僕は男
「君、あの迷宮へ潜る方法を知りたくない?」
「は?」
この話はごった返すギルドで知らないお姉さんから唐突に声を掛けられたところから始まった。
僕がいるこの街には不思議な迷宮がある。
「不思議」と言っても変なトラップや強力なモンスターが住み着いている訳ではない。
入り口は街を出てすぐの所にあるけれど、モンスターの被害はこの100年で1度もないそうだ。
「不思議」なのは「女性が絶対入れない」と言うのが一点。
パーティーの中に女性が一人でもいると、入り口を入った瞬間に外に出ている。
だからといって男性だけで入れば大丈夫かと言えばそうでもない。
1階は無事に抜けられたとしても2階の辺りからパーティーメンバーの様子がおかしくなり始める。
方向麻痺や凡ミス多発ならまだマシで、視野狭窄に幻聴なんてものまで出てくる。
大抵は2階でギブアップ、無理をして3階に進もうとしたパーティーもいたのだが、降りた瞬間
同士討ちが始まってしまい、転移魔方陣で無理矢理帰還してきた。
それなのになぜこんな人がごった返すほど冒険者が集まっているのかと言えば「出てくる宝物
の価値が法外」だからだ。
2階に一度潜れば1ヶ月は遊んで暮らせるほどの宝石や金貨、場合によっては魔法のアイテムが
手に入るとなれば多少の無茶はしても潜ろうとする冒険者はいくらでも湧いてくる。
一度2階でとんでもない価値のある剣が見つかったこともあり、どうやって3階以降に潜るか
冒険者があれやこれやと頭をひねっているところだ。
その迷宮に潜っていける方法?
「大人数で行ってもダメなところなのに、僕一人で潜れる訳無いよ」
「そんなに難しい方法じゃないわ」
「・・・危険度が跳ね上がるんじゃ?」
「むしろ逆ね、至って安全」
・・・怪しい
思いっきり怪しんでいる僕をよそ目に、お姉さんは話を勝手に進めていった。
「その方法はねぇ・・・」
方法は?
「階段を降りるとき『僕は男』と念じるの」
・・・は?
「そんな簡単な方法で?」
「信じる信じないは君の勝手、でも本当よ」
お姉さんはじっとこちらの目をのぞき込む。
値踏みされているかのような気もするけれど・・・まぁやってみるだけなら問題ないか。
「分かりました、試してみます」
「そう、それはよかったわ」
「じゃあ早速試してきます」
「最後まで頑張ってね」
そのお姉さんの「最後まで」と言う言葉の意味をこの迷宮をクリアしたときに思い知ることになった。
『地下3階』
「あっけなさ過ぎる・・・」
あのお姉さんの言うとおり「僕は男」と念じながら階段を降りていくと、あまりにもあっさりと
3階にまで到達出来てしまった。
さて、ここからはほとんど未探索のエリアなんだけれど、出てくるモンスターはそれほど強くないし
持ってきた備品もほとんど使っていない状態だし「あ、ネズミ」ちょろちょろと走り回る
ネズミの急所を狙って剣を振るいおろし一撃で絶命させる。するとそれだけで宝箱がぽろんと
出てくる。これほど簡単でいいのかとかえって不安になるほどだ。
宝箱に罠がないことを確認して開けてみると「うわぁぁ・・・」その中にはこれまで見たことの
ないような綺麗な宝石や金貨、そして装備が入っていた。持ち帰ればどれも相当の金額になるはず
のものなのだけど
「・・・ん?」
装備をよくよく見てみると「これ・・・女物のパンツだよね」
男物より一回り小さい白地の生地に色々な刺繍が施された、どう見ても男に縁の無いパンツと、
頭から被るタイプのブラジャーが入っていた。
これがこの迷宮の不思議その2「出てくる装備品は全て女性用」だ。
男性しか入れない迷宮でなぜ女性用の装備品(しかも下着まである)が出てくるのか、さっぱり
分からない。
「まぁ・・・進めばもうちょっと分かるかな」
出てきた装備品(下着も含む)をバックパックに詰めて、次の階段を目指し進み始める。
『地下4階』
「これは・・・泥?」
4階はこれまた奇妙な場所だった。
降りたとたん目の前には大きな池が広がっていた。しかもただの池では無くたまっているのは
泥のような粘り気のあるものだった。その池をどこかで渡るところがないか探している
のだけれど、沼の中に降りていく階段はあるけれど渡るような所は見当たらない。
「しかもだんだん池との段差がなくなってきたよ」
今はくるぶし一つ分だろうか、歩いている縁と泥の表面とはほとんど差が無くなっていた。
「足を滑らさないようにしないとどわっ!」
そう思った瞬間に僕は縁から泥の中に落ちてしまった。
(まずい息が出来ない!足も手も上手く動かせないというか上はどっちだ!)
泥の中でじたばたしても上手く体が動かせないし、上下感覚も完全に無くなっていた。
30秒ほどもがいていただろうか、やっと泥の表面から顔を出すことが出来た。
「うひゃぁ酷い目に遭った」
落ち着いてみると泥の深さは僕の頭が何とか表面にでる位のものだった。
バックパックと剣は落ちる直前に投げ出していたようで、縁の所に残っているからそこに
戻るために泥の中をかき分けていく。
(粘り気は無くてさらさらしているんだけど、歩きにくいなぁ)
何とか階段までたどり着き、縁の所に上がってみたところ
「うわっ!」
着ていた装備品は全部溶けていた。しかもご丁寧に下着まで完全に溶けている。つまり
素っ裸。
(こ、これはちょっとマズいよ!)
バックパックの蓋を開けて着替えを取り出そうと思ったところで思い出した。
「・・・すぐに戻る羽目になると思ってたから着替え持ってこなかったんだった」
となると、今着られる服はさっき拾った下着の2つだけ。
(何もないよりはマシ、と思ったんだけど)
実際に装備してみるとかなり間抜けな光景だった。
ブラジャーの方はまだ「短いシャツ」で押し通すことが出来そうだけれど、パンツ
の方はそうも行かない。
生地を押し上げるペニス、そして下に盛り上がる精巣二つ。いくら何でもこれはない。
というか、動くたびにペニスの周りが生地に擦れてどうにも気持ちが悪い。
「押さえ込めば何とかなるかな?」
学校で習った男性器の構造を思いだしなから、前張りのためにテープをバックパックから
取り出して押さえ込みに入る。
まずは精巣、これは体内に納めることが出来るので腰骨と腹の筋肉の隙間に一つずつ
押し込んでいく。そしてペニスはお尻の穴の方に折り曲げて、上からテープを貼り付ける。
これでペニスはお尻の方を向いて収まったので、上からパンツを履いてみると
「うん、さっきよりはだいぶマシになったな」
何より動いてもペニスにほとんど刺激が伝わらないので、さっきまでの気持ち悪さが
かなり軽減された。
陰毛が生えていたらテープをはがすときに大変なことになりそうだけれど、さっきの泥で
体中の毛(除く頭)が抜けた僕には問題なかった。
(さて、地上に戻るためにもまともな装備を探さないと)
バックパックと剣を装備して、下着姿のまま次の階段を探して前に進むことにした。
『地下5階』
「ま、また女性装備・・・」
これで何個目の宝箱だろうか、蓋を開けた中身はフリフリのワンピースだった。
ここに来るまで拾った装備は
・金糸で刺繍された黒いタイツ
・イヤリング
・リボン
・薄い絹で出来た手袋?
素人目からも魔法の力が加わっているのが分かるものばかりだけれど、装備するのは
かなりのためらいがある。
(う~~~~ん)
学校ではかなりのひょろひょろ体型だったし、お世辞にも男顔とは言えなかったから
冷やかしでよく女物の服を着せられていたけれど、似合っているとはとても思えなかった。
だけどこれから先、まともな装備無しでやっていけるという保証も無い。
30分以上悩んだだろうか、僕の結論は「とりあえず装備してみよう」だった。
まずはパンツの上からタイツを履いてみる。ゆっくりと足先まで入れてから腰の部分まで
引きあげていき、しわになった部分を整えていく。
太ももに金の刺繍がまとわりつき、その割に肌にほとんど刺激が加わらない、下着に
詳しくない僕にも高級品だとすぐに分かる履き心地だ。太ももやお尻がきっちりと
収まったことを確認して、いつも通り歩き出そうとすると
「うわっ!」
いつもの力を加えたはずなのに、体がものすごい勢いで前に押し出された。
しかも歩き出したときも着地したときも音一つしなかった。
(これ、もしかして凄い装備?)
