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『愛しのカサブランカ』

2020/05/14 14:09:58
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「やたっ、よーやっとカサブランカをゲットだぜ!」

スマホを覗き込みながら歓声をあげているのは、関家真白(せきや・ましろ)。この春から高校に入ったばかりの15歳の少年だ。
彼が夢中になっているのは『アズールレーン』という軍艦擬人化系シューティングゲームで、ノベライズやコミカライズを経て、アニメ化もされた、かなりの人気作品と言えるだろう。

このテの軍艦擬人化(というか女の子化)ゲームとしては『艦隊これくしょん』──略称「艦これ」あたりが有名だ。
ただ、あちらが旧日本海軍所属の軍艦が中心なのに対して、「アズレン」の場合は、米英日独の4陣営をモデルにした4戦力+αの艦船が、比較的満遍なく登場している。

真白が先程入手して喜んでいた「カサブランカ」も、アメリカに相当する「ユニオン」と呼ばれる陣営に所属するキャラクター(KAN-SEN)で、その名の通りカサブランカ級護衛空母のネームシップがモチーフとなっている。
その容姿は、長い銀髪と紫色の瞳を持つ16、7歳ぐらいの少女に見え、パッと見は、ややスレンダーで真面目そうな感じの娘だ。

ただ、このゲームには、いわゆる「着せ替え」(ある種のコスプレ?)の概念があり、実装されたばかりのカサブランカにも、着せ替え衣装がちゃんと用意されている。
一部例外を除いてこの着せ替え用衣装は有料なのだが、真白はためらうことなくゲーム内のショップアイコンをタップし、「応援団の休憩タイム」という名のカサブランカ用衣装を購入した。
「母港」のドック──いわゆるキャラクター確認画面で、カサブランカを選び、買ったばかりの着せ替え衣裳にチェンジする。

「嗚呼、ついに僕の艦隊にチアコスのカサブランカが来たんだ……」

真面目な表情していれば、そこそこ整った(年上の女性などに「ちょっと可愛いよね、真白クン」と言われそうな)顔立ちの真白少年だが、この時ばかりはニヤニヤと鼻の下が伸びたスケベそうな顔をしていた。

画面を見れば、その理由もわかるだろう。
真面目でスレンダーで悪く言うと地味な印象のあったカサブランカが、アメリカンなチアリーダー衣装に着替えた途端、一転、セクシーでキュートなイメージに変化しているのだ。

綺麗な銀髪を青いリボンで結ってポニーテイルにしたことで活発さが増し、また、どうやら隠れ巨乳だったらしく、胸で揺れる立派なふたつの膨らみ(しかも上半分の谷間もバッチリ見える)が目を引く。
足元が黒のハイカットスニーカーと青いニーソックスで、ボトムが超ミニ丈の白のスコートなのは、いかにもチアっぽいが、ソックスとスコートの間に垣間見えるむっちりした太腿が、健康的なお色気を放っている。

さらにその上半身を包む衣裳が(言葉を飾らずに言えば)とてもエロい。
ボディスーツのような黒いアンダーウェアを着用し、その上に胸の下半分と肩から手首までを覆う青&白のトップを着ているのだ。
しかも、ボディスーツは極薄かつシースルーなため、引き締まったお腹や形のいいおヘソが丸わかり。かつ、ハイレグデザインなので、ヒップに繋がる両腰の白い肌もバッチリ露出している。
エロゲーや18禁漫画なら「即ハボ待ったなし」と言われそうなコスチュームだった。

童顔でやや奥手な真白も、中味は思春期真っ盛りの男の子。(外見的には同年代の)可愛らしい女の子のこんな格好を見れば、煩悩をたぎらせるのも無理はないだろう。

「よーし、この格好のカサブランカを秘書艦に指名しちゃうもんね~」

“秘書艦”というのは、要はプレイヤーのアシスタントキャラだ。
各KAN-SENには「失望」から「愛(ラブ)」まで5段階の好感度が設定されている。
この好感度は主に出撃して勝利させることで少しずつ上昇するのだが、それ以外にも指揮官(=プレイヤー)の傍に仕える秘書艦にすることでもじわじわ上がっていくのだ。
ゲームのシステム上、秘書艦は3人まで指名でき、メイン画面ではその3人からランダムでひとりがナビゲーターとして表示される。
だが、真白は、毎回カサブランカと「会える」ようにあえて彼女ひとりのみを秘書艦にするという徹底っぷりだった。


