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変身と融合の薬 リレー版

2020/11/11 14:41:07
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二宮瑠璃子の持ってる服は、かわいい系が多い。袖を通すことで、今の俺が女の子であることを十二分に理解できるようになる。
胸元を開き、スカートをまくり上げ、白とピンクの縞パンに包まれた大きめのお尻を鏡に向けてみる。
ちょっとだけ困ったような顔をしてみるけれど、それもすぐ笑顔に変わっていった。

「ふふ…、こんなえっちなポーズをしてても、瑠璃子は可愛いな。濡れてきちゃいそうだ」

独り言をつぶやいてみると、俺の中に取り込まれた「瑠璃子」が嬉しそうにしていた。

俺が「二宮瑠璃子」になってから、もう一カ月が経過していた。
その分、俺こと新城旭が姿を消してから同じ時間が経過しているのだが、それは別に構わない。彼女と融合・変身した事による充足感から、そんなことは些細な事だと思えるからだ。
彼女として生活する事はとても刺激的で、同時に嬉しさに満ちていた。
変身能力を使って、好きな女の子に成って生活する。単純に恋人同士になるより深い繋がりを得られたという事実に、俺はずっと嬉しさを隠せずにいるのだから。

「ホントはオナニーしたいけど、そろそろ行かなくちゃ」

上着のボタンを留めて、スカートを直し、必需品の入った小さなポーチを手に取った。
今日は学校が休みで、ある予定のもとに出かけるつもりなのだ。このままでは遅れてしまう。

その予定の事を考えると、やはり興奮が止まらない。今自分のちんこを出現させたら、絶対に勃起していることだろう。
嬉しくて、期待が高まって、胸の鼓動は高まってばかりだ。

「あん…っ」

興奮しすぎてしまったのか、じゅん、と股間が濡れる感じがする。
出来る事ならちんこもまんこも弄ってオナニーぶっこきたいが、本当に時間が無くなりそうだ。
濡れた縞パンのまま出掛けるしかない。

さぁ、今日の予定が楽しみだ…。

#今日の予定

>1:瑠璃子の友人と遊びに行く

2:融合後に知り合った女性とデート

3:旭の友人(男)とお出かけ

4:謎の女性の所に買い物


今日は瑠璃子の友人と遊びに行く約束をしている、今まで瑠璃子と融合してから一人で楽しんでいたのだが。折角誘われたのに拒否する理由も存在しない為、可愛い女の子と遊びに行くのも良いと判断した。友人の名前は弓削久美、頭の良さはそこそこだがその代わり彼女のスタイルはあまりにも魅力的な存在が溢れている。特徴があるとしたら、凛とした女性かもしれない。清潔感があって、ボディラインが目立ってモデルといっても良いくらい魅力的な人物の一人だが。
「融合するのはあまりにも危険だから、非常に困るのが難点なんだよな」
新城旭という男は姿を消したあの事件、家族は俺で一人暮らしだったから誰にも心配されなかったのだが。久美には沢山の親友が居る、融合した後に分離をすれば良い話だが。そこに俺の思考を植え付けたとしても反抗する可能性も捨てきれない。

「二宮瑠璃子」になったのだから、女の子同士の空間に飛び込みたいし、彼女から幾つか情報を得た上で慎重に行動したいと言うのも理由の一つに入る。完璧になりきれるとは言え、不自然な行動とか取れば怪しまれるし。1ヶ月過ごしたのにも関わらず、ボロが出ないか不安を抱く俺が居る。
「彼処が生えない様にしておくか、今日の俺は二宮瑠璃子として振る舞った上で久美から幾つか可愛い美少女とのコネを繋いだ上で、新しい女を探す。融合するとしても最終手段だ」
彼女と一つになったことで、次の目標は新しい女を見付けて親友若しくは新たな恋人候補を探すことになっていた。男でも良いのだが、やはり女の方が良い。彼処がいつでも生える事が出来る以上。今日は同性だからと言う特権を上手く生かした上で、楽しむとしよう。

そして、今日久美と遊ぶのにはもう一つの理由があった。

「久美に変身するのに、あと一歩足りないんだよね・・・」

俺が手に入れた変身能力は文字通り自由自在だ。この瑠璃子の可愛らしい、女性として成熟しつつもあるが、あどけなさも残した可愛い身体に生やすことが出来るのがその証明と言えるだろう。当然それは、他の女の子に化けることも可能ということである。

だからこそ、久美に変身できるようになりたいのだ。彼女には多くの親友がいる以上、取り込むことはほぼ難しいだろう。
瑠璃子の身体を捨てて乗り換えてしまえばいいのかもしれないが、せっかく苦労して手に入れた瑠璃子の身体、人生、そのすべてを手放す気はない。
あくまで俺は「二宮 瑠璃子」として生きていくつもりだ。だが、せっかく手に入れた変身能力を使わない手もないし、何よりこれだけで終わらせるのも寂しいものだ。
だからこそ、彼女に完全に成りすませるようになる。彼女の立場を利用できるようになればさらに多くの人と円滑に交友関係を結び、場合によってはその誰かを取り込んでしまうのも可能かもしれない。
俺と、この身体を共有する瑠璃子の意識はそう結論付けていた。

この1か月、瑠璃子の身体を堪能することに加えて、変身についても修練を積み、磨きをかけてきた。
有名アイドルや学校の先生、瑠璃子の頭の中にあるイメージを使って別の女の子に変身したりしながらその能力を高めてきたのだ。
しかし、やっぱりそこは取り込んだ瑠璃子とは違いイメージから作り出したもの、当然身体つきや顔立ちに差が出てきてしまう。
夜な夜な瑠璃子の記憶だけで彼女のお母さんに変身して、寝ている隙にこっそりと変身した姿と本人の身体を比べてみたこともあったのだが、イメージだけではどうしても限界が出てしまっていた。本人と多く接触していた身内でも差が出てしまう以上どうしても限界がある、そう思っていたのだが・・・

「手で触れて確かめると、かなり近づけることが出来るんだよね」

試行錯誤の結果、イメージの精度を上げればその身体つきにかなり近づくことが出来ると分かったのだ。
どうやら触ったりしながらそのイメージを感覚で掴むことが大事なようだ。
その事に気が付いたのは瑠璃子の意識によるひょんな思いつきだった。順調に俺に染まった彼女がはじき出してくれたその内容に、俺は心から満足していた。俺は自分が欲しいと思った女を、心から自分に染め上げたのだ。

出来る事なら久美とも接触して変身の精度を高めたい。瑠璃子のお母さんに触れた時、だいぶ精度の高い変身ができた事は喜ばしかった。
そんな事を考えながら移動をしていると、久美との待ち合わせ場所に到着する。
既に彼女は待ち合わせ場所に立っており、時間を気にした様子だ。

「ごめんね久美、ちょっと遅くなっちゃった」
「瑠璃子。大丈夫だよ、まだ時間じゃないんだし、そんなこと気にしなくても良いって」



凛とした、ボーイッシュとも呼べる服装で久美は笑ってくれる。
確かにギリギリだが、集合時間の3分前。遅れそうだと思ったがどうにか間にあったようだ。
…オナニーしてたら絶対遅れてたな。

「ねぇ久美、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「それはね、着いてからのお楽しみ」

少しだけ意地悪そうに笑いながら、久美は俺の手を取って歩き始める。期せずして接触することができた事を喜びながら、俺も久美の手を握り返して、彼女に先導されるまま、街を歩きだした。

彼女が案内された場所は何処にでもあるデパートなのだが、周りを見渡すと女性の方が多いようにも感じる。

「今日はレディースデーだから、女性が多く来ているんだ。瑠璃子は出掛けたくない理由は男性の視線が嫌だとか言っていたよね?」
「そうだったんだ!ありがとう、気を使ってくれて」

成る程、確かに男性の視線が苦手とか言っていた記憶があったな。瑠璃子と融合する前の記憶では1ヶ月前に買い物をしようと約束していたんだったな。この時はレディースデーは既に過ぎた後。1ヶ月後に買い物に行かないかと言ったのはこれが動機と言うことか。

「どういたしまして、今日は私の友人の家で女子会とかやる予定だけど。瑠璃子も参加する?泊まりになる可能性があるけどさ」
「えっ、良いの!?」

思わず素で反応してしまう俺は興奮してしまい、股間が疼いてしまう。久美の友人は美少女であるため、グループで行動することは多いと聞いている。既に瑠璃子へとなった俺にとっては学校内で話せば良いと考えていたけど。この女子会に参加するかどうか迷ってしまうな。

泊まりになる可能性があると久美は言ってくるが、これは行くべきだろう。
なにせ集まるのは全員女子、その時に色々触れたり、あわよくばお風呂も一緒にできるかもしれない。
久美に変身する為の精度を上げることも、他に集まってくる人達に変身することも…。

「…瑠璃子?」
「あっ、うぅん、何でもないよ。…それでね、その女子会なんだけど、私も飛び入りして良いかな?」
「勿論。瑠璃子が来てくれるなら、みんなも喜ぶよ」

つい、この後の展開を予想してにやけてしまいそうになったが、久美の呼びかけで正気を保つことができた。
いけないいけない。瑠璃子として振舞ってはいるものの、基本は俺だからな。ボロが出ないように気をつけないと。
久美は電話を取り出し、場所を提供してくれる友達に連絡をしてくれていた。

「…うん、OK。飛び入り歓迎だって」
「ホント? 良かった…。これでダメって言われたら落ち込んじゃってたよ」
「瑠璃子にも来てほしかったみたいだからね」

そう言ってもらえると、こちらとしてはありがたい。瑠璃子になり代わった甲斐があったというものだ。
こうなったら買い物は早めに切り上げて、一度家に帰ってお泊まりの準備をしないといけないな。

『へぇ、やったじゃん!今日は久美の家に泊れるんだ!』

視線を下にやると、服の隙間から見える豊満な胸の一部分に顔が浮かび上がる。
この肉体の主にして俺の共謀者となり果てた存在、本来の瑠璃子の意識だ。誰かといる状況や普段の生活をしているときに彼女の顔は表に出すことは出来ない。
どこの世界を探しても、自らの肉体に別の顔を浮かび上がらせるような人間など実在しないはずだ。自らの立ち位置を危うくするような真似は出来るはずもない。

そんな時に彼女が使うようになった手がこれだ。この1か月で彼女の身体を開発していた結果、彼女の胸は順調にサイズアップしていた。
どちらかというと小ぶりで可愛らしいものだった彼女の胸は、全体のバランスを崩さないレベルで適度に、順調に大きくなっていた。そのせいで男子生徒からの視線もさらに増えたのだが、今の俺にとってはむしろ心地のいいものでさえあったくらいだ。
その胸元を見るとき、下を眺めるときであれば服さえ着ていれば顔を胸に浮かべることで誰にも怪しまれずに意思疎通が出来る。

その自らの身体が嫌らしく歪められ始めたという状況の中、それを生かして会話手段を確立した瑠璃子の意識には苦笑を禁じ得なかったが、それが却って彼女の身体を支配している実感へとつながり、好意的な目線で見るようになった。

『ところで誰を狙うの?久美?』
「さすがに今日は狙わないよ。まずは品定めからだね」

気づかれないように久美の後ろを歩き、『瑠璃子』と会話する。

『えぇ、こんなチャンス逃がす手ないよ!誰かもらっちゃおうよ!』
「どうしたのよ。随分と積極的じゃない」

乗っ取った俺自身よりやけに積極的な『瑠璃子』の意識が、俺に融合を促してくる。何かやりたいことでもあるのだろうか。

『その子と融合して、私たちの意識に染めちゃおうよ!そうすれば、『私』と
私で気持ちいいこといっぱいできるよ!ね!やろうよ!』

その言葉に、俺自身も妙に納得してしまう。確かに瑠璃子の身体での行為は気持ちよかった。まずその感覚が違うのだ。全身に迸るような圧倒的快感、瑠璃子のきめ細やかでほっそりとした指で扱く快楽、それを受容するのもまた、瑠璃子の身体、感覚であることがたまらなかった。
その快楽、興奮は当然、同じ身体を共有している『瑠璃子』にも伝わっているのだ。彼女もまた、その快楽の虜となっていた。
そんな『瑠璃子』は他の身体をもその快楽で染め上げ、また別の何かを試したいようだ。

「『私』と私と言うことは貴女がその身体を貰うってこと?」
『うん!だって、今持っている身体は私と貴方、もう一人可愛い女の子の身体が欲しいのよ!』
「確かに、その言い分も理解出来るけど。それでも私は融合とかしないわ」
『えー!?どうして!折角のチャンスなのに!』
「貴女は解っていないわね、最初から私達の物に成り果てる姿を見るのは結果が見えるけど。純粋な心を持つ彼女を一気に染めるのではなく、じっくり味わいたいのよ」
その言葉にキュンとまた彼処が疼いてしまう、興奮していないのに勝手に反応したと言うことは『瑠璃子』は納得したと見ていいだろう。
『成る程、お楽しみはとっておくとして。純粋な反応を楽しみたいかぁ、それに貴方は元々私に変身して女の子同士でスキンシップとかキスとかしたいと思っているだろうし。今回は潔く下がるとするわ。冷静に考えてみたら、融合すると言う行為は他人の人生を奪うってことだし。解ったわ、貴女の判断にすべて委ねるけどその代わり。『瑠璃子』として向かうわけだから、貴方が備わっている彼処は使わないこと。いっそのこと、私が封印してあげる』

次の瞬間、ドクンと身体が震えてしまう。何時でも生えるはずなのにその感覚がなくなっている、油断したら生えてしまう危険性があると思ったのだけど。
『まぁ、必要になったら私に声をかけること。貴方がどんなことされても生えることはないから安心して』
「……ありがとう」
まさか、手助けしてくれるとは思わなかったな。これで彼処が生える事はないから、中身がばれるというリスクは少しは収まったと言えるだろう。試しに生やそうとするがやはり生える事は無かった。
『さて、私は引っ込むけど。久美の友人は恐らく私よりも綺麗な人が多いと思う。貴方がばれないようにサポートするわ、女の直感とか馬鹿にしたら駄目よ。私に完璧になりきれているからって、中身が異物である事には変わりはない。融合している私達は第三者からみれば、化け物なんだから』
その言葉にごくりと唾を飲み込んでしまう、確かに今の俺は瑠璃子に融合しているが豊満な胸に人間の顔が出てくるだなんてあまりにも異常だ。それに俺の大事な彼処も生えると言うのも同じだが。
「忠告、ありがとう」
一言呟き終えると、どうやら目的のお店に辿り着いたみたいだ。早速、買い物に付き合うことにしよう。女の子同士のショッピングを楽しまなくては損してしまうからね!


「結構、買ったね?ふふっ、久し振りに堪能しちゃった」
「私も同じだよ、こんな充実した日を過ごしたから。誘ってくれてありがとう」
女の子同士のショッピングを楽しみにしていたのだが、元の俺だったら間違いなく合わなかったと断言できたかもしれない。そもそも、女の子が可愛い服を見つけるとファッションショーになったりとかアニメではよくある光景みたいなことを現実で味わうとは思わなかった。疲れそうになった俺だったが、『意識がある元の瑠璃子』に主導権を委ねてしまっている。彼女に演じて疲れたところをすかさずサポートをしてくれたのは幸運だった。主導権は瑠璃子本人だから俺は何処かのタイミングで交代すれば良いけど。
「そう言えば、久美の友人で泊まるとか行っていたよね。場所は全く知らないけど」
「あぁ、その点は安心して。結構、買ってしまったけど。この大量の荷物とかは黒服さん達が持って言ってくれるから。」
「く、黒服?」
久美の友人に関しては詳しく知ろうとするが、どうやらこのお話は初めて聞いた情報みたいだ。

「あぁ…そう言えば、久美の友人は私達が通っている学校に通っていなかったんだっけ。」
「そうそう、お嬢様学校に通っているんだ。瑠璃子にはこのお話とかしていなかったけどね。セキュリティとか万全だからその点は安心しても良いよ?」
「そうなんだ、家に戻って荷物とか持っていこうと思っていたけど」
「それでも大丈夫だよ、さっき電話をしていたけど。向こうが必要なものを用意するとか言っていたしね」
「そうなんだ、あっ…ちょっとトイレに行ってくるね」
「了解、向こうで待っているね」
久美と別れて女子トイレに駆け込み、個室に入った後。いつの間にか主導権が返っていた、瞬時に身体を返してくれるのは嬉しいけど。お嬢様学校とは初耳だな、荷物を取りに行かなくても良いとかどれだけ信頼されているんだ?
『これは、期待しても良いかもしれないかな。それと、女の子同士のショッピングは疲れたのは解るけど。本当の私は弱音とか吐かないからね?愚痴とか言っていたのは危なかったよ』
「色々と自信が無くなってきたな、危なくなったら。今のようにサポートをしてくれると嬉しい」
『勿論、その為に色々と考えているからさ』

憧れていた存在とはいえ、俺の新しい身体として瑠璃子を選んだのはやっぱり正解だったようだ。
俺に染まり、忠実な僕と化した彼女だが、協力してくれる存在としては申し分ない。
足りないものの補完、いざという時に表に出てくれる胆力、次善の手を考えておいてくれる参謀としてはまさに一級品であろう。

「ところで、これからどうすればいい?」
『久美に従って彼女の家に向かえばいいと思うわ。そこでどうするかはお任せするけど、自分は見失わないようにね』
「うん。分かった」
『ああ、それから・・・』

胸に映る瑠璃子は、その顔立ちを妖艶に歪めて、俺にこう提案してきた。

『あなたが「いい」と思う子は、きっちりと見定めておいてね?』

彼女の心の内にこんな思いが隠れていたのだろうか。それとも俺の思いが根本に入り込み、歪んでいったのだろうか。
今の俺に比べて、瑠璃子は明らかに積極的に、友人たちを毒牙にかけようとしていた。

デパートを出ると、普段見ないような黒塗りの高級車が停まっているのが見えた。
車の前には、漫画や小説の中でしか見ないようなメイドさんが立っていて、久美を見つけると深く一礼してきた。

「あ、来てたみたいだね。行こう、瑠璃子」
「…あのメイドさん、久美のお友達の家の人なの?」
「そうだよ。私も最初は驚いたけど、これ位で驚いてたら疲れちゃうかも」

そんな規模なのか、と驚いていると、久美はメイドさんの方に近づいて二言三言会話を交わしていた。

「あっちが私の友人の瑠璃子です。今日一緒に参加する事になりました」
「…二宮瑠璃子です。よろしくお願いします」
「そうでしたか。双葉と申します。本日久美様と瑠璃子様のお世話をさせていただきますので、よろしくお願い致しますね」

呆気に取られながらもあいさつを交わすと、メイドの双葉さんはきっちりとした姿勢で俺たちに礼をしてきた。
お迎えに来たメイドの双葉さんの様子を見ると、確かに久美の言う通り、驚きで疲れてしまいそうだ。

…だがその分、どんな事が起きるのかという楽しみも、それ以上に俺の中には存在していた。

リムジンに乗り込み、高級感に慣れない俺は周りを見渡してしまう。自分は見失わないようにと言われているが、心の中ではどんな美少女と出会えるのか興奮が止まらなかった。彼処がキュンキュンと反応してしまい、油断すると彼処が生えてしまうと言うような感じだ。無理に生やしたいと思ってしまうが、それを許さない意識がある瑠璃子が全て任せてくれる事に。徐々に身体が火照って来た、性的興奮しないようにしていたけど不味いな。

「瑠璃子、大丈夫?顔が真っ赤になっているけど」
「あっ、ううん。ちょっと色々と驚きも隠せなくてさ」
「無理もないよ、この調子だと私の友人を見れば驚くかもしれないかな?」
「驚くかもしれないって、どういう意味で言っているの?」
「ふふっ、内緒だよ」

久美と雑談しているといつの間にか徐々に落ち着きを取り戻していく、可愛いメイドを見れば普通、興奮してしまう程。抜群のプロポーションを備わっているのだが。彼女は相応しくないと思考する、他にも美しい女性が居ると判断したからだが。

「(瑠璃子のお陰だな、危うく我を失う所だった。)」

ため息を吐いた後、リムジンが大きな門に止まり。門が自動で開いてくれる、どうやら着いたみたいだ。

車を降りれば、目の前に広がるのは映画やテレビの中でしか見ないような豪奢なお屋敷だった。
大きな扉を開ければ、そこには俺たちを出迎えていますとばかりに並ぶメイドさん達の列。それだけでも呆気に取られたが、周りを見ればそれ以上の光景が広がっていて、ついボケーっと口を開いてしまいかねない。
…いけないいけない。大口開けて呆けるなんて瑠璃子じゃやらないからな。

「久美お姉様、お待ちしておりました!」

お姉様?
ふと上の方から声がかけられ、そちらを向く。そこには中学生歳くらいの、綺麗な服に身を包んだ如何にも「お嬢様」と言わんばかりの少女が立っていて、久美の方を見て喜びと共に笑顔を向けていた。

「お荷物はこちらでお預かりしておきます。久美様と瑠璃子様は、お嬢様の所へ」
「分かりました。それじゃあ瑠璃子、行こう?」
「ふぇ、う、うんっ」

双葉さんの促され、久美に手を取られ、俺たちはロビーを進んでいき、2階に上がる。
既に勝手知ったる、と言わんばかりの調子で進んでいく脚に、緊張といったものはない。

「久美お姉様、お久しぶりです。今日という日を心待ちにしておりましたわ」
「うん、私もだよ」

近くまでやってくると、お嬢様と思しき子は久美に抱き着いて、嬉しそうにしている。久美はそっと背中に腕を回して応えている。

「…そちらのお方は、先ほどお電話でお聞きした方ですか?」
「そう、私の友達。二宮瑠璃子だよ」
「あ、あの、初めまして、二宮瑠璃子です」

とにかくこんな時は、慌てながらもきちんと挨拶をする。挨拶は大事って子供のころ教えられたし。
お嬢様と思しき子は久美から離れ、恭しく一礼をしてそれにこたえてくれた。

「初めまして、二宮瑠璃子様。私(わたくし)、日之影太刀葉と申します。どうぞ遠慮なく“太刀葉”とお呼びくださいませ」
「…よ、よろしくお願いします」

手を揃えてぺこりとこちらも一礼をする。これで良いのかな。
顔を上げて久美の方に向き直ると、疑問に思った事を聞くことにした。

「…ところで、久美はどうして日之影さん…、えぇと、太刀葉ちゃんと知り合ったの?」
「あぁそれ? 別に大したことじゃないよ。双葉さんとはぐれて困ってた所を助けたのが最初。
そこから何度か交流があって…、その内友達になっていったんだ」

瑠璃子の友達ながら、久美は凄いな…。そんな事をさらっと言えるなんて、どれだけの胆力があるんだろう。王子様か。

「さて、少しお疲れでしょうからまずはくつろいでください。何だったら着替えて
いただいてもかまいませんし、お風呂も使っていただいて結構です。その間に
準備しておきますね。双葉」
「はい、お嬢様。では、久美様、瑠璃子様、こちらへ」

太刀葉さんの目くばせを受けた双葉さんに促されるままに、それぞれの部屋へと
案内される。一人一部屋、突然来た私の部屋でさえ用意できるその広さに唖然とする。
双葉さんはまず久美を部屋に通した後、俺の部屋へと案内してくれる。

「こちらです。双葉様」
「ふわぁ・・・。広い」

その部屋はホテルのスイートルームのような広さと展望を誇る部屋だった。備え付けの
ベッドはダブルベッドで、天蓋まで付いている。大きなテーブルの上には買い物した
服やら何やらが奇麗に置かれていた。いったい太刀葉さんは何者なのだろうか?

