「くそっ・・・、こんな・・・」
「ご苦労様。本国には私たちからきちんと報告してあげるわ。「魔王と相打ちの末、名誉の戦死を迎えた」ってね」
俺は清彦。いわゆる「異世界に召喚された」って口だ。俺が持っていた特殊能力は「盾」や防御に関するものばかり
だった。そして、俺はいま、悦に浸りながら会話をしている女、「勇者」のスキルを持つ少女に利用され、囮にされた
挙句に大魔道の生贄にされ、こうして命を散らせることとなったわけだ。おかしいとは思ってたんだよなぁ・・・。
このパーティは俺を含めると、勇者、魔法使い、僧侶、そして楯役の俺の4人だったが、俺以外はみんな女だった。
裏でこそこそ話しているとは思っていたが、一応務めを果たそうと俺なりに一生懸命やってきたはずだったんだ。
でも、結局あいつらにとって、俺は駒でしかなかったってことなんだろう。
(悔しい・・・。こいつらに、何とかしてこいつらに一矢報いてやりたい・・・。でも・・・、もう考えがまとまらない)
身体から水が出ていくように、考えがまとまらなくなっていく。気づけばあいつらももはや誰もいない。もうすぐ俺は
死ぬのだろう。悔しさを抱えながら、俺は意識を手放そうとしていた。
【ぐぬっ、不覚であった。まさかここまでの力をつけていようとは・・・】
(だっ、誰だ!?)
【貴様こそ誰だ!?我が魔力の中に侵入するとは、貴様只者ではないな・・・?】
意識を手放そうとしたら、内側から謎の声が聞こえてきた。禍々しささえ感じるその声だが、今の俺からすると
貴重な暇つぶし相手とも言えた。
【我は魔王だ。先ほどまで対峙しておっただろう?我の最終手段の中に入り込んでくるとは思わなかったがな】
どうやら、俺を媒介に大魔法を放った結果、俺の意識は魔王の中に取り込まれてしまったらしい。そして魔王は、
こういう事態に備えて最終手段として自らを永らえる術を持っていたそうだ。俺たちの見込みは甘かったのだろうか。
* *
それから俺と魔王は様々な話をした。自らの身の上話や、魔王が今まで戦ってきた強者たち、仲間の特性など色々だ。
不思議なことに、俺と魔王は馬が合うらしい。正直俺の住んでいた世界で会っていたら美味しく酒でも酌み交わしてた
かもしれないと思えるほどに相性がよかった。
【しかし、貴様から随分と憎悪の波動を感じると思ったが、そういうことか。我が言うのもあれだが外道の極みだな。
だが、お陰で我の最終手段の魔術も無事に発動することが出来た。貴様の魔力のお陰だ。そこは感謝しよう】
魔王曰く、消耗しきった自分の魔力だけでは足りなかったらしい。そこへ媒介となった俺の魔力が合わさった
ことで、こうして無事に生き残ることが出来たんだそうだ。
【だが、我とてこの姿でいつまでも生きられるわけではない・・・。そうだ。貴様、勇者パーティだったといって
いたな。我とともに奴らに復讐してみないか?】
(なんだって?そんな術があるのか?)
【我が欲するのは魔力、そして生命力にあふれた強靭な肉体だ。勇者パーティで我に迫るほどの力があるのだ。
きっとその肉体も素晴らしい能力を持っているだろう。それをもらう。そして貴様も同様に、あの中の相手から
相応しい肉体を強奪し、新たな生を堪能するといい。どの肉体がよいかは貴様が先に選んでくれて構わん。
誰であれ、我の力を生かすには十分な素養があると確信している】
魔王の提案は、どうやら俺を貶めたあいつらから身体を奪い、それをすべて自分のものにしようというものらしい。
俺はそんな提案に・・・
(やろう。2人で復讐を果たそうじゃないか)
乗ることにした。正直あいつらは性格はともかく、いずれも美しくかわいく、そして優秀だった。そんな身体を
好きにできる、その提案が魅力であった。こうして俺と魔王、2人の奇妙な復讐劇が幕を開けた。
#最初は誰を狙いますか?
#1,女勇者
#2,女魔法使い
#3,女僧侶←
(狙うとしたら、女僧侶が良い。女勇者の身体を奪ったとしても本人と対立して復讐を成し遂げたい。それに僧侶は
攻撃に関する魔法とかはあまり無いから、力を隠すとしたら勇者パーティーの中でも力が弱い方が好ましいと思うけど、
どうだろうか?)
【ふむ、僧侶なら我の力で支配することが可能だろう。今すぐにでも貴様の魂を僧侶の元へと送り届けたいが。
・・・此処で一つ注意点がある。】
(注意点?)
【僧侶の身体を支配したとしても、チャンスは一度だけだ。貴様との縁が繋がっている以上、サポート出来るとしたら会話や
僅かばかりの補助魔法だ。この完全支配の魔法は乗っとることが出来る代わりに中身が貴様だと看破された場合、貴様の魂は
消滅するデメリットがある】
(・・・中身が別人だとバレたら終わり、本当に大丈夫なのか不安なんだけど。何か対策はあるのか?)
【対策はある。完璧に成り済ませる為には肉体を乗っ取った後、身体を馴染ませる必要があるのだ。貴様の勇者パーティーの
中で僧侶はどんな人物だ?】
(えっと、確か。男嫌いで女しか興味は無い位か?)
【ふむ、それなら男性との会話は積極的に避けて。女性との会話を優先するのだ。それだけで我の魔力が潤うのだからな】
【取りあえず町に戻るとするか…。少し待ってくれ】
身体の中から魔力の奔流のようなものが沸き立つ。まるで自分の中身がかき回されているような感覚だが、不思議と気持ちが
いい。
「…、ふむ。こんなものか」
(あれ?この姿って…)
城に残された愛用の盾に写し出された姿は、まごうことなき自分の姿だった。
「これから貴様の町に入るのだ。流石に魔王たる我の姿で入るわけにもいくまい。貴様の記憶から姿を再現させて貰った」
身体の主導権は魔王にあるようだ。自分の口から勝手に言葉が吐き出される様は奇妙としか言えない。
「だが、お互い死んだはずの存在、そして今は魔力を垂れ流している状態だ。あまり長時間は活動出来んし、得策ではない。
町に入るまでに仮初めの肉体を調達するとしよう」
魔王はそう言うと、俺の装備を回収して動き出した。
(おい、町の場所とかは分かるのか?)
「貴様の魔力を辿るだけのことだ。この程度造作もない。取りあえず、しばらくは休んでおけ。頃合いを見て、我が乗っ取りの
手本を見せてやろう」
そう言うと、視界に点のような物が映し出される。どうやら俺が無意識に垂れ流していた魔力らしい。魔王はこれを辿り、
あっさりと城から脱出して町へと向かい始めた。
町へ向かっている最中、途中から魔物が倒された所が幾つもある。魔王はその様子を見る度に憎悪を感じた、俺も魔物を倒した
勇者パーティーの一人だが、魔王は俺に対して問題は無いと呟いていた。
「・・・清彦よ、我の部下は何人居ると考えている?」
(部下?それって、中ボスのような感じだから。9体戦った記憶があるかな)
「・・・成る程、それなら我の部下は一人か二人は生きているだろう。貴様の町には一人潜んでいる」
(えっ、ま、まだ部下が居るのか!?)
「戦闘力が皆無な代わりに情報戦に関しては優れている者だ。名前は”レイス”と呼ぶのだが、聞き覚えはあるかな?」
(・・・おい、ちょっと待て。レイスって、忍者だよな?めちゃくちゃ可愛い記憶があるけど)
「驚いたか?我の部下は魔物は全て貴様達によって葬られたが、残っている部下は人間だ。彼女とは我が育成して、勇者に
関する情報を得るように指示している、我に忠誠を誓っている人物だ」
レイス、彼女はミステリアスな雰囲気を漂わせる謎の美少女であると記憶にある。まさか彼女が魔王の部下だと誰が考える
のだろうか?
「彼女は元々、仮初めの肉体を提供する為に存在する者。町に入るのであれば彼女の肉体を使えば良いだろう。」
(と言うことは、レイスの身体を使って。僧侶の身体を奪えば良いってことか?)
「そういうことになる、先に言っておくがレイスの身体は我が主導権を得る。僧侶の身体は清彦に渡す予定だ。
お楽しみなどは取っておくが良い」
(お、お楽しみって、な、何の事かな!?)
「はっはっ、男が女になったらどんなことをするのかは予想できる。我は女だが、初心なお前も我は好きだぞ?」
(ちょっと待って、魔王の性別が女とか聞いたことが)
「・・・そろそろ、待ち合わせ場所に到着する。貴様は休んでおけ」
そこまで言うと、俺は諦め半分。傍観に徹することにした、魔王が復活することも視野に入れるだなんて。これを読んで
いる人が居たら色々と不味いな。
「確かこのあたりにいるはずだが・・・」
魔王が待ち合わせに指定した場所は街のはずれにある小屋だった。確かこの辺は以前から治安が悪いが、「罪人はここに
投げ捨てればいい」という方針の元、国側も敢えて黙認していた場所のはずだ。だからこそ常に混沌としており、俺たちの
ように死した者でも身元が割れづらいということだろう。
「お待たせしました。魔王様」
少し待っていると、後ろから涼やかな声とともに、おおよそこの地区に似つかわしくないような美少女が入ってきた。
「おお、レイスよ。わざわざ足を運ばせて悪かったな」
「いえ、魔王様のためですから。魔王様が討伐されたと聞いて心配しておりましたが、ご無事で何よりです。それより、
そのお姿は勇者パーティの・・・?」
一見すると司書のような清楚な雰囲気の少女こそ、忍者として国にその人ありと言われるレイスである。彼女の潜入技術は
まさに超一流、それだけでなく情報の流布にも長けており、一切戦うことなく相手側を壊滅させたことさえある、まさに
中核メンバーの一人だ。そんな彼女が魔王側の人間だったとは、俺も全く想定していなかった。
「まあ成り行きでな。目的が変わったわけではない」
「かしこまりました。私からの報告は・・・、しなくても大丈夫ですね。後程ご自由にご覧下さい。」
「すまんな。ここまでよく仕えてくれた。心より礼を言う。お前の身体、しばらくの間もらい受けるぞ」
そういうと魔王はレイスと抱き合い、彼女の口を俺の口で塞ぐ。こういった経験もない俺からすると初めての経験だが、
何度も経験があるように舌を絡め、服の上から彼女の胸を揉みしだく。口の中から伝わってくるねっとりとした感触、
彼女のほのかに暖かく、柔らかな全身の感覚がとても心地いい。
【楽しんでいるか?本当ならたっぷりと行為も楽しみたいのだが、レイスの身体はなるべくそのままにしてやりたいのでな。
楽しむのであれば貴様のパーティの誰かで味わおうか】
魔王が彼女の胸を揉み、全身を愛撫しているうちにレイスの表情が蕩けていく。こんな妖艶な雰囲気を帯びる少女ではない
はずなのだが、そのギャップが実に可愛らしい。いつしか彼女の足は震え、股からは愛液が分泌されているようだ。次第に
自分で立つのも怪しくなってきている。
「ふう・・・、もう下ごしらえは十分だな。そろそろ頂くとしようか」
すると、今度は自分の身体が形を解いていくのが分かる。と同時にレイスと繋がっていた口から彼女の体内へと進み始める。
狭い空間をよじるように突き進んでいくと、次第に身体の中で自分の細胞が、意識が溶けだし、広がっていく。今度は自分の
身体が火照り、興奮しているようだ。もしかするとこれはレイスの感覚なのだろうか?視界も段々とブレてきた。暗い体内の
視界と、スライムのような何かが自分の口から侵入している映像が交互にちらつく。
【よし、全て入り切ったな。後は感覚を・・・!】
細胞が入り切ると、恐らくレイスの目から感じている視界に固定される。見慣れた世界のはずが、他人の目から見る光景が
もの新しい。どうやら細胞を受け入れた分、全身が膨張しているらしい。それを少しずつ、確実に身体の中に溶かしこんでいく。
どのくらいの時間が経っただろうか。収縮し、身体があるべき姿に戻ったとレイスの感覚が教えてくれる。それと同時に、
彼女の口から言葉が紡がれる。
「よし、完了だ。どうだ清彦。これが【他人を乗っ取る】ということだ」
そのレイスから飛び出す言葉は、本来の彼女にはあり得ない自身に満ち満ちたものであった。
(これが他人を乗っ取る、でも中身がバレたら魔王の魂は消滅されるんじゃないのか!?)
「安心してくれ、この完全乗っ取りは元々我が作った物だ。人間とは欲深い物よ、他人の身体を手に入れたら好きな行為を
するだけで葬る事が出来る都合の良いような物だったのだが、禁術として指定されたのは痛かったがな」
(あっ、もしかして俺のような人物を排除しようと?)
「そうだ、元々レイスに我がこの術を他人に教えて自分の身体を好き勝手することで余計な人材を排除していた。彼女が
意思に反すること、つまり、”我に敵対心を向けただけで消滅するのだ”。」
(も、もしかして。意思に反することだけでも消滅するのか?)
「我の部下限定と伝えておこう。乗っ取りに関する知識を全て委ねているのだから。耐性がある、清彦がレイスの身体を
奪っても構わないぞ?ただし、貴様の魂が消滅する可能性があるかもしれないがな」
恐ろしい事を考えるな!?確かに一切戦うことなく相手側を壊滅させたことさえある。つまりこの乗っ取り魔法を相手に
与えた上で自分の身体は魔王様に捧げているから、対策していたのか。
「勿論、清彦は我の共犯者だ。自分の身体を色々と欲深い行動をしたいと言うのは充分解っているのだが、暫し我慢をして
貰えると助かる。我の魔力が戻ればそのデメリット、枷を外すことが出来るのだから。もし、僧侶の身体を手に入れた後は
本人の意思とは反しないように行動を心がけすれば良いだろう。」
(僧侶は可愛い女性しか興味は無いから。男性との行為は暫くお預け。そもそも俺は女性と関わりたいと思っていたから、
女の子に話すために俺が僧侶の身体を借りるみたいな感じに思えば良いのか?)
「その思考で構わない・・・ほぅ、どうやらレイスは僧侶と仲が良いみたいだな。」
(えっ、記憶が読めるのか!?)
「記憶は読めるとも、彼女になりきるために身体を施す必要があるが、既に終わらせたからな。では、早速行動をすると
しよう。清彦よ、貴様の願いを我が叶えてやろう。」
その様に呟くと町へ向かった、久しぶりに戻ったこの町にはお祭り騒ぎが起きていた。魔王が退治したことで活気に溢れている
からだな。
「自身の死を祝われるのも何とも言えない気分だな・・・。腹立たしくもあるが、同時に滑稽でもある。我はこうして、
まだこの世に生き永らえているのだからな」
レイスの声を使って、その可愛らしい声とは似つかわしくない堂々とした口ぶりで独り言ちる魔王をよそに、祭りの喧騒は
まるで俺の存在などなかったかのように進んでいた。自身が世話になった街のはずが、どこか遠くへ来てしまったような、
そんな虚無感に近い感情が胸に去来する。
「しっかし、勇者パーティは流石だなぁ!救国の英雄たちは可愛さも違うぜ!」
「今日はパーティだった気がするけど、明日には姿を見られるのかな?一目見てみたいぜ!」
街の雑踏の声がいつもよりよく聞こえる。恐らくレイスが忍者として無意識のうちに身体に刷り込まれた習性が表に出てきて
いるのだろう。子細な情報を漏らさず確認し、それらから隙を見出す、壁に一穴を空けるような作業を繰り返してきた彼女の、
優れた能力であった。
「そう言えばさっき、僧侶様が修道院に立ち寄られてたのを見たぞ!やっぱり可愛いよなぁ。清楚で胸も大きいし・・・」
「ばかっ!不敬だぞ!でも・・・、いいよなぁ・・・」
そんなレイスの耳に、僧侶に関する重大な情報が舞い込んでくる。この辺をしっかりと聞き逃さないあたり、魔王がレイスを
仮の肉体に選定した理由が見えてきた気がした。
「・・・、目的地は見えたな。早速向かうとしようか」
レイスの脳に、身体にはこの街の概要もしっかりと残されている。魔王はそれを頼りに迷うことなく、修道院へ向かっていった。
元々僧侶が通う修道院は、中央の聖堂は屋根が落ち、雨風に晒されて一部が腐っていたり酷い有り様だったと聞いている。
各部屋の扉は特に傷んでなく、部屋の中も埃以外は特に綺麗だった。両手を前に手を出して呪文を唱えると、みるみる内に崩れた
木造部分が脱皮をするかの如く、成長して元の姿に戻っていく姿を目撃情報もある。わずか数分で屋根の修理が完了したり、
修道院は元の建物の姿へ戻すことが出来る事から、再生能力に関してはトップクラスと言われている。死者を蘇ることも出来る
可能性が持つ彼女だが、補助魔法を扱うには充分すぎる存在だ。
「あっ、レイスさん。僧侶様に会いに来たのですね!申し訳ありません、先程彼女は王に呼ばれて式に参加させると言われて」
「そうですか、それではシスターさん。私は何時も通りに部屋で待てば良いのでしょうか?」
「はい、帰宅した際にはお伝えしますね」
「成る程、了解したわ。」
シスターから情報を得たレイスだが、今までの雰囲気とは違う。親しみを込めた声で接する魔王の姿に俺はゾクリと見守っていた、
これが他人になりきると言う事か。
「ふふっ、まるで我が【レイス】みたいだと思ったようだな」
(な、何で分かる・・・?)