わくわく感と共に次に手袋を手に取る。
縁にレースが飾り付けられていて、中指の所には指輪のようなものが有り、どうやら
これで手に止めるんだろう。
両手に装備してから剣を持ってみると
「すごい、こんなに軽く感じるなんて!」
続けてワンピースに頭を潜らせ、腕、そして頭を出す。胸元にリボンを付け、最後に
イヤリングを両耳に付けてみる。
「・・・なにこれ」
完全に世界が変わって見えた。
服とリボンに加えられた加護のせいだろう、衝撃がほとんど体に伝わらない。遠くの音
が綺麗に聞こえるようになったのはイヤリングの力だと思う。
ここでこんな装備が出てくるのなら、この先はもっとすごいものが出る。
見た目なんて気にしている場合じゃない。
次の階に進む階段を探すため、バックパックを背負って前進することにした。
『地下7階』
「え・・・っと、これはちょっと」
宝箱から出てきた装備品を見て、流石に僕は驚いた。
出てきたのは女性向けのショーツ・・・なんだけれど、それはほとんど「ヒモ」だった。
わずかに前の部分を布が覆っているけれど、その大きさはせいぜいクリトリスにかぶせるのが
精一杯で、これではヒモの部分と大して変わらないだろう。
いくら魔法が掛かっているのが分かるアイテムとは言え、これを装備する気にはなれないというか
装備出来ない。
(後ろに隠していても、ヒモからペニスがはみ出したところは見たくないしなぁ)
本当の女性が装備したらさぞ色っぽいだろうけれど、今の僕には無用の長物。
バックパック・・・に変わって前の階で拾ったホールディングバックにショーツを詰め込み腰に
くくりつけると、タイツやスカートについたホコリをはたき落とし次の階段を探すことにした。
『地下10階』
「ううっ、トイレトイレ!」
ここに来て猛烈な尿意に見舞われた僕は、この階でトイレを探し回ることになった。
ようやく探し当てたトイレに飛び込み、タイツとパンツをずらしてスカートをまくり上げる
と便器にしゃがんで早速用を足し始めた。
普通の迷宮なら(衛生上の問題や臭いに釣られてモンスターが出てこないように)ピットにスライム
を入れてそこに用を足すんだけれど、この迷宮は各階に水が流れるトイレが1つはある。
スライムピットに比べると安全だし何より見た目がいい。
(スライムが足下でうねうねしているところで用を足すのは気持ち悪いしねぇ)
お尻の方から小水が流れ出るのを感じながらトイレの中を見回してみると、壁も綺麗だし魔法の
明かりもついている上にどこからかいい香りもしている。
「・・・っん」
小水が出きったことを確認すると前張り用のテープから頭だけを出しているペニスを紙で拭き取り
パンツとタイツを引き上げる。
「こういうときスカートは便利だなぁ」
トイレそのものがしゃがんで使うことを前提にしているので、男でも立ったまま用を足すのは難しい
からズボンや下着を全部下までずりおろさないといけないし、何よりペニスがどこを向いているのか
上からでは確認出来ない。
こうなってくるとペニスを後ろに固定してお尻から全部出してしまえるようになっている今はすごく
楽だ。ただ、ペニスがある分どうしても小水の切れは悪くなるので普通の女性よりもトイレにかかる
時間は長くなってしまう。
「もう直接出せるようにペニスが取り外せればいいのに」
下着とスカートのしわを綺麗に取ると、ドアを開けて探索を再開することにした。
『地下12階』
「・・・薬箱?」
それは様々な小瓶の詰まった、豪華な飾り付けのされた小箱だった。
一つ一つ瓶を取り出してみるけれどポーションにしては小さすぎる、それに瓶にまで飾り付け
がしてあるから消耗品にしてはおかしすぎる。
試しに一つの瓶の蓋を開けてみると爽やかな香りが辺りを漂い始めた。
「あ、これ香水だ!」
となると、これは化粧箱ということみたいだ。
他の瓶も蓋を開けてみたり外から眺めてみたりすると、街の女性が使っているものとよく似たもの
が沢山あった。
「このスティックみたいなのは・・・口紅かな?」
試しに出してみた赤色のスティックを唇にそっと塗ってみて、箱の蓋についている鏡を覗いて
見ると、そこにはわざとらしくないとても新鮮な赤色をした唇があった。
「うわ、綺麗だ・・・」
色だけじゃない、唇自体がぷるぷるとゼラチンのように震え、輝いている。
「他は・・・これは爪に塗るんだな」
結局、僕がここから立ち去るのはたっぷり3時間が経った頃だった。
『地下13階』
「うわぁ・・・なにあれ」
入り口からこっそりのぞき込んだ部屋の中はとんでもない光景だった。
うねうねと床にたまる触手とそこから出る粘液、その触手の先端部分からものすごい臭いのする
白濁液が時折ぴゅっと飛び出している。そしてその本体と言えばまるでペニスをかたどった丸太
のようなずんぐりしたのが4体ほど奥の方に鎮座していた。
(ここまで綺麗な迷宮だったから油断してたけれど、悪趣味にもほどがあるよぉ)
「女を犯す」という目的がここまでストレートに出ているモンスターは初めて見たし、触手の
群れと粘液で埋もれた床を歩くのはとてもじゃないけど勘弁したかった、勘弁したかったけれど、
階段はその悪趣味なモンスターの向こう側に見えていた。
詰まるところ、下の階に降りたければアレを何とかしないといけないらしい。
「モンスターがリンクしてなきゃいいんだけれど・・・」
小石を拾うと一つの本体に向けて入り口の影から放り投げた。
ぶつけられた1匹だけが触手をうねうねさせながら入り口に近づいてくる、けれどこっちの装備
に掛けられた加護のせいで僕がどこにいるのかよく分かってないみたいだ。
(よし、これなら1匹ずつここで始末出来る!)
入り口から少し離れたところに移動して、モンスターが出てきたところを見計らい廊下の反対側に向けて
小石をもう一度投げ込む。小石の出す高い音に引かれてモンスターが背後を向けたところで飛び出し、
剣を縦に一閃する。
手袋の加護で攻撃力の強化された一撃を受けたモンスターはうなり声を上げる暇も無く絶命した。
これを4回繰り返し、階段の前からモンスターは全部いなくなったようだった。
本体を倒したら触手はほとんどしなびて消えてしまったけれど、そこから出た粘液はそのままだったので
慎重に階段に向かう。
「うぅ、気持ち悪いよぅ」
半分泣きそうになりながらつま先立ちで慎重に前に進んでいく、けれども足下に気を取られすぎて
後ろの気配を見ていなかったのはあまりにも不注意だった。
シュルシュルシュルシュル
「うわっ!」
両足と両手に突然触手が巻き付き、そのまま空中にぶら下げられてしまった。
(しまった、後ろにもう一匹いたのか!)
獲物を捕まえたと確信したそのモンスターは全部の触手を僕の体の周りに巻き付け、ゆっくりと
吟味するように動かし始める。
「くっ、このぉっ!」
全身でもがいてみるが体が空中にあるので力が上手く伝わらず、それどころかだんだんと大股開き
の格好になってきた。そして何本かの触手がスカートの中に入り込んで内股をなでるように先端を
こすりつけていく。
「ちょ、ちょっと待って!僕は男だからそんなことには使えないよ!」
我ながら間抜けだとは思ったけど、そう叫ばずにはいられなかった。
そして触手の1本がパンツの方に近づき
(わ、わ、わ、わ!)
バチン!
服から出た電光にはじき飛ばされた。
「・・・へ?」
他の触手も服の隙間から入り込もうとするたびに電光にはじき飛ばされ、空中をうねうねと悔しそうに
くねっている。
(これって、服に掛かっている加護の一つ?)
どうやら最悪の事態は避けられそうだけれど、触手に捕まって宙ぶらりんという状態から脱出する
のは出来そうになかった。
冷静に数えると触手の本数は12本ほどで、それらは本体の根元・・・男で言えば股間にあたるだろう
所から伸びている。触手を動かしている間、本体は動けないようでさっきからじっとしたままだ。
完全ににらみ合いになってしまって10分も経っただろうか、触手の一本が内股気味になった太もも
に先端をこすりつけ始めた。
「へ、なになになに?」
先端・・・男で言えばカリの部分だろうか、そこを太ももにこすりつけているうちにだんだんと触手が
太くなり始め、動かすスピードが上がっていく。
(もしかしてこれって、僕でオナニーしてるの?)
その考えを証明するように触手がパンパンに膨れあがると
ビュッ、ドビュッビュ!
一番先っぽから大量の白濁液をまき散らし始めた。
「うわっ、わっわっ!」
何も出来ない僕はその白濁液を太ももに、服に浴びていく。そして全てをはき出した触手はシナシナと
しおれ、消えて行ってた。
「と、言うことは・・・」
僕の背中を冷や汗が伝っていく。残る触手は11本、これを全部逝かせるまで相手にしないといけない
と言うことで、
「うぇぇぇ・・・」
考えただけで頭がくらくらしたけれど、やらなきゃしょうがなかった。
意を決して両手首をつかんでいる触手の先端を触ってみる。ぬるっとした感覚の下にガチガチに固まって
ドクドクと脈打つ何かがあるのが感じ取れた。先端部分を手で包み込むようにしてゆっくりと前後に
動かし始めるとそれに合わせて更に堅くなり始める、けどもさっきの触手と違ってパンパンに膨れあがって
来たりはしなかった。
「もっと勢いよくやらないとダメなのかな」
シュッシュッと音がする位の勢いで先端をこすり始めると、さっきまでとは違ってどんどん膨れあがって
きた。そして
ビュッ!ビュッ!!
両手の触手が同時に白濁液をまき散らし始める。
「うわっ!」
今度は服だけでは無く顔や髪の毛の方にまで飛んできた。
(うぅぅぅ、すごく気持ち悪い)
しかも最初の触手が消える前に次の触手が両手に絡みついてきて、「逝くまで離さない」という本能を
丸出しにしている触手はあと9本。
・・・結局全部の触手が消えるのに1時間ほどかかってしまった。
本体は全ての触手が消えると満足しきったかのように迷宮の奥へと去って行ったけれど、残された僕は
白濁液まみれで体力を消耗し尽くして階段の前に座り込んでいた。
「もう・・・やだ」
臭いにも、今の自分の格好にも、そしてあの白濁液を自分も毎日のようにオナニーで出していたことも。
(とにもかくにも体や服を洗い流さないと)
疲れ切った体にむち打って階段をのろのろと降りていった。
『地下14階』
降りてすぐの所は迷宮と思えない構造になっていた。
「これは・・・湯浴み所?」
綺麗なお湯がザァザァと音を立てて天井から床まで流れ落ちている囲いのある場所が4カ所ほど、あとは
4階にあったのと同じような泥がたまった大きな壺、奥の方には広間があるようで、鏡や椅子のような
ものも見える。
(まずは体を洗おう・・・)
服を全部脱いで囲いの中に入ると、頭のてっぺんからつま先まで新鮮なお湯で洗い流していった。
両手で肩や胸、お腹に足、そして髪の毛をゆっくりとなでていく。全身をチェックしていくとアザの
ようなものはついていなかったし血も出ていなかったのでたいしたダメージは貰っていなかった。
ただあの触手と白濁液はかなりのトラウマになりそうで、テープをはがしてペニスを洗うときも直視
出来なかったし、どれだけいじっても全く大きくならず、しなびたまま下を向いていた。
たっぷり30分は湯浴みしただろうか、最後には肩に掛かりそうな髪の毛の先まで手でこすりながら
念入りに汚れを落とした、が・・・服はそのままなので現在裸状態。
「流石にこれをそのまま着る気にはならないなぁ」
魔法の加護があるとは言え臭いや汚れまで何とかしてくれる訳では無く、それぞれ湯浴み所で洗い
流すしかないと覚悟を決めて服を集め出したとき、泥のたまった大きな壺が目に入った。
4階では同じ泥に浸かって服が全部とかされてしまったけれど、魔法の掛かった服ならどうだろう?
そう考えて一番被害の少なそうなブラジャーを壺の中に入れてみる。すると泥は白濁液や汚れを溶かす
けれどブラジャーは全く変化がなかった。汚れが全部落ちたところを壺から出してみると、最初に見た
時と全く変わらないくらい綺麗になっていた。
(そうか、それなら!)
汚れた服を全部壺の中に放り込み、ゆっくりとかき混ぜていく。
ワンピースも、タイツも、パンツもリボンもみるみるうちに綺麗になっていき、10分もしないうちに
元通りになっていた。
「よし、これで大丈夫」
全部の服を綺麗にし終わると、畳んで奥の広間に向かってみる。というか湯浴み所で服を着替える
のはおかしいしね。
広間は僕が考えていたより広く、豪華な造りだった。
壁一面に並んだ鏡、その前にきちんと据え付けられた椅子と机、色々な小道具の入った箱、全てが
豪華な装飾を施されていて、これ一つ持ち帰るだけで家が一軒建ちそうだった。
(まぁ今は値踏みする前に)
小道具箱には本当に色々なものが入っていて、その中から手ぬぐいを取り出し全身、そして髪の毛を
ゆっくり拭いていく。特に髪の毛の先は両手でタオルに挟み込みゆっくりと。そのあとはブラシで髪の
根元から毛先までゆっくりと漉いていった。
そして鏡を見てみると13階で受けた汚れは全部落ちてしまったようだった。
次にテープを取り出し、ペニスをいつものように後ろに向けて前張りしてしまう。ちなみに精巣は
体の相当奥まで入り込んだようで全く降りてこなかった。
そしてパンツ、ブラジャーを身につけ、タイツを履いたところでふとバックの中の化粧箱を
思い出した。
「そう言えば鏡を見ながら本格的に使ったことなかったっけ」
バックの中から化粧箱を取りだし、蓋を開け中の小瓶を机の上に並べていく。
まずはさっきの臭いはもう勘弁して欲しいので香水の瓶を手に取り、手首、首の付け根に1滴ずつ
垂らして手で伸ばしていくと、爽やかな香りが先ほどまでの嫌な臭いを全て消し去っていくように
広がっていった。
(次はどうすればいいんだろう?)
