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葵一代

2020/01/04 08:40:39
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「どうしてこんなことに。なんでこんなやつの嫁にならなければならんのだ。
「しかもこいつ、俺の知る男の中では女への態度が最低で、家が金持ちで顔が良いのをいいことに、二股三股セフレ食いまくりのポイ捨て野郎だとわかってるというのに」

「でも、ぼくの許嫁と君が入れ替わってしまったからね。しょうがないね」

そう、俺は彼の婚約披露パーティーに友人として呼ばれ、その時その婚約者と共に彼の家の階段で転げ落ち、婚約者と体が入れ替わってしまったのだ。

その後はその婚約者を抱きしめても転がっても頭をぶつけあっても、どうしても元に戻らなかった。
生活は大変で、自分と相手とこいつの家族を巻き込んで何度も話し合ったのだが、結局、立場も見た目のまま取り替えることになった。
というわけで俺はこいつの婚約者となり、こうして結婚式を迎えている。
女になるのも嫌だというのに、結婚はどうしても嫌だと主張したのだが、日本有数の家柄と資産の統合の象徴ということで、有力政治家だの経済界の偉いさんなどからの説得も受けた。うちの両親などあっさり陥落した。
こいつはというと、中身が俺でも体が婚約者ならいいよ、と全く意に介さない。嫌がっているのが俺だけで四面楚歌。俺には彼女もいたのだが、彼氏の中身が女に変わったらむしろ
「こっちのほうがいろいろ女同士の相談ができていい。戻らないで」
と言われ、ついやけになって結婚を承諾してしまった。

俺の体をしたこいつの元婚約者は、こいつの友人として結婚式にやってきた。そして式の前にこいつではなく、俺の控室にきた。俺の姿を見ての第一声が、
「ああー、ウェディングドレスのわたしって、すごく綺麗」

「俺の顔して、女っぽい言い方をするな」
「それぐらい、いいでしょう。ああ、素敵なドレス。ずっとあこがれだったの」
「今すぐにでも立場を戻してあいつの嫁になってもらいたいんだが、こっちは」
「ああ、それはもうだめ。男に慣れちゃったから。生理がないって楽だわ。それに化粧しなくていいから、少しは朝寝坊も出来るし」

「生理は嫌だな。それに服を着るだけでも女は面倒くさい。化粧は面倒くさい。ほとんどしてない」
「いま、ずいぶん塗ってるじゃない」
「これは結婚式だから美容師に塗りたくられたの」
「ふうん。まあ、頑張って。わたしは楽しく男として暮らしていくから」
「あいつのことを好きだったんじゃないのかよ」
「それは記憶としてあるけど、男になった途端、冷めちゃった。人って体に左右されるのね。あんな浮気性の酷い男のどこが好きだったんだろう。ああ、でも顔は良かったかな。女から見れば」
「これからあんな奴と暮らすのかと思うと」
「でもあの人、夜のアレはうまいの。それもあって離れられなかった。だから初夜は楽しみにしててね」
「そうなのか」
「あ、あのね。あなたの彼女と寝た」
「え?」
「優しく抱いてあげたら、あなたよりもいい、って言われちゃった」
ますます俺は荒んだ気持ちになった。

彼女、いや、彼は帰り際にこうも言った。
「庶民っていいわ。自分の彼女のことだけ気にして、あとは仕事さえしてればいいんだもの」

結婚式で誓いの言葉のあとにキスをした。
男とキスなんてと思っていたが、それほど違和感はなかった。むしろ、
「あれ、この唇の感触、覚えがある」
と思ってしまった。体の記憶、というものがあるのだろうか。

