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忍者少年Reboot 夏休み編

2019/06/12 12:38:05
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「さあさあヒトミ、本物のマユちゃんはどっちでしょー?」
自分とそっくりさんを見つけ、マユちゃんと名乗る女の子はかなりのハイテンションだ。
秋魅ちゃんと同じく、笑顔から見える八重歯が可愛い。
「ええーと、あらあら…どっちかしらねぇ?」
マユちゃんの連れのヒトミさんは、やや天然系の入ったおっとり系お姉さん。
目をパチクリさせながら本物と偽物を見分けようとするが、定まらないご様子。
イヤイヤ顔は同じでも、着てる水着が違いますって。あと表情も。
無邪気に笑うマユちゃんに対して、秋魅ちゃんの顔は石のように固まっている。
「ねーねーアナタどこから来たの? お名前聞いて良い? 一緒に写真撮って良い? SNSにうpしても良い?」
「ワ、ワタシハオマチアキミトイイマス…」
違うキャラを作ろうとして思いっきり滑ってやがるな。かわいそうになって来たのでフォロー入れるか。
「あーごめん。この子ちょっと人見知りが激しいから、勘弁してやってくれないかな?」
保護者のロールプレイで二人に割り込む。
秋魅ちゃんのことは『夏休みに自分ちにやって来た親戚の女の子』と説明。
「ええー残念。良いネタになると思ったのに。ぶー」
マユちゃんは少し不満げに頬を膨らますが、納得はしてくれた様子。

「(ところで…)」
そっと秋魅ちゃん≧紀与丸に耳打ち。
「(片方がコピー元だというのは分かるが、二人とも知ってる人なのか?)」
コクリと相方はうなずく。
「(『中身』のガッコのクラスメートだよ。
オレッチと同じ顔のチビッこいのが七星繭(ななつぼし まゆ)サンで、
超美人でゴージャスな方が絹光瞳(きぬひかり ひとみ)サンだ。
聞いて驚け。二人ともニィチャンと同じ高1で16歳だぞ)」
まじか。どう見ても歳の差5歳以上あるぞあの二人。
「(まさか『本物』二人とバッタリ会うことになるとはなぁ)」
声の出方が口の動きと合ってないな。頬の肉がモゴモゴと不自然に動いている。
「(『中身』が嫌な汗かいちまってツラの皮がずれてンだよ。あーここから逃げ出して脱皮してェ…)」
まあ落ち着け。別にお前が彼女をコピった偽物で、中に男が入ってるってことがバレてるわけじゃない。
偶然出くわしたそっくりさん、ていうのが彼女たちの認識だ。あたふたすることはないんじゃないか?
「(それはそうなんだが、今のオレッチじゃ動転してボロ出しそうでナ…)」
「(そうか、しかしだな)」
せっかく本物の女の子が近くに来てくれているのだから、こっちは少しお話したいなと思ってる。
「(えええ…、マジかよ?)」
「(心配するなって。こっちがメイン張ってりゃフォローはきくだろ。俺が守ってやるって)」
「(わかったよ。オレッチはニィチャンを信じる…)」

ここで出会ったのも何かの縁と、俺は女の子二人を食事に誘った。
そっくりさんが一緒、と言うのもあってか二人とも快く承諾。
近くの海の家で飯を確保して、パラソルの下に一同が集う。
「うわー日影だー。夏輝さん秋魅ちゃん助かるよー」
「私達が来た時には、もう場所がいっぱいで困ってたんです。ありがとう」
よしよし、女の子の好感度も上昇。これを切っ掛けにヒトミさんとはお近づきになりたいところだ。
食事をしながらのお話タイム。お互いの学校や部活、趣味の話で一通り盛り上がる。
聞いた話によると、彼女たちのクラスにはどこの部活にも所属していないがスポーツ万能な男子がいて、
各部活に重宝されている助っ人になっているのだとか。
紀与丸オマエの事か?w
「ギクッ?」
「そんでさー、ソイツ最近遠目に女子の顔ジロジロと見てるのよね。
マユとかヒトミとか、ルックスいい子ばっかりなんだけど」
お二人さん、信じられないと思うけど今ソイツと話してるんだぜ。
「ギクギクッ?」
秋魅ちゃん≧紀与丸の顔が再度青ざめ、こわばってくるのが見て取れる。
紀与丸オマエ、ジュツのための人間観察バレッバレだぞw
でもこうして話が聞けてよかったな。知らんままだと不審者扱いされるかもだしな。
「ソ、ソーダナ、ジチョースルヨ。ウヘヘ…」
また声が変になってる。忍者だったらこういう事態にもドッシリ構えとけって。
しばらくの間俺はヒトミさんたちとの会話を楽しんでいたが、
やがて遅れてきた彼女達のクラスメートが合流してきたため、こっそりとお開きにすることにした。
秋魅ちゃん≧紀与丸のメンタルの健康のためやむを得ずのことだったが、ヒトミさんのメルアド、知りたかったなぁ(涙)。

