

「ああっ、アルラ!アルラ!」
形を失い床に広がる身体にラウネが駆けよってくる。
「…大丈、夫よ…ラウネ…」
早く安心させてあげたくて口だけを先に形作る。そこから顔、頭、体の形をゆっくりと取り戻す。

「アルラ…どうして…」
姿は完全に私のものに戻ったけれど、双子であるラウネにはわかるみたい。
「ごめんなさい、ラウネ…私、あのオスに取り込まれてしまったわ…」
「ああ、なんてこと!私のアルラを!殺せるなら殺してやりたい!」
ラウネの怒りが私にも伝わってくる。そして、その奥にある悲しみも。
「けど、殺したらアルラも死んじゃう!そうしたら私も生きている意味がない!」
ぼろぼろと涙をこぼすラウネを抱きしめる。
「私が屈してしまったせいよ…ごめんなさい…」
「悪いのはあのオスよ!ああ、アルラを穢すなんて!」
「そうね…でも、一つだけ感謝しているの。あのオスの力を使えば…」
「…私たちは、ずっと一緒…」

ラウネの言葉に…『俺』だったら笑みを浮かべていただろう。でも私は違う。
「ラウネ…私は死んだことにしてもいいのよ?」
一つになりたいという気持ちと同時に、同じ目に合わせたくないという気持ちが湧く。
けど、私の言葉にラウネは首を横に振る。
「アルラが死ぬなら私も死ぬ。でも、あいつの中で生きてるなら、私も…」
「ああ、ラウネ…」「アルラ…」「「愛してるわ」」

唇が重なり合う。舌が絡み合う。抱きしめ合い、乳房が重なり合う。
「「ふっ、うんっ♪ちゅうっ…」」
お互いの股間に指を這わせる。唇を、舌を、乳房を、体すべてを擦り寄せあい、愛し合う。
「「んはぁっ♪」」
じゅぶっ、と音を立てて膣内に同時に指が入り込む。
顔を少し離してお互いを見つめ合い、思わずくすくすと笑う。
「ああ、取り込まれてもあなたはアルラなのね」
「ええ。私はキヨーヒコでアディだけど、ラウネのことがが大好きなアルラよ」

再びキスをしながら指を蠢かせる。にちゅにちゅといやらしい水音が響き渡る。
やがてラウネの膣が私の指を締め付ける。私の膣もラウネの指を締め付ける。
「「んっ!んんっ!ぷはっ!イク!イクの!好き!大好き!あああぁあっ♡」」
声も快感もすべてを合わせて私たちは上り詰めた。

「「あっ、ああっ…♡」」
幸せの余韻に浸りながら体を震わせる。指を引き抜くと、お互いのそれを舐め合う。
「「ちゅぱっ…私のスライム愛液のついたアルラ/ラウネの指、おいしい…はむっ…」」
ああ、愛しいラウネ。私がこんなになっても愛してくれるなんて…そう思うと股間が熱くなってくる。

「アルラ…これ…」
ラウネが私の股間に触れると、私の感じたことのない感覚がする。
「えっ…これ…!」
ラウネが掴んでいるもの…あのオスの股間に付いていたものそっくりだ。
「…これで、アルラは犯されてしまったのね…」
憎しみのこもった声とは裏腹に、私の股間に現れたペニスを愛しそうに撫でる。
「あのオスのものだと思うと潰してやりたいけど、アルラのものだと思うと、どうしてこんなに愛おしいのかしら」
「ラ、ラウネ…!あまり、触らないで…!」
嫌悪感と気持ちよさが混ざり合って変な気分になる。

「…アルラ、それで私を犯して」
「…え?」
「アルラの痛みを、私にも教えてほしいの」
「そ、そんなこと…」
出来ない、という言葉をラウネの唇が制止する。
「…心の痛みは分かち合えなかったけど、体の痛みだけでも教えてほしいの。私たちは、ずっと一緒よ」

苦しさすら一緒にしたいという言葉に思わず涙がこぼれる。
「ラウネ、一つになりたい」
「アルラ、一つになりましょう」
ラウネの膣口にペニスをあてがい、ゆっくりと挿入していく。
「い、う…っ!くあぁ…♪」
ずぶずぶと潜り込んでいくペニス。ああ、ラウネと繋がってる…