「あの・・・、ありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですので。ところで・・・」

言葉を切った双葉さんは、その瀟洒な雰囲気を纏ったまま、言葉を一変させた。

「私の道具の使い心地はいかがかな?少年」

彼女の口から飛び出した言葉は、聞き覚えのあるあの「謎の女性」の物にすり替わっていた。

その言葉に冷や汗が出てきた。今日初対面のはずの双葉さんが一体・・・

「あはは。驚いた表情をしてくれたね。なかなか楽しいよ。まあでも心配はいらない。この身体も、この女性も間違いなく「双葉」という人だよ。
一時的に、ちょっと身体を貸してもらっているだけさ」

どうやら謎の女性は双葉さんの身体を乗っ取っているらしい。あの謎の道具を多数開発している人のことだ。その道具の一つなのだろう。

「それにしても・・・、本人の意思を残したまま吸収するとは、なかなか珍しい使い方をしたね。今までだと本人の意識もそのまますべて剥ぎ取る人のほうが多かったから」
『ええ、お陰で私も何だかんだ楽しんでます。そういう意味では、感謝ですね』

瑠璃子の胸元から『瑠璃子』の顔が現れる。一見すると恐ろしい光景だが、双葉さんは表情を崩すことはない。
彼女の意識もすべて、謎の女性の支配下にあるということだろう。

「それで・・・、何か御用ですか?」
「なに、私の道具を楽しんで使ってくれている君に、少しサプライズをと思ってね」

女性は双葉さんの相貌を怪しく歪めながら、私が買い物をした袋の中から箱を取り出す。

もちろん、俺が買った覚えはない。恐らく部屋に荷物を運び入れるときに、双葉さんが紛れ込ませておいたものなのだろう。

「今後もご愛顧いただけると嬉しいからねぇ。こんな楽しい機会もないだろう。ということでプレゼントだ。一つ、好きなものを持っていくといい」

その箱の中には、3つの道具が入っていた。
青い紐、デッサン人形のような、マネキンを小さくしたようなお人形、そして瓶に入った赤い薬。

「いずれも君自身が飲んだりするものではない。効果については・・・、
使ってのお楽しみだ。さあ、好きなものを選ぶといい。お代はいらないよ。」

道具の効果は保証済みだ。何せ、今の俺の身体がそれを実証している。そんな道具をただでくれるというみたいだ。思わず唾を飲みこんでしまう。さて・・・

>1.青い紐をもらう
2.お人形をもらう
3.赤い薬をもらう
4.その他

『その青い紐がいいなと思います。きれいですし』
「青の紐を選ぶのか。分かった。ほれっ」

何にしようか思案しているうちに『瑠璃子』が決めてしまっていたようだ。双葉さんの身体を使う謎の女性は返事を受けて、箱の中から青い紐を投げ渡してきた。
よく見ると先のほうがリングになっている。ちょうどカウボーイが使う投げ縄のようだ。

「使い方は簡単。この紐で誰かを捕まえるだけでいい。その方向に投げれば距離や輪っかの大きさは自動的に調整してくれるから、その人の方に向かって投げるだけで大丈夫だよ」
「え、えーっとこれの効果とかは・・・」

双葉さんはその顔でウィンクしながら、口元に指を添えて俺に語り掛ける。どっちかというとクールビューティな彼女の可愛らしい顔は普段見せないものなのだろう。
そのギャップに思わずドキッとしてしまう。

「言ったろう?『サプライズ』だと。使ってからのお楽しみだ。ただし、なるべく二人きりの時で、その人以外誰もいないときに使うことをお勧めするよ」
「は、はい・・・。分かりました」

更なる質問を投げかけようとしたときに、双葉さんが思い出したように話し始めた。

「おっと、「この子の記憶と実力から推定した時間だと」そろそろ身体を返さないと限界かな・・・。
これ以上はごまかせそうにない。仕事できる子なんだねぇ。だからこそあんまり時間は作れない。ジレンマだね」

双葉さんの顔を苦笑させて伝えてきた。どうやらこれが限界らしい。そう言えば
いつしか他の道具が入った箱は忽然と姿を消していた。自然な仕草の内に処理して
しまったのだろうか。

「この子の記憶は書き換えておいてある。『部屋に入ったら疲れて少しうたた寝しまった』という風に認識させてあるから、目を覚ました後の対処はお任せするよ。
たぶん、10分くらいは目を覚まさないと思うから、上手い言い訳を考えておいてね?
それじゃあ、良き人生を・・・」

それだけ言うと、糸の切れた人形のように双葉さんは倒れ込んでしまった。慌てて駆け寄ってその身体を抱きかかえる。
力の抜けきった彼女の身体は重たかったが、何とか倒れ込まずに支えられた。鼻につく甘い香りが思わず興奮を誘う。耳元で微かに寝息が聞こえるあたり、どうやら死んではいないようだ。そのことに胸を撫でおろす。
そのまま双葉さんをどうにか床に横たえる。寝かせてなお自己主張をやめないその豊満な胸はいつ見ても羨ましい。自然と湧いた嫉妬、この感情はもしかすると『瑠璃子』の思いなのだろうか?

元々瑠璃子の胸も「ない」わけでは無く、順調にバストアップをしたとしてもなお、大きな胸に羨望の念を抱くことがある。
思えば久美の胸にだって少しばかりの嫉妬をしていた位だ。

『女の子は、自分の胸に何かしらのコンプレックスがあるのよ』

とは「瑠璃子」の言葉だが、彼女はそれが強いなのかもしれないと、他人事のように考えてみる。今となっては俺が「二宮瑠璃子」なのにね。

「さて、とはいえこのままじゃ良くないよな…」

女の人を床に寝かせ続けるわけにもいかないだろう。ましてや土足で歩くお屋敷だ、床はいくら掃除をしていても気持ちのいいものではないだろう。

腕まくりをして息を整え、腕を筋肉にあふれた力強いものへと「変身」させる。瑠璃子としての体に筋肉ダルマみたいな腕がくっついてるのはいささか以上に違和感があるが、誰も見てないのだ、気付かれるはずはない。
強くなった力で双葉さんを抱えて、室内の椅子に座らせると、腕を元の瑠璃子のものへと戻す。

変わらず呼吸をしている双葉さんを見ながら、どうやって誤魔化すか考えた。
うーん、やっぱり普通に「働いていた疲れが出た」って事にしておくかな?

…それとも、彼女が起きる前にちょっと失礼して、胸だけでも変身する為の情報を集めるか。はたまた…。

『チャンスじゃない。双葉さんの身体を調べましょう』
「え?で、でも・・・」

『瑠璃子』からそんな提案があったが、正直なところ俺には無理な話であった。
何せまだドキドキが止まらないのだ。さっき抱えた時の柔らかで暖かな感触が忘れられなかった。これで正確に変身するには、あちらこちらを触る必要が出てくる。
まして胸なんて・・・

『仕方ないなぁ・・・。ちょっと『貸して』もらうよ』

そういうと、俺の意識が奥に引き込まれ、身体が勝手に動く感覚を得る。主導権が『瑠璃子』へと移ったようだ。
そんな彼女は意識を切り替えるとすぐに、双葉さんの全身をくまなく触っていく。頭の形や輪郭、足の長さ、その感覚・・・、特に胸周りは丹念にもみほぐしていた。

「んぅ・・・。あっ♡」

意識のない双葉さんはそれに抵抗できず、口元から喘ぎ声を出しながら為すがままにされている。当然ながらその感覚は俺にも伝わってくる。
他の女の人の身体に耐性などあろうはずもない俺の心も当然ながらドキドキしてしまう。

「あまりドキドキされると力がこもっちゃうわ。まあ、気持ちは分かるけどね。
でもいいなぁ。大きな胸にすべっすべな肌。髪もさらさらだし・・・。シャンプーとか何を使ってるのかしら」

「これで身体の形は大体わかったわよね?」
(う、うん・・・。大丈夫だと思う・・・)

しばらく触り続けていたが大体3分くらいの出来事だったようだ。永遠にも思えた時間だが、殊の外時間はかかっていなかったらしい。
双葉さんも気が付かず、眠り続けている間に頭の中に双葉さんの身体の輪郭のようなイメージ図が組み立てられていた。これでかなり似せて作ることが出来るはずだ。

「でもまだよ。もう少しだけ・・・」

そういうと『瑠璃子』は自分のスマートフォンで双葉さんの顔を持ち、その全体を撮影し始める。全体を撮ったあとにまつげや目、鼻や耳、唇の形、他にも気になる部分はズームして確認する執拗さである。

「おっと、顎の右下にほくろがあるわね・・・」
(えっと・・・、何やってるの?)
「変身するときの補助にと思ってね。双葉さんを最初に見かけた時、どこを見たかしら?」

瑠璃子は俺に問いかけてくる。そんなこと、答えるまでもなく分かるだろうに・・・。

(えっと、胸だな・・・)
「まったく・・・、私の胸じゃ足りなかったかしら。まあいいわ。その次は?」

その次はやっぱり顔だろう。きれいな顔立ちの印象は忘れられない。

「そう、やっぱり目につくところを見ると思うの。だから、身体全体のイメージ以外なら顔を抑えておけば、もっとバレないように変身できるはずよ。
この画像はそのための補助に使ってね」

『瑠璃子』が撮影した各画像のお陰で、特に顔周りはかなり忠実に再現できそうだ。
これにより、双葉さんの外見だけならほとんど完璧に成りすますことが出来るだろう。
しかし・・・

「でも・・・、あくまで成りすませるのは外見だけ。当然メイドとしての仕事はこなせないから、本当の意味で『双葉さん』になるなら融合するしかないと思うわ。
だけど今の段階だと当然リスクは伴うわね。さて、どうするかしら?」

そうだな・・・

>1.融合する
2.融合しない
3.その他

双葉さんの姿は、もしかしたら今日という日を円滑、かつ有意義に過ごす為に必要かもしれない。
それに『瑠璃子』も双葉さんの姿に興味津々みたいだし、いっそこのあたりで正確な「三つ目の姿」を得ておくのも悪くない。

(そうだね、どうせなら双葉さんも俺の一部にしちゃおうか…)
「良いの? 双葉さんが消えると怪しまれると思うけど?」
(彼女の意識の中に「俺」を混ぜ込んで、そのあとすぐ分離するよ。そうすれば俺たちは新しい姿も、双葉さんという協力者も得られるし、万々歳だよ)
「そこに双葉さんの意志は関わってこないけどね」

『瑠璃子』はこう言ってるが、内心嬉しくてたまらないはずだ。正確な情報を得られれば、一部だけや体全体だけとはいえ、双葉さんの姿になれるのだから。
多分胸だけ変化させるんだろうなぁ。また新しいサイズのブラを買わないと。

「じゃあ融合は旭君に任せるね?」
(わかったよ)

すると体の主導権が戻ってきて、自由に体を動かせるようになった。
瑠璃子と融合してから一カ月、使ってなかった力を再び使う事に俺は高揚感を抱いて、服の前を開ける。
胸元で双葉さんの頭を抱きかかえるようにすると、能力を発動させた。

その瞬間、双葉さんの体が俺の体に吸い込まれていく。
俺の体が双葉さんの体を求めるように、細胞の一片一片が彼女を欲するように。
それと同時に頭の中に「双葉さん」が入ってくるのが分かってきた。

(これは、双葉さんの記憶か…)

彼女の半生が俺の中に融け込んでいく。
幼い太刀葉さんの姿を「双葉さん」の視線で追いかけていく姿が見える。彼女の成長していく姿に喜びを感じている記憶も。
メイドとして生活している記憶が殆どだけれど、それだけでも幸せだった記憶が俺の中に染み渡る。
これは瑠璃子とは違う「私」の記憶。仕事に生きてきた双葉さんの記憶と意識の中に、俺が混ざり込んでいった。
太刀葉ちゃんへの忠誠心はそのままに、双葉さんは「俺の一部」に書き換えられていく。

(これは私の、うぅん双葉さんの記憶…。
瑠璃子様の記憶が私に混じって…、それ以上に「俺」が…、私を犯していく…!
あぁ、混じり合っていく…。双葉さんはもう、俺のものだ…!)

それと同時に俺の肉体も変異を始めていた。
すらりとした体に、むちむちの胸やお尻、しっかりと括れた腰に美しい顔立ち。
入り込んできた記憶が、俺の体を「双葉さんが憶えている体」に書き変えていく。

「…ふぅ」

融合が終わると、そこには双葉さんが着ていた服が落ちていて、二宮瑠璃子の服を窮屈そうに着ている「双葉さん」が立っていた。

「…よし、双葉さんと融合できたぞ」

双葉さんとしての姿で小さく快哉を叫ぶが、それ以上に時間が無くなりつつあった。
彼女は久美のお世話も担当している為、あまり俺に時間をかけ続ける事も出来ないだろう。
幸いに双葉さんの記憶から、これからのスケジュールやら屋敷の間取りやらを得ることはできたし、問題無く動けそうだ。それなら次は…。

「姿を瑠璃子のものに戻して…、じゃあ行くよ、『双葉さん』…?」

服がキツくなっていたので、体を瑠璃子のものに戻し、上着のボタンをはずしてお腹を晒す。
するとそこから双葉さんの顔が浮かび上がってきて、そこから“ずるり”と彼女の頭が出現し。
それだけでは終わらず、頭の次は肩、腕、胴体と、瑠璃子のお腹から「双葉さん」が這い出てくる。勿論服など着ていない裸のままで。
「双葉さん」の腕が膝を掴み、支えにして、さらに体を引きずり出してくる。下半身が出てきた後はもう速かった。今までどこに入っていたのかと言わんばかりに、人間一人の体からそれ以上の大きさの人間が“生えて”きたのだから。
出てきたばかりの「双葉さん」は素っ裸のまま、俺に向き直ると恭しく一礼をしてきた。

「…私を貴方様の一部にしていただいて、ありがとうございます、旭様。私の姿、存分にお使いくださいませ」

どうやら「俺」を混ぜ込むのはうまく行ったようだ。

「今すぐお話をしたいけど、そろそろいかないと不味いから。またあとでお願いするわ」
「畏まりました、それでは失礼します」



双葉さんは何もなかったようにてきぱきと着替え終えるとお辞儀をした後、この場を立ち去るのを目撃するも頭痛がしてしまう。

『これ以上融合するのは危険かもしれないわ、多分2人か3人が限界……他人の記憶を全て理解すると言うことは”我”を失う事になるから。』
「久美と融合したいと考えていたけど、お嬢様学校に侵入する際に太刀葉さんに成りすませるのは外見だけでも良いかも知れないな」
『本当にごめんなさい、私はどうしても、どうしても、あの胸が欲しくて…衝動的になっていたわ』
「大丈夫、双葉さんの姿に変身出来るようになったから」

メイドとしての知識や幾つか情報が手に入っただけでも良いけど。驚いたな、双葉さんの記憶の寄れば子供の頃、太刀葉さんの幼なじみと一緒に通っているみたいだけど久美とも親友関係で。

「ヤバイ、双葉さんの記憶を覗いて見たら、太刀葉さんの幼なじみが好みの女の子だ。」
『うわっ!?何これ……容貌だけでみたら、芸能界に出てきても可笑しくない!?』
「ミステリアスな雰囲気を漂わせているし、クールキャラが好きなんだよな……しかも、親しい人しか素顔を見せないとか。」
『取り合えず、双葉さんの情報をこれ以上読み取るのは危険よ。取り合えず、この屋敷内の情報だけあれば十分だから』

それもそうだ、此処のセキュリティとか防犯カメラの情報を全て把握している。

『双葉さんに変身したとしても私の服のままだと絶対に不味いわよね』
「変身出来ると言っても肉体だけだしな、メイド服を調達しないと行けないけど。声だけなら大丈夫だ、指紋認証とかも突破は可能。だからと言って此処を全て支配するわけじゃない。あくまで可愛い女の子を手にいれることが目的だし」
『取り合えず、目標を改めましょう。お嬢様学校とか行くかどうかは置いておくとして、太刀葉の幼なじみを融合するかどうか。此処に泊まる可能性も否定できないけどね』
「後は、久美の身体を細かく見て外見だけでも完璧に変身したい。お風呂にはいる際が勝負だな」

改めて目的が出来たことに少しずつ整理した、双葉さんに変身出来るようになったのもあるが、瑠璃子に変身出来るのだ。思わず彼処を掴もうとするが空を切る。

『だーめ、貴女は瑠璃子として来ているんだから。彼処が生えるようになれば制御できないわよ?やりたいのは解るけどさ、お嬢様学校に向かう際にも生やすのは禁止。今だって気を抜いたら彼処が急に生やす場面が多くあったんだから。』
「………二人っきりか安全な場所とか限定が良さそうだな」

ため息を吐いたと俺は高級ベッドに寝転んだ、ふわふわでとても良い気がする。

「あ、そう言えば・・・。あの紐ってどんな効果なんだろうね」

布団の上でゴロゴロと思案していると、ふとその存在を思い出す。確か2人きりの時に使うことをお勧めされたあの道具は、一体どんな効果なんだろうか。

『私が飲んだ薬とは違って、相手に何かしらの効果を与える、だったわよね』
「状況が許せば今晩あたり試してみてもいいかもしれないな」

実際、人間一人が抱えている情報量は莫大なものと、双葉さんの身体を取り込んで理解出来た以上、これ以上取り込むのは「これ」という人にしたいというのはある。
そういう意味では久美も太刀葉さんも逃がしたくない逸材ではあるのだが、そこは特に慎重に吟味しておきたい。
それにしても・・・

「やっぱり双葉さんってすごいね・・・。色んなこと知ってる」
『これが大人、なのかもね』

読み込むのは危険と分かりつつも、俺も『瑠璃子』も手に入れた新しい記憶、双葉さんの中身が気になってしまい、ついつい読んでしまうのだ。
当然ながら、そこには彼女が培ってきた数々の経験、知識、そして技術も記されている。その中から、試しに包帯の結び方をやってみると、瑠璃子の身体を使ってもあっさりとこなすことが出来た。
興味本位で奪いとった彼女の身体から、俺はどうやら多数のスキルをも手に入れていたようだ。

