「気」を受けるアルバイトをやってみませんか。
年齢性別不問。時給1000円。
ある少年が、「やってみるかな、どうせ暇だし」と、ある日、電話で申し込んだ。
不問の筈だが、年齢性別の他に、身長体重も聞かれた。
拘束時間は24時間と言う。
「もちろん、寝ている時間の分も払いますよ」
たまたま、両親のいない日があったので、その日で申し込んだ。
「2万4千円か」
その時は気軽に考えていた。
行ってみるとそこはガランとしたマンションの一室だった。
「これから行うことはちょっとした実験です。害がないと推定される薬を飲んで害がないと証明する、そういう試験みたいなものだと思っていいです。もちろん、ここで帰りたければ帰ってかまいません。やっていただけますか」
少年の頭には2万4千円がちらついていた。買ってみたかったゲームのことなどが頭に浮かんだ。
「いいですよ」
少年はあっさりそう答えてしまった。
「それでは上半身裸になって、そこのストレッチャーに横たわってください」
男は、壁の端にあったストレッチャーを指さしてから、それを寝られる形に変形させた。
「立って気を受けるんじゃないんですね」
「空手か何かと勘違いしないでくださいね。リラックスした状態で受けてもらいます」
少年は上半身の衣服を全て脱いだ。
「おや、痩せているのかと思ったら、意外に筋肉質ですね」
少年は第二次成長期で子供が大人の男になろうとしている時期だった。
「そう言えば中学生でしたね」
「何か問題がありますか」
「中学生のアルバイトですか。法律上は、健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なもの、であれば良いんです。これから行うのは、少なくとも新聞配達よりは軽易な仕事ですよ」
男は横たわる少年のへそに右手の手の平を当て、その甲に左手の手の平を当てた。そして両手を開いたり閉じたり何本かの指を立てたりしてから、また開いた手の平を当てた。
「それでは、へそから気を入れていきます」
「うぐっ」
(体が、動かない)
「ああ、心配しないでよい。気が入ると、神経が随意筋の動きを止めてしまうんだ。気功で飛ばされる人を見たことがあるかな。横たわっているけれども押される感じがするだろう。いや、返事が出来ないのはわかっている。答えなくて良い」
「気を体に入れること自体、人体に悪いことはない。安心していい」
男の声からはいつの間にか丁寧さが無くなっていた。
「ただ、それによってどんな変化が体に生じるのかを確認したい」
(変化?)
「ふふ。あそこが立っているのがズボン越しにもわかるね」
(くそっ。さっきから、なぜか興奮して)
「気が満ちるのは精力剤代わりになる。気で肩こりが取れるというのも血行が良くなるからだ。別に恥ずかしいことじゃない」
(そうなのか)
「ただ、ここまでは一般的な気の話だ。ここからは違う」
「光のスペクトルの話は知っているかな」
(たしか、プリズムで光の色を分けるとかなんとか)
「太陽の光は様々な色が混ざって白色光となっている。それをプリズムに通すと赤や青といった色に分けられる。分けられた色の帯をスペクトルという」
(それは学校で聞いた気がする)
「さて、そこで気だ。気にも陽と陰がある。ただ何も考えないで気を放つとこれが混じった状態になる。私は工夫して陽の気、あるいは陰の気だけを放つことができるようになった。今は手の平だけを君のへそに当てているが、放つ前にちょっとした印を結ぶと陽の気を体に戻して陰の気だけを放つことができる」
(わかったような、わからないような)
「陽の気は男性的、陰の気は女性的と言われている。わたしはいま、男性の君に、陰の気だけを放っている。そこで何が起こるかな」
(え?)