「ア、アルラ…ごめんなさい…痛みを教えてほしいと言ったのに、アルラが入っていると思うと、嬉しくて、気持ちいいの…♪」
「私も、ラウネに入れていると思うと、嬉しくて、気持ちいい…♪」
「あっ♪「あっ、ああっ♪」」
オスの本能が働いてしまい、激しく腰が動いてしまう。
男のものを受け入れるのは初めてのラウネも、私に合わせるように腰を動かしてくれる。
「ああっ♪ラウネの中、気持ちいいのっ♪」
「ああっ♪アルラのもの、気持ちいいのっ♪」
ラウネの膣壁が優しく、それでいて激しく私のペニスを包み込んでくる。
あのオスのものでというのは気に食わないけど、ラウネが気持ちよくなってくれて、ラウネが気持ちよくしてくれている。

「あっ、ラウネ!私、何かおかしいの!何かが出てしまいそう!」
「ああ、アルラ。出していいわ。いつものように、一緒にイキましょう♪」
「「あっ、ああっ♪ああぁぁーっ♡」」
一緒に一際高い嬌声を上げると、私はラウネの胎内に私たちを吐き出す。
それを零すまいというかのように、ラウネの膣がきつく締め付けてくる。

やがて射精感が失われると、体が少し離れる。
「「…あら?」」
私たちは変わった股間の感覚に声を上げる。私の股間からオスのものが消えている。
その代わりに、ラウネの股間にあのオスのものが付いている。
「アルラ…私、アルラに入れたい。アルラにも、気持ちよくなってほしい…」
その瞬間、それに対する憎悪感は消え失せ、愛しさで満ちてくる。
「ラウネ…私、ラウネに入れてほしい。ラウネに、気持ちよくしてほしい…」
ラウネのものを受け入れられる。そう思うと子宮が熱くなってくる。
「アルラ…アルラ…!」
じゅぶ、と音を立ててラウネが私の中に入ってくる。
「ラウネ…ラウネ…♡」
さっき無理矢理されたのとは違う、愛しいラウネに満たされる感覚。
それだけでイッてしまいそうなのをこらえて、ラウネに合わせて腰を揺り動かす。

唇、乳房、性器。身体すべてを重ね合い、私たちは快楽に溺れる。
そしてラウネのペニスが私の胎内でぷくりと膨れる感触がする。
私の子宮もラウネを受け入れる準備は出来ている。
「「んっ♡んんんっー♡」」
そしてラウネが私の中に注ぎ込まれ、染み渡っていく。そんなラウネを逃すまいと私の膣は自然と締まる。

「「んっ、ちゅぱっ…はぁ…あら?」」
顔を離すと違和感に気付く。重なり合っていたはずの乳房が、混ざり合って私たちを繋いでいる。
股間も棒のようなもので繋がったまま、離れることはない。
「「ああ、私たち、本当に一つになるのね」」
自分が失われる恐怖、相手を失ってしまう恐怖。そんなものはまったくない。
再び唇を重ね、お互いの体をきつく抱きしめる。
触れあった肌が境界を失って、私になっていく。体が混ざり合い、ついに魂が触れ合う。
『『ああ、アルラ/ラウネ。私たちは、ずっと一緒よ』』
ついに一つになれることに、私たちの心は歓喜に満ちていた。

>(ワカーバ視点)

双子の痴態を目の当たりにしていた私の体はすっかり興奮してしまっている。
すぐにでも騎士になった頃には知りもしなかったオナニーを始めてしまいたいところだが、
アディ様の命令を無視することは出来ない。理性で本能をなんとか抑え込む。
そして、混ざり合い形を失った双子の様子を観察する。
アルラという少女の言うことが正しければ、アディ様は彼女を奪うことには成功していたはずだ。

…スライムがゆっくりと人型となり立ち上がっていく。
(ああ、アディ様…!)
アディ様のお姿となったことに私は安堵した。ただ、先ほどまでのアディ様とは少し違う。
赤色だった髪の色が輝くような黄色に染まっている。それを彩る様に二つのそっくりな花が頭に飾られている。
「…ああ、アルラ…ラウネ…」
アディ様は呟くと、自分の身体を愛しそうに抱きしめる。
「私たちが一つになった喜びが、私にも伝わってくる…なんて、幸せなの…」
自分の身体を確かめるかのように、全身を撫で回す。
「はぁ…私たちを、気持ちよくしてあげたいけど…まだ、やることがあるのよね…」
アディ様の視線の先を見ると、残ったスライムが小さく震え始めていた。