■■■■■

ヒトミさん達と別れたあと、当てもなく歩くうちに俺たちは人気のない洞窟の中にいた。
「ふぁー。やっと解放されたぜぇ…」
秋魅ちゃん≧紀与丸は岩壁にもたれかかって安堵のため息。
影の中に隠れながらメリメリと面の皮をめくりあげ、タオルで『中の人』の汗をぬぐう。
「ふいー。ずっと顔の中痒かったんだよなー」
伸びた顔面の目と口を合わせ、曲がった鼻をまっすぐに直し、秋魅ちゃんの顔を復元。
「ニィチャン、オレッチの顔元に戻ったか? 鏡がないから自分じゃ見れなくてよー」
と、俺の方に顔を向けニカッと笑ったり、怒った顔や泣き顔を作ったりして、
「どうよ?」と満面のドヤ顔。
「お、おう。大丈夫じゃないか?」曖昧に笑って返す。
しかし、これからどうしようか?
今戻ってもヒトミさん達が浜辺にいるだろうし、今の姿のまま出るのは良くないっぽい?
「ぶー、ナンだよニィチャン。またオレッチを邪魔者扱いするのかー?」
「ごめんな。そういうつもりじゃないんだけど」
「まあ逆に考えようや。今ここにはニーチャンとオレッチしかいない。
そんでだナ、オレッチは今人に見せられない『ある』事をここで試そうと思ってる」
え? それってまさか?
「分かんねーかナ? ニーチャンはウブだねぇ、うへへ」
秋魅ちゃんの体がズイッと俺に迫り密着、肌と『肌』がぴったりと触れ合う。
細い指先が俺の胸に触れ、腹筋へと優しくなぞっていく。
「うへへ。ニィチャンの鍛えられたカラダ、たまらんねぇ…」
「ちょw くすぐったいぞ! 何するんだよ!?」
「『何』って? 『何』はナニに決まってんじゃねーか。
ニイチャン。この『皮』はなぁ、女の子の見た目だけをコピーしたわけじゃねーんだわ。
女の子のカラダの機能、これもある程度真似ができるよーに作ってんだ。
そしてナ、その機能ってーのはナ、二人きりになった男女がよくヤることになるんだナ」
え? そ、それってまさか…!
「その『まさか』だよニブチンのニィチャン。さあオレッチとスケベナコトしようや…」
子供とは思えない程のいやらしい顔で、秋魅ちゃんは俺にささやいた。

舌なめずりしながら秋魅ちゃんが迫る。片手片膝を俺の後ろに突き出し、壁ドン股ドンの態勢に。
「ぐへへ。さあニィチャン、こっちの体も触ってくれてイインだぜ。
ニィチャンにはオレッチの事、もっと知って欲しいしな」
秋魅ちゃんが俺の手を取り、発展途上の段階にある自分の胸に導く。
「どうだいニィチャン女の子のカラダは? コーフンするか?
気になるなら水着の中に手を入れてくれてもいいんだぜ?」
イヤイヤ待て待て。見た目がいくら可愛い女の子だとしても、『中身』は男だぞ夏輝!
顔も声もその仕草もすべて偽物、作り物で演技なんだ。騙されちゃいけない。
秋魅ちゃんの視線が俺の体の一点を見つめ、「はぁ」と不満げな顔でため息を漏らす。
「ナんだよーつれねーなぁ。やっぱりお子チャマじゃあ駄目ってのかよぉ?」
こちらの反応に不貞腐れた感じで、密着させていた体を離す。
「ひょっとして、ヒトミサンの事が忘れられねーとかか? やっぱり図星か?
しゃあねぇなぁ望み通りにしてやんよ! 見て驚け!」

