聖灰戦争──死後、神霊に域にまで到達した聖者の遺骸を燃やしたあとに残されたモノ「聖灰」を求めて、魔術師や裏の世界の住人たちが争う魔術儀式だ。
聖灰は、それがあれば何でも願いが叶う……わけではないが、それでも一級品の聖遺物であり、魔術師であれば、それを用いて一気に位階を1、2ランク上げることができる。
あるいは不治の病に侵された重病人を健康体にしたり、死んだばかりかつ死体が残ってる状態なら死者の蘇生すら不可能ではない。逆に、憎い怨敵を呪殺したりすることもたやすいだろう。
そんなとびきりの“奇跡”をもたらす品を賭けて、7人の参加者とそれぞれの相方、都合14人が血みどろの戦いをくり広げるのが聖灰戦争、というワケだ。
そう、7人の参加者は、人として生まれながら精霊にも伍する域まで霊格を高め、死後に「英霊」となった英雄たちの魂を「従者(サバント)」として召喚し、共に戦っていくことになる。
サバントは、「剣豪」「射手」「槍士」「騎兵」「隠密」「術師」「傾奇者」の七つの「職種(クラス)」のいずれかに当てはめられる。それぞれの特徴については、文字面からおおよそ推し量れるだろう。
この春樹市でも、そんな聖灰戦争が人知れず行われている──偶然が重なった結果、俺こと白兎映見也(はくと・えみや)はその事実を知ることになった。
そもそも、俺は魔術師じゃないし、裏街道で生きてる人間というわけでもない。ごく普通に学校に通い、幸いにも地元の私立大学に推薦が決まっている平凡な高校生だ。
──いや、数年前に亡くなった親父は確かに魔術師のハシクレだったらしい。一応、それは本人から聞いて知ってる。小さい頃にその親父にせがんで、ひとつだけ魔術を教えてもらったりもした。
しかしながら、俺にはどうにも魔術の才能は乏しいらしく、親父からはその道に進むのはあきらめるよう、それとなく示唆された。
実際、教えてもらったその簡単な魔術さえ、モノにするのに丸一年かかったし、その修行はかなり退屈かつ苦痛な時間だったので、幼い俺も不承不承、魔術師になることはあきらめたのだ。
以来、魔術とか魔物だとか物騒な事とは無縁のパンピー生活を送って来たんだが……。
たまたま放課後、暗くなるまで部活の自主練で居残りして、そこから帰る途中に、運悪くサバント同士の戦いを目にしてしちまったのが運のツキ。
目撃者は消せとばかりに襲ってきた槍士のサバントから逃げ出したものの、すぐに追いつかれ、絶体絶命のピンチに陥った時、親父の形見の御守りから光があふれて……。
「剣豪の従者(さぁばんと)、見参。貴殿が我が召喚主(ますたぁ)かな?」
間一髪、サバントを召喚し、7人目のマスターになった──なっちまったってワケだ。
まぁ、あのままだと心臓を槍で貫かれて即死してたろうから、こんな風に聖灰戦争に巻き込まれちまったのは仕方ない。
幸いにして、不確定要素を嫌ったのか槍士は退却したし、今は自宅に戻って、俺のパートナーである剣豪のサバントに色々話を聞いているところなんだが……。
「ところで、剣豪、あなたの正体は何なんですか?」
身の丈よりも長い細身の日本刀を用いて、舞うが如くに優美な剣閃を見せる、長い黒髪の“美少女”──なんて剣豪は寡聞にして知らない。
「ふむ。生憎、それほどたいした者でもござらん。ただの負け犬でござるよ。「岩流」という剣術の流派を耳にしたことはおありかな?」
え!? ま、まさか……。
「佐々木岩流小次郎!? 燕返しの?」
「ほぅ、ご存じであったか」
そりゃ、中学生以上の日本人なら99%は知ってるよ! 二刀流の剣豪・宮本武蔵の宿敵じゃないか! でも、それがなんで美少女?
