-1-
カジノや賭場といった場所では、時折まったくの素人が思いもよらないバカヅキで大儲けすることがある。
この若者──というより少年といった方が良さそうな東洋人・キヨヒコも、そのひとりだ。
ハイスクール卒業記念の旅行で訪れたというこの国で、たまたま目にした“娯楽の殿堂”(要は、ちょっとだけ特殊なカジノだ)に立ち寄り、偶然スロットで大当たりを引き、そのメダルを元にルーレットに挑み……。
数時間後、気が付けば彼の周囲にメダルの山が築かれていたのだ。
ただし、この娯楽の殿堂では、メダルを直接換金することはできない。
一番手っ取り早いのは、賞品として用意されている貴金属類と交換し、この店のすぐ向かいにある質店に持ち込むことだ。メダル総額のおおよそ90%程度の現金を手にすることができるだろう。
あるいは、賞品それ自体を目的とする客もいる。前述の貴金属の他にも、賞品のラインアップには、普通では手に入らない/入りにくい高性能な「護身用武器」や、許可がなければ買えない「秘薬」なども並んでいるのだ。
さらに──これは本当に違法スレスレなのだが──“従業員による特別サービス”を受けることを選ぶという道もあった。
今宵、キヨヒコ少年が選んだのは3つめの選択肢だった。
「で、それはいいとして、その“お相手”に私を? まだ若いのに悪趣味…もとい、変わったシュミなんですね」
苦笑と自嘲の中間のような表情を浮かべつつ、褐色の肌に黒いエナメル製バニースーツをまとった二十歳前後の女性は、隠し部屋──“特別ルーム”で行儀悪くビリヤード台の上に腰掛けた。
先ほどまで彼が勝負していたルーレット台のアシスタントを務めていた女性だ。
カジノの赤やドピンクのギラギラしたネオンの灯りの下では気付かなかったが、よく見ると、着ているバニースーツ同様に、素肌がテカテカと光っている。
(オイルかローションでも塗っているのかな?)
キヨヒコはその時はそう思ったのだが──結論からすると、それは間違いだとすぐにわからされることになる。
「それで、今晩ひと晩、私はあなたのモノなわけですが、何をしたいですか? もちろん……“ナニ”をするのもOKですよ♪」
悪戯っぽい目つきでそう告げられた言葉は、恋人いない歴が年齢とイコールな童貞少年にとって、最後の理性の枷を外すのに十分な威力を持っていた。思わず目の前の肉感的な美女の肢体にむしゃぶり着くキヨヒコ。
(あぁ~~、温かいな、柔らかいな、スベスベだなぁ……んん?)
初めて触れる女体の感覚に、どこぞの煩悩剥き出し少年みたいな感想を脳内で垂れ流すキヨヒコだったが──最後のトコロでふと違和感に気付く。
確かに、女性の肌は男性に比べて、肌理細やかでスベスベだろうが──それにしたった、コレはスベスベ過ぎやしないだろうか?
(スベスベというか……むしろツルツル?)
そう、触れている指先や掌から伝わってくる感触は、バニースーツに包まれた部位と同様のツルツルとした無機質な手触りだったのだ。
「な、何、コレ……」
思わずキヨヒコの口から驚きの声が漏れる。
「ははーーん、その歳にしてはエラくニッチなシュミをしてるなと思えば、どうやら気付いてなかったみたいですね」
それを聞いて、バニー姿の女性は得心がいったようだった。
「え? ど、どういうコト!?」
「フフッ、簡単に言えば私……の他にもこの殿堂の従業員数名は、勤務中、ずっと特殊な“皮(かわ)”を着用しているんです」
「革(かわ)?」
「革(レザー)ではなく皮(スキン)ですね。と言っても、生物の皮膚から剥いだモノではなく、純然たる人造の産物なのですけど」
「???」
女性スタッフの説明に、ますます混乱した表情になるキヨヒコ。
「──もっとわかりやすく言うなら、極限までリアル化した“着ぐるみ”だと思ってもらっても結構ですよ」
着ぐるみと聞いて、キヨヒコの脳裏には、デパートの屋上や遊園地で行われる戦隊物や魔女っ娘物のショウが思い浮かぶ。
(アレと同じって言われても……)
俄かには信じ難いが、しかしそう言われてみれば、確かに目の前の“女性”の肌の質感は、ナイロンやビニールといった化学合成素材を連想させる。
「コレ、本当は秘密なんですけど……本来の私とは顔も体型も全然違うんですよ」
ニッと微笑うバニーガール。その表情の変化はごく自然で、とても人造の皮を被っているようには見えないが、肌の感じからすると嘘ではないのだろう。
「ど、どうしてそんなコトを……」
「そりゃあ、ここが“娯楽の殿堂”だからですよ。この街の代名詞ともいえる有名スポットで働く女性スタッフなんだから、プロポーション抜群な美人じゃなきゃね」
“彼女”は、両手を頭の後ろに当てて「ウッフ~ン」とわざとらしいセクシーポーズをとる。
偽物(つくりもの)だとわかっても、吐息を漏らす形の良い朱唇や、豊かに盛り上がった乳房が揺れる様は、18歳の童貞男子の煩悩を揺さぶるには十分な破壊力を持っていた。
キヨヒコはゴクリと唾を呑み込む。
「さてと、ま、ネタバラシはこれくらいにして──どうします、お客様?」
「え? どう、とは?」
バニー美女(偽)の質問に戸惑うキヨヒコ。
「贋物の人造美人なんて抱きたくない、っておっしゃるなら、今ならキャンセルも可能ですよ? ああ、でも……」
ニコリともニヤリともとれる妖艶な笑みを浮かべながら、“彼女”はキヨヒコに流し目を送る。
「少なくともアソコの具合は“本物”の名器にもそうそう劣らない、と断言できますよ。それなりに経験も積んでますから、そこそこ技術(テク)もあると自負してますし(“自分でも”確かめましたしね)」
そう言いながら、わざとらしくビリヤード台の上で足を組み替える。
網タイツに包まれた艶めかしい脚線美と、その両足の交差する場所に視線を惹きつけられて、キヨヒコは我知らずゴクリと唾を呑み込んだ。
「え、えっと……じゃ、じゃあ、お願い、していいですか?」
キョドりながらも、キヨヒコは、ついに希望を口にする。
「フフ、何を、とは聞きませんわ。ナニをですよね?」
「は、はい。その、初めてなんで……」
「あら、それはそれは。では、僭越ながら、私が“女”というものを教えて差し上げましょう──そう、手取り足取り、じっくりとね」
その時の“彼女”が言った言葉の意味を、後程キヨヒコは嫌という程思い知るハメになるのだった。
-2-
“彼女”との初体験は、誇張抜きで「天にも昇るような快楽」をキヨヒコにもたらした。
ミミズ千匹とかカズノコ天井といった形容も生温い、いわば極上の生きたオナホ状態の女陰──肉襞から膣壁、さらにその最深部の感触自体もさることながら。
「まるで挿入した男側がどのような快感を得ているのかわかっているかのような」バニー娘(偽)の動きや反応が、キヨヒコを心身両面からより深い悦楽の渦へと引きずり込むのだ。
先程「天上の快楽」と表現したが、あるいは「奈落に落ちるかの如き悦楽の底なし沼」と表現した方が正確かもしれない。
「いやぁ、サイコーの童貞喪失経験でした! ありがとうごさいます、おねーさん」
破天荒な冒険心に溢れてはいる(でなければ未成年で国外放浪旅行などすまい)が、同時にお人好しかつ直情的なキヨヒコ少年は、小一時間にも及ぶ快楽のひと時を堪能し、素直に“彼女”に感謝したのだが……。
「ウフフ、どういたしまして♪ でも──これから大変ですよ、お客様」
品良く微笑いつつも、どこか思わせぶりな口ぶりでキヨヒコに同情の視線を投げるバニー娘。
「え? それってどういう……やっぱり、法外なお金を請求されたりするんですか!?」
「いえいえ、そんなコトはありません。夜明けまで、いえ、正確には12時間ですから、明日の朝9時まで私とこのままこの特別室で睦み合っていても、何ら問題ありませんよ。でも……」
もったいをつけて、そこで言葉を切る。
知らずのせられて、キヨヒコが恐る恐る尋ねた。
「でも?」
「自慢に聞こえるかもしれませんが──私の手で、こんな極上の初体験をしてしまった以上、これからはどんな娘を抱いても、心の底からは満足できないでしょうから♪」
それからおおよそ2時間ほどかけて、キヨヒコとバニー娘(偽)は交わりを続けた。
もう少しで日付が変わるという頃には、膣内(なか)で2回、口腔(フェラ)で1回、胸(パイズリ)で1回の都合4回も搾り取られ、若いとはいえ流石にキヨヒコもヘロヘロになる。
「あらあら、ちょっとヤリ過ぎましたか?」
クスクス笑いながら、バニー娘(もっとも今はバニースーツを脱いで全裸、もとい“皮”一枚の姿なのだが)は、彼を付属の浴室へといざなう。
自らもシャワーを浴び、また奉仕するが如く(ふたり分の体液で汚れた)彼の身体も丁寧に洗ってくれた。
「ふぃ~、だいぶ落ち着いてきたかな」
ふたりで折り重なるようにして浴槽の湯に浸かりながら、キヨヒコがリラックスしきった声を出す。
そのまま湯船の中で、まるで恋人同士のような軽い(ちょっとHな)じゃれ合いをしたあと、風呂からあがり、男女ともバスタオル1枚の姿で部屋へと戻る。
「さてと。このまま寝てもいいですし、“回復”したならお相手するのもやぶさかではありませんが……」
言葉を切ってニヤリと意味深な微笑みを浮かべるバニーガール(偽)。
