玄関前のインターホンの呼び出し音が鳴ったので、僕は居間のモニターで確認した。
モニターには、よく知った顔の男子高校生の姿が映っていた。
僕は玄関へと駆けて行き、勢いよく玄関の扉を開けた。
そして男子高校生に話しかけた。
「こんにちは双葉さん、いらっしゃい」
そんな僕に、男子高校生は呆れたような声で言った。
「今はあなたが双葉でしょ、今の僕は清彦だよ」
「それは、そうなんですけど……」
「まあいい…わ。こんにちは双葉さん、お邪魔します」
と言いながら、その男子高校生、清彦は、さっと家の中に入り、さっと玄関の扉を閉めたのだった。
そして一緒に居間に入った瞬間、僕はいきなり清彦に押し倒された。
「きゃあっ! きよひ……双葉さん、いきなり何をするんだよ!」
「何をって、わかってるくせに」
そう言いながら、清彦は僕に抱きつき、僕の豊満なおっぱいに顔を埋めてすりすりした。
「み、未亡人の僕が、近所の男子高校生といけないことしちゃったら、まずいでしょ、…ひゃん!」
「今更なに言ってるのよ、あんな期待感丸出しの嬉しそうな顔で私を出迎えておいて、説得力がないわよ」
「そ、そりゃ、あ、あん……そうですけど……あぁん…!!」
清彦はそう言いながら、ぼくの体を撫で回しながら、嬉しそうに僕の着ている服を脱がせていく。
僕も、口では正論らしいことを言いながら、目の前の男子高校生に逆らわずに、されるままに身を任せていた。
「それに私たち、……こうなっちゃったあの日から、何度も行くとこまで行っちゃったんだから、もう引き返せないわよ」
「……うん」
そう、僕と双葉さんの体が入れ替わってしまったあの日から、僕たちはもういけない関係になっちゃったんだ。
それは、数日前に遡る。
その時は、僕はまだ清彦だった。
学校での授業が終わり、家に帰る途中、急に天候が悪くなり、少し遠くでゴロゴロと雷が鳴り、ぽつぽつ雨が降ってきた。
こりゃ爆弾低気圧の本格的な雨が来そうだと感じた僕は、近くの屋根のあるバス停に待避した。
その直後に酷い土砂降り、僕は間一髪で避難が間に合った形だった。
だけど、少し遅れて、少しだけ間に合わなかった人が避難してきた。
「ああ、もう、天気予報では、雨なんていってなかったわよ!」
二十台半ばくらいの、僕より少し年上の大人の女性だった。
僕よりほんのちょっと避難が遅れただけなのに、もうすっかりびしょ濡れだった。
「ごめんなさいね、ちょっと私も雨宿りさせて」
「あ、いえ、この天気だし、僕も雨宿りですから、お気になさらず」
「そ、そう?」
そんな訳で、同じバス停の屋根の下で、僕とその大人の女性の二人での雨宿りが始まったんだ。
大人の女性と言っても美人と言うより童顔でかわいい系で、僕より身長が少し低くて小柄な印象だった。
だからといって子供っぽいわけじゃなくその逆だ。
その小柄な体に比してボリュームのある大きなおっぱいに、引き締まったウエスト、安産型の大きなお尻、ぼんきゅうぼん、微妙なバランスでスタイル抜群だった。
何よりその立ち振る舞いや雰囲気が、大人の色気を振りまいていた。
さすがに今のこの人に比べたら、クラスの女子が子供に見える。
おまけに雨でびしょ濡れなせいで、ブラウスやパンツ(ズボン)が肌に張り付いていて、下着が透けて見えたり、余計にそのスタイル抜群な体型が際立って見えたりもした。
いけない、この人に悪い、そう思いながらも、ついついちらちら横目で見てしまっていた。
くうーたまんない、こんなの見てたら僕のちんこが勃ってきた。
あの人に抱きついて、あの大きくて柔らかそうなおっぱいに、すりすり頬ずりしてその感触を堪能してみたい。
いっそこのままこのひとに襲い掛かって、僕のモノにしてしまいたい!
なーんて邪なこと考えてしまった。
さすがに考えるだけだよ、さすがにそこは常識的に理性で抑えていた。
でもしっかり目に焼き付けて、家に帰った後でおかずにしよう。
この人に襲い掛かってあんあんいわせる妄想をしながらオナニーするんだ。
そのうちに、さすがにそんな僕の邪な視線や雰囲気に気づいたのか、その人は僕から体を隠すように体の向きを変えた。
顔もあっちを向いているので表情はわからないけど、嫌そうな雰囲気は感じられた。
うーん、クラスの女子もそうだけど、やっぱり女ってこういうのには敏感なんだな。
さすがに気まずさを感じた。
気分をわるくさせてごめんなさい、でもこれ男の本能だから。
まあ、僕はこの人からの印象が悪くなっただろうけど、雨宿りが終わったら、多分もうこの人と関わることはないだろうし、気にしすぎないようにしよう。
このときはそう思っていたんだ。
さっきから、ゴロゴロ鳴っていた雷が、だんだん近くに来たな、と思っていたその時、
ピカ――――ッ!! とかなり近くで光ったなと感じた直後、ド――ン! と近くで大きな音がした。
「きゃあっ!!」
その雷の光と音に驚いてか、隣の女性が悲鳴を上げながら僕に抱きついてきた。
ずぶ濡れの女性に抱きつかれたおかげで、僕まで濡れてしまった。
でもそのかわり、その女性に抱きつかれて、僕の体に押し付けられて感じた柔らかい感触が、僕の理性や男の本能を刺激した。
えっ、もしかして僕、大人の女の人に抱きつかれた?
なんだこれ、僕の体に押し付けられているこの柔らかい感触は、やばい、もしかしてあの大きなおっぱいの感触?
抱き付かれて濡れちゃったけど、これなら無問題だよ、たまんねー役得役得。
いけね、おさまりかけていた僕のちんこがまた勃ってきた。
「ご、ごめんなさい、わたしったらいい歳してはしたないまねをしちゃって」
「い、いえ、……そんな…」
女性は謝りながら、慌てて僕から体を離そうとした。
そんなことないです。雷のせいです。お気になさらず。とかなんとかフォローの言葉を続けて言おうと思ったその時。
ピカ――――――ッ!!
