金曜の晩。俺は仕事を定時で切り上げるといそいそと帰宅の準備をする。
「大城与君、このあと一杯どう?」
同僚が飲み会に誘うが――俺は週末の重要な“予定”に万全の体制で挑むために、無駄な付き合いをする余裕は無い。
「すいません、所用で忙しいので今日はこのまま帰宅します」
そう言い残して立ち去る。
「やめとけ! やめとけ! あいつは付き合いが悪いんだ。
『どこかに行こうぜ』って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……」
立ち去る清彦の後姿を見ながら、同僚に別の同僚が声をかける。
「『大城与 清彦(おおきよ きよひこ)』33歳独身。あだ名はキョキョ。
仕事はそつなくこなすが今ひとつ情熱の無い男……。
アイドルオタクで、アイドルのCDやライブのために全てを費やし、それ以外にはてんで興味を示さないんだぜ」
そんな噂話をされているとは露とも知らず、俺は急いで帰途に着いたのだった。
週末、日曜日は待ちに待ったアイドルライブの日。
しかもこの帝江洲町(ていえすちょう)出身で大ブレイクしたアイドルグループ、TSF48のライブである。俺の一番推しているグループだ。
サイリウムや、推しメンのカラーのファンTシャツなど、準備も万端。
だが、俺の心はいまいち晴れなかった……。
このところ、SNSを中心に良からぬ噂が広がっていた。
TSF48のメンバーが、控え室であからさまにファンのことを蔑むような発言をしていたという噂だ。
俺は彼女たちを信じたかった。だが……。
握手会の開始前。俺はトイレに寄って、スタッフ用の廊下へと迷い込んでしまった。
そこで……聞いてしまった。控え室からもれ聞こえてくる、囁きと嘲笑。ファンたちを豚の群れと嗤う声。
続く握手会で、気付いてしまった。
俺の推しメンであり、恐らくグループでも一番魅力的な子、その子の冷たく蔑む目。作り笑顔を浮かべているが、心の中では俺を嗤っているッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
握手のために差し出された彼女の手。
その手を俺は思わず、軽く叩いてしまった。
その時ッ!
ズギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
瞬間触れた手を介して、彼女の体から俺の体へ、何か熱いエネルギーのようなものが流れ込むッ!!
なんだこれは!?
彼女の顔を見ると、急激な変化が訪れていた。
先ほどまでメンバーで一番魅力的な美少女であったはずの彼女から輝きが失われ、平凡な……否ッ! 平凡以下の、魅力の無い少女がそこに座っていたッ!!
そ知らぬ顔でその場を離れる。
彼女から俺に流れ込んできたもの……それは恐らく、彼女の『魅力』!!
家に帰りついた俺。
心臓が激しく鼓動する。体の内で高まった熱は、帰宅してもまだ冷めることがなかった。
彼女に触れた右手を見る……と、その手に重なるように、もうひとつの手の『ヴィジョン』が!?
これは、いったいなんだッ……!?
『ヴィジョン』は俺の体から離れると、不思議な人型の存在として空中に浮かび上がった。
そしてその『ヴィジョン』は俺の身体に纏わりついていく!
瞬く間に俺は奇妙な人型のウェットスーツで全身を覆った姿になっていた!
さらに、俺にはわかる! この『ヴィジョン』には彼女から吸収した『魅力』のパワーが満ちているッ!!
そのエネルギーを解放すると……。
ドギュウゥゥゥーーーーー!!
『ヴィジョン』が俺の皮膚、体に同化するかのごとく肌色に変わっていくと同時に、俺の体が変形していくッ!
肩幅は狭く、腰はくびれていき、手足がすらりと伸びる!
尻や太ももにむっちりと肉が乗り、胸が膨らんでいく!
顔は小顔になり、顎は細く、目は潤んだようにきらめく!
髪は肩までの長さに伸び――俺は美少女といってもいいような、かわいらしい10代の少女の姿になっていたッ!!
その姿はどこか俺の面影を残しつつ、あのアイドルグループの少女にも似ている気がする。
これが、俺が新たに手に入れた『能力』なのだ!
俺は確信したッ! これは腐敗したアイドル業界を正すために、神が俺にもたらした奇跡に違いないッ!!
俺はこの『能力』に『私は孤高で豪華(ゴージャス・ラグジュアリー・リッチネス・イレレガンス)』と名づけたのだった!
翌日から、俺は会社帰りにこの『私は孤高で豪華』の能力の実験を行い……できることを調べていった。
まず、その①。ウェットスーツ状態の『ヴィジョン』は他人からは見えない。
(また、これは余談だが『ヴィジョン』を纏った状態の俺は身体能力が劇的に向上する。
バーベルも軽く持ち上げ、金メダル選手並みのスピードで走れる上、刃物でも体に傷が付かない。このパワーは美少女形態に変身してもそのまま発揮できる)
繁華街の路地裏で、俺はおもむろに『ヴィジョン』を纏う。だが、通り過ぎる人々に注目されることも無い。普通の人間には『ヴィジョン』は見えないのだ。
それから……近くの雑居ビルのトイレを借り、『私は孤高で豪華』の能力を発動して俺の体は美少女へと変形する。
このままではぶかぶかの男物の背広を着た美少女であり、あまりにも場違いだ……。なので着替えることにする。
背広を全て脱ぐと、鞄の中に隠し持っていた、女性用の下着や近所の高校の制服を取り出す。これらは全てネットの通販やオークションで手に入れたものだ。
ショーツに足を通すと、平らになった股間がぴったりと覆われる。
ブラの紐に腕を通しホックを留める。美少女になった俺は体も柔らかくて、背中に簡単に腕が回る。
ネットで調べたやり方を思い浮かべながら、脇の肉などを集めてブラに納め、寄せて上げると谷間がしっかりとできる。
ブラウスのボタンを留め、スカートを履き、リボンタイを結び、ブレザーの上着を着る。
鏡に映るのは完璧に女子高生そのものだ。先ほどまで着ていた男物の服を鞄に仕舞う。
鏡に向かって微笑んだり舌を出してみたり、軽く表情をチェックして、俺はトイレから出る。
スカートの中で脚が風を受けてスースーするこそばゆさを感じながら、通りを歩く。
行き交う男たちの視線が俺の顔や膨らんだ胸元に向けられるのが感じられる。
デパートのレディース服の専門店に入ると、店員がにこやかに案内してくれる。俺のことを完全に女子高生として扱っている。
そう、これが『私は孤高で豪華』の特徴その②。『ヴィジョン』と共に変身した俺の姿は、他人からも同じように美少女として見えている。
まだ試してはいないが、この『私は孤高で豪華』を発動すれば、女性としてプールにも、女湯にでも自由に出入りできるだろう!
店内には他にも女子高生の客がいた。都合のいいことに一人だ。
少し離れたところからそれとなく観察する。ギャル風のドぎついメイクで台無しになっているが、この娘、元々の顔はかなり魅力的じゃないか。
よし、この娘にしよう……。
俺は商品を物色するふりをしながら、さりげなく女子高生に近づく。
そして、通りすがりざまに彼女の背中をほんの軽く叩く。
その瞬間!
ズギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
触れた手を介して、彼女の『魅力』が俺の中に流れ込んでくるッ!
「あ、すいませーん」
俺は彼女とぶつかったことを軽く謝って、その場を離れる。
振り返ると、彼女の顔や体型、雰囲気が……先ほどよりも随分と平凡な、魅力のないモノになっている。
そのまま、デパートの女子トイレに入ると、鏡を覗き込んだ。
鏡の中で俺を見返す美少女は、先ほどまでよりもさらに、魅力的になっていたッ!!
元々の可愛らしさ、美しさに磨きがかかり、そこに先ほどの彼女の容姿の美点が軽く足されたような姿に変化している!
これがその③。殴った相手の『魅力』を奪い、自らをより魅力的にすることができるッ!
この場合の殴るというのは厳密ではなく、軽く叩いたり、あるいは強い意思を持って触れるだけでもいい。
この力によって、俺はここ数日何人かの少女から『魅力』を吸収し――最初にこの『私は孤高で豪華』の能力に目覚めた時よりも遥かに魅力を増している。
他人から奪うだけじゃない。ここ数日はより女性らしく美しい振る舞いについて研究したり、
ネットで化粧を勉強する、美少女形態の自分に似合うコーディネートを考え、貯金から実際に衣服を買うなど、自分磨きに余念が無い。
俺の今の目標は、来月行われるアイドルオーディションに参加し、合格することだ。
新しくできた小さなアイドルユニットのオーディションだが、そこから俺はアイドル業界にのし上がるのだ!
『私は孤高で豪華』と俺に不可能は無いッ! 絶対に合格してみせるッ!!