「お客様、ここでしか味わえない、とびっきり特殊な“お楽しみ”を経験するつもりはありませんか?」
キヨヒコ──健速聖比古(たけはや・きよひこ)は、頭脳・容姿・腕っ節のどれをとっても平凡な18歳の少年だったが、ひとつだけ人より並みはずれて優れたモノを持っている。それは“勘”だ。
じゃんけんの勝敗に始まって、テストのヤマかけや銀剥がしクジの正解など“当たり”を選ぶことも得意だが、それ以上に「凶」や「厄ネタ」を回避する悪運(あるいは危機回避能力)に長けているのだ。
そんなキヨヒコの勘が、“彼女”の申し出を受けると、特大級の厄介事をもたらすと警告していたが、同時に、前代未聞の“おいしい”体験ができるとも告げていた。
そして──このように正負(メリット・デメリット)相反する事柄を予感した場合、キヨヒコは良い方に賭けるのが常だった。
キヨヒコが頷いたことを確認すると、偽バニーガールはベッド代わりにしていた特大ソファの下部を探ると、そこからあるモノを取り出す。
無論、その白いペラペラの“膜”のようなものの正体は……。
「も、もしかして、ソレがおねーさんが着てるっていう“皮”?」
「フフフ、正解です♪ しかも、私の着ているのより新しいバージョンですから、より高性能ですよ?」
まるで女性客に店の商品を薦めるブティックのマヌカンのようなノリで、“彼女”はキヨヒコに向かってその“皮”を広げて見せた。
薄っぺらい見かけに反してそれなりに強度があるのか、ソレは中味がない状態でも広げると、ある程度の“形状”を保っていた──すなわち、女性の全裸を模した形に。
「ちょうどお風呂に入ったばかりですし、お客様、コレ着てみませんか?」
差し出された“皮”をキヨヒコは恐る恐る受け取る。
バニー娘(偽)と異なり、間近で見てもその皮の質感は、ほとんど人肌──それも年若い女性の滑らかな柔肌そのもののように思えた。その辺が“高性能”と言われる所以なのだろう。
首から下(正確には顎のすぐ下から)を覆う全身タイツのような形状で、ハイネックになった首から肩甲骨の間くらいまで、背中の方に切れ目が入っている。どうやらここを広げて着る構造になっているようだった。
広げて中を覗くと、表側の肌とは打って変わり、桃色のヌメヌメした布地(?)が見える。その質感は、大きく開けた人の口の中を連想させられた。
そんな一種生物的な材質の“袋”に身体を入れるということに、躊躇いを覚えないと言えば嘘になるだろうが、好奇心の強いキヨヒコは、それ以上に未知なる体験にワクワクしている面が強い。
ソファに全裸のまま腰かけたキヨヒコは、予想以上によく伸びる“皮”の中に、思い切って右足、続いて左足を突っ込んでみた。
皮自体の伸縮性と、ローションのような粘液が内側に塗布されていることもあって、思ったより簡単にキヨヒコよりふた回りほど小さいはずのその皮の脚部を“着込む”ことができた。
足先が内部の粘液に触れた瞬間だけは、その冷たさに一瞬ビクッとしたものの、そのままタイツでも履くかのように足を通していくと、すぐにその感覚も気にならなくなる。
両足をつま先まで中に入れ、太股までたくし上げたところ、“皮”はピッタリとキヨヒコの脚に貼り付いて、完全に生身の皮膚としか思えない状態になっていた。
この国の大多数を占める白人種女性の肌を模しているのか、東洋人男性であるキヨヒコのやや陽に焼けた黄褐色の肌に比べると、随分と色白かつ滑らかな肌だ。
とは言え、伸縮性の高い素材故に着やすかったものの、だからこそキヨヒコ自身の体型が浮き彫りになっているため、女らしいという印象はやや薄い。
感動7に対し失望3といった感情を抱きつつも、それでもこのままこの皮を首まで着れば、まったくの別人──それも異性の姿になれるだろうことは予想できたので、キヨヒコはここで手を止めるつもりはなかった。
そのままさらに“皮”を引っ張り上げて、下半身を覆っていく。
臀部はともかく、本来女性にないはずの股間の逸物については、ちょっと迷ったが……。
「そうそう、その筒にお客様のモノを挿し込んで下に向けて押し付けてください」
偽バニー嬢のアドバイスに従い、ソレが当たる部位に用意されたチューブのようなものに陰茎を突っ込み、言われた通り少し力を込めて下側に押し付ける。
内側の粘液が接着剤のような効果を発揮したのか、そのままの形で陰茎は固定され、先端部が両陰嚢のちょうど中間部辺りにくる形となった。
そのまま“皮”を、あたかもパンストでも履くように引き上げてウェスト部分まで覆ってしまう。
そうすると、本来股間にあるべきに膨らみは殆ど目立たなくなり、皮の股間部に形成された大小の陰唇と縦筋のせいで、女性の性器があるようにしか見えなかった。
(ぼ、僕の股間が女のアソコになってる!)
──ゾクゾクッ!
その時、キヨヒコの背筋に奔った震えは、恐怖か興奮か、あるいはその両方か……多分本人にも答えられないだろう。
さらに“皮”を引き上げつつ、少し窮屈な姿勢ながら右腕、左腕の順に手を“皮”に突っ込む。
足と同様、僅かな締め付けを感じるものの、やはり足同様に内側の粘液(?)のおかげで滑りやすくなっているせいか、さほど苦労することなく指先まで手を入れることができた。
二、三度手をグーパーと開いてみると、それだけで“皮”が吸い付くように馴染み、他の部位同様、何も着ていないかのような錯覚に陥る。
無意識に右掌で左の二の腕から手首にかけてを撫でてみるキヨヒコ。
元々さほど筋肉質な方でもないので、腕については肌が変わっただけで十分に女らしいモノに見える。
それだけでなく、本来のキヨヒコのやや丸っこく平たい爪と異なり、ピンクのマニキュアで飾られ、形よく整えられた綺麗な長めの爪が指先についているのも、何気に女子ポイントが高い。
肩まで腕を“皮”に突っ込み、完全に胸の部分も密着させる。
胸には乳房らしきものもぶら下がっており、その部位にはジェルのようなもので作られたパッドが備わっているため、いくらか胸も膨らんでいるように見えるが、あまり大きくはない。
せいぜいがA、あるいはギリギリBカップぐらいだろうか。それでも、男の胸とは異なり、確かに“女の子のオッパイ”が形作られていた。
ジェル製パッドの部分も“皮”と同様キヨヒコの肌にピタリと吸い付いているため、身体を動かすとともに彼は、生まれて初めて「胸が揺れる」という感触を(ささやかながら)実感する。
──ゾクゾクゾクッ!
(あぁ、また……)
震えとも疼きともとれる衝動が、背筋を駆け上がっていくのを感じ、しばしキヨヒコは身動きを止めた。
「あの、お客様……?」
「あ、いえ、何でもありません」
偽バニー娘に声をかけられ、我に返ったキヨヒコは、最後の首元──顎のすぐ下までを完全に“皮”で覆ってしまう。
いくらかの締め付けによる補整を除くと、体型自体は「まだ」それほど変わっていないのだが、それでも彼の首から下は、パッと見には“彼女”と呼んで違和感のない代物へと変貌している。
早速部屋の隅にある鏡を見ようとしたキヨヒコを押しとどめると、偽バニー嬢は、彼を女性へと変える最後の品──頭髪付きの全頭マスクらしきモノを差し出した。
ボディ部分と同様の白い“皮”で形作られたソレは、目と口の部分に僅かに2センチほどの切れ込みが入り、鼻の部分には小さな穴がふたつ開いているが、それを除くとのっぺりした造りだ。
頭頂部から後頭部にかけては、かつらの如く金色の髪が植えられている。首にあたる部分に穴があり、それを広げて被る構造になっているようだった。
穴の直径はパッと見には10センチもないのに、これまた胴体部と同様によく伸びるようで、グイと大きく広げて簡単に被ることができた。
目・鼻・口と合わせるように被った“マスク”の位置を微調整する。巧く位置が合った──と思ったのとほぼ同時に、身体の方でお馴染みの自分の肌と“皮”がピッタリ密着して一体化する感覚が襲ってくる。
それに合わせて、腫れぼったいように感じた瞼や、少し開けにくかった口も、普段と変わらずごく自然に開閉できるようになっていた。
「“顔”の方も巧く馴染んだようですね。では、仕上げに“隙間”を閉じちゃいましょう」
偽バニー娘がキヨヒコの背後に回り、身体を覆う“皮”の背にある僅かな開口部を摘まんで合わせると、それだけでまるで切れ目なんて最初からなかったかのように塞がってしまう。
さらに、“皮”の上端部を“マスク”の穴の縁に突っ込んで、その境目に何か肌色のジェル(実は胸部に満たされていたパットの素材とほぼ同質のものだ)を丁寧に塗布していく。
ジェルが変質固形化するまで、ほんの1分足らず。そして1分後には、こちらも完全に周囲の“肌”と馴染み、継ぎ目のようなものはまったく見当たらなくなっていた。
「これで完成ですか?」
キヨヒコの問いに、偽バニーはニヤリと笑った。
「いえ、むしろこれからが仕上げの本番ですよ♪」
その言葉とほぼ同時に、キヨヒコは全身を締め付けられるような感覚に襲われる。刺されたり殴られたりするのとは少し異なるが、それでもある種の「痛み」に近いナニカだ。
「ぐっ…カハッ……こ、これは……」