ドォ―――――――ン!!
二度目の雷、さっきより近くで強く光り、すぐ直後に近くに雷が落ちた大きな音が響いた。
「きゃあっ!!」
とまたその女性の悲鳴と、再度強く僕に抱きつく柔らかな感触が伝わってきた。
その直後に、びりびりびりっと、静電気の痺れのような感覚が、僕の体全体を襲った。
えっ?
と思う間もなく、僕の意識は暗転して一旦意識が途絶えたんだ。
…………途絶えていた意識が徐々に戻り、僕ははっと気が付いた。
あれ、僕は何をしていた?
あれからどうなった?
今の状況を確認すると、僕は男子の体に強く抱きついていた。
線が細いけど、でも意外に筋肉質な男子の体の感触は、今の僕にはたくましく感じられて意外に心地よかった。
なんでだか僕の胸は高鳴って、ドキドキしていた。
ぼ、僕はなにはしたない真似をしてるんだよ!
なぜだかそう感じて、僕は慌ててその男子から体を離した。
その瞬間、僕の胸元で僕のおっぱいが、ぷるん、と揺れた。
えっ、あれ、おっぱい? なんで男の僕におっぱいが?
それになんで僕は、男に抱きついていたんだ?
え、ぼ、僕?
僕が抱きついていたのは僕なの?
なんで僕が目の前に???
「わ、わたし…なの? なんで目の前に私がいるの?」
そして目の前の僕も、女みたいになよなよしながら女言葉で、僕の顔を見て驚いていた。
「僕たち」
「私たち」
「「入れ替わった?」」
なんて、何年か前に流行したアニメ映画みたいな台詞を言いながら、僕たちは体が入れ替わってしまったという、今のお互いの境遇を認識した。
「うそでしょ、なんでこんなことになっちゃったのよ!」
「なんでって、やっぱり、……さっきの雷のせいじゃない……かな?」
「雷のせいって、そんなバカなことがあるはずがないでしょ! っていつもなら反論しちゃう所だけど……でも」
「僕もいつもならそう思うけど、現実に、さっきの雷の後でこうなっちゃった訳だし、そうだとしか……」
「そうよね……はあ~」
目の前の僕が、困惑した表情のでため息をついた。
つられて僕もため息をついたのだった。
「ねえ、あな……っ!? え? きゃっ! や、やだ!」
目の前の僕が、僕に何かを言いかけて、急に恥ずかしそうな声を上げながら、女みたいな仕草で、僕から体を隠すように背中を向けた。
なぜだか背中を丸めて、前かがみになりながら、恥ずかしそうにしていた。
うーん僕の姿で、そんな仕草されちゃ、見ているこっちのほうが恥ずかしいっていうか、おかまみたいで気色悪いっていうか。
でも急にどうしたんだろう?
なんだかやたら股間を気にしているみたいに見えるけど。
……えっ、股間!?
男があの姿勢で股間を気にしてるってことは!
僕は、こうなる(入れ替わる)直前、大人の女性に抱きつかれて、僕のちんこが勃っていたことを思い出した。
つまりあれって、今僕の体のちんこが勃っているってこと?
そうだと気づいて、僕のほうも急に恥ずかしくなってきたのだった。
今度は僕が、元の僕から視線を逸らして背中を向けた。
お互いに相手に背中を向ける体勢のまま、しばらく無言で沈黙していた。
今、元の僕の体の中には、多分この体の女の人がいるよね?
てことは、こうなる(入れ替わる)直前に、僕のちんこが勃ってたってことに、気づかれたってことだよね?
多分、僕がエロいこと考えていたってばれちゃってるよ。
なんだかすごく気まずい。
ど、どうしよう?
「ご、こめんなさい」
「えっ?」
「ぼ、僕、ついエロいこと考えちゃって、それで体が反応しちゃって、それで、……とにかくごめんなさい!」
僕はつい咄嗟に『僕』(の体の女の人)に謝った。
最初、いきなり僕のほうから謝られて、ぽかんとしていた『僕』(の体の女の人)は、はっと何かに気づいたかのか、くすくすと小さく笑い出した。
「そ、それは、健康な思春期の男の子だもの、しかたがないわよ。さすがにストレートにそう言われちゃうと、ちょっと私も恥ずかしいけど」
そう言いながら、『僕』はゆっくりこっちを向きながら、ちょっと顔を赤らめて恥ずかしそうだった。
「ご、ごめんなさい」
「だから、謝らなくてもいいわよ」
どうやら『僕』は、僕を許してくれたみたいだ。
というか、最初からこの件で、僕を咎めようという気はなかったようだ。
これがもし同世代のクラスの女子だったら、絶対「スケベ、エッチ、サイテー」とか言って僕を責めただろうし、なかなか許してくれなかっただろう。
この辺の違いは、さすがに大人の女の人ってことだろうか?
ただ、この僕の謝罪がきっかけで、さっきまでの気まずい空気が取り払われて、僕と『僕』(女の人)の間での話し合いが始まったのだった。
まずは簡単に、お互いの自己紹介からはじめた。
「僕の名前は清彦、原田清彦です」
「私は双葉、片平双葉よ。よろしくね清彦くん」
「あ、よろしく双葉…さん」
この人が僕の姿で双葉と名乗っている姿を見るのは、何だか変な気分だった。
でもそうか、この人は双葉さんっていう名前なのか。……今は僕の姿だけどね。
そういう僕が、大人の女性の双葉さんの姿で清彦って名乗っているのは、双葉さんから見たら複雑な心境だろうな。
もしこの場に第三者がいて、今の会話を見ていたら、変な光景に見えただろう。
この場に第三者がいなくて良かったよ。
「僕は地元の高校から、家に帰る途中でした。そしたらさっきの夕立で、ここで雨宿りをしていたんです」
「私も用事で出かけていて、家に帰る途中にいきなりさっきの夕立に遭っちゃって、このバス停に雨宿りに避難してきたのよ。そうしたらこんなことになっちゃって」
などと話の流れで、少しづつお互いの事情や状況も話し始めた。
とはいえ、色々気にはなるけど、さすがにまだお互いのプライベートな話など、踏み込んだ話はしなかった。
くしゅん!