意識や記憶まですべて融合するのはリスクが高い事は理解したが、それでも得られるものは大分大きいということは理解した。
俺も「瑠璃子」も持ってなかった技術や知識を得られたことは楽しいが、それでもそれだけにかまけている訳にはいかない。

「青い紐の事もあるけど、そろそろ双葉さんがこっちに来る頃かな?」

スマホで時間を確認し、彼女の記憶にあるスケジュールを思い出すと、そろそろ久美のお世話を終えてこちらを呼びに来る時間だ。
すると扉のノックがされ、双葉さんの声が聞こえてきた。

『瑠璃子様、準備が整いましたのでお声がけに参りました』
「はーい」

ベッドの上から立ち上がると、双葉さんが扉を開けてくる。するとそこには久美も立っていた。

「どうだった、瑠璃子。ここのお部屋は?」
「すごいね…。初めて入った時なんて、圧倒されちゃった…。うちのリビングより広いんだもん」
「わかるよ。私も最初に来たときは驚いて、あんまり眠れなかったし」

客間というには豪奢に過ぎる感じもするけど、ここに泊まりに来る人間ならこれ位はあって当然なのかもしれない。

「それでは瑠璃子様、久美様、太刀葉様達がお待ちです。そろそろ行きましょうか」
「そうだね。それじゃ双葉さん、お願い」

そのまま双葉さんに促され、ある部屋の方に向かう事になる。
双葉さんの記憶によると、これから太刀葉ちゃんと、俺、久美、そして太刀葉ちゃんの幼なじみの4人で食事をしたり、ただ会話をしたりするだけのようだ。
特に予定も立てず、やりたい事をやる。ただそれだけの、本当に女子会をするらしい。よく久美はこの中に入っていけるなと思っている。
俺としては初めての女子会に緊張するが、そこは『瑠璃子』が宥めてくれて、いざという時には代わる約束もしてくれたので一安心することになる。

そしてたどり着いたのは広間…、というには狭い、何か重要な話をするためのような部屋に通された。

「久美お姉様、瑠璃子様、お待ちしておりましたわ」

そこにはすでに太刀葉ちゃんが座っていて、同時にもう一人、席に座っている女の子がいた。
中学生くらいの年齢は太刀葉ちゃんと同じはずなのに、彼女よりもっと落ち着いた…、クールビューティーともいえる雰囲気の少女が。

…双葉さんの記憶で知ってはいるが、一目惚れという経験は初めてだったかもしれない。

…一応言っておくが、瑠璃子も好きだよ。だんだんと好きになっていったので、そう思うように時間がかかっただけだ。

「初めまして、瑠璃子さん。私の名前は姫宮雫(ひめみやしずく)、呼び捨てで大丈夫よ」
「あっ、此方こそ宜しく…えっと、雫さん」
「呼び捨てで良いのに、ふふっ」

彼女の笑みに思わず魅了されてしまい。じゅん、と股間が濡れる感じがする。男の子の身体だったら間違いなくアウトだが、女の子の身体で良かったと思考してしまう。瑠璃子の人格へなりきっているのにも関わらず興奮すると言うことは本人も見惚れたと言うことだろうか?

「ふふっ、雫ちゃんは凄く可愛いでしょう?こう見えても彼女は世界中の同性を余さず嫉妬させてしまうような、残酷なまでの美貌を持ってしまっている女性とか言われちゃってさ。同姓の私でも嫉妬しちゃう」
「全く、そんなことは無いのに私が成長したらハリウッドに行けるとか言われて冗談にも程があるわ」
「でも、英語とかペラペラに話せるじゃん!外国へ行っても」
「お断りよ、私には貴女達が居るだけでも充分。これ以上の幸せは要らないわ」

雫の態度に久美は悪戯っぽく笑みを浮かべる、此処まで仲が良いとは驚きも隠せない。

「さて、皆様が揃ったので早速ディナーでも頼みましょう。」

太刀葉がテーブルの上に置いてあるベルを取り出してチリンチリンと鳴らすと美味しそうな物が幾つも料理が運ばれる。ホテルの高級料理でも食べに来たのかと思うくらいの物だ。双葉さんの記憶を読み取って、上品にテーブルマナーを守り、料理を食べ進めていると。

「瑠璃子様がテーブルマナーを覚えているのは少し驚きましたわ。久美お姉様から聞いてみましたが、この様な料理は食べたことがないと記憶にありますが」
「あっそれは少し気になった。何処で学んだの?」
「あはは…バラエティーのテレビ番組とかで偶々だよ」
「バラエティー番組かぁ、最近見ていないんだよね」

女子トークに入り込んだ空間から今まで経験していなかったお話ばかりして、驚いたり、笑ったりなどして充実した夕食を楽しんでいた。

食べなれない高級ディナーを終えて、他愛ない話を俺たちは続けていた。
それぞれの学校の事、今興味がある事、やってみたい事、色々だ。
こうして話していると、太刀葉ちゃんも雫ちゃんも住んでる世界が違うだけで、学生という立場は変わらない事が分かる。
…その住んでる世界というのがかなり違うのが問題ではあるのだが。

するとふと、人間避けて通れない生理現象が起こってきた。

「…あの、ちょっとお手洗い良いかな」
「瑠璃子、場所分かる?」
「それでしたら私が案内します。…丁度私も、と思っていましたので」
「お願いね、雫ちゃん」

双葉さんの記憶を使えば、このお屋敷のトイレに行くことは問題無かったのだが、そこは雫ちゃんが率先して手を挙げてくれた。
太刀葉ちゃんのお願いを聞いた雫さんが頷くと、もう引くに引けない。ありがたく申し出を受け入れて、一緒に目的の場所に向かい、そうして用を足す事にした。

ショーツを下ろし、スカートをまくり上げて便座に座って、下腹部に力を入れる。
そうすることで堰を切ったように、我慢していたおしっこが流れていった。

……ふぅ。

一足早く用を済ませ、洗面台で手を洗っていると雫さんが出てきて、隣に並んだ。
彼女も上品に綺麗な手を洗い終えると、こちらに視線を向けて喋ってきた。

「瑠璃子さん、緊張していますか?」
「え? えぇと…、まぁ、緊張してるかな。久美に誘われてご一緒させてもらったけど、やっぱり初めてだから…」
「最初なら仕方ないかもしれないけど、今からそんなだと疲れちゃうわ。これから何度も来ることになるんだから」
「…そうなの?」

突然の言葉に驚きながらも、雫ちゃんは当り前のように言ってくれる。

「えぇ。こうしてお友達になれたんだもの。太刀葉の家だけじゃなく、今度は私の家にも呼びたいし…、できる事なら瑠璃子さん達の家にもお邪魔してみたいわ」
「そんな…、私たちの家ってこんなに立派じゃないし、来ても面白くないと思うけど…」
「ダメよ瑠璃子さん、そんな事を言ってはダメ。貴女達と一緒なら、きっとどこでも楽しいと思うし、“お友達”の家に行ってみたいと思うのはおかしい事?」
「うぅ…」

そう思ってくれてる位に、雫ちゃんはこちらに気を許してくれたのだろうか。クールな見た目でこんなにも優しいなんて、出来た子だ…。
ますます気に入ってきた…。出来る事なら融合したいし、融合しないにしてもお付き合いは続けていきたい。下心に満ちてしまっているけど、そう思う。
… 無題 Name きよひこ 2020/10/21(水)23:27 ID:cA14WVhk No.31885 [GJ] [Boo]
「久美さんもそうだけど、できる事ならお互い家柄を気にしないでいたいわ。…それとも、瑠璃子さんはやっぱり気にしてしまうかしら?」
「う…」

じっと、雫ちゃんの眼が俺を射抜こうとしてくる。綺麗な瞳に見られるだけで、たじろいでしまうが、それでもと思い、頭の中で『瑠璃子』と一緒に出した答えを伝えることにする。

「確かにちょっと気になるけれど…、それでも、私もあなたとお友達になりたい。もっと雫ちゃんや太刀葉ちゃんの事を知りたいな」
「ありがとう。そう言って貰えて嬉しいわ。…これからよろしく、瑠璃子さん」

すっと手を差し出された。これは見るだけで分かる、握手の合図だ。
こちらも手を差し伸べて、雫ちゃんの手を取る。きゅっと握りしめられると、それだけで気分が高揚してくるようだ。

「こちらこそ、よろしくね、雫ちゃん」

お互いに笑顔を浮かべ、手を握り合った。
そうして頭の中に、一つの意識が出てくる。
…これは、チャンスなのか?

トイレという場所、誰もいない状況、繋がった手同士。

…融合の格好のチャンスでもあり、先程受け取った青い紐を使うにはもってこいの状況でもある。
どうする? この後はお風呂という状況だ、今ここで行動を起こすか?

1.ここは我慢する
2.青い紐を使ってみる
>3.融合する
4.その他

「(監視カメラが無い以上、チャンスがあるとしたら此処しか無い…ッ!)」

融合しないにしてもお付き合いは続けていきたいと揺らいでいたのだが、もしも、もしも中身が”化け物”だと判断したらどうなるのか恐怖を感じてしまう。目の前の彼女と親友として付き合いたいが、その瞬間、雫ちゃんの体が俺の体に吸い込まれていく。
双葉さんと同様に俺の体が雫ちゃんの体を求めるように、細胞の一片一片が彼女を欲するように。頭の中に「雫ちゃん」が入ってくるのが分かってきた。

『無理もないわ、折角の機会を逃すわけにはいかなかったでしょう?』

「取り合えず…俺の意識を少し残すとして。純粋な彼女だったらどんな行動するのか。見てみたい気がするからな」

融合をして俺の一部になったあと、すぐに分離をして元の状態へ戻したが。雫ちゃんの記憶等はまたあとで詳しく読むとるとしよう。

「貴方と一部になった事は一番嬉しいけど、色々と事情は把握したわ。私になりたいのなら好きにしても構わない…ただ、衝動的に融合してしまうのは情けないと思わない?」

『雫ちゃんの言う通りかもしれないね、双葉さんになりたかったのは私も同じだし…』

既に俺の一部となった雫さんと瑠璃子は今もお話をしている。雫さんの事に関して記憶を少し読み取ったが、英語とかペラペラお話とか出来るのもあって。此方に話しかけたのは”違和感”を覚えたからと言うのが恐ろしい。初めて会ったのに男性の視線のような物を感じるとか、些細な事だが。洞察力に優れている事も判明、ポーカーフェイスと言うべきだろうか。決して他人には素顔を明かさない事から、残酷すぎる女とか言われるのも頷ける。

「早い段階で貴方の一部になったのは幸運と考えておいて、それと。この青い紐に関して、これは恐らくサポートするものと考えるべきよ」

「さ、サポート…だって?」

雫さんが俺が持っている青い紐を指を指して、説明する。何故そんなことが解ったのか疑問を浮かべてしまう。

「まず、貴方が会った商人はとても気に入っているが前提として考えてみたわ。それを踏まえた上で私が導き出した結論は融合を何度も何度もすればするほど自我が失ってしまうリスクと言うものを知っていたはず。その負担を出来る限り抑える為に幾つかのアイテムを用意した、私の推理が正しければ。精神を乗っ取る物だと思うわ」

『す、凄い…双葉さんの知識や私の知識よりも思考の回転が早すぎない?』

「別に対した問題じゃないわ、試しに青い紐を私に投げてくれないかしら?これで答えは見えるはずよ」

雫さんの言う通り、この青い紐はどんな効果があるのか。折角の提案なので実際に彼女に向けて投げると青い紐は雫さんの身体の中へと吸い込まれていく、手元にあった青い紐は無くなると二重に見える視界があって……。

「えっ、ど、どうなっているの?これ…目の前に俺と雫ちゃんが見える…?」

『成る程、漸く解った。旭、今から雫ちゃんの身体に乗っ取りたいと念じて』
「あっ…う、うん」

言われた通りに目の前に居る雫ちゃんに乗っ取りたいと意識すると一瞬の浮遊感覚に陥り、スポッと収まる感覚。目の前に瑠璃子の姿が見えた俺は思わず声を上げようとしたが全く動かせない。

『ど、どうなっているんだ?身体が動かせない!?』
「ふふっ、もしかして慌てて居るんじゃないかしら?今は私の主導権を握れないからと焦っているかもしれないけど、この青い紐の効果は”精神移動”が出来る物よ。」
「成る程、外見は完璧に変身できたとしても。本人になりきれない以上、精神を乗っ取る事で観察して学べと」
「そういうことになるわ、因みに融合として一部になった身体は動かすことは出来るかしらね」

その説明に俺は漸く理解した、成る程。完璧に本人になりきる必要が無い、どんなことを考えているのかこれで把握しろと言うことか。

『とりあえず、瑠璃子の身体に戻らないと…』

元に戻りたいと意識すると視界が暗転して、雫さんの姿が見える。この青い紐を使う場合、二人っきりにしないといけないのは青い紐が吸収される現場を目撃させたら駄目と言う事になるか。

「取り敢えず、この青い紐を解除したいのならどうすれば……あっ」

青い紐を手元に戻したいと認識するといつの間にか自分の掌に握られている事に気付く。それを踏まえた上でこの青い紐を使うとしたら久美に対して使えば彼女の視界や身体の感覚を乗っ取ることが出来て、考えていることが解ると言うことか。

青い紐を応用として使う場合に関しての説明だが。今から雫さんに対して使用すればどちらの身体でもメインボディにすることが出来る。(俺の一部になっている、瑠璃子、双葉さん、雫さんの三人限定)

試しに青い紐を使って雫さんの身体に移動して、そのまま解除すればメインボディとして認識している雫さんの掌に青い紐が収まっていたのだが。

「…瑠璃子の身体に移動できない、しかも彼処が生える気配も全く感じられない?」
「移動しているのは”あくまで精神”、瑠璃子の身体は貴方の身体と融合しているわけだし。誰かのことを知りたいのならこれを使うのもありかもしれないわ」

その言葉に俺はゆっくりと頷く、確かにこれを使えば相手の心を読み取れるし考えていることが解るのはでかいメリットでもある。

* * *

「これで融合は3人目か。ペース速くて結構結構。
…ただ、普通の人間ならあと融合できる人間は1人か2人くらいだね。それ以上は「新城旭」という人間の自我が、融合した多数の人間の自我に溶けて消えるだろう。
そうなれば出来上がるのは「誰でもない誰か」だ。そうなるリスクを考えた上でも、それ程までに彼女等と融合したかったのかな?
まぁ良いか。私の気にすることじゃない。
できればただの人間以上のポテンシャルを秘めていてほしいが、こればかりはいざやってみないと分からないのは悩ましいね。

それにしても『移識の紐(いしきのひも)』の効果をすぐに見抜くとは、雫ちゃんとやらの頭の回転はかなり速いね。
もう少し秘密の道具を渡そうと思ってたけど、ま、いいか。また面白そうな時にお邪魔しよう。

それじゃあその能力をどう使うのか、私を楽しませてくれよ、旭君?」

* * *

「これ以上長話をしているのも良くないわね。一度戻りましょうか」
「そ、そうだね。色々考えてくれてありがとう、雫ちゃん」
「呼び捨てでいいって言ったのに。変な所で律儀ね」

くすりと笑いながら、雫ちゃんは俺の手を取って…、いや、俺の腕に腕を絡めて、まるで恋人のように並んで歩いていく。

「し、雫ちゃん?」
「こうしたくなっちゃったの。ダメ?」
「ダメじゃないけど…、2人に見られたらなんて言われるか」
「良いのよ。そうしたら太刀葉も久美さんを狙いやすくなるわ。2人きりだと猫のように甘えてるんじゃないかしら」

そう言われて、そして雫ちゃんの記憶を読み取って気づく。太刀葉ちゃんが久美を見る視線が、友人以上の熱が入っていることを。
確か二人の出会いは、困っていた太刀葉ちゃんを久美が助けたところからだ。それに久美の容姿を考えれば、まるで女の子の理想の王子様が助けてくれたと思うだろう。それに太刀葉ちゃんはまだ恋を知らないはずだ。久美に恋をした可能性も否定できない。

「…じゃあ、このまま2人にさせておくのもアリ?」
「問題無いと思うけど、進展はしなさそうね。何かしら発破をかけないと、太刀葉は動きそうにないし」

そんな事を言いながら、具体的にどうするかを考えないまま、久美たちの所に戻った。

そのままお風呂に入ることになったのだが、やはりそこも大きかった。“知って”はいたが、それでもいざ目にすると圧巻と言わんばかりの光景に目を奪われる。
ぼーっとしていると突然肩を叩かれた。後ろを振り向くと、今の俺と同じように一糸まとわぬ姿になった久美がいた。

「ほら瑠璃子、またぼーっとして。珍しいのは分かるけど、気負いすぎても良くないよ?」
「う、うん…。久美は何回目で慣れたの?」
「お泊りするのはそろそろ10回目だけど…、3回目くらいで慣れたかな? あんまり最初は粗相しないように、と思ってたけど、だんだん気負う必要無いかもと思ってね」
「久美はすごいよ…、ホントにすごい…」

感心もあるが、久美のプロポーションを見て、改めて彼女はすごいと思い直してしまう。
男に負けず劣らずの高い身長、それに負けないくらいの大きさを誇る胸やお尻。きゅっと括れたウエスト。クラスの男たちが下心ありありで見ていた体が、こうして俺の前にさらけ出されている。
…正直、瑠璃子がいてくれて助かったよ。正直勃起モンだ。

「久美お姉様、瑠璃子様、そのままでは体が冷えてしまいますわ。一緒に入りましょう?」
「そうよ。風邪をひくなんてよくないし、温まらないと」

太刀葉ちゃんと雫ちゃんも、俺達と同じように裸になってお風呂に誘ってくれた。

「(さて、状況を整理しよう。現在青い紐は俺と雫ちゃんと繋がっている状態だから。精神移動が出来るとして、今此処でそのまま解除したら雫ちゃんの身体に精神移動ができなくなる)」

雫ちゃんの視点でどの様に移っているのか、それを観察するためにも青い紐を使っているのだが。雫ちゃんの身体だと彼処が生えないと言うのがあるけと、贅沢は言っていられない。

「…これからどうしようかな」

可愛い女の子を手に入れて、自分の欲求を満たしたい。それが望みなのに達成してみれば何をするべきか思考してしまうのだが、他にやるべきことはあるのだろうか?

「瑠璃子、ぼーっとしないで!早く身体とか洗わないとさ」
「あっ、う、うん」

瑠璃子に完全になりきっているとは言え、久美の身体を見ているとこの身体は欲しいと思ってしまうが。此処であることを考えた、この青い紐を久美に対して使えば精神移動することになるがこの身体はどうなるのか思考してしまうが。『瑠璃子』が代わりに動かして貰えることを信じるしかないか。

「(……よし、行けっ!)」

青い紐を解除したいと意識すると手元に出現、早速久美に対して使用する。太刀葉ちゃんと雫ちゃんは気付いていないとは言え、融合していない身体に対して使うのは抵抗がある。気付かないで欲しいと願ったが、青い紐はすーっと、久美の身体に中へと溶け込み。視界が二重になったことが気付く。

「(よし、成功した。取り敢えず今から精神移動するのは不味いから、瑠璃子の身体に留まったままにしておくか)」

(ふふっ、瑠璃子ったら戸惑っちゃって可愛いなぁ。まあ、私も初めてこの家に来たときはビックリし通しだったから、無理もないか)

視界のみならず、糸を通して久美の考えていることが伝わってくる。どうやら彼女の身体に糸を繋がったようだ。
その大きな胸、身体を洗う感覚、長く美しい、艶やかな黒髪、どれもまるで自分の身体のように感じ、伝わってくる。その事に危うく興奮しかけてしまうが、何とか我慢する。

(さすがに2人分の視界は気持ち悪いな・・・。いっそ目を閉じてくれればいいんだが)

自分の思った通りに動く身体と、全く別の意識によって動かされている身体、それらを同時に受容するように人体は出来ていない。
漠然とした生理的、あるいは本能的な気持ち悪さを感じた瞬間、久美の視界の情報がシャットアウトされる。そんな久美の顔を見てみると、彼女は身体を洗いながら、固く目をつむっていた。

(目をつむらないと、目を・・・。あれ?なんでだろう・・・?)

ふと思った俺の感情、「目を閉じてほしい」という願いを久美の心は受信し、行動に移したらしい。

『もしかすると、この紐は精神を移し替えるだけじゃないのかもしれないわね』

頭の中で『瑠璃子』が推論を披露する。

『糸を繋いだことで久美が何を考えているか、それが伝わってくるようになった。
でも、心を移せるっていうことはもしかするとある程度考えを操作できるのかもしれないわ。少し試してみてもいいかしら?』
(分かった。ただ、あまり変なことはさせるなよ?人の目もあるから)
『分かってるわ。えっと・・・、身体を洗うためにこっちを向いて、股を開かなきゃいけないわ』
(ちょっと待て!)