ふくれっ面のまま秋魅ちゃんは後ろに跳躍、背中に手を回すと彼女の顔面がぐにゃっと崩れる。
そのまま華麗にバク宙、と同時に彼女の背中から何かが抜け出す。まるで脱皮だ。
抜け殻になった秋魅ちゃんの皮を空中で器用に掴んで着地…したのは春風の健康そうな水着姿。
「あーもう。せっかく戻ったのに、なっくんとはすぐお別れか。癪だなぁ」
彼女も秋魅ちゃんと同じくふくれっ面のジト目で俺を睨む。え? 俺何か悪いことしたか?
「『これから』するんだよ、なっくん。でも一回だけ浮気を許してあげる」
首と腰に手をかけ、春風は再びバク宙。彼女の体が顔、胴体、両脚に三分割されて脱ぎ去られ、
それらは『中身』の手の中に。そしてそいつは光の遮られた暗がりの中に着地。
暗闇の中からそのシルエットが浮かび上がってくる。それは見事なまでの、砂時計型のボディライン。
腰まで伸びたウェーブのかかった黒髪、男を惹き付ける魅力的な黒ダイヤの瞳。
片方の目は長い前髪で隠れ、神秘性を引き出している。
はちきれんばかりの肉感的なバストとヒップ。対照的にギュッと細まったウエスト。見事なまでのわがままボディだ。
その体を飾るのはフロント部分にファスナーのついた、光沢のあるハイネックタイプの黒いワンピース水着。
ファスナー部分は大胆に開けられ、豊満な胸の谷間をこれでもかとばかりに見せつけてくる。まさにセクシーの暴力だ。
その姿はさっきまで一緒にいたゴージャス超美人、ヒトミさんを完璧にトレースしていた。
「驚いたな、今度はヒトミさんの姿か」
「ノンノンノン、アタシはヒトミなんて名前じゃないわ。雄町三姉妹の長女『冬音』よ夏クン。
レディーの前で他のオンナの名前を出すもんじゃないわね」
おっとり型のヒトミさんに対して、冬音さんは男を惑わす魔性のオンナだ。
言葉、仕草の一つ一つがオトコの視線を吸い寄せ魅了する。
「ご、ごめんなさい」
中身の事は分かっていてもつい敬語になってしまう。何故だ?
「まあいいわ。秋魅からのバトンタッチということで続きをしましょ♪」
冬音さんの暴力的なナイスバディが俺に迫る。俺は彼女の動きに反応できず密着する肌と肌。
秋魅ちゃんのものとはまるで質量が違う、Gカップのバストがこっちに押し付けられる。
「ウフフ、アタシの体はどうかしら? お気に召して?」
さっきと同じように俺の手を取り、胸のふくらみへと誘導する。
「さあさあ夏クン、遠慮しないで触って良いんだよっ」
むにゅっとした柔らかく心地よい感触が、両指に伝わってくるのが分かる。
こ、これが女の人のカラダなのか。バクバクと心臓が高鳴り体が火照ってくる。
「どう?」
「す、すごくすべすべしてて柔らかい…です」
よくよく考えてみたら、秋魅ちゃんの小さな体の中にこんな大きなのが隠れてたんだよな。
皮にせよ中身にせよ、一体どういう仕組みになっているのやら。
「フフ、可愛いわね。でも触るだけじゃ満足できないでしょ? その先に行ってみない?」
「その先って?」
笑いながら冬音さんは俺の顎を指先でクイッと持ち上げ、目を覗き込んだ。
「もちろんキミとアタシがひとつになって、人間カスタネットになるのよw」
「ひ!、ひとつに…!?」
「そうよ。今のアタシたちは一対のオトコとオンナ。♂と♀、凸と凹。不完全な互いのカラダを埋めあうの。
ホラホラ夏クンの大事なトコロがテント張ってるわよw」
大変悔しいが彼女の言う通り、俺のカラダの一部分は大変なことになっていた。
理性は絶え間なく相手は男だと警告を鳴らすが、眼に映る美女を目にした本能はそのアクセスを拒絶。
「何も我慢することはないわ。ココロもカラダも全てアタシに解き放って…」
とどめの一撃。もう中身の事なんかどうでもいい。滾る本能のままに俺は冬音さんを押し倒した。
『えーんくやしい。ポッと出のお姉ちゃんに好きな人の初めてを横取りされるなんて……』
『ちくしょー。オレッチだって、あと何年かしたら冬ネーチャンに負けないカラダになってやるんだ…』
不意に春風と秋魅ちゃんの声が背後からかかり、思わず振り返りそうになるが、
二人の声に合わせて冬音さんの唇がほんの微かに動いているのが分かった。腹話術だ。
妹たちの声を作り、声飛ばしのジュツで声を背後に飛ばす合わせ技。ホント器用な奴だな。
「夏クン、ボーっとしてないで続きよ続き」先に邪魔を入れたのは誰だよw