会話の途中で、僕はかわいいくしゃみをした。
「清彦くん大丈夫?」
「大丈夫です、と言いたい所だけど、うう、ちょっと寒くなってきたかも」
双葉さんの体、今の僕の体は、夕立のせいでずぶ濡れで、だんだん体が冷えてきていた。
うう、僕は雨が降る直前に避難したはずなのに、双葉さんの体は避難が遅れてずぶ濡れになっていたから。
「ごめんなさいね私のせいで」
「いえ、双葉さんが悪いわけじゃないですから」
「でも困ったわね、私のハンドバッグの中には、ハンカチくらいしかないし、……清彦くんは、タオルか着替えを持ってる?」
「あ、カバンの中に、汗拭き用のフェイスタオルくらいなら」
「あった、これね。ごめんなさいちょっと借りるわね」
双葉さんはそう断って、僕のカバンからタオルを取り出した。
そして僕の体を拭き始めたのだった。
雨に濡れた僕の体を、てきぱきと手馴れた感じで拭いてくれたのだった。
だったのだが……。
「きゃあっ!」
「えっ、ご、ごめんなさい!」
「いや、別にそんなこと……」
僕を拭いている途中、双葉さんの手が、僕のおっぱいにむにゅって触っちゃったんだ。
僕はつい反射的に、短く悲鳴をあげちゃって、双葉さんもそんな僕に反射的に謝ったんだ。
「この体は元々双葉さんの体だし、僕は気にしてませんから」
「そ、そう? あ、でも、濡れている所は大分拭けたし、もう私が拭かなくてもいいわね」
「それならタオルを貸してください。後は自分で拭きますので」
「そう、わかったわ、ちょっとまってて、…………はいタオル」
双葉さんは、僕の体を拭いて濡れたタオルを絞りなおしてから、僕に手渡した。
僕は双葉さんから、そのタオルを受け取ったのだった。
そんなこんなで、僕と双葉さんの間は、また少し気まずくなった。
ああは言ったけれど、双葉さんにおっぱいを触られた時、なんかびりっと感じて、
そしてなんでだか急に、双葉さんに見られたり触られたりすることが、すごく恥ずかしくなってきたんだ。
いやいや、さっき双葉さんにも言ったけど、この体は元々双葉さんの体なんだ。そんな訳ないよな、気のせいだよな。
でも、……双葉さんからは、今の僕はどう見えているんだろう?
双葉さんは、僕の事をどう思っているんだろう?
僕はちらりと双葉さんを見た。
今の双葉さんは、元の僕の体の男子高校生だ。
こうして外から清彦の体を見てみると、意外にかわいい顔をしているんだな。
それに、男子の中では標準より身長が低めだったのを、僕は気にしていたけど、
今の僕から見ると、意外に大きいというか、意外にたくましいっていうか、さすがに男子だよね。
……って、なにを考えてるんだよ僕は!!
ただ、そんなことを考えていたら、僕の胸の鼓動がドキドキしてきた。
僕の体の双葉さんの事が、なんでだか急に気になってきた。
僕は双葉さんの事を意識しちゃってる?
いやこれは、僕の体になっちゃった双葉さんのことを、心配しているだけだ。
別に何も変な事ややましい事は無いはずだ。落ち着け、落ち着け僕!
僕は変な方向に高ぶった気持ちをごまかすように、さっき受け取ったタオルで表情を隠すように、顔を拭いたのだった。
『あれ、なんだこれ?』
何気なく顔を拭いていて、ふと僕の左手にある異物が目に入った。
目の前に左手をかざしてみると、その薬指には指輪が嵌まっていた。
え、指輪? なんで僕がこんなものを?
あ、そうか、これは僕じゃなくて双葉さんの指輪なんだ。
で、でも、左手の薬指に指輪の意味って!?
……そ、そうだよね、双葉さんは僕より年上の大人の人なんだから、結婚していても何もおかしくないよね?
そのはずなのに、なんでだか理由まではわからないけど、なぜかショックだった。
「清彦くん、どうかしたの? まだ寒いの?」
「あ、いえ、なんでもないです。タオルで拭いてもらったから今は大丈夫です」
双葉さんに心配そうに声をかけられて、僕は咄嗟にごまかした。
「そう? ならいいけど、具合が悪かったら言ってね。その体は私の体なんだからね」
「は、はい、わかってます」
なんとかごまかせたけど、指輪の事、聞けばよかったかな?
いや、こんな時に、あまりプライバシーに深く関わることを、興味本位で聞くもんじゃないよな。
失礼だよな。
今は気づかなかったことにしよう。
僕はまだ深く考えていなかった。
これはもう双葉さんだけのプライバシーの問題ではなく、僕自身の問題にもなってしまったという事に。
そうこうしているうちに、雨が上がってきた。
「雨、上がってきましたね」
「……そうね」
普通なら、『これで雨宿りを終わらせて家に帰れる。良かった』という所なのだけれど……。
「結局、あれからこの近くに、雷は落ちませんでしたね」
「そうね、雨も上がったし、もう落ちないでしょうね」
僕たちは、雨宿りをしながら、もう一度近くに雷が落ちて、体が元に戻ることに期待していた。
だけどその可能性は、夕立の雨雲と一緒に遠ざかっていった。
僕たちは、体が入れ替わったまま、僕は双葉さんの体のままだった。
正直、この後どうすれば良いのか、全然良い考えが思い浮かばなかった。
「こ、これからどうしよう? 困ったなあ」
「ひとまず私の家に行きましょう」
「双葉さんの家に?」
「ええ、この近くだし、そこでこの後のことも相談しましょう」
「そうですね」
他に名案もなく、僕は双葉さんの提案に乗って、一緒に双葉さんの家に向かうのだった。
双葉さんの家への道を知らない僕は、双葉さんの案内で、その後について歩いていた。
歩くたびに、僕の胸元の大きなおっぱいがぽよんぽよんと揺れて、なんだか気になって仕方がなかった。
いや、気になるだけならまだ良い、この体は胸とお尻が大きくてバランスが取りにくくて、元の僕の体よりも歩きにくいんだ。
おまけに足元に履いていたのは、ややかかとの高いパンプスで、余計にバランスの取りづらさと歩きにくさを感じていた。