キツい──と、思わず泣き言を漏らしかけたキヨヒコだったが次の瞬間、唐突にそれまでの痛みにも似た圧迫感が消えていることに気付く。
代わりに全身を熱っぽい感覚が満たしている。
その熱にしても病気の時に高熱に浮かされているような不快なそれではなく、むしろ“ポカポカ”と表してよさそうな心地よいモノだった。
「──え?」
「フフフ、これで一応完成、ですわ。でも、せっかくですから鏡を見る前にコレに着替えてくださいな」
そう言って差し出されたのは、白くふわふわした尻尾(?)がついた深紅のレオタードのような衣裳(コスチューム)だ。
同色の長手袋や黒い網タイツ、ウサミミ付きカチューシャなども用意されていることからして、目の前の黒バニー娘と色違いのバニースーツなのだろう。
苦笑しつつも、折角だからと着てみることにする。
女装(?)なんてするのは生まれて初めてだが、幸いにして真っ赤なボディスーツは、上から足を突っ込んで引っ張り上げるだけで事足りるだろう。
とりあえず黒バニー嬢のアドバイスに従い、先に網タイツの方をじか履きしようと下を向いたキヨヒコだったが、ふと視界に微妙な違和感を感じた。
「あれ……ボクの胸、大きくなってる?」
先程まで12、3歳の思春期入りたての少女並にしかなかったはずの胸が、大幅にボリュームを増し、巨乳と呼んでも差し支えない域にまで成長しているのだ。
思わずその大きくなった胸に両手で触ってしまったキヨヒコだったが、量感たっぷりな乳房は、掌から伝わる感触と自分の胸に触られているという感覚の両方で、それが実在のモノであることを主張する。
「こ、これって……」
「ええ、この皮(スキン)の特殊機能のひとつですね。頭部(マスク)と身体(ボディ)を完全に着込んで接続することで、予め定められた体型へと着用者の体を強力に補整するのです」
よく見れば、腕はよりほっそりとし、脚線も女らしい柔らかなものに変わっている。手で触った感じでは、臀部(ヒップ)もひと回り以上大きく(安産型に)なっているようだった。
思いがけない事態に戸惑うキヨヒコだったが、偽バニー娘はそんな彼(それとも“彼女”と言うべきか?)の心境に頓着せず、着替えの手順を指示する。
半ば混乱状態のキヨヒコは、深く考えることなく素直にその指示に従い、網タイツを履き、深紅のバニースーツを身に着けた。
「肩紐とかがないから、ずり落ちないか心配だけど、どの道、ここには他に人はいないんだから、まぁいいか」と、ちょっとズレた思考が浮かんでくるあたり、どうやらキヨヒコも徐々に落ち着きを取り戻したようだ。
スーツ同じく真っ赤な長手袋──いや、手首から先はないので正確にはアームカバーとでもいうべき代物を両腕にはめ、黒バニーのものより多少カカトが低め(それでも5センチ以上ある)のハイヒールを履く。
最後に毒を食らわば皿までの精神で、恥ずかしさを堪えてウサミミのついたカチューシャを頭にはめれば、もうひとりのバニーガール(偽)の完成だ。
黒バニー娘のお許しも出たので、慣れないハイヒールを履いた状態でおっかなびっくり姿見の前まで歩み寄る。
「!」
鏡の中からは、癖のない見事な金髪を腰近くまで伸ばした、二十歳前後のグラマーな白人美女が、驚いたような表情で彼、いや“彼女”を見つめ返していた。
-3-
自らの“変貌”に驚くキヨヒコの背後に、“彼女”とは対照的な褐色肌で紫髪の美女が回り込むと、その豊満な恟を“彼女”の肩甲骨に押し当ててくる。
「な、なに?」
「──フフッ、わかってるくせに♪」
ペロリと耳の後ろを舐められ、金髪バニーの身体が硬直する。
だがそれは、決して驚愕や嫌悪によるものではなく、背筋を走った快感によるものだということを、褐色バニー(偽)はしっかり見抜いていた。
ダメ押し、とばかりにいつの間にか手にした香水瓶の中味を、客の鼻先にシュッとひと吹きする。
「クシュン……こ、コレ、なんですか?」
「この香りは、発情を促す大人の女用のフレグランスです。それにしても、随分と大きなおっぱいになりましたね」
黒バニーが、背後から回し両手で金髪バニー娘の巨乳を鷲掴みにすると、“彼女”は艶やかな喘ぎ声を漏らす。
「ひゃあ……ん、ぅんんっ!」
「なかなか可愛い声で啼いてくださいますね」
黒バニー娘は、たわわな乳房の感触を楽しんだ後、右手をバニースーツの中へと滑り込ませる。
「ちょ、ちょっと……あんっ♪」
直に“彼女”の乳房を揉みながら、左手は滑らかな衣装の腹部をねっとりと撫で回す。
「心配無用です。先ほど女に“なった”ばかりの初心者でも、私の手にかかれば、すぐ(女として感じる)要領を掴めるようになりますから」
深紅のエナメル衣裳に包まれた少女(偽)の腹部は、ほどよい弾力と柔らかさを併せ持ち、覆う布の特性とあいまって、しっとりと手のひらに吸いついてくるかのように感じられた。
「“皮”を着ているから当たり前だけど、お肌もすべすべですね──あら、どうしたのですか? そんなに震えて……」
からかうように微笑いながら、黒バニー(偽)がうなじにふぅっと息を吹きかけると、赤バニー(偽)は、ビクンッと身を震わせた。
「ん、んぅ…ッッ! ちょ、ちょっとソレは……ひぁんッ!!」
「初めてこの“皮”を着た人はみんな“そう”なるんですよ。敏感過ぎますからね、この“肌”は。そのままだとまともに動けませんから、馴らしが必要なんです」
黒バニー娘は、赤バニー娘の耳元で囁きながら、腹部をさ迷っていた左手を徐々に下方へと移動させていく。
ハイレグ気味なバニースーツのデザイン上、下着は着けず、網タイツを直穿きしているだけなので、クロッチ付近を這いまわる指からの刺激は、ほぼダイレクトにキヨヒコの“身体”に伝わる。
「や、やめ……あひぃンッ!」
ほんの一瞬だけ際どい部分を掠めたのち、黒バニーの手は、むっちりと脂の乗った“彼女”の太腿を経由して、適度な弾力と柔らかさを両立させたヒップへとさ迷う。
その丸みを帯びた臀部の触感を楽しむように撫でまわした後、偽バニー娘の掌はバニースーツの際から内側(なか)へと忍び込む。
「ぃや………だめ、だって、ば……はぅッ!!」
体内の深奥から湧き上がる快感に翻弄されつつも、言葉での抵抗は止めない赤バニー(キヨヒコ)だったが、再度耳たぶを甘噛みされて、堪えきれずに背筋をのけぞらせる。
力が抜け身体を支えられなくなったのか、そのままくたりと床に倒れ掛かるのを、黒バニーが受け止め、先程までの情事で使用していたソファへと“彼女”を横たえた。
ひと息つく暇も与えず、そのままその熟れた肢体に覆いかぶさるような体勢で顔を寄せ、赤バニーの頬や首筋にチュッチュとキスの雨を降らせる。
「ほ~ら、そろそろ観念して、身体を開いてくださいな♪」
「あっ……」
キヨヒコ“だった女”を組み敷いた偽バニー娘は、指先をそっと“彼女”の胸元に添える。
刹那の後、バニースーツの胸の部分が呆気なくめくられ、“彼女”は無防備に己が乳房を晒すことになった。
真っ白な双丘の頂点に、淡い桃色の乳首がツンと尖ってその存在感を示している。
「ふふっ、お客様も期待されているようですね♪ では続きをば……」
カプッと右の乳房に吸い付くと、偽バニーは舌を使って乳首を刺激し始めた。
乳輪の中心を吸い上げ、舌先で弾力のある蕾を転がすようにして弄ぶ。
「ふぁあっ……そ、そこだめぇッッ!」
ぷっくりと充血したソコは、さらに大きく敏感になっていく。
「女がこの状況で「だめ」っていう時は、「いいの♪」っていうことと同義なんですよね? 私も“こう”なってから初めて知りましたけど……ふふっ」
──れろ……れろん……くちゅくちゅ……ちゅぱっ♪
右手で左の乳房を、唇と舌で右の乳首を攻め立てる偽バニーは、さらに残る左手をキヨヒコのヒップへと伸ばし、ちょうど衣装の尻尾のあるあたりを弄り始める。
「えーと、確かこの辺りに……」カチッ!
ボタンを押すような音と共に、赤いバニースーツの尻尾が付いている場所から何か突起らしきものが内側へと盛り上がり、キヨヒコの尻の谷間の間へと侵入してくる。
「ぅひゃん! こ、これは……」
「ふふっ、イイモノですよ♪」
キヨヒコの疑問をはぐらかしつつ、赤バニースーツの尻尾をクニクニと弄ぶ偽バニー娘。
ふさふさした尻尾の反対側──バニースーツの内側に飛び出した突起の太さは小指程、長さは5、6センチくらいだろうか。
程よい柔らかさと堅さを両立したシリコンのような素材でできており、緩く屈曲した先端部がキヨヒコの(正確には彼が着た“皮”の)菊穴の周辺をグリグリと刺激する。
「あっ、あっ、あ……ちょ、やめ……あンッ!!」
“皮”の内側はローション以上に滑りを良くする粘液が満ちている。それは肛門内も例外ではなく、その助けもあってバニースーツに内蔵(?)されたアナルディルドーは、呆気なく“彼女”の後腔へと潜り込んだ。
「ひゃうっ! ん……くぅうんっ!」
男女どちらが相手にせよ、特に“そういう趣味”のなかったキヨヒコにとっては初めての体験だったが、想像していたような痛みや屈辱感はない。
強いて言えば「体内に異物を入れられている違和感」は無いわけではなかったが、それすら徐々に小さくなり、むしろ自分の体が積極的に受け入れ始めているような……。
(! な、何考えてるんだボクは!?)