「当然だとも。今は我も貴様もこのレイスの肉体の中。魂が同居してしまっている上に、当然ながら思考はこのレイスの脳を使って
行われるのだ。貴様の考えていることはすべて分かるぞ。それに・・・」
魔王の魂がレイスの奥深くへと入っていく。包み込まれるような温かさを、レイスの身体が発するぬくもりを強く感じてしまう。
「【レイス】という存在の人格や記憶、知識、経験・・・、それらすべては脳の中に刻まれているんです。完全に支配することで、
それは自分自身の物として使うことが出来るということよ」
先ほど寒気すら思えた親しみ深さ、清彦として知っている【レイス】という存在に語り掛けられる錯覚すら感じたが、どうやら
それは、レイスという身体に刻まれたものを強制的に引っ張り出しているかららしい。これを俺が・・・
「出来ますよ」
レイス、いや、魔王は俺にレイスとして語り掛ける。いつもの控えめで、優しい俺の知る彼女のまま、俺に知識を授けてくる。
「貴方は本来、禁術とされている魔術が使われる様を、私の目を通して、私の魔力の使い方を肌で感じながら【レイス】という
存在を支配する様を見てきたはずです。仮にも勇者パーティに選ばれるだけの何かを持っている貴方であれば、この術は会得
できるはず。それが【魔王】である私の共犯者というものですよ。清彦さん」
その語り掛けてくる口調、柔らかさ、それはまさに俺が知るレイスそのものであった。思わず彼女の人格が目を覚ましているの
ではないかと問いかけそうになるが、
「っとまあこんな感じだ。術式さえ会得できればこのような事、造作もなくできるようになる。期待しておるぞ清彦。
我が共犯者よ・・・」
レイスの人格は裏に潜み、魔王の人格が表に出てくる。そして俺はその「他人の人格に成りすます」という行為に、密かに興奮を
覚えてしまっていたのだった。
【ふむ・・・、この者、なかなかに適性があるようだ。己が欲を解放し、ぜひ僧侶を支配してみるがよい。だが・・・】
魔王の思考が漏れてくる。もしかすると、敢えて漏らしているのかもしれない。
【うまくいくにせよいかないにせよ、僧侶の肉体と術式は何としてでも確保せねばなるまい。貴様亡きいま、僧侶の術式があれば
勇者パーティに守る術は無くなるのだからな】
最初に選んだ僧侶という選択は、図らずとも魔王の計画に沿ったものだったようだ。
「さてと、僧侶が戻ってくるまでにまだまだ時間はある。我は少しばかり仕込みにかかるぞ」
(何をするつもりだ?)
「貴様から聞いた話とレイスの記憶、そして我が調べた限りの知見で勘案するに、恐らく僧侶には並大抵の魔法は通じんだろう。
それに、全身を切り刻んだところで恐らくすぐに回復されてしまう。なればこそ、ここで通じる可能性がある術は忍びの技
ということになる」
そういうとレイスの持ち物を漁り、部屋の中に仕掛けを施していく。お香や護符、よくわからない薬のようなものを部屋中に、
分からないように仕掛けていく。そのスキルはどうやらレイスが持ち合わせているものらしい。魔王は彼女の記憶を読み、
まるでレイスが行っているかのように展開していく。
「ふむ・・・、こんなものだろう。あとは、僧侶をこの部屋に連れ込むのみだが、それは心配いらぬであろう。よくもまあ
ここまで深い仲を育んだものだ」
どうやら魔王には勝算があるらしい。
「清彦よ。貴様の出番は今宵、僧侶を部屋に連れ込んでからとなる。それまでは魔力を研ぎ澄ませ、しっかりと休んでおけ。
そうだ。一つコツを教えておいてやる。最初の内は流れに乗り、少しだけ方向を変えるようにしろ。いいな」
ひとしきり準備を終えた魔王は、俺にコツとやらを教えたのち、ベッドに突っ伏して眠り始めた。それと同時に、俺の意識も
闇に引っ張られていった。
(う、うーん…よく眠れた、かな?)
【おぉ、漸く目覚めたか清彦よ。今宵の夜は狂喜の宴をあげる時が来るだろう。レイスもまたソナタの事を意志疎通で雑談を
交わしていたが、彼女は元々清彦の事を興味を抱いていたみたいだぞ 】
(えっ、本人の意識は眠っているんじゃないのか!?)
【我が本人の意識を起こしたのだから、当然だろう。レイスの主導権は完全に我が掌握していることを忘れたのか?まぁ、
僧侶の身体を奪ったとしても貴様は本人の意識を封印する必要が有るかもしれないが。安心しろ、我に対策がある】
(た、対策?)
【都合の良い人格を植え付ければ良いと言うことだけだ、我は洗脳の魔術を習得している。清彦の命令には必ず従わせるように
暗示を掛ければ僧侶の身体を自由に貴様は操ることができる。中身が看破しそうになったとしても本人が代わりに演じる、
我の魔術の欠点を補うための物だがな。】
(それって、僧侶の人格はどうなるんだ?)
【当然ながら消滅してもらう。正確に言うと「消滅」とは少し異なるが、まあほとんど同じ意味だ。その為には清彦。彼女の肉体に
入り込んだ後での貴様の役割がが全てだ。抜かるなよ?】
思ったより過激な手段のようだ。思わず怖さを覚えるがどうにか抑え込む。どのみち復讐する道を選んだのだ。このくらいは
覚悟しろと言うことだろう。
【さて、僧侶らしき魔力が近寄ってきたな…。そろそろ始めるとしよう。楽しい狂演の幕開けだ】
魔王はそう言うと、服とともにレイスの人格をも纏い、僧侶の下へと向かっていった
修道院のエントランスで、目的の彼女を待ち構えると、すぐに入ってきた。修道服のフードに映える艶やかな金髪、穏やかで
柔らかな優しそうな顔立ち、隠しきれていない豊満な胸とともに抜群の身体つきが、清楚と色気を奇跡的に同居させている。
勇者パーティの僧侶、その人である。
「あら、レイス。よく来てくださいましたね!」
「ええ、今日はすこしお話したくなって…」
この言葉は僧侶とレイスの隠語のようなものらしい。【部屋でゆっくりと】という意味なのは魔王がこっそりと話してくれた。
「ふふっ、可愛いんだから。じゃ、早速いきましょう。私も少し話したいわ」
僧侶も乗り気らしい。こうして第一の関門はあっさりと通過した。
レイスの知識と性格を使い、魔王はごくごく自然な流れで僧侶を自分に宛がわれた部屋へと
招き入れる。僧侶にとっても、レイスにとっても日常とも呼べる光景を【全く別の意思】が
忠実に再現している状況に、俺は少なからず興味を抱いてしまった。
「ごめんなさいね。押しかけるような真似をして」
「いいんです。私自身少し、疲れてた部分もありましたから・・・」
部屋の鍵をかけ、隔絶した状態を作りだす。僧侶にとってよく知っているはずのレイスが、その裏で確実に自身を罠にかけていく、
その様子を傍観者席で見させられているような感じだ。それはまるで魔王が【乗っ取ったらどうするのか】の手本を示すかのよう
であった。
「疲れる?珍しいじゃない。でもそうか。あなたの力って・・・」
「ええ・・・。私自身にも使えればいいんですけどね。生憎とそこまで便利でもないらしいから」
これは実はレイスのスキルだ。以前から彼女自身が何となく見当をつけていたことらしいのだが、魔王は彼女の持つすべてを使い、
僧侶自身から情報を次々と引き出していく。
「・・・、それにしてもおいしいですね。このお茶。身体の芯から温まるようです」
「ええ、疲れてるかなぁと思って。故郷から取り寄せた自慢の茶葉で淹れたの」
「不思議ですね・・・。本当に身体から疲れが抜けていくようです。それに、いい匂い・・・」
「あら?いつもと同じよ?あなたが好きな香りを選んでおいたつもりだけど」
レイスが僧侶に飲ませたお茶と、部屋に撒いてあるお香には特殊な薬が混ざっている。それは忍者として、忍びの知識で構成された
特殊なものである。そして先ほど僧侶から引き出した発言「僧侶は自身に回復魔術は使えない」ことと合わせ、僧侶を着実に罠に
絡めとっていく。
【僧侶が自分に回復魔術が出来ないというのは、意外と分からないものだな】
(ああ、彼女の肉体自身に強力な自己再生の加護がある分、魔術で補うことが出来ないんだ。だから彼女はいつも聖水やポーションで
補っていた。とはいえ、勇者パーティと何度も交戦する奴なんていなかったからな)
【それもそうだな・・・。だが、だからこそここに突破口がある。薬で自らの身体を癒しているというのもまた重要だ。つまり、
ポーションの類であれば効果はある、すなわち付け入る隙はあるということだからな】
俺の知識も含め、魔王はレイスの目を通して彼女に成りすましながら僧侶の様子を観察し続けていた。
「…ぅうん…」
「どうかした?落ち着かないようだけど…」
「い、いや。何でもありません」
【頃合いか。そろそろ仕掛けよう】
僧侶の様子を確認した魔王は、何かを見計らったように動き始めた。いつもの穏やかで涼しい印象の彼女には珍しく、顔を赤らめ、
その身を身じろぎさせている。忙しないとでも言うのだろう。
(どうしたんだ?僧侶に何を仕掛けた?)
【彼女に飲ませた茶葉には、レイスが特殊な調合をした媚薬を混ぜてある。レイスの見立て通り、魔術ではない薬の類いは
効くようだな】
レイスはそれを確かめるため、以前に眠そうな僧侶を見かけたときに睡眠薬を盛ってみたらしい。すると彼女は見る間に眠りにつき、
一晩は目を覚まさなかったという。確かに一晩、宿に戻らなかった日があったがどうやら裏ではこう言ったことがあったようだ。
【さあ、では僧侶を堕とさせて貰おうか】
レイスが舌をなめる感覚が鋭く伝わった。
「うぅ・・・、はぁっ」
「どうしたの?顔が赤いよ?」
「い、いえ・・・、何でもありません。何でも・・・」
「とてもそんな顔には見えないわ。ほら、横になって・・・」
段々と様子がおかしくなっていく僧侶に対し、【心配するレイス】を演じて自然に彼女をベッドへと誘っていく。僧侶の服から漂う
上品な香の匂い、服越しに伝わる暖かい女性の体温がレイスの身体を興奮させ・・・、いや、何かが違う・・・?
【察しがいいな。この興奮は貴様のものではない。レイスの身体が感じているものだ】
(興奮・・・?でもレイスって・・・)
【それだけ心待ちにしていたということだ。我の復活、そして忠義を捧げる瞬間・・・、も混じっているようだが、当の本人自身の
性欲が大半だな。まあ、らしくていいと思うが】
魔王曰く、どうやらレイス自身、この瞬間が訪れるのをずっと心待ちにしていたらしい。<英雄>としての僧侶ではなく、一人の
魅力的な女性として彼女を犯す、その為に様々な下ごしらえを施しここまで持ち込んだ彼女の忍耐力、執念は尊敬に値するだろう。
僧侶に初めて会った時の、まるで恋にでも落ちたような衝撃、それから裏に自分の野望と魔王様からの指令を忍ばせ、一人の人間と
して信頼を勝ち取るまでに調べ上げた日々と苦労した思い出の数々、睡眠薬を飲ませ、それが効いたと分かったときの高揚感、
ちょっぴり味見と称して眠る彼女の肢体をまさぐった思い出が走馬灯のように・・・
(・・・、あれ?今のは何だ?)