机の上に並べられたのは20数本の瓶、ネイルや口紅、頬紅は分かるけれど、これまでこんな話に
全く関わりの無かった僕には複雑すぎてよく分からないものばかりだ。
辛うじて読める古代文字を元にあれやこれやと推理して、まずは肌を綺麗にする(であろう)水を
綿に含ませて顔全体に塗っていく。次に「基礎」と読めた瓶から同じように綿に取りこれも顔全体
に塗る。
あれやこれやと手間取りながら最後に口紅を塗って綿で余分を拭き取ってしまう。
そうして出来上がった僕の顔は
「・・・綺麗」
本当に見違えるように綺麗になっていた。
鏡を使ってあちこちの角度から眺めてみても、元の僕の顔とは比べものにならない。
(ここまで変わっちゃうのかぁ・・・化粧ってすごいや)
そして毎日こんな事に労力を費やしている女性に心から感服した。
「さて、先に進まないと」
と声を出してワンピースを手に取り、頭から被ろうとして気が付いた。
「このままじゃ服に化粧がついちゃうよ」
机にあった小道具をひっくり返し、その中から顔を覆うような紙を見つけてやっとの事で着替え終わる
のにまた30分かかった。
『地下15階』
「湯浴み所があるんだからそんなものもあるとは思ったけれど・・・」
そこは巨大な神殿だった。
ずいぶんと長い階段だとは思ったけれど、この天井の高さを見ればそうなるのも道理だ。
しかも奥が全然見えないし、そして横幅も正装の騎士が100人ほど並べるだろうか。普通の広さ
じゃない。
モンスターの気配は全くなかったので奥に進んでいくと、だんだんと一番奥にある神像が見えてきた。
(これは・・・)
そこには巨大で、そして美しい女神像が建っていた。でもその女神の姿はこれまで学校や書籍で見た
ことのないものだった。
まず全く服を着ていなかった。
普通の女神像なら腰や胸の辺りに布のようなものがあるのだけれど、この女神は胸も腰も、股間も
全く隠していなかった。
そして人体の構造があまりにも精緻に彫り込まれていた。
どれくらい精緻かと言えば股間にあるクリトリスやはみ出したひだひだはそのまま動きそうだし、
胸の乳首も母乳が出る穴が一つずつ彫り込まれている。顔も唇や頬の柔らかさ、睫毛や眉毛、そして
腰まで届く髪の毛先一本一本が今にも風になびきそうで、なによりもその顔はとても美しかった。
大理石に女性美の全てを彫り込んだと言ってもいいだろう。
「こんなすごい女神像、書籍に載っていてもおかしくないのに・・・」
いつもならこんな像を見たらスケッチするのが僕の趣味なんだけれど、そんな気には全くなれなかった。
「これは絶対写し取れない」と一目で分かる代物だったから。
しかし13階で酷い目に遭ったせいだろうか、それとも14階の湯浴みで体が温まったせいだろうか、
かなり強い眠気に襲われてきた。
「ここならモンスターに襲われることもなさそうだし」
バックから毛布を取り出すと祭壇の近くで包まり、すぐに眠りについてしまった。
どれくらい眠ったんだろう?
毛布からゆっくり這い出して体を伸ばす。
かなりゆっくり眠れたようで、精神的にも肉体的にも疲れは全く残っていなかった。
さて、ここからまた下の階に降りて探索を続けたい所なんだけれど・・・
「剣をなくしちゃったのは痛いなぁ」
13階の一件でどうやら剣を失ってしまったようで、あのあと色々探したけれど全く見当たらなかった。
あの一件を考えればどこかで剣を見つけないととてもじゃないけどこれ以上下には降りたくない。
かといってここまできて地上に戻るのもかなりリスクがある。
(さてどうしたものかな・・・)
神殿の守護者用に剣があったりすることがあるのでそれを探してはみたけれど、そうそう都合のいい
話がある訳もなかった。
そして探し疲れて祭壇まで戻ってきたとき
(・・・あれ?)
祭壇の天板に隙間があるのに気が付いた。何かありそうな予感と共に天板をずらしていくと、そこには
1振りの細身剣が収まっていた。罠がないことを確認してゆっくり手に取ってみると
「これ・・・すごい魔力を感じる」
装飾もさることながら、その剣に掛かっている魔法の力はどう見ても普通じゃなかった。間違いなく
国宝レベルの力が加わってる。
鞘から剣を抜いてみると、刀身は顔を写すほど磨かれていてその上軽く、腕の動きに忠実についてきた。
そして魔法の力はそれ以上であることが素人目にも分かった。
(すみません、お借りします)
心の中で謝ると、僕は次の階に向けて探索を続けることにした。
『地下20階』
「んっ・・・とっ・・・・くはっ、だめだぁ」
あのあとは順調に探索も進み、色々な装備品も出てきたのだけれど、この階で出たビスチェは流石に
無理があった。僕には胸の脂肪も腰骨の広さもないし、何より腰の細さや胸の大きさがあまりにも
違いすぎる。それでもなぜ無茶をして装備しようとしてるのかと言えば、15階の剣と同じ位の魔力
が感じられるからだ。
18階で見つけた空を飛べるハイヒールや19階の金属ヘルムより防護力のある髪飾りもすごい
けれど、それとは比べものにならないだろう。そして何よりも金糸の刺繍、縁を飾る金板、胸の
部分にある宝石、全てが美しかった。
15階で見た女神像、あんな女性ならこの装備を身につけたときどんな風になるだろう?そう思うと
自分の今の体が恨めしかった。
「男・・・なんだなぁ」
いくら化粧で美しくなっても、装備品を身につけたとしても体は男のままだ。
男だからこの迷宮に潜れているとは分かっているけれど、この前張りの下にあるペニスの存在が
邪魔でしょうがない。
(『今あることを嘆いても前に進めない』と格言には言うけどね)
渋々とビスチェをバックに納め、ワンピースを着て次の階段を探し始めた。
『地下23階』
「むむむむむむむ」
この階に来るまでに揃えた装備品を身につけながら、僕は唸っていた。
ここに来るまでにスカートやカーディガンその他諸々のアイテムを見つけて、それぞれ装備して
いるんだけど、どうにも違和感がある。特にワンピースを脱いでスカート等上下セットを装備した
ときに違和感が強かった。
「これ・・・もしかしてビスチェを装備するのが前提?」
30分ほど唸って出た結論はそれだった。
スカートとかを装備してみると下着もうっすらと透けて見えるようになっているんだけれど、
4階で拾ったブラジャーにパンツ(はっきり言えば女児用)ではデザインに合わないんだ。
どれもすごい魔力を秘めている装備品だし付けているだけなら問題ないのだけれど、この辺りは
納得がいかなかった。
(こんなに綺麗なのに勿体ないなぁ)
もし僕が本当の女性なら7階のヒモショーツも装備出来ただろうし、ビスチェも問題ないだろう。
それなのに僕は男だ。
男、男、男!
「むぅぅぅぅぅぅぅ」
床にそっくりかえって手足をじたばたしてしまう。
唸ってもしょうがないのは頭では分かっている、でも感情がそれについて行ってない。
結局僕が諦めて次の階段を探し始めるのに3時間ほどかかってしまった。
『地下24階』
「なに・・・これ」
それは13階の再来、いやそれ以上だった。
またもペニスそっくりの丸太モンスター3体から伸びる沢山の触手、それに加えてさっきから
僕に向かって飛ばしてくる精神攻撃。女の人が触手に絡まれ膣の中に口の中にお尻に突っ込まれて
むさぼられ、嬌声を上げる姿を延々と映像で僕に見せつける。普通の状態ならこの攻撃に脳が麻痺
して触手にそのまま絡め取られ、同じようにされるんだろう。
でも装備品の加護のせいで精神攻撃は全てはじき返され、周りでバチバチと電光を飛ばしていた。
そして何よりも「僕にはこうなれない」と言う思いが怒りを更に増幅させる。
「ただでさえ機嫌悪いのにぃっっっ!」
細身剣を抜くとタイツとハイヒールの力を増幅させて一気に飛び出し、その勢いで1体のモンスター
を袈裟懸けに切り落とす。残る2体が触手を伸ばすけれど僕の足下に届く前に天井近くまで上昇し、
もう一体に向かって急降下、そのまま胴を真っ二つにする。最後の一体が慌てている様子を見せて
いるうちに間合いに飛び込み、頭に、胴に、触手に次々と刃を食い込ませる。
モンスターがうなり声すら上げなくなってからようやく剣を止めたけれど、周りはもはやぐちゃぐちゃ
だった。加護の力で返り血なんかは浴びていないけれど、僕はもう早くここから立ち去りたかった。
2階連続で男であることを突きつけられると、流石に不機嫌にならざるをえなかったし。
『地下??階』
どれくらい階段を下ったのだろうか。
もはや何階なのか分からなくなるくらい長い間階段を下っていった先には、これまで見たことがない
大きさの扉が待ち構えていた。
そこから先に降りる階段がないことを確認してから扉の前に立つ。
扉は巨大だった。15階で見た女神像ですら易々と通りそうな高さと幅を持ち、全面に華麗な装飾
が施されいる明らかに異質なものだった。
「どうやって開けるのかな・・・ってうわっ!」
僕が逡巡していると音も立てずに突然扉が開き始めた。扉の向こう側からは明るい光が漏れてきて
向こう側を覗くことは出来そうにもなく、手をかざしてまぶしさから目をかばうしかなかった。
そして扉が完全に開ききったとき、向こう側が見えた。
僕はその中に3歩入ったところで内股になってへたり込んでいた。
目の前に存在するもの、それはあまりにも美しく、巨大で、まぶしい女神だった。
(15階で見たあの女神像・・・)
ここは迷宮では無く、神のおわす神殿だった。
(よくたどり着きました我が子よ)
頭の中に直接声が響く。
目に映る偉大さに、声に感じる優しさに、周りを包む光の暖かさに僕は涙を流していた。
そして女神の女性としての美しさに打ちのめされていた。
腰を超え足下近くまで伸びたゆらゆらなびく髪、丸くそして丸すぎない顔、優しくそして威厳を
保った目元、筋の通った鼻、柔らかく優しげな唇。
丸く柔らかくそして垂れることも突き出すこともない包み込むような乳房、弓の様に弧を描く
腰、全てを受け止めるような大きなお尻、何の混じりけもないつややかな足。
人間には再現出来ない美しさ、それがそこにあった。
そして僕は自分を見下ろす。
何と貧相で、中途半端で、醜い体なんだろう。
骨張った肩、円を描くことのない胸、そのままお尻まで至る真っ直ぐな腰、何も受け止められない
腰、筋肉が所々浮き上がった足。
知らず知らず、僕は嗚咽を上げていた。
(あなたは悲しいのですね)
「はい、悲しいです。僕にはあなたのような美しさが何もありません。」
(美しさとは何ですか)
「あなたのような女性としての美しさです」
(美しさを求めてきたのですか)
「違います、でも今はそうです」
(あなたは美しくなりたいのですか)
その問いかけに答えることは最後の一線を越えることだと直感した。でも答えることを止める
のは出来なかった。
「はい、私はあなたのように美しくなりたいです!」
その瞬間、光に包まれた。
髪が美しく、長く伸びていく。
顔も丸く柔らかく、骨張ったところを脂肪が覆っていく。
首が細く、のど仏も真っ直ぐになって肩に繋がる。
肩骨が狭くなり、腕が胸に近づいていく。そしてその胸は柔らかく大きく膨らみ、その頂に紅い