慌てて考えるのを止めるキヨヒコ。そのままだと、何かイケナイセカイの扉を開いてしまうような気がしたからだ──もっとも、もうすでに手遅れなのだが。
キヨヒコがあまりに呆気なく「後ろの処女」を喪ったことに気を取られている隙を見逃さず、偽バニー娘はさらなる“侵攻”を企てる。
「じゃあ、今度はこっちですね♪」
先程とは反対側の左の乳房にかぶりつき、乳首を歯で甘噛みする。
唾液まみれになった右乳首の方も遊ばせずに、指先でつまみ、少し強めの力加減減で捻りあげた。
ヒリヒリした痛みにも似た刺激が両方の乳首から伝わり、それが快感へと転化されてキヨヒコの心身をかき乱す。
「だ、だめぇ~、おっぱいの先っぽ、そんなにいじっちゃ、らめぇーー!!」
半ば無意識に“彼女”は拒絶の体(てい)をとった嬌声を漏らしていた。
左右の乳房と肛門の3ヵ所から送り込まれる刺激、いや愉悦に“彼女”はなすすべもなく押し流され、ビクビクと痙攣している。どうやら軽く“イった”ようだ。
「ふふふ、気持ちよくイケましたか? で・も、本番はこれからですよぉ♪」
偽バニー娘(いまは全裸だが)は、どこからともなく取り出した黒いエナメル製の下着のようなものを下半身に履く。
ただし、その股間には、一目で男性器を模したとわかる20センチほどの肌色の突起が備わっている。いわゆるペニバン──「ペニスバンド」と言われる性具だった。
肉色のフランクフルトといった趣きの突起物にローションらしき液体を垂らして湿らせると、その先っちょが“彼女”のソコにあてがわれる。
そのままゆっくりと撫でさするようにじんわりと動きを開始する。
──ぢゅぶ……くちゅ……ぶちゅ……じゅりぃ……
「あンっ! はぁ、はぁ……そ、そんなの……ぁひぃあぁっ!!」
逃げられない。抵抗できない。
じっくり愛撫され、先ほどの軽い絶頂(アクメ)で心地よく蕩けた身体は、手足の末端まで痺れて力が入らない。
心臓は飛び出しそうなほど激しく鼓動を刻み、愛液が秘唇からとろとろと溢れている。そこに与えられた未知なる感覚の前に、“彼女”は泣きたくなるほどの興奮を覚えていた。
(ど、どうなっちゃうんだろ……。こ、こんな状況でサれちゃったら、“わたし”の身体……)
行きずりの、ほぼ見ず知らずと言って良い相手に犯される。
恐怖や嫌悪感があってしかるべき状況なのに──“彼女”は嫌ではなかった。
下腹部で疼く熱さともどかしい衝動が女体をわななかせ、“キヨヒコ”だったはずの“女”は、頭の芯まで倒錯的な肉欲に支配されてしまっていた。
雌として火照った肉体は、さらなる愛撫と、その先にある段階(ステージ)を切望している。
「あはっ♪ もぅ欲しくてたまらないみたいですね……コ・レ・が」
股間に加えられる欲棒の断続的なタッチが次第に強く、激しくなってきた。
引くよりも押してくる時の力の方が強まり、秘裂の間に先端が徐々にめり込み始める。
ぐいぐいと腰が押し込まれ,人造の男根が、“彼女”の処女を散らそうと明確な意思をもって、肉襞の間に侵入を始める。
(ぁぁぁ……だ、だめ……こんなの気持ちぃ……絶対とめ、られないよぉ……)
快楽に喘ぎつつも、押される端から無意識に身体が勝手に逃げようとはするのだが、頭頂部がソファの肘掛けまで達すると、それ以上逃げ場をなくしてしまう。
こうなると、“彼女”は雌として犯される以外の道が無かった。
両足はこれ以上ないくらいに大きく開かされ、股関節が軋む。
身体が腰から「く」 の字に折られ、両方の膝も自然と曲がって、いわゆるM字開脚の体勢になる。
物凄く屈辱的なその姿勢が、逆に羞恥と被虐心を強め、さらなる興奮を“彼女”にもたらした。
股間に“突起”を当てたまま、お尻を持ちあげると、偽バニー娘が“彼女”の上にのしかかってくる。
──みり…みち……みちみちみち
「っつ……はぁン! そ、それは……だ、だめぇぇ!!!」
キヨヒコの感覚だと、ソコには体内に続くような器官(あな)はないはずなのだが、成熟した女の身体となった今の“彼女”には……。
──ずるっっ……ずずずずずずずぅぅんっ!
熱い塊が股間から中に入り込んでくるあり得ない感触が確かに感じられる。
元の自分のモノよりふた回り以上立派な肉槍が、“彼女”のソコを突き、引き裂くように、内部へと侵入していくのだ。
「……くぁwせdrftgyふじこlp!」
さすがに破瓜の痛みこそなかったが、生まれて初めての「身体の内側に太いモノを入れられる」感覚に、“彼女”声にならない絶叫を口から迸らせる。
「はぁ、はぁ………ま、まだやっと先が入っただです、よ。もっと入れますから……ねっ!」
こじ開けた裂け目を、偽バニーはぐりぐりと疑似陽根を押し込むことでさらに押し広げ、亀頭から根元近くまでねじ込む。
(あ……っ、こ、これ、すごい……わたし、おかされて……なか、ぜんぶ、いっぱいに……)
得体の知れない突起に身体の深奥部をえぐられる恐れと、それを上回る快感を無理矢理与えられて、“彼女”の心は原始的な欲望一色に染め上げられていく。
ぐぢゅぐぢゅと溢れ続ける愛液のおかげで、初めてとは思えないほど痛みは薄く、逆に身の内を焦がすような熱い悦楽がどんどん高まっているのだ。
理解不能な情動がこみあげて、悲しくもないのに目からポロポロと涙が流れた。しゃくり上げるような喘ぎを漏らしながら、目の前のバニー娘の背に両腕を回して抱きしめる。
相手も“彼女”の頭を抱きしめてくれる。顔中にキスの雨を降らし、うなじを舐めながら、耳元で甘く囁く。
「貴方のおま○こ、私のおち〇ぽを、どんどん呑み込んで離してくれませんよ。いまもぎゅうぎゅうに締め付けられているのがわかりますね♪」
そう言うと同時に装着された疑似男根の根元に手をやると、偽りの肉棒がヴヴヴ……と低い音をたてて震動し始める。
「ひゃうンッ!」
震動をお腹の中で味わい、思わず悲鳴をあげる“彼女”。
その状態のまま偽バニーが、愛液で滑る膣孔内を肉棒を行き来させ始めたものだからたまらない。
もはや意味をなさない喘ぎ声をあげたまま“彼女”は、身体をびくんびくんとわななかせつつ、体内を蠢く快感に身を任せる他にすべはなかった。
──ぐちゃ、ぬちゅ、ぐちょ、ぬちゅ、ずちゃぁ!
パンパンパンとふたつの女体がリズミカルにぶつかり合う音とともに、湿り気を帯びた“彼女”のソコからは淫靡な擬音が垂れ流される。
「はぁ、はぁ、こわ……ひ、こわぃいい……ま、また、くるぅぅっ!」
「だいじょうぶ、んん……今度は、ちゃんと一緒にイキます…から」
いつしか偽バニーの方も息を荒げ、熱に浮かされたように“彼女”の身体を貪っていた。
無論、悦楽に溺れているのは黒い兎だけではない。赤い兎(バニー)──キヨヒコの方は、それ以上だと言えるだろう。
(あぁぁ……んぅぅ……すご、いぃ、女の子の感じかた……こ、こんなの知ったら、もぉ……)
もう男の快楽では満足できなくなりそうで怖い──というのが、正直な気持ちだった。
入れるのではなく、入れられ、犯される。
犯された相手に恭順し、ねじ伏せられる。
散々にいじめられて支配された証を、身体の奥に刻まれる悦び。
それは、男の時には感じたことのない深い充足感を与えてくれた。
女の肉体が持つ本能が満たされていくように、“彼女”には感じられた。
「ああぁぁぁぁぁ……こんなの、こんなのきたら、も、もおぉ……ダメぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!!」
深く浅く抽送される度に、股間の秘裂から感じすぎた故の愛蜜がじゅぶじゅぶとしたたり落ち、辺りに撒き散らされる。
「“彼女”にあるはずのない」子宮を中心に、信じられないような快楽の塊りが、解放感となってついに起爆する。
「っっっはぁんぅ、イク、イクうぅぅ、イクのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!!」
絶頂とともに、キヨヒコは意識を喪った。
-4-
最初の交わりの後、後背位で1回、対面座位で1回、最後に正常位でもう1回、女としてイカされたキヨヒコは、快楽の連続に脳がスパークしたのか、しばらく意識をトバしてしまっていた。
「し、死ぬかと思った……」
数分後、ようやく正気を回復し、身体の火照りと疼きも幾分マシになったところで、しみじみと呟く。
「あはは、大げさですよぅ、お客様」
黒バニーこと偽バニー娘は笑うが、キヨヒコとしては、腹上死ならぬ腹下死をリアルで覚悟するほどの衝撃的体験だったことは間違いない。
「ところで、どうされます? まずは、再度お風呂に入るとして、お疲れならひと眠りされるのもよいですし、滅多にない経験なのですから、このまま朝まで──というのもアリかと思いますが」
問われて壁の時計に目をやると、時刻は午前1時を少し回ったところ。いったん2、3時間ほど寝て、朝になってから“続き”をヤるのも十分可能だろう。
しばし考え込んでいたキヨヒコだが、ふと思いついて気になったことを、深い考えもなく、口に出す。
「えっと……コレ、この“皮”、買い取ることってできますか?」
「──この殿堂の、文字通り“隠し玉”ですから、外部に持ち出されるのは困りますね。色々と極秘技術の塊りでもありますし」
偽バニー娘は、ちょっと驚いたものの、よどみなくそう答える。
「ですよね~」と納得しつつもガッカリしているキヨヒコに向かって、「ですが」と言葉を続ける。
「“身内に半永久的な貸与”なら、可能性はありますよ」
「? どういうことです?」
きょとんとした顔の赤バニーに、黒バニーはにっこり微笑む。
「お客様──いえ、キヨヒコさんはハイスクールを卒業したてで、現状とりあえず進学先や就職先の予定は決まっていないって、おっしゃってましたよね」
確かにキヨヒコは当面、故国に帰ったら1年間ほどフリーターをしつつ今後の進路を考えるつもりだった。
「もし、その気があるなら、ウチのお店で働きませんか?」
……
…………
………………
『主都ラムダの目抜き通りにある「娯楽の殿堂」は、この国でも一番有名な観光名所のひとつと言ってよいだろう。
定番のスロットマシンやルーレット、各種カードゲームやクラシカルなバカラ、さらにはドッグレースや賭け麻雀なども用意されている。
そのなかで最近、常連客の間でちょっとした話題になっているのが、つい先日から顔を見せるようになったひとりの新人女性ディーラーだ。
主にポーカーを担当している彼女──“セーラ”は、アラビア風の衣裳を着た長い金髪と紫の瞳が印象的な年若い美人で、新人にしては非常に手強いと評判だ。
ただし、大勝ちした客への“特別サービス”の要望に関しては、彼女もしっかり対応してくれる。
パッと見は清楚な印象で、実際話してみても初々しい感じのセーラだが、いったん特別室でふたりきりになると、一転、まるで淫魔(サキュバス)の如き貪欲さを示す……らしい。
もっとも筆者は、彼女と勝負して特別室を望めるほど勝てた試しが残念ながらないので、あくまで噂で聞いた話なのだが。
「娯楽の殿堂」を訪れる予定のある方で、カードの腕に自信がある方は、ぜひ自分の目で確かめて、できれば真偽のほどを筆者に教えていただきたい。
─週刊ラムダ・プレイングガイド記者「トシアキ・マーベリック」─』
<HappyEnd?>
カジノや賭場といった場所では、時折まったくの素人が思いもよらないバカヅキで大儲けすることがある。
この若者──というより少年といった方が良さそうな東洋人・キヨヒコも、そのひとりだ。
ハイスクール卒業記念の旅行で訪れたというこの国で、たまたま目にした“娯楽の殿堂”(要は、ちょっとだけ特殊なカジノだ)に立ち寄り、偶然スロットで大当たりを引き、そのメダルを元にルーレットに挑み……。
数時間後、気が付けば彼の周囲にメダルの山が築かれていたのだ。
ただし、この娯楽の殿堂では、メダルを直接換金することはできない。
一番手っ取り早いのは、賞品として用意されている貴金属類と交換し、この店のすぐ向かいにある質店に持ち込むことだ。メダル総額のおおよそ90%程度の現金を手にすることができるだろう。
あるいは、賞品それ自体を目的とする客もいる。前述の貴金属の他にも、賞品のラインアップには、普通では手に入らない/入りにくい高性能な「護身用武器」や、許可がなければ買えない「秘薬」なども並んでいるのだ。
さらに──これは本当に違法スレスレなのだが──“従業員による特別サービス”を受けることを選ぶという道もあった。
今宵、キヨヒコ少年が選んだのは3つめの選択肢だった。
「で、それはいいとして、その“お相手”に私を? まだ若いのに悪趣味…もとい、変わったシュミなんですね」
苦笑と自嘲の中間のような表情を浮かべつつ、褐色の肌に黒いエナメル製バニースーツをまとった二十歳前後の女性は、隠し部屋──“特別ルーム”で行儀悪くビリヤード台の上に腰掛けた。
先ほどまで彼が勝負していたルーレット台のアシスタントを務めていた女性だ。
カジノの赤やドピンクのギラギラしたネオンの灯りの下では気付かなかったが、よく見ると、着ているバニースーツ同様に、素肌がテカテカと光っている。
(オイルかローションでも塗っているのかな?)