【むっ、レイスの記憶が貴様にも流れ始めたか。まずいな。魂が引っ張られかけている】
どうやら魔王と同居している俺の魂が、レイスの中に少しずつ入りこんでいるらしい。魔王の少し焦った様子がそれを表している。
【本当はもっとじっくりやろうかと思っていたが・・・、仕方ない。少し強引だが、貴様の魂を僧侶の中に送り込むぞ。
楽しむのはその後にしよう】
魔王はそういうと、横たわる僧侶からフードを脱がせていく。僧侶はやんわりと抵抗するが、身体の疼きに堪えかねてそれどころ
ではないようだ。頬を赤く染め、艶やかな呼吸とともに上気した姿はしばらく行動を共にした俺も全く見たことがない。彼女が
ここまで「ダメージ」を負ったように見える姿など想像だにしなかった。
「身体が熱い・・・!レイス・・・。私は一体、どうなってしまうのでしょうか・・・?」
「落ち着いて。大丈夫。前に仲間の忍者がこうなったのを見たことがあるわ」
もちろん出まかせである。だが、俺の知る限り僧侶に限って言えば確実にそういう、いわゆるエロい行為とは無縁な存在であった。
この様子を見る限り本当に純潔を貫いているのだろう。
「私を信じてくれるなら、今は私に判断を預けてくれるかしら?僧侶としては本当は望ましくない事なのは分かっているつもり
だけれども・・・」
「レイス・・・、分かりました・・・。どうかこの疼きを鎮めてください・・・。貴方に託します」
目を潤ませる僧侶から伝わるのは信頼、むしろ勇者や魔法使いより信用しているのではないかというくらいの心からの信用を
レイスに叩きつけてくる。その中身があろうことか【魔王】になっていることに気づく様子はない。
(随分すんなり受け入れたな・・・)
【ふん、レイス自身が信頼を勝ち得ていたことが大きいが、部屋に焚いたこの香には催眠作用がある。軽いものだがな。飲ませた薬
と合わせてしまえば、まともに判断が出来ぬであろうよ】
「薬を飲んだ方がいい。水は飲めそう?」
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…少し、難しそうです…」
「そう…なら、飲ませてあげる…」
カプセル-実際は薬でも何でもない―と水差しを手に取るレイス。ついに僧侶の唇に触れられる…そう思うと自然と鼓動が早まる。
これはレイスの思いだが、俺としてもあの僧侶に口付けをすると思うとドキドキしてくる。
【清彦、わかっているな?貴様がすることはレイスの身体で楽しむことではない】
…そうだ。レイスに入った時と同じように、僧侶に口を合わせるということは俺が僧侶の身体に入る時が来たということだ。
(…わかってる。俺たちの復讐のために、欲望に流されてる場合じゃない)
このままレイスの中にいては勇者たちに復讐はできない。
僧侶には勇者や魔法使いの様に何かをされるようなことはなかった。逆に言えば、何もされなかった。わかりやすく言えば無視だ。
補助魔法も回復魔法も俺に掛けられることはなかった。そう。彼女に対しても恨みはある。無関心だったことへの恨み。
カプセルと水を口に含み、横たわる僧侶に顔を近づける。香や薬…毒のせいで正常な判断が出来ない僧侶は目を瞑り唇を微かに開く。
そして、ついに唇を重ねる。俺が『生きて』いた時では考えられない僧侶とのキス。念願が叶い、このまま舌を絡めてしまいたい
衝動を何とか抑えてゆっくりと水を流し込む。
「んっ、ふっ…こくっ…」
艶めかしい声に興奮が増していく。魔王様の命でなければ我慢など出来ていない。
【おい、貴様のやるべきことを忘れるなと言っただろう】
その声に俺の意識はレイスから引き離される。
【初めだけ手伝ってやろう。あとは貴様がうまくやれ】
魔王がそう言うと俺はレイスの口の中にいた。正確にはそういう感覚になった。口の中の水とカプセルに入っていたゲル状のものに
体が混ざっていく。そして俺は僧侶の口の中へと流し込まれ、飲み込まれていく。
ゲルとなった体に感じる僧侶の咥内の感覚を広げていく。飲み込まれる感覚と、飲み込んでいく感覚。喉が動く感覚と、喉を動かす
感覚。少しずつ、俺の感覚が僧侶の感覚へと置き換わっていく。
体が熱い。これが、媚薬に侵された僧侶の身体の感覚か。しかし、まだずれがある感じがする。身体の感覚はあるが、動かすことが
出来ない。レイスの中にいたのと同じように、勝手に動いているような感覚。まさか、失敗したのか?不安を覚えるのとほぼ同時に
レイスの唇が離れていく。
「…少し、落ち着いた…?」
落ち着いてなどいないだろうが、僧侶なら心配させまいと我慢して嘘を吐くだろう。
「…いえ、体が熱いままです…すみませんが、服を脱がせていただけますか…?」
だが、僧侶の口から出た言葉は俺の感覚に従ったものだった。
【最初の内は流れに乗り、少しだけ方向を変えるようにしろ】
魔王が言っていた言葉を思い出す。こういうことなのだろうか。身体の感覚が少し強くなった気がする。腹の辺りが特に熱く感じる。
レイスが僧侶の体を起こし服に手を掛ける。一瞬ピクリと体が震える。しかし抵抗することはなく、おとなしく服を脱がされる。
熱に浮かされた頭が下がると、下着に包まれた大きな乳房が目に入る。こんな距離で、しかも生で女性の胸を見たことなどない。
僧侶の身体を完全に乗っ取ったら、これが俺の胸になるのかと思うとなんだか妙な感じがする。
だが、自分のものであるのなら。
「下着も、脱がせてください…」
もっと見たい、全てを見たいという俺の思いが、僧侶の口を動かした。ほんの一瞬でブラジャーが外されると、ずっしりとした
重みを胸に感じる。視線を下に向けると下着に隠されていた桃色の先端が興奮を表すかのようにピンと立っているのが見えた。
(おお…僧侶の…女の子のおっぱい…)
初めて生で見る乳房に思わず呟く。僧侶の口には出なかったが、唇の端が吊り上がるのがわかった。
「体はまだ熱い?」
レイスの言葉に、僧侶はこくりと頷く。
「なら…」
立ち上がると服とブラを脱ぎ捨ててほぼ裸になるレイス。スレンダーなその肢体に思わず目を奪われる。
「砂漠の国では人がくっつく方が涼しく感じるらしいの」
とん、と肩を押されると俺はベッドに倒れ込む。そこにレイスが覆いかぶさってくる。肌が触れ合うと、熱は引くどころかますます
強まっていく。知らず知らずのうちに呼吸が荒くなり、腕がレイスの身体を抱き寄せる。
身じろぎをすると、小さな乳房を押し付けられる俺の大きな乳房がむにゅりと動く。今までに味わったことのない感覚に快楽と興奮を
覚える。目の前にレイスの顔がある。目をそっと伏せ、軽く顎を突き出す。唇に一瞬柔らかな感触。それが何度か続き、数度目には
唇を押し付けられ舐められる。口が開いた隙を見逃さずにレイスの舌が入り込むと、僧侶も舌を伸ばして絡める。ぴちゃぴちゃという
水音と熱い吐息が混ざり合い、俺の興奮が強まると身体の熱も強まっていく。密かにコンプレックスに思っていたむっちりとした
ふとももが自然と擦りあわされる。先ほど熱いと思っていた腹部。もう少し下の奥。そこが疼いている。
「ぷはぁ…レイス…熱いんです…体が、体の中心が、熱いんです…」
ディープキスから解放された僧侶がそう言いレイスを見つめると、彼女は頷き最後に残された僧侶のショーツに手を掛けて脱がせる。
「僧侶の下着、こんなになってる」
悪戯っぽい笑みを浮かべて股間に染みのできたショーツを見せつけられると、かっと顔が熱くなる。
「…お願いします…この疼きを、鎮めてください…!」
膝を立てて脚を開く。股間にひんやりとした空気を感じるが、熱を冷ますには至らない。この昂りを収められるのはレイスだけ。
劣情に侵された頭では、それが正しい事だと思った。
彼女のしなやかな指が、お腹を、腰を、ふとももを撫でていく。それだけで体はぴくぴくと反応してしまう。脚を撫でていた指が、
徐々に股間へと伸びて…触れた。
「ひあぁんっ!」
自分ですらほとんど触れたことのない秘部を撫でられ、およそ聖職者とは言えないエロい声を上げてしまう。
「あっ、あっ、あんっ!」
優しく撫でられるたびに体が震え、嬌声が上がる。こんな感覚は、快楽は今まで感じたことがない。僧侶たちに隠れてこっそり
していたオナニーの非じゃない。
「っ!ふあぁあっ!?」
じゅぷ、と股間から音が聞こえる。レイスの指が、私の秘部へと差し込まれている。体の中に入っている。初めての感覚が俺の頭を
かき回す。指を動かされると私の口から声にならない声が上がる。俺のおまんこがレイスの指に犯されている。それが本来あり得ない
ことだと考えることも出来ない。だというのに私の体は快楽を求め、手が自然と乳房を揉みしだき出す。快感に身動ぎしながら乳首を
摘まむと身体がビクンと跳ねる。
「ひぐっ!?うああぁぁっ!!」
それと同時にレイスが秘部の敏感な部分を弾く。その瞬間、私の意識は真っ白に染まっていった。
「……あ…うぁ…」
段々と感覚が戻ってくる。頭はまだぼんやりとしている。よだれが垂れているのはわかるが、それを拭うだけの気力がない。
そう思っているとレイスがぺろりと俺のよだれを舐め取り、唇を軽く重ねてくる。抗う力はない。その気もない。俺を見つめて笑みを
浮かべるレイスに、俺も笑みを返す。
「どうだった?」
レイスが悪戯っぽく聞いてくる。
「…すごく、気持ちよかったです…」
素直に答えると彼女は微笑む。
「まだ、熱い?」
僧侶だったら―そもそもここまでしていないだろうが―「もう大丈夫です」と言っていただろうか。
「…はい、まだ体が疼いています。もっと気持ちよくして、俺を私に馴染ませてください」
聖女の笑みを浮かべると、レイスは我慢できないというように俺に熱い口付けをしてきた。
【ふむ、我の助力なしで随分と馴染んだようだな】
レイスの中の魔王が心の中で呟く。
【ひょっとしたら、我よりも才能があるかもしれぬな。…まあよい。せっかくだから我ももう少し楽しませてもらおうか】
レイスはさらに表情を歪め、俺の豊満な胸を、全身を刺激する。どこが気持ちいいのかが分かるように、この身体について、
まるで俺より知っているかのように攻め立ててくる。その感覚がたまらなく気持ちよく、俺もその快楽に流される。
(あっ・・・、いけない・・・。僧侶たる私がこんな欲を・・・)
内側から声が聞こえる。恐らくこれが「僧侶」本来の心の声。俺に対しては無関心もいいところだったが、彼女本人自体は
敬虔な僧侶として、清廉で高潔な精神を保ち続けていた。しかし・・・
「そんなことはない・・・。これは『私』自身が心のどこかで欲していたこと」
(えっ・・・、でも私は・・・)
「ならなんで、こんなにも興奮しているの?何故愛液が出るの?」
魔王からのアドバイス通り、彼女の心を誘導する。あくまで【流れに身を任せるように】自然に、彼女本人がそう思っている
ように仕向けていく。
(しかし・・・、あっ♡いやっ)
「ほら、快楽に浸っているのは誰?表情をにこやかに、この刺激を求めたのはダレ?」
本来なら落ち着いた思考を持った僧侶だが、膨大な快楽には不慣れだ。それにどうにか抗おうとするが、それが却って彼女の
思考を歪めてしまう。波に身を任せる俺と、波に抗う彼女、対照的な精神に対し、身体が決断を下す。レイスへと意識を寄せた
魔王と、僧侶の身体を奪った俺のまぐわいはそのあとも続いた。
「あら?これは・・・?」
魔王が宿るレイスの口から俺の身体の変化が垣間見える。俺が宿る僧侶の肉体は淡い緑の光に包まれ、身体の傷が癒されていく
のが分かる。これこそが僧侶の身体に宿っていた力【自動回復】である。一定のダメージを負うと、身体は自動的に魔力を消費
して身体の修復を行う。そのプロセスが未解読かつ通常の回復魔法とは大幅に異なるため、僧侶自身に魔法での回復が行えない
原因でもある。その力がどうやら発動しているようだった。
「不思議な光ね・・・。でも、僧侶のどこが傷ついているのかな・・・?」
魔王はレイスの記憶から僧侶の事を探り出し、身体を確認してくれているようだった。そう、激しくまさぐりあったが身体に
傷自体はないはずだった。それなのに【自動回復】は発動した。恐らく何かが異なる部分があるようなのだ。決定的に異なる部分、
それは・・・
「僧侶の心、魂とでも呼ぶべきものなのかしらね。さて、清彦。貴方の手腕の見せ所よ」
そっとささやくように、レイスは俺の耳元で呟いた。
この肉体は一度絶頂を迎えた今もまだ欲情している。俺の心ももっと気持ちよくなりたいと思っている。
しかし僧侶の心、魂はそれを拒んでいる。やはり神に仕える者が欲に溺れるのは禁じられているのだろうか。
そう考えたとき、頭の中に本のイメージが浮かんできた。俺が見たこともないはずのそれが、僧侶の仕える神の経典である
と頭が理解する。そして経典が勝手に開かれ、あるページで止まる。
『欲に溺れることなかれ。しかして人らしくあれ』
想像した通りの言葉が書いてある。これが僧侶の魂が快楽を拒んでる理由か。
…いや、この後ろの文はなんだ?そう思っていると、またも本が勝手にめくられていく。
『真に愛する者に対して、情欲を覚えることもあるでしょう。ですがそれは、神が許し給うた人の欲の一つなのです』
…宗教というのはお堅いイメージがあったが、意外とフランクな面もあるらしい。だが、これは僧侶の心を揺さぶる
には十分な材料じゃないだろうか。
「ふふっ、【我ながら】随分頑張りますね・・・。でも、身体は正直みたいですよ?」
(ち、違っ・・・)
ある程度混ざり合った魂にさらに揺さぶりをかけるために、僧侶の口調をまねて本来の僧侶の魂に語り掛ける。まだ
僧侶の肉体である上に、膨大な快楽の前にショート寸前の彼女の身体は辛うじてだが、多少であれば俺にもコントロール
出来るようだ。語り掛けつつ、レイスに目くばせをする。【もっと快楽が欲しい】【もっと満たしてほしい】と、僧侶の
内側に秘められていた淫らな想いを重ね合わせて意思を示す。
頷いたレイスは顔を俺に近づけ、半開きになった僧侶の口の中にそっと舌を入れて絡めてくる。シルクのような舌ざわり、
そして絡みついてくるレイスのスレンダーな肢体の感覚が全身に伝わり、身体はさらに快楽を求め、その本能のままに
暴走を続けていく。
「真に愛する者に対しての情欲は罪ではない。貴方にとって最も信頼を寄せられ得る相手は誰だった?」
(わ、私はレイスを・・・、いや、しかし・・・)
「ええ、その通り。私は【レイスを最も愛している】わ。それこそ、影に隠れて情欲を満たす程度には・・・、ね?」
身体に刻まれた記憶を、僧侶が抱いてきた情欲を都合のように引き出し、本来の彼女に刻み付けていく。それでも否定
し続ける精神力は大したものだった。伊達に勇者パーティではないということだろう。しかし・・・
「ほら、そろそろ・・・、って何だ?この癒しの感覚は・・・」
全身がふわふわと、足りない部分を補うかのように何かが満たされていく。恐らくこれが【自動回復】のプロセスなの
だろう。全身を探査し、ダメージを負った部分を見つけ出した能力が効果を発揮しているのだと思う。しかし、どこか
身体が怪我しているわけではない。一体、何が普段と違うのだろうか。
「そうか!違うのは【心】か!?」
考えを巡らせていくうちにそこに行きつく。確かに今の僧侶の『心』、魂とでも呼ぶべき部分は俺という異物が入り込んで
しまっている。そして彼女との同化が進んだことで「一定以上のダメージ」を負ったと判断した能力がその心を戻そうと
しているらしい。これはかなりまずいのでは・・・
(慌てちゃだめだ。あくまで【身を任せる】んだ)
魔王からのアドバイス、そしてパーティでの盾役の経験を思い出す。そう、あくまで身を任せるのが大事だと。それは防御の
ときもまた同様だ。ただ正面から受け止めるのではその分のダメージを負う。肝心なのは受け流すこと、自然に身を任せること、
これこそが継戦の秘訣なのだ。だからその自動回復を、快楽とともに受け入れる。すると・・・
(な、何だ?身体に力が満ちていく・・・?)
(えっ?身体から力が抜けていく・・・?)
俺の身体には今までにない、強靭でしなやかな魔力が満たされていく。そして身体の構造が、自らの心の仕組みが大きく
変わっていくのを感じる。俺としての芯はそのままに、僧侶の魂となるべく必要な何かが俺の魂に満たされ、形作られていく。
(俺の魂が、僧侶として再構成されているのか?)
思えば簡単な事だった。俺と僧侶、同居する同じ肉体の中で、その心は全く対照的だった。俺は僧侶の肉体が受けていた
快楽を【受け入れた】。肉体が本能のままに欲する情欲を受け入れ、さらに欲するその欲求に対してGOサインを出していた。
だが本来の僧侶は違った。そもそもこの快楽そのものが本来の僧侶が望んで行ったものではない。レイスによって仕掛けられた
数々の罠により本人の意識とは別に引きずり出された、身体そのものにあった快楽をむき出しにされたものだ。意図しない快楽、
作り出された状況に危機感を抱き、それを【受け止めてはならない】と拒絶していたのだ。高潔で冷静な判断、そもそも身体が
慣れていない快楽を危険と受け止めてしまった結果、身体に備わった【自動回復】は流れに従った俺を本体と、流れに逆らった
本来の僧侶を異物と認識し、修復のプロセスを始めてしまっていた。
(ははっ、力が満ちている・・・!身体の感覚もずっと鋭くなった!どうやらこの身体は、俺を僧侶として受け止めてしまった
ようだな!)
柔らかな力に包まれた感覚が終わると、僧侶の身体がまるで自分の身体のような感覚に包まれる。生まれてきたときから俺は
僧侶だったと思えるくらいに、身体の隅々まで力が行き渡る。同時に、かつて【僧侶】だった魂が視認できるようになった。
そしてその姿は・・・
(なあ、【僧侶】・・・、いや、清彦?)
(こ、これは一体・・・)
僧侶の姿はこの俺、清彦の姿を模したものに変貌していた。
(ど、どうして私が居るの!?これは一体・・・)
(何をいっているのかしら?清彦、私の身体を奪おうとした癖に・・・)
僧侶の身体は既に俺が完全に主導権を握っているが、目の前に居る俺を見るだけで吐き気がする感覚を覚える。どうやら本当に
男性は嫌いと思って居たみたいだ。今後の事を考えると男性との性行為は暫くはお預けと考えた方が良いかもしれないが、
先ずは異物の排除から始めるとしようか。
(ち、違う!私は清彦じゃ・・・あっ、何。これ、私の身体が消えていく?)
(私は男性が大嫌いなの、外で歩く度に気持ち悪い男の視線が鬱陶しいと思っていた。だから、これからもレイスを愛したい。
いえ、可愛い女の子をどんどん愛したい。これが私の本質なのよ!)
(違う!私はそんなことを考えて・・ああっ、あああああ!!嫌だ、嫌だ!!私は消えたくない!どうして、どうして!?)
徐々に目の前に居る僧侶、いや。俺の姿が色を失うように消えていくのを感じる。どうやら、もう少しで消滅させることが
出来るかもしれないな。
(そんな・・・、どうして・・・。いや、この術式は【完全乗っ取り】。つまり・・・)
なけなしの魂になった元僧侶がその真実に至った。やはり彼女もまた知識として把握していたのだろう。
(正体さえつかめば貴方は消滅する!観念しなさい!【清彦】!)
その答えに至るのもまた自明だったのだろう。何せ彼女の魂そのものが俺の姿に構成され直している。正体はこの俺、清彦だと
答えを示しているようなものだった。しかし、今の俺に焦りはない。もはやそれも無駄と分かり切っていたからだ。
(な、何で・・・、何で消滅しないの・・・?)