気を取り直して彼女の水着のファスナーを下ろしながら、水着の中に手を入れようとしたその時。
「お、ここ空いてんじゃーん!」
明るい声と共に数人の人影が洞窟の中に入って来た。
「「ゲッ!」」
小声でハモリながら、俺たち二人は岩壁の影に身を隠す。
「夏クンこっちに!」
冬音さんがキャリーバッグから、大きなマット状のものを取り出して広げる。
それの表面は周囲の地形に合わせて色や模様を変える。漫画やアニメに出てくる光学迷彩のマットだ。
子供の頃かくれんぼでそれを使ってたの思い出すな。二度目の時マットに『しるし』を付けて攻略したのを覚えてる。
「う…。嫌な事を思い出させてくれるわね…」嫌も何も、あの時ズルをしたのはそっちだよw
乱入者は水着姿の男女のグループ。大学のサークルだろうか? その数およそ7人。
和気あいあいと入り口近くでバーベキューの準備を始めたり、カップルらしいのが俺たちの近くでイチャ付き始めたり。
おのれ陽キャ集団め。こっちだって美女とイチャイチャしたかったんだぞ。
「この調子じゃ、すぐに出られそうにないわねー」
狭いマットの中、冬音さんが身を寄せてきて再び二人は密着。
俺の大事なトコロに冬音さんのお尻が当たる格好になり、ソコは激しい反応を示している。苦しい。
「夏クン。気持ちは分かるけど、キミのソレもうちょっと何とかならない?」
無理なことを言わないでいただきたい。あと小刻みに体揺すったりするのやめてw

……………あっ。

■■■■■

陽キャ集団の隙を見て洞窟から出られた時には、すでに日は暮れてしまっていた。
あれだけ沢山いた海水浴客もすでに帰り、人影もまばらな砂浜を冬音さんと二人で歩く。
今日はもう終わりか。思い残すことはあれど色々と楽しかったな。
姿形、いや見た目の性別まで違えど、久しぶりに紀与丸にも会えたわけだし。
「ん? 何言ってるの夏クン? まだまだ夜はこれからよ」
こちらに向かってウィンクしつつ、冬音さんはスマホをポチポチ。
「えっ? でももう夜ですし、今からナニをシても帰りのバスがなくなっちゃいますよ」
「フッフッフ、こういうこともあろうかと冬音おねーさんは、ちゃーんと保険をかけておいたのです」
話ながらスマホの画面をこちらに向ける。そこに映っていたのは。
「じゃーん! 海辺のホテルを用意してたのよ! 邪魔が入らず二人で夜を楽しめるわ」
一泊うん万はしそうな高級な部屋だ。イヤイヤ冬音さん。俺その、そんなとこに泊まるお金ないです。
「ノンノンノン心配ご無用。実はキャンセルされた部屋を格安で借りたの。
だから費用はアタシが持つわ。キミに負担はナッシング。それでノープロブレムかしら?
お礼なら…そうね、次会うときにランチでも奢ってもらうとゆーことで。
さあさあ、そうと決まったら部屋にレッツゴー。遠慮はノーサンキューよ!」