オーディション会場には玉石混合、それなりの数の少女が居た。
大手とは言えない事務所だが、やはり少女たちにとってアイドルとは『夢』の職業の様だ。
(だが、それじゃあ駄目だ。それだけじゃあ駄目なんだよ)
アイドルとは“自身が夢を見る者”じゃあない。“見る人に夢を与える者”なのだよ。
だからこそ選ばせてもらおう。この俺と共に進むに足る“凄み”を持った仲間をッ!
それ以外の木っ端には夢を見る権利さえ無いッ!
「あら?ちょっと貴方、肩に埃が付いてますよ」
『私は孤高で豪華』!魅力を引っぺがせ!
ズギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
取るに足らない魅力ではあるが枯れ木も山の賑わい。
俺はほんの少しだけ魅力的になり、不要なアイドルの卵を間引くこともできる、一石二鳥ってヤツだ。
絶好調!!誰も俺を止める事は出来ない。
そう思っていた。
俺は知らなかったのだ。
【スタンド使いは引かれ合う】という事を……。
選考が進んだ結果、俺を含めて3人の少女が残っていた。
予定では2人組のユニットを作る予定との事だからこの中から1人は落とされる訳だ。
当然だが俺が落とされる訳には行かない。
そしてユニットとして売り出すならば優秀な者に残ってもらう必要がある。
悪いが、“間引かせて”もらおうかな。
「……ねえ、あんたさぁ。こんな事聞くのもなんだけど……なんか“変な事”してない?」
緊張した面持ちで一人の女子高生が話しかけてきた。
この少女!?まさか!?
『私は孤高で豪華』が見えているというのか!?
「さっきから見てたけど、アンタが触ったコ、みんな急にイケてない風になっちゃってるんだよね。
何かヤバい薬とか嗅がせたんじゃないでしょうね」
違和感を覚える“勘の鋭さ”、若干の恐怖心が有るものの、それでも俺に話しかけてきた“正義感”。
なるほど、素晴らしい“魅力”をお持ちだ。
だからこそ残念だ。
おまえごとき薄っぺらな藁の家が、深遠なる目的の俺の砦に踏み込んで来るんじゃあないっ!
『私は孤高で豪華』で殴る。仲間足りうる少女を間引く事に勿体なさを覚える俺だったが……不思議な事が起こった。
少女との間に無機質な大男のヴィジョンが現れ『私は孤高で豪華』のパンチを防いだ。
「いいねぇ……ティンと来たよ!」
声につられて振り向けば芝居がかった口調で拍手している男の影があった。
「私がキミたち“3人”のディレクター兼プロデューサーを務める。『吹けば飛ぶよな男だが』……よろしく頼むよ!」
プロデューサーを名乗る男の影はニヤリと笑った……気がした。
「あたしたち3人とも合格ってことですか!」
別の少女が声を上げる。
「ああその通り。当初は2人組ユニットにしようと思ってたけど、3人組でも別になんとかなるからね」
「合格!? やったあ!!」
プロデューサーの言葉に少女たちはそれぞれ歓声を上げる。
俺の『私は孤高で豪華』のパンチを防いだ少女も、
「まあいいわ。今日のところは見逃してあげる。でも次に私の目の前で何か変なことしようとしたときは……私が許さない」
鋭い視線で俺をひと睨みすると離れていった。
眼光の中に秘められた“覚悟”と強い“意志”の煌き。長年のアイドルオタクとしての経験から俺にはわかるッ!
この子は磨けば光る“原石”だッ!! 思わず惚れてしまいそうだぜ……!
そんな彼女から魅力を奪おうとしてしまった先ほどの自分を俺は恥じた。
そして同時に……俺の『私は孤高で豪華』を防いだあの力のことも気にかかった。
やはり……、俺以外にも、能力者はいるってことか……!
「じゃあ、残りの時間はそれぞれ自己紹介でもしてもらおうかな。元々この後の選考でやってもらう予定だったし」
プロデューサーの指示で、俺たちは横一列に並べられていたパイプ椅子を車座に並べなおし、座った。
それぞれの顔を見回すとどの子も皆、個性的で魅力に溢れている。
静まり返った室内、互いを見つめあいどことなく譲り合う雰囲気の少女たち。
その中で俺は一番に立ち上がり、声をあげた。
「では、私から自己紹介をさせていただきますね。私の名前は大城与 清音(おおきよ きよね)。帝江洲高校の2年生です。
私の夢は“見る人に夢を与える者”になることですッ!!」
(……そして、腐敗したアイドル業界を改革していくことだッ!!)
心の中で付け加えるが、まだ本心を大っぴらにするべき時じゃあない! 俺は笑顔のまま椅子に座る。
ちなみに大城与 清音というのは、美少女形態での俺の偽名である。
高校の学籍は今は偽造だが……手を回して実際に高校に編入することも可能ではある。サラリーマンとしての立場もあるからやっていないだけだ。
「へー、きよきよって変な名前ー。そうだ、キョキョってよんでいーい?」
さっき話しかけてきたのとは別の少女からそう振られ、俺のあだ名はここでもキョキョになってしまった。
続いて立ち上がったのは、先ほどの『私は孤高で豪華』を防いだ少女。
「アタシは汐華 はるか(しおばな はるか)。支倉高校2年。アイドルの頂点に立つのがアタシの目標よ。
アタシを邪魔するものは全部ぶっ飛ばすわッ!」
「じゃ、最後はあたしね。
あたしは虹村 双葉(にじむら ふたば)。いろいろあって実家を追い出されちゃってねー。
なんとなしに街を歩いてたらアイドルオーディションって目に付いて、成り行きで出ちゃったんだよね。ま、やるとなったらしっかりやるからさ。よろしく」
銀髪と日本人離れした容姿、どことなくミステリアスな雰囲気に飄々とした言動。この娘もやはり独特のオーラがある。
やはりこのふたり、オーディションで最後まで残っただけあって、“魅力”も“個性”も充分だ。
「さーて、各自自己紹介も済んだことだし、早速だが今後の予定を話そう。
来週の土日からレッスンを開始する。もちろん学生の人には学業を優先してもらいたいけれど、できるだけレッスンには来るようにね。
レッスンの具合を見ながらライブのスケジュールを決定するから。
あとこれ、各種書類ね。帰ったら目を通しておいて」
「あともうひとつ。君たちのグループ名は『STANDs』だ。今決めた。
君たちはこれから様々な困難に「立ち向かう」 (stand up to) ことになる。
そして、君たちそれぞれが友であり仲間であるメンバーの「傍に立つ」 (Stand by me) 。
だから『STANDs』。いい名前だろう?」
プロデューサーの言葉と共に解散となり、少女たちは帰り支度を始める。
俺は涼やかな表情を崩さないまま、内心で感激に打ち震えていた。
ついに俺は念願の野望への第一歩を踏み出したのだ。
来週のレッスンが待ち遠しい。と同時に、平日のサラリーマン生活のなんと煩わしいことか。
少女たちは早速打ち解けて、仲良く世間話を始めているようだ。
「あ、きょきょ! ちょっとちょっと~」
俺を呼ぶ声に笑顔で振り返る。俺に声をかけてきたのは……
「汐華……さん」
「はるかでいいよ、これからは仲間なんだから!」
さっきの険悪なムードが嘘の様に微笑む汐華はるか。
太陽の様な力強い笑顔。魅力溢れる『STANDs』のメンバーでも主役を張れる事だろう。
(女口調は苦手だ……。敬語キャラで行こう)
「では、はるかさん。何かご用でしょうか?」
「さん付けもいらないって!同い年でしょ?折角だしカラオケでもどうかなって」
「!」
グループ活動する以上、友人付き合いは避けられない。しかし俺は実際には彼女の倍近い年齢だ。
だからこそ事前に調べておいた!最近の女子高生の流行、好みをッ!
だから今後この大城与清音に精神的動揺によるトークミスは決してない!と思っていただこうッ!
「なぁに~、カラオケ? あたしも行く行く!」
虹村双葉も食いついてきた。
「あ、あたしも双葉でいいよ! よろしく~」
3人で仲良く話しながら事務所の建物を出て、最寄のカラオケ「カラオケのアイアンマン」へ向かう。
その様子を……物陰から眺める男がいることに、この時俺たちは気付いていなかった。
「♪夢は叶うもの~私信じてる~」
「きょきょすっごーい! 歌上手ーい!」
TSF48を始め、お気に入りのアイドルソングを次々歌う俺。
アイドルオタクとして、推しグループの曲は大半歌えるし、この場で披露する気はないが、振り付けも覚えていて再現できる。
しかもそれらの曲を、今は美少女ボイスで歌うことができるのだ!
自分の喉から鈴の音のような澄んだ歌声が出ている。そのことだけで俺は天に舞い上がるような喜びに包まれるッ!