そして、それから半月ばかりが経過した頃。

『指揮官、映画を一緒に見に行きませんか?ええ、私が大好きな…愛とロマンスの物語を、あなたと一緒に』

真白少年の熱心なプレイの結果、カサブランカの好感度は最高の「愛」状態にまで上がっていた。

「──ああ、いいとも……なんちゃって、うぃひひひひ」
キャラクターボイスに気取って返事したり、キモい顔で笑いだしたりと、彼が妙にハイになっているのは、ついに今日、カサブランカとのケッコンを実行しようとしているからだ。

幾多のオンラインゲームやソーシャルゲームで「結婚」というシステムは登場するが、『アズールレーン』にも“ケッコン”の名で存在しており、好感度「愛」のKAN-SENだけがその対象となる。
その内容は、「艦これ」などと近く、プレイヤーが(有料アイテムの)「誓いの指輪」を所持した状態で、条件を満たしたKAN-SENを選ぶことで成立するのだ。

ケッコンしたKAN-SENはパラメーターが伸びるなどのボーナスがあるが、誓いの指輪はそれなりのお値段がするので、いくらお気に入り相手でも多少は悩むのが普通だ。
しかし、真白は躊躇いなく、カサブランカを選んでケッコンするためのアイコンをタッチした。

『ふふ、じゃあとりあえずは、この誓いの指輪をはめていただけますか?』

荘厳な雰囲気のBGMと共に、いわゆる「誓いの台詞」が流れ、スマホの画面の中では、カサブランカが指揮官の“マシロ”とケッコンできたことを喜んでいる。
その様子を見たプレイヤーたる真白本人の口から、ついこんな言葉が零れ出た。

「くそぅ……いいなぁ、指揮官。僕もゲームの世界で、カサブランカのオッパイやオヘソやフトモモやその他もろもろを、思う存分弄り回したい……」

自分(プレイヤー)の分身である指揮官にまで嫉妬するとは、相当入れ込んでいるようだ。
だが……。


【──その願い、叶えてあげるよ♪】


「えっ!?」
突然、頭の中に聞こえてきた声に驚く真白だったが、次の瞬間、スマホからあふれ出した、まばゆいほどの白い光に包まれ……。
数秒後、関家真白の姿は、手にしたスマホごと、その場から跡形もなく消えていた。

* * *

意識を取り戻した時、僕の目の前には、野球場──ただし、本格的なスタジアムじゃなくて、小中学校の校庭に毛が生えたような市民グラウンドっぽいものが広がっていました。

「ここは……?」
思わず口からこぼれた声にギョッとします。
どこかのアイドルアニメにいる、クールだけどちょっとヌケてるブルーの子みたいなこの声には、もちろん聞き覚えがありました。

「まさか……」
見れば右手にスポドリの入ったペットボトル。左手にはオレンジのタオルを持ち、頭を動かすのにつれて長い銀色の髪がさらりと揺れるのが目の端に映ります。

決定的なのは、視線を下に下げた時に視界に入って来る“自分”が着ている衣装(コスチューム)でしょう。

白と青で彩られた長袖のピッタリした上着と、首元から股間までを覆う黒いアンダーウェア。下に履いているのは、これまた白と青のミニスカート。
極めつけに、男には(特殊な手術でもしない限り)ついているはずのない乳房──いわゆるひとつの“オッパイ”が、たゆんと胸で揺れています。
パッドとかの偽乳でないことは、胸の上半分が露出していて、そこから胸の谷間が見えるので明らかでした。