──いや、待て、当時の日本は男女差別が激しい時代だったし、剣士として生きるために男装して性別を偽っていたとか? そう言えば、佐々木小次郎って言えば美形ってのが通説だし……。
そんな風に推理していた俺だったが──結論から言うとまるで見当違いだった。
「うぬ!? な、何故、拙者の胸にこのような乳房が? それに、よく見れば股間にはイチモツの代りにホトが!」
どうやら、今の女の子の姿は剣豪・佐々木小次郎にとっても予想外な事態らしい。
──後日判明したのだが、この冬樹の聖灰は過去の所業によって汚染されており、どのような英霊を呼んでも、すべて女性……というか「萌えっ娘」化して顕現させてしまうらしい。
「あー、そう言えば、校庭で見た槍士と射手も、どっちも女の子っぽかったな」
片方は人間無骨を持つ森長可、もう片方は壇ノ浦の戦いで有名な那須与一らしい。どっちもちゃんと男のはずだもんなぁ。
こんな呪われた聖灰を手に入れても、使い道とかあるのかねぇ。
「甘いわよ、白兎くん。たとえ少しばかり汚染されていようと、聖灰ともなれば、喉から手を出しても欲しい輩はいっぱいいるんだから。そいつらに売りつければ……グフフ」
この、女の子がしちゃあいけない表情で取らぬ狸の皮算用に頬を緩めてるのは、俺の同級生の遠藤蓮(えんどう・れん)。文武両道の才媛にして学年一の美少女として有名なんだが──どうやら、彼女も魔術師だったらしい。
「いや、ソッチ方面とか俺、ツテないし」
「大丈夫、魔術師協会へのコネならわたしに任せて♪ オークションに出せば、5千万は下らないわ。だから……わたしと組みましょ(はぁと)」
しかも、何というか、すごく、守銭奴です。
「だ、ダメです! 映見也先輩は私と一緒に戦うんです!!」
慌てて俺の右手を抱え込んで身を寄せる童顔巨乳の女の子は、俺と同じ合気道部の1年後輩の佐倉真紀(さくら・まき)。なんでか知らないけど、部活で出会った当初から俺に懐いてくれてるんだよなぁ。
ちなみに、真紀も魔術師の家系の娘で、騎兵のサバントを召喚したらしい。さっき見たら、角飾りのついたカチューシャと赤い浴衣姿で団扇持ってたけど……もしや武田信玄!? いや、まさかね。(←正解)
(可愛い女の子が身近にいっぱいいるのは嬉しいが、その半分が本来男で、かつ潜在的な競争相手(※命の危険含む)って状況は、遠慮したいなぁ)
左右からステレオで言い争う、2年のマドンナと1年のアイドルの口ゲンカを聞き流しつつ、俺は心の中で溜息をつく。
『ははは、あきらめられよ、ますたぁ殿。拙者を呼んで聖灰戦争に参加した以上、決着がつくまでは降りられぬが故』
──知ってましたよ、コンチクショウ!