『瑠璃子』が念じた願いはかなりギリギリなものだったような気がする。1か月もの間この身体を共にし続けた結果、俺の影響を受けた彼女の精神はかなりギリギリを攻めることがあり、冷や冷やさせられる。

『瑠璃子』の念に応じ、全身をボディソープで洗っていた久美は俺の正面に向き、まるで男子のように座っているかのようにその股を堂々と開陳し、こちらに秘部をさらけ出す。
きっちりとした性格なのだろう。陰毛はキッチリと処理されている。そんな彼女は同性でもまず見せないであろう部分をさらけ出しているのにもかかわらず、平然とした顔で身体を洗い続けている。

『これで間違いなさそうね。とはいえ、彼女は私の親友。それなりに心は許してくれてると思うから、全くの赤の他人でこれが出来るかは分からないわね。』

俺たちが久美にやっていることを察した雫ちゃんが、太刀葉ちゃんを伴って露天風呂へと向かった。
出るときに「ごゆっくり」と声をかけてくれたあたり、上手に誘い出してくれたようだ。これでこの洗い場には、俺と久美の二人っきりになった。

(早く洗わないといけないわね。せっかくの機会、みんなで色々と話したいわ。
瑠璃子も早く馴染ませたいし)

そんな久美は2人の様子を察し、手早く体を洗おうとする。友達思いの彼女の心の声が身に染みるが、何か行動を起こすならあまり時間はないのも事実のようだ。

『ねえ』

そんな中、『瑠璃子』が話しかけてくる。

『さっきあの紐を手繰れば、他の身体にも心を移せたわよね。もし仮に『私』の心を久美に移せば、彼女の身体を私がコントロールできるかもしれないけど、どうする?』

これは盲点だった。確かに今の俺の身体には、俺の精神と『瑠璃子』の精神、その2つが同居し存在している。片方だけ移しても身体は俺、あるいはその意を組める『瑠璃子』の心を残すことが出来る。

『もちろん糸で操るのも面白いし、貴方の心を久美に移してみるのもいいと思うわ。
彼女と融合するならそれもありかもね。さて、どうするかしら』

>1.ここは我慢する
2.俺の精神を久美に移す
3.『瑠璃子』の精神を久美に移す
4.紐で久美をコントロールする
5.融合する
6.その他

「ここは我慢で良いだろう、俺の精神を久美に移したり、『瑠璃子』の精神を久美に移した所で。異物が入り込んだと判断される可能性が高い…実験するとしたら、眠ったあとが好ましい」

『……嗚呼、確かに身体の主導権を奪おうとか変な思考とかしていたら、異物として扱われて消滅とかされてしまえば元の子もない。良いわ、それなら雫ちゃんや双葉さんの意見を受け入れた上で改めてやりましょうか』

念じるだけでコントロールをすることが出来たとしても、今は我慢をする選択を選んだ。雫ちゃんや双葉さんの身体をメインボディにするべきか迷うし。話し合いが必要だと考えたからだ。

『取りあえず、青い紐は繋いだままにしておくわね。久美の心が読めるっていうのもなかなか楽しいものだしね』

「お待たせ。やっぱり長い髪っていうのも困ったものなのかしらね。どうしても手入れに時間がかかってしまうわ」
「それだけ大切にしてるんだから、ずっと大事にしなきゃダメ、だよ!」
「ふふっ、ありがと」

久美が身体を洗い終えたので、雫ちゃんたちと合流しに露天風呂へと向かう。その長く、毛先まで艶やかで枝毛一つない髪はやはり手入れに時間がかかるようだ。それだけのこだわりは捨ててほしくない、どちらかというと凝り性な部分もあった俺としても、そこは貫いてほしいと思った。
いつか彼女をすべて手に入れるのか、あるいは良き友人として過ごしていくのか、どちらにせよ久美の見た目の部分では特に憧れる部分の一つだ。

そう言えば当たり前のように話していたが、一般家庭にある露天風呂とは一体・・・。
規模の大きさに飲み込まれそうになる。その辺は後で双葉さんの記憶を読めばわかりそうだ。


たどり着いた露天風呂は、まさに温泉旅館にあるような大きなものであった。俺も入ったことは
あったが、肌の感覚が敏感な瑠璃子の身体から感じる外の風は寒く、湯はとても気持ちよかった。

「お父様のこだわりでして・・・。実はこの露天風呂、地下から源泉を引っ張って温めたものを使用している、本物の温泉になっております」

妙に身体が温まると思ったら、本当の温泉を仕掛けているとは思わなかった。
瑠璃子の身体、少し胸の部分を開発したせいか若干肩こりを感じるようになっていたのもあったが、果たして効能はあるのだろうか。

「瑠璃子様」
「太刀葉ちゃん。今日は色々とありがとうございます」
「そんな・・・、敬語でなくて構いませんよ。名前も呼び捨てで構いませんわ。
それより、ようやく少し落ち着いてお話できますね」

お風呂で身体を休めていると、太刀葉ちゃんが近づいてきた。ちなみに久美は雫ちゃんと
話している。すぐに打ち解ける様はやっぱり久美の魅力であり、強さなのだろう。

(さて・・・、何から話してみようか)

いくつか聞きたい事があるのだが、その中でも一番当たり障りのなく、『瑠璃子』としても気になる事を聞くことにしてみた。

「いきなりなんだけど、太刀葉ちゃんと久美との出会いってどんな感じだったの?」
「そのお話ですか!? やはり瑠璃子様も気にされていますか?」

おぉ…っ、いきなりぐいっとやってきたな。

「う、うん。簡単な話は久美から聞いたけど、やっぱり太刀葉ちゃんの方からも聞いてみたいなって…」
「勿論です、お話しますわ! あれは一年ほど前のお話でした…」

太刀葉ちゃんが語るには、彼女は所謂「箱入り娘」で、日々学校とお稽古に明け暮れて、あまり外に出る事も無かったのだという。
テレビを見る事もなく、学友と話すことと言えば家のステータスやら昨日何を教えてもらったのやら、といった見栄の張り合いばかりで、そこに不満を覚えていたのだとか。
なにか学友たちの度肝を抜くようなことを話してみたい、お屋敷の外に出てみたい、という考えもあったらしい。

「お屋敷の外に、興味があったんだ?」
「メイドの皆さんが話していることを聞くこともありまして…。それで、お屋敷の外はどんなものなのだろう、という憧れが募っていきました」
「それで、双葉さんと一緒に抜け出してみたと…」

「双葉さん」の記憶では、太刀葉ちゃんを先導しお屋敷を抜け出す記憶があった。

「それで街に出たのですが…、何分初めてで右も左も分からず、その内に双葉とはぐれてしまったのです…」

初めての街、初めての場所、そして心を許せる存在とはぐれた事。
それらの状況は、太刀葉ちゃんを不安に思わせるには十分に過ぎただろう。

「どんな人に助けを求めればいいのかも分からなかった時ですわ、久美お姉様が声をかけてくださったのは」

なるほど、確かに世間知らずのお嬢様がその状況で助けてもらえれば、憧れを抱くのには申し分ないだろう。
そしてあることにふと気づいたので、聞いてみることにした。

「太刀葉ちゃんは、携帯とか持ってなかったの? そこに双葉さんの連絡先があれば、すぐに連絡できたと思うんだけど…」
「…お恥ずかしい事に、当時はまだ携帯電話を持っていなかったのです。今は持たせてもらっていますが、双葉と連絡が取れることのありがたみを実感していますわ」
「なるほど…」

その後、久美と一緒に双葉さんを探していると、双葉さんも太刀葉ちゃんを探していた為、偶然見つける事ができたのだという。
双葉さんの方はと言えば、もし太刀葉ちゃんの身に何かあったら、という焦燥感から、警察に頼る事もなく一人であちらこちらを探し回っていたのだ。
…落ち着いている双葉さんをこれだけ焦らせるのだから、それだけ太刀葉ちゃんの事を大事に思っているのだなと実感した。

「…ただ、少し悩み事があったりしますわ」
「悩み事?それって、私に言っても大丈夫なの?」
「えぇ、久美お姉さまや雫ちゃんにも言えない物ですから」

突然の相談事に少し驚く俺はこんな姿とかあったんだなぁと楽観視していた、悩みの内容は恐らく恋愛の事に関してかなと思考していたのだけど。

「実は、わたくしの学校である友人が苛めを受けておりまして…それを救いたいのです」
「い、苛め…?友人を助けたいのなら、雫ちゃんに…」
「それは駄目なんです、彼女に逆らえばわたくしの会社に影響があって。久美お姉さまや雫ちゃんに相談したら、絶対に無茶しそうで…この事は双葉にも相談しておりません」

突然のリアルな状況に思わず思考が固まってしまう、なぜこの事を告げるのか?問いかけようとしたが。

「彼女の名前は西園寺舞子、聞き覚えはございませんか?」
「…西園寺グループの…あー、私のクラスメイトに確かに居るよ。」

西園寺グループ、世間では有名な企業でほとんどの事業に成功を納めていると聞いている。俺が生きていた頃には愚民と扱わされて、気に入った人物には大金とか渡したりしていたな。特にイケメンにお金を渡してパシりとかしていたっけ。まさか、太刀葉ちゃんや雫ちゃんの学校と大きく関係があるとは…。

「西園寺舞子は姉の名前で、妹の名前は何かな?聞いたことがないけど」
「幸子(さちこ)ですわ、彼女はグループ集団で動いていて。わたくしの友人をパシりにするのがどうしても許せなくて。もし、西園寺さんについて知っているのでしたら。教えてもらいたいなと…」
「うーん、彼女とは挨拶するくらいにしか認識していないし。仲良くしていないかな、ごめんね。西園寺さんと仲良しなら止めて欲しいと思ったのかな?」
「は、はい。久美お姉様はわたくしの前で舞子さんと縁を切ったとか言って。怖くてその…」

これはまたとんでもない悩みを聞いたな、西園寺グループか。もし、逆らえば権力で潰すとか悪のイメージしかない。

「…ありがとう、何も協力することが出来なくて」
「いえ、此方こそ申し訳ない御座いません。関係ないお話をしてしまって」

太刀葉ちゃんはお辞儀をしたあと、この場を離れる。苛められている人を助けたいか。本来なら面倒なことは無視しても良いけど。

「…今後どうするのかは、後で決めるとしようかな」

俺は独り言を呟いた後、湯船に浸かって。自分の胸を揉んだりなど女体の快楽を少しだけ味わうことにした。

お風呂から上がり、用意してくれた下着や寝間着に着替え、それからまた少し話し合って、そろそろ眠る時間になってきた。
各自に割り当てられた部屋に戻って眠ろうとした時、扉がノックされたことに気付く。
こちらの返事も待たずに扉が開かれると、そこには俺達同様寝間着姿の双葉さんが立っていた。

「旭様、まだお眠りになっておられませんか?」
「双葉さん。今から眠ろうとしていたけど、どうしたの?」
「いえ、その…。旭様とまた一つになりたいと思ったので、こうしてお邪魔したのですが…、ご迷惑だったでしょうか?」

綺麗な顔を赤らめながら、もじもじと告げてくる双葉さん。彼女のこんな顔を見るのは当然のことながら初めてだ。雫ちゃんの記憶の中にも、こんな表情は無い。

「うぅん、そんな事は無いよ。…おいで、双葉さん。一つになろう?」
「あぁ…! お願いいたします!」

悦びの笑顔で双葉さんは服を脱ぎ捨て全裸になると、俺も同様に裸になる。
そのまま抱き合うと、ずぶずぶと俺の体の中に双葉さんが潜り込んでく。あぁ、分離しての再融合ってのはこんな感じになるのか。
あの時、少しだけしか感じる事の出来なかった『双葉さん』が再び俺の中に染み渡っていく。

『はぁ…、とても安心します…。旭様と分離させられてから、どうしようもない不安があったのですが…。今はもう感じられません。満たされています…』

喜悦の声を双葉さんが上げると同時に、俺たちの体も変わっていく。
手足が伸びて身長が双葉さんと同じほどに。
胸やお尻も膨らみ、むちむちした肉付きが良い体に。
長い髪の、わずかにウェーブした毛先が銀色に変わると、そこには「瑠璃子と双葉さんの融合体」が立っていた。

『わぁ…、私のおっぱい、こんなに大きい!』
『私の体で喜んでもらえて光栄です、瑠璃子様。どうぞお好きなようにお使いくださいませ』

俺の中には、喜んでいる『瑠璃子』と、メイドとして恭しく傅く『双葉さん』が存在していた。心の内側の声が2人分になったけど、それがまた心地いい。
女の子として愛嬌のある『瑠璃子』、女性的な魅力に富んだ『双葉さん』。その2人を「俺の一部」にできた事に、興奮が止まらない。

「ダメだ、もう我慢できない…!」

大きくなった『双葉さん』の胸を勢いよく掴むと、女性としての掌に収まらないサイズの大きさの乳房を揉みしだく。

『あぁ…っ! そ、そんな、旭様、激しいですぅ…!』

胸を揉まれることに悦んで、『双葉さん』が俺の中で喘ぐ。それを感じて猶の事胸を揉む手が止まらない。
こんなに大きいのにピンク色の乳首は、俺達が興奮していることを証明しているようにピンと立っていた。
それを指先で痛い位に摘まむと、

「『んひぃぃっ!!』」

三つの嬌声が綺麗に重なった。

瑠璃子が欲しがっていた胸は、サイズだけではなく感度も一級品のようだ。
自分で触ってここまで感じてしまうなんて、どれだけ双葉さんの感度は良かったのだろうか。

『あぁっ、双葉さんのおっぱい、こんなに気持ちいいっ! 私、欲しがってよかったぁ!』
『瑠璃子様にもそう言って貰えて、とても嬉しいです…! どうぞ、私の胸を存分にぃっ!』

胸を揉み続けていると、俺の内側で2人が喘いでいる。それが俺の感覚に火を付けて、なおも弄る手を止めようとしなくなっていた。
抱えてもなお余りある胸は、これでもかという程の快感を俺に投げかけてくる。それがどうしよもなく気持ち良くて、部屋中に響く声で叫んでしまう。

「んっはぁ…! おっぱいだけで、こんなに気持ちいいなんてぇ…! それなら、ここはぁ…!」

興奮の止まらぬ手は、これだけで十分以上に濡れていたおまんこに触れる。

「っひぃぃん!」

愛液が指に絡みつき、ぬめりを感じさせると同時に脳が快感を叫ぶ。それに耐えられないとばかりに手を離し、荒い息をどうにか落ち着かせようとする。

(そ、それにしても、感じすぎだ…。双葉さんと融合したことで、感度まで上がってしまったのか…?)
『私もオナニーをしたことはありますが、ここまで感じた事は無いですね…。おそらく旭様の考えてる通りかと』

となれば、今の俺は瑠璃子と双葉さん、2人分の胸の快楽を受け止めているという事だろうか。
それを理解するや否や、手は胸をまさぐり、股間をえぐり始めた。

「はぁぁん! 2人分がこんなに気持ちいいなんて、初めて知ったぁ! どうしよう! おっぱいとおまんこ! どっちも前より気持ちいい! 瑠璃子と融合した時より気持ちいいよぉ!」
『あぁん! ダメぇ! 旭君っ、手が私たちの体をまさぐってぇ、双葉さんにも伝わっちゃうぅ!』
『良いんですっ、教えてください! 融合するのがこんなに気持ち良かったなんて知りませんでしたぁ! 私にもっと、この体にもっとエロいことを刻み付けてぇ!』

洪水のように溢れ出る愛液を床にこぼしながら、おまんこを弄る手は止まらない。
ぶちゅぶちゅと下品な水音が、俺達の喘ぎ声に負けない位に静かだった室内に響いた。

「ダメっ、ダメぇ! 手が止まらない! このままイっちゃ、イっちゃう、うぅぅん!」
『イこう! 私たち一つになったんだから、一緒にイっちゃおう!?』
『イかせてください、私にお慈悲をくださいぃ!』

限界が近づくにつれ、中の2人も叫んでいる。
我慢する事ないとばかりに、ちんこの代わりにクリトリスをぎゅっとにぎると、

「『イくぅぅぅぅぅっ!!』」

まるで射精の代わりと言わんばかりに、盛大に潮を吹いた。

「ごめん、遅くな、っ」

…同時に、雫ちゃんにそれが降りかかってしまった。

「……一つになって快楽を味わうのは良いけど、誰かに目撃されたらどうするの?完全に精神が逝かれて居るとしか見えないけど」
「はぁ…はぁ、ご、ごめんなさい…ごめんなさい…ッ!」
「此処で融合とかしたら、私も快楽に溺れるのが見えるし、とりあえず落ち着いてください。双葉さんも瑠璃子さんも」

雫ちゃんが色々と落ち着いて欲しいと言われたので、身体の火照りが収まるまで時間がかかったが。双葉さんと瑠璃子の融合を解除して俺を含めた4人が集まった。俺の姿は久美に変身していて、完全に女子会の集まりになっている。

「とりあえず、2人分の胸の快楽を受け止めてギリギリと言うことは…私も融合をしたら3人分となる。このまま身体を弄れば耐えられるわけがない、融合するのは極めて危険よ」
「も、申し訳ございません…まさかこの様な事態になるとは…」
「反省しています…双葉さんの胸とか手にいれてあまりの嬉しさに…」
「瑠璃子さんがしっかりしないと駄目じゃない…取り敢えず、今後の方針からみて、旭が融合するのは1人までが制限として。私か瑠璃子さんか双葉さんの誰かと融合してから行動する事。」
「は、はい…確かにそうですね…」

年下に説教される行為に動揺も隠せない俺だが、コクコクと頷く。彼女のようなストッパーが居るだけでもとても心強い。そんな中、瑠璃子は暫くしてからそある提案を告げた。

「…雫ちゃん、旭と融合して貰えないかな?貴女は私よりも頭の回転が早いし。お嬢様学校に侵入する事が出来るでしょう」
「わ、私と融合……た、確かに嬉しいですけど。瑠璃子さんは大丈夫何ですか?彼と離れるのは嫌じゃ…」
「大丈夫、大丈夫。正直に言って、今でも旭は雫ちゃんの知恵が今でも必要と考えているそうだし」
「グッ…!!」

確かに、俺は双葉さんや瑠璃子の記憶を完璧に読んでいるが、臨機応変に対応するのが未だに慣れていないのだ。

「まあ、そういうことなら・・・。私の身体で満足してもらえるかは分からないけど、よろしくお願いね。ご主人様」
「その呼び方は照れるよ・・・。何とかならないの?」
「今の私にとっては貴方は一応絶対の存在なのよ?そこは甘んじて受け取りなさい」

そうなのだ。ブレーン役として場を取り仕切る彼女だが、既に存在も、その肉体も俺と同化してしまっているのだった。
つくづく、あの場で彼女を取り込んだことは正解だった。

「あと、いくつか思いついたことがあるのだけれど、聞いてもらえるかしら?」

一旦話を打ち切った雫ちゃんが、俺に質問を投げかけてくる。もしかすると俺より状況を真剣に考えてくれているかもしれない。

「まず一つ確認したいのだけれど、双葉さんを取り込んだ時、それなりに強烈な頭痛に襲われたと聞いているわ。それは間違いないかしら?」
「う、うん・・・。随分と鋭い痛みだった」

実際、あの時は割れんばかりの痛みだったのは覚えている。双葉さんという「大人」の女性、その彼女の人生の中で記録されたすべてを受け止めた代償だと思われる痛みは忘れられない。

「それを踏まえてさらに質問するわね。私と融合したときはどうだったかしら?」
「それは・・・、うん。言われてみれば痛くなかった」
「そうでしょうね。私も別に辛いとか、身体がおかしいと思ったことはないわ。
何というか、いつもの私の心の中に貴方が入ってきた、そんな感覚かしら」

言われてみると、雫ちゃんと融合したときはそれに比べて負担は遥かに軽かったような気がする。

「これは仮説になるのだけれど、もしかするとまだ何人か、あるいはもっと融合出来るかもしれないわ」
「そ、それはどういうことですか?」

瑠璃子が乗り気になって尋ねてきた。思えば俺に比べて融合に前向きだった。
何となく見当は付いているが、彼女自身、まだ誰かを融合してみたいのかもしれない。

「私は見ての通り、まだまだこんな子供よ。人生経験も乏しいし、出来ることだって限られているわ。
ただ、双葉さんは違うわ。大人として、メイドとして、私より多くの経験もスキルも持っている。もちろん記憶だってそう。太刀葉の小さい頃からずっと育ててきたんだから。
だからこそ・・・脳に容量がある誰かを吸収していけば、恐らくまだまだ伸びしろはあると思うの」