──ここまで来たら、さすがの僕にも(ラノベやアニメでお約束の展開なので)予想はつきます。

「もしかして、カサブランカになってるんですか!?」

ええ、確かにゲームの画面が光ったと思ったら、プレイヤーがゲームに取り込まれる……なんて展開の作品は、嫌というほど見てはきましたよ。
でも、だからといって、それが自分の身に起こった時に、すぐさま心構えができているかは別問題です。
とは言え、もし僕の予想が確かなら、今の自分の身体は、最萌(いとし)のあの“カサブランカ”なワケで……。

──ゴクリ

思わず生唾を呑み込みながら、恐る恐るその形の良い胸に手を伸ばそうとした……ところで。

「あれ、何してるの、カサブランカさん?」
背後から声をかけられてビクッとして動きが止まります。
慌てて振り返ると、そこには初対面のはずなのに、どこか見覚えがある姿の娘(こ)が立っていました。

白地に青のハーフトップと青地に白いアクセントのミニスカート。肘上まである白い長手袋をはめ、足元は白のニーハイソックスとスニーカー。両手にピンクのポンポンを持ち、銀色の長い髪をなびかせたその姿は……。

「シグニットちゃん?」
そう、ロイヤルが誇る(?)ロリ巨乳駆逐艦少女のシグニットでした。コスプレ衣装の多い子ですが、今日は“私”と同じくチアリーダーの格好をしています。

「うん、うちだけど……もしかして、具合でも悪いの?」
心配そうな表情を浮かべる彼女の様子に、とっさに立ち上がって、ブンブンッと首を横に振ります。

「い、いえ、何でもないんです。その、ちょっと汗で服が胸元に貼り付いて気になっただけですから」
さすがにこの状況で「好奇心(とスケベ心)に負けて、“自分”の胸をまさぐろうとしてました」とは言えませんよね。

「なんだぁ。よかったぁ……あ、あのね、リノさんが、そろそろチア、再開しようって」

はて、リノ隊長はともかくチアとは──と考えかけて、“私”は、自分がそれを「知っている」ことに気が付きました。

(今日は指揮官提案によるレクリエーションの野球大会で、紅白戦の応援を“私”たちがしているんでした)

重桜出身者を中心に鉄血とサディアから数名が加わった紅組と、“私”たちユニオンを中心にロイヤルから何人かが参加している白組の対抗戦。

紅組は、和太鼓の伴奏とともに、黒い詰襟の学ランにハチマキと白手袋をした重桜の子たち数名が応援団に扮して頑張っています。
一方、白組の応援は見ての通りオーソドックスなチアリーディングで、リノ隊長をリーダーに、“私”とクレイヴンちゃん、それに助っ人のシグニットちゃんが組んでチアダンスしているんです。

(試合は5回の裏を回ったところで1対1。いよいよ後半戦に突入というタイミングでいったん休憩が入り、“私”たち応援チームもひと休みしてたところ──って、なんで、僕、そんなコト、知ってるの!?)

もしかして、これ、“僕”の魂とかココロ的なものが、この(ゲーム)世界のカサブランカの体に乗り移っちゃったから、この身体(脳?)の記憶が読み取れてるってことでしょうか?

そうなると、本物のカサブランカの魂(こころ)がどうなってるのかが、気になるところなんですけど……。

「そろそろ休憩終了よ。みんな、準備はいい? 後半戦も盛り上げていこうね!」
「「「はいっ!!」」」

どうやら、今は悠長に考え込んでいる暇はないみたいです。

「さぁ、行くよぉ──白組、ファイトぉ!」
「「「オォーーーっ!!」」」

とりあえず今は、白組チアリーダーとしての応援に全力投球しないといけませんね。

一塁側スタンドに菱形になるよう並んで、“僕”らは応援のためのチアダンスを開始しました。
一番後ろが背の高いリノ隊長。二列目の左にシグニットちゃん、右にカサブランカ──つまり今の私(ぼく)が並び、最前列をチアに関して一日の長があるクレイヴンちゃんが務めます。

笑顔のまま、両手のポンポンを振り回し、飛んだり跳ねたり、時にはハイキックのように大きく足を振り上げたりと、普段(いつも)の戦闘とはまるで異なる動作で身体を動かします。