余韻を残しつつ歌い終えると、マイクを置く。
「ふぅ、ありがとうございます」
「じゃ、次はあたしねー」
双葉がマイクを手に取り、次の曲が流れ始める。
しかし、アイドルオーディションを受けるだけあって、ふたりともかなりの歌唱力がある。
まだ原石ではあるが……俺と共にトップアイドルを目指す子たちなのだから、これくらいの実力がないと困る。
今後のレッスンで皆がどう成長していくか……楽しくなってきた!
「ちょっとドリンクバーに行ってきますね」
曲の終わったタイミングで空のグラスを持って立ち上がる。
「あ、じゃあアタシも」
そう言ってはるかも立ち上がり、二人で廊下に出る。
なんとなく、二人きりになると言葉がでない。
はるかの方も黙ったまま、ドリンクバーでグラスにジュースを汲んでいる。
「あ、あのさ」
「はい」
はるかの言葉に俺が返事をしたとき。
「おっと、ごめんよォ~~」
大柄の熊のような男が、俺たちの背後、廊下を通り過ぎ――。
通り過ぎざまに、俺の尻をぺろんと撫でていった。
「ひゃぁッ!!」
「な、なにアイツ! キモッ!」
男はそそくさと廊下の奥、曲がり角へと消えていった。
が、あの男の顔……どこかで見覚えが……?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
考えに耽っていると、徐々に胸が苦しくなってきた……。
なんだこれは……気分が悪いとか、そういう問題じゃあないッ!
物理的に胸周りが苦しい……!?
「ちょっときょきょ、その胸どうしたの!?」
ググ……グググゥゥゥーーーー……
はるかの言葉に、俺は自分の胸元を見下ろす。と同時に。
バツンッ!!!
俺の胸元、ブレザーの下、ブラウスのその中で、何かが弾ける音がした!
同時に多少の開放感、これは……ブラのフロントホックが弾けたッ!?
俺の胸が、急激に膨乳しているッ!?
いったいこれはどういうことだ!!?
「まさかこれは……『スタンド攻撃』!?」
『スタンド』……?
はるかが口走った単語がやけに気になるが、今はそれどころじゃあない!
恐らく、これはさっきの男が原因だ!
「多分さっきの男に触られたのが『スタンド』のトリガー! あいつを捕まえないと!!」
廊下の角に駆け出したはるかを追いかけて俺も走る。
が、大きくなった乳房が予想以上に重く、ぷるんぷるんと揺れて走りづらいッ!
これをもし客観的に見れたらとても素晴しかっただろうが……自分が急にこうなると、重心もずれるし大変なことばかりだ。足元も見えないッ!!
角を曲がった先には既に男の姿は無かった。どうやら廊下の両側にずらりと並んだどれかの部屋に逃げ込んだらしい。
しらみつぶしに部屋を調べるか……しかし。
俺の乳房はまだ徐々に大きくなり続けている。
ボタンが飛ばないように、ブレザーやブラウスの前を開いたが、激しい運動は既に厳しいかもしれない。
はるかはそんな俺の様子をちらりと見て……。
「よし、きょきょはここで待ってて。アタシがなんとかするッ!」
気合と共に廊下に突き進んでいくッ!
そして俺は思い出していた。
あの男……少し前にSNSのアイドルファンコミュを追放されていた男だ! 名前は確か……片桐安之進。
巨乳爆乳アイドルのファンだが粘着気質で……、新人アイドルにストーカーまがいの行為をして厳重注意をくらい、コミュからも追放されていた!
~~~~~~~~~~
―片桐Side―
一方、廊下に並ぶ薄暗い小部屋のひとつに身を隠しながら、片桐安之進はほくそ笑んでいた。
アイドルファンなら、中規模程度の事務所の新しいアイドルオーディションの開催情報を掴むことは容易い。
そして会場から、ほかの少女たちより遅く帰る娘たちがいたなら……それはオーディションに最後まで残り、勝ち抜いた娘たちである可能性が高いってぇわけよ!
これからデビューするアイドルの卵たちを、俺のスタンドで爆乳にしてやるッ……!
そうすることで俺様の大好物の爆乳アイドルグループが誕生するってわけよッ!!
少女たちにしても悪い話じゃないよなァ……なにしろ爆乳になるんだッ、アイドルとしての“魅力”も“セクシーアピール”も高まるだろォ?
もしも抵抗するようなら軽く脅しをかけてやりゃァいい……何しろ俺のスタンド『ガラスの巨人』が大きくできるのは別に胸に限るわけじゃない。
言うことを聞かない悪い娘は顔を3倍のデカさにしてやったり、身長を3mくらいに巨大化してやりゃァいいんだッ!!
俺は無敵だぜッ!!
「何処だぁーッ!クマ男ぉー!」
俺様を探し廊下を走り回る声を聞きながら、俺様は舌なめずりした。
隠れているのは使われていない個室の収納部分!そう簡単には見つからねェぜッ!
にしても元気だねぇ。まったく最近の女子高生(エモノ)は元気だぜェ。先程は獲物を検分する為
あえて近付いてからスタンドを使ったが、射程距離は10メートル!つまりは俺様は安全に部屋に隠れながら……。
「どこ行ったー!?隠れてないで出てこーい!」
そんなに大声出しちゃあ何処にいるのか丸わかりだぜ。
そっと『ガラスの巨人』で後ろから“触る”ッ!!
「きゃあ!?」
距離が離れりゃパワーも落ちるのが玉に瑕ってェヤツだが、
一回触っただけであの娘のDカップがEカップになったのが分かるッ!
『ガラスの巨人』は無色透明!薄暗い廊下じゃあ注意してみなけりゃ気付かねェぜ!
「こ、この部屋!?」
ざァんねん!大外れだぜッ!『ガラスの巨人』ッ!
「ッ!重!?」
ふへへぁ♪心地よい弾力の気配がするぜ!恐らく今ので一気にGカップにはなったか!?
ガラスの巨人と視覚が共有出来ねぇのが残念だが、油断せずに勝負がつくまでは隠れて戦うぜ!
~~~~~~~~~~
―はるかSide―
意外と厄介な相手ね。
一瞬見えた敵のスタンドのビジョン。透明なガラスで出来たマネキン人形みたいな奴だった。
恐らく近接型。アタシのスタンドと同じタイプ。でもスピードと本体からの射程距離は向こうの方が上!
「やれやれね」
でも相手がどの部屋に隠れてるか見当はついた。
一般人に迷惑が掛かるし、釣り出さなきゃ!
……ブチン!
!!
ブラがッ!?
~~~~~~~~~~
―片桐Side―
ッ!!
遂にきやがったッ!
膨乳に耐えかねてブラホックが弾ける音ッ!
だが、足音が遠ざかってやがる。この方向は……非常階段!
……んん?
・・・・・・
昇ってんなァ。屋上に向かってる。
馬鹿めッ!、袋のネズミだぜ!
追い詰めて俺様が作ってやったそのパーフェクトおっぱい拝んでやるッ!
~~~~~~~~~~
―清音Side―
はち切れそうなブラウスごと胸を抑えながら走るはるか。そしてそれを追う下卑た笑顔の片桐安之進。
はるかが負けそうな時は助太刀しなければ……。重い胸を押さえながら片桐を追う。
やがて階段は終わり屋上への出口に着いた。
「ヒュウゥ♪たまんねェぜッ!形、大きさ、位置その他完璧パーフェクト!!思わず自画自賛しちまうってもんだッ!」
にやけた片桐の視線は、はるかの胸を捉えて離さない。
元々美乳だったはるかの胸はAV女優顔負けの爆乳になっていた。
「そんだけバランスが崩れてちゃあスタンドバトルにもならねえだろうよ」
屋上に片桐の姿を認めたはるかは、力を抜いて自然体で向き直った。
しかしその瞳には諦めの色は無く、真っ直ぐに紅く燃えていた。
世界に宣言するかの様に、口を開いた。
「アタシ、汐華はるかには『夢』がある!今なら許したげるから能力を解除しておうちに帰ってすぐ寝なさい」
「そいつぁ大言壮語ってヤツだぜ!アイドルになるんだろォ?大した『夢』じゃねえの。
そのでっけぇムネがありゃあす~ぐ売れっ子になれるだろうよ。感謝しろよ」
「違う!アタシの夢は遥か先……『アイドルの頂点』ッ!
アタシを邪魔するヤツは全部ぶっ飛ばす『GET TO THE TOP!』」
はるかの背後に巨大なヴィジョンが現れた。さっきは無機質な大男に見えたが、今の姿は絢爛豪華なドレスの女!
なるほど、はるかが『覚悟』を固めれば固めるほど強くなる能力って訳か。
「ああんッ!?……しゃらくせェ!『スタンド』ってなァデカけりゃいいってもんじゃねえんだよ!教えてやるぜ!『ガラスの巨人』!」
「明るい所だとよく見えるね、そのブッサイクな顔が!