つぼみを懐いていた。
腰は細く、腰骨は広く、そしてお尻はそれを包むように丸くなり、そして股間にあった男の
象徴はしぼんで小さな頂だ けをつきだしている。足はなめらかに筋肉を脂肪で覆い、つま先まで
しなやかに伸びていく。
そして体内に押し込んでいた精巣は更にお腹の奥に入り込み、別のものにその姿を変えよう
とし、それに合わせて新しい臓器が生まれようとしていた。精巣から姿を変えた卵巣から卵を
受け止める卵管采、そこから伸びる卵管、卵子を受け止めて胎児を育む子宮、そして男性を
受け止め、その精を子宮に送り込むと共に胎児の通り道となる膣。
そして膣の入り口が股間に繋がるのを感じたとき、私は私自身を抱いていた。
私は、女になった。
(さぁあなたの着たいものを着てみなさい)
光の中で私と、これまで集めてきた装備品が浮かんでいた。
震える手で私はあのとき装備出来なかったショーツを手に取り、足を通す。
腰までヒモを引き上げ、前の布がクリトリスを覆うと魔法が下腹部そしてお尻を包み込み、
腰全体が包み込まれるのを感じた。その力はお腹を、そしてお尻の形を丸く柔らかく整えて
次の下着を身につけるのを待っていた。
次にビスチェを手に取り、腰に巻き付けて乳房に胸を覆う部分をかぶせていく。
腰は細く、そして胸は丸く豊かになるように力が加わり、胸には丸く柔らかい塊が二つでき
てその下にはゆったりとした曲線を描いて腰が作られていった。
タイツを履くとつま先からお尻まで均等に筋肉が、脂肪が整えられ、女神と同じように歪むこと
のない曲線を描いている。
トップスを、スカートを、カーディガンを次々と身につけ、髪飾りを、イヤリングを着飾った
とき、私は本当になりたかった私になれた。
(あなた自身であなたを観なさい)
姿見が目の前に現れ、私の全身像が映される。
「綺麗だ・・・」
その姿は本当に綺麗だった。
小さな顔、整った眉毛と睫毛、ぱっちりとした目、真っ直ぐ伸びた鼻筋、柔らかく、そして
ピンク色に輝く唇。下着と上着に覆われても乳房はその存在を隠すことなく丸い二つの球体
を大きく突き出し、その下からはゆったりとした曲線が腰、そしてお尻に続き、真っ直ぐ伸びた
足がその美を完成させていた。
(女は美しいだけではありません)
女神が再び手をかざすと、私は再び裸になり、柔らかい力に包まれていた。
その力は背中を、腹を、腰を、首を、顔を撫でていき、そして胸を優しく持ち上げてもみしだき、
その紅い頂、乳首を摘まんでいく。
「あっあっあっ」
(女は体全体で感じることが出来ます、そして胸はその快感を表し、更に快感を求めます)
胸をもむ力がリズミカルになり、快感を感じた乳房は更に大きくなり、乳首は充血して空中に
つきだしている。
そしてその快感は股間にも伝わっていた。
「ぬ、濡れてる」
股間からわき出した愛液が内股を伝っていく、そして股間では膣の入り口がヒクヒクと蠢き
男性の象徴から女性の象徴へと変わったクリトリスは充血して紅く染まり、さらなる刺激を
待っていた。
(クリトリスが求める刺激を与えれば、それに応じた快感があなたを包みます)
「んあっっっあっっあぁぁぁぁっぁぁ」
力がクリトリスを撫でただけで私は声にならない声を上げるしか出来ない快感に襲われた。
男がペニスをいじるのとは全く比べものにならない快感、それが絶え間なく全身に伝わっていく。
クリトリスの頂だけでなく、そこから体の中に入り込んだ部分までしごくように力が動くと
目の奥で光がちかちかと輝き、その光がどんどんと近づいていく。
「ひっっあっっ、何、何か来る」
(それを受け入れなさい、それが女性の特権なのです)
「あっあっあっああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クリトリス全体を摘まむような力を感じると体全体がばらばらになりそうな、爆発する快感に
包まれて私は初めての絶頂を迎えた。
「・・・ぁあ・・・うぁ・・・」
体を動かせなくなるような快感の波にもまれ、力に全てをゆだねている私に更に声は語りかけた。
(女性は中でも感じるのです)
「あっっうっ」
膣の中に「なにか」が入り込んでくる感覚に、私はまた体を震わせた。入り口をなで回し、小刻みに
前後に動きながらだんだん奥に入ってきて、狭い中を押し広げていく「なにか」が擦れるたびに
膣はその壁をヒクヒクとうねらせ、迎え入れていく。
(まず入り口で感じ取りなさい)
「あ、あうっ」
「なにか」が入り口から少し入ったところをこすり始めたとたん、私は全身が「快感」という感覚に
繋がったかのような衝撃を受けて体をのけぞらせた。
(そこは女が男を迎え入れるときに感じるための場所)
他のうねるようでなめらかな部分とは違い、ざらざらとして神経が集中している場所を繰り返し
触られ、そのたびに快感が膣からあふれ出す。しかしその快感はクリトリスのように絶頂に至ら
ず、私をさらなる高みへと押し上げていった。
「あっっひっっっうぁ・・・・」
膣をこすられ続けてもはや言葉が出せず、頭の中が全て女の快感で埋められていく。体も快感
に応えるように膣の入り口からは最初の頃より濃くて粘りけのある汁があふれだし、腰も
「なにか」の動きに合わせるように前後に揺れ、お尻は高く上がり股間を丸見えにして更に奥に奥に
と「なにか」を誘っていく。
(そして一番奥に迎え入れなさい)
ずんっ
「っっっっひっ!」
お腹の中で「なにか」がぶつかった衝撃とそこから来る快感に悲鳴を上げる。
そして一番奥をぐりぐりとなで回すように「なにか」が動き回ると、お腹の中からどんどん
熱いものが湧き上がってきた。
(そこはあなたが子を宿すところ、その入り口)
そう、ここは子宮の入り口でその機能は妊娠すること。そして妊娠させるものは精子で、精子を
送り出すものはペニス。
私は今、ペニスを子宮口に受け入れている。
(女の快感、そして孕む快感を感じなさい)
再びペニスが勢いよく子宮口を叩き、お腹の奥から湧き上がる熱い快感が全身に行き渡る。
「あっあっあっあっあっあっ!」
私は今、子供を授かるための行為をしている。男だったときには考えられない行為は頭をどんどん
「女」に塗り替え、全てを受け入れさせる。
ペニスはズンズンと子宮口を叩くように前後に動き、もはや私は快感におぼれて声にならない
嬌声を上げながら腰を動かし、膣を締め付けて「男の精を受け入れなさい」という子宮の命令
に従っている。そして子宮は感じた快感を全身に行き渡らせ、女としての絶頂を迎える準備
を整えていた。
「ああああああっっ、ああっっっ、あぁぁっっっっっ!」
前よりも真っ白い光が来る、その予感に肌が、胸が、腰が震え、そして子宮が最後の快感を迎え入れる。
「ああああああああああああああああっっ!」
全てが真っ白になって、お尻を男に押しつけるかのように宙に突き上げ、膣でペニスを締め付け、
子宮口が開き子宮が精液をむさぼる、女しか感じられない受胎の快感の中で私は気を失った。
気が付いたとき、私は全てを装備した状態で迷宮の入り口に倒れていた。
『地上』
いつものように宿屋の個室で目を覚ますと姿見の前に立ち、日課となった髪梳きを始める。
背中の半ばまで伸びた髪に最初から最後まで丁寧に櫛を通していく。
髪の毛を綺麗にしてから下着を身につける。お尻を、胸を整えていき全身のバランスを取る。
その上から上着を、スカートを羽織る。上着のボタンを留めると脇にあるヒモを引っ張り胸の
部分の形を整える。
(口の悪い女の子が「乳袋」とか陰口叩いてたね)
上着の下から主張する胸の形が崩れていないことを確認すると、今度は化粧の番。
化粧箱を開けると乳液、ファンデーションを顔全体になじませ、睫毛眉毛の形を整えてから
頬をかすかに、そして唇を柔らかく紅く染めていく。
最後にイヤリングを留め、全身を見渡す。
「よし、今日も大丈夫!」
かけ声を掛けると部屋を出て、カギをフロントに預けるとギルドに向かうために街に出る。
結局あの女神が誰だったのか分かることはなかった。
失われた記録も含めれば何万柱もいる神の中から一人を探し出すのは一生を掛けても無理な
ことだし、分かったところでどうするのかと言うところもあった。
この装備と技能があれば、どこかの国に仕えると言う話もあった。
事実、高難易度のクエストを軽々とこなせる今であれば爵位を貰うことも可能だろう。
でも私はそれをしなかった。
装備の一つでも売ればちょっとした土地に城一つが建つだけの資産を得ることも可能だったろう。
でも私はそれもしなかった。
迷宮から帰ってきて、誰が「いい男」か分かるようになっているのに気が付いたのは宿屋の食堂
だったと思う。色々と言い寄ってくる男達をあしらっているうちに、誰が「信頼出来る男」か分かる
ようになってきた。
そのうち誰が「この男なら大丈夫」そして「かけがえのない人」か分かるようになり、その人と
結ばれ、精を受け止め、子を孕み、そして産むのだろう。私はその道を選んだ。
だけどその前にやっておくべきことがある。
ギルドの入り口を開くと今日も満員御礼の状態だった。男達は少しの間だけこちらに視線を向け
女であることに気が付くと作戦会議や地図の読み合わせ、魔法の選択を再開した。
その中を見渡し、そして
「・・・いた」
一人の冒険者に近づく。
まだ若い、そして冒険心に溢れ前に進みたがり、何よりもあの女神の声に同意するであろう男の子。
その横に腰掛けると、ゆっくりと声を掛けた。
「君、あの迷宮へ潜る方法を知りたくない?」
「君、あの迷宮へ潜る方法を知りたくない?」
「は?」
この話はごった返すギルドで知らないお姉さんから唐突に声を掛けられたところから始まった。
僕がいるこの街には不思議な迷宮がある。
「不思議」と言っても変なトラップや強力なモンスターが住み着いている訳ではない。
入り口は街を出てすぐの所にあるけれど、モンスターの被害はこの100年で1度もないそうだ。
「不思議」なのは「女性が絶対入れない」と言うのが一点。
パーティーの中に女性が一人でもいると、入り口を入った瞬間に外に出ている。
だからといって男性だけで入れば大丈夫かと言えばそうでもない。
1階は無事に抜けられたとしても2階の辺りからパーティーメンバーの様子がおかしくなり始める。
方向麻痺や凡ミス多発ならまだマシで、視野狭窄に幻聴なんてものまで出てくる。
大抵は2階でギブアップ、無理をして3階に進もうとしたパーティーもいたのだが、降りた瞬間
同士討ちが始まってしまい、転移魔方陣で無理矢理帰還してきた。
それなのになぜこんな人がごった返すほど冒険者が集まっているのかと言えば「出てくる宝物
の価値が法外」だからだ。
2階に一度潜れば1ヶ月は遊んで暮らせるほどの宝石や金貨、場合によっては魔法のアイテムが
手に入るとなれば多少の無茶はしても潜ろうとする冒険者はいくらでも湧いてくる。
一度2階でとんでもない価値のある剣が見つかったこともあり、どうやって3階以降に潜るか
冒険者があれやこれやと頭をひねっているところだ。
その迷宮に潜っていける方法?