その仮説はあまりに唐突で、あまりに魅力的だった。

「ただし、融合できるとしても10代なら可能と言うことよ。双葉さんのような30代から40代は駄目、若い人なら二人が限度でしょうね。あくまで可能性だけどね。それと今も彼処とか生やしているけど、絶対にしないように封印しておくから」
「………わかりました、はい」

威圧感がある雫ちゃんの提案に頷くしか無かった俺だが、こればかりは仕方がないと認識しておこう。幾つか確認を終えたあとは早速雫ちゃんと融合することにする。既に俺は瑠璃子や双葉さんに変身出来るが、今後は彼女の知恵が必須だと考えていた。彼女の頭の回転や閃きなど、臨機応変にテキパキしてくれるのが幸いだからだ。

そして俺達は瑠璃子たちと別れ、雫ちゃんの部屋に戻ってきていた。分離していた間の情報交換をしていると、雫ちゃんは溜息をついた。

『…なるほど、最近太刀葉の様子がどうにも変だと思っていたら、西園寺の事で悩んでいたのね』
「そうなんだよ。彼女の事は俺も知ってたけど、まさか太刀葉ちゃんにも関係してたなんて思わなくって…」
『しょうがないわね、太刀葉も。一人で抱え込んじゃうなんて』

友人の自分に相談してくれない事実に、少しばかり悔しいような表情をしている雫ちゃんだが、すぐに思考を切り替える。彼女の頭の速さはこんな所でも発揮されているようだ。

『それで、旭、どちらからやるの?』
「やるって…、え?」
『姉と妹、どちらからお仕置きするのかって話よ』

なるほど、太刀葉ちゃんの考えがちょっとわかった。雫ちゃんは普段はクールだけど、こうと決めたら梃子でも動かせないような位頑固になるんだな。
真っ先にお仕置きという単語が出てくる辺り、太刀葉ちゃんはその辺を危惧していたのかもしれない。

『…正直な事を言うと、私だけじゃ西園寺相手にどうにかすることも難しかったわ。でも今の旭と融合した状態なら、色々できるんじゃないかと思ってね』

なるほど、雫ちゃんも西園寺の行動には腹を立てていた訳だ。となると…、

『姉の舞子なら、瑠璃子さんの姿を使えば接触はできるでしょうし、妹の幸子は私の姿を使えばどうにかできる』

『問題は連中の取り巻きの方だけど…、それぞれ一人になることはほとんど無いのよ。そこが難点ね』
「ちなみに、具体的にはどんな事を考えてたりするの?」
『今の私たちは一つになってるんだから、言わなくてもわかるくせに』

少しからかうように笑ってくる雫ちゃんにドキっとしながら、彼女の考えを読んでみる。
…なるほど。俺の変身能力を使って2人に変身して、醜聞を広めさせる。または青い紐を使って相手の精神状態を探ったり、俺が青い紐を使って2人に侵入し、弱みを握る事もできる。
他にもいくつかの考えが雫ちゃんの中には出てきているようだった。

『だけど、正直融合はナシにしたいわね。あんなのと交じり合うなんて御免だわ』
「そっか…。いざという時には融合しようと思ってたけど、それはナシか…」
『もし西園寺と融合したら、私は旭と二度と融合しないからね?』

それは痛い。俺の一部になったとはいえ、一目惚れした雫ちゃんに見限られるのは正直勘弁願いたい所だ。

『…で、旭。具体的に詰めましょう。どちらから、どんな方法でやっていくのかしら?』

あ、話が早い。そしてさっさと進めようとしている。クールな上に頭も早くて行動力も高いなんて、久美とは別ベクトルで格好いい…。

どちらから行くか。
A:舞子(姉)
>B:幸子(妹)

「妹からやった方が良い、理由は妹が何かしらの影響を受けたとき。姉はどんな行動をするのか把握することが出来るからだけど…」
『充分過ぎる解答ね、確かに妹をやった方が出方を見るのに効率的だけど。一つだけ問題があるわ、瑠璃子さんと双葉さんに変身すると私の服はどうなるのかしら?考える必要はないわよね』

その事に俺は頷いた、変身するのは肉体の方だ。そのまま思考停止に変身してしまえば、今着ている服の状態がどうなるのか…。別人に成り済ますのであれば、雫ちゃんの身体を色々と改造するのも一つの手だが、男性や女性などの視線が注目することに違いないだろう。それほど雫ちゃんの美しい容貌は魅力的な存在なのだから。

「…参ったな、そこを解決する方法があるとしたら。別の服装を用意するべきか?若しくはリバーシブル服とか」

『その辺りはあとで考えましょうか、変身出来るだけでも充分すぎるから。』

雫ちゃんの言う通りかもしれないな、一先ず。お嬢様学校に侵入すると言うことが確定になった以上。これからは雫ちゃんの生活で過ごすことになる。

改めて雫ちゃんの体に変身して、柔らかすぎる布団に身を横たえる。

俺としては違和感抜群なのに、双葉さんの記憶や、雫ちゃんとしての感覚では「これが普通」なのだから、なおさら不思議な感覚になってくる。
…さて、西園寺姉妹への攻撃手段は、どんなものにするべきか。
そんな考えと、一目惚れした雫ちゃんと融合した喜びを噛みしめながら、俺は眠りにつくのだった。

『…旭が眠ったそうね。取り敢えず今後の方針に関して整理をして見るけど。私の学校に向かう以上、旭の精神はまず耐えられないわね』

一人になった私は現状の事について整理する、可愛い女の子を見るだけで興奮しする以上、男性器を生やしたいと言う衝動に陥る可能性が高い。生やす場合は、二人っきりか誰かを攻めるために使うべきと推理していた。
基本的にこれがあると無いだけで大きく違う。女である私にとっては喜ばしい事だけど、寧ろ無い方が精々する。

『旭の思考が少し影響しているわね、女の子の身体になれば性的興奮してもばれないだなんて…まぁ、触らなければセーフだけど。その辺りは何とでもなるでしょう。』

取り敢えず生やす行為だけは何がなんでも阻止すると決意することにした。次は私の人格になりきってボロが出ないようにすることだ。感情的になると言うことは滅多に無いが、旭ならドジる可能性がある。寧ろ中身がばれていないか恐怖を感じる部分があるけど。

『これもまた課題の一つね、中身がばれないと言うことは無いでしょうけど。私が近付いたのは違和感と言うのがあったからが理由でしょうし、そうならないようにしておくとして』

次々と今後のために幾つか計画を立てているとある一つの結論に辿り着いた。

『もう一人共犯者が欲しいところね、融合する必要があるとしたら彼女かしら、私が言うのも何だけど。私と同じ美しい容貌で普段は無口の彼女。テストでは私と同じトップクラスの頭脳を持つ彼女なら………でも、一度も話しかけたことが無いのよね。コミュニケーションはあまりしていないし。』

やはり、共犯者がもう一人欲しいと言うのが現状。此方がドジした場合にサポートをしてくれるもう一人の相棒が。ブレーン役である私だけど、経験不足がある以上。双葉さんや瑠璃子さんの知識でも足りない。それを補助してくれる人材がこの学校に存在するのだ。

『……責任重大ね、取り敢えず。旭に幾つか制限を付け加えておきましょうか。破らないように幾つか仕込まないと』

幾つか施した私は旭が勝手に寝ている間に身体を動かしてチェックをする。どんなことがあっても変身が解かないように幾つかデモンストレーションをしたり、中身が異物だと看破されないように施す。

『……これで、良し。少し疲れてしまったけど…眠ろうかしら…』

頭脳を使った私はそのまま睡眠を取ることにした。きっと、旭は驚くでしょう。どんなことなのかはあとで説明するけど、勝手に彼処が生えないようにしただけでも良しとしましょう。

翌朝、ゆっくりと目を開けると目の前に二つの膨らみがあった。思わずそれを触れると柔らかい、彼処を触れると相棒の存在が無いのだが。

「…ふぅ、変身は解けていないみたいね」

思わず素で喋ってしまい、元の姿に戻っていない事に一安心するがこれが自分なんだと自覚したのは良いが……ん?

「ちょっと待って、いま、私…私…???」

俺と言っているのに私へと変換されている、まるで俺の言葉が雫ちゃんが喋ったみたいに……俺の相棒を出そうとするがその感覚は全く感じられない。最初からそんな物は無いと事実を付けられてしまう物の。何故このような違和感をしてしまったのか、理解してしまう。

「…眠っている間に私が色々と改造してくれたのね、中身がばれないようにするとは言え。融合しているからなりきることが出来るけど、急な出来事やトラブルが発生した場合でも対処できるようにしたってことかしら」

自分で喋っているが、恐らくこの推理は正しいものだろうと理解した。此処までやってくれなくても良いと思うが、これもまた一つの方法だろう。

「しかも、気に入らないのなら。元の口調に戻すようにしているみたいだな」

雫ちゃんになりきらないで素の自分を想像すると元の自分に戻ったと自覚できる。

時刻を見ると午前6時か、そのまますぐに二度寝とかして眠っても良いかもしれないが。朝風呂に入るのもありかもしれないと思考する。雫ちゃんの身体を改めて見ていないというのもあるし、この機会に折角手に入れた彼女の全てを知りたくなる。

「そうと決まれば、行動開始だな」

起床した俺はすぐに雫ちゃんへと意識を切り替えて素早く身支度を済ませる。女は色々とお肌のケアとかしないと行けないが、融合した俺は変身能力が備わっている以上。メイクとかせずにスベスベの肌へと変換できるのが大きなメリットだ。生理とかも発生しないのもあるが……これは余計な事かもしれないな。

部屋から出るとメイドが此方に気付いてくれて、お風呂場へ行くと告げると案内してくれた。そんな必要は無いと思ったのだが、折角のご好意に甘えることにして、無事にたどり着くことが出来た。身に付けていた衣服を脱いで、圧巻と言わんばかりの光景に目を奪われるお風呂に入いると、お湯などは既に用意されているみたいだな。

『……おはよう、少し寒気がしたから意識を取り戻すとお風呂に来ているなんて。』

「えぇ、取り敢えず気分転換にってことで。それと、昨日は調整してくれてありがとう。」

『あら、この様子だと無事に成功したみたいね。ボロが出ないように色々と注意しないといけないけど。』

雫ちゃんが無事に起きたことも確認した俺は早速身体を洗うことにする、自分の身体を見て興奮はしないのだが。雫ちゃんは自分の身体等は既に何度も見ているから平常心であることは解る。何時も通りに洗顔に必要な物も念入りにお肌などを洗っていくと。

『…久美さんがお風呂に入るみたい、早起きをしてジョギングをした後と言った所よ。』

『成る程、良い機会だし。雫ちゃんになりきって幾つか情報を得た方が良さそうだな。青い紐とかは入っているから、どんなことを考えているのか把握できるしな』

雫ちゃんと相談していると、ガラガラと音が響き。そちらの方へ振り向くと久美が此方に気付いてくれて手を振ってくれた。

「あら雫。あなたも朝風呂かしら」
「ええ、朝起きたら結構汗をかいていてね。久美さんはジョギングかしら」
「そんなところよ。太刀葉の家のそばもなかなか走りがいがあっていいわね」

瑠璃子を通じて見慣れているはずの久美が、妙に大人っぽく、憧れた目線で見える。その鍛えられた美しい身体に、胸につく巨大な双丘、クールな眼差し、どれもがうらやましい。

『・・・、まあ分かると思うけど、久美さんは私にとっても憧れよ。クールでカッコいいし、あの分け隔てのなさ、私も見習いたいところね』

やはり、融合した先の精神にそれなりに影響を受けるようだ。俺にとっては瑠璃子の身体以外で過ごすのは初めてだ。
色々な人の視線で生活を眺め、魅力的な女の子を物色するのも悪くはないかもしれない。

『ちょっと、今は西園寺グループを叩きのめすのが先でしょ。そこは我慢してほしいわね』

雫ちゃんに釘を刺される。暴走しがちな俺にとっては大事なブレーキ役といえよう。ただそれより、伝わってくるのは怒りの感情であった。

『私の大切な太刀葉を貶めた罪・・・、絶対に許さないわ。必ず破綻させてやるんだから』

・・・、どうやら西園寺グループのご令嬢たちは、とんでもない人を敵に回したようだ。

「どうかしたの?顔が怖いわよ?何か悩みでもある?」
「え・・・、あ、ごめんなさい。ちょっと今朝変な夢を見たから・・・」
「それならいいんだが・・・。何かあるんだったら何でも言うといいわ。力になるから」

久美の凄いところはこういうところだ。様子がおかしいと思えばすぐにでも声をかけ、解決に力を貸そうとしてくれる。
瑠璃子の時から思っていたが、色んな人と顔が利くのもこういったところ、そして彼女の誠実な性格から関係を作り出してしまうのだろう。

『ごめんなさい。手間をかけさせたわね。でも・・・、ある意味チャンスかしら』
(いいよ。怒りは伝わってきたし。でも久美に当てるのは違うと思うけど)
『それはその通りね。でも、彼女の人となり、少しだけ使わせてもらいたいのだけれど、いいわよね?』
(まさか、久美を歪めるつもり?)

それは少し遠慮してほしかった。久美はいずれ取り込んで、私の一部にしたいという野望は
ないわけでもないが、それでも西園寺との戦いにいたずらに巻き込むのは正直反対だった。

『歪めはしないわ。その心を、少し向ける相手を変えるだけだから。とりあえず、彼女に紐を差し込んでもらっていいかしら』

久美は髪を洗っている。こちらを全く見ていないうちに彼女に向って紐を投げる。スーッと彼女の首から体内へと入っていく。そして彼女の心の内が理解できるようになっていた。

「そう言えば、瑠璃子さんが色々と心配したいたわよ?最近、元気とか無いみたいだけど」
「えっ!?そ、そうなの?昨日はそんな様子は見られなかったけど…」
『(そう言えば、最近瑠璃子はあまり元気とか無かったかな。買い物とか連れていったりしていたけど、心のケアとかするために太刀葉ちゃんの家に泊まらせたけど…今日は色々とフォローした方が良さそうね)』

久美の思考が変更されたことを確認すると納得してしまう。そう言えば、昨日遊びに行く約束とかしたのは元気付ける為と理解した。レディースデーだったから、男性の視点とかも気にしていたし。これは上手い使い方だな。

『因みに私は男性の視点とか嫌いよ、芸能界とか幾つもスカウトとかお話が来るけど。お金とかは幾らでもあるし、表舞台に立つ必要は無い。太刀葉を守れるのならそれで良い…勿論、旭も居ないと駄目な身体になってしまったけど。責任は取って貰うから』

(責任って・・・)
『あら、これでも一応私も女の子なんだからね?これはこれで楽しそうな人生かなと思っているし、太刀葉を守る力をくれたことは感謝しているけど、それでも私は貴方に、文字通りすべてを捧げることになったのだから、私のやりたいことはキッチリとやってもらうし、手伝ってもらう』

改めて、この子の自我の強さに舌を巻く。俺という存在が入り込んだ何かになったのにも関わらず、彼女自身の自我というか、魂は揺らぐことなくその身体の中に存在し続けている。
瑠璃子の魂や双葉さんでさえ俺の影響を多分に受けた存在になった事を考えれば、大したものであった。

『まあ、貴方がやりたいと思うことには協力するつもりだし、西園寺でさえなければ取り込むのもやぶさかではないと思うから、そこは好きにやりなさい。
久美さんと融合するなら私も面白いと思うし。ただし、貴方という自我の崩壊は、私にも何かを及ぼす可能性も大きいわ。
私は「私」でいたいから、あまりに度が過ぎるようなら止めさせてもらうつもりよ。そこは覚えておいて』

ただし、その心の中にある忠誠心というか、そう言ったものはしっかりと存在していた。あくまで忠実な協力者でいてくれるようだ。
軍師のような存在と呼べる彼女の存在は実に頼もしい。

『そう言えば久美さんって、交友関係がかなり広いのよね』
(うん、俺でも把握しきれないくらいには広かった)
『そう・・・。今なら私たちしかいない、か。なら、少しだけ話を聞かせてもらおうかしら』

そういうと、雫ちゃんは俺から身体のコントロールを奪い、自分で行動を開始した。

「ねえ久美さん。実は・・・、その・・・。折り入って相談があるの。聞いてもらえるかしら?」
「ん?どうしたのそんな思い悩んだ表情をして。私で出来ることがあれば相談してくれ」
(しっかりした子って感じだったけど、やっぱり年頃なのね。私に何か出来ることがあればいいけれど・・・)

本心から相談に乗ろうとしてくれるあたり、やっぱり久美の人柄は天性のものだと確信する。
仮面ではない、芯から優れた人格を持つ彼女だからこそ、こうして交友関係がどんどん広がっていくのだろう。

「ふふっ、ありがとう。ここはお風呂場だから、『何も隠し事をせず、包み隠さず話してほしいわ』。
私もそのつもりだから。」
「あ、ああ。そうだな。うん、ここは腹を割って話そうか。その方がいいのだろう?」
(ん・・・?なんだ・・・、ま、まあ彼女なら大丈夫か。オブラートに包まず、すべてを話すとしよう)
「ふふっ、ありがとう」

雫ちゃんは久美に入り込んだ青い紐を使って、彼女からのストレートな感情を吐露させるように誘導したようだ。
これで久美は、こちらの質問に何でも、包み隠さず話してくれるみたいだ。巧みな誘導に惚れ惚れする。それと同時に、身体のコントロールが戻る。

『取りあえずここまでね。取りあえず質問してみなさい。何でもいいわ』
「え?えっと・・・、じゃあ、胸のサイズは?」
「91のFカップだ」

女同士というのもあるかもしれないが、思わず聞いてみたデリケートな質問を、顔色一つ回答してきた様子を見て、どうやら本物だと察した。って痛い!痛い!