「ははっ、どうやら頭の方もだいぶ鈍ってきたみたいだな。今のお前はもはや清彦の魂。そして俺の魂が僧侶のものになって
いる。つまり、いくら正体を看破したところで、この肉体にとっては俺が、いや、私こそが【僧侶】ということになるんですよ。
清彦さん?」
そう。皮肉なことにこの身体が作り替えてしまった魂の形は、本来【清彦】であったはずの俺を本来の物として受け入れ、
その肉体の全てを捧げてしまったのだ。だからこそ、優秀な彼女の頭脳は俺がもたらした情報から「正体を暴かれたところで
すでに立場が逆転している」という結論を見出し、その情報を俺に提供してくれていたのだ。
「しかし優秀な脳っていうのも考え物ですよね。清彦さん。もし可能でしたら、本来の私の名前を教えていただけますか?」
(え、そ、そんなの・・・。あれ?何で?何で思い出せないの・・・?何で私の名前が【清彦】にしかならないの・・・!?)
俺の姿を模した僧侶は姿が薄くなりながら、さらに焦りの度合いを増す。どうやらこの肉体の本来の名前さえ思い出せないようだ。
「そうです。この身体は本来の俺が持っていた記憶や知識をすべて詰め込んでもさらに余裕があります。ホント、優秀過ぎて頭に
来ますよね。でも、貴方の魂の形は清彦のそれ。だからこの身体は、貴方には【清彦】としての知識しか提供していないんです」
(そんな・・・。嘘でしょ?返してよ・・・!私の事を返してよ!)
そう。どうやらこの身体は俺に対してはすべてを捧げてくれるが、本来の持ち主に対しては男性に対する嫌悪感とともに、
【清彦】が持っていた知識以外をすべてロックしてしまったようだ。これで俺はもはや僧侶として十全に活動することが出来、
本来の僧侶は消滅を待つばかりとなった。
(お、お願い・・・。何でもするから、いくらでも協力するから許して・・・)
「そう言って何度もお願いしても助けてくれなかったですよね。それは俺の記憶を読めば分かるはずです。だから、【私】の
答えは当然NOですよ。そのまま消滅してください。【清彦】さん」
(い、いやああああああああ!身体が!魂が溶ける!あ、熱い!)
「ふふっ、すごい!すごいすごい!この身体が感じてた性欲がどんどん強く、しっかり感じられるようになってきた!さあ、
俺の物になれ!」
そして本来の僧侶の魂は崩壊の速度を増し、ついに原型をとどめなくなった。もはや声さえも小鳥のさえずる音にしか
聞こえなくなっていた。
「ああ、読める。この身体が生まれてどう育ってきたのか、この力がいつ発現したのか、誰が好きなのか・・・。もう何もかも
手に取るようにわかる。これでもう俺が【僧侶】だ!勇者パーティを崩壊に導き、俺たちの復讐を遂げる器となる【僧侶】に
生まれ変わるんだ!」
(い、いや―――――おねが――――)
とうとうノイズが入り始めた。その姿は溶け落ちたアイスのようにドロドロとしたものになり果てていた。
「じゃあね、素敵な肉体をありがとう。僧侶。いや、シスター【シルヴィア】さん」
(わ、わたしのなまえ―――――――)
その言葉を最後に、僧侶、本来の名前をシルヴィアという女の魂はこの世から消え失せた。
「――――――やった、やったぞ!この身体を完全に支配することが出来た!私の名前はシスター【シルヴィア】!
俺の正体が清彦と言われても、この身体から離れることは無い!」
勇者パーティの一人を葬ることに成功した俺は復讐を成し遂げた快感が堪らない。これからはこの身体で人生を歩む
ことになる、彼女を完璧になりきることが出来るようになったとは言え。”根本的な部分はとうしても俺の支配からは
逃れていた。”それは男性が嫌いと言う事実、清彦としての俺は男と性行為をするのもありかと考えているのが、
シルヴィアの身体や本能は激しく拒絶したため、無理にやろうとすればきっと俺の魂は耐えられないと結論に至ってしまう。
「―――――残りの勇者パーティは全て女性だから、その辺りは問題ないとして。男性との絡みとかは控えるように行動
しつつ、可愛い女の子が居たら、お話をしたりなどして情報を得るのがベストかな」
僧侶の身体を支配した後、今後について思考をしていると意識が回復していく。とうやら、現実の世界に戻るみたいだ。
「漸く目が覚めたわね、気分はどうかしら?」
「体が今も疼いているけど、最高の気分よ。魔王」
「・・・やれやれ、一先ずは安心したぞ」
僧侶の身体を支配する事に成功した、その事実を魔王に報告する。どうやら、俺の魂が僧侶として再構成されたことで
どんなことをされても二度とこの身体から離れることは無いとお墨付きを貰った。これからは僧侶の身体で人生を歩む
ことになるが、俺の相棒が無いのは寂しいが、これは復讐の為だと割り切るしかない。
「ふむ、男性との絡みは激しく拒絶している様だな。可能な限り異性との接触は控えろ。会話程度なら問題は無いが一通り、
僧侶の身体に慣れることが優先だ。」
「まあ、仕方ないか。取りあえずこの世で生きていく身体を手に入れられた、それもあの僧侶の身体というだけでも贅沢な
話だしな」
「それで、どうだ清彦。いや、シルヴィアと呼ぶべきか。回復魔法のほうは使えそうか?」
「清彦でいいよ。あくまで俺は俺だし。あと、公の場だと僧侶と呼んでくれた方がいいかな。勇者パーティの掟なんだが、
お互いの名前は伏せているんだ」
まあ俺自身はそんなことも露知らず、早々に名を明かしてしまったわけなんだがな。おかげでプライベートは漁られるわ、
家まで新聞記者が押しかけてきたりするわで苦労したのはまた別の話だ。
「ふむ、そこについては配慮しよう。それで清彦。どうだ」
「うーん、使う分には問題ないと思う。呼吸するに近いレベルで使い方が分かるようになったし」
ついさっきまで他人の身体だったはずなのだが、まるで自分に発現した力のように使いこなせる、そんな自信が湧いてくる。
そのくらい「当たり前に」思い出せる。恐らく身体の根源にまで行き渡っているからなのだろう。僧侶の弛まぬ鍛錬、反復
訓練による熟練度もそのまま引き継がれていると考えるだけで、昂った身体がさらに愛液を分泌させていた。
「そうか・・・。であれば清彦。早速だが頼みがある。我にその術式をかけてくれ。それだけで我は再び魔王としての力を
手に出来るはずなのだ」
「なるほど・・・。僧侶の肉体だけは別に手に入れておきたいと言ってたのはそう言うわけか」
魔王からの頼みに、僧侶の肉体にこだわっていた理由が分かる。確かにこいつの術式であれば魔王でさえも元に戻せる。
そう言う仕組みの術式だからだ。
「ただ・・・、結果から言うと今はやめた方がいい。魔王、あんた自身のためにな」
「・・・、どういうことだ。まさか貴様、自分の肉体が手に入ったからそれだけで満足というのか?」
「違う違う。さっきも言った通りあんたのためだ。正確にいうと【レイス】の身体に入っているうちは特にやめておくべきだ
ってことだ」
そう、魔王の頼みを聞いて可能だとはすぐに思えた。ただし、それに僧侶の知識が「待った」をかけてきた。魔王の復活を
阻止するのではなく、俺の眷属と化した【シルヴィア】として、自分の能力を使うとどうなってしまうのか、その辺の結論
までしっかりと計算した上でである。
「この僧侶の術式は回復魔術だと思っていたが、実際は少し違って【元に戻す】術式ということらしいんだ。それは身体の傷
や体力、物だけでなく心といったのにも通用する」
俺は一回言葉を切って、僧侶として魔王に提案をする。彼女の脳と編み出した、魔王にとってのベストな選択を。
「だから、いま術式をかければ確かに魔力は復活する。僧侶と違って従順なレイスだ。恐らくその身体を明け渡すことさえ
厭わないだろう。ただ、魔王の魔力にその身体が耐えきれるかと言えば、必ずしもそうじゃないってことだ」
「・・・、なるほどな。確かにレイスの身体はそう言う意味では我には不向きということか」
レイスは確かに優秀な女性だが、優秀なのは隠密としてのスキルと、敏捷性に特化した身体能力にある。心も従属を誓う
など、確かに支配する土壌は完璧だ。ただ、その方向性が魔王とはあまりに違うのだ。これで術をかけてしまうと「膨大な
魔力と強力な身体能力が十分に発揮できない」魔王か、レイスの肉体が限界を迎えて崩壊してしまうだろうと、僧侶の脳は
答えを吐き出したのだ。そしてそれに対する対策としては・・・
「つまり、我の復活に耐えうる肉体、勇者パーティの誰かを支配し、我の精神を移したうえで術式をかければよい
ということだな」
魔王が俺の答えからそこに行きついてくれた。やはり、魔王と俺は相性はいいようだ。
「・・・冷静に考えてみれば今此処で魔王として復活することが漏れてしまった場合も考えれば、勇者に目を付けられる
可能性があるな。我の部下と合流する事が出来れば良いのだが、残念ながらこの町には居ない。冒険者だからその辺りは
仕方がないと割り切るしかないか」
「・・・魔王の部下が冒険者!?えっ、魔物を殺害とかして大丈夫なのか?」
「問題はあるまい、レイスは愚かな人間を処遇したり暗殺に特化しているが。この町には勇者パーティー以外にも優秀な冒険者
が居る。数々の魔物を倒し、王から秘宝を授かった。SSSランク冒険者、ヒントは美少女。此処まで言えば解るだろう」
「ちょっと待ってくれ。SSSランクで女性だと言うと一人しかいない。英雄扱いされているのに、勇者パーティーにスカウト
しようしたら、この町を守る必要があると言って、断られたけど。その、本気なのか?」
「驚くのも無理はない、我が復活した後はそのパーティーに入って。色々と情報を得ようと考えていたのだからな。その人物
との再会をした後に勇者パーティーのメンバーを葬る計画を立てるとしよう。」
魔王の方針に思わず頷いてしまう、俺が居なくても一人で此処まで反撃する術を用意できたことに動揺できない。復活をする
ために様々な計画を練っていたと言うことになるんじゃないだろうか。
「先に言っておくが、我が復活したのは清彦のお陰だ。最初に出会って改めて話をしてみれば酒でも飲んで語りたいほど、
"相棒"とこうして雑談するのも悪くは無いからな。」
「相棒、か。もしかすると僧侶とレイスでツーマンセルとか組む予定だったりしたのかな?」
「確かにそれはあり得るな、我が消滅したと殆どの人は認識しているが。いずれにせよ勇者パーティーは解散してそれぞれ
新しい道へと歩み出すだろう。僧侶は此処で穏やかな生活を送ろうとしていたが。レイスがツーマンセルの話題とかを
言えば、この町から離れて新たな情報を得ることも可能になる。自由を得るための動機はこれで良いかもしれん。」
「なるほどね・・・。おや、僧侶の記憶だと明日の朝、勇者パーティで話し合いをするみたいだな。・・・、んん、
やっぱりこいつ、パーティから離れるつもりではいたみたいだ。その後のことは考えてなかったようだけどな」
「ふむ、ならば清彦よ。その望みを叶えてやるがいい。身体がそう言う意図を持っていたのであればとても簡単なはずだ」
魔王がいなければ確かにパーティを組んでいる理由もない。解散は必然だろう。ただ、復讐の対象が一か所に固まっていない
のも後々面倒ではないかとも感じた。
「ははは、パーティが散開したら面倒とでも思ったか?そこは心配いらん。先ほどの冒険者を含め、我の部下は世界の
あちこちに隠してある。彼奴らの動向は逐一報告が入るようにしておこう。何せ、そのいずれかが我の肉体となるのだからな」
その辺は魔王も想定していたらしい。さっきも思ったが、この魔王、かなり慎重に策を用意しているみたいだ。本人の実力も
だが、人類と敵対するのであればこの程度の策謀は必須とでもいうのだろうか。
「ふむ、しかし実に面白い。滅びたはずの魔王が、滅ぼしたはずの勇者パーティの肉体を、その存在を使って復活するのだ。
これほど痛快なこともあるまい」
レイスの身体から魔王としてのセリフを吐くたびに、普段のレイスとは違う姿を感じてしまう。僧侶にとってそんな姿もとても
魅力的らしい。この身体と付き合うのであれば恐らくレイスは切っても切れない存在になるだろう。だが・・・
「どうした清彦。何か思い悩んでいることでもあるようだが。顔に出ているぞ。レイスの知識によれば、その表情は僧侶が
何かを悩んでいるときにするものらしいが」
「・・・、そうだな。出来ないような気もするんだが、敢えて聞いてみたいことがある」
俺は意を決して、魔王に思ったことを打ち明けてみることにした。
「俺が他の肉体に、また入り直すことは可能なのか?」
「・・・、ほう?僧侶の肉体では不満でもあるのか?」
そう言うわけではない。僧侶の肉体もこれ以上なく魅力的だ。だが・・・
「そんなことはない。むしろ本来の俺の身体より性能高いくらいだしな。だが、やっぱり俺としては自分の手で復讐したい。
こいつだけじゃない。あいつらにも絶望を味わわせてやりたいんだ」
「その手段としてあいつらを・・・、いや、読めたぞ清彦。貴様、【完全乗っ取り】の魅力に取りつかれたな」
魔王にあっさりと看破されてしまった。そう、あれこれと言い訳はしてみたが、正直なところまたやりたい。人の身体に
入り込み、そいつをすべて蹂躙して支配下に置く、そして溢れてくる記憶、他人に言いたくないことでさえすべて詳らかに
出来る快感・・・、本来の俺が使えない力でさえ、俺の意思で自由に使わせられるこの感覚、それを堪能したい、今の俺は
そう思っていた。
「本来であれば【完全乗っ取り】は1回だけだ。それだけ魂に負担がかかるのと、馴染んでしまえばそれで身体に固定され、
その肉体は従属する。だが、貴様が手に入れたのは勇者パーティのもの。そもそも貴様自身、勇者パーティに名を連ねて
いたものだしな。もしかすると可能かもしれん。そこは我も調べてみるとするよ」
「魔王の魔術なのに調べることは可能なのか?」
「何、我の魔術を改良した上で新たな問題点を改善した可能性が捨てきれないからな。今の我は”レイスの許可を承認した上で
乗っ取りをしている”。完全乗っ取りとは訳が違う、実際に魂を追い出す様なことをしているからな。もしかすると乗っ取って
いる間、その魂を眠らせる方法が有れば良いが、魂の質が高ければ我自身が消滅する可能性がある。仮にレイスがやられたと
しても我の部下から身体を借りれば良いがな。」
成る程、魔王の乗っ取りはまだ改良点が幾つもあるから。それを調べる方が良いと判断したのは理解できた。その場合、調べると
しても裏の世界にある可能性が極めて高いな。
「さて、清彦よ。貴様に我の秘書。優秀な部下を授ける、僧侶の身体を失えば魔王として復活は出来ないからな。因みに美少女
だから、その点は安心しろ」
「魔王、俺の事をどう思っているんだ!?と言うか、優秀な秘書とか。レイスじゃないかなと思ったけど。違う、のか?」
「無論、貴様が寝ているときに再会を果たしているかならな。どんな人物なのかは明日のお楽しみと伝えておこう」
優秀な秘書、魔王の傍で仕えていた人物だと想像することが出来るのだが。とある疑問を浮かべた、それほど優秀な人材が
居るのであれば魔王と共に行動した方が良いのではないかと思考する。現に、勇者パーティーに入っていた俺は魔王との対峙の
前に、絶大の強さを持った魔物と戦って無事に勝利を納めているはず。
「貴様の思考を当ててやろう、優秀な秘書が居るのであれば我の傍に居た方が良いと考えているかもしれないが。
明日は我は単独で別行動をする予定だ。幾つか調べたい情報がある、その間。貴様が何らかの原因で命を失えば
此方としての計画が狂う」
「ちょっと待ってくれ、魔王。確かに言いたいことは解るけど、俺が簡単にくたばる事は…」
「無いとは言い切れないはずだ。貴様は僧侶の身体を完全に支配したから安心しているとは言え、女の直感と言うものは
鋭い。勇者は恐らく我が復活したのではないかと勘づかれてもおかしくないのだからな。勇者パーティーから幾つか情報を
得るのだ、貴様が失態を犯せば取り返しの付かないことになる。だからこそ、貴様に秘書を付けるのだが、反論があるの
なら聞こう。」
「ご苦労様。本国には私たちからきちんと報告してあげるわ。「魔王と相打ちの末、名誉の戦死を迎えた」ってね」
俺は清彦。いわゆる「異世界に召喚された」って口だ。俺が持っていた特殊能力は「盾」や防御に関するものばかり
だった。そして、俺はいま、悦に浸りながら会話をしている女、「勇者」のスキルを持つ少女に利用され、囮にされた
挙句に大魔道の生贄にされ、こうして命を散らせることとなったわけだ。おかしいとは思ってたんだよなぁ・・・。
このパーティは俺を含めると、勇者、魔法使い、僧侶、そして楯役の俺の4人だったが、俺以外はみんな女だった。
裏でこそこそ話しているとは思っていたが、一応務めを果たそうと俺なりに一生懸命やってきたはずだったんだ。
でも、結局あいつらにとって、俺は駒でしかなかったってことなんだろう。
(悔しい・・・。こいつらに、何とかしてこいつらに一矢報いてやりたい・・・。でも・・・、もう考えがまとまらない)
身体から水が出ていくように、考えがまとまらなくなっていく。気づけばあいつらももはや誰もいない。もうすぐ俺は
死ぬのだろう。悔しさを抱えながら、俺は意識を手放そうとしていた。
【ぐぬっ、不覚であった。まさかここまでの力をつけていようとは・・・】
(だっ、誰だ!?)