「ファイト・ファイト、しーろーぐーみー♪」

かなりの運動量ですし、最初のうちは、身体にピッタリした衣装や揺れる胸、翻るスカートの裾なんかが、ちょっと気恥ずかしかったのも確かなんですけど……。



カサブランカの記憶(?)を頼りに、懸命に踊っているうちに、みんな──ここにいる4人だけじゃなく、観客の皆さんやグランドで試合している白組の方達との一体感も感じられて、すごく楽しくなってきました。

「ガンバレ♪ ガンバレ♪」

ランナーズハイならぬチアーズハイ、とでもいうのでしょうか。
いつしか、私は自分の“事情”も忘れて、試合の行方と応援(チア)に夢中になっていたんです。

* * *

「第1回・紅白対抗親善野球試合」は、11回までの延長ののち、白組のエース投手であるイントレピッド自らが打ったサヨナラ三塁打(ホームランでないのはご愛敬)により、2-3で白組勝利に終わった。

「「「「やったーーーーッ!!!」」」」
白組選手はもちろん、応援していた一塁側の観客、そしてリノ達チアガールズも、ピョンピョン跳び上がって歓声をあげる。

「シグニットちゃん、勝ちましたよ!」
“カサブランカ”もまた、隣にいたシグニットと抱き合って、白組の勝利を喜んでいた。

ロイヤル年少組最“巨”の乳を誇るシグニットの外見年齢にそぐわぬたわわな代物と、目測D以上E以下と思しきカサブランカのオッパイが、ふたりの胸の間でグニュリと押しつぶされている。
男性(そして一部の女性)にとっては鼻の下が伸びること間違いなしなラッキー(スケベ)シーンだったが、“カサブランカ”の方は、特に意識している様子はない。

「あぅ、カサブランカさん、うち、ちょっと苦しい(それに恥ずかしいかも)」
むしろ、シグニットの方が羞恥に軽く頬を染めているようだ。

「あぁ、ごめんなさい。つい、うれしくて」
シグニットの訴えを聞いて、すぐに“彼女”は身体を離した。
その様子からも「おにゃのこのやわっこいからだにくっつけてらっきぃ、ぐへへー!」的な邪さはうかがえない──無論、「女の子同士」であれば、それは当然の話なのだが。

グランドの脇に長テーブルが設置され、面倒見のよいヴェスタルやロイヤルのメイド陣で作ったと思しき料理の数々が並べられる。
紅白両チーム、そして応援していたKAN-SENたちは、ユニフォームもそのままに青空の下で立食パーティに参加することになった。

ラグビーではないが試合が終わればノーサイドだ。“彼女”も「初対面のはずなのに、よく見知った」各陣営のKAN-SENたちと、サンドイッチやピザを摘みつつ、おしゃべりしている。

「あ、いたいた。おーい、カサブランカ~!」
呼びかける声に振り返ると、そこには先程の試合で、10回からマウンドに立って見事にリリーフを務めた潜水艦の少女ブルーギルが立っていた。

「あ、ブルーギルちゃん。何か御用ですか?」
「うん。指揮官がね、あっちの控え室に来て欲しいってさ」
「?? 何かあったんでしょうか?」

ブルーギルから伝言を聞いて首を傾げる“カサブランカ”だったが、秘書艦の仕事関連で用があるのかもと考えて、チア組のリーダーであるリノに断って、その場から離れた。

地元の小規模な市民球場なので、たいした施設はないが、それでも小さめのクラブハウスめいた建物くらいはあり、事務室や更衣室、簡易シャワー程度の設備は整っている。
その中で、指揮官用の控室として利用されている応接室に足を運んだ“彼女”だったが……。
応接室に入り、中にいた「指揮官」を見た瞬間、思わず一瞬動きを止めてしまう。

そこにいたのは、「毎日鏡の中などに見慣れていた顔」……を、3、4歳成長させたような姿、つまり「18、9歳くらいの関家真白」に他ならなかったからだ。

(え、ちょっと待って、なんで、ココに僕が……あれ、でも確かに、指揮官のお名前はマシロ・セキヤ大佐ですが……)