新婚旅行は二日後から、ということで、その日はこいつの家に泊まった。
メイドたちが、
「お坊ちゃま、葵様、お帰りなさい」
と迎えてくれた。葵というのがこの体の名前だ。
「結婚してもお坊ちゃまなのか」
「若主人と呼ぼうか、という話も出たんだが、好きなように呼んでくれと言ってある」
「それでここのメイドのうち、何人がお前のお手付きなんだ」
「何人かいる、と言っておこうか。父親のお手付きとはだぶらないようにしている。余計な軋轢は避けたい」
「嫁との軋轢はいいのか」
「そういうものだ、と葵は諦めていたね。母もだが。でも僕の筆おろしをしてくれたメイドはやめたんだよ。結婚して幸せなお坊ちゃんを見るのは辛いです、とか言って。そういう女もいるんだな」
むしろそちらが普通な気がする。
「家事はメイドが全てやってくれる。そのメイドを取り仕切るのは母がやっている。嫁はただ家にいてくれればいい」
葵は結婚に先立って仕事を辞めていた。
「俺はこの家にいてもすることがないのか。退屈だな」
「葵はいくつも習い事をしていた。何か趣味がないと暇かもしれない」
「葵さんはお茶もお花も師範級だと聞いたが、俺にそうした趣味はないな」
「ぼくとしては、嫁はぼくがしたい時にセックスしてくれればそれで十分だ」

「ひでえ奴だ。女を性欲の対象としか見ていないのか」
「葵の体はもちろん大好きだったが、葵の性格も好きだったよ。でも、君の性格をいま好きだと言ったら気味が悪いだろう。ついこの間まで男だったのに」
それもそうだ。
「さて、それではもう一度、キスから始めようか」

「ちょっと待て。なぜそうなる」
「結婚式でキスをした時、あれ?、という顔をしたじゃないか。あれはどういうことなのか、知りたくないか」
そう言われてみると、好奇心が優った。
「やってみようか」

そこは新婚二人の部屋だった。メイドらはいなかった。
あいつは俺の両肩にそれぞれの手をのせた。
その手は首に近い側から、すすす、と上腕部に動いた。その感触に覚えがあった。結婚式の接吻の時、肩を出していたドレスではそこに彼の手はなかったから、この肩に置かれた手の感触は初めての筈だ。やはり体が覚えていたのか。
俺は少し上を向いてあいつの顔を見つめた。確かに、女から見ればイケメンだな、と思った。
「こういう時、女は目を閉じるものだよ」

目を閉じた。
そっとあいつの唇が自分の唇に押し付けられた。
(う、むっ)
声が出そうになった。その声を唇が塞いだ。自分の唇が揉まれるように相手の唇が動いて、反射的に口が開いた。そこに舌が入って来た。しかし中に割り入ることはなく、唇の内側を撫でられた。
(この感触、覚えがある)
その記憶を辿ろうとしていると、彼の手はいつの間にか背骨に回って抱きすくめられていた。体が柔らかく締め付けられる感触。それがどこか心地よかった。
あいつの唇が離れた。
「葵は、ディープキスはあまり好きじゃない。それにお尻よりも背中で感じる」
ぞわっとした。あいつの指先が背骨を撫でていったのだ。
「あ、う」
思わず声が出た。
「前の葵と同じ反応だね」

あいつの唇は俺の首筋に移って這いまわった。
「あ、はあ」
ここも敏感だ。やつはこの女の体を知り尽くしているらしく、的確にそこをついてくる。
(あ、)
股間が湿って布地にまで達してきたのがわかった。
「顔が変わった。その気になってきたね」
ふわ、と俺の体が浮いた。お姫様だっこをされていた。彼は俺をベッドに横たえると、手慣れた様子であっという間に俺を素っ裸にしてしまった。そして彼も裸になった。
「葵は中身が変わっても綺麗だ。この体はぼくが開発したんだ」

開発、という人間にあまり使わない言葉が、かえって生々しかった。
あいつは俺の胸を揉み、乳首を舌で転がし、背中や内腿に手を這わせた。
「あ、あ、あ」
興奮と快感の連鎖に俺はたちまち呑まれていった。
やつの手はさらに股間に伸びた。
「ここを自分で触ってみたかい? 一人で」
クリトリスを撫でられ、喘ぎながら俺は正直に答えた。
「男が女になったんだ。やるに決まってるだろう」
女になってから自慰は何度もしていた。快感はあったが、何か同時にもどかしい思いもしていた。
「ふふ。それじゃあ、一人でするよりも、気持ちよくしてあげるよ」

あいつは乱暴に指で激しくクリトリスを擦り始めた。
「あああああ」
強い刺激にたちまち俺は高められていった。
「葵はね、むしろ激しくされるほうが好きなんだよ」
女になったばかりの俺は、自分で慰める時は、そうっと陰部を撫でるばかりだった。こんなに強くさすったことはなかった。
「あううう」
「一度、まず、いってしまえよ」
「ああっ」
容赦なく、俺は高みに打ち上げられた。