「ネズミでは成功した。解剖もした。ウサギでも成功した。完璧だ。次に人間で試したくなるのは人情ではないかな」
(な、なにを言ってるんだ)
「ズボンの布越しから見える膨らみが、小さくなってきたような気がするな」
(あ、そう言えば、あそこが立っている感じが無くなっている)
「まず、第二次性徴が失われるところから始まる。自分からは見えないだろうが、少し突き出た喉仏と男らしい胸の筋肉が無くなってきた」
男はその間も手の平を少年のへそに当て続けていた。
「性に関する体の部分だけが選択されて変化する。細胞死と再生が君の体で繰り返されている。君が女に生まれていたら、どんな顔で、どんな体だったか、それが具現化される」
(俺は、女になるっていうのか。冗談じゃない、くそっ)
「君が体を動かそうとしているのは気の動きでわかる。だが、無駄なことだ。この場では受け入れなさい」
(できるか。くそっ)
「陰の気で男が女になるのなら、陽の気で女を男に戻すのも簡単だ。安心してくれ。君が望まない限り、この部屋に入った時から24時間後には男に戻してアルバイト代と一緒に帰してあげよう」
(そうなのか。信用できるのか)
「私は嘘はつかない」
男は話を続けながらも、手の平を少年のへそに当て続けた。
「第二次性徴のあとは、第一次性徴が変化する」
(あ、ぐっ、タマがっ)
「ちょっとした衝撃が、この手の平に伝わってきた。陰嚢に入っていた睾丸が体内に引き込まれたね」
(あ、な、なくなっていく)
「ペニスはしぼんで、豆粒のように変わっていく」
(股のあたりが、変だ。なにもかもが無くなっていくような)
「性の発生過程は逆戻りしていく。ネズミで実験した時、このあたりで気を入れるのをやめて解剖したことがある。そのネズミは、体は大人の大きさだったのに、性器は生殖管しかなかった。胎内にある時の未分化状態になっていた」
(俺の体は、どうなっているんだ)
「これから君の体は女になっていく」
(あ、股が、くっ、何かをねじ込まれたみたいに)
「変化はまず穴が縦方向に進む形で起こる。まず膣が形成される」
(下腹部で、何かが膨らんでいる)
「次は子宮だ。胎児を育てるところだ」
(下っ腹の横のほうも変だ)
「卵巣が発達し、卵管が卵巣と子宮を繋げる」
(股が、なんだかむず痒い)
「尿道口はすでに子宮口の上側に出来ている。さらに陰核や陰唇が発達して、大人の男性を受け入れられる形になっていく」
(胸も、なんだか)
「胸が膨らんできたのが見えるよ。乳首は君の年頃だと敏感かもしれないね」
(下っ腹がなんだか、重い)
「君の体から、陰の気を感じるな。恐らく、生理だろう。変化の途上で初潮があったということだ。もう止まったが、少しばかり、血が出たかもしれないね」
(本当に俺は、女になってしまったのか)
「髭も根元から落ちた。ズボンの中のすね毛も無くなっただろう。なかなか可愛らしい顔だ。もし女のままでいたら美人になると思うよ。よし、終了だ」
男は少年、いや、少女のへそから手を離した。
少女はすぐには声も出せないし、体も動かなかった。
「あー」
声が出るようになると頭を動かした。頭は重かったが、どうにか上半身だけは起き上がることができた。目線を下に落とすと、自分の胸がわずかに、しかし間違いなく、膨らんでいるのが見えた。
まず浮かんできたのは怒りだった。人の体を勝手に変えやがって、と。
「この野郎」
男の顔を殴ろうとしたが、その拳は男の手の平で簡単に止められた。ぱふっ、と情けない音がした。筋力が無くなっていることが、否応なく感じられた。
「女の子に、そんな暴力は似合わないよ」
男はそう言いながら微笑んだ。
「早く俺を元に戻せ」
「最後にこの部屋を出る時は戻してあげよう。ただし、拘束時間は24時間だ。まだ20時間以上ある。それまでは私に従ってもらう」
「ふざけるな」
少女がストレッチャーを下りてまた男に殴りかかろうとすると、男は両の手を合わせて手の平を少女に向けた。
「ハッ」
少女はまたストレッチャーに押し戻された。