思いがけない事態に混乱する“カサブランカ”。
それに追い打ちをかけたのが、ぼそりと呟いたマシロ指揮官の台詞だ。

「──やっぱ、「応援団の休憩タイム」を着たカサブランカってイイなぁ……コッチの世界に来てよかった♪」

小さな独り言だったが、KAN-SENとして人間以上の視聴覚を持つ“彼女”には、しっかりと聞こえた。

(これは……もしかして、私、大きな勘違いをしていたのでしょうか)

自分は、「アズレン」プレイヤーの関家真白(の魂)が、お気に入りKAN-SENに憑依(?)した存在だとばかり思っていたが、その関家真白本人が、いる以上、その前提は覆る。

スマホが輝き出した“あの時”、確かに真白は、この「アズレン」の世界に引き込まれたのだろう。
そうして、目の前の指揮官マシロ・セキヤ大佐になったのと同時に、バグかアクシデントか何かの拍子に、その記憶の一部(コピー?)が、既にいたカサブランカに混入した──というのが、今の状況の真相なのかもしれない。
つまり、“私(ぼく)”は「カサブランカに憑依した関家真白」ではなく、「関家真白の記憶を一部持ったカサブランカ」なのではないだろうか。

思い起こせば、昼過ぎに意識を取り戻した当初から、(いちばん最初を除いて)真白というよりカサブランカとして、ごく自然に行動していたような気がする。
それも基となるのが、男(ましろ)ではなく女(カサブランカ)だったのなら、当たり前の話だ。

──ごくわずかな時間で、彼女は現在の状況をそこまで頭の中で分析し終えていた。

「? どうかしたのかい、カサブランカ?」
とは言え、ほんの十数秒といえど、無言でドアの前に立ち尽くしていたら、さすがに怪訝に思われるのも、また当然の話だ。

「いえ、なんでもありません。指揮官、お呼びと聞いたのですが、どんな御用でしょうか?」

部屋の中に歩を進めて、カサブランカが指揮官の前に立つと、指揮官もソファセットから立ち上がり、彼女の両肩に手を置き……次の瞬間、ギュッと彼女の身体を抱き寄せていた。

「(きゃぅ! こんな情熱的なスキンシップ、いままでしてもらったことがありませんのに……!)あ、あの、これは、その、し、指揮官!?」
慌てて真っ赤になってはいるが、拒絶するつもりは毛頭ないらしい。

そんなカサブランカの様子を見て「イケる!」と思ったのか、指揮官は一気に“攻勢”に出た。

「本当は、もう少し早くに渡そうと思ってたんだけど、キミはリノ達とチアダンスの練習で忙しそうだったからね」
いったん名残惜し気に身体を離すと、指揮官はポケットから小さな宝石箱のようなものを取り出す。
その中身が何かは、カサブランカには想像がついた。

「そ、それって、まさか……」
「うん、“誓いの指輪”さ──受け取ってくれるかい?」

さすがに歯がキラリと光ったりはしなかったものの、それに近い雰囲気を醸し出す爽やかな表情で指揮官はカサブランカに笑いかけ、左手を差し伸べる。

頭の片隅に微かな違和感(?)を感じつつも、その笑顔にドキドキと胸の鼓動を加速させるカサブランカ。

「──ラブロマンスに波乱万丈なストーリーはたしかにつきものですけど、それがいざ自分のこととなると、びっくりして落ち着いて考えられなくなっちゃいますね。
えっと、ホントに私でよろしいんですか?」

「あぁ、もちろん……っと、しまった。そう言えば、肝心な台詞が抜けてたね──カサブランカ。僕とケッコンして共に人生を歩んでくれますか?」

その言葉と共に微笑からキリッとした顔つきに切り替わった指揮官の表情を見ながら、彼女は自分の中に抑えきれない衝動が湧き上がるのを感じた。

「(あぁ、流されちゃダメなのに……でも)はい、喜んで。では、改めて、この誓いの指輪をはめていただけますか?」

おずおずと差し出されたカサブランカの左手を、指揮官は同じ左手でそっと包み込むように握り、右手で取り出した誓いの指輪を、彼女の薬指へと嵌める。

自らの薬指できらめく指輪を見ながら、感無量といった面持ちで頬を上気させたカサブランカを見て、とうとう我慢の限界を超えたのか、指揮官は彼女のおとがいの人差し指をかけ、クイッと持ち上げた。