そして数十分後、俺たち二人は最上階のスイートにいた。
部屋の作りは極上。リビングだけでも相当広いんではなかろうか。
置かれた調度品も良くは分からないが高級そう。こんな広い空間をたった二人で占拠するのは何だか申し訳ない。
「お待たせ―。夏クン」
お色直しを済ませた冬音さんがリビングに入って来た。
「ウフフ。こういう姿も見せたかったんだー」
そう言いながら彼女は入り口の近くでクルリと一回転。
胸元と背中が大きく開いた黒一色のドレス。さっきの水着にも負けない煽情的な衣装だ。
「どうかしら?」
向かいのソファに腰を下ろして脚を組む。スカートの中が見えそで見えないのがモドカシイ。

「う、うん。すごく…良いです」こんな感想しか出せないのか俺は。
「さあ、ハッスルする前にまずは食べましょ♪」
ブドウジュースをグラスに注ぎ、乾杯。少し前にルームサービスが持ってきた夕食を楽しむ。
普段食べているものとまた違った料理の数々は、俺の舌と腹を存分に満たしてくれた。
ルームサービスが空になった食器を片づけた後、冬音さんは扉に鍵をかけ、俺に向かって小悪魔のように微笑んだ。

「ウフフ…それじゃ始めようかー、夏クン。今度は誰の邪魔も入らないわ」
衣擦れの音と共に脱ぎ捨てられたドレス。その下から現れたのはニプレスと黒いショーツ姿の冬音さんだ。
『黒は女を美しく見せる』とはよく言ったものだと思う。実物を見れば尚更だ。
全てが作り物だと分っていても、たぎる興奮を抑えきれない。
「でもその前に、と」
後ろを向き、脇に置いていたキャリーバッグの傍らに屈んで錠を開く。
中から現れたのは午前に見た変装用の皮/かわ/kawaの数々だ。
様々な顔、様々な髪の色、様々な体型の、抜け殻になった女たち。
皮の作りも様々だ。全身が一体で造られているもの、上下や三つで分割されているもの、背中から巻き付ける形式になっているようなものも。
「外にいた時はこの子たちの出番がなかったからね。せっかくだからお披露目しておかないと♪」
皮たちと共に冬音さんの姿が照明の影に隠れた。シュルシュルと擦れるような音がしたと思うと再び姿を現す。
だがそれは全く別の姿として、だ。
「やっほー夏輝君久しぶり。GW以来だったよね」
「えっ? そ、その顔は…!?」
その顔、その声は紀与丸と同じ中学時代の幼馴染、双葉のものだ。
機械体操部の薄紅色のレオタードを身にまとい、クルリと華麗にバク宙を決めて再び影の中へ。

再び暗闇の中から現れたのは、またしても別の顔。
腰まで伸びたストレートロングの黒髪。縁なし眼鏡に凛とした顔。
しわ一つないダークグレーのスーツに、黒ストッキングに覆われた引き締まった脚。
「佐々錦くん。無事に高校生になったからって、遊び惚けてはいないかしら?」
中学時代の担任だった、葉月みのり先生の姿だ。
そこからソファの後ろに反転。影に潜るごとに次から次へと変装職人の姿が変わって行く。
「フフフ…」「わたし達も」「ここに居るヨ」
中学時代のクラス委員、保健医の先生、近くのパン屋のお姉さんの姿へと。
そして極めつけは、
「じゃじゃーん! どう驚いた? お兄ちゃん?」
小学五年生になる俺の実の妹、佐々錦有輝(ささにしき ゆうき)の体操服姿がそこにあった。
「リクエストがあるならスク水姿になってもいーよっ。えへへ」
オイオイ勘弁してくれよ。俺はそういう趣味はだな…、って、紀与丸オマエまさか妹を覗いたのかっ!?
「ご、誤解だよ! 大体うちで覗きとか無理でしょ? 腕の立つお父さんと四人のお兄ちゃんもいるんだし」
む。それもそうか。でも相手は変幻自在の忍者少年。親父と三人の兄と俺、どこまでガードがきくか分かったもんじゃない。
「えーん、お兄ちゃんの顔がこわいよー。こーいうのは好きじゃなかったかな?
まあこれも選択肢のひとつとゆーことで覚えておいてっ。これで大体の子たちは紹介できたかな。さてさて兄ちゃん」
妹の姿をした若き忍者は跳躍して再び物体Xの中へ。出入りする度めまぐるしくその姿は移り変わっていく。
「さあ、なっくん。あなたは誰と遊ぶ?」バニーガール姿の春風がほほ笑む。
「よーよーニィチャンもといご主人サマ。オレッチも居るぜー。うへへ」フレンチメイドの秋魅ちゃんが笑う。
「夜は長いわ。一人と言わず全員と…じゅるる…」ハイレグチャイナの冬音さん、よだれ垂らして残念な人になってますよ。
もちろん最初の相手はもう決まってるんだな。
秋魅ちゃんはまだ子供だし、冬音さんは美人だけど俺じゃ釣り合い取れる感じしないしさ。
俺にとっての一番は、やっぱりはる……。