* * *
さて、この一見したところ、羨まけしからんプチハーレムを形成している白兎映見也(しろう・えみや)少年だが……。
実は彼も知らない、重大な事実がまだ幾つか、この聖灰戦争には隠されている。
幾つかの細部を除き、この状況とそっくりなゲーム(エロゲ)が、とある平行世界(?)で売り出され、大ヒットを飛ばしたこと……は、まあ良いとして。
「じつは蓮は、その平行世界から作中世界へのTS転生者で、第5次聖灰戦争の大まかな流れを知ってるため、“主人公”たる映見也と組もうとしてる」とか……。
「真紀は、実は映見也の中学時代の悪友・真司が魔術実験の失敗でTSした姿(当時は突然海外に留学したことにされた)だ」とか……。
ほかにも、「傾奇者」のマスターを名乗るロシアから来た礼儀正しいお嬢様(ただし、外見年齢は11、2歳)に、「お兄さま♪」と懐かれたのはよいが、じつはその子が彼より実年齢がひとつ上の男の娘だと発覚したり……。
さらに、彼が最後まで同盟を維持した相手──ちょっと無気力っぽいが、温厚で頼れる兄貴分的な天才魔術師(♂)が、紆余曲折の後、聖灰戦争後に、色っぽい美女(しかもシングルマザー)になってしまうなんてこともあったり。
映見也少年自身がTSすることにならなかったのは不幸中の幸いだろうが、これ以後も、彼の人生にはTS娘や男の娘の影が執拗について回るのだった。
* * *
【聖灰戦争オルタナティヴ】
「こんにちは。あなたが“私達”の御主人様(おかあさん)?」
自らが呼び出したサバントと初めて言葉を交わした時、彼──はぐれ魔術師である六道玲(りくどう・あきら)は、言葉に言い尽くせない衝撃を覚えた。
27歳とまだ若く、ヒヨッコと呼んでもいい年齢ではあったが、玲は同世代の魔術師の中では飛び抜けた才能があった……反面、大概の事を小器用にこなす分、何かに熱中することのない青年だった。
そんな彼が、半ば偶発的に起こった聖灰戦争に遭遇し、そのまま参加を決めたのも、ある種の投げ槍さ、「聖灰戦争で死ぬならそれまでのコトだ」という一種虚無的な割り切りがあったからだ。
聖灰戦争──死後、神霊に域にまで到達した聖者の遺骸を燃やしたあとに残されたモノ「聖灰」を求めて、魔術師や裏の世界の住人たち七組が争う魔術儀式。
勝ち残れば聖灰を用いて奇跡にも等しい望み叶えられるというが、そのためには他の6組を蹴落し、かつ生き残らなければならない。
玲自身にはさしたる望みはない。聖灰そのものよりむしろ聖灰戦争というとびきりの非日常に身を投じて、少しでも生きていることの実感を感じたい程度の、願いとも言えない程度の目的だった。
そんな彼だったが、「隠密」のサバントを召喚し、童女の姿をした“彼女”と言葉を交わしたことで、「この子の願いを叶えてあげたい」と願うようになる。
熾烈な戦いをふたり手を取り合い、綱渡りのような危なっかしさで勝ち抜いていく玲と「隠密」。
そして、ついに明かされる「隠密」のサバントの正体。
彼女は“ジャック・ザ・リッパー”、稀代の殺人鬼の名を冠せられた「此の世に生まれ出ることのできなかった赤子」、いわゆる水子の霊の集合体だった。
愛らしい少女の姿をした(そして言動も無垢な幼子のような)彼女を、妹ないし娘のように溺愛するようになっていた玲は、聖杯を勝ち取り、必ず彼女(ジャック)の願いを叶えようと決意を新たにする。
最後の決戦の結果、ふたりは勝者にはなれなかったが、優勝者たる「剣豪」とその主は「自分たちに願いはないから」と聖灰を玲たちに委ねる。
「聖灰戦争」という儀式の終焉と共に徐々に薄れゆくジャックを抱き締め、ながら、玲は“彼女”の願いを叶える方法に思い至り……聖灰を用いて躊躇いなくそれを実行する。
そして数年後。日本のとあるマンションで、ふたりの女性──母と娘が仲良くお風呂に入っていた。
「ほら、髪を洗ってあげるから、目を閉じなさい」
「はーい、おかあさん」
娘の方はあの時「消えた」はずのジャックと瓜二つであり、また母親の貌にはわずかに玲の面影があった。
──ジャックの願いは「安息に満ちた母の胎内に還ること」、そしてその裏に隠された真の願いは「今度こそ愛される子供としてこの世に生まれ出ること」だった。