双葉さんの穿いていたのが、スカートでなく、パンツ(ズボン)であっただけまだましだったのかもしれない。
だけど、慣れない身体の慣れない感覚のせいで、トータルでの歩く速さは、いつもの元の僕より遅くなっていた。
「ふ、双葉さん、ちょっと待って!」
「あ、ごめんなさい。いつもより楽に歩けるものだから、つい調子にのっちゃって……」
僕とは逆に双葉さんは、元の自分の体よりも運動能力の高い男子高校生の体で、無意識に歩く早さが早くなっていた。
結果、歩くのが遅い僕は、双葉さんに置いていかれる形になり、慌てて戻ってきた双葉さんは僕に謝って、また一緒に歩くことになった。
今度は双葉さんは、僕に合わせてゆっくり歩いてくれた。
そうこうしているうちに、双葉さんの家に到着した。
「着いたわよ。ここが私の家よ」
「へえ……ここが双葉さんの家なんだ」
「そうよ」
わりと新しめの二階建ての一軒家だった。
玄関には『片平』の表札、その下には家族の名前を書く表札があり、その中に片平双葉の名前も書かれていた。
『双葉さんの名前の隣に、敏明って名前がある。もしかしてこれって旦那さんの名前? やっぱりそうなんだ』
などと思ったけれど、余計なことは口には出さなかった。
「私のハンドバッグ貸して」
「は、はい」
双葉さんにハンドバッグを渡すと、中から鍵を取り出した。
そして双葉さんはその鍵で、玄関の鍵を開けたのだった。
「どうぞ、今はこの家には私たち以外に誰もいないから、余計な気を使わなくてもいいわよ」
「……おじゃまします」
そんな訳で、僕は双葉さんの家に、(一応客として)上がりこんだのだった。
「本来なら居間にお通しして、お茶でも出して、一息つけてから、今後の事を話し合いましょう。と言いたいところなんだけど……」
そう言いながら、双葉さんは僕を居間ではなく、洗面所のほうへと引っ張っていく。
「その体、さっきの雨で濡れちゃって、冷えちゃって、清彦くんもさっきは寒がっていたでしょ?」
「う、うん、タオルで拭いてもらいましたけど、まだ少し肌寒いかな? 今着てる服もまだ生乾きだし」
「そう、だから早く濡れた服を脱いで、体を温かくしないと、風邪をひいちゃうわよね、だから」
「だから?」
「清彦くん、私の代わりにシャワーを浴びて、できればお風呂にも浸かって、その体を温めてね」
「え、僕が双葉さんの代わりにシャワーを浴びる? お風呂入る? ……いいの? 本当にいいの?」
それって僕が双葉さんの服を脱いで、僕が双葉さんの体を見ちゃう、
お風呂に入って双葉さんの体の微妙な所を、僕が触っちゃうってことになるわけで、
いいの? 本当にいいの?
「いいわよ。それにたとえイヤだと思っても、今はその体を清彦くんに任せるより、他に方法が無いでしょ!」
「それはそうですけど」
「とにかく、私は着替えを用意してくるから、その間にシャワーを浴びていてね。お願いね」
「……わかりました」
そんな訳で、双葉さんは着替えを取りに行って、一旦この場を離れた。
俺はこの場に一人残された。
もう一度、一人で一言呟いた。
「本当にいいのだろうか?」
誰からも返事は無かった。
こういう場合は、入れ替わった女の方が、入れ替わった男に、元の自分の体を見られたり好き勝手にされるのを嫌がって、色々口うるさく言うものだと思っていた。
マンガなんかの定番での、女の子になった男のほうが、元の女の子に目隠しをされて着替えやお風呂、なんて展開もありえると思っていた。
あるいは僕と入れ替わったのがクラスの女子だったら、そうしたのかもしれない。
双葉さんは、大人の女性だから、子供の僕なんかに見られても平気なのだろうか?
いや、さすがに、僕に見られて平気ってことはないよな。
……これ以上余計な事を考えていてもしょうがない。
双葉さんに言われた通りに、さっさと濡れた服を脱いで、シャワーを浴びてしまおう。
実際、雨に濡れて冷えたこの体は、さっきタオルで拭いて持ち直したとはいえ、まだ少し寒い。
こうなったら、少しでも早く温かいシャワーを浴びたい。
僕はいそいそと今着ている服を脱ぎはじめた。
僕は半渇きのブラウスを脱ぎかけた所で、一旦僕の手が止まった。
正面の洗面台の鏡には、ブラウスを脱ぎかけて上半身を肌蹴させた姿で手が止まった状態の双葉さんの姿が映っていた。
そう、鏡に目が行って、つい手が止まっちゃったんだ。
「……これが、今の僕?」
鏡の中では、雨宿りの時に、横目でちらりと見ただけの大人の女性が、戸惑いの表情を浮かべていた。
僕はそっと手を上げて、自分のほっぺたに触ってみた。
鏡の中の大人の女性、双葉さんも、僕と同じ動作でほっぺたに触っていた。
ほっぺたはぷにぷにしていた。
ああ、これは僕なんだ。この顔は今の僕の顔なんだと、改めて実感した。
かわいい系の童顔なのに大人っぽくみえる女性の顔。
きれいだ。これが今は僕の顔だなんて。
なんでだろう、つい見とれちゃった。
視線を少し下にずらすと、鏡の中の双葉さんは、ブラウスを脱ぎかけて上半身を肌けさせていた。
その肌けた胸元には、ブラジャーからはちきれそうなボリュームのある大きなおっぱいが、その存在感を示していた。
さらに視線を下げると、僕の胸元のおっぱいが、下への視線を遮るようにぽよんと突き出していて、その存在感を示していた。
「ここに来るまでに、歩くたびにこのおっぱいがぷるぷる揺れて、なんか気になってしょうがなかったんだよね」
さっきまでは双葉さんが一緒にいたから、迂闊な事は言えなかったし言わなかった。
だけど今は、ここには双葉さんはいない。
てことは、ちょっとくらい触ってもばれないよね?
ついさっき、その双葉さんに、『今はその体は清彦くんに任せるしかない。少しくらい見られたり触られたりしてもしょうがない』と言われた。
だけど、こういうことは、こっそりするほうが、逆にドキドキするよね?