■■■■■

か、と言い終わる前にジリリリというベルの音で、俺たちは現実に引き戻されてしまった。
「え、なになに? これって火災報知器?」
冬音さんは落ち着いた様子でハイレグチャイナの上に半袖のワンピースを纏い、春風の顔を被る。
大人のナイスバディに少女の顔という組み合わせ。これもまた反則だよな。
「そうみたいだ。ちぇっ、良いところだったのに」
またもお預けをくらい、悪態をつきながら扉を開けると焦げた臭いが鼻をつく。
少し間を開けて周りの客室からも出てくる人人人。
遅れてやって来たホテルの従業員サンたちが客の避難誘導を始めている。
しかし、誘導に従わず火災現場へ走ろうとして静止される人影が。若い女の人だ。
「お願い行かせて! 西側にまだ私の子供が! 赤ちゃんがいるの!」
「待ってください。今は危険です。後は消防にまかせて!」
やり取りを聞いていた春風の顔色が変わった。今日初めて見る彼女のシリアスな表情。
「今やれることはやっておきたい。なっくん、頼れるのはあなただけだよ。手伝ってくれる?」
いつしか見た紀与丸の本気モードの顔が彼女と重なった。やっぱり人助けに行くつもりか。
ああもうお節介焼きめ! そんな目で俺を見ないでくれ。やるよ。やりますって。
「赤ちゃんはあたし達が助けます。今は避難を」騒ぐ女性にそっと耳打ち。
静止を振り切り俺たちは西側へ。文字通りの鉄火場だったが春風は臆せず飛び込み、俺が後ろに続く。

結果。
火事場に取り残された小さな命は、春風と俺で無事に救い出すことが出来た。
西側はかなり火が回っていて、行かなければ赤ちゃんは危なかったかもしれない。
春風は自分の皮で赤ちゃんをガードし、炎の中を突っ切って救い出したわけだ。
しかし代償は大きかった。脱出後も火は広がり続け、俺たちが泊まる部屋も炎の中に。
置きっぱなしになってた物体X、もとい皮は炎の中に。いや、皮はまだ自作できる。
紀与丸にとって一番の打撃は持ち込んだ衣装の数々だった。
春から夏にかけて、コツコツとバイトして稼いだお金で服をそろえていたわけで。
今その努力の全てが灰になってしまったというわけだ。そしてこっちは皮と違って自作はできない。
「うわーん(泣)。俺の『服』が-」
皮を脱ぎ、男の姿に戻った紀与丸はただただ号泣。まあ無理もないわな。
近くには脱ぎ捨てた三姉妹の皮。赤ちゃんと『中身』を炎から守った彼女たちもまた、焼け焦げて穴だらけの無残な姿に。
「三人とも熱かっただろう? ごめんよぉー、ちゃんと治してやるからなー」
鼻水をすすりながら、姉妹たちをバッグ(俺のだ)の中へ。
その姿を見てると何か後ろめたい思いが胸を打つ。今日紀与丸は俺の為に色々と用意してくれてたわけだしな。
寸止めばかりとはいえ楽しかったし、恩返しの一つや二つはしておくべきだろ? 友人的に考えて。
落した肩にポンと手を置く。
「そう気を落とすなって。俺も『協力』するからさ、紀与丸も元気出してくれよ」
「う、うん」涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになってるぞ。
「金が無いならバイトしてカンパもするからさ」
「ホントか!?」
泣き顔から一転して紀与丸の顔がパッと輝く。この展開秋魅ちゃんの時と同じだな。
「だったら夏輝にもうってつけのバイトがあるんだ! お前確か『コツカケ』使えたよな!?」
金的を守るための武道の技の一つ。確かに使えるがそれはどういうバイトなんだ?
コイツの言うことだから30分で5万とかヤバイものではないだろうけど、なんか嫌な予感がしてきたぞ。