【貴様こそ誰だ!?我が魔力の中に侵入するとは、貴様只者ではないな・・・?】
意識を手放そうとしたら、内側から謎の声が聞こえてきた。禍々しささえ感じるその声だが、今の俺からすると
貴重な暇つぶし相手とも言えた。
【我は魔王だ。先ほどまで対峙しておっただろう?我の最終手段の中に入り込んでくるとは思わなかったがな】
どうやら、俺を媒介に大魔法を放った結果、俺の意識は魔王の中に取り込まれてしまったらしい。そして魔王は、
こういう事態に備えて最終手段として自らを永らえる術を持っていたそうだ。俺たちの見込みは甘かったのだろうか。
* *
それから俺と魔王は様々な話をした。自らの身の上話や、魔王が今まで戦ってきた強者たち、仲間の特性など色々だ。
不思議なことに、俺と魔王は馬が合うらしい。正直俺の住んでいた世界で会っていたら美味しく酒でも酌み交わしてた
かもしれないと思えるほどに相性がよかった。
【しかし、貴様から随分と憎悪の波動を感じると思ったが、そういうことか。我が言うのもあれだが外道の極みだな。
だが、お陰で我の最終手段の魔術も無事に発動することが出来た。貴様の魔力のお陰だ。そこは感謝しよう】
魔王曰く、消耗しきった自分の魔力だけでは足りなかったらしい。そこへ媒介となった俺の魔力が合わさった
ことで、こうして無事に生き残ることが出来たんだそうだ。
【だが、我とてこの姿でいつまでも生きられるわけではない・・・。そうだ。貴様、勇者パーティだったといって
いたな。我とともに奴らに復讐してみないか?】
(なんだって?そんな術があるのか?)
【我が欲するのは魔力、そして生命力にあふれた強靭な肉体だ。勇者パーティで我に迫るほどの力があるのだ。
きっとその肉体も素晴らしい能力を持っているだろう。それをもらう。そして貴様も同様に、あの中の相手から
相応しい肉体を強奪し、新たな生を堪能するといい。どの肉体がよいかは貴様が先に選んでくれて構わん。
誰であれ、我の力を生かすには十分な素養があると確信している】
魔王の提案は、どうやら俺を貶めたあいつらから身体を奪い、それをすべて自分のものにしようというものらしい。
俺はそんな提案に・・・
(やろう。2人で復讐を果たそうじゃないか)
乗ることにした。正直あいつらは性格はともかく、いずれも美しくかわいく、そして優秀だった。そんな身体を
好きにできる、その提案が魅力であった。こうして俺と魔王、2人の奇妙な復讐劇が幕を開けた。
#最初は誰を狙いますか?
#1,女勇者
#2,女魔法使い
#3,女僧侶←
(狙うとしたら、女僧侶が良い。女勇者の身体を奪ったとしても本人と対立して復讐を成し遂げたい。それに僧侶は
攻撃に関する魔法とかはあまり無いから、力を隠すとしたら勇者パーティーの中でも力が弱い方が好ましいと思うけど、
どうだろうか?)
【ふむ、僧侶なら我の力で支配することが可能だろう。今すぐにでも貴様の魂を僧侶の元へと送り届けたいが。
・・・此処で一つ注意点がある。】
(注意点?)
【僧侶の身体を支配したとしても、チャンスは一度だけだ。貴様との縁が繋がっている以上、サポート出来るとしたら会話や
僅かばかりの補助魔法だ。この完全支配の魔法は乗っとることが出来る代わりに中身が貴様だと看破された場合、貴様の魂は
消滅するデメリットがある】
(・・・中身が別人だとバレたら終わり、本当に大丈夫なのか不安なんだけど。何か対策はあるのか?)
【対策はある。完璧に成り済ませる為には肉体を乗っ取った後、身体を馴染ませる必要があるのだ。貴様の勇者パーティーの
中で僧侶はどんな人物だ?】
(えっと、確か。男嫌いで女しか興味は無い位か?)
【ふむ、それなら男性との会話は積極的に避けて。女性との会話を優先するのだ。それだけで我の魔力が潤うのだからな】
【取りあえず町に戻るとするか…。少し待ってくれ】
身体の中から魔力の奔流のようなものが沸き立つ。まるで自分の中身がかき回されているような感覚だが、不思議と気持ちが
いい。
「…、ふむ。こんなものか」
(あれ?この姿って…)
城に残された愛用の盾に写し出された姿は、まごうことなき自分の姿だった。
「これから貴様の町に入るのだ。流石に魔王たる我の姿で入るわけにもいくまい。貴様の記憶から姿を再現させて貰った」
身体の主導権は魔王にあるようだ。自分の口から勝手に言葉が吐き出される様は奇妙としか言えない。
「だが、お互い死んだはずの存在、そして今は魔力を垂れ流している状態だ。あまり長時間は活動出来んし、得策ではない。
町に入るまでに仮初めの肉体を調達するとしよう」
魔王はそう言うと、俺の装備を回収して動き出した。
(おい、町の場所とかは分かるのか?)
「貴様の魔力を辿るだけのことだ。この程度造作もない。取りあえず、しばらくは休んでおけ。頃合いを見て、我が乗っ取りの
手本を見せてやろう」
そう言うと、視界に点のような物が映し出される。どうやら俺が無意識に垂れ流していた魔力らしい。魔王はこれを辿り、
あっさりと城から脱出して町へと向かい始めた。
町へ向かっている最中、途中から魔物が倒された所が幾つもある。魔王はその様子を見る度に憎悪を感じた、俺も魔物を倒した
勇者パーティーの一人だが、魔王は俺に対して問題は無いと呟いていた。
「・・・清彦よ、我の部下は何人居ると考えている?」
(部下?それって、中ボスのような感じだから。9体戦った記憶があるかな)
「・・・成る程、それなら我の部下は一人か二人は生きているだろう。貴様の町には一人潜んでいる」
(えっ、ま、まだ部下が居るのか!?)
「戦闘力が皆無な代わりに情報戦に関しては優れている者だ。名前は”レイス”と呼ぶのだが、聞き覚えはあるかな?」
(・・・おい、ちょっと待て。レイスって、忍者だよな?めちゃくちゃ可愛い記憶があるけど)
「驚いたか?我の部下は魔物は全て貴様達によって葬られたが、残っている部下は人間だ。彼女とは我が育成して、勇者に
関する情報を得るように指示している、我に忠誠を誓っている人物だ」
レイス、彼女はミステリアスな雰囲気を漂わせる謎の美少女であると記憶にある。まさか彼女が魔王の部下だと誰が考える
のだろうか?
「彼女は元々、仮初めの肉体を提供する為に存在する者。町に入るのであれば彼女の肉体を使えば良いだろう。」
(と言うことは、レイスの身体を使って。僧侶の身体を奪えば良いってことか?)
「そういうことになる、先に言っておくがレイスの身体は我が主導権を得る。僧侶の身体は清彦に渡す予定だ。
お楽しみなどは取っておくが良い」
(お、お楽しみって、な、何の事かな!?)
「はっはっ、男が女になったらどんなことをするのかは予想できる。我は女だが、初心なお前も我は好きだぞ?」
(ちょっと待って、魔王の性別が女とか聞いたことが)
「・・・そろそろ、待ち合わせ場所に到着する。貴様は休んでおけ」
そこまで言うと、俺は諦め半分。傍観に徹することにした、魔王が復活することも視野に入れるだなんて。これを読んで
いる人が居たら色々と不味いな。
「確かこのあたりにいるはずだが・・・」
魔王が待ち合わせに指定した場所は街のはずれにある小屋だった。確かこの辺は以前から治安が悪いが、「罪人はここに
投げ捨てればいい」という方針の元、国側も敢えて黙認していた場所のはずだ。だからこそ常に混沌としており、俺たちの
ように死した者でも身元が割れづらいということだろう。
「お待たせしました。魔王様」
少し待っていると、後ろから涼やかな声とともに、おおよそこの地区に似つかわしくないような美少女が入ってきた。
「おお、レイスよ。わざわざ足を運ばせて悪かったな」
「いえ、魔王様のためですから。魔王様が討伐されたと聞いて心配しておりましたが、ご無事で何よりです。それより、
そのお姿は勇者パーティの・・・?」
一見すると司書のような清楚な雰囲気の少女こそ、忍者として国にその人ありと言われるレイスである。彼女の潜入技術は
まさに超一流、それだけでなく情報の流布にも長けており、一切戦うことなく相手側を壊滅させたことさえある、まさに
中核メンバーの一人だ。そんな彼女が魔王側の人間だったとは、俺も全く想定していなかった。
「まあ成り行きでな。目的が変わったわけではない」
「かしこまりました。私からの報告は・・・、しなくても大丈夫ですね。後程ご自由にご覧下さい。」
「すまんな。ここまでよく仕えてくれた。心より礼を言う。お前の身体、しばらくの間もらい受けるぞ」
そういうと魔王はレイスと抱き合い、彼女の口を俺の口で塞ぐ。こういった経験もない俺からすると初めての経験だが、
何度も経験があるように舌を絡め、服の上から彼女の胸を揉みしだく。口の中から伝わってくるねっとりとした感触、
彼女のほのかに暖かく、柔らかな全身の感覚がとても心地いい。
【楽しんでいるか?本当ならたっぷりと行為も楽しみたいのだが、レイスの身体はなるべくそのままにしてやりたいのでな。
楽しむのであれば貴様のパーティの誰かで味わおうか】
魔王が彼女の胸を揉み、全身を愛撫しているうちにレイスの表情が蕩けていく。こんな妖艶な雰囲気を帯びる少女ではない
はずなのだが、そのギャップが実に可愛らしい。いつしか彼女の足は震え、股からは愛液が分泌されているようだ。次第に
自分で立つのも怪しくなってきている。
「ふう・・・、もう下ごしらえは十分だな。そろそろ頂くとしようか」
すると、今度は自分の身体が形を解いていくのが分かる。と同時にレイスと繋がっていた口から彼女の体内へと進み始める。
狭い空間をよじるように突き進んでいくと、次第に身体の中で自分の細胞が、意識が溶けだし、広がっていく。今度は自分の
身体が火照り、興奮しているようだ。もしかするとこれはレイスの感覚なのだろうか?視界も段々とブレてきた。暗い体内の
視界と、スライムのような何かが自分の口から侵入している映像が交互にちらつく。
【よし、全て入り切ったな。後は感覚を・・・!】
細胞が入り切ると、恐らくレイスの目から感じている視界に固定される。見慣れた世界のはずが、他人の目から見る光景が
もの新しい。どうやら細胞を受け入れた分、全身が膨張しているらしい。それを少しずつ、確実に身体の中に溶かしこんでいく。
どのくらいの時間が経っただろうか。収縮し、身体があるべき姿に戻ったとレイスの感覚が教えてくれる。それと同時に、
彼女の口から言葉が紡がれる。
「よし、完了だ。どうだ清彦。これが【他人を乗っ取る】ということだ」
そのレイスから飛び出す言葉は、本来の彼女にはあり得ない自身に満ち満ちたものであった。
(これが他人を乗っ取る、でも中身がバレたら魔王の魂は消滅されるんじゃないのか!?)
「安心してくれ、この完全乗っ取りは元々我が作った物だ。人間とは欲深い物よ、他人の身体を手に入れたら好きな行為を
するだけで葬る事が出来る都合の良いような物だったのだが、禁術として指定されたのは痛かったがな」
(あっ、もしかして俺のような人物を排除しようと?)
「そうだ、元々レイスに我がこの術を他人に教えて自分の身体を好き勝手することで余計な人材を排除していた。彼女が
意思に反すること、つまり、”我に敵対心を向けただけで消滅するのだ”。」
(も、もしかして。意思に反することだけでも消滅するのか?)
「我の部下限定と伝えておこう。乗っ取りに関する知識を全て委ねているのだから。耐性がある、清彦がレイスの身体を
奪っても構わないぞ?ただし、貴様の魂が消滅する可能性があるかもしれないがな」
恐ろしい事を考えるな!?確かに一切戦うことなく相手側を壊滅させたことさえある。つまりこの乗っ取り魔法を相手に
与えた上で自分の身体は魔王様に捧げているから、対策していたのか。
「勿論、清彦は我の共犯者だ。自分の身体を色々と欲深い行動をしたいと言うのは充分解っているのだが、暫し我慢をして
貰えると助かる。我の魔力が戻ればそのデメリット、枷を外すことが出来るのだから。もし、僧侶の身体を手に入れた後は
本人の意思とは反しないように行動を心がけすれば良いだろう。」
(僧侶は可愛い女性しか興味は無いから。男性との行為は暫くお預け。そもそも俺は女性と関わりたいと思っていたから、
女の子に話すために俺が僧侶の身体を借りるみたいな感じに思えば良いのか?)
「その思考で構わない・・・ほぅ、どうやらレイスは僧侶と仲が良いみたいだな。」
(えっ、記憶が読めるのか!?)
「記憶は読めるとも、彼女になりきるために身体を施す必要があるが、既に終わらせたからな。では、早速行動をすると
しよう。清彦よ、貴様の願いを我が叶えてやろう。」
その様に呟くと町へ向かった、久しぶりに戻ったこの町にはお祭り騒ぎが起きていた。魔王が退治したことで活気に溢れている
からだな。
「自身の死を祝われるのも何とも言えない気分だな・・・。腹立たしくもあるが、同時に滑稽でもある。我はこうして、
まだこの世に生き永らえているのだからな」
レイスの声を使って、その可愛らしい声とは似つかわしくない堂々とした口ぶりで独り言ちる魔王をよそに、祭りの喧騒は
まるで俺の存在などなかったかのように進んでいた。自身が世話になった街のはずが、どこか遠くへ来てしまったような、
そんな虚無感に近い感情が胸に去来する。
「しっかし、勇者パーティは流石だなぁ!救国の英雄たちは可愛さも違うぜ!」
「今日はパーティだった気がするけど、明日には姿を見られるのかな?一目見てみたいぜ!」
街の雑踏の声がいつもよりよく聞こえる。恐らくレイスが忍者として無意識のうちに身体に刷り込まれた習性が表に出てきて
いるのだろう。子細な情報を漏らさず確認し、それらから隙を見出す、壁に一穴を空けるような作業を繰り返してきた彼女の、
優れた能力であった。
「そう言えばさっき、僧侶様が修道院に立ち寄られてたのを見たぞ!やっぱり可愛いよなぁ。清楚で胸も大きいし・・・」
「ばかっ!不敬だぞ!でも・・・、いいよなぁ・・・」
そんなレイスの耳に、僧侶に関する重大な情報が舞い込んでくる。この辺をしっかりと聞き逃さないあたり、魔王がレイスを
仮の肉体に選定した理由が見えてきた気がした。
「・・・、目的地は見えたな。早速向かうとしようか」
レイスの脳に、身体にはこの街の概要もしっかりと残されている。魔王はそれを頼りに迷うことなく、修道院へ向かっていった。
元々僧侶が通う修道院は、中央の聖堂は屋根が落ち、雨風に晒されて一部が腐っていたり酷い有り様だったと聞いている。
各部屋の扉は特に傷んでなく、部屋の中も埃以外は特に綺麗だった。両手を前に手を出して呪文を唱えると、みるみる内に崩れた
木造部分が脱皮をするかの如く、成長して元の姿に戻っていく姿を目撃情報もある。わずか数分で屋根の修理が完了したり、
修道院は元の建物の姿へ戻すことが出来る事から、再生能力に関してはトップクラスと言われている。死者を蘇ることも出来る
可能性が持つ彼女だが、補助魔法を扱うには充分すぎる存在だ。
「あっ、レイスさん。僧侶様に会いに来たのですね!申し訳ありません、先程彼女は王に呼ばれて式に参加させると言われて」
「そうですか、それではシスターさん。私は何時も通りに部屋で待てば良いのでしょうか?」
「はい、帰宅した際にはお伝えしますね」
「成る程、了解したわ。」
シスターから情報を得たレイスだが、今までの雰囲気とは違う。親しみを込めた声で接する魔王の姿に俺はゾクリと見守っていた、
これが他人になりきると言う事か。
「ふふっ、まるで我が【レイス】みたいだと思ったようだな」
(な、何で分かる・・・?)