「私は気を使える。忘れないように」
逆らっても勝てないことを、少女は感じた。
「くそっ」
「女の子が上半身裸では恥ずかしいだろう。男物のズボンを穿いているのも妙だ。隣の部屋に今の君にふさわしい服が用意されている。着替えてきなさい」
しぶしぶ少女は隣の部屋に向かった。背中越しに男は声をかけた。
「鏡もある。じっくり選んでいいよ。女の子は服を決めるのに時間をかけるものだ」
隣の部屋に入ると、確かに全身の映る鏡があった。そこに上半身裸で、男物のズボンを穿いた少女が映っていた。
「これが、俺? うーん」
当たり前だが自分の顔に似ている。でもまごうかたなき女の顔だった。
「可愛いかもしれない」
そう思うと少し安心した気がした。
着替えるために服を全部脱いだ。男物のパンツを見ると染みがついていた。柄物のトランクスなので目立たないが、黒っぽくて血のようだった。
「これが生理?」
自分が女であることが、生々しく感じられた。
パンツを脱いで全裸で鏡の前に立った。女になりかけている少女の体がそこにあった。
「うー、股に薄い毛しかない。本当に女だ」
裸でも空調がほどよく効いていて、寒くはない。
「だが、女が裸のままというのもな」
女らしい羞恥心が芽生えたわけではなかった。しかし、隣の部屋に男がいる以上、何か着なければならないだろう。
振り返ると長机に女物の服が並んでいた。その中で、薄青いビキニが目に入った。
「着てみようか」
少年は水着スタイルのグラビアアイドルに興味を持ち始めた年頃だった。どこで留めるかわからず、苦労してビキニを着てみた。
「髪を上でまとめてツインテっぽくしたら」
と好みのタイプの髪型を思い浮かべつつ鏡を見た。
少女のふくらみ始めた胸はまだ小さい。
「貧相だな。ビキニはまだ早いよ、ってやつだ」
少々がっかりした。普通の服にしようと思った。
服が何種類か並んでいた。パッと見て、サイズは合いそうだった。
そう言えば、最初の電話で身長と体重を聞かれていた。女になった時の体型まで考えてあの男がこれらの服を選んだのだろうか。どんな顔をして買ったのだろう。いや、ネット通販だろうか。
ともかく、下着から着てみた。
「パンティーがちっちぇー」
ブラジャーが何種類かあったが、一番小さいのが合いそうだった。少し悔しい気がした。
胸を覆う黒のスウェットに、薄緑の羽織るものをかけて、女物の紺のパンツを穿いた。いろいろ見たが、それが最も無難な装いだった。
「しかし、へそが」
へそを隠せる服は無かった。体の前で合わせるだけの幅が無いのだ。
着替えを終えた少女は、男の待つ部屋に戻った。
「さあ、言う通りにしたぞ。これでいいだろ」
「ふ、ふ、ふ。実にいい眺めだ。強制的に女になってしまったばかりではなく、へそまで人前にさらしてしまった気分はどうだい?」
「この格好をして、明日になったら男に戻すんだろ」
「もちろん、わたしは嘘はつかない。だが、君が泣いて女のままにしてくれ、と言うのなら話は別だが」
「そんなバカなことを言うわけないだろ」
「はて、そうかな。ちょっとそこに座ってみてくれ」
少女がストレッチャーに座ると、男は少女のへそに手の平を当てた。
「うぐっ」
衝撃を受けて、少女はまたストレッチャーに仰向けで倒れた。
「ポルチオ、という言葉を知っているかね」
「知、らねえ」
「膣と子宮の境目、子宮口だ。ここにペニスを入れてつついてやると、女はえも言われぬ深い快感を得る。しかし、実はここにはクリトリスやGスポットのような快楽を得られる神経などない。どういうことかわかるかな」
「あ、うっ、うぐっ」
「子宮口を作用点として中から内臓を揺らしてやる。それが女の快楽を生む。ふふ、女体とは不思議なものだ」
「へそが、熱い」
「赤ん坊の頃、へそは母体とつながっていた。栄養源を送られると同時に、人を人たらしめる気の入り口でもあったのだよ」
「き?」
「私はへそから気を送って君の子宮口を揺らしている。ふふ、女をいかせるのにペニスを入れる必要などない。だが、さっきと違って、入れている気は体を変えてしまうほどのものじゃない。弱いものだから、声は出せるよ」