「大人数で行ってもダメなところなのに、僕一人で潜れる訳無いよ」
「そんなに難しい方法じゃないわ」
「・・・危険度が跳ね上がるんじゃ?」
「むしろ逆ね、至って安全」
・・・怪しい
思いっきり怪しんでいる僕をよそ目に、お姉さんは話を勝手に進めていった。
「その方法はねぇ・・・」
方法は?
「階段を降りるとき『僕は男』と念じるの」
・・・は?
「そんな簡単な方法で?」
「信じる信じないは君の勝手、でも本当よ」
お姉さんはじっとこちらの目をのぞき込む。
値踏みされているかのような気もするけれど・・・まぁやってみるだけなら問題ないか。
「分かりました、試してみます」
「そう、それはよかったわ」
「じゃあ早速試してきます」
「最後まで頑張ってね」
そのお姉さんの「最後まで」と言う言葉の意味をこの迷宮をクリアしたときに思い知ることになった。
『地下3階』
「あっけなさ過ぎる・・・」
あのお姉さんの言うとおり「僕は男」と念じながら階段を降りていくと、あまりにもあっさりと
3階にまで到達出来てしまった。
さて、ここからはほとんど未探索のエリアなんだけれど、出てくるモンスターはそれほど強くないし
持ってきた備品もほとんど使っていない状態だし「あ、ネズミ」ちょろちょろと走り回る
ネズミの急所を狙って剣を振るいおろし一撃で絶命させる。するとそれだけで宝箱がぽろんと
出てくる。これほど簡単でいいのかとかえって不安になるほどだ。
宝箱に罠がないことを確認して開けてみると「うわぁぁ・・・」その中にはこれまで見たことの
ないような綺麗な宝石や金貨、そして装備が入っていた。持ち帰ればどれも相当の金額になるはず
のものなのだけど
「・・・ん?」
装備をよくよく見てみると「これ・・・女物のパンツだよね」
男物より一回り小さい白地の生地に色々な刺繍が施された、どう見ても男に縁の無いパンツと、
頭から被るタイプのブラジャーが入っていた。
これがこの迷宮の不思議その2「出てくる装備品は全て女性用」だ。
男性しか入れない迷宮でなぜ女性用の装備品(しかも下着まである)が出てくるのか、さっぱり
分からない。
「まぁ・・・進めばもうちょっと分かるかな」
出てきた装備品(下着も含む)をバックパックに詰めて、次の階段を目指し進み始める。
『地下4階』
「これは・・・泥?」
4階はこれまた奇妙な場所だった。
降りたとたん目の前には大きな池が広がっていた。しかもただの池では無くたまっているのは
泥のような粘り気のあるものだった。その池をどこかで渡るところがないか探している
のだけれど、沼の中に降りていく階段はあるけれど渡るような所は見当たらない。
「しかもだんだん池との段差がなくなってきたよ」
今はくるぶし一つ分だろうか、歩いている縁と泥の表面とはほとんど差が無くなっていた。
「足を滑らさないようにしないとどわっ!」
そう思った瞬間に僕は縁から泥の中に落ちてしまった。
(まずい息が出来ない!足も手も上手く動かせないというか上はどっちだ!)
泥の中でじたばたしても上手く体が動かせないし、上下感覚も完全に無くなっていた。
30秒ほどもがいていただろうか、やっと泥の表面から顔を出すことが出来た。
「うひゃぁ酷い目に遭った」
落ち着いてみると泥の深さは僕の頭が何とか表面にでる位のものだった。
バックパックと剣は落ちる直前に投げ出していたようで、縁の所に残っているからそこに
戻るために泥の中をかき分けていく。
(粘り気は無くてさらさらしているんだけど、歩きにくいなぁ)
何とか階段までたどり着き、縁の所に上がってみたところ
「うわっ!」
着ていた装備品は全部溶けていた。しかもご丁寧に下着まで完全に溶けている。つまり
素っ裸。
(こ、これはちょっとマズいよ!)
バックパックの蓋を開けて着替えを取り出そうと思ったところで思い出した。
「・・・すぐに戻る羽目になると思ってたから着替え持ってこなかったんだった」
となると、今着られる服はさっき拾った下着の2つだけ。
(何もないよりはマシ、と思ったんだけど)
実際に装備してみるとかなり間抜けな光景だった。
ブラジャーの方はまだ「短いシャツ」で押し通すことが出来そうだけれど、パンツ
の方はそうも行かない。
生地を押し上げるペニス、そして下に盛り上がる精巣二つ。いくら何でもこれはない。
というか、動くたびにペニスの周りが生地に擦れてどうにも気持ちが悪い。
「押さえ込めば何とかなるかな?」
学校で習った男性器の構造を思いだしなから、前張りのためにテープをバックパックから
取り出して押さえ込みに入る。
まずは精巣、これは体内に納めることが出来るので腰骨と腹の筋肉の隙間に一つずつ
押し込んでいく。そしてペニスはお尻の穴の方に折り曲げて、上からテープを貼り付ける。
これでペニスはお尻の方を向いて収まったので、上からパンツを履いてみると
「うん、さっきよりはだいぶマシになったな」
何より動いてもペニスにほとんど刺激が伝わらないので、さっきまでの気持ち悪さが
かなり軽減された。
陰毛が生えていたらテープをはがすときに大変なことになりそうだけれど、さっきの泥で
体中の毛(除く頭)が抜けた僕には問題なかった。
(さて、地上に戻るためにもまともな装備を探さないと)
バックパックと剣を装備して、下着姿のまま次の階段を探して前に進むことにした。
『地下5階』
「ま、また女性装備・・・」
これで何個目の宝箱だろうか、蓋を開けた中身はフリフリのワンピースだった。
ここに来るまで拾った装備は
・金糸で刺繍された黒いタイツ
・イヤリング
・リボン
・薄い絹で出来た手袋?
素人目からも魔法の力が加わっているのが分かるものばかりだけれど、装備するのは
かなりのためらいがある。
(う~~~~ん)
学校ではかなりのひょろひょろ体型だったし、お世辞にも男顔とは言えなかったから
冷やかしでよく女物の服を着せられていたけれど、似合っているとはとても思えなかった。
だけどこれから先、まともな装備無しでやっていけるという保証も無い。
30分以上悩んだだろうか、僕の結論は「とりあえず装備してみよう」だった。
まずはパンツの上からタイツを履いてみる。ゆっくりと足先まで入れてから腰の部分まで
引きあげていき、しわになった部分を整えていく。
太ももに金の刺繍がまとわりつき、その割に肌にほとんど刺激が加わらない、下着に
詳しくない僕にも高級品だとすぐに分かる履き心地だ。太ももやお尻がきっちりと
収まったことを確認して、いつも通り歩き出そうとすると
「うわっ!」
いつもの力を加えたはずなのに、体がものすごい勢いで前に押し出された。
しかも歩き出したときも着地したときも音一つしなかった。
(これ、もしかして凄い装備?)