>(アディ視点)

収束し形を創り上げていくスライム。先ほどよりも長く、歪さが際立つそれは洗練された半人半蛇の裸身へと見る見るうちに姿を変えた。
次なる獲物の登場に、新たな身体を確かめるのを中断してゆっくりと歩み寄る。

呆けたように中空を見つめ、動かないネイ。透明なその姿では顔色も無いため、具合を見て取ることは難しい。
何か手違いが、いや手違いがあっても意識がないほうが取り込みやすいか、そんな事を考えながら後ろから近づくと不意に動きが生じた。

「………ぅん……ここ、…は…!?……」

大きな声こそ出していないが、意識が戻って驚いているのが背中越しでも伝わった。起きたら見知らぬ場所、おまけに自分の手が透けているのが見えれば驚くのが普通だ。
混乱しているネイに後ろから手を回し、優しく抱きしめる。スライムでできたその身体は薬を塗っていたそれよりも柔らかく指が沈み込む。
慌てふためくネイに可愛さを感じながら、耳元で囁いた。

「おまたせ。私達とひとつになりましょう?」」

「アンタは、さっきの女医? な、なぁ、あたしの体どうなっちまったんだ? 体がぬめってしてるし、スライムみたいになっちまってるし…」

ネイは、彼女の体を“そう”したのが私であると気付かずに疑問を投げかけてくる。
それだけ私は信用されたのだろうかと考えながらも、その問いには答えずに、たっぷりとした大きさの胸を小さな手で鷲掴みにした。

「んぁっ! いきなり何を、お、おいっ」

まだ状況を理解できないままに胸を揉まれ、さらにスライム化した乳首を撫でられる。
体の組成が変わっても、生身の時と同じように乳首が快感を返してくるのは私の体を以て知っている。それがどれだけ気持ちいいのかも。

「ふふ…、そんなに驚かないで、このまま私に身も心もを委ねて? 一緒に気持ちよくなりましょう?」
「あたしのっ、質問に、答え…ひぃんっ!」

耳の裏を撫でてみると途端に黄色い声を上げだした。なるほど、ここが弱いのね。
甘噛みし、舌でねぶりながら胸を揉み続ける。その度にネイは甘く喘いで、次第に体を私の方に預けてくる。

「あっ、はぁっ、…ちょっ、そこ、やめぇ…! んぅぅぅ…!」

気の強そうな性格と裏腹に、感じ始めてからの抵抗は驚くほど弱々しい。てっきり尾での一撃位はくるものかとお思っていたのだけど。

体勢を変えて、真正面からネイを組み敷く形にする。
生身であれば重力に従っていた乳房は、スライムになることで不自然なくらいに球体を保っていた。
ぷるんと揺れる胸を見て、キヨーヒコとしての意識が唾を飲んだ。

「それじゃ、あなたのおっぱい吸わせてもらうわね」
「ちょっと待てって、んっふぅぅ!」

返事を待たずに乳首に口づけをした。そのまま吸い込んでしまってもいいのだが、それだとネイを喰らうことにはならない。
彼女を快楽で蕩かし、吸収しやすいようにする。ラウネの時と同じように、相手の心理的抵抗を低くすれば喰らうための難度は格段に下がる。出来る事なら向こうから吸収して欲しがるようにするのが一番だが…。

「ちゅっ、ちゅる、ちゅ、んちゅ、ちゅぷっ」
「はぁぁっ! やっ、やめっ、音立てて吸うなぁ…!」

右を吸い、左に変わり、左右両方を同時に攻め立ててみたり。執拗に胸を舐り続けても、ネイからは押し退けようとする以外の反撃は来ない。
不思議に思って、少しだけ聞いてみることにした。

「ねぇネイ? あなた、どうしてもっと抵抗しないの?」
「ふぁ…、だって、なんだか力が入んないんだ…。この体、頼りない感じがして…、これ以上できなくって…」
「そう? 確かにラミアの体と比べれば弱いかもしれないけれど、使い方次第じゃないかしら」