「あ、あ、あう」
「初めて味わう女の快感はどうだね。ポルチオで得る快感はクリトリスを撫でる自慰などとは比べ物にならないというが」
「や、やめ」
「ほう。やめろというのか」
「おかしく、な……」
「深い快楽に恐怖心を抱く女性は多い。オーガズムとは理性を失うことでもある」
「や……だ」
「言葉が子供に帰っているぞ。ふふ、悦楽を貪るのは人間も獣も変わらぬ。大人が幼児に、さらには人が獣に退行するようなものなのかもな。雌の獣に」
「あ、あう、あう、あ」
「女になったばかりで、女の快楽を強制的に与えられる気分はどうかな?」
「くっ、うっ、あっ」
「もちろん、君を犯しているわけではない。肌を撫でるわけでも胸を揉むわけでもない。これは犯罪では全くない」
「ひいっ、あっ、ああっ」
「まともな声も出せなくなったか。君、男性は痛みに弱く、女性の陣痛に耐えられない、という俗説を聞いたことがあるかね」
「くうっ、あうっ」
「痛みはともかく、男性は、女性の快感に耐えられるのかね?」
「ああああっ」
「そんなに感じているのか。まだ処女だというのに。女になったばかりで、小便もしたことがない。あそこを触ったことも無いだろうに」
「くうううっ、はっ、あっ」
「顔をのけぞらせて足先を反らせて、息も絶え絶えだな」
「あっ、うっ、く」
「声も切迫してきたな。いよいよいきそうだ」
「くっ、んっ、んむっ」
「ふふふ。声らしい声ではなくなってきたな。体が震えてきた」
「…………っ」
「白目を剥いて、体が痙攣して、いよいよいったか。いく時は声が出ないタイプだな」
「はぁー、はぁー、はぁー」
「処女で妊娠なら処女懐胎だが、処女でポルチオ中イキというのは何と言うのだろうな」
「さて、まだ男に戻りたいかな」
「も、ちろん、だ。オレ、は男」
「そうか。よし、二回戦と行こうか」
「卑怯だ」
「24時間、私と過ごしたら男に戻すとは言った。だが、何回いかせると回数を決めたわけではないよ」
「や、やめ……」
「やめない」
男はまた、女のへそに手の平を当てた。
「あ、あう、あう、あ」
「脳内麻薬というのを知っているかね」
「知ら、な」
「性的快感を得ると男でも女でも脳内麻薬が出る。君も男の体の時は、一度自慰を覚えたらやめられなくなっただろう。一度この麻薬の味を知ってしまうと、体が求めてしまう。ただ、男と女では脳内麻薬も種類が違うのだよ」
「あっ、うっ、く」
「さて、どれほど女の脳内麻薬は強烈なのかな」
「くっ、んっ、うむっ」
「ただ、恐らくは、何度もこの麻薬に晒されれば、立派な中毒者、ジャンキーになってしまうんだろうね」
「…………っ」
「ふふふ。さっきよりもいくのが早い。脳が快感を受け入れやすくなっているんだ」
「さて、またやろうか」
「も、もう、やめ」
「ふふふ。遠慮はいらない。男は女をいかせたいものだ。性行為の時、自分がどれだけ気持ちよかったかよりも、女をどれだけ気持ちよくさせたかを気にする男は多い。なぜだかわかるか」
「あ、あう、あう、あ」
「女をいかせることが出来れば、その女は自分と離れられなくなる。自分のものになる。それを本能的に知っているのだろうな、男は」
「くっ、んっ、んむっ」
「君は、私を見る度に、私の手でいかされたことをことを思い出す。へそから気を送られてエクスタシーを得たことを。そしてまたいかされたくなる。女の快感に支配される。私の手が欲しくてたまらなくなる」
「…………っ」
「休みなどはないよ。次に行こう」
「駄、目、もう、何、も、考えられない、頭、いくことしか」
「そう、君は、快楽に溺れるだけでいい」
「あ、うっ、またっ」
「男に与えられる、女の体の気持ちよさを、存分に味わうんだ」
「くっ、んっ、んむっ」
「それが女になった幸せというものではないかね」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「さてと。時間が経つのは早いものだ。君を男に戻そうか」