■■■■■

もちろんその予感は大当たりだった。
一週間後バイトの『説明と準備』をしたい、との紀与丸からの連絡があり、朝早くに彼の家を訪ねることになった。
「よく来たなー」と奴から差し出された麦茶。ほんの少し変な臭いと味がしたが、渇きからすべて飲み干したのがいけなかった。
ものの数分も経たないうちに全身が痺れ、俺の体は完全に動かなくなった。
「よしよし効いてきたな。では始めようか―」何か言ってやりたいが口がもつれて喋ることも出来やしない。
無から有を作り出す芸術家さながらに、奴は俺の体を作り替えた。
関節と筋肉を操作して身長と肩幅が、イヤそれだけじゃなく全体の体形が丸みを帯びたものへと変化していく。
俺の大事なトコロもこの過程で体内に押し込まれ。脚の間はつるっつるの何もない状態に。
「よしよし夏輝の体は素直でうらやましいなー。オレがじいちゃんにされたときはホントに痛くてなぁ」
オマエは自分が痛かったことを平気で他人にやるのか(怒)。くそ、怒鳴りたいが声が出ない。
「仕上げだぞー」とばかりに新調した鞄の中から取り出したのは三枚に分割された『皮』。
「よろこべ夏輝君。我々の手で君は新しい姿に生まれ変わるのだw」昭和の悪の秘密結社かな。
作り替えられた体の上に新しい皮膚が重ねられ、俺自身が覆い隠されていく。
最後に頭がすっぽりと皮に包まれて俺の視界は闇の中に。グイグイと皮を引っ張られる内に光が戻って来た。
「完成! ナツキ、これが君の新しい姿だ! 見ろこの完璧な出来栄えを!」
部屋の端っこにある大きな鏡をこちらに向ける。そこに映っているのは『俺』ではなかった。面影すらほとんど残っていない。

黒髪ポニーテールで長身の少女がそこにいた。筋肉質かつ出るとこは出てるグラマラスボディが魅せる。
凛としたツリ目気味の顔立ちはどこか見覚えがあった。表情こそ固いが春風の面影が重なる。
「さあ『なっち』、裸のままじゃ駄目だよ。早く着替えた着替えた!」
いつの間にか隣には紀与丸転じて春風の姿。とはいえコイツの早変わりも慣れてきたもんだ。
で、『なっち』って何だよ? あれ? なんだか声もおかしいぞ。声帯も弄られたのか。
「なっちはなっちだよー。今のあなたは雄町夏『樹』(おまち なつき)ちゃん。雄町『四』姉妹の三女であたしの双子の妹。
さあさあなっち、あたしのことはおねーちゃんと呼んでいーんだよっ!」
双子とは言っても、顔の造形が同じだけで背丈はこっちの方が頭半分近く高いし、体つきは筋肉質だ。
「『中身』が大きかったから仕方ないね」これでも努力したんだよ、えっへんと春風は胸を張る。
それからちょい待ち。話が全然見えてこないぞ。俺がキミの妹になることと、バイトの話がどう繋がっているんだ?
「ハイ駄目―。女の子なんだから『俺』じゃないでしょ? 『俺っ娘』もアリだとは思うけど秋魅んとキャラ被りするじゃない?」
ハイハイ言い直すよ。『私』が『姉さん』の妹になることとバイトの話、どこに繋がりがあるわけ?
「よしよし合格―。おねーちゃんがナデナデしてあげよう♪」
用意された女物の下着と服を悪戦苦闘の末に攻略した後、件のバイト先で詳細を聞くことに。
女性用下着の着心地は思ったより悪くない。でもスカートの中はスース―して何だか落ち着かないな。