「ちょっとだけ、ちょっと触ってみるだけだから」
なんて言い訳をしながら、僕は今は僕のモノになったおっぱいに手を滑らせた。
ここまでで未完
モニターには、よく知った顔の男子高校生の姿が映っていた。
僕は玄関へと駆けて行き、勢いよく玄関の扉を開けた。
そして男子高校生に話しかけた。
「こんにちは双葉さん、いらっしゃい」
そんな僕に、男子高校生は呆れたような声で言った。
「今はあなたが双葉でしょ、今の僕は清彦だよ」
「それは、そうなんですけど……」
「まあいい…わ。こんにちは双葉さん、お邪魔します」
と言いながら、その男子高校生、清彦は、さっと家の中に入り、さっと玄関の扉を閉めたのだった。
そして一緒に居間に入った瞬間、僕はいきなり清彦に押し倒された。
「きゃあっ! きよひ……双葉さん、いきなり何をするんだよ!」
「何をって、わかってるくせに」
そう言いながら、清彦は僕に抱きつき、僕の豊満なおっぱいに顔を埋めてすりすりした。
「み、未亡人の僕が、近所の男子高校生といけないことしちゃったら、まずいでしょ、…ひゃん!」
「今更なに言ってるのよ、あんな期待感丸出しの嬉しそうな顔で私を出迎えておいて、説得力がないわよ」
「そ、そりゃ、あ、あん……そうですけど……あぁん…!!」
清彦はそう言いながら、ぼくの体を撫で回しながら、嬉しそうに僕の着ている服を脱がせていく。
僕も、口では正論らしいことを言いながら、目の前の男子高校生に逆らわずに、されるままに身を任せていた。
「それに私たち、……こうなっちゃったあの日から、何度も行くとこまで行っちゃったんだから、もう引き返せないわよ」
「……うん」
そう、僕と双葉さんの体が入れ替わってしまったあの日から、僕たちはもういけない関係になっちゃったんだ。
それは、数日前に遡る。
その時は、僕はまだ清彦だった。
学校での授業が終わり、家に帰る途中、急に天候が悪くなり、少し遠くでゴロゴロと雷が鳴り、ぽつぽつ雨が降ってきた。
こりゃ爆弾低気圧の本格的な雨が来そうだと感じた僕は、近くの屋根のあるバス停に待避した。
その直後に酷い土砂降り、僕は間一髪で避難が間に合った形だった。
だけど、少し遅れて、少しだけ間に合わなかった人が避難してきた。
「ああ、もう、天気予報では、雨なんていってなかったわよ!」
二十台半ばくらいの、僕より少し年上の大人の女性だった。
僕よりほんのちょっと避難が遅れただけなのに、もうすっかりびしょ濡れだった。
「ごめんなさいね、ちょっと私も雨宿りさせて」
「あ、いえ、この天気だし、僕も雨宿りですから、お気になさらず」
「そ、そう?」
そんな訳で、同じバス停の屋根の下で、僕とその大人の女性の二人での雨宿りが始まったんだ。
大人の女性と言っても美人と言うより童顔でかわいい系で、僕より身長が少し低くて小柄な印象だった。
だからといって子供っぽいわけじゃなくその逆だ。
その小柄な体に比してボリュームのある大きなおっぱいに、引き締まったウエスト、安産型の大きなお尻、ぼんきゅうぼん、微妙なバランスでスタイル抜群だった。
何よりその立ち振る舞いや雰囲気が、大人の色気を振りまいていた。
さすがに今のこの人に比べたら、クラスの女子が子供に見える。
おまけに雨でびしょ濡れなせいで、ブラウスやパンツ(ズボン)が肌に張り付いていて、下着が透けて見えたり、余計にそのスタイル抜群な体型が際立って見えたりもした。
いけない、この人に悪い、そう思いながらも、ついついちらちら横目で見てしまっていた。
くうーたまんない、こんなの見てたら僕のちんこが勃ってきた。
あの人に抱きついて、あの大きくて柔らかそうなおっぱいに、すりすり頬ずりしてその感触を堪能してみたい。
いっそこのままこのひとに襲い掛かって、僕のモノにしてしまいたい!
なーんて邪なこと考えてしまった。
さすがに考えるだけだよ、さすがにそこは常識的に理性で抑えていた。
でもしっかり目に焼き付けて、家に帰った後でおかずにしよう。
この人に襲い掛かってあんあんいわせる妄想をしながらオナニーするんだ。
そのうちに、さすがにそんな僕の邪な視線や雰囲気に気づいたのか、その人は僕から体を隠すように体の向きを変えた。
顔もあっちを向いているので表情はわからないけど、嫌そうな雰囲気は感じられた。
うーん、クラスの女子もそうだけど、やっぱり女ってこういうのには敏感なんだな。
さすがに気まずさを感じた。
気分をわるくさせてごめんなさい、でもこれ男の本能だから。
まあ、僕はこの人からの印象が悪くなっただろうけど、雨宿りが終わったら、多分もうこの人と関わることはないだろうし、気にしすぎないようにしよう。
このときはそう思っていたんだ。
さっきから、ゴロゴロ鳴っていた雷が、だんだん近くに来たな、と思っていたその時、
ピカ――――ッ!! とかなり近くで光ったなと感じた直後、ド――ン! と近くで大きな音がした。
「きゃあっ!!」
その雷の光と音に驚いてか、隣の女性が悲鳴を上げながら僕に抱きついてきた。
ずぶ濡れの女性に抱きつかれたおかげで、僕まで濡れてしまった。
でもそのかわり、その女性に抱きつかれて、僕の体に押し付けられて感じた柔らかい感触が、僕の理性や男の本能を刺激した。
えっ、もしかして僕、大人の女の人に抱きつかれた?
なんだこれ、僕の体に押し付けられているこの柔らかい感触は、やばい、もしかしてあの大きなおっぱいの感触?
抱き付かれて濡れちゃったけど、これなら無問題だよ、たまんねー役得役得。
いけね、おさまりかけていた僕のちんこがまた勃ってきた。
「ご、ごめんなさい、わたしったらいい歳してはしたないまねをしちゃって」
「い、いえ、……そんな…」
女性は謝りながら、慌てて僕から体を離そうとした。
そんなことないです。雷のせいです。お気になさらず。とかなんとかフォローの言葉を続けて言おうと思ったその時。
ピカ――――――ッ!!
ドォ―――――――ン!!