「なんで、そんな事…?」
「不思議に思ってるわね。…それじゃあ、さっきの質問に答えるけど…、今のあなた、スライムになっちゃってるのよ?」

体の一部を伸ばして手鏡を取り、ネイの顔を写して見せる。そこに写るのは確かにネイ本人なのだが、生身ではない。透き通るような液状の体を持つ、別の生命体になっているのだ。

「……え…?」
「さっきのお注射、実はあなたをスライムにする為のポーションだったの。私の目的のために、貴女の力が欲しくってね…」

ネイの胸を捏ねながら、ちゃんと答えてあげる。反応が薄くなってしまったのは些か面白くないけれど、心の隙間を作り出すためには有用だと思いながら。

「…冗談だろ? なぁ、あたしは戻れるのか?」
「残念だけど戻れないわ。これからネイは、私の一部になるのよ」
「……っざけんな!!」

抵抗を忘れていたようなネイだったが、さすがに堪えかねたように尾を私に振り上げてきた。
びたん!と尾を叩きつけられ、私の体が飛散する。

「あたしをバカにしやがって! そんな事聞かされて、好き放題されると思ってんのか!」
『バカになんてしてないわ。全部本当の事だもの』

飛び散った体が集まり、形を成す。けれどそれは一つではなく、三つ。

『思ったより早くお願いすることになっちゃったわね、アルラ、ラウネ』
『『うふふ…』』

3つの塊になったスライムの一つは私の形を、残り2つはそっくりな見た目のアルラウネ姉妹の形になる。

「こいつ等、あのうるさかったアルラウネ達? 取り込んでたってのか?」
「そうよ、ネイ。私はラウネと一緒になれたの」
「アルラと一緒に溶け合うのは幸せだったわ」
「あなたも一つになりましょう?」
「あなたも私たちになりましょう?」

アルラとラウネは一糸乱れぬ動きでネイを後ろから捕まえる。掌からはスライムとは異なる液体を滲ませて、ネイの体に撫で付けていく。

「何しやがる、変なもん塗る、な…っ、ぁ…」
「筋弛緩薬なんて無粋だけれど、“私”の為だもの」
「こっちの媚薬と合わせれば、天国に昇る気分よ?」

くすくすと笑いながら、2人は別種の薬を分泌させてネイに塗布していった。それと同時にネイの体からは力が抜けていき、刺激に対し敏感になっていく。
怒りで冷めたはずの性感に再び火がともされて、その体は既に感じ始めているのだろう。

「「それじゃあどうぞ、“私”?」」

抵抗する力を無くしたネイの女性器を、2人は左右から開かせる。その瞬間に愛液が零れだし、既にネイの中は温められてしまっている様だ。

「2人とも、ありがとう。それじゃあ遠慮なくいただこうかしら」

私(アディ)のクリトリスがペニスへと変化し、いきり立つソレを、既に濡れそぼった膣内目掛けて一気に突き込んでやった。

「あ、か…っ、っは…!」
「んん~っ、いいわぁ…! 弛緩剤で動かせない筈なのに、それでも程よく締め付けてくるなんて…、なんてエッチな膣なのかしら!」

ネイの腰を掴み、私は腰を叩きつけていく。スライムの肌同士がぶつかり合う音が何度も響いていく中で、蕩けた表情のネイに教えてあげる。

「ねぇネイ。あなた、濡れ衣を着せたって言うフターバ女王への恨みがあるわよね? 良いのよ、その思い毎食べてあげるわ。
私の最終目標は彼女なの。フターバ女王を襲って、食べて、彼女に成り代わって、この国を乗っ取るのよ」
「…そん、なこと…、できる、わけ…」
「できるわ、貴女が私の中に居れば。貴女が私の中で生きる事で、フターバ女王に近づくことが出来るのよ」
「……、……」
「あなたの濡れ衣、晴らしたいでしょう?」
「大丈夫よ、私達で晴らしてあげるわ」

左右からアルラとラウネも囁いてくれる。
蕩けそうなネイの瞳を見据えて、言葉にする。

「約束するわ。貴女の無実を証明するって。その為に今は私に力を貸して欲しいの。お願いっ」

ぐん!と腰を押し込み、子宮口を押しながら告げた言葉に、ネイは応えた。

「…わか、った…、あたしの、無実…、ちゃんと明らかに、してくれよ…?」

「ありがとう…。それじゃあいただくわね!」

瞬間、私のペニスが弾けてネイの体を染め上げていく。送り込まれたスライム精液がネイの中に広がり、そして魂を喰らうのがわかる。
次第にネイの体が溶け、後を追うようにアルラとラウネの体も溶けていく。塊になったスライムは意志を持って私の膣内に入り込んでいった。