キヨヒコはその時はそう思ったのだが──結論からすると、それは間違いだとすぐにわからされることになる。
「それで、今晩ひと晩、私はあなたのモノなわけですが、何をしたいですか? もちろん……“ナニ”をするのもOKですよ♪」
悪戯っぽい目つきでそう告げられた言葉は、恋人いない歴が年齢とイコールな童貞少年にとって、最後の理性の枷を外すのに十分な威力を持っていた。思わず目の前の肉感的な美女の肢体にむしゃぶり着くキヨヒコ。
(あぁ~~、温かいな、柔らかいな、スベスベだなぁ……んん?)
初めて触れる女体の感覚に、どこぞの煩悩剥き出し少年みたいな感想を脳内で垂れ流すキヨヒコだったが──最後のトコロでふと違和感に気付く。
確かに、女性の肌は男性に比べて、肌理細やかでスベスベだろうが──それにしたった、コレはスベスベ過ぎやしないだろうか?
(スベスベというか……むしろツルツル?)
そう、触れている指先や掌から伝わってくる感触は、バニースーツに包まれた部位と同様のツルツルとした無機質な手触りだったのだ。
「な、何、コレ……」
思わずキヨヒコの口から驚きの声が漏れる。
「ははーーん、その歳にしてはエラくニッチなシュミをしてるなと思えば、どうやら気付いてなかったみたいですね」
それを聞いて、バニー姿の女性は得心がいったようだった。
「え? ど、どういうコト!?」
「フフッ、簡単に言えば私……の他にもこの殿堂の従業員数名は、勤務中、ずっと特殊な“皮(かわ)”を着用しているんです」
「革(かわ)?」
「革(レザー)ではなく皮(スキン)ですね。と言っても、生物の皮膚から剥いだモノではなく、純然たる人造の産物なのですけど」
「???」
女性スタッフの説明に、ますます混乱した表情になるキヨヒコ。
「──もっとわかりやすく言うなら、極限までリアル化した“着ぐるみ”だと思ってもらっても結構ですよ」
着ぐるみと聞いて、キヨヒコの脳裏には、デパートの屋上や遊園地で行われる戦隊物や魔女っ娘物のショウが思い浮かぶ。
(アレと同じって言われても……)
俄かには信じ難いが、しかしそう言われてみれば、確かに目の前の“女性”の肌の質感は、ナイロンやビニールといった化学合成素材を連想させる。
「コレ、本当は秘密なんですけど……本来の私とは顔も体型も全然違うんですよ」
ニッと微笑うバニーガール。その表情の変化はごく自然で、とても人造の皮を被っているようには見えないが、肌の感じからすると嘘ではないのだろう。
「ど、どうしてそんなコトを……」
「そりゃあ、ここが“娯楽の殿堂”だからですよ。この街の代名詞ともいえる有名スポットで働く女性スタッフなんだから、プロポーション抜群な美人じゃなきゃね」
“彼女”は、両手を頭の後ろに当てて「ウッフ~ン」とわざとらしいセクシーポーズをとる。
偽物(つくりもの)だとわかっても、吐息を漏らす形の良い朱唇や、豊かに盛り上がった乳房が揺れる様は、18歳の童貞男子の煩悩を揺さぶるには十分な破壊力を持っていた。
キヨヒコはゴクリと唾を呑み込む。
「さてと、ま、ネタバラシはこれくらいにして──どうします、お客様?」
「え? どう、とは?」
バニー美女(偽)の質問に戸惑うキヨヒコ。
「贋物の人造美人なんて抱きたくない、っておっしゃるなら、今ならキャンセルも可能ですよ? ああ、でも……」
ニコリともニヤリともとれる妖艶な笑みを浮かべながら、“彼女”はキヨヒコに流し目を送る。
「少なくともアソコの具合は“本物”の名器にもそうそう劣らない、と断言できますよ。それなりに経験も積んでますから、そこそこ技術(テク)もあると自負してますし(“自分でも”確かめましたしね)」
そう言いながら、わざとらしくビリヤード台の上で足を組み替える。
網タイツに包まれた艶めかしい脚線美と、その両足の交差する場所に視線を惹きつけられて、キヨヒコは我知らずゴクリと唾を呑み込んだ。
「え、えっと……じゃ、じゃあ、お願い、していいですか?」
キョドりながらも、キヨヒコは、ついに希望を口にする。
「フフ、何を、とは聞きませんわ。ナニをですよね?」
「は、はい。その、初めてなんで……」
「あら、それはそれは。では、僭越ながら、私が“女”というものを教えて差し上げましょう──そう、手取り足取り、じっくりとね」
その時の“彼女”が言った言葉の意味を、後程キヨヒコは嫌という程思い知るハメになるのだった。
-2-
“彼女”との初体験は、誇張抜きで「天にも昇るような快楽」をキヨヒコにもたらした。
ミミズ千匹とかカズノコ天井といった形容も生温い、いわば極上の生きたオナホ状態の女陰──肉襞から膣壁、さらにその最深部の感触自体もさることながら。
「まるで挿入した男側がどのような快感を得ているのかわかっているかのような」バニー娘(偽)の動きや反応が、キヨヒコを心身両面からより深い悦楽の渦へと引きずり込むのだ。
先程「天上の快楽」と表現したが、あるいは「奈落に落ちるかの如き悦楽の底なし沼」と表現した方が正確かもしれない。
「いやぁ、サイコーの童貞喪失経験でした! ありがとうごさいます、おねーさん」
破天荒な冒険心に溢れてはいる(でなければ未成年で国外放浪旅行などすまい)が、同時にお人好しかつ直情的なキヨヒコ少年は、小一時間にも及ぶ快楽のひと時を堪能し、素直に“彼女”に感謝したのだが……。
「ウフフ、どういたしまして♪ でも──これから大変ですよ、お客様」
品良く微笑いつつも、どこか思わせぶりな口ぶりでキヨヒコに同情の視線を投げるバニー娘。
「え? それってどういう……やっぱり、法外なお金を請求されたりするんですか!?」
「いえいえ、そんなコトはありません。夜明けまで、いえ、正確には12時間ですから、明日の朝9時まで私とこのままこの特別室で睦み合っていても、何ら問題ありませんよ。でも……」
もったいをつけて、そこで言葉を切る。
知らずのせられて、キヨヒコが恐る恐る尋ねた。
「でも?」
「自慢に聞こえるかもしれませんが──私の手で、こんな極上の初体験をしてしまった以上、これからはどんな娘を抱いても、心の底からは満足できないでしょうから♪」
それからおおよそ2時間ほどかけて、キヨヒコとバニー娘(偽)は交わりを続けた。
もう少しで日付が変わるという頃には、膣内(なか)で2回、口腔(フェラ)で1回、胸(パイズリ)で1回の都合4回も搾り取られ、若いとはいえ流石にキヨヒコもヘロヘロになる。
「あらあら、ちょっとヤリ過ぎましたか?」
クスクス笑いながら、バニー娘(もっとも今はバニースーツを脱いで全裸、もとい“皮”一枚の姿なのだが)は、彼を付属の浴室へといざなう。
自らもシャワーを浴び、また奉仕するが如く(ふたり分の体液で汚れた)彼の身体も丁寧に洗ってくれた。
「ふぃ~、だいぶ落ち着いてきたかな」
ふたりで折り重なるようにして浴槽の湯に浸かりながら、キヨヒコがリラックスしきった声を出す。
そのまま湯船の中で、まるで恋人同士のような軽い(ちょっとHな)じゃれ合いをしたあと、風呂からあがり、男女ともバスタオル1枚の姿で部屋へと戻る。
「さてと。このまま寝てもいいですし、“回復”したならお相手するのもやぶさかではありませんが……」
言葉を切ってニヤリと意味深な微笑みを浮かべるバニーガール(偽)。
「お客様、ここでしか味わえない、とびっきり特殊な“お楽しみ”を経験するつもりはありませんか?」
キヨヒコ──健速聖比古(たけはや・きよひこ)は、頭脳・容姿・腕っ節のどれをとっても平凡な18歳の少年だったが、ひとつだけ人より並みはずれて優れたモノを持っている。それは“勘”だ。
じゃんけんの勝敗に始まって、テストのヤマかけや銀剥がしクジの正解など“当たり”を選ぶことも得意だが、それ以上に「凶」や「厄ネタ」を回避する悪運(あるいは危機回避能力)に長けているのだ。
そんなキヨヒコの勘が、“彼女”の申し出を受けると、特大級の厄介事をもたらすと警告していたが、同時に、前代未聞の“おいしい”体験ができるとも告げていた。
そして──このように正負(メリット・デメリット)相反する事柄を予感した場合、キヨヒコは良い方に賭けるのが常だった。
キヨヒコが頷いたことを確認すると、偽バニーガールはベッド代わりにしていた特大ソファの下部を探ると、そこからあるモノを取り出す。
無論、その白いペラペラの“膜”のようなものの正体は……。
「も、もしかして、ソレがおねーさんが着てるっていう“皮”?」
「フフフ、正解です♪ しかも、私の着ているのより新しいバージョンですから、より高性能ですよ?」