二度目の雷、さっきより近くで強く光り、すぐ直後に近くに雷が落ちた大きな音が響いた。
「きゃあっ!!」
とまたその女性の悲鳴と、再度強く僕に抱きつく柔らかな感触が伝わってきた。
その直後に、びりびりびりっと、静電気の痺れのような感覚が、僕の体全体を襲った。
えっ?
と思う間もなく、僕の意識は暗転して一旦意識が途絶えたんだ。
…………途絶えていた意識が徐々に戻り、僕ははっと気が付いた。
あれ、僕は何をしていた?
あれからどうなった?
今の状況を確認すると、僕は男子の体に強く抱きついていた。
線が細いけど、でも意外に筋肉質な男子の体の感触は、今の僕にはたくましく感じられて意外に心地よかった。
なんでだか僕の胸は高鳴って、ドキドキしていた。
ぼ、僕はなにはしたない真似をしてるんだよ!
なぜだかそう感じて、僕は慌ててその男子から体を離した。
その瞬間、僕の胸元で僕のおっぱいが、ぷるん、と揺れた。
えっ、あれ、おっぱい? なんで男の僕におっぱいが?
それになんで僕は、男に抱きついていたんだ?
え、ぼ、僕?
僕が抱きついていたのは僕なの?
なんで僕が目の前に???
「わ、わたし…なの? なんで目の前に私がいるの?」
そして目の前の僕も、女みたいになよなよしながら女言葉で、僕の顔を見て驚いていた。
「僕たち」
「私たち」
「「入れ替わった?」」
なんて、何年か前に流行したアニメ映画みたいな台詞を言いながら、僕たちは体が入れ替わってしまったという、今のお互いの境遇を認識した。
「うそでしょ、なんでこんなことになっちゃったのよ!」
「なんでって、やっぱり、……さっきの雷のせいじゃない……かな?」
「雷のせいって、そんなバカなことがあるはずがないでしょ! っていつもなら反論しちゃう所だけど……でも」
「僕もいつもならそう思うけど、現実に、さっきの雷の後でこうなっちゃった訳だし、そうだとしか……」
「そうよね……はあ~」
目の前の僕が、困惑した表情のでため息をついた。
つられて僕もため息をついたのだった。
「ねえ、あな……っ!? え? きゃっ! や、やだ!」
目の前の僕が、僕に何かを言いかけて、急に恥ずかしそうな声を上げながら、女みたいな仕草で、僕から体を隠すように背中を向けた。
なぜだか背中を丸めて、前かがみになりながら、恥ずかしそうにしていた。
うーん僕の姿で、そんな仕草されちゃ、見ているこっちのほうが恥ずかしいっていうか、おかまみたいで気色悪いっていうか。
でも急にどうしたんだろう?
なんだかやたら股間を気にしているみたいに見えるけど。
……えっ、股間!?
男があの姿勢で股間を気にしてるってことは!
僕は、こうなる(入れ替わる)直前、大人の女性に抱きつかれて、僕のちんこが勃っていたことを思い出した。
つまりあれって、今僕の体のちんこが勃っているってこと?
そうだと気づいて、僕のほうも急に恥ずかしくなってきたのだった。
今度は僕が、元の僕から視線を逸らして背中を向けた。
お互いに相手に背中を向ける体勢のまま、しばらく無言で沈黙していた。
今、元の僕の体の中には、多分この体の女の人がいるよね?
てことは、こうなる(入れ替わる)直前に、僕のちんこが勃ってたってことに、気づかれたってことだよね?
多分、僕がエロいこと考えていたってばれちゃってるよ。
なんだかすごく気まずい。
ど、どうしよう?
「ご、こめんなさい」
「えっ?」
「ぼ、僕、ついエロいこと考えちゃって、それで体が反応しちゃって、それで、……とにかくごめんなさい!」
僕はつい咄嗟に『僕』(の体の女の人)に謝った。
最初、いきなり僕のほうから謝られて、ぽかんとしていた『僕』(の体の女の人)は、はっと何かに気づいたかのか、くすくすと小さく笑い出した。
「そ、それは、健康な思春期の男の子だもの、しかたがないわよ。さすがにストレートにそう言われちゃうと、ちょっと私も恥ずかしいけど」
そう言いながら、『僕』はゆっくりこっちを向きながら、ちょっと顔を赤らめて恥ずかしそうだった。
「ご、ごめんなさい」
「だから、謝らなくてもいいわよ」
どうやら『僕』は、僕を許してくれたみたいだ。
というか、最初からこの件で、僕を咎めようという気はなかったようだ。
これがもし同世代のクラスの女子だったら、絶対「スケベ、エッチ、サイテー」とか言って僕を責めただろうし、なかなか許してくれなかっただろう。
この辺の違いは、さすがに大人の女の人ってことだろうか?
ただ、この僕の謝罪がきっかけで、さっきまでの気まずい空気が取り払われて、僕と『僕』(女の人)の間での話し合いが始まったのだった。
まずは簡単に、お互いの自己紹介からはじめた。
「僕の名前は清彦、原田清彦です」
「私は双葉、片平双葉よ。よろしくね清彦くん」
「あ、よろしく双葉…さん」
この人が僕の姿で双葉と名乗っている姿を見るのは、何だか変な気分だった。
でもそうか、この人は双葉さんっていう名前なのか。……今は僕の姿だけどね。
そういう僕が、大人の女性の双葉さんの姿で清彦って名乗っているのは、双葉さんから見たら複雑な心境だろうな。
もしこの場に第三者がいて、今の会話を見ていたら、変な光景に見えただろう。
この場に第三者がいなくて良かったよ。
「僕は地元の高校から、家に帰る途中でした。そしたらさっきの夕立で、ここで雨宿りをしていたんです」
「私も用事で出かけていて、家に帰る途中にいきなりさっきの夕立に遭っちゃって、このバス停に雨宿りに避難してきたのよ。そうしたらこんなことになっちゃって」
などと話の流れで、少しづつお互いの事情や状況も話し始めた。
とはいえ、色々気にはなるけど、さすがにまだお互いのプライベートな話など、踏み込んだ話はしなかった。
くしゅん!