『GET TO THE TOP!』!ぶっ飛ばせええ!!」
マシンガンのような速度の大砲の様な威力の連打(ラッシュ)!
片桐の身体は紙切れの様に吹っ飛んだ!
片桐安之進が気絶したせいか、抱えた腕から溢れるほどに膨らんでいた乳房は元のサイズに戻った。
ほっとしたが……どこか勿体無くも感じてしまう俺がいる。
まあ、あんな生活に支障が出るまでのサイズでなければ、巨乳というのも悪くは無い。むしろ大好きである。
あとで片桐のヤツとよぉ~く“話し合”って、適度なサイズに増量させるってのもいいかもしれないな。
一方ではるかの方はというと、やはり戦闘でダメージがあったのだろうか、その場にへたり込んでいた。
よく見ると滅茶苦茶顔が赤い。
「はるか、大丈夫……?」
近づこうとする俺の目の前で、はるかの姿がブレるかのように揺らぐ……。
「ダメ、きょきょ、見ないで!」
「な、はるか……まさか君は……」
俺の目の前で、はるかの姿が変化していき……。
「――ッ!! ああもうッ! “覚悟”を決めたッ!!」
よく似た雰囲気の、少年へと変化した。
「きょきょ、正直に言うッ! アタシは……いや、僕の本当の名は、汐華 莉緒(しおばな りお)! 男子高校生なんだ!」
信じられない……。だが、俺が今こうして少女の姿でいるように、同じように少女に化ける能力があったっておかしくはない。
「汐華 はるかってのは僕の姉なんだ……。
アイドルの頂点を目指すってのは姉の夢で……、でも本物の姉は、交通事故で僕を庇ってずっと意識不明……。
だから僕は“覚悟”を決めたんだ! 僕が姉の姿で、姉の代わりに夢を実現するってッ!!」
力強く立ち上がる莉緒。その瞳には強い決意が満ちている!
「『GET TO THE TOP!』」
莉緒が『スタンド』を出すと、莉緒の姿は再び揺らぎ……はるかの姿になる。
「『GET TO THE TOP!』は姿をコピーする『スタンド』。これで姉の姿に変身してるんだ」
そしてすまなそうに頭をかくと、
「きょきょ、騙しててごめん。でも、姉のためにアイドルはやめられない。だから皆には黙っていてほしいんだ」
真っ直ぐな瞳は“魅力”に満ち溢れている!
例え正体が男子高校生であっても……はるかはアイドルとしての器が充分にあるッ!
「ええ、約束するわ」
はるかの手をとり、ふたりでカラオケの部屋に戻る。
俺は少しだけ迷っていた。彼……彼女に俺の正体を告げるべきかどうかを。
~~~~~~~~~~
(無事か。まあ、何よりじゃあないか)
STANDsのプロデューサー、保洲 順一郎は電信柱の陰から屋上の戦いを見守っていた。
その手には『リボルバー式の拳銃』が握られていたが、周りの人間は“誰も気にしていなかった”。
まるで、周囲の人間にはその拳銃が見えていないかのようだった。
(本来なら“彼ら”を合格させるつもりはなかったんだが、あの“凄み”!私の勘も捨てたもんじゃあないって事か)
持っていた拳銃が一瞬にして消え、代わりに煙草を取り出しのんびりとふかした。
(彼らなら勝てるかもしれないねぇ。“奴”の最強のスタンド、『世界タービン』に!)
自分では止められなかった、袂を分かった友を想い、そしてSTANDsの未来を想い、保洲は静かに笑った。
~~~~~~~~~~
結論から言えば俺は莉緒に正体を明かさなかった。
将来的に打ち明けるつもりではあるが、今はまだその時ではない。
オーディションに受かるまでに俺は多くの少女たちの魅力を奪ってきた。アイドル業界をの在り方を正すという大義があるとはいえ、彼女達には悪い事をした。
莉緒の『覚悟』に照らされ、一瞬だがそう思ってしまったのだ。
だが、俺もまた『覚悟』をして進んできた。おそらく俺の能力を知れば、俺のしてきたことを知れば莉緒は俺の非道を糾すだろう。
最悪『STANDs』のデビューが危ぶまれてしまう。
それは困る。だから今は、言えない!
(今は言えない。だが、必ず君の『覚悟』に答えてすべてを打ち明けよう)
そう決意した。
そして、その翌日から早速レッスンが始まった。歌、ダンス、ビジュアル、社会常識やマナー講座。
多岐に渡るプランが組まれていたが流石は俺が認めた『魅力』の持ち主達と言った所か、ほぼ完璧と言っていい結果を出した。
「こんなにいい意味で教え甲斐の無いコたち、アタクシ初めてネ。特にきょきょ!アナタそこらのサラリーマンよりマナー出来てるわヨ!」
「いえ、まだまだ若輩者です」
講師のオカマ、マライヤ(芸名)にそう褒められた。まあ、実際サラリーマンだったわけだからビジネスマナー位は出来て当然。
はるかは歌とダンスは完璧だったがメイクや社会常識がイマイチだった。まあ、高校生の割には出来ていると思うが、
芸能界という伏魔殿に挑むことを考えれば社会常識は必須科目だ。
実力はあるのにテレビの制作サイドに嫌われ、消えていったアイドルの卵達も何人も見て来たのだ。
「はるかチャンも見習いなさい?アナタちょっとガサツな所あるから……」
「あはは……」
目を逸らし頭を掻くはるか。正体が男子高校生だと知らない人から見ればちょっとボーイッシュなギャルにしか見えない。
「で、双葉チャン?アナタもっとデキるコでしょう?
“もしアタクシがその身体を使えたなら”もっともっと高く飛べるワ!ちょっと追加レッスンヨ!」
「えぇ~?しっかりやってますって、初めての割にはそれなりに良かったでしょ~?」
やる気なさげに受け答えする双葉。俺も正直な所気になった。彼女のポテンシャルはもっと高いと見たが、今一つやる気が感じられないからだ。
「さあいらっしゃい!アタクシの全てを“注入”してあげるワ!他の皆は解散!また明日同じ時間に集合ヨ!」
「イタイイタイ!引っ張らないで~」
マライヤに引っ張られ稽古場に消えていく双葉。俺達はそれを見送って解散した。
さて、会社に戻って明日の分の仕事も片付けておかなければ。
翌日、稽古場に付くと俺以外の全員が揃っていた。
クソッ!課長に余計な仕事を振られなければ時間通りだったのだが。
……おや?なにやら様子がおかしい。
双葉一人が踊って、はるかがそれを見ているようだ。
「申し訳ございません。委員の仕事が長引いてしまいました」
「あ、キョキョ!ちょっと見てよアレ!」
「……え!?」
そう言ってはるかが指さす先には、昨日とはまるで別人のような動きで踊る双葉の姿があった。
その動きは見た事があった。昨日手本としてマライヤ(♂)が踊っていた動き。
否、方向性は同じだがより洗練されている動きだった。
「大城与君、このあと一杯どう?」
同僚が飲み会に誘うが――俺は週末の重要な“予定”に万全の体制で挑むために、無駄な付き合いをする余裕は無い。
「すいません、所用で忙しいので今日はこのまま帰宅します」
そう言い残して立ち去る。
「やめとけ! やめとけ! あいつは付き合いが悪いんだ。
『どこかに行こうぜ』って誘っても楽しいんだか楽しくないんだか……」
立ち去る清彦の後姿を見ながら、同僚に別の同僚が声をかける。
「『大城与 清彦(おおきよ きよひこ)』33歳独身。あだ名はキョキョ。
仕事はそつなくこなすが今ひとつ情熱の無い男……。
アイドルオタクで、アイドルのCDやライブのために全てを費やし、それ以外にはてんで興味を示さないんだぜ」
そんな噂話をされているとは露とも知らず、俺は急いで帰途に着いたのだった。
週末、日曜日は待ちに待ったアイドルライブの日。
しかもこの帝江洲町(ていえすちょう)出身で大ブレイクしたアイドルグループ、TSF48のライブである。俺の一番推しているグループだ。
サイリウムや、推しメンのカラーのファンTシャツなど、準備も万端。
だが、俺の心はいまいち晴れなかった……。
このところ、SNSを中心に良からぬ噂が広がっていた。
TSF48のメンバーが、控え室であからさまにファンのことを蔑むような発言をしていたという噂だ。
俺は彼女たちを信じたかった。だが……。
握手会の開始前。俺はトイレに寄って、スタッフ用の廊下へと迷い込んでしまった。
そこで……聞いてしまった。控え室からもれ聞こえてくる、囁きと嘲笑。ファンたちを豚の群れと嗤う声。
続く握手会で、気付いてしまった。
俺の推しメンであり、恐らくグループでも一番魅力的な子、その子の冷たく蔑む目。作り笑顔を浮かべているが、心の中では俺を嗤っているッ!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
握手のために差し出された彼女の手。
その手を俺は思わず、軽く叩いてしまった。
その時ッ!
ズギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
瞬間触れた手を介して、彼女の体から俺の体へ、何か熱いエネルギーのようなものが流れ込むッ!!
なんだこれは!?
彼女の顔を見ると、急激な変化が訪れていた。
先ほどまでメンバーで一番魅力的な美少女であったはずの彼女から輝きが失われ、平凡な……否ッ! 平凡以下の、魅力の無い少女がそこに座っていたッ!!
そ知らぬ顔でその場を離れる。
彼女から俺に流れ込んできたもの……それは恐らく、彼女の『魅力』!!
家に帰りついた俺。
心臓が激しく鼓動する。体の内で高まった熱は、帰宅してもまだ冷めることがなかった。
彼女に触れた右手を見る……と、その手に重なるように、もうひとつの手の『ヴィジョン』が!?
これは、いったいなんだッ……!?
『ヴィジョン』は俺の体から離れると、不思議な人型の存在として空中に浮かび上がった。
そしてその『ヴィジョン』は俺の身体に纏わりついていく!
瞬く間に俺は奇妙な人型のウェットスーツで全身を覆った姿になっていた!
さらに、俺にはわかる! この『ヴィジョン』には彼女から吸収した『魅力』のパワーが満ちているッ!!
そのエネルギーを解放すると……。
ドギュウゥゥゥーーーーー!!
『ヴィジョン』が俺の皮膚、体に同化するかのごとく肌色に変わっていくと同時に、俺の体が変形していくッ!
肩幅は狭く、腰はくびれていき、手足がすらりと伸びる!
尻や太ももにむっちりと肉が乗り、胸が膨らんでいく!
顔は小顔になり、顎は細く、目は潤んだようにきらめく!
髪は肩までの長さに伸び――俺は美少女といってもいいような、かわいらしい10代の少女の姿になっていたッ!!
その姿はどこか俺の面影を残しつつ、あのアイドルグループの少女にも似ている気がする。
これが、俺が新たに手に入れた『能力』なのだ!
俺は確信したッ! これは腐敗したアイドル業界を正すために、神が俺にもたらした奇跡に違いないッ!!
俺はこの『能力』に『私は孤高で豪華(ゴージャス・ラグジュアリー・リッチネス・イレレガンス)』と名づけたのだった!
翌日から、俺は会社帰りにこの『私は孤高で豪華』の能力の実験を行い……できることを調べていった。
まず、その①。ウェットスーツ状態の『ヴィジョン』は他人からは見えない。
(また、これは余談だが『ヴィジョン』を纏った状態の俺は身体能力が劇的に向上する。
バーベルも軽く持ち上げ、金メダル選手並みのスピードで走れる上、刃物でも体に傷が付かない。このパワーは美少女形態に変身してもそのまま発揮できる)
繁華街の路地裏で、俺はおもむろに『ヴィジョン』を纏う。だが、通り過ぎる人々に注目されることも無い。普通の人間には『ヴィジョン』は見えないのだ。
それから……近くの雑居ビルのトイレを借り、『私は孤高で豪華』の能力を発動して俺の体は美少女へと変形する。
このままではぶかぶかの男物の背広を着た美少女であり、あまりにも場違いだ……。なので着替えることにする。
背広を全て脱ぐと、鞄の中に隠し持っていた、女性用の下着や近所の高校の制服を取り出す。これらは全てネットの通販やオークションで手に入れたものだ。
ショーツに足を通すと、平らになった股間がぴったりと覆われる。
ブラの紐に腕を通しホックを留める。美少女になった俺は体も柔らかくて、背中に簡単に腕が回る。
ネットで調べたやり方を思い浮かべながら、脇の肉などを集めてブラに納め、寄せて上げると谷間がしっかりとできる。
ブラウスのボタンを留め、スカートを履き、リボンタイを結び、ブレザーの上着を着る。
鏡に映るのは完璧に女子高生そのものだ。先ほどまで着ていた男物の服を鞄に仕舞う。
鏡に向かって微笑んだり舌を出してみたり、軽く表情をチェックして、俺はトイレから出る。
スカートの中で脚が風を受けてスースーするこそばゆさを感じながら、通りを歩く。
行き交う男たちの視線が俺の顔や膨らんだ胸元に向けられるのが感じられる。
デパートのレディース服の専門店に入ると、店員がにこやかに案内してくれる。俺のことを完全に女子高生として扱っている。
そう、これが『私は孤高で豪華』の特徴その②。『ヴィジョン』と共に変身した俺の姿は、他人からも同じように美少女として見えている。
まだ試してはいないが、この『私は孤高で豪華』を発動すれば、女性としてプールにも、女湯にでも自由に出入りできるだろう!
店内には他にも女子高生の客がいた。都合のいいことに一人だ。
少し離れたところからそれとなく観察する。ギャル風のドぎついメイクで台無しになっているが、この娘、元々の顔はかなり魅力的じゃないか。
よし、この娘にしよう……。
俺は商品を物色するふりをしながら、さりげなく女子高生に近づく。
そして、通りすがりざまに彼女の背中をほんの軽く叩く。
その瞬間!
ズギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
触れた手を介して、彼女の『魅力』が俺の中に流れ込んでくるッ!
「あ、すいませーん」
俺は彼女とぶつかったことを軽く謝って、その場を離れる。
振り返ると、彼女の顔や体型、雰囲気が……先ほどよりも随分と平凡な、魅力のないモノになっている。
そのまま、デパートの女子トイレに入ると、鏡を覗き込んだ。
鏡の中で俺を見返す美少女は、先ほどまでよりもさらに、魅力的になっていたッ!!
元々の可愛らしさ、美しさに磨きがかかり、そこに先ほどの彼女の容姿の美点が軽く足されたような姿に変化している!
これがその③。殴った相手の『魅力』を奪い、自らをより魅力的にすることができるッ!
この場合の殴るというのは厳密ではなく、軽く叩いたり、あるいは強い意思を持って触れるだけでもいい。
この力によって、俺はここ数日何人かの少女から『魅力』を吸収し――最初にこの『私は孤高で豪華』の能力に目覚めた時よりも遥かに魅力を増している。
他人から奪うだけじゃない。ここ数日はより女性らしく美しい振る舞いについて研究したり、
ネットで化粧を勉強する、美少女形態の自分に似合うコーディネートを考え、貯金から実際に衣服を買うなど、自分磨きに余念が無い。
俺の今の目標は、来月行われるアイドルオーディションに参加し、合格することだ。
新しくできた小さなアイドルユニットのオーディションだが、そこから俺はアイドル業界にのし上がるのだ!
『私は孤高で豪華』と俺に不可能は無いッ! 絶対に合格してみせるッ!!
【スタンド名】 私は孤高で豪華
【本体】大城与 清彦
【タイプ】纏衣装着型
【能力】人を殴ることで相手の『魅力』を奪う能力。奪った『魅力』は清彦がトレーニングを積むことによってさらなる『魅力』に昇華される
破壊力-D スピード-C 射程距離-E 持続力-A 精密動作性-B 成長性-A
【本体】大城与 清彦
【タイプ】纏衣装着型
【能力】人を殴ることで相手の『魅力』を奪う能力。奪った『魅力』は清彦がトレーニングを積むことによってさらなる『魅力』に昇華される
破壊力-D スピード-C 射程距離-E 持続力-A 精密動作性-B 成長性-A
オーディション会場には玉石混合、それなりの数の少女が居た。
大手とは言えない事務所だが、やはり少女たちにとってアイドルとは『夢』の職業の様だ。
(だが、それじゃあ駄目だ。それだけじゃあ駄目なんだよ)
アイドルとは“自身が夢を見る者”じゃあない。“見る人に夢を与える者”なのだよ。
だからこそ選ばせてもらおう。この俺と共に進むに足る“凄み”を持った仲間をッ!
それ以外の木っ端には夢を見る権利さえ無いッ!
「あら?ちょっと貴方、肩に埃が付いてますよ」
『私は孤高で豪華』!魅力を引っぺがせ!
ズギュゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!
取るに足らない魅力ではあるが枯れ木も山の賑わい。
俺はほんの少しだけ魅力的になり、不要なアイドルの卵を間引くこともできる、一石二鳥ってヤツだ。
絶好調!!誰も俺を止める事は出来ない。
そう思っていた。
俺は知らなかったのだ。
【スタンド使いは引かれ合う】という事を……。
選考が進んだ結果、俺を含めて3人の少女が残っていた。
予定では2人組のユニットを作る予定との事だからこの中から1人は落とされる訳だ。
当然だが俺が落とされる訳には行かない。
そしてユニットとして売り出すならば優秀な者に残ってもらう必要がある。
悪いが、“間引かせて”もらおうかな。
「……ねえ、あんたさぁ。こんな事聞くのもなんだけど……なんか“変な事”してない?」
緊張した面持ちで一人の女子高生が話しかけてきた。
この少女!?まさか!?