「や、め、」
「残念だが、戻すのが約束だからね」
「男に、戻さないで、ください」
「おや、目に涙を溜めてどうした?」
「女の、ままで。なんでも、なんでもしますからぁ」
こうして少年だった彼女は、処女のまま性奴隷となった。
<了>
年齢性別不問。時給1000円。
ある少年が、「やってみるかな、どうせ暇だし」と、ある日、電話で申し込んだ。
不問の筈だが、年齢性別の他に、身長体重も聞かれた。
拘束時間は24時間と言う。
「もちろん、寝ている時間の分も払いますよ」
たまたま、両親のいない日があったので、その日で申し込んだ。
「2万4千円か」
その時は気軽に考えていた。
行ってみるとそこはガランとしたマンションの一室だった。
「これから行うことはちょっとした実験です。害がないと推定される薬を飲んで害がないと証明する、そういう試験みたいなものだと思っていいです。もちろん、ここで帰りたければ帰ってかまいません。やっていただけますか」
少年の頭には2万4千円がちらついていた。買ってみたかったゲームのことなどが頭に浮かんだ。
「いいですよ」
少年はあっさりそう答えてしまった。
「それでは上半身裸になって、そこのストレッチャーに横たわってください」
男は、壁の端にあったストレッチャーを指さしてから、それを寝られる形に変形させた。
「立って気を受けるんじゃないんですね」
「空手か何かと勘違いしないでくださいね。リラックスした状態で受けてもらいます」
少年は上半身の衣服を全て脱いだ。
「おや、痩せているのかと思ったら、意外に筋肉質ですね」
少年は第二次成長期で子供が大人の男になろうとしている時期だった。
「そう言えば中学生でしたね」
「何か問題がありますか」
「中学生のアルバイトですか。法律上は、健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なもの、であれば良いんです。これから行うのは、少なくとも新聞配達よりは軽易な仕事ですよ」
男は横たわる少年のへそに右手の手の平を当て、その甲に左手の手の平を当てた。そして両手を開いたり閉じたり何本かの指を立てたりしてから、また開いた手の平を当てた。
「それでは、へそから気を入れていきます」
「うぐっ」
(体が、動かない)
「ああ、心配しないでよい。気が入ると、神経が随意筋の動きを止めてしまうんだ。気功で飛ばされる人を見たことがあるかな。横たわっているけれども押される感じがするだろう。いや、返事が出来ないのはわかっている。答えなくて良い」
「気を体に入れること自体、人体に悪いことはない。安心していい」
男の声からはいつの間にか丁寧さが無くなっていた。
「ただ、それによってどんな変化が体に生じるのかを確認したい」
(変化?)
「ふふ。あそこが立っているのがズボン越しにもわかるね」
(くそっ。さっきから、なぜか興奮して)
「気が満ちるのは精力剤代わりになる。気で肩こりが取れるというのも血行が良くなるからだ。別に恥ずかしいことじゃない」
(そうなのか)
「ただ、ここまでは一般的な気の話だ。ここからは違う」
「光のスペクトルの話は知っているかな」
(たしか、プリズムで光の色を分けるとかなんとか)
「太陽の光は様々な色が混ざって白色光となっている。それをプリズムに通すと赤や青といった色に分けられる。分けられた色の帯をスペクトルという」
(それは学校で聞いた気がする)
「さて、そこで気だ。気にも陽と陰がある。ただ何も考えないで気を放つとこれが混じった状態になる。私は工夫して陽の気、あるいは陰の気だけを放つことができるようになった。今は手の平だけを君のへそに当てているが、放つ前にちょっとした印を結ぶと陽の気を体に戻して陰の気だけを放つことができる」
(わかったような、わからないような)
「陽の気は男性的、陰の気は女性的と言われている。わたしはいま、男性の君に、陰の気だけを放っている。そこで何が起こるかな」
(え?)