会話の途中で、僕はかわいいくしゃみをした。
「清彦くん大丈夫?」
「大丈夫です、と言いたい所だけど、うう、ちょっと寒くなってきたかも」
双葉さんの体、今の僕の体は、夕立のせいでずぶ濡れで、だんだん体が冷えてきていた。
うう、僕は雨が降る直前に避難したはずなのに、双葉さんの体は避難が遅れてずぶ濡れになっていたから。
「ごめんなさいね私のせいで」
「いえ、双葉さんが悪いわけじゃないですから」
「でも困ったわね、私のハンドバッグの中には、ハンカチくらいしかないし、……清彦くんは、タオルか着替えを持ってる?」
「あ、カバンの中に、汗拭き用のフェイスタオルくらいなら」
「あった、これね。ごめんなさいちょっと借りるわね」
双葉さんはそう断って、僕のカバンからタオルを取り出した。
そして僕の体を拭き始めたのだった。
雨に濡れた僕の体を、てきぱきと手馴れた感じで拭いてくれたのだった。
だったのだが……。
「きゃあっ!」
「えっ、ご、ごめんなさい!」
「いや、別にそんなこと……」
僕を拭いている途中、双葉さんの手が、僕のおっぱいにむにゅって触っちゃったんだ。
僕はつい反射的に、短く悲鳴をあげちゃって、双葉さんもそんな僕に反射的に謝ったんだ。
「この体は元々双葉さんの体だし、僕は気にしてませんから」
「そ、そう? あ、でも、濡れている所は大分拭けたし、もう私が拭かなくてもいいわね」
「それならタオルを貸してください。後は自分で拭きますので」
「そう、わかったわ、ちょっとまってて、…………はいタオル」
双葉さんは、僕の体を拭いて濡れたタオルを絞りなおしてから、僕に手渡した。
僕は双葉さんから、そのタオルを受け取ったのだった。
そんなこんなで、僕と双葉さんの間は、また少し気まずくなった。
ああは言ったけれど、双葉さんにおっぱいを触られた時、なんかびりっと感じて、
そしてなんでだか急に、双葉さんに見られたり触られたりすることが、すごく恥ずかしくなってきたんだ。
いやいや、さっき双葉さんにも言ったけど、この体は元々双葉さんの体なんだ。そんな訳ないよな、気のせいだよな。
でも、……双葉さんからは、今の僕はどう見えているんだろう?
双葉さんは、僕の事をどう思っているんだろう?
僕はちらりと双葉さんを見た。
今の双葉さんは、元の僕の体の男子高校生だ。
こうして外から清彦の体を見てみると、意外にかわいい顔をしているんだな。
それに、男子の中では標準より身長が低めだったのを、僕は気にしていたけど、
今の僕から見ると、意外に大きいというか、意外にたくましいっていうか、さすがに男子だよね。
……って、なにを考えてるんだよ僕は!!
ただ、そんなことを考えていたら、僕の胸の鼓動がドキドキしてきた。
僕の体の双葉さんの事が、なんでだか急に気になってきた。
僕は双葉さんの事を意識しちゃってる?
いやこれは、僕の体になっちゃった双葉さんのことを、心配しているだけだ。
別に何も変な事ややましい事は無いはずだ。落ち着け、落ち着け僕!
僕は変な方向に高ぶった気持ちをごまかすように、さっき受け取ったタオルで表情を隠すように、顔を拭いたのだった。
『あれ、なんだこれ?』
何気なく顔を拭いていて、ふと僕の左手にある異物が目に入った。
目の前に左手をかざしてみると、その薬指には指輪が嵌まっていた。
え、指輪? なんで僕がこんなものを?
あ、そうか、これは僕じゃなくて双葉さんの指輪なんだ。
で、でも、左手の薬指に指輪の意味って!?
……そ、そうだよね、双葉さんは僕より年上の大人の人なんだから、結婚していても何もおかしくないよね?
そのはずなのに、なんでだか理由まではわからないけど、なぜかショックだった。
「清彦くん、どうかしたの? まだ寒いの?」
「あ、いえ、なんでもないです。タオルで拭いてもらったから今は大丈夫です」
双葉さんに心配そうに声をかけられて、僕は咄嗟にごまかした。
「そう? ならいいけど、具合が悪かったら言ってね。その体は私の体なんだからね」
「は、はい、わかってます」
なんとかごまかせたけど、指輪の事、聞けばよかったかな?
いや、こんな時に、あまりプライバシーに深く関わることを、興味本位で聞くもんじゃないよな。
失礼だよな。
今は気づかなかったことにしよう。
僕はまだ深く考えていなかった。
これはもう双葉さんだけのプライバシーの問題ではなく、僕自身の問題にもなってしまったという事に。
そうこうしているうちに、雨が上がってきた。
「雨、上がってきましたね」
「……そうね」
普通なら、『これで雨宿りを終わらせて家に帰れる。良かった』という所なのだけれど……。
「結局、あれからこの近くに、雷は落ちませんでしたね」
「そうね、雨も上がったし、もう落ちないでしょうね」
僕たちは、雨宿りをしながら、もう一度近くに雷が落ちて、体が元に戻ることに期待していた。
だけどその可能性は、夕立の雨雲と一緒に遠ざかっていった。
僕たちは、体が入れ替わったまま、僕は双葉さんの体のままだった。
正直、この後どうすれば良いのか、全然良い考えが思い浮かばなかった。
「こ、これからどうしよう? 困ったなあ」
「ひとまず私の家に行きましょう」
「双葉さんの家に?」
「ええ、この近くだし、そこでこの後のことも相談しましょう」
「そうですね」
他に名案もなく、僕は双葉さんの提案に乗って、一緒に双葉さんの家に向かうのだった。
双葉さんの家への道を知らない僕は、双葉さんの案内で、その後について歩いていた。
歩くたびに、僕の胸元の大きなおっぱいがぽよんぽよんと揺れて、なんだか気になって仕方がなかった。
いや、気になるだけならまだ良い、この体は胸とお尻が大きくてバランスが取りにくくて、元の僕の体よりも歩きにくいんだ。
おまけに足元に履いていたのは、ややかかとの高いパンプスで、余計にバランスの取りづらさと歩きにくさを感じていた。
双葉さんの穿いていたのが、スカートでなく、パンツ(ズボン)であっただけまだましだったのかもしれない。