「当然だとも。今は我も貴様もこのレイスの肉体の中。魂が同居してしまっている上に、当然ながら思考はこのレイスの脳を使って
行われるのだ。貴様の考えていることはすべて分かるぞ。それに・・・」
魔王の魂がレイスの奥深くへと入っていく。包み込まれるような温かさを、レイスの身体が発するぬくもりを強く感じてしまう。
「【レイス】という存在の人格や記憶、知識、経験・・・、それらすべては脳の中に刻まれているんです。完全に支配することで、
それは自分自身の物として使うことが出来るということよ」
先ほど寒気すら思えた親しみ深さ、清彦として知っている【レイス】という存在に語り掛けられる錯覚すら感じたが、どうやら
それは、レイスという身体に刻まれたものを強制的に引っ張り出しているかららしい。これを俺が・・・
「出来ますよ」
レイス、いや、魔王は俺にレイスとして語り掛ける。いつもの控えめで、優しい俺の知る彼女のまま、俺に知識を授けてくる。
「貴方は本来、禁術とされている魔術が使われる様を、私の目を通して、私の魔力の使い方を肌で感じながら【レイス】という
存在を支配する様を見てきたはずです。仮にも勇者パーティに選ばれるだけの何かを持っている貴方であれば、この術は会得
できるはず。それが【魔王】である私の共犯者というものですよ。清彦さん」
その語り掛けてくる口調、柔らかさ、それはまさに俺が知るレイスそのものであった。思わず彼女の人格が目を覚ましているの
ではないかと問いかけそうになるが、
「っとまあこんな感じだ。術式さえ会得できればこのような事、造作もなくできるようになる。期待しておるぞ清彦。
我が共犯者よ・・・」
レイスの人格は裏に潜み、魔王の人格が表に出てくる。そして俺はその「他人の人格に成りすます」という行為に、密かに興奮を
覚えてしまっていたのだった。
【ふむ・・・、この者、なかなかに適性があるようだ。己が欲を解放し、ぜひ僧侶を支配してみるがよい。だが・・・】
魔王の思考が漏れてくる。もしかすると、敢えて漏らしているのかもしれない。
【うまくいくにせよいかないにせよ、僧侶の肉体と術式は何としてでも確保せねばなるまい。貴様亡きいま、僧侶の術式があれば
勇者パーティに守る術は無くなるのだからな】
最初に選んだ僧侶という選択は、図らずとも魔王の計画に沿ったものだったようだ。
「さてと、僧侶が戻ってくるまでにまだまだ時間はある。我は少しばかり仕込みにかかるぞ」
(何をするつもりだ?)
「貴様から聞いた話とレイスの記憶、そして我が調べた限りの知見で勘案するに、恐らく僧侶には並大抵の魔法は通じんだろう。
それに、全身を切り刻んだところで恐らくすぐに回復されてしまう。なればこそ、ここで通じる可能性がある術は忍びの技
ということになる」
そういうとレイスの持ち物を漁り、部屋の中に仕掛けを施していく。お香や護符、よくわからない薬のようなものを部屋中に、
分からないように仕掛けていく。そのスキルはどうやらレイスが持ち合わせているものらしい。魔王は彼女の記憶を読み、
まるでレイスが行っているかのように展開していく。
「ふむ・・・、こんなものだろう。あとは、僧侶をこの部屋に連れ込むのみだが、それは心配いらぬであろう。よくもまあ
ここまで深い仲を育んだものだ」
どうやら魔王には勝算があるらしい。
「清彦よ。貴様の出番は今宵、僧侶を部屋に連れ込んでからとなる。それまでは魔力を研ぎ澄ませ、しっかりと休んでおけ。
そうだ。一つコツを教えておいてやる。最初の内は流れに乗り、少しだけ方向を変えるようにしろ。いいな」
ひとしきり準備を終えた魔王は、俺にコツとやらを教えたのち、ベッドに突っ伏して眠り始めた。それと同時に、俺の意識も
闇に引っ張られていった。
(う、うーん…よく眠れた、かな?)
【おぉ、漸く目覚めたか清彦よ。今宵の夜は狂喜の宴をあげる時が来るだろう。レイスもまたソナタの事を意志疎通で雑談を
交わしていたが、彼女は元々清彦の事を興味を抱いていたみたいだぞ 】
(えっ、本人の意識は眠っているんじゃないのか!?)
【我が本人の意識を起こしたのだから、当然だろう。レイスの主導権は完全に我が掌握していることを忘れたのか?まぁ、
僧侶の身体を奪ったとしても貴様は本人の意識を封印する必要が有るかもしれないが。安心しろ、我に対策がある】
(た、対策?)
【都合の良い人格を植え付ければ良いと言うことだけだ、我は洗脳の魔術を習得している。清彦の命令には必ず従わせるように
暗示を掛ければ僧侶の身体を自由に貴様は操ることができる。中身が看破しそうになったとしても本人が代わりに演じる、
我の魔術の欠点を補うための物だがな。】
(それって、僧侶の人格はどうなるんだ?)
【当然ながら消滅してもらう。正確に言うと「消滅」とは少し異なるが、まあほとんど同じ意味だ。その為には清彦。彼女の肉体に
入り込んだ後での貴様の役割がが全てだ。抜かるなよ?】
思ったより過激な手段のようだ。思わず怖さを覚えるがどうにか抑え込む。どのみち復讐する道を選んだのだ。このくらいは
覚悟しろと言うことだろう。
【さて、僧侶らしき魔力が近寄ってきたな…。そろそろ始めるとしよう。楽しい狂演の幕開けだ】
魔王はそう言うと、服とともにレイスの人格をも纏い、僧侶の下へと向かっていった
修道院のエントランスで、目的の彼女を待ち構えると、すぐに入ってきた。修道服のフードに映える艶やかな金髪、穏やかで
柔らかな優しそうな顔立ち、隠しきれていない豊満な胸とともに抜群の身体つきが、清楚と色気を奇跡的に同居させている。
勇者パーティの僧侶、その人である。
「あら、レイス。よく来てくださいましたね!」
「ええ、今日はすこしお話したくなって…」
この言葉は僧侶とレイスの隠語のようなものらしい。【部屋でゆっくりと】という意味なのは魔王がこっそりと話してくれた。
「ふふっ、可愛いんだから。じゃ、早速いきましょう。私も少し話したいわ」
僧侶も乗り気らしい。こうして第一の関門はあっさりと通過した。
レイスの知識と性格を使い、魔王はごくごく自然な流れで僧侶を自分に宛がわれた部屋へと
招き入れる。僧侶にとっても、レイスにとっても日常とも呼べる光景を【全く別の意思】が
忠実に再現している状況に、俺は少なからず興味を抱いてしまった。
「ごめんなさいね。押しかけるような真似をして」
「いいんです。私自身少し、疲れてた部分もありましたから・・・」
部屋の鍵をかけ、隔絶した状態を作りだす。僧侶にとってよく知っているはずのレイスが、その裏で確実に自身を罠にかけていく、
その様子を傍観者席で見させられているような感じだ。それはまるで魔王が【乗っ取ったらどうするのか】の手本を示すかのよう
であった。
「疲れる?珍しいじゃない。でもそうか。あなたの力って・・・」
「ええ・・・。私自身にも使えればいいんですけどね。生憎とそこまで便利でもないらしいから」
これは実はレイスのスキルだ。以前から彼女自身が何となく見当をつけていたことらしいのだが、魔王は彼女の持つすべてを使い、
僧侶自身から情報を次々と引き出していく。
「・・・、それにしてもおいしいですね。このお茶。身体の芯から温まるようです」
「ええ、疲れてるかなぁと思って。故郷から取り寄せた自慢の茶葉で淹れたの」
「不思議ですね・・・。本当に身体から疲れが抜けていくようです。それに、いい匂い・・・」
「あら?いつもと同じよ?あなたが好きな香りを選んでおいたつもりだけど」
レイスが僧侶に飲ませたお茶と、部屋に撒いてあるお香には特殊な薬が混ざっている。それは忍者として、忍びの知識で構成された
特殊なものである。そして先ほど僧侶から引き出した発言「僧侶は自身に回復魔術は使えない」ことと合わせ、僧侶を着実に罠に
絡めとっていく。
【僧侶が自分に回復魔術が出来ないというのは、意外と分からないものだな】
(ああ、彼女の肉体自身に強力な自己再生の加護がある分、魔術で補うことが出来ないんだ。だから彼女はいつも聖水やポーションで
補っていた。とはいえ、勇者パーティと何度も交戦する奴なんていなかったからな)
【それもそうだな・・・。だが、だからこそここに突破口がある。薬で自らの身体を癒しているというのもまた重要だ。つまり、
ポーションの類であれば効果はある、すなわち付け入る隙はあるということだからな】
俺の知識も含め、魔王はレイスの目を通して彼女に成りすましながら僧侶の様子を観察し続けていた。
「…ぅうん…」
「どうかした?落ち着かないようだけど…」
「い、いや。何でもありません」
【頃合いか。そろそろ仕掛けよう】
僧侶の様子を確認した魔王は、何かを見計らったように動き始めた。いつもの穏やかで涼しい印象の彼女には珍しく、顔を赤らめ、
その身を身じろぎさせている。忙しないとでも言うのだろう。
(どうしたんだ?僧侶に何を仕掛けた?)
【彼女に飲ませた茶葉には、レイスが特殊な調合をした媚薬を混ぜてある。レイスの見立て通り、魔術ではない薬の類いは
効くようだな】
レイスはそれを確かめるため、以前に眠そうな僧侶を見かけたときに睡眠薬を盛ってみたらしい。すると彼女は見る間に眠りにつき、
一晩は目を覚まさなかったという。確かに一晩、宿に戻らなかった日があったがどうやら裏ではこう言ったことがあったようだ。
【さあ、では僧侶を堕とさせて貰おうか】
レイスが舌をなめる感覚が鋭く伝わった。
「うぅ・・・、はぁっ」
「どうしたの?顔が赤いよ?」
「い、いえ・・・、何でもありません。何でも・・・」
「とてもそんな顔には見えないわ。ほら、横になって・・・」
段々と様子がおかしくなっていく僧侶に対し、【心配するレイス】を演じて自然に彼女をベッドへと誘っていく。僧侶の服から漂う
上品な香の匂い、服越しに伝わる暖かい女性の体温がレイスの身体を興奮させ・・・、いや、何かが違う・・・?
【察しがいいな。この興奮は貴様のものではない。レイスの身体が感じているものだ】
(興奮・・・?でもレイスって・・・)
【それだけ心待ちにしていたということだ。我の復活、そして忠義を捧げる瞬間・・・、も混じっているようだが、当の本人自身の
性欲が大半だな。まあ、らしくていいと思うが】
魔王曰く、どうやらレイス自身、この瞬間が訪れるのをずっと心待ちにしていたらしい。<英雄>としての僧侶ではなく、一人の
魅力的な女性として彼女を犯す、その為に様々な下ごしらえを施しここまで持ち込んだ彼女の忍耐力、執念は尊敬に値するだろう。
僧侶に初めて会った時の、まるで恋にでも落ちたような衝撃、それから裏に自分の野望と魔王様からの指令を忍ばせ、一人の人間と
して信頼を勝ち取るまでに調べ上げた日々と苦労した思い出の数々、睡眠薬を飲ませ、それが効いたと分かったときの高揚感、
ちょっぴり味見と称して眠る彼女の肢体をまさぐった思い出が走馬灯のように・・・
(・・・、あれ?今のは何だ?)