「ネズミでは成功した。解剖もした。ウサギでも成功した。完璧だ。次に人間で試したくなるのは人情ではないかな」
(な、なにを言ってるんだ)
「ズボンの布越しから見える膨らみが、小さくなってきたような気がするな」
(あ、そう言えば、あそこが立っている感じが無くなっている)
「まず、第二次性徴が失われるところから始まる。自分からは見えないだろうが、少し突き出た喉仏と男らしい胸の筋肉が無くなってきた」
男はその間も手の平を少年のへそに当て続けていた。
「性に関する体の部分だけが選択されて変化する。細胞死と再生が君の体で繰り返されている。君が女に生まれていたら、どんな顔で、どんな体だったか、それが具現化される」
(俺は、女になるっていうのか。冗談じゃない、くそっ)
「君が体を動かそうとしているのは気の動きでわかる。だが、無駄なことだ。この場では受け入れなさい」
(できるか。くそっ)
「陰の気で男が女になるのなら、陽の気で女を男に戻すのも簡単だ。安心してくれ。君が望まない限り、この部屋に入った時から24時間後には男に戻してアルバイト代と一緒に帰してあげよう」
(そうなのか。信用できるのか)
「私は嘘はつかない」
男は話を続けながらも、手の平を少年のへそに当て続けた。
「第二次性徴のあとは、第一次性徴が変化する」
(あ、ぐっ、タマがっ)
「ちょっとした衝撃が、この手の平に伝わってきた。陰嚢に入っていた睾丸が体内に引き込まれたね」
(あ、な、なくなっていく)
「ペニスはしぼんで、豆粒のように変わっていく」
(股のあたりが、変だ。なにもかもが無くなっていくような)
「性の発生過程は逆戻りしていく。ネズミで実験した時、このあたりで気を入れるのをやめて解剖したことがある。そのネズミは、体は大人の大きさだったのに、性器は生殖管しかなかった。胎内にある時の未分化状態になっていた」
(俺の体は、どうなっているんだ)
「これから君の体は女になっていく」
(あ、股が、くっ、何かをねじ込まれたみたいに)
「変化はまず穴が縦方向に進む形で起こる。まず膣が形成される」
(下腹部で、何かが膨らんでいる)
「次は子宮だ。胎児を育てるところだ」
(下っ腹の横のほうも変だ)
「卵巣が発達し、卵管が卵巣と子宮を繋げる」
(股が、なんだかむず痒い)
「尿道口はすでに子宮口の上側に出来ている。さらに陰核や陰唇が発達して、大人の男性を受け入れられる形になっていく」
(胸も、なんだか)
「胸が膨らんできたのが見えるよ。乳首は君の年頃だと敏感かもしれないね」
(下っ腹がなんだか、重い)
「君の体から、陰の気を感じるな。恐らく、生理だろう。変化の途上で初潮があったということだ。もう止まったが、少しばかり、血が出たかもしれないね」
(本当に俺は、女になってしまったのか)
「髭も根元から落ちた。ズボンの中のすね毛も無くなっただろう。なかなか可愛らしい顔だ。もし女のままでいたら美人になると思うよ。よし、終了だ」
男は少年、いや、少女のへそから手を離した。
少女はすぐには声も出せないし、体も動かなかった。
「あー」
声が出るようになると頭を動かした。頭は重かったが、どうにか上半身だけは起き上がることができた。目線を下に落とすと、自分の胸がわずかに、しかし間違いなく、膨らんでいるのが見えた。
まず浮かんできたのは怒りだった。人の体を勝手に変えやがって、と。
「この野郎」
男の顔を殴ろうとしたが、その拳は男の手の平で簡単に止められた。ぱふっ、と情けない音がした。筋力が無くなっていることが、否応なく感じられた。
「女の子に、そんな暴力は似合わないよ」
男はそう言いながら微笑んだ。
「早く俺を元に戻せ」
「最後にこの部屋を出る時は戻してあげよう。ただし、拘束時間は24時間だ。まだ20時間以上ある。それまでは私に従ってもらう」
「ふざけるな」
少女がストレッチャーを下りてまた男に殴りかかろうとすると、男は両の手を合わせて手の平を少女に向けた。
「ハッ」
少女はまたストレッチャーに押し戻された。
「私は気を使える。忘れないように」
逆らっても勝てないことを、少女は感じた。
「くそっ」