『旭・・・。そんなことに使うために彼女に協力してもらっているわけじゃないわ』
(ごめん!ごめんって!つい・・・)

雫ちゃんからの何らかの攻撃で頭が痛かったが、すぐに収まった。

「久美教えて。あの・・・」

>1.西園寺(姉)について(交友関係など)
2.西園寺(妹)について(交友関係など)
3.西園寺について(何か言えない秘密など)
4.その他

「西園寺姉妹の、姉の方について少し聞きたいの」
「姉の方…、舞子か。彼女がどうかしたのか?」
(…どうにも聞きづらそうにしていたが、やはり彼女の事か。太刀葉からも話を聞いていたが、やはり目に余るものがあるな…)

表向きは平然としているのだが、内側は渋面をしている。隠し事をしないようにとはお願いされたが、それでもすべてを出すことには抵抗があるのだろう。

「えぇ。最近太刀葉の様子がおかしくって、気にしてたの。…多分相談できないだけだとは思ってるんだけど、十中八九彼女の事かなって」
「だろうな、私も一度太刀葉から相談されたよ。…縁を切ったつもりではあったが、それだけでは終わってなかったか」
「こういうのも何だけど、久美さんが西園寺の姉と縁を切っても、それだけだからね。根本的にあの姉妹の事をどうにかしないと、問題は解決しないと思って」
(それは確かに…。太刀葉の方も問題を抱えているなら、それだけで済むはずもないか…)

太刀葉ちゃんから聞いた通り、久美は舞子の方と縁を切っていたらしいが、逆に言えばそれだけだ。
太刀葉ちゃんの問題は変わらないし、たった一人愚民から縁を切られたというだけであの高飛車女が堪(こた)える筈も無いだろう。

ふと顔を上げて、久美が質問をして来た。

「しかし何故雫がそのことを? まさか西園寺がそちらの方にも何か悪さをして来たのか?」
「いいえ、こちらはまだ。単純に太刀葉の事から気になっただけよ。…妹の事は多少分かるけど、姉の方は調べようがないからね」
「それは…、確かにそうだな。…だが西園寺の事で分からないのは、なぜ彼女が私たちのような普通の学校に通っているかなんだ。社会的地位も財もある筈なのに、相応の学校に通わないことが不思議でな…」

それは確かに考えていた。
俺も何度か「愚民」と罵られた事もあるし、正直腹も立ったが、西園寺は目をつけたイケメンを金の力とか社会的地位の力で侍らせたりしていることの方が多い。その事はしっかり覚えてる。
なにせ転校してきた初日に、全校集会と称して彼女のお眼鏡にかなう男子生徒の検分をやったのだから。

『ま、愚民ならこんなものでしょうね』

とか言われた事は覚えている。

『…多分だけど、“自分が絶対上位に立てる場所”が欲しかったのかもしれないわね。姉妹揃ってプライドだけは冗談みたいに高いから。
子供じみた話だけど、正直精神性が子供なのよね、西園寺は』

と、雫ちゃんの思考が俺の疑問にある種の答えをくれた。
それを考えれば、なるほど確かに。と納得する部分も出てきた。

それをそのまま久美に伝えると、

「そうか…、だから西園寺はうちの学校にやってきたのか。自分が優越感に浸る為だけに」
(許せないな…。その為だけに私の友達を平然と侮辱したり、人を奴隷のようにこき使っているのか…)

ふつふつと湧き上がってきていたのは、怒りの感情だった。交友関係が広く義理堅い久美からすれば、それだけの為に自分たちの場を荒らす西園寺の事を許せなく思うだろう。
…だからこそ、太刀葉ちゃんは抱え込んでいたのかもしれない。
久美も雫ちゃんも、この話を聞けば行動に絶対移すと考えていたから。

「…それでね、正直な事を言うのだけど、私は西園寺に反撃しようと思ってるの。手伝って貰いたいのだけれど…、良いかしら」
「それは勿論だ。私ができる事ならなんでもするつもりだ」
「ありがとう、久美さん」

心の声も言葉に出したものと一切ブレが無い。久美はこの事でしっかりと協力する意思を見せてくれていた。
雫ちゃんの身では協力者という形で久美との関係ができた訳だが、ここからどうするか。

常時取り巻きに囲まれている西園寺へ、どうやって取り入るか。
そしてどんな手段で彼女へ報復するか。

まだ問題は山積みだけど、一歩ずつ進めていかなきゃならない。

「さて、と。今日は私と瑠璃子は帰宅する、連絡先は教えたはずだが何か出来ることがあればLINEや通話などで連絡してくれ。くれぐれも太刀葉や瑠璃子にこの事は内密でな?」
「えぇ、勿論よ」

一通り、久美との協力を得た後。彼女は身体を洗いに此方から離れていき。気が付けば主導権は返されていた、雫ちゃんが自らやってくれるのは嬉しいが。
俺の手動でやったら中身がばれるリスクがあるからかもしれない。

『正直に言って、旭が何も対策せずに接したりすれば自然と彼処が生えていたと断言出来るわ。
綺麗な女の子を見て欲求を満たすと言う行為は男の子の思考としては正常だから問題ないけど。
女の子の身体だからばれないと言う軽率な思考は危険よ。今は中身がばれたくないという恐怖を感じているけど。
…この際伝えておくわ。どんなことをされても”貴方の変身は解除されない”。性的興奮しても突然彼処は生えないし、その為に幾つも保険をかけた。
だから、恐れないで』

雫ちゃんが此処までサポートしてくれるのは喜ばしい事だ、確かに中身がばれたら一巻の終わりと思考している。その為に雫ちゃんの人格を借りて完璧になりきっているが。此処まで言うのなら信用するしかないだろう。

『ただ、個人的にもう一つだけ足りないものがあるの。貴方には負担があるかもしれないけど、私達が通う学校で無口の女の子が居るの。
彼女の名前は姫野咲と言って、私と同じく注目を浴びる存在。私と同じ芸能界とかスカウトされて、色々と困っているけど。コミュ障なのよ』

姫野咲ちゃんか、雫ちゃんの記憶からどんな人物なのか読み取ったが……何これ?二人目の雫ちゃん…いや、めちゃくちゃ可愛いと言うか、えっ?えっ!?

『驚いた?貴女は私のことを一目惚れとかして融合したわよね、彼女もそうじゃないかしら』

(……この学校で雫ちゃんが注目を浴びていると思ったけど、咲ちゃんも?)

『えぇ、コミュニケーションさえ良ければ完璧と言ったところよ。自分で考えた案は勇気が出せなくて提案できないのがネックだけど、聞いてみるとしっくり来るのよ。悔しいけど、彼女の方が私より優れている…ブレーン候補として咲と融合した方がこの先問題ないと思っているけど』

成る程、姫野咲ちゃんか…凄く可愛いけど。一応、頭の中に入れておこう。彼女はどんな人物なのか雫ちゃんと仲良しなら大丈夫はずだ。

『その、本当に申し訳無いけど。太刀葉から色々と聞いて得た情報なのよ、一度も話した事がなくて』
(えっ、そ、そうなの?)

これは意外だな、太刀葉ちゃんから色々と聞いた情報とは…

『えぇ、試しに私が出した提案があるのだけど、太刀葉がこの案を咲に伝えた結果。この様に改善した方が良いとアドバイスをくれてね。とても良かったから、私が話しかけようとすると顔が真っ赤になって、逃げるのよ』
(顔が真っ赤になって逃げるだって?もしかして、好きな人を見て恥ずかしくなったとか)
『そうなのかしら?同姓が好きになるなんて自覚は無いけど。』

うーん、咲と会った反応も検討するべきかもしれないな。太刀葉ちゃんと仲良しなら太刀葉ちゃんに変身して話しかけるのもありかもしれないな。

『そうだ。私の仮説では問題ないと考えていることがあったのだけど、一つ確かめたいことがあるのよ。太刀葉の部屋に向かってもらえるかしら』
「え、うん。でも、大丈夫なの?」

お風呂から上がり、雫ちゃんが貸してもらっている部屋に戻ろうとしていたところ、その雫ちゃんからお願いされた。何かあるのだろうか。

『大丈夫よ。太刀葉が知らない間に終わるようになっているから』

そういう雫ちゃんの声色は、確信に満ち溢れていた。

「太刀葉?雫よ?起きているかしら?」
「はーい。いま開けますね」

太刀葉の部屋に入るためにノックをする。どうやら彼女と雫ちゃんの暗黙の了解のようだ。しかし、中から聞こえる声は彼女の大切なメイドにして俺の一部となった双葉さんの物だった。

「おはようございます雫様。どうぞお入りください」

その様子は紛れもなく昨日まで見ていたメイド、双葉の物だった。雫ちゃんの記憶と照らし合わせても違和感はない。
その招きに応じ部屋に入り双葉が扉を閉めると、彼女の様子が変わった。

「おはようございますご主人様!お会いしたかったです・・・。やはり一人は心細いですね」
「ちょ・・・、いきなり抱き着くなよ。えっと、双葉は俺が来ることを知っていたのか?」
「ええ、昨晩雫様からご依頼を受けて。準備は整っておりますので、早速どうぞ」

双葉は誰かにバレないように、完全に隔絶された空間を作ってから「俺の一部」としての表情を表す。
自分自身を含めて昨日の痴態が思い出されるが、その辺はやはり百戦錬磨のメイドという事だろう。切り替えの巧みさはさすがと言うところだ。
双葉に促されるままに部屋を進むと、部屋の主、太刀葉がベッドの上でぐっすりと眠っていた。
気持ちよさそうな寝顔は雫ちゃんにとっては見慣れたものなのだろうが、俺にとっては新鮮だ
ってあれ?枕元にあるのは・・・

「これって太刀葉ちゃんのパジャマと下着?」
「ご指示通り、既に服はすべて脱がせてあります」

脳をかち割られるかのような衝撃だった!布団はしっかりと被せてあるのだが、その下には彼女の一糸まとわぬ姿が眠っているというのだ!
危うく興奮して生えそうになるが、それは雫ちゃんが止めてくれた。

『一応そういう趣味のつもりで来たわけじゃないのよ?ただ、確かめるにはどうしても必要だったの。
見本というか、完成品としてだけど』
「えっと、どういうこと・・・?」

『今の太刀葉は薬を飲ませて眠ってもらっているの。元々朝が弱い子だから、寝坊してもいつも通りのことよ』
「効果はあと約1時間ですね。その間は目を覚ましませんが、元に戻す時間を含めると猶予はあと30分くらいを目安にお願いします。
ちなみにメイド印秘伝の薬です。太刀葉様用に身体にもほとんど悪影響がないように開発されたものですので、その点はご心配なく」

何故愛娘のためにそんな薬を開発したのだろうと思ったが、双葉が教えてくれた。

「太刀葉様は雷が大の苦手でして・・・、夜に雷鳴が轟くとそのまま眠れないことも多いのです。
その時は大体決まって私の寝室にいらっしゃるのですが、なかなか寝付けないのが可哀想で・・・。
その事をご主人様に相談したところ、作っていただきました。お越しいただいた時に飲ませるミルクに混ぜたりして飲ませてありますので、太刀葉様もご存じないはずですよ」

双葉の記憶にも記憶されていた。雷鳴の日も彼女の安らかな寝顔をみて暖かい気持ちになれたらしい。
彼女の太刀葉に対する真っすぐな愛情が伝わってくる。

『さて、時間もないからさっそく本題に入るわ。旭の力で太刀葉に変身してもらえる?
ただし、彼女を見ないでイメージだけでやってみてほしいの』
「ええ?なんでまた」
『お願い。変身した後で説明するわ』

雫ちゃんの指示のままに、頭の中で太刀葉ちゃんのイメージを構成し、身体を構成する。
ただし、久美に変身したり瑠璃子のお母さんに変身するのとは明らかに感覚が違った。
その身体が、その骨格が、頭の先からつま先まですべて分かる。まるで自分が取り込んだ
瑠璃子たちのように、具体的なイメージが分かるのだ。それに身を任せて変身すると・・・

「どう・・・、かな・・・?」
「検分させていただきます。ご主人様」

変身を終えた後で、双葉さんが自分の身体をくまなく確認する。顔立ちはもちろん、髪の具合や身体つき、口の中や触れた時の感触やそれこそお尻の穴まで見られた。恥ずかしい・・・。ただし、
彼女の表情は真剣そのもの、趣味やいたずらでやっているものとは全く異なっていた。

「外見は完璧です。恐らく精密検査でもしなければ分からないかと思います」
『やっぱり・・・。間違いないわ。旭。私たちは太刀葉だけなら、完璧に変身できるのよ』
「え、それってどういう・・・」
『少なくとも私は太刀葉とはかなり長い付き合いよ。家にも何度も泊ってるし、それこそお風呂
だって何度も入っている。だから私の記憶の中には自然と、彼女に関する情報が蓄積していたの。
だけど、私だけならここまでは出来ないわ。でも、双葉さんの記憶があるの』

こういうとき、取り込んだ相手と会話をするのは便利だ。念話でも双葉さんには話が通じている。
双葉さんは雫ちゃんの説明を引き継いだ。

「はい、私は双葉様が幼少のみぎりからお仕えしてまいりました。おしめを替えたこともありますし、
日々の衣服の準備や髪のセッティングなど、身の回りのお世話についてはずっと任されております。
だからこそ、私の記憶の中には太刀葉様に関する外見の特徴が、無意識のうちに刻まれておりました。
答え合わせとして、太刀葉様の身体をご覧ください。ご順に説明させていただきます」

そうして布団を剥ぎ、一糸まとわぬ姿が露になった太刀葉ちゃんの身体を使って細かく説明してくれた。

「お口の中をご覧ください。太刀葉様の右奥、下の歯になりますが、実は親知らずが真っすぐ生えておりますので、歯を抜いていないのです。
先ほど口内を検分させていただいた際に、そちらも確認させていただきました」

優しく口をこじ開けながら説明してくれる。可愛らしい太刀葉ちゃんが口を大きく開けさせられている姿は違和感しかない。
他にも顔の特徴、胸やお尻にあるほくろ、果ては陰部の毛の処理まで丁寧な解説を添えてくれた。
正直なところ、全裸にされた太刀葉ちゃんがまるで人形のように扱われている様に、下が生えそうになるのを抑えるので精一杯だった。

雫ちゃんが真剣に聞いてくれていたので情報は入ってきているが、刺激が強すぎる。

「太刀葉様のパジャマをお召しになっていただいてよろしいですか?」

双葉さんが普段太刀葉ちゃんに着付けているように、下着やパジャマを俺に着せてくれた。ほんのりと暖かなぬくもりに言いもしれぬ背徳感を感じるが、我慢だ我慢。

「やはり、身体のサイズについても間違いございません。ご主人様であれば、太刀葉様に完璧に変身できます。
西園寺の家を攻略されると伺いました。もし太刀葉様に変身されて何かを為させるようでしたら、私も全力でサポートいたします」

一番触れる機会の多い双葉さんのお墨付きをもらえたことで、雫ちゃんが自信を深める。どうやら太刀葉ちゃんについては取り込まずに、その姿を使って行動できそうだ。

「さて、早速原状復帰いたしますので、申し訳ございませんが少々お付き合うください」

双葉さんは手際よく俺から服を脱がせ、代わりの服を着せると太刀葉ちゃんの服を着せていく。ものの数分で太刀葉ちゃんは普段の寝姿に戻されていた。
そして俺も姿を雫ちゃんに戻そうとすると、双葉さんがもじもじとしていた。

「それで・・・、ご主人様。不躾なお願いと承知はしているのですが・・・、よろしければ、幼少の頃の太刀葉様に
変身していただくことは可能ですか・・・?」

その双葉さんの様子は、とても可愛らしかった。

「え? そ、それは…、できるのかな?」
『恐らく可能よ。私と双葉さんの記憶でしっかりとできているなら、できる筈。
…敢えて問題を上げるとするなら、私と出会う前の太刀葉の場合は、少し精度が落ちるかもしれないわね』

確かに、今の太刀葉ちゃんへの変身は2人の記憶による相互補完の為だ。それが片方だけになれば確かに難しくなるだろう。

「そこまで昔ではありません。旭様には5歳くらいの太刀葉様に変身していただきたいのです」
『それなら…、うん、問題無いわね。じゃあ旭、行くわよ?』
「う、うん…」

目を閉じ、2人の記憶を頼りに、幼少のころの太刀葉ちゃんの姿をイメージしながら体を変身させていく。
裸のままに身長が縮み、女性らしさを見せていた体はどんどんと凹凸を無くし、下の毛も無くなっていく。
閉じていた目をゆっくり開けてみると、世界が大きくなっていた。俺が縮んだのだから仕方ないだろうが、小さく変身するということ自体が初めてだったため、新鮮な気分だ。
そして双葉さんの方に向き直って聞いてみると…、

「双葉さん、どうかな?」
「あぁ…、太刀葉様…!」

唐突に、感極まった様子の双葉さんにぎゅっと抱きしめられた。大きな胸が体に押し付けられて、ちょっとだけ苦しくも気持ちいい気分になる。

「間違いありません旭様、昔の太刀葉様です…! あぁ、写真で何度も見たのですが、こうしてまた幼いころの太刀葉様を抱っこできるなんて…!」

とても嬉しそうな表情で、双葉さんは俺に抱き着いてくる。
ここまで喜んでくれるだけでこちらとしては嬉しくなってきて、双葉さんの記憶を覗く。
子供のころからずっとお世話をしていた双葉さんは、太刀葉ちゃんに姉でもあり母親でもある感情を抱いていた。
太刀葉ちゃんのご両親は忙しく、実の親とあまり触れ合えていない彼女の寂しさを紛らわすように、親代わりを務めあげていたのだ。

「…双葉おねーちゃん♪」
「はぁぁ…!」

だからこそ、双葉さんが欲しかった言葉が分かる。今では「雇い主とメイド」のように立場がハッキリしてしまったが、またあの時のように、そういうことが分からなかった時の呼び方をしてあげた。
感極まった様な表情をしながら、痛い位に俺を抱きしめてくる双葉さんの背に、俺も手を回す。…自分の手が届かない。

ぎゅーとされたまま頬擦りされたり、子供のように頭を撫でられたりと、しばらく双葉さんのされるがままになっていた所、雫ちゃんが俺達に話しかけてきた。

『…双葉さん、そろそろ太刀葉が目を覚ますんじゃない?』

「はっ! そ、そうでした。…ありがとうございます、旭様。そろそろ雫様の姿に戻って、服をお召しになってください。裸のままでは体が冷えてしまいますし…」

慌てて取り繕って、双葉さんは俺に指示をくれた。確かにその通り。雫ちゃんの姿に戻って服を着直して、何も問題ない状態に戻った。

その後、太刀葉ちゃんを起こしに来たという体で、双葉さんと一緒に太刀葉ちゃんの目覚めを確認。
朝食を済ませた後、「雫」として「瑠璃子」ともLINEを交換した。

『じゃあ瑠璃子、しばらくそっちは頼むな?』
『まかせて、旭君。私の方でも西園寺さんの方はどうにかできないか試してみるから』

『双葉さんも、太刀葉ちゃんの事をよろしくお願いします』
『お任せください、旭様。…何かありましたら、すぐにお申し付けください』

融合した2人に念話で話をした後、俺達は雫ちゃんの家に戻ることにした。
途中まで太刀葉ちゃんの家の車に乗せてもらい、電車で帰るという事には少しビックリしたが。

次は姫野咲ちゃんとの融合と、そして西園寺幸子への報復と行こう。

…ところで雫ちゃん、そろそろ男として辛抱たまらんのですけど。帰ったらしごいちゃダメ?

『ダメよ』

…ですよね。

* * *

これから雫ちゃんの家で過ごすことになった俺だが、現在女性専用車両に乗って移動していた。
男性の視線が嫌いである以上、もしあれば此処に乗ることが多いみたいなんだけど。
とある疑問を浮かべていた。

(そう言えば、雫ちゃん。変身が解除されないとか本当なのか?よく考えてみたら誰かに襲われて何度も性感帯とか弄られたら、絶対に俺達は耐えられずに失念とかありそうだけど)

『あぁ、男性に襲われて拉致されると言う可能性とか考えていたのね。その場合でも絶対に解除されないようにしておいたわ。
私が意識を失ったとしても、貴方の生存本能が発揮されるのは把握しているし。前提として”中身が男の子だとばれたくない”と言うのが未だに恐怖として残っている以上。
変身が解除されないようにしたから……そうね、この際だし試してみましょうか』

(試すって、一体何を?)

色々と考えていると股間が徐々に熱くなり、にょっきと俺の相棒がひょっこりと現れた。ちょ、ちょっと待て!?こればれたら一巻のおしまいじゃないか!?

『席に座っているし、下から覗く人は居ないわ。それに両手はスカートの上から抑えている。取り敢えず今の貴方は可愛い女の子に包まれて彼処が元気に成長しているわね?今も落ち着こうにも落ち着けない』

(そ、そうだけど。仕方がないじゃないか!?女の子しか入れない所を入ることが出来るのは凄く嬉しいし、早く抑えないと)

『えぇ、了解よ。』

雫ちゃんが一言呟くと瞬時に俺の彼処が引っ込み股間が熱い状態が続いていた。女の子で言うと性的興奮したせいで乳首が膨らんで、彼処がみるみると濡れていると言ったところだけど。

『どう?今は貴方の思考に切り替えたから私の身体は性的興奮の状態になっているけど。どんなに弄られても貴方の彼処が生えることは無い。今回はそれを証明するために実行したわ』

雫ちゃんの説明に俺の心臓はドキドキしている、彼処が突然生えるかもしれないと言う恐怖を感じていたが。今回の行動に思わず納得してしまった、今は雫ちゃんになりきっている状態だが徐々に落ち着きを取り戻しているけど。

『とまぁ、こんな感じね。だから安心して、貴方の事は絶対に護るから。』

(未成年が此処まで心強いとは思わなかったな、本当にありがとう。少しは恐怖が無くなったかもしれない)

『どういたしまして、それと。”貴方は男の子の思考を持っているわ。可愛い女の子を見れば性的興奮する”と言うのは貴方の自我が保っている証拠。可愛い女の子を見て性的興奮とかしない場合は女の子の思考へと徐々に変化している事になるから。因みに一つ聞くけど、男の子と性行為とかしたい?』

(いやいやいや、流石に嫌だけど!?確かに興味はあるけど男同士と言うのは…)

『ほら、これが貴方の自我を保っている証拠よ。何人も融合して我を失うかもしれない恐怖があると思うけど、自分自身を強く持って。彼処が生えないようにしているのは”貴方の正体をばらさないようにする為”。二人っきりの時や安全だと確信したら好きにしても良いし。貴方の為でもあるの』

雫ちゃんの説得に俺はその心遣いに思わず涙が流れそうになるが、当然俺の感情を表に出ないようにカバーをしている為。外見から見れば反応は無いが、中身は悲しみへと支配されていた。

(雫ちゃん、本当にありがとう。此処まで考えてくれて)

『別に構わないわ、貴方の思考に切り替えたら表情は崩れてとんでもない事になっているけれど。兎に角、私は貴方の為に尽くすと決めているし。瑠璃子さんや双葉さんもきっと望んでいるから、忘れないで。貴方は一人じゃない、私達が付いている』

(………ごめん、暫く主導権は雫ちゃんに任せても良いか?)