(こ、これは恋愛小説や映画で有名な「あごクイ」! これをされたってことは、次は……)

ラブロマンス系創作物を幅広く嗜んでいるカサブランカなので、この後に続く展開は当然予測の範囲だが、抗うことなく流れに身を任せ、そのまま目を閉じる。

──指揮官との初めてのキスは、少しだけ甘酸っぱい(先程の応援時に飲んでいたポ〇リの)味がした、と、後に彼女は語っている。

* * *

さて、ここでメタな視点から、この話の主役ふたりについて語ってみよう。

まず、この“ユニオンの軽空母カサブランカの姿をした少女”が、先程“気付いた”と「実は自分はカサブランカに真白の記憶の一部が混入した存在なのでは?」という疑念についてだが……。

結論からすると、コレは半分正解で半分不正解だ。
かの銀髪少女は、「本物のカサブランカの体に、関家真白から抜き取った魂をインストールした」存在なのだ。
ただし、その際に、本物のカサブランカの記憶を“上書き”はせず、空白領域にダウンロードしたので、元の彼女の記憶も体(というか脳)にキッチリ残っているわけだ。

対して、“マシロ指揮官”の方は、魂を分離した関家真白少年の身体を3歳ばかり急成長させた後、真白の人格のコピーを植え付けた存在だったりする。

心と体が合わさってひとりの人間を形成しているのだとすれば、彼女と彼は、ふたり揃ってこそ、「本物の関家真白」だと言えるのかもしれない。

──え? 「どうしてそんな事を知っているのか」だって?

ふふふ、お察しの通りだよ。ソレをヤったのがボクだからさ。
ボクのことは、まぁ、神様のハシクレみたいなモノだと思ってくれたまえ。
……上に“邪”とか“魔”の字を付けて呼ぶ者もいるけどね。

「どうしてわざわざ身体から魂を抜いて他人に植え付け、コピーの方を本体に戻したのか」って?

無論、その方がおもしろ……ゲフン! 真白クンの願いが「カサブランカの身体を思う存分・自由自在に弄びたい」だったからサ!
ほら、自分の肢体(からだ)なら、好きな時に好きなだけ撫で繰り回したり、揉んだり、舐めたり、自家発電したりできるだろう?

嗚呼、なんてボクは親切なんだろうネ!

* * *

ふたりきりの部屋で彼からの愛の告白とケッコンの申し込み。そして誓いの指輪をはめてからのファーストキス……と、ここまでは、まさに女の子が思い描く理想のラブシーンそのものでした。

ただ、問題は、私たちはふたりとも、純粋に恋に恋する“だけ”で満足できるお子様ではなく、それなりに成長した(そしてそれに応じた肉体的欲求を持つ)若者だ──というコトでした。

唇を重ねたままの私たちふたりの抱擁は、より密接かつ大胆になっていきました。
私は指揮官の背中に両手を回して抱きつき、指揮官の手も私の身体を強く抱きしめてくれます。
──抱き締めただけでなく、左の掌で私のスコートに包まれたお尻を優しく撫でるというか揉むような形になったのは、ちょっと驚きましたけど。

「イヤだったら正直に言ってくれよ? 無理はするな」
「イヤなわけありません! 私、指揮官になら、何されても構いない……いえむしろしてほしいんです!」
言ってしまいました。はしたない子だと思われるかもしれませんが、でも、紛れもなく「私の本音」です。

「そうか。うれしいよ、カサブランカ」
ニコリと微笑むと、再び唇を奪われます。

「んっ……んんっ……!」
最初の時は唇が触れ合うだけの口づけでしたが、今度は吸い付くような貪るような激しいディープキスで、さらに何度か繰り返すうちに、互いに舌を絡めることまで……。