「女の子が上半身裸では恥ずかしいだろう。男物のズボンを穿いているのも妙だ。隣の部屋に今の君にふさわしい服が用意されている。着替えてきなさい」
しぶしぶ少女は隣の部屋に向かった。背中越しに男は声をかけた。
「鏡もある。じっくり選んでいいよ。女の子は服を決めるのに時間をかけるものだ」
隣の部屋に入ると、確かに全身の映る鏡があった。そこに上半身裸で、男物のズボンを穿いた少女が映っていた。
「これが、俺? うーん」
当たり前だが自分の顔に似ている。でもまごうかたなき女の顔だった。
「可愛いかもしれない」
そう思うと少し安心した気がした。
着替えるために服を全部脱いだ。男物のパンツを見ると染みがついていた。柄物のトランクスなので目立たないが、黒っぽくて血のようだった。
「これが生理?」
自分が女であることが、生々しく感じられた。
パンツを脱いで全裸で鏡の前に立った。女になりかけている少女の体がそこにあった。
「うー、股に薄い毛しかない。本当に女だ」
裸でも空調がほどよく効いていて、寒くはない。
「だが、女が裸のままというのもな」
女らしい羞恥心が芽生えたわけではなかった。しかし、隣の部屋に男がいる以上、何か着なければならないだろう。
振り返ると長机に女物の服が並んでいた。その中で、薄青いビキニが目に入った。
「着てみようか」
少年は水着スタイルのグラビアアイドルに興味を持ち始めた年頃だった。どこで留めるかわからず、苦労してビキニを着てみた。
「髪を上でまとめてツインテっぽくしたら」
と好みのタイプの髪型を思い浮かべつつ鏡を見た。
少女のふくらみ始めた胸はまだ小さい。
「貧相だな。ビキニはまだ早いよ、ってやつだ」
少々がっかりした。普通の服にしようと思った。
服が何種類か並んでいた。パッと見て、サイズは合いそうだった。
そう言えば、最初の電話で身長と体重を聞かれていた。女になった時の体型まで考えてあの男がこれらの服を選んだのだろうか。どんな顔をして買ったのだろう。いや、ネット通販だろうか。
ともかく、下着から着てみた。
「パンティーがちっちぇー」
ブラジャーが何種類かあったが、一番小さいのが合いそうだった。少し悔しい気がした。
胸を覆う黒のスウェットに、薄緑の羽織るものをかけて、女物の紺のパンツを穿いた。いろいろ見たが、それが最も無難な装いだった。
「しかし、へそが」
へそを隠せる服は無かった。体の前で合わせるだけの幅が無いのだ。
着替えを終えた少女は、男の待つ部屋に戻った。
「さあ、言う通りにしたぞ。これでいいだろ」
「ふ、ふ、ふ。実にいい眺めだ。強制的に女になってしまったばかりではなく、へそまで人前にさらしてしまった気分はどうだい?」
「この格好をして、明日になったら男に戻すんだろ」
「もちろん、わたしは嘘はつかない。だが、君が泣いて女のままにしてくれ、と言うのなら話は別だが」
「そんなバカなことを言うわけないだろ」
「はて、そうかな。ちょっとそこに座ってみてくれ」
少女がストレッチャーに座ると、男は少女のへそに手の平を当てた。
「うぐっ」
衝撃を受けて、少女はまたストレッチャーに仰向けで倒れた。
「ポルチオ、という言葉を知っているかね」
「知、らねえ」
「膣と子宮の境目、子宮口だ。ここにペニスを入れてつついてやると、女はえも言われぬ深い快感を得る。しかし、実はここにはクリトリスやGスポットのような快楽を得られる神経などない。どういうことかわかるかな」
「あ、うっ、うぐっ」
「子宮口を作用点として中から内臓を揺らしてやる。それが女の快楽を生む。ふふ、女体とは不思議なものだ」
「へそが、熱い」
「赤ん坊の頃、へそは母体とつながっていた。栄養源を送られると同時に、人を人たらしめる気の入り口でもあったのだよ」
「き?」
「私はへそから気を送って君の子宮口を揺らしている。ふふ、女をいかせるのにペニスを入れる必要などない。だが、さっきと違って、入れている気は体を変えてしまうほどのものじゃない。弱いものだから、声は出せるよ」
「あ、あ、あう」
「初めて味わう女の快感はどうだね。ポルチオで得る快感はクリトリスを撫でる自慰などとは比べ物にならないというが」