だけど、慣れない身体の慣れない感覚のせいで、トータルでの歩く速さは、いつもの元の僕より遅くなっていた。
「ふ、双葉さん、ちょっと待って!」
「あ、ごめんなさい。いつもより楽に歩けるものだから、つい調子にのっちゃって……」
僕とは逆に双葉さんは、元の自分の体よりも運動能力の高い男子高校生の体で、無意識に歩く早さが早くなっていた。
結果、歩くのが遅い僕は、双葉さんに置いていかれる形になり、慌てて戻ってきた双葉さんは僕に謝って、また一緒に歩くことになった。
今度は双葉さんは、僕に合わせてゆっくり歩いてくれた。
そうこうしているうちに、双葉さんの家に到着した。
「着いたわよ。ここが私の家よ」
「へえ……ここが双葉さんの家なんだ」
「そうよ」
わりと新しめの二階建ての一軒家だった。
玄関には『片平』の表札、その下には家族の名前を書く表札があり、その中に片平双葉の名前も書かれていた。
『双葉さんの名前の隣に、敏明って名前がある。もしかしてこれって旦那さんの名前? やっぱりそうなんだ』
などと思ったけれど、余計なことは口には出さなかった。
「私のハンドバッグ貸して」
「は、はい」
双葉さんにハンドバッグを渡すと、中から鍵を取り出した。
そして双葉さんはその鍵で、玄関の鍵を開けたのだった。
「どうぞ、今はこの家には私たち以外に誰もいないから、余計な気を使わなくてもいいわよ」
「……おじゃまします」
そんな訳で、僕は双葉さんの家に、(一応客として)上がりこんだのだった。
「本来なら居間にお通しして、お茶でも出して、一息つけてから、今後の事を話し合いましょう。と言いたいところなんだけど……」
そう言いながら、双葉さんは僕を居間ではなく、洗面所のほうへと引っ張っていく。
「その体、さっきの雨で濡れちゃって、冷えちゃって、清彦くんもさっきは寒がっていたでしょ?」
「う、うん、タオルで拭いてもらいましたけど、まだ少し肌寒いかな? 今着てる服もまだ生乾きだし」
「そう、だから早く濡れた服を脱いで、体を温かくしないと、風邪をひいちゃうわよね、だから」
「だから?」
「清彦くん、私の代わりにシャワーを浴びて、できればお風呂にも浸かって、その体を温めてね」
「え、僕が双葉さんの代わりにシャワーを浴びる? お風呂入る? ……いいの? 本当にいいの?」
それって僕が双葉さんの服を脱いで、僕が双葉さんの体を見ちゃう、
お風呂に入って双葉さんの体の微妙な所を、僕が触っちゃうってことになるわけで、
いいの? 本当にいいの?
「いいわよ。それにたとえイヤだと思っても、今はその体を清彦くんに任せるより、他に方法が無いでしょ!」
「それはそうですけど」
「とにかく、私は着替えを用意してくるから、その間にシャワーを浴びていてね。お願いね」
「……わかりました」
そんな訳で、双葉さんは着替えを取りに行って、一旦この場を離れた。
俺はこの場に一人残された。
もう一度、一人で一言呟いた。
「本当にいいのだろうか?」
誰からも返事は無かった。
こういう場合は、入れ替わった女の方が、入れ替わった男に、元の自分の体を見られたり好き勝手にされるのを嫌がって、色々口うるさく言うものだと思っていた。
マンガなんかの定番での、女の子になった男のほうが、元の女の子に目隠しをされて着替えやお風呂、なんて展開もありえると思っていた。
あるいは僕と入れ替わったのがクラスの女子だったら、そうしたのかもしれない。
双葉さんは、大人の女性だから、子供の僕なんかに見られても平気なのだろうか?
いや、さすがに、僕に見られて平気ってことはないよな。
……これ以上余計な事を考えていてもしょうがない。
双葉さんに言われた通りに、さっさと濡れた服を脱いで、シャワーを浴びてしまおう。
実際、雨に濡れて冷えたこの体は、さっきタオルで拭いて持ち直したとはいえ、まだ少し寒い。
こうなったら、少しでも早く温かいシャワーを浴びたい。
僕はいそいそと今着ている服を脱ぎはじめた。
僕は半渇きのブラウスを脱ぎかけた所で、一旦僕の手が止まった。
正面の洗面台の鏡には、ブラウスを脱ぎかけて上半身を肌蹴させた姿で手が止まった状態の双葉さんの姿が映っていた。
そう、鏡に目が行って、つい手が止まっちゃったんだ。
「……これが、今の僕?」
鏡の中では、雨宿りの時に、横目でちらりと見ただけの大人の女性が、戸惑いの表情を浮かべていた。
僕はそっと手を上げて、自分のほっぺたに触ってみた。
鏡の中の大人の女性、双葉さんも、僕と同じ動作でほっぺたに触っていた。
ほっぺたはぷにぷにしていた。
ああ、これは僕なんだ。この顔は今の僕の顔なんだと、改めて実感した。
かわいい系の童顔なのに大人っぽくみえる女性の顔。
きれいだ。これが今は僕の顔だなんて。
なんでだろう、つい見とれちゃった。
視線を少し下にずらすと、鏡の中の双葉さんは、ブラウスを脱ぎかけて上半身を肌けさせていた。
その肌けた胸元には、ブラジャーからはちきれそうなボリュームのある大きなおっぱいが、その存在感を示していた。
さらに視線を下げると、僕の胸元のおっぱいが、下への視線を遮るようにぽよんと突き出していて、その存在感を示していた。
「ここに来るまでに、歩くたびにこのおっぱいがぷるぷる揺れて、なんか気になってしょうがなかったんだよね」
さっきまでは双葉さんが一緒にいたから、迂闊な事は言えなかったし言わなかった。
だけど今は、ここには双葉さんはいない。
てことは、ちょっとくらい触ってもばれないよね?
ついさっき、その双葉さんに、『今はその体は清彦くんに任せるしかない。少しくらい見られたり触られたりしてもしょうがない』と言われた。
だけど、こういうことは、こっそりするほうが、逆にドキドキするよね?
「ちょっとだけ、ちょっと触ってみるだけだから」
なんて言い訳をしながら、僕は今は僕のモノになったおっぱいに手を滑らせた。
ここまでで未完