「はぁ、はぁ……指揮官、エッチです」
ちょっぴり潤んだ目で拗ねたような声で甘える私。
「そりゃ、好きな子にこんな格好で抱きつかれて、男が萌えないわけないでしょ」
悪戯っぽい表情で、指揮官の手が、チアコスチュームに包まれた私の乳房を軽く揉み揉みします。

「きゃ! ……し、指揮官は……私の胸が好きなんですか?」
「カサブランカの体は全部が好きだけど──胸は特に好きだな!」
他の男の人が言ったらドン引きしそうな台詞ですけど、指揮官に言われると身体が熱くなるなんて、私もけっこうエッチな子なのかもしれません。

「(う、嬉しい♪)指揮官、ちょっといいですか? 私、してみたいことがあるんです」
「ん? あ、ああ、いいけど」
その言葉を聞いて、私は彼の足元に膝まづきます。

「あの、指揮官、おズボン脱がしても、よろしいですか?」
「うん?」
指揮官としては、聞き返したつもりなのかもしれませんが、私はそれを肯定と解釈して、ベルトとジッパーに手をかけます。

──カチャカチャ……ジーーーーッ……パサッ!

「──す、すごい、ですね。これが、指揮官の……」
勢い余ってパンツごとズボンを下ろしてしまったために、勢いよく屹立するソレを目にして、思わず声に出してしまいます。
(なんだか……「僕」の記憶にあるより大きい気が……3歳分成長した?)

予想外のオチ●チンの大きさに驚きながらも、そっと右手で包み込むように触れ、先端付近でシュッシュッと前後(上下?)に動かし始めました。
残った左手は、オチ●チンの下にぶら下がったふたつの“玉”を、やわやわと優しく刺激します。

「くっ……カサ、ブランカ……(まさか自分から触ってくれるとは)」
「指揮官……ど、どうでしょう? い、いかが、ですか?」
「あぁ、とても気持ちいいぞ(しかし一体どこでこんなコトを?)」
「! そ、そうですか。よかった……指揮官に喜んでもらえて、私、嬉しいです!」

この言葉は嘘ではなく、だんだん息が荒くなっていく指揮官を見て、私自身も昂っていくのが自分でわかります。
「男の、しかも元自分のチ●ポを触って興奮するなんて」という嫌悪感がチラリとだけ浮かびましたが、すぐに消え、逆に「男が感じるチン●ンの刺激方法」を“知って”いることに、むしろ感謝の念が湧きました。

「す、すごい……指揮官のモノが、すごく熱くて……擦れば擦るほど、もっともっと熱くなってます……」
あえて口に出すことで、余計に自分の中でも性欲(きもち)が高まっていくのを感じました。

「で、出ますか? 指揮官…………きゃっ!?」
ほんの1分足らずの“手こき”で、指揮官のオチンチンは赤黒く充血し、普段の3倍以上の大きさに膨張しつつ、震えています。
そろそろかな、と思う間もなく、その先端から熱い白濁液が噴出しました。

「ぁあ……すごい……こんなにいっぱい……」
びゅくんびゅくんと震えながら精を吐き出す肉棒を恍惚とした目で見つめる私。

「おやおやぁ? こういうことに興味なさそうな優等生なフリして、案外カサブランカもエッチだね」
そんな風にからかわれて、私は顔が真っ赤になるのがわかります。
「いやぁ~、言わないでぇ……指揮官のいじわるぅ……」

思わず両手で顔を隠した私を、指揮官はなかば強引に抱き上げると、部屋にあった大きめのソファに横たえます。
私の上に壁ドンならぬ“ソファドン”な体勢で覆いかぶさると、次の瞬間、(私の大好きな)キリリとした表情に戻って、私に聞いてきました。