いかに聖灰と言えど、それ単体ではその願いを叶えることは不可能に近かったが、玲は自らの存在を“母胎”として捧げ、変質させることで、それを可能とする。
そう、聖灰によって自分自身を女に変え、自らの胎内にジャックの霊基を取り込んで、赤子として生み直したのだ。
故に、今ここにいる少女は「隠密のサバント」ジャックであると同時に、生身の人間の女の子であり、玲改め“玲歌(れいか)”の愛娘に他ならない。
「“私達”……ううん、わたしね、おかあさんのことが大好きだよ」
「フフッ、ジャクリーン、わたしもよ♪」
~Happy End?~
聖灰は、それがあれば何でも願いが叶う……わけではないが、それでも一級品の聖遺物であり、魔術師であれば、それを用いて一気に位階を1、2ランク上げることができる。
あるいは不治の病に侵された重病人を健康体にしたり、死んだばかりかつ死体が残ってる状態なら死者の蘇生すら不可能ではない。逆に、憎い怨敵を呪殺したりすることもたやすいだろう。
そんなとびきりの“奇跡”をもたらす品を賭けて、7人の参加者とそれぞれの相方、都合14人が血みどろの戦いをくり広げるのが聖灰戦争、というワケだ。
そう、7人の参加者は、人として生まれながら精霊にも伍する域まで霊格を高め、死後に「英霊」となった英雄たちの魂を「従者(サバント)」として召喚し、共に戦っていくことになる。
サバントは、「剣豪」「射手」「槍士」「騎兵」「隠密」「術師」「傾奇者」の七つの「職種(クラス)」のいずれかに当てはめられる。それぞれの特徴については、文字面からおおよそ推し量れるだろう。
この春樹市でも、そんな聖灰戦争が人知れず行われている──偶然が重なった結果、俺こと白兎映見也(はくと・えみや)はその事実を知ることになった。
そもそも、俺は魔術師じゃないし、裏街道で生きてる人間というわけでもない。ごく普通に学校に通い、幸いにも地元の私立大学に推薦が決まっている平凡な高校生だ。
──いや、数年前に亡くなった親父は確かに魔術師のハシクレだったらしい。一応、それは本人から聞いて知ってる。小さい頃にその親父にせがんで、ひとつだけ魔術を教えてもらったりもした。
しかしながら、俺にはどうにも魔術の才能は乏しいらしく、親父からはその道に進むのはあきらめるよう、それとなく示唆された。
実際、教えてもらったその簡単な魔術さえ、モノにするのに丸一年かかったし、その修行はかなり退屈かつ苦痛な時間だったので、幼い俺も不承不承、魔術師になることはあきらめたのだ。
以来、魔術とか魔物だとか物騒な事とは無縁のパンピー生活を送って来たんだが……。
たまたま放課後、暗くなるまで部活の自主練で居残りして、そこから帰る途中に、運悪くサバント同士の戦いを目にしてしちまったのが運のツキ。
目撃者は消せとばかりに襲ってきた槍士のサバントから逃げ出したものの、すぐに追いつかれ、絶体絶命のピンチに陥った時、親父の形見の御守りから光があふれて……。
「剣豪の従者(さぁばんと)、見参。貴殿が我が召喚主(ますたぁ)かな?」
間一髪、サバントを召喚し、7人目のマスターになった──なっちまったってワケだ。
まぁ、あのままだと心臓を槍で貫かれて即死してたろうから、こんな風に聖灰戦争に巻き込まれちまったのは仕方ない。
幸いにして、不確定要素を嫌ったのか槍士は退却したし、今は自宅に戻って、俺のパートナーである剣豪のサバントに色々話を聞いているところなんだが……。
「ところで、剣豪、あなたの正体は何なんですか?」
身の丈よりも長い細身の日本刀を用いて、舞うが如くに優美な剣閃を見せる、長い黒髪の“美少女”──なんて剣豪は寡聞にして知らない。
「ふむ。生憎、それほどたいした者でもござらん。ただの負け犬でござるよ。「岩流」という剣術の流派を耳にしたことはおありかな?」
え!? ま、まさか……。
「佐々木岩流小次郎!? 燕返しの?」
「ほぅ、ご存じであったか」
そりゃ、中学生以上の日本人なら99%は知ってるよ! 二刀流の剣豪・宮本武蔵の宿敵じゃないか! でも、それがなんで美少女?