『私は孤高で豪華』が見えているというのか!?
「さっきから見てたけど、アンタが触ったコ、みんな急にイケてない風になっちゃってるんだよね。
何かヤバい薬とか嗅がせたんじゃないでしょうね」
違和感を覚える“勘の鋭さ”、若干の恐怖心が有るものの、それでも俺に話しかけてきた“正義感”。
なるほど、素晴らしい“魅力”をお持ちだ。
だからこそ残念だ。
おまえごとき薄っぺらな藁の家が、深遠なる目的の俺の砦に踏み込んで来るんじゃあないっ!
『私は孤高で豪華』で殴る。仲間足りうる少女を間引く事に勿体なさを覚える俺だったが……不思議な事が起こった。
少女との間に無機質な大男のヴィジョンが現れ『私は孤高で豪華』のパンチを防いだ。
「いいねぇ……ティンと来たよ!」
声につられて振り向けば芝居がかった口調で拍手している男の影があった。
「私がキミたち“3人”のディレクター兼プロデューサーを務める。『吹けば飛ぶよな男だが』……よろしく頼むよ!」
プロデューサーを名乗る男の影はニヤリと笑った……気がした。
「あたしたち3人とも合格ってことですか!」
別の少女が声を上げる。
「ああその通り。当初は2人組ユニットにしようと思ってたけど、3人組でも別になんとかなるからね」
「合格!? やったあ!!」
プロデューサーの言葉に少女たちはそれぞれ歓声を上げる。
俺の『私は孤高で豪華』のパンチを防いだ少女も、
「まあいいわ。今日のところは見逃してあげる。でも次に私の目の前で何か変なことしようとしたときは……私が許さない」
鋭い視線で俺をひと睨みすると離れていった。
眼光の中に秘められた“覚悟”と強い“意志”の煌き。長年のアイドルオタクとしての経験から俺にはわかるッ!
この子は磨けば光る“原石”だッ!! 思わず惚れてしまいそうだぜ……!
そんな彼女から魅力を奪おうとしてしまった先ほどの自分を俺は恥じた。
そして同時に……俺の『私は孤高で豪華』を防いだあの力のことも気にかかった。
やはり……、俺以外にも、能力者はいるってことか……!
「じゃあ、残りの時間はそれぞれ自己紹介でもしてもらおうかな。元々この後の選考でやってもらう予定だったし」
プロデューサーの指示で、俺たちは横一列に並べられていたパイプ椅子を車座に並べなおし、座った。
それぞれの顔を見回すとどの子も皆、個性的で魅力に溢れている。
静まり返った室内、互いを見つめあいどことなく譲り合う雰囲気の少女たち。
その中で俺は一番に立ち上がり、声をあげた。
「では、私から自己紹介をさせていただきますね。私の名前は大城与 清音(おおきよ きよね)。帝江洲高校の2年生です。
私の夢は“見る人に夢を与える者”になることですッ!!」
(……そして、腐敗したアイドル業界を改革していくことだッ!!)
心の中で付け加えるが、まだ本心を大っぴらにするべき時じゃあない! 俺は笑顔のまま椅子に座る。
ちなみに大城与 清音というのは、美少女形態での俺の偽名である。
高校の学籍は今は偽造だが……手を回して実際に高校に編入することも可能ではある。サラリーマンとしての立場もあるからやっていないだけだ。
「へー、きよきよって変な名前ー。そうだ、キョキョってよんでいーい?」
さっき話しかけてきたのとは別の少女からそう振られ、俺のあだ名はここでもキョキョになってしまった。
続いて立ち上がったのは、先ほどの『私は孤高で豪華』を防いだ少女。
「アタシは汐華 はるか(しおばな はるか)。支倉高校2年。アイドルの頂点に立つのがアタシの目標よ。
アタシを邪魔するものは全部ぶっ飛ばすわッ!」
「じゃ、最後はあたしね。
あたしは虹村 双葉(にじむら ふたば)。いろいろあって実家を追い出されちゃってねー。
なんとなしに街を歩いてたらアイドルオーディションって目に付いて、成り行きで出ちゃったんだよね。ま、やるとなったらしっかりやるからさ。よろしく」
銀髪と日本人離れした容姿、どことなくミステリアスな雰囲気に飄々とした言動。この娘もやはり独特のオーラがある。
やはりこのふたり、オーディションで最後まで残っただけあって、“魅力”も“個性”も充分だ。
「さーて、各自自己紹介も済んだことだし、早速だが今後の予定を話そう。
来週の土日からレッスンを開始する。もちろん学生の人には学業を優先してもらいたいけれど、できるだけレッスンには来るようにね。
レッスンの具合を見ながらライブのスケジュールを決定するから。
あとこれ、各種書類ね。帰ったら目を通しておいて」
「あともうひとつ。君たちのグループ名は『STANDs』だ。今決めた。
君たちはこれから様々な困難に「立ち向かう」 (stand up to) ことになる。
そして、君たちそれぞれが友であり仲間であるメンバーの「傍に立つ」 (Stand by me) 。
だから『STANDs』。いい名前だろう?」
プロデューサーの言葉と共に解散となり、少女たちは帰り支度を始める。
俺は涼やかな表情を崩さないまま、内心で感激に打ち震えていた。
ついに俺は念願の野望への第一歩を踏み出したのだ。
来週のレッスンが待ち遠しい。と同時に、平日のサラリーマン生活のなんと煩わしいことか。
少女たちは早速打ち解けて、仲良く世間話を始めているようだ。
「あ、きょきょ! ちょっとちょっと~」
俺を呼ぶ声に笑顔で振り返る。俺に声をかけてきたのは……
「汐華……さん」
「はるかでいいよ、これからは仲間なんだから!」
さっきの険悪なムードが嘘の様に微笑む汐華はるか。
太陽の様な力強い笑顔。魅力溢れる『STANDs』のメンバーでも主役を張れる事だろう。
(女口調は苦手だ……。敬語キャラで行こう)
「では、はるかさん。何かご用でしょうか?」
「さん付けもいらないって!同い年でしょ?折角だしカラオケでもどうかなって」
「!」
グループ活動する以上、友人付き合いは避けられない。しかし俺は実際には彼女の倍近い年齢だ。
だからこそ事前に調べておいた!最近の女子高生の流行、好みをッ!
だから今後この大城与清音に精神的動揺によるトークミスは決してない!と思っていただこうッ!
「なぁに~、カラオケ? あたしも行く行く!」
虹村双葉も食いついてきた。
「あ、あたしも双葉でいいよ! よろしく~」
3人で仲良く話しながら事務所の建物を出て、最寄のカラオケ「カラオケのアイアンマン」へ向かう。
その様子を……物陰から眺める男がいることに、この時俺たちは気付いていなかった。
「♪夢は叶うもの~私信じてる~」
「きょきょすっごーい! 歌上手ーい!」
TSF48を始め、お気に入りのアイドルソングを次々歌う俺。
アイドルオタクとして、推しグループの曲は大半歌えるし、この場で披露する気はないが、振り付けも覚えていて再現できる。
しかもそれらの曲を、今は美少女ボイスで歌うことができるのだ!
自分の喉から鈴の音のような澄んだ歌声が出ている。そのことだけで俺は天に舞い上がるような喜びに包まれるッ!
余韻を残しつつ歌い終えると、マイクを置く。
「ふぅ、ありがとうございます」
「じゃ、次はあたしねー」
双葉がマイクを手に取り、次の曲が流れ始める。
しかし、アイドルオーディションを受けるだけあって、ふたりともかなりの歌唱力がある。
まだ原石ではあるが……俺と共にトップアイドルを目指す子たちなのだから、これくらいの実力がないと困る。
今後のレッスンで皆がどう成長していくか……楽しくなってきた!
「ちょっとドリンクバーに行ってきますね」
曲の終わったタイミングで空のグラスを持って立ち上がる。
「あ、じゃあアタシも」
そう言ってはるかも立ち上がり、二人で廊下に出る。
なんとなく、二人きりになると言葉がでない。
はるかの方も黙ったまま、ドリンクバーでグラスにジュースを汲んでいる。
「あ、あのさ」
「はい」
はるかの言葉に俺が返事をしたとき。
「おっと、ごめんよォ~~」
大柄の熊のような男が、俺たちの背後、廊下を通り過ぎ――。
通り過ぎざまに、俺の尻をぺろんと撫でていった。
「ひゃぁッ!!」
「な、なにアイツ! キモッ!」
男はそそくさと廊下の奥、曲がり角へと消えていった。
が、あの男の顔……どこかで見覚えが……?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
考えに耽っていると、徐々に胸が苦しくなってきた……。
なんだこれは……気分が悪いとか、そういう問題じゃあないッ!