わくわく感と共に次に手袋を手に取る。
縁にレースが飾り付けられていて、中指の所には指輪のようなものが有り、どうやら
これで手に止めるんだろう。
両手に装備してから剣を持ってみると
「すごい、こんなに軽く感じるなんて!」
続けてワンピースに頭を潜らせ、腕、そして頭を出す。胸元にリボンを付け、最後に
イヤリングを両耳に付けてみる。
「・・・なにこれ」
完全に世界が変わって見えた。
服とリボンに加えられた加護のせいだろう、衝撃がほとんど体に伝わらない。遠くの音
が綺麗に聞こえるようになったのはイヤリングの力だと思う。
ここでこんな装備が出てくるのなら、この先はもっとすごいものが出る。
見た目なんて気にしている場合じゃない。
次の階に進む階段を探すため、バックパックを背負って前進することにした。
『地下7階』
「え・・・っと、これはちょっと」
宝箱から出てきた装備品を見て、流石に僕は驚いた。
出てきたのは女性向けのショーツ・・・なんだけれど、それはほとんど「ヒモ」だった。
わずかに前の部分を布が覆っているけれど、その大きさはせいぜいクリトリスにかぶせるのが
精一杯で、これではヒモの部分と大して変わらないだろう。
いくら魔法が掛かっているのが分かるアイテムとは言え、これを装備する気にはなれないというか
装備出来ない。
(後ろに隠していても、ヒモからペニスがはみ出したところは見たくないしなぁ)
本当の女性が装備したらさぞ色っぽいだろうけれど、今の僕には無用の長物。
バックパック・・・に変わって前の階で拾ったホールディングバックにショーツを詰め込み腰に
くくりつけると、タイツやスカートについたホコリをはたき落とし次の階段を探すことにした。
『地下10階』
「ううっ、トイレトイレ!」
ここに来て猛烈な尿意に見舞われた僕は、この階でトイレを探し回ることになった。
ようやく探し当てたトイレに飛び込み、タイツとパンツをずらしてスカートをまくり上げる
と便器にしゃがんで早速用を足し始めた。
普通の迷宮なら(衛生上の問題や臭いに釣られてモンスターが出てこないように)ピットにスライム
を入れてそこに用を足すんだけれど、この迷宮は各階に水が流れるトイレが1つはある。
スライムピットに比べると安全だし何より見た目がいい。
(スライムが足下でうねうねしているところで用を足すのは気持ち悪いしねぇ)
お尻の方から小水が流れ出るのを感じながらトイレの中を見回してみると、壁も綺麗だし魔法の
明かりもついている上にどこからかいい香りもしている。
「・・・っん」
小水が出きったことを確認すると前張り用のテープから頭だけを出しているペニスを紙で拭き取り
パンツとタイツを引き上げる。
「こういうときスカートは便利だなぁ」
トイレそのものがしゃがんで使うことを前提にしているので、男でも立ったまま用を足すのは難しい
からズボンや下着を全部下までずりおろさないといけないし、何よりペニスがどこを向いているのか
上からでは確認出来ない。
こうなってくるとペニスを後ろに固定してお尻から全部出してしまえるようになっている今はすごく
楽だ。ただ、ペニスがある分どうしても小水の切れは悪くなるので普通の女性よりもトイレにかかる
時間は長くなってしまう。
「もう直接出せるようにペニスが取り外せればいいのに」
下着とスカートのしわを綺麗に取ると、ドアを開けて探索を再開することにした。
『地下12階』
「・・・薬箱?」
それは様々な小瓶の詰まった、豪華な飾り付けのされた小箱だった。
一つ一つ瓶を取り出してみるけれどポーションにしては小さすぎる、それに瓶にまで飾り付け
がしてあるから消耗品にしてはおかしすぎる。
試しに一つの瓶の蓋を開けてみると爽やかな香りが辺りを漂い始めた。
「あ、これ香水だ!」
となると、これは化粧箱ということみたいだ。
他の瓶も蓋を開けてみたり外から眺めてみたりすると、街の女性が使っているものとよく似たもの
が沢山あった。
「このスティックみたいなのは・・・口紅かな?」
試しに出してみた赤色のスティックを唇にそっと塗ってみて、箱の蓋についている鏡を覗いて
見ると、そこにはわざとらしくないとても新鮮な赤色をした唇があった。
「うわ、綺麗だ・・・」
色だけじゃない、唇自体がぷるぷるとゼラチンのように震え、輝いている。
「他は・・・これは爪に塗るんだな」
結局、僕がここから立ち去るのはたっぷり3時間が経った頃だった。
『地下13階』
「うわぁ・・・なにあれ」
入り口からこっそりのぞき込んだ部屋の中はとんでもない光景だった。
うねうねと床にたまる触手とそこから出る粘液、その触手の先端部分からものすごい臭いのする
白濁液が時折ぴゅっと飛び出している。そしてその本体と言えばまるでペニスをかたどった丸太
のようなずんぐりしたのが4体ほど奥の方に鎮座していた。
(ここまで綺麗な迷宮だったから油断してたけれど、悪趣味にもほどがあるよぉ)
「女を犯す」という目的がここまでストレートに出ているモンスターは初めて見たし、触手の
群れと粘液で埋もれた床を歩くのはとてもじゃないけど勘弁したかった、勘弁したかったけれど、
階段はその悪趣味なモンスターの向こう側に見えていた。
詰まるところ、下の階に降りたければアレを何とかしないといけないらしい。
「モンスターがリンクしてなきゃいいんだけれど・・・」
小石を拾うと一つの本体に向けて入り口の影から放り投げた。
ぶつけられた1匹だけが触手をうねうねさせながら入り口に近づいてくる、けれどこっちの装備
に掛けられた加護のせいで僕がどこにいるのかよく分かってないみたいだ。
(よし、これなら1匹ずつここで始末出来る!)
入り口から少し離れたところに移動して、モンスターが出てきたところを見計らい廊下の反対側に向けて
小石をもう一度投げ込む。小石の出す高い音に引かれてモンスターが背後を向けたところで飛び出し、
剣を縦に一閃する。
手袋の加護で攻撃力の強化された一撃を受けたモンスターはうなり声を上げる暇も無く絶命した。
これを4回繰り返し、階段の前からモンスターは全部いなくなったようだった。
本体を倒したら触手はほとんどしなびて消えてしまったけれど、そこから出た粘液はそのままだったので
慎重に階段に向かう。
「うぅ、気持ち悪いよぅ」
半分泣きそうになりながらつま先立ちで慎重に前に進んでいく、けれども足下に気を取られすぎて
後ろの気配を見ていなかったのはあまりにも不注意だった。
シュルシュルシュルシュル
「うわっ!」
両足と両手に突然触手が巻き付き、そのまま空中にぶら下げられてしまった。
(しまった、後ろにもう一匹いたのか!)
獲物を捕まえたと確信したそのモンスターは全部の触手を僕の体の周りに巻き付け、ゆっくりと
吟味するように動かし始める。
「くっ、このぉっ!」
全身でもがいてみるが体が空中にあるので力が上手く伝わらず、それどころかだんだんと大股開き
の格好になってきた。そして何本かの触手がスカートの中に入り込んで内股をなでるように先端を
こすりつけていく。
「ちょ、ちょっと待って!僕は男だからそんなことには使えないよ!」
我ながら間抜けだとは思ったけど、そう叫ばずにはいられなかった。
そして触手の1本がパンツの方に近づき
(わ、わ、わ、わ!)
バチン!
服から出た電光にはじき飛ばされた。
「・・・へ?」
他の触手も服の隙間から入り込もうとするたびに電光にはじき飛ばされ、空中をうねうねと悔しそうに
くねっている。
(これって、服に掛かっている加護の一つ?)
どうやら最悪の事態は避けられそうだけれど、触手に捕まって宙ぶらりんという状態から脱出する
のは出来そうになかった。
冷静に数えると触手の本数は12本ほどで、それらは本体の根元・・・男で言えば股間にあたるだろう
所から伸びている。触手を動かしている間、本体は動けないようでさっきからじっとしたままだ。
完全ににらみ合いになってしまって10分も経っただろうか、触手の一本が内股気味になった太もも
に先端をこすりつけ始めた。
「へ、なになになに?」
先端・・・男で言えばカリの部分だろうか、そこを太ももにこすりつけているうちにだんだんと触手が
太くなり始め、動かすスピードが上がっていく。
(もしかしてこれって、僕でオナニーしてるの?)
その考えを証明するように触手がパンパンに膨れあがると
ビュッ、ドビュッビュ!
一番先っぽから大量の白濁液をまき散らし始めた。
「うわっ、わっわっ!」
何も出来ない僕はその白濁液を太ももに、服に浴びていく。そして全てをはき出した触手はシナシナと
しおれ、消えて行ってた。
「と、言うことは・・・」
僕の背中を冷や汗が伝っていく。残る触手は11本、これを全部逝かせるまで相手にしないといけない
と言うことで、
「うぇぇぇ・・・」
考えただけで頭がくらくらしたけれど、やらなきゃしょうがなかった。
意を決して両手首をつかんでいる触手の先端を触ってみる。ぬるっとした感覚の下にガチガチに固まって
ドクドクと脈打つ何かがあるのが感じ取れた。先端部分を手で包み込むようにしてゆっくりと前後に
動かし始めるとそれに合わせて更に堅くなり始める、けどもさっきの触手と違ってパンパンに膨れあがって
来たりはしなかった。
「もっと勢いよくやらないとダメなのかな」
シュッシュッと音がする位の勢いで先端をこすり始めると、さっきまでとは違ってどんどん膨れあがって
きた。そして
ビュッ!ビュッ!!
両手の触手が同時に白濁液をまき散らし始める。
「うわっ!」
今度は服だけでは無く顔や髪の毛の方にまで飛んできた。
(うぅぅぅ、すごく気持ち悪い)
しかも最初の触手が消える前に次の触手が両手に絡みついてきて、「逝くまで離さない」という本能を
丸出しにしている触手はあと9本。
・・・結局全部の触手が消えるのに1時間ほどかかってしまった。
本体は全ての触手が消えると満足しきったかのように迷宮の奥へと去って行ったけれど、残された僕は
白濁液まみれで体力を消耗し尽くして階段の前に座り込んでいた。
「もう・・・やだ」
臭いにも、今の自分の格好にも、そしてあの白濁液を自分も毎日のようにオナニーで出していたことも。
(とにもかくにも体や服を洗い流さないと)
疲れ切った体にむち打って階段をのろのろと降りていった。
『地下14階』
降りてすぐの所は迷宮と思えない構造になっていた。
「これは・・・湯浴み所?」
綺麗なお湯がザァザァと音を立てて天井から床まで流れ落ちている囲いのある場所が4カ所ほど、あとは
4階にあったのと同じような泥がたまった大きな壺、奥の方には広間があるようで、鏡や椅子のような
ものも見える。
(まずは体を洗おう・・・)
服を全部脱いで囲いの中に入ると、頭のてっぺんからつま先まで新鮮なお湯で洗い流していった。
両手で肩や胸、お腹に足、そして髪の毛をゆっくりとなでていく。全身をチェックしていくとアザの
ようなものはついていなかったし血も出ていなかったのでたいしたダメージは貰っていなかった。
ただあの触手と白濁液はかなりのトラウマになりそうで、テープをはがしてペニスを洗うときも直視
出来なかったし、どれだけいじっても全く大きくならず、しなびたまま下を向いていた。
たっぷり30分は湯浴みしただろうか、最後には肩に掛かりそうな髪の毛の先まで手でこすりながら
念入りに汚れを落とした、が・・・服はそのままなので現在裸状態。
「流石にこれをそのまま着る気にはならないなぁ」
魔法の加護があるとは言え臭いや汚れまで何とかしてくれる訳では無く、それぞれ湯浴み所で洗い
流すしかないと覚悟を決めて服を集め出したとき、泥のたまった大きな壺が目に入った。
4階では同じ泥に浸かって服が全部とかされてしまったけれど、魔法の掛かった服ならどうだろう?
そう考えて一番被害の少なそうなブラジャーを壺の中に入れてみる。すると泥は白濁液や汚れを溶かす
けれどブラジャーは全く変化がなかった。汚れが全部落ちたところを壺から出してみると、最初に見た
時と全く変わらないくらい綺麗になっていた。
(そうか、それなら!)
汚れた服を全部壺の中に放り込み、ゆっくりとかき混ぜていく。
ワンピースも、タイツも、パンツもリボンもみるみるうちに綺麗になっていき、10分もしないうちに
元通りになっていた。
「よし、これで大丈夫」
全部の服を綺麗にし終わると、畳んで奥の広間に向かってみる。というか湯浴み所で服を着替える
のはおかしいしね。
広間は僕が考えていたより広く、豪華な造りだった。
壁一面に並んだ鏡、その前にきちんと据え付けられた椅子と机、色々な小道具の入った箱、全てが
豪華な装飾を施されていて、これ一つ持ち帰るだけで家が一軒建ちそうだった。
(まぁ今は値踏みする前に)
小道具箱には本当に色々なものが入っていて、その中から手ぬぐいを取り出し全身、そして髪の毛を
ゆっくり拭いていく。特に髪の毛の先は両手でタオルに挟み込みゆっくりと。そのあとはブラシで髪の
根元から毛先までゆっくりと漉いていった。
そして鏡を見てみると13階で受けた汚れは全部落ちてしまったようだった。
次にテープを取り出し、ペニスをいつものように後ろに向けて前張りしてしまう。ちなみに精巣は
体の相当奥まで入り込んだようで全く降りてこなかった。
そしてパンツ、ブラジャーを身につけ、タイツを履いたところでふとバックの中の化粧箱を
思い出した。
「そう言えば鏡を見ながら本格的に使ったことなかったっけ」
バックの中から化粧箱を取りだし、蓋を開け中の小瓶を机の上に並べていく。
まずはさっきの臭いはもう勘弁して欲しいので香水の瓶を手に取り、手首、首の付け根に1滴ずつ
垂らして手で伸ばしていくと、爽やかな香りが先ほどまでの嫌な臭いを全て消し去っていくように
広がっていった。
(次はどうすればいいんだろう?)