──いや、待て、当時の日本は男女差別が激しい時代だったし、剣士として生きるために男装して性別を偽っていたとか? そう言えば、佐々木小次郎って言えば美形ってのが通説だし……。
そんな風に推理していた俺だったが──結論から言うとまるで見当違いだった。
「うぬ!? な、何故、拙者の胸にこのような乳房が? それに、よく見れば股間にはイチモツの代りにホトが!」
どうやら、今の女の子の姿は剣豪・佐々木小次郎にとっても予想外な事態らしい。
──後日判明したのだが、この冬樹の聖灰は過去の所業によって汚染されており、どのような英霊を呼んでも、すべて女性……というか「萌えっ娘」化して顕現させてしまうらしい。
「あー、そう言えば、校庭で見た槍士と射手も、どっちも女の子っぽかったな」
片方は人間無骨を持つ森長可、もう片方は壇ノ浦の戦いで有名な那須与一らしい。どっちもちゃんと男のはずだもんなぁ。
こんな呪われた聖灰を手に入れても、使い道とかあるのかねぇ。
「甘いわよ、白兎くん。たとえ少しばかり汚染されていようと、聖灰ともなれば、喉から手を出しても欲しい輩はいっぱいいるんだから。そいつらに売りつければ……グフフ」
この、女の子がしちゃあいけない表情で取らぬ狸の皮算用に頬を緩めてるのは、俺の同級生の遠藤蓮(えんどう・れん)。文武両道の才媛にして学年一の美少女として有名なんだが──どうやら、彼女も魔術師だったらしい。
「いや、ソッチ方面とか俺、ツテないし」
「大丈夫、魔術師協会へのコネならわたしに任せて♪ オークションに出せば、5千万は下らないわ。だから……わたしと組みましょ(はぁと)」
しかも、何というか、すごく、守銭奴です。
「だ、ダメです! 映見也先輩は私と一緒に戦うんです!!」
慌てて俺の右手を抱え込んで身を寄せる童顔巨乳の女の子は、俺と同じ合気道部の1年後輩の佐倉真紀(さくら・まき)。なんでか知らないけど、部活で出会った当初から俺に懐いてくれてるんだよなぁ。
ちなみに、真紀も魔術師の家系の娘で、騎兵のサバントを召喚したらしい。さっき見たら、角飾りのついたカチューシャと赤い浴衣姿で団扇持ってたけど……もしや武田信玄!? いや、まさかね。(←正解)
(可愛い女の子が身近にいっぱいいるのは嬉しいが、その半分が本来男で、かつ潜在的な競争相手(※命の危険含む)って状況は、遠慮したいなぁ)
左右からステレオで言い争う、2年のマドンナと1年のアイドルの口ゲンカを聞き流しつつ、俺は心の中で溜息をつく。
『ははは、あきらめられよ、ますたぁ殿。拙者を呼んで聖灰戦争に参加した以上、決着がつくまでは降りられぬが故』
──知ってましたよ、コンチクショウ!
* * *
さて、この一見したところ、羨まけしからんプチハーレムを形成している白兎映見也(しろう・えみや)少年だが……。
実は彼も知らない、重大な事実がまだ幾つか、この聖灰戦争には隠されている。
幾つかの細部を除き、この状況とそっくりなゲーム(エロゲ)が、とある平行世界(?)で売り出され、大ヒットを飛ばしたこと……は、まあ良いとして。
「じつは蓮は、その平行世界から作中世界へのTS転生者で、第5次聖灰戦争の大まかな流れを知ってるため、“主人公”たる映見也と組もうとしてる」とか……。
「真紀は、実は映見也の中学時代の悪友・真司が魔術実験の失敗でTSした姿(当時は突然海外に留学したことにされた)だ」とか……。
ほかにも、「傾奇者」のマスターを名乗るロシアから来た礼儀正しいお嬢様(ただし、外見年齢は11、2歳)に、「お兄さま♪」と懐かれたのはよいが、じつはその子が彼より実年齢がひとつ上の男の娘だと発覚したり……。