『えぇ、喜んで』

俺は主導権を雫ちゃんに返す、外見は雫ちゃんだが中身を見抜けばぼろぼろの俺が存在する。
俺の一部を与えた以上、絶対に忠誠を誓う以上。思考を歪む行為に対して罪悪感を抱いていたが、この言葉は俺のためと考える以上。言葉を呟くことが出来なかった。

嗚呼、そうか。俺は”仲間”が欲しかったんだ。この様に支えてくれる仲間が。瑠璃子ちゃんと融合してから久美ちゃんと融合しようとしたら、太刀葉ちゃんの家にお泊まり会。双葉さんと雫ちゃんと出会って、西園寺グループを潰そうと行動している。

これが終われば、3人にお礼を言おう。意識を歪んだとは言え、此処までしてくれた彼女達に感謝を。

『私の両親は海外に居るから、住んでいるのは私と姉の二人だけよ。
姉の名前は姫宮葵、芸能界での名前は”アオイ”あの有名アイドルグループで活動しているから、流石に知っているんじゃないかしら?』

(あぁ、知っているよ。有名な曲は”光のボレロ”だったか?)

『その通り、芸能界とか繋がっているとは言え、私の事は公表されていないわ。姉は目立つのが好きで、私とは大違いけどね。お嬢様学校に通っているのは太刀葉の縁もあって、お金に関して問題ないと両親が言ってくれたお陰で日本に留学している形になっているの。今住んでいるのは太刀葉にお願いして何処にでもある普通の家の方が良いとお願いしたから。』

雫ちゃんに、完璧になりきれる以上。必要無い情報だが芸能界と繋がっているのは驚いた。昨日の夕食の時にスカウトが頻繁にあると言っているのはこれが理由だったんだな、美しい容貌でミステリアスなクールビューティーである彼女を手に入れれば間違いなく売れると思っているからだと推測できる。

『それに、彼女も私のせいで被害が遭っているのよ』

(彼女って?誰のことだ)

『……融合候補、”姫野咲”よ。私の名字に”姫”とか付いているじゃない?それが理由でスカウトをしたと太刀葉から聞いたことがあるわ。
私と同じ綺麗な容貌でお人形さんのような物だけど、断ろうとしても断れない事があるから。
学校に居るときに偶然目撃したから、ビシッと私と彼女はスカウトをするなと強く言ったわ。結果的に咲はスカウトとかしなくなったのは良かったけどね。
この出来事の後、咲は私を見る度に顔が赤くなって避けてを何度も繰り返して…』

話を聞いてみると間違いなく咲ちゃんは雫ちゃんの事を惚れている事に違いないと判断した、こんな行為をしてみると咲ちゃんの視点を考えてみれば雫ちゃんの事を意識するのも無理は無い。
更に加えて見れば、雫ちゃんの容貌は”世界中の同性を余さず嫉妬させてしまうような、残酷なまでの美貌を持ってしまっている女性”と言われている以上。同性でも惚れてしまったと解釈出来る。

(学校では雫ちゃんはどんな風に行動しているんだ?記憶を読み取る限りだとクラスメイトとは最低限の事だけしか、やりとりしていないけど…)

『当たり前よ、私にとって護らないといけないのは太刀葉だけ。他人とはこれくらいのやり取りで充分だから、話しかけているのは太刀葉だけね。』

(それで、太刀葉ちゃんの友人が西園寺グループと虐められている光景を目撃したことは?)

『見たことはあるけど、関わっていないわ。因みに虐めを受けているのは初音沙夜(はつねさよ)。太刀葉と同じクラスで、お話した光景は見たことは有るみたい。
彼女とは全く情報が無いから無視とかしていたけど』

(……………あぁ、別クラスだから誰とも仲良くしないせいであんな目で見られているんだな。
雫ちゃんの成績に関して学年で11位~15位の辺りで居るけど、本気を出したら全ての教科は満点で取れるのに敢えて手を抜いているのは?)

『当然、目立ちたくないからよ。1位とか何度も取れば絶対に面倒な事があるし、これくらいの順位なら特に問題無いと判断しての行動よ。
因みに太刀葉から聞いた情報によれば姫野咲も手を抜いて11位~15位の成績に居るとか聞いているわ』

此処まで計算している彼女の頭の回転に自分の立場も計算した上での行動、友人は太刀葉だけで充分だが。
彼女からの紹介だったからこそ、スムーズに話し合うことが出来たと思うと太刀葉の為ならどんなことでもすると言う想いが伝わってくる。

『この学校では女子寮も存在するけど、ホテルで経営しているのよ。ホテルのお部屋は各自の一人一部屋で、私の部屋も用意しているわ。
しかもこのホテルの食事はバイキング、ルームサービスとか無料で寝泊まり出来ると言うおまけ付き、しかも女性にとって嬉しいエステとかお風呂とかも特化して。
お金持ちだけしか入れないのが目に見えていて、これぞまさに税金の無駄遣いと言うべきしらね。
西園寺グループは常にそこで活動しているから、私と太刀葉は自宅での通勤を選んでいるのよ』

雫ちゃんの説明に一般人である俺にとっては何処かのゲームの世界で作った舞台ではないかと疑う位だ。
そこまでお金をかける理由を考えたいところだが、取り敢えず納得するとしよう。

「やぁ、お嬢さん。ちょっとお茶でもしないかい?」

「ねぇねぇ、俺と遊ばない?奢るからさ」

「…………………」

雫ちゃんが通る度にナンパが此方に話しかけてくるが、成る程。男が嫌いなのも頷いてしまう。
ただ、彼女から放つ威圧感や殺気などの影響で話しかけるのはやめようと言う空気がピリピリするし。
綺麗な薔薇には棘があると言ったところだろうか?

「やぁ、お嬢さん。いや、青い紐を受け取ったと言えば解るかな?」

「………ッ!!?」

思わず振り替えると何処にでも居る普通の女性だ、目立つところがあるとしたら。スーツ姿で業務終わりのOLといった印象だが、青い紐ってことは。

『どうやら、何か此方に用があるみたいね。話に応じましょう、きっと唯一の情報が手に入るわ』

雫ちゃんの家に向かう前に、何処でもある喫茶店にその女性と入った。店内は数人ほど居るが二人で話し合えるのに充分すぎるスペースだった。

「さて、色々と順調のようだね?今は三人ほど融合して此処まで正常とは驚きだよ。
此処で接したのはサポートするアイテムを渡すついでに。此方に聞きたいことがあるんじゃないかな」

「えぇ、丁度貴女に聞きたいことがあったの、教えてもらえないかしら?
”今、貴女が販売している物は他の人にも売っているのかしら?”
個人名は伏せても構わない。購入しているかどうか聞けたら良いの」

雫ちゃんが主導権を握らせた状態で、彼女と会話をするこの状況に俺は見守るしかなかった。
確かにこの疑問は最もだ、こんな道具が辺り一面出回っていたら間違いなく男は女に溺れて性的な事しか…いや、他人の人生を奪うことも出来るからだ。その質問に目の前の女性は

「無論、購入はしている者は居るとも。”最もご主人が壊れたら、別の人に売る予定だ”」

「そう、やっぱりそうだったのね。どうやら、貴女が売っているものは現在ご主人様しか使っていないと解釈しても良い?」

「断言しよう、君が壊れるまで他人には決して私が販売している道具は売らない。今までずっとそうしてきたからね」

『ど、どう言うことだ!?ご主人様と言うのは俺で良いとして、壊れたらって言うのは…それって…』

「言葉通りよ、私と双葉さんと融合する前。久美さんと融合しようとしていたでしょう?
意識があったとは言え、ご主人様しと瑠璃子さんは近い内に己の欲求を満たす為に”融合をし続けたはず”よ。
辿り着くのは……もう、想像しなくても解るわよね?詰まらないと思ったら貴女が排除しているんでしょう?」

「………未成年とは言え、いやいや、恐れ入ったよ。流石、『移識の紐(いしきのひも)』の効果をすぐに見抜く、雫ちゃんとやらの頭の回転はかなり速い。
その通り、ご主人様が正常であるうちは力をこうして観察するのも面白いものだ。」

「貴女に色々と確認はしておきたかったのよ、”この道具を使っている人が敵が使用していたら流石に対処出来ないから”。」

「そこは心配しなくても良いよ、この化け物のような力を持つのは君達だけだ。相手が特殊能力を持っていると言うような事は考えなくても良い。これで良いかな?」

「えぇ、しっかりとした返答が聞けて感謝するわ」

雫ちゃんが用を終えると俺へと主導権が帰ってくる、此処まで頭が回るとは俺は全くこの事実に辿り着くのは無かったかもしれない。

「さて、サポートアイテムを渡す時間といこう。お代は結構だが、雫ちゃんはどれが欲しいのかな?」

バックを取り出して此方に見せると、デッサン人形のような、マネキンを小さくしたようなお人形、そして瓶に入った赤い薬の2点だ。

『赤い薬一択ね、これがあればある程度は負担が減らせると思う』

「く、薬だって?人形の方が一番効率が良いかなって思ったんだけど」

『私の直感だけど、今必要なのはこれだと思う。どんな能力に目覚めるのかは解らないのは不安的な要素だけど』

「……ふむ、赤い薬か。本来ならお楽しみと言いたいところだが、特別に教えてあげよう。これを飲むと変身能力にある物が付け加えられるのだが、雫ちゃんなら説明はする必要は無いだろう」

『あぁ、”肉体以外にも装着している服もまとめて変身することが出来るのね”。今の服装は私が普段着ている服装だけど。この薬を飲めば…』

「正解だ、これで一々着替えなくても済むようになったわけだ。ただし、肉体は完璧に変身しようとしても、服も纏めるとなると想像力が必要だが」

「…………有り難く頂きます」

俺は赤い薬を受け取って、この場で飲んだ。身体全体が前よりも馴染んだ感じがしてほんの僅かだが負担が和らいだ感じがする。

「最後はおまけだよ、融合すればするほど自我を失うが。私の気遣いと言う奴だね。君が我を失い、快楽しか考えられない状態に陥るのは個人的に惜しいんだ。これ以上はサポートアイテム等は提供出来ないが、代わりと言ってはなんだがとある情報を与えるとしよう」

情報、俺達が求める物なのか解らないが。彼女のお話を聞くことにした。

「……」

「融合出来るのは”肉体だけとは限らない”。以上だ、この意味をよく考えてみることだ。また機会があれば会おう、次に会うのは西園寺グループの悪事を君達の力で成し遂げた後。その時は……傷つけた人間を皮にできる爪。幽霊になることができる丸薬。他人に寄生する生物になれる腕輪。どれも今この場にある限りの代物を一つ譲ろう、この品物は決して売らない。君達の力をじっくりと見物させて貰うとするよ」

そう言うと女性はゆっくりと立ち上がり、此方に満面な笑みを浮かべ、茶封筒を此方に手渡した、中身を確認すると1万円たが……お代はこれで払えってことか。
西園寺グループの悪事を暴く、か。あの企業が何かしらの不正とかあると言うことかな?
どちらにせよ、幽霊になることができる丸薬、他人に寄生する生物になれる腕輪、傷つけた人間を皮にできる爪。
この貴重な品を譲ると言うのはとんでもないお話だな、融合と変身能力でどれくらいできるのか試すことかもしれない。

『…融合出来るのは”肉体だけとは限らない”、か。とりあえず、今ある物で西園寺グループを攻略しろといっているのなら。その通りにしましょう、あの姉妹を必ず潰しましょう』

雫ちゃんの決意にこれ以上、俺は止めることはできないが。あの女性のオーダーに応えるのもありかもしれない。
どんな障害があったとしても必ず成し遂げて見せる、雫ちゃんの家に向かった後。
明日は雫ちゃんが通うお嬢様学校に通う事になるから、色々と作戦を考えないといけない。
覚悟を決めた俺はお代を支払って、雫ちゃんの家に向かう。これからの行動方針に関して色々と考えないといけないのだから。

『やっと着いたわね、これが私の家よ』
「へぇ、此処が雫ちゃんの家か」

外観は何処にでもある普通の住宅だ、俺の家と全然代わりはない、他に描写するところがあるとしたら車庫が存在する位だが。
車などは存在しないけど、もしかして姉が免許とか持っているのかな?

『えぇ、車の免許とか取っているわ。姉さんは今日帰ってこないと聞いているし、一人になれるのは幸運かしらね。
正直に言えば西園寺グループを潰そうとしている光景を知らせたくないから』

確かにそれは不味いな、今日は一人になった方が効率的だ。
家の鍵を取り出してがチャリとドアを開けると玄関が見えるのだが、清潔感がある雰囲気を漂うつつ、2階へと上がる階段とリビングへ続く扉などがあるが。
家事などするのはとても大変そうだな。

『あら、私はこれでも一人で家事とかしてきたわよ。双葉さんの知識を借りればあっという間に終われると思うけど、とりあえず私の部屋に向かいましょうか。幾つか試したいことがあるから』

幾つか試したいことがあると言えば、変身能力と融合の事を指しているだろう。
姿などは完璧に変身出来ても服も変身となると想像力が大変と聞いているが。

『…まだ、気が付かないの?肉体以外にも融合しても大丈夫なものはあるわ。服も融合とかしてしまえば”変身出来る情報として認識出来るわ”。完全に他人へとなりきれるとは言え。私の制服と下着、ついでに姉さんの下着や服装とか幾つかバリエーションがあるから。どんなときでも他人に変身して逃げる準備はしておきましょ。誰かに目をつけられたとしても』

成る程、肉体以外と言うのは服も融合しても大丈夫と言うことだったのか。ふむふむ、これは良い勉強になれたな。

早速、雫ちゃんのお部屋へと入り込むと甘い女の子の特有の匂いや可愛い猫のぬいぐるみや幾つもあってとても癒される。
クローゼットから下着を取り出して融合したいと認識すれば違和感はあるが、雫ちゃんの身体へと取り込まれる。
解除したいと念じれば分離されるから特に問題はないはずだ。それを繰り返して、雫ちゃんの下着や衣服など服も丸ごと変身できるようになったのは心強い。

葵さんの部屋へと上がり込み、彼女の部屋は幾つかのメイク道具やお肌のケアなどは気にしているのが把握できるが。一番驚いたのは服の数だった。

『これは凄いわね、警官の制服やスーツとか…あぁ、企画で使った衣装が幾つもあるのなら納得かしら。姉さんには感謝しないと』

「芸能界で必要なアイドル衣装とかドラマで使いそうなものとか、変身のバリエーションが広がるな」

『……取り敢えず、取り込んでみましょうか。かなり時間がかかるけどこれもまた西園寺グループを潰すためよ』

早速、一つずつ幾つも服や下着などを取り込んで分離を繰り返して。双葉さんの知識を使って彼女の部屋を掃除した、もし部屋に入ったとしても言い訳は出来ると思いたい。


時間が少しかかったが、現在の時刻は夜の時間帯だ。
漸く葵さんの全ての服装や下着など変身できるようになったはずだ、試しに分離をして上手く変身できるのかどうか試していた。
コピーしたとは言え、幾つも試したいことがあるしな。
衣服を脱ぐことは勿論出来るのだが、一つ注意するところがある。一旦、俺は雫ちゃんと分離をして此方が変身する様子を見ることになったのだが。

「瑠璃子さんと双葉さんに変身しても。変身する人物に合わせてサイズを調整してくれるのはとてもありがたいけど、変身を解除したら服も解除されるのが痛いわね。
衣服を脱ぐことが出来るとは言え……試したいことがあるの。今の旭の状態は全裸の状態から服を着ている瑠璃子さんに変身している」

「それで、試したいことって?」

「このまま衣服を脱いで再び全裸の状態になった後に、もう一度私の姿へ変身して貰っても良いかしら?」

「あっ、ああ……」

雫ちゃんの指示に従い、衣服を脱いで距離を置いた後。
雫ちゃんへ変身しようとするとこの場に置いてあった衣服は、何かの引力が動いたのか勝手に俺の元へと吸い込まれていく。
それから何時もの雫ちゃんの姿へと変身したのだが。

「………これは危険ね、あんな状態になると知れただけでも充分過ぎる」

「と言うと?」

「”全裸から衣服も装着した変身”は出来ることは把握したけど。この状態から、他の姿へと変身しようとすると。
さっきみたいに衣服は貴方の元へと帰っていった。変身に使用した物が一つでも失えば、変身能力は出来ないかもしれない。」

「それじゃあ、どうすれば良いんだ?」

「対策があるとしたら、全裸の状態から服を装着とかの変身はしない事。そうね、解りやすく図面で説明しましょうか」

雫ちゃんがノートを取り出して、現在の状態について俺に理解しやすいように説明を始めた。

「Aは旭、Bは服装や下着として。今までは肉体しか変身出来なかったけど、服装も変身出来るようになったことで。
この状態での変身はAとBを取り込んだ形によって変身した姿になるけど。全裸の状態から衣服も含めた変身をするとどうなるかしら?」

「Aだけしかない状態になるから、衣服は俺の元へと来たって事か?」

「良くできました、以下の理由から全裸から服を含めた変身はしないようにする事。そんなことは無いと思うけど、もう少し応用したやり方があるわ」

「Aは肉体、Bは服の変身をした姿と考えて頂戴。Bの部分は仮に無くなったとしても”新しい服さえあれば変身出来る”。
つまり、使わない服や下着などを貴方の身体に取り込めて置けば…ストックとして温存できる。」

「な、成る程。ストックとして俺の身体に融合とかしておけば確かに何者かに捕まったとしても予備の服を使えば大丈夫と言うことか」

「取り合えず、最善の準備を怠らないようにしないといけない。西園寺グループと正面対決する事になる、幾つも対策をしないと駄目よ。
『移識の紐(いしきのひも)』は、西園寺グループのモブとか適当に忍ばせてから。情報を得ることも考えているし……」

それから、雫ちゃんから色々とどんなことがあったとしても作戦会議を決して妥協で済ますこと無く。軍師のように幾つかのパターンを解説。

最終的に俺には予備の服と下着等を一つ取り込んだ状態+雫ちゃんとの融合で雫ちゃんの姿で登校することになった。
当然、彼処を生やさないようにして決して俺が素とか反応をしないように、俺の中身とか特定されない為の対策もそうだが。

「(西園寺グループは此処までヤバイってことなのか…?)」

ゴクリと唾を飲む俺は真剣に作戦会議を聞いた、西園寺幸子はとても頭が良いと想像してしまう。

「西園寺幸子はテストでは全ての教科とか満点取っているから、学年トップとして降臨していて、生徒会長候補として注目されている。
その代わり体育の授業、身体を動かすのは駄目だけど。それ以外は私より頭が良いと思う。
彼女の情報は全く無いけど、頭脳戦では負けるかもしれない。だからこそ、万全な状態で挑む」

「此処まで来るとヤバイ存在だな、”これって雫ちゃんが思い浮かべる敵のイメージ”と認識しても良い?」

「えぇ、そうよ。”普段の彼女は子供っぽくてそう見えないんだけど”。私と同じように猫を被っている可能性が濃厚だと思って」

「…………………………………これ、もしかして。西園寺グループの権力で西園寺舞子だけ特別扱いとかされているのでは?
不正入学とかしているんじゃないか、教師は舞子だけ本当はこの成績は駄目なんだけど。権力に逆らえずに変更とかしているとか」

これは俺の推理でもあった、俺が生きていた頃に西園寺舞子の成績はトップクラスである以上。
頭が良いように見えないのだ、愚民扱いとか派手な行動しているのに、先生は何も言わないのもどうも不思議だからな。

「それなら、明日瑠璃子さんと久美さんには先生の様子を窺う様に指示しておきましょう。
西園寺グループの権力には逆らえないとか、この様にすればお金が貰えるとか、何かしらの変化があるはず」

「よし、それじゃあ。明日は学校の日常と先生の様子とか見ておこうか。姫野咲ちゃんと融合出来るかどうか鍵だけど…休んでいたら最悪だよな」

「流石に無いと思うわよ、さっき太刀葉からラインで連絡が来たけど。私達が帰ってから咲ちゃんが遊びに来ていて、明日は一緒に登校するとか聞いているから。」

「それなら、双葉さんから連絡が来るとはずだよね?咲ちゃんの様子はどんな子なのか情報を手に入ったら伝えるはずだけど」

「それが、えっと……………太刀葉からの情報によれば双葉さんは働きすぎとの理由で、睡眠薬を無理矢理飲ませて休ませたみたい。
咲が太刀葉の家に居るときの時間帯は双葉さんが睡眠取っていたはずだから、情報は手に入らなかったみたいね」

「太刀葉ちゃんの気遣いが此処で影響しているなんて……取り合えず、明日は彼女達と登校すれば良いのかな?リムジンでの出迎えとか」

「いえ、今日はいつも通りに登校するわ。スクールバスがあるからそこから学校に着くまで待つけど、旭にはこの空間を慣れて欲しいから」

確かに、お嬢様学校だから可愛い女の子がたくさん居ると言うことになるから。ある程度は把握する必要はありそうだ。明日は遂にお嬢様学校へ通う事になる、どんな事になるのかは解らないけど。入念な準備をするとしよう。

『まああまりエネルギーを使い過ぎるのもよくないわ。今日のところは寝ましょうか』
「そうだね・・・。確かに少し眠いかも」
『睡眠もまた大事よ。ちゃんと明日から、私として学園生活に支障のないように整えておくからゆっくり休みなさい』

どうやら雫ちゃんは俺が寝ている間に、また何らかの細工をしてくれるようだ。熱心な彼女の気持ちに頭が下がるが、同時に心配にもなる。

「でも、雫ちゃんもちゃんと休むんだよ?大事な相棒なんだから」
『・・・、気遣いは受け取っておくわ。でも、貴方が取り込んでくれたのは結果的に、私にとってもいい機会なのかも』

雫ちゃんが不思議と、好意的な感想を寄せてきた。てっきり怒っているのかと思ったが、意外とそうでもないらしい。

『私は見ての通り、貴方や瑠璃子に比べると恐らく慎重に事を進めてしまうわ。だからこそ、逆に思い切った行動が出来ないこともよくあるの』

『だからこそ、西園寺との戦いについては旭、貴方の感性も借りたいのよ。思いもよらない発想を期待しているわよ』

雫ちゃんからすると、思いつきに似た俺の発想も役に立つことがあるらしい。
実際に俺は雫ちゃんの作戦を成功させるなら、一つやっておいた方がいいと思うこともあった。

(咲ちゃんはぜひ取り込みたいけど、出来ればもう一人、取り込んだほうがいいと思うんだよなぁ・・・)

咲ちゃんは恐らく西園寺を快く思っていない。だからこそ、敢えて西園寺側の人間を誰かひとり、取り込むのもありなのではないかと思っていた。
本人がだめでも、側近の誰かを手駒にするのはどうなのだろう?