【むっ、レイスの記憶が貴様にも流れ始めたか。まずいな。魂が引っ張られかけている】
どうやら魔王と同居している俺の魂が、レイスの中に少しずつ入りこんでいるらしい。魔王の少し焦った様子がそれを表している。
【本当はもっとじっくりやろうかと思っていたが・・・、仕方ない。少し強引だが、貴様の魂を僧侶の中に送り込むぞ。
楽しむのはその後にしよう】
魔王はそういうと、横たわる僧侶からフードを脱がせていく。僧侶はやんわりと抵抗するが、身体の疼きに堪えかねてそれどころ
ではないようだ。頬を赤く染め、艶やかな呼吸とともに上気した姿はしばらく行動を共にした俺も全く見たことがない。彼女が
ここまで「ダメージ」を負ったように見える姿など想像だにしなかった。
「身体が熱い・・・!レイス・・・。私は一体、どうなってしまうのでしょうか・・・?」
「落ち着いて。大丈夫。前に仲間の忍者がこうなったのを見たことがあるわ」
もちろん出まかせである。だが、俺の知る限り僧侶に限って言えば確実にそういう、いわゆるエロい行為とは無縁な存在であった。
この様子を見る限り本当に純潔を貫いているのだろう。
「私を信じてくれるなら、今は私に判断を預けてくれるかしら?僧侶としては本当は望ましくない事なのは分かっているつもり
だけれども・・・」
「レイス・・・、分かりました・・・。どうかこの疼きを鎮めてください・・・。貴方に託します」
目を潤ませる僧侶から伝わるのは信頼、むしろ勇者や魔法使いより信用しているのではないかというくらいの心からの信用を
レイスに叩きつけてくる。その中身があろうことか【魔王】になっていることに気づく様子はない。
(随分すんなり受け入れたな・・・)
【ふん、レイス自身が信頼を勝ち得ていたことが大きいが、部屋に焚いたこの香には催眠作用がある。軽いものだがな。飲ませた薬
と合わせてしまえば、まともに判断が出来ぬであろうよ】
「薬を飲んだ方がいい。水は飲めそう?」
「はぁ…はぁ…ごめんなさい…少し、難しそうです…」
「そう…なら、飲ませてあげる…」
カプセル-実際は薬でも何でもない―と水差しを手に取るレイス。ついに僧侶の唇に触れられる…そう思うと自然と鼓動が早まる。
これはレイスの思いだが、俺としてもあの僧侶に口付けをすると思うとドキドキしてくる。
【清彦、わかっているな?貴様がすることはレイスの身体で楽しむことではない】
…そうだ。レイスに入った時と同じように、僧侶に口を合わせるということは俺が僧侶の身体に入る時が来たということだ。
(…わかってる。俺たちの復讐のために、欲望に流されてる場合じゃない)
このままレイスの中にいては勇者たちに復讐はできない。
僧侶には勇者や魔法使いの様に何かをされるようなことはなかった。逆に言えば、何もされなかった。わかりやすく言えば無視だ。
補助魔法も回復魔法も俺に掛けられることはなかった。そう。彼女に対しても恨みはある。無関心だったことへの恨み。
カプセルと水を口に含み、横たわる僧侶に顔を近づける。香や薬…毒のせいで正常な判断が出来ない僧侶は目を瞑り唇を微かに開く。
そして、ついに唇を重ねる。俺が『生きて』いた時では考えられない僧侶とのキス。念願が叶い、このまま舌を絡めてしまいたい
衝動を何とか抑えてゆっくりと水を流し込む。
「んっ、ふっ…こくっ…」
艶めかしい声に興奮が増していく。魔王様の命でなければ我慢など出来ていない。
【おい、貴様のやるべきことを忘れるなと言っただろう】
その声に俺の意識はレイスから引き離される。
【初めだけ手伝ってやろう。あとは貴様がうまくやれ】
魔王がそう言うと俺はレイスの口の中にいた。正確にはそういう感覚になった。口の中の水とカプセルに入っていたゲル状のものに
体が混ざっていく。そして俺は僧侶の口の中へと流し込まれ、飲み込まれていく。
ゲルとなった体に感じる僧侶の咥内の感覚を広げていく。飲み込まれる感覚と、飲み込んでいく感覚。喉が動く感覚と、喉を動かす
感覚。少しずつ、俺の感覚が僧侶の感覚へと置き換わっていく。
体が熱い。これが、媚薬に侵された僧侶の身体の感覚か。しかし、まだずれがある感じがする。身体の感覚はあるが、動かすことが
出来ない。レイスの中にいたのと同じように、勝手に動いているような感覚。まさか、失敗したのか?不安を覚えるのとほぼ同時に
レイスの唇が離れていく。
「…少し、落ち着いた…?」
落ち着いてなどいないだろうが、僧侶なら心配させまいと我慢して嘘を吐くだろう。
「…いえ、体が熱いままです…すみませんが、服を脱がせていただけますか…?」
だが、僧侶の口から出た言葉は俺の感覚に従ったものだった。
【最初の内は流れに乗り、少しだけ方向を変えるようにしろ】
魔王が言っていた言葉を思い出す。こういうことなのだろうか。身体の感覚が少し強くなった気がする。腹の辺りが特に熱く感じる。
レイスが僧侶の体を起こし服に手を掛ける。一瞬ピクリと体が震える。しかし抵抗することはなく、おとなしく服を脱がされる。
熱に浮かされた頭が下がると、下着に包まれた大きな乳房が目に入る。こんな距離で、しかも生で女性の胸を見たことなどない。
僧侶の身体を完全に乗っ取ったら、これが俺の胸になるのかと思うとなんだか妙な感じがする。
だが、自分のものであるのなら。
「下着も、脱がせてください…」
もっと見たい、全てを見たいという俺の思いが、僧侶の口を動かした。ほんの一瞬でブラジャーが外されると、ずっしりとした
重みを胸に感じる。視線を下に向けると下着に隠されていた桃色の先端が興奮を表すかのようにピンと立っているのが見えた。
(おお…僧侶の…女の子のおっぱい…)
初めて生で見る乳房に思わず呟く。僧侶の口には出なかったが、唇の端が吊り上がるのがわかった。
「体はまだ熱い?」
レイスの言葉に、僧侶はこくりと頷く。
「なら…」
立ち上がると服とブラを脱ぎ捨ててほぼ裸になるレイス。スレンダーなその肢体に思わず目を奪われる。
「砂漠の国では人がくっつく方が涼しく感じるらしいの」
とん、と肩を押されると俺はベッドに倒れ込む。そこにレイスが覆いかぶさってくる。肌が触れ合うと、熱は引くどころかますます
強まっていく。知らず知らずのうちに呼吸が荒くなり、腕がレイスの身体を抱き寄せる。
身じろぎをすると、小さな乳房を押し付けられる俺の大きな乳房がむにゅりと動く。今までに味わったことのない感覚に快楽と興奮を
覚える。目の前にレイスの顔がある。目をそっと伏せ、軽く顎を突き出す。唇に一瞬柔らかな感触。それが何度か続き、数度目には
唇を押し付けられ舐められる。口が開いた隙を見逃さずにレイスの舌が入り込むと、僧侶も舌を伸ばして絡める。ぴちゃぴちゃという
水音と熱い吐息が混ざり合い、俺の興奮が強まると身体の熱も強まっていく。密かにコンプレックスに思っていたむっちりとした
ふとももが自然と擦りあわされる。先ほど熱いと思っていた腹部。もう少し下の奥。そこが疼いている。
「ぷはぁ…レイス…熱いんです…体が、体の中心が、熱いんです…」
ディープキスから解放された僧侶がそう言いレイスを見つめると、彼女は頷き最後に残された僧侶のショーツに手を掛けて脱がせる。
「僧侶の下着、こんなになってる」
悪戯っぽい笑みを浮かべて股間に染みのできたショーツを見せつけられると、かっと顔が熱くなる。
「…お願いします…この疼きを、鎮めてください…!」
膝を立てて脚を開く。股間にひんやりとした空気を感じるが、熱を冷ますには至らない。この昂りを収められるのはレイスだけ。
劣情に侵された頭では、それが正しい事だと思った。
彼女のしなやかな指が、お腹を、腰を、ふとももを撫でていく。それだけで体はぴくぴくと反応してしまう。脚を撫でていた指が、
徐々に股間へと伸びて…触れた。
「ひあぁんっ!」
自分ですらほとんど触れたことのない秘部を撫でられ、およそ聖職者とは言えないエロい声を上げてしまう。
「あっ、あっ、あんっ!」
優しく撫でられるたびに体が震え、嬌声が上がる。こんな感覚は、快楽は今まで感じたことがない。僧侶たちに隠れてこっそり
していたオナニーの非じゃない。
「っ!ふあぁあっ!?」
じゅぷ、と股間から音が聞こえる。レイスの指が、私の秘部へと差し込まれている。体の中に入っている。初めての感覚が俺の頭を
かき回す。指を動かされると私の口から声にならない声が上がる。俺のおまんこがレイスの指に犯されている。それが本来あり得ない
ことだと考えることも出来ない。だというのに私の体は快楽を求め、手が自然と乳房を揉みしだき出す。快感に身動ぎしながら乳首を
摘まむと身体がビクンと跳ねる。
「ひぐっ!?うああぁぁっ!!」
それと同時にレイスが秘部の敏感な部分を弾く。その瞬間、私の意識は真っ白に染まっていった。
「……あ…うぁ…」
段々と感覚が戻ってくる。頭はまだぼんやりとしている。よだれが垂れているのはわかるが、それを拭うだけの気力がない。
そう思っているとレイスがぺろりと俺のよだれを舐め取り、唇を軽く重ねてくる。抗う力はない。その気もない。俺を見つめて笑みを
浮かべるレイスに、俺も笑みを返す。
「どうだった?」
レイスが悪戯っぽく聞いてくる。
「…すごく、気持ちよかったです…」
素直に答えると彼女は微笑む。
「まだ、熱い?」
僧侶だったら―そもそもここまでしていないだろうが―「もう大丈夫です」と言っていただろうか。
「…はい、まだ体が疼いています。もっと気持ちよくして、俺を私に馴染ませてください」
聖女の笑みを浮かべると、レイスは我慢できないというように俺に熱い口付けをしてきた。
【ふむ、我の助力なしで随分と馴染んだようだな】
レイスの中の魔王が心の中で呟く。
【ひょっとしたら、我よりも才能があるかもしれぬな。…まあよい。せっかくだから我ももう少し楽しませてもらおうか】
レイスはさらに表情を歪め、俺の豊満な胸を、全身を刺激する。どこが気持ちいいのかが分かるように、この身体について、
まるで俺より知っているかのように攻め立ててくる。その感覚がたまらなく気持ちよく、俺もその快楽に流される。
(あっ・・・、いけない・・・。僧侶たる私がこんな欲を・・・)
内側から声が聞こえる。恐らくこれが「僧侶」本来の心の声。俺に対しては無関心もいいところだったが、彼女本人自体は
敬虔な僧侶として、清廉で高潔な精神を保ち続けていた。しかし・・・
「そんなことはない・・・。これは『私』自身が心のどこかで欲していたこと」
(えっ・・・、でも私は・・・)
「ならなんで、こんなにも興奮しているの?何故愛液が出るの?」
魔王からのアドバイス通り、彼女の心を誘導する。あくまで【流れに身を任せるように】自然に、彼女本人がそう思っている
ように仕向けていく。
(しかし・・・、あっ♡いやっ)
「ほら、快楽に浸っているのは誰?表情をにこやかに、この刺激を求めたのはダレ?」
本来なら落ち着いた思考を持った僧侶だが、膨大な快楽には不慣れだ。それにどうにか抗おうとするが、それが却って彼女の
思考を歪めてしまう。波に身を任せる俺と、波に抗う彼女、対照的な精神に対し、身体が決断を下す。レイスへと意識を寄せた
魔王と、僧侶の身体を奪った俺のまぐわいはそのあとも続いた。
「あら?これは・・・?」
魔王が宿るレイスの口から俺の身体の変化が垣間見える。俺が宿る僧侶の肉体は淡い緑の光に包まれ、身体の傷が癒されていく
のが分かる。これこそが僧侶の身体に宿っていた力【自動回復】である。一定のダメージを負うと、身体は自動的に魔力を消費
して身体の修復を行う。そのプロセスが未解読かつ通常の回復魔法とは大幅に異なるため、僧侶自身に魔法での回復が行えない
原因でもある。その力がどうやら発動しているようだった。
「不思議な光ね・・・。でも、僧侶のどこが傷ついているのかな・・・?」
魔王はレイスの記憶から僧侶の事を探り出し、身体を確認してくれているようだった。そう、激しくまさぐりあったが身体に
傷自体はないはずだった。それなのに【自動回復】は発動した。恐らく何かが異なる部分があるようなのだ。決定的に異なる部分、
それは・・・
「僧侶の心、魂とでも呼ぶべきものなのかしらね。さて、清彦。貴方の手腕の見せ所よ」
そっとささやくように、レイスは俺の耳元で呟いた。
この肉体は一度絶頂を迎えた今もまだ欲情している。俺の心ももっと気持ちよくなりたいと思っている。
しかし僧侶の心、魂はそれを拒んでいる。やはり神に仕える者が欲に溺れるのは禁じられているのだろうか。
そう考えたとき、頭の中に本のイメージが浮かんできた。俺が見たこともないはずのそれが、僧侶の仕える神の経典である
と頭が理解する。そして経典が勝手に開かれ、あるページで止まる。
『欲に溺れることなかれ。しかして人らしくあれ』
想像した通りの言葉が書いてある。これが僧侶の魂が快楽を拒んでる理由か。
…いや、この後ろの文はなんだ?そう思っていると、またも本が勝手にめくられていく。
『真に愛する者に対して、情欲を覚えることもあるでしょう。ですがそれは、神が許し給うた人の欲の一つなのです』
…宗教というのはお堅いイメージがあったが、意外とフランクな面もあるらしい。だが、これは僧侶の心を揺さぶる
には十分な材料じゃないだろうか。
「ふふっ、【我ながら】随分頑張りますね・・・。でも、身体は正直みたいですよ?」
(ち、違っ・・・)
ある程度混ざり合った魂にさらに揺さぶりをかけるために、僧侶の口調をまねて本来の僧侶の魂に語り掛ける。まだ
僧侶の肉体である上に、膨大な快楽の前にショート寸前の彼女の身体は辛うじてだが、多少であれば俺にもコントロール
出来るようだ。語り掛けつつ、レイスに目くばせをする。【もっと快楽が欲しい】【もっと満たしてほしい】と、僧侶の
内側に秘められていた淫らな想いを重ね合わせて意思を示す。
頷いたレイスは顔を俺に近づけ、半開きになった僧侶の口の中にそっと舌を入れて絡めてくる。シルクのような舌ざわり、
そして絡みついてくるレイスのスレンダーな肢体の感覚が全身に伝わり、身体はさらに快楽を求め、その本能のままに
暴走を続けていく。
「真に愛する者に対しての情欲は罪ではない。貴方にとって最も信頼を寄せられ得る相手は誰だった?」
(わ、私はレイスを・・・、いや、しかし・・・)
「ええ、その通り。私は【レイスを最も愛している】わ。それこそ、影に隠れて情欲を満たす程度には・・・、ね?」
身体に刻まれた記憶を、僧侶が抱いてきた情欲を都合のように引き出し、本来の彼女に刻み付けていく。それでも否定
し続ける精神力は大したものだった。伊達に勇者パーティではないということだろう。しかし・・・
「ほら、そろそろ・・・、って何だ?この癒しの感覚は・・・」
全身がふわふわと、足りない部分を補うかのように何かが満たされていく。恐らくこれが【自動回復】のプロセスなの
だろう。全身を探査し、ダメージを負った部分を見つけ出した能力が効果を発揮しているのだと思う。しかし、どこか
身体が怪我しているわけではない。一体、何が普段と違うのだろうか。
「そうか!違うのは【心】か!?」
考えを巡らせていくうちにそこに行きつく。確かに今の僧侶の『心』、魂とでも呼ぶべき部分は俺という異物が入り込んで
しまっている。そして彼女との同化が進んだことで「一定以上のダメージ」を負ったと判断した能力がその心を戻そうと
しているらしい。これはかなりまずいのでは・・・
(慌てちゃだめだ。あくまで【身を任せる】んだ)
魔王からのアドバイス、そしてパーティでの盾役の経験を思い出す。そう、あくまで身を任せるのが大事だと。それは防御の
ときもまた同様だ。ただ正面から受け止めるのではその分のダメージを負う。肝心なのは受け流すこと、自然に身を任せること、
これこそが継戦の秘訣なのだ。だからその自動回復を、快楽とともに受け入れる。すると・・・
(な、何だ?身体に力が満ちていく・・・?)
(えっ?身体から力が抜けていく・・・?)
俺の身体には今までにない、強靭でしなやかな魔力が満たされていく。そして身体の構造が、自らの心の仕組みが大きく
変わっていくのを感じる。俺としての芯はそのままに、僧侶の魂となるべく必要な何かが俺の魂に満たされ、形作られていく。
(俺の魂が、僧侶として再構成されているのか?)
思えば簡単な事だった。俺と僧侶、同居する同じ肉体の中で、その心は全く対照的だった。俺は僧侶の肉体が受けていた
快楽を【受け入れた】。肉体が本能のままに欲する情欲を受け入れ、さらに欲するその欲求に対してGOサインを出していた。
だが本来の僧侶は違った。そもそもこの快楽そのものが本来の僧侶が望んで行ったものではない。レイスによって仕掛けられた
数々の罠により本人の意識とは別に引きずり出された、身体そのものにあった快楽をむき出しにされたものだ。意図しない快楽、
作り出された状況に危機感を抱き、それを【受け止めてはならない】と拒絶していたのだ。高潔で冷静な判断、そもそも身体が
慣れていない快楽を危険と受け止めてしまった結果、身体に備わった【自動回復】は流れに従った俺を本体と、流れに逆らった
本来の僧侶を異物と認識し、修復のプロセスを始めてしまっていた。
(ははっ、力が満ちている・・・!身体の感覚もずっと鋭くなった!どうやらこの身体は、俺を僧侶として受け止めてしまった
ようだな!)
柔らかな力に包まれた感覚が終わると、僧侶の身体がまるで自分の身体のような感覚に包まれる。生まれてきたときから俺は
僧侶だったと思えるくらいに、身体の隅々まで力が行き渡る。同時に、かつて【僧侶】だった魂が視認できるようになった。
そしてその姿は・・・
(なあ、【僧侶】・・・、いや、清彦?)
(こ、これは一体・・・)
僧侶の姿はこの俺、清彦の姿を模したものに変貌していた。
(ど、どうして私が居るの!?これは一体・・・)
(何をいっているのかしら?清彦、私の身体を奪おうとした癖に・・・)
僧侶の身体は既に俺が完全に主導権を握っているが、目の前に居る俺を見るだけで吐き気がする感覚を覚える。どうやら本当に
男性は嫌いと思って居たみたいだ。今後の事を考えると男性との性行為は暫くはお預けと考えた方が良いかもしれないが、
先ずは異物の排除から始めるとしようか。
(ち、違う!私は清彦じゃ・・・あっ、何。これ、私の身体が消えていく?)
(私は男性が大嫌いなの、外で歩く度に気持ち悪い男の視線が鬱陶しいと思っていた。だから、これからもレイスを愛したい。
いえ、可愛い女の子をどんどん愛したい。これが私の本質なのよ!)
(違う!私はそんなことを考えて・・ああっ、あああああ!!嫌だ、嫌だ!!私は消えたくない!どうして、どうして!?)
徐々に目の前に居る僧侶、いや。俺の姿が色を失うように消えていくのを感じる。どうやら、もう少しで消滅させることが
出来るかもしれないな。
(そんな・・・、どうして・・・。いや、この術式は【完全乗っ取り】。つまり・・・)
なけなしの魂になった元僧侶がその真実に至った。やはり彼女もまた知識として把握していたのだろう。
(正体さえつかめば貴方は消滅する!観念しなさい!【清彦】!)
その答えに至るのもまた自明だったのだろう。何せ彼女の魂そのものが俺の姿に構成され直している。正体はこの俺、清彦だと
答えを示しているようなものだった。しかし、今の俺に焦りはない。もはやそれも無駄と分かり切っていたからだ。
(な、何で・・・、何で消滅しないの・・・?)