机の上に並べられたのは20数本の瓶、ネイルや口紅、頬紅は分かるけれど、これまでこんな話に
全く関わりの無かった僕には複雑すぎてよく分からないものばかりだ。
辛うじて読める古代文字を元にあれやこれやと推理して、まずは肌を綺麗にする(であろう)水を
綿に含ませて顔全体に塗っていく。次に「基礎」と読めた瓶から同じように綿に取りこれも顔全体
に塗る。
あれやこれやと手間取りながら最後に口紅を塗って綿で余分を拭き取ってしまう。
そうして出来上がった僕の顔は
「・・・綺麗」
本当に見違えるように綺麗になっていた。
鏡を使ってあちこちの角度から眺めてみても、元の僕の顔とは比べものにならない。
(ここまで変わっちゃうのかぁ・・・化粧ってすごいや)
そして毎日こんな事に労力を費やしている女性に心から感服した。
「さて、先に進まないと」
と声を出してワンピースを手に取り、頭から被ろうとして気が付いた。
「このままじゃ服に化粧がついちゃうよ」
机にあった小道具をひっくり返し、その中から顔を覆うような紙を見つけてやっとの事で着替え終わる
のにまた30分かかった。
『地下15階』
「湯浴み所があるんだからそんなものもあるとは思ったけれど・・・」
そこは巨大な神殿だった。
ずいぶんと長い階段だとは思ったけれど、この天井の高さを見ればそうなるのも道理だ。
しかも奥が全然見えないし、そして横幅も正装の騎士が100人ほど並べるだろうか。普通の広さ
じゃない。
モンスターの気配は全くなかったので奥に進んでいくと、だんだんと一番奥にある神像が見えてきた。
(これは・・・)
そこには巨大で、そして美しい女神像が建っていた。でもその女神の姿はこれまで学校や書籍で見た
ことのないものだった。
まず全く服を着ていなかった。
普通の女神像なら腰や胸の辺りに布のようなものがあるのだけれど、この女神は胸も腰も、股間も
全く隠していなかった。
そして人体の構造があまりにも精緻に彫り込まれていた。
どれくらい精緻かと言えば股間にあるクリトリスやはみ出したひだひだはそのまま動きそうだし、
胸の乳首も母乳が出る穴が一つずつ彫り込まれている。顔も唇や頬の柔らかさ、睫毛や眉毛、そして
腰まで届く髪の毛先一本一本が今にも風になびきそうで、なによりもその顔はとても美しかった。
大理石に女性美の全てを彫り込んだと言ってもいいだろう。
「こんなすごい女神像、書籍に載っていてもおかしくないのに・・・」
いつもならこんな像を見たらスケッチするのが僕の趣味なんだけれど、そんな気には全くなれなかった。
「これは絶対写し取れない」と一目で分かる代物だったから。
しかし13階で酷い目に遭ったせいだろうか、それとも14階の湯浴みで体が温まったせいだろうか、
かなり強い眠気に襲われてきた。
「ここならモンスターに襲われることもなさそうだし」
バックから毛布を取り出すと祭壇の近くで包まり、すぐに眠りについてしまった。
どれくらい眠ったんだろう?
毛布からゆっくり這い出して体を伸ばす。
かなりゆっくり眠れたようで、精神的にも肉体的にも疲れは全く残っていなかった。
さて、ここからまた下の階に降りて探索を続けたい所なんだけれど・・・
「剣をなくしちゃったのは痛いなぁ」
13階の一件でどうやら剣を失ってしまったようで、あのあと色々探したけれど全く見当たらなかった。
あの一件を考えればどこかで剣を見つけないととてもじゃないけどこれ以上下には降りたくない。
かといってここまできて地上に戻るのもかなりリスクがある。
(さてどうしたものかな・・・)
神殿の守護者用に剣があったりすることがあるのでそれを探してはみたけれど、そうそう都合のいい
話がある訳もなかった。
そして探し疲れて祭壇まで戻ってきたとき
(・・・あれ?)
祭壇の天板に隙間があるのに気が付いた。何かありそうな予感と共に天板をずらしていくと、そこには
1振りの細身剣が収まっていた。罠がないことを確認してゆっくり手に取ってみると
「これ・・・すごい魔力を感じる」
装飾もさることながら、その剣に掛かっている魔法の力はどう見ても普通じゃなかった。間違いなく
国宝レベルの力が加わってる。
鞘から剣を抜いてみると、刀身は顔を写すほど磨かれていてその上軽く、腕の動きに忠実についてきた。
そして魔法の力はそれ以上であることが素人目にも分かった。
(すみません、お借りします)
心の中で謝ると、僕は次の階に向けて探索を続けることにした。
『地下20階』
「んっ・・・とっ・・・・くはっ、だめだぁ」
あのあとは順調に探索も進み、色々な装備品も出てきたのだけれど、この階で出たビスチェは流石に
無理があった。僕には胸の脂肪も腰骨の広さもないし、何より腰の細さや胸の大きさがあまりにも
違いすぎる。それでもなぜ無茶をして装備しようとしてるのかと言えば、15階の剣と同じ位の魔力
が感じられるからだ。
18階で見つけた空を飛べるハイヒールや19階の金属ヘルムより防護力のある髪飾りもすごい
けれど、それとは比べものにならないだろう。そして何よりも金糸の刺繍、縁を飾る金板、胸の
部分にある宝石、全てが美しかった。
15階で見た女神像、あんな女性ならこの装備を身につけたときどんな風になるだろう?そう思うと
自分の今の体が恨めしかった。
「男・・・なんだなぁ」
いくら化粧で美しくなっても、装備品を身につけたとしても体は男のままだ。
男だからこの迷宮に潜れているとは分かっているけれど、この前張りの下にあるペニスの存在が
邪魔でしょうがない。
(『今あることを嘆いても前に進めない』と格言には言うけどね)
渋々とビスチェをバックに納め、ワンピースを着て次の階段を探し始めた。
『地下23階』
「むむむむむむむ」
この階に来るまでに揃えた装備品を身につけながら、僕は唸っていた。
ここに来るまでにスカートやカーディガンその他諸々のアイテムを見つけて、それぞれ装備して
いるんだけど、どうにも違和感がある。特にワンピースを脱いでスカート等上下セットを装備した
ときに違和感が強かった。
「これ・・・もしかしてビスチェを装備するのが前提?」
30分ほど唸って出た結論はそれだった。
スカートとかを装備してみると下着もうっすらと透けて見えるようになっているんだけれど、
4階で拾ったブラジャーにパンツ(はっきり言えば女児用)ではデザインに合わないんだ。
どれもすごい魔力を秘めている装備品だし付けているだけなら問題ないのだけれど、この辺りは
納得がいかなかった。
(こんなに綺麗なのに勿体ないなぁ)
もし僕が本当の女性なら7階のヒモショーツも装備出来ただろうし、ビスチェも問題ないだろう。
それなのに僕は男だ。
男、男、男!
「むぅぅぅぅぅぅぅ」
床にそっくりかえって手足をじたばたしてしまう。
唸ってもしょうがないのは頭では分かっている、でも感情がそれについて行ってない。
結局僕が諦めて次の階段を探し始めるのに3時間ほどかかってしまった。
『地下24階』
「なに・・・これ」
それは13階の再来、いやそれ以上だった。
またもペニスそっくりの丸太モンスター3体から伸びる沢山の触手、それに加えてさっきから
僕に向かって飛ばしてくる精神攻撃。女の人が触手に絡まれ膣の中に口の中にお尻に突っ込まれて
むさぼられ、嬌声を上げる姿を延々と映像で僕に見せつける。普通の状態ならこの攻撃に脳が麻痺
して触手にそのまま絡め取られ、同じようにされるんだろう。
でも装備品の加護のせいで精神攻撃は全てはじき返され、周りでバチバチと電光を飛ばしていた。
そして何よりも「僕にはこうなれない」と言う思いが怒りを更に増幅させる。
「ただでさえ機嫌悪いのにぃっっっ!」
細身剣を抜くとタイツとハイヒールの力を増幅させて一気に飛び出し、その勢いで1体のモンスター
を袈裟懸けに切り落とす。残る2体が触手を伸ばすけれど僕の足下に届く前に天井近くまで上昇し、
もう一体に向かって急降下、そのまま胴を真っ二つにする。最後の一体が慌てている様子を見せて
いるうちに間合いに飛び込み、頭に、胴に、触手に次々と刃を食い込ませる。
モンスターがうなり声すら上げなくなってからようやく剣を止めたけれど、周りはもはやぐちゃぐちゃ
だった。加護の力で返り血なんかは浴びていないけれど、僕はもう早くここから立ち去りたかった。
2階連続で男であることを突きつけられると、流石に不機嫌にならざるをえなかったし。
『地下??階』
どれくらい階段を下ったのだろうか。
もはや何階なのか分からなくなるくらい長い間階段を下っていった先には、これまで見たことがない
大きさの扉が待ち構えていた。
そこから先に降りる階段がないことを確認してから扉の前に立つ。
扉は巨大だった。15階で見た女神像ですら易々と通りそうな高さと幅を持ち、全面に華麗な装飾
が施されいる明らかに異質なものだった。
「どうやって開けるのかな・・・ってうわっ!」
僕が逡巡していると音も立てずに突然扉が開き始めた。扉の向こう側からは明るい光が漏れてきて
向こう側を覗くことは出来そうにもなく、手をかざしてまぶしさから目をかばうしかなかった。
そして扉が完全に開ききったとき、向こう側が見えた。
僕はその中に3歩入ったところで内股になってへたり込んでいた。
目の前に存在するもの、それはあまりにも美しく、巨大で、まぶしい女神だった。
(15階で見たあの女神像・・・)
ここは迷宮では無く、神のおわす神殿だった。
(よくたどり着きました我が子よ)
頭の中に直接声が響く。
目に映る偉大さに、声に感じる優しさに、周りを包む光の暖かさに僕は涙を流していた。
そして女神の女性としての美しさに打ちのめされていた。
腰を超え足下近くまで伸びたゆらゆらなびく髪、丸くそして丸すぎない顔、優しくそして威厳を
保った目元、筋の通った鼻、柔らかく優しげな唇。
丸く柔らかくそして垂れることも突き出すこともない包み込むような乳房、弓の様に弧を描く
腰、全てを受け止めるような大きなお尻、何の混じりけもないつややかな足。
人間には再現出来ない美しさ、それがそこにあった。
そして僕は自分を見下ろす。
何と貧相で、中途半端で、醜い体なんだろう。
骨張った肩、円を描くことのない胸、そのままお尻まで至る真っ直ぐな腰、何も受け止められない
腰、筋肉が所々浮き上がった足。
知らず知らず、僕は嗚咽を上げていた。