「や、やめ」
「ほう。やめろというのか」
「おかしく、な……」
「深い快楽に恐怖心を抱く女性は多い。オーガズムとは理性を失うことでもある」
「や……だ」
「言葉が子供に帰っているぞ。ふふ、悦楽を貪るのは人間も獣も変わらぬ。大人が幼児に、さらには人が獣に退行するようなものなのかもな。雌の獣に」
「あ、あう、あう、あ」
「女になったばかりで、女の快楽を強制的に与えられる気分はどうかな?」
「くっ、うっ、あっ」
「もちろん、君を犯しているわけではない。肌を撫でるわけでも胸を揉むわけでもない。これは犯罪では全くない」
「ひいっ、あっ、ああっ」
「まともな声も出せなくなったか。君、男性は痛みに弱く、女性の陣痛に耐えられない、という俗説を聞いたことがあるかね」
「くうっ、あうっ」
「痛みはともかく、男性は、女性の快感に耐えられるのかね?」
「ああああっ」
「そんなに感じているのか。まだ処女だというのに。女になったばかりで、小便もしたことがない。あそこを触ったことも無いだろうに」
「くうううっ、はっ、あっ」
「顔をのけぞらせて足先を反らせて、息も絶え絶えだな」
「あっ、うっ、く」
「声も切迫してきたな。いよいよいきそうだ」
「くっ、んっ、んむっ」
「ふふふ。声らしい声ではなくなってきたな。体が震えてきた」
「…………っ」
「白目を剥いて、体が痙攣して、いよいよいったか。いく時は声が出ないタイプだな」
「はぁー、はぁー、はぁー」
「処女で妊娠なら処女懐胎だが、処女でポルチオ中イキというのは何と言うのだろうな」
「さて、まだ男に戻りたいかな」
「も、ちろん、だ。オレ、は男」
「そうか。よし、二回戦と行こうか」
「卑怯だ」
「24時間、私と過ごしたら男に戻すとは言った。だが、何回いかせると回数を決めたわけではないよ」
「や、やめ……」
「やめない」
男はまた、女のへそに手の平を当てた。
「あ、あう、あう、あ」
「脳内麻薬というのを知っているかね」
「知ら、な」
「性的快感を得ると男でも女でも脳内麻薬が出る。君も男の体の時は、一度自慰を覚えたらやめられなくなっただろう。一度この麻薬の味を知ってしまうと、体が求めてしまう。ただ、男と女では脳内麻薬も種類が違うのだよ」
「あっ、うっ、く」
「さて、どれほど女の脳内麻薬は強烈なのかな」
「くっ、んっ、うむっ」
「ただ、恐らくは、何度もこの麻薬に晒されれば、立派な中毒者、ジャンキーになってしまうんだろうね」
「…………っ」
「ふふふ。さっきよりもいくのが早い。脳が快感を受け入れやすくなっているんだ」
「さて、またやろうか」
「も、もう、やめ」
「ふふふ。遠慮はいらない。男は女をいかせたいものだ。性行為の時、自分がどれだけ気持ちよかったかよりも、女をどれだけ気持ちよくさせたかを気にする男は多い。なぜだかわかるか」
「あ、あう、あう、あ」
「女をいかせることが出来れば、その女は自分と離れられなくなる。自分のものになる。それを本能的に知っているのだろうな、男は」
「くっ、んっ、んむっ」
「君は、私を見る度に、私の手でいかされたことをことを思い出す。へそから気を送られてエクスタシーを得たことを。そしてまたいかされたくなる。女の快感に支配される。私の手が欲しくてたまらなくなる」
「…………っ」
「休みなどはないよ。次に行こう」
「駄、目、もう、何、も、考えられない、頭、いくことしか」
「そう、君は、快楽に溺れるだけでいい」
「あ、うっ、またっ」
「男に与えられる、女の体の気持ちよさを、存分に味わうんだ」
「くっ、んっ、んむっ」
「それが女になった幸せというものではないかね」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「…………っ」
「さてと。時間が経つのは早いものだ。君を男に戻そうか」
「や、め、」
「残念だが、戻すのが約束だからね」
「男に、戻さないで、ください」
「おや、目に涙を溜めてどうした?」
「女の、ままで。なんでも、なんでもしますからぁ」
こうして少年だった彼女は、処女のまま性奴隷となった。
<了>