まるで女性客に店の商品を薦めるブティックのマヌカンのようなノリで、“彼女”はキヨヒコに向かってその“皮”を広げて見せた。
薄っぺらい見かけに反してそれなりに強度があるのか、ソレは中味がない状態でも広げると、ある程度の“形状”を保っていた──すなわち、女性の全裸を模した形に。
「ちょうどお風呂に入ったばかりですし、お客様、コレ着てみませんか?」
差し出された“皮”をキヨヒコは恐る恐る受け取る。
バニー娘(偽)と異なり、間近で見てもその皮の質感は、ほとんど人肌──それも年若い女性の滑らかな柔肌そのもののように思えた。その辺が“高性能”と言われる所以なのだろう。
首から下(正確には顎のすぐ下から)を覆う全身タイツのような形状で、ハイネックになった首から肩甲骨の間くらいまで、背中の方に切れ目が入っている。どうやらここを広げて着る構造になっているようだった。
広げて中を覗くと、表側の肌とは打って変わり、桃色のヌメヌメした布地(?)が見える。その質感は、大きく開けた人の口の中を連想させられた。
そんな一種生物的な材質の“袋”に身体を入れるということに、躊躇いを覚えないと言えば嘘になるだろうが、好奇心の強いキヨヒコは、それ以上に未知なる体験にワクワクしている面が強い。
ソファに全裸のまま腰かけたキヨヒコは、予想以上によく伸びる“皮”の中に、思い切って右足、続いて左足を突っ込んでみた。
皮自体の伸縮性と、ローションのような粘液が内側に塗布されていることもあって、思ったより簡単にキヨヒコよりふた回りほど小さいはずのその皮の脚部を“着込む”ことができた。
足先が内部の粘液に触れた瞬間だけは、その冷たさに一瞬ビクッとしたものの、そのままタイツでも履くかのように足を通していくと、すぐにその感覚も気にならなくなる。
両足をつま先まで中に入れ、太股までたくし上げたところ、“皮”はピッタリとキヨヒコの脚に貼り付いて、完全に生身の皮膚としか思えない状態になっていた。
この国の大多数を占める白人種女性の肌を模しているのか、東洋人男性であるキヨヒコのやや陽に焼けた黄褐色の肌に比べると、随分と色白かつ滑らかな肌だ。
とは言え、伸縮性の高い素材故に着やすかったものの、だからこそキヨヒコ自身の体型が浮き彫りになっているため、女らしいという印象はやや薄い。
感動7に対し失望3といった感情を抱きつつも、それでもこのままこの皮を首まで着れば、まったくの別人──それも異性の姿になれるだろうことは予想できたので、キヨヒコはここで手を止めるつもりはなかった。
そのままさらに“皮”を引っ張り上げて、下半身を覆っていく。
臀部はともかく、本来女性にないはずの股間の逸物については、ちょっと迷ったが……。
「そうそう、その筒にお客様のモノを挿し込んで下に向けて押し付けてください」
偽バニー嬢のアドバイスに従い、ソレが当たる部位に用意されたチューブのようなものに陰茎を突っ込み、言われた通り少し力を込めて下側に押し付ける。
内側の粘液が接着剤のような効果を発揮したのか、そのままの形で陰茎は固定され、先端部が両陰嚢のちょうど中間部辺りにくる形となった。
そのまま“皮”を、あたかもパンストでも履くように引き上げてウェスト部分まで覆ってしまう。
そうすると、本来股間にあるべきに膨らみは殆ど目立たなくなり、皮の股間部に形成された大小の陰唇と縦筋のせいで、女性の性器があるようにしか見えなかった。
(ぼ、僕の股間が女のアソコになってる!)
──ゾクゾクッ!
その時、キヨヒコの背筋に奔った震えは、恐怖か興奮か、あるいはその両方か……多分本人にも答えられないだろう。
さらに“皮”を引き上げつつ、少し窮屈な姿勢ながら右腕、左腕の順に手を“皮”に突っ込む。
足と同様、僅かな締め付けを感じるものの、やはり足同様に内側の粘液(?)のおかげで滑りやすくなっているせいか、さほど苦労することなく指先まで手を入れることができた。
二、三度手をグーパーと開いてみると、それだけで“皮”が吸い付くように馴染み、他の部位同様、何も着ていないかのような錯覚に陥る。
無意識に右掌で左の二の腕から手首にかけてを撫でてみるキヨヒコ。
元々さほど筋肉質な方でもないので、腕については肌が変わっただけで十分に女らしいモノに見える。
それだけでなく、本来のキヨヒコのやや丸っこく平たい爪と異なり、ピンクのマニキュアで飾られ、形よく整えられた綺麗な長めの爪が指先についているのも、何気に女子ポイントが高い。
肩まで腕を“皮”に突っ込み、完全に胸の部分も密着させる。
胸には乳房らしきものもぶら下がっており、その部位にはジェルのようなもので作られたパッドが備わっているため、いくらか胸も膨らんでいるように見えるが、あまり大きくはない。
せいぜいがA、あるいはギリギリBカップぐらいだろうか。それでも、男の胸とは異なり、確かに“女の子のオッパイ”が形作られていた。
ジェル製パッドの部分も“皮”と同様キヨヒコの肌にピタリと吸い付いているため、身体を動かすとともに彼は、生まれて初めて「胸が揺れる」という感触を(ささやかながら)実感する。
──ゾクゾクゾクッ!
(あぁ、また……)
震えとも疼きともとれる衝動が、背筋を駆け上がっていくのを感じ、しばしキヨヒコは身動きを止めた。
「あの、お客様……?」
「あ、いえ、何でもありません」
偽バニー娘に声をかけられ、我に返ったキヨヒコは、最後の首元──顎のすぐ下までを完全に“皮”で覆ってしまう。
いくらかの締め付けによる補整を除くと、体型自体は「まだ」それほど変わっていないのだが、それでも彼の首から下は、パッと見には“彼女”と呼んで違和感のない代物へと変貌している。
早速部屋の隅にある鏡を見ようとしたキヨヒコを押しとどめると、偽バニー嬢は、彼を女性へと変える最後の品──頭髪付きの全頭マスクらしきモノを差し出した。
ボディ部分と同様の白い“皮”で形作られたソレは、目と口の部分に僅かに2センチほどの切れ込みが入り、鼻の部分には小さな穴がふたつ開いているが、それを除くとのっぺりした造りだ。
頭頂部から後頭部にかけては、かつらの如く金色の髪が植えられている。首にあたる部分に穴があり、それを広げて被る構造になっているようだった。
穴の直径はパッと見には10センチもないのに、これまた胴体部と同様によく伸びるようで、グイと大きく広げて簡単に被ることができた。
目・鼻・口と合わせるように被った“マスク”の位置を微調整する。巧く位置が合った──と思ったのとほぼ同時に、身体の方でお馴染みの自分の肌と“皮”がピッタリ密着して一体化する感覚が襲ってくる。
それに合わせて、腫れぼったいように感じた瞼や、少し開けにくかった口も、普段と変わらずごく自然に開閉できるようになっていた。
「“顔”の方も巧く馴染んだようですね。では、仕上げに“隙間”を閉じちゃいましょう」
偽バニー娘がキヨヒコの背後に回り、身体を覆う“皮”の背にある僅かな開口部を摘まんで合わせると、それだけでまるで切れ目なんて最初からなかったかのように塞がってしまう。
さらに、“皮”の上端部を“マスク”の穴の縁に突っ込んで、その境目に何か肌色のジェル(実は胸部に満たされていたパットの素材とほぼ同質のものだ)を丁寧に塗布していく。
ジェルが変質固形化するまで、ほんの1分足らず。そして1分後には、こちらも完全に周囲の“肌”と馴染み、継ぎ目のようなものはまったく見当たらなくなっていた。
「これで完成ですか?」
キヨヒコの問いに、偽バニーはニヤリと笑った。
「いえ、むしろこれからが仕上げの本番ですよ♪」
その言葉とほぼ同時に、キヨヒコは全身を締め付けられるような感覚に襲われる。刺されたり殴られたりするのとは少し異なるが、それでもある種の「痛み」に近いナニカだ。
「ぐっ…カハッ……こ、これは……」
キツい──と、思わず泣き言を漏らしかけたキヨヒコだったが次の瞬間、唐突にそれまでの痛みにも似た圧迫感が消えていることに気付く。
代わりに全身を熱っぽい感覚が満たしている。
その熱にしても病気の時に高熱に浮かされているような不快なそれではなく、むしろ“ポカポカ”と表してよさそうな心地よいモノだった。
「──え?」
「フフフ、これで一応完成、ですわ。でも、せっかくですから鏡を見る前にコレに着替えてくださいな」
そう言って差し出されたのは、白くふわふわした尻尾(?)がついた深紅のレオタードのような衣裳(コスチューム)だ。
同色の長手袋や黒い網タイツ、ウサミミ付きカチューシャなども用意されていることからして、目の前の黒バニー娘と色違いのバニースーツなのだろう。