(あなたは悲しいのですね)
「はい、悲しいです。僕にはあなたのような美しさが何もありません。」
(美しさとは何ですか)
「あなたのような女性としての美しさです」
(美しさを求めてきたのですか)
「違います、でも今はそうです」
(あなたは美しくなりたいのですか)
その問いかけに答えることは最後の一線を越えることだと直感した。でも答えることを止める
のは出来なかった。
「はい、私はあなたのように美しくなりたいです!」
その瞬間、光に包まれた。
髪が美しく、長く伸びていく。
顔も丸く柔らかく、骨張ったところを脂肪が覆っていく。
首が細く、のど仏も真っ直ぐになって肩に繋がる。
肩骨が狭くなり、腕が胸に近づいていく。そしてその胸は柔らかく大きく膨らみ、その頂に紅い
つぼみを懐いていた。
腰は細く、腰骨は広く、そしてお尻はそれを包むように丸くなり、そして股間にあった男の
象徴はしぼんで小さな頂だ けをつきだしている。足はなめらかに筋肉を脂肪で覆い、つま先まで
しなやかに伸びていく。
そして体内に押し込んでいた精巣は更にお腹の奥に入り込み、別のものにその姿を変えよう
とし、それに合わせて新しい臓器が生まれようとしていた。精巣から姿を変えた卵巣から卵を
受け止める卵管采、そこから伸びる卵管、卵子を受け止めて胎児を育む子宮、そして男性を
受け止め、その精を子宮に送り込むと共に胎児の通り道となる膣。
そして膣の入り口が股間に繋がるのを感じたとき、私は私自身を抱いていた。
私は、女になった。
(さぁあなたの着たいものを着てみなさい)
光の中で私と、これまで集めてきた装備品が浮かんでいた。
震える手で私はあのとき装備出来なかったショーツを手に取り、足を通す。
腰までヒモを引き上げ、前の布がクリトリスを覆うと魔法が下腹部そしてお尻を包み込み、
腰全体が包み込まれるのを感じた。その力はお腹を、そしてお尻の形を丸く柔らかく整えて
次の下着を身につけるのを待っていた。
次にビスチェを手に取り、腰に巻き付けて乳房に胸を覆う部分をかぶせていく。
腰は細く、そして胸は丸く豊かになるように力が加わり、胸には丸く柔らかい塊が二つでき
てその下にはゆったりとした曲線を描いて腰が作られていった。
タイツを履くとつま先からお尻まで均等に筋肉が、脂肪が整えられ、女神と同じように歪むこと
のない曲線を描いている。
トップスを、スカートを、カーディガンを次々と身につけ、髪飾りを、イヤリングを着飾った
とき、私は本当になりたかった私になれた。
(あなた自身であなたを観なさい)
姿見が目の前に現れ、私の全身像が映される。
「綺麗だ・・・」
その姿は本当に綺麗だった。
小さな顔、整った眉毛と睫毛、ぱっちりとした目、真っ直ぐ伸びた鼻筋、柔らかく、そして
ピンク色に輝く唇。下着と上着に覆われても乳房はその存在を隠すことなく丸い二つの球体
を大きく突き出し、その下からはゆったりとした曲線が腰、そしてお尻に続き、真っ直ぐ伸びた
足がその美を完成させていた。
(女は美しいだけではありません)
女神が再び手をかざすと、私は再び裸になり、柔らかい力に包まれていた。
その力は背中を、腹を、腰を、首を、顔を撫でていき、そして胸を優しく持ち上げてもみしだき、
その紅い頂、乳首を摘まんでいく。
「あっあっあっ」
(女は体全体で感じることが出来ます、そして胸はその快感を表し、更に快感を求めます)
胸をもむ力がリズミカルになり、快感を感じた乳房は更に大きくなり、乳首は充血して空中に
つきだしている。
そしてその快感は股間にも伝わっていた。
「ぬ、濡れてる」
股間からわき出した愛液が内股を伝っていく、そして股間では膣の入り口がヒクヒクと蠢き
男性の象徴から女性の象徴へと変わったクリトリスは充血して紅く染まり、さらなる刺激を
待っていた。
(クリトリスが求める刺激を与えれば、それに応じた快感があなたを包みます)
「んあっっっあっっあぁぁぁぁっぁぁ」
力がクリトリスを撫でただけで私は声にならない声を上げるしか出来ない快感に襲われた。
男がペニスをいじるのとは全く比べものにならない快感、それが絶え間なく全身に伝わっていく。
クリトリスの頂だけでなく、そこから体の中に入り込んだ部分までしごくように力が動くと
目の奥で光がちかちかと輝き、その光がどんどんと近づいていく。
「ひっっあっっ、何、何か来る」
(それを受け入れなさい、それが女性の特権なのです)
「あっあっあっああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
クリトリス全体を摘まむような力を感じると体全体がばらばらになりそうな、爆発する快感に
包まれて私は初めての絶頂を迎えた。
「・・・ぁあ・・・うぁ・・・」
体を動かせなくなるような快感の波にもまれ、力に全てをゆだねている私に更に声は語りかけた。
(女性は中でも感じるのです)
「あっっうっ」
膣の中に「なにか」が入り込んでくる感覚に、私はまた体を震わせた。入り口をなで回し、小刻みに
前後に動きながらだんだん奥に入ってきて、狭い中を押し広げていく「なにか」が擦れるたびに
膣はその壁をヒクヒクとうねらせ、迎え入れていく。
(まず入り口で感じ取りなさい)
「あ、あうっ」
「なにか」が入り口から少し入ったところをこすり始めたとたん、私は全身が「快感」という感覚に
繋がったかのような衝撃を受けて体をのけぞらせた。
(そこは女が男を迎え入れるときに感じるための場所)
他のうねるようでなめらかな部分とは違い、ざらざらとして神経が集中している場所を繰り返し
触られ、そのたびに快感が膣からあふれ出す。しかしその快感はクリトリスのように絶頂に至ら
ず、私をさらなる高みへと押し上げていった。
「あっっひっっっうぁ・・・・」
膣をこすられ続けてもはや言葉が出せず、頭の中が全て女の快感で埋められていく。体も快感
に応えるように膣の入り口からは最初の頃より濃くて粘りけのある汁があふれだし、腰も
「なにか」の動きに合わせるように前後に揺れ、お尻は高く上がり股間を丸見えにして更に奥に奥に
と「なにか」を誘っていく。
(そして一番奥に迎え入れなさい)
ずんっ
「っっっっひっ!」
お腹の中で「なにか」がぶつかった衝撃とそこから来る快感に悲鳴を上げる。
そして一番奥をぐりぐりとなで回すように「なにか」が動き回ると、お腹の中からどんどん
熱いものが湧き上がってきた。
(そこはあなたが子を宿すところ、その入り口)
そう、ここは子宮の入り口でその機能は妊娠すること。そして妊娠させるものは精子で、精子を
送り出すものはペニス。
私は今、ペニスを子宮口に受け入れている。
(女の快感、そして孕む快感を感じなさい)
再びペニスが勢いよく子宮口を叩き、お腹の奥から湧き上がる熱い快感が全身に行き渡る。
「あっあっあっあっあっあっ!」
私は今、子供を授かるための行為をしている。男だったときには考えられない行為は頭をどんどん
「女」に塗り替え、全てを受け入れさせる。
ペニスはズンズンと子宮口を叩くように前後に動き、もはや私は快感におぼれて声にならない
嬌声を上げながら腰を動かし、膣を締め付けて「男の精を受け入れなさい」という子宮の命令
に従っている。そして子宮は感じた快感を全身に行き渡らせ、女としての絶頂を迎える準備
を整えていた。
「ああああああっっ、ああっっっ、あぁぁっっっっっ!」
前よりも真っ白い光が来る、その予感に肌が、胸が、腰が震え、そして子宮が最後の快感を迎え入れる。
「ああああああああああああああああっっ!」
全てが真っ白になって、お尻を男に押しつけるかのように宙に突き上げ、膣でペニスを締め付け、
子宮口が開き子宮が精液をむさぼる、女しか感じられない受胎の快感の中で私は気を失った。
気が付いたとき、私は全てを装備した状態で迷宮の入り口に倒れていた。
『地上』
いつものように宿屋の個室で目を覚ますと姿見の前に立ち、日課となった髪梳きを始める。
背中の半ばまで伸びた髪に最初から最後まで丁寧に櫛を通していく。
髪の毛を綺麗にしてから下着を身につける。お尻を、胸を整えていき全身のバランスを取る。
その上から上着を、スカートを羽織る。上着のボタンを留めると脇にあるヒモを引っ張り胸の
部分の形を整える。
(口の悪い女の子が「乳袋」とか陰口叩いてたね)
上着の下から主張する胸の形が崩れていないことを確認すると、今度は化粧の番。
化粧箱を開けると乳液、ファンデーションを顔全体になじませ、睫毛眉毛の形を整えてから
頬をかすかに、そして唇を柔らかく紅く染めていく。
最後にイヤリングを留め、全身を見渡す。
「よし、今日も大丈夫!」
かけ声を掛けると部屋を出て、カギをフロントに預けるとギルドに向かうために街に出る。
結局あの女神が誰だったのか分かることはなかった。
失われた記録も含めれば何万柱もいる神の中から一人を探し出すのは一生を掛けても無理な
ことだし、分かったところでどうするのかと言うところもあった。
この装備と技能があれば、どこかの国に仕えると言う話もあった。
事実、高難易度のクエストを軽々とこなせる今であれば爵位を貰うことも可能だろう。
でも私はそれをしなかった。
装備の一つでも売ればちょっとした土地に城一つが建つだけの資産を得ることも可能だったろう。
でも私はそれもしなかった。
迷宮から帰ってきて、誰が「いい男」か分かるようになっているのに気が付いたのは宿屋の食堂
だったと思う。色々と言い寄ってくる男達をあしらっているうちに、誰が「信頼出来る男」か分かる
ようになってきた。
そのうち誰が「この男なら大丈夫」そして「かけがえのない人」か分かるようになり、その人と
結ばれ、精を受け止め、子を孕み、そして産むのだろう。私はその道を選んだ。
だけどその前にやっておくべきことがある。
ギルドの入り口を開くと今日も満員御礼の状態だった。男達は少しの間だけこちらに視線を向け
女であることに気が付くと作戦会議や地図の読み合わせ、魔法の選択を再開した。
その中を見渡し、そして
「・・・いた」
一人の冒険者に近づく。
まだ若い、そして冒険心に溢れ前に進みたがり、何よりもあの女神の声に同意するであろう男の子。
その横に腰掛けると、ゆっくりと声を掛けた。
「君、あの迷宮へ潜る方法を知りたくない?」
次回作も楽しみにしています!!