さらに、彼が最後まで同盟を維持した相手──ちょっと無気力っぽいが、温厚で頼れる兄貴分的な天才魔術師(♂)が、紆余曲折の後、聖灰戦争後に、色っぽい美女(しかもシングルマザー)になってしまうなんてこともあったり。
映見也少年自身がTSすることにならなかったのは不幸中の幸いだろうが、これ以後も、彼の人生にはTS娘や男の娘の影が執拗について回るのだった。
* * *
【聖灰戦争オルタナティヴ】
「こんにちは。あなたが“私達”の御主人様(おかあさん)?」
自らが呼び出したサバントと初めて言葉を交わした時、彼──はぐれ魔術師である六道玲(りくどう・あきら)は、言葉に言い尽くせない衝撃を覚えた。
27歳とまだ若く、ヒヨッコと呼んでもいい年齢ではあったが、玲は同世代の魔術師の中では飛び抜けた才能があった……反面、大概の事を小器用にこなす分、何かに熱中することのない青年だった。
そんな彼が、半ば偶発的に起こった聖灰戦争に遭遇し、そのまま参加を決めたのも、ある種の投げ槍さ、「聖灰戦争で死ぬならそれまでのコトだ」という一種虚無的な割り切りがあったからだ。
聖灰戦争──死後、神霊に域にまで到達した聖者の遺骸を燃やしたあとに残されたモノ「聖灰」を求めて、魔術師や裏の世界の住人たち七組が争う魔術儀式。
勝ち残れば聖灰を用いて奇跡にも等しい望み叶えられるというが、そのためには他の6組を蹴落し、かつ生き残らなければならない。
玲自身にはさしたる望みはない。聖灰そのものよりむしろ聖灰戦争というとびきりの非日常に身を投じて、少しでも生きていることの実感を感じたい程度の、願いとも言えない程度の目的だった。
そんな彼だったが、「隠密」のサバントを召喚し、童女の姿をした“彼女”と言葉を交わしたことで、「この子の願いを叶えてあげたい」と願うようになる。
熾烈な戦いをふたり手を取り合い、綱渡りのような危なっかしさで勝ち抜いていく玲と「隠密」。
そして、ついに明かされる「隠密」のサバントの正体。
彼女は“ジャック・ザ・リッパー”、稀代の殺人鬼の名を冠せられた「此の世に生まれ出ることのできなかった赤子」、いわゆる水子の霊の集合体だった。
愛らしい少女の姿をした(そして言動も無垢な幼子のような)彼女を、妹ないし娘のように溺愛するようになっていた玲は、聖杯を勝ち取り、必ず彼女(ジャック)の願いを叶えようと決意を新たにする。
最後の決戦の結果、ふたりは勝者にはなれなかったが、優勝者たる「剣豪」とその主は「自分たちに願いはないから」と聖灰を玲たちに委ねる。
「聖灰戦争」という儀式の終焉と共に徐々に薄れゆくジャックを抱き締め、ながら、玲は“彼女”の願いを叶える方法に思い至り……聖灰を用いて躊躇いなくそれを実行する。
そして数年後。日本のとあるマンションで、ふたりの女性──母と娘が仲良くお風呂に入っていた。
「ほら、髪を洗ってあげるから、目を閉じなさい」
「はーい、おかあさん」
娘の方はあの時「消えた」はずのジャックと瓜二つであり、また母親の貌にはわずかに玲の面影があった。
──ジャックの願いは「安息に満ちた母の胎内に還ること」、そしてその裏に隠された真の願いは「今度こそ愛される子供としてこの世に生まれ出ること」だった。
いかに聖灰と言えど、それ単体ではその願いを叶えることは不可能に近かったが、玲は自らの存在を“母胎”として捧げ、変質させることで、それを可能とする。
そう、聖灰によって自分自身を女に変え、自らの胎内にジャックの霊基を取り込んで、赤子として生み直したのだ。
故に、今ここにいる少女は「隠密のサバント」ジャックであると同時に、生身の人間の女の子であり、玲改め“玲歌(れいか)”の愛娘に他ならない。
「“私達”……ううん、わたしね、おかあさんのことが大好きだよ」
「フフッ、ジャクリーン、わたしもよ♪」
~Happy End?~