「はあ、はあ」
荒い息をしていたら、あそこに何かが入って来た。
「や、やめっ」
まだ性行為には恐怖心があった。いったばかりで休みたいということもあった。首を上げて見たらあいつが指を俺の陰部に突っ込んでいた。
「やめないよ。まだ知らないだろうけど、その体は一度じゃ満足しない。指で何回かいかせないと、こっちの身がもたないんだ」
「あうっ」
うねうねと動く奴の中指は、その場所を容易に探り当てた。
「恥骨の裏。ここだよ」
そして先ほど以上に、激しく指を動かし始めた。
「ああああ、あうあう」
「葵は本当に激しいのが好きでね。壊れやしないかとこちらが心配になるくらいだ」

膣内の快感はクリトリスとは少し違っていた。どこかに連れ去られるというか飛んでいくような気分だった。
「は、ああ、あ」
首から上は自然にのけぞって、わけのわからぬ声を出させられた。
「ふふ、中身の人間は変わっても反応は変わらないな」
「あっ、くっ、い」
少し意識が途絶えた。俺はまた、いかされてしまった。

気が付くと、あいつは俺の両足の先を持ち上げて、俺の陰部をじっと見つめていた。
「葵も最初は裸になるのを恥ずかしがっていたものだよ。こうやって眺めていると、見ないで見ないでと泣きながら叫んでいた」
あいつは俺の股を拡げたまま、自分のものを俺の中にねじこんできた。
「はうっ」
二度の絶頂で息も絶え絶えだったところに、さらに突っ込まれてしまった。
「葵も初めての時は人並みに痛がっていたな」
「あっ、あっ」
「葵の中身が君だということは、もう政財界の人が何人か知っている。でも中身が誰かなんてことは問題じゃないんだ。旧財閥系の持ち株会社で多くの伝統企業を傘下にしているうちの跡取りと、巨大IT企業オーナーの娘が結びつくという象徴があればいい」
(カリが、さっきいったばかりのGスポットを刺激している)
「何十年も一緒に暮らしていくものと思って、ぼくも熱心にその体を開発したものさ。これほど淫らな素質があるとは思わなかったけれどね」
(あ、あ、またいく)
「おかげで葵はぼくから離れられない体になったよ。こちらも楽しめるし、中身が君になったからって手放すのは勿体ない」
(あああっ)

「一回、いったって終わらないよ」
(休ませて、あっ、あっ)
「君はぼくが、次々と女を取り替えて捨てているように思っていただろう。御曹司だと知って女の方から寄ってくるんだ。でも許嫁がいると言えばたいていは離れていった。それが真相だ」
(今度は奥が、奥が当たってる)
「ここのメイドも含めて、まだ付き合いがある女は体の関係だけだ。まあ、父親に倣って避妊だけはしっかりしておこう。祖父が酷い女好きで、ぼくには十何人? 二十何人? いとこがいるかわからない。そういうのはやめようと父と話したんだ」
(さっきと違う。子宮の先が、ペニスに当たって、直接揺さぶられている)
「ぼくの子供を産むのは君だけだ。期待しているよ」
(あ、あ、深いところに、引きずり込まれそう)
「締まってきたね。ぼくも高まってきた」
(ああ、もう、だめ、またいく)
「さあ、中に出すぞ」
「あ、あ、あああ」

「白目を剥いて痙攣していたね。覚えてる?」
「意識が飛んだ。真っ白になった」
「君の体は、ぼくなしではいられない」
悔しいが、その通りだった。
「俺は、そのちんぽに縛られながら、ここで一生を過ごすのか」
「ぼくの母は、父さんが帰ってこないと機嫌が悪いけど、いる時は楽しそうだよ。葵は、このちんぽはわたしの中だけに入れて、よその女を楽しませていると思うと気が狂いそう、と言っていた。君もそうなるのかな」

天国で、そして地獄の日々が、始まろうとしていた。

<終>
入れ替わることで主人公は玉の輿に乗ったとも言えます。そこに半ひねり加えてみました。
みあ
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