物理的に胸周りが苦しい……!?
「ちょっときょきょ、その胸どうしたの!?」
ググ……グググゥゥゥーーーー……
はるかの言葉に、俺は自分の胸元を見下ろす。と同時に。
バツンッ!!!
俺の胸元、ブレザーの下、ブラウスのその中で、何かが弾ける音がした!
同時に多少の開放感、これは……ブラのフロントホックが弾けたッ!?
俺の胸が、急激に膨乳しているッ!?
いったいこれはどういうことだ!!?
「まさかこれは……『スタンド攻撃』!?」
『スタンド』……?
はるかが口走った単語がやけに気になるが、今はそれどころじゃあない!
恐らく、これはさっきの男が原因だ!
「多分さっきの男に触られたのが『スタンド』のトリガー! あいつを捕まえないと!!」
廊下の角に駆け出したはるかを追いかけて俺も走る。
が、大きくなった乳房が予想以上に重く、ぷるんぷるんと揺れて走りづらいッ!
これをもし客観的に見れたらとても素晴しかっただろうが……自分が急にこうなると、重心もずれるし大変なことばかりだ。足元も見えないッ!!
角を曲がった先には既に男の姿は無かった。どうやら廊下の両側にずらりと並んだどれかの部屋に逃げ込んだらしい。
しらみつぶしに部屋を調べるか……しかし。
俺の乳房はまだ徐々に大きくなり続けている。
ボタンが飛ばないように、ブレザーやブラウスの前を開いたが、激しい運動は既に厳しいかもしれない。
はるかはそんな俺の様子をちらりと見て……。
「よし、きょきょはここで待ってて。アタシがなんとかするッ!」
気合と共に廊下に突き進んでいくッ!
そして俺は思い出していた。
あの男……少し前にSNSのアイドルファンコミュを追放されていた男だ! 名前は確か……片桐安之進。
巨乳爆乳アイドルのファンだが粘着気質で……、新人アイドルにストーカーまがいの行為をして厳重注意をくらい、コミュからも追放されていた!
~~~~~~~~~~
―片桐Side―
一方、廊下に並ぶ薄暗い小部屋のひとつに身を隠しながら、片桐安之進はほくそ笑んでいた。
アイドルファンなら、中規模程度の事務所の新しいアイドルオーディションの開催情報を掴むことは容易い。
そして会場から、ほかの少女たちより遅く帰る娘たちがいたなら……それはオーディションに最後まで残り、勝ち抜いた娘たちである可能性が高いってぇわけよ!
これからデビューするアイドルの卵たちを、俺のスタンドで爆乳にしてやるッ……!
そうすることで俺様の大好物の爆乳アイドルグループが誕生するってわけよッ!!
少女たちにしても悪い話じゃないよなァ……なにしろ爆乳になるんだッ、アイドルとしての“魅力”も“セクシーアピール”も高まるだろォ?
もしも抵抗するようなら軽く脅しをかけてやりゃァいい……何しろ俺のスタンド『ガラスの巨人』が大きくできるのは別に胸に限るわけじゃない。
言うことを聞かない悪い娘は顔を3倍のデカさにしてやったり、身長を3mくらいに巨大化してやりゃァいいんだッ!!
俺は無敵だぜッ!!
「何処だぁーッ!クマ男ぉー!」
俺様を探し廊下を走り回る声を聞きながら、俺様は舌なめずりした。
隠れているのは使われていない個室の収納部分!そう簡単には見つからねェぜッ!
にしても元気だねぇ。まったく最近の女子高生(エモノ)は元気だぜェ。先程は獲物を検分する為
あえて近付いてからスタンドを使ったが、射程距離は10メートル!つまりは俺様は安全に部屋に隠れながら……。
「どこ行ったー!?隠れてないで出てこーい!」
そんなに大声出しちゃあ何処にいるのか丸わかりだぜ。
そっと『ガラスの巨人』で後ろから“触る”ッ!!
「きゃあ!?」
距離が離れりゃパワーも落ちるのが玉に瑕ってェヤツだが、
一回触っただけであの娘のDカップがEカップになったのが分かるッ!
『ガラスの巨人』は無色透明!薄暗い廊下じゃあ注意してみなけりゃ気付かねェぜ!
「こ、この部屋!?」
ざァんねん!大外れだぜッ!『ガラスの巨人』ッ!
「ッ!重!?」
ふへへぁ♪心地よい弾力の気配がするぜ!恐らく今ので一気にGカップにはなったか!?
ガラスの巨人と視覚が共有出来ねぇのが残念だが、油断せずに勝負がつくまでは隠れて戦うぜ!
~~~~~~~~~~
―はるかSide―
意外と厄介な相手ね。
一瞬見えた敵のスタンドのビジョン。透明なガラスで出来たマネキン人形みたいな奴だった。
恐らく近接型。アタシのスタンドと同じタイプ。でもスピードと本体からの射程距離は向こうの方が上!
「やれやれね」
でも相手がどの部屋に隠れてるか見当はついた。
一般人に迷惑が掛かるし、釣り出さなきゃ!
……ブチン!
!!
ブラがッ!?
~~~~~~~~~~
―片桐Side―
ッ!!
遂にきやがったッ!
膨乳に耐えかねてブラホックが弾ける音ッ!
だが、足音が遠ざかってやがる。この方向は……非常階段!
……んん?
・・・・・・
昇ってんなァ。屋上に向かってる。
馬鹿めッ!、袋のネズミだぜ!
追い詰めて俺様が作ってやったそのパーフェクトおっぱい拝んでやるッ!
~~~~~~~~~~
―清音Side―
はち切れそうなブラウスごと胸を抑えながら走るはるか。そしてそれを追う下卑た笑顔の片桐安之進。
はるかが負けそうな時は助太刀しなければ……。重い胸を押さえながら片桐を追う。
やがて階段は終わり屋上への出口に着いた。
「ヒュウゥ♪たまんねェぜッ!形、大きさ、位置その他完璧パーフェクト!!思わず自画自賛しちまうってもんだッ!」
にやけた片桐の視線は、はるかの胸を捉えて離さない。
元々美乳だったはるかの胸はAV女優顔負けの爆乳になっていた。
「そんだけバランスが崩れてちゃあスタンドバトルにもならねえだろうよ」
屋上に片桐の姿を認めたはるかは、力を抜いて自然体で向き直った。
しかしその瞳には諦めの色は無く、真っ直ぐに紅く燃えていた。
世界に宣言するかの様に、口を開いた。
「アタシ、汐華はるかには『夢』がある!今なら許したげるから能力を解除しておうちに帰ってすぐ寝なさい」
「そいつぁ大言壮語ってヤツだぜ!アイドルになるんだろォ?大した『夢』じゃねえの。
そのでっけぇムネがありゃあす~ぐ売れっ子になれるだろうよ。感謝しろよ」
「違う!アタシの夢は遥か先……『アイドルの頂点』ッ!
アタシを邪魔するヤツは全部ぶっ飛ばす『GET TO THE TOP!』」
はるかの背後に巨大なヴィジョンが現れた。さっきは無機質な大男に見えたが、今の姿は絢爛豪華なドレスの女!
なるほど、はるかが『覚悟』を固めれば固めるほど強くなる能力って訳か。
「ああんッ!?……しゃらくせェ!『スタンド』ってなァデカけりゃいいってもんじゃねえんだよ!教えてやるぜ!『ガラスの巨人』!」
「明るい所だとよく見えるね、そのブッサイクな顔が!
『GET TO THE TOP!』!ぶっ飛ばせええ!!」
マシンガンのような速度の大砲の様な威力の連打(ラッシュ)!
片桐の身体は紙切れの様に吹っ飛んだ!
―――片桐安之進 再起不能(リタイア)
片桐安之進が気絶したせいか、抱えた腕から溢れるほどに膨らんでいた乳房は元のサイズに戻った。
ほっとしたが……どこか勿体無くも感じてしまう俺がいる。
まあ、あんな生活に支障が出るまでのサイズでなければ、巨乳というのも悪くは無い。むしろ大好きである。
あとで片桐のヤツとよぉ~く“話し合”って、適度なサイズに増量させるってのもいいかもしれないな。
一方ではるかの方はというと、やはり戦闘でダメージがあったのだろうか、その場にへたり込んでいた。
よく見ると滅茶苦茶顔が赤い。
「はるか、大丈夫……?」
近づこうとする俺の目の前で、はるかの姿がブレるかのように揺らぐ……。
「ダメ、きょきょ、見ないで!」
「な、はるか……まさか君は……」
俺の目の前で、はるかの姿が変化していき……。
「――ッ!! ああもうッ! “覚悟”を決めたッ!!」
よく似た雰囲気の、少年へと変化した。
「きょきょ、正直に言うッ! アタシは……いや、僕の本当の名は、汐華 莉緒(しおばな りお)! 男子高校生なんだ!」
信じられない……。だが、俺が今こうして少女の姿でいるように、同じように少女に化ける能力があったっておかしくはない。
「汐華 はるかってのは僕の姉なんだ……。
アイドルの頂点を目指すってのは姉の夢で……、でも本物の姉は、交通事故で僕を庇ってずっと意識不明……。
だから僕は“覚悟”を決めたんだ! 僕が姉の姿で、姉の代わりに夢を実現するってッ!!」
力強く立ち上がる莉緒。その瞳には強い決意が満ちている!