(まあ、これは取りあえずこっそり俺の胸の内で探しておくか。嫌がるかもしれないし)

雫ちゃんに気付かれないように、俺は俺で、こっそり作戦を練ってみることにした。

『取り合えず、調整はこれくらいにして。あとの対策は何人融合出来るのかだけど。咲を含めるともう一人か二人かしら…。
恐らく、何も言わないで勝手に融合とかしたら。私の精神にも影響がある』

旭の事だから、西園寺グループに近付く人と融合して部下にする思考はあると考えても良い。
取り返しのつかないように幾つか思考を展開するが、少なくとも明日は咲ちゃんだけ融合するように心掛けた。今日は様子見と言うことにしたい。

翌日。
朝食を食べ終えてスクールバスに乗っている最中。俺と雫ちゃんは頭の中で、思いついたことを話していた。

(昨日の夜、少し寝る前に考えたんだ。あの…、俺に薬を売ってくれた人の言葉を)
『「融合出来るのは”肉体だけとは限らない”」って所? それで何か思いついたの?』
(あぁ。昨日の赤い薬は服も一緒に融合することができるのは、昨日の実験で分かった。でもそれだけじゃないと思うんだ)
『…確かに、赤い薬は旭の能力を強化する事ができたけど、今度は別のアプローチって事ね』
(そう。…これは多分なんだけど、やろうと思えばできる事だと思うんだ)
『ふぅん。続けてみて?』

どうやら雫ちゃんの気は引けたようだ。それを幸いにと俺は昨日の夜、一日離れてしまった半身ともいえる瑠璃子のから思い至った事を伝えてみる。

(瑠璃子と俺とは、一ヶ月ほど融合して、精神も混じり合ってるんだ。もう一人の俺、とも言ってもいいかもしれない。
それを考えると…、肉体だけに限らず、精神の融合もできるんじゃないかって考えたんだけど、どうかな?)
『精神? …それ、例えばどうやるの?』
(…多分だけど、こう…、俺の腕と相手の頭とかを一時的に融合させて、そのまま取り込まずに精神に“俺”を流し込んでいくような感じ、かな?)

流石に昨日思いついたことだ、実践したわけでもないしやった結果相手がどうなるかわからない。それでも彼女は俺に“どうやるのか”を問うてくる。

『なるほど…。今までは旭の内側に取り込んで融合“してきた”けど、今度は相手側に融合“させる”形にするわけね?』
(そう、そうなんだ。瑠璃子もそうだし、双葉さんも…、雫ちゃんも、俺達の精神と交じり合っている事だけは確かだろ?)
『…やろうと思えば確かにできるかもね、それ』

よし、どうやら雫ちゃんからある程度の及第点は貰えたみたいだ。
問題はどうやって実践するかになるわけだけど。

『ただ、その融合“させる”相手に当てはあるの?』
(現状はまだ…。できれば西園寺側の誰かに接触して試すことができれば、って思ってる。もしこれができるんだったら、スパイを作る事なんて簡単になるだろうし)
『なるほど。相手側からの情報を筒抜けにできるのなら、やれない事もないけど…。…問題が一つあるわ』
(問題…、もしかして“相手側の許容量”の話かな?)
『あら、分かってたのね。そうよ、どれだけ“私達”を混ぜ込めるか、それは個人個人で差異がある筈。いきなり全員分を流し込めば、発狂して使い物にならなくなるかもしれないわ』
(そこは…、少しずつ流し込んで調整しているつもり。出来る限り“俺”をメインで流し込んでみるつもりだけど…)

『試してみる時は、私は分離してた方が良いかもしれないわね。融合した状態でやってみると、私の分も流れ込むかもしれないし』
(…その時はお願いするよ)

そうして俺達は、一度会話を打ち切った。スクールバスが止まって、目的地に到着したからだ。

私立の巨大なお嬢様学校。
「新城旭」としては縁もゆかりもなかった場所に、今から俺は「姫宮雫」として乗り込むことになる。
目的は「姫野咲」ちゃんとの融合と、太刀葉ちゃんと初音沙夜ちゃんを救うために西園寺幸子への復讐。

その為の手段は現状何もできていないが、少しずつ切り崩していかねば大物は狙えない。

『じゃあ、いくわよ旭。昨日のうちに調整は済ませてあるから、あなたは『私』として振舞いなさい。
必要とあれば出てくるから、心配しないで?』
(分かった。…それじゃあ、行こう)

バスを降り、敷地内に立ち、俺達は巨大な校舎を見上げるのだった。


俺は雫ちゃんとして学園へと足を踏み入れて、周りを観察する。スクールバスに乗っていたのは学生なのは当たり前だが、お嬢様というわりには外見等は普通の人が多くて。
雫ちゃんが目立っているような感覚がした。周りからの視線は此方に注目を浴びているものの、誰にも接したくないみたいな雰囲気があるせいで。
陰では悪口など言っていそうな感じがする。この学園は設備などはとても素晴らしくてお金がかかっていると改めて認識したが。

「………あっ」

教室へ向かっている途中、階段へ上がっていると目の前に一人の美少女と遭遇した。
絹糸のようになめらかな髪は緩やかに流れる小川のごとく流麗で、水晶のような瞳。
制服を押し上げる胸は雫ちゃんよりも少し大きく、唇は朝露を浴びたバラのようにみずみずしく、雫ちゃんと同じように抜群のプロポーションをしている。
此方の姿を目撃すると顔が真っ赤になって、逃げるように女子トイレへと駆け込んでいく。

『さっき逃げたのが姫野咲よ。外見は私と同じ外見を持っているけど、上手く言葉が伝えるのが難しいと言うか…どんな印象かしら?』

(第1印象から見れば、外見は雫ちゃんと同じように抜群のプロポーションをしているのにあまりの恥ずかしさで怯えて、中身は産まれたばかりの子鹿かな。)

『…私と同じように無視をしているけど、彼女の場合は逃げていると言うのが合っているかしら。友人関係は今のところ太刀葉しか居ないけど。
丁度良い機会ね、追いかけましょうか?』

(ホームルームの時間までまだまだ余裕があるから、大丈夫そうだな。よし、追いかけて話しかけてみるかな)

本来ならスルーして教室へ向かったのだが、敢えて追いかけることにした。女子トイレへ入ると個室は一つだけ閉じているのだが。

「ううっ、雫ちゃんに告白したいのに恥ずかしくしてまた逃げちゃった…私の馬鹿…太刀葉ちゃんにも相談したのに…」

ドアを開けたタイミングで、聞いてはいけない独り言を目撃してしまった。予想通りとは言え、恋愛的にみていたみたいだな。

『…本当に私の事が好きだったなんて、色々と理由を知りたい所だけど。チャンスね、早速彼女と融合しましょう。』
(確かにありなんだが、今は個室に居るんだ、トイレとか済ませた後の方が良いと思うけど)
『それもそうね、融合するタイミングはいつも通りだけど。素早く終わらせなさい』

雫ちゃんがトイレの個室にいる咲ちゃんを融合するために、俺に指示を与えた。
此方に誘き寄せようと企んでいることが把握するのだが、ごくりと唾を飲む。暫くすると咲ちゃんが出てきた瞬間、俺はすぐに彼女を思いっきり抱きしめた。

「えっ、な、何!?」

突然の事態に戸惑う姿に驚きも隠せない、俺はすぐに融合したいと念じる。
咲ちゃんが少し抵抗しているのだが、暫くすると咲ちゃんの体が俺の体に吸い込まれていく。
それと同時に頭の中に「咲ちゃん」が入ってくるのが分かってきた。本来融合をすれば肉体だけなので服はこの場に取り残されるのだが、一人丸ごと融合した為。
今この場に居るのは俺だけだ、融合したと確認したあとは咲ちゃんが入っていたトイレの個室へと籠る。

『ふふっ、私の事が好きだなんて。どういう理由なのかは知らないけど、私からお願いがあるわ。貴女の知恵を旭の為に尽くして欲しいけど、大丈夫かしら?』
『勿論、大丈夫何だけど…雫ちゃんは太刀葉ちゃんの為に尽くしているのが解って、若干ショックを受けているかな。』
『旭と融合する前の私は誰とも付き合わない方針だったけど、既に一部になった以上。私は旭に尽くすと心に決めたの。貴女もそうでしょう?』
『も、勿論だよ!でも、私は雫ちゃんの事が好きなのに、旭さんの為に尽くすと言うのは。何だが、複雑な気持ちで…』

俺の一部を咲ちゃんに与えると、いつも通りに俺の為に尽くすと決めていたのだが。彼女の気持ちは雫ちゃんに尽くすと心に決めていたせいで、どちらを優先しているのか迷っているみたいだった。

(咲ちゃん、その…想いを踏み潰して本当にごめんね…)
『う、ううん。私は旭の一緒になったからには…雫ちゃんが考えられなかったアイデアとか提供するし、西園寺グループの方も協力するよ』

『それにしても…、3人分も融合していると、体も敏感になってくるわね…』
『うん…。雫ちゃんが好きだった私に、旭さんが混じってきて…、少し興奮してきちゃった…』

俺の中に混ざり込んだ咲ちゃんの「雫ちゃんが好き」という感覚が、俺の「雫ちゃんに一目惚れした」感覚と交じり合い、今以上に強くなってくる。
これはマズい、放っておくとオナニーぶっこいてしまいそうだ。

(そ、それじゃ2人とも、一回咲ちゃんとは分離しようか?)
『その方が良いわね。このままだと旭も我慢できなくなりそうだし』
『う、うん…』

少し名残惜しそうにしながらも、咲ちゃんを分離させる。ずるりと俺の体から盛り上がるように出てきた咲ちゃんは、残念そうな顔をしていた。

「…咲ちゃん、んっ?」
「ん…、っちゅ、んむ…」

すると突然、彼女は俺の方にキスをしてきた。理由は簡単。彼女がずっと「雫ちゃん」とこうしたかったから、というのが、俺の中に混じってきた「咲ちゃんの記憶」から伝わってくる。
俺の方も拒否する理由はない。そっと抱きしめ、胸同士をぶつけ合いながらキスをしあい、唾液を交換し合う。

『あぁ…、雫ちゃん、ずっとこうしたかった…。旭さん、雫ちゃんと融合させてくれてありがとう』
(俺の方こそ、受け入れてくれてありがとう。…できれば雫ちゃん位俺の事も大事に思ってくれると嬉しいな)

キスを繰り返しながら、離れるのを惜しんでキスを終わらせる。2人の口の間には、つ…、と唾液の糸が引いて、ぷつりと切れた。

『…旭。私、ファーストキスだったのだけれど?』
(ノーカンで良いでしょ? もう“自分同士”なんだから)
『それでも一言了承は欲しかったわね』

俺の中の雫ちゃんは、不満そうな言葉を言うが様子としてはそこまででもない。
“しょうがないな”と言わんばかりの雰囲気をして、俺達の様子を見ていた。

「…それじゃあこの後の事だけど、詳しい話は咲ちゃんも分かるよね?」
「えぇ、ほとんどは融合した時に流れ込んできたから、授業中にいくらか策を練ってきます。細かい所などはお昼休みに詰めましょう」
「お願いするよ。…それじゃあ、またあとで」
「はい、また後で」

そう言って咲ちゃんと別れると、襲ってきた頭痛に、壁に手をついて耐える。
咲ちゃんの記憶や知識量は思っていたより膨大で、かなりの「俺の容量」を食っていた。

『旭、大丈夫?』
「なんとか…。でも、咲ちゃんでこれなら…、本当にあと一人ぐらいが“俺”を保てる限界かもね…」

頭痛を抱えながら教室に向かい、それでも平然とした顔で席に座った。
…その日の授業は、才女2人分の知識や記憶もあり、驚くほどスムーズにいくのだった。

授業が終えてからの休み時間や先生の授業を受けている間、俺は雫ちゃんとお話して、様々な策を思考していた。
融合はこれ以上危険であると言うこと、今まで足りなかった知識が補えた事も含めて新たな閃きが次々と思い出していたりしていた。
そんなとき、幾つか把握したことがあった。

『咲ちゃんが私の事が好きな理由は一目惚れ。同性同士の付き合いにも抵抗があったとは言え、それでも愛していた事実に戸惑いが隠せないわ』
(雫ちゃんは凄く可愛いからだと思うし、咲ちゃんも雫ちゃんと動揺に一目惚れするくらいの抜群のプロポーションだったから、両方欲しいと思ってしまった位だ…)
『取り敢えず、あと一人しか融合出来ないとはいえ。咲と融合して良かったわ。此処までは順調だけど…思った以上に此方へのダメージが大きいわね』

咲ちゃんと融合した事で、完全に彼女を演じることが出来るようになったのは良いが。
3人による融合があればブレーン役が二人になる故に素早く新しいアイデアを閃く事が出来るのだが、身体が俺を含めた3人になる為、胸を触れるだけで前回と同じ双葉さんの二の舞になるのが大きな課題でもあったからだ。

『咲と融合したお陰で、どうすれば良いのか提案があるのだけど。良いかしら?』
(えっ、新しいアイデアとか思い付いたのか?)
『正直に言うと私だけじゃ、このアイデアとかは思い付かなかったと事前に伝えておくわ。
その前に一つ質問しましょうか、貴方の部分を与えたことで”瑠璃子さんや双葉さん”は一部となった。
勿論、私と咲も含めるけど……要らないものがあれば分離するわよね、服の情報を手に入れたらそのまま吐き出したから』

昨日の件だと思い出す、要らないものがあれば分離したのは間違いないけど。
…………………あれ、まてよ?これってもしかして。

『漸く気が付いたわね?今、貴方は私の身体と融合している状態。二人分なら問題は無いけど、“要らないものを吐き出すことが出来れば”問題ないわ』
(ちょっと待て、それって俺の身体を捨てろって言っているのか!?相棒を捨てるのはもっての他だ!?)
『本当にお馬鹿さんね、話を最後まで聞きなさい。誰が貴方の身体を捨てると言ったの?
貴方の部分を与えるのは“精神の融合”よ。必要な物だけを融合する事が出来るってことは、咲の精神だけ此方の身体に融合すれば…咲の身体を丸ごと融合しなくても済むじゃない』

(…………………言われてみれば、確かにそうだ。それじゃあ、要らないものを吐き出すと言ったのは?)
『今、私達は幾つか知識があるでしょう。重なっている部分を少しずつ消していけば良い。
例えると、貴方はパソコンで私達は一つの情報を纏めたフォルダとしましょうか。中身は幾つかの記憶やデータがあるとする。
この中から要らないものを削除(分離)して、要領を少しでも広げれば、もしかすると融合出来るスペースが生まれるかもしれないのよ』

彼女の説明にとても良いアイデアであるとその理由に納得した。確かに融合はできるけど、“分離”で出来る。
要らない物があれば記憶から消してしまえってことか、色々と複雑な気持ちだが、重なっている知識の部分とかは確かにある。
どれも同じ見解のものばかりだから、頭の中に入っているデータを一旦整理するのも一つの手だな。

『因みに、咲ちゃんの精神も融合する場合だけど。彼女の肉体をどうするべきかが課題の一つになるわ』
(あぁ、動かない身体がそのままあったら。死んでいると見てもおかしくないからな……取り敢えず、分離するのは幾つかジャンルがあると解っただけでも充分だ。
つまり、雫ちゃんは俺の部分を与えているからそれを取り除けば元通りになると言うことか)
『もしそんなことをしたら、元の私は貴方の本音を全て知ってしまった状態だから。どんなことをしてでも潰すと思うわ、“男性は嫌い”って教えたわよね?』
(…………この分離はやめておこう、俺の部分を与えるのは慎重に行動しないと)
この思考は咲ちゃんのお陰で思い付いたアイデアだ、彼女には感謝しないといけないな。

要らないものは記憶を消すと言うことに関して、雫ちゃんに任せたが。そのお陰で少しは軽くなった気がすると実感できたと思いたい。
授業が色々と終わり、4時限目に入り担当の先生は自習と言われたことで必要な事を勉強する時間帯になったのだが。咲ちゃんの記憶を覗いていると一つのアイデアを閃いた。

(待てよ?雫ちゃんの言う通り俺はパソコンと言うことは、空いているデータをコピー&ペーストとか出来ると言うことになるよな。
例えば、消しゴムを取り込んだとしたしよう。吸収した消しゴムを新しい肉体へと与えれば、新しい身体が生まれるんじゃないか?)
『とても良いアイデアだけどそれは不可能よ』
(マジかよ、良いアイデアだと思ったんだけどな…)
『ただ、”容量”があれば話が別ね。今の場合、誰でも良いから人間を取り込んで此方が得た情報をコピーをすれば…ドッペルゲンガーが誕生すると思う。脱け殻になった身体なんて死体位しか思い付かないけど』
(発想がいちいち怖いな!?)

『何でも良いから適当な物を取り込んで、新しい物へと生まれ変わるなんて馬鹿な発想は止めることね。
融合出来るのは人間と服とか精神。他の物を融合したとしても”貴方の精神がどうなるのか理解しているのかしら”?』
(犬と人間を融合して、ファンタジー世界に登場するケモナーとか出来るんじゃないかなって思ったけど)
『融合した場合は犬の精神が来ちゃうわね、私は丁寧にお断りするけど。やるのなら貴方だけでどうぞ、当然自己責任で』
(ごめんなさい、今のは無かったことにしてください!)

今は予備の服を融合している状態だけど、試しに雫ちゃんの身体へと新しい肉体を作ろうとしたが、頭がめちゃくちゃ痛くなってヤバイと判断。
これ以上は危険であると把握したけど、頭の片隅に入れておこう。

『ただ、これで一つの武器が出来たわね。融合する場合は今後”全て取り込まなくても良い”。
今まで貴方は全ての存在を自分の物へと取り込んだ。記憶、仕草、雰囲気も全てね。今後融合する場合はどれを取り込むのかイメージする事もお薦めするわ」
(そうしたいのも山々だけど、これもまたイメージが強くないと難しいか)

咲ちゃんの思考を取り込んだことで幾つもアイデアを思い付いてちゃくちゃくと自分の能力について整理していると、雫ちゃんがある提案をしていた。

『どうやら、咲は過去に虐めを受けて自殺したいと思った事があるみたいよ? 咲の精神を此方に取り込んだ後、肉体を捨てると言う意味で自殺するのも…』
(さっきから、恐ろしい提案してくるけど。雫ちゃんはもしかして狂人かな!? 外道な行為ばかり思考しているけど!)
『あら、私なら平然と行うわよ? 太刀葉の為なら殺人とかしても平気だし、証拠とか残さないようにとかアリバイもしっかりしのうと計画を立てたことが昔あったから。今はないけど』

雫ちゃんは太刀葉ちゃんの為ならどんなことでもして、咲ちゃんは雫ちゃんが好きと言うのが理由に繋がるから、雫ちゃんの為ならどんなことでもすると言うことに繋がる。
本当に取り込んで良かった。二人とも頭が良いし、結果的に自分の融合や変身能力に更なる仕上げへと進化したのだから。

(そう言えば、西園寺グループと遭遇していないけど。別クラスに居るんだよな?)
『えぇ、今日も登校していると思うけど。彼女達の様子も確認したいわね』
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