苦笑しつつも、折角だからと着てみることにする。
女装(?)なんてするのは生まれて初めてだが、幸いにして真っ赤なボディスーツは、上から足を突っ込んで引っ張り上げるだけで事足りるだろう。
とりあえず黒バニー嬢のアドバイスに従い、先に網タイツの方をじか履きしようと下を向いたキヨヒコだったが、ふと視界に微妙な違和感を感じた。
「あれ……ボクの胸、大きくなってる?」
先程まで12、3歳の思春期入りたての少女並にしかなかったはずの胸が、大幅にボリュームを増し、巨乳と呼んでも差し支えない域にまで成長しているのだ。
思わずその大きくなった胸に両手で触ってしまったキヨヒコだったが、量感たっぷりな乳房は、掌から伝わる感触と自分の胸に触られているという感覚の両方で、それが実在のモノであることを主張する。
「こ、これって……」
「ええ、この皮(スキン)の特殊機能のひとつですね。頭部(マスク)と身体(ボディ)を完全に着込んで接続することで、予め定められた体型へと着用者の体を強力に補整するのです」
よく見れば、腕はよりほっそりとし、脚線も女らしい柔らかなものに変わっている。手で触った感じでは、臀部(ヒップ)もひと回り以上大きく(安産型に)なっているようだった。
思いがけない事態に戸惑うキヨヒコだったが、偽バニー娘はそんな彼(それとも“彼女”と言うべきか?)の心境に頓着せず、着替えの手順を指示する。
半ば混乱状態のキヨヒコは、深く考えることなく素直にその指示に従い、網タイツを履き、深紅のバニースーツを身に着けた。
「肩紐とかがないから、ずり落ちないか心配だけど、どの道、ここには他に人はいないんだから、まぁいいか」と、ちょっとズレた思考が浮かんでくるあたり、どうやらキヨヒコも徐々に落ち着きを取り戻したようだ。
スーツ同じく真っ赤な長手袋──いや、手首から先はないので正確にはアームカバーとでもいうべき代物を両腕にはめ、黒バニーのものより多少カカトが低め(それでも5センチ以上ある)のハイヒールを履く。
最後に毒を食らわば皿までの精神で、恥ずかしさを堪えてウサミミのついたカチューシャを頭にはめれば、もうひとりのバニーガール(偽)の完成だ。
黒バニー娘のお許しも出たので、慣れないハイヒールを履いた状態でおっかなびっくり姿見の前まで歩み寄る。
「!」
鏡の中からは、癖のない見事な金髪を腰近くまで伸ばした、二十歳前後のグラマーな白人美女が、驚いたような表情で彼、いや“彼女”を見つめ返していた。
-3-
自らの“変貌”に驚くキヨヒコの背後に、“彼女”とは対照的な褐色肌で紫髪の美女が回り込むと、その豊満な恟を“彼女”の肩甲骨に押し当ててくる。
「な、なに?」
「──フフッ、わかってるくせに♪」
ペロリと耳の後ろを舐められ、金髪バニーの身体が硬直する。
だがそれは、決して驚愕や嫌悪によるものではなく、背筋を走った快感によるものだということを、褐色バニー(偽)はしっかり見抜いていた。
ダメ押し、とばかりにいつの間にか手にした香水瓶の中味を、客の鼻先にシュッとひと吹きする。
「クシュン……こ、コレ、なんですか?」
「この香りは、発情を促す大人の女用のフレグランスです。それにしても、随分と大きなおっぱいになりましたね」
黒バニーが、背後から回し両手で金髪バニー娘の巨乳を鷲掴みにすると、“彼女”は艶やかな喘ぎ声を漏らす。
「ひゃあ……ん、ぅんんっ!」
「なかなか可愛い声で啼いてくださいますね」
黒バニー娘は、たわわな乳房の感触を楽しんだ後、右手をバニースーツの中へと滑り込ませる。
「ちょ、ちょっと……あんっ♪」
直に“彼女”の乳房を揉みながら、左手は滑らかな衣装の腹部をねっとりと撫で回す。
「心配無用です。先ほど女に“なった”ばかりの初心者でも、私の手にかかれば、すぐ(女として感じる)要領を掴めるようになりますから」
深紅のエナメル衣裳に包まれた少女(偽)の腹部は、ほどよい弾力と柔らかさを併せ持ち、覆う布の特性とあいまって、しっとりと手のひらに吸いついてくるかのように感じられた。
「“皮”を着ているから当たり前だけど、お肌もすべすべですね──あら、どうしたのですか? そんなに震えて……」
からかうように微笑いながら、黒バニー(偽)がうなじにふぅっと息を吹きかけると、赤バニー(偽)は、ビクンッと身を震わせた。
「ん、んぅ…ッッ! ちょ、ちょっとソレは……ひぁんッ!!」
「初めてこの“皮”を着た人はみんな“そう”なるんですよ。敏感過ぎますからね、この“肌”は。そのままだとまともに動けませんから、馴らしが必要なんです」
黒バニー娘は、赤バニー娘の耳元で囁きながら、腹部をさ迷っていた左手を徐々に下方へと移動させていく。
ハイレグ気味なバニースーツのデザイン上、下着は着けず、網タイツを直穿きしているだけなので、クロッチ付近を這いまわる指からの刺激は、ほぼダイレクトにキヨヒコの“身体”に伝わる。
「や、やめ……あひぃンッ!」
ほんの一瞬だけ際どい部分を掠めたのち、黒バニーの手は、むっちりと脂の乗った“彼女”の太腿を経由して、適度な弾力と柔らかさを両立させたヒップへとさ迷う。
その丸みを帯びた臀部の触感を楽しむように撫でまわした後、偽バニー娘の掌はバニースーツの際から内側(なか)へと忍び込む。
「ぃや………だめ、だって、ば……はぅッ!!」
体内の深奥から湧き上がる快感に翻弄されつつも、言葉での抵抗は止めない赤バニー(キヨヒコ)だったが、再度耳たぶを甘噛みされて、堪えきれずに背筋をのけぞらせる。
力が抜け身体を支えられなくなったのか、そのままくたりと床に倒れ掛かるのを、黒バニーが受け止め、先程までの情事で使用していたソファへと“彼女”を横たえた。
ひと息つく暇も与えず、そのままその熟れた肢体に覆いかぶさるような体勢で顔を寄せ、赤バニーの頬や首筋にチュッチュとキスの雨を降らせる。
「ほ~ら、そろそろ観念して、身体を開いてくださいな♪」
「あっ……」
キヨヒコ“だった女”を組み敷いた偽バニー娘は、指先をそっと“彼女”の胸元に添える。
刹那の後、バニースーツの胸の部分が呆気なくめくられ、“彼女”は無防備に己が乳房を晒すことになった。
真っ白な双丘の頂点に、淡い桃色の乳首がツンと尖ってその存在感を示している。
「ふふっ、お客様も期待されているようですね♪ では続きをば……」
カプッと右の乳房に吸い付くと、偽バニーは舌を使って乳首を刺激し始めた。
乳輪の中心を吸い上げ、舌先で弾力のある蕾を転がすようにして弄ぶ。
「ふぁあっ……そ、そこだめぇッッ!」
ぷっくりと充血したソコは、さらに大きく敏感になっていく。
「女がこの状況で「だめ」っていう時は、「いいの♪」っていうことと同義なんですよね? 私も“こう”なってから初めて知りましたけど……ふふっ」
──れろ……れろん……くちゅくちゅ……ちゅぱっ♪
右手で左の乳房を、唇と舌で右の乳首を攻め立てる偽バニーは、さらに残る左手をキヨヒコのヒップへと伸ばし、ちょうど衣装の尻尾のあるあたりを弄り始める。
「えーと、確かこの辺りに……」カチッ!
ボタンを押すような音と共に、赤いバニースーツの尻尾が付いている場所から何か突起らしきものが内側へと盛り上がり、キヨヒコの尻の谷間の間へと侵入してくる。
「ぅひゃん! こ、これは……」
「ふふっ、イイモノですよ♪」
キヨヒコの疑問をはぐらかしつつ、赤バニースーツの尻尾をクニクニと弄ぶ偽バニー娘。
ふさふさした尻尾の反対側──バニースーツの内側に飛び出した突起の太さは小指程、長さは5、6センチくらいだろうか。
程よい柔らかさと堅さを両立したシリコンのような素材でできており、緩く屈曲した先端部がキヨヒコの(正確には彼が着た“皮”の)菊穴の周辺をグリグリと刺激する。
「あっ、あっ、あ……ちょ、やめ……あンッ!!」
“皮”の内側はローション以上に滑りを良くする粘液が満ちている。それは肛門内も例外ではなく、その助けもあってバニースーツに内蔵(?)されたアナルディルドーは、呆気なく“彼女”の後腔へと潜り込んだ。
「ひゃうっ! ん……くぅうんっ!」
男女どちらが相手にせよ、特に“そういう趣味”のなかったキヨヒコにとっては初めての体験だったが、想像していたような痛みや屈辱感はない。
強いて言えば「体内に異物を入れられている違和感」は無いわけではなかったが、それすら徐々に小さくなり、むしろ自分の体が積極的に受け入れ始めているような……。
(! な、何考えてるんだボクは!?)