「『GET TO THE TOP!』」
莉緒が『スタンド』を出すと、莉緒の姿は再び揺らぎ……はるかの姿になる。
「『GET TO THE TOP!』は姿をコピーする『スタンド』。これで姉の姿に変身してるんだ」
そしてすまなそうに頭をかくと、
「きょきょ、騙しててごめん。でも、姉のためにアイドルはやめられない。だから皆には黙っていてほしいんだ」
真っ直ぐな瞳は“魅力”に満ち溢れている!
例え正体が男子高校生であっても……はるかはアイドルとしての器が充分にあるッ!
「ええ、約束するわ」
はるかの手をとり、ふたりでカラオケの部屋に戻る。
俺は少しだけ迷っていた。彼……彼女に俺の正体を告げるべきかどうかを。
【スタンド名】 GET TO THE TOP!
【本体】汐華 莉緒
【タイプ】近距離パワー型
【能力】他者の姿をコピーする能力。姿は三つまで記憶できるが、莉緒はそのうちひとつをはるかの姿で固定している。
破壊力-A スピード-C 射程距離-D 持続力-B 精密動作性-C 成長性-A
スタンドのヴィジョンは、大柄な絢爛豪華なドレスの女の姿が本来の姿である。
『覚悟』を固めるほど強くなる、というのは能力ではなく莉緒の信条。スタンド同士の戦いとは精神力の戦いであるため、ある意味でそれは正しいといえる。
【本体】汐華 莉緒
【タイプ】近距離パワー型
【能力】他者の姿をコピーする能力。姿は三つまで記憶できるが、莉緒はそのうちひとつをはるかの姿で固定している。
破壊力-A スピード-C 射程距離-D 持続力-B 精密動作性-C 成長性-A
スタンドのヴィジョンは、大柄な絢爛豪華なドレスの女の姿が本来の姿である。
『覚悟』を固めるほど強くなる、というのは能力ではなく莉緒の信条。スタンド同士の戦いとは精神力の戦いであるため、ある意味でそれは正しいといえる。
【スタンド名】 ガラスの巨人
【本体】片桐安之進
【タイプ】近距離パワー型
【能力】触れた相手の体を肥大化、巨大化させることができる。肥大化させる部位は全身から指一本まで片桐が自由に選択できる。自分の体には能力を使えない。
破壊力-C スピード-B 射程距離-B 持続力-A 精密動作性-C 成長性-C
【本体】片桐安之進
【タイプ】近距離パワー型
【能力】触れた相手の体を肥大化、巨大化させることができる。肥大化させる部位は全身から指一本まで片桐が自由に選択できる。自分の体には能力を使えない。
破壊力-C スピード-B 射程距離-B 持続力-A 精密動作性-C 成長性-C
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(無事か。まあ、何よりじゃあないか)
STANDsのプロデューサー、保洲 順一郎は電信柱の陰から屋上の戦いを見守っていた。
その手には『リボルバー式の拳銃』が握られていたが、周りの人間は“誰も気にしていなかった”。
まるで、周囲の人間にはその拳銃が見えていないかのようだった。
(本来なら“彼ら”を合格させるつもりはなかったんだが、あの“凄み”!私の勘も捨てたもんじゃあないって事か)
持っていた拳銃が一瞬にして消え、代わりに煙草を取り出しのんびりとふかした。
(彼らなら勝てるかもしれないねぇ。“奴”の最強のスタンド、『世界タービン』に!)
自分では止められなかった、袂を分かった友を想い、そしてSTANDsの未来を想い、保洲は静かに笑った。
【スタンド名】 吹けば飛ぶよな男だが
【本体】保洲 順一郎
【タイプ】遠距離型
【能力】リボルバー式の拳銃型をしたスタンド。撃った相手の『重さ』を奪う能力。他にも隠された能力が?弾倉は常に満たされ、弾切れを起こすことはない。
破壊力:B / スピード:B / 射程距離:B / 持続力:C / 精密動作性:E / 成長性:E
【本体】保洲 順一郎
【タイプ】遠距離型
【能力】リボルバー式の拳銃型をしたスタンド。撃った相手の『重さ』を奪う能力。他にも隠された能力が?弾倉は常に満たされ、弾切れを起こすことはない。
破壊力:B / スピード:B / 射程距離:B / 持続力:C / 精密動作性:E / 成長性:E
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結論から言えば俺は莉緒に正体を明かさなかった。
将来的に打ち明けるつもりではあるが、今はまだその時ではない。
オーディションに受かるまでに俺は多くの少女たちの魅力を奪ってきた。アイドル業界をの在り方を正すという大義があるとはいえ、彼女達には悪い事をした。
莉緒の『覚悟』に照らされ、一瞬だがそう思ってしまったのだ。
だが、俺もまた『覚悟』をして進んできた。おそらく俺の能力を知れば、俺のしてきたことを知れば莉緒は俺の非道を糾すだろう。
最悪『STANDs』のデビューが危ぶまれてしまう。
それは困る。だから今は、言えない!
(今は言えない。だが、必ず君の『覚悟』に答えてすべてを打ち明けよう)
そう決意した。
そして、その翌日から早速レッスンが始まった。歌、ダンス、ビジュアル、社会常識やマナー講座。
多岐に渡るプランが組まれていたが流石は俺が認めた『魅力』の持ち主達と言った所か、ほぼ完璧と言っていい結果を出した。
「こんなにいい意味で教え甲斐の無いコたち、アタクシ初めてネ。特にきょきょ!アナタそこらのサラリーマンよりマナー出来てるわヨ!」
「いえ、まだまだ若輩者です」
講師のオカマ、マライヤ(芸名)にそう褒められた。まあ、実際サラリーマンだったわけだからビジネスマナー位は出来て当然。
はるかは歌とダンスは完璧だったがメイクや社会常識がイマイチだった。まあ、高校生の割には出来ていると思うが、
芸能界という伏魔殿に挑むことを考えれば社会常識は必須科目だ。
実力はあるのにテレビの制作サイドに嫌われ、消えていったアイドルの卵達も何人も見て来たのだ。
「はるかチャンも見習いなさい?アナタちょっとガサツな所あるから……」
「あはは……」
目を逸らし頭を掻くはるか。正体が男子高校生だと知らない人から見ればちょっとボーイッシュなギャルにしか見えない。
「で、双葉チャン?アナタもっとデキるコでしょう?
“もしアタクシがその身体を使えたなら”もっともっと高く飛べるワ!ちょっと追加レッスンヨ!」
「えぇ~?しっかりやってますって、初めての割にはそれなりに良かったでしょ~?」
やる気なさげに受け答えする双葉。俺も正直な所気になった。彼女のポテンシャルはもっと高いと見たが、今一つやる気が感じられないからだ。
「さあいらっしゃい!アタクシの全てを“注入”してあげるワ!他の皆は解散!また明日同じ時間に集合ヨ!」
「イタイイタイ!引っ張らないで~」
マライヤに引っ張られ稽古場に消えていく双葉。俺達はそれを見送って解散した。
さて、会社に戻って明日の分の仕事も片付けておかなければ。
翌日、稽古場に付くと俺以外の全員が揃っていた。
クソッ!課長に余計な仕事を振られなければ時間通りだったのだが。
……おや?なにやら様子がおかしい。
双葉一人が踊って、はるかがそれを見ているようだ。
「申し訳ございません。委員の仕事が長引いてしまいました」
「あ、キョキョ!ちょっと見てよアレ!」
「……え!?」
そう言ってはるかが指さす先には、昨日とはまるで別人のような動きで踊る双葉の姿があった。
その動きは見た事があった。昨日手本としてマライヤ(♂)が踊っていた動き。
否、方向性は同じだがより洗練されている動きだった。
違ったら申し訳ない。
とにかく素晴らしいイラストです。
違ったら申し訳ない。
とにかく素晴らしいイラストです。
違ったら申し訳ない。
とにかく素晴らしいイラストです。
違ったら申し訳ない。
とにかく素晴らしいイラストです。
違ったら申し訳ない。
とにかく素晴らしいイラストです。
ディ・モールトベネッ!