お腹が熱い、主様に刻まれた印がじんじんと疼く。
妖魔に屈従し腹に精を受けた、そして過去の私が犯した罪への贖罪を行った証。その数は四十四を数える。
かつて清姫が従えた八十八妖魔の中で封印を免れたのが四十四、つまり私はすべての封印を解いたのだ。
己の意思とは無関係に封印され、信頼を裏切られたと清姫を恨む妖魔たち全てを。
この印はその恨みを形として私に刻み込んだもの。過去の私が犯した罪への罰。
そう、罰なのに……罰のはずなのに……どうしてこんなにも心が弾み踊ってしまうのか。
理由は分かってる。
屈服の印を刻まれたお腹を両手で撫でれば、腹の奥底から湧き上がる寂しさと物足りなさ。
私はまだ女の子の幸せ全てを知っていない、もっとも肝心なものが抜けている、そう言っている。
男の子には絶対にできない、女の子だけに許された一番の幸せ。
子を成すこと、子を産むこと。
それが足りない。
あれだけ子種を注がれたにもかかわらず、望んだにもかかわらず、私は妊娠しなかった。
主様は私を孕み腹にすると言ってくれたのに……そう恨めしくも思ったこともある。
でも、今なら、全ての刻印を刻まれた今ならその理由が思いつく。
あのときの私はまだ主様の孕み腹として相応しくなかったんだ、と。
だから、だからこそこの疼きに心がときめく。印が、そのときが来た、と私に教えてくれているのが分かるから。
衣ずれの音を残し、ふたばから貰ったお下がりの巫女服を脱ぎ捨てる。
私はもうみつばじゃない。
その下に着込んでいた主様に犯されるための清姫の衣装も同様に。
清姫でもない、勿論きよひこでもない。
一糸まとわぬ姿となり暗い夜の森を進む。
じゃあ私は誰なの?
その答えはもう少しで得る事ができる、私は何者であるべきかを主様が教えてくれる。
高まるお腹の熱が、幸せな気持ちが、それはとても甘く素晴らしい未来だと囁きかけてくるようだ。
不意に、水の音が耳朶を打った。
いつの間にそこへ足を踏み入れたのか、私の足元には夜の池が広がり踝までその中に浸かっている。
月も星も電気の明かりもない、来た道すらわからない真っ暗な闇の中。
ここがそうだ、ここが境目だと私は直感した。
『来たか清姫、いや我等が下僕よ……』
地の底から響くような主様の声にぞくぞくとした刺激が足から背中へと駆け上がる。
心臓が早鐘を打ち息が荒くなって行くのに心地よさを感じながら、私はこの場所に立ち尽くす。
主様の声を聞いたら私に自由なんてない、私の体は私の物ではなく、もう主様の物なんだから。
『刻んだ印に教えられたか、お前はもう身も心も我等の物だとな』
『くくく、淫欲に身を落としたお前はもう人の世で普通に生きられまい、それを哀れむからこそ我等が相応しい役目を与えよう』
『お前はこれより我等妖魔の孕み姫よ、妖魔の精を受け妖魔を産む、それこそ今のお前に相応しい』
輪唱のように主様の蔑みの声が次々と重なっては消えていく。
声には聞こえぬ部分にも他の主様の嘲笑を感じ、どうしようもない被虐感に身震いが止まらない。
悦びと幸せが全身に満ち、発情した犬のようにだらしなく顔が蕩ける。
股の間から糸を引くほどの濃い愛液が溢れ、私の太ももをきらびやかに飾っていく。
『さあ孕み姫、嫁ぐがよい我等の元へ……』
ああっ、私は主様の子を産むだけの孕み姫、孕み姫……!妖魔に嫁ぐ、妖魔の……お嫁さん……っ!
もうだめ、私何も考えられない、お嫁さん、わたし、お嫁さんになっちゃう、人間じゃない妖魔に嫁いじゃう……!
お腹の淫紋こそ主様ひとりひとりと交わした指輪、世界でたった一つしかな私だけのウェディングドレス。
「主様、孕み姫は幸せです……」
口にするは誓いの言葉。
祝福するは足元にぽっかりと口を開ける奈落への入り口。
それは妖魔の花嫁となった私をいざなうヴァージンロード、そこへ足を踏み出すのに何の躊躇があるだろうか。
水特有の冷たさを感じない、ざぶざぶという水を掻き分ける足音もない。そして足を付くはずの底がない。
あえなくバランスを崩した私の体は濃縮された闇の中に飲み込まれ沈んでいく。
ゆっくりとゆっくりと私の存在がこの世界から離れ行く、遠ざかり消えていく……。
奈落の穴が消える、その後には煌々とした月明かりをたたえる静かな森の池が佇むだけ。
少女の姿はもうない、この日を境に彼女はこの世界から消え去っていた。
「ひいっ、や、ああ……赤ちゃ、元気で……なかで、動いてるの、わかるっ……!」
「しらな、知らない……こんな、の、んん!おまんこ広がって、あかちゃん、わたし主様のこども、産んじゃって……あんっ」
「いい、いいのぉ!孕ませ種つけいいよぉ!もっと、もっとぉ、わたしの孕み腹、たぷたぷにしてぇ!」
「はぁ……はぁぁ……主様のたまご、私の胎内で孵ってる、んんっ、幸せになっちゃう……♥』
「むしっ、わたし蟲の赤ちゃん、ひぃん♥なか引っかいて……やぁ、産みながら、イ、イっちゃ……あっあっ、あるじ、さ、ま、孕み姫の出産アクメ、みて、みてぇ♥』
脳を焦がす出産の快楽、産卵の悦楽、何度感じ何度達しても飽きる事のない妖魔を孕み産み落とす行為。
満たされる幸せ、必要とされる幸せ、幾度となく子種を中に撒き散らされ孕んでも尽きる事のない雌の性。
『あああっ!主様の子供、主様の卵っ、産まれる……産んじゃう!わたしのおまんこ、広げて出てくるぅっ♥』
私はもうそれだけ感じていられればよかった。それ以外はもう何もいらない、必要ない。
だから、産まれてくる子供が人間かどうか、人の形をしているかどうかなんて些細な事。
へその緒が付いたままの愛おしい主様と私の子供、両手を伸ばしその頭と異形の下半身を支え抱き上げれば、八本の脚もそれに追随する。
カキカキと甲殻の擦れる音を立てながら、小さく声を上げる赤ちゃんを優しく精一杯抱きしめる。
こんな幸せな体験ができるのなら、今の私が人間かどうかも人の形をしているかどうかも同様に些事に過ぎない。
私が人間じゃなくなっても主様は変わらず犯してくれる、人の形を失っても主様はかまわず愛してくれる。
ただそれだけでいい。
だって……私は妖魔の孕み姫なんだから。
『ククク、宴はまだ始まったばかりよ……楽しもうぞ孕み姫よ、とこしえにな……』
何本ものおちんぽをおまんこに迎え入れながら私の心は狂乱の宴に飲み込まれていく。
終わる事のない、妖魔だけに許された饗宴に。