慌てて考えるのを止めるキヨヒコ。そのままだと、何かイケナイセカイの扉を開いてしまうような気がしたからだ──もっとも、もうすでに手遅れなのだが。
キヨヒコがあまりに呆気なく「後ろの処女」を喪ったことに気を取られている隙を見逃さず、偽バニー娘はさらなる“侵攻”を企てる。
「じゃあ、今度はこっちですね♪」
先程とは反対側の左の乳房にかぶりつき、乳首を歯で甘噛みする。
唾液まみれになった右乳首の方も遊ばせずに、指先でつまみ、少し強めの力加減減で捻りあげた。
ヒリヒリした痛みにも似た刺激が両方の乳首から伝わり、それが快感へと転化されてキヨヒコの心身をかき乱す。
「だ、だめぇ~、おっぱいの先っぽ、そんなにいじっちゃ、らめぇーー!!」
半ば無意識に“彼女”は拒絶の体(てい)をとった嬌声を漏らしていた。
左右の乳房と肛門の3ヵ所から送り込まれる刺激、いや愉悦に“彼女”はなすすべもなく押し流され、ビクビクと痙攣している。どうやら軽く“イった”ようだ。
「ふふふ、気持ちよくイケましたか? で・も、本番はこれからですよぉ♪」
偽バニー娘(いまは全裸だが)は、どこからともなく取り出した黒いエナメル製の下着のようなものを下半身に履く。
ただし、その股間には、一目で男性器を模したとわかる20センチほどの肌色の突起が備わっている。いわゆるペニバン──「ペニスバンド」と言われる性具だった。
肉色のフランクフルトといった趣きの突起物にローションらしき液体を垂らして湿らせると、その先っちょが“彼女”のソコにあてがわれる。
そのままゆっくりと撫でさするようにじんわりと動きを開始する。
──ぢゅぶ……くちゅ……ぶちゅ……じゅりぃ……
「あンっ! はぁ、はぁ……そ、そんなの……ぁひぃあぁっ!!」
逃げられない。抵抗できない。
じっくり愛撫され、先ほどの軽い絶頂(アクメ)で心地よく蕩けた身体は、手足の末端まで痺れて力が入らない。
心臓は飛び出しそうなほど激しく鼓動を刻み、愛液が秘唇からとろとろと溢れている。そこに与えられた未知なる感覚の前に、“彼女”は泣きたくなるほどの興奮を覚えていた。
(ど、どうなっちゃうんだろ……。こ、こんな状況でサれちゃったら、“わたし”の身体……)
行きずりの、ほぼ見ず知らずと言って良い相手に犯される。
恐怖や嫌悪感があってしかるべき状況なのに──“彼女”は嫌ではなかった。
下腹部で疼く熱さともどかしい衝動が女体をわななかせ、“キヨヒコ”だったはずの“女”は、頭の芯まで倒錯的な肉欲に支配されてしまっていた。
雌として火照った肉体は、さらなる愛撫と、その先にある段階(ステージ)を切望している。
「あはっ♪ もぅ欲しくてたまらないみたいですね……コ・レ・が」
股間に加えられる欲棒の断続的なタッチが次第に強く、激しくなってきた。
引くよりも押してくる時の力の方が強まり、秘裂の間に先端が徐々にめり込み始める。
ぐいぐいと腰が押し込まれ,人造の男根が、“彼女”の処女を散らそうと明確な意思をもって、肉襞の間に侵入を始める。
(ぁぁぁ……だ、だめ……こんなの気持ちぃ……絶対とめ、られないよぉ……)
快楽に喘ぎつつも、押される端から無意識に身体が勝手に逃げようとはするのだが、頭頂部がソファの肘掛けまで達すると、それ以上逃げ場をなくしてしまう。
こうなると、“彼女”は雌として犯される以外の道が無かった。
両足はこれ以上ないくらいに大きく開かされ、股関節が軋む。
身体が腰から「く」 の字に折られ、両方の膝も自然と曲がって、いわゆるM字開脚の体勢になる。
物凄く屈辱的なその姿勢が、逆に羞恥と被虐心を強め、さらなる興奮を“彼女”にもたらした。
股間に“突起”を当てたまま、お尻を持ちあげると、偽バニー娘が“彼女”の上にのしかかってくる。
──みり…みち……みちみちみち
「っつ……はぁン! そ、それは……だ、だめぇぇ!!!」
キヨヒコの感覚だと、ソコには体内に続くような器官(あな)はないはずなのだが、成熟した女の身体となった今の“彼女”には……。
──ずるっっ……ずずずずずずずぅぅんっ!
熱い塊が股間から中に入り込んでくるあり得ない感触が確かに感じられる。
元の自分のモノよりふた回り以上立派な肉槍が、“彼女”のソコを突き、引き裂くように、内部へと侵入していくのだ。
「……くぁwせdrftgyふじこlp!」
さすがに破瓜の痛みこそなかったが、生まれて初めての「身体の内側に太いモノを入れられる」感覚に、“彼女”声にならない絶叫を口から迸らせる。
「はぁ、はぁ………ま、まだやっと先が入っただです、よ。もっと入れますから……ねっ!」
こじ開けた裂け目を、偽バニーはぐりぐりと疑似陽根を押し込むことでさらに押し広げ、亀頭から根元近くまでねじ込む。
(あ……っ、こ、これ、すごい……わたし、おかされて……なか、ぜんぶ、いっぱいに……)
得体の知れない突起に身体の深奥部をえぐられる恐れと、それを上回る快感を無理矢理与えられて、“彼女”の心は原始的な欲望一色に染め上げられていく。
ぐぢゅぐぢゅと溢れ続ける愛液のおかげで、初めてとは思えないほど痛みは薄く、逆に身の内を焦がすような熱い悦楽がどんどん高まっているのだ。
理解不能な情動がこみあげて、悲しくもないのに目からポロポロと涙が流れた。しゃくり上げるような喘ぎを漏らしながら、目の前のバニー娘の背に両腕を回して抱きしめる。
相手も“彼女”の頭を抱きしめてくれる。顔中にキスの雨を降らし、うなじを舐めながら、耳元で甘く囁く。
「貴方のおま○こ、私のおち〇ぽを、どんどん呑み込んで離してくれませんよ。いまもぎゅうぎゅうに締め付けられているのがわかりますね♪」
そう言うと同時に装着された疑似男根の根元に手をやると、偽りの肉棒がヴヴヴ……と低い音をたてて震動し始める。
「ひゃうンッ!」
震動をお腹の中で味わい、思わず悲鳴をあげる“彼女”。
その状態のまま偽バニーが、愛液で滑る膣孔内を肉棒を行き来させ始めたものだからたまらない。
もはや意味をなさない喘ぎ声をあげたまま“彼女”は、身体をびくんびくんとわななかせつつ、体内を蠢く快感に身を任せる他にすべはなかった。
──ぐちゃ、ぬちゅ、ぐちょ、ぬちゅ、ずちゃぁ!
パンパンパンとふたつの女体がリズミカルにぶつかり合う音とともに、湿り気を帯びた“彼女”のソコからは淫靡な擬音が垂れ流される。
「はぁ、はぁ、こわ……ひ、こわぃいい……ま、また、くるぅぅっ!」
「だいじょうぶ、んん……今度は、ちゃんと一緒にイキます…から」
いつしか偽バニーの方も息を荒げ、熱に浮かされたように“彼女”の身体を貪っていた。
無論、悦楽に溺れているのは黒い兎だけではない。赤い兎(バニー)──キヨヒコの方は、それ以上だと言えるだろう。
(あぁぁ……んぅぅ……すご、いぃ、女の子の感じかた……こ、こんなの知ったら、もぉ……)
もう男の快楽では満足できなくなりそうで怖い──というのが、正直な気持ちだった。
入れるのではなく、入れられ、犯される。
犯された相手に恭順し、ねじ伏せられる。
散々にいじめられて支配された証を、身体の奥に刻まれる悦び。
それは、男の時には感じたことのない深い充足感を与えてくれた。
女の肉体が持つ本能が満たされていくように、“彼女”には感じられた。
「ああぁぁぁぁぁ……こんなの、こんなのきたら、も、もおぉ……ダメぇぇぇぇぇぇぇッッッッ!!!!!」
深く浅く抽送される度に、股間の秘裂から感じすぎた故の愛蜜がじゅぶじゅぶとしたたり落ち、辺りに撒き散らされる。
「“彼女”にあるはずのない」子宮を中心に、信じられないような快楽の塊りが、解放感となってついに起爆する。
「っっっはぁんぅ、イク、イクうぅぅ、イクのおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!!!!」
絶頂とともに、キヨヒコは意識を喪った。
-4-
最初の交わりの後、後背位で1回、対面座位で1回、最後に正常位でもう1回、女としてイカされたキヨヒコは、快楽の連続に脳がスパークしたのか、しばらく意識をトバしてしまっていた。
「し、死ぬかと思った……」
数分後、ようやく正気を回復し、身体の火照りと疼きも幾分マシになったところで、しみじみと呟く。
「あはは、大げさですよぅ、お客様」
黒バニーこと偽バニー娘は笑うが、キヨヒコとしては、腹上死ならぬ腹下死をリアルで覚悟するほどの衝撃的体験だったことは間違いない。
「ところで、どうされます? まずは、再度お風呂に入るとして、お疲れならひと眠りされるのもよいですし、滅多にない経験なのですから、このまま朝まで──というのもアリかと思いますが」
問われて壁の時計に目をやると、時刻は午前1時を少し回ったところ。いったん2、3時間ほど寝て、朝になってから“続き”をヤるのも十分可能だろう。
しばし考え込んでいたキヨヒコだが、ふと思いついて気になったことを、深い考えもなく、口に出す。
「えっと……コレ、この“皮”、買い取ることってできますか?」
「──この殿堂の、文字通り“隠し玉”ですから、外部に持ち出されるのは困りますね。色々と極秘技術の塊りでもありますし」
偽バニー娘は、ちょっと驚いたものの、よどみなくそう答える。
「ですよね~」と納得しつつもガッカリしているキヨヒコに向かって、「ですが」と言葉を続ける。
「“身内に半永久的な貸与”なら、可能性はありますよ」
「? どういうことです?」
きょとんとした顔の赤バニーに、黒バニーはにっこり微笑む。
「お客様──いえ、キヨヒコさんはハイスクールを卒業したてで、現状とりあえず進学先や就職先の予定は決まっていないって、おっしゃってましたよね」
確かにキヨヒコは当面、故国に帰ったら1年間ほどフリーターをしつつ今後の進路を考えるつもりだった。
「もし、その気があるなら、ウチのお店で働きませんか?」
……
…………
………………
『主都ラムダの目抜き通りにある「娯楽の殿堂」は、この国でも一番有名な観光名所のひとつと言ってよいだろう。
定番のスロットマシンやルーレット、各種カードゲームやクラシカルなバカラ、さらにはドッグレースや賭け麻雀なども用意されている。
そのなかで最近、常連客の間でちょっとした話題になっているのが、つい先日から顔を見せるようになったひとりの新人女性ディーラーだ。
主にポーカーを担当している彼女──“セーラ”は、アラビア風の衣裳を着た長い金髪と紫の瞳が印象的な年若い美人で、新人にしては非常に手強いと評判だ。
ただし、大勝ちした客への“特別サービス”の要望に関しては、彼女もしっかり対応してくれる。
パッと見は清楚な印象で、実際話してみても初々しい感じのセーラだが、いったん特別室でふたりきりになると、一転、まるで淫魔(サキュバス)の如き貪欲さを示す……らしい。
もっとも筆者は、彼女と勝負して特別室を望めるほど勝てた試しが残念ながらないので、あくまで噂で聞いた話なのだが。
「娯楽の殿堂」を訪れる予定のある方で、カードの腕に自信がある方は、ぜひ自分の目で確かめて、できれば真偽のほどを筆者に教えていただきたい。
─週刊ラムダ・プレイングガイド記者「トシアキ・マーベリック」─』
<HappyEnd?>