春風≧紀与丸が持ってきたバイトの話、それは彼女の親戚が経営するコスプレ喫茶のウエイトレスだ。
オーナーは当然紀与丸のジュツの事も理解があって、二人とも高給で雇ってくれるのだとか。
見た感じは40代くらいの気さくそうな中年男性。ちょっと生え際が危ない感じか。
「へー、君が紀与丸君のお友達か。ここまで変われるなんて大したもんだねー」
イヤイヤ、大したのは俺じゃなくて作り替えた紀与丸であって…。
ってか、気にするのはそこじゃないでしょ? 俺たちホントは男なんですよ。こんなの雇っていいの?
「時給は口止め料込みだからね。くれぐれも秘密厳守でお願いするよ」
え? ひょっとしてここで働いてる人たちってまさか…?
「ははは、それは勘繰りすぎだよ。『特別』なのは君たち二人だけさ。
今は人手不足でねー、春風ちゃんにはピンチヒッターをしてもらってたんだけどそれでも追いつかなくてね。
お客さんには騙してるようで申し訳ないけど、これは緊急措置ということで。
じゃあ春風ちゃん、今日はシフト外だったけど夏樹ちゃんの研修お願いね」
「はーいっ。店長さん!」
春風に見送られてオーナーさんが立ち去り、部屋には俺と春風…じゃない『私』と『姉さん』が残された。
姉さんの瞳が影の中で怪しく光る。あれ? またしても嫌な予感。
「さあさあ早速研修だよなっち。女の子になりたてホヤホヤのあなたに、おねーちゃん『達』が女のアレコレを教えてあげよう」
ちょっ! いきなり抱きついて後ろに回り込むなっ! こ、これって何だかアブない態勢になって来たぞ。
「うへへ。なっちねーちゃんのカラダもええのう。けしからんパイパイしやがってからに、ぐひひ」
抱きついたまま秋魅の姿に脱皮して、頬をすりすり胸を揉み揉み。うう、くすぐったいよう。
「フフフ、お客さんを虜にするにはまずエロい表情をマスターするのよ♪」
再び皮をめくった先は冬音姉さんの姿。太もも同士が触れ合い、こそばゆいとも何とも言えない感覚がこっちをドキドキさせる。
いつの間にやら服を取られ再び下着姿に。クロゼットがピシャッと開くと、中には可愛らしいものからキワドイものまでの沢山の衣装。
「まずは衣装合わせだね。なっちは体格良いからアタシと同じセクシー路線で攻めると良いんじゃないかしら?」
取り出したのはバニースーツ、ビキニアーマー、それとピッチピチの退〇忍スーツか。いずれも肌色率高めのキワドイ奴ら。
「ウフフ、一度こんな衣装の女の子に悪戯してみたかったんだー?」
それが本音かよ! ああ、コレ研修にならない奴だ。でもいいか。ただ流れに身を任せよう。
古びた空調の音が響く更衣室の中で、二つの少女の影と声が重なった。

この日を切っ掛けに俺、佐々錦夏輝は紀与丸と同じように幾つもの裏の顔を持つようになるのだが、それを話すのはまたの機会になりそうだ。(完)
うp主です。投稿させてもらったのは数年ぶりになるでしょうか。
こういう突拍子もない友達欲しいなー、なんて妄想しながら書いてましたw
はるか昔の作品https://www.tsadult.net/g.megalith/?mode=read&key=1301704511&log=1
https://www.tsadult.net/g.megalith/?mode=read&key=1332550238&log=2
の外伝的作品になります。
とはいっても主要人物の名前や性格がコロコロ変わってるので、緩いパラレルだと思ってもらえれば幸いです。
かわらば
0.1720簡易評価
3.100清彦
面白かったです。

続編楽しみにしております。
7.100きよひこ
(*^ー゚)b グッジョブ!!
18.100sfbluepan
作者の創作継続が見られます。
とても嬉しいです。
あなたの作品は全部とても良いです。
将来の作品が楽しみです。
pixivがありますか?
20.無評価きよひこ
お久しぶりです!
皮モノ忍者いいですね!!!
21.100S44
ありがとうございました!
Thank you very much!
かわらば-さんの作品はベストです!
Kawaraba-san's work is the best!