「ははっ、どうやら頭の方もだいぶ鈍ってきたみたいだな。今のお前はもはや清彦の魂。そして俺の魂が僧侶のものになって
いる。つまり、いくら正体を看破したところで、この肉体にとっては俺が、いや、私こそが【僧侶】ということになるんですよ。
清彦さん?」
そう。皮肉なことにこの身体が作り替えてしまった魂の形は、本来【清彦】であったはずの俺を本来の物として受け入れ、
その肉体の全てを捧げてしまったのだ。だからこそ、優秀な彼女の頭脳は俺がもたらした情報から「正体を暴かれたところで
すでに立場が逆転している」という結論を見出し、その情報を俺に提供してくれていたのだ。
「しかし優秀な脳っていうのも考え物ですよね。清彦さん。もし可能でしたら、本来の私の名前を教えていただけますか?」
(え、そ、そんなの・・・。あれ?何で?何で思い出せないの・・・?何で私の名前が【清彦】にしかならないの・・・!?)
俺の姿を模した僧侶は姿が薄くなりながら、さらに焦りの度合いを増す。どうやらこの肉体の本来の名前さえ思い出せないようだ。
「そうです。この身体は本来の俺が持っていた記憶や知識をすべて詰め込んでもさらに余裕があります。ホント、優秀過ぎて頭に
来ますよね。でも、貴方の魂の形は清彦のそれ。だからこの身体は、貴方には【清彦】としての知識しか提供していないんです」
(そんな・・・。嘘でしょ?返してよ・・・!私の事を返してよ!)
そう。どうやらこの身体は俺に対してはすべてを捧げてくれるが、本来の持ち主に対しては男性に対する嫌悪感とともに、
【清彦】が持っていた知識以外をすべてロックしてしまったようだ。これで俺はもはや僧侶として十全に活動することが出来、
本来の僧侶は消滅を待つばかりとなった。
(お、お願い・・・。何でもするから、いくらでも協力するから許して・・・)
「そう言って何度もお願いしても助けてくれなかったですよね。それは俺の記憶を読めば分かるはずです。だから、【私】の
答えは当然NOですよ。そのまま消滅してください。【清彦】さん」
(い、いやああああああああ!身体が!魂が溶ける!あ、熱い!)
「ふふっ、すごい!すごいすごい!この身体が感じてた性欲がどんどん強く、しっかり感じられるようになってきた!さあ、
俺の物になれ!」
そして本来の僧侶の魂は崩壊の速度を増し、ついに原型をとどめなくなった。もはや声さえも小鳥のさえずる音にしか
聞こえなくなっていた。
「ああ、読める。この身体が生まれてどう育ってきたのか、この力がいつ発現したのか、誰が好きなのか・・・。もう何もかも
手に取るようにわかる。これでもう俺が【僧侶】だ!勇者パーティを崩壊に導き、俺たちの復讐を遂げる器となる【僧侶】に
生まれ変わるんだ!」
(い、いや―――――おねが――――)
とうとうノイズが入り始めた。その姿は溶け落ちたアイスのようにドロドロとしたものになり果てていた。
「じゃあね、素敵な肉体をありがとう。僧侶。いや、シスター【シルヴィア】さん」
(わ、わたしのなまえ―――――――)
その言葉を最後に、僧侶、本来の名前をシルヴィアという女の魂はこの世から消え失せた。
「――――――やった、やったぞ!この身体を完全に支配することが出来た!私の名前はシスター【シルヴィア】!
俺の正体が清彦と言われても、この身体から離れることは無い!」
勇者パーティの一人を葬ることに成功した俺は復讐を成し遂げた快感が堪らない。これからはこの身体で人生を歩む
ことになる、彼女を完璧になりきることが出来るようになったとは言え。”根本的な部分はとうしても俺の支配からは
逃れていた。”それは男性が嫌いと言う事実、清彦としての俺は男と性行為をするのもありかと考えているのが、
シルヴィアの身体や本能は激しく拒絶したため、無理にやろうとすればきっと俺の魂は耐えられないと結論に至ってしまう。
「―――――残りの勇者パーティは全て女性だから、その辺りは問題ないとして。男性との絡みとかは控えるように行動
しつつ、可愛い女の子が居たら、お話をしたりなどして情報を得るのがベストかな」
僧侶の身体を支配した後、今後について思考をしていると意識が回復していく。とうやら、現実の世界に戻るみたいだ。
「漸く目が覚めたわね、気分はどうかしら?」
「体が今も疼いているけど、最高の気分よ。魔王」
「・・・やれやれ、一先ずは安心したぞ」
僧侶の身体を支配する事に成功した、その事実を魔王に報告する。どうやら、俺の魂が僧侶として再構成されたことで
どんなことをされても二度とこの身体から離れることは無いとお墨付きを貰った。これからは僧侶の身体で人生を歩む
ことになるが、俺の相棒が無いのは寂しいが、これは復讐の為だと割り切るしかない。
「ふむ、男性との絡みは激しく拒絶している様だな。可能な限り異性との接触は控えろ。会話程度なら問題は無いが一通り、
僧侶の身体に慣れることが優先だ。」
「まあ、仕方ないか。取りあえずこの世で生きていく身体を手に入れられた、それもあの僧侶の身体というだけでも贅沢な
話だしな」
「それで、どうだ清彦。いや、シルヴィアと呼ぶべきか。回復魔法のほうは使えそうか?」
「清彦でいいよ。あくまで俺は俺だし。あと、公の場だと僧侶と呼んでくれた方がいいかな。勇者パーティの掟なんだが、
お互いの名前は伏せているんだ」
まあ俺自身はそんなことも露知らず、早々に名を明かしてしまったわけなんだがな。おかげでプライベートは漁られるわ、
家まで新聞記者が押しかけてきたりするわで苦労したのはまた別の話だ。
「ふむ、そこについては配慮しよう。それで清彦。どうだ」
「うーん、使う分には問題ないと思う。呼吸するに近いレベルで使い方が分かるようになったし」
ついさっきまで他人の身体だったはずなのだが、まるで自分に発現した力のように使いこなせる、そんな自信が湧いてくる。
そのくらい「当たり前に」思い出せる。恐らく身体の根源にまで行き渡っているからなのだろう。僧侶の弛まぬ鍛錬、反復
訓練による熟練度もそのまま引き継がれていると考えるだけで、昂った身体がさらに愛液を分泌させていた。
「そうか・・・。であれば清彦。早速だが頼みがある。我にその術式をかけてくれ。それだけで我は再び魔王としての力を
手に出来るはずなのだ」
「なるほど・・・。僧侶の肉体だけは別に手に入れておきたいと言ってたのはそう言うわけか」
魔王からの頼みに、僧侶の肉体にこだわっていた理由が分かる。確かにこいつの術式であれば魔王でさえも元に戻せる。
そう言う仕組みの術式だからだ。
「ただ・・・、結果から言うと今はやめた方がいい。魔王、あんた自身のためにな」
「・・・、どういうことだ。まさか貴様、自分の肉体が手に入ったからそれだけで満足というのか?」
「違う違う。さっきも言った通りあんたのためだ。正確にいうと【レイス】の身体に入っているうちは特にやめておくべきだ
ってことだ」
そう、魔王の頼みを聞いて可能だとはすぐに思えた。ただし、それに僧侶の知識が「待った」をかけてきた。魔王の復活を
阻止するのではなく、俺の眷属と化した【シルヴィア】として、自分の能力を使うとどうなってしまうのか、その辺の結論
までしっかりと計算した上でである。
「この僧侶の術式は回復魔術だと思っていたが、実際は少し違って【元に戻す】術式ということらしいんだ。それは身体の傷
や体力、物だけでなく心といったのにも通用する」
俺は一回言葉を切って、僧侶として魔王に提案をする。彼女の脳と編み出した、魔王にとってのベストな選択を。
「だから、いま術式をかければ確かに魔力は復活する。僧侶と違って従順なレイスだ。恐らくその身体を明け渡すことさえ
厭わないだろう。ただ、魔王の魔力にその身体が耐えきれるかと言えば、必ずしもそうじゃないってことだ」
「・・・、なるほどな。確かにレイスの身体はそう言う意味では我には不向きということか」
レイスは確かに優秀な女性だが、優秀なのは隠密としてのスキルと、敏捷性に特化した身体能力にある。心も従属を誓う
など、確かに支配する土壌は完璧だ。ただ、その方向性が魔王とはあまりに違うのだ。これで術をかけてしまうと「膨大な
魔力と強力な身体能力が十分に発揮できない」魔王か、レイスの肉体が限界を迎えて崩壊してしまうだろうと、僧侶の脳は
答えを吐き出したのだ。そしてそれに対する対策としては・・・
「つまり、我の復活に耐えうる肉体、勇者パーティの誰かを支配し、我の精神を移したうえで術式をかければよい
ということだな」
魔王が俺の答えからそこに行きついてくれた。やはり、魔王と俺は相性はいいようだ。
「・・・冷静に考えてみれば今此処で魔王として復活することが漏れてしまった場合も考えれば、勇者に目を付けられる
可能性があるな。我の部下と合流する事が出来れば良いのだが、残念ながらこの町には居ない。冒険者だからその辺りは
仕方がないと割り切るしかないか」
「・・・魔王の部下が冒険者!?えっ、魔物を殺害とかして大丈夫なのか?」
「問題はあるまい、レイスは愚かな人間を処遇したり暗殺に特化しているが。この町には勇者パーティー以外にも優秀な冒険者
が居る。数々の魔物を倒し、王から秘宝を授かった。SSSランク冒険者、ヒントは美少女。此処まで言えば解るだろう」
「ちょっと待ってくれ。SSSランクで女性だと言うと一人しかいない。英雄扱いされているのに、勇者パーティーにスカウト
しようしたら、この町を守る必要があると言って、断られたけど。その、本気なのか?」
「驚くのも無理はない、我が復活した後はそのパーティーに入って。色々と情報を得ようと考えていたのだからな。その人物
との再会をした後に勇者パーティーのメンバーを葬る計画を立てるとしよう。」
魔王の方針に思わず頷いてしまう、俺が居なくても一人で此処まで反撃する術を用意できたことに動揺できない。復活をする
ために様々な計画を練っていたと言うことになるんじゃないだろうか。
「先に言っておくが、我が復活したのは清彦のお陰だ。最初に出会って改めて話をしてみれば酒でも飲んで語りたいほど、
"相棒"とこうして雑談するのも悪くは無いからな。」
「相棒、か。もしかすると僧侶とレイスでツーマンセルとか組む予定だったりしたのかな?」
「確かにそれはあり得るな、我が消滅したと殆どの人は認識しているが。いずれにせよ勇者パーティーは解散してそれぞれ
新しい道へと歩み出すだろう。僧侶は此処で穏やかな生活を送ろうとしていたが。レイスがツーマンセルの話題とかを
言えば、この町から離れて新たな情報を得ることも可能になる。自由を得るための動機はこれで良いかもしれん。」
「なるほどね・・・。おや、僧侶の記憶だと明日の朝、勇者パーティで話し合いをするみたいだな。・・・、んん、
やっぱりこいつ、パーティから離れるつもりではいたみたいだ。その後のことは考えてなかったようだけどな」
「ふむ、ならば清彦よ。その望みを叶えてやるがいい。身体がそう言う意図を持っていたのであればとても簡単なはずだ」
魔王がいなければ確かにパーティを組んでいる理由もない。解散は必然だろう。ただ、復讐の対象が一か所に固まっていない
のも後々面倒ではないかとも感じた。
「ははは、パーティが散開したら面倒とでも思ったか?そこは心配いらん。先ほどの冒険者を含め、我の部下は世界の
あちこちに隠してある。彼奴らの動向は逐一報告が入るようにしておこう。何せ、そのいずれかが我の肉体となるのだからな」
その辺は魔王も想定していたらしい。さっきも思ったが、この魔王、かなり慎重に策を用意しているみたいだ。本人の実力も
だが、人類と敵対するのであればこの程度の策謀は必須とでもいうのだろうか。
「ふむ、しかし実に面白い。滅びたはずの魔王が、滅ぼしたはずの勇者パーティの肉体を、その存在を使って復活するのだ。
これほど痛快なこともあるまい」
レイスの身体から魔王としてのセリフを吐くたびに、普段のレイスとは違う姿を感じてしまう。僧侶にとってそんな姿もとても
魅力的らしい。この身体と付き合うのであれば恐らくレイスは切っても切れない存在になるだろう。だが・・・
「どうした清彦。何か思い悩んでいることでもあるようだが。顔に出ているぞ。レイスの知識によれば、その表情は僧侶が
何かを悩んでいるときにするものらしいが」
「・・・、そうだな。出来ないような気もするんだが、敢えて聞いてみたいことがある」
俺は意を決して、魔王に思ったことを打ち明けてみることにした。
「俺が他の肉体に、また入り直すことは可能なのか?」
「・・・、ほう?僧侶の肉体では不満でもあるのか?」
そう言うわけではない。僧侶の肉体もこれ以上なく魅力的だ。だが・・・
「そんなことはない。むしろ本来の俺の身体より性能高いくらいだしな。だが、やっぱり俺としては自分の手で復讐したい。
こいつだけじゃない。あいつらにも絶望を味わわせてやりたいんだ」
「その手段としてあいつらを・・・、いや、読めたぞ清彦。貴様、【完全乗っ取り】の魅力に取りつかれたな」
魔王にあっさりと看破されてしまった。そう、あれこれと言い訳はしてみたが、正直なところまたやりたい。人の身体に
入り込み、そいつをすべて蹂躙して支配下に置く、そして溢れてくる記憶、他人に言いたくないことでさえすべて詳らかに
出来る快感・・・、本来の俺が使えない力でさえ、俺の意思で自由に使わせられるこの感覚、それを堪能したい、今の俺は
そう思っていた。
「本来であれば【完全乗っ取り】は1回だけだ。それだけ魂に負担がかかるのと、馴染んでしまえばそれで身体に固定され、
その肉体は従属する。だが、貴様が手に入れたのは勇者パーティのもの。そもそも貴様自身、勇者パーティに名を連ねて
いたものだしな。もしかすると可能かもしれん。そこは我も調べてみるとするよ」
「魔王の魔術なのに調べることは可能なのか?」
「何、我の魔術を改良した上で新たな問題点を改善した可能性が捨てきれないからな。今の我は”レイスの許可を承認した上で
乗っ取りをしている”。完全乗っ取りとは訳が違う、実際に魂を追い出す様なことをしているからな。もしかすると乗っ取って
いる間、その魂を眠らせる方法が有れば良いが、魂の質が高ければ我自身が消滅する可能性がある。仮にレイスがやられたと
しても我の部下から身体を借りれば良いがな。」
成る程、魔王の乗っ取りはまだ改良点が幾つもあるから。それを調べる方が良いと判断したのは理解できた。その場合、調べると
しても裏の世界にある可能性が極めて高いな。
「さて、清彦よ。貴様に我の秘書。優秀な部下を授ける、僧侶の身体を失えば魔王として復活は出来ないからな。因みに美少女
だから、その点は安心しろ」
「魔王、俺の事をどう思っているんだ!?と言うか、優秀な秘書とか。レイスじゃないかなと思ったけど。違う、のか?」
「無論、貴様が寝ているときに再会を果たしているかならな。どんな人物なのかは明日のお楽しみと伝えておこう」
優秀な秘書、魔王の傍で仕えていた人物だと想像することが出来るのだが。とある疑問を浮かべた、それほど優秀な人材が
居るのであれば魔王と共に行動した方が良いのではないかと思考する。現に、勇者パーティーに入っていた俺は魔王との対峙の
前に、絶大の強さを持った魔物と戦って無事に勝利を納めているはず。
「貴様の思考を当ててやろう、優秀な秘書が居るのであれば我の傍に居た方が良いと考えているかもしれないが。
明日は我は単独で別行動をする予定だ。幾つか調べたい情報がある、その間。貴様が何らかの原因で命を失えば
此方としての計画が狂う」
「ちょっと待ってくれ、魔王。確かに言いたいことは解るけど、俺が簡単にくたばる事は…」
「無いとは言い切れないはずだ。貴様は僧侶の身体を完全に支配したから安心しているとは言え、女の直感と言うものは
鋭い。勇者は恐らく我が復活したのではないかと勘づかれてもおかしくないのだからな。勇者パーティーから幾つか情報を
得るのだ、貴様が失態を犯せば取り返しの付かないことになる。だからこそ、貴様に秘書を付けるのだが、反論があるの
なら聞こう。」