「さて。いい具合にカサブランカの肩の力も抜けたようだし──キミの処女(はじめて)をもらうよ? イヤなら今のうちに言ってほしい」

「イヤなわけありません……むしろ、早くシてほしいです、指揮官!」
身内を焦がす熱に浮かされた私は、取り繕うことも忘れて、思わずそう訴えてしまいました。

「──わかった。ちょっと手荒になるぞ?」

その言葉通り、それからの指揮官の行動は、私が知る普段の柔和な彼の言動と異なり、ずいぶんと荒々しくも雄々しいものでした。

「っ……!あっ……」
胸の上半分が開いているコスチュームの隙間から、乳房全体を露出させ、少し強めに力を込めて揉みしだかれたり……。

「んんっ…そ、ソコは……あんっ…!」
スコートをめくられ、ハイレグ仕様のアンダーウェアのクロッチ部分を指でまさぐられ、ソコが十分な湿り気を帯びてくると、黒い布地ごと軽く指先を押し込まれたり……。

「つッ! ……だ、大丈夫です、指揮官。続けてください……」
そして、左右に大きく足を開かされ、股布をズラした状態で、彼のオ●ンチンをじわじわと挿入されて……。

「ああ、指揮官……私、今、指揮官と繋がってるんですね」
ついに私は指揮官に“女”にしていただくことができました。

処女喪失の瞬間は確かに多少痛かったですが、元より私は戦う女、KAN-SENですから、駆逐艦や巡洋艦ほどでないにせよ、痛みには慣れっこです。

そんな軽微な痛み以上に、「指揮官の女(モノ)になれた」という悦びの方が上回ります。

「好きだよ、カサブランカ♪」
そんな言葉を耳元でささやかれると、身体がこれまで以上に燃えあがります。

「私も……愛してます。指揮官♪」
大事な部分で繋がったまま、私は自分から指揮官の腰に足を絡め、両手も彼の首の後ろに回して抱き締めます。

(だいしゅきホールド、とか言うんでしたっけ)
耳慣れない単語が脳裏に浮かびますが、これは指揮官のコピー記憶から拾ってきた知識でしょうか。

「っ、んっ、あっ、ぁン♪ 指揮官、しきかぁん♪」
指揮官の腰の動きが早まるにつれて、私の口からは無意識に甘く媚びた嬌声が零れだしていました。

「わ、私、も、もぅ……んっ、んんっ、んんっ……!!」
「あぁ、いいぞ。僕も、そろそろ、イキ、そうだッ!」

──ドクッ、ドクッ、ドクンッ……ドクッ!!!

「はっ、あっ、んっ、ふぁぅっ、ダメ…っ、イく、イッちゃうぅぅーーーーッッッ!!!」

彼の分身がビクンと震えるとともに、私の胎内に熱い液体が注ぎこまれ、それと同時に、私の意識も快楽の絶頂にある白い虚無の中に飲み込まれていったのでした。



* * *

さて、これで一件落着かな。
え? 「結ばれてからのふたりの様子を知りたい」?

いや、とりたてておもしろい……もとい、語るべきことは、あまりないよ。
強いて言うなら、「一見夫唱婦随に見えつつ、なんだかんだで指揮官は最終的にカサブランカに頭が上がらなくなった」ってことくらいかな。
何せ、元は同一人物だからねぇ。“彼女”の方は、彼氏の嗜好や癖なんかもすべて熟知してるんだもん。それに「女の勘」が加わったら、勝てるワケないよ。

まぁ、その(元男という経歴の)おかげか、“嫁”を増やす(=他の娘とケッコンする)ことにも、比較的“あの”カサブランカは寛容だったし、その意味では、指揮官にとっても悪くない環境だったんじゃないかな。

さて、そろそろ視点(のぞくさき)を別の人間に変えようか。
今度は……。

「北連の駆逐艦タシュケントちゃんの絶対領域をペロペロしたいよぉ~」

おっと、こりゃまた業の深い。
うむ、しかし、その意気やよし!

『──その願い、叶えてしんぜよう♪』

<おしまい>
このあとこの“カサブランカ”は、マシロ指揮官の“正妻”として、彼とケッコンする面々をまとめる苦労を味わうことになる……と妄想。でも、元が同一人物だけあって、指揮官の好みのKAN-SENに彼女も好意を抱くため、案外上手くいくのかもしれません。
KCA
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