「はぁぁ…!! これがネイの、貴女の思い…! 広がってくるっ、私の中に溶けてっ! んっはぁぁぁ!!」

ネイの魂を喰らう事と、私が広がっていく悦びが体中を駆け巡り、一気に達してしまった。
びゅるびゅるとスライム精液が飛び散っては戻って、その度に私は私の中に溶け込んだ3つの魂が、一つの体で得る快楽に悦んでいるのを感じ取ってしまう。

「あぁ…、あぁ…っ、魂を喰らうって…、1つになるって、こんなに気持ちいい事なのね…。俺が、私が、私達が、あたしが、混じっちゃう! 取り返しつかなくなっちゃうぅぅん!」

ただただそれが気持ちよくて、乱れてしまって、1人ではもう我慢できなくなって。

「もうダメ、ワカーバ…! もう我慢しなくていいわ、シましょう? 一緒に気持ちよくなりましょう!」
「はい…、はい…! アディ様…!」

ずっと姿を隠していたワカーバと、体を重ねないと気の済まない所まで来てしまっていた。

主からのお許しが出ると、女騎士は姿を現す。腿を伝う雫や上気した頬は隠す必要のなくなった劣情が映っていた。静かな部屋は衣擦れの音を響かせる。
見張りの気配で高ぶっている気はしていたが、十分に準備ができているのに満足した主は口をほころばせる。
出入りを繰り返すスライムが一段落すると、ゆっくりと身体の調子を確かめるように立ち上がる。

立ち上がった姿はアディや双子、ネイでもありすべて違っていた。
黄色の髪、穏やかな翠色をした瞳、細い女性の腕ながらも筋肉がしっかりと付いている腕、主張する剛直。
その内では未だ熱を持って暴れるスライムが蠢き、姿そのものも僅かずつ変化している。
危うい不安定さを感じさせる姿は、好色そうな印象は拭えない笑顔でワカーバへと近づく。
歩む一歩一歩にてスライムが床へへばりつき、また身体へと戻っていく。様々な特徴を混ぜ合わされた異形に対し嫌悪感など微塵も感じさせない満面の笑顔でワカーバも歩み寄る。

二人の距離がなくなったところでアディだったそれはワカーバを押し倒す。両の腕で身体を抑える力はネイの腕力だろうか、しかしその指先はすでに蕩け、粘液が腕を固定する。
情熱的というよりは乱暴に近い所業も受け入れ、ワカーバは恍惚とした表情で更なる行為を促す。

「あぁ…早く、アディ様…私にください…。あんな姿を見せられたら…」

腕に抱えたワカーバからの懇願に大きく腰を浮かせ、肉茎を突き入れることで応える。スライムでできたそれは膣内の形に合わせ、勢いのまま女陰を貫く。
求めていた快感だが予想以上であったため一瞬息が止まりかけるワカーバだったが、快感と主の腰使いから満足を感じ、心と身体が満たされる。
スライムの肉棒は堅さを持ちながらも内部を傷つけず余すところなく内部を刺激し、皮である膣は咥え込むものを包む形へと変わる。
二つの快感を生み出す性器はお互いの持ち主を限界以上の快感を齎し、更なる求めを呼び起こす。
自分の一部を撒き散らす程に荒い抽送は、すぐに二人を快感の天井へと連れて行く。

「ワ、ワカーバ!もう、抑えられない!!このまま、このままぁ、イかせてぇ!!」
「わたしも、わたしもですぅ!!!もうっ、無理っ!!!」

更に加速する勢いに、二人の息も荒くなる。膣内の刺激、陰茎からの快感、どちらもが納まるところを知らずただただ増幅されていく!
一際大きい動きにて突き入れると、先端が熱く、膨れるような感覚を二人が共有した!

「「―――っ!!!!―――――」」

言葉で表すなんてこともできない、余裕すらない絶頂。少しの間、弓なりに反った二人の身体はすべてを出し切った疲労感でぐったりと倒れ込む。
身体の奥底に熱い粘液を感じながら少し朦朧としている意識のワカーバに、行為の余韻の疲労感が混じった声で言葉が告げられる。

「……ありがとう、ワカーバ。…このまま、もう少し。力を貸して?」

言葉の意味を考える前に身体に感じる感触でわかる。しなだれかかるアディの身体が少しづつ縮み、受け止めたアディの精液が膨らむ。
先程までの不規則な蠢きを抱えたスライムは、幼さすら残る少女の膣へ吸い込まれていった。

#もっともっとヤりすぎてください!おねがいします!

精液と共に流れ込んだアディは、ワカーバの子宮に留まっていた。確かに3人を喰いはしたが、その余韻はアディをひどく揺らがせてしまっている。
ただでさえ「別人を取り込む」という行為は、自己同一性を大きく損なわせる事になってしまう事に、キヨーヒコは取り込んだ後から気付くことになった。

先程の快楽に流されながら作った形は、アディのようで彼女ではなく、かと言って誰かと問われても返答に詰まるような“誰か”だった。
その体での行為が気持ち良かったのは確かだが、近衛騎士団に潜り込んでいる現状、まとまりのない体であり続けるのは問題だ。

だからこそ体をしっかりと定着させる必要がある。その為にワカーバの子宮を使わせてもらうことにしたのだ。

「…まさかアディ様、私の胎内にいらっしゃるのですか?」
『えぇ…。体を安定させるために、あなたの力を借りるわね』
「嬉しいです…、まさか私がアディ様を産めるだなんて…!」

かつてミツーバとヨツバが“そう”されたように、今度は自分が主を産む。
そう考え膨らんでいくお腹を見ると、喜びがワカーバの背筋を駆け上がっていくのを感じていた。

「うふふ…、アディ様、私のナカでゆっくりと体をお作りくださいね…」

喜んで腹部を撫でるワカーバの表情は、母の表情とはおそらく違っていた。
いや、主とはいえ無私の愛を注げるのならば、果たしてそれは母の顔であるのだろうか。

ワカーバの胎内の揺り篭の中で、アディはゆっくりと体の再構成を行っていた。
ネイの筋力と、アルラ・ラウネの魔力。まずはと言うが着実に強化するために必要な能力の2つを、自分の体に取り込んでいく。
思えばやはりサリアをいったん置いておいたのは正解だったのかもしれない。ここまで魂を喰らう影響が大きいのであれば、サリアを喰らった場合は果たしてどれだけの影響があったのか。

同時に、この魂の取り込みが上手くいったのなら、サリアを取り込むことも視野に入れたくなる。
思考の面から危険性を感じていた為一度横に置いていたが、『弱体化』をくらってもなお『甘言』を使ってくるなど、その能力は実に、喉から手が出るほど欲しいと思えるものだ。
(あぁ、そして…、これから出会う存在を喰らっていけば…)

タチーハ女王になる、そして同時に現れた「存在の昇華」という目的。
きっとそれは、どちらかを欠く事で達成できることではないだろう。どちらも成し遂げる事で、キヨーヒコは「新たな自分」を作り上げることが出来る。
2つの目的を果たす為の第一歩は順調のようだ。

(それじゃあ、この力をワカーバにも…)

子宮の中でへその緒を繋げるが如く、一本のスライムで二人は繋がった。
そして少しずつ、アディとワカーバ、2人の間に力が流れ込み始めた。

「あっ、こ、この感覚…っ、アディ様が私に…っ!」

ワカーバにも“繋がった”事が解ると同時に、何かの力が流れ込んでくる事が理解できた。
人間ともスライムとも違うもの、力と魔力。
ラミアのネイが持っていた、脂肪などない引き締まった肉体が持つ強い膂力。
アルラウネの2人が備えていた、ワカーバには乏しく持っていなかった魔力。

同時にワカーバが持っていて、キヨーヒコが得た精霊術の知識や技術などが、改めてアディに流れていく。
妊娠している母親と子が酸素や栄養を分け与えるように、2人はお互いに持っているものを交換し合っていた。

「あぁ…、わかります…、私のナカでアディ様が力を与えてくれるのが…」

悦びながらワカーバは膨らんだお腹を撫でる。

そしてある程度時間が経った頃、

「うっ、うぅぅぅっ! あぁぁぁ! う、産まれるぅぅ! アディ様が私の娘になっちゃうぅぅぅぅん!!」

人間ではありえない、快楽のみでの出産をワカーバは行ってた。
ワレメから勢いよく、つるりと大きなスライムの塊が零れ落ち、球体のまま震えていた。

そしてそれは次第に形を整え、人間の…アディの姿になった。
けれど先程までの混然とした体ではなく、確かにワカーバが知る限りのアディのように見える。

「あぁ…、アディ様…、お綺麗です…」
「うふふ、ありがとうワカーバ、私を産み直してくれて…」

形は確かにアディそのものだが、内側は確実に別物になっていた。
ネイの力、アルラとラウネの魔力が渦巻き、キヨーヒコの意識で動く。それが今のアディだ。

恍惚に蕩けたワカーバの顔に手を添え、アディはだらしなく開かれた口にキスをする。
ぺちゃぺちゃと舌が絡み合い、熱の籠った吐息が混じり合っていく。
淫らなキスはしばらく続き、唾液の糸を引いて終わったが、それでもワカーバの表情は悦びに満ちたままだった。

「アディ様…、私、アディ様を産めた幸せで溶けちゃいそうです…」
「ふふ、そんなに喜んでもらえるなんて光栄ね。…それなら、私はワカーバの事を“お母さん”って言った方が良いかしら?」

まるで自分が子である、とは一切思ってないように、アディはワカーバの頭を優しくなでていく。

「そんなぁ…、恐れ多いです…。私はアディ様の僕(しもべ)であれば良いのに…」
「ワカーバは謙虚な子ね。良いわ、それならそのままで居ましょう」
「はい、アディ様…」

先程アディを産んだはずのワカーバは、まるでアディに甘えるように身を寄せ、胸に吸い付き始める。
逆に産まれ直したはずのアディは、まるで母親であるかのようにワカーバを抱きかかえ、頭を撫でながら、

(トシアーキとミツーバにも、この力を分けてあげなきゃ…。その場合は…、ふふ、また私のナカに2人が還ってくるのね)

恍惚の表情で、そんな未来に思いを馳せていた。

姉妹ほどの女性2人の、親子のような穏やかな一時は暫く続いた。
母は娘たちをまた産み直す夢想を娘は母の膝の温もりを堪能し、ともすれば目的すら捨ててしまいたくなる安らぎに身を委ねていた。

しかしいつまでもこのままでは居られない。アディはワカーバに起き上がることを促すと名残惜しそうな視線を送りながらゆっくりと身を起こす。
大きな赤ん坊に苦笑しながら自分も立ち上がり、脱いでいった衣服などを拾い集めていると、ワカーバが驚くような声を上げた。

「!!アディ様…皮は着てなかったのですか!?」

今のアディは生まれたままの人間の、肌色で粘液ではない肉体を持っている。3人を取り込む前に脱いだ皮を回収している姿を見てその矛盾に気づいたようだ。。
ワカーバの間の抜けた顔に笑みをこぼしながら、説明を始める。

「あの子達3人と貴女のおかげよ、ワカーバ。3人の魂と貴女の子宮で一つに生まれ変われたから、新しい高みに登ることができた。
女性の子宮っていうのはやっぱり特別な意味があるのかしらね。」
「今の私は、取り込んだ姿なら完全に再現できる。私も、俺も、ネイも、アルラやラウネだって。それだけじゃない…」

そういうとワカーバに向けて手を伸ばすアディ。
医者として働いていたことがわかる、白くほっそりとした腕。その表面が一瞬波打ったかと思うと、次の瞬間にはまるで長手袋のように肘から先を鱗が覆った。

「それは!!まさかラミアの…」

だがおかしい、ラミアは下半身が蛇の亜人、その鱗は腰から下に生えているはず。当然の疑問を浮かべるワカーバに対し、アディは種明かしを行う。

「今の私なら、取り込んだものを再現するだけじゃなくて自分の体として作り変えられるのよ。」

蛇の姿や植物を生やす程度だけどね、と付け加えるがその能力の凄さはアディより学のない身でも十二分にわかる。翼ある亜人を取り込めば翼を、爪や牙のある種族であればそれらを自在に。
自分の主が想定を超えた存在へと進化しつつあることに驚きと歓喜を覚え、引きつったような笑顔が堪えられないワカーバ。
言葉の意味が伝わったことを噛み締めながら、アディは更に続ける。

「そのうち、見ただけで姿を真似られるぐらいになれるといいわね。でも今なら素材さえ取り込んだら、姿ぐらい…」

話しながら目線を動かすと、その先には小さな箱があった、その箱の中身はワカーバも聞き及んでいる。
騎士団長フターバの毛髪。今の話でいけばそれを使えば…。

「それとも、少し間を空けてサリアにでも会いに行こうかしら?ミツーバちゃんに儀式の報告してもらうのと新しい私の力を分けてあげるのもいいわね。」

新しく生まれ落ちる快感を思い出し陶然とした表情を浮かべるアディ。彼女の選んだ選択は…

一夜明けて、ミツーバの儀式の進捗をアディは確認しに来た。

「お待ちしておりました、お母様。わたくしも精霊召喚の儀式は初めてでしたから、少しばかり手間取ってしまいましたが…」
「それでもよくやってくれたわ、ありがとうミツーバ」
「あぁ…、はい…」

そっと頭や頬を撫でると、恍惚とした表情でミツーバは喜んでくれる。

「ワカーバさんの記憶を持っているお母様に説明は不要と思いますが、改めて説明を。
精霊術は魔術と体系の異なる技術で、基本的には地水火風の自然元素を、魔術より効率よく扱う為の技術です。
もちろん火炎魔術なども存在していますが、精霊術での行使に比べると発動の効率は良くないので、補助的な使い方が殆どですわ。

精霊術を使う為には本人の素質に依る所が大きく、魔術は使えても精霊術は使えない、という人は往々にして存在しています。逆の場合もありますが、この場合はワカーバさんですわね。
また“どちらも”という人もいるにはいますが、両方に長けた人、というのはあまり見かけませんでしたわ」

その後もミツーバの精霊術に関する説明は続いていく。
ある程度はワカーバの記憶などで理解していたが、改めて説明されていく事で理解が深まっていく。

精霊術を扱う為に必要な、精霊との契約。
術の行使の為に、精霊具の所持も必要になってくる。
騎士団の精霊術使いは、基本的に下賜された精霊剣が精霊具になるが、別の形をしていることもあるのだとか。

「今回精霊具はアディ様がよく使っているアクセサリーを精霊具に加工しておきました。仮に精霊と契約する場合がありましたら、これを発動の触媒にしてください」
「ありがとう。それと皮は作ってくれた?」
「そちらも勿論。“誰でもない”形に作りはしましたが、ワカーバさんのスライムから作ったので、どことなく似た感じにはなってしまいました」

ミツーバは袋から取り出した皮を広げ、アディに見せる。それを確かめたアディは満足そうに肯いてみせた。

「準備は良いみたいね。それじゃあミツーバ、召喚をお願い」
「それでは、どの精霊を呼びますか?」
「そうね…、何の精霊が良いかしら…」

A:火の精霊
B:水の精霊
>C:地の精霊
D:風の精霊


「ワカーバちゃんは風の精霊、ヨツバちゃんは水の精霊と契約していたのよね。それなら…地の精霊でお願い。」
2人が契約していない中でも、地の精霊は植物系の亜人とは相性が悪くないはず。
「わかりました。それでは始めますね。」


儀式の仕上げに皮を置くミツーバ。一日かけて用意された複雑な魔法陣の中心に、ぺしゃんことなったワカーバ似の皮を置くと詠唱を始めた。
普通の契約であればヨツバの通う学校で行う程度の儀式なので用意に多少時間のかかる程度のものだ。しかし今回はスライムでできた皮へと憑依させる。
一晩でスライム皮の生成と儀式のアレンジまで行う手際の良さには内心驚きもしている。

(無事儀式が終わったら、"ご褒美"でもあげましょうか)

ミツーバへの労いを考えているうちに、場の空気が変わった。空間に満ちる魔力が一つの属性を帯びて置かれた皮へと収束する。
精霊を形作る魔力が皮へ注ぎ込まれると、薄っぺらい皮がどんどん厚みを取り戻していく…
(仮)がついたまま2スレ目が終わってしまいました。
たちは